(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】腫瘍浸潤Tリンパ球(TIL)の産出方法およびヒト腫瘍治療のための細胞治療薬としてのその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20240514BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240514BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240514BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240514BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C12N5/078
C12N5/0783
C12N1/00 B
A61P35/00
A61P37/04
A61K35/17
A61P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565894
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 DE2021000194
(87)【国際公開番号】W WO2022247975
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】102021002748.5
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523403704
【氏名又は名称】ゼルワーク ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ZELLWERK GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110003487
【氏名又は名称】弁理士法人東海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホフメイスター,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】イェーガー,エルケ
(72)【発明者】
【氏名】カルバッハ,ユリア
(72)【発明者】
【氏名】シネルニコフ,エフゲニー
(72)【発明者】
【氏名】グスタフ,ディルク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB19
4B065BC25
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB32
(57)【要約】
本発明は、免疫細胞を、特に原発性腫瘍組織、転移組織、リンパ組織から得た腫瘍浸潤自己Tリンパ球(TIL)を、および、他の組織(例えば、血液、リンパ液)から得たT細胞をも、ミアンダ灌流バイオリアクタ内で単離し、活性化しおよび増殖させる方法、ならびに、これらから、膵臓、肺、肝臓、前立腺、乳房、卵巣、胃、結腸、直腸、骨、脳および皮膚の腫瘍ならびにその他の悪性腫瘍と闘うための免疫細胞治療薬を産出する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TILおよび他のT細胞をエクスビボで得る方法、ならびに腫瘍と闘うために患者個人の細胞治療薬として使用する方法であって、
該方法の第1段階において、粉砕された組織部分から、規定の細胞を閉鎖ミアンダ灌流バイオリアクタ容器中に入れ、かつ均一に分布させ、
前記細胞を、灌流ミアンダ・バイオリアクタ中にある培養培地中で十分に成長させ、同時に活性化かつ増殖させ、
この際、前記灌流バイオリアクタの流路を通る培地流は、上部流では、フルード数<0.005、好ましくは<0.002で、底部流では、0または0に近いフルード数で、ミアンダ形状で流れ、
前記培地は、前記沈殿したTILの上方を、細胞にストレスを与えない指向性のある層流で流れ、かつ十分に成長しおよび拡大培養した細胞が所定の密度に達した後に、前記培地を前記組織部分から分離し、純粋な形態で回収し、こうして分離された前記細胞を遠心分離し、バイアル中の凍結培地中で再懸濁し、アリコート量に分けおよび凍結保存し、かつ、
第2段階で、前記凍結保存されたバイアルを融かし、前記凍結培地を洗浄し、かつ前記細胞を新たに適切な前記培養培地中で懸濁させ、運転準備が整って設置されたさらなるミアンダ灌流バイオリアクタ中に移し、前記バイオリアクタの面積は、前記第1段階の前記ミアンダ灌流バイオリアクタの面積と比較して5対1の比率以上の大きさのコロニー面積を有し、
この際、前記第1段階および前記第2段階のバイオリアクタ容器中で、前記培養培地は酸素が指向性をもって灌流し、かつ前記培養培地に、ABヒト血清、サイトカインおよび抗体の混合物を添加する、方法において、
組織片から十分に成長した前記細胞は、前記ミアンダ灌流バイオリアクタの流路の底で沈殿し、
前記細胞は、前記沈殿後、ほぼ静止する細胞層を形成し、前記細胞層中で、細胞同士は接するが、軽く移動もし、この際、沈殿層中でのTIL細胞数は、0.1~2×10
6TIL/cm
2、好ましくは0.5~1×10
6TIL/cmで安定的に増殖し、
前記培養培地はサイトカインおよび抗体を含有し、前記サイトカインはインターロイキン12の形態、または、インターロイキン2とインターロイキン12とからなる混合物からなり、かつ前記抗体は抗体4-1bbの形態であり、かつ
