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特表2024-520094菌株の分離および培養のための方法、菌株、その使用、それを培養するための培地ならびにスキネトミンの形態
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】菌株の分離および培養のための方法、菌株、その使用、それを培養するための培地ならびにスキネトミンの形態
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20240514BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240514BHJP
   C12P 17/18 20060101ALN20240514BHJP
   A61K 8/99 20170101ALN20240514BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/12 B
C12N1/12 C
A61Q17/04
A61K8/49
C12P17/18 B
A61K8/99
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573379
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 PL2022050034
(87)【国際公開番号】W WO2022250557
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P.437991
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523447041
【氏名又は名称】ウベラ、スポルカ、アクツィナ
【氏名又は名称原語表記】UVERA SA
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】アダム、キチャク
(72)【発明者】
【氏名】マグダレナ、ヤンダー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C083
【Fターム(参考)】
4B064AE57
4B064CA02
4B064CA08
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC12
4B064CC15
4B064CD02
4B064CD21
4B064CE03
4B064CE08
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA83X
4B065AC14
4B065BA22
4B065BB02
4B065BB03
4B065BB04
4B065BB22
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC48
4B065BD14
4B065BD16
4B065BD18
4B065CA02
4B065CA16
4B065CA18
4B065CA50
4C083AA031
4C083AA032
4C083AC851
4C083AC852
4C083BB46
4C083CC19
4C083EE17
4C083FF01
(57)【要約】
本発明の目的は、菌株の分離および培養のための方法、菌株、その使用、それを培養するための培地ならびにスキネトミンの形態である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノバクテリア(Cyanobacteria)株、特に、BEA_IDA_0068B番またはBEA_IDA_0075B番としてBanco Espanol de Algas Universidad de Las Palmas de GCに寄託されているものの分離および培養のための方法であって、
a)培地1000mL当たり以下の組成:1.5g NaNO、0.04g KHPO、0.075g MgSO×7HO、0.036g CaCl×2HO、6.0mgクエン酸、6.0mgクエン酸鉄アンモニウム、1mg EDTA、0.02g NaCO、1mL微量金属A5ブレンド(A5ブレンド水溶液1000mL当たり以下の組成:2.86g HBO、1.81g MnCl×4HO、0.222g ZnSO×7HO、0.39g NaMoO×2HO、0.079g CuSO×5HO、49.4mg Co(NO)2×6HOを有する)を有する培地水溶液1000mL当たり200gの量の、質量百分率で以下の含量:97.6%石英、0.4%白雲母-黒雲母、1.2%アパタイト、および0.8%のその他の微量の鉱物を含む、ヌビア層に由来する天然砂岩に見られる微量および多量栄養素を富化し、次いで得られた懸濁液を25℃で24時間撹拌し、その後25℃で5時間沈降させ、それを濾過することによって増殖培地を調製すること;
b)環境から細菌を採取すること;
c)段階b)で採取された生物材料を、段階a)で得られた、すなわち、表1による、石で富化された液体培地中で、好ましくは各4週間の5段階の3つの中間段階、すなわち2つの端点段階(初期、最終)および3つの中間段階で、開始時2重量%~終了時0.5重量%の間の端点含量の寒天を追加して継代培養すること、ここで、中間段階の増殖培地は、段階a)で得られた培地に対して以下の量:1.75重量%、1.5重量%、1重量%の追加寒天をそれぞれ含む;
d)最終段階c)の、すなわち0.5%の寒天を含有する培養溶液を、組成が段階Aで開示された培地水溶液に溶解させるが、石の添加と25℃で2週間の撹拌培養は行わないこと
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
BEA_IDA_0068B番としてBanco Espanol de Algas Universidad de Las Palmas de GCに寄託されている、新規細菌株。
【請求項3】
BEA_IDA_0075B番としてBanco Espanol de Algas Universidad de Las Palmas de GCに寄託されている、新規細菌株。
【請求項4】
UV吸収特性を有する色素、特に、スキネトミンまたはその誘導体の製造のための請求項2または3に記載の菌株の使用。
【請求項5】
化粧品、特に、サンスクリーンの製造のための、得られた色素、特に、スキネトミンまたはその誘導体の適用を含んでなる、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
培地水溶液1000mL中、1.5g NaNO、0.04g KHPO、0.075g MgSO×7HO、0.036g CaCl×2HO、6.0mgクエン酸、6.0mgクエン酸鉄アンモニウム、1mg EDTA、0.02g NaCO、1mL微量金属のA5ブレンド(A5ブレンド水溶液1000mL当たり以下の組成:2.86g HBO、1.81g MnCl×4HO、0,222g ZnSO×7HO、0.39g NaMoO×2HO、0.079g CuSO×5HO、49.4mg Co(NO×6HOを含む)を含有し、質量百分率で以下の含量:97.6%石英、0.4%白雲母-黒雲母、1.2%アパタイトおよび0.8%のその他の微量鉱物を有する天然ヌビア砂岩を200g摩砕石/1000mL培地の量で含有することを特徴とする、シアノバクテリアを培養するための培地。
