(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ナノ粒子分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20240514BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240514BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240514BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240514BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240514BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20240514BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240514BHJP
B01J 19/26 20060101ALI20240514BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B01J19/00 N
A61K9/10
A61K9/127
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/10
A61K47/08
A61K47/06
A61K47/22
A61K47/26
A61K38/02
A61K48/00
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/711
A61P43/00 111
B01J19/26
B01J13/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566550
(86)(22)【出願日】2022-05-05
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2022062222
(87)【国際公開番号】W WO2022234050
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521346313
【氏名又は名称】レオン-ナノドラッグス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ドゥビエラ, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】フォグラー, ユリアン
(72)【発明者】
【氏名】クレメント, パスカーレ
(72)【発明者】
【氏名】スティーネカー, フランク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4G065
4G075
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA20
4C076AA21
4C076AA22
4C076CC29
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4C076DD40
4C076DD41
4C076DD46
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4C076DD63
4C076DD69
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4C076FF11
4C076GG41
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4C086AA02
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4C086MA03
4C086MA05
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4C086MA24
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4C086ZC02
4G065AB19X
4G065AB26X
4G065AB35X
4G065BA07
4G065BB01
4G065CA11
4G065DA02
4G065FA03
4G065GA01
4G075AA13
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4G075AA39
4G075BB05
4G075BB08
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4G075EB01
4G075EC01
4G075FB01
4G075FB02
4G075FB04
4G075FB06
4G075FB12
(57)【要約】
本明細書に提示されている本開示は、有機流れと水性流れとを高圧で正面衝突させることを含む方法で、例えばリポソームなどのナノ粒子などの分散液を製造するための方法を提供する。
【選択図】
図5B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の両親媒性脂質を含むナノ粒子の分散液を製造するための方法であって、前記方法が、
a)有機溶媒及び前記両親媒性脂質を含む第1の流れを供給するステップと、
b)水性溶媒を含む第2の流れを供給するステップと、
c)第1のノズルを通じて高圧下で前記第1の流れを圧送すること及び第2のノズルを通じて高圧下で反応チャンバに前記第2の流れを圧送することであって、前記第1のノズルが前記第2のノズルから約180°の角度で配置されているステップと、
d)反応チャンバ内で前記第1の流れと前記第2の流れを正面で衝突させることであって、
前記第1の流れと前記第2の流れの流量比が、1:1.5~1:4.5の範囲であるステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の流れと前記第2の流れの前記流量比が、1:1.5~1:4の範囲、又は1:2~1:4.5の範囲、又は1:2~1:4の範囲であり、前記第1の流れと前記第2の流れの前記流量比が、約1:1.5、約1:2、約1:2.5、約1:3、約1:3.5、約1:4又は約1:4.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
総流量の比が、1mL/分~1,000mL/分の範囲、又は5mL/分~800mL/分の範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記総流量の比が、100mL/分~500mL/分の範囲であり、前記第1の流れと前記第2の流れの前記流量比が1:1.2~1:2.5の範囲、又は1:2~1:4の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のノズルが第1の開口を含み、前記第2のノズルが第2の開口を含み、前記第1の開口及び前記第2の開口の直径が、40μm~800μmの範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の開口又は前記第2の開口の前記直径が、他の開口の直径よりも少なくとも約50%大きい、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の流れの圧力が、前記第2の流れの圧力以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、ユニラメラリポソーム、多層リポソーム、単一のバイラメラリポソーム、多重二重層リポソーム、多胞性リポソーム、脂質ナノ粒子、リポプレックス及びリポポリプレックスからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記両親媒性脂質が、脂肪酸、グリセロ脂質、モノグリセリド、ジグリセリド、グリセロリン脂質、リン脂質、ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン(SPC)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、ステロール、コレステロール、プレノール、カロテノイド、レチノール、レチナール、レチノール酸、β-カロテン、トコフェロール、糖脂質、LIPOID S100、PEG化脂質及び1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール(DMG-PEG)の群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の流れが、少なくとも1種の更なる両親媒性脂質を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の流れが、両親媒性脂質、又は脂肪酸、グリセロ脂質、モノグリセリド、ジグリセリド、グリセロリン脂質、リン脂質、ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン(SPC)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、ステロール、コレステロール、プレノール、カロテノイド、レチノール、レチナール、レチノール酸、β-カロテン、トコフェロール、糖脂質、LIPOID S100、PEG化脂質、1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール(DMG-PEG)及びこれらの任意の組合せの群から選択される脂質の組合せを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の流れが、PEG化脂質、コレステロール、及びカチオン性脂質、及びリン脂質を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の流れが、アルコール、ケトン、ハロゲン化溶媒、アミド又はエーテルから選択される有機溶媒を含み、任意選択で前記溶媒がアルコールであり、好ましくはエタノールである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の流れが、0.1モル%~2モル%の範囲の濃度でPEG化脂質を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の流れ又は前記第2の流れが、原薬を更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記原薬が、小分子、ペプチド及び核酸の群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の流れが、核酸を更に含み、好ましくは、DNA及びRNAからなる群から選択され、任意選択で前記RNAが、mRNA、miRNA、プレ-miRNA、saRNA、shRNA、siRNA、リボザイム及びアンチセンスRNAからなる群から選択され、更に任意選択で抗原をコードしたDNA及びmRNAから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子分散液を濾過することで精製するステップ、
前記ナノ粒子分散液を凍結乾燥に供するステップ、又は
前記ナノ粒子分散液からクロスフロー濾過で前記有機溶媒を除去するステップ
を更に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ナノ粒子の平均粒子径が20nm~100nmである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記反応チャンバ、前記第1のノズル及び前記第2のノズルを含む、ジェット衝突リアクタを設けるステップを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のノズル及び前記第2のノズルのそれぞれが、供給ラインに接続されており、各供給ラインが、前記それぞれのノズルに高圧下で前記第1の流れ及び前記第2の流れを供給するために配置されているポンプに任意選択では関連づけられている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
各流れの圧力が、0.1~120バールの範囲、任意選択で1~40バールの範囲の値から独立して選択される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
全体の形状が実質的に回転楕円である前記反応チャンバ(6)が反応チャンバ壁(3)の内部表面(2)によって画定され、前記チャンバ(6)が、
(a)互いに相対する位置に対してなど、前記反応チャンバ(6)の第1の中心軸(x)上の対向する位置に配置されている第1の流体入口及び第2の流体入口(4)であって、前記第1の流体入口が前記第1のノズルを含み、前記第2の流体入口(4)が前記第2のノズル(5、13、23)を含む、第1の流体入口及び第2の流体入口(4)と、
(b)前記第1の中心軸(x)に対して垂直な前記チャンバ(6)の第2の中心軸(y)に配置されている第3の位置に配置されている流体出口(7)と、
を含み、
前記第1のノズル(5、13、23)と前記第2のノズル(5、13、23)との間の距離(d)が、前記第1の中心軸線(x)に沿って前記反応チャンバ(6)の直径と同一又はこれよりも小さい、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記第1のノズル(5、13、23)及び前記第2のノズル(5、13、23)がそれぞれ下流端(12、22)を有し、それぞれのノズル(5、13、23)の前記下流端(12、22)が、前記チャンバ壁(3)の前記内部表面(2)と実質的に位置合わせされ、及び/又は前記チャンバ(6)の中心に向かい前記第1の中心軸(x)に沿って前記第1の流れと前記第2の流れを方向付け、前記第1の流れと前記第2の流れを約180°の角度で衝突させるように配置されている、請求項24に記載の方法。
【請求項25】
(i)前記反応チャンバ(6)が、前記第1の中心軸(x)に沿って、高さ、基底及び半径を有する球形キャップの全体的な形状を有し、前記高さが前記半径よりも大きく、前記高さが好ましくは前記半径の110%~170%であり、前記基底が前記流体出口(7)によって画定され、及び/又は
(ii)前記反応チャンバ壁(3)の前記内部表面(2)の本質的にすべてが、任意選択で前記第1の流体入口及び/若しくは前記第2の流体入口(4)の一部又は前記流体出口(7)の一部である前記内部表面(2)の一部分を除いて実質的に球形であり、及び/又は
(iii)前記反応チャンバ(6)が、他の入口開口又は出口開口を含まない、
請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記反応チャンバ(6)が、0.25mL以下の体積を有し、前記第1の流体入口(4)の前記ノズル(5、13、23)と前記第2の流体入口(4)のノズル(5、13、23)との間の距離(d)が5mm以下である、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の流体入口及び前記第2の流体入口(4)のそれぞれに、上流端(11、21)、前記第1の流体入口又は前記第2の流体入口(4)の前記ノズル(5、13、23)を保持する下流端(12、22)及び前記上流端から前記下流端に流体を導くための流体導管(14、24)を有する流体入口コネクタ(10、20)が設けられており、各流体入口コネクタ(10、20)の前記下流端が、前記第1の流体入口及び前記第2の流体入口(4)を提供するように前記チャンバ壁(3)へと逆向きに挿入可能であり、前記第1の流体入口及び/又は前記第2の流体入口(4)を提供する前記流体入口コネクタ(10、20)が、任意選択で、単一フェルール継手又は二重フェルール継手により前記チャンバ壁(3)に接合されている、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記流体入口コネクタ(10、20)が、
前記流体入口コネクタ(10、20)の前記上流端(11、21)及び前記流体導管(14、24)の上流部分を含む上流セグメントと、
前記ノズル(5、13、23)を備えた前記流体入口コネクタの前記下流端(12、22)及び前記流体導管(14、24)の下流部分を備えた下流セグメントと、を有し、前記流体導管(14、24)の前記上流部分の直径が、前記流体導管(14、24)の前記下流部分の直径よりも大きい、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1のノズル(5、13、23)及び/又は前記第2のノズル(5、13、23)が、サファイア、ルビー、ダイアモンド、セラミック又は鋼から任意選択で作製されている単純噴孔ノズル(5、13、23)である、請求項23~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記第1のノズル(5、13、23)が第1の孔の直径を有し、前記第2のノズル(5、13、23)が第2の孔の直径を有し、前記第1の孔の直径及び/又は前記第2の孔の直径が、20μm~500μmの範囲であり、前記第2の孔の直径が、任意選択で前記第1の孔の直径よりも大きく、前記第1の孔の直径に対する前記第2の孔の直径の比率が、任意選択で1.2~5である、請求項23~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記第2の孔の直径に対して前記第1の中心軸(x)に沿った前記反応チャンバ(6)の前記直径の比率が、6~60の範囲である、請求項23~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記流体出口(7)の直径に対して前記第1の中心軸(x)に沿った前記反応チャンバ(6)の前記直径の比率が、約1.2~3の範囲である、請求項23~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記反応チャンバ壁(3)の前記内部表面(2)が、0.8Ra以下の表面粗さを呈し、Raが、ISO4287:1997に従って決定される、請求項23~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記第1の流れ及び前記第2の流れのそれぞれが、0.1~120バールの範囲の圧力で、任意選択では1~40バールの範囲の圧力でそれぞれのノズル(5、13、23)を通じて押し込まれ、任意選択で、前記第1の流体流れ及び前記第2の流体流れのそれぞれが、約1~1000mL/分の範囲の流量で前記反応チャンバ(6)に方向付けられる、請求項23~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記第2のノズル(5、13、23)の前記孔が、前記第1のノズル(5、13、23)の前記孔より大きく、及び/又は
