(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】液状過塩基化金属カルボン酸塩を製造するためのプロセス、液状過塩基化金属カルボン酸塩を含む混合金属安定剤、及びそれを用いて安定化されたハロゲン含有ポリマー
(51)【国際特許分類】
C07C 68/04 20060101AFI20240514BHJP
C07C 69/96 20060101ALI20240514BHJP
C08L 27/04 20060101ALI20240514BHJP
C08K 5/138 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07C68/04 A
C07C69/96 Z
C08L27/04
C08K5/138
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531436
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 US2021039758
(87)【国際公開番号】W WO2022245377
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522209697
【氏名又は名称】エーエム・スタビライザーズ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・エー・クルーズ
(72)【発明者】
【氏名】ローラ・ケー・エンゲラー
【テーマコード(参考)】
4H006
4J002
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB83
4H006AC48
4H006BA50
4H006BB11
4H006BB14
4H006BE41
4H006KA56
4H006KC14
4J002BD021
4J002BD031
4J002EJ076
4J002FD036
(57)【要約】
液状の過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属カルボン酸塩を製造するためのプロセスであって、パラ-クミルフェノールがプロセスの促進剤として使用され、製造されるカルボキシレートがPVCの安定剤として使用されるプロセスを開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵安定な液状過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩を製造するためのプロセスであって、
アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基とカルボン酸との混合物を、液状炭化水素の存在下で、金属塩基のカルボン酸に対する当量比が1:1を超える当量比で反応させる工程と、
前記反応の混合物を、p-フェニルアルキレンフェノールの存在下で炭酸塩化する工程であって、p-フェニルアルキレンフェノールが、炭酸塩化の間、反応の促進剤として作用して、貯蔵安定な液状過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩が生成する工程と
を含む、プロセス。
【請求項2】
カルボン酸が、脂肪族又は芳香族カルボン酸であり、p-フェニルアルキレンフェノールが、1~6個の炭素原子の低級アルキレン鎖を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
カルボン酸が、C
12-C
22脂肪酸である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記脂肪酸が、オレイン酸である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
アルカリ土類金属が、カルシウム、バリウム、マグネシウム、及びストロンチウムからなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
アルカリ金属が、ナトリウム、カリウム、及びリチウムからなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
アルカリ土類金属が、バリウムである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩が、バリウムオレエート/クミルフェネート/カーボネートである、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の量が、最高で約40質量%までである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の量が、約25質量%~約40質量%である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記反応を、アルコールの存在下で実施する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
