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特表2024-519934包装材料として使用するためのコート紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】包装材料として使用するためのコート紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/18 20060101AFI20240514BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240514BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20240514BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
D21H19/18
B65D65/40 D
D21H19/82
D21H19/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572008
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2022063599
(87)【国際公開番号】W WO2022243445
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/063645
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511100969
【氏名又は名称】ネーナー・ゲスナー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・レブサンフト
(72)【発明者】
【氏名】アルミン・ニーダーフーバー
(72)【発明者】
【氏名】シモン・グラヴォ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・カール
【テーマコード(参考)】
3E086
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA24
3E086BB02
3E086BB52
3E086BB85
3E086DA08
4L055AG04
4L055AG27
4L055AG34
4L055AG40
4L055AG44
4L055AG45
4L055AG47
4L055AG51
4L055AG82
4L055AG97
4L055AH02
4L055AH10
4L055AH36
4L055BE08
4L055EA08
4L055EA14
4L055EA20
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA30
4L055GA05
4L055GA19
(57)【要約】
本発明は、セルロース層と、セルロース層の少なくとも片面上のコーティングとを含む、好ましくはヒートシール可能なコート紙であって、コーティングが、ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーとを含むコート紙、並びにコート紙を含む包装、並びにコート紙の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース層と、
前記セルロース層の少なくとも片面上のコーティングと
を含むコート紙であって、
前記コーティングが、
ワックスと、
ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーと
を含む、コート紙。
【請求項2】
前記コーティングが、第1のコーティング層及び第2のコーティング層を含み、
前記第1のコーティング層が、前記ワックス及びフィラーを含み
前記第2のコーティング層が、前記ワックス及び前記ポリマーを含む、請求項1に記載のコート紙。
【請求項3】
前記フィラーが、無機フィラーである、請求項2に記載のコート紙。
【請求項4】
前記第1のコーティング層が、前記第1のコーティング層の坪量に対して50~98質量%、好ましくは60~95質量%、最も好ましくは70~95質量%のフィラーを含む、請求項2又は3に記載のコート紙。
【請求項5】
前記無機フィラーがカオリナイトである、請求項3又は4に記載のコート紙。
【請求項6】
前記第1のコーティング層が、サトウキビワックス及びカオリナイトを含む、請求項2から5のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項7】
前記第1のコーティング層の坪量が1~7g/m2であり、前記第2のコーティング層の坪量が3~10g/m2である、請求項2から6のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項8】
前記ワックスが植物性ワックスである、請求項1から7のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項9】
前記植物性ワックスが、キャンデリラワックス、カルナバワックス、米糠ワックス、大豆ワックス、サトウキビワックス及びヒマワリワックスからなる群から選択される1種以上である、請求項8に記載のコート紙。
【請求項10】
前記ポリマーが、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンスクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、及びポリ乳酸-ポリエチレングリコールからなる群から選択されるポリエステルである、請求項1から9のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項11】
前記ポリマーが熱可塑性デンプンである、請求項1から10のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項12】
前記ポリマーが、ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリ乳酸-ポリエチレングリコールブロックコポリマー、及び熱可塑性デンプンからなる群から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項13】
前記コーティングが、少なくとも1つの添加剤を更に含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項14】
前記添加剤がレオロジー調整剤及び軟化剤の少なくとも1つである、請求項13に記載のコート紙。
【請求項15】
前記軟化剤がグリセリンである、請求項14に記載のコート紙。
【請求項16】
前記レオロジー調整剤が、セルロース、デンプン又はそれらの誘導体である、請求項14又は15に記載のコート紙。
【請求項17】
前記コーティングが、10~90質量%の前記ワックス及び10~90質量%の前記ポリマーを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項18】
前記ワックスが60℃~120℃の範囲の滴点を有する、請求項1から17のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項19】
前記ポリマーが60℃~180℃の範囲の融点を有する、請求項1から18のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項20】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーである、請求項1から19のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項21】
前記ポリマーがバイオマスベースポリマーである、請求項1から20のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項22】
ヒートシール可能である、請求項1から21のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項23】
生分解性である、請求項1から22のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項24】
石油系合成ポリマーを含まない、請求項1から23のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項25】
前記セルロース層の片面のコーティングの坪量が、1~25g/m2、好ましくは3~20g/m2、より好ましくは4~15g/m2である、請求項1から24のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項26】
前記セルロース層が、20~100g/m2、好ましくは30~70g/m2の坪量を有する、請求項1から25のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項27】
21~125g/m2、好ましくは33~90g/m2、最も好ましくは40~80g/m2の坪量を有する、請求項1から26のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項28】
伸長性である、請求項1から27のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項29】
クレープ加工されている、請求項1から28のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項30】
前記セルロース層が含浸されている、請求項1から29のいずれか一項に記載のコート紙。
