(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
C23C2/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572669
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 KR2022020448
(87)【国際公開番号】W WO2023210909
(87)【国際公開日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】10-2022-0053442
(32)【優先日】2022-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100210790
【氏名又は名称】石川 大策
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソンジン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジェミン
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB32
4K027AB44
4K027AC64
4K027AE12
(57)【要約】
本発明の一実施形態による加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法は、溶融合金めっき浴に素地鉄を浸漬するステップ;および浸漬された前記素地鉄を前記溶融合金めっき浴から引き出して冷却工程を行うことで、前記素地鉄上に溶融合金めっき層を形成するステップ;を含み、前記冷却工程における第1平均冷却速度は、前記溶融合金めっき浴の温度である第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である第2温度との差に応じて異なる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融合金めっき浴に素地鉄を浸漬するステップ;および
浸漬された前記素地鉄を前記溶融合金めっき浴から引き出して冷却工程を行うことで、前記素地鉄上に溶融合金めっき層を形成するステップ;を含み、
前記冷却工程における第1平均冷却速度は、前記溶融合金めっき浴の温度である第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn
2相の凝固開始温度である第2温度との差に応じて異なることを特徴とする、加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
【請求項2】
前記第1温度と前記第2温度との差が50℃未満である場合、前記第1平均冷却速度は10~20℃/sであり、
前記第1温度と前記第2温度との差が50℃以上100℃未満である場合、前記第1平均冷却速度は15~35℃/sであり、
前記第1温度と前記第2温度との差が100℃以上である場合、前記第1平均冷却速度は20~50℃/sであることを特徴とする、請求項1に記載の加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
【請求項3】
前記第1平均冷却速度は、浸漬された前記素地鉄を前記溶融合金めっき浴から引き出した時点からMgZn
2相が凝固し始める時点までの平均冷却速度であることを特徴とする、請求項1に記載の加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記MgZn
2相が凝固し始める時点から凝固完了する時点までの前記冷却工程における第2平均冷却速度は、下記の数学式1の関係を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
[数1]
0.0114×T-0.2841≦第2平均冷却速度≦0.025×T+10 … <数学式1>
(ただし、Tは、MgZn
2相の凝固開始温度)
【請求項5】
前記溶融合金めっき浴は、重量%で、Al:6~23%、Mg:3~7%、およびその他の不可避不純物を含有するZnめっき浴であることを特徴とする、請求項1に記載の加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記素地鉄上に形成された前記溶融合金めっき層は、表面において全MgZn
2相中で平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5以下のMgZn
