(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸複合体を含む皮膚疾患の予防または治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/728 20060101AFI20240514BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240514BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20240514BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240514BHJP
A61P 17/08 20060101ALI20240514BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240514BHJP
A61P 17/12 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240514BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALN20240514BHJP
【FI】
A61K31/728
A61P17/00
A61P37/08
A61P17/10
A61P17/06
A61P17/08
A61P17/04
A61P17/12
A61K47/28
A61K9/06
C12Q1/6876 Z ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572006
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 KR2022010310
(87)【国際公開番号】W WO2023287230
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0092915
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515131404
【氏名又は名称】アジュ ユニバーシティー インダストリー-アカデミック コーオペレイション ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】AJOU UNIVERSITY INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウク・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ハ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ワン・ヒ・イ
(72)【発明者】
【氏名】スル・ビ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ファン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ヒ・ユ
(72)【発明者】
【氏名】ユ・ジン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ホン・ソ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】イェ・ヨン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ス・ハ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ギ・ロー
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヒェ・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ソ・フイ・クウォン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ28
4B063QQ42
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4B063QX02
4C076AA06
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC20
4C076DD70N
4C076FF34
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4C086AA01
4C086AA02
4C086EA25
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA28
4C086NA05
4C086NA11
4C086ZA89
4C086ZA91
(57)【要約】
本発明は、ヒアルロン酸複合体を有効成分として含む皮膚疾患の予防または治療用薬学組成物に関し、前記ヒアルロン酸複合体は、ヒアルロン酸と疎水性基を提供する疎水性物質とが自己集合して結合した形態であって、ヒアルロン酸分解酵素の抵抗性および経皮透過能に優れ、皮膚障壁機能の保護または回復、細胞増殖関連因子および炎症性サイトカインの発現抑制、M1大食細胞の分極化抑制およびTLR4シグナル伝達遮断に優れた効果を有するので、多様な皮膚疾患治療剤として活用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸および疎水性物質で構成されたヒアルロン酸複合体を有効成分として含む皮膚疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記疎水性物質は、分配係数(cLogP)が2~10である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸複合体は、下記化学式1、化学式2、または化学式3で表される化合物である、請求項1に記載の薬学組成物:
【化1】
前記化学式1において、aおよびbは、それぞれ独立した整数であって、互いに同一または異なり、aは、1~750の整数であり、bは、1~100の整数であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.40の範囲を有する。
【化2】
前記化学式2において、aおよびbは、それぞれ独立した整数であって、互いに同一または異なり、aは、1~750の整数であり、bは、1~100の整数であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.40の範囲を有する。
【化3】
前記化学式3において、aおよびbは、それぞれ独立した整数であって、互いに同一または異なり、aは、1~750の整数であり、bは、1~100の整数であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.40の範囲を有する。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸複合体は、ヒアルロン酸と疎水性物質との質量比が1:0.005~0.5である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記ヒアルロン酸複合体は、水溶液状態で自己集合(self-assembly)により形成されたものである、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸複合体は、直径が50~500nmである、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸複合体は、経皮透過用である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項8】
前記皮膚疾患は、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、ニキビ(acne)、乾癬(psoriasis)、アレルギー性皮膚炎(allergic dermatitis)、炎症性皮膚炎(inflammatory skin disease)、脂漏性皮膚炎(seborrheic dermatitis)、接触性皮膚炎(contact dermatitis)、皮膚硬化症(scleroderma)、湿疹(eczema)、ベーチェット病(Behcet’s disease)、サルコイドーシス(sarcoidosis)、黒色腫(melanoma)、白斑症(vitiligo)、天疱瘡(pemphigus)、ウオノメ(corns)、イボ(warts)および扁平苔癬(lichen planus)からなる群より選択された1種以上である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項9】
ヒアルロン酸および疎水性物質で構成されたヒアルロン酸複合体を有効成分として含む組成物を個体に投与するステップを含む、皮膚疾患の予防または治療方法。
【請求項10】
ヒアルロン酸および疎水性物質で構成されたヒアルロン酸複合体の皮膚疾患の予防または治療用途。
