(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】細菌性ジヌクレオチドシクラーゼの発現
(51)【国際特許分類】
C12N 15/60 20060101AFI20240514BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20240514BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240514BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240514BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240514BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C12N15/60
C12N5/10 ZNA
C12N5/09
C12N15/86 Z
C12N7/01
A61P35/00
A61K35/76
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574347
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 CA2022050878
(87)【国際公開番号】W WO2022251960
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508155077
【氏名又は名称】マクマスター・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】MCMASTER UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】1280 MAIN STREET WEST,HAMILTON,ONTARIO L8S 4L8,CANADA
(71)【出願人】
【識別番号】505357317
【氏名又は名称】オタワ ホスピタル リサーチ インスティチュート
【住所又は居所原語表記】501 Smyth Box 511, Ottawa, Ontario K1H 8L6 Canada
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】リッシュティー,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,フアン
(72)【発明者】
【氏名】アザートン,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ベル,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】シンガラベル,ラグナス
(72)【発明者】
【氏名】イルコウ,キャロライナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4C084AA13
4C084MA59
4C084MA66
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4C084NA06
4C084NA13
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4C084ZB261
4C084ZB262
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA59
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
哺乳動物細胞において細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを構成的に発現させる方法を提供する。この方法は、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子を哺乳動物細胞にトランスフェクトする工程、および前記哺乳動物細胞を適切な増殖条件に供する工程を含む。一実施形態において、前記細菌性ジヌクレオチドシクラーゼは、腫瘍細胞またはがん細胞において発現され、がんの治療に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞において、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼまたはその機能ドメインを構成的に発現させる方法であって、
細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子を哺乳動物細胞にトランスフェクトする工程、および
前記哺乳動物細胞を適切な増殖条件に供する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞が、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞およびリンパ球からなる群から選択される免疫細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞が、がん細胞または腫瘍細胞である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌性ジヌクレオチドシクラーゼが、c-di-GMP、c-di-AMPおよびcGAMPからなる群から選択される環状ジヌクレオチドの合成を触媒する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記細菌性ジヌクレオチドシクラーゼが、コレラ菌、リステリア・モノサイトゲネスまたはヒト結核菌に由来するものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記機能ドメインが、前記細菌性ジヌクレオチドシクラーゼの触媒ドメインを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記導入遺伝子が、プラスミド、コスミドまたはウイルスベクターに組み込まれている、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルスベクターが複製能を持つ、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ウイルスベクターが、DNAウイルスまたはRNAウイルスである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスベクターが、腫瘍溶解性ウイルスである、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
