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特表2024-519962非アルコール性脂肪肝人工組織モデル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪肝人工組織モデル
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240514BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
C12Q1/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572166
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 KR2022007325
(87)【国際公開番号】W WO2022250406
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0066220
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0062798
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522011562
【氏名又は名称】セルアートジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】チョ,スン ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ス ギョム
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ボバン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン
(72)【発明者】
【氏名】べ,ス ハン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,デ フン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ01
4B063QQ02
4B063QS40
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BC41
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに関し、脱細胞肝組織由来細胞外基質と複数のマイクロチャンネルを含むデバイスを含むことにより、マトリゲル、脱細胞肝組織由来細胞外基質のみで培養されていた従来技術に比べて、クッパー細胞と肝星細胞が含まれることで、実際の非アルコール性脂肪肝疾患をより良く疑似することができ、肝オルガノイドの成長が改善するだけでなく、遊離脂肪酸処理を通じて、肝オルガノイド内での脂肪蓄積及び炎症誘発が良く起こり、非アルコール性脂肪肝の表現型がより良く発現できるという効果がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞肝組織由来細胞外基質(Liver Extracellular Matrix;LEM)を含むハイドロゲルと、
肝オルガノイドと、
前記ハイドロゲルが位置するウェル及び遊離脂肪酸(free fatty acid)が流れることのできる複数のマイクロチャンネルを含むデバイスと、
遊離脂肪酸を含む培養液とを含む非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項2】
前記脱細胞肝組織由来細胞外基質は、肝組織細胞が95~99.9%除去されたものである、請求項1に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項3】
前記肝オルガノイドは、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来又はヒト肝組織由来である、請求項1に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項4】
前記肝オルガノイドがヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来である場合、肝オルガノイドは前記ハイドロゲル上で培養されるものである、請求項3に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項5】
前記肝オルガノイドがヒト組織由来である場合、肝オルガノイドは前記ハイドロゲル内で培養されるものである、請求項3に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項6】
前記ハイドロゲルが位置するウェルは、深さが2~4mmである、請求項4に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項7】
前記ハイドロゲルが位置するウェルは、深さが0.5~1.5mmである、請求項5に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項8】
前記遊離脂肪酸(free fatty acid)は、濃度が100~900μMである、請求項1に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項9】
前記肝オルガノイドは、血管細胞、間葉系幹細胞、クッパー細胞(Kupffer cell、KC)及び肝星細胞(hepatic stellate cell、HSC)のうち何れか1つ以上と共培養されるものである、請求項1に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデル。
【請求項10】
請求項1に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを製作するステップと、
前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに遊離脂肪酸を含む培養液を貫流させるステップとを含む非アルコール性脂肪肝人工組織モデルの製作方法。
【請求項11】
前記貫流させるステップは、撹拌機上に前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを撹拌させることで行われる、請求項10に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデルの製作方法。
【請求項12】
請求項1に記載の非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに候補物質を処理するステップと、
前記候補物質が処理された群と対照群とを比較するステップとを含む非アルコール性脂肪肝治療薬物のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪性肝(Non-Alcoholic Fatty Liver:NAFL)疾患は、脂肪肝を基本病変とし、飲酒履歴が足りないにもかかわらず、アルコール性肝障害と類似した肝実質の炎症・壊死、線維化などの組織変化を現わす病態である。NAFLは基本的に無症候性であり、病態の進行によって脂肪肝から脂肪性肝炎、また肝硬変を経て肝臓癌へと移行する。NAFLにおける脂肪性肝炎を非アルコール性脂肪性肝炎(Non-Alcoholic SteatoHepatitis:NASH)と称する。特に、近年、肥満や糖尿病などを背景とする代謝症候群が社会問題になっており、NASHも代謝症候群の一つとして考えられている。NAFL及びNASHは、その合併症として肥満、糖尿病、高脂血症及び高血圧などの生活習慣病が認められ、その臨床病態の主な特徴としては、血中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)やヒアルロン酸濃度の上昇、それに対する血中の総コレステロールやアルブミン濃度の低下などが挙げられる。しかし、NAFL及びNASHの発症機序はまだ不明確な点も多く、その効果的な治療法及び治療薬が確立されていないのが現実である。その原因の一端は、NAFL及びNASHは人の生活習慣病を発症の基盤とするので、NAFL及びNASHの研究のための適当な非ヒトモデルがまだ確立されていないことにある。
【0003】
肝硬変、肝臓癌など致死性疾患へ進展する可能性のあるNAFL及びNASHの病態の解明は効果的な治療法及び治療薬の開発に必須であり、そのためには適切なNAFL及びNASHのモデルが必要である。
【0004】
これまでNASHの動物モデルについては報告されているが(例えば、特許文献1)、NAFLの非ヒト動物モデルが殆ど報告されていない。さらに、最近では、動物倫理と係わる問題により、動物モデルの代案となるin vitroモデルの開発の必要性が高くなっている。
【0005】
そこで、本発明の発明者らは、非アルコール性脂肪肝モデルについて研究した結果、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一態様は、脱細胞肝組織由来細胞外基質(Liver Extracellular Matrix;LEM)を含むハイドロゲルと、肝オルガノイドと、前記ハイドロゲルが位置するウェル及び遊離脂肪酸(free fatty acid)が流れることのできる複数のマイクロチャンネルを含むデバイスと、遊離脂肪酸を含む培養液とを含む非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを提供することを目的とする。
【0007】
本発明の他の一態様は、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを製作するステップと、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに遊離脂肪酸を含む培養液を貫流させるステップとを含む非アルコール性脂肪肝人工組織モデルの製作方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の一態様は、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに候補物質を処理するステップと、前記候補物質が処理された群と対照群とを比較するステップとを含む非アルコール性脂肪肝治療薬物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、脱細胞肝組織由来細胞外基質(Liver Extracellular Matrix;LEM)を含むハイドロゲルと、肝オルガノイドと、前記ハイドロゲルが位置するウェル及び遊離脂肪酸(free fatty acid)が流れることのできる複数のマイクロチャンネルを含むデバイスと、遊離脂肪酸を含む培養液とを含む非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを提供する。
【0010】
本発明の一具体例において、前記脱細胞肝組織由来細胞外基質は、肝組織細胞が95~99.9%除去されたものであっても良い。
【0011】
本発明の一具体例において、前記肝オルガノイドは、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来又はヒト肝組織由来であっても良い。
【0012】
本発明の一具体例において、前記肝オルガノイドがヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来である場合、肝オルガノイドは前記ハイドロゲル上で培養されるものであっても良い。
【0013】
本発明の一具体例において、前記肝オルガノイドがヒト組織由来である場合、肝オルガノイドは前記ハイドロゲル内で培養されるものであっても良い。
【0014】
本発明の一具体例において、前記ハイドロゲルが位置するウェルは、深さが2~4mmであっても良い。
【0015】
本発明の一具体例において、前記ハイドロゲルが位置するウェルは、深さが0.5~1.5mmであっても良い。
【0016】
本発明の一具体例において、前記遊離脂肪酸(free fatty acid)は、濃度が100~900μMであっても良い。
【0017】
本発明の一具体例において、前記肝オルガノイドは、血管細胞、間葉系幹細胞、クッパー細胞(Kupffer cell、KC)及び肝星細胞(hepatic stellate cell、HSC)のうち何れか1つ以上と共培養されるものであっても良い。
【0018】
