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特表2024-519704弱毒化サルモネラガリナルム菌株及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】弱毒化サルモネラガリナルム菌株及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240514BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240514BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 39/112 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20240514BHJP
   G01N 21/76 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20240514BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/21
C12Q1/26
A61K39/112
A61K49/00
G01N21/76
C12N15/52 Z
C12N15/53
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566794
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(85)【翻訳文提出日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 KR2021005528
(87)【国際公開番号】W WO2022231043
(87)【国際公開日】2022-11-03
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】308026861
【氏名又は名称】インダストリー ファウンデーション オブ チョンナム ナショナル ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】323003436
【氏名又は名称】オデュッセウス バイオ カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ヒョ ニル
(72)【発明者】
【氏名】キム,グァンス
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジェ ホ
(72)【発明者】
【氏名】イム,デ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥイサク,タナー
(72)【発明者】
【氏名】トラン,クァン タン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ06
4B063QR72
4B063QR75
4B063QR77
4B063QS31
4B065AA46X
4B065AA46Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA32
4C085BA24
4C085CC07
4C085DD62
4C085EE01
4C085HH11
4C085KA01
4C085KA27
4C085LL18
(57)【要約】
本発明は、弱毒化サルモネラガリナルム菌株及びその用途に関する。具体的には、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子(ssrAB)、及びGifsy 2 prophage遺伝子が全て欠失している新規な弱毒化サルモネラ菌株、及びこれを用いた腫瘍治療又は診断用組成物に関する。
【選択図】 図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子、及びGifsy 2 prophage遺伝子が欠失していることを特徴とする弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項2】
glmS遺伝子が欠失していることを特徴とする、請求項1に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項3】
前記グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子は、relA又はspoTであることを特徴とする、請求項1に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項4】
前記タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子は、ssrA、ssrB又はssrABであることを特徴とする、請求項1に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項5】
前記菌株は、サルモネラガリナルムSG4021菌株(微生物受託番号:KCTC13985BP)においてrelA、spoT、ssrAB及びGifsy 2 prophage遺伝子が欠失していることを特徴とする、請求項1に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項6】
前記菌株は、サルモネラガリナルムSG4021菌株(微生物受託番号:KCTC13985BP)においてrelA、spoT、ssrAB、Gifsy 2 prophage及びglmS遺伝子が欠失していることを特徴とする、請求項1に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項7】
前記菌株は、サルモネラガリナルムSG4044菌株(微生物受託番号:KCTC14541BP)であることを特徴とする、請求項1に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項8】
前記菌株は、サルモネラガリナルムSG4048菌株(微生物受託番号:KCTC14542BP)であることを特徴とする、請求項1に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項9】
前記菌株はプロモータに作動可能に連結されたglmS遺伝子を含むプラスミドで形質転換されたことを特徴とする、請求項2に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項10】
前記菌株は、発光遺伝子をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項11】
前記発光遺伝子は、luxCDABEであることを特徴とする、請求項10に記載の弱毒化サルモネラガリナルム菌株。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項の菌株を含む腫瘍の診断又は治療用の薬学組成物。
【請求項13】
前記腫瘍は、固形癌であることを特徴とする、請求項12に記載の腫瘍の診断又は治療用の薬学組成物。
【請求項14】
前記腫瘍は、腺癌腫であることを特徴とする、請求項12に記載の腫瘍の診断又は治療用の薬学組成物。
