(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】量子回路のデバッグ
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20240514BHJP
【FI】
G06N10/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570433
(86)(22)【出願日】2022-05-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-11
(86)【国際出願番号】 US2022029756
(87)【国際公開番号】W WO2023282979
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】マクシモフ アンドリイ
(72)【発明者】
【氏名】ニューイェン ジェイソン ヒエウ ヴァン
(72)【発明者】
【氏名】マーコフ イゴール レオニドヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
(57)【要約】
古典的コンピュータ、システムコントローラ、及び量子プロセッサを備えるハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムを使用して計算する方法は、解くべき計算問題及び計算問題を解くために使用すべき量子アルゴリズムを識別するステップと、量子プロセッサでキュービットのペアに適用され得る複数の2キュービットゲートのうちの有欠陥2キュービットゲートを検出するステップと、量子アルゴリズムに基づいて計算問題を解く計算タスクを、単一キュービットゲート及び検出された有欠陥2キュービットゲートを除外する2キュービットゲートを含む一連の論理ゲートにコンパイルするステップと、量子プロセッサ上で一連の論理ゲートを実行するステップと、量子プロセッサでキュービットのうちの1つ以上を測定するステップと、量子プロセッサでキュービットの測定された結果から導出された識別された計算問題に対する解を出力するステップとを含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
古典的コンピュータ、システムコントローラ、及び量子プロセッサを備えるハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムを使用して計算を実行する方法であって、
前記古典的コンピュータの使用によって、解くべき計算問題、及び前記計算問題を解くために使用すべき量子アルゴリズムを識別するステップと、
前記古典的コンピュータ及び前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサにおけるキュービットのペアに適用され得る複数の2キュービットゲートのうちの1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップと、
前記古典的コンピュータの使用によって、前記量子アルゴリズムに基づいて前記計算問題を解くための計算タスクを、複数の単一キュービットゲート及び検出された前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを除外する前記複数の2キュービットゲートのうちの2キュービットゲートを含む一連の論理ゲートにコンパイルするステップと、
前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサ上で前記一連の論理ゲートを実行するステップと、
前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサにおける前記キュービットのうちの1つ以上を測定するステップと、
前記古典的コンピュータの使用によって、前記量子プロセッサにおける前記キュービットのうちの前記1つ以上の測定された結果から導出された識別された前記計算問題に対する解を出力するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップが、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサにおける複数のクラスのキュービットの各クラスにおけるキュービットの全ペアの間で2キュービットゲートを実行するステップと、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサにおける前記複数のクラスのキュービットの各クラスにおけるキュービットの全ペアの間で前記2キュービットゲートのエラーシンドロームを測定するステップと、
前記古典的コンピュータによって、測定された前記エラーシンドロームに基づいて前記量子プロセッサにおける前記キュービットの全ペアの間で2キュービットゲートのうち、有欠陥2キュービットゲートの候補のグループを選択するステップと、
前記システムコントローラによって、有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループにおける二分探索を実行して、有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループにおける1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを識別するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のクラスのキュービットの各クラスが、前記量子プロセッサにおける前記キュービットの半分を含み、
前記複数のクラスが2n個のクラスを含み、2
nが前記量子プロセッサにおけるキュービットの数である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
有欠陥2キュービットゲートの候補の前記グループが、多くても2
n-1個の2キュービットゲートを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
有欠陥2キュービットゲートの候補の前記グループが、2
n-1-m個の2キュービットゲートを含み、mが、欠陥のある測定された前記エラーシンドロームの数である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記二分探索が、
有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループを2つのサブグループに分割するステップと、
前記2つのサブグループのうちの1つのエラーシンドロームを測定するステップと、
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記システムコントローラによって、検出された前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを修正するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップ、前記一連の論理ゲートを実行するステップ、前記量子プロセッサにおける前記キュービットのうちの1つ以上を測定するステップを反復するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
トラップイオンのグループを備え、トラップイオンの前記グループの各トラップイオンが、キュービットを定義する2つの超微細状態を有する、量子プロセッサと、
前記量子プロセッサにおけるトラップイオンに提供される、レーザビームを照射するように構成された1つ以上のレーザと、
古典的コンピュータと、
前記量子プロセッサにおける前記トラップイオンに印加される前記1つ以上のレーザからの前記レーザビームの照射を制御するように構成されたシステムコントローラと、
を備える、ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムであって、
前記古典的コンピュータ及び前記システムコントローラが、
前記古典的コンピュータの使用によって、解くべき計算問題、及び前記計算問題を解くために使用すべき量子アルゴリズムを識別するステップと、
前記古典的コンピュータ及び前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサにおけるキュービットのペアに適用され得る複数の2キュービットゲートのうちの1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップと、
前記古典的コンピュータの使用によって、前記量子アルゴリズムに基づいて前記計算問題を解くための計算タスクを、複数の単一キュービットゲート及び検出された前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを除外する前記複数の2キュービットゲートのうちの2キュービットゲートを含む一連の論理ゲートにコンパイルするステップと、
