(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】光学レンズ製造のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/26 20060101AFI20240514BHJP
B29C 45/56 20060101ALI20240514BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C45/56
B29C33/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571678
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(85)【翻訳文提出日】2023-11-17
(86)【国際出願番号】 EP2022063340
(87)【国際公開番号】W WO2022243325
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エリオット・フレンチ
(72)【発明者】
【氏名】ハオ-ウェン・チュウ
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AA28
4F202AF01
4F202AH74
4F202AJ02
4F202AJ06
4F202AJ12
4F202AR08
4F202AR12
4F202AR14
4F202CA11
4F202CB01
4F202CD23
4F202CK43
4F206AA28
4F206AF01
4F206AH74
4F206AJ02
4F206AJ06
4F206AJ12
4F206AR084
4F206AR12
4F206AR14
4F206JA03
4F206JF01
4F206JL02
4F206JN32
4F206JT05
(57)【要約】
モールド装置は、第1のモールド側部(110)と、第1のモールド側部(110)よりも低い熱伝導率を有する第2のモールド側部(105)とを含むモールドを備え、第1のモールド側部(110)は、第1のモールド側部(110)の表面上に配置された第1のモールドインサート(117)を含み、第1のモールドインサート(117)は、その上に形成された複数の反転微細構造体(199)を含み、複数の反転微細構造体(199)は、所定のレイアウトに従って配置されており、第1のモールド側部(110)の熱伝導率は、25℃において5~1,500W・m-1・K-1であり、第2のモールド側部(105)の熱伝導率は、25℃において0.01~2W・m-1・K-1である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールド装置であって、
第1のモールド側部(110)と第2のモールド側部(105)とを含むモールドを備え、前記第1のモールド側部(110)が、前記第1のモールド側部(110)の表面上に配置された第1のモールドインサート(117)を含み、前記第2のモールド側部(105)が、前記第2のモールド側部(105)の表面上に配置された第2のモールドインサート(115)を含み、前記第2のモールドインサート(115)が、前記第1のモールドインサート(117)よりも低い熱伝導率を有し、前記第1のモールドインサート(117)が、その上に形成された複数の反転微細構造体(199)を含み、前記複数の反転微細構造体(199)が、所定のレイアウトに従って配置されており、
前記第1のモールドインサート(117)の熱伝導率が、25℃において5~1,500W・m
-1・K
-1であり、
前記第2のモールドインサート(115)の熱伝導率が、25℃において0.01~2W・m
-1・K
-1である、モールド装置。
【請求項2】
前記第1のモールドインサート(117)が、金属であり、前記第2のモールドインサート(115)が、ガラスである、請求項1に記載のモールド装置。
【請求項3】
前記第1のモールド側部(110)と前記第2のモールド側部(105)とを結合して、前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(115)によって画定されるキャビティを形成し、前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(115)が第1の所定のギャップによって分離されており、
第1の所定量のポリマー溶融物を前記キャビティ内に射出し、
前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(115)を所定の閉鎖速度で閉鎖する、ように構成された処理回路を更に備える、請求項1に記載のモールド装置。
【請求項4】
前記第1の所定量が、得られるレンズの重量の割合に基づいており、前記処理回路が、前記得られるレンズの重量の100%よりも大きい量を前記キャビティ内に射出するように更に構成されている、請求項3に記載のモールド装置。
【請求項5】
前記所定の閉鎖速度の最大値が、20mm/秒以上である、請求項3に記載のモールド装置。
【請求項6】
成形方法であって、
モールドの第1のモールド側部(110)と前記モールドの第2のモールド側部(105)とを結合するステップであって、前記第1のモールド側部(110)が、前記第1のモールド側部(110)の表面上に配置された第1のモールドインサート(117)を含み、前記第2のモールド側部(105)が、前記第2のモールド側部(105)の表面上に配置された第2のモールドインサート(115)を含み、前記第2のモールドインサート(115)が、前記第1のモールドインサート(117)よりも低い熱伝導率を有し、前記第1のモールドインサート(117)が、その上に形成された複数の反転微細構造体(199)を含み、前記複数の反転微細構造体(199)が、所定のレイアウトに従って配置されており、前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(115)が、結合されるとキャビティを形成し、前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(115)が、第1の所定のギャップによって分離されている、ステップと、
第1の所定量のポリマー溶融物を前記キャビティ内に射出するステップと、
前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(115)を所定の閉鎖速度で閉鎖するステップと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記所定の閉鎖速度の最大値が、20mm/秒以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
