(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-22
(54)【発明の名称】超臨界流体抽出を利用した、多環式芳香族炭化水素含量が低減されたカーボンブラックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
C09C1/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536840
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2021084746
(87)【国際公開番号】W WO2022128674
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521399892
【氏名又は名称】オリオン エンジニアード カーボンズ アイピー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイトマン ギード
(72)【発明者】
【氏名】クラウス カイ
(72)【発明者】
【氏名】ディーターズ ダーヴィト
(72)【発明者】
【氏名】シンケル アルント ペーター
(72)【発明者】
【氏名】エッツォルト バスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ドロヒナー アルフォンス
(72)【発明者】
【氏名】グレーゼル ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィジャヤ アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA02
4J037BB15
4J037BB16
4J037BB17
4J037BB28
4J037BB31
4J037CA08
4J037FF28
(57)【要約】
多環式芳香族炭化水素の含量が低減された精製カーボンブラックを製造する方法であって、(a)初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを提供すること、(b)初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを超臨界状態の二酸化炭素を含む抽出剤で処理して、カーボンブラックから多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を抽出すること、および(c)抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤をカーボンブラックから除去して、多環式芳香族炭化水素の初期含量よりも低い多環式芳香族炭化水素含量を有する精製カーボンブラックを得ること、を含む方法が提供される。さらに、上記製造方法によって得られたカーボンブラックおよびそれから製造された物品が提供される。
【選択図】
図2a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多環式芳香族炭化水素の含量が低減された精製カーボンブラックの製造方法であって:
(a) 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを提供すること、
(b) 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを、超臨界状態の二酸化炭素を含む抽出剤で処理して、カーボンブラックから多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を抽出すること、
(c) 抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤をカーボンブラックから除去して、多環式芳香族炭化水素の初期含量よりも低い含量の多環式芳香族炭化水素を含む精製されたカーボンブラックを得ること、を含む方法。
【請求項2】
初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックが、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、ガスブラック、アセチレンブラック、リサイクルブラック、またはこれらのいずれかの組み合わせを含み、および/または酸化カーボンブラックを含み、および/または初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックが、下記成分の1つ以上または全てを有する、請求項1に記載の方法:
- 20重量%以下、例えば15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、または0.1重量%以下の、ASTM D1506-15に従って測定した灰分、
- 20重量%以下、例えば15重量%以下、または10重量%以下の、950℃に加熱しDIN 53552:1977に従って測定した揮発分、
- 15重量%以下、例えば10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、または1重量%以下の、ASTM D1509-18に従って測定した水分量、
- 80質量%以上、例えば85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、または98質量%以上の、元素分析により測定した炭素含量。
【請求項3】
多環式芳香族炭化水素の含量が、PAH22含量、ニトロ-PAH8含量またはPAH22含量とニトロ-PAH8含量との合計として測定され、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックが例えば下記のものを有する、請求項1または2に記載の方法:
- 10ppm以上、例えば50ppm以上、100ppm以上、500ppm以上、800ppm以上、または1,000ppm以上の初期PAH22含量、および/または
- 1ppm以上、例えば10ppm以上、50ppm以上、100ppm以上、または500ppm以上の初期ニトロ-PAH8含量。
【請求項4】
抽出剤が、抽出剤の総重量に基づいて、少なくとも50重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、または少なくとも99重量%の二酸化炭素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
抽出剤が1種以上の補助剤をさらに含むか、または抽出剤が超臨界二酸化炭素からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、75℃以上の温度、例えば75℃~400℃、好ましくは100℃~350℃、例えば100℃~300℃の範囲の温度、および/または75バール以上の圧力、例えば75バール~700バール、好ましくは100バール~500バール、例えば150バール~300バールの範囲の圧力で行われ、および/または工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、少なくとも1分間、例えば少なくとも1時間および/または最大48時間の期間で行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、カーボンブラックを抽出剤の流れに曝露する工程を含み、処理されたカーボンブラックの量の単位質量(kg)当たりの抽出剤の平均流量が、好ましくは1,000NL・h
-1・kg
-1以上、例えば5,000NL・h
-1・kg
-1以上、例えば5,000NL・h
-1・kg
-1~100,000NL・h
-1・kg
-1に相当する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、下記のことを含む、請求項3~7のいずれか1項に記載の方法:
- 初期PAH22含量の少なくとも40重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%をカーボンブラックから抽出すること、および/または
- 初期ニトロ-PAH8含量の少なくとも50重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%をカーボンブラックから抽出すること。
【請求項9】
工程(c)で得られた精製カーボンブラックが、下記量に対応する多環式芳香族炭化水素の含量を有する、請求項3~8のいずれか1項に記載の方法:
- 初期PAH22含量の60重量%以下、例えば30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、または5重量%以下、および/または
- 初期ニトロ-PAH8含量の50重量%以下、例えば30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下。
【請求項10】
以下のうちの1つ以上または全てをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法:
- 抽出剤で処理する前に、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを乾燥すること、
- 工程(c)においてカーボンブラックから除去された抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤から、多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を、例えば、圧力を低下させることによって分離すること、および任意に、工程(b)において使用するためにこのようにして得られた抽出剤をリサイクルすること、
- オンライン測定などによって抽出剤によって抽出された多環式芳香族炭化水素の量を検出すること、好ましくは、工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、抽出された多環式芳香族炭化水素の検出された量に基づいて制御される。
【請求項11】
上記方法が連続法として、半バッチ法として、またはバッチ法として行われ、および/または上記方法が加熱手段を有する耐圧反応器中で行われる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる精製カーボンブラック。
【請求項13】
1,500ppm未満、例えば1,000ppm未満、700ppm未満、500ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、50ppm未満、20ppm未満、または10ppm未満のPAH22含量を有する、および/または200ppm未満、例えば100ppm未満、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、または1ppm未満のニトロ-PAH8含量を有する、請求項12に記載のカーボンブラック。
【請求項14】
例えば、プラスチック物品またはゴム物品、塗料、インク、コーティング、電極またはエネルギー貯蔵デバイスの製造のための、顔料、補強充填剤または導電剤としての、請求項12または13に記載の精製カーボンブラックの使用。
【請求項15】
カーボンブラックの精製、特にカーボンブラックから多環式芳香族炭化水素を除去するための超臨界二酸化炭素の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンブラックの精製方法に関し、より具体的には、超臨界流体抽出(SFE)、特に超臨界状態の二酸化炭素を含む抽出剤を使用して、多環式芳香族炭化水素不純物の含量が低減されたカーボンブラックを製造する方法に関する。本発明はさらに、この方法によって得られる精製されたカーボンブラック、ならびにそのような精製されたカーボンブラックの応用および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは種々の異なる応用のための添加剤として、例えば、塗料、コーティング、インク、電極またはプラスチック物品またはゴム物品の製造における着色剤または顔料、補強充填剤または導電剤として、産業界で広く使用されている。それぞれの用途に応じて、異なる特性を有するカーボンブラックが必要とされ、これは、カーボンブラック製造方法および可能な後処理によって制御することができる。カーボンブラックは、油、天然ガスまたはアセチレンなどの炭化水素前駆体の制御された熱または熱酸化分解によって製造される。確立されたカーボンブラック製造方法には、ファーネスブラックプロセス、ガスブラックプロセス、ランプブラックプロセス、アセチレンプロセスまたはサーマルブラックプロセスが含まれる。
【0003】
カーボンブラック製造方法、使用される炭化水素前駆体材料およびプロセス条件に応じて、金属、硫黄および有機化合物などの不純物は、得られるカーボンブラックを汚染する可能性がある。このような不純物は特に比較的多量に存在する場合、カーボンブラックの性能に悪影響を及ぼす可能性があり、したがって、特定の用途では望ましくない。
【0004】
カーボンブラックは、特に不純物として、一般に多環式芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる多環式芳香族構造を有する骨格を有する有機化合物を含有する場合がある。PAHは健康や環境に有害であると考えられており、例えば、Sudip K.Samanta、Om V.SinghおよびRakesh K.Jain、「多環式芳香族炭化水素:環境汚染とバイオレメディエーション」、TRENDS in Biotechnology、Vol.20、No.6、2002年6月、243-248頁に記載されている。したがって、カーボンブラックのPAH含量は、食品または飲料の接触状況での使用、医薬品、化粧品、または子供のための玩具および物品の製造などの用途のために、ますます要求される顧客ニーズおよび公式規則を受ける。例えば、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、食品と接触する物品中の高純度ファーネスブラックの総PAH含量を0.5ppmに制限しており(US連邦規則集(CFR)21Sec.178.3297参照)、ここでPAH含量は22個のPAH化合物の合計として定義される。
【0005】
カーボンブラックを汚染するPAH化合物の中には、ニトロ-PAHとも呼ばれる、1つ以上のニトロ官能基を有する多環式芳香族炭化水素も存在し得る。ニトロ-PAHは例えば、カーボンブラックの酸化処理中に形成され得るため、酸化カーボンブラック中に頻繁に見出される。ニトロ-PAH化合物も同様に、それらの変異原性に起因して、健康に有害であると考えられている(例えば、Peter P.FuおよびDiogenes Herreno-Saenz、「ニトロ多環式芳香族炭化水素:遺伝毒性を持つ環境汚染物質の一種」、Journal OF Environmental Science and Health、Part C: Environmental Carcinogenesis and Ecotoxicology Reviews、Vol.17、No.6、1999、1-43頁)。したがって、カーボンブラック中のニトロ-PAHの量を低減することも望まれている。
