(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】注型マイクロ光学構造製造用樹脂流体の塗布プロセス
(51)【国際特許分類】
B29C 39/10 20060101AFI20240514BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20240514BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240514BHJP
B29C 39/44 20060101ALI20240514BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240514BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B29C39/10
B05D5/06 104D
B05D7/24 301T
B29C39/44
G02B3/00 A
G02B5/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565263
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-18
(86)【国際出願番号】 US2022071877
(87)【国際公開番号】W WO2022226540
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516166085
【氏名又は名称】クレイン アンド カンパニー、 インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コート、ポール エフ.
【テーマコード(参考)】
2H249
4D075
4F204
【Fターム(参考)】
2H249AA12
2H249AA39
2H249AA43
2H249AA60
4D075AC06
4D075AC07
4D075AC41
4D075BB23X
4D075BB42Y
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4D075EB22
4F204AA44
4F204AD05
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4F204AH73
4F204AR12
4F204EA03
4F204EB01
4F204EB11
4F204EF27
4F204EK18
(57)【要約】
マイクロ光学セキュリティデバイス(100)のマイクロ構造を注型硬化する方法は、第1の放射線硬化性樹脂(205)の第1の容積を直接に注型マスター(210)上に噴射して、第1の厚さを有する前記第1の放射線硬化性樹脂の層を形成すること、スクイーズラインに沿って前記注型マスターを基板(201)と接触させ、前記第1の放射線硬化性樹脂を前記基板に転写すること、及び転写された前記第1の放射線硬化性樹脂に硬化放射線を照射することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ光学セキュリティデバイス(100)のマイクロ構造を注型硬化する方法であって、
第1の放射線硬化性樹脂(205)の第1の容積を直接に注型マスター(210)上に噴射して、第1の厚さを有する前記第1の放射線硬化性樹脂の層を形成すること、
スクイーズラインに沿って前記注型マスターを基板(201)と接触させ、前記第1の放射線硬化性樹脂を前記基板に転写すること、及び
転写された前記第1の放射線硬化性樹脂に硬化放射線を照射すること、
を含む、マイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法。
【請求項2】
前記第1の放射線硬化性樹脂を前記基板に塗布する際、前記第1の厚さは前記注型マスターを濡らすのに必要な厚さよりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の放射線硬化性樹脂を直接に前記注型マスター上に噴射する前に、前記第1の放射線硬化性樹脂を第1の温度に加熱することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記注型マスターから前記基板へ1度目に転写された前記第1の放射線硬化性樹脂の第1のラインの幅を取得すること、
前記注型マスターから前記基板へ2度目に転写された前記第1の放射線硬化性樹脂の第2のラインの幅を取得すること、及び
前記第1のラインの前記幅及び前記第2のラインの前記幅に基づいて、前記注型マスター上に噴射された前記第1の放射線硬化性樹脂の容積とライン幅との間の平衡が達成されているかどうかを決定すること、
をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記注型マスター上に噴射された前記第1の放射線硬化性樹脂の前記容積と前記ライン幅との間の前記平衡が達成されていないと決定したことに応答して、前記第1の放射線硬化性樹脂の第2の容積を前記注型マスター上に噴射することをさらに含み、
前記第2の容積は前記第1の容積とは異なる、
請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記第1の温度は55~65℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の放射線硬化性樹脂はノズルを通して噴射され、前記ノズルは前記注型マスターに接触しない、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
マイクロ光学セキュリティデバイス(300)のマイクロ構造を注型硬化する装置であって、
第1の放射線硬化性樹脂(205)を直接に注型マスター(301)上に吐出するように構成されたジェットディスペンサ(305A)と、
前記ジェットディスペンサに通信可能に接続されたコントローラ(401)であって、第1の厚さを有する前記第1の放射線硬化性樹脂の層を形成するために、前記第1の放射線硬化性樹脂の第1の容積を直接に前記注型マスター上に吐出すべく前記ジェットディスペンサを制御するように構成された、コントローラ(401)と、
を備える、マイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化装置。
【請求項9】
前記第1の放射線硬化性樹脂を基板のみに塗布する際、前記第1の厚さは前記注型マスターを濡らすのに必要な厚さよりも小さい、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記コントローラは、前記第1の放射線硬化性樹脂を直接に前記注型マスター上に噴射する前に、前記第1の放射線硬化性樹脂を第1の温度に加熱すべく前記装置を制御するように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記注型マスターへの塗布の際に前記第1の放射線硬化性樹脂の画像データを取得するよう構成された検査カメラをさらに含み、前記コントローラはさらに、
