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特表2024-519956ハニカム押出ダイス、並びにその使用方法及び作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ハニカム押出ダイス、並びにその使用方法及び作製方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 3/26 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
B28B3/26 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572129
(86)(22)【出願日】2022-05-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-11
(86)【国際出願番号】 US2022029735
(87)【国際公開番号】W WO2022251010
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/193,764
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】リーマン,マイケル ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】シェン,ミン
【テーマコード(参考)】
4G054
【Fターム(参考)】
4G054AA05
4G054AB09
4G054BD19
(57)【要約】
改良した摩耗特性を有するハニカム押出ダイス(120)。押出ダイスは、入口面(122)及び出口面(123)と、送給孔入口(124A)と送給孔出口(124B)とを有する送給孔(124)と、交差スロット開口(130)のマトリクス配列を画成するように構成された側面(128)を有する複数のダイスピン(126)とを備えるダイス体(121)を有している。交差スロット開口及び複数のダイスピンのうちの少なくともいくつかは、送給孔と出口面との間においてダイスピンの側面に形成された窪み(132)と、送給孔出口から窪みまで延び、入口スロット開口幅Wを有する入口スロット開口部分と、窪みから出口面まで延び、出口スロット開口幅Wを有する出口スロット開口部分とを有し、スロット開口全長にわたってW>Wであるスロット開口構造を画成する。また、本開示は、当該ハニカム押出ダイスを用いてハニカム構造体を製造する方法及び押出ダイスの作製方法、並びに他の態様を提供するものでもある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイス体
を備えるハニカム押出ダイスであって、
前記ダイス体は、
入口面、及び該入口面とは軸方向に反対側の出口面と、
前記入口面に送給孔入口を有するとともに、前記ダイス体の内部の送給孔出口で終端する送給孔と、
前記出口面まで延びる複数のダイスピンであって、交差スロット開口のマトリクス配列を画成する側面を備える複数のダイスピンと、
を備え、
前記交差スロット開口のマトリクス配列におけるスロット開口のうちの少なくともいくつかが、
軸方向に前記送給孔出口と前記出口面との間の位置において、前記ダイスピンの前記側面に形成された窪みと、
前記送給孔出口との交差部から前記窪みまで延びる入口スロット開口部分であって、入口スロット開口幅Wを有する入口スロット開口部分と、
前記窪みから前記出口面まで延びる出口スロット開口部分であって、出口スロット開口幅Wを有する出口スロット開口部分と、
を備え、
前記送給孔出口から前記出口面までのスロット開口全長にわたり、W>Wである、ハニカム押出ダイス。
【請求項2】
スロット開口幅縮小率SWCRをSWCR=W/Wと定義した場合に、前記交差スロット開口のマトリクス配列における前記スロット開口のうちの少なくともいくつかの前記スロット開口全長にわたるSWCRが1.5以上である、請求項1に記載のハニカム押出ダイス。
【請求項3】
前記SWCRが1.5~5.0である、請求項2に記載のハニカム押出ダイス。
【請求項4】
前記入口スロット開口部分のうちの前記少なくともいくつかの前記入口スロット開口幅Wが、前記送給孔出口との交差部から前記窪みまでの前記入口スロット開口部分の全長にわたって一定寸法である、請求項1に記載のハニカム押出ダイス。
【請求項5】
前記出口スロット開口部分のうちの少なくともいくつかの前記出口スロット開口幅Wが、前記窪みから前記出口面までの前記出口スロット開口部分の全長にわたって一定寸法である、請求項1に記載のハニカム押出ダイス。
【請求項6】
前記入口スロット開口部分は、前記送給孔出口との交差部から前記窪みまでの長さとして測定される入口長さLを有しており、
前記出口スロット開口部分は、前記窪みから前記出口面までの長さとして測定される出口長さLを有しており、
>Lである、請求項1に記載のハニカム押出ダイス。
【請求項7】
前記入口スロット開口部分は、前記送給孔出口との交差部から前記窪みまでの長さとして測定される入口長さLが1270μm~2540μmであり、
前記出口スロット開口部分は、前記窪みから前記出口面までの長さとして測定される出口長さLが508μm~1143μmであり、
前記ダイスピンの前記側面に形成された前記窪みは、前記入口スロット開口部分の中心線から測定した窪み幅Dが250μm~750μmであり、窪み長さLが200μm~600μmである、請求項1に記載のハニカム押出ダイス。
【請求項8】
ダイス体に、該ダイス体の入口面の送給孔入口から該ダイス体の内部の送給孔出口まで延びる送給孔を形成するステップと、
前記入口面とは軸方向に反対側の前記ダイス体の出口面から前記ダイス体の内部に軸方向に延びる交差スロット開口のマトリクス配列を形成するステップであって、スロット開口は、前記出口面まで延びる複数のダイスピンの側面によって画成される、ステップと、
軸方向に前記送給孔出口と前記出口面との間の位置において、前記ダイスピンの前記側面に窪みを形成するステップと、
を含む、ハニカム押出ダイスの作製方法であって、