前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサ上で前記一連の論理ゲートを実行するステップと、
前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサにおける前記キュービットのうちの1つ以上を測定するステップと、
前記古典的コンピュータの使用によって、前記量子プロセッサにおける前記キュービットのうちの前記1つ以上の測定された結果から導出された識別された前記計算問題に対する解を出力するステップと、
を含む操作を実行するように構成される、ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項10】
前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップが、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサにおける複数のクラスのキュービットの各クラスにおけるキュービットの全ペアの間で2キュービットゲートを実行するステップと、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサにおける前記複数のクラスのキュービットの各クラスにおけるキュービットの全ペアの間で前記2キュービットゲートのエラーシンドロームを測定するステップと、
前記古典的コンピュータによって、測定された前記エラーシンドロームに基づいて前記量子プロセッサにおける前記キュービットの全ペアの間で2キュービットゲートのうち、有欠陥2キュービットゲートの候補のグループを選択するステップと、
前記システムコントローラによって、有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループにおける二分探索を実行して、有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループにおける1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを識別するステップと、
を含む、請求項9に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項11】
前記複数のクラスのキュービットの各クラスが、前記量子プロセッサにおける前記キュービットの半分を含み、
前記複数のクラスが、2logNのクラスを含み、ここで、Nが前記量子プロセッサにおけるキュービットの数である、請求項10に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項12】
有欠陥2キュービットゲートの候補の前記グループが、多くてもN/2個の2キュービットゲートを含む、請求項11に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項13】
有欠陥2キュービットゲートの候補の前記グループが、2
n-1-m個の2キュービットゲートを含み、mが、欠陥のある測定された前記エラーシンドロームの数である、請求項11に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項14】
前記二分探索が、
有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループを2つのサブグループに分割するステップと、
前記2つのサブグループのうちの1つのエラーシンドロームを測定するステップと、
を含む、請求項10に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項15】
前記操作が、
前記システムコントローラによって、検出された前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを修正するステップ
をさらに含む、請求項9に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項16】
前記操作が、
前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップ、前記一連の論理ゲートを実行するステップ、前記量子プロセッサにおける前記キュービットのうちの1つ以上を測定するステップを反復するステップ
をさらに含む、請求項9に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項17】
古典的コンピュータと、
量子プロセッサと、
システムコントローラと、
内部に記憶された、いくつかの命令を有する不揮発性メモリと
を備える、ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムであって、前記命令が、1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムに、
前記古典的コンピュータの使用によって、解くべき計算問題、及び前記計算問題を解くために使用すべき量子アルゴリズムを識別するステップと、
前記古典的コンピュータ及び前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサにおけるキュービットのペアに適用され得る複数の2キュービットゲートのうちの1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップと、
前記古典的コンピュータの使用によって、前記量子アルゴリズムに基づいて前記計算問題を解くための計算タスクを、複数の単一キュービットゲート及び検出された前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを除外する前記複数の2キュービットゲートのうちの2キュービットゲートを含む一連の論理ゲートにコンパイルするステップと、
前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサ上で前記一連の論理ゲートを実行するステップと、
前記システムコントローラの使用によって、前記量子プロセッサにおける前記キュービットのうちの1つ以上を測定するステップと、
前記古典的コンピュータの使用によって、前記量子プロセッサにおける前記キュービットのうちの前記1つ以上の測定された結果から導出された識別された前記計算問題に対する解を出力するステップと
を含む操作を実行させる、ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項18】
前記1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップが、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサにおける複数のクラスのキュービットの各クラスにおけるキュービットの全ペアの間で2キュービットゲートを実行するステップと、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサにおける前記複数のクラスのキュービットの各クラスにおけるキュービットの全ペアの間で前記2キュービットゲートのエラーシンドロームを測定するステップと、
前記古典的コンピュータによって、測定された前記エラーシンドロームに基づいて前記量子プロセッサにおける前記キュービットの全ペアの間で2キュービットゲートのうち、有欠陥2キュービットゲートの候補のグループを選択するステップと、
前記システムコントローラによって、有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループにおける二分探索を実行して、有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループにおける1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを識別するステップと
を含む、請求項17に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項19】
前記複数のクラスのキュービットの各クラスが、前記量子プロセッサにおける前記キュービットの半分を含み、
前記複数のクラスが2n個のクラスを含み、2
nが前記量子プロセッサにおけるキュービットの数である、請求項18に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【請求項20】
前記二分探索が、
有欠陥2キュービットゲートの候補の選択された前記グループを2つのサブグループに分割するステップと、
前記2つのサブグループのうちの1つのエラーシンドロームを測定するステップと、