前記注型マスターから基板へ1度目に転写された前記第1の放射線硬化性樹脂の第1のラインの幅を取得し、
前記注型マスターから前記基板へ2度目に転写された前記第1の放射線硬化性樹脂の第2のラインの幅を取得し、及び
前記第1のラインの前記幅及び前記第2のラインの前記幅に基づいて、前記注型マスター上に噴射された前記第1の放射線硬化性樹脂の容積とライン幅との間の平衡が達成されているかどうかを決定する、
ように構成されている、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記コントローラはさらに、
前記注型マスター上に噴射された前記第1の放射線硬化性樹脂の前記容積と前記ライン幅との間の前記平衡が達成されていないと決定したことに応答して、前記第1の放射線硬化性樹脂の第2の容積を前記注型マスター上に噴射すべく前記ジェットディスペンサを制御する、
ように構成されており、
前記第2の容積は前記第1の容積とは異なる、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記第1の温度は55~65℃である、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
前記第1の放射線硬化性樹脂はノズルを通して噴射され、前記ノズルは前記注型マスターに接触しない、請求項8に記載の装置。
【請求項15】
基板(110)と、
前記基板上の1つ以上の注型硬化マイクロ構造層と、
を備え、
前記1つ以上の注型硬化マイクロ構造層(105)は、第1の硬化した放射線硬化性樹脂で形成された注型硬化マイクロ構造の第1の領域を含み、
前記第1の領域における前記注型硬化マイクロ構造は、1つ以上のボイド、粘着スポット、又は酸素を阻害する他の生成物を含まない、
マイクロ光学セキュリティデバイス(100)。
【請求項16】
前記第1の領域における前記注型硬化マイクロ構造は第2の硬化した放射線硬化性樹脂を含む、請求項15に記載のマイクロ光学セキュリティデバイス。
【請求項17】
前記第1の硬化した放射線硬化性樹脂で形成された前記注型硬化マイクロ構造は前記基板に接触する第1の層を含み、
前記第2の硬化した放射線硬化性樹脂で形成された前記注型硬化マイクロ構造は前記第1の層に接触する第2の層を含む、
請求項16に記載のマイクロ光学セキュリティデバイス。
【請求項18】
前記第1の放射線硬化性樹脂は、イソデシルアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエステルテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、アクリル、アクリル化ポリエステル、アクリル化ウレタン、エポキシ、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、ウレタン、アクリレートモノマー、アクリレートオリゴマー、O-フェニルフェノキシエチルアクリレート、フェニルチオエチルアクリレート、ビス-フェニルチオエチルアクリレート、クミンフェノキシルエチルアクリレート、ビフェニルメチルアクリレート、ビスフェノールAエポキシアクリレート、フルオレン型アクリレート、臭素化アクリレート、ハロゲン化アクリレート又はメラミンアクリレートのうちの1つ以上である、請求項15に記載のマイクロ光学セキュリティデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロレンズ、マイクロリフレクタ及び回折格子を含むがこれらに限定されない注型(注入成形)マイクロ光学構造の製造に関する。より詳細には、本開示は、マイクロ光学構造の製造に用いる注型媒体(例えば、放射線硬化性樹脂流体)を塗布するための改良されたプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート、紙幣及び他の文書(本明細書では「セキュリティ文書」と呼ぶ)など、偽造に対してその文書の真正性を示す複製困難な指標(indicia)を構造上の特徴として含むものを強化することは、セキュリティ文書のデザインの分野において、依然として技術的課題と改良の機会の継続的な源となっている。ホログラム、カラーシフトや他の光学効果をもたらすグレーティング(回折格子)、及び合成拡大鏡などのマイクロ光学デバイスは、これらの数千又は数百万の小規模マイクロレンズ(例えば、直径約50マイクロメートルのレンズ)のアレイを通してアイコン材料の層を見ることで、動的(すなわち、視野角によってその外観が変化しうる)で3次元的な外観を持つ画像を生成するもので、複製が困難な真正性指標の一般的で有効な形態を構成している。このようなマイクロ光学デバイスは一般に、マイクロ光学デバイスのレンズ及び他の光学構造に対応するレリーフ構造を有する注型マスターに注型媒体(例えば放射線硬化性ポリマー)を流し込むことによって製造される。注型マスター上のレリーフ構造の規模が小さいため製造に大きな課題があり、注型マスターの複製は、偽造者や他の悪意のある人物にとって、不可能ではないにしても極めて困難になる。
【0003】
しかしながら、レリーフ構造の規模が小さいことや、前述のマイクロ光学の製造に用いる注型媒体の性質は、マイクロ光学デバイスの正当な製造業者にとっても技術的な課題である。従来から、マイクロレンズ及びマイクロ光学セキュリティデバイスの他の光学構造は、注型媒体(例えばUV硬化性樹脂)の連続層をフィルム基板にコーティング又は転写し、次にコーティング済の基板を注型マスターに押しつけることによって製造される。通常は、コーティング済の基板とマスターが接触している間にUV光を使用して樹脂を硬化させ、樹脂を架橋させて注型マスターのレリーフ構造のネガ(陰画)を形成する。
【0004】
硬化時の酸素の阻害は、前述の方法に関連する慢性的な技術的課題である。注型媒体中に酸素があると注型媒体中の光反応性ポリマー鎖の架橋を遅らせたり阻害したりするため、完全に硬化した注型媒体よりも軟らかく場合によっては粘着性がより高い、未硬化又は部分的に硬化した注型媒体のポケットが生じることがある。部分的に硬化した注型媒体は粘着性があるため、硬化後に基板を注型マスターから剥がす際に注型マスターに付着し、その結果、「デッドスポット」及び他の望ましくない欠陥がマイクロ光学注型品に生じる。
【0005】
(例えば、連続ウェブ製造プロセスの一部として)回転式の円筒状注型マスターを使用する場合、基板がローラ型の注型マスターと接触するピンチポイントにおいて、注型マスターと基板との間に形成された樹脂の波に気泡が閉じ込められる場合がある。気泡は樹脂の波の中で転がり、一部の気泡がマスターと基板との間に閉じ込められる場合がある。閉じ込められた気泡の領域内の樹脂は酸素の阻害の影響を受けやすく、(材料を注型マスターにくっつける)粘着性を生じたり、注型マイクロ構造内に比較的脆い材料の領域を生じたりする場合がある。これらはいずれも望ましくないことである。注型基板が注型マスターから完全に分離しなかった場合、注型基板に欠陥が生じるだけでなく、分離しなかった材料が注型マスターに残るため後続の注型品に欠陥を生じ、欠陥が繰り返される可能性がある。さらに、未硬化又は部分的に硬化した注型媒体の蓄積は樹脂の波にさらなる乱流を引き起こし、注型マスター上の未硬化又は部分的に硬化した注型媒体の蓄積が雪だるま状になり、注型マスターを洗浄するために操作を停止せざるを得なくなることがある。
