IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オウル ウュリオピストの特許一覧

特表2024-519737ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法および同方法を実施するためのキット
<>
  • 特表-ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法および同方法を実施するためのキット 図1
  • 特表-ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法および同方法を実施するためのキット 図2
  • 特表-ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法および同方法を実施するためのキット 図3
  • 特表-ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法および同方法を実施するためのキット 図4
  • 特表-ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法および同方法を実施するためのキット 図5
  • 特表-ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法および同方法を実施するためのキット 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法および同方法を実施するためのキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/542 20060101AFI20240514BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240514BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240514BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
G01N33/542 A ZNA
C07K14/47
C07K19/00
C07K14/435
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568450
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 FI2022050305
(87)【国際公開番号】W WO2022234194
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】20215539
(32)【優先日】2021-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】513240180
【氏名又は名称】オウル ウュリオピスト
【氏名又は名称原語表記】OULUN YLIOPISTO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】ラリ レーティオ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン ソワ
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト ガレラ-プラット
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA13
4H045BA16
4H045BA41
4H045CA40
4H045CA50
4H045EA51
4H045EA53
(57)【要約】
本発明は、ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出するための方法、キット、系および融合タンパク質を対象とし、前記基またはポリマーはペプチドまたはタンパク質に共役し、前記方法は以下の:i)第1の標識またはタグを含む第1の実体を提供するステップであって、前記実体は、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、ステップと;ii)アッセイにおいて、前記第1の実体を第2の実体と接触させるステップであって、前記第2の実体は、ペプチドまたはタンパク質に共役したADPリボシル基またはそのポリマーに結合可能であるか、または結合可能であると考えられる、ステップと;iii)前記第1の標識に由来するか、または前記タグによって局在化されるシグナルを測定するステップであって、前記第2の実体が前記第1の実体の前記少なくとも1つのADPリボシル基に結合している場合に検出されるシグナルは、前記第2の実体と前記ADPリボシル基の間の結合相互作用が生じていない場合に検出されるシグナルとは異なるか、または異なって局在化される、ステップとを含む。本発明のキットは、本発明の方法を実施するための手段を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法であって、前記基またはポリマーはペプチドまたはタンパク質に共役し、以下のステップ:
i)第1の標識またはタグを含む第1の実体を提供するステップであって、前記実体は、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、ステップと;
ii)アッセイにおいて、前記第1の実体を第2の実体と接触させるステップであって、前記第2の実体は、ペプチドまたはタンパク質に共役したADPリボシル基またはそのポリマーに結合することができるか、またはできると考えられる、ステップと;
iii)前記第1の標識に由来するか、または前記タグによって局在化されるシグナルを測定するステップであって、前記第2の実体が前記第1の実体の少なくとも1つのADPリボシル基に結合している場合に検出されるシグナルは、前記第2の実体と前記ADPリボシル基の間の結合相互作用が生じていない場合に検出されるシグナルとは異なるか、または異なって局在化される、ステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応するか、または前記GαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有し、好ましくは、前記GαサブユニットのC末端配列に対応するか、またはヘテロ三量体Gタンパク質のC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有する前記アミノ酸配列は、少なくとも4アミノ酸長の配列またはペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのADPリボシル基の前記S-グリコシド結合を介した前記システイン残基への共役が百日咳毒素によって触媒されたものであり、前記ポリマーの場合、前記システイン残基に共役した前記ADPリボシル基が、好ましくはPARPファミリー酵素によって伸長されたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の実体が、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応する少なくとも4アミノ酸長のC末端配列CGLF(SEQ ID NO:1)またはCGLY(SEQ ID NO:2)を含み、少なくとも1つのADPリボシル基が、S-グリコシド結合を介してSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2のシステイン(C)に共役する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の実体が、C末端配列KXNLKXCGLX(SEQ ID NO:3)を含み、ここで、XはEまたはNであり、XはEまたはDであり、XはFまたはYである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の実体が、好ましくは発光性または蛍光性のタンパク質ドメインまたは実体を含む融合タンパク質である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の実体が、GSTタグまたはジゴキシゲニンタグのような結合または酵素タグを含む融合タンパク質である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の実体が、ペプチドまたはタンパク質に共役した前記ADPリボシル基またはそのポリマーに結合可能な生体高分子を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生体高分子が、マクロドメイン、ARHファミリータンパク質、BRCTドメイン、PAR結合亜鉛モチーフ、およびWWEドメインからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の実体が第2の標識を含み、ステップiii)において、前記第1および第2の標識に由来するシグナルが測定され、前記第2の実体が前記第1の実体の少なくとも1つのADPリボシル基に結合している場合に検出されるシグナルは、前記第2の実体と前記ADPリボシル基の間の結合相互作用が生じていない場合に検出されるシグナルとは異なるか、または異なって局在化される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1および第2の標識が別個の発光または蛍光標識である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップii)において、阻害剤候補化合物もアッセイに加えられ、前記阻害剤候補は、前記第2の実体と、前記第1の実体に共役した前記ADPリボシル基またはそのポリマーの間の結合相互作用を阻害することが知られているか、または阻害すると考えられる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記結合相互作用が前記阻害剤候補の存在下でのアッセイでは阻害され、前記阻害剤候補の非存在下でのアッセイでは阻害されない場合に、前記阻害剤候補化合物がADPリボシル結合の阻害剤であることが見出される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
i)少なくとも1つのADPリボシル基がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む第1の発光性または蛍光性の融合タンパク質を提供するステップと;