厚み比が、キャビティ端部の厚みのキャビティ中心部の厚みに対する比であり、
10未満の前記厚み比が、前記第1の所定量の前記ポリマー溶融物を前記キャビティ内に射出するステップの間、維持される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の所定量が、得られるレンズの重量の割合に基づいており、前記射出された割合が、得られるレンズの重量の100%以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の所定量が、得られるレンズの重量の割合に基づいており、前記射出された割合が、前記得られるレンズの重量の100%よりも大きい、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記射出されたポリマー溶融物の前記割合の過剰分が、前記キャビティから排出される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(115)を閉鎖するステップが、前記射出された第1の所定量が得られるレンズの重量の94%以上に達すると、前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(117)を閉鎖するステップを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(115)を閉鎖するステップが、前記第1のモールドインサート(117)及び前記第2のモールドインサート(117)が第2の所定のギャップによって分離されると、前記閉鎖するステップを停止するステップを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の所定のギャップが、5mm以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のモールドインサート(117)が、ニッケル-リン(NiP)を用いてめっきされ、前記複数の反転微細構造体(199)が、前記NiPめっき上に形成される、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、その上に微細構造体を有するレンズを含む、レンズの製造中の欠陥を低減するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ここに提供される背景技術の説明は、本開示の文脈を一般的に示すことを目的とする。現時点で指名された本発明者らの業績であって、背景技術セクションに記述される範囲における業績及び出願時点で他に先行技術として適格でない可能性がある記述の態様は、本開示に対する先行技術として明示的にも暗示的にも認められない。
【0003】
ガラスインサートは、「溶接線」及び「中心歪み」などの欠陥のないレンズを製造するために射出成形中に使用され得る。ガラスインサートは、熱伝導率が低いため、そのような欠陥を防止するのにより長けている。この特性は、射出されたポリマー溶融物の熱を保持するのに役立ち、次いで、ポリマー溶融物の冷却を長引かせて不均一な収縮による歪みを防止することによって、溶接線欠陥を「治癒」するのに役立つ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、微細構造体を有する(例えば、近視抑制用)レンズの製造には、技術的又は経済的理由によりガラス上では実現可能性が低い微細構造化表面を有するモールドインサートの使用が必要となる場合がある。したがって、良好な光学系、微細構造体表面の良好な再現性、及び前述の欠陥の発生を低減したレンズを製造するために、高熱伝導性を有するモールドインサート用いた射出成形を介したレンズ製造のための装置及び方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の態様は、特に特許請求の範囲に記載の解決策を用いて、当該技術分野における上述の欠点のいくつかに対処することができる。
【0006】
本開示は、モールド装置であって、第1のモールド側部と第2のモールド側部とを含むモールドを備え、第1のモールド側部が、第1のモールド側部の表面上に配置された第1のモールドインサートを含み、第2のモールド側部が、第2のモールド側部の表面上に配置された第2のモールドインサートを含み、第2のモールドインサートが、第1のモールドインサートよりも低い熱伝導率を有し、第1のモールドインサートが、その上に形成された複数の反転微細構造体を含み、複数の反転微細構造体が、所定のレイアウトに従って配置されており、第1のモールドインサートの熱伝導率が、25℃において5~1,500W・m-1・K-1であり、第2のモールドインサートの熱伝導率が、25℃において0.01~2W・m-1・K-1である、モールド装置に関する。本開示によるモールド装置の有利な態様は、請求項2~5に開示されている。
【0007】
本開示は更に、モールドの第1のモールド側部とモールドの第2のモールド側部とを結合することであって、第1のモールド側部が、第1のモールド側部の表面上に配置された第1のモールドインサートを含み、第2のモールド側部が、第2のモールド側部の表面上に配置された第2のモールドインサートを含み、第2のモールドインサートが、第1のモールドインサートよりも低い熱伝導率を有し、第1のモールドインサートが、その上に形成された複数の反転微細構造体を含み、複数の反転微細構造体が、所定のレイアウトに従って配置されており、第1のモールドインサート及び第2のモールドインサートが、結合されるとキャビティを形成し、第1のモールドインサート及び第2のモールドインサートが、第1の所定のギャップによって分離されている、ことと、第1の所定量のポリマー溶融物をキャビティ内に射出することと、第1のモールドインサート及び第2のモールドインサートを所定の閉鎖速度で閉鎖することと、を含む、成形方法に関する。本開示による方法の有利な態様は、請求項7~15に開示されている。
【0008】
この要約セクションは、本開示又は本発明の請求項のあらゆる特徴及び/又は漸進的に新規な態様を指定するわけではないことに留意されたい。むしろ、本概要は、異なる実施形態に関する事前の議論及び対応する新規な点を提示するに過ぎない。本実施形態の追加的な詳細及び/又は可能な発展形態については、以下に更に論じるような本開示の詳細な説明セクション及び対応する図を参照されたい。
【0009】
複数の例として提案する本開示の各種の実施形態について、以下の図を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の範囲内の、例示的な処方レンズの例示的な断面概略図である。
【
