(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性ウイルスベクターおよびその適用
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240514BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20240514BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240514BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/869 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
A61K35/763
A61K35/76
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/12
C12N15/869 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518946
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 CN2021098139
(87)【国際公開番号】W WO2022252185
(87)【国際公開日】2022-12-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523457534
【氏名又は名称】上▲海▼允英生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲鞏▼ 子英
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 道允
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ 永▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】王 毅
(72)【発明者】
【氏名】石 楠
(72)【発明者】
【氏名】朱 ▲駿▼
(72)【発明者】
【氏名】丁 妙
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本開示の実施形態は、腫瘍溶解性ウイルスベクターおよびその適用を提供し得る。腫瘍溶解性ウイルスベクターは、組換え核酸を含み得る。組換え核酸は、(i)可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、(ii)CD86分子をコードする第2の核酸断片と、(iii)CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片とを含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスであって、前記組換え核酸が、
(i)可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、
(ii)CD86分子をコードする第2の核酸断片と、
(iii)CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片と、を含む腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項2】
前記第1の核酸断片と配列番号1に示される配列との間の類似性が、90%以上である、請求項1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項3】
前記第2の核酸断片と配列番号2に示される配列との間の類似性が、90%以上である、請求項1または2に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項4】
前記第3の核酸断片と配列番号3に示される配列との間の類似性が、90%以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項5】
前記組換え核酸が、
(iv)US11タンパク質をコードする第4の核酸断片をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項6】
前記第4の核酸断片と配列番号4に示される配列との間の類似性が、90%以上である、請求項5に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項7】
単純ヘルペスウイルス属に属する、請求項1から6のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項8】
前記腫瘍溶解性ウイルスがHSV-1ウイルスであり、前記組換え核酸と配列番号5に示される配列との間の類似性が80%以上である、請求項7に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項9】
組換え配列が、サイトカインをコードする核酸断片、前記腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし、癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片、抗血管新生因子をコードする核酸断片、およびマトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項10】
組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスであって、前記組換え核酸が、
(i)可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、
(ii)CD86分子をコードする第2の核酸断片と、
(iii)CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片と、
(iv)US11タンパク質をコードする第4の核酸断片と、を含む腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項11】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、HSV-1ウイルスまたはHSV-2ウイルスであり、前記第4の核酸断片が、前記組換え核酸に挿入された外因性核酸断片を含む、請求項10に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項12】
前記腫瘍溶解性ウイルスが前記HSV-1ウイルスであり、前記組換え核酸と配列番号5に示される配列との間の類似性が80%以上である、請求項10または11に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項13】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に2の感染多重度で作用すると、前記癌細胞の少なくとも70%、90%、60%または40%をそれぞれ48時間以内に死滅させる、請求項1から12のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項14】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に1の感染多重度で作用すると、前記癌細胞の少なくとも70%、80%、60%または40%をそれぞれ48時間以内に死滅させる、請求項1から12のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項15】
前記腫瘍溶解性ウイルスが8×10
6pfuの用量で1回の注射によって非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、腫瘍体積の少なくとも60%が100日以内に減少するか、または前記腫瘍溶解性ウイルスが8×10
6pfuの前記用量で3回の注射によって前記非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、前記腫瘍体積の少なくとも80%が100日以内に減少する、請求項1から12のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項16】
前記腫瘍溶解性ウイルスが少なくとも3×10
6pfuの用量で大腸癌に罹患している対象に注射されると、前記対象の生存期間が延長される、請求項1から12のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルスと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含む、癌を治療するための組成物。
【請求項18】
前記癌が、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌または骨肉腫を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記癌が、肺癌、肝癌、乳癌、膵癌または大腸癌を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1から16のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルスと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含む、非小細胞肺癌または大腸癌を治療するための組成物。
【請求項21】
癌を治療するための薬物の調製における、請求項1から16のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルスの適用。
【請求項22】
前記癌が、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌または骨肉腫を含む、請求項21に記載の適用。
【請求項23】
前記癌が、肺癌、肝癌、乳癌、膵癌または大腸癌を含む、請求項21に記載の適用。
【請求項24】
非小細胞肺癌または大腸癌を治療するための薬物の調製における、請求項1から16のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルスの適用。
【請求項25】
癌を治療するための方法であって、請求項17に記載の組成物の有効用量を前記癌に罹患している対象に投与するステップを含む方法。
【請求項26】
前記癌が、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌または骨肉腫を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記癌が、肺癌、肝癌、乳癌、膵癌または大腸癌を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記対象が哺乳動物である、請求項25から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物の有効用量中の前記腫瘍溶解性ウイルスの量と前記対象の体重との比が、1×10
6pfu/kg~2×10
6pfu/kgの範囲内である、請求項25から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物の有効用量中の前記腫瘍溶解性ウイルスの量と前記対象の体重との比が、1.30×10
6pfu/kg~1.70×10
6pfu/kgの範囲内である、請求項25から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与する前記ステップが、
注射によって前記組成物を前記対象に投与するステップを含む、請求項25から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
注射によって前記組成物を前記対象に投与するステップが、
腫瘍内または腫瘍付近の部位で前記組成物を前記対象に注射するステップを含む、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、XML形式で電子的に提出され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる配列表を含む。2021年5月31日に作成されたXMLコピーは、「Sequence Listing-20699-0007WO00」と名付けられ、サイズが18,925バイトである。
【0002】
本開示は、バイオテクノロジーの分野に関し、特に、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスベクターおよびその適用に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、腫瘍溶解性ウイルスに代表されるウイルス薬は、腫瘍の治療ではますます重要な役割を果たしている。腫瘍溶解性ウイルスとは、癌細胞に効果的に感染し、癌細胞を破壊することができるウイルスのクラスを指す。腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞内で複製および増殖し、新しい感染性ウイルス粒子を放出して他の癌細胞に感染し、他の癌細胞を破壊する。腫瘍溶解性ウイルスはまた、癌細胞に作用して腫瘍微小環境に影響を及ぼし、宿主を刺激して抗腫瘍免疫応答をもたらすかまたは腫瘍を直接溶解するタンパク質を産生する。腫瘍溶解性ウイルスの特性のために、そのような治療は通常全身投与されるかまたは局所投与されて、原発性腫瘍および転移性腫瘍を治療する。癌細胞が腫瘍溶解性ウイルスの感染下で破裂し、死滅すると、新たに生成されたウイルス粒子が放出され、周囲の癌細胞にさらに感染する。腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞を直接殺滅するだけでなく、身体の免疫応答を刺激し、抗腫瘍効果を増強する。腫瘍溶解性ウイルスは、単独で使用されることに加えて、他の抗癌剤と組み合わせて投与される。さらに、腫瘍溶解性ウイルスはまた、癌の治療に有益な外来遺伝子によって組み換えられ得る。このように、一方では、そのようなウイルスは、腫瘍溶解性タンパク質を介して腫瘍溶解効果を発揮することができ、他方では、他の薬物の抗癌効果も得ることができる。したがって、癌に対してさらに良好な治療結果を達成するために、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一態様は、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスを提供し得る。組換え核酸は、(i)可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、(ii)CD86分子をコードする第2の核酸断片と、(iii)CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片とを含み得る。
【0005】
いくつかの実施形態では、第1の核酸断片と配列番号1に示される配列との間の類似性は、90%以上であり得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、第2の核酸断片と配列番号2に示される配列との間の類似性は、90%以上であり得る。
【0007】
いくつかの実施形態では、第3の核酸断片と配列番号3に示される配列との間の類似性は、90%以上であり得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、(iv)US11タンパク質をコードする第4の核酸断片をさらに含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、第4の核酸断片と配列番号4に示される配列との間の類似性は、90%以上であり得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス属に属し得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスはHSV-1ウイルスであり得、組換え核酸と配列番号5に示される配列との間の類似性は80%以上であり得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、組換え配列は、サイトカインをコードする核酸断片、腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし、癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片、抗血管新生因子をコードする核酸断片、およびマトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0013】
本開示の一態様は、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスを提供し得る。組換え核酸は、(i)可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、(ii)CD86分子をコードする第2の核酸断片と、(iii)CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片と、(iv)US11タンパク質をコードする第4の核酸断片とを含み得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、HSV-1ウイルスまたはHSV-2ウイルスであり得、第4の核酸断片は、組換え核酸に挿入された外因性核酸断片を含み得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスはHSV-1ウイルスであり得、組換え核酸と配列番号5に示される配列との間の類似性は80%以上であり得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも70%、90%、60%または40%をそれぞれ48時間以内に死滅させ得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に1の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも70%、80%、60%または40%をそれぞれ48時間以内に死滅させ得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが8×106pfuの用量で1回の注射によって非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、腫瘍体積の少なくとも60%が100日以内に減少し得るか、または腫瘍溶解性ウイルスが8×106pfuの用量で3回の注射によって非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、腫瘍体積の少なくとも80%が100日以内に減少し得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが少なくとも3×106pfuの用量で大腸癌に罹患している対象に注射されると、対象の生存期間が延長され得る。
【0020】
本開示の一態様は、癌を治療するための組成物を提供し得る。組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含み得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、癌には、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌または骨肉腫が含まれ得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、癌には、肺癌、肝癌、乳癌、膵癌または大腸癌が含まれ得る。