【0006】
したがって、マイクロ構造の注型時に酸素の阻害を緩和することは、当技術分野における技術的課題及び改良の機会の源であり続けている。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、注型マイクロ光学構造体製造用の樹脂性流体を塗布するための改良されたプロセスの実施形態を示すものである。
【0008】
第1の実施形態において、本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造を注型硬化する方法は、第1の放射線硬化性樹脂の第1の容積を直接に注型マスター上に噴射して、第1の厚さを有する前記第1の放射線硬化性樹脂の層を形成すること、スクイーズラインに沿って前記注型マスターを基板と接触させ、前記第1の放射線硬化性樹脂を前記基板に転写すること、及び転写された前記第1の放射線硬化性樹脂に硬化放射線を照射すること、を含む方法を含む。
【0009】
第2の実施形態において、本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造を注型硬化する装置は、第1の放射線硬化性樹脂を直接に注型マスター上に吐出するように構成されたジェットディスペンサと、前記ジェットディスペンサに通信可能に接続されたコントローラであって、第1の厚さを有する前記第1の放射線硬化性樹脂の層を形成するために、前記第1の放射線硬化性樹脂の第1の容積を直接に前記注型マスター上に吐出すべく前記ジェットディスペンサを制御するように構成された、コントローラと、を備える装置を含む。
【0010】
第3の実施形態において、マイクロ光学セキュリティデバイスは、基板と、前記基板上の1つ以上の注型硬化マイクロ構造層と、を備え、前記1つ以上の注型硬化マイクロ構造層は、第1の硬化した放射線硬化性樹脂で形成された注型硬化マイクロ構造の第1の領域を含み、前記第1の領域における前記注型硬化マイクロ構造は、1つ以上のボイド、粘着スポット、又は酸素を阻害する他の生成物を含まない。
【0011】
他の技術的特徴は、以下の図面、説明及び特許請求の範囲から当業者には容易に明らかであろう。
【0012】
以下の詳細な説明を始める前に、本特許文書全体を通して使用される特定の単語及びフレーズ(句・言い回し)の定義を記載することが好都合となりうる。「結合する」という用語及びその派生語は、2つ以上の要素が互いに物理的に接触しているか否かにかかわらず、これらの要素間の任意の直接的又は間接的な連絡を指す。「含む」及び「備える」という用語、ならびにこれらの派生語は、制限のない包含を意味する。「又は」という用語は包括的であり、及び/又はを意味する。「~に関連する」というフレーズ、及びその派生語は、~を含む、~内に含まれる、~と相互接続する、~を収容する、~内に収容される、~に接続する、~に結合する、~と連絡可能である、~と協働する、~を挟む、~を並置する、~に近接する、~に結合される、~を有する、~の特性を有する、~と関係を有する、などを意味する。「~のうちの少なくとも1つ」というフレーズは、項目のリストと共に使用される場合、列挙される項目のうちの1つ以上の異なる組み合わせを使用してもよく、リスト内の1つの項目のみが必要となる場合があることを意味する。例えば、「A、B、及びCのうち少なくとも1つ」は、A、B、C、A及びB、A及びC、B及びC、ならびにA及びB及びCの組み合わせのいずれかを含む。
【0013】
他の特定のフレーズの定義は本特許文書全体を通して提供される。殆どではないにしても多くの場合において、このような定義が、このように定義された単語及びフレーズの従来の使用及び将来の使用に適用されることを当業者は理解するはずである。
【0014】
本開示及びその利点をより完全に理解するために、添付の図面と併せて以下の説明を参照する。添付の図面において、同様の参照番号は同様の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の種々の実施形態による1つ以上の精密注型層を組み込んだマイクロ光学セキュリティデバイスの例を示す。
【
図2A】本開示の種々の実施形態によるマイクロ光学構造を精密注型するための例示的な方法の態様を示す。
【
図2B】本開示の種々の実施形態によるマイクロ光学構造を精密注型するための例示的な方法の態様を示す。
【
図2C】本開示の種々の実施形態によるマイクロ光学構造を精密注型するための例示的な方法の態様を示す。
【
図2D】本開示の種々の実施形態によるマイクロ光学構造を精密注型するための例示的な方法の態様を示す。
【
図3A】本開示の特定の実施形態による、注型媒体を注型マスターに塗布する装置の例を示す。
【
図3B】本開示の特定の実施形態による、注型媒体を注型マスターに塗布する装置の例を示す。
【
図4】本開示のいくつかの実施形態による、注型媒体を注型マスターに精密に塗布する装置の例示的なシステム構造の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に説明する
図1~
図4、及び本開示の原理を説明するために使用される種々の実施形態は例示のためにすぎず、本開示の範囲を限定するものと解釈すべきではない。当業者は、適切に構成された多様なマイクロ光学セキュリティデバイスにおいて本開示の原理を実施できることを理解するであろう。
【0017】
種々の実施形態を用いて本開示を説明するが、種々の変更及び修正を当業者に示唆することができる。本開示は、特許請求の範囲内にある変更及び修正を包含するように意図される。
【0018】
図1は、本開示の特定の実施形態による方法を用いて形成された注型マイクロ光学構造を利用する光学セキュリティデバイス100のセクション(一部)の例を示している。
【0019】
図1の非限定的な例を参照すると、光学セキュリティデバイス100は、(例えば集光素子107を含む)複数の注型集光素子105と、(例えば画像アイコン121を含む)注型画像アイコン120の配列とを含む。種々の実施形態によると、複数の集光素子105の各集光素子はフットプリント(実装面積)を有し、そのフットプリントには画像アイコン120の配列のうち1つ以上の画像アイコンが配置される。種々の実施形態によると、複数の集光素子105の各集光素子は約50μmの直径を有し、いくつかの実施形態では25μm以下の直径を有する。全体として、複数の集光素子105の集光素子は画像アイコン120の部分を拡大してモアレ拡大効果(「合成拡大画像」、又はより簡潔に「合成画像」とも呼ばれる)を生じる。このモアレ拡大効果において、個々の微小な画像アイコンは複数の集光素子105によって集合的に拡大され、(例えば動いたり色が変わるように見えたりすることによって)視野角の変化に動的に反応する画像が生成される。モアレ拡大効果をもたらす光学セキュリティデバイスの構成構造が小規模で厳しい製造公差である状況から、悪意のある人物の多くは光学セキュリティデバイス100の偽造品を製造することができない。特定の実施形態において、集光素子105又は画像アイコン120のうちの1つ以上は、注型マスターと基板との間に樹脂注型媒体を流し込むことによって形成される。注型媒体を注型及び硬化の前のみ基板に塗布する場合、酸素が注型媒体の硬化を遅らせたり阻害したりする危険性があり、硬化物における粘着スポットや、部分的に硬化した注型媒体による注型マスターの累進的な汚れ(crudding)といった前述の問題が生じる可能性がある。