貯蔵安定な液状過塩基化バリウム塩を製造するためのプロセスであって、
水酸化バリウム及びカルボン酸を、液状炭化水素の存在下で、水酸化バリウムのカルボン酸に対する当量比が1:1を超える当量比で反応させる工程と、
前記反応の混合物を、p-フェニルアルキレンフェノールの存在下で炭酸塩化する工程であって、p-フェニルアルキレンフェノールが、炭酸塩化の間、反応の促進剤として作用して、過塩基化バリウム塩及び副生成物である水が生成する工程と、
前記反応生成物から水を除去して、貯蔵安定な液状過塩基化バリウムカルボキシレート/フェニルアルキレンフェネート/カーボネートを得る工程と
を含む、プロセス。
【請求項13】
p-フェニルアルキレンフェノールが、p-クミルフェノールである、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
カルボン酸が、脂肪族カルボン酸又は芳香族カルボン酸である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
カルボン酸が、C
12-C
22脂肪酸である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記脂肪酸が、オレイン酸である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の量が、最高で約40質量%までである、請求項12に記載のプロセス。
【請求項18】
前記反応を、アルコールの存在下で実施する、請求項13に記載のプロセス。
【請求項19】
請求項1に記載のプロセスに従って調製された、p-フェニルアルキレンフェノール及びカルボン酸の液状過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩。
【請求項20】
請求項13に記載のプロセスに従って調製された、p-フェニルアルキレンフェノール及びカルボン酸の液状過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩。
【請求項21】
ハロゲン含有ポリマーと、
熱安定化量の、p-フェニルアルキレンフェネート/カルボキシレートの液状過塩基化アルカリ土類金属塩と
を含む、ハロゲン含有ポリマー組成物。
【請求項22】
前記p-フェニルアルキレンフェネート/カルボキシレートの液状過塩基化アルカリ土類金属塩が、バリウムクミルアルキレンフェネート/カルボキシレートである、請求項21に記載のハロゲン含有ポリマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属カルボン酸塩(liquid overbased alkali or alkaline earth metal carboxylate)、特にバリウムカルボキシレートを製造するためのプロセスに関する。この過塩基化金属カルボン酸塩を含有する混合金属安定剤は、ポリ塩化ビニル(PVC)などのハロゲン含有ポリマーの安定剤として使用される。
【背景技術】
【0002】
過塩基化されたカルボン酸及びアルキルフェノールのカルシウム又はバリウム塩の調製は、特許及び工業文献でよく知られている。ハロゲン含有ポリマーにおけるこれらの過塩基化金属塩の使用も、文献及び特許に記載されている。さらに、過塩基化金属塩の製造における促進剤としてのアルキルフェノールの使用はよく知られている。
【0003】
しかし、米国の供給業者への影響を伴う、主にヨーロッパ及びアジアにおける最近の規制に起因して、アルキルフェノールを含まない過塩基化金属カルボン酸塩の必要性が存在する。また、既存のポリマー安定剤に関する環境への懸念から、重金属安定剤に代わる代替的な安定剤への関心が高まっている。
【0004】
特に、欧州連合のREACH規則が、化学物質によってもたらされ得るリスクからの人間の健康及び環境の保護を改善するために採用された。REACHは、化学物質の登録、評価、認可、制限(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)の略称であり、2007年6月1日に発効した。REACH規則は、ほとんどの企業、EU全体のみならず、米国の多くの業種にわたる広範な企業の製造業者及び供給業者にも影響を与えた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
