(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20240514BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240514BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20240514BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20240514BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240514BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240514BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20240514BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M8/0228
H01M8/0215
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M8/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573638
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 KR2022006868
(87)【国際公開番号】W WO2022260298
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0075212
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520355529
【氏名又は名称】ポステック・リサーチ・アンド・ビジネス・ディヴェロップメント・ファウンデイション
【氏名又は名称原語表記】POSTECH RESEARCH AND BUSINESS DEVELOPMENT FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】(JIGOK‐DONG), 77, CHEONGAM‐RO,NAM‐GU, POHANG‐SI, GYEONGSANBUK‐DO 37673,REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヨンタエ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、 サンホン
(72)【発明者】
【氏名】カン、 ヒェス
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB07
5H018BB08
5H018EE12
5H018HH03
5H126AA02
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD14
5H126GG12
5H126HH01
5H126HH02
5H126HH04
5H126JJ03
(57)【要約】
本発明は、電解質膜と触媒層とが一体的に結合された電極膜接合体(MEA)、ガス拡散層、及びセパレータで構成される単位電池を含む高分子電解質膜燃料電池であって、前記単位電池を構成する電極膜接合体、ガス拡散層またはセパレータのいずれか1つ以上の表面には、酸化タングステンがコーティングされていることを特徴とする酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池及びその製造方法に関する。本発明は、高分子電解質膜燃料電池に従来から使用されてきた白金(Pt/C)触媒をそのまま使用しながらも燃料電池の起動/停止条件下で発生する高電圧の発生を防止することで炭素酸化を減少させて触媒および電池の耐久性を確保することができ、起動/停止条件下でも電流密度が減少しなくて性能を維持させることができるという長所がある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と触媒層とが一体に結合された電極膜接合体(MEA)、ガス拡散層、及びセパレータで構成される単位電池を含む高分子電解質膜燃料電池であって、
前記単位電池を構成する電極膜接合体、ガス拡散層またはセパレータのいずれか1つ以上の表面には、酸化タングステンがコーティングされていることを特徴とする、酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池。
【請求項2】
前記酸化タングステンは、450~500nmの厚さに蒸着されてコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池。
【請求項3】
前記蒸着は、物理蒸着(PVD)によって行われることを特徴とする、請求項2に記載の酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池。
【請求項4】
前記物理蒸着は、スパッタリングまたは電子ビーム蒸着によって行われることを特徴とする、請求項3に記載の酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池。
【請求項5】