【0006】
カーボンブラックのPAH含量は、カーボンブラック製造方法の条件によってある程度制御することができる。例えば米国特許第4,138,471号および国際公開第2019/084200号に記載されているように、例えば、反応炉における高温および/または後期急冷(late quenching)は典型的に、得られたカーボンブラック中のPAH含量を減少させる。しかしながら、カーボンブラック製造方法におけるプロセス条件の調整は、製造されたカーボンブラックの他の特性、例えば、それらの構造、粒度分布および表面積にも影響を及ぼし、このことは、このようなアプローチをかなり柔軟性がないものにし、入手可能なカーボンブラックの範囲を制限する。
【0007】
カーボンブラックのPAH含量を低減するための他のアプローチは、カーボンブラックの後処理に依存しており、一般に、それぞれの製造方法とは無関係である。例えば、WO2008/058114A2は、低いPAH含量を有するカーボンブラックを製造するために、トルエンなどの有機溶媒を使用するソックスレー抽出(Soxhlet extraction)によるカーボンブラックの処理を開示している。他の精製技術は、カーボンブラック材料を水蒸気で処理することに基づく。しかしながら、これらの従来の手法は、比較的高価であり、その有効性が制限され、精製されたカーボンブラックから残留有機溶剤または湿気を除去するための追加の処理手段を必要とする。さらに、有機溶媒の使用は、環境および安全性を考慮すると好ましくない。
【0008】
したがって、可能であればカーボンブラックの他の特性に悪影響を与えたり、高価かつ有害、あるいはカーボンブラック製品から除去するのが困難な精製剤を使用したりすることなく、カーボンブラックを効果的に精製し、PAH含量の低いカーボンブラックを得るための手段が絶えず模索されている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、可能であればニトロ-PAHを含むPAHをカーボンブラックから効果的に除去する方法を提供すること、およびそのような不純物の含量が低減されたカーボンブラックを提供することであり、これは、先行技術の上述の欠陥および制限の少なくともいくつかを克服または軽減する。この方法は例えば、理想的には、カーボンブラックの他の特性に悪影響を及ぼすことなくおよび/または有害なまたは高価な物質を使用することなく、効率的な精製を可能にするものでなければならない。この精製方法はさらに、可能であれば、さまざまな製造方法で得られたあらゆる種類のカーボンブラックに適用でき、経済的で環境に優しいものでなければならない。
【発明の概要】
【0010】
本明細書に記載されたこの目的および追加の利点は、添付の独立請求項1に規定された方法を提供することによって、予想外にも達成された。
【0011】
したがって、本発明は、多環式芳香族炭化水素の含量が低減された精製カーボンブラックの製造方法に関する。本方法は下記工程(a)~(c)を含む:
(a) 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを提供すること、
(b) 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを、超臨界状態の二酸化炭素を含む抽出剤で処理して、カーボンブラックから多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を抽出すること、
(c) 抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤をカーボンブラックから除去して、多環式芳香族炭化水素の初期含量よりも低い含量の多環式芳香族炭化水素を含む精製されたカーボンブラックを得ること。
【0012】
本発明はまた、上記に開示され、以下により詳細に記載された本発明による方法によって得られた精製カーボンブラックにも関する。
【0013】
本発明はさらに、例えば、プラスチック物品またはゴム物品、塗料、インク、コーティング、電極またはエネルギー貯蔵デバイスの製造のための、顔料、補強充填剤または導電剤としての、そのような精製されたカーボンブラックの使用に関する。
【0014】
さらに、本発明は、カーボンブラックの精製、特にカーボンブラックから多環式芳香族炭化水素を除去するための超臨界二酸化炭素の使用に関する。
【0015】
超臨界状態の二酸化炭素を含む抽出剤でカーボンブラックを処理することを含む本発明の方法は、いくつかの利点を提供する。したがって、本発明は、その製造方法とは無関係に、様々な種類のカーボンブラックに柔軟に適用可能である。本発明の方法は、カーボンブラックの他の特性に実質的に悪影響を及ぼすことなく、または高価で有害であるかもしくはカーボンブラック生成物から除去するのが困難である精製剤を使用することなく、カーボンブラックを効果的に精製し、低PAH含量のカーボンブラックを得ることを可能にする。超臨界状態での抽出剤の使用は、有利には、液体のものと同様の密度と、ガスのものに近い溶質拡散率および粘度とを組み合わせ、これにより、高い物質移動速度およびカーボンブラックからのPAHの迅速かつ効率的な抽出が可能になる。さらに、溶媒強度は、印加圧力および/または温度の単純な変化、または適切な改質剤の添加によって、本明細書において変化させることができる。さらに、二酸化炭素には、非毒性であり、不燃性であり、安価であるという利益がある。臨界温度は、臨界圧力72.8atm(7,380kPa)と共同して304.2K(31℃)と低い。したがって、二酸化炭素を含む抽出剤による抽出は、比較的穏やかな条件で実施することができ、それによって、精製処理によるカーボンブラックへの望ましくない変化の傾向を低減する。さらに、超臨界二酸化炭素は、例えば二酸化炭素の蒸発をもたらす圧力解放によって、カーボンブラックから容易に分離することができる。したがって、抽出後の乾燥または溶媒除去の専用工程は必要ない。
【0016】
本発明のこれらおよび他の任意の特徴および利点は、以下の説明においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例4による超臨界流体抽出用のPAH含有抽出剤を通過させたアセトニトリルの吸収媒体の波長250nmにおける吸収の測定値から算出したΣε・n・lを、抽出時間の関数として示したものである。
【0018】
【
図2a】
図2aは、実施例4bおよび4cの超臨界流体抽出における圧力200バールおよび300バールでの抽出時間の関数として、PAH22種の化合物の全グループの相対抽出量を示す。
【0019】
【
図2b-2c】
図2bおよび2cは、実施例4bおよび4cの超臨界流体抽出における圧力200バールおよび300バールでの抽出時間の関数として、それぞれナフタレンおよびピレンの相対抽出量を示す。
【0020】
【
図3】
図3は、実施例5~7の超臨界流体抽出において適用された温度の関数として、PAH22種の化合物の相対抽出量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中で使用される場合、用語「含む」は、非限定的に理解され、記載されていないまたは列挙されていない追加の要素、材料、成分または方法ステップなどの存在を排除しないと理解される。用語「包含する」、「含有する」および同様の用語は、「含む」と同義であると理解される。本明細書中で使用される場合、用語「からなる」は、任意の特定されていない要素、成分または方法ステップなどの存在を除外すると理解される。
【0022】
本明細書で使用されるように、「a」、「an」および「the」の単数形は文脈が明らかにそわないことを示さない限り、複数の指示対象を包含する。
【0023】
特に断りのない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータおよび範囲は概算値である。本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは概算値であるが、具体的な実施例で示された数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、任意の数値は、それらのそれぞれの測定における標準偏差から必然的に生じる誤差を含む。
【0024】
また、本明細書に列挙される任意の数値範囲は、その中に属するすべてのサブ範囲を包含することが意図されていることを理解されたい。例えば、「1~10」の範囲は、列挙された最小値1と列挙された最大値10との間およびそれらを包含する任意のすべてのサブ範囲、すなわち、1以上の最小値で始まり10以下の最大値で終わるすべてのサブ範囲、例えば、1~6.3、または5.5~10、または2.7~6.1の間のすべてのサブ範囲を包含することが意図される。
【0025】
本明細書で言及される全ての部、量、濃度などは、特に明記しない限り、重量基準である。
【0026】
上述のように、本発明は、多環式芳香族炭化水素の含量が低減された精製カーボンブラックの製造方法に関する。本方法は、(a)初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを提供すること、(b)初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを、超臨界状態の二酸化炭素を含む抽出剤で処理して、カーボンブラックから多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を抽出すること、および(c)抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤をカーボンブラックから除去して、多環式芳香族炭化水素の初期含量よりも低い含量の多環式芳香族炭化水素を含む精製されたカーボンブラックを得ること、を含む。
【0027】
用語「多環式芳香族炭化水素(PAH)」は、本明細書で使用される場合、2個以上、例えば2~7個の縮合芳香族環、すなわち多環式芳香族構造を有する骨格を有する有機化合物を指す。アルキル基などの炭化水素基は、縮合芳香族環の骨格に結合していてもよい。本明細書で使用する「多環式芳香族炭化水素(PAH)」は、このような多環式芳香族構造を有する非置換化合物、すなわち炭素原子および水素原子のみからなる化合物、ならびに、1つ以上のヘテロ原子、すなわちO、Nおよび/またはSなどの炭素および水素以外の原子を含む官能基で1つ以上の水素原子が置換されているそれらの置換誘導体を包含する。置換PAH化合物の1つの特定のクラスには、例えば、1つ以上のニトロ官能基(-NO2)を有するPAH化合物が含まれ、これらは本明細書ではニトロ-PAHと呼ばれる。したがって、広い意味で、多環式芳香族炭化水素(PAH)の含量は、ニトロ-PAHを含むPAHの総含量を指し得る。
【0028】
本発明の目的のために、カーボンブラックの多環式芳香族炭化水素の含量は、より具体的には、以下に定義されるPAH22グループおよび/またはニトロ-PAH8グループなどのPAH化合物の1つ以上の特定のグループの含量を指すことができる。したがって、本明細書に示されるカーボンブラックの多環式芳香族炭化水素の含量は特に、PAH22グループの化合物の含量(PAH22含量とも称される)、またはニトロ-PAH8グループの化合物の含量(ニトロ-PAH8含量とも称される)、またはPAH22含量とニトロ-PAH8含量の合計を意味し得る。
【0029】
「PAH22」は本明細書で使用される場合、US連邦規則集(CFR)21Sec.178.3297においてアメリカ食品医薬品局(FDA)により特定され、およびそこで言及されているキャボット社により開発された1994年7月8日付けの「カーボンブラックのPAH含量の測定」と題された方法によって特定される次の22種のPAH化合物のグループを指す:ナフタレン(CAS番号91-20-3)、アセナフチレン(CAS番号208-96-8)、アセナフテン(CAS番号83-32-9)、フルオレン(CAS番号86-73-7)、フェナントレン(CAS番号85-01-8)、アントラセン(CAS番号120-12-7)、フルオランテン(CAS番号206-44-0)、ピレン(CAS番号129-00-0)、ベンゾ(g,h,i)フルオランテン(CAS番号203-12-3)、ベンゾ(a)アントラセン(CAS番号56-55-3)、シクロペンタ(c,d)ピレン(CAS番号27208-37-3)、クリセン(CAS番号218-01-9)、ベンゾ(b)フルオランテン(CAS番号205-99-2)、ベンゾ(k)フルオランテン(CAS番号207-08-9)、ベンゾ(e)ピレン(CAS番号192-97-2)、ベンゾ(a)ピレン(CAS番号50-32-8)、ペリレン(CAS番号198-55-0)、ジベンゾ(a,h)アントラセン(CAS番号53-70-3)、ベンゾ(g,h,i)ペリレン(CAS番号191-24-2)、インデノ(1,2,3-cd)ピレン(CAS番号193-39-5)、アンタントレン(CAS番号191-26-4)、およびコロネン(CAS番号191-07-1)。したがって、PAH22含量は、カーボンブラック試料の総重量に基づいて、これらの22種の化合物の総量として決定される。PAH22含量は、実施例に記載されているように、1994年7月8日付けの「カーボンブラックのPAH含量の測定」と題された上記の方法に従って、較正のために重水素化形態のPAH22を利用するGC-MSを用いてカーボンブラック試料のソックスレー抽出によって得られたトルエン抽出物を分析することによって測定することができる。
【0030】
本明細書で使用される「ニトロ-PAH8」は、以下の8種のニトロ官能基PAH化合物のグループを指す:1-ニトロナフタレン(CAS番号86-57-7)、2-ニトロナフタレン(CAS番号581-89-5)、9-ニトロフェナントレン(CAS番号954-46-1)、3-ニトロフルオランテン(CAS番号892-21-7)、1-ニトロピレン(CAS番号5522-43-0)、1,3-ジニトロピレン(CAS番号75321-20-9)、1,6-ジニトロピレン(CAS番号42397-64-8)および4-ニトロビフェニル(CAS番号92-93-3)。したがって、ニトロ-PAH8含量は、カーボンブラック試料の総重量に基づいて、これら8種の化合物の量の合計として測定される。カーボンブラック試料のニトロ-PAH8含量は、実施例に記載されるように、較正のために重水素化形態のニトロ-PAH8を利用するGC-MSによるカーボンブラック試料のソックスレー抽出によって得られたトルエン抽出物を分析することによって、PAH22含量の測定と同様に測定することができる。
【0031】