【請求項15】
前記腫瘍は、大腸癌、膵癌、肺癌、皮膚癌及び乳癌からなる群から選ばれるいずれか一つの癌であることを特徴とする、請求項12に記載の腫瘍の診断又は治療用の薬学組成物。
【請求項16】
請求項10又は11の菌株を被検体に投与する段階;
前記菌株の生物発光(bioluminescence)を検出する段階;及び
生物発光が検出される場合に、被検体に腫瘍が存在すると判断する段階を含む腫瘍診断のための情報提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱毒化サルモネラガリナルム菌株及びその用途に関する。具体的には、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子(ssrAssrB、又はssrAB)、及びGifsy 2 prophage遺伝子が全て欠失している新規な弱毒化サルモネラ菌株、及びこれを用いた腫瘍治療又は診断用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年に癌で死亡した人は合計81,203名であり、全体死亡者の27.5%が癌で死亡している。このため、癌は最も一般的な死亡原因とされており、韓国癌情報センターによれば全国単位の癌発生統計を算出し始めた1999年から最近までその発病率は増加の一途をたどっている。
【0003】
発病率増加要因としては、大気汚染などの環境汚染物質の増加のような環境的要因、食生活の西欧化による高脂肪食の摂取、及び飲酒及び喫煙のような個人的な要因の増加が挙げられる。したがって、癌の早期予防及び治療のための抗癌素材の開発の重要性がより一層高まっている。また、明確な治療方法がない難治性癌腫は、発病率は低いが、死亡率が高いため、治療剤の開発が至急である。ただし、化合物ベースの抗癌剤は、癌細胞の他にも全身に作用する非特異性を示す場合が多いため、副作用の発生が問題点として指摘されている。
【0004】
一方、バクテリア感染が抗癌効果を示すとの報告以来、抗腫瘍バクテリア菌株の開発に関する研究が急増した。ここ20年間に研究された抗腫瘍バクテリアは、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、クロストリジウム(Clostridium)、ラクトコッカス(Lactococcus)、シゲラ(Shigella)、ビブリオ(Vibrio)、リステリア(Listeria)、エシェリキア(Escherichia)及びサルモネラ(Salmonella)などである。ただし、このような菌株を用いた癌治療のメカニズムは、未だ完全に明らかになっていない現状である。
【0005】
前記提示された様々な菌株のうち、既存開発された弱毒化サルモネラ菌株は、癌細胞の他に様々な正常臓器にも分布するため、癌細胞標的化率が低く、菌株自体による副作用が問題となっている。特に、免疫機能が弱まっている患者や老弱者は、弱毒化サルモネラ菌株によっても致命的な敗血症に至ることがあるため、治療効果を考慮するとしても改善策が要求される。したがって、腫瘍標的能及び生体内安定性が格別に高いながらも癌治療に効果的に使用できる新しい菌株の開発が必要である。
【0006】
そこで、本発明者らは、生体内安全性が高く、腫瘍標的能、生存率及び治療能に優れながらも、正常臓器に対する標的能及び生存率が非常に低い弱毒化サルモネラガリナルム菌株を開発するための研究を行い、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第10-2015573号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子、及びGifsy 2 prophage遺伝子が欠失している、新規な弱毒化サルモネラガリナルム菌株を提供する。
【0009】
また、本発明は、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子、Gifsy 2 prophage遺伝子及びglmS遺伝子が欠失している、新規な弱毒化サルモネラガリナルム菌株を提供する。
【0010】
具体的には、本発明は、優れた抗腫瘍効果を有するサルモネラガリナルムSG4044菌株(微生物受託番号:KCTC14541BP)又はSG4048菌株(微生物受託番号:KCTC14542BP)を提供する。
【0011】
本発明の菌株を含む腫瘍治療又は診断のための組成物を提供する。
【0012】
本発明の菌株を被検体に投与する段階;前記菌株の生物発光(bioluminescence)を検出する段階;及び、生物発光が検出される場合に、被検体に腫瘍が存在すると判断する段階を含む腫瘍診断のための情報提供方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子、及びGifsy 2 prophage遺伝子が欠失していることを特徴とする弱毒化サルモネラガリナルム菌株に関する。
【0014】
また、本発明は、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子、Gifsy 2 prophage遺伝子及びglmS遺伝子が欠失している、新規な弱毒化サルモネラガリナルム菌株に関する。
【0015】
本発明の菌株は、プロモータに作動可能に連結されたglmS遺伝子を含むプラスミドで形質転換された弱毒化サルモネラガリナルム菌株に関する。
【0016】
前記グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子は、relA又はspoTであってよい。
【0017】
前記タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子は、遺伝体に連続的に配列されているssrA、又はssrB、又はssrABである。
【0018】
本発明は、サルモネラガリナルムSG4021菌株(微生物受託番号:KCTC13985BP)においてrelAspoTssrAB及びGifsy 2 prophage遺伝子が欠失している弱毒化サルモネラガリナルム(Salmonella gallinarum)菌株に関する。
【0019】
本発明は、サルモネラガリナルムSG4021菌株(微生物受託番号:KCTC13985BP)においてrelAspoTssrAB、Gifsy 2 prophage及びglmS遺伝子が欠失している弱毒化サルモネラガリナルム(Salmonella gallinarum)菌株に関する。
【0020】
一実施態様において、本発明の弱毒化サルモネラガリナルム菌株は、サルモネラガリナルムSG4044菌株(微生物受託番号:KCTC14541BP)であってよい。
【0021】
一実施態様において、本発明の弱毒化サルモネラガリナルム菌株は、サルモネラガリナルムSG4048菌株(微生物受託番号:KCTC14542BP)であってよい。
【0022】
本発明の菌株は、発光遺伝子をさらに含んでよい。
【0023】
前記発光遺伝子は、luxCDABEであってよい。
【0024】
本発明は、前記菌株を含む腫瘍診断又は治療用の薬学組成物に関する。前記腫瘍は、固形癌又は腺癌腫であってよく、好ましくは、大腸癌、膵癌、肺癌、皮膚癌又は乳癌であってよいが、これに限定されない。
【0025】
