(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-22
(54)【発明の名称】転写因子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20240515BHJP
C12N 15/83 20060101ALI20240515BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20240515BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240515BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20240515BHJP
A01H 6/64 20180101ALI20240515BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240515BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20240515BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240515BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20240515BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240515BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N15/83 Z ZNA
C12N15/29
C12N15/113 Z
C12N15/82 120Z
C12N15/82 122Z
A01H6/64
A01H5/00 A
A01H5/10
A01H5/00 Z
C12M1/00 D
C12P13/00
C12N5/10
C12N9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572911
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 IB2022054862
(87)【国際公開番号】W WO2022249068
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523302496
【氏名又は名称】サン・ファーマシューティカル・インダストリーズ・オーストラリア・プロプライエタリ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】グラハム,イアン
(72)【発明者】
【氏名】ウィンザー,ティロ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB12
4B064AE01
4B064AH08
4B064BJ16
4B064CA11
4B064CA19
4B064DA01
4B064DA08
4B065AA88X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA16
4B065CA18
4B065CA44
(57)【要約】
本開示は、転写因子をコードするヌクレオチド配列を含む転写カセットおよびベクターと、当該転写因子をコードする核酸の組換えコピーを含むように遺伝子操作された植物、植物細胞、植物細胞培養物および種子と、遺伝子操作された植物からのベンジルイソキノリンアルカロイドの抽出のためのプロセスとに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物発現用に適合された発現カセットであって、
i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子、
ii)核酸分子であって、前記核酸分子の相補鎖が、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1の配列とハイブリダイズし、前記核酸分子が、転写因子をコードする、核酸分子、
iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、
iv)アミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子であって、前記アミノ酸配列が、上記i)ii)またはiii)で表される少なくとも一つのアミノ酸残基の付加、欠失または置換によって修飾され、前記ポリペプチドが転写因子であり、前記転写因子が、ベンジルイソキノリンアルカロイドの合成に関与する一つ以上の遺伝子の転写を制御する、核酸分子、から選択される核酸分子を含む、発現カセット。
【請求項2】
前記転写因子がヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子である、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項3】
前記核酸分子が、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と少なくとも50%同一である、請求項1または2に記載の発現カセット。
【請求項4】
前記核酸分子が、配列番号1、またはその多型配列バリアントを含むか、またはそれからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項5】
前記核酸が、配列番号2に記載のアミノ酸配列、またはその多型配列バリアントを含むか、またはそれからなるポリペプチドをコードする、請求項1~4のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項6】
