(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】フィーダー細胞を含むナチュラルキラー細胞増殖用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240514BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240514BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573464
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(85)【翻訳文提出日】2023-11-28
(86)【国際出願番号】 KR2022007782
(87)【国際公開番号】W WO2022255793
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0070778
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523442828
【氏名又は名称】ヴァクセル-バイオ
【氏名又は名称原語表記】VAXCELL-BIO
(71)【出願人】
【識別番号】515020429
【氏名又は名称】コンジュ ナショナル ユニバーシティ インダストリー-ユニバーシティ コオポレイション ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KONGJU NATIONAL UNIVERSITY INDUSTRY-UNIVERSITY COOPERATION FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】56,Gongjudaehak-ro Gongju-si Chungcheongnam-do 314-701,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】キム サンギ
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュンヘン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジェジュン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB02
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB23
4B065BB40
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、フィーダー細胞(feeder cell)を含むナチュラルキラー細胞増殖用組成物及びナチュラルキラー細胞増殖方法に関する。具体的には、本発明は、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現するように形質転換されたフィーダー細胞を用いてナチュラルキラー細胞を増殖する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B7H6を発現するフィーダー細胞を含む、ナチュラルキラー細胞(natural killer cell)増殖用組成物。
【請求項2】
CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つをさらに発現することを特徴とする、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞増殖用組成物。
【請求項3】
B7H6、CD137L及びIL-15を発現するフィーダー細胞を含む、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞増殖用組成物。
【請求項4】
B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαを発現するフィーダー細胞を含む、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞増殖用組成物。
【請求項5】
前記フィーダー細胞が、ARH77またはK562細胞であることを特徴とする、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞増殖用組成物。
【請求項6】
前記フィーダー細胞が、ARH77細胞であることを特徴とする、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞増殖用組成物。
【請求項7】
B7H6を発現する、フィーダー細胞株。
【請求項8】
前記フィーダー細胞株が、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つをさらに発現することを特徴とする、請求項7に記載のフィーダー細胞株。
【請求項9】
前記フィーダー細胞株が、ARH77またはK562細胞株であることを特徴とする、請求項7に記載のフィーダー細胞株。
【請求項10】
(1)B7H6遺伝子をウイルス発現ベクターで形質転換して組換えウイルスを産生するステップと、
(2)フィーダー細胞に前記組換えウイルスを添加して培養するステップとを含む、B7H6を発現するフィーダー細胞の製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(1)において、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子をさらに形質転換することを特徴とする、請求項10に記載のフィーダー細胞の製造方法。
【請求項12】
前記フィーダー細胞が、ARH77またはK562細胞であることを特徴とする、請求項10に記載のフィーダー細胞の製造方法。
【請求項13】
前記ウイルスが、レンチウイルス(lentivirus)またはレトロウイルス(retrovirus)であることを特徴とする、請求項10に記載のフィーダー細胞の製造方法。
【請求項14】
B7H6を発現するフィーダー細胞と末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell)を培養するステップを含む、ナチュラルキラー細胞増殖方法。
【請求項15】
前記フィーダー細胞が、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つをさらに発現することを特徴とする、請求項14に記載のナチュラルキラー細胞増殖方法。
【請求項16】
前記フィーダー細胞が、ARH77またはK562細胞であることを特徴とする、請求項14に記載のナチュラルキラー細胞増殖方法。
【請求項17】
培養液が、ペニシリン(penicillin)、ストレプトマイシン(streptomycin)、グルタミン(glutamine)、ゲンタマイシン(gentamycin)、ウシ胎児血清(fetal bovine serum) ヒト血清(human serum)、メルカプトエタノール(mercaptoethanol)、エタノールアミン(ethanolamine)、アスコルビン酸(ascorbic acid)及び亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項14に記載のナチュラルキラー細胞増殖方法。