【0023】
本開示の一態様は、非小細胞肺癌または大腸癌を治療するための組成物を提供し得る。組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含み得る。
【0024】
本開示の一態様は、癌を治療するための薬物の調製における上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つの適用を提供し得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、癌には、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌または骨肉腫が含まれ得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、癌には、肺癌、肝癌、乳癌、膵癌または大腸癌が含まれ得る。
【0027】
本開示の一態様は、非小細胞肺癌または大腸癌を治療するための薬物の調製における上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つの適用を提供し得る。
【0028】
本開示の一態様は、癌を治療する方法を提供し得る。方法は、上述の組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与するステップを含み得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、癌には、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌または骨肉腫が含まれ得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、癌には、肺癌、肝癌、乳癌、膵癌または大腸癌が含まれ得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、対象は哺乳動物であり得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、組成物の有効用量中の腫瘍溶解性ウイルスの量と対象の体重との比は、1×106pfu/kg~2×106pfu/kgの範囲内であり得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、組成物の有効用量中の腫瘍溶解性ウイルスの量と対象の体重との比は、1.30×106pfu/kg~1.70×106pfu/kgの範囲内であり得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与するステップは、注射によって組成物を対象に投与するステップを含み得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、注射によって組成物を対象に投与するステップは、腫瘍内または腫瘍付近の部位で組成物を対象に注射するステップを含み得る。
【0036】
本開示は、例示的な実施形態に関してさらに説明される。これらの例示的な実施形態は、図面を参照しながら詳細に説明される。これらの実施形態は、非限定的な例示的な実施形態である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスのベクタープラスミド構造を示す概略図である。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスの各断片の検証の電気泳動図である。
【
図3】本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト非小細胞肺癌細胞A549の概略図である。
【
図4】本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト肝癌細胞HepG2の概略図である。
【
図5】本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト乳癌細胞MCF-7の概略図である。
【
図6】本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト膵癌細胞SW1990の概略図である。
【
図7】本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト非小細胞肺癌細胞A549、ヒト肝癌細胞HepG2、ヒト乳癌細胞MCF-7およびヒト膵癌細胞SW1990の細胞生存率の概略図である。
【
図8】本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスによって免疫不全ヌードマウスを処置することによって構築された肺癌マウスモデルの概略図である。
【
図9】本開示のいくつかの実施形態による、異なる用量の組換え腫瘍溶解性ウイルスによって処置したCT26腹腔大腸癌マウスモデルの時間およびマウス生存率の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示の実施形態の技術的解決策を以下にさらに明確に説明し、実施形態の説明において構成される必要がある添付の図面を以下に簡単に説明する。明らかに、以下に説明する図面は、本開示のいくつかの例または実施形態にすぎない。当業者であれば、さらなる創造的な努力を伴わず、本開示をこれらの図面による他の同様の状況に適用することができる。文脈から明らかに得られるか、または文脈が他のことを示していない限り、図面内の同じ符号は同じ構造または動作を指す。
【0039】
本開示および特許請求の範囲に示されるように、文脈が例外を明確に示さない限り、「a」、「one」および/または「the」は特に単数形ではなく、複数形が含まれ得る。用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」ならびに/または「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」および/もしくは「含む(including)」は、本開示で使用される場合、明確に識別されたステップおよび要素の包含を示唆するにすぎず、これらのステップおよび要素は排他的リストを構成するものではなく、方法または装置は他のステップまたは要素も含み得ることがさらに理解される。
【0040】
本開示および特許請求の範囲に示されるように、文脈が例外を明確に示さない限り、用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」ならびに/または「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」および/もしくは「含む(including)」は、本開示で使用される場合、記載された要素を含むことを意味すると理解され得るが、1つ以上の他のステップおよびその要素の存在または追加を排除するものではない。
【0041】
以下は、本開示に使用されるいくつかの用語の定義である。
【0042】
本開示で使用される場合、「対象」(「個体」または「対象」とも呼ばれる)は、本開示の腫瘍溶解性ウイルスまたは組成物によって治療される個体であり得る。いくつかの実施形態では、対象は脊椎動物であり得る。脊椎動物には、魚(例えば、サメ)、両生類(例えば、カエル、ヒキガエル、オオサンショウウオ)、爬虫類(例えば、カメ、ヘビ、トカゲ)、鳥類(例えば、ダチョウ)、哺乳動物などが含まれ得る。いくつかの実施形態では、脊椎動物は哺乳動物であり得る。哺乳動物には、限定するものではないが、霊長類(ヒトおよび非ヒト霊長類を含む)および齧歯類(例えば、マウスおよびラット)が含まれ得る。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトであり得る。いくつかの実施形態では、対象は、癌を有し得、他の治療(例えば、化学療法)を受けたことがあり得るか、または治療を受けていない可能性がある。
【0043】
用語「治療する(treating)」(または「治療(treatment)」)は、対象の疾患(例えば、癌)を改善するかまたは治癒させることを指し得る。いくつかの実施形態では、治療には、癌の症状の重症度を緩和すること、遅延すること、緩和すること(例えば、腫瘍体積を減少させること)、癌の症状(例えば、疼痛)の頻度を減少させること、生存期間を延長すること、生存率を増加させること、癌細胞生存率を低下させること、癌細胞を殺滅することなどが含まれ得る。
【0044】
用語「有効用量」は、有用な事象をもたらすかまたは有害な好ましくない事象を減少させるのに十分な組成物の量(例えば、疾患を治療するのに十分な用量)を指し得る。本開示では、組成物は、腫瘍溶解性ウイルスを含み得る。組成物の有効用量中の腫瘍溶解性ウイルスの量は、限定するものではないが、治療の目的、対象の体重、性別、年齢および全般的な健康状態、投与経路、投与時間、ならびに治療される疾患の性質を含む様々な要因に依存し得る。
【0045】
用語「単純ヘルペスウイルス(HSV)」は、エンベロープウイルス、向神経性ウイルスおよび二本鎖DNAウイルスであり得る。例えば、ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)と単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)とに分類され得る。
【0046】
用語「免疫チェックポイント阻害剤」は、阻害性免疫チェックポイント分子を阻害または遮断する抗体を指し得る。免疫チェックポイントは、免疫系の調節因子および修飾因子であり得、その役割は、免疫系が細胞を無差別に攻撃するのを防ぐことであり、これは自己寛容に必須であり得る。
【0047】
本開示は、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスを提供し得る。腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス、例えば、HSV-1ウイルスまたはHSV-2ウイルスであり得る。組換え核酸は、可溶性プログラム死-1(sPD-1)分子をコードする第1の核酸断片と、CD86分子をコードする第2の核酸断片と、表面抗原分類3(CD3)分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片と、US11タンパク質をコードする第4の核酸断片とを含み得る。組換え核酸はまた、サイトカインをコードする核酸断片、腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし、癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片、抗血管新生因子をコードする核酸断片、マトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せを含み得る。
【0048】
本開示はまた、癌を治療するための組成物を提供し得る。組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含み得る。組成物によって治療され得る癌には、限定するものではないが、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌、骨肉腫が含まれ得る。
【0049】
本開示はまた、癌を治療するための薬物の調製における上述の腫瘍溶解性ウイルスの適用を提供し得る。具体的には、本開示はまた、肺癌を治療するための薬物の調製における上述の腫瘍溶解性ウイルスの適用を提供し得る。
【0050】
本開示は、癌を治療する方法をさらに提供し得る。方法は、上述の組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与するステップを含み得る。組成物は、注射などによって対象に注射され得る。例えば、組成物は、対象の腫瘍内または腫瘍付近の部位に注射され得る。いくつかの実施形態では、組成物は、他の薬物(例えば、抗癌剤)と組み合わせて対象に注射され得る。
【0051】
本開示に開示される腫瘍溶解性ウイルスおよびその組成物は、T細胞を活性化し得るタンパク質/抗体を発現し得、T細胞阻害を軽減し得るタンパク質/抗体を発現し得、それにより、身体の免疫能力を改善し、宿主の免疫クリアランスから逃れるウイルスの能力を増強し、身体内での生存時間を延長し、それによって、癌細胞を阻害および殺滅し、投与対象における癌細胞の生存率を効果的に低下させ、癌の症状を効果的に改善するかまたは遅延させ(腫瘍体積を減少させるなど)、対象の生存能力を改善し得る。
【0052】
本開示の一態様は、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルス(「組換え腫瘍溶解性ウイルス」とも呼ばれる)を提供し得る。
【0053】
ウイルスの様々な遺伝物質によれば、腫瘍溶解性ウイルスは、DNA型腫瘍溶解性ウイルスとRNA型腫瘍溶解性ウイルスとに分類され得る。例示的なDNA型腫瘍溶解性ウイルスには、限定するものではないが、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルスなどが含まれ得る。例示的なRNA様腫瘍溶解性ウイルスには、限定するものではないが、レオウイルス、ポリオウイルス、セレカバレーウイルスなどが含まれ得る。
【0054】
本開示のいくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、単純ヘルペスウイルス属に属するHSVであり得る。HSVには、HSV-1およびHSV-2が含まれ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、人工的に操作された腫瘍溶解性ウイルスであり得る。例えば、向神経性ICP34.5(またはγ-34.5)遺伝子をコードする腫瘍溶解性ウイルスを野生型HSV-1ウイルスから除去することにより、それをさらに神経毒性の低いものにしてもよく、すなわち、得られた腫瘍溶解性ウイルスは、非病原性/非神経毒性かつ腫瘍溶解性であり得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、HSV-1は、取り扱いが容易であり、その自然状態で比較的無害であるため、癌細胞を選択的に攻撃する腫瘍溶解性ウイルスとして使用され得る。癌細胞を阻害および殺滅し得る他の遺伝子断片を挿入するなど、腫瘍溶解性ウイルス(例えば、HSV-1)の遺伝子を改変することによって、癌細胞を標的とし癌細胞に感染する腫瘍溶解性ウイルスの能力、および/または癌細胞を殺滅する腫瘍溶解性ウイルスの能力が改善され得、その結果、腫瘍溶解性ウイルスはさらに良好な抗腫瘍治療効果を有し得る。
【0056】
組換え核酸は、1つ以上の外因性核酸断片を含み得る。外因性核酸断片には、限定するものではないが、免疫チェックポイント阻害剤をコードする核酸断片、共刺激分子をコードする核酸断片、エフェクター細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片、腫瘍溶解性ウイルスが宿主の免疫応答を回避するかもしくは宿主の免疫応答に抵抗するのを容易にする分子をコードする核酸断片、腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片、サイトカインをコードする核酸断片、抗血管新生因子をコードする核酸断片、マトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片、腫瘍過剰発現癌原遺伝子および代謝遺伝子を遮断もしくはダウンレギュレートするアンチセンスRNAもしくは小型RNA、プロドラッグ変換酵素など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤をコードする核酸断片には、限定するものではないが、可溶性PD-1分子をコードする核酸断片(すなわち、第1の核酸断片)、PD-1阻害剤をコードする核酸断片、PD-L2(またはB7-DC、CD273)阻害剤をコードする核酸断片、CTLA-4阻害剤をコードする核酸断片、LAG-3阻害剤をコードする核酸断片、TIM-3阻害剤をコードする核酸断片、ニューロピリン阻害剤をコードする核酸断片、CCR4阻害剤をコードする核酸断片、TIGIT(またはVsig9、Vstm3、WUCAM)阻害剤をコードする核酸断片、VISTA(またはDies1)阻害剤をコードする核酸断片など、またはそれらの組合せが含まれ得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、共刺激分子とは、そのコード化がT細胞の増殖を刺激し得るか、またはT細胞の機能を活性化するのを助け得る分子を指し得る。共刺激分子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、B7ファミリーをコードする核酸断片、CD27をコードする核酸断片、CD28をコードする核酸断片、CD70をコードする核酸断片、CD83をコードする核酸断片、CD134(またはOX-40)をコードする核酸断片、CD134L(またはOK-40L)をコードする核酸断片、CD137(または41BB)をコードする核酸断片、CD137L(または41BBL)をコードする核酸断片、CD224をコードする核酸断片、GITRをコードする核酸断片、ICOSをコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。いくつかの実施形態では、共刺激分子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、B7-1(またはCD80)をコードする核酸断片、B7-2(またはCD86)をコードする核酸断片、B7-H1(またはPD-L1、CD274)をコードする核酸断片、ICOS-L(またはCD275、B7-H2)をコードする核酸断片、B7-H3(またはCD276)をコードする核酸断片、B7-H4をコードする核酸断片、B7-DC(またはPD-L2、CD273)をコードする核酸断片、またはBT3.1(またはCD277)をコードする核酸断片を含むB7ファミリーをコードする核酸断片が含まれ得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、エフェクター細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片には、T細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片、およびB細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片、例えば、CD3分子に対する抗体をコードする核酸断片(すなわち、第3の核酸断片)、CD4分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD5分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD8分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD45RO分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD20分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD21分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD45RA分子に対する抗体をコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0060】
