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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】テトラジン部分を有するアミノ酸
(51)【国際特許分類】
   C07D 257/08 20060101AFI20240514BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240514BHJP
   C07K 2/00 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 31/395 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C07D257/08 CSP
C12P21/02 C
C07K2/00
A61K31/395
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572800
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2022064273
(87)【国際公開番号】W WO2022248587
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】21175917.0
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520022953
【氏名又は名称】バランクス・バイオテック・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ルケシュ,ミハエル
【テーマコード(参考)】
4B064
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C086AA03
4C086BC63
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZC80
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA74
4H045GA10
(57)【要約】
本発明は、テトラジン部分を有する新規アミノ酸および該新規アミノ酸化合物を含むペプチドまたはタンパク質に関する。本発明は、テトラジン部分を含むペプチドまたはタンパク質の製造方法に、および前記のペプチドまたはタンパク質の使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の化合物、
【化1】
式中、
Xは、NHまたはOを示し、かつ
Rは、ハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SR、-C1~6アルキルおよびフェニルからなる群から選択され、ここで、-C1~6アルキルまたはフェニル部分は、場合によりハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SRによって置換されており、かつ
は、水素またはC1~6アルキルである。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、以下の化合物からなる群から選択される化合物:
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】
【化1-5】
【請求項3】
請求項1に記載の化合物であって、Rがメチルである化合物。
【請求項4】
一般式(I)の化合物を製造するための方法であって、中間体化合物(Ia)を得るために式(II)のテトラジン誘導体を式(III)のリジン誘導体と反応させる工程を含み、
【化2】
式中、
Xは、NHまたはOを示し、
Rは、ハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SR、-C~Cアルキルおよびフェニルからなる群から選択され、ここで、-C~Cアルキルまたはフェニル部分は、場合によりハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SRによって置換されており、
は、-NHまたは-OCNであり、
は、-OHまたは-NH-C(=O)-イミダゾールであり、
は、保護基であり、
は、Hまたは保護基であり、かつ
は、-OHまたは-OCHである方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、該保護基が、tert-ブチルオキシカルボニル(boc-基)、カルボベンジルオキシ(Cbz)基、p-メトキシベンジルカルボニル(MozまたはMeOZ)基、tert-ブチルオキシカルボニル(BOC)基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル(Ac)、ベンゾイル(Bz)基、ベンジル(Bn)基、カルバメート基、p-メトキシベンジル(PMB)、3,4-ジメトキシベンジル(DMPM)、p-メトキシフェニル(PMP)基、トシル(Ts)基およびTroc(トリクロロエチルクロロホルメート)からなる群から選択される方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の式(I)の化合物のペプチドまたはタンパク質中への部位特異的組み込みのための方法であって、以下の工程:
a.式(I)の化合物を提供し、
b.式(I)の化合物に対するtRNA装填活性を有する直交tRNAシンテターゼ酵素を有する細胞株を提供し、
c.a)の化合物を含む培養培地中で前記細胞株を培養し、そして
d.培養培地から、または工程c)で得られた細胞から、少なくとも1つの式(I)の化合物を含有する修飾ペプチドまたはタンパク質を回収する;
を含む方法。
【請求項7】
修飾ペプチドまたはタンパク質であって、該ペプチドまたはタンパク質が少なくとも1つの一般式(I)の化合物を含む修飾ペプチドまたはタンパク質。
【請求項8】
請求項7に記載の修飾ペプチドまたはタンパク質であって、前記の少なくとも1つの式(I)の化合物が、野生型ペプチドまたはタンパク質の所望の位置に組み込まれている、修飾ペプチドまたはタンパク質。
【請求項9】
請求項7または8に記載の修飾ペプチドまたはタンパク質であって、前記修飾ペプチドまたはタンパク質のテトラジン部分が、さらに電子に富むジエノフィル化合物または歪んだジエノフィル化合物に連結されている、修飾ペプチドまたはタンパク質。
【請求項10】