前記電極膜接合体の表面に酸化タングステンがコーティングされていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池。
【請求項6】
高分子電解質膜の表裏に、それぞれ触媒層を形成させて電極膜接合体を形成させる電極膜接合体形成段階と、
前記電極膜接合体形成段階によって形成された電極膜接合体の表面に物理蒸着により酸化タングステンを蒸着させてコーティングさせる電極膜接合体コーティング段階と、
前記電極膜接合体コーティング段階と同時に又はその前後に行われ、ガス拡散層の表面に物理蒸着によって酸化タングステンを蒸着させてコーティングさせるガス拡散層コーティング段階と、
前記電極膜接合体コーティング段階と同時に又はその前後に行われ、セパレータの表面に物理蒸着によって酸化タングステンを蒸着させてコーティングさせるセパレータコーティング段階と、
酸化タングステンがコーティングされた電極膜接合体、ガス拡散層、またはセパレータのいずれか一つ以上を含めて単位電池を組み立てた後、これを含む高分子電解質膜燃料電池を構成する燃料電池アセンブリ段階と、
を含むことを特徴とする、酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記電極膜接合体形成段階は、
触媒スラリーをイミドフィルムの表面に塗布し、これを乾燥させる触媒塗布段階と、
触媒が塗布されたイミドフィルムを高分子電解質膜の表裏にそれぞれ付着させて積層した後、外部から圧力と熱を加えて高分子電解質膜の表裏にそれぞれ触媒を転写させて触媒層を形成させた後、イミドフィルムを除去する触媒層形成段階と、
で構成されることを特徴とする、請求項6に記載の酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記電極膜接合体コーティング段階、ガス拡散層コーティング段階、及びセパレータのコーティング段階で実施される物理蒸着は、スパッタリングまたは電子ビーム蒸着のいずれかであることを特徴とする、請求項6または7に記載の酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池及びその製造方法に関し、具体的には、電解質膜と触媒層とが一体に結合された電極膜接合体(MEA)、ガス拡散層、及びセパレータで構成される単位電池を含む高分子電解質膜燃料電池であって、前記単位電池を構成する電極膜接合体、ガス拡散層またはセパレータのいずれか1つ以上の表面には、酸化タングステンがコーティングされていることを特徴とする酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜燃料電池(PEMFC;Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)の起動及び停止状況で、酸化電極(anode)に部分的に残っている酸素によって、酸化電極(anode)では異常な酸素還元反応が起こる。この反応は、電池にかかる正常的な電圧範囲を外れた高電位がかかるようにする原因となり、これにより還元電極(cathode)を構成している白金(Pt/C)触媒の炭素支持体が腐食して耐久性の問題が発生するが、このような問題点を解決するために様々な解決策が提示されているが、特許文献1では、軽薄、軽量であるだけでなく、導電性と耐腐食性に優れた燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供した。
【0003】
一方、起動/停止(Start-Up/Shut-Down)条件下で生じる問題の究極的な原因であるといえる酸化電極(anode)での酸素還元反応を防止し、元より促進されるべき水素酸化反応のみを引き起こす選択性触媒を開発する方法が近年最も関心を集めている。かかる選択性触媒の中で、酸化タングステン上に白金を担持したPt/HxWO3触媒が最近の学術雑誌に紹介されることにより、学会の耳目を集めたし、性能と耐久性の両方ともにおいて優れているという長所を持っている。しかし、Pt/HxWO3触媒を実際に商用化する段階では、触媒を化学的に合成する段階を経なければならないので、機械的工程に比べて相対的にランダム性を伴うようになるので、品質の安定性、すなわち触媒の選択性機能に対する品質が安定しておらず、酸化タングステンという不導体材料を支持体として活用することから、品質の不安定性を招いてしまい、これに起因する燃料電池の性能及び耐久性の低下という問題点を発生させる原因となった。
【0004】
また、現在、白金(Pt/C)触媒を酸化電極(anode)と還元電極(cathode)の両方に活用して商用化がなされている。したがって、新たな概念のPt/HxWO3触媒を採択することは、白金(Pt/C)触媒を採択してきた既存の製造工程に比べて、大きな変更が避けられないので、従来の製造工程を活用することができないという面で、商用化及び適用に際しての限界点は依然として残っている。
【0005】