腫瘍溶解性ウイルスが宿主の免疫応答を回避するかまたは宿主の免疫応答に抵抗するのを容易にする分子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、US11をコードする核酸断片(すなわち、第4の核酸断片)、UL82をコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0061】
腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、CD86分子をコードする核酸断片などが含まれ得る。
【0062】
サイトカインをコードする核酸断片には、限定するものではないが、GM-CSFをコードする核酸断片、G-CSFをコードする核酸断片、M-CSFをコードする核酸断片、IL-1をコードする核酸断片、IL-2をコードする核酸断片、IL-3をコードする核酸断片、IL-4をコードする核酸断片、IL-5をコードする核酸断片、IL-6をコードする核酸断片、IL7をコードする核酸断片、IL-8をコードする核酸断片、IL-10をコードする核酸断片、IL-12をコードする核酸断片、IL-13をコードする核酸断片、IL-15をコードする核酸断片、IL-18をコードする核酸断片、IL-21をコードする核酸断片、IL-23をコードする核酸断片、IFN-αをコードする核酸断片、IFN-γをコードする核酸断片、TGF-βをコードする核酸断片、TNF-αをコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0063】
抗血管新生因子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、細胞型(例えば、内皮細胞(EC)、および循環内皮前駆細胞、周皮細胞、血管平滑筋細胞、ならびに幹細胞および実質細胞を含む間葉系細胞)を破壊する1つ以上の相互作用ポリペプチドをコードする核酸断片、分泌因子(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)またはアンジオゲニン)を破壊する1つ以上の相互作用ポリペプチドをコードする核酸断片など、またはそれらの組合せが含まれ得る。
【0064】
マトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片には、限定するものではないが、マトリックスメタロプロテイナーゼ1(MMP1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP2)、マトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP3)、マトリックスメタロプロテイナーゼ7(MMP7)、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ12(MMP12)が含まれ得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスの組換え核酸は、免疫チェックポイント阻害剤をコードする核酸断片と、共刺激分子をコードする核酸断片と、エフェクター細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片と、腫瘍溶解性ウイルスが宿主の免疫応答を回避するかまたは宿主の免疫応答に抵抗するのを容易にする分子をコードする核酸断片とを含み得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、CD86分子をコードする第2の核酸断片と、CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片とを含み得る。追加的または代替的に、組換え核酸は、US11タンパク質をコードする第4の核酸断片を含み得る。
【0067】
可溶性PD-1分子は、癌細胞によって発現されるリガンドPD-L1に競合的に結合し、それによってT細胞に対するPD-1およびPD-L1の阻害効果を放出し得るPD-1免疫抑制分子の細胞外領域であり得る。可溶性PD-1分子によって組み換えられた腫瘍溶解性ウイルスは、免疫応答を効果的に促進し得る。
【0068】
CD3分子は、T細胞の表面上の重要なマーカーであり得、5つのポリペプチド鎖、γ、δ、ε、ζおよびηからなる。CD3分子に対する抗体は、CD3分子を発現するT細胞を特異的に動員し得る。したがって、CD3分子に対する抗体を発現することができる遺伝子断片を腫瘍溶解性ウイルスの核酸に挿入することにより、T細胞の活性化および/または増殖が促進され、腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果が増強され得る。CD3分子に対する抗体をコードする例示的な核酸断片には、OKT3をコードする核酸断片、L2Kをコードする核酸断片、UCHT1をコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。いくつかの実施形態では、第3の核酸断片は、OKT3の核酸断片であり得る。
【0069】
通常、T細胞の活性化は2つのシグナルに依存し得、1つは、TCRによって認識され得る抗原性ペプチド-MHC複合体であり得る。第2のシグナルは、T細胞の活性化、増殖およびサイトカイン分泌に影響を及ぼし得る共刺激シグナルであり得る。B7ファミリーは、最も重要な共刺激分子であり得、その中でCD80およびCD86は相同であり、B7ファミリーの重要なメンバーであり得る。腫瘍溶解性ウイルス内でOKT3を発現する核酸断片は、T細胞の特異的動員に使用され得る。CD86を発現する核酸断片は、T細胞をさらに活性化し、T細胞が増殖および分化することを可能にし得る。いくつかの実施形態では、第2の核酸断片はまた、CD80の核酸断片であり得る。
【0070】
US11タンパク質は、内因性パターン認識受容体RIG-IおよびMDA-5と相互作用し、RIG-IおよびMDA-5とアダプタータンパク質MAVSとの相互作用を妨害し、それによって、RLR媒介先天免疫下流シグナル伝達経路IRF3の活性化を阻害し、βインターフェロンの生成を防止し得る。US11タンパク質をコードする核酸断片(すなわち、第4の核酸断片)を加えることは、腫瘍溶解性ウイルスが宿主の自然免疫防御を回避し、体内での腫瘍溶解性ウイルスの保持時間を延長する能力を増強するために使用され得る。いくつかの実施形態では、第4の核酸断片には、組換え核酸に挿入された外因性核酸断片が含まれ得る。例えば、外因性核酸断片は、外因性US11タンパク質(例えば、ヒトまたは動物)をコードする核酸断片であり得る。いくつかの実施形態では、第4の核酸断片には、組換え核酸に挿入された非外因性核酸断片、例えば、腫瘍溶解性ウイルスのUS11タンパク質をコードする核酸断片が含まれ得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、第1の核酸断片と配列番号1に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。いくつかの実施形態では、第2の核酸断片と配列番号2に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。いくつかの実施形態では、第3の核酸断片と配列番号3に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。いくつかの実施形態では、第4の核酸断片と配列番号4に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスの組換え核酸と配列番号5に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。
【0072】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、そのコード化が組換え腫瘍溶解性ウイルスをスクリーニングするために使用される第5の核酸断片、例えば、増強された黄色蛍光タンパク質(EYFP)をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、第1の核酸断片、第2の核酸断片、第3の核酸断片、第4の核酸断片および第5の核酸断片のうちの1つ以上は、1つ以上の発現制御配列に連結され得る。1つ以上の発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、ポリヌクレオチド(例えば、ターミネーター)など、またはそれらの組合せを含み得る。例示的なプロモーターには、SV40プロモーター、CMVプロモーター、MSVプロモーター、EF1プロモーター、MMLVプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーターなどが含まれ得る。例示的なエンハンサーには、SV40エンハンサー、CMVエンハンサーなどが含まれ得る。ターミネーターには、SV40 PolyA、TK PolyA、BGH PolyAなどが含まれ得る。例えば、第1の核酸断片は、プロモーターに作動可能に連結されてもよい。別の例として、第5の核酸断片は、CMVプロモーター、CMVエンハンサーまたはBGH PolyAに作動可能に連結されてもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、各外因性核酸断片は、本開示では限定されなくてもよい、上述の組換え核酸を得るための当技術分野における1つ以上の一般的な方法によって腫瘍溶解性ウイルスの核酸に挿入されてもよい。例えば、1つ以上の外因性核酸断片は、リガーゼ、融合ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術など、またはそれらの組合せを使用してベクターに挿入され得る。例えば、リガーゼは、消化されたベクターと挿入される遺伝子断片とをライゲーションするために連続的に使用され得る。別の例として、融合PCRを使用して、様々な断片を連続的に連結し、次いで、ベクターと融合してもよい。ほんの一例として、第1および第2のベクター(プラスミドなど)が構築されてもよく、複数の遺伝子断片(例えば、3つの遺伝子断片)が、リガーゼを使用して第1のベクターに連続的に接続されてもよく、他の遺伝子断片が、リガーゼを使用して第2のベクターに連続的に接続されてもよく、PCRを使用して、第1のベクターに接続されるように、一緒に接続された残りの遺伝子断片を得てもよい。いくつかの実施形態では、ベクターは、野生型腫瘍溶解性ウイルスの核酸であり得る。例えば、ベクターは、野生型HSV-1ウイルスの核酸であり得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、1つ以上のコード遺伝子(例えば、ICP34.5)が欠失している、腫瘍溶解性ウイルスの核酸であり得る。
【0074】
本開示は、組換え核酸内の各核酸断片の配列を限定するものではないことに留意されたい。いくつかの実施形態では、第1、第2、第3および第4の核酸断片は、腫瘍溶解性ウイルスの核酸の異なる部位にそれぞれ挿入され得る。いくつかの実施形態では、第1、第2、第3および第4の核酸断片のうちの1つ以上は、腫瘍溶解性ウイルスの核酸の同じ部位に挿入され得る。いくつかの実施形態では、上述の核酸断片の挿入部位は、腫瘍溶解性ウイルスの核酸のコード領域内の任意の好適な部位であり得る。例えば、上述の核酸断片の挿入部位は、HSV-1ウイルスでは1つ以上のコード遺伝子(例えば、ICP34.5)が欠失している位置であってよい。いくつかの実施形態では、外因性核酸断片は、腫瘍溶解性ウイルスの核酸内の同じ部位または異なる部位に連続的に挿入され得る。組換え核酸内の外因性核酸断片の配列は任意であり得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスの組換え核酸内の核酸断片の配列(5’末端から3’末端)は、第4の核酸断片、第5の核酸断片、第1の核酸断片、第2の核酸断片および第3の核酸断片であり得る。
【0075】
本開示の一態様は、癌を治療するための組成物を提供し得る。組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含み得る。
【0076】
薬理学的に許容されるベクターには、コーティング層、カプセル、マイクロカプセル、ナノカプセルなど、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。ベクターは非毒性である必要があり、組成物中の重要な成分(例えば、上述の腫瘍溶解性ウイルス、腫瘍溶解性ウイルスによって発現される抗癌効果を促進する分子、例えば、可溶性PD-1分子)の活性に顕著に影響を及ぼし得ないことに留意されたい。いくつかの実施形態では、ベクターは、組成物中の重要な成分を保護し、負の条件下での重要な成分の不活性化または分解(例えば、酸化、強酸または強アルカリによって引き起こされる変性など)を低減または回避し得る。例えば、酵素、または胃液中の比較的低いpH値は、重要な成分を分解するかまたは不活性にする可能性がある。ベクターは、組成物中の重要な成分を保護することによって、医薬組成物の有効性を維持または増強するのに役立ち得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、ベクターを使用して、重要な成分(例えば、腫瘍溶解性ウイルス)の放出を制御してもよい。放出には、限定するものではないが、徐放、持続放出、標的放出などが含まれ得る。例えば、ベクターには、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、アルギネート、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、架橋デンプンなど、またはそれらの任意の組合せから作製されたヒドロゲルカプセル、マイクロカプセルまたはナノカプセルが含まれ得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容されるベクターには、分散媒(溶媒など)、コーティング、緩衝液、安定化製剤、等張剤、吸収遅延剤などが含まれ得る。例示的な薬理学的に許容されるベクターには、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルジョン(例えば、油/水エマルジョン)、様々なタイプの湿潤剤、滅菌溶液、ゲル、生体吸収性マトリックス材料、他の好適な材料など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、賦形剤には、限定するものではないが、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノール、ならびに薬学的に許容される塩、例えば、無機酸の塩(例えば、塩酸、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など)および有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩など)が含まれ得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、組成物が治療することができる癌には、限定するものではないが、脳神経膠腫、黒色腫、肝癌、肺癌、大腸癌、直腸癌、頭頸部腫瘍、乳癌、腎細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、胃癌、リンパ腫、膵癌、膀胱癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、肉腫(軟部組織肉腫および骨肉腫など)などが含まれ得る。
【0081】
組成物は、癌に罹患している対象、例えば、ヒトまたは動物に注射され得る。いくつかの実施形態では、組成物は、1つ以上の投与様式によって対象に注射され得る。1つ以上の投与様式には、限定するものではないが、経口投与、注射または局所投与が含まれ得る。経口投与に適した組成物の形態には、限定するものではないが、錠剤、リポソーム製剤、持続放出カプセル、微粒子、ミクロスフェアまたは任意の他の好適な形態が含まれ得る。注射に適した組成物の形態には、限定するものではないが、滅菌水性調製物、油性調製物などが含まれ得る。局所投与に適した組成物の形態には、限定するものではないが、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁液およびエマルジョンが含まれ得る。鼻腔投与を例にとると、組成物の形態には、エアロゾル、ミスト、粉末、溶液、懸濁液、ゲルなどが含まれ得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、組成物は、室温(約20°C)、4°C、-20°C、-80°Cなどが含まれ得る好適な温度で保存され得る。組成物はまた、粉末など、保存および輸送に便利な様々な形態で調製され得る。粉末は滅菌粉末であってよく、使用前に溶媒を滅菌粉末に加え、均一に混合して、経口投与、注射または局所投与用の溶液を調製してもよい。いくつかの実施形態では、組成物はまた、抗細菌効果を有するが、腫瘍溶解性ウイルスの生存に顕著に悪影響を及ぼさず、組成物を特定の保存条件下(冷蔵および冷凍など)で安定にし、微生物(細菌および真菌など)の汚染を防止する成分を含み得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、培養環境内で癌細胞に作用する腫瘍溶解性ウイルスの感染多重度は、0.1、0.2、0.5、0.8、1.0、1.5、2.0、2.5などであり得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも30%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも50%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも70%を48時間以内に死滅させ得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト肝癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも60%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト肝癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも70%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト肝癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも80%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト肝癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも90%を48時間以内に死滅させ得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト乳癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも30%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト乳癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも40%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト乳癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも60%を48時間以内に死滅させ得る。