前記交差スロット開口のマトリクス配列を形成するステップが、前記スロット開口のうちの少なくともいくつかが、前記送給孔出口との交差部から前記窪みまで延び、入口スロット開口幅Wを有する入口スロット開口部分と、前記窪みから前記出口面まで延び、出口スロット開口幅Wを有する出口スロット開口部分とを有し、前記送給孔出口から前記出口面までのスロット開口全長にわたり、W>Wとなるように、前記スロット開口のうちの少なくともいくつかを形成するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年5月27日を出願日とする米国仮特許出願第63/193764号の米国特許法第119条に基づく優先権の利益を主張するものであり、この仮出願のすべての開示内容は、本明細書の依拠するところとし、参照により本明細書に援用するものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示の実施形態は、ハニカム押出ダイスに関し、特に、スロット開口の側面から内部に延びる窪み(divot)を有するスロット開口を備えるハニカム押出ダイス、及びかかるハニカム押出ダイスを用いてハニカム構造体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ハニカム押出ダイスは、セラミック形成バッチ材料からハニカム構造体を押出成形するために使用することができる。押し出されたハニカム構造体は、焼成することにより、触媒コンバータや微粒子フィルタなどの流体処理システムに利用可能な多孔質ハニカム構造体を製造することができる。
【発明の概要】
【0004】
本開示の例示的な実施形態は、以下のハニカム押出ダイスを提供するものである。ハニカム押出ダイスは、ダイス体を備える。ダイス体は、入口面及び出口面と、入口面に位置する送給孔入口と送給孔出口とを有する送給孔と、出口面まで延びる複数のダイスピンであって、交差スロット開口のマトリクス配列を画成するように構成された側面を備える複数のダイスピンと、を備える。交差スロット開口のマトリクス配列及び複数のダイスピンのうちの少なくとも一部は、軸方向に送給孔と出口面との間において、ダイスピンの側面に形成された窪みと、交差スロット開口のマトリクス配列の入口スロット開口部分と、交差スロット開口のマトリクス配列の出口スロット開口部分とをさらに備えている。入口スロット開口部分は、送給孔出口から窪みまでの部分であり、入口スロット開口幅Wを有している。出口スロット開口部分は、窪みから出口面までの部分であり、出口スロット開口幅Wを有している。送給孔出口から窪みまでの全長にわたってW>Wである。
【0005】
本開示の他の例示的な実施形態は、以下のハニカム押出ダイスを提供するものである。ハニカム押出ダイスは、ダイス体を備える。ダイス体は、入口面及び出口面と、入口面に位置する送給孔入口と送給孔出口とを有する送給孔と、出口面まで延びる複数のダイスピンであって、交差スロット開口のマトリクス配列を画成するように構成された側面を備える複数のダイスピンと、を備える。交差スロット開口のマトリクス配列及び複数のダイスピンのうちの少なくとも一部は、軸方向に送給孔と出口面との間において、ダイスピンの側面に形成された窪みと、交差スロット開口のマトリクス配列の入口スロット開口部分と、交差スロット開口のマトリクス配列の出口スロット開口部分とをさらに備えている。入口スロット開口部分は、送給孔出口から窪みまでの部分であり、入口スロット開口幅Wを有している。出口スロット開口部分は、窪みから出口面までの部分であり、出口スロット開口幅Wを有している。送給孔出口から窪みまでの全長にわたってW>Wである。SWCRをSWCR=W/Wと定義されるスロット開口幅縮小率とすると、交差スロット開口のマトリクス配列の少なくとも一部のSWCRが1.5以上である。入口スロット開口部分のうちの少なくともいくつかは、送給孔出口から窪みまでの長さとして測定される入口長さLを有しており、出口スロット開口部分のうちの少なくともいくつかは、窪みから出口面までの長さとして測定される出口長さLを有しており、L>Lである。
【0006】
本開示の他の例示的な実施形態は、ハニカム構造体の製造方法を提供するものである。本方法は、ダイス体を有するハニカム押出ダイスを設置するステップを含む。ダイス体は、入口面及び出口面と、入口面に位置する送給孔入口と送給孔出口とを有する送給孔と、出口面まで延びる複数のダイスピンであって、交差スロット開口のマトリクス配列を画成するように構成された側面を備える複数のダイスピンと、を備える。交差スロット開口のマトリクス配列及び複数のダイスピンのうちの少なくとも一部は、軸方向に送給孔と出口面との間において、ダイスピンの側面に形成された窪みと、交差スロット開口のマトリクス配列の入口スロット開口部分と、交差スロット開口のマトリクス配列の出口スロット開口部分とをさらに備えている。入口スロット開口部分は、送出口から窪みまでの部分であり、入口スロット開口幅Wを有している。出口スロット開口部分は、窪みから出口面までの部分であり、出口スロット開口幅Wを有している。送給孔出口から窪みまでの全長にわたってW>Wである。また、本方法は、バッチ材料を、送給孔及び交差スロット開口のマトリクス配列を通して押し出すステップをさらに含む。押し出すステップによるダイスの摩耗が最大となる位置は、バッチ材料のレオロジーとは関係なく、交差スロット開口のマトリクス配列の出口スロット開口部分となる。
【0007】
本開示のさらなる特徴については、以下の説明に記載するものとする。かかるさらなる特徴は、部分的には説明から明らかとなるであろうし、又は本開示を実施することにより知ることができるであろう。なお、上述の概略的な説明及び以下の詳細な説明はいずれも、本開示を例示的に説明するものであり、本開示をさらに詳しく説明することを意図していたものであることを理解されたい。
【0008】
添付の図面は、本開示をより深く理解するために添付するものであり、本明細書に組み込まれるとともにその一部をなし、本開示の実施形態を例示して、以下の説明と併せて本開示を説明する役割を果たすものである。なお、図面は必ずしも縮尺通りに図示されているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の1つ以上の実施形態に係る、入口スロット開口部分と、出口スロット開口部分と、中間窪みとを備えるハニカム押出ダイスであって、入口スロット開口部分の幅Wが出口スロット開口部分の幅Wに比べて大きいハニカム押出ダイスの代表的な部分を模式的に示す側断面図
図2】本開示の実施形態に係る押出ダイスが吐出端に配置された押出機(例えば、二軸スクリュ押出機)を模式的に示す側面視の部分断面図
図3】押出機の前端部と、本開示の実施形態に係るハニカム押出ダイスから押出される未焼結ハニカム構造体とを模式的に示す部分斜視図
図4】本開示の実施形態に係るハニカム押出ダイス内を通す押出成形によって製造されたハニカム構造を備える代表的なハニカム体を模式的に示す斜視図
図5】本開示の実施形態に係る、ハニカム押出ダイスの代表的な部分を模式的に示す拡大正面断面図であって、複数のスロット開口と流体連通する複数の送給孔の位置、及び代表的なダイスピン構成を示すとともに、一部を切り取って示している箇所に、入口スロット開口部分と、出口スロット開口部分と、中間窪みとからなる構成を示す図
図6】本開示の実施形態に係る、入口スロット開口部分と、出口スロット開口部分と、中間窪みとを備えるスロット開口構成を示す、ハニカム押出ダイスの代表的な部分を模式的に示す拡大側断面図
図7A】本開示のいくつかの実施形態に係る、テーパ形状の入口スロット開口部分を備えるハニカム押出ダイスの代替的な実施形態の代表的な部分を模式的に示す拡大側断面図
