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特表2024-519978ムコ多糖に結合した細菌細胞壁、その使用およびその製造のためのプロセス
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  • 特表-ムコ多糖に結合した細菌細胞壁、その使用およびその製造のためのプロセス 図1A
  • 特表-ムコ多糖に結合した細菌細胞壁、その使用およびその製造のためのプロセス 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ムコ多糖に結合した細菌細胞壁、その使用およびその製造のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240514BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240514BHJP
   A61K 31/728 20060101ALN20240514BHJP
   A61K 31/737 20060101ALN20240514BHJP
   A61K 31/726 20060101ALN20240514BHJP
   A61K 31/727 20060101ALN20240514BHJP
   A61K 31/722 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C12N1/20 E
A61P17/00
A61P17/10
A61P17/08
A61P17/06
A61P15/02
A61P31/10
A61P31/04
A61K35/74 B
C12N1/20 C
A61K31/728
A61K31/737
A61K31/726
A61K31/727
A61K31/722
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572545
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2022063824
(87)【国際公開番号】W WO2022243558
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】102021000013292
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523440570
【氏名又は名称】アイリーンズ・ファーマ・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】AILEENS PHARMA S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディ・マルコ,ロベルト・マリア・アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ロンゴ・ソルマニ,ソニア
(72)【発明者】
【氏名】ベルガリト,フランカ
(72)【発明者】
【氏名】マグニフィコ,イレーネ
(72)【発明者】
【氏名】ピエトランジェロ,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ベンディッティ,ノエミ
(72)【発明者】
【氏名】クトゥリ,マルコ・アルフィオ
(72)【発明者】
【氏名】ペトロニオ・ペトロニオ,ジュリオ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BD01
4B065CA22
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA50
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086EA23
4C086EA24
4C086EA26
4C086EA27
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA56
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZB35
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC74
4C087CA09
4C087CA14
4C087MA16
4C087MA28
4C087MA56
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZB35
(57)【要約】
本発明は、ムコ多糖と連結されたアクネ菌の選択されたグラム陽性菌株の細菌細胞壁またはその断片および特に皮膚または粘膜の免疫学的疾患の予防または治療でのその使用に関する。選択されたアクネ菌の細菌細胞壁をムコ多糖へ連結させるためのプロセスもまた、本明細書中に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌株が、グラム陽性であり、かつ国際寄託当局ライプニッツ研究所(Leibniz-lnstitut)DSMZに受託番号DSM28251を伴って寄託されたアクネ菌である、ムコ多糖に連結された細菌細胞壁またはその断片。
【請求項2】
前記ムコ多糖が、ヘパリン、ヘパラン硫酸;コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸;ケラタン硫酸;ヒアルロン酸およびキトサンならびにそれらの生理学的塩から選択される、請求項1に記載のムコ多糖に連結された細菌細胞壁またはその断片。
【請求項3】
前記ムコ多糖が、ヒアルロン酸、コンドロイチン-4-硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ヘパリン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸およびそれらの生理学的に許容される塩から選択され、好ましくは、ヒアルロン酸またはその塩である、請求項1または2に記載のムコ多糖に連結された細菌細胞壁またはその断片。
【請求項4】
前記アクネ菌DSM28251の菌株が、細胞壁の機械的または非機械的破砕により取得される、請求項1~3のいずれか1項に記載のムコ多糖に連結された細菌細胞壁またはその断片。
【請求項5】
前記アクネ菌DSM28251株の細胞壁ペプチドグリカンがムコ多糖に連結される、請求項1~4のいずれか1項に記載のムコ多糖に連結された細菌細胞壁断片。
【請求項6】
医薬としての使用のための、請求項1~5のいずれか1項に記載のムコ多糖と会合した細菌細胞壁またはその画分もしくは溶解物。
【請求項7】
有効量の請求項1に記載のムコ多糖に連結された細菌細胞壁またはその断片および生理学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項8】
前記組成物が、クリーム剤、フォーム剤、軟膏剤、パスタ剤、散剤、ゲル剤、液剤、卵(ovum)、膣洗浄剤またはエマルジョン剤の剤型である、局所使用のための請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
免疫学的な皮膚または粘膜疾患の予防または治療での使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載のムコ多糖に連結された細菌細胞壁もしくはその断片または請求項7から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記免疫学的な皮膚または粘膜疾患が、皮膚のアレルギー性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患または感染性疾患である、請求項9に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記皮膚疾患が、湿疹、アトピー性皮膚炎、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、酒さ、乾癬、紅斑または皮膚疹である、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記感染性疾患が、皮膚または粘膜の細菌または真菌感染、特にカンジダ属の感染である、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記免疫学的な粘膜疾患が婦人科疾患である、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記婦人科疾患が、膣炎、膣感染症および/または炎症である、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記膣感染症が、細菌性膣症、外陰膣カンジダ症、混合型膣炎または外陰膣感染症である、請求項14に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ムコ多糖に結合した細菌細胞壁、その使用およびその製造のためのプロセスに関する。