【請求項11】
ヒアルロン酸および疎水性物質で構成されたヒアルロン酸複合体の、皮膚疾患の予防または治療のための医薬の製造のための用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸複合体を有効成分として含む皮膚疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、汎省庁国家新薬開発事業団の依頼を受け、国家新薬開発事業の新薬基盤拡充研究の一環として進められたものである。 本出願の研究課題名は、「免疫細胞活性制御機能性ヒアルロン酸ナノ粒子の最適化-プロファイリング-生産技術確立を通じた皮膚炎症疾患治療剤先導物質の確保」であり、課題番号はRS-2021-DD120838(旧 HN21C0958)である。
【0003】
薬物を投与する方法は、大きく、経口投与と、経皮投与とに分けられる。このうち、局所、特に皮膚に薬物を供給するためには、経口よりは経皮投与法が様々な面でメリットがある。例えば、経口投与は、肝の代謝作用で相当部分分解されるため、一定の薬効を得るためには薬物の量が過剰投与されなければならず、薬効を維持するために薬物を繰り返し投与しなければならない。これに対し、経皮を通した薬物伝達は、投与された薬物が肝の代謝作用を経ずに直接、調節的に患部へ伝達されるため、経口投与によって発生しうるデメリットを解消することができる。また、経皮投与は、注射法からもたらされる患者の苦痛、心的負担を低減することができ、不便さもないという利点がある。したがって、主に局所的に発生し、皮膚およびその周辺組織に発生する皮膚疾患を治療する上で経皮投与は効果的な投薬法として提示される。
【0004】
皮膚は、大きく、表皮、真皮および皮下脂肪からなっており、皮膚組織が密に形成されているため、薬物の分子量、用量、特性などによって経皮吸収が難しかったり、皮膚刺激性が激しくて薬物の選択が限られる。したがって、効果的な経皮投薬のためには、ナノ粒子化された薬物を用いたり、薬物が皮膚表面から内部まで伝達されることを助ける多様な薬物伝達体を使用することができる。最近は、ポリ乳酸(polylactic acid)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)など多様な生分解性高分子を含む経皮透過用薬物伝達体が開発されている。
【0005】
ヒアルロン酸は、1×105~1×107Daの範囲の分子量を有する線状多糖重合体で、(β,1-4)-D-グルクロン酸(D-glucuronic acid、GlcUA)と(β,1-3)-N-アセチル-D-グルコサミン(N-acetyl-Dglucosamine、GlcNAc)単位の繰り返し配列で構成されている。大部分の人体組織の細胞外基質(extracellular matrix)および細胞表面で発見され、特に、関節滑液(synovial fluid)、軟骨などに多量存在する。したがって、ヒアルロン酸は、生体適合性を有し、血液内のヒアルロン酸酵素であるヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)によって生分解されるため、薬物伝達体、組織工学用支持体など生体材料として用いられる。特に、ヒアルロン酸は、癌細胞または転移癌細胞表面で過発現するCD44、RHAMMと結合してエンドサイトーシス(endocytosis)により細胞内吸収(internalization)され、リソソームのような低いpH環境で分解される。また、ヒアルロン酸は、細胞の運動性、細胞分化、傷治癒および癌転移においてシグナル分子(signaling molecule)として重要な役割を果たす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
線状のヒアルロン酸は、皮膚を透過するのに分子量が過度に大きくて皮膚吸収率が低いため、現在までヒアルロン酸を経皮投与して疾患治療に適用した例がなく、体内でヒアルロン酸分解酵素によって分解されやすくてその薬効を持続にくいという問題があった。したがって、このような問題を克服してヒアルロン酸を経皮投与に適用できるように体内で安定的かつ経皮透過率が向上したヒアルロン酸含有薬物体または薬物伝達体を開発する努力が切実に要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ヒアルロン酸に疎水性物質が結合したヒアルロン酸複合体を有効成分として含む皮膚疾患の予防または治療用薬学組成物を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるヒアルロン酸複合体は、ヒアルロン酸と疎水性基を提供する疎水性物質とが自己集合して結合した形態であって、ヒアルロン酸分解酵素の抵抗性および経皮透過能に優れ、皮膚障壁機能の保護または回復、細胞増殖関連因子および炎症性サイトカインの発現抑制、M1大食細胞の分極化抑制およびTLR4シグナル伝達遮断に優れた効果を有するので、多様な皮膚疾患治療剤として活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-1、HALN-2およびHALN-3)の自己集合特性を示す図であって、(a)は、ヒアルロン酸-リトコール酸複合体の化学構造および自己集合に関する模式図であり、(b)は、ヒアルロン酸-リトコール酸複合体の透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(c)は、ヒアルロン酸-リトコール酸複合体の大きさおよびゼータ電位であり、(d)は、時間に応じた粒子の大きさおよびゼータ電位の変化を測定して得た安定性に関するグラフである。
【
図2】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-1、HALN-2およびHALN-3)のヒアルロン酸分解酵素の抵抗性を示す。
【
図3】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-1、HALN-2およびHALN-3)の乾癬治療効果を示す。(a)は、実験日程であり、(b)は、紅斑および角質が起きたマウスの皮膚状態とこれに対するPASI点数である。
【
図4】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-1、HALN-2およびHALN-3)の乾癬治療効果を示す図であって、マウスの皮膚を組織染色して測定された皮膚の厚さと炎症性サイトカイン(IL-1βおよびIL-23)の発現量である。
【
図5】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-1、HALN-2およびHALN-3)の皮膚障壁機能の保護効果を示す図であって、マウスの皮膚を組織染色して測定された皮膚障壁機能関連の標識物質(Ceramide、Loricrin、Claudin-1およびS100A9)の発現量である。
【
図6】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の皮膚障壁機能の回復効果を示す。
【
図7】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の経皮透過能を示す図であって、経皮吸収セルを透過したCy5.5-HALNの蛍光強度グラフである。
【
図8】正常マウスと皮膚疾患(乾癬)マウスにおいてヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の経皮透過能を示す図であって、マウスの皮膚組織におけるCy5.5-HALNの蛍光強度イメージである。
【
図9】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の経皮透過能を示す図であって、マウスの皮膚組織の深さに応じた蛍光強度である。
【
図10】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-1、HALN-2およびHALN-3)の経皮透過能を示す。
【
図11】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の経皮投与による濃度別(0.5、2.5、5mg)の乾癬治療効果を示す。(a)は、実験日程であり、(b)は、紅斑および角質が起きたマウスの皮膚状態とこれに対するPASI点数である。
【
図12】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の経皮投与による濃度別(0.5、2.5、5mg)の乾癬治療効果を示す図であって、マウスの皮膚を組織染色して測定された皮膚の厚さと、細胞増殖関連因子(Ki-67)および炎症性サイトカイン(CD68、IL-23およびIL-17)の発現量である。
【
図13】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の経皮投与による濃度別(2、10mg)の乾癬予防効果を示す図であって、(a)は、実験日程であり、(b)は、紅斑および角質が起きたマウスの皮膚状態とこれに対するPASI点数である。
【