前記細胞は、TILまたはその他のT細胞の高成長量に応じて、添加培地と酸素とを、高酸素的または通常酸素的に、自動制御された供給により得る
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、腫瘍浸潤NK細胞(TINK)またはさらに別の細胞様式である前記細胞を、前記ミアンダ灌流バイオリアクタ内で、適切に添加された培地中で培養することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凍結保存されたバイアルを、さらなる拡大培養のために融かし、
前記凍結培地を、遠心分離して前記細胞を再懸濁することにより、ABヒト血清とサイトカインと抗体との混合物からなる新鮮な添加した培地により洗い流し、
細胞懸濁液を、第2段階で、第1段階と同じ様式であるか、またはより大きなコロニー面積を有する一つ以上のミアンダ灌流バイオリアクタ中に移すか、または分割し、
前記TILを、前記培養後12~20日にわたって前記バイオリアクタ内で拡大培養させ、回収し、NaCl溶液で洗浄し、遠心分離し、
前記細胞を、0.9%のNaCl、2%アルブミンおよび10%のDMSOを含有する溶液中で再懸濁し、かつ前記懸濁液を通常の冷却プロセス後に、100mlのクライオバッグ中に規定量ずつ充填し、窒素を介して貯蔵し、かつ、
このようにして保存されたTIL懸濁液を引き出し、融かし、適切な投与量を患者に投与する、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)からなる前記細胞治療薬が、腫瘍および感染症の治療のための細胞治療薬として使用するための医薬組成物として用いられることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞治療薬の産出方法。
【請求項5】
前記細胞治療薬を、膵臓、肺、卵巣、乳、結腸、骨髄腫、肝臓、脳腫、前立腺、胃、直腸、血液の腫瘍、神経膠腫、黒色腫、リンパ腫、またはそれらの組み合わせの治療のために採用することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞治療薬の産出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫細胞、特に原発性腫瘍組織、転移組織、リンパ組織からの腫瘍浸潤自己Tリンパ球(TIL)を、および他の組織(例えば血液、リンパ液)からのT細胞をも、ミアンダ灌流バイオリアクタ内で単離、活性化および増殖させる方法に関し、ならびに、これらから、膵臓、肺、肝臓、前立腺、乳房、卵巣、胃、結腸、直腸、骨、脳および皮膚の腫瘍ならびにその他の悪性腫瘍と闘うための、免疫細胞治療薬を産出に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術から公知であるのは、リンパ球の培養のために、およびこれから癌疾患の治療のための免疫細胞治療薬を「先進的治験医薬品(Advanced Investigational Medicinal Products)」(AIMP)として産出するために、以下のインターロイキンを、以下の抗体、血漿増量ゼラチンなどのコーティング剤を有する成長因子、ならびにポリエチレンイミン、ポリエチレングリコールおよびC1~C9などのプロスタサイクリン補体物質などの添加物とともに、使用することが公知であり、すなわち、
・インターロイキン2を、
-抗CD3抗体とともに、
-抗CD3および抗CD16抗体とともに、
-抗CD3および抗CD28抗体とともに、
-抗CD16抗体とともに、
-抗CD28抗体とともに、
-抗CD28抗体と抗CD56抗体とともに、
-インターロイキン7とインターロイキン17とを併用して、
-インターロイキン12と抗体CD3とを併用して、
・インターロイキン1aを、インターロイキン15および抗CD28抗体と併用して、
・インターロイキン10を抗CD8抗体とともに、
・インターロイキン21を抗CD56抗体とともに、
・インターロイキン19を抗CD3抗体とともに、
使用することが公知である。
【0003】
さらに、効率的で細胞毒性の高いナチュラルキラー(NK)細胞のインビトロでの増幅方法として、抗体4-1BBLとともにインターロイキン21を採用することが先行技術から公知である。
【0004】
さらに、先行技術(J.Immunol.2004年;172:4779)では、IL-12遺伝子導入と4-1BB共刺激の併用が、モデル腫瘍(肺転移モデル)に対する協同抗腫瘍効果にどのような影響を及ぼすかについての実験結果が論じられている。このモデル腫瘍に対する上述の協同抗腫瘍効果を調べるために、IL-12遺伝子導入と4-1BB共刺激とを併用する。IL-12によって活性化されたナチュラルキラー細胞(NK細胞)によって媒介される自然免疫応答が、免疫系の活性化を引き起こし、T細胞の活性化につながる一方で、4-1BB共刺激は腫瘍特異的T細胞の機能を改善すると想定された。
【0005】
逆に、IL-12遺伝子導入も抗4-1BB抗体の投与もそれぞれ単独では効果がない。併用療法により、皮下接種した腫瘍の成長を有意に遅らせ、腫瘍を有するマウスの50%が、腫瘍が完全に退縮して生存した。
【0006】
