(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】接着剤組成物の硬化性前駆体
(51)【国際特許分類】
C09J 11/06 20060101AFI20240514BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20240514BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C09J11/06
C09J4/02
C09J133/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571799
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 IB2022054711
(87)【国際公開番号】W WO2022243945
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】スプロット,サッシャ
(72)【発明者】
【氏名】シャバン,アーメッド
(72)【発明者】
【氏名】クラウセン,カイ ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ビッシンガー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】フリッツ,エミリ エム.
(72)【発明者】
【氏名】ユング,エイドリアン テー.
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040HB41
4J040HC17
4J040HD24
4J040JB02
4J040JB09
4J040KA03
4J040KA11
4J040KA12
4J040KA16
4J040KA19
4J040NA15
4J040NA19
4J040PB05
(57)【要約】
本開示は、接着剤組成物の硬化性前駆体であって、硬化性前駆体が、
(a)ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分であって、
(i)C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、
(ii)エチレン性不飽和酸性化合物と、を含む、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分と、
(b)リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基及び少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤と、
(c)ニトロキシドと、を含み、
C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)(i)が、(メタ)アクリル酸エステル基以外の官能基を含まず、エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)が、リン酸から誘導される酸官能基を含まない、硬化性前駆体に関する。
本開示は更に、当該硬化性前駆体から硬化組成物を製造するための方法、並びに自動車産業における接着剤用途及び/又は熱管理用途のための当該硬化性前駆体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤組成物の硬化性前駆体であって、前記硬化性前駆体が、
(a)ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分であって、
(i)C
1~C
32(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、
(ii)エチレン性不飽和酸性化合物と、
を含む、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分と、
(b)リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基及び少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む、前記(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤と、
(c)ニトロキシドと、
を含み、
前記C
1~C
32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)(i)が、前記(メタ)アクリル酸エステル基以外の官能基を含まず、前記エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)が、リン酸から誘導される酸官能基を含まない、硬化性前駆体。
【請求項2】
前記C
1~C
32(メタ)アクリル酸エステルモノマーが、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-プロピルヘプチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、及びそれらの任意の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の硬化性前駆体。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和酸性化合物が、エチレン性不飽和並びに酸及び/又は酸前駆体官能性を有する、モノマー、オリゴマー、及びポリマーを含む、請求項1又は2に記載の硬化性前駆体。
【請求項4】
前記ニトロキシドが、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、その誘導体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性前駆体。
【請求項5】
前記ニトロキシドが、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPOL)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性前駆体。
【請求項6】
(d)少なくとも2000g/molの数平均分子量を有し、少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含むポリエーテルオリゴマーであって、前記数平均分子量が、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定される、ポリエーテルオリゴマー
を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性前駆体。
【請求項7】
前記ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分(a)が、
(iii)官能基を有するエチレン性不飽和モノマーであって、前記ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分(a)の前記C
1~C
32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(i)及び前記エチレン性不飽和酸性化合物(ii)と共重合可能である、エチレン性不飽和モノマー
を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性前駆体。
【請求項8】
(e)熱伝導性粒子
を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性前駆体。
【請求項9】
(f)塩基
を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性前駆体。
【請求項10】
前記塩基が、第三級アミン、又は第三級アミンの組み合わせである、請求項9に記載の硬化性前駆体。
【請求項11】
前記硬化性前駆体が、塩基を含まない、請求項1~10のいずれか一項に記載の硬化性前駆体。
【請求項12】
前記硬化性前駆体が、ラジカル重合のための開始剤を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の硬化性前駆体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の硬化性前駆体から硬化組成物を製造するための方法であって、前記方法が、
硬化性前駆体を提供することであって、前記硬化性前駆体が、
(a)ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分であって、
(i)C
1~C
32(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、
(ii)エチレン性不飽和酸性化合物と、
を含む、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分と、
(b)リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基及び少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む、前記(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤と、
(c)ニトロキシドと、
を含み、
前記C
1~C
32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)(i)が、前記(メタ)アクリル酸エステル基以外の官能基を含まず、前記エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)が、リン酸から誘導される酸官能基を含まない、硬化性前駆体を提供することと、
前記硬化性前駆体のラジカル重合のための開始剤を提供することと、
前記硬化性前駆体と前記開始剤とを混合することと、
前記硬化性前駆体と前記開始剤との混合物を硬化させることと、
を含む、方法。
【請求項14】
硬化させることが、50℃未満の温度、好ましくは室温(23℃)で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