本発明は、前記菌株を被検体に投与する段階;前記菌株の生物発光(bioluminescence)を検出する段階;及び、生物発光が検出される場合に、被検体に腫瘍が存在すると判断する段階を含む腫瘍診断のための情報提供方法に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明のグアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)生成能欠如、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能喪失及びGifsy 2 prophage遺伝子欠失によって作製された弱毒化サルモネラガリナルム菌株は、腫瘍を特異的に標的化でき、腫瘍増殖阻害活性に優れると同時に腫瘍以外の正常組織の被害を最小化できるので、腫瘍の改善又は治療及び映像化において有用に活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】野生型(SG4021)、ppGpp欠失(SG4023)及びppGpp、ssrAB、Gifsy 2 prophage(SG4044)欠失サルモネラガリナルムのアミノ酸要求度を調べた結果である。
【0028】
図2】野生型サルモネラガリナルム菌株(SG4021)の静脈投与において、各投与量によるマウスの生存率を示すグラフである。
【0029】
図3】ppGpp、ssrAB、Gifsy 2 prophage欠失サルモネラガリナルム菌株(SG4046)の静脈投与において、各投与量によるマウスの生存率を示すグラフである。
【0030】
図4】ppGpp欠失サルモネラティフィムリウム菌株(SMR2130)の静脈投与において、各投与量によるマウスの生存率を示すグラフである。
【0031】
図5】GlmS pLuxプラスミドで形質転換されたglmS欠失弱毒化サルモネラガリナルム菌株(SG4050)及び野生型サルモネラ菌株(SG4021)のプラスミドの安定性を比較したグラフである。
【0032】
図6】GlmS pLuxプラスミドで形質転換された弱毒化サルモネラガリナルム菌株(SG4050)を静脈投与した後、様々な腫瘍に対する標的化結果を生物発光信号イメージングによって示す写真である。
【0033】
図7】ppGpp、ssrAB、Gifsy 2 prophage欠失サルモネラガリナルム菌株(SG4044)及びppGpp欠失サルモネラティフィムリウム菌株(SMR2130)を静脈内投与したCT26細胞が移植されたマウスにおいて、時間による腫瘍の体積を示すグラフ及び移植された腫瘍の変化を示す写真である(N=5/Group)。
【0034】
図8】ppGpp、ssrAB、Gifsy 2 prophage欠失サルモネラガリナルム菌株(SG4044)及びppGpp欠失サルモネラティフィムリウム菌株(SMR2130)を静脈内投与したCT26細胞が移植されたマウスにおいて、時間によるマウスの生存率を示すグラフである。
【0035】
図9】ppGpp、ssrAB、Gifsy 2 prophage欠失サルモネラガリナルム菌株(SG4046)及びppGpp欠失サルモネラティフィムリウム菌株(SMR2130)を静脈内投与したCT26細胞が移植されたマウスにおいて、各臓器別サルモネラ菌株の数を時間によって示すグラフである(N=5/Group)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照して、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本願の実施態様及び実施例を詳細に説明する。ただし、本願は様々な形態で具現可能であり、ここで説明する実施態様及び実施例に限定されない。
【0037】
本願明細書全般において、ある部分がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0038】
本発明は、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子、タイプIII分泌システム(type III secretion system,T3SS)の機能を誘導する遺伝子、及びGifsy 2 prophage遺伝子が欠失している弱毒化サルモネラガリナルム(Salmonella gallinarum)菌株に関する。
【0039】
従来、バクテリアを用いた抗癌標的治療研究への利用頻度が最も高いサルモネラ菌株は、サルモネラティフィムリウムであり、サルモネラティフィムリウムの感染による病原性を考慮して必ず弱毒化後に研究に用いられる(Forbes,N.S.(2010)。Engineering the perfect (bacterial) cancer therapy.Nature Reviews Cancer,10(11)、785-794.)。サルモネラ属は、血清学的分類法によって略2500種に分類される程度に様々であり、それらのうち一部の菌株が宿主特異的病原を保有することが報告されている(Porwollik,S;Boyd,EF;Choy,C;Cheng,P;Florea,L;Proctor,E;McClelland,M(September2004))。例えば、サルモネラチフィ(salmonella Typhi)及びサルモネラパラチフィ(salmonella paratyphi)は、ヒトを宿主とする病原機序を保有し、サルモネラティフィムリウム(salmonella typhimurium)は、ヒトを含めてウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、齧歯類などに感染して病症を誘発することが報告されている。一方、サルモネラガリナルム(salmonella gallinarum)は、鳥類にのみ特異的に感染して病原性を示すことが知られている。したがって、本発明の弱毒化サルモネラガリナルム菌株は、ヒトにとって最も安全ながらも、腫瘍の診断又は治療に効果的に利用可能である。
【0040】
本発明で使われる用語、「弱毒化」は、菌株の病原性が減少するように変形されることを指す。菌株は、弱毒化によって、腫瘍細胞以外の正常細胞で菌株の病原性によって現れ得る細胞毒性及びその他副作用の防止が可能である。弱毒化菌株は、当業界に公知の様々な方法によって得られる。例えば、弱毒化は、菌株を宿主細胞において生存可能にする毒性因子(virulence factor)の欠失又は破壊によって達成されてよく、pabproBCnadApncBpmirpsLompRhtrAhemArfcpoxAgalUarogalEcyacrpcdtpurphoPphoQssaguaAguaBclpPclpXfliDflgKflgLrelAspoA及びspoT遺伝子、及びssaVsseBCDssrABsopBsseFsseGを含むサルモネラ病原性遺伝子島(salmonella pathogenicity island,SPI)にコードされた遺伝子の欠失によって達成されてよいが、これに限定されるものではない。
【0041】