2相の面積分率が70%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼材に関し、より詳しくは、加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、犠牲防食性に優れており、腐食環境にさらされる際に、電位の低い亜鉛が先に溶出され、鋼材の腐食を防止する特性を有する。このような優れた腐食特性により、溶融亜鉛めっき鋼板は、家電、建材、および自動車用鋼板として用いられている。しかし、技術の発展および品質の目安の向上により耐食性に対する期待要求が高くなるにつれ、従来の溶融亜鉛めっき鋼板よりも優れた耐食性を有する製品の開発に対する必要性が増大している。このような問題を解決するために、2000年代の初めから、ヨーロッパおよび日本では、亜鉛(Zn)めっき浴にアルミニウム(Al)とマグネシウム(Mg)を添加して耐食性を向上させる高耐食性めっき鋼板を生産している。高耐食性めっき鋼板は、Znの犠牲防食性の他に、MgとAlの添加により腐食環境で緻密な腐食生成物を形成させ、酸化雰囲気から鋼材を遮断して耐食性を向上させる。しかし、Zn-Al-Mgめっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板と比べて、耐食性には優れるものの、加工性に劣るという短所がある。Zn-Al-Mgの金属間化合物は、硬度が高いためクラック抵抗性が低く、このようなクラックは、加工工程で外観を損傷させるか、または素地鋼材を露出させて耐食性が低下するという問題がある。
【0003】
関連の先行技術には日本の特開2005-105367号公報がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が達成しようとする技術的課題は、加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の一態様による加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法は、溶融合金めっき浴に素地鉄を浸漬するステップ;および浸漬された前記素地鉄を前記溶融合金めっき浴から引き出して冷却工程を行うことで、前記素地鉄上に溶融合金めっき層を形成するステップ;を含み、前記冷却工程における第1平均冷却速度は、前記溶融合金めっき浴の温度である第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である第2温度との差に応じて異なる。
【0006】
前記加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法において、前記第1温度と前記第2温度との差が50℃未満である場合、前記第1平均冷却速度は10~20℃/sであり、前記第1温度と前記第2温度との差が50℃以上100℃未満である場合、前記第1平均冷却速度は15~35℃/sであり、前記第1温度と前記第2温度との差が100℃以上である場合、前記第1平均冷却速度は20~50℃/sであってもよい。
【0007】
前記加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法において、前記第1平均冷却速度は、浸漬された前記素地鉄を前記溶融合金めっき浴から引き出した時点からMgZn2相が凝固し始める時点までの平均冷却速度であってもよい。
【0008】
前記加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法において、前記MgZn2相が凝固し始める時点から凝固完了する時点までの前記冷却工程における第2平均冷却速度は、下記の数学式1の関係を満たすことができる。
[数1]
0.0114×T-0.2841≦第2平均冷却速度≦0.025×T+10 … <数学式1>
(ただし、Tは、MgZn2相の凝固開始温度)
【0009】
前記加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法において、前記溶融合金めっき浴は、重量%で、Al:6~23%、Mg:3~7%、およびその他の不可避不純物を含有するZnめっき浴であってもよい。
【0010】
前記加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法において、前記素地鉄上に形成された前記溶融合金めっき層は、表面において全MgZn2相中で平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5以下のMgZn2相の面積分率が70%以下であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法を実現することができる。
【0012】
このような効果により本発明の範囲が限定されるものではないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実験例における実施例6による溶融合金めっき層の表面を撮影した写真である。
【
図2】実験例における比較例1による溶融合金めっき層の表面を撮影した写真である。