図7B】本開示のいくつかの実施形態に係る、正方形の窪み形状を有するハニカム押出ダイスの代替的な実施形態の代表的な部分を模式的に示す拡大部分側断面図
図8】本開示の実施形態に係る、入口スロット開口部分と、出口スロット開口部分と、中間窪みとを備えるハニカム押出ダイスを用いてハニカム構造体を製造する方法を模式的に示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
ハニカム体は、多種多様な用途で利用されている。例えば、内燃機関からの排気ガスを処理する排気後処理システムでは、高表面積基材(例えば、セラミックハニカム体)に担持した1つ以上の触媒を利用して、例えば、CO、HC、NOx、SOxなどの排ガス中の汚染物質を低減することができる。同様に、高気孔率ハニカム体を端部に埋め込んで、ウォールフロー型ハニカムフィルタとして使用することもできる。本明細書に記載の実施形態に係るハニカム押出ダイスを利用することにより、触媒を担持したフロースルー型ハニカム基材やウォールフロー型ハニカムフィルタとして使用することのできる多孔質セラミック体を製造することが可能となる。
【0011】
特定的には、ハニカム体のハニカム構造は、ハニカム押出ダイスからセラミック形成バッチ混合物を押し出すことにより形成することができる。セラミック形成バッチ混合物は、セラミック形成材料と、(1つ以上の)有機粘結剤と、液体溶剤と、任意選択的に細孔形成剤と、場合によっては他の加工助剤、潤滑剤、又は焼結助剤とを含み、セラミック形成材料には、セラミック、セラミック前駆体、又はその両方を含めることができる。そして、未焼結(green)状態のハニカムを形成した後(例えば、ハニカム押出ダイスで押出成形した後)に、未焼結ハニカム体に乾燥、反応、焼結、又はこれらのうちのいずれか複数の処理を行うことにより、多孔質セラミックハニカム体とすることができる。多孔質セラミックハニカム体が有する多孔質セラミックハニカムのマクロ構造及びミクロ構造は、開口した相互接続構造であり、排気後処理などの流体処理用途に適している。セラミック材料は、例えば、コージライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、ムライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素など、及びそれらの組み合わせとすることができる。また、他の適切な押出成形可能なバッチ材料を使用することもできる。
【0012】
押出成形は、油圧ラム押出プレス機、2段式脱気シングルオーガ押出機、二軸スクリュ押出機などの任意の適切な押出機を用いて行うことができ、いずれの押出機も、例えば、図2及び図3に示すように、その吐出端に本明細書に記載しているような実施形態のハニカム押出ダイスが取り付けられている。
【0013】
ここで認識されたいのは、押し出されるセラミック形成バッチ混合物の研磨性を考慮すると、かかるセラミック形成バッチ混合物をハニカム押出ダイスを通して押し出すことにより、ハニカム押出ダイスが激しく摩耗することである。摩耗量は、バッチ混合物の特性や成分、そしてこれらに対応する液体含有量に依存すると考えられる。例えば、粗い(例えば、粒径が大きい)バッチ混合物ほど、激しい摩耗を生じると考えられ、同様に、乾燥した(液体含有量の少ない)バッチほど、多くの摩耗を生じると考えられる。また、押出ダイスの耐用期間中は、かかるハニカム押出ダイスがその公差や特徴を保持していることが望まれている。しかしながら、押出ダイスの耐用期間内の或る時点で、これらの公差、特徴又はその両方が低下して、押出成形体として望ましいハニカム寸法(例えば、ハニカム壁厚)又は特徴がもはや得られないレベルまで劣化してしまう場合がある。従来のように、ハニカム押出ダイスの耐用期間を延ばすために、ハニカム押出ダイスを適切な耐摩耗被膜で被覆し直すこともできるが、再被覆には高いコストがかかる可能性がある上、いずれハニカム押出ダイスをこれ以上使用できなくなる時(例えば、使用と被覆作業の両方から劣化が過度に進んでしまった時)が来ることから、一般に、再被覆できる程度にも限りがある。従って、摩耗特性及び属性の改善を可能にする押出ダイスの設計は、ハニカム押出ダイスの耐用期間を延ばすのに効果的であると考えられる。また、これにより、ハニカム体製造コストや得られるハニカム体の品質に大きな影響を与えられると考えられる。
【0014】
一部のハニカム体の製造目標に、壁の厚さのばらつきを最小限に抑えること、例えば、1つのハニカム体の複数の壁の間の寸法のばらつきと、同一のダイスから製造された複数のハニカム体の間の寸法のばらつきの両方の面での、壁の厚さのばらつきを抑えることがある。例えば、押出ダイスが摩耗するにつれ、ハニカム壁の形成に供されるスロット開口の幅が広がり、1つのダイスにおける均一性が次第に低下する恐れがある。かかるばらつきは、例えば、スロット開口幅の標準偏差の形で表され、特定のハニカム押出ダイスが、許容可能な寸法公差(寸法範囲)内でハニカム体を製造する能力をまだ有しているかどうかを特定するのに役立つ1つの指標となる。ハニカム押出ダイスのスロット開口幅のばらつきの増大は、ハニカム押出ダイスで行う未焼結生地の押出処理の総直線長に相関しているため、場合によっては、かかる総処理長が或る直線長さに達したときにハニカム押出ダイスが破棄される場合もある。あるいは、ハニカム押出ダイスを画像解析ソフトによる検査にかける場合もある。
【0015】
また、押出成形されたハニカムの寸法や寸法ばらつきが変化してしまうことに加えて、ダイスピンの根元(送給孔がスロット開口と噛み合う位置)が摩耗すると、ダイスピンのダイス体への取り付け部の断面積が大きく減少して、取り付け部の断面二次モーメントが小さくなってしまう可能性がある。このように断面二次モーメントが小さくなると、ダイスピンが何らかの曲げモーメントを受けた場合(例えば、押出成形時、ハンドリング中、ダイスの再被覆時)に、より大きな応力が生じる恐れがある。特に、ダイスピンの根元が不均一に摩耗してしまうと、被膜とダイスピンとの間の形状の非対称性により、再被覆時にダイスピンが動いてしまう可能性がある。これに加えて、この非対称性が、基材と耐摩耗被膜との熱膨張係数(CTE)の差と相まって、さらにダイスピンの変形を引き起こす恐れもある。その結果、スロット開口幅のばらつきがさらに大きくなってしまう可能性がある。
【0016】
また、スロット開口幅のばらつきの他の要因として、押出成形されたハニカム壁の幅を決定する位置である、スロット開口の出口におけるダイスピン側面の摩耗も考えられる。研磨性を有する、壁面抵抗が大きいバッチでは、ダイスの摩耗は、送給孔とスロット開口が交差するダイスピンの根元で最も高率に発生すると考えられる。上述したように、ダイス根元が摩耗すると、ダイスが耐用期間を終える前、例えば、ダイスの総処理長が想定されている直線長さに達する前に、ダイスが寿命を迎えてしまう恐れがある。一方、スロット開口の出口での摩耗も、最終的にはスロット開口幅のばらつきを許容できないほど大きくしてしまう可能性はあるものの、一般に、ピンの根元の摩耗に比べてスロット開口出口の摩耗の方が押出成形工程への影響は少ない。