【0002】
本発明は、医薬、化粧品および栄養製品の分野に由来する(origin)。
【0003】
具体的には、本発明は、非特異的免疫調節活性を伴う、ムコ多糖とのアクネ菌(Cutibacterium acnes)の選択された菌株の細菌細胞壁の会合体および医薬分野でのその使用に関する。
【0004】
好ましくは、本明細書中に開示されるムコ多糖と会合した細菌細胞壁は、局所塗布用であり、かつ皮膚科障害、感染または皮膚病を治療するために好適である。
【背景技術】
【0005】
背景
免疫学は、本質的に、感染に対する身体の防御の研究に関する。免疫系は、典型的には2つの分類:自然免疫応答および適応免疫応答に分けられる。免疫系のいずれかの崩壊/欠陥は、免疫学的皮膚疾患をもたらし得る。
【0006】
過剰かつ望ましくない免疫応答は過敏症または自己免疫疾患を引き起こし得るが、免疫低下(hypoimmunity)は、感染性疾患および皮膚腫瘍をもたらし得る。
【0007】
望ましくない免疫応答は、有害な刺激または生物の組織の損傷に対する生物学的応答である炎症と厳密に相関する。
【0008】
炎症は、組織損傷の原因を除去し、元の傷害および炎症プロセスにより損傷した壊死組織を除去し、かつ組織修復を開始することを目的とした身体の保護的応答と考えられている。
【0009】
生物のこの応答は、免疫細胞および分子メディエーターのいずれかを含む。
【0010】
現在、より一般的な皮膚の炎症性疾患のうちの大部分が、ステロイド性抗炎症薬の全身性または局所的投与を用いて治療される。
【0011】
しかしながら、皮膚科疾患の治療におけるステロイド性抗炎症薬の広範囲の使用および有効性にもかかわらず、治療された疾患が抵抗性になり、かつ治療の終了後に症状が持続または再発し得るいくぶんかのリスクが残る。
【0012】
加えて、皮膚の炎症の治療を目的とした局所投与のためのステロイド製剤の乱用および誤用は、局所的または全身性の副作用につながり得る。例えば、コルチコステロイドを用いる目の周りの皮膚の局所的治療は、眼圧上昇および/または緑内障などの目に対する深刻な副作用をもたらし得る。
【0013】
加えて、一部の場合には、コルチコステロイドを用いる免疫学的皮膚疾患の治療は、完全に満足のいくものではない。
【0014】
したがって、現在、市販の医薬に対する代替品となる、抗炎症活性および/またはおそらくは抗微生物活性さえも備えた新規製品が必要とされている。
【0015】
免疫学的皮膚疾患が細菌感染を伴う多くの場合には、治療的処置は、抗細菌薬とのステロイド薬の組み合わせを含む。
【0016】
しかしながら、近年の研究は、皮膚の抗生物質治療が生理的な皮膚微生物叢のうちの大部分を死滅させ、微生物構成成分間および微生物と宿主との間に相互作用的かつ相互依存的な関係が存在する皮膚の複雑な生態系を妨げることを示した。
【0017】
加えて、皮膚感染症の治療での局所塗布用の抗生物質製品の乱用は、局所的抗生物質療法に対する抵抗性の可能性を増加させ、医師が第2世代の抗生物質を処方することを余儀なくさせる。
【0018】
したがって、現在、皮膚の免疫学的疾患を治療するための新たな非特異的免疫調節剤に対する必要性が未だにある。
【0019】
長期間にわたるその使用でさえも、深刻な副作用による影響を受けない、抗炎症活性を伴う、特に局所塗布用の新規製品に対する必要性もある。
【0020】
その局所塗布が免疫応答を障害しない、免疫学的皮膚疾患、特に炎症性成分を有するものを治療するための新規製品に対する必要性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的のうちの1つは、その局所的使用が実質的に皮膚微生物叢を障害しない、免疫調節活性を伴う製品を提供することにある。
【0022】
病原性微生物の細菌量の低減でも活性である、局所的抗炎症活性を有する製品を提供することもまた望ましい。一方で、病原体を対比することにより、恒常性条件のより迅速な回復が、皮膚常在菌叢/微生物叢の正常化を通して達成される。
【0023】
本発明の別の目的は、具体的には皮膚または膣粘膜などの粘膜への局所的塗布を対象とする、抗炎症活性を伴う非ステロイド製品の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
発明の概要
本発明は、特異的ムコ多糖と連結される場合に、キューティバクテリウム属アクネス種に属する選択されたグラム陽性細菌株の細菌細胞壁またはその断片が、免疫調節活性を発揮し、かつ線維芽細胞の増殖および遊走を促進するという知見に由来する(origin)。加えて、本発明者らは、本明細書中に記載される通りのムコ多糖とのアクネ菌の選択された菌株の会合体が、皮膚の病原体微生物に対する阻害性作用を提供し、かつ局所的免疫応答の生物学的機構を調節して、炎症カスケードを阻害するかまたは減速させることを観察した。
【0025】
これらの特性は、本明細書中に記載される通りのムコ多糖と連結されたアクネ菌の選択されたグラム陽性菌株またはその細胞壁断片を、好ましくは皮膚科分野および/または婦人科分野での、例えば、特に炎症が存在する、免疫関連皮膚疾患の治療または皮膚感染における、医学的応用に対する好適な候補にする。
【0026】
第1の態様では、本発明は、ムコ多糖(mucolysaccharide)と会合したかまたは組み合わせられた、細菌細胞壁またはその画分もしくは溶解物であって、菌株は、国際寄託当局ライプニッツ研究所DSMZ-ドイツ微生物細胞培養コレクションGmbH(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)に受託番号(登録番号)DSM28251でブダペスト条約に基づいて寄託されたアクネ菌である、細菌細胞壁またはその画分もしくは溶解物を提供する。
【0027】
典型的には、複合体またはコンジュゲートは、ムコ多糖とのアクネ菌DSM28251の菌株細胞壁もしくはその画分または溶解物の会合により形成される。
【0028】
一態様では、本発明は、受託番号DSM28251を伴って寄託された菌株アクネ菌の上述の細菌細胞壁の医学的使用を提供する。本態様に従えば、本発明の菌株は、局所的または全身性投与、特に局所使用のためのものである。
【0029】
全身性投与とは、それにより全身が影響される、循環系への本発明の菌株を含む医薬、栄養の投与の経路を意味する。投与は、腸内、経口投与または注入、輸液もしくは埋め込みによる非経口投与を介して行われ得る。
【0030】
局所的投与または塗布は、ムコ多糖に会合/連結されたアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁またはその画分の投与の好ましい経路である。
【0031】
ムコ多糖と連結されたアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁およびそれを含有する組成物は、局所塗布に対して好適ないずれかの剤型で皮膚に塗布され得る。
【0032】
本明細書中に開示される細菌細胞壁が由来するアクネ菌DSM28251株は、自然発生的突然変異、誘導型突然変異、接合および選択、交配および選択または遺伝子操作の他の方法により誘導され得、そこまで遡ることができる。
【0033】
細菌細胞壁が由来する細菌株は、皮膚微生物叢を構成する多数の菌株の中で、健康皮膚から単離および選択され得る。
【0034】