本発明によれば、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックが、精製される出発材料として提供される。明確にするために、当業者には明らかなように、「カーボンブラック」は、「スート(soot)」または「ブラックカーボン」とは異なる。スートまたはブラックカーボンは、油、燃料、ディーゼルまたはガソリン、石炭、紙または廃棄物などの炭素含有材料の不完全燃焼から生じる一般的に望ましくない炭素質副生成物を示すために使用される。スートまたはブラックカーボンは、全質量に対して典型的には60%未満の元素状炭素を含有する大量の有機不純物および無機不純物を含有し、明確な構造または秩序をほとんど有さないかなり粗い粒子から構成される。反対に、カーボンブラックは、制御された条件下でのガス状または液状の炭化水素の不完全燃焼または熱分解によって意図的に生成され、典型的には、例えば全質量に基づいて80重量%以上のより高い炭素含量を有し、明確な構造および炭素原子のグラフェン様配列を含む高度の秩序を有する粒子であって高い表面積対体積比を有する粒子から構成される。
【0032】
本発明の方法において、精製される出発材料として提供されるこの初期カーボンブラックは、任意の可能なカーボンブラックであり得、カーボンブラックの製造のための任意の方法によって提供され得る。カーボンブラックの製造のための異なる工業プロセスが利用可能であり、例えば、J.-B.Donnetら、「カーボンブラック:サイエンス・アンド・テクノロジー」、第2版に記載されているような、ファーネスプロセス、ガスブラックプロセス、アセチレンブラックプロセス、サーマルブラックプロセスまたはランプブラックプロセスが挙げられる。したがって、本発明の実施において使用される多環式芳香族炭化水素の初期含量を含むカーボンブラックは例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ガスブラック、アセチレンブラック、リサイクルブラック、または上記のいずれかの組み合わせを含むか、またはそれらであり得る。リサイクルブラックは、廃タイヤなどの使用済みカーボンブラック含有製品から得られ、典型的にはゴムまたはプラスチックなどの有機成分を分解するための熱分解ステップと、無機添加剤または不純物を溶解するための脱塩ステップとの2つのステップを含むリサイクル方法によって得ることができるカーボンブラックである。本発明において使用することができる異なる特性を有する多種多様なカーボンブラックは、例えばキャボット社、三菱ケミカル社、東海カーボン社、デンカ社、ビルラ・カーボン社またはオリオン・エンジニアド・カーボンズ社などのカーボンブラック製造業者から市販されている。その非限定的な例としては、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社がECORAX(登録商標)、PUREX(登録商標)、CORAX(登録商標)、PRINTEX(登録商標)、AROSPERSE(登録商標)、HIBLACK(登録商標)、カラーブラック、スペシャルブラック、またはNEROX(登録商標)の銘柄で販売しているカーボンブラックが挙げられる。
【0033】
本発明の方法において出発材料として使用されるカーボンブラックはさらに、任意の後処理に付されていてもよいし、付されていなくてもよい。例えば、本発明の実施において使用される多環式芳香族炭化水素の初期含量を含むカーボンブラックは、酸化処理に供されているか、または酸化処理に供されていないカーボンブラックを含むことができる。「酸化カーボンブラック」とも呼ばれる酸化処理を受けたカーボンブラックは、特にカーボンブラック粒子の表面に酸素含有官能基を含む。酸素含有官能基としては、アルコール基、キノン基、カルボキシル基、フェノール基、ラクトール基、ラクトン基、無水物基、キノン基、過酸化物基、エーテル基、ケトン基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。酸化処理は例えば、酸素ガス、オゾン、過酸化水素のような過酸化物、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸カリウムのような過硫酸塩、次亜塩素酸ナトリウムのような次亜ハロゲン酸塩、および硝酸、ならびに、過マンガン酸塩、四酸化オスミウム、酸化クロムおよび硝酸セリウムアンモニウムのような遷移金属含有酸化剤、さらにはそれらの混合物などの酸化剤で処理することによって達成することができる。酸化カーボンブラックは、典型的には顕著な酸素含量を有する。例えば、本発明に従って使用することができる酸化カーボンブラックは、酸化カーボンブラックの総重量に基づいて、0.5重量%以上、例えば1重量%以上、2重量%以上、5重量%以上、または10重量%以上の酸素含量を有することができる。典型的には、酸素含量は、酸化カーボンブラック材料の総重量に基づいて20重量%を超えない。例えば、酸化カーボンブラックは、酸化カーボンブラック材料の総重量に基づいて、0.5重量%~20重量%、1重量%~15重量%、2重量%~10重量%、または5重量%~15重量%の酸素を含有することができる。本発明に係る出発材料として用いられる酸化カーボンブラックは、上記のいずれかの値の間の範囲の酸素含量を有していてもよい。本発明の実施において使用することができる酸化カーボンブラックの非限定的な例は、例えば、スペシャルブラック4、スペシャルブラック5、スペシャルブラック6、スペシャルブラック250、カラーブラックFW200、カラーブラックFW2、カラーブラックFW255、またはカラーブラックFW310であり、これらは全て、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている。
【0034】
本発明の方法による精製のために提供されるカーボンブラックは、多環式芳香族炭化水素の初期含量を有する。多環式芳香族炭化水素の初期含量は、使用されるタイプのカーボンブラックおよびその製造方法に応じて、著しく変動し得る。例えば、多環式芳香族炭化水素の初期含量は、数ppm程度の低いものから10,000ppmまで、またはそれ以上まで変化し得る。例えば、本発明の方法において精製されるべきカーボンブラックは、10ppm以上、20ppm以上、50ppm以上、例えば100ppm以上、250ppm以上、500ppm以上、800ppm以上、または1,000ppm以上の多環式芳香族炭化水素の初期含量を有し得る。カーボンブラックは、10,000ppm以下、例えば5,000ppm以下、3,000ppm以下、2,000ppm以下、1,000ppm以下、800ppm以下、500ppm以下、400ppm以下、300ppm以下、200ppm以下、または100ppm以下の多環式芳香族炭化水素の初期含量を有することができる。本発明の方法において精製されるべきカーボンブラックは、10ppm~10,000ppmの範囲、50ppm~5,000ppmの範囲、または200ppm~800ppmの範囲などの、列挙された値のいずれかの間の範囲の多環式芳香族炭化水素の初期含量を有し得る。
【0035】
例えば、本発明の方法において精製されるべきカーボンブラックは、10ppm以上、例えば20ppm以上、30ppm以上、50ppm以上、80ppm以上、100ppm以上、250ppm以上、500ppm以上、800ppm以上、または1,000ppm以上の初期PAH22含量を有し得る。カーボンブラックは、10,000ppm以下、例えば5,000ppm以下、3,000ppm以下、2,000ppm以下、1,000ppm以下、800ppm以下、500ppm以下、400ppm以下、300ppm以下、200ppm以下、100ppm以下、または50ppm以下の初期PAH22含量を有することができる。本発明の方法において精製されるべきカーボンブラックは、10ppm~10,000ppm、500ppm~3,000ppm、または10ppm~200ppmの範囲などの、列挙された値のいずれかの間の範囲の初期PAH22含量を有し得る。
【0036】
本発明の方法において精製されるべきカーボンブラックはさらに、例えば、1ppm以上、2ppm以上、3ppm以上、4ppm以上、5ppm以上、10ppm以上、例えば20ppm以上、30ppm以上、40ppm以上、50ppm以上、80ppm以上、100ppm以上、150ppm以上、200ppm以上、250ppm以上、300ppm以上、400ppm以上、または500ppm以上の初期ニトロ-PAH8含量を有し得る。カーボンブラックは、1,000ppm以下、例えば800ppm以下、500ppm以下、300ppm以下、200ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、40ppm以下、30ppm以下、20ppm以下、10ppm以下、5ppm以下、3ppm以下、2ppm以下、または1ppm以下の初期ニトロ-PAH8含量を有することができる。本発明の方法において精製されるべきカーボンブラックは、1ppm~1,000ppm、5ppm~200ppm、または10ppm~100ppmの範囲などの、列挙された値のいずれかの間の範囲の初期ニトロ-PAH8含量を有し得る。
【0037】
カーボンブラックは、上記で特定された初期PAH22およびニトロ-PAH8含量の任意の組み合わせを有することができる。
【0038】
例えば、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、500ppm以上、または1,000ppm以上などの比較的高いPAH22含量、および同時に50ppm以下、20ppm以下、10ppm以下、または5ppm以下などの比較的低いニトロ-PAH8含量を含むことができる。そのようなカーボンブラックは例えば、酸化的に後処理されていないガスブラックによって例示することができる。
【0039】
別の例では、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、100ppm以下、50ppm以下、または20ppm以下などの比較的低いPAH22含量、および同時に50ppm以上、または100ppm以上などの比較的高いニトロ-PAH8含量を有し得る。酸化処理がニトロ-PAHの形成を促進し得るので、そのようなカーボンブラックは、例えば酸化カーボンブラックであり得る。
【0040】
別の例では、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、100ppm以下、50ppm以下、または30ppm以下などの比較的低いPAH22含量、および付随して50ppm以下、20ppm以下、10ppm以下、または5ppm以下などの比較的低いニトロ-PAH8含量を有し得る。そのようなカーボンブラックは例えば、ファーネスブラックであり得る。
【0041】
本方法のステップ(a)において提供される初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックはさらに、以下の特性の1つまたは2つ以上または全てを特徴とすることができる。
【0042】
したがって、本方法のステップ(a)において提供される初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、その灰分含量によって特徴付けられる。カーボンブラックは例えば、カーボンブラックの総重量に基づいて、20重量%以下、例えば15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、または0.1重量%以下の灰分を有することができる。カーボンブラックは例えば、カーボンブラックの総重量に基づいて、0.001重量%以上、例えば0.005重量%以上、0.01重量%以上、0.05重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、または3重量%以上の灰分を有することができる。本発明の方法において精製されるべきカーボンブラックは、0.001重量%~20重量%、0.005重量%~5重量%、または0.1~1重量%の範囲などの、列挙された値のいずれかの間の範囲の灰分を有し得る。カーボンブラックの灰分は、ASTM D1506-15に従って測定することができる。
【0043】
さらに、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、揮発性物質の含量によって特徴付けることができる。揮発性物質の含量は、DIN53552:1977に従って950℃に加熱することにより測定することができる。カーボンブラックは例えば、カーボンブラックの総重量に基づいて、20重量%以下、例えば15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、または1重量%以下の揮発分を有することができる。カーボンブラックは例えば、カーボンブラックの総重量に基づいて、0.1重量%以上、例えば0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、または3重量%以上の揮発分を有することができる。本発明の方法において精製されるカーボンブラックは、0.1重量%~20重量%、0.2重量%~15重量%、または1~10重量%の範囲などの、列挙された値のいずれかの間の範囲の揮発分を有し得る。
【0044】
さらに、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、その水分量によって特徴付けることができる。例えば、カーボンブラックは、カーボンブラックの総重量に基づいて、15重量%以下、例えば10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、または1重量%以下の水分量を有することができる。カーボンブラックは例えば、カーボンブラックの総重量に基づいて、0.1重量%以上、例えば0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、または1重量%以上の水分量を有することができる。本発明の方法において精製されるカーボンブラックは、0.1重量%~15重量%、0.2重量%~10重量%、または0.3~3重量%の範囲などの、列挙された値のいずれかの間の範囲の水分量を有し得る。カーボンブラックの水分量は、ASTM D1509-18に従って測定することができる。
【0045】
初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、その炭素含量によってさらに特徴付けることができる。例えば、カーボンブラックは、カーボンブラックの総重量に基づいて、80重量%以上、例えば85重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、97重量%以上、または98重量%以上の炭素含量を有することができる。カーボンブラックは例えば、99.9重量%以下、例えば99.5重量%以下、99重量%以下、98重量%以下、97重量%以下、または95重量%以下の炭素含量を有することができる。本発明の方法において精製されるカーボンブラックは、80重量%~99.9重量%、80重量%~97重量%、または85~95重量%の範囲などの、列挙された値のいずれかの間の範囲の炭素含量を有し得る。炭素含量は、元素分析によって決定することができる。
【0046】