腫瘍細胞またはがん細胞において細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを発現させる方法であって、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子を腫瘍細胞またはがん細胞に導入する工程を含む、方法。
【請求項12】
前記導入遺伝子が、ウイルスベクターに組み込まれている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスベクターが複製能を持つ、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスベクターが、腫瘍溶解性ウイルスである、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物のがんを治療する方法であって、ジヌクレオチドシクラーゼを発現するベクターを哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項16】
前記ベクターが、複製能を持つウイルスベクターである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ベクターが、腫瘍溶解性ウイルスである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記ベクターが、静脈内投与、筋肉内投与、腫瘍内投与または鼻腔内投与される、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ベクターが、免疫治療薬とともに投与される、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子が発現可能に組み込まれた腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼと、哺乳動物におけるその治療的有用性に関する。
【背景技術】
【0002】
STING経路は、細菌、DNAウイルスおよび腫瘍細胞に対する主要な自然免疫防御である。哺乳動物において、STINGシグナル伝達経路は、抗微生物免疫とゲノムの完全性に非常に重要な役割を果たしている。STINGは、環状ジヌクレオチド(CDN)と呼ばれるセカンドメッセンジャー分子ファミリーに結合するように進化してきた。これらのセカンドメッセンジャー分子は、細菌界に普遍的に見られ、多数の重要な生命過程の調節に重要なシグナル伝達分子として細菌により利用されている。細菌は、環状ジヌクレオチドの産生に特化した酵素を有しており、この酵素は、ジヌクレオチドシクラーゼの名称で知られている。細菌感染が起こると、STINGは細菌性環状ジヌクレオチドを認識してこれに結合し、シグナル伝達カスケードを開始させて、細菌感染を免れるのに必要とされるI型インターフェロンやその他の炎症促進性分子の産生を誘導する。さらに、環状ジヌクレオチドは、STINGによく似た哺乳動物タンパク質であるERAdPのリガンドでもあり、ERAdPによって活性化されると、抗微生物免疫応答を開始させる。
【0003】
さらに、哺乳動物細胞には、環状GMP-AMPシンターゼ(cGAS)と命名されたジヌクレオチドシクラーゼが存在する。この酵素は、細胞質内において病原体由来DNAまたは自己DNAを検知して、環状GMP-AMP(cGAMP)の合成を触媒する。内因性cGAMPも同様に、STINGに結合して、これを活性化させ、免疫応答を刺激する。損傷を受けたDNAを有する悪性細胞の細胞質ゾル内に核酸が不適切に出現した場合でも、cGASによるcGAMPの産生が活性化されることがある。実際に、cGAMPなどの環状ジヌクレオチドは、がん細胞によって持続的に核外輸送されており、腫瘍免疫原性を引き起こすことがある。腫瘍に由来するcGAMPは、腫瘍免疫浸潤に移送され、樹状細胞を含むこの免疫コンパートメントにおいてI型IFNのシグナル伝達を誘導することがある。I型IFNのシグナル伝達は、抗がん免疫の誘導において極めて重要な役割を果たすことがこれまでに示されている。
【0004】
また、最近の研究では、内皮への環状ジヌクレオチドの取り込みを促すことによって、STINGアゴニストを利用した治療に成功を収めたことが示唆されている。
【0005】
このように、多くの種類のヒトがんは、免疫系による検出を回避するために、cGAS-STINGシグナル伝達経路の欠損を獲得していることから、正常細胞と比べて腫瘍溶解性DNAウイルスの感染を受けやすい。
【0006】
環状ジヌクレオチド(CDN)によりSTINGを作動させることによって、腫瘍の免疫原性が増強される可能性がある。前臨床モデルでは、合成CDNを腫瘍内注射したところ、全身性の抗がん反応が誘導されたことが示されている。このような報告から、合成CDNは、抗がん治療として大きな注目を集めており、いくつかのSTINGアゴニスト候補が臨床開発されている。しかし、これらのSTINGアゴニスト候補の臨床試験では、有効性が限られており、有害作用が発生することが観察され、その一因として、非がん組織における全身性のSTINGの活性化が指摘されており、患者の忍容性が低い原因となっている。さらに、STINGアゴニストは、主に腫瘍内投与されることから、STINGアゴニストが適応可能な臨床徴候は依然として限られたままである。
【0007】