In Gene Ther. 2005 Oct;12(20):1526-33では、Xu DP、Sauter BV、Huang TG、Meseck M、Woo SLおよびChen SH.は、Ig-4-1BBLの全身投与が、局所的な遺伝子導入よりも良好な抗腫瘍反応をもたらしうることを発表した。Ig-4-1BBLは、アゴニスト抗4-1BBB抗体と比較して、等価の生物学的機能を有していた。従って、可溶性4-1BBLダイマーは、ヒトの癌治療のための有望な薬剤として開発することができる。
【0007】
ここでは、マウスの癌腫に対する上記の組み合わせを用いた治療の効果についてのみ説明され、腫瘍、転移およびその他の組織の組織部分から細胞を単離しかつ増殖させるための方法、特に培養培地については説明されていない。
【0008】
さらに、先行技術で知られている細胞の全ての培養方法は、培地中の細胞への酸素の供給を、上方にあるもしくはオーバーフローするオーバーレイ雰囲気から、または上にあるオーバーレイおよび下にあるアンダーレイ雰囲気からも行っており、この際、アンダーレイ雰囲気は、酸素透過性膜を用いて、中に細胞を含有する上方にある培地から、上方にある培地へ追加の酸素を放出する。これらの培養方法中に統合された装置または可能性は、培養経過時に増殖する免疫細胞の酸素必要量の増加を、制御して確保するが、これらで記載された培養方法には、これらの装置または可能性が規定されておらず、また、これを行うこともできない(例えば、GRex容器;アストロム ヴェリセル システム(Aastrom Vericell-System))。
【0009】
また、マウスモデルでの併用応用による好ましい効果が、ヒトでも同じように生じるか否かも公知ではない。マウスモデルで見られた効果が、ヒトでは見られないことは非常に多い。
【0010】
WO 2015 189 356 A1は、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン15(IL-15)およびインターロイキン21(IL-21)から選択される少なくとも2種類のサイトカインを含むリンパ球を拡大培養するための組成物に関する。さらに、この文献は、臨床的に重要なリンパ球集団を産出する方法に関し、この方法は以下の工程を含み、すなわち、少なくとも1つのリンパ球を含む、哺乳動物由来の身体試料、特に組織試料または体液試料を得る工程と、場合によって身体試料中の細胞を分離する工程と、インビトロでこの身体試料を培養して試料中のリンパ球を拡大培養および/または刺激する工程であって、この培養工程が、IL-2、IL-15および/またはIL-21を使用して、場合によって無作為抽出検査で培養試料中の臨床的に重要なリンパ球の存在を決定する工程を含む。この発明はまた、免疫療法と、臨床的に重要なリンパ球の集団とに関する。この身体試料は、哺乳動物の末梢血から選択され、この際、特に腫瘍疾患に罹患しているヒトが選択され、または、哺乳動物、腫瘍疾患を発症するリスクを有する哺乳動物、感染症に罹患している哺乳動物、感染症を発症するリスクを有する哺乳動物、自己免疫疾患に罹患している哺乳動物もしくは自己免疫疾患を発症するリスクを有する哺乳動物から選択される。
【0011】
WO 2015 189357 A1は、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン15(IL-15)およびインターロイキン21(IL-21)から選択される少なくとも2種類のサイトカインを含むリンパ球を拡大培養するための組成物が記載されている。さらに、この文献は、臨床的に重要なリンパ球集団を産出する方法に関し、この方法は以下の工程を含み、すなわち、少なくとも1つのリンパ球を含む、哺乳動物由来の身体試料、特に組織試料または体液試料を得る工程と、場合によって身体試料中の細胞を分離する工程と、インビトロでこの身体試料を培養して試料中のリンパ球を拡大培養および/または刺激する工程であって、この拡大培養工程が、IL-2、IL-15および/またはIL-21を使用して、場合によって培養試料中の臨床的に重要なリンパ球の存在を決定する工程を含む。この発明はまた、免疫療法と、臨床的に重要なリンパ球の集団とに関する。
【0012】
WO 2020 025 706 A1には、癌患者の治療に使用するための、腫瘍過剰反応性免疫細胞(TURIC)を含有するT細胞生成物の産出方法、および、TURICを有する少なくとも1つのT細胞生成物を含有する組成物が記載されている。この方法は、以下の工程を含んでいて、すなわち、
a)患者のT細胞を含有する身体試料を準備する工程、
b)場合によって、このT細胞を上述の身体試料から単離する工程、
c)サイトカインであるインターロイキン2(IL-2)、インターロイキン15(IL-15)およびインターロイキン21(IL-21)のサイトカインカクテルならびに刺激ペプチドまたは刺激ペプチド群の存在下において、インビトロで上述のT細胞を刺激する工程、
d)上述のT細胞試料中の反応係数を決定する工程であって、この反応係数は、上述の刺激ペプチドまたは刺激ペプチド群の少なくとも1つのペプチドを標的とするT細胞の存在を示す、工程
e)上述の反応係数が正の場合、上述のT細胞試料を腫瘍反応性T細胞試料として特定し、そうでなければ、上述のT細胞試料を非反応性T細胞試料として特定する工程、
f)IL-2、IL-15およびIL-21の上述のサイトカインカクテルと、自己腫瘍細胞または上述の刺激ペプチドもしくは上述の刺激ペプチド群のうちのいずれか1つとの存在下で、上述の非反応性試料をインビトロで培養する工程、
