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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】変圧器鉄心及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/245 20060101AFI20240514BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H01F27/245 150
H01F41/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572814
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 KR2022008124
(87)【国際公開番号】W WO2022260448
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0074504
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】シム、 ホ-キュン
【テーマコード(参考)】
5E062
【Fターム(参考)】
5E062AA06
5E062AC01
(57)【要約】
本発明は、無負荷損失及び無負荷騒音の少ない変圧器鉄心及びその製造方法に関するものであって、変圧器鉄心は、複数の電気鋼板が積層されて形成され、互いに平行な一対のヨークと、複数の電気鋼板が積層されて形成され、一対の上記ヨークを連結するレグと、を含み、上記ヨークと上記レグとが連結される結合部において、上記ヨークを構成する電気鋼板の端部と上記レグを構成する電気鋼板の端部とは、互いに対応する傾斜面を備え、上記傾斜面の形状が合わせられ、上記ヨークを構成する一つの電気鋼板は、上記ヨークを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層され、上記レグを構成する一つの電気鋼板は、上記レグを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層されることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電気鋼板が積層されて形成され、互いに平行な一対のヨークと、
複数の電気鋼板が積層されて形成され、一対の前記ヨークを連結するレグと
を含み、
前記ヨークと前記レグとが連結される結合部において、前記ヨークを構成する電気鋼板の端部と前記レグを構成する電気鋼板の端部とは、互いに対応する傾斜面を備え、前記傾斜面の形状が合わせられ、
前記ヨークを構成する一つの電気鋼板は、前記ヨークを構成する他の電気鋼板にステップラップ(step lap)方式で積層され、前記レグを構成する一つの電気鋼板は、前記レグを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層される、変圧器鉄心。
【請求項2】
前記結合部において、前記電気鋼板の傾斜面又は前記傾斜面の周辺に絶縁性接合剤が塗布される、請求項1に記載の変圧器鉄心。
【請求項3】
前記傾斜面の周辺は、前記電気鋼板上において前記結合部の対角線を斜辺にして直角三角形を構成する領域を含む、請求項2に記載の変圧器鉄心。
【請求項4】
前記電気鋼板は、前記ヨークの電気鋼板の端部と前記レグの電気鋼板の端部とが接触して重なる接触領域の長さが、少なくとも前記傾斜面が前記電気鋼板の積層面に投影された長さよりも長くなるように積層される、請求項1に記載の変圧器鉄心。
【請求項5】
複数の電気鋼板を準備し、前記電気鋼板をヨークとレグの形状に加工する段階と、
前記電気鋼板に絶縁性接合剤を部分的に塗布し積層して鉄心積層体を形成する段階と、
前記鉄心積層体に圧力を加えた状態で熱処理する段階と
を含み、
前記加工する段階は、前記電気鋼板の端部を斜めに切断又は切削して傾斜面を形成する段階を含み、
前記鉄心積層体を形成する段階は、前記ヨークを構成する一つの電気鋼板を、前記ヨークを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層し、前記レグを構成する一つの電気鋼板を、前記レグを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層する、変圧器鉄心の製造方法。