図14】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の経皮投与による濃度別(2、10mg)の乾癬予防効果を示す図であって、マウスの皮膚を組織染色して測定された皮膚の厚さと、細胞増殖関連因子(Ki-67)および炎症性サイトカイン(CD68、IL-23およびIL-17)の発現量である。
【
図15】ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN-3)の経皮投与による皮膚障壁機能の保護効果を示す図であって、マウスの皮膚を組織染色して測定された皮膚障壁機能関連の標識物質(Ceramide、Loricrin、Claudin-1およびS100A9)の発現レベルである。
【
図16】HALNの大きさによる大食細胞の分極化抑制効果を示す図であって、(a)は、HALN-1~3によるM1大食細胞の分極標識物質(TNF-α、IL-6、IL-1β、IL-12p40およびIL-23p19)の発現量であり、(b)は、HALN-3によるM1大食細胞の分極化レベルである。
【
図17】ヒアルロン酸-コラン酸複合体(HACN)の透過電子顕微鏡(TEM)写真および化学式を示す。
【
図18】ヒアルロン酸-コラン酸複合体の経皮透過能を示す図であって、マウスの皮膚組織で測定されたCy5.5-HACNの蛍光強度である。
【
図19】ヒアルロン酸-コラン酸複合体の大食細胞依存的乾癬治療効果を示す図であって、(a)は、実験日程であり、(b)は、紅斑および角質が起きたマウスの皮膚状態とこれに対するPASI点数である。
【
図20】ヒアルロン酸-コラン酸複合体の大食細胞依存的乾癬治療効果を示す図であって、クロドロネートを処理しないマウスの皮膚を組織染色して測定された(a)皮膚の厚さと、(b)皮膚細胞増殖関連因子(Ki-67)の発現レベルである。
【
図21】ヒアルロン酸-コラン酸複合体の大食細胞依存的乾癬治療効果を示す図であって、クロドロネート処理の有無によるマウスの皮膚で測定された炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-23およびIL-17)の発現レベルである。
【
図22】HACNの大きさによる大食細胞の分極化抑制効果を示す図であって、(a)は、HACNによるM1大食細胞の分極標識物質(TNF-α、IL-6、COX-2、IL-12p40、IL-23p19およびCXCL10)の発現量であり、(b)は、HACNによるM1大食細胞の分極化レベルである。
【
図23】表面プラズモン共鳴法によりHACNとTLR4の相互作用を示す。
【
図24】蛍光細胞分析法によりTLR4との結合に対するLPSとHACNの競合を示す。
【
図25】多様な種類のヒアルロン酸複合体の皮膚疾患治療効果を確認した図である。
【
図26】多様な種類のヒアルロン酸複合体の皮膚疾患治療効果を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、体内で安定的かつ経皮透過率に優れたヒアルロン酸含有薬物体または薬物伝達体を開発するために、生分解性を有し、親水性物質の低分子ヒアルロン酸と、疎水性物質としてリトコール酸、コラン酸、またはコレステロールを自己集合してナノサイズのヒアルロン酸複合体を作製し、このようなヒアルロン酸複合体が優れた体内安定性および経皮透過能を有し、乾癬のような皮膚疾患に対して効果的な症状改善または治療効果があることを確認することにより、本発明を完成した。
【0011】
本発明の一態様は、ヒアルロン酸および疎水性物質で構成されたヒアルロン酸複合体を有効成分として含む皮膚疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0012】
本発明で使用された「疎水性物質」は、疎水性置換基を含む化合物であって親水性ヒアルロン酸に疎水性を付与する物質を意味し、ナノ粒子サイズのヒアルロン酸複合体の形成を誘導できる疎水性を有する物質であってもよい。
【0013】
本発明の一具体例によれば、前記疎水性物質は、分配係数(partition-coefficient、cLogP)が2~10であってもよいし、好ましくは3~8であってもよい。
【0014】
このような分配係数値を有する疎水性物質は、ナノ粒子サイズのヒアルロン酸複合体を形成することができる。
【0015】
本発明の一具体例によれば、前記疎水性物質は、ヒアルロン酸複合体を50~500nmの粒子サイズに誘導するものであってもよい。
【0016】
本発明による疎水性物質は、生体で生産される酵素によって分解されたり、生体内の代謝過程で分解されやすい生分解特性を有することが好ましい。
【0017】
より具体的には、前記疎水性物質は、胆汁酸の一種である疎水性コラン酸またはその誘導体であってもよい。
【0018】
本発明の一具体例によれば、前記疎水性物質は、リトコール酸(lithocholic acid)、コラン酸(cholanic acid)、コール酸(cholic acid)、ケノデオキシコール酸(chenodeoxycholic acid)、グリココール酸(glycocholic acid)、タウロコール酸(taurocholic acid)、デオキシコール酸(deoxycholic acid)、7-オキソ-リトコール酸(7-oxo-lithocholic acid)およびコレステロール(cholesterol)からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0019】
本発明の一具体例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、ヒアルロン酸と疎水性物質とがアミド結合で連結されたものであってもよい。
本発明の一実施例によれば、ヒアルロン酸と疎水性物質とを結合させるために、リトコール酸またはコラン酸とエチレンジアミンとを反応させてアミノ化された疎水性物質を生成し、このような疎水性物質のアミン基とヒアルロン酸のカルボキシル基とが結合してヒアルロン酸複合体を形成した。
【0020】
本発明の一実施例によれば、ヒアルロン酸と疎水性物質とを結合させるために、コレステロールとDCCなどとを反応させてアミノ化された疎水性物質を生成し、このような疎水性物質のアミン基とヒアルロン酸のカルボキシル基とが結合してヒアルロン酸複合体を形成した。
【0021】
本発明の一具体例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、下記化学式1または化学式2または化学式3で表される化合物であってもよい。
【0022】
【0023】
前記化学式1において、aおよびbは、それぞれ独立した整数であって、互いに同一または異なり、aは、1~750の整数であり、bは、1~100の整数であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.40の範囲を有する。
【0024】
より具体的には、前記化学式1のaは、1~300の整数(好ましくは1~150の整数)であり、bは、1~40の整数(好ましくは1~20の整数)であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.30(好ましくは0.02~0.20)であってもよい。
【0025】
【0026】
前記化学式2において、aおよびbは、それぞれ独立した整数であって、互いに同一または異なり、aは、1~750の整数であり、bは、1~100の整数であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.40の範囲を有する。
【0027】
より具体的には、前記化学式2のaは、1~100の整数(好ましくは1~30の整数)であり、bは、1~10の整数(好ましくは1または2)であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.20(好ましくは0.02~0.10)であってもよい。
【0028】
【0029】
前記化学式3において、aおよびbは、それぞれ独立した整数であって、互いに同一または異なり、aは、1~750の整数であり、bは、1~100の整数であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.40の範囲を有する。
【0030】
より具体的には、前記化学式3のaは、1~300の整数(好ましくは1~150の整数)であり、bは、1~40の整数(好ましくは1~20の整数)であり、この時、b/(a+b)は、0.01~0.30(好ましくは0.02~0.20)であってもよい。
【0031】
本発明の一具体例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、ヒアルロン酸と疎水性物質との質量比が1:0.005~0.5であってもよい。
【0032】
より具体的には、前記ヒアルロン酸複合体において疎水性物質がリトコール酸またはコラン酸の場合、ヒアルロン酸またはコラン酸とリトコール酸との質量比が1:0.005~0.5、1:0.01~0.3、または1:0.02~0.15であってもよい。
【0033】