前記第2の流れの前記流量が、前記第1の流れの前記流量よりも大きく、
前記第1の流れの前記圧力及び前記第2の流れの前記圧力が、前記反応チャンバに入ったとき、前記第1の流れ及び前記第2の流れが実質的に同一の運動エネルギーを有するように適合され、前記運動エネルギーが、任意選択で式E
k=1/2*m*v
2に従って算出されている、請求項23~34のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に提示されている本開示は、有機流れと水性流れとを高圧で正面衝突させることを含む方法で、例えばリポソーム又は脂質ナノ粒子などの脂質キャリアの分散液を製造するための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
医薬産業及びバイオテクノロジー産業は、ワクチン接種及び遺伝子治療を含む様々な疾患用途のために、原薬、特に核酸を安全かつ首尾よく送達することができる技術に対する必要をますます高めており、緊急度を高くしている。SARS-CoV-2ワクチンの供給に対する性能限界及びヒトにおけるアデノウイルス技術の適用に関するいくらかの懸念から理解されるように、現在この必要性を完全には満たしていない。
【0003】
脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle、LNP)などの脂質キャリア及び関連技術は、原薬を送達する試験済みの有効で安全な方法を提供する。LNPについての主な問題のうちの1つは、十分な量での製造と、商品化に必要とされるバッチ再現性基準である。LNPでの原薬の送達について複数の理論が存在しているが、とりわけジェット衝突技術は、核酸ベースワクチンの製造に首尾よく適用されている。ただし、その効率及び有用性は最適化にはほど遠い状態である。
【0004】
「リポソーム」及び「脂質ナノ粒子」(LNP)といった用語は互換的に使用されることもあるが、前者は一般にはリン脂質から構成され、少なくとも1種の脂質二重層を含有する球形の小胞を指すものの、LNPの構造の構造はそれほど規則ではないことがある。LNPは、「様々な遺伝的ペイロードの安定かつ十分なカプセル化に十分適しており、内部の水の存在が少ないか最小限である、より複雑な内部脂質構造を有する新世代のリポソーム」として説明されてきた。更には、他の脂質キャリア又は例えばリポプレックス、リポポリプレックス、多層リポソーム又は中実脂質ナノ粒子などの脂質ナノ粒子構造が存在する。
【0005】
リポソームは、少なくとも1種の(on)リン脂質二重層に囲まれた水性コアからなる、30nm~数マイクロメートルの範囲の粒径を有するナノサイズの小胞構造として定義されている。サイズと疎水性及び親水性といった特性(加えて、生体適合性)ゆえに、リポソームは薬物送達には有望なシステムである。リポソームでは、水溶性薬物を水性コアにカプセル化することができ、脂質二重層は水不溶性薬物の封入を担っている。リポソームの特性は、脂質組成、表面電荷、サイズ及び調製方法によって非常に異なっている。更には、二重層成分の選択によって、「剛性」又は「流動性」及び二重層の電荷が決定される。
【0006】
難溶性原薬の経口バイオアベイラビリティは、原薬の粒径を減少させることで増加可能であることが知られている。更には、難溶性の有効医薬品のナノサイズ化及び/又はカプセル化、並びに例えば非経口投与用の有効医薬品をカプセル化するためのナノ技術の適用は、例えばバイオアベイラビリティの増加、副作用の低減、漏出接合部を通る透過を増強することによる腫瘍部位へのパッシブターゲティングといった点で利点を示した。
【0007】
医薬品を設計するときには、薬物のパッシブターゲティングが可能であることを理由に、粒径を自由に設定可能であることが有利である。更には、医薬品、特に非経口で投与されるときには、無菌でなければならない。したがって、非経口製品については、滅菌濾過を可能とする小さな粒径が有用である。他の種類の滅菌(例えば、オートクレーブ)は、リポソームを破壊する傾向が非常に強いため、使用されない。
【0008】
脂質キャリアシステムを製造するために、様々な技術が使用される。
【0009】
溶媒/非溶媒沈殿法は、ナノ粒子、特に脂質系ナノ粒子の製造に有用であることが分かっている。溶媒/非溶媒沈殿とは、物質が溶媒中に溶解していることを意味する。これによって、液体ジェットと、非溶媒を含有する第2の液体ジェットとが衝突し、それによって溶解した物質が沈殿する。マイクロジェットリアクタ技術は、溶媒/非溶媒沈殿法によるナノ粒子合成のための自動化された連続アプローチのために使用される。この技術は、溶媒と非溶媒の乱流混合ゾーンを生成するが、これはナノメートル範囲の粒子の沈殿に特に好適である。
【0010】
特許文献1は、特許文献2に記載のマイクロジェットリアクタを使用して界面活性分子の存在下で溶媒/非溶媒沈殿を説明する。こうしたマイクロジェットリアクタは、リアクタハウジングによって囲まれているリアクタチャンバで共通する衝突点にて液体媒体を噴霧するための関連ポンプ及び供給ラインをそれぞれ備えた、互いに対向して配置された少なくとも2つのノズル(ピンホール)を有する。別の開口は、ガス、蒸発液体、冷却液体又は冷却ガスが通過してリアクタチャンバ中のガス雰囲気を維持するための、又は冷却するためのリアクタハウジングに設けられている。更なる開口は、得られた生成物及び過剰なガスをリアクタチャンバから取り除くために設けられている。したがって、ガス、蒸発液体又は冷却ガスは、リアクタ内部のガス雰囲気を維持するために、又は得られた生成物を冷却するために開口を通じてリアクタチャンバへと導入され、得られた生成物及び過剰なガスは、ガス入口側で過圧するか、生成物及びガス出口側で加圧することで、この開口を通じてリアクタチャンバから取り除かれる。溶媒/非溶媒沈殿がかかるマイクロジェットリアクタで行われた場合、沈殿粒子の分散液が得られる。
【0011】
例えば治療アプローチ又はワクチン接種のためなど特に脂質ナノ粒子の商業的用途では、容易にスケールアップすることができるロバストな製造方法を提供することと所望の生成物の迅速な製造を提供することが非常に重要である。更には、製造プロセスが、製品開発のプロセス中又はスケールアップ中に生じ得る様々な必要性及び要件に適合可能であることも重要である。脂質ナノ粒子は、ワクチン接種及び遺伝子治療などの治療用途に対して適切であり得る核酸又は核酸構築物にとっての好適なキャリア又は送達ビヒクルであり得るため、製造プロセスはまた、こうした種類の有効成分及び分子を好適に取り扱わなければならない。
【0012】
したがって、異なる種類の生成物への適合、かつロバストで迅速かつ確実に所望の生成物の製造といった点で柔軟性がある脂質系ナノ粒子を製造するための方法を提供することが、本発明の目的である。別の目的は、プロセス開発に汎用性がある脂質系ナノ粒子を製造するための方法を提供することである。先行技術のジェット衝突リアクタの1つ以上の不利又は制限を克服することができるジェット衝突リアクタの使用に基づいた、当該粒子を製造するための方法を提供することが更なる目的である。本発明の更なる目的は、以下の本発明の説明、実施例、及び特許請求の範囲に基づき明らかにされるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第2395978号明細書
【特許文献2】欧州特許第1165224号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様では、本発明は、少なくとも1種の両親媒性脂質を含むナノ粒子の分散液を製造するための方法に関し、方法は、a)有機溶媒及び少なくとも両親媒性脂質を含む第1の流れを供給するステップと、b)水性溶媒を含む第2の流れを供給するステップと、c)第1のノズルを通じて高圧下で第1の流れを圧送するステップ及び第2のノズルを通じて高圧下で反応チャンバに第2の流れを圧送するステップであって、第1のノズルが第2のノズルから約180°の角度で配置されているステップと、d)反応チャンバ内で第1の流れと第2の流れを正面で衝突させるステップであって、第1の流れと第2の流れの流量比が、約1:1.5~約1:4.5未満の範囲であるステップと、を含む。
【0015】
更なる態様では、本発明の第1の態様の方法で製造されたナノ粒子分散液が本明細書に開示される。
【0016】
更なる態様では、本発明の第1の態様の方法で製造されたナノ粒子分散液を含む医薬組成物が本明細書に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】市販のマイクロ流体ミキサを使用して調製された、実施例1のリポソームの粒径及びPDIにおけるSPC(phosphatidylcholine、ダイズホスファチジルコリン)/コレステロール比の効果を示す。
【
図1B】本発明の方法(すなわち、ジェット衝突技術(システムB))を使用して調製された、実施例1のリポソームの粒径及びPDIに関するSPC/コレステロール比の効果を示す。3:1(33mol%のコレステノール、ID1、ID3、ID5及びID7)及び2:1(50mol%のコレステロール、ID2、ID4、ID6、ID8)のSPC/コレステロール重量比を試験した。動的光散乱法(dynamic light scattering、DLS)を使用してデータを取得した(n=1)。
【
図2】ジェット衝突技術(システムB)を用いて観察されたように、実施例1で調製されたリポソームの粒径及びPDIにおけるリアクタノズル径の効果を示す。適用されたノズル径は、第1の開口(有機流れ)については100μmで第2の開口(水性流れ)については200μm(ID3、ID4)、第1の開口については200μmで第2の開口については300μm(ID9、ID10)であった。動的光散乱法を使用してデータを取得する(n=1)。
【
図3A】実施例1で調製されたリポソームの粒径及びPDIにおける流量比(flow rate ratios、FRR)及び総流量(total flow rate、TFR)の効果を示す。
【
図3B】実施例1で調製されたリポソームの粒径及びPDIにおける流量比及び総流量の効果を示す。
【
図3C】実施例1で調製されたリポソームの粒径及びPDIにおける流量比及び総流量の効果を示す。
【
図3D】実施例1で調製されたリポソームの粒径及びPDIにおける流量比及び総流量の効果を示す。
図3Aは、市販のマイクロ流体ミキサのFRRの効果を示す。
図3Bは、本発明によるジェット衝突システム(システムB)を使用したFRRの効果を示す。
図3Cは、市販のマイクロ流体ミキサのTFRの効果を示す。
図3Dは、本発明によるジェット衝突システム(システムB)を使用したTFRの効果を示す。動的光散乱法を使用してデータを取得した(n=1)。
【
図4A】https://www.precisionnanosystems.com/docs/default-source/pni-files/ app-notes/pni-app-bt-013.pdf?sfvrsn=aa668324_0、Precision NanoSystems Inc.から出版されたBrown A.,Thomas A.,Shell Ip,Heuck G.,Ramsay E.,Liposomes(2018)(2021年5月5日に再検索)を参照し、市販のマイクロ流体ミキサを使用して得られたリポソームの粒径及びPDI特性評価を示す。
【
図4C】https://www.precisionnanosystems.com/docs/default-source/pni-files/ app-notes/pni-app-bt-013.pdf?sfvrsn=aa668324_0、Precision NanoSystems Inc.から出版されたBrown A.,Thomas A.,Shell Ip,Heuck G.,Ramsay E.,Liposomes(2018)(2021年5月5日に再検索)を参照し、市販のマイクロ流体ミキサを使用して得られたリポソームの粒径及びPDI特性評価を示す。
【
図4B】本発明によるジェット衝突法(システムB)を使用して調製された実施例2(n=1)に記載されるような製剤2のリポソームの粒径及びPDIを示す。
【
図4D】本発明によるジェット衝突法(システムB)を使用して調製された実施例2(n=1)に記載されるような製剤2のリポソームの粒径及びPDIを示す。
図4Bでは、流量比(FRR)の効果を示す(TFRは90mL/分であった)。x軸上に示された1.0、1.5、2.0、3.0及び4.0の流量は、1:1、1:1.5、1:2.0、1:3.0及び1:4の流量(第1/有機流れ、第2/水性流れ)を指す。
図4A及び
図4Bは、有機溶媒である第1の流れの流量に対する水性溶媒である第2の流れの流量の増加によって粒径が減少し、PDIが増加するといった傾向が生じることを示す。
図4Dは、ジェット衝突法を使用して調製されたリポソームのTFR(有機:水性流れのFRRは1:2であった)の効果を示す。この場合、粒径は、30mL/分~300mL/分の範囲のTFRに関しては安定したままであった。
図4Cは、マイクロ流体システムでのTFRの効果を比較して示す。TFRの増加効果は、粒径に影響を及ぼすと考えられる。
【
図5A】実施例2に従って2つの異なるリポソーム脂質製剤から調製されたリポソームでのFRR及びTFR効果を示す。
【
図5B】実施例2に従って2つの異なるリポソーム脂質製剤から調製されたリポソームでのFRR及びTFR効果を示す。
【
図5C】実施例2に従って2つの異なるリポソーム脂質製剤から調製されたリポソームでのFRR及びTFR効果を示す。
【
図5D】実施例2に従って2つの異なるリポソーム脂質製剤から調製されたリポソームでのFRR及びTFR効果を示す。
【
図5E】実施例2に従って2つの異なるリポソーム脂質製剤から調製されたリポソームでのFRR及びTFR効果を示す。
【
図5F】実施例2に従って2つの異なるリポソーム脂質製剤から調製されたリポソームでのFRR及びTFR効果を示す。FRR比較についてはTFRは90mL/分であり、TFR比較についてはFRRは1:2であった(有機:水性)。
図5A及び
図5Bは、実施例2(n=3)に記載されるように、製剤1のリポソームについての粒径及びPDIにおけるFRR(
図5A)及びTFR(
図5B)の効果を示す。
図5C及び
図5Dは、実施例2(n=1)に記載されるように、製剤2のリポソームについての粒径及びPDIにおけるFRR(
図5C)及びTFR(
図5D)の効果を示す。
図5E及び
図5Fは、それぞれTFR及びFRRに基づき、製剤1のPEG化リポソームの1週間の物理的安定性を示す(粒径直径(nm)については左の棒:t=0、右の棒:t=1週間、○:PDIについてはt=0、△=t=1週間)。動的光散乱法を使用してデータを取得し、平均±SDとして表示する(n=3)。
【
図5G】それぞれTFR及びFRRに基づき、製剤2(n=1)のPEG化リポソームの1週間の物理的安定性を示す(粒径直径(nm)については左の棒:t=0、右の棒:t=1週間、○:PDIについてはt=0、△=t=1週間)。
【
図5H】それぞれTFR及びFRRに基づき、製剤2(n=1)のPEG化リポソームの1週間の物理的安定性を示す(粒径直径(nm)については左の棒:t=0、右の棒:t=1週間、○:PDIについてはt=0、△=t=1週間)。動的光散乱法を使用してデータを取得した。
【
図6A】異なるTFR条件で得られたリポソーム試料のクライオTEM画像を示す。
【
図6B】異なるTFR条件で得られたリポソーム試料のクライオTEM画像を示す。
図6Aは、試料調製に使用される炭素グリッドに主に接着された数百の小さなユニラメラリポソーム並びに大きなバイラメラ及び多胞性粒子を示す(PDI:0.17、TFR:30mL/分)。
図6Bは、炭素グリッドに接着された小さなユニラメラ小胞の主たる粒子画分に加えて、小さなユニラメラリポソーム及びバイラメラリポソームの混合物を示す(PDI:0.165、TFR:90mL/分)。
【
図7】本発明の方法(システムB)で得られた実施例3の粒子のクライオTEM分析の結果を示す。
【
図8】リアクタのノズル径と粒径(Z平均、nm)との相関を示す。リアクタは、ノズル径に従って直径(μm)でラベル付けされる。一例では、リアクタ400/200は、第2の(水性)流れがこれを通って圧送される直径400μmの(第2の)ノズル開口を有し、第1の(有機)流れがこれを通って圧送される直径200μmの(第1の)ノズル開口を有する。
【
図9】異なる総流量(TFR)Log圧力(「Log Druck absolut[バール]」、x軸)と粒径(Z平均[nm]、y軸)との相関を示す(○:50mL/分、☆:180mL/分、△:312.5mL/分)。パラメータは、切片=80.556、傾き=-3.2365を推定する。
【
図10】流量比(FRR)と多分散性指標(PDI、y軸)との相関を示す。x軸上に示された1.5、2、2.5、3、3.5及び4といった流量比(FRR)は、それぞれ、1:1.5、1:2、1:2.5、1.3、1:3.5及び1:4の流量(第1/有機流れ:第2/水性流れ)を指す。点線は、95%の信頼区間(confidence interval、CI)バンドを示す。
【
図11】実施例5に記載されるように、システムBで循環されたFluc mRNA(APExbio)のゲル電気泳動を示す。以下の時点:L(ラダー)、t=0、開始前、プライミング後、2秒、5秒、10秒、20秒、30秒、1分、2分、3分、4分及び空のレーン、の後に試料を採取し、左から右へと別個のレーンで分析した。開始t=0及び4分時点と比較すると、有意なmRNA分解は観察されない(機器を通る約120個の通路に対応)。
【
図12】トランスフェクションあたり10μgのmRNA(EE%アッセイによる)を使用し、実施例6に記載のインビトロトランスフェクションアッセイの結果を示す。すべてのデータは、n=6、ノンパラメトリック、クラスカル・ウォリスポストAVG+/-SD、**p<0.01である。ジェット衝突及びマイクロ流体混合のそれぞれによって生成された両方の試験群のFLuc-mRNA内封LNPについて、高いトランスフェクションを観察した。
【
図13】実施例6に記載のインビボトランスフェクションアッセイの結果のグラフ表示である。これは、(投与後の)経時的な全身のインビボ遺伝子送達定量化を示す。図に示されるように、Fluc発現は、両方の試験群と同様に、投与後6時間でピークに達してその後低下することを観察した。
【
図14】縮尺どおりではないが、本開示の一実施形態による、ジェット衝突リアクタ(1)を示す。チャンバ壁(3)の内部表面(2)により画定された反応チャンバ(6)は、2つの流体入口(4)及び流体出口(7)を除いて実質的に球形である。流体入口(4)は、反応チャンバ(6)の第1の中心軸(x)上の対向する位置に配置され、互いに向き合っている。流体入口(4)のそれぞれは、本実施形態では単純噴孔ノズルであるノズル(5)を含む。流体出口(7)は、第1の中心軸(x)に垂直な第2の中心軸(y)上に位置づけられている。2つのノズル(4)間の距離(d)は、球形の反応チャンバ(6)の直径と実質的に同一である。
