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  • 特表-ロープブレーキ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ロープブレーキ
(51)【国際特許分類】
   A63B 29/02 20060101AFI20240514BHJP
   A62B 35/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A63B29/02 Z
A62B35/00 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572936
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2022064091
(87)【国際公開番号】W WO2022248492
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】102021002712.4
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523443124
【氏名又は名称】マムート スポーツ グループ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】シューマッハ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】シーネル,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
2E184
【Fターム(参考)】
2E184JA07
2E184KA08
2E184LA18
(57)【要約】
【要約】
落下する人又は物体、特に登り手20を固定するロープブレーキ10であり、ビレイポイント51,52に締結されるロープブレーキであって;ビレイロープ40をガイドするように構成されているガイド要素Aと;締結部111とブレーキ部112とを有する偏向要素11であり、移動可能に取り付けられている偏向要素とを備え;ビレイロープは、ガイド要素と偏向要素との間を通ってガイドされる。ロープブレーキはさらに、偏向要素の移動を制限するように構成されている停止部13を備えている。停止部は、偏向要素とガイド要素との間の距離がビレイロープの直径よりも常に大きいように構成され;ビレイロープが、負荷状態ではガイド要素とブレーキ部との両方に接触するように、偏向要素とガイド要素とは相互に対して配置されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
落下する人又は物体、特に登り手を固定するロープブレーキであり、ビレイポイントに締結されるロープブレーキであって、
ビレイロープをガイドするように構成されているガイド要素と、
締結部とブレーキ部とを有する偏向要素であり、移動可能に取り付けられている偏向要素とを備え、
前記ビレイロープは、前記ガイド要素と前記偏向要素との間を通ってガイドされ、
ロープブレーキはさらに、前記偏向要素の移動を制限するように構成されている停止部を備え、
前記停止部は、前記偏向要素と前記ガイド要素との間の距離が前記ビレイロープの直径よりも常に大きいように構成され、
前記ビレイロープが、負荷状態では前記ガイド要素と前記ブレーキ部との両方に接触するように、前記偏向要素と前記ガイド要素とは相互に対して配置されている、ロープブレーキ。
【請求項2】
前記偏向要素は、枢軸点を中心として回転可能にロープブレーキに取り付けられている、請求項1記載のロープブレーキ。
【請求項3】
ロープブレーキは追加要素を備え、
前記追加要素は、ロープブレーキの中に向けて落下した場合に、前記ビレイロープが、前記ガイド要素と、前記ブレーキ部と、前記追加要素とに擦れるように配置されている、請求項1記載のロープブレーキ。
【請求項4】
ロープブレーキは少なくとも第2ガイド要素を備え、
前記負荷状態での前記ビレイロープが、前記ガイド要素と、前記ブレーキ部と、前記第2ガイド要素とに擦れるように、前記偏向要素と、前記ガイド要素と、前記第2ガイド要素とは、相互に対して配置されている、請求項1記載のロープブレーキ。
【請求項5】
前記偏向要素と、追加要素又は前記ガイド要素とは、前記ブレーキ部と前記追加要素又は第2ガイド要素との間の距離が、前記ビレイロープの前記直径よりも常に大きいように配置されている、請求項3又は4記載のロープブレーキ。
【請求項6】
