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特表2024-520002テストベンチ装置を調整するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】テストベンチ装置を調整するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/04 20060101AFI20240514BHJP
   H02P 31/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
G01M15/04
H02P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572756
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 AT2022060177
(87)【国際公開番号】W WO2022246487
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】A50413/2021
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398055255
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100191938
【弁理士】
【氏名又は名称】高原 昭典
(72)【発明者】
【氏名】ファンク・ダニエル
【テーマコード(参考)】
2G087
5H501
【Fターム(参考)】
2G087AA30
2G087BB01
2G087CC01
2G087CC06
2G087EE30
2G087FF13
5H501AA20
5H501BB09
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501JJ23
5H501KK05
5H501LL07
5H501MM04
(57)【要約】
回転する被試験体1が機械式の連結シャフト3を介して回転する負荷機2に連結され、テストベンチ装置4で支配的な少なくとも1つの角速度が測定される、従来の技術に比べて改良されたテストベンチ装置4を調整するための方法を提供するため、テストベンチ装置4の回転挙動、すなわち少なくとも当該測定される角速度と前記被試験体1で支配的な被試験体の角速度ωとの動的挙動が、第1微分方程式系によってモデル化される。これに基づいて、被試験体1から発生した被試験体の回転トルクTが、第2微分方程式系によってモデル化され、第1微分方程式系及び第2微分方程式系に基づいて、被試験体の角速度ω及び被試験体の回転トルクTを推定するための状態観測器が生成され、状態観測器に基づいて、被試験体の角速度の推定値ω^及び被試験体の回転トルクの推定値T^が算出され、当該算出された推定値が、テストベンチ装置4で支配的な少なくとも1つの調整角速度及び/又はテストベンチ装置4で支配的な少なくとも1つの調整回転トルクを調整するために使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する被試験体(1)が機械式の連結シャフト(3)を介して回転する負荷機(2)に連結され、テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの角速度が測定される、前記テストベンチ装置(4)を調整するための方法であって、
前記テストベンチ装置(4)の回転挙動、すなわち少なくとも当該測定される角速度と前記被試験体(1)で支配的な被試験体の角速度(ω)との動的挙動が、第1微分方程式系によってモデル化される当該方法において、
-前記被試験体(1)から発生した被試験体の回転トルク(T)が、第2微分方程式系によってモデル化され、前記第2微分方程式系の第1サブシステムに基づいて、前記被試験体の回転トルク(T)の直流成分が示されされ、前記第2微分方程式系のm個の別の振動サブシステムに基づいて、前記被試験体の回転トルク(T)のm個の高調波成分が、減衰オシレータ及び/又は非減衰オシレータとして示され、
-前記第1微分方程式系及び前記第2微分方程式系に基づいて、前記被試験体の角速度(ω)及び前記被試験体の回転トルク(T)を推定するための状態観測器が生成され、当該測定される角速度は、この状態観測器の入力であり、
-前記状態観測器に基づいて、前記被試験体の角速度の推定値(ω^)及び前記被試験体の回転トルクの推定値(T^)が算出され、
-当該算出された被試験体の角速度の推定値(ω^)及び被試験体の回転トルクの推定値(T^)が、前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの調整角速度及び/又は前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの調整回転トルクを調整するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記状態観測器に基づいて、前記被試験体の角速度の推定値(ω^)及び前記被試験体の回転トルクの推定値(T^)に加えて、シャフトトルクの推定値(T^ST)及び/又は負荷角速度の推定値(ω^)が算出され、これらの推定値は、同様に前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの調整角速度及び/又は前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの調整回転トルクを調整するために使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2微分方程式系のパラメータ、すなわち前記第2微分方程式系を前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの回転変数の変化に適合するため、この第2微分方程式系のパラメータは、前記被試験体の回転トルク(T)をモデル化するために、前記テストベンチ装置(4)の作動中に変化する、このテストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの回転変数の関数として選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記状態観測器のパラメータ、すなわち前記状態観測器を前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの回転変数の変化に適合するため、前記第1微分方程式系及び前記第2微分方程式系に基づいて生成された前記状態観測器のパラメータは、前記テストベンチ装置(4)の作動中に変化する、このテストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの回転変数の関数として選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記回転する被試験体(1)は、少なくとも1つの別の機械式連結シャフト(3′)を介して少なくとも1つの別の回転する負荷機(2′)に連結されていること、及び
前記少なくとも1つの別の回転する負荷機(2′)は、既に存在する前記回転する負荷機(2)と一緒にアクチュエータとして、前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの調整角速度及び/又は前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの調整回転トルクの調整で使用されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
テストベンチ装置(4)及び自動化システム(5)から構成されるテストベンチであって、
前記テストベンチ装置(4)では、回転する被試験体(1)が、機械式の連結シャフト(3)を介して回転する負荷機(2)に連結されていて、このテストベンチ装置(4)は、このテストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの角速度を測定技術的に検出するように構成されていて、
前記自動化システム(5)は、前記テストベンチ装置(4)の回転挙動、すなわち少なくとも当該測定される角速度と前記被試験体(1)で支配的な被試験体の角速度(ω)との動的挙動が、第1微分方程式系によってモデル化されるように構成されている当該テストベンチにおいて、
前記自動化システム(5)は、
-前記被試験体(1)から発生した被試験体の回転トルク(T)を、第2微分方程式系によってモデル化し、前記第2微分方程式系の第1サブシステムに基づいて、前記被試験体の回転トルク(T)の直流成分を示し、前記第2微分方程式系のm個の別の振動サブシステムに基づいて、前記被試験体の回転トルク(T)のm個の高調波成分を、減衰オシレータ及び/又は非減衰オシレータとして示し、
-前記第1微分方程式系及び前記第2微分方程式系に基づいて、前記被試験体の角速度(ω)及び前記被試験体の回転トルク(T)を推定するための状態観測器を生成し、当該測定される角速度は、この状態観測器の入力であり、
-前記状態観測器に基づいて、前記被試験体の角速度の推定値(ω^)及び前記被試験体の回転トルクの推定値(T^)を算出し、
-当該算出された被試験体の角速度の推定値(ω^)及び被試験体の回転トルクの推定値(T^)を、前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの調整角速度及び/又は前記テストベンチ装置(4)で支配的な少なくとも1つの調整回転トルクを調整するために使用するように構成されていることを特徴とするテストベンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する被試験体が機械式の連結シャフトを介して回転する負荷機に連結され、テストベンチ装置で支配的な少なくとも1つの角速度が測定される、当該テストベンチ装置を調整するための方法に関する。この場合、当該テストベンチ装置の回転挙動、すなわち少なくとも当該測定される角速度と当該被試験体で支配的な被試験体の角速度との動的挙動が、第1微分方程式系によってモデル化される。
【背景技術】
【0002】
長期にわたって、テストベンチは、多様な技術的な使用分野においてもはや必須のツールである。この状況は、自動車産業に対して大いに当てはまる。この場合、パワートレインの電動化のようなトレンドが、絶えず短くなりつつあるイノベーションサイクルにおいて新たな試験技術的な挑戦を継続して誘発させる。これに関連して、これらの多くの新たな試験技術的な挑戦において主な要因として注目される、特により低いコスト、より高い適応性、より短い設定時間及びより高い動特性が要求される。
【0003】
上記の複数の要因は相互に関連し得る。まず、コストが、特にテストベンチで使用されるハードウェアを削減することによって削減され得る。これに関連しては、多くの場合に一方では高価な構成要素とみなすことができ、他方ではテストベンチの実装コスト、運転コスト及び保守コストを著しく増大させ得る、特に測定技術的でセンサ式の装置を列挙することができる。さらに、多くの使用状況では、センサの数が削減は、テストベンチの適応性を著しく向上させ得る。これに関連して、一般にセンサの削減に伴って低下するケーブル敷設コストが利点である。当該ケーブル敷設コストは、特にテストベンチのハードウェアの変換及び/又は適合時に有益であり得る。同じ理由から、より少ない数のセンサは、多くの場合にテストベンチの交換時に発生する設定時間の短縮を可能にする。
【0004】
これに対して、上記のより高い動特性を要求する4番目の要因は、多くの場合に、設けるべきセンサの数に関して別の結果をもたらす。この場合、「動特性」は、短い時間間隔内の、例えばミリ秒又はマイクロ秒の範囲内の、定常状態でない作動状況の変化、すなわちテストベンチ装置の特定の変数、例えば回転数又は回転トルクの変化を意味する。この場合、このような変数の大きい変化も起こり得る。最終的にテストベンチ装置の高ダイナミックな調整も可能にするために、テストベンチの状況に関して可能な限り正確に知らせることが、テストベンチの高ダイナミックな作動にとって多くの場合に非常に重要である。これに関連して、それぞれの追加の測定変数は、有益であり得るか又は依然として必要であり得る。設けるべきセンサの数に関するこのトレードオフ(Spannungsdeld)は、様々な試験技術的な用途で発生する。