【0020】
特定の実施形態によると、複数の集光素子105はマイクロ光学集光素子の平面アレイを含む。いくつかの実施形態において、複数の集光素子105の集光素子は、マイクロ光学屈折集光素子(例えば平凸レンズ又はGRINレンズ)を含む。複数の集光素子105の屈折集光素子は、いくつかの実施形態では1.35~1.7の範囲の屈折率を有する光硬化樹脂から製造され、5μm~200μmの範囲の直径を有する。種々の実施形態において、複数の集光素子105の集光素子は、直径が5μm~50μmに及ぶ反射集光素子(例えば、非常に小さな凹面ミラー)を含む。この説明のための例では、複数の集光素子105の集光素子は円形の平凸レンズを含むものとして示されているが、他の屈折レンズ形状、例えばレンチキュラーレンズが可能であり、本開示の想定範囲内にある。
【0021】
図1の説明のための例に示すように、画像アイコン120の配列は、複数の集光素子105の集光素子のフットプリント内の所定の位置に配置された(画像アイコン121を含む)画像アイコンのセットを含む。種々の実施形態によると、画像アイコン120の配列の個々の画像アイコンは、1つ以上の所定の視野角範囲に関連する投影点から複数の集光素子105を通過する構造化光(例えばコリメートUV光)の焦点経路に関連する光硬化性材料の領域を含む。いくつかの実施形態では、画像アイコン120の配列の個々の画像アイコンは構造化画像アイコン層内に設けられない。本開示で使用するような「構造化画像層」という用語は、画像アイコン材料を位置決めして保持するための構造(例えば、凹部、ポスト、溝又はメサ)を含むように注型された材料(例えば光硬化性樹脂)の層を包含する。種々の実施形態によると、画像アイコン120の配列の個々の画像アイコンは構造化画像層内に設けられており、構造化画像層は、着色材料のマイクロスケール及びナノスケールの容積を保持するための保持構造として作用するボイド、メサ又はポストのうちの1つ以上を含む。
【0022】
図1の説明のための例に示すように、特定の実施形態において、光学セキュリティデバイス100は光学スペーサ110を含む。種々の実施態様によると、光学スペーサ110は、複数の集光素子105の集光素子の焦点面内又はその周囲に、画像アイコン120の配列の画像アイコンを配置するよう機能するほぼ透明な材料のフィルムを含む。本開示による特定の実施形態において、光学スペーサ110は製造基板を含み、これに光硬化性材料の1つ以上の層を塗布し、画像アイコン120の配列又は複数の集光素子105のうちの1つ以上を形成することができる。
【0023】
種々の実施形態によると、光学セキュリティデバイス100は、画像アイコン120の配列の画像アイコン間のスペースを占める光硬化性保護材料の1つ以上の領域を含む。いくつかの実施形態では、画像アイコン120の配列をまず形成し、次に透明な光硬化性材料の層を塗布して画像アイコン120の配列の画像アイコン間のスペースを充填し、そしてこれをフラッド硬化して保護層を作製する。保護層は、画像アイコンが、複数の集光素子105の集光素子のフットプリント内のそれらの位置から移動されるのを保護する。特定の実施形態において、画像アイコン120の配列を形成するために使用される光硬化性材料は着色された紫外線(UV)硬化性の着色ポリマーである。
【0024】
いくつかの実施形態において、画像アイコン120の配列は第2の基板130に取り付けられる。第2の基板130は、画像アイコン120の配列を保護して固定し、セキュリティ文書の一部として、光学セキュリティデバイス100を基板150に取り付けるためのインターフェースを提供するように機能する。
【0025】
本開示による特定の実施形態において、光学セキュリティデバイス100はシール層140を備えている。特定の実施形態によると、シール層140は、下面において複数の集光素子105の集光素子とつながるほぼ透明な材料の薄い(例えば2μm~50μmの厚さの)層を含み、(例えば、滑らかであるか、局所的な起伏の曲率半径が集光素子よりも大きな表面を有することによって)複数の集光素子105よりも曲率のばらつきが少ない上面を含む。種々の実施形態によると、シール層140の上面は、セルロース系材料を含む表面に超音波溶接することのできる熱可塑性材料から形成される。
【0026】
図1の非限定的な例に示すように、特定の実施形態において、光学セキュリティデバイス100を基板150に取り付けてセキュリティ文書160を形成することができる。種々の実施形態によると、基板150は、木材パルプ、綿繊維、リネン繊維、亜麻繊維、サイザル繊維、麻繊維、アバカ繊維、コゾ繊維、ミツマタ繊維、竹繊維又はケナフ繊維などのセルロース系材料を含む少なくとも1つの表面を有するシート状の材料を含む。
【0027】
図1は種々の実施形態による光セキュリティデバイス100の例を提供しているが、本開示はこれに限定されない。複製が困難なマイクロスケール及びナノスケールの注型光学構造を有する少なくとも1つの表面を含む他の光学セキュリティデバイス(例えば、ホログラム、薄膜効果をもたらすデバイス、回折ベースの光学効果をもたらすデバイス)は、本開示の想定範囲内にある。
【0028】
図2A~
図2Dは、本開示の種々の実施形態による、放射線硬化性注型媒体を注型するための例示的なプロセスの態様を示している。相互参照の便宜上、
図2A~
図2Dのうち1つよりも多くに共通する要素には同様の番号を付している。
【0029】
図2Aの非限定的な例を参照すると、マイクロ構造を注型するための注型マスターのセクション201が図に示されている。特定の実施形態によると、注型マスターは、連続ウェブ製造プロセスの一部として操作時に回転する円筒状のマスターである。特定の実施形態において、セクション201を含む注型マスターは平らな注型マスターであってもよい。
