(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】肉製品の結合のためのアミロペクチンデンプン
(51)【国際特許分類】
A23L 29/212 20160101AFI20240514BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20240514BHJP
【FI】
A23L29/212
A23L13/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573255
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 NL2022050294
(87)【国際公開番号】W WO2022250540
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500561528
【氏名又は名称】コオペラティ・コーニンクレッカ・アヴェベ・ユー・エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・スタニシッチ
(72)【発明者】
【氏名】ゼンホン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ロールフィナ・ヴィレミーナ・アントニア・テュルコー
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコプ・ベルフスマ
【テーマコード(参考)】
4B025
4B042
【Fターム(参考)】
4B025LD02
4B025LG43
4B025LP15
4B025LP20
4B042AC05
4B042AD01
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK09
4B042AK12
4B042AP22
4B042AP30
4B042AW10
(57)【要約】
本発明は、低下したゼラチン化温度を有する非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを提供し、これは、低温殺菌された肉製品における使用に非常に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを、物理的応力の印加下、2~12重量%の水分含有量まで乾燥させることを含むプロセスによって入手可能な、非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンであって、30重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、乾燥前の前記天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンのゼラチン化温度よりも2.5℃超、好ましくは3~8℃低い、ゼラチン化温度を特徴とする、非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン。
【請求項2】
以下の特徴のうちの、1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、及びより好ましくは全てを有する、請求項1に記載の非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン:
●30重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、59~65℃の、ゼラチン化温度、
●標準化アミラーゼ分解法を用いて測定された、乾燥前の前記天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの酵素消化性よりも高い、酵素消化性、及び/又は
●標準化アミラーゼ分解法を用いて測定された、少なくとも8.5mg/gの乾燥物質、好ましくは9~18mg/gの、酵素消化性、及び/又は
●6.4重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、乾燥前の前記天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの分解よりも高い、分解、及び/又は
●6.4重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、少なくとも65%、好ましくは少なくとも65.5%の、分解。
●6.4重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、乾燥前の前記天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンのピーク粘度よりも高い、ピーク粘度、及び/又は
●6.4重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、少なくとも3500mPa・s、好ましくは少なくとも3550mPa・s、より好ましくは少なくとも3600mPa・sの、ピーク粘度。
【請求項3】
天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを3~9重量%、好ましくは3~7重量%の水分含有量まで乾燥させることを含むプロセスによって入手可能な、請求項1又は2に記載の非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン。
【請求項4】
物理的応力の印加下での前記乾燥が、空気圧乾燥、サイクロン乾燥、分散乾燥、又は流動床乾燥を含むことを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン。
【請求項5】
乾燥後、10~30℃の温度及び40~75%の相対湿度によって定義される、大気条件下で水分含有量を平衡化するように再水和されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項において定義される非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを含む、低温殺菌された肉製品。
【請求項7】
非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの量が、乾燥固体に基づいて、1~15重量%、好ましくは4~10重量%である、請求項6に記載の低温殺菌された肉製品。
【請求項8】
肉、好ましくは挽かれた又は刻まれた肉、及び水を更に含み、更に任意に、以下の成分のうちの1つ以上を含む、請求項6又は7に記載の低温殺菌された肉製品:
●好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウムから選択される、1つ以上の塩;
●好ましくはハイドロコロイド、例えば、カラギーナン、ゼラチン、デンプン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアガム、キサンタン、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、コンニャクマンナン、又は植物性タンパク質ゲル化剤、例えば、天然大豆タンパク質、天然エンドウ豆タンパク質若しくは天然ジャガイモタンパク質から選択される、1つ以上のゲル化剤;