【請求項7】
2θ角度2.500°、4.589°、5.062°、8.630および9.197°に特徴的なピークを有するX線粉末回折スペクトル、
IRスペクトル(KBr)で3345、3065、2961、2926、1713、1591、1516、1449、1296、1175、1145、957、932、930、833[cm-1]の特異的な赤外線吸収帯、
熱重量/示差熱分析(加熱/冷却速度:15/20℃/分)において約380.3℃にピークを有する365℃~380.3℃の範囲の分解温度、
ピリジン-dにおいて記録されたH NMRスペクトルがδ8.98ppm;7.99ppm;7.86ppm;7.75ppm;7.48ppm;7.33ppm;7.22ppmにシグナルを含む、
表4~7に挙げられ、図8a~dに示された幾何パラメーターにより記載される構造的X線分析(XRD)に基づく構造モデル、
DMSO中1% 393nmにおける比吸収係数:730およびDMSO中1% 305nmにおける比吸収係数:330
から選択される少なくとも1つの特性を有するスキネトミン結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、菌株の分離および培養のための方法、菌株、その使用、それを培養するための培地ならびにスキネトミンの形態である。本発明は、生物工学および化粧品工業に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
エンド分解(endolytic)微小環境、例えば、石の穴から生物材料を、直接、培養培地(BG11)に採取する(Singhら,2014)か、または分離した生物材料を、モノクローナルなシアノバクテリウム(Cyanobacterium)の選択のために、2%寒天とBG11増殖培地を含むプレートに置き(Wolk,1998による)、次いで、コロニーをBG11液体培地に直接移す(AnahasおよびMuralitharan,2015)ことを含む、標準的な分離および培養方法が知られている(Rippkaら,1979;AnahasおよびMuralitharan,2015;Singhら,2014)。BG11液体培地への生物材料の直接採取は、モノクローナル細菌株の精製と分離の追加工程が必要となるため、多くの場合で適用できない。AnahasおよびMuralitharan(2015)が報告した寒天とBG11含むプレート上での培養および精製方法(Wolk,1998)では、極度に乾燥した環境から採取したシアノバクテリア(Cyanobacteria)コロニーは増殖が極めて遅いか、全く増殖しないため、期待した結果が得られない。環境から分離された様々なシアノバクテリア株(当技術分野で知られている方法では実験室条件での培養が不可能であるか、少なくとも達成が困難である)を容易に増殖させることができる培養方法を提供することが望まれる。この方法を適用することにより、結果として、特に色素の生産性が高く、天然の紫外線(UV)フィルターでもあるという、独自の有利な特性を有する新規のシアノバクテリア株の分離が可能になると期待される。本発明は、前述の問題を予想外に解決した。
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の目的は、シアノバクテリア株、特に、BEA_IDA_0068B番またはBEA_IDA_0075B番としてBanco Espanol de Algas Universidad de Las Palmas de GCに寄託されているものの分離および培養のための方法であって、
a)培地1000mL当たり以下の組成:1.5g NaNO、0.04g K a)培地1000mL当たり以下の組成:1.5g NaNO、0.04g KHPO、0.075g MgSO×7HO、0.036g CaCl×2HO、6.0mgクエン酸、6.0mgクエン酸鉄アンモニウム、1mg EDTA、0.02g NaCO、1mL微量金属A5ブレンド(A5ブレンド水溶液1000mL当たり以下の組成:2.86g HBO、1.81g MnCl×4HO、0.222g ZnSO×7HO、0.39g NaMoO×2HO、0.079g CuSO×5HO、49.4mg Co(NO)2×6HOを有する)を有する培地水溶液1000mL当たり200gの量の、質量百分率で以下の含量:97.6%石英、0.4%白雲母-黒雲母、1.2%アパタイト、および0.8%のその他の微量の鉱物を含む、ヌビア層に由来する天然砂岩に見られる微量および多量栄養素を富化し、次いで得られた懸濁液を25℃で24時間撹拌し、その後25℃で5時間沈降させ、それを濾過することによって増殖培地を調製すること;純粋なBG11培地、または寒天を含まないBG11培地、またはBG11培地、またはRippkaら(1979)による培地、または表1の組成を有する培地、または組成が段階a)に開示されているが石を添加しない培地、という表現を出願人が使用する場合には、これが下記に表1に挙げられている組成を有する培地を意味する;
【0004】
【表1】
b)環境から細菌を採取すること;
c)段階b)で採取された生物材料を、段階a)で得られた、すなわち、表1による、石で富化された液体培地中で、好ましくは各4週間の5段階の3つの中間段階、すなわち2つの端点段階(初期、最終)および3つの中間段階で、開始時2重量%~終了時0.5重量%の間の端点含量の寒天を追加して継代培養すること、ここで、中間段階の増殖培地は、段階a)で得られた培地に対してそれぞれ以下の量:1.75重量%、1.5重量%、1重量%の追加寒天を含む;
d)最終段階c)の、すなわち0.5%の寒天を含有する培養溶液を、組成が段階a)で開示されているが石の添加と25℃で2週間の撹拌インキュベーションは行わない培地水溶液に溶解させること
を含んでなることを特徴とする、方法である。
【0005】
本発明の第2の目的は、BEA_IDA_0068B番としてBanco Espanol de Algas Universidad de Las Palmas de GCに寄託されている細菌株である。
【0006】
本発明の第3の目的は、BEA_IDA_0075B番としてBanco Espanol de Algas Universidad de Las Palmas de GCに寄託されている細菌株である。
【0007】
本発明の第4の目的は、UV吸収特性を有する色素、特に、スキネトミンまたはその誘導体の調製のための本発明の第2の目的として定義された本発明の菌株の使用である。同等に好ましくは、本発明の使用は、化粧品、特に、サンスクリーンの製造のための、得られた色素、特に、スキネトミンまたはその誘導体の適用を含んでなる。
【0008】
本発明の第5の目的は、培地水溶液1000mL中、1.5g NaNO、0.04g KHPO、0.075g MgSO×7HO、0.036g CaCl×2HO、6.0mgクエン酸、6.0mgクエン酸鉄アンモニウム、1mg EDTA、0.02g NaCO、1mL微量金属のA5ブレンド(A5ブレンド水溶液1000mL当たり以下の組成:2.86g HBO、1.81g MnCl×4HO、0,222g ZnSO×7HO、0.39g NaMoO×2HO、0.079g CuSO×5HO、49.4mg Co(NO×6HOを含有し、質量百分率で以下の含量:97.6%石英、0.4%白雲母-黒雲母、1.2%アパタイトおよび0.8%のその他の微量鉱物を有する天然ヌビア砂岩を200g摩砕石(ground stone)/1000mL培地の量で含有することを特徴とする、シアノバクテリアを培養するための培地である。開示される培地は、色素、特に、スキネトミンを産生するシアノバクテリアを培養するために適している。