自動車産業における接着剤用途及び/又は熱管理用途のための、請求項1~12のいずれか一項に記載の硬化性前駆体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分を含む接着剤組成物の硬化性前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性組成物は、接着剤及びコーティングなどの汎用産業用途、並びに、例えば、電子部品の封止及び接合などの電子産業における高性能用途を含む様々な用途での使用に適したものとして長年既知である。長年にわたる硬化性組成物の広範な使用により、性能要件は、特に、硬化プロファイル、接着性能、貯蔵安定性、取り扱い性、及び加工性特性、並びに環境及び健康要件の遵守に関して、ますます厳しいものになっている。熱伝導性を提供するために硬化性組成物が更に必要とされる場合、好適な組成物の配合はより一層困難になる。
【0003】
アクリル硬化性組成物の貯蔵中に、自己重合が起こり得るので、通常、防止のために阻害剤が使用される。ほとんどの阻害剤では、それらの機能性を確保するために酸素が必要である。アクリル温度管理組成物のような高粘度を有する高度に充填された接着性アクリル組成物、及びまた他の接着性アクリル硬化性組成物は、限定された酸素拡散を示す。結果として、特に多量の高度に充填されたアクリル組成物の貯蔵中に、例えば、硬化性組成物を100又は200リットルの容積を有するドラム内で貯蔵する場合に、コア重合が起こり得る。ドラム内での硬化性組成物の貯蔵中、酸素は阻害剤によって消費されるが、ドラムのコア領域への酸素の拡散が限定されているため、阻害剤の適切な機能性を確保するのに十分な酸素がコア領域において経時的に利用できなくなり、その結果コア重合が生じる。
【0004】
接着性アクリル組成物において、酸は接着強度を高めることができる。酸は高度に反応性であり、組成物を不安定化する傾向があり、コア重合のより高い傾向をもたらすので、アクリル硬化性組成物中にアクリル酸などの酸が存在すると、貯蔵のために硬化性組成物を安定化することはより一層困難になる。
【0005】
国際公開第2019/040596(A1)号は、ウレタン(メタ)アクリレート組成物の貯蔵寿命を増加させるための阻害剤の組み合わせを開示している。国際公開第2019/040596(A1)号の樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレートと、少なくとも1つのニトロキシドラジカル及び少なくとも1つの塩基を含む阻害剤パッケージと、を含み、塩基は、第三級アミン塩基、第四級アンモニウム水酸化物、アルコキシド、又は水酸化物からなる群から選択される。塩基がニトロキシドに添加されない場合、又は酸が組成物に添加される場合、著しく減少した貯蔵寿命が生じる。
【0006】
特に、硬化性前駆体がアクリル酸モノマーを含む場合、良好な貯蔵安定性を有し、室温で硬化可能である接着性アクリル組成物の硬化性前駆体が依然として必要とされている。
【0007】
本明細書で使用する場合、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つの」、及び「1つ以上の」は、互換的に使用される。「含む」という用語は、「から本質的になる」及び「からなる」という用語も含むものとする。
【発明の概要】
【0008】
第1の態様では、本開示は、接着剤組成物の硬化性前駆体であって、硬化性前駆体が、
(a)ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分であって、
(i)C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、
(ii)エチレン性不飽和酸性化合物と、
を含む、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分と、
(b)リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基及び少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤と、
(c)ニトロキシドと、
を含み、
C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)(i)が、(メタ)アクリル酸エステル基以外の官能基を含まず、エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)が、リン酸から誘導される酸官能基を含まない、硬化性前駆体に関する。
【0009】
別の態様では、本開示はまた、本明細書に開示される硬化性前駆体から硬化組成物を製造するための方法であって、方法が、
硬化性前駆体を提供することであって、硬化性前駆体が、
(a)ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分であって、
(i)C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、
(ii)エチレン性不飽和酸性化合物と、
を含む、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分と、
(b)リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基及び少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤と、
(c)ニトロキシドと、
を含み、
C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)(i)が、(メタ)アクリル酸エステル基以外の官能基を含まず、エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)が、リン酸から誘導される酸官能基を含まない、硬化性前駆体を提供することと、
硬化性前駆体のラジカル重合のための開始剤を提供することと、
硬化性前駆体と開始剤とを混合することと、
硬化性前駆体と開始剤との混合物を硬化させることと、
を含む、方法に関する。
【0010】
なお更なる態様では、本開示は、自動車産業における接着剤用途及び/又は熱管理用途のための、本明細書に開示される硬化性前駆体の使用に関する。
【0011】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、良好な貯蔵安定性及び貯蔵中のコア重合の低い傾向を有する。本明細書に開示される硬化性前駆体は、100又は200リットルのドラム内で数ヶ月間貯蔵され得る。本開示のいくつかの実施形態では、硬化性前駆体は、高度に充填された熱伝導性硬化性前駆体であり、低い酸素拡散を有するこれらの高度に充填された硬化性前駆体であっても、硬化性前駆体は、良好な貯蔵安定性及び貯蔵中のコア重合の低い傾向を有する。
【0012】
本明細書に開示される硬化性前駆体は貯蔵のために安定化されるにもかかわらず、コア重合の防止に必要な少量のニトロキシド阻害剤のために、室温での迅速な硬化が依然として可能である。硬化生成物の性能、すなわち、硬度、重なり剪断強度(overlap shear strength)、破断点伸び及び熱伝導性などの特性は、悪影響を受けない。
【0013】
驚くべきことに、少量のニトロキシドが、アクリル酸などの酸又は酸官能基を有する他の重合性モノマーを含むアクリル組成物においてコア重合を効果的に防止できることが見出された。当業者は、酸、特にアクリル酸が硬化性組成物中に含まれる場合には、ニトロキシドを使用することができないと予想していたであろう。当業者はまた、ニトロキシドは塩基性環境において阻害剤としてのみ使用可能であること、及び酸性成分が存在しないことが必要とされ得ることを予想していたであろう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
接着剤組成物の硬化性前駆体であって、硬化性前駆体が、
(a)ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分であって、
(i)C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、
(ii)エチレン性不飽和酸性化合物と、
を含む、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分と、
(b)リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基及び少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤と、
(c)ニトロキシドと、
を含み、
C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)(i)が、(メタ)アクリル酸エステル基以外の官能基を含まず、エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)が、リン酸から誘導される酸官能基を含まない、硬化性前駆体が本明細書に開示される。
【0015】
「硬化性前駆体」は、開始剤を使用して硬化させることができる組成物を示すことを意図する。「開始剤」という用語は、硬化性前駆体の硬化プロセスを始める若しくは開始させるか又はそれに寄与することができる物質又は物質群を指すことを意図する。
【0016】
「ラジカル(共)重合性成分」は、フリーラジカルを含有するか又は生成することができる開始剤を使用して硬化させることができる組成物を示すことを意図する。ラジカル(共)重合性成分は、1つのみ、2つ、又は3つ以上のラジカル(共)重合性基を含有していてもよい。ラジカル(共)重合性基の典型的な例としては、例えば(メタ)アクリレート基に存在するビニル基などの不飽和炭素基が挙げられる。
【0017】
本明細書で使用する場合、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を指す短縮語である。例えば、「(メタ)アクリレート系成分」は、「アクリレート系成分」及び/又は「メタクリレート系成分」を指し、「C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー」は、「C1~C32アクリル酸エステルモノマー」及び/又は「C1~C32メタクリル酸エステルモノマー」を指す。