図2】本開示の範囲内の、その上に形成された複数の微細構造体を含むモールドインサートの例示的な概略図である。
【
図3A】本開示の範囲内の、ファンゲートを含むモールドキャビティの例示的な概略図である。
【
図3B】本開示の範囲内の、ナローゲートを含むモールドキャビティの例示的な概略図である。
【
図4A】本開示の範囲内の、ウェルを含まないモールドキャビティの例示的な概略図である。
【
図4B】本開示の範囲内の、ウェルを含むモールドキャビティの例示的な概略図である。
【
図5A】本開示の範囲内の、ストレート射出成形プロセスの例示的な概略図である。
【
図5B】本開示の範囲内の、ストレート射出プロセス用のモールド装置のキャビティ内に射出されたポリマー溶融物120の一連の光学画像である。
【
図6】本開示の範囲内の、第1の射出圧縮成形プロセスの例示的な概略図である。
【
図7】本開示の範囲内の、第2の射出圧縮成形プロセスの例示的な概略図である。
【
図8】本開示の範囲内の、充填量の関数としてのE:C比のグラフである。
【
図9】本開示の範囲内の、第1の射出圧縮成形プロセス用のモールド装置のキャビティ内に射出されたポリマー溶融物120の一連の光学画像である。
【
図10】本開示の範囲内の、溶接線欠陥状態の光学画像である。
【
図11A】本開示の範囲内の、通常充填速度で製造されたレンズの中心部の光学画像である。
【
図11B】本開示の範囲内の、
図11Aのレンズの中心部のキーエンス顕微鏡画像である。
【
図12A】本開示の範囲内の、ポリマー射出器内のスクリュー位置の関数としての射出成形スクリュー速度プロファイルのグラフである。
【
図12B】本開示の範囲内の、
図12Aに表されるのと同じポリマー射出サイクルに対する時間の関数としての射出成形スクリュー速度プロファイルのグラフである。
【
図13】本開示の範囲内の、良好な(低)歪みを有するレンズの光学画像である。
【
図14】本開示の範囲内の、レンズを形成する方法の例示的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の開示では、提供される主題の異なる特徴を実装するための多くの異なる変形又は例を提供する。本開示を分かりやすくするために、要素及び配置の具体例について以下に説明する。当然のことながら、これらは単なる例に過ぎず、本発明を限定することも、いかなる順列において一緒に動作不可能であることも、意図するものでもない。別段の指示がない限り、本明細書に記載された特徴及び実施形態は、いかなる順列においても一緒に動作可能である。例えば、以下の記述において、第1の特徴を第2の特徴に被せるか又は載せるように形成することは、第1及び第2の特徴を直接接触させて形成する実施形態を含み得、第1及び第2の特徴が直接接触することができないように第1及び第2の特徴間に追加的な特徴が形成され得る実施形態も含み得る。また、本開示は、各種の例で参照番号及び/又は文字を繰り返す場合がある。この繰り返しは、簡潔さ及び明確さを目的とし、議論する各種の実施形態及び/又は構成間の関係ついてそれ自体言及するものではない。さらに、空間的に相対的な用語、例えば「最上部」、「最下部」、「下」、「下方」、「下部」、「上方」、「上側」等は、図示するように、ある要素又は特徴と別の要素又は特徴との関係の記述を容易にするために本明細書で用いる場合がある。空間的に相対的な用語は、図に示す向きに加えて、使用又は動作中の装置の異なる向きも包含することを意図する。発明の装置は、異なる向きに置かれ(90度又は他の向きに回転され)てもよく、従って本明細書で用いる空間的に相対的な記述子も同様に解釈することができる。
【0012】
本明細書に記述する異なるステップの議論の順序は、明確さを目的として示される。一般に、これらのステップは、任意の適当な順序で実行することができる。また、本明細書における異なる特徴、技術、構成等の各々について本開示の異なる箇所で議論する場合があるが、各々の概念が互いに独立して又は互いに組み合わせて実行できることを意図する。したがって、本開示は、多くの異なる方法で実装して確認することができる。
【0013】
前述したように、射出されたポリマー溶融物の冷却が増大することにより、レンズの成形プロセス中に溶接線及び中心歪み欠陥が発生する可能性がある。一般に、溶接線は、射出中に、前進するポリマー溶融物前部が別の溶融物前部と出会うときに形成される可能性があり、これは、複数のゲートからモールドのキャビティに充填されることから生じ得る。そのため、これにより、ポリマー溶融物の別々のフロー前部の正面衝突、又は障害物の存在若しくは過剰な横断方向部分の厚さ変動によるフロー前部の分裂及び収束につながる可能性がある。
【0014】
図1は、本開示の範囲内で有用な、例示的な処方レンズの例示的な断面概略図を示している。負の度数を有する処方レンズの射出成形の場合、所望のレンズの形状が中心部において薄く、且つレンズの端部に向かって徐々に厚くなるため、溶接線の形成が発生する可能性がある。例えば、
図1のレンズは、より薄い中心部及びより厚い端部を有する、-2.75Dレンズを示し得る。
【0015】
モールドのキャビティが粘性のある溶融プラスチックで満たされると、成形中のポリマー溶融物の特性を決定及び記述するための特定の注目点を含むフローパターンが形成され得る。例えば、第1の点(P1)は、充填中の中心部のフロー前部の方向を記述することができる。第2の点(P2)は、充填中の外側のフロー前部の方向を記述することができる。特に、ポアズイユ式を使用して、フロー前部に沿った各点における速度を決定することができる。ポアズイユ式は、以下のように与えられ得る。
【数1】
【0016】
この式は、速度(U)が厚さ(H)に強く依存することを示している。これは、フローのパターンを考慮するために、端部周辺のフローがより高い速度を有する主な理由である。加えて、速度は、粘度(μ)に依存する。レンズキャビティの中心部が十分に薄い場合、第1の(中心)点(P1)の溶融物前部は、第2の点(P2)の外側の溶融物前部に対して冷却されることで、粘度(μ)が端部(P2)に対して中心部(P1)においてより高くなる。
【0017】
最終的に、フロー前部が各側部から出会う場所でキャビティが満たされると、ある長さを有する溶接線が形成される。インサートの表面の界面における溶融物の温度がガラス転移温度(Tg)超に所定の期間保持された場合、溶接線は、共に融合して消える可能性がある。モールドインサートの熱伝導率及び熱拡散率が、この時間を決定することができる。射出成形の間、インサートは、射出されたポリマーのTg未満の温度に設定され、その結果、妥当な時間内にレンズが十分に冷却して剛性状態になる。ガラスの場合、熱伝導率は十分に低いため、溶接線を融合して欠陥を排除するために十分な時間、ポリマーはこの界面においてそのTg超に維持される。しかしながら、金属インサートの場合、熱伝導率ははるかに高く、ポリマーは、直ちに金属インサートの温度まで急冷される。さらに、いくつかの射出成形サイクルの場合、インサート温度がTg未満に設定され、溶接線が融合する時間を有しない場合がある。