【
図3】実験例における実施例6による溶融合金めっき層に対して3T曲げ加工性の評価後に加工部をFE-SEMで200倍の倍率で撮影した写真である。
【
図4】実験例における比較例4による溶融合金めっき層に対して3T曲げ加工性の評価後に加工部をFE-SEMで200倍の倍率で撮影した写真である。
【
図5】実験例における実施例3による溶融合金めっき層の断面をFE-SEMで1000倍の倍率で撮影した写真である。
【
図6】実験例における比較例4による溶融合金めっき層の断面をFE-SEMで1000倍の倍率で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態による加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法について詳しく説明する。後述する用語は、本発明における機能を考慮して適宜選択された用語であり、当該用語に関する定義は、本明細書の全般にわたった内容に基づいて下されなければならない。以下では、延伸率に優れた超高強度・高耐食性めっき鋼板およびその製造方法の具体的な内容を提供しようとする。
【0015】
Zn-Al-Mgめっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板と比べて、耐食性には優れるものの、加工性に劣るという短所がある。Zn-Al-Mgの金属間化合物は、硬度が高いためクラック抵抗性が低く、このようなクラックは、加工時に外観を損傷させるか、または素地鋼材が露出して加工時に耐食性が低下する。金属間化合物中のMgZn2は硬度が最も高いため、MgZn2相の形状、分布、および大きさを調節する技術が重要である。
【0016】
本発明は、重量%で、Al:6~23%、Mg:3~7%、残部Zn、およびその他の不可避不純物を含むZn-Al-Mg系の高耐食性めっき鋼材の製造方法に関し、加工性および加工耐食性を改善するために硬度が高いMgZn2相の微細組織を制御することを目的とする。
【0017】
本発明の一実施形態による加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法は、溶融合金めっき浴に素地鉄を浸漬するステップ(S10);および浸漬された前記素地鉄を前記溶融合金めっき浴から引き出して冷却工程を行うことで、前記素地鉄上に溶融合金めっき層を形成するステップ(S20);を含む。
【0018】
前記素地鉄を浸漬するステップ(S10)において、前記溶融合金めっき浴は、例えば、重量%で、Al:6~23%、Mg:3~7%、およびその他の不可避不純物を含有するZnめっき浴であってもよい。さらに、前記溶融合金めっき浴は、重量%で、0.05~10%のFeおよび0超過1%未満のSiをさらに含有してもよい。
【0019】
前記溶融合金めっき浴内のMgとAlは、めっき層の耐食性を向上させる元素の一つであり、腐食生成物をさらに緻密に形成させて耐食性を向上させる。めっき浴内にMgが1.0重量%未満である場合には耐食性に寄与するところが少なく、従来は、2.0重量%超過時にMg酸化ドロスによる生産の難しさがあるため、Mgを2.0重量%未満使用した。しかし、本発明においては、より優れた耐食性を実現するために、めっき浴内にMgを3.0重量%以上添加する。前述したように、Mgを3.0重量%超過添加時には酸化ドロスによる生産の難しさがあるが、Alを6.0重量%以上添加時に溶湯中のMg酸化によるドロスを減少させることができる。さらには、Alの添加時に初晶Alの生成とZn-Al-Mgの三元共晶相を形成して耐食性を向上させる役割を行うことができる。一方、めっき浴内にMgを7.0重量%超過添加時には、めっき層においてロッド(Rod)および針状形状のMgZn2またはAlを含むMgZn2相が全MgZn2の面積分率70%を超過するように成長してめっき層の加工性に劣り、加工時にめっき層のクラック発生により鋼材もしくはFe-Al-Zn界面合金化層の露出により耐食性が低下する。一方、めっき浴内にAlを23重量%超過添加時には、めっき浴の融点上昇により鋼材とめっき層との間の不連続的なFe-Al-Zn界面合金層が過剰成長して加工時に界面密着性が脆弱になり得る。
【0020】
MgZn2相の形状および分率は、冷却により綿密に制御することができる。本発明の一実施形態による加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法は、溶融合金めっき層を形成するステップ(S20)を行う過程において、前記冷却工程における第1平均冷却速度は、前記溶融合金めっき浴の温度である第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である第2温度との差に応じて異なる。前記第1平均冷却速度は、浸漬された前記素地鉄を前記溶融合金めっき浴から引き出した時点からMgZn2相が凝固し始める時点までの平均冷却速度であってもよい。