ロープブレーキは、開き要素を備え、前記開き要素は、前記ブレーキ部と前記ガイド要素との間の距離が増加するように、前記偏向要素に力を及ぼすように構成されている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のロープブレーキ。
【請求項7】
ロープブレーキの中での前記ビレイロープの位置決めが可能になるように、ロープブレーキは、少なくとも1箇所で開放可能である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のロープブレーキ。
【請求項8】
前記偏向要素の前記締結部と前記ブレーキ部との間の距離は、変更可能である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のロープブレーキ。
【請求項9】
前記偏向要素と前記ガイド要素との位置は、相互に対して調節可能である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のロープブレーキ。
【請求項10】
ロープブレーキはさらに、前記偏向要素の移動を制限するように構成されている第2停止部を備え、
前記第2停止部は、前記締結部と前記ガイド要素との間の距離が、前記ビレイロープの前記直径よりも常に大きいように配置されている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のロープブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人と物体、特に登り手を固定するロープブレーキに関する。ロープブレーキは、登り手が落下する際のエネルギーを減少させるためにビレイシステムに設けられている。
【背景技術】
【0002】
登攀という人気スポーツは、特に近年ますます人気が高まっている。登攀は、専用に作られたクライミング用ホールでも、野外の岩場でも行われる。さらに安全なスポーツにするため、登り手はビレイシステムを使ってビレイヤーに固定され、可能性のある落下を防止する。
【0003】
一般的な登攀の変種に、リードクライミングがある。通常、ビレイシステムは、クライミングロープ又はビレイロープで構成され、登攀の間、既に壁に設置されたビレイポイント、又は、例えばカラビナの形態で、登り手が設置するビレイポイントを通して、登り手は徐々にロープを引っ掛けていく。登り手と、ビレイする人、即ちビレイヤーとの両方に、ロープは接続され、ビレイヤーは自分の体重を利用して登り手の落下を防止する。通常、ビレイヤーは、壁から1ないし2メートルの距離に立つ。
【0004】
通常、ビレイポイントは、数メートルのスペースを離して設置され、ビレイポイントよりも上を登っていても、登り手が落下しすぎないようにしている。ビレイロープが最後に引っ掛けられたビレイポイントは、落下する場合にロープが偏向され、登り手がホールドされるビレイポイントを示す。登り手が最後のビレイポイントよりも上にいて落下した場合に、落下高さは、最後のビレイポイントまでの距離の少なくとも2倍の長さである。これにより、登り手が高速で落下できることを確実にする。通常、ビレイポイントは、壁に締結されているハーケンと、ハーケンに締結されビレイロープを引っ掛けるカラビナとを含む。もちろん、他の構造体もビレイポイントとして機能する場合がある。
【0005】
ビレイポイントでロープに生じる摩擦、また壁との接触によって、落下のエネルギーは減少されるが、それでもビレイヤーには大きな力が作用する。ビレイヤーは登り手がこのように落下するときに突然大きな加速度を経験し、壁に向かって引っ張られ、また上に引っ張られる。このため、登り手とビレイヤーとの体重差は、過度に大きくなってはならない。
【0006】
この問題を解決するために、サンドバッグのような追加の重りをビレイヤーに接続することで、ビレイヤーの重量を増加させることが多い。しかし、これらは常に入手可能でなければならず、特に自然の中で登攀をする場合には困難が生じる。
【0007】
いわゆるロープブレーキは、クライミング用ホールの中でも、自然の中での登攀でも、使用することが可能な解決法を与える。ロープブレーキは、システムの中のロープの摩擦を増加させ、ビレイヤーが吸収する落下エネルギーを減少させ、登り手とビレイヤーとの事故のリスクを減少させることができる。スイス特許CH428520A号には、この一例のロープブレーキが開示されている。このロープブレーキは、システムの中のロープ摩擦を常に増加させるので、落下する場合にビレイヤーにかかるエネルギーが少なくなる。しかし、このようなロープブレーキは、登攀時にもロープ摩擦の増大が生じるため、ロープの締め付けが困難になり、登攀の間の登り手に支障があるという欠点がある。
【0008】