従って、触媒の選択性を高めるとともに燃料電池の効率と耐久性を増進させることができる安定した品質を有し、別途の工程ではなく、既存の製造工程に直ちに適用しやすい酸化タングステン材料を活用した、高効率でかつ耐久性に優れた高分子電解質膜燃料電池及びその製造工程を開発する必要性が出てきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述のような従来の技術の問題点及び限界を解決するために案出されたものであって、本発明の目的は、高分子電解質膜燃料電池における起動/停止条件下で生じる問題の究極的な原因であるといえる酸化電極(anode)での酸素還元反応を防止し、水素酸化反応のみを引き起こすようにして燃料電池の効率を維持し、白金触媒(Pt/C)の腐食を防止することで、耐久性が向上した高分子電解質膜燃料電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池は、電解質膜と触媒層とが一体に結合された電極膜接合体(MEA)、ガス拡散層、及びセパレータで構成される単位電池を含む高分子電解質膜燃料電池であって、前記単位電池を構成する電極膜接合体、ガス拡散層またはセパレータのいずれか1つ以上の表面には、酸化タングステンがコーティングされていることを特徴とする。
【0008】
このとき、前記酸化タングステンは、450~500nmの厚さに蒸着されてコーティングされることが好ましい。なぜならば、コーティングされた酸化タングステンの厚さが450nm未満であると、インターカレーション(intercalation)量が足りなくて燃料電池の性能向上に限界があり、厚さが500nmを超えると、酸化タングステンの不導体的特徴が支配的になることに伴い、伝導度が劣るという問題点が発生するからである。
【0009】
一方、前記蒸着は、物理蒸着(PVD)によって行われることを特徴とするが、スパッタリング(sputtering)または電子ビーム蒸着(Electron beam evaporation)によって行われることができる。
【0010】
さらに、本発明は、高分子電解質膜燃料電池を構成する部品のうち電極膜接合体(MEA)の表面に酸化タングステンがコーティングされていることがより好ましい。
【0011】
本発明の他の態様である酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池の製造方法は、高分子電解質膜の表裏に、それぞれ触媒層を形成させて電極膜接合体を形成させる電極膜接合体形成段階と、前記電極膜接合体形成段階を通じて形成された電極膜接合体の表面に物理蒸着によって酸化タングステンを蒸着させてコーティングさせる電極膜接合体コーティング段階と、前記電極膜接合体コーティング段階と同時に又はその前後に行われ、ガス拡散層の表面に物理蒸着によって酸化タングステンを蒸着させてコーティングさせるガス拡散層コーティング段階と、前記電極膜接合体コーティング段階と同時に又はその前後に行われ、セパレータの表面に物理蒸着によって酸化タングステンを蒸着させてコーティングさせるセパレータコーティング段階と、酸化タングステンがコーティングされた電極膜接合体、ガス拡散層、またはセパレータのいずれか一つ以上を含めて単位電池を組み立て後、これを含む高分子電解質膜燃料電池を構成する燃料電池組立段階と、を含むことを特徴とする。
【0012】
この時、前記電極膜接合体形成段階を具体的に説明すると、触媒スラリーをイミドフィルムの表面に塗布し、これを乾燥させる触媒塗布段階と、触媒が塗布されたイミドフィルムを高分子電解質膜の表裏にそれぞれ付着させて積層した後、外部から圧力と熱を加えて高分子電解質膜の表裏にそれぞれ触媒を転写させて触媒層を形成させた後、イミドフィルムを除去する触媒層形成段階と、から構成される。
【0013】
なお、前記電極膜接合体コーティング段階、ガス拡散層コーティング段階及びセパレータコーティング段階で行われる物理蒸着は、スパッタリングまたは電子ビーム蒸着のいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高分子電解質膜燃料電池に従来から使用されてきた白金(Pt/C)触媒をそのまま使用しながらも燃料電池の起動/停止条件下で発生する高電圧の発生を防止して炭素酸化反応を減少させて触媒および電池の耐久性を確保することができ、起動/停止条件下でも電流密度が減少しなくて性能を維持させることができるという長所がある。
【0015】
また、本発明は、既存に商用化されて使用されてきた白金(Pt/C)触媒をそのまま使用しながらも燃料電池の構成部品のいずれかの表面に酸化タングステンを蒸着コーティングさせる段階を追加するだけで、起動/停止条件下での性能保持性および耐久性を高めることができるので、経済的に有利であるというもう一つの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明による酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池の製造方法の全ての製造工程を示した図である。
【
図2】
図2は、スパッタを利用して各部品の表面に酸化タングステンを蒸着コーティングさせる前後の表面状態を比較して示した図である。
【
図3】
図3は、高分子電解質幕燃料電池の構造及び酸化タングステンの蒸着位置を示した図である。
【
図4】
図4は、起動/停止条件下で酸化タングステンを、高分子電解質膜燃料電池を構成するセパレータ(BP)、ガス拡散層(GDL)、電極膜接合体(MEA)にそれぞれコーティングして燃料電池を構成したときと、構成部品に酸化タングステンをコーティングせずに従来の白金(Pt/C)触媒を使用したときの燃料電池の性能とを比較して実験した結果を示した図である。
【
図5】