【
図15】本開示の一実施形態による、流体入口コネクタ(10)を示す。コネクタ(10)は、上流端(11)、その下流位置でノズル(13)を保持する下流端(12)及び上流端(11)から下流端(12)まで流体を導通するための流体導管(14)を有する。流体入口コネクタ(10)は、本発明によるジェット衝突リアクタ(図示せず)用の流体入口を設け、こうしたリアクタの壁へと逆向きに挿入可能であるように設計されている。図は縮尺どおりではない。
【
図16】縮尺どおりではないが、本開示の別の実施形態による流体入口コネクタ(20)を示す。また、このコネクタ(20)は、流体入口を設けるように、本発明によるジェット衝突リアクタ(図示せず)の壁へと逆向きに挿入可能であるように設計されている。このコネクタ(20)は、上流端(21)、その下流位置でノズル(23)を保持する下流端(22)及び上流端(21)から下流端(22)まで流体を導通するための流体導管(24)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の態様では、本発明は、少なくとも1種の両親媒性脂質を含むナノ粒子の分散液を製造するための方法に関し、方法は、a)有機溶媒及び両親媒性脂質を含む第1の流れを供給するステップと、b)水性溶媒を含む第2の流れを供給するステップと、c)第1のノズルを通じて高圧下で第1の流れを圧送するステップ及び第2のノズルを通じて高圧下で反応チャンバに第2の流れを圧送するステップであって、第1のノズルが第2のノズルから約180°の角度で配置されているステップと、d)反応チャンバ内で第1の流れと第2の流れを正面で衝突させるステップであって、第1の流れと第2の流れの流量比が、1:1.5~1:4.5の範囲であるステップと、を含む。
【0019】
本発明の主題は、本開示の一部を形成する以下の詳細な説明を参照することで更に容易に理解することができる。本開示は、本明細書に記載及び/又は示された特定の生成物、方法、条件又はパラメータを限定せず、本明細書で使用される用語は、単なる例として特定の実施形態を記載する目的のためであり、請求される開示を限定しようとするものではないことを理解されたい。
【0020】
特段本明細書で定義されない限り、本願と関連して使用される化学用語及び技術用語は、当業者によって共通して理解されるような意味を有するものとする。更には、特段文脈で必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0021】
本開示では、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含んでおり、特段文脈が明確にそれ以外の言及を示さない限りは、特定の数値への言及は少なくともそうした特定の値を含む。「複数の」という用語は、本明細書に使用される場合、2つ以上を意味する。値が概数として表されるときには、「約」という先行詞の使用により、特定の値は別の実施形態を形成することが理解される。すべての範囲は、包括的であり、かつ組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、「約」という用語は、指示された数字又は数字の範囲から0.0001~10%の逸脱を指す。いくつかの実施形態では、「約」という用語は、指示された数字又は数字の範囲から最大25%の逸脱を指す。「を含む(comprises)」という用語は、列挙されたすべての要素を包含するが、更なる命名されていない要素もまた含んでもよく、すべての同じ品質及び意味を有する「を包含する」、「を含む(includes)」又は「を含有する」という用語と互換的に使用されてもよい。「からなる」という用語は、列挙された要素又はステップから構成されることを意味しており、すべての同じ品質及び意味を有する「から構成される」という用語と互換的に使用されてもよい。
【0022】
ナノ粒子の分散液
「分散液」という用語は、本明細書に使用される場合、両親媒性脂質を含むナノ粒子が、水性液体などの別の物質の連続相に分散されている系を指す。いくつかの実施形態では、分散液は、コロイド溶液、コロイド又は懸濁液を含む。
【0023】
当業者であれば、超微細粒子とも称される「ナノ粒子」は、約1000nm未満の物質の粒子として通常定義されることを理解するであろう。本明細書に開示されたものなどのナノ粒子分散液では、ナノ粒子の粒径に変動がある。したがってナノ粒子の「平均粒子径」及び「多分散性指標」又は「PDI」を指すのに有用である。「平均粒子径」といった用語は、ナノ粒子の径を記載するために本明細書で使用されるときには、z平均径を指す。本明細書全体を通じ、動的光散乱法によってz平均径を測定する。動的光散乱法(DLS)は、懸濁液中における小粒子の粒度分布プロファイルを決定するために使用されることで一般には知られている物理的技術である。測定については、例えばMalvern Zetasizer Advance Range又はZetasizer AT又はZetasizer ZS若しくはZS90といったMalvern Panalytical Ltd.製のZetasizerデバイス、あるいはWyatt Technology Corporation製のDLS技術などの他の好適なデバイスを使用することができ、Unchained Labs製のStunnerなどのデバイスもまた使用することができる。平均粒子径の決定については、Malvern Zetasizer Nano ZS又はUnchained Labs Stunnerを、測定中25℃の一定の温度にて使用することができる。多分散性指標(PDI)とともにz平均径は、好ましくはISO22412:2008に定義されるようにDLS測定強度自己相関関数のキュムラント分析から算出される。PDIは、0~1の範囲で調整される、粒子径分布幅の無次元概算値である。Malvern Instrumentsによれば、0.4以下のPDIを有する試料は、単分散であると考えられる。
【0024】
いくつかの実施形態では、分散液のナノ粒子の平均粒子径は、1~500nm、5~400nm、10~200nm、又は20~100nm、又は30~90nm、又は40~80nmの範囲である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、100nm未満、又は90nm未満、又は80nm未満、又は70nm未満の平均粒子径を含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子の平均粒子径は、10~20nm、20~30nm、30~40nm、40~50nm、50~60nm、60~70nm、70~80nm、80~90nm又は90~100nmの範囲である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子の平均粒子径は、約10nm、約20nm、約30nm、約40nm、約50nm、約60nm、約70nm、約80nm、約90nm又は100nmである。
【0025】
いくつかの実施形態では、分散液のナノ粒子の多分散性指標(PDI)は、0.4未満、又は0.3未満、又は0.25未満、又は0.2未満、又は0.1未満である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子のPDIは、0.01~0.05、又は0.05~0.1、又は0.1~0.15、又は0.15~0.2、又は0.2~0.25、又は0.25~0.3の範囲である。
【0026】
脂質ナノ粒子組成物
本発明の方法で製造されたナノ粒子は、少なくとも1種の両親媒性脂質を含むナノ粒子である。言い換えれば、製造されたナノ粒子は、脂質系ナノ粒子又は脂質ナノ粒子である。脂質ナノ粒子の例としては、複雑な内部構造を有するナノ粒子、いくつかの場合では、リポソームなどの、水性の内部を最小限~全く含有しない、より構造化されたナノ粒子が挙げられてもよい。この用語は、少なくとも1つの脂質二重層と、任意選択で水系内部相を含むナノ粒子を指すために典型的には使用される。ただし、「リポソーム」及び「脂質ナノ粒子」(LNPと略されることもある)という用語もまた、多くの場合互換的に使用される。他の表現は多くの場合、リポプレックス、リポポリプレックス、ユニラメラリポソーム又は多層リポソームなどの特定の種類の脂質ナノ粒子に使用される。
【0027】
一実施形態では、本開示による方法は、脂質ナノ粒子、リポソーム、リポプレックス又はリポポリプレックス及びこれらの組合せから選択されるナノ粒子の分散液を製造する。他の実施形態では、本発明の方法により製造された脂質系ナノ粒子は、ユニラメラリポソーム(単一の二重層)、多層リポソーム、多重小胞リポソーム、単一のバイラメラリポソーム、多重二重層リポソーム、脂質ナノ粒子、リポプレックス及びリポポリプレックスの群から選択される。いくつかの実施形態では、本発明の方法により製造された脂質系ナノ粒子は、上に列挙された種類の脂質ナノ粒子のいずれかの組合せである。
【0028】
当業者であれば、大量の脂質ナノ粒子が臨床目的で現在使用されているか臨床開発段階にあることを理解するであろう。これらのナノ粒子のうちのいずれかは、有機溶媒流れ及び/又は水性溶媒流れのすべての成分又はそれらの成分の一部を衝突させることで本明細書に開示される方法によって製造され得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、ホスファチジルコリン、HSPC(水素添加ダイズホスファチジルコリン)、PEG化脂質(例えば、PEG(polyethylene glycol、ポリエチレングリコール)ポリマーにコンジュゲートされた脂質)、DSPE(distearoyl-sn-glycero-phosphoethanolamine、ジステアロイル-sn-グリセロ-ホスホエタノールアミン)、DSPC(distearoylphosphatidylcholine、ジステアロイルホスファチジルコリン)、DOPC(dioleoylphosphatidylcholine、ジオレオイルホスファチジルコリン)、DPPG(dipalmitoylphosphatidylglycerol、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール)、EPC(egg phosphatidylcholine、卵ホスファチジルコリン)、DOPS(dioleoylphosphatidylserine、ジオレオイルホスファチジルセリン)、POPC(パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、palmitoyloleoylphosphatidylcholine)、SM(sphingomyelin、スフィンゴミエリン)、MPEG(methoxy polyethylene glycol、メトキシポリエチレングリコール)、DMPC(dimyristoyl phosphatidylcholine、ジミリストイルホスファチジルコリン)、DOTAP、DMPG(dimyristoyl phosphatidylglycerol、ジミリストイルホスファチジルグリセロール)、DSPG(distearoylphosphatidylglycerol、ジステアロイルホスファチジルグリセロール)、DEPC(dierucoylphosphatidylcholine、ジエルコイルホスファチジルコリン)、DOPE(dioleoly-sn-glycero-phophoethanolamine、ジオレオリーsn-グリセロ-ホホエタノールアミン)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(Dipalmitoyl phosphatidylcholine、DPPC)、メトキシポリエチレングリコール(mPEG)に共有結合、すなわちコンジュゲートされた脂質、mPEG-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン脂質コンジュゲート、mPEGに共有結合されたリン脂質、カルジオリピン、DSPE-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-2000]又はこれらの任意の組合せの群から選択される両親媒性脂質を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、DPPC及びコレステロールを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は56:39:5のモル比でHSPC:コレステロール:PEG2000-DSPEを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は2:1のモル比でDSPCとコレステロールを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、DOPC、DPPG、コレステロール及びトリオレインを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、55:45のモル比でEPCとコレステロールを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、3:7のモル比でDOPSとPOPCを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は60:40のモル比でSMとコレステロールを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は3:2:0.015のモル比でDSPC、MPEG-2000及びDSPEを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は7:3のモル比でDMPCとDMPGを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、2:0.8:1:0.4のモル比でHSPC、DSPG、コレステロール及び有効成分(例えば、アンホテリシンB)を含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、1:1のモル比で硫酸コレステリルとアンホテリシンBを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、1:8のモル比でDMPCとEPGを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、DOPC、DPPG、コレステロール及びトリオレインを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、DEPC、DPPG、コレステロール及びトリカプリンを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、75:25のモル比でDOPCとDOPEを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカノアート)、2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)及びコレステロールを含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、SM-102、ポリエチレングリコール[PEG]、2000-ジミリストイルグリセロール[DMG]、コレステロール及び1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン[DSPC]を含む。
【0033】
当業者であれば、「両親媒性脂質」という用語が、親水性及び親油性を含む任意の脂質を包含すること、並びにこれらの両親媒性脂質のうちのいずれかが本明細書に開示される方法で使用され得ることを理解するであろう。いくつかの実施形態では、両親媒性脂質は、脂肪酸、グリセロ脂質、モノグリセリド、ジグリセリド、グリセロリン脂質、リン脂質、ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン(SPC)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、ステロール、コレステロール、プレノール、カロテノイド、レチノール、レチナール、レチノール酸、β-カロテン、トコフェロール、糖脂質、LIPOID S100、PEG化脂質、1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール(DMG-PEG)及びこれらの脂質の組合せの群から選択される。好ましい実施形態のうちの1つでは、両親媒性脂質は、リン脂質であるかこれを含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、両親媒性脂質は、カチオン性脂質、アニオン性脂質又は中性脂質、すなわちそれぞれ約pH3~pH9、特にpH5~pH8の範囲のpHで正味正電荷、正味負電荷又は正味中性の電荷を有する資質を含む。いくつかの実施形態では、両親媒性脂質は、PEG化脂質、すなわちポリエチレングリコールポリマーとコンジュゲートされている脂質を含む。
【0035】
一実施形態では、ナノ粒子は、少なくとも1種のカチオン性脂質、すなわち約pH3~pH9で正味正電荷を有する脂質を含む。カチオン性脂質は、モノカチオン性又はポリカチオン性であり得る。例えば少なくとも1種の親水性部分及び親油性部分を含む分子などの任意のカチオン性両親媒性分子は、本発明の意味の範囲内のカチオン性脂質である。一実施形態では、カチオン性脂質はイオン化可能な脂質である。一実施形態では、少なくとも1種のカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(1,2-di-O-octadecenyl-3-trimethylammonium propane、DOTMA)若しくはその類似体、若しくはその誘導体、及び/又は1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium-propane、DOTAP)若しくはその類似体、若しくはその誘導体を含む。少なくとも1種のカチオン性脂質は、例えば核酸などの負に荷電した原薬と複合体を形成するときに正電荷を与える。
【0036】
いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、リン脂質及びコレステロールなどの両親媒性脂質を含む。
【0037】