【0009】
本発明の第6の目的は、
2.500°、4.589°、5.062°、8.630°および9.197°の2θ角度の特徴的なピークを有するX線粉末回折スペクトル、
IRスペクトル(KBr)で3345、3065、2961、2926、1713、1591、1516、1449、1296、1175、1145、957、932、930、833[cm-1]に特異的な赤外線吸収帯、
熱重量/示差熱分析(加熱/冷却速度:15/20℃/分)において約380.3℃にピークを有する365℃~380.3℃の範囲の分解温度、
ピリジン-dにおいて記録された1H NMRスペクトルがδ8.98ppm、7.99ppm、7.86ppm、7.75ppm、7.48ppm、7.33ppmおよび7.22ppmにシグナルを含む、
から選択される少なくとも1つの特性を有するスキネトミン結晶である。
【0010】
本発明によれば、天然環境から分離された望ましいシアノバクテリア株(当技術分野で公知の方法によっては実験室条件での培養が不可能であるか、少なくとも達成が困難である)の容易な増殖を可能とした培養方法を効果的に提供することが可能となった。本発明の方法の使用によれば、極めて有利な特性、特に、式1のスキネトミン、特に、その酸化形態の高い生産性、すなわち、シアノバクテリアの乾燥重量当たり少なくとも1.5%の生産性を有する特定のシアノバクテリア株が分離できた。
【0011】
【化1】
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】SPF30および50の選択された市販のクリーム(サンプル1~3)ならびにスキネトミンを添加したサンプル(4番)の吸光度(AおよびB)ならびに透過率(CおよびD)試験の比較結果を示し、これらの試験は、薄層材料を用いて人工皮膚(3M(登録商標)サージカルテープ)を刺激して行った。
図2】SCYサンプルのFTIRスペクトルを示す。
図3】サンプル加熱温度による重量減少曲線(黒色の曲線)および350~520℃の温度範囲におけるヒートフロー曲線(灰色の曲線)を示し、最大分解温度は380.3℃である。
図4】本発明のスキネトミン形態のPXRD(多結晶X線回折法)を用いて得られたX線回折図を示し、主要なピークには「」が付されている。
図5】ピリジン-dで記録されたスキネトミンサンプルのプロトン核磁気共鳴(H NMR)スペクトルをδスケール[ppm]で示す。
図6】実施例2.2に開示された化粧品に使用される選択された溶液中のスキネトミンの分散度に関する調査結果を示す。
図7】実施例8に記載された結晶を示す。
図8】MERCURYソフトウエアを使用して得られたSCY構造のグラフィックモデル(Macraeら,2020):非対称単位(図8a)、単位格子充填の全体図(図8b)、および単位格子充填、[001]方向に沿った図(図8c)および[100]方向に沿った図(図8d)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
シアノバクテリア株の分類学的特徴は、光学顕微鏡分析とKomerekら(2014)に発表された最新のガイドラインおよびその論文に見られる文献報告に基づいて決定された。試験菌株の微形態学的特徴は、それがChroococcidiopsidaceae科(Komerekら,2014)およびChroococcidiopsis属(Geitler,1932)に属することを示している。
【0014】
得られた菌株の微形態学的記述:
本発明の培養で得られシアノバクテリア細胞は以下の特徴を有した:
a)色:青緑、黄色~淡褐色;
b)形態:直径1.5~5μmの単一の球形細胞で、クラスターをなし数個から20個未満のコロニーとなっているか、または凝集塊を形成し、通常、明瞭な鞘に囲まれている;
c)分裂:細胞は2つ以上の平面に沿って分裂する。分裂後、細胞被膜は通常伸びて娘細胞を含み、これはコロニー鞘の層状化として見られる;
d)チラコイドの配置:細胞壁付近に円形に配置されている。
【0015】
本発明の実施形態を図面で示す。図1は、SPF30および50の選択された市販のクリーム(サンプル1~3)ならびにスキネトミンを添加したサンプル(4番)の吸光度(AおよびB)ならびに透過率(CおよびD)試験の比較結果を示し、これらの試験は、薄層材料を用いて人工皮膚(3M(登録商標)サージカルテープ)を刺激して行った。図1aはUVB(280~320nm)、UVA(320~400nm)から800nmまでの範囲、1BはUVB(280~320nm)からUVA(320~400nm)の範囲のサンプルの吸光度曲線を示し、図1CはUVB(280~320nm)、UVA(320~400nm)から800nmまでの範囲、1DはUVB(280~320nm)からUVA(320~400nm)までの範囲のサンプルの透過率曲線を示し、曲線記号は、連続線「ボルト」は、スキネトミンを添加した配合物4;サンプル1は、-----;サンプル2は、-.-.-.-、サンプル3は、- - - -。図2は、SCYサンプルのFTIRスペクトルを示す。図3は、サンプル加熱温度による重量減少曲線(黒色の曲線)および350~520℃の温度範囲におけるヒートフロー曲線(灰色の曲線)を示し、最大分解温度は380.3℃である。図4は、本発明のスキネトミン形態のPXRD(多結晶X線回折法)を用いて得られたX線回折図を示し、主要なピークには「」が付されている。図5および5aは、ピリジン-dで記録されたスキネトミンサンプルのプロトン核磁気共鳴(H NMR)スペクトルをδスケール[ppm]で示し、図5は、完全なスペクトル(範囲:-0.5~10.5ppm)を含み、図5aは、7.1~9.1ppmの拡張範囲を示す。図6は、実施例2.2に開示された化粧品に使用される選択された溶液中のスキネトミンの分散度に関する調査結果を示す。図7aおよび7bは、実施例8に記載された結晶を示し、図8a~8dは、MERCURYソフトウエアを使用して得られたSCY構造のグラフィックモデル(Macraeら,2020):非対称単位(図8a)、単位格子充填の全体図(図8b)、および単位格子充填、[001]方向に沿った図(図8c)および[100]方向に沿った図(図8d)。
【実施例
【0016】
実施例1
1.1 増殖培地の調製
増殖培地の調製には、シアノバクテリアが起源するヌビア層由来の砂岩に含まれる微量および多量栄養素の富化が含まれる。従って、滅菌した石200gをメノウ乳鉢で摩砕し、表1による純粋なBG11培地1000mL当たりに添加した。次に、得られた混合物を25℃で24時間撹拌し、最終的に5時間沈殿させ、直径25mm、孔径0.2μmのフィルター(Cyclopore Track-Etch Membranes、Whatman)で濾過した。砂岩由来の微量および多量栄養素を富化したBG11培地を60℃に加熱した。その後、得られた溶液に、乾燥寒天を2重量%の最終量で添加した。次に、寒天が溶解するまで全内容物を撹拌し、ペトリ皿(R)に注ぎ、25℃まで冷却し、無菌状態で蓋をして維持し、環境からシアノバクテリアを採取し、培地を入れたプレートに播種した。
【0017】
1.1.1.