初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、比表面積によってさらに特徴付けることができる。例えば、カーボンブラックは、10m2/g以上、例えば20m2/g以上、30m2/g以上、50m2/g以上、80m2/g以上、100m2/g以上、150m2/g以上、200m2/g以上、300m2/g以上、500m2/g以上、または1,000m2/g以上のBET表面積を有することができる。カーボンブラックは例えば、2,000m2/g以下、例えば1,500m2/g以下、1,000m2/g以下、800m2/g以下、500m2/g以下、300m2/g以下、または200m2/g以下のBET表面積を有することができる。本発明の方法で精製されるカーボンブラックは、10~2,000m2/g、30~500m2/g、または50~300m2/gなどの、列挙された値のいずれかの間の範囲のBET表面積を有することができる。BET表面積は、ASTM D6556-19aに従って窒素吸着によって測定することができる。
【0047】
本発明による方法において、単一のカーボンブラック、またはそれぞれ上記のような2種以上の異なるカーボンブラックの混合物を、精製されるべきカーボンブラック材料として使用することができる。
【0048】
上記のように、本発明による方法では、多環式芳香族炭化水素の最初の減少した含量を有する提供されたカーボンブラックを抽出剤で処理して、カーボンブラックから多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を抽出する。ここで、抽出剤は、超臨界状態の二酸化炭素を含む。「超臨界状態」は、抽出剤が超臨界流体の状態にあることを意味する。超臨界流体は、臨界温度および臨界圧力(臨界点)を超える温度および圧力、すなわちそれぞれの相図の超臨界領域で得られる。臨界点は、それぞれの物質が平衡状態で気体および液体として存在し得る最高温度および最高圧力を表す。超臨界流体は、気体と液体の中間特性を示す。超臨界状態での抽出剤の使用は例えば、有利には液体様密度をガス様拡散率および粘度と組み合わせることができ、これは高い物質移動速度ならびにカーボンブラックからのPAHの迅速かつ効率的な抽出を促進する。具体的には、二酸化炭素は、304.2K(31℃)という比較的低い臨界温度、および約74バール(7,380kPa)という比較的低い臨界圧力を有する。したがって、二酸化炭素を含む抽出剤による抽出は、比較的穏やかな条件で実施することができ、それによって、精製処理によるカーボンブラックへの望ましくない変化の傾向を低減する。さらに、超臨界二酸化炭素は、例えば二酸化炭素の蒸発をもたらす圧力解放によって、カーボンブラックから容易に分離することができる。したがって、抽出後の乾燥または溶媒除去の専用工程は必要ない。さらに、二酸化炭素には、非毒性であり、不燃性であり、安価であるという利益がある。
【0049】
本発明に従って使用される抽出剤は例えば、抽出剤の総重量に基づいて、少なくとも50重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%、または少なくとも99.5重量%の二酸化炭素を含むことができる。好ましい変形例では、抽出剤は、超臨界二酸化炭素からなることができ、すなわち、二酸化炭素以外の任意の他の構成要素を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、二酸化炭素以外の物質が、存在する場合、抽出剤の総重量に基づいて、一般に0.2重量%以下、例えば0.1重量%以下、または0.005重量%以下の少量の不純物としてのみ、抽出剤に含まれることを意味する。あるいは、抽出剤は、二酸化炭素に加えて、1つ以上の補助剤を含むことができる。そのような補助剤は例えば、抽出剤の粘度、極性または溶媒強度などの抽出剤の化学的および/または物理的特性を制御または変更するために使用され得る。有用な補助剤としては例えば、空気、酸素、窒素、メタン、水、ならびにメタノール、トルエン、およびジクロロメタンなどの有機溶媒、またはこれらのいずれかの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。補助剤は、それぞれの必要に応じて、抽出剤中の任意の量で使用することができる。例えば、1つ以上の補助剤は、抽出剤の総重量に基づいて、50重量%以下、例えば30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下、または0.5重量%以下の総量で使用することができる。抽出剤中の補助剤の量は、工程(b)におけるカーボンブラックの処理中に経時的に変化させることもできる。しかしながら、好ましくは、本発明の実施において使用される抽出剤は、いかなる補助剤も含まない。
【0050】
本明細書に開示される方法によれば、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは、超臨界状態の二酸化炭素を含む抽出剤で処理されて、多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部がカーボンブラックから抽出される。このように、抽出剤による処理は、抽出剤が超臨界状態にある条件で行われる。したがって、カーボンブラックは、抽出剤の臨界温度を上回る温度および臨界圧力を上回る圧力の下、抽出剤を用いて処理される。臨界温度および臨界圧力は、臨界点における温度および圧力に対応する、それぞれの抽出剤の相図から導き出すことができる。抽出剤としての二酸化炭素によるカーボンブラックの処理は例えば、二酸化炭素の臨界温度(31℃)以上の任意の温度および二酸化炭素の臨界圧力(73.8バール)以上の圧力で実施することができる。本発明によれば、抽出剤によるカーボンブラックの処理は例えば、31℃以上、50℃以上、75℃以上、100℃以上、150℃以上、200℃以上、または250℃以上の温度で行うことができる。この処理は例えば、500℃以下、例えば400℃以下、350℃以下、または300℃以下の温度で行うことができる。抽出剤によるカーボンブラックの処理は、75℃~400℃、好ましくは100℃~350℃、例えば100℃~300℃の範囲の温度など、列挙された値のいずれかの間の範囲の温度で行うことができる。さらに、抽出剤によるカーボンブラックの処理は例えば、73.8バール以上、例えば75バール以上、100バール以上、120バール以上、150バール以上、または200バール以上の圧力で行うことができる。この処理は例えば、700バール以下、例えば500バール以下、400バール以下、300バール以下、または250バール以下の圧力で行うことができる。抽出剤によるカーボンブラックの処理は、75バール~700バール、好ましくは100バール~500バール、例えば150バール~300バールの範囲の圧力など、列挙された値のいずれかの間の範囲の圧力で行うことができる。例えば、本発明による方法において、抽出剤によるカーボンブラックの処理は、75~300℃、好ましくは120~280℃、より好ましくは150~250℃の範囲の温度、および150~350バール、好ましくは180~320バール、より好ましくは200~300バールの範囲の圧力で行うことができる。
【0051】
本発明の方法において、抽出剤によるカーボンブラックの処理は、カーボンブラックを抽出剤の流れに曝露することを含むことができる。平均流量は例えば、使用される反応器のサイズおよび/またはその中で抽出剤で処理されるカーボンブラックの量に応じて、広く変動し得る。抽出剤の平均流量は例えば、5NL/h以上、例えば10NL/h以上、20NL/h以上、50NL/h以上、100NL/h以上、150NL/h以上、200NL/h以上、250NL/h以上、500NL/h以上、1,000NL/h以上、5,000NL/h以上、10,000NL/h以上、50,000NL/h以上、100,000NL/h以上、500,000NL/h以上、1,000,000NL/h以上、または5,000,000NL/h以上とすることができる。例えば、抽出剤の平均流量は、20,000,000NL/h以下、例えば10,000,000NL/h以下、5,000,000NL/h以下、1,000,000NL/h以下、500,000NL/h以下、100,000NL/h以下、50,000NL/h以下、10,000NL/h以下、5,000NL/h以下、1,000NL/h以下、500NL/h以下、400NL/h以下、300NL/h以下、250NL/h以下、200NL/h以下、150NL/h以下、または100NL/h以下とすることができる。平均流量は、5NL/h~10,000,000NL/h、50NL/h~500,000NL/h、100NL/h~10,000NL/h、150NL/h~300NL/h、または200NL/h~250NL/hの範囲など、列挙された値のいずれかの間の範囲であることができる。典型的には以下に記載される実施例において使用されるような、比較的少量の抽出チャンバを有する反応器において、平均流量は50NL/h~250NL/hの範囲である。抽出剤の平均流量は、抽出剤の供給量が標準条件下(101.325kPa、0℃)で有するであろう総体積、および総抽出時間に基づいて、計算される。抽出剤の体積は、例えば抽出チャンバの下流に配置された質量流量計によって測定することができ、この質量流量計は、特定の温度および圧力、例えば室温および大気圧において単位時間当たりの気体状態における抽出剤の量を測定する。時間集積により、抽出剤の総体積が得られる。次いで、測定された抽出剤の総体積は、理想的なガスの法則を使用することによって、標準条件下で抽出剤の総体積に変換することができる。標準リットル[NL]で表される標準条件下での抽出剤の総体積を、標準条件下での平均流量を計算するために、全体の抽出時間で割る。
【0052】
反応器の抽出チャンバの単位体積(L)当たりの抽出剤の平均流量(NL/h)は、50NL・h-1・L-1以上、例えば100NL・h-1・L-1以上、200NL・h-1・L-1以上、500NL・h-1・L-1以上、1,000NL・h-1・L-1以上、2,000NL・h-1・L-1以上、2,500NL・h-1・L-1以上、または3,000NL・h-1・L-1以上であることができる。例えば、反応器の抽出チャンバの単位体積(L)当たりの抽出剤の平均流量は、6,000NL・h-1・L-1以下、例えば5,000NL・h-1・L-1以下、4,000NL・h-1・L-1以下、3,000NL・h-1・L-1以下、2,500NL・h-1・L-1以下、2,000NL・h-1・L-1以下、または1,000NL・h-1・L-1以下であることができる。抽出チャンバの単位体積当たりの抽出剤の平均流量は、50NL・h-1・L-1~6,000NL・h-1・L-1、500~5,000NL・h-1・L-1、1,000~4,000NL・h-1・L-1、または2,000~3,000NL・h-1・L-1などの、列挙された数値のいずれかの間の範囲であることができる。典型的には、反応器の抽出チャンバの単位体積(L)当たりの平均流量は、500NL・h-1・L-1~3,000NL・h-1・L-1である。
【0053】
処理されたカーボンブラックの量の単位質量(kg)当たりの抽出剤の平均流量(NL/h)は、100NL・h-1・kg-1以上、例えば500NL・h-1・kg-1以上、1,000NL・h-1・kg-1以上、5,000NL・h-1・kg-1以上、10,000NL・h-1・kg-1以上、20,000NL・h-1・kg-1以上、または50,000NL・h-1・kg-1以上であることができる。例えば、処理されたカーボンブラックの量の単位質量(kg)当たりの抽出剤の平均流量は、100,000NL・h-1・kg-1以下、例えば80,000NL・h-1・kg-1以下、50,000NL・h-1・kg-1以下、20,000NL・h-1・kg-1以下、10,000NL・h-1・kg-1以下、5,000NL・h-1・kg-1以下、2,000NL・h-1・kg-1以下、または1,000NL・h-1・kg-1以下であることができる。処理されたカーボンブラックの量の単位質量(kg)当たりの抽出剤の平均流量は、100NL・h-1・kg-1~100,000NL・h-1・kg-1、1,000NL・h-1・kg-1~50,000NL・h-1・kg-1、または5,000NL・h-1・kg-1~20,000NL・h-1・kg-1の範囲など、列挙された値のいずれかの間の範囲であることができる。典型的には、処理されたカーボンブラックの量の単位質量(kg)当たりの平均流量は、5,000NL・h-1・kg-1~100,000NL・h-1・kg-1、例えば5,000NL・h-1・kg-1~20,000NL・h-1・kg-1である。
【0054】
カーボンブラックは、本発明による方法において、任意の望ましい時間、抽出剤で処理することができる。処理時間は一般に、適用された抽出条件および一方で所望の精製度、および他方で経済的考慮によって決定される。例えば、カーボンブラックは、本発明による方法において、少なくとも1秒間、例えば少なくとも10秒間、少なくとも30秒間、少なくとも1分間、少なくとも2分間、少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも20分間、少なくとも30分間、少なくとも40分間、少なくとも50分間、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも10時間、または少なくとも15時間、抽出剤で処理することができる。本発明による方法における抽出剤によるカーボンブラックの処理は例えば、48時間まで、例えば24時間以下、20時間以下、16時間以下、10時間以下、6時間以下、4時間以下、2時間以下、1時間以下、50分以下、40分以下、30分以下、20分以下、10分以下、5分以下、2分以下、1分以下、30秒以下、または10秒以下の時間にわたって行うことができる。この時間は例えば、10分~45分の範囲であり得る。カーボンブラックは、例えば1分~48時間、5分~24時間、10分~4時間、または20分~1時間など、列挙された値のいずれかの間の期間にて抽出剤で処理することができる。
【0055】
本発明による方法における抽出剤によるカーボンブラックの処理の圧力、温度および流量のような条件は、処理中に実質的に一定に保つことができ、または時間制御された方法で変化させることができる。これは、一方では超臨界抽出剤の溶質拡散率、粘度および物質移動速度などの溶媒特性が、他方では多環式芳香族炭化水素の溶解度および蒸気圧がそれぞれ、圧力および/または温度に依存するので、有利であり得る。したがって、処理工程における抽出剤の温度、圧力および/または流量を経時的に変化させることは、抽出効率を最適化することに寄与することができる。処理工程中の温度および/または圧力は、例えば段階的に変化させることができ、すなわち、カーボンブラックは、第1の温度および第1の圧力で所定の第1の時間、続いて第2の温度および第2の圧力で所定の第2の時間などのように、抽出剤で処理することができる。しかしながら、これは一例に過ぎず、抽出条件は、例えばカスタマイズされた所定のプログラムに従って、任意の可能な方法で処理工程中に変更することができる。処理工程中の条件の変更は例えば、抽出チャンバ内の条件を変更することによって、および/または抽出チャンバの異なるゾーン間および/または異なる抽出チャンバ間でカーボンブラックを移送することによって達成することができる。