少なくとも1種の両親媒性脂質を含むナノ粒子を製造するための本開示による方法は、有機溶媒及び少なくとも1種の当該両親媒性脂質を含む第1の流れを供給するステップを含む。したがって第1の流れは、有機溶媒及び本明細書に記載の両親媒性脂質のうちのいずれか1つ、又は本明細書に記載の両親媒性脂質のクラス若しくは種の組合せなどの少なくとも1種の両親媒性脂質を含んでもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、第1の流れは、有機溶媒及び両親媒性脂質の組合せを含んでもよい。一実施形態では、第1の流れは、有機溶媒、並びにカチオン性脂質、リン脂質、コレステロール及びPEG化脂質を含む。好ましくは、第1の流れは溶液、すなわち、エタノールなどの有機溶媒に1つ以上の脂質を可溶化又は完全に溶解させた液体溶液である。特定の一実施形態では、第1の流れは、エタノール、アミノ脂質(例えば、DLin-KC2-DMA又はDLin-MC3-DMA)などのイオン化可能なカチオン性脂質、コレステロール、リン脂質及びPEG化脂質(例えば、DMG-PEG)を含む。いくつかの実施形態では、カチオン性脂質又はイオン化可能なカチオン性脂質の量は、有機流れ又は溶媒中の脂質の全組成に対し、少なくとも50mol%である。
【0039】
いくつかの実施形態では、第1の流れは、エタノール、並びに脂質であるPEG2000-C-DMG(1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール-2000)、N,N-ジメチル-2,2-ジ-(9Z,12Z)-9,12-オクタデカジエン-1-イル-1,3-ジオキソラン-4-エタンアミン(DLin-KC2-DMA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)及びコレステロールから構成されてもよい。いくつかの実施形態では、第1の流れは、有機溶媒としてエタノール、並びに脂質であるDMG-PEG(1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール-2000)、(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル 4(ジメチルアミノ)ブタノアート(DLin-MC3-DMA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)及びコレステロールを含む。
【0040】
他の実施形態では、第1の流れ又は第2の流れは、少なくとも1種の更なる両親媒性脂質を更に含む。本明細書で理解されるように、少なくとも1種の更なる両親媒性脂質は、少なくとも1種の両親媒性脂質に加えて、第2、第3又は第4の両親媒性脂質などを指す。好ましくは、有機溶媒流れは、1種以上の両親媒性脂質を含む。更なる両親媒性脂質は、PEG化脂質、コレステロール、イオン化可能なカチオン性脂質及びリン脂質(DSPCなど)の群から好ましくは選択される。特定の実施形態では、第1の流れ又は第2の流れは、0.1mol%~2mol%の範囲の濃度でPEG化脂質を含む。特定の一実施形態では、第1の流れは、0.1mol%~2mol%の範囲の濃度で有機溶媒及びPEG化脂質を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、開示された方法により調製されたナノ粒子は、少なくとも1種のヘルパー脂質を更に含む。ヘルパー脂質は、中性又はアニオン性脂質であってもよい。いくつかの実施形態では、ヘルパー脂質は、リン脂質なのどの天然脂質を含む。いくつかの実施形態では、ヘルパー脂質は天然脂質の類似体を含む。いくつかの実施形態では、ヘルパー脂質は完全合成脂質を含む。いくつかの実施形態では、ヘルパー脂質は、天然脂質と類似性がない脂質様分子を含む。ヘルパー脂質は、脂質ナノ粒子の安定性及び送達効率に寄与する。特定の実施形態では、ヘルパー脂質は、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ホスファチジルコリン、コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、PEG化脂質、脂肪酸及びヘミコハク酸コレステリル(cholesteryl hemisuccinate、CHEMS)又はこれらの化合物の類似体若しくは誘導体から選択される。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、カチオン性脂質及び中性脂質又はアニオン性脂質から選択されたヘルパー脂質を含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子分散液又はナノ粒子は、単一のバイラメラリポソームを含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子分散液又はナノ粒子は、多重二重層リポソームを含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子の分散液は、2種以上のリポソームを含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、両親媒性脂質を含むナノ粒子分散液又はナノ粒子は、ユニラメラリポソームを含む。当業者であれば、ユニラメラリポソームは、水溶液を封入する単一のリン脂質二重層球を有する小胞を含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は多層リポソームを含む。多層リポソームは、「タマネギ」構造、すなわち、他の小胞内部の一連の複数のユニラメラ小胞がある小胞を含み、水の層で分離された同心リン脂質球の多層構造を作成する。
【0044】
いくつかの実施形態では、開示された方法に従って製造されたナノ粒子分散液は、核酸を含む脂質ナノ粒子の分散液である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子分散液又はナノ粒子は、リポプレックスを含む。当業者であれば、リポポリプレックスとも呼ばれることがあるリポプレックスは脂質小胞でカプセル化された核酸を含む複合体を指すことを理解するであろう。リポポリプレックスは、核酸及び脂質成分に加えて、典型的にはポリマーもまた含んでもよい。いくつかの実施形態では、脂質小胞はリポソーム、すなわち核酸を含む水性コアを有する二重層構造であり得る。いくつかの実施形態では、リポプレックスは、脂質と核酸との間に定義されていない複合体を含む。いくつかの実施形態では、リポプレックスは、正に荷電した脂質小胞と負に荷電した核酸との間の静電相互作用によって形成され得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、本開示によるナノ粒子のナノ粒子分散液は、従来のリポソーム、pH感受性リポソーム、カチオン性リポソーム、長期循環リポソーム又は免疫リポソームを含む。
【0046】
原薬(API)
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、原薬(API)を含む。いくつかの実施形態では、特にAPIが核酸を表さない小分子である場合、APIは、第1の流れの有機溶媒に溶解又は可溶化される。いくつかの実施形態では、APIは、第2の流れの水性溶媒に溶解又は可溶化である。言い換えれば、本発明の方法のステップa)で供給された第1の流れは、APIを更に含んでもよい。代替的には、本発明の方法のステップb)で供給された第2の流れは、APIを更に含んでもよい。特定の実施形態では、ナノ粒子は、ステップa)及び/又はステップb)で供給され得る少なくとも2種の異なるAPIを含む。これらの実施形態によって、異なる程度の溶解度を有する有効成分と統合するときに柔軟性が提供される。
【0047】
いくつかの実施形態では、APIは疎水性分子を含む。いくつかの実施形態では、APIは親水性分子を含む。いくつかの実施形態では、APIは両親媒性分子を含む。いくつかの実施形態では、APIは小分子を含む。いくつかの実施形態では、APIは核酸又はその誘導体を含む。いくつかの実施形態では、APIは、ベクター用の遺伝物質であるかこれを含む核酸分子であってもよく、例えばこれはウイルスベクター(例えば、アデノ随伴ウイルスベクター)又はプラスミドである。いくつかの実施形態では、APIは、DNA分子又はその誘導体、例えばプラスミドDNAを含む。いくつかの実施形態では、APIは、RNA分子又はその誘導体を含む。特定の実施形態では、RNA分子は、mRNA、miRNA、プレRNA、saRNA、shRNA、リボザイム及びアンチセンスRNAの群から選択される。特定の実施形態では、核酸は、抗原をコードしたDNA又はmRNAなど、抗原をコードする。いくつかの実施形態では、APIは、ポリペプチド又はその誘導体を含む。
【0048】
当業者であれば、市場又は開発段階で大量のAPIが利用可能であり、これらのAPIのいずれかは、本明細書に開示される方法で使用可能であることを理解するであろう。いくつかの実施形態では、APIは、ジドブジン、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、ポリミキシンB、ドキソルビチン、ケタコナゾール、アセタゾールアミド、N-メチル-N-D-フルクトシルアンホテリシンBメチルエステル(MFAME)、硫酸鉄、ヒドロキシジン、トポテカンHCl、ダウノルビチン、シタラビン/Ara-C、ミファムルチド、ビンクリスチン、イリノテカン、アンホテリシンB、ベルテポルフィン、硫酸モルフィン、ブピバカイン、不活性化A型肝炎ウイルス(RGSB株)、インフルエンザウイルスA型及びB型の不活性化ヘマグルチニン、アミカチン、テセモチド、T4エンドヌクレアーゼV、プロスタグランジンE-1(PGE-1)、シスプラチン、白金類似体シス-(トランス-R,R-1,2-ジアミノシクロヘキサン)ビス(ネオデカノアート)白金(II)、半合成ドキソルビチン類似体アンナマイシン、ルルトテカン、強力トポイソメラーゼI阻害剤、イリノテカンの活性代謝物質、パクリタキセル、All-transレチノール酸、ミトキサントロン、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド成長因子受容体結合タンパク質2(Grb-2)、ビノレルビン酒石酸塩、トポテカン、PLK1 siRNA、PKN3 siRNA、CEBPA siRNA、ドセタキセル、p53遺伝子若しくはビノレルビン、又はこれらの組合せから選択されるが、これらに限定されない。
【0049】
いくつかの実施形態では、有効成分は、例えばコロナウイルス抗原をコードするRNA又はmRNAなどの抗原をコードするRNAである。いくつかの実施形態では、APIは、BNT162b2 RNA(BioNTech)を含む。いくつかの実施形態では、有効成分は、mRNA-1273(Moderna)を含む。いくつかの実施形態では、APIは、ChAdOx1-SARS-COV-2(AstraZeneca)を含む。
【0050】
言及されるように、本開示による方法は、水性溶媒を含む第2の流れを供給するステップを含む。水性溶媒は、緩衝液系、例えば、PBS、酢酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液又はTRIS緩衝液などの緩衝水性溶媒であり得る。任意選択では、水性溶媒は、他の賦形剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、水性溶媒は、スクロース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、グルコース、フルクトース、プロリン、ソルビトール、グリシンベタイン、ポリエチレングリコール、デンプン及びデキストランなどの抗凍結剤を含んでもよい。水性溶媒は、いくつかの実施形態では、APIが第1の流れで供給されるときには、APIにとって溶媒ではなくてもよい。
【0051】
衝突ジェットリアクタ
言及されるように、本発明の方法は、ジェット衝突とも称される2つの流れの正面衝突に関連する。本明細書に使用される場合、流れは、液体などの流体材料の流れを意味する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノ粒子は、衝突ジェットリアクタで製造される。こうしたリアクタの例は、欧州特許第1165224号明細書、欧州特許第1352682号明細書及び米国特許出願公開第2017/0361299号明細書で開示される。マイクロジェットリアクタは、衝突ジェットリアクタの一例である。
【0052】
更には、ジェット衝突による溶媒/非溶媒沈殿の方法は、当該技術分野で説明されており、例えば欧州特許第2395978号明細書に開示される。
【0053】
本発明の方法に使用されるような衝突ジェットリアクタは、有機溶媒を含む第1の流れ及び水性溶媒を含む第2の流れを供給するリアクタを含む。各流れは、ノズルを通じて高圧で押し出される。ノズルは、直径5~900μmの範囲の開口を有し得る。約20μm~約800μmの範囲の直径も好ましい。
【0054】
本明細書ではピンホールとも呼ばれるノズルは、一方に対向するもう一方に配置される。すなわち、それらのピンホールは、例えば約180°の角度で互いに相対するように配置される。したがって、注入された流れは正面で、すなわち約180°で、リアクタの混合チャンバ内で高速で衝突する。こうすることで、ナノ粒子懸濁液を生成する集中的にかつ乱流の混合を生み出す。これらのノズル又はピンホールはリアクタチャンバで衝突する高圧ジェットを作り出し、これによって混合時間を減少させること又は短縮させることが可能となる。
【0055】
より具体的には、本発明の方法に従い、有機溶媒及び両親媒性脂質を含む第1の流れは、第1のノズルを通じて高圧下で圧送される。水性溶媒を含む第2の流れは、第2のノズルを通じて高圧下で圧送される。高圧は、当業者に知られているように、第1のポンプ及び第2のポンプによって提供される。本明細書に使用される場合、「高圧(raised pressure)」という用語は、高圧(high pressure)、すなわち上昇した流体力学的圧力と互換的に使用することができ、大気圧を超える任意の圧力を指す。
【0056】
第1の流れ及び第2の流れは、2つの流れが正面衝突する反応チャンバへと圧送される。本明細書で並行して使用される反応チャンバ、すなわちリアクタチャンバは、2つの流れのための空洞を設け、高度な乱流混合ゾーンを形成する。
【0057】
第1の流れ及び第2の流れの衝突中、流れは、液体ジェットを衝突させるものであると見なされ得る。いくつかの実施形態では、製造中に使用された衝突ジェットのための流体力学的圧力は、理論的根拠により算出され、及び/又は圧力メータを使用してモニタリングされる。
【0058】
第1の流れ及び第2の流れの衝突流れについて流体力学的圧力の算出は、数1によって算出することができる。
【数1】
式中、
p=流れ中の圧力([バール]又は[kPa]、ここでは1バールは100kPa)
ρ=流れ([kg/m
3])の組成物(すべての成分)の密度
Q=流れの流量([m
3/s])
r=ピンホールの半径([m])
【0059】
流れの速さであるv[m/s]は、数2に従って算出することができる。
【数2】
【0060】
いくつかの実施形態では、流量は、流れをプロセス中にも確認することができるように、衝突ジェットリアクタ(例えば、マイクロジェットリアクタ)への供給ラインにフローメータを組み込むことで測定される。
【0061】
いくつかの実施形態では、本開示は、少なくとも1種の両親媒性脂質を含むナノ粒子の分散液を製造するための方法を提供し、方法は、a)有機溶媒及び両親媒性脂質を含む第1の流れを供給するステップと、b)水性溶媒を含む第2の流れを供給するステップと、c)第1のノズルを通じて高圧下で第1の流れを圧送するステップ及び第2のノズルを通じて高圧下で反応チャンバに第2の流れを圧送するステップであって、第1のノズルが第2のノズルから約180°の角度で配置されているステップと、d)反応チャンバ内で第1の流れと第2の流れを正面で衝突させるステップであって、第1の流れと第2の流れの流量比が、1:1.5~1:4.5の範囲であるステップと、を含み、方法は、当該第1のノズル及び当該第2のノズルを含む衝突ジェットリアクタ並びに反応チャンバの使用又は提供を含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、本開示は、少なくとも1種の両親媒性脂質を含むナノ粒子の分散液を製造するための方法を提供する。該方法は、第1のノズルが、第2のノズルから約180°の角度で配置されている、第1のノズル及び第2のノズルを含むジェット衝突リアクタ並びに反応チャンバを提供するステップと、
a)有機溶媒及び両親媒性脂質を含む第1の流れを供給するステップと、
b)水性溶媒を含む第2の流れを供給するステップと、
c)第1のノズルを通じ、高圧下で第1の流れを圧送するステップと、第2のノズルを通じ、高圧下で第2の流れを反応チャンバへと圧送するステップと、
d)反応チャンバ内で第1の流れと第2の流れを正面で(約180°の角度で)衝突させるステップと、
を含み、
第1の流れと第2の流れとの流量比は、1:1.5~1:4.5の範囲である。
【0063】
いくつかの実施形態では、本開示による方法で提供された衝突ジェットリアクタは、(互いに約180°の角度で)互いに対向して配置された少なくとも2つのノズル(ピンホール)を有する。第1のノズル及び第2のノズルのそれぞれは、供給ラインに接続されてもよく、任意選択では、各供給ラインは、本明細書に記載の実施形態又は実施形態の組合せによる、第1の流れ及び第2の流れを、それぞれのノズルに高圧で供給するために配置されたポンプに関連づける。これらの流れは、任意選択では、リアクタハウジングで囲まれ得るリアクタチャンバ内の共通する衝突点で衝突させることができる。最適な実施形態では、別の開口は、任意選択でガス、蒸発液体、冷却液体又は冷却ガスが通過してリアクタチャンバ中のガス雰囲気を維持するか冷却するためのリアクタハウジングに設けられている。更なる実施形態では、こうした開口は存在しない。更なる開口は、得られた生成物及び任意選択で過剰なガスをリアクタチャンバから取り除くために設けられている。リアクタ内部のガス雰囲気を維持するため、又は得られた生成物を冷却するため、ガス、蒸発液体又は冷却ガスが開口を通じてリアクタチャンバへと導入される場合、得られた生成物及び過剰なガスは、ガス入口側で過圧するか、生成物及びガス出口側で加圧することで、この開口を通じてリアクタチャンバから取り除かれてもよい。溶媒/非溶媒沈殿の使用は、本明細書に記載の実施形態のうちのいずれか1つ又はこれらの組合せに関連して記載されるように、沈殿した脂質系ナノ粒子の分散液を得るために、こうした衝突ジェットリアクタで行われてもよい。
【0064】
いくつかの実施形態では、本発明による方法で使用又は提供されるジェット衝突リアクタは、以下に詳細に記載されるような全体の形状が実質的に回転楕円である反応チャンバ壁の内部表面によって画定されている反応チャンバを含む。反応チャンバは、(a)互いに相対するように反応チャンバの第1の中心軸の対向する位置で配置されており、それぞれノズルを含む第1の流体入口及び第2の流体入口と、(b)第2の中心軸が第1の中心軸に対して垂直であり、当該チャンバの第2の中心軸上に配置された第3の位置に配置された流体出口と、を含むという点を更に特徴とする。更には、第1の流体入口のノズルと第2の流体入口のノズルとの距離は、第1の中心軸に沿って反応チャンバの直径と同じかこれよりも小さい。