【請求項6】
前記接合剤は、前記電気鋼板の傾斜面又は前記傾斜面の周辺に塗布される、請求項5に記載の変圧器鉄心の製造方法。
【請求項7】
前記接合剤は、0.2~5.0g/mmの範囲の量で塗布される、請求項6に記載の変圧器鉄心の製造方法。
【請求項8】
前記電気鋼板は、前記ヨークの電気鋼板の端部と前記レグの電気鋼板の端部とが接触して重なる接触領域の長さが、少なくとも前記傾斜面が前記電気鋼板の積層面に投影された長さよりも長くなるように積層される、請求項5に記載の変圧器鉄心の製造方法。
【請求項9】
前記鉄心積層体を形成する段階は、前記ヨークの形状に加工された電気鋼板と前記レグの形状に加工された電気鋼板とを鉄心の形状に合わせて配列し、接合及び積層する、請求項5に記載の変圧器鉄心の製造方法。
【請求項10】
前記鉄心積層体を形成する段階は、
前記ヨークの形状に加工された電気鋼板を積層してヨーク積層体を得る段階と、
前記レグの形状に加工された電気鋼板を積層してレグ積層体を得る段階と、
前記ヨーク積層体と前記レグ積層体を組み立てて接合する段階と
を含む、請求項5に記載の変圧器鉄心の製造方法。
【請求項11】
前記圧力は0.01~0.8MPaの範囲である、請求項5に記載の変圧器鉄心の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理は、前記鉄心積層体の温度が70~180℃の範囲内にあるようにして最小20分以上を保持する、請求項5に記載の変圧器鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無負荷損失及び無負荷騒音の少ない変圧器鉄心及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器は、電磁誘導現象を利用して交流電圧及び電流値を変化させる装置であって、電子製品に必ず必要な部品の一つである。変圧器は、磁性を有する鉄心の周りに電気伝導体であるコイルを巻いて製造される。この時、磁気的な損失が少ない電気鋼板を鉄心として使用し、このような鉄心は積鉄心と巻鉄心とに分けられる。
【0003】
変圧器の主な特性としては損失と騒音が挙げられるが、特に変圧器の使用の有無にかかわらず瞬間ごとに発生する電力損失である無負荷損失と無負荷騒音は制度的に規制されている。これにより、無負荷損失と無負荷騒音を減少させるための様々な方案が提示されている。例えば、特許文献1では、ステップラップ(step lap)鉄心の一例が開示されている。この技術は、電気鋼板を一枚ずつ積層して鉄心の結合部を形成する際に、鉄心の厚さ方向に沿ってW形状に離隔部が生成されるように積層することにより、鉄心の構造的な剛性を増加させることができる。
【0004】
しかし、鉄心の結合部において、各電気鋼板の切断面が電気鋼板の積層面に対して直角に延長して隣り合う他の電気鋼板と直角に段差をなす離隔部を形成し、鉄心の組立状態を固定するためには鉄心を貫通するホールが必要である。
【0005】
このような離隔部とホールには空気媒質が存在し、磁気抵抗が非常に大きいため、離隔部又はホールが存在しない鉄心領域に磁場が集中するボトルネック現象が現れる。これにより、局所的に磁束密度が高く形成され、電気鋼板の特性上、鉄損が急激に増加する。また、ホールは容易な組み立てのために十分な公差を有しているが、そのため結合部における間隔と不均一な整列を引き起こす。
【0006】
これを解決するために、本出願人は、特許文献2において、ステップラップ鉄心を構成する各電気鋼板の上下面(積層面)に絶縁性接合剤を塗布して積層する技術を提示した。この技術は無負荷損失を減少できるものの、無負荷騒音が急激に悪化する現象が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1302830号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10-2109279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、無負荷損失及び無負荷騒音の少ない変圧器鉄心及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る変圧器鉄心は、複数の電気鋼板が積層されて形成され、互いに平行な一対のヨークと、複数の電気鋼板が積層されて形成され、一対の上記ヨークを連結するレグと、を含み、上記ヨークと上記レグとが連結される結合部において、上記ヨークを構成する電気鋼板の端部と上記レグを構成する電気鋼板の端部は互いに対応する傾斜面を備え、上記傾斜面の形状が合わせられ、上記ヨークを構成する一つの電気鋼板は、上記ヨークを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層され、上記レグを構成する一つの電気鋼板は、上記レグを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層されることができる。