【請求項31】
請求項1から30のいずれか一項に記載のコート紙を含む包装。
【請求項32】
セルロース層を提供する工程、
ワックス及びフィラーを含む第1のコーティング組成物の水性分散体又はエマルジョンを、前記セルロース層の少なくとも一方の表面に塗布して、第1のコーティングを形成する工程、
前記第1のコーティングを乾燥して、第1のコーティング層を形成し、ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル、及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーとを含む第2のコーティング組成物の水性分散体又はエマルジョンを前記第1のコーティング層に塗布して、前記ワックスと前記ポリマーとを含む第2のコーティングを形成する工程、並びに
前記第2のコーティングを乾燥させて、第2のコーティング層を形成する工程
を含む、コート紙の製造方法。
【請求項33】
前記セルロース層が、コーティング前に、前記セルロース層を縦方向に圧縮して、伸長性セルロース層を提供する工程に付される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記セルロース層が、クレープ加工する工程に付されることによって縦方向に圧縮される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記セルロース層をクレープ加工する工程において、前記セルロース層が、クレープシリンダー上を移動している状態でドクターブレードにより剥がされ、前記ドクターブレードの表面を通過して移送装置に送られ、前記クレープ加工が、前記移送装置の速度を前記クレープシリンダーに対して10~50%遅らせることにより制御される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記セルロース層を縦方向に圧縮する工程が、シリンダー、ニップバー、前記シリンダーと前記ニップバーとの間の隙間、及び前記隙間に配置されたゴムバンドを含むClupak伸長ユニットで行われる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記コーティングを形成する工程において、前記第1及び第2のコーティング組成物の水性分散体又はエマルジョンの各々が、前記セルロース層の両面に塗布される、請求項32から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記コーティングを形成する工程において、前記コーティング組成物の水性分散体又はエマルジョンが、前記セルロース層の片面のみに塗布される、請求項32から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記セルロース層の少なくとも片面が、コーティングの前に、含浸の工程に付される、請求項32から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記セルロース層が、ワックス、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル、多糖エーテルエステル、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、軟化剤及び無機フィラーからなる群から選択される少なくとも1つの化合物で含浸される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記コート紙が、請求項1から30のいずれか一項に記載のコート紙である、請求項32から40のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コート紙、コート紙を含む包装及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、その低コストと耐久性により、様々な工業製品を製造するための主要な材料となっている。単回使用プラスチック(使い捨てプラスチック)は、一度だけ使用され、廃棄される。包装材料は従来、使い捨てプラスチックで作られていた。プラスチックの生産量を減らすため、使い捨てプラスチックの禁止が提案されている。
【0003】
プラスチックフィルムを包装材料として使用することは、対象物の外形に合わせて折り曲げてヒートシールできる点で有利であると考えられていた。
【0004】
プラスチックフィルムをコート紙に置き換えることが提案されている。しかし、十分なヒートシール性と所望の疎水性及びバリア性を得るために、そのようなコート紙のコーティングは、様々な生態学的に望ましくない成分を含んでおり、従来のコート紙は持続可能ではない工業製品となっている。
【0005】
欧州特許出願公開第2777 934(A1)号は、紙基材上に配置された複数のコーティング層を含む紙ベースのバリア包装材料に関し、複数のコーティング層は、紙基材上の水蒸気バリア層と、水蒸気バリア層上に形成されたガスバリア層とを含む。これらの各コーティング層には、バインダー樹脂として水溶性又は水懸濁性のポリマーが使用されている。水蒸気バリア層のバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アクリルコポリマー系樹脂等を挙げることができる。
【0006】
国際公開第94/25511(A1)号は、少なくとも一方の表面にコーティング層を有する基材層を含む複合体シートに関し、前記コーティング層の離れた表面は、その上に可撓性の付着層を有する。付着層はスチレン-ブタジエンコポリマーを含む。複合体シートは、特に、好ましくはポリエチレンのヒートシール可能な層にラミネートされた場合に、包装用フィルムとして使用するのに適していることが記載されている。
【0007】
国際公開第2016/170229(A1)号は、ベース板紙と、少なくとも第1のプレコート層と、少なくともベース板紙の第1の表面上の少なくとも2つの連続するコーティング層とを含む被覆板紙を対象とし、第1のプレコート層は、少なくとも無機鉱物フィラー粒子とバインダーとを含み、バリア性を有する第2のバリアコーティング層が第1のプレコート層の上に配置され、第3のヒートシール可能なコーティング層が第2のコーティング層の上に配置され、第3のコーティング層は、ヒートシール可能なポリマー、好ましくはスチレン-ブタジエンラテックスを含む。
【0008】
国際公開第2016/183314(A1)号は、表面処理された水性ベースのポリマーコーティングを有するセルロースベースの基材を含むコーティング基材に関する。いくつかの実施形態では、水性ベースのポリマーコーティングは、コロナ処理を用いて表面処理される。第1の水性ベースポリマーコーティングは、好ましくは、純粋なアクリルコポリマー、スチレン-アクリルコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、ビニルアクリルコポリマー、又はそれらの組み合わせを含む。
【0009】
国際公開第2020/216961(A1)号は、セルロース層と、セルロース層の少なくとも片面上の少なくともコーティングとを含むヒートシール可能なコート紙であって、コーティングがスチレン-ブタジエンコポリマーを含むコート紙、コート紙を含む包装、並びにコート紙の製造方法に関する。国際公開第2020/216961(A1)号のコート紙は、ワックスを含んでいてもよく、クレープ加工されていてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2777 934(A1)号
【特許文献2】国際公開第94/25511(A1)号
【特許文献3】国際公開第2016/170229(A1)号
【特許文献4】国際公開第2016/183314(A1)号
【特許文献5】国際公開第2020/216961(A1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、より持続可能で、より環境に優しいヒートシール可能なコート紙が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、使い捨て包装として使用することができ、良好な加工性(すなわち、容易に折り曲げることができる)を有し、抄紙機で製造することができる、環境に優しいコート紙を提供することである。コート紙は、好ましくはヒートシール可能である。
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーとを含むコーティングを使用することにより、優れた疎水性、バリア性、加工性及びヒートシール性を達成できることを見出した。
【0014】
本発明のコート紙のコーティングにより、スチレン-ブタジエンコポリマーやスチレン-アクリルコポリマー等の炭素のみの骨格を有する従来使用されているコポリマーを完全に置き換えることができる。スチレン-ブタジエンコポリマーやスチレン-アクリルコポリマー等の従来から使用されているヒートシール可能なコポリマーの代わりに、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーをコーティングに使用した場合、驚くべきことに、優れた疎水性、バリア性、加工性及びヒートシール性が維持される。
【0015】
本コート紙のヒートシール性により、本コート紙は、プラスチック包装に使用されるのと同じ機械で使用するのに適している。したがって、包装業界では、使い捨てプラスチックから、より環境に優しく、より持続可能な本発明のヒートシール可能なコート紙への移行は、追加投資を必要としない。
【0016】
標準的なコート紙と比較した本発明のコート紙の更なる利点は、コーティングが再生可能な資源から製造できることである。
【0017】
したがって、本発明は、プラスチック包装や従来のコート紙包装材料に代わる、環境に優しい代替品を提供する。
