(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240514BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240514BHJP
C22C 38/16 20060101ALI20240514BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20240514BHJP
C21C 7/06 20060101ALI20240514BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20240514BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20240514BHJP
B22D 11/128 20060101ALN20240514BHJP
B22D 11/20 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/60
C22C38/16
C21D8/02 B
C21C7/06
C21C7/10 A
B22D11/00 A
B22D11/128 350A
B22D11/20 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571190
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-15
(86)【国際出願番号】 CN2022092985
(87)【国際公開番号】W WO2023097979
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】202111462807.3
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522434738
【氏名又は名称】莱蕪鋼鉄集団銀山型鋼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】520449079
【氏名又は名称】山東鋼鉄股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG IRON AND STEEL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】池本 理絵
(72)【発明者】
【氏名】マー,ハン
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン,チンプー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ヂョンシュエ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,タンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】フー,カン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ユエシャン
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン,ペイ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ヂュン
(72)【発明者】
【氏名】リー,イェン
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
4K032
【Fターム(参考)】
4E004MC05
4E004NB01
4E004NC04
4K013BA08
4K013CA02
4K013CA11
4K013CB01
4K013CC02
4K013CE01
4K013EA16
4K013EA19
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4K013EA32
4K013FA06
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA03
4K032AA04
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA23
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA28
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CB01
4K032CC03
4K032CD03
(57)【要約】