本発明で使われる用語「ppGpp」は、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate)のことを指し、グアノシン5’-二リン酸3’-二リン酸(guanosine 5’-diphosphage 3’-diphosphate)又はグアノシン3’5’-ビスピロリン酸(guanosine 3’5’-bispyrophosphate)で言い換えられてよい。ppGppは、細胞内信号伝達物質であり、サルモネラガリナルム菌株の毒性を現れるようにする遺伝子のうち、特にサルモネラ病原性遺伝子島(Salmonella Pathogenicity Island,SPI)にコードされた遺伝子の発現を誘導する。また、本発明において、グアノシン4リン酸(Guanosine tetraphosphate,ppGpp)合成酵素をコードする遺伝子は、relA及びspoT遺伝子を意味できる。
【0042】
relA及びspoT遺伝子の同時欠失は、遺伝子の転写又は翻訳、遺伝子産物の活性の損傷(impairment)を招くrelA及びspoT遺伝子の変形(modifications)によって達成されてよい。このような遺伝子変形は、ppGpp合成酵素コーディング配列(CDS)の不活性化の他にそのプロモータの不活性化も含んでよい。
【0043】
サルモネラガリナルム菌株のゲノム上で目的とする遺伝子のみの特異的不活性化は、遺伝子をコードする全体又は一つ以上の部分領域において置換、挿入、欠失又はこれらの組合せによる突然変異によって達成されてよい。例えば、遺伝子の欠失及び遺伝子への異型配列(heterogenous sequence)の挿入によって、遺伝子の切断(truncation)、ナンセンス突然変異(nonsense mutation)、フレームシフト突然変異(frameshift mutation)、ミスセンス突然変異(missense mutation)などが発生し得る。このような遺伝子の特異的不活性化は、当業界で一般に用いられる方法によって行われてよい。一方、遺伝子の欠失は、当業界に公知の様々な変異誘発(mutagenesis)方法によって行われてよい。例えば、relA及びspoT遺伝子の欠失は、PCR突然変異誘発法及びカセット突然変異誘発法で行われてよい。
【0044】
また、本発明で使われる用語「タイプIII分泌システム(T3SS)」は、遺伝体上に連続して配列されているssrA及びssrB遺伝子によって調節される。ssrBは転写調節者であり、膜タンパク質であるssrAによってリン酸化されて活性を有する。したがって、サルモネラガリナルム遺伝体上で前記ssrA及び/又はssrBの除去による機能喪失は、サルモネラ病原性遺伝子島2(salmonella pathogenicity island 2,SPI2)に含まれたオペロン及び遺伝子全体を不活性化させる結果を示し得る。サルモネラは、宿主への感染後にSPI2にエンコードされたタイプIII分泌システム(T3SS)を配布して宿主細胞機能を修正し、宿主細胞内で繁殖する。
【0045】
本発明において、Gifsy1及び2は、バクテリアを標的とするウイルス(バクテリオファージ、bacteriophage)を意味する。本発明者らは、野生型サルモネラガリナルムの遺伝体検査結果から、Gifsy 2 prophageをコードする全体遺伝子配列が含まれていることを確認したし、サルモネラ遺伝体内に挿入されている前記遺伝子の欠失によってサルモネラの病原性を下げることができる。
【0046】
バクテリアを宿主とするバクテリオファージの遺伝体除去は、病原性を下げて弱毒化に供する。
【0047】
したがって、relAspoTssrAB遺伝子及びGifsy 2 prophageをコードする遺伝子全体が欠失している弱毒化サルモネラガリナルム菌株は、野生型サルモネラガリナルムに比べて毒性が百万倍以上弱まり、サルモネラガリナルム菌株の効果的な弱毒化が可能である。
【0048】
glmS遺伝子が欠失しているサルモネラガリナルム菌株は、ペプチドグリカン合成成分であるD-グルコサミン(D-glucosamine,GlcN)又はN-アセチル-D-グルコサミン(N-acetyl-D-glucosamine,GlcNAc)が不足して動物で溶解され得るので、抗生剤耐性遺伝子の代わりにglmS遺伝子はサルモネラガリナルム菌株の選択的決定因子として使用可能である。
【0049】
均衡致死宿主ベクターシステム(balanced-lethal host-vector system)は、染色体上のglmS欠失突然変異を相補するためのglmS遺伝子を含むプラスミドの形質転換によって構築されてよい。glmS遺伝子を含むプラスミドが成功的に形質転換された弱毒化サルモネラガリナルム菌株はGlcN又はGlcNAcの生合成が可能なので、GlcN又はGlcNAcが不足している環境でも生存が可能であり、選択的マーカーとして作用可能である。
【0050】
本発明のプラスミドは、当業界で使用されるプラスミド、例えば、pcDNAシリーズ、pSC101、pGV1106、pACYC177、ColE1、pKT230、pME290、pBR322、pUC8/9、pUC6、pBD9、pHC79、pIJ61、pLAFR1、pHV14、pGEXシリーズ、pETシリーズ及びpUC19からなる群から選ばれるものであってよいが、これに限定されない。
【0051】
本発明のプラスミドは、一つ以上の選択性マーカーをさらに含んでよい。前記マーカーは、通常、化学的な方法で選択され得る特性を有する核酸配列であり、形質転換された細胞を非形質転換細胞から区別できる遺伝子がこれに該当し得る。例えば、グリホセート(glyphosate)、グルホシネートアンモニウム(glufosinate ammonium)又はホスフィノトリシン(phosphinothricin)のような除草剤抵抗性遺伝子、アンピシリン(ampicillin)、カナマイシン(kanamycin)、G418、ブレオマイシン(Bleomycin)、ハイグロマイシン(hygromycin)、クロラムフェニコール(chloramphenicol)のような抗生剤に対する耐性遺伝子であってよいが、これに限定されない。
【0052】
本発明のプラスミドの作製は、当該技術分野でよく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造でき、部位特異的DNA切断及び連結は、当該技術の分野で一般的に知られた酵素などを用いて行われてよい。
【0053】
本発明のプラスミドをサルモネラガリナルム菌株に導入して形質転換する方法は、当業界で核酸を細胞内に導入するために一般に用いている方法であってよく、当業界に公知された適宜の標準技術を選択して行われてよい。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-テキストラン法、陽イオンリポソーム法及び酢酸リチウム-DMSO法であってよいが、これに限定されない。
【0054】
本発明で使われる用語「作動可能に連結された」は、遺伝子発現調節配列と異なるヌクレオチド配列間の機能的な結合を意味する。前記遺伝子発現調節配列は、複製原点(replication origin)、プロモータ及び転写終結配列(terminator)などからなる群から選ばれる1種以上であってよい。転写終結配列は、ポリアデニル化配列(pA)であってよく、複製原点は、f1複製原点、SV40複製原点、pMB1複製原点、アデノ複製原点、AAV複製原点又はBBV複製原点などであってよいが、これに限定されない。
【0055】
本発明で使われる用語「プロモータ」は、構造遺伝子からのDNAアップストリームの領域を意味し、転写を開始するためにRNAポリメラーゼが結合するDNA分子を指す。