を含む、請求項18に記載のハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載される実施形態は、概して、ハイブリッドコンピューティングシステムにおいて計算を実行する方法に関し、より具体的には、ハイブリッドコンピューティングシステムにおいて量子回路をデバッグする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータは、従来の(古典的)コンピュータが実行できることと比較して、ハード最適化問題及び機密性の高い暗号タスクを含む、特定の計算タスクの性能を向上させることが示されている。このような計算タスクを量子コンピュータで実行する場合、正確で有用な結果を提供するために、システムの安定性の向上、メンテナンス操作の高速化、及び量子コンピュータで実行される量子回路のデバッグによって達成できる稼働時間の向上が必要とされる。
【0003】
デバッグは、回路を使用して行われる計算においてエラーを引き起こす可能性がある回路(すなわち、一連のゲート操作)内の既存及び潜在的なエラー(「バグ」とも呼ばれる)を検出し、除去するプロセスである。しかしながら、量子回路のデバッグは、量子コンピュータにおける「0」及び「1」の状態を表すキュービットと、古典的コンピュータにおける「0」及び「1」を表すビットとの違いにより、古典的コンピュータにおける超大規模集積(VLSI)回路のデバッグとは異なる。例えば、量子コンピュータは、全てのキュービットが「0」状態で準備される量子状態を様々なテスト量子回路に供給し、量子状態を繰り返し測定することによってテストされる。
【0004】
したがって、量子コンピュータのエラー率を改善するために、量子回路をデバッグするための体系的かつ効率的な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、古典的コンピュータ、システムコントローラ、及び量子プロセッサを備えるハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムを使用して計算を実行する方法を提供する。この方法は、古典的コンピュータの使用によって、解くべき計算問題、及び計算問題を解くために使用すべき量子アルゴリズムを識別するステップと、古典的コンピュータ及びシステムコントローラの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのペアに適用され得る複数の2キュービットゲートのうちの1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップと、古典的コンピュータの使用によって、量子アルゴリズムに基づいて計算問題を解くための計算タスクを、複数の単一キュービットゲート及び検出された1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを除外する複数の2キュービットゲートのうちの2キュービットゲートを含む一連の論理ゲートにコンパイルするステップと、システムコントローラの使用によって、量子プロセッサ上で一連の論理ゲートを実行するステップと、システムコントローラの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのうちの1つ以上を測定するステップと、古典的コンピュータの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのうちの1つ以上の測定された結果から導出された識別された計算問題に対する解を出力するステップと、を含む。
【0006】
本開示の実施形態は又はイブリッド量子古典的コンピューティングシステムも提供する。ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムは、トラップイオンのグループを備え、トラップイオンのグループの各トラップイオンが、キュービットを定義する2つの超微細状態を有する、量子プロセッサと、量子プロセッサにおけるトラップイオンに提供される、レーザビームを照射するように構成された1つ以上のレーザと、古典的コンピュータと、量子プロセッサにおけるトラップイオンに印加される1つ以上のレーザからのレーザビームの照射を制御するように構成されたシステムコントローラとを備える。古典的コンピュータ及びシステムコントローラは、古典的コンピュータの使用によって、解くべき計算問題、及び計算問題を解くために使用すべき量子アルゴリズムを識別するステップと、古典的コンピュータ及びシステムコントローラの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのペアに適用され得る複数の2キュービットゲートのうちの1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップと、古典的コンピュータの使用によって、量子アルゴリズムに基づいて計算問題を解くための計算タスクを、複数の単一キュービットゲート及び検出された1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを除外する複数の2キュービットゲートのうちの2キュービットゲートを含む一連の論理ゲートにコンパイルするステップと、システムコントローラの使用によって、量子プロセッサ上で一連の論理ゲートを実行するステップと、システムコントローラの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのうちの1つ以上を測定するステップと、古典的コンピュータの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのうちの1つ以上の測定された結果から導出された識別された計算問題に対する解を出力するステップと、を含む操作を実行するように構成される。
【0007】
本開示の実施形態は、ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムをさらに提供する。ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムは、古典的コンピュータと、量子プロセッサと、システムコントローラと、内部に記憶された、いくつかの命令を有する不揮発性メモリとを備える。いくつかの命令は、1つ以上のプロセッサによって実行されると、ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムに、古典的コンピュータの使用によって、解くべき計算問題、及び計算問題を解くために使用すべき量子アルゴリズムを識別するステップと、古典的コンピュータ及びシステムコントローラの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのペアに適用され得る複数の2キュービットゲートのうちの1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出するステップと、古典的コンピュータの使用によって、量子アルゴリズムに基づいて計算問題を解くための計算タスクを、複数の単一キュービットゲート及び検出された1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを除外する複数の2キュービットゲートのうちの2キュービットゲートを含む一連の論理ゲートにコンパイルするステップと、システムコントローラの使用によって、量子プロセッサ上で一連の論理ゲートを実行するステップと、システムコントローラの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのうちの1つ以上を測定するステップと、古典的コンピュータの使用によって、量子プロセッサにおけるキュービットのうちの1つ以上の測定された結果から導出された識別された計算問題に対する解を出力するステップと、を含む操作を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の上記特徴を詳細に理解することができるように、上で簡単に要約された本開示のより具体的な記載は、いくつかが添付の図面に示されている実施形態を参照することによって説明することができる。しかしながら、添付の図面は、本開示の典型的な実施形態のみを説明しており、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。なぜなら、本開示は、他の同等に有効な実施形態を認めることができるからである。
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に従うイオントラップ型量子コンピューティングシステムの概略部分図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に従って、イオンをグループに閉じ込めるためのイオントラップの概略図を示す。
【
図3】
図3は、一実施形態に従って、トラップイオンのグループ内の各イオンの概略エネルギー図を示す。
【
図4】
図4は、ブロッホ球の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を示す。