【0010】
本発明に係る変圧器鉄心の製造方法は、複数の電気鋼板を準備し、上記電気鋼板をヨークとレグの形状に加工する段階と、上記電気鋼板に絶縁性接合剤を部分的に塗布し積層して鉄心積層体を形成する段階と、上記鉄心積層体に圧力を加えた状態で熱処理する段階と、を含み、上記加工する段階は、上記電気鋼板の端部を斜めに切断又は切削して傾斜面を形成する段階を含み、上記鉄心積層体を形成する段階は、上記ヨークを構成する一つの電気鋼板を、上記ヨークを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層し、上記レグを構成する一つの電気鋼板を、上記レグを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、変圧器の無負荷損失が低くなり、無負荷騒音が減少し、変圧器の性能が向上する効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例に係る変圧器鉄心を示す斜視図である。
図2】ステップラップ鉄心の結合部を図1のA方向から見た図であって、(a)は従来の鉄心、(b)及び(c)は本発明の鉄心において電気鋼板の積層状態を示す。
図3】本発明の一実施例に係る変圧器鉄心において接着剤の塗布領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
変圧器のコイルのうち、一次コイルは電圧を変更すべき入力回路に連結され、二次コイルは変更された電圧が使用される出力回路に連結される。ここで、一次コイルと二次コイルの電気的なエネルギーを互いに連結するために磁気的なエネルギーが使用される。
【0014】
二次コイルに連結された電力負荷の使用の有無に応じて、無負荷特性及び負荷特性に分けられる。無負荷特性は負荷がない場合であって、変圧器の動作の有無にかかわらず常に一定に発生し、鉄心で消耗される電力損失を無負荷損失といい、このときに発生する騒音を無負荷騒音という。
【0015】
これに対し、負荷特性は、二次コイルに連結された負荷において電力を使用するときに発生し、コイルで消耗されるジュール熱(Joule loss)によって負荷損失が決定され、コイルと鉄心の電磁力によって負荷騒音が現れる。
【0016】
無負荷損失を減少させる方案としては、鉄損(iron loss)の少ない電気鋼板を鉄心として使用することができる。電気鋼板の厚さが厚いほど鉄損が増加するため、できるだけ薄い厚さの電気鋼板を選択することが好ましい。
【0017】
無負荷騒音は電気鋼板に磁場が流れると、収縮及び膨張を繰り返す一連の揺れが発生(これを磁気変形(磁歪)という)し、この揺れにより変圧器で振動と騒音が生じるようになる。
【0018】
より具体的に、電気鋼板の外部から磁場が流入すると、電気鋼板の素地鉄内に微細な領域の磁区(magnetic domain)において一連の収縮及び膨張が発生するが、その周期は一定ではない。これにより、積層された鉄心内の一枚ずつの電気鋼板別に固有の揺れが異なって発生する。
【0019】
実際には、一枚ごとに様々な振動パターンを有するため、振動が非常に複雑になる。これにより、揺れの周期が急激に短くなり、つまり、振動周波数が急激に増加するようになる。また、高調波振動が連鎖的に発生し、微振動として現れる。
【0020】
結局、振動周波数が増加し、高調波が多く発生すると、騒音が増幅して非常に喧しく聞こえる。
【0021】
前述したように、本出願人の提案した、ステップラップ鉄心を構成する各電気鋼板の積層面全体に絶縁性接合剤を塗布し積層して接合する技術を適用すると、無負荷損失は減少できるものの、無負荷騒音は急激に悪化する。
【0022】
積層面全体にわたって接合剤を塗布すると、鉄心の平坦度が一定に保持されずに反り曲がりが発生し、積層された鉄心が正しく整列されず、浮き現象が頻繁に現れる。