請求項9に記載の修飾ペプチドまたはタンパク質であって、前記の電子に富むジエノフィル化合物が、ノルボルネン化合物、シクロプロペン化合物、ビシクロ[6.1.0]ノニル化合物、トランス-シクロオクテン化合物、スチレン化合物またはスピロヘキセン化合物からなる群から選択される、修飾ペプチドまたはタンパク質。
【請求項11】
修飾ペプチドまたはタンパク質を製造する方法であって、以下の工程:
a.請求項7または8に記載の修飾ペプチドまたはタンパク質および電子に富むジエノフィル化合物を提供し、
b.前記の構成要素をインキュベートして、修飾ペプチドまたはタンパク質のテトラジン部分を前記の電子に富むジエノフィル化合物に連結させる;
を含む方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記の電子に富むジエノフィル化合物が、ノルボルネン化合物、シクロプロペン化合物、およびビシクロ[6.1.0]ノニル化合物、トランス-シクロオクテン化合物、スチレン化合物またはスピロヘキセン化合物を含む群から選択される方法。
【請求項13】
一般式(I)の化合物の化学合成のための、または医薬成分のシントンとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、テトラジン部分を有する新規アミノ酸誘導体、その調製のためのプロセスおよびクリック化学または部位特異的タンパク質もしくはペプチド修飾における新規化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] ペプチドおよびタンパク質は、バイオテクノロジー産業の主要な製品である。それらは、療法薬、インビボおよびインビトロでの診断のための検出体、ならびに例えばインプラントまたはバイオセンサーのための表面上のコーティングとして適用される。ペプチドおよびタンパク質は、それらが療法または診断の標的への特異的結合を提供するため、これらの適用に使用される(Hu Q.-Y. et al. (2016))。ペプチドおよびタンパク質の能力を拡張するために、小分子、ポリマーまたは他のタンパク質/ペプチドのような追加の化学的実体が、それらにコンジュゲートされる。現在のコンジュゲーションアプローチは、部位特異的ではないという欠点に悩まされている。そのプロセスは、コンジュゲートの不定形混合物をもたらし、そこではコンジュゲーション結合の位置および数がランダムに分布し、最初は未知である。これは、プロセスがランダムで信頼性が低く、正確な再現性を要求する規制上のハードルを満たすことがより困難であるため、これらの製品の製造において重大な課題となる。
【0003】
[0003] この課題を解決するための最も有望なアプローチの一つは、ペプチドおよびタンパク質中に合成的反応性アミノ酸を部位特異的に組み込むことである。これらの合成的アミノ酸は、天然のペプチドまたはタンパク質には見られない化学官能基を有し、従ってそれらの化学反応に直交する。合成アミノ酸をペプチドまたはタンパク質中に定められた部位において導入し、次いでその合成アミノ酸を所望の付加的な化学的実体と反応させることにより、正確に定められた部位特異的コンジュゲートが達成され得る。
【0004】
[0004] ペプチドに関して、部位特異的組み込みは、ペプチドの化学合成によって所望の位置に合成アミノ酸を配置することによって、簡単に行われる。一方、タンパク質は、原核生物および真核生物のバイオテクノロジー宿主で製造される。これらの宿主における部位特異的組み込みの達成は、タンパク質合成の中心的な細胞プロセスの工学的設計を必要とする。この目的のために、合成的アミノ酸組み込みのための2つの直交する系が開発されてきた;メタノカルドコッカス・ヤンナスキイ(Methanocaldococcus janaschii)由来のチロシルtRNA合成酵素(Young T. S. et al. (2010))およびメタノサルキナ・マゼイ(Methanosarcina mazei)/メタノサルキナ・バケリ(Methanosarcina Bakeri)/メタノメチロフィルス・アルブス(Methanomethylophilus alvus)由来のピロリジルtRNA合成酵素(Wan W. et al. (2014))。チロシルtRNA合成酵素がその同族tRNAにチロシンを装填する一方で、ピロリジルtRNA合成酵素は、古細菌属に特異的な珍しいアミノ酸であるピロリジンを装填する。
【0005】
【化1】
【0006】
[0005] これら2つの系は、合成アミノ酸の効率的組み込みのためにそれらを進化させるためのタンパク質工学アプローチにさらに従属させられる(Owens A. E. et al(2017))。チロシルtRNA合成酵素系は、その天然の機能としてチロシンを組み込むため、フェニルアラニンおよび他の標準的なアミノ酸と同様にチロシンを受け入れ続けるよう、工学的な努力をする傾向がある。従って、この望ましくない活性を最小化するために、手間のかかるネガティブセレクションスクリーニングが適用されなければならない。しかし、多くの場合、それはバックグラウンド活性として残り、合成アミノ酸を組み込んだ場合と組み込んでいない場合とで、異なるタンパク質種の生産につながる。ピロリジル-tRNA系は、ピロリジンの構造が全ての他の標準アミノ酸と十分に異なっているため、この欠点に悩まされず、リジン誘導体のみの特異的組み込みを可能にする。この系を用いて、広範な合成アミノ酸が組み込まれている(Yanagisawa T. et al. (2018), Hohl A. et al. (2017))。
【0007】
[0006] ペプチドおよびタンパク質への組み込みが考慮されている合成アミノ酸は、製品開発に使用するのに適していると考えられるために、要件のリストを満たす必要がある:
-速い反応速度
タンパク質およびペプチドはデリケートな物質であり、製造プロセスの間は注意深く取り扱われ、低温で生理的な条件に保たれる必要がある。従って、コンジュゲーション反応も、これらの条件内で不可逆的に進行すべきであり、理想的には触媒は一切添加されない。現在までに知られている最も適切な反応は、テトラジン類および歪んだジエノフィルの間の逆電子要求ディールス・アルダー(iEDDA)反応である(Lang K. and Chin J. W. (2014))。
【0008】
-安定性
それらの反応性が、使用される合成アミノ酸を溶液中で分解されやすくしている。理想的には、アミノ酸は、生物学的および化学的組み込み条件下で安定であるべきである。合成テトラジンアミノ酸は、生物学的および化学的に安定であるために、一定の構造であるべきである(Eising S. et al. (2018), Zeglis B. M. et al. (2014))。
