(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】イノトジオールを含む筋疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/575 20060101AFI20240514BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240514BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240514BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20240514BHJP
A23K 50/00 20160101ALI20240514BHJP
【FI】
A61K31/575
A61P21/00
A61P43/00 107
A23L33/105
A23K10/30
A23K50/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571991
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(85)【翻訳文提出日】2023-12-06
(86)【国際出願番号】 KR2021015026
(87)【国際公開番号】W WO2022244929
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】10-2021-0065626
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0142645
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523405052
【氏名又は名称】アニマスキュア インコーポレイテッド.
【氏名又は名称原語表記】ANIMUSCURE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、サン-ジン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、チャン-リム
(72)【発明者】
【氏名】ペ、ジュ-ヒョン
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
2B005BA00
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4C086ZB22
(57)【要約】
本発明は、イノトジオール化合物を含む筋疾患に対する予防、改善または治療目的の組成物であって、前記組成物は、筋肉幹細胞の自己再生亢進、筋芽細胞の分化促進効果を通じて筋肉量を増加させ、筋線維再生を促進し、ミトコンドリア機能活性を誘導して筋力を強化し、これにより様々な筋疾患に対する予防または治療効果を有することができ、筋力強化による運動能力増加効果を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノトジオール化合物及びその薬学的に許容可能な塩を含む筋疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
イノトジオール化合物またはその食品学的に許容可能な塩を含む筋疾患の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項3】
イノトジオール化合物またはその塩を含む筋疾患の予防または改善用動物用飼料組成物。
【請求項4】
前記筋疾患は、緊張減退症(atony)、筋萎縮症(muscular atrophy)、筋ジストロフィー(muscular dystrophy)、筋肉退化、筋硬直症、筋萎縮性側索硬化症、筋無力症、悪液質(cachexia)、筋肉消失症及び筋肉減少症(sarcopenia)を含む群から選ばれたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記筋疾患は、老化、筋機能低下、筋肉消耗、筋肉退化、不用(disused)または筋肉損傷によって誘発されたものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記筋疾患は、がんまたは老化によって誘発される筋肉減少症であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記筋疾患は、骨格筋の不用(disused)によって誘発される筋肉萎縮症であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、筋肉内のミトコンドリアの活性を増進させるものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、筋肉内のミトコンドリアによる代謝促進により血糖を降下させるものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
イノトジオール化合物を含む筋肉幹細胞の自己再生(self-renewal)亢進、筋肉分化促進、筋再生または筋肉量増加用組成物。
【請求項11】
イノトジオール化合物を含む筋機能改善用組成物。
【請求項12】
イノトジオール化合物を含む筋力強化用組成物。
【請求項13】
イノトジオール化合物を含む運動遂行能力向上用組成物。
【請求項14】
イノトジオール化合物を含む筋線維化改善用組成物。
【請求項15】
前記組成物は、食品、機能性食品、健康機能食品、医薬品、動物用飼料または飼料添加物のうち少なくとも1つが選ばれるものである、請求項10~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は損傷または老化した個体に投与されるものであることを特徴とする、請求項10~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物は正常個体に投与されるものであることを特徴とする、請求項10~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩を個体に投与して筋疾患を予防、改善または治療する方法。
【請求項19】
イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩の筋疾患の予防、改善または治療用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イノトジオールを含む筋疾患の予防、改善または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉は、エネルギー代謝、運動能力などの身体機能の重要な部分を占めており、老化による筋減少症、栄養不均衡または運動量不足による筋萎縮症、その他のがんなどの他の疾患、老化などの様々な要因によって損傷または弱化されることがある。
【0003】
筋肉を損傷させる主な疾患である筋減少症(sarcopenia)は、老化によって筋肉量(skletal muscle mass)が減少するにつれて筋力が低下する疾患である。筋減少症の最大の特徴は筋肉量の減少であり、筋線維の種類が変化することもある。老化に伴い、タイプ1の筋線維及びタイプ2の筋線維が同様の比率で減少するのに対して、筋減少症患者においてタイプ1の筋線維の厚さがさらに顕著に減少する。このような筋減少症は、高齢者において発生する筋力低下と機能障害を引き起こすことが報告されている(Roubenoff R.,Can.J.Appl.Physiol.26,78-89,2001)。