【0023】
積層面全体にわたって接合剤を塗布する際に反り曲がりが発生する理由は、電気鋼板の厚さのばらつきにある。電気鋼板の厚さを精密に制御するための圧延技術はますます改善されているものの、薄い厚さのばらつきを完全に除去することはできない。これにより、電気鋼板の厚さが約3~6%以内でばらつきが存在し、積層面全体に接合剤を塗布し積層して接合すると、反り曲がりが必然的に発生する。
【0024】
これにより、ステップラップ鉄心の結合部における組み立てが円滑に行われず、変圧器の製造において大きな障害要素となり、製造速度、すなわち、生産性を著しく低下させる。さらに、結合部の締結状態が均一でなく、微細振動が激しくなり、騒音が急激に悪化する。
【0025】
そこで、本出願人は、変圧器の鉄心において騒音が急激に悪化する原因を究明し改善することにより、無負荷損失が低くなることはもちろん、無負荷騒音を減少できる方案を研究し、本発明を提案しようとする。
【0026】
以下、例示的な図面を通じて、本発明について詳細に説明する。各図面の構成要素に参照符号を付加するにあたり、同一の構成要素については、例え異なる図面上に表示されていても、可能な限り同一の符号を付していることに留意すべきである。
【0027】
図1は、本発明の一実施例に係る変圧器鉄心を示す斜視図である。
【0028】
本発明の一実施例に係る変圧器鉄心は、上部ヨーク11、下部ヨーク12、及び上部ヨークと下部ヨークとの間に配置され、これらの上部ヨークと下部ヨークとを連結する複数のレグ2を含むことができる。
【0029】
本明細書では、選択的に、上部ヨーク11及び下部ヨーク12をヨーク1と通称する。
【0030】
非制限的な一実施例として、上部ヨーク11及び/又は下部ヨーク12は、複数のレグ2のうち一つと一体に形成されてもよい。
【0031】
ヨーク1とレグ2は、それぞれ複数の電気鋼板3が積層されてなる。このために、まず2以上の電気鋼板を準備し、各電気鋼板を鉄心のヨーク又はレグの断面形状に加工する。
【0032】
例えば、電気鋼板3を変圧器鉄心の幅だけスリッティング(slitting)した後、適正幅にスリッティングされた電気鋼板を鉄心の結合部4の形態に合うようにカッティング(cutting)及びパンチング(punching)してヨーク1及びレグ2の形状に裁断することができる。
【0033】
これにより、電気鋼板は、上部ヨーク11、下部ヨーク12、及び複数のレグ2が有する断面形状と同様に形成されることができる。
【0034】
本発明の変圧器鉄心に使用される電気鋼板3は特に制限されず、約0.05~1.0mm以内の厚さを有する方向性電気鋼板ないし無方向性電気鋼板が採択されてもよい。
【0035】
電気鋼板3の厚さが0.15mm未満に薄いと、鉄損は減少するものの、形状安定性が低下する。これに対し、電気鋼板3の厚さが1.0mmを超えて厚いと、鉄損が増加する。このような事項を考慮すると、電気鋼板の厚さは約0.05~1.0mm以内に制限されることができる。
【0036】
図2は、ステップラップ鉄心の結合部を図1のA方向から見た図であって、(a)は従来の鉄心、(b)及び(c)は本発明の鉄心における電気鋼板の積層状態を示す。
【0037】
図2の(a)は、従来の鉄心結合部を示す図であって、各電気鋼板3の切断面32が電気鋼板の積層面31に対して直角に延長するように端部が裁断される。
【0038】
磁場は磁気抵抗が最も少ない箇所へ流れる性質がある。磁気抵抗は、磁場がどれだけ円滑に流れるかを示す指標である透磁率に反比例し、透磁率は空気を1と仮定したとき、電気鋼板は数百~数万倍であるため、電気鋼板から外れると、磁気抵抗が非常に高くなる。
【0039】
電気鋼板3の厚さ方向に積層された電気鋼板の間の間隔、すなわち、空気層(L;air layer)よりも電気鋼板が側方に互いに対向する空隙(G;air gap)が遥かに広い。よって、磁気抵抗は空気層よりも空隙でさらに大きくなる。
【0040】
これにより、単一の電気鋼板3内で流れる磁場が空隙Gに到達すると、磁場は空隙よりも磁気抵抗の少ない空気層Lを介して当該電気鋼板の上又は下に積層された電気鋼板に分散されて移動する。
【0041】