石の特徴
エンド分解性微生物を含む石はヌビア砂岩層に起源する。X線回折(XRD)を用いて、総重量52gの石5サンプルの鉱物組成を定量分析した。砂岩の平均含有量は、石英97.6%、白雲母-黒雲母0.4%、アパタイト1.2%、およびその他の微量鉱物0.8%であった。
【0018】
1.2 環境からのシアノバクテリアの採取
本発明の目的である2つのシアノバクテリア株がエンド分解的に定着している2つの小さな石片を、滅菌ランセットを用いて機械的に掻き取り、上記項目1.1のペトリ皿に入れ、これにより、2つの菌株について、ヌビア砂岩の微量および多量栄養素が富化された2つの別個の培養物が樹立された。シアノバクテリアは25℃、明暗法(12/12時間)で播種し、PAR(光合成活性放射、400~700nm)域の光強度は約30~50μmol光子m-2-1で、18Wの冷蛍光ランプ(PhilipsTLD18W/33)により提供した。5~10週間後、Euromex Oxion Inverso OX.2053-PL光学顕微鏡+Cmex 3カメラを用いて、寒天皿のシアノバクテリアのコロニーの有無を検査した。
【0019】
1.3 継代培養
段階1.2からの生物学的材料の段階的継代培養は、段階1.1で得られた固体培地上で行い、開始時の培地の2重量%の追加寒天含量から終了時の0.5%まで、好ましくは寒天含量1.75重量%、1.5重量%、1重量%の3つの中間段階で行った。継代期間は、各中間段階と最終段階について4週間、25℃、PAR(400~700nm)連続照射35μmol光子m-2-1であった。
【0020】
1.4 培養
寒天含量が0.5重量%の培地からの2株について段階1.3から得られたコロニーを、石由来の微量および多量栄養素を添加して改変されていない、表1に組成が開示されている段階1.1の培地の水溶液に溶解させ、25℃で2週間、IKA KS 501オービタルシェーカーを用いた同時連続オービタル振盪(20rpm)および35μmol光子m-2-1の連続PAR照射(400~700nm)でインキュベートし、本発明の対象である2つの菌株の2つの別個の培養物をさらに維持した。
【0021】
段階1.1の培地中で、石由来の微量および多量栄養素を添加して改変されていない、本発明の2株のモノクローナル安定培養物の調製
顕微鏡下で分離したシアノバクテリアのコロニーを、pH8.2、温度25℃、PAR光強度20μmol光子m-2-1で、石を添加しない、組成が表1に挙げられている段階1.1の培地水溶液中に入れ、一定の間隔で振盪して再懸濁させた。培養液の一部(2mL)を2週間ごとに、石を添加しない段階1.1の100mLの新鮮な標準培地に加えて新鮮な培養液を維持した。液体培地でのシアノバクテリア培養中の光周期は、連続または混合様式で、明期10~12時間、暗期12~14時間であった。
【0022】
シアノバクテリア培養物のスキネトミン合成誘導およびその生産性の決定
FlemingおよびCastenholtz(2007)の方法を採用した。簡単に述べれば、上記の培地、すなわち、段階1.1からの、石を添加しないシアノバクテリア溶液を濾過し、フィルターを寒天含量2%のBG-11固体寒天培地上に置いた。フィルターを入れた皿にPAR(65μmol光子m-2-1、40W/m)とUV照射(1.8W/m)を行った。照射されたシアノバクテリアを含む数枚のフィルターで、3日ごとにスキネトミン含量を分析した。そこで、以下に示すような分光光度法を用いた:
HP 8452Aダイオードアレイシングルビーム分光光度計(ヒューレット・パッカード、東京、日本)を用い、抽出(メタノール/酢酸エチル(v/v 1:1))したスキネトミンの吸収スペクトルを得た。特定の波長(それぞれの色素の最大ピーク)に対する吸光度値を、三色方程式および消衰係数(Lichtenthaler,1987)を用いて、スキネトミンの半定量的アッセイ[mg/g乾燥重量(DW)]のために選択した。
【0023】
1.5 本発明のスキネトミンの生産性の評価方法
培養終了後、段階1.4のシアノバクテリアを含有する培養液を0.2μmフィルターで濾過した。フィルターをBG-11固形寒天培地(2%)上に置いた。フィルターを入れた皿に、65μmol光子m-2-1(または40W/m)のPAR照射および1.8W/mのUVA照射を行った。照射されたシアノバクテリアを含む数枚のフィルターで、3日ごとにスキネトミン含量を分析した。そこで、以下に示すような分光光度法を用いた:
HP 8452Aダイオードアレイシングルビーム分光光度計(ヒューレット・パッカード、東京、日本)を用い、抽出(メタノール/酢酸エチル(v/v 1:1))したスキネトミン(他の色素も含む)の吸収スペクトルを得た。特定の波長(それぞれの色素の最大ピーク)に対する吸光度値を、三色方程式および消衰係数(Lichtenthaler,1987)を用いて、スキネトミンの半定量的アッセイ[mg/g乾燥重量(DW)]のために選択した。
【0024】
得られたスキネトミン生産性は、BEA_IDA_0075B番としてBanco Espanol de Algas Universidad de Las Palmas de GCに番号BEA_IDA_0075Bに寄託されている細菌株およびBEA_IDA_0068B番としてBanco Espanol de Algas Universidad de Las Palmas de GCに寄託されている細菌株について、シアノバクテリアの乾燥重量当たり少なくとも1.75%であり、すなわち、シアノバクテリアの乾燥重量(DW)当たり0.03~0.09%のスキネトミンであった当該技術分野のもの(Balskusら、2011)よりはるかに高く、従って、生産性は19倍~58倍であった。
【0025】
1.6 スキネトミンの抽出および精製