本発明は、耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板に関し、その化学成分は、質量パーセントで、C:0.06%~0.09%、Si:0.15%~0.30%、Mn:1.45%~1.60%、P:≦0.012%、S:≦0.003%、Ni:0.40%~0.70%、Cu:0.20%~0.50%、Ti:0.005%~0.015%、Als:0.06%~0.09%であり、残りがFe及び不可避的な不純物である。本発明に係る耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板は、TMCP熱機械的制御圧延及び急速冷却プロセスにより生産したものであり、厚さが40mm~60mmであり、160~210kJ/cm入熱溶接を行った後でHAZのKV2(-40℃)が≧47Jであり、低温衝撃靱性が良好で、耐海水腐食性能が通常の海洋工学用鋼よりも35%以上向上し、強靱性が高く、耐食性を有し、大入熱溶接可能で、コストが低いといった特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板であって、
化学成分は、質量パーセントで、C:0.06%~0.09%、Si:0.15%~0.30%、Mn:1.45%~1.60%、P:≦0.012%、S:≦0.003%、Ni:0.40%~0.70%、Cu:0.20%~0.50%、Ti:0.005%~0.015%、Als:0.06%~0.09%であり、残りがFe及び不可避的な不純物元素である、ことを特徴とする耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板。
【請求項2】
CEV≦0.40%、Pcm≦0.23%である、ことを特徴とする請求項1に記載された耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板。
【請求項3】
前記不可避的な不純物元素の含有量は、質量パーセントで、H≦0.0002%、O≦0.003%、N≦0.004%、B≦0.0005%、As≦0.007%、Sb≦0.010%、Sn≦0.020%、Pb≦0.010%、Bi≦0.010%である、ことを特徴とする請求項1に記載された耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板。
【請求項4】
厚さが40~60mmであり、降伏強度≧355MPa、引張強度が490~630MPaであり、160~210kJ/cmでの大入熱溶接を行った後でHAZの-40℃におけるKV
2が≧47Jである、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載された耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板の製造方法であって、
製錬鋳込みステップであって、溶銑と鋼屑を一次製錬して、一次製錬溶鋼を得て、次に前記一次製錬溶鋼を精錬及び鋳込みして鋳片を得て、その後、前記鋳片を徐冷する、ステップ(1)と、
スラブ加熱ステップであって、徐冷後の鋳片を加熱して熱鋳片を得て、鋳片を多段階の加熱昇温により均熱処理し、均熱時間を40分以上にし、スラブ出炉温度を1110℃~1150℃にする、ステップ(2)と、
圧延ステップであって、前記熱鋳片を圧延して鋼板を得て、圧延が粗圧延及び仕上圧延の二段階の制御圧延であり、前記粗圧延が再結晶領域の圧延であり、前記仕上圧延が未再結晶領域の圧延である、ステップ(3)と、
冷却ステップであって、前記鋼板を冷却して、耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用鋼板を得る、ステップ(4)と、
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載された耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)における精錬は、LF+RH精錬であり、
LF精錬過程において、全過程にわたってアルゴンガスを底吹きしながら撹拌し、アルミ粒子及び炭化カルシウムで脱酸素し、出所前に上部スラグが黄白色のスラグ又は白色のスラグであり、黄白色のスラグ又は白色のスラグの保持時間を10分以上にし、最終スラグのアルカリ度を2.5以上に制御し、LF精錬過程において、金属マンガン及び/又はフェロシリコン合金で成分微調整を行い、
RH精錬において、脱ガス時間を5分以上にし、RH精錬処理が終了した後、1炉当たりにカルシウムアルミニウムワイヤを100m~150m送って12分以上ソフトブローする、ことを特徴とする請求項5に記載された製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(1)では、鋳込み過程において、全過程にわたって保護鋳込みを用い、液相線温度が1514~1524℃であり、過熱度が25℃よりも小さく、扇形セグメントの鋳片の凝固末端で弱い押下技術を用い、鋳片をピットに入れ、且つ鋳片の積み付け徐冷が60時間以上である、ことを特徴とする請求項5に記載された製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(2)では、加熱時間が≧9min/cmであり、前記多段階の加熱昇温には、一段目の加熱温度が1020~1140℃であり、二段目の加熱温度が1100~1190℃であり、均熱段の温度が1110~1170℃である、ことを特徴とする請求項5に記載された製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(3)では、粗圧延段階は少なくとも2パスの変形量が≧20%であり、仕上圧延開始温