別の態様に従えば、本発明は、免疫学的皮膚または粘膜疾患の予防または治療での使用のための、ムコ多糖と連結された、受託番号DSM28251を伴って寄託されたアクネ菌の細菌細胞壁または断片/溶解物に関する。
【0035】
好ましくは、本発明のムコ多糖と会合した細菌細胞壁は、皮膚科分野および婦人科分野に、例えば、細菌、真菌または原生動物由来の皮膚もしくは粘膜炎症または感染の治療に応用される。
【0036】
例えば、本明細書中に開示される会合体は、一部のI型過敏反応、例えば、じんましん、およびIII型過敏反応、例えば、アレルギー性皮膚血管炎の原因である細菌感染の予防または治療において有効である。本明細書中に開示される会合体は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などの病原性微生物による皮膚感染および皮膚定着に対する増加した感受性を伴うアレルギーに基づく皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎を引き起こす、異常な表皮バリア機能および無調節免疫の治療においても好適である。
【0037】
一態様では、コルチコステロイド抵抗性を誘導し得る、黄色ブドウ球菌(S.aureus)などの細菌により産生される毒性因子である超抗原により引き起こされる皮膚疾患の治療での使用のための、ムコ多糖と連結されたアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁または画分/溶解物が提供される。
【0038】
加えて、本発明の会合体は、両方がヒト身体の日和見感染症の最も一般的な原因因子の中に入る、真菌、特にカンジダ属種(Candida spp)、特にカンジダ・アルビカンス(Candida Albicans)の酵母、またはマラセジア属種(Malassezia spp)などの皮膚糸状菌由来の感染の治療において有効である。加えて、本発明のアクネ菌(C.acnes)DSM28251株の細胞壁断片とムコ多糖との会合体または複合体は、市販の抗真菌製品に対して抵抗性である真菌感染の治療において用いられる。
【0039】
本出願人は、本明細書中に開示される通りの、ムコ多糖と連結されたアクネ菌DSM28251株の細胞壁断片が、免疫調節活性を発揮し、かつ抗原に対するヒト生物の防御の第一線である局所免疫系を活性化することを観察した。
【0040】
本明細書中に開示される複合体は、皮膚の瘢痕形成作用を有することもまた観察された。
【0041】
発赤またはクーペローズなどの皮膚の美的側面を改善するための上記で特定される細菌株の美容上の使用もまた、本明細書中に開示される。したがって、一態様では、本発明は、皮膚の創傷、擦過傷、潰瘍、例えば、褥瘡の治療での使用のための、および身体、特に皮膚の損傷組織を修復するための、ムコ多糖と結合/会合したアクネ菌DSM28251の細菌壁の断片または溶解物または当該会合体および薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物に関連する。
【0042】
その構造中のカルボキシル基およびヒドロキシル基などのムコ多糖中の反応性官能基は、ムコ多糖をアクネ菌DSM28251の細菌壁との結合に対して好適にする。
【0043】
アクネ菌DSM28251株の細菌細胞壁の断片または溶解物は、細菌細胞壁の脱脂および引き続く菌株の破砕により取得することができる。
【0044】
さらなる態様では、本発明は、以下のステップ:
a)過ヨウ素酸塩、ハロゲン化アシル、グルタルアルデヒド、ヨード酢酸(iodacetic acid)、クロロ酢酸のうちの1種を用いる第1級アルコールの酸化またはアセチル化。好ましくは、第1級アルコールに対する試薬のアクセス性の改善に起因して、ヒアルロン酸などのムコ多糖のN-アセチルグルコサミン部分の6位炭素のヒドロキシルに対する酸化が行われる。このステップは、Kristiansen、K.A.、Potthast、A.、&Christensen、B.E.、「Periodate oxidation of polysaccharides for modification of chemical and physical properties.」Carbohydrate Research、345巻(10号)、1264~1271頁.(2010)の開示に従って行われ得る。
【0045】
b)水性または有機媒体中での、シッフ塩基またはアミド基を形成する、アルデヒドおよびカルボキシル基を含む活性化ムコ多糖と細菌壁中に存在するアミン基との間の反応
を含む、ムコ多糖と連結/会合したアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁の生成のためのプロセスに関連する。
【0046】
例えば、ステップb)の反応は、溶媒としての水および8.5~9の範囲でpHを調整するための緩衝剤を用いて行われ得、別法では、溶媒は、有利には、エタノールおよびテトラヒドロフラン(THF)ならびに7.4±0.4にpHを好ましくは調整するためのリン酸緩衝剤を含む。
【0047】
ムコ多糖は、2種類の異なる様式で:コンジュゲート化によりまたは架橋により、化学的に修飾され得る。
【0048】
両方の方法は同じ化学反応に基づき、コンジュゲート化では、単結合によりヒアルロン酸鎖などのムコ多糖鎖上に化合物が結合される。
【0049】
架橋の場合、ムコ多糖鎖は、2箇所以上の結合により一緒に結合される。
【0050】
コンジュゲート化反応は、生体ポリマー中に存在する基の反応性を用いるか、または活性化ムコ多糖を取得するためのポリマー上の化学的コンジュゲート化に対して好適な部位を作製することによるかのいずれかで行われ得る。
【0051】
典型的には、細菌壁断片のコンジュゲート化基は、好ましくは、アミン基、カルボキシル基およびチオール基である。
【0052】
ここで、本発明が、詳細にかつ添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1A図1Aおよび図1Bは、実施例1に従う黄色ブドウ球菌BAA1680および黄色ブドウ球菌ATCC29213培養物由来の上清を接種されたハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)幼虫の生存率を図示する2つのグラフを示す。
図1B図1Aおよび図1Bは、実施例1に従う黄色ブドウ球菌BAA1680および黄色ブドウ球菌ATCC29213培養物由来の上清を接種されたハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)幼虫の生存率を図示する2つのグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
発明の詳細な説明
本発明は、アクネ菌DSM28251株の特定の活性が、その断片のこの菌株の細菌細胞壁がムコ多糖と会合または連結されて、有利にはアクネ菌DSM28251株とのムコ多糖の複合体を生じる場合に、予期せぬことに改善されるという知見に由来する(origin)。
【0055】
特定の実施形態では、ムコ多糖またはその塩は、アクネ菌DSM28251株の細菌壁由来の糖タンパク質およびペプチドグリカン複合体と連結または複合体化される。
【0056】
主な態様に従えば、本発明は、請求項1に規定される通りの、ムコ多糖に連結された細菌細胞壁またはその画分もしくは溶解物に関連する。
【0057】
特に、ムコ多糖に連結された細菌細胞壁またはその断片は、複合体またはコンジュゲートを形成する。
【0058】
したがって、特定の態様に従えば、ムコ多糖に連結されたアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁または断片もしくは溶解物を含む複合体が提供される。
【0059】
具体的には、ムコ多糖に連結または会合した場合に、免疫学的皮膚疾患の治療においてそれを有効にする免疫調節作用を有する、アクネ菌DSM28251株の細菌細胞壁またはその断片/画分が提供される。
【0060】
有利には、アクネ菌DSM28251株の細胞壁またはその断片/画分は、ムコ多糖に連結された場合に、免疫応答を活性化する。治療されるヒト身体の免疫応答は、ムコ多糖に連結されたアクネ菌DSM28251株の断片の複合体が、経口投与されるかまたはヒト身体の皮膚もしくは粘膜上に塗布されるかに依存して、全身性または局所的であり得る。