【
図5】
図5A、
図5B、及び
図5Cは、5つのトラップイオンのグループのいくつかの概略的な集合横運動モード構造を示す。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトル及び運動モードの概略図を示す。
【
図7】
図7は、一実施形態に従う、古典的コンピュータ及び量子プロセッサを備えるハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムを使用して1つ以上の計算を実行する方法を示すフローチャートを示す。
【
図8】
図8は、一実施形態に従う、有欠陥2キュービットゲートを検出する方法を示すフローチャートを示す。
【0010】
理解を容易にするために、可能な場合には、図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用する。図及び以下の説明では、X軸、Y軸、及びZ軸を含む直交座標系を使用する。図面の矢印で表される方向は、便宜上、正の方向であると想定される。いくつかの実施形態で開示された要素は、具体的な明記なく、他の実装で有益に利用されてよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載される実施形態は、概して、ハイブリッドコンピューティングシステムにおいて計算を実行する方法に関し、より具体的には、ハイブリッドコンピューティングシステムにおいて量子回路をデバッグする方法に関する。
【0012】
ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムは、古典的コンピュータ、システムコントローラ、及び量子プロセッサを備えることができる。本明細書で使用される場合、「量子コンピュータ」及び「量子プロセッサ」という用語は、量子計算を実行するハードウェア/ソフトウェアコンポーネントを指すために交換可能に使用され得る。量子回路は、システムコントローラによって量子プロセッサ上で実行される一連のゲート操作である。
【0013】
量子プロセッサは、様々なキュービット技術から作製され得る。一例では、イオントラップ技術の場合、量子プロセッサには、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するためのレーザ、光電子増倍管(PMT)、又はトラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を読み出すための他のタイプのイメージングデバイスを含む、様々なハードウェアと結合されているトラップイオンが含まれる。システムコントローラは、量子プロセッサを制御するための命令を古典的なコンピュータから受信し、量子プロセッサを制御するための命令を実行するために使用される任意及び全ての態様の制御に関連する様々なハードウェアを制御する。システムコントローラはまた、量子プロセッサの読み出しを戻し、したがって量子プロセッサによって実行された計算結果の出力を古典的コンピュータに戻す。
【0014】
本明細書に記載される方法は、N個のキュービットを有する量子プロセッサにおける約N2個の2キュービットゲートのうち、有欠陥2キュービットゲートを、わずか3log2N-1のテストによって識別することを含む。
【0015】
(一般的なハードウェア構成)
図1は、一実施形態に係るイオントラップ型量子コンピューティングシステム100、又は単にシステム100の概略部分図である。システム100は、代表的なハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムであり得る。システム100は、古典的(デジタル)コンピュータ102と、システムコントローラ104とを備える。
図1に示されるシステム100の他のコンポーネントは、Z軸に沿って延びる、トラップイオン(すなわち、互いにほぼ等間隔の円として示される5個)のグループ106を含む、量子プロセッサと関連付けられる。トラップイオンのグループ106内の各イオンは、核スピンIと電子スピンSとの差がゼロであるように核スピンI及び電子スピンSを有するイオン、例えば、正のイッテルビウムイオン
171Yb
+、正のバリウムイオン
133Ba
+、正のカルシウムイオン
111Cd
+又は
113Cd
+であり、これらの全ては、核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態を有する。いくつかの実施形態では、トラップイオンのグループ106内の全てのイオンは、同じ種及び同位体(例えば、
171Yb
+)である。いくつかの他の実施形態では、トラップイオンのグループ106は、1つ以上の種又は同位体を含む(例えば、いくつかのイオンは
171Yb
+であり、いくつかの他のイオンは
133Ba
+である)。なおさらなる実施形態では、トラップイオンのグループ106は、同じ種の様々な同位体(例えば、Ybの異なる同位体、Baの異なる同位体)を含み得る。トラップイオンのグループ106内のイオンは、別々のレーザビームで個別に処理される。古典的コンピュータ102は、中央処理ユニット(CPU)、メモリ、及びサポート回路(又はI/O)(図示せず)を含む。メモリは、CPUに接続されており、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク、又は任意の他の形式のデジタルストレージなどで、ローカル又はリモートで、すぐに利用できるメモリの1つ以上であり得る。ソフトウェア命令、アルゴリズム、及びデータは、CPUに命令するためにコード化され、メモリ内に記憶され得る。サポート回路(図示せず)も、従来の方法でプロセッサをサポートするためにCPUに接続されている。サポート回路は、従来のキャッシュ、電源、クロック回路、入力/出力回路、サブシステムなどを含み得る。
【0016】
例えば、開口数(NA)が0.37の対物レンズなどのイメージング対物レンズ108は、イオンからY軸に沿って蛍光を収集し、個々のイオンを測定するために、各イオンをマルチチャネル光電子増倍管(PMT)110(又はいくつかの他のイメージングデバイス)にマッピングする。X軸に沿って提供される、レーザ112からのラマンレーザビームは、イオンに対して操作を実行する。回折ビームスプリッタ114は、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)118を使用して個別に切り替えられるラマンレーザビーム116のアレイを作成する。AOM118は、ラマンレーザビーム116の照射を個別に制御することによって個々のイオンに選択的に作用するように構成される。ラマンレーザビーム116と非共伝搬であるグローバルラマンレーザビーム116は、異なる方向から全てのイオンを一度に照射する。いくつかの実施形態では、単一のグローバルラマンレーザビーム120ではなく、個々のラマンレーザビーム(図示せず)は、各々が個々のイオンを照射するために使用され得る。システムコントローラ(「RFコントローラ」とも呼ばれる)104は、AOM118を制御し、したがって強度、タイミング、及びレーザパルスの位相を制御して、トラップイオンのグループ106内のトラップイオンに適用される。CPU122は、システムコントローラ104のプロセッサである。ROM124は、様々なプログラムを記憶し、RAM126は、様々なプログラム及びデータの作業メモリである。記憶ユニット128は、ハードディスクドライブ(HDD)又はフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み、電源が切られても様々なプログラムを記憶する。CPU122、ROM124、RAM126、及び記憶ユニット128は、バス130を介して相互接続されている。システムコントローラ104は、ROM124又は記憶ユニット128に記憶され、RAM126を作業領域として使用する制御プログラムを実行する。制御プログラムは、データの受信及び分析、ならびに本明細書で説明されたイオントラップ型量子コンピューティングシステム100を実装及び操作するために使用される方法及びハードウェアの任意及び全ての態様の制御に関連する様々な機能を実行するためにCPU122によって実行することができるプログラムコードを含むソフトウェアアプリケーションを含む。
【0017】
図2は、一実施形態に係る、グループ106内にイオンを閉じ込めるイオントラップ200(ポールトラップとも呼ばれる)の概略図を示す。閉じ込め電位は、静的(DC)電圧と無線周波数(RF)電圧の両方によって印加される。静的(DC)電圧V
Sがエンドキャップ電極210及び212に印加されて、Z軸(「軸方向」又は「長手方向」とも呼ばれる)に沿ってイオンを閉じ込める。グループ106内のイオンは、イオン間のクーロン相互作用のために、軸方向にほぼ均等に分布している。いくつかの実施形態では、イオントラップ200は、Z軸に沿って延びる4つの双曲線形状の電極202、204、206、及び208を含む。
【0018】