本発明の他の一態様は、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを製作するステップと、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに遊離脂肪酸を含む培養液を貫流させるステップとを含む非アルコール性脂肪肝人工組織モデルの製作方法を提供する。
【0019】
本発明の一具体例において、前記貫流させるステップは、撹拌機上に前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを撹拌させることで行われても良い。
【0020】
本発明の他の一態様は、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに候補物質を処理するステップと、前記候補物質が処理された群と対照群とを比較するステップとを含む非アルコール性脂肪肝治療薬物のスクリーニング方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の非アルコール性脂肪肝人工組織モデルは、脱細胞肝組織由来細胞外基質と複数のマイクロチャンネルを含むデバイスを含むことにより、マトリゲル、脱細胞肝組織由来細胞外基質のみで培養されていた従来技術に比べて、クッパー細胞と肝星細胞が含まれることで、実際の非アルコール性脂肪肝疾患をより良く疑似することができ、肝オルガノイドの成長が改善するだけでなく、遊離脂肪酸処理を通じて、肝オルガノイド内での脂肪蓄積及び炎症誘発が良く起こり、非アルコール性脂肪肝をより良く疑似できるという効果がある。
【0022】
また、本発明の非アルコール性脂肪肝人工組織モデルは、非アルコール性脂肪肝を疑似するため、これを利用して非アルコール性脂肪肝治療薬物をスクリーニングするのに活用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】脱細胞肝組織由来細胞外基質を分析した結果である。
図2】非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを製作するためのデバイスの構成及び作用方式を示す図である。
図3】非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを製作するためのデバイスの構成及び作用方式を示す図である。
図4】本発明のデバイスで肝オルガノイドを培養した結果である。
図5】遊離脂肪酸処理濃度を最適化するための実験結果を示すものである。
図6】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適の培養条件選別結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適化された培養プラットフォーム選別のための実験結果である。
図7】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適の培養条件選別結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適化された培養プラットフォーム選別のための実験結果である。
図8】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適の培養条件選別結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適化された培養プラットフォーム選別のための実験結果である。
図9】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適の培養条件選別結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の誘発に最適化されたchip基盤の培養プラットフォームにおける流体移動シミュレーション結果を示すものである。
図10】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適の培養条件選別結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の誘発に最適化されたchip基盤の培養プラットフォームにおける脂肪酸吸収シミュレーション結果を示すものである。
図11】肝組織特異的微小環境細胞の共培養を通じたオルガノイド分化増進効果を確認した結果であって、肝組織微小環境が統合された非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルのためのクッパー細胞(Kupffer cell)分化結果である。
図12】肝組織特異的微小環境細胞の共培養を通じたオルガノイド分化増進効果を確認した結果であって、肝組織微小環境が統合された非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルのための肝星細胞(hepatic stellate cell;HSC)分化を示すものである。
図13】肝組織特異的微小環境細胞の共培養を通じたオルガノイド分化増進効果を確認した結果であって、ヒト組織由来肝オルガノイドの微小環境細胞の共培養有無による肝分化及び機能性の比較結果を示すものである。
図14】肝組織特異的微小環境細胞の共培養を通じたオルガノイド分化増進効果を確認した結果であって、ヒトiPSC由来肝オルガノイドの微小環境細胞の共培養有無による肝分化及び機能性を比較した結果を示すものである。
図15】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを利用した薬物の有効性評価結果を示すものであって、Obeticholic acid(OCA)で検証した結果である。
図16】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを利用した薬物の有効性評価結果を示すものであって、Ezetimibe(Eze)で検証した結果である。
図17】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを利用した薬物の有効性評価結果を示すものであって、Dapagliflozin(DAPA)で検証した結果である。
図18】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイド基盤の選別された有効薬物の機転究明及び効果を検証した結果を示すものであり、ヒト組織由来肝オルガノイド基盤の非アルコール性脂肪肝炎モデルにおける薬物の有効性を検証した結果である。
図19】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイド基盤の選別された有効薬物の機転究明及び効果を検証した結果を示すものであり、ヒトiPSC由来肝オルガノイド基盤の非アルコール性脂肪肝炎モデルにおける薬物の有効性を検証した結果である。
図20】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイド基盤の選別された有効薬物の機転究明及び効果を検証した結果を示すものであり、ヒトiPSC由来肝オルガノイド基盤の非アルコール性脂肪肝炎モデルにおける薬物の有効性を検証した結果である。
図21】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイド基盤の選別された有効薬物の機転究明及び効果を検証した結果を示すものであり、ヒト組織由来急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルを利用した有効薬物の効能比較及び治療機転を究明した結果である。
図22】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイド基盤の選別された有効薬物の機転究明及び効果を検証した結果を示すものであり、ヒト組織由来急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルを利用した有効薬物の効能比較及び治療機転を究明した結果である。
図23】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルで発掘された新規治療薬物の有効性評価及び関連機転を検証(NASH動物モデルにおける薬物の効能評価及び機転研究)した結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおけるDAPA薬物の有効性検証結果を示すものである。
図24】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルで発掘された新規治療薬物の有効性評価及び関連機転を検証(NASH動物モデルにおける薬物の効能評価及び機転研究)した結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおけるDAPA薬物の有効性検証結果を示すものである。
図25】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルで発掘された新規治療薬物の有効性評価及び関連機転を検証(NASH動物モデルにおける薬物の効能評価及び機転研究)した結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおけるDAPA薬物の有効性検証結果を示すものである。
図26】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルで発掘された新規治療薬物の有効性評価及び関連機転を検証(NASH動物モデルにおける薬物の効能評価及び機転研究)した結果を示すものであって、非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおけるDAPA薬物の有効性検証結果を示すものである。
図27】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルで発掘された新規治療薬物の有効性評価及び関連機転を検証(NASH動物モデルにおける薬物の効能評価及び機転研究)した結果を示すものであって、急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおける有効薬物の効能比較及び治療機転を究明した結果を示すものである。
図28】非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルで発掘された新規治療薬物の有効性評価及び関連機転を検証(NASH動物モデルにおける薬物の効能評価及び機転研究)した結果を示すものであって、急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおける有効薬物の効能比較及び治療機転を究明した結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、添付した図面を参照しながら本発明を説明することとする。ところが、本発明は様々な異なる形態に具現されることができ、よって、ここで説明する実施例に限定されるものではない。ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0025】
他に定義されない限り、分子生物学、微生物学、タンパク質精製、タンパク質工学、及びDNA序列分析及び当業者の能力範囲内において再組合DNA分野で良く使用される通常の技術によって行われても良い。上記技術は当業者に知られており、多くの標準化された教材及び参考文献に記述されている。
【0026】
本明細書に他に定義されていなければ、使用された全ての技術及び科学用語は、当業界において通常の技術者が通常理解するところと同じ意味を有する。
【0027】
本明細書に含まれる用語を含む様々な科学辞典が良く知られており、当業界において利用可能である。本明細書に説明されたことと類似又は等価の任意の方法及び物質が本願の実行又は試験に使用されていることが見つけられるが、いくつかの方法及び物質が説明されている。当業者が使用する脈絡により様々に使用され得るため、特定の方法学、プロトコル及び試薬に本発明が限定されるものではない。以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0028】
本発明の一態様は、脱細胞肝組織由来細胞外基質(Liver Extracellular Matrix;LEM)を含むハイドロゲルと、肝オルガノイドと、前記ハイドロゲルが位置するウェル及び遊離脂肪酸(free fatty acid)が流れることのできる複数のマイクロチャンネルを含むデバイスと、遊離脂肪酸を含む培養液とを含む非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを提供する。