細菌性環状ジヌクレオチドを治療に利用できる方法の開発が望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、哺乳動物細胞において発現させることができる細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを同定し、哺乳動物細胞の細胞質において構成的に機能性を維持させ、環状ジヌクレオチドを継続的に産生させるものである。さらに、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを発現する導入遺伝子は、例えば、腫瘍細胞などの標的哺乳動物細胞に導入することによって、そのような細胞の免疫原性を増強することができることから、治療に利用することができる。
【0009】
したがって、本発明の一態様において、哺乳動物細胞において、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを構成的に発現させる方法であって、 細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子を哺乳動物細胞に導入する工程、および前記哺乳動物細胞を適切な増殖条件に供する工程を含む方法を提供する。
【0010】
本発明の別の一態様において、がん細胞または腫瘍細胞において、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを発現させる方法であって、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子をがん細胞または腫瘍細胞に投与する工程を含む方法を提供する。
【0011】
本発明の別の一態様において、哺乳動物のがんを治療する方法であって、ジヌクレオチドシクラーゼを発現するベクターを哺乳動物に投与する工程を含む方法を提供する。
【0012】
本発明のさらに別の一態様において、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子が発現可能に組み込まれた腫瘍溶解性ウイルスベクターを提供する。
【0013】
本発明のこれらの態様およびその他の態様は、以下の図面を参照することにより、さらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】哺乳動物細胞における様々な種類の細菌性シクラーゼの活性を示したグラフである。
【0015】
【
図2】細菌性シクラーゼを発現するワクシニアウイルスによる細菌性シクラーゼの活性を示したグラフ(A)と、細菌性シクラーゼを発現するワクシニアウイルスによる樹状細胞でのSTINGのシグナル伝達を示したグラフ(B)を示す。
【0016】
【
図3】ジヌクレオチドシクラーゼを発現するワクシニア株が、cGASの非存在下でもSTINGを活性化できることを示す。
【0017】
【
図4】(A)RNAウイルスおよび(B,C)DNAウイルスでのジヌクレオチドシクラーゼの発現によって、レポーター細胞におけるIFNのシグナル伝達が活性化されたことを示したグラフを示す。
【0018】
【
図5】環状di-AMP検出用ELISAの模式図である。
【0019】
【
図6】c-di-AMPを発現するプラスミドをトランスフェクトした細胞、またはc-di-AMPを発現するプラスミドで組換えたウイルスを感染させた細胞から得た溶解物(A)と上清(B)におけるシクラーゼ活性を示したグラフを示す。
【0020】
【
図7】シクラーゼを発現する腫瘍溶解性ウイルスを用いたインビボにおける腫瘍増殖の減少を示したグラフ(A,B)と、がんモデルにおける生存率の向上を示したグラフを示す。
【0021】
【
図8】シクラーゼを発現する腫瘍溶解性ウイルスを用いた処置によってがんモデルの生存率が向上したことを示したグラフを示す。
【0022】
【
図9】シクラーゼを発現する腫瘍溶解性ウイルスとチェックポイント阻害剤の併用投与で処置したがんモデルの生存率を示したグラフを示す。
【0023】
【
図10】ジヌクレオチドシクラーゼを発現するウイルスが、STING活性型細胞においてA)IFNのシグナル伝達とB)RSAD2の発現を誘導することを示したグラフを示す。
【0024】
【
図11】ジヌクレオチドシクラーゼを発現するウイルスによって、STING活性型細胞においてIFNのシグナル伝達が誘導されることをさらに示す。
【0025】
【
図12】ジヌクレオチドシクラーゼを発現するワクシニアウイルスをがん細胞に感染させることによって、IFNのシグナル伝達を強力に活性化できることを示したグラフを示す。
【0026】
【
図13】ジヌクレオチドシクラーゼを発現するウイルスによって、免疫細胞においてIFNのシグナル伝達を誘導できることを示す。
【0027】
【
図14A-N】c-di-AMPまたは2’3’-cGAMPで処理した樹状細胞培養から得られたRNAにおいて様々な炎症性遺伝子が誘導されたことから、c-di-AMPと2’3’-cGAMPがいずれもSTINGのアゴニストであることが示されたNanostring分析の結果を示す。
【0028】
【
図15】c-di-AMPまたは2’3’-cGAMPで処理した樹状細胞において、c-di-AMPと2’3’-cGAMPがいずれもSTINGのアゴニストであることが示されたSDS PAGEの結果を示す。
【0029】
【
図16】c-di-AMPまたは2’3’-cGAMPで処理した樹状細胞培養において、亜硝酸塩とIFNβがそれぞれ誘導されたことから、c-di-AMPと2’3’-cGAMPがSTINGのアゴニストであることが示されたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
第1の態様において、哺乳動物細胞において細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを構成的に発現させる方法を提供する。
【0031】