操作中、(振幅VRF/2を有する)正弦波電圧V1は、対向する一対の電極202、204に印加され、正弦波電圧V1から180°の位相シフト(及び振幅VRF/2)を有する正弦波電圧V2は、駆動周波数ωRFで対向する他対の電極206、208に印加されて、四重極電位を生成する。いくつかの実施形態では、正弦波電圧は、対向する一対の電極202、204のみに印加され、対向する他対の電極206、208は、接地される。四重極電位は、トラップされた各イオンに対してZ軸に垂直なX-Y平面(「半径方向」又は「横方向」とも呼ばれる)に有効な閉じ込め力を生成し、その閉じ込め力は、RF電界が消失する鞍点(すなわち、軸方向(Z方向)の位置)からの距離に比例する。各イオンの半径方向(すなわち、X-Y平面の方向)の運動は、半径方向の鞍点に向かう復元力を伴う調和振動(経年運動と呼ばれる)として近似され、それぞればね定数kxとkyによってモデル化できる。いくつかの実施形態では、半径方向のばね定数は、四重極電位が半径方向に対称である場合に等しいものとしてモデル化される。しかしながら、望ましくない場合には、半径方向のイオンの運動は、物理的なトラップ構成のある程度の非対称性、電極の表面の不均一性による小さなDCパッチ電位などのために歪む場合があり、これら及び他の外部の歪みの原因により、イオンは、鞍点から中心を外れる場合がある。
【0019】
示されないが、異なるタイプのトラップは微細加工されたトラップチップであり、上記のものと同様のアプローチが、微細加工されたトラップチップの表面上の場所にイオン又は原子を保持又は閉じ込めるために使用される。上記のラマンレーザビームなどのレーザビームが、表面のすぐ上にあるようなイオン又は原子に印加され得る。
【0020】
図3は、一実施形態に係る、トラップイオンのグループ106内の各イオンの概略エネルギー
図300を示す。トラップイオンのグループ106内の各イオンは、核スピンIと電子スピンSとの差がゼロになるように核スピンI及び電子スピンSを有するイオンである。一例では、各イオンは、ω
01/2π=12.642812GHzの周波数差(「キャリア周波数」と呼ばれる)に対応するエネルギー分割を有する核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態(すなわち、2つの電子状態)を有する、正のイッテルビウムイオン
171Yb
+であってもよい。他の例では、各イオンは、全てが、核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態を有する、正のバリウムイオン
133Ba
+、正のカドミウムイオン
111Cd
+又は
113Cd
+であってもよい。キュービットは、│0>と│1>で表される2つの超微細状態で形成され、超微細基底状態(すなわち、
2S
1/2超微細状態のうちの低エネルギー状態)が│0>を表すために選択される。以下、「超微細状態」、「内部超微細状態」及び「キュービット」という用語は、│0>と│1>を表すために交換可能に使用されることがある。各イオンは、ドップラー冷却又は分解サイドバンド冷却などの既知のレーザ冷却方法で、フォノン励起なし(すなわち、n
ph=0)で任意の運動モードmの運動基底状態│0>
mの近くまで冷却し(すなわち、イオンの運動エネルギーが低下することができる)、次にキュービット状態が光ポンピングによって超微細基底状態│0>で準備することができる。ここで、│0>は、トラップイオンの個々のキュービット状態を表し、下付き文字mが付いた│0>
mは、トラップイオンのグループ106の運動モードmの運動基底状態を表す。
【0021】
各トラップイオンの個々のキュービット状態は、例えば、励起された
2P
1/2レベル(|e>で表される)を介して355ナノメートル(nm)のモードロックレーザ(mode-locked laser)によって操作することができる。
図3に示すように、レーザからのレーザビームは、ラマン構成で一対の非共伝搬レーザビーム(周波数ω
1を有する第一のレーザビーム及び周波数ω
2を有する第二のレーザビーム)に分割され、
図3で説明するように、|0>と|e>の間の遷移周波数ω
0eに関して、一光子遷移離調周波数Δ=ω
1-ω
0eによって離調され得る。二光子遷移離調周波数δは、トラップイオンに第一及び第二のレーザビームによって提供されるエネルギー量の調整を含み、それらを組み合わせて使用すると、トラップイオンが超微細状態|0>と|1>との間で移動する。一光子遷移離調周波数Δが二光子遷移離調周波数(単に「離調周波数」とも呼ばれる)δ=ω
1-ω
2-ω
01(以下、±μで表され、μは正の値である)よりもはるかに大きい場合、それぞれ状態|0>と|e>の間、及び状態|1>と|e>の間でラビフロップが発生する単一光子ラビ周波数Ω
0e(t)とΩ
1e(t)(時間に依存し、第一と第二のレーザビームの振幅と位相によって決定される)、ならびに励起状態|e>からの自然放出率、2つの超微細状態│0>と│1>の間のラビフロップ(「キャリア遷移」と呼ばれる)は、二光子ラビ周波数Ω(t)で誘導される。二光子ラビ周波数Ω(t)は、Ω
0eΩ
1e/2Δに比例する強度(すなわち、振幅の絶対値)を有し、ここで、Ω
0eとΩ
1eは、それぞれ第一と第二のレーザビームによる単一光子ラビ周波数である。以下、キュービットの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するためのラマン構成におけるこの非共伝搬レーザビームのセットは、「複合パルス」又は単に「パルス」と呼ばれてもよく、結果として生じる二光子ラビ周波数Ω(t)の時間依存パターンは、パルスの「振幅」又は単に「パルス」と呼ばれてもよく、それらは、以下で図示され、さらに説明される。離調周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01は、複合パルスの離調周波数又はパルスの離調周波数と呼ばれることがある。第一及び第二のレーザビームの振幅によって決定される二光子ラビ周波数Ω(t)の振幅は、複合パルスの「振幅」と呼ばれることがある。
【0022】
なお、本明細書に提供される説明で使用される特定の原子種は、イオン化されたときに安定し、かつ明確に定義された2レベルエネルギー構造と、光学的にアクセス可能な励起状態とを有する原子種の一例にすぎないため、本開示によるイオントラップ型量子コンピュータの可能な構成、仕様などを限定することを意図するものではない。例えば、他のイオン種は、アルカリ土類金属イオン(Be+、Ca+、Sr+、Mg+、及びBa+)又は遷移金属イオン(Zn+、Hg+、Cd+)を含む。
【0023】
図4は、方位角φ及び極性角θを有するブロッホ球400の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を視覚化するのを助けるために提供される。上記のように、複合パルスを適用すると、キュービット状態│0>(ブロッホ球の北極として表される)と│1>(ブロッホ球の南極として表される)との間でラビフロップが発生する。複合パルスの持続時間と振幅を調整すると、キュービット状態を│0>から│1>に(すなわち、ブロッホ球の北極から南極へ)反転させるか、又はキュービット状態を│1>から│0>に(すなわち、ブロッホ球の南極から北極へ)反転させる。複合パルスのこの適用は、「πパルス」と呼ばれる。さらに、複合パルスの持続時間と振幅を調整することにより、キュービット状態│0>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、同位相で均等に重み付けされた重ね合わせ状態│0>+│1>(重ね合わせ状態の正規化係数は、便宜上、以下省略される)に変換することができ、そして、キュービット状態│1>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、均等に重み付けされているが、位相がずれる重ね合わせ状態│0>-│1>に変換することができる。複合パルスのこの適用は、「π/2パルス」と呼ばれる。より一般的には、加算されて均等に重み付けされた2つのキュービット状態│0>と│1>の重ね合わせは、ブロッホ球の赤道上にある点によって表される。例えば、重ね合わせ状態│0>±│1>は、方位角φがそれぞれゼロとπである赤道上の点に対応する。方位角φの赤道上の点に対応する重ね合わせ状態は、│0>+e
iφ│1>(例えば、φ=±π/2の場合は│0>±i│1>である)として表される。赤道上の2点間の変換(すなわち、ブロッホ球のZ軸の周りの回転)は、複合パルスの位相をシフトすることで実装できる。
【0024】
(もつれ形成)
図5A、
図5B、及び
図5Cは、例えば、5つのトラップイオンのグループ106のいくつかの概略的な集合横運動モード構造(単に「運動モード構造」とも呼ばれる)を示す。ここで、エンドキャップ電極210及び212に印加された静的電圧V