度が825~855℃であるように確保し、仕上圧延段階は少なくとも3パスの変形が790~760℃温度範囲内にあり、該3パスの累積変形量が≧20%であるように確保する、ことを特徴とする請求項5に記載された製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(4)では、自己焼戻し温度が500~550℃であり、冷却速度が10~15℃/sである、ことを特徴とする請求項5に記載された製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低合金鋼の技術分野に関し、具体的に、本発明は、耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板及びその製造方法に関する。
(関連出願の相互参照)
本願は、2021年12月02日に出願した中国特許出願第202111462807.3号に基づく優先権を主張し、この中国特許出願の全ての内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
海洋工学用の高強度鋼板は、先進的な海洋工学及びハイテク船舶建造における重要な構造材料である。超高強度及び優れた低温靱性が船舶及び海洋工学用鋼の基本的な要件である。船体構造の安全性への要件が絶えず高まっているに伴い、船用鋼板の強度は徐々に向上し、235MPaから徐々に315MPa及び355MPaまで向上し、鋼の品質等級もA級からE級ひいてはF級に向上する。大入熱溶接可能な高強度鋼も船舶及び海洋工学設備の製造企業に注目されているホットスポットの1つである。溶接効率を向上させて建造サイクルを短縮することを可能にするために、大入熱溶接方法、例えば、立向エレクトロガス溶接、サブマージアーク溶接、エレクトロスラグ溶接などの方法は、徐々に使用され始めている。大入熱溶接の条件下、特に溶接入熱が50kJ/cmよりも大きい場合において、溶接入熱の増加につれて、溶接熱影響部に粒界フェライト、M-Aなどの脆性組織が形成され、溶接熱影響部の靱性が著しく低下し、それにより局部脆化部が形成され、このため、溶接構造部材の安全性を低下させてしまう。船舶及び海洋工学設備は海洋環境における就役過程において温度、湿度及び塩化物イオンの相互作用を受けるだけでなく、風力、波の衝撃などの変動荷重の結合作用も受けて、ひどく腐食されるリスクに面している。従って、強靱性が高く、耐食性を有し、大入熱溶接可能であるといった性能を兼ね備える海洋工学用鋼を開発することは、現在、船舶及び海洋工学用鋼が発展するキーポイントとなっている。
【0003】
特許文献CN102839320A及び特許文献CN105256095Aにおいて、いずれも大入熱溶接の適応性が良好である鋼が得られるが、それらはいずれもB元素でマイクロアロイ化する必要があり、B元素が製錬過程において添加されにくく且つ偏析を生じやすく、生産の難易度がより高い。
【0004】
特許文献CN102839330Aにおいて、Ni、Cr、Mo元素を添加することにより厚さが30mm以内で40~100kJ/cmの溶接入熱に適応できる鋼板が研究開発されてきたが、その添加したNi、Cr、Mo合金の含有量が最大で5%に達することができ、コストがより高い。特許文献CN102286692Aでは、DQ+Tプロセスにより大入熱溶接可能で低温性能が良好な鋼を得ているが、調質熱処理を行う必要があり、プロセスコストがより高い。以上の2つの特許出願に係る成分又は生産プロセスはコストがより高く、普及に不利である。
【0005】
特許文献CN111926259Aでは、Ti、Mg、Zr酸化物冶金技術により配合比率が合理的なTi-X-Oの微細な拡散複合介在物を鋼中に形成し、且つ熱加工制御プロセスにより強度及び靱性マッチングが良好で、100kJ/cm~200kJ/cm大入熱溶接に適する低合金鋼板が得られている。しかしながら、該方法は合金コストの経済性及び製品の耐食性の面でいずれも欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の欠点に対して、本発明は、耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板を提供し、本発明に係る耐海洋腐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用鋼板は、設計が合理的で、製品は強靱性が高く、耐食性を有し、大入熱溶接可能であるといった優れた性能を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するために、本発明は下記技術案を用いる。
【0008】
本発明に係る耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板であって、その成分は、質量パーセントで、C:0.06%~0.09%、Si:0.15%~0.30%、Mn:1.45%~1.60%、P:≦0.012%、S:≦0.003%、Ni:0.40%~0.70%、Cu:0.20%~0.50%、Ti:0.005%~0.015%、Als:0.06%~0.09%であり、残りがFe及び不可避的な不純物元素であり、CEV≦0.40%であり、Pcm≦0.23%である。