【0029】
本発明の一具体例において、前記脱細胞肝組織由来細胞外基質(Liver Extracellular Matrix;LEM)は、肝組織細胞が95~99.9%、より具体的には96~98%、最も具体的には97.18%除去されたものであっても良い。前記範囲外の肝組織細胞除去水準に脱細胞が行われる場合、製造された支持体組成物の品質が低下したり、工程の経済性が劣ったりするといった問題点がある。
【0030】
前記「細胞外基質(extracellular matrix)」は、哺乳類及び多細胞生物(multicellular organisms)から発見されるタンパク質成分であり、組織の脱細胞化を通じて製造された細胞培養用の自然支持体を意味する。前記細胞外基質は、透析又は架橋化によりさらに処理しても良い。
【0031】
前記細胞外基質は、コラーゲン(collagens)、エラスチン(elastins)、ラミニン(laminins)、グリコサミノグリカン(glycosaminoglycans)、プロテオグリカン(proteoglycans)、抗菌剤(antimicrobials)、化学誘引物質(chemoattractants)、サイトカイン(cytokines)、及び成長因子に制限されない、構造型及び非構造型生体分子(biomolecules)の混合物であっても良い。
【0032】
前記細胞外基質は、哺乳動物において様々な形態として約90%のコラーゲンを含んでいても良い。様々な生体組織から由来した細胞外基質は、各々の組織に必要な固有の役割のため全体の構造体及び組成が異なっていても良い。
【0033】
前記「由来(derive)」、「由来した(derived)」は、有用な方法により言及した源泉から得られた成分を意味する。
【0034】
本発明の一具体例において、前記肝オルガノイドは、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来又はヒト肝組織由来であっても良い。
【0035】
前記「オルガノイド(organoid)」は、組織又は多能性幹細胞から由来した細胞を3D形態で培養し、人工臓器のような形態に製作した超小型生体器官を意味する。
【0036】
前記オルガノイドは、幹細胞から発生し、生体内状態と類似した方式で自己組織化(又は自己パターン化)する臓器特異的細胞を含む3次元組織類似体であり、制限された要素(Ex.growth factor)パターニングによって特定の組織に発達し得る。
【0037】
前記オルガノイドは、細胞の本来の生理学的特性を有し、細胞混合物(限定された細胞類型だけでなく残存幹細胞、近接生理学的ニッチ(physiological niche)を全て含む)の元の状態を模倣する解剖学的構造を有していても良い。前記オルガノイドは、3次元培養方法を通じて細胞と細胞の機能がより良く配列され、機能性を有する器官のような形態と組織特異的機能を有していても良い。
【0038】
具体的に、前記肝オルガノイドがヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来である場合、肝オルガノイドは前記ハイドロゲル上で培養されるものであっても良い。これは、ハイドロゲルを先ずウェルに注入してハイドロゲルベッド(gel bed)を形成し、ここにオルガノイドを培養する方式であって、ハイドロゲルベッド上に細胞を注入すれば24時間内に3次元構造を有するオルガノイドが形成される。この場合、オルガノイドは、マトリックスの支持作用を受けると共に、培養液の微小流体流れを受けながら培養されることができ、特に、オルガノイドが培養液に直接露出されるので、オルガノイド内部への培養液の伝達効率が非常に優れるという長所がある。このような肝オルガノイド及びハイドロゲルの培養構造を通じて、3次元構造を有するオルガノイドが形成されても良い。
【0039】
そして、前記肝オルガノイドがヒト組織由来である場合、肝オルガノイドは前記ハイドロゲル内で培養されるものであっても良い。このような構造で培養される場合、培養時間の経過によってハイドロゲルが凝縮しながら硬いマトリックスを形成し、オルガノイドが含まれたハイドロゲルは培養過程中にウェルの底に付着しているため、オルガノイドが培養液の微小流体流れを持続的に受けながら培養されることができるという効果がある。
【0040】
前記デバイスは、ハイドロゲルが位置するウェル及び遊離脂肪酸(free fatty acid)が流れることのできる複数のマイクロチャンネルを含み、デバイスは、公知の素材を利用して製作されても良く、具体的には、PDMS高分子で製作されても良い。また、前記デバイスは、複数のチャンバにより構成されても良く、具体的には、メディアが連結されているチップユニットが8個あり、各ユニットは、4個のD=7.10mm規格の培養チャンバにより構成されており、各チャンバには、D=5mm規格のウェルが、各ユニットの両端には、横の長さが8.66mmであるメディアチャンバが位置するように構成されても良い。上述した規格でデバイスを製作する場合、96-ウェルプレートと同じ規格に製作され、High-throughputのマルチウェルデバイスとしても活用することができる。
【0041】
また、前記肝オルガノイドがヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来である場合、前記ハイドロゲルが位置するウェルは、深さが2~4mm、具体的には3mmであっても良く、肝オルガノイドがヒト組織由来である場合、前記ハイドロゲルが位置するウェルは、深さが0.5~1.5mm、具体的には1mmであっても良い。前記範囲外にウェルの深さが製作される場合、チャンネルによる培養液の流れがハイドロゲル内部のオルガノイドまで上手く伝達されない恐れがある。
【0042】
本発明の一具体例において、前記遊離脂肪酸(free fatty acid)は、濃度が100~900μM、具体的には200~800μM、最も具体的には800μMであっても良い。遊離脂肪酸は、上述したデバイスに備えられた複数のマイクロチャンネルを介してハイドロゲルが位置するウェルまで流れ、ハイドロゲル上又は内部にある肝オルガノイドに影響を与える。前記濃度範囲外の遊離脂肪酸が使用される場合、非アルコール性脂肪肝の特徴が現われないか、組織モデル内の細胞が死滅し得る。
【0043】
また、前記遊離脂肪酸を含む培養液は、肝オルガノイドを培養すると同時に肝オルガノイドを培養液に含まれた遊離脂肪酸に持続的に露出させることで、非アルコール性脂肪肝を誘発させる。前記培養の構成成分は、遊離脂肪酸の他に肝オルガノイドの培養に使用される公知の物質を混合しても良い。
【0044】
本発明の一具体例において、前記遊離脂肪酸は、オレイン酸(oleic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、リノール酸(linoleic acid)の中から選択された何れか1つ、具体的にはオレイン酸(oleic acid)であっても良い。
【0045】
本発明の一具体例において、前記肝オルガノイドは、血管細胞、間葉系幹細胞、クッパー細胞(Kupffer cell、KC)及び肝星細胞(hepatic stellate cell、HSC)のうち何れか1つ以上、具体的には、クッパー細胞(Kupffer cell、KC)及び肝星細胞(hepatic stellate cell、HSC)と共培養されるものであっても良い。前記クッパー細胞は、肝臓に存在する兔疫細胞であって、非アルコール性脂肪肝誘導により炎症性クッパー細胞が活性化されると、サイトカイン及び活性酸素種(ROS)を分泌するなどの役割をする。また、前記肝星細胞は、非アルコール性脂肪肝疾患において線維性因子を分泌する役割をする。本発明の非アルコール性脂肪肝人工組織モデルは、肝オルガノイドだけでなく、上述したクッパー細胞及び肝星細胞のうち何れか1つ以上をさらに含むことによって、肝臓の微小環境をより具体的に反映し、これにより、疑似度の高い非アルコール性脂肪肝を製作することができる。
【0046】
本発明の他の一態様は、非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを製作するステップと、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに遊離脂肪酸を含む培養液を貫流させるステップとを含む非アルコール性脂肪肝人工組織モデルの製作方法を提供する。
【0047】
前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを製作するステップは、上記した非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを製作するステップであって、具体的に、PDMS高分子を利用してハイドロゲルが位置するウェル及び遊離脂肪酸(free fatty acid)が流れることのできる複数のマイクロチャンネルを含むデバイス(微小流体チップ)を製作するステップと、前記ウェルにハイドロゲルと肝オルガノイドを位置させるステップとからなっていても良い。ハイドロゲル、肝オルガノイド及びデバイスの具体的な内容は、上述した非アルコール性脂肪肝人工組織モデルの説明と同一である。
【0048】
前記貫流させるステップは、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに遊離脂肪酸を含む培養液を貫流させるステップである。遊離脂肪酸を含む培養液は、上述した通り、デバイスのマイクロチャンネルを介してハイドロゲルと肝オルガノイドが位置するウェルに流れ、肝オルガノイドが遊離脂肪酸に持続的に露出されることによって、非アルコール性脂肪肝の表現型を表すことになる。
【0049】
本発明の一具体例において、前記貫流させるステップは、撹拌機上に前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを撹拌させることで行われても良い。前記遊離脂肪酸を含む培養液の貫流は、公知の装置によって行われても良いが、接近、作動の便宜性の高い撹拌機を使用することによって肝オルガノイドに持続的に培養液の流れを作っても良い。具体的に、撹拌機上に前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルを位置させ、培養液を満たしてから撹拌機を作動すると、左右方向へ傾くことによって培養液が流れ、貫流が起こる。
【0050】
本発明の他の一態様は、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに候補物質を処理するステップと、前記候補物質が処理された群と対照群とを比較するステップとを含む非アルコール性脂肪肝治療薬物のスクリーニング方法を提供する。
【0051】
前記候補物質を処理するステップは、前記非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに候補物質を処理するステップであって、候補物質の処理方法は、候補物質の目的とする投与経路、投与量などによって変わっても良い。
【0052】
そして、前記候補物質が処理された群と対照群とを比較するステップは、候補物質を処理した非アルコール性脂肪肝人工組織モデルと対照群とを比較するステップであっても良い。前記対照群は、従来知られている非アルコール性脂肪肝治療薬物又は非アルコール性脂肪肝モデル内の肝オルガノイドの生理活性を阻害又は上昇させない範囲で公知の物質を非アルコール性脂肪肝人工組織モデルに処理又は非処理した非アルコール性脂肪肝人工組織モデルであっても良い。
【0053】
前記候補物質が処理された群と対照群との比較は、肝オルガノイド内の脂肪蓄積水準分析、肝オルガノイドの生存率、肝オルガノイドの分化、機能性分析及び/又は肝オルガノイド又は培養液内に分泌された多くの指標を確認することで行われても良い。
【0054】
また、前記スクリーニング方法は、非アルコール性脂肪肝治療薬物を選定するステップをさらに含んでいても良い。前記選定するステップは、上述した比較するステップを通じて肝オルガノイド内の脂肪蓄積低減、肝オルガノイドの生存率増加、肝オルガノイドの分化、機能性回復及び/又は肝オルガノイド又は培養液内に分泌された改善指標の増加などが確認される場合、非アルコール性脂肪肝治療薬物として選定しても良い。対照群として従来知られている非アルコール性脂肪肝治療薬物を使用する場合、対照群と比べて改善した効果があれば、従来知られている非アルコール性脂肪肝治療薬物よりも改善した効果を有すると判断し、選定されることができる。