前記修飾ポリペプチドがバリアントであり、全アミノ酸配列にわたって配列番号2に記載されるアミノ酸配列と少なくとも50%、55%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%類似している、請求項1~5のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項7】
前記修飾ポリペプチドがバリアントであり、全アミノ酸配列にわたって配列番号2に記載されるアミノ酸配列と少なくとも50%、55%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である、請求項1~5のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項8】
ベンジルアルカロイドの合成に関与する前記一つ以上の遺伝子が、テバイン合成酵素、サルタリジン還元酵素、サルタリジノール7-O-アセチル基転移酵素、サルタリジン合成酵素、コデインO-デメチラーゼ、コデイノン還元酵素、テバイン6-O-デメチラーゼ、(S)-to-(R)-レチクリンP450-酸化還元酵素、O-メチル基転移酵素1、カナジン合成酵素、O-メチル基転移酵素3、シトクロムP450 CYP82Y1、O-メチル基転移酵素2、アセチル基転移酵素1、シトクロムP450 CYP82X2、シトクロムP450 CYP82X1、カルボキシルエステラーゼ1、短鎖デヒドロゲナーゼ/還元酵素、(S)-テトラヒドロプロトベルベリン-cis-N-メチル基転移酵素、ベルベリンブリッジ酵素、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4’-O-メチル基転移酵素2、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4’-O-メチル基転移酵素1、(S)-N-メチルコクラウリン3’-ヒドロキシラーゼ、コクラウリンN-メチル基転移酵素、ノルコクラウリン6-O-メチル基転移酵素、S-ノルコクラウリン合成酵素1、プロトピン6-ヒドロキシラーゼ、ノルレチクリン-7-O-メチル基転移酵素、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4’-O-メチル基転移酵素2、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4’-O-メチル基転移酵素1、(S)-N-メチルコクラウリン3’-ヒドロキシラーゼ、コクラウリンN-メチル基転移酵素、ノルコクラウリン6-O-メチル基転移酵素、S-ノルコクラウリン合成酵素1、(S)-テトラヒドロプロトベルベリン-cis-N-メチル基転移酵素、ノルレチクリン-7-O-メチル基転移酵素、スコウレリンO-デメチラーゼ、から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項9】
前記核酸分子が転写プロモーターに動作可能に連結されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項10】
前記転写プロモーターが異種プロモーターである、請求項9に記載の発現カセット。
【請求項11】
前記転写プロモーターが、前記転写因子の転写を自然に制御する内因性プロモーターである、請求項9または10に記載の発現カセット。
【請求項12】
前記転写プロモーターが誘導性プロモーターである、請求項9または10に記載の発現カセット。
【請求項13】
前記転写プロモーターが構成的プロモーターである、請求項9または10に記載の発現カセット。
【請求項14】
前記プロモーターが組織特異的プロモーターである、請求項9または10に記載の発現カセット。
【請求項15】
前記プロモーターが、CaMV 35Sプロモーター、Glycine Maxユビキチン3プロモーターから選択される、請求項9~14のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の発現カセットを備えるベクター。
【請求項17】
前記発現ベクターがトランスポゾンである、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
前記発現ベクターがウイルス系ベクターである、請求項16に記載のベクター。
【請求項19】
前記植物が、請求項1~15のいずれか一項に記載の転写カセットまたは請求項16~18に記載の発現ベクターで形質転換または形質移入される、植物。
【請求項20】
前記植物がケシ属の種のものである、請求項19に記載の植物。
【請求項21】
前記植物が、Papaver somniferum、P.setigerum、P.bracteatum、P.orientale、P.pseudo-orientale、P.lasiothrix、P.cylindricum、P.fugax、P.triniifoliumから選択される、請求項17に記載の植物。
【請求項22】
前記転写カセットまたは発現ベクターからの前記転写因子の発現が、同じ種の非形質転換植物と比較して増加する、請求項19~21のいずれか一項に記載の植物。
【請求項23】
前記転写因子の前記発現レベルが、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍増加する、請求項19~22のいずれか一項に記載の植物。
【請求項24】
前記形質転換された植物が、前記転写因子をコードする前記核酸分子の少なくとも二つのコピーを含む、請求項19~23のいずれか一項に記載の植物。
【請求項25】
前記形質転換された植物が、同じ種の形質転換されていないケシ属の植物と比較して、一つ以上のBIAの含有量の増加を含む、請求項19~24のいずれか一項に記載の植物。