Sによる閉じ込め電位は、半径方向の閉じ込め電位と比較して弱い。トラップイオンのグループ106の横方向の集合運動モードは、イオントラップ200によって生成された閉じ込め電位とトラップイオン間のクーロン相互作用との組み合わせによって決定される。トラップイオンは、集合横方向運動(「集合横運動モード」、「集合運動モード」、又は単に「運動モード」と呼ばれる)を起こし、各モードには、それに関連する異なるエネルギー(又は同等に、周波数)がある。以下では、エネルギーがm番目に低い運動モードを│n
ph>
mと呼び、ここで、n
phは、運動モードの運動量子の数(エネルギー励起の単位で、フォノンと呼ばれる)を表し、所定の横方向の運動モードの数Mは、グループ106内のトラップイオンの数に等しい。
図5A~
図5Cは、グループ106内に配置された5つのトラップイオンによって経験され得る異なるタイプの集合横運動モードの例を概略的に説明する。
図5Aは、最も高いエネルギーを有する一般的な運動モード│n
ph>
Mの概略図であり、ここで、Mは、運動モードの数である。一般的な運動モード│n>
Mでは、全てのイオンは、横方向に同位相で振動する。
図5Bは、2番目に高いエネルギーを有する傾斜運動モード│n
ph>
M-1の概略図である。傾斜運動モードでは、両端のイオンは、横方向に位相がずれて(すなわち、反対方向に)移動する。
図5Cは、傾斜運動モード│n
ph>
M-1よりもエネルギーが低く、イオンがより複雑なモードパターンで移動する高次運動モード│n
ph>
M-3の概略図である。
【0025】
なお、上記特定の構成は、本開示によるイオンを閉じ込めるトラップのいくつかの可能な例のうちの1つに過ぎず、本開示によるトラップの可能な構成、仕様などを限定するものではない。例えば、電極の形状は、上記双曲線電極に限定されない。他の例では、調和振動として半径方向にイオンの運動を引き起こす実効電界を生成するトラップは、複数の電極層が積層され、対角線上にある2つの電極にRF電圧が印加される多層トラップであってもよく、又は全ての電極がチップ上の単一平面に配置されている表面トラップであってもよい。さらに、トラップは、複数のセグメントに分割することができ、その隣接するペアが1つ以上のイオンを往復させてリンクすることもでき、又は光子相互接続によって結合することもできる。トラップは、また、上記のものなどの、微細加工されたイオントラップチップ上に互いに近接して配置された個々のトラップ領域のアレイであってもよい。いくつかの実施形態では、四重極電位は、上記RF成分に加えて、空間的に変化するDC成分を有する。
【0026】
イオントラップ型量子コンピュータでは、運動モードは、2つのキュービット間のもつれを仲介するデータバスとして機能することができ、このもつれは、XXゲート操作を実行するために使用される。つまり、2つのキュービットのそれぞれが運動モードともつれて、そして、以下に説明するように、もつれは、運動側波帯励起を使用することによって、2つのキュービット間のもつれに転送される。
図6A及び
図6Bは、一実施形態に係る、周波数ω
mを有する運動モード│n
ph>
Mでのグループ106内のイオンの運動側波帯スペクトルの図を概略的に示す。
図6Bに示すように、複合パルスの離調周波数がゼロの場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差がキャリア周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01=0に調整される場合)、キュービット状態│0>と│1>の間で単純なラビフロップ(キャリア遷移)が発生する。複合パルスの離調周波数が正の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、キャリア周波数よりも高く調整されている場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=μ>0、青側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
mと│1>│n
ph+1>
mの間でラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>が│1>に反転する場合、│n
ph>
mで表されるnフォノン励起を伴うm番目の運動モードから│n
ph+1>
mで表される(n
ph+1)フォノン励起を伴うm番目の運動モードへの遷移が発生する)。複合パルスの離調周波数が負の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、運動モード│n
ph>
mの周波数ω
mによってキャリア周波数よりも低く調整されている場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=-μ<0、赤側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
mと│1>│n
ph-1>
mの間のラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>から│1>に反転する場合、運動モード│n
ph>
mから、フォノン励起が1つ少ない運動モード│n
ph-1>
mへの遷移が発生する)。キュービットに適用された青側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
mを、│0>│n
ph>
mと│1>│n
ph+1>
mの重ね合わせに変換する。キュービットに適用された赤側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
mを、│0>│n
ph>
mと│1>│n
ph-1>
mの重ね合わせに変換する。二光子ラビ周波数Ω(t)が離調周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01=±μと比較して小さい場合、青側波帯遷移又は赤側波帯遷移を選択的に駆動することができる。したがって、キュービットは、π/2パルスなどの適切なタイプのパルスを適用することにより、所望の運動モードでもつれることができ、その後、別のキュービットともつれることができ、イオントラップ型量子コンピュータでXXゲート操作を実行するために必要な2つのキュービット間のもつれをもたらす。
【0027】
上記のように、組み合わされたキュービット運動状態の変換を制御及び/又は指示することにより、2つのキュービット(i番目及びj番目のキュービット)に対してXXゲート操作を実行することができる。一般に、(最大もつれを有する)XXゲート操作は、2キュービット状態|0>
i|0>
j、|0>
i|1>
j、|1>
i|0>
j及び|1>
i|1>
jをそれぞれ次のように変換する。
【数1】
例えば、2つのキュービット(i番目とj番目のキュービット)が両方とも最初に超微細基底状態|0>(|0>
i|0>
jで表される)にあり、その後、青側波帯のπ/2パルスがi番目のキュービットに適用される場合、i番目のキュービットと運動モード|0>
i|n
ph>
mの組み合わせ状態は、|0>
i|n
ph>
mと|1>
i|n
ph+1>
mの重ね合わせに変換されるため、2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、|0>
i|0>
j|n
ph>
mと|1>
i|0>
j|n
ph+1>
mの重ね合わせに変換される。赤側波帯のπ/2パルスがj番目のキュービットに適用される場合、j番目のキュービットと運動モード|0>
j|n
ph>
mの組み合わせ状態は、|0>
j|n
ph>
mと|1>
j|n
ph-1>
mの重ね合わせに変換されるため、組み合わせ状態|0>
j|n
ph+1>
mは、|0>
j|n
ph+1>
mと|1>
j|n
ph>
mの重ね合わせに変換される。
【0028】
したがって、i番目のキュービットに青側波帯のπ/2パルスを適用し、j番目のキュービットに赤側波帯のπ/2パルスを適用すると、2つのキュービットと運動モード|0>i|0>j|nph>mの組み合わせ状態を|0>i|0>j|nph>mと|1>i|1>j|nph>mの重ね合わせに変換することができ、2つのキュービットは、今やもつれ状態にある。当業者にとって明らかであるように、フォノン励起の初期数nphとは異なる数(すなわち、|1>i|0>j|nph+1>mと|0>i|1>j|nph-1>m)のフォノン励起を有する運動モードともつれる2つのキュービット状態は、十分に複雑なパルスシーケンスによって除去できるため、XXゲート操作後の2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、m番目の運動モードでのフォノン励起の初期数nphがXXゲート操作の終了時に変化しないので、もつれが解消された(disentangled)ことは明らかであるはずである。したがって、XXゲート操作の前後のキュービット状態は、一般に、運動モードを含まずに、以下で説明する。
【0029】
より一般的には、側波帯のパルスを持続時間τ(「ゲート持続時間」と呼ばれる)にわたって適用することによって変換され、振幅Ω