【請求項18】
培養液が、グルタミン(glutamine)、ゲンタマイシン(gentamycin)、ヒト血清(human serum)、メルカプトエタノール(mercaptoethanol)、エタノールアミン(ethanolamine)、アスコルビン酸(ascorbic acid)及び亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項14に記載のナチュラルキラー細胞増殖方法。
【請求項19】
組換えヒトインターロイキン-2(recombinant human Interleukin-2)、組換えヒトインターロイキン-21(recombinant human Interleukin-2)及び組換えヒトインターロイキン-15(recombinant human Interleukin-15)からなる群から選択される少なくとも1つを添加するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載のナチュラルキラー細胞増殖方法。
【請求項20】
(a)組換えヒトインターロイキン-2(recombinant human Interleukin-2)、及び組換えヒトインターロイキン-21(recombinant human Interleukin-2)を添加し、(b)組換えヒトインターロイキン-2(recombinant human Interleukin-2)、及び組換えヒトインターロイキン-15(recombinant human Interleukin-15)を添加するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載のナチュラルキラー細胞増殖方法。
【請求項21】
請求項14に記載の方法で製造された、ナチュラルキラー細胞株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィーダー細胞(feeder cell)を含むナチュラルキラー細胞増殖用組成物及びナチュラルキラー細胞増殖方法に関する。具体的には、本発明は、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現するように形質転換されたフィーダー細胞を用いてナチュラルキラー細胞を増殖する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー細胞(Natural Killer Cell;NK細胞)は、自然免疫を担う代表的な細胞であり、様々な種類の腫瘍細胞とウイルスに感染した細胞に細胞傷害性を示し、大きな顆粒を保有しているリンパ球の一種である。NK細胞は、ヒト末梢血リンパ球の5~10%を占めており、T細胞とは異なり、肝臓や骨髄で成熟する。一般に、免疫細胞は、それらの表面に提示した主要組織適合複合体(Major histocompatibility complex;MHC)タンパク質を介して感染した細胞を検知し、様々なサイトカインとアポトーシスを誘導する化学物質を分泌することによって感染した細胞を除去するが、NK細胞は、抗原と結合した主要組織適合複合体がなくても異常な細胞を認識して除去することができるため、即時の免疫反応を誘導することができる。
【0003】
NK細胞の機能に対する欠陥は、多くの疾患で報告されており、特に癌患者の場合、ほとんとのNK細胞が不活化されていることが知られている。一部の研究者は、NK細胞をインビトロで増殖させ、活性化する方法について研究を進め、インビトロで増幅されたNK細胞を様々な癌腫に対して反応させたところ、優れた細胞傷害性(cytotoxicity)を示すことを証明した。
【0004】
よって、NK細胞を増殖するための方法が研究されており、NK細胞の選択的増幅のための効率的な方法の一つとして、フィーダー細胞(feeder cell)を利用する研究が行われている。しかしながら、NK細胞を増幅する方法の明確なメカニズムは知られていない。
【0005】
NK細胞の増幅のためのフィーダー細胞として、同種(allogenic)または自己(autologous)末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell;PBMC)及び癌細胞株(Cancer cell lines)が用いられており、癌細胞株としては、HFWT、a Wilms tumor-derived cell line、EBV-LCL(EBV transformed lymphoblastoid cells)などが知られている。
【0006】
本発明者らは、B7H6を発現するフィーダー細胞が優れたNK細胞増殖効果を有することを発見し、また、これまで知られていたフィーダー細胞に加えて、ARH77細胞も優れたフィーダー細胞であり、NK細胞増殖効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hiroyuki Fujisaki,Harumi Kakuda,Noriko Shimasaki,Chihaya Imai,Jing Ma,Timothy Lockey,et al.(2009)EXPANSION OF HIGHLY CYTOTOXIC HUMAN NATURAL KILLER CELLS FOR CANCER CELL THERAPY.Cancer Res.Author manuscript.2009 May 1;69(9):4010-4017
【非特許文献2】Denman CJ,Senyukov VV,Somanchi SS,Phatarpekar PV,Kopp LM,et al.(2012)Membrane-Bound IL-21 Promotes Sustained Ex Vivo Proliferation of Human Natural Killer Cells.PLoS ONE 7(1):e30264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現するように形質転換されたフィーダー細胞を含むナチュラルキラー細胞増殖用組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現するように形質転換されたフィーダー細胞株及びそれを用いたナチュラルキラー細胞増殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、B7H6遺伝子を発現するように形質転換されたフィーダー細胞を含むナチュラルキラー細胞増殖用組成物を提供する。
【0011】
本発明は、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現するように形質転換されたフィーダー細胞を含むナチュラルキラー細胞増殖用組成物を提供する。
【0012】
本発明の組成物は、B7H6を発現するフィーダー細胞を含んでもよく、前記フィーダー細胞は、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つをさらに発現してもよい。