【0005】
したがって、パワートレインのテストベンチの場合、試験すべきパワートレインが、被試験体としてテストベンチに配置され、一般に複数の機械式の連結シャフトを介して少なくとも1つの負荷機(ダイナモメータ)に連結される。このとき、実際の作動中に予測される様々な負荷状況を試験するため、パワートレインの駆動ユニット、例えば内燃機関及び/又は電気モータが、少なくとも1つの負荷機に対抗してテストベンチで作動する。複数の負荷機を有するこのようなパワートレインのテストベンチが、例えば独国特許出願公開第102008041883号明細書から公知である。この場合、特に、これらの負荷機同士間の相互の影響を回避するため、これらの負荷機から発生される回転トルクを介して応答を正確に知ることが多くの場合に有益である。
【0006】
これに対して、エンジンのテストベンチの場合、一般にただ1つの個別の駆動ユニット、例えば内燃機関及び/又は電気モータが、被試験体として設けられていて、連結シャフトを用いて負荷機(ダイナモメータ)に連結されている。追加の測定情報が非常に重要であり得る作動モードに対してこのような状況で強調すべき例は、例えばオーストリア特許出願公開第519092号明細書から公知であるいわゆる減衰制御である。この場合、一般的な課題は、以下では「被試験体の回転数」とも呼ばれるテストベンチの実際の回転数及び/又は被試験体から発生した被試験体の回転トルクから、テストベンチを制御するために使用される調節信号の減衰成分を算定することである。この場合、被試験体の回転数の測定変数及び/又は被試験体の回転トルクの測定変数が、制御の構想を著しく簡略化する。
【0007】
高価で精巧なセンサをコスト及び効率の理由から削減したい場合、テストベンチの作動挙動の明らかな改善が可能であるものの、例えば被試験体の回転角度、この被試験体の回転数又はこの被試験体から発生した被試験体の回転トルクのような所定の測定変数を十分な精度で測定することが完全に不可能であることが多くの場合に起こる。このために必要なセンサが入手不可能であるか、又は、公知のセンサ設置及び使用自体によって引き起こされる高いコストが使用を不可能にする。さらに、多くの場合に、対象とすべき変数の測定値を得ることが基本的に可能でないか又は適切な測定部が設けられていない被試験体も試験されなければならない。これに関する例は、内燃機関又は電気モータの発生した内部回転トルクであり、したがって出力シャフトで実際に出力される回転トルクではなくて、実際に発生した回転トルクである。この内部回転トルクは、多くの場合に直接に測定され得ない。
【0008】
上記の理由から、従来の技術では、実際のテストベンチの環境に存在しないセンサが、いわゆる仮想センサによって置換される複数の手法が考案されている。このため、一般には、多くの場合に制御技術でよく知られている観測器技術を使用して、存在する測定変数から、希望したが、直接に得られない測定変数が算術的に推定される。多くの場合、こうして生成された測定信号が、仮想測定信号と呼ばれる。
【0009】
これに関連して、非特許文献1は、様々な状態観測器を内燃機関のテストベンチで使用することを開示する。この場合、提供された状態観測器に基づいて、内燃機関から発生した内部回転トルクに対する推定値、内燃機関の回転数に対する推定値、負荷機の回転数に対する推定値及び内燃機関と負荷機との間の差分角度に対する推定値が算出される。この場合、しかしながら、上記の回転数は、測定技術的にも検出される。これは、これらの推定を基本的に損なわせる。
【0010】
オーストリア特許出願公開第519092号明細書は、内燃機関のテストベンチにおける減衰制御のための方法を開示する。この場合、測定されるシャフトトルクと測定される被試験体の回転数とに基づいて、内部の被試験体の回転トルクの推定値が算出されるものの、当該推定のために使用されるモデルと当該モデルから導き出される状態観測器とに関する詳細が記載されていない。これは、提供された構想を電気モータのテストベンチのような別のテストベンチ装置に適用することを著しく困難にする。
【0011】
オーストリア特許出願公開第522354号明細書は、モータのテストベンチの連結シャフトで作用するシャフトトルクの推定を開示する。この推定に基づいて、少なくとも2つの回転測定から成る1つの被試験体で支配的である、被試験体の回転トルクのさらなる推定値が算出される。ここでも、使用される推定値の具体的な構成が詳しく記載されていない。
【0012】
これに対して、独国特許出願公開第102020104314号明細書は、駆動構成要素を検査するためのテストベンチのモデル予測制御を開示する。この場合、特に未来値が、連結シャフトの回転数並びに負荷機及び被試験体から発生した回転トルクのような、テストベンチ装置で発生する変数によって推定される。この刊行物では、連結シャフトの状態変数の制御に焦点を当てて開示しているので、テストベンチ装置の具体的なモデルが開示されているが、被試験体の回転トルクが、非常に陳腐な方式でモデル化される。
【0013】
引用された従来の技術は、幾つかの共通点を有する。第1の特徴点は、これらの刊行物のいずれの刊行物も、被試験体の回転数と被試験体から発生した被試験体の回転トルクとを同時に推定することを開示しないで、両変数の少なくとも1つの変数が測定されることが開示されていることである。しかしながら、多くの場合、被試験体の回転数と被試験体の回転トルクとに関する正確な情報は、被試験体で変換される電力を監視する際の前提条件である。これは、特に高速回転する電気モータの場合に非常に重要であり得る。高速回転する電気モータの場合、テストベンチ制御が、被試験体の回転数と被試験体の回転トルクとにアクセスできないが、特に、大抵は大切な被試験体(「ゴールデンサンプル」)の熱による過負荷を回避するため、この被試験体によって変換された電力が、テストベンチの作動中に考慮されなければならないという課題が、被試験体で多くの場合に発生する。
【0014】