【0021】
具体的に、前記溶融合金めっき浴の温度である前記第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である前記第2温度との差が50℃未満である場合、前記第1平均冷却速度は10~20℃/sであってもよい。この場合、前記第1平均冷却速度が10℃/s未満である場合には、MgZn2相以外の構成相であるAl相、Zn相などが粗大に晶出され、MgZn2領域の分率を好ましく制御し難く、液相状態のめっき層が酸素と反応してめっき表面の外観を阻害する要素として作用し得る。一方、前記第1平均冷却速度が20℃を超過する場合には、MgZn2の粗大領域が形成され難くなり得る。
【0022】
一方、前記溶融合金めっき浴の温度である前記第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である前記第2温度との差が50℃以上100℃未満である場合、前記第1平均冷却速度は15~35℃/sであってもよい。この場合、前記第1平均冷却速度が15℃/s未満である場合には、MgZn2相以外の構成相であるAl相、Zn相などが粗大に晶出され、MgZn2領域の分率を好ましく制御し難く、液相状態のめっき層が酸素と反応してめっき表面の外観を阻害する要素として作用し得る。一方、前記第1平均冷却速度が35℃を超過する場合には、MgZn2の粗大領域が形成され難くなり得る。
【0023】
また、前記溶融合金めっき浴の温度である前記第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である前記第2温度との差が100℃以上である場合、前記第1平均冷却速度は20~50℃/sであってもよい。この場合、前記第1平均冷却速度が20℃/s未満である場合には、MgZn2相以外の構成相であるAl相、Zn相などが粗大に晶出され、MgZn2領域の分率を好ましく制御し難く、液相状態のめっき層が酸素と反応してめっき表面の外観を阻害する要素として作用し得る。一方、前記第1平均冷却速度が50℃を超過する場合には、MgZn2の粗大領域が形成され難くなり得る。
【0024】
さらに、本発明の一実施形態による加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法において、前記MgZn2相が凝固し始める時点から凝固完了する時点までの前記冷却工程における第2平均冷却速度は、下記の数学式1の関係を満たすことができる。
[数2]
0.0114×T-0.2841≦第2平均冷却速度≦0.025×T+10 … <数学式1>
(ただし、Tは、MgZn2相の凝固開始温度)
【0025】
前記数学式1を満たさない条件で冷却する際には、ロッド(Rod)型MgZn2析出相の成長を制御し難いため加工性に劣り、板の振動により生産性が低下するという短所がある。
【0026】
上述した加工性および耐食性に優れためっき鋼材の製造方法により実現された溶融合金めっき層は、めっき層の表面において全MgZn2相中で平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5以下のMgZn2相の面積分率が70%以下であってもよい。すなわち、実現された前記めっき層の表面に分布した全MgZn2相中でロッド(Rod)または針状形状のMgZn2相の面積分率が70%以下であってもよい。この場合、実現された前記めっき層の表面に分布した全MgZn2相中で多角形(Polygon)形状のMgZn2相の面積分率が30%以上であってもよい。
【0027】
本発明の亜鉛合金めっき層は、初晶Al相(Zn固溶したAl単相組織)、Al/Zn共析相、Zn固溶相、MgZn2(Alを含むMgZn2相、Mg2Zn11相を含む)、およびAl/Zn/Mg共晶組織、またはこれらの組み合わせで構成されることができる。加工性および加工耐食性を改善するための微細組織の面で、前記Zn-Al-Mg系めっき層の表面にMgZn2相およびAlを含むMgZn2相は、多角形(Polygon)形状とロッド(Rod)および針状形状とからなることができる。
【0028】
ロッド(Rod)および針状形状の平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比は1:10≦a:b≦1:2であることを特徴とする。全MgZn2中で、ロッド(Rod)および針状形状のMgZn2相は、表面に70%未満の面積分率で分布し、より好ましくは、50%未満の面積分率で分布し、残部MgZn2は、多角形(Polygon)形状で分布していることを特徴とする。
【0029】
本発明において、素地鉄上に溶融合金めっき層を形成する例示的な工程は次のとおりである。
【0030】