【0013】
好ましくは、本発明の組成物は、B7H6、CD137L及びIL-15を発現するフィーダー細胞を含んでもよい。
【0014】
より好ましくは、本発明の組成物は、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαを発現するフィーダー細胞を含んでもよい。
【0015】
本発明のフィーダー細胞は、ARH77またはK562細胞であってもよく、好ましくは、ARH77細胞であってもよい。
【0016】
本発明は、B7H6を発現するフィーダー細胞株を提供する。
【0017】
本発明のフィーダー細胞株は、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つをさらに発現してもよい。
【0018】
本発明のフィーダー細胞株は、ARH77またはK562細胞株であってもよい。
【0019】
さらに、本発明は、
(1)B7H6遺伝子をウイルス発現ベクターで形質転換して組換えウイルスを産生するステップと、
(2)フィーダー細胞に前記組換えウイルスを添加して培養するステップと、
を含む、B7H6を発現するフィーダー細胞の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の前記形質転換遺伝子は、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子をさらに含んでもよい。
【0021】
本発明の前記ウイルスは、レンチウイルス(lentivirus)またはレトロウイルス(retrovirus)であってもよい。
【0022】
本発明の前記フィーダー細胞は、ARH77またはK562細胞であってもよい。
【0023】
また、本発明は、B7H6を発現するフィーダー細胞と末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell)を培養するステップを含む、ナチュラルキラー細胞増殖方法を提供する。
【0024】
本発明の前記フィーダー細胞は、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つをさらに発現してもよい。
【0025】
本発明の前記フィーダー細胞は、ARH77またはK562細胞であってもよい。
【0026】
本発明の前記培養液は、ペニシリン(penicillin)、ストレプトマイシン(streptomycin)、グルタミン(glutamine)、ゲンタマイシン(gentamycin)、ウシ胎児血清(fetal bovine serum) ヒト血清(human serum)、メルカプトエタノール(mercaptoethanol)、エタノールアミン(ethanolamine)、アスコルビン酸(ascorbic acid)及び亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)からなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよく、好ましくは、グルタミン(glutamine)、ゲンタマイシン(gentamycin)、ヒト血清(human serum)、メルカプトエタノール(mercaptoethanol)、エタノールアミン(ethanolamine)、アスコルビン酸(ascorbic acid)及び亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)からなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0027】
本発明の前記増殖方法は、組換えヒトインターロイキン-2(recombinant human Interleukin-2)、組換えヒトインターロイキン-21(recombinant human Interleukin-21)及び組換えヒトインターロイキン-15(recombinant human Interleukin-15)からなる群から選択される少なくとも1つを添加するステップをさらに含んでもよい。
【0028】
好ましくは、(a)組換えヒトインターロイキン-2(recombinant human Interleukin-2)、及び組換えヒトインターロイキン-21(recombinant human Interleukin-21)を添加し、(b)組換えヒトインターロイキン-2(recombinant human Interleukin-2)、及び組換えヒトインターロイキン-15(recombinant human Interleukin-15)を添加するステップをさらに含んでもよい。
【0029】
また、本発明の増殖方法で製造されたナチュラルキラー細胞株を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によるB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択された少なくとも1つの遺伝子が発現されたフィーダー細胞を用いてナチュラルキラー細胞(NK細胞)を増殖させると、周知のフィーダー細胞を用いる方法と比較して、より高いレベルの増幅率、純度及び細胞傷害性を有するNK細胞が得られるといった効果を奏することにより、NK細胞を用いた様々な免疫細胞治療などで非常に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】レンチウイルスベクター構造を示す図である。
【
図2a】ARH77細胞において、各遺伝子導入の順序及び遺伝子発現細胞の選択過程を示す図である。
【
図2b】ARH77細胞において、各遺伝子導入の順序及び遺伝子発現細胞の選択過程を示す図である。
【
図3】K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を介して得られたNK細胞の増幅率を示す図である。
【
図4】K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を介して得られたNK細胞の増幅率を示す図である。
【
図5】K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を介して得られたNK細胞の純度を示す図である。
【
図6】K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を介して得られたNK細胞の純度を示す図である。
【
図7】K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を介して得られたNK細胞の細胞傷害性を示す図である。
【
図8】K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を介して得られたNK細胞の細胞傷害性を示す図である。
【
図9】ARH77細胞及びIL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞の増幅率を示す図である。
【
図10】ARH77細胞及びIL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞の純度を示す図である。