図2Aに示すように、セクション201は複数のレリーフ構造(例えば、レリーフ構造203A~203C)を含む。特定の実施形態において、複数のレリーフ構造の各レリーフ構造は、セキュリティデバイス(例えば集光素子107)又はアイコン120の1つ以上のマイクロ光学構造のレリーフのネガであるレリーフプロファイルを有する。特定の実施形態において、注型マスターのレリーフ構造は、集積回路チップの製造に使用するものと同様の独自のマイクロ加工技術を用いて注型マスターが作製されるよう十分に小さいスケール(例えば、幅50μm以下及び深さ10μm以下)であるか、又はそれよりも小さいものである。このようなマイクロ加工技術の実施には特殊な機器、資本及び専門知識が必要であるため、悪意のある人物は注型マイクロ光学セキュリティデバイスの製造に用いる注型マスターを複製することができず、このようなセキュリティデバイスは、それらが表示される文書及び製品の有効な真正性指標となる。放射線硬化性樹脂のような注型媒体の保持容積に圧入された際。注型媒体としての使用に適した放射線硬化性ポリマー樹脂の例としては、イソデシルアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエステルテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート及びヘキサンジオールジアクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。注型媒体としての使用に適した材料のさらなる例としては、アクリル、アクリル化ポリエステル、アクリル化ウレタン、エポキシ、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル及びウレタンなど、透明な着色又は無色のポリマーが挙げられる。注型媒体としての使用に適した材料のさらなる例としては、アクリレートモノマー、アクリレートオリゴマー、O-フェニルフェノキシエチルアクリレート、フェニルチオエチルアクリレート、ビス-フェニルチオエチルアクリレート、クミンフェノキシエチルアクリレート、ビフェニルメチルアクリレート、ビスフェノールAエポキシアクリレート、フルオレン型アクリレート、臭素化アクリレート、ハロゲン化アクリレート、メラミンアクリレート及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
図2Bに示すように、注型媒体は、セクション201のレリーフ構造を充填するように塗布される。
【0030】
本開示の他の箇所で述べたように、従来、まず、注型媒体の層をフィルムの層(例えば、
図1の光学スペーサ110の形成に使用するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)に塗布し、単位面積当たりの特定の容積に対応する深さで未硬化の注型媒体の層を形成することにより、注型媒体は注型マスターに間接的に導入される。一般に、注型媒体が注型前に基板に塗布される場合、注型媒体は、レリーフ構造が最も深いか、そうでなければレリーフ構造が最も多くの注型媒体を必要とする領域で、注型マスターが完全に濡れていることを確実にするのに十分な単位面積当たりの容積で塗布される。注型マスターの最も深い部分、すなわち「最も渇いた」部分の濡れを確実にするために基板をコーティングするには、必然的に、注型マスターの残りの部分を充填するために必要な量よりも多くの注型媒体を塗布することが必要となる。このように、注型マスターを基板上の注型媒体の層と接触させ、注型マスターの最も深い凹部を充填するように注型媒体に圧入すると、より浅いレリーフを有する注型マスターの部分における余剰の注型媒体が押し出され、注型マスターが未硬化注型媒体の定在層に圧入する「ピンチポイント」付近で未硬化注型媒体の定在波(standing wave)を形成する可能性がある。この余剰の未硬化注型媒体の定在波は、少なくとも以下の理由により望ましくない場合がある。第1に、必要以上に多くの注型媒体を塗布することは当然無駄であり、これは競争の激しい分野における大規模製造作業にとって望ましくない。第2に、本開示の他の箇所で述べたように、未硬化注型媒体の定在波は、注型媒体中に気泡を閉じ込める態様で激しく動いたり(churn)、バチャバチャしたり(slosh)、他の態様で移動する可能性が高く、これによって硬化時の酸素の阻害、ひいては注型マスターのレリーフ構造の複製不良、及び未硬化注型媒体による注型マスターの汚れが生じる可能性がある。したがって、注型媒体の塗布を管理することと、注型マスターに近接し、かつそれと接触して余剰の未硬化注型媒体の定在容積の生成を回避することは、当技術分野における改良のための技術的課題及び機会の源であり続けている。
【0031】
図2Bの説明例を参照すると、本開示による特定の実施形態は、調整された容積の注型媒体を注型マスターに制御下で塗布することにより、注型の前に全ての注型媒体を基板に間接的に塗布することに関連する無駄な消費の問題と、余剰の注型媒体の容積における酸素気泡の形成の問題を回避する。
図2Bの説明例に示すように、未硬化注型媒体205の第1の容積は、基板の導入前に注型マスターに直接に塗布される。第1の容積は、特定の実施形態では、アプリケータ(例えば、注型媒体の測定された容積を制御して塗布できるインクジェット又は他のサーボ)によって塗布される。いくつかの実施形態では、インクジェット又は他の噴射アプリケータは注型マスターに接触しないため、余剰の注型媒体の液滴がインクジェット又は注型マスターのいずれかに付着する可能性が低減される。実施形態に応じて、未硬化注型媒体の第1の容積は、例えばマシンの製造業者による実験及び較正に基づいて予め決定される。いくつかの実施形態では、未硬化注型媒体の第1の容積は、注型マイクロ構造の画像データ又は他のフィードバック源に基づいて動的に調節される。
【0032】
図2Cに示すように、注型マスターに予め塗布した未硬化注型材料の上に基板210を配置し、注型マスターのセクション201と基板210を強制的に引き合わせて未硬化注型媒体を注型マスターのレリーフ構造に押し込み、小さな容積の余剰注型媒体を押し出して、注型マスターのセクション201のレリーフ構造の完全な充填を確実にする。セクション201が円筒状、すなわち圧延注型マスターの一部である実施形態では、注型マスターの外面に近接し、注型マスターの回転軸に平行なラインを含むスクイーズラインに沿って未硬化注型媒体及び注型マスターを引き合わせることができる。
【0033】
未硬化注型媒体は、注型マスターの基板210とセクション201との間に挟まれると紫外線又は赤外線などの放射線で硬化され、注型媒体内で架橋反応が生じる。酸素の気泡などの汚染物質又は交絡変数がないと想定すると、硬化放射線への曝露により、注型媒体の容積の、それ自体及び基板210へのほぼ完全な架橋が生じる。
【0034】
図2Dに示すように、放射線による架橋に成功した後、注型マスターと完全に反対のレリーフ構造を有する硬化注型媒体211の層が基板210の表面上に形成される。さらに、
図2Dに示すように、すべての注型媒体が注型マスターの凹部から除去され、後続の注型・硬化プロセスの反復によって同じように完璧な注型マスターのレリーフ構造のコピーを製造することができる。
【0035】
図3A及び
図3Bは、本開示の種々の実施形態による、注型媒体を注型マスター301に塗布するための閉回路装置300の例を示している。
【0036】
図3Aの説明のための例を参照すると、装置300は1つ以上のマイクロスケールジェットディスペンサ305A(例えば、MTAオートメーションジェットディスペンサのような、0.002mm
