(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】BAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240514BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240514BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240514BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240514BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240514BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240514BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240514BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240514BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240514BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N5/0783
C12N5/10
C07K16/28
C07K14/47
A61K38/16
A61K48/00
A61K35/17
A61P37/02
A61P37/06
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572071
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-11-17
(86)【国際出願番号】 CN2022093782
(87)【国際公開番号】W WO2022242710
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/094605
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522318966
【氏名又は名称】上海詩健生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI ESCUGEN BIOTECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 710,No.781 Cailun Rd,China(Shanghai) Pilot Free Trade Zone,Shanghai 201203,CHINA
(71)【出願人】
【識別番号】523437352
【氏名又は名称】広州茵諾莱生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】GUANGZHOU YINNUOLAI BIOTECHNOLOGY Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】C4, Room 876, Vanke Intelligence Plaza, Huaguan Road 1993, Tianhe District, Guangzhou, Guangdong 510653, China
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】張新敏
(72)【発明者】
【氏名】粘偉紅
(72)【発明者】
【氏名】許伝営
(72)【発明者】
【氏名】何峰
(72)【発明者】
【氏名】周清
(72)【発明者】
【氏名】張剣氷
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA02
4C084BA41
4C084NA14
4C084ZB07
4C084ZB08
4C084ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本出願は、BAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子、前記受容体分子をコードする核酸、前記受容体分子を含む操作された免疫エフェクター細胞、医薬組成物、及びそれらの使用を開示する。前記受容体分子は、BAFF-Rを特異的に認識するドメインと活性化刺激ドメインとを含み、BAFF-Rを特異的に認識して結合した後に下流のシグナル伝達経路を活性化し、BAFF-Rに対する免疫応答反応を引き起こし、促進し、または増強することができ、最終的にはB細胞BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡によって引き起こされる疾患を治療または予防する目的を達成することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的認識ドメイン、活性化刺激ドメイン、及び前記特異的認識ドメインと前記活性化刺激ドメインとの間に位置する膜貫通ドメインを含む、BAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子であって、前記特異的認識ドメインが、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、
前記重鎖可変領域が、3つの相補性決定領域CDR H1、CDR H2、及びCDR H3を含み、前記CDR H1が配列番号6に示されるアミノ酸配列を含み、前記CDR H2が配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、前記CDR H3が配列番号8に示されるアミノ酸配列を含み、
前記軽鎖可変領域が、CDR L1、CDR L2、及びCDR L3を含み、前記CDR L1が配列番号10に示されるアミノ酸配列を含み、前記CDR L2が配列番号11に示されるアミノ酸配列を含み、前記CDR L3が配列番号12に示すアミノ酸配列を含む、BAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項2】
前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域がさらにヒト抗体フレームワーク領域を含む、請求項1に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項3】
前記重鎖可変領域が、配列番号5に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号9に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項4】
前記重鎖可変領域が前記軽鎖可変領域に連結されてscFvを形成し、前記scFvが、配列番号4に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項5】
前記活性化刺激ドメインがシグナル伝達ドメインを含み、前記シグナル伝達ドメインが免疫受容体チロシン活性化モチーフを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項6】
前記シグナル伝達ドメインが、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、FcεRIγ、FcεR1β、CD79α、CD79β、FcγRIIa、DAP10もしくはDAP12分子の細胞内領域のシグナル伝達ドメイン、または同じ機能を保持するそれらのバリアントを含む、請求項5に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項7】
前記シグナル伝達ドメインが、配列番号20に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項6に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項8】
前記活性化刺激ドメインが、1つ、2つ、3つまたはそれ以上の共刺激ドメインをさらに含む、請求項5~7のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項9】
前記共刺激ドメインが、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、CD2、LFA-1、LIGHT、NKG2C、B7-H3、PD-1、ICOS、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、LIGHTR、SLAMF7、CD7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1、SLAMF4、CD84、CD96、CEACAM1、CRTAM、CD229、CD160、PSGL1、CD100、CD69、SLAMF6、SLAMF1、SLAMF8、CD162、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、及びCD83に特異的に結合するリガンドのうちの1つ以上の分子の細胞内領域に由来する、請求項8に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項10】
前記共刺激ドメインが、配列番号18に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項9に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項11】
前記膜貫通ドメインが、CD4、CD8α、CD28もしくはCD3ζの膜貫通ドメインからなる群から選択される膜貫通ドメイン、または同じ機能を保持するそのバリアントを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項12】
前記膜貫通ドメインが、配列番号16に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項11に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項13】
前記膜貫通ドメインと前記特異的認識ドメインとはヒンジ領域を介して連結されており、前記ヒンジ領域はIgG、IgD、またはCD8α/CD28のヒンジ領域から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項14】
前記ヒンジ領域が、配列番号14に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項13に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子をコードする核酸分子。
【請求項16】
配列番号3に示されるポリヌクレオチド配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む、請求項15に記載の核酸分子。
【請求項17】
膜局在シグナルペプチド分子のコード配列をさらに含む、請求項15または16に記載の核酸分子。
【請求項18】
膜局在シグナルペプチド分子のコード配列が、配列番号1に示されるポリヌクレオチド配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む、請求項17に記載の核酸分子。
【請求項19】
配列番号1、配列番号3、配列番号13、配列番号15、配列番号17及び配列番号19のポリヌクレオチド配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を、5’末端から3’末端にこの順に含む、請求項18に記載の核酸分子。
【請求項20】
請求項1~14のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子及び/または請求項15~19のいずれか一項に記載の核酸分子を含む、操作された免疫エフェクター細胞。
【請求項21】
CAR-T細胞である、請求項20に記載の操作された免疫エフェクター細胞。
【請求項22】
治療有効量の、請求項1~14のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子、請求項15~19のいずれか一項に記載の核酸分子、及び/または請求項20もしくは21に記載の操作された免疫エフェクター細胞を含む、医薬組成物。
【請求項23】
請求項22に記載の医薬組成物を受験者に投与することを含む、それを必要とする前記受験者における疾患を治療または予防する方法であって、前記疾患がB細胞BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡によって引き起こされる疾患から選択される、方法。
【請求項24】
前記疾患が、自己免疫疾患、移植片対宿主病、及び腫瘍を含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【ASCIIテキスト形式での配列表の提出】
【0001】
以下のASCIIテキストファイルで提出された全内容は、参照により本明細書に組み込まれる:配列表のコンピューター可読形式(CRF)(ファイル名:TPF02324-sequence listing.txt、記録日:2022年5月12日、サイズ:12KB)。
【技術分野】
【0002】
本出願は、操作された特異的抗原認識受容体分子、及びその受容体分子を含む操作された免疫エフェクター細胞に関する。
【背景技術】
【0003】
最近数十年で、従来の腫瘍治療法(手術、化学療法、放射線療法など)は大きく進歩したが、生存率、再発、転移などの点では依然として大きな課題が残されている。腫瘍生物学と免疫学の研究の急速な発展に伴い、近年、免疫療法は腫瘍治療の新たなスターとなりつつある。中でも、キメラ抗原受容体T細胞(Chimeric Antigen Receptor T-cell、CAR-T)療法は、現在最も有望な腫瘍免疫療法の1つとなっている。
【0004】