【
図11】ARH77細胞及びIL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞の細胞傷害性を示す図である。
【
図12】ARH77細胞及びK562細胞を介して得られたNK細胞の増幅率を示す図である。
【
図13】ARH77細胞及びK562細胞を介して得られたNK細胞の純度を示す図である。
【
図14】ARH77細胞及びK562細胞を介して得られたNK細胞の純度を示す図である。
【
図15】ARH77細胞及びK562細胞を介して得られたNK細胞の細胞傷害性を示す図である。
【
図16】ARH77細胞及びK562細胞のNK細胞活性において重要な役割を果たす受容体発現の平均蛍光強度(MFI)を示す図である。
【
図17】ARH77細胞及びK562細胞のNK細胞活性において重要な役割を果たす受容体発現の平均蛍光強度(MFI)を示す図である。
【
図18】ARH77細胞及びK562細胞のNK細胞活性において重要な役割を果たす受容体発現の平均蛍光強度(MFI)を示す図である。
【
図19】ARH77細胞及びK562細胞のNK細胞活性において重要な役割を果たす受容体発現の平均蛍光強度(MFI)を示す図である。
【
図20】ARH77細胞及びK562細胞のNK細胞活性において重要な役割を果たす受容体発現の平均蛍光強度(MFI)を示す図である。
【
図21】ARH77細胞及びK562細胞のNK細胞活性において重要な役割を果たす受容体発現の平均蛍光強度(MFI)を示す図である。
【
図22】ARH77細胞及びK562細胞のNK細胞活性において重要な役割を果たす受容体発現の平均蛍光強度(MFI)を示す図である。
【
図23】B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞の増幅率を示す図である。
【
図24】B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞の純度を示す図である。
【
図25】B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞の細胞傷害性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本願の実施形態及び実施例について詳しく説明する。しかしながら、本願は、様々な形態で実施され得るので、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0033】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0034】
本発明は、B7H6遺伝子を発現するように形質転換されたフィーダー細胞を含むナチュラルキラー細胞増殖用組成物及び増殖方法に関する。
【0035】
本発明は、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現するように形質転換されたフィーダー細胞を含むナチュラルキラー細胞増殖用組成物及び増殖方法に関する。
【0036】
本発明において、「B7H6」なる用語は、ナチュラルキラー細胞受容体NKp30のリガンドを意味する。
【0037】
本発明に係るB7H6遺伝子は、配列番号1の塩基配列からなってもよく、前記塩基配列の相同体が本発明の範囲内に含まれる。具体的には、前記遺伝子は、配列番号1の塩基配列とそれぞれ70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含んでもよい。
【0038】
本発明において、「CD137L」なる用語は、CD137のリガンドを意味する。
【0039】
本発明に係るCD137L遺伝子は、配列番号2の塩基配列からなってもよく、前記塩基配列の相同体が本発明の範囲内に含まれる。具体的には、前記遺伝子は、配列番号1の塩基配列とそれぞれ70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含んでもよい。
【0040】
本発明において、「IL-15」なる用語は、インターロイキン-15(interleukin-15)であり、上皮細胞で産生されるサイトカイン(cytokine)を意味する。
【0041】
本発明に係るIL-15遺伝子は、配列番号3の塩基配列からなってもよく、前記塩基配列の相同体が本発明の範囲内に含まれる。具体的には、前記遺伝子は、配列番号1の塩基配列とそれぞれ70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含んでもよい。
【0042】
本発明において、「IL-15Rα」なる用語は、インターロイキン15受容体アルファ鎖(interleukin 15 receptor α-chain)を指す。
【0043】
本発明に係るIL-15Rα遺伝子は、配列番号4の塩基配列からなってもよく、前記塩基配列の相同体が本発明の範囲内に含まれる。具体的には、前記遺伝子は、配列番号1の塩基配列とそれぞれ70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含んでもよい。
【0044】
本発明に用いられる用語「フィーダー細胞(feeder cells;支持細胞)」は、分裂して増殖する能力はないが、代謝活性があるため、様々な代謝物質を産生して標的NK細胞の増殖を助ける細胞を意味する。本発明で用いてもよいフィーダー細胞としては、遺伝子が導入された動物細胞株(cell line)や各種サイトカインまたは化合物で処理された末梢血白血球細胞(PBL)、自己または他人の末梢血白血球細胞、T細胞、B細胞または多単核球(monocyte)などがあり、好ましくは、遺伝子が導入された動物細胞株を用いてもよく、より好ましくは、ARH77細胞であってもよいが、それらに限定されるものではない。本発明が属する技術分野において通常使用可能であることが知られている他のフィーダー細胞も本発明の目的に合致する限り、制限なく使用することができる。
【0045】
本発明に用いられる「発現ベクター」なる用語は、適切な宿主細胞において標的タンパク質または標的RNAを発現することができるベクターであり、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された(operably linked)必須の調節要素を含む遺伝子制作物を言う。
【0046】
本発明において、「作動可能に連結された(operably linked)」なる用語は、一般的な機能を果たすように、核酸発現制御配列と、標的タンパク質またはRNAをコードする核酸配列とが機能的に連結(functional linkage)されていることを意味する。例えば、プロモーターと、タンパク質またはRNAをコードする核酸配列とは機能的に連結され、コードする核酸配列の発現に影響を及ぼすことができる。組換え発現ベクターとの作動的連結は、当技術分野において周知の遺伝子組み換え技術を用いて達成することができ、部位特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野において一般に知られている酵素などを用いる。
【0047】