米国の供給業者への影響を伴う、REACH及び他の最近の規制に起因して、アルキルフェノールを含まない過塩基化金属カルボン酸塩の必要性が存在する。本発明は、この必要性を満たし、加工中のポリマーの劣化及び他の変化を防止する新しい環境的に許容可能なPVC安定剤を開発し、有用な物品の製造に有形・無形の利益を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カルボン酸の液状過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩を調製するためのプロセスに関する。このプロセスは、金属塩基とカルボン酸との混合物を、カルボン酸に対して過剰の金属塩基を使用して反応させ、その反応混合物を炭酸塩化(carbonate)して過塩基化金属カーボネートを生成させることを含む。反応混合物の炭酸塩化の間に提供されるp-クミルフェノールにより、高レベルの塩基性、例えば、20~40%のバリウム又はカルシウム濃度を有する望ましい過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩が生成することが見出された。 p-クミルフェノールは、アルキルフェノールと同様に反応の促進剤として作用して、典型的な商業的調製条件下で過塩基化金属塩を生成する。
【0007】
パラ-クミルフェノールは、フェノールのパラ位にアリールアルキレン基を有する。この化合物の他の名前には、p-(α,α’-ジメチルベンジル)フェノール又は4-(2-フェニルイソプロピル)フェノールが含まれる。言い換えれば、より広義には、p-フェニルアルキレンフェノールと呼ぶことができる。好ましくは、アルキレン鎖は、イソプロピル基によって例示されるように、炭素原子が約1~6個である。したがって、これまで反応の促進剤を獲得するために必要であると考えられていたアルキルフェノールとは対照的に、フェノールのパラ位にあるフェニルアルキレン基を使用した。
【0008】
したがって、本発明の方法は、アルキルフェノールを使用することなく過塩基化アルカリ金属カーボネートを製造することを可能にする。さらに、アルキルフェノールを望ましくないものとしてリストしているREACHなどの規制の順守にも対応可能である。
【0009】
本発明は、その利点又はプロセスの理論的理解に限定されないが、過去において、先行技術のp-アルキルフェノールのアルキル基は、そのフェノールがカルボン酸の液状過塩基化金属塩の製造における促進剤として作用するために必須であると考えられていたと考えられる。しかし、p-クミルフェノールのフェニルアルキレン構造が、これまでアルキルフェノールを使用することによって達成されてきた、促進剤としての商業的に優れた性能を達成可能にすることが見出された。パラ-クミルフェノールの過塩基化バリウム塩をPVCに使用することによる優位な性能には、低いプレートアウト、優れた保色性、長期の熱安定性性能、安定剤成分との適合性などが含まれる。特に、本発明の過塩基化金属カルボン酸塩を採用するPVC組成物は、アルキルフェノールによってもたらされる可能性のあるリスクなしで、従来の技術に従って製造されたものと少なくとも同等である。
【0010】
本発明の利点、利益、及びさらなる理解は、以下の詳細な説明及び好ましい実施態様を参照することにより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.パラ-クミルフェノール/カルボン酸の液状過塩基化アルカリ又はアルカリ土類金属塩
本発明は、パラ-クミルフェノール及びカルボン酸の貯蔵安定な(shelf-stable)液状過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩に関する。より広い文脈では、前記パラ-クミルフェノールはp-アリールアルキレンフェノールである。アルキレン鎖は、炭素原子が約1~6個であり、アリールはフェニルである。これらの液状塩は、本明細書では「クミルフェネート/カルボキシレート」と称される。これは、パラ-クミルフェノールとカルボン酸との両方が反応に入って、アルカリ土類金属カーボネート(例えばカルシウムカーボネート又はバリウムカーボネート等)と、金属パラ-クミルフェネート及び金属パラ-クミルカルボキシレートの混合物(以下、「パラ-クミルフェネート/カルボキシレート」と称する。)とを含有する、貯蔵安定な液状物が生成するためである。これらの液状物は、以下で、より簡単に「過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩」、「過塩基化金属塩」、又は「過塩基化アルカリ土類金属パラクミルフェネート/カーボネート」と称する場合がある。本発明の好ましい態様の液状過塩基化カルシウム及びバリウム塩は、本質的にアルキルフェノールを含まない。パラ-クミルフェノール/カルボン酸の過塩基化アルカリ土類金属塩の貯蔵安定な液状物を調製するためのプロセスは、アルカリ土類金属の塩基及び酸を、金属塩基の、パラ-クミルフェノール及び酸の組み合わせに対する当量比が1:1を超える当量比で反応させて、液状炭化水素の存在下で塩基性生成物を調製することを含む。この反応には、脂肪族アルコールを採用することができる。混合物は、好ましくは炭酸塩化によって酸性化され、水が反応生成物から除去されて、貯蔵安定な液状過塩基化アルカリ土類金属塩が得られる。
【0012】
