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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】抗CD98抗体及びその応用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240514BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575348
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2021098027
(87)【国際公開番号】W WO2022252167
(87)【国際公開日】2022-12-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523455541
【氏名又は名称】フアフイ ヘルス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スイ,ジアンフア
(72)【発明者】
【氏名】ティエン,シンシン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA11
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、マウスCD98(mCD98)又はhCD98(hCD98)に結合する抗体及びその抗原結合断片を提供する。具体的には、本開示の抗体は、その標的にpH依存的に結合する。さらに、前記抗体又はその断片をコードするヌクレオチド、前記抗体又はその断片を含む組成物又は組み合わせ、及び前記抗体又はその断片を用いることにより、例えばがんのような疾患を治療する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又はマウスCD98に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
SEQ ID NO:10、20、30、40、50、60、及び70から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR1(HCDR1)、
SEQ ID NO:11、21、31、41、51、61、及び71から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR2(HCDR2)、
SEQ ID NO:12、22、32、42、52、62、及び72から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR3(HCDR3)、
SEQ ID NO:15、25、35、45、55、65、及び75から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR1(LCDR1)、
SEQ ID NO:16、26、36、46、56、66、及び76から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR2(LCDR2)、及び
SEQ ID NO:17、27、37、47、57、67、及び77から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
以下の(a)から(g)のいずれかを含み、
(a)から(f)のいずれかを含む抗体又はその断片は、hCD98に特異的に結合し、
(g)を含む抗体又はその断片は、マウスCD98に特異的に結合する、請求項1に記載の抗体又はその断片、
(a)それぞれSEQ ID NO:10、11及び12のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:15、16及び17のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(b)それぞれSEQ ID NO:20、21及び22のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:25、26及び27のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(c)それぞれSEQ ID NO:30、31及び32のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:35、36及び37のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(d)それぞれSEQ ID NO:40、41及び42のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:45、46及び47のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(e)それぞれSEQ ID NO:50、51及び52のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:55、56及び57のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(f)それぞれSEQ ID NO:60、61及び62のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:65、66及び67のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(g)それぞれSEQ ID NO:70、71及び72のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:75、76及び77のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3。
【請求項3】
SEQ ID NO:13、23、33、43、53、63及び73から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び/又は、
SEQ ID NO:18、28、38、48、58、68及び78から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその断片。
【請求項4】
SEQ ID NO:13、23、33、43、53、63及び73から選ばれるアミノ酸配列を含むVH、及び/又は、
SEQ ID NO:18、28、38、48、58、68及び78から選ばれるアミノ酸配列を含むVLを含む、請求項3に記載の抗体又はその断片。
【請求項5】
以下の(a)から(g)のいずれかを含み、
(a)から(f)のいずれかを含む抗体又はその断片は、hCD98に特異的に結合し、
(g)を含む抗体又はその断片は、マウスCD98に特異的に結合する、請求項3に記載の抗体又はその断片、
(a)SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(b)SEQ ID NO:23のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:28のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(c)SEQ ID NO:33のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:38のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(d)SEQ ID NO:43のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:48のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(e)SEQ ID NO:53のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:58のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(f)SEQ ID NO:63のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:68のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(g)SEQ ID NO:73のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:78のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL。
【請求項6】
前記抗体又はその断片は、hCD98に対する結合がpH依存性を有し、酸性pHでの結合活性が中性pHでの結合活性よりも高い、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体又はその断片。
【請求項7】
結合活性をELISA法により測定した場合、抗体とhCD98との結合を測定すると、前記抗体又はその断片の酸性pHでのEC50は、中性pHでのEC50よりも少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍低い、請求項6に記載の抗体又はその断片。
【請求項8】
前記酸性pHは、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7又は6.8であり、前記中性pHは、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5又は7.6であり、好ましくは、前記酸性pHは、6.5であり、前記中性pHは、7.4である、請求項6又は7に記載の抗体又はその断片。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体又はその断片をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体又はその断片と、薬学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項13】
治療有効量の請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体若しくはその断片、又は請求項12に記載の組成物を被験者に投与することを含む、それを必要とする被験者における腫瘍の低減、腫瘍細胞の増殖の抑制、がんの治療、又はがんの再発の予防のための方法。
【請求項14】
前記腫瘍又はがんは、CD98を発現する腫瘍又はがんである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記腫瘍又はがんは、酸性pHを呈する微小環境を有し、前記酸性pHは、例えばpH7.0、6.9、6.8、6.7、6.6、6.5、6.4、6.3、6.2、6.1、6.0又はそれ以下であり、前記被験者における正常生理的pHは、約pH7.4である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記腫瘍又はがんは、リンパ腫、急性前骨髄球性白血病、肝細胞がん、膵臓がん、膵臓類上皮がん、乳がん、結腸直腸腺がん、皮膚類表皮がん、メラノーマ、繊維肉腫、非小細胞肺がん、胃がん、急性骨髄性白血病、グリオーマ、舌がん、下咽頭扁平上皮がん、胆管がん、骨軟化症、骨肉腫、腎臓がん、及び神経芽細胞腫から選ばれる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モノクローナル抗体、特に、ヒト又はマウスCD98に特異的に結合するモノクローナル抗体を提供する。また、抗CD98抗体をコードする核酸分子、ならびに前記核酸分子を含む発現ベクター及び宿主細胞を提供する。また、抗CD98抗体を含む薬物組成物、コンジュゲート及び多特異性抗体を開示する。また、様々な疾患、特に腫瘍、例えばCD98を発現する腫瘍を治療するための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
II型膜貫通タンパク質CD98(CD98重鎖(CD98hc)又は4F2hcとも呼ばれ、SLC3A2遺伝子によってコードされる)は、複数の軽鎖と相互作用し、異なるヘテロダイマーアミノ酸トランスポーター(HAT)を形成する。軽鎖は、アミノ酸輸送過程において作用するが、CD98は、軽鎖構造を安定化させ、軽鎖の細胞膜への局在化に寄与することにより輸送活性に関与する。CD98は、アミノ酸輸送活性を促進することにより、腫瘍の形成、腫瘍の進行及び転移に関与し、細胞の生存を促進し、インテグリンシグナル伝達を増強し、細胞の拡散、遊走、生存及び増殖を増加させることが証明されている。過去10年間において、CD98は、様々な種類の固形腫瘍及び血液系悪性腫瘍において発現がアップレギュレートされ、不良な臨床転帰に関連することから、がん治療法を開発するための注目される標的となっている。なお、CD98タンパク質は、脳、脾臓、腎臓、小腸、精巣、造血系などを含む正常組織において広く発現されるものである。
【0003】
Hayesら(Int J Cancer 137(2015),710-720)によると、抗ヒトCD98(hCD98)抗体IGN523は、白血病、リンパ腫及び肺がんの異種移植腫瘍モデルにおいて強力な抗腫瘍活性を示している。
【0004】
CN105385694Bには、CD98と結合するモノクローナル抗体が開示されており、また、そのキャリアとして抗腫瘍又は抗炎症剤を送達するための応用が教示されている。CN105385694Bの開示内容には、抗CD98抗体が細胞溶解液中に肺がん細胞と結合できることを示すin vitroデータのみが提供されているが、in vivoデータが示されていない。抗体のin vivoでのパフォーマンス、例えば腫瘍特異的結合活性又は薬物動態学的性質は、知られていない。
【0005】
WO2007114496Aには、複数種の抗CD98抗体が開示されており、そのうちのいくつかの抗体は、膀胱がん細胞株におけるロイシン摂取に阻害作用を有し、hCD98/hLAT1-EGFPを発現するマウスCT26結腸がん細胞株を担持したマウスに抗腫瘍作用を示している。クローンの1つであるC2IgG1は、ヒトバーキット(Burkitt)リンパ腫細胞株Ramosを移植したマウスに抗腫瘍作用を示している。
【0006】
また、AbbVieによるWO2017214456A1、WO2017214458A2、WO2017214462A2、及び第一三共株式会社(Daiichi Sankyo Co Ltd.)によるWO2015146132A1を含む他の特許出願開示は、抗CD98抗体、及びBcl-xL阻害剤のような薬物を含むコンジュゲートを提供している。
【0007】
しかしながら、上記の文献の何れにおいても、正常組織における抗CD98抗体とCD98との結合に起因し得る問題点については議論されていない。この問題点は、hCD98を発現させるように遺伝子工学的に改変されたがん細胞株を担持した動物モデル又は異種移植モデルには存在しておらず、これは、動物モデルの正常組織がマウスCD98を発現するが、それが抗体の標的ではないためである。抗CD98抗体のオンターゲット・オフ腫瘍(On target/off tumor)結合は、正常組織に存在するCD98の機能を破壊する可能性がある一方、抗体の標的腫瘍細胞に対する抗腫瘍作用を弱める可能性がある。
【0008】