図5は、前記比較例及び実施例により作製された燃料電池に対してDHE(Dynamic Hydrogen Electrode)実験を通じて起動/停止条件下で瞬間的にセル(cell)に炭素酸化反応を発生させる1.5Vの高電圧がかかるか否かを実験した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して本発明の一実施形態を詳しく説明する。
【0018】
図1は、本発明による酸化タングステンコーティング部品を含む高分子電解質膜燃料電池の製造方法の全ての製造工程を示したものである。
【0019】
電極膜接合体形成段階S100は、高分子電解質膜の表裏に、それぞれ触媒層を形成させて電極膜接合体を形成させる段階である。具体的には、触媒スラリーをイミドフィルムの表面に塗布し、これを乾燥させる触媒塗布段階S110と、触媒が塗布されたイミドフィルムを高分子電解質膜の表裏にそれぞれ付着させて積層した後、外部から圧力と熱を加えて高分子電解質膜の表裏にそれぞれ触媒を転写させて触媒層を形成させた後、イミドフィルムを除去する触媒層形成段階S120と、で構成される。
【0020】
なお、本実施形態では、電極膜接合体(MEA)を構成するに際して、触媒は白金(Pt/C)を素材として採択したが、40wt%の商用白金(Pt/C)触媒が酸化電極(anode)に0.1mg/cm2で担持され、還元電極(cathode)に0.4mg/cm2分だけデカール方式により担持された。このとき、電極膜接合体(MEA)における高分子電解質膜の素材は、ナフィオン(Nafion)211を使用した。
【0021】
電極膜接合体コーティング段階S200は、前記電極膜接合体形成段階を通じて形成された電極膜接合体(MEA)の表面に物理蒸着によって酸化タングステンを蒸着させてコーティングさせる段階である。物理蒸着(PVD)は、スパッタリング方式と、電子ビーム蒸着方式とがあるが、本実施形態では、スパッタ(sputter)を用いたスパッタリング方式で酸化タングステンを電極膜接合体の表面に約500nmの厚さに蒸着させる。
【0022】
一方、ガス拡散層コーティング段階S300及びセパレータコーティング段階S400は、前記電極膜接合体コーティング段階S200と同時に又はその前後に分けられて行われることができる。本実施形態では、電極膜接合体と共にガス拡散層及びセパレータを一緒にスパッタ(sputter)のチャンバに入れて酸化タングステンをスパッタリングによりそれぞれの表面に約500nmの厚さに蒸着してコーティングした。この際、使用されたセパレータ(Bipolar Plate,BP)は、表面に何もコーティングされていないグラファイト材質からなるもので、流路が1mmの深さ及び幅で形成されたサーペンタイン型(serpentine type)のものを使用した。
【0023】
ガス拡散層(Gas Diffusion Layer,GDL)は、多孔性構造を有するカーボンを素材として20%PTFEで表面に防水処理が施されたものを用いた。
【0024】
この後、燃料電池組立段階S500では、酸化タングステンがコーティングされた電極膜接合体、ガス拡散層、及びセパレータのうち少なくとも一つを含めて単位電池を組み立てた後、これを含む高分子電解質膜燃料電池を構成することになる。
【0025】
図2は、スパッタを利用して各部品の表面に酸化タングステンを蒸着コーティングさせる前後の表面状態を比較して示したものである。
図3は、高分子電解質幕燃料電池の構造及び酸化タングステンの蒸着位置を示した図である。
【0026】
図2では、上下に酸化タングステンを各部品の表面に蒸着させる前後の状態を示して比較した。aとdは、セパレータの表面に酸化タングステンを蒸着させてコーティング層を形成する前後の状態を比較して示しており、bとeは、ガス拡散層の表面に酸化タングステンを蒸着させてコーティング層を形成する前後の状態を比較して示しており、cとfは、電極膜接合体(MEA)の表面に酸化タングステンを蒸着させてコーティングを形成させる前後の状態を比較して示した。
【0027】
より具体的に、
図2のa、b、cは、酸化タングステンが蒸着される前のセパレータ(BP)、ガス拡散層(GDL)、および電極膜接合体(MEA)の表面をそれぞれ示し、
図2のd、e、fは、酸化タングステンが蒸着された後のセパレータ(BP)、ガス拡散層(GDL)、および電極膜接合体(MEA)の表面をそれぞれ示す。
【0028】
図3は、高分子電解質幕燃料電池の構造及び酸化タングステンの蒸着位置を示した図である。
図3を参照すると、高分子電解質膜燃料電池は、第1集電体310、酸化電極用流路を含む第1セパレータ(BP)320、第1ガス拡散層(GDL)330、第1ガスケット340、電極膜接合体(MEA)350、第2ガス拡散層360、第2ガスケット370、還元電極用流路を含む第2セパレータ380、および第2集電体を含む。この場合、酸化電極用流路を含む第1セパレータ(BP)320、第1ガス拡散層(GDL)330、電極膜接合体(MEA)350、第2ガス拡散層360、および還元電極用流路を含む第2セパレータ380が、順次に積層される。
【0029】
このとき、酸化タングステンは、
図3aに示したように、第1セパレータ320の酸化電極用流路に蒸着されることができる。あるいは、酸化タングステンは、
図3bのように、第1ガス拡散層330と電極膜接合体350との間で第1ガス拡散層330側または電極膜接合体350側に蒸着されることができる。この場合、
図3aは、