引用された従来の技術の別の特徴点は、刊行物が被試験体の回転数の推定を開示していないことである。当該推定では、推定された被試験体の回転数が、測定変数としてさらに提供される。専ら安全性の理由から、特に電気モータのテストベンチの場合、多くの場合に非常に高い被試験体の回転数が監視されなければならない。しかしながら、測定技術に欠陥がある場合には、これは、確実な推定値だけによって達成され得る。
【0015】
さらに、上記の刊行物のいずれの刊行物も、特に電気モータのテストベンチの場合に、どのようにして被試験体から発生した内部の被試験体の回転トルクが、後の推定のために有益にモデル化され得るかを開示していない。さらに、どのようにして従来の技術から公知の被試験体の回転トルクのモデルが、例えばモデルの精度を向上させる目的で有効に拡張され得ることが、非常に不明確であることが、当該モデルに対して成立する。さらに、多くの場合、考えられる拡張の手法が、同時にモデルの複雑性を著しく増大させる。これは、特に実際の用途で欠点であり得る。
【0016】
上記の理由から、引用された構想の実施の使用時に、部分的に深刻な問題が発生する。この場合、当該問題の起こり得る結果として、テストベンチの不完全な作動特性に起因して、テストベンチ及び/又は被試験体が損傷し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】独国特許出願公開第102008041883号明細書
【特許文献2】オーストリア特許出願公開第519092号明細書
【特許文献3】オーストリア特許出願公開第522354号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102020104314号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】「Nonlinear Observers for Closed-Loop Control of a Combustion Engine Test Bench」G.Reale et al.,American Control Conference(2009)4648-4653
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の課題は、特に、主に自動車のテストベンチで、特に電気モータのテストベンチでフレキシブルに使用され得る、被試験体の回転数と被試験体の回転トルクとを同時に推定するための改良された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、この課題は、独立請求項の特徴によって解決される。この場合、テストベンチ装置に基づいて、回転する被試験体が、好ましくは電気モータとして機械式の連結シャフトを介して回転する負荷機に連結され、このテストベンチ装置で支配的な少なくとも1つの回転数、しかしながら好ましくは当該負荷機から検出される負荷の回転数が測定される。
【0021】
この場合、本発明の方法の第1ステップは、テストベンチ装置の全体の回転挙動がモデル化される。この場合、一般に、テストベンチ装置の回転挙動に関連する、負荷回転数、被試験体の回転数、シャフトトルク、被試験体の回転トルクのようなテストベンチ変数の動的挙動が、例示的に示されるが、少なくとも測定される回転数とテストベンチから得られる被試験体の回転数との動的挙動が示される。このため、第1微分方程式系が示される。この第1微分方程式系は、特に回転多質点系として構成されていて、したがってこの回転多質点系は、弾性体・減衰器要素(Feder-Daempfer-Element)を介して互いに連結されている少なくとも2つの回転体(Drehmassen)又は慣性体(Traehgheiten)を有する。この場合、当該少なくとも2つの回転体又は慣性体は、被試験体及び負荷機を示すために使用される一方で、当該少なくとも1つの弾性体・減衰器要素は、これらの回転体又は慣性体の間の機械式の連結シャフトを示す。この場合、負荷機から発生した負荷回転トルクと、被試験体から発生した被試験体の回転トルクとが、第1微分方程式系の入力変数であることが、本発明の方法にとって重要である。この場合、当該負荷トルクは、負荷機を示す慣性で作用するのに対して、当該被試験体の回転トルクは、被試験体を示す慣性に作用する。
【0022】
次の方法ステップは、本発明の核心を示す。この場合、高いモデル次数を有し得る自律系の第2微分方程式系に基づいて、被試験体の回転トルクのモデルが生成される。この場合、第1サブシステムに基づいて、直流成分が示され、m個の別の振動サブシステムに基づいて、被試験体の回転トルクのm個の高調波成分が生成される。この場合、m個の高調波成分をモデル化するためのm個の振動サブシステムは、好ましくは減衰オシレータ(gedaempfter Ozillatoren)及び/又は非減衰オシレータ(ungedaempfter Ozillatoren)として構成されている。当該調整技術では、入力変数を示すためのこのようなシステムは、いわゆる「エクソシステム」として既に公知であり、当該システムの使用が、一連の予期しない肯定的な効果をもたらし得るものの、テストベンチ技術では、当該システムの用途が今まで見つからなかった。
【0023】
本発明によれば、第1微分方程式系と第2微分方程式系とが、1つの統合モデルに組み合わされ、この統合モデルに基づいて、別の方法ステップで、被試験体の回転数及び被試験体の回転トルクを推定するために生成される。この場合、測定される回転数は、入力であり、推定すべき被試験体の回転トルク及び推定すべき被試験体の回転トルクは、状態観測器の出力である。その後に、当該生成された状態観測器に基づいて、被試験体の回転数に対する推定値と、被試験体の回転トルクに対する推定値と算出される。これらの推定値は、次の方法ステップにおいてテストベンチで支配的な少なくとも1つの回転変数を調整するために使用される。
【0024】