ドイツ特許DE102019000262B3号、及びDE102014001695B3号公報は、それぞれ、狭窄部を有するロープブレーキを開示している。落下する場合にロープが狭窄部を通ってガイドされ、このようにしてロープの摩擦も増加する。しかし、それ以外は登り手への規制はない。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、2人の登攀のパートナーの間の体重差を補償することができ、使用しやすく、落下する場合に安全に機能し、通常の登攀の間に登り手を邪魔しない代替の解決法を提供することである。
【0010】
この目的は、独立の請求項1の発明主題によって達成される。有利な一層の発展は、従属の請求項に包括される。
【0011】
本発明に係り、落下する人や物体を固定するロープブレーキは、ビレイポイントで、好ましくは地面に最も近いビレイポイントで、クライミング壁に締結される。これは、ビレイロープのためのガイドとして機能するように構成されているガイド要素を有する。また、本発明によるロープブレーキはさらに、偏向要素を備え、偏向要素は、締結部とブレーキ部とを有し、移動可能に取り付けられている。ビレイロープは、ガイド要素と偏向要素との間を通ってガイドされる。本発明によるロープブレーキはさらに、偏向要素の移動を制限するように構成されている停止部を有する。この停止部は、偏向要素とガイド要素との間の距離が、ビレイロープの直径よりも常に大きいように配置され、従って、ガイド要素と偏向要素との間を通ってロープをガイドすることができる。さらに、ビレイロープが負荷状態にある場合には、ガイド要素とブレーキ部との両方に接触し、ビレイロープが無負荷状態にある場合には、そのような接触をしないように、偏向要素とガイド要素とは相互に対して配置されている。これにより、格段の制動効果がもたらされる。
【0012】
本出願の文脈では、ロープブレーキの負荷状態と無負荷状態とを区別する。負荷状態とは、登り手が落下し、その体重がビレイシステムに作用する場合、ロープブレーキがとる状態である。無負荷状態とはその逆であり、登り手の体重が、ビレイシステム、またロープブレーキに影響を与えない状態である。無負荷状態では、ビレイポイントのロープブレーキは、重力の作用によりビレイヤーの方向へ実質的に垂れ下がり、ビレイロープは、ロープブレーキを通してガイドされる。無負荷状態の場合には、ロープは張力が作用しない。
【0013】
このことは、登り手がロープブレーキの上のビレイポイントに落下する時点を変化させる。体重の影響でロープに張力が発生し、ビレイヤーと壁との距離があるため、ロープブレーキの向きは、クライミング壁に対して変化し、実質的に第2ビレイポイントに向かうようになり、つまり全体的に上方を向くようになる。
【0014】
この状態では、ビレイロープは偏向要素によって偏向され、一方の側はブレーキ部に、他方の側はガイド要素に位置する。この追加的な偏向によってシステムの中の摩擦が増加し、登り手の落下エネルギーの一部が放散され、即ち、熱に変換される。その結果、ビレイヤーが吸収しなければならない残りのエネルギーを減少させることができる。このようにして、安全性を高めることが可能であり、登り手とビレイヤーとの許容体重差を増加させることが可能である。
【0015】
本発明によるロープブレーキの有利な実施形態では、偏向要素は、回転点を中心に回転できるようにロープブレーキに取り付けられている。偏向要素には、他の取り付け形態、例えば直線的な取り付け形態も想定が可能であるが、回転点を中心に回転可能に取り付けることにより、簡素で、同時に安定的な構造的実施が可能にされる。
【0016】
本発明によるロープブレーキの有利な実施形態は、追加要素を備えている。ビレイロープ自体がロープブレーキの中に向けて落下した場合に、ビレイロープがガイド要素と、偏向要素のブレーキ部と、追加要素とに擦れるように、追加要素は配置されている。ビレイロープ自体がロープブレーキの中に向けて落下した場合に、ロープブレーキ上部のビレイポイントの中に向けて落下した場合に発生するロープの摩擦が、ビレイポイントのカラビナとそこを通るビレイロープとの間にないことに留意するものとする。従って、ロープブレーキの上のビレイポイントの中に向けて落下した場合と同じ安全性を確保するためには、ロープブレーキの摩擦を大きくする必要がある。これは、ビレイロープ自体がロープブレーキの中に向けて落下する際、追加要素にかかる追加的な摩擦によって確実にされる。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態では、ロープブレーキは第2ガイド要素を備え、ガイド要素と、偏向要素と、第2ガイド要素とは、相互に対して配置され、これにより、ビレイロープは負荷状態で、ガイド要素と、偏向要素のブレーキ部と、第2ガイド要素とに擦れる(摩擦を生じる)。このようにして、ロープの摩擦をさらに増大させることができ、登り手が落下した場合に、さらに多くのエネルギーを放散させることができる。また、ブレーキの効果をさらに高めるために、追加のガイド要素を設けることも想定が可能である。