ここで、
CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15、
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5Bである。
【0009】
本発明は、Ni、Cuなどの合金元素の含有量を合理的に設計し、効果的な強度効果を形成し、且つ鋼板の低温靱性及び溶接性能を向上させるとともに、鋼板の耐食性能を著しく向上させることができる。
【0010】
上記耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板において、好適な実施形態として、鋼板の質量に基づいて、前記不可避的な不純物元素の含有量は質量パーセントで、H≦0.0002%、O≦0.003%、N≦0.004%、B≦0.0005%、As≦0.007%、Sb≦0.010%、Sn≦0.020%、Pb≦0.010%、Bi≦0.010%である。
【0011】
本発明に係る耐食性を有する大入熱溶接可能な高強度鋼板の化学成分の選択理由は以下のとおりである。
【0012】
[Tiについて]
Tiは、C、N元素と炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成することができ、スラブの加熱及び製造過程においてオーステナイト結晶粒が過度に成長することが抑えられ、良い結晶粒微細化作用を有し、鋼板の低温靱性を改善することができる。より重要なのは、溶接過程において熱影響領域の結晶粒が成長することが抑えられ、熱影響領域の靱性が改善されることであるが、Tiの含有量が高すぎると、大粒子のTiNを形成して結晶粒微細化効果をなくしやすく、合金コスト及び鋼板の性能を総合的に考慮した上で、本発明はTiの含有量を0.005%~0.015%に制御する。
【0013】
[Cuについて]
強い固溶強化作用を有し、オーステナイトの形成及び安定を促進し、適量のCuは低温靱性を損なわずに強度を向上させて、耐食性能を向上させることができる。本発明において、Cuは後続の冷却過程において沈殿強化作用を果たして、中心組織の粗大化による強度損失を補うことができる。Cuの上記作用を確保するために、Cuの含有量を0.20%以上にするが、Cuの含有量が高すぎると、加熱時に熱脆化を引き起こして、表面品質を悪化させて、基材及び熱影響領域の低温靱性を損なってしまう。従って、Cuの含有量を0.20%~0.50%に制御する。
【0014】
[Niについて]
オーステナイトの形成及び安定を促進して、オーステナイトの再結晶を抑えて、結晶粒の寸法を微細化することができ、従って、Niは鋼板の強度、伸び率及び低温靱性を同時に向上させる機能を有し、鋼中にNiを加えると、鋼の銅脆化現象を低減して、熱間圧延過程における粒界クラックを軽減することもでき、Niは鋼板の表面に緻密な保護性錆層を形成することを促進して、鋼板の耐食性を向上させることができる。従って、理論的には、鋼中のNiの含有量が一定の範囲内に高ければ高いほど良くなるが、Niの含有量が高すぎると、溶接熱影響部を硬化させてしまい、鋼板の溶接性に不利である。従って、本発明はNiの含有量を0.40%~0.70%に制御する。
【0015】
[Alsについて]
鋼中のAlは鋼中の自由なNを固定し、鋼板及び溶接HAZ(Heat-Affected Zone)の低温靱性を改善することができ、且つAlNの分散析出は加熱過程においてオーステナイト結晶粒の成長を抑えて、オーステナイト結晶粒の寸法を均一に微細化することとなり、衝撃靱性を向上させる。Alは更に抗酸化性及び抗腐食性能を有するが、多すぎるAlの含有量に起因して鋼の介在物の数が増加し、介在物の寸法が大きくなり、鋼板の内部品質が低下して、鋼の熱間加工性能、溶接性能及び切削加工性能に悪影響を与えることをもたらしてしまい、このため、本発明はAlsの含有量を0.06%~0.09%に制御する。
【0016】
[Nについて]
その含有量が高すぎると、粗大なTiN、AlNを形成して元のオーステナイト粒界に析出して、鋼板及び溶接熱影響部の衝撃靱性及び塑性を損なってしまう。それと同時に、N原子は更に鋼中の欠陥に富化して、気孔及び粗目を形成して、鋼板の力学的性質を更に悪化させてしまう。従って、鋼中のNがきれいに除去される可能性が低いことを考慮した上で、本発明におけるNの含有量を≦0.004%に制御する。
【0017】
[Bについて]
その含有量が高すぎると、鋼板の粒界に富化してしまい、このため、粒界エネルギーを低減し、鋼板に冷却過程において低温相転移組織を形成させ、鋼板の低温衝撃性能及び疲労性能を低下させる。従って、本発明におけるBの含有量を≦0.0005%にする。
【0018】
[Oについて]
O元素は鋳片に残留し又は表層に拡散し、粒界を酸化させて脆性の酸化物中間層を形成しやすく、オーステナイト結晶粒を遮断することでその後の変形加工において粒界クラックを引き起こし、それにより鋼板の強度及び塑性を明らかに低下させ、従って、Oの含有量をできる限り制御する。鋼板の塑性及び低温靱性を確保するために、鋼中の介在物を低減しなければならず、アルミナ介在物の危害が最も大きいため、鋼中のOの含有量を≦0.003%にする。
【0019】
[Hについて]