2程度の液滴サイズを有する様々な粘度の材料の液滴容積を吐出する(dispense)ことができるピエゾプランジャデバイス)を含む。種々の実施形態によると、1つ以上のマイクロスケールジェットディスペンサ305Aの各々は1つ以上のノズルを有することができ、これにより、1つのタイプよりも多くの注型媒体を注型マスター301に塗布することができる。
図3Aの説明のための例において、マイクロスケールジェットディスペンサ305Aは、第1のタイプの流体注型媒体307A及び第2のタイプの流体注型媒体307Bを吐出するように構成されている。さらに、装置300での使用に適した注型媒体は、粘度が著しく温度依存性でありうる熱可塑性樹脂を含むため、いくつかの実施形態において、注型媒体は、吐出される前にマイクロスケールジェットディスペンサ305Aの内外で循環される。このようにして、注型媒体をヒーターに通して注型媒体の粘度を低下させることができ、マイクロスケールジェットディスペンサ305Aの内外の注型媒体の流速(及び含意的に現在の粘度)を測定することができる。
【0037】
図3Aの説明のための例に示すように、装置300は、注型マスター301がマイクロスケールジェットディスペンサ305Aに対して第1の方向(矢印310で示す)に移動するように構成されている。いくつかの実施形態において、装置300は、マイクロスケールジェットディスペンサ305Aを注型マスター301の上方で第1の方向に前後に移動させるステッピングモータ又は他の装置を含む。これに代えて、又はこれに加えて、装置300は、マイクロスケールジェットディスペンサ305Aに対して注型マスター301を第1の方向に沿って移動させるステッピングモータ又は他の装置を含む。
【0038】
同様に、装置300は、第1の方向に垂直な第2の方向(矢印315で示す)において、注型マスター301に対するマイクロスケールジェットディスペンサ305Aの相対位置を変えるステッピングモータ又は他の装置をさらに含む。実施形態に応じて、マイクロスケールジェットディスペンサ305Aを移動させてもよいし、注型マスター301を変位させてもよい。これに代えて、又はこれに加えて、マイクロスケールジェットディスペンサ305Aは格子又はラスタ配列の複数のノズルを含むことができ、注型媒体が噴射される注型マスター301の領域は、複数のノズルのうちのどれが噴射されるかによって決定される。
【0039】
図3Aに示すように、注型マスターがマイクロスケールジェットディスペンサ305Aに対して移動する際に、マイクロスケールジェットディスペンサ305Aの1つ以上のノズルを選択的に射出する(trigger)ことによって、注型媒体の層317が注型マスター301のレリーフ構造を充填するように塗布される。種々の実施形態によると、マイクロスケールジェットディスペンサ305Aは注型マスター301の様々な領域上に注型媒体の領域別の容積を噴射する。ここで、注型媒体の領域別の容積は、最も深いか又は最も濡らしにくいレリーフ構造が充填されることを確実にするのに十分な容積ではなく、所与の領域内のレリーフ構造を十分に充填するのに必要な注型媒体の量に基づいて決定される。したがって、すべての注型媒体を基板に間接的に塗布し、次いで注型マスターに塗布するよりも、本開示による実施形態における余剰の注型媒体(本開示で使用するような「余剰の注型媒体」という表現は、注型マスターのレリーフ構造の凹部及びボイドの上方にある連続層の注型媒体を指す)を大幅に少なくすることができる。種々の実施形態によると、装置300は第1の検査カメラ319Aをさらに含み、検査カメラ319Aは、いくつかの実施形態において、装置300のコントローラとして動作する1つ以上の処理プラットフォームに画像データのフレームを受け渡すCMOSデジタルカメラ(又はロールツーロール(登録商標)センサのような製造に特化したセンサ)であってもよい。いくつかの実施形態において、画像データのフレームは、注型マスター301上の層317の塗布幅wなど層317の1つ以上の測定基準を評価するために、処理プラットフォームによって分析される。
【0040】
いくつかの実施形態において、装置300は、スクイーズラインに沿った層317の画像データのフレームを取得するように構成された第2の下流の視覚センサ又はカメラ319Bをさらに含む。スクイーズラインに沿った層317の幅を測定することにより、適切な量の注型媒体が注型マスター301に塗布されているかどうかに関するさらなる情報が適用される。本開示の他の箇所で述べたように、特定の注型媒体の粘度は温度に大きく依存しうる。通常、装置300の作業面(例えば、注型マスター301及びマイクロスケールジェットディスペンサ305A)の温度は生産工程の開始時に変化する場合があり、最終的に平衡温度に落ち着く。平衡に達する前に、装置300の作業面の温度の変動は塗布する注型媒体の粘度に影響を及ぼす可能性があり、マイクロスケールジェットディスペンサ305A及び下流において、注型媒体が基板と注型マスターとの間で押圧されるスクイーズラインに沿って幅wの変動が生じる。したがって、視覚センサ319A及び319Bからの画像データを使用して、装置300の作業面が平衡状態を達成したかどうかを、例えば観測された層317の幅に基づいて決定することができる(本開示で用いるような「平衡状態」という表現は、注型マスター301に塗布する注型媒体の所与の容積が一定幅の注型媒体の層317を生じる状態を包含する)。注型媒体の塗布幅の変動を画像データが示す場合、又は注型マスター301の1つ以上の領域のカバー範囲が余剰であるか又は不十分であることを画像データが示す場合、注型媒体が注型マスターに塗布される点、又は注型媒体が基板と注型マスターとの間で圧縮される点のうちの1つ以上において所望の幅を達成するように1つ以上の注型媒体塗布パラメータ(例えば、注型媒体の温度や注型マスター301上に噴射される容積)を調節することができる。
【0041】
図3Aは、本開示による注型媒体の注型マスターへの塗布を制御する装置の1つの非限定的な例を提供するもので、他の実施形態が可能であり、本開示の想定範囲内である。
図3Bは、本開示の種々の実施形態による装置350の別の例を示している。
図3Bの説明のための例を参照すると、
図3Aを参照して説明した、注型マスターの表面に注型媒体を噴射するための閉ループを提供する構造は拡張可能であり、
図3Aを参照して説明した構成要素の追加の例を組み込むように拡張することができる。例えば、
図3Bに示すように、光学セキュリティデバイスが、単一のマイクロスケールジェットディスペンサ内のノズルのアレイが塗布することができるものよりも幅広である場合、装置350は複数のマイクロスケールジェットディスペンサ305A~305Dを含み、これらを使用して、単一のマイクロスケールジェットディスペンサ305Aによって達成可能な幅wよりも大きい第2の幅w’で未硬化注型媒体の層317を設けることができる。さらに、
図3A及び