【0061】
上記の活性は、本発明者らにより行われ、かつ下記の実施例中に報告される実験的試験により証明される。これらの試験は、特に、局所塗布用の、免疫調節剤としての上記で特定される会合体の使用に対する科学的基礎を提供する。
【0062】
記載される菌株の細菌細胞壁と連結または会合される好適なムコ多糖は、コア二糖構造に基づいて、以下の群に属する生理学的に許容されるムコ多糖またはその塩である:群1:ヘパリン/ヘパラン硫酸(HSGAG);群2:コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸(CSGAG)、群3:ケラタン硫酸、キトサン;群4:ヒアルロン酸または生理学的に許容されるその塩。
【0063】
特定の好ましい実施形態では、ムコ多糖は、ヒアルロン酸(HA)およびその塩、コンドロイチン-4-硫酸(C4SA)、コンドロイチン-6-硫酸(C6SC)、キトサン、デルマタン硫酸(DS-コンドロイチン硫酸B(DS-condroitin-solfate B))、ヘパリン硫酸(HS)、ヘパリン(HP)およびケラタン硫酸(KS)および上記のムコ多糖の生理学的に許容される塩から選択される。
【0064】
生理学的に許容されるムコ多糖の中で、ヒアルロン酸またはその塩が好ましい。ヒアルロン酸の好適な塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウムの塩が挙げられる。
【0065】
特定の実施形態では、HAの分子量は、3×10~8×10MWである(T.C.Laurentら、Fractionation of hyaluronic acid.The polydispersity of hyaluronic acid from the bovine vitreous body、Biochim.Biophys Acta、1960、42巻、476頁)。
【0066】
典型的には、ヒアルロン酸などのムコ多糖の分子量は、SEC-MALLSもしくは寸法除外でのクロマトグラフィーである多角度レーザー光拡散などの従来の技術により、またはUenoら、1988、Chem Pharm Bull.36巻、4971~4975頁;Wyatt 1993、Anal Chim Acta 272巻:1~40頁;Watt Technologies 1999「Light scattering University Dawn Course Manual and「Dawn Eos Manual」Wyatt Technology Corp.Santa Barbara CA(USA)に記載される通りの方法を用いて決定され得る、平均分子量(MW)である。
【0067】
本発明の特定の態様では、請求項1に規定される通りの会合体を含有する組成物、特に医薬組成物または栄養組成物が、本明細書中に提供される。
【0068】
一態様に従えば、本発明は、医薬としての使用のための、ムコ多糖に連結された本明細書中に開示される細菌細胞壁またはその断片に関連する。
【0069】
特に、記載される実施形態のうちのいずれか1つに従うムコ多糖に連結された細菌細胞壁またはその断片は、免疫学的皮膚疾患の治療での使用のためのものである。
【0070】
本発明に従って治療することができる免疫学的皮膚疾患としては、感染性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患ならびに病因、病原および免疫応答に基づく他のタイプの疾患が挙げられる。
【0071】
請求項1の細菌細胞壁の特徴は、医師が、ヒトなどの哺乳動物の皮膚または粘膜の多様な疾患、特に、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、感染性疾患を治療することを可能にする、免疫調節および抗炎症作用のいずれかを提供する。
【0072】
加えて、経口投与されるかまたは個体の皮膚上に塗布される場合に、ムコ多糖と会合した細菌細胞壁の細菌性成分は、病原性微生物に対する免疫応答を惹起する。この作用/活性は、感染症、特に皮膚および粘膜感染の治療において会合体を有用にする。
【0073】
特に、アクネ菌DSM28251株の細菌壁の本明細書中に記載される断片は、一般的な細菌、主にグラム陽性細菌、特に球菌細菌、例えば、黄色ブドウ球菌または大腸菌(Escherichia coli)および病原性酵母、例えば、カンジダ属の酵母、例えばカンジダ・アルビカンスのうちの大部分の治療において有効である。
【0074】
別の態様に従えば、本明細書中に開示される通りの、ムコ多糖と複合体化された受託番号DSM28251を伴って寄託されたアクネ菌の細菌壁の断片を含む複合体が提供される。
【0075】
有利には、ムコ多糖部分が、細菌壁断片のペプチドグリカンと複合体化または連結され、おそらくは、リポテイコ酸および/もしくはテイコ酸とも複合体化または連結される。
【0076】
それに由来して本明細書中に開示される細菌細胞壁が取得されるDSM28251株は、遺伝子型により特徴付けられ、ゲノム内で特定される特異的形質により明らかかつ規定された様式で特定可能である。この菌株は、いかなる直接的介入または遺伝子操作も伴わずに自然発生的に進化し、産業的応用に対して重要な特性を有する。
【0077】
DSM28251株の特性を検証および確認し、かつ先行技術に記載される菌株とのこの菌株の考えられる重複を除外するために、遺伝子型特性決定が、DSMZにより行われた。
【0078】
特定の態様では、本発明はまた、
- 膣炎、膣感染症もしくは炎症などの婦人科疾患、または
- 肛門科障害、例えば、痔疾、肛門亀裂もしくは皮膚瘢痕もしくは肛門周囲領域、または
- 皮膚の創傷、傷害、擦過傷、潰瘍、例えば、褥瘡、もしくは創傷を治癒させるため
の治療における医学的使用のための、ムコ多糖に連結したアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁およびそれを含有する組成物にも関連する。
【0079】
アクネ菌DSM28251の壁側断片の化学的特性決定
アクネ菌DSM28251の細胞壁およびその断片は、ホスファチジルイノシトール、トリアシルグリセロール、および脂質を含有する特異的細胞壁を有する。
【0080】
特に、アクネ菌DSM28251の細胞壁またはその断片は、他のグラム陽性細菌のものとは異なるタイプのペプチドグリカン(PNG)を含有し、有利には、ペプチド鎖は、L-酸L-ジアミノペリン酸(L-acid L-diaminopelic acid)およびD-アラニンを含有することができる。
【0081】
有利には、アクネ菌DSM28251リポグリカンは、アミノ糖、特にジアミノヘキスロン酸と一緒に、脂肪酸ならびにマンノース、グルコース、およびガラクトースを含有する多糖部分に基づく脂質アンカーを有する。
【0082】
総ヘキソサミン含有量および遊離ヘキソサミン含有量は、標準としてグルコサミン塩酸塩を用いて、Elson and Morgan、1933(Elson、L.A.and Morgan、W.T.J.A colorimetric method for the determination of glucosamine and chondrosamine.Biochemical Journal(1933)27巻:1824~1828頁)に記載される通りに測定することができる。遊離ヘキソサミンの含有量は極めて低い(g/100g乾燥重量として表される値):0.121±0.011(範囲0.113~0.131)。ヘキソサミンの総含有量は、9.21±2.02(範囲7.974~11.535)である。
【0083】
アクネ菌DSM28251の断片の総アミノ酸含有量の分析:
アクネ菌DSM28251の断片のサンプルを、クロマトグラフィー分析による総アミノ酸分析に供した。
【0084】
【表1】
【0085】
加えて、ムコ多糖に連結されたアクネ菌DSM28251の細胞壁の断片は、黄色ブドウ球菌、大腸菌およびカンジダ属、例えば、カンジダ・アルビカンスに対する固有の活性を提供する。
【0086】