【0018】
ヒートシール機能は、最新のコーティング機を使用したコーティングプロセスで達成される。更に、本コート紙は既存のフォーム包装ライン、フィル包装ライン、シール包装ラインでも優れた性能を発揮する。
【0019】
標準的な紙と比較した本発明のコート紙の更なる利点は、包装のシールラインに追加の接着剤を塗布する必要がないことである。このことは、製造コストの削減につながる(すなわち、より単純な装置)。
【0020】
本発明によるコート紙は、添付の特許請求の範囲に記載されているようなコーティングを有し、家庭用品や食品等の様々な製品の包装として使用することができる。
【0021】
本発明はまた、本発明によるコート紙の製造方法及び本発明によるコート紙を含む包装にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
コート紙
第1の態様によれば、本発明は、セルロース層と、セルロース層の少なくとも片面上のコーティングとを含む(又はそれらからなる)、コーティングされた、好ましくはヒートシール可能な紙を提供し、コーティングは、ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択される、好ましくは熱可塑性のポリマーとを含む。本発明によるコート紙は、好ましくは生分解性である。
【0023】
本発明の第1の態様によるコート紙の好ましい実施形態は、従属請求項の対象となる。
【0024】
本発明のコート紙がセルロース層の片面のみにコーティングされている場合、コーティングされていないセルロース層の他方の面は、包装材料について一般的に知られている標準的な印刷方法を用いて容易に印刷することができる。したがって、本発明のコート紙は、印刷ラップ製品や包装袋等の印刷包装材料の製造に適している。
【0025】
本発明のコート紙が、セルロース層の一方の側のみに、ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーとを含むコーティングでコーティングされる場合、セルロース層の他方の側は、その後、異なるコーティング組成物でコーティングされてもよい。特に、ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーとでコーティングされていないセルロース層の側は、バリア層又は印刷可能層が形成されるように、異なるコーティングを有してもよい。バリア層は、酸素、油脂の少なくとも1つに対して良好なバリア性を有する層であってもよい。
【0026】
コーティング
本発明の意味における「コーティング」とは、セルロース層の表面に形成されるフィルムのことである。コーティングは、好ましくはセルロース層の表面上のポリマーベースのフィルムであり、より好ましくはポリマーベースの付着フィルムであり、最も好ましくはセルロース層の少なくとも片面の全表面を覆う連続フィルムである。すなわち、好ましくは、本発明によるコート紙において、セルロース層の繊維は外部に露出しない。コーティングは、コート紙をそれ自体又は別の材料、特に本発明による別のコート紙にヒートシールすることによって結合することができ、したがって更なる接着剤の必要性を回避することができる。
【0027】
ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーとを含むコーティングは、他のコーティングと比較して多くの利点を示し、これらは以下の説明から明らかになるであろう。
【0028】
本発明で使用されるコーティングは、室温では粘着性がなく、好ましくは100~250℃、より好ましくは150~200℃の温度でのみシールすることになる。このコーティングは、セルロース層上のコーティング量が非常に少なくても優れたヒートシール性を示すため、この用途に特に適している。
【0029】
コーティングは良好な水蒸気バリア性を示す。より詳細には、本発明のコート紙は、200グラム/m2・日(g/(m2・d))未満、好ましくは150g/(m2・d)未満、より好ましくは100g/(m2・d)未満の水蒸気透過率(MVTR)を有する。水蒸気透過率は、ISO 15106-3: 2003-01に従って、相対湿度50%、温度23℃で測定される。
【0030】
石油ベースの合成材料を含む従来のコーティングとは対照的に、本発明のコート紙のコーティングは、再生可能な材料から作製することができ、これによりコート紙の持続可能性が向上する。
【0031】
より詳細には、本発明のコーティング中のワックス、並びにポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーは、再生可能な資源から製造することができる。ワックスは植物性ワックスでも動物性ワックスでもよく、ポリマーはバイオマスベースポリマーでもよい。本発明の意味におけるバイオマスベースポリマーは、バイオマスから製造されたポリマーである。
【0032】
特に好ましい実施形態では、コーティングは第1のコーティング層及び第2のコーティング層を含み、第1のコーティング層はワックス及びフィラーを含み、第2のコーティング層はワックス及びポリマーを含む。
【0033】
第1のコーティング層は、セルロース層と第2のコーティング層との間の接着を向上させる。更に、第1のコーティング層を使用することにより、コート紙の機械的特性を劣化させることなく、ポリマーを含む第2のコーティング層のコーティング質量を低減することができる。したがって、石油ベースの合成材料である可能性のあるポリマーの量を減らすことができる。その結果、再生可能な材料の割合が増加し、より環境に優しく、より持続可能なコート紙を得ることができる。その良好な機械的特性により、第1のコーティング層及び第2のコーティング層を含むコート紙は、包装材料としての使用に適している。更に、コート紙中の比較的高価なポリマーの割合を減らすことにより、製造コストを低減することができる。
【0034】
ワックスとフィラーとを含む第1のコーティング層を使用することにより、コート紙の引裂抵抗が更に向上する。したがって、コート紙の機械的安定性を更に向上させることができる。更に、ワックス及びフィラーを含む第1のコーティング層を使用することにより、水蒸気バリア性を向上させることができる。
【0035】
バイオマス
本発明の意味における「バイオマス」という用語は、あらゆる種類の動植物材料及びそれらに由来する材料を包含するものとして広く理解される。好ましい実施形態では、本明細書で意味するバイオマスは、石油又は石油由来の製品を含まないものとする。本発明で使用するためのバイオマスは、高分子化合物を含み得、その例としては、リグニン、及びデンプン、セルロース、一般にポリオースとも呼ばれるヘミセルロース、及びグリコーゲン等の多糖類が挙げられる。
【0036】
理解されるように、ある種のバイオマスには、植物及び動物由来の材料の両方が含まれる場合がある。例として、糞尿(糞)、屎尿、下水汚泥を挙げることができる。本発明で使用するバイオマスは、好ましくは植物バイオマス、すなわち植物のバイオマス又は植物に由来するバイオマスであるが、動物バイオマス(すなわち動物のバイオマス又は動物に由来するバイオマス)の特定の含有量がその中に存在してもよい。例えば、バイオマスは、最大30%の動物バイオマスを含み得る。好ましい実施形態では、好ましくは植物バイオマスである、本発明で使用するためのバイオマスは、バイオマスの固形分に換算して70質量%超、最も好ましくは90質量%超の多糖類及びリグニンを含む。
【0037】
例えば、植物バイオマスは、農業植物材料(例えば、農業廃棄物)又はあらゆる種類の木材材料であってもよい。
【0038】
限定されないが、バイオマスの例としては、作物、農作物食品及び廃棄物、飼料作物残渣、木材(木粉、木屑、廃材、おがくず、チップ及び廃棄物等)、わら(稲わらを含む)、草、葉、籾殻、及びバガスが挙げられる。更に、古紙を含む産業廃棄物及び都市廃棄物も例示することができる。
【0039】
本明細書で使用される「バイオマス」という用語は、好ましくは、グルコース、リボース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、フコース、ラムノース等の単糖、並びにオリゴ糖も含む。
【0040】
生分解性
動植物性ワックスは、通常、生分解性で毒性がないので、動植物性ワックスを含むコーティングは、より環境に優しい。ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーは、生分解性であってもよい。
【0041】
本発明の意味における生分解性成分とは、細菌や真菌等の生物によって分解可能な成分である。したがって、生分解性成分は、酸素の有無にかかわらず、細菌又は真菌等の微生物の作用によって分解され得る。より詳細には、本発明の意味における生分解性成分は、好ましくは、国際工業規格ISO 17088、EN 13432、EN 14995及びASTM 6400の少なくとも1つの要件を満たす。
【0042】
上記の点からみて、本発明の第1の態様によるコート紙のコーティングは、コート紙の資源の持続可能性及びその二酸化炭素排出量を改善し、コート紙をより環境に優しいものにする。したがって、より環境に優しく、より持続可能な包装材料を得ることができる。
【0043】
ポリマー
セルロース層の少なくとも片面のコーティングは、ポリエステル、多糖類、多糖エーテル、多糖エステル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーを含む。ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーは、好ましくは良好なヒートシール性を示す。
【0044】