【0018】
本明細書で使用する場合、「(共)重合性」は、「重合性」及び/又は「共重合性」を指す短縮語である。
【0019】
「モノマー」は、重合させてオリゴマー又はポリマーにすることにより分子量を増加させることができる、ラジカル(共)重合性不飽和基((メタ)アクリレート基を含む)を有する化学式によって特徴付けることができる任意の化学物質である。通常、モノマーの分子量は、与えられた化学式に基づいて単純に計算することができる。
【0020】
本明細書に開示される接着剤組成物の硬化性前駆体は、(a)ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分、すなわち、ラジカル(共)重合性アクリレート系成分若しくはラジカル(共)重合性メタクリレート系成分又はそれらの組み合わせを含む。
【0021】
ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分は、(i)C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー、すなわち、C1~C32アクリル酸エステルモノマー、若しくはC1~C32メタクリル酸エステルモノマー、又はそれらの組み合わせを含む。C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、直鎖又は分岐鎖C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーであり得る。好ましくは、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分は、C1~C32アクリル酸エステルモノマーを含む。
【0022】
ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分に使用するためのC1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-プロピルヘプチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、及びそれらの任意の混合物からなる群から選択され得る。
【0023】
C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、(メタ)アクリル酸エステル基以外の官能基を含まない。
【0024】
硬化性前駆体は、1~50重量%、1~30重量%、1~20重量%、2~15重量%、又は3~10重量%のC1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含んでもよく、重量百分率は、硬化性前駆体の総重量に基づく。
【0025】
ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分は、(ii)エチレン性不飽和酸性化合物を更に含む。
【0026】
「エチレン性不飽和酸性化合物」は、エチレン性不飽和並びに酸及び/又は酸前駆体官能性を有する、モノマー、オリゴマー、及びポリマーを含むことを意図する。
【0027】
酸性前駆体官能性には、例えば、-CO-O-CO-などの無水物、及び酸ハロゲン化物が含まれる。
【0028】
酸性基は、好ましくは、-COOHなどの1つ以上のカルボン酸残基、又は-SO3Hなどのスルホン酸残基を含む。
【0029】
「ポリマー」又は「ポリマー材料」は、互換的に使用されて、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーなどを指す。
【0030】
エチレン性不飽和酸性化合物の具体例としては、ジ又はトリ(メタ)アクリル化クエン酸、ポリ(メタ)アクリル化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリル化ポリホウ酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
(メタ)アクリル酸と、アルカンジオール(例えば、C2~C20、又はC2~C12、又はC6~C10)との反応生成物、及び酸化リンとの反応生成物も好適であることが見出された。
【0032】
また、(メタ)アクリル酸、芳香族の(メタ)アクリル化された酸(例えば、メタクリル化トリメリト酸)などの不飽和カルボン酸のモノマー、オリゴマー、及びポリマー、並びにそれらの無水物を使用することもできる。いくつかの実施形態では、アクリル酸又はメタクリル酸がエチレン性不飽和酸性化合物(ii)として使用される。
【0033】
エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)は、リン酸から誘導される酸官能基を含まない。
【0034】
「リン酸から誘導される酸官能基」とは、酸官能基がP-OH基を含むことを意味する、すなわち、「エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)がリン酸から誘導される酸官能基を含まない」とは、エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)がP-OH基を含まないことを意味する。
【0035】
硬化性前駆体は、0.1~20重量%、0.1~10重量%、0.1~5重量%、0.1~3重量%、0.1~2重量%、0.2~2重量%、又は0.2~1重量%のエチレン性不飽和酸性化合物を含んでもよく、重量百分率は、硬化性前駆体の総重量に基づく。
【0036】
硬化性前駆体は、1~50重量%、1~30重量%、1~20重量%、又は10~15重量%の(メタ)アクリレート系成分を含んでもよく、重量百分率は、硬化性前駆体の総重量に基づく。
【0037】
接着剤組成物の硬化性前駆体は、(b)リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基及び少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤を更に含む。
【0038】
(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤は、リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基を含む。(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤は、リン酸から誘導される少なくとも2つの酸官能基を含んでもよい。
【0039】
架橋剤のリン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基は、少なくとも1つのP-OH基を含んでもよい。
【0040】
架橋剤のリン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基は、リン酸のモノエステル、リン酸のジエステル、リン酸のトリエステル、二リン酸のエステル、二リン酸のジエステル、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択され得る。
【0041】
架橋剤のリン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基は、リン酸とC1~C6ポリオール誘導体とのモノエステル、リン酸とC1~C6ポリオール誘導体とのジエステル、リン酸とC1~C6ポリオール誘導体とのトリエステル、二リン酸とC1~C6ポリオール誘導体とのエステル、二リン酸とC1~C6ポリオール誘導体とのジエステル、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択され得る。
【0042】
本発明の好ましい一態様によれば、架橋剤のリン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基は、リン酸とグリセロールの1,3-異性体の誘導体とのモノエステル、リン酸とグリセロールの1,3-異性体の誘導体とのジエステル、二リン酸とグリセロールの1,3-異性体の誘導体とのジエステル、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。
【0043】
本発明の別の好ましい態様によれば、架橋剤のリン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基は、リン酸とグリセロールの1,2-異性体の誘導体とのモノエステル、リン酸とグリセロールの1,2-異性体の誘導体とのジエステル、二リン酸とグリセロールの1,2-異性体の誘導体とのジエステル、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。
【0044】
(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤は、少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む。
【0045】
(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤は、少なくとも2つのラジカル(共)重合性反応基を含んでもよい。
【0046】
本開示の好ましい態様では、架橋剤は、エチレン性不飽和基からなる群から選択される少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む。
【0047】
本開示のより好ましい態様では、架橋剤に含まれるエチレン性不飽和基は、(メタ)アクリル基、ビニル基、スチリル基、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。より好ましくは、エチレン性不飽和基は、メタクリル基、アクリル基、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。
【0048】
本開示の特に好ましい態様では、架橋剤に含まれるエチレン性不飽和基は、メタクリル基の群から選択される。
【0049】
有利には、本明細書で使用するための架橋剤は、エチレン性不飽和化合物である。
【0050】