一般的な線状のヒアルロン酸は、分子量が大きくて(約1×105~1×107Da)、皮膚を透過することが容易でない。本発明では、皮膚吸収が容易となるように低分子量を有するヒアルロン酸であることが好ましい。
【0034】
本発明の一具体例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、分子量1~300kDaであってもよい。
【0035】
より具体的には、前記ヒアルロン酸複合体の数平均分子量は、前記化学式1の場合、10~250kDaであることが好ましく、40~80kDaであることがさらに好ましく、前記化学式2の場合、1~50kDaであることが好ましく、5~30kDaであることがさらに好ましい。前記化学式3の場合、1~50kDaであることが好ましく、5~30kDaであることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の一具体例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、水溶液状態で自己集合(self-assembly)によりナノ粒子を形成するものであってもよい。
【0037】
本発明の一具体例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、ナノ粒子化されたもので、直径が50~500nmのものであってもよい。
【0038】
本発明の一具体例によれば、供給率(feed ratio、FR)によって調節された疎水性物質の量によって置換度(degree of substitution、DS:ヒアルロン酸内の100個のsugar residueあたりに付いている疎水性部分の個数)が異なる。疎水性物質の置換度は、1~50の整数であってもよく、好ましくは2~15の整数である。
【0039】
本発明の一実施例によれば、ヒアルロン酸複合体の疎水性基の置換度(DS)が増加すれば、ナノ粒子化されたヒアルロン酸複合体の大きさが減少することを確認した。このようなナノ粒子化されたヒアルロン酸複合体は、大きさが小さいほど、ヒアルロン酸分解酵素の抵抗性の増加、経皮透過能の増加、皮膚増殖関連因子および炎症性サイトカインの発現抑制に対する効果に優れていることを確認した。したがって、本発明では、ナノ粒子化されたヒアルロン酸複合体の直径が100~400nmであることが好ましく、150~300nmであることがさらに好ましい。ナノ粒子化されたヒアルロン酸の大きさが前記範囲を超える場合には、ヒアルロン酸複合体の経皮透過率が低下し、これによってヒアルロン酸複合体による皮膚疾患の予防または治療効果が減少する。
【0040】
本発明の一具体例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、経皮透過用であってもよい。
【0041】
本発明の一実施例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、皮膚組織に対する透過能または吸収能に優れ、線状のヒアルロン酸に比べてより深い皮膚組織まで吸収されることを確認した。したがって、本発明によるヒアルロン酸複合体は、経皮投与に適するものであることが分かる。
【0042】
本発明の一具体例によれば、前記皮膚疾患は、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、ニキビ(acne)、乾癬(psoriasis)、アレルギー性皮膚炎(allergic dermatitis)、炎症性皮膚炎(inflammatory skin disease)、脂漏性皮膚炎(seborrheic dermatitis)、接触性皮膚炎(contact dermatitis)、皮膚硬化症(scleroderma)、湿疹(eczema)、ベーチェット病(Behcet’s disease)、サルコイドーシス(sarcoidosis)、黒色腫(melanoma)、白斑症(vitiligo)、天疱瘡(pemphigus)、ウオノメ(corns)、イボ(warts)および扁平苔癬(lichen planus)からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0043】
本発明の一実施例によれば、前記ヒアルロン酸複合体は、乾癬が誘発されたマウスの皮膚で現れた紅斑および角質を減少させて皮膚状態を改善し、損傷した皮膚障壁機能を回復させ、皮膚増殖関連因子Ki-67と、炎症性サイトカインCD68、IL-23およびIL-17の発現を抑制することを確認した。
【0044】
また、前記ヒアルロン酸複合体は、TLR4と結合してTLR4シグナル伝達を遮断することにより、TLR4シグナル伝達によって発生する多様な皮膚疾患を予防したり、治療することができることが分かる。
【0045】
このようなヒアルロン酸複合体を有効成分として含む薬学組成物は、薬剤学的に許容可能な添加剤をさらに含むことができる。前記添加剤は、デンプン、ゼラチン化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイドシリコンジオキシド、ヒドロキシカルシウムホスフェート、ラクトース、マンニトール、飴、アラビアガム、前糊化デンプン、トウモロコシデンプン、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、デンプングリコール酸ナトリウム、カルナウバロウ、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、白糖、デキストロース、ソルビトールおよびタルクなどであってもよいが、これらに限定されない。
【0046】
本発明の一具体例によれば、前記薬学組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。前記担体は、薬剤の製造時に通常用いられるものとして、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、ヒアルロニックアシッド、デンプン、アカシアガム、カルシウムホスフェート、アルギネート、ゼラチン、カルシウムシリケート、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよびミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明の一具体例によれば、前記薬学組成物は、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などを追加的に含むことができる。好適な薬学的に許容される担体および製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(22th ed.、2013)に詳しく記載されている。
【0048】
本発明の薬学組成物は、実際の臨床投与時に経口および非経口の様々な剤形に投与できるが、製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製できる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、酸剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、本発明の薬学組成物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、デンプン、カルシウムカーボネート(calciumcarbonate)、スクロース(sucrose)、ラクトース(lactose)またはゼラチンなどを混合して調製できる。また、単純な賦形剤のほか、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用可能である。
【0049】
本発明の薬学組成物は、目的とする方法により、経口投与したり、非経口投与してもよいし、非経口投与時、経皮投与、腹腔内注射、直腸内注射、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射または胸部内注射注入方式を選択することができる。投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などによってその範囲が多様である。
【0050】
本発明の薬学組成物は、薬剤学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬剤学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時使用される薬物を含む要素およびその他の医学分野によく知られた要素によって決定可能である。本発明の一具体例による組成物は、個別治療剤として投与したり、他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次または同時に投与されてもよいし、単一または多重投与されてもよい。上記の要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定可能である。
【0051】