この場合、被試験体の回転トルクをモデル化するための、自律系のエクソシステムの使用の第1の肯定的な効果は、特に、第1微分方程式系で未知の入力として発生する被試験体の回転トルクが、提供されたエクソシステムによって置換され得るという状況によって得られる。こうして発生したモデルは、テストベンチ装置の回転動特性と被試験体の回転トルクの動特性とから構成される新しい統合モデルとして把握され得る。したがって、エクソシステムの自律的な特徴に起因して、第1微分方程式系に存在する未知の外部変数の依存性が解消される。未知の外部の入力変数が、観測器技術の多くの用途において大きい障害であり得るので、多くの場合にこの効果によって、算出された推定の特性が改善される。さらに、被試験体の回転数の推定が、調整技術からよく知られた観測器技術において一般的なプラクティスであるように、当該推定に基づく統合モデルの状態を再構成することによって実行されると、被試験体の回転トルクが、具体的な状況において追加の労力なしに推定される。したがって、上記の被試験体で変換された電力の観測は、ほぼ自動的に実行される。
【0025】
当該プラクティスにとって価値のある第2の利点が、本発明の方法において第2微分方程式系の構成からか又は被試験体の回転トルクをモデル化するためのエクソシステムの構成から得られる。信号の再構成の精度が、高調波成分を採用することによって任意に向上され得ることが考慮される場合、これは、提供されたエクソシステム又は第2微分方程式系を拡張するための方法を即座に開始する。これに応じて追加の振動サブシステムが、他の高調波成分を考慮するためのオシレータ(Ozillatoren)として加算されると、エクソシステムと結果として生成される統合モデルとにおける状態変数の数が増大する。しかしながら、それぞれの振動サブシステムが、相互に影響するのではなくて、互いに打ち消し合うので、これにより、エクソシステム及び結果として生成される統合モデルは、大幅により複雑にならないか又は取り扱いがより困難にならない。この観点は、本発明の方法の実際の使用可能性を評価する際に重要である。何故なら、実際には、一般に、高い次数を有するモデルを回避しようとするからである。しかし、上記の複数のサブシステムは、全く相互に影響しないので、特に向上したモデル精度の大きい利点が、他の振動サブシステムの追加の唯一の否定的な結果、すなわち追加の状態変数を考慮しなければならない必要性に勝る。当然に、この特性は、最初から高いモデル次数を有するエクソシステムにも当てはまる。
【0026】
本発明の方法の別の好適な観点では、使用されるエクソシステムとこれによって得られる統合システムとの安定性が確保され得る。高調波成分をモデル化するための振動サブシステムは、減衰オシレータ及び/又は非減衰オシレータであり、これらのオシレータの固有値が、虚軸上に存在するか又は複素数平面の左半分に存在するので、他のオシレータを加算することによって、結果として生成される統合システムの安定性の特性が基本的に変化され得ない。推定のために使用されるモデルの安定性に関しては、モデルパラメータの変化時でも、起こり得る安定性の損失に関する危険がないので、被試験体の回転トルクをモデル化するためのエクソシステムは、テストベンチの作動中にこのテストベンチの変化する回転変数に心して適合され得るか又は当該変化する回転変数、好ましくは負荷機から得られる負荷回転数のような測定される回転数に追従され得る。
【0027】
この点に関して留意すべきは、本発明の課題は、基本的にエンジンのテストベンチの範囲内にあり、特に電気モータのテストベンチの範囲内にあるが、本発明の方法は、他の多くのテストベンチ、例えばパワートレインのテストベンチ、ローラのテストベンチ又は構成要素のテストベンチでも使用され得ることである。また、本発明の方法にしたがって推定された被試験体の回転トルク及び推定された被試験体の回転数を使用して解決される具体的な調整作業は、広く解釈することができる。既に説明した減衰調整の他に、これに関しては、特に回転体のシミュレーション又は慣性体のシミュレーション及びnアルファ動作(n-alpa Betrieb)をさらなる用途として列挙することができる。
【0028】
以下に、本発明の例示的で概略的で限定しない好適な構成を示す図1~6を参照して本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】テストベンチ装置の概略図である。
図2】デュアルマス揺動子(Zweimassenschwinger)のモデルの概略図である。
図3】被試験体の回転トルクの例示的な推移を示す。
図4】被試験体の回転数及び被試験体の回転トルクを本発明にしたがって推定しない場合の例示的な制御構成のブロック図である。
図5】被試験体の回転数及び被試験体の回転トルクを本発明にしたがって推定する場合の例示的な制御構成のブロック図である。
図6】2つの負荷機を有するテストベンチ装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、エンジンテストベンチの主な構成要素を概略的に示す。この場合、回転する被試験体1が、好ましくは電気モータ又は内燃機関として連結シャフト3を介して負荷トルクを被試験体1に印加する負荷機2に連結されている。一般に、負荷機は、電気機器として構成されている。被試験体1、負荷機2及び連結シャフト3から構成されるユニットは、本明細書に関してはテストベンチ装置4とも呼ばれる。図示された状況では、自動化システム5が、テストベンチ装置4の駆動部、具体的には個々の能動要素のための制御変数を算出し、当該制御変数をテストベンチ装置4に予め設定する。これは、特に、負荷機2の負荷機の回転トルクTの予めの設定を含む。負荷機の回転トルクTのための制御変数に加えて、自動化システム5は、被試験体1のための制御変数αも出力できる。この場合、被試験体1に応じて、制御変数αは、異なる意味を持ち、内燃機関の場合はペダル位置又はスロットバルブ位置等を示し得て、電気モータの場合はその意味は、多くの場合に、被試験体1が生成できる最大回転トルクの百分率として規定されている。この場合、当該被試験体は、必ずしも自動化システム5に接続される必要がない点に留意すべきである。このような場合には、制御変数αの予めの設定は、もはや自動化システム5によって実行されるのではなくて、別の方法で、例えばテストベンチのオペレータの予めの設定によって又は被試験体1に設けられている制御装置によって実行されなければならない。
【0031】