ii)アッセイにおいて、前記第1の発光性または蛍光性の融合タンパク質を、ADPリボシル基を結合させることができる第2の発光性または蛍光性の融合タンパク質および阻害剤候補化合物と接触させるステップと;
iii)前記アッセイから発光または蛍光シグナルを測定するステップであって、前記第2の融合タンパク質が前記第1の融合タンパク質の少なくとも1つのADPリボシル基に結合している場合に検出されるシグナルは、前記第2の融合タンパク質と前記ADPリボシル基の間の相互作用が前記阻害剤候補化合物の存在によって阻害される場合に検出されるシグナルとは異なり、前記結合相互作用が前記阻害剤候補の存在下でのアッセイでは阻害され、前記阻害剤候補の非存在下でのアッセイでは阻害されない場合、前記阻害剤候補化合物は、ADPリボシル結合の阻害剤であることが見出される、ステップとを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1および第2の融合タンパク質が緑色蛍光タンパク質(GFP)またはその誘導体を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
-前記第1の標識またはタグに共役した実体を提供する初期ステップであって、前記実体は、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応する少なくとも4アミノ酸長のアミノ酸配列CGLF(SEQ ID NO:1)またはCGLY(SEQ ID NO:2)を含む、初期ステップと;
-百日咳毒素を利用して、SEQ ID NO:1または2のシステイン残基に、NADまたはその類似体に由来する少なくとも1つのADPリボシル基を組み込んで、前記第1の実体を得る初期ステップと;
-任意に、前記第1の実体に共役したADPリボシル基を、PARP酵素を使用してポリマーに伸長させる初期ステップとを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出するためのキットであって、前記基またはポリマーはペプチドまたはタンパク質に共役し、
-第1の容器中の:第1の標識またはタグを含む第1の実体であって、該実体は、少なくとも1つのADPリボシル基がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、第1の実体と、
-第2の容器中の:第2の標識またはタグに共役した第2の実体であって、該第2の実体は、ペプチドまたはタンパク質に共役したADPリボシル基またはそのポリマーに結合可能である、第2の実体とを含む、キット。
【請求項18】
前記アミノ酸配列が、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有し、好ましくは、前記C末端配列が、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有し、少なくとも4アミノ酸長の配列またはペプチドである、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記第1および第2の標識が別個の発光または蛍光ラベルである、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記第1の実体が、GSTタグまたはジゴキシゲニンタグのような結合または酵素タグを含む融合タンパク質である、請求項17または18に記載のキット。
【請求項21】
前記第1および第2の実体が、緑色蛍光タンパク質(GFP)またはその誘導体もしくは変異体を含む融合タンパク質である、請求項18に記載のキット。
【請求項22】
前記第1の実体が、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応する少なくとも4アミノ酸長のアミノ酸配列CGLF(SEQ ID NO:1)またはCGLY(SEQ ID NO:2)を含み、少なくとも1つのADPリボシル基が、S-グリコシド結合を介してSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2のシステイン(C)に共役する、請求項17~21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記第1の実体が、C末端配列KXNLKXCGLX(SEQ ID NO:3)を含み、ここで、XはEまたはNであり、XはEまたはDであり、XはFまたはYである、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記第2の実体が、ペプチドまたはタンパク質に共役した前記ADPリボシル基またはそのポリマーに結合可能な生体高分子を含む、請求項17~23のいずれか一項に記載のキット。
【請求項25】
前記生体高分子が、マクロドメイン、ARHファミリータンパク質、BRCTドメイン、PAR結合亜鉛モチーフ、およびWWEドメインからなる群より選択される、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
第1のドメインと第2のドメインとを含む融合タンパク質であって、前記第2のドメインは、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含む、融合タンパク質。
【請求項27】
前記C末端配列が、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有し、少なくとも4アミノ酸長の配列またはペプチドである、請求項26に記載の融合タンパク質。
【請求項28】
アミノ酸配列が、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応するアミノ酸配列CGLF(SEQ ID NO:1)またはCGLY(SEQ ID NO:2)を含み、少なくとも1つのADPリボシル基が、S-グリコシド結合を介してSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2のシステイン(C)に共役する、請求項26または27に記載の融合タンパク質。
【請求項29】
前記アミノ酸配列が、C末端配列KXNLKXCGLX(SEQ ID NO:3)を含み、ここで、XはEまたはNであり、XはEまたはDであり、XはFまたはYである、請求項28に記載の融合タンパク質。
【請求項30】
前記第1の実体が、好ましくは、GFP(「緑色蛍光タンパク質」)、YFP(「黄色蛍光タンパク質」)、CFP(「シアン蛍光タンパク質」)、eYFP(「増強黄色蛍光タンパク質」)、eCFP(「増強シアン蛍光タンパク質」)、それらの誘導体および変異体からなる群より選択される、請求項26~29のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項31】
前記類似体が、ビオチン化、蛍光性またはクリックケミストリー対応のNAD類似体に由来する、請求項26~29のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項32】
前記第1のドメインが、発光標識、蛍光標識、結合タグ、またはGSTタグもしくはジゴキシゲニンタグのような酵素タグを含む、請求項26~31のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項33】
前記第1のドメインが、好ましくは、GFP(「緑色蛍光タンパク質」)、YFP(「黄色蛍光タンパク質」)、CFP(「シアン蛍光タンパク質」)、eYFP(「増強黄色蛍光タンパク質」)、eCFP(「増強シアン蛍光タンパク質」)、それらの誘導体および変異体からなる群より選択される蛍光タンパク質である、請求項26~31のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項34】
i)第1のドメインと第2のドメインとを含む融合タンパク質であって、前記第2のドメインは、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、融合タンパク質と;
ii)好ましくは、マクロドメイン、ARHファミリータンパク質、BRCTドメイン、PAR結合亜鉛モチーフ、およびWWEドメインからなる群より選択される生体高分子であって、前記融合タンパク質の前記少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体を特異的に認識する、生体高分子とを含む系であって;
前記系において、前記生体高分子は、前記生体分子と前記融合タンパク質が一緒に連結され共役体を形成するように、前記融合タンパク質の前記少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体に結合する、系。
【請求項35】
前記第2のドメインが、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応する、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項34に記載の系。
【請求項36】
前記系内の共役体の存在を検出する手段を含む、請求項34または35に記載の系。
【請求項37】
前記手段は、バイオレイヤー干渉法技術を含む、請求項35に記載の系。
【請求項38】
前記第1のドメインが、発光標識、蛍光標識、結合タグ、またはGSTタグもしくはジゴキシゲニンタグのような酵素タグを含む、請求項33~36のいずれかに記載の系。
【請求項39】
前記第1のドメインが、好ましくは、GFP(「緑色蛍光タンパク質」)、YFP(「黄色蛍光タンパク質」)、CFP(「シアン蛍光タンパク質」)、eYFP(「増強黄色蛍光タンパク質」)、eCFP(「増強シアン蛍光タンパク質」)、それらの誘導体および変異体からなる群より選択される蛍光タンパク質である、請求項33~36のいずれかに記載の系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子間の相互作用を検出するためのアッセイ技術に関する。特に、本発明は、がん関連経路およびウイルス感染におけるADPリボシル化と相互作用するタンパク質の同定に関する。本発明の目的は、広範囲の加水分解性および非加水分解性のADPリボース結合体(binder)に対するハイスループットスクリーニングに適した頑強なアッセイ技術を提供することである。
【背景技術】
【0002】
ADPリボシル化は、細胞内の多くの多様なプロセスの制御に関与する翻訳後修飾である。その生理学的重要性にもかかわらず、ADPリボースの移動、検出および除去の複雑な相互作用は、分子レベルではよく理解されていない。