水素元素の存在により白点が生じてしまい、従って、Hの含有量を≦0.0002%に制御する。
【0020】
[CEVについて]
炭素当量指標の制御は、鋼板の強度及び溶接性を確保することに寄与し、本発明のCEVを≦0.40%に制御する。
【0021】
[Pcmについて]
冷間亀裂感受性係数の制御は製品の溶接性能を確保することに寄与し、本発明のPcmを≦0.23%に制御する。
【0022】
本発明に係る耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板の製造方法は、
製錬鋳込みステップであって、溶銑と鋼屑を製錬して溶鋼を得て、次に前記溶鋼を精錬及び鋳込みして鋳片を得て、その後、前記鋳片を徐冷する、ステップ(1)と、
スラブ加熱ステップであって、前記徐冷後の前記鋳片を加熱して熱鋳片を得る、ステップ(2)と、
圧延ステップであって、前記熱鋳片を圧延して鋼板を得る、ステップ(3)と、
冷却ステップであって、前記鋼板を冷却して、前記耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板を得る、ステップ(4)と、を含む。
【0023】
上記耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板において、好適な実施形態として、前記ステップ(1)では、前記精錬がLF+RH精錬であり、好ましくは、LF精錬過程において、全過程にわたってアルゴンガスを底吹きしながら撹拌し、アルミ粒子及び炭化カルシウムで脱酸素して、出所前に上部スラグが黄白色のスラグ又は白色のスラグであり、黄白色のスラグ又は白色のスラグの保持時間を10分以上にし、最終スラグのアルカリ度を2.5以上に制御し、好ましくは、LF精錬過程において、金属マンガン、フェロシリコンなどの合金で成分微調整を行い、好ましくは、前記RH精錬において、脱ガス時間を5分以上にし、前記RH精錬処理が終了した後、1炉当たりにカルシウムアルミニウムワイヤを100~150m(例えば、110m、120m、130m、140m)送って12分以上ソフトブローする。
【0024】
上記耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板において、好適な実施形態として、前記ステップ(1)では、鋳込み過程において、全過程にわたって保護鋳込み(protective casting)を用い、この鋼種の液相線温度が1514~1524℃(例えば、1516℃、1518℃、1520℃、1522℃)であり、過熱度が25℃よりも小さいように求められ、扇形セグメントの鋳片の凝固末端で弱い押下技術を用い、鋳片を徐冷ピットで60時間以上徐冷することにより、鋳片が冷却過程において発生した組織応力及び熱応力を十分に低減する。
【0025】
上記耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板において、好適な実施形態として、前記ステップ(2)では、加熱時間が≧9min/cmであり、鋳片を多段階の加熱昇温により均熱処理し、一段目の加熱温度が1020~1140℃であり、二段目の加熱温度が1100~1190℃であり、均熱段の温度が1110~1170℃であり、均熱時間が40分以上であり、鋳片出炉温度が1110~1150℃(例えば、1120℃、1130℃、1140℃)である。鋳片を加熱炉から取り出した後、前記熱鋳片を高圧水で脱スケールする。
【0026】
上記耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板において、好適な実施形態として、前記ステップ(3)では、前記圧延は粗圧延及び仕上圧延の二段階圧延であり、粗圧延が再結晶圧延であり、仕上圧延が未再結晶圧延であり、好ましくは、粗圧延段階は少なくとも2パスの変形量が≧20%であり、強い押下で結晶粒を微細化するように確保し、好ましくは、仕上圧延開始温度は825~855℃(例えば、830℃、835℃、840℃、845℃、850℃)であり、仕上圧延段階は少なくとも3パスの変形が790-760℃(例えば、785℃、780℃、775℃、770℃、765℃)温度範囲内にあり、前記3パスの累積変形量が≧20%であるように確保すべきであり、それにより変形が中心部に進んでフェライトを微細化することを促進する。
【0027】
上記耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板において、好適な実施形態として、前記ステップ(4)では、冷却速度を10~15℃/s(例えば、11℃/s、12℃/s、13℃/s、14℃/s)にすることにより、フェライトの核生成率を増加させて、微細拡散析出相を形成し、鋼の強靱性を更に改善する。自己焼戻し温度を500℃~550℃(510℃、520℃、530℃、540℃)にする。
【発明の効果】
【0028】
従来技術に比べて、本発明の利点は以下のとおりである。
【0029】