その結果、当該制御変数は、負荷機2の調節装置6又は被試験体1の調節装置6′によって対応する調節変数に変換され、当該制御変数が、当該調節変数によって調節される。負荷機2が、従来のように電気機器、例えば同期機器又は非同期機器として構成されている場合、制御変数として伝達された負荷機の回転トルクTが、エアギャップトルク(空隙トルク)Tとして生成される。この場合、このエアギャップトルクTを生成するための調節変数として、負荷機2の巻線電流又は巻線電圧が使用され得る。この場合、エアギャップトルクTは、公知の方法で負荷機2によって生成され、負荷機2の回転子で検出される。
【0032】
図1に示された負荷機2の角速度の実際値のように、調整変数の実際値が、適切なセンサによって検出され、適切な信号線を介して自動化システム5に伝達される。このため、当該角速度は、「負荷角速度」ωとも呼ばれる。負荷の角速度ωは、例えばロータリエンコーダ7によって検出され得る。本発明の方法では、被試験体の角速度ωが、測定変数として使用されず、連結シャフト3から伝達されるシャフトトルクTSTも多くの場合に測定変数として使用されない。これは、破線で示された信号線Yによって示されている。この場合、テストベンチ装置4の角速度ω及び回転数n、例えば被試験体の角速度ω及び被試験体の回転数nは、公知の数式ω=πn/30によって相関付けられる。双方の本発明の方法に与える効果は同等とみなすことができる。上記のモデルの以下の記載及び数学的な記述に一貫性を持たせるため、以下では主に且つ一般的な概念を限定することなしに角速度を使用する。
【0033】
本発明の方法の第1ステップでは、第1微分方程式系(ersten Differentialgleichungssystem)が、テストベンチ装置4の(以下では、揺動挙動とも呼ばれる)回転挙動をモデル化するために作成される。このため、好ましくは、回転多質点系(rotatorisches Mehrkoerpersystem)が作成される。この回転多質点系の最も簡単な構成が、デュアルマス揺動子(Zweimassenschwinger)によって与えられている。図2には、このようなデュアルマス揺動子が示されている。当該デュアルマス揺動子に関連するテストベンチ変数のシャフトトルクTST、負荷機2から発生したエアギャップトルクT、被試験体の回転トルクT、負荷機の角速度ω及び被試験体の角速度ωに加えて、図2は、被試験体1と負荷機2との間の機械的な連結シャフト3を示すためのシャフトの剛性度c及びシャフトの減衰度d並びに被試験体の慣性トルクJ及び負荷機の慣性トルクJを含む。これらのパラメータは、既知とみなされ得る。図2に示されたデュアルマス揺動子に基づいて、テストベンチ装置4の回転挙動を示すための周知の第1微分方程式系が、
【0034】
【数1】
として規定され得る。
【0035】
ここで、
【0036】
【数2】
は、出力方程式である。この場合、Δφは、被試験体1と負荷機2との間の差分回転角度を示す。ここで、変数
【0037】
【数3】
はそれぞれ、状態ベクトル、動的行列、第1入力ベクトル及び第2入力ベクトル並びに第1微分方程式系の出力方程式を示し、モデル化から得られる。具体的には、この出力方程式は、負荷機2の角速度ωを示す。これは、多くの場合に一般的である。何故なら、対応する負荷回転数が、一般に測定変数として提供されるからである。当該出力ベクトルの代わりの選択によって、当該出力方程式の異なる別の構成、すなわち出力変数が考えられる。
【0038】
実際の物理系のそれぞれのモデルのように、当該具体的な第1微分方程式系が、モデル化されたテストベンチ装置4の実際の挙動の簡略化されたモデルの抽象化(modellhafte Abstraktion)を示す。したがって、当該モデルの公式化時に、弾性的な連結シャフトの慣性トルクが、慣性トルクJと慣性トルクJとに等分に加算される。なお、方程式の全ての要素は線形要素であると仮定される。したがって、シャフトの遊び、非線形の剛性又は静止摩擦力のような、テストベンチ装置4のあり得る非線形の特性は考慮されない。制御変数TからエアギャップトルクTへの変換時に一般に無駄時間とPT1とからの組み合わせによって発生する、負荷機2から与えられたアクチュエータの動特性も無視される。当該アクチュエータの動特性を無視した場合、特にエアギャップトルクTは、制御変数Tに一致する。当該無視された具体的な特性を考慮することによって、テストベンチ装置4のさらに別のより複雑なモデルが直接に示され得る。しかしながら、示された第1微分方程式系は、本発明の方法を説明するのに充分である。これらのモデルパラメータは、当該さらなる考慮のために既知とみなされる。説明されているモデルに基づいて、本発明に合致する課題の公式化を、示された実施の形態に関して及びより良好に理解するために、すなわち変数ω及びTを推定するための方法を特定するために具体的に考察する。
【0039】
この課題を解決するため、説明したように、第2微分方程式系が、被試験体の回転トルクTを示すために提供される。発生する被試験体の回転トルクTが、第2微分方程式系によってモデル化される。この場合、この第2微分方程式系の第1サブシステムに基づいて、被試験体の回転トルクTの直流成分が示され、この第2微分方程式系のm個の別の振動サブシステムに基づいて、被試験体の回転トルクTのm個の高調波成分が、減衰オシレータ及び/又は非減衰オシレータとしてモデル化される。
【0040】
具体的な実施の形態では、3個(m=3)の高調波成分が考慮される。これにより、第2微分方程式系は、式
【0041】
【数4】
を規定する。
【0042】
ここで、
【0043】
【数5】
は、出力方程式である。ここでも、第1微分方程式系と同様に、変数
【0044】
【数6】
が既定されている。これらの変数はそれぞれ、2m+1個の状態変数を有する状態ベクトルz、動的行列及び第2微分方程式系の出力方程式を示す。この場合、微分方程式
【0045】
【数7】
に係る状態変数zに基づいて、被試験体の回転トルクTの直流成分が示される。
【0046】
残りの状態変数zk,1,zk,2は、それぞれk次の振動サブシステムに分類できる二対とみなす必要が常にある。この場合、ループ変数(Laufvariable)kは、振動サブシステム及び付随する変数の索引付けのために使用される。具体的には、状態ベクトルの相互に影響し合う状態変数からそれぞれ構成される微分方程式系の一部を、振動サブシステムと解することができる。したがって、例えば、これらの振動サブシステムのそれぞれの振動サブシステムごとに、ベクトル値の微分方程式