●好ましくはデキストロース、スクロース、グルコース、ラクトース、フルクトース、アスパルテーム、及びサッカリンの群から選択される、1つ以上の甘味料
●好ましくはリグニン、セルロース、ヘミセルロース、フルクトオリゴ糖、ガラクト-オリゴ糖、及び耐性デンプンの群から選択される、1つ以上の繊維;
●好ましくはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル(PG)、又は三級ブチルヒドロキノン(TBHQ)、フェノール酸、フェノール性ジテルペン、フラボノイド、揮発油、カロテノイド、ビタミンA、ビタミンC、及びビタミンE、並びに生物活性ペプチドの群から選択される1つ以上の酸化防止剤、並びに/又はクローブ、ローズマリー、オレガノ、ナツメグ、セージ、シナモン、グレープ、ブルーベリー、ストロベリー、及びシトラスの抽出物;
●好ましくはグラウンドペッパー、パセリ、パプリカ、ガーリック、フェンネル、タイム、クミン、ナツメグ、ベイリーブ、マスタード、ジンジャー、セージ、ディル、オレガノ、ローズマリー、及びセロリから選択される1つ以上のスパイス;
【請求項9】
前記低温殺菌された肉製品が、ハム、好ましくは再構成されたハム若しくは全筋肉ハム、ソーセージ、好ましくは挽かれたタイプのソーセージ若しくは乳化されたソーセージ、ナゲット、バーガー、又はパテである、請求項6~8のいずれか一項に記載の低温殺菌された肉製品。
【請求項10】
以下の特徴のうちの1つ以上を有する、請求項6~9のいずれか一項に記載の低温殺菌された肉製品:
●2~12重量%まで乾燥されていない天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを使用して調製された同一の肉製品の保水よりも高い、100を乗じた、4時間後に濾紙に前記切断面を置くことから得られた湿潤表面積で割った低温殺菌された肉製品の一部分の切断面の表面積として定義される、保水、及び
●2~12重量%まで乾燥されていない天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを使用して調製された同一の肉製品の硬度よりも高い、8mmプローブを備えたShimadzuテクスチャーアナライザーを使用した肉製品の圧縮試験から得られた結果として定義される、硬度。
【請求項11】
水、肉、リン酸塩、及び/又は塩化ナトリウム若しくはカリウム塩、最も好ましくはポリリン酸塩、並びに請求項1~5のいずれか一項において定義される非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを含む混合物を提供して、肉製品を得ること、続いて前記肉製品の65~90℃、好ましくは70~80℃のコア温度までの熱処理を含む、低温殺菌された肉製品を調製するための方法。
【請求項12】
●前記低温殺菌された肉製品が、注入されたハムである場合、混合物を前記提供することが、水、前記リン酸塩、及び/又は前記塩化ナトリウム若しくはカリウム塩、前記非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン、並びに更なる任意の成分の混合物を、全生筋肉に注入することを含み、
●前記低温殺菌された肉製品が、再構成されたハム、ソーセージ、又はパテである場合、混合物を前記提供することが、粉砕された生肉、水、前記リン酸塩、及び/又は前記塩化ナトリウム若しくはカリウム塩、前記非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン、並びに更なる任意の成分の混合、好ましくはタンブリング、振盪、撹拌、又は押出を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
物理的応力の印加下、天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを、少なくとも70℃、好ましくは125~175℃の温度で、2~12重量%、好ましくは3~9重量%の最終水分含有量まで乾燥させることを含む、請求項1~5のいずれか一項において定義される非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを得るための方法。
【請求項14】
前記方法が、空気圧乾燥、サイクロン乾燥、分散乾燥、又は流動床乾燥を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
乾燥前の前記天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンが、15重量%よりも高い、好ましくは18重量%よりも高い水分含有量を有し、かつ/又は前記方法が、110~175℃、好ましくは140~175℃の入口温度、及び70~135℃、好ましくは75~125℃の出口温度での空気圧乾燥を含む、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
デンプンは、水結合、質感の改善、及びスライス性の理由から、肉産業で広く使用されている。
【0002】
デンプン及び修飾デンプンは、そのようなものとして又は、多くの場合、他のハイドロコロイド及び/又はタンパク質と組み合わされた、ブレンドとして使用される。しかしながら、現在知られているデンプンタイプでは、高い水結合及び保水、並びに改善された硬度の組み合わせを達成することはできない。
【0003】
例えば、天然ジャガイモデンプンは、適度な硬度及び保水を提供するが、トウモロコシデンプンは、高い硬度を提供するが、低い水結合及び保水を提供する。通常のアミロペクチンジャガイモデンプンは、非常に高い保水を提供することができるが、硬度を提供しない。本発明は、高い保水及び高い硬度の両方を提供するために低温殺菌された肉製品において使用可能であるデンプンを提供する。
【0004】
Liu(Liu,K.Int.J.Biological Macromolecules,2019,132,1044-1050)は、0.5~2.5時間の持続時間にわたって110℃の温度でオーブンにおいて乾燥させたアミロペクチンジャガイモデンプンを記載した。Liuは、天然アミロペクチンジャガイモデンプンと比較して、ペースト化(ゼラチン化)温度の低減及び乾燥デンプンのピーク粘度の増加を報告したが、変化はわずかであり、潜在的な用途には言及されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1a】APS、OD4、及びPn3のゼラチン化温度(T
g)(
図1a)、並びにAPS(
図1b)、OD4(
図1c)、及びPn3(
図1d)の光学顕微鏡検査を使用した可視化である。
【
図1b】APS、OD4、及びPn3のゼラチン化温度(T
g)(
図1a)、並びにAPS(
図1b)、OD4(
図1c)、及びPn3(
図1d)の光学顕微鏡検査を使用した可視化である。
【
図1c】APS、OD4、及びPn3のゼラチン化温度(T
g)(
図1a)、並びにAPS(
図1b)、OD4(
図1c)、及びPn3(
図1d)の光学顕微鏡検査を使用した可視化である。
【
図1d】APS、OD4、及びPn3のゼラチン化温度(T
g)(
図1a)、並びにAPS(
図1b)、OD4(
図1c)、及びPn3(