1.本発明は大量のMo、Crなどの貴金属を添加する必要がなく、Mn元素で固溶強化し、且つNi、Cu元素の固溶強化及び析出強化作用を十分に発揮して、微細で均一に分布するパーライト+フェライト混合組織を得て、比較的少ない合金含有量で優れた強度、塑性及び低温靱性を実現することができ、合金コスト及び生産コストを削減し、鋼板の溶接性能を改善する。それと同時に、Ni、Cu元素は海洋工学用鋼の表面には緻密で付着性が高い保護性錆層を形成することを効果的に促進することができ、H2O、O2、Cl-などの腐食媒体が鋼材マトリックスに浸透することを妨害し、それにより耐食性能を向上させる。
【0030】
2.本発明は製鋼過程における成分、純度及びガス含有量の制御によって良好な鋳片原料を提供する。加熱炉の中で鋳片を多段階の加熱昇温により均熱処理して、鋳片出炉温度を制御し、鋼片が十分に加熱されて十分にオーステナイト化され且つ結晶粒が粗大化されず、各合金元素が十分に固溶されるように確保し、後続の圧延制御に良好な基礎を築く。
【0031】
3.本発明はTMCP熱機械的制御圧延及び急速冷却プロセスにより生産し、複雑な調質熱処理プロセスを行う必要がない。粗圧延段階は強い押下で結晶粒を微細化し、仕上圧延段階は未再結晶領域で制御圧延し、少なくとも3パスの低温における強い押下による圧延過程を確保し、これにより、変形が中心部に進んでフェライトを微細化することを促進し、且つ大量の位置ずれを形成して結晶粒の成長を効果的に阻止し、性能を向上させる。圧延後にラミナーフロー冷却を行い、冷却後の自己焼戻し温度を制御し、これにより、フェライトの核生成率を増加させ、且つ微細拡散析出相を形成し、鋼の強靱性を更に改善する。
【0032】
本発明は、合理的なプロセス設計により相転移過程の十分な制御を実現し、厚さ40~60mm、降伏強度≧355MPa、引張強度490~630MPa、160~210kJ/cm大入熱溶接後のHAZのKV2(-40℃)が≧47Jであり、良好な低温衝撃靱性を有し、耐海水腐食性能が通常の海洋工学用鋼よりも35%以上向上する海洋工学用鋼板を得る。製品は強靱性が高く、耐食性を有し、大入熱溶接可能で、コストが低いといった特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、具体的な実施例によって耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板及びその製造方法について更に詳しく説明し、これらの実施例は解釈のためのものに過ぎず、本発明はこれらの実施例に限らない。
【0034】
本発明の実施例によれば、耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板及びその製造方法を提供し、その化学成分は、重量パーセントで、C:0.06%~0.09%、Si:0.15%~0.30%、Mn:1.45%~1.60%、P:≦0.012%、S:≦0.003%、Ni:0.40%~0.70%、Cu:0.20%~0.50%、Ti:0.005%~0.015%、Als:0.06%~0.09%であり、残りがFe及び不可避的な不純物元素である。本発明は低C+Ni、Cu合金化設計を用い、TMCP熱機械的制御圧延+急速冷却生産プロセスによって、強靱性が高く、耐食性を有し、大入熱溶接可能で、コストが低いといった特徴を有する海洋工学用鋼を得て、160~210kJ/cm大入熱溶接を行った後、溶接熱影響部の-40℃における衝撃靱性が≧47Jであり、低温衝撃靱性が良好で、耐海水腐食性能が通常の海洋工学用鋼よりも35%以上向上する。
【0035】
本発明は、製錬、連続鋳造、スラブ加熱、圧延、冷却の各ステップを含む上記鋼板の製造方法を提供する。
【0036】
製錬においては、炉に入れる原料は転炉プロセスの技術的要件を満足しなければならず、高炉溶銑がKR前処理により脱硫し、炉に入れる溶銑の硫黄含有量が≦0.015%であり、脱硫が完了した後に溶銑表面のスラグを全て除去する。溶銑を正確に計量して充填量を厳しく制御すべきであり、充填量の誤差を±2トンにし、ニッケル板及び銅板を鋼屑とともに加え、一次炭素捕捉を用い、スラグ材を終点よりも3分前に加え終え、ダブルスラグディープ脱燐プロセスにより製錬し、最終スラグのアルカリ度をR=3.0~4.0に制御し、スラグを遮断して出鋼し、大量のスラグキャリーオーバーを防止し、鋼入り時間を3分以上にし、アルミニウム・マンガン・鉄(Al-Mn-Fe)を3.5~4.0kg/tで含有する鋼で脱酸素し、溶鋼を四分の一排出すると、金属マンガン及びフェロシリコン合金を数回に分けて加え、溶鋼を四分の三排出するまで添加を完了し、LF精錬過程において、全過程にわたってアルゴンガスを底吹きしながら撹拌し、製錬過程全体に溶鋼を露出してはいけなく、溶鋼の二次酸化を防止し、アルミ粒子及び炭化カルシウムで脱酸素し、出所前に上部スラグが黄白色のスラグ又は白色のスラグでなければならず、黄白色のスラグ又は白色のスラグの保持時間を10分以上にし、最終スラグのアルカリ度を2.5以上にできる限り制御し、金属マンガン、フェロシリコンなどの合金で成分微調整を行って、成分が内部制御を満足するように確保し、LF精錬時間を45分間以上にし、RH精錬時に化学的昇温を回避し、純粋な脱ガス時間を5分よりも大きくするように確保し、RH処理が終了した後、1炉当たりにカルシウムアルミニウムワイヤを100~150m送って12分以上ソフトブローし、RH製錬サイクルを40~60分に制御する。
【0037】