実際、正常組織におけるCD98の広範な発現は、臨床応用にいくつかの主要な課題をもたらす。CD98遺伝子の標的化破壊は、胚死をもたらす(Tsumuraら、(2003),Biochemical and biophysical research communications 308、第847-851頁)。CD98のコンディショナルノックアウトは、造血幹細胞及び前駆細胞の増殖及び再生能力を損なう(Bajajら、(2016)、Cancer Cell 30、第792-805頁)。したがって、標的化副作用及び「抗原シンク(antigen sink)」の問題は、CD98を標的とする抗体療法を開発するための主な注目点となっている。
【0009】
現在、抗腫瘍療法としての抗CD98抗体への需要は、未だに満たされていない。また、CD98の正常生理機能への影響が小さく、「抗原シンク」現象の副作用を低減させる抗CD98抗体の開発が望まれている。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、異種移植及びCD98ヒト化マウスによって構築された同系腫瘍モデルにおいて、CD98の生理機能を妨害することに依存せず、広域スペクトルのFc依存性抗腫瘍活性を引き起こす抗CD98抗体(S1-F4)を同定することに成功した。S1-F4の抗腫瘍活性は、FcγRs、マクロファージ、樹状細胞及びCD8T細胞を含む自然免疫及び適応性免疫成分を必要とする。そして、正常組織におけるCD98抗体結合による「抗原シンク」の問題を克服するために、本発明者らは、S1-F4/CD98複合体の構造を解析し、一連のpH依存性結合バリアントを生成し、腫瘍特異的結合を増加させ、薬物動態学的特徴を顕著に改善することにより、全体的な抗腫瘍活性を促進した。
【0011】
第1の側面において、本開示は、ヒト又はマウスCD98に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
SEQ ID NO:10、20、30、40、50、60、及び70から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR1(HCDR1)、
SEQ ID NO:11、21、31、41、51、61、及び71から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR2(HCDR2)、
SEQ ID NO:12、22、32、42、52、62、及び72から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR3(HCDR3)、
SEQ ID NO:15、25、35、45、55、65、及び75から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR1(LCDR1)、
SEQ ID NO:16、26、36、46、56、66、及び76から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR2(LCDR2)、及び
SEQ ID NO:17、27、37、47、57、67、及び77から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、単離された抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0012】
一実施形態において、前記抗体又はその断片は、以下の(a)から(g)のいずれかを含み、
(a)それぞれSEQ ID NO:10、11及び12のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:15、16及び17のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(b)それぞれSEQ ID NO:20、21及び22のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:25、26及び27のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(c)それぞれSEQ ID NO:30、31及び32のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:35、36及び37のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(d)それぞれSEQ ID NO:40、41及び42のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:45、46及び47のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(e)それぞれSEQ ID NO:50、51及び52のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:55、56及び57のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(f)それぞれSEQ ID NO:60、61及び62のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:65、66及び67のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(g)それぞれSEQ ID NO:70、71及び72のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:75、76及び77のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
以上の(a)から(f)のいずれかを含む抗体又はその断片は、hCD98に特異的に結合し、(g)を含む抗体又はその断片は、マウスCD98に特異的に結合する。
【0013】
一実施形態において、抗体又はその断片は、
SEQ ID NO:13、23、33、43、53、63及び73から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び/又は、
SEQ ID NO:18、28、38、48、58、68及び78から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)、を含む。
【0014】
別の実施形態において、抗体又はその断片は、
SEQ ID NO:13、23、33、43、53、63及び73から選ばれるアミノ酸配列を含むVH、及び/又は、
SEQ ID NO:18、28、38、48、58、68及び78から選ばれるアミノ酸配列を含むVL、を含む。
【0015】
1つの具体的な実施形態において、抗体又はその断片は、以下の(a)から(g)のいずれかを含み、
(a)SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(b)SEQ ID NO:23のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:28のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(c)SEQ ID NO:33のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:38のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(d)SEQ ID NO:43のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:48のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(e)SEQ ID NO:53のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:58のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(f)SEQ ID NO:63のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:68のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(g)SEQ ID NO:73のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:78のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
以上の(a)から(f)のいずれかを含む抗体又はその断片は、hCD98に特異的に結合し、(g)を含む抗体又はその断片は、マウスCD98に特異的に結合する。
【0016】
一実施形態において、抗CD98抗体又はその断片は、hCD98に対する結合がpH依存性を有し、酸性pHでの結合活性が中性pHでの結合活性よりも高い。例えば、酸性pHでの結合活性は、中性pHでの結合活性に比べて、少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍又は100倍高い。結合活性は、従来技術で公知の任意の方法、例えば、ELISA、FACS又は表面プラズモン共鳴(例えば、Biacore(登録商標))によって測定することができる。例えば、hCD98との結合活性をELISA法により測定した場合、抗体又はその断片の酸性pHでのEC50は、中性pHでのEC50よりも、少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍又は100倍低い。酸性pHは、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7又は6.8、特に6.5である。中性pHは、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5又は7.6、特に7.4である。一実施形態において、抗体又はその断片は、酸性pHにおいて所望の結合活性を有するが、中性pHにおいて結合活性を有さないか、又はかなり低い結合活性を有する。
【0017】
一実施形態において、抗CD98抗体又はその断片は、腫瘍細胞上又は腫瘍細胞内に存在しないhCD98と比べて、腫瘍細胞上又は腫瘍細胞内に存在するhCD98に優先的に結合することを示す。具体的には、このような結合プリファレンスは、抗体またはその断片がhCD98とpH依存的に結合することによって実現される。例えば、抗CD98抗体又はその断片とhCD98との結合活性は、被験者(例えばヒト)の腫瘍微小環境pHにおいて、被験者(例えばヒト)の正常生理的pHにおける結合活性よりも有意に大きい。例えば、ELISA法によりhCD98との結合活性を測定する場合、抗体又はその断片の腫瘍微小環境pHにおけるEC50は、正常生理的pHにおけるEC50よりも少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、又は100倍低い。一実施形態において、腫瘍微小環境pHは、約6.0から7.0のpH、例えば、pH7.0、6.9、6.8、6.7、6.6、6.5、6.4、6.3、6.2、6.1、6.0又はそれ以下、例えば、pH6.5であってもよい。別の実施形態において、正常生理的pHは、正常な血液又は血清のpH、例えばpH7.4であってもよい。一実施形態において、抗体又はその断片は、腫瘍微小環境において必要な結合活性を有するとともに、正常生理的pHにおいて結合活性を有さないか、又はかなり低い結合活性を有する。
【0018】
一実施形態において、本願は、上記の抗体又はその抗原結合断片のいずれかが結合するhCD98上の同一エピトープに結合する抗体又はその断片に関する。具体的には、前記抗体又はその断片は、hCD98のアミノ酸配列(SEQ ID NO:9)の135、376-384及び391-399番目のアミノ酸残基におけるエピトープに結合する。より具体的には、抗体又はその断片は、アミノ酸残基H135、E384、E392、D397が抗体結合に直接関与するエピトープに直接結合する。
【0019】
一実施形態において、抗CD98抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4サブクラスの重鎖定常領域又はそのバリアント、及びκ又はλタイプの軽鎖定常領域又はそのバリアントを含む。1つの好ましい実施形態において、抗CD98抗体は、IgG1の重鎖定常領域を含む。
【0020】
一実施形態において、抗原結合断片は、一本鎖可変領域、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、dsFv、又はds-scFvである。
【0021】
一実施形態において、抗体は、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体、三重特異性抗体、ダイァボディ、又はミニ抗体であってもよい。
【0022】
1つの好ましい実施形態において、抗体又はその断片は、それぞれSEQ ID NO:10、11及び12のアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、HCDR3、及び、SEQ ID NO:15、16及び17のアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2、LCDR3を含み、6つのCDRのいずれかにおける1つ又は複数のアミノ酸は、アスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)に突然変異し、若しくはヒスチジン(H)に突然変異し、抗体又はその断片は、hCD98にpH依存的に結合することを示す。好ましくは、D又はEに突然変異したアミノ酸は、hCD98上の結合エピトープ内又は結合エピトープ付近のヒスチジンと密接に相互作用する位置にあり、又はHに突然変異したアミノ酸は、hCD98上の結合エピトープ内又は結合エピトープ付近のアスパラギン酸又はグルタミン酸と密接に相互作用する位置にある。
【0023】
一実施形態において、抗体又はその断片は、抗体による治療に使用される。
【0024】
第2の側面において、本開示は、第1の側面の抗体又はその断片をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。一実施形態において、前記単離されたポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:14、19、24、29、34、39、44、49、54、59、64、69、74又は79から選ばれるヌクレオチド配列と少なくとも80%の相同性、少なくとも85%の相同性、少なくとも90%の相同性、少なくとも95%の相同性、少なくとも98%の相同性、又は100%の相同性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0025】
第3の側面において、本開示は、第2の側面の単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。
【0026】
第4の側面において、本開示は、第2の側面の単離されたポリヌクレオチド又は第3の側面の発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0027】
第5の側面において、本開示は、第1の側面の抗CD98抗体又はその断片と、薬学的に許容される担体とを含む組成物、例えば薬物組成物に関する。好ましくは、前記薬物組成物は、治療有効量の抗CD98抗体又はその断片を含む。
【0028】