Tリンパ球は腫瘍免疫応答において主要な役割を果たし、腫瘍細胞に対して極めて強力な殺傷能力を持っているが、その役割を果たすにはMHC拘束性を有する。遺伝子工学的手法を使用して、MHC非拘束的に標的抗原を認識する単鎖抗体を、ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、及びT細胞活性化モチーフなどと連結してCAR構造に組み立て、ウイルスなどのベクターによりCAR構造をT細胞に組み込み、最終的にT細胞が腫瘍細胞表面関連抗原に特異的に結合して活性化されるようにし、すなわち、CAR-Tとする。CAR-Tは、パーフォリン、グランザイムBなどを放出することで腫瘍細胞を直接殺すが、活性化されたCAR-Tはさらにサイトカインを放出し、ヒト体内の内因性免疫細胞を動員して腫瘍細胞を殺し、腫瘍を効果的に阻害するという目的を達成する。同時に、免疫メモリーT細胞も形成されて、特異的な抗腫瘍の長時間作用機構を獲得することもできる。
【0005】
一般に、キメラ抗原受容体は細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び活性化刺激ドメインから構成される。通常、細胞外ドメインは、抗原認識ドメインと、連結の役割を果たすヒンジ領域(Hinge)とから構成される。抗原認識ドメインは、CARが腫瘍抗原に特異的に結合するための基盤であり、その主な構造はscFvであり、通常はモノクローナル抗体の軽鎖(VL)と重鎖(VH)がポリペプチドを介して連結されてなり、抗原に対する抗体の特異性及び親和性を保持している。ヒンジ領域はscFvと膜貫通ドメインとを連結し、ほとんどのCARのヒンジ領域はIgGのヒンジまたはCD8α/CD28細胞外領域に由来している。膜貫通ドメインは、CARの細胞外ドメインを細胞内活性化刺激ドメインに連結し、受容体をT細胞膜にアンカーする。一般的に使用される膜貫通ドメインは、CD4、CD8α、CD28、及びCD3ζに由来する膜貫通ドメインを含む。活性化刺激ドメインは細胞内共刺激ドメインとシグナル伝達ドメインで構成され、共刺激ドメインは通常CD28受容体ファミリー(CD28、ICOS)または腫瘍壊死因子受容体ファミリー(4-1BB、OX40、CD27)に由来し、シグナル伝達ドメインは通常、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motifs、ITAM)を含むT細胞受容体TCR/CD3ζ鎖である。活性化刺激ドメインは、T細胞シグナル伝達を媒介し、T細胞が活性化して増殖し、最終的に腫瘍の死滅を完了するまで、肝心な役割を果たす。
【0006】
B細胞悪性腫瘍は発生率の高い悪性腫瘍であり、世界中で毎年約30万人の新規患者がおり、年間増加率は5%~7%である。キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)は、B細胞悪性腫瘍の治療に広く使用されており、CD19を標的とするCAR-T細胞療法は、難治性B細胞悪性腫瘍に非常に効果的であり、急性リンパ芽球性白血病(ALL)及びさまざまな非ホジキンリンパ腫サブタイプの患者における応答率は80%~90%と高い。しかし、長期的な有効性を示すのは患者の約40%~50%のみであり、CD19のダウンレギュレーション/陰性再発は患者の約30%で発生する。遺伝子修飾によって引き起こされるCD19発現のダウンレギュレーション、甚だしきに至っては完全な喪失、または他の形態への剪断によって引き起こされるCD19CAR-T細胞の認識不能などは、いずれもCD19 CAR-T療法に大きな課題をもたらす。B細胞悪性腫瘍の臨床予後は、免疫療法や分子標的薬の進歩により近年大幅に改善されているが、高い再発率が依然として問題となっている。したがって、B細胞の表面で高度に発現している他の抗原標的を探索することは、現在、再発及び難治性のB細胞悪性腫瘍を解決するための重要な研究方向である。
【0007】
腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor、TNF)スーパーファミリーのメンバーの1つであるBリンパ球刺激因子(B lymphocyte stimulator、BLySと略称)は、TNF及びApoL関連白血球発現リガンド1(TNF- and ApoL related leukocyte-expressed ligand 1、TALL-1)とも呼ばれ、アポトーシス、核内因子-κB、c-Jun N末端キナーゼを活性化するTNFホモログ(TNF homologue that activates apoptosis,nuclear factor-κB and c-Jun NH2-terminal kinase、THANK)、腫瘍スーパーファミリーメンバー13B(TNF superfamily member 13B、TNFSF13B)、B細胞活性化因子(B cell-activating factor、BAFF)、及びzTNF4は、B細胞に特異的に結合できるII型膜貫通タンパク質であり、B細胞の生存、増殖、発生及び分化において重要な役割を果たす。BAFFには、BAFF受容体(BAFF receptor、BAFF-R)、B細胞成熟抗原(B cell maturation antigen、BCMA)、及び膜貫通活性化因子、カルシウムモジュレーターとシクロフィリンリガンド相互作用因子(TNFR homology transmembrane activator and calcium modulator and cyclophilin ligand intergrator、TACI)の3つの受容体があり、いずれもIII型膜貫通タンパク質である。BCMAとTACIはBAFFに結合するだけでなく、TNFリガンドファミリーの別のメンバーである増殖誘導リガンド(a proliferation-inducing ligand、APRIL)にも結合できる一方、BAFF-RはBAFFの特異的受容体であり、Bリンパ球の制御において他の2つの受容体よりも重要な役割を果たす。
【0008】
BAFF-R(B-cell activating factor receptor、B細胞活性化因子受容体)は、腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー13C(tumor necrosis factor receptor superfamily member 13C、TNFRSF13C)としても知られ、B細胞膜上のTNF受容体スーパーファミリー(tumor necrosis factor receptors、TNFR)メンバーの1つであり、シグナルペプチドを欠くIII型膜貫通タンパク質である。公開されているヒトBAFF-Rアミノ酸配列は、全長184アミノ酸であり、そのうち1~78番目のアミノ酸が細胞外領域であり、79~99番目のアミノ酸が膜貫通ドメインであり、100~184番目のアミノ酸が細胞内領域であり、そのコード遺伝子は染色体22q13.1領域に位置する。BAFF-Rは主にB細胞で発現し、NF-κB経路を活性化することでB細胞の生存と増殖を促進し、さまざまなB細胞悪性腫瘍細胞の表面で高度に発現する。
【0009】
BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡は、自己免疫疾患、移植片対宿主病、及び腫瘍など、異常または正常細胞におけるBAFF-Rの異常な高発現によって引き起こされる一連の病変を含む、生体の免疫の不均衡を引き起こす可能性がある。この標的は、B細胞成熟プロセスの幅広い段階をカバーしており、形質細胞疾患(多発性骨髄腫)を除くすべてのB細胞悪性疾患を標的にすることができ、適用範囲が広い。また、この標的は幹細胞やB前駆細胞には発現しないため、正常なB細胞の回復と機能の再構築に永久的な損傷を与えることはなく、安全性が優れている。
【0010】
免疫療法と分子標的薬の画期的な進歩により、B細胞悪性腫瘍の臨床予後は大幅に改善されたが、高い再発率が依然として問題となっている。したがって、再発及び難治性のB細胞悪性腫瘍を解決するには、B細胞の表面に高度に発現する他の抗原標的及び治療薬を探索する必要がある。
【発明の開示】
【0011】
本出願は、B細胞悪性腫瘍など、B細胞BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡によって引き起こされる疾患に対して、BAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子(CAR分子)、及び操作された免疫エフェクター細胞(例えば、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T))を提供する。研究により、本出願のBAFF-R標的キメラ抗原受容体T細胞は、腫瘍細胞に対する極めて強力な殺傷効果及びインビボでの抗腫瘍効果を有し、開発の可能性を有することが証明された。
【0012】
具体的には、本出願は以下のことに係る。
【0013】
1、特異的認識ドメインと、活性化刺激ドメインと、前記特異的認識ドメインと前記活性化刺激ドメインとの間に位置する膜貫通ドメインとを含む、BAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子であって、前記特異的認識ドメインが、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、BAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0014】
2、前記特異的認識ドメインが、
配列番号6、配列番号7、配列番号8、から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、
配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と
を含む、項1に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0015】
いくつかの実施形態において、本出願は、特異的認識ドメイン、活性化刺激ドメイン、及び前記特異的認識ドメインと前記活性化刺激ドメインとの間に位置する膜貫通ドメインを含む、BAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子に関し、ここで、前記特異的認識ドメインは重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含み、前記重鎖可変領域は、3つの相補性決定領域CDR H1、CDR H2、及びCDR H3を含み、前記CDR H1が配列番号6に示されるアミノ酸配列を含み、前記CDR H2が配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、前記CDR H3が配列番号8に示されるアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が、CDR L1、CDR L2、及びCDR L3を含み、前記CDR L1が配列番号10に示されるアミノ酸配列を含み、前記CDR L2が配列番号11に示されるアミノ酸配列を含み、前記CDR L3が配列番号12に示すアミノ酸配列を含む。前記CDR H1、CDR H2、CDR H3及びCDR L1、CDR L2、CDR L3は、Kabatら(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991),vols.1-3)に従って決定された。
【0016】
3、前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域がさらにヒト抗体フレームワーク領域を含む、項2に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。いくつかの実施形態では、前記ヒト抗体フレームワーク領域は、ヒトユニバーサルフレームワーク領域である。いくつかの実施形態では、前記ヒトユニバーサルフレームワーク領域は、VLのカッパIサブグループ(κ I subgroup)フレームワーク配列及びVHのIIIサブグループ(VH III subgroup)フレームワーク配列を含む。前記フレームワーク領域は、Kabatら(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991),vols.1-3)に従って決定された。いくつかの実施形態では、前記ヒトユニバーサルフレームワーク領域は、1~15、1~10、2~9、3~8、4~7、または5~6個のアミノ酸変化を含む。
【0017】
4、前記重鎖可変領域が、配列番号5に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号9に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、項2または3に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0018】
5、前記重鎖可変領域が前記軽鎖可変領域に連結されて(例えば、(G)n(S)mからなるリンカーまたはコネクタなどのペプチド鎖を介して連結され、ここで、nまたはmは1~10の任意の整数であり得る)scFvを形成し、前記scFvが、配列番号4に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、項4に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0019】
6、前記活性化刺激ドメインが、免疫受容体チロシン活性化モチーフを含有するシグナル伝達ドメインを含む、項1~5のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0020】
7、前記シグナル伝達ドメインが、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、FcεRIγ、FcεR1β、CD79α、CD79β、FcγRIIa、DAP10、またはDAP12分子の細胞内領域に由来する、項6に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。いくつかの実施形態では、前記シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、FcεRIγ、FcεR1β、CD79α、CD79β、FcγRIIa、DAP10もしくはDAP12分子の細胞内領域のシグナル伝達ドメイン、または同じ機能を保持するそのバリアントを含む。いくつかの実施形態では、前記シグナル伝達ドメインは、CD3ζもしくはFcεRIγの細胞内領域のシグナル伝達ドメイン、または同じ機能を保持するそのバリアントを含む。