図1d)の光学顕微鏡検査を使用した可視化である。
【
図2a】実験2a(
図2a)、実験2b(
図2b)、実験2c(
図2c)、及び実験2d(
図2d)、及び実験2e(
図2e)において調製された肉製品の保水及び硬度である。
【
図2b】実験2a(
図2a)、実験2b(
図2b)、実験2c(
図2c)、及び実験2d(
図2d)、及び実験2e(
図2e)において調製された肉製品の保水及び硬度である。
【
図2c】実験2a(
図2a)、実験2b(
図2b)、実験2c(
図2c)、及び実験2d(
図2d)、及び実験2e(
図2e)において調製された肉製品の保水及び硬度である。
【
図2d】実験2a(
図2a)、実験2b(
図2b)、実験2c(
図2c)、及び実験2d(
図2d)、及び実験2e(
図2e)において調製された肉製品の保水及び硬度である。
【
図2e】実験2a(
図2a)、実験2b(
図2b)、実験2c(
図2c)、及び実験2d(
図2d)、及び実験2e(
図2e)において調製された肉製品の保水及び硬度である。
【
図3】低温殺菌された肉製品中の異なるデンプンタイプの特性である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを2~12重量%、好ましくは3~9重量%の水分含有量まで乾燥させることを含むプロセスによって入手可能な、非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを提供し、この非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、30重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、乾燥前の天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンのゼラチン化温度よりも2.5℃超、好ましくは3~8℃低い、ゼラチン化温度を特徴とする。乾燥前の天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、好ましくは、通常大気条件下で平衡水分含有量のデンプンである。(10~30℃、好ましくは18~22℃、40~75重量%、好ましくは40~60重量%の相対湿度)。そのような条件下での平衡水分含有量は、少なくとも15重量%、好ましくは15~40重量%、より好ましくは18~20重量%である。
【0007】
本明細書で使用される場合、「より低い」及び「より高い」という句は、例えば、「未満」及び「超」などの適切な周知の用語、並びに同様の用語に置き換えることができる。
【0008】
好ましい実施形態では、非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、本明細書に記載されるプロセスを通して得られる。
【0009】
本発明は、あるいは、天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを2~12重量%、好ましくは3~9重量%の水分含有量まで乾燥させることを含むプロセスによって入手可能な、非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを提供し、この非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、30重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、59~65℃の、ゼラチン化温度を特徴とする。
【0010】
本発明のデンプンは、予想外の好ましい特性を有し、これは、本発明のデンプンを低温殺菌された肉製品における使用に好適にする。
【0011】
低温殺菌された肉製品(例えば、ハム、ソーセージなど)は、塩、リン酸塩、及び水と組み合わされた、全肉又は粉砕肉に基づいている。組み合わせた後、リン酸塩及び塩は、肉から肉タンパク質を抽出し、「遊離」(「抽出された」、「解放された」)肉タンパク質は、製品に結合する。その後、肉製品は、70~80℃のコア温度に低温殺菌され(「調理され」)、そのプロセスでは、肉タンパク質は、約55~65℃で変性する。肉タンパク質の当該変性は、水に結合するその能力を減少させる。よって、水は、肉製品を調理するプロセスにおいて解放される。
【0012】
通常のデンプンは、多くの場合、塩と添加される。デンプンは、このシステムでは、3つの機能:水結合(ゼラチン化、すなわち、水を取り込むことによって)、保水(シネレシスの逆)、及び硬度(デンプンのゲル強度に関連する)を有する。しかし、デンプンはまた、肉酵素によって部分的に分解され得、これは水結合能力を低下させる。
【0013】
通常の天然アミロペクチンジャガイモデンプン(「APS」、95重量%超、好ましくは98重量%超のアミロペクチンを含む)は、例えば、APSの膨潤は、非アミロペクチンジャガイモデンプンと比較して塩の存在によってあまり影響されないため、高い保水を有する低温殺菌された肉製品を提供する。しかしながら、APSは、低いゲル強度に起因して、肉製品の低い硬度をもたらす。また、APSは、65℃のゼラチン化温度を有するため、変性温度辺りで肉タンパク質によって放出された水は、デンプンによって直ちに結合されない。しかしながら、高いゼラチン化温度のために、APSは、肉タンパク質による分解に対して比較的安定である。
【0014】
肉製品中の通常の天然ジャガイモデンプン(約80重量%のアミロペクチン及び約20重量%のアミロースを含む、「NPS」)の適用は、通常、比較的高いゲル強度に起因して比較的良好な硬度をもたらす。変性肉タンパク質によって放出された水は、デンプンによって直ちに結合することができるため、APSと比較して、NPSの62℃のより低いゼラチン化温度は、良好な水結合を提供する。しかしながら、NPSは、APSよりも少ない水に結合し、より高いシネレシスを有し、よって低い保水をもたらす。加えて、NPSは、肉タンパク質によってかなりの程度まで分解することができる。
【0015】
本発明は、APSを2~12重量%、好ましくは3~9重量%、より好ましくは3~7重量%の水分含有量まで乾燥させることは、APSデンプン顆粒の特性を改変し、この特性の変化は、再水和後も維持されるという洞察に存在する。APSの乾燥は、より低いゼラチン化温度、酵素消化性によって測定される場合の溶液中へのデンプンのより速い放出、及び破壊傾向をもたらす。低温殺菌された肉製品においてそのようなデンプンを適用することは、増加した保水及び増加した硬度を有する肉製品をもたらす。
【0016】
非常に好ましい実施形態では、乾燥は、これがより高度の改変した特性をもたらすため、少なくともいくらかの物理的応力の印加下で行われる。更なる好ましい実施形態では、乾燥は、中性条件下で実施される。乾燥させるデンプンのpH、及び乾燥中のpHは、好ましくは5~9、より好ましくは6~8である。
【0017】
代替の好ましい実施形態では、非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、以下の特徴のうちの、1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、及びより好ましくは全てを有する:
・30重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、59~65℃の、ゼラチン化温度。ゼラチン化温度は、それ以降デンプンが水をかなり吸収し始める温度である。
・標準化アミラーゼ分解法を用いて測定された、乾燥前の天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの酵素消化性よりも高い、酵素消化性。酵素消化性は、デンプン顆粒を浸出し、温度がデンプン顆粒がゼラチン化し始める点に達する前に遊離水に結合することができる、デンプンの量を反映する。
・標準化アミラーゼ分解法を用いて測定された、少なくとも8.5mg/gの乾燥物質、好ましくは9~18mg/gの、酵素消化性。
・6.4重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、乾燥前の天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの分解よりも高い、分解。分解は、ピーク粘度と比較した粘度の減少を反映し、したがって、デンプン顆粒がどれほどよく破壊されるかの尺度である。
・6.4重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、少なくとも65%、好ましくは少なくとも65.5%の、分解。
・6.4重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、乾燥前の天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンのピーク粘度よりも高い、ピーク粘度。ピーク粘度は、保水の重要な属性である、顆粒の膨張強度の尺度である。
・6.4重量%の乾燥固体でRVAを使用して測定された、少なくとも3500mPa・s、好ましくは少なくとも3550mPa・s、より好ましくは少なくとも3600mPa・sの、ピーク粘度。
【0018】
本発明のデンプンは、ゼラチン化温度(Tg)が、非乾燥デンプン(APS)と比較して、より低いという利点を有する。同時に、酵素消化性が増加する。これは、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの保水が、2~12重量%まで乾燥させるプロセスによって改善したと同時に、保水がより低温で生じることを示す。しかしながら、ピーク粘度は維持され、強い吸水を反映する。
【0019】
理論によって拘束されることを望むものではないが、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを乾燥させるプロセスは、顆粒がより容易に断片化するような方法でデンプン顆粒を損傷すると推測される。これは、光学顕微鏡検査によって確認される。
【0020】
単に乾燥したデンプン(2~12重量%の水分まで)は、乾燥前のデンプンに存在しなかった亀裂を示し、一方、増加した物理的応力下で乾燥させることは、当初は存在しなかった同様の亀裂をもたらすが、更には中程度の顆粒状断片化をもたらす。結果として、非常に好ましい実施形態では、本発明の非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを、物理的応力の印加下、2~12重量%、好ましくは3~9重量%、より好ましくは3~7重量%の水分含有量まで乾燥させることを含むプロセスによって得られる。
【0021】
本明細書で使用される、物理的応力は、乾燥の文脈において一般的に知られている句である。物理的応力の印加下での乾燥は、乾燥される材料に対する衝撃圧力の形態を本質的に伴う乾燥の方法を指す。この衝撃圧力は、乾燥プロセス中にデンプン顆粒の、装置の表面又は他のデンプン顆粒との衝突に起因し得る。
【0022】
物理的応力の印加下での乾燥の非常に好ましい方法は、空気圧乾燥及び流動床乾燥である。
【0023】
顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、食品産業における従来成分である。市販の顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの一例は、AvebeからのEliane 100である。
【0024】
デンプンの阻害は、一般的に知られているプロセスである。デンプンの熱阻害は、デンプンを、一般にアルカリ性条件(9超~14までのpH)下、加熱することによって、デンプンが架橋されるプロセスで行われる。阻害が生じるためには、デンプンは、一般に、少なくとも100℃、一般に約120~180℃の温度まで同時に加熱しながら、2重量%未満の水分含有量まで乾燥されなければならない。よって、非阻害デンプンは、2重量%未満の水分含有量で100℃超の温度に供されていないデンプンである。熱阻害されたデンプンを得るためのプロセスはまた、乾燥ステップを含むが、熱阻害されたデンプンは、本発明のデンプンについて観察されるように、低温殺菌された肉における増加した保水及び増加した硬度の利点を提供しない。
図3は、低温殺菌された肉の分野における他のデンプンと比較した本発明のデンプンの効果の概要を示す。
【0025】
本発明の非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、亀裂の存在によって及び断片化によって特徴付けられ、架橋されていないが、阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、架橋の存在によって非阻害製品と比較して強化されている、無傷の顆粒状構造によって特徴付けられる。
【0026】
本明細書で使用される、「顆粒状」は、自然界で生じるデンプンの構造を指す。自然界では、デンプンは、「デンプン顆粒」と呼ばれる、小さな粒子に存在する。本発明のデンプンは、いくらかの断片化及び亀裂にもかかわらず、大部分が顆粒状構造を保持する。本発明のデンプンは、顆粒状であるが、デンプン顆粒は、乾燥プロセスによって弱められている。
【0027】
デンプンの顆粒状構造は、デンプンゼラチン化が、デンプン顆粒分子構造(アミロペクチン及び(NPSの場合)アミロースの非晶質及び結晶領域)がアミロペクチン及び/又はアミロース分子の個々の溶解によって失われるプロセスであるため、(一般に知られているように)ゼラチン化後に失われる。その結果として、顆粒状デンプンは、ゼラチン化されていないデンプンである。
【0028】
本発明のデンプンは、天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを2~12重量%、好ましくは3~9重量%の水分含有量まで乾燥させることを含むプロセスによって入手可能である。当該プロセスは、デンプンの顆粒状構造に機械的に未知の方法で影響を与え、これは顆粒状損傷をもたらす。
【0029】
乾燥されるデンプンは、天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンである。この点において天然とは、デンプン顆粒が、例えば、デンプン顆粒のエーテル化、エステル化、若しくはアミド化によっても、あるいはデンプン顆粒の酸化、酵素作用、又は塩基性若しくは酸性加水分解によっても、乾燥前に修飾されていないことを意味する。天然デンプンは、当該デンプンのその特性を改変するための更なる加工なしでの、原料(ジャガイモ)からの単離後のデンプン顆粒である。