【0065】
従来のジェットリアクタに関する実質的な改善は、このようなリアクタ、特にその全体の形状が実質的に回転楕円である反応チャンバ及び特に流体入口ノズル間の距離が比較的短いことを反映したサイズの小ささに基づいて達成され得る。理論に束縛されることを望むものではないが、全体的な回転楕円形状は、内角、縁又は角及び関連するデッドボリューム・ゾーンを有する、当該技術分野で知られている不規則な形状の反応チャンバによる有害な効果のいくつかを取り除くと考えられている。流体入口ノズル間の小さいサイズ及び最小距離によって、チャンバ内での流体の乱流混合が増大し、ノズルによってチャンバへと注入される2つの流れの正面衝突を達成するなど、同じ軸上でのノズルの適切な位置合わせが促進されると考えられている。
【0066】
本明細書に使用される場合、その全体の形状が実質的に回転楕円であるということは、チャンバ壁の内部表面に画定される反応チャンバの少なくとも大きな部分の形状が、球形又は球形に類似するものであることを意味している。例えば、回転楕円体は、その断面の一部が楕円形となるように形成されてもよい。一実施形態では、入口又は出口開口を保持又は画定する部分を除いて、反応チャンバ又はチャンバ壁の内部表面のすべての部品又はすべての部分は、実質的に回転楕円体又は球形でさえある。
【0067】
ノズルの直径又は入口開口と比較して、その直径が典型的に相対的に大きい出口開口が反応チャンバのその他の球形から逸脱していると理解される場合には、反応チャンバの形状は、球形ドームとも称される球形キャップとしても記載されてもよい。好ましい実施形態では、こうした球形キャップは、第1の中心軸(すなわち、2つの流体入口が位置づけられる)に沿って高さ、基底及び半径を有し、高さは当該半径よりも大きく、基底は流体出口により画定される。言い換えれば、反応チャンバにより形成された球形ドームは、対応する半球よりも体積が大きい。これはまた、出口開口の直径が反応チャンバの最大直径よりも小さいことを意味している。特定の実施形態では、ドームの高さは、半径の約110%~約170%の範囲である。例えば、高さは、例えば半径の約120%、約130%、約140%、約150%又は約160%など、半径の約120%~約160%であってもよい。
【0068】
本開示による方法に関連して使用され得るリアクタの別の好ましい外形は、ノズルの配置に関する。言及されるように、第1の流体入口と第2の流体入口のそれぞれはノズルを含み、組み立てられたリアクタの状態では、第1の流体入口のノズルと第2の流体入口のノズルとの距離は、第1の中心軸に沿って反応チャンバの直径と同じであるかこれよりも小さい。これは、格納されているノズルを有する当該技術分野で知られているいくつかのジェットリアクタとは対照的である。本発明の好ましい実施形態では、ノズル、より正確にはそれらの下流端は、反応チャンバへと突出していないが、反応チャンバ壁の内部表面と実質的には位置合わせされる。
【0069】
上で説明された選択によって配置される場合には、反応チャンバは、ノズル間の短い距離にも対応する非常に小さな内部体積を設けることが更に好ましい。本明細書に使用される場合、第1のノズルと第2のノズルとの距離は、下流端(すなわち、反応チャンバの中心を示唆するノズルの端部)間の距離として理解されなければならない。好ましい反応チャンバ体積は約0.5mL未満であり、ノズル間の好ましい距離は約7mm未満であることが好ましい。特に好ましい一実施形態では、反応チャンバは、約0.25mL以下の体積を有し、第1の流体入口のノズルと第2の流体入口のノズルとの距離は5mm以下である。更に好ましい実施形態では、反応チャンバの体積は、例えば約0.15mLなど、約0.2mL以下であり、2つのノズル間の距離は約4mm以下である。更に小さな寸法もまた有用であってもよい。明確にするために記すと、反応チャンバの体積に対してこれらの選択を提供する目的のために、それぞれの値は、反応チャンバが出口開口に関係なく実質的に球形を有しているという推定の下に算定されていることに留意されたい。言い換えれば、出口開口は、由来する球形よりも体積が小さい球形キャップの基部を形成するものとであると解釈されていない。反応チャンバの体積を表す球形セグメントの基部を形成するために出口開口が平坦であると理解されるべき場合には、上で提供されたmLによる値は、出口開口の寸法を考慮した上で修正されるべきである。
【0070】
一実施形態では、反応チャンバは他の入口開口又は出口開口を含まない。言い換えれば、第1の流体入口及び第2の流体入口並びに流体出口は、チャンバ壁に設けられている反応チャンバの唯一の開口を表す。これはまた、反応チャンバに導入されるガス用の入口又は脱気目的の出口など、1つ以上の更なる入口を呈し得るジェット衝突リアクタの他の実施形態とは対照的である。衝突プロセスに悪影響を及ぼし、制御不可能な沈殿又はこうした更なる開口での混入の増大をもたらし得る更なる入口又は出口を有さないことは、有利であり得る。こうしたリアクタは、第1の流体流れと第2の流体流れとの相互作用及びこれらの混合、向上した洗浄性並びに向上したバッチ間での一貫性についての良好な制御をもたらし得る。
【0071】
本明細書に使用される場合、閉鎖機構により不作動状態となった1つ以上の更なる入口開口又は出口開口を備えた反応チャンバを有するリアクタは、その反応チャンバが、第1の流体及び第2の流体のために本質的に必要とされる2つの入口開口及び反応チャンバ内で第1の流体流れと第2の流体流れの混合(及び/又は反応)から生じる流体用の出口開口以外に更なる入口又は出口開口を有さないリアクタであるということもまた理解するべきである。
【0072】
ジェット衝突リアクタの基本的な概念によれば、いくつかの実施形態では、リアクタは、第1の流体(すなわち、有機溶媒及び両親媒性脂質を含む第1の流れ)及び第2の流体(すなわち、水性溶媒を含む第2の流れ)を、2つの流れが互いに衝突する又は正面衝突するように反応チャンバへと方向付けるよう、好ましくは構成及び/又は配置されるべきである。これは、2つの流体入口に含まれるノズルの正確な位置づけ及び配向にとって特に関連している。したがって、好ましい実施形態では、ジェット衝突リアクタは第1の流体入口及び第2の流体入口のノズルは、第1の中心軸に沿ってチャンバ中心に向かって第1の流体流れ及び第2の流体流れを方向付けるように配置され、第1の流体流れ及び第2の流体流れを約180°の角度で衝突させるという点を特徴とする。本明細書に使用される場合、約180°の角度での衝突は、正面衝突とも称され得る。この文脈では、「約」といった表現は、例えば典型的には数ミリ秒以内といった非常に短い時間内で全体的な混合が生じるように、第1の液体流れと第2の液体流れとの衝突により、混合ゾーンで迅速かつ高い乱流の流体流れが確実に生じるように実際の角度が180°に十分近いことを意味する。
【0073】
いくつかの実施形態では、ジェット衝突リアクタは交換可能なノズルを備えている。これは同じリアクタを使用したプロセスパラメータの迅速なスクリーニングを可能にするため、製品及びプロセス開発の努力を加速させる。これは、ある特定のプロセスパラメータの試験、特に異なるノズル直径の試験は、それぞれの一連の実験内で複数のリアクタの使用を必要とするように、典型的には着脱不可能又は置換不可能なノズル、すなわち取り外しが不可能な方式でリアクタから取り外すことができないように接着、溶接、圧着又は熱嵌合されたノズルを有する先行技術のリアクタとは異なっている。本明細書に使用される場合、ノズル直径は、ノズルが単純噴孔ノズルである場合には、ピンホール径又は直径とも称され得る、ノズル開口の内径として理解されるべきである。言い換えれば、本実施形態は、リアクタの汎用性を実質的に増加させる。
【0074】
一実施形態では、第1の流体入口及び第2の流体入口のそれぞれは、上流端、第1の流体入口又は第2の流体入口のノズルを保持する下流端、及び上流端から下流端へ流体を導通するための流体導管を有する流体入口コネクタによって提供され、各流体入口コネクタの下流端は、第1の流体入口及び第2の流体入口を提供するように、チャンバ壁へと逆向きに挿入可能である。本実施形態によれば、ノズルを保持する逆向きに挿入可能な入口コネクタが設けられるという点で、ノズルは交換可能である。ノズルは、交換可能なコネクタに強固に固定され得る。本明細書に使用される場合、入口コネクタ(又は流体入口コネクタ)は、上流端及び下流端並びに上流端と下流端との間に流体接続を提供するように構成された内部流体導管を有する任意の部品であってもよい。
【0075】
交換可能な流体入口コネクタ(及びそれにより交換可能なノズル)を備えたこうしたリアクタ構成の利点は、リアクタが良好な洗浄性と減少したサイクル時間を呈するという点である。容易に置換可能である交換可能なノズル又は流体入口コネクタを有するリアクタの更なる利点によって、1つの同じリアクタチャンバを使用し、異なるノズル直径で作動する可能性を含むリアクタの汎用性は実質的に増加し得る。
【0076】
一実施形態では、流体入口コネクタは、解放可能な圧縮取付具によってチャンバ壁へと固定される。例えば、第1の流体入口及び/又は第2の流体入口を提供する流体入口コネクタは、単一のフェルール継手又は二重フェルール継手によってチャンバ壁へと固定される。高圧下での漏れを防ぐことができる他の強固な継手は、解放可能な程度までは同様に有用である。
【0077】
好ましい一実施形態では、リアクタは、流体入口コネクタの上流端と流体導管の上流部分を含む上流セグメントと、(ii)ノズルを備えた流体入口コネクタの下流端及び流体導管の下流部分を含む下流セグメントと、を有する流体入口コネクタを含み、流体導管の流体部分の直径は、流体導管の上流部分の直径よりも大きい。この文脈では、直径は内径として理解されるべきである。
【0078】
下流部分は、その直径が上流部分の直径よりも実質的に小さい毛細管として形成されてもよく、又はこうした毛細管によって設けられてもよい。例えば、一実施形態では、下流部分の直径は、上流部分の直径の半分以下である。別の実施形態では、下流部分の直径は、上流部分の直径の約40%以下である。任意選択では、上流部分は、下流部分よりも実質的に長くてもよい。例えば、下流部分の長さに対する上流部分の長さの比は、5:1以上、又は8:1以上であってもよい。
【0079】
特定の一実施形態では、流体入口コネクタの下流端は外部が円錐形状であり、チャンバ壁は、流体入口コネクタの下流端を受容するように、円錐形状でもあり寸法決めされている対応する空隙を呈する。この構成を使用することで、流体入口コネクタのリアクタへの挿入、そして同時に上記のような第1の中心軸上のそれぞれのノズルの適切な位置合わせが容易となる。好ましくは、リアクタは、ノズルが異なる直径を有し得ることを除き、基本的には全体的に同じ構成を有する2つの流体入口コネクタを備える。本明細書に記載の流体入口コネクタは、本開示の一態様を表す。
【0080】
ノズルは、適切な圧力を使用し、液体流れの形態で第1の流体及び第2の流体を反応チャンバに注入することが可能である任意の種類又は形状であってもよい。
【0081】
好ましい実施形態のうちの1つでは、第1の流体入口及び/又は第2の流体入口のノズルは単純噴孔ノズルである。本実施形態については、両方のノズルは単純噴孔ノズルであることが更に好ましい。本明細書に使用される場合、単純噴孔ノズルは、単純な(すなわち、実質的には円筒形の)貫通孔の形状を本質的に有する単純な孔を特徴とするノズルである。これは、その小さな寸法といった観点からピンホールとも称され得る。代替的には、選択された形状がそれぞれの作動圧力で反応チャンバ内で第2の流体流れと正面で衝突可能である流体流れの生成をもたらす限りは、ノズルは成形された孔のノズルとしても設けられてもよい。
【0082】
単純噴孔ノズルが使用される場合には、こうしたノズルは、サファイア、ルビー、ダイアモンド、セラミック、ガラス(ホウケイ酸ガラスなど)又は鋼などの特に硬い材料から製造された部品として提供されてもよい。鋼の場合には、タングステン、モリブデン、クロム、バナジウム及びコバルトなどの炭化物形成元素を含有し、合金元素の総量が典型的には約10~25重量%の範囲である、合金鋼である高速度鋼(high-speed steel、HSS)、又はタングステン及びコバルトが主要な合金元素であり、硬質合金とも称されるタングステン鋼などの高い硬度及び低い摩損性を有する品質の鋼が使用されることが好ましい。
【0083】
サファイア、ルビー又はダイアモンドノズルが使用される場合には、これらは予め製造されて流体入口コネクタの下流部分の下流端へと挿入され、例えば圧着によって固定され得る。予め製造する方法によって変化するノズルの公差を考慮すべきである。鋼のノズルが使用される場合には、それぞれの鋼品質により流体入口コネクタすべて又は少なくともその下流部分を調製し、次いで必要とされる孔を導入することが有用である。この方式では、第1の中心軸とノズルとの位置合わせが更に改善される。
【0084】
ノズル、すなわちノズルの孔の直径は、典型的には約1mm未満の範囲である。医薬分野、特に新規の化学成分、新規生物学的薬物、先進的な治療のために高度に特殊化したコロイドキャリア系などのナノ粒子形態の開発については、プロセス開発は多くの場合非常に高価な材料の使用を含むことから、プロセス開発に使用される液体の体積は最小限にすべきである。これは、とりわけ直径0.5mm以下の孔を有するノズルなどの更に小さなノズルを用いて最良に達成される。
【0085】
したがって、上記のようなジェット衝突リアクタは、第1の流体入口のノズルが第1の孔の直径を有し、第2の流体入口のノズルが第2の孔の直径を有する点と、第1の孔の直径及び/又は第2の孔の直径が20μm~500μmの範囲である点とを特徴とすることは、本発明の好ましい実施形態のうちの1つである。好ましくは、第1の孔の直径と第2の孔の直径の両方は、20μm~500μmの範囲、又は約50μm~約500μmの範囲である。孔の直径の少なくとも1つは、それぞれ、約500μm、約400μm、約300μm、約200μm、約100μm、約50μm又は約20μmであるようなリアクタ構成もまた好ましい。例えば20μm未満など、更に小さな直径が考えられてもよい。
【0086】
いくつかの実施形態では、第1のノズル及び第2のノズルの直径(すなわち、ノズルの孔又は開口)は、約300μm、約200μm、約100μmなど同じである。本開示で使用されたリアクタのより好ましい実施形態では、リアクタは、径の異なる2つのノズルを有する。言い換えれば、こうした更に好ましい実施形態によれば、孔の直径のうちの1つは他の孔の直径よりも大きい。こうした非対称のノズル構成は、様々な方法において有利であり得る。これは、例えば処理のためには必要ではあるが、最終生成物においては望ましくない溶媒の導入を最小にするために使用されてもよい。これらの2つの液体流れは、ノズルを通じて衝突する反応チャンバへと注入されるため、異なる流量を有するが、類似する運動エネルギーを有する2つの液体流れを生成するために使用されてもよい。
【0087】
一実施形態では、第2のノズル(すなわち、その孔)の直径は、第1のノズルの直径よりも少なくとも20%大きい。更なる実施形態では、第1の孔の直径に対する第2の孔の直径の比率は、約1.2~約5である。例えば、以下のノズル対が使用されるが、第1の値は第2の孔のおよその直径を表し、第2の値が第1の孔のおよその直径を表している。すなわち、100μm及び50μm、200μm及び100μm、200μm及び50μm、300μm及び200μm、300μm及び100μm、300μm及び50μm、400μm及び300μm、400μm及び200μm、400μm及び100μm、400μm及び50μm、500μm及び400μm、500μm及び300μm、500μm及び200μm、500μm及び100μm、500μm及び50μmである。ここでも、これらの対は非限定的な例であり、他の孔の直径の組合せは、特定の生成物又はプロセスに応じて有用でもある。
【0088】
更には、本発明者らは、リアクタの構成において、特に小さなノズルが使用されるときには、特定の寸法的な関係を観察することが有用であることを見出した。既に言及されたように、反応チャンバは、一般的に言えば反応チャンバが好ましい。いくつかのプロセスにとっては、ノズルの孔の100倍以下の直径である反応チャンバ直径を有するリアクタか、異なるサイズのノズルが使用される場合には、より大きなノズルの孔の直径の約100倍の直径以下のチャンバ直径を有するリアクタを提供することが有用であることが見出された。例えば、より大きなノズルが100μmの孔の直径を有する場合には、こうした特定の実施形態によれば反応チャンバの直径は約10mm以下であることが好ましい。
【0089】
関連する実施形態では、第2の孔の直径に対する第1の中心軸に沿った反応チャンバの直径の比率は、6~60の範囲である。例えば、第2の孔の直径は約200μmである場合、第1の中心軸に沿った反応チャンバの直径は、特定の実施形態によれば約1.2~約12mmの範囲(rage)であり得る。ただし、より大きなノズルを備えたリアクタは、寸法に関する他の考慮が求められる場合がある。
【0090】
更に関連する実施形態によれば、流体出口の直径に対する第1の中心軸に沿った反応チャンバの直径の比率は、約1.2~約3の範囲である。例えば、約3mmの直径を有する反応チャンバは、特定の実施形態に従って、約1mm~約2.5mmの出口直径を有する。
【0091】
出口直径を選択するときには、ノズルの孔の直径もまた考慮しなければならない。例えば、100μm未満の小さなノズル径(すなわち、孔)は、反応チャンバ内での圧力が、2つの乱流を支持するには十分高く、かつ2つの流れを迅速に混合することを確実にするため、1mm未満などの小さな流体出口直径と組み合わせられなければならない。例えば、50μmの孔を有する2つのノズルを使用するときに、0.5mmの流体出口直径が使用されてもよい。本開示及び上に提供されるガイダンスに基づいて、更なる種類の寸法因子は、ある特定の生成物を収容する又は要件を処理するためには有用でもあり得ることは、当業者には明らかである。
【0092】
リアクタの材料、特にチャンバ壁の材料に関しては、様々な種類の十分に硬く、抗摩耗性がある材料が使用されてもよい。実施形態のうちのいくつかでは、反応チャンバ壁(3)は、金属、ガラス、ガラスセラミック、セラミック及び熱可塑性ポリマーから選択される材料から製造される。有用な金属の一例は、ステンレス鋼である。好ましい実施形態のうちの1つでは、本発明のリアクタは、ステンレス鋼から製造された反応チャンバ壁を含む。リアクタの製造に使用されることになる製品の種類に応じて、炭化物及びコーティングされた合金もまた使用されてもよい。更には、チャンバ壁の内部表面は滑らかな仕上がりを呈することもまた好ましい。滑らかな仕上がりは、表面粗さを表すRa値の低さを特徴とし得る。Ra値は、表面の輪郭に沿って表面を測定するときのすべての値の量からの相加平均粗さの値を表す。好ましい実施形態のうちの1つによれば、反応チャンバ壁の内部表面は、0.8Ra以下の表面粗さを呈する。この場合、RaはISO 4287:1997に従って決定される。