【0021】
8、前記シグナル伝達ドメインが、配列番号20に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、項7に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0022】
9、前記活性化刺激ドメインが、1つ、2つ、またはそれ以上の共刺激ドメインをさらに含む、項6~8のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。いくつかの実施形態では、前記共刺激ドメインは、CD28受容体ファミリーまたは腫瘍壊死因子受容体ファミリーの共刺激ドメインに由来する。
【0023】
10、前記共刺激ドメインが、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、CD2、LFA-1、LIGHT、NKG2C、B7-H3、PD-1、ICOS、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、LIGHTR、SLAMF7、CD7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1、SLAMF4、CD84、CD96、CEACAM1、CRTAM、CD229、CD160、PSGL1、CD100、CD69、SLAMF6、SLAMF1、SLAMF8、CD162、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、特異的にCD83に結合するリガンド、及び同じ機能を保持するそれらのバリアントのうちの1つ以上の分子の細胞内領域を含み、好ましくは、4-1BBの細胞内領域、CD28の細胞内領域、OX40の細胞内領域の共刺激ドメイン、または同じ機能を保持するそれらのバリアントを含む、項9に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0024】
11、前記共刺激ドメインが、配列番号18に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、項10に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0025】
12、前記膜貫通ドメインが、TCRα、TCRβ、TCRγ、CD3ζ、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD28、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、KIRDS2、OX40、CD2、CD27、LFA-1、ICOS(CD278)、4-1BB、CTLA-4、GITR、CD40、BAFFR、LIGHTR、SLAMF7、NKp80、CD160、CD19、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA1、VLA1、CD49α、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、ITGB7、TNFR2、CD226、SLAMF4、CD84、CD96、CEACAM1、CRT AM、CD229、CD160、PSGL1、CDIOO、SLAMF6、SLAMF1、SLAMF8、CD162、LTBR、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、NKG2Cからなる群から選択される分子の膜貫通ドメイン、または同じ機能を保持するそのバリアントを含み、好ましくは、CD4、CD8α、CD28、CD3ζ、PD1、もしくは4-1BBの膜貫通ドメイン、または同じ機能を保持するそのバリアントを含む、項1~11のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0026】
13、前記膜貫通ドメインが、CD8αの膜貫通ドメイン、または同じ機能を保持するそのバリアントを含む、項12に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号16に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0027】
14、前記膜貫通ドメインが前記特異的認識ドメインに直接に連結されている、項1~13のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0028】
15、前記膜貫通ドメインと前記特異的認識ドメインとはヒンジ領域を介して連結されている、項1~13のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、ヒトCD8αもしくは抗体のFcフラグメントまたはその機能的等価物、フラグメントもしくは誘導体、ヒトCD8αもしくは抗体のヒンジ領域またはその機能的等価物、フラグメントもしくは誘導体、抗体のCH2領域、抗体のCH3領域、人工スペーサー配列、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、IgG、IgD、CD8αもしくはCD28のヒンジ領域アミノ酸配列、または同じ機能を保持するそのバリアントを含む。
【0029】
16、前記ヒンジ領域が、配列番号14に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、項15に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0030】
17、任意の分泌タンパク質または膜タンパク質のシグナルペプチド配列から選択されるシグナルペプチドをさらに含む、項1~16のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。いくつかの実施形態では、前記シグナルペプチド配列は、CD8αのシグナルペプチドである。
【0031】
18、前記シグナルペプチド配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、項17に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子。
【0032】
19、項1~18のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子をコードする核酸分子。
【0033】
20、配列番号3に示されるポリヌクレオチド配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む、項19に記載の核酸分子。いくつかの実施形態では、前記核酸分子は、特定の細胞または組織に基づいて配列番号3のヌクレオチド配列をコドン最適化することによって得られるヌクレオチド配列を含む。
【0034】
21、膜局在シグナルペプチド分子のコード配列をさらに含む、項19または20に記載の核酸分子。いくつかの実施形態では、前記膜局在シグナルペプチド分子のコード配列は、配列番号1に示されるポリヌクレオチド配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0035】
22、配列番号1、配列番号3、配列番号13、配列番号15、配列番号17及び配列番号19のポリヌクレオチド配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を、5’末端から3’末端にこの順に含む、項21に記載の核酸分子。
【0036】
23、項1~18のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子及び/または項19~22のいずれか一項に記載の核酸分子を含む、操作された免疫エフェクター細胞。
【0037】
24、CAR-T及び/またはCAR-NK細胞である、項23に記載の操作された免疫エフェクター細胞。
【0038】
25、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10、配列番号11、配列番号12のアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含む、BAFF-Rを特異的に認識する操作されたT細胞受容体。
【0039】
26、前記T細胞受容体が、α鎖可変領域(Vα)及びβ鎖可変領域(Vβ)を含み、
前記Vαが、配列番号6、配列番号7、配列番号8から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記Vβが、配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、あるいは
前記Vβが、配列番号6、配列番号7、配列番号8から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記Vαが、配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、
項25に記載のT細胞受容体。
【0040】
27、項25または26に記載のT細胞受容体をコードする核酸分子。
【0041】
28、項25または26に記載のT細胞受容体及び/または項27に記載の核酸分子を含む、操作された免疫エフェクター細胞。
【0042】
29、TCR-T細胞である、項28に記載の操作された免疫エフェクター細胞。
【0043】
30、治療有効量の、項1~18のいずれか一項に記載のBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子、項25もしくは26に記載のT細胞受容体、請求項19~22もしくは27のいずれか一項に記載の核酸分子、または請求項23、24、28もしくは29に記載の操作された免疫エフェクター細胞を含む、医薬組成物。
【0044】
31、項30に記載の医薬組成物を受験者に投与することを含む、それを必要とする前記受験者における疾患を治療または予防する方法であって、前記疾患がB細胞BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡によって引き起こされる疾患から選択される、方法。
【0045】
32、前記疾患が、自己免疫疾患、移植片対宿主病、及び腫瘍を含む、項31に記載の方法。
【0046】
本出願によって提供されるBAFF-Rを特異的に認識するキメラ抗原受容体分子は、BAFF-Rを特異的に認識して結合した後に下流のシグナル伝達経路を活性化し、BAFF-Rに対する免疫応答反応を引き起こし、促進し、または増強することができ、例えば、インビトロまたはインビボでBAFF-Rを発現する標的細胞を特異的に殺し、最終的にはB細胞BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡によって引き起こされる疾患を治療または予防する目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明のBAFF-Rのキメラ抗原受容体の構造の一例である。
【
図2】例示的な抗BAFF-Rキメラ抗原受容体レンチウイルス発現ベクターpCDH-EF1a-H90-11CAR-4-1BB-EGFRtのプラスミドマップである。
【
図3】対照としてのレンチウイルス発現ベクターpCDH-EF1a-EGFRt-AT-Free(delete T2A)のプラスミドマップである。
【
図4】FITC-EGFRt抗体を使用してCAR陽性率を検出したフローサイトメトリーの結果を示す図である。
【
図5】BAFF-Rタンパク質を使用してCAR陽性率を検出したフローサイトメトリーの結果を示す図である。
【
図6】H90-11 CAR-T細胞がNalm6-ルシフェラーゼ標的細胞を特異的に死滅させる結果を示す図である。
【
図7A】H90-11 CAR-T細胞とNalm6-ルシフェラーゼ標的細胞との共培養後の上澄み中のIL-2(
図A)及びIFN-γ(
図B)の分泌結果を示す図である。
【
図7B】H90-11 CAR-T細胞とNalm6-ルシフェラーゼ標的細胞との共培養後の上澄み中のIL-2(
図A)及びIFN-γ(
図B)の分泌結果を示す図である。
【
図8A】マウスにおけるH90-11 CAR-Tのインビボ抗腫瘍効果の図である。
図8Aは、異なる時点でのマウスのインビボイメージングの結果を示す図であり、
図8Bは、異なる時点でのマウスのインビボ絶対発光量をプロットしたグラフであり、
図8Cは、22日間以内のマウスの体重変化をプロットしたグラフである。
【
図8B】マウスにおけるH90-11 CAR-Tのインビボ抗腫瘍効果の図である。
図8Aは、異なる時点でのマウスのインビボイメージングの結果を示す図であり、
図8Bは、異なる時点でのマウスのインビボ絶対発光量をプロットしたグラフであり、
図8Cは、22日間以内のマウスの体重変化をプロットしたグラフである。
【
図8C】マウスにおけるH90-11 CAR-Tのインビボ抗腫瘍効果の図である。
図8Aは、異なる時点でのマウスのインビボイメージングの結果を示す図であり、
図8Bは、異なる時点でのマウスのインビボ絶対発光量をプロットしたグラフであり、
図8Cは、22日間以内のマウスの体重変化をプロットしたグラフである。
【0048】
発明の詳細
B細胞悪性腫瘍の治療効果をさらに改善・増強するために、本出願では、B細胞の表面に特異的かつ高度に発現するBAFF-Rタンパク質に対して、BAFF-Rを認識する新規なキメラ抗原受容体分子を設計し、その受容体をコードする核酸分子、その受容体を含む操作された免疫エフェクター細胞、医薬組成物、及び、それらの、B細胞悪性腫瘍など、B細胞BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡によって引き起こされる疾患の治療または予防のための使用を提供する。
【0049】
定義
本明細書を解釈する目的で、以下の定義が適用され、必要に応じて、単数形で使用される用語には複数形も含まれ、またその逆も同様である。以下に示す定義が参照により本明細書に組み込まれる文書と矛盾する限り、以下に示す定義が優先されるものとする。
【0050】