【0018】
図2は、本開示の範囲内で有用な、その上に形成された複数の微細構造体を含むモールドインサートの例示的な概略図を示している。1つの例示的なインサートは、
図2に示される複数の微細構造体を含むことができ、金属インサートが、複数の微細構造体の改善された複製物を提供することができる。すなわち、ガラスインサートの表面上に複数の微細構造体の正確な複製物を製造することは、あまりにも困難であることが分かり得るため、金属インサートが代わりに使用される。複数の微細構造体は、例えば、拡散微細構造体及びフレネル構造体を成形するために使用され得る。有用な範囲では、複数の微細構造体自体は、例えばニッケル-リン(NiP)を用いてめっきされた金属インサート上にダイヤモンドターニングを介して形成され得る。加えて、複数の微細構造体は、金属インサートの凹面又は凸面のいずれか上に配置され得る。複数の微細構造体は、成形後に完成レンズ上に形成される所望の最終微細構造体の反転微細構造体とすることができる。この目的のため、NiPめっきで形成された複数の微細構造体を含む金属インサートなどの、金属インサートの熱伝導率に起因する溶接線又は中心歪み欠陥の導入を最小化するために、製造プロセスに対する追加の調整が実施され得る。
【0019】
微細構造体は、マイクロレンズ若しくはマイクロレンズレット、又は0.1μm~50μmの物理的Z変形/高さ及び0.5μm~1.5mmの幅/長さを有する他のタイプの構造体又は要素を含んでもよい。これらの構造体は、好ましくは、周期的又は擬似周期的なレイアウトを有するが、また、ランダムな位置を有してもよい。微細構造体の好ましいレイアウトは、一定のグリッドステップを有する、ハニカムレイアウトの、複数の同心円状のリングの、連続した、例えば微細構造体間にスペースがないグリッドである。これらの構造体は、強度、曲率、又は光偏差において光波前部の修正を提供することができ、ここで、波前部の強度は、構造体が吸収性を有し、且つ0%~100%の範囲で波前部の強度を局所的に吸収することができるように構成され、曲率は、構造体が±20ジオプタの範囲で波前部の曲率を局所的に修正することができるように構成され、光偏差は、構造が±1°~±30°の範囲の角度で光を局所的に散乱することができるように構成されている。構造体間の距離は、X及び/又はYサイズにおいて0(連続)~3倍の構造体(別個の微細構造体)の範囲であり得る。
【0020】
本明細書では、欠陥のない処方レンズを製造するために、複数の微細構造体を有する金属インサート、及び最適化された射出成形パラメータを有する滑らかな表面を有するガラスモールド側部の使用を組み合わせる装置及び方法について説明する。
【0021】
一般に、インサート材料、キャビティ形状、及びポリマー特性の組み合わせは、欠陥の発生に影響を及ぼす。特に、インサート材料に対して、「熱伝導率」が重要であり、形状に対して、「ゲート設計」、「キャビティ形状」、及び「射出圧縮」設定が重要であり、ポリマーの特性に対して、ポリマー溶融物のレオロジー特性が重要である。
【0022】
キャビティ形状に関して、溶融物前部に沿った第1の点と第2の点(及びその他の点)とが同時に出会う場合、溶接線は形成されないことになる。すなわち、第1の点(P1)(
図5B及び
図9を参照)が、第2の点(P2)が第3の点(P3)に達するのに要する時間と同時に、ゲートに対向する第3の点(P3)に達する場合、溶接線欠陥は発生しないことになる。この時間差(t1-t2)は、問題の点が移動した距離をその速度で除算することによって概念化され得る。有用な範囲では、速度のポアズイユ式を使用することができ、第1(中心)点(P1)又は第2(外側)点(P2)のいずれかを示す添え字の数字を用いて臨界比を分離するように並べ替えることができる。
【数2】
【0023】
式2は、問題を概念化するのに役立つように使用することができるが、フローを正確にモデル化するのには有効ではない。この表現は、以下の比が最小化されると、第1の(中心)点(P1)が第3点(P3)に達する時間(t1)が、第2の点(P2)が第3の点(P3)に達する時間(t2)に対して低減されることを示している。
【数3】
【0024】
厚さ比、及びある程度までの粘度比は、キャビティが充填される際の射出圧縮調整で最小化され得る。他の2つの比、圧力低下比及び移動距離比もまた、キャビティに形状設計を取り入れることによって最小化され得る。
【0025】
図3Aは、本開示の範囲内で有用な、ファンゲートを含むモールドキャビティの例示的な概略図である。
図3Bは、本開示の範囲内で有用な、ナローゲートを含むモールドキャビティの例示的な概略図である。ゲート設計に関して、ゲート設計は、円周方向の外周フローと比較して中心フローに向かって圧力を最大化することによって、圧力低下比を最小化することができる。有用な範囲では、これは、溶融物がキャビティ内にどのように流れるかに影響を及ぼすようにゲート設計を最適化することによって達成され得る。例えば、
図3Bのナローゲート設計は、
図3Aのファンゲート設計と比較して、そのような効果を有し得る。
【0026】
図4Aは、本開示の範囲内で有用な、ウェルを含まないモールドキャビティの例示的な概略図を示している。
図4Bは、本開示の範囲内で有用な、ウェルを含むモールドキャビティの例示的な概略図を示している。キャビティ形状に関して、キャビティの中心部を通る距離は、キャビティの外周の周りの距離よりも短い。外周の周りの経路長を更に増大するキャビティに対する任意の設計は、距離比を更に最小化することになる。有用な構成では、
図4Bにおいて外周に沿って追加されたウェルは、
図4Aと比較してそのような効果を有し得る。
【0027】
図5Aは、本開示の範囲内で有用な、ストレート射出成形プロセスの例示的な概略図を示している。有用な範囲では、モールド装置は、第1のモールド側部110及び第2のモールド側部105と、第1のモールド側部110の表面上に配置された第1のモールドインサート117と、第2のモールド側部105の表面上に配置された第2のモールドインサート115と、を含むことができる。第1のモールドインサート117は、その上に形成された複数の反転微細構造体199(
図2を参照)を含むことができ、複数の反転微細構造体199は、所定のレイアウトに従って配置され得る。第2のモールドインサート115は、得られるレンズの所望の光学特性に基づいて、滑らかな表面を有するか、又は同様に複数の反転微細構造体199を含むことができる。複数の反転微細構造体199は、