g)場合によって、上述のIL-2、IL-15およびIL-21のサイトカインカクテルと、上述の刺激ペプチドまたは上述の刺激ペプチド群との存在下において、インビトロで上述のT細胞生成物を刺激する工程、
h)上述のT細胞生成物中の上述の反応係数を決定する工程、ならびに
i)上述の反応係数が正の場合、上述のT細胞生成物を、TURICを含有するT細胞生成物として選択する工程を
を含む。
【0013】
WO 2020 198 031 A1は、肺癌特異的骨髄浸潤リンパ球(「MILs」)の産出方法および使用を開示している。この方法は、以下の工程を含む。
a.肺癌患者から得られた骨髄試料を、低酸素環境下で、抗CD3抗体および抗CD28抗体とともに培養し、低酸素で活性化された骨髄浸潤リンパ球を産出する工程と、
b.低酸素で活性化された上述の骨髄浸潤リンパ球を正常酸素環境で培養して、治療活性化された骨髄浸潤リンパ球を産生する工程と
(c)上述の治療活性化された骨髄湿潤リンパ球を肺癌対象者へ投与する工程と
を含む。
【0014】
EP 37 30 608 A1による発明は、癌患者を治療する方法に関し、この方法は、拡大培養した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を投与する工程を含み、この方法は以下の工程を含み、すなわち、
(a)患者から得られた腫瘍試料を複数の腫瘍断片に処理することにより、患者から切除された腫瘍から第1TIL集団を得る工程と、
(b)上述の腫瘍断片を閉鎖系に加える工程と、
(c)IL-2を含む細胞培養培地で上述の第1TIL集団を培養し、第2TIL集団を生成することにより、第1拡大培養を実施する工程であって、上述の第1拡大培養は、第1気体透過性表面積を提供する閉鎖した容器内で実施され、上述の第1拡大培養は、上述の第2TIL集団を得るため約3~14日間行われ、上述の第2TIL集団の数は、上述の第1TIL集団の数よりも少なくとも50倍多く、工程(b)から工程(c)への移行は上述の系を開放せずに行う、工程と、
(d)上述の第2TIL集団の上述の細胞培養培地に、追加のIL-2、OKT-3、および抗原提示細胞(APC)を補充することにより第2拡大培養を実施して、第3TIL集団を生じさせる工程であって、上述の第3TIL集団を得るために、上述の第2拡大培養工程を約7~14日間実施し、この際、上述の第3TIL集団は、上述の第2のTIL集団に比較して、エフェクターT細胞及び/又はセントラルメモリーT細胞の増加した亜集団を含み、前記第2の拡大培養は、第2ガス透過性表面積を提供する閉鎖した容器内で実施され、工程(c)から工程(d)への移行は、この系を開放せずに実施する工程と、
(e)工程(d)から得られた上述の治療用TIL集団を回収する工程であって、工程(d)から工程(e)への移行は上述の系を開放せずに行う、工程と、
(f)上述の工程(e)で回収したTIL集団を輸液バッグ中に移す工程であって、工程(e)から(f)への移行は、上述の系を開放せずに行う、工程と
(g)凍結保存方法を使用して、工程(f)で回収したTIL集団を含む輸注バッグを凍結保存する工程と、
(h)工程(g)における上述の輸注バッグからのTIL集団を対象者に投与する工程と
を含む、方法である。
【0015】
工程(h)での治療上有効な投与量を投与するのに十分なTILの数は、約1×109~約9×1010個である。
【0016】
この医薬組成物は、癌治療用薬の産出のために採用され、この際、この癌は、黒色腫(転移性黒色腫を含む)、卵巣癌、子宮頸癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肺癌、膀胱癌、乳癌、ヒトパピローマウイルスによる癌、頭頸部癌(頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)を含む)、腎癌、および腎細胞癌からなる群から選択される。
【0017】
WO 2020 231 058 A1は、CD8+CD56+NKG2D+細胞が20%以上の割合で存在するサイトカイン誘導キラー細胞を含む活性化リンパ球、およびその産出方法に関するが、特に、インターロイキン-2の併用投与およびその産出方法が必要ではないので、高い腫瘍細胞殺能力および高い成長率を有し、かつほぼ副作用がないサイトカイン誘導殺細胞を含む活性化リンパ球に関する。
【0018】
EP 35 65 888 A1は、サイトカインIL2と抗CD3(Okt3)/抗CD28抗体とを用いた2段階/3段階の方法で腫瘍浸潤リンパ球を拡大培養させる方法を開示している。細胞培養培地は、IL-2、OKT-3(抗CD3)抗体、末梢血単核球(PBMC)、および場合によってはI-4bbのようなTNFRSFアゴニストおよび第2TNFRSFアゴニストを含有する。
【0019】
先行技術で説明されている培養培地は、一貫して非常に高価である。このため、統計的に意味のある臨床研究を行うことが難しく、免疫細胞を用いた治療の一般的な応用の妨げとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、細胞、特に腫瘍浸潤Tリンパ球(TIL)およびヒトリンパ組織由来のさらなるT細胞を、ミアンダ灌流バイオリアクタを備えた培養システム中で培養する方法を開発することであり、この方法を用いて、従来のインビトロ培養方法で存在する問題である、標準化および再現性の低さ、これらの細胞を大量に得るための困難なプロセス、一般臨床での応用におけるさらにコスト高および不便な条件、ならびに産出コストの高さといった問題が、根本的に解決される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
