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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】熱交換器のチューブシート監視方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 27/00 20060101AFI20240514BHJP
   F28F 9/16 20060101ALI20240514BHJP
   F28D 7/16 20060101ALI20240514BHJP
   F28G 15/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F28F27/00 511G
F28F9/16
F28D7/16 A
F28G15/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570043
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 US2022028282
(87)【国際公開番号】W WO2022240723
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】63/186,931
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・エス・デコルシー
(72)【発明者】
【氏名】キシュレイ・トリパシー
【テーマコード(参考)】
3L065
3L103
【Fターム(参考)】
3L065CA01
3L065CA11
3L065CA17
3L103AA31
3L103BB01
3L103DD02
(57)【要約】
シェルアンドチューブ式装置は、典型的には、定期的な保守を必要とする。本明細書では、保守作業中に個々のチューブの状態を追跡し、レビューと分析のために状態データを記録するための自動化方法を説明する。状態データは、任意に、リアルタイムの要約形式で報告でき、及び/又は完了までの時間を予測するために使用できる。本発明の方法は、作業漏れを最小化し、シェルアンドチューブ式反応器及び熱交換器を含むシェルアンドチューブ式装置において保守作業を実施する経費を削減するのに役立つ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
行(R)及び列(C)の固定パターンで配列された複数のチューブ端部を備えるチューブシートの監視方法であって、次の工程:
(a)前記複数のチューブ端部のそれぞれに固有識別子を割り当て、
(b)前記チューブシートの少なくとも一部のデジタル画像(D)を取得時間(T)で取得し、
(c)前記デジタル画像内の前記チューブ端部のそれぞれについての属性の状態を決定し;及び
(d)前記デジタル画像内の前記各チューブ端部のデータを関係データベースに記録すること
を含み、前記データは、
i.前記取得時間(T)、
ii.前記チューブ端部の固有識別子、及び
iii.取得時間(T)での属性の状態
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記複数のチューブ端部のそれぞれに割り当てられた固有識別子が、(行、列)形式のデカルト座標のセットである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(b)~(d)を複数回実施する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記チューブシートに、可視光スペクトル、赤外スペクトル又は紫外線スペクトル内の光の波長を放出する少なくとも1個の光源を照射することをさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記チューブシートの少なくとも一部が少なくとも1台のデジタルカメラの視野内に位置するように、前記少なくとも1台のデジタルカメラを配置する工程をさらに含み、前記取得工程を、前記少なくとも1台のデジタルカメラを使用して実行する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1台のデジタルカメラが、可視光スペクトル、赤外スペクトル又は紫外(UV)スペクトルのうちの1つ以上から選択される光の波長を検出する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記属性が、次の少なくとも1つを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法:
a)前記チューブ端部内又は前記チューブ端部上に設置されたマーカーの視覚的外観、
b)前記チューブ端部内の粒状物質の輝度、
c)前記チューブ端部内の粒状物質の質感、
d)前記チューブ端部から放出される赤外光の周波数、
e)前記チューブ端部から放射される紫外線の周波数、及び
f)前記チューブ端部から反射する紫外線の周波数。
【請求項8】
前記デジタル画像(D)を取得するために少なくとも1個の非接触測距装置(NRD)を利用し、前記方法は、前記チューブシートの少なくとも一部が前記少なくとも1個のNRDの測定範囲内に入るように、前記少なくとも1個のNRDを配置することを含み、前記取得工程が、
i.前記少なくとも1個のNRDを使用して複数の距離測定値を収集し、及び
ii.前記複数の距離測定値の少なくとも一部を前記デジタル画像(D)として表現すること
を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1個のNRDが、レーダー装置、ソナー装置、レーザー走査(LiDAR)装置及び電子線装置よりなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記チューブシートが熱交換器の一部を構成し、前記熱交換器が、凝縮器、リボイラー、予熱器、ボイラー、過熱器、クエンチ交換器、トランスファーラインエクスチェンジャー(TLE)、蒸発器、廃熱ボイラー、レキュペレーター、クロスエクスチェンジャー及びプロセスヒーターのうちの1つである、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記チューブシートが、シアン化水素又は窒素酸化物のいずれかを製造するための反応系の一部を構成する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記チューブシートが原子炉の一部を構成する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記関係データベースに記録されたデータの少なくとも一部を使用して、表、グラフ、スプレッドシート及び色分けされた要約グラフィックのうちの1つ以上を作成する工程をさらに含む、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
行及び列の固定パターンに配列された複数のチューブ端部を備えるチューブシートを含むシェルアンドチューブ式装置について、保守作業中に前記シェルアンドチューブ式装置の状態を監視するための方法であって、次の工程:
(a)前記チューブ端部のそれぞれに固有識別子を割り当て;
(b)少なくとも2つの可能な状態を持つ属性を選択し;
(c)前記チューブシートの少なくとも一部の初期デジタル画像(Di)を取得時間(Ti)で取得し;
(d)前記初期デジタル画像(Di)内の前記チューブ端部のそれぞれについての属性の初期状態を決定し;
(e)前記初期デジタル画像(Di)内の前記各チューブ端部について、関係データベースに初期データレコードを作成すること
を含み、前記初期データレコードは、
i.前記初期取得時間(Ti)、
ii.前記チューブ端部の固有識別子、及び
iii.前記初期取得時間(Ti)での属性の初期状態
を含む、前記方法。
【請求項15】
次の工程をさらに含む、請求項14に記載の方法:
(f)前記チューブシートの少なくとも一部の後のデジタル画像(Dx)を後の取得時間(Tx)で取得し(ここで、Tx>Tiである)、
(g)前記後のデジタル画像(Dx)内の各チューブ端部についての属性の後の状態を決定し、
(h)前記後のデジタル画像(Dx)内の各チューブ端部について、前記関係データベースに後のデータレコードを作成し、ここで、前記後のデータレコードは、
i.前記後の取得時間(Tx)、
ii.前記チューブ端部の固有識別子、
iii.前記後の取得時間(Tx)での前記属性の後の状態
を含み、及び
(i)前記保守作業が完了するまで前記工程(f)~(h)を繰り返すこと。
【請求項16】
前記シェルアンドチューブ式装置が化学変換を実施するために利用され、前記化学変換が、
i.プロピレンからアクロレイン及び/又はアクリル酸への転化;
ii.プロパンからアクロレイン及び/又はアクリル酸への転化;
iii.グリセリンからアクロレイン及び/又はアクリル酸への転化;
iv.t-ブタノール、イソブテン、イソブタン、イソブチルアルデヒド、イソ酪酸、又はメチルt-ブチルエーテルからメタクロレイン及び/又はメタクリル酸への転化;
v.アクロレインからアクリル酸への転化;
vi.メタクロレインからメタクリル酸への転化;
vii.o-キシレン又はナフタレンから無水フタル酸への転化;
viii.ブタジエンから無水マレイン酸への転化;
ix.n-ブタンから無水マレイン酸への転化;
x.インダンからアントラキノンへの転化;
xi.エチレンからエチレンオキシドへの転化;及び
xii.プロピレンからプロピレンオキシドへの転化
よりなる群から選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記シェルアンドチューブ式装置が、エチレンから1,2-ジクロロエタン(EDC)へのオキシ塩素化を実施するために利用される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項18】
前記関係データベースに格納された1以上のデータを使用して、表、グラフ、スプレッドシート及び色分けされた要約グラフィックのうちの1つ以上を作成する工程をさらに含む、請求項14~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
保守作業についてのパフォーマンスメトリクスを作成する工程をさらに含み、前記パフォーマンスメトリクスの作成工程が、前記パフォーマンスメトリクスを計算し、表、グラフ、スプレッドシート又は色分けされた要約グラフィックに表示することを含む、請求項14~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
行及び列の固定パターンで配列された複数のチューブ端部を備えるチューブシートを含むシェルアンドチューブ式装置について、保守作業中に前記シェルアンドチューブ式装置の状態を監視するための光学的方法であって、次の工程:
(a)前記チューブ端部のそれぞれに固有識別子を割り当て、
(b)前記チューブシートの少なくとも一部が少なくとも1台のデジタルカメラの視野内に入るように、前記少なくとも1台のデジタルカメラを配置し、
(c)前記チューブ端部上に複数の着色されたチューブキャップを配置し、前記複数のチューブキャップは、第1の色を有するチューブキャップと、前記第1の色とは異なる第2の色を有するチューブキャップとを備え、
(d)前記チューブシートの少なくとも一部の初期デジタル画像(Di)を取得時間(Ti)で取得し、
(e)前記初期デジタル画像(Di)内の前記チューブ端部のそれぞれの初期色を決定し、及び
(f)前記初期デジタル画像(Di)内の各チューブ端部について、関係データベースに初期データレコードを作成すること
を含み、前記データレコードは、
i.前記初期取得時間(Ti)、
ii.前記チューブ端部の固有識別子、及び
iii.前記初期取得時間(Ti)での前記チューブ端部についての初期色
を含む、前記方法。
【請求項21】
次の工程をさらに含む、請求項20に記載の方法:
(g)前記複数のチューブ端部の1個以上から着色されたチューブキャップを取り外し、及び/又は前記複数のチューブ端部の1個以上に着色されたチューブキャップを取り付け、
(h)前記チューブシートの少なくとも一部の後のデジタル画像(Dx)を後の取得時間(Tx)で取得し(ここで、Tx>Tiである)、
(i)前記後のデジタル画像(Dx)内の前記チューブ端部のそれぞれについての後の色を決定し、
(j)前記後のデジタル画像(Dx)内の前記チューブ端部のそれぞれについて、前記関係データベースに後のデータレコードを作成し、ここで、前記後のデータレコードは、
i.前記後の取得時間(Tx)、
ii.前記チューブ端部の固有識別子、及び
iii.前記後の取得時間(Tx)での前記チューブ端部の後の色
を含み、及び
(k)前記保守作業が完了するまで前記工程(g)~(j)を繰り返すこと。
【請求項22】
前記関係データベースに格納されたデータレコードの1つ以上を使用して、表、グラフ、スプレッドシート及び色分けされた要約グラフィックのうちの1つ以上を作成する工程をさらに含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記表、グラフ、スプレッドシート及び色分けされた要約グラフィックスのうちの前記1つ以上を少なくとも1つのディスプレイに送信することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記保守作業の完了までの時間を予測することをさらに含む請求項20~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
行及び列の固定パターンで配列された複数のチューブ端部を備えるチューブシートを含むシェルアンドチューブ式装置について、粒状触媒装填作業中に前記シェルアンドチューブ式装置の状態を監視するための光学的方法であって、次の工程:
(a)前記チューブシート上に、前記チューブ端部の全てが覆われるように複数の塞ぎ板を配置し、前記各塞ぎ板のそれぞれは、着色インジケータディスクを設置するためのディスク凹部を備え、
(b)前記複数の塞ぎ板のそれぞれに固有識別子を割り当て、
(c)前記複数の塞ぎ板の少なくとも一部が少なくとも1台のデジタルカメラの視野内に位置するように、前記少なくとも1台のデジタルカメラを配置し、
(d)前記ディスク凹部に複数の着色インジケータディスクを設置し、前記複数の着色インジケータディスクは、第1の色を有する少なくとも1つのディスクと、前記第1の色とは異なる第2の色を有する少なくとも1つのディスクとを備え、
(e)前記複数の塞ぎ板の少なくとも一部の初期デジタル画像(Di)を初期取得時間(Ti)で取得し、