第6の側面において、本開示は、治療有効量の第1の側面の抗CD98抗体若しくはその断片、又は第5の側面の組成物を被験者に投与することを含む、それを必要とする被験者における腫瘍の低減、腫瘍細胞の増殖の抑制、がんの治療、又はがんの再発の予防のための方法を提供する。
【0029】
第7の側面において、本開示は、治療有効量の第1の側面の抗CD98抗体若しくはその断片、又は第5の側面の組成物を被験者に投与することを含む、それを必要とする被験者における自己免疫疾患を治療するための方法を提供する。
【0030】
第8の側面において、本開示は、薬物の製造における第1の側面に記載の抗CD98抗体又はその断片の使用を提供する。一実施形態において、前記薬物は、腫瘍の低減、腫瘍細胞の増殖の抑制、がんの治療、がんの再発の予防に使用される。一実施形態において、前記薬物は、自己免疫疾患の治療に使用される。
【0031】
第6の側面又は第8の側面の一実施形態において、前記腫瘍又はがんは、CD98、特にhCD98を発現する。第6の側面又は第8の側面の一実施形態において、前記腫瘍又はがんにおける微小環境のpHは、被験者の正常生理的pHより低い。例えば、前記腫瘍又はがんにおける微小環境は、酸性pHを有し、例えばpH7.0、6.9、6.8、6.7、6.6、6.5、6.4、6.3、6.2、6.1、6.0又はそれ以下、例えば約pH6.5であり、且つ被験者の正常生理的pHは、正常な血液又は血清のpH、例えばpH7.4である。より具体的には、前記がんは、リンパ腫、急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、肝細胞がん、膵臓がん、膵臓類上皮がん、乳がん、結腸直腸腺がん、皮膚類表皮がん、メラノーマ、繊維肉腫、非小細胞肺がん、胃がん、急性骨髄性白血病、グリオーマ、舌がん、下咽頭扁平上皮がん、胆管がん、骨軟化症、骨肉腫、腎臓がん、及び神経芽細胞腫から選ばれる。
【0032】
第7の側面又は第8の側面の一実施形態において、前記自己免疫疾患は、免疫細胞、例えばT細胞又はB細胞の異常増幅によって引き起こされるものである。一実施形態において、前記自己免疫疾患は、多発性硬化症、I型糖尿病、又は関節リウマチから選ばれる。
【0033】
最近の研究では、CD98hcは、強力な受容体媒介性細胞質輸送(RMT)標的として特定され、治療用抗体の脳送達を促進し増強させることができる(Y.Joy Yu Zucheroら、Neuron 89、第70-82頁、2016年1月6日)。血液脳関門(BBB)透過性が低い抗体は、抗CD98抗体とペアにして二重特異性抗体とすることにより、それらの血液脳関門を透過する輸送及び脳蓄積を改善することができる。
【0034】
したがって、第9の側面において、本開示は、第1の側面のhCD98に特異的に結合する抗原結合断片である第1の抗原結合断片と、第1の側面の抗原結合断片が結合するものとは異なる第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原結合断片とを含む融合タンパク質、例えば二重特異性抗体に関する。一実施形態において、二重特異性抗体は、治療用抗体又は診断用抗体である。一実施形態において、前記二重特異性抗体は、全身的投与後、第2の抗原に特異的に結合する単一特異性抗体よりも高い脳蓄積を示す。
【0035】
第10の側面において、本願は、(a)第1の側面の抗hCD98抗体と、(b)第2の抗腫瘍試薬とを含む、腫瘍を治療するための組み合わせ、コンジュゲート、又は組成物に関する。一実施形態において、前記第2の抗腫瘍試薬は、免疫チェックポイントタンパク質を調節する試薬であってもよく、PD-1、PD-L1、CTLA-4、4-1BB、4-1BBL、CD28、CD40、CD40L、CD47、OX40、OX40L、TIM-3、TIGIT、NKG2A、B7-H3、B7-H4、VISTA、LAG3、2B4を含むが、これらに限定されない。一実施形態において、免疫チェックポイントタンパク質を調節する試薬は、免疫チェックポイントタンパク質に特異的に結合する抗体である。
【0036】
本発明者らは、本願の抗hCD98抗体がその抗腫瘍作用を発揮するためにマクロファージ及びCD8T細胞を必要とすることを見出した。従って、第10の側面の好ましい実施形態において、第2の抗腫瘍剤は、マクロファージの貪食機能を増強させる試薬であってもよく、又はCD8T細胞の作用を増強させる試薬であってもよい。一実施形態において、前記第2の抗腫瘍剤は、貪食阻害因子(例えば、CD47)を標的とすることによりマクロファージの貪食機能を増強させる試薬である。1つの具体的な実施形態において、マクロファージの貪食機能を増強させる試薬は、抗CD47抗体である。別の実施形態において、前記第2の抗腫瘍試薬は、CD8T細胞の作用を増強させ、例えば、細胞媒介性免疫応答の負的制御を遮断又は逆転させることにより、例えば、阻害性受容体を標的とすることにより、CD8T細胞の作用を増強させる。1つの具体的な実施形態において、前記第2の抗腫瘍試薬は、PD-1、CTLA-4、PD-L1又は4-1BBに特異的に結合する抗体である。別の実施形態において、本願の抗CD98抗体は、マクロファージを枯渇させる試薬(例えば、抗CSF1R抗体)と併用することができない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、Raji腫瘍モデルにおけるHN2-G9及び対照としてのIGN523の抗腫瘍活性を示す。Raji腫瘍を担持したNOD SCIDマウスを平均腫瘍体積が類似する3群にランダムに分ける。10mg/kgの抗体の抗腫瘍活性を測定する。腫瘍体積は、平均値±SEMとして示す。(n.s.:有意差がない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001、二元配置分散分析)。同様の統計的方法及び図例は、後述する腫瘍体積に関する全ての線付きスキャッタグラムに適用される。
図2図2は、FACSにより測定した、IGN523、HN2-G9及びS1-F4の結合特異性及び親和性(avidity)を示す。野生型(WT)CHO又はCHO-hCD98細胞は、示された濃度の各抗体とインキュベートした後、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体で標識する。結合は、FITCの蛍光強度から特定される。
図3図3は、SPRによる抗hCD98抗体とhCD98 ECDとの間の結合動力学の分析を示す。
図4図4は、Raji腫瘍モデルにおけるS1-F4、及び対照としてのリツキシマブとIGN523の抗腫瘍活性を示す。Raji腫瘍を担持したNOD SCIDマウスを平均腫瘍体積が類似する3群にランダムに分ける。10mg/kgの抗体の抗腫瘍活性を測定する。
図5図5は、異種移植腫瘍モデルを構築するためのヒト由来細胞株を示す表である。
図6図6及び図7は、HepG2(図6)及びRamos(図7)腫瘍モデルにおけるS1-F4の抗腫瘍活性を示す。HepG2腫瘍を担持したCB-17 SCIDマウス又はRamos腫瘍を担持したNOD SCIDマウスを平均腫瘍体積が類似する4-5群にランダムに分け、示された使用量のS1-F4で処理する。
図7図6及び図7は、HepG2(図6)及びRamos(図7)腫瘍モデルにおけるS1-F4の抗腫瘍活性を示す。HepG2腫瘍を担持したCB-17 SCIDマウス又はRamos腫瘍を担持したNOD SCIDマウスを平均腫瘍体積が類似する4-5群にランダムに分け、示された使用量のS1-F4で処理する。
図8図8は、HL60、HCT-8、BxPC-3及びPANC-1腫瘍モデルにおけるS1-F4の抗腫瘍活性を示す。HL60、BxPC-3又はHCT-8腫瘍を担持したCB-17 SCIDマウス又はPANC-1腫瘍を担持したNOD SCIDマウスを、腫瘍体積が類似する対照群又はS1-F4(15mg/kg)投与群の2群にランダムに分ける。抗体処理の時点は、矢印で表記する。
図9図9は、MDA-MB-231-LN腫瘍モデルにおけるS1-F4の抗腫瘍活性を示す。MDA-MB-231-LN腫瘍を担持したCB-17 SCIDマウスを、平均腫瘍体積が類似する溶媒(vehicle)とS1-F4(15mg/kg)の2群にランダムに分ける。模式図は、腫瘍接種のタイムライン及びS1-F4処理スキームを示す。腫瘍接種後8、18、29、41日目に生物発光イメージング分析を行う。
図10図10は、HCT 116、A549、A-431、Hep3B及びHT-29腫瘍モデルにおけるS1-F4の抗腫瘍活性を示す。HCT 116、A549又はA-431腫瘍を担持したCB-17 SCIDマウス又はHep3B又はHT-29腫瘍を担持したNOD SCIDマウスを、平均腫瘍体積が類似する溶媒又はS1-F4(15mg/kg)の2群にランダムに分ける。抗体処理の時点は、矢印で表記する。腫瘍体積は、平均値±SEMとして示す。(n.s.:有意差がない、二元配置分散分析)。
図11A-E】図11A-Fは、CD98ヒト化マウスの構築ストラテジー及びCD98発現の分析を示す。(A)模式図は、hCD98 ECDカセットをマウスSlc3a2遺伝子座に挿入するストラテジーを示す。sgRNA-CD98及び示されたPCRプライマーの標的アレル及び野生型アレルにおける位置を示す。(B-D)F0世代マウスのゲノムDNA鋳型からのPCR反応産物のゲル電気泳動である。使用したプライマー対(表2参照)は、Y1-F/Y1-R(B)、WT1-F/WT1-R(C)、及びIF-1/Y1-R(D)である。(E)マウスCD98(mCD98)ECDに対する抗マウスCD98抗体BC8の結合の動力学的分析である。(F)FACSによりBC8の結合特異性及び親和性を測定する。WT HEK293T及びHEK293T-mCD98細胞を示された濃度のBC8とインキュベートした後、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体で標識する。結合は、FITCの蛍光強度から特定される。
図11F図11A-Fは、CD98ヒト化マウスの構築ストラテジー及びCD98発現の分析を示す。(A)模式図は、hCD98 ECDカセットをマウスSlc3a2遺伝子座に挿入するストラテジーを示す。sgRNA-CD98及び示されたPCRプライマーの標的アレル及び野生型アレルにおける位置を示す。(B-D)F0世代マウスのゲノムDNA鋳型からのPCR反応産物のゲル電気泳動である。使用したプライマー対(表2参照)は、Y1-F/Y1-R(B)、WT1-F/WT1-R(C)、及びIF-1/Y1-R(D)である。(E)マウスCD98(mCD98)ECDに対する抗マウスCD98抗体BC8の結合の動力学的分析である。(F)FACSによりBC8の結合特異性及び親和性を測定する。WT HEK293T及びHEK293T-mCD98細胞を示された濃度のBC8とインキュベートした後、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体で標識する。結合は、FITCの蛍光強度から特定される。
図12図12は、免疫蛍光染色法によるマウスの腎臓におけるCD98の発現の分析を示す。野生型C57BL/6マウス及びCD98ヒト化マウス由来の腎臓サンプルを、BC8(mCD98特異的抗体、15μg/ml)又はIGN523(hCD98特異的抗体、15μg/ml)とインキュベートした後、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体で標識する。拡大倍率は×1.3である。
図13図13は、FACS分析によるマウスの白血球におけるCD98の発現を示す。C57BL/6マウス及びCD98ヒト化マウスの白血球をBC8又はS1-F4(10μg/ml)とインキュベートした後、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体で標識する。
図14図14は、FACS分析によるマウスのがん細胞におけるhCD98及びmCD98の発現を示す。細胞をS1-F4又はBC8(15μg/ml)とインキュベートした後、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体で標識する。
図15図15A-Bは、CD98ヒト化マウス(50mg/kg)(A)及び同系腫瘍を担持したC57BL/6マウス(15mg/kg)(B)におけるS1-F4の抗腫瘍活性を示す。
図16図16A-Bは、S1-F4及びそのFcバリアントによって誘導されるADCCエフェクター機能を示す。ADCC活性をLDH放出法で測定する。データは、平均値±SEMとして示す。(A)エフェクター細胞としてNK92-MIhCD16細胞を用い、標的細胞としてRaji又はHepG2細胞を用いる。E:T比は7:1である。示された濃度の抗体を測定する。(n.s.:有意差がない、****p<0.0001、二元配置分散分析)。(B)標的細胞としてRaji細胞を用いる。左:エフェクター細胞としてmBMDMを用いる。示された濃度の対照IgG又はS1-F4を測定する。E:T比は1:1である。(****p<0.0001、二元配置分散分析)。右:エフェクター細胞としてhPBMCを用いる。溶媒又はS1-F4(10μg/ml)とする。E:T比は10:1である。(**p<0.01、two-tailed unpaired Studentのt検定)。
図17A図17A-Bは、S1-F4及びそのFcバリアントによって誘導されるADCPエフェクター機能を示す。(A)Raji細胞(標的細胞)をCFSE蛍光色素で標識した後、抗F4/80-Alexa Fluor 633抗体で標識したマウス骨髄由来マクロファージ(mBMDM)と混合する。E:T比は1:2である。ADCP活性を蛍光顕微鏡でモニターし、100個のエフェクター細胞あたりのCFSE陽性標的細胞の数として貪食指数を測定する。縮尺は100μmである。(B)エフェクター細胞としてhPBMCを用いる。Raji細胞(標的細胞)は、CFSE蛍光色素で標識された後、Deep-Redで標識されたhPBMCと混合される。対照IgG又はS1-F4(10μg/ml)とする。E:T比は1.5:1である。ADCP活性を蛍光顕微鏡でモニターする。典型的な顕微鏡写真を示す。縮尺は100μmである。
図17B図17A-Bは、S1-F4及びそのFcバリアントによって誘導されるADCPエフェクター機能を示す。(A)Raji細胞(標的細胞)をCFSE蛍光色素で標識した後、抗F4/80-Alexa Fluor 633抗体で標識したマウス骨髄由来マクロファージ(mBMDM)と混合する。E:T比は1:2である。ADCP活性を蛍光顕微鏡でモニターし、100個のエフェクター細胞あたりのCFSE陽性標的細胞の数として貪食指数を測定する。縮尺は100μmである。(B)エフェクター細胞としてhPBMCを用いる。Raji細胞(標的細胞)は、CFSE蛍光色素で標識された後、Deep-Redで標識されたhPBMCと混合される。対照IgG又はS1-F4(10μg/ml)とする。E:T比は1.5:1である。ADCP活性を蛍光顕微鏡でモニターする。典型的な顕微鏡写真を示す。縮尺は100μmである。
図18図18A-Bは、S1-F4及びそのバリアントによるCDCエフェクター機能(A)及びヒトC1qとの結合(B)を示す。(A)10%ヒト補体血清の存在下で、Raji細胞を示された抗体とインキュベートする。LDH放出法でCDC活性を測定する。10μg/mlで抗体を測定する。(B)S1-F4、S1-F4のFcバリアント、リツキシマブとヒトC1qとの結合は、ELISA法によって測定する。