本明細書において、「細菌性ジヌクレオチドシクラーゼ」、「ジヌクレオチドシクラーゼ」および/または「シクラーゼ」という用語は、c-di-GMP、c-di-AMP、cGAMPや、c-UAMP、c-di-UMP、c-UGM、c-CUMP、c-AAGMPなどの、環状ジヌクレオチドの合成を触媒する細菌性酵素を指す。したがって、ジヌクレオチドシクラーゼとして、i)DisA、CdaA、CdaSなどのc-di-AMPを合成するジアデニリルシクラーゼ(DAC)タンパク質;ii)c-di-GMPを合成するGGDEFドメイン(Pfamファミリー:PF00990)を含むタンパク質;およびiii)DncVなどの3’-5’ cGAMPを合成するSMODS(PF18144)として公知の触媒ドメインを有するCD-NTase酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明による細菌性ジヌクレオチドシクラーゼは、哺乳動物細胞の細胞質内で構成的に機能性を維持するシクラーゼ、すなわち、37℃で生存することができる病原細菌由来のジヌクレオチドシクラーゼであり、分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)活性を示す630nmでのODが少なくとも約0.5であることから活性を保持しており、SEAP活性は、環状ジヌクレオチドにより誘導されるインターフェロンのシグナル伝達の活性レベルと相関している。したがって、本発明によるジヌクレオチドシクラーゼは、哺乳動物細胞において発現させた場合に、その内因性活性の少なくとも約20%を保持しており、その内因性(野生型)活性の少なくとも約30%、約40%、約50%またはそれ以上の活性を保持していることが好ましい。適切なジヌクレオチドシクラーゼの例として、コレラ菌由来のVCA0848などのc-di-GMPシクラーゼ;リステリア・モノサイトゲネス由来のCdaAなどのc-di-AMPシクラーゼ;およびヒト結核菌由来のMtbDisAが挙げられる。
【0033】
哺乳動物細胞において細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを発現させる方法において、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子は、十分に確立された遺伝子合成技術を用いて調製される。
【0034】
当業者であれば十分に理解できるように、選択された細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子には、内因性シクラーゼをコードする核酸を組み込んでもよく、環状ジヌクレオチドの合成を触媒する活性すなわち機能性ジヌクレオチドシクラーゼドメインを保持している組換えジヌクレオチドシクラーゼをコードする核酸を組み込んでもよい。この点に関して、シクラーゼ活性に悪影響を及ぼさないシクラーゼ遺伝子領域において組換えを行ってもよく、例えば、基質の結合または二量体や多量体の形成に必要な活性に必須のアミノ酸残基またはモチーフをコードしていない領域において組換えを行ってもよく、または触媒ドメイン内のアミノ酸残基またはモチーフをコードしていない領域において組換えを行ってもよい。したがって、シクラーゼ遺伝子は、そのジヌクレオチドシクラーゼ活性が保持されている限り、触媒ドメインを無傷のまま保持しつつ、一部を切断または組換えてもよく、あるいは選択されたジヌクレオチドシクラーゼの触媒ドメインの組み込みのみを行ってもよい。さらに、内因性シクラーゼ遺伝子配列内のコドンは、哺乳動物細胞での発現用に最適化してもよい。例えば、負の調節領域を欠失させてもよく、(二量体または多量体を形成するシクラーゼでは)二量体化ドメインを異種由来の二量体化ドメインで置換してもよく、哺乳動物細胞での発現用にシクラーゼ遺伝子配列を増強することができる別の最適化をシクラーゼ遺伝子配列に含めてもよい。コドンの最適化は、この目的に適した利用可能なソフトウェアを用いて実施してもよい。
【0035】
次に、線状分子、共有結合で閉じられた線状コンストラクトまたはミニサークルの形態の、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子を哺乳動物細胞にトランスフェクトする。別の方法として、哺乳動物細胞への導入に使用される当技術分野で公知の方法を用いて、プラスミド、コスミドまたはウイルスベクターに前記導入遺伝子を組み込む。本明細書において、「哺乳動物細胞」は、哺乳動物由来の細胞であればどのような細胞であってもよい。したがって、哺乳動物細胞へのシクラーゼ導入遺伝子の導入をエクスビボで実施して治療用細胞を作製してもよく、シクラーゼ導入遺伝子をインビボの細胞に導入してもよい。
【0036】
ジヌクレオチドシクラーゼの構成的発現は、シクラーゼ導入遺伝子を導入した哺乳動物細胞を適切な増殖条件、すなわち、インビボの細胞質条件に相当する条件に供することによって達成することができる。
【0037】
一実施形態において、腫瘍細胞、がん細胞、免疫細胞などの哺乳動物細胞において細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを発現させる方法であって、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子を、腫瘍細胞、がん細胞または免疫細胞に導入する工程を含む方法が提供される。このような細胞への導入遺伝子の導入は、様々なトランスフェクション技術により行ってもよく、カチオン性ポリマーもしくはリン酸カルシウムを用いたトランスフェクション、脂質を用いた方法(リポフェクションや、リポソームを用いたトランスフェクション)などの化学的手法、またはマイクロインジェクションやエレクトロポレーションなどの物理的方法を使用して行ってもよい。さらに、シクラーゼ導入遺伝子を発現可能に組み込むのに適したプラスミドやコスミドなどのベクターを用いて、腫瘍細胞、がん細胞または免疫細胞に導入遺伝子を導入してもよい。免疫細胞の例として、樹状細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞、単球、ナチュラルキラー細胞およびリンパ球が挙げられる。
【0038】