したがって、図2の(a)に示す接触領域Lctにおいて磁場が集中し、磁束密度が急激に高くなる。また、磁場のボトルネック現象により、磁場は正弦波において多様な高調波(harmonics)が含有された複雑な磁場が生成される。電気鋼板3の鉄損は磁束密度が高いほど増加し、さらに高調波が含有されると鉄損の増加量が急増する。
【0042】
ここで、接触領域Lctは、磁場が流れる経路においてヨークの電気鋼板の端部とレグの電気鋼板の端部とが接触して重なる領域と定義することができる。
【0043】
これを解消するために、図2の(a)において接触領域Lctの長さを延長することができるが、このような場合には、非重なり領域Lovの長さだけ鉄心の結合部4から鉄心の外郭に露出する露出部が増大する。
【0044】
ここで、非重なり領域Lovは、空隙Gを基準にヨークの電気鋼板又はレグの電気鋼板のうちいずれか一端部の位置が変化した領域と定義することができる。非重なり領域は空隙を含むことができる。
【0045】
露出部の増大は、磁場が鉄心の外へ流れる漏洩磁場を生成して鉄損を増加させるもう一つの要因となり、露出した電気鋼板の揺れにより騒音も悪化する結果を招く。このため、非重なり領域Lovの長さを増加させる方法は適用に限界があるが、例えば、変圧器の積鉄心において通常、非重なり領域Lovの長さを2~6mm内外に管理する。
【0046】
そこで、本発明の一実施例に係る変圧器鉄心では、図2の(b)及び(c)のように電気鋼板3を裁断するとき、各電気鋼板における鉄心の結合部4に該当する端部を、従来とは異なり、電気鋼板の積層面31に対して所定の角度を有するように傾斜して切断又は切削し、断面が傾斜面33を有するように形成する。
【0047】
このような傾斜面33は、例えば、上部ヨーク11、下部ヨーク12、及び複数のレグ2において、鉄心の結合部4に該当する端部をグラインディング(grinding)することによって形成することができる。上部ヨークとレグ、又は下部ヨークとレグに形成された傾斜面は、互いに対称に形成され、対応するように配置されて形状が合わせられることができる。
【0048】
このように、電気鋼板3の端部を傾斜して形成すると、空隙Gが最小化され、従来と同じ非重なり領域Lovを適用しても鉄心内の磁場分布がより円滑に流れ、鉄損を減少させ、騒音も低減できるようになる。
【0049】
次いで、裁断された電気鋼板3の傾斜面33又は傾斜面の周辺に絶縁性接合剤5を塗布する。接合剤を塗布するとき、傾斜面又はその周辺に十分に塗布されるように一定量を計量して均等に塗布することが好ましい。
【0050】
接合剤5は、電気鋼板と電気鋼板を接着できる如何なる接合剤でも適用可能である。好ましくは、高温で使用可能な接合剤として、絶縁性に優れた、例えばエポキシ接着剤やセラミック接着剤などを使用することができる。
【0051】
本発明の一実施例に係る変圧器鉄心において、塗布方法に制約はないが、接合剤5の塗布領域を鉄心の結合部4の周辺、すなわち、各電気鋼板3の傾斜面33又はその周辺に限定することで、上述した反り曲がりの発生を回避できるようになる。
【0052】
例えば、接合剤5は、傾斜面33はもちろん、電気鋼板3上において、結合部4の対角線を斜辺にして直角三角形を構成する領域に塗布されることができる。このような例は図3の(a)に示されており、図3の(b)には接合剤が傾斜面にのみ塗布された例を示している。
【0053】
このように本発明の一実施例に係る変圧器鉄心では、接合剤5を塗布する際、従来のように電気鋼板の積層面全体に接合剤を塗布せず、図3の(a)及び(b)に示すように、鉄心の結合部4の周辺に部分的に塗布して電気鋼板3に反り曲がりが生じないように鉄心を固定することができる。
【0054】
これにより、ステップラップ鉄心の結合部4において組み立てが円滑に行われ、製造速度、すなわち、生産性を著しく向上させるとともに、騒音を低減できるという利点を有するようになる。
【0055】
接合剤5は約0.2~5.0g/mm以内の量で塗布される。0.2g/mmより接合剤の量が少ない場合、接着力が弱くなり鉄心の固定に不良が発生し、5.0g/mmより多いと、鉄心の占積率が低くなり、鉄損と騒音が増加する要因となる。
【0056】
ここで、占積率(space factor)とは、ある所定の空間面積のうち有効な部分の面積が占める割合を意味するものであり、本発明では、電気鋼板が鉄心を構成する全面積のうち磁場が発生する有効な面積を意味する。点積率は、絶縁材で塗布する場合に絶縁材が占める空間だけ点積率の減少をもたらす。
【0057】