培養液中に懸濁された上記項目の記載に従って得られたバイオマスを、遠心分離(または濾過)によって分離する。得られたバイオマスに対して、クロロホルム:ヘキサン混合物(v/v 1:1)中で予備精製を行う。この段階で、溶媒混合物を含むバイオマスを10分間振盪し、また10分間超音波処理も行う。続いてこれを遠心分離し(6000rpm、10分間)、沈殿物の上から上清を回収する。新しい溶媒混合物を沈殿物に加え、この手順を繰り返す。さらに遠心分離を行った後、両方の遠心分離の上清を合わせ、再利用のために真空エバポレーターを用いて精製することもできる。続いて、第一段階の精製後のバイオマスに対して、酢酸エチル:メタノール混合物(v/v 1:1)またはアセトン中での一次抽出を行う。この段階では、10分サイクルの遠心分離と超音波処理も用いる。遠心分離はサイクルごとに行い、上清を回収する。上清の色が落ち始めるまで(通常3~5回)、さらに新しい溶媒で抽出を繰り返す。回収した上清を、次に真空エバポレーター(40℃)を用いて蒸発させて再利用する。蒸発後の乾燥残渣に対して最終精製手順を行う。この段階でもクロロホルム:ヘキサン(v/v 1:1)を使用し、振盪、超音波処理および遠心分離を行う。精製段階の回数はサンプルの汚染度によって異なり、遠心分離後に無色透明の上清が得られるまで繰り返す。これが達成されたら、沈殿物(スキネトミン)をさらにヘキサンで2回洗浄する。最後の遠心分離と沈殿物の上からの上清の回収の後、真空乾燥機(40℃)で乾燥させ、その後重量を測定する。乾燥した沈殿物はHPLCでアッセイして、得られた生成物の純度を評価する。
【0026】
実施例2 スキネトミンの使用
2.1. 日焼け防止効率
シアノバクテリウム抽出物に基づくスキネトミンを有効成分とする様々な銘柄のサンスクリーン剤および本出願人らが提案したサンスクリーン製品(サンプル4)の日焼け防止効率を実証するために、分光光度法を使用した。そこで、市販のサンスクリーン製品および試験サンプル4について、人の皮膚を模擬したもの(3Mサージカルテープ)を用いた実験で吸光度および透過率を分析した。市販の3M(R)テープを2×2cmの石英ガラステープに貼り、その上に評価対象製品を薄く塗布した。FLAME-S(Ocean Optics,フロリダ州,USA)システムと分光計を用い、これらのプレートで20分後の吸光度と透過率を調べた。
【0027】
本発明のスキネトミン製品の日焼け防止効率は図1に示され、この図では、SPF(Sun Protection Factor)(Greiter,1974)が30および50の選択された市販製品(サンプル1~3)と、スキネトミンを添加したサンプル4について、吸光度(AおよびB)と透過率(CおよびD)を試験した比較結果を示している。試験は、人工皮膚を模擬した薄層材料(3M(登録商標)サージカルテープ)を用いて行った。図1AはUVB(280~320nm)、UVA(320~400nm)から800nmまでの範囲、図1BはUVB(280~320nm)からUVA(320~400nm)の範囲のサンプルの吸光度曲線を示し、図1CはUVB(280~320nm)、UVA(320~400nm)から800nmまでの範囲、1DはUVB(280~320nm)からUVA(320~400nm)までの範囲のサンプルの透過率曲線を示し、曲線記号は、連続線「ボルト」は、スキネトミンを添加した配合物4;サンプル1は、-----;サンプル2は、-.-.-.-、サンプル3は、- - - -。
【0028】
特定の組成が以下に示されている市販の製品を比較分析のために選択した。
サンプル1 2-エチルヘキシル4-メトキシ桂皮酸/オクチノキサート+2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン/オキシベンゾン+二酸化チタン(TiO)[製品の含量パーセンテージ:それぞれ7.5%、4%および10%]+q.s.(適量):グリセリン+ステアリン酸グリセロール+水+シリカ+アルコール。
サンプル2 二酸化チタン(TiO)+酸化亜鉛(ZnO)[製品の含量パーセンテージ:それぞれ10%および17%]+q.s.:グリセリン+ステアリン酸グリセロール+水+シリカ+アルコール
サンプル3 酸化亜鉛(ZnO)+(4-メトキシ桂皮酸2-エチルヘキシル)/オクチノキサート[製品の含量パーセンテージ:それぞれ15.5%および7.5%]+q.s.:グリセリン+ステアリン酸グリセロール+水+シリカ+アルコール
サンプル4 0.8%スキネトミン+Diprobase q.s.(組成:白色ワセリン、液体パラフィン、マクロゴールセトステアリルエーテル、セトステアリルアルコール、リン酸二水素ナトリウム二水和物、クロロクレゾール、水酸化ナトリウム、濃リン酸、精製水)
【0029】
観察:スキネトミンを添加した配合物は、UVBとUVAの領域で高い吸光度値と低い透過率を示し、SPF30および50の市販クリームと同様のレベルであった。
【0030】
2.2 化粧品に使用される選択された溶液中でのスキネトミンの分散度の試験
2.2.1
0.5mgのスキネトミンを分析天秤で秤量し、1gの下記溶液に懸濁させた。
1)プロピレングリコール(INCI:プロピレングリコール)
2)精製アプリコット油(INCI:Prunus Armeniaca(アプリコット)カーネルオイル)
3)グリセリン(INCI:グリセリン)
4)イソヘキサデカン(INCI:イソヘキサデカン)
5)2-オクチルドデカン-1-オールODD(INCI:オクチルドデカノール)
6)SLP乳化剤(INCI:ラウリン酸ソルビタン/ラウリン酸ポリグリセリル-4/クエン酸ジラウリル)
次に、シェーカーを用いて約1分間サンプルを混合し、超音波槽で10分間維持してより高い分散度を達成した。
【0031】
結果:
1.有効成分の高い分散度;グリコール溶液はすぐに茶緑色となり、懸濁の小粒子が見られる(図6a参照)。
2.溶液中の有効成分の極めて低い分散度;溶解していない懸濁が明確に見られ、これが経時的に沈殿する(図6b参照)。