図2のdに対応する場合であり、
図3bは、
図2のeに対応する場合であり、
図3cは、
図2のfに対応する場合である。
【0030】
酸化タングステンを各部品の表面上に蒸着させてコーティング層を形成させる前後のイメージを比較してみると、酸化タングステン層が形成されて色が変わったことを目視でも容易に確認できるようになる。
【0031】
図4は、起動/停止条件下で酸化タングステンを、高分子電解質膜燃料電池を構成するセパレータ(BP)、ガス拡散層(GDL)、電極膜接合体(MEA)にそれぞれコーティングして燃料電池を構成したときと、構成部品に酸化タングステンをコーティングせずに従来の白金(Pt/C)触媒を使用したときの燃料電池の性能とを比較して実験した結果を示したものである。
【0032】
酸化タングステンを表面上に蒸着させてコーティングしない部品のみで構成される高分子電解質膜燃料電池の場合、酸化電極(anode)、何もコーティングされていないグラファイト(graphite)材質からなるセパレータと、多孔質構造のカーボンの表面にPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)処理が施されたガス拡散層、高分子電解質膜の表裏に、それぞれ白金(Pt/C)触媒が結合された電極膜接合体(MEA)及び還元電極(cathode)とで構成した。
【0033】
一方、このような従来の高分子電解質膜燃料電池(比較例、a)に対比して、前記部品の中でセパレータの表面に酸化タングステンを500nmの厚さに蒸着コーティングさせたものを採択した燃料電池(実施例1、b)、ガス拡散層の表面に酸化タングステンを500nmの厚さに蒸着させてコーティングさせたものを採択した燃料電池(実施例2、c)、及び電極膜接合体(MEA)の表面に酸化タングステンを500nmの厚さに蒸着コーティングさせたものを採択した燃料電池(実施例3、d)の性能を約0.6V(ボルト)での電流密度で相互比較した。
【0034】
本実験は、基本的な性能は、セル温度70℃、100%の相対湿度の条件下で測定され、起動/停止プロトコル試験(protocol test)は、正常作動条件下では、酸化電極に水素を、還元電極には酸素を流し、起動/停止条件下では、開回路電圧(OCV)が0.2Vに降下するまで酸化電極に酸素を流すことを1サイクルとして100サイクル後の燃料電池の性能を評価する方法で進行した。
【0035】
図4aによれば、起動/停止プロトコル試験において、比較例による白金触媒のみを採択した通常の燃料電池の場合、0.6Vを維持する条件下で電流密度を測定した結果、試験初期には0.95A/cm
2であったが、起動/停止プロトコル100サイクル後には、0.25A/cm
2まで減少した。一方、
図4bによれば、同一の作動条件下で実験した実施例1による燃料電池について実験した結果、起動/停止プロトコル100サイクル後に電流密度が減少する幅が小さく、電池それ自体の性能が劣化していないが、電気的な抵抗が大きくかかり初期性能自体が高くないことを確認することができた。なお、
図4cによれば、実施例2による燃料電池について実験した結果、起動/停止プロトコル100サイクル後でも電流密度の減少幅がやはり少なくて、性能減少が比較例の燃料電池に比しては少なかったが、顕著に比較されるレベルではなかった。
【0036】
一方、
図4dによれば、上記比較例及び実施例と比較して実施例3による燃料電池について同様な条件および方法で実験前後の電流密度が減少したか否かを測定してみた結果、実施例3により製造された燃料電池、すなわち、電極膜接合体(MEA)の表面に酸化タングステンを蒸着コーティングさせた燃料電池の場合、起動/停止プロトコル100サイクル後にも電流密度の減少がほとんどなく、性能低下が発生しなかったことを確認することができた。
【0037】
図5は、前記比較例及び実施例により作製された燃料電池に対してDHE(Dynamic Hydrogen Electrode)実験を通じて起動/停止条件下で瞬間的にセル(cell)に炭素酸化反応を発生させる1.5Vの高電圧がかかるか否かを実験した結果を示したものである。
【0038】
本実験は、100秒間ポテンシャルプロファイル(potential profile)を観察するものであるが、正常的な作動条件下で実験を開始し、30秒後に起動/停止条件に切り替えたとき、燃料電池に炭素酸化反応の発生原因となって白金(Pt/C)触媒の耐久性を低下させる1.5Vの高電圧がセルに発生するか否かを確認するものである。
【0039】
図5aは、前記比較例により製造された白金触媒を採択した通常の燃料電池について実験した結果を示し、
図5b~
図5dは、それぞれ実施例1~実施例3により製造された燃料電池に対して同様な条件及び方法で実験した結果を示した。
【0040】
本実験の結果によれば、比較例による通常の燃料電池の場合、1.5Vまで電池内の電圧が急上昇することを確認することができ、これに対し、実施例1~3により製造された燃料電池の場合には、同一の実験をしても、セル自体で1.5Vまで電圧が急上昇していないことを確認した。
【0041】
したがって、本発明による高分子膜燃料電池の場合、正常作動状態から突然起動・停止条件に変わっても電池内部の電圧が急上昇することがなくて触媒の耐久性を低下させる炭素酸化反応の発生を防止することができ、燃料電池の耐久性を維持することができるという点を確認することができた。
【国際調査報告】