【0093】
代替的な実施形態では、本開示の方法により提供されたジェット衝突リアクタは、熱可塑性ポリマーの混合物又は熱可塑性ポリマーと、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、ガラスファイバーなどの添加剤の混合物などの熱可塑性ポリマー、又は熱可塑性ポリマーを含む材料から製造された反応チャンバ壁を含む。熱可塑性ポリマー又は熱可塑性ポリマーをベースとした材料から製造された反応チャンバ壁の利点は、リアクタが、潜在的には非常に費用効率の良い製造方法である射出成形によって製造され得る点である。潜在的に好適である熱可塑性ポリマーの例として、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)、ポリアミド、ポリカーボネート(polycarbonate、PC)、ポリエーテルエーテルケトン(polyether ether ketone、PEEK)、ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリスチロール(polystyrol、PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(acrylonitrile butadiene styrene、ABS)、ポリオキシメチレン(polyoxymethylene、POM)、ポリフェニルスルホン(polyphenylsulfone、PPSF又はPPSU)及びポリエーテルイミド(polyetherimide、PEI)が挙げられるが、これらに限定されない。複数の実施形態のうちの1つでは、熱可塑性ポリマーは、PTFE及びPEEKから選択される。
【0094】
いくつかの実施形態では、ジェット衝突リアクタは、(i)熱可塑性ポリマーから製造された、又は熱可塑性ポリマーを含む反応チャンバ壁と、(ii)金属、ガラス、ガラスセラミック及びセラミックから選択される材料から製造される流体入口ノズル(すなわち、第1の流体入口及び第2の流体入口のノズル)と、を含む。こうした実施形態の特定の利点は、高い硬度と強度を有するノズルを含むが、同時にリアクタの本体、すなわち反応チャンバ壁を射出成形で費用効果が高い方法で製造することができるという点である。これらの実施形態では、流体入口ノズルは、反応チャンバ壁に対して交換可能又は交換不可能な方式のいずれかで配置されてもよい。交換可能であるように設計される場合、ジェット衝突リアクタは汎用性があり、かつ様々な製品及びプロセスにとって柔軟性が高い状態で使用することができるという利点がもたらされる。一方、交換不可能であるように設計される場合、こうすることで、ノズルを予め製造し、次いでリアクタの本体、すなわち少なくとも反応チャンバ壁を製造する射出成形プロセスの間、又はこの最中にそれぞれの型へと挿入することができるという点で非常に費用効果が高い形で製造するという利点がもたらされる。溶融した熱可塑性ポリマーが型へと挿入され得る温度など、方法に関する更なる詳細は、選択された材料、すなわち熱可塑性ポリマーの性質によって変化する。これは、当業者に一般に知られている。
【0095】
更なる態様では、本発明は上に詳細に記載されているリアクタの使用に基づく方法を提供する。特に、本発明は、2つの流体を混合する方法を開示しており、該方法は、(i)上記のジェット衝突リアクタを設けるステップと、(ii)第1の流体入口を通じて第1の流体流れを反応チャンバに方向付けるステップと、(iii)約180°の角度で第1の流体流れを衝突させるように、第2の流体入口を通じて第2の流体流れを反応チャンバに方向付けるステップと、を含む。
【0096】
本明細書に使用される場合、流体は、せん断応力を受けるときには連続して流れる、又は変形する液体又は気体の材料である。好ましくは、本発明に従って混合される2つの流体は、液体溶液、懸濁液又はエマルジョンなどの液体材料であり、液体溶液が最も好ましい。本明細書に使用される場合、リアクタ内で2つの流体を混合することは、任意選択では、沈殿、乳化、錯体形成、自己組織化又は更なる化学反応など、単なる混合を超えた他の物理変化又は化学変化を更に含む。ただし、すべてのこれらの最適なプロセスは、本発明によるジェット衝突リアクタの使用で得られるように、2つの液体を混合することで引き起こされる。
【0097】
ジェット衝突条件下でリアクタを操作することは、典型的には上記のように適切なノズル径の選択と、理想的には正面衝突するその中心に向かって、ノズルを通じて流体を反応チャンバへと注入させる圧力又は流量で2つの流体流れを供給することと、を含む。
【0098】
リアクタが、第1の流体入口及び第2の流体入口を設けるように、チャンバ壁へと逆向きに挿入可能である交換可能な流体入口コネクタを有するように構成されている場合、ジェット衝突リアクタを設ける方法のステップは、(i)第1のノズルを有する第1の流体入口コネクタと第2のノズルを有する第2の流体入口コネクタを選択するサブステップと、(ii)第1の流体入口及び第2の流体入口を有するジェット衝突リアクタを設けるために、第1の流体入口コネクタ及び第2の流体入口コネクタをチャンバ壁へと挿入するサブステップと、を含んでもよい。上で説明されるように、孔の直径は、第1のノズルと第2のノズルとの間で異なっていてもよい。
【0099】
方法の好ましい実施形態のうちの1つでは、反応チャンバ内で2つの流れが衝突及び混合することによって、両親媒性脂質を含むナノ粒子(例えば、脂質ナノ粒子又はリポソーム)の沈殿又は自己組織化が生じるように、第1の流体流れは、有機溶媒及び少なくとも1種の両親媒性脂質を含み、第2の流体流れは、少なくとも1種の両親媒性脂質にとって非溶媒又は抗溶媒として作用し得る水性溶媒である。好ましい実施形態のうちの1つでは、第1の流体流れ及び第2の流体流れは、約0.1~約120バールの範囲の圧力で、それぞれの流体入口ノズルを通じて押し出される。この文脈では、かつ特段文脈が指示しない限り、圧力はゲージ圧力、すなわち過圧又は測定されるそれぞれの流体と流体接続する圧力ゲージから典型的に得られる周囲圧力(大気圧)に対して異なる圧力として表される。更に好ましい実施形態では、第1の流体流れ及び第2の流体流れは、約1~約40バールの範囲の圧力でそれぞれの流体入口ノズルを通じて押し出される。
【0100】
更に好ましい実施形態では、第1の流体流れと第2の流体流れのそれぞれは、約1~約1000mL/分の範囲の流量で反応チャンバへと方向付けられる。この文脈では、特段指示しない限り、それぞれ個別の流れにその流量を供給する。流量の他の好ましい範囲は、それぞれ、約2~約1000mL/分、5~1000mL/分、約5~約500mL/分及び約10~約300mL/分である。
【0101】
圧力に関しての選択と同様、好ましい流量は、一般的に適用可能なものであり、それによって組み合わせることができると理解されなければならない。言い換えれば、約10~約300mL/分の範囲の流量で、約0.1~約120バール、特に約1~約40バールの範囲の圧力にて、第1の流体及び第2の流体がそれぞれのノズルを通じて反応チャンバへと方向付けられる方法の実施形態についての選択肢又は更には選択もまた存在する。
【0102】
上記のように、ジェット衝突リアクタの好ましい実施形態のうちの1つによれば、2つのノズルはピンホール径とは異なっていてもよい、すなわち第1のノズルの孔は第2のノズルの孔よりも大きい、又は小さくてもよい。関連する実施形態では、本発明の方法は、2つの異なるノズルを備えたこうしたリアクタで実施される。代替的には、又はこれに加えて、第2の流体流れとも称される第2の流れの流量は、第1の(流体)流れの流量よりも大きくてもよい。更に好ましい実施形態では、方法は、(i)第2のノズルの孔が第1のノズルの孔よりも大きく、及び/又は(ii)第2の流体流れの流量が第1の流体流れの流量よりも大きく、反応チャンバに入ったときには第1の流体流れ及び第2の流体流れに実質的に同じ運動エネルギーを持たせるように、第2の流体流れの圧力及び第1の流体流れの圧力が適合されているという点を特徴とする。
【0103】
この文脈では、運動エネルギーは任意選択で、式
Ek=1/2*m*v2
(式中、mは体積単位あたりの流れの質量であり、vは流れの速度である)に従って算出されてもよい。
【0104】
類似の、又は更には実質的に同じ運動エネルギーを有する2つの流体流れを用いて作動することの利点は、回転楕円体(すなわち、対称の)反応チャンバ内の衝突点が、チャンバの中心又はその近傍にあるという点である。したがって、衝突プロセスを良好に制御し、かつプロセスに関する様々な未知の、又は望ましくない効果を有し得る、制御されていない衝突点の影響を除外することが可能である。好ましくは、流体流れの運動エネルギーは、反応チャンバの中心又はその近くで衝突(collision)又は衝突(impingement)を生じさせるには十分類似している。
【0105】
ナノ粒子懸濁液を製造するための方法
予想しなかったことではあったが、特定の条件下では、流量比、流れの圧力及びピンホールの半径などのパラメータは、ジェット衝突リアクタにより製造されたナノ粒子の特性に影響することが本明細書で見出された。
【0106】
本発明の一態様によれば、特定の流量比(FRR)で2つの流れを衝突させることを含む方法によって、所望の径及びPDIを含むナノ粒子の分散液を製造するための方法が本明細書に開示される。いくつかの特定のFRRは、例えば小さな径及び低PDIなどの所望の特性のナノ粒子を製造するためには有用であった。
【0107】
本発明の第1の態様によれば、第1の流れ(有機溶媒)と第2の流れ(水性溶媒)の流量比は、約1:1.5~約1:4.5の範囲である。驚くべきことに、この比率が適用されるときには、この方法によってロバストかつ安定したプロセスが提供され、安定し、品質が良好な粒子を再現可能に得ることが見出された。1:6又は1:8といった範囲外の流量比はリポソーム及びLNPの多分散性指標(PDI)に悪影響を及ぼすことが、本発明者らによって観察された。好ましい実施形態では、第1の流れと第2の流れの流量比、約1:1.5~約1:4、又は約1:2~約1:4の範囲である。
図3B及び
図5Aで見られるように、これらの流量比は、それぞれ80nm未満、又は60nm未満などの小さな平均粒子径を有する脂質系ナノ粒子を得るには特に有利であることが示され得る。いくつかの実施形態では、第1の流れと第2の流れの流量比は、1:1.5~1:3の範囲、より好ましくは1:1.5~1:2.5、より好ましくは1:1.5~1:2の範囲である。更なる実施形態では、第1の流れと第2の流れの流量比は、約1:1.5、約1:2、約1:2.5、約1:3、約1:3.5又は約1:4である。
【0108】
更には、特定の総流量比(TFR)で2つの流れを衝突させることを含む、所望の径及びPDIを含むナノ粒子の分散液を製造するための方法が本明細書に開示される。一般には、TFRは約0.1mL/分~約2,000mL/分の範囲である。好ましい実施形態のうちの1つでは、TFRは、約1mL~約1,000mL/分、又は約5mL/分~約800mL/分、又は約10mL/分~約800mL/分、又は約25mL/分~約800mL/分、又は30mL/分~約800mL/分の範囲から選択される。
【0109】
本発明の方法に従って流量比を適用するときには、ナノ粒子の製造は、例えばナノ粒子のサイズ及び安定性といった点では、第1の流れ及び第2の流れの総流量に影響されなかったことを見出すことができた。したがって、異なるスケール又は出力率でナノ粒子の分散液を製造するためのロバストなプロセスが本発明に提供される。
【0110】
驚くべきことに、特定の条件下では、約200mL/分を超えるTFRなどの高TFRであっても、小さいサイズ及び低PDIといった望ましい特性のナノ粒子を本明細書に開示される方法で得ることができることが見出された。例えば、約200mL/分~約1,000mL/分の範囲のTFRは、プロセス効率及び高い生産性が重要である状況では有用であり得る。特定の一実施形態では、TFRは、約200mL/分~約800mL/分の範囲である。別の特定の実施形態では、TFRは、約300mL/分など、280mL/分~320mL/分である。
【0111】
当業者であれば、総流量(TFR)は、時間単位あたりに反応チャンバへと注入される総体積を指す。言い換えれば、総流量は、第1の流れと第2の流れの流量の合計である。
【0112】
いくつかの実施形態では、総流量、すなわち第1の流れと第2の流れの流量の合計は、約200mL/分又は更には約100mL/分未満など低いものである。例えば、TFRは、約1mL/分~200mL/分、又は約5mL/分~200mL/分、又は10mL/分~200mL/分、15mL/分~200mL/分、又は約1mL/分~約100mL/分、又は約5mL/分~約80mL/分の範囲であってもよい。こうした低いTFRは、小バッチに高級な出発材料を使用する状況では有用であり得る。
【0113】
いくつかの実施形態では、総流量、すなわち第1の流れと第2の流れの流量の合計は、30mL/分~320mL/分、好ましくは100mL/分~320mL/分、最も好ましくは280mL/分~320mL/分の範囲である。更に特定の実施形態では、総流量は、280mL/分~320mL/分、より好ましくは290mL/分~310mL/分の範囲である。いくつかの実施形態では、TFRは、約20mL/分~約500mL/分、又は約50mL/分~約200mL/分、又は50mL/分~100mL/分である。
【0114】
特定の実施形態では、総流量は、100mL/分~500mL/分の範囲であり、第1の流れと第2の流れとの流量比は、1:1.2~1:2.5の範囲である。より特定の実施形態では、総流量比は、約300mL/分であり、第1の流れと第2の流れとの流量比は1:2である。パラメータ(流量比及び高い総流量)のこうした組合せによって、例えば60nm未満の平均径及び0.25未満のPDIといった有利な特性を有するナノ粒子の製造が可能となった。
【0115】
いくつかの実施形態では、TFRは、約30mL/分、又は約40mL/分、又は約50mL/分、又は約60mL/分、又は約70mL/分、又は約80mL/分、又は約90mL/分、又は約100mL/分である。
【0116】
いくつかの実施形態では、TFRは、約150mL/分、又は約200mL/分、又は約250mL/分、又は約300mL/分、又は約320mL/分、又は約350mL/分である。
【0117】
上記式1に示されるように、流れの圧力は、とりわけノズル開口のサイズによって調節される。いくつかの実施形態では、第1のノズル開口及び第2のノズル開口径は、直径では100μmよりも小さい。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、100~200μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、200~300μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、300~400μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、400~500μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、500~600μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、600~700μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、200μmよりも大きい。
【0118】
いくつかの実施形態では、第1のノズル開口及び/又は第2のノズル開口径の半径は、約100μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約200μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約300μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約400μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約500μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約600μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約700μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約800μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約900μmである。いくつかの実施形態では、ノズル開口径の半径は、約1000μmである。
【0119】
いくつかの実施形態では、第1の開口及び第2の開口の半径は同一である。いくつかの実施形態では、第1の開口及び第2の開口の半径は異なっている、又は非対称である。いくつかの実施形態では、当該第2の開口の半径は100μmであり、当該第1の開口の半径は100μm、200μm、300μm、400μm又は500μmである。いくつかの実施形態では、第2の開口の半径は200μmであり、当該第1の開口の半径は100μm、200μm、300μm、400μm又は500μmである。いくつかの実施形態では、当該第2の開口の半径は300μmであり、当該第1の開口の半径は100μm、200μm、300μm、400μm又は500μmである。
【0120】
いくつかの実施形態では、当該第2の開口の半径は400μmであり、当該第1の開口の半径は100μm、200μm、300μm、400μm又は500μmである。いくつかの実施形態では、当該第2の開口の半径は500μmであり、当該第1の開口の半径は100μm、200μm、300μm、400μm又は500μmである。
【0121】
いくつかの実施形態では、当該第1の開口及び当該第2の開口の半径は、それぞれ300μmと200μmである。いくつかの実施形態では、当該第1の開口及び当該第2の開口の半径は、それぞれ400μmと200μmである。いくつかの実施形態では、当該第1の開口及び当該第2の開口の半径は、それぞれ500μmと200μmである。
【0122】
いくつかの実施形態では、第1のノズルは第1の開口を含み、第2のノズルは第2の開口を含み、第1の開口及び第2の開口の半径は、200μm~500μmの範囲である。
【0123】
本開示による方法の別の実施形態では、第1のノズルは第1の開口を含み、第2のノズルは第2の開口を含み、第1の開口及び第2の開口の直径は、40μm~800μmの範囲である。一実施形態では、第1のノズルは第1の開口を含み、第2のノズルは第2の開口を含み、第1の開口及び第2の開口の直径は、200μm~500μmの範囲である。