本明細書で使用する場合、「受容体」とは、ホルモン、神経伝達物質、薬物、または細胞内シグナル伝達分子などに結合し、細胞機能に変化を引き起こすことができる生体高分子を指す。細胞内の受容体の位置に応じて、受容体は細胞膜受容体と細胞内受容体との2つのカテゴリーに分類できる。受容体自体には少なくとも2つの活性部位が含まれており、1つはリガンドを認識して結合する活性部位(本出願では「特異的認識ドメイン」と呼ぶ)であり、もう1つは応答反応の生成を担う機能的活性部位(本明細書では「活性化刺激ドメイン」と呼ばれる)である。前記活性化刺激ドメインは、前記受容体とリガンドが結合して二元複合体を形成してアロステリックになるしか応答反応を起こすことができず、それによって一連の生化学反応が開始され、最終的に前記受容体が位置するエフェクター細胞の生物学的効果を引き起こす。本明細書で使用される場合、前記「活性化刺激ドメイン」は、シグナル伝達ドメインを含むか、または1つ以上のシグナル伝達ドメイン及び1つ以上の共刺激ドメインを含む。本明細書で使用される場合、特に明記しない限り、「シグナル伝達ドメイン」は、T細胞またはNK細胞などのリンパ球を活性化する第1のシグナルを提供し、「共刺激ドメイン」は、リンパ球を活性化する第2のシグナルを提供する。いくつかの実施形態では、前記抗原認識領域と前記活性化刺激ドメインとの間に膜貫通ドメインがさらに含まれる。いくつかの実施形態では、前記抗原認識領域と膜貫通ドメインとはヒンジ領域によって連結されている。
【0051】
本明細書で使用される場合、「細胞内ドメイン」と「細胞内領域」を置き換えて使用することができ、細胞内に位置し、受容体がリガンドに結合した後にシグナル伝達の役割を果たす受容体分子のドメインを指し得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗原受容体(CAR)」は、一般に免疫細胞上で発現され、特定の標的腫瘍細胞または他の罹患細胞に対する操作された免疫細胞の殺傷を媒介する、操作された細胞表面受容体の一類である。CARは受容体として、特異的認識ドメイン及び活性化刺激ドメインも含む。CARの特異的認識ドメインは抗原を特異的に認識できるため、抗原認識領域とも呼ばれる。通常、CARの抗原認識領域は細胞膜の外側に位置する。いくつかの実施形態では、前記抗原認識領域は、Igの単鎖可変フラグメント(scFv)であり、「scFv」は、Igの1つの重鎖可変領域(VH)及び1つの軽鎖可変領域(VL)を含む。いくつかの特定の実施形態では、前記VL領域及びVH領域は、ペプチド鎖によって連結される。
【0053】
「重鎖」(「CH」)、「軽鎖」(「CL」)、「軽鎖可変領域」(「VL」)、「重鎖可変領域」(「VH」)、「フレームワーク領域」(「Framework Region、FR」)という用語は、天然に存在する免疫グロブリンのドメイン及び合成した(例えば、組換え)結合タンパク質(例えば、ヒト化抗体)の対応するドメインを指す。天然に存在する免疫グロブリン(IgGなど)の基本構造単位は、2つの軽鎖と2つの重鎖を持つ四量体である。各鎖のアミノ末端(「N」)部分は、約100~110、またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を含み、主に抗原認識に関与している。各鎖のカルボキシル末端(「C」部分)は定常領域を定義し、軽鎖は単一の定常ドメインを有し、重鎖は通常3つの定常ドメインと1つのヒンジ領域を有する。したがって、IgG分子の天然に存在する軽鎖の構造はN-VL-CL-Cであり、IgG重鎖の構造はN-VH-CH1-H-CH2-CH3-C(Hはヒンジ領域)である。ここで、CH1、CH2、及びCH3は抗体重鎖定常領域の構成要素であり、CH3領域は細胞膜表面受容体結合に関与し、CH2は補体活性化経路に関与し、補体結合部位である。CH1はIgアロタイプの遺伝的マーカーを持っている。IgGの可変領域は、相補性決定領域(CDR)と非CDRフラグメント(フレームワーク領域と呼ばれる)で構成される。ここで、CDRは抗原と接触する残基を含み、フレームワーク領域は、可変領域の構造を維持し、CDRループの位置を決定するために使用される。したがって、VLドメインとVHドメインは、N-FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4-Cという構造を有する。
【0054】
いくつかの実施形態では、前記特異的認識ドメインは、scFv以外のポリペプチドまたはタンパク質リガンドである。例えば、修飾されたインターロイキン-13(IL-13)分子を使用して特異的認識ドメインを調製することができ、それによって、神経膠芽腫の治療のためのIL-13Rα2特異的CARを得ることができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「単鎖可変フラグメント」、「単鎖抗体可変フラグメント」または「scFv」抗体という用語は、リンカーペプチドによって連結される、重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域のみを含む抗体形態を指す。scFvは一本鎖ポリペプチドとして発現できる。scFvは、その由来となる完全な抗体の特異性を保持している。軽鎖及び重鎖は、標的抗原に対するscFvの特異性が保持されている限り、例えばVH-リンカー-VLまたはVL-リンカー-VHなど、任意の順序であってもよい。いくつかの特別な実施形態では、リンカーも省略することができる。
【0056】
本明細書で使用する「リンカー」という用語は、本発明のCARの任意のドメイン/領域を一緒に連結する、長さ約1~100アミノ酸のオリゴペプチドまたはポリペプチド領域を指す。リンカーは、隣接するタンパク質ドメインが相互に自由に移動できるように(グリシンやセリンなどの)柔軟な残基で構成されている。2つの隣接するドメインが互いに立体的に干渉しないようにしたい場合は、より長いリンカーを使用することができる。選択可能なリンカーは当業者に知られており、本発明の代替実施形態と併せて使用することができる。
【0057】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、完全な免疫グロブリン、またはFc(結晶化可能断片)領域もしくはFc領域のFcRn結合フラグメント(本明細書では「Fcフラグメント」または「Fcドメイン」と呼ばれる)を有するモノクローナルまたはポリクローナル抗原結合フラグメントを指す。抗原結合フラグメントは、組換えDNA技術によって、または無傷の(インタクトな)抗体の酵素的または化学的切断によって生成できる。抗原結合フラグメントは、とりわけ、Fab、Fab’、F(ab’)2、FV、dAb、及び相補性決定領域(CDR)フラグメント、一本鎖抗体(scFv)、単一ドメイン抗体、キメラ抗体、ダイアボディ、及び特異的抗原結合を与えるのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチドを含む。Fcドメインは2つの重鎖のCH2及びCH3部分を含み、組換えDNA技術によって、または無傷の抗体の酵素的(例えば、パパイン切断)もしくは無傷の抗体の化学的切断によって産生することができる。「抗体フラグメント」という用語は、無傷の抗体の一部のみを含み、通常は無傷の抗体の抗原結合部位を含み、したがって抗原に結合する能力を保持しているタンパク質フラグメントを指す。本明細書に記載される抗体フラグメントの例としては、(i)VL、CL、VH、及びCH1ドメインを有するFabフラグメント、(ii)Fab’フラグメント、すなわち、CH1ドメインのC末端に1つ以上のシステイン残基を有するFabフラグメント、(iii)VH及びCH1ドメインを有するFdフラグメント、(iv)VH及びCH1ドメインを有し、且つCH1ドメインのC末端に1つ以上のシステイン残基を有するFd’フラグメント、(v)抗体の一方のアームのVL及びVHドメインを有するFvフラグメント、(vi)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al.,Nature 341,544-546(1989))、(vii)単離されたCDR領域、(viii)ヒンジ領域におけるジスルフィド結合によって架橋された2つのFab’フラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント、(ix)単鎖抗体分子(例えば、単鎖Fv;scFv)(Bird et al.,Science 242:423-426(1988);及びHuston et al.,PNAS(USA)85:5879-5883(1988))、(x)同じポリペプチド鎖内の軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含む2つの抗原結合部位を持つ「ダイアボディ」(例えば、EP404,097;WO93/11161;及びHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444-6448(1993)を参照)、(xi)相補的な軽鎖ポリペプチドとともに一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む「直鎖状抗体」(Zapata et al.,Protein Eng.8(10):1057-1062(1995);及び米国特許第5,641,870号)を含むが、これらに限定されない。
【0058】
本明細書において使用される場合、「特異的に結合する」という用語は、抗体が特定の抗原に結合するが、その特定の抗原以外の他の抗原には結合しないことを意味する。前記特異的抗原は1つ以上であってもよく、いくつかの実施形態では、前記特異的抗原は同じまたは類似の抗原エピトープを含む。いくつかの実施形態では、前記特異的結合は、抗体と抗原との間の接触に関して少なくとも10-6Mの結合親和性を有する。特定の実施形態では、前記抗体は少なくとも約10-7M、好ましくは10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、または10-12Mの親和性で結合する。
【0059】
本出願では、「ポリヌクレオチド」または「核酸」、「核酸分子」という用語は置き換えて使用でき、DNA、RNA、cDNA(相補的DNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、rRNA(リボソームRNA)、shRNA(低分子ヘアピンRNA)、snRNA(核内低分子RNA)、snoRNA(核小体低分子RNA)、miRNA(マイクロRNA)、ゲノムDNA、合成DNA、合成RNA及び/またはtRNAを含むが、これらに限定されない。
【0060】
本明細書で使用される場合、「ベクター」、「クローニングベクター」及び「発現ベクター」は、ポリヌクレオチド配列(例えば、外来遺伝子)を宿主細胞に導入して宿主を形質転換し、導入された配列の発現(例えば、転写及び翻訳)を促進することができるベクターを指す。ベクターは、プラスミド、ファージ、ウイルスなどを含む。
【0061】
本明細書で使用される場合、前記「シグナル伝達ドメイン」は、一般に、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(immune-receptor tyrosine-based activation motifs、ITAM)を含み、その基本組成は、YXXL/Vである。ここで、Yはチロシン、L/Vはロイシンまたはバリン、Xは任意のアミノ酸を指す。受容体が対応するリガンドに結合すると、それに連結したITMA内のチロシンが、細胞膜に連結しているプロテインチロシンキナーゼの一種であるPTKによってリン酸化され、それによって細胞内の他の遊離プロテインキナーゼまたはアダプタータンパク質を動員して、細胞内に活性化シグナルを伝達する。いくつかの実施形態では、前記「シグナル伝達ドメイン」は、TCRξ(CD3ξ)またはFcεRIγの細胞内シグナル伝達ドメインから選択される。
【0062】
本明細書で使用される場合、前記「共刺激ドメイン」は、「共刺激シグナルドメイン」とも呼ばれ、主に、例えば、記憶細胞の増殖、生存及び/または発達の促進など、免疫細胞の能力を高めるために共刺激シグナルを提供するために使用される。いくつかの実施形態では、前記「共刺激ドメイン」は、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)などから選択される。
【0063】
本明細書で使用される場合、「膜貫通領域」としても知られる前記「膜貫通ドメイン」は、細胞膜にアンカーされた熱力学的に安定なタンパク質構造領域を指す。膜貫通ドメインは、天然タンパク質から取得でき、例えば、T細胞受容体(TCR)に由来する膜貫通ドメインが挙げられる。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、CD4、CD8α、CD28、及びCD3ζの膜貫通ドメインから選択される。
【0064】
本明細書において使用される場合、前記「ヒンジ領域」は、抗原認識領域と膜貫通ドメインとを連結する一連のペプチド鎖であり、通常は弾性である。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、IgGのヒンジまたはCD8α/CD28の細胞外領域に由来する。IgGの「ヒンジ」とは、IgGのCH1機能領域とCH2機能領域との間の領域を指し、通常、大量のプロリンが含まれている。
【0065】
本明細書において使用される場合、「抗BAFF-Rキメラ抗原受容体」は、「BAFF-Rを特異的に認識する受容体」の1つである。具体的には、抗BAFF-R抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を抗原認識領域に含むキメラ抗原受容体を指す。前記キメラ抗原受容体は、BAFF-Rを特異的に認識し、シグナル伝達を通じて前記受容体が存在する細胞の下流経路を活性化することができる。いくつかの実施形態では、前記抗BAFF-Rキメラ抗原受容体は、NK細胞、マクロファージ、好中球、T細胞などから選択される免疫細胞の表面に位置し、BAFF-Rを特異的に認識した後、前記免疫エフェクター細胞を活性化することにより、体液性免疫、細胞性免疫、及び/または細胞傷害性などの免疫効果を活性化し、あるいは前記免疫細胞を活性化してさらに増殖させることなどをする。
【0066】
本明細書で使用される場合、「免疫エフェクター細胞」は、T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞などの、標的抗原または標的細胞に対して、免疫殺傷効果及び免疫応答効果などの免疫効果及び免疫応答を達成することができる細胞を指す。
【0067】