(f)前記初期デジタル画像(Di)内の前記着色インジケータディスクのそれぞれ初期色を決定し、及び
(g)前記初期デジタル画像(Di)内の各塞ぎ板について関係データベースに初期データレコードを作成すること
を含み、前記データレコードは、
i.前記初期取得時間(Ti)、
ii.前記塞ぎ板の固有識別子、及び
iii.前記初期取得時間(Ti)での前記着色インジケータディスクについての初期色
を含む、前記方法。
【請求項26】
次の工程をさらに含む、請求項25に記載の方法:
(h)前記1つ以上のディスク凹部に着色インジケータディスクを取り付け、及び/又は前記1つ以上のディスク凹部から着色インジケータディスクを取り外し、
(i)前記複数の塞ぎ板の少なくとも一部の後のデジタル画像(Dx)を後の取得時間(Tx)で取得し(ここで、Tx>Tiである)、
(j)前記後のデジタル画像(Dx)内の前記着色インジケータディスクのそれぞれの後の色を決定し、
(k)前記後のデジタル画像(Dx)内の前記それぞれの塞ぎ板について、前記関係データベースに後のデータレコードを作成し、ここで、前記後のデータレコードは、
i.前記後の取得時間(Tx)、
ii.前記塞ぎ板の固有識別子、及び
iii.前記後の取得時間(Tx)での前記着色インジケータディスクの後の色
を含み、及び
(l)前記触媒充填作業が完了するまで前記工程(h)~(k)を繰り返すこと。
【請求項27】
前記シェルアンドチューブ式装置が、シェルアンドチューブ式反応器、タンデム反応器、単一チューブ反応器、又は単一シェル開放段間反応器(SSOI)である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記関係データベースに格納された1つ以上のデータレコードを使用して、表、グラフ、スプレッドシート及び色分けされた要約グラフィックのうちの1つ以上を作成することをさらに含む、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記触媒充填作業の完了までの時間を予測することをさらに含む、請求項26~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
次の工程:
1つ以上の作業空間パラメータを測定し、
前記作業空間パラメータの測定値を前記関係データベースに記録し、及び
任意に、前記作業空間パラメータ測定値を視覚ディスプレイに表示すること
をさらに含む、請求項1~29のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器のチューブシートを監視する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シェルアンドチューブ式熱交換器は、数百本から数千本のチューブを備えることがある。典型的には、シェルアンドチューブ式熱交換器は、信頼性の高い安全な運転を確保するために、個々のチューブの洗浄や点検などの定期的な保守を必要とする。さらに、シェルアンドチューブ式反応器では、最適な生産性を得るために定期的な触媒交換が必要となる。多数のチューブが存在するため、保守作業には多大な人件費と長時間のプロセス停止時間が必要となる。そのため、このような作業を迅速かつ効率的に行うことに対して、強い経済的インセンティブがある。さらに、シェルアンドチューブ式反応器内での触媒の設置には、正確な装填規格の遵守が要求される。シェルアンドチューブ式反応器内のチューブごとに保守作業を適切に実施しないと、コストのかかるプロセスのダウンタイム、装置の損傷、及び反応器内の触媒寿命の短縮につながる可能性がある。本明細書では、保守作業中に個々のチューブの状態を追跡し、レビュー及び分析のための状態データを記録する自動化方法を説明する。状態データは、必要に応じて、リアルタイムの要約形式で報告され、及び/又は完了までの時間を予測するために使用される。本発明の方法は、作業漏れを最小化し、シェルアンドチューブ式反応器を含めたシェルアンドチューブ式熱交換器において保守作業を実施する費用を削減するのに役立つ。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の一態様によれば、例えば、行(R)及び列の固定パターンで配列された複数のチューブ端部を備えるチューブシートの監視方法が提供される。この方法は、次の工程:
(a)前記複数のチューブ端部のそれぞれに固有識別子を割り当て;
(b)前記チューブシートの少なくとも一部のデジタル画像(D)を取得時間(T)で取得し;
(c)前記デジタル画像内の前記チューブ端部のそれぞれについての属性の状態を決定し;及び
(d)前記デジタル画像内の前記各チューブ端部のデータを関係データベースに記録すること
を含み、前記データは、
i.前記取得時間(T)、
ii.前記チューブ端部の固有識別子、及び
iii.取得時間(T)での属性の状態
を含む。
【0004】
本発明の別の態様によれば、保守作業中にシェルアンドチューブ式装置の状態を監視するための方法であって、次の工程:
(a)前記チューブ端部のそれぞれに固有識別子を割り当て;
(b)少なくとも2つの可能な状態を持つ属性を選択し;
(c)前記チューブシートの少なくとも一部の初期デジタル画像(Di)を取得時間(Ti)で取得し;
(d)前記初期デジタル画像(Di)内の前記チューブ端部のそれぞれについての属性の初期状態を決定し;
(e)前記初期デジタル画像(Di)内の前記各チューブ端部について、関係データベースに初期データレコードを作成すること
を含み、前記初期データレコードは、
i.前記初期取得時間(Ti)、
ii.前記チューブ端部の固有識別子、及び
iii.前記初期取得時間(Ti)での属性の初期状態
を含む。
【0005】
本発明のさらに別の態様によれば、保守作業中にシェルアンドチューブ式装置の状態を監視するための光学的方法であって、次の工程:
(a)前記チューブ端部のそれぞれに固有識別子を割り当て;
(b)前記チューブシートの少なくとも一部が少なくとも1台のデジタルカメラの視野内に入るように、少なくとも1台のデジタルカメラを配置し;
(c)前記チューブ端部上に複数の着色されたチューブキャップを配置し、前記複数のチューブキャップは、第1の色を有するチューブキャップと、前記第1の色とは異なる第2の色を有するチューブキャップとを備え;
(d)前記チューブシートの少なくとも一部の初期デジタル画像(Di)を取得時間(Ti)で取得し;
(e)前記初期デジタル画像(Di)内の前記チューブ端部のそれぞれの初期色を決定し;及び
(f)前記初期デジタル画像(Di)内の各チューブ端部について、関係データベースに初期データレコードを作成すること
を含み、前記データレコートは、
i.前記初期取得時間(Ti)、
ii.前記チューブ端部の固有識別子、及び
iii.前記初期取得時間(Ti)での前記チューブ端部についての初期色
を含む。
【0006】
本発明のさらに別の態様によれば、粒状触媒装填作業中にシェルアンドチューブ式装置(例えば、反応器)の状態を監視するための光学的方法であって、次の工程:
(a)前記チューブシート上に、チューブ端部の全てが覆われるように複数の塞ぎ板を配置し、前記各塞ぎ板は、着色インジケータディスクを設置するためのディスク凹部を備え;
(b)前記複数の塞ぎ板のそれぞれに固有識別子を割り当て;
(c)前記複数の塞ぎ板の少なくとも一部が少なくとも1台のデジタルカメラの視野内に位置するように、少なくとも1台のデジタルカメラを配置し;
(d)前記ディスク凹部に複数の着色インジケータディスクを設置し、前記複数の着色インジケータディスクは、第1の色を有する少なくとも1つのディスクと、前記第1の色とは異なる第2の色を有する少なくとも1つのディスクとを備え;
(e)前記複数の塞ぎ板の少なくとも一部の初期デジタル画像(Di)を初期取得時間(Ti)で取得し;
(f)前記初期デジタル画像(Di)内の前記着色インジケータディスクのそれぞれ初期色を決定し;及び
(g)前記初期デジタル画像(Di)内の各塞ぎ板について関係データベースに初期データレコードを作成すること
を含み、前記データレコードは、
i.前記初期取得時間(Ti)、
ii.前記塞ぎ板の固有識別子、及び
iii.前記初期取得時間(Ti)での前記着色インジケータディスクについての初期色
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、シェルアンドチューブ式装置を監視するためのシステムを示す。
図2A図2Aは、水平方向に配置されたシェルアンドチューブ式熱交換器の例示的な実施形態を示す。
図2B図2Bは、図2Aの熱交換器のチューブシートの1つを示す。
図3A図3Aは、縦向きのシェルアンドチューブ式熱交換器の別の例示的な実施形態を示す。
図3B図3Bは、図3Aの熱交換器のチューブシートの1つを示す。
図4図4は、図3Aの熱交換器の各チューブで得られた(又は得られなかった)差圧測定値を視覚化したものを示す。
図5図5は、図3Aの熱交換器のチューブシートに適用される塞ぎ板を示す。
図6図6は、画像取り込み及びデータ収集プロセスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
(A)シェルアンドチューブ式装置を監視するためのシステム
図1は、シェルアンドチューブ式装置110を監視するためのシステム100を示す。シェルアンドチューブ式装置110は、必ずしもシステム100の一部を構成するものではないが、その端部に取り付けられたチューブシート114を含む中空シェル112(その一部が示されている)を備える。チューブシート114は、それを貫通して画定される一連の孔116を有する。チューブ118はそれぞれの孔116に取り付けられ、中空シェル112内に配置される。シェル112は、チューブ118を明確にするために切り離されて示されている。チューブ118の端部119は孔116を通して露出している。チューブ118とそれぞれの孔/通路は、図示されたように円形、正方形、長方形などであってもよい。
【0009】
システム100は、一般に、孔116の上方に配置される撮像装置120を備える。撮像装置120は、孔116を見るため、又はより一般的には孔116を検出するために構成される。以下により詳細に説明するように、撮像装置120は、例えば、1台のカメラを備えることができる。あるいは、撮像装置120は、孔116を異なる角度及び視角で見るための複数の撮像装置120a、120bを備えていてもよい。撮像装置120は静止していてもよい。あるいは、撮像装置120は、X-Y-Z平行移動ステージ、X-Y平行移動ステージ、又は孔116に対して撮像装置120を移動させるための車両などの移動装置122に取り付けられていてもよい。
【0010】
撮像装置120は、チューブ端部119の色、状態及び/又は位置(例えば)に関するデータをコンピュータ124に通信するように構成されている。コンピュータ124は、画像プロセッサ126と、メモリ128と、クロック130と、プログラミングソフトウェア132と、関係データベース134(他の特徴の一部)とを備えることができる。プロセッサ126は、後述するように、チューブ端部119に関連するデータを分析するように構成される。コンピュータ124は、後述するように、分析されたデータを表示するためのディスプレイ140に接続されている。ディスプレイ140と、撮像装置120と、コンピュータ124との相互接続は、例えば、有線又は無線のいずれであってもよい。
【0011】
システム100及び装置110に関連するさらなる詳細及び別の特徴については、以下で説明する。
【0012】
(B)シェルアンドチューブ式装置
シェルアンドチューブ式装置110を図1に概略的に示す。シェルアンドチューブ式装置110は、図2A及び図3Aに示すように熱交換器の一部を構成することができる。次に、図2A及び図3Aのシェルアンドチューブ式熱交換器200及び300を参照すると、熱交換器200及び300は、概して、中空内部を画定するシェル112と、中空内部内に配置されたチューブ118とを備える。
【0013】
背景として、シェルアンドチューブ式熱交換器は、産業界で使用される一般的なタイプの熱交換器である。シェルアンドチューブ式熱交換器は、円筒形のシェル112の内側に取り付けられた1本以上の伝熱チューブ118という2つの主要部品からその名が付けられている。シェルアンドチューブ式熱交換器の目的は、2つの流体間で熱を伝達することである。各流体は液体でも気体でもよい。工業的実施では、これらの流体の少なくとも一方が液体の水又は蒸気のいずれかであることが一般的である。
【0014】
シェルアンドチューブ式熱交換器200、300内では、一方の流体がチューブ118の内部を流れ(「チューブ側流体」という)、他方の流体がチューブ118の外側を流れるが、ただしシェル112内を流れる(「シェル側流体」という)。熱交換器は、2つの流体が互いに直接接触しないように構成される。熱は、チューブ118の壁を通してチューブ側からシェル側に、又はその逆に流れることによって、一方の流体から他方の流体に伝達される。熱を効率的に伝達するために、1つの交換器に数百本から数千本のチューブ118(集合的に「チューブバンドル」)を使用することができる。
【0015】
シェルアンドチューブ式熱交換器200及び300は、1つ以上のチューブシート、ヘッド、及び任意にバッフル、タイロッド、スペーサ、伸縮継手などの他の構成要素も備える。特に、チューブシート114a、114b、114c及び/又は114d(集合的に又は個別的にチューブシート114という)は、シェル112の端部に取り付けられる。チューブシート114は、平面状の対向面を有するプレート又は鍛造物であり、チューブ118が挿入される孔116を備える。チューブシート114の必要な厚さは、主として、特定のシェルアンドチューブ式交換器の運転圧力の関数である。チューブ118の端部は、シェル側の流体がチューブ側の流体と混合されないように、溶接、又は機械的若しくは液圧膨張によってチューブシート114に固定される。
【0016】
チューブ118の形状によって、必要なチューブシート114の数が決まる。図1図2A及び図3Aのようにストレートチューブを使用する場合には、2枚のチューブシート114が必要となることがある。あるいは、チューブ118が「U」の字型に曲げられている場合(U字管として知られている)には、1枚のチューブシート114しか必要でない場合がある。
【0017】
チューブシート114の孔116は、典型的には、三角形又は正方形の2つの幾何学的構成のうちの1つに配置される。チューブシート114は、「チューブピッチ」と呼ばれる隣接チューブ118間の一定の中心間距離を利用する。このような構成の均一性は、交換器の設計及び構造を単純化する。一般的なチューブピッチは、チューブ118の外径の1.25倍である。三角形構成(図3B参照)は、高い伝熱性とコンパクト性を得るために使用されることが多いのに対し、四角形構成(図2B参照)は、一般的には、シェルからチューブバンドルを定期的に取り出してチューブの外面を洗浄する必要がある保守点検のために好ましい。