腫瘍細胞、がん細胞または免疫細胞において細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを発現させることによって、STINGおよびERAdPのリガンドが産生されることから、これらの細胞の免疫原性を有利に増強することができ、その結果、腫瘍微小環境を有利に改変することができる。発現されたシクラーゼは、シクラーゼを発現した腫瘍細胞またはがん細胞から分泌されるように設計することができ、かつ/または特定の免疫細胞(例えば、樹状細胞やマクロファージ)に結合して、これらの免疫細胞に侵入できるように設計することでき、その結果、腫瘍微小環境と所属リンパ節において自然免疫系と獲得免疫系を刺激することができる。
【0039】
別の方法として、複製能を持つウイルスベクターまたは複製能を持たないウイルスベクターなどの、導入遺伝子を組み込んだウイルスベクターを用いて、腫瘍細胞、がん細胞、免疫細胞などの哺乳動物細胞に感染させてもよい。例えば、ウイルスプロモーターや、シクラーゼの発現に必要なその他のエレメントの制御下でシクラーゼ導入遺伝子を発現可能に組み込むのに適した適切なDNAウイルスベクターとして、例えば、ワクシニアウイルスや組換えワクシニアウイルスなどのポックスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびサイトメガロウイルスが挙げられ、これらには様々な血清型のものが含まれ、複製能を持つウイルスベクターでも、複製欠損型ウイルスベクターであってもよい。シクラーゼ導入遺伝子の転写産物が発現可能に組み込まれるようにRNAウイルスベクターを構成してもよく、このようなRNAウイルスベクターとして、水疱性口内炎ウイルス、レトロウイルス(MoMLVなど)、レンチウイルス、センダイウイルス、麻疹由来ワクチン、ニューカッスル病ウイルス、アルファウイルス(セムリキ森林ウイルスなど)、フラビウイルスなどのRNAウイルス;またはRNAウイルスに基づくRNAレプリコン(すなわち、アルファウイルスやフラビウイルスなどに由来するRNAレプリコン)が挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスベクターは、複製能を持つウイルスベクターであることが好ましい。
【0040】
本発明のさらに別の一態様において、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子が発現可能に組み込まれた腫瘍溶解性ウイルスベクターが提供される。腫瘍溶解性ウイルスから細菌性シクラーゼを発現させることによって、インビボにおいてがん治療薬としての腫瘍溶解性ウイルスの有効性を増強することができる。例えば、シクラーゼを発現する腫瘍細胞が溶解することによって、強力な免疫刺激(アジュバント)が得られ、すなわち、STINGのシグナル伝達を刺激する環状ジヌクレオチドを産生するジヌクレオチドシクラーゼが得られ、かつ免疫系に腫瘍抗原を提供することができる。
【0041】
選択されたジヌクレオチドシクラーゼを発現する腫瘍溶解性ウイルスは、標準的な組換え技術を用いて、選択されたジヌクレオチドシクラーゼをコードする導入遺伝子をウイルスに組み込むことによって調製してもよい。例えば、この導入遺伝子をウイルスのゲノムに組み込んでもよく、あるいは、この導入遺伝子を組み込むことができるプラスミドを用いて、この導入遺伝子をウイルスに組み込んでもよい。本発明の方法は、本発明で使用してもよい腫瘍溶解性ウイルスに特に限定されず、哺乳動物への投与に適切であり、かつ腫瘍を破壊することができ、複製能を有する腫瘍溶解性ウイルスであれば、どのようなものを使用してもよい。本発明の方法で利用してもよい腫瘍溶解性ウイルスの例として、腫瘍溶解性DNAウイルスおよび腫瘍溶解性RNAウイルスが挙げられ、具体的には、ベシクロウイルス(例えば水疱性口内炎ウイルス(VSV))、マラバウイルス、エフェメロウイルス、サイトラブドウイルス、ヌクレオラブドウイルス、リッサウイルスなどのラブドウイルス;ならびに麻疹ウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、ミクソーマウイルス、パルボウイルス、ニューカッスル病ウイルス、アデノウイルスおよびセムリキ森林ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを発現する導入遺伝子、この導入遺伝子を含む細胞、またはこの導入遺伝子を組み込んだベクター、例えば、細菌性ジヌクレオチドシクラーゼを発現する腫瘍溶解性ウイルスベクターは、哺乳動物のがんを治療する方法に有用である。本明細書において、「がん」は、あらゆるがんを包含し、具体的には、悪性黒色腫;肉腫;リンパ腫;脳腫瘍、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸部癌、前立腺癌、肺癌、肝癌、腎細胞癌、皮膚癌、直腸癌、胃癌、大腸癌などの癌腫;および白血病が挙げられるが、これらに限定されない。「哺乳動物」は、非ヒト哺乳動物およびヒトを意味する。
【0043】
本発明の方法は、ジヌクレオチドシクラーゼを発現する導入遺伝子、この導入遺伝子を含む細胞、またはこの導入遺伝子を組み込んだベクターを哺乳動物に投与する工程を含む。前記導入遺伝子、前記細胞または前記ベクター(例えば、腫瘍溶解性ベクター)は、どのような方法で哺乳動物に投与してもよく、投与方法として、静脈内投与、筋肉内投与、腫瘍内投与または鼻腔内投与が挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば十分に理解できるように、前記導入遺伝子、前記細胞または前記ベクター(例えば、腫瘍溶解性ベクター)は、適切な担体、例えば、生理食塩水またはその他の適切な緩衝液に入れて投与される。
【0044】