【実施例
【0055】
以下、一つ以上の具体例を実施例を通じてより詳しく説明することとする。ところが、これらの実施例は一つ以上の具体例を例示として説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1:非アルコール性脂肪肝人工組織モデルの製作
実施例1-1.脱細胞肝組織由来細胞外基質の製作
ブタの肝組織を分離し細切して準備し、前記肝組織を1%のTriton X-100及び0.1%の水酸化アンモニウム(ammonium hydroxide)と共に撹拌することで肝組織の細胞のみを除去し、脱細胞肝組織を製造した。その後、脱細胞肝組織を凍結乾燥、粉碎することで脱細胞肝組織由来細胞外基質(Liver Extracellular Matrix;LEM)を製造した。
【0057】
前記脱細胞肝組織由来細胞外基質10mgを4mg/mlのペプシン溶液(ペプシンパウダー4mgを0.02MのHCl1mlに溶かした溶液)に48時間溶解させる。10×PBSと1MのNaOHを利用して中性のpHと1×PBSバッファの電解質状態に均一に交ぜた後、37℃の温度で30分間ゲル化(gelation)させることで、ハイドロゲル形態の支持体組成物を製造した。
【0058】
前記製造された脱細胞肝組織由来細胞外基質は、脱細胞過程の前後にH&E染色を実施することで、製作した脱細胞マトリックスの構造は良く維持され、細胞成分は全て除去されていることが確認され、走査電子顕微鏡の画像から内部構造をなす線維束が安定した高分子ネットワークを形成していることが確認された。DNA定量比較と代表的な細胞外基質成分の1つであるGlycosaminoglycan(GAG)に対する定量分析を通じても、細胞成分は殆ど除去され、GAGは良く保存されていることが確認された(図1A)。
【0059】
また、脱細胞肝組織由来支持体の構成成分を把握するためにタンパク体分析(Proteomics)を実施することで、肝組織特異的な様々な細胞外基質(Collagens、Glycoproteins、Proteoglycans)及び成長因子タンパク質がLEMに含まれていることが確認された。そして、既存に常用化されている支持体であるマトリゲル(MAT)は、ECM Glycoproteinsが殆どであるのに対し、脱細胞肝組織マトリックス(LEM)は、CollagensとECM Glycoproteinsが最も多く、ProteoglycansとECM regulatorsの順に様々な成分で構成されていることが確認された。最も多い量が検出された10個の細胞外基質(ECM)タンパク質のうちLEMに特異的に存在するBiglycan(BGN)、Lumican(LUM)、Asporin(ASPN)は、肝組織の発達時にECM remodelingに関与する主なタンパク質であり、PRELPは、正常な肝細胞構造を維持するのに重要な役割をするタンパク質として知られている。これにより、製作された脱細胞肝組織由来細胞外基質(LEM)支持体が、マトリゲルと比べて肝臓の構造、発達、機能の面において重要な役割を担当する実際の肝組織に存在する様々な細胞外基質タンパク質を含んでいることが確認された(図1B)。
【0060】
実施例1-2.非アルコール性脂肪肝人工組織モデルのためのデバイスの製作
PDMS高分子を利用して微小流体チップ(microfluidic chip)製作方式で製作されたデバイスには、メディアが連結されているチップユニットが8個あり、各ユニットは、4個のD=7.10mm規格の培養チャンバにより構成されており、各チャンバには、D=5mm規格のウェル(深さはH=3mm、1mmの2つに製作)が、各ユニットの両端には、横の長さが8.66mmであるメディアチャンバが位置するようにデバイスを製作した(図2A)。
【0061】
具体的に、開発された32-マルチウェルデバイスの形態に製作すれば、脂肪肝炎をより効率的に誘発できるだけでなく、疾患オルガノイドの高効率(high-throughput)な薬物スクリーニングが可能となる。High-throughputのマルチウェルデバイスは、既存の96-ウェルプレートと同じ規格を有しており、プレートリーダを含む汎用の96-ウェル基盤分析装備へ互換適用可能に製作した(図2B)。
【0062】
肝オルガノイドがヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来である場合、肝オルガノイドは、深さが3mmのウェルに位置した前記細胞外基質上で培養し、肝オルガノイドがヒト組織由来である場合、肝オルガノイドは、深さが1mmのウェルに位置した前記細胞外基質内で培養した(図3A)。
【0063】
ここで、追加的に、デバイスは、市場で容易に求めることのできる撹拌機(rocking shaker)を利用し、効果的な微小流体流れの形成が可能なように製作した(図3B)。
【0064】
実験例1:本発明のデバイスにおける肝オルガノイド培養の確認及び非アルコール性脂肪肝モデルの最適化
実験例1-1.本発明のデバイスにおける肝オルガノイド培養の確認
上述したデバイスにおいて脱細胞肝組織由来細胞外基質(LEM)を基に肝オルガノイドを培養し、既存の静的な培養環境のウェルプレートと比較した。具体的に、ヒト肝組織から製作した肝オルガノイドを使用し、培養7日目に分析を行った。
【0065】
その結果、図4から分かるように、既存のウェルプレート上で培養された肝オルガノイド(LEM-plate)に比べて、本発明のデバイスで培養された肝オルガノイド(LEM-chip)の大きさが有意に増加したことが確認された。オルガノイドの大きさを定量分析した際、デバイスで培養液の流れを受けながら培養された肝オルガノイドグループにおいて有意な大きさの増加が確認された(図4A)。
【0066】
また、上述した結果を検証するために増殖能(proliferation)関連マーカーKI67の免疫染色を行った際、プレートで培養された対照群のマトリゲルグループと脱細胞肝組織由来支持体グループとは似たような増殖能を示したが、脱細胞肝組織由来支持体と微小流体デバイスが結合されたグループで有意にKI67の発現が増加したことが確認された(図4B)。これにより、酸素及び栄養分の供給が円滑に行われて肝オルガノイドの増殖能が大きく増加し、オルガノイドのサイズが大きくなったと推測される。
【0067】
そして、定量的PCR法で遺伝子発現を比較した際、静的なプレート培養環境で製作された肝オルガノイドに比べて、本発明のデバイスで培養された肝オルガノイドは、LGR5、KRT19、HNF4A、SOX9及びFOXA2の発現量が増加したことが確認された(図4C)。
【0068】
実験例1-2.遊離脂肪酸処理濃度の最適化
脂肪肝炎オルガノイドの誘発効率に最も優れた脱細胞肝組織由来細胞外基質-マルチウェル微小流体デバイスプラットフォーム(LEM-Chip)においてヒト肝オルガノイドを培養し、遊離脂肪酸(Oleic acid)を濃度別に処理することで、疾病モデル製作のための最適濃度をテストした。
【0069】
その結果、脱細胞LEMハイドロゲルとマルチウェルデバイスが結合されたプラットフォームにおいてヒト組織由来肝オルガノイドを培養し、脂肪酸を濃度別に処理した際、濃度別に肝オルガノイドの内部に脂肪が蓄積されて炎症が起こり、肝オルガノイド特異的な形態と構造が損傷して変形されることが確認された(図5A)。
【0070】
肝オルガノイド内部の脂肪蓄積量を免疫染色を通じて確認した際、処理した脂肪酸の濃度が高くなるほどオルガノイド内部に蓄積される脂肪の量が増加することから、脱細胞LEM-マルチウェルデバイスプラットフォームにおいて非アルコール性脂肪肝オルガノイドモデルの具現が可能であることが確認された(図5B)。
【0071】
定量的PCR分析を通じて脂肪酸処理濃度別の遺伝子発現量を分析した結果、800μMの高濃度処理を行った場合、脂肪肝炎オルガノイドの特徴が最も良く現われることが確認された。追加的に肝機能性分析である尿素合成能力を比較した際、脂肪酸処理濃度の増加に応じて尿素合成能力も減少することが確認された(図5C)。
【0072】
*PLIN2:Lipid droplet marker,HES1:NASH/Fibrosis-related notch signaling marker,CASP3:Cell death marker,LGR5:Stemness marker,HNF4A:Mature hepatocyte marker
【0073】
実験例2:非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適の培養条件の選別
実験例2-1.非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適化された培養プラットフォームの選別(1)
非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルを構築するための最適の培養プラットフォームを選別するために、(1)既存に常用化されている培養支持体であるマトリゲル(MAT)、(2)脱細胞肝組織支持体(LEM)、(3)脱細胞肝組織支持体とマルチウェルデバイスが結合されたシステム(LEM-Chip)といった3つの培養条件においてヒト肝オルガノイドを製作し、800μMの遊離脂肪酸(Oleic acid)を処理することで脂肪肝モデルを誘発した。肝オルガノイドは、ヒト肝組織から抽出した成体肝幹細胞を利用して製作した。
【0074】
その結果、脱細胞LEMハイドロゲル支持体内で肝オルガノイドを培養した際、マトリゲルグループ(MAT)と類似した形状及び大きさの肝オルガノイドが形成されることが確認され、マルチウェルデバイスが結合された培養環境では、チャンネルを介した培養液の微小流れ(flow)の影響で酸素の供給が円滑になり、サイズがより大きくなった肝オルガノイドが形成されることが確認された。脂肪酸処理を通じて脂肪肝モデルを誘発した際も、オルガノイド内部への脂肪蓄積及び炎症誘発がLEM-chipグループにおいて最も良く誘導されることが確認された(図6A)。
【0075】
また、各培養条件によるNASH疾患誘発効率を評価するために、3日間肝オルガノイドに脂肪酸を処理してから定量的PCRで確認した際、対照群のマトリゲルグループ(MAT)及び脱細胞肝組織支持体グループ(LEM)と比べて、脱細胞肝組織支持体-マルチウェルデバイスグループ(LEM-Chip)においてより良くNASH疾患が誘発されることが確認された(図6B)。(TNF-α:炎症マーカー、SMA:脂肪肝/線維化マーカー、PLIN2:脂肪蓄積マーカー、ALB:成熟肝分化マーカー)
【0076】
これにより、脱細胞肝組織由来支持体とマルチウェルデバイスが結合された肝オルガノイド培養プラットフォームを最適のプラットフォームとして選別し、その後のNASH誘発実験に利用した。
【0077】
実験例2-2.非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適化された培養プラットフォームの選別(2)
非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルを構築するための最適の培養プラットフォームを選別するために、(1)既存に常用化されている培養支持体であるマトリゲル(MAT)、(2)脱細胞肝組織支持体(LEM)、(3)脱細胞肝組織支持体とマルチウェルデバイスが結合されたシステム(LEM-Chip)といった3つの培養条件においてヒト肝オルガノイドを製作し、800μMの遊離脂肪酸(Oleic acid)を処理することで脂肪肝モデルを誘発した。肝オルガノイドは、ヒト肝組織から抽出した成体肝幹細胞を利用して製作した。
【0078】
その結果、3つの培養条件において3日間脂肪肝炎を誘発し、免疫染色を通じて脂肪肝炎誘発効率を比較した際、既存の静的な培養環境(ウェルプレート)のMAT、LEM条件で培養された肝オルガノイドよりも、マルチウェルデバイスが結合された培養環境で培養されたオルガノイドにおいて、肝線維化マーカーであるSMA、VIMの発現が遥かに高い水準で観察された(図7A)。
【0079】
また、各培養条件によるNASH疾患誘発効率をOil red O染色(細胞内脂肪染色)で確認した際、静的な培養環境の対照群マトリゲルグループ(MAT)及び脱細胞肝組織支持体グループ(LEM)と比べて、脱細胞肝組織支持体-マルチウェルデバイスグループ(LEM-Chip)において、肝オルガノイド内部への脂肪酸の蓄積がより良く誘導されることが確認された(図7B)。
【0080】