【0004】
また、筋萎縮症(Muscle atrophy)は、栄養不足や長期間の筋肉を使用しない場合に誘発されるが、正常なタンパク質の合成と分解のバランスが崩壊し、筋肉内のタンパク質が分解することで発症する。
【0005】
このような筋疾患を根本的に治療するための様々な治療方法が開発中であり、特に幹細胞から筋肉細胞の分化を促進して筋肉を強化するか、または筋肉の再生を促進するメカニズムを用いた治療方法が提案されている。このような方法は、筋疾患に対する根本的な治療が可能であるので、これを可能にする様々な治療物質に対する研究が必要であるのが実状である。
【0006】
本発明者らは、様々な化合物から前記効果を通じて筋疾患を改善できる効果を有する化合物に対する研究を進め、これにより本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、イノトジオールが筋芽細胞の分化を促進し、筋再生及び筋肉量増加効果を有し、筋肉のエネルギー代謝を向上させて筋力を強化し、特に筋萎縮症などの筋疾患に治療効果があることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩を含む筋疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、イノトジオールまたはその食品学的に許容可能な塩を含む筋疾患の予防または改善用健康機能食品組成物を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、イノトジオール化合物またはその塩を含む筋疾患の予防または改善用動物用飼料組成物を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、イノトジオール化合物を含む筋肉幹細胞(Musclestem cell)の自己再生能(self-renewal capacity)及び筋芽細胞(Myoblast)の分化能亢進による筋再生能促進用または筋肉量増加用組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、イノトジオール化合物を含む筋機能改善用組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、イノトジオールを含む筋力強化用組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、イノトジオールを含む筋線維化改善用組成物を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、イノトジオールを含む運動遂行能力向上用組成物を提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩を個体に投与して筋疾患を予防、改善または治療する方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩の筋疾患の予防、改善または治療用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記のような目的を達成するために、本発明は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩を含む筋疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0019】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオールまたはその食品学的に許容可能な塩を含む筋疾患の予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【0020】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオール化合物またはその塩を含む筋疾患の予防または改善用動物用飼料組成物を提供する。
【0021】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオール化合物を含む筋肉幹細胞の自己再生(self-renewal)亢進、筋芽細胞の筋肉分化能亢進による筋再生能促進用または筋肉量増加用組成物を提供する。
【0022】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオール化合物を含む筋機能改善用組成物を提供する。
【0023】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオールを含む筋力強化用組成物を提供する。
【0024】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオールを含む筋線維化改善用組成物を提供する。
【0025】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオールを含む運動遂行能力向上用組成物を提供する。
【0026】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩を個体に投与して筋疾患を予防、改善または治療する方法を提供する。
【0027】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩の筋疾患の予防、改善または治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、イノトジオール化合物を含む筋疾患に対する予防、改善または治療用組成物であって、前記組成物は、筋芽細胞の分化促進を通じて筋肉量及び筋線維の再生を増加させ、ミトコンドリア機能の活性化を誘導して筋力を強化させて様々な筋疾患に対する治療効果を有するので、それに対する薬学的または健康機能食品として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1a-1b】
図1a及び1bは、マウスの筋芽細胞(C2C12)に対するイノトジオールの濃度別投与による分化の程度を示す結果である。統計は、One-way ANOVA testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図2】
図2は、イノトジオールを投与した筋芽細胞(C2C12)においてPGC-1αに対するルシフェラーゼ活性が濃度依存的に増加したことを確認した結果である。統計は、One-way ANOVA testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図3】
図3は、イノトジオールを投与した筋芽細胞(C2C12)においてPGC-1αに対するmRNA発現量をqRT-PCRを通じて確認した結果である。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図4】