驚くべきことに、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーの使用により、スチレン-ブタジエンコポリマー又はスチレン-アクリルコポリマー等の炭素のみの骨格を有する従来使用されているコポリマーを完全に置き換えることができ、同時にコーティングの良好なヒートシール性を維持することができる。ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルは、バイオマスから製造することができる。したがって、本発明で使用するコーティングでは、従来の石油由来のヒートシール可能なポリマーを、バイオマスから製造できるポリマーで完全に置き換えることができる。したがって、良好なヒートシール性を示す持続可能で環境に優しいコート紙を得ることができる。
【0045】
ポリマーは、好ましくは熱可塑性ポリマーである。ポリマーが熱可塑性ポリマーであれば、ヒートシール性が更に向上する。
【0046】
ポリマーは、好ましくは融点が60~200℃、より好ましくは100~180℃、最も好ましくは110~180℃の範囲にある熱可塑性ポリマーである。本発明のコート紙のコーティングが、60~200℃の範囲の融点を有する熱可塑性ポリマーを含む場合、コート紙のヒートシール性が向上する。本発明のコート紙のコーティングが、100~180℃の範囲の融点を有する熱可塑性ポリマーを含む場合、ヒートシール性は更に改善される。
【0047】
更に、好ましくは、ポリマーはバイオマスベースポリマーであるため、コート紙はより持続可能で環境に優しい。
【0048】
ポリエステルは、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンスクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、及びポリ乳酸-ポリエチレングリコールからなる群から選択することができる。
【0049】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、ヒドロキシアルカン酸のポリエステルである。ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は熱可塑性である。ホモポリエステルでもコポリエステルでもよく、化学組成、すなわち含有されるヒドロキシアルカン酸によって特性が異なる。
【0050】
PHAは、ポリ(3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシヘキサノネート)、ポリ(3-ヒドロキシヘプタノネート)、ポリ(3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシドデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシテトラデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシペンタデカノエート)、及びポリ(3-ヒドロキシヘキサデカノエート)からなる群から選択される1種以上のポリエステルであってもよい。PHAはまた、2種以上のヒドロキシアルカン酸の共重合から得られる1種以上のコポリエステルであってもよい。より詳細には、PHAコポリエステルは、ポリ(3-ヒドロキシプロピオネート-co-3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシプロピオネート-co-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0051】
PHAは、好ましくは、ポリ(3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)からなる群から選択される1種以上のポリエステルである。PHAは、最も好ましくはポリ(3-ヒドロキシブチレート)である。
【0052】
ポリブチレンアジペートテレフタレートは、好ましくはブロックコポリマーである。ポリ乳酸-ポリエチレングリコールは、好ましくはブロックコポリマーである。
【0053】
多糖類は、デンプン、セルロース、アラビノキシラン、キチン及びペクチンからなる群から選択される1種以上であってもよい。多糖類は、好ましくはデンプン又はセルロースである。
【0054】
多糖類の熱可塑特性を向上させるために、多糖類に可塑剤を添加してもよい。このようにして、多糖類と可塑剤とを含む熱可塑性多糖類が得られる。
【0055】
可塑剤は、多価アルコール、ジオール、多価アルコールのエステル及びモノ-、ジ-又はポリカルボン酸の脂肪族エステルからなる群から選択される1種以上の化合物であってもよい。可塑剤は、好ましくは多価アルコール又はジオールであり、最も好ましくはグリセロール、グリコール、及びソルビトールから選択される1種以上の化合物である。グリセリンは、植物グリセリン(VG)であってもよい。植物グリセリンとは、大豆油、ココナッツ油、パーム油等の植物油から得られるグリセリンである。
【0056】
熱可塑性多糖類は、好ましくはデンプン及びセルロースの少なくとも一方を含む。言い換えれば、熱可塑性多糖類は、好ましくは熱可塑性デンプン、熱可塑性セルロース又はそれらの組み合わせであり、より好ましくは熱可塑性デンプンである。熱可塑性デンプンは、好ましくは、グリセロール、グリコール及びソルビトールからなる群から選択される1種以上の可塑剤を含む。
【0057】
本発明で使用されるポリマーはまた、多糖エーテル、多糖エステル又は多糖エーテルエステルであってもよい。
【0058】
多糖エーテルは、好ましくはセルロースエーテルである。多糖エーテルは、より好ましくは、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースである。多糖エーテルは、最も好ましくはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースである。
【0059】
多糖エステルは、酢酸セルロース等のセルロースエステルであってもよい。
【0060】
多糖エーテルエステルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート及びカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート等のセルロースエーテルエステルであってもよい。
【0061】
ポリマーは、最も好ましくは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ乳酸、ポリ乳酸-ポリエチレングリコールブロックコポリマー、ポリブチレンアジペートテレフタレート及び熱可塑性デンプンからなる群から選択される1種以上である。
【0062】
本発明で使用されるコーティングは、コーティングの総質量を基準にして、10~90質量%のポリマー、好ましくは20~90質量%のポリマー、より好ましくは40~90質量%のポリマー、更により好ましくは60~90質量%のポリマー、最も好ましくは60~80質量%のポリマーを含み得る。セルロース層に10~90質量%のポリマーを含むコーティングを施した場合、驚くべきことに、スチレン-ブタジエンコポリマー等の石油系ポリマーでコーティングしたコート紙に匹敵する良好なヒートシール性が得られることが見出された。ヒートシール性は、セルロース層上のコーティングが60~90質量%のポリマーを含む場合に特に良好である。
【0063】
本発明によるコート紙は、好ましくは石油系ポリマーを含まない。
【0064】
ワックス
セルロース層の少なくとも片面上のコーティングは、ワックスを含む。
【0065】
ワックスを含むセルロース層上のコーティングにより、コート紙の疎水性の向上、滑り性の向上、非研磨性の向上がもたらされる。このようなコーティングはまた、水性コーティング系における表面及びバリア特性を向上させる。
【0066】
ワックスは、好ましくは植物性ワックス又は動物性ワックスであり、より好ましくは植物性ワックスである。
【0067】
動物性ワックスは、典型的には、種々の脂肪酸及びカルボン酸アルコールから誘導されるワックスエステルからなる。動物性ワックスは、昆虫分泌ワックス、鯨蝋及びラノリンの群から選択されるワックスであってもよい。
【0068】
昆虫ワックスは、好ましくはビーズワックスである。ビーズワックスの主成分は、トリアコンタノールとパルミチン酸のエステルであるパルミチン酸ミリシルである。ビーズワックスの融点は、60~65℃の範囲である。鯨蝋は、マッコウクジラの頭脂に多量に含まれる。鯨蝋は、パルミチン酸セチルを主成分とする。ラノリンは羊毛から得られるワックスで、ステロールのエステルを含む。
【0069】
植物性ワックスは、炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、酸、及びこれらの組み合わせの複雑な混合物であり、表皮細胞の外側の層に沈着する。植物性ワックスは、一般的に植物の外表面の非晶質層にみられる撥水性の成分である。本発明の意味における植物性ワックスは、水素化等の化学反応によって植物性油又は植物油から得られるワックスも含む。
【0070】
植物性ワックスは、より好ましくは、キャンデリラワックス、カルナバワックス、米糠ワックス、大豆ワックス、サトウキビワックス及びヒマワリワックスからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0071】
コーティングは、第1のコーティング層及び第2のコーティング層を含み得、第1のコーティング層は、ワックス及びフィラーを含み、第2のコーティング層は、ワックス及びポリマーを含む。この場合、第1のコーティング層は、好ましくは植物性ワックスとしてサトウキビワックスを含み、更により好ましくは植物性ワックスとしてサトウキビワックスとフィラーとしてカオリナイトを含む。
【0072】