そして、Masson’s Trichrome(MT)染色を通じてオルガノイド内部に蓄積されたコラーゲンを確認した際も、MATグループ及びLEMグループよりもLEM-Chipグループで蓄積されたコラーゲンの量がより多いことが確認された。これにより、静的な培養条件と比べて、微小流体チップを利用した培養条件で処理された脂肪酸の方が、マイクロチャンネルを介した微小流れ(flow)によって肝オルガノイド内部への蓄積が最も良く誘導され、線維化が最も良く誘発されることが確認された(図7C)。
【0081】
このような結果から、脱細胞肝組織由来支持体とマルチウェルデバイスが結合された肝オルガノイド培養プラットフォームを最適のプラットフォームとして選別し、その後のNASH誘発実験に利用した。
【0082】
実験例2-3.非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを構築するための最適化された培養プラットフォームの選別(3)
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を肝オルガノイドに誘発した際、最適のグループとして選定したLEM-Chip条件において他の培養条件と比べて炎症性サイトカインの分泌量及び多様性が増加するか否かを確認するために、炎症性サイトカインに対する免疫抗体アレイを行った。ヒト組織由来肝オルガノイドを対照群であるMAT支持体で培養したNormalグループとNASH誘発グループ、LEM培養条件とLEM-Chip条件で培養しながらNASHを誘発したグループに対して分析を行った。
【0083】
40種類の炎症性サイトカインに対して免疫抗体アレイを行った際、分泌量が高く検出された7個の主な炎症性サイトカインに対して定量分析を行った。その結果、7個のサイトカイン(MIP-1δ、sTNF RI、RANTES、TIMP-2、IL-11、MCP-1、IL-8)は、Normalグループに比べて、NASHを誘発したグループで増加する傾向が見られ、特に、LEM-Chipで培養したNASHオルガノイドグループで炎症性サイトカインの分泌量が最も高く検出されることが確認された(図8)。これにより、既存の培養プラットフォームで脂肪肝炎を誘発するよりも、本発明で開発したLEM支持体と微小流体チップを結合した培養プラットフォームの方が、NASHモデルの誘発に最適化されたプラットフォームであることが確認された。
【0084】
実験例2-4.非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の誘発に最適化されたchip基盤の培養プラットフォームにおける流体移動シミュレーション
培養液に遊離脂肪酸を処理して非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を誘発する際、既存の培養液流れのない静的なplate条件でNASHを誘発した際よりも、培養液流れが存在するchip条件において、オルガノイド内部への脂肪酸吸収を促進するためのchip内の流体移動に対する予測シミュレーションを行った。
【0085】
非アルコール性脂肪肝炎を誘発するために製作されたchip条件に対して流体シミュレーションを行い、時間に応じた流体の流れを予測した。撹拌機により形成される流れは、撹拌機の動きに応じて流体の速度及び方向が変わるため、撹拌機の速度及び角度を調節すれば、既存の静的なplate条件の培養環境よりも多様な流体の流れが提供できることが確認された(図9)。これにより、流体の流れのないplate環境に比べて、培養液流れが存在する動的なchip環境において、培養液に含まれた遊離脂肪酸がオルガノイド内部へより効率的に伝達されることができると予測された。
【0086】
実験例2-5.非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の誘発に最適化されたchip基盤の培養プラットフォームにおける脂肪酸吸収シミュレーション
培養液に遊離脂肪酸を処理して非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を誘発する際、既存の培養液流れのない静的なplate条件でNASHを誘発した際よりも、培養液流れが存在するchip条件でオルガノイド内部への脂肪酸吸収がより効率的に起こることができるのかを確認するために、各条件における脂肪酸吸収予測シミュレーションを行った。
【0087】
既存の静的なwell plate条件と動的なchip条件に対する流体の流れ及び物質移動シミュレーションを通じて、オルガノイドの脂肪酸吸収を60分間予測した。その結果、動的なchip培養システムでは、流体の流れを通じて培養液に含まれた遊離脂肪酸の移動及び交換が促進され、よって、静的な培養システムであるwell plate条件に比べてオルガノイド内部への脂肪酸吸収が速く増加することが確認された(図10)。
【0088】
実験例3:肝組織特異的微小環境細胞の共培養を通じたオルガノイド分化増進効果の確認
実験例3-1.肝組織微小環境が統合された非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルのためのクッパー細胞(Kupffer cell)の分化
クッパー細胞は、肝臓に存在する兔疫細胞であって、非アルコール性脂肪肝誘導において炎症性クッパー細胞が活性化されれば、サイトカイン及び活性酸素種(ROS)を分泌するなど、疾患表現型において重要な役割をすると知られている。よって、このような肝組織微小環境が備えられたNASHモデルを製作するために、肝オルガノイドと共に共培養できるクッパー細胞をヒト人工多能性幹細胞から分化した。
【0089】
その結果、ヒト人工多能性幹細胞からEB(Embryoid body)を製作した後、大食細胞前駆体(macrophage precursor)の段階を経てクッパー細胞に分化したことが確認された(図11A)。
【0090】
そして、製作されたクッパー細胞のタンパク質マーカー発現を免疫染色を通じて分析した際、単核細胞(monocyte)及びM2兔疫細胞マーカーであるF4/80、CD163とクッパー細胞関連マーカーであるCD34が良く発現されたことが確認された(図11B)。
【0091】
実験例3-2.肝組織微小環境が統合された非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルのための肝星細胞(hepatic stellate cell;HSC)の分化
非アルコール性脂肪肝の炎症の発現において、肝星細胞が活性化されながら重要な線維性因子を分泌する役割をすると知られている。よって、このような肝組織微小環境が備えられたNASHモデルを製作するために、肝オルガノイドと共培養できる肝星細胞をヒト人工多能性幹細胞から分化した。
【0092】
その結果、ヒト人工多能性幹細胞から中胚葉、中皮細胞を経て肝星細胞に分化し、継代培養が可能であることが確認された(図12A)。
【0093】
また、肝星細胞の分化後14日に免疫染色を通じてマーカー発現を確認した際、肝星細胞によって分泌される細胞外基質(ECM)マーカーであるCOL1、FNと星細胞分化マーカーであるVimentin、a-SMAが良く発現されたことが確認された(図12B)。
【0094】
実験例3-3.ヒト組織由来肝オルガノイドの微小環境細胞の共培養有無による肝分化及び機能性の比較
実際の肝臓に存在する血管内皮細胞(EC)、クッパー細胞(KC)及び肝星細胞(HSC)をヒト組織由来正常肝オルガノイド(Liver organoid;LO)と共培養した際、肝オルガノイドの肝分化マーカー及び機能性向上有無を確認するために、マトリゲル(MAT)で培養された肝オルガノイドと脱細胞肝組織由来支持体(LEM)で培養された肝オルガノイドにこれらの細胞を共に含んで培養した。微小環境細胞を共培養していないグループは対照群として適用した。血管内皮細胞は、HUVEC(Human umbilical vein endothelial cells)を利用し、クッパー細胞及び肝星細胞は、上記においてヒト人工多能性幹細胞(iPSC)から分化した細胞を利用した。肝オルガノイドが培養される30mLのMAT又はLEMハイドロゲルに血管内皮細胞25,000cells、クッパー細胞25,000cells、肝星細胞20,000cellsを追加し、共培養してから3日後に定量的PCR及び尿素合成能分析を行った。
【0095】
対照群マトリゲルと脱細胞LEMハイドロゲル支持体で培養されたヒト肝オルガノイドに血管細胞、肝星細胞とクッパー細胞を共培養した際、2つのグループの何れにおいても肝オルガノイドの周辺に微小環境細胞が共に分布し、共培養が可能であることが確認された(図13A)。
【0096】
そして、定量的PCR分析を通じて肝分化マーカーの発現を比較した際、LEMハイドロゲルで培養された肝オルガノイドの肝分化マーカーの発現がマトリゲルグループに比べて優れており、微小環境細胞が含まれた共培養グループの方が、そうでないグループに比べて分化能がさらに向上していることが確認された(図13B)。
【0097】
また、代表的な肝機能性指標である尿素合成能力の分析を通じて肝機能性を比較した際も同様に、LEMハイドロゲルで培養された肝オルガノイドの尿素合成能力が対照群のマトリゲルグループに比べて優れており、微小環境細胞が含まれた共培養グループの方が、そうでないグループに比べて尿素合成能力がさらに向上していることが確認された(図13C)。これにより、LEMハイドロゲル条件において肝組織特異的微小環境が統合された肝オルガノイドモデルが最も優れた肝分化及び機能性を有することが分かる。
【0098】
実験例3-4.ヒトiPSC由来肝オルガノイドの微小環境細胞の共培養有無による肝分化及び機能性の比較
既存のiPSC由来肝オルガノイドの製作時に含まれるiPSC由来肝細胞(H)、血管内皮細胞(E)、間葉系幹細胞(M)の他に、実際の肝臓にさらに存在するクッパー細胞(K)及び肝星細胞(S)を追加的に共培養した際、肝分化マーカー及び機能性向上有無を確認するために、脱細胞肝組織由来支持体(LEM)で培養されたヒトiPSC由来肝オルガノイド(HEM)にこれらの微小環境細胞を追加的に共に含んで共培養した(HEMKS)。具体的に、共培養された肝オルガノイド(H:E:M:K:S)の場合、10:7:2:2:1の割合で計400,000個の細胞を混合することでオルガノイドを製作した。このような微小環境細胞を共培養していないグループ(HEM)は対照群として適用した。クッパー細胞及び肝星細胞は、上記においてヒトiPSCから分化した細胞を利用した。共培養してから5日後に免疫染色と定量的PCRを通じてHEMグループとHEMKSグループに対する比較を行った。
【0099】
その結果、クッパー細胞マーカーであるCD68と肝星細胞マーカーであるPDGFRB、GFAP、FN、SMAに対して免疫染色を行った際、HEMオルガノイドでは各微小環境細胞のマーカーが発現されていないのに対し、HEMKSオルガノイドでは当該細胞特異的なマーカーが発現することが確認された(図14A)。特に、クッパー細胞と肝星細胞によって肝分化マーカーの発現もさらに増進するのか否かを確認するためにSOX17、AFP、ALBの発現を比較した際、クッパー細胞と肝星細胞を共に共培養したHEMKSグループで肝分化マーカーの発現も増加したことが確認された。
【0100】
そして、定量的PCR分析を通じて肝臓特異的な微小環境が構築されたHEMKSオルガノイドグループと微小環境細胞不在のHEMオルガノイドグループに対して各マーカー遺伝子発現を比較した際、肝分化マーカー(HNF4A、ALB)の発現がHEMKSオルガノイドにおいて有意に増加したことが確認された(図14B)。また、HEMKSオルガノイドの場合、既存のHEMオルガノイドに比べて肝星細胞が追加されたため、成熟した肝星細胞で主に発現するマーカーであるPDGFRB、COL1A1の発現がHEMKSグループで増加したことが確認された。既存のHEMオルガノイドに存在する血管細胞の場合も、微小環境細胞を追加的に共培養したHEMKSオルガノイドにおいて10倍以上発現が増加したことが確認された。
【0101】
このような結果から、肝組織特異的微小環境が統合された肝オルガノイドモデルの方が、既存の肝オルガノイドモデルに比べてより高い肝分化及び機能性を有することが分かり、よって、肝微小環境が統合されたオルガノイドにおいて非アルコール性脂肪肝炎モデリングを行えば、より正確な疾患表現型を誘導することができると期待される。
【0102】
実験例4:非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを利用した薬物の有効性の評価