図2に関連して説明したように、得られるレンズ上に複数の突出した微細構造体を形成するように構成され得る。第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110、及び第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105は、例えば、整列装置を使用して、結合され、且つ互いに向かって又は互いに離れて移動するように構成され得る。ポリマー射出器は、モールド装置に取り付けられ、ポリマー溶融物120を射出するように構成され得る。
【0028】
有用な範囲では、第1のモールドインサート117の熱伝導率は、25℃において5~1,500W・m-1・K-1とすることができ、第2のモールドインサート115の熱伝導率は、25℃において0.01~2W・m-1・K-1とすることができる。例えば、第1のモールドインサート117の材料は、金属とすることができ、第2のモールドインサート115の材料は、ガラスとすることができる。本開示は、第1のモールド側部と第2のモールド側部との間に熱伝導率の差が見いだされる限り、金属、ガラス、及び任意の他の適切な物質の任意の組み合わせに適用することができる。
【0029】
示されるように、モールド装置は、ストレート射出プロセスの開始時に開放することができ、その後、閉鎖することができる。後に、ポリマー溶融物120を、ポリマー射出器によって、第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110及び第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105によって画定されるモールド装置のキャビティ内に射出することができる。その後、ポリマー溶融物120は冷却され、モールド装置を開放して、成形されて得られたレンズを取り出すことができる。特に、このプロセスはストレート射出であり、すなわち、射出中又は冷却中にポリマー溶融物120の追加の圧縮も、第1のモールドインサート117又は第2のモールドインサート115の調整も発生しない。
【0030】
前述したように、金属モールドインサートが使用されると、レンズの製造中に溶接線及び中心歪み欠陥が発生する可能性がある。
図5Bは、本開示の範囲内で有用な、ストレート射出プロセス用のモールド装置のキャビティ内に射出されたポリマー溶融物120の一連の光学画像を示している。第1の(中心)点(P1)、第2の(外側)点(P2)、及び第3の点(P3)がラベル付けされている。一連の画像の最後の光学画像に示されるように、溶接線欠陥が存在している。
【0031】
この目的のため、端部対中心部比(E:C)を調整して、溶接線欠陥発生の低減に役立つことができる。有用な範囲では、E:C比は、レンズキャビティの円周方向の外周端部の厚さのレンズキャビティの中心部の厚さに対する比である。この比は、厚さ比(H2
2/H1
2)に影響を及ぼし得るが、H1及びH2の値はモールド装置のキャビティが充填される際のそれぞれの点の場所に依存するため、完全に同じではない。E:C比は、厚さ比に直接的に正比例するため、溶接線の形成を説明するのに使用され得る。
【0032】
E:C比は、
図5A及び5Bのストレート射出法の場合、レンズキャビティが充填される際に一定に保たれる。例えば、中心部の厚さ1.4mm、端部の厚さ9.0mmの-6.0Dレンズの場合、E:C比は、約41(=9
2/1.4
2)である。これは大きな比であり、且つ厚さ比も大きくさせ得るため、ストレート射出法に対して予想される大きな溶接線の形成をもたらす。
【0033】
図5Bはまた、粘度が大きく増大して移動が起こらなくなる点までこのフロー前部が冷却される際に、第1の(中心)点(P1)がどのように停止するかを示している。高い厚さ比に加えて、-6.0Dレンズ用のキャビティを用いたストレート射出法もまた、高い粘度比を有する。
【0034】
このように、本明細書に記載の射出成形方法を使用して、キャビティ内のポリマー溶融物120の圧縮を活用することによって、溶接線及び中心歪み欠陥の発生を更に低減することができる。この目的のため、
図6は、本開示の範囲内で有用な、第1の射出圧縮成形プロセスの例示的な概略図を示している。加えて、
図7は、本開示の範囲内で有用な、第2の射出圧縮成形プロセスの例示的な概略図を示している。第1の射出圧縮成形プロセス及び第2の射出圧縮成形プロセスは両方とも、厚さ比を低減するために使用される方法である。例えば、10未満の厚さ比が、第1の所定量のポリマー溶融物をキャビティ内に射出するステップの間、維持される。第1の射出圧縮成形プロセスの場合、E:C比は、キャビティ内の射出されたポリマー溶融物120の充填量によっては一定ではない。初期比は、第1のモールドインサート117と第2のモールドインサート115との間の第1の所定のギャップに基づく。第1の所定のギャップが閉鎖する際の(すなわち、第1のモールドインサート117と第2のモールドインサート115とが共により近づく際の)E:C比は、第1の所定のギャップが閉鎖する速度(すなわち、所定の閉鎖速度)、並びに第1の所定のギャップが閉鎖する際の充填量に基づくことができる。これを、
図8に示している。
【0035】
図6を参照すると、第1の射出圧縮成形プロセスは、溶接線欠陥を低減するための数多くのステップを含むことができる。有用な範囲では、モールド装置は開始時に開放され、その後、閉鎖され得る。ストレート射出プロセスと比較して、第1のモールドインサート117及び第2のモールドインサート115は、第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110と第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105との間の第1の所定のギャップに達するまで、共により近づくように移動させることができる。後に、ポリマー溶融物120をモールド装置のキャビティ内に射出することができる。ストレート射出プロセスと比較して、キャビティは、得られるレンズの最終量未満又はそれに近い量まで充填され得る。すなわち、キャビティは、ポリマー溶融物120で部分的にのみ充填され得る。その後、所定の閉鎖速度で、第1のモールド側部110を第1のモールドインサート117で閉鎖し、且つ第2のモールド側部105を第2のモールドインサート115で閉鎖することによって、第1の所定のギャップを閉鎖することができる。例えば、ポリマー溶融物120の射出された第1の所定量が、得られるレンズの最終量の90%以上、又は94%以上に達すると、第1の所定のギャップを閉鎖することができる。例えば、所定の閉鎖速度の最大値は、15mm/秒以上、又は18mm/秒以上、又は20mm/秒以上とすることができる。有用な範囲では、キャビティ内へのポリマー溶融物120の追加の射出は、閉鎖中又は閉鎖後に発生し得る。レンズを形成するためにキャビティ内のポリマー溶融物120が冷却されると、モールド装置を開放して、レンズを取り出すことができる。