【0009】
-組み込みの容易さおよび効率
合成アミノ酸組込みの技術の1つの欠点は、タンパク質生産プロセスが天然タンパク質を生産する場合ほど効率的ではないということである。タンパク質の収量を決定する主な要因は、設計されたピロリジル系がいかにうまく合成アミノ酸をそのtRNAに装填するかである。特定の構造は組み込み効率に利益を提供し、従って標的タンパク質のより高収率での生産を可能にし、それは大きな産業的競争優位につながる。
【0010】
-溶解度
産業的発酵プロセスで使用されるべき合成アミノ酸に関して、その成長培地および発酵培地における溶解度が高い必要がある。加えて、それは、それを発酵プロセスの間に供給するために、穏和な(benign)供給原液中で高濃度で溶解させられることができるべきである。成長培地および発酵培地中での溶解度ならびに穏和な供給原液中での溶解度は、化学構造により決定される。
【0011】
[0007] 国際公開第2014117001号は、非置換のテトラジン部分を有する修飾アミノ酸を開示している。国際公開第2014065860号は、官能化された1,2,4,5-テトラジン化合物を開示している。国際公開第2016176689A1号は、フェニルアラニン由来のテトラジンアミノ酸を開示しているが、組み込み効率は約50%しかなく、溶解度は低い。Mayer, S. V. et al. (2019)は、溶解度が低く、組み込み効率が約50%しかないリジン由来のテトラジンアミノ酸を開示している。
【0012】
[0008] 従って、様々な化学基と反応し得るテトラジン部分を有する新規合成アミノ酸に関する必要性が依然として存在する。具体的には、室温の水性条件下で生理的pHにおいて非常に速い速度で反応し、成長培地および発酵培地において、ならびに穏和な原液において高い溶解性を示し、50%を超える高い組み込み効率を示す新規合成アミノ酸に関する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2014117001号
【特許文献2】国際公開第2014065860号
【特許文献3】国際公開第2016176689A1号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Hu Q.-Y. et al. (2016)
【非特許文献2】Young T. S. et al. (2010)
【非特許文献3】Wan W. et al. (2014)
【非特許文献4】Owens A. E. et al(2017)
【非特許文献5】Yanagisawa T. et al. (2018)
【非特許文献6】Hohl A. et al. (2017)
【非特許文献7】Lang K. and Chin J. W. (2014)
【非特許文献8】Eising S. et al. (2018)
【非特許文献9】Zeglis B. M. et al. (2014)
【非特許文献10】Mayer, S. V. et al. (2019)
【発明の概要】
【0015】
[0009] 本発明の目的は、テトラジン基を有する新規合成アミノ酸を提供することである。これらの新規合成アミノ酸は、極性溶媒中での高い溶解度ならびにタンパク質およびポリペプチドの製造における高い組み込み効率を示す。その目的は、本発明の主題によって解決される。
【0016】
[0010] 本発明は、テトラジン部分を有する新規合成アミノ酸、前記合成アミノ酸の製造方法およびそれらの使用に関する。
[0011] 本発明の一態様は、一般式Iの化合物に関し、
【0017】
【化2】
【0018】
式中、
Xは、NまたはOを示し、
Rは、ハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SR、-C1~6アルキルおよびフェニルからなる群から選択され、ここで、-C1~6アルキルまたはフェニル部分は、場合によりハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SRによって置換され、かつ
は、水素またはC1~6アルキルである。
【0019】
[0012] 本発明の一態様によれば、式(I)の化合物は、以下からなる群から選択される:
【0020】
【表1-1】
【0021】
【表1-2】
【0022】
【表1-3】
【0023】
【表1-4】
【0024】
【表1-5】
【0025】
[0013] さらなる態様は、Rがメチルである式(I)の化合物に関する。
[0014] 本発明の一態様は、一般式(I)の化合物を製造するための方法であって、中間体化合物(Ia)を得るために式(II)のテトラジン誘導体を式(III)のリジン誘導体と反応させる工程を含む方法に関し:
【0026】
【化3】
【0027】
式中、
Xは、NまたはOを示し、
Rは、ハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SR、-C~Cアルキルおよびフェニルからなる群から選択され、ここで、-C~Cアルキルまたはフェニル部分は、場合によりハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SRによって置換され、
は、-NHまたは-OCNであり、
は、-OHまたは-NH-C(=O)-イミダゾールであり、
は、保護基であり、
は、Hまたは保護基であり、
は、-OHまたは-OCHであり、かつ
は、水素またはC1-6アルキルである。
【0028】
[0015] さらなる態様は、本明細書に記載される方法に関し、ここで、保護基は、tert-ブチルオキシカルボニル(boc-基)、カルボベンジルオキシ(Cbz)基、p-メトキシベンジルカルボニル(MozまたはMeOZ)基、tert-ブチルオキシカルボニル(BOC)基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル(Ac)基、ベンゾイル(Bz)基、ベンジル(Bn)基、カルバメート基、p-メトキシベンジル(PMB)、3,4-ジメトキシベンジル(DMPM)、p-メトキシフェニル(PMP)基、トシル(Ts)基およびTroc(トリクロロエチルクロロホルメート)からなる群から選択される。
【0029】
[0016] 本発明の一態様は、式(I)の化合物をペプチドまたはタンパク質中に部位特異的に組み込むための方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
-式(I)の化合物を提供し、
-式(I)の化合物に対するtRNA装填活性を有する直交tRNAシンテターゼ酵素を有する細胞株を提供し、