【0018】
シェルアンドチューブ式熱交換器には、チューブ側の流体を収容し、熱交換器を通る所望の流路を確保するために、ヘッド220が必要である。典型的には、各チューブシート114には対応するヘッドが存在する。略円筒形状を有するヘッドは、「チャネル」222(図2A参照)と呼ばれ、略ドーム形状を有するヘッドは「ボンネット」224(図2A及び図3A参照)と呼ばれる。場合によっては、ヘッドは、チューブ側の流体の流れを特定のチューブを介して導くために、1個以上のパス仕切り板228(図2A)を組み込んでもよい。これらの場合、チューブシート114aの表面は、仕切り板228及び関連するシールガスケットを安定化させるために溝230(図2B)をさらに含んでいてもよい。ヘッド220は、定位置で溶接されてもよいし、フランジを用いてシェル112に取り付けられてもよい。取り外し可能なカバー230(図2A)を備えたフランジ付きボンネット又は溝は、保守点検のためにチューブシート114及びチューブ118へのアクセスを与える必要がある場合に好ましい。
【0019】
シェルアンドチューブ式熱交換器200、300は、産業界で幅広く使用されており、例を挙げると、発電、工業用冷凍、石油化学処理などで使用されている。シェルアンドチューブ式熱交換器は、水平方向(図2A)又は垂直方向(図3A)に設置できる。慣例として、工業施設内では、シェルアンドチューブ式熱交換器は、そのプロセス機能に基づいて命名される。例えば、シェルアンドチューブ式熱交換器の典型的な工業用途としては、凝縮器、リボイラー、予熱器、ボイラー、過熱器、クエンチ交換器、トランスファーラインエクスチェンジャー(TLE)、蒸発器、廃熱ボイラー、レキュペレーター、クロスエクスチェンジャー、及びプロセスヒーターが挙げられる。例えば、工業用冷凍システムは蒸発器及び凝縮器の両方を構成することがあり、石油化学蒸留システムはリボイラーと凝縮器の両方を構成することがある。
【0020】
シェルアンドチューブ式熱交換器に関する詳しい情報は、Perry’s Chemical Engineers’ Handbook,第6版,2008、特に第11節のHeat-Transfer Equipment及び関連する図11-1及び11-2に記載されている。このハンドブックは、参照により、その全体が全ての目的のために本明細書で援用される。
【0021】
(C)シェルアンドチューブ式装置の別の用途
シェルアンドチューブ装置110は、以下に説明するような他の産業用装置/プロセスシステムに組み込むこともできる。
【0022】
原子力発電所の蒸気発生器として、例えば米国特許第4,200,061号に開示されているようなU字チューブバンドルを備える高強度シェルアンドチューブ式熱交換器が使用されることがある。
【0023】
シェルアンドチューブ式装置は、(メタ)アクリル酸の精製に使用される落下式フィルム溶融晶析装置のような落下式フィルム交換器に組み込むことができる。
【0024】
シェルアンドチューブ式装置は、米国特許第6,960,333号に開示されているような、シアン化水素又は窒素酸化物などの温度に影響を受けやすい生成物を反応ゾーンから出る際に急速に冷却するために使用される密接に連結されたクエンチ交換器として反応システムに組み込むことができる。上記米国特許は、その全体が参照により本明細書において援用される。同様に、トランスファーラインエクスチェンジャー(TLE)は、高温プロセスガスを、エチレン炉から出るときに急速に冷却するために使用される。
【0025】
化学製造産業では、シェルアンドチューブ式装置110は化学反応器としても利用されることがある。これらのいわゆる「シェルアンドチューブ式反応器」(「固定床反応器」としても知られている)内では、チューブ側流体は、典型的には、1種以上の化学生成物に転化される化学反応物を含む。一般に、商業規模のシェルアンドチューブ式反応器は、1,000~50,000本のチューブを備え、かつ、直径1メートル~10メートルの範囲のチューブシートを有する大型の装置である。このような規模では、これらのシェルアンドチューブ式反応器のヘッドは、作業者が物理的に入って作業を行うのに十分な大きさの容積を容易に取り囲むことができ、シェルアンドチューブ式反応器が垂直に配向されている場合(図3Aに示されるように)、上部チューブシート114cの上部平面が、取り囲まれた作業領域のための事実上の「床」となり得る。
【0026】
シェルアンドチューブ式反応器のチューブ内には、所望の化学生成物の生成を促進するために、1種以上の粒状触媒が配置されることが多い。シェルアンドチューブ式反応器のシェル側に伝熱流体を通すことにより、チューブ側の反応温度を厳密に制御して、生成物の収率を最大化し、触媒の寿命を延ばすことができる。独自のチューブ構成及びシェル側バッフルの設計を利用して、温度制御をさらに最適化することもできる。
【0027】
シェルアンドチューブ式反応器内で実施される化学変換は、発熱反応(熱を放出する反応)又は吸熱反応(熱を吸収する反応)である。例えば炭化水素の酸化反応のような高発熱反応の場合、シェル側流体として溶融無機塩、ケロシン又は有機熱媒体(例えばDOWTHERM(商標))などの高沸点流体を使用することが一般的である。また、化学反応に使用される高温及び高圧での安全な操作を確保するため、チューブ及びチューブシートのカスタム機械設計の特徴及び特殊な構造材料も典型的に使用される。
【0028】
アクリル酸の製造は、反応器としてシェルアンドチューブ式装置を使用する商業的炭化水素酸化プロセスのよく知られた一例である。この化学変換は、まずプロピレンが中間体であるアクロレインに酸化され、次にアクロレインがさらにアクリル酸に酸化される2つの連続的な発熱反応工程を伴う。この2段階の酸化プロセスを促進するために、多数の固体混合金属酸化物(MMO)粒状触媒が開発されており、これらの触媒の製造方法は文献によく記載されている。反応器内では、反応器のチューブに1種以上の粒状触媒を装填することによって固定触媒床が組み立てられる。プロセスガスがチューブ内を流れると、当該ガスがMMO触媒粒子と直接接触し、反応熱がチューブ壁を通してシェル側冷却材に伝達される。
【0029】
現在、プロピレンからアクリル酸への商業規模プロセスは、シェルアンドチューブ式反応器の3つの主要な構成:タンデム反応器、単一反応器シェル(SRS)反応器及び単一シェルオープンインターステージ(SSOI)反応器の一つを使用する。一つの群として、これらの商業用シェルアンドチューブ式反応器は、単一の反応容器内において約12,000本から約22,000本までのチューブを備え、100kT/年(220,000,000ポンド/年)までのアクリル酸の生産能力を有することがある。ある種の大規模商業用反応器は、単一の反応容器内において25,000本から約50,000本までのチューブを備え、250kT/年(550,000,000ポンド/年)までの生産能力を有する。米国特許第9,440,903号には、アクロレイン及びアクリル酸を製造するためのこれら3つの反応器の構成及び能力のそれぞれについて説明されている。当該米国特許は参照により本明細書において援用される。
【0030】
エチレンオキシドの製造は、反応器としてシェルアンドチューブ式装置を使用する商業用プロセスの別の例である。シェルアンドチューブ式装置110は、例えば12,000本までのチューブを備える商業用エチレンエポキシ化反応器の形で提供される場合がある。これらのチューブには、典型的には、銀と、さらにレニウム、タングステン、モリブデン及びクロムなどの助触媒成分とを含むエポキシ化触媒が充填され、冷却剤が反応器のシェル側を通って循環される。米国特許第4,921,681号並びに米国特許出願公開第2009/0234144号及び2014/0135513号を参照されたい。これらはそれぞれ参照によりその全体が本明細書において援用される。
【0031】
エチレンから1,2-ジクロロエタン(EDCとしても知られる)へのオキシ塩素化は、シェルアンドチューブ式装置を使用する化学プロセスのさらに別の例である。このプロセスにおいて、シェルアンドチューブ式装置110内のチューブには、典型的には、塩化第二銅を含む粒状触媒(いわゆる「ディーコン」触媒)が充填され、冷却剤が反応器のシェル側を通って循環される。いくつかの実施形態において、オキシ塩素化反応システムは、直列に配置された2つ以上のシェルアンドチューブ式装置を備えることができる。米国特許第6,180,841号、米国特許第3,892,816号、及び米国特許第5,905,177号を参照されたい。これらはそれぞれ参照によりその全体が本明細書において援用される。
【0032】
まとめると、他の多くの商業的に重要な気相触媒反応は、プロピレンからアクロレイン及び/又はアクリル酸への転化(上記);プロパンからアクロレイン及び/又はアクリル酸への転化;グリセリンからアクロレイン及び/又はアクリル酸への転化;t-ブタノール、イソブテン、イソブタン、イソブチルアルデヒド、イソ酪酸、又はメチルt-ブチルエーテルからメタクロレイン及び/又はメタクリル酸への転化;アクロレインからアクリル酸への転化;メタクロレインからメタクリル酸への転化;o-キシレン又はナフタレンから無水フタル酸への転化;ブタジエン又はn-ブタンから無水マレイン酸への転化;インダンからアントラキノンへの転化;エチレンからエチレンオキシドへの転化(上記);プロピレンからプロピレンオキシドへの転化;イソブテン及び/又はメタクロレインからメタクリロニトリルへの転化;及びエチレンから1,2-ジクロロエタンへのオキシ塩素化(上記)を含めて、シェルアンドチューブ式反応器で実施される。
【0033】
(D)シェルアンドチューブの保守
シェルアンドチューブ式装置には多数のチューブ118があるため、それぞれのシェルアンドチューブ式装置の保守点検作業を完了するためには多大な時間を要する。また、保守タスクの状況及び進捗状況を追跡するのも大変である。作業漏れ及び作業ミスも大きな問題となる。
【0034】
本明細書で使用するときに、用語「作業漏れ」とは、チューブ118の特定の保守タスクの不履行を意味する。例えば、作業者が意図せずにチューブを飛ばしてしまい、その結果、チューブの洗浄、検査、触媒の充填が行われなくなる可能性がある。作業漏れの発生確率は、シェルアンドチューブ式装置内のチューブの数が多いほど、また保守作業の期間が長いほど高くなる。多くのプロセス所有者は、一般に、(a)作業を行う労働者の継続的な監視/監督、又は(b)作業が「完了」した後の100%検査などの工程を通してのみ、作業漏れを防止できると考えている。本明細書に記載された本発明の方法は、機能的に、作業を実行する労働者の継続的な監視/監督を提供し、100%検査の必要性を最小限に抑える。
【0035】
これに対して、「作業ミス」とは、あるタスクを行ったが、その質が不十分であった、又はそのタスクを部分的にしか完了できなかったことをいう。作業ミスの例としては、不適切に較正されたプローブでチューブ壁の厚さを測定したこと、長さ20フィートのチューブの最初の15フィートのみしか錆を除去しなかったこと、又はチューブに不適切なタイプの触媒を充填したことが挙げられる。作業ミスは、シェルアンドチューブ式装置内のチューブの数に比較的影響されにくい傾向がある。さらに、作業ミスは、一度に多数のチューブに影響を与えることが多い。例えば、全てのチューブに、触媒ドラムの同一の不適切なパレットから供給された材料を充填するような場合である。本発明の方法で作業漏れに対処することにより、効率が改善され、また、作業ミスの防止のためにより多くの監督リソースを利用できるようになる。
【0036】
シェルアンドチューブ式装置のチューブに対して実施できる保守作業は数多くある。保守作業には、1回以上の多工程タスクが含まれることがあり、これらのタスクは、典型的には、シェルアンドチューブ式装置内の各チューブに対して及びチューブ毎に繰り返される。本発明の方法を使用して有益に監視できる保守作業の例としては、次の作業が挙げられるが、これらに限定されない:
a)検査
i.清浄度及び/又は機械的損傷のビデオ検査
ii.厚さ測定(例えば渦電流検査)
iii.閉塞したチューブの特定(例えば低流量チューブのIR検出)
iv.反射紫外線検査による有機汚染の特定
b)洗浄
i.サンドブラスト
ii.CO2ペレットブラスト
iii.ハイドロブラスト
iv.液体窒素ブラスト
v.穿孔
vi.ワイヤーブラッシング
vii.ピギング
viii.コークス堆積物の除去
c)補修
i.チューブとチューブシートとの溶接部の再溶接
ii.チューブの機械的な栓。
【0037】
反応器として使用されるシェルアンドチューブ式装置の場合、保守作業には、触媒交換に関連する作業も含まれることがある。本発明の方法を使用して有益に監視され得る触媒の交換作業の例としては、次の作業が挙げられるが、これらに限定されない:
a)例えば「エアランス」、フィッシュテープ、又はバキュームホースを使用した、チューブからの触媒の除去、
b)チューブが空であることを目視で確認すること(すなわち「ライトチェック」)、
c)チューブへの伝熱インサートの設置、
d)触媒スプリング又は触媒クリップなどの触媒リテーナの設置、
e)セラミック又は金属不活性粒子のチューブへの装填、
f)1層以上の触媒をチューブに充填すること、
g)触媒床目減りの測定、及び
h)触媒充填圧力損失(dP)の測定。
【0038】
(E)シェルアンドチューブ式装置の監視方法
行(R)及び列(C)の固定パターンで配置された複数のチューブ端部を備えるシェルアンドチューブ式装置110を監視するための1つの例示的な方法によれば、この方法は、次の一般的な工程を含む:
a)前記複数のチューブ端部のそれぞれに固有識別子を割り当て、
b)前記チューブシートの少なくとも一部のデジタル画像(D)を取得時間(T)で取得し、
c)前記デジタル画像(D)内のチューブ端部のそれぞれについて属性の状態を決定し、ここで、当該属性は少なくとも2つの可能な状態を有し、
d)前記デジタル画像(D)内の各チューブ端部について関係データベースにデータを記録し、前記データは、取得時間(T)、チューブ端部の固有識別子、及び取得時間(T)での属性の状態を含み、及び
e)任意に、前記関係データベースに格納された記録データを使用して、表、グラフ、スプレッドシート、又は色分けされた要約グラフィックのうちの1つ以上の形式でレポートを作成すること。
【0039】