上記のデータは、ムコ多糖に連結されたアクネ菌DSM28251の細胞壁の断片が、固有であり、したがって、他のグラム陽性またはグラム陰性細菌の細胞壁の断片とは異なる化学組成および生物学的活性を有することを証明する。このことは、科学的文献により、例えば、Cummins、C.S.、&Hall、P.(1986).Acetate and pyruvate in cell wall polysaccharides of Propionibacterium acnes,P.avidum,and P.granulosum.Current Microbiology、14巻(2号)、61~63頁;McBride、W.H.、Dawes、J.0.A.N.、Dunbar、N.0.R.E.E.N.、Ghaffar、A.、&Woodruff、M.F.(1975)により確認される。
【0087】
細菌細胞壁画分/断片または溶解物を取得するためのプロセス
ムコ多糖に連結されている菌株アクネ菌DSM28251の好適な細菌細胞壁、断片または溶解物は、細胞破砕の従来のまたは一般的方法により取得され得る。
【0088】
菌株の細胞壁の好適な破壊/破砕/粉砕は、上記の菌株を機械的方法/溶解処理または非機械的方法/溶解処理のいずれかに供することにより、達成され得る。
【0089】
特定の実施形態では、細菌細胞壁破砕または粉砕の前に、出発菌株を、従来の方法、例えば、加熱および/またはホルムアルデヒドを用いる菌株の処理により、不活性化することができる。
【0090】
特定の実施形態に従えば、アクネ菌DSM28251の細胞壁断片は、細胞壁を粉砕することにより、機械的方法により、特に、固体せん断または流体せん断方法により取得される。
【0091】
機械的方法/装置を用いる細菌細胞壁破砕
本菌株の細菌細胞壁を破砕、粉砕し、かつ好適な壁断片を取得するための好適な機械的方法としては、固体せん断または流体せん断方法のいずれかが挙げられる。
【0092】
固体せん断としては、ビーズミル、X-プレスまたはヒューズプレスの使用が挙げられる。
【0093】
液体/流体せん断としては、超音波破砕、高圧法、例えば、ヒューズプレスもしくはフレンチプレスおよび/あるいはホモジナイザーまたはmicrofluiderホモジナイザーの使用によるホモジナイゼーションが挙げられる。
【0094】
ビーズミル(または研磨)を用いる技術は、典型的には、ガラスビーズを用いる菌株の懸濁物の撹拌を含む。
【0095】
典型的には、ビーズミル法を用いる細菌細胞壁の破砕は、その中心を通る回転軸貫通を伴うジャケット付き粉砕チャンバーを含むビーズミルにおいて行われる。軸には、チャンバー中のビーズへと運動エネルギーを付与し、それらを互いに衝突させる、回転翼が取り付けられる(Chisti&Moo-Young、1986;Middelberg、1995)。細菌の効果的な破砕に対して好適なビーズは、直径0.10~0.15mmであり得る。大型の工業用装置は、懸濁物からビーズを分離するための機構(Kula&Shutte、1987)を理由に、直径0.4~0.6mmのビーズを用いる場合がある。細菌の破砕に対して好適な先端速度は、少なくとも10m-1である(Kula&Shutte、1987)。細胞濃度は、チャンバーに導入される液体中の40~50%湿重量で変わり得る。
【0096】
好適なせん断はまた、超音波破砕および高圧により細胞の凍結懸濁物が小さな開口部を通って押し出される、ヒューズプレスまたはフレンチプレスをはじめとする高圧法も含む(Engler、1985)。
【0097】
超音波破砕は、懸濁物中の細胞壁を破砕することができる、15~20kHz超の周波数を典型的には有する音波である超音波の使用を含む。例えば、従来の液体媒体中の20%細菌懸濁物の5~30mLを超音波破砕する場合、好適な音響出力は、35~95Wの音響出力を用いる。特定の実施形態では、本明細書中に記載される通りの細胞壁の断片は、機械的処理により、例えば、超音波破砕により、アクネ菌DSM28251株を粉砕することにより取得される。
【0098】
代替的に、機械的破砕は、Engler、1985により報告される通り、高圧下で菌株の細胞懸濁物を調節可能な制限付きオリフィス放出弁に通すことにより、高圧バルブホモジナイザーにおいて取得することができる。典型的には、基本的なホモジナイザー設計は、弁座の中心を通り、かつ座面を越えて細胞懸濁物を通す、移送式ポンプを含む。バルブに対する力の調整が、圧力を制御する。流体は、バルブを越えて放射状に流れ、インパクトリングにぶつかる(Middelberg、1995)。破砕は、細胞壁の非特異的な引き裂きをもたらす。
【0099】
例示的なホモジナイザータイプは、Manton-Gaulin APV設計である(Middelberg、1995)。例えば、ホモジナイザー中の温度は、10MPa当たり約21℃上昇する。ホモジナイザー中の破砕プロセスに対して、作動圧力の強い影響がある。高圧でホモジナイザーを作動させることにより、所与の破砕の程度に対して、ホモジナイザーを通る細胞スラリーの通過回数を減少させることが可能である(Chisti&Moo-Young、1986;Buryら、2001)。
【0100】
microfluiderホモジナイザーもまた、断片化細胞壁を取得するための設備として用いることができる。この装置において、細胞懸濁物の2つの流れが、静止表面に対して高速で衝突し、エネルギー入力は衝突の時点で略即時に消失し、細胞の破砕をもたらす(Middelberg、1995;Agerkvist&Enfors、1990)。デバイスの最高温部分であるマイクロフルイダイザー破砕チャンバー中の菌株懸濁物の滞留時間は、25~40msである。現場冷却は、氷浴中での破砕チャンバーの浸漬により達成され得る(Sauerら、1989;Geciova、個人的経験)。破砕細胞の画分は、圧力および通過の回数を増加させることにより増加する。
【0101】
非機械的方法を用いる細菌細胞壁破砕
非機械的破砕方法は、膨張により付加圧力の解放後に破砕を引き起こす、細胞へと加圧亜臨界または超臨界気体を導入することにより得られる減圧に基づく。
【0102】
細胞壁の別の非機械的破砕は、細胞株懸濁物が従来の条件下での高浸透圧における平衡化後の液体媒体/液体中に希釈される、浸透圧ショックにより得られ得る。
【0103】
細胞溶解のための代替的な方法は、例えば、従来の条件下での細胞の熱処理を含む熱分解である。別の非機械的細胞溶解は、β-ラクタム抗生物質などの抗生物質、例えば、ペニシリン、キレート剤、例えば、EDTA、カオトロピック、例えば、尿素、グアニジン、エタノール、界面活性剤、例えば、TritonXシリーズ、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリルサルコシンナトリウム、溶媒、例えば、トルエン、アセトン、クロロホルム、水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸塩、例えば、次亜塩素酸ナトリウムおよびそれらの混合物から選択される物質を特に用いる化学的透過化により得られ得る。
【0104】
菌株の細胞溶解はまた、例えば、最初に細胞壁のマンノプロテイン複合体および続いてグルカン骨格を攻撃するプロテアーゼおよびグルカナーゼを用いることによる酵素的溶解によっても得られ得る(Kitamura、1982)。菌株壁溶解に対して好適な製品は、商用製品Zymolase-20T(Seikagaku America、Inc.、Rockville、MD)である。リゾチームもまた、b-1,4-グルコシド結合の加水分解を触媒するので、ペプチドグリカン層の溶解に対して用いることができる。
【0105】
好ましい実施形態に従えば、アクネ菌DSM28251株の壁の断片は、好ましくは室温未満、例えば、10~2℃の範囲の温度で、硫酸アンモニウムを用いて細菌株を処理することにより得られ得、有利には、処理後に懸濁物が遠心分離され、沈殿した断片が回収される。
【0106】