【0056】
本発明の一具体例によるプロモータは、特定遺伝子の転写開始を調節する転写調節配列の一つで、約100bp~約2500bp長のポリヌクレオチド断片であってよい。例えば、プロモータは、tacプロモータ、lacプロモータ、lacUV5プロモータ、lppプロモータ、pLλプロモータ、pRλプロモータ、rac5プロモータ、ampプロモータ、recAプロモータ、SP6プロモータ、trpプロモータ、T7プロモータ、pBADプロモータ、Tetプロモータ、trcプロモータ、pepTプロモータ、sulAプロモータ、pol11dinA)プロモータ、ruvプロモータ、uvrAプロモータ、uvrBプロモータ、uvrDプロモータ、umuDCプロモータ、lexAプロモータ、ceaプロモータ、caaプロモータ、recNプロモータ及びpagCプロモータ及び合成されたプロモータからなる群から選ばれるものであってよいが、これに限定されない。
【0057】
本発明で使われる用語「発光遺伝子」は、生体内(in vivo)又は生体外(ex vivo、in vitro)映像撮影が可能なタンパク質をコードする遺伝子のことを指し、様々な由来の生物発光遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子)、化学発光遺伝子、蛍光遺伝子を含んでよい。このような遺伝子によって発現する発光現象の撮影装備は当業界に公知であり、当業者によって適切に選択されてよい。
【0058】
本発明の発光遺伝子を含むプラスミドで形質転換されたサルモネラガリナルム菌株は腫瘍を標的化するので、腫瘍の視覚的なモニタリングが可能であり、よって、腫瘍治療の正確度及び治療効果を高めることができる。本発明の発光遺伝子と共に使用可能な映像装備は、使用する発光遺伝子の種類によって当業者によって適切に選択されてよい。
【0059】
本発明における「luxCDABE」は、ルシフェラーゼをコードする遺伝子(luxA及びluxBの異種二量体)と、前記ルシフェラーゼの基質であるルシフェリン(Tetradecanal)をコードする遺伝子(luxCluxD及びluxE)を全て含んでいるDNA断片である。発光物質であるルシフェリン(luciferin)が細胞内でATPによって活性化されて活性ルシフェリンに変換され、発光酵素であるルシフェラーゼ(luciferase)の作用によって活性ルシフェリンが酸化ルシフェリンに変換されながら化学エネルギーを光エネルギーに転換させ、発光がなされる。
【0060】
本発明の発光遺伝子で形質転換されたサルモネラガリナルム菌株によって標的化された腫瘍細胞は、発光遺伝子によって検出可能であり、被検体の腫瘍存在の有無及び被検体に存在する腫瘍の位置、サイズ、及び時間の経過による被検体に存在する腫瘍の変化様相などに関する情報を得ることができる。
【0061】
本発明において、大腸癌、膵癌、肺癌、皮膚癌及び乳癌細胞株に対する弱毒化サルモネラガリナルム菌株の標的化及び抗癌活性が確認されたし、腺癌腫の一つであるCT26腫瘍マウスモデルにおいて本発明の弱毒化サルモネラガリナルム菌株の優れた抗癌効果が確認された。
【0062】
本発明の弱毒化サルモネラガリナルム菌株は、大腸癌、膵癌、肺癌、皮膚癌及び乳癌などの様々な腺癌腫又は固形癌の標的化及び腫瘍抑制活性を示すことができる。
【0063】
腺癌(adenocarcinoma)は、特に腺(gland)を構成している細胞で発生する癌で、胃、腸、気管支、子宮、胆嚢などの粘膜をはじめとして、前立腺、甲状腺、膵臓の腺組織又は排泄器官で発生する癌を指す。
【0064】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は単に説明の目的のためのもので、本願発明の範囲を限定するものではない。
【0065】
[実施例1]
弱毒化サルモネラガリナルム菌株作製及び腫瘍抑制活性評価方法
【0066】
1-1.サルモネラ菌株成長
1% NaClを含有しているLB培地(Difco Laboratories)でSalmonella sppを37℃の激烈な空気供給(Vigorous aeration)で成長させた。固体支持培地(Solid support medium)は1.5%顆粒寒天(Difco Laboratories)を含んで製造し、抗生剤はSigma chemicalから購買した。必要によって、抗生剤であるアンピシリン(Ampicillin,Amp)、カナマイシン(Kanamycin,Km)及びクロラムフェニコール(Chloramphenicol,Cm)をそれぞれ100μg/ml、50μg/ml及び15μg/mlの濃度で、N-アセチル-D-グルコサミン(N-acetyl-D-Glucosamine,GlcNAc)を100mg/mlの濃度で添加した。液体培地内のバクテリア数はヘモサイトメーター(hemocytometer)を用いて測定した。
【0067】
1-2.サルモネラ菌株系統
下表1に示すように、血清型ガリナルム(Gallinarum)突然変異体は、韓国養鶏場で家禽チフス(Fowl typhoid)を持つニワトリの肝から分離した臨床分離株(Clinical isolate)であるSG4021に由来するものを使用し、SG4021菌株は、韓国生命工学研究院に2019年10月8日付で寄託した(微生物受託番号:KCTC13985BP)。また、SG4044及びSG4048菌株を韓国生命工学研究院に2021年4月20日付で寄託した(微生物受託番号:KCTC14541BP、KCTC14542BP)。
【0068】
【表1】
【0069】
全てのサルモネラ菌株系統は、Datsenko及びWanner(Proceedings of the National Academy of Sciences 97.12(2000):6640-6645)によって開発された方法によって作製され、サルモネラ菌株の弱毒化は、ppGpp、ssrAB及びGifsy 2 prophageの欠失(ΔppGpp、ΔssrAB、Δ
Gifsy 2 prophage)によって誘導された。
【0070】
ppGpp欠失突然変異は、SG4021のゲノムにrelA::kan及びspot::cmの順次導入によって誘導された。ssrAB欠失突然変異は、SG4021のゲノムにssrAB::kanの導入によって誘導された(SG3005)。ppGpp及びssrAB欠失突然変異の作製のために、まず、ppGpp作製のために導入された抗生剤抵抗性遺伝子の不活性化を行ったし(kan及びCM)、ssrAB::kanを含む遺伝体を保有したSG3005菌株にP22バクテリオファージ(bacteriophage)を形質導入(transduction)し、ssrAB::kan遺伝子を含むバクテリオファージを生産した。抗生剤抵抗性遺伝子の不活性化は、FLP組換え酵素発現が誘導されるpCP20(Helper plasmid)の形質転換方法の導入によって完成されたし、本発明のために作製された全ての突然変異サルモネラガリナルムの抗生剤抵抗性遺伝子欠失方法は同一である。
【0071】