図19図19は、S1-F4によるHepG2とRaji細胞のHPG輸送に対する影響を示す。HepG2細胞又はRaji細胞をそれぞれ対照IgG(15μg/ml)、S1-F4(15μg/ml)又はBCH(10mM)とインキュベートした後、HPG(70μM)を含む培地で培養する。その後、細胞溶解物中のHPGをビオチン標識し、ELISA法による検出方法で、ストレプトアビジン-HRPを用いてビオチン化されたHPGを検出する。HPG摂取活性は、対照IgG処理群のHPG摂取量に対する測定対象サンプルのHPG摂取量の百分率として示す。データは、平均値±SEMとして示す。(n.s.:有意差がない、**p<0.01、***p<0.001、two-tailed unpaired Studentのt検定)
図20図20は、S1-F4によるRaji、Ramos、HepG2及びHCT-8細胞の増殖に対する影響を示す。WST-8セルカウンティングキット-8(WST-8 Cell Counting Kit-8)を用いて細胞増殖を分析する。細胞を対照IgG又はS1-F4と72時間インキュベートする。細胞増殖百分率は、未処理群の検出値に対する測定対象サンプル群の百分率として示す。Raji細胞又はRamos細胞を示された濃度の対照IgG又はS1-F4とインキュベートする。(****p<0.0001、二元配置分散分析)。HepG2細胞又はHCT-8細胞を対照IgG又はS1-F4(15μg/ml)とインキュベートする。データは、平均値±SEMとして示す。(n.s.:有意差がない、two-tailed unpaired Studentのt検定)。
図21図21は、S1-F4及びそのFcバリアントによる、EL4-hCD98又はMC38-hCD98腫瘍を担持した(S1-F4又はS1-F4DANA、50mg/kg)CD98ヒト化マウスにおける抗腫瘍活性、Raji腫瘍を担持したNOD SCIDマウス又はHepG2腫瘍を担持したCB-17 SCIDマウス(対照IgG、S1-F4、S1-F4KA又はS1-F4DANA、15mg/kg)における抗腫瘍活性を示す。
図22図22は、S1-F4抗体処理により、後続の腫瘍攻撃において抗腫瘍免疫を誘導したことを示す。S1-F4処理後に完全奏効(CR)に達したEL4-hCD98腫瘍を担持したC57BL/6マウスに、最初に腫瘍細胞を接種してから77日目に、それぞれEL4-hCD98、EL4、B16F10-hCD98又はB16F10腫瘍細胞で再度攻撃をかける。年齢が類似する未試験のマウスを対照マウスとする。腫瘍細胞を(再度)接種した後、腫瘍の大きさを評価する。腫瘍体積は、平均値±SEMとして示す。無腫瘍マウスの割合を示す。
図23図23A-Bは、サル及びマウスにおけるS1-F4の薬物動態及び生物分布を示す。カニクイザルとマウスの血清におけるS1-F4濃度の時間に対するグラフである。S1-F4処理時間は、矢印で表記する。S1-F4の血清濃度をELISA法により測定し、平均値±SEMとして示す。サルへのS1-F4の単回投与量(i.v.)は、20mg/kgである(A)。C57BL/6又はCD98ヒト化マウスへのS1-F4の単回投与量(i.p.)は、15mg/kgである(B)。
図24A図24A-Bは、S1-F4-Cy7(15mg/kg)又は溶媒を注射してから53時間後に処分したCD98ヒト化マウスの典型的な解剖画像(A)を示す。腎臓におけるS1-F4の濃化(B)は、免疫蛍光染色により分析する。C57BL/6マウス及びCD98ヒト化マウスを溶媒又はS1-F4(50mg/kg)で処理し、2日後にマウス腎臓サンプルを採取し、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体でインキュベートする。その後、FITCの蛍光強度からS1-F4の濃化を測定する。拡大倍率はX1.3である。
図24B図24A-Bは、S1-F4-Cy7(15mg/kg)又は溶媒を注射してから53時間後に処分したCD98ヒト化マウスの典型的な解剖画像(A)を示す。腎臓におけるS1-F4の濃化(B)は、免疫蛍光染色により分析する。C57BL/6マウス及びCD98ヒト化マウスを溶媒又はS1-F4(50mg/kg)で処理し、2日後にマウス腎臓サンプルを採取し、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体でインキュベートする。その後、FITCの蛍光強度からS1-F4の濃化を測定する。拡大倍率はX1.3である。
図25図25は、S1-F4 scFv及びhCD98 ECDの直交視ビューにおけるストライプ状の模式図、及びS1-F4-CD98界面の詳細図を示す。
図26図26は、S1-F4 scFvとhCD98 ECDとの界面の拡大図であり、CD98のE384、D391、E392、D397の位置、及びS1-F4のHCDR2、HCDR3、LCDR1を示す。
図27図27は、ELISA法により分析されたS1-F4、S1-F4 Y97E及びH15L54のpH6.5又はpH7.4におけるhCD98 ECDとの結合を示す。
図28図28は、FACSにより分析されたS1-F4、H15L1、H15L35及びH15L54のpH6.5及びpH7.4におけるA-431との結合を示す。
図29図29及び図30は、H15L54が腫瘍中のCD98と優先的に結合することを示す。S1-F4-Cy7又はH15L54-Cy7(15mg/kg)でEL4-hCD98腫瘍を担持したCD98ヒト化マウスを処理する。注射後の46時間、90時間及び160時間で器官に対してイメージング分析を行う。(A)典型的画像である。(B)定量化された組織生物分布である。平均発光強度は、平均値±SEMとして示す。
図30図29及び図30は、H15L54が腫瘍中のCD98と優先的に結合することを示す。S1-F4-Cy7又はH15L54-Cy7(15mg/kg)でEL4-hCD98腫瘍を担持したCD98ヒト化マウスを処理する。注射後の46時間、90時間及び160時間で器官に対してイメージング分析を行う。(A)典型的画像である。(B)定量化された組織生物分布である。平均発光強度は、平均値±SEMとして示す。
図31図31は、CD98ヒト化マウスの腎臓細胞における示された抗体の濃化を示す。マウスを15mg/kgの示された抗体で処理する。2日後にマウス腎臓サンプルを採取し、FITC結合抗ヒトIgG二次抗体とインキュベートする。その後、FITCの蛍光強度からS1-F4の濃化を測定する。画像は、InformソフトによりIHC画像に変換される。拡大倍率はX20である。
図32図32は、CD98ヒト化マウスの血清中における抗体濃度の経時変化を示すグラフである。0日目に、示された抗体(15mg/kg、i.p.)でマウスを処理する。S1-F4又はH15L54の血清濃度は、ELISA法により測定し、平均値±SEMとして示す。
図33図33A-Dは、EL4-hCD98腫瘍(A)、MC38-hCD98腫瘍(B)、B16F10-hCD98腫瘍(C)を担持したCD98ヒト化マウス、及びA-431腫瘍(D)を担持したCB-17 SCIDマウスにおけるH15L54又はS1-F4の抗腫瘍活性を示す。S1-F4又はH15L54(15mg/kg)(A及びC)、H15L54(20mg/kg)(B)、S1-F4又はH15L54(15mg/kg)(D)。
図34図34は、EL4-hCD98腫瘍を担持したCD98ヒト化マウスにおけるAb8332(8332)又はS1-F4の抗腫瘍活性を示す。矢印は投与を示す。用量:15mg/kg。
図35図35は、ELISA法により測定された、S1-F4及びAb8332のpH6.5及びpH7.4におけるhCD98 ECD-His6-Avi-Biotinタンパク質との結合を示す。
図36図36は、ELISA法により測定された、異なる抗体のpH6.5及びpH7.4におけるhCD98 ECD-His6-Avi-Biotinタンパク質との結合を示す。
図37図37は、IVISにより検出された、MC38-hCD98腫瘍を担持したhCD98ECDマウスにおけるS1-F4及びAb8332の分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書の他の箇所に明確に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明の属する分野における当業者に一般的に理解される意味を有する。
【0039】
材料及び方法
実験モデル及び実験対象の詳細
承認されたIACUCスキームに従ってJOINN Laboratories(Beijing)でカニクイザル実験を行った。
【0040】
中国国家実験動物の飼育及び介護ガイドラインに従い、且つ承認されたIACUCスキームで、北京生命科学研究所でマウス実験を行った。C57BL/6、CB-17 SCID及びNOD SCIDマウスは、Charles Riverから購入した。CD11c-DTRマウスは、Jackson実験室から購入した。CD98ヒト化マウスは、北京生命科学研究所の動物介護施設で飼育及び維持された。
【0041】
CHO又はCHO誘導細胞株、HEK293T又はHEK293T誘導細胞株、Raji、Ramos、HepG2、Hep3B、MDA-MB-231-LN、A549、PANC-1、EL4-hCD98及びB16F10-hCD98細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modification of Eagle’s Medium、DMEM)で培養した。Raji、Ramos、HL60、BxPC-3、HCT-8、HT-29、HCT 116、A-431、MC38-hCD98及びMCA205-hCD98細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したRPMI 1640培地で培養した。これらの細胞は、37℃、5%CO雰囲気の加湿インキュベーターで培養した。FreeStyle 293F細胞は、Life Technologiesからのものであり、メーカーのプロトコールに従って培養した。
【0042】
タンパク質の発現及び精製
FreeStyle 293F細胞を一過性トランスフェクションすることにより、His6-Aviタグ付きの融合タンパク質CD98 ECD又はFcγRsを産生し、アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。全長IgG抗体は、GC33(Ishiguroら、2008)及びIGN523(Hayesら、2015)を含み、それぞれVH及びVLのコード配列をヒトIgG1 H鎖(HC)発現ベクター及びL鎖(LC)発現ベクターにサブクローニングした。2種類のIgG発現プラスミド(HCプラスミド+LCプラスミド)を1:1の割合で293F細胞にコトランスフェクトした。トランスフェクション3-6日後、細胞培養上清を収集し、プロテインA(Protein A)アフィニティークロマトグラフィーによりIgG1を精製した。
【0043】
抗体ライブラリーのパンニング及び抗CD98抗体のスクリーニング
抗hCD98抗体(例えばHN2-G9)又は抗マウスCD98抗体(例えばBC8)を生成するために、ヒト又はマウスCD98のECDとHis6-Aviタグとを融合させ、BirAリガーゼによりビオチン標識した。これらの2種類のタンパク質は、ヒト非免疫抗体ライブラリー(Liら、2017)を用いたパンニング実験において抗原として用いられた。CD98 ECDに特異的に結合する2回のパンニングにより、ファージ-scFvをスクリーニングした。約400個のモノクローナルをランダムに選択し、ELISA法によりヒト又はマウスCD98と結合するモノクローナルをスクリーニングした。選択されたクローンにより、精製されたファージ-scFv粒子を生成し、又はさらなる特徴付けに用いられるために全長ヒトIgG1の形式に変換した。
【0044】
VH鎖置換サブライブラリの構築及び選択
HN2-G9のVL遺伝子を、93名の健常ドナーからの非免疫VH遺伝子(~1×1010)のレパートリー(repertoire)を含むファージベクターにクローニングした。構築された鎖置換サブライブラリーのサイズは、~1×10である。捕捉されたCD98 ECD-His6Aviを利用した上記の抗体ライブラリー選択と同様に、ライブラリー選択を3回行ったが、相違点は、3回目のパンニングにおいてHN2-G9 IgG1を競合抗体として導入したことである。約400個のモノクローナルをランダムに選択し、ELISA法によりhCD98と結合するモノクローナルをスクリーニングした。選択されたクローンにより、精製されたファージ-scFv粒子を生成し、又はさらなる特徴付けに用いられるために全長ヒトIgG1の形式に変換した。
【0045】
ファージディスプレイヒト非免疫FabライブラリーからのpH依存性抗hCD98抗体のスクリーニング
pH依存性抗体をスクリーニングするために、構築されたファージ-FabライブラリーとhCD98 ECD-His6-Avi-Biotinタンパク質をpH6.5の溶液でインキュベートし、pH6.5の洗浄緩衝液で洗浄した後、pH7.4の緩衝液で溶出した。次に、モノクローナルをランダムに選択し、pH6.5及びpH7.4でhCD98と結合するモノクローナルをELISA法によりスクリーニングした。pH6.5でのCD98との結合がpH7.4よりも顕著に良いクローンは、さらなる特徴付けに用いられるために全長ヒトIgG1の形式に変換した。
【0046】
ELISA法による結合測定
ELISA法による抗体と抗原の結合分析を行うために、ストレプトアビジン(Sigma-Aldrich)でコーティングされた96ウェルプレート(Nunc、MaxiSorp(登録商標))によってビオチン化されたタンパク質抗原を捕捉した。その後、連続希釈した抗体を加え、HRP標識ヤギ抗ヒトIgG Fcポリクローナル抗体(Thermo Fisher Scientific)を添加することにより検出した。
【0047】
ELISA法による抗体とヒトC1qとの結合分析を行うために、連続希釈した抗体を96ウェルプレート(Nunc、MaxiSorp(登録商標))にコーティングした。その後、3%ヒト由来の補体血清(Sigma-Aldrich)を加え、HRP標識ヒツジポリクローナル抗ヒトC1q(Abcam)を添加することにより検出した。
【0048】
表面プラズモン共鳴(SPR)による結合動力学解析
Biacore T200機器(Biacore、GE Healthcare)において抗CD98抗体と、CD98のECD及びFcγRsのECDとの結合の動力学解析を行った。アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いて、抗hFc抗体又はプロテインA/G(Thermo Fisher Scientific)をCM5センサチップの表面に共有結合させた。チップ上に最適濃度の抗体を捕捉し、その後2倍連続希釈した濃度の分析物(CD98又はFcγRs)を流した。1:1ラングミュア(Langmuir)結合モデルを用いて結合動力学を評価した。Biacore T200評価ソフトを用いてka、kd及びKD値を算出した。
【0049】
細胞株のフローサイトメトリー解析
腫瘍細胞株におけるCD98の発現を検査するために、抗CD98抗体で腫瘍細胞を標識した後、ヤギ抗ヒトIgG Fc FITCポリクローナル抗体(Thermo Fisher Scientific)で標識した。FITCにより腫瘍細胞株におけるCD98発現を検出した。
【0050】
CD98バリアントに結合した抗体を検査するために、異なるアラニン突然変異を含むhCD98-GL発現プラスミドを構築した。そして、これらのプラスミドでCHO細胞をトランスフェクトした。2日後、トランスフェクトしたCHO細胞をIGN523(Hayesら、2015)、S1-F4又は抗GL抗体(GC33)(Ishiguroら、(2008)Cancer Res 68、第9832-9838頁)で標識し、次いでヤギ抗ヒトIgG Fc FITCポリクローナル抗体(Thermo Fisher Scientific)で標識した。
【0051】