有利には、硫酸アンモニウムを用いる処理前に、アクネ菌DSM28251株を乾燥させ、任意により水を用いて遠心分離する。任意により、遠心分離後に、遠心分離からもたらされる上清が、例えば、40~95℃の温度で、好ましくは75~85℃で加熱され、続いて、例えば、冷水を用いて、好ましくは3~15℃で冷却される。その後、例えば、2~10℃で、20~60%v/vの濃度での硫酸アンモニウムの溶液と共にインキュベートする沈殿ステップが行われる。有利には、インキュベーション後、得られた懸濁物を遠心分離し、沈殿した断片を回収することができる。例えば、細菌ペレットが、エーテル-エタノール、クロロホルム、メタノール-クロロホルムおよびそれらの混合物から選択される有機溶媒を用いるソックスレー処理により脱脂され、続いて、例えば、フード層流下で乾燥される。乾燥後、ペレットが、好ましくは1:2p/Vの割合で蒸留水を添加して、好ましくは各1分間の2ステップのUltraturrax処理によりホモジナイズされる。遠心分離後、上清が80℃で温められ、続いて、好ましくは3~15℃での冷水下で、最終的には氷上で冷却される。その後、断片沈殿ステップが、4℃で24時間、40%v/v冷硫酸アンモニウムと共にインキュベートすることにより行われる。インキュベーション後、懸濁物が遠心分離され、沈殿した断片が回収および凍結乾燥された。
【0107】
脱脂
一部の実施形態では、受託番号DSM28251を伴って寄託されたアクネ菌の細胞壁の断片が脱脂され、すなわち、化学的/バイオテクノロジー技術を用いて、細菌の細胞壁の脂質成分を除去するかまたは著しく低減させるように処理される。
【0108】
有利には、脱脂ステップは、細菌細胞壁破砕前に行われる。
【0109】
例えば、受託番号DSM28251を伴って寄託されたアクネ菌は、細胞壁断片を生成するための粉砕ステップに先立って脱脂される。典型的には、本発明の菌株の細胞壁の脱脂された断片は、典型的には、緊密な編地メッシュを形成する糖ペプチドへと互いに結合した、糖およびペプチド鎖を含む。細胞壁の典型的な糖は、N-アセチルムラミン酸およびN-アセチルグルコサミンを含む。
【0110】
例えば、アクネ菌DSM28251株の細胞壁断片を取得するためのプロセスは、液体または培養培地中に含められたアクネ菌DSM28251の菌株を提供するステップ、洗浄ステップおよびソックスレー抽出器による脱脂ステップを含む。
【0111】
続いて、脱脂された細菌が水中に懸濁され、続いて、例えば、ホモジナイザーUltratturraxなどの機械的撹拌機を用いる機械的溶解に供され、細菌壁の断片を沈殿させるために、硫酸アンモニウムを用いて内容物が処理される。
【0112】
続いて、所望の細菌細胞壁断片を取得するために、例えば、水を用いて洗浄することにより、断片を洗浄することができる。
【0113】
ムコ多糖を含む細菌細胞壁会合体/連結
ムコ多糖との細菌細胞壁の会合体または連結は、アクネ菌DSM28251株の細胞壁の断片を好適な溶媒中のムコ多糖またはその塩の溶液と反応させることにより、取得され得る。
【0114】
特定の実施形態では、ムコ多糖またはその塩は、細菌壁由来糖タンパク質およびペプチドグリカン複合体(EDS)と連結または複合体化される。
【0115】
DSM28251株の細菌細胞壁をムコ多糖と会合/連結するための方法の実施形態は、以下のステップを含む:
好適なムコ多糖の塩、例えば、ナトリウム、カリウムまたはカルシウムヒアルロン酸(HA)塩が、5~6、好ましくは5.3~5.7の範囲のpH、例えば、pH5.5に達するために、酢酸ナトリウムを含む緩衝剤を含む水中に溶解される。その後、ヨード酢酸またはクロロ酢酸が、出発ヒアルロン酸塩の量に関して、例えば、1~10重量%、好ましくは3~6%、例えば、4重量%の量で添加され、好ましくは撹拌され、好ましくは8~10、好ましくは8.5~9.5、より好ましくは8.8~9の範囲での塩基性pHに達するために、アルカリ化剤、好ましくは炭酸カルシウムが添加される。
【0116】
アクネ菌DSM28251の壁とHAを会合/連結するために、本明細書中に記載される実施形態に従って、この溶液にアクネ菌DSM28251の壁の断片が添加される。好ましくは、ムコ多糖に結合/会合した取得される細菌細胞壁が、溶液中に一晩置かれる。特定の実施形態では、HAとアクネ菌DSM28251の壁との間の連結を改善するために、好ましくは、ロイシン、バリン、イソロイシンもしくはアルギニンから選択される少なくとも1種の分枝型アミノ酸、またはグリセロールもしくはグリシンが、HAに会合された細胞壁の溶液へと添加される。
【0117】
例として、DSM28251株の細胞壁の断片とHAとのコンジュゲートは、以下の通りに調製および取得することができる:5gのヒアルロン酸ナトリウムが、撹拌しながら、100mLの酢酸バッファー0.05M、pH5.5中に溶解され、過剰に粘性(viscose)でない溶液を取得し、続いて、856mgのモノヨード酢酸ナトリウムまたはモノクロロ酢酸ナトリウムが溶液に添加され、30分間光から離して周囲温度で酸化反応を行わせる。続いて、1mLの5Mグリセロールを添加することにより、反応がブロックされる。15分間の反応後、粉末形態の炭酸ナトリウムを添加することにより、pHが約9へと調整され、その後、5gのアクネ菌DSM28251株の壁の断片が溶液へと添加され(100刺激単位)、撹拌しながら数時間にわたって周囲温度で、および撹拌せずに4℃で一晩、会合/連結を起こさせる。未だ遊離であるアルデヒド基は、5mlの1Mのアミノ酸、例えば、アルギニン、ロイシン、バリンまたはイソロイシンの溶液を添加することによりブロックされ得る。溶液が、水中で透析され、30分後に凍結乾燥される。
【0118】
本発明における定義:
-「DSM28251株」とは、2013年12月18日(識別参照ULTIMO)に登録され、国際寄託当局ライプニッツ研究所(Leibniz-lnstitut)DSMZ-ドイツ微生物細胞培養コレクションGmbHにおいて受託番号DSM28251を伴って2019年12月22日にブダペスト条約に基づく寄託へと移管されたキューティバクテリウム属アクネス種の細菌株を含むことが意図される。典型的には、アクネ菌は、グラム陽性細菌である。
【0119】
-「ムコ多糖と会合した細菌細胞壁」とは、細胞壁またはその断片、一部分がムコ多糖に連結されていることを意味する。連結または架橋は、本明細書中に記載される通りに、ムコ多糖に会合した細菌細胞壁の生成のプロセス中に形成される。細菌細胞壁を形成するペプチドグリカン(ムレイン)がムコ多糖と相互作用または連結するという仮説が立てられる。
【0120】
本明細書中で用いる場合、アクネ菌(P.acnes)の用語「細胞壁の断片」、「壁の断片」および「壁側断片」は同義であると意図される。
【0121】
有利には、ペプチドグリカンとムコ多糖との間の連結または架橋は、本明細書中に開示されるプロセスの条件において、コンジュゲートとも称される複合体を形成する。
【0122】
-本明細書中で用いる場合、用語「会合体」とは、ムコ多糖(mucolysaccharide)と連結または会合された、受託番号DSM28251を伴って寄託されたアクネ菌の細菌細胞壁または断片/溶解物を意味する。
【0123】
-本明細書中で用いる場合、用語「会合した」および「連結された」または「結合した」は、相互に交換可能であり、同義であるとみなされ、かつ、好ましくは限界の形成を伴う、細菌壁とムコ多糖、特にヒアルロン酸との間の連結の形成を意味する。特定の一節において、上記の用語は、本発明に従うムコ多糖に会合した細胞壁断片を指定することが意図される。
【0124】
-本明細書中で用いる場合、用語「断片」および「画分」は、細菌細胞壁を参照する場合、同義である。
【0125】
-細菌細胞壁を参照する用語「溶解物」とは、本明細書中に開示される破砕技術のうちのいずれか1つに従う破砕により取得される細胞壁の断片を意味する。
【0126】
具体的には、本明細書中に開示される通りのムコ多糖に連結された細菌の細胞壁断片は、ムコ多糖に連結されたアクネ菌DSM28251株の細胞壁ペプチドグリカンを含む。
【0127】
特定の実施形態では、アクネ菌DSM28251株の細胞壁断片は、ムコ多糖に連結された細胞壁ペプチドグリカンならびにリポテイコ酸および/またはテイコ酸を含む。
【0128】
-「増殖培地」(同義語:培地、増殖培地/培養液/増殖液)とは、単一細胞数の増加および集団の増殖をもたらす細胞複製に対して、微生物、特にグラム陽性細菌などの細菌により必要とされるすべての化合物(因子)を含有する基剤を意味する。培地中でのその増殖に対して微生物により必要とされる因子は、主に、炭素源、類似の窒素源(アンモニアおよびFANとしても公知である遊離アミノ酸の両方により構成される)、ビタミンおよび塩(微量元素)の分類に属する。典型的な炭素源は、サトウキビ糖蜜、大麦麦芽抽出物および小麦麦芽抽出物である。
【0129】