【0036】
図7を参照すると、第2の射出圧縮成形プロセスは、溶接線欠陥を低減するための数多くのプロセスを含むことができる。有用な範囲では、モールド装置は開始時に開放され、その後、閉鎖され得る。再び、第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110及び第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105は、第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110と第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105との間の第1の所定のギャップに達するまで、共により近づくように移動させることができる。後に、ポリマー溶融物120をモールド装置のキャビティ内に射出することができる。ストレート射出プロセス又は第1射出圧縮成形プロセスと比較して、得られるレンズの最終量を超える量のポリマー溶融物120でキャビティを充填することができる。その後、所定の閉鎖速度で、第1のモールド側部110を第1のモールドインサート117で閉鎖し、且つ第2のモールド側部105を第2のモールドインサート115で閉鎖することによって、第1の所定のギャップを閉鎖して、キャビティを得られるレンズの最終量まで低減することができる。例えば、ポリマー溶融物120の射出された第1の所定量が、得られるレンズの最終量の101%以上、又は105%以上に達すると、第1の所定のギャップを閉鎖することができる。例えば、所定の閉鎖速度の最大値は、15mm/秒以上、又は18mm/秒以上、又は20mm/秒以上とすることができる。有用な範囲では、過剰に射出されたポリマー溶融物120は、キャビティから排出され得る。例えば、過剰な材料は、所望の量及び厚さが達成されるまで、接続チャネル(ゲート、ランナー、及びスプルー)を通ってポリマー射出器に押し戻され得る。別の例では、過剰に射出されたポリマー溶融物120は、オーバーフローオリフィスを介して、又はゲートに対向するキャビティの端部に位置するオーバーフローウェル内に排出され得る。特に、第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110及び第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105の閉鎖は、第2の所定のギャップに達すると停止することができ、第2の所定のギャップは、得られるレンズの最終量によって決定される。最後に、モールド装置を開放して、得られたレンズを取り出すことができる。
【0037】
[実施例]
実施例1-凸(Cx)半径62mm、凹(Cc)半径167mm、及び最終中心部厚さ1.4mmを有する-6.0Dレンズを、ファン角度15°及びキャビティ直径72mmを含むゲートを有するモールド内で製造した。
【0038】
図8は、本開示の範囲内で有用な、充填量の関数としてのE:C比のグラフを示している。
図8は、「タイプA」及び「タイプB」と表記される第1の射出圧縮成形プロセスの2つの異なる設定と比較した、ストレート射出プロセスの充填量に対するE:C比を示している。タイプAの第1のモールドインサート117及び第2のモールドインサート115は、5mmの第1の所定のギャップによって分離されており、第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110及び第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105は、より先に、より遅い所定の閉鎖速度で閉鎖する。タイプBの第1のモールドインサート117及び第2のモールドインサート115は、9mmの第1の所定のギャップによって分離されており、第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110及び第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105は、より後で、より速い所定の閉鎖速度で閉鎖する。両方とも、充填量が100%に達すると同時にモールド装置を閉鎖させることになる充填量で閉鎖するように初期化される。
【0039】
図9は、本開示の範囲内で有用な、第1の射出圧縮成形プロセス用のモールド装置のキャビティ内に射出されたポリマー溶融物120の一連の光学画像を示している。
図8は、第1の射出圧縮成形プロセスが充填サイクル全体を通してE:C比を大幅に低減することを表している。第1の射出圧縮成形プロセスのタイプAの場合、溶接線の形成は小さくなるが、その比は依然として100%充填に向かって高い値に近づき、且つ溶接線は依然として
図9に示されるような特定の程度まで形成され得るが、それはかなり改善されている。
図9は、第1の(中心)点(P1)が更に移動することを示しているが、なぜなら、厚さ比が最小化されるだけでなく、粘度比も最小化されるからである。これは、第1の点(P1)が通過して移動するときにキャビティがフリーズしないように、中心部がはるかに厚くなっている結果である。
【0040】
第2の射出圧縮成形プロセスは、たとえレンズ量が完全に充填されたとしても、E:C比をより低く保つことができる。第2の射出圧縮成形プロセスの場合、第1の所定のギャップを決定し、得られるレンズの最終量の100%を超えてキャビティが充填される。第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110及び第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105が閉鎖され、ポリマー溶融物120の過剰量が排出される。
【0041】
いったん形成されると、溶接線欠陥は、潜在的に共に融合する可能性がある。融合が起こる程度は、溶接線の視認性に対する影響を有する。前述したように、ガラス表面で作成されたモールドインサートは、熱伝導率が非常に低く、これは熱伝達が非常に遅いことを意味する。ガラスの場合、その速度は非常に遅く、たとえモールド側部の設定温度が射出されたポリマーのTg未満であっても、溶融ポリマーが表面に接触する界面は、射出されたポリマーのTg超の温度に短い持続時間、維持される。この短い持続時間は、溶接線が共に融合するのに十分な長さであり得る。しかしながら、金属インサートの場合、高温の溶融ポリマーから金属インサートへの熱伝導率又は熱伝達率が非常に高いため、この界面は射出されたポリマーのTg以下でほぼ直ちに急冷される。この時点では、分子鎖は、十分に絡み合って完全に融合するのに十分に移動していない場合がある。