【0056】
本発明による方法における処理工程の条件は、抽出剤によるカーボンブラックの処理により、多環式芳香族炭化水素の初期含量に基づいて、少なくとも30重量%、例えば少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%、少なくとも99.5重量%、少なくとも99.8重量%、少なくとも99.9重量%、または少なくとも99.95重量%の多環式芳香族炭化水素をカーボンブラックから抽出するように選択することができる。より具体的には、抽出剤によるカーボンブラックの処理により、初期PAH22含量の少なくとも30重量%、例えば少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%、少なくとも99.5重量%、少なくとも99.8重量%、少なくとも99.9重量%、または少なくとも99.95重量%をカーボンブラックから抽出することができる。選択的にまたはこれに加えて、抽出剤によるカーボンブラックの処理により、初期ニトロ-PAH8含量の少なくとも30重量%、例えば少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%、少なくとも99.5重量%、少なくとも99.8重量%、少なくとも99.9重量%、または少なくとも99.95重量%をカーボンブラックから抽出することができる。
【0057】
PAHおよびニトロ-PAHは、カーボンブラック粒子の表面上およびその内部に存在する可能性があり、その分布は製造方法の条件および可能な後処理工程に依存することに留意されたい。粒子の表面上に存在するPAH分子は、典型的にはカーボンブラック粒子内に組み込まれた分子よりも、超臨界流体抽出中に容易に除去することができる。したがって、例えば、酸化処理中に形成される例えばニトロ-PAHなど、主に粒子の表面上に存在するPAHは、粒子表面と粒子体積との間により均一に分布するPAHと比較して、より完全に除去することができる。
【0058】
本発明の方法は、抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤をカーボンブラックから除去して、多環式芳香族炭化水素の初期含量よりも低い含量の多環式芳香族炭化水素を含む精製されたカーボンブラックを得ることをさらに含む。例えば、抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤が、処理されたカーボンブラックから連続的に除去されるように、カーボンブラックは抽出剤の流れを用いて上述のように処理することができ、したがって、処理時間が進むにつれて次第に精製される。抽出された多環式芳香族炭化水素が、抽出チャンバまたはそれに接続された圧力ラインなどの周辺部内で析出すると、カーボンブラックの再汚染および/または圧力ラインの目詰まりがもたらされる可能性があるため、一般にこれは回避されるべきである。抽出チャンバおよびそれに接続された圧力ライン中での抽出された多環式芳香族炭化水素の析出は例えば、抽出剤中に溶解された多環式芳香族炭化水素を保持するのに十分な高温に加熱することによって防止することができる。
【0059】
本明細書に開示される方法は、カーボンブラックから除去された抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤から多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を分離する工程を任意にさらに含んでもよい。これは、例えば、抽出剤中の多環式芳香族炭化水素の相分離または溶解性の低減によって達成することができる。例えば、抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤の温度および/または圧力は、抽出剤を気体状態に変化させ、抽出された多環式芳香族炭化水素を気体抽出剤から、例えば液相および/または固相として分離することができるように、調整することができる。あるいは、抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤の温度および/または圧力は、抽出された多環式芳香族炭化水素を凝縮および/または沈殿させるが、抽出剤を超臨界状態のままに維持するように、調整することができる。多環式芳香族炭化水素は、抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤を、PAH吸着または吸収媒体などの適切なフィルターに通すことによって、抽出剤から分離することもできる。例えば、抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤を、例えば1つ以上の有機溶媒を含み得る液体吸収媒体に通過させて、この液相によって多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を吸収することで、PAHを枯渇させた抽出剤を得ることができる。好適な吸収媒体は、例えばアセトニトリルである。抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤は、超臨界状態で、または非超臨界状態、例えば気体状態に変換された後に、吸収媒体と接触させることができる。後者の場合、温度および圧力の条件は、吸収媒体を通過する前に、多環式芳香族炭化水素の一部のみまたは本質的に全く凝縮または沈殿しないように選択することができる。抽出剤から多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を分離することはまた、抽出剤をガス状に変換し、かつ抽出された多環式芳香族炭化水素の一部を縮合および/または析出によってガス状抽出剤から液相および/または固相として分離し、さらに吸収媒体を通過させることによって抽出剤から残りの多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部をさらに分離することを含むことができる。
【0060】
本発明の方法は、抽出された多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を抽出剤から分離した後、このようにして得られた抽出剤を、上述の初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを処理する工程で使用するためにリサイクルすることをさらに含むことができる。好ましくは、リサイクル抽出剤は、多環式芳香族炭化水素を実質的に含まないか、または完全に含まない。「実質的に含まない」とは、この点において、リサイクル抽出剤が0.5重量%未満、例えば0.1重量%未満の多環式芳香族炭化水素を含有することを意味する。「完全に含まない」とは、偏在する不純物として存在し得る微量のものを除き、リサイクル抽出剤が多環式芳香族炭化水素を含有しないことを意味する。
【0061】
場合により、本明細書に開示される方法は、カーボンブラックを抽出剤で処理することによって抽出された多環式芳香族炭化水素の量を検出することをさらに含むことができる。この目的のために、例えば、上述のようにカーボンブラックから除去された抽出芳香族炭化水素を含む抽出剤、例えば、抽出チャンバからの連続的な排出流を、抽出された多環式芳香族炭化水素の含量について分析することができる。分析は、連続的または不連続的に、例えばオンライン測定として、すなわち、抽出処理が進行中である間に実施することができ、カーボンブラックから抽出されたPAHの現在または蓄積量に関する定量的または定性的推論を引き出すことを可能にする測定を提供する任意の分析技術を利用することができる。例えば、抽出された多環式芳香族炭化水素が、上述のように液体吸収媒体を通過させることによって抽出剤から少なくとも部分的に分離される場合、電磁スペクトル内の、例えば、電磁スペクトルのUVまたは可視範囲内の1つまたは複数の特徴的波長における吸収媒体の吸光度または吸光度変化を経時的に測定することができる。このような測定から、現在の抽出量および/または抽出された多環式芳香族炭化水素の総量の尺度を推定することができる。抽出剤によるカーボンブラックの処理によって抽出された多環式芳香族炭化水素の量の検出に関するこのような情報はさらに、抽出剤によるカーボンブラックの処理を制御するために使用することができる。したがって、例えば、ある量の多環式芳香族炭化水素が経時的に抽出されたことが分析によって示された場合に、抽出剤によるカーボンブラックの処理を終了させるなど、抽出時間を制御するために使用することができる。さらに、検出された情報は、抽出剤によるカーボンブラックの処理における圧力および/または温度などの抽出条件を制御するためのフィードバック機構において使用することができる。例えば、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは最初に、第1の温度および第1の圧力で抽出剤に曝露することができる。続いて、例えば、検出された情報によって示されるように、PAHの現在の抽出量または抽出速度が閾値を下回るとき、圧力および/または温度は、第2の温度および第2の圧力で抽出剤を用いてカーボンブラックを処理するように調整することができる。このようにして、抽出パラメータは、次第に精製されるカーボンブラックからの異なるPAH種の抽出を最適化するように調整することができる。これにより、例えば、初期抽出段階のカーボンブラックもしくはある程度まで精製された後期抽出段階のカーボンブラックからPAHを抽出するための異なる条件を定義することができ、および/またはカーボンブラック粒子の表面もしくは表面付近に位置するPAH、もしくはカーボンブラック粒子内に位置するPAH(これらは異なる抽出特性を有し得る)を抽出することができる。これは、例えば表面酸素含有基などのカーボンブラックの他の特性への影響を同時に最小限にしながら、抽出効率を高めることができる。
【0062】
場合により、本発明による方法は、抽出剤で処理する前に、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを乾燥することをさらに含むことができる。乾燥工程は、もしあれば、残留水分が許容されると考えられる所定のレベル、例えば、可能であればカーボンブラック粒子の表面化学を実質的に変えることなく、0.5重量%または0.1重量%を超えない程度まで、供給されたカーボンブラック試料から水分が除去されるように行うことができる。乾燥は典型的には、例えば50℃以上、100℃以上、または150℃以上の高温で、例えば100℃~200℃、または120℃~180℃の範囲の温度に、1分以上、例えば10分以上、30分以上、60分以上、または90分以上の時間、カーボンブラック試料を加熱することによって実施される。加熱は、任意の従来の手段によって達成することができる。乾燥は、ガス雰囲気、例えば、高温に予熱することができる気体媒体の流れ中で実施することができる。気体媒体は例えば、空気または窒素であり得る。しかしながら、気体媒体は特に、超臨界流体抽出の間に後に利用される抽出剤に使用される1つ以上の成分を含むことができるが、気体状態である。したがって、気体媒体は例えば、二酸化炭素を含むか、または二酸化炭素からなることができる。一実施形態では、乾燥工程は、約150℃の温度で、ガス状二酸化炭素中、約10バールの圧力で約1.5時間実施される。例えば、提供されるカーボンブラックは、上記のような初期水分量を有することができ、これは、カーボンブラックの乾燥によって低減することができ、それによって、例えば、初期水分量の80%以上、例えば90%以上、または95%以上をカーボンブラックから除去することができる。乾燥工程の間、カーボンブラックは例えば、以下に記載されるような超臨界流体抽出のために続いて利用される反応器、例えばそのような反応器の抽出チャンバ内に存在することができ、または乾燥は、そのような反応器の外部でもしくは別個のユニット中で実施することができる。
【0063】
本発明による方法は、耐圧反応器中で実施することができる。超臨界流体抽出のための反応器は例えば、ウーデ・ハイ・プレッシャー・テクノロジーズ社、ハーゲン、ドイツおよびサー・プロセス社、PA、USAによって商業的に提供されている。反応器は一般に、超臨界流体抽出に必要な温度および圧力に耐えるように構成される。反応器は例えば、ステンレス鋼などの適切な金属構造材料から作製することができる。反応器は一般に、抽出剤を用いた処理工程において温調するための加熱手段を含む。加熱手段は、任意の従来の加熱手段とすることができる。反応器は、抽出チャンバなどの抽出容積を含むことができ、その中に、抽出剤での処理のためにカーボンブラックが提供される。抽出チャンバは例えば、0.01L以上、例えば0.05L以上、0.1L以上、0.5L以上、1L以上、5L以上、10L以上、50L以上、100L以上、200L以上、500L以上、または1,000L以上の容積を有することができる。抽出チャンバは例えば、10,000L以下、例えば5,000L以下、2,000L以下、1,000L以下、500L以下、200L以下、100L以下、50L以下、20L以下、10L以下、5L以下、2L以下、1L以下、0.5L以下、0.2L以下、または0.1L以下の容積を有することができる。抽出チャンバの容積は、0.01L~5,000L、0.05L~0.5L、1L~2,000L、または10L~1,000Lの範囲など、列挙された値のいずれかの間の範囲であることができる。反応器は、単一の抽出チャンバまたは2つ以上の抽出チャンバを含むことができる。例えば、2つ以上の抽出チャンバを有する反応器を使用することができ、バッチモードでも準連続的な操作が可能になり、この場合、処理されるべき初期カーボンブラックで1つ以上の抽出チャンバを充填し、または処理されたカーボンブラックをそこから排出しながら、反応器の他の1つ以上の抽出チャンバでカーボンブラックを抽出することができる。このように、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックの提供は、ある量の上記カーボンブラックを反応器の抽出チャンバに導入することを含むことができる。典型的には、抽出剤は、抽出剤の1つ以上の供給源から供給ラインに接続された入口を通して抽出チャンバに供給される。多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤は、出口および接続された流出ラインを介して抽出チャンバから抜き出すことができる。反応器は、典型的にはセンサ、圧力または流量調節手段、弁、ポンプおよびコントローラなどの、流量および処理の制御のための従来の手段をさらに備える。典型的には1つ以上の抽出チャンバは、抽出剤の流れが、例えばカーボンブラック材料の上を流れるのではなく、カーボンブラック材料中を強制的に通過するように設計される。このようにして、炭素粒子との抽出剤の接触時間を増加させることができ、したがって抽出効率を高めることができる。
【0064】