3.有効成分の低い分散度;懸濁が明確に見られ、これが経時的に徐々に溶解し、溶液がわずかに色づく(図6c参照)。
4.有効成分の高い分散度。懸濁後、一様に分散した灰色がかった懸濁液が得られ、物質の粒子が見られ(極めて微細)、これが経時的に沈殿する(図6d参照)。
5.有効成分の比較的高い分散度。淡緑色溶液が得られ、底に沈降している懸濁物が見られる(図6e参照)。
6.乳化剤溶液中の有効成分の低い分散度。底に沈降している微粒子が見られ、溶液が経時的に徐々に着色する(図6f参照)。
【0032】
要約:
有効成分の最良の分散度は、0.5mg/gグリコール濃度のサンプル1で得られた。連続するサンプルでは、以下の順序で分散レベルの低下が見られた(サンプルは、マトリックス中のスキネトミンの分散度の最高から最低へと並べられている):1>4>5>6>3>2。
【0033】
2.2.2
調製:
0.5mgのスキネトミンを分析天秤で秤量し、5gの組成物中に懸濁させた。
7)グリセリン+ステアリン酸グリセロール+水+シリカ+アルコール
このサンプルを、実験室用攪拌機を用いて5分間撹拌した。
【0034】
結果:
有効成分を含む原料基剤を混合した後、目に見えるスキネトミン粒子を伴う均質な灰白色基剤が得られた。物質は溶解しなかったが、分解してより小さな粒子となった。効果はイソヘキサデカン(懸濁液)を含むサンプル4と同等であった-図6g参照。
【0035】
1>4、7>5>6>3>2
【0036】
実施例3 比較例-現況技術-標準的な分離および培養方法
BG11培地での培養を用いたRippkaら(1979);BG-11N培地での培養を用いたAnahasおよびMuralitharan(2015);10mM NaHCOで改変したBG11培地での培養を用いたSinghら(2014)による標準的方法を使用しても、本特許出願の目的である菌株の細菌は分離できず、ましてや培養はできなかった。細菌コロニーは早期に死滅し、スキネトミンを生産するために必要なバイオマスを得ることはできなかった。
【0037】
実施例4
熱重量/示差熱分析(TG/DTA)を用いたフーリエ変換赤外線分光法(FTIR)
サンプル同定:SCY
粉末形態の暗褐色固体
重量:8.3mg
【0038】
導入
寄託番号BEA_IDA_0075Bの本発明の目的である菌株から得られたサンプル(以下、SCYと称する)を、以下に記載する技術を用いてさらに分析するために調製した:示差熱分析/熱重量測定(TG/DTA)およびフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を、以下に記載する特定の手順に従って行った。この分析に事前のサンプル調製は必要なかった。続いて、BEA_IDA_0068B株のサンプルについても実験を繰り返したところ、同様の結果が得られた。実施例で示した結果は総て、本発明の目的である2つの菌株から得られた同じ物質を指す。
【0039】
SCYのサンプルは、分析まで密閉容器にて室温で保存した。
【0040】
4.1
FTIR
110℃で5時間予め乾燥させた209.9mgのKBrをFTIR分析のために秤量し、真空デシケーター内で室温まで冷ました。0.4mgのサンプルをKBrに加え、混合物を、水分の吸収を避けるために赤外線ランプ下、メノウ乳鉢で摩砕した。
【0041】
スペクトルは以下の条件で得た。
装置
Shimadzu FTIR 8400分光光度計(島津製作所、京都、日本)
PIKEプレス(Pike Technologies、マディソン、USA)
測定パラメーター:
方法:透過率%
範囲:400~4000cm-1
アポダイゼーション:Happ-Genzel
スキャン数:45
分解能:4.0
【0042】
結果:
データは島津製作所のソフトウエアを用いて処理してピーク値を求めた。ピーク値とバンドは、利用可能な文献(Pretsch, E. et al.: “Tablas para la elucidacion estructural de compuestos organicos por metodos espectroscopicos” Ed. Alhambra. Madrid, 1980およびFlett, M. “Characteristic Frequencies of Chemical Groups in the Infra-red” Elsevier Monographs. Elsevier, 1963)に従って割り当て、図2は、SCYのサンプル(実施例1で得られた)のFTIRスペクトルを示し、主要なバンドに印を付けた。表2は、同定された最も可能性の高い官能基/結合に割り当てられた波数値を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
BEA_IDA_0068B番として寄託されている菌株から、実施例1で調製した化合物について同様の分析を行った。得られたスペクトルは図2と同じであった。
【0045】
4.2 TG/DTA
3.7mgのサンプルをアルミナるつぼに秤量し、34.6mgの純金ワイヤー(99.999%)を加え、ロッドウェイトとマイクロ天秤のカウンターウェイトのバランスをとった。
【0046】
サンプル調製
分析に特別な調整は必要なかった。
【0047】
装置
SETARAM SETSYS 6000アナライザー
実験条件
測定パラメーター:
2気圧のアルゴン流
サンプル重量:3.7mg
るつぼ:100μL Al
参照るつぼ:Al
温度傾斜:
【表3】
【0048】
結果
熱重量曲線に基づいて連続段階での重量損失を算出し、ヒートフロー曲線からサンプル加熱中の発熱過程と吸熱過程の有無を判定した。
【0049】