本発明で使用可能な発現ベクターとしては、プラスミドベクター、コスミド(cosmid)ベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどが挙げられるが、それらに限定されるものではなく、好ましくは、ウイルスベクターであってもよく、より好ましくは、レンチウイルス(lentivirus)またはレトロウイルス(retrovirus)ベクターであってもよいが、それらに限定されるものではない。さらに、適切な発現ベクターとしては、プロモーター(promoter)、オペレーター(operator)、開始コドン(initiation codon)、終止コドン(termination codon)、ポリアデニル化シグナル(polyadenylation signal)、エンハンサー(enhancer)などの発現制御配列に加えて、膜標的化または分泌のためのシグナル配列(signal sequence)またはリーダー配列(leader sequence)など、目的に応じて様々に製造してもよい。発現ベクターのプロモーターは、構成的(constitutive)または誘導性(inducible)であってもよい。また、発現ベクターは、ベクターを含む宿主細胞を選択するための選択マーカーを含み、複製が可能な発現ベクターである場合、複製起点を含む。
【0048】
本発明において、「末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell;PBMC)」なる用語は、血液中に存在する球状の核を有する細胞を意味し、そのような末梢血単核球には、B細胞、T細胞、マクロファージ(macrophage)、樹状細胞(dendritic cell)、ナチュラルキラー細胞(NK cell;natural killer cell)などの免疫細胞が含まれている。
【0049】
本発明の「IL-2(インターロイキン-2)」は、成熟したNK細胞の増殖と活性化を促進する機能を有していることが報告されている。IL-2を欠くヒトとマウスでは、NK細胞の数が著しく減少するという報告があるが、一方では、IL-2及びIL-2Raの欠乏は、間接的にNK細胞の数と活性化に影響を及ぼすという研究結果もあり、IL-2R鎖は、IL-15受容体の形成に関与することが知られている。
【0050】
本発明の「IL-15(インターロイキン-15)」に関して、IL-15またはIL-15Rαを欠くマウスでは、NK細胞が認められないという事実と、IL-15産生に必要な転写因子インターフェロン(transcription factor interferon;IFN)-調節因子1を欠くマウスでは、NK細胞が欠乏していることが判明された。よって、IL-15がNK細胞分化に関与することと、IL-15は、NK細胞で発現されるIL-15受容体を介してNK細胞の増殖と分化を直接的に促進することが知られている。
【0051】
本発明の「IL-21(インターロイキン-21)」は、transcription-3(STAT-3)を刺激することによりNK細胞のテロメア長(telomere length)を増加させ、NK細胞の活性、成長、増幅に重要な役割を果たすことが知られている。特に、ヒトCD34+造血幹細胞において、IL-15との組合せによってNK細胞の成長を助けることが報告されており、膜結合型の(membrane-bound;mb)IL-21を介してNK細胞を増幅する際に、インターフェロン・ガンマ(IFN-γ)の発現や細胞傷害性が増加することが確認された。さらに、培養液へのIL-21の継続した注入よりも、最初の1回だけ注入することがNK細胞の増幅に有効であることが報告されている。
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、下記の実施例は説明を目的とするものに過ぎず、本願発明の範囲を限定しようとする意図ではない。
【0053】
[製造例]
B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞の産生
B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαの遺伝子をクローニングし、次いで各遺伝子のcDNAをレンチウイルス発現ベクターであるpLVX-EF1α-IRES-Puro(Takara社,日本)プラスミドにトランスファーすることで、レンチウイルスを産生した。
【0054】
図1に示すように、CD137L遺伝子、B7H6とEGFP遺伝子、IL-15とRFP-647遺伝子、及びIL-15RαとBFP遺伝子を、それぞれのpLVX-EF1α-IRES-Puroプラスミドマルチクローニング部位に挿入した。各遺伝子が導入されたレンチウイルスプラスミド(10μg)をLenti-X TM Packaging Single shots(Takara社)と共にHEK 293T細胞にトランスフェクトし、10%FBSを含むDMEM培養液中で48~72時間培養し、組換えレンチウイルスを産生した。
【0055】
フィーダー細胞に各遺伝子を形質導入するために、ARH77細胞とK562細胞をそれぞれ24ウェルプレートにウェル当たり2×105個ずつ分注し、その後、各ウェルに組換えレンチウイルスをpolybrene(8μg/mL)と共に加えた。温度25℃、1,500gで2時間遠心分離し、その後、37℃、5%CO2条件下の培養器で48時間培養した後、培養液を除去し、新鮮な培養液に(2mL/ウェル)交換しながら培養を維持し続けた。形質導入1週間後、全ての細胞をそれぞれ回収し、細胞分類装置であるBD FACSAria(登録商標)IIIを用いて蛍光陽性細胞のみを分離し、それらの細胞を10%FBSを含むRPMI1640培養液中で培養し続けた。
【0056】
前記と同様の方法で、ARH77細胞とK562細胞に各遺伝子を
図2に示すような手順で導入し、選別過程を経てARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα及びK562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα細胞を生産した。
【0057】
B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rαの塩基配列を下記表1に示す。
【0058】
【実施例1】
【0059】
B7H6またはCD137L発現フィーダー細胞(feeder cell)によるNK細胞活性の効果
1-1.NK細胞増幅率(expansion rate)の評価
B7H6またはCD137Lの発現によるNK細胞活性の効果を確認するために、K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を用いて、NK細胞の増幅率を評価した。
【0060】
密度勾配遠心分離法を用いて、健康な共血者の末梢血液からPBMCを分離してPBSで2回洗浄し、その後、3×106個のPBMCを100Gyでガンマ放射線照射した、それぞれのフィーダー細胞(K562細胞、K562-B7H6細胞またはK562-CD137L細胞)5×105個と共に、24ウェルプレートで2mL/ウェルの培養液で、37℃、5%CO2条件下の培養器で共助培養した。
【0061】