例えば、二酸化炭素は、加圧容器中で抽出剤として供給され得る。二酸化炭素は例えば、供給ラインに接続された1つ以上のポンプおよび/または流量制御手段によって調整された所定の流量で、継続的な流れを確立するために、容器から取り出すことができる。抽出剤の圧力および温度は、圧力調整手段および加熱手段によって調整することができ、抽出剤は超臨界状態で提供される。圧力調整は例えば、システム内のポンプ、弁、および背圧レギュレータの制御によって達成することができ、一方、加熱は例えば、供給ラインを加熱すること、例えば供給ラインに電気加熱ジャケット、加熱テープなどを設けることによって、および/または、例えば抵抗性電気ヒータタイプであり得る、抽出チャンバを加熱する1つ以上の加熱素子によって達成することができる。得られた超臨界二酸化炭素抽出剤の流れは、抽出チャンバ内のカーボンブラックと接触して、そこからPAHを抽出する。任意選択的に、上述のような補助剤を、抽出チャンバの上流などの反応器の任意の段階で、所定の一定または可変の比率で二酸化炭素の流れに供給することができる。
【0065】
本方法は、精製されたカーボンブラックを回収および/または収集することをさらに含むことができる。これは、抽出剤の供給を停止すること、抽出チャンバから抽出剤または精製カーボンブラックを取り出すこと、または精製カーボンブラックと抽出剤とを分離することを含むことができる。一般に、本発明による方法は、連続法として、半バッチ法として、またはバッチ法として実施することができる。連続法の場合、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックは例えば、抽出剤で処理される抽出チャンバに連続的に供給することができ、例えば、抽出剤の連続的な流れを使用して、精製されたカーボンブラックは、抽出チャンバから連続的に取り出される。好ましくは、このような連続法は、抽出チャンバ内の滞留時間、したがって抽出時間がほぼ同じになるように、異なる時間に抽出チャンバ内に供給されるカーボンブラック粒子が実質的に混合されないように実施することができる。さらに、入口から出口への抽出剤の流れは、カーボンブラック粒子の搬送方向に対して反対方向、同じ方向、垂直方向、または任意の他の角度構成であってもよい。
【0066】
バッチ法または半バッチ法の場合、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックのバッチを抽出チャンバに装填し、制御された条件下で所望の時間、抽出剤で処理して、PAHを抽出し、PAHの含量が減少した精製カーボンブラックを生成することができる。所望の時間の後、処理を停止し、例えば、圧力を解放し、精製されたカーボンブラックを抽出チャンバから取り出すことによって、精製されたカーボンブラックを回収することができる。精製されたカーボンブラックを抽出チャンバから取り出す前に、例えば窒素または空気などの気体媒体と交換するなどして、抽出剤を任意に抽出チャンバから除去し、次いで温度または圧力を例えば周囲条件まで低下させることができる。このようにして、抽出剤に含まれる抽出された多環式芳香族炭化水素の縮合または析出を回避することができる。精製カーボンブラックからの任意の残余抽出剤の分離は、抽出剤についてのそれぞれの臨界値未満まで圧力および/または温度を低下させ、それによって抽出剤を気体状態に変換することによって達成することができる。二酸化炭素は周囲条件で気体であるので、精製カーボンブラックからの分離は本発明に従って簡単な方法で達成することができ、例えば有機溶媒または水蒸気が抽出のために使用される場合に必要とされ得るさらなる乾燥または精製工程も、必要としない。
【0067】
本発明の方法は一般に、カーボンブラックの製造または処理方法とは無関係に実施することができる。したがって、本発明は、多種多様な異なるカーボンブラックグレードに適用することができる。それにもかかわらず、本方法は有利にはカーボンブラック製造プラントにおいて実施することができ、例えば、カーボンブラック製造または処理方法の後に実施することができる。例えば、本明細書に開示される方法は、例えば炉反応器の下流などのカーボンブラック製造の下流、および例えば酸化処理などの他のカーボンブラック後処理方法の上流または下流で実施することができる。
【0068】
本発明による方法によって得られる精製カーボンブラックは、精製のために提供されるカーボンブラック中の多環式芳香族炭化水素の初期含量よりも低い含量の多環式芳香族炭化水素を有する。精製カーボンブラックは例えば、多環式芳香族炭化水素の初期含量の70重量%以下、例えば60重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.2重量%以下、0.1重量%以下、または0.05重量%以下に相当する多環式芳香族炭化水素の含量を有することができる。例えば、精製カーボンブラックは、初期PAH22含量の70重量%以下、例えば60重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.2重量%以下、0.1重量%以下、または0.05重量%以下に相当するPAH22含量を有することができる。あるいはまたは加えて、精製カーボンブラックは、初期ニトロ-PAH8含量の70重量%以下、例えば60重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.2重量%以下、0.1重量%以下、または0.05重量%以下に相当するニトロ-PAH8含量を有することができる。
【0069】
本発明に係る方法により得られた精製カーボンブラックは例えば、1,500ppm未満、1,000ppm未満、700ppm未満、500ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、50ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、3ppm未満、2ppm未満、1ppm未満、または0.5ppm未満のPAH22含量を有することができる。
【0070】
本発明による方法によって得られた精製カーボンブラックはさらに、例えば200ppm未満、100ppm未満、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、3ppm未満、1ppm未満、0.5ppm未満、0.3ppm未満、0.2ppm未満、または0.1ppm未満のニトロ-PAH8含量を有することができる。
【0071】
精製されたカーボンブラックは、上記で特定されたPAH22およびニトロ-PAH8含量の任意の組み合わせを有することができる。本発明による方法により得られる精製カーボンブラックが有するPAH22含量および/またはニトロ-PAH8含量などのPAH含量は、食品または飲料の接触状況での使用、医薬品、化粧品、または子供用の玩具および物品の製造などの分野における精製カーボンブラックの応用のための公式規則、例えばFDA規則の遵守を確実にすることができる。
【0072】
精製カーボンブラックは、精製される出発材料として提供されるカーボンブラックについて上述した他の特性および特性、例えば炭素含量、酸素含量、揮発分、灰分含量、水分量、およびBET表面積のいずれかをさらに有することができる。これらの特性は、本明細書に開示される精製方法によって実質的に影響されないままであり得る。したがって、精製されたカーボンブラックは、PAH含量とは別に、精製される出発材料として提供されるカーボンブラックに実質的に対応し得る。例えば、精製されたカーボンブラックの炭素含量、酸素含量、揮発分、灰分含量、水分量、および/またはBET表面積は、上記のように出発材料として提供されるカーボンブラックのそれぞれの値、±30%、または±20%、または±10%、または±5%に対応することができる。
【0073】
本発明に従って得られる精製カーボンブラックは、カーボンブラックが従来使用されているかまたは有用である任意の用途に使用することができる。本発明による精製カーボンブラックは例えば、プラスチック物品またはゴム物品、塗料、インク、コーティング、電極またはエネルギー貯蔵デバイスの製造のための、顔料、補強充填剤または導電剤として使用することができる。本発明による精製カーボンブラックはPAHに関する認識もしくは懸念が高まっている用途、またはPAH関連の公的規制が存在する用途、例えば、食品もしくは飲料の接触状況、医薬品、化粧品、または子供のための玩具および物品の製造において特に有用である。
【0074】
本明細書に開示された上記のものを考慮すると、とりわけ、それに限定されるものではないが、本発明は以下の態様である。
1. 多環式芳香族炭化水素の含量が低減された精製カーボンブラックの製造方法であって:
(a) 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを提供すること、
(b) 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを、超臨界状態の二酸化炭素を含む抽出剤で処理して、カーボンブラックから多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を抽出すること、
(c) 抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤をカーボンブラックから除去して、多環式芳香族炭化水素の初期含量よりも低い含量の多環式芳香族炭化水素を含む精製されたカーボンブラックを得ること、を含む方法。
2. 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックが、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、ガスブラック、アセチレンブラック、リサイクルブラック、またはこれらのいずれかの組み合わせを含む、態様1に記載の方法。
3. 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックが、酸化カーボンブラックを含む、態様1または2に記載の方法。
4. 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックが、下記成分の1つ以上またはすべてを有する、態様1~3のいずれか1つに記載の方法:
- 20重量%以下、例えば15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、または0.1重量%以下の、ASTM D1506-15に従って測定した灰分、
- 20重量%以下、例えば15重量%以下、または10重量%以下の、950℃に加熱しDIN 53552:1977に従って測定した揮発分、
- 15重量%以下、例えば10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、または1重量%以下の、ASTM D1509-18に従って測定した水分量、
- 80質量%以上、例えば85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、または98質量%以上の、元素分析により測定した炭素含量。
5. 多環式芳香族炭化水素の含量が、PAH22含量、ニトロ-PAH8含量、またはPAH22含量とニトロ-PAH8含量の合計として測定される、態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
6. 初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックが、下記のものを有する、態様1~5のいずれか1つに記載の方法:
- 10ppm以上、例えば50ppm以上、100ppm以上、500ppm以上、800ppm以上、または1,000ppm以上の初期PAH22含量、および/または
- 1ppm以上、例えば10ppm以上、50ppm以上、100ppm以上、または500ppm以上の初期ニトロ-PAH8含量。
7. 抽出剤が、抽出剤の総重量に基づいて、少なくとも50重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、または少なくとも99重量%の二酸化炭素を含む、態様1~6のいずれか1つに記載の方法。
8. 抽出剤が1種以上の補助剤をさらに含む、態様1~7のいずれか1つに記載の方法。
9. 抽出剤が超臨界二酸化炭素からなる、態様1~7のいずれか一項に記載の方法。
10. 工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、75℃以上の温度、例えば75℃~400℃、好ましくは100℃~300℃の範囲の温度、および/または75バール以上の圧力、例えば75バール~700バール、好ましくは150バール~300バールの範囲の圧力で行われる、態様1~9のいずれか1つに記載の方法。
11. 工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、カーボンブラックを抽出剤の流れに曝露する工程を含み、処理されたカーボンブラックの量の単位質量(kg)当たりの抽出剤の平均流量が、好ましくは1,000NL・h-1・kg-1以上、例えば5,000NL・h-1・kg-1以上、例えば5,000NL・h-1・kg-1~20,000NL・h-1・kg-1に相当する、態様1~10のいずれか1つに記載の方法。
12. 工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、少なくとも1分間、例えば少なくとも1時間および/または48時間までの時間で行われる、態様1~11のいずれか1つに記載の方法。
13. 工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、下記のことを含む、態様1~12のいずれか1つに記載の方法:
- 初期PAH22含量の少なくとも40重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%をカーボンブラックから抽出すること、および/または
- 初期ニトロ-PAH8含量の少なくとも50重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%をカーボンブラックから抽出すること。
14. 工程(c)で得られた精製カーボンブラックが、下記量に対応する多環式芳香族炭化水素の含量を有する、態様1~13のいずれか1つに記載の方法:
- 初期PAH22含量の60重量%以下、例えば30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、または5重量%以下、および/または
- 初期ニトロ-PAH8含量の50重量%以下、例えば30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下。
15. 抽出剤で処理する前に、初期含量の多環式芳香族炭化水素を含むカーボンブラックを乾燥することをさらに含む、態様1~14のいずれか1つに記載の方法。
16. 工程(c)においてカーボンブラックから除去された抽出された多環式芳香族炭化水素を含む抽出剤から、多環式芳香族炭化水素の少なくとも一部を、例えば、圧力を低下させることによって分離すること、および任意に、工程(b)において使用するためにこのようにして得られた抽出剤をリサイクルすることをさらに含む、態様1~15のいずれか1つに記載の方法。