例えば、680~850℃で焼鈍した素地鉄は、440~530℃のめっき浴に浸漬した後、エアナイフを通過して片面基準に30~300g/m2を満たすようにする。ただし、焼鈍後の素地鉄の進入温度は、めっき浴の温度と±20℃以上の差が出ないように調節する。
【0031】
本発明の一実施形態によるめっき鋼材は、前記溶融合金めっき層内の断面(例えば、縦断面)におけるMgZn2相の面積分率が20~70%であり、前記溶融合金めっき層内の断面(例えば、縦断面)におけるMgZn2相の面積分率に対するAl含有相の面積分率の割合が1~70%であることを特徴とする。ここで、前記Al含有相は、前記溶融合金めっき層内の断面において、MgZn2相から離隔して存在するか、またはMgZn2相の内部に存在することができる。また、本実施形態において、前記Al含有相は、i)Al単相、およびii)Alを20%以上含有し、不可避不純物が2%以内であり、残部がZnである相を意味する。
【0032】
溶融合金めっき層は、断面においてMgZn2相を面積分率として20~70%含むことができる。すなわち、前記溶融合金めっき層の全断面積(A1)中でMgZn2相が占める断面積(A2)の割合が20~70%であり、(A2/A1)×100の値が20~70の範囲を満たすことができる。一方、溶融合金めっき層の断面において、MgZn2相から離隔して存在するAl含有相の断面積(B1)およびMgZn2相の内部に存在するAl含有相の断面積(B2)の和が、全MgZn2相の断面積(B3)に対して1~70%の割合を有することができる。すなわち、[(B1+B2)/B3]×100の値が1~70の範囲を満たすことができる。このような組織によれば、クラック抵抗性に優れ、具体的には、曲げ評価(3T曲げ評価、1T曲げ評価)におけるクラック幅の平均が30μm以下であってもよい。
【0033】
本発明のめっき鋼材の溶融合金めっき層は、表面においてMgZn2相の面積分率が10~70%であってもよく、前記面積分率が10%未満のものは形成が不可能であり、70%を超過すれば、耐クラック性が低下する。ここで、溶融合金めっき層の表面は、外部と接する上部表面を意味し得る。
【0034】
本発明の一実施形態によるめっき鋼材において、溶融合金めっき層は、表面において全MgZn2相中で平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5以下のMgZn2相の面積分率が70%以下であってもよい。例えば、溶融合金めっき層の表面における全MgZn2相中の70%以下のMgZn2相は、平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が1:2~1:10であって0.5以下の値を有することができる。この場合、前記平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5以下のMgZn2相は、前記平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が1/10以上1/2以下であってもよい。前記平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5未満である場合には耐クラック性が低下する。前記平均短軸長さ(a)は1~20μmであり、前記平均長軸長さ(b)は2~200μmであってもよい。1μm未満の平均短軸長さ(a)と2μm未満の平均長軸長さ(b)は形成が不可能であり、前記平均短軸長さ(a)が20μmを超過するか、または前記平均長軸長さ(b)が200μmを超過する場合には耐クラック性が低下する。
【0035】
一方、本発明の他の態様によるめっき鋼材の溶融合金めっき層は、表面におけるAl相およびZn相で構成されるAl-Znデンドライトの面積分率が30%以下であってもよい。Al-Znデンドライトは、化成処理性や耐LME(Liquid Metal Embrittlement)性に好ましくない影響を与えるため、その面積分率が低いことが好ましい。したがって、本実施形態によるめっき層においては、Al-Znデンドライトの面積分率を30%以下とする。
【0036】
前述したように、本発明の一実施形態による加工性および耐食性に優れためっき鋼材において、前記Zn-Al-Mg系めっき層の表面にMgZn2相およびAlを含むMgZn2相は、多角形(Polygon)形状とロッド(Rod)および針状形状とからなり、ロッド(Rod)および針状形状の平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が1:2≦a:b≦1:10であることを特徴とする。全MgZn2中で、ロッドおよび針状形状のMgZn2相は、表面に70%以下の面積分率で分布し、より好ましくは、50%未満の面積分率で分布し、残部MgZn2は、多角形(Polygon)形状で分布している。
【0037】