図4は、筋芽細胞(C2C12)にイノトジオールを濃度別に処理して筋肉内のミトコンドリアの活性マーカーの発現を観察した結果である。
【
図5】
図5は、CTXによって筋損傷を誘発したマウスモデルにおいてイノトジオールの投与によるマウスの後肢の筋肉量(TA、EDL、SOL、GASそれぞれ)の増加効果を確認したもので、
図5aは、体重変化、
図5bは、後肢の筋肉部位別重量変化である。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図6a-6c】
図6a~6cは、CTXによって筋損傷を誘発したマウスモデルにイノトジオールの投与時、筋線維再生及び筋線維断面積(CSA)増加効果を確認したものである。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図7】
図7は、CTXによって筋損傷を誘発したマウスにイノトジオールの投与時、筋線維タイプ別mRNA相対的発現率を比較した結果である。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図8】
図8は、筋損傷を誘発したマウスモデルにイノトジオールの投与時、握力が増加した効果を確認した結果である。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図9】
図9は、筋損傷を誘発したマウスモデルにイノトジオールの投与による血糖が減少した結果を確認したものである。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図10-12】
図10~
図12は、CTXによって筋損傷を誘発した後、イノトジオールの投与時、筋肉幹細胞の増殖を確認するためのBrdU分析実験に対する過程及び結果を示すものである。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図13】
図13は、CTXによって筋損傷を誘発した後、イノトジオールの投与時、細胞周期に関与する遺伝子の相対的mRNA発現量を比較した結果である。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図14】
図14は、CTXによって筋損傷を誘発した後、イノトジオールの投与時、筋肉増殖に関与する遺伝子の発現増進効果を確認した結果である。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図15】
図15a及び15bは、CTXによって筋損傷を誘発した後、イノトジオールの投与時、筋線維化が改善される効果を観察した結果である。
【
図16-17】
図16及び
図17は、高脂肪食マウスモデルにイノトジオールの投与時、筋力及び運動遂行能力の変化を観察した結果である。
【
図18-19】
図18及び
図19は、DEXによって筋萎縮を誘発したマウスモデルに対して、イノトジオールの投与による筋肉、筋線維のサイズ及び筋管断面積のサイズの変化を観察したものである。統計は、One-way ANOVA testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図20】
図20は、正常マウスに対してイノトジオールを2ヶ月間長期投与した後の筋肉量及び筋力変化を測定した結果である。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図21】
図21は、正常マウスに対して筋肉内のミトコンドリアの活性を確認するためのPGC1a及びミトコンドリアの活性遺伝子の発現量を調べた結果を示すものである。統計は、Student t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【
図22-23】
図22及び23は、正常マウスに対して、体重の変化に対して筋肉及び脂肪の重量変化を観察した結果である。統計は、Two-way ANOVAまたはStudent t-testを通じて*p<0.05、**p<0.01と***p<0.001として表される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩を含む筋疾患の予防または治療用薬学的組成物に関する。
【0031】
本発明は、イノトジオールまたはその食品学的に許容可能な塩を含む筋疾患の予防または改善用健康機能食品組成物に関する。
【0032】
本発明は、イノトジオール化合物またはその塩を含む筋疾患の予防または改善用動物用飼料組成物に関する。
【0033】
本発明は、イノトジオール化合物を含む筋肉幹細胞の自己再生(self-renewal)亢進、筋芽細胞の筋肉分化能亢進による筋再生能促進用または筋肉量増加用組成物に関する。
【0034】
本発明は、イノトジオール化合物を含む筋機能改善用組成物に関する。
【0035】
本発明は、イノトジオールを含む筋力強化用組成物に関する。
【0036】
本発明は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩を個体に投与して筋疾患を予防、改善または治療する方法に関する。
【0037】
本発明は、イノトジオールまたはその薬学的に許容可能な塩の筋疾患の予防、改善または治療用途に関する。
【0038】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0039】
本発明の一態様として、本発明は、前記イノトジオールとその薬学的に許容可能な塩とを含む筋疾患の予防または治療用薬学的組成物に関する。イノトジオールは、チャガタケに多量に含まれている成分として知られており、抗がん、免疫増進などの効能を有することが知られている。本発明のイノトジオールは、チャガタケから抽出されてもよく、化学的に合成されたものであってもよく、下記化学式で表される。
【0040】
【0041】
本発明の一態様として、本発明のイノトジオールは、筋機能低下、筋肉減少、筋肉萎縮、筋肉消耗または筋肉退化による筋疾患の予防または治療効果を有する。前記「筋疾患」とは、筋肉が老化または疾病によって損傷または損失されて筋力が弱まった状態にあることを意味し、これは遺伝的素因、高血圧、耐糖能障害、糖尿病、肥満、脂質異常症、アテローム性硬化症または心血管疾患などの年齢に関連した疾患、がん、自己免疫疾患、感染性疾患、AIDS、慢性炎症性疾患、関節炎、栄養失調、腎臓疾患、慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、クル病、慢性下部脊椎痛、末梢神経損傷、中枢神経損傷及び化学的損傷などの疾患などの慢性疾患、骨折、外傷などの原因または長期間の寝床療養による運動損失、老化など多様な原因による。
【0042】
これに制限されるものではないが、前記筋疾患は、緊張減退症(atony)、筋萎縮症(muscular atrophy)、筋ジストロフィー(muscular dystrophy)、筋肉退化、筋硬直症、筋萎縮性側索硬化症、筋無力症、悪液質(cachexia)及び老人性筋肉減少症(sarcopenia)からなる群から選ばれる少なくとも1つの筋疾患であってもよく、具体的には、老人性筋萎縮、がん及び慢性疾患による筋疾患または筋肉の不用(disuse)による筋萎縮などの疾患であってもよく、より具体的には、老人性筋萎縮またはがんによる筋萎縮症(muscular atrophy)、筋ジストロフィー(muscular dystrophy)、筋肉退化、筋硬直症、筋萎縮性側索硬化症、筋無力症、悪液質(cachexia)、老人性筋肉減少症(sarcopenia)及び筋肉消失症を含んでもよい。特に本発明において、前記筋疾患は、disuseによる筋萎縮症(muscular atrophy)、老化による筋減少症(sarcopenia)及び筋ジストロフィー(筋肉退行萎縮、muscular dystrophy)からなる群から選ばれる少なくとも一つの筋疾患であってもよい。