図3は、350℃~520℃の温度範囲におけるサンプル加熱温度に依存する重量損失曲線(黒色の曲線)とヒートフロー曲線(灰色の曲線)を示している。この温度範囲では、SCYの明確な重量損失(黒色の曲線)が見られた。物質の熱分解は発熱過程であり(灰色の曲線上のヒートフロー値の増加)、365.4℃(図3の縦の破線)から始まり、380.3℃(図3の縦の実線)でその最大値に達する。発熱過程に関連して、SCYの4.32%の重量損失が365.4℃~380.3℃の温度範囲で起こることが判明し、これにより、SCYの分解温度がこの温度範囲にあり、380.3℃に明確な最大値があることが確認された。吸熱過程(灰色の曲線上の値の減少)と関連したSCYの重量損失はこの温度より高くても見られ、これにより、SCY分解生成物の二次分解に関連した発熱過程が見られる405~412℃の温度範囲を除き、ガス放出とSCY分解生成物の再構築の過程が確認された。
SCY分解のT範囲=365.4~380.3℃
最大重量損失=380.3℃
Δ重量=0.16mg(4.32%)
【0050】
実施例1に従って培養および分離された本発明の目的である2株から得られた化合物についても同様のスペクトルが得られた。
【0051】
実施例5
多結晶X線回折(PXRD)
測定方法
本発明の目的である2株からSCYを抽出した後、溶媒を蒸発させ、2~20μmの大きさの針状単結晶、または針状結晶が放射状に配列したそれらの凝集体として8.3mgの褐色粉末(結晶形、本発明の形態)を得た。この結晶材料の特徴を光学顕微鏡(AXIO Imager DM2顕微鏡、Zeiss、カールツァイス、ドイツ、Apochrome 63倍レンズ、n=1.4 Zeiss)を用いて観察した。
【0052】
PXRD粉末分析は、本発明の目的である2株から得られたSCYからなる結晶材料(本発明の形態)において行われ、2つの類似したPXRD回折図が記録された。PXRD測定は、Bruker D8-Discover多結晶回折計を用いて行った。粉末回折図は、X線源としてX線管(Cuアノード、Kα、50kV、30mA、スリット2mmのコリメータ)を用いて室温で得られた。測定は連続作動モードで記録し、2θ角走査範囲は2~60°、測定ステップは0.02°、走査速度は0.7秒/測定ステップであった。
【0053】
得られた回折データの解析には、Diffrac.EVA v5.1ソフトウエアを使用した。
【0054】
図4に示した粉末X線回折スペクトル(本発明の形態)の分析結果は以下のとおりである:
1.SCYの回折パターンは非晶質相を示さない。
2.PXRD回折パターンは、2θ角2~43°の範囲に約35個の有意な回折ピークを含む。回折パターンの質が悪く、この値以上のピークパラメーターを明確に決定(同定)することができなかったため、分析は行わなかった。
3.その特徴(結晶度が高いことを裏付ける半値全幅(FWHM)の低さ)を考慮すると、利用可能なソフトウエアに基づいて決定された以下の2θ角度:2.500°、4.589°、5.062°、8.630°および9.197°における少なくとも5つの低角回折角を用いて材料を特定することができる。
図4では、ピークを「」で示す。
4.より高いFWHM値で、より低くよりブロードな他のピークの存在は、結晶度の低い(結晶子サイズの小さい)結晶性物質がサンプル中に存在することを示す。
5.記録された回折ピークはSCYに特異的であり、物質の同定に使用することができる。利用可能な多結晶データの結晶学的データベースに基づくと、この回折パターンを持つ既知の物質は他に見つからなかった。
【0055】
実施例6
スキネトミンのH NMR(プロトン核磁気共鳴)測定
スキネトミン(1.6mg)のH NMRスペクトルは、ピリジン-d(0.75ml)中、Bruker Avance II 300分光計にて、基本周波数300.13MHz、室温で記録した。δ化学シフトはppmで示し、J結合定数の値はHzで示す。スペクトルは8.727ppmのピリジン-dのH-2プロトンの残留シグナルに対して正規化した。位相とベースラインは手動で補正した。積分領域も同様に選択した。シグナルは以前の文献データ(Proteauら,1993)に基づいて割り当てた。実験のδ化学シフトデータは引用データと一致している。-OHフェノール基の不安定なプロトンが急速に交換されるため、それらのシグナルは記述に含めなかった。微量不純物(水とn-ヘキサン)からのシグナルは、それぞれδ4.93と約δ1.0に見られる。
【0056】
【化2】
【0057】
H NMR(ピリジン-d)δ[ppm]:8.98(d,2H,J8.7;H-11,15);7.99(s,1H;H-9);7.86(d,1H,J7.5;H-8);7.75(d,1H,J7.6;H-5);7.48(td,1H,J7.6,1.2;H-6);7.33(d,2H,J8.8;H-12,14);7.22(m,1H,H-7/ピリジン-d H-3プロトンの残留シグナル重複/)。
【0058】
図5および図5aは、ピリジン-d中で記録されたスキネトミンサンプルのプロトンスペクトル(H NMR)をδスケール[ppm]で示し、図5は完全なスペクトル(-0.5~10.5ppmの範囲)を含み、図5aは7.1~9.1ppmの拡張範囲を含む。
【0059】
実施例7
実施例1で調製した化合物を室温(25℃)で10か月間保存した。保存試験前後の吸光度スペクトルは同一であり、化合物の安定性が確認された。さらに、スキトネミンの高い安定性は、論文(FlemingおよびCastenholz 2007)および(RastogiおよびIncharoensakdi 2014)において確認されており、スキトネミンは、2か月の連続UVA照射(5W/m2)または2か月間の60℃への加熱後も、実質的に不変の特徴的な吸光度スペクトルを有していたことが示されている。本発明のスキトネミンの結晶形は安定である。
【0060】
実施例8
X線回折(XRD)を用いたスキネトミン構造モデル(SCY)の決定
SCYの単結晶サンプルの調製