次に、電気鋼板3はステップラップ方式で積層されることができる。再び図2を参照すると、ヨーク1を構成する一つの電気鋼板3は、ヨークを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層され、レグ2を構成する一つの電気鋼板3は、レグを構成する他の電気鋼板にステップラップ方式で積層されることができる。
【0058】
積層されてヨーク1を構成する電気鋼板3の端部は、例えば、階段状に繰り返すオフセット形態、又は端部の傾斜面33がずれて配列された形態とすることができる。
【0059】
同様に、積層されてレグ2を構成する電気鋼板3の端部は、例えば、階段状に繰り返すオフセット形態、又は端部の傾斜面33がずれて配列された形態とすることができる。
【0060】
図2には、複数の電気鋼板が6ステップで積層されたステップラップ鉄心が示されている。このようなステップラップ方式は、変圧器鉄心に適用される他の積層方式(例えば、留め継ぎ積層方式)に比べて効率に優れ、損失が少ない。
【0061】
ステップラップ鉄心における最適なステップ数は、鉄心の大きさ及び形状によって異なり得るが、変圧器の積鉄心に適したステップ数は3~10ステップであってもよく、場合によっては4~7ステップであってもよい。
【0062】
図2の(b)及び(c)のように、電気鋼板3の厚さ方向に傾斜面33を設けて斜めに裁断し、ステップラップ方式で積層するにあたり、図2の(b)のように接触領域Lctが拡大する方向に積層することがよい。このようにするためには、接触領域Lctの長さが、少なくとも傾斜面33が積層面31に投影された長さよりも長くなるように電気鋼板を積層すればよい。
【0063】
図2の(c)のように接触領域Lctが縮小する方向に積層すると、つまり、接触領域Lctの長さが、傾斜面33が積層面31に投影された長さよりも短くなるように電気鋼板が積層されると、(b)の積層よりも鉄損及び騒音が増加する。
【0064】
このとき、図2の(b)及び(c)の積層において、傾斜面の傾斜角は同一であり、非重なり領域Lovの長さも同一である。
【0065】
積層時に、ヨーク1として裁断された電気鋼板3と、レグ2として裁断された電気鋼板3とを鉄心の最終形状に合わせて配列し、接合及び積層することにより、鉄心積層体を得ることができる。
【0066】
しかし、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、ヨーク1として裁断された電気鋼板3を積層してヨーク積層体を得て、レグ2として裁断された電気鋼板3を積層してレグ積層体を得た後、ヨーク積層体とレグ積層体とを組み立てて接合することで鉄心積層体を得ることもできる。
【0067】
本発明の一実施例に係る変圧器鉄心は、鉄心の組立状態を固定するために鉄心を貫通するホールと、このようなホールを形成するためのホールパンチング(hole punching)工程を省略することができる。このように、電気鋼板3にホールを形成せずに絶縁性接合剤5で接着させるため、本発明の一実施例に係る変圧器鉄心は、ホールによる電気鋼板の磁気的特性の毀損を防止することができる。
【0068】
但し、ホールを形成する場合に、電気鋼板の積層がより容易になり得るという利点があるため、本発明の範囲からホールの形成を排除するものではない。
【0069】
その後に、鉄心積層体に接着力を付与するために、鉄心積層体の厚さ方向の両面をクランプでクランピング(clamping)してから、0.01~0.8MPa以内の圧力で加圧する。加圧力が0.01MPa未満であると、鉄心の結合力が弱く、変圧器を長時間稼動する際に分離されることがある。一方、0.8MPaを超えると、電気鋼板の圧縮応力により騒音が増加する。
【0070】
また、接合剤5の硬化のために、鉄心積層体の温度が70~180℃の範囲内にあるようにして最小20分以上を保持させる。このような熱処理は、例えば、インダクションなどのような任意のヒーターやオーブンで行われるこができる。
【0071】
例えば、熱硬化性樹脂系接着剤を接合剤として使用すると、接着剤にエポキシやウレタン成分があるため、70℃未満では硬化しないのに対し、180℃を超えると接着力が弱くなる。
【0072】
以下、実施例を通じて本発明についてより具体的に説明する。
【0073】
従来の製造方法及び本発明の製造方法により、同じ重量を有する変圧器鉄心を作製した後、無負荷損失と無負荷騒音とを比較した。
【0074】