キャンデリラワックスは、主に植物ユーフォルビア・アンティシフィリティカ ツッカリーニ(Euphorbia antisyphilitica Zuccarini)の葉から得られる。未精製のキャンデリラワックスは、約40~45質量%の炭化水素、35~45質量%のワックス、樹脂、シトステロールエステル、5~10質量%の遊離ワックスと樹脂酸、4~8質量%のラクトン、2~8質量%の遊離ワックスと樹脂アルコールを含む。
【0073】
カルナバワックスはカルナバワックスヤシとしても知られているブラジル産のヤシ、コペルニシア・セリフェラ マルティウス(Copernicia cerifera Martius)から主に得られる。カルナバワックスはヤシの葉の上面と下面に含まれている。カルナバワックスは未エステル化アルコール、x-ヒドロキシエステル、ヒドロキシ化桂皮酸エステルを多く含む。カルナバワックスは最も硬い植物性ワックスの1つであり、融解温度は約80℃である。
【0074】
米糠ワックスは、米、オリザ・サティバ(Oryza sativa)の殻に含まれるもう1つの高融点ワックスである。米糠油の脱ワックスから副産物として得られる。米糠ワックスの主成分は偶数脂肪族酸と高級アルコールのエステルである。他の構成成分には、遊離脂肪酸(パルミチン酸)、リン脂質、フィトステロール、スクアレンが含まれる。米糠ワックスの炭化水素含有量は通常2質量%と低い。
【0075】
ヒマワリワックスは、ヘリアンサス・アナス(Helianthus annuus)(ヒマワリ)の種子と種子の殻に含まれる。ヒマワリ油の脱蝋によって得られる。ヒマワリワックスは、長鎖飽和脂肪エステルを主成分とする硬く高融点のワックスである。
【0076】
大豆ワックスは大豆油の水素化によって得ることができる。これはトリグリセリドで、ステアリン酸の割合が高い。一般的にパラフィンワックスより柔らかく、パラフィンワックスより融点が低い。その融点は約50℃から約80℃の範囲である。
【0077】
サトウキビワックスは難消化性で健康に無害である。精製された状態では淡い黄色がかった色をしている。融点が75~80℃と高いため、直射日光にさらされても安定している。サトウキビワックスは、アニオン性のブライトエマルジョンに良好な油分と溶剤の保持力をもたらす。
【0078】
本発明で使用されるワックスは、好ましくは、米糠ワックス、大豆ワックス、サトウキビワックス、及びビーズワックスからなる群から選択される1種以上のワックスである。
【0079】
ワックスは、好ましくは60℃~120℃の範囲の滴点を有し、より好ましくは60~110℃の範囲の滴点を有する。滴点はワックスの特徴的な特性である。滴点を測定するために、試料は固体から液体状態に変化するまで加熱される。具体的には、滴点は、炉内で制御された試験条件下で、規定されたオリフィスを有する標準化されたカップから溶融物質の最初の滴が析出する温度である。本発明では、滴点は、DIN ISO 2176:1997-05に記載された手順に従って決定することができる。
【0080】
本発明で使用されるコーティングは、好ましくは、コーティングの総質量を基準にして、10~90質量%のワックス、より好ましくは10~80質量%のワックス、更により好ましくは10~60質量%のワックス、最も好ましくは10~40質量%のワックスを含み得る。このようなコーティングをセルロース層に施した場合、驚くべきことに、コート紙のヒートシール性及び水蒸気バリア性が、ポリマーのみでコーティングされた紙と比較して改善されることが見出された。
【0081】
本発明で使用されるコーティングは、好ましくは、コーティングの総質量を基準にして、10~90質量%のワックス及び10~90質量%のポリマーを含み得、より好ましくは、10~40質量%のワックス及び60~90質量%のポリマーを含み得る。このようなコーティングをセルロース層に施した場合、驚くべきことに、コート紙の良好なヒートシール性が得られ、ワックスのみでコーティングされた紙と比較して著しく改善されることが見出された。更に、コーティングの総質量を基準にして、10~90質量%のワックスと10~90質量%のポリマーとを含むコーティングを用いてコーティングした紙は、紙のような外観及び感触と、プラスチックフィルムに匹敵する加工性及びヒートシール性とを兼ね備えている。コート紙のヒートシール性は、コーティングの総質量を基準として、コーティングが10~40質量%のワックスと60~90質量%のポリマーとを含む場合、更に向上する。更に、コーティングを有するコート紙は、コーティングの総質量を基準にして、10~40質量%のワックスと60~90質量%のポリマーとを含み、改善された水蒸気バリア性を示す。特に好ましい実施形態では、コーティングは、コーティングの総質量を基準にして、20~40質量%のワックスと60~80質量%のポリマーとを含む。このようなコーティングでは、水蒸気バリア性とヒートシール性との間の最良の妥協が達成される。
【0082】
特に好ましい実施形態では、コーティングは第1のコーティング層及び第2のコーティング層を含み、第1のコーティング層はワックス及びフィラーを含み、第2のコーティング層はワックス及びポリマーを含む。この場合、第2のコーティング層は、上述の組成、特にワックスとポリマーの上述の割合を有する。言い換えれば、第2のコーティング層は、好ましくは、第2のコーティング層の総質量を基準にして、10~40質量%のワックス及び60~90質量%のポリマーを含み、より好ましくは、20~40質量%のワックス及び60~80質量%のポリマーを含む。
【0083】
添加剤
本発明で使用されるコーティングは、1種以上の添加剤を含み得る。添加剤は、レオロジー調整剤及び軟化剤からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であってもよい。
【0084】
レオロジー調整剤
本発明で使用されるコーティングは、レオロジー調整剤を含み得る。レオロジー調整剤は、好ましくは、セルロース、デンプン又はそれらの誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物である。
【0085】
レオロジー調整剤は、好ましくは水溶性又は水分散性である。レオロジー調整剤は、より好ましくは、バイオマスベース及び/又は生分解性である。
【0086】
レオロジー調整剤は、エマルジョンを増粘し、エマルジョンの安定性を改善することを可能にする。したがって、コーティングの塗布中の液垂れを回避することができる。
【0087】
セルロース、デンプン及びそれらの誘導体からなる群から選択されるレオロジー調整剤の使用は、コーティングの乳化安定性を改善する。同時に、このようなレオロジー調整剤は、水溶性又は水分散性であり、バイオマスベースであり、生分解性であるため、持続可能である。したがって、包装材料としての使用に適し、所望の、好ましくは紙のような外観と感触を有する、持続可能で、より環境に優しいヒートシール可能なコート紙を得ることができる。
【0088】
セルロースは、超微細セルロース、好ましくはJRS社製のARBOCEL等の粉末超微細セルロースであってもよい。
【0089】
セルロース誘導体は、セルロースエーテル又はセルロースエーテルエステルであってもよい。セルロースエーテルは、好ましくは、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。セルロースエーテルは、より好ましくはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースである。ヒドロキシエチルセルロースは、例えば、ダウ社製のCellosize(商標)QP-100であってもよい。セルロースエーテルエステルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、カルボキシメチルセルロースアセテートブチレートであってもよい。
【0090】
デンプン誘導体は、例えば、リン酸化ジスターチホスフェート、好ましくはAGRANA STARKE社製のAGENAJEL 20.350等のワキシーコーンをベースとするリン酸化ジスターチホスフェートであってもよい。
【0091】
コーティングは、好ましくは、コーティングの総質量を基準にして、0~3質量%、より好ましくは0.5~2質量%のレオロジー調整剤を含む。
【0092】
軟化剤
本発明で使用されるコーティングは、軟化剤を含み得る。
【0093】
軟化剤は、多価アルコール、ジオール、多価アルコールのエステル、及びモノ-、ジ-又はポリカルボン酸の脂肪族エステルからなる群から選択される1種以上の化合物であってもよい。軟化剤は、好ましくは多価アルコール又はジオールであり、最も好ましくはグリセロール、グリコール、及びソルビトールから選択される1種以上の化合物である。グリセリンは植物グリセリン(VG)であってもよい。植物グリセリンは、大豆油、ココナッツ油、パーム油等の植物性油から得られるグリセリンである。
【0094】
軟化剤の添加は、コーティングの加工性及びコート紙のヒートシール性を更に向上させる。
【0095】
グリセロール、グリコール、ソルビトールは水溶性で生分解性があり、バイオマスから製造することができる。したがって、グリセロール、グリコール及びソルビトールからなる群から選択される軟化剤を含むコーティングは、持続可能で環境に優しい。
【0096】
コーティングは、好ましくは、コーティングの総質量を基準にして、0~10質量%、より好ましくは2~7質量%の軟化剤を含む。
【0097】
フィラー
本発明で使用されるコーティングはフィラーを含み得る。
【0098】
コーティングは、第1のコーティング層及び第2のコーティング層を含み得、第1のコーティング層はワックス及びフィラーを含み、第2のコーティング層はワックス及びポリマーを含む。この場合、第1のコーティング層は、第1のコーティング層の坪量に対して、好ましくは50~98質量%、より好ましくは60~95質量%、最も好ましくは70~95質量%のフィラーを含む。