-前記の細胞株をa)の化合物を含む培養培地中で培養し、そして
-培養培地から、または工程c)で得られた細胞から少なくとも1つの式(I)の化合物を含有する修飾ペプチドまたはタンパク質を回収する。
【0030】
[0017] さらなる態様は、修飾ペプチドまたはタンパク質に関し、ここで、ペプチドまたはタンパク質は、少なくとも1つの一般式(I)の化合物を含む。
[0018] さらなる態様によれば、本明細書で記載される修飾ペプチドまたはタンパク質は、野生型ペプチドまたはタンパク質の所望の位置に組み込まれた少なくとも1つの式(I)の化合物を含む。
【0031】
[0019] 本発明の別の態様は、本明細書で記載される修飾ペプチドまたはタンパク質に関し、ここで、前記の修飾ペプチドまたはタンパク質のテトラジン部分は、電子に富むジエノフィル化合物または歪んだジエノフィル化合物にさらに連結される。
【0032】
[0020] 本発明の一態様は、本明細書で記載される修飾ペプチドまたはタンパク質に関し、ここで、前記の電子に富むジエノフィル化合物は、ノルボルネン化合物、シクロプロペン化合物、ビシクロ[6.1.0]ノニル化合物、トランス-シクロオクテン化合物、スチレン化合物またはスピロヘキセン化合物からなる群から選択される。
【0033】
[0021] さらなる態様は、以下の工程を含む、修飾ペプチドまたはタンパク質を製造する方法に関する:
-請求項7または8に従う修飾ペプチドまたはタンパク質および電子に富むジエノフィル化合物を提供し、
-前記の構成要素をインキュベートして、修飾ペプチドまたはタンパク質のテトラジン部分の前記の電子に富むジエノフィル化合物への連結を可能にする。
【0034】
[0022] さらなる態様は、前記の電子に富むジエノフィル化合物がノルボルネン化合物、シクロプロペン化合物、およびビシクロ[6.1.0]ノニル化合物、トランス-シクロオクテン化合物、スチレン化合物またはスピロヘキセン化合物を含む群から選択される本明細書で記載される方法に関する。
【0035】
[0023] 本発明の一態様は、化学合成のための、または医薬成分のためのシントンとしての一般式(I)の化合物の使用に関する。
[0024] 本発明のさらなる態様は、化学におけるビルディングブロックとしての、または医薬成分のためのシントンとしての一般式(I)の化合物の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[0025] 本発明は、テトラジン部分を有する新規合成アミノ酸に関する。この合成アミノ酸化合物は、クリック化学反応において、様々な基、例えば、電子に富むジエノフィル化合物または歪んだジエノフィル化合物と、室温の水性条件下で生理的pHにおいて非常に速い速度で反応することができる。
【0037】
[0026] 従って、本発明の一態様は、一般式(I)の新規アミノ酸化合物に関し:
【0038】
【化4】
【0039】
式中、
Xは、NまたはOを示し、かつ
Rは、ハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SR、-C1~6アルキルおよびフェニルからなる群から選択され、ここで、-C1~6アルキルまたはフェニル部分は、場合によりハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SRによって置換されており、かつ
は、水素またはC1~6アルキルである。
【0040】
[0027] 新規化合物は、化学合成によって提供される。
[0028] 例えば、一般式(I)の化合物を製造するための方法は、中間体化合物(Ia)を得るために、式(II)のテトラジン誘導体を式(III)のリジン誘導体と反応させる工程を含み:
【0041】
【化5】
【0042】
式中、
Xは、NまたはOを示し、
Rは、ハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SR、-C~Cアルキルおよびフェニルからなる群から選択され、ここで、-C~Cアルキルまたはフェニル部分は、場合によりハロゲン、-OR、-C(O)R、-COOR、-NR、-SRによって置換され、
は、-NHまたは-OCNであり、
は、-OHまたは-NH-C(=O)-イミダゾールであり、
は、保護基であり、
は、Hまたは保護基であり、かつ
は、-OHまたは-OCHであり、かつ
は、水素またはC1~6アルキルである。
【0043】
[0029] 保護基(protecting group)または保護基(protective group)は、その後の化学反応において化学選択性を得るために、官能基の化学修飾によって分子中に導入される。アミンのための適切な保護基は、例えばカルボベンジルオキシ(Cbz)基、p-メトキシベンジルカルボニル(MozまたはMeOZ)基、tert-ブチルオキシカルボニル(BOC)基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、アセチル(Ac)基、ベンゾイル(Bz)基、ベンジル(Bn)基、カルバメート基、p-メトキシベンジル(PMB)基、3,4-ジメトキシベンジル(DMPM)基、p-メトキシフェニル(PMP)基、トシル(Ts)基およびTroc(トリクロロエチルクロロホルメート)基からなる群から選択される。本発明の一態様において、保護基は、tert-ブチルオキシカルボニル(BOC)基である。
【0044】
[0030] 本発明のさらなる態様は、予め定められた部位に前記テトラジン部分を有する単一のアミノ酸または複数のアミノ酸を含むペプチドまたはタンパク質に関する。予め定められた部位にテトラジン部分を有するアミノ酸を有することは、正確に定められたペプチドまたはタンパク質コンジュゲートを製造する能力を提供する。テトラジン部分を有するアミノ酸を有することは、定められていない、ランダム標識または不完全標識の問題を回避する(反応が完了しない場合、結果として不均一な生成物がもたらされる可能性があり、それは、テトラジン部分を有する合成アミノ酸によって有用に対処される問題で有り得る)。
【0045】
[0031] 本発明のいくつかの態様は、単一または複数のテトラジン部分を含むペプチドまたはタンパク質を製造する方法に関し、前記の方法は、テトラジン部分を含む合成アミノ酸をペプチドまたはタンパク質中に遺伝的に組み込むことを含む。テトラジン部分を遺伝的に組み込むことは、定められたペプチドまたはタンパク質コンジュゲートの正確な構築を可能にする。テトラジン部分の位置は、正確に制御されることができる。これは、天然のアミノ酸中に存在する化学官能基を用いた複雑な反応工程にペプチドまたはタンパク質全体を供する必要性を有利に回避する。