具体的には、本発明による薬学組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって異なり、一般的には、体重1kgあたり0.001mg~1,000mg、0.01mg~100mg、または0.1mg~10mgを毎日または隔日投与したり、1日1~3回に分けて投与することができる。しかし、投与経路、疾患の重症度、性別、体重、年齢などによって増減可能なため、前記投与量がいかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
本発明の他の態様は、ヒアルロン酸および疎水性物質で構成されたヒアルロン酸複合体を有効成分として含む組成物を個体に投与するステップを含む、皮膚疾患の予防または治療方法を提供する。
【0053】
本発明の一具体例によれば、前記方法においてヒアルロン酸、疎水性物質、ヒアルロン酸複合体、皮膚疾患については上述した通りである。
【0054】
本発明の一具体例によれば、前記組成物の投与量は、10mg/kg/日(day)~100mg/kg/日(day)であってもよい。
【0055】
本発明の一具体例によれば、前記個体は、皮膚疾患の予防または治療を必要とする個体であってもよい。前記個体は、ヒト、サルなどを含む霊長類、マウス、ラットなどを含む齧歯類などを含む哺乳類、またはこれから分離された細胞または組織またはその培養物であってもよい。この時、前記患者は、ヒトを除いた哺乳動物であってもよい。
【0056】
本発明の他の態様は、ヒアルロン酸および疎水性物質で構成されたヒアルロン酸複合体の皮膚疾患の予防または治療用途を提供する。
【0057】
本発明の他の態様は、ヒアルロン酸および疎水性物質で構成されたヒアルロン酸複合体の医薬の製造のための用途であって、皮膚疾患の予防または治療のための医薬製造のための用途を提供する。
【0058】
本発明の一具体例によれば、前記用途においてヒアルロン酸、疎水性物質、ヒアルロン酸複合体、皮膚疾患については上述した通りである。
【実施例】
【0059】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、このような説明は本発明の理解のために例として提示されたものに過ぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明によって制限されるものではない。
【0060】
実施例1.ヒアルロン酸-リトコール酸複合体の製造
1-1.リトコール酸のアミノ化
リトコール酸(Lithocholic acid、LCA)(Sigma-Aldrich)1gをメタノール(methanol)20mLに溶解した後、HCl(12N)180μLを入れて、70℃で8時間還流条件で撹拌した。反応が終了すると、溶媒を減圧蒸留して除去し、生成された固体状態の1次生成物を水で希釈し、沈殿物を減圧濾過して得て、これを真空状態で乾燥させて、最終的にメチルエステル形態(methyl ester form)のリトコール酸を得た。メチルエステル-LCA920mgはエチレンジアミン(ethylenediamine)(TCI)15mLに溶解させた後、130℃で8時間還流条件で撹拌した。反応終了後、エチレンジアミンを減圧蒸留して除去し、生成された2次生成物を水で希釈した後、沈殿した物質を減圧濾過して得た。これを乾燥させて、最終的にアミノ化された(aminated)LCAを得た。
【0061】
1-2.ヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN)
60kDaのヒアルロン酸(Hyaluronic acid、HA)120mg(Lifecore)をホルムアミド(formamide)(Sigma-Aldrich)20mLに溶解した。以後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide、EDC)(TCI)(56.1mg、0.29mmol)とN-ヒドロスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide、NHS)(Sigma)(33.3mg、0.29mmol)を入れて、30分間撹拌してHA混合液を用意した。Feed Ratio(FR)値に合った適切な量のアミノ化されたLCA(8~80mg)をジメチルホルムアミド(dimethylformamide、DMF)5mLに溶かした後、この溶液を点滴(dropwise)してHA混合液に入れた。生成された1次混合物を常温で24時間撹拌した。反応終了後、13K MWCO透析バッグ(seamless cellulose tubing dialysis bag)(Sigma-Aldrich)を用いて、メタノール単独溶媒で2日、メタノール:蒸留水混合溶媒(v:v=1:1)で1日、蒸留水単独溶媒で2日間透析した。透析が終わった後、反応混合物(reaction mixture)を50秒間音波処理(sonication)した(10秒作動、1秒休止)。音波処理後、混合物を0.8μmの注射器フィルタ(syringe filter)で濾過した。濾過液を凍結乾燥して、最終的にヒアルロン酸-リトコール酸複合体(HALN)を得た。以後、核磁気共鳴分光法(Nuclear Magnetic Resonance spectroscopy、NMR spectroscopy)実験により分析された疎水性部分の置換度(DS)によって、それぞれHALN-1、HALN-2およびHALN-3と名付けた。
【0062】
1-3.HALN特性分析
HALNの化学的特性は600MHzの核磁気共鳴分光法(NMR spectroscopy)実験により分析し、分析時、溶媒は重水素化されたメタノール(deuterated methanol):酸化重水素(deuterium oxide)=1:1(v:v)で測定した。動的光散乱器(Dynamic light scattering、DLS)(ELS-Z、Otsuka)を活用して生成されたHALNの大きさとゼータ電位(Zeta potential)を測定した。測定時には、HALNをPBSに1mg/mLの濃度で溶かして測定した。
【0063】
その結果、
図1に示すように、乾燥したHALNをPBSに分散させると、リトコール酸の官能基が互いに凝集して球状に存在した。供給率(FR)の増加によって置換度(Degree of Substitution、DS)が増加したHALN-1、HALN-2およびHALN-3が合成された。HALN-1、HALN-2およびHALN-3の大きさは、それぞれ428±20nm、331±2nmおよび211±2nmであり、DSの増加によってHALN-1、HALN-2およびHALN-3の順に大きさが小さくなり(約150~440nm)、ゼータ電位値は大きくなることを確認した。
【0064】
実験例1.ヒアルロン酸分解酵素に対するHALNの抵抗性分析
ヒアルロン酸分解酵素(Hyaluronidase Type II)(H2126、sigma)と大きさおよび電気化学的値が異なるHALN-1、HALN-2およびHALN-3をそれぞれ37℃で0.5、1、2、4および6時間反応させた後、100℃の熱を加えて反応を停止し、四ホウ酸カリウム(potassium tetraborate)およびDMAB溶液を順次処理した後、37℃の水槽で反応した。反応液を200μlずつ96ウェルプレート(96-well plate)にローディングし、分光光度計(Cytation3、BioTek Instruments Inc)で544nmにおける吸光度を測定した。
【0065】
その結果、
図2に示すように、HALN-3は、ヒアルロン酸単独(60kDaの線状HA)および他の複合体(HALN-1およびHALN-2)に比べて著しく高いヒアルロン酸分解酵素の抵抗性を有することを確認した。
【0066】
実験例2.HALNの乾癬治療効果
乾癬動物モデルを作製するために、雌C57BL/6Nマウス(OrientBio)が用いられた(グループあたり5匹)。正常マウス(CON)と乾癬が誘発されるマウス(IMQ)とに区分した。乾癬を誘発する前に、HALN-1~3をそれぞれPBSに1mg/mLの濃度で溶解した後、インスリン注射器を用いて20mg/kgで4日間皮下注射したり、またはHALNの代わりにPBS(20mg/kg)のみを投与した。薬物投与して2時間後、マウスの体重とPASI点数を測定した。そして、薬物投与後、毛の除去されたマウスの背中にアルダラクリーム(Aldara cream;imiquimod、IMQ)62.5mgを毎日1回ずつ4日間塗布した。5日目にすべてのマウスの皮膚組織を採取して分析した。
【0067】
PASI点数は乾癬面積および重症の程度によって点数付けをした:0;なし、1;軽微、2;中等度、3;大きい、4;非常に明らかである。
【0068】
マウスの皮膚を組織染色するために、各組織を4%パラホルムアルデヒド(Paraformaldehyde、PFA)で固定した後、パラフィンブロックを作製して0.4umの切片にスライドを作製した後、ヘマトキシリンとエオシンを用いて核と細胞質を染色した。以後、炎症性サイトカインの発現を確認するために、IL-1βとIL-23抗体を用いて染色した。
【0069】
皮膚の厚さはImage Jプログラムの「MRI Skin Tool」機能を用いて自動分析した。各組織あたり3つの部分のイメージ値の平均を用いた。