【0043】
本発明の一態様として、前記筋疾患に対する予防、治療または改善効果は、筋芽細胞の分化促進によるものであってもよい。本発明の一実施例において、イノトジオールが筋芽細胞の分化を促進することを確認した。前記「筋芽細胞の分化」とは、単核である筋芽細胞(myoblast)が融合を通じて多核の筋管(myotube)を形成する過程を意味し、筋管を形成する分化段階の細胞は、Pax7-、MyoD+、Myogeninなどのマーカーを用いて区分してもよい。前記筋管を形成する分化初期段階の細胞は、ミオシンD(Myo D)のような筋原性転写因子(myogenic transcription factor)の発現が増加し、中期にはミオゲニン(myogenin)が増加する。分化がほぼ終わる後期には、ミオシン重鎖(MHC,Myosin Heavy Chain)の発現が増加する。本発明の一実施例では、イノトジオールを筋芽細胞に処理した場合、筋芽細胞の分化マーカーであるMHCの発現が増加したことを確認した(
図1)。
【0044】
また、本発明において前記筋疾患に対する予防、治療または改善効果は、筋肉のミトコンドリアの活性の増進によるものであってもよい。筋肉内のミトコンドリアの活性を通じて筋肉の成長と筋持久力を向上させることができ、これにより筋力を向上させることができる。また、筋肉でのミトコンドリアの活性増進は、筋肉でPGC-1α発現増加またはMHC型IIb+筋線維発現量が増加する効果が得られる。本発明の一実施例では、イノトジオールを筋芽細胞に処理したとき、ミトコンドリアの活性に関連したマーカーであるPGC-1αの活性と発現が増加することを実験的に確認した(
図2、
図3)。
【0045】
また、前記のように筋肉内のミトコンドリアの活性増進を通じて、筋肉代謝を促進することができ、結果としては血糖を降下させる効果を有することができる(
図9)。
【0046】
したがって、前記のような効果により、本願発明のイノトジオール化合物は、損傷したマウスの筋肉を再生し、筋疾患に対する予防、治療または改善効果を有することができる。
【0047】
また、本発明の一実施例では、イノトジオールを筋肉が損傷したマウスモデル(CTX-injury)に投与したときの効果を確認した。その結果、対照群(vehicle投与群)と比較したとき、体重の変化は観察されなかったが、相対的に後肢(Hind-limb)の筋肉量が増加したことが確認でき(
図5)、CTX(Cardiotoxin)により損傷した筋肉及び筋線維の再生程度を筋線維のサイズなどで評価したとき、対照群に対してイノトジオール投与群において平均89.4%の筋線維断面積(CSA;cross-section area)が増加したことを確認した(
図6)。
【0048】
本発明のイノトジオール化合物は、筋力強化効果を有する。筋力強化を通じて運動遂行能力を向上させることができ、このとき、「運動遂行能力」とは、筋力を用いて運動を行う能力をいう。前記筋力は筋肉の量、筋持久力、酸化性筋肉量の増加、筋肉回復力及び筋肉内のエネルギー収支の改善により向上されてもよく、また、筋肉内の疲労物質の減少などによっても増進されてもよいが、本発明のイノトジオール化合物は、特に筋肉の自己再生亢進、筋肉細胞分化、筋肉量増加、筋再生などの効果を通じて筋力を増進させる効果を有する。
【0049】
前記効果に関連して、本発明の一実施例では、グリップテスト(Grip test)を通じて筋肉が損傷したマウスモデル(CTX-injury)にイノトジオールを投与した群において、対照群(vehicle投与群)に対して実際の運動能力が増加したことが確認できた。
【0050】
本発明の前記組成物は、医薬品、健康機能食品、機能性食品、動物用飼料、細胞培養液組成物など様々な用途として活用されてもよく、筋芽細胞の分化促進または筋肉内のミトコンドリアの活性を増進させる効果を有する。
【0051】
本明細書において用語の「予防」とは、本発明による前記薬学的組成物の投与によって筋疾患を抑制させるか、または発症を遅延させることができるすべての行為を意味する。
【0052】
本明細書において用語の「治療」とは、本発明による前記薬学的組成物の投与によって症状が好転するか、または有利に変更されるすべての行為をいう。
【0053】
本発明の前記薬学的組成物は、通常の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射液の形態で剤形化して使用されてもよく、前記剤形化に必要な担体または賦形剤などをさらに含んでもよい。前記有効成分にさらに含まれてもよい薬学的に許容可能な担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェイト、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、非晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、マグネシウムステアレート及び鉱物油などが含まれる。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製される。
【0054】
例えば、経口投与用固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記抽出物または化合物に少なくとも一つの賦形剤、少なくともメン、デンプン、カルシウムカーボネート(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調製される。また、単純な賦形剤の他に、マグネシウムスチレートタルクなどの潤滑剤も使用される。経口投与用液状製剤としては、懸濁剤、内容液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使用される単純希釈剤である水、リキドパラフィンの他に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。
【0055】
非経口投与用製剤には、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどが使用されてもよい。坐剤の基剤としては、ウィテプソル(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロールゼラチンなどが使用されてもよい。
【0056】
本発明の薬学的組成物は、所望の方法に従って経口または非経口投与(静脈注射、皮下、腹腔内または局所に適用)されてもよく、投与量は患者の状態及び体重、疾患の程度及び薬物形態、投与経路及び時間によって異なり、当業者によって適切な形態で選ばれてもよい。
【0057】