【0087】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト膵癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも20%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト膵癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも30%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト膵癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも40%を48時間以内に死滅させ得る。
【0088】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に0.1の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の約50%、40%、60%または40%を48時間以内に死滅させ得る。
【0089】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に1の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも70%、80%、60%または40%を48時間以内に死滅させ得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが注射によって対象に注射されると、腫瘍体積が減少し得るか、またはさらには腫瘍が排除され得る。例えば、腫瘍溶解性ウイルスが8×106pfuの用量での1回の注射、または8×106pfuの用量での3回の注射によってヒト非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、それぞれ100日以内に腫瘍体積の少なくとも60%または80%の減少を引き起こし得る。
【0091】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが注射によって対象に注射されると、対象の生存期間が延長され得、および/または対象の生存率が改善され得る。腫瘍溶解性ウイルスが少なくとも1×106pfuの用量で3回の注射によって大腸癌に罹患している対象に注射されると、対象の生存期間が延長され得、例えば、対象の生存率が、腫瘍溶解性ウイルスの注射の111日以内に90%に達し得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが少なくとも1×107pfuの用量で3回の注射によって大腸癌に罹患している対象に注射されると、対象の生存期間が延長され得、例えば、対象の生存率が、腫瘍溶解性ウイルスの注射の111日以内に40%に達し得る。
【0092】
本開示の一態様は、癌を治療するための薬物の調製における腫瘍溶解性ウイルスの適用を提供し得る。腫瘍溶解性ウイルスは、癌に罹患している対象、例えば、哺乳動物を治療するために使用され得る。
【0093】
例示的な癌には、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌または骨肉腫が含まれ得る。いくつかの実施形態では、癌には、肺癌、肝癌、乳癌または膵癌が含まれ得る。
【0094】
本開示の一態様は、癌を治療する方法を提供し得る。方法は、上述の組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与するステップを含み得る。対象は、哺乳動物、例えば、ヒトであり得る。
【0095】
いくつかの実施形態では、組成物の有効用量は、癌を有する対象に注射され得る。例えば、有効用量は、治療される対象の特徴、投与経路、および/または癌の特徴(例えば、癌の種類、癌の進行など)に基づいて決定され得る。具体的には、対象の特徴には、限定するものではないが、年齢、性別、身長、体重、健康状態などが含まれ得る。したがって、本開示の実施形態で説明される有効用量は例示的なものであり、特定の状況に応じて当業者によって変更され得る。例えば、組成物中の腫瘍溶解性ウイルスの量と対象の体重との比は、0.5×106pfu/kg~2.5×106pfu/kg、0.70×106pfu/kg~2.3×106pfu/kg、1×106pfu/kg~2×106pfu/kg、1.30×106pfu/kg~1.70×106pfu/kg、1.36×106pfu/kg~1.67×106pfu/kg、1.40×106pfu/kg~1.60×106pfu/kgなどの範囲であり得る。
【0096】
いくつかの実施形態では、組成物は、様々な投与様式によって対象に注射され得る。投与様式には、限定するものではないが、経口投与、注射または局所投与が含まれ得る。いくつかの実施形態では、組成物は、注射によって対象に注射され得る。例示的な注射様式には、腹腔内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射などが含まれ得る。いくつかの実施形態では、組成物は、対象の腫瘍内または腫瘍付近の部位に注射され得る。いくつかの実施形態では、組成物は、対象の組織または器官、例えば、腎臓、肝臓、心臓、甲状腺または関節に注射され得る。いくつかの実施形態では、局所投与には、例えば、皮膚癌、リンパ腫などの癌を緩和するために組成物を皮膚に投与することが含まれ得る。いくつかの実施形態では、局所投与には、膣内投与、直腸投与、経鼻投与、耳介投与、髄内投与、関節内投与、胸膜内投与など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。いくつかの実施形態では、組成物は、異なる投与様式の組合せによって対象に注射され得る。いくつかの実施形態では、方法は、対象に1日3回、1日2回、1日1回、1日おきなどに投与することを含み得る。
【0097】
本開示の組成物は、癌の治療に使用される他の医薬組成物の投与前または投与後に使用され得る。場合により、本開示に開示される組成物は、対象の癌を治療するために他の治療様式と組み合わされてもよい。例えば、他の治療様式には、限定するものではないが、対象の癌を治療し得る他の医薬組成物の投与、手術による対象の腫瘍の切除、放射線療法などが含まれ得る。具体的には、癌を治療するために使用され得る医薬組成物には、限定するものではないが、細胞傷害性抗癌剤および非細胞傷害性抗癌剤が含まれ得る。非細胞傷害性抗癌剤には、ホルモン薬(例えば、タモキシフェン、エキセメスタン)、標的化薬(例えば、ベバシズマブ)および免疫療法薬(例えば、モノクローナル抗体、腫瘍ワクチン)などが含まれ得る。
【0098】
以下の実施形態における実験方法は、特に指定されない限り、従来の方法である。以下の実施形態で使用される実験材料は、特に指定されない限り、従来の生化学試薬会社から購入した。
【0099】
実施形態1:組換え腫瘍溶解性ウイルス(すなわち、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルス)株のベクターの構築。
1.1 US11タンパク質をコードする遺伝子断片、BGH Poly A断片、EYFP遺伝子断片、CMVプロモーター、CMVエンハンサーおよび可溶性PD-1遺伝子断片をHSV-1ウイルスベクターに挿入することによって組換えウイルスベクターR1を得る。
【0100】
1.2 構築されたウイルスベクターR1をHind IIIおよびKpn Iによって消化することによって線状化ウイルスベクターR1を得る。
【0101】
1.3 アガロースゲル電気泳動を使用して、消化されたウイルスベクターR1の長さを検証し、回収キットを使用して線状化ウイルスベクターR1を回収する。
【0102】
1.4 CD86分子およびOKT3分子(すなわち、CD3分子に対する抗体)をコードする遺伝子断片を別のHSV-1ウイルスベクターに挿入することによって組換えウイルスベクターR2を得る。
【0103】
1.5 構築されたウイルスベクターR2をHind IIIおよびKpn Iによって消化することによって、CD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片を得る。
【0104】
1.6 アガロースゲル電気泳動を使用して、消化後にCD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片の長さを検証し、回収キットを使用して、CD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片を回収する。
【0105】
1.7 リガーゼを使用して、精製された線状化ウイルスベクターR1と、CD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片とを接続することによって、組換えウイルスベクターR130を得る。
【0106】
1.8 Hind IIIおよびKpn Iを使用してウイルスベクターR130を消化し、CD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片が線状化ウイルスベクターR1に接続されているかどうかを検証し、ウイルスベクターR130に対して配列決定検証を行う。
【0107】
図1は、本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスのベクタープラスミド構造を示す概略図である。各断片の接続配列および位置を
図1に示す。
【0108】
野生型HSV-1ウイルスおよびR130プラスミドを緑色サル腎臓細胞(ベロ細胞)に同時トランスフェクトし、採取後に細胞残屑を除去した。高速遠心分離および精製後に得られたウイルス懸濁液を混合ウイルス溶液として使用し、その後の使用のために-80°Cで保存した。ベロ細胞は、American Type Culture Collection(ATCC)から購入した。
【0109】
実施形態2:組換え腫瘍溶解性ウイルス株のスクリーニング:
2.1 約4×105個の緑色サル腎臓細胞(ベロ細胞)を6ウェルプレートのウェルに移植する。
【0110】
2.2 24時間後、ベロ細胞の培養培地を吸引除去し、1mlの予熱した無血清DMEMによって1回すすぎ、次いで、680ulの予熱した無血清DMEM培地を加える。
【0111】
2.3 混合ウイルス溶液を-80°Cから取り出し、4°Cの冷蔵庫内で溶解する。
【0112】
2.4 混合ウイルス溶液を5ul、10ulおよび20ulの3つの勾配に分割し、各勾配を2回繰り返す。
【0113】
2.5 3つの勾配の混合ウイルス溶液を6ウェルプレートに接種し、ベロ細胞を培養し、ウェルを混合した後、数回前後に振盪し、6ウェルプレートを37°C、5%CO2細胞インキュベーターに1.5時間のウイルス吸着にわたって入れ、15分ごとに振盪する。
【0114】
2.6 前もって72°C、42°Cおよび37°Cの3つの温度で水浴を予熱し、72°Cの水浴中で2%アガロースゲルを溶解し(オートクレーブ)、37°Cの水浴中で4%FBSを含むDMEM培地を予熱し、42°Cの水浴中で培養細胞の数に従って調製した、1%低融点アガロースと2%FBSとを含むDMEM培地を予熱し、各6ウェルプレートは、1%アガロースゲルと2%FBSとを含む2mlのDMEM培地を必要とする。
【0115】
2.7 6ウェルプレート内のウイルス含有無血清培地を吸引除去し、1%アガロースゲルと2%FBSとを含む2mlのDMEM培地をウェルに穏やかに加える。
【0116】
2.8 6ウェルプレートをパラフィルムによって密封し、4°Cの冷蔵庫に入れて低融点アガロースを固化させ、10分後、通常の培養のために細胞培養インキュベーターに移す。
【0117】
2.9 緑色蛍光を有するプラークの外観を毎日確認し、緑色蛍光を有するプラークが十分に大きい場合、200ulの滅菌ピペットチップを使用してそれらを取り出し、200ulの無血清DMEM培地を含有する0.6ml滅菌遠心管にそれらを移し、選択された組換え腫瘍溶解性ウイルス株を計数し、組換え腫瘍溶解性ウイルス株を-80°Cで少なくとも15分間保存する。
【0118】
2.10 ピペットチップを使用して、保存された組換え腫瘍溶解性ウイルス株を混合し、それらを特定の割合に従って6ウェルプレート内のベロ細胞に再接種し、次の選択ラウンドのために上記のステップに続いて、形成されたプラークがいずれも緑色蛍光を含有する場合、増幅および保存するための良好なプラークを選択し、選択された組換え腫瘍溶解性ウイルス株を得る。
【0119】
実施形態3、組換え腫瘍溶解性ウイルス株の同定:
3.1 採取した培地、および増幅後に採取した細胞を10cmベロ細胞培養皿上で培養し、-80°Cで2~3回凍結および解凍を繰り返し、4°C、3500rpmで15分間遠心分離し、200μlの上清を採取する。
【0120】
3.2 200μlの上清を1.5mlの遠心管に移し、400μlの溶解物を加え、直ちにボルテックスして完全に混合する。
【0121】
3.3 室温で10分間放置し、5分ごとに振盪および混合する。
【0122】
3.4 450μlの無水エタノールを加え、直ちにボルテックスして完全に混合する。
【0123】
3.5 上記混合物を吸着カラムに加え、吸着カラムを収集チューブに入れ、13000rpmで30~60秒間遠心分離し、収集チューブ内の廃液を廃棄する。
【0124】
3.6 500μlのタンパク質除去溶液を加え、12000rpmで30秒間遠心分離し、廃液を廃棄する。
【0125】
3.7 500μlのすすぎ溶液を加え、12000rpmで30秒間遠心分離し、廃液を廃棄し、500μlのすすぎ溶液を加え、1回繰り返す。
【0126】
3.8 吸着カラムを空の収集チューブに戻し、13,000rpmで2分間遠心分離し、すすぎ溶液中の残留エタノールが下流の反応を阻害しないように、可能な限りすすぎ溶液を除去する。
【0127】
3.9 吸着カラムを取り出し、RNaseフリーの遠心管に入れ、吸着膜の中途部に30~50μlのRNaseフリー水を加え、室温で1分間放置し、12000rpmで1分間遠心分離して、組換え腫瘍溶解性ウイルス株のゲノムを得る。
【0128】
3.10 外因性遺伝子断片を増幅するために挿入されたもののための4対のPCRプライマーを設計し、4つの増幅された外因性遺伝子断片をアガロースゲル電気泳動によって検証する。PCR増幅したDNA断片のアガロースゲル電気泳動結果を
図2に示す。
図2に示すように、単一のDNA断片が増幅され、断片サイズは正確であり、各外因性遺伝子断片が腫瘍溶解性ウイルス株に挿入されていることが示された。
【0129】
3.11 増幅された断片に対して次世代シーケンシング(NGS)検証を行い、snapgene生物学的ソフトウェアによって配列比較を行う。比較結果は100%であった。これにより、PCR増幅されたDNA断片が変異のない標的遺伝子配列であることが検証された。したがって、組換え核酸を含む組換えHSV-1ウイルスはHSV1-R130と呼ばれ、General Microbiology Center of the China Microbiological Culture Collection Management Committee(CGMCC)に寄託されている。保存日は2021年5月8日である。寄託センターの登録番号はCGMCC No.20319であり、寄託住所は、Institute of Microbiology,Chinese Academy of Sciences,No.3,No.1 Courtyard,Beichen West Road,Chaoyang District,Beijingである。
【0130】
実施形態4.組換え腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞に対して顕著な殺滅効果を有する:
4.1 適切な接種量に従って24時間かけて、ヒト非小細胞肺癌細胞A549、ヒト肝癌細胞HepG2、ヒト乳癌細胞MCF-7およびヒト膵癌細胞SW1990を12ウェルプレートに接種する。細胞は基本的に単層を覆っていた。
【0131】
4.2 24時間後、12ウェルプレート内の元の培養培地を吸引除去し、DPBSまたは無血清DMEMP培地によって2回洗浄し、次いで、300μlの無血清DMEM培地を加えた。
【0132】
4.3 組換え腫瘍溶解性ウイルスの原液を10倍および100倍に希釈する。
【0133】
4.4 初期細胞接種量およびウイルス力価に従って、ウェル当たりの加えたウイルス量を計算し、それらを以下の4つの群に分類する:対照群の感染多重度(MOI)は0、低用量群のMOIは0.1、中用量群のMOIは1.0、高用量群のMOIは2.0である。
【0134】
4.5 1時間のウイルス吸着後、2%FBSを含有するDMEM維持液に置き換えて培養を継続する。
【0135】
4.6 それぞれ24時間および48時間の時点で細胞を処理し、トリパンブルーによって細胞を染色し、生細胞の生存率を計測する。
【0136】
図3は、本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト非小細胞肺癌細胞A549の概略図である。
図4は、本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト肝癌細胞HepG2の概略図である。
図5は、本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト乳癌細胞MCF-7の概略図である。
図6は、本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト膵癌細胞SW1990の概略図である。
図3~6に示した4つの染色された癌細胞の生存率(または細胞生存率)を計算した。結果を
図7に示す。
図7は、本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト非小細胞肺癌細胞A549、ヒト肝癌細胞HepG2、ヒト乳癌細胞MCF-7およびヒト膵癌細胞SW1990の細胞生存率の概略図である。
【0137】
図7に示すように、ウイルスを加えていない対照群では、癌細胞A549、HepG2、MCF-7およびSW1990の4群を24時間および48時間培養し、細胞生存率はいずれも約100%であった。ウイルスを加えた実験群では、低用量(0.1のMOI)、中用量(1のMOI)および高用量(2のMOI)は、4つの癌細胞を効果的に殺滅することができた。ウイルス作用時間48時間の殺滅効果は、作用時間24時間の殺滅効果よりも有意に高かった。
【0138】
癌細胞A549およびMCF-7を組換え腫瘍溶解性ウイルスによって24時間処理した後、低用量群、中用量群および高用量群の細胞生存率は、約80%、50%および50%であった。処理時間を48時間まで延長すると、低用量群、中用量群および高用量群の細胞生存率は、約50%、38%および38%であった。組換え腫瘍溶解性ウイルスの作用時間を延長するか、または組換え腫瘍溶解性ウイルスの用量を増加させると、癌細胞A549およびMCF-7の死亡率が大幅に増加し、癌細胞A549およびMCF-7の生存能力が低下した。
【0139】
癌細胞HepG2を組換え腫瘍溶解性ウイルスによって24時間処理した後、中用量群および高用量群の細胞生存率は約80%および60%であった。処理時間を48時間まで延長すると、低用量群の細胞生存率は70%であり、中用量群および高用量群の細胞生存率はわずか20%および10%であった。これは、組換え腫瘍溶解性ウイルスの処理時間を延長すること、または組換え腫瘍溶解性ウイルスの用量を増加させることが、ヒト肝癌細胞HepG2の死亡率を大幅に増加させ、ヒト肝癌細胞HepG2の生存能力を低下させ得ることを示す。
【0140】