特に好ましい態様によれば、本開示で使用するための架橋剤は、リン酸と、1,3-グリセロールジメタクリレート又は1,2-グリセロールジメタクリレートのいずれかとの反応の反応生成物を含む。
【0051】
別の特に好ましい態様によれば、本開示で使用するための架橋剤は、1,3-グリセロールジメタクリレートホスフェートモノエステル、1,2-グリセロールジメタクリレートホスフェートモノエステル、1,3-グリセロールジメタクリレートホスフェートジエステル、1,2-グリセロールジメタクリレートホスフェートジエステル、1,3-グリセロールジメタクリレートジホスフェートジエステル、1,2-グリセロールジメタクリレートジホスフェートジエステル、及びそれらの任意の混合物からなる群から選択される。
【0052】
本開示の有利な態様では、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤は、(メタ)アクリレート系成分のモノマー(i)及び/又は(ii)と(共)重合可能である。
【0053】
いくつかの実施形態では、架橋剤(b)は、接着促進剤の機能を更に有してもよい。
【0054】
本開示の硬化性前駆体は、0.01~10重量%、0.01~8重量%、0.05~6重量%、0.05~5重量%、0.05~4重量%、0.1~2重量%、又は更には0.1~1重量%の、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤を含んでもよく、重量百分率は、硬化性前駆体の総重量に基づく。
【0055】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、ニトロキシドを更に含む。ニトロキシドは、R2N-O・官能基を含むフリーラジカルである。それらは、ニトロキシルラジカル又はアミノキシルラジカルと呼ばれることもある。
【0056】
ニトロキシドは、本明細書に開示される硬化性前駆体の阻害剤の機能を有する。驚くべきことに、ニトロキシドは阻害剤の機能を有し、硬化性前駆体に酸性化合物が存在するにもかかわらず、コア重合を効果的に防止することができる。酸性化合物は、硬化性前駆体のラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分中にエチレン性不飽和酸性化合物として含まれ、酸性化合物は、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤中にリン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基として含まれる。当業者は、ニトロキシドは酸性環境において阻害剤として作用することができないこと、及びニトロキシドが阻害剤として作用することができるためには塩基及び塩基性環境の付加が必要とされ得ることを予想していたであろう。
【0057】
ニトロキシドは、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、その誘導体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0058】
ニトロキシドは、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4-ヒドロキシ-TEMPO、TEMPOL)、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4-アミノ-TEMPO)、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4-オキソ-TEMPO)、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルアセテート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル2-エチルヘキサノエート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルステアレート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルベンゾエート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル4-tert-ブチルベンゾエート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)スクシネート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アジペート、
ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)n-ブチルマロネート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)フタレート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)イソフタレート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)テレフタレート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ヘキサヒドロテレフタレート、N,N’-ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アジパミン、
N-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル-ドデシルスクシンイミド、1-オキシル-4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-オキシル-4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、及び1-オキシル-4-アセトアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンからなる群から選択されてもよい。
【0059】
好ましくは、ニトロキシドは、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4-ヒドロキシ-TEMPO、TEMPOL)である。
【0060】
硬化性前駆体は、硬化性前駆体の総重量に基づいて、少なくとも0.001重量%、又は少なくとも0.002重量%、又は少なくとも0.003重量%のニトロキシドを含んでもよい。
【0061】
硬化性前駆体は、硬化性前駆体の総重量に基づいて、最大で0.1重量%、又は最大で0.05重量%、又は最大で0.02重量%、又は最大で0.01重量%、又は最大で0.008重量%、又は最大で0.006重量%、又は最大で0.005重量%のニトロキシドを含んでもよい。
【0062】
硬化性前駆体は、硬化性前駆体の総重量に基づいて、0.001~0.1重量%、又は0.001~0.05重量%、又は0.001~0.02重量%、又は0.001~0.01重量%、又は0.001~0.008重量%、又は0.002~0.1重量%、又は0.002~0.05重量%、又は0.002~0.02重量%、又は0.002~0.01重量%、又は0.002~0.008重量%、又は0.002~0.004重量%、又は0.003~0.1重量%、又は0.003~0.05重量%、又は0.003~0.02重量%、又は0.003~0.01重量%、又は0.003~0.008重量%、又は0.003~0.006重量%、又は0.003~0.005重量%、又は0.003~0.005重量%未満のニトロキシドを含んでもよい。
【0063】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、(d)少なくとも2000g/molの数平均分子量を有し、少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含むポリエーテルオリゴマーを更に含んでもよい。
【0064】
別段の指示がない限り、本明細書で使用するためのポリエーテルオリゴマーの数平均分子量は、当業者に周知の適切な技術を使用して、従来のゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography)(GPC)によって決定される。
【0065】
理論に束縛されることを望むものではないが、上記のポリエーテルオリゴマーは、硬化性前駆体のための反応性希釈剤及びレオロジー改質剤として作用し、硬化性前駆体に顕著な可撓性特性を提供することに寄与すると考えられる。ポリエーテルオリゴマーはまた、特にオリゴマーポリエーテル部分によって特に提供される有益な表面湿潤特性に起因して、硬化性前駆体の接着特性に有益な影響を与えると考えられる。熱伝導性粒子を含む硬化性前駆体の場合、上記のポリエーテルオリゴマーはまた、熱伝導性粒子との有利な表面相互作用を提供すると考えられ、これは、特に熱伝導性粒子と周囲の(メタ)アクリレート系ポリマーマトリックスとの間に提供される改善された適合性に起因して、熱伝導性粒子の比較的高い充填量を可能にすることに寄与する。更に、本明細書で使用するためのポリエーテルオリゴマーはまた、特にラジカル(共)重合性反応基によって提供される光架橋効果に起因して、剪断強度に有益な影響を与え、老化安定性及び加水分解安定性を提供すると考えられる。
【0066】
少なくとも2000g/molの数平均分子量を有し、少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含むポリエーテルオリゴマーは、(直鎖状)ポリエーテル骨格を含んでもよい。ポリエーテルオリゴマーに含まれるポリエーテルオリゴマー骨格は、テトラヒドロフラン単位、エチレンオキシド単位、及び任意選択でプロピレンオキシド単位の共重合によって得ることができる。これらのモノマーのモル比は、1:2.5~1:5、又は更には1:3~1:4の範囲であり得る。
【0067】
本明細書で使用するためのポリエーテルオリゴマーは、2000g/mol超、2500g/mol超、3000g/mol超、3500g/mol超、又は更には4000g/mol超の数平均分子量を有し得る。
【0068】