【0099】
フィラーは無機フィラーであってもよい。フィラーは、好ましくは、持続可能性及び環境保護の理由から、クレイ等の天然に存在する原料に基づくフィラーである。フィラーは、更により好ましくは粘土鉱物であり、最も好ましくはカオリナイト等の層状ケイ酸塩鉱物である。フィラーはまた、顔料、より好ましくはクレイ等の天然に存在する原料に基づく顔料、好ましくはカオリナイト等の層状ケイ酸塩鉱物であってもよい。
【0100】
顔料は急峻な粒度分布を有していてもよい。最も好ましい実施形態では、顔料粒子の90質量%が5μm未満の粒径を有する。このような粒度分布により、印刷及びシートの光沢が改善される。顔料は好ましくはスラリーの形態で塗布される。例えば、Capim Kaolin社からのCAPIM DGスラリー等の高輝度コーティング顔料を使用することができる。上記の粒度分布を有する顔料粒子のスラリーの良好なレオロジー特性により、例えば高速ブレード及び計量サイズプレス用途におけるフィラーの高速塗布が可能になる。
【0101】
コーティングは、好ましくは、コーティングの総質量を基準にして、0~20質量%、より好ましくは3~15質量%のフィラーを含む。
【0102】
好ましい実施形態では、コーティングは、コーティングの総質量を基準にして、10~90質量%のポリマー、10~90質量%のワックス、0~3質量%のレオロジー調整剤、0~10質量%の軟化剤、及び0~20質量%のフィラーを含む。より好ましい実施形態では、コーティングは、60~90質量%のポリマー、10~40質量%のワックス、0~3質量%のレオロジー調整剤、0~10質量%の軟化剤、及び0~20質量%のフィラーを含む。更により好ましい実施形態では、コーティングは、60~90質量%のポリマー、10~40質量%のワックス、0~3質量%のレオロジー調整剤、0~10質量%の軟化剤及び0~20質量%のフィラーからなる。最も好ましい実施形態では、コーティングは、60~80質量%のポリマー、20~40質量%のワックス、0~3質量%のレオロジー調整剤、0~10質量%の軟化剤及び0~20質量%のフィラーからなる。
【0103】
坪量
本発明では、コーティングは、セルロース層の片面のみに存在することも、セルロース層の両面に存在することもできる。本発明の意味における「セルロース層の片面」という用語は、「セルロース層の一方の表面」と同義であり、本発明の意味における「セルロース層の両面」という用語は、「セルロース層の両表面」と同義である。
【0104】
セルロース層の少なくとも片面のコーティングは、1~25g/m2、好ましくは3~20g/m2、最も好ましくは4~15g/m2の坪量を有し得る。コーティングがセルロース層の両面に塗布される場合、坪量は各面あたり1~25g/m2、好ましくは3~20g/m2、最も好ましくは4~15g/m2であってもよい。より具体的には、セルロース層が両面、すなわちセルロース層の両表面にコーティングを含む場合、コーティングの総坪量は、2~50g/m2、好ましくは4~40g/m2、最も好ましくは5~20g/m2であってもよい。
【0105】
コーティングは、第1のコーティング層及び第2のコーティング層を含み得、第1のコーティング層はワックス及びフィラーを含み、第2のコーティング層はワックス及びポリマーを含む。この場合、第1のコーティング層と第2のコーティング層の総坪量は、好ましくは4~17g/m2、より好ましくは8~12g/m2である。第1のコーティング層の坪量は好ましくは1~7g/m2であり、第2のコーティング層の坪量は好ましくは3~10g/m2である。
【0106】
セルロース層
本発明によるコート紙のセルロース層は、好ましくは20~100g/m2、より好ましくは30~70g/m2の坪量を有する。
【0107】
本発明によるコート紙は、好ましくは21~125g/m2、より好ましくは33~90g/m2、最も好ましくは40~80g/m2の坪量を有する。この範囲の坪量を有するコート紙は、優れた柔軟性及び剛性を示し、したがって包装材料としての使用に適している。21g/m2未満の坪量のコート紙は、破れやすい場合がある。坪量が125g/m2を超える紙は柔軟性が低く、包装材料として使用するには不利である。
【0108】
セルロース層の厚さは、好ましくは35~200μm、より好ましくは40~160μmである。セルロース層を縦方向(machine direction)に圧縮して伸長性セルロース層を得る工程に供しない場合、セルロース層は、更により好ましくは40~70μm、最も好ましくは50~60μmの厚さを有する。セルロース層をクレープ加工等の縦方向に圧縮する工程に供する場合、縦方向に圧縮した後のセルロース層は、更により好ましくは60~150μm、最も好ましくは60~100μmの厚さを有する。
【0109】
セルロース層の坪量及びコート紙の坪量は、ISO 536:2012に従って決定される。セルロース層及びコート紙の厚さは、EN ISO 534:2011に従って、1.0barの圧縮荷重で測定することができる。
【0110】
伸長性
セルロース層は伸長性であってもよい。セルロース層が伸長性である場合、コート紙は、加工又は最終用途で大きく変形する可能性がある。
【0111】
セルロース層が伸長性である場合、本発明のコート紙は、特に縦方向において改善された伸び及び弾性を示す。したがって、伸長性セルロース層を有するコート紙(「伸長性コート紙」)は、従来包装材料として使用されているプラスチックフィルムに匹敵する機械的特性を示す。したがって、伸長性コート紙は、その伸びと弾性が向上するため、プラスチック包装に使用されるのと同じ機械で利用するのに更に適している。
【0112】
更に、驚くべきことに、例えばクレープ加工によってセルロース層を縦方向に圧縮すると、コート紙のコーティング付着性とヒートシール性が向上することが見出された。コーティング付着性とヒートシール性の向上は、伸長性セルロース層の凹凸表面構造によるものと考えられる。
【0113】
その結果、伸長性のあるコート紙は、伸長性のないセルロース層を有するコート紙と比較して、更に適切な包装材料であり、改善された加工性及びヒートシール性を示す。
【0114】
セルロース層の高い伸長性は、セルロース層を縦方向(MD)に圧縮することによって、好ましくは、湿った又は乾燥した紙ウェブを縦方向(MD)に圧縮することによって作り出すことができる。
【0115】
縦方向の圧縮は、セルロース層をクレープ加工する工程に供するか、又はClupakユニットを使用することによって達成することができる。これらのプロセスは、本発明の第3の態様によるコート紙の製造方法を対象とする項で詳しく説明する。
【0116】
本発明の意味における伸長性コート紙は、以下に定義される縦方向の引張強度及び縦方向の破断伸びを有するコート紙である。より詳細には、本発明の意味における伸長性コート紙は、好ましくは40~120N/15mm、より好ましくは60~100N/15mmの縦方向の引張強度、及び好ましくは3.5~25.0%、より好ましくは4.5~15.0%、更により好ましくは5.5~12.0%、最も好ましくは6.0~8.0%の縦方向の破断伸びを有する。特に好ましい実施形態では、伸長性コート紙は、60~100N/15mmの縦方向の引張強度、及び6.0~8.0%の縦方向の破断伸びを有する。
【0117】
コート紙の縦方向の引張強度は、好ましくは40~120N/15mm、より好ましくは60~100N/15mmである。ヒートシール紙の横方向の引張強度は、15~70N/15mm、より好ましくは20~60N/15mm、最も好ましくは30~50N/15mmである。
【0118】
コート紙の縦方向の曲げ剛性は、好ましくは0.05~0.4Nmm、より好ましくは0.10~0.25Nmmである。横方向の曲げ剛性は、好ましくは0.01~0.1Nmm、より好ましくは0.01~0.06Nmmである。
【0119】
コーティングを含む側で測定したコート紙のCobb値は、好ましくは1~20g/m2、より好ましくは1~12g/m2、更により好ましくは1~8g/m2である。
【0120】
コート紙は、好ましくは100~1000mN、より好ましくは300~800mN、更により好ましくは500~800mNの縦方向の引裂抵抗を有する。横方向の引裂抵抗は、好ましくは100~1000mN、より好ましくは300~800mN、更により好ましくは500~800mNである。コート紙は、好ましくは縦方向の破断伸びが3.5~25.0%、より好ましくは4.5~8.0%、更により好ましくは6.0~7.0%である。
【0121】
包装材料
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様によるコート紙を含む包装に関する。
【0122】
コート紙の製造方法
第3の態様では、本発明は、コート紙の製造方法を対象とする。
【0123】
本発明の第3の態様による方法は、
セルロース層を提供する工程、
ワックスを含む第1のコーティング組成物の水性分散体又はエマルジョンと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーを含む第2のコーティング組成物の水性分散体又はエマルジョンとを、セルロース層の少なくとも一方の表面に塗布して、ワックス及びポリマーを含むコーティングを形成する工程、並びに
コーティングを乾燥してコート紙を形成する工程
を含む。
【0124】
一実施形態では、コーティングは、第1のコーティング層及び第2のコーティング層を含み得、第1のコーティング層は、ワックス及びフィラーを含み、第2のコーティング層は、ワックス及びポリマーを含む。この場合、コート紙は、以下の
セルロース層を提供する工程、