【請求項26】
前記BIAレベルが2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍増加する、請求項25に記載の植物。
【請求項27】
請求項19~26のいずれか一項に記載の植物から得られる植物材料。
【請求項28】
請求項1~15のいずれか一項に記載の転写カセット、または請求項16~18のいずれか一項に記載の発現ベクターで形質転換または形質移入された植物細胞。
【請求項29】
前記転写カセットまたは発現ベクターが、前記植物細胞ゲノムに安定して組み込まれる、請求項28に記載の植物細胞。
【請求項30】
前記転写カセットまたは発現ベクターが、前記植物細胞において一過性に発現される、請求項28に記載の植物細胞。
【請求項31】
請求項28~30のいずれか一項に記載の形質転換された植物細胞を含む、植物細胞培養物。
【請求項32】
前記植物細胞が、ケシ属の種の植物細胞である、請求項28~31のいずれか一項に記載の植物細胞または植物細胞培養物。
【請求項33】
請求項28~30のいずれか一項に記載の複数の形質転換された植物細胞を含む、植物。
【請求項34】
請求項28~30のいずれか一項に記載の複数の形質転換された植物細胞を含む、植物種子。
【請求項35】
請求項28~30のいずれか一項に記載の形質転換された植物細胞を含む花粉粒。
【請求項36】
前記植物または種子が、組み込まれた前記転写カセットまたは組み込まれた前記発現ベクターに対してホモ接合性である、請求項33または34に記載の植物または植物種子。
【請求項37】
請求項31に記載の植物細胞培養物を含む、バイオリアクター。
【請求項38】
一つ以上のベンジルイソキノリンアルカロイドを生成するプロセスであって、
i)細胞培養容器内で、請求項28~30のいずれか一項に記載の形質転換された細胞を含む細胞培養物を形成することと、
ii)一つ以上のベンジルイソキノリンアルカロイドまたはベンジルイソキノリン前駆体または中間体の存在下で前記細胞培養物を培養することと、任意選択的に、
iii)前記形質転換または形質移入された細胞または細胞培養物から一つ以上のベンジルイソキノリンアルカロイドを抽出することと、を含む、プロセス。
【請求項39】
ケシ属の植物からのベンジルイソキノリンアルカロイドの抽出のためのプロセスであって、
i)請求項19~26または33のいずれか一項に記載の植物から調製された植物または植物材料を収穫するステップと、
ii)粒子状植物材料の反応混合物を形成するステップと、
iii)ベンジルイソキノリンアルカロイド濃縮画分を提供するための前記反応混合物の抽出のステップと、任意選択的に、
iv)前記アルカロイド濃縮画分を濃縮して、ベンジルイソキノリンアルカロイド濃縮画分を提供するステップと、を含む、プロセス。
【請求項40】
転写因子の発現を増加させた植物を生成する方法であって、
i)植物を、請求項16~18のいずれか一項に記載のベクターで形質転換するステップと、
ii)i)下で前記植物から種子を得るステップと、
iii)ii)で前記種子を栽培して、第一世代および後続の世代の植物を生成するステップと、
iv)前記第一世代植物および後続の世代の植物から種子を得るステップと、を含む、方法。
【請求項41】
転写因子の発現を増加させた植物細胞を生成する方法であって、
i)植物細胞を、請求項16~18のいずれか一項に記載のベクターで形質転換するステップと、
ii)前記転写因子を過剰発現する植物細胞を含む植物細胞培養物を提供するための前記形質転換された植物細胞の培養のステップと、を含む、方法。
【請求項42】
配列番号1に記載のヌクレオチド配列、または配列番号1の多型配列バリアントを含む転写因子をコードする遺伝子を含み、前記ヌクレオチド配列が修飾され、前記修飾ヌクレオチド配列が、低減されたまたは検出不可能な転写因子活性を有する転写因子をコードする、ケシ属の植物またはその植物部分。
【請求項43】
前記ヌクレオチド配列が、少なくとも一つのヌクレオチド塩基の付加、欠失、または置換によって修飾される、請求項42に記載のケシ属の植物またはその植物部分。
【請求項44】
前記修飾が、配列番号1に記載のヌクレオチド配列の全てもしくは一部の欠失、または配列番号1の多型配列バリアントである、請求項42または43に記載のケシ属の植物またはその植物部分。
【請求項45】
前記その植物部分がさく果である、請求項42~44のいずれか一項に記載のケシ属の植物またはその植物部分。
【請求項46】
前記その植物部分が種子である、請求項42~44のいずれか一項に記載のケシ属の植物またはその植物部分。
【請求項47】
前記ケシ属の植物、さく果、または種子が、ベンジルイソキノリンアルカロイドまたはベンジルイソキノリン前駆体を実質的に欠く、請求項42~46のいずれか一項に記載のケシ属の植物またはその植物部分。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、転写因子をコードするヌクレオチド配列を含む転写カセットおよびベクターに関し、ここで転写因子は、例えば、モルヒネ、コデイン、オリパビンおよびテバインなどの、植物ベンジルイソキノリン(BIA)アルカロイドの産生に関与するポリペプチドをコードする遺伝子の発現を制御し、本開示はさらに、当該転写因子の発現を増加させて、それによって、遺伝子操作された植物の栽培または植物細胞培養物の培養のために、ならびに遺伝子操作された植物または植物細胞培養物からのBIAおよびBIAの抽出のためのプロセスの調節のために、BIA製造プロセスを変更するために、当該転写因子をコードする核酸の組換えコピーを含むように遺伝子操作された植物、植物細胞/培養物および種子に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アヘンケシ(Papaver somniferum)は、様々なBIAの重要な供給源である。