驚くべきことに、これらの本発明の課題は、以下の方法によって解決されることが判明した。すなわち、この方法では
・患者個人の腫瘍から粉砕した組織片を規定の数だけ、ミアンダ灌流バイオリアクタに投入し、均一に分布させ、
・この組織片から成長した細胞、特に腫瘍浸潤Tリンパ球を流路の底に沈殿させ、
・沈殿後の細胞は、ほぼ静止した細胞層を形成し、良好な増殖のために細胞同士が密接にかつ同時に交互に接触し、この細胞層中で細胞同士が接触するが、わずかな動きも生じ、これにより、沈殿層中のTIL細胞数は、安定した増殖のために0.1~2×106TIL/cm2、好ましくは0.5~1×106TIL/cm2となり、
・灌流バイオリアクタの流路を通る培地流のミアンダ形状の流れは、フルード数<0.005、好ましくは<0.002の上部の流れと、0または0に近いフルード数の底面の流れにより行われ、培地は沈殿したTILの上方を、指向性のある層流で、自然の血管中の血流に似たように流れ、細胞にストレスを与えず、
・この培地は、ABヒト血清、サイトカイン、抗体ならびに照射されおよび破砕されたヒトフィーダー細胞を添加した通常の基本培地からなり、この際、サイトカインは、インターロイキン12単独、またはインターロイキン2とインターロイキン12との混合物からなり、もしくはIL12とIL15との混合物からなり、かつすべての混合物はさらに抗体4-1BBを含有し、
・アンダーレイチャンバおよびオーバーレイチャンバからなるバイオリアクタ容器内の組織片とそこから十分に成長する細胞には、同時に高酸素または正常酸素で酸素が供給される。
【0022】
上記の組み合わせは、初期段階において、突然変異TILおよびその他の組織(血液やリンパ液など)由来の突然変異T細胞をも特異的に増殖させ、これにより腫瘍の新抗原で予備刺激をされた細胞が増殖するために必要であり、これにより増殖の後期段階において、TILの分裂能力は、静置培養または乱流培地中で培養された同じTILと比較して、顕著により長い時間維持され続け(したがって、著しく高い収率が達成される)ことができる。
【0023】
この新しい方法により、完全に閉鎖された培養方法で、ATMPとして数109個から数1010個の免疫細胞を産出することができる。このために、最初にシングルユースの灌流バイオリアクタを私達のGMPブリーダーの無菌室中に設置し、作動させ、かつ制御ユニットを用いて監視する。培地および気体の供給を調節して行い、pH値、pO2濃度および温度は、培地中でセンサーによって継続的に測定され、かつ一定に保たれる。バイオリアクタ容器内のTIL量が増加するにしたがって、培地供給量はアルゴリズムを介して自動的に増加する。
【0024】
十分な腫瘍組織があれば、150MMのバイオリアクタを利用する。免疫細胞を含有する破砕された組織片は、GMPブリーダーの無菌室中で、運転準備が整って接続されたシングルユース・バイオリアクタ中に入れられる。約1mm3の腫瘍組織片を、オーバーレイチャンバの培地中に均一に分布させる。バイオリアクタ容器内で、TILは、標準培地(これは、ヒト血清、IL2、Oct3および照射されたフィーダー細胞を添加した、および/または照射後超音波で破砕されたフィーダー細胞を添加した標準培地である)中で、7~14日間、腫瘍組織片から継続的に成長し、増殖する。このようにして、4~10×109個のTILを育てることができる。培養の間、培地は低流速で沈殿したTILの上方を循環するように送り出され、グルコース消費量に応じて、培地の規定の割合が新鮮な培地と置き換えられる。これは、制御ユニットのアルゴリズムによって自動的に制御される。TILの場合、全拡大培養期間の間、良好な増殖には、細胞間の密接な接触および同時に接触の交換が必須である。TILの増殖の前提は、対応する細胞が沈殿後にほぼ静止した細胞層を形成することであり、その細胞層中では細胞は互いに接触するが、わずかな動きも生じ、この際、TILの沈殿層中では0.1~2×106TIL/cm2、好ましくは0.5~1×106TIL/cm2の細胞数が生じ、TILが恒常的に増殖する。
【0025】
患者の治療のためにより多量のTILを数回投与し、かつこれを、時間間隔を空けて行うべき場合、第1培養過程から回収したTILの量を分割し、このTIL量を、作業細胞バンクとして4~8個の150MMのバイオリアクタで並行してコロニー形成させるために利用することができる。これらのバイオリアクタの運転により、数1010個のTILを産出することができる。
【0026】
TILの培養には、(例えば、生検から)少量の腫瘍組織しか入手できない場合、オーバーレイおよびアンダーレイチャンバを備えた30MMのミアンダ灌流バイオリアクタを使用する。30MMのバイオリアクタ中で、拡大培養過程で得られたTILをさらに増殖させる場合、次の方法が可能である。すなわち、150MMのバイオリアクタをGMPブリーダー内に運転準備を整えて設置し、その上に30MMのバイオリアクタも設置する。30MMのバイオリアクタを、その下に配置された150MMバイオリアクタと、当初は閉じたホースを介してしっかりと接続する。30MMのバイオリアクタ内でTILが通常の量まで増殖し、指数関数的な増殖が平坦化するとすぐに、TILは、短時間の振盪により懸濁液になり、150MMのバイオリアクタへのホース接続が開放され、TIL懸濁液は濾過網を備えた出口はめ管および接続ホースを通って150MMのバイオリアクタ容器に移送される。気体の供給、自動的に適合された培地の供給、ならびに培養プロセスの制御および記録は継続される。150MMのバイオリアクタ中で3~7日間拡大培養した後、4×109~1×1010のTILを回収することができ、これはさらなる拡大培養過程に適している。