【0030】
当該天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの乾燥は、オーブン乾燥によるものなどの、付随する物理的応力の不在下での乾燥であり得る。列挙された水分含有量までのオーブン乾燥は、70を超える、好ましくは75~99℃の温度で達成することができる。デンプンの水分含有量が、水分含有量が2重量%よりも低くなるのを防ぐために、慎重に監視される限り、より高い温度を適用することができ、それによって阻害を防ぐ。例えば、オーブン乾燥は、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも110℃、より好ましくは少なくとも120℃、例えば、100~180℃、又は110~150℃の温度で乾燥することによって達成することができる。全体として、70~180℃の温度、例えば、75~150℃、好ましくは80~130℃が使用可能である。
【0031】
好ましい実施形態では、2~12重量%、好ましくは3~9重量%、より好ましくは3~7重量%の水分含有量までの乾燥は、付随する物理的応力下、例えば、空気圧乾燥、サイクロン乾燥、分散乾燥、又は流動床乾燥によって達成される。
【0032】
空気圧乾燥は、気流乾燥としても既知である。空気圧乾燥は、本文脈において、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの空気圧乾燥機への導入を含む。乾燥される天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの水分含有量は、一般に15重量%よりも高く、好ましくは18重量%よりも高く、例えば、18~42重量%である。空気圧乾燥機の入口温度は、110~175℃、好ましくは140~175℃に設定することができ、出口温度は、70~135℃、好ましくは75~125℃であり得る。滞留時間は、デンプンの阻害が起こらないように設定されなければならない。好適な滞留時間は、1~200秒、好ましくは2~100秒、より好ましくは3~30秒であり得る。滞留時間を増加させることによって、出力温度は増加し、流量は減少する。
【0033】
流動床乾燥は、デンプンが熱風の旋風で乾燥され、それによってデンプンを乾燥させ、同時に物理的応力を印加するプロセスである。好適な温度は、最大140℃であり得るが、特により高い温度では、阻害が生じないように滞留時間を設定しなければならない。流動床乾燥機の利点は、滞留時間を容易に適合させることができることである
【0034】
サイクロン乾燥機は、増加した滞留時間を提供する空気圧乾燥機である。サイクロン乾燥機は、円錐形オリフィスによっていくつかのチャンバーに分割される、円筒形シェルである。製品は、サイクロン乾燥機の底部で、例えば、空気圧乾燥機から、乾燥空気と一緒に、横方向に供給される。空気及び粒子の回転運動は、乾燥機の上部まで継続し、それによって最大30分の滞留時間を達成し、これは、付随する物理的応力下で水分含有量の低減を可能にする。
【0035】
分散乾燥機はまた、底部に空気分配プレートを備えた、タンクから供給される、熱風を使用して乾燥させる。加熱された空気は、プレートを介して底部から螺旋状に導入される。フィードは、タンクにおいて中央パイプを介して導入され、回転分散機によって空気分配プレートの上で水平に分配される。乾燥させながら、空気は、製品を螺旋状にタンクを通して輸送する。分散乾燥機の利点は、付随する物理的応力下、低い水分含有量に達することを可能にする増加した滞留時間である。
【0036】
顆粒状デンプン又はデンプンフィルターケーキを乾燥させる他の代替物は、LarssonからのWhirl Flash(商標)乾燥機又はSiccaDaniaからのZeta Dryerである。製品は、従来のフラッシュ乾燥機と比較してより高い入口温度を可能にする、急速回転ブレードを使用して熱風で分散される。崩壊ゾーンから、粉末は、流動化ゾーンに流れ、そこで粉末は所望の水分含有量まで乾燥される。最後に、粉末及び空気は、乾燥機システムから取り出され、サイクロン又はフィルターを使用して分離され、任意に冷却される。
【0037】
乾燥プロセスによって加えられる顆粒状損傷は、不可逆的である。本発明による非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、それらの好ましい特性を保持しながら、通常の大気条件下で、平衡、水分含有量(例えば、18~20重量%の水分)に再水和又はそうでなければ平衡化することができる。通常の大気条件は、10~30℃の温度及び40~75%の相対湿度によって定義される。
【0038】
本乾燥プロセスによって入手可能なデンプンは、低温殺菌された肉製品における適用に驚くほど好適である。その結果として、本発明は、以上で定義される非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを含む低温殺菌された肉製品を更に提供する。
【0039】
低温殺菌された肉製品は、本文脈において、水と、並びに好ましくは少なくともリン酸塩及び/又は塩化ナトリウム若しくはカリウム塩、最も好ましくはポリリン酸塩と組み合わせられ、70~80℃のコア温度に調理された動物由来の肉をベースとする肉製品である。本発明の低温殺菌された肉製品は、好ましくはハム、好ましくは再構成されたハム若しくは全筋肉ハム、ソーセージ、好ましくは挽かれたタイプのソーセージ若しくは乳化されたソーセージ、ナゲット、バーガー、又はパテである。
【0040】
水及び塩との組み合わせは、好ましくは、タンブリング、乳化、又は他のタイプの混合(様々なタイプの粉砕された(挽かれた、刻まれた、又はそうでなければ粒子化された)肉について)、及び注入(全肉の場合)によって達成される。水及び塩との組み合わせは、好ましくは、10℃未満、好ましくは0.5~8℃、より好ましくは1~5℃の温度で達成される。
【0041】
粗肉製品は、その後、必要に応じて好適な容器において、70~80℃、好ましくは71~78℃、より好ましくは72~75℃のコア温度まで調理される。低温殺菌された肉製品は、好ましくは、消費まで比較的低い温度、例えば、10℃未満、好ましくは0.5~8℃、より好ましくは1~5℃の温度で保存される。
【0042】
本発明は、低温殺菌された肉製品を調製するための方法を提供し、水、肉、リン酸塩、及び/又は塩化ナトリウム若しくはカリウム塩、最も好ましくはポリリン酸塩、並びに上記で定義される非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを含む混合物を提供して、肉製品を得ること、続いて当該肉製品の70~80℃のコア温度までの熱処理を含む。
【0043】
低温殺菌された肉製品が、注入されたハムである場合、混合物を提供することは、水、リン酸塩、及び/又は塩化ナトリウム若しくはカリウム塩、最も好ましくはポリリン酸塩、非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン、及び更なる任意の成分の混合物を、全生筋肉に注入することを含む。
【0044】