【0070】
その結果、
図3および4に示すように、HALN-1~3を投与した場合には、PBSを投与した場合に比べて紅斑、角質、皮膚の厚さが減少し、特に、大きさが最も小さいHALN-3がその効果に優れていることを確認した。また、HALN-3は、HALN-1およびHALN-2に比べて乾癬において重要な炎症性サイトカインIL-1βおよびIL-23の発現を効果的に抑制することを確認した。結論的に、HALN-3は、HALN-1およびHALN-2に比べて乾癬の予防または治療効果に最も優れていた。
【0071】
実験例3.HALNの皮膚障壁機能の保護効果
乾癬動物モデルを作製するために、雌C57BL/6Nマウスが使用された(グループあたり5匹)。正常マウス(CON)と乾癬が誘発されるマウス(IMQ)とに区分した。乾癬を誘発する前に、毛の除去されたマウスの背中にHALN-1~3をそれぞれPBSに1mg/mLの濃度で溶解した後、インスリン注射器を用いて20mg/kgで皮下注射したり、またはHALNの代わりにPBS20mg/kgを投与した。薬物投与3時間後、アルダラクリーム(Aldara cream)62.5mgを4日間塗布した。投与最終日にすべてのマウスの皮膚組織を採取して、皮膚障壁機能を示す標識物質(Ceramide、Loricrin、Claudin-1およびS100A9)を免疫染色法で染色した。
【0072】
その結果、
図5に示すように、HALN-3は、HALN-1およびHALN-2に比べて乾癬誘導によって破壊された皮膚障壁機能を復旧させる効果に最も優れていることが確認された。
【0073】
また、前記実験と同様に、乾癬動物モデルにPBSまたはHALN-3を投与した後、最終日にすべてのマウスにCy5.5-HALN-3を経皮投与し、4時間後に皮膚組織を蛍光顕微鏡で観察した。
【0074】
その結果、
図6に示すように、HALN-3が注入された乾癬動物モデルでは、PBSを注入した乾癬動物モデルに比べてCy5.5-HALN-3の経皮吸収が少ないことが明らかになり、HALN-3が乾癬誘導によって破壊された皮膚障壁機能を回復させたことが分かった。
【0075】
実験例4.HALNの経皮透過能分析
4-1.経皮吸収セル
経皮吸収セル(Franz diffusion cell)にマイクロピッグ(micropig)に由来する皮膚組織を固定させた後、皮膚組織上にCy5.5-HALN-3(0.5ml)を塗布した。塗布して0、1、2、4、6、12および24時間目にレシーバチャンバから溶液20ulを抽出して黒色の96ウェルプレートにローディングし、分光光度計(Cytation3、BioTekInstruments Inc.)を用いて蛍光(吸収波長:670nm、放出波長:700nm)を測定した。対照群としてはCy5.5を使用した。
【0076】
その結果、
図7に示すように、時間が経過するほど、皮膚組織を透過したCy5.5-HALNが増加することが明らかになり、HALNが経皮透過能があることが分かった。
また、PBSを塗布した正常マウスと実験例3のように乾癬を誘発したマウスから摘出した背中皮膚を経皮吸収セルに固定させた後、皮膚組織上にCy5.5-HALN(0.5ml)を塗布した。塗布後1、2、4および12時間目に皮膚組織を採取して各組織を4%PFAで固定した後、パラフィンブロックを作製し、0.4umの切片にスライドを作製して組織染色標本を用意した。そして、DAPI染色後、蛍光顕微鏡で皮膚組織を観察した。
【0077】
その結果、
図8に示すように、乾癬が誘導されたマウス(IMQ)では、正常マウスに比べて同じ時間条件で蛍光強度が強くなり、乾癬皮膚においてHALNの経皮透過能により優れていることを確認した。
【0078】
そして、実験例3のように乾癬を誘導したマウスから摘出した背中皮膚を経皮吸収セルに固定させた後、皮膚組織上にPBS、Cy5.5(0.5ml)、Cy5.5-HA(0.5ml)またはCy5.5-HALN(0.5ml)を塗布した。以後、4時間経た時、皮膚組織を採取して組織染色標本を作製した後、二光子顕微鏡(Two-photon microscopy)で蛍光を観察した。
【0079】
その結果、
図9に示すように、HALNは、同じ皮膚組織の深さにおいてCy5.5とfree HAに比べて蛍光の強度が強く、より深い所でも蛍光が観察された。このような結果は、HALNの経皮透過能に非常に優れていることを示唆する。
【0080】
4-2.HALN-1~3の経皮透過能の比較
PBSを塗布した正常マウスと実験例3のように乾癬を誘導したマウスの背中皮膚にCy5.5-HALN-1~3をそれぞれ塗布した。以後、4時間経た時、皮膚組織を採取して蛍光顕微鏡で観察した。
【0081】
その結果、
図10に示すように、乾癬動物モデルでは、正常マウスに比べてすべてのHALNの経皮透過能が増加し、特にHALN-3の経皮透過能に最も優れていることが確認された。
【0082】
実験例5.HALNの経皮投与による濃度別の乾癬治療および予防効果
乾癬動物モデルを作製するために、雌C57BL/6Nマウスが用いられた(グループあたり5匹)。正常マウス(CON)と乾癬が誘発されたマウス(IMQ)とに区分した。乾癬を誘発するために、毛の除去されたマウスの背中にアルダラクリーム(Aldara cream)62.5mgを毎日1回ずつ4日間塗布した。塗布2日目からアルダラクリーム投与3時間前に筆を用いてPBS(20mg/kg)またはHALN-3(0.5、2.5、5mg)を毎日1回ずつ3日間塗布した。5日目にすべてのマウスから皮膚組織と脾臓を採取した。
【0083】
実験例2と同様の方法でPASI点数を採点し、組織染色を行って皮膚の厚さと細胞増殖関連因子(Ki-67およびCD68)および炎症性サイトカイン(IL-23およびIL-17)の発現を測定した。
【0084】
その結果、
図11および12に示すように、HALNを投与した場合には、濃度依存的に皮膚状態が好転し、細胞増殖関連因子および炎症性サイトカインが効果的に抑制されることが確認された。
【0085】
このような結果は、HALNが乾癬のような皮膚炎症疾患を治療するのに効果的であることを示唆する。
【0086】
また、乾癬動物モデルを作製するために、雌C57BL/6Nマウスが用いられた(グループあたり5匹)。正常マウス(CON)と乾癬が誘発されたマウス(IMQ)とに区分した。乾癬を誘発する前に、毛の除去されたマウスの背中に筆を用いてPBS(20mg/kg)またはHALN-3(2、10mg)を毎日2回ずつ3時間間隔で4日間塗布した。薬物を塗布して3時間後、アルダラクリーム(Aldara cream)62.5mgを毎日1回ずつ4日間塗布した。5日目にすべてのマウスから皮膚組織を採取した。
【0087】
実験例2と同様の方法でPASI点数を採点し、組織染色を行って皮膚の厚さと細胞増殖関連因子(Ki-67およびCD68)および炎症性サイトカイン(IL-23およびIL-17)の発現を測定した。
【0088】
その結果、
図13および14に示すように、HALNを投与した場合には、濃度依存的に皮膚状態が好転し、細胞増殖関連因子および炎症性サイトカインが効果的に抑制されることが確認された。
【0089】
このような結果は、HALNが乾癬のような皮膚炎症疾患を予防するのに効果的であることを示唆する。
【0090】
実験例6.HALNの経皮投与による皮膚障壁機能の保護効果
正常マウス(CON)と乾癬が誘発されたマウス(IMQ)とに区分した。乾癬を誘発する前に、毛の除去されたマウスの背中に筆を用いてPBS(20mg/kg)またはHALN-3(2、10mg)を毎日2回ずつ3時間間隔で4日間塗布した。薬物を塗布して3時間後、アルダラクリーム(Aldara cream)62.5mgを毎日1回ずつ4日間塗布した。5日目にすべてのマウスから皮膚組織を採取した。皮膚組織において皮膚障壁機能を示す標識物質(Ceramide、Loricrin、Claudin-1およびS100A9)を免疫染色法で染色した。
【0091】
その結果、
図15に示すように、HALN-3を投与した場合には、濃度依存的に乾癬誘導によって破壊された皮膚障壁機能を復旧させることが確認された。
【0092】
実験例7.HALNの大きさによる大食細胞の分極化抑制効果
ヒト由来単核球であるTHP-1細胞を6ウェルプレート(SPL)に5×105cells/wellで分注すると同時に、PMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)50ng/mlを処理して、37℃、5%CO2培養器で24時間培養した。その後、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum、FBS)が含有された培地(RPMI-1640)に交換した後、追加的に、37℃、5%CO2培養器で24時間培養した。
【0093】