【0042】
さらに、ポリマー溶融物120のフロー挙動は、その粘度又は溶融物フロー速度(MFR)に強く影響される。例えば、低粘度又は高MFRのポリカーボネート(PC)は、マイナスレンズの薄い中心部におけるフロー抵抗を小さくすることができ、それによって、溶接線の範囲を低減することができる。加えて、ポリマー溶融物120に高フローポリカーボネートを使用することにより、成形されたレンズ内の残留応力が低くなる結果となり、特にハードコート後の部品の反りを回避できる可能性がある。
【0043】
この目的のため、
図10は、本開示の範囲内で有用な、溶接線欠陥状態の光学画像を示している。溶接線状態は、制御された照明設定で観察され、(1)長さ、及び(2)低、中、又は高強度に従ってランク付けされた。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
表1は、ギャップ及びクランプの閉鎖速度を最大化すると共に、射出されたポリマー量に対してクランプが閉鎖し始める時間を最大化することによって、溶接線の長さ及び視認性が低減されることを示している。表2及び表3は、溶融物フロー速度などのポリマー樹脂のレオロジー特性が溶接線強度に影響を有することを示している。特に、溶接線が融合する際の分子鎖の絡み合いの程度は、溶融物フロー速度に比例するように見える。表4は、NiPの熱伝導率がクロムよりも低いため、第1のモールドインサート117のクロム表面と比較して、NiPめっきが溶接線の長さ及び強度を改善することを示している。
【0049】
以下の2つの異なる充填速度をテストした。(1)通常充填速度=キャビティが溶融プラスチックの量で100%満たされた後、部品冷却の際の収縮を克服するために必要な追加の材料の大部分が5秒以内でキャビティ内に充填される充填段階特性、及び(2)遅延充填速度=キャビティが溶融プラスチックの量で100%満たされた後、材料のこの大部分がキャビティ内に充填される前に20秒の遅延が生じる。特に、(1)通常充填速度の場合、得られるレンズの中心部は光学的変形を有し、光学系は、球面度数及び円柱度数に対して規格外である。(2)遅延充填速度の場合、得られるレンズの中心部には光学的変形がなく、光学系は、球面度数及び円柱度数に対して規格内である。
【0050】
充填ステップは、キャビティがポリマー溶融物120で100%満たされ直後に生じる。例えば、
図9の最後の画像シーケンスは、キャビティが100%満たされた時点を示している。この時点以降、溶融プラスチックは、冷却するにつれて収縮し始めることになる。この収縮に対して補償し、且つ収縮に関連したシンクマークのないレンズを提供するために、キャビティは特定量の時間、追加の材料で満たされ得る。この段階は、充填ステップと呼ばれる。充填速度は、金属インサートを使用してより高いマイナス度数のストックレンズを成形する際に重要なプロセスパラメータであることが見いだされている。充填速度が速すぎる場合、レンズの中心部において光学的変形が発生し得る。このような変形は、レンズの中心部の光学系にずれを引き起こす。
【0051】
図11Aは、本開示の範囲内で有用な、通常充填速度で製造されたレンズの中心部の光学画像を示している。示されるように、光学的変形が存在している。
図11Bは、本開示の範囲内で有用な、
図11Aのレンズの中心部のキーエンス顕微鏡画像を示している。ここでも、中心部は、光学的変形を示している。
【0052】
図12Aは、本開示の範囲内で有用な、スクリュー位置の関数としてのポリマー射出器内のスクリューの速度プロファイルのグラフを示している。
図12Bは、本開示の範囲内で有用な、時間の関数としての
図12Aと同じ射出サイクルの速度プロファイルのグラフを示している。
図12Aに見られ得るように、スクリュー速度は、通常充填と比較して、全体的により低く、特に、遅延充填の充填段階中に低い。
【0053】
最後に、
図13は、本開示の範囲内で有用な、良好な(低)歪みを有するレンズの光学画像を示している。特に、
図13の低歪みレンズは、本明細書に記載の方法を用いて製造された。
【0054】
図14は、本開示の範囲内で有用な、レンズを形成する方法の例示的なフローチャートである。ステップ1410において、第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110と第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105とが結合されてキャビティを画定する。例えば、第1のモールドインサート117及び第2のモールドインサート115は、5mm、又は7mm、又は9mmの第1の所定のギャップによって分離され得る。ステップ1420において、ポリマー溶融物120が、キャビティ内に射出される。例えば、射出されたポリマー溶融物120は、94%、又は80%~100%など、得られるレンズの最終量以下とすることができる。例えば、射出されたポリマー溶融物120は、101%、又は101%~150%以上など、得られるレンズの最終量よりも大きくすることができる。ステップ1430において、結合された第1のモールドインサート117を有する第1のモールド側部110及び第2のモールドインサート115を有する第2のモールド側部105は、所定の閉鎖速度で閉鎖される。例えば、所定の閉鎖速度は、15mm/秒超、又は17mm/秒超、又は20mm/秒超とすることができる。
【0055】
上記の説明において、処理システムの特定のジオメトリ及び各種要素並びにそこで用いる処理等の具体的な詳細を開示した。しかし、本明細書に記述する技術は、これらの具体的な詳細と異なる他の実施形態で実施可能であり、そのような詳細は、説明目的であり、限定目的ではないことが理解されるであろう。本明細書に開示する実施形態について添付の図面に関して記述してきた。同様に、詳細な理解を提供するために、説明目的で特定の数、材料及び構成を開示した。それにもかかわらず、そのような具体的な詳細なしに実施形態を実施することができる。実質的に同一の機能的構造を有する構成要素は、同じ参照符号で表記し、したがって、冗長な記述は、全て省略され得る。
【0056】
各種の実施形態の理解を支援するために、各種の技術を複数の別個の動作と記述してきた。記述の順序は、これらの動作が必然的に順序に依存することを示唆するものと解釈してはならない。実際、これらの動作は、提示する順序で実行される必要はない。記述された動作は、明示的に別段の指示がない限り、具体的に記述されたものとは異なる順序で実行されてもよい。様々な追加の動作が実行されてもよく、及び/又は記述された動作が省略されてもよい。