例えば、表1には、図2のように鉄心の結合部を構成する裁断及び積層方法を異ならせて作製した変圧器鉄心の特性を比較した。但し、全ての鉄心に貫通するホールを形成し、ホールにボルトを締結して鉄心を固定した。
【0075】
比較例1において、各電気鋼板の切断面は、電気鋼板の積層面に対して直角に延長するように形成し、従来と同様に電気鋼板をステップラップ方式で積層した。
【0076】
発明例1と比較例2は、本発明に従って電気鋼板の端部を傾斜して形成し、傾斜面を有するようにして、比較例1と同様のステップラップ方式で積層し、ホールにボルトを締結して鉄心を固定した。
【0077】
発明例1は図2の(b)のように構成し、比較例2は図2の(c)のように構成した。すなわち、発明例1は接触領域Lctが拡大する方向に積層し、比較例2は接触領域Lctが縮小する方向に積層した。
【0078】
発明例1の無負荷損失を基準に、すなわち、発明例1を100%とし、無負荷騒音の値は可聴応答を反映したlog変換値であるデシベル(dBA)で表した。
【0079】
【表1】
【0080】
発明例1の特性が優れた理由は、傾斜面によって磁場のボトルネック現象が緩和され、高調波の生成が減少したためである。
【0081】
次に、表2には、発明例1と同様に裁断して積層し、且つ接合剤で固定し、接合剤の塗布領域及びクランプの加圧力を異ならせて製造した変圧器鉄心の特性を比較した。
【0082】
比較例3は、電気鋼板の積層面全体に接合剤を塗布し、鉄心の変形を最小化するためにクランプを5MPaに加圧して熱処理を行った。加圧力を下げるとスプリングバック現象が現れ、締結状態が悪くなり、低い加圧力で固定することが困難であった。接合剤の硬化のための熱処理は、鉄心の温度を160℃で4時間保持した。
【0083】
発明例2は、図3の(a)のように、傾斜面とその周辺の直角三角形を構成する領域に接合剤を塗布し、クランプを0.5MPaに加圧したまま、鉄心の温度を160℃で1時間保持して接合剤を硬化した。
【0084】
発明例3と比較例4は、図3の(b)のように、傾斜面に接合剤を塗布し、クランプで加圧したまま、鉄心の温度を160℃で1時間保持して接合剤を硬化した。但し、発明例3は0.8MPaに加圧し、比較例4は0.9MPaに加圧力を上げた。
【0085】
【表2】
【0086】
従来の製造方法及び本発明の製造方法による変圧器鉄心の特性を総合すると、比較例3は鉄心を貫通するホールをなくし、積層面全体に接合剤を塗布して接合することで、無負荷損失が発明例1より3.7%減少したが、無負荷騒音は発明例1より著しく悪化した。
【0087】
発明例2及び3のように接合する面積、つまり、接合剤の塗布領域を減らすほど騒音が減少する傾向が明らかに現れた。
【0088】
但し、比較例4のように、加圧力を0.8MPaを超えて高くすると、電気鋼板の圧縮応力により騒音が増加する結果を確認した。
【0089】
以上のように本発明によれば、鉄心を貫通するホールをなくすことができ、電気鋼板の間の空隙が最小化するとともに、鉄心の結合部において磁場の流れが円滑になることができる。
【0090】
したがって、変圧器の無負荷損失が低くなり、無負荷騒音が減少して、変圧器の性能が向上する効果を得ることができる。
【0091】
以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎず、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で様々な修正及び変形が可能である。
【0092】
したがって、本明細書及び図面に開示された実施例は、本発明の技術思想を限定するためのものではなく、説明するためのものであり、このような実施例によって本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は以下の特許請求の範囲によって解釈されるべきであり、それと同等の範囲内にあるすべての技術思想は、本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0093】
1:ヨーク
2:レグ
3:電気鋼板
4:結合部
5:接合剤
11:上部ヨーク
12:下部ヨーク
31:積層面
32:切断面
33:傾斜面
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図3(a)】
図3(b)】
【国際調査報告】