【0018】
偏向要素のブレーキ部と追加要素又は第2ガイド要素との間の距離がビレイロープの直径よりも常に大きいように、偏向要素と追加要素又は第2ガイド要素とが配置されている場合に特に、追加要素又は第2ガイド要素を含む実施形態は有利である。これにより、特に無負荷状態で、ビレイロープがロープブレーキに捕獲され、登り手の登攀を邪魔することを防止することができる。
【0019】
本発明のさらに有利な実施形態では、ロープブレーキは、例えばゴム、バネ又は他の弾性要素の形態の開き要素を備え、この開き要素は、ブレーキ部とガイド要素との間の距離が増加するように、偏向要素に力を及ぼすように構成されている。前述の距離が変更可能であるということは、偏向要素の取り付けが移動可能であることに起因する。取り付けのタイプによって、偏向要素、またさらにブレーキ部を、並進又は回転の方式で移動させることができる。開き要素を設けることで、無負荷の場合にクライミングロープがロープブレーキに詰まるリスクを最小限に抑えることができる。負荷状態では、登り手の体重がシステムに作用し、開き要素により加えられた力に打ち勝つ。
【0020】
本発明のさらに有利な実施形態では、ロープブレーキは、ビレイロープをロープブレーキに挿入して位置決めが可能になるように、少なくとも1箇所で開放可能である。開口は、例えば、ジョイントとラッチ機構とを使用して実現されてよい。しかし、開口は、登攀の間にビレイロープが滑り落ちないように確実に閉鎖可能であることが不可欠である。開口があることで、ロープブレーキをビレイシステムに取り付けることを容易にする。ロープブレーキがビレイポイントに締結されている場合に、登り手からロープを取り外したり、ロープブレーキに通して、登り手に再び締結したりする必要がなく、開いたロープブレーキにロープを容易に挿入することができる。このように、安全性と快適さとが格段に向上する。
【0021】
本発明のさらに有利な実施形態では、偏向要素の締結部とブレーキ部との間の距離が、変更可能である。このようにして、ロープブレーキの幾何学形状、ひいてはロープブレーキを通るビレイロープの経路が、変更可能である。ビレイロープの経路を変更することで、ロープとブレーキ部又はガイド要素との間の接触面が変更され、登り手とビレイヤーとの体重に応じてロープの摩擦、ひいては制動効果が、調節可能である。ブレーキの摩擦効果は、締結要素(締結部)とブレーキ部との間の距離が長くなると大きくなり、ロープはさらに偏向する。
【0022】
さらに、本発明の実施形態は、偏向要素とガイド要素との位置が、相互に対して調節可能であり、このようにして、ロープブレーキの幾何学形状が変更可能である点で有利である。前の段落で説明したように、ロープブレーキの制動効果は、幾何学形状を変更することによっても影響を受ける可能性があり、このようにして、登り手とビレイヤーとのそれぞれの体重差に合わせて調節することができる。
【0023】
もちろん、追加要素及び/又は第2ガイド要素を有する実施形態では、さらに、ガイド要素と偏向要素との位置に対して、追加要素及び/又は第2ガイド要素の位置を変更できるようにすることは想定が可能である。従って、全ての要素(ガイド要素、偏向要素、第2ガイド要素、追加要素)の位置を相互に対して調節することができる。これにより、ロープブレーキを、それぞれの競技者(登り手)の要求に最適に適合させることができる。前述の要素の1つの位置を変更する可能性は、例えば、対応する要素の偏心形状を介して実現することができ、これにより、異なる幾何学的構成を形成するために要素を回転させることができる。
【0024】
本発明の有利な発展形では、ブレーキ部は、その端部に丸い形状を有し、これは負荷状態でビレイロープと接触する。このようにして、ロープの摩耗を最小限に抑えることができる。
【0025】
さらに、ブレーキ部とビレイロープとの間の接触面に、粗い表面や小さな鋸歯を設け、粗い表面や小さな鋸歯が、ロープ摩擦を高め、制動効果を高めるために、摩擦を最適化するように配置されることが可能である。しかし、これらの実施形態では、ロープの摩耗が大きくなる。
【0026】