組織処理及び免疫細胞のフローサイトメトリー解析
腫瘍体積が500mmを超えた場合、異種移植モデルマウスを抗体で処理した。処理3日後、マウスから腫瘍を採取し、単細胞懸濁液でFACS解析を行った。簡単に説明すると、腫瘍を単離し、赤血球溶解液(Red Blood Cell Lysis Buffer)で処理した。細胞懸濁液を40μmのセルフィルターに通し、単細胞懸濁液を得た。そして、各種の抗体(主要資源表、Key Resource Table)で細胞を標識した。
【0052】
ヒト又はマウスCD98発現細胞株の構築
まず、ヒト又はマウスCD98コードDNAを挿入することにより、発現プラスミドを構築した。その後、発現プラスミドをHEK293T、CHO、EL4、MC38、MCA205又はB16F10細胞にトランスフェクトした。hCD98を安定的に発現した細胞株を生成するために、トランスフェクション後、FACSでhCD98を発現した細胞を選別し、G418を含む培地で培養した。
【0053】
細胞増殖測定
WST-8セルカウンティングキット-8(Dojindo Molecular Technologies)を用いて細胞増殖を分析した。1%FBSを含むRPMI 1640培地に懸濁した細胞(10,000-25,000cells/well)を96ウェルプレートに播種し、72時間インキュベートした。その後、各ウェルにCCK-8溶液(10μl)を加え、37℃で1-4時間インキュベートした。マイクロプレートリーダーで450nmにおける吸光度を測定した。細胞増殖百分率は、未処理群の細胞総数に対する測定対象サンプル群の細胞総数の百分率として表される。
【0054】
アミノ酸摂取測定
増殖培地において、細胞を15μg/mlの抗体と24時間インキュベートした。その後、Metを含まないDMEMを用いて37℃で細胞を30分間平衡化した。細胞に最終濃度が70μMのHPG(Thermo Fisher Scientific)を加えた。HPGの添加と同時に、陽性対照として、最終濃度が10μMのBCH(2-アミノ-2-ノルボルナン-カルボン酸)(Sigma-Aldrich)を添加した。2-3時間後、PBSで細胞を洗浄し、完全プロテアーゼ阻害剤(Roche)を含む溶解バッファー(1%SDSを含む50mM Tris-HCl、pH8.0)で細胞を溶解した。細胞溶解液中のHPGを、メーカーの取扱説明書(Thermo Fisher Scientific)に従ってビオチン標識した。その後、細胞溶解液を96ウェルプレート(Nunc、MaxiSorp(登録商標))に移し、4℃で一晩インキュベートした。その後、ELISA法による測定により、ストレプトアビジンHRP(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞溶解物中のHGPの量を検出した。
【0055】
ADCC、ADCP及びCDC測定
ADCC測定を行うために、標的細胞(10,000-20,000cells/well)をU形底の96ウェル細胞培養プレートのウェルに接種し、各濃度の異なる抗体としばらくインキュベートした。その後、エフェクター細胞(E:T=4:1-10:1)を標的細胞と抗体を含むウェルに加え、5%FBSを補充したRPMI 1640培地中で、37℃で4-8時間インキュベートした。Cyto Tox96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイキット(Promega)の取扱説明書に従って、乳酸脱水素酵素(LDH)放出によりADCC活性を測定した。細胞傷害率は、メーカーの取扱説明書に従って算出した。
【0056】
ADCP測定を行うために、マウス骨髄由来マクロファージ(mBMDM)とヒト末梢血単核球(hPBMC)をエフェクター細胞として用いた。C57BL/6マウスの脛骨及び大腿骨からマウス骨髄細胞を採取し、L929上清中でGM-CSFにより3日間誘導し、mBMDMを作製した。Raji細胞をCFSE(Thermo Fisher Scientific)で標識し、標的細胞として用いた。抗マウスF4/80-Alex Fluor647(Thermo Fisher Scientific)でmBMDMを標識した後、標的細胞とインキュベートした。CFSE標識標的細胞を異なる抗体と室温で15分間インキュベートした後、1:2のE:T比率で、10%熱不活化FBSを補充したDMEM培地中の標識されたmBMDMに添加し、37℃で2時間インキュベートした。ニコンA1R共焦点顕微鏡を用いて、抗マウスF4/80抗体標識マクロファージによるCFSE標識標的細胞に対する貪食作用を記録した。20ng/mLのマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)(Pepro Tech)でhPBMCを9日間分化誘導し、それをエフェクターマクロファージとして使用した。hPBMCによるADCP測定は、hPBMCをDeep-Red色素(Thermo Fisher Scientific)で標識した以外は、上記と同様である。
【0057】
CDC測定を行うために、標的細胞を400,000cells/wellでU形底の96ウェルプレートに接種し、5%のヒト血清(Sigma-Aldrich)の存在下で各種抗体とインキュベートした。2時間インキュベートした後、Cyto Tox96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイキット(Promega)を使用して各ウェルの上清中のLDH放出を分析した。
【0058】
サルにおけるS1-F4の薬物動態及び安全性評価
体重約3kgの健康なカニクイザル(3-4歳)に対して、0日目と15日目にS1-F4を静脈注射(i.v.)した。異なる時点で血液試料を採取し、hCD98結合ELISA法により抗体の血清濃度を測定した。その後、Graphpad Prism 6で抗体血清濃度を算出してプロットした。PKデータをWinNonlinソフトウェアで評価した。JOINN Laboratories(Beijing)で、所定の時点での体重、体温、血液生化学(アラニンアミノトランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びクレアチニン)、赤血球含量(RBC)及び白血球含量(WBC)を評価した。
【0059】
マウスにおける薬物動態分析
6-8週齢のC57BL/6又はCD98ヒト化マウスを本実験に用いた。分析対象抗体を一回腹腔注射(i.p.)した後、異なる時点で血液を採取した。ヒトIgG ELISA定量キット(Bethyl Laboratories)を用いて、血清中の抗体濃度を測定した。その後、Graphpad Prism 6で抗体血清濃度を算出してプロットした。PKデータをWinNonlinソフトウェアで評価した。
【0060】
S1-F4 scFv及びhCD98 ECD複合体の構造特徴付け
X線結晶学的解析を行うために、S1-F4-scFv-His6とhCD98 ECD組換えタンパク質を用いた。hCD98 ECDのアミノ酸配列は、hCD98のGlu111-Ala529残基に対応する。S1-F4-scFv-His6は、FreeStyle 293F細胞で発現され、hCD98 ECDは、大腸菌で発現された。Ni-NTAアガロースマイクロビーズ(QIAGEN)を用いて、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によりS1-F4-scFv-His6を精製し、まず同じマイクロビーズ、続いてHiTrap Q HP陰イオン交換クロマトグラフィーカラム(GE Healthcare)によりhCD98 ECDを精製した。そして、S1-F4-scFv-His6とhCD98 ECDとを混合して複合体を形成し、Superdex S200 10/300 GLカラム(GE Healthcare)によるサイズ排除クロマトグラフィーで精製した。タンパク質1μL(10mg/mLの濃度で10mM Tris-HCl pH8.0及び150mM NaClに溶解させた)を0.1Mのクエン酸三ナトリウム二水和物(pH5.0、9%PEG20000、5%PEG400、9%グリセロール)を含むストック溶液1μLと混合し、精製したS1-F4-scFv-His6/hCD98 ECD複合体をハンギングドロップ蒸気拡散法により20℃で濃縮し、結晶化させた。
【0061】
7日後にラメラ結晶が現れた。上海同期放射光源のビームラインBL19U1でX線回折データを収集し、XDSにより処理した。hCD98 ECD(PDB 2DH2)構造を出発モデルとし、フェイザーによる分子置換法により2.8Åの分解能で構造を特定した。分子置換の初期モデルをPhenixでさらに完備させ、Cootにより手動で再構築した。最終モデルは、S1-F4 scFvにおける235個の残基と、hCD98 ECDにおける115-526番目の残基とを含む。MolProbity分析により、96.55%の残基がfavored regionに位置しており、3.41%の残基がallowed regionに位置していることが示された。
【0062】
インビボ腫瘍アッセイ
マウス腫瘍モデルは、6-8週齢のマウスに(100μLのDPBS又は培地における)各種腫瘍細胞を皮下接種した。MDA-MB-231-LN細胞は雌マウスの乳腺脂肪パッドに接種した以外、残りの細胞は全て右側に接種した。異種移植腫瘍モデルは、マウスを類似した平均腫瘍体積に基づき、ランダムに群分けし(n=2-6/群)、各種抗体で腹腔注射した。同系腫瘍モデルは、腫瘍細胞(1×10個の細胞を含むDPBS)を接種した後、マウスをランダムに群分けし(n=3-10/群)、各種抗体で腹腔注射した。電子ノギスで腫瘍体積を測定し、修正された楕円体式1/2×(縦×横)で腫瘍体積を算出した。腫瘍の長さが2cmに達し、又は虚弱が観察された場合、マウスを処分した。異種移植腫瘍モデルに関する他の情報は、以下の表1に示す。
【0063】
【0064】
CD4又はCD8T細胞を除去するために、S1-F4処理の1日前に、腫瘍を担持したCD98ヒト化マウスに15mg/kgの抗CD4抗体(クローンGK1.5、BioXCell)又は10mg/kgの抗CD8α抗体(クローン2.43、BioXCell)を3-5日毎に注射した。NK細胞を除去するために、S1-F4処理の1日前に、マウスに2.5mg/kgの抗Asialo-GM1ポリクローナル抗体(Poly21460、Biolegend)を6日ごとに注射した。好中球を除去するために、S1-F4処理の1日前に、マウスに20mg/kgの抗Ly6G抗体(クローン1A8、BioXCell)を3日ごとに注射した。マクロファージを除去するために、S1-F4処理の1-2日前に、マウスに25mg/kgの抗CSF1R抗体(クローンAFS98、BioXCell)を3日ごとに注射した。樹状細胞を除去するために、S1-F4処理の1日前に、マウスに4μg/kgのジフテリア毒素(Sigma-Aldrich)を2日ごとに注射した。上記の免疫細胞枯渇方法の有効性は、腫瘍非担持(tumor-naive)マウスを用いて実証された。
【0065】
腫瘍再攻撃研究を行うために、1×10個の腫瘍細胞を、S1-F4処理後にEL4-hCD98腫瘍完全奏効(CR)を示したC57BL/6マウス及び年齢が類似する未試験のC57BL/6マウスの脇腹に接種した(左側にEL4及びEL4-hCD98を接種し、右側にB16F10及びB16F10-hCD98を接種した)。上記のように腫瘍を計測した。
【0066】
免疫蛍光標識アッセイ
マウスの腎臓における抗体の濃化を検出するために、各種抗体を注射してから2-3日後にマウスを処分した。そして、マウス腎臓を採取し、冷凍切片を作製した。腎臓切片をヤギ抗ヒトIgG Fc FITC(Thermo Fisher Scientific)ポリクローナル抗体で標識した。Vectra Polaris機器(PerkinElmer)を用いて、FITCにより腎臓細胞表面におけるCD98発現を検出した。
【0067】
腫瘍中のCD98発現を検査するために、腫瘍を採取して凍結切片を作製した。腫瘍切片をBC8又はIGN523(10μg/ml)で標識した後、ヤギ抗ヒトIgG Alexa Fluor 633ポリクローナル抗体(Thermo Fisher Scientific)で標識した。ニコンA1R共焦点顕微鏡を用いて、Alexa Fluor 633により腫瘍細胞表面におけるCD98発現を検出した。
【0068】
マウス組織におけるCD98発現を検査するために、各種のマウス組織を採取して凍結切片を作製した。切片をBC8又はIGN523(10μg/ml)で標識した後、ヤギ抗ヒトIgG Fc FITCポリクローナル抗体(Thermo Fisher Scientific)で標識した。FITCによりマウス組織におけるCD98発現を検出した。
【0069】
担腫瘍マウスにおける光学イメージング
IVIS分光計(PerkinElmer)を用いて、担腫瘍マウスを光学イメージングし、Live Image 4.4ソフトウェア(PerkinElmer)を用いて分析した。同一の照明設定を用いて1つの実験での全ての画像を取得し、生物発光イメージングにおける通常の操作に従って蛍光発光スペクトルを正規化した。
【0070】
CD98ヒト化マウスにおける抗体-Cy7分布の蛍光イメージングを行うために、担腫瘍CD98ヒト化マウス(n=2-3/群)に溶媒又はCy7標識抗体(S1-F4-Cy7(Cy7/抗体=0.845)又はH15L54-Cy7(Cy7/抗体=1.076))を腹腔内注射した。マウスを解剖し、異なる時点の蛍光画像を得た。蛍光画像は、745nm励起及び800nm発光フィルタを備えたIVIS分光計により取得した。
【0071】
MDA-MB-231-LN腫瘍モデルの生物発光イメージングは、MDA-MB-231-LN腫瘍を担持したマウス(腹腔)に150mg/kgのD-フルオレセイン(PerkinElmer)を注射した。D-フルオレセイン注射から10分後に、腫瘍の生物発光を測定した。全ての群の全てのマウスが生存している最後の日まで、4-5日ごとにイメージングを行った。
【0072】
統計分析
本明細書において、GraphPad Prism 6(GraphPad)を用いて具体的比較を行い、p値を関連図例に示す。二元配置分散分析又はtwo-tailed unpaired Studentのt検定を採用する。二元配置分散分析により抗腫瘍活性を分析する。p<0.05は統計学的に有意であると考えられる(n.s.:有意差がない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。
実施例
【0073】
実施例1.抗hCD98抗体S1-F4の生成
hCD98細胞外ドメイン(hCD98 ECD)を含む組換えタンパク質を生成し、非免疫ファージディスプレイ一本鎖Fv(scFv)ヒト抗体ライブラリー(Liら、(2017)Elife6)から抗hCD98抗体を選択するために用いた。hCD98を発現したCHO細胞(CHO-hCD98)に結合する抗体について、FACSによる解析を行い、パフォーマンスが最も良い抗体をスクリーニングした。7つの候補からHN2-G9を同定し、異種移植マウス腫瘍モデル(Raji、Burkittリンパ腫)を用いてその抗腫瘍活性を評価した。HN2-G9は、上記従来技術の抗CD98抗体IGN523(Hayesら、2015)に相当する抗腫瘍活性を示した(図1)。しかしながら、表面プラズモン共鳴(SPR)分析により、IGN523に比べて、HN2-G9のCD98に対する結合親和性(affinity)が比較的に低い(1.29μM)ことを示した(図3)。
【0074】
HN2-G9のCD98に対する結合親和性を向上させるために、可変領域重鎖(VH)の鎖置換法を採用し、HN2-G9に対して遺伝子工学的改変を行った(Liら、2017)。FACS及びSPR分析の両方において、抗体(S1-F4)がHN2-G9に比べて有意に高い結合親和力(58.2nM)を有することが同定された(図2-3)。