【0027】
沈殿したTILに、指向性をもって培地を層状にオーバーフローさせ、この際、全拡大培養期間にわたってグルコースおよび乳酸の濃度を均一に保ち、かつ培地中の酸素分圧を安定させることによって、上記の方法で産生されるTILの高い再現性が保証される。さらに、灌流技術によって特定の亜集団を好適に増殖できる点が明らかである。IL2、Oct3およびIL12の濃度を変更し、ならびにこれらの添加物の持続時間、時系列およびこれに続くこれらの添加物がない新鮮な培地の供給を変更することによりこれらの添加物の洗浄を変更することによって、拡大培養したTILのいくつかの亜集団の割合に影響を与えることができる。したがって、例えば、IL12の作用時間を短くすることにより、CD8+TILの割合が著しく増加する。さらに、少量のポリエチレングリコールまたはポリエチレンイミンを、バイオリアクタ中での拡大培養期のより遅い過程で添加すると、回収したTILのトラフィッキング受容体の発現が質的にも量的にも改善される。上述の添加により、新抗原で予備刺激されたTILを濃縮された量生成することができ、これが腫瘍/腫瘍転移組織に到達する。
【0028】
この新規の培養方法で得られた免疫細胞は、癌と闘うためのATMPの産出において、従来公知の方法と比較してさらなる利点を提供するが、これは、この細胞治療薬の産出方法では、同一クリーンルーム内で異なる患者の細胞を並行して培養することが所轄官庁によって承認されている点である、この理由は、いずれにせよ密閉されたバイオリアクタが、非常に有用な無菌バンクであるGMPブリーダー内でそれぞれ追加的に作動するからである。これにより、患者試料間の交差汚染が防止されている。
【0029】
この培養方法は、卓上装置としてモジュール構築されている点も特に重要である。患者個人のTIL(あるいは他の免疫細胞または幹細胞治療薬)の産出は、適切な装備のある臨床研究施設で可能であり、GMP条件下で患者の近くで細胞を培養することが容易になる。
【0030】
本発明による方法により、突然変異腫瘍細胞に対して細胞毒性作用する十分な量のTILを、制御されたプロセスで再現可能な方法で育ておよび単離することが可能になり、細胞治療で採用するための日常的な産出が実現可能になる。
【0031】
この方法は、腫瘍、転移組織およびその他の組織由来の組織部分から、TILをエクスビボで単離、活性化および増殖させるための2段階培養方法として設計されていて、この方法では、時間的に制限された短い初期段階において、細胞は粉砕された組織部分から、灌流バイオリアクタ容器内にある培地中に入り、十分に成長し始める。十分に成長したTILが所定の密度に達した後、抗IL2でさらに短期間にわたって特異的に活性化され、かつその後、抗IL2のない培地でさらに拡大培養する。
【0032】
灌流バイオリアクタ中での第1培養過程からのTILの回収は、バイオリアクタが完全に成長した時点(これは、それまでに培養培地中で指数関数的なグルコースの上昇が平坦になることで認識できる時点である)で開始される。GMPに準拠したTIL回収のために、バイオリアクタを短時間振盪する。TIL懸濁液は、バイオリアクタの濾過用はめ管を通って滅菌接続されたホースを介して、200ml血液バッグまたは100ml血液バッグに移される。この血液バッグをバイオリアクタから分離し、血液バッグ中のTILの数をアリコートで測定する。150MMの灌流バイオリアクタから、T細胞組織によって異なるが、4~10×109のTILが期待できる。
【0033】
第1培養過程から得られた血液バッグ内の懸濁液は、作業細胞バンクとして利用される。それぞれ0.75×109個のTILを含有する体積分画が取り出される。TILの初回投与量をできるだけ早く患者に利用できるようにするため、1つ以上の部分懸濁液が直ちに150MMのバイオリアクタに移され、そこで即座にさらなる培養過程で拡大培養される。第1のTIL回収から得られた残りの体積分画は、DMSOを加えて適切な凍結バッグ中で凍結保存して貯蔵され、その後、第1のTIL治療後も腫瘍疾患の徴候が検出され、例えば、より高投与量が医学的に必須と判断されるか、または再発もしくは転移により必須となった場合には、この体積分画は、第2培養工程で、150MMのバイオリアクタで増殖される。
【0034】
患者個人のTIL ATMPの第2拡大培養は、IL2、IL12および4-1BB-ABを添加した標準培地中で行う。TILの収率は、通常第1増殖時の収率とほぼ同じである。
【0035】