ここで、図1に示すシステム100を使用する例示的な方法の個々の工程を参照すると、撮像装置120は、チューブシート114の上面のチューブシート画像を収集する(すなわち、取得する)。チューブシート114は、積極的に照明されてもよいし、されなくてもよい。撮像装置120(例えば、デジタルカメラ)は、チューブ端部119の特定の列に最初に位置合わせされていてもよく、されなくてもよい。画像を収集する際、撮像装置120は、チューブシート114の状態を表す開口部を通して受光し、その光を一セットのデジタル測定値に変換する。
【0040】
取得された測定データは、配列としてフォーマットされるが、ここではデジタル画像として知られている。その後、チューブシート114のデジタル画像は、Wi-Fi、LAN/PoE(Power over Ethernet)配線、光ファイバーなどを介して、コンピュータ124のプロセッサ126に転送される。
【0041】
コンピュータ124のソフトウェア132は、デジタル画像内に見える各チューブ端部119に固有のチューブ識別子を作成する。まず、画像処理ソフトウェアが各チューブ端部119の幾何学的中心を特定する。次に、固有識別子が画像配列内の各中心の(x,y)位置に割り当てられる。好ましくは、各チューブの固有識別子は、チューブシートの製造図面で使用される行及び列の指定に対応する(行、列)形式のデカルト座標のセットとして提供される。このようにして、ソフトウェア132は、画像配列においてどのチューブを表示しているかを知ることができ、チューブのそれぞれを一意に識別することができる。
【0042】
画像処理ソフトウェアは、次の工程を実行することにより、チューブ端部119の幾何学的中心の位置を特定することができる:
i.OpenCV又はMatlab(登録商標)ソフトウェア内のCHT(Circle Hough Transform)関数及び/又はCannyエッジ検出アルゴリズムを使用して、画像配列内の全ての幾何学的関心領域(すなわち、円形チューブ端部)を特定する。なお、これらの関数を使用するために、ソフトウェア内に特定のコマンドがある。コマンドは、配列内の円の中心座標(x、y)のみならず円の半径も表す変数を戻す。
ii.画像配列座標をチューブシートについての既知の寸法データと整合させ、特定された円形チューブ端部をチューブシート図面に対応付ける。この工程は、チューブシートの図面を方向付けるために画像内のベンチマークを利用することによって容易になる場合があることに留意されたい。
iii.図面内のそれぞれのチューブの固有チューブ識別子(行、列)を、画像配列内の各円中心(x,y)位置座標と関連付ける。
チューブシート114は静止部品であるため、一般に画像処理装置に対して動くことはなく、その結果、配列内の各円中心の位置は変化せず、このマッピング工程は一度だけ実行すればよい。
【0043】
ソフトウェア132がチューブ端部119を関連付けると、ソフトウェア132は、次に、キャニーエッジ検出、円ハフ変換、色検出などの公知の画像処理アルゴリズムを使用する様々なルーチンの間に画像配列を操作する。各ルーチンの後、各チューブ端部119(又はチューブ端部の群)の処理済みデジタルデータが関係データベース134に格納される。
【0044】
これらのルーチンの多くについて、プロセッサ126は、各チューブ端部119の中央付近に位置するサンプルウィンドウ内のデジタルデータのみを分析することができ、このサンプルウィンドウは、例えば、9ピクセルのみを含む3×3の領域によって表される場合がある。このようにして、画像の大きな領域をマスクアウト(すなわち、無視)して画像処理を高速化することができる。
【0045】
次に様々なルーチンに目を向けると、デジタル画像内のデータは、画像内の各チューブ端部119に関する属性の詳細を決定するために処理される。一般に、属性は、形状、色、強度、及び/又は質感などの画像内の特徴である。各属性は、一般に、1つ以上の特定の状態の有無によって説明できる。識別子及びその属性の詳細を含む各チューブに関するタイムスタンプ付きデータは、後の分析のために関係データベース134(SQLソフトウェア等)に格納される。一実施形態では、タイムスタンプはユリウス日付形式で提供される。
【0046】
本明細書において画像メタデータと呼ばれる追加的な画像情報も、関係データベースに格納することができる。画像メタデータは、GPS座標、カメラ番号、職務記述(例えば、「2020年7月検査」)、及び/又はシェル及びチューブ式装置I.D.を含んでいてもよい。
【0047】
ワークスペースパラメータも、後述するように、関係データベースに格納することができる。特に、前述したように、商業規模のシェルアンドチューブ式反応器は、直径1~10メートルの範囲のチューブシートを有することがある。このような規模では、これらのシェルアンドチューブ式反応器のヘッドは、1人以上の作業者が物理的に入るのに十分な大きさの容積を容易に取り囲むことができ、産業界では「閉鎖作業空間」として知られているものを創り出すことができる。保守作業中に、触媒の損傷を防ぎ、反応器内の錆の発生を最小限に抑え、作業者を潜在的な危険から守るために、このような閉鎖作業空間内の環境を制御することがある。そのため、保守作業を行う際には、閉鎖作業空間の環境をより適切に制御するために、1つ以上の作業空間パラメータを測定することが有益な場合がある。
【0048】
例えば、好ましい内部温度を維持するため、及び/又は反応器内の相対湿度を制御するために、気候制御された空気(加熱又は冷却)を閉鎖作業空間に供給できる。一実施形態では、1個以上の温度測定装置を、気候制御システムのダクト内及び/又は閉鎖作業空間内に配置することができる。別の実施形態では、内部の相対湿度(%RH)を連続的に監視するために、1個以上のWi-Fi対応センサを閉鎖作業空間内に一時的に配置することができる。その後、タイムスタンプ付き温度測定値及び/又はタイムスタンプ付き%RH測定値を、有線又は無線手段を通じてコンピュータ124に自動的に通信し、関係データベース134に格納し、任意に視覚ディスプレイ140に表示させる。
【0049】
別の例では、携帯型ガス分析計を使用して閉鎖作業空間の大気を継続的に監視し、有害ガスの存在を検出し(いわゆる「有毒ガス検知器」を使用)、十分な酸素濃度が維持されていることを確認し(いわゆる「酸素計」を使用)、及び/又は引火性の危険性を監視(いわゆる「LELモニター」を使用)することができる。従来、このような大気の監視作業は、「ホールウォッチ」として知られる個人によって行われ、分析計の測定データは、典型的には紙のログシートに手書きで記録されている。しかし、好ましい実施形態では、このようなガス分析器からのタイムスタンプ付きタグ器測定値は、有線又は無線手段を通じてコンピュータ124に自動的に通信され、関係データベース134に記録され、任意に視覚ディスプレイ140に表示されてもよい。
【0050】
安全規則に従い、典型的には、閉鎖作業空間内の作業者数を追跡し、緊急避難の際にその人数を把握する必要がある。従来、この作業も「ホールウォッチ」によって行われ、やはり典型的には手書きのログシートを使用している。しかし、好ましい実施形態では、例えばDensity Entry Sensor(米国カリフォルニア州サンフランシスコのDensity Inc.から入手可能)のような1つ以上のLiDAR装置を、反応器ヘッド内の作業者用通路などの出入り口の上に取り付けて作業空間に出入りする要員を自動的に追跡することができる。タイムスタンプ付き出入口データを有線又は無線手段でコンピュータ124に連続的に通信することにより、保守作業中の作業空間内の人員数をリアルタイムで把握することができる。このタイムスタンプ付き作業空間占有データを関係データベース134に保存することにより、例えば、人員効率係数及び作業停止の期間を含めた人員パフォーマンスメトリクスを算出することができる。
【0051】
次に、図6を参照すると、ルーチンで監視できる1つの属性は、チューブ端部119の強度である。特に、各チューブ端部119内の画像の領域を評価して、チューブ端部119が「暗い」か「明るい」かが判定される。この属性は、例えば、チューブ端部119内のコークスの蓄積の程度を評価するために使用することができる。チューブの入口に黒色のコークスがかなり蓄積している場合、これはチューブ端部119の画像内で「暗い」領域として表示される(図6の最上部のチューブ端部119を参照)。暗い領域は、チューブ118の洗浄その他の保守が必要であることを示している。あるいは、コークスの蓄積が最小であれば、白色の不活性ペレットが依然として見えるチューブとなるため、チューブ端部119の画像内に「明るい」領域として現れるであろう(図6の下側の2つのチューブ端部119を参照)。このように、強度属性には2つの可能な状態、すなわち暗いか明るいかがある。
【0052】
図6に示す例では、3つのチューブ端部119から反射する光エネルギーを、その光検出器の視野(FOV)内で撮像装置120によって収集する。光検出器は、それに到達するエネルギーの強度を測定し、個々のセンサ測定値をデジタル値として表す。撮像装置120は、これらの測定値を画像プロセッサ126に送信する。プロセッサ126内では、本明細書においてデジタル画像133という関連するデジタル測定値の集合体を配列として一緒に格納される。図6を説明する目的のために使用される用語「デジタル画像」は、本明細書において「視覚画像」という、従来から使用されている用語、すなわちデジタルカメラからの写真、又はコンピュータモニタ上の画像とは異なる。人間の目で見ることができないデジタル画像133は、電子データシステム内にのみ存在する。データ視覚化ソフトウェアを使用して、デジタル画像133データを、ディスプレイ上で視覚画像[写真を意味する]として表現するのに適切なフォーマットに変換しなければならない。視覚画像に加えて、データ視覚化ソフトウェアは、表、グラフ、スプレッドシート、又は色分けされた要約グラフィックなどの1つ以上の要約フォーマットでデジタル画像データを提示するためにも使用できる。
【0053】
上記データ上で数学的演算(一般に「画像処理」として知られている)を実行して、派生デジタル画像を提供し、画像内容を評価し(例えば、物体がFOV内で検出される)、物体属性の変化を識別するために複数のデジタル画像を比較する。処理を高速化し、プロセッサ126に送信するデータ量(すなわち必要な帯域幅)を低減させるために、一部の画像処理を撮像装置120の回路内で実行できることに留意されたい。
【0054】
プロセッサ126は、物体属性の状態(「A1」)を決定する。図6における対象の属性は「暗さ」である。状態1(S1)=暗であり、強度測定値は0~4であり、状態2(S2)=明であり、強度測定値は5~9である。このように、状態は、測定値の範囲、より具体的には、許容誤差を持つ中心値を表す。画像処理に関するさらなる詳細は、実施例に記載されている。
【0055】
その後、状態データを、保存と分析のために関係データベース134に転送する。関係データベース134は、属性状況(A1)を状態値(C1)に対応付ける。例えば、状態1(S1)は状態「汚れ」に対応付けられ、状態2(S2)は状態「清浄」に対応付けられる。関係データベース134のソフトウェアは、作業のパフォーマンスメトリクス(例えば、完了率、規格外数、予測完了時間、タイムスタンプ、チューブ識別「ID」)を計算する。
【0056】
パフォーマンスメトリクスは、リアルタイムの報告のために視覚ディスプレイ140(デジタルコンピュータモニタやプリンタなど)に(任意に)転送される。また、データ視覚化ソフトウェアを使用して、デジタル画像内の測定値を視覚的に表現させることもできる。
【0057】
別のルーチンで監視され得る別の属性は、チューブ端部119の「質感」である。「滑らかな質感」状態は、チューブ端部にペレットが存在しないことを示し、「粗い質感」状態は、チューブ端部にペレットが存在することを示す。この属性データを使用して、例えば、全てのチューブが、目的通りに不活性セラミックボールで上部にまで適切に装填されたことを確認することができる。
【0058】
上記のプロセス及び工程は、装置110が作動している間に行われることがある。このような実施形態の一つでは、適切に設計されたサイトグラスを通してチューブシート表面の一つ以上のデジタル画像を取得するために、デジタルカメラをシェルアンドチューブ式装置の外部に配置することができる。
【0059】
さらに別のルーチンでは、システム100を使用して、装置110に対して行われる保守作業を監視及び追跡することができる。より詳細には、装置110を保守するプロセスの間、作業者は、着色されたキャップ(黄色、緑色、赤色など)を、検査されたチューブ端部119の上に配置することができる。キャップは、本明細書ではマーカーということもある。各色は、チューブ118の異なる状態、例えば、「触媒を含有」、「空」、又は「洗浄済み」を示すために使用される。例えば、作業者が、チューブ118が清浄であることを確認した場合、作業者はその清浄なチューブ118のチューブ端部119に赤色のキャップをかぶせる。
【0060】
キャップをチューブ端部119にかぶせたら、撮像装置120を使用して、キャップされたチューブ端部119の画像を収集又は取得する。次いで、画像処理ソフトウェア132は、可能な色状態の選択肢のうちのどれが各チューブ端部119に対応する幾何学的関心領域に適用されるかを決定するように構成される。
【0061】
作業者の工具バケットがチューブシート114の上に設定され、チューブ群を覆っている場合など、チューブ端部119が妨害される可能性に対処するため、1つ以上の「ユニバーサル」エラー状態が、本発明の方法で任意に利用されてもよい。例えば、状態「U」は、状態「不明」を表すために任意に留保され、デジタル画像内で検出できない円形チューブ端部119に割り当てられる。後に障害物が取り除かれ、円形チューブ端部が再び検出できるようになった場合には、現在の状態が評価され、記録され得る。別の実施形態では、閉塞したチューブ端部は、「ホールドラスト」戦略を実施することによって、すなわち、閉塞が除去される時まで、デジタル画像が処理されるたびに、最後の既知の状態値を記録することによって、対処することができる。このようなアプローチは、その状態が「仮定」であることを示す、そのチューブ群についての関係データベース134の対応する注記をさらに含むことができる。任意に、上記工具バケットによるチューブの妨害といった検出エラーが発生した場合、視覚的又は可聴アラームが開始されてもよく、例えば、作業者に障害物を取り除くよう指示するアラートメッセージなど、作業者に是正措置をとるように指示することができる。
【0062】