-「担体」とは、本発明の組成物中に存在し得るかまたは存在し得る、賦形剤、ビヒクル、希釈剤またはアジュバントを意味する。
【0130】
-「栄養製品」とは、栄養状態を改善し、かつ1つもしくは複数の器官の機能的活性または生理学的境界内でのヒト身体の機能性を支持または改善するために用いることができる製品を意味する。
【0131】
-本明細書中で言及される通りの「選択された細菌株」または「菌株」とは、受託番号DSM28251を伴ってDSMZに寄託された本発明の菌株を意味する。
【0132】
-本明細書中で用いる場合、用語「細菌細胞壁」、「細菌壁」、「細菌株の壁」、「壁側壁」は、同じ意味を有し、かつ受託番号DSM28251を伴って寄託されたアクネ菌細菌株の細胞壁またはその断片もしくは一部分もしくは溶解物に関する。
【0133】
本発明の目的のために、本明細書中に開示される細菌細胞壁は、完全であるかまたは部分もしくは断片もしくは一部分へと破砕され得る。
【0134】
用語「断片」または「溶解物」とは、DSM28251株の細菌細胞壁の一部分を意味する。
【0135】
医薬組成物
ムコ多糖に会合/連結されたDSM28251株の本明細書中に記載される細菌細胞壁は、特に局所塗布用の、医薬組成物、医療デバイスの作製における産業的応用に対して有利である。
【0136】
一態様に従えば、本発明は、本明細書中に規定される通りのムコ多糖に連結/会合されたDSM28251株の細菌細胞壁および薬学的または生理学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0137】
生理学的もしくは薬学的に好適な担体、希釈剤または賦形剤は、得られる医薬組成物がそれに対して意図される投与経路に基づいて選択され得る。
【0138】
本発明の医薬組成物は、本明細書中に規定される通りの菌株、本発明に従うその断片またはその代謝物(postbiotic)と薬学的に許容される担体を混合することにより作製されるいずれかの組成物を包含する。そのような組成物は、動物またはヒトにおける薬学的使用に対して好適である。
【0139】
本発明の医薬組成物、特に医療デバイスは、治療有効量のムコ多糖に会合/連結されたDSM28251株の細菌細胞壁および薬学的に許容される担体を含む。
【0140】
医薬組成物は、任意により、他の有効成分を含有することができる。用語「担体」とは、治療的成分または有効成分がそれと共に投与される、ビヒクル、賦形剤、希釈剤、またはアジュバントを意味する。投与のために望ましい調製物の剤型に対して好適ないずれかの担体および/または賦形剤は、本明細書中に開示される菌株/壁/代謝物との使用に関して考慮される。
【0141】
担体は、投与、例えば、経口または静脈内をはじめとする非経口投与のために望ましい調製物の剤型に応じて、様々な剤型を採ることができる。経口剤型に対する組成物の調製において、例えば、懸濁液剤、エリキシル剤および液剤などの経口液体調製物の場合には、例えば、水、グリコール、油、アルコール、香味剤、保存料、着色剤等などの通常の薬学的媒体のうちのいずれか;または例えば、散剤、硬カプセル剤および軟カプセル剤ならびに錠剤などの経口固体調製物の場合には、デンプン、糖、微結晶性セルロースなどの担体、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等を利用することができ、固体経口調製物が液体調製物よりも好ましい。
【0142】
特定の実施形態では、本発明のムコ多糖に会合したDSM28251株の細菌細胞壁を、従来の薬学的調合技術に従って、好適な薬学的担体および/または賦形剤との緊密な混合物中の有効成分として組み合わせることができる。組成物としては、皮下、筋内、および静脈内をはじめとする非経口、肺内、鼻内、直腸、局所または経口投与に対して好適な組成物または医療デバイスが挙げられる。いずれかの所与の場合での好適な投与経路は、部分的には、治療対象の状態の性質および重症度ならびに有効成分の性質に依存するであろう。例示的な投与経路は、経口経路である。組成物は、好都合には、単位剤型で提示され、かつ調剤技術において周知の方法のうちのいずれかにより調製することができる。好ましい組成物としては、経口、非経口、局所、皮下、または鼻内もしくは頬内吸入の形態での肺内投与に対して好適な組成物が挙げられる。組成物は、調剤技術において周知の方法のうちのいずれかにより調製することができる。
【0143】
医薬組成物は、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、懸濁液剤、エマルジョン剤、散剤、坐剤の剤型で、および持続放出製剤としての剤型であり得る。
【0144】
所望の場合、錠剤は、標準的な水性または非水性技術によりコーティングされ得る。特定の実施形態では、そのような組成物および調製物は、少なくとも0.1パーセントの菌株を含有することができる。これらの組成物中のムコ多糖に会合したDSM28251株の活性な細菌細胞壁のパーセンテージは、当然、変えることができ、かつ好都合には、単位の重量の約0.1パーセント~約60パーセント、0.5~20%であり得る。そのような治療的に有用な組成物中のムコ多糖に会合したDSM28251株の活性な細菌細胞壁の量は、治療的に活性な投与量が得られるであろうものである。ムコ多糖に会合したDSM28251株の細菌細胞壁はまた、例えば、液滴またはスプレーとして、鼻内的に投与することもできる。
【0145】
錠剤、丸剤、カプセル剤などはまた、トラガカントガム、アラビアガム、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤;リン酸二カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、バレイショデンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;およびスクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味料を含有することもできる。単位剤型がカプセル剤である場合、上記のタイプの材料に加えて、脂肪油などの液体担体を含有することができる。様々な他の材料が、投与量単位の物理的形態を改変するためのコーティング剤として存在することができる。例えば、錠剤は、シェラック、砂糖またはその両方を用いてコーティングされ得る。シロップ剤またはエリキシル剤は、有効成分に加えて、甘味料としてのスクロース、保存料としてのメチルパラベンおよびプロピルパラベン、色素およびサクランボまたはオレンジ香料などの香味剤を含有することができる。消化管の上部を通過する間に崩壊することを防ぐためには、組成物は、腸溶コーティング製剤である。
【0146】
本発明の枠組みの中では、局所使用が好ましい。したがって、特定の好ましい実施形態では、組成物は、局所塗布用である。本出願において、本明細書中に規定される通りの菌株/壁/代謝物を含有する組成物は、ヒトの皮膚上に塗布することができる。
【0147】
局所投与用の組成物としては、限定するものではないが、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、液剤、パスタ剤、ゲル剤、スティック剤、リポソーム剤、ナノ粒子剤、パッチ剤、包帯および創傷被覆材が挙げられる。特定の実施形態では、局所製剤は、浸透促進剤を含む。
【0148】
肺内投与用の組成物としては、限定するものではないが、菌株/断片/代謝物の粉末、ならびに好適な担体および/または滑沢剤の粉末からなる乾燥粉末組成物が挙げられる。肺内投与用の組成物は、当業者に公知のいずれかの好適な乾燥粉末吸入器デバイスから吸入することができる。
【0149】
局所塗布用の組成物は、固体、半固体または流体剤型であり得る。固体剤型の好適な製剤としては、クリーム剤、ゲル剤、軟膏剤(ointment)、パスタ剤、軟膏剤(unguent)、クリーム剤、パッチ剤が挙げられる。
【0150】
流体剤型の局所塗布用の組成物は、ローション剤、ゲル剤、懸濁液剤、エマルジョン剤の剤型であり得る。
【0151】
典型的には、局所使用のための組成物は、組成物の総重量に対して0.00001重量%~10重量%、0.0001~3重量%、0.1~2重量%の量の上記で特定される細菌株を含有することができる。
【0152】