本明細書で使用するためのポリエーテルオリゴマーは、最大で20,000g/mol、最大で15,000g/mol、最大で12,000g/mol、最大で10,000g/mol、最大で9500g/mol、最大で9000g/mol、最大で8500g/mol、又は更には最大で8000g/molの数平均分子量を有し得る。
【0069】
本明細書で使用するためのポリエーテルオリゴマーは、2000~20,000g/mol、2000~15,000g/mol、2000~12,000g/mol、2500~10,000g/mol、2500~9,000g/mol、3000~8500g/mol、3500~8000g/mol、又は更には4000~8000g/molの範囲の数平均分子量を有し得る。
【0070】
ある有利な態様では、本開示で使用するためのポリエーテルオリゴマーは、少なくとも2つのラジカル(共)重合性反応基を含む。
【0071】
別の有利な態様によれば、ポリエーテルオリゴマーの少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基は、エチレン性不飽和基からなる群から選択される。言い換えれば、本明細書で使用するためのポリエーテルオリゴマーは、エチレン性不飽和化合物であり得る。
【0072】
本開示のより有利な態様では、ポリエーテルオリゴマーに含まれるエチレン性不飽和基は、(メタ)アクリル基、ビニル基、スチリル基、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。より好ましくは、エチレン性不飽和基は、メタクリル基、アクリル基、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。
【0073】
本開示の特に好ましい態様では、ポリエーテルオリゴマーに含まれるエチレン性不飽和基は、メタクリル基である。
【0074】
本開示の硬化性前駆体の有利な一態様によれば、本明細書で使用するためのポリエーテルオリゴマーは、以下の式:
【化1】
[式中、
Yは、ラジカル(共)重合性反応基、特にエチレン性不飽和基であり、
各R2は、独立して、特に2~6個の炭素を有するアルキレン基からなる群から選択され、
nは、ポリエーテルオリゴマーの数平均分子量が、少なくとも2000g/molになるように選択される整数である]
を有する。
【0075】
特定の一態様では、nは、数平均分子量が少なくとも2000g/mol、少なくとも3000g/mol、又は更には少なくとも4000g/molになるように選択される。別の特定の態様では、nは、数平均分子量が最大で20,000g/mol、最大で15,000g/mol、又は更には最大で10,000g/molになるように選択される。更に別の特定の態様では、nは、数平均分子量が2000~20,000g/mol、3000~15,000g/mol、又は更には3000~10,000g/molになるように選択され、ここで、全ての範囲は端点を含む。
【0076】
本開示の硬化性前駆体は、1~50重量%、1~30重量%、1~20重量%、2~15重量%、又は3~10重量%のポリエーテルオリゴマーを含んでもよく、重量百分率は、硬化性前駆体の総重量に基づく。
【0077】
ポリエーテルオリゴマーは、(メタ)アクリレート系成分(a)のC1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(i)及びエチレン性不飽和酸性化合物(ii)と(共)重合可能である。
【0078】
本明細書に開示される硬化性前駆体のラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分(a)は、
(iii)官能基を有するエチレン性不飽和モノマーであって、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分(a)のC1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(i)及びエチレン性不飽和酸性化合物(ii)と共重合可能である、エチレン性不飽和モノマー
を更に含んでもよい。
【0079】
理論に束縛されることを望むものではないが、(メタ)アクリレート系成分中の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーの存在は、その剪断強度及び接着特性に有益な影響を与えると考えられる。官能基を有するエチレン性不飽和モノマーは、熱伝導性粒子との有利な表面相互作用を提供すると更に考えられ、これは、本開示の硬化性前駆体に有利なレオロジープロファイルを提供することに寄与する。
【0080】
本明細書で使用するための官能基を有するエチレン性不飽和モノマーは、アミン、ヒドロキシル、アミド、イソシアネート、エポキシド、ニトリル、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される官能基を有し得る。
【0081】
官能基を有するエチレン性不飽和モノマーは、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、(メタ)アクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、4-アクリロイルモルホリン、グリシジル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、及びそれらの任意の混合物からなる群から選択され得る。
【0082】
本明細書に開示される硬化性前駆体のラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分(a)は、1~15重量%、2~12重量%、3~10重量%、4~10重量%、又は更には5~10重量%の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーを含んでもよく、重量百分率は、(メタ)アクリレート系成分の総重量に基づく。
【0083】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、熱伝導性粒子(e)を更に含んでもよい。熱伝導性粒子は、硬化組成物の熱伝導性を改善するために硬化性前駆体の充填剤として使用される。
【0084】
本明細書で使用するための熱伝導性粒子は、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、金属粒子、コーティングされた金属粒子、セラミック粒子、コーティングされたセラミック粒子、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択され得る。
【0085】
好ましくは、熱伝導性粒子は、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ガリウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化銅、酸化クロム、酸化チタン、炭化ケイ素、グラファイト、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、炭素繊維、ダイヤモンド、粘土、アルミノシリケート、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、銅、銀、金、ニッケル、アルミニウム、白金、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。
【0086】
より好ましくは、熱伝導性粒子は、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。
【0087】
より一層好ましくは、熱伝導性粒子は、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。
【0088】
熱伝導性粒子は、一次粒子、一次粒子の凝集体、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0089】
熱伝導性一次粒子及び一次粒子の凝集体は、等方性形状、異方性形状、又はそれらの組み合わせを有してもよい。
【0090】
熱伝導性一次粒子及び一次粒子の凝集体は、球形、小平板形、又はそれらの組み合わせを有してもよい。
【0091】
本明細書で使用するための例示的な熱伝導性一次粒子及び一次粒子の凝集体は、例えば、欧州特許第3127973(A1)号(Wienekeら)に記載されている。
【0092】
熱伝導性一次粒子及び一次粒子の凝集体の平均粒子径(d50)は、0.2~500μm、又は0.2~100μmであり得る。熱伝導性一次粒子及び一次粒子の凝集体の平均粒子径(d50)は、レーザー回折によって測定することができる。
【0093】
面直方向熱伝導率は、例えば、熱伝導性充填剤用途などのいくつかの用途において最も重要になり得る。これらの用途では、等方性熱伝導性粒子(例えば、球状粒子)は、非対称繊維、フレーク、又は小平板が、面内方向に整列する傾向があり得るため、好ましい場合がある。
【0094】
熱伝導性粒子は、表面官能化が施された熱伝導性粒子を含んでもよい。熱伝導性粒子の表面官能化は、酸性官能性、塩基性官能性、疎水性、親水性、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物からなる群から選択される極性を有してもよい。
【0095】
本開示の有利な一態様では、熱伝導性粒子の表面官能化は、疎水性表面官能化を含む。
【0096】
本開示の文脈において、「疎水性表面官能化」という表現は、熱伝導性粒子の表面が、好適な表面改質後に、極性物質、特に水に対してほとんど又は全く親和性を有さないことを表すことを意図する。「親水性表面官能化」という表現は、熱伝導性粒子の表面が、好適な表面改質後に、極性物質、特に水に対して比較的高い親和性を有することを表すことを意図する。
【0097】
熱伝導性粒子は、難燃性特性又は/及び電気絶縁特性を更に備えていてもよい。
【0098】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、20~95重量%、30~90重量%、30~80重量%、40~90重量%、40~80重量%、50~90重量%、50~80重量%、60~90重量%、又は65~85重量%の熱伝導性粒子を含んでもよく、重量百分率は、硬化性前駆体の総重量に基づく。