【0075】
そして、Raji異種移植腫瘍に対するS1-F4の抗腫瘍活性を測定した。その結果、IGN523よりも顕著に強い抗腫瘍作用を発揮し、且つリツキシマブ(FDAによって承認されたB細胞リンパ腫を治療するための抗CD20抗体)の抗腫瘍作用と類似していることを示した(図4)。
【0076】
実施例2.異種移植腫瘍モデルにおけるS1-F4の広域スペクトル抗腫瘍活性
CD98は、多くの腫瘍タイプにおいて高発現するため、様々な異種移植腫瘍モデルにおけるS1-F4の抗腫瘍作用を評価した。
【0077】
インビボ研究に先立って、異なる組織由来の13種類のヒト腫瘍細胞株(Rajiを含む)におけるCD98発現を検出した(図5)。試験された細胞株は、全て高レベルのCD98を発現した。従って、これらの細胞株を用いて免疫不全のCB-17 SCID又はNOD SCIDマウスにおいて異種移植腫瘍モデルを確立し、S1-F4の治療作用を評価した。
【0078】
S1-F4処理は、13種類の異種移植モデルのうちの8種類において広域抗腫瘍作用を示した(図4図6図10)。特に注目すべきは、低用量(1mg/kg)のS1-F4処理がHepG2(肝細胞がん)腫瘍モデルにおいて腫瘍の完全な退縮をもたらすことである(図6)。
【0079】
実施例3.hCD98を発現するマウスモデルの生成(CD98ヒト化マウス)
S1-F4は、ヒト及びサルCD98と結合するが、マウスCD98(mCD98)と結合しないことが見出された(表1)。CD98がヒトの多くの正常組織において広く発現されていることを考慮すると、上記のヒト異種移植片を有するマウスモデルから得られた結果は、S1-F4のヒトに対する潜在的な効果及び/又は安全性を正確に反映できない可能性がある。
【0080】
表1.S1-F4と異なる由来のCD98との結合親和性
【表1】
【0081】
この問題を解決するために、CRISPR/Cas9により、C57BL/6遺伝背景における(C57BL/6マウスをレシピエントとして使用する)mCD98 ECDをそのヒトの対応する部分に置き換え、CD98ヒト化マウスモデルを生成した(図11A-D)。hCD98 ECD(107-529番目のアミノ酸)配列をC57BL/6マウス生殖細胞のSlc3a2遺伝子座に組み込み、マウスSlc3a2遺伝子を除去するために、第1イントロン内の配列を標的とするsgRNA(sgRNA-CD98:ccgcgctgccgtgagctgcctgt、SEQ ID NO:1)を使用した。相同性指向修復(HDR)の鋳型として、hCD98の107-529番目のアミノ酸をコードする1272bp配列、polyAエレメント、sgRNA-CD98標的部位から伸びた829bpの上流断片及び945bpの下流断片を含む標的ベクターを構築した(図11A)。Cas9タンパク質、sgRNA-CD98及び標的ベクターをC57BL/6受精卵に前核微量注入し、2匹の生体マウス(F0)を得た。複数対のプライマーにより、2匹のF0マウスにおけるhCD98 ECDの正確な挿入を検証した(図11A-D、表2)。ヘテロ接合F0マウスを野生型C57BL/6マウスと交雑させ、F1世代マウスを得た。そして、ヘテロ接合F1動物を交雑させ、ホモ接合性hCD98ノックインマウス(CD98ヒト化マウスと命名)を生成した。
【0082】
表2.CD98ヒト化マウスの同定に用いたPCRプライマー
【表2】
【0083】
生成されたCD98ヒト化マウスモデルは、mCD98の生理的機能を保留しているため、正常組織においてS1-F4でCD98の発現を検出することが可能であり、且つ免疫系がインタクトである。免疫蛍光標識アッセイにより、確立されたCD98ヒト化マウスの異なる組織におけるhCD98の発現スペクトルを検出したところ、組織におけるhCD98の発現パターンが野生型マウスにおけるmCD98の発現と類似していることを確認した(図12-13)。
【0084】
実施例4.S1-F4による侵襲性及び難治性腫瘍に対する抗腫瘍活性
CD98ヒト化マウスを用いて、4種類の侵襲性及び難治性マウス腫瘍モデルにおけるS1-F4による抗腫瘍活性を評価した。hCD98を安定的に発現するマウス腫瘍細胞株を用いてモデルを確立した(図14)。
【0085】
S1-F4処理は、4種類の腫瘍モデルのうち、EL4-hCD98、MC38-hCD98及びMCA205-hCD98の3種類に対して顕著な抗腫瘍作用を有するが、B16F10-hCD98腫瘍に対して顕著な作用がないことを示した(図15A)。これらの結果から、S1-F4が免疫不全異種移植及び免疫活性化同系マウスモデルにおいて、多種の悪性腫瘍に対して有効な広域スペクトル抗腫瘍活性を発揮していることを示した。
【0086】
なお、野生型C57BL/6マウス(即ち、非腫瘍組織においてhCD98が一切発現されていないマウス)において、S1-F4処理によるEL4-hCD98及びB16F10-hCD98腫瘍に対する効果をアッセイしたところ、S1-F4処理は、2種類の腫瘍モデルのいずれにおいても腫瘍増殖に対する顕著な抑制を誘導した(図15B)。S1-F4が野生型マウスにおいてB16F10-hCD98に対する抗腫瘍作用を示したが、CD98ヒト化マウスにおいてその作用がなかったことは、野生型マウスにおける「抗原シンク」の欠乏が、このような高侵襲性腫瘍モデルにおけるS1-F4の抗腫瘍作用に寄与し得ることを示す。「抗原シンク」とは、細胞膜抗原を標的とする抗体の抗原媒介性クリアランスを意味する。これらの結果は、ヒト異種移植片を有する野生型マウスにおいて観察された抗CD98抗体の抗腫瘍作用から、必ずしもヒトにおけるその抗腫瘍作用を合理的に予想するものではないことを示す。
【0087】
実施例5.S1-F4の抗腫瘍活性のFc-FcγR相互作用に対する依存性
本実施例は、抗hCD98抗体の抗腫瘍活性がFc媒介免疫応答、例えば補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)又は貪食作用(ADCP)に依存するか否かを検討した。
【0088】
S1-F4のFc関連機能を解析するために、S1-F4KAとS1-F4DANAの2つのS1-F4バリアントを生成した(図3)。S1-F4KAは、FcとC1qとの結合を解消し、CDC機能を喪失させるためのK322A(KA)突然変異を担持し、S1-F4DANAは、FcとFcγRsとの結合を解消し、ADCC及びADCP機能を喪失させるためのD265A/N297A(DANA)突然変異を担持した。S1-F4及びその2つの変形体がADCC、ADCP及びCDCを媒介する能力を測定した。インビトロアッセイにより、S1-F4及びS1-F4KAがRaji及び/又はHepG2細胞に対するADCC(図16A図16B)及びADCP殺傷効果(図17A図17B)を誘導したが、S1-F4DANAバリアントが誘導しなっかたことを示した。S1-F4及び測定された変異体は、いずれもヒトC1qと結合できず、Raji細胞に対するCDC殺傷効果を引き起こすこともできなっかた(図18A図18B)。
【0089】
これらの結果は、S1-F4がFcγRsと結合してADCC及びADCP殺傷効果を誘導することができ、C1qと結合したりCDC殺傷効果を誘導することができないことを示した。
【0090】
実施例6.CD98の機能に対するS1-F4の影響
本実施例は、S1-F4が以前に発見されたS1-F4処理に対して高度な感受性がある腫瘍細胞株におけるCD98の生化学又は細胞生物学的機能を干渉するか否かを検討した。
【0091】
アミノ酸摂取アッセイを行い、S1-F4のアミノ酸輸送における作用を分析した。メチオニン模擬分子であるL-ホモプロパルギルグリシン(HPG)は、LAT1(L型/大型中性アミノ酸トランスポーター1)/CD98ヘテロダイマーHAT複合体の追跡可能な基質として使用され、LAT1/CD98複合体の阻害剤BCH(2-アミノ-2-ノルボルナン-カルボン酸)は、輸送機能を破壊する陽性対照として使用された。
【0092】
図19に示すように、対照IgG、S1-F4及びBCHで処理した細胞のHPG摂取効率を比較したところ、BCHのみがHAT複合体の輸送活性を損なった。これらの結果は、S1-F4がアミノ酸輸送に影響を与えないことを示した。
【0093】
CD98は、インテグリンシグナル伝達を増強して細胞増殖を増加させるため、細胞増殖アッセイにおいてS1-F4によるHepG2、HCT-8、Raji及びRamos細胞(S1-F4に高感受的な4種の細胞株)増殖に対する抑制作用を測定した。
【0094】
図20に示すように、S1-F4は、Raji及びRamos細胞増殖を用量依存的に抑制したが、S1-F4を介したHepG2及びHCT-8細胞増殖への影響は観察されなかった。これらの結果は、細胞増殖の抑制がS1-F4の抗腫瘍活性に必要ではないことを示した。
【0095】
本発明者らは、また、異種移植及び同系腫瘍モデルにおけるS1-F4及びその2種類のFcバリアントの抗腫瘍効果を比較することにより、S1-F4の作用メカニズム(MOA)を調査した。異種移植腫瘍モデルは、HepG2とRaji腫瘍を、それぞれS1-F4による細胞増殖抑制に対する典型的な耐性細胞及び感受性細胞として選択した。同系腫瘍モデルは、EL4-hCD98及びMC38-hCD98細胞を選択して、CD98ヒト化マウスにおいて腫瘍を確立した。
【0096】
S1-F4DANAは、4種類のモデルのいずれにおいても治療作用を示さず(図21)、S1-F4の抗腫瘍活性がFc-FcγRの相互作用に依存することを示した。また、Raji異種移植腫瘍モデルにおいて、S1-F4とS1-F4KAの腫瘍増殖に対する抑制作用が類似しており(図21、左下の図)、CDC機能がS1-F4の抗腫瘍活性に必要ではないことが実証された。要するに、これらの結果は、S1-F4の抗腫瘍活性がFc-FcγR相互作用によって媒介されるADCC及びADCPに依存することを示した。
【0097】
実施例7:S1-F4の抗腫瘍活性に対する免疫細胞の関与
どの免疫細胞亜集団がS1-F4の抗腫瘍作用に関与するかを確定するために、HepG2腫瘍モデルを用いて実験を行い、S1-F4治療前及び治療中に、亜集団特異的抗体を用いてマクロファージ、NK細胞又は好中球をそれぞれ除去した。マクロファージのクリアランスによってS1-F4の抗腫瘍活性を喪失させているが、好中球のクリアランス及びNK細胞のクリアランスによってS1-F4の抗腫瘍活性に影響を与えていないことを発見した。HepG2異種移植モデルにおいて、S1-F4の抗腫瘍活性は、マクロファージに依存すると推定される。
【0098】
2種類(A549、A-431)の異種移植モデルは、S1-F4処理に対して耐性を有し、S1-F4処理によるマクロファージ浸潤に対する影響を検出した。S1-F4処理により、HepG2腫瘍におけるマクロファージの割合が2倍超顕著に増加していることが分かった。これに対し、S1-F4処理は、S1-F4耐性のA-431腫瘍又はHCT 116腫瘍に浸潤したマクロファージの数を増加させなかった。これらの結果から、腫瘍内のマクロファージ浸潤不足は、腫瘍細胞がS1-F4処理に対して耐性を有する原因の1つであリ得ることを示した。
【0099】
免疫不全異種移植腫瘍モデルに加えて、CD98ヒト化マウスを用いて確立されたEL4-hCD98同系腫瘍モデルにおいても、S1-F4抗腫瘍効能に対するマクロファージ、NK細胞又は好中球枯渇の効果を評価した。HepG2腫瘍モデルで得られた結果と一致して、マクロファージのクリアランスのみがS1-F4の抗腫瘍効果に影響を及ぼしたが、好中球のクリアランスもNKのクリアランスもS1-F4の抗腫瘍活性に影響を及ぼしなかった。したがって、異種移植モデルと同系腫瘍モデルの両方において、マクロファージは、S1-F4の抗腫瘍作用にとって非常に重要である。
【0100】
CD98ヒト化マウスは、インタクトな免疫系を有するため、S1-F4抗腫瘍効能におけるT細胞免疫応答の作用を研究するために適切なモデル系を提供する。S1-F4がT細胞を動員して腫瘍細胞を攻撃することができるかどうかを測定するために、CD98ヒト化マウスにおいて確立されたEL4-hCD98腫瘍モデルを利用して、CD4T細胞又はCD8T細胞のクリアランスによるS1-F4の抗腫瘍活性に対する影響を評価した。その結果、CD4T細胞を除去してもS1-F4の抗腫瘍活性は変わらず、これは、CD4T細胞が明らかにS1-F4の抗腫瘍作用に関与していないことを示した。CD8T細胞のクリアランスは、S1-F4のEL4-hCD98腫瘍増殖に対する抑制作用を有意に弱めた。したがって、CD8T細胞は、S1-F4の抗腫瘍活性に関与し、マクロファージのみでは長期間にわたる抗腫瘍作用を誘導するには不十分である。
【0101】
本発明者らは、さらに、樹状細胞(DC)がS1-F4処理の過程において、CD8T細胞のAPCを交差活性化(prime)する役割を果たすか否かを検討した。具体的には、S1-F4処理前に(及び過程中に)、EL4-hCD98腫瘍を担持したCD11c-DTR(ジフテリア毒素受容体)(Itgax-DTR/EGFP)マウスを、ジフテリア毒素(DT)で処理してDCを除去した。DC細胞のクリアランスは、S1-F4によるEL4-hCD98腫瘍増殖に対する抑制作用に有意に影響を及ぼした。従って、DCは、S1-F4によって誘導される完全な抗腫瘍応答にとって非常に重要である。
【0102】
最後に、S1-F4処理によってEL4-hCD98腫瘍に対して完全奏効(CR)が示されたC57BL/6マウスは、その後同じEL4-hCD98腫瘍細胞、又はEL4、B16F10若しくはB16F10-hCD98腫瘍細胞に攻撃された場合に保護され、腫瘍増殖の顕著な遅延又は完全な腫瘍拒絶を示すことを発見し、これは、S1-F4が腫瘍再発を防止する効果を有することを示した(図22)。予想通りに、CRマウスは、B16F10腫瘍細胞の攻撃中に生存していくことができず(図22)、B16F10腫瘍細胞とEL4-hCD98腫瘍細胞とには共通の抗原を有する可能性が低く、これは、S1-F4処理が抗原特異的な抗腫瘍免疫記憶を誘導できることをサポートした。
【0103】
これらの結果を総合的に考慮して、本発明者らは、以下のことを得た。S1-F4のMOAは、1)S1-F4がそのFcを介してマクロファージ上のFcγRsに結合し、ADCC及びADCPを誘導してCD98を発現する腫瘍細胞を攻撃するステップ、2)ステップ1)による腫瘍細胞の死亡により、腫瘍細胞関連抗原を生じて、これらの抗原がその後DCによってCD8T細胞に交差提示されるステップ、及び、3)CD8T細胞が活性化され、腫瘍細胞を攻撃するステップを含む。この過程において、マクロファージは、抗腫瘍応答の開始において役割を果たすが、細胞傷害性CD8T細胞は、抗腫瘍応答の開始後に誘導され、特にDC媒介性の交差提示の増強により、細胞傷害性CD8T細胞の誘導をもたらす。従って、S1-F4処理は、天然免疫系と適応性T細胞免疫系を架橋させて腫瘍細胞を攻撃し、長期的免疫記憶を誘導する可能性がある。
【0104】
実施例8.pH依存性抗hCD98抗体の生成
本発明者らは、カニクイザルにおけるS1-F4の安全性及び薬物動態(PK)特性を評価した。2剤のS1-F4処理(0日目に20mg/kg及び15日目に10mg/kg)は、顕著な副作用を引き起こしておらず、これはS1-F4が治療有効量において必要な安全性を有することを示した。
【0105】
しかし、サルにおいて、S1-F4血清濃度は、時間の経過とともに急速に低下し(図23A)、半減期は非常に短った(t1/2~29.5hr)。また、単剤投与後のC57BL/6及びCD98ヒト化マウスにおけるS1-F4血清濃度も測定したところ、CD98ヒト化マウスでは急速に下降した(t1/2~69.6hr)が、C57BL/6マウスでは緩やかに下降した(t1/2~341.5hr)ことが分かった(図23B)。