本発明のさらに別の実施形態では、ロープブレーキは第2停止部を備え、締結部とガイド要素との間の距離が、ビレイロープの直径よりも常に大きいように、第2停止部は、偏向要素の移動を制限するように構成されている。また、第1及び第2停止部が、コンポーネントによって構造的に固定されている実施形態も想定が可能である。このようにすれば、登り手がロープブレーキによって邪魔されるリスクを最小限に抑えるために、ビレイロープが詰まることを効果的に防止することができる。
【0027】
添付した図面を参照しながら、以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る、無負荷状態でのロープブレーキの実施形態を示す。
図2】本発明に係り、負荷状態での図1に示すロープブレーキの実施形態を示す。
図3】本発明に係り、ビレイロープ自体がロープブレーキの中に向けて落下した際の、負荷状態での図1に示すロープブレーキの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明に係り、無負荷状態にあるロープブレーキ10の実施形態を示す。登り手20は壁50を登り、ビレイヤー30によって固定されている。ロープブレーキ10は、壁50に設けられた第1ビレイポイント51に締結されている。第1ビレイポイント51は、地面から最も遠いビレイポイントである。登り手20は、壁50を登る途中で、複数のビレイポイント51、52を通過し、そこにビレイロープ40を掛け、自分を固定する。登り手20がビレイロープ40を掛けた最後のビレイポイントを、現在のビレイポイント52と呼ぶ。これは、登り手20が落下した場合に、この人を捕捉する。
【0030】
第1ビレイポイント51は、固定ハーケン511とカラビナ512とから構成されている。ロープブレーキ10はカラビナ512に締結されている。他の実施形態では、例えば、固定ハーケン511とカラビナ512との間に織物の連結片を設けるタイプのビレイポイントも想定が可能である。登り手は、壁に沿って登る際に、通常、カラビナ512を各固定ハーケン511に留める。ロープブレーキ10の取り付けを容易にするために、ロープブレーキ10は地上で既に、カラビナ512に締結しておいてよい。登攀時に、カラビナ512を固定ハーケン511に引っ掛ける必要があるだけである。
【0031】
ロープブレーキ10は、偏向要素11と、ガイド要素Aと、追加要素Bと、停止部13とを備え、各要素はハウジング12内に配置されている。この実施形態では、ハウジング12は2枚のプレートから構成され、その間に前述の要素が配置されている。
【0032】
ロープブレーキは断面図で示され、ロープブレーキ10の内部構造を見ることができるように、ハウジング20での、見る人の側に向かって傾斜している一方のプレートが切り取られている。ビレイロープ40をロープブレーキ10に容易に挿入することができるように、ロープブレーキ10は、一方のプレートを回転させて開放することができる。
【0033】
偏向要素11は、リング状の締結部111と、締結部の反対側にあるブレーキ部112から構成されている。偏向要素11は、回転点14(枢軸点)を使用してハウジング12に回転可能に取り付けられている。ビレイロープ40は、ロープブレーキ10を介して偏向要素11とガイド要素Aとの間にガイドされ、追加要素Bはガイド要素Aの側にあり、停止部13は偏向要素11の側にある。偏向要素11の回転点14には、ねじりバネとして構成された開き要素(Oeffnungselement)が設けられている。これは、ビレイロープ40のための開きを確保するために、図面の紙面の平面上で時計回りに回転するように、偏向要素11に回転力を及ぼす。
【0034】
図1に示す無負荷状態では、ロープブレーキ10は、自重により、ビレイヤーの方向に下向きに垂れ下がっている。ビレイロープ40は、登り手20を下方に引っ張ることなく、ビレイヤー30によって低い張力で保持されているので、登り手20は支障なく壁50を登ることができる。また、上方に登る際に、ビレイヤーは、ビレイロープ40がロープブレーキ10に詰まる(引っ掛かる)などの大きな抵抗を受けることなく、容易にロープブレーキ10を通してビレイロープ40を引っ張ることができる。
【0035】
図2は、図1に示した本発明によるロープブレーキ10の実施形態が、負荷状態で示されている。図1図2との図示は、ロープブレーキ10を有するビレイシステムが無負荷状態になったり、負荷状態になったりする点で異なるのみである。両図の相違点のみを説明する。
【0036】
図2に示された登り手20の落下により、ビレイロープ40は現在のビレイポイント52に張力が与えられて偏向され、登り手20は現在のビレイポイント52の一方の側にぶら下がり、他方の側は、ロープブレーキ10を介してのビレイヤー30との接続が存在する。ビレイロープ40の張力と、その配置の幾何学形状とにより、ロープブレーキ10は、登り手20の方向、又は第1ビレイポイント51に続くビレイポイントの方向に、上向きに配置されている。その結果、ビレイロープ40は、ハウジング12の2つのプレートの間に円筒として構成されたガイド要素Aの上で、90度偏向する。ここで、ビレイロープ40とガイド要素Aとの間に摩擦が生じる。