癌細胞SW1900を組換え腫瘍溶解性ウイルスによって24時間処理した後、低、中および高用量群の細胞生存率は、対照群の細胞生存率よりもわずかに低かった。48時間のウイルス作用後、効果は24時間よりも顕著であり、すなわち、細胞生存率は低かった。低用量群、中用量群および高用量群は、48時間以内にSW1900癌細胞を効果的に殺滅し得る。低用量群の細胞生存率は80%未満であった。中用量群と高用量群との間にはほとんど差がなく、細胞生存率は60%未満であった。上記の結果は、組換え腫瘍溶解性ウイルスが短期間(例えば、48時間)で癌細胞SW1900を急速に殺滅し得ること、および組換え腫瘍溶解性ウイルスの用量が高いほど、癌細胞の細胞生存率が低いことを示している。
【0141】
したがって、組換え腫瘍溶解性ウイルスは、A549、HepG2、MCF-7およびSW1990の4つの癌細胞を迅速かつ効果的に殺滅し得、肺癌、肝癌、乳癌および膵癌に対する明らかな阻害効果を有した。肝癌に対する阻害効果が最も効果的であった。ウイルス作用時間を延長するか、またはウイルス用量を増加させると、癌細胞の細胞生存率が大幅に低下した。
【0142】
実施形態5.組換え腫瘍溶解性ウイルスは、非小細胞肺癌に罹患している免疫不全ヌードマウスに対して明らかな治癒効果を有する:
R130の有効性を試験するために、非小細胞肺癌細胞A549を免疫適格性マウスに腹腔内注射して、非小細胞肺癌マウスモデルを構築した。非小細胞肺癌に罹患したマウスの腹膜腔に、R130ウイルス溶液を注射した。100μLのPBS(pH7.4)緩衝液を直接注射した対照群CK、3回の連続注射のために3日ごとに8×106pfuの用量を注射した高用量群、および8×106pfuの用量を1回注射した低用量群の3つの群に実験を分類した。マウスの身体状態を連日観察し、マウスの体重を2日ごとにモニタリングした。ノギスを使用して腫瘍直径をモニタリングし、腫瘍体積を計算し、マウスが111日間の処置を生き延びた場合、安楽死させた。
【0143】
図8は、本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスによって免疫不全ヌードマウスを処置することによって構築された肺癌マウスモデルの概略図である。
図8に示すように、腫瘍溶解性ウイルスを8×10
6pfuの用量の1回の注射、または8×10
6pfuの用量の3回の注射によって非小細胞肺癌腫瘍に注射した場合、腫瘍体積の少なくとも60%または80%の減少を引き起こした。
【0144】
実施形態6.組換え腫瘍溶解性ウイルスは、大腸癌に罹患している免疫インタクトマウス(immune intact mice)に対して顕著な治癒効果を有する:
R130の有効性を試験するために、大腸癌細胞CT26を免疫インタクトマウスに腹腔内注射することによって、CT26大腸癌マウスモデルを確立した。大腸癌に罹患している免疫インタクトマウスの腹膜腔に、R130ウイルス溶液を注射した。100μLのPBS(pH7.4)緩衝液を直接注射した対照群CK、3回の連続注射のために3日ごとに1×107pfuの用量を注射した高用量群、および3回の連続注射のために3日ごとに1×106pfuの用量を注射した低用量群に試験を分類した。
【0145】
図9は、本開示のいくつかの実施形態による、異なる用量の組換え腫瘍溶解性ウイルスによって処置したCT26腹腔大腸癌マウスモデルの時間およびマウス生存率の概略図である。
図9に示すように、PBSを注射した対照群では、33日間の注射後、マウスの生存率は10%であり、90%のマウスが死亡したが、実験群における3×10
7pfuおよび3×10
6pfuのウイルス量を注射したマウスの生存率は、それぞれ100%および80%であった。111日間の実験の終了時に、ウイルス量が3×10
7pfuおよび3×10
6pfuの実験群のマウスは、依然として比較的高い生存率、すなわち、それぞれ90%および40%を有した。
【0146】
したがって、組換え腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍担持マウスの生存率を顕著に改善した。107pfuの用量で3回ウイルスを注射した後、腹部腫瘍を有するマウスの90%は長期間生存することができた。
【0147】
本開示に開示される組換え腫瘍溶解性ウイルスおよびその適用は、限定するものではないが、以下を含む有益な効果をもたらし得る:(1)組換え腫瘍溶解性ウイルス内の可溶性PD-1分子をコードする核酸断片は、腫瘍溶解性ウイルスに対するT細胞の阻害効果を軽減または低減し、それによって、宿主の細胞内の腫瘍溶解性ウイルスの生存および増殖を増強し得る;(2)組換え腫瘍溶解性ウイルス内のCD3分子の抗体をコードする核酸断片は、T細胞の増殖および活性化を活性化し、免疫系の抗腫瘍効果を増強し得る;(3)組換え腫瘍溶解性ウイルス内のCD86分子をコードする核酸断片は、T細胞をさらに活性化し、T細胞が増殖および分化することを可能にし得る;ならびに(4)組換え腫瘍溶解性ウイルス内のUS11タンパク質をコードする核酸断片は、腫瘍溶解性ウイルスが宿主の自然免疫防御を回避する能力を増強し、体内での腫瘍溶解性ウイルスの滞留時間を延長し、それによって、癌細胞の標的感染および殺滅効果を増強し得る。
【0148】
異なる実施形態は、異なる有益な効果を有し得ることに留意されたい。異なる実施形態では、可能な有益な効果は、上記のいずれか1つもしくは組合せ、または任意の他の可能な有益な効果であり得る。
【0149】
上記の実施形態は、本開示を例示するためのものにすぎず、本開示を限定するものではないことを当業者は理解すべきである。本開示の趣旨および原理の範囲内で行われる修正、同等の置換、および変更は、本開示の保護範囲内に含まれるものとする。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-02-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスであって、前記組換え核酸が、
(i)可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、
(ii)CD86分子をコードする第2の核酸断片と、
(iii)CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片と、を含む腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項2】
前記第1の核酸断片と配列番号1に示される配列との間の類似性が、90%以上であ
り;前記第2の核酸断片と配列番号2に示される配列と間の類似性が、90%以上であり;または前記第3の核酸断片と配列番号3に示される配列との間の類似性が、90%以上である、請求項1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項3】
前記組換え核酸が、
(iv)US11タンパク質をコードする第4の核酸断片をさらに含
み、前記第4の核酸断片と配列番号4に示される配列との間の類似性が、90%以上である、請求項
1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項4】
単純ヘルペスウイルス属に属する、請求項
1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項5】
前記腫瘍溶解性ウイルスがHSV-1ウイルスであり、前記組換え核酸と配列番号5に示される配列との間の類似性が80%以上であ
り;または前記腫瘍溶解性ウイルスがHSV-2ウイルスであり、第4の核酸断片が、前記組換え核酸に挿入された外因性核酸断片を含む、請求項
4に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項6】
前記組換え
核酸が、サイトカインをコードする核酸断片、前記腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし、癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片、抗血管新生因子をコードする核酸断片、およびマトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片のうちの少なくとも1つを含む、請求項
1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項7】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に
1または2の感染多重度で作用すると、前記癌細胞の少なくとも70%、90%、60%または40%をそれぞれ48時間以内に死滅させる、請求項
1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項8】
前記腫瘍溶解性ウイルスが8×10
6pfuの用量で1回の注射によって非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、腫瘍体積の少なくとも60%が100日以内に減少するか
;前記腫瘍溶解性ウイルスが8×10
6pfuの前記用量で3回の注射によって前記非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、前記腫瘍体積の少なくとも80%が100日以内に減少する
か;または前記腫瘍溶解性ウイルスが少なくとも3×10
6
pfuの用量で大腸癌に罹患している対象に注射されると、前記対象の生存期間が延長される、請求項
1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルスと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含む、癌を治療するための組成物。
【請求項10】
前記癌が、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌
、大腸癌または骨肉腫を含む、請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性ウイルスと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含む、非小細胞肺癌または大腸癌を治療するための組成物。
【請求項12】
有効用量の前記組成
物中の前記腫瘍溶解性ウイルスの量
と対象の体重との比が、1×10
6pfu/kg~2×10
6pfu/kgの範囲内である、請求項
9に記載の
組成物。
【請求項13】
有効用量の前記組成
物中の前記腫瘍溶解性ウイルスの量
と対象の体重との比が、1.30×10
6pfu/kg~1.70×10
6pfu/kgの範囲内である、請求項
9に記載の
組成物。
【請求項14】
前記組成物
が、注射によって
腫瘍内または腫瘍付近の部位で対象に投与
される、請求項
13に記載の
組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、XML形式で電子的に提出され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる配列表を含む。2021年5月31日に作成されたXMLコピーは、「Sequence Listing-20699-0007WO00」と名付けられ、サイズが18,925バイトである。
【0002】
本開示は、バイオテクノロジーの分野に関し、特に、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスベクターおよびその適用に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、腫瘍溶解性ウイルスに代表されるウイルス薬は、腫瘍の治療ではますます重要な役割を果たしている。腫瘍溶解性ウイルスとは、癌細胞に効果的に感染し、癌細胞を破壊することができるウイルスのクラスを指す。腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞内で複製および増殖し、新しい感染性ウイルス粒子を放出して他の癌細胞に感染し、他の癌細胞を破壊する。腫瘍溶解性ウイルスはまた、癌細胞に作用して腫瘍微小環境に影響を及ぼし、宿主を刺激して抗腫瘍免疫応答をもたらすかまたは腫瘍を直接溶解するタンパク質を産生する。腫瘍溶解性ウイルスの特性のために、そのような治療は通常全身投与されるかまたは局所投与されて、原発性腫瘍および転移性腫瘍を治療する。癌細胞が腫瘍溶解性ウイルスの感染下で破裂し、死滅すると、新たに生成されたウイルス粒子が放出され、周囲の癌細胞にさらに感染する。腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞を直接殺滅するだけでなく、身体の免疫応答を刺激し、抗腫瘍効果を増強する。腫瘍溶解性ウイルスは、単独で使用されることに加えて、他の抗癌剤と組み合わせて投与される。さらに、腫瘍溶解性ウイルスはまた、癌の治療に有益な外来遺伝子によって組み換えられ得る。このように、一方では、そのようなウイルスは、腫瘍溶解性タンパク質を介して腫瘍溶解効果を発揮することができ、他方では、他の薬物の抗癌効果も得ることができる。したがって、癌に対してさらに良好な治療結果を達成するために、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一態様は、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスを提供し得る。組換え核酸は、(i)可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、(ii)CD86分子をコードする第2の核酸断片と、(iii)CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片とを含み得る。
【0005】
いくつかの実施形態では、第1の核酸断片と配列番号1に示される配列との間の類似性は、90%以上であり得;第2の核酸断片と配列番号2に示される配列と間の類似性は、90%以上であり;第3の核酸断片と配列番号3に示される配列との間の類似性は、90%以上である。
【0006】
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、(iv)US11タンパク質をコードする第4の核酸断片をさらに含み得、第4の核酸断片と配列番号4に示される配列との間の類似性は、90%以上であり得る。
【0007】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス属に属し得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスはHSV-1ウイルスであり得、組換え核酸と配列番号5に示される配列との間の類似性は80%以上であり得;腫瘍溶解性ウイルスはHSV-2ウイルスであり、第4の核酸断片は、組換え核酸に挿入された外因性核酸断片を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、サイトカインをコードする核酸断片、腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし、癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片、抗血管新生因子をコードする核酸断片、およびマトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に1または2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも70%、90%、60%または40%をそれぞれ48時間以内に死滅させ得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが8×106pfuの用量で1回の注射によって非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、腫瘍体積の少なくとも60%が100日以内に減少し得るか;腫瘍溶解性ウイルスが8×106pfuの用量で3回の注射によって非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、腫瘍体積の少なくとも80%が100日以内に減少し得るか;または腫瘍溶解性ウイルスが少なくとも3×10
6
pfuの用量で大腸癌に罹患している対象に注射されると、対象の生存期間が延長される。
【0012】
本開示の一態様は、癌を治療するための組成物および適用を提供し得る。組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含み得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、癌には、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌、大腸癌または骨肉腫が含まれ得る。
【0014】
本開示の一態様は、非小細胞肺癌または大腸癌を治療するための組成物および適用を提供し得る。組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含み得る。
【0015】
本開示の一態様は、癌を治療する方法を提供し得る。方法は、上述の組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与するステップを含み得、対象は哺乳動物である。
【0016】
いくつかの実施形態では、組成物の有効用量中の腫瘍溶解性ウイルスの量と対象の体重との比は、1×106pfu/kg~2×106pfu/kgの範囲内であり得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、組成物の有効用量中の腫瘍溶解性ウイルスの量と対象の体重との比は、1.30×106pfu/kg~1.70×106pfu/kgの範囲内であり得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与するステップは、注射によって腫瘍内または腫瘍付近の部位で組成物を対象に投与するステップを含み得る。
【0019】
本開示は、例示的な実施形態に関してさらに説明される。これらの例示的な実施形態は、図面を参照しながら詳細に説明される。これらの実施形態は、非限定的な例示的な実施形態である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスのベクタープラスミド構造を示す概略図である。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスの各断片の検証の電気泳動図である。
【
図3】本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト非小細胞肺癌細胞A549の概略図である。
【
図4】本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト肝癌細胞HepG2の概略図である。
【
図5】本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト乳癌細胞MCF-7の概略図である。
【
図6】本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト膵癌細胞SW1990の概略図である。
【
図7】本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト非小細胞肺癌細胞A549、ヒト肝癌細胞HepG2、ヒト乳癌細胞MCF-7およびヒト膵癌細胞SW1990の細胞生存率の概略図である。
【
図8】本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスによって免疫不全ヌードマウスを処置することによって構築された肺癌マウスモデルの概略図である。
【