前記導入遺伝子、前記細胞または前記ベクター(例えば、腫瘍溶解性ベクター)は、腫瘍縮小反応、例えば、腫瘍の増殖を統計学的に有意に減少させる反応を得るのに十分な量で哺乳動物に投与される。統計学的有意差の検定方法は、当技術分野において十分に確立されている。統計学的有意差は、p値が有意水準未満である場合に達成される。この点に関して、腫瘍縮小反応は、腫瘍の大きさおよび/または増殖の少なくとも5%以上の低下、例えば、10%以上の低下、20%以上の低下、30%以上の低下またはそれ以上の低下、例えば、50%以上の低下である。当業者であれば十分に理解できるように、腫瘍縮小反応を得るのに必要なシクラーゼ発現腫瘍溶解性ベクターの量は、例えば、選択されたジヌクレオチドシクラーゼ、シクラーゼの送達に使用される腫瘍溶解性ベクター、治療を受ける哺乳動物、例えば、生物種、年齢、体格などの様々な要因に応じて変動する。この点に関して、例えば、約107~108PFUの腫瘍溶解性ベクターをマウスに腫瘍内投与すれば、腫瘍縮小反応を得るのに十分である。これに相当する量であれば、ヒトへの投与により反応を得るのに十分である。静脈内投与でも、これと同程度またはこれよりも多い用量を投与してもよく、例えば、約10~100倍の用量を投与してもよい。
【0045】
シクラーゼを発現する導入遺伝子、細胞またはベクター(例えば、腫瘍溶解性ベクター)は、少なくとも1種の別の治療剤とともに哺乳動物に投与してもよい。この治療剤は、別の抗腫瘍剤のような、がんの治療に有用な薬剤であってもよく、腫瘍溶解性ベクターの抗がん活性を促進する薬剤であってもよい。この別の治療剤は、腫瘍細胞のチェックポイントタンパク質の作用を阻害して宿主の免疫細胞の活性を抑制する免疫チェックポイント阻害剤などの免疫治療薬であってもよい。チェックポイント阻害剤は抗体であってもよい。チェックポイント阻害剤の例として、イピリムマブなどのCTLA-4阻害剤、ニボルマブやペムブロリズマブなどのPD-1阻害剤、およびアテゾリズマブやアベルマブなどのPD-L1阻害剤が挙げられる。
【0046】
以下の具体的な実施例を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例】
【0047】
実施例1-哺乳動物細胞における細菌性シクラーゼの発現とその機能
細菌性シクラーゼ候補は、37℃で生存可能な病原細菌から選択した。野生型のc-di-GMPシクラーゼ遺伝子もしくはc-di-AMPシクラーゼ遺伝子、または様々に変異させたc-di-GMPシクラーゼ遺伝子もしくはc-di-AMPシクラーゼ遺伝子を、確立された方法によりpcDNA3.1(+)にクローニングし、各シクラーゼ遺伝子候補を発現するプラスミドをHEK 293T細胞に24時間トランスフェクトした。低張バッファーを用いて細胞溶解物を調製し、95℃で5分間加熱してからTHP1-Blue-ISGレポーター細胞に移した。
【0048】
コレラ菌由来のc-di-GMPシクラーゼとして、(1)VC2285(WT)(アクセッション番号:WP_001052610.1);(2)VC2285(R174A/D177A、E393A);(3)VCA0848(WT)(アクセッション番号:WP_000998604.1);(4)VCA0848(R273A/D276A);および(5)VCA0848(N末端にヒトアルブミンのプレプロタンパク質のシグナルペプチドを付加したもの)を分析した。緑膿菌由来のc-di-GMPシクラーゼとして、(6)PA2771(Dcsbis;WT)(アクセッション番号:WP_003114426.1);(7)PA2771(Dcsbis;E10A、R97A/D100A、R137A/D140A、R207A/D210A、R225A/D228A、R233A/D236A、R251A/D254A);(8)PA3702(WspR;WT)(アクセッション番号:WP_003103734.1);(9)PA3702(WspR;N末端の1~175番目の塩基を、サッカロミセス・セレビシエ由来のGCN4(249~278番目)で置換したもの);および(10)PA3702(WspR;N末端の1~175番目の塩基を、ヒトアルブミンのプレプロタンパク質のシグナルペプチドとサッカロミセス・セレビシエ由来のGCN4(249~278番目)で置換したもの)を分析した。大腸菌由来のc-di-GMPシクラーゼとして、(11)ECSP_2022(ydeH;WT)(アクセッション番号:WP_000592852.1)および(12)ECSP_2022(ydeH;R56A/D59A、R62A/D65A、R73A/D76A、R141A/D144A)を分析した。
【0049】
リステリア・モノサイトゲネス由来のc-di-AMPシクラーゼとして、(13)CdaA(WT)(アクセッション番号:WP_003722380.1)および(14)CdaA(N末端の1~80番目の塩基を欠失させたもの)を分析した。ヒト結核菌由来のc-di-AMPシクラーゼとして、(15)MtbDisA(WT)(アクセッション番号:WP_003900111.1)を分析した。コントロールとして、(16)Mock;(17)GFP;(18)c-di-AMP;および(19)c-di-GMPを使用した。
【0050】
細菌性ジヌクレオチドシクラーゼプラスミドをトランスフェクトしたHEK 293T細胞の溶解物を用いて、THP1-Blue-ISGレポーター細胞を24時間インキュベートした後、分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)活性を定量した。SEAP活性の増加は、細胞溶解物中の環状ジヌクレオチドにより誘導されるインターフェロンシグナル伝達の活性レベルと相関する。
図1に示すように、VCA0848(コレラ菌、c-di-GMP)(3)、CdaA(リステリア・モノサイトゲネス、c-di-AMP)(13)およびMtbDisA(ヒト結核菌、c-di-AMP)(15)はいずれも、哺乳動物細胞において発現させた場合に活性を示した。
【0051】
実施例2-細菌性シクラーゼを発現するワクシニアウイルスによる樹状細胞におけるSTINGのシグナル伝達
細菌性ジヌクレオチドシクラーゼであるMtbDisAまたはVCA0848を、腫瘍溶解性ウイルスであるワクシニアウイルスから発現させた。親ワクシニアウイルス、または細菌性シクラーゼであるMtbDisAもしくはVCA0848を発現するワクシニアウイルスを、THP1-Blue-ISG細胞に24時間感染させた。次に、製造業者の説明書に従ってQuanti-Blue試薬を用いてQuanti-blue比色法により上清を測定した。
図2Aに示すように、ワクシニアウイルスを用いていずれのジヌクレオチドシクラーゼを発現させた場合でも、IRFの応答の測定から、SEAPの産生が増強されたことが示された。