【0003】
ヒトゲノムには、ADPリボシル基を加水分解して除去することが可能なタンパク質(「イレイサー」)と同様に、ADPリボシル修飾タンパク質という多くの異なる結合体(「リーダー」)がコードされている(Teloni & Altmayer, 2016)。マクロドメインは、ヒトで知られているADPリボース結合体の中で最も大きなクラスの一つである。その多くは、ADPリボシルトランスフェラーゼ(PARP9、PARP14、PARP15)またはヒストン(macroH2Aバリアント)など、他のマルチドメインタンパク質の一部としてコードされている。MDO1、MDO2、PARGまたはTARG1などの他のマクロドメインは加水分解活性を持ち、ADPリボースシグナル伝達経路に不可欠な動作主体である。
【0004】
ポリADPリボースの結合に主に関連するドメインは他にもいくつか存在する。これらの例は、APLFのPAR結合亜鉛フィンガー(PBZ)ドメイン、複数のADPリボシルトランスフェラーゼおよびE3ユビキチンリガーゼのWWEドメインならびにXRCC1のPAR結合モチーフ(PBM)である(Teloni & Altmayer, 2016)。
【0005】
病原性ウイルスのマクロドメインは、ADPリボース結合体のもう一つのクラスである。コロナウイルスまたはトガウイルスなどのウイルスは、宿主細胞内のタンパク質からADPリボースを除去することが可能なマクロドメインを持つことが知られている。これらのウイルスのマクロドメインは、宿主のADPリボシル化シグナル伝達機構を妨害することにより、宿主のウイルス防御メカニズムを弱めることが示唆されており、ウイルスの複製と病原性に必要であることが示されている。これらのマクロドメインを持つウイルスには、チクングニアウイルス、MERS-CoV(ラクダインフルエンザ)およびSARS-CoV-2(COVID-19)が含まれる。
【0006】
ADPリボシルトランスフェラーゼに対する阻害剤の開発は、主にがん治療薬の文脈で数十年来研究されてきたが、ADPリボースの結合体または加水分解体に対する阻害剤の開発は、近年になってようやく勢いを増してきた。ADPリボース結合タンパク質の阻害剤は、細胞内の複雑なADPリボースシグナル伝達機構の解読に役立つ貴重なツールとなるだろう。また、これらの阻害剤は治療学的な可能性も示す可能性がある。さらに、ウイルスのマクロドメインを阻害してこれらのウイルスによって引き起こされる疾患と闘うことも現在研究されている。
【0007】
ADPリボシル化基質タンパク質の加水分解を測定するこれまでのアッセイは、ADPリボースの非加水分解性結合体には直接適用できない(Wazir et al., 2021)。ADPリボース結合についての既知のアッセイは複雑で高価であるか、またはハイスループットプロセスに適していないため、この分野では依然として改良の必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、多種多様なADPリボシル結合体および-ヒドロラーゼの検出にも適したアッセイを容易に開発できる系を設計することであった。本発明者らは、非加水分解性ADPリボースプローブを用いれば、加水分解性と非加水分解性ADPリボース結合体の両方の結合を測定できると考えた。
【0009】
タンパク質では、多くの異なる残基がADPリボースの受容体として機能し得る。セリン、アスパラギン酸またはグルタミン酸などの残基はO-グリコシド結合を形成し、リジン、アルギニンまたはアスパラギンなどはADPリボースとN-グリコシド結合を形成する。さらに、あまり一般的な修飾ではないが、システイン残基との間で形成され得るS-グリコシド結合による化学的に安定な結合もある。多くの異なるADPリボシルヒドロラーゼが存在し、O-またはN-グリコシド結合からADPリボースを除去することができるが、現在までのところ、S-グリコシド結合を元に戻すことができる酵素はヒトでは報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
細菌百日咳菌由来の百日咳毒素は、ヘテロ三量体Gタンパク質(Gαi)のαiサブユニットの特定のC末端システイン残基へのADPリボースユニットの転移を効率的に触媒することが知られている。本発明がどのように機能するかを示す一例として、Gαiを8-merペプチドに還元し、それを他のタンパク質のC末端に組換え的に融合させたところ、やはり効率的な修飾が観察され、アクセス可能なC末端を持つあらゆるタンパク質にADPリボースユニットを部位特異的に付加することができた。これを利用して、ADPリボースのリーダーまたはイレイサーと結合できる安定なS-グリコシド結合を持つMAR化YFPタンパク質を作製した。我々はさらに、MARをPARに拡張する条件を見出すことによってこの系を拡張し、MARおよびPAR結合体の結合を同様にプローブできるようにした。
【0011】
従って、本発明は、ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出する方法であって、前記基またはポリマーはペプチドまたはタンパク質に共役し、以下の:
i)第1の標識またはタグを含む第1の実体を提供するステップであって、前記実体は、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、ステップと;
ii)アッセイにおいて、前記第1の実体を第2の実体と接触させるステップであって、前記第2の実体は、ペプチドまたはタンパク質に共役したADPリボシル基またはそのポリマーに結合することができるか、またはできると考えられる、ステップと;
iii)前記第1の標識に由来するか、または前記タグによって局在化されるシグナルを測定するステップであって、前記第2の実体が前記第1の実体の少なくとも1つのADPリボシル基に結合している場合に検出されるシグナルは、前記第2の実体と前記ADPリボシル基の間の結合相互作用が生じていない場合に検出されるシグナルとは異なるか、または異なって局在化される、ステップとを含む方法を提供する。
【0012】
他の関連する態様において、本発明は、ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出するためのキットであって、前記基またはポリマーはペプチドまたはタンパク質に共役し、
-第1の容器中の:第1の標識またはタグを含む第1の実体であって、該実体は、少なくとも1つのADPリボシル基がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、第1の実体と、
-第2の容器中の:第2の標識またはタグに共役した第2の実体であって、該第2の実体は、ペプチドまたはタンパク質に共役したADPリボシル基またはそのポリマーに結合可能である、第2の実体とを含む、キットを提供する。
【0013】
他の関連する態様において、本発明は、第1のドメインおよび第2のドメインを含む融合タンパク質を提供し、ここで、前記第2のドメインは、Gタンパク質のGαサブユニット、好ましくはSEQ ID NO:4のC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含む。
【0014】
さらに関連する態様において、本発明は以下の
i)第1のドメインと第2のドメインとを含む融合タンパク質であって、前記第2のドメインは、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、融合タンパク質と;
ii)好ましくは、マクロドメイン、ARHファミリータンパク質、BRCTドメイン、PAR結合亜鉛モチーフ、およびWWEドメインからなる群より選択される生体高分子であって、該生体高分子は、前記融合タンパク質の前記少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体を特異的に認識する、生体高分子とを含む系であって;
前記系において、前記生体高分子は、前記生体分子と前記融合タンパク質が一緒に連結され共役体(coupled entity)を形成するように、前記融合タンパク質の前記少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体に結合する、系を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1a~dは、ADPリボシル結合タンパク質のin vitro相互作用研究とアッセイ開発のための分子ツールボックスの図である。図1aは、百日咳毒素サブユニットS1(PtxS1)によるC末端Gαベースの10-merペプチド(GAPタグ)の部位特異的ADPリボシル化により、単一のS-グリコシド結合モノADPリボシル(MAR)基が生成され得ることを示す図である。図1bは、GAPタグのMAR基が、PARP2によってポリADPリボシル(PAR)基に拡張されることを示す図である。この系は、FRETまたは他の結合技術により、モノまたはポリADPリボシル基と相互作用するタンパク質の結合を測定するために使用できる。図1cは、GAPタグが、NAD類似体による部位特異的標識に使用できることを示す図である。図1dは、ナノルシフェラーゼ(Nluc)と融合した高親和性ADPリボシル結合体を発光プローブとして用いることで、モノおよびポリADPリボシル化タンパク質をブロットベース法で高速、高感度かつ高選択的に検出することができることを示す図である。
図2図2a~dは、ツールキットコンポーネントの初期開発の図である。図2aは、異なるGαコンストラクトを用いたPtxS1によるADPリボシル化の試験の図である。50nM(+)または250nM(++)のPtxS1で処理したときのシステイン-ADPrアクセプタとして、非標識またはYFP融合の全長GαコンストラクトとGAPタグ付きYFPを試験した。対照として、バッファーまたはアクセプタのシステインをアラニンに変異させたYFP-GAPを用いた。反応物をニトロセルロースメンブレンにブロットし、Nluc-eAf1521を用いて検出した。図2bは、GAPタグのMAR基はPARP2によってPARに伸長されうることを示す図である。10μMのYFP-GAPまたはYFP-GAP(MAR)を1mMのNADおよび400nM(+)もしくは4μM(++)のPARP2または対照としてバッファーと混ぜた。反応をSDS-PAGEで行い、クマシーブルーを用いるか、または、ウエスタンブロットを行い、Nluc-eAf1521またはNluc-ALC1を用いて検出することにより可視化した。図2cは、Nluc-eAf1521によるMARとPARの検出の図である。図2dは、Nluc-ALC1によるPARの選択的検出の図である。YFP-GAP(±MAR)またはTNKS1(±PAR)の希釈系列をニトロセルロースメンブレンにブロットした。