17. オンライン測定などによって抽出剤によって抽出された多環式芳香族炭化水素の量を検出することをさらに含み、好ましくは、工程(b)における抽出剤によるカーボンブラックの処理が、抽出された多環式芳香族炭化水素の検出された量に基づいて制御される、態様1~16のいずれか1つに記載の方法。
18. 上記方法が、連続法として、半バッチ法として、またはバッチ法として行われる、態様1~17のいずれか1つに記載の方法。
19. 加熱手段を有する耐圧反応器中で実施される、態様1~18のいずれか1つに記載の方法。
20. 態様1~19のいずれか1つに記載の方法によって得られる精製されたカーボンブラック。
21. 1,500ppm未満、例えば1,000ppm未満、700ppm未満、500ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、50ppm未満、20ppm未満、または10ppm未満のPAH22含量を有する、態様20に記載のカーボンブラック。
22. 200ppm未満、例えば100ppm未満、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、または1ppm未満のニトロ-PAH8含量を有する、態様20または21に記載のカーボンブラック。
23. 例えば、プラスチック物品またはゴム物品、塗料、インク、コーティング、電極またはエネルギー貯蔵デバイスの製造のための、顔料、補強充填剤または導電剤としての、態様20~22のいずれか1つに記載の精製カーボンブラックの使用。
24. カーボンブラックの精製、特にカーボンブラックから多環式芳香族炭化水素を除去するための超臨界二酸化炭素の使用。
【0075】
以上、本発明を一般的に説明したが、以下の具体例を参照することにより、更なる理解を得ることができる。これらの実施例は単に説明の目的で本明細書に提供され、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明はむしろ、その任意の等価物を含む添付の特許請求の範囲の全範囲を与えられるべきである。
【実施例】
【0076】
実施例全体を通して示される全ての部およびパーセンテージは特に明記しない限り、重量を指す。
使用材料:
【0077】
カーボンブラック:
【0078】
カーボンブラックA:比較的高い初期PAH含量を有するカーボンブラックの例として、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されているガスブラック。
【0079】
カーボンブラックB:かなりの初期ニトロ-PAH含量を有する酸化カーボンブラックの例として、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている酸化ガスブラック。
【0080】
カーボンブラックC:比較的低い初期PAH含量を有するファーネスブラックの例として、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されているファーネスブラック。
【0081】
カーボンブラックD:比較的高い初期PAH含量を有するファーネスブラックの例として、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されているファーネスブラック。
【0082】
調査したカーボンブラックのいくつかの特性を以下の表1にまとめた。
【表1】
【0083】
抽出剤:ウェストファーレン社から市販されている50Lディップチューブボトルに加圧液体形態で供給された、純度99.995体積%の二酸化炭素。
超臨界流体抽出装置:
【0084】
抽出剤として超臨界二酸化炭素を使用する特注の高温高圧超臨界流体抽出装置を用いて、上記で特定したカーボンブラックの試料の超臨界流体抽出を行った。装置は、ステンレス鋼製の管状抽出チャンバ(内径1.43cm、長さ50cm、体積0.080L)(スウェージロック社、IPTシリーズ316/316L)を含み、一方の端部に入口を有し、反対側の端部に出口を有する。抽出チャンバを、抽出チャンバを加熱するための4つの加熱カートリッジ(ホルスト・ハイツパトロネン(Horst Heizpatronen)、230V、直径12.5mm、長さ160mm、公称出力500W)を備えたアルミニウムブロックに取り付けた。2つの熱電対(K型)をアルミニウムブロック内に取り付け、アルミニウムブロックの温度の測定および制御のために加熱コントローラ(ユーロサーム社、Universalregler818および808)を組み合わせて使用した。二酸化炭素を含有するディップチューブボトルを、従来の1/4”チューブを介して、ポンプ(ヒューバー社ミニスタット125w cc1クライオスタットを利用する冷却ユニットを備えた100mLポンプヘッドを有するクナウア社80P)の入口に接続し、ポンプの出口から、圧力ライン(スウェージロック社、IPTシリーズ、外径1/4”)を介して、抽出剤を抽出チャンバに供給するための抽出チャンバの入口に接続した。抽出チャンバの出口に接続された排気圧力ライン(スウェージロック社、IPTシリーズ、外径1/4”)は、圧力を臨界値未満に下げるために、背圧レギュレータ(ポリイミド膜とカルレッツ(Kalrez)(登録商標)膜を備えたカスタマイズされたエクイリバー社製閉塞抵抗性BPR)を介して抽出チャンバの下流に位置する吸収チャンバ内に導かれる。PAHを含む(ここでは、ガス状)抽出剤は、吸収チャンバ内に吸収媒体として提供されたアセトニトリルの体積を通過し、マスフローメータ(ブロンコスト社、F-201CV)および弁を通過することで、精製された抽出媒体を大気中に放出する。圧力ラインの汚染を回避するために、2つのフィルター(それぞれ2μm孔および0.5μm孔のフィルター要素を有するスウェージロック社IPT高圧フィルター)を、それぞれ抽出チャンバの上流および下流の圧力ラインに配置した。さらに、供給および排気圧力ラインを加熱テープ(ユーロサーム社、Universalreglerによって制御されるホルスト・ハイツパトロネンHS450℃)で覆い、抽出剤を抽出チャンバの上流および下流で加熱して、ラインの析出および詰まりを回避した。抽出チャンバを通る抽出剤の連続流の流量および圧力は、一方では供給圧力ラインに接続されたポンプによって、他方では抽出チャンバの下流に配置された背圧レギュレータによって、独立して制御可能であった。BPRのドームに印加される基準圧力は、ポンプと抽出チャンバの入口との間の供給圧力ラインから分岐するバイパスラインによって送達された。
超臨界流体抽出:
【0085】
超臨界流体抽出のために、抽出チャンバを約10gの抽出すべきカーボンブラックで満たした。カーボンブラックを2つのグラスウールプラグの間に固定した。場合によっては、次いで、カーボンブラックを、以下の実施例に記載されるような初期乾燥工程に供した。次いで、抽出チャンバをそれぞれの所望の温度に加熱し、抽出チャンバを通る抽出剤の連続流を提供し、それぞれの所望の値に従ってポンプおよび背圧レギュレータによる抽出剤の流量および圧力を制御した。圧力および温度は、それぞれの場合において、抽出剤として使用される二酸化炭素が超臨界状態にあるように選択された。次いで、カーボンブラック試料を、それぞれの所望の時間、設定された条件下で超臨界流体抽出に供した。その後、抽出剤の流れを停止し、システムから圧力を解放し、試料を周囲温度まで冷却させた。
このようにして得られた抽出されたカーボンブラック試料を、以下に記載するように、それらのPAH22含量およびニトロ-PAH8含量について分析した。
PAH22含量およびニトロ-PAH8含量の測定:
【0086】
調査されたカーボンブラックを、超臨界流体抽出後のPAH22含量について分析し、超臨界流体抽出に供されていないそれぞれ初期状態の市販のカーボンブラックの参照サンプルについて測定された初期PAH22含量と比較した。PAH22含量はそれぞれ、US連邦規則集(CFR)21Sec.178.3297においてアメリカ食品医薬品局(FDA)に組み込まれた、キャボット社により開発された1994年7月8日付けの「カーボンブラックのPAH含量の測定」と題された方法に従って、以下のように測定された。
【0087】
均質な粉末が得られるまで、カーボンブラック材料を乳棒で粉砕した。適切な量(最大10g)の粉末を、セルロース抽出シンブル(MN645、マシェリ・ナーゲル社、デューレン、ドイツ)中で正確に秤量した。抽出シンブルからのガラスウールプラグおよびセルロース片をカーボンブラックの上に置き、充填したシンブルを、250mL丸底フラスコを有する100mLソックスレー装置の抽出チャンバに装填した。トルエンをフラスコに加え、装置の冷却器を窒素で穏やかにフラッシュした。次いで、試料を、ソックスレー装置中、トルエンを用いたソックスレー抽出に、約10サイクル/時間の速度で、光保護下で48時間供した。次いで、得られた粗抽出物を、40℃、最小5kPaの減圧下で運転するロータリーエバポレータ(ビュチ・エバポレータR-200、ビュチ・ラボルテクニク社、9230フラヴィル、スイス)により、5mLをわずかに超えて濃縮した。次いで、抽出物を10mLのメスフラスコに移し、新鮮なトルエンを添加することによってマークにした。抽出物の分注物に、17種の重水素化PAH標準(D8-ナフタレン、D8-アセナフチレン、D10-アセナフテン、D10-フルオレン、D10-フェナントレン、D10-アントラセン、D10-フルオランテン、D10-ピレン、D12-ベンゾ[a]アントラセン、D12-クリセン、D12-ベンゾ[b]フルオランテン、D12-ベンゾ[k]フルオランテン、D12-ベンゾ[a]ピレン、D14-ジベンゾ[a,h]アントラセン、D12-ベンゾ[g,h,i]ペリレン、D12-インデノ[1,2,3-c,d]ピレンおよびD12-コロネン、それぞれ200ng)を加えた。次いで、シリカゲルカラム(1gのシリカゲル/13%のH2O、8~10mmの内径および5cm3の容量)で処理することによって、抽出分注物を清浄化した。その後、さらなる重水素化化合物、D12-ペリレンを、回収基準として200ngの量で、浄化された抽出物に添加した。次いで、このようにして得られた溶液を、PAH同定および定量化のためのHRGC/LRMS分析(低分解能質量分析と組み合わせたキャピラリーガスクロマトグラフィー)に使用した。ガスクロマトグラフ:サーモ・サイエンティフィック社、PVT注入器付きのGC-Ultra、GC-カラム:60mDB5-MS、0.25mm ID、0.25μm膜厚;温度プログラムGCオーブン:オーブンを80℃に予熱し、試料を注入し、2分間80℃で保持し、25℃/分の速度で180℃に加熱し、8℃/分の速度で220℃に加熱し、2℃/分の速度で250℃に加熱し、3℃/分の速度で280℃に加熱し、5℃/分の速度で320℃に加熱し、320℃で21分18秒保持した;質量分析機:サーモ・サイエンティフィック社Trace DSQ LRMS、電子衝撃モード(EI)で動作させイオンモニタリング(SIMモード)を選択した;質量分解能:1amu;個々のPAH化合物について分子イオンおよびフラグメントイオンをモニタリングした。機器の較正チェックは、関心対象の全ての天然PAHおよび上述の重水素化標準を含有する混合物の注入によって、各分析シーケンスについて実施した。PAH種の同定は、相対保持時間、分子イオンおよびフラグメントイオン、ならびにフラグメンテーション比の分析によって達成した。定量は、同位体希釈および内部標準法を用いて、重水素化内部PAHを介して機器ソフトウェアを用いて行った。PAH22含量は、22種のPAH化合物の個々の決定された濃度を合計することによって計算され、その濃度が定量限界(LOQ)未満である化合物についてはLOQがそれぞれの濃度として採用された。共溶出異性体であるジベンゾ(a,h)アントラセンおよびジベンゾ(a,c)アントラセンは、GCカラムによって分離することができないため、本明細書では「ジベンゾ(a,h)アントラセン」として報告される1つの物質とみなすことができる。
【0088】
調査されたカーボンブラックB試料は、超臨界流体抽出後のそれらのニトロ-PAH8含量についても分析され、超臨界流体抽出に供されていない市販の元のカーボンブラックBの参照試料について決定された初期ニトロ-PAH8含量と比較された。ニトロ-PAH8含量の測定は、同じ分析方法に基づいて、上記のPAH22含量の測定と同様に行った。特に、カーボンブラックの抽出、原料抽出物の体積低減、および規定された体積の調整は、上記と全く同じ方法で行った。次のニトロ-PAH特定適合を用いて、上記のようにさらなる工程を実施した:抽出物の分注物に、上記の17種の重水素化PAH標準の代わりに、2種の重水素化ニトロ-PAH(各250ngのD9-3-ニトロフルオランテンおよびD9-1-ニトロピレン)を加えた。重水素化内部標準を含有するニトロ-PAH抽出分注物を、さらなる処理なしに高分解能質量分析(HRGC/HRMS)に直接供した。以下の機器および条件を適用した。サーモ・サイエンティフィック社、PVT注入器付きのGC-Ultra2000、GCカラム:30m DB5-MS、0.25mm ID、0.1μm膜厚、温度プログラムGCオーブン:オーブンを80℃に予熱し、試料を注入し、3分42秒間80℃で保持し、35℃/分の速度で180℃に加熱し、6℃/分の速度で290℃に加熱し、290℃で37秒間保持した;質量分析機:サーモ・サイエンティフィック社MAT95HRMS、電子衝撃モード(EI)で動作させイオンモニタリング(SIMモード)を選択した;質量分解能:<8.000amu、個々のニトロ-PAH化合物について分子イオンおよびフラグメントイオンをモニタリングした。HRMS機器の較正チェックを、8種のニトロ-PAHおよび上記の2種の重水素化標準を含有する混合物の注入によって、各分析シーケンスについて実施した。ニトロ-PAH種の同定は、相対保持時間、分子イオンおよびフラグメントイオン、ならびにフラグメンテーション比の分析によって達成した。定量は、同位体希釈および内部標準法を用いて、重水素化内部ニトロ-PAHを介して、機器ソフトウェアを用いて行った。
TPD-MS特性評価:
【0089】
調査したカーボンブラックを、温度プログラム脱着質量分析(TPD-MS)によってさらに分析し、SFE処理によるカーボンブラックの電位変化の尺度として、超臨界流体抽出に供されていないそれぞれ初期状態の市販のカーボンブラックの参照サンプルと比較した。TPD-MS分析を以下のように行った。分析すべきそれぞれのカーボンブラック試料約50mgを酸化アルミニウムるつぼ中で秤量し、次いで熱重量測定装置(STA409PC LUXX、エーリヒ・ネッチ社、ゼルプ、ドイツ)に移した。次いで、試料を、毎分30NmLのヘリウムガスの一定流下で、所定の温度プログラム(80℃に達するまで5K/分の速度で加熱し、80℃で30分間保持し、1,000℃に達するまで5K/分の速度で加熱し、1,000℃で30分間保持し、室温に達するまで20K/分の速度で冷却する)に供した。試料から脱着されたCO2およびCOを含む、試料からのガスの排出流を、MS機器(GSD301O2 Omnistar、ファイファーバキューム社、アスラー、ドイツ)によって分析した。CO2およびCOを示す検出されたMSシグナルをベースライン補正し、シグナル集積によっておよびキャリブレーションに基づいて、カーボンブラック1g当たりのCO2およびCOの量を測定した。