培養液は、RPMI1640培養液に10%のウシ胎児血清(FBS)、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、及び4mmol/LのL-グルタミンを添加して使用し、培養開始日から1週間は、培養液に10U/mLの組換えヒトインターロイキン(rhIL)-2と5ng/mLのrhIL-21を添加し、培養1週間後からは、培養液に100U/mLのrhIL-2と5ng/mLのrhIL-15を添加して28日間培養した。培養液を1~2日ごとに新しい培養液に交換した。
【0062】
培養14日、21日及び28日に培養した細胞を回収し、回収された細胞内のNK細胞(CD3-、CD56+細胞)の割合(純度)をフローサイトメトリー(flow cytometry)で確認し、回収された細胞のうち生きている細胞の総数にNK細胞の割合を掛けて、総NK細胞数を計算した。同様の方法で、培養前PBMC内のNK細胞の総数を計算し、培養14日目、21日目及び28日目のそれぞれのNK細胞総数を培養前のNK細胞数で除して、NK細胞の増幅率を計算した。
【0063】
前記実験結果を下記表2及び3、並びに
図3及び4に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
表2及び
図3に示すように、K562細胞を介して得られたNK細胞は、4週培養後に291倍の増幅率を示したのに対し、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞を介して得られたNK細胞は、4週培養後に1,383倍の増幅率を示した。
【0067】
また、表3及び
図4に示すように、CD137L発現K562(K562-CD137L)細胞が得られたNK細胞は、4週間培養後に3,344倍増幅率を示した。
【0068】
よって、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞は、K562細胞と比較して4倍以上の増幅率を示し、CD137L発現K562(K562-CD137L)細胞は、11倍以上の増幅率を示しており、より優れたNK細胞の増幅効果を有することが分かる。
【0069】
1-2.NK細胞の純度(purity)の評価
B7H6またはCD137Lの発現によるNK細胞活性の効果を確認するために、K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を用いて、NK細胞の純度を評価した。
【0070】
実施例1-1と同様の方法でPBMCを分離し、放射線照射された各フィーダー細胞と共助培養した。培養前のPBMCと培養後14日、21日及び28日に回収した各細胞を、蛍光結合したヒトCD3及びCD56モノクローナル抗体で染色し、その後、フローサイトメトリーによりNK細胞の純度を評価した。各細胞内のCD3- CD56+NK細胞の割合を、NK細胞の純度で評価した。
【0071】
前記実験結果を下記表4及び5、並びに
図5及び6に示す。
【0072】
【0073】
【0074】
表4及び5、並びに
図5及び6に示すように、K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を介して得られたNK細胞は、いずれも90%以上の純度を示した。
【0075】
よって、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞は、いずれも高純度のNK細胞を増殖させ得ることが分かる。
【0076】
1-3.NK細胞の細胞傷害性(cytotoxicity)の評価
B7H6またはCD137Lの発現によるNK細胞活性の効果を確認するために、K562細胞、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を用いて、増殖したNK細胞の癌細胞に対する細胞傷害性能を評価した。
【0077】
実施例1-1と同様の方法で増殖したNK細胞のK562細胞に対する殺傷能力を、WST-8(Biotool社,米国)を用いた高感度比色分析(colorimetric assay)で測定した。NK細胞の標的癌細胞であるK562細胞(1×105個/100μL培養液)を96ウェルプレートに分注し、次いで、2.5×104個の増殖したNK細胞を入れて混合した後(effector:target ratio=0.25:1)1,500rpmで3分間遠心分離し、それを37℃、5%CO2条件下の培養器で培養した。培養3時間後、各ウェルに10μL容量のWST-8を加え、さらに1時間培養した後、450nm波長でSpectraMax(Molecular Devices社,米国)を用いて吸光度(A450)を測定し、以下の計算式を用いて、NK細胞により死滅した癌細胞の割合(%)を算出した。
【0078】
毒性(Cytotoxicity、%)=100%-100×[A450 of effector cell treated target cells-A450 of effector cells]/[A450 of target cells-A450 of target cells without WST-8]
【0079】
前記実験結果を下記表6及び7、並びに
図7及び8に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
表6及び7、並びに
図7及び8に示すように、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞を介して得られたNK細胞は、K562細胞を介して得られたNK細胞よりも高い細胞傷害性を示した。
【0083】
よって、B7H6発現K562(K562-B7H6)細胞及びCD137L発現K562(K562-CD137L)細胞は、より高いレベルの細胞傷害性を示すNK細胞を増殖させ得ることが分かる。
【実施例2】
【0084】
IL15Rα発現フィーダー細胞(feeder cell)によるNK細胞活性の効果
2-1.NK細胞増幅率(expansion rate)の評価
IL15Rαの発現によるNK細胞活性の効果を確認するために、ARH77細胞及びIL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を用いて、NK細胞の増幅率を評価した。
【0085】
実施例1-1と同様の方法で実験を行い、培養液にはIL-2とIL-15のみを添加して培養し、3週間評価した。前記実験結果を下記表8及び
図9に示す。
【0086】
【0087】
表8及び
図9に示すように、ARH77細胞を介して得られたNK細胞は、3週間培養後に222倍の増幅率を示したのに対し、IL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞は、3週間培養後に388倍の増幅率を示した。
【0088】
よって、IL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞は、ARH77細胞と比較して1.5倍以上の増幅率を示しており、より優れたNK細胞の増幅効果を有することが分かる。
【0089】
2-2.NK細胞の純度(purity)の評価