【0106】
蛍光標識されたS1-F4(S1-F4-Cy7)の投与処理後、CD98ヒト化マウスの腎臓に強い蛍光シグナルが観察され(図24A)、腎臓におけるマウスCD98の強い発現と一致していた。免疫蛍光標識によっても、S1-F4処理後、S1-F4がCD98ヒト化マウスの腎臓に大量に濃化されたが、C57BL/6マウスにはなかったことを示した(図24B)。カニクイザル及びCD98ヒト化マウスにおけるS1-F4の迅速なクリアランスは、「抗原シンク」現象(S1-F4が正常組織に存在するCD98タンパク質と結合すること)によるものと推測される。
【0107】
抗原シンク効果の影響を克服し、PK特徴を改善することを求めるために、本発明者らは、創造的にS1-F4を、酸性条件(例えば、腫瘍微小環境)下(pH6.5-6.9)ではCD98と強力に結合するが、ほとんどの正常組織における中性(pH7.2-7.5)条件下では弱く結合する(又は全く結合しない)というpH依存性抗体になるように遺伝子工学的に改変した。好適なpH依存性抗体は、S1-F4抗腫瘍活性を維持しつつ、固形腫瘍中の抗原に優先的に結合することができる。
【0108】
S1-F4の合理的な遺伝子工学的改変をサポートするために、hCD98 ECDとS1-F4との複合体の結晶構造を解析し、結合界面に関する正確な情報を取得した(図25)。S1-F4 scFv-hCD98 ECD複合体の結晶構造を2.8Åの解像度で解析したところ、S1-F4は、hCD98 ECD上の、2つの環状領域に由来する376-384番目と391-399番目の残基を含むコンフォメーションエピトープを認識することを示した(図24)。この構造から、7個のhCD98 ECD残基(L378、P379、V387、L389、F395、I398及びV402)が疎水性コアを形成することにより、2つのループのコンフォメーションを安定させ、コンフォメーションエピトープの形成を促進することが分かった(図25)。
【0109】
エピトープがS1-F4のVH及び可変軽鎖(VL)に結合した特定の構造に対する評価により、hCD98 ECDの391-399番目の残基がS1-F4のLCDR1、LCDR3及びHCDR3に結合することを示した。S1-F4 LCDR1のY27d及びY32残基の側鎖ヒドロキシル基は、それぞれCD98 ECD残基E392及びP396の主鎖アミド基と水素結合を形成した。また、S1-F4 LCDR1のY32及びLCDR3のY92の芳香族側鎖は、非極性相互作用によりCD98 ECDのP399残基を挟んでいた(図25)。CD98 ECDのD397側鎖は、S1-F4 HCDR3領域におけるR100d主鎖と水素結合を形成した。また、S1-F4 VHは、抗体とCD98 ECDの376-384番目の残基との相互作用を媒介した。このループでは、HCDR1、HCDR2及びHCDR3にそれぞれ位置するS1-F4 VH残基Y33、I50及びI100fを含む疎水溝に、P379及びG380によって形成されたキンクがしっかりと嵌合していた。このエピトープの付近において、CD98 ECDのH135の側鎖とS1-F4 HCDR3のY97とは、水素結合していた(図25)。
【0110】
FACSによる結合アッセイにより、結合界面に位置する2つのアミノ酸のアラニン置換(L389A及びP399A)がS1-F4とhCD98との結合を顕著に弱めることが示され、これは、該コンフォメーションエピトープがS1-F4 scFv-hCD98 ECD複合体の結合を確実に媒介することをサポートした。L378A、F395A及びD397A変異も結合を弱め、これらの疎水性コアにある残基がS1-F4 scFv-hCD98 ECDの結合親和性の安定性に影響を与えることをサポートした。なお、これらのアラニン置換変異は、いずれもIGN523とhCD98との結合に影響を与えず、これはS1-F4及びIGN523が異なるエピトープと結合することを示した。
【0111】
従来の研究では、ヒスチジン(H)のような電離可能な残基のプロトン化がpH依存性結合を促進できることが示されている(Chaparro-Riggersら、2012;Johnstonら、2019;Sarkarら、2002)。そこで、本発明者らは、Hと酸性アミノ酸(アスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E))との相互作用の度合いを高めることにより、S1-F4とCD98とのpH依存性結合が促進され得ると仮定した。構造により、4つの酸性残基(E384、D391、E392、D397)がhCD98 ECD上のS1-F4エピトープ内に位置し(図26)、H135がエピトープ付近に位置し、S1-F4 HCDR3のY97と密接に接触することが示され(図25)、それによりpH依存性S1-F4バリアント抗体に対する合理的な遺伝子工学的改変に分子基礎を提供する。
【0112】
まず、S1-F4 HCDR3にY97E変異を導入し、S1-F4 Y97Eを生成した。ELISA法による測定において、CD98 ECDに対するS1-F4の結合活性は、pH6.5(EC50=0.059nM)及びpH7.4(EC50=0.046nM)では同等であった。これに対して、S1-F4 Y97EのCD98に対する結合は、pH7.4での結合(EC50=4.527nM)よりもpH6.5で(EC50=1.686nM)有意に強く(図27)、エピトープにおける酸性残基と密接に接触する残基を酸性残基に変更することが、pH依存性抗原結合を有する抗体改変体を得るための有効なストラテジーであることが検証された。
【0113】
また、結合活性及びpH依存性が向上した抗CD98抗体を得るために、本発明者らは、HCDR3に面するD397、HCDR2に面するE384、及びLCDR1に面するD391とE392の、CD98に面する4つの酸性残基位置での突然変異を反映した、S1-F4 VHY97E由来のファージディスプレイサブライブラリーをスクリーニングした(図26)。別のpH依存性抗hCD98抗体H15L54を同定した。
【0114】
H15L54は、pH6.5での結合活性(EC50=0.247nM)がS1-F4 Y97E(EC50=1.686nM)よりも約7倍高く、且つその結合のpH依存性(EC50比、pH7.4/6.5=38.0)がS1-F4 Y97E(EC50比、pH7.4/6.5=2.7)よりも約14倍高かった(図27)。FACSにより、S1-F4は、pH6.5又はpH7.4ではA-431細胞との結合に有意差がないが、H15L54は、pH6.5でA-431細胞との結合がpH7.4での結合よりも有意に強いことを示した(図28)。
【0115】
PyMOLで人工的に構築されたモデル構造により、S1-F4が遺伝子工学的に改変された後、H15L54とCD98との間に4対のH-D/E相互作用が形成され、H15L54のVH H54、VHE97、VH H100及びVL H27がそれぞれCD98 ECDのE384、H135、D397及びE392と相互作用することを示した。これらの4対のH-D/E相互作用は、低いpHでのH15L54とCD98との間の高度に選択的結合に寄与し得る。
【0116】
実施例9.pH依存性抗hCD98抗体と腫瘍中のCD98との優先的な結合及び向上した抗腫瘍活性
蛍光標識したH15L54-Cy7抗体でEL4-hCD98腫瘍を担持したCD98ヒト化マウスを処理することにより、抗体の分布を調べた。S1-F4-Cy7が腎臓に蓄積されることに対し、H15L54-Cy7は、主に腫瘍に蓄積されていた(図29-30)。免疫蛍光標識を用いて、CD98ヒト化マウスの腎臓におけるS1-F4及びH15L54抗体の濃化を検出した。以前の発見と一致して、S1-F4で処理されたマウスは、腎臓において強いFITCシグナルを有したが、H15L54又は対照IgGで処理されたマウスは、腎臓において非常に弱いFITCシグナルしか有していなかった(図31)。CD98ヒト化マウスにおけるS1-F4とH15L54のPK特性の比較から、H15L54の血清濃度(t1/2~217.1hr)は、S1-F4(t1/2~69.6hr)よりも遥かに遅く低下したことが示された(図32)。これらの結果は、H15L54がそのpH依存性結合特性により、インビボでの生理的pHの正常組織よりも、腫瘍中のCD98と優先的に結合することをサポートした。
【0117】
多種の腫瘍モデルにおいてH15L54の抗腫瘍活性を評価した。CD98ヒト化マウスで確立されたEL4-hCD98及びMC38-hCD98腫瘍モデル(いずれもS1-F4処理に感受的である。)において、H15L54は、顕著な抗腫瘍活性を示した(図33A-B)。また、CD98ヒト化マウスで確立されたB16F10-hCD98腫瘍モデル及びA-431異種移植腫瘍モデルを含むS1-F4処理耐性の腫瘍モデルにおいても、H15L54は、顕著な抗腫瘍活性を示した(図33C-D)。従って、pH依存性抗hCD98抗体H15L54は、その腫瘍微小環境における比較的低いpH条件での優先的な抗原結合により、S1-F4に起こり得る「抗原シンク」問題を回避し、向上した抗腫瘍活性及び必要なPK特性を与えた。
【0118】
実施例10.pH依存性抗CD98抗体
H15L54に加えて、pH依存性抗体Ab8332、H15L1及びH15L35も同様の方法で同定された。マウスモデルにおいて、それらの結合活性、pH依存性及び抗体分布を調べた。
【0119】
示された時間(矢印)及び15mg/kgの用量(図34)で投与した場合、Ab8332は、CD98ヒト化マウスで確立されたEL4-hCD98腫瘍モデルにおいて、S1-F4に相当する腫瘍増殖抑制作用を示した。
【0120】
ELISA法を用いることにより、S1-F4及びAb8332とhCD98 ECD-His-Avi-Biotinタンパク質とのpH6.5及びpH7.4での結合を検出し、Ab8332のpH依存性結合特性を確認した。図35に示すように、Ab8332のEC50比(pH7.4/6.5)は、50.7と高かったが、S1-F4には何ら有意差もなかった。ELISA法による測定では、H15L1及びH15L35のEC50比(pH7.4/6.5)は、それぞれ11.8と16.0であった(図36)。また、FACSによって検出されたH15L1及びH15L35とA-431腫瘍モデルとの結合もpH依存性結合をサポートした(図28)。
【0121】
H15L54と同様に、MC38-hCD98腫瘍を担持したhCD98ECDマウスにおいて、投与後2日目及び6日目にAb8332-Cy7を蛍光イメージングしたところ、主に腎臓ではなく腫瘍に濃化されたことを示した(図37)。
【0122】
配列表
S1-F4、H15L54及びAb8332可変領域のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、以下の表に示すSEQ ID NOを有する配列表を参照することができる。本願では、CDRは、Kabat番号付けスキームに基づいて決定されるものである。
【0123】
表3:S1-F4、H15L1、H15L35、H15L54及び
8332抗CD98抗体の配列情報
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A-E】
図11F
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
【配列表】
2024520163000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-01-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又はマウスCD98に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
SEQ ID NO:10、20、30、40、50、60、及び70から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR1(HCDR1)、
SEQ ID NO:11、21、31、41、51、61、及び71から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR2(HCDR2)、
SEQ ID NO:12、22、32、42、52、62、及び72から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR3(HCDR3)、
SEQ ID NO:15、25、35、45、55、65、及び75から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR1(LCDR1)、
SEQ ID NO:16、26、36、46、56、66、及び76から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR2(LCDR2)、及び
SEQ ID NO:17、27、37、47、57、67、及び77から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
以下の(a)から(g)のいずれか、すなわち
a)それぞれSEQ ID NO:10、11及び12のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:15、16及び17のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(b)それぞれSEQ ID NO:20、21及び22のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:25、26及び27のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(c)それぞれSEQ ID NO:30、31及び32のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:35、36及び37のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(d)それぞれSEQ ID NO:40、41及び42のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:45、46及び47のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(e)それぞれSEQ ID NO:50、51及び52のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:55、56及び57のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(f)それぞれSEQ ID NO:60、61及び62のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:65、66及び67のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3、或いは、
(g)それぞれSEQ ID NO:70、71及び72のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:75、76及び77のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
を含むを含む抗体又はその断片であって、
前記(a)から(f)のいずれかを含む抗体又はその断片は、hCD98に特異的に結合し、
前記(g)を含む抗体又はその断片は、マウスCD98に特異的に結合する、