低温殺菌された肉製品が、再構成されたハム、ソーセージ、又はパテである場合、混合物を提供することは、粉砕された(挽かれた、刻まれた、又はそうでなければ粒子化された)生肉、水、リン酸塩、及び/又は塩化ナトリウム若しくはカリウム塩、最も好ましくはポリリン酸塩、非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン、並びに更なる任意の成分の混合、好ましくはタンブリング、乳化、振盪、撹拌、又は押出を含む。
【0045】
好ましい実施形態では、低温殺菌された肉製品は、乾燥固体に基づいて、1~15重量%、好ましくは4~10重量%の非阻害顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの量を含む。
【0046】
更なる好ましい実施形態では、低温殺菌された肉製品は、任意に、以下の成分のうちの1つ以上を含む:
●好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウムから選択される、1つ以上の塩;
●好ましくはハイドロコロイド、例えば、カラギーナン、ゼラチン、デンプン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアガム、キサンタン、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、コンニャクマンナン、又は植物性タンパク質ゲル化剤、例えば、天然大豆タンパク質、天然エンドウ豆タンパク質若しくは天然ジャガイモタンパク質から選択される、1つ以上のゲル化剤;
●好ましくはデキストロース、スクロース、グルコース、ラクトース、フルクトース、アスパルテーム、及びサッカリンの群から選択される、1つ以上の甘味料
●好ましくはリグニン、セルロース、ヘミセルロース、フルクトオリゴ糖、ガラクト-オリゴ糖、及び耐性デンプンの群から選択される、1つ以上の繊維;
●好ましくはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル(PG)、又は三級ブチルヒドロキノン(TBHQ)、フェノール酸、フェノール性ジテルペン、フラボノイド、揮発油、カロテノイド、ビタミンA、ビタミンC、及びビタミンE、並びに生物活性ペプチドの群から選択される1つ以上の酸化防止剤、並びに/又はクローブ、ローズマリー、オレガノ、ナツメグ、セージ、シナモン、グレープ、ブルーベリー、ストロベリー、及びシトラスの抽出物;
●好ましくはグラウンドペッパー、パセリ、パプリカ、ガーリック、フェンネル、タイム、クミン、ナツメグ、ベイリーブ、マスタード、ジンジャー、セージ、ディル、オレガノ、ローズマリー、及びセロリから選択される1つ以上のスパイス;
【0047】
上記で列挙された任意の成分の量は、広い限界内で変動し得、低温殺菌された肉製品を調製する分野における当業者に一般に知られている。
【0048】
以下の特徴のうちの1つ以上を有することは、本発明の低温殺菌された肉製品の利点である:
・2~12重量%まで乾燥されていない天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを使用して調製された同一の肉製品の保水よりも高い、100を乗じた、4時間後に濾紙に当該切断面を置くことから得られた湿潤表面積で割った低温殺菌された肉製品の一部分の切断面の表面積として定義される、保水、及び
・2~12重量%まで乾燥されていない天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを使用して調製された同一の肉製品の硬度よりも高い、8mmプローブを備えたShimadzuテクスチャーアナライザーを使用した肉製品の圧縮試験から得られた結果として定義される、硬度。
【0049】
他の顆粒状デンプンタイプが、本発明の乾燥方法に供されるとき、本明細書に記載される低温殺菌された肉製品における改善された性能をもたらさないことは、注目に値する。トウモロコシデンプン及びタピオカデンプンは、例えば、天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンと同一に加工されるとき、肉製品に適用されるときに多かれ少なかれ一定の保水を示す。肉製品における保水及び硬度に対するデンプンの乾燥の効果は、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンに特有であり、他のデンプンタイプでは発生しないようである。
【0050】
明確にするために、及び簡潔な説明のために、特徴は、同じ又は別個の実施形態の部分として本明細書に記載されているが、本発明の範囲は、記載される特徴の全て又はいくつかの組み合わせを有する実施形態を含み得ることが理解されるであろう。ここで、本発明を、以下の非限定的な例によって例示する。
【実施例】
【0051】
実施例1-2~12重量%の水分含有量まで乾燥させる効果
本発明のデンプンの特性を、複数の密接に関連するデンプンタイプと、全て標準的実験室条件(20±2℃、40~60%相対湿度)下、平衡水分含有量で比較した。それらの特性について評価されたデンプンは以下を含んだ:
●NPS:天然顆粒状ジャガイモデンプン(乾燥固体の)80重量%のアミロペクチン;ジャガイモデンプン、Avebe)。
●APS:天然顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン(>98重量%のアミロペクチン;Eliane 100、Avebe。標準的実験室条件下での平衡水分含有量19重量%)。
●OD4:オーブン乾燥顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン(4重量%の水分、非阻害)。OD4は、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン(19.7%の水分)を80℃の温度で約5時間オーブン乾燥させ、その後少なくとも4時間、標準的実験室条件まで冷却及び平衡化することによって調製した。
●Pn3:空気圧乾燥顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン(3重量%の水分まで乾燥、非阻害)。Pn3は、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン(19.7%の水分)を蒸気加熱空気圧乾燥機(VTK)において、120℃の入口温度及び100℃の出口温度で、3重量%の水分含有量まで乾燥させることによって調製した。
●Pn8:空気圧乾燥顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン(8重量%の水分まで乾燥、非阻害。Pn8は、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプン(19.7%の水分)を蒸気加熱空気圧乾燥機(VTK)において、120℃の入口温度及び75℃の出口温度で、8重量%の水分含有量まで乾燥させることによって調製した。
●TIPS:熱阻害顆粒状ジャガイモデンプン(80重量%のアミロペクチン;デンプンを1部のデンプンと1.5部の水とを含むスラリーに懸濁することによって調製され、5重量%のNa2CO3溶液を使用してpH9.5に調整され、これは1時間撹拌され、次いで濾過され、乾燥され、挽かれ、その後オーブンにおいて160℃で60分間阻害され、冷却され、平衡水分含有量が得られた。