第2培養過程で回収された各TIL懸濁液は以下のように処理される。すなわち、150MMのバイオリアクタは、容積50mlのTIL懸濁液を含有する。この懸濁液は、濾過用はめ管を通って、体積100mlの血液バッグに移され、バッグ内のTILがバッグの双方のホース接続部に対して沈殿しうるように、動かさずに2°~8℃で3時間貯蔵される。培地上清は血液バッグから無菌で約20mlの体積の残量を除いてピペットで取り出される。その後、このTILを80mlの0.9%のNaCl溶液中に再懸濁し、遠心管(50ml)中に充填し、遠心分離し、かつその後新たに、2%のヒトアルブミンと10%のDMSOとを含有する合計90mlの0.9%NaCl溶液中に再懸濁する。細胞の計数およびATMPの放出に関する分析のために、懸濁液を10ml取り出し、クライオチューブ中に分布させ、必要な分析を行う。取り出した試料(合計10ml)中の細胞数を測定し、FACS分析を行う。残りの80mlのTIL懸濁液中には3~8×109TILが含有されているはずである。この懸濁液をさらに100mlの血液バッグ中に分布させ、各バッグが、2.5×109のTILが2%のヒトアルブミンを含む0.9%NaCl溶液中に含有するようにする。TIL-AIMPバッグが薬局方の基準値に基づいて放出されると、製剤は、既知の条件下でかつ既知の期限内に、患者を治療する医者に輸送され、かつ引き渡される。この細胞懸濁液は、6時間から最長20時間以内に輸液に使用されなければならない。輸液バッグが常温になったら、患者に静脈輸液を行う。投与量は治療する医者が決定する。
【0036】
本発明の方法のある構成では、十分に成長した150MMのバイオリアクタから、エクスビボで増殖したTILを、組織残渣から濾過し、回収し、洗浄し、遠心分離し、ヒトアルブミンを含むNaCl溶液中に再懸濁し、規定のポーションとして、輸液バッグ中に充填し、および数時間以内に制御された輸送条件下で患者に輸送することができ、そこで常温にして、患者に輸注することができるが、これにより、まだ他の治療法が知られていない本願導入部で挙げた腫瘍疾患(膵臓癌、肺癌、子宮内膜癌、乳癌、結腸癌、肝臓癌、脳腫瘍、前立腺癌、胃癌、黒色腫、進行リンパ腫)の治療のために用いることができる。
【0037】
本発明の別の構成では、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)または他の由来のT細胞は、細胞治療薬としての医薬組成物として培養され、この際、治療用の細胞治療薬またはその組み合わせが培養される。
【0038】
臨床応用のために、凍結保存されたバイアルを、治療上有意な量のTILが第2拡大培養段階で予定時期に産出されるように、適時融かす。この目的のために、凍結培地を洗浄した後、TILを新たに適切な培養培地中で懸濁する。TIL懸濁液(5千万から1億個の生きた細胞)は、運転準備が整って設置されたさらなるミアンダ・バイオリアクタに移される。TILをさらに拡大培養させるためのこの第2プロセス段階は、上述のミアンダ・バイオリアクタと同様のミアンダ・バイオリアクタで行われるが、コロニー形成面積はより広い。さらなる増殖のために、新鮮な添加された培養培地を使用する。12~20日間増殖すると、5億個以上のTILがミアンダ灌流バイオリアクタ内で規則的に大いに成長する。このTILを回収し、洗浄後、ヒトアルブミンを含むNaCl溶液中に再懸濁する。このTIL懸濁液を輸液バッグ中に充填する。細胞回収日に生存率と細胞数とを測定し、さらに薬局方に従い、無菌性、マーカープロファイル、細胞のパラクリン発生を分析する。このTIL懸濁液を常温に保ち、直ちに臨床担当者に輸送する。TILは遅くとも12~20時間後に適用されなければならない。
【0039】
過剰量のTILは凍結保存される。これは、後にさらなるTIL投与量の産出が必須になった場合に使用可能となる。5億個のTILの場合、ヒトアルブミンを含むNaCl溶液を最大100ml投入する。
【0040】
本発明を、ミアンダ灌流バイオリアクタ中におけるTILの単離および増殖のための実施例に基づき、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】ミアンダ灌流バイオリアクタの概略断面図である。
【
図2】実施例1による方法が実施されるミアンダ灌流バイオリアクタの概略上面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 バイオリアクタ容器
2 カバー
3 アンダーレイチャンバ
4 ミアンダ灌流チャンバ
5 オーバーレイチャンバ
6 底面プレート
7 膜
8 仕切り壁
9 アンダーレイ雰囲気の供給部
10 アンダーレイ雰囲気の排出部
11 培養培地の供給部
12 培養培地の排出部
13 オーバーレイ雰囲気の供給部
14 オーバーレイ雰囲気の排出部
15 流出はめ管
16 濾過網
17 セルブロスのオーバーフロー
【発明を実施するための形態】
【0043】
(実施例1)
TILまたは他のT細胞を産出するための出発材料は、例えば、固形の臓器腫瘍もしくはその転移組織、またはそのすぐ周囲の組織を外科的に除去する際に生じる組織画分、またはこの目的のために取り出される組織画分である。出発材料としては、通常約1mlの体積の組織量で十分である。この組織試料は培地とともに輸送容器に入れられる。この容器は閉鎖されて常温に保たれ、組織取り出し場所から、免疫細胞製剤の産出のためにクリーンルーム領域中に搬送される。この手術組織片は、クリーンルーム内で、LFB下で1~2mm3の大きさの片に粉砕され、第1段階でDE10 2018 000 561.6に記載のミアンダ灌流バイオリアクタに移される。粉砕された組織片は、ミアンダ灌流バイオリアクタ内で均一に分布し、灌流モードで培養される。ミアンダ・バイオリアクタは、GMPブリーダー内で運転準備が整った状態で接続され、制御ユニットにより、継続的に監視され、ほぼ自動的に制御され、かつ記録される。
【0044】