図3図3a~bは、Gα-タグが、NAD類似体による部位特異的修飾の導入に使用できることを示す図である。図3aは、GAPタグの部位特異的ビオチン化の図である。GAPタグ付きYFPをPtxS1の非存在下または存在下でNADまたは6-ビオチン-17-NADと混ぜた。反応物をニトロセルロースメンブレンにブロットし、ストレプトアビジン-HRPを用いてビオチンを検出した。図3bは、YFP-GAPが、アルキン基を含むNADまたは6-プロパルギルアデニン-NADを用いてPtxS1によりMAR化されたことを示す図である。得られたタンパク質YFP-GAP(MAR)またはYFP-GAP(MAR-アルキン)またはバッファーをCy3-アジドまたはCy5-アジドと混合し、5mMのアスコルビン酸ナトリウム、300μMのCuSO、600μMのL-ヒスチジンを加えることにより銅(I)触媒によるアルキン-アジド環化付加反応を行った。試料を室温で3時間インキュベートし、ニトロセルロースメンブレンにブロットし、カラー画像を撮影した。未反応のCy3-アジドまたはCy5-アジドは、TBS-Tでメンブレンを洗浄することにより除去し、カラー画像および蛍光画像を撮影した。
図4図4a~eは、YFP-GAPと報告済みおよび潜在的なリーダーおよびイレイサーの相互作用の試験を示す図である。図4aは、CFP融合した潜在的なおよび確認済みのADPリボシル結合体とMAR化YFP-GAPの相互作用を示す図である。1μMのCFP融合タンパク質を、5μMのYFP-GAPまたは5μMのYFP-GAP(MAR)と、200μMのADPリボースの非存在下または存在下で混ぜた。レシオメトリックFRETシグナルを測定した。図4bは、GAPタグからのADPリボシル除去の試験の図である。10μMのYFP-GAP(MAR)を、1μMのCFP融合タンパク質または0.01μM~1μMのヘビ毒ホスホジエステラーゼI(SVP)の非存在下(-)または存在下(+)で調製した。試料を室温で24時間インキュベートし、ニトロセルロースメンブレンにブロットした。検出はNluc-eAf1521で行った。図4cは、ポリADPリボシル結合体とPAR化YFP-GAPの相互作用の図である。250nMのCFP融合タンパク質を、500nMのYFPまたは500nMのYFP-GAP(PAR)と100μMのADPリボースまたは2.5μMの自動修飾PARP2の非存在下または存在下で混ぜた。レシオメトリックFRETシグナルを測定した。図4dは、1μMのCFP-SARS-CoV nsp3と5μMのYFP-GAP(MAR)のADPリボースとの競合における代表的な用量反応曲線の図である。図4eは、250nMのCFP-ALC1と500nMのYFP-GAP(PAR)のPAR化PARP2との競合における代表的な用量反応曲線の図である。
図5図5a~dは、ADPr結合を検出するために、様々なアッセイ技術が容易に利用できることを示す図である。図5aは、FRETによる相互作用の測定の図である。図4aに示したCFP-MDO2とYFP-Gαi(MAR)の200μMのADPリボースの非存在下(対照)または存在下でのレシオメトリックFRETシグナル。図5bは、BRETによる相互作用の測定の図である。200μMのADPリボースの非存在下(対照)または存在下でのNluc-MDO2とYFP-Gαi(MAR)のレシオメトリックBRETシグナル。図5cは、AlphaScreenによる相互作用の測定の図である。ビオチン化MDO2とHisタグ付きMAR化Gαを、ADPリボースの非存在下(対照)または存在下で、ストレプトアビジンドナービーズとキレートアクセプタビーズと混ぜた。発光シグナルはドナービーズの励起により検出した。図5dは、バイオレイヤー干渉法による相互作用の測定の図である。Hisタグ付きYFP-GAP(MAR)を光学センサー表面に結合させ、3.16μMのADPリボースの非存在下または存在下で、非標識MDO2タンパク質の会合(0秒)または解離(120秒)後のシグナル変化を測定した。
図6図6a~fは、CFPタグ付きSARS-CoV-2 nsp3マクロドメインを用いたYFP-GAP(MAR)プローブに基づくスクリーニングアッセイの開発についての図である。図6aは、CFP-SARS-CoV-2を用いたスクリーニングアッセイのシグナル検証の図である。1μMのSARS-CoV-2を200μMのADPリボースの非存在下または存在下で5μMのYFP-GAP(MAR)と混ぜ、Z’-ファクター0.7を算出した。図6bは、ENZO FDA承認薬ライブラリのスクリーニングの図である。1つの化合物が30%以上の阻害を示し、さらなる検証に移された。図6cは、ヒット化合物スラミンの構造の図である。図6dは、スラミンを用いた用量反応曲線が、FRETベースのSARS-CoV-2 nsp3マクロドメインに対し8.7μMのIC50を示す図である。図5eは、DSFによる、スラミンがSARS-CoV-2 nsp3マクロドメインの安定化を示すことを示す図である。図5fは、本研究で用いたヒトおよびウイルスのADPリボシル結合体に対するスラミンの阻害プロファイルの図である。阻害率は、YFP-GAP(MAR)またはYFP-GAP(PAR)と混ぜたCFP融合結合体のレシオメトリックFRETシグナルに基づいて計算した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「MAR化」と「PAR化」の両方を含む「ADPリボシル化」は、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)を含むADPリボシルトランスフェラーゼ、ARTC1-6のようなアルギニン特異的エクト酵素、および多くの細菌毒素などの酵素によって触媒される。ADPリボシルトランスフェラーゼの例としては、ヒトではPARP、細菌では細菌毒素DarTがある。
【0017】
「MAR化」とは、ADPリボシル化によってタンパク質または核酸上に単一のモノ(ADPリボース)(MAR)基が転移する場合を意味する。
【0018】
「PAR化」とは、ADPリボシル化によってタンパク質または核酸上に複数のADPリボース(ADPr)基が転移する場合を意味する。
【0019】
「PARPファミリー酵素」または「PARP」という用語は、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)を指し、ADPリボースの標的タンパク質への転移を触媒する能力を共有する関連酵素ファミリーである。PARPは、クロマチン構造の調節、転写、複製、組換えおよびDNA修復など、様々な細胞内プロセスにおいて重要な役割を果たしている。
【0020】
本明細書において、「Gαサブユニット」または「Gαi」という用語は、膜結合型ヘテロ三量体Gタンパク質であるGタンパク質の3種類のサブユニット(すなわち、アルファ(α)、ベータ(β)、ガンマ(γ)サブユニット)のうちの1つを指す。Gタンパク質はグアニンヌクレオチド結合タンパク質としても知られ、細胞内で分子スイッチとして働き、細胞外の様々な刺激から細胞内部へのシグナル伝達に関与するタンパク質ファミリーである。ヒトGαサブユニットの配列例をSEQ ID NO:4に示す。
【0021】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために、本明細書では互換的に使用される。前記用語は、天然に存在するアミノ酸ポリマーと同様に、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の類似体または模倣体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。ポリペプチドは、糖タンパク質を形成するために、例えば、炭水化物残基の付加によって修飾することができる。用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、糖タンパク質および非糖タンパク質を含む。
【0022】
「信号」という用語は、本明細書ではあらゆる物理的または化学的効果を指す。信号は、例えば、蛍光、発光、比色または電気的な発光信号であってもよいが、このリストは限定的なものではない。
【0023】
「発光タンパク質」または「発光標識」という用語は、励起の際に吸収されたエネルギーの一部を、非熱起源のエネルギーを持つ光子の形で放出する性質を持つ実体またはドメインを指す。そのため、励起された分子をより低いエネルギー状態へと不活性化させることを伴う。言い換えれば、発光分子とは、発光を発生させるために適切な物質に作用することができる分子である。有利には、発光タンパク質または標識は、青色、黄色または緑色に発光する性質を有する。発光タンパク質は、当業者に既知のものの中から選択することができる。
【0024】
「蛍光標識」とは、光エネルギーを吸収し(励起光)、非常に速く光子を放出することにより(放出光)、蛍光光の形で急速に復元する性質を持つ分子を指す。光子のエネルギーを吸収すると、分子は一般に電子的にエネルギーが与えられた状態になる。言い換えれば、それはフルオロフォアまたは蛍光色素である可能性がある。
【0025】
「FRET」という用語は、2つの発色団間で起こる蛍光共鳴エネルギー移動プロセスを指す。本明細書で使用される発色団は、例えば、蛍光性、発光性、および他の非蛍光性成分を含む。
【0026】
「BRET」という用語は、生物発光ドナー部分(すなわちBRETエネルギードナー)と蛍光アクセプタ部分(すなわちBRETエネルギーアクセプタ)の間の共鳴エネルギー移動(RET)を指す。
【0027】
本明細書で使用される「タグ」という用語は、その最も広い意味で理解されることを意味し、ビオチンタグ、HAタグ、Mycタグ、T7、Hisタグ、FLAGタグ、カルモジュリン結合タンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、strepタグ、KT3エピトープ、EEFエピトープ、緑色蛍光タンパク質およびそれらの変異体を含むがこれらに限定されない、任意の適切な酵素標識、蛍光標識、または放射性標識および適切なエピトープを含むがこれらに限定されない。「タグ」はまた、本発明のMAR化またはPAR化タンパク質のようなタンパク質を表面に結合および/または固定化する任意の手段であり得る。
【0028】