図3Bには示していないが、装置350は、基板及び注型マスターを引き合わせる前にいくつかの注型媒体を基板に塗布するように構成された1つ以上のディスペンサ(例えばマイクロスケールジェットディスペンサ305A)を含む。いくつかの実施形態において、大量の注型媒体を注型マスターに塗布することにより、また、いくつかの注型媒体を基板に塗布して基板を濡らすことにより、注型マスター301のカバー範囲及び酸素の気泡の抑制をさらに高めることができる。いくつかの実施形態では、所与の領域に対する注型媒体の80%以上が注型マスターに直接に塗布され、所与の領域に対する注型媒体の20%以下が、硬化して注型されたマイクロ構造が付着する基板に塗布される。
【0042】
図4は、本開示の種々の実施形態による注型マスターに対して注型媒体のフィードバックによる塗布を行う構造400をブロック図で示したものである。
図4の説明のための例を参照すると、構造400は、コントローラ401と、1つ以上の注型媒体ディスペンサ450(例えば、
図3Aのマイクロスケールジェットディスペンサ305A)と、1つ以上の画像センサ475(例えば
図3Aの検査カメラ319A)とを含み、コントローラ401は注型媒体ディスペンサ450及び画像センサ475の双方に通信可能に接続されている。種々の実施形態によると、コントローラ401は、非一過性メモリに記憶されたプログラムコードを実行するように構成されたプロセッサ405を含む。いくつかの実施形態では、非一過性メモリをプロセッサ405と統合することができる。これに代えて、又はこれに加えて、非一過性メモリを別個のチップ上に設けることができる。コントローラ401のメモリ、又は別の態様でプロセッサ405にアクセス可能なメモリはデザインファイル407を含む。種々の実施形態によると、デザインファイル407は、注型マスター上に噴射される1つ以上の注型媒体のパターンのベースデザインを指定するファイルを含む。本開示で用いるような「ベースデザイン」という表現は、初期容積(すなわち、温度の影響や粘度の変動、又は注型媒体による注型マスターのカバー範囲に影響を及ぼす他の要因を考慮するような修正がまだされていない容積)への、注型マスター上の位置のマッピングを含む。
【0043】
図4に示すように、コントローラ401は1つ以上の画像センサ475から画像データを受信する。種々の実施形態によると、プロセッサ405は受信した画像データを処理し、注型媒体が注型マスターにどのくらい良好に塗布されているかを示す1つ以上の視覚的指標を取得する。注型媒体の塗布品質の視覚的指標としては、注型マスター上の注型媒体の層の測定幅(例えば
図3Aの層317の幅w)、スクイーズアウト(スクイーズラインを越えて広がる余剰の注型媒体を指す)の形跡、又は注型マスター上の乾燥スポットを示すハイライトの有無が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態によると、プロセッサ405は、受信した画像データに基づき、ベースデザインファイル407で指定された注型マスター上の領域への容積のマッピングを調節して、注型マスターの領域への注型媒体の容積の更新マッピングを指定する画像ファイル409を生成する。注型媒体ディスペンサ450が1つのタイプよりも多くの注型媒体を吐出できる実施形態では、画像ファイル409は、注型マスターの所与の領域において塗布される注型媒体のタイプのマッピングをさらに指定する。
【0044】
生成した画像ファイル409は次にラスタ画像処理モジュール411に受け渡され、ラスタ画像処理モジュール411は画像ファイルをピクセルのラスタとしてレンダリングする。ここで、各ピクセルは、注型媒体ディスペンサ450のノズルを配置できる固有の位置に対応し、ラスタの各ピクセルは、そのピクセルに関連付けられた位置で吐出される指定された注型媒体の容積を指定する。いくつかの実施形態によると、注型媒体ディスペンサ450は、ラスタ内の指定されたピクセルへ移動する。種々の実施形態によると、ラスタ内の指定されたピクセルを含む行に対応する位置まで注型媒体が進められると、注型媒体ディスペンサ450の特定のノズルが発射する。
【0045】
図4の非限定的な例を参照すると、ピクセルのラスタは注型媒体ディスペンサ450のドライバエレクトロニクス455に受け渡され、ドライバエレクトロニクス455は、受け取った容積及びマッピングのピクセルレベルのラスタを注型マスター上の位置に変換し、注型媒体ディスペンサ450の1つ以上の印字ヘッド457へのインパルスを制御する。
【0046】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、第1の放射線硬化性樹脂の第1の容積を直接に注型マスター上に噴射して、第1の厚さを有する前記第1の放射線硬化性樹脂の層を形成すること、スクイーズラインに沿って前記注型マスターを基板と接触させ、前記第1の放射線硬化性樹脂を前記基板に転写すること、及び転写された前記第1の放射線硬化性樹脂に硬化放射線を照射すること、を含む方法が挙げられる。
【0047】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記第1の放射線硬化性樹脂を前記基板に塗布する際、前記第1の厚さは前記注型マスターを濡らすのに必要な厚さよりも小さい方法が挙げられる。
【0048】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記第1の放射線硬化性樹脂を直接に前記注型マスター上に噴射する前に、前記第1の放射線硬化性樹脂を第1の温度に加熱することをさらに含む方法が挙げられる。
【0049】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記注型マスターから前記基板へ1度目に転写された前記第1の放射線硬化性樹脂の第1のラインの幅を取得すること、前記注型マスターから前記基板へ2度目に転写された前記第1の放射線硬化性樹脂の第2のラインの幅を取得すること、及び前記第1のラインの前記幅及び前記第2のラインの前記幅に基づいて、前記注型マスター上に噴射された前記第1の放射線硬化性樹脂の容積とライン幅との間の平衡が達成されているかどうかを決定すること、をさらに含む方法が挙げられる。
【0050】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記注型マスター上に噴射された前記第1の放射線硬化性樹脂の前記容積と前記ライン幅との間の前記平衡が達成されていないと決定したことに応答して、前記第1の放射線硬化性樹脂の第2の容積を前記注型マスター上に噴射することをさらに含み、前記第2の容積は前記第1の容積とは異なる方法が挙げられる。
【0051】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記第1の温度は55~65℃である方法が挙げられる。
【0052】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記第1の温度は40~70℃である方法が挙げられる。
【0053】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記第1の放射線硬化性樹脂はノズルを通して噴射され、前記ノズルは前記注型マスターに接触しない方法が挙げられる。