ワックス及びフィラーを含む第1のコーティング組成物の水性分散体又はエマルジョンをセルロース層の少なくとも一方の表面に塗布して、第1のコーティングを形成する工程、
第1のコーティングを乾燥して、第1のコーティング層を形成し、ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーとを含む第2のコーティング組成物の水性分散体又はエマルジョンを第1のコーティング層に塗布して、ワックスとポリマーとを含む第2のコーティングを形成する工程、並びに
第2のコーティングを乾燥させて第2のコーティング層を形成する工程
を含む方法によって調製される。
【0125】
本発明の第3の態様による方法は、本発明の第1の態様によるコート紙を調製するために使用することができる。
【0126】
含浸
セルロース層は、任意選択で、コーティングを塗布する前に含浸させることができる。スチレンブタジエンラテックス等、紙を含浸させるために一般的に使用される任意の樹脂を本発明で使用することができるが、含浸は、より好ましくは、バイオマスベース及び/又は生分解性ポリマーのラテックスをベースとする水性分散体を用いて行われる。
【0127】
本明細書では、用語「含浸」は、「浸透」と同義であると理解される。ヒートシール紙中の含浸樹脂量は、2~15g/m2、好ましくは3~12g/m2、更により好ましくは4~10g/m2である。セルロース層の片面のみにコーティングを塗布する場合は、セルロース層を含浸させることが好ましい。含浸セルロース層を用いることにより、セルロース層の非コーティング面とコーティング面との間の凝集力を向上させることができる。これは、ヒートシール可能な包装紙として使用する場合に有利である。
【0128】
コート紙は、好ましくは、コート紙のコーティング組成物に対応する組成物、すなわち、ワックスと、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーとを含む組成物で含浸され、最も好ましくは、ワックスとポリエステルとを含む水性エマルジョンで含浸される。
【0129】
含浸に使用される組成物はまた、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、軟化剤及び無機フィラーからなる群から選択される1種以上の化合物を含み得る。
【0130】
無機フィラーは、持続可能性及び環境保護の理由から、天然由来の原料をベースとすることが好ましい。無機フィラーは、更により好ましくは粘土鉱物又は炭酸塩鉱物であり、最も好ましくはベントナイト、炭酸カルシウム、タルク、又はカオリナイトである。特に好ましい実施形態では、含浸組成物中に含まれる無機フィラーは、コート紙のコーティングに使用するための上記で定義したフィラーであってもよい。無機フィラーはまた、顔料、より好ましくはクレイ等の天然に存在する原料に基づく顔料、好ましくはカオリナイト等の層状ケイ酸塩鉱物であってもよい。
【0131】
含浸組成物中に含まれる軟化剤は、多価アルコール、ジオール、多価アルコールのエステル及びモノ-、ジ-又はポリカルボン酸の脂肪族エステルからなる群から選択される1種以上の化合物であってもよい。軟化剤は、好ましくは、コート紙のコーティングに使用するための上記で定義される軟化剤である。軟化剤は、より好ましくは、グリセロール、グリコール、及びソルビトールからなる群から選択される化合物である。
【0132】
したがって、フィラー及び/又は軟化剤は、
フィラー及び/又は軟化剤を含むコーティング組成物でセルロース層をコーティングするか、又は
(無機)フィラーと軟化剤とを含む含浸組成物でコーティング前にセルロース層を含浸させるか
のいずれかの方法でセルロース層に塗布することができる。
【0133】
どちらの場合も、同じフィラーと同じ軟化剤を使用することができる。
【0134】
コーティング
セルロース層上にコーティングを形成する工程において、第1及び第2のコーティング組成物は、セルロース層の片面のみに塗布することができる。第1及び第2のコーティング組成物は、セルロース層の両面に塗布することもできる、すなわち、第1及び第2のコーティング組成物の各々を、セルロース層の2つの対向する面の各々に塗布することもできる。本発明の好ましい実施形態では、コーティング組成物はセルロース層の片面のみに塗布される。
【0135】
コーティングは、セルロース層の表面に第1のコーティング組成物及び第2のコーティング組成物を塗布し、その後、表面コーティング組成物を硬化及び/又は乾燥させることによって形成することができる。表面コーティング組成物は、噴霧、刷毛塗り、又はローラー塗りによってセルロース層の表面に塗布することができる。表面に塗布すると、表面コーティング組成物はフィルム形成を受ける。好ましくは、比較的低粘度の液体表面コーティング組成物をセルロース層に塗布し、硬化させて固体の高分子量ポリマーベースの付着フィルムを形成する。コーティングはまた、合体ベースのフィルム形成によって形成することもできる。合体ベースのフィルム形成は、液相中に分散したポリマー粒子、好ましくはラテックスポリマー、最も好ましくはポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択される水分散ポリマーを用いて行われる。
【0136】
第1のコーティング組成物は、ワックスを含む水性分散体又はエマルジョンである。
【0137】
ワックスは、好ましくは、本発明の第1の態様において定義されるワックスである。言い換えると、ワックスは、好ましくは植物性ワックス又は動物性ワックスであり、より好ましくは植物性ワックスである。第1のコーティング組成物中に含まれるワックスは、最も好ましくは、キャンデリラワックス、カルナバワックス、米糠ワックス、大豆ワックス、サトウキビワックス、ヒマワリワックス及びビーズワックスからなる群から選択される1種以上である。ワックスは、好ましくは60℃~120℃の範囲の滴点を有する。
【0138】
第1のコーティング組成物は、好ましくはワックスを含む水性エマルジョンであり、より好ましくはワックスと乳化剤を含む水性エマルジョンである。
【0139】
乳化剤は、典型的には極性部分と非極性部分とを有する化合物である。界面活性剤を乳化剤として使用することができる。乳化剤は、好ましくはアニオン性乳化剤又は非イオン性乳化剤であり、より好ましくはアニオン性乳化剤である。ワックスの水性エマルジョンの例としては、Eurikas社のEurikaCoat SW 166及びSasol社のHydroWax RVが挙げられる。EurikaCoat SW 166は、大豆ワックス、植物系ワックス及びアニオン性乳化剤を含む水性エマルジョンである。HydroWax RVは、水中に微細に分散したワックス粒子のアニオン性エマルジョンであり、ワックスは合成ワックスと植物性ワックスの混合物である。
【0140】
ワックスを含む水性分散体又はエマルジョンである第1のコーティング組成物の固形分は、好ましくは10~45質量%である。第1のコーティング組成物の粘度は、好ましくは200~1600mPas、より好ましくは500~1200mPasである。
【0141】
第2のコーティング組成物は、ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーを含む水性分散体又はエマルジョンである。第2のコーティング組成物は、好ましくは水性エマルジョンである。
【0142】
ポリマーは、好ましくは、本発明の第1の態様で定義されるポリマーである。ポリマーは、より好ましくは、60~200℃の範囲の融点を有する熱可塑性ポリマーである。ポリマーは、最も好ましくは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ乳酸、ポリ乳酸-ポリエチレングリコールブロックコポリマー、ポリブチレンアジペートテレフタレート及び熱可塑性デンプンからなる群から選択される1種以上である。
【0143】
ポリマーを含む水性分散体又はエマルジョンである第2のコーティング組成物の固形分は、好ましくは15~55質量%である。第2のコーティング組成物の粘度は、好ましくは200~2200mPas、より好ましくは800~1800mPasである。
【0144】
第1のコーティング組成物及び第2のコーティング組成物の一方又は両方は、レオロジー調整剤及び軟化剤の群から選択される添加剤を含み得る。第1のコーティング組成物及び第2のコーティング組成物の一方又は両方は、フィラーを含み得る。
【0145】
レオロジー調整剤、軟化剤及びフィラーは、本発明の第1の態様において定義される通りである。
【0146】
乾燥
第1及び第2のコーティング組成物を塗布した後、コーティングを乾燥してコート紙を形成する。乾燥は、高温の乾燥空気をコーティングに吹き付けることによって実施することができ、その結果、コーティング温度を、コート紙から水分が蒸発する点まで上昇させ、比較的乾燥したコート紙を残す。乾燥プロセスでは、ウェブ温度、すなわちセルロース層の温度は、ワックスの滴点よりも低くなければならない。したがって、乾燥中のウェブ温度は好ましくは120℃未満である。紙のウェブ温度は、赤外線非接触温度計を用いた非接触温度測定によって決定することができる。
【0147】
セルロース層の圧縮
本発明の第3の態様によるコート紙の製造方法の好ましい実施形態は、従属請求項の対象となる。本発明のコート紙を縦方向に圧縮する工程に供すると、その伸長性、伸び、弾性及びコーティング付着性が増大するため、プラスチック包装に使用されるのと同じ機械で利用するのに更に適している。
【0148】
クレープ加工
縦方向への圧縮は、セルロース層をクレープ加工する工程に付すことによって達成することができる。クレープ加工は、抄紙機の内部で行うこともできるし(ウェットクレープ加工)、抄紙機の外部で行うこともできる(ドライクレープ加工)。
【0149】