【0099】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、塩基(f)を更に含んでもよい。
【0100】
本明細書で使用する場合、「塩基」は、アレニウス塩基を意味する。更に、「塩基」は、水溶液中に溶解された場合に、溶液中の水酸化物(OH-)イオンの濃度を増加させる物質を意味する。
【0101】
塩基は、第三級アミン、又は第三級アミンの組み合わせであってもよい。
【0102】
第三級アミンは、式R1R2R3-Nを有し、式中、R1、R2及びR3は、独立してアルキル基又はアリール基である。好適な第三級アミン塩基としては、p-トルイジンエトキシレート(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンと同義)、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、及びジイソプロピルp-トルイジンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
塩基は、硬化性前駆体の重合促進剤の機能を有してもよい。
【0104】
硬化性前駆体は、例えば、硬化性前駆体の総重量に基づいて、0.1~5重量%、又は0.1~3重量%の塩基を含んでもよい。
【0105】
本明細書に開示される硬化性前駆体のいくつかの実施形態では、硬化性前駆体は、塩基を含まない。
【0106】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、7未満のpH値を有してもよい。好ましくは、硬化性前駆体は6未満のpH値を有してもよい。硬化性前駆体は、3~6、又は4~5のpH値を有してもよい。
【0107】
硬化性前駆体のpH値を測定するために、pH試験紙又はストリップは水で濡らしてもよく、そのpH試験紙又はストリップに硬化性前駆体を適用してもよい。
【0108】
硬化性前駆体のpH値を測定するために、硬化性前駆体の成分を水に溶解してもよく、pH値を、pHメーターを用いて測定してもよい。pHメーターを用いて硬化性前駆体のpHを測定する場合、グラム単位における百分率の硬化性前駆体の各水溶性成分を、これらの百分率の合計の、グラム単位における100%に対する差に相当する量の水に溶解してもよく、得られた水溶液のpH値を測定する。水に不溶性である硬化性前駆体の成分は、水に溶解せず、測定に寄与することができないので、測定においては添加されない。「水に不溶性」は、水への溶解度が23℃で0.2g/L以下として理解されるべきであり、「水溶性成分」は、水への溶解度が23℃で0.2g/L超である成分として理解されるべきである。また、熱伝導性粒子などの粒子状充填材料は、pHメーターを用いるpH値測定においては添加されない。
【0109】
いくつかの実施形態では、硬化性前駆体のpH値は、塩基(f)が添加される場合であっても7未満である。例えば、硬化性前駆体が硬化性前駆体の総重量に基づいて0.1~5重量%の量で塩基を含む場合、硬化性前駆体は7未満のpH値を有することができる。
【0110】
驚くべきことに、ニトロキシドは阻害剤の機能を有し、硬化性前駆体に酸性化合物が存在するにもかかわらずコア重合を効果的に防止することができるだけでなく、硬化性前駆体が酸性である場合、すなわち硬化性前駆体のpH値が7未満である場合にも、コア重合を効果的に防止することができる。
【0111】
硬化性前駆体は、分散剤、酸化防止剤、難燃剤、又は染料などの添加剤を更に含んでもよい。
【0112】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される硬化性前駆体は、ウレタン(メタ)アクリレートを含まない。
【0113】
本開示の有利な一態様によれば、硬化性前駆体は、可塑剤、チキソトロープ剤、ケイ素系化合物、ハロゲン系化合物、イソシアネート系化合物、及びそれらの任意の組み合わせ又は混合物のいずれも(実質的に)含まない。
【0114】
本開示の別の有利な態様によれば、硬化性前駆体は、溶媒、特に有機溶媒を(実質的に)含まない。
【0115】
本開示の更に別の典型的な態様によれば、硬化性前駆体は、ラジカル重合のための開始剤を更に含む。
【0116】
「開始剤」という用語は、硬化性前駆体の硬化プロセスを始める若しくは開始させるか又はそれに寄与することができる、すなわち、(メタ)アクリレート系成分のラジカル(共)重合を始める若しくは開始させるか又はそれに寄与することができる物質又は物質群を指すことを意図する。
【0117】
本明細書で使用される開始剤は、フリーラジカルを含有するか、又はフリーラジカルを生成することができる。本明細書で使用するための例示的な開始剤としては、有機過酸化物が挙げられるが、これに限定されない。有機過酸化物としては、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド及びジアシルペルオキシドが挙げられる。ヒドロペルオキシドの例は、クメンヒドロペルオキシド、tert-ペンチルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、及び1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシドである。ケトンペルオキシドの一例は、メチルエチルケトンペルオキシドである。ジアシルペルオキシドの一例は、ジベンゾイルペルオキシドである。他の有機過酸化物の例は、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、ジクミルペルオキシド、1,3-ジ-(2-tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルペルオキシド、及びジ-tert-ブチルペルオキシドである。
【0118】
好ましくは、ジベンゾイルペルオキシドが開始剤として使用される。
【0119】
硬化性前駆体は、例えば硬化性前駆体の総重量に基づいて、0.1~2重量%、又は0.1~1重量%の開始剤を含んでもよい。
【0120】
1つの典型的な実施において、本開示の硬化性前駆体は、第1の部分と第2の部分とを有する二成分組成物の形態であり、第1の部分と第2の部分とは、2つの部分を組み合わせて硬化組成物を形成する前は分離されたままである。
【0121】
第1の部分は、C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーとエチレン性不飽和酸性化合物とを含むラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分、架橋剤及びニトロキシドを含む。第2の部分は、ラジカル重合のための開始剤を含む。第1の部分に関して、硬化性前駆体のコア重合は、ニトロキシド阻害剤によって効果的に防止され、第1の部分は、例えば100~200lのドラム内で数週間又は数ヶ月間貯蔵することができる。硬化は、第1の部分と第2の部分とを組み合わせることによって始めることができ、第1の部分の安定化にもかかわらず、室温であっても迅速な硬化が可能である。
【0122】
本開示の有利な態様では、硬化性前駆体の2つの部分は、10:1~1:1、又は5:1~3:1の範囲の第1の部分対第2の部分の混合比で混合され得る。好ましくは、硬化性前駆体の2つの部分は、4:1の第1の部分対第2の部分の混合比で混合され得る。
【0123】
本明細書に開示される硬化性前駆体から硬化組成物を製造するための方法であって、方法が、
硬化性前駆体を提供することであって、硬化性前駆体が、
(a)ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分であって、
(i)C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、
(ii)エチレン性不飽和酸性化合物と、
を含む、ラジカル(共)重合性(メタ)アクリレート系成分と、
(b)リン酸から誘導される少なくとも1つの酸官能基及び少なくとも1つのラジカル(共)重合性反応基を含む、(メタ)アクリレート系成分のための架橋剤と、
(c)ニトロキシドと、
を含み、
C1~C32(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)(i)が、(メタ)アクリル酸エステル基以外の官能基を含まず、エチレン性不飽和酸性化合物(a)(ii)が、リン酸から誘導される酸官能基を含まない、硬化性前駆体を提供することと、
硬化性前駆体のラジカル重合のための開始剤を提供することと、
硬化性前駆体と開始剤とを混合することと、
硬化性前駆体と開始剤との混合物を硬化させることと、
を含む、方法も本明細書に更に開示される。
【0124】
特に、硬化性前駆体の文脈において上述した(メタ)アクリレート系成分、架橋剤、ニトロキシド及び開始剤に関する全ての特定の及び好ましい態様は、上述の方法に完全に適用可能である。
【0125】
硬化性前駆体の第1及び第2の部分は、スタティック又はダイナミックミキサーを使用して2Kカートリッジ又は2Kシステムから押し出すことができる。
【0126】
本明細書で使用する場合、組成物又は混合物を「固化する(hardening)」又は「硬化する(curing)」は、互換的に使用され、組成物に含まれる1つ以上の材料が関与する化学(共)重合技術(例えば、エチレン性不飽和化合物などのラジカル(共)重合性化合物を(共)重合させるのに効果的なラジカルを形成する化学反応)を含む(共)重合及び/又は架橋反応を指す。
【0127】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、いかなる化学線、特にUV光も使用せずに硬化可能である。
【0128】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、いかなる追加の熱エネルギーも使用せずに硬化可能である。
【0129】
本明細書に開示される硬化性前駆体は、白金などの高価な触媒を必要とせずに硬化可能である。
【0130】
ニトロキシド阻害剤による、(メタ)アクリレート系成分及び架橋剤などの硬化性前駆体の反応性化合物の安定化にもかかわらず、硬化は、UV光も高温も必要とせずに、室温で非常に迅速に行うことができる。わずか30分の硬化時間後に、少なくとも1MPaの接着強度(重なり剪断強度)を達成することができる。