実験例4-1.ヒト組織由来非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドを利用した薬物の有効性の評価(1)
脱細胞肝組織由来LEM支持体とマルチウェル微小流体デバイスが結合された培養条件において肝組織微小環境[血管(E)+クッパー細胞(K)+肝星細胞(S)]が構築された肝オルガノイドに脂肪肝炎(NASH)を誘発し、Obeticholic acid(OCA)薬物を濃度別に処理した。OCA(Obeticholic acid)薬物は、半合成胆汁酸類似体として既存に胆管炎の治療に利用されていた薬物であって、最近、非アルコール性脂肪肝炎の臨床で効能が検証されている薬物の候補群である。NASHグループは、脂肪酸を800μMの濃度で3日間処理して疾患を誘発し、NASH+OCA薬物グループは、800μMの脂肪酸と当該薬物を濃度別に3日間処理した。
【0103】
その結果、正常グループのオルガノイド(Normal)に比べて、脂肪肝オルガノイド(NASH)は、内部に脂肪の蓄積が起こりながらオルガノイド特異的な形態と構造が損傷されるのに対し、Obeticholic acid薬物を処理したグループでは、濃度の増加に応じてオルガノイドの形状と構造が回復し、蓄積された脂肪の量が減っていくことが確認された(図15A)。
【0104】
そして、薬物濃度に応じた細胞毒性を評価するために、薬物が処理された正常肝オルガノイドの生存率(viability)分析を行った際、1μMでは80%以上、10μMでは70%、100μMの濃度条件では60%程度の生存率を示すことが確認された(図15B)。つまり、OCA処理濃度の増加に応じて肝毒性は増加することが確認された。
【0105】
また、定量的PCR分析を通じて有効薬物の処理濃度別の疾患マーカー遺伝子発現を比較した際、炎症関連マーカー(TNFα)と線維化関連マーカー(SMA)の発現が脂肪肝オルガノイドグループ(NASH)において増加し、OCA薬物を処理すれば減少することが確認された。しかし、100μMの薬物濃度ではむしろ薬物毒性によって炎症マーカーと線維化関連マーカーの発現がさらに増加することが確認された(図15C)。
【0106】
このような結果から、LEM-Chip培養条件でEC、HSC、KC細胞と共培養されたNASH肝オルガノイドモデルは、薬物の有効性及び毒性評価のための非アルコール性脂肪肝炎の体外モデルとしての適用可能性が検証された。
【0107】
実験例4-2.ヒト組織由来非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドを利用した薬物の有効性の評価(2)
脱細胞肝組織由来LEM支持体とマルチウェル微小流体デバイスが結合された培養条件において肝組織微小環境[血管(E)+クッパー細胞(K)+肝星細胞(S)]が構築された肝オルガノイドに脂肪肝炎(NASH)を誘発し、Ezetimibe(Eze)薬物を濃度別に処理した。Eze(Ezetimibe)薬物は、コレステロール吸収抑制剤であって、既存に高血糖コレステロール及び脂質異常症の治療に使用されていた薬物の候補群である。NASHグループは、脂肪酸を800μMの濃度で3日間処理して疾患を誘発し、NASH+Eze薬物グループは、800μMの脂肪酸と当該薬物を濃度別に3日間処理した。
【0108】
その結果、正常グループのオルガノイド(Normal)に比べて、脂肪肝オルガノイド(NASH)は、内部に脂肪の蓄積が起こりながらオルガノイド特異的な形態と構造が損傷されるのに対し、Ezetimibe薬物を処理したグループでは、濃度の増加に応じてオルガノイドの形状と構造が回復し、蓄積された脂肪の量が減っていくことが確認された(図16A)。
【0109】
そして、薬物濃度に応じた細胞毒性を評価するために、薬物が処理された正常肝オルガノイドの生存率(viability)分析を行った際、1-10μMの条件では70%以上、100μMの濃度条件では50%程度の生存率を示すことが確認された(図16B)。
【0110】
また、定量的PCR分析を通じて有効薬物の処理濃度別の疾患マーカー遺伝子発現を比較した際、炎症関連マーカー(TNFα)と線維化関連マーカー(SMA)の発現が脂肪肝オルガノイドグループ(NASH)において増加し、Ezetimibe薬物を処理すれば減少することが確認された。10μM濃度以上処理された際に正常オルガノイドと類似した水準に炎症及び線維化マーカーの発現が減少することが確認された(図16C)。
【0111】
このような結果から、LEM-Chip培養条件でEC、HSC、KC細胞と共培養されたNASH肝オルガノイドモデルは、薬物の有効性及び毒性評価のための非アルコール性脂肪肝炎の体外モデルとしての適用可能性が検証された。
【0112】
実験例4-3.ヒト組織由来非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドを利用した薬物の有効性の評価(3)
脱細胞肝組織由来LEM支持体とマルチウェル微小流体デバイスが結合された培養条件において肝組織微小環境[血管(E)+クッパー細胞(K)+肝星細胞(S)]が構築された肝オルガノイドに脂肪肝炎(NASH)を誘発し、Dapagliflozin(DAPA)薬物を濃度別に処理した。DAPA(Dapagliflozin)薬物は、sodium-glucose transporter抑制剤であって、既存に糖尿病の治療に使用されていた薬物の候補群である。NASHグループは、脂肪酸を800μMの濃度で3日間処理して疾患を誘発し、NASH+DAPA薬物グループは、800μMの脂肪酸と当該薬物を濃度別に3日間処理した。
【0113】
その結果、正常グループのオルガノイド(Normal)に比べて、脂肪肝オルガノイド(NASH)は、内部に脂肪の蓄積が起こりながらオルガノイド特異的な形態と構造が損傷されるのに対し、Dapagliflozin薬物を処理したグループでは、濃度の増加に応じてオルガノイドの形状と構造が回復し、蓄積された脂肪の量が減っていくことが確認された(図17A)。
【0114】
そして、薬物濃度に応じた細胞毒性を評価するために、薬物が処理された正常肝オルガノイドの生存率(viability)分析を行った際、1μMの濃度までは生存率に影響を与えず、10μMの条件では80%以上、100μMの濃度条件では60%程度の生存率を示すことが確認された(図17B)。
【0115】
また、定量的PCR分析を通じて有効薬物の処理濃度別の疾患マーカー遺伝子発現を比較した際、炎症関連マーカー(TNFα)、線維化関連マーカー(SMA)、脂肪蓄積マーカー(PLIN2)と肝星細胞活性化マーカー(PDGFRB)の何れも脂肪肝オルガノイドグループ(NASH)において増加し、DAPA処理濃度によって減少することが確認された。肝分化マーカーであるALB発現の場合、脂肪肝オルガノイドグループ(NASH)において減少し、DAPA薬物を処理すれば再び機能性を回復することが確認された(図17C)。
【0116】
このような結果から、LEM-Chip培養条件でEC、HSC、KC細胞と共培養されたNASH肝オルガノイドモデルは、薬物の有効性及び毒性評価のための非アルコール性脂肪肝炎の体外モデルとしての適用可能性が検証された。
【0117】
実験例5:非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイド基盤の選別された有効薬物の機転究明及び効果
実験例5-1.ヒト組織由来肝オルガノイド基盤の非アルコール性脂肪肝炎モデルにおける薬物の有効性の検証
LEM-Chip培養プラットフォームにおいて肝微小環境が統合されたヒト組織由来肝オルガノイドモデルにNASHを誘発した後、上記において選別したdapagliflozin(DAPA)薬物を処理した際に脂肪肝炎の治療効果があるか否かを確認するための分析を行った。NASH疾患モデルを製作する際、血管細胞(E)、クッパー細胞(K)、肝星細胞(S)の必要性を追加検証するために、微小環境細胞が共培養されていないオルガノイドモデルを対照群として利用した。
【0118】
その結果、肝臓特異的な微小環境細胞が共培養されていない正常オルガノイドグループ(Normal-EKS)と、共培養されている正常グループ(Normal+EKS)に対して免疫染色を実施して比較した際、微小環境細胞が共培養されたオルガノイドグループにおいて、クッパー細胞マーカーであるCD68と肝星細胞マーカーであるα-SMAを発現する細胞がオルガノイドの周辺に分布していることが確認される(図18A)。これらの細胞が共培養されたオルガノイドグループにNASHを誘発した際、オルガノイド内部と周辺の微小環境細胞にも一部脂肪酸が蓄積されていることが確認され、DAPA薬物を処理したグループでは、脂肪酸の蓄積が減少していることが確認された。また、肝星細胞マーカーであると同時に肝線維化マーカーであるα-SMAの場合も、NASH+EKSグループでは、オルガノイド内部と周辺の基質、兔疫細胞でも発現するのに対し、DAPA薬物を処理したグループでは、α-SMAの発現が減少していることが確認された。
【0119】
そして、定量的PCR分析を通じて微小環境が構築されたグループとオルガノイドのみが培養されたグループに対してそれぞれNASHを誘発し、共培養細胞(EKS)の有無によって炎症(IL-6、IL-1β、TNF-α)、線維化(SMA、COL1A1、TGF-β)、脂肪酸生合成(SREBPC1、FAS、ACC)関連遺伝子の発現を比較した際、共培養細胞が含まれていないオルガノイドにNASHを誘発すれば炎症、線維化及び脂肪酸生合成と関連した遺伝子発現が増加するが、共培養細胞が含まれたオルガノイドにNASHを誘発した際は、炎症、線維化及び脂肪酸生合成と関連した各遺伝子の発現増加幅がより大きいことが確認される(図18B)。また、共培養細胞のない正常オルガノイド(Normal-EKS)に比べて、共培養細胞が含まれた正常オルガノイド(Normal+EKS)は、基質細胞及び兔疫細胞を含んでおり、炎症、線維化及び脂肪酸生合成遺伝子の初期発現自体において差があるため、共培養細胞のないオルガノイドにNASHモデルを誘発するのは、炎症、線維化及び脂肪酸生合成と関連して正確ではない情報を提供し得る。また、微小環境が統合されたNASHオルガノイドモデルにDAPA薬物を処理した際、炎症、線維化及び脂肪酸生合成と関連した遺伝子の発現が減少し、脂肪肝炎の改善効果があることが確認された。
【0120】
このような結果から、本発明で開発したLEM-Chip基盤の肝微小環境が統合されたヒト組織由来NASHオルガノイドモデルの方が、既存のオルガノイドモデルに比べてより正確な非アルコール性脂肪肝炎疾患表現型を提示できるモデルであると同時に、当該モデル基盤に新規発掘したDAPA薬物が有効な脂肪肝炎の治療効果を示すことを立証した。
【0121】
実験例5-2.ヒトiPSC由来肝オルガノイド基盤の非アルコール性脂肪肝炎モデルにおける薬物の有効性の検証(1)
LEM-Chipプラットフォームにおいて培養されたヒトiPSC由来肝オルガノイド(HEMKS)脂肪肝炎モデルにおけるDapagliflozin(DAPA)薬物の有効性を検証するために、Normalグループ、5日間800μMのOleic acidを処理してNASHを誘発したグループと、800μMのOleic acidと50μMのDAPAを共に処理したNASH+DAPAグループを比較分析した。NASHオルガノイドモデルに対し、炎症反応、線維化、mTORC1機転関連マーカーに対する免疫染色とwestern blot分析を行った。
【0122】
その結果、免疫染色を通じて線維化関連マーカーSMA、脂肪酸生合成関連マーカーACC、mTORC1機転関連マーカーp-S6、p-4EBP1の発現を比較した際、正常オルガノイドに比べて、NASHグループで有意にこのようなマーカーが増加し、DAPA薬物を処理したグループでは減少する傾向が見られることが確認された(図19A)。クッパー細胞マーカーであるCD68染色を通じて、NASHグループで炎症反応が多く起こったp-S6マーカーが過剰発現された部分にクッパー細胞が主に分布していることが確認された。肝機能性マーカーであるALBと蓄積された脂肪酸を標識するBODIPY染色を通じて、NASHグループでは、蓄積された脂肪酸は増加し、ALBが減少することが確認されたが、DAPA薬物を処理したグループでは、脂肪酸の蓄積が減少し、ALB発現の増加を通じて肝機能性が改善したことが確認された。
【0123】
そして、western blot分析を通じて各マーカーのタンパク質発現を確認した際も、線維化関連マーカー(SMA、Col1A1)、炎症関連マーカー(IL1-β、p-IkB/IkB)と、mTORC1関連マーカー(p-4EBP1/4EBP1、p-p70S6K1/p70S6K1、p-S6/S6)の発現が、NASHオルガノイドで増加し、DAPA薬物を処理したグループでは発現が減少する傾向が確認された(図19B)。