本明細書で使用される場合、「CAR-T」はすなわち、細胞表面上でキメラ抗原受容体分子が発現されており、細胞表面上の標的抗原を認識できるT細胞であるキメラ抗原受容体T細胞を指す。CAR-Tは現在第4世代まで開発されている。その第1世代CAR-TのCAR分子は、CD3ζ鎖やFcεRIγのシグナル伝達ドメインと抗原認識領域とが連結・融合して形成されており、共刺激ドメインを含まない。第1世代CAR-Tは体内での増殖能力が限られており、アポトーシスを起こしやすい性質がある。第2世代CARでは、CD28や4-1BB(CD137)などの共刺激ドメインが追加されている。CD28は強力な抗腫瘍活性を持っており、4-1BBの利点は、Tリンパ球の生存時間を延長し、抗腫瘍効果を維持できることである。第2世代CARは、第1世代よりも強力な増殖能力を持ち、より多くのサイトカインと抗アポトーシスタンパク質を分泌できる。第3世代CAR-Tは、2つの共刺激シグナル伝達分子を同時に発現できるだけでなく、より多くのIFN-γを分泌し、より高い抗腫瘍細胞傷害作用を示す。第4世代CAR-Tは、腫瘍内で特定のサイトカイン(IL-12など)を分泌することもでき、それによって腫瘍微小環境を変え、他の免疫細胞に影響を与えて活性化して免疫応答を引き起こす。
【0068】
本明細書で使用する場合、前記「シグナルペプチド」とは、新たに合成されたタンパク質の分泌経路への移動を誘導する短いペプチド鎖を指し、通常長さは5~30アミノ酸である。いくつかの実施形態では、前記シグナルペプチドは、膜局在シグナルペプチド、すなわち、タンパク質の膜貫通移動(局在化)を指示するために使用されるアミノ酸配列である。ほとんどの場合、シグナルペプチドはアミノ酸配列のN末端に位置する。mRNAでは、シグナルペプチドのコード配列は通常、開始コドンの後に位置し、疎水性アミノ酸配列をコードするRNA領域である。シグナルペプチドがタンパク質を誘導してその局在化を完了した後、通常はシグナルペプチダーゼの作用によって切除される。
【0069】
本明細書で使用する場合、前記タンパク質または核酸の「バリアント」とは、特定のタンパク質または核酸と同じ機能を有するが、その配列に1つ以上の変異を有するタンパク質または核酸を指す。例えば、あるタンパク質の「バリアント」とは、人為的または天然の変異により、前記あるタンパク質のアミノ酸配列における1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失、置換などの変異を生じさせて得られる、そのタンパク質と同じ機能を持ち、少なくとも70%の配列同一性を持つタンパク質である。
【0070】
本明細書で使用される配列の「同一性」とは、BLASTなどの配列アラインメントソフトウェアによって決定される、アミノ酸配列間またはヌクレオチド配列間の類似性の程度を指す。
【0071】
当業者は、BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡が、自己免疫疾患、移植片対宿主病、腫瘍などを含む様々な疾患を引き起こす可能性があることを知っているべきである。前記腫瘍には、形質細胞病変(多発性骨髄腫)を除くすべてのB細胞悪性腫瘍、例えば、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、ヘアリー細胞白血病などが含まれる。前記自己免疫疾患には、例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、糸球体腎炎、シェーグレン症候群、または自己免疫性溶血性貧血などが含まれる。
【0072】
本明細書で使用される場合、「有効量」または「治療有効量」という用語は、本明細書に開示される1つ以上のペプチド、タンパク質、核酸、またはそれらの変異体、バリアント、類似体、もしくは誘導体を含む医薬組成物の量を指し、そのような「有効量」または「治療有効量」の医薬組成物を受ける患者または受験者は、医学的治療の合理的な利益/リスク比を得ることができ、それによって、疾患または状態の少なくとも1つ以上の症状を緩和または予防し、所望の治療または予防効果を達成することができる。
【0073】
本明細書で使用される「約」という用語は、当業者には容易に知られる各値の通常の誤差範囲を指す。本明細書における値またはパラメータの「約」への言及は、その値またはパラメータ自体を対象とする実施形態を含む(及び説明する)。本明細書で使用される場合、「約」という用語が数値の前にある場合、それはその数値の上下10%の範囲を意味する。例えば、「約100」は90と110とをカバーする。
【0074】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別段の記載がない限り、複数の指示対象を含む。
【0075】
本明細書で別途定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0076】
キメラ抗原受容体
本出願は、BAFF-Rを特異的に認識する受容体を提供する。いくつかの実施形態では、前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)である。
前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体がキメラ抗原受容体(CAR)である場合、特異的認識ドメイン、活性化刺激ドメイン、及び前記特異的認識ドメインと活性化刺激ドメインとの間に位置する膜貫通ドメインを含み、ここで、前記特異的認識ドメインとは、標的細胞上の標的抗原に特異的に結合するCARの部分を指す。いくつかの実施形態では、前記特異的認識ドメインは、抗体もしくはその機能的等価物、またはそのフラグメントもしくはその誘導体を含み、例えば、完全長重鎖、Fabフラグメント、単鎖Fv(scFv)フラグメント、二価の単鎖抗体またはダイアボディを含み得、それぞれが標的抗原に特異的である。しかし、サイトカイン(サイトカイン受容体を持つ細胞を認識する)、アフィボディ、天然受容体由来のリガンド結合ドメイン、受容体の可溶性タンパク質/ペプチドリガンド(例えば、腫瘍細胞上)など、多くの代替物も存在し、それぞれが本発明のさまざまな実施形態で使用することができる。当業者であれば、前記標的抗原に高親和性で結合するほぼあらゆる分子またはドメインを特異的認識ドメインとして使用できることを理解すべきである。いくつかの実施形態では、前記特異的認識ドメインは、T細胞受容体(TCR)、またはその抗原認識部分、たとえば単鎖TCR(scTCR)を含む。このようなTCRを調製する方法は当技術分野で知られている。例えば、scTCRを、リンカー(例えば、柔軟なペプチド)によって連結されたT細胞クローンからのVαl遺伝子及びVβ遺伝子を含むように操作することができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、前記特異的認識ドメインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号10、配列番号11、配列番号12、または配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記特異的認識ドメインは、
配列番号6、配列番号7、配列番号8から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、前記重鎖可変領域は、3つの相補性決定領域CDR H1、CDR H2、及びCDR H3を含み、前記CDR H1、CDR H2、及びCDR H3はそれぞれ配列番号6、配列番号7、配列番号8のアミノ酸配列、またはそれぞれそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域はまた、3つの相補性決定領域CDR L1、CDR L2、及びCDR L3を含み、前記CDR L1、CDR L2、及びCDR L3はそれぞれ、配列番号10、配列番号11、及び配列番号12のアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それらと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、前記重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、フレームワーク領域、好ましくはヒト抗体フレームワーク領域をさらに含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、前記重鎖可変領域は、配列番号5に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号9に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域は、リンカーを介して連結されてscFvを形成し、前記scFvは、配列番号4に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0082】
CARは通常、特異的認識ドメイン、活性化刺激ドメイン、及びそれらの間の膜貫通ドメインを含む。従来のCAR構造は3種類あり、その違いは主に活性化刺激ドメインにあり、以下のものを含む:
第1世代CARは、活性化刺激ドメインに細胞内シグナル伝達ドメインが含まれ、共刺激ドメインがない;
第2世代CARは、活性化刺激ドメインに細胞内シグナル伝達ドメインと1つの共刺激ドメインが含まれる;
第3世代CARは、活性化刺激ドメインに細胞内シグナル伝達ドメインと2つの共刺激ドメインが含まれる。
【0083】
したがって、本出願のいくつかの実施形態では、前記CARは、シグナル伝達ドメインが細胞質にあり得、エフェクター機能シグナルを伝達し、その特殊な機能を実行するように細胞に指示することができる、第1世代のCARである。前記シグナル伝達ドメインの例は、T細胞受容体のζ鎖またはその任意のホモログ(例えば、η鎖、FcεR1γ、β鎖、MB1(Igα)鎖、B29(Igβ)鎖など)、CD3ポリペプチド(γ、δ、及びε)、sykファミリーチロシンキナーゼ(Syk、ZAP70など)、srcファミリーチロシンキナーゼ(Lck、Fyn、Lynなど)、及びT細胞形質導入に関与するその他の分子、例えば、CD2、CD5、及びCD28が挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ζ鎖、FcγRIII、FcεRI、Fc受容体の細胞質尾部領域、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を有する細胞質受容体、またはそれらの組み合わせであり得る。ほかの細胞内シグナル伝達ドメインは当業者には明らかであり、本発明の代替実施形態と併せて使用することができる。いくつかの実施形態では、前記活性化刺激ドメインに含まれるシグナル伝達ドメインは、免疫受容体チロシン活性化モチーフを含むシグナル伝達ドメインである。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、FcεRIγ、FcεR1β、CD79α、CD79β、FcγRIIa、DAP10及びDAP12分子の細胞内領域、または同じ機能を保持するそのバリアントから選択される1つ以上のシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζもしくはFcεRIγの細胞内領域、または同じ機能を保持するそのバリアントを含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζの細胞内領域に由来する。いくつかの実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号20に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0084】
本願のいくつかの実施形態では、前記CARは第2世代CARであり、シグナル伝達ドメインは上記のシグナル伝達ドメインであり、さらに含まれる共刺激ドメインは、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、CD2、LFA-1、LIGHT、NKG2C、B7-H3、PD-1、ICOS、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、LIGHTR、SLAMF7、CD7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1、SLAMF4、CD84、CD96、CEACAM1、CRTAM、CD229、CD160、PSGL1、CD100、CD69、SLAMF6、SLAMF1、SLAMF8、CD162、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、及びCD83に特異的に結合するリガンド、または同じ機能を保持するそれらのバリアントのうちのいずれか1つの分子の細胞内領域である。
【0085】
本願のいくつかの実施形態では、前記CARは第3世代CARであり、シグナル伝達ドメインが上記のシグナル伝達ドメインであり、さらに含まれる共刺激ドメインが、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、CD2、LFA-1、LIGHT、NKG2C、B7-H3、PD-1、ICOS、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、LIGHTR、SLAMF7、CD7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1、SLAMF4、CD84、CD96、CEACAM1、CRTAM、CD229、CD160、PSGL1、CD100、CD69、SLAMF6、SLAMF1、SLAMF8、CD162、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、及びCD83に特異的に結合するリガンド、または同じ機能を保持するそれらのバリアントのうちの任意の2つ、3つ、またはそれ以上の分子の細胞内領域である。
【0086】
いくつかの好ましい実施形態において、前記共刺激ドメインは、好ましくは、4-1BB細胞内ドメイン、CD28細胞内ドメイン、OX40細胞内ドメイン、またはそれらと同じ機能を保持する変異体である。いくつかの特定の実施形態では、前記共刺激ドメインは、4-1BBに由来する細胞内領域を含む。いくつかの特定の実施形態では、前記共刺激ドメインは、配列番号18に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0087】