「ドメイン」という用語は、本明細書では、ポリペプチド中の機能的アミノ酸配列、例えば、融合タンパク質に組み込んでもその機能を保持する、結合のための配列または翻訳後修飾の標的部位を包含すると解釈することができる。本発明は、部位特異的システインADPリボシル化に基づくADPリボシルのリーダーおよびイレイサーの結合アッセイを簡単かつ効率的にセットアップできるin vitro研究のための系を提供する。我々はこの系を拡張し、ペプチドタグを有するC末端のタンパク質を、化学修飾したNAD類似体で修飾できることを実証した。この方法は、様々なin-vitroアッセイ系の開発に道を開くものである(図1)。スクリーニングへの応用可能性を示すため、我々は、SARS-CoV-2非構造タンパク質3のマクロドメインに対する結合アッセイを設定し、FDA承認薬であるスラミンが適度な阻害剤であることを同定した。
【0029】
具体的には、本発明は、ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出するための方法を対象とし、前記基またはポリマーはペプチドまたはタンパク質に共役し、前記方法は以下の:
i)第1の標識またはタグを含む第1の実体を提供するステップであって、前記実体は、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、ステップと;
ii)アッセイにおいて、前記第1の実体を第2の実体と接触させるステップであって、前記第2の実体は、ペプチドまたはタンパク質に共役したADPリボシル基またはそのポリマーに結合することができるか、またはできると考えられる、ステップと;
iii)前記第1の標識に由来するか、または前記タグによって局在化されるシグナルを測定するステップであって、前記第2の実体が前記第1の実体の少なくとも1つのADPリボシル基に結合している場合に検出されるシグナルが、前記第2の実体と前記ADPリボシル基の間の結合相互作用が生じていない場合に検出されるシグナルと異なるように、前記アッセイが配置される、ステップとを含む。
【0030】
好ましい実施形態において、前記アミノ酸配列は、Gタンパク質のGαサブユニット、好ましくはSEQ ID NO:4のC末端配列に対応するか、または前記GαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有し、好ましくは、前記GαサブユニットのC末端配列に対応するか、またはヘテロ三量体Gタンパク質のC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有する前記アミノ酸配列は、少なくとも4個、より好ましくは最大50、60、70、80、90、100、150、200、250または300アミノ酸長の配列またはペプチドである。
【0031】
別の好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのADPリボシル基と前記システイン残基との前記S-グリコシドを介した共役は、百日咳毒素によって触媒され、ポリマーの場合には、好ましくはPARPファミリー酵素によって伸長される。
【0032】
さらなる好ましい実施形態において、前記第1の実体は、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応する少なくとも4アミノ酸長のC末端配列CGLF(SEQ ID NO:1)またはCGLY(SEQ ID NO:2)を含み、少なくとも1つのADPリボシル基が、S-グリコシド結合を介してSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2のシステイン(C)に共役する。
【0033】
特定の好ましい実施形態において、前記第1の実体は、C末端配列KXNLKXCGLX(SEQ ID NO:3)を含み、ここで、XはEまたはNであり、XはEまたはDであり、そしてXはFまたはYである。
【0034】
さらに好ましい実施形態において、前記第1の実体は、好ましくは、限定されるものではないが、発光性または蛍光性のタンパク質ドメインまたは実体を含む融合タンパク質である。
【0035】
さらに好ましい実施形態において、前記第1の実体は、限定されるものではないが、GSTタグまたはジゴキシゲニンタグのような結合または酵素タグを含む融合タンパク質である。
【0036】
特に好ましい実施形態において、前記第2の実体は、ペプチドもしくはタンパク質に共役した前記ADPリボシル基またはそのポリマーに結合することができる生体高分子を含む。
【0037】
さらに好ましい実施形態において、前記生体高分子は、限定されるものではないが、マクロドメイン、ADPリボシルアクセプタヒドロラーゼ(ARH)ファミリータンパク質、BRCA1 C末端(BRCT)ドメイン、ポリ(ADPリボース)結合亜鉛フィンガーモチーフ、およびポリADPリボースポリメラーゼ相同体の保存された球状WWEドメインからなる群より選択される。
【0038】
特定の好ましい実施形態において、前記第2の実体は第2の標識を含み、ステップiii)において、第1および第2の標識に由来するシグナルが測定され、ここで、前記第2の実体が前記第1の実体の前記少なくとも1つのADPリボシル基に結合している場合に検出されるシグナルは、前記第2の実体と前記ADPリボシル基の間の結合相互作用が生じていない場合に検出されるシグナルとは異なるか、または異なって局在化される。
【0039】
別の好ましい実施形態では、前記第1および第2の標識は、別個の発光または蛍光標識である。
【0040】
特定の好ましい実施形態において、阻害剤候補化合物もステップii)のアッセイに加えられ、前記阻害剤候補化合物は、前記第2の実体と前記第1の実体に結合した前記ADPリボシル基またはそのポリマーの間の結合相互作用を阻害することが知られているかまたは阻害すると考えられる。
【0041】
別の実施形態において、前記阻害剤候補化合物は、前記結合相互作用が、前記阻害剤候補化合物の存在下でのアッセイにおいて阻害され、前記阻害剤候補化合物の非存在下でのアッセイにおいて阻害されない場合、ADPリボシル結合の阻害剤であることが見出される。
【0042】
特定の好ましい実施形態において、本発明の方法は、以下の:
i)少なくとも1つのADPリボシル基がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む第1の発光性または蛍光性の融合タンパク質を提供するステップと;
ii)アッセイにおいて、前記第1の発光性または蛍光性の融合タンパク質を、ADPリボシル基を結合させることができる第2の発光性または蛍光性の融合タンパク質および阻害剤候補化合物と接触させるステップと;
iii)前記アッセイから発光または蛍光シグナルを測定するステップであって、前記第2の融合タンパク質が前記第1の融合タンパク質の少なくとも1つのADPリボシル基に結合している場合に検出されるシグナルは、前記第2の融合タンパク質と前記ADPリボシル基の間の相互作用が前記阻害剤候補化合物の存在によって阻害される場合に検出されるシグナルとは異なり、前記結合相互作用が、前記阻害剤候補の存在下でのアッセイでは阻害され、前記阻害剤候補の非存在下でのアッセイでは阻害されない場合、前記阻害剤候補化合物は、ADPリボシル結合の阻害剤であることが見出される、ステップとを含む。
【0043】
特定の好ましい実施形態において、前記第1および第2の融合タンパク質は、第1の融合タンパク質の蛍光タンパク質が、好ましくは、第2の融合タンパク質の蛍光タンパク質とは異なるように、以下の:GFP(「緑色蛍光タンパク質」)、YFP(「黄色蛍光タンパク質」)、CFP(「シアン蛍光タンパク質」)、eYFP(「増強黄色蛍光タンパク質」)、eCFP(「増強シアン蛍光タンパク質」)、それらの誘導体および変異体からなる群より選択される蛍光タンパク質を含む。
【0044】
さらに好ましい実施形態において、本発明の方法は、以下の:
-前記第1の標識またはタグに共役した実体を提供する初期ステップであって、前記実体は、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応する少なくとも4アミノ酸長のアミノ酸配列CGLF(SEQ ID NO:1)またはCGLY(SEQ ID NO:2)を含む初期ステップと;
-百日咳毒素を利用して、SEQ ID NO:1または2のシステイン残基に、NADまたはその類似体に由来する少なくとも1つのADPリボシル基を組み込んで、前記第1の実体を得る初期ステップと;
-任意に、前記第1の実体に共役した前記ADPリボシル基を、PARP酵素を使用してポリマーに伸長させる初期ステップとを含む。
【0045】
本発明はまた、ADPリボシル基またはそのポリマーへの結合を検出するためのキットを提供し、前記基またはポリマーはペプチドまたはタンパク質に共役し、前記キットは以下の
-第1の容器中の:第1の標識またはタグを含む第1の実体であって、該実体は、少なくとも1つのADPリボシル基がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、第1の実体と、
-第2の容器中の:第2の標識またはタグに共役した第2の実体であって、該第2の実体は、ペプチドまたはタンパク質に共役したADPリボシル基またはそのポリマーに結合可能である、第2の実体とを含む。
【0046】
キットの好ましい実施形態において、前記アミノ酸配列は、好ましくは、Gタンパク質のGαサブユニット、好ましくはSEQ ID NO.4のC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有し、より好ましくは、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有する前記C末端配列は、最も好ましくはSEQ ID NO:4のC末端配列またはそれに対して少なくとも75%の配列同一性を有する配列の、少なくとも4、より好ましくは最大50、60、70、80、90、100、150、200、250もしくは300アミノ酸長の配列もしくはペプチドである。
【0047】
別の好ましい実施形態では、前記第1および第2の標識は、限定されるものではないが、別個の発光または蛍光標識であり得る。
【0048】
特に好ましい実施形態において、前記第1の実体は、GSTタグまたはジゴキシゲニンタグのような結合または酵素タグを含む融合タンパク質である。
【0049】
特に好ましい実施形態では、前記第1および第2の実体は、限定されるものではないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)またはその誘導体もしくは変異体を含む融合タンパク質である。
【0050】
特定の好ましい実施形態において、前記第1の実体は、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応する少なくとも4アミノ酸長のアミノ酸配列CGLF(SEQ ID NO:1)またはCGLY(SEQ ID NO:2)を含み、少なくとも1つのADPリボシル基が、S-グリコシド結合を介してSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2のシステイン(C)に共役する。