請求項1に記載の抗体又はその断片
【請求項3】
SEQ ID NO:13、23、33、43、53、63及び73から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び/又は、
SEQ ID NO:18、28、38、48、58、68及び78から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその断片。
【請求項4】
以下の(a)から(g)のいずれか、すなわち、
(a)SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(b)SEQ ID NO:23のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:28のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(c)SEQ ID NO:33のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:38のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(d)SEQ ID NO:43のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:48のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(e)SEQ ID NO:53のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:58のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(f)SEQ ID NO:63のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:68のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL、或いは、
(g)SEQ ID NO:73のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:78のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
を含む抗体又はその断片であって、
前記(a)から(f)のいずれかを含む抗体又はその断片は、hCD98に特異的に結合し、
前記(g)を含む抗体又はその断片は、マウスCD98に特異的に結合する、
請求項3に記載の抗体又はその断片
【請求項5】
前記抗体又はその断片は、hCD98に対する結合がpH依存性を有し、酸性pHでの結合活性が中性pHでの結合活性よりも高い、かつ/又は、
結合活性をELISA法により測定した場合、抗体とhCD98との結合を測定すると、前記抗体又はその断片の酸性pHでのEC50は、中性pHでのEC50よりも少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍低く、
好ましくは、前記酸性pHは、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7又は6.8であり、前記中性pHは、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5又は7.6であり、より好ましくは、前記酸性pHは、6.5であり、前記中性pHは、7.4である、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその断片。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその断片をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項8】
請求項に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその断片と、薬学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項10】
腫瘍の低減、腫瘍細胞の増殖の抑制、がんの治療、又はがんの再発の予防を必要とする被験者における腫瘍の低減、腫瘍細胞の増殖の抑制、がんの治療、又はがんの再発の予防に使用するための、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体若しくはその断片、又は請求項9に記載の組成物
【請求項11】
前記腫瘍又はがん、CD98を発現する腫瘍又はがんであ
好ましくは、前記腫瘍又はがんは、酸性pHを呈する微小環境を有し、前記酸性pHは、例えばpH7.0、6.9、6.8、6.7、6.6、6.5、6.4、6.3、6.2、6.1、6.0又はそれ以下であり、前記被験者における正常生理的pHは、約pH7.4である、請求項10に記載の使用のための抗体若しくはその断片、又は組成物
【請求項12】
前記腫瘍又はがん、リンパ腫、急性前骨髄球性白血病、肝細胞がん、膵臓がん、膵臓類上皮がん、乳がん、結腸直腸腺がん、皮膚類表皮がん、メラノーマ、繊維肉腫、非小細胞肺がん、胃がん、急性骨髄性白血病、グリオーマ、舌がん、下咽頭扁平上皮がん、胆管がん、骨軟化症、骨肉腫、腎臓がん、及び神経芽細胞腫から選ばれる、請求項10に記載の使用のための抗体若しくはその断片、又は組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0123
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0123】
表3:S1-F4、H15L1、H15L35、H15L54及び
8332抗CD98抗体の配列情報
【表3】
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1]ヒト又はマウスCD98に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
SEQ ID NO:10、20、30、40、50、60、及び70から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR1(HCDR1)、
SEQ ID NO:11、21、31、41、51、61、及び71から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR2(HCDR2)、
SEQ ID NO:12、22、32、42、52、62、及び72から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖CDR3(HCDR3)、
SEQ ID NO:15、25、35、45、55、65、及び75から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR1(LCDR1)、
SEQ ID NO:16、26、36、46、56、66、及び76から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR2(LCDR2)、及び
SEQ ID NO:17、27、37、47、57、67、及び77から選ばれるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、単離された抗体又はその抗原結合断片。
[2]以下の(a)から(g)のいずれかを含み、
(a)から(f)のいずれかを含む抗体又はその断片は、hCD98に特異的に結合し、
(g)を含む抗体又はその断片は、マウスCD98に特異的に結合する、実施形態1に記載の抗体又はその断片、
(a)それぞれSEQ ID NO:10、11及び12のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:15、16及び17のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(b)それぞれSEQ ID NO:20、21及び22のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:25、26及び27のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(c)それぞれSEQ ID NO:30、31及び32のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:35、36及び37のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(d)それぞれSEQ ID NO:40、41及び42のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:45、46及び47のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(e)それぞれSEQ ID NO:50、51及び52のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:55、56及び57のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(f)それぞれSEQ ID NO:60、61及び62のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:65、66及び67のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3
(g)それぞれSEQ ID NO:70、71及び72のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、及び、SEQ ID NO:75、76及び77のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるLCDR1、LCDR2、LCDR3。
[3]SEQ ID NO:13、23、33、43、53、63及び73から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び/又は、
SEQ ID NO:18、28、38、48、58、68及び78から選ばれるアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、実施形態1又は2に記載の抗体又はその断片。
[4]SEQ ID NO:13、23、33、43、53、63及び73から選ばれるアミノ酸配列を含むVH、及び/又は、
SEQ ID NO:18、28、38、48、58、68及び78から選ばれるアミノ酸配列を含むVLを含む、実施形態3に記載の抗体又はその断片。
[5]以下の(a)から(g)のいずれかを含み、
(a)から(f)のいずれかを含む抗体又はその断片は、hCD98に特異的に結合し、
(g)を含む抗体又はその断片は、マウスCD98に特異的に結合する、実施形態3に記載の抗体又はその断片、
(a)SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(b)SEQ ID NO:23のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:28のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(c)SEQ ID NO:33のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:38のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(d)SEQ ID NO:43のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:48のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(e)SEQ ID NO:53のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:58のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(f)SEQ ID NO:63のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:68のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
(g)SEQ ID NO:73のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、及び、SEQ ID NO:78のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL。
[6]前記抗体又はその断片は、hCD98に対する結合がpH依存性を有し、酸性pHでの結合活性が中性pHでの結合活性よりも高い、実施形態1~5のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[7]結合活性をELISA法により測定した場合、抗体とhCD98との結合を測定すると、前記抗体又はその断片の酸性pHでのEC50は、中性pHでのEC50よりも少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍低い、実施形態6に記載の抗体又はその断片。
[8]前記酸性pHは、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7又は6.8であり、前記中性pHは、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5又は7.6であり、好ましくは、前記酸性pHは、6.5であり、前記中性pHは、7.4である、実施形態6又は7に記載の抗体又はその断片。
[9]実施形態1~8のいずれかに記載の抗体又はその断片をコードする単離されたポリヌクレオチド。
[10] 実施形態9に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[11] 実施形態10に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
[12]実施形態1~8のいずれかに記載の抗体又はその断片と、薬学的に許容される担体とを含む組成物。
[13]治療有効量の実施形態1~8のいずれかに記載の抗体若しくはその断片、又は実施形態12に記載の組成物を被験者に投与することを含む、それを必要とする被験者における腫瘍の低減、腫瘍細胞の増殖の抑制、がんの治療、又はがんの再発の予防のための方法。
[14]前記腫瘍又はがんは、CD98を発現する腫瘍又はがんである、実施形態13に記載の方法。
[15]前記腫瘍又はがんは、酸性pHを呈する微小環境を有し、前記酸性pHは、例えばpH7.0、6.9、6.8、6.7、6.6、6.5、6.4、6.3、6.2、6.1、6.0又はそれ以下であり、前記被験者における正常生理的pHは、約pH7.4である、実施形態13に記載の方法。
[16]前記腫瘍又はがんは、リンパ腫、急性前骨髄球性白血病、肝細胞がん、膵臓がん、膵臓類上皮がん、乳がん、結腸直腸腺がん、皮膚類表皮がん、メラノーマ、繊維肉腫、非小細胞肺がん、胃がん、急性骨髄性白血病、グリオーマ、舌がん、下咽頭扁平上皮がん、胆管がん、骨軟化症、骨肉腫、腎臓がん、及び神経芽細胞腫から選ばれる、実施形態13に記載の方法。
【国際調査報告】