【0047】
【数8】
が、状態変数zκ,1,zκ,2に対して成立する。これは、公知のように角周波数ζκを有する高調波振動に相当する。このサブシステムの固有値が、複素数平面の虚軸上の±jζに依存し、当該固有値は、角周波数ζの変化時にも無視できない。この振動の拡張形態が、減衰を考慮することによって適切な減衰係数ηκを用いて与えられている。このような変更は、微分方程式
【0048】
【数9】
による減衰振動をもたらす。この微分方程式の固有値が、正で且つ実施の減衰係数ηκ>0の場合は一般に複素数平面の左半分に存在する。このような振動の固有値が、複素数平面の右半分に決して存在し得ないという特性は、特に第2微分方程式系が被試験体の回転トルクTをモデル化するためにテストベンチの作動中に変化するテストベンチ装置4の変数、例えば角速度ωに適合される場合に有益である。
【0049】
零とは違う初期状態から開始して、両変数zκ,1及びzκ,2がそれぞれ、90°だけ互いに位相シフトされている正弦波状の推移を実行する。これらの両状態変数のうちの1つの状態変数が選び出されると、その結果として、被試験体の回転トルクTの個々の高調波が示され得て、こうして特定された複数の高調波を加算することによって、全ての高調波を含む被試験体の回転トルクTが示され得る。
【0050】
出力変数Tを生成するため、状態変数zと、複数の振動サブシステムのそれぞれの振動サブシステムのうちの対応する丁度1つの状態変数とが加算されることが、出力ベクトルcの構造で認識され得る。これに関係して、図3は、こうして生成された被試験体の回転トルクTの可能な推移を示す。
【0051】
角周波数ζをパラメータ化するため、例えば角周波数ζの整数倍が適用される。その結果、関係式
【0052】
【数10】
が成立する。すなわち、角周波数ζは、負荷の角速度ωの関数になる。これは、角周波数ζを、作動中に場合によっては変化する負荷の角速度ωに適合させるために使用され得る。しかしながら、負荷の角速度ωの代わりに、テストベンチ装置4の別の回転変数が、角周波数ζをパラメータ化するために使用されてもよい。さらに、角周波数ζkを作動の開始に説明した方法で一度選択し、しかしながらその後にもはや変更せず、したがってこの角周波数ζを一定に保持することも可能である。電気モータのテストベンチの場合、角周波数ζの選択時に整数の極対数pを考慮することが多くの場合に有益である。この場合、
【0053】
【数11】
が成立し、結果として得られるモデル次数が低下され得る。
【0054】
留意すべきは、角周波数ζの選択は、全く違う方法でも実行され得て、例えば角周波数ζと負荷の角速度ωとの間の奇数比(krummer Verhaeltnisse)を使用することによって実行され得る点である。しかし、角周波数ζは、当業者によって専ら用途に合わせて選択されてもよい。
【0055】
上記のモデルの精度を向上させるための第2微分方程式系の発展形態は、さらなる高調波を専ら加算することによって実行され得る。これにより、数mが増大され得る。さらに留意すべきは、連続する複数の高調波が必ず使用されなければならないのではない点である。例えば、奇数の高調波だけ又は偶数の高調波だけが使用されてもよく、又は、任意に選択された複数の高調波が使用されてもよい。
【0056】
ω及びTに対する推定値を実際に算出するため、第1微分方程式系及び第2微分方程式系が、1つの統合システムに統合される。このステップをより正確に表すため、最初に、上記のシステムパラメータに対する省略表記に基づいて、第1微分方程式系は、簡略式の
【0057】
【数12】
で示され、第2微分方程式系は、簡略式の
【0058】
【数13】
で示される。第1微分方程式系の入力Tが、第2微分方程式系の出力Tによって置換されると、統合システム
【0059】
【数14】
が得られる。0及び0は、適切な大きさの零行列を示す。状態ベクトル
【0060】
【数15】
を推定するための状態観測器を設計するため、このような線形システムのための様々な手法が存在する。
【0061】
好適な方法では、しかしながら、よく知られているルーエンバーガー観測器が使用され得る。しかし、この観測器を限定的に選択する必要はない。知られているように、ルーエンバーガー観測器は、推定すべき変数の動特性を示す微分方程式系のコピーと、補正項とを含む。その結果、具体的には、観測器の微分方程式
【0062】
【数16】
が成立する。ここで、
【0063】
【数17】
は、状態ベクトルx及びzの算出すべき推定値を示す。この場合、一般に、推定誤差
【0064】
【数18】
の微分方程式の動的行列A^が、予め設定されている固有値を取るように、ベクトル値の補正ゲインKが選択される。これは、制御技術でよく知られた手法を示す。推定誤差eの微分方程式の動的行列は、上記の方程式から直接に
【0065】
【数19】
として得られる。ここで、当該行列のパラメータ、すなわち当該行列の固有値に対する補正ゲインKの作用は明確に分かる。この場合、固有値の当該直接の予めの設定の他に、Kを選択するための別の手法も考えられる。このため、同様によく知られた線形最適制御(LQR)方法が多くの用途で使用される。
【0066】
引用された観測器の微分方程式が、さらなるステップでベクトル値の出力方程式
【0067】
【数20】
だけ拡張されると、被試験体の角速度ω^と被試験体の回転トルクT^との希望した推定値が、当該出力方程式によって完成された状態観測器の出力として得られる。
【0068】
本発明のこれに関係して注目すべき利点は、例えばシャフトトルクTSTに対する推定値T^STをさらに算出するために、上記の状態観測器の出力方程式が容易に拡張可能であることである。本発明の好適な構成では、状態観測器の出力方程式が、一行だけ追加される。この行では、推定値T^STを算出するため、シャフトの剛性度c及びシャフトの減衰度dの既知のパラメータが使用される。その結果、
【0069】
【数21】
が成立する。
【0070】