(i)及びΩ
(j)と離調周波数μを有するi番目とj番目のキュービットの組み合わせ状態は、もつれ相互作用χ
(i,j)(τ)の観点から次のように記述することができる。
【数2】
ここで、
【数3】
であり、
【数4】
は、i番目のイオンと周波数ω
mを有するm番目の運動モードの間の結合強度を定量化するラムディッケパラメータであり、Mは運動モードの数(グループ106内のイオンの数Nに等しい)である。
【0030】
上記の2つのキュービット間のもつれ相互作用を使用して、XXゲート操作を実行できる。XXゲート操作(XXゲート)は、単一キュービット操作(Rゲート)とともに、所望の計算プロセスを実行するように構成された量子コンピュータを構築するために使用できるゲート{R,XX}のセットを形成する。任意の量子アルゴリズムを分解できるいくつかの既知の論理ゲートのセットのうち、一般に{R,XX}と表される論理ゲートのセットが、本明細書に記載されるトラップイオンの量子コンピューティングシステムに固有である。ここで、Rゲートはトラップイオンの個々のキュービット状態の操作に対応し、XXゲート(「2キュービットゲート」とも呼ばれる)は2つのトラップイオンのもつれの操作に対応する。
【0031】
i番目とj番目のキュービットの間でXXゲート操作を実行するために、条件χ(i,j)(τ)=θ(i,j)(0<θ(i,j)≦π/8)(すなわち、もつれ相互作用χ(i,j)(τ)は所望の値θ(i,j)を有し、ゼロ以外のもつれ相互作用の条件と呼ばれる)を満たすパルスが構築され、i番目とj番目のキュービットに適用される。上記のi番目とj番目のキュービットの組み合わせ状態の変換は、θ(i,j)=π/8の場合に最大のもつれを伴うXXゲート操作に対応する。i番目とj番目のキュービットに印加されるパルスの振幅Ω(i)(t)及びΩ(j)(t)は、i番目とj番目のキュービットに対して所望のXXゲート操作を実行するためにi番目とj番目のキュービットのゼロ以外の調整可能なもつれを確実にするために調整され得る制御パラメータである。
【0032】
(量子回路のデバッグ)
本明細書に記載される実施形態は、イオントラップ型量子コンピューティングシステム100において、古典的コンピュータ102などの古典的コンピュータと、トラップイオンのグループ106などの量子プロセッサとを備えるハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムを使用した1つ以上の計算を実行する方法である。本明細書に記載される方法では、エラーを減らして計算を実行できるように、体系的な「デバッグ」プロセス(すなわち、量子プロセッサにおいてエラーを識別し、計算を実行する回路内のエラーを取り除く)が実行される。
【0033】
図7は、古典的コンピュータ及び量子プロセッサを備えるハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムを使用して1つ以上の計算を実行する方法700を示すフローチャートを示す。この例では、量子プロセッサはトラップイオンのグループ106に基づき、トラップイオンの各々の2つの超微細状態がキュービットを形成する。したがって、トラップイオンは、量子プロセッサ又は量子コンピュータのコンピューティングコアを提供するキュービットを形成する。
【0034】
ブロック702において、古典的コンピュータ102によって、解くべき計算問題及び計算問題を解くために使用すべき量子アルゴリズムが、例えば、古典的コンピュータ102のグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)などのユーザインターフェースの使用によって識別されるか、又は古典的コンピュータ102のメモリから検索される。次いで、量子アルゴリズムに基づいて計算問題を解くための計算タスクは、ブロック708において、古典的コンピュータ102によって分解され、汎用量子論理ゲートのセット(すなわち、一連の論理ゲート)を使用することによって量子回路にコンパイルされる。汎用量子論理ゲートのいくつかの公知のセットの中で、一般に{R,XX}と表される汎用量子論理ゲートのセットは、本明細書に記載されるトラップイオンの量子コンピューティングシステムに固有である。ここで、Rゲートは単一キュービットゲート操作(すなわち、「単一キュービットゲート」とも呼ばれる、トラップイオンの個々のキュービット状態の操作)に対応し、XXゲートは2キュービットの操作(すなわち、「2キュービットゲート」とも呼ばれる、2つのトラップイオンのもつれの操作)に対応する。当業者であれば、Rゲート(単一キュービットゲート)は、ほぼ完全な忠実度で実装できるが、XXゲート(2キュービットゲート)の形成は複雑であり、利用可能なXXゲートの中で1つ以上の有欠陥2キュービットゲートが存在する可能性があることは明らかなはずである。このような有欠陥2キュービットゲートが、量子アルゴリズムを実行する際に使用される場合、計算エラーが発生する。したがって、有欠陥2キュービットゲートはブロック704において検出され、必要に応じてブロック706において校正されるか、又はブロック708において識別された量子アルゴリズムを実行するために使用される量子回路のコンパイルで除外される。
【0035】
ブロック704において、以下にさらに説明するように、システムコントローラ104によって、量子プロセッサにおけるキュービットのペアに適用され得る2キュービットゲートのうちの1つ以上の有欠陥2キュービットゲートが検出される。例えば、32キュービットを有する量子プロセッサでは、2キュービットゲートの平均忠実度は約95%であり得る。有欠陥2キュービットゲートの数は、1つ、2つ、又は3つであり得る。本明細書に記載される1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出する方法は、2キュービットゲートの任意の平均忠実度、及び量子プロセッサにおける全ての利用可能な2キュービットゲートのうちの任意の数の有欠陥2キュービットゲートに適用され得ることに留意されたい。
【0036】
ブロック706において、システムコントローラ104によって、ブロック704において検出された量子プロセッサにおける1つ以上の有欠陥2キュービットゲートが、当該技術分野で公知の方法によって任意に校正及び修正される。有欠陥2キュービットゲートは、通常、2キュービットゲートの操作中にトラップイオン(すなわちキュービット)がどのように動作するかについての知識の欠如による制御エラーによって引き起こされる。したがって、2キュービットゲート操作中、キュービットに印加されるレーザパルスの振幅、位相、及び/又は持続時間などの、イオントラップ型量子コンピューティングシステム100におけるハードウェアに関連する制御パラメータの調整、又はイオントラップ200のトラップ電位は、有欠陥2キュービットゲートにおけるエラーを低減又は排除することができる。いくつかの実施形態において、複数の単一キュービットゲートが、有欠陥2キュービットゲートを校正するためにキュービットに適用される。
【0037】
ブロック708において、古典的コンピュータ102によって、ブロック702において識別された量子アルゴリズムに基づいて計算問題を解くための計算タスクが、汎用論理ゲートのセットを使用して量子回路にコンパイルされる(すなわち、一連の論理ゲートに分解される)。量子回路をコンパイルする際に、ブロック704において検出された有欠陥2キュービットゲートは除外されない(すなわち、使用されない)か、又は有欠陥2キュービットゲートがブロック706において修正された場合には、修正された2キュービットゲートが使用される。
【0038】
ブロック710において、システムコントローラ104によって、量子回路が量子プロセッサ上で実行される。量子回路の実行は、当該技術分野で公知の方法によって振幅及び位相が適切に調整されたレーザパルスを量子プロセッサにおけるキュービットに適用することによって実行され得る。システムコントローラによる量子回路の実行に続いて、量子プロセッサにおけるキュービットの1つ以上が、当該技術分野で公知の方法によって測定される。いくつかの実施形態において、量子計算タスクは、量子回路の複数の実行に分解される。次に、プロセスはブロック704に戻り、1つ以上の有欠陥2キュービットゲートを検出し、1つ以上の量子回路をコンパイル及び実行して、識別された量子アルゴリズムに基づいて計算を完了し、プロセスはブロック712に進む。
【0039】
ブロック712において、古典的コンピュータ102によって、ブロック710において取得された量子プロセッサにおけるキュービットの1つ以上の測定結果が処理されて、ブロック704において識別された計算問題の解が導出され、古典的コンピュータ102のグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)などのユーザインターフェースに出力され、及び/又は古典的コンピュータ102のメモリに保存される。例えば、計算された解は、テーブル内に表示され得るか、又はGPUに接続されたディスプレイ上の粒子のグラフ表現として表示され得る。