【0051】
別の好ましい実施形態において、前記第1の実体は、C末端配列KXNLKXCGLX(SEQ ID NO:3)を含み、ここで、XはEまたはNであり、XはEまたはDであり、XはFまたはYである。
【0052】
特に好ましい実施形態において、前記第2の実体は、ペプチドまたはタンパク質に共役した前記ADPリボシル基またはそのポリマーに結合可能な生体高分子を含む。
【0053】
特定の好ましい実施形態において、前記生体高分子は、限定されるものではないが、マクロドメイン、ARHファミリータンパク質、BRCTドメイン、PAR結合亜鉛モチーフ、およびWWEドメインからなる群より選択される。
【0054】
本発明はまた、第1のドメインと第2のドメインとを含む融合タンパク質を提供し、前記第2のドメインは、Gタンパク質のGαサブユニット、好ましくはSEQ ID NO:4のC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して共役するシステイン残基を含む。
【0055】
前記融合タンパク質の好ましい実施形態において、前記C末端配列は、Gタンパク質のGαサブユニット、好ましくはSEQ ID NO:4のC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有し、少なくとも4アミノ酸長の配列またはペプチドである。
【0056】
別の好ましい実施形態において、前記第2のドメインの前記アミノ酸配列は、Gタンパク質のGαサブユニットのC末端配列に対応するアミノ酸配列CGLF(SEQ ID NO:1)またはCGLY(SEQ ID NO:2)を含み、少なくとも1つのADPリボシル基が、S-グリコシド結合を介してSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2のシステイン(C)に共役する。
【0057】
別の好ましい実施形態において、第2のドメインの前記アミノ酸配列は、C末端配列KXNLKXCGLX(SEQ ID NO:3)を含み、ここで、XはEまたはNであり、XはEまたはDであり、XはFまたはYである。
【0058】
前記融合タンパク質の別の好ましい実施形態において、前記第1のドメインは、好ましくは、以下の:GFP(「緑色蛍光タンパク質」)、YFP(「黄色蛍光タンパク質」)、CFP(「シアン蛍光タンパク質」)、eYFP(「増強黄色蛍光タンパク質」)、eCFP(「増強シアン蛍光タンパク質」)、それらの誘導体および変異体からなる群より選択される蛍光タンパク質である。
【0059】
本発明はさらに、以下の
i)第1のドメインと第2のドメインとを含む融合タンパク質であって、前記第2のドメインは、少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体がS-グリコシド結合を介して結合するシステイン残基を含むアミノ酸配列を含む、融合タンパク質と;
ii)好ましくは、マクロドメイン、ARHファミリータンパク質、BRCTドメイン、PAR結合亜鉛モチーフ、およびWWEドメインからなる群より選択される生体高分子であって、前記生体高分子は、前記融合タンパク質の前記少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体を特異的に認識する、生体高分子とを含む系であって;
前記系において、前記生体高分子は、前記生体分子と前記融合タンパク質が一緒に連結され共役体を形成するように、前記融合タンパク質の前記少なくとも1つのADPリボシル基またはその類似体に結合する、系を対象とする。
【0060】
前記系の好ましい実施形態において、前記第2のドメインは、Gタンパク質のGαサブユニット、好ましくはSEQ ID NO:4のC末端配列に対応するか、またはGタンパク質のGαサブユニットのC末端配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0061】
好ましい実施形態では、前記系は、該系内の前記共役体の存在を検出する手段を備える。前記手段は、好ましくは、発光および蛍光標識ならびにこれらの標識から信号を受信することができるデバイスの群より選択され得る。
【0062】
以下の実施例は、1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理を例示するものであるが、形態、使用法および実施の詳細において、発明能力を発揮することなく、また本発明の原理および概念から逸脱することなく、多数の変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。従って、以下に記載する特許請求の範囲による場合を除き、本発明を限定することを意図していない。
【0063】
本書では、「備える」および「含む」という動詞は、言及されていない特徴の存在を排除するものでも、要求するものでもない、開かれた限定として使用される。特許請求の範囲に記載された特徴は、特に明示しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。さらに、本書を通じて「一つ(a)」または「一つ(an)」、すなわち単数形の使用は、複数形を排除するものではないことを理解されたい。
【0064】
本明細書全体を通して、一実施形態またはある実施形態への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な箇所で「一実施形態において」または「ある実施形態において」という表現が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。例えば、約または実質的になどの用語を用いて数値に言及する場合、正確な数値も開示する。
【実施例
【0065】
材料と方法
クローニング
CFPまたはナノルシフェラーゼ融合タンパク質の発現コンストラクトを、配列およびライゲーションに依存しないクローニングによりpNIC28-CFPまたはpNH-Nlucにクローニングした。pNIC28-CFPおよびpNH-Nlucは、pNIC28-Bsa4またはpNH-TrxtのHis6-tagとTEVプロテアーゼ切断部位の間にCFPまたはナノルシフェラーゼの配列を挿入することにより調製した。他のタンパク質コンストラクトはpNIC28-BsaまたはpNIC-MBPベクターにクローニングした。
【0066】
タンパク質発現
プラスミドを大腸菌BL21(DE3)または大腸菌Rosetta2細胞に形質転換した。微量元素を含むTB(Terrific Broth)自己誘導培地(Formedium、英国、ノーフォーク、ハンスタントン)に8g/Lのグリセロールと抗生物質を添加し、LBで一晩培養した前培養物を1:100で接種した。OD600が約1になるまで、フラスコを37℃で振盪しながらインキュベートした。温度を18℃に設定し、一晩インキュベーションを続けた。4,200×g、30分間、4℃で遠心して細胞を回収した。ペレットを溶解バッファー(50mM HEPES pH7.5、500mM NaCl、15mM イミダゾール)に懸濁した。再懸濁した細胞は精製まで-20℃で保存した。
【0067】
タンパク質の精製
すべてのコンストラクトを、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって最初に精製した。細胞を解凍し、超音波処理で溶解した。溶解液を遠心分離し、上清を濾過して、溶解バッファーで平衡化しNi2+でチャージした5mL HiTrap HPカラムにロードした。カラムは、2-10カラム容量の溶解バッファーと、10-50mMのイミダゾールを含む2-10カラム容量の溶解バッファーで洗浄した。溶出は100-500mMのイミダゾールを含む溶出バッファーで行った。IMACの後、ほとんどのタンパク質についてさらにサイズ排除精製を行った。最終的に、タンパク質は0.04-3mMの濃度に濃縮し、その後分注し、液体窒素で瞬間凍結し、-70℃で保存した。
【0068】
モノおよびポリADPリボシル化Gαiタンパク質の調製
C末端のGαi-ペプチドタグを持つYFPをIMACで精製し、20mMのHEPES pH7.5、350mMのNaClで透析した。YFP-Gαiを50mMのリン酸ナトリウムバッファーpH7.0で100μMに希釈し、1.5μMの百日咳毒素の触媒S1ドメインおよび150μMのβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドナトリウムと混ぜた。反応物を室温で1時間インキュベートした。反応が完全であることを確認するために、2回目の150μMを反応物に加えた。インキュベーションを室温で1時間続けた。反応混合物をIMACカラムにロードして、百日咳毒素、加水分解産物および未反応のNADを除去した。IMACは、上記の精製手順で述べたように行った。バッファーを20mMのHEPES pH7.5、150mMのNaCl、0.5mMのTCEPに交換し、続いて、MAR化YFP-GαiをAmicon Ultra-15遠心フィルターユニット(MWCO:10kDa)を用いて約1mM濃度に濃縮した。このタンパク質を液体窒素で瞬間凍結し、-70℃で保存した。
【0069】
FRET実験用のPAR化YFP-Gαiを、MAR化YFP-Gαiから調製した。10μMのMAR化YFP-Gαiを、400nMのPARP2(残基90-583)と1mMのNADの存在下、50mMのTris[pH8.0]と5mMのMgCl2を含むバッファー中で室温で2時間インキュベートした。その後、反応した試料を上記のようにIMACを用いて精製して、PARP2を除去した。Amicon Ultra-15遠心フィルターユニット(MWCO:10kDa)を用いて、試料バッファーを30mMのHEPES[pH7.5]、150mMのNaCl、10%glycerol、0.5mMのTCEPに交換した。タンパク質を分注し、液体窒素で瞬間凍結し、-70℃で保存した。
【0070】
タンキラーゼ1のPAR化YFP-Gαiの生産のため、MAR化YFP-Gαiを200nMのタンキラーゼ1SAM触媒ドメイン二量体、1および10mMのNADと共に、10mMのビストリスプロパン[pH7.0]、0.01%Triton X-100を含むバッファー中でインキュベートした。反応は室温で16時間行った。
【0071】
ブロットベースのモノおよびポリADPリボシル化の検出