本発明の前記薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な量であり、疾病を治療するのに十分な量を意味し、その基準は、患者の疾患、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出率、治療期間、併用される成分及びその他の事項によって決定されてもよい。本発明の前記薬学的組成物は、個別治療剤または他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次的または同時に投与されてもよい。前記要素をすべて考慮し、副作用を最小限に抑えることができるレベルで投与量を決定してもよく、これは当業者によって容易なレベルで決定されてもよい。具体的には、前記薬学的組成物の投与量は、患者の年齢、体重、重症度、性別などによって異なり、一般に体重1kg当たり0.001~150mg、より好ましくは、0.01~100mgの量を毎日または隔日、1日1~3回投与してもよい。ただし、これは例示的なものであり、前記投与量は、必要に応じて異なる設定が可能である。
【0058】
また、本発明の前記組成物は、食品または健康機能食品であってもよく、特に前記「健康機能食品」とは、健康機能食品に関する法律第6727号に基づく人体に有用な機能性を有する原料や成分を使用して製造及び加工した食品を意味し、「機能性」とは、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節するか、または生理学的作用などの保健用途に有用な効果を得る目的で摂取することを意味する。
【0059】
本発明の前記食品または健康機能食品は、筋疾患の予防及び改善のための目的で、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、懸濁液、エマルジョン、シロップなどの薬学的投与形態またはティーバッグ、浸出茶、飲料、キャンディー、ゼリー、ガムなどの健康機能食品として製造及び加工が可能である。
【0060】
本発明の前記食品または健康機能食品組成物は、食品添加物として使用されてもよく、単独でまたは他の成分と組み合わせて製品化されてもよい。また、栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤及び増進剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などが含まれてもよい。前記成分は、単独または組み合わせて使用されてもよく、適切な含量で組み合わせて使用してもよい。
【0061】
本発明の他の実施態様として、本発明は、イノトジオール化合物を含む飼料または飼料添加用組成物に関する。
【0062】
本発明において「飼料」とは、動物の生命を維持するために必要な有機または無機栄養素を供給する物質を意味する。前記飼料は、家畜などの動物が必要とするエネルギー、タンパク質、脂質、ビタミン、鉱物質などの栄養素を含み、穀物類、根果類、食品加工副産物類、藻類、繊維質類、油脂類、澱粉類、フクベ類、穀物副産物類などの植物性飼料またはタンパク質類、無機物類、油脂類、鉱物性類、油脂類、単細胞タンパク質などの動物性飼料が挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0063】
本発明において、「飼料添加剤」とは、動物の生産性向上や健康を増進させるために飼料に添加される物質を意味し、これに制限されるものではないが、成長促進、疾病予防などのためのアミノ酸剤、ビタミン剤、酵素剤、香味剤、ケイ酸塩剤、緩衝剤、抽出剤、オリゴ糖などをさらに含んでもよい。本発明の前記飼料または飼料添加剤組成物は、動物の筋芽細胞の分化促進、筋再生または筋力強化効果を有し、さらに動物の筋肉関連疾患に対して予防、治療または改善効果を有する。
【0064】
さらに他の態様において、本発明は、イノトジオール化合物を含む筋肉の自己再生亢進、筋肉分化促進、筋再生または筋肉量増加用組成物、さらに筋力強化、筋機能改善用組成物に関する。
【0065】
本発明のイノトジオールは、筋肉の自己再生(self-renewal)亢進効果を有し、前記「筋肉の自己再生(self-renewal)亢進」とは、筋肉幹細胞が筋芽細胞に完全に分化せず、筋肉幹細胞そのものの数字を維持できる能力を意味する。すなわち、筋肉の自己再生促進を通じて、筋肉幹細胞は一定の数を維持できるようになり、これは外部衝撃による外因性損傷または慢性炎症を含む内因性因子による筋損傷にも持続的な筋再生能を持つようになり、究極的には筋肉量を維持することを意味する。
【0066】
また、本発明の組成物は「筋芽細胞の分化促進」効果を有し、「筋芽細胞の分化」とは、単核である筋芽細胞(myoblast)が融合を通じて多核の筋管(myotube)を形成する過程を意味し、このような過程を誘導することをいう。筋管を形成する分化段階の細胞は、Pax7-、MyoD+、MyoG+などのマーカーの発現の有無を通じて確認される。筋芽細胞の分化促進を通じて筋肉細胞が増加し、個体の側面では、究極的に筋肉量が増加する効果をもたらすことができる。
【0067】
また、本発明の組成物は「筋再生」効果を有し、前記「筋再生」とは、損傷した筋肉が正常に回復する能力を意味する。本発明の一実施例では、神経毒であるCardiotoxinを注入して急性損傷させた筋肉組織がイノトジオールの投与を通じてより早く回復することを実験を通じて確認した。前記筋再生は、筋肉細胞の分化が促進されて絶対的な筋肉細胞の量が増加されたものであるか、または個々の筋管の直径が増加したことによる効果であってもよい。
【0068】
また、本発明は、イノトジオールを含む筋力強化用組成物に関する。「筋力強化」とは、身体遂行の強化、最大持久力の強化、筋肉量の増加、筋肉回復の強化、筋肉疲労の減少、エネルギー収支の改善またはそれらの組み合わせ効果をいう。上述したように、本発明の組成物は、筋芽細胞を筋肉細胞に分化させる能力を通じて筋肉量を増加させて全体の筋肉量を増加させることができ、筋再生を促進することにより、最大持久力が強化され、これにより身体遂行が強化され、筋肉疲労も減少しうる。また、筋肉細胞を迅速に代替できるので、筋肉の損傷に対して迅速に治癒しうる。
【0069】
本発明のイノトジオール化合物は、筋機能の改善効果を有するが、「筋機能の改善」とは、筋肉の収縮により力を発揮する能力であり、筋肉が抵抗に打ち勝つために最大限に収縮力を発揮できる能力である筋力、筋肉が与えられた重量にどれだけ長い間、またはどれだけ数回収縮と弛緩を繰り返すことができるかを示す能力である筋持久力、短時間内に強い力を発揮する能力である瞬発力を含む。このような筋機能は筋肉量に比例し、「筋機能の改善」とは、筋機能をより良く向上させることを意味する。また、本発明のイノトジオールは、筋肉内のミトコンドリアの活性を増進させるために結果として筋肉におけるエネルギー収支を改善するので、筋機能を改善する効果を有することができる。
【0070】
本発明のイノトジオール化合物は、筋線維化を改善する効果を有し、「筋線維化」とは、筋肉の弾力が低下する症状をいうもので、筋肉を構成している腱が長時間固まって凝ることによって現れる症状をいう。本発明の一実験例に示すように、イノトジオール化合物を投与して筋線維化が改善される効果を確認した。
【0071】