図9】本開示のいくつかの実施形態による、異なる用量の組換え腫瘍溶解性ウイルスによって処置したCT26腹腔大腸癌マウスモデルの時間およびマウス生存率の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の実施形態の技術的解決策を以下にさらに明確に説明し、実施形態の説明において構成される必要がある添付の図面を以下に簡単に説明する。明らかに、以下に説明する図面は、本開示のいくつかの例または実施形態にすぎない。当業者であれば、さらなる創造的な努力を伴わず、本開示をこれらの図面による他の同様の状況に適用することができる。文脈から明らかに得られるか、または文脈が他のことを示していない限り、図面内の同じ符号は同じ構造または動作を指す。
【0022】
本開示および特許請求の範囲に示されるように、文脈が例外を明確に示さない限り、「a」、「one」および/または「the」は特に単数形ではなく、複数形が含まれ得る。用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」ならびに/または「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」および/もしくは「含む(including)」は、本開示で使用される場合、明確に識別されたステップおよび要素の包含を示唆するにすぎず、これらのステップおよび要素は排他的リストを構成するものではなく、方法または装置は他のステップまたは要素も含み得ることがさらに理解される。
【0023】
本開示および特許請求の範囲に示されるように、文脈が例外を明確に示さない限り、用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」ならびに/または「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」および/もしくは「含む(including)」は、本開示で使用される場合、記載された要素を含むことを意味すると理解され得るが、1つ以上の他のステップおよびその要素の存在または追加を排除するものではない。
【0024】
以下は、本開示に使用されるいくつかの用語の定義である。
【0025】
本開示で使用される場合、「対象」(「個体」または「対象」とも呼ばれる)は、本開示の腫瘍溶解性ウイルスまたは組成物によって治療される個体であり得る。いくつかの実施形態では、対象は脊椎動物であり得る。脊椎動物には、魚(例えば、サメ)、両生類(例えば、カエル、ヒキガエル、オオサンショウウオ)、爬虫類(例えば、カメ、ヘビ、トカゲ)、鳥類(例えば、ダチョウ)、哺乳動物などが含まれ得る。いくつかの実施形態では、脊椎動物は哺乳動物であり得る。哺乳動物には、限定するものではないが、霊長類(ヒトおよび非ヒト霊長類を含む)および齧歯類(例えば、マウスおよびラット)が含まれ得る。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトであり得る。いくつかの実施形態では、対象は、癌を有し得、他の治療(例えば、化学療法)を受けたことがあり得るか、または治療を受けていない可能性がある。
【0026】
用語「治療する(treating)」(または「治療(treatment)」)は、対象の疾患(例えば、癌)を改善するかまたは治癒させることを指し得る。いくつかの実施形態では、治療には、癌の症状の重症度を緩和すること、遅延すること、緩和すること(例えば、腫瘍体積を減少させること)、癌の症状(例えば、疼痛)の頻度を減少させること、生存期間を延長すること、生存率を増加させること、癌細胞生存率を低下させること、癌細胞を殺滅することなどが含まれ得る。
【0027】
用語「有効用量」は、有用な事象をもたらすかまたは有害な好ましくない事象を減少させるのに十分な組成物の量(例えば、疾患を治療するのに十分な用量)を指し得る。本開示では、組成物は、腫瘍溶解性ウイルスを含み得る。組成物の有効用量中の腫瘍溶解性ウイルスの量は、限定するものではないが、治療の目的、対象の体重、性別、年齢および全般的な健康状態、投与経路、投与時間、ならびに治療される疾患の性質を含む様々な要因に依存し得る。
【0028】
用語「単純ヘルペスウイルス(HSV)」は、エンベロープウイルス、向神経性ウイルスおよび二本鎖DNAウイルスであり得る。例えば、ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)と単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)とに分類され得る。
【0029】
用語「免疫チェックポイント阻害剤」は、阻害性免疫チェックポイント分子を阻害または遮断する抗体を指し得る。免疫チェックポイントは、免疫系の調節因子および修飾因子であり得、その役割は、免疫系が細胞を無差別に攻撃するのを防ぐことであり、これは自己寛容に必須であり得る。
【0030】
本開示は、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルスを提供し得る。腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス、例えば、HSV-1ウイルスまたはHSV-2ウイルスであり得る。組換え核酸は、可溶性プログラム死-1(sPD-1)分子をコードする第1の核酸断片と、CD86分子をコードする第2の核酸断片と、表面抗原分類3(CD3)分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片と、US11タンパク質をコードする第4の核酸断片とを含み得る。組換え核酸はまた、サイトカインをコードする核酸断片、腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし、癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片、抗血管新生因子をコードする核酸断片、マトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せを含み得る。
【0031】
本開示はまた、癌を治療するための組成物を提供し得る。組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含み得る。組成物によって治療され得る癌には、限定するものではないが、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌、骨肉腫が含まれ得る。
【0032】
本開示はまた、癌を治療するための薬物の調製における上述の腫瘍溶解性ウイルスの適用を提供し得る。具体的には、本開示はまた、肺癌を治療するための薬物の調製における上述の腫瘍溶解性ウイルスの適用を提供し得る。
【0033】
本開示は、癌を治療する方法をさらに提供し得る。方法は、上述の組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与するステップを含み得る。組成物は、注射などによって対象に注射され得る。例えば、組成物は、対象の腫瘍内または腫瘍付近の部位に注射され得る。いくつかの実施形態では、組成物は、他の薬物(例えば、抗癌剤)と組み合わせて対象に注射され得る。
【0034】
本開示に開示される腫瘍溶解性ウイルスおよびその組成物は、T細胞を活性化し得るタンパク質/抗体を発現し得、T細胞阻害を軽減し得るタンパク質/抗体を発現し得、それにより、身体の免疫能力を改善し、宿主の免疫クリアランスから逃れるウイルスの能力を増強し、身体内での生存時間を延長し、それによって、癌細胞を阻害および殺滅し、投与対象における癌細胞の生存率を効果的に低下させ、癌の症状を効果的に改善するかまたは遅延させ(腫瘍体積を減少させるなど)、対象の生存能力を改善し得る。
【0035】
本開示の一態様は、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルス(「組換え腫瘍溶解性ウイルス」とも呼ばれる)を提供し得る。
【0036】
ウイルスの様々な遺伝物質によれば、腫瘍溶解性ウイルスは、DNA型腫瘍溶解性ウイルスとRNA型腫瘍溶解性ウイルスとに分類され得る。例示的なDNA型腫瘍溶解性ウイルスには、限定するものではないが、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルスなどが含まれ得る。例示的なRNA様腫瘍溶解性ウイルスには、限定するものではないが、レオウイルス、ポリオウイルス、セレカバレーウイルスなどが含まれ得る。
【0037】
本開示のいくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、単純ヘルペスウイルス属に属するHSVであり得る。HSVには、HSV-1およびHSV-2が含まれ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、人工的に操作された腫瘍溶解性ウイルスであり得る。例えば、向神経性ICP34.5(またはγ-34.5)遺伝子をコードする腫瘍溶解性ウイルスを野生型HSV-1ウイルスから除去することにより、それをさらに神経毒性の低いものにしてもよく、すなわち、得られた腫瘍溶解性ウイルスは、非病原性/非神経毒性かつ腫瘍溶解性であり得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、HSV-1は、取り扱いが容易であり、その自然状態で比較的無害であるため、癌細胞を選択的に攻撃する腫瘍溶解性ウイルスとして使用され得る。癌細胞を阻害および殺滅し得る他の遺伝子断片を挿入するなど、腫瘍溶解性ウイルス(例えば、HSV-1)の遺伝子を改変することによって、癌細胞を標的とし癌細胞に感染する腫瘍溶解性ウイルスの能力、および/または癌細胞を殺滅する腫瘍溶解性ウイルスの能力が改善され得、その結果、腫瘍溶解性ウイルスはさらに良好な抗腫瘍治療効果を有し得る。
【0039】
組換え核酸は、1つ以上の外因性核酸断片を含み得る。外因性核酸断片には、限定するものではないが、免疫チェックポイント阻害剤をコードする核酸断片、共刺激分子をコードする核酸断片、エフェクター細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片、腫瘍溶解性ウイルスが宿主の免疫応答を回避するかもしくは宿主の免疫応答に抵抗するのを容易にする分子をコードする核酸断片、腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片、サイトカインをコードする核酸断片、抗血管新生因子をコードする核酸断片、マトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片、腫瘍過剰発現癌原遺伝子および代謝遺伝子を遮断もしくはダウンレギュレートするアンチセンスRNAもしくは小型RNA、プロドラッグ変換酵素など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤をコードする核酸断片には、限定するものではないが、可溶性PD-1分子をコードする核酸断片(すなわち、第1の核酸断片)、PD-1阻害剤をコードする核酸断片、PD-L2(またはB7-DC、CD273)阻害剤をコードする核酸断片、CTLA-4阻害剤をコードする核酸断片、LAG-3阻害剤をコードする核酸断片、TIM-3阻害剤をコードする核酸断片、ニューロピリン阻害剤をコードする核酸断片、CCR4阻害剤をコードする核酸断片、TIGIT(またはVsig9、Vstm3、WUCAM)阻害剤をコードする核酸断片、VISTA(またはDies1)阻害剤をコードする核酸断片など、またはそれらの組合せが含まれ得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、共刺激分子とは、そのコード化がT細胞の増殖を刺激し得るか、またはT細胞の機能を活性化するのを助け得る分子を指し得る。共刺激分子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、B7ファミリーをコードする核酸断片、CD27をコードする核酸断片、CD28をコードする核酸断片、CD70をコードする核酸断片、CD83をコードする核酸断片、CD134(またはOX-40)をコードする核酸断片、CD134L(またはOK-40L)をコードする核酸断片、CD137(または41BB)をコードする核酸断片、CD137L(または41BBL)をコードする核酸断片、CD224をコードする核酸断片、GITRをコードする核酸断片、ICOSをコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。いくつかの実施形態では、共刺激分子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、B7-1(またはCD80)をコードする核酸断片、B7-2(またはCD86)をコードする核酸断片、B7-H1(またはPD-L1、CD274)をコードする核酸断片、ICOS-L(またはCD275、B7-H2)をコードする核酸断片、B7-H3(またはCD276)をコードする核酸断片、B7-H4をコードする核酸断片、B7-DC(またはPD-L2、CD273)をコードする核酸断片、またはBT3.1(またはCD277)をコードする核酸断片を含むB7ファミリーをコードする核酸断片が含まれ得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、エフェクター細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片には、T細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片、およびB細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片、例えば、CD3分子に対する抗体をコードする核酸断片(すなわち、第3の核酸断片)、CD4分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD5分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD8分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD45RO分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD20分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD21分子に対する抗体をコードする核酸断片、CD45RA分子に対する抗体をコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0043】
腫瘍溶解性ウイルスが宿主の免疫応答を回避するかまたは宿主の免疫応答に抵抗するのを容易にする分子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、US11をコードする核酸断片(すなわち、第4の核酸断片)、UL82をコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0044】
腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞を標的とし癌細胞に感染するのを容易にする分子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、CD86分子をコードする核酸断片などが含まれ得る。
【0045】
サイトカインをコードする核酸断片には、限定するものではないが、GM-CSFをコードする核酸断片、G-CSFをコードする核酸断片、M-CSFをコードする核酸断片、IL-1をコードする核酸断片、IL-2をコードする核酸断片、IL-3をコードする核酸断片、IL-4をコードする核酸断片、IL-5をコードする核酸断片、IL-6をコードする核酸断片、IL7をコードする核酸断片、IL-8をコードする核酸断片、IL-10をコードする核酸断片、IL-12をコードする核酸断片、IL-13をコードする核酸断片、IL-15をコードする核酸断片、IL-18をコードする核酸断片、IL-21をコードする核酸断片、IL-23をコードする核酸断片、IFN-αをコードする核酸断片、IFN-γをコードする核酸断片、TGF-βをコードする核酸断片、TNF-αをコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0046】
抗血管新生因子をコードする核酸断片には、限定するものではないが、細胞型(例えば、内皮細胞(EC)、および循環内皮前駆細胞、周皮細胞、血管平滑筋細胞、ならびに幹細胞および実質細胞を含む間葉系細胞)を破壊する1つ以上の相互作用ポリペプチドをコードする核酸断片、分泌因子(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)またはアンジオゲニン)を破壊する1つ以上の相互作用ポリペプチドをコードする核酸断片など、またはそれらの組合せが含まれ得る。
【0047】
マトリックスメタロプロテイナーゼをコードする核酸断片には、限定するものではないが、マトリックスメタロプロテイナーゼ1(MMP1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP2)、マトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP3)、マトリックスメタロプロテイナーゼ7(MMP7)、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ12(MMP12)が含まれ得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスの組換え核酸は、免疫チェックポイント阻害剤をコードする核酸断片と、共刺激分子をコードする核酸断片と、エフェクター細胞の表面抗原に対する抗体をコードする核酸断片と、腫瘍溶解性ウイルスが宿主の免疫応答を回避するかまたは宿主の免疫応答に抵抗するのを容易にする分子をコードする核酸断片とを含み得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、可溶性PD-1分子をコードする第1の核酸断片と、CD86分子をコードする第2の核酸断片と、CD3分子に対する抗体をコードする第3の核酸断片とを含み得る。追加的または代替的に、組換え核酸は、US11タンパク質をコードする第4の核酸断片を含み得る。
【0050】
可溶性PD-1分子は、癌細胞によって発現されるリガンドPD-L1に競合的に結合し、それによってT細胞に対するPD-1およびPD-L1の阻害効果を放出し得るPD-1免疫抑制分子の細胞外領域であり得る。可溶性PD-1分子によって組み換えられた腫瘍溶解性ウイルスは、免疫応答を効果的に促進し得る。
【0051】
CD3分子は、T細胞の表面上の重要なマーカーであり得、5つのポリペプチド鎖、γ、δ、ε、ζおよびηからなる。CD3分子に対する抗体は、CD3分子を発現するT細胞を特異的に動員し得る。したがって、CD3分子に対する抗体を発現することができる遺伝子断片を腫瘍溶解性ウイルスの核酸に挿入することにより、T細胞の活性化および/または増殖が促進され、腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果が増強され得る。CD3分子に対する抗体をコードする例示的な核酸断片には、OKT3をコードする核酸断片、L2Kをコードする核酸断片、UCHT1をコードする核酸断片など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。いくつかの実施形態では、第3の核酸断片は、OKT3の核酸断片であり得る。
【0052】