不活性化されたppGpp欠失突然変異にssrAB::kan遺伝子を含むバクテリオファージを形質導入してΔrelA、ΔspoT、ssrAB::kan突然変異を作製した(SG4041)。野生型サルモネラガリナルム(clinical isolate)のバクテリオファージ(Gifsy 2 prophage)遺伝体の存在有無は、野生型サルモネラガリナルムの全体遺伝体配列検査方法によって1種のバクテリオファージ遺伝体(Gifsy 2 prophage)が存在するということが確認されたし、弱毒化のために、当該prophage遺伝体は、Lambda-Red相同組換え(homologous recombination)方法を用いてSG4021のゲノムのprophage遺伝子をクロラムフェニコール(Chloramphenicol,cm)抵抗性遺伝子に置換すること(Gifsy 2 prophage::cm)によって除去されたし、Gifsy 2 prophage遺伝体欠失突然変異サルモネラガリナルムが作製された(SG4042)。
【0072】
ppGpp、ssrAB、Gifsy 2 prophage欠失突然変異サルモネラガリナルムの作製は、Gifsy 2 prophage::cmを含むバクテリオファージ(P22、SG4042菌株活用)をまず作製し、SG4041菌株に形質導入することによって作製された(ΔrelA、ΔspoT、ssrAB::kan、Gifsy 2 prophage::cm;SG4043)。弱毒化サルモネラガリナルムの抗癌剤の開発において過度な抗生剤耐性の問題の回避のために、SG4043菌株から抗生剤抵抗性遺伝子が全て除去されたSG4044(ΔrelA、ΔspoT、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophage)菌株が開発されたし、本発明で作製した弱毒化サルモネラ菌株の効能及び価値評価のために、クロラムフェニコール抵抗性遺伝子のみを保有する菌株が作製された(ΔrelA、ΔspoT、ΔssrAB、Gifsy 2 prophage::cm;SG4046)。
【0073】
SG4046菌株の開発のために、カナマイシン(kanamycin)抵抗性遺伝子が除去されたSG4045(ΔrelA、ΔspoT、ΔssrAB)菌株が作製されて活用された。glmSオープンリーディングフレーム(open reading frame)位置に、カナマイシン抵抗性遺伝子(kan)を運搬する遺伝子は、40-ヌクレオチド(nt)相同性伸長(homology extension)及びpKD13を鋳型とする20-ntプライミング配列を含むそれぞれ一対の60-ntプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction,PCR)で生成された。プライマーの塩基配列及び配列番号は、下表2に示す。PCRに用いられた鋳型(template)は、野生型サルモネラガリナルムの細菌染色体DNA(bacterial chromosomal DNA)が用いられた。
【0074】
【表2】
【0075】
精製されたPCR生成物を、電気穿孔法(electrophoration)によって、pKD46を保有する弱毒化サルモネラ(ΔrelA、ΔspoT;SG4023)に形質転換し、これによってglmS遺伝子欠失弱毒化サルモネラガリナルムが作製された(ΔrelA、ΔspoT、glmS::kan;SG4030)。glmS遺伝子欠失弱毒化サルモネラガリナルム(ΔrelA、ΔspoT、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophage、glmS::kan)の作製のためにglmS::kanを含むP22ファージ(phage)がまず作製され(SG4030菌株活用)、その後、SG4044(ΔrelA、ΔspoT、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophage)に準備されたglmS::kanを含むP22ファージを形質導入してΔrelA、ΔspoT、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophage、glmS::kan(SG4047)突然変異サルモネラガリナルム菌株が作製された。
【0076】
弱毒化サルモネラガリナルムの抗癌剤開発において過度な抗生剤耐性の問題の回避のために、SG4047のカナマイシン抵抗性遺伝子は上記と同じ方法によって除去され、最終菌株であるΔrelA、ΔspoT、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophage、ΔglmSサルモネラガリナルム菌株が作製された(SG4048)。
【0077】
サルモネラ菌株は、特に、動物内で生存に不要なレポーター遺伝子を包含及び運搬するプラスミドを放出する傾向があるので、選択的決定因子のために抗生剤耐性遺伝子を活用することは不可能である。したがって、増殖のための必須営養分としてペプチドグリカン合成成分であるD-グルコサミン(GlcN)又はN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)が不足して動物系で溶解されるglmS欠失突然変異表現型を利用した。
【0078】
1-3.GlmS pLuxプラスミド
生物発光による腫瘍標的化能力評価及び染色体上のglmS遺伝子欠失を補完するために、サルモネラガリナルム菌株のglmS遺伝子を統合させた均衡致死宿主ベクターシステム(balanced lethal host vector system)を作製した。
【0079】
具体的には、 フォトバクテリウムレイオグナティ(Photobacterium leiognathi)のluxオペロン(luxCDABE、約9.5kbp)を含有するpLuxをpUC19プラスミドバックボーンにXbaI制限酵素部位に挿入した。Luxオペロンカセット及びglmSを全て含有するプラスミドを作製するために、サルモネラガリナルム菌株のglmS遺伝子を特異的プライマーで増幅した。プライマーの塩基配列及び配列番号は、下表3に示す。PCR反応に用いられた鋳型(template)は、野生型サルモネラガリナルム(SG4021)の細菌染色体DNAであった。
【0080】
【表3】
【0081】
pLuxベクターと増幅された1.8kbp断片をSal I制限酵素を用いて断片の両末端を切り、T4DNAリガーゼ(T4DNA ligase)によって接合する方法によってGlmS pLuxを生成した。作製されたGlmS pLuxで形質転換されたglmS欠失突然変異サルモネラガリナルム菌株は、D-グルコサミン(GlcN)又はN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)が不足している環境でも生存が可能であり、生物発光を示すので、光学生物発光イメージによる分析が可能である。
【0082】
1-4.腫瘍細胞株
American type culture collectionからマウス(Murine)由来CT26(結腸腫瘍細胞株)、4T-1(乳房腫瘍細胞株)、B16F10(黒色腫瘍細胞株)及びLL2(LLC-1、肺腫瘍細胞株)を購入し、National cancer institute_Division of cancer treatment & Diagnosis(DCTD)からマウス(Murine)由来Panc02(膵臓腫瘍細胞株)を購入した。10%ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum,FBS)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含有する高ブドウ糖DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)でCT26、4T-1、LLC-1及びPanc02細胞株を成長させたし、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含有するRPMI1640でB16F10細胞株を成長させた。