本発明の前記筋肉幹細胞の自己再生性亢進、筋芽細胞の分化能促進、筋再生、筋肉量増加用組成物、筋力強化または筋機能改善用組成物は、食品組成物または食品添加剤の形態で製造されてもよく、特に健康食品組成物の形態で製造されてもよい。前記食品組成物は、前述の通りである。したがって、本発明の筋力強化用組成物は、老化または疾病による筋肉減少だけでなく、一般人の筋肉生成、筋力強化に対する補助剤などの形態で用いられてもよい。
【0072】
発明の実施のための形態
【0073】
以下、本明細書を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本明細書による実施例は、様々な他の形態に変形されてもよく、本明細書の範囲が後述する実施例に限定されるものと解釈されるべきではない。本明細書の実施例は、当業界で平均的な知識を有する者に本明細書をより完全に説明するために提供されるものである。
【0074】
実施例1.筋芽細胞株C2C12の培養及び分化誘導
C2Cl2は、C3H種の生マウスから得られた筋芽細胞株であり、筋細胞分化研究に広く使用されている。前記C2C12細胞は、一般的な細胞培養用培地と分化用培地でそれぞれ培養した。正常な細胞培養用培地(GM,growth media)としては10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum)が添加されたDMEMを使用し、分化用培地(DM,differentiation media)としては2%ウマ血清(horse serum)が含まれたDMEMを使用した。
【0075】
細胞培養用培地(GM)に細胞を分注して24時間培養した後、分化培地(DM)にDMSO、イノトジオール(0.1、0.5、1.0及び10μM)を濃度別に処理し、2~3日間分化を誘導した。
【0076】
実施例2.CTX損傷マウスモデル
実験動物は、生後5ヶ月齢のC57BL/6雄マウス10匹を用いた。実験動物は、体重が似ているマウスが5匹ずつ割り当てられ、イノトジオールを投与していない対照群とイノトジオールを投与した実験群に分類した。前記実験群マウスにイノトジオールを80%食塩水、10%PEG400、及び10%EtOHに溶かして300μg/kgとなるように調製し、7日間経口投与した。その後、10νMカルジオトキシン(cardiotoxin:CTX)を体重1gあたり2μlずつ筋肉に直接注射して筋損傷を誘導し、21日間イノトジオール(300μg/kg)を経口投与した。
【0077】
実施例3.筋萎縮(DEX)モデル
実験動物は、生後16週齢のC57BL/6雄マウス20匹を用いた。実験動物は体重が似ているものを10匹ずつグループ化し、1グループには20mg/kg用量のデキサメタゾンを投与して筋萎縮症を誘発した。
【0078】
実験例1.筋芽細胞分化亢進効果の確認
実施例1で分化を誘導したC2C12細胞を1XPBSで洗浄した後、3.7%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で常温で固定した後、透過用バッファー(permeabilization buffer)を入れて常温で反応させた。3%BSAを含むPBST(blocking buffer)、0.1%Tween 20を含むPBSで反応させて、不特定の抗体結合を阻害した。Myosin heavy chain(MHC)に対する一次抗体をブロッキングバッファー(blocking buffer)に1:500に希釈して添加した後、常温で反応させた。ブロッキングバッファー(blocking buffer)に1:5000に希釈した二次抗体を添加して常温で反応させた後、mounting solutionの塗布及び固定後、蛍光顕微鏡で写真を撮って結果を分析した。
【0079】
その結果、イノトジオールを濃度別に処理したC2C12細胞の場合、分化2日目の免疫染色イメージとして、イノトジオール濃度依存的に多核構造の筋管(myotube)の形成が増加することを確認した(
図1(上))。
【0080】
前記実施例1において分化を誘導したC2C12細胞を得て、lysis buffer(20 mM Tris-HCl,pH8.0,150 mM NaCl,1% Triton X,Proteinase Inhibitor)を添加して溶解した後、細胞溶解サンプルを定量し、同量のタンパク質をSDS-PAGE電気泳動を行い、PVDF membraneに移した。前記メンブレンを5%skim milkでブロッキングし、TTBS(0.03%Tween 20、Tris 2.42g、NaCl9g、pH7.41/L)で洗浄した。5%BSAを含むTTBSに分化マーカーであるMHC(myosin heavy chain)一次抗体を1:500に希釈して添加した後、4℃でovernight反応させた。その後、5%skim milkを含むTTBSに二次抗体を1:5000に希釈して添加した後、常温で反応させた後、ECL(Enhanced Chemiluminescent solution,pierce)を添加した。その後、前記メンブレンをX-rayフィルムに露出させてタンパク質の量を確認した。
【0081】
その結果、
図1(下)に示すように、イノトジオールを濃度別に処理したC2C12細胞は、分化マーカーであるMHCの発現量が対照群(DMSO処理群)に対して濃度依存的に増加したことを確認した。前記結果を総合すると、イノトジオールは、筋芽細胞の分化を促進することを確認した。
【0082】
実験例2.PGC-1αレポーターアッセイ
96-well culture plateにwellあたり1×104cell/wellの細胞を分注し、すぐにPGC-1α(DNA)及びPlasmidをそれぞれwellあたり[150ng/10μl]+[0.3μl/10μl]の比率で処理して形質感染を行った。24時間後、分化培地にイノトジオールをそれぞれ濃度別(0、0.1、0.5及び1.0μM)で処理し、24時間分化を誘導した。薬物処理24時間後、wellあたりpassive lysis buffer(Promega)30μlに細胞を溶解し、luminometer read用plateに溶解した細胞液を移した後、ルシフェラーゼの基質であるルシフェリンを同量添加して酵素反応させて発光程度を測定した。各wellとプレートに対して測定値を標準化させ、化合物の溶媒であるDMSOを処理したwellでの測定値を対照群として相対比率で表した。PGC-1αレポーター細胞株においてルシフェラーゼの発現程度は、PGC-1αプロモーターが受ける刺激に依存する。すなわち、化合物がPGC-1α発現誘導物質である場合、PGC-1αプロモーターを刺激してルシフェラーゼの発現が増加し、PGC-1α発現抑制物質である場合、ルシフェラーゼの発現は減少する。発現程度は、ルシフェラーゼの基質を添加して現れる発光を測定することにより、イノトジオールによるPGC-1α転写の活性または抑制程度を測定した。
【0083】
その結果、
図2に示すように、イノトジオールを処理した群においてPGC-1αに対するルシフェライゼ活性がイノトジオールの濃度依存的に増加することが確認できた。さらに、陽性対照群として使用した0.5mM AICARより高いPGC-1αに対するルシフェラーゼ活性を確認した。
【0084】
実験例3.qRT-PCRによるPGC-1α mRNA発現の分析