当業者であれば、前記シグナル伝達ドメインと前記共刺激ドメインとを適切な方法で配置して組み合わせることで、CARがリガンドに結合するときに、前記CARが存在するエフェクター細胞が適切な活性化シグナルを得ることができることが分かるであろう。
【0088】
いくつかの実施形態では、前記特異的認識ドメインと活性化刺激ドメインとの間の膜貫通ドメインは、膜貫通ドメインを有する任意タンパク質(I型、II型またはIII型膜貫通タンパク質のいずれかを含む)の膜貫通配列に由来することができる。さらに、本発明のCARの膜貫通ドメインは、人工疎水性配列を含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、TCRα、TCRβ、TCRγ、CD3ζ、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD28、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、KIRDS2、OX40、CD2、CD27、LFA-1、ICOS(CD278)、4-1BB、CTLA-4、GITR、CD40、BAFFR、LIGHTR、SLAMF7、NKp80、CD160、CD19、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA1、VLA1、CD49α、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、ITGB7、TNFR2、CD226、SLAMF4、CD84、CD96、CEACAM1、CRT AM、CD229、CD160、PSGL1、CDIOO、SLAMF6、SLAMF1、SLAMF8、CD162、LTBR、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、またはNKG2Cからなる群から選択される分子の膜貫通ドメインを含み、好ましくは、CD4、CD8α、CD28、CD3ζ、PD1、もしくは4-1BBの膜貫通ドメイン、または同じ機能を保持するそのバリアントである。
【0089】
いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、膜貫通ドメインに隣接する1つ以上の別のアミノ酸、例えば、前記膜貫通ドメインが由来するタンパク質の細胞外領域に会合する1つ以上のアミノ酸(例えば、細胞外領域の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10~15のアミノ酸)及び/または膜貫通タンパク質が由来するタンパク質の細胞内領域に会合する1つ以上の別のアミノ酸(例えば、細胞内領域の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10~15のアミノ酸)を含んでもよい。一態様では、前記膜貫通ドメインは、シグナル伝達ドメイン、共刺激ドメイン、またはヒンジドメインが由来するのと同じタンパク質に由来する。別の態様では、前記膜貫通ドメインは、CARの他のドメインが由来するのと同じタンパク質に由来しない。本願のいくつかの好ましい実施形態では、前記膜貫通ドメインはCD8αの膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号16に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、前記特異的認識ドメインに直接に連結されている。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインと前記特異的認識ドメインはヒンジ領域を介して連結されている。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、ヒトCD8αもしくは抗体のFcフラグメントまたはその機能的等価物、フラグメントもしくは誘導体、ヒトCD8αもしくは抗体のヒンジ領域またはその機能的等価物、フラグメントもしくは誘導体、抗体のCH2領域、抗体のCH3領域、人工スペーサー配列、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、好ましくは、IgG、IgD、CD8αまたはCD28のヒンジ領域アミノ酸配列である。いくつかの例示的な実施形態では、前記ヒンジ領域は、(i)IgG4のヒンジ領域、CH2領域、及びCH3領域、(ii)IgG4のヒンジ領域、(iii)IgG4のヒンジ領域及びCH2領域、(iv)CD8αのヒンジ領域、(v)IgG1のヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域、(vi)IgG1のヒンジ領域、(vi)IgG1のヒンジ領域及びCH2領域、または(vii)それらの組み合わせのうちのいずれか1つ以上を含む。いくつかの特定の実施形態では、前記ヒンジ領域はヒトCD8αのヒンジ領域である。いくつかの特定の実施形態では、前記ヒンジ領域は、配列番号14に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、前記CARはシグナルペプチドをさらに含む。通常、シグナルペプチド(SP)はタンパク質のN末端に位置し、タンパク質の分泌情報を運び、タンパク質の分泌経路及び分布の決定に関与する。当業者であれば、核内、ミトコンドリア内、及び細胞質に局在化するタンパク質、ならびにサイトゾル内の遊離タンパク質及び分泌されるかまたは最終的に細胞膜にアンカーされるタンパク質は、通常、異なるシグナルペプチドを有することが分かるであろう。当業者は、ソフトウェア予測及びシグナルペプチドデータベースを通じて、特定のタンパク質の機能の発揮に適したシグナルペプチド配列を選択することができる。したがって、本出願のいくつかの実施形態では、前記シグナルペプチドは、任意の分泌タンパク質もしくは細胞膜タンパク質のシグナルペプチド配列、または同じ機能を保持するそのバリアントから選択される。いくつかの実施形態では、前記シグナルペプチド配列は、CD8αのシグナルペプチドである。いくつかの実施形態では、前記シグナルペプチド配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0092】
操作されたT細胞受容体
一方では、本出願は、BAFF-Rを特異的に認識する操作されたT細胞受容体(TCR)も提供する。T細胞の表面の特異的な受容体は、主要組織適合性複合体(MHC)によって提示される抗原の認識を担当する。T細胞受容体は、2つの異なるサブユニットから構成されるヘテロ二量体である。通常、T細胞受容体の95%はαサブユニットとβサブユニットで構成され、残りの5%はγサブユニットとδサブユニットで構成される。各サブユニットには、可変領域と定常領域という2つの細胞外ドメインが含まれている。各サブユニットの可変領域(例えば、αサブユニットの可変領域Vα、βサブユニットの可変領域Vβ、γサブユニットの可変領域Vγ、δサブユニットの可変領域Vδ)には、少なくとも3つの高度に可変な相補性決定領域、すなわちCDR1、CDR2、及びCDR3が含まれる。CDR3は、MHCが提示するポリペプチドに直接結合する役割を担っており、αサブユニット及びβサブユニットのCDR1はそれぞれポリペプチドのN末端及びC末端に作用し、CDR2はMHCの認識に関与する。
【0093】
いくつかの実施形態では、前記操作されたT細胞受容体は、
配列番号6、配列番号7、配列番号8から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVα、及び、配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVβ;または
配列番号6、配列番号7、配列番号8から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVβ、及び、配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVαを含む。
【0094】
他の実施形態では、前記操作されたT細胞受容体は、
配列番号6、配列番号7、配列番号8から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVγ、及び、配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVδ;または
配列番号6、配列番号7、配列番号8から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVδ、及び、配列番号10、配列番号11、配列番号12から選択されるアミノ酸配列、またはそれらと約70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVγを含む。
【0095】
前記操作されたTCRは、MHCによって提示されるBAFF-Rを特異的に認識し、シグナル伝達を担うCD3δ/ε二量体、CD3γ/ε二量体、及びCD247ζ/ζまたはζ/η二量体と一緒に、いくつかの実施形態では、共受容体(コレセプター)と一緒に、下流のシグナル伝達経路を活性化する。
【0096】
核酸分子
本出願は、BAFF-Rを特異的に認識する受容体またはそのフラグメントをコードする核酸分子も提供する。いくつかの実施形態において、前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体は、上記のキメラ抗原受容体である。いくつかの実施形態において、前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体は、上記の操作されたT細胞受容体である。前記核酸分子は、上記のキメラ抗原受容体または操作されたT細胞受容体もしくはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列を含む。前記核酸分子はDNAまたはRNAであり得る。いくつかの実施形態では、前記酸分子は直鎖状であり、いくつかの実施形態では、前記核酸分子は環状である。いくつかの実施形態では、前記核酸分子は二本鎖である。いくつかの実施形態では、前記核酸分子は一本鎖である。いくつかの実施形態では、前記核酸分子は化学合成されてなる。いくつかの実施形態では、前記核酸分子は、細胞または動物内でより安定にするために化学修飾を含む。いくつかの実施形態では、核酸分子は細菌細胞、真菌細胞、または動物細胞によって合成される。いくつかの実施形態では、前記核酸分子は、プラスミド、ウイルスベクター、またはオリゴヌクレオチドである。
【0097】
いくつかの実施形態では、前記ポリヌクレオチド配列は、前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体の特異的認識ドメインをコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、前記特異的認識ドメインはscFvである。いくつかの実施形態では、前記ポリヌクレオチド配列は、配列番号3に示されるDNA配列及び/またはそれに相補的なDNA、あるいはそれに対応するもしくは相補的なRNA配列、あるいはこの段落に記載されるDNAまたはRNA配列と約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。本明細書で使用される場合、核酸の「相補性」とは、2つのポリヌクレオチドがストリンジェントな条件下でハイブリダイズできることを意味し、ストリンジェントなハイブリダイゼーションとは、2つのポリヌクレオチドがハイブリダイズするとき、各塩基または各ヌクレオチドがいずれもWatson-Crick塩基対形成規則に従い、すなわちAとTまたはU、CとGまたはIとマッチングすることを指す。本明細書で使用する場合、DNA配列に「対応する」RNAとは、前記DNA配列の塩基配列と一致し、すべてのT塩基がU塩基に置換されているリボヌクレオチド(RNA)配列を指す。
【0098】
いくつかの実施形態では、前記核酸分子は、膜局在シグナルペプチド分子のコード配列を含む。いくつかの実施形態では、前記膜局在シグナルペプチドは、CD8αの膜局在シグナルペプチドである。いくつかの実施形態では、前記膜局在シグナルペプチド分子のコード配列は、配列番号1に示されるDNA配列及び/またはそれに相補的なDNA、またはそれに対応するもしくは相補的なRNA配列、またはこの段落に記載のDNAもしくはRNA配列と約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、前記核酸分子はヒンジ領域をコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、コードされる前記ヒンジ領域は、CD8αのヒンジ領域である。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域をコードする配列は、配列番号13に示されるDNA配列及び/またはそれに相補的なDNA、またはそれに対応するもしくは相補的なRNA配列、またはこの段落に記載のDNAもしくはRNA配列と約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、前記核酸分子は、シグナル伝達ドメインをコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、前記シグナル伝達ドメインはCD3ζのシグナル伝達ドメインである。いくつかの実施形態では、前記シグナル伝達ドメインをコードする配列は、配列番号19に示されるDNA配列及び/またはそれに相補的なDNA、またはそれに対応するもしくは相補的なRNA配列、またはこの段落に記載のDNAもしくはRNA配列と約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0101】
いくつかの実施形態では、前記核酸分子は、共刺激ドメインをコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、前記共刺激ドメインは4-1BBのシグナル伝達ドメインである。いくつかの実施形態では、前記シグナル伝達ドメインをコードする配列は、配列番号17に示されるDNA配列及び/またはそれに相補的なDNA、またはそれに対応するもしくは相補的なRNA配列、またはこの段落に記載のDNAもしくはRNA配列と約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0102】