【0131】
本明細書に開示される方法によって製造される硬化組成物は、接着性ギャップ充填剤の形態であってもよい。
【0132】
本開示の文脈において、「接着性ギャップ充填剤」という表現は、第1の表面と第2の表面との間の空間的ギャップを少なくとも部分的に充填するために使用される接着剤組成物を示すことを意図する。硬化性前駆体の第1の部分と第2の部分とを混合した後、硬化性前駆体は、第1の表面と第2の表面との間の空間的ギャップに流入してそれを充填することができ、硬化性前駆体の硬化後、硬化組成物は、良好な機械的特性と良好な接着強度とを有する、第1の表面と第2の表面との間の接着接合を提供する。第1の表面は電動ビークル(vehicle)の電池セルであってもよく、第2の表面は冷却プレートであってもよい。接着性ギャップ充填剤は、熱伝導性粒子の添加により、熱伝導性接着性ギャップ充填剤となってもよい。
【0133】
硬化は、50℃未満の温度、又は最大で40℃若しくは最大で30℃の温度、又は室温(23℃)で行われてもよい。好ましくは、硬化は、室温(23℃)で行われる。
【0134】
典型的には、硬化は、最大で1時間行われる。硬化は、最大で45分間、又は最大で30分間行われてもよい。典型的には、室温(23℃)で30分の硬化時間後に、少なくとも0.7MPaの接着強度を有する硬化組成物が得られる。室温(23℃)で30分の硬化時間後の硬化組成物の接着強度は、使用された開始剤の量に応じて、少なくとも1MPa、又は少なくとも2MPa、又は少なくとも3MPaであり得る。
【0135】
ある有利な態様によれば、本開示の硬化性前駆体は、使用された開始剤の量に応じて、72時間以下、48時間以下、又は更には24時間以下の硬化時間後に、23℃で、90%超、95%超、98%超、又は更には99%超の硬化百分率で硬化可能である。
【0136】
硬化時間は、目標用途及び製造要件に応じて、所望に応じて調整することができる。
【0137】
本明細書に開示される方法によって製造される硬化組成物は、実験セクションに記載される試験方法に従って測定される場合、少なくとも0.1W/mK、少なくとも0.3W/mK、少なくとも0.5W/mK、少なくとも0.7W/mK、少なくとも1.0W/mK、少なくとも1.2W/mK、又は少なくとも1.5W/mKの熱伝導率を有し得る。
【0138】
本明細書に開示される方法によって製造される硬化組成物は、実験セクションに記載される試験方法に従って測定される場合、少なくとも0.5MPa、少なくとも2.0MPa、少なくとも2.5MPa、少なくとも3.0MPa、少なくとも3.5MPa、少なくとも4.0MPa、又は少なくとも4.5MPaの重なり剪断強度(OLS)を有し得る。
【0139】
本明細書に開示される方法によって製造される硬化組成物は、実験セクションに記載される試験方法に従って測定される場合、0.5~30.0MPa、2.0~8.0MPa、2.5~8.0MPa、2.5~7.0MPa、3.0~7.0MPa、3.5~6.5MPa、又は4.0~6.0MPaの範囲の重なり剪断強度(OLS)を有し得る。
【0140】
硬化組成物は、実験セクションに記載される試験方法に従って測定される場合、少なくとも5%、少なくとも8%、又は少なくとも10%の破断点伸びを有し得る。
【0141】
本明細書に開示される硬化性前駆体及び硬化性前駆体から製造される硬化組成物は、自動車産業における接着剤用途及び/又は熱管理用途のために使用され得る。
【0142】
上記の硬化性前駆体及び硬化組成物は、特に自動車産業における使用のための、複数の電池セルを含む電池モジュールの製造のために使用され得る。
【0143】
熱伝導性粒子を含む硬化性前駆体の実施形態に関して、硬化性前駆体及び硬化組成物は、電池用途のための熱伝導性接着剤として使用されてもよい。
【実施例】
【0144】
試験方法
試験用配合物の調製:
機械的及び熱的挙動を試験するための試料は、スタティックミキサー(50mLカートリッジ用の標準3Mゴールドクアドロ(Quadro)ノズル又は200mLカートリッジ用のSULZER MF 10-18ノズル)を使用して2Kカートリッジから押し出された2つの成分(A剤:B剤)の4:1(体積比)混合物から調製する。両剤の調製を、以下に記載する。オープンタイム内で、得られたペーストを試験パネルの表面にフィルムとして適用する。重なり剪断強度試験のための試験試料(25mm×100mm×4mm)(アルミニウム、グレードEN AW2024T3)の表面を、約135マイクロメートルの粒径を有する純粋なコランダムを使用して、接合前にサンドブラストする。試験試料を周囲室温(23℃+/-2℃、相対湿度50%+/-5%)で7日間放置する。様々な性能試験は、以下に記載されるように測定される。
【0145】
1.熱伝導率試験
硬化組成物の熱伝導率は、2mmの厚さを有する試料に対して、Netzsch GmbH,Germanyから市販されているLight Flash Apparatus LFA 467 HyperFlash(登録商標)を使用するレーザーフラッシュ分析(Laser Flash Analysis)(LFA)を用いて23℃で、ASTM E1461に従って測定する。
【0146】
2.DIN EN 1465に従った重なり剪断強度(OLS)
重なり剪断強度は、10mm/分のクロスヘッド速度で動作するZwick Z050引張試験機(Zwick GmbH&Co.KG,Ulm,Germanyにより市販されている)を使用して、DIN EN 1465に従って決定する。重なり剪断強度試験アセンブリの調製のために、A剤とB剤との混合から得られるペーストを、試験パネルの一方の表面上に塗布(spackle)する。アルミニウムEN AW2024T3試験パネルを、接合前にサンドブラストする。その後、試料を第2のアルミニウムストリップで覆い、13mmの重なり接合部を形成する。これにより、選択された直径分布を有するガラスビーズを使用して、約300マイクロメートルの厚さを有する接合線の形成を確実にした。次いで、2つのバインダークリップを使用して重なり接合部を一緒にクランプし、試験アセンブリを接合後に室温で7日間更に貯蔵し、次いで、80℃で30分間、空気循環オーブンに入れる。試料は、室温で直接試験するか、又は老化を受けさせ、その後試験する。実施例のそれぞれについて5つのサンプルを測定し、結果を平均して、MPaで報告する。
【0147】
3.DIN EN ISO 527-2-5Aに従った破断点伸び
破断点伸び測定は、10mm/分のクロスヘッド速度で動作するZwick Z050引張試験機(Zwick GmbH&Co.KG,Ulm,Germanyにより市販されている)を使用して、DIN ISO 527-2-5Aに従って行う。約2mmの厚さを有するフィルムを、上記の手順に従って調製する。ドッグボーン形状を有する5つの試料を、DIN ISO 527-2-5Aの幾何形状(寸法25mm×4mm×2mm)に従って打ち抜き、更なる機械的試験に使用する。各試料について測定を行い、結果を平均して、破断点伸びについて百分率で報告する。
【0148】
4.DIN EN ISO 868に従ったショアA硬度
ショアA硬度測定は、ZwickRoell 3115(Zwick GmbH&Co.KG,Ulm,Germanyにより市販されている)を使用して、DIN EN ISO 868に従って行う。約1mmの厚さを有するフィルムを、上記の手順に従って調製する。3つの試料をショアA硬度試験に使用する。各試料について測定を行い、結果を平均して報告する。
【0149】
5.粘度測定
試験試料の粘度は、Anton Paar製のRheoCompassソフトウェアを使用するAnton PaarレオメーターMCR 302を用いて20℃で測定する。測定は、0.1~5s-1の剪断速度で周波数掃引を使用して行った。0.1s-1では2s毎に1つずつ、90個の測定点をとり、0.5s-1では2s毎に1つずつ、20個の測定点をとり、1.0s-1では1s毎に1つずつ、20個の測定点をとり、5s-1では0.5s毎に1つずつ、40個の測定点をとった。
【0150】
原材料
実施例では、以下の原材料を使用する。
【0151】
2-エチルヘキシルアクリレート(2-Ethylhexylacrylate)(2-EHA)は、BASF AG,Germanyから得られるアクリル酸エステルモノマーである。
【0152】
アクリル酸(acrylic acid)(AA)は、BASF AG,Germanyから得られるモノマーである。
【0153】
Diol-6000-DMAは、約6000g/molの数平均分子量を有するジメタクリレートポリエーテルオリゴマーであり、3M Espe GmbH,Germanyから得られる。
【0154】
GLPは、リン酸から誘導されるジメタクリレート架橋剤であり、3M Espe GmbH,Germanyから得られる。
【0155】
シクロヘキシルメタクリレート(cyclohexyl methacrylate)(CHMA)は、BASF AG,Germanyから得られるメタクリル酸エステルモノマーである。
【0156】
4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4-OH-TEMPO、TEMPOL)は、Evonik Industries AG,Germanyから得られるニトロキシドである。
【0157】
Martoxid TM 2320は、酸化アルミニウムベースの熱伝導性充填剤であり、Martinswerk,Germanyから得られる。
【0158】
BF083は、水酸化アルミニウムベースの熱伝導性及び難燃性充填剤であり、日軽金(日本)から得られる。
【0159】
B53は、水酸化アルミニウムベースの難燃性及び熱伝導性充填剤であり、日軽金(日本)から得られる。
【0160】
SpaceRite S-11は、水酸化アルミニウムベースの難燃性及び熱伝導性充填剤であり、J.M.Huber Corporation,New Jersey,USAから得られる。
【0161】
Martinal TM 2550は、水酸化アルミニウムベースの熱伝導性及び難燃性充填剤であり、Martinswerk,Germanyから得られる。
【0162】
Martinal TM 2590は、水酸化アルミニウムベースの熱伝導性及び難燃性充填剤であり、Martinswerk,Germanyから得られる。
【0163】