着色キャップを使用することの重要な利点は、関係データベース134内のタイムスタンプと属性データとの組み合わせを使用して、連続する画像内の状態を比較し、状態変化が発生した時間を決定することが可能であることである。属性の状態の変化は、本明細書では属性の「挙動」という。例えば、チューブ118の検査がいつ完了したかを判定するためのみならず、その検査の結果(チューブの状態)を判定するために、チューブ端部119の色挙動(色状態の変化)を特定の期間にわたって評価することができる。したがって、特定された色挙動は、特定の時間(例えば、午前9時)に「キャップなし」から「緑色キャップ」に変化することであってよく、チューブ118が機械的検査に合格したと判定された時点(すなわち、画像のタイムスタンプから得られる特定の時間)を合図する。
【0063】
関係データベース134のソフトウェアを使用して、特定の期間中の全てのチューブの色挙動を評価することにより、(i)「1時間当たりの検査チューブ数」又は「検査に合格したチューブの割合」などの挙動メトリクスを生成し、(ii)検査作業を完了するまでの残り時間などの将来の挙動を予測することが可能である。
【0064】
さらに、このように全てのチューブを評価することにより、作業終了時のチューブシート114の全体的な状態(例えば、98%のチューブが検査に合格した)を決定することができ、将来参照のためにその結果のデータベースレコードを作成することができる。
【0065】
着色キャップは他の目的で使用することもできる。別の実施形態では、色挙動の追跡は、実施例2に記載されているようなdP(圧力降下)測定タスクの完了に向けた進捗状況を監視するために使用することができる。
【0066】
次に図4を参照すると、システム100は、ディスプレイ140を介して特定の時間における各チューブ118の状態を伝達することが可能なリアルタイム表示インターフェースとして使用することができる。ディスプレイ140上で可視化されるのは、熱交換器300のチューブシート114cの各チューブ118上で実行された差圧測定値である(例示)。表示インターフェースは、記号又は色を用いたチューブシート114の表現を含むことができる。表示インターフェースは、関係データベース134からのデータレコードを使用して計算される、圧力測定値、検査されたチューブの割合などの主要パフォーマンスメトリクスを任意に含むことができる。また、表示インターフェースは、関係データベース134からの関連情報、例えば装置名や実行中のタスクの説明などへのアクセスを含むこともある。
【0067】
さらに、反応器内の作業者が作業実行中に反応器内のチューブの状態を監視できるように、反応器内の作業者に1個以上の携帯型表示装置を提供することが有益な場合がある。例えば、下部チューブシートの下方の位置からフィッシュテーピングを行う作業者は、上部チューブシート内のチューブ端部の挙動をリアルタイムで監視できるという利益を得ることができる。このような表示装置を使用する場合、無線(Wifi)表示装置として構成されることが好ましい。また、表示装置は、現場での使いやすさを考慮して、タッチスクリーン機能を利用することも好ましい。
【0068】
追加のタイムスタンプ付き反応器データは、チューブデータと共に関係データベース134に格納できる。例としては、反応器ヘッド内の温度、湿度、O2濃度が挙げられる。
【0069】
次に図5を参照すると、作業者がチューブ118群に対して特定のタスク(例えば、触媒充填)を行ったら、作業者は、そのチューブ群にわたって塞ぎ板502を配置することができる。塞ぎ板502は、パズルのピースのように、格子状パターンではまり合う。このような板は、米国特許出願公開第2016/220974号(以下、US974)に記載されており、その全体が参照により本明細書において援用される。US974には、各板の色がその板の下に位置する全てのチューブの集合的な状態を示す、着色された塞ぎ板を使用することが教示されている。
【0070】
図5は、熱交換器300のチューブプレート114cのチューブ118の異なる群にわたって適用された一連の塞ぎ板502(P1~P22と示された22枚が示されている)を示している。各塞ぎ板502には、取り外し可能な着色マーカー504が適用されている。使用時に、特定の群のチューブ118は作業者によって維持され、塞ぎ板502は、特定のタスク(例えば、塞ぎ板502の下にあるチューブへの触媒の装填)が完了したことを示すために、作業者によってチューブ118の群にわたって手作業で適用される。その板502上のマーカー504の色(又は欠如)は、それらのチューブの状態又は状況を示す。例えば、マーカーの欠如は、プレートの下にあるチューブに触媒材料がまだ装填されていないことを示し、黒色マーカーは、プレート502の下にあるチューブに触媒材料が充填されていることを示すことができる。作業者は、プレート502上に配置するために適切な取り外し可能なマーカー504を選択する。撮像装置120は、上記のキャップの色と同様に、マーカー504の色を連続的に監視し、特定のタスク、例えば触媒装填の進捗状況を判断する。マーカー504間の色の違いを追跡する代わりに、マーカー504の形状を変更してもよい。撮像装置120は、各板502の境界を追跡することができるため、どのチューブ118が各板502の下に配置されているかを知ることができる。
【0071】
(F)エネルギー伝達
これまで可視光エネルギーの検出について説明してきたが、上記の一般的な概念は、エネルギー伝達のあらゆる形態(光、熱、圧力、音、X線、電波、電子線など)及びそれらの適切な目的別検出器に適用される。
【0072】
エネルギーが物体の表面から反射された光(例えば、可視光スペクトル、赤外スペクトル、又は紫外(UV)スペクトルのうちの1つ以上から選択された光の波長)である場合、光検出器配列(例えば、ピクセルとして知られる個々のセンサの配列を含む、シリコンベースのCMOS光検出器)を使用して、上記1つ以上の波長での光の強度を測定し、単色(グレースケールカラー)デジタル画像又は「RGB」カラーデジタル画像を作成することができる。適切なデータ視覚化ソフトウェア(例えば、ディスプレイドライバとして知られるソフトウェア)を使用して、色データをディスプレイデバイス上に視覚的な画像として任意に表現できる。
【0073】
反射光の光源は、受動照明として知られる環境(例えば太陽光)からのものである場合があり、又は能動照明として知られる人工白色光源(例えばランプなど)から光が発せられる場合もある。光源は、可視光スペクトル、赤外(IR)スペクトル、又は紫外(UV)スペクトルのうちの1つ以上の範囲内の光の波長を放射することができる。
【0074】
エネルギーが物体から放射される熱エネルギー(例えば、7.5μm~14μmの波長のIR放射)である場合、ボロメータとして知られるセンサを備える熱撮像装置120を使用して、温度値を含むデジタル画像を作成することができる。適切なデータ視覚化ソフトウェアを使用して、温度データを表示装置140上にサーモグラフィー(視覚)画像として任意に表現することができる。なお、赤外線エネルギーは物体から放出/放射されるため、それ自体に照明源は存在しない。
【0075】
エネルギーが(例えばレーダーシステムからの)反射電波である場合、得られるデジタル画像には、物体上の点と電波検出器(受信機)との間の距離を表す無線信号再帰時間値が含まれる。本発明の方法とともに使用される場合、EHF帯域で動作するレーダー(ミリ波レーダーとしても知られる)が好ましい。レーダー、ソナー、ライダーなどに基づく画像取得システムは、非接触測距装置(NRD)として知られており、一般に、多数の密集再帰時間(距離)測定値を収集するために移動するエネルギービームで物体の表面を「ペイント」する。(複合)データ視覚化ソフトウェアを使用して、この距離データを表示装置140(例えば、気象レーダーディスプレイ又はライダー地形図)上に視覚画像として任意に表現することができる。NRDは、その性質上、その後反射できるエネルギーによる能動的な「照明」を必要とする。
【0076】
(G)撮像装置の詳細
撮像装置120の更なる詳細については後述する。撮像装置120は、光検出器又は熱検出器などの検出器を備えることができる。光検出器は、画像素子又は「ピクセル」として知られる複数の光センサをさらに備えることができる。同様に、熱検出器は、マイクロボロメータ又は単にボロメータとして知られる複数の熱センサを備える。
【0077】
最も一般的で好ましい実施形態は、光学撮像を組み込んだものである。光学撮像の実施形態では、可視光による撮像のために、光検出器と画像処理ソフトウェアパッケージとを備える撮像装置が使用される。撮像装置120は、例えば、デジタルカメラ、RGBカラービデオカメラ、又は白黒カメラであってもよい。光学系、すなわちレンズは、カメラの焦点面内に配置された光検出器(これは、いわゆる焦点面アレイ又はFPAである)に光を集束させ、歪みの少ない画像(すなわち、焦点の合った画像)を得る。光検出器内の個々のセンサ(すなわちピクセル)は、光検出器に接触した光をデジタル信号に変換する。その後、デジタル信号は画像プロセッサに送られ、その際に、デジタル信号データを組み合わせたデジタル画像が数学的配列として表現される。
【0078】
チューブシート114のデジタル画像が取得されるときに、使用される検出器配列に応じて、何千、さらには何百万ものデジタル値を含むことがある。例えば、典型的な「4K」カラーデジタルカメラは、横3840ピクセル×縦2160ピクセルを有するCMOS光検出器配列を備え、8,294,400の別個の色測定値が得られることになる。これは一般に、当該技術分野において、「8メガピクセル配列」又は単に「8MP」検出器と呼ばれる。
【0079】
デジタル撮像の技術分野で知られているように、光学系及び検出器のサイズは、撮像装置によって物理的な世界をどれだけ「見る」ことができるかを制御し、これは視野(FOV)として知られる用語である。検出器は、一般的に、個々の検出素子の固定配列(グリッド)として構成され、検出素子の数が多いほど広い視野及び/又は高い解像度がサポートされる。ほとんどの商用光検出器は、シリコンウェハ上に構築されたフラット配列として実装されており、これは、利用可能なシリコンウェハの最大物理的サイズにより、可能な検出素子の総数が制限されることを意味する。最大配列サイズに達すると、レンズの選択のみが、撮像装置の解像度及び視野(FOV)の幅に影響を与え得る。
【0080】
従来、カメラレンズは、典型的には水平FOV角度及び垂直FOV角度で表されるのに対し、光検出器は、典型的には、検出器配列の水平方向及び垂直方向のピクセル数で表される。所定の光検出器の画素(ピクセル)数は一定であるため、FOVと画像解像度は反比例の関係にある。すなわち、FOVが広い(検出器によって見られる画像領域が多い)ほど解像度が低くなるのに対し、FOVが狭い(画像領域単位あたりのピクセル数が多い)ほど解像度が高くなる。適切な検出器サイズ(すなわち、ピクセルの総数)及び適切なレンズFOVの選択は、デジタル撮像の技術分野における当業者の能力の範囲内である。
【0081】
一例として、6mmの球状の触媒ペレットを画像内で識別(すなわち、解像)する必要がある場合、当業者であれば、2mm×2mmの各領域を1ピクセルで表現することを選択することができ、これによって、6mmの球体1個の画像は、3×3ピクセルの配列1個(合計9ピクセル)で完全に表現できる。これは500ピクセル・パー・メートル(PPM)解像度として知られている。画像取得のために使用される検出器配列が横2560ピクセル×縦1440ピクセルを測定する場合、500PPM解像度での最大FOVは5120mm×2880mm(16.8フィート×9.6フィート)となるであろう。その後、適切なFOV角度を持つ補助光学系を選択して、焦点面配列にこの領域の鮮明な画像を提供することになる。
【0082】
いくつかの実施形態では、複数の検出器を物理的に「突き合わせ」て、視野を広げるために検出素子の数を増やした多素子撮像装置を作製することができる。このような手法は、例えば、広視野のデジタル望遠鏡を作製するための天文学の分野で知られている。残念ながら、このような機械的に接合された検出器は、現在のところ非常に高価であり、組み立ても困難である。したがって、当該技術分野で知られているように、チューブシート表面上の複数の異なる領域のビューを取得し、その後画像処理ソフトウェアを利用して、このビューのコレクションをより大きな、結合された「モザイク」デジタル画像に組み合わせることが好ましい。画像処理ソフトウェアを使用すれば、理論上、所定のモザイクデジタル画像配列のサイズに制限はない。複数の画像の取得は、例えば、それぞれが独立したFOVを有する複数のカメラ、又は、例えば、パン・チルト・ズーム「PTZ」カメラなど、位置を変える単一のカメラで実行できる。
【0083】
ここで、本願発明についてみると、上記8メガピクセル(8MP)ビデオカメラなどの単一の撮像装置を使用することができる。撮像装置120は、チューブシートの中央の真上に配置でき、例えば、シェルアンドチューブ式装置のヘッドにある頂部ノズルから挿入される。
【0084】
大きなチューブシートと比較的短いヘッドとを組み合わせた場合、1台のカメラのFOV(視野)内にある完全なチューブシート表面を捉えることが難しくなることがある。これは、ほとんどの光検出器配列が一般的に3:4又は16:9のアスペクト比を利用し、水平FOV対垂直FOVが相違することになり、撮像可能な領域がさらに制限されることになるため、さらに難しくなる。
【0085】
したがって、複数の撮像装置120a及び120bを本発明で使用することもできる。撮像装置は、例えば、調節可能な支柱上に容器の内壁に対して取り付けることができる。さらに、上部チューブシートの反対側に、内側に向向けて配置し、かつ、チューブシートの平面から約6フィート上方に配置してもよい。
【0086】
あるいは、複数の撮像装置を、容器の中心に外向きに取り付けてもよい。例えば、4台の外向きの撮像装置を上部チューブシートの中央上方に吊り下げ、90度離して配置し、チューブシートの平面に対して約15度~75度の間の下向きの角度で配置することができる。このような構成は、例えば、環状チューブシートレイアウトを有するシェルアンドチューブ式反応器で使用することができ、この場合、チューブシートの中央の円形領域はチューブを備えない。参考までに、環状レイアウトのチューブシートの一例が、米国特許第9,440,903号の図1cに描かれている。
【0087】
チューブ識別工程と各チューブの状態評価の精度は、同じチューブシート領域の複数のビューを使用することによっても改善できる。例えば、2台以上のカメラを使用し、それぞれが異なる視野角から同じチューブシート領域の画像データを収集することができる。次に、画像処理ソフトウェアを使用して、これらの複数のビューからの画像データを「統合」し、不明瞭なビューのデータを別の不明瞭でないビューからのデータに置き換えることができる。このようにして、カメラの前に人が立っているなどの障害物に対処し、完全なデジタル画像を得ることができる。最終的には、少なくとも1台のカメラが各チューブを検出できる限り、全てのチューブの状態を常に追跡することができる。