【0046】
[0032] 適切には、ペプチドまたはタンパク質を製造するために記載される方法は、以下の工程を含む:
(i)ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸を提供する工程であって、その核酸がテトラジン部分を有するアミノ酸をコードする直交コドンを含む工程;
(ii)前記直交コドンを認識することができる直交tRNA合成酵素/tRNA対の存在下で前記核酸を翻訳し、テトラジン部分を有する前記アミノ酸をペプチドまたはタンパク質鎖中に組み込む工程。適切には、前記直交コドンはアンバーコドン(TAG)を含み、前記tRNAはtRNAcuAを含み、前記tRNA合成酵素は生物メタノサルキナ・マゼイ/メタノサルキナ・バケリ/メタノメチロフィルス・アルブス由来のPylRSを含む。
【0047】
[0033] 適切には、前記化合物は表1に列挙される。
【0048】
【表2-1】
【0049】
【表2-2】
【0050】
【表2-3】
【0051】
【表2-4】
【0052】
【表2-5】
【0053】
[0034] ある態様において、ペプチドまたはタンパク質は、単一のテトラジン部分を含む。これは、テトラジン部分に向けられる可能性のあるあらゆるさらなる化学修飾に関して特異性を提供するという利点を有する。例えば、対象のペプチドまたはタンパク質中に単一のテトラジン部分のみが存在する場合、部分的修飾(例えば、ペプチドまたはタンパク質中のテトラジン部分の部分集合のみがその後修飾される)の可能性の問題、または同じペプチドまたはタンパク質中の代替のテトラジン部分の間で変動する反応微小環境の問題(それは、ペプチドまたはタンパク質中の異なる位置にある異なるテトラジン部分(単数または複数)の間の不均等な反応性につながる可能性がある)が回避される。従って、ある態様において、ペプチドまたはタンパク質は、単一のテトラジン残基を含む。
【0054】
[0035] テトラジン部分の組み込みの重要な利点は、標識または医薬的に有効な物質のようなある範囲の極めて有用なさらなる化合物が、テトラジン部分に容易かつ特異的に結合することを可能にすることである。
【0055】
[0036] 本明細書で記載される化合物および方法は、ジエンおよびジエノフィルを含むディールス・アルダー対の使用を含む。ジエン(例えば、テトラジン)のジエノフィル(例えば、アルケンまたはアルキン)との逆電子要求性ディールス-アルダー環化付加反応は、不安定な環化付加物を生成し、それは、続いて逆ディールス-アルダー環化付加反応を受け、副産物として二窒素を生成し、所望のジヒドロピラジン(アルケンとの反応後)またはピラジン(アルキンとの反応後)生成物を生成する。ジヒドロピラジン生成物は、対応するピラジンを生成するために、さらなる酸化工程を受け得る。ジエノフィルは、好ましくは末端二重結合を含有しない化学的部分であり得る。例えば、ジエノフィルは、シクロプロペン、アルケン、ノルボルナジエン、アゾノルボルナジエン、オキソノルボルナジエン、トランス-シクロオクテン、ノルボルネン、またはビニルエーテルである。本発明のさらなる態様は、電子に富むジエノフィル化合物または歪んだジエノフィル化合物に連結された前記テトラジン部分に関する。歪んだジエノフィルは、例えばノルボルネンおよびトランス-シクロオクテンである。
【0056】
[0037] 電子に富むジエノフィル化合物または歪んだジエノフィル化合物は、さらにフルオロフォアに、またはPEG基に、または医薬的に有効な物質に、または別のタンパク質もしくはペプチドもしくは糖ポリマーもしくは固体表面に結合されていることができる。
【0057】
[0038] 原則として、本発明は、ペプチドまたはタンパク質中のあらゆる位置に適用されることができる。適切には、本発明は、ペプチドまたはタンパク質のN末端アミノ酸には適用されない。対象のペプチドまたはタンパク質中の標的とされるアミノ酸の位置を選択する場合、表面残基を選択するのが有利である。表面残基は、配列解析により、または三次元分子モデリングにより決定されることができる。表面残基は、当技術分野で知られているあらゆる適切な方法によって決定されることができる。表面残基を標的にする利点は、フルオロフォアのような色素または生物物理学的標識のような標識の提示がより良好であることを含む。表面残基を標的とする利点は、より単純な、またはより効率的な下流の修飾を含む。表面残基を標的にする利点は、標識の適用によってペプチドまたはタンパク質の構造および/または機能が破壊される可能性がより低いことを含む。
【0058】
[0039] 対象のペプチドまたはタンパク質において標的とされるのに特に適切なアミノ酸残基は、非疎水性残基、例えば、親水性残基または極性残基を含む。疎水性残基は、本発明によれば標的とされるのにそれ程好ましくない。グリシン、アラニン、セリン、イソロイシン、ロイシン、トレオニン、グルタミン酸、プロリン、メチオニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジン、またはシステインのようなアミノ酸が適切に標的とされる。好ましくは、グリシン、アラニン、セリンまたはリジンが適切な標的である。“標的とされる”は、本明細書で用いられる際、標的とされる残基に関するコドンを直交コドンに置換し、本明細書で記載されるようにペプチドまたはタンパク質を合成することを意味する。
【0059】
[0040] 別の側面において、本発明は、上記のような均質な組換えペプチドまたはタンパク質に関する。適切には、前記のペプチドまたはタンパク質は、上記のような方法によって製造される。
【0060】
[0041] 本発明のさらなる態様は、本明細書で記載される方法(単数または複数)に従って製造されたペプチドまたはタンパク質に関する。それらの新規な方法の産物であると同時に、そのようなペプチドまたはタンパク質は、テトラジン部分を含むという有利な技術的特徴を有する。
【0061】
[0042] 変異は、当該技術分野におけるその通常の意味を有し、言及される残基、モチーフまたはドメインの置換または切り詰めまたは欠失を指し得る。変異は、例えば変異した配列を有するペプチドもしくはタンパク質の合成によってペプチドもしくはタンパク質レベルで達成され得るか、または例えば変異した配列をコードする核酸を作製することによって、ヌクレオチドレベルで達成され得、その核酸は、その後、変異したペプチドまたはタンパク質を産生するために翻訳され得る。所定の変異部位に関する置換アミノ酸としてアミノ酸が指定されない場合、適切には、前記の部位のランダム化が使用され得る。