IL15Rαの発現によるNK細胞活性の効果を確認するために、ARH77細胞及びIL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を用いて、NK細胞の純度を評価した。
【0090】
実施例1-2と同様の方法で実験を行い、3週間評価した。前記実験結果を下記表9及び
図10に示す。
【0091】
【0092】
表9及び
図10に示すように、ARH77細胞を介して得られたNK細胞は、59~70%の純度を示したのに対し、IL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞はm63~79%とより高い純度を示した。
【0093】
よって、IL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞は、より高い純度を有し、IL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞は、より高い純度のNK細胞を増殖させ得ることが分かる。
【0094】
2-3.NK細胞の細胞傷害性(cytotoxicity)の評価
IL15Rαの発現によるNK細胞活性の効果を確認するために、ARH77細胞及びIL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を用いて、増殖したNK細胞の癌細胞に対する細胞傷害性能を評価した。
【0095】
実施例1-3と同様の方法で実験を行い、3週間評価した。前記実験結果を下記表10及び
図11に示す。
【0096】
【0097】
表10及び
図11に示すように、IL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞は、ARH77細胞を介して得られたNK細胞よりも高い細胞傷害性を示した。
【0098】
よって、IL15Rα発現ARH77(ARH77-IL15Rα)細胞は、より高いレベルの細胞傷害性を示すNK細胞を増殖させ得ることが分かる。
【実施例3】
【0099】
ARH77細胞のNK細胞刺激の効果
3-1.NK細胞増幅率(expansion rate)の評価
ARH77細胞のNK細胞刺激の効果を確認するために、ARH77細胞及びK562細胞を用いてNK細胞の増幅率を評価した。
【0100】
実施例1-1と同様の方法でPBMCを分離し、放射線照射されたARH77細胞またはK562細胞と共助培養した。培養前のPBMCと培養後14日、21日及び28日に回収した各細胞を、蛍光結合したヒトCD3及びCD56モノクローナル抗体で染色し、その後、フローサイトメトリーによりNK細胞(CD3- CD56+細胞)の純度を評価した。回収された細胞のうち生きた細胞の総数にNK細胞の割合を乗じて、総NK細胞数を計算した。同様の方法で、培養前PBMC内のNK細胞の総数を計算し、培養14日目、21日目及び28日目のそれぞれのNK細胞総数を培養前のNK細胞数で除して、NK細胞の増幅率を計算した。
【0101】
【0102】
【0103】
表11及び
図12に示すように、K562細胞を介して得られたNK細胞は、4週間培養後に627倍の増幅率を示したのに対し、ARH77細胞を介して得られたNK細胞は、4週間培養後に1376倍の増幅率を示した。
【0104】
よって、ARH77細胞は、2倍以上優れたNK細胞の増幅効果を有することが分かる。
【0105】
3-2.NK細胞の純度(purity)の評価
ARH77細胞のNK細胞刺激の効果を確認するために、ARH77細胞及びK562細胞を用いて、得られたNK細胞の純度を評価した。
【0106】
実施例1-2と同様の方法で、フローサイトメトリーにより細胞内CD3- CD56+NK細胞の割合を測定して純度を評価した。実験結果を下記表12、並びに
図13及び14に示す。
【0107】
【0108】
表12、並びに
図13及び14に示すように、K562細胞を介して得られたNK細胞は、46.1~68.7%の純度を示したのに対し、ARH77細胞を介して得られたNK細胞は、69.0~83.1%のより高い純度を示した。
【0109】
よって、ARH77細胞を介して得られたNK細胞が、より高い純度を有することが分かる。
【0110】
3-3.NK細胞の細胞傷害性(cytotoxicity)の評価
ARH77細胞のNK細胞刺激の効果を確認するために、ARH77細胞及びK562細胞を用いて、得られたNK細胞の細胞傷害性を評価した。
【0111】
実施例1-3と同様の方法で、ARH77細胞またはK562細胞を用いて得られたNK細胞の癌細胞に対する細胞傷害性能を測定した。実験結果を下記表13及び
図15に示す。
【0112】
【0113】
表13及び
図15に示すように、ARH77細胞及びK562細胞を介して得られたNK細胞の細胞傷害性は、有意であることが確認された。
【0114】
よって、ARH77細胞は、K562細胞と同様のレベルの細胞傷害性を示すNK細胞を増殖させ得ることが分かる。
【0115】
3-4.NK細胞発現形質(phenotype)の評価
ARH77細胞のNK細胞刺激効果を確認するために、ARH77細胞及びK562細胞を用いて得られたNK細胞の受容体発現(receptor expression)を評価した。その結果を下記表14~20、及び
図16~22に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
表14~20、及び
図16~22に示すように、ARH77細胞は、CD158bを除く全ての測定値においてK562細胞よりさらに高い平均蛍光強度(MFI)を示し、NK細胞の機能を抑制するCD158bでは、さらに低い平均蛍光強度を示した。よって、ARH77細胞は、K562細胞よりもNK細胞活性に重要な受容体をより良好に発現することが確認された。
【0124】
そこから、K562細胞と比較して、ARH77細胞がフィーダー細胞(feeder cell)としてより優れたNK細胞刺激効果を有することが分かる。
【実施例4】
【0125】
B7H6、CD137L、IL15及びIL15Rα発現フィーダー細胞のNK細胞刺激の効果
B7H6、CD137L、IL15-及びIL15Rα発現フィーダー細胞(feeder cell)によるNK細胞刺激の効果を確認するために、ARH77細胞及びK562細胞を用いてそれぞれの遺伝子を発現させ、下記実験を行った。
【0126】
4-1.NK細胞増幅率(expansion rate)の評価
B7H6、CD137L、IL15及びIL15Rα発現フィーダー細胞(feeder cell)によるNK細胞刺激の効果を確認するために、前記遺伝子を発現させたARH77細胞及びK562細胞を用いて、NK細胞の増幅率を評価した。
【0127】
実施例1-1と同様の方法でPBMCを分離し、放射線照射された各フィーダー細胞と共助培養した。培養前のPBMCと培養後14日、21日及び28日に回収した細胞において、フローサイトメトリーによってNK細胞(CD3- CD56+細胞)の純度を評価し、その後、前記と同様の方法でNK細胞の増幅率を計算した。
【0128】
前記実験結果を下記表21に示す。
【0129】
【0130】
表21に示すように、B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞は、3週目に最も優れたNK細胞の増幅率を示すことが確認された。