【0057】
当業者であれば、本開示の同じ目的を依然として達成しながら、上述の技術の動作に対する多くの変更形態がなされ得ることを理解するであろう。このような変更形態は、本開示の範囲に含まれるものとする。このように、実施形態の上記の記述は、限定を意図するものではない。むしろ、実施形態に対するいかなる限定も以下の請求項に提示される。
【0058】
本開示の複数の実施形態は、以下の括弧内の番号で示される通りでもあり得る。
【0059】
(1)モールド装置であって、第1のモールド側部(110)と第2のモールド側部(105)とを含むモールドを備え、第1のモールド側部(110)が、第1のモールド側部(110)の表面上に配置された第1のモールドインサート(117)を含み、第2のモールド側部(105)が、第2のモールド側部(105)の表面上に配置された第2のモールドインサート(115)を含み、第2のモールドインサート(115)が、第1のモールドインサート(117)よりも低い熱伝導率を有し、第1のモールドインサート(117)が、その上に形成された複数の反転微細構造体(199)を含み、複数の反転微細構造体(199)が、所定のレイアウトに従って配置されており、第1のモールドインサート(117)の熱伝導率が、25℃において5~1,500W・m-1・K-1であり、第2のモールドインサート(115)の熱伝導率が、25℃において0.01~2W・m-1・K-1である、モールド装置。
【0060】
(2)第1のモールドインサート(117)が、金属であり、第2のモールドインサート(115)が、ガラスである、(1)に記載のモールド装置。
【0061】
(3)第1のモールド側部(110)と第2のモールド側部(105)とを結合して、第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)によって画定されるキャビティを形成し、第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)が第1の所定のギャップによって分離されており、第1の所定量のポリマー溶融物をキャビティ内に射出し、第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)を所定の閉鎖速度で閉鎖する、ように構成された処理回路を更に備える、(1)又は(2)に記載のモールド装置。
【0062】
(4)第1の所定量が、得られるレンズの重量の割合に基づいており、処理回路が、得られるレンズの重量の100%よりも大きい量をキャビティ内に射出するように更に構成されている、(3)に記載のモールド装置。
【0063】
(5)所定の閉鎖速度の最大値が、15mm/秒、又は17mm/秒、又は20mm/秒以上である、(3)又は(4)に記載のモールド装置。
【0064】
(6)成形方法であって、モールドの第1のモールド側部(110)とモールドの第2のモールド側部(105)とを結合することであって、第1のモールド側部(110)が、第1のモールド側部(110)の表面上に配置された第1のモールドインサート(117)を含む、第2のモールド側部(105)が、第2のモールド側部(105)の表面上に配置された第2のモールドインサート(115)を含み、第2のモールドインサート(115)が、第1のモールドインサート(117)よりも低い熱伝導率を有し、第1のモールドインサート(117)が、その上に形成された複数の反転微細構造体(199)を含み、複数の反転微細構造体(199)が、所定のレイアウトに従って配置されており、第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)が、結合されるとキャビティを形成し、第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)が、第1の所定のギャップによって分離されている、ことと、第1の所定量のポリマー溶融物をキャビティ内に射出することと、第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)を所定の閉鎖速度で閉鎖することと、を含む、方法。
【0065】
(7)所定の閉鎖速度の最大値が、15mm/秒、又は17mm/秒、又は20mm/秒以上である、(6)に記載の方法。
【0066】
(8)厚み比が、キャビティ端部の厚みのキャビティ中心部の厚みに対する比であり、10未満の厚み比が、第1の所定量のポリマー溶融物をキャビティ内に射出するステップの間、維持される、(6)又は(7)に記載の方法。
【0067】
(9)第1の所定量が、得られるレンズの重量の割合に基づいており、射出された割合が、得られるレンズの重量の100%に等しいか、又は100%未満である、(6)~(8)のいずれか1つに記載の方法。
【0068】
(10)第1の所定量が、得られるレンズの重量の割合に基づいており、射出された割合が、得られるレンズの重量の100%よりも大きい、(6)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
【0069】
(11)射出されたポリマー溶融物の割合の過剰分が、キャビティから排出される、(10)に記載の方法。
【0070】
(12)第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)を閉鎖することが、射出された第1の所定量が得られるレンズの重量の94%以上に達すると、第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)を閉鎖することを更に含む、(6)~(11)のいずれか1つに記載の方法。
【0071】
(13)第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)を閉鎖することが、第1のモールドインサート(117)及び第2のモールドインサート(115)が第2の所定のギャップによって分離されると、閉鎖することを停止することを更に含む、(6)~(12)のいずれか1つに記載の方法。
【0072】
(14)第1の所定のギャップが、9mm、又は7mm、又は5mm以上である、(6)~(13)のいずれか1つに記載の方法。
【0073】
(15)第1のモールドインサート(117)が、ニッケル-リン(NiP)を用いてめっきされ、複数の反転微細構造体(199)が、NiPめっき上に形成される、(6)~(13)のいずれか1つに記載の方法。
【符号の説明】
【0074】
105 第2のモールド側部
110 第1のモールド側部
115 第2のモールドインサート
117 第1のモールドインサート
120 ポリマー溶融物
199 反転微細構造体
【国際調査報告】