いくつかの実施形態では、前記核酸分子は、上記の共刺激ドメインをコードする配列、上記のシグナル伝達ドメインをコードする配列、上記のヒンジ領域をコードする配列、上記の膜局在シグナルペプチド分子のコード配列、及び上記の特異的認識ドメインをコードする配列を含む。上記核酸分子が細胞に導入された後、完全な前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体を成功裏に合成するために、前記核酸分子に含まれる配列をどのように配置するか、発現を調節するどのような関連成分を加えればよいか、当業者には明らかであろう。いくつかの特定の実施形態では、前記核酸分子は、5’末端から3’末端まで順次に、配列番号1、配列番号3、配列番号13、配列番号15、配列番号17及び配列番号19のポリヌクレオチド配列、またはそれと約70%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列、例えば、それと約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含み、ここで、前記ポリヌクレオチド配列の間に他の配列が含まれていてもよい。
【0103】
本出願は、複数の核酸分子を含む混合物も提供する。前記複数の核酸分子はそれぞれ、上記の共刺激ドメインをコードする配列、上記のシグナル伝達ドメインをコードする配列、上記のヒンジ領域をコードする配列、前記膜局在シグナルペプチド分子のコード配列、上記の特異的認識ドメインをコードする配列から選択される1つ以上を含む。この混合物を細胞に同時導入することにより、完全な前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体を合成できる。
【0104】
操作された免疫エフェクター細胞
前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体または前記核酸分子を含む、操作された免疫エフェクター細胞。
【0105】
いくつかの実施形態では、前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体は、上記のキメラ抗原受容体であり、前記操作された免疫エフェクター細胞は、CAR-T細胞またはCAR-NK細胞である。
【0106】
いくつかの実施形態では、前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体は、上記の操作されたT細胞受容体であり、前記操作された免疫エフェクター細胞は、TCR-T細胞である。いくつかの実施形態では、前記BAFF-Rを特異的に認識する受容体は、上記の操作されたT細胞受容体であり、前記操作された免疫エフェクター細胞は、TCR-NK細胞である。
【0107】
ウイルス粒子、リポソーム、脂質ナノ粒子、医薬組成物
本出願はまたウイルスプラスミドを提供し、ここで、パッケージされたウイルスベクターが上記のキメラ抗原受容体もしくは操作されたT細胞受容体、及び/または前記キメラ抗原受容体もしくは操作されたT細胞受容体をコードするポリヌクレオチド配列を含む。本出願はまた、前記のBAFF-Rを特異的に認識する受容体もしくはそのフラグメント、または受容体もしくはそのフラグメントをコードする核酸分子を含むリポソームまたは脂質ナノ粒子を提供する。
【0108】
本出願はさらに、治療有効量の、上記のキメラ抗原受容体、上記のT細胞受容体、上記の核酸分子、上記の操作された免疫エフェクター細胞、上記のウイルス粒子、リポソーム、脂質ナノ粒子から選択される1つ以上を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、適切な賦形剤、担体、及び/または安定剤をさらに含む。このような許容可能な担体、賦形剤または安定剤は、使用される用量及び濃度ではレシピエントに対して無毒であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩または酢酸塩などの緩衝液(典型的にはpH5.0~8.0、場合により6.0~7.0);塩化ナトリウム、塩化カリウムなど、等張性を達成する塩;抗酸化剤;防腐剤;低分子量ポリペプチド;タンパク質;ポリソルベート80などの親水性ポリマー;グリシンなどのアミノ酸;炭水化物;キレート剤;糖;及び当業者に知られている他の標準成分を含む(Remington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd edition,Loyd V.Allen et al ed.,Pharmaceutical Press(2012))。
【0109】
治療
本出願はまた、有効量の上記の医薬組成物を受験者に投与することを含む、それを必要とする受験者における疾患または症状を治療または予防するための方法を開示し、前記疾患は、B細胞BAFF-BAFF-Rシグナル伝達経路の不均衡によって引き起こされる疾患から選択される。任意選択で、この方法は、CD20抗原に結合できるモノクローナル抗体、CD19に結合できるモノクローナル抗体、PD-1/PD-L1などの免疫チェックポイントに結合できるモノクローナル抗体、またはCD20、CD19、及びPD-1を標的とする操作された免疫エフェクター細胞などの第2の治療薬を受験者に投与することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記疾患は、自己免疫疾患、移植片対宿主病、または腫瘍のいずれかから選択される。
【0110】
いくつかの実施形態では、前記疾患はがんである。任意選択で、前記がんは、リンパ腫、白血病、または骨髄腫である。任意選択で、前記がんはリンパ腫である。任意選択で、リンパ腫は、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、またはバーキットリンパ腫である。任意選択で、前記がんは白血病である。任意選択で、白血病は、リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、または有毛細胞白血病である。任意選択で、前記がんは骨髄腫である。任意選択で、骨髄腫は多発性骨髄腫である。
【0111】
いくつかの実施形態では、前記疾患は自己免疫疾患である。任意選択で、前記自己免疫疾患は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、糸球体腎炎、シェーグレン症候群、または自己免疫性溶血性貧血である。
【0112】
別の態様では、本出願はまた、細胞の増殖を阻害する方法を提供する。この方法は、前記細胞を本出願で提供される医薬組成物と接触させ、それによって接触細胞を形成することを含む。抗BAFF-R受容体またはその機能的断片は細胞上のBAFF-Rタンパク質に結合・接触し、それによって細胞の増殖を阻害する。任意選択で、前記細胞はリンパ球である。任意選択で、前記細胞はB細胞またはがん細胞である。任意選択で、前記細胞はリンパ腫細胞である。
【0113】
本明細書で使用される場合、疾患または状態を治療または予防することは、臨床結果を含む有益なまたは所望の結果を得る方法を指す。有益なまたは所望の臨床結果は、1つ以上の症状または状態の緩和もしくは改善;状態、症状、または疾患の重症度の軽減;状態、症状、または疾患の状態の安定化;状態、症状、または疾患の発症の予防;状態、症状、または疾患の蔓延の予防;状態、症状、または疾患の進行を遅らせるまたは遅くすること;状態、症状、または疾患の発症を遅らせるまたは遅くすること;状態、症状、または疾患の状態の改善または軽減;及び部分的または全体的な改善を含むことができるが、これらに限定されない。治療は、治療がなかった場合に予想される以上に受験者の生存を延長することも意味する場合がある。治療はまた、状態、症状、または疾患の進行を阻害すること、状態、症状、または疾患の進行を一時的に遅らせることも意味する場合があるが、場合によっては、状態、症状、または疾患の進行を永久に停止することも含む。
【0114】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で、他の適切な方法による様々な技術的特徴の組み合わせを含む、本発明の技術案に対して様々な簡単な変更を加えることができる。これらの簡単な変更及び組み合わせも本発明の開示内容と見なすべき、本発明の保護範囲に属する。
【0115】
上記の説明及び以下の実施例は、説明を目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。本発明の範囲内の他の態様、利点、及び修正は、本発明が属する技術分野の当業者には明らかであろう。
【実施例】
【0116】
実施例1:BAFF-Rを標的とするキメラ抗原受容体の設計
本発明は、抗BAFF-Rキメラ抗原受容体(H90-11 CAR、米国特許出願公開第2021/0261676号A1に示されるようなH90-11 mAbモノクローナル抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、上記米国特許出願公開第2021/0261676号A1の内容は、参照により本明細書に組み込まれる)を構築した。
図1の構造模式図に示すように、当該キメラ抗原受容体は、CD8αシグナルペプチド配列(リーダー)、BAFF-R抗原に特異的に結合する一本鎖抗体配列(scFv)、ヒトCD8αのヒンジ領域(Hinge)及び膜貫通ドメイン配列(Transmembrane)、4-1BB共刺激ドメイン配列及びCD3ζシグナル伝達ドメイン配列を含み、各部分の具体的な順序は次のとおりであり、具体的な配列について表1を参照されたい。
ヒトCD8α分子シグナルペプチド(リーディングシグナル)のポリヌクレオチド配列を配列番号1に示し、アミノ酸配列を配列番号2に示す。
ヒト化BAFF-R一本鎖抗体(scFv)のポリヌクレオチド配列を配列番号3に示し、アミノ酸配列を配列番号4に示す。ここで、前記scFvの重鎖可変領域(VH)は配列番号5であり、前記VHに含まれる3つの相補性決定領域CDR H1、CDR H2、CDR H3のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号6、配列番号7、配列番号8である。前記scFvの軽鎖可変領域(VL)は配列番号9であり、前記VLに含まれる3つの相補性決定領域CDR L1、CDR L2、CDR L3のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号10、配列番号11、配列番号12である。
ヒトCD8αヒンジ領域(CD8 Hinge)のポリヌクレオチド配列を配列番号13に示し、アミノ酸配列を配列番号14に示す。
ヒトCD8α膜貫通ドメイン(CD8 TM)のポリヌクレオチド配列を配列番号15に示し、アミノ酸配列を配列番号16に示す。
ヒト4-1BB分子の細胞内領域(4-1BB)のポリヌクレオチド配列を配列番号17に示し、アミノ酸配列を配列番号18に示す。
ヒトCD3ζ分子の細胞内領域(CD3ζ)のヌクレオチド配列を配列番号19に示し、アミノ酸配列を配列番号20に示す。
【0117】
【0118】
【0119】
実施例2:キメラ抗原受容体発現ベクターの構築
抗BAFF-R H90-11 CARレンチウイルス発現ベクターpCDH-EF1a-H90-11CAR-4-1BB-EGFRt及び対照のEGFRt CARレンチウイルス発現ベクターpCDH-EF1a-EGFRt-AT-Free(delete T2A)がいずれもNanjing GenScriptによって合成及び構築された。具体的な実験手順は次のとおりである。
抗BAFF-R scFv遺伝子配列はNanjing GenScript社によって合成され、In-Fusion Snap assemblyシームレスクローニング試薬の製造元のプロトコールに従って、遺伝子合成されたscFv配列をpCDH-EF1a-4-1BB-EGFRtベクター(Nanjing GenScript、注文番号:C046EEE310)に挿入し、抗BAFF-Rキメラ抗原受容体レンチウイルス発現ベクターpCDH-EF1a-H90-11CAR-4-1BB-EGFRt(Nanjing Genscript、注文番号:C9401FG210)を得た。ベクターマップを
図2に示す。
pCDH-EF1a-T2A-EGFRt(iCarTabにより提供)レンチウイルス発現ベクターは、T2AリンカーにATG開始コドンがあるため、EGFRtはフレームシフト変異により正常に発現できず、In-Fusion Snap assemblyシームレスクローニング試薬の製造元のプロトコールに従って、pCDH-EF1a-T2A-EGFRtベクターのT2Aを削除して、対照のEGFRt CARレンチウイルス発現ベクターpCDH-EF1a-EGFRt-AT-Free(delete T2A)(Nanjing GenScriptによって構築)を得た。ベクトルマップを
図3に示す。
【0120】
実施例3:レンチウイルスのパッケージング及び力価測定
レンチウイルスのパッケージング
15cm培養皿に293T細胞を1×107個接種し、10%FBS(Gibco、カタログ番号:10099-141)含有DMEM(Gibco、カタログ番号:41965-062)完全培地を加え、37℃に置き、5%CO2インキュベーターで一晩培養した。PBS(Gibco、カタログ番号:14190-250)2mLを6ウェルプレートの1つのウェルに入れ、20μgレンチウイルス発現プラスミド(pCDH-EF1a-H90-11 CAR-4-1BB-EGFRtまたはpCDH-EF1a-EGFRt-AT-Free(delete T2A))及び30μLレンチウイルスパッケージングプラスミドMix(iCarTab、カタログ番号:LVP2MIX)をそれぞれ加え、上下にピペッティングして十分に混合し、150μL LVTransmトランスフェクション試薬(iCarTab、カタログ番号:LVTran100)を加え、すぐに上下にピペッティングして均一に混合し、室温で10分間静置した。15cm培養皿(シャーレ)に上記のDNA/PEI複合体を一滴ずつ滴下して加え、培養皿を軽く振り、よく混ぜた。培養皿を37℃、5%CO2インキュベーターに置き、6~8時間培養した後、トランスフェクション試薬を含む培地を捨て、新しい完全培地に入れ替えた。48時間培養を続けた後、培養皿中のウイルス含有培養上澄みを集め、0.45μmのフィルターメンブレンでろ過し、遠心分離管に移し、20,000g、4℃で2時間遠心分離した。遠心分離後、バイオセーフティキャビネット内で、遠心分離管内の液体を捨て、500μLのPBS緩衝液を加えてウイルスペレットを再懸濁し、分注した後にウイルスを-80℃の冷蔵庫で保存した。