【0124】
いくつかの実施形態では、第1の開口及び第2の開口の直径は同一であってもよく、他の実施形態では、第1の開口及び第2の開口の直径は、異なっている、又は非対称である。いくつかの実施形態では、当該第1の開口は100μmであり、当該第2の開口の直径は100μm、200μm、300μm、400μm又は500μmである。いくつかの実施形態では、第1の開口は200μmであり、当該第2の開口の直径は100μm、200μm、300μm、400μm又は500μmである。いくつかの実施形態では、当該第1の開口は300μmであり、当該第2の開口の直径は100μm、200μm、300μm、400μm又は500μmである。
【0125】
特定の実施形態では、第1の開口の直径は、第2の開口の直径と異なっている。一実施形態では、第1の開口又は第2の開口の直径は、他の開口の直径よりも少なくとも約50%大きい。一実施形態では、第2の開口の直径は、第1の開口の直径よりも大きくてもよい。好ましい実施形態のうちの1つでは、第2の開口の直径は、第1の開口の直径よりも少なくとも50%大きい。別の実施形態では、第2の開口の直径は、第1の開口の直径よりも約1.5倍(50%)~約5倍大きい。
【0126】
いくつかの実施形態では、当該第1の開口及び当該第2の開口の直径は500μmである。上述されるように、第1の流れ及び第2の流れは、高圧で第1のノズル及び第2のノズルを通じて圧送される。当該圧力は、上記式1に示されるように、流量及び流れの密度及び流れが排出されるピンホールの半径から算出されることができる。
【0127】
当業者であれば、本明細書にて互換的に使用される「高圧」、[高圧」、「過圧」又は「流体力学的圧力」といった用語が、大気圧以上のいずれかの圧力を指すことを理解するであろう。更には、本明細書に使用される場合、いくつかの実施形態では、第1の流れ及び第2の流れの圧力は、大気圧と比較することで測定される。したがって、0.1バールの圧力は、大気圧よりも0.1バール高いものとして理解されよう。
【0128】
いくつかの実施形態では、第1の流れ及び第2の流れの圧力は同様である。いくつかの実施形態では、第1の流れの圧力は、第2の流れの圧力よりも高い。いくつかの実施形態では、第1の流れの圧力は、第2の流れの圧力以下である。
【0129】
いくつかの実施形態では、第1の流れの圧力は約30バール未満、約25バール未満、約12バール未満、約5バール以下よりも低い。いくつかの実施形態では、第1の流れの圧力は、約0.0001バール~約30バール、約0.001バール~約25バール、約0.01バール~約12バール、又は約0.01バール~約5バールである。
【0130】
いくつかの実施形態では、第2の流れの圧力は約30バール未満、約25バール未満、約12バール未満、約5バール以下よりも低い。いくつかの実施形態では、第2の流れの圧力は、約0.0001バール~約30バール、約0.001バール~約25バール、約0.01バール~約12バール、又は約0.01バール~約5バールである。
【0131】
いくつかの実施形態では、当該第1の流れ又は当該第2の流れの圧力は0.1バール未満である。いくつかの実施形態では、第1の流れ又は第2の流れの圧力は、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9又は1バールである。いくつかの実施形態では、第1の流れ又は第2の流れの圧力は、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9又は約10バールである。いくつかの実施形態では、第1の流れ又は第2の流れの圧力は、約10、約15、約20、約25又は約30バールである。いくつかの実施形態では、第1の流れ又は第2の流れの圧力は、30バールよりも高い。
【0132】
いくつかの実施形態では、第1の流れ及び/又は第2の流れの圧力は、0.1~45バールである。いくつかの実施形態では、第1の流れ及び/又は第2の流れの圧力は、0.1~15バールである。
【0133】
当業者であれば、いくつかの例で、第1の流れ及び第2の流れの圧力の合計として本明細書で定義される全圧を算出及び使用することが有用であると理解するであろう。
【0134】
流体力学的圧力とジェット速度との数学的関係に基づき、第1の流れ及び第2の流れのジェット速度は、ノズル開口半径で制御又は決定され得る。いくつかの実施形態では、ジェット速度は、70m/s未満、50m/s未満、25m/s未満又は10m/s未満である。いくつかの実施形態では、第1の流れ及び第2の流れのジェット速度は異なっている。
【0135】
いくつかの実施形態では、第1の流れは有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、有機溶媒は、両親媒性脂質、API又はそれら両方のための溶媒である。当業者であれば、多くの有機溶媒が医薬産業で使用されていることを理解するだろう。これらのいずれも、本明細書に開示される方法で使用され得る。いくつかの実施形態では、有機溶媒は、アルコール、ケトン、ハロゲン化溶媒、アミド又はエーテルを含む。いくつかの実施形態では、有機溶媒は、エタノール、エチレン、ブロミド、ブタノール、アセトン、クロロホルム、2-エチルヘキサノールメチルエチルケトン、塩化エチレン、イソブタノール、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、イソプロパノール、メチルイソプロピルケトン、テトラクロロエチレンメタノール、酸化メシチル、四塩化炭素、プロパノール、トリクロロエチレン、プロピレングリコール、1,4-ジオキサンブチルエーテル、エチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジイソプロピルエーテル、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、tert-ブチルメチルエーテル、炭化水素、芳香族炭化水素、シクロヘキサン、トルエン、ヘキサン及びキシレンを含む群から選択される。
【0136】
いくつかの実施形態では、有機溶媒は水と相溶性がある。いくつかの実施形態では、有機溶媒は2種類以上の有機溶媒の混合物を含む。いくつかの実施形態では、有機溶媒はアルコールである。いくつかの実施形態では、有機溶媒はエタノールを含む。いくつかの実施形態では、有機溶媒はアセトンを含む。
【0137】
いくつかの実施形態では、第2の流れは水性溶媒を含む。いくつかの実施形態では、水性溶媒は両親媒性脂質、API又はこれら両方のための溶媒ではない。当業者であれば、多くの水性溶媒が医薬産業で使用されていることを理解するだろう。これらのいずれも、本明細書に開示される方法で使用され得る。いくつかの実施形態では、水性溶媒は、リン酸緩衝食塩水(PBS)又はダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS)を含む。いくつかの実施形態では、水性溶媒のpHは、任意の所望の値に変更される。
【0138】
更なる態様
いくつかの実施形態では、方法は、ナノ粒子分散液を濾過することで精製するステップ、ナノ粒子分散液を凍結乾燥に供するステップ、又はナノ粒子分散液からクロスフロー濾過で有機溶媒を除去するステップを更に含む。
【0139】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子分散液は滅菌濾過に供される。いくつかの実施形態では、濾過材は、酢酸セルロース、再生セルロース、ポリアミド、ポリエーテルスルホン(PES)、変性ポリエーテルスルホン(mPES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から選択される。当業者であれば、滅菌濾過によって、生成物の非経口適用が可能となり、これが湿式加熱又は乾式加熱により最終的に滅菌することができない非経口用途用の生成物を選択する方法であることが理解されよう。いくつかの実施形態では、ナノ粒子分散液は凍結乾燥に供される。凍結乾燥は、脂質系ナノ粒子(例えば、リポソーム又はLNP)分散液の安定性を増加することができる。
【0140】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子分散液の製造に使用される有機溶媒は、クロスフロー濾過プロセスを介して除去することができる。一実施形態では、脂質系ナノ粒子(例えば、リポソーム又はLNP)分散液の製造に使用される有機溶媒は、クロスフロー濾過プロセスを介して除去される。
【0141】
更なる態様では、本発明の第1の態様の方法で製造されたナノ粒子分散液が本明細書に開示される。一実施形態では、ナノ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定する場合、40nm~80nmなど、20nm~100nm、又は30nm~90nmの範囲である。
【0142】
更なる態様では、本発明の第1の態様の方法で製造されたナノ粒子分散液を含む医薬組成物が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、非経口用途又は経口用途が意図されている。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、適用前に再構成するための凍結乾燥物である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、濾過滅菌によって最終的に滅菌することができる。
【0143】
本開示に含まれる更なる実施形態は、番号を付けた項目の以下の一覧に含まれる。
【0144】
1.少なくとも1種の両親媒性脂質を含むナノ粒子の分散液を製造するための方法であって、方法は、
a)有機溶媒及び両親媒性脂質を含む第1の流れを供給するステップと、
b)水性溶媒を含む第2の流れを供給するステップと、
c)第1のノズルを通じて高圧下で第1の流れを圧送するステップ及び第2のノズルを通じて高圧下で反応チャンバに第2の流れを圧送するステップであって、第1のノズルが第2のノズルから約180°の角度で配置されているステップと、
d)反応チャンバ内で第1の流れと第2の流れを正面で衝突させるステップであって、
第1の流れと第2の流れの流量比が、約1:1.5~約1:4.5の範囲であるステップと、
を含む、方法。
【0145】
2.第1の流れと第2の流れの流量比は、1:1.5~1:4の範囲、又は1:2~1:4.5の範囲、又は1:2~1:4の範囲であり、第1の流れと第2の流れの流量比は、約1:1.5、約1:2、約1:2.5、約1:3、約1:3.5、約1:4又は約1:1.45である、項目1に記載の方法。
【0146】
3.総流量の比は、1mL/分~1,000mL/分の範囲、又は5mL/分~800mL/分の範囲である、項目1又は2に記載の方法。
【0147】
4.総流量の比は、100mL/分~500mL/分の範囲であり、第1の流れと第2の流れの流量比は1:1.2~1:2.5の範囲である、項目1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0148】
5.第1のノズルは第1の開口を含み、第2のノズルは第2の開口を含み、第1の開口及び第2の開口の直径は、40μm~800μmの範囲である、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0149】
6.第1の開口又は第2の開口の直径は、他の開口の直径よりも少なくとも約50%大きい、項目5に記載の方法。
【0150】
7.第1の流れの圧力は、第2の流れの圧力以下である、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
【0151】
8.ナノ粒子は、ユニラメラリポソーム、多層リポソーム、単一のバイラメラリポソーム、多重二重層リポソーム、多胞性リポソーム、脂質ナノ粒子、リポプレックス、リポポリプレックス及び中実脂質ナノ粒子からなる群から選択される、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0152】
9.両親媒性脂質は、脂肪酸、グリセロ脂質、モノグリセリド、ジグリセリド、グリセロリン脂質、リン脂質、ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン(SPC)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、ステロール、コレステロール、プレノール、カロテノイド、レチノール、レチナール、レチノール酸、β-カロテン、トコフェロール、糖脂質、LIPOID S100、PEG化脂質及び1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール(DMG-PEG)の群から選択される、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0153】
10.第1の流れ又は第2の流れは、少なくとも1種の更なる両親媒性脂質を更に含む、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0154】
11.第1の流れ又は第2の流れは、0.1モル%~2モル%の範囲の濃度でPEG化脂質を含む、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0155】
12.第1の流れ又は第2の流れは、原薬を更に含む、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
【0156】
13.原薬は、小分子、ペプチド及び核酸の群から選択される、請求項12に記載の方法。
【0157】
14.ナノ粒子分散液を濾過することで精製するステップ、
ナノ粒子分散液を凍結乾燥に供するステップ、又は
ナノ粒子分散液からクロスフロー濾過で有機溶媒を除去するステップを更に含む、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
【0158】
15.ナノ粒子の平均粒子径は好ましくは20nm~100nmである、項目1~14のいずれか一項に記載の方法によって製造されたナノ粒子分散液。
【実施例】
【0159】
以下の実施例は、本明細書に開示される技術のいくつかの実施形態をより完全に例証するために提示されている。ただし、こうした実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでは決してない。本実施例は、リポソーム及び脂質ナノ粒子(LNP)を製造するための本明細書に開示される衝突ジェット技術の適合性を示すことを目的として、複雑性を増してゆく形で段階的アプローチを開示する。
【0160】
本明細書に開示される実験に使用された機器システム及びリアクタの特徴を表1に列挙する。システムA(又は装置A、又は機器A)は、リアクタに応じて、流量が0.1mL/分~最大60mL/分である、バッチ式又は連続製造用の小規模システムとして意図されている。システムBは、総流量が最大約500mL/分と高いバッチ式又は連続製造に適合されている。乱流混合ベースのジェット衝突リアクタシステムA及びBとの比較として、層流混合を提供する市販のマイクロ流体システム(NanoAssemblr(登録商標)Ignite(商標),Precision NanoSystems,Vancouver,Canada)及び小規模沈殿システムを使用した。明確にするために記すと、コンパレータシステムは、ジェット衝突リアクタのように2つの流れを正面で衝突させることがない。
【0161】
【表1】
実施例1-ダイズホスファチジルコリン及びコレステロールを含むリポソームの製造
【0162】
方法:脂質系ナノ粒子を製造するためのジェット衝突技術の有用性を実証するために、ダイズホスファチジルコリン(SPC)及びコレステロールを使用した製剤を選択した。
【0163】
異なるノズル開口直径を使用し、異なる流量比(FRR)、総流量(TFR)及び異なるSPC/コレステロール比にてシステムBとして本明細書に上で記載された機器を使用し、合計10回の実験を行った。
【0164】
加えて、2つのシステムを比較するため、コンパレータシステムであるPrecision NanoSystem社製のIgnite機器で8回の実験を行った。Malvern Zetasizer Nano ZSを使用し、動的光散乱法(DLS)で平均粒子径及び多分散性指標(PDI)について試料を分析した。
【0165】
ダイズホスファチジルコリン(SPC)とコレステロールからなるエタノール溶液を調製し、第1の(有機)液体流れとしてこれを使用した。エタノール中の総脂質濃度は4mg/mLを使用した。第2の(水性)液体流れについては、pH7.4の水性緩衝液(PBS)を使用した。システムBで試験した総流量は、50mL/分及び100分/mLであった。1:1及び1:4である第1の(有機)流れ:第2の(水性)流れの流量比(FRRと略する)を試験した。3:1及び2:1のSPC:コレステロールモル比を試験した。実験で使用したパラメータを表2Aにまとめる。コンパレータ機器での実験に使用したパラメータを表2Bにまとめる。これらのパラメータは、FRR及び試験製剤については類似しているが、システムBについてのスケール差によりTFRのみが異なっている。
【0166】
【0167】
【0168】
結果:ジェット衝突リアクタシステムB及び市販の層流リアクタシステム(NanoAssemblr(登録商標)Ignite(商標))を使用して、動的光散乱法で測定されたリポソームの粒径及びPDIについて同等の結果を得た。これは、内封されていないリポソームを得るためのジェット衝突リアクタ及び乱流混合の使用と、更にはパイロットスケールの機器の使用の実現可能性を実証する。各システムを使用して得られた結果を
図1~
図3に示す。
実施例2-PEG化リポソームの製造
【0169】
方法:
ジェット衝突リアクタを含む上記表1に記載の機器システムBを使用し、PEG化脂質、ホスファチジルコリン及びコレステロールを含むPEG化リポソームを調製した。
【0170】
それぞれ36.2%、63.2%及び0.6%のモル比(製剤1)及びそれぞれ52%、45%及び3%のモル比(製剤2)で、ダイズホスファチジルコリン(SPC)、コレステロール及び1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコールを含み、そのどちらの場合もエタノールに溶解させて2つの有機液体を調製し、それらのうちのいずれかを第1の流れとして使用した。どちらの場合も、有機溶液中の総脂質濃度は6mg/mLであった。pH7.4のPBSを第2の流れの水性液体として使用した。
【0171】