X線回折(XRD)を用いた分析のためのスキトネミンの単結晶サンプルを、2:1の容積比のテトラヒドロフラン(THF)-エタノール(EtOH)系で結晶化させることにより調製した。この方法では約30mgの化合物と12mLのTHF-EtOH混合液を使用した。サンプルを最初に8mLのTHFに溶解し、続いて4mLのEtOHを加えた後、得られた溶液を室温で自由蒸発によりゆっくりと(約7日間)濃縮した。
【0061】
データ収集と削減
0.011mm×0.035mm×0.131mmの寸法の暗褐色の平行六面体結晶1個を、試験サンプルから選択した(図7aおよび7b)。
【0062】
選択したSCY結晶の回折データは、CuKα放射源(1.54184Å)、グラファイトモノクロメーター、および低温測定用のOxford CryoStream 800サンプル冷却システムを備えたRigaku Oxford Diffraction Synergy-S 4サイクル回折計を用いて100Kで収集した。セルパラメーターの精密化とデータ削減は、回折計製造者のソフトウエア(Rigaku Oxford Diffraction,2018)を用いて行った。
【0063】
構造の解明と精密化
位相問題は固有位相法により解決され、構造モデル中の原子位置はSHELXT(Sheldrick,2015-Section A)を用いて決定された。回折データの質を考慮し、構造因子2乗(F(hkl))に基づく非水素原子の位置と等方的原子変位パラメーターのフルマトリックス精密化のみを行った。構造の精密化を改善し、分子幾何学パラメーターを補正するために、ベンゼン環(AFIX 66)およびカルボニル基を有する末端5員環(AFIX 56)の幾何拘束を用いた。
【0064】
構造モデルの精密化と追加計算はSHELXL2014(Sheldrick, 2015-Section C)を用いて行った。
SCYの回折測定、結晶格子、および構造モデル精密化のパラメーターを表3に示す。SCYの幾何学的に決定された構造モデルのパラメーターを表4~7に示す。これらはそれぞれ、SCYの単位格子パラメーターの分数として表される原子座標(×10)および等価の等方原子変位パラメーターUeq(Å2×10)(ここで、Ueq値は直交化UIJテンソルのトレースの1/3として定義される)(表4)、結合長(表5)、ならびに原子価(表6)およびねじれ角(表7)である。
【0065】
SCY構造モデルのグラフィック表示(図8a~d)は、MERCURYソフトウエア(Macraeら,2020)を用いて得られたものである:非対称ユニット(図8a)、単位格子充填の全体図(図8b)、単位格子充填、[001]方向に沿った図(図8c)、および[100]方向に沿った図(図8d)。
【0066】
【表4-1】
【表4-2】
【0067】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【0068】
【表6-1】
【表6-2】
【0069】
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【0070】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【表8-5】
【0071】
注記
この結晶は、収集した回折データの処理中に多重双晶であることが判明し、ソフトウエア製造者が実施した適切な手順を使用しなければならなかったことに留意されたい。構造モデル精密化パラメーター(R、wR、GoF)(表4)は満足のいくものには程遠いが、位相問題解決中に得られたオリジナルモデルが予想と一致し、化学的に一貫していたことは、想定した構造モデルが適正であることを強く示唆した。さらに、このモデルは精密化中も比較的安定した挙動を示し、このことは、構造モデルが現実と一致しない場合によく起こることであるが、モデルの崩壊が起こらなかったことを意味する。
【0072】
提案された構造モデルは、Pc空間群に一致する格子対称性を仮定している。非対称単位には2分子の被分析化合物が含まれる(図8a)。
【0073】
それぞれの分子は、ほぼ同一平面上の2つの断片からなる。そのため、ねじれ角がかなりの程度、被分析分子のコンフォメーションを決定する:それぞれC2-C1-C22-C23-142.9(16)°およびC52-C51-C72-C73-144.8(14)°。
【0074】
O20とO70末端ヒドロキシル酸素原子の間の2.71Åの距離は、原子間の水素結合を示唆する。
【0075】
共有結合していない2つのC101とC102原子がモデル中に見られ、予備的に炭素原子と分類された。これらは得られたデータの質に起因するアーチファクトかもしれないが、ヒドロキシル酸素原子からの距離(O41-C101 2.679ÅとO91-C102 2.734Å)は、この位置に水素結合が存在する可能性を示唆している。従って、これらは残留溶媒分子に見られる酸素原子であると考えられる。
【0076】
実施例9
実施例1に従って得られたスキネトミンサンプルを1重量%の濃度となるようにDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解させ、続いて、分光光度計を標準的な手順に従って用い(製造者:Varian、モデル:CARY 100 Scan)、厚さ1cmのキュベットで、2波長(305および393nm)で吸光度を測定した。以下の結果が得られた。
UV吸収および消衰係数:
・比吸収係数/1% 305nm:330
・比吸収係数/1% 393nm:730
【0077】
参照文献
【表9-1】
【表9-2】
【0078】
【表10-1】
【表10-2】
【表10-3】
【表10-4】
【表10-5】
【表10-6】
図1
図2
図3
図4
図5
図5a
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図6f
図6g
図7a
図7b
図8a
図8b
図8c
図8d
【国際調査報告】