【0017】
一般に、研磨性を有するバッチ材料を押出成形に用いる場合には、ダイスの摩耗は必然的に避けられないが、本明細書に記載のハニカム押出ダイスの実施形態には、摩耗を低減するとともに、押出成形されたハニカム体に寸法ばらつきが生じにくいエリアでダイスの摩耗が生じるように摩耗の位置を制御できるという利点がある。すなわち、本明細書に記載の実施形態によれば、ハニカム押出ダイスの耐用期間を改善するべく、ダイスの摩耗が最も高率に発生する位置をスロット開口出口とし、しかも使用するバッチ混合物とは関係なく、すなわち、バッチ混合物のレオロジー特性に依存せずに、これが実現する。例えば、本発明者らは、送給孔とスロット開口との交差部でのバッチ滑り速度(摩耗を表す)のピーク値が、スロット開口の出口でのバッチ滑り速度よりも低い場合に、押出成形されるハニカムに生じる壁厚のばらつきが小さくなり、ハニカム押出ダイスの耐用期間を延ばすことができることを見出した。
【0018】
また、本明細書に記載の実施形態では、送給孔とスロット開口の交差部でのスロット開口幅を比較的大きくしたダイスとすることができ、ダイスの耐用期間延長に加えて、ピン根元での摩耗を低減することによりダイス圧を低減することもできる。ダイス圧が低減されることにより、ダイスの送給孔の長さを大きくすることができるようになるため、ダイスのクラウニング(crowning)を低減することができる(したがって、使用時に著しいクラウニングを受ける可能性のある大径ダイスに特に有用である)。本明細書で説明するように、本開示の実施形態は、バッチのレオロジーとは関係なく、例えば、バッチ材料がいわゆる低壁面抵抗バッチであるか高壁面抵抗バッチであるかに関係なく、1つの設計ですべてのハニカム押出ダイスに一貫した性能を与えられる(例えば、最も摩耗が大きい位置が同じ位置となるようにする)ような設計を提供することを支援するものである。
【0019】
ここで、図1を参照すると、ダイス体121を備えるハニカム押出ダイス120が図示されている。ダイス体121は、軸方向に互いに反対側の面である入口面122と出口面123とを備えている。例えば、後述の図2及び図3に関する説明においてより詳細に述べるように、入口面122で、押出機200などの押出機の作用によりバッチ材料216などのバッチ材料を受け取り、このバッチ材料216を、出口面123で、ハニカム構造体201として再形成して排出する。
【0020】
図1に戻ると、ダイス体121は、ダイス体121内を延びる送給孔124を備えている。送給孔124は、送給孔入口124Aを入口面122に有し、送給孔出口124Bをダイス体121の内部に有している。そして、ダイス体121から複数のダイスピン126が延びて、出口面123を形成している。複数のダイスピン126は、側面128(図1では、参照番号を一部に付している)を有しており、側面128により、交差スロット開口130のマトリクス配列が画成されている。交差スロット開口130のマトリクス配列は、押出成形により形成するハニカム構造体201の構造と対応したものとなっており、これにより、スロット開口130からバッチ材料216を排出すると、出口面123でバッチ材料216からハニカム構造体201の複数の壁が形成される。
【0021】
交差スロット開口のマトリクス配列におけるスロット開口130のうちの少なくともいくつか(例えば、すべてのスロット開口130)は、送給孔124の出口124Bと出口面123との間の位置において、ダイスピン126の側面128に形成された窪み132を含んでいる。よって、交差スロット開口130は、スロット開口と送給孔出口124Bとの交差部から窪み132まで延びる、交差スロット開口130のマトリクス配列の入口スロット開口部分135を備えている。図1及び図6に最もよく示されているように、入口スロット開口部分135は、スロット開口130に対して横方向に測定された入口スロット開口幅Wを有している。また、交差スロット開口130は、窪み132から出口面123まで延びるように位置する出口スロット開口部分136をさらに備えている。図1及び図6に示されているように、出口スロット開口部分136は、スロット開口130に対して横方向(軸方向に垂直な方向)に測定された出口スロット開口幅Wを有している。バッチ材料は、スロット開口130を通って押出ダイス120から排出されるため、出口スロット開口部分136の出口スロット開口幅Wが、得られるハニカム構造体201及びハニカム体203の壁312の厚さに対応する。
【0022】
本明細書に記載の実施形態によれば、ハニカム押出ダイス120において最も摩耗が大きいエリアが出口スロット開口部分136の位置に生じるように設定するべく、いくつかの実施形態では、ハニカム押出ダイスの構成を、スロット開口130の全長にわたってW>Wとなるようにしている。換言すれば、入口スロット開口部分135の入口長さL図6に示すように、送給孔出口124Bとの交差部から窪み132までの長さ)に沿った任意の位置の入口スロット開口幅Wが、出口スロット開口部分136の出口長さL図6に示すように、窪み132から出口面123までの長さ)に沿ったすべての位置の出口スロット開口幅Wに比べて大きい。
【0023】
次に、図2を参照すると、押出機200(例えば、二軸スクリュ連続押出機)の模式的な例示的実施形態の側断面図が図示されている。押出機200は、本開示の実施形態に係るハニカム押出ダイス120を備えており、ハニカム押出ダイス120は、押出機200の下流側210の吐出端に取り付けられている。押出機200はバレル202を備えており、バレル202の内部にはチャンバ204が形成されている。バレル202は、モノリシックとすることができるほか、複数のバレルセグメントを、長手方向(例えば、軸方向)240(押出方向に相当する方向)に逐次連結することにより形成することもできる。チャンバ204は、バレル202内を長手方向240に、上流側208から下流側210まで延びている。バレル202の上流側208、又はバレル202の上流側208に近接した位置には、材料供給ポート214を設けることができる。材料供給ポート214は、バッチ材料216を押出機200に供給するための、ホッパーなどの適切な材料供給構造を有することができる。一方、バレル202の下流側210には、バッチ材料216をハニカム構造体201などの所望の形状に押出成形するためのハニカム押出ダイス120が、下流側210に結合して設けられている。従って、図2に図示しているハニカム構造体201は、ダイス120内を通す押出成形プロセス中の未焼結押出成形物である。ハニカム押出ダイス120にバッチ材料216が到達する前に、フローフロントの形状を安定した、均一な、及び/又はプラグ型の形状とするなど、望ましいフロー特性が形成されるよう促すために、ハニカム押出ダイス120より手前に、1つ以上のスクリーン、オリフィス、ホモジナイザ、フロー制御デバイス又はバウ(bow)制御デバイスなどの他の押出成形コンポーネント(図示せず)を設けることができる。なお、図3の斜視図にも、下流側210における押出機200の端部と、そこから押し出されるハニカム構造体201(例えば、押出成形物)とを模式的に示している。