【0052】
親ワクシニアウイルス、または細菌性シクラーゼであるMtbDisAもしくはVCA0848を発現するワクシニアウイルスを、C57Bl6マウスに由来する野生型(WT)マウス樹状細胞(DC)に24時間感染させた。RIPAバッファーを用いて全細胞溶解物を調製し、STINGシグナル伝達軸、すなわち、STING、TBK1およびIRF3のリン酸化と、その下流の標的遺伝子であるIFIT1の誘導のウエスタンブロット分析を行った。
【0053】
図2Bに示すように、シクラーゼを発現するワクシニアウイルスによって、親ワクシニアウイルスによる効果と比較して、STINGの活性化およびその下流のシグナル伝達の強化(すなわちIRF3の活性化)、ならびにIFIT1などのインターフェロン応答遺伝子のアップレギュレーションが大幅に増強された。
【0054】
実施例3-シクラーゼを発現するウイルスによるSTINGの活性化にはcGASは必要とされない
親ワクシニア株またはMtbDisAもしくはVCA0848を発現するワクシニア株をマウス樹状細胞(DC)に24時間感染させた。RIPAバッファーを用いて全細胞溶解物を調製し、ウエスタンブロット分析を行って、STINGのリン酸化を測定した。親ワクシニアは、野生型のDCにおいてSTINGを活性化することができたが、cGAS-/-DCではSTINGを活性化することはできなかった。これに対して、ジヌクレオチドシクラーゼを発現するワクシニア株はいずれも、cGASの非存在下でもSTINGを活性化することができた。
図3に結果を示す。
【0055】
実施例4-ウイルスにおけるジヌクレオチドシクラーゼの発現
インターフェロン調節因子(IRF)により誘導されるSEAPレポーターを発現するHek293-Dual
TM hSTING-H232細胞に、野生型またはdisA発現型もしくはCdaA発現型の、水疱性口内炎ウイルス(VSV)またはワクシニアウイルス(Copenhagen株もしくはTianTan株)を様々なMOIで感染させた。製造業者のプロトコールに従って、Quanti-Blue比色定量アッセイ(Invivogen社)を用いて、SEAPアッセイを実施し、IFNのシグナル伝達誘導量を分析した。分析の結果、VSV(
図4A)で例示されるRNAウイルスからジヌクレオチドシクラーゼが発現され、TianTan株(
図4B)やCopenhagen株(
図4C)などのワクシニアウイルスで例示されるDNAウイルスでもジヌクレオチドシクラーゼが発現されて、レポーター細胞におけるIFNのシグナル伝達の活性化が増強されたことが示された。
【0056】
実施例5-ウイルスをトランスフェクトした細胞およびウイルスを感染させた細胞におけるc-di-AMPの検出
ワクシニア-Mtb-disAまたは親ウイルス(いずれもMOI=0.1)をHeLa細胞に48時間感染させた。陽性コントロールとして、Mtb-disAを発現する発現ベクターを細胞にトランスフェクトした。製造業者のプロトコールに従って、哺乳類細胞タンパク質抽出試薬(M-PER;フィッシャー・サイエンティフィック社)を用いて細胞を溶解した。上清と細胞溶解物を90℃で15分間沸騰し、氷上で冷却した。製造業者のプロトコールに従って、市販キット(Cayman Chemicals社、カタログ番号:501960)を用いて、環状di-AMPレベル検出用ELISAを行った。環状di-AMP検出用ELISAの概要を
図5に示す。
【0057】
分析の結果、c-di-AMPを発現するプラスミドをトランスフェクトした細胞から得た溶解物と上清中からELISAによりc-di-AMPが検出され、c-di-AMPを発現するプラスミドで遺伝子組換えしたウイルスを感染させた細胞でも、ELISAによりc-di-AMPが検出された(
図6Aおよび
図6Bを参照されたい)。したがって、disAを発現するワクシニアウイルスは、感染細胞において環状di-AMPを活発に産生する。腫瘍微小環境では、放出された環状di-AMPが、バイスタンダー免疫細胞および内皮のSTINGシグナル伝達を刺激して、抗がん免疫応答を促進することができる。
【0058】
実施例6-シクラーゼを発現するウイルスによるインビボでの腫瘍の制御の増強
B16黒色腫細胞またはMC38結腸癌細胞をマウスに皮下移植した。次に、腫瘍を発症したマウスに、PBSまたは親ワクシニアウイルスもしくはワクシニア-Mtb-DisA(1×10
8pfu)を腫瘍内注射した。様々な時点で腫瘍の体積をノギスで測定し、平均体積をグラフに示した。DisAを発現する腫瘍溶解性ウイルスで処置したマウスは、非処理コントロールや野生型ウイルスで処置したコントロールと比べて、黒色腫モデル(
図7A)と結腸癌腫瘍モデル(
図7B)のいずれでも、良好な腫瘍制御(腫瘍の増殖の減少)を示した。
【0059】
さらに、MtbDisAを発現する腫瘍溶解性ウイルスを投与した結腸癌腫瘍担持マウスは、生存率の向上を示した(
図8参照)。
【0060】
これらのデータから、腫瘍溶解性ウイルスを介してジヌクレオチドシクラーゼを発現させることによって、強力な抗腫瘍免疫応答を誘導できることが示された。
【0061】
実施例7-シクラーゼを発現するウイルスとチェックポイント阻害剤とを組み合わせた腫瘍制御
5×10
5個のMC38結腸癌細胞をマウスに皮下移植した後、チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体の単独全身投与(100μg)、腫瘍溶解性ウイルスであるワクシニアウイルスの単独投与(1×10
7プラーク形成単位)、ワクシニアウイルスとチェックポイント阻害剤の併用投与、MtbDisAを発現するワクシニアウイルスの投与、またはMtbDisAを発現するワクシニアウイルスと抗PD-1抗体の併用投与で処置した。
図9に示すように、MtbDisAを発現するワクシニアウイルスと抗PD-1抗体の併用投与で処置したマウスは、生存率の向上を示した。これらのデータから、腫瘍溶解性ウイルスを介してジヌクレオチドシクラーゼを発現させることによって、チェックポイントの阻害との相乗的な生存率の向上が誘導されることが示された。
【0062】
実施例8-ジヌクレオチドシクラーゼを発現するワクシニアウイルスのインビトロでの特性評価