ドットブロット実験では、Echo650を用いて、試料溶液を乾燥ニトロセルロースメンブレンに1スポットあたり0.5μL移した。以下のステップはすべて室温で行った。スポットの乾燥後、メンブレンをTBS-T中の15mLの5%(w/v)脱脂粉乳で10分間シェーカー上でブロッキングした。ブロッキング溶液を捨て、メンブレンをTBS-T中の1%(w/v)脱脂粉乳中の0.1μg/mLのmpNanoluc-eAf1521 15mLとシェーカー上でインキュベートした。Nanoluc-eAf1521溶液を捨てた後、メンブレンを15mLのTBS-Tでリンスし、15mLのTBS-Tとともにシェーカー上で15分間インキュベートした。15mLのTBS-Tで最終リンス後、10mMのリン酸ナトリウムバッファーpH7.0で希釈した1:1000NanoGlo基質(Promega)500μLを用いてメンブレンを画像化した。
【0072】
ウエスタンブロットでは、まず10μLの試料をSDS-PAGE(Mini-Protean TGX 4-20%勾配ゲル、BioRad)にかけた。次に、TransBlotセミドライ系(BioRad)を用いて、タンパク質をニトロセルロースメンブレン(Trans-Blot Turbo、BioRad)に移した。移動後、メンブレンを上記のドットブロットと同じ手順で処理した。Nanoluc-eAF1521とNanoluc-ALC1は0.1μg/mLで使用した。
【0073】
Nluc-eAf1521とNluc-ALC1の感度と選択性の試験
自動PAR化TNKS1を作製するために、10μMのTNKS1コンストラクトを、50mMのビストリスプロパンpH7.0、0.01%TritonX-100、0.5mMのTCEP中で1mMのNADと混ぜた。PARを含まないTNKS1を含む対照を作製するために、TNKS1コンストラクトを2μMのヘビ毒ホスホジエステラーゼIと混ぜることにより、大腸菌中での組換え発現中に生じた部分的な自己PAR化を除去した。
【0074】
6-ビオチン-17-NADによるYFP-Gαiの修飾試験
10μMのYFP-GαiまたはYFP-Gαi(変異体)を1μMのNADまたは6-ビオチン-17-NAD(Biolog)と混ぜた。反応物は0.5μMのPtxS1の非存在下または存在下で調製し、室温で1時間インキュベートした後、乾燥ニトロセルロースメンブレンにブロッティングした(乾燥ニトロセルロースメンブレンに試料溶液を1スポットあたり0.5μL、Echo650を使用)。メンブレンを乾燥させた後、15mLのブロッキングバッファー(TBS中1%カゼイン、BioRad)中で10分間シェーカー上でブロッキングした。ブロッキング溶液を捨て、ブロッキングバッファー中の1:5000のストレプトアビジン-HRP15mLとともに1時間シェーカー上でインキュベートした。ストレプトアビジン-HRP溶液を捨てた後、メンブレンを15mLのTBS-Tでリンスし、15mLのTBS-Tとともにシェーカー上で15分間インキュベートした。最後に15mLのTBS-Tでリンスした後、メンブレンをECL溶液(BioRad)を用いて画像化した。
【0075】
6-Parg-NADとCuAACによる添加のCy3およびCy5アジドでのYFP-Gαiの修飾試験
YFP-Gαi(6-PARG-MAR)を、NADの代わりに6-PARG-NADを用いて、YFP-Gαiについて上述したように調製した。CuAACによるYFP-Gαi(6-PARG-MAR)へのCy3/Cy5の添加を試験するために、15μMのYFP-Gαi(6-PARG-MAR)またはYFP-Gαi(MAR)を10mMのアスコルビン酸ナトリウム、50μMのCy3-アジドまたはCy5-アジド、および予め混ぜた300μMのCuSO4と600μMのL-ヒスチジンと混ぜることにより、25mMのHEPES pH7.5中で反応物を調製した。さらに、タンパク質を含まない対照も調製した。反応物は室温で3時間インキュベートした後、ニトロセルロースメンブレンにブロットした(1スポットあたり5μL)。メンブレンを15mLのTBS-Tで30分間洗浄し、画像化した。蛍光イメージングは、Azure600イメージング系(Azure Biosystems)を用い、それぞれCy3またはCy5フィルター設定を用いて行った。
【0076】
FRET測定
試料を410nMで励起し、477nMと527nMの波長での発光を測定した。レシオメトリックFRET値(rFRET)を、527nmでの蛍光強度を477nmでの蛍光強度で割ることにより算出した。実験はアッセイバッファー(10mMのビストリスプロパンpH7.0、3%(w/v)PEG20,000、0.01%(v/v)TritonX-100および0.5mMのTCEP)中で、特に断りのない限り1ウェルあたり10μLの容量で行った。
【0077】
BRET測定
反応を384ウェルの白色OptiPlates(PerkinElmer)で行った。反応量は1ウェルあたり40μLを用いた。50nMのNluc-MDO2を1μMのMAR化YFP-Gαiと混ぜた。1:4000のNanoGlo基質(Promega、カタログ番号N1110)を加えることにより反応を開始した。反応物を5分間インキュベートし、発光を波長445-470nMおよび520-545nMでTecan Spakマルチモードプレートリーダーを発光リードアウト、セットタイム10ms、積分時間100ms)で用いて測定した。レシオメトリックBRET値(rBRET)は、520-545nMの発光強度を445-470nMの発光強度で割って算出した。実験は、アッセイバッファー(10mMのビストリスプロパンpH7.0、3%(w/v)PEG20,000、0.01%(v/v)TritonX-100、0.5mMのTCEP)中で行った。
【0078】
アルファスクリーン
反応を、384ウェルのフラットグレイAlphaplate(PerkinElmer)を用い、総容量25μLで行った。反応物は、(25mMのHEPES pH7.5、100mMのNaClおよび0.1mg/mLのBSA)を含むバッファー中で300nMのBio-MDO2と混ぜた300nMのHisタグGαi(MAR)からなった。プレートを密封し、300rpmで一定に振とうしながら、RTで80分間インキュベートした。最後に、5μg/mLのニッケルキレートアクセプタとストレプトアビジンドナービーズをプレートに加え、さらに3時間インキュベートした。プレートにはブランクウェル(アッセイバッファーとAlphaScreenビーズのみ)、対照1(Bio-MDO2、His-Gαi)および対照2(Bio-MDO2、修飾His-Gαi、ADPr)が含まれた。発光は、AlphaScreen検出モジュール付きTecan infinite M1000Proプレートリーダーを用いて読み取った。
【0079】
バイオレイヤー干渉法
バイオレイヤー干渉法(BLI)アッセイを、Octet Red系(Forte Bio)において、10mMのビストリスプロパン[pH7.0]、150mMのNaCl、1%BSA、0.02%TritonX-100を含むバッファー中で、30℃、1500rpmで振とうしながら行った。10μg/mLのYFP-GαiまたはMAR化YFP-GαiをNi2+-NTAコートセンサーにロードし、その後バッファー中での洗浄ステップを続けた。MDO2への会合は、センサーを0-2μMのMDO2を含む溶液に120秒間浸漬することで測定し、解離ステップではセンサーをバッファーに120秒間浸漬した。
【0080】
ADPリボース競合実験では、10μg/mLのYFP-GαまたはMAR化YFP-GαをNi2+-NTAコートセンサーにロードした。会合させるために、センサーを半対数希釈系列のADPr(10nMから10μM)と混ぜた100nMのMDO2に120秒間浸漬し、次に解離ステップのためにバッファーに移した。
【0081】
システイン-ADPリボシル加水分解アッセイ
すべての試料を、ブロッティングの前に室温で24時間インキュベートした。1μMのCFP融合タンパク質、または0.01、0.1、1μMのSVPを、10mMのHEPES pH7.5、25mMのNaCl、0.5mMのTCEP中で、10μMのMAR化YFP-Gαiと混ぜた。インキュベーション後、1スポットあたり0.5μLの反応混合物を、10μMのMAR化YFP-Gαiの0.5μLスポットの隣にブロットした。対照として、10μMの非MAR化YFP-Gαiを10μMのMAR化YFP-Gαiの隣にブロットした。
【0082】
FDA承認薬ライブラリの付随的スクリーニング
スクリーニングのために、FDA承認薬ライブラリ(Enzo Life Sciences)からDMSOに溶解した10mM化合物ストック40nLを384ウェル黒色低容量ポリプロピレンプレート(Fisherbrand)に移した。1μMのCFP-SARS-CoV-2 nsp3マクロドメインと5μMのMAR化YFP-Gαiを含む試料混合物をアッセイバッファー(10mMのビストリスプロパンpH7.0、3%(w/v)PEG20,000、0.01%(v/v)TritonX-100、および0.5mMのTCEP)中で調製し、Mantis(Formulatrix)を用いてウェルあたり20μLを分注した。5分間のインキュベーション後、rFRETシグナルを測定した。200μMのADPリボース存在下または非存在下の試料混合物を、それぞれポジティブ対照およびネガティブ対照として使用した。
【0083】
DSFによるスラミン結合の検証
タグのないSARS-CoV-2 nsp3マクロドメインを10mMのHEPES pH7.5、25mMのNaCl、0.5mMのTCEPバッファーで5μMに希釈し、5x SYPRO Orangeと混ぜた。試料は10μM、50μM、100μMまたは1mMのスラミンで調製した。1mMのADPリボースの存在下または非存在下の試料を対照として使用した。試料を96ウェルqPCRプレートに移した。測定はBioRad C1000 CFX96サーマルサイクラーで行った。融解曲線のデータポイントを、20-95℃まで1分間隔で記録し、温度は1℃/分で上昇させた。データの解析は、正規化データの非線形回帰分析(Boltzmannシグモイド方程式)を用いてGraphPad Prism 7で行った。
【0084】
実施例1.ツールボックス研究用タンパク質の初期調製
本研究で用いたタンパク質はすべて大腸菌で組換え生産した。ブロットベースの方法でADPリボシル化を検出するツールとして、最近報告されたADPリボシルスーパー結合体eAf1521(Nowak et al., 2020)をナノルシフェラーゼ付き融合たんぱく質として産生した。このタンパク質は、モノおよびポリADPリボシル化タンパク質を高感度に検出するためのシンプルで迅速なワンステッププロトコールで機能することがわかった(図2cおよび2d)。
【0085】