【0054】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記注型マスターは、円筒全体の周りに連続したレリーフパターンを有する円筒状の注型マスターである方法が挙げられる。
【0055】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記注型マスターは、不連続のレリーフパターンを有する円筒状の注型マスター、又は平らな注型マスターのうち1つ以上である方法が挙げられる。
【0056】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記第1の容積は最適なカバー領域を維持するように調節される方法が挙げられる。
【0057】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化方法の例として、前記注型マスターに塗布される前記第1の放射線硬化性樹脂の量は、前記注型マスター上のレリーフ構造が必要とする樹脂の量を補償するようにパターン化される方法を含む。
【0058】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化装置の例として、第1の放射線硬化性樹脂を直接に注型マスター上に吐出するように構成されたジェットディスペンサと、前記ジェットディスペンサに通信可能に接続されたコントローラであって、第1の厚さを有する前記第1の放射線硬化性樹脂の層を形成するために、前記第1の放射線硬化性樹脂の第1の容積を直接に前記注型マスター上に吐出すべく前記ジェットディスペンサを制御するように構成された、コントローラと、を備える装置が挙げられる。
【0059】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化装置の例として、前記第1の放射線硬化性樹脂を基板のみに塗布する際、前記第1の厚さは前記注型マスターを濡らすのに必要な厚さよりも小さい装置が挙げられる。
【0060】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化装置の例として、前記コントローラは、前記第1の放射線硬化性樹脂を直接に前記注型マスター上に噴射する前に、前記第1の放射線硬化性樹脂を第1の温度に加熱すべく前記装置を制御するように構成されている装置が挙げられる。
【0061】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化装置の例として、前記注型マスターへの塗布の際に前記第1の放射線硬化性樹脂の画像データを取得するよう構成された検査カメラをさらに含み、前記コントローラはさらに、前記注型マスターから基板へ1度目に転写された前記第1の放射線硬化性樹脂の第1のラインの幅を取得し、前記注型マスターから前記基板へ2度目に転写された前記第1の放射線硬化性樹脂の第2のラインの幅を取得し、及び前記第1のラインの前記幅及び前記第2のラインの前記幅に基づいて、前記注型マスター上に噴射された前記第1の放射線硬化性樹脂の容積とライン幅との間の平衡が達成されているかどうかを決定する、ように構成されている装置が挙げられる。
【0062】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化装置の例として、前記コントローラはさらに、前記注型マスター上に噴射された前記第1の放射線硬化性樹脂の前記容積と前記ライン幅との間の前記平衡が達成されていないと決定したことに応答して、前記第1の放射線硬化性樹脂の第2の容積を前記注型マスター上に噴射すべく前記ジェットディスペンサを制御する、ように構成されており、前記第2の容積は前記第1の容積とは異なる装置が挙げられる。
【0063】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化装置の例として、前記第1の温度は55~65℃である装置が挙げられる。
【0064】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスのマイクロ構造の注型硬化装置の例として、前記第1の放射線硬化性樹脂はノズルを通して噴射され、前記ノズルは前記注型マスターに接触しない装置が挙げられる。
【0065】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスの例として、基板(110)と、前記基板上の1つ以上の注型硬化マイクロ構造層と、を備え、前記1つ以上の注型硬化マイクロ構造層は、第1の硬化した放射線硬化性樹脂で形成された注型硬化マイクロ構造の第1の領域を含み、前記第1の領域における前記注型硬化マイクロ構造は、1つ以上のボイド、粘着スポット、又は酸素を阻害する他の生成物を含まないマイクロ光学セキュリティデバイスが挙げられる。
【0066】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスの例として、前記第1の領域における前記注型硬化マイクロ構造は第2の硬化した放射線硬化性樹脂を含むマイクロ光学セキュリティデバイスが挙げられる。
【0067】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスの例として、前記第1の硬化した放射線硬化性樹脂で形成された前記注型硬化マイクロ構造は前記基板に接触する第1の層を含み、前記第2の硬化した放射線硬化性樹脂で形成された前記注型硬化マイクロ構造は前記第1の層に接触する第2の層を含むマイクロ光学セキュリティデバイスが挙げられる。
【0068】
本開示によるマイクロ光学セキュリティデバイスの例として、前記第1の放射線硬化性樹脂は、イソデシルアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエステルテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、アクリル、アクリル化ポリエステル、アクリル化ウレタン、エポキシ、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、ウレタン、アクリレートモノマー、アクリレートオリゴマー、O-フェニルフェノキシエチルアクリレート、フェニルチオエチルアクリレート、ビス-フェニルチオエチルアクリレート、クミンフェノキシルエチルアクリレート、ビフェニルメチルアクリレート、ビスフェノールAエポキシアクリレート、フルオレン型アクリレート、臭素化アクリレート、ハロゲン化アクリレート又はメラミンアクリレートのうちの1つ以上であるマイクロ光学セキュリティデバイスが挙げられる。
【0069】
本願におけるいずれの説明も、特定の要素、ステップ又は機能が特許請求の範囲に含まれなければならない必須の要素、ステップ又は機能であることを暗示するものと解釈されるべきではない。さらに、請求項は、「~ための手段(means for)」というフレーズの後に分詞が続かない限り米国特許法第112条(f)の適用を意図するものではない。
【国際調査報告】