その麻酔性および鎮痛性のために、一部のBIAおよびそれらの誘導体は、療法での使用に望まれる。P. somniferumは、モルヒネ、コデイン、テバイン、ノスカピン、およびパパベリンなどの臨床的に有用なアルカロイドの供給源である。BIAは、アヘンケシの緑色の種子のさやから、または乾燥した成熟植物であるケシがらから収穫された乳液から抽出される。アルカロイドを生成する経路、および経路に関与する様々な遺伝子は知られており、米国特許出願第15/182,761号および第15/304,455号に開示されており、それらの内容はここに、参照によりその全体が組み込まれる。コデインおよびモルヒネなどのモルフィナンアルカロイドは、中間体(R)-レチクリンに由来することが知られている。(R)-レチクリンは、2ステップ異性化プロセスで、そのエナンチオマー(S)-レチクリンによって形成されると考えられる。次いで、(R)-レチクリンはさらに、テバインに変換される。テバインは、オリパビンに、モルフィノンおよびモルヒネに変換されるか、または代替経路を介してコデイノンおよびコデインに変換されてからその後にモルヒネに変換される。
【0003】
植物体中のアルカロイドの含有量を増加させる様々な試みが、例えば、テバインまたはコデイン含有量が増加した植物を得るなど、中間体および最終生成物を増加させるためにアルカロイド経路をシフトさせる天然育種方法または逆遺伝学によって試みられている。WO2016/207643、WO2017/112011、EP3398430を参照されたい。ノックアウト突然変異を含む植物体は、米国特許出願第14/375,120号に開示されており、その内容はここに、参照により組み込まれる。植物代謝を調節するための代替的な方法は、ニコチン生合成を正に調節する転写因子を過剰発現することによって、WO2021/026119に記載されている。変性Nicotiana tabacum植物は、タバコ葉中の増加したニコチンレベルを含んだ。
【0004】
高速中性子変異誘発(FNM)を、モルヒネおよびノスカピンを産生するP. sominferum栽培品種の種に対して行った。変異誘発M1種子を播種し、M1世代を自家受粉させてM2種子を生成した。次いで、M2世代を、非変異誘発親品種と比較して、任意の異常な代謝物プロファイルについてスクリーニングした。スクリーニングによって、いかなるBIAももはや蓄積しなく、かつほとんどのBIA生合成遺伝子をもはや発現しない、二つの独立した変異体を特定した。DNAレベルでの変異体の分子特徴付けは、転写因子をコードする共有領域にわたる固有の欠失を各変異体が担持することを明らかにした。変異体におけるBIA合成遺伝子発現の喪失およびBIA蓄積の欠如のため、転写因子は、ベンジルイソキノリンアルカロイドの調節因子(RBA)と命名され、変異体は、rba-1およびrba-2変異体を遡及的に標識した。
【0005】
本開示は、モルフィナンアルカロイドなどのBIAの産生に関与する遺伝子の発現を制御する転写因子を特徴とする。
【発明の概要】
【0006】
発明の陳述
本発明の一態様によると、
i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子、
ii)核酸分子であって、当該核酸分子の相補鎖が、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1の配列とハイブリダイズし、当該核酸分子が、転写因子をコードする、核酸分子、
iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、
iv)アミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子であって、当該アミノ酸配列が、上記ii)で表される少なくとも一つのアミノ酸残基の付加、欠失または置換によって修飾され、当該ポリペプチドが転写因子であり、当該転写因子が、ベンジルイソキノリンアルカロイドの合成に関与する一つ以上の遺伝子の転写を制御する、核酸分子、から選択される核酸分子、から選択される核酸分子を含む植物発現のために適応させた発現カセットが提供される。
【0007】
核酸分子のハイブリダイゼーションは、二つの相補的な核酸分子が互いにある程度の水素結合を受けるときに生じる。本明細書で言及される単離した核酸分子としては、ゲノムDNA、cDNA分子、およびRNA分子が挙げられる。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、核酸の周囲の環境条件、ハイブリダイゼーション方法の性質、および使用される核酸分子の組成および長さに応じて変化し得る。特定の程度のストリンジェンシーを達成するために必要なハイブリダイゼーション条件に関する計算については、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001)、およびTijssen, Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Acid Probes Part I, Chapter 2 (Elsevier, New York, 1993)において論じられる。Tmは、核酸分子の所与の鎖の50%がその相補鎖とハイブリダイズする温度である。以下は、ハイブリダイゼーション条件の例示的なセットであり、限定するものではない。
【0008】
非常に高いストリンジェンシー(少なくとも90%の同一性を共有する配列のハイブリダイズが可能)
ハイブリダイゼーション: 5× SSC、65℃、16時間
2回洗浄: 2× SSC、室温(RT)、各15分間
2回洗浄: 0.5× SSC、65℃、各20分間
【0009】
高いストリンジェンシー(少なくとも80%の同一性を共有する配列のハイブリダイズが可能)