より詳細には、クレープ加工の間、セルロース層は、クレープシリンダー上を移動している状態で、ドクターブレードで剥がされ、ドクターブレードの表面を通過して移送装置に送られ、クレープ加工は、移送装置の速度をクレープシリンダーに対して、好ましくは10~50%遅らせることによって制御される。クレープの程度、すなわち折り目の数は、クレープシリンダーと移送装置との間の速度差を調整することによって制御することができる。更に、微細構造はドクターブレードの形状と角度によって制御することができる。このプロセスでは、セルロース層の乾燥含量は、好ましくは30~50質量%、好ましくは35~45質量%の範囲にある。
【0150】
Clupakユニット
セルロース層の縦方向への圧縮は、Clupakユニットを使用することによっても達成できる。
【0151】
Clupak伸長ユニットは、シリンダー、ニップバー、シリンダーとニップバーとの間の隙間、及び隙間に配置されたゴムバンド(ゴムブランケット)を含む。Clupak伸長ユニットでは、ゴムブランケットは乾燥シリンダーとニップバーの間の隙間を通過しなければならない。
【0152】
ニップは、回転する乾燥シリンダーと静止ニップバーによって形成されるベンチュリー部と考えることができ、その中でエンドレスのゴムブランケットが加速される。紙ウェブは、紙とゴム間の摩擦力により、ニップ内のゴム表面の寸法変化に追従する。これは、高い半径方向のニップ圧と、同時に発生するシリンダー表面での紙の滑りの結果である。ゴム表面の寸法変化は、曲げとベンチュリー効果によって引き起こされる。まず、紙ウェブに近い方のゴムブランケットの表面が、ニップバー上の曲げによって引き伸ばされ、ベンチュリー効果によって更に引き伸ばされる。次に、伸びたゴムの表面は、湿った紙ウェブに接触する。ニップの中心を過ぎると、ベンチュリー効果による減速とゴムの逆方向への曲がりにより、伸びたゴム表面は反動を開始する。紙ウェブはニップ後半でゴム表面の収縮に追随しながらMDに圧縮され、ニップでのこれらの現象はニップ幅が大きくなるほど顕著になる。最終的な圧縮レベルは、Clupakニップの入口と出口の間の紙ウェブの速度差を制御することによって調整される。
【0153】
Clupakユニットを使用して縦方向に圧縮すると、繊維のカールによって紙ネットワークにマイクロクレープ効果が生じる。セルロース層が圧縮されると、繊維は互いに近づけられ、セルロース層は縦方向に圧縮される。このようにして、セルロース層に一連の小さな、一般に不連続な平行ひだが付与される。マイクロクレープ加工は、主として、付与されるひだの数が多いこと、したがって、重なり合うひだの数が多いことにおいてクレープ加工と異なる。驚くべきことに、マイクロクレープ加工は、紙基材の伸びを増加させるだけでなく、クレーピングシリンダーを使用するクレープ加工と比較して、その後に塗布されるコーティングの付着性も更に増加させることが見出された。更に、マイクロクレープ加工は、コート紙のヒートシール性を向上させる。
【0154】
カレンダー処理
本発明のコート紙の製造に使用されるセルロース層は、コーティングの前にカレンダー処理の工程に付すことができる。
【0155】
また、本発明のコート紙は、コーティング及び乾燥の工程の後にカレンダー処理の工程に付すことができる。
【0156】
カレンダー処理は、コート紙の平滑度と光沢を向上させる。
【実施例
【0157】
(実施例1)
抄紙機でヒートシール紙を製造した。セルロース層にはセルロース繊維のみを使用し(すなわちセルロース繊維100%)、製紙に一般的に使用される他の添加剤と組み合わせた。アルキルケテンダイマーがサイズ剤として使用されている。セルロース層は、Clupak伸長ユニットを用いて縦方向に圧縮されている。この例では、圧縮されたセルロース層は、サトウキビワックスの第1の水性エマルジョンとポリ乳酸の第2の水性エマルジョンとで片面をコーティングされている。乾燥後、コーティングは、コーティングの総質量を基準にして40質量%のサトウキビワックスと60質量%のポリ乳酸からなる。最終製品中のコーティングの総量は6g/m2である。したがって、ヒートシール可能なコート紙は、コート紙の総質量を基準にして、3.6質量%のサトウキビワックス及び5.5質量%のポリ乳酸を含む。
【0158】
このようにして得られたヒートシール紙の特徴をTable 1(表1)に示す。Table 1(表1)において、頭字語のMDは縦方向を意味し、CDは横方向を意味する。
【0159】
【表1】
【0160】
(実施例2)
抄紙機でヒートシール紙を製造した。セルロース層にはセルロース繊維のみを使用し(すなわちセルロース繊維100%)、製紙に一般的に使用される他の添加剤と組み合わせた。アルキルケテンダイマーがサイズ剤として使用されている。セルロース層は、Clupak伸長ユニットを用いて縦方向に圧縮されている。この例では、圧縮されたセルロース層は、大豆ワックスの第1の水性エマルジョンとポリヒドロキシ酪酸(ポリ-3-ヒドロキシ酪酸)の第2の水性エマルジョンとで片面をコーティングされている。乾燥後、コーティングは、コーティングの総質量を基準にして、20質量%の大豆ワックスと80質量%のポリヒドロキシ酪酸(ポリ-3-ヒドロキシ酪酸)からなる。最終製品中のコーティングの総量は10g/m2である。したがって、ヒートシール可能なコート紙は、コート紙の総質量を基準にして、2.9質量%の大豆ワックス及び11.4質量%のポリヒドロキシ酪酸(ポリ-3-ヒドロキシ酪酸)を含む。
【0161】
このようにして得られたヒートシール紙の特徴をTable 2(表2)に示す。Table 2(表2)において、頭字語MDは縦方向を意味し、CDは横方向を意味する。
【0162】
【表2】
【0163】
(実施例3)
抄紙機でヒートシール紙を製造した。セルロース層にはセルロース繊維のみを使用し(すなわちセルロース繊維100%)、製紙に一般的に使用される他の添加剤と組み合わせた。アルキルケテンダイマーがサイズ剤として使用されている。セルロース層は、Clupak伸長ユニットを用いて縦方向に圧縮されている。この例では、圧縮されたセルロース層は、サトウキビワックスの水性エマルジョンと狭い粒度分布を有するカオリナイトの水性分散体とを含む第1のコーティング製剤で片面をコーティングされている。乾燥後のコーティングは、コーティングの総質量を基準にして、7質量%のサトウキビワックスと93質量%のカオリナイトからなる。
【0164】
第1のコーティング層でコーティングされたセルロース層は、その後、第1のコーティング層でコーティングされた側に第2のコーティング製剤でコーティングされる。第2のコーティング製剤は、サトウキビワックスの水性エマルジョンとポリ乳酸の第2の水性エマルジョンとを含む。乾燥後のコーティングは、第2のコーティングの総質量を基準にして、40質量%のサトウキビワックスと60質量%のポリ乳酸からなる。最終製品中のコーティングの総量は10g/m2である。
【0165】
このようにして得られたヒートシール紙の特徴をTable 3(表3)に示す。Table 3(表3)において、頭字語MDは縦方向を意味し、CDは横方向を意味する。
【0166】
【表3】
【0167】
実施例1と実施例3を比較すると、第1のコーティング層を使用することにより、コート紙のMD及びCDにおける引裂抵抗並びに水蒸気バリア性(水蒸気透過率で表される)を向上させることができることがわかる。更に、第1のコーティング層を使用することにより、第2のコーティング層のコーティング質量を低減することができ、その一方で、コート紙の所望の引張強度、破断伸び及びシール強度を維持することができる。
【0168】
試験方法
以下では、頭字語のMDは縦方向、CDは横方向を意味する。
コンディショニング及び試験用の標準雰囲気: DIN EN 20187:1993に準拠。試料をまずコンディショニングし、次に以下に示す特徴を測定するために試験した。
坪量: ISO 536:2012に準拠。
厚さ: EN ISO 534:2011に準拠、圧縮荷重1.0bar。
引張強度(MD、CD)及び破断伸び(MD、CD): DIN EN ISO 1924-2:2008によるが、試料幅15mm、試験長さ100mm、伸び率150mm/分。
Cobb値: ISO 535:2014に準拠。試料は10分後に測定した。
引裂抵抗(MD、CD): ISO 1974:2012に準拠し、Lorentzen & Wettre社のL & Tearing Tester(コード009、タイプ961701、番号5625)を用いて、振り子: コードA-pend、タイプ962035、番号1269で測定。試験には2枚の単層を使用した。
水蒸気透過率(MVTR):
ISO 15106-3:2003-01に従って測定。測定は23℃、相対湿度50%で実施した。
シール強度: 2つの試料をそれぞれ約5cm×20cmの大きさに切断し、長い方を縦方向とする。シールする側を内側に折って試料を置き、例えばYOSAN LM-260等のラミネーターを使用してヒートシールする。ラミネーターの設定温度は140~160℃の範囲に設定する。試料は、650mm/分の速度で、15cmの長さでラミネーターに1回入り、1回戻り、それによって、シールされていない全長は5cmとなる。この工程の後、試料を室温で15分間冷却する。こうしてシールされた試料を、長さが20cmのまま両側をトリミングして25mmのストリップ幅に切断する。試料の全長には、シールされていない5cmが含まれる。次に、試料をZwick/Roell Z0.5等の万能試験機にクランプする。この工程では、シールされていない2つの部分を通して試料をクランプし、この2つの端を以下の条件で剥離試験を使って引き離す。
プログラム: 開始距離: 50mm
プリロード: 0.IN
プリロード速度: 20mm/分
測定速度: 300mm/分
測定開始長さ
測定経路: 80mm
測定経路で検出される最大力がシール強度(すなわち、F max)を表す。
【国際調査報告】