【0062】
[0043] フラグメントは、少なくとも10アミノ酸長、または少なくとも25アミノ酸長、または少なくとも50アミノ酸長、または少なくとも100アミノ酸長、または少なくとも200アミノ酸長、または少なくとも250アミノ酸長、または少なくとも300アミノ酸長、または対象のペプチドまたはタンパク質の大部分である。
【0063】
[0044] 本発明による方法において、前記遺伝的組込みは、好ましくは直交または拡張遺伝暗号を使用し、ここで、直交tRNA合成酵素/tRNA対を使用して遺伝的に組み込まれることができるように、テトラジン部分を有する特定のアミノ酸残基をコードするために、1つ以上の特定の直交コドンが割り当てられている。直交tRNA合成酵素/tRNA対は、原則として、tRNAにテトラジン部分を含むアミノ酸を装填することができ、直交コドンに応答してテトラジン部分を含むアミノ酸をペプチドまたはタンパク質鎖中に組み込むことができる対であればどのようなものであることもできる。直交コドンは、直交コドンアンバー、オーカー、オパール、または4重コドンもしくはあらゆる他の3重コドンであることができる。コドンは単に、テトラジン部分を含むアミノ酸を運搬するために使用されるであろう直交tRNAに対応しなければならない。好ましくは、直交コドンはアンバーである。
【0064】
[0045] 本明細書で記載される方法に関する対象のペプチドまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、組換え複製可能なベクター中に組み込まれることができる。ベクターは、適合性の宿主細胞において核酸を複製するために使用され得る。従って、さらなる態様において、本発明は、本発明によるポリヌクレオチドを複製可能なベクター中に導入し、ベクターを適合性の宿主細胞中に導入し、ベクターの複製を可能にする条件下で宿主細胞を増殖させることにより本発明のポリヌクレオチドを製造する方法を提供する。ベクターは宿主細胞から回収されることができる。適切な宿主細胞は、大腸菌のような細菌ならびにS.セレビシエおよびP.パストリスのような酵母ならびに昆虫細胞、HEK細胞およびチャイニーズハムスター卵巣細胞のようなより高等な真核宿主細胞を含む。
【0065】
[0046] 好ましくは、ベクター中の本発明のポリヌクレオチドは、宿主細胞によるコード配列の発現を提供することができる制御配列に作動可能に連結されており、すなわちベクターは発現ベクターである。“作動可能に連結された”という用語は、記載された構成要素がそれらの意図された方法で機能することを可能にする関係にあることを意味する。コード配列に“作動可能に連結された”制御配列は、コード配列の発現が制御配列と適合可能な条件下で達成されるような方式でライゲーションされている。本発明のベクターは、本発明のタンパク質の発現を提供するために、記載されるように適切な宿主細胞中に形質転換またはトランスフェクションされ得る。このプロセスは、タンパク質をコードするコード配列のベクターによる発現を提供する条件下で上記のような発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養することおよび場合により発現されたタンパク質を回収することを含み得る。
【0066】
[0047] ベクターは、例えば、複製起点、場合により前記ポリヌクレオチドの発現のためのプロモーターおよび場合によりプロモーターのレギュレーターを備えるプラスミドまたはウイルスベクターであり得る。ベクターは、1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子、例えば細菌プラスミドの場合にはアンピシリン耐性遺伝子を含有することができる。ベクターは、例えば宿主細胞をトランスフェクションまたは形質転換するために使用され得る。
【0067】
[0048] 本発明のタンパク質をコードする配列に作動可能に連結された制御配列は、プロモーター/エンハンサーおよび他の発現調節シグナルを含む。これらの制御配列は、発現ベクターがその中で使用されるように設計された宿主細胞に適合可能であるように選択され得る。プロモーターという用語は当技術分野で周知であり、最小プロモーターから上流のエレメントおよびエンハンサーを含むプロモーターまでのサイズおよび複雑さの範囲の核酸領域を包含する。
【0068】
[0049] 本発明の別の側面は、適切には細菌細胞または真核細胞において、テトラジン含有アミノ酸(単数または複数)を選択したタンパク質中に遺伝的かつ部位特異的に組み込む方法、例えばインビボでの方法である。前記の方法によって遺伝的に組み込むことの一つの利点は、この態様ではそれらが標的細胞中で直接合成され得るので、一度形成されたらテトラジンアミノ酸を含むタンパク質を細胞中に送達する必要性がなくなることである。その方法は、以下の工程を含む:
i)タンパク質をコードするヌクレオチド配列の所望の部位に、アンバーコドンのような直交コドンを導入し、または特定のコドンをアンバーコドンのような直交コドンで置き換え、
ii)直交tRNA合成酵素/tRNA対の発現系、例えば設計されたピロリジルtRNA合成酵素/tRNA対を細胞中に導入し、
iii)本発明によるテトラジン含有アミノ酸を含む培地中で細胞を増殖させる。
【0069】
[0050] 工程(i)は、タンパク質の遺伝子配列中の所望の部位において、特定のコドンをアンバーコドンのような直交コドンで置き換えることを伴うか、または置き換える。これは、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有するコンストラクト、例えばプラスミドを単に導入することによって達成されることができ、ここで、テトラジン含有アミノ酸が導入される/置き換えられることが所望される部位が、直交コドン、例えばアンバーコドンを含むように変更される。これは十分に当業者の能力の範囲内であり、そのような例は本明細書で与えられる。
【0070】
[0051] 工程(ii)は、所望の位置(例えばアンバーコドン)にテトラジン含有アミノ酸を特異的に組み込むための直交発現系を必要とする。従って、直交的な設計されたピロリジルtRNA合成酵素のような特異的な直交tRNA合成酵素および前記のtRNAにテトラジン含有アミノ酸を装填することが一緒にできる特異的な対応する直交tRNA対が必要である。これらの例は、本明細書において提供される。
【0071】