ミアンダ灌流バイオリアクタは、好ましくは透明なポリマー材料からなる長方形のバイオリアクタ容器1からなり、蓋2で、無菌的に閉じられている。バイオリアクタ容器1は、上下に重なって配置された3つのチャンバ3、4、5に区分されていて、最も低いチャンバ3はアンダーレイチャンバとして、アンダーレイチャンバ3の上方に配置されたチャンバ4はミアンダ灌流チャンバとして、かつミアンダ灌流チャンバ4の上方に配置されたチャンバ5はオーバーレイチャンバとして形成されている。
【0045】
アンダーレイチャンバ3とミアンダ灌流チャンバ4とは、穴あき底面プレート6によって互いに分けられていて、この底面プレートは、上に酸素を透過する膜7が密に固定されている。アンダーレイチャンバ3には、気体、特に空気と酸素との混合気体または窒素と酸素との混合気体(酸素の割合が調整されている)を流入させるための供給部9と排出部10とが存在していて、これらにより、気体、特に、空気と酸素との混合物、または、窒素と酸素との混合物が貫流可能になり、この中で、酸素の割合が調節されている。酸素は、ミアンダ灌流チャンバ4の穴あき底面プレート6に密に固定された気体透過性膜7を通して、窒素よりも好都合に拡散する。ミアンダ灌流チャンバ4内の貫流では、細胞の拡大培養の間、オーバーレイチャンバからも、アンダーレイチャンバからも、(拡散によって)調節された量の酸素が培養培地中に到達する。
【0046】
ミアンダ灌流チャンバ4には、培地用の供給部11および排出部12があり、オーバーレイチャンバ5には、オーバーレイ雰囲気用の供給部および排出部13、14ならびに出口はめ管15が存在する。オーバーレイチャンバ5内部には、流出部の手前に、出口はめ管15に濾過網16が配置されている。ミアンダ灌流チャンバ4の排出部12には、さらに、使用済みセルブロスを排出するための余水部17もある。余水部の高さは調節可能である。
【0047】
ミアンダ灌流チャンバ4は、仕切り壁8を備えた底面プレート6)からなり、これらの仕切り壁8は、上面8上に配置された帯状の仕切り壁であり、これらの仕切り壁8は、底面プレート6を区分し、ミアンダ灌流チャンバ4に気体と培地とによるミアンダ貫流を発生させ、この際、仕切り壁8どうしの距離Aと、およびミアンダ灌流チャンバ4の側壁と端壁とからの距離Aの選択は、流れ筋中で、仕切り壁8により形成される流路が、フルード数<0.005の平均層上流を形成するように行われている。細胞量(TILまたは他の細胞)の増殖過程で細胞数が増加するにつれて、新鮮な培地の供給が継続的に増え、この際、これは適切なアルゴリズムによって自動的に制御されている。この際、底面流は、フルード数0に近い状態に保たれ、これにより細胞の攪拌が防がれる。ここで記した流動状況により、細胞ストレスが防止され、流路の底面で成長する細胞層全体にわたって、均質な栄養材の供給が確保される。
【0048】
オーバーレイチャンバ(5)は、気体のオーバーフロー用の供給部13および排出部14を有する。このオーバーレイチャンバには、アンダーレイチャンバ5)と同じ気体/気体混合物が貫流するが、細胞には、細胞のタイプに応じて、高酸素性(90%までのO2)、通常酸素性(21%までのO2)または低酸素性(2%までのO2)で酸素が供給される。
【0049】
培養過程では、通常7~14日間、細胞を組織片から十分に成長させ、この十分に成長した細胞も同時に増殖する。このようにして、腫瘍組織からTILをより大量に産出することができる。しかし、TINKおよびさらなる細胞もこのようにして組織から得ることができる。バイオリアクタ内のグルコース消費量が1日あたり100~300mgに達すると、TILは、濾過網16を備えた、バイオリアクタ容器1の出口はめ管15を介して、濾液として組織残渣から分離される。
【0050】
第1段階で組織片をバイオリアクタ容器1中に移して以降、活性化され拡大培養した細胞を充填するまでの全プロセスは、完全に閉鎖された容器系で行われる。培養は、適切な培地、すなわち、ABヒト血清、サイトカイン、抗体および照射ヒトフィーダー細胞からなる特定の混合物を一時的に添加した適切な培地中で行われ、この際、インターロイキン12の形態のサイトカインまたはインターロイキン2とインターロイキン12との混合物からなるサイトカインと、抗体4-1bbの形態での抗体とが入れられる。個別の場合に応じて、バイオリアクタの流路の表面上に固定された添加物により、より速い増殖および活性化が達成できる。TILおよびその他の免疫細胞の場合、この第1段階で増殖および分離したTILを遠心分離し、凍結培地中で再懸濁し、およびアリコート量に分ける(1バイアルあたり約5000万個のTIL)。試料は液体窒素を介して気相で貯蔵される。
【0051】
腫瘍、転移組織および他の組織の組織部分から細胞を単離および増殖させるための本発明による方法により、単一の閉じた工程で、自己組織片からなる細かく切った組織片から、所定量の細胞を、バイオリアクタ内にある培養培地中で十分に成長させ、同時にこれらの細胞を活性化および増殖させ、その後それらを組織残渣から分離することが可能である。特に、このようにして、腫瘍浸潤自己Tリンパ球(TIL)を、腫瘍組織、転移組織、それらの周辺組織、および腫瘍細胞に侵されたリンパ節から得ることができる。本発明による培養培地により、灌流バイオリアクタの流路内の流動条件および気体条件下で細胞を急速に成長させることができる。TILの場合、好ましくは、特に腫瘍細胞またはこの周囲から得られる細胞が拡大培養され、これらの細胞が腫瘍細胞に対して特異的な細胞毒性を有する。
【国際調査報告】