【0037】
ロープブレーキ10にかかる負荷のため、偏向要素11は、開き要素の力に抗して回転点14を中心に回転し、停止部13に位置する。停止部13は、ビレイロープ40がガイド要素Aと偏向要素11との間に捕捉されることを防止する。偏向要素11の位置を変えることにより、ビレイロープ40は再び偏向され、偏向要素11から、直接の経路でビレイヤー30に向かって延びる。このビレイロープ40の一層の偏向は、ブレーキ部112に摩擦を生じさせ、さらにビレイシステムからエネルギーを取り出す。
【0038】
ロープブレーキ10なしで登る場合に、ビレイロープ40は、最も下のビレイポイント51のカラビナ512に直接導かれることになる。従って、このようなシステムで生じるロープの摩擦は、ロープブレーキ10を含むシステムでガイド要素Aとビレイロープ40との間に存在する摩擦に、近似的に相当する。よって、ブレーキ部112に生じる摩擦は、ロープブレーキ10なしで登る場合に比べて、ビレイヤー30が吸収すべきエネルギーをさらに減少させる。これにより、安全性を向上させることができ、体重が顕著に軽い方の登攀のパートナーが、体重が重い方の登攀のパートナーをビレイすることを可能にする可能性を産み出すことができる。
【0039】
ガイド要素Aとブレーキ部112とでのビレイロープのラップ角を調節するために、ガイド要素A又は偏向要素11の回転点14の位置が変更可能である本発明の実施形態が、考えられる。これに加えて、ブレーキ部112が回転点14からさらに離れるように、偏向要素11の長さを変えることが可能である。このようにして、ロープブレーキ10のラップ角、ひいては制動効果に、さらに、影響を与えることができる。
【0040】
図3は、図1及び2に示した本発明によるロープブレーキ10の実施形態を、ビレイロープがロープブレーキ10の中に向けて落下したときの負荷状態で示す。登り手20は、ビレイロープ40を次のビレイポイント51に取り付けることが可能になる前に、落下する。ここでも、図1ないし3の間でロープブレーキ10の実施形態が同一であるため、前の図との相違点のみを説明する。
【0041】
ビレイロープ自体がロープブレーキ10の中に向けて落下することは、ロープブレーキ10の姿勢を変えるような力を生じない。図1に示すように、図3でも、これはビレイヤーに向かう姿勢であり、即ち地面に向かう姿勢となっている。ここで、ロープブレーキの一方の側で、ビレイロープ40の端が登り手20と一緒になり、他方の側で、ビレイロープ40の端がビレイヤー30と一緒になっている。
【0042】
ビレイロープ自体がロープブレーキ10の中に向けて落下することで、偏向要素11に力が働くため、これは回転点14を中心に、停止部13に当たるまで回転する。ビレイロープは最初に、登り手から始まるようにガイド要素Aにより偏向され、次いで、第2ガイド要素B(D)によりビレイヤー30へ偏向される。偏向要素11のブレーキ部112は、ガイド要素Aとガイド要素Bとの間に突出しているため、ビレイロープ40は、ガイド要素Aとガイド要素Bとの偏向に加えてブレーキ部112によっても偏向する。これは、ガイド要素A及びBでの偏向の間、またブレーキ部112での偏向の間に、摩擦を生じる。
【0043】
ビレイロープ40がカラビナ512を通してガイドされるロープブレーキ10のないビレイシステムと比較すると、摩擦はカラビナ512での偏向によってのみ生じるものである。これは概して、ロープブレーキ10を有するビレイシステムで、ガイド要素A及びBに生じる摩擦に対応する。しかし、後者の場合に、ブレーキ部112に追加的な摩擦が生じ、これが一層の制動効果を生む。従って、ロープブレーキ10の中に向けて落下したとしても、安全性を高めることが可能であり、登攀のパートナーの間の体重差が大きくなることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 ロープブレーキ
11 偏向要素
111 締結部
112 ブレーキ部
12 ハウジング
13 停止部
14 回転点
A ガイド要素
B 追加要素
D 第2ガイド要素
20 登り手
30 ビレイヤー
40 ビレイロープ
50 壁
51 第1ビレイポイント(確保支点)
511 固定ハーケン(Sicherungshaken, securing hook)
512 カラビナ
52 現在のビレイポイント
図1
図2
図3
【国際調査報告】