各HALNをLPSとIFNγが含まれた無血清培地(RPMI-1640)で希釈して50μg/mlの濃度にして1mlをTHP-1細胞に処理した後、37℃、5%CO2培養器で4時間培養した。実験が完了した細胞はトリゾール試薬(Trizol reagent)(Molecular Research center)を用いてRNAを分離した後、ナノドロップ(Nanodrop)を用いて260/280 ratio 2.0以上の収率を有するサンプルを分析に使用した。分離されたRNAは逆転写酵素(reverse transcriptase)でcDNA鋳型(template)を合成し、cDNA鋳型を各遺伝子に特異的なヌクレオチドプライマー(下記表1参照)を用いてSYBR-GREENを入れて、Real-Time-Multiplexing Amplification(CFX connetTM、Bio-Rad)で増幅してqPCRを行った。
【0094】
【0095】
その結果、
図16aに示すように、HALN-1~3は、LPSおよびIFNγによって増加したM1大食細胞特異的な遺伝子の発現をすべて減少させ、特に大きさが最も小さいHALN-3がM1大食細胞への分極化を最も効果的に抑制することを確認した。
【0096】
また、HALN-3をLPSとIFNγが含まれた無血清培地(RPMI-1640)で希釈して0、25、50、100μg/mlの濃度にして1mlをTHP-1細胞に処理した後、37℃、5%CO2培養器で48時間培養した。処理の完了した細胞はPBSで1回洗浄した後、細胞分離溶液(Accutase)を用いて細胞培養皿(dish)から離した後、遠心分離して回収された細胞を各FACS tubeあたり5×105細胞ずつ入れた後、反応溶液(PBS、5mM EDTA、2%FBSおよび2%BSA含有)で1回洗浄する。その後、M1大食細胞の標識物質(marker)であるCD86を含む反応溶液を入れて、4℃の暗室条件で1時間反応させた。その後、反応溶液を用いて細胞を3回洗浄後、反応溶液300μlを入れて細胞がかたまらないように分散させた後、フローサイトメーター(Novocyte、Agilent)を用いてAPCの蛍光を測定した。
【0097】
その結果、
図16bに示すように、LPSおよびIFNγによって増加したM1大食細胞のCD86発現量は、HALN-3の濃度に依存的に減少することを確認した。このような結果は、HALN-3がM1大食細胞の分極化を効果的に抑制することを示唆する。
【0098】
実施例2.ヒアルロン酸-コラン酸複合体(HACN)の製造
2-1.コラン酸のアミノ化
5β-コラン酸(5β-cholanic acid、CA)(Sigma Aldrich)1gをメタノール20mLに溶解した後、HCl(12N)180μLを入れて、70℃で8時間還流条件で撹拌した。反応が終了すると、溶媒を減圧蒸留して除去し、生成された固体状態の1次生成物を水で希釈し、沈殿物を減圧濾過して得た後、これを真空状態で乾燥させて、最終的にメチルエステル形態のCAを得た。メチルエステル-CA925mgはエチレンジアミン(TCI)15mLに溶解させた後、130℃で8時間還流条件で撹拌した。反応終了後、エチレンジアミンを減圧蒸留して除去し、生成された2次生成物を水で希釈した後、沈殿した物質を減圧濾過して得た。これを乾燥させて、最終的にアミノ化されたCAを得た。
【0099】
2-2.ヒアルロン酸-コラン酸複合体(HACN)
10kDaのヒアルロン酸(HA)120mg(Lifecore)をホルムアミド(formamide)(Sigma Aldrich)20mLに溶かした。以後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(TCI)とN-ヒドロスクシンイミドを入れて、30分間撹拌してHA混合液を用意した。そして、DS値が3に合ったFeed Ratio量のアミノ化されたCA(29.4mg、0.073mmol)をジメチルホルムアミド5mLに溶かした後、この溶液を点滴してHA混合液に入れた。生成された1次混合物を常温で24時間撹拌した。反応終了後、35K MWCO透析バッグ(snakeskin dialysis bag)(Thermo scientific)を用いて、メタノール単独溶媒で2日、メタノール:蒸留水混合溶媒(v:v=1:1)で1日、蒸留水単独溶媒で2日間透析した。透析が終わった後、反応混合物を50秒間音波処理(sonication)した(10秒作動、1秒休止)。音波処理後、混合物を0.8μmの注射器フィルタで濾過した。濾過した溶液を凍結乾燥して、最終的にヒアルロン酸-コラン酸複合体(HACN)を得た。
【0100】
2-3.HACN特性分析
HACNの化学的特性は600MHzの核磁気共鳴分光法(NMR spectroscopy)実験により分析し、分析時、溶媒は重水素化されたメタノール(deuterated methanol):酸化重水素(deuterium oxide)=1:1(v:v)で測定した。動的光散乱器(Dynamic light scattering、DLS)(ELS-Z、Otsuka)を活用して生成されたHACNの大きさとゼータ電位(Zeta potential)を測定した。測定時には、HACNをPBSに1mg/mLの濃度で溶かして測定した。
【0101】
その結果、
図17に示すように、乾燥したHACNをPBSに分散させると、コラン酸の官能基が互いに凝集して球状に存在した。このようなHACNのDS(CAの置換度)、大きさおよびゼータ電位(ζ)は下記表2の通りである。
【0102】
【0103】
実験例8.HACNの経皮透過能分析
PBSを塗布した正常マウスと乾癬を誘発したマウスの背中皮膚を経皮吸収セルに固定させた後、皮膚組織上にCy5.5-HACN(0.3ml)を塗布した。乾癬は毛の除去されたマウスの背中にアルダラクリーム(Aldara cream)62.5mgを毎日1回ずつ4日間塗布して誘発した。Cy5.5-HACNの塗布後1、4および12時間目に皮膚組織を採取して各組織を4%PFAで固定した後、パラフィンブロックを作製し、0.4umの切片にスライドを作製して組織染色標本を用意した。そして、DAPI染色後、蛍光顕微鏡で皮膚組織を観察した。
【0104】
その結果、
図18に示すように、正常マウス(PBS)の皮膚では、時間が経過するほど、Cy5.5-HACNが皮膚を浸透したことが観察された。乾癬が誘導されたマウス(IMQ)では、正常マウスに比べて同じ時間条件で蛍光強度が強くなり、乾癬皮膚においてHACNの経皮透過能により優れていることを確認した。
【0105】
実験例9.HACNの大食細胞依存的乾癬治療効果
7~8週齢の雌C57BL/6Nマウスにクロドロネートリポソーム(Clodronate liposome)を200μl/匹(1.4mg)で1次腹腔内注射した後、4日目に100μl/匹(0.7mg)で2次腹腔内注射して大食細胞の欠乏を誘導した。1次注射後、翌日に背中部分を除毛した後、1日猶予期間をおいてアルダラクリーム62.5mgを背中に毎日1回ずつ5日間塗布して乾癬皮膚疾患モデルを誘導した。HACNまたはPBSはアルダラクリームを塗布する2時間前に、尾静脈注射で同じ期間投与した(グループあたり5匹)。乾癬誘導の初日と最終日に乾癬誘導部位を写真で残して比較し、毎日各個体のPASI点数を測定してこれを比較した。背中皮膚を切開して4%PFAで固定した後、パラフィンブロックを作製し、4umの厚さに切断して皮膚組織標本スライドを作製した。H&E染色により表皮の厚さを測定し、Ki-67染色により皮膚細胞増殖と炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-23およびIL-17染色により炎症反応の程度を測定した。
【0106】
その結果、
図19~21に示すように、クロドロネートを処理しないグループ(Vehicle)では、HACNがPASI点数および表皮の厚さを減少させ、皮膚細胞増殖および炎症反応を抑制することにより、乾癬治療効果があることが確認された。しかし、クロドロネートを処理したグループでは、大食細胞が欠乏してHACNによる乾癬治療効果が減少した。このような結果は、HACNの乾癬治療効果が大食細胞に依存的であることを示唆する。
【0107】
実験例10.HACNの大食細胞の分極化抑制効果
HALNの代わりにHACN0、10、25、50μg/mlを使用し、表1のプライマーの代わりに下記表3のプライマーを用いたことを除けば、実験例7と同様の方法でqPCRを行った。
【0108】
【0109】
その結果、
図22aに示すように、HACNは、LPSおよびIFNγによって増加したM1大食細胞特異的な遺伝子の発現を濃度依存的にすべて減少させて、HACNがTHP-1大食細胞の分極化を抑制することを確認した。
【0110】
また、HALNの代わりにHACN0、10、25、50μg/mlを用いることを除けば、実験例7と同様の方法でAPC蛍光を測定した。
【0111】
その結果、
図22bに示すように、LPSおよびIFNγによって増加したM1大食細胞のCD86発現量は、HACNの濃度に依存的に減少することを確認した。このような結果は、HACNがM1大食細胞の分極化を効果的に抑制することを示唆する。
【0112】
実験例11.HACNとTLR4の相互作用分析
11-1.表面プラズモン共鳴法(Surface plasmon resonance、SPR)