【0024】
押出機200は、ラム押出機や二軸スクリュ押出機など、任意の種類の押出機とすることができる。例えば、図2に示すように、押出機200は、バレル202内に一対の押出スクリュ230を取り付けた二軸スクリュ押出機である。第1のスクリュと第2のスクリュは、図示のように互いに概ね平行に配置することもできるが、互いに対して様々な角度で配置することもできる。スクリュ230は、同一方向又は異なる方向に回転するように、駆動機構236に結合することができる。駆動機構236は、バレル202の外部に配置することができる。2つのスクリュを、共通の1つの駆動機構236に結合することができるほか、図示のように、それぞれを個別の駆動機構236に結合することもできる。スクリュ230やラムなどの押出要素は、軸方向240に圧送作用、混練作用、又はその両方の作用を与えながら、バッチ材料216がバレル202内を通過するようにバッチ材料216を移動させる。図2及び図3に示すように、下流端210に近接して配置される押出アセンブリ又は押出カートリッジが、ハニカム押出ダイス120などの押出金具を備えることができる。また、ハニカム構造体201が外周スキン面を有する場合には、スキン面形成マスク205を設けることもできる。なお、図2及び図3では、押出方向が水平方向であるように図示しているが、本開示はこれに限定されるものではなく、押出方向は、水平方向、鉛直方向、又はこれらの方向に対して何らかの傾斜を有する方向とすることができる。
【0025】
所望の長さ316が押し出されると、未焼結ハニカム構造体201を、ワイヤ、刃、鋸などの任意の適切な手段によって切断して、図4に示すようなハニカム体203を形成することができる。構造体201から切断された後のハニカム体203は未焼結状態であり、従来の方法で乾燥や焼成を施して、多孔質セラミックハニカム体を形成することができる。得られた多孔質セラミック体は、未焼結ハニカム体と概ね同一の形状及び構成を有することができ、例えば、乾燥や焼成などの製造工程時に、収縮(ただし収縮がある場合のみ)などの寸法変化を受ける場合がある。したがって、図4に示すハニカム体203は、未焼結状態(焼成前)とセラミック状態(焼成後)の両方の状態のハニカム体を概略的に表したものである。
【0026】
軸方向240に押出機200を出た未焼結ハニカム構造体201、ひいてはハニカム構造体201から切り出されたハニカム体203は、軸方向に延びる交差壁312のハニカムマトリクス配列325を備え、これにより、軸方向に延びる複数の流路308が形成された状態となっている。マスク205を使用する場合には、ハニカム構造体201は、軸方向に延びる外周面310をさらに備えることができる。あるいは、後続の製造工程において、外周面310をハニカム体203に取り付けることもできる。複数の交差壁312(図では、直角に交差するように示している)により、軸方向240に延びる複数の流路308が形成される。例えば、説明のため、軸方向240に延びる代表的な流路308Rを破線で示している。未焼結ハニカム構造体201の、軸方向240に垂直な断面形状は、円形(図示)、正方形、楕円形、矩形、三角形、六角形、又は八角形などの任意の多角形とすることができる。同様に、流路308の断面形状も、正方形(図示)、円形、楕円形、矩形、三角形、六角形、又は八角形などの任意の多角形をはじめとする適切な形状とすることができる。流路308は、すべて同一の形状及び/又はサイズとすることができるほか、異なる形状及び/又はサイズとすることもできる。同様に、壁312の厚さも、すべて同一とすることができるほか、異なる厚さとすることもできる(壁厚の設定は、押出ダイス120のスロット開口幅により行うことができる)。
【0027】
焼成後の多孔質セラミック状態にあるときのハニカム体203の平均セル密度は、任意の適切な値とすることができ、例えば、約100個/平方インチ(cells per square inch:cpsi)~約900cpsi(約15.5個/cm~約139.5個/cm)とすることができる。交差壁312の横方向の壁厚も、任意の適切な値とすることができ、例えば、約3.0mil(milli inch length)~60mil(約0.076mm~1.52mm)の範囲とすることができる。例えば、多孔質セラミックハニカム体の幾何学的形状の平均セル密度を400cpsiとすることができ、約8milの壁厚で400cpsi(「400/8」)としたり、又は約6milの壁厚で400cpsi(「400/6」)としたりすることができる。多孔質セラミックハニカム体の他の幾何学的形状としては、例えば、(平均セル密度[単位:cpsi])/(壁厚[単位:mil])の組み合わせが、100/17、200/12、200/19、270/19、200/8、300/8、350/7、600/4、400/4、600/3、900/3となる形状などを挙げることができる。
【0028】
したがって、図1に戻ると、図1には、交差壁312を形成するように構成されたハニカム押出ダイス120の繰り返し構造の部分側断面図が示されている。この繰り返しダイス構造は、ハニカム押出ダイス120のダイス体121全体にわたって繰り返すことができ、及び/又は、スロット開口幅、ピンサイズ、又は1平方インチ(約6.45cm)当たりのピン数が異なる複数のエリアが設けられるように繰り返しダイス構造を構築することもできる。
【0029】
図5は、ハニカム押出ダイス120の出口面123の一部を示す拡大正面図である。例えば、図5に示す状態を、ハニカム押出ダイス120の出口面123の中央領域には設けるが、外周面310を形成するように構成された出口面123の周縁に近接するエリアには必ずしも設けない構成とすることができる。入口面122は出口面123の反対側に位置している。ダイス体121は、工具鋼などの任意の適切な工具材料から作ることができる。スロット開口130を画成するピン表面128などのハニカム押出ダイス120の一部は、耐摩耗性被膜材料で被覆することができる。上述の説明で概説したように、バッチ材料216(例えば、図2参照)は、押出機200(例えば、図2参照)の動作によって圧力がかけられた状態で、送給孔入口124A(例えば、図1参照)に入って、送給孔出口124Bでスロット開口130内に排出される。
【0030】