前記溶融合金めっき層は、表面において全MgZn2相中で平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5を超過するMgZn2相の面積分率が30%以上であることを特徴とする。例えば、溶融合金めっき層は、表面における全MgZn2相中の30%以上のMgZn2相は、平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5を超過する1:1.5、1:1.2などの値を有することを特徴とする。前記平均短軸長さ(a)と平均長軸長さ(b)の比が0.5を超過するMgZn2相の断面積と同一の面積を有する仮想の円の直径(平均直径)は1~50μmであってもよい。前記平均直径が1μm未満のものは形成が不可能であり、50μmを超過する場合には耐クラック性が低下する。
【0038】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実験例を提示する。ただし、下記の実験例は、本発明の理解を助けるためのものにすぎず、本発明が下記の実験例により限定されるものではない。
【0039】
実験例
1.試験片の組成および工程条件
素地鋼板として1.2mmの冷延素材を準備し、成分は、炭素(C):0.15重量%、ケイ素(Si):0.01重量%、マンガン(Mn):0.6重量%、リン(P):0.05重量%、硫黄(S):0.05重量%、および残りの鉄(Fe)の組成を有する。窒素-5~10%水素雰囲気ガスで680~850℃の範囲内で、具体的には760℃の温度で焼鈍した後、焼鈍試験片をめっき浴と20℃以上の差が出ない温度まで冷却した後、めっき浴に1~5秒間浸漬した。440~530℃の範囲内で、具体的には温度485℃のめっき浴に浸漬した後、窒素ワイピングでめっき厚さを調節し、第1平均冷却速度および第2平均冷却速度で冷却してZn-Al-Mg系めっき鋼板を得た。
【0040】
2.めっき層の組成および微細組織の評価
表1は、本発明の実験例によるめっき鋼材において、溶融合金めっき層の組成(単位:重量%)と共晶組織による微細組織と曲げ加工性を評価した結果を示したものである。
【0041】
【0042】
表1において、温度差項目は、溶融合金めっき浴の温度である第1温度と、溶融合金めっき浴に浸漬される素地鉄上に形成される溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である第2温度との温度差を意味し、第1平均冷却速度は、浸漬された前記素地鉄を前記溶融合金めっき浴から引き出した時点からMgZn2相が凝固し始める時点までの冷却工程における平均冷却速度を意味し、第2平均冷却速度は、前記MgZn2相が凝固し始める時点から凝固完了する時点までの冷却工程における平均冷却速度を意味する。本実験例において、MgZn2相の凝固開始温度は、熱力学計算プログラム(FactSage 7.1)を用いて導出した。溶融合金めっき浴の温度である第1温度と、溶融合金めっき浴に浸漬される素地鉄上に形成される溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である第2温度との温度差は、めっき成分に応じて差があるが、同一めっき成分に対しては、めっき浴の温度調整により調節し、第1平均冷却速度は、エアナイフの高さ調整により制御した。MgZn2の面積分率の評価は、製造されたそれぞれのめっき鋼板に対し、FE-SEMで500倍の倍率で表面観察後にイメージプログラムを用いて測定した。表1に開示された面積分率は、めっき層の表面に分布した全MgZn2相中でロッド(Rod)または針状形状のMgZn2相の分率を面積比で示したものである。
【0043】
曲げ加工性の評価は、1T、3T曲げ後に、曲げ加工部をFE-SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope)で200倍、500倍の倍率で観察した後、曲げクラックの幅を測定した後に平均化して評価した。「○」項目は、曲げ評価におけるクラック幅の平均が0超過30μm以下である場合を意味し、「X」項目は、曲げ評価におけるクラック幅の平均が30μmを超過した場合を意味する。
【0044】
表1を参照すれば、実施例1~実施例11においては、i)溶融合金めっき浴の組成が、重量%で、Al:6~23%、Mg:3~7%、および残部がZnである範囲を満たし、ii)前記溶融合金めっき浴の温度である前記第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である前記第2温度との差が50℃未満である場合、前記第1平均冷却速度が10~20℃/sの範囲を満たし(実施例5、6、7)、前記溶融合金めっき浴の温度である前記第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である前記第2温度との差が50℃以上100℃未満である場合、前記第1平均冷却速度が15~35℃/sの範囲を満たし(実施例1、3、4、9、10)、前記溶融合金めっき浴の温度である前記第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である前記第2温度との差が100℃以上である場合、前記第1平均冷却速度が20~50℃/sの範囲を満たし(実施例2、8、11)、iii)前記MgZn2相が凝固し始める時点から凝固完了する時点までの前記冷却工程における第2平均冷却速度が下記の数学式1の関係を満たす。