本発明は、炭酸塩化の間、商業的速度で促進剤として反応して、最高で約40質量%まで、通常は約20~40質量%の過塩基化カルシウム又はバリウム金属を有する過塩基化金属塩を生成するパラ-クミルフェノールを提供することに部分的に基づいている。本発明に従ってなされたこの発見まで、実際の商業的操作(例えば、商業的又は実用的な速度で濾過することができる操作)で、アルキルフェノールを含まない高度に過塩基化されたバリウムカルボキシレート/カーボネートを製造することは不可能であると考えられていた。
【0013】
過塩基化液状塩の脂肪酸は、一般に、飽和脂肪酸の中でも、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びベヘン酸を含む、C12~C22脂肪酸である。不飽和脂肪酸には、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸が含まれる。これらの脂肪酸の中で、現在、過塩基化液状カルボン酸塩の調製にはオレイン酸が好ましい。塩のアルカリ土類金属は、カルシウム、バリウム、マグネシウム、及びストロンチウムからなる群から選択される。アルカリ金属には、ナトリウム、カリウム、及びリチウムが含まれる。例えば、過塩基化されたカルシウム及びバリウムのオレエートの貯蔵安定な液状物を調製した。これらの過塩基化バリウム塩は、例えば、バリウムカーボネート、バリウムオレエート、バリウムクミルフェネート、液状炭化水素希釈剤、及び脂肪族アルコールを含有する。
【0014】
B.パラ-クミルフェノール
本発明で採用されるパラ-クミルフェノール化合物は、REACHによって人の健康及び環境にリスクをもたらすと考えられてきたアルキルフェノール群の回避を可能にするアリール基を有する。
【0015】
本発明の1つの好ましい形態において、パラ-クミルフェノール/脂肪酸の過塩基化バリウム塩の貯蔵可能な液状物は、バリウムカーボネート、脂肪酸のバリウムパラクミルフェネート/カルボキシレート、液状炭化水素、及び脂肪アルコールを含み、この液状物には、以前の実際の商業的操作で必要とされたアルキルフェノールが含まれていない。
【0016】
C.反応物及び触媒の量
塩基性塩の調製に利用されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基の量は、パラ-クミルフェノール/カルボン酸の組合せ、すなわち有機成分1当量あたり、1当量以上の塩基となる量であり、より一般的には、パラ-クミルフェノール1当量あたり少なくとも3当量の金属塩基を提供するのに十分な量になる。使用するアルコールには、1から約20以上の炭素原子を有する様々な利用可能な置換又は非置換の脂肪族又は脂環式アルコールの任意の1つが含まれる。混合物に含まれるパラ-クミルフェノール及び任意選択で含まれていてもよいアルコールの量は重要ではない。パラ-クミルフェノール促進剤を混合物に含ませて、酸性ガスで混合物を処理する間の二酸化炭素ガスの利用に寄与させる。一般に、モノカルボン酸1当量あたり、少なくとも約0.1当量、好ましくは約0.05~約10当量のパラ-クミルフェノール(及び存在する場合にはアルコール)を採用する。特に低分子量アルコールの場合、より多くの量、例えば、最高で約20~約25当量のアルコール及びパラ-クミルフェノールを使用することができる。場合により混合物中に存在し得る水は、混合物に添加された水としてそのまま存在し得るか、あるいは、水は、「湿式アルコール」、アルカリ又はアルカリ土類金属塩の水和物、又は他のタイプの金属塩と化学的に組合せられた水として存在し得る。
【0017】
上述した成分に加えて、塩基性金属塩を調製するために使用する反応混合物は、通常、希釈剤を含む。一般に、任意の炭化水素希釈剤を採用することができ、希釈剤の選択は、混合物の使用目的に部分的に依存する。最も一般的には、炭化水素希釈剤は、非揮発性希釈剤、例えば潤滑粘度が様々である天然油及び合成油等となる。
【0018】
塩基性塩の調製に利用する塩基性アルカリ又はアルカリ土類金属塩基の量は、パラ-クミルフェノール及び酸の1当量当たり塩基1当量以上の量であり、より一般的には、酸及びパラ-クミルフェノールの1当量あたり少なくとも3当量の金属塩基を提供するのに十分な量である。より多くの量を利用して、より塩基性の化合物を形成することができ、含まれる金属塩基の量は、最高で製品中の金属の割合を増やすのにもはや効果的ではない量までの任意の量であり得る。混合物を調製する場合、混合物に含まれるパラ-クミルフェノール及び任意選択で含まれていてもよいアルコールの量は、モノカルボン酸のクミルフェノールに対する当量比が少なくとも約1.1:1であるべきである、すなわちモノカルボン酸がパラ-クミルフェノールに対して過剰に存在すべきであることを除いて、重要ではない。混合物中の金属塩基の他の成分の組合せに対する当量比は、塩基性の製品を提供するために1:1より大であるべきである。より一般的には、当量比は、少なくとも3:1となる。
【0019】