【0088】
好ましい実施形態では、少なくとも1台のRGB-Dカメラを使用して画像データを収集する。RGB-Dカメラは、RGB光検出器と(LiDAR)レーザー検出器の両方を備えるハイブリッド撮像装置であり、これら2つの検出器は内部で同期化され、画像データを同時に収集する。同期化された画像データを処理することで、RGBカラーデータ及び深度データの両方を含む、いわゆる「カラー3D」画像が生成される。Intel(登録商標)RealsenseTM L515 LiDARカメラ(米国カリフォルニア州サンタクララのIntel Corporationから入手可能)は、2MP RGB光検出器と860nmで動作するレーザー検出器の両方を備えるものであり、本発明の監視方法での使用に好適な市販のRGB-Dカメラの一例である。画像の一部が遮られた場合、例えば、上記の人物がカメラの視野を歩いている場合、1個の光検出器によって、例えばチューブ端部の色の変化など、1個以上のチューブの状態の変化として評価できる。ただし、RGB-Dカメラを使用して画像データを収集すると、チューブ端部色及び深度データの両方を同時に評価することができる。画像の深度データの変化は、カメラとチューブシートとの間に1つ以上の障害物があることを示す。いったん検出されたら、(例えば、追加のRGB-Dカメラによって提供される)別のビューを使用する、関係データベースにエラーコードを記録する、画像処理を一時停止する、又は「障害物」アラームを鳴らすなど、障害物の存在を是正するための手段を取ることができる。
【0089】
複数のカメラを使用する場合、任意のチューブシートベンチマークによって、カメラの位置合わせのために共通の基準点を設けることができる。これらは、例えば、一時的な磁気マーカー又は恒久的なマークなどとすることができる。
【0090】
光学画像を取得するために静止画デジタルカメラを使用することもできるが、ネットワーク接続されたコンピュータで使用するためには、ビデオカメラの方が設定しやすい場合が多い。市販のビデオカメラは、無線LAN、LAN/PoE(Power over Ethernet)配線、光ファイバー等を介して画像データを画像プロセッサ(例えばラップトップコンピュータ)に転送する機能を内蔵して構成されるのが典型的である。いくつかの実施形態では、画像処理の少なくとも一部をカメラの回路内で実行して処理を高速化し、転送するデータ量を削減することができる(したがって、必要な帯域幅を低減することができる)。
【0091】
ほとんどのビデオカメラは、1秒当たり30枚以上の連続ストリームを提供する。本発明の方法では、このような高速の画像取得は、典型的には、必要をはるかに超えている。一般に、ほとんどの保守作業を監視するためには、30秒ごとに1画像、5分ごとに1画像、さらには1時間ごとに1画像など、より遅い速度で個々の画像を取得すれば十分である。あるいは、デジタル画像の連続ストリームを取得してもよいが(例えば、1秒当たり30フレーム)、このデジタル画像ストリームの一部のみが実際に処理されるように、画像処理ソフトウェアを構成してもよい。例えば、一実施形態では、15分ごとに1画像(フレーム)だけを使用して画像処理を実行してもよい。
【0092】
(H)ソフトウェアの詳細
本明細書で説明する画像処理工程を実行するためのソフトウェアコードは、様々なコンピュータプログラミング言語を使用して、例えば、C++、Python、又はMATLABプログラミング言語を使用して書くことができる。採用される画像処理工程は、フィルタリング、カラーとグレースケールと間のピクセルの変換、(キャニーアルゴリズム)エッジ検出、円ハフ変換、一方のカラーモデルから他方のカラーモデルへの画像データの変換(例えば、RGBからL***への変換)、画像マスクの作成、及び色検出など、デジタル画像処理の技術分野において広く知られている1以上の技術を含むことができる。これらの画像処理工程を効率的に実行するための標準化された関数のライブラリが作成されており、現在プログラミングコードに組み込むために利用可能であるため、ソフトウェアルーチンの準備が大幅に簡素化される。OpenCV(Open Source Computer Vision Library: http://opencv.org)は、このような画像処理関数のライブラリの1つであり、現在オープンソースソフトウェアとしてダウンロード可能である。当初はC++プログラミング言語で書かれていたが、現在では、OpenCVの関数をPython、JAVA(登録商標)、MATLABなどの他のプログラミング言語で使用できるようにする、いわゆる「ラッパー」が利用可能になっている。IMAGE PROCESSING TOOLBOX(商標)及びCOMPUTER VISION TOOLBOX(商標)(米国マサチューセッツ州ネイティックのThe MathWorks, Incから市販)など、独自のアプリケーションを使用して、本明細書で説明する画像処理を実施することもできる。また、Python言語(OpenCV-Pythonとしても知られている)で使用するために適合されたOpenCVを画像処理に使用することもできる。また、「Numerical Python extensions」又は「NumPy」として知られるPythonの拡張機能を利用して、配列データを用いた数学演算のパフォーマンスを向上させることもできる。
【0093】
MatlabやOpenCVなどの画像処理ソフトウェアは、多くの異なるカラーモデルを使用して処理を実行することができる。当該技術分野で知られているように、「カラーモデル」は、パラメータの順序付きリストを使用する色の抽象的な数学的表現であり、本明細書では「チャネル」と呼ばれる。画像は、RGB、HSV、及びL***を含めた周知のカラーモデルに対応する多くの異なるフォーマットで表現できる。RGBカラーモデルで表現される色は、3つのチャンネル:R(赤)、G(緑)及びB(青)のそれぞれの強度を、0から255まで範囲の値を使用して特定する。RGBは、ビデオカメラやテレビなどの機器のネイティブフォーマットである。HSVカラーモデルで表現される色は、次の3つのチャンネルを特定する:支配的な波長を表す色相;色の濃淡を表す彩度;強度を表す明度。L***カラーモデルで表現される色は、次の3つのチャネルを特定する:知覚的な明るさ又は明度を表すL*;赤と緑との間の軸上の色を表すa*;黄と青との間の軸上の色を表すb*
【0094】
フルカラー画像とは対照的に、グレースケール画像はグレーの濃淡を表す1つのチャネルのみを含む。この色空間におけるピクセル強度は0~255の範囲の値で表され、黒が最も弱い強度(値0)、白が最も強い強度(値255)である。したがって、グレースケールで1つのピクセルが表現できる状態の最大数は256である。単一のチャネルのみでは、フルカラーよりもグレースケールでの画像処理の方がはるかに高速で、必要な計算資源も少なくて済む。
【0095】
画像処理ソフトウェアは色変換アルゴリズムをさらに含み、ある色モデル(例えばビデオカメラからのRGB画像)で取得された画像を異なる色モデルに変換することができる。このような変換は、典型的には、処理計算を簡略化するため、又は関心領域(ROI)内の特定の特徴を強調するために実行される。さらに、変換アルゴリズムにより、カラーデジタル画像をグレースケールに変換することができる。これは、一般的に物体のエッジに沿って発生し、物体検出アルゴリズムの重要な側面である高コントラストの領域を検索する際に有利な場合が多い。
【実施例
【0096】
(I)実施例
実施例1:チューブのスキミング
この実施例の縦型シェルアンドチューブ式反応器は、2段式タンデム反応器システムの第2反応段であり、アクロレインをアクリル酸に転化するために使用される。反応器は直径約7m(23フィート)のチューブシートと、内径27.2mmの触媒含有チューブ24,000本超とを備える。これらの第2反応段チューブのそれぞれの入口部分には、5mmの球状セラミックペレットを含む深さ35cmの上部不活性層が収容される。この材料は、最初にチューブに装填されたときには明るい白色であるため、高輝度である。時間の経過とともに、炭素質の堆積物(別名「コークス」)がこの不活性媒体層内に蓄積し、茶色又は黒色に変化して輝度が低下する。典型的には、堆積物の蓄積にはばらつきがあり、いくつかの反応器チューブは他の反応器チューブよりも著しく汚れる。汚れの程度が増大すると、チューブを通る流れが制限され、それによって反応器を通して圧力損失が増大し、反応器の性能が低下する。
【0097】
この問題に対処するため、反応器を停止して、チューブの少なくとも一部の汚れた不活性媒体を清浄な不活性媒体と交換するところ、これは「スキミング」として知られている保守作業である。この保守作業は、2つの多段階タスクを伴う:
(1)真空引き、チッピング、研磨、穴あけなどの1つ以上の方法を使用して、著しく汚れた全てのチューブから不活性ペレットを除去する;
(2)上部の不活性層が完全でない任意のチューブに、新しい清浄な不活性ペレットを充填する。
【0098】
保守作業の開始前に、全ての円形チューブ端部に固有識別子を割り当てる初期工程を実施した。
【0099】
いくつかの実施形態では、この初期工程は、可視光参照画像を取得し、「Image Viewer」ソフトウェア(米国マサチューセッツ州ナティック01760のThe Mathworks Inc.から市販されている)を使用して、ラップトップコンピュータで画像上にそれを表現することによって手作業で実施できる場合がある。Image Viewerの主な特徴は、使用者が選択した個々のピクセルの位置値と、それに関連する色/強度値とを表示できることである。これにより、各チューブ端部内にある特定の画素を手作業で識別することができ、画素の群を適切な固有チューブ識別子に関連付ける方法を提供することができる。この方法は、シェルアンドチューブ式装置が比較的少数のチューブを備える場合に最も有益である。
【0100】
しかし、この実施例の実施形態では、この工程を、コンピュータ124のソフトウェア132を使用して実行した。可視光参照画像を取得し、グレースケール形式で画像処理ソフトウェアに読み込んだ。次に、幾何学的関心領域(すなわち、円形チューブ端部)の全てのエッジを画像配列内で識別した。これは、例えば、「キャニーエッジ検出」アルゴリズム、又は「円ハフ変換(CHT)」アルゴリズムを使用することによって実行してもよく、これらは両方とも当該技術分野でよく知られており、OpenCV又はMatlabソフトウェア内で利用可能である。好ましい実施形態では、円ハフ変換(CHT)アルゴリズムが、画像内に現れる円形チューブ端部の周縁部を配置するように適用される。例えば、OpenCVの「HoughCircles」関数は、画像内の全ての円を検出するためにCHTアルゴリズムを利用し、円の円周を画定するピクセルの位置と各円の中心のピクセル位置との両方を提供する。このようにして、画像に現れる全ての円の中心位置の完全なリストを得ることができる。次に、画像配列内の各円中心のピクセル位置座標(x、y)を実際のチューブシートの寸法データと整列させ、固有チューブ識別子を各円中心に対応付ける。
【0101】
なお、典型的なシェルアンドチューブ式装置のチューブシート面積の約1/3のみが実際に孔(チューブ端部)を構成するのに対し、チューブシート面積の残りの約2/3はチューブ端部間の平面のみを構成する。したがって、撮像装置のデータの約1/3のみが、チューブシート上のいわゆる関心領域(ROI)内の測定値を表している。画像内の全てのチューブ端部の位置を知ることにより、その後の処理をこれらの円形のROIだけに限定することができ、各デジタル画像を評価するための時間を大幅に短縮することができる。画像処理技術分野における当業者であれば、画像処理ソフトウェアを用いて画像「マスク」を作成し、その後このような最適化された画像処理を実現するために有益に適用できることが分かるであろう。
【0102】
この実施例では、チューブ端部の輝度を、このスキミング作業中に評価されるべき属性として選択した。選択されたこの属性は、3つの状態(以下の表1に示す)を有するものと定義される。
【0103】
保守開始時のチューブシートの状態を記録するため、時間Tiでチューブシートの初期デジタル画像を取得した。このタスクには、単色又はグレースケールの光検出器を備えるカメラで十分であるが、本実施例では、RGB(可視光スペクトル)光検出器を備えるデジタルカメラを使用してチューブシートからカラー測定データを収集した。
【0104】
その後、得られたチューブシートの初期デジタル画像(Di)をカメラから画像プロセッサに転送した。OpenCV画像処理ソフトウェアを使用して、初期デジタル画像のRGBピクセルデータをグレースケールに変換し、色相に関連するチャネルを削除した。これにより、カラー測定値が0~255の範囲の輝度値の配列に効果的に減少した。ここで、0は輝度の最低値で純粋な黒を表し、255は輝度の最高値で純粋な白を表し、1~254の中間値は様々なグレーの濃淡を表す。次に、各円形チューブ端部内のグレースケールピクセルの平均値を評価し、平均輝度値の適切な範囲に従って3つの状態値の一つを割り当てることによって、各チューブの属性状態を決定した:
【0105】
【表1】
【0106】
その後、各チューブ端部の属性状態データを関係データベースに転送し、各チューブについてマルチフィールドデータベースレコードを作成した。データベースレコードは、初期デジタル画像(Di)が取得された時間(Ti)を表すタイムスタンプ、固有チューブ識別子、及び割り当てられた属性状態値を含む。関係データベース内のルックアップテーブルを使用して、属性状態を特定のチューブ状態に対応付け、これらの状態を各データベースレコードに含めた。
【0107】
次いで、関係データベースを使用して、チューブシートの状態に関する初期分析及び報告(例えば、作業開始時に存在した汚れたチューブと清浄なチューブとの合計数の決定など)を実行した。さらに、工程期間データを使用して、スキミング作業の完了までの時間を予測することができる。この実施例では、約6,000本のチューブが汚れていたため、不活性交換が必要であると特定した。チューブ1本あたり5分(工程所要時間5分)の過去の平均清浄化時間と、利用可能な10人の作業者チーム(10回の洗浄工程を同時に実施)に基づいて、この作業の所要時間は約50時間と予測された。
【0108】
保守作業を開始したら、10分ごとにチューブシートのデジタル画像を追加取得することによってチューブシートの状態を監視した。各10分の間隔で、約20回の洗浄を実施した。初期デジタル画像と同様に、画像プロセッサは後の画像をグレースケールに変換し、各チューブ端部の属性状態を評価した。その後、関係データベースを使用して、チューブシート内のチューブの状態を記録し、定期的に報告した。このようにして、保守作業が完了するまで、チューブシートの監視を継続した。