分析チップにターゲット受容体を固定するために、EDC/NHS溶媒を流すと同時に、組換え(Recombinant)TLR4を一緒に流すことにより、受容体をチップ上に固定させた。その後、エタノールアミンを流してチップに弱く固定されていたり、あるいは固定できない受容体を除去した。完成した組換えTLR4が結合したチップ上にそれぞれPBSと、PBSを溶媒として用いたHACNと10kDa free HAをそれぞれ0、25、50、100、200、400、800μg/mlの濃度で10μl/minずつ流し、120秒間RU(Response unit)値の変化を観察した。
【0113】
その結果、
図23に示すように、HACNの濃度増加に伴ってRU値が一緒に増加することを確認することができ、これによりTLR4とHACNとが互いに相互作用することを確認することができた。これに対し、対照群として用いられたPBSまたは10kDa free HAのみを流したグループでは、HACNグループから確認されたRU値の増加が確認されなかった。したがって、TLR4との結合はHACNの固有の特徴であることが分かる。
【0114】
11-2.蛍光細胞分析法
THP-1細胞を35mmの細胞培養皿(cell culture dish)(SPL)に細胞数が5×105となるように分注し、同時にPMA50ng/mlを処理して、37℃、5%CO2培養器で24時間培養した。その後、10%FBSが含有された培地(RPMI-1640)に交換した後、追加的に、37℃、5%CO2培養器で24時間培養した。HACNと10kDa free HAを無血清培地(RPMI-1640)で希釈して、それぞれ0、10、25、50μg/mlの濃度にして用意した。用意された希釈溶液1mlを細胞に処理した後、37℃、5%CO2培養器で1時間培養した。その後、細胞培養液に蛍光物質のCy5.5が結合したLPS(Cy5.5-labled LPS)とHACNを追加的に1ml処理した後、37℃、5%CO2培養器で30分間追加的に培養した。実験完了した細胞は冷たいPBSで洗浄した後、4%PFAで固定した。固定完了した細胞は蛍光顕微鏡を用いて傾向性を分析した。
【0115】
その結果、
図24に示すように、THP-1大食細胞においてCy5.5-labled LPSの結合はHACNの濃度に依存的に減少するが、10kDa free HAによっては減少しなかった。このような結果は、HACNがLPSと競合的にTLR4に結合してLPSによるTLR4の活性化を抑制することを示唆する。
【0116】
実施例3.ヒアルロン酸-コレステロール複合体(HACHN)の製造
3-1.コレステロールのアミノ化
コレステロール(cholesterol、Sigma Aldrich)1g、N-Boc-グリシン(N-Boc-glycine、Alfa aesar)544mg、DCC(N,N’-Dicyclohexylcarbodiimide、Sigma Aldrich)640mg、DMAP(4-(Dimethylamino)pyridine、Alfa aesar)47.4mgをジクロロメタン25mLに溶解した後、25℃で24時間撹拌した。反応が終了した後、真空状態で乾燥させて、液相クロマトグラフィー(ヘキサン:エチルアセテート=1:10)で分離した。これを乾燥させて、最終的にBoc-Gly-コレステロールを得た。次に、Boc-Gly-コレステロール1.09gをジクロロメタン20mLに溶解した後、4N塩酸1,4-ジオキサン溶液5mLを添加して、25℃で1時間撹拌した。反応が終了した後、真空状態で乾燥させて、最終的にアミノ化されたコレステロールを得た。
【0117】
3-2.ヒアルロン酸-コレステロール複合体(HACHN)
10kDaのヒアルロン酸(HA)120mg(Lifecore Biomedical)をホルムアミド(formamide、Sigma Aldrich)20mLに溶かした。以後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(TCI)とN-ヒドロスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide、Sigma Aldrich)を入れて、それぞれ20分間撹拌してHA混合液を用意した。そして、DS値が2に合ったFeed Ratio量のアミノ化されたコレステロール(70.1mg、0.146mmol)をジメチルホルムアミド5mLにトリエチルアミン(Triethylamine、TCI)と一緒に溶かした後、この溶液を点滴してHA混合液に入れた。生成された1次混合物を常温で24時間撹拌した。反応終了後、3.5K MWCO透析バッグ(snakeskin dialysis bag、Thermo scientific)を用いて、メタノール単独溶媒で2日、メタノール:蒸留水混合溶媒(v:v=1:1)で1日、蒸留水単独溶媒で2日間透析した。透析が終わった後、反応混合物を50秒間音波処理(sonication)した(10秒作動、1秒休止)。音波処理後、混合物を0.8μmの注射器フィルタで濾過した。濾過した溶液を凍結乾燥して、最終的にヒアルロン酸-コレステロール複合体(HA-Cholesterol、HACHN)を得た。
【0118】
3-3.HACHN特性分析
HACHNの1H NMR(Nuclear Magnetic Resonance)spectraは600MHzの核磁気共鳴分光器(JNM-ECZ 600R、JEOL)実験により分析し、分析時、溶媒は重水素化されたメタノール(METHANOL-D6):酸化重水素(DEUTERIUM OXIDE)=1:1(v:v)で測定した。動的光散乱器(ELS-Z、Otsuka)を活用して生成されたHACHNの大きさとゼータ電位(Zeta potential)を測定した。測定時には、HACHNをPBSに1mg/mLの濃度で溶かして測定した。その結果、乾燥したHACHNをPBSに分散させると、コレステロールの官能基が互いに凝集して球状に存在した。このようなHACHNのDS(Cholesterolの置換度)、大きさおよびゼータ電位(ζ)は下記表4の通りである。
【0119】
【0120】
実験例12.HACHNを含む様々な種類のヒアルロン酸複合体の皮膚疾患治療効果分析
雌C57BL/6Nマウス28匹を、正常マウス(CON)と乾癬が誘発されたマウス(IMQ)とに区分した。試薬としてアルダラクリーム、PBS、HALN、10k-HALN、10k-HACN、10k-HACHNを下記のように用意した。
HALN:分子量60kDaのヒアルロン酸+リソコール酸(リトコール酸)
10k-HALN:分子量10kDaのヒアルロン酸+リソコール酸
10k-HACN:分子量10kDaのヒアルロン酸+コラン酸
10k-HACHN:分子量10kDaのヒアルロン酸+コレステロール
【0121】
乾癬を誘発するために、対照群(CON)を除いた各グループのマウスにアルダラクリームを62.5mgずつ毎日1回ずつ4日間塗布した。この時、アルダラクリームを塗布する6時間前に各グループのマウスに当該薬物を背中皮膚に筆を用いて塗布し、HAナノ粒子複合体はPBSに溶かした後、2mgを塗布した。5日目にすべてのマウスから皮膚組織を得て分析した。
【0122】
分析方法としては、Score方法として「0、none;1、slight;2、moderate;3、substantial;および4、very well pronounced」のPsoriasis Area and Severity Index(PASI)分析方法に従い、組織染色方法としては、組織を固定およびエンベディング(embedding)して0.4μmにセクションの後、ヘマトキシリン、エオシン、そしてDAB染色キットと抗体を用いて染色し分析した。Intensity測定方法は、[Image J]プログラムとLeica DMi8 fluorescence microscopeを用いて分析し、各組織の3つの部分のイメージ値の平均を用いた。
【0123】
その結果、
図25および26のように、他の種類の疎水性物質が結合したヒアルロン酸複合体をそれぞれ適用した群においてすべて、PASI score、皮膚の厚さ、皮膚細胞増殖および炎症反応を減少させて皮膚疾患の効果があることが確認された。
【0124】
まとめると、本発明によるヒアルロン酸と疎水性物質とが結合したヒアルロン酸複合体は、ヒアルロン酸分解酵素に強い抵抗性および経皮透過能を有し、特に、複合体の大きさが小さいほど、経皮透過能に優れ、皮膚障壁機能の保護または回復、細胞増殖関連因子および炎症性サイトカインの発現抑制、M1大食細胞の分極化抑制に対する優れた効果とTLR4シグナル伝達を遮断する作用により、乾癬、悪性黒色腫、細菌性および真菌性炎症、自己免疫疾患などの多様な皮膚疾患を予防または治療するのに効果的であることが分かる。
【0125】
これまで本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は、限定的な観点ではなく説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれると解釈されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、ヒアルロン酸複合体を有効成分として含む皮膚疾患の予防または治療用薬学組成物に関し、多様な皮膚疾患治療剤として活用可能であり、産業上の利用可能性がある。
【配列表】
【国際調査報告】