炭酸塩化の工程は、フェノールフタレインを使用して滴定可能な塩基性が決定されるまで、上述した混合物を、遊離酸素の非存在下、CO2ガスで処理することを含む。一般に、滴定可能な塩基性を、約10未満の塩基価に低下させる。本発明のこれらの混合工程及び炭酸塩化工程は、好ましくは遊離酸素を排除すること以外の通常ではない操作条件を全く必要としない。塩基、脂肪酸、パラ-クミルフェノール、及び液状炭化水素を混合し、一般に加熱し、次に酸性ガスとしての二酸化炭素で処理し、混合物を、混合物に含まれている水の一部を追い出すのに十分な温度に加熱することができる。二酸化炭素による混合物の処理は、好ましくは高温で実施され、この工程に使用される温度の範囲は、周囲温度を超えて最高で約325°F(163℃)まで、より好ましくは約130°F(54℃)~約325°F(163℃)の任意の温度であり得る。より高い温度を使用することもできるが、そのようなより高い温度を使用することに明らかな利点はない。通常、約130°F(54℃)~325°F(163℃)の温度で十分である。
【0020】
D.ハロゲン含有ポリマー
本発明の塩基性金属塩を使用して最も一般的に安定化されるハロゲン含有ポリマー、例えばハロゲン化ビニル樹脂等は、ポリ塩化ビニルである。しかし、本発明は、特定のハロゲン化ビニル樹脂、例えばポリ塩化ビニル又はそのコポリマー等に限定されないことを理解されたい。採用され、本発明の原理を例証する他のハロゲン含有樹脂には、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリ塩化ビニル、及び他のハロゲン化ビニル樹脂タイプが含まれる。本明細書で理解され、当技術分野で認められるように、ハロゲン化ビニル樹脂は一般的な用語であり、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、ビニルエーテル、塩化ビニリデン、メタクリレート、アクリレート、スチレン等の他のコモノマーを共に含むか又は含まない塩化ビニルを含むビニルモノマーの重合又は共重合によって通常誘導される、樹脂又はポリマーを定義するために採用される。単純な例は、塩化ビニルH2C=CHCIからポリ塩化ビニル(-CH2CHCI-)への変換であり、ハロゲンはポリマーの炭素鎖の炭素原子に結合している。そのようなハロゲン化ビニル樹脂の他の例には、塩化ビニリデンポリマー、塩化ビニル-ビニルエステルコポリマー、塩化ビニル-ビニルエーテルコポリマー、塩化ビニル-ビニリデンコポリマー、塩化ビニル-プロピレンコポリマー、塩素化ポリエチレン等が含まれる。もちろん、業界で一般的に使用されているハロゲン化ビニルは塩化物であるが、臭化物、フッ化物等の他のハロゲン化ビニルを使用することもできる。後者のポリマーの例には、ポリ臭化ビニル、ポリフッ化ビニル、及びそれらのコポリマーが含まれる。
【0021】
ハロゲン化ビニル樹脂組成物の金属化合物熱安定剤はよく知られている。これらの金属化合物は、ハロゲン化ビニル樹脂組成物を最終的な形状に熱加工する間に遊離するHClを捕捉するのに役立つ。金属は、例えば、鉛、カドミウム、バリウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、ビスマス、スズ、又はアンチモンである得る。安定剤は通常、カルボン酸の金属塩、有利には、C8~C24炭素鎖に連結したモノカルボン酸、例えばラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、オクト酸の金属塩、又は類似の脂肪酸の塩である。そのような酸の混合金属塩、及びそれらの調製は、本発明に関連する技術分野の当業者にはよく知られている。カルシウム/亜鉛のブレンド又はバリウム/亜鉛のブレンドを、単独で含む混合金属カルボン酸塩、及び他の安定剤又は添加剤(例えばベータ-ジケトン、亜リン酸塩及びフェノール系酸化防止剤等)と組み合わせて含む混合金属カルボン酸塩が使用されてきた。金属安定剤は、カルボン酸の混合金属塩である。そのようなカルボン酸の混合金属塩、及びそれらの調製も、本発明に関連する技術分野の当業者によく知られている。
【0022】
E.安定剤の最終用途
本発明の液状安定剤又は混合金属安定剤は、多くの最終製品に使用することができる。例には、壁装材、フローリング(ビニルタイル及びインレイ)、医療機器、ディップコーティング、チェアマット、バナーフィルム、顔料分散液、ビニルサイディング、配管、燃料添加剤、化粧品、天井タイル、屋根ふきフィルム、摩耗層、プレイボール又はおもちゃ、歯磨き粉、フェンシング、波形の壁パネル、ダッシュボード、及びシフターブーツ等が含まれる。
【0023】
以下の実施例は、本発明の方法による貯蔵安定な、ヘイズの無い、液状の過塩基化塩の調製を例示するが、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例及び明細書及び特許請求の範囲の他の箇所に別段の記載がない限り、全ての部及びパーセンテージは質量によるものであり、全ての温度は華氏で示される。