通常、T細胞の活性化は2つのシグナルに依存し得、1つは、TCRによって認識され得る抗原性ペプチド-MHC複合体であり得る。第2のシグナルは、T細胞の活性化、増殖およびサイトカイン分泌に影響を及ぼし得る共刺激シグナルであり得る。B7ファミリーは、最も重要な共刺激分子であり得、その中でCD80およびCD86は相同であり、B7ファミリーの重要なメンバーであり得る。腫瘍溶解性ウイルス内でOKT3を発現する核酸断片は、T細胞の特異的動員に使用され得る。CD86を発現する核酸断片は、T細胞をさらに活性化し、T細胞が増殖および分化することを可能にし得る。いくつかの実施形態では、第2の核酸断片はまた、CD80の核酸断片であり得る。
【0053】
US11タンパク質は、内因性パターン認識受容体RIG-IおよびMDA-5と相互作用し、RIG-IおよびMDA-5とアダプタータンパク質MAVSとの相互作用を妨害し、それによって、RLR媒介先天免疫下流シグナル伝達経路IRF3の活性化を阻害し、βインターフェロンの生成を防止し得る。US11タンパク質をコードする核酸断片(すなわち、第4の核酸断片)を加えることは、腫瘍溶解性ウイルスが宿主の自然免疫防御を回避し、体内での腫瘍溶解性ウイルスの保持時間を延長する能力を増強するために使用され得る。いくつかの実施形態では、第4の核酸断片には、組換え核酸に挿入された外因性核酸断片が含まれ得る。例えば、外因性核酸断片は、外因性US11タンパク質(例えば、ヒトまたは動物)をコードする核酸断片であり得る。いくつかの実施形態では、第4の核酸断片には、組換え核酸に挿入された非外因性核酸断片、例えば、腫瘍溶解性ウイルスのUS11タンパク質をコードする核酸断片が含まれ得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、第1の核酸断片と配列番号1に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。いくつかの実施形態では、第2の核酸断片と配列番号2に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。いくつかの実施形態では、第3の核酸断片と配列番号3に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。いくつかの実施形態では、第4の核酸断片と配列番号4に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスの組換え核酸と配列番号5に示される配列との間の類似性は、95%、90%、85%、80%以上などであり得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、そのコード化が組換え腫瘍溶解性ウイルスをスクリーニングするために使用される第5の核酸断片、例えば、増強された黄色蛍光タンパク質(EYFP)をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、第1の核酸断片、第2の核酸断片、第3の核酸断片、第4の核酸断片および第5の核酸断片のうちの1つ以上は、1つ以上の発現制御配列に連結され得る。1つ以上の発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、ポリヌクレオチド(例えば、ターミネーター)など、またはそれらの組合せを含み得る。例示的なプロモーターには、SV40プロモーター、CMVプロモーター、MSVプロモーター、EF1プロモーター、MMLVプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーターなどが含まれ得る。例示的なエンハンサーには、SV40エンハンサー、CMVエンハンサーなどが含まれ得る。ターミネーターには、SV40 PolyA、TK PolyA、BGH PolyAなどが含まれ得る。例えば、第1の核酸断片は、プロモーターに作動可能に連結されてもよい。別の例として、第5の核酸断片は、CMVプロモーター、CMVエンハンサーまたはBGH PolyAに作動可能に連結されてもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、各外因性核酸断片は、本開示では限定されなくてもよい、上述の組換え核酸を得るための当技術分野における1つ以上の一般的な方法によって腫瘍溶解性ウイルスの核酸に挿入されてもよい。例えば、1つ以上の外因性核酸断片は、リガーゼ、融合ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術など、またはそれらの組合せを使用してベクターに挿入され得る。例えば、リガーゼは、消化されたベクターと挿入される遺伝子断片とをライゲーションするために連続的に使用され得る。別の例として、融合PCRを使用して、様々な断片を連続的に連結し、次いで、ベクターと融合してもよい。ほんの一例として、第1および第2のベクター(プラスミドなど)が構築されてもよく、複数の遺伝子断片(例えば、3つの遺伝子断片)が、リガーゼを使用して第1のベクターに連続的に接続されてもよく、他の遺伝子断片が、リガーゼを使用して第2のベクターに連続的に接続されてもよく、PCRを使用して、第1のベクターに接続されるように、一緒に接続された残りの遺伝子断片を得てもよい。いくつかの実施形態では、ベクターは、野生型腫瘍溶解性ウイルスの核酸であり得る。例えば、ベクターは、野生型HSV-1ウイルスの核酸であり得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、1つ以上のコード遺伝子(例えば、ICP34.5)が欠失している、腫瘍溶解性ウイルスの核酸であり得る。
【0057】
本開示は、組換え核酸内の各核酸断片の配列を限定するものではないことに留意されたい。いくつかの実施形態では、第1、第2、第3および第4の核酸断片は、腫瘍溶解性ウイルスの核酸の異なる部位にそれぞれ挿入され得る。いくつかの実施形態では、第1、第2、第3および第4の核酸断片のうちの1つ以上は、腫瘍溶解性ウイルスの核酸の同じ部位に挿入され得る。いくつかの実施形態では、上述の核酸断片の挿入部位は、腫瘍溶解性ウイルスの核酸のコード領域内の任意の好適な部位であり得る。例えば、上述の核酸断片の挿入部位は、HSV-1ウイルスでは1つ以上のコード遺伝子(例えば、ICP34.5)が欠失している位置であってよい。いくつかの実施形態では、外因性核酸断片は、腫瘍溶解性ウイルスの核酸内の同じ部位または異なる部位に連続的に挿入され得る。組換え核酸内の外因性核酸断片の配列は任意であり得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスの組換え核酸内の核酸断片の配列(5’末端から3’末端)は、第4の核酸断片、第5の核酸断片、第1の核酸断片、第2の核酸断片および第3の核酸断片であり得る。
【0058】
本開示の一態様は、癌を治療するための組成物を提供し得る。組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルスのいずれか1つと、薬理学的に許容されるベクターまたは賦形剤とを含み得る。
【0059】
薬理学的に許容されるベクターには、コーティング層、カプセル、マイクロカプセル、ナノカプセルなど、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。ベクターは非毒性である必要があり、組成物中の重要な成分(例えば、上述の腫瘍溶解性ウイルス、腫瘍溶解性ウイルスによって発現される抗癌効果を促進する分子、例えば、可溶性PD-1分子)の活性に顕著に影響を及ぼし得ないことに留意されたい。いくつかの実施形態では、ベクターは、組成物中の重要な成分を保護し、負の条件下での重要な成分の不活性化または分解(例えば、酸化、強酸または強アルカリによって引き起こされる変性など)を低減または回避し得る。例えば、酵素、または胃液中の比較的低いpH値は、重要な成分を分解するかまたは不活性にする可能性がある。ベクターは、組成物中の重要な成分を保護することによって、医薬組成物の有効性を維持または増強するのに役立ち得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、ベクターを使用して、重要な成分(例えば、腫瘍溶解性ウイルス)の放出を制御してもよい。放出には、限定するものではないが、徐放、持続放出、標的放出などが含まれ得る。例えば、ベクターには、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、アルギネート、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、架橋デンプンなど、またはそれらの任意の組合せから作製されたヒドロゲルカプセル、マイクロカプセルまたはナノカプセルが含まれ得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容されるベクターには、分散媒(溶媒など)、コーティング、緩衝液、安定化製剤、等張剤、吸収遅延剤などが含まれ得る。例示的な薬理学的に許容されるベクターには、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルジョン(例えば、油/水エマルジョン)、様々なタイプの湿潤剤、滅菌溶液、ゲル、生体吸収性マトリックス材料、他の好適な材料など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、賦形剤には、限定するものではないが、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノール、ならびに薬学的に許容される塩、例えば、無機酸の塩(例えば、塩酸、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など)および有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩など)が含まれ得る。
【0063】
いくつかの実施形態では、組成物が治療することができる癌には、限定するものではないが、脳神経膠腫、黒色腫、肝癌、肺癌、大腸癌、直腸癌、頭頸部腫瘍、乳癌、腎細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、胃癌、リンパ腫、膵癌、膀胱癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、肉腫(軟部組織肉腫および骨肉腫など)などが含まれ得る。
【0064】
組成物は、癌に罹患している対象、例えば、ヒトまたは動物に注射され得る。いくつかの実施形態では、組成物は、1つ以上の投与様式によって対象に注射され得る。1つ以上の投与様式には、限定するものではないが、経口投与、注射または局所投与が含まれ得る。経口投与に適した組成物の形態には、限定するものではないが、錠剤、リポソーム製剤、持続放出カプセル、微粒子、ミクロスフェアまたは任意の他の好適な形態が含まれ得る。注射に適した組成物の形態には、限定するものではないが、滅菌水性調製物、油性調製物などが含まれ得る。局所投与に適した組成物の形態には、限定するものではないが、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁液およびエマルジョンが含まれ得る。鼻腔投与を例にとると、組成物の形態には、エアロゾル、ミスト、粉末、溶液、懸濁液、ゲルなどが含まれ得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、組成物は、室温(約20°C)、4°C、-20°C、-80°Cなどが含まれ得る好適な温度で保存され得る。組成物はまた、粉末など、保存および輸送に便利な様々な形態で調製され得る。粉末は滅菌粉末であってよく、使用前に溶媒を滅菌粉末に加え、均一に混合して、経口投与、注射または局所投与用の溶液を調製してもよい。いくつかの実施形態では、組成物はまた、抗細菌効果を有するが、腫瘍溶解性ウイルスの生存に顕著に悪影響を及ぼさず、組成物を特定の保存条件下(冷蔵および冷凍など)で安定にし、微生物(細菌および真菌など)の汚染を防止する成分を含み得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、培養環境内で癌細胞に作用する腫瘍溶解性ウイルスの感染多重度は、0.1、0.2、0.5、0.8、1.0、1.5、2.0、2.5などであり得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも30%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも50%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも70%を48時間以内に死滅させ得る。
【0068】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト肝癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも60%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト肝癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも70%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト肝癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも80%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト肝癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも90%を48時間以内に死滅させ得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト乳癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも30%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト乳癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも40%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト乳癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも60%を48時間以内に死滅させ得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト膵癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも20%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト膵癌細胞に2の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも30%を48時間以内に死滅させ得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが培養環境内でヒト膵癌細胞に2の感染多重度で作用すると、癌細胞の少なくとも40%を48時間以内に死滅させ得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に0.1の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の約50%、40%、60%または40%を48時間以内に死滅させ得る。
【0072】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが、培養環境内でヒト非小細胞肺癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト乳癌細胞またはヒト膵癌細胞に1の感染多重度で作用すると、それに対応して癌細胞の少なくとも70%、80%、60%または40%を48時間以内に死滅させ得る。
【0073】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが注射によって対象に注射されると、腫瘍体積が減少し得るか、またはさらには腫瘍が排除され得る。例えば、腫瘍溶解性ウイルスが8×106pfuの用量での1回の注射、または8×106pfuの用量での3回の注射によってヒト非小細胞肺癌腫瘍に注射されると、それぞれ100日以内に腫瘍体積の少なくとも60%または80%の減少を引き起こし得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが注射によって対象に注射されると、対象の生存期間が延長され得、および/または対象の生存率が改善され得る。腫瘍溶解性ウイルスが少なくとも1×106pfuの用量で3回の注射によって大腸癌に罹患している対象に注射されると、対象の生存期間が延長され得、例えば、対象の生存率が、腫瘍溶解性ウイルスの注射の111日以内に90%に達し得る。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスが少なくとも1×107pfuの用量で3回の注射によって大腸癌に罹患している対象に注射されると、対象の生存期間が延長され得、例えば、対象の生存率が、腫瘍溶解性ウイルスの注射の111日以内に40%に達し得る。
【0075】
本開示の一態様は、癌を治療するための薬物の調製における腫瘍溶解性ウイルスの適用を提供し得る。腫瘍溶解性ウイルスは、癌に罹患している対象、例えば、哺乳動物を治療するために使用され得る。
【0076】
例示的な癌には、黒色腫、肺癌、白血病、胃癌、卵巣癌、膵癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、子宮頸癌または骨肉腫が含まれ得る。いくつかの実施形態では、癌には、肺癌、肝癌、乳癌または膵癌が含まれ得る。
【0077】
本開示の一態様は、癌を治療する方法を提供し得る。方法は、上述の組成物の有効用量を癌に罹患している対象に投与するステップを含み得る。対象は、哺乳動物、例えば、ヒトであり得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、組成物の有効用量は、癌を有する対象に注射され得る。例えば、有効用量は、治療される対象の特徴、投与経路、および/または癌の特徴(例えば、癌の種類、癌の進行など)に基づいて決定され得る。具体的には、対象の特徴には、限定するものではないが、年齢、性別、身長、体重、健康状態などが含まれ得る。したがって、本開示の実施形態で説明される有効用量は例示的なものであり、特定の状況に応じて当業者によって変更され得る。例えば、組成物中の腫瘍溶解性ウイルスの量と対象の体重との比は、0.5×106pfu/kg~2.5×106pfu/kg、0.70×106pfu/kg~2.3×106pfu/kg、1×106pfu/kg~2×106pfu/kg、1.30×106pfu/kg~1.70×106pfu/kg、1.36×106pfu/kg~1.67×106pfu/kg、1.40×106pfu/kg~1.60×106pfu/kgなどの範囲であり得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、組成物は、様々な投与様式によって対象に注射され得る。投与様式には、限定するものではないが、経口投与、注射または局所投与が含まれ得る。いくつかの実施形態では、組成物は、注射によって対象に注射され得る。例示的な注射様式には、腹腔内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射などが含まれ得る。いくつかの実施形態では、組成物は、対象の腫瘍内または腫瘍付近の部位に注射され得る。いくつかの実施形態では、組成物は、対象の組織または器官、例えば、腎臓、肝臓、心臓、甲状腺または関節に注射され得る。いくつかの実施形態では、局所投与には、例えば、皮膚癌、リンパ腫などの癌を緩和するために組成物を皮膚に投与することが含まれ得る。いくつかの実施形態では、局所投与には、膣内投与、直腸投与、経鼻投与、耳介投与、髄内投与、関節内投与、胸膜内投与など、またはそれらの任意の組合せが含まれ得る。いくつかの実施形態では、組成物は、異なる投与様式の組合せによって対象に注射され得る。いくつかの実施形態では、方法は、対象に1日3回、1日2回、1日1回、1日おきなどに投与することを含み得る。