【0124】
このような結果から、LEM-Chip培養条件で製作したヒトiPSC由来NASHオルガノイドモデルにおいて、実際の脂肪肝炎と類似するように炎症、線維化反応は増加するものの、新規発掘したDAPA薬物によって、炎症反応、線維化及びmTORC1関連タンパク質の発現が正常と類似するように回復することを立証した。
【0125】
実験例5-3.ヒトiPSC由来肝オルガノイド基盤の非アルコール性脂肪肝炎モデルにおける薬物の有効性の検証(2)
LEM-Chipプラットフォームにおいて培養されたヒトiPSC由来肝オルガノイド(HEMKS)脂肪肝炎モデルにおけるDapagliflozin(DAPA)薬物の有効性を検証するために、Normalグループ、5日間800μMのOleic acidを処理してNASHを誘発したグループと、800μMのOleic acidと50μMのDAPAを共に処理したNASH+DAPAグループを比較分析した。
【0126】
その結果、オルガノイド内部に線維化によるコラーゲンの蓄積を確認するためにMasson’s Trichrome(MT)染色を行った際、正常オルガノイドグループに比べて、NASHグループで線維化の同伴によるコラーゲンの蓄積量が有意に増加し、DAPAを処理したグループでは減少することが組織染色及び定量分析を通じて確認された(図20A)。
【0127】
そして、細胞内に蓄積された脂肪酸を染色するOil red O染色を通じても、オルガノイド内部において赤色に染色される脂肪の蓄積が有意に増加し、DAPA薬物を処理したグループでは脂肪酸の蓄積が減少することが確認された(図20B)。
【0128】
このような結果から、LEM-Chipプラットフォームで培養されたヒトiPSC由来肝オルガノイド(HEMKS)脂肪肝炎モデルにおいてDAPA薬物の効能検証が可能であることが確認された。
【0129】
実験例5-4.ヒト組織由来急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルを利用した有効薬物の効能比較及び治療機転の究明(1)
LEM-Chipプラットフォームにおいて培養されたヒト組織由来肝オルガノイド脂肪肝炎(NASH)モデルにおけるDapagliflozin(DAPA)薬物の治療機転を究明し、有効性を検証するために、Normalグループ、NASHを誘発したグループと、NASH+DAPAグループを比較分析した。急性NASHモデルの場合、オルガノイドに3日間800μMのOleic acidを処理したグループと、3日間800μMのOleic acid+50μMのDAPA処理をしたグループにて進行し、慢性NASHモデルは、オルガノイドに5日間800μMのOleic acid+20ng/mlのTGF-βを処理したグループと、5日間800μMのOleic acid+20ng/mlのTGF-β+50μMのDAPA処理をしたグループにて進行した。ヒト組織由来急性及び慢性NASHオルガノイドモデルに対し、炎症反応、線維化、YAP/TAZ、mTORC1機転関連マーカーに対するwestern blot分析を実施した。
【0130】
Western blot分析を通じて線維化マーカーα-SMA、COL1A1、炎症マーカーp-IkB/IkB、pro-IL1β、YAP/TAZ機転関連マーカーp-YAP/YAPとmTORC1機転関連マーカーp-S6/S6、p-p70S6K1/p70S6K1、p-4EBP1/4EBP1のタンパク質発現を比較した結果、線維化及び炎症反応と関連したタンパク質の場合、正常オルガノイドに比べて急性及び慢性NASHグループの全てにおいてタンパク質マーカーの発現が有意に増加し、これはDAPA薬物を処理したグループで減少することが確認された(図21A)。しかし、YAP/TAZ機転関連タンパク質とmTORC1機転関連タンパク質の場合、(1)急性NASHオルガノイドにおいて発現が増加し、DAPA薬物を処理したグループでは発現が減少するのに対し、(2)慢性NASHオルガノイドにおいては、これらのタンパク質の発現が顕著に減少し、DAPA薬物によって正常と類似した水準に再び回復することが確認された。
【0131】
そして、実験を3回繰り返して定量を行った際も、線維化及び炎症反応と関連したマーカーの発現は、急性及び慢性NASHモデルの全てにおいてDAPAによって顕著に減少していることが確認された(図21B)。しかし、YAP/TAZ機転関連タンパク質とmTORC1機転関連タンパク質の発現は、急性モデルで増加し、慢性モデルでは顕著に減少するが、DAPA薬物によって正常オルガノイドと類似するように発現が回復することが確認された。
【0132】
このような結果から、ヒト組織由来オルガノイドモデルに急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎を誘発した際、急性モデルではYAP/TAZ及びmTORC1と関連したタンパク質の発現が増加し、慢性モデルでは関連タンパク質の発現が減少するが、本発明において新規発掘された有効薬物であるDAPAにより、過剰発現又は減少したタンパク質の発現が正常水準に回復することが確認された。よって、本発明で構築されたヒトNASHオルガノイドモデルは、NASH治療のための有効薬物の発掘だけでなく、当該薬物の分子レベルでの治療機転を究明する研究にも活用され得ることが検証される。
【0133】
実験例5-5.ヒト組織由来急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎オルガノイドモデルを利用した有効薬物の効能比較及び治療機転の究明(2)
LEM-Chipプラットフォームにおいて培養されたヒト組織由来急性及び慢性NASHオルガノイドモデルに対し、上記においてwestern blot分析で確認したタンパク質発現結果の再現性を確認するために、肝機能性、線維化、mTORC1機転関連マーカーに対する免疫染色を行った。
【0134】
LEM-Chipプラットフォームにおいて培養されたヒト組織由来オルガノイドモデルに急性及び慢性NASHを効率的に誘発するために、脂肪酸処理濃度、処理期間及び線維化誘発サイトカイン処理有無などを異ならせて適用することで、最適化されたモデルを確立した。急性NASHモデルの場合、以前の条件と同様に、オルガノイドに3日間800μMのOleic acidのみを処理し、慢性NASHモデルの場合、オルガノイドに5日間800μMのOleic acidと線維化サイトカイン20ng/mlのTGF-βを処理して誘発した。DAPA薬物テストの場合、急性モデルに対しては3日間800μMのOleic acid+50μMのDAPAを処理し、慢性モデルに対しては5日間800μMのOleic acid+20ng/mlのTGF-β+50μMのDAPAを処理して行った(図22A)。
【0135】
ヒト組織由来NASHオルガノイドモデルに脂肪酸を3日間処理することで誘発した急性モデルに対して免疫染色を行った際、肝機能性関連マーカーであるAFPの場合、NASHオルガノイドモデルにおいて減少していたものの、DAPA薬物を処理したグループで機能性が一部回復していることが確認され、線維化関連α-SMAマーカーの場合、NASH誘発グループで発現が増加し、DAPA薬物を処理したグループで減少することが確認された。mTORC1機転関連p-S6とp-P70S6K1の発現を比較した際、正常オルガノイドに比べて急性NASHモデルでは増加し、DAPA薬物によって減少することが確認された(図22B)。
【0136】
ヒト組織由来NASHオルガノイドモデルに脂肪酸とTGF-βを5日間処理することで誘発した慢性モデルに対して免疫染色を行った際、肝機能性関連マーカーであるAFPの場合、NASHオルガノイドモデルにおいて減少していたものの、DAPA薬物を処理したグループで機能性が一部回復していることが確認され、線維化関連α-SMAマーカーの場合、NASH誘発グループで発現が増加し、DAPA薬物を処理したグループで減少することが確認された。特に、急性よりも慢性に誘発したNASHモデルにおいてα-SMAマーカーの発現が大きく増加したことが確認される。mTORC1機転関連p-S6とp-P70S6K1の発現を比較した際、正常オルガノイドに比べて慢性NASHモデルでは減少し、DAPA薬物によって発現が回復することが確認された(図22C)。
【0137】
このような結果から、ヒト組織由来オルガノイドモデルに急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎を誘発した際、western blot分析結果と同様に、急性モデルではmTORC1関連タンパク質の発現が増加し、慢性モデルでは関連タンパク質の発現が減少することが観察され、新規発掘された有効薬物であるDAPAにより、過剰発現又は減少したタンパク質の発現が正常水準に回復することが確認された。
【0138】
実験例6:非アルコール性脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルで発掘された新規治療薬物の有効性の評価及び関連機転の検証(NASH動物モデルにおける薬物の効能評価及び機転研究)
実験例6-1.非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおけるDAPA薬物の有効性の検証(1)
脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルを通じて発掘され、NASH治療効能が検証されたDapagliflozin(DAPA)薬物が実際のNASH動物モデルにおいても効果があるか否かを確認するために、初期非アルコール性脂肪肝炎をマウスに誘発し、DAPA薬物を5mg/kgの濃度でday 2に1回投与した。
【0139】
本実験で誘発したFa/R(Fasting overnight,refed with high-carbohydrate,fat-free diet)モデルは、実際の非アルコール性脂肪肝炎患者の脂肪酸生合成過程(De novo lipogenesis)を良く疑似できるモデルであり、1日間飼料を給与しなかった後、高炭水化物/無脂肪飼料で残りの1日間急性で脂肪肝炎を誘発するモデルである。DAPA薬物は、Fa/R飼料を投与する時点に経口投与で5mg/kgの濃度にて1回投与した(図23A)。
【0140】
正常、Fa/R、Fa/R+DAPAグループのマウスから肝組織を収去し、H&E染色とMT染色を行った際、Fa/Rグループの肝組織に脂肪酸の蓄積が多く観察され、線維化反応によるコラーゲンが内部に蓄積されていることが確認された。それに対し、DAPA薬物を投与したグループは、脂肪酸の蓄積が減少し、線維化症状が改善された。コラーゲンが染色された面積を定量分析した際も、DAPA薬物を投与したグループの肝組織においてコラーゲンの面積が減少していることが確認された(図23B)。
【0141】
そして、3-Nitrotyrosine(3-NT)は、肝臓において活性酸素種(reactive oxygen species)の増加により蓄積され、脂肪肝炎や線維化が起こった肝組織で高く発現された。DAPA薬物による酸化ストレス(oxidative stress)の減少効果を確認するために、肝組織のタンパク質成分を抽出し、3-NTタンパク質に対するwestern whole blotting分析を行った際、Fa/Rグループでは3-NTの発現が増加するのに対し、DAPA薬物を処理したグループでは有意な減少が見られることが確認された(図23C)。
【0142】
肝臓はLipopolysaccharide(LPS)を解毒する機能を担当するが、脂肪肝が誘発されれば、肝細胞の機能が低下しながらserum LPSの量が増加する。線維化が起こりながらcollagenの蓄積量が増加するため、線維化により増加したcollagenに多量存在するヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)の場合も脂肪肝炎による線維化の指標として使用される。Serum LPSとalbuminは、day 3に全血採血を通じた血液分析によって測定し、ヒドロキシプロリンは、当該タンパク質に対するELISA分析を通じて濃度を定量した。正常グループに比べて、Fa/RグループでLPSとヒドロキシプロリンの量が増加し、DAPA薬物を処理したグループで減少することが確認された(図23D)。Serum albuminの場合、肝機能性の指標であって、Fa/Rグループで減少し、DAPA薬物によって回復することが確認される。
【0143】