【0083】
1-5.プラスミド安定性測定
12時間ごとに補充されるFlesh LB培地で一晩継代培養(1/1000)した。24時間ごとにサンプルを採取し希釈した。アンピシリンの有無に関係なく、GlcNAcが補充されたLBプレート上に適切な体積を3回スプレッドした。コロニーの数を使用して総生存細胞(コロニー形成単位,CFU)及びプラスミドを有するサルモネラ菌株の比率を計算した。
【0084】
1-6.マウスモデル作製
培養された様々な腫瘍細胞株をマウスの右腿に異種移植してマウス腫瘍モデルを作製した。Samtako company(韓国)から20~30kgの5~8週齢雌マウスを購入した。承認されたプロトコルにしたがって全ての動物に対する管理、実験及び安楽死が行われた。
【0085】
皮下(Subcutaneous)腫瘍を有するマウスを下記の方法で作製した。試験管内で培養された実施例1-4の腫瘍細胞株を回収し、30mlのPBSに懸濁させた後、CT26、4T-1、LLC-1及びB16F10細胞株は1×10個を、Panc02細胞株は1×10個をマウス右腿に皮下注射した。CT26及び4T-1細胞株はBalb/Cマウスに、LLC-1、Panc02及びB16F10細胞株はC57/BL6マウスに移植した。
【0086】
腫瘍細胞移植後に、腫瘍のサイズが60mmに到達した時に、実施例1-3のGlmS pLuxで形質転換された、glmS欠失突然変異弱毒化サルモネラガリナルム(SG4050)を約5×10CFUで静脈注射し、実施例1-2のppGpp、ssrAB、Gifsy 2 prophage欠失サルモネラガリナルム菌株(SG4044又はSG4046、5×10CFU)又はppGpp欠失サルモネラティフィムリウム(SMR2130、1×10CFU)菌株を尾静脈から投与した。
【0087】
1-7.マウス内部臓器別サルモネラ菌株分布評価
サルモネラ菌株の生存数を評価するために、マウスグループ(n=5)に約1×10CFU ΔppGppサルモネラティフィムリウム(SMR2130)及び約5×10CFU ΔppGpp、ΔssrAB、Gifsy 2 prophage(SG4046)サルモネラガリナルム菌株を静脈投与した後、1、3、5、10、15日目にマウスを犠牲させて臓器を収集し、臓器組織を均質化器を用いて0.05% Tween-20を含有する滅菌PBSで均質化した。均質液からサルモネラ菌株を回収し、カナマイシン50μg/ml及びクロラムフェニコール15μg/mlを含有する寒天プレート上にスプレッドして定量化した。
【0088】
1-8.腫瘍サイズ及びマウス生存率分析
下記の計算式で腫瘍体積を計算した。
[計算式]
腫瘍体積(mm)=(腫瘍長さ×腫瘍高さ×腫瘍幅)/2
【0089】
全ての動物実験は、ジョンナム大学校動物実験倫理委員会(NO.CNUIACUC-H-2016-15)によって承認され、指針に従って腫瘍体積が1,500mm以上であるマウスは犠牲させたし、Gehan-Breslow-Wlicoxonテストによってマウスの生存率を評価した。
【0090】
1-9.光学生物発光イメージング
腫瘍を標的にする指標としてサルモネラ菌株の生物発光(Bioluminescence)を用いてイメージングした。腫瘍標的能のためにマウスを2%イソプルランで麻酔させた後、冷却CCD(charged couple detector)カメラ付きIVIS100(Caliper,Hopkinton,MA,USA)の光遮断チャンバーに置いた。ルシフェラーゼ発現サルモネラガリナルム菌株から放出される光子を収集し、1分間統合した。Living image software v.2.25(Xenogen-Caliper,Hopkinton,MA)を用いて光子カウントを示す疑似カラーイメージをマウスの写真上にオーバーレイした。
【0091】
1-10.統計分析
SPSS 18.0統計パッケージ(SPSS Inc.,Chicago,IL,USA)を用いて統計分析を行った。両側スチューデントのt検定(Two-tail Student’s t-test)を用いて対照群と治療群間の腫瘍成長の統計的有意性を決定した。0.05以下のP値は統計的に有意なものと見なされたし、全てのデータを平均±SDで表示した。
【0092】
[実施例2]
弱毒化サルモネラガリナルム菌株の生体内毒性の有無及びプラスミド安定性確認
2-1.サルモネラガリナルム菌株のアミノ酸要求確認
【0093】
図1に示すように、サルモネラガリナルム野生種は、ロイシン(Leu)が添加された最小培地でのみ育ち、アルギニン(Arg)とフェニルアラニン(Phe)が添加されるとその成長が改善されることを確認した。ppGpp欠失弱毒化サルモネラガリナルムはその他にもイソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、セリン(Ser)及びバリン(Val)が添加された最小培地で成長した。したがって、ppGpp欠失サルモネラガリナルムはppGpp欠失サルモネラティフィムリウム(LT2)と比較して、要求されるアミノ酸が少ないことを確認した(Tedin and Norel,J Bacteriol,2001,183:6184-6196)。
【0094】
2-2.サルモネラガリナルム菌株の生体内毒性評価
細菌性癌治療にサルモネラガリナルム菌株を適用するために、まず静脈内(intra vein,IV)経路を通じて野生型サルモネラガリナルム菌株を注射した後、マウス生存率を分析した。
【0095】
図2に示すように、マウスに野生型サルモネラガリナルム菌株(SG4021)を静脈投与する場合に、家禽鳥類(Fowls)でのみ腸チフスが誘発されたにもかかわらず、約10CFU以上を投与した時に全てのマウスが死亡した。
【0096】
2-3.弱毒化サルモネラガリナルム菌株の生体内毒性評価による投与容量確認
前記実施例2-2で野生型サルモネラガリナルム菌株はマウス生体内毒性を保有することが確認され、ppGpp、ssrAB、Gifsy 2 prophage欠失によってサルモネラガリナルム菌株を弱毒化した。
【0097】
具体的には、ΔppGpp、ΔssrAB、Gifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株(SG4046)及びΔppGppサルモネラティフィムリウム菌株(SMR2130)をBlab/Cマウスに静脈投与し、マウス生存率を分析した。
【0098】
臓器別菌株分布検査時に正確な菌数確認のために、抗生剤マーカーを含むSG4046を使用した。
【0099】
図3及び図4に示すように、ΔppGpp、ΔssrAB、Gifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株(SG4046)では、約5×10CFUまでマウスが生存したことを確認したし、ΔppGppサルモネラティフィムリウム菌株(SMR2130)では、約1×10CFUまでマウスが生存したことを確認した。