30mL/分、90mL/分、180mL/分又は300mL/分の総流量(TFR)及び1:1、1:1.5、1:2、1:3又は1:4である第2の(水性)流れに対する第1の(有機)流れの流量比(FRR)で粒子を製造した。200μm(第1のノズル)及び300μm(第2のノズル)のノズル直径を有する衝突ジェットリアクタを使用し、すべての試料を調製した。動的光散乱法(DLS)で粒径及び多分散性指標(PDI)について試料を分析し、クライオTEMで選択した試料を分析した。製造直後及びDLS分析前に、本発明に従って製造されたすべての試料を5%のEtOH含量に希釈した。
【0172】
結果:試験製剤の両方について、均一な粒度分布及び低いPDI(0.2未満)のリポソームを得た。
【0173】
製剤2から得られたリポソームの特性を、層流に基づくマイクロ流体ミキサシステムで生成され、同様の組成を有するリポソームの公開データと比較した(2018年にPrecision NanoSystems Inc.によって公開されたBrown A.,Thomas A.,Shell Ip,Heuck G.,Ramsay E.,Liposomes(https://www.precisionnanosystems.com/docs/default-source/pni-files/ app-notes/pni-app-bt-013.pdf?sfvrsn=aa668324_0(2021年5月5日に再検索)を参照されたい)。これは
図4A及び
図4Cに示されている。公開データによれば、こうした種類の機器及び混合を使用する第1の(すなわち、有機)流れと比較して第2の(すなわち、水性流れ)の流量を増加させた効果により、粒径の減少とPDIの増加傾向が生じた。このマイクロ流体システムにおけるTFRの増加は、粒径の減少にもつながった。
【0174】
層流混合システムと類似して、本発明の衝突ジェット法を使用したときのFRRが低いことによる効果によっても、より小さな粒径及びより大きなPDI値への傾向につながることが観察された(
図4Bを参照されたい)。ただし、比較すると、本発明の衝突ジェット法を使用したときには、リポソームの粒径及びPDIにおけるTFRの影響は何ら観察されなかった(
図4Dを参照されたい)。粒径は、30mL/分~300mL/分の範囲のTFRについては安定したままであったことが観察された。これは、ジェット衝突、すなわち第1の流れと第2の流れとの正面衝突によって得られるような高度の乱流混合プロセスは、ロバストで拡張可能なプロセスを達成するには有利であり、これによって例えば、必要に応じてリポソーム又は脂質ナノ粒子の複数のバッチを低容量又は高容量で調製することを含む、様々な製造シナリオに容易に適合可能な汎用性のあるプロセス技術を提供することを示している。
【0175】
システムB機器を使用して2つの異なる脂質製剤から調製されたリポソームの特性評価を行った(
図5A~
図5Fを参照されたい)。FRR及びTFRについて定性的に類似する傾向を、両方の製剤で観察することができた。1のFRRでは、PEG脂質の含量が低い製剤(製剤1)は最も高いPDIを示した(0.35)が、より高いPEG脂質濃度を有する製剤(製剤2)については、最も低いPDIを示した(0.06)。更には、粒径においてFRR(第2の、すなわち水性流れの流量に対する、第1の、すなわち有機流れの流量との比)を減少する効果は、PEG脂質含量がより低い製剤については更に顕著である。
【0176】
より高い濃度のPEG脂質を有する製剤は、1週間後により高い物理的安定性を示し(
図5G及び
図5H)PEG脂質の安定効果を強調した。限界サイズのような基本的な粒子特性とプロセスパラメータに対する応答性の両方は、リポソームの組成によって決定されると結論づけることができる。一般には、PEG脂質濃度の高さは、プロセスパラメータによる影響が小さかった、より小さくより安定した粒子をもたらす。
【0177】
クライオTEM分析は、製造されたリポソームが主にユニラメラ又はバイラメラである(
図6A及び
図6B)ことを示し、DLS粒径結果が確認された。大部分のクライオTEM画像では、様々な形態を有するより大きな粒子(最大でμm範囲)も確認された。こうしたより大きな粒子は、必要に応じてクライオTEM分析前に濾過(例えば、0.2μm)により取り除くことができる。この結果は、より大きなTFR及び関連するより高い全圧などのプロセス条件により、更に多数のバイラメラリポソームと更に不均一な形態がもたらされることを示している。
実施例3-実験の脂質ナノ粒子設計
【0178】
上に要約されているように、脂質ナノ粒子(LNP)を製造するためのジェット衝突プロセスの適合性を検証し、かつシステムB機器を使用するLNP製造のプロセス及び結果に影響を与える重要なプロセスパラメータを識別するため、実験の統計学的設計(DoE)アプローチを実施した。簡潔に言えば、D最適設計(Design Expert v12ソフトウェア)を用いたDoEでは、プロセスパラメータであるTFR、FRR及び3個の異なるリアクタ(200/300、200/400、500/500μmノズル径)を変更し、PBSを用いた透析時に粒径、PDI及び形態へのそれらの影響を評価した。試験製剤は、siRNAが使用されないことを除いては、Onpattro(登録商標)(patisiran)の組成物を基としていた(EtOH中の総脂質濃度10mg/mLでは50/38.5/10/1.5のモル比を有するDLin-MC3/コレステロール/DSPC/DMG-PEG2000)。
【0179】
DoEの20個すべての資料は、DLS及びクライオTEM分析で測定されるように、粒径範囲が64~106nm(PDI:0.12~0.25)である内封されていないLNPを含有していた(
図7の試料を参照されたい)。これは、公的評価報告書で言及されるように、60~100nmの範囲の粒径のOnpattro(登録商標)と一致していた。
【0180】
これらの結果は、ジェット衝突プロセスが、最大約300mL/分の総流量で製造され、高出力率であってもプラセボLNP製剤を使用して高品質の(内封されていない)LNPを製造するのに好適であることを提案している。すべての試料は、冷蔵条件(+4℃)で1週間にわたって長期で貯蔵した後に粒径及びPDIを保持しており、本発明のプロセスが使用された製剤のLNP製造に好適であることを更に示している。
【0181】
DoEは、3つの調査されたプロセスパラメータが粒径及びPDIに影響を及ぼすことを明らかにした(
図8、
図9及び
図10を参照されたい)。統計分析で使用されたモデル(Design Expert v.12はソフトウェアである)に関連する検定力は80%を超え、0.05未満のP値は統計学的に有意であると見なされた。統計分析は、プロセスパラメータと粒子の特質との間に以下の相関が存在することを示唆している。
a.ノズル系は粒径に影響を及ぼす:リアクタのノズル径がより大きくなると、粒径がより大きくなる
b.全圧(Total pressure、TP)は粒径に影響する:全圧がより高くなるほど粒子は小さくなる
c.FRRはPDIに影響を及ぼす:FRRがより小さくなれば、PDIがより高くなる
【0182】
リアクタ&全圧(TP):システムB機器の作動圧範囲(0.1~41.7バール)については、平均粒子径におけるTPの影響は中程度であり、平均粒子径は最低平均粒子径を約60%超える。これは、均一な粒径(約64~106nm)、安定したPDI(0.12~0.25)及び均一な形態などの重要な特性を保持しながら、試験製剤の内封されていないLNPを非常に広範な圧力範囲にわたってジェット衝突で製造することができる。
【0183】
流量比(FRR):1:1.5~1:4のFRR範囲を試験した。原則として、この範囲内のすべてのFRRは好適である。同時に、FRRとPDIとの相関(P値=0.0088、R2=0.32、
図10)を観察した。1:3又は1:2のFRRは、少なくとも試験製剤については、0.25未満のPDIを有するLNPを製造するのに特に有用であると考えられる。
実施例4-mRNA内封脂質ナノ粒子の調製
【0184】
衝突ジェット法によるRNA内封脂質ナノ粒子を調製するために、上記表1に記載のパイロットスケールの機器システムBを使用した。有機溶媒流れは、有機溶媒としてEtOHに溶解され、50/38.5/10/1.5mol%の比率で脂質であるDLin-MC3/コレステロール/DSPC/DMG-PEG2000を有するモデル脂質組成物を含んでいた(総脂質濃度は10mg/mL)。ポリ(A)(ポリアデニル酸)をモデルRNAとして使用し、0.096mg/mLの濃度で50mM クエン酸塩緩衝液(pH6)にこれを供給し、第2の(すなわち、水性)流れのための溶液として使用した。
【0185】
200μm(第1のノズル、有機液体流れ)及び400μm(第2のノズル、水性液体流れ)のノズル開口直径を有する衝突ジェットリアクタを使用し、ポリ(A)内封LNPを製造した。それぞれ1:3の流量比(水性流れに対する有機流れ)で、異なる総流量(TFR)の適合性を調査した(40mL/分、120mL/分、280mL/分)。DLS(Stunner,Unchained labs,USA)を使用して透析した後、粒子を分析した。RiboGreenアッセイにより、カプセル化効率を決定した。
【0186】
結果:想定された径の範囲内で、低PDI及び高カプセル化効率(EE%と略される)を有する、ポリ(A)をカプセル化する脂質ナノ粒子をすべての総流量で生成した。これは、プロセスのロバスト性を示す。
【0187】
【0188】
安定性及び透析前のエタノール濃度への影響を決定するために、透析前に試料についてDLS測定もまた実施した。冷蔵温度下で試料を製造及び貯蔵したおよそ3時間後、製造直後の10%エタノールで希釈された試料及び更なる希釈を行わなかった試料(25%エタノール)を分析した。
【0189】
【0190】
表4に示されるように、更なる希釈なく3時間にわたって貯蔵された試料の粒径では最小限の変化を観察した。PDIは、エタノール希釈のない試料についてはより小さいか同等であった。このことは、一切希釈していない状態でも透析前のLNPの安定性が良好であることを一般に示唆する。
実施例5-mRNA完全性評価
【0191】
方法:有意なせん断力を生じさせるために、5500rpmの高ポンプ速度かつ6~7バールの圧力で、200/400μmの衝突ジェットリアクタ(200μmのノズルをプラグで遮断した)の400μmのピンホールを通じ、システムB機器の片側を通してホタルルシフェラーゼ(firefly luciferase、FLuc)mRNA(APExBIO)の水性流れを循環した。間隔(2秒~4分)ごとに試料を採取し、自動ゲル電気泳動(Bioanalyzer)を使用して分析した。以下の時点:t=0、開始前、プライミング後、2秒、5秒、10秒、20秒、30秒、1分、2分、3分、4分の後に試料を採取し、別個のレーンで分析した。
【0192】
結果:機器システムを通したmRNAの循環は、循環時間に関係なく、検出可能なmRNA分解を生じなかった。システムB機器を1回通り抜けるのには約2秒かかる。したがって、4分間の循環時間は、高ポンプ速度及び高圧でノズルを通る約120個の通路に対応する。4分後であっても(
図11を参照されたい)、mRNAはその完全性を保持していた。これは、本明細書に開示される方法によりmRNA内封脂質ナノ粒子を製造するときに経験した圧力及びせん断力条件は、mRNAに有害ではないことを示す。
実施例6-FLucmRNAを含む脂質ナノ粒子の調製
【0193】
100μm(第1のノズル、有機液体流れ)及び200μm(第2のノズル、水性液体流れ)のノズル開口直径を有するベンチスケールの機器システムAを使用するジェット衝突法を用いて、ホタルルシフェラーゼ(FLuc)mRNAを含む脂質ナノ粒子を調製した。比較として、層流ベースのマイクロ流体混合機器(Ignite(商標)、Precision Nanosystems)も使用して粒子を製造した。これらのシステムを使用して製造された脂質ナノ粒子のトランスフェクション性能もまた試験した。
【0194】
方法:有機(すなわち、第1の)流れとして、有機溶媒(10mg/mLの総脂質濃度)としてのEtOH中DLin-MC3/コレステロール/DSPC/DMG-PEG2000が50/38.5/10/1.5mol%である、有効成分を含まないOnpattro(登録商標)脂質製剤を使用した。水性(すなわち、第2の)流れとして、50mM クエン酸塩緩衝液(pH4)中0.09mg/mLの濃度のFLuc mRNA(Trilink又はAPExBIO)を使用した。ジェット衝突システムを用いて30mL/分の総流量で、及びマイクロ流体機器を用いて10mL/分の総流量で1:3(水性流れに対する有機流れ)の流量比(FRR)を使用した。Stunner装置(Unchained Labs)を使用し、動的光散乱法(DLS)で粒子の粒径(z平均)及び多分散性指標(PDI)を決定した。クライオ透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope、TEM)試料を、Tecnai F20 TEMで検査した。蛍光Quant-iTTM RiboGreenTM RNAアッセイキット(Thermo Fisher Scientific)を使用して、カプセル化効率を決定し、定量した。
【0195】
インビトロトランスフェクションアッセイについては、HepG2細胞を、様々な用量のFLuc mRNA内封脂質ナノ粒子とともに、24ウェルプレート形式でインキュベートした。インビボトランスフェクションアッセイも実施した:B6アルビノマウス(群あたりn=6)は、60μgのmRNA内封脂質ナノ粒子の単回IV(尾静脈)注射を受けた(2.4mg/kg)。投与6時間後、24時間後&48時間後に、IVISスペクトラムイメージングシステム(PerkinElmer)で生物発光イメージングを実施した。
【0196】
結果.衝突方法に従って調製されたFLuc-mRNA内封脂質ナノ粒子は、有用な粒径、PDI及びカプセル化効率を有することが分かった。それぞれの値は、コンパレータの層流マイクロ流体システムを使用して得られたナノ粒子について測定されたものと同様であった(以下の表を参照されたい)。
【0197】
システムAを使用して調製された脂質ナノ粒子の試料のクライオTEM(Tecnai F20 TEM)分析は、球形粒子を示した。Fluc mRNAの97%超の高カプセル化効率は、細胞アッセイ(
図12を参照されたい、トランスフェクションあたりのEE%アッセイによる10μgのmRNAを使用したインビトロトランスフェクションアッセイを示す。すべてのデータは、n=6、ノンパラメトリック、クラスカル・ウォリスポスト AVG+/-SD,**p<0.01である)でのトランスフェクション率及びインビボアッセイ(
図13を参照されたい、経時的な全身のインビボ遺伝子送達定量化を示す)でのトランスフェクション率へと変換された。この場合、FLuc発現は、投与6時間後にピークに達し、両方の試験群ではその後低下することが観察された。インビボFLuc生物発光イメージングは、両方のシステムで製造された脂質ナノ粒子によるFluc mRNAの全身送達が存在していたことを示唆していた。
実施例7-pDNAのカプセル化
【0198】
より大きな核酸生成物を含むかカプセル化するナノ粒子分散液を調製するための本開示による方法の使用も試験した。
【0199】
方法:直径にして100μm(第1のノズル、有機流れ用)及び200μm(第2のノズル、水性流れ用)の開口を有するノズルに備え付けられた衝突ジェットリアクタを有するシステムA機器を使用して、pDNAを内封した脂質ナノ粒子を調製した。ホタルルシフェラーゼ pDNAの原液(9790bp、0.9mg/mL)を更に含む50mM クエン酸塩緩衝液(pH4)を水性流れとして供給し、エタノールに溶解させた2つの脂質製剤を供給した。これらそれぞれは、有機流れ:エタノール中、脂質であるDLin-KC2-DMA/コレステロール/DOPE/DMG-PEG2000を50/38.5/10/1.5mol%の比率で含む製剤(「製剤A」、総脂質濃度10mM)及びエタノール中DLin-MC3-DMA/コレステロール/DSPC/DMG-PEG2000を50/38.5/10/1.5mol%の比率で含む脂質組成物(「製剤B」、総脂質濃度10mM)を個別に使用した。
【0200】
ホタルルシフェラーゼmRNA(Trilink;mRNA(5-メトキシウリジン、1929ヌクレオチド)をカプセル化するため、製剤Aと同じではあるが、エタノール中の総脂質濃度が17.2mMである脂質組成物(「製剤C」)もまた使用した。
【0201】
総流量(TFR)30mL/分、及び流量比(FRR)が1:3(水性流れに対する有機流れ)にて、pDNA又はmRNAのカプセル化を実施した。回収後、50mM クエン酸塩緩衝液(pH4)を用いて試料を10%エタノールに希釈し、透析してから濾過した。DLS(Stunner,unchained labs)で粒径及びPDIを決定した。mRNAのDNA及びRNAアッセイキット用のdsDNAアッセイキット(Invitrogen)を使用し、製造業者のプロトコルに従ってカプセル化効率(EE%)を決定した。
【0202】
結果
本開示による衝突方法によりpDNAをカプセル化する脂質ナノ粒子を得た。これは驚くべきことに高いカプセル化効率を有していた。これは、両方の脂質組成物で観察された。プラスミドDNAを含む脂質粒子は、これらの分子のサイズが大きいことから、mRNAよりも大きな粒径を有していた。
【0203】
クライオTEM分析によるナノ粒子の更なる分析を実施したが、これは、概して球形粒子が得られたことを示した。試験製剤のインビボ効力が観察されると予想される、製造された脂質ナノ粒子懸濁液のトランスフェクション効率を評価するため、更なるインビボアッセイを実施した。
実施例8-ジェット衝突リアクタを用いた脂質ナノ粒子の調製
【0204】
上記にて本明細書で記載された実験と類似又はこれと同様の実験でのモデル脂質ナノ粒子(試験核酸分子を内封していない、及び/又は内封している)は、反応チャンバ壁(3)の内部表面(2)によって画定され、全体の形状が実質的に回転楕円である反応チャンバ(6)を含む衝突ジェットリアクタを使用して調製される。当該チャンバ(6)は、本開示の実施形態に従って記載されるように、(a)第1の流体入口及び第2の流体入口(4)を含み、第1の流体入口及び第2の流体入口(4)が、互いに相対する位置に対してなど、反応チャンバ(6)の第1の中心軸(x)上の対向する位置に配置され、第1の流体入口及び第2の流体入口(4)のそれぞれがノズル(5、13、23)を含み、(b)当該チャンバ(6)の第2の中心軸(y)上に配置されている第3の位置に配置された流体出口(7)であって、第2の中心軸(y)は第1の中心軸(x)に対して垂直であり、第1の流体入口(4)のノズル(5、13、23)と第2の流体入口(4)のノズル(5、13、23)との距離(d)が、第1の中心軸(x)に沿った反応チャンバ(6)の直径と同一又はそれよりも小さい。低い多分散性指標と安定した粒径を有する脂質ナノ粒子の分散液は、再現可能な方法で、広範な範囲の総流量にわたって、かつ上記のような他のジェット衝突機器を用いて得られた粒子と同等に得られるであろう。
【国際調査報告】