このような結果から、NASHオルガノイドモデルにおいて効能が検証されたDAPA薬物が、急性初期非アルコール性脂肪肝炎を誘発した動物モデルでも同様に効果があることが検証され、本発明で構築されたNASHオルガノイドモデルが脂肪肝炎治療物質を発掘するための体外モデルとして適用可能であることが確認された。
【0144】
実験例6-2.非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおけるDAPA薬物の有効性の検証(2)
脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルにおいて効能が検証されたDapagliflozin(DAPA)薬物が実際のNASH動物モデルでも効果があるか否かを確認するために、初期非アルコール性脂肪肝炎をマウスに誘発し、薬物を経口投与した(5mg/kg)。モデル誘発及び薬物投与が終了したDay 3に分析を行った。
【0145】
正常、Fa/R、Fa/R+DAPAグループのマウスの肝組織に対して細胞死滅(apoptosis)を検出するTUNEL染色を行った際、Fa/RグループでTUNELの強さが増加し、DAPA薬物によって減少したことを確認することで、脂肪肝炎による組織の壊死がDAPA薬物によって阻害されることが確認された(図24A)。
【0146】
DAPA薬物による酸化ストレス(oxidative stress)減少効果を確認するために、肝組織内の3-Nitrotyrosine(3-NT)タンパク質に対する免疫組織化学染色(immunohistochemistry;IHC)分析を行った際も、Fa/Rグループで肝細胞の膨張(ballooning)により3-NTを発現する細胞が増加するのに対し、DAPA薬物を処理したグループでは有意な減少が確認された(図24B)。
【0147】
各グループの肝組織に対する定量的PCR分析を行った際、炎症反応関連IL-6、IL-1β、TNF-αの発現と線維化関連COL1A1、SMA、TGF-βの発現が急性NASHモデルであるFa/Rグループで増加し、DAPA薬物によって減少することが確認された(図24C)。
【0148】
血液学分析を通じて肝毒性指標であるALTを分析した際も、正常マウスグループに比べて、Fa/Rモデルで10倍程ALTが増加したものの、DAPA薬物によってALT数値が顕著に減少していることが確認された(図24D)。
【0149】
このような結果から、NASHオルガノイドモデルにおいて効能が検証されたDAPA薬物が、急性非アルコール性脂肪肝炎を誘発した動物モデルで効果があることを検証した。
【0150】
実施例6-3.非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおけるDAPA薬物の有効性の検証(3)
脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルにおいて効能が検証されたDapagliflozin(DAPA)薬物が実際のNASH動物モデルでも効果があるか否かを確認するために、病変が重い非アルコール性脂肪肝炎をマウスに誘発し、薬物を投与した。
【0151】
本実験で誘発したCDAHFD(Choline-deficient,L-amino acid-defined,high-fat diet)モデルは、非アルコール性脂肪肝炎が重い患者において線維化を伴うNASH-related fibrosisを良く疑似できるモデルであり、8週間コリン欠乏高脂肪食で慢性的に脂肪肝炎を誘発するモデルである。DAPA薬物は、CDAHFD食餌誘発後4週になる時点から1週間に3回の投与周期で5mg/kgの濃度で経口投与にて注入した(図25A)。
【0152】
正常、CDAHFD、CDAHFD+DAPAグループのマウスから8週目に収去された肝組織に対してH&E染色とMT染色を行った際、CDAHFDグループで脂肪酸の蓄積が激しく起こり、線維化反応によってコラーゲンが内部に過剰蓄積されていることが確認された。これにより、CDAHFDモデルが、上記したFa/Rモデルに比べて線維化がより強く誘発されるモデルであることが確認される。それに対し、DAPA薬物を投与したグループは、脂肪の蓄積が減少し、線維化症状が改善したことが確認された。コラーゲンが染色された面積を定量分析した際も、DAPA薬物を投与したグループで有意に減少していることが確認された(cv:central vein、中心静脈)(図25B)。
【0153】
3-Nitrotyrosine(3-NT)は、肝臓において活性酸素種(reactive oxygen species)の増加により蓄積され、脂肪肝炎や線維化が起こった肝組織で高く発現された。DAPA薬物による酸化ストレス(oxidative stress)減少効果を確認するために、8週目に肝組織のタンパク質成分を抽出し、3-NTタンパク質に対するwestern whole blotting分析を行った際、CDAHFDグループで3-NTの発現が増加するのに対し、DAPA薬物を処理したグループでは有意に減少していることが確認された(図25C)。
【0154】
上記したFa/Rモデルと同様に、肝毒性指標であるserum LPSとヒドロキシプロリンの量を8週目に確認した際、正常グループに比べて、CDAHFDグループでserum LPSとヒドロキシプロリンの量が増加し、DAPA薬物を処理したグループでは減少することが確認された。Serum albuminの場合、肝機能性の指標であって、CDAHFDグループで減少し、DAPA薬物によって回復することが確認される(図25D)。
【0155】
このような結果から、NASHオルガノイドモデルにおいて効能が検証されたDAPA薬物が、慢性非アルコール性脂肪肝炎を誘発した動物モデルでも同様に効果があることが検証され、本発明で構築されたNASHオルガノイドモデルが脂肪肝炎治療物質を発掘するための体外モデルとして適用可能であることが確認された。
【0156】
実験例6-4.非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおけるDAPA薬物の有効性の検証(4)
脂肪肝炎(NASH)オルガノイドモデルにおいて効能が検証されたDapagliflozin(DAPA)薬物が実際のNASH動物モデルでも効果があるか否かを確認するために、病変が重い非アルコール性脂肪肝炎をマウスに誘発し、薬物を投与した。薬物は4週目から5mg/kgの濃度で1週間に3回の周期で経口投与した。定量的PCR分析は8週目の実験終了時点に行った。
【0157】
8週目の実験終了時点に各グループに対して肝組織の大きさを確認した際、CDAHFD慢性非アルコール性脂肪肝炎モデルは、肝組織の膨張(ballooning)が激しく起こり、体積が大きくなったが、DAPA薬物を処理したグループの肝組織の場合は、ballooning現象が減少していることが確認された(図26A)。
【0158】
正常、CDAHFD、CDAHFD+DAPAグループのマウスから収去された肝組織に対して8週目に定量的PCR分析を行った際、炎症反応関連IL-6、IL-1β、TNF-αの発現と線維化関連COL1A1、SMA、TGF-βの発現が慢性NASHモデルであるCDAHFDグループで増加し、DAPA薬物によって減少することが確認された(図26B)。
【0159】
このような結果から、NASHオルガノイドモデルにおいて効能が検証されたDAPA薬物が、急性初期NASH又は慢性NASHを誘発した動物モデルの全てにおいて脂肪肝炎の改善効果があることが検証された。
【0160】
実験例6-5.急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおける有効薬物の効能比較及び治療機転の究明(1)
急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおいて有効性が検証されたDAPA薬物が、上記において急性及び慢性NASH肝オルガノイドモデルで確認された同じ治療機転によって動物モデルでも作用するか否かを検証するために、western blot分析と、それに基づくマーカー定量分析を実施した。急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎動物モデルは、それぞれFa/RとCDAHFD飼料で誘発したモデルを使用した。
【0161】
Western blot分析を通じて線維化関連α-SMA、COL1A1、炎症関連p-IkB/IkB、pro-IL1β、mTORC1機転関連p-S6/S6、p-p70S6K1/p70S6K1、p-4EBP1/4EBP1の発現を比較した際、正常マウスの肝組織に比べて、急性(Fa/R)及び慢性(CDAHFD)NASHグループの肝組織の全てにおいて線維化及び炎症反応関連マーカータンパク質の発現が有意に増加し、DAPA薬物を処理したグループでは当該マーカーの発現が減少することが確認された。mTORC1機転関連タンパク質の場合は、急性NASH動物モデル(Fa/R)では発現が増加し、DAPA薬物を処理したグループで減少するのに対し、慢性NASH動物モデル(CDAHFD)ではmTORC1関連タンパク質の発現が顕著に減少し、DAPA薬物によって正常と類似した水準に回復することが確認された(図27A)。
【0162】
Western blotの繰り返し実験を通じた定量分析を行った際も、急性及び慢性モデルにおいて線維化関連タンパク質と炎症関連タンパク質の量は増加し、DAPA薬物によって低くなり、mTORC1と関連したタンパク質の場合、急性モデルで増加した発現量がDAPA薬物によって回復した。それとは反対に、慢性モデルにおいては、mTORC1関連タンパク質の発現量が顕著に減少し、DAPA薬物によって改善した。但し、p-4EBP1/4EBP1の場合、慢性NASHオルガノイドモデルとは異なり、慢性NASH動物モデルではDAPA処理による有意な減少が観察されなかった(図27B)。
【0163】
このような結果から、ヒト組織由来急性及び慢性NASHオルガノイドモデルと同様に、急性及び慢性NASH動物モデルにおいても、新規発掘された有効薬物であるDAPAのmTORC1関連治療機転が殆ど一致し、DAPA薬物によって過剰発現又は減少したタンパク質の発現が正常水準に回復することが確認された。
【0164】
実験例6-6.急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおける有効薬物の効能比較及び治療機転の究明(2)
急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎動物モデルにおいてDAPA薬物が処理された肝組織に対し、上記において行ったwestern blot分析と各マーカーに対するタンパク質発現様相が一致するか否かを確認するために、肝組織に対する免疫染色を行った。急性及び慢性非アルコール性脂肪肝炎動物モデルは、それぞれFa/RとCDAHFD飼料で誘発したモデルを使用した。
【0165】
免疫染色を通じて線維化関連α-SMAを染色した際、正常の肝組織に比べて、Fa/R及びCDAHFDモデルで発現が増加し、DAPA薬物によって減少することが確認された。mTORC1機転関連p-S6タンパク質に対する染色を通じて、上記において検証したことと同様に、急性モデルでは、当該マーカーが増加して、DAPAによって減少し、慢性モデルでは、減少した発現がDAPAによって回復することが確認された。また、他のmTORC1機転関連p-4EBP1タンパク質に対する免疫染色を通じて、急性及び慢性NASHモデルの全てにおいて発現が増加するが、DAPA薬物によって発現が減少する様相が確認された。これは、上記において確認したwestern blot分析結果と概ね一致する結果である(図28)。
【0166】
よって、ヒト組織由来急性及び慢性NASHオルガノイドモデルと同様に、急性及び慢性NASH動物モデルにおいても、新規発掘された有効薬物であるDAPAのmTORC1関連治療機転が殆ど一致することが免疫染色分析を通じても確認された。
【0167】
以上、本発明についてその好ましい実施例を中心に検討した。本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明が本発明の本質的な特性を超えない範囲で変形された形態に具現され得ることを理解できるはずである。それゆえ、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等な範囲内の全ての相違点は本発明に含まれると解釈されなければならない。
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【国際調査報告】