連続鋳造においては、全過程にわたって保護鋳込みを用い、液相線温度が中間規格の成分の中限で計算すると1519℃になり、過熱度が25℃よりも小さいように求められ、扇形セグメントの鋳片の凝固末端で弱い押下技術を用い、鋳片を60時間以上徐冷し、それにより鋳片が冷却過程において発生した組織応力及び熱応力を十分に低減する。鋳片の断面厚さが175mmである場合に引抜き速度を1.0~1.3m/minに制御し、鋳片の断面厚さが200mmである場合に引抜き速度を1.0~1.4m/minに制御し、鋳片の断面厚さが250mmである場合に引抜き速度を1.0~1.3m/minに制御し、鋳片の断面厚さが300mmである場合に引抜き速度を0.7~0.9m/minに制御する。
【0038】
スラブ加熱においては、連鋳スラブを加熱炉に加えて加熱し、鋳片の加熱炉装入方式が冷間装入であり、加熱時間が≧9min/cmであり、鋳片を多段階の加熱昇温により均熱処理し、均熱時間を40分以上にし、鋼片の各点の温度差を20℃以下にし、鋳片出炉温度を1110~1150℃にし、鋳片を加熱炉から取り出した後、前記熱鋳片を高圧水で脱スケールする。
【0039】
圧延においては、過程が粗圧延及び仕上圧延の二段階圧延であり、粗圧延が再結晶圧延であり、仕上圧延が未再結晶圧延であり、粗圧延段階は少なくとも2パスの変形量が≧20%であり、強い押下で結晶粒を微細化するように確保し、仕上圧延開始温度は825~855℃であり、仕上圧延段階は少なくとも3パスの変形が790~760℃温度範囲内にあり、前記3パスの累積変形量が≧20%であるように確保すべきであり、それにより変形が中心部に進んでフェライトを微細化することを促進する。
【0040】
冷却においては、冷却速度を10~15℃/sにすることにより、フェライトの核生成率を増加させ、且つ微細拡散析出相を形成し、鋼の強靱性を更に改善し、自己焼戻し温度を500~550℃にし、圧延後にできる限り早くオフラインして徐冷ピットに入れて、積み付けて徐冷し、徐冷時間を48時間以上にする。
【0041】
実施例1:鋼板の厚さ50mm
本発明は、耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板を提供し、該鋼の化学成分及び重量パーセント含有量は、C:0.085%、Si:0.19%、Mn:1.47%、P:0.0086%、S:0.0014%、Ni:0.50%、Cu:0.35%、Ti:0.010%、Als:0.064%であり、残りがFe及び不可避的な不純物であり、CEV=0.39%、Pcm=0.19%である。
【0042】
スラブ出炉温度が1140℃であり、仕上圧延開始温度が834℃であり、仕上圧延段階の最後の3パスの変形が775℃~763℃温度範囲内にあり、累積変形量が22.08%であり、自己焼戻し温度が550℃である。
【0043】
実施例2:鋼板の厚さ50mm
本発明は、耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用の高強度鋼板を提供し、該鋼の化学成分及び重量パーセント含有量は、C:0.080%、Si:0.18%、Mn:1.48%、P:0.009%、S:0.0016%、Ni:0.55%、Cu:0.37%、Ti:0.010%、Als:0.062%であり、残りがFe及び不可避的な不純物であり、CEV=0.39%、Pcm=0.19%である。
【0044】
スラブ出炉温度が1150℃であり、仕上圧延開始温度が825℃であり、仕上圧延段階の最後の3パスの変形が781~769℃温度範囲内にあり、累積変形量が22.65%であり、自己焼戻し温度が523℃である。
【0045】
本発明の各実施例の鋼板の性能及び溶接継手の性能は表1に示され、実施例の鋼種を実験室の模擬海水(3.5%NaCl溶液)の中で試験温度(30±2)℃の条件下において7日間浸漬した後の結果は表2に示され、比較としての従来のEH36鋼の化学成分は重量パーセントで、C:0.14%、Si:0.30%、Mn:1.25%、P:0.015%、S:0.003%、Nb:0.020%、Al:0.037%、Ti:0.015%である。
【0046】
【0047】
【0048】
以上から分かるように、本発明の鋼板は160~210kJ/cm大入熱溶接を行った後に依然として良好な低温靱性を有し、鋼板の効率的な溶接に条件を作り出し、その耐海水腐食性能が通常の海洋工学用鋼板よりも35%以上向上し、就役寿命及び安全性が大幅に向上する。
【0049】
要するに、本発明に係る耐食性を有する大入熱溶接可能な海洋工学用鋼板は、強靱性が高く、耐食性を有し、大入熱溶接可能であるといった優れた総合性能を有し、且つコストがより低く、プロセスが簡単であり、普及や応用がされやすい。
【0050】
本発明の詳しく説明しない内容は、いずれも本分野の通常の技術的知識を用いてもよい。
【0051】
最後に説明すべきことは、以上の実施例は単に本発明の技術案を説明するためのものであり、それを制限するものではない。実施例を参照して本発明を詳しく説明したが、当業者であれば理解されるように、本発明の技術案に対して行われる修正又は等価置換は、いずれも本発明の技術案の主旨及び範囲から逸脱することなく、本発明の特許請求の範囲内に含まれるべきである。
【国際調査報告】