実施例1で分化を誘導したC2C12細胞をEasy-spin Total RNA Extraction Kitに溶解した後、chloroformを添加し、遠心分離を行った。上澄み液を分離した後、同じ体積分のIsopropanolを入れてbindingした。遠心分離した後、DEPC waterに混ぜた70% EtOHで洗浄し、DEPC溶液を20~50μlずつ入れてRNA濃度を定量した。RNAは、PrimeScript cDNA synthesis kitで逆転写してcDNAを合成した。qRT-PCRは、SYBR Premix EX Taqを用いたReal-Time PCR systemで遺伝子発現を分析した。遺伝子発現の倍数変化は、リボソーム遺伝子18s rRNAの発現に備えて正規化した。
【0085】
その結果、
図3に示すように、イノトジオールを処理した群でPGC-1αに対するmRNA発現が対照群に比べて著しく増加したことを確認した。総合すると、イノトジオールは、筋芽細胞の分化過程でPGC-1αの酵素活性と発現の両方を増加させることを確認した。
【0086】
実験例4.ミトコンドリアの活性増進効果
前記実施例1と同じ方法で筋芽細胞C2C12の分化を誘導し、ミトコンドリアの活性を確認するためにATP5A、MTCO1、NDUF88が混合された抗体T-OxPHOS発現特性を免疫ブロットを通じて確認した。前記T-OxPHOS抗体に含まれる各タンパク質について、ATP5Aは、ATP合成酵素の構成タンパク質であって、ミトコンドリア内でATP合成に寄与し、MTCO1は、ミトコンドリア内膜において電子伝達系の構成要素であるcytochrome-c(シトクロムc)の酸化活性(oxidase activity)に関連し、NDUF 88は、ミトコンドリアの電子伝達系の最初の酵素複合体であるNADH:ubiquinone oxidoratesase(complex 1)のサブユニットを暗号化する。
【0087】
その結果、
図4に示すように、イノトジオールの濃度に比例して前記タンパク質の発現量がすべて増加することを確認した。これは、イノトジオールによって筋肉内のミトコンドリアの活性が増進されることを証明する結果である。
【0088】
実験例5.筋損傷マウスモデル(CTX-投与)の筋肉機能改善効果
5-1.筋肉量増加効果の確認
実施例2のように、CTX筋損傷マウスモデルにイノトジオール投与21日後、体重及び後肢の筋肉の重量を測定した。その結果、
図5aに示すように、CTXによる筋損傷モデルにおいてイノトジオールの投与時、実験動物の体重変化は観察されなかった。しかし、実験動物の後肢(Hindlimb)の筋肉組織であるTA(Tibialis anterior muscle、前脛骨筋)、EDL(Extensor digitorum longus muscle、長趾伸筋)、Sol(Soleus muscle、ヒラメ筋)、Gas(Gastrocnemius muscle、腓腹筋)の重量をそれぞれ測定した結果、イノトジオールを投与した実験群は、それぞれ対照群に対してTAで16.0%、EDLで18.9%、Solで5.2%、そして、Gasで9.5%の筋肉量が増加したことを確認した(
図5b)。特に、TA筋肉量が約16.0%増加したところ、これはCTXによって損傷された筋肉の再生能力がイノトジオールの投与によってさらに亢進したことを意味するものである。
【0089】
5-2.筋再生及び筋繊維サイズ増加効果の確認
前記実験動物の組織から分離したTA筋肉を使用してH&E染色(hematoxylin & eosin staining)を行った。4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で固定された凍結切片をヘマトキシリン(hematoxylin)で染色し、対照染色のためにエオシン(eosine)で染色し、マウンティング(mounting)して光学顕微鏡で観察した。また、筋線維のサイズを分析するために、Laminin抗体を用いてTA筋肉組織に免疫組織化学染色を行い、蛍光顕微鏡で観察した。
【0090】
H&E染色の結果、
図6に示すように、CTX筋損傷マウスにイノトジオールを投与した場合、対照群に対して顕著な筋再生効果を示すことが確認できた(
図6a、6b)。また、TA筋肉の断面積(CSA,Cross Section Area)をLaminin染色で分析した結果、対照群に対してイノトジオール投与群は、TA筋肉において断面積が大きい筋繊維の割合が増加したことを確認し、特に全体のTA筋肉の断面積比率は、対照群に対して89.4%程度増加した(
図6c)。
【0091】
5-3.イノトジオールの投与による骨格筋繊維タイプの変化
CTX注入マウスモデルにおいて、筋損傷後、21日経過後にイノトジオールの投与時、骨格筋線維タイプの変化を観察した。Myh7(MHCI)、Myh2(MHCIIa)、Myh4(MHCIIb)及びMyh1(MHCIIx)それぞれの筋肉タイプ別相対的mRNA発現率を比較した結果、
図7に示すように、大きな差はなかったが、概ね発現量が増加した傾向を示し、特に糖化筋線維(Glyolytic myofiber)であるMyh2(MHCIIa)の発現が大幅に増加した傾向が確認できた。
【0092】
5-4.筋力増加効果の確認
CTX筋損傷を誘発した後、21日目にイノトジオール投与群と対照群の筋力を確認するために握力(Grip strength)テストを行った。握力(Grip strength)テストは、BIOSEB社のマウス用握力測定器を使用して測定した。力の強さをモニタリングできる計器板に付着した金網の上にマウスを置き、尻尾を下に引っ張り下ろしながらマウスが金網をつかむ力を測定した。連続的に5回繰り返して測定された平均値を使用した。その結果、イノトジオール投与群において対照群に対して握力が約6.8%増加したことを確認した(
図8)。
【0093】
5-6.血糖降下効果
CTX筋損傷実験動物にイノトジオールの投与時、血糖変化量を測定した。筋肉のミトコンドリア機能の向上は、筋肉においてエネルギー代謝の活性化と密接に関連しており、その付随的な効果により血糖減少効果を誘導しうる。CTX筋損傷を誘発した後、21日目に実験動物の血糖を分析したとき、対照群に対してイノトジオール投与群において血糖が低下する効果を確認した(
図9)。
【0094】
イノトジオールの投与群において血糖が減少した結果は、筋肉内のミトコンドリアの活性によって筋肉内のブドウ糖の消費が増加した結果であると類推しうる。イノトジオールの投与時、実験例2~3で確認したように、筋肉内のミトコンドリアの活性が増進されるので、血糖の減少効果は、筋肉内のミトコンドリアでの血糖消費量の増加によるものである。もう一つの理由として、イノトジオールの投与により筋肉の分化及び再生が促進されるので、絶対的な筋肉量が増加することになり、筋肉のエネルギー代謝によるブドウ糖の消費が増えた結果であると考えられる。
【0095】
5-7.イノトジオールの投与による幹細胞増殖促進効果
CTXを注入して筋損傷を誘発したマウスモデルにイノトジオールの投与時、筋再生効果を確認するために実験を行った。イノトジオールを7日間1日1回投与したマウスに、CTXを3日間注入して筋損傷を誘発した後、筋肉幹細胞の増殖が増進されたか否かをBrdU分析を通じて確認した(
図10)。
【0096】
その結果、
図11a及び
図11bに示すように、イノトジオールを投与したマウスの筋肉組織においてBrdUの発現量が増加していることを確認し、
図12a及び
図12bのようにPax7、Ki67の発現量及びPax7に対するKi67の発現割合が増加したことを確認した。