●TIAPS:熱阻害アミロペクチンジャガイモデンプン。ワックス状ジャガイモデンプンを1.5当量の水でスラリー化し、Na2CO3でpH9.0にする。スラリーを1時間撹拌し、Buchner漏斗で濾過する。フィルターケーキを室温で3日間乾燥させ、その後、Retsch GM 300において粉砕する。生成物を、その後Retsch熱風乾燥機において90℃で75分間、2重量%未満の水分含有量まで更に乾燥させる。乾燥デンプンを回転ドラムにおいて165℃で180分間阻害し、その後冷却し、平衡水分含有量に到達させる。
●Liu OD1及びLiu OD6(比較):Liuによるオーブン乾燥アミロペクチンジャガイモデンプン。ワックス状ジャガイモデンプン(Avebe、オランダ)を水に懸濁し、pHを7に設定した。デンプンを収集し、19.7%の通常の水分含有量まで乾燥させた。乾燥デンプン顆粒を110℃に設定されたオーブンにおいて2.5時間加熱した。50分後、分析のためにオーブンから一定量のデンプンを採取し、これは6.1重量%(OD6)の水分含有量を有するデンプンをもたらすため、50分の時間が選択された。2.5時間後、Liuに従って調製されたデンプンは、0.7%(OD1)の水分含有量を有した。その後、デンプンを冷却し、少なくとも4時間にわたって標準的な実験室条件に平衡化した。
【0052】
ゼラチン化温度(30重量%の乾燥固体でのRVA)。
デンプンのゼラチン化温度(Tg)を、Newport ScientificからのRapid Visco Analyzer(RVA)を使用して決定した。30重量%の量のデンプン(乾燥重量)を25gの総重量で室温で通常の水道水に懸濁し、30℃の温度に加熱しながら、960rpmで30秒間撹拌した。その後、撹拌速度を160rpmに低減し、試料をゼラチン化が生じるまで0.84℃/分で線形温度増加に供し、Tgを記録した。ゼラチン化温度は、粘度がベースラインを超えて100mPa.sまで増加し、その温度からデンプンが水をかなり吸収し始める温度である。
【0053】
ピーク粘度(6.4重量%の乾燥固体でのRVA)
デンプンのピーク粘度を、27gの総体積で通常水道水中の6.4重量%の固体(乾燥重量)のRVAを使用して決定した。960rpmで10秒間撹拌しながら、懸濁液を45℃の温度に加熱した。速度を160rpmに低減し、45℃での加熱を更に50秒間継続した。次いで、160rpmで撹拌しながら、温度を5.0℃/分で95℃まで線形的に増加させ、その後温度を95℃で6分間保持した(保持相)後、10℃/分で40℃まで線形冷却した(冷却相)。温度を40℃で3分間保持した(保持相)。試料の粘度をmPa・sでモニタリングし、ピーク粘度及び保持相の終了時の粘度を記録した。ピーク粘度は、肉製品の保水の重要な属性である、顆粒の膨張強度の尺度である。
【0054】
分解
デンプンの分解は、6.4重量%の乾燥固体で得られたRVA結果から決定した。分解は、ピーク粘度と比較した粘度の減少を反映し、したがって、デンプン顆粒がどれほどよく破壊されるかの尺度である。これは、保水の重要な態様である。
【0055】
【0056】
酵素消化性
酵素消化性又は「消化性」は、標準化アミラーゼ分解法を用いて測定される:
材料
○0.1M 酢酸ナトリウム緩衝液+0.005M CaCl2 pH5.0
○0.1M 酢酸ナトリウム緩衝液 pH5.0
○0.2%(v/v) 硫酸
●α-アミラーゼ、酵素活性3000U/ml、Megazyme cat.no.E-BLAAM
●アミログコシダーゼ、酵素活性3260U/ml、cat.no.E-AMGDF
●D-Glucoseテストキット:D-Glucose-HKテストキット、Megazyme cat.o.以下を含有するK-GLUHKR:
○ボトル1:緩衝液+アジ化ナトリウム
○ボトル2:NADP++ATP使用前に粉末を12mlの水に溶解する
○ボトル3:ヘキソキナーゼ+グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(懸濁液)
手順
●0.1mgの精度で、最小0.095及び最大0.105gのデンプンを遠心チューブ(15ml)で計量する
●50mlの酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0+0.005M CaCl2中の0.100mlのα-アミラーゼをピペティングすることによって、分析直前にα-アミラーゼ溶液を調製する。均質化し、0.5mlの前の溶液を9.5mlの酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0+0.005 CaCl2にピペティングすることによって更に希釈し、均質化する。
●希釈されたα-アミラーゼ溶液を40℃の水浴で5分間加熱する
●1mlの予熱されたα-アミラーゼ溶液を、デンプンを含有する遠心チューブに加え、タブにキャップをし、Vortexで5秒間混合し、直ちにチューブを40℃の水浴に入れる。
●ちょうど10分後、水浴からチューブを取り出し、5mlの0.2%(v/v)の硫酸を加え、慎重に混合する。
●周囲温度で5分間静置した後、2000gで5分間遠心分離する。
●0.5mlの透明な上清を清潔な遠心チューブにピペティングする
●0.150mlのアミログルコシダーゼを10.00mlの0.1M酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0にピペティングすることによって、希釈されたアミログルコシダーゼ溶液を調製する
●0.5mlの希釈されたアミログルコシダーゼを透明な上清溶液にピペティングし、慎重に混合する。
●遠心チューブを40℃の水浴に入れ、10分間加熱する。
●水浴から遠心チューブを取り出し、周囲温度まで冷却し、4mlの水を加え、均質化する
●この溶液(Vm)をグルコース含有量の決定に使用する(以下を参照されたい)
グルコース含有量決定:
●プラスチックキュベットに、1.6mlの水、0.50mlの溶液Vm、ボトル1から0.10ml、テストキットのボトル2溶液から0.10mlをピペティングし、均質化する。
●3分後、空気に対して340nmでの吸収を測定する(A1)
●テストキットのボトル3から20マイクロリットルを加え、均質化し、最短5分後、再び吸収を測定する(A2)。
【0057】
両方の吸収の違いから、酵素消化性は、以下によって決定される:
【数2】
式中
【表1】
【0058】
酵素消化性は、デンプン顆粒を浸出し、温度がデンプン顆粒がゼラチン化し始める点に達する前に遊離水に結合することができる、デンプンの量を反映する。好ましくは、肉タンパク質によって放出された水に結合するためにいくらかのデンプンを浸出させるべきである。この段階での水結合は、肉タンパク質がより密度の高い環境において変性するので、硬度を増強するために重要である。しかしながら、放出されるデンプンの量が多すぎる場合、肉酵素は、デンプンの大部分を分解し、分子量の低減をもたらし、これは保水能力の低減を引き起こすであろう。
【0059】
光学顕微鏡検査
2つのガラスプレートの間に試料を導入し、3500gの重量で2秒間プレスし、同時にガラスプレートを5回、5mm前後に移動させることによって、デンプン試料の光学顕微鏡検査を行った。その後、試料を、10倍/0.25倍率でOlympus U-TV1 X光学顕微鏡を使用して可視化した。
【0060】
結果
上記に列挙されたデンプンタイプを、Tg、酵素消化性、ピーク粘度、及び分解について比較分析に供した。結果を表1(