【0080】
本開示の組成物は、癌の治療に使用される他の医薬組成物の投与前または投与後に使用され得る。場合により、本開示に開示される組成物は、対象の癌を治療するために他の治療様式と組み合わされてもよい。例えば、他の治療様式には、限定するものではないが、対象の癌を治療し得る他の医薬組成物の投与、手術による対象の腫瘍の切除、放射線療法などが含まれ得る。具体的には、癌を治療するために使用され得る医薬組成物には、限定するものではないが、細胞傷害性抗癌剤および非細胞傷害性抗癌剤が含まれ得る。非細胞傷害性抗癌剤には、ホルモン薬(例えば、タモキシフェン、エキセメスタン)、標的化薬(例えば、ベバシズマブ)および免疫療法薬(例えば、モノクローナル抗体、腫瘍ワクチン)などが含まれ得る。
【0081】
以下の実施形態における実験方法は、特に指定されない限り、従来の方法である。以下の実施形態で使用される実験材料は、特に指定されない限り、従来の生化学試薬会社から購入した。
【0082】
実施形態1:組換え腫瘍溶解性ウイルス(すなわち、組換え核酸を含む腫瘍溶解性ウイルス)株のベクターの構築。
1.1 US11タンパク質をコードする遺伝子断片、BGH Poly A断片、EYFP遺伝子断片、CMVプロモーター、CMVエンハンサーおよび可溶性PD-1遺伝子断片をHSV-1ウイルスベクターに挿入することによって組換えウイルスベクターR1を得る。
【0083】
1.2 構築されたウイルスベクターR1をHind IIIおよびKpn Iによって消化することによって線状化ウイルスベクターR1を得る。
【0084】
1.3 アガロースゲル電気泳動を使用して、消化されたウイルスベクターR1の長さを検証し、回収キットを使用して線状化ウイルスベクターR1を回収する。
【0085】
1.4 CD86分子およびOKT3分子(すなわち、CD3分子に対する抗体)をコードする遺伝子断片を別のHSV-1ウイルスベクターに挿入することによって組換えウイルスベクターR2を得る。
【0086】
1.5 構築されたウイルスベクターR2をHind IIIおよびKpn Iによって消化することによって、CD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片を得る。
【0087】
1.6 アガロースゲル電気泳動を使用して、消化後にCD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片の長さを検証し、回収キットを使用して、CD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片を回収する。
【0088】
1.7 リガーゼを使用して、精製された線状化ウイルスベクターR1と、CD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片とを接続することによって、組換えウイルスベクターR130を得る。
【0089】
1.8 Hind IIIおよびKpn Iを使用してウイルスベクターR130を消化し、CD86分子およびOKT3分子をコードする遺伝子断片が線状化ウイルスベクターR1に接続されているかどうかを検証し、ウイルスベクターR130に対して配列決定検証を行う。
【0090】
図1は、本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスのベクタープラスミド構造を示す概略図である。各断片の接続配列および位置を
図1に示す。
【0091】
野生型HSV-1ウイルスおよびR130プラスミドを緑色サル腎臓細胞(ベロ細胞)に同時トランスフェクトし、採取後に細胞残屑を除去した。高速遠心分離および精製後に得られたウイルス懸濁液を混合ウイルス溶液として使用し、その後の使用のために-80°Cで保存した。ベロ細胞は、American Type Culture Collection(ATCC)から購入した。
【0092】
実施形態2:組換え腫瘍溶解性ウイルス株のスクリーニング:
2.1 約4×105個の緑色サル腎臓細胞(ベロ細胞)を6ウェルプレートのウェルに移植する。
【0093】
2.2 24時間後、ベロ細胞の培養培地を吸引除去し、1mlの予熱した無血清DMEMによって1回すすぎ、次いで、680ulの予熱した無血清DMEM培地を加える。
【0094】
2.3 混合ウイルス溶液を-80°Cから取り出し、4°Cの冷蔵庫内で溶解する。
【0095】
2.4 混合ウイルス溶液を5ul、10ulおよび20ulの3つの勾配に分割し、各勾配を2回繰り返す。
【0096】
2.5 3つの勾配の混合ウイルス溶液を6ウェルプレートに接種し、ベロ細胞を培養し、ウェルを混合した後、数回前後に振盪し、6ウェルプレートを37°C、5%CO2細胞インキュベーターに1.5時間のウイルス吸着にわたって入れ、15分ごとに振盪する。
【0097】
2.6 前もって72°C、42°Cおよび37°Cの3つの温度で水浴を予熱し、72°Cの水浴中で2%アガロースゲルを溶解し(オートクレーブ)、37°Cの水浴中で4%FBSを含むDMEM培地を予熱し、42°Cの水浴中で培養細胞の数に従って調製した、1%低融点アガロースと2%FBSとを含むDMEM培地を予熱し、各6ウェルプレートは、1%アガロースゲルと2%FBSとを含む2mlのDMEM培地を必要とする。
【0098】
2.7 6ウェルプレート内のウイルス含有無血清培地を吸引除去し、1%アガロースゲルと2%FBSとを含む2mlのDMEM培地をウェルに穏やかに加える。
【0099】
2.8 6ウェルプレートをパラフィルムによって密封し、4°Cの冷蔵庫に入れて低融点アガロースを固化させ、10分後、通常の培養のために細胞培養インキュベーターに移す。
【0100】
2.9 緑色蛍光を有するプラークの外観を毎日確認し、緑色蛍光を有するプラークが十分に大きい場合、200ulの滅菌ピペットチップを使用してそれらを取り出し、200ulの無血清DMEM培地を含有する0.6ml滅菌遠心管にそれらを移し、選択された組換え腫瘍溶解性ウイルス株を計数し、組換え腫瘍溶解性ウイルス株を-80°Cで少なくとも15分間保存する。
【0101】
2.10 ピペットチップを使用して、保存された組換え腫瘍溶解性ウイルス株を混合し、それらを特定の割合に従って6ウェルプレート内のベロ細胞に再接種し、次の選択ラウンドのために上記のステップに続いて、形成されたプラークがいずれも緑色蛍光を含有する場合、増幅および保存するための良好なプラークを選択し、選択された組換え腫瘍溶解性ウイルス株を得る。
【0102】
実施形態3、組換え腫瘍溶解性ウイルス株の同定:
3.1 採取した培地、および増幅後に採取した細胞を10cmベロ細胞培養皿上で培養し、-80°Cで2~3回凍結および解凍を繰り返し、4°C、3500rpmで15分間遠心分離し、200μlの上清を採取する。
【0103】
3.2 200μlの上清を1.5mlの遠心管に移し、400μlの溶解物を加え、直ちにボルテックスして完全に混合する。
【0104】
3.3 室温で10分間放置し、5分ごとに振盪および混合する。
【0105】
3.4 450μlの無水エタノールを加え、直ちにボルテックスして完全に混合する。
【0106】
3.5 上記混合物を吸着カラムに加え、吸着カラムを収集チューブに入れ、13000rpmで30~60秒間遠心分離し、収集チューブ内の廃液を廃棄する。
【0107】
3.6 500μlのタンパク質除去溶液を加え、12000rpmで30秒間遠心分離し、廃液を廃棄する。
【0108】
3.7 500μlのすすぎ溶液を加え、12000rpmで30秒間遠心分離し、廃液を廃棄し、500μlのすすぎ溶液を加え、1回繰り返す。
【0109】
3.8 吸着カラムを空の収集チューブに戻し、13,000rpmで2分間遠心分離し、すすぎ溶液中の残留エタノールが下流の反応を阻害しないように、可能な限りすすぎ溶液を除去する。
【0110】
3.9 吸着カラムを取り出し、RNaseフリーの遠心管に入れ、吸着膜の中途部に30~50μlのRNaseフリー水を加え、室温で1分間放置し、12000rpmで1分間遠心分離して、組換え腫瘍溶解性ウイルス株のゲノムを得る。
【0111】
3.10 外因性遺伝子断片を増幅するために挿入されたもののための4対のPCRプライマーを設計し、4つの増幅された外因性遺伝子断片をアガロースゲル電気泳動によって検証する。PCR増幅したDNA断片のアガロースゲル電気泳動結果を
図2に示す。
図2に示すように、単一のDNA断片が増幅され、断片サイズは正確であり、各外因性遺伝子断片が腫瘍溶解性ウイルス株に挿入されていることが示された。
【0112】
3.11 増幅された断片に対して次世代シーケンシング(NGS)検証を行い、snapgene生物学的ソフトウェアによって配列比較を行う。比較結果は100%であった。これにより、PCR増幅されたDNA断片が変異のない標的遺伝子配列であることが検証された。したがって、組換え核酸を含む組換えHSV-1ウイルスはHSV1-R130と呼ばれ、General Microbiology Center of the China Microbiological Culture Collection Management Committee(CGMCC)に寄託されている。保存日は2021年5月8日である。寄託センターの登録番号はCGMCC No.20319であり、寄託住所は、Institute of Microbiology,Chinese Academy of Sciences,No.3,No.1 Courtyard,Beichen West Road,Chaoyang District,Beijingである。
【0113】
実施形態4.組換え腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞に対して顕著な殺滅効果を有する:
4.1 適切な接種量に従って24時間かけて、ヒト非小細胞肺癌細胞A549、ヒト肝癌細胞HepG2、ヒト乳癌細胞MCF-7およびヒト膵癌細胞SW1990を12ウェルプレートに接種する。細胞は基本的に単層を覆っていた。
【0114】
4.2 24時間後、12ウェルプレート内の元の培養培地を吸引除去し、DPBSまたは無血清DMEMP培地によって2回洗浄し、次いで、300μlの無血清DMEM培地を加えた。
【0115】
4.3 組換え腫瘍溶解性ウイルスの原液を10倍および100倍に希釈する。
【0116】
4.4 初期細胞接種量およびウイルス力価に従って、ウェル当たりの加えたウイルス量を計算し、それらを以下の4つの群に分類する:対照群の感染多重度(MOI)は0、低用量群のMOIは0.1、中用量群のMOIは1.0、高用量群のMOIは2.0である。
【0117】
4.5 1時間のウイルス吸着後、2%FBSを含有するDMEM維持液に置き換えて培養を継続する。
【0118】
4.6 それぞれ24時間および48時間の時点で細胞を処理し、トリパンブルーによって細胞を染色し、生細胞の生存率を計測する。
【0119】
図3は、本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト非小細胞肺癌細胞A549の概略図である。
図4は、本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト肝癌細胞HepG2の概略図である。
図5は、本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト乳癌細胞MCF-7の概略図である。
図6は、本開示のいくつかの実施形態による、染色後の、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト膵癌細胞SW1990の概略図である。
図3~6に示した4つの染色された癌細胞の生存率(または細胞生存率)を計算した。結果を
図7に示す。
図7は、本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスによってトランスフェクトされたヒト非小細胞肺癌細胞A549、ヒト肝癌細胞HepG2、ヒト乳癌細胞MCF-7およびヒト膵癌細胞SW1990の細胞生存率の概略図である。
【0120】
図7に示すように、ウイルスを加えていない対照群では、癌細胞A549、HepG2、MCF-7およびSW1990の4群を24時間および48時間培養し、細胞生存率はいずれも約100%であった。ウイルスを加えた実験群では、低用量(0.1のMOI)、中用量(1のMOI)および高用量(2のMOI)は、4つの癌細胞を効果的に殺滅することができた。ウイルス作用時間48時間の殺滅効果は、作用時間24時間の殺滅効果よりも有意に高かった。
【0121】
癌細胞A549およびMCF-7を組換え腫瘍溶解性ウイルスによって24時間処理した後、低用量群、中用量群および高用量群の細胞生存率は、約80%、50%および50%であった。処理時間を48時間まで延長すると、低用量群、中用量群および高用量群の細胞生存率は、約50%、38%および38%であった。組換え腫瘍溶解性ウイルスの作用時間を延長するか、または組換え腫瘍溶解性ウイルスの用量を増加させると、癌細胞A549およびMCF-7の死亡率が大幅に増加し、癌細胞A549およびMCF-7の生存能力が低下した。
【0122】
癌細胞HepG2を組換え腫瘍溶解性ウイルスによって24時間処理した後、中用量群および高用量群の細胞生存率は約80%および60%であった。処理時間を48時間まで延長すると、低用量群の細胞生存率は70%であり、中用量群および高用量群の細胞生存率はわずか20%および10%であった。これは、組換え腫瘍溶解性ウイルスの処理時間を延長すること、または組換え腫瘍溶解性ウイルスの用量を増加させることが、ヒト肝癌細胞HepG2の死亡率を大幅に増加させ、ヒト肝癌細胞HepG2の生存能力を低下させ得ることを示す。
【0123】
癌細胞SW1900を組換え腫瘍溶解性ウイルスによって24時間処理した後、低、中および高用量群の細胞生存率は、対照群の細胞生存率よりもわずかに低かった。48時間のウイルス作用後、効果は24時間よりも顕著であり、すなわち、細胞生存率は低かった。低用量群、中用量群および高用量群は、48時間以内にSW1900癌細胞を効果的に殺滅し得る。低用量群の細胞生存率は80%未満であった。中用量群と高用量群との間にはほとんど差がなく、細胞生存率は60%未満であった。上記の結果は、組換え腫瘍溶解性ウイルスが短期間(例えば、48時間)で癌細胞SW1900を急速に殺滅し得ること、および組換え腫瘍溶解性ウイルスの用量が高いほど、癌細胞の細胞生存率が低いことを示している。
【0124】
したがって、組換え腫瘍溶解性ウイルスは、A549、HepG2、MCF-7およびSW1990の4つの癌細胞を迅速かつ効果的に殺滅し得、肺癌、肝癌、乳癌および膵癌に対する明らかな阻害効果を有した。肝癌に対する阻害効果が最も効果的であった。ウイルス作用時間を延長するか、またはウイルス用量を増加させると、癌細胞の細胞生存率が大幅に低下した。
【0125】
実施形態5.組換え腫瘍溶解性ウイルスは、非小細胞肺癌に罹患している免疫不全ヌードマウスに対して明らかな治癒効果を有する:
R130の有効性を試験するために、非小細胞肺癌細胞A549を免疫適格性マウスに腹腔内注射して、非小細胞肺癌マウスモデルを構築した。非小細胞肺癌に罹患したマウスの腹膜腔に、R130ウイルス溶液を注射した。100μLのPBS(pH7.4)緩衝液を直接注射した対照群CK、3回の連続注射のために3日ごとに8×106pfuの用量を注射した高用量群、および8×106pfuの用量を1回注射した低用量群の3つの群に実験を分類した。マウスの身体状態を連日観察し、マウスの体重を2日ごとにモニタリングした。ノギスを使用して腫瘍直径をモニタリングし、腫瘍体積を計算し、マウスが111日間の処置を生き延びた場合、安楽死させた。
【0126】
図8は、本開示のいくつかの実施形態による、組換え腫瘍溶解性ウイルスによって免疫不全ヌードマウスを処置することによって構築された肺癌マウスモデルの概略図である。
図8に示すように、腫瘍溶解性ウイルスを8×10
6pfuの用量の1回の注射、または8×10
6pfuの用量の3回の注射によって非小細胞肺癌腫瘍に注射した場合、腫瘍体積の少なくとも60%または80%の減少を引き起こした。
【0127】
実施形態6.組換え腫瘍溶解性ウイルスは、大腸癌に罹患している免疫インタクトマウス(immune intact mice)に対して顕著な治癒効果を有する:
R130の有効性を試験するために、大腸癌細胞CT26を免疫インタクトマウスに腹腔内注射することによって、CT26大腸癌マウスモデルを確立した。大腸癌に罹患している免疫インタクトマウスの腹膜腔に、R130ウイルス溶液を注射した。100μLのPBS(pH7.4)緩衝液を直接注射した対照群CK、3回の連続注射のために3日ごとに1×107pfuの用量を注射した高用量群、および3回の連続注射のために3日ごとに1×106pfuの用量を注射した低用量群に試験を分類した。
【0128】
図9は、本開示のいくつかの実施形態による、異なる用量の組換え腫瘍溶解性ウイルスによって処置したCT26腹腔大腸癌マウスモデルの時間およびマウス生存率の概略図である。
図9に示すように、PBSを注射した対照群では、33日間の注射後、マウスの生存率は10%であり、90%のマウスが死亡したが、実験群における3×10
7pfuおよび3×10
6pfuのウイルス量を注射したマウスの生存率は、それぞれ100%および80%であった。111日間の実験の終了時に、ウイルス量が3×10
7pfuおよび3×10
6pfuの実験群のマウスは、依然として比較的高い生存率、すなわち、それぞれ90%および40%を有した。
【0129】
したがって、組換え腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍担持マウスの生存率を顕著に改善した。107pfuの用量で3回ウイルスを注射した後、腹部腫瘍を有するマウスの90%は長期間生存することができた。
【0130】
本開示に開示される組換え腫瘍溶解性ウイルスおよびその適用は、限定するものではないが、以下を含む有益な効果をもたらし得る:(1)組換え腫瘍溶解性ウイルス内の可溶性PD-1分子をコードする核酸断片は、腫瘍溶解性ウイルスに対するT細胞の阻害効果を軽減または低減し、それによって、宿主の細胞内の腫瘍溶解性ウイルスの生存および増殖を増強し得る;(2)組換え腫瘍溶解性ウイルス内のCD3分子の抗体をコードする核酸断片は、T細胞の増殖および活性化を活性化し、免疫系の抗腫瘍効果を増強し得る;(3)組換え腫瘍溶解性ウイルス内のCD86分子をコードする核酸断片は、T細胞をさらに活性化し、T細胞が増殖および分化することを可能にし得る;ならびに(4)組換え腫瘍溶解性ウイルス内のUS11タンパク質をコードする核酸断片は、腫瘍溶解性ウイルスが宿主の自然免疫防御を回避する能力を増強し、体内での腫瘍溶解性ウイルスの滞留時間を延長し、それによって、癌細胞の標的感染および殺滅効果を増強し得る。
【0131】
異なる実施形態は、異なる有益な効果を有し得ることに留意されたい。異なる実施形態では、可能な有益な効果は、上記のいずれか1つもしくは組合せ、または任意の他の可能な有益な効果であり得る。
【0132】
上記の実施形態は、本開示を例示するためのものにすぎず、本開示を限定するものではないことを当業者は理解すべきである。本開示の趣旨および原理の範囲内で行われる修正、同等の置換、および変更は、本開示の保護範囲内に含まれるものとする。
【国際調査報告】