シクラーゼを発現するワクシニアウイルス(Mtb-disAまたはVCA0848)をHT29ヒト結腸直腸癌細胞株に感染させ、感染の48時間後のRSAD2とIFNB1の発現を測定するためqPCRを行った。RSAD2は、インターフェロン誘導遺伝子であり、IFNB1は、I型IFNをコードする遺伝子である。これらの遺伝子は、通常、STINGのシグナル伝達の活性化の下流に発現される。
【0063】
シクラーゼを発現するワクシニアウイルスを感染させたHT29細胞は、IFNB1とRSAD2の両方を発現していることから、活性型のSTINGシグナル伝達を有している(
図10参照)。このデータから、ジヌクレオチドシクラーゼを発現するウイルスによって、STING活性型細胞においてIFNのシグナル伝達が誘導されることが示された。
【0064】
実施例9-ジヌクレオチドシクラーゼを発現するワクシニアウイルスのインビトロでの特性評価
インターフェロン調節因子(IRF)により誘導されるSEAPレポーターを発現する293-Dual
TM hSTING-H232細胞に、Mtb-disAを発現するワクシニアウイルスまたは親ワクシニアウイルスを2段階のMOI(0.1または0.01)で感染させた。製造業者のプロトコールに従って、Quanti-Blue比色定量アッセイ(Invivogen社)を用いて、SEAPアッセイを実施した。得られたデータから、ジヌクレオチドシクラーゼを発現するウイルスによって、STING活性型細胞においてIFNのシグナル伝達が誘導されることが確認された(
図11)。
【0065】
実施例10-ジヌクレオチドシクラーゼを発現するウイルスに感染させた腫瘍におけるインターフェロンの発現
低悪性度漿液性癌腫(LGSC)患者由来の腫瘍コアに、ジヌクレオチドシクラーゼ(Mtb disA)を発現するワクシニアウイルスまたは親ワクシニアウイルスをエクスビボで感染させた。感染の48時間後に、Aurum
TMトータルRNA単離キット(バイオ・ラッド社)を用いてRNAを回収し、RSAD2の発現とインターフェロン(IFNB1)の産生を測定するためにqPCR分析を行った。得られたデータから、(恐らくはSTINGを欠損している)がん細胞に、ジヌクレオチドシクラーゼを発現するワクシニアウイルスを感染させることによって、腫瘍微小環境においてIFNのシグナル伝達とIFNの産生を強力に活性化できることが示された(
図12参照)。
【0066】
実施例11-ジヌクレオチドシクラーゼを発現するウイルスに感染させた腫瘍におけるインターフェロンの発現
インターフェロン調節因子(IRF)により誘導されるSEAPレポーターを発現するTHP1-Dual細胞(Invivogen社)にPMAを添加して、マクロファージへと分化させた。分化誘導の48時間後に、ヌクレオチドシクラーゼを発現するワクシニアウイルスまたは親ワクシニアウイルスを様々なMOIで細胞に感染させた。製造業者のプロトコールに従って、Quanti-Blue比色定量アッセイ(Invivogen社)を用いて、SEAPアッセイを実施した。得られたデータから、ジヌクレオチドシクラーゼを発現するウイルスによって、免疫細胞においてIFNのシグナル伝達を誘導できることが示された(
図13参照)。
【0067】
実施例12-細菌性c-di-AMPの誘導によるシグナル伝達と非典型的2’3’-cGAMPの誘導によるシグナル伝達の比較
GM-CSF(40ng/ml)を含む培地中で骨髄細胞を培養することによって、野生型(sting+/+)の骨髄由来マウス樹状細胞とノックアウト型(Sting-/-)の骨髄由来マウス樹状細胞を調製した。7日目に、4mlの培地中の1×106個/mlの密度の樹状細胞を、5μg/mlのc-di-AMP(InvivoGen社)またはcGAMP(InvivoGen社)を用いて、グラフに示した様々な時間にわたって処理した。RIPAバッファーを用いて全細胞溶解物を調製し、SDS-PAGEを行った。膜に転写した後、IFIT1、iNOSおよびSTINGを各関連抗体を用いて検出した。
【0068】
亜硝酸塩アッセイとIFNβアッセイも実施した。処理後0時間および24時間に上清を回収し、Griessアッセイ(プロメガ社)またはマウスIFNβ ELISAキット(R&Dシステムズ社)をそれぞれ用いて分析を行った。
【0069】
図15および
図16に示すように、c-di-AMPと2’3’-cGAMPはいずれもSTINGのアゴニストであり、c-di-AMPの方が、亜硝酸塩とIFNβをより強力に誘導したことから、STING経路をより強力に活性化することが示された。
【0070】
実施例13-Nanostring試験
GM-CSF(40ng/ml)を含む培地中で骨髄細胞を培養することによって、野生型(sting+/+)の骨髄由来マウス樹状細胞を調製した。7日目に、4mlの培地中の1×106個/mlの密度の樹状細胞を、5μg/mlのc-di-AMP(InvivoGen社)またはcGAMP(InvivoGen社)を用いて、グラフに示した様々な時間にわたって処理した。RNAeasyミニキット(QIAGEN社)を用いて、トータルRNAを単離した。次に、単離したRNA試料をNanostring分析(Mouse PanCancer Immune ProfilingパネルとMouse Immunologyパネル)に供した。nSolverソフトウェアでデータを分析した(ハウスキーピング遺伝子と非処理/0時間試料に対して正規化した)。
【0071】
転写産物の生のカウントの形態の結果を以下の表1と
図14に示す。
【表1】
【0072】
得られた結果から、c-di-AMPと2’3’-cGAMPはいずれもSTINGのアゴニストであり、c-di-AMPの方が、樹状細胞培養において様々な炎症性遺伝子をより強力に誘導したことから、より強力な活性化を示すことが示された。
【0073】
実施例14-ジヌクレオチドシクラーゼの配列
本発明では、以下の配列を使用した。
【0074】
【0075】
本明細書において引用した参考文献の関連部分はいずれも引用により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】