[0052] 本発明によるポリヌクレオチドを含む宿主細胞は、本発明のタンパク質を発現するために使用されることができる。宿主細胞は、本発明のタンパク質の発現を可能にする適切な条件下で培養され得る。本発明のタンパク質の発現は、それらが継続的に産生されるように構成的であることができ、または発現を開始するために刺激を必要とする誘導性であることもできる。誘導性発現の場合、タンパク質の産生は、例えば誘導物質、例えばデキサメタゾンまたはIPTGの培養培地への添加によって必要に応じて開始されることができる。
【0072】
[0053] 本発明のペプチドまたはタンパク質は、酵素的、化学的および/または浸透圧的溶解ならびに物理的破壊を含む、当技術分野で既知の種々の技法によって宿主細胞から抽出されることができる。
【0073】
[0054] 本発明のペプチドまたはタンパク質は、当技術分野で既知の標準的な技法、例えば分取クロマトグラフィー、親和性精製またはあらゆる他の適切な技術によって精製されることができる。
【0074】
[0055] 適切には、対象のペプチドまたはタンパク質中に組み込まれたテトラジン部分は、電子に富むジエノフィルまたは歪んだジエノフィル化合物と反応させられる。電子に富むジエノフィルまたは歪んだジエノフィル化合物は、テトラジン部分を介してペプチドまたはタンパク質に目的の分子を都合よく結合させるように作用する。従って、電子に富むジエノフィルまたは歪んだジエノフィル化合物は、既に対象の分子を有していることができる。
【0075】
[0056] 適切には、前記の電子に富むジエノフィルまたは歪んだジエノフィル化合物は、テトラジン反応を介してペプチドまたはタンパク質に同じものを結合させるために、あらゆる適切な対象分子にさらに結合させることができる。
【0076】
[0057] 本発明のテトラジン含有ペプチドまたはタンパク質は、フルオロフォア以外の他の生物物理学的標識、例えばNMRプローブ、スピン標識プローブ、IR標識、EMプローブ、ならびに小分子、オリゴヌクレオチド、脂質、ナノ粒子、量子ドット、生物物理学的プローブ(EPR標識、NMR標識、IR標識)、小分子(ビオチン、薬物、脂質)、オリゴヌクレオチド(DNA、RNA、LNA、PNA)、粒子(ナノ粒子、ウイルス)、ポリマー(PEG、PVC)、タンパク質、ペプチド、表面等に好都合にコンジュゲートされることができる。
【0077】
[0058] テトラジン部分を有する新規アミノ酸は、ペプチドまたはタンパク質中への組込みに特に有用である。従って、ペプチドまたはタンパク質の電子に富むジエノフィルまたは歪んだジエノフィル部分を有する部分へのコンジュゲーションが想定される。修飾されたペプチドまたはタンパク質は、有効医薬成分に関するビルディングブロックとして使用されることができる。テトラジン部分を有する新規アミノ酸化合物は、ペプチド化学におけるビルディングブロックとして、および医薬成分のための新規シントンとして、信じられないほど有用であり得る。
【0078】
[0059] 化合物は、ペプチドもしくはタンパク質、またはそれらの類似体もしくは前駆体の化学的もしくは酵素的合成のためのビルディングブロックとして特に有用である。用語“ビルディングブロック”は、化学的または酵素的操作において使用される構造単位を指すものと理解される。
【0079】
[0060] 本発明の文脈において、用語“シントン”は、化学反応において、例えば有効医薬成分の合成において、対象の特定の化合物に関する合成均等物であるか、または合成均等物として使用されることができる化合物を指す。
【実施例
【0080】
方法:
テトラジン部分に尿素基を介して連結されたアミノ酸化合物の合成。
【0081】
【化6】
【0082】
[0061] 2mmolの3-(アミノメチル)ベンゾニトリルをN下で10mmolのアセトアミジン塩酸塩と混合することにより合成した。次いで、無水ヒドラジン(2mL)を攪拌しながら固体混合物にゆっくりと添加した。次いで、反応混合物を室温で、または加熱しながら30分間~2時間攪拌した。水中の亜硝酸ナトリウム(10mmol)を反応混合物に添加し、続いて溶液がおおよそpH3に達するまで2%水性塩酸を滴加した。溶液は赤色に変化し、発泡しなくなり、ジヒドロテトラジンがテトラジンに酸化されたことを示した。
【0083】
[0062] 酸化された酸性溶液を、有機層が無色になるまでジクロロメタン(DCM)で抽出した。有機性画分を廃棄し、次いで水層をNaClで飽和させ、固体NaHCOの添加により塩基性化し、直ちにDCMで抽出した。次いで、有機層をMgSOで乾燥させ、濾過し、溶媒を回転蒸発により除去し、1-[3-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)フェニル]メタンアミンを含む粗生成物混合物を得た(Karver M.R., et al. (2011)。
【0084】
【化7】
【0085】
[0063] 65mLの乾燥CHCl中のBoc-Lys-OMe((2)、3.3g、12.7mmol)の溶液を、20mLの乾燥CHCl中の1,1’-カルボニル-ジ-イミダゾール(4g、24.8mmol)の溶液中に、0℃で1時間かけて滴加した。Boc-Lys-OMeの添加後、温度を徐々に室温まで上昇させ、溶液を室温で一晩撹拌した。反応をTLC(薄層クロマトグラフィー(Chromotography))上でIまたはKMnOによりモニターし、反応溶液をブラインで洗浄した。水相をCHClで2回抽出し、一方で有機相を合わせ、NaSO上で乾燥させ、真空下で蒸発させ、生成物(3)をCHCl/MeOH(25:1)によるフラッシュクロマトグラフィーで85%の収率で溶離した。
【0086】
【化8】
【0087】
[0064] 活性化リジン誘導体((3)、1.9g、5.4mmol)およびテトラジン-アミン(1.19g、5.9mmol)を30mLの乾燥CHCN中で混合し、反応を50℃で24時間撹拌し、次いで溶媒を蒸発させた。生成物を80mLのCHCl中で溶解させた。有機相を30mLの1M HClおよび20mLの飽和NaHCOで洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空下で蒸発させた。最終生成物(4)をフラッシュクロマトグラフィーによりCHCl/MeOH(30:1)で溶離した(Zhang M. et al., (2011))。
【0088】
【化9】
【0089】
[0065] TFAを用いた標準的なBoc-脱保護により、所望の化合物(5)を得た。
カルバメート基を介してテトラジン部分に連結されたアミノ酸化合物の合成。
【0090】
【化10】
【0091】