【0040】
図8は、上記のブロック706に示した有欠陥2キュービットゲートを検出する方法800を示すフローチャートを示す。この例では、量子プロセッサにおけるキュービットの数はN=2
nであり、各キュービットはn桁の2進数(q
1q
2…q
n)によってインデックス付けされる。例えば、量子プロセッサは、8(=2
3)キュービットを有する場合がある。次いでキュービットは、(000)、(001)、(010)、(011)、(100)、(101)、(110)、及び(111)としてインデックス付けされる。さらに、キュービットは、インデックスに応じて(i,b)として表される2nクラスにグループ化され、ここで、インデックスにおけるi番目(i∈{0、…、n-1})の桁の2進数は、b∈{0,1}である。各クラス(i,b)には、2
n-1個のキュービットが含まれる。8(=2
3)キュービットを有する量子プロセッサの例では、キュービットは、以下の6つのクラスにグループ化される。(0,0)∈{(000),(001),(010),(011)}、(0,1)∈{(100),(101),(110),(111)}、(1,0)∈{(000),(001),(100),(101)}、(1,1)∈{(010),(011),(110),(111)}、(2,0)∈{(000),(010),(100),(110)}、及び(2,1)∈{(001),(011),(101),(111)}。
【0041】
ブロック802において、システムコントローラ104によって、クラス(i,b)におけるキュービットの全ペアの間で2キュービットゲートが実行される。クラス(i,b)には2n-1個のキュービットが存在するので、合計で2n-2(2n-1-1)個の2キュービットゲートが実行される。2キュービットゲートは、振幅及び位相が対応するキュービットのペアに適切に調整されたレーザパルスを印加することによって実行され得る。レーザパルスの振幅及び位相は当該技術分野で公知の方法によって調整され得る。
【0042】
ブロック804において、システムコントローラ104によって、クラス(i,b)におけるキュービットの全ペアのうちの2キュービットゲートのエラーシンドロームが測定される。本明細書に記載される「エラーシンドローム」は、2キュービットゲートが集合的にエラーを含むか否かに関する情報であり、クラス(i,b)における1つ以上のキュービット及び/又はクラス(i,b)における1つ以上のキュービットともつれている1つ以上の補助キュービッの測定によって抽出され得る。いくつかの実施形態において、4つのXXゲートが、クラス(i,b)における各キュービットペアに適用され、全てのキュービットが測定される。
【0043】
プロセスは、異なるクラス(i,b)についてブロック802に戻る。全ての2nクラスのシンドローム測定が実行された後、プロセスはブロック806に進む。
【0044】
ブロック806において、古典的コンピュータ102によって、有欠陥2キュービットゲートの候補のグループが、全ての2nクラスについて測定されたエラーシンドロームに基づいて選択される。量子プロセッサにおけるN=2n個のキュービットのうちのキュービットの全ペアの間の2n-1(2n-1)個の2キュービットゲートのうち、2キュービットゲートのいくつかが、ブロック802及び804において測定された2n個のエラーシンドロームの結果から欠陥がないと識別され得る。例えば、単一の有欠陥2キュービットゲートを含むと識別された量子プロセッサでは、2n個のエラーシンドロームのうち、m個の有欠陥エラーシンドローム(m=0、1、…、n-1)から欠陥がないと識別され得る2キュービットゲートの数は、2n-1(2n-1)-2n-1-mであり、したがって有欠陥ゲートの候補の数NCは、2n-1-mであり、最大でも2n-1(=N/2)である。
【0045】
ブロック808において、第一のキュービット(q
1q
2…q
n)と第二のキュービット(q’
1q’
2…q’
n)との間の有欠陥2キュービットゲートの候補は、クラス(i
0,b
0)、(i
1,b
1)、…(i
m-1,b
m-1)におけるm個の有欠陥エラーシンドロームに基づいて選択され得る。クラス(i,b)についての各々の有欠陥エラーシンドローム測定に関して、第一及び第二のキュービットの対応する桁(すなわち、i番目の桁)の2進数が、クラス(i,b)における2進数bに設定される。すなわち、第一のキュービット及び第二のキュービットのi
0番目の桁の2進数は両方ともb
0であり、第一のキュービット及び第二のキュービットのi
1番目の桁の2進数は両方ともb
1であり、第一のキュービット及び第二のキュービットのi
m-1番目のビット値は両方ともb
m-1などである。第一のキュービット及び第二のキュービットの各々の残りの(n-m)桁に関して、第一のキュービットの桁の2進数は、第二のキュービットの対応する桁の2進数と相補的になるように設定される(すなわち、第一のキュービットq
lのl番目の桁は0であるように設定され、第二のキュービットq’
lのl番目の桁は1であるか、又はその逆である)。
【数5】
がこのような相補的な2進数の組み合わせである。
【0046】
ブロック810において、システムコントローラ104によって、NC個の有欠陥2キュービットゲートの候補の選択されたグループにおける二分探索が実行されて、有欠陥2キュービットゲートを特定する。二分探索は、NC個の有欠陥2キュービットゲートの候補の選択されたグループを、第一のサブグループと第二のサブグループに分割することから開始し、各サブグループは、相互に排他的なNC/2個の有欠陥2キュービットゲートの候補(最大で2n-1個の有欠陥2キュービットゲート)を含み、第一のサブグループのエラーシンドロームを測定する。第一のサブグループのエラーシンドロームがエラーを示さない場合、第二のサブグループのエラーシンドロームが測定される。二分探索は、エラーシンドロームがエラーを示すサブグループを2つのサブグループに分割することによって続行され、各サブグループは、NC/4個の有欠陥2キュービットゲートの候補(最大で2n-2個の有欠陥2キュービットゲート)を含み、それらのサブグループのうちの1つのエラーシンドロームを測定する。このように、1つ以上の有欠陥ゲートが識別されるまで、二分探索が続行される。1つの有欠陥ゲートが識別された場合、有欠陥ゲートの候補のグループを2つのサブグループに分割するステップが、最大でn-1回繰り返される。ブロック810において識別された1つ以上の有欠陥ゲートは古典的コンピュータ102に戻され、プロセスはブロック708に進む。
【0047】
本明細書に記載される実施形態は、量子回路をデバッグしながら量子計算を実行する方法である。本明細書に記載される方法を用いると、N個のキュービットを有する量子プロセッサにおける約N2個の2キュービットゲートのうちの単一の有欠陥2キュービットゲートが、3log2N-1のテストのみで識別され得る。2つの有欠陥2キュービットゲートは、平均で3.25log2Nのテストで識別され得る。3つの有欠陥2キュービットゲートは、平均で約4.947log2Nのテストで識別され得る。
【0048】
上記の特定の例示的な実施形態は、本開示によるハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムの可能ないくつかの例にすぎず、本開示によるハイブリッド量子古典的コンピューティングシステムの可能な構成、仕様などを限定するものではないことに留意されたい。例えば、ハイブリッド量子古典的コンピューティングシステム内の量子プロセッサは、上記のトラップイオンのグループに限定されない。例えば、量子プロセッサは、キュービット(磁束キュービットと呼ばれる)として機能する、多数のジョセフソン接合によって遮断された超伝導金属のマイクロメートルサイズのループを含む超伝導回路であってもよい。外部磁束が印加されたときに永久電流が継続的に流れるように、接合パラメータは製造中に設計される。各ループには整数の磁束量子のみが通過できるため、ループに時計回り又は反時計回りの永久電流が発生して、ループに印加される非整数の外部磁束を補償(遮蔽又は増強)する。時計回り及び反時計回りの永久電流に対応する2つの状態は、エネルギーが最も低い状態であり、相対量子位相のみが異なる。より高いエネルギー状態は、はるかに大きな永久電流に対応するため、最も低い2つの固有状態からエネルギー的に十分に分離される。2つの最も低い固有状態は、キュービット状態|0>及び|1>を表すために使用される。各キュービットデバイスの個々のキュービット状態は、周波数及び持続時間が適切に調整された一連のマイクロ波パルスを印加することによって操作され得る。
【0049】
上記は特定の実施形態を対象としているが、他のさらなる実施形態は、その基本的な範囲から逸脱することなく考案することができ、その範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。
【国際調査報告】