【0109】
この具体例は、シェルアンドチューブ式化学反応器に対する本発明の方法の適用を示しているが、当業者であれば、例えば、ミネラルスケールや高分子固形物の除去中のマルチパス水平熱交換器のチューブ端部における輝度の評価など、他のシェルアンドチューブ式装置にも同様の手法を適用することが容易に想定できるであろう。
【0110】
実施例2:圧力損失の測定
2段SSOI型シェルアンドチューブ式反応器において、新たな触媒充填物を下部反応段のチューブに充填した。この反応器の段は、直径6,430mm(20.9フィート)の円形チューブシートと、全長3,750mm(12.3フィート)のシームレス炭素鋼チューブ22,000本とを備えるものであった。チューブは25.4mm(1インチ)の内径を有し、60度の三角形パターンに38mm(1.5インチ)ピッチで配置されたものであった。これらのチューブのそれぞれに、約1m(39インチ)の7mm×9mm円柱状触媒ペレットと、約2.5m(98インチ)の5mm×7mm円柱状触媒ペレットとを含む2層触媒充填物を充填した。
【0111】
下部反応段内の全てのチューブに触媒を充填した後、各チューブを通した差圧(dP)を測定することによって、各チューブ内の触媒の充填密度を評価する必要があった。このdP測定作業の期間は24時間以上であることが一般的である。
【0112】
この実施例の場合、差圧(dP)測定作業を、複数の空気作動式背圧測定装置を用いて実施した。この種の単一チューブ及び多チューブ式のdP測定装置は、触媒充填の技術分野ではよく知られており、様々な実施形態が、例えば米国特許第6,694,802号並びにWO02074428(A2)及びDE3935636A1に記載されている。これらはそれぞれ参照により本明細書において援用される。この実施例で使用された具体的な装置は、0.0625インチのフローオリフィスで構成された単一チューブ式dPワンドであり、正確な測定のために音波空気流が達成されることを確保するように60psigの乾燥空気供給を備えるものであった。このdP測定作業の間に、どのチューブが必要な圧力降下規格を満たしておらず、そのため是正措置が必要であるかを明確に示すために、円形チューブ端部を一時的に色分けした。
【0113】
この差圧(dP)測定作業中に評価される属性として選択したのは、チューブ端部の色であった。この属性は、4つの色状態(以下の表2に示す)を有するものと定義した。触媒充填に関する当業者であれば、チューブシート内の円形チューブ端部に一時的に色を付与するために、様々な方法があることが分かるであろう。
【0114】
例えば、一実施形態では、直径25.4mmのチューブ端部に、複数の標準#5サイズのテーパー実験用ストッパーを挿入することができる。これらのストッパーは汎用材料であり、赤、緑、黒、白、青を含む多くの異なる色で実験器具供給会社から容易に購入することができる。
【0115】
別の実施形態では、例えばダックテープ(Duck Tape(登録商標))ブランドのカラーダクトテープ(米国オハイオ州エイボン44011のShurtape Technologies,LLC.から様々な色のロールとして市販されている)などの、25mm×25mm(1インチ×1インチ)の、手でカットした正方形の着色粘着テープをチューブ端部にわたって一時的に配置することができる。
【0116】
別の実施形態では、米国特許第8,063,778号に開示されている複数のチューブマーキング装置をチューブ端部に設置することができる。
【0117】
この例では、複数のCAPLUGS(商標)T-シリーズテーパプラグ(米国ニューヨーク州バッファローのProtective Industries社から複数の色で市販されている)を円形チューブ端部のマーキングに使用した。キャップの色相/強度のばらつきを抑えるために、これらのような均一に着色された市販プラスチックキャップを使用することが好ましい。これにより、特定の色状態を区別するタスクが単純化される。米国特許第2,580,762A号に教示されているように、これらの装置の形状により、キャップ又はプラグとして機能することができる。当該米国特許は参照により本明細書において援用される。当該技術分野では、単に「キャップ」と呼ぶのが一般的であり、本明細書でもこの慣例に従う。この具体例の場合、製造元の色表示:RED002、GRN002、BLU003、YEL002を有するT-12X型キャップ[材料コード:PE-LD01]の独立した4色を選択し、必要な4色の状態を提供した(表2参照)。これらのキャップの色は、撮像装置120及び画像ソフトウェア132によって容易に区別されると判定された。
【0118】
dP測定を開始する前に、全ての円形チューブ端部に固有識別子を割り当てる初期工程を実施した。さらに、黄色T12-X CAPLUGS(商標)(「キャップ」)を、反応器内の全ての未測定触媒チューブのチューブ端部119に取り付けた。
【0119】
一対のアイダ型式UHD-100A RGBデジタルカメラ(米国カリフォルニア州ウェストコビナ91797のアイダ・イメージング社(AIDA Imaging,Inc.(www.Aidaimaging.com))(ここでは、カメラ1(例えば、撮像装置120a)及びカメラ2(例えば、撮像装置120b)という。)を、反応器ヘッドの内壁に近接して、チューブシートの反対側に配置した。各カメラは、横4096ピクセル×縦2160ピクセルの8MPカラー光検出器を備え、500ピクセル/メートル(PPM)の撮像装置解像度を与える;したがって、検出器配列内の各ピクセルは、チューブシート表面の2mm×2mmの領域を表すものであった。カメラ1は反応器ヘッドの南側壁部に沿って配置され、その視野はチューブシートの北半球に相当するチューブシート表面の半分を構成し、カメラ2は北側壁部に沿って配置され、その視野はチューブシートの南半球に相当するチューブシート表面のもう半分を構成した。もともとシェルアンドチューブ式反応器の製造時に設置されていたチューブシート表面の既存のベンチマークを、2台のカメラの適切な位置決めの基準点として都合よく使用した。
【0120】
チューブシートの初期デジタル画像を同じ時間(Ti)で各カメラから取得して、保守作業開始時のチューブシートの状態を記録した。その後、得られた一対の初期デジタル画像をカメラから画像プロセッサに転送し、カメラ1からの画像とカメラ2からの画像とを統合し(例えば、Pythonデータ解析ライブラリpandasからのソフトウェアツールを使用して)、1600万超のピクセルの色データを含む、チューブシート表面全体の統合初期デジタル画像を作成した。OpenCV画像処理ソフトウェアを使用して、統合された初期デジタル画像のRGB形式のピクセルデータを、評価のためにHSVカラー形式に変換した。次に、各円形チューブ端部内に同心に配置された7×7(49ピクセル)のサンプルウィンドウの平均色値を計算することによって、各チューブ端部のHSV形式の色値を決定した。その後、HSV色平均値の適切な範囲に従って、4つの色状態のうちの1つを各チューブ端部に割り当てた:
【0121】
【表2】
【0122】
この実施例では、SQL Server 2019(米国ワシントン州レッドモンドのMicrosoft Corp)を関係データベースソフトウェアとして使用した。この実施例の場合のように、OpenCV-pythonを画像処理に利用する場合には、マイクロソフト「pymssql」ドライバを使用して画像処理ソフトウェアと関係データベースとの間の各チューブ端部の色属性状態データの転送を容易にすることができる。前の実施例と同様に、各チューブについてマルチフィールドのデータベースレコードを作成し、このレコードは、初期デジタル画像を取得した時間(Ti)を表すタイムスタンプ、固有チューブ識別子、及び割り当てられた色状態値を含む。また、関係データベース内のルックアップテーブルを使用して、属性状態を特定のチューブ状態に対応付け、これらの状態も各データベースレコードに含めた。
【0123】
その後、この関係データベースを使用して、例えば、作業開始時に存在した未測定チューブの総数(この場合は22,000本)を決定するなど、チューブシートの状態に関する初期分析と報告を実施した。この初期結果は、22,000本全てのチューブを取得画像に取り込み、全てのチューブ端部に黄色のキャップが実際に装着されたことを積極的に確認されたという点で価値のあるものであった。
【0124】
その後、dP測定作業を行った。チューブのdP測定直前に、黄色のキャップを外した。dPスティックの端部をチューブ端部に入れ、一定流量の空気をチューブ内に吹き込んだ。チューブ内の触媒によって生じた背圧を、許容されるdP値(±許容範囲)と比較するためにdPスティックのディスプレイ上に表示した。任意に、正確なdP値を電子的に記録することもできる。新たなキャップを直ちにチューブに装着し、新たなキャップの色がdP測定結果を示す。緑色は許容可能なdP(6.26psig~7.34psigの許容範囲内)、赤色は許容できないほど高いdP(7.34psig超)、青色は許容できないほど低いdP(6.26psig未満)を示す。チューブシート114上の全てのチューブを測定し、関連するチューブ端部119がマークされるまで、これらの工程を追加のチューブ118に対して繰り返した。
【0125】
いったん進行したら、この保守作業中のチューブシートの状態を、カメラ1及びカメラ2からチューブシートのさらなるデジタル画像を15分間隔で同時に取得することにより監視した。これらのデジタル画像も画像プロセッサに転送し、各チューブ端部119の色属性を評価し、それぞれの色状態値を割り当てた。各状態の色相値(表2の「H」)の範囲は重ならないので、「S」チャネルと「V」チャネルは必要なく、「H」チャンネルを、色状態値を割り当てる基準として専ら使用することができた。初期デジタル画像と同様に、各チューブのタイムスタンプ付きデータベースレコードをSQLサーバーの関係データベースに継続的に追加し、未測定チューブの総数、規格外チューブの割合、作業の予測完了時間など、パフォーマンスメトリクスを継続的に計算できた。
【0126】
Delphiグラフィカル・ユーザー・インターフェース(UI)パッケージ(米国テキサス州ヒューストンのIdera社から市販されている)を含む視覚表示ソフトウェアを使用して、SQLデータベースをクエリし、タッチスクリーンコンピュータモニター上でのチューブシートの継続的に更新されるインタラクティブな表示(図4参照)を生成した。別の実施形態では、視覚的表示は、図4に示す(白黒)パターンではなく、割り当てられた色状態に一致する色を使用することができる。
【0127】
このようにして、チューブシート上の全てのチューブを測定しマークするまで、チューブシートの連続監視を実施した。このdP測定作業を完了した時点で、チューブの98.9%をdPの許容範囲内にあると判定し、均一な触媒密度が達成されたことが示された。その後、dP規格の許容範囲(赤/青キャップ)を外れた数本のチューブに対して、別の作業で是正措置を実施した。
【0128】
この実施例は、これらのチューブ端部119の色挙動を監視することによって、(i)リアルタイムでの完了した測定の割合、(ii)行われるべき残りの測定数(完了率)、及び(iii)是正を必要とする許容範囲外のチューブの数、を追跡することが可能であることを例示するものである。このようなリアルタイムの監視は、作業中に反応器内の22,000本のチューブのそれぞれを手作業で繰り返し数えなければならない場合には、実行するのは非常に困難であろう。
【0129】
この具体例は、シェルアンドチューブ式化学反応器への本発明方法の適用について説明するものであるが、他のシェルアンドチューブ式装置の保守作業を追跡するための選択属性としてチューブ端部の色を使用できる他の多くの実施形態が存在する。例えば、本発明の方法は、発電所の大型水平方向蒸気復水器の目視管検査の進捗を追跡するために使用することができるであろう。このような復水器では、チューブ側に炭酸カルシウムやケイ酸マグネシウムなどの鉱物が蓄積し、熱伝達を大きく阻害することが知られている。また、熱伝達を遅らせ、深刻な下部堆積腐食を誘発する可能性のある微生物学的汚れも存在する可能性がある。この実施形態では、3つの色状態(緑、白、赤)を定義し、定義した状態に相当する色のキャップを取り付けることによって、チューブ端部を一時的に着色する。デジタル画像の取得と画像処理とを、上記の実施例で説明したのと概ね同じ方法で進めるところ、これらの状態にマッピングされるチューブの状態は、緑=清浄なチューブ、白=スケールのみが存在するチューブ、赤=バイオフィルムが存在するチューブである。検査結果は、洗浄作業計画を策定するために使用できるだけでなく、プラントで現在使用されているミネラルスケール及び生物成長抑制剤系の性能に関する貴重なフィードバックを提供することもできる。
【0130】
実施例3:触媒の充填
本実施例のシェルアンドチューブ式反応器では、使用済み触媒の除去、チューブ洗浄、触媒充填、及び運転停止チェックを含めて(ただしこれらに限定されない)、複数の異なる触媒交換作業を実施する必要があった。複数チューブ触媒充填は、この実施例の具体的な触媒交換作業である。この作業の目的は、直径5mmの球状粒状触媒の長さ4,600mm(15フィート)の層を反応器の各チューブに均一に充填することであった。
【0131】
この実施例のシェルアンドチューブ式反応器は、直径5,517mm(18.1フィート)の上部水平チューブシートを有し、22,000本超のシームレス炭素鋼チューブを備えるものであった。チューブは、22.3mm(0.878インチ)の内径を有し、かつ、垂直方向に配置されており、各チューブの上端は周方向溶接によって上部チューブシートに取り付けられたものであった。チューブはチューブシート上に60度の三角形パターンで配置され、チューブシートのピッチは34mm(1.34インチ)であった。この反応器の頂部ヘッドは取り外し可能であり、保守作業を行うために上部水平チューブシートに簡単にアクセスできた。頂部ヘッドを取り外すことで、画像取得に周囲照明(積極照明)を使用できた。
【0132】
本実施例では、複数チューブ触媒充填は、米国特許出願公開第2016/0220974号(A1)(参照により本明細書において援用される)に記載されているタイプの複数のマルチチューブローダ(MTL)を用いて実施した。この実施例で使用された最も大容量のMTLは、120本のチューブに粒子状触媒を同時に充填することが可能であった。US974出願で教示されているように、図5に図示されている複数のいわゆるチューブシート「塞ぎ板」502を使用して、複数チューブ触媒充填作業中にMTLをチューブシート上に方向付けた。充填プロセスには有益であるが、これらのチューブシート塞ぎ板502の使用は、一般に、円形チューブ端部を不明瞭にする。したがって、シェルアンドチューブ式反応器の状態を、個々のチューブ端部119の属性ではなく、塞ぎ板502自体の属性を監視することによって決定した。