[0066] 1-[3-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)フェニル]メタンアミン(1)を上記のように得た。さらなる合成は、Charalambides Y.C.およびMoratti S. C. (2007)によって記載されたようなプロセスに類似している。EtOAc(100mL)中のトリホスゲン(2.52g、8.50mmol、0.5当量)の溶液に、EtOAc(40mL)中の1-[3-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)フェニル]メタンアミン((1)、17.00mmol)を少量ずつ添加した。次いで混合物を窒素下で4時間還流させた。反応を室温まで冷却させた後、溶媒を減圧下で蒸発させ、得られた残留物をクーゲルロール装置中で蒸留させ、生成物((6),(87%))を淡黄色液体として得た。
【0092】
【化11】
【0093】
[0067] 中間体化合物(8)は、Torres-Kolbus J. et al. (2014)により記載されたように合成された。簡潔には、6-ヒドロキシ-Boc-L-ノルロイシン-OH((7),25mg,0.10mmol)を、乾燥DCM(1mL)およびDIPEA(53mL,0.30mmol)の溶液中で溶解させた。溶液を0℃に冷却した後、テトラジンイソシアネート((1),0.20mmol)を添加し、反応を40℃で一夜進行させた。室温まで冷却した後、混合物をDCM(3mL)で希釈し、5%クエン酸(4mL)を添加した。水層をDCM(3×4mL)で抽出し、合わせた有機層を水(10mL)およびブライン(5mL)で洗浄した。得られた有機層をNaSO上で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮して乾燥させ、生成物(8)を得た。
【0094】
【化12】
【0095】
[0068] 所望の化合物(9)を、TFAを用いた標準的なBoc-脱保護により得た。
タンパク質中への組み込み:
[0069] メタノサルキナ、メタノカルドコックス、メタノメチロフィルスもしくは他の由来のピロリジルtRNA合成酵素である野生型ピロリジルtRNA合成酵素から得られる変異型ピロリジルtRNA合成酵素、および/または変異型ピロリジルtRNA合成酵素が、ピロリジンtRNAをアミノアシル化し、本明細書で記載されるようにアミノ酸を組み込む。
【0096】
赤色蛍光タンパク質(RFP)中へのテトラジンアミノ酸の組み込み
[0070] 古細菌由来のピロリジルtRNA合成酵素(例えばメタノサルキナまたはメタノカルドコッカスまたはメタノメチロフィルス等)である野生型ピロリジルtRNA合成酵素から得られる変異型ピロリジルtRNA合成酵素、および/または変異型ピロリジルtRNA合成酵素は、ピロリジンtRNAをアミノアシル化し、本明細書で記載されるようにアミノ酸を組み込む。変異型ピロリジルtRNA合成酵素は、構造誘導型部位飽和変異誘発、または定向進化、または組み合わせのような最先端のタンパク質工学技術によって生成された。また、遺伝子シャッフリングのような他の技術も可能であろう。
【0097】
[0071] 変異型ピロリジルtRNA合成酵素および対応するアンバーサプレッサーピロリジンtRNAを、pColE1複製起点、アミノ酸位置20にインフレームのアンバー停止コドンを有する赤色蛍光タンパク質レポーターのバリアント、ならびにC末端ヘキサヒスチジンタグおよびカナマイシン耐性遺伝子を保有する発現ベクター中に導入した。変異型ピロリジルtRNA合成酵素は、アラビノース誘導性プロモーターから発現され、サプレッサーピロリジンtRNAは、この目的に一般的に用いられる構成的プロモーターから発現された。
【0098】
[0072] 上記の発現ベクターを保有する大腸菌細胞を、C源として1~2%のグルコースを含む50mLのM9最小培地、または50μg/mLのカナマイシン(Roth)を含む標準2xYT培地をそれぞれ含有する250mLのフラスコ中で培養した。培養は、37℃で160~180rpmのオービタルシェーカーでインキュベートした。D600が0.8~1.0の時点で、0.2%(w/v)のアラビノース(Roth)を添加することによりPylRSの発現を誘導した。加えて、0.1~10mMのテトラジン-リジンを0.1M HClもしくはDMSOもしくはHOに溶解させたものまたは前記の混合物。発現は、4~24時間の間実施された(温度は標的タンパク質によって調節されることができる;RFPに関しては37℃)。細胞は、遠心分離(5,000g、4℃で30分間)により回収された。RFPバリアントは、製造業者の指示に従って、Ni-NTAアガロースを用いたNi2+アフィニティークロマトグラフィーによって精製された。
【0099】
[0073] テトラジン-リジンを有する精製されたRFPバリアントは、反応パートナーとしてTCO-TAMRAのような蛍光色素を有するトランス-シクロオクテン(TCO)を適用するコンジュゲーション化学によって修飾された。反応は100mM MES緩衝液pH6中で実施され、4-24時間インキュベートされた。TAMRAで標識したRFP試料は、製造業者の指示に従って、あらかじめキャストしたSDSゲル上で分離された。ゲルはTAMRA蛍光を検出するためにUV光に曝露され、続いて標準的な手順に従ってクマシーブルーで染色された。RFPの予想されるサイズのバンド(約28kDa、スキームI参照)を切り取った。
【0100】
[0074] タンデム質量分析によるペプチド配列決定によって、テトラジン-リジン化合物の存在ならびにTAMRA修飾が確認された。TAMRA修飾の成功は、RFPの大きさでTAMRA蛍光に関するシグナルを得ることによっても確認された。
【0101】
化学的クリック反応
[0075] 一般式(I)の化合物は、化学的クリック反応において特に有用である。
3-メチル-6-フェニルテトラジンのジエノフィルおよび歪んだジエノフィルパートナーとの反応。
【0102】
[0076] テトラジン部分は、トランス-シクロオクテン、シクロプロペン、ノルボルネン、スピロヘキセン、またはスチレンと反応する。反応は通常、6.5~8の生理的pH値において水性環境で、塩濃度および緩衝剤濃度を変動させて実施される。温度は、0℃~100℃の範囲である。
【0103】
スキームI-化学的クリック反応
・TCO-テトラジン反応
【0104】
【化13】
【0105】
・シクロプロペン-テトラジン反応
【0106】
【化14】
【0107】
・ノルボルネン-テトラジン反応
【0108】
【化15】
【0109】
・スピロヘキセン-テトラジン反応
【0110】
【化16】
【0111】
・スチレン-テトラジン反応
【0112】
【化17】
【0113】
参考文献
【0114】
【化18】
【国際調査報告】