[数3]
0.0114×T-0.2841≦第2平均冷却速度≦0.025×T+10 … <数学式1>
(ただし、Tは、MgZn2相の凝固開始温度)
【0045】
この場合、実施例1~実施例11は、実現された前記めっき層の表面に分布した全MgZn
2相中でロッド(Rod)または針状形状のMgZn
2相の面積分率が70%以下であることを確認し、曲げ評価におけるクラック幅の平均が30μm以下であることを確認することができる(
図1、
図3参照)。さらに、めっき層の断面におけるFe-Al界面合金層の成長が10μm未満に制御可能であることを確認することができる(
図5参照)。
【0046】
これに対し、比較例1および比較例2は、前記溶融合金めっき浴の温度である前記第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である前記第2温度との差が50℃以上100℃未満である場合、前記第1平均冷却速度が15~35℃/sの範囲を満たさず、これにより、実現された前記めっき層の表面に分布した全MgZn2相中でロッド(Rod)または針状形状のMgZn2相の面積分率が70%を超過し、曲げ評価におけるクラック幅の平均が30μmを超過することを確認することができる。
【0047】
比較例3は、前記溶融合金めっき浴の温度である前記第1温度と、前記溶融合金めっき層を構成するMgZn2相の凝固開始温度である前記第2温度との差が50℃以上100℃未満である場合、前記第1平均冷却速度が15~35℃/sの範囲を満たさず、前記MgZn2相が凝固し始める時点から凝固完了する時点までの前記冷却工程における第2平均冷却速度が前記数学式1の関係を満たさず、これにより、実現された前記めっき層の表面に分布した全MgZn2相中でロッド(Rod)または針状形状のMgZn2相の面積分率が70%を超過し、曲げ評価におけるクラック幅の平均が30μmを超過することを確認することができる。
【0048】
比較例4~比較例6は、溶融合金めっき浴の組成が、重量%で、Al:6~23%の範囲を満たさず、比較例5~比較例6は、溶融合金めっき浴の組成が、重量%で、Mg:3~7%の範囲を満たさないところ、実現された前記めっき層の表面に分布した全MgZn
2相中でロッド(Rod)または針状形状のMgZn
2相の面積分率が70%を超過し、曲げ評価におけるクラック幅の平均が30μmを超過することを確認することができる(
図2、
図4参照)。
【0049】
例えば、実施例1~実施例3は、ロッド(Rod)および針状型MgZn2相の形成が比較的に少なく発達し、クラックの幅が15μmもしくは30μm以内に測定された。これに対し、比較例1および比較例2は、本発明の第1平均冷却速度範囲を満たさない場合であり、ロッド(Rod)および針状型MgZn2相の面積分率が70%を超過する場合、硬度が高いMgZn2相におけるクラックだけでなく、粒界(grain boundary)に沿ってクラックが進行し、クラックの幅が平均30μmを超過する。
【0050】
比較例3は、本発明の実施形態により開示される第1平均冷却速度と第2平均冷却速度の範囲を満たさない場合、曲げ加工性が良好でないことを示す。
【0051】
比較例4は、本発明の溶融合金めっき層のAlの含量範囲を満たさず、比較例5および比較例6は、溶融合金めっき層のAlおよびMgの含量を満たさない場合であり、Fe-Al合金層の過剰生成およびMgZn
2の面積分率が70%を超過して曲げ加工性に劣ることを確認することができる。比較例4の場合、Fe-Al界面合金層の成長が10μm以上に厚く形成されたことを確認し(
図6参照)、ロッド(Rod)および針状型MgZn
2相の過剰形成およびFe-Al合金層の成長によりクラックの方向性がなく、平均クラック幅と面積に劣ることを確認することができる(
図4参照)。
【0052】
前述した本発明の技術的思想によれば、加工性に不利な硬度の高いMgZn2相が形成されても、ロッド(Rod)および針状型MgZn2相の成長を抑制し面積分率を調節して加工性に優れためっき鋼板を実現することができる。
【0053】
以上、本発明の実施例を中心に説明したが、当業者レベルで多様な変更や変形を加えることができる。このような変更および変形が本発明の範囲を逸脱しない限り、本発明に属するといえる。したがって、本発明の権利範囲は、後述する請求範囲により判断しなければならない。
【国際調査報告】