【0090】
超臨界流体抽出は、以下の実施例に記載の条件を適用して、上述の手順に従って実施した。
実施例1~4:
【0091】
実施例1~4については、カーボンブラックAタイプのカーボンブラックを使用した。約10gのカーボンブラックを、上記のような超臨界流体抽出装置の抽出チャンバにそれぞれ装填した。CO2雰囲気下、150℃、10バールで90分間、二酸化炭素ガスを穏やかに流しながら乾燥させた。続いて、抽出剤として二酸化炭素を用い、乾燥した試料を、圧力200バール、温度150℃、抽出チャンバを通る抽出剤の推定平均流量55NL/h(抽出チャンバの単位体積当たりの平均流量684NL・h-1・L-1)に相当する連続超臨界流体抽出に、実施例1の場合は2時間、実施例2の場合は4時間、実施例3の場合は20時間、実施例4の場合は36時間をかけて行った。
【0092】
このようにして得られた実施例1~4の抽出カーボンブラックA試料のPAH22含量をそれぞれ上記のように測定した。結果を、参照としてSFEに供されていない初期状態のカーボンブラックAについて測定された初期PAH22含量と比較して、以下の表2にまとめた。報告された相対抽出量は、式1-(x(例)/x(参照))に従って計算され、式中、x(例)およびx(参照)は、それぞれの実施例の抽出されたカーボンブラックおよび初期状態の参照カーボンブラックについて、前述したPAH化合物の検出された量または前述したPAH化合物群の検出された総量をそれぞれ表す。
【表2】
【0093】
表2の結果は、抽出剤として二酸化炭素を用いた超臨界流体抽出によって、出発物質(参照1)と比較して多環式芳香族炭化水素の含量が著しく減少した精製カーボンブラックを得ることができることを示す。このように、実施例1~4において超臨界流体抽出に供されたカーボンブラックAは、2,000ppmを超える初期PAH22含量を有していた(参照1参照)。PAH22含量は、実施例1~4の条件下での超臨界流体抽出によって、2時間という短い処理時間の間、初期含量の65%未満に減少した(実施例1参照)。より長い処理時間により、例えば実施例4の場合、PAH22含量を、約70%の抽出効率に対応する初期含量の30%未満まで、連続的にさらに減少させることができる。
【0094】
さらに、実施例4による超臨界流体抽出工程の4時間ごとに、アセトニトリルの吸収媒体から試料を採取し、各4時間間隔の開始時に、新鮮なアセトニトリルを吸収チャンバに充填した。これらの試料を、深紫外線重水素バルブ(190~400nm)およびハロゲンバルブ(360~2500nm)を備えたオーシャン・オプティクス社製のDH-2000光源からの光、ならびに光誘導のためのソーラボ社製の耐ソーラマルチモードファイバーおよびソーラボ社製のキュベットCV10Q3500と一緒に、分光計(インスツルメント・システムズ・オプティシェ・メステクニーク社製のSpectro320)を使用して、UV/Vis吸収を測定することによって分析した。純粋なアセトニトリルを標準化のための参照試料として使用した。250nmの波長での吸収を、吸収媒体中の全体的なPAH濃度の尺度として選択した。250nmの波長では、アセトニトリルの吸収が比較的弱く、PAHの芳香族系の吸収が強いため、この波長における吸収を選択した。ランベルト・ベールの法則に基づいて、抽出されたPAH種の総量の尺度としてのε・n・lを、下記式に従って、試料ごとに計算した。
【数1】
ここで、I
referenceおよびI
sampleはそれぞれ、参照試料およびSFE試料の波長250nmで測定した強度であり、V
0は試料の体積であり、Kは、添加したアセトニトリル溶媒の体積部に対応する希釈係数であり(高濃度の試料は分光測定前に希釈しなければならない)、例えば試料の1体積部に3体積部の溶媒を添加して希釈する場合、Kは3である。εは吸光係数(L/(mol*cm))を表し、nはPAH物質の量(mol)、およびlはキュベット内の試料を通る光の光路長(cm)である。Σε・n・lは、そのようにして得られたε・n・lの値を合計することによって計算され、
図1の経過抽出時間に対してプロットされた。
図1に見られるように、Σε・n・lは、抽出時間が進むにつれて連続的に増加し、これは、カーボンブラックの精製が進行していることを示す。これは、PAH抽出プロセスの監視が抽出チャンバからの流出ガス流に基づいて可能であることを示す。さらに、
図1から、Σε・n・lは、抽出プロセスの後期段階よりも最初により顕著に増加することが分かる。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、これは、カーボンブラック粒子内に存在するPAHは、抽出剤への曝露が少なく、粒子表面へのより長い経路を有するため、粒子内に存在するPAHよりも、粒子表面に存在する多環式芳香族炭化水素の方がより容易に除去されるためであり得る。
実施例4bおよび4c:
【0095】
実施例4bおよび4cについては、同様にカーボンブラックタイプAを使用した。約10gのカーボンブラックを、実施例4bまたは4c内の各抽出実行について、上記のように超臨界流体抽出装置の抽出チャンバに装填した。専用の乾燥工程は実施しなかった。試料は、200バール(実施例4bの場合)または300バール(実施例4cの場合)の圧力、250℃の温度および74NL/hに相当する抽出チャンバを介した抽出剤の推定平均流量(抽出チャンバの単位体積当たりの平均流量921NL・h-1・L-1)で、それぞれi)1h、ii)2h、iii)4h、iv)8hまたはv)16hの期間、抽出剤として二酸化炭素を用いた連続超臨界流体抽出に供した。
【0096】
実施例4bおよび4cに従い、上記の5つの異なる期間i)~v)で処理された、このようにして得られた抽出サンプルのPAH22含量を、それぞれ上記のように測定した。結果は、
図2aの全PAH22グループと、
図2b(ナフタレン)および
図2c(ピレン)の選択されたPAH物質について、基準としてSFEに供されていない原始的なタイプAカーボンブラックについて測定されたそれぞれのPAH物質の初期含量に対する抽出量で示されている。
図2aから分かるように、全体的なPAH22抽出効率は、カーボンブラックの精製の進行を示す抽出時間の進行と共に連続的に増加し、200バールよりも300バールでいくらか高い。
図2bおよび
図2cから分かるように、ナフタレンのような一定のPAH化合物は、ピレンのような他のものよりもカーボンブラックからより容易に除去される。
実施例5~7:
【0097】
実施例5~7によれば、超臨界流体抽出に供するカーボンブラックとして、タイプAのカーボンブラックを再度用いた。約10gのカーボンブラックを、上記のような超臨界流体抽出装置の抽出チャンバにそれぞれ装填した。専用の乾燥工程は実施しなかった。抽出剤として二酸化炭素を用い、圧力300バール、抽出剤の平均流量が約74NL CO2/h(抽出チャンバの単位体積当たりの平均流量921NL・h-1・L-1)に相当する連続超臨界流体抽出を、75℃(実施例5の場合)、150℃(実施例6の場合)、250℃(実施例7の場合)で、それぞれ16時間実施した。
【0098】
このようにして得られた実施例5~7のタイプA抽出試料のPAH22含量をそれぞれ上記のように測定した。結果を、参照としてSFEに供されていない初期状態のタイプAカーボンブラックについて測定された初期PAH22含量と比較して、以下の表3にまとめた(参照1参照)。報告された相対抽出量は、式1-(x(実施例)/x(参照))に従って計算した。式中、x(例)およびx(参照)は、それぞれの実施例の抽出されたカーボンブラックおよび初期状態の参照カーボンブラックについて、前述したPAH化合物の検出された量または前述したPAH化合物群の検出された総量をそれぞれ表す。
図3は、適用された抽出温度の関数として、PAH22化合物の全グループについて達成された相対抽出量を示す。
【0099】
表3にまとめられ、
図3に示された結果は、カーボンブラックのPAH22含量が、抽出剤として超臨界二酸化炭素を利用する75℃程度の低温での超臨界流体抽出によって、初期PAH22含量の50%を超えて著しく低減され得ることを示す(実施例5)。抽出効率は、温度250℃での初期PAH22含量の90%を超えるまで、適用温度を増加させると顕著に増加する(実施例7)。これは、抽出温度を上昇させることが抽出効率を著しく上昇させ得ることを実証している。
【表3】
【0100】
表4は実施例3、5、および7の精製カーボンブラックA試料のTPD-MS分析の結果を、SFEに供されていない初期状態のカーボンブラックA試料(参照1)、および、SFEで処理されていないが、代わりにアルゴン雰囲気下150℃で6時間の熱処理(比較例1)またはアルゴン雰囲気下500℃で6時間の熱処理(比較例2)に供されたカーボンブラックA試料と比較してまとめたものである。表4の結果は、超臨界流体抽出で処理された試料についてTPD-MS分析によって測定されたCO
2およびCO濃度が未処理の試料および比較例1について測定されたCO
2およびCO濃度と同等であることを示す。これは、SFE処理によってカーボンブラックの表面化学に大きな変化が生じていないことを示している。対照的に、比較例2は、カーボンブラックからPAHを除去するために当技術分野で提案されているような、より高い温度(500℃)での熱処理が、元の試料から著しく逸脱するCO濃度を生じ、熱処理によってカーボンブラックの表面化学の変化が引き起こされることを示す。
【表4】
実施例8および9:
【0101】
実施例8および9については、超臨界流体抽出に供するカーボンブラックとして、タイプBのカーボンブラックを用いた。約10gのカーボンブラックを、上記のような超臨界流体抽出装置の抽出チャンバにそれぞれ装填した。CO2雰囲気下、150℃、10バールで90分間、二酸化炭素を穏やかに流しながら乾燥させた。続いて、実施例8の場合には、200バールの圧力、150℃の温度、100NL CO2/hに相当する平均流量(抽出チャンバの単位体積当たりの平均流量1245NL・h-1・L-1)で、約9時間、または、実施例9の場合には、300バールの圧力、250℃の温度、74NL CO2/hに相当する平均流量(抽出チャンバの単位体積当たりの平均流量921NL・h-1・L-1)で、16時間、抽出剤として二酸化炭素を用いて、乾燥試料を連続超臨界流体抽出に供した。
【0102】
このようにして得られた実施例8および9のタイプB抽出試料のPAH22含量およびニトロ-PAH8含量に関するPAH含量をそれぞれ上記のように測定した。結果を、参照としてSFEに供されていない初期状態のタイプBカーボンブラックについて測定された初期PAH22含量および初期ニトロ-PAH8と比較して、以下の表5および6にまとめた。報告された相対抽出量は、式1-(x(例)/x(参照))に従って計算され、式中、x(例)およびx(参照)は、それぞれの実施例の抽出されたカーボンブラックおよび初期状態の参照カーボンブラックについて、前述したPAH化合物の検出された量または前述したPAH化合物群の検出された総量をそれぞれ表す。
【表5】
【表6】
【表7】
【0103】
表6の結果は、抽出剤としての二酸化炭素による超臨界流体抽出がニトロ-PAH化合物からのカーボンブラックの効果的な精製も可能にすることを実証しており、これは、例えば酸化カーボンブラックの場合のように、ニトロ-PAHの顕著な初期含量を有するカーボンブラックにとって特に重要であり得る。実施例8は150℃および200バールなどの中程度のSFE条件で、ニトロ-PAH8含量が初期含量に基づいて約80%有意に減少している精製カーボンブラックを得ることができ、精製カーボンブラックは30ppm未満のニトロ-PAH8含量を有することを示す。実施例9は、より厳しいSFE条件を適用することにより、個々の種の定量限界未満にまでもニトロ-PAH含量をさらに減少させ、ニトロ-PAH8化合物から実質的に完全に精製することが可能になり、99%を超える抽出効率を達成できることを実証する。表5に示されるように、非置換PAH化合物からのカーボンブラックの精製も達成され、特に実施例9については、PAH22含量は、当初の約15ppmから約5ppmに低減され、これは60%を超える抽出効率に相当する。
【0104】
表7はさらに、SFEに供されていない初期状態のカーボンブラックB試料(参照2)およびSFEで処理されていないが、代わりにアルゴン雰囲気下で150℃で6時間熱処理されたカーボンブラックB試料(比較例1)と比較した、実施例8の精製されたカーボンブラックB試料についてのTPD-MS分析の結果を示す。超臨界流体抽出で処理された試料のTPD-MS分析によって測定されたCO2およびCO濃度は、それぞれ、未処理のカーボンブラックBおよび加熱された試料について測定された値に非常に近いことを、表7の結果は示す。これは、SFE処理が、PAHの所望の除去とは別に、基本的に初期カーボンブラックの特性を保存するという指標を提供する。
実施例10:
【0105】
実施例10については、超臨界流体抽出に供されるカーボンブラックとして、タイプCのカーボンブラックを使用した。約10gのカーボンブラックを、上記のような超臨界流体抽出装置の抽出チャンバに装填した。300バールの圧力、250℃の温度、74NL CO
2/hに相当する平均流量(抽出チャンバの単位容積当たりの平均流量921NL・h
-1・L
-1)で16時間、抽出剤として二酸化炭素を用い、試料を連続超臨界流体抽出に供した。このようにして得られた抽出カーボンブラックC試料のPAH22含量を、上記のようにして測定した。結果を、参照としてSFEに供されていない初期状態のカーボンブラックC試料(参照3)について測定された初期PAH22含量と比較して、以下の表8にまとめた。
【表8】
【0106】
表8の結果は、抽出剤として二酸化炭素を用いる超臨界流体抽出は、比較的低い初期PAH含量を有するファーネスブラックの精製も可能であることを実証する。
実施例11:
【0107】
実施例11については、超臨界流体抽出に供するカーボンブラックとして、タイプDのカーボンブラックを使用した。約5gのカーボンブラックを、上記のような超臨界流体抽出装置の抽出チャンバに装填した。300バールの圧力、350℃の温度、74NL CO
2/hに相当する平均流量(抽出チャンバの単位容積当たりの平均流量921NL・h
-1・L
-1)で4時間、抽出剤として二酸化炭素を用い、試料を連続超臨界流体抽出に供した。このようにして得られた抽出カーボンブラックD試料のPAH22含量を、上記のようにして測定した。結果を、参照としてSFEに供されていない初期状態のカーボンブラックD試料(参照4)について測定された初期PAH22含量と比較して、以下の表9にまとめた。
【表9】
【0108】
表9の結果は、抽出剤として二酸化炭素を用いる超臨界流体抽出が、比較的高い初期PAH含量を有するファーネスブラックの精製も可能にし、85%を超える抽出効率を達成することを実証する。
【国際調査報告】