同様に、例えば負荷の角速度ω^の推定値に対するさらに別の出力変数が生成され得る。この場合、既に存在する複数の出力変数を新しい出力変数に組み合わせることも有益であり得る。このとき、説明されている実施の形態の当該観測器の微分方程式から、エアギャップトルクT及び負荷の角速度ωが、入力変数としてこのシステムに算入されることが明らかである。一般に、これは不利益ではない。何故なら、両変数は、専ら極めて稀な状況では未知の変数だからである。しかしながら、この場合、エアギャップトルクT及び負荷の角速度ωが、本発明の実行時にテストベンチ装置4で支配的な他の角速度又は回転トルクによって置換され得て、例えばシャフトトルクTST及び連結シャフト3の角速度によって置換され得る点に留意すべきである。このような状況では、第1微分方程式系が適切に適合されるだけで済み、基本的な手法は全く変更がない。この第1微分方程式系の適合によって、制御変数TをエアギャップトルクTに変換することが考慮されてもよい。このため、一般に、制御変数TとエアギャップトルクTとの間の関係が、無駄時間とPT1とからの組み合わせによってモデル化される。この場合、好ましくは、無駄時間が、パデ近似に基づいて示され得る。
【0071】
上記のように、角周波数ζκが、負荷の角速度ωの関数として又はテストベンチ装置4で支配的な回転変数の関数として選択され、補正ゲインKが、多くの場合に従来のように動的行列A^の通常のパラメータの関数として設定されると、結果として生成される状態観測器も、角周波数ζκが依存する負荷の角速度ω又は他の回転テストベンチ変数に直接に依存する。このような状況では、当該状態観測器は、場合によっては変化する負荷の角速度ω又はテストベンチ装置4の場合によっては変化する他の回転変数に自動的に適合される。これは、テストベンチ装置4の作動挙動を部分的に大幅に改良できる。
【0072】
以下で、どのようにして推定値ω^及びT^が、テストベンチ装置4を調整するために使用され得るかを、図4及び5に基づいて示す。この場合、図4は、この方式では特に電気モータのテストベンチ装置でいわゆる高ダイナミックなシャフトトルク調整のために使用される調整回路のブロック図である。この調整回路は、例えば自動化システム5に実装されていて、特にソフトウェアとして自動化システム5のマイクロプロセッサベースのハードウェアに実装されている。しかし、例えば集積回路の形態の他の実装(例えば、FPGA、ASIC等)も考えられる。
【0073】
一般に、このような高ダイナミックなシャフトトルク調整の目的は、連結シャフト3から伝達するシャフトトルクTSTを目標シャフトトルクT STの予め設定されている時間推移に追従させることである。この場合、このような目標シャフトトルクは、高ダイナミックな成分を有し得て、基本的に数ミリ秒内に変化し得る。この場合、調整すべき回転トルク及び調整すべき角速度は、多くの場合に「調整回転トルク」及び「調整角速度」と呼ばれる。上記の調整の課題を解決するため、一般に被試験体の回転トルクT及び実際に目標シャフトトルクT STから、目標角速度ωが算出される。これは、図4に示された実装では、当該ブロック図の大規模シミュレーションMSで実行される。次いで、この目標角速度ωは、調整器ωRによって調節され、一般に、このときに発生するシャフトトルクTSTが(予め設定されている所定の調整偏差を有する)予め設定されている目標値T STを取るように選択されている。被試験体の回転トルクTは、上記の理由から一般に既知でないので、この被試験体の回転トルクTを算出するため、多くの場合にカルマンフィルタKFが使用される。特に測定されるシャフトトルクTSTが、入力としてこのカルマンフィルタKFに作用する。したがって、図4に示されたこの高ダイナミックなシャフトトルク調整の従来の実装は、負荷の角速度ω、被試験体の角速度ω及びシャフトトルクTSTが、テストベンチで測定技術的に検出され、このテストベンチの調整に提供されることを前提とする。
【0074】
しかしながら、上記の理由から、電気モータのテストベンチの場合、多くの場合に負荷の角速度ω及びシャフトトルクTSTが測定されない。したがって、この手法は多くの場合に可能でない。さらに、多くの場合に安全性を考えて、被試験体1で変換される電力が監視されなければならない。このため、さらに、被試験体1から発生した被試験体の回転トルクTも既知でなければならない。さらに、ロータリエンコーダが、電気モータに存在する場合に、当該電気モータに設けられている当該ロータリエンコーダは、多くの場合に、希望した測定信号を専ら非常に低い走査速度で、例えば100Hzで提供する。最近の被試験体調整装置Rは、一般に少なくとも5kHzの走査速度で実行されるので、この状況自体が、使用されるテストベンチ調整装置Rの動特性を著しく損なわせる。
【0075】
シャフトトルク調整の構想が、被試験体の角速度ωを測定しなくても使用され得るように、既存の調整の構想が、本発明の状態観測器だけ拡張される。したがって、図5に示されたブロック図が構成され得る。これにより、被試験体の角速度ω及びシャフトトルクTSTが測定変数として提供されない状況でも、高ダイナミックなシャフトトルク調整の使用が可能である。この場合、当該状況から、多くの場合に、上記の被試験体の回転トルクTを最初に推定するためのカルマンフィルタKFが省略され得るという本発明の方法のさらなる利点が得られる。
【0076】
図4及び5に基づいて説明した使用例の他に、本発明の方法は、大規模シミュレーション(Massensimulation)、減数調整等のような、多数の別の試験技術的な調整課題を解決するために使用され得る。これらの調整技術的な課題の他に、別の使用分野として、特にテストベンチの別の形態を列挙することができる。この場合、特に多重シャフト式のテストベンチを列挙することができる。このような構成が、図6に示されている。この場合、例えばトランスミッションであり得る、回転する被試験体1が、少なくとも1つの別の機械式連結シャフト3′を介して少なくとも1つの別の回転する負荷機2′に連結されている。この場合、少なくとも1つの別の回転する負荷機2′は、既に存在する回転する負荷機2と一緒にアクチュエータとしてテストベンチ装置4の調整で使用され得る。この場合、被試験体の角速度ω及び被試験体の回転トルクTの本発明の推定値が、制限されることなしに使用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】