流体または半流体製剤の剤型の場合、細菌株は、水、アルコール、含水アルコールもしくはグリセリン溶液などの生理学的に許容される液体形態の担体中に希釈されるか、または局所塗布に対して好適な他の液体と混合され得る。
【0153】
例として、液体剤型の本発明の組成物は、水および/またはアルコール中に細菌株またはその副生成物を溶解または分散することにより、調製され得る。液体組成物は、皮膚のpHと適合するように、5~7から好都合に選択されるpHに達するために緩衝され、続いて、ろ過およびボトルまたはバイアルなどの好適な容器中に充填され得る。
【0154】
一実施形態では、局所塗布用の製剤は、好適な賦形剤中に担持される細菌株を含有するクリーム剤またはエマルジョン剤の剤型である。他の実施形態に従えば、本発明の組成物は、全身性投与のための、特に経口投与のための剤型である。これらの場合には、組成物は、上記で規定される通りの細菌株、および全身性投与に対して好適な1つもしくは複数のビヒクルまたは賦形剤を含有する。
【0155】
組成物の投与は、プロトコールに基づいて、被験体において標的疾患を低減させるために十分な投与量で行われる。
【0156】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物または医療デバイス中の1つまたは複数の有効成分は、一般的に、投与量単位で製剤化される。投与量単位は、毎日の投与のための投与量単位当たり、ムコ多糖に会合した0.00001~1000mgのDSM28251株の細菌細胞壁を含有することができる。
【0157】
一部の実施形態では、局所製剤に対して有効な量は、疾患、障害または状態の重症度、以前に受けた療法、個体の健康状態および薬物に対する応答に依存するであろう。一部の実施形態では、用量は、製剤の重量基準で0.001重量%~約60重量%の範囲である。
【0158】
1つまたは複数の他の有効成分と組み合わせて用いられる場合、本発明のムコ多糖に会合したDSM28251株の細菌細胞壁および他の有効成分は、それぞれが単独で用いられる場合よりも低用量で用いることができる。
【0159】
いずれかの様々な投与経路に関する製剤に関して、薬物の投与のための方法および製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Gennaroら編、Mack Publishing Co.、1985、およびRemington’s Pharmaceutical Sciences、Gennaro AR編、第20版、2000、Williams&Wilkins PA、USA、およびRemington:The Science and Practice of Pharmacy、第21版、Lippincott Williams&Wilkins編、2005;およびAnsel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems、第8版、Lippincott Williams&Wilkins編、2005に開示され、これらの文献は参照として本明細書中に組み入れられる。
【0160】
特定の実施形態では、経口投与用の本発明の組成物は、栄養製品または食餌療法製品または栄養補助製品である。
【0161】
本発明を例示するために、本発明の実施形態および好ましい手順の例が以下に記載される。
【実施例1】
【0162】
黄色ブドウ球菌BAA1680および黄色ブドウ球菌ATCC29213培養物由来の上清を接種されたハチノスツヅリガ幼虫の生存率
前提
アトピー性皮膚炎(AD)および他の炎症性皮膚疾患における黄色ブドウ球菌の病原性は、分泌型毒素、酵素、および細胞表面に会合する抗原をはじめとする多数の毒性因子を産生するその能力に関連付けられる。これらの因子は、この細菌が宿主の自然防御を回避することを可能にする。
【0163】
この原因に対する皮膚応答は、炎症、肉芽組織形成、再上皮化、および血管新生をはじめとする事象の複雑な生物学的および分子カスケードを含む。
【0164】
本研究は、修飾型ヒアルロン酸(アクネ菌株の細菌壁に結合した)が、黄色ブドウ球菌により産生される毒素/異化代謝産物を不活性化することができることを検証することを目的とする。この目的のために、細菌性毒素の研究に対する検証済みモデルとして、ハチノスツヅリガ幼虫を用いた。
【0165】
(Cutuli、M.A.、Petronio Petronio、G.、Vergalito、F.、Magnifico、I.、Pietrangelo、L.、Venditti、N.、&Di Marco、R.(2019).Galleria mellonella as a consolidated in vivo model hosts:new developments in antibacterial strategies and novel drug testing.Virulence、10巻(1号)、527~541頁.
Champion、O.L.、Wagley、S.、&Titball、R.W.(2016).Galleria mellonella as a model host for microbiological and toxin research.Virulence、7巻(7号)、840~845頁.)
材料および方法
黄色ブドウ球菌BAA1680および黄色ブドウ球菌ATCC29213の菌株を、トリプティックソイブロス(TBS)中で再活性化し、分光測光法(OD600)を用いて決定される10CFU/mlの細菌密度に達するまで、37℃で一晩増殖させた。
【0166】
液体培養物を、16,000rpmで20分間、4℃で遠心分離した。その後、細菌細胞の完全な除去を確実にするために、上清をろ過(0.22μm)した。
【0167】
毒素の存在を、陰性対照として細菌不含TSBを用いて、ブラッドフォードタンパク質アッセイにより評価した。
【0168】
最初に、上清を1:2の比率で生理食塩溶液中に希釈し、その後、ヒアルロン酸と会合したアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁と混合した(1:5v/v)。得られたすべての懸濁物を、37℃で1時間および4時間インキュベートした。インキュベーション後、後続のインビトロおよびインビボ試験で用いられる上清のみを回収するために、すべての懸濁物を16,000rpmで20分間、4℃で遠心分離した。
【0169】
幼虫を、重量およびサイズに基づいて選択し、5つの実験群(20個の試料からなる)へと分け、それぞれを、事前に取得した懸濁物を用いて処理した。インスリンシリンジ(BD、Wellington)および極細1ml針を取り付けた連発式ディスペンサーを用いて、幼虫の後側腹脚を通して、注入により接種を行った。注入後、各条件に対する幼虫を、35℃でペトリ皿中においてインキュベートし、その後の96時間にわたって生存を観察した。
【0170】
結果
ヒアルロン酸と連結されたアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁と接触させた上清を接種した幼虫の生存のモニタリングから得られた結果は、異化代謝産物を含有する未処理培地を接種された幼虫よりも高い生存率を示した。
【0171】
これらの結果は、ヒアルロン酸と連結されたアクネ菌DSM28251の細菌細胞壁が、黄色ブドウ球菌により産生される毒素に関連する病理学的機構を妨げることを証明する。
【実施例2】
【0172】
アクネ菌DSM28251の脱脂された壁断片を、以下のステップに従って調製した:
1.アクネ菌DSM28251株を液体培養する
2.熱による細菌培養物の不活性化(80°、60分間)
3.遠心分離によるペレットの回収
4.有機溶媒を用いる免疫原性活性を有する潜在的画分を除去するためのペレットの脱脂(Delipidization)
5.細菌断片を取得するためのultraturraxなどのホモジナイザーによる細胞ペレットの崩壊
6.細胞断片の懸濁物を遠心分離に供し、上清のみを回収する
7.上清を1分間、80℃の温度にする
8.得られた溶液を、硫酸アンモニウムの飽和40%溶液に添加する
9.4℃で一晩の沈殿後、遠心分離により沈殿物を回収する
10.細菌断片を、透析により精製し、その後凍結乾燥する
【0173】
【表2】
図1A
図1B
【国際調査報告】