ダイスピン126の配置は、ダイスピン126の向かい合う側面128(図5に示す正方形の形状のダイスピン126の場合、各ピン126は4つの側面128を有している)の間にスロット開口130を画成して、ダイスピン126の側面128により複数のスロット開口130が形成される配置とされる。スロット開口130は、送給孔124の送給孔出口124Bと交差し、出口面123まで軸方向に延びる。送給孔124とスロット開口130とは重なり合う部分を設けることができる。押出成形時には、スロット開口130内をバッチ材料216(例えば、図2参照)が流れ、バッチ材料216がハニカム押出ダイス120を通って押出されことにより、交差壁312(例えば、図3及び図4参照)が形成される。
【0031】
図1図5図6に示す実施形態では、出口面123から見た、ダイスピン126の形状は正方形である。そして、正方形の形状のダイスピン126によって形成される流路308の形状も正方形となる(上掲の図に対応する図である図3及び図4に示す)。他の実施形態では、ダイスピン126は、円形、三角形、正方形以外の矩形、六角形、八角形、菱形、これらの組み合わせなどの正方形以外の形状を有することができるとともに、横断面視で隅肉又は隅アールを付けた形状とすることもできる。隅肉又は隅アールは、例えば、最終製品としての多孔質セラミックハニカム体の応力を最小限に抑えるため、及び/又は最終製品としての多孔質セラミックハニカム体に塗布する任意の触媒被膜の溜りを低減するために付けられる。
【0032】
押出成形プロセスにおいてハニカム押出ダイス120を用いてハニカム未焼結体を形成する際には、圧力を受けたバッチ材料216が入口面122に押し付けられ、送給孔124の送給孔入口124Aに入る。そして、バッチ材料216は送給孔124内をさらに流れ、送給孔出口124Bに達すると、スロット開口130内に移る。なお、スロット開口130の構造は、出口面123まで延びる複数のダイスピン126によって画成されるが、複数のダイスピン126が備える側面128は、交差スロット開口130のマトリクス配列を画成するように構成されている。
【0033】
交差スロット開口130のマトリクス配列のスロット開口130うちの少なくともいくつかは、入口スロット開口部分135と、窪み132と、出口スロット開口部分136とで構成されている。いくつかの実施形態では、スキン面形成領域を除く、押出ダイス120の中央領域の実質的に全域がこの構造を有している。いくつかの実施形態では、押出ダイス120の周縁のスキン面形成領域も、入口スロット開口部分135と、窪み132と、出口スロット開口部分136とを備える。いくつかの実施形態では、押出成形されたハニカム構造体201及び/又はハニカム体203の複数の壁312を画成する交差スロット開口130のマトリクス配列全体が、入口スロット開口部分135と、窪み132と、出口スロット開口部分136とを備える。いくつかの実施形態では、交差スロット開口130のマトリクス配列全体(したがって、ダイスのスキン面形成領域内のスロット開口もすべて含む)が、入口スロット開口部分135と、窪み132と、出口スロット開口部分136とを備える。
【0034】
より詳細には、複数のダイスピン126は、送給孔出口124Bと出口面123との間において、ダイスピン126の側面128に形成された窪み132を備えている。本明細書では、窪み132は、入口スロット開口部分135と出口スロット開口部分136との移行部にある凹部と定義される。軸方向に垂直な方向に、入口スロット開口部分135の中心線135Cからダイスピン126の側面128に形成される窪み132の最深部までを測定した値を、窪み132の窪み幅Dとした場合に、ハニカム押出ダイス120のいくつかの実施形態では、窪み132の窪み幅Dを、250μm~750μmとすることができる。窪み幅Dは、スロット開口部分135の中心線135Cから測定されるため、図1において窪みスロット開口幅Wとして示されている、窪み132におけるスロット開口の総幅(最大幅)は、窪み幅Dの2倍に等しくなる。窪みスロット開口幅Wは、入口スロット開口幅Wと出口スロット開口幅Wのいずれよりも広い。いくつかの実施形態では、窪み132は、200μm~600μmの窪み長さLを有している。また、窪み132の底部構成は、図6に示すような複合半径を有するものとすることができる。他の窪み構成を有する他のハニカムダイスも可能であり、例えば、図7Bに示すような、ダイスピン126の側面128に正方形の形状の窪み132Bを有する押出ダイス120Bのように、窪み132Bの側面を平坦とすることもできる。
【0035】
そして、交差スロット開口130のマトリクス配列の入口スロット開口部分135は、送給孔出口124Bとの交差部から窪み132までと位置付けられ、交差スロット開口130のマトリクス配列の出口スロット開口部分136は、窪み132から出口面123までと位置付けられる。また、上述したように、入口スロット開口部分135は入口スロット開口幅Wを有しており、出口スロット開口部分136は出口スロット開口幅Wを有している。W及びWは、耐摩耗被膜で被覆後のスロット開口の寸法として測定することができる。
【0036】
とWの関係は、使用するバッチ材料とは関係なく、出口スロット開口部分136で発生するハニカム押出ダイス120の高摩耗エリアを制御したり、又はこれに影響を及ぼしたりするように設定することができる。特定的には、いくつかの実施形態では、各入口スロット開口部分135と各出口スロット開口部分136のサイズは、スロット開口130の全長にわたってW>Wとなるように設定される。すなわち、入口スロット開口部分135の入口長さL図6に示すように、送給孔出口124Bとの交差部から窪み132までの長さ)に沿った任意の位置の入口スロット開口幅Wが、出口スロット開口部分136の出口長さL図6に示すように、窪み132から出口面123までの長さ)に沿ったすべての位置の出口スロット開口幅Wに比べて大きい。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、スロット開口幅縮小率(slot width contraction ratio:SWCR)をSWCR=W/Wと定義した場合に、スロット開口幅縮小率に関して、WとWの関係がさらに設定(定義)される。いくつかの実施形態では、交差スロット開口130のマトリクス配列の少なくとも一部が、1.5以上のSWCRを有する。例えば、SWCRを利用して、送給孔124と入口スロット開口部分135との交差部における第1の位置と、出口スロット開口部分136における第2の位置とにおける、バッチ材料の滑り速度の相対量を調整することができる。ハニカム押出ダイス120のいくつかの実施形態では、スロット開口幅縮小率(SWCR)が3.0を上回る。いくつかの実施形態では、SWCR値が1.05以下となると、バッチ材料によっては、ダイスピンの根元で望ましくない摩耗が生じる恐れがあり、SWCR値が5.0を超えると、出口スロット開口部分で過剰な摩耗が生じ、その結果、耐用期間の途中でハニカム押出ダイスが摩滅してしまう恐れがある。ハニカム押出ダイス120のいくつかの実施形態では、SWCRを2.0~5.0とすることができ、例えば3.0~5.0とすることができる。ハニカム押出ダイス120内の滑り速度の相対量を調整することは、個々のスロット開口の出口スロット開口幅Wが40μm~250μmであるダイス設計において有用である。ただし、これ以外の様々な出口スロット開口幅を有するハニカム押出ダイスにおいても有用となり得る。