【0131】
4-2.NK細胞の純度(purity)の評価
B7H6、CD137L、IL15及びIL15Rα発現フィーダー細胞(feeder cell)によるNK細胞刺激の効果を確認するために、前記遺伝子を発現させたARH77細胞及びK562細胞を用いて、NK細胞の純度を評価した。
【0132】
実施例1-2と同様の方法で、フローサイトメトリーにより細胞内CD3- CD56+NK細胞の割合を測定して純度を評価した。実験結果を下記表22に示す。
【0133】
【0134】
表22に示すように、B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、B7H6、CD137L、及びIL-15発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15)細胞、並びにB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞は、4週目までに約90%以上の純度を示すことが確認された。
【0135】
4-3.NK細胞の細胞傷害性(cytotoxicity)の評価
B7H6、CD137L、IL15及びIL15Rα発現フィーダー細胞(feeder cell)によるNK細胞刺激の効果を確認するために、前記遺伝子を発現させたARH77細胞及びK562細胞を用いて、増殖したNK細胞の癌細胞に対する細胞傷害性を評価した。
【0136】
実施例1-3と同様の方法で、各遺伝子発現フィーダー細胞を用いて増殖したNK細胞の癌細胞に対する細胞傷害性能を測定した。実験結果を下記表23に示す。
【0137】
【0138】
表23に示すように、B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞は、4週目まで毒性が維持されるが、残りの細胞を用いたNK細胞は、毒性が低下することが確認された。
【0139】
よって、B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞が、フィーダー細胞(feeder cell)として優れたNK細胞刺激の効果を有することが分かる。
【実施例5】
【0140】
NK細胞最適化培地におけるフィーダー細胞のNK細胞刺激の効果
実施例3において、フィーダー細胞(feeder cell)としてNK細胞刺激に優れた効果を有するB7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を用いて、以下の実験を行った。
【0141】
5-1.NK細胞増幅率(expansion rate)の評価
前記3つの遺伝子組み換えフィーダー細胞(feeder cell)を用いたNK細胞刺激の効果を確認するために、NK細胞に最適化された培地を用いて、NK細胞の増幅率を評価した。
【0142】
実施例1-1と同様の方法でPBMCを分離し、放射線照射された各フィーダー細胞と共助培養した。培養液は、DMEM培養液に30%のHAM’S F12、10%のヒト血清(HS)、10μg/mLのゲンタマイシン、1x Glutamax、10μMのβ-メルカプトエタノール、50μMのエタノールアミン、20μg/mLのアスコルビン酸及び5ng/mLの亜セレン酸ナトリウムを添加して使用し、培養開始日から1週間は、培養液に10U/mLの組換えヒトインターロイキン(rhIL)-2と5ng/mLのrhIL-21を添加し、培養1週間後からは、培養液に100U/mLのrhIL-2と5ng/mLのrhIL-15を添加して28日間培養した。
【0143】
培養液を1~2日ごとに新しい培養液に交換した。培養14日、21日及び28日に培養した細胞を回収し、回収された細胞内のNK細胞(CD3-、CD56+細胞)の割合(純度)をフローサイトメトリー(flow cytometry)で確認し、回収された細胞のうち生きている細胞の総数にNK細胞の割合を掛けて、総NK細胞数を計算した。
【0144】
同様の方法で、培養前PBMC内のNK細胞の総数を計算し、培養14日目、21日目及び28日目のそれぞれのNK細胞総数を培養前のNK細胞数で除して、NK細胞の増幅率を計算した。
【0145】
【0146】
【0147】
表24及び
図23に示すように、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞は、NK細胞増幅に最も優れた効果を有することが確認された。
【0148】
具体的には、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を用いたNK細胞は、4週間培養後のB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を用いたNK細胞と比較して、増幅率が約3.5倍高いことが確認された。
【0149】
5-2.NK細胞の純度(purity)の評価
実施例4-1の3つの遺伝子組み換えフィーダー細胞(feeder cell)によるNK細胞刺激の効果を確認するために、NK細胞に最適化された培地を用いて、NK細胞の純度を評価した。
【0150】
実施例1-2と同様の方法で、フローサイトメトリーにより細胞内CD3- CD56+NK細胞の割合を測定して純度を評価した。実験結果を下記表25及び
図24に示す。
【0151】
【0152】
表25及び
図24に示すように、B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞は、いずれも4週まで約85%以上の純度を維持することが確認された。特に、ARH77細胞を用いたNK細胞の純度が、より優れていることを確認した。
【0153】
5-3.NK細胞の細胞傷害性(cytotoxicity)の評価
前記3つの遺伝子組み換えフィーダー細胞(feeder cell)によるNK細胞刺激の効果を確認するために、NK細胞に最適化された培地を用いて、NK細胞の細胞傷害性を評価した。
【0154】
実施例1-3と同様の方法で、各遺伝子発現フィーダー細胞を用いて増殖したNK細胞の癌細胞に対する細胞傷害性を測定した。実験結果を下記表26及び
図25に示す。
【0155】
【0156】
表26及び
図25に示すように、B7H6、CD137L及びIL-15発現ARH-77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15)細胞、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞、及びB7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現K562(K562-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞を介して得られたNK細胞は、いずれも優れた細胞傷害性を示すことが確認された。
【0157】
結局、前記の実験結果から、B7H6、CD137L、IL-15及びIL-15Rα発現ARH77(ARH77-B7H6-CD137L-IL15-IL15Rα)細胞が、フィーダー細胞(feeder cell)として最も優れたNK細胞刺激の効果を有することが分かる。
【配列表】
【国際調査報告】