【0100】
腫瘍標的能及び抗腫瘍効果が確認された弱毒化サルモネラティフィムリウム(A1-R)の実験結果から、変形されたリポポリサッカライド、msbB欠失突然変異(VNP20009)及びΔrfaG/ΔrfaD二重突然変異を有する菌株は、約1×10~約1×10CFUの範囲で治療範囲が形成されることを確認した。したがって、本発明の弱毒化サルモネラガリナルムは、弱毒化サルモネラティフィムリウムに比べて生体内安定性が約15倍以上高いので、より優れた安定性を有することが分かる。
【0101】
また、生体内安定性が確保されたことが認められる大腸菌(Escherichia.Coli)の有効投与量が約1×10CFU(投与経路:Intra vein,IV)であることからすれば、本発明の弱毒化サルモネラガリナルムの生体内安定性は顕著に優れていることが分かる。
【0102】
2-4.プラスミド安定性確認
形質転換されたプラスミドの安定性を確認するために、前記実施例1-5を行ってプラスミドの消失の有無を評価した。
【0103】
図5に示すように、野生型サルモネラ菌株(SG4021)によって運搬されたプラスミドの99%が4日目に消失されたのに対し、glmS欠失サルモネラガリナルム菌株(SG4050)によって運搬されたプラスミドは完全に維持されることを確認した。
【0104】
以後の実験では、腫瘍形成マウスにおいてサルモネラガリナルム菌株を視覚化するために、前記実施例1-3のGlmS pLuxで形質転換された、染色体上に突然変異glmS遺伝子を保有するサルモネラガリナルム菌株(SG4050)を使用した。
【0105】
[実施例3]
弱毒化サルモネラガリナルム菌株による腫瘍標的化確認
ΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株の腫瘍標的化を確認するために、実施例1-9を行って弱毒化サルモネラガリナルム菌株の生物発光信号をイメージングした。
【0106】
図6に示すように、ΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophage、ΔglmSサルモネラガリナルム菌株(SG4050)の注射直後(20分、注射0日後(0 day post injection,0dpi))には、生体内発光信号が主に内皮器官(肝及び脾臓)から検出されることを確認したが、注射3日後(3dpi)の生体内発光信号は移植された腫瘍組織にのみ見られることを確認した。特に、弱毒化サルモネラガリナルム菌株は、4個の個別のマウスラインに移植された全ての腫瘍を特異的に標的化することを確認した。
【0107】
したがって、ΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophage、ΔglmSサルモネラガリナルム菌株(SG4048)は、優れた腫瘍標的化効果を示すことが分かる。
【0108】
[実施例4]
CT26腫瘍マウスモデルにおいてΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株の抗癌効果確認
【0109】
4-1.弱毒化サルモネラガリナルムの抗腫瘍効果及び生存期間延長確認
CT26細胞が移植されたBlab/Cマウスに約5×10CFU ΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株(SG4044)を静脈内投与したし、対照群としてPBS処理群及びΔppGppサルモネラティフィムリウム菌株(1×10CFU,SMR2130)を用いて、ΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株の生体内抗腫瘍活性を、前記実施例1-8及び1-10を行って分析した。
【0110】
図7に示すように、約5×10CFU ΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株(SG4044)を大腸腫瘍形成マウスに処理した結果、対照群と比較して腫瘍成長が有意に遅延されることを確認した。
【0111】
図8に示すように、ΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株(SG4044)を処理した群は、対照群に比べて生存期間が約2倍以上延長されることを確認した。測定された生命延長期間は、ΔppGppサルモネラティフィムリウム菌株処理群では約24日、PBS処理群では15日であったし、ΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株で処理された群の平均生存期間は38日であった。
【0112】
4-2.マウス内サルモネラ菌株分布パターン確認
マウス内サルモネラガリナルム菌株の分布パターンを確認するために、前記実施例1-7を行って時間によるマウス臓器別サルモネラ菌数分布を評価した。
【0113】
図9に示すように、ΔppGpp、ΔssrAB,Gifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株(5×10、SG4046)及びΔppGppサルモネラティフィムリウム菌株(1×10、SMR2130)を投与した群の両方とも、注射3日後(3dpi)に腫瘍内で最も多いサルモネラ菌株が観察されたし、腫瘍内で10日間類似のレベルで菌数を保有するが、10日以後に漸次減少することを確認した。
【0114】
また、弱毒化サルモネラティフィムリウム(SMR2130)では、注射1日後(1dpi)に、肝に10CFU/g、脾臓に10CFU/g、肺、腎臓及び心臓に10CFU/g、血清に10CFU/gで存在することを確認したし、このような正常組織内菌数は、血液サンプル以外の他の組織において実験期間に同一のレベルで検出された。一方、弱毒化サルモネラガリナルム(SG4046)では、注射1日後(1dpi)に弱毒化サルモネラティフィムリウム(SMR2130)と類似のレベルの菌数が検出されたが、その後に漸次減少し、15日には完全に除去されたことを確認した。
【0115】
したがって、本発明のΔppGpp、ΔssrAB、ΔGifsy 2 prophageサルモネラガリナルム菌株は、腫瘍を特異的に標的して抗腫瘍効果を示すので、他の臓器への副作用の恐れなく抗腫瘍用途に使用可能であることが分かる。
【受託番号】
【0116】
1. サルモネラガリナルムSG4021菌株;Salmonella. gallinarum(SG4021);微生物受託番号 KCTC13985BP
2. サルモネラガリナルムSG4044菌株;S.gallinarum ΔrelA,Δspot,ΔssrAB,ΔGifsy 2 prophage(SG4044);微生物受託番号 KCTC14541BP
3. サルモネラガリナルムSG4048菌株;S.gallinarum ΔrelA,ΔspoT,ΔssrAB,ΔGifsy 2 prophage,ΔglmS(SG4048) 微生物受託番号:KCTC14542BP
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2024519704000001.app
【国際調査報告】