【0038】
ハニカム押出ダイス120のスロット開口130のさらに詳細な寸法に関して、入口スロット開口部分135のうちの少なくともいくつかが、送給孔出口124Bとの交差部から窪み132までの長さとして測定される入口長さLを有しており(例えば、図6参照)、出口スロット開口部分136のうちの少なくともいくつかが、窪み132から出口面123までの長さとして測定される出口長さLを有しており(例えば、図6参照)、入口長さLは出口長さLに比べて大きい。いくつかの実施形態では、入口長さLを出口長さLに比べて大きくすることにより、ダイス圧の低減に寄与することができる。いくつかの実施形態において、入口長さLは出口長さLの1.1倍以上、すなわち、L≧1.1Lである。
【0039】
さらに、いくつかの実施形態では、入口スロット開口部分135のうちの少なくともいくつかの入口長さLは、図6に示すように、送給孔出口124Bから窪み132までの長さとして測定され、1270μm~2540μmである。いくつかの実施形態では、出口スロット開口部分136のうちの少なくともいくつかは、図6に示すように、窪み132(の下流端)から出口面123までの長さとして測定される出口長さLが、508μm~1143μmである。
【0040】
いくつかの実施形態では、入口スロット開口部分135の入口スロット開口幅Wは、入口スロット開口部分135の全長Lに沿って一定の寸法とされる。同様に、いくつかの実施形態では、出口スロット開口部分136の出口スロット開口幅Wは、出口スロット開口部分136の全長Lに沿って一定の寸法とされる。ただし、入口スロット開口部分135、出口スロット開口部分136、又はその両方に沿ったスロット開口130の幅を、スロット開口130の一部又は全体について非一定とすることもできる。
【0041】
例えば、押出ダイス120の代替的な一実施形態(これを、押出ダイス120Aで示し、図7Aに図示する)では、入口スロット開口部分135の入口スロット開口幅Wは、送給孔出口124Bから窪み132の上流側までの長さLに沿って非一定とされる。よって、入口スロット開口部分135は、図7Aに示す平面図においてくさび形状を形成するテーパ壁を有している。なお、スロット開口130の他の部分も、テーパ壁やくさび形の構成を有することができる。図7Aに示すように、壁間の角度として測定されるテーパ角度137は、例えば、約0.1度~10.0度とすることができる。W、L、L、L、Dといった他の寸法についても、上述と同様とすることができる。この実施形態では、長さLに沿った各位置でW>Wであり、したがって、Wの最小寸法でも、出口スロット開口部分136に沿った任意の位置の幅Wに比べて大きい。
【0042】
入口スロット開口部分135と、窪み132と、と出口スロット開口部分136とを備えるスロット開口構成を有するハニカム押出ダイス120は、任意の適切な方法で製造することができる。いくつかの実施形態では、ダイス120を、ワイヤ放電加工(wire-EDM)技術によって製造した後、適切な耐摩耗被膜で被覆してW及びWを所望の寸法とする。
【0043】
他の態様では、ハニカム体(例えば、ハニカム体203)の製造方法が開示される。製造方法800のフローチャートを示す図8を参照されたい。特定的には、図8は、ハニカム押出ダイス(例えば、図7Aに示すハニカム押出ダイス120A及び図7Bに示すハニカム押出ダイス120Bを含む、任意のハニカム押出ダイス120)を用いてハニカム構造体(例えば、ハニカム構造体201)を製造する方法を記述するものである。
【0044】
方法800は、ブロック802において、ダイス体(例えば、ダイス体121)を備えるハニカム押出ダイス120を設置するステップを含む。ダイス体は、入口面(例えば、入口面122)及び出口面(例えば、出口面123)と、送給孔(例えば、送給孔124)と、複数のダイスピン(例えば、ダイスピン126)とを備えている。送給孔は、入口面に位置する送給孔入口(例えば、送給孔入口124A)と、送給孔出口(例えば、送給孔出口124B)とを有している。複数のダイスピンは、出口面より内部に或る距離だけ延びる。複数のダイスピンは、交差スロット開口(例えば、交差スロット開口130)のマトリクス配列を画成するように構成された側面(例えば、側面128)を備えている。交差スロット開口のマトリクス配列及び複数のダイスピンのうちの少なくとも一部は、送給孔と出口面との間においてダイスピンの側面に形成された窪み(例えば、窪み132)と、交差スロット開口のマトリクス配列の入口スロット開口部分(例えば、入口スロット開口部分135)と、交差スロット開口のマトリクス配列の出口スロット開口部分(例えば、出口スロット開口部分136)とをさらに備えている。入口スロット開口部分は、送給孔出口から窪みまでの部分であり、入口スロット開口幅Wを有している。出口スロット開口部分は、窪みから出口面までの部分であり、出口スロット開口幅Wを有している。スロット開口130の全長にわたってW>Wである。
【0045】
また、方法800は、ブロック804において、バッチ材料(例えば、バッチ材料216)を、送給孔及び交差スロット開口のマトリクス配列を通して押し出すステップをさらに含む。方法800によれば、バッチ材料の押出しによるダイスの摩耗が最大となる位置が、交差スロット開口のマトリクス配列の出口スロット開口部分とされ、しかも、バッチ材料のレオロジーとは関係なく、すなわち、バッチ材料が高ダイス摩耗性のバッチ混合物であるか低ダイス摩耗性のバッチ混合物であるかに関わらず、これが実現する。
【0046】
当業者であれば、本開示の範囲から逸脱しない範囲で、本開示に対して種々の変形及び変更を加えることができることは明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本開示の変形や変更が添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲を逸脱しない場合に、当該変形や変更も範囲に含むことが意図されている。
【0047】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0048】
実施形態1
ダイス体
を備えるハニカム押出ダイスであって、
前記ダイス体は、
入口面、及び該入口面とは軸方向に反対側の出口面と、
前記入口面に送給孔入口を有するとともに、前記ダイス体の内部の送給孔出口で終端する送給孔と、
前記出口面まで延びる複数のダイスピンであって、交差スロット開口のマトリクス配列を画成する側面を備える複数のダイスピンと、