ウイルス力価の測定
293T細胞を蘇生させ、細胞状態を対数増殖期に調整した。新しい6ウェルプレートを用意し、293T細胞を1ウェルあたり8×105細胞で播種し、最終容量2mLになるまで培地を補充した。6ウェルプレートを37℃、5%CO2インキュベーターに置き、一晩培養した。濃縮したレンチウイルスを上記の6ウェルプレートに50μL加え、同時に最終濃度6μg/mLのポリブレン(Sigma、カタログ番号:107689-10G)を加え、6ウェルプレートを37℃、5%CO2インキュベーターに戻し、48時間培養を続けた。
培養後、各ウェルの細胞をPBSで洗浄し、MiniBEST Universal Genomic DNA Extraction Kit (Takara、カタログ番号:9765)を用いてゲノムDNAを抽出し、抽出したゲノムDNAの濃度をNanoDrop2000を用いて測定した。以下の表2に示すPCR反応系に従って、蛍光定量PCR反応マスターミックスを調製した。
【0121】
【0122】
使用したプライマーの配列及び蛍光基を以下の表3に示す。
【0123】
【0124】
pUC-LTR(購入先:iCarTab)及びpUC-ALBプラスミド(購入先:iCarTab)を冷蔵庫から取り出し、それぞれ10倍、合計6点に希釈し、蛍光定量PCRに必要な検量線サンプルを調製した。新しい96ウェルPCR反応プレートを用意し、各ウェルにゲノムサンプルまたは検量線サンプル5μLを加え、次いで上記で調製したPCR反応マスターミックス15μLを各ウェルに加え、シーリングフィルムで密封した後、1分間軽く遠心分離した。以下の表4のPCR手順に従ってPCR反応を実行した。
【0125】
【0126】
PCR反応終了後、Roche 480のサポートソフトウェアを使用して検量線のCt値及びサンプルのCt値を取得した。縦軸にCt値、横軸にコピー数のLog値を使用して検量線を作成し、検量線に基づいてサンプルのコピー数を計算した。そして、次の式に従ってウイルスの力価を計算した。
【0127】
【数1】
式(1)に従って計算したレンチウイルス力価の結果を以下の表5に示す。
【0128】
【0129】
表5からわかるように、高力価レンチウイルスがパッケージ化されており、その後T細胞に感染させてCAR-T細胞を調製するために使用できる。
【0130】
実施例4:CAR-T細胞の調製
末梢血PBMCからのT細胞の分離
抗凝固処理した末梢血サンプル10mLを15mLの滅菌遠心管に移し、800gで20分間遠心分離し、上部の淡黄色の血清層を除去してから、等体積のPBSを下部の末梢血球層に加え、上下を軽く反転して均一に混ぜた。リンパ球分離液(Hao Yang Biotechnology、カタログ番号:1077)を取り出し、上下を数回反転して十分に均一に混合した。別の15mL遠心管にリンパ球分離液5mLを加え、分離液と血液検体の混合を避けるため、希釈した血液検体を管壁に沿ってリンパ球分離液の上層にゆっくりと加え、800gで20分間遠心分離した。遠心分離後、遠心管を穏やかに取り出し、中央の白色単核球層を新しい滅菌遠心管に吸引し、等体積の生理食塩水を加えて軽く混ぜ、800gで5分間遠心分離した。遠心分離後、上澄みを除去し、PBMCをもう一度洗浄し、細胞密度を5×10
7細胞/mLに調整し、1mL/チューブで2mL細胞凍結保存チューブに移した。
Dynabeads(登録商標)Human T-Expander CD3/CD28(Thermo、カタログ番号:11141D)をPBSで2回洗浄し、2mL細胞凍結保存チューブ内のPBMCに適量のDynabeads(登録商標)Human T-Expander CD3/CD28を加え、軽く均一に混合し、室温で20分間インキュベートした。2mL細胞凍結保存チューブを磁極に挿入し、室温で1分間放置した後、静かに反転させてチューブ内の液体を注ぎ出した。細胞凍結保存チューブを磁極から取り出し、適量のX-Vivo 15培地(200IU/mL IL-2(Beijing Yuance Pharmaceutical Co.,Ltd.、カタログ番号:20150713B)を含む)、10ng/mL IL-7(PrimeGene、カタログ番号:101-07)、5ng/mL IL-15(PrimeGene、カタログ番号:101-15)を加えて再懸濁してカウントし、細胞密度を0.5~1×10
6細胞/mLに調整し、6ウェルプレートに移し、37℃、5%CO
2インキュベーターに置き、48時間連続培養した。
T細胞のレンチウイルス感染
培養後のT細胞の密度を1×10
6細胞/mLに調整し、-80℃の超低温冷蔵庫からレンチウイルスを取り出し、37℃のウォーターバスで急速に解凍し、最終濃度6μg/mLになるように、ポリブレン(Sigma、カタログ番号:107689-10G)を調製したT細胞に加え、適切な量のウイルス(感染多重度MOI=25)を加え、ピペットで静かにピペッティングして均一に混合し、培養容器をパラフィルムで密封し、800g、室温で1時間遠心分離した。遠心分離後、24時間培養を続け、培地を交換し、37℃、5%CO
2インキュベーター内で培養を続けた。
T細胞の大量増殖
完全に分離されるまで、培養系内のDynabeads(登録商標)/細胞ペレットを毎日軽くピペッティングし、カウントした。細胞密度が1×10
6細胞/mLを超えたら、X-Vivo 15培地(200IU/mL IL-2、10ng/mL IL-7、5ng/mL IL-15を含む)を加え、細胞密度を0.5×10
5細胞/mLに調整し、培養を続けた。増殖及び培養の10日目に細胞を収集し、細胞凍結保存溶液に保存した。
CAR-T陽性率の検出
FITC-Anti-EGFR抗体(iCARTAB、カタログ番号:IAB006A)(最終濃度10μg/mL)を使用してH90-11 CAR-T細胞(pCDH-EFIa-H90-11CAR-4-1BB-EGFRtレンチウイルスに感染したT細胞)及びEGFRt CAR-T細胞(pCDH-EF1a-EGFRt-AT-Free(delete T2A)レンチウイルスに感染したT細胞)とそれぞれインキュベートし、暗所、室温で30分間インキュベートした後、CAR-T細胞陽性率を反映するEGFRtの発現をフローサイトメトリーで検出した結果、
図4に示すように、H90-11 CAR-T細胞の陽性率は36.1%であり、EGFRt CAR-T細胞の陽性率は78.1%であった。同時に、BAFF-R Liama IgG2b Fc Tag組換えタンパク質(Acro、カタログ番号:BAR-H5258)(最終濃度10μg/mL)を使用して、H90-11 CAR-T細胞及びEGFRt CAR-T細胞とそれぞれインキュベートし、室温で30分間インキュベートした後、500g、5分間遠心分離後、上澄みを捨て、FITC-anti Liama IgG(H+L)(Novus、カタログ番号:NBP1-47627)を0.5%BSA PBSで1:1000に希釈した。細胞ペレットを100μL/サンプルで再懸濁し、暗所、室温で30分間インキュベートした後、FACSでCAR-T細胞の陽性率を検出した結果、
図5に示すように、H90-11 CAR-T細胞の陽性率は30.2%であり、EGFRt CAR-T細胞の陽性率は0.65%であった。H90-11 CAR-T細胞はEGFRtタンパク質と抗BAFF-R CAR分子との両方を発現し、陽性率は基本的に同じであったが、EGFRt CAR-T細胞は抗BAFF-R CAR分子を発現せずにEGFRtタンパク質のみを発現した。これは、H90-11 CAR-T細胞とEGFRt CAR-T細胞との両方が正常に調製されたことを示している。
【0131】
実施例5:BAFF-Rを標的とするキメラ抗原受容体T細胞によるインビトロでの腫瘍細胞の殺傷の評価
CAR-T細胞による標的細胞の溶解
Nalm6-ルシフェラーゼ細胞は、ヒトBAFF-Rを高発現する急性リンパ芽球性白血病細胞であり、Nalm6細胞(Genio Biotech社より購入)にレンチウイルスを感染させて得られたLuciferase(ルシフェラーゼ)過剰発現細胞である。ルシフェラーゼ検出キット(Promega、カタログ番号:E2610)を使用して、Nalm6-ルシフェラーゼ標的細胞に対するH90-11 CAR-T細胞の細胞傷害性を検出し、対照としてEGFRt CAR-T細胞を使用した。具体的なステップは下記通りである。
Nalm6-ルシフェラーゼ標的細胞を完全培地(RPMI1640+10%FBS)に再懸濁し、標的細胞を2×10
4細胞/ウェルで96ウェルプレートに接種し、37℃、5%CO
2インキュベーターに置き、一晩インキュベートした。調製したCAR-T細胞を遠心分離により回収し、10%FBSを含む1640培地に再懸濁した。インキュベーターから96ウェルプレートを取り出し、ウェル内の培地を完全に吸引し、滅菌PBSで細胞を穏やかに一回洗浄し、0.5:1、1:1、2.5:1、5:1、及び10:1のエフェクト対ターゲット比でCAR-T細胞を加え、ダブルウェルを設定し、最終容量を200μL/ウェルに補充した。Maxi lysisウェルとMini lysisウェルに同数の標的細胞を接種したが、CAR-T細胞は追加しなかった。96ウェルプレートを37℃、5%CO
2インキュベーターに置き、18時間培養した。培養後、ルシフェラーゼ検出キット(Promega、カタログ番号:E2610)の取扱説明書に従って、組換えCAR-T細胞の標的細胞を溶解する能力を反映するルシフェラーゼ活性を検出した。標的細胞溶解率の計算式:Lysis%=(1-[RLU]_Sample)/([RLU]_Max)×100%
結果を
図6に示す。BAFF-Rを発現するNalm6-ルシフェラーゼ細胞に対するH90-11 CAR-T細胞の殺傷効果は、EGFRt CAR-T群の殺傷効果よりもはるかに高く、エフェクト対ターゲット比が0.5:1、1:1、2.5:1、5:1、及び10:1である場合、標的細胞に対するH90-11 CAR-Tの殺傷率は、それぞれ62.7%、83.1%、95.4%、98.9、及び99.7%であり、標的細胞に対するEGFRt CAR-T群の殺傷率は、それぞれ2.1%、10.5%、10.5%、18.1%、及び24.7%であった。このことは、本発明の方法によって調製されたBAFF-Rを標的とするキメラ抗原受容体T細胞が強い腫瘍殺傷能を有することを示している。
CAR-Tサイトカイン分泌レベルの検出
標的細胞Nalm6-ルシフェラーゼ及び調製したCAR-T細胞の共培養上澄み中のIL-2とIFN-γの発現レベルをELISA法により検出した。
Nalm6-ルシフェラーゼ標的細胞を完全培地に再懸濁し、標的細胞を96ウェルプレートに2×10
4細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO
2インキュベーターに置き、一晩培養した。組換えH90-11 CAR-T細胞とEGFRt CAR-T細胞をそれぞれエフェクター細胞として使用し、エフェクター細胞と標的細胞の共培養系を確立した。エフェクト対ターゲット比0.5:1、1:1、2.5:1、5:1、及び10:1で、ダブルウェルを設定した。ウェルプレートを37℃、5%CO
2インキュベーターに置き、18時間培養した。培養終了後、ウェルプレートをインキュベーターから取り出し、96ウェルプレートを1200g、室温で5分間遠心分離し、ウェルプレートを穏やかに取り外し、移した上澄みは、IL-2(Fcmacs Biotech Co.,Ltd,、カタログ番号:FMS-ELH003)及びIFN-γ検出キット(Fcmacs Biotech Co.,Ltd,、カタログ番号:FMS-ELH035)を使用してIL-2及びIFN-γの発現レベルを検出した(詳細な手順については、ELISA検出キットのプロトコールを参照されたい)。
結果を
図7A(IL-2)及び7B(IFN-γ)に示す。BAFF-Rを発現するNalm6-ルシフェラーゼ細胞及びH90-11 CAR-Tの共培養上澄み中のIL-2とIFN-γサイトカインレベルは、EGFRt CAR-T群よりも有意に高く、勾配的に増加した。この結果は、H90-11 CAR-T細胞が、BAFF-Rを発現する標的細胞によって刺激されると、Th1系サイトカインを分泌できることを示している。
【0132】
実施例6:マウスにおけるBAFF-Rを標的とするキメラ抗原受容体T細胞による腫瘍細胞の殺傷の評価
急性リンパ芽球性白血病Nalm6-ルシフェラーゼ細胞株をNSGマウスモデルに異種移植し、H90-11 CAR-Tのインビボ活性を評価した。
6~8週齢のNSGマウス(Beijing Biocytogen社より購入)(体重18~22g)を20匹取り、1週間馴化培養した後、Nalm6-ルシフェラーゼを尾静脈に接種した。各マウスに1×10
6個の腫瘍細胞を接種した。腫瘍細胞を尾静脈に接種してから5日後に、1回目のインビボイメージングを行ったが、イメージング効果は理想的ではなかった。接種8日後、モデリングに失敗したマウスを後続の実験群から除外し、マウスのインビボイメージング結果に従って群を分け、マウスをランダムに2つの群に分け、各群8匹のマウスとし、2.25×10
6のH90-11 CAR-T細胞またはEGFRt CAR-T細胞をそれぞれ尾静脈から注入し、マウスに7日ごとにD-ルシフェリン(Sinochrome/Cytogenetics、カタログ番号:BC219-10)を腹腔内注射すると同時に、ガス麻酔機を使用してマウスを麻酔した。腫瘍のインビボイメージングデータを収集し、マウスの体重変化を記録してマウスの生存曲線を描いた。
モデリング後8、15、22日目に、小動物インビボイメージング装置を使用してインビボイメージング観察を行った。イメージングの結果を
図8Aに示し、絶対発光量曲線を
図8Bに示す。イメージング結果によれば、EGFRt CAR-T対照群と比較して、H90-11 CAR-Tは腫瘍細胞に対して有意な殺傷効果を示した;8日目にCAR-T細胞注入治療後、EGFRt CAR-T注入対照群と比較して、H90-11 CAR-T注入群のマウスは注入後から15日目までに腫瘍負荷(絶対発光量)の増加が遅くなり、15日目以降に腫瘍負荷は急激に減少した。描かれたマウスの体重変化曲線のグラフを
図8Cに示す。EGFRt CAR-T対照細胞を注入したマウスの体重は、H90-11 CAR-T細胞を注入したマウスの体重と同等であった。実験中、マウスの体重は緩やかに増加し、これは、CAR-T細胞の注入が重篤な毒性反応を引き起こさないことを示している。
【配列表】
【国際調査報告】