百日咳毒素によるGαiのモノADPリボシル化は、修飾が1残基で明確に定義され、システインを用いて安定なS-グリコシド結合を生成するので、ADPリボシルとの結合を調べるのに適したプローブとなると考えた。モノADPリボシル化Gαiプローブを作製するために、YFPと融合したGαiの10アミノ酸C末端ペプチドのみを修飾する百日咳毒素の能力を、全長Gαi変異体と比較して試験した(図2a)。その結果、融合ペプチドを効果的に修飾できることがわかった。
【0086】
次に、GαiペプチドにポリADPリボシル鎖を導入することを目指した。我々は、先に修飾したGαiペプチドのモノADPリボシル基が、PARP酵素によるポリADPリボースへの伸長の起点になると考えた。反応条件を最適化した結果、PARP2はいずれもポリADPリボシル化Gαiコンストラクトを生成できることがわかった(図2b)。
【0087】
実施例2.NAD類似体で部位特異的に標識するためのタグとしてのGαiペプチド
Gαiペプチドタグを用いれば、アクセス可能なC末端を備えるタンパク質をADPリボースで部位特異的に標識することができるが、この系を拡張すれば、タンパク質のC末端に化学的なNAD類似体を導入できると考えた。多くのNAD類似体がすでに存在し、ビオチン化、蛍光性およびクリックケミストリー対応のNAD類似体などが商業的に利用可能である。我々はまず、ビオチン化NAD類似体を用いたYFP-Gαi-ペプチドタグ付きタンパク質の修飾をテストした。部位特異的修飾は、ストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼを用いたドットブロットを用いて検出した(図3a)。
【0088】
さらに、銅(I)触媒によるアジド基のアルキン-アジド環化付加反応を可能にする、6-プロパルギルアデニン-NADによるYFP融合Gαiペプチドタグ修飾を試験した(図3b)。ドットブロットにより、6-プロパルギルアデニン-NADで修飾したGαiペプチドを含むタンパク質には、蛍光色素Cy3およびCy5を含むアジド基を付加することができたが、カノニカルNADで修飾したGαiペプチドにはCy3およびCy5を付加することができなかった。
【0089】
実施例3.確認されたADPリボシル結合体および潜在的なADPリボシル結合体との結合の評価
MAR化Gαiとの結合を試験するために、27種類のタンパク質の組を選択した。これらのタンパク質をCFPとの融合体として大腸菌で組換え生産し、MAR化YFP-Gαiコンストラクトとの結合の際のレシオメトリックFRETシグナルを試験した(図4a)。相互作用を競合させるために、200μMのADPリボースを含むMAR化YFP-Gαiと同様に対照として非MAR化YFP-Gαiコンストラクトを用いた。FRETシグナルが高いほど、結合パートナーの占有率が高く、したがって結合親和性が高いことに相関するが、蛍光体の距離および向きにも影響される。我々は、ADPリボースと結合することが以前に報告されているタンパク質が、対照と比較して高いFRETシグナルを示し、MAR化プローブと結合していることを示すことを見出した。ARH1は低親和性でADPリボースと結合することが知られており、これがこのコンストラクトのFRETシグナルを測定できなかった理由であろう。3つのヒストンマクロドメイン、マクロH2A1.1、マクロH2A1.2およびマクロH2A2はすべて非常に類似した配列同一性を持つが、マクロH2A1.1だけがADPリボースと結合する能力を持つ。これは、マクロH2A1.1だけが対照よりも高いFRETシグナルを示すという我々の観察と一致している。
【0090】
システイン-ADPリボシル基への結合は、試験されたADPリボシル結合タンパク質のいくつか、あるいは大部分にとって生理学的意義はないだろうと予想される。O-またはN-グリコシド結合したADPリボースのいずれかに対して高い特異性を示すと考えられる結合体がないことと、システイン硫黄が結合を阻害しないことが確認されたADPリボシル結合タンパク質のいずれにおいても確認されたことは、驚きである。
【0091】
システイン-ADP-グリコシルヒドロラーゼ活性はヒト赤血球とミトコンドリアで検出されたが、システイン-ADPリボースのS-グリコシド結合を加水分解する能力を持つヒトの特異的酵素は今のところ同定されていない。上記のCFP融合コンストラクトをモノADPリボシル化YFP-Gαiと混ぜ、24時間のインキュベーション後にドットブロットを用いてADPリボースの加水分解を試験した(図4b)。ヘビ毒ホスホジエステラーゼIを含む対照では、ADPリボース二リン酸結合の切断によるシグナルの消失が見られたが、試験したタンパク質はいずれも、試験した条件下ではS-グリコシド結合を加水分解できなかった。これらの発見は、MDO1、TARG1、ARH3またはSARS-CoV-2 nsp3のようなO-またはN-グリコシド結合を加水分解できるタンパク質のADPリボシル結合を測定するためのこの系の汎用性を強調するものである。次に、ポリADPリボシル基を含むYFP-Gαiと混ぜた場合のCFP融合ポリADPリボシル結合体のレシオメトリックFRETシグナルを試験した(図2b)。ポリADPリボシル結合体は、PAR化YFP-GαiとのレシオメトリックFRETシグナルが対照よりも増加したことから、MAR基ではなくPARとの結合が示唆された(図4c)。代表的なモノまたはポリADP結合体の用量反応曲線は、良好なシグナル品質を示す(図4d、図4e)。
【0092】
我々は上記のADPリボシル結合の試験にFRETを用いたが、MAR化Gαiとの結合は異なる結合技術でも測定できることを示した。このためにMDO2をタンパク質例として利用した。FRET測定を目的としたCFP融合MDO2とMAR化YFP-Gαiの結合(図5a)と同様に、Nanoluc融合MDO2を用いて、MAR化YFP-Gαiの相互作用時にBRETシグナルを発生させた(図5b)。
【0093】
ADPリボシルのリーダーまたはイレイサー用のAlphaScreenプロトコールは存在するが、AlphaScreen技術に適応した我々の系を用いれば、そうでなければ加水分解するMDO2ドメイン(図5c)の例で示したように、潜在的にどのようなリーダーやイレイサーでも、MAR化Gαiへの結合を直接プローブすることができる。
【0094】
我々はさらに、近年、低分子化合物のスクリーニング法として普及しているバイオレイヤー干渉法(BLI、図5d)を用いて結合を示した。この方法では、解離定数などの速度論的結合パラメーターを簡単に定量化することもできる。
【0095】
実施例4.SARS-CoV-2 nsp3マクロドメインに対する阻害剤のスクリーニング
COVID-19のパンデミックに関する現状に鑑み、我々はSARS-CoV-2 nsp3のマクロドメインに対する低分子阻害剤のスクリーニングにこの結合系が適用できることを実証することにした。現在、世界中の研究者がこのマクロドメインに対する阻害剤を見出そうと努力している。コロナウイルスのnsp3マクロドメインはウイルスの複製に重要であることが示されており、低分子阻害剤はSARS-CoV-2(COVID-19)および他のウイルスによる感染症に対する治療薬として有望であり得る。
【0096】
384ウェルプレートにおいて、CFP融合SARS-CoV-2 nsp3マクロドメインとMAR化YFP-Gαiを200μMのADPリボースの非存在下および存在下で混合することにより、交互に陽性および陰性対照のFRETシグナルの質を評価した(図6a)。SARS-CoV-2マクロドメインはADPリボースとの結合親和性が比較的低いと報告されているが(Kd=17μM)、それでもシグナルは陽性対照と陰性対照で十分な分離を示すことを発見した。Z’-ファクターは0.7と計算され、このアッセイがハイスループットスクリーニングに適していることが示された。
【0097】
化合物濃度20μMで、640個の低分子化合物を含むENZO FDA承認薬物ライブラリに対してスクリーニングを行った(図6b)。スクリーニングより、スラミンという化合物のみが82%の阻害率でヒットとみなされ、FRETベースのアッセイで試験したところ、SARS-CoV-2 nsp3マクロドメインに対するIC50は8.7μMであった(図6c、図6d)。この化合物のSARS-CoV-2 nsp3マクロドメインへの結合を確認するため、DSF解析を行ったところ、濃度依存的にタンパク質の安定化が示された(図6e)。興味深いことに、スラミンは広帯域の抗ウイルス薬および抗寄生虫薬として使用されており、細胞培養ベースのモデルにおいてはSARS-CoV2感染を阻害することが報告されている。スラミンに関連する文献を調べたところ、DNAおよびRNAポリメラーゼからサーチュイン、ATPアーゼおよびGタンパク質共役受容体まで、多くの標的タンパク質を阻害することが報告されており、標的特異性が低いことがわかった。次に、本研究で生産されたウイルスとヒトのADPリボースリーダーとイレイサーの阻害について、スラミンを試験した(図6f)。当然のことながら、スラミンは試験したタンパク質の多くに対して10μMでも強い阻害を示し、この化合物の標的特異性が低いことが確認された。
【0098】
〔参考文献〕
Nowak K、Rosenthal F、Karlberg T、Butepage M、Thorsell A-G、Dreier B、Grossmann J、Sobek J、Imhof R、Luescher B、Schuler H、Pluckthun A、Leslie PedriolDM、Hottiger MO.(2020)Engineering Af1521 improves ADP-ribose binding and identification of ADP-ribosylated proteins. Nat. Commun. 11:5199、https://doi.org/10.1038/s41467-020-18981-w
TeloniF and Altmeyer M.(2016)Readers of poly(ADP-ribose): designed to be fit for purpose. Nucleic Acids Res. 44:993-1006、doi: 10.1093/nar/gkv1383
Wazir S、MaksimainenmM、Alanen HI、Galera-Prat A、Lehtioe L.(2021)Activity-Based Screening Assay for Mono-ADP-Ribosylhydrolases. SLAS Discovery 26:67-76、doi: 10.1177/2472555220928911
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2024519737000001.app
【国際調査報告】