図1a)に示す:
【表2】
【0061】
表から、2~12重量%の水分含有量まで乾燥させることが、非乾燥(APS)デンプンと比較して、Tgが通常のジャガイモデンプンと同等のレベルまで低減されるという結果を有することが明らかである。同時に、酵素消化性が増加する。これは、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの保水が、2~12重量%まで乾燥させるプロセスによって改善したと同時に、保水がより低温で生じることを示す。しかしながら、ピーク粘度は維持され、強い吸水を反映する。
【0062】
阻害されたデンプンタイプは、これらの効果を示さない:阻害されたデンプンタイプTIPS及びTIAPSは、より高い酵素消化性及び(はるかに)より低い分解を有し、これは阻害が適切な顆粒破壊を妨げることを示す。
【0063】
APS、Pn3、及びOD4試料も、光学顕微鏡を使用して可視化した。APSがプレス後にその顆粒状構造を保持するのに対し、OD4が顆粒状亀裂を示すことが明確に視認できる。Pn3は、プレス後に亀裂を示すだけでなく、部分的に断片化もしている(
図1b-d)。よって、顆粒を2~12重量%の水分含有量まで乾燥させることは、特に空気圧乾燥によってなどの、付随する応力が印加されるとき、顆粒の断片化性を増加させる。
【0064】
実施例2-肉製品における2~12重量%の水分含有量まで乾燥させた顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンの効果
肉製品の調製
本発明のデンプンの利点は、例示的な肉製品:調理されたハムに示された。調理されたハムは、以下の成分に基づいて調製した:
【表3】
【0065】
0.72重量%のトリポリリン酸ナトリウムを4℃の通常水道水に溶解すること、その後の3.2重量%の塩(NaCl)、0.72重量%のカラギーナン、及び10.8重量%(乾燥固体)のデンプンの添加によって、ブラインを調製した。ブラインを、8mmの穴を有するプレートを45分間使用して8mmサイズ片に挽かれた、地元の肉屋から得られた新鮮な豚肉(ハム領域)を有するタンブラーにおいて真空下でタンブリングした。得られた粗肉混合物を、75℃又は80℃の水浴で、74℃のコア温度に達するまで低温殺菌された450gポーションで缶に充填した。缶を氷水中で冷却し、4℃の冷蔵庫に保存した。
【0066】
肉製品は、全て標準的実験室条件(20±2℃、40~60%湿度)下、平衡水分含有量で、本発明のデンプンを使用して、又は比較デンプンを使用して調製した。各デンプンタイプについて、肉製品の保水及び硬度を測定した。肉製品を調製するために使用される豚肉の組成における固有のばらつき(主に脂肪含有量)のために、保水及び硬度はまた、該当する場合、2~12重量%まで乾燥させる前に、同じタイプのデンプンを使用した肉製品の保水及び脂肪含有量と比較して表された。
【0067】
保水
肉製品の保水を、73mm半径の円筒形ブロックのハムの新鮮な面を濾紙(Schleicher&Schuell 595、125mm濾紙サークル)に置き、標準的実験室条件(20±2℃、40~60%湿度)下で4時間後に紙の湿潤部分の表面積を測定することによって分析した。保水は、100を乗じた、濾紙の湿潤表面積で割ったハムの切断面の表面積として算出した。
【0068】
硬度
ハムの硬度は、8mmプローブでの缶当たり8回の圧縮型測定を使用して、Shimatzuテクスチャーアナライザー(Shimatzu EZ-SX Food Texture Analyzer)を使用した圧縮測定によって評価した。能力は、ストローク型対照と比較して、500N及び試験速度1mm/sであった。
【0069】
結果
第1のバッチの豚肉(実験2a)を使用して、実施例1で定義されるAPS、Pn3、Pn8、及びOD4を使用して肉製品を調製した。肉製品を75℃で低温殺菌した。結果を表2(
図2a)に提供する:
【表4】
【0070】
結果は、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを応力下で2~12重量%の水分含有量まで乾燥させることによって、肉製品の保水及び硬度の両方が増加することを示す。本発明のデンプンは、両方の態様に対する有意な改善を提供する。
【0071】
実験2bでは、肉製品は、同じデンプンタイプに基づいて調製したが、80℃で低温殺菌した。結果を表3(
図2b)に提供する:
【表5】
【0072】
結果は、顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンを応力下で2~12重量%の水分含有量まで乾燥させることによって、肉製品の保水及び硬度の両方が増加することを示す。対照的には、阻害ジャガイモデンプンは、APS及び本発明のデンプンの両方と比較して、より低い保水をもたらす。
【0073】
更に、2つの実験から、低温殺菌温度が高いほど、硬度に対する乾燥の影響がより有利になるのに対し、低温殺菌温度が低いほど、保水に対する乾燥の影響がより有利になることがわかる。
【0074】
第3の実験(実験2c)を行って、観察された乾燥の効果が他のアミロペクチンデンプンタイプでも生じるかを評価した。同じタイプのジャガイモデンプンを使用し、Pn3(「トウモロコシ及び「トウモロコシPn3」)と同一の方法で2~12重量%の水分含有量まで乾燥させた、顆粒状アミロペクチントウモロコシデンプンと比較した。4つのデンプンタイプを、同じレシピに従い、80℃で低温殺菌された、同じ挽かれたバッチの肉を使用した肉製品において比較した。結果を表4に示す(
図2c):
【表6】
【0075】
表4から、物理的応力下、2~12重量%の水分含有量まで乾燥させる好ましい効果は、ワックス状トウモロコシデンプンでは生じないという結果になる。顆粒状ワックス状ジャガイモデンプン及び顆粒状ワックス状トウモロコシデンプンに対する同一の処理は、逆の効果をもたらす:非阻害乾燥顆粒状アミロペクチンジャガイモデンプンは、肉製品における増加した保水及び硬度をもたらすが、非阻害乾燥顆粒状アミロペクチントウモロコシデンプンは、肉製品における減少した保水をもたらす。
【0076】
第4の実験(実験2d)では、阻害アミロペクチンジャガイモデンプンとの比較を含めた。阻害アミロペクチンジャガイモデンプンは、最小限の程度しか阻害されておらず、実施例1におけるTIAPSの調製方法に従って調製されたが、阻害は、150℃で45分間、回転ドラムにおいて実施した(「TIAPS2」)。結果を表5(
図2d)に提供する:
【表7】
【0077】
結果は、わずかな阻害でさえ、はるかに低下した硬度をもたらすのに対し、阻害なしに水分含有量まで乾燥させることが、増加した硬度及び増加した保水の両方をもたらすことを示す。
【0078】
第5の実験(実験2e)では、Liuに従って110℃で乾燥させたオーブン乾燥デンプンとの比較を行った。肉製品の低温殺菌を80℃で行った。結果を表6(
図2e)に提供する:
【表8】
【0079】
結果は、110℃でのオーブン乾燥が、肉製品の保水及び硬度の両方を増加させるデンプンを提供しないことを示す。Liu OD6で、保水はわずかに改善されるが、天然アミロペクチンジャガイモデンプンと比較して硬度は低下する。Liu OD1で、硬度はより良くなるが、保水は悪くなる。
【国際調査報告】