Martinal ON908は、水酸化アルミニウムベースの熱伝導性及び難燃性充填剤であり、Martinswerk,Germanyから得られる。
【0164】
Apyral 200SMは、水酸化アルミニウムベースの熱伝導性及び難燃性充填剤であり、Nabaltec,Germanyから得られる。
【0165】
Pergaquick A150 PMは、塩基であるp-トルイジンエトキシレートであり、Pergan GmbH,Germanyから得られる。
【0166】
BYK-W 9010は分散剤であり、BYK-Chemie GmbH,Germanyから得られる。
【0167】
DISPERBYK-145は分散剤であり、BYK-Chemie GmbH,Germanyから得られる。
【0168】
Irganox 1076は酸化防止剤であり、BASF,Germanyから得られる。
【0169】
Irgafos 168は酸化防止剤であり、BASF,Germanyから得られる。
【0170】
4-メトキシフェノール(MEHQ)は阻害剤であり、Sigma-Aldrich,Germanyから得られる。
【0171】
アルファメチルスチリルポリ尿素樹脂(alpha methyl styryl polyurea resin)(AMSPU)は、尿素結合を有するα-メチルスチレン官能性ポリエーテルオリゴマーであり、硬化性前駆体の第2の部分に開始剤を希釈するために使用される。尿素結合を有するα-メチルスチレン官能性オリゴマーは、以下のように調製した:120g(0.6モル)の3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート(Cytec Industries,West Peterson,NJ,USAからTMIとして市販されている)及び600g(0.6アミン当量)のアミン末端ポリエ-テル(D2000、Huntsman Chemical Co.,Houston,TX,USAからJeffamine(商標)D2000として市販されている、公称報告MW 2000の二官能性アミン末端ポリエ-テル)を、硝子容器中、室温で撹拌しながら組み合わせ、室温で一晩放置した。赤外分光法(IR)は、2265cm-1のイソシアネートバンドの消失により完全な反応を示した。α-メチルスチレン官能性オリゴマーの計算された分子量は、2460g/molである。
【0172】
Irgazin Red L 3670 HDは赤色顔料であり、BASF AG,Germanyから得られる。
【0173】
Peroxan BP-Paste 50 PF-1は、重合のための開始剤であるジベンゾイルペルオキシドであり、Pergan GmbH,Germanyから得られる。
【0174】
実施例1~5(EX1~EX5)並びに比較例1及び2(CEX1及びCEX2)
実施例1~5及び比較例1について、表1に示す配合組成を有する硬化性前駆体を調製した。表1の配合組成は、硬化性前駆体の二成分配合物の第1の部分(A剤)を表す。
【0175】
硬化性前駆体は、表1の材料のリストからの原料を、スピードミキサー(Hauschild Engineering,Germanyから入手可能なDAC 600.2 VAC-P)中で、均質な混合物が得られるまで、2000rpmで90秒間撹拌して組み合わせることによって調製する。次いで、材料をわずかに脱気して、捕捉された空気を回避する。アクリル酸エステルモノマー、エチレン性不飽和酸性化合物、架橋剤及びニトロキシドを最初に添加し、続いてポリエーテルオリゴマー、種々の熱伝導性粒子及び他の添加剤を連続工程で添加する。比較例1は、いかなるニトロキシドも含まない。表1に列挙した硬化性前駆体の各組成物について、100gを調製した(A剤)。
【表1】
【0176】
ガラス容器は限定された酸素拡散を有するので、コア重合に関する硬化性前駆体(A剤)の安定性を、ガラス容器を使用して試験した。ガラス容器に充填する前に、硬化性前駆体材料を、真空下(約900mbar)で1:30分間、Speedmixer中で脱気した。ガラス容器に材料を完全に充填し(25mlのガラス容器中に52.5gの材料)、低酸素雰囲気を確実にするために材料中に気泡がないように注意した。この実験設定は、材料で完全に充填された100~200リットルの容積を有するドラムの中央における状況のシミュレーションである。各配合物について、3つのガラス容器に充填した。
【0177】
充填したガラス容器を、試験試料の加速老化のために異なる温度(50℃、65℃及び80℃)で貯蔵した。
【表2】
【0178】
表2から分かるように、4-OH-TEMPOを添加しなかった比較例(CEX1)は、65℃で3日後に既に完全に硬化していた。少量の4-OH-TEMPO(実施例1)は、コア重合を防止するが、65℃で3日間の貯蔵後に粘度上昇を示す。0.002重量%以上の4-OH-TEMPOの使用は、65℃で最低5日間、配合物を安定化させる(実施例2~5)。
【0179】
実施例1~5について、硬化性前駆体の水溶性成分(すなわち、水溶解度が23℃で0.2g/L超である成分)を水に溶解し、水溶液のpH値を測定することによって、硬化性前駆体のpH値を測定した。測定については、0.5gのアクリル酸、0.65gのGLP、及び0.42gのPergaquick A150 PMを、98.43gの水に溶解し、pHメーターを用いて水溶液のpH値を測定した。pH値は3未満であった。
【0180】
実施例6(EX6)及び比較例2(CEX2)
実施例6及び比較例2については、表1に示す配合組成を有する硬化性前駆体の二成分配合物の第1の部分を、実施例1~5について上述したように調製する。コア重合安定性を試験するための試料を、実施例1~5について上述したように調製する。
【0181】
実施例6及び比較例2については、硬化性前駆体の二成分組成物の第1の部分(A剤)及び第2の部分(B剤)を、表1(A剤)及び表3(B剤)の材料のリストからの原料を、スピードミキサー(Hauschild Engineering,Germanyから入手可能なDAC 600.2 VAC-P)中で、均質な混合物が得られるまで、2000rpmで90秒間撹拌して組み合わせることによって別々に調製する。次いで、材料をわずかに脱気して、捕捉された空気を回避する。A剤については、アクリル酸エステルモノマー、エチレン性不飽和酸性化合物、架橋剤及びニトロキシドを最初に添加し、続いてポリエーテルオリゴマー、種々の熱伝導性粒子及び他の添加剤を連続工程で添加する。ラジカル重合のための開始剤はB剤にのみ存在する。B剤については、アルファメチルスチリルポリ尿素樹脂を最初に添加し、続いて種々の熱伝導性粒子を添加し、最後に過酸化物開始剤を添加する。混合中、混合の温度は40℃を超えないものとする。表1(A剤)及び表3(B剤)に列挙される硬化性前駆体の各組成物について、100gの第1の部分及び100gの第2の部分を調製した。
【0182】
その後、2つの部分をA剤:B剤=4:1の体積比で2Kカートリッジに充填し、混合物を上記の試験パネルの表面に適用する。表1及び3において、全ての濃度は重量%で示す。比較例CE2は、いかなるニトロキシドも含まない。
【0183】
重なり剪断試料、破断点伸びのためのドッグボーン形状試料、並びに熱伝導率測定及び硬度測定のための試料を、室温で7日間硬化させる。測定は、試験方法のセクションで上述したように実施する。
【0184】
【0185】
表4から分かるように、実施例6(0.003重量%の4-OH-TEMPOを添加)は、比較例2(4-OH-TEMPOを添加せず)と同様の性能を示すが、コア重合に関して非常に増加した安定性を示す。比較例2では、50℃において24時間未満、80℃において9時間未満でコア重合が観察されたが(両方の場合において組成物は完全に重合した)、実施例6では、コア重合は、50℃において21日後、80℃において3日後に観察されなかった。
【0186】
実施例6については、振動レオロジーを測定して硬化速度を決定した。ゲル化点(すなわち、貯蔵弾性率及び損失弾性率が等しくなる点)は、二成分配合物の2つの部分が組み合わされてからおよそ9分後である。これは、0.003重量%の4-OH-TEMPOを用いても、室温での硬化時間が速いことを示す。
【0187】
実施例7及び8(EX7及びEX8)並びに比較例3(CEX3)
実施例7及び8並びに比較例3については、硬化性前駆体の二成分配合物の第1の部分(A剤)及び第2の部分(B剤)を、表5(A剤)及び表6(B剤)の材料のリストからの原料をプラネタリーミキサー中で組み合わせ、均質な混合物が得られるまで混合することによって別々に調製する。次いで、材料をわずかに脱気して、捕捉された空気を回避する。A剤については、アクリル酸エステルモノマー及びポリエーテルオリゴマー及びニトロキシドを最初に添加し、続いて種々の熱伝導性粒子及び他の添加剤を連続工程で添加する。最後に、エチレン性不飽和酸性化合物及び架橋剤を添加し、続いて混合後に塩基を添加する。ラジカル重合のための開始剤はB剤にのみ存在する。B剤については、アルファメチルスチリルポリ尿素樹脂を最初に添加し、続いて種々の熱伝導性粒子を添加し、最後に過酸化物開始剤を添加する。混合中、混合の温度は40℃を超えないものとする。表5(A剤)及び表6(B剤)に列挙される硬化性前駆体の各組成物について、500L(1050kg)の第1の部分及び300L(630kg)の第2の部分を調製した。
【0188】
実施例8及び比較例3については、50℃及び80℃でのコア重合安定性を試験するための試料を、実施例1~5について上述した硬化性前駆体の第1の部分(A剤)から調製する。
【0189】
試験結果を表7に示す。
【表5】
【表6】
【表7】
【0190】
表7から分かるように、実施例8(0.003重量%の4-OH-TEMPOを添加)は、比較例3(4-OH-TEMPOを添加せず)と同様の性能を示すが、コア重合に関して非常に増加した安定性を示す。比較例3では、50℃において24時間未満、80℃において9時間未満でコア重合が観察されたが(両方の場合において組成物は完全に重合した)、実施例8では、コア重合は、50℃において21日後、80℃において3日後に観察されなかった。
【0191】
比較例3では、150Lの組成物を充填したドラム内で、室温(23℃)において2週間未満でコア重合が観察されたが(ドラムの中央でのコア重合)、実施例8では、コア重合は、150Lの組成物を充填したドラム内で、室温において6ヶ月間貯蔵した後に観察されなかった。
【国際調査報告】