【0133】
複数チューブ触媒充填作業の開始前に、200枚超の塞ぎ板(P1、P2、P3、...)をシェルアンドチューブ式反応器チューブシート上に、円形チューブ端部の全てを覆うように配置し、図5に模式的に表されるタイプの格子状パターンを形成した。なお、図5は、実施例3のチューブシートを簡略化して表現したものであり、224本のチューブ(118)と22枚の塞ぎ板(502)のみを備える。
【0134】
図5に概略的に示されているように、複数の形状及びサイズの塞ぎ板を使用してもよいが、各個々の板によって覆われるチューブ端部119の数が異なることになる。また、US974出願で教示されているように、塞ぎ板は異なる色を有していてもよく、各個別の塞ぎ板の選択された色は、充填作業の制御工程として使用される。別の実施例では、塞ぎ板は全て単一色であってもよく、制御工程機能は、例えば、数字、テキスト、又は記号を使用して塞ぎ板の上面をマーキングすることによって実行できる。このようなマーキングは、塞ぎ板の恒久的な特徴であってもよいし、必要な塞ぎ板の総数を最小限にするために、板の表面に一時的に貼り付けてもよい(例えば、磁気ラベル、粘着テープ、ドライイレイスマーキングペンを使用)。
【0135】
この実施例では、各塞ぎ板502を、「P95」マット表面仕上げを有する白色不透明(ポリメタクリル酸メチル)アクリルシートから作製してぎらつきを最小限に押さえた。各塞ぎ板は、その上面に直径38mm(1.5インチ)の着色インジケータディスクを受けるのに適した単一の円形凹部504を備える。いくつかの実施形態では、各凹部の外周を、例えば線幅3mm(0.1インチ)以上の黒丸のような、任意の高コントラストマーキングで恒久的に指定することが有益な場合がある。凹部は、取り付けられたインジケータディスクの取り外しを容易にするために、直径38mm未満の任意の同心貫通穴(例えば、19mm又は0.75インチの孔、図示せず)をさらに備えていてもよい。図5に示されているように、円形凹部504は、各板の左隅に黒丸で示されている。具体的な位置は重要ではないが、画像処理が簡略化されるように、円形凹部504が各塞ぎ板上の一貫した位置に配置されることが好ましい。
【0136】
着色されたインジケータディスクも、好ましくは、つや消しの不透明なアクリルシートから作製し、制御工程機能を実行するのに適した複数の色で提供する。したがって、この実施例では、この多チューブ式触媒充填作業中に評価される選択された属性は、各塞ぎ板に設置されたインジケータディスクの色であり、この属性は、4つの色状態(以下の表3に示される)を有するものと定義される。この例では、白色のインジケータディスクを全ての塞ぎ板に最初に設置した。
【0137】
この例では、OAK-1デジタルカメラ(米国コロラド州ウェストミンスターのLuxonis Holding Corp(www.store.opencv.ai)から入手可能)を画像取得用に選択した。OAK-1カメラは、横4056ピクセル×縦3040ピクセルの12メガピクセル(12MP)を測定するソニーIMX378 CMOSカラー光検出器を備え、500ピクセル/メートル(PPM)の解像度で反応器チューブシートの上面全体を撮像することができる。したがって、検出器配列内の各ピクセルは、チューブシート表面の2mm×2mmの領域を表すことができる。OAK-1カメラは、81度の水平FOVと68.8度の垂直FOVとを有する光学系をさらに備える。当業者であれば、簡単な三角法を使用して、利用可能なFOV内でチューブシート全体を撮影するためにこのカメラをチューブシートの上方に幾何学的中心から約4030mm(13.2フィート)の垂直距離に配置する必要があると判断できる。
【0138】
保守作業の開始前に、チューブシートの所定の位置にある塞ぎ板の基準画像を取得し、各着色インジケータディスクの中心点を画像配列内に配置した。その後、各着色インジケータディスクの中心点の座標を使用して、画像アレイ内の各塞ぎ板の位置を表し、この中心点位置で各塞ぎ板に固有識別子(図ではP1、P2、P3、...などと表す)を割り当てた。さらに画像処理を簡単にするため、画像マスクも作成した。
【0139】
塞ぎ板の初期デジタル画像を、触媒充填作業開始時の反応器の状態を記録するために、時間Tiで取得した。その後、得られた塞ぎ板の初期デジタル画像(Di)をカメラから画像プロセッサにネイティブRGBフォーマットで転送した。
【0140】
周囲の照明条件(受動照明)の無制御な変動は、チューブシートのデジタル画像の品質に悪影響を及ぼし、エッジ検出などの画像処理作業をより困難にする可能性があることに留意されたい。低照度条件下では、補助照明(能動照明)の使用が有益な場合がある。逆に、チューブシートの一部が完全な太陽光にさらされるような高照度条件下では、光検出器内の一部の画素が飽和し、色データを適切に測定する能力を失う可能性がある。このような場合、カメラの位置を変えてチューブシートの異なる視野角を得ることで問題が解決することがある。
【0141】
いくつかの実施形態では、光学フィルタをカメラレンズと組み合わせて使用して、取得工程中の画質を向上させることができる。例えば、着色ガラス写真フィルタを使用して色の違いを強調したり、偏光フィルタを使用して画像の詳細を不明瞭にする可能性のあるぎらつきを低減したりすることができる。
【0142】
この実施例では、まずOpenCVの関数cv2.BGR2LABを使用して、画像プロセッサ内でカラーデジタル画像をRGB形式からL***カラー形式に変換する。L***形式では、照明の強度はL*チャネル(輝度値)内で捕捉されるのに対し、a*チャネルとb*チャネル(彩度値)は照明の強度に比較的影響を受けにくい。a*チャネル及びb*チャネルのみを利用することによって、広い範囲のチューブシート照明の下で、インジケータディスクの色を良好に区別することができる。
【0143】
***形式になってから、各カラーインジケータディスクの上に同心円状に配置された9×9(81ピクセル)のサンプルウィンドウの平均色値を計算することによって、各カラーインジケータディスクの色値を決定した。
【0144】
次に、各塞ぎ板の色状態を、a*及びb*カラーチャネルのみの平均値を評価し、以下の表3の範囲に従って4つの色状態値の1つを割り当てることによって決定した。画像処理技術の当業者であれば、a*及びb*についての正式なカラーモデル値は(-128)~(+128)の範囲であると認識すると考えられるが、OpenCVでは代わりに0~255の範囲のAdjusted値を使用する。参考のために表3の下部に変換式を示す。
【0145】
【表3】
【0146】
その後、各塞ぎ板の色データを関係データベースに転送し、各塞ぎ板のマルチフィールドデータベースレコードを作成した。データベースには、初期デジタル画像(Di)を取得した時間(Ti)を表すタイムスタンプ;塞ぎ板の固有識別子;及び割り当てられた色状態値が記録された。その後、関係データベース内のルックアップテーブルを使用して、色状態を特定のチューブ状態に対応付け、これらのチューブ状態も各データベースレコードに含めた。
【0147】
塞ぎ板は、異なる数のチューブを覆う可能性があるため、関係データベースは、塞ぎ板のサイズデータのルックアップテーブルをさらに備える。このデータを使用して、各塞ぎ板が覆うチューブ端部の数を、その塞ぎ板の固有識別子に対応付けることができる。このようにして、各色状態のチューブカウントの精度を向上させることができる。表4は、図5に示されるチューブシートに関するこのようなルックアップテーブルの例を示している。
【0148】
【表4】
【0149】
初期画像を取得し処理した後、次の触媒充填作業の工程を行った:
a)塞ぎ板の1枚を取り外し、板の下にある円形チューブ端部を露出させる
b)露出したチューブ端部にわたってマルチチューブローダー(MTL)を配置する
c)MTLに触媒を入れる
d)チューブに触媒を充填する
e)露出したチューブ端部からMTLを取り外す
f)塞ぎ板の着色インジケータディスクを変更する
g)充填済みチューブを覆うように板を交換する。
【0150】
そして、一定時間後、場合によってはMTLが依然として工程a)~g)を実行している間に、次のことを行う:
h)板の1枚を取り外し、プレートの下にある充填済みのチューブのチューブ端部119を露出させる
i)触媒粒子の追加又は除去により、各チューブ内の触媒層の長さを確認/是正する
j)板内のインジケータディスクを交換する
k)確認済みのチューブを覆うように板を交換する。
【0151】
進行したら、この触媒充填作業中のチューブシートの状態を、各塞ぎ板の交換後(すなわち、工程g又はkが完了するたび)に、後のデジタル画像を取得することによって監視した。上記のように、これらのデジタル画像も画像プロセッサに転送し、そこで各インジケータディスクの色を評価し、それぞれの色状態値を割り当てた。初期デジタル画像と同様に、各塞ぎ板のタイムスタンプ付きデータベースレコードを関係データベースに継続的に追加し、充填済みチューブの総数及び作業の完了予測時間などのパフォーマンスメトリクスを継続的に計算できるようにした。
【0152】
例4:触媒リテーナの取り付け
この実施例では、監視された作業は、25.4mm(1インチ)チューブを備える縦型シェルアンドチューブ式反応器の下部チューブ端部における触媒リテーナの取り付けであった。当該技術分野で知られているように、触媒リテーナは各チューブ内で触媒充填をサポートするために使用され、各リテーナは下部チューブシートから同じ一定の垂直距離に設置されなければならない。設置されたリテーナの正確な高さを達成することは、それ以降に装填される全ての触媒層の長さを制御する際に非常に重要である。
【0153】
米国特許第9,440,903号(参照により本明細書において援用される)の図1Eは、本実施例で触媒リテーナとして使用される特定の「触媒クリップ」の説明図であるが、他の触媒リテーナを採用してもよいことが想定される。当該技術分野で知られているように、これらの触媒クリップの適切な取り付けを補助するために、特定の工具を使用する。しかしながら、典型的な市販のシェルアンドチューブ式反応器には何千本ものチューブが存在するため、触媒クリップの少なくとも一部が誤った高さに設置されたり、不適切な傾斜(すなわち水平でない)で設置されたりすることは珍しくない。場合によっては、所定のチューブにクリップが取り付けられていなかったり、装填中にクリップが外れてしまったりすることもある。
【0154】
この実施例では、全ての触媒クリップを下部チューブシートの上方の12.7mm(0.50インチ)~19.1mm(0.75インチ)の高さに設置することが望まれた。したがって、この実施例で評価するために選択された属性は、下部チューブシートの底部平面を基準として測定された、チューブ内におけるクリップの設置深さであった。この属性は4つの数値状態(以下の表5に示す)を有するものと定義された。
【0155】
この実施例では、選択された撮像装置は、デジタルカメラではなく、非接触測距装置(NRD)であった。具体的には、NRDは、800nm~1600nmの波長で作動する少なくとも1つのレーザーを備えるLiDAR装置である。市販されているDensity Entry Sensor(米国カリフォルニア州サンフランシスコのDensity Inc.社から入手可能)は、本発明の方法により別の目的で再利用することができ、このようなLiDAR装置の一例である。自律走行車に使用するNRDシステムの開発が進む中、905nmと1550nmの波長で作動する多くの優れた低コストLiDAR装置が市販されている。
【0156】
好ましい実施形態では、デジタル画像を、少なくとも1つのVelarray M1600ソリッドステートLiDARデバイス(米国カリフォルニア州サンノゼのVelodyne Lidar社から入手可能)を使用して取得することができる。さらに、「velodynelidar」インターフェースを含むMATLABソフトウェアを、画像処理、及び、必要に応じて、関連するポイントクラウドの視覚化に使用することがさらに好ましい。
【0157】
先の実施例で説明したように、まずチューブ端部に固有識別子を割り当て、次に下部チューブシート内のチューブ端部を含むデジタル画像を取得した。
【0158】
この実施例では、撮像装置の測定値はリターンタイム値であり、これらを画像処理ソフトウェアによって所望の相対深度測定値に変換した。当業者であれば明らかなように、相対設置深度を適切に計算するためには、LiDAR装置と下部チューブシートの底面との間の距離の測定も必要である。
【0159】
計算後、相対設置深度の測定値を表5の範囲に従って評価し、属性状態の値を決定した。次に、関係データベースを使用して、各属性状態に適切なチューブ状態を関連付けた:
【0160】
【表5】
【0161】
触媒クリップの設置作業を開始した後、触媒クリップの設置作業が完了するまで、5分ごとにチューブシートの追加デジタル画像を取得し処理することによって、チューブシートの状態を継続的に監視した。いくつかの実施形態では、収集したLiDARリターンタイムデータ測定値をいわゆる「ポイントクラウド」画像としてビデオディスプレイスクリーン上に表示するためにビジュアルディスプレイソフトウェアを使用することができるが、これは本発明の方法の実施に必須の要件ではない。
【0162】
初期デジタル画像と同様に、各下部チューブ端部のタイムスタンプ付きデータベースレコードを関係データベースに継続的に追加し、触媒クリップの総取付個数及び作業完了までの予測時間などのパフォーマンスメトリクスを計算することができた。さらに、取付け作業をリアルタイムで監視することにより、不適切な取付け技術が使用されていると判断された場合はいつでも迅速な是正措置を取ることができ、何時間もの望ましくない再作業を回避することができる。
【0163】
本発明を少なくとも1つの実施形態に関して説明したが、本発明は、本発明の精神及び範囲内でさらに変更することができる。したがって、本願は、その一般原理を用いた本発明のあらゆる変形、用途、又は適応を対象とすることを意図するものである。さらに、本願は、本発明が属する技術分野において公知又は慣用の範囲内であり、かつ、特許請求の範囲の制限内に入るような、本発明からの逸脱をカバーすることを意図するものである。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
【国際調査報告】