を備え、
前記交差スロット開口のマトリクス配列におけるスロット開口のうちの少なくともいくつかが、
軸方向に前記送給孔出口と前記出口面との間の位置において、前記ダイスピンの前記側面に形成された窪みと、
前記送給孔出口との交差部から前記窪みまで延びる入口スロット開口部分であって、入口スロット開口幅Wを有する入口スロット開口部分と、
前記窪みから前記出口面まで延びる出口スロット開口部分であって、出口スロット開口幅Wを有する出口スロット開口部分と、
を備え、
前記送給孔出口から前記出口面までのスロット開口全長にわたり、W>Wである、ハニカム押出ダイス。
【0049】
実施形態2
スロット開口幅縮小率SWCRをSWCR=W/Wと定義した場合に、前記交差スロット開口のマトリクス配列における前記スロット開口のうちの少なくともいくつかの前記スロット開口全長にわたるSWCRが1.5以上である、実施形態1に記載のハニカム押出ダイス。
【0050】
実施形態3
前記SWCRが3.0以上である、実施形態2に記載のハニカム押出ダイス。
【0051】
実施形態4
前記SWCRが1.5~5.0である、実施形態2に記載のハニカム押出ダイス。
【0052】
実施形態5
前記SWCRが3.0~5.0である、実施形態4に記載のハニカム押出ダイス。
【0053】
実施形態6
前記交差スロット開口のマトリクス配列の少なくとも一部の前記出口スロット開口幅Wが40μm~250μmである、実施形態1に記載のハニカム押出ダイス。
【0054】
実施形態7
前記入口スロット開口部分のうちの前記少なくともいくつかの前記入口スロット開口幅Wが、前記送給孔出口との交差部から前記窪みまでの前記入口スロット開口部分の全長にわたって一定寸法である、実施形態1に記載のハニカム押出ダイス。
【0055】
実施形態8
前記出口スロット開口部分のうちの少なくともいくつかの前記出口スロット開口幅Wが、前記窪みから前記出口面までの前記出口スロット開口部分の全長にわたって一定寸法である、実施形態1に記載のハニカム押出ダイス。
【0056】
実施形態9
前記ダイスピンの前記側面に形成された前記窪みは、前記入口スロット開口部分の中心線から測定した窪み幅が250μm~750μmである、実施形態1に記載のハニカム押出ダイス。
【0057】
実施形態10
前記ダイスピンの前記側面に形成された前記窪みは、窪み長さLが200μm~600μmである、実施形態1に記載のハニカム押出ダイス。
【0058】
実施形態11
前記入口スロット開口部分は、前記送給孔出口との交差部から前記窪みまでの長さとして測定される入口長さLを有しており、
前記出口スロット開口部分は、前記窪みから前記出口面までの長さとして測定される出口長さLを有しており、
>Lである、実施形態1に記載のハニカム押出ダイス。
【0059】
実施形態12
前記入口長さLが1270μm~2540μmである、実施形態11に記載のハニカム押出ダイス。
【0060】
実施形態13
前記出口長さLが508μm~1143μmである、実施形態11に記載のハニカム押出ダイス。
【0061】
実施形態14
≧1.1Lである、実施形態11に記載のハニカム押出ダイス。
【0062】
実施形態15
スロット開口幅縮小率SWCRをSWCR=W/Wと定義した場合に、前記交差スロット開口のマトリクス配列における前記スロット開口のうちの前記少なくともいくつかのSWCRが1.5以上である、実施形態14に記載のハニカム押出ダイス。
【0063】
実施形態16
前記入口スロット開口部分は、前記送給孔出口との交差部から前記窪みまでの長さとして測定される入口長さLが1270μm~2540μmであり、
前記出口スロット開口部分は、前記窪みから前記出口面までの長さとして測定される出口長さLが508μm~1143μmであり、
前記ダイスピンの前記側面に形成された前記窪みは、前記入口スロット開口部分の中心線から測定した窪み幅Dが250μm~750μmであり、窪み長さLが200μm~600μmである、実施形態1に記載のハニカム押出ダイス。
【0064】
実施形態17
ハニカム構造体の製造方法であって、
実施形態1~16のいずれか1つに記載の前記押出ダイスを通してバッチ材料を押し出すステップ
を含む方法。
【0065】
実施形態18
前記押し出すステップによるダイスの摩耗が最大となる位置が、前記交差スロット開口のマトリクス配列の前記スロット開口の前記出口スロット開口部分となる、実施形態17に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0066】
実施形態19
前記押し出すステップによるダイスの摩耗が最大となる前記位置が、前記バッチ材料のレオロジーとは関係なく、前記交差スロット開口のマトリクス配列の前記スロット開口の前記出口スロット開口部分となる、実施形態17に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0067】
実施形態20
ダイス体に、該ダイス体の入口面の送給孔入口から該ダイス体の内部の送給孔出口まで延びる送給孔を形成するステップと、
前記入口面とは軸方向に反対側の前記ダイス体の出口面から前記ダイス体の内部に軸方向に延びる交差スロット開口のマトリクス配列を形成するステップであって、スロット開口は、前記出口面まで延びる複数のダイスピンの側面によって画成される、ステップと、
軸方向に前記送給孔出口と前記出口面との間の位置において、前記ダイスピンの前記側面に窪みを形成するステップと、
を含む、ハニカム押出ダイスの作製方法であって、
前記交差スロット開口のマトリクス配列を形成するステップが、前記スロット開口のうちの少なくともいくつかが、前記送給孔出口との交差部から前記窪みまで延び、入口スロット開口幅Wを有する入口スロット開口部分と、前記窪みから前記出口面まで延び、出口スロット開口幅Wを有する出口スロット開口部分とを有し、前記送給孔出口から前記出口面までのスロット開口全長にわたり、W>Wとなるように前記スロット開口のうちの少なくともいくつかを形成するステップを含む、方法。
【符号の説明】
【0068】
120 押出ダイス
121 ダイス体
122 入口面
123 出口面
124 送給孔
124A 送給孔入口
124B 送給孔出口
126 ダイスピン
128 ダイスピンの側面
130 スロット開口
132 窪み
135 入口スロット開口部分
136 出口スロット開口部分
200 押出機
201 ハニカム構造体
202 バレル
203 ハニカム体
204 チャンバ
205 スキン面形成マスク
214 材料供給ポート
216 バッチ材料
230 スクリュ
236 駆動機構
308 ハニカム構造体(ハニカム体)の流路
310 ハニカム構造体(ハニカム体)の外周面
312 ハニカム構造体(ハニカム体)の交差壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
【国際調査報告】