【0097】
また、
図13に示すように、細胞周期に関与する遺伝子の相対的mRNA発現量が増加していることが確認でき、
図14に示すように、筋肉増殖に関与する遺伝子の発現増進効果が確認できた。
【0098】
以上の結果から、イノトジオールによって筋肉幹細胞増殖が促進されたことが確認できる。
【0099】
5-8.イノトジオールの投与による筋線維化阻害効果
CTXを注入して筋損傷を誘発したマウスモデルにイノトジオールの投与時、筋線維化に及ぼす影響を確認するために実験を行った。CTXを7日間注入して筋損傷を誘発した後、イノトジオールを投与して筋線維化が改善されるかどうかを確認した。
【0100】
その結果、
図15a及び
図15bに示すように、イノトジオールが投与された筋肉組織において線維化が改善され、線維化が進行する面積が減少したことを確認した。
【0101】
実験例6.高脂肪食モデルの運動能力改善効果
高脂肪食マウスにイノトジオールを投与した場合、筋力及び運動遂行能力効果を確認した。高脂肪食を給与したマウスモデルにイノトジオールを投与した後、トレッドミル実験を通じて運動持続時間、移動距離を測定した。その結果、イノトジオール投与群は平均して正常対照群レベルの運動能力を回復することを確認した(
図16)。また、Grip testの結果、高脂肪食モデルは平均より低下した筋力を有することが確認されたが、イノトジオールの投与時、筋力が改善されることを確認した(
図17)。
【0102】
実験例7.筋萎縮誘発(DEX)モデルの筋管萎縮改善効果
実施例3の筋萎縮マウスモデルに対して、イノトジオールの投与時の筋管萎縮改善及び回復効果を確認した。その結果、筋肉と筋繊維のサイズが増加していることが確認できた。また、筋管断面積のサイズを通じて確認した結果、DEXによる筋管萎縮モデルにイノトジオールの投与時、正常群と同レベルで筋管断面積が改善されたことが確認できた(
図18、
図19)。
【0103】
実験例10.イノトジオール長期投与モデルの筋肉量及び筋力増加効果
10-1.筋肉量増加効果
筋損傷や筋萎縮を誘発していない正常マウスに対して、イノトジオールを投与した場合、筋肉量及び筋力増加効果があるかを確認するための実験を行った。2ヶ月間イノトジオールを投与したマウスに対して、イノトジオールの投与後、後肢筋の筋肉量の変化と筋力(Grip test)を測定する実験を行った。
【0104】
その結果、
図20に示すように、後肢の筋肉量が対照群に比べて増加し、筋力も増加していることが確認できた。
【0105】
10-2.PGC-1a及び筋肉内のミトコンドリア関連遺伝子の増進効果
前記正常マウスにおいて長期的なイノトジオールの投与時、筋肉代謝マーカーであるPGC-1a及び筋肉内のミトコンドリア関連遺伝子の発現量を調べた結果、
図21に示すように、その発現量が対照群に比べて増加していることが確認できた。
【0106】
また、正常マウスにおいて体重増加量に対して脂肪の重量変化を確認した。その結果、
図22に示すように、イノトジオールを投与した群では相対的に脂肪の重量が少なく増加したことが確認でき、
図23に示すように、体重に対して筋肉量が非投与群に比べて高いことが確認できた。
【0107】
すなわち、前記結果は、筋疾患がある場合に加えて、正常な筋肉細胞においても筋肉量の増加及び筋肉内のミトコンドリア発現が増加し、筋力向上効果をもたらすことができることを示すものである。
【0108】
以上、本発明に対してその好ましい実施例を中心に察しみた。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で変形された形態で具現されてもよいことが理解できるだろう。したがって、開示された実施例は、限定的な観点ではなく説明的な観点から考慮されるべきである。本発明の範囲は、前述した説明ではなく請求範囲に示されており、それと同等の範囲内にあるすべての相違点は、本発明に含まれたものと解釈されなければならない。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノトジオール化合物
又はその薬学的に許容可能な塩を
有効成分として含む筋疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
イノトジオール化合物またはその食品学的に許容可能な塩を
有効成分として含む筋疾患の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項3】
イノトジオール化合物またはその塩を
有効成分として含む筋疾患の予防または改善用動物用飼料組成物。
【請求項4】
前記筋疾患は、緊張減退症(atony)、筋萎縮症(muscular atrophy)、筋ジストロフィー(muscular dystrophy)、筋肉退化、筋硬直症、筋萎縮性側索硬化症、筋無力症、悪液質(cachexia)、筋肉消失症及び筋肉減少症(sarcopenia)を含む群から選ばれたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記筋疾患は、老化、筋機能低下、筋肉消耗、筋肉退化、不用(disused)または筋肉損傷によって誘発されたものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記筋疾患は、がんまたは老化によって誘発される筋肉減少症であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記筋疾患は、骨格筋の不用(disused)によって誘発される筋肉萎縮症であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、筋肉内のミトコンドリアの活性を増進させるものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、筋肉内のミトコンドリアによる代謝促進により血糖を降下させるものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
イノトジオール化合物を含む筋肉幹細胞の自己再生(self-renewal)亢進、筋肉分化促進、筋再生または筋肉量増加用組成物。
【請求項11】
イノトジオール化合物を含む筋機能改善用組成物。
【請求項12】
イノトジオール化合物を含む筋力強化用組成物。
【請求項13】
イノトジオール化合物を含む運動遂行能力向上用組成物。
【請求項14】
イノトジオール化合物を含む筋線維化改善用組成物。
【請求項15】
前記組成物は、食品、機能性食品、健康機能食品、医薬品、動物用飼料または飼料添加物のうち少なくとも1つが選ばれるものである、請求項10~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は損傷または老化した個体に投与されるものであることを特徴とする、請求項10~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物は正常個体に投与されるものであることを特徴とする、請求項10~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
筋肉疾患の予防、改善又は治療のための医薬の製造における、請求項1記載の組成物の使用。
【国際調査報告】