【実施例】
【0024】
比較実施例I
以下の成分及び量をこの比較実施例Iで使用して、バリウムノニルフェネート過塩基化塩を製造するために使用されてきた通常の手順を実証した。
【0025】
【0026】
1418アルコールは、14~18個の炭素原子を有する脂肪族アルコールの市販の混合物であり、中性油は鉱油である。
【0027】
オレイン酸、油、及びアルコール成分を反応容器に入れ、この反応容器を毎分2リットルの窒素ガスでパージしながら、室温で混合した。約15~20分間経過後、混合物を撹拌しながら約133°F(55℃)の温度に加熱した。約133°F(55℃)で、BaOHを、それぞれ約83グラム、81グラム、及び84グラムの3つの別々の添加分に分けて段階的に加えた。約138°F(59℃)で、2滴の消泡剤を反応混合物に加えた。その後、反応混合物を約1時間かけて約240°F(115.6℃)の温度に加熱し、その後、ノニルフェノールを反応混合物に充填した。約240°F(115.6℃)の温度で約10~15分の間維持した後、反応混合物を約265°F(129℃)に加熱した。反応の過程で、水を除去した。全てのノニルフェノールを充填した後、窒素パージを停止し、混合物を、毎分約1リットルの速度の二酸化炭素で約4.5時間炭酸塩化した。反応の過程で18mlの水を除去し、得られた生成物は、濾過可能な高温溶液であり、これを滴定すると、33.19%のバリウムであった。
【0028】
実施例II
この実施例の目的は、本発明の過塩基化バリウムパラクミルフェネート/モノカルボキシレートを調製することであった。 これを、比較実施例Iのノニルフェノールを1当量のパラ-クミルフェノールで置き換えることにより達成した。 この目的のために、以下の成分及びそれらの実際の量を採用した。
【0029】
【0030】
比較実施例Iの手順に本質的に従った。ノニルフェノールの代わりにパラ-クミルフェノールを使用した後、過塩基化バリウムパラクミルフェネート/オレエートカーボネート塩を調製した。比較実施例Iとほぼ同じタイムテーブルを採用して、反応成分の混合、加熱、及び水酸化バリウムの充填を行った。パラ-クミルフェノールをオーブンで80℃に温めた後で添加したことを除いて、水酸化バリウム及びパラ-クミルフェノールの加熱及び充填をほぼ同じ温度で行った。 貯蔵安定な液状物を滴定すると、バリウム含有量が約32.88%であった。
【0031】
実施例III
この実施例では、比較実施例Iのノニルフェノールの代わりにパラ-クミルフェノールを使用し、以下の成分を採用した。
【0032】
【0033】
比較実施例Iの手順に従って、反応を同様の反応時間及び温度で実施し、再び、パラ-クミルフェノールは80℃のオーブンで温めた。 結果として貯蔵安定な液状物が形成され、濾過し、滴定すると、32.9%の量のバリウムであった。
【0034】
実施例IV
この実施例では、比較実施例Iのノニルフェノールの代わりにパラ-クミルフェノールを再び使用し、以下の成分を使用した。
【0035】
【0036】
比較実施例Iと本質的に同じ手順に従って、液状バリウムパラクミルフェネート/オレエートカーボネートを調製した。滴定すると、33.25%のバリウムであった。
【0037】
実施例V
この実施例の目的は、本発明の実施例2~4の金属塩の安定化効果を、比較実施例Iのような市販のアルキルフェノール安定剤と比較することであった。業界の標準的な技術をこの目的のために採用し、その結果は、市販のバリウムアルキルフェネート安定剤と比較した場合、本発明の金属塩のPVCの安定化効果が同等であることを示した。
【0038】
PLASTISTAB 2508として販売されている市販の34%過塩基化バリウムノニルフェネートを、安定剤組成物に配合した。この安定剤組成物は、本発明の過塩基化金属塩を配合したPVC用安定剤の熱安定化効果を実証することを目的とする、対照としての安定剤組成物である。それぞれの安定剤組成物を、標準的なポリ塩化ビニル(PVC)配合物中に4部の濃度で配合した。配合の残りの部分は100部のポリ塩化ビニルを含む。各PVC配合物を、365°F(185℃)で5分間粉砕し、静的熱安定性を375°F(191℃)及び400°F(204℃)で測定した。約40分間かけて、各組成物の安定化効果を色の変化によって測定した。色の変化は、黄変指数として測色計によって測定し、色値はASTM E313-73によって決定した。
【0039】
カラー値及びヒートチップチャートの両方が、本発明の塩基性アルカリ土類金属塩の有効性が、市販の塩基性バリウムノニルフェネートと比較して同等であることを示した。
【0040】
上述した説明は、本発明の特定の実施態様の開示を提供するものであり、本発明をこれに限定することを目的とするものではない。したがって、本発明は、上述した実施態様のみに限定されるものではなく、むしろ、当業者は、本発明の範囲内にある上述した説明を考慮して代替的な実施態様を理解するであろうことが認識される。
【国際調査報告】