ハイブリダイゼーション: 5×~6× SSC、65℃~70℃、16~20時間
2回洗浄: 2× SSC、室温、各5~20分間
2回洗浄: 1× SSC、55℃~70℃、各30分間
【0010】
低いストリンジェンシー(少なくとも50%の同一性を共有する配列のハイブリダイズが可能)
ハイブリダイゼーション: 6× SSC、室温~55℃、16~20時間
少なくとも2回洗浄: 2×~3× SSC、室温~55℃、各20~30分間。
【0011】
本発明の好ましい実施形態では、当該転写因子は、ヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子である。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、当該単離した核酸分子は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と少なくとも50%の同一性がある。
【0013】
好ましくは、単離した核酸分子は、完全長ヌクレオチド配列にわたって、配列番号1に記載されるヌクレオチド配列と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、当該核酸分子は、配列番号1の配列、またはその多型配列バリアントを含むか、またはそれからなる。
【0015】
好ましい実施形態では、当該核酸は、配列番号2に記載のアミノ酸配列、またはその多型配列バリアントを含むか、またはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0016】
本明細書で開示される修飾ポリペプチドは、任意の組み合わせで存在し得る一つ以上の置換、付加、欠失、切断によってアミノ酸配列が異なってもよく、当業者であれば性質上存在するものと予想する多型配列バリアントを含む。好ましいバリアントとしては、保存的アミノ酸置換によって基準ポリペプチドとは異なるバリアントがある。そのような置換は、所与のアミノ酸を同様の特性の別のアミノ酸によって置換する置換である。以下のアミノ酸の非限定的な列記、すなわちa)アラニン、セリン、およびトレオニン、b)グルタミン酸およびアスパラギン酸、c)アスパラギンおよびグルタミン、d)アルギニンおよびリジン、e)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン、ならびにf)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンは、保存的置換(類似物)とみなされる。最も好ましいのは、基準ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を保持または強化するバリアントであり、ここで、そのバリアントは、当該基準ポリペプチドから変化する。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、当該修飾ポリペプチドは、バリアントであり、全アミノ酸配列にわたって配列番号2に記載されるアミノ酸配列と少なくとも50%、55%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%類似している。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、当該修飾ポリペプチドは、バリアントであり、全アミノ酸配列にわたって配列番号2に記載されるアミノ酸配列と少なくとも50%、55%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。
【0019】
好ましい実施形態では、ベンジルイソキノリンアルカロイドの合成に関与する当該一つ以上の遺伝子は、テバイン合成酵素、サルタリジン還元酵素、サルタリジノール7-O-アセチル基転移酵素、サルタリジン合成酵素、コデインO-デメチラーゼ、コデイノン還元酵素、テバイン6-O-デメチラーゼ、(S)-to-(R)-レチクリンP450-酸化還元酵素、O-メチル基転移酵素1、カナジン合成酵素、O-メチル基転移酵素3、シトクロムP450 CYP82Y1、O-メチル基転移酵素2、アセチル基転移酵素1、シトクロムP450 CYP82X2、シトクロムP450 CYP82X1、カルボキシルエステラーゼ1、短鎖デヒドロゲナーゼ/還元酵素、(S)-テトラヒドロプロトベルベリン-cis-N-メチル基転移酵素、ベルベリンブリッジ酵素、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4’-O-メチル基転移酵素2、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4’-O-メチル基転移酵素1、(S)-N-メチルコクラウリン3’-ヒドロキシラーゼ、コクラウリンN-メチル基転移酵素、ノルコクラウリン6-O-メチル基転移酵素、S-ノルコクラウリン合成酵素1、プロトピン6-ヒドロキシラーゼ、ノルレチクリン-7-O-メチル基転移酵素、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4’-O-メチル基転移酵素2、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4’-O-メチル基転移酵素1、(S)-N-メチルコクラウリン3’-ヒドロキシラーゼ、コクラウリンN-メチル基転移酵素、ノルコクラウリン6-O-メチル基転移酵素、S-ノルコクラウリン合成酵素1、(S)-テトラヒドロプロトベルベリン-cis-N-メチル基転移酵素、ノルレチクリン-7-O-メチル基転移酵素、スコウレリンO-デメチラーゼから選択される。
【0020】
好ましい実施形態では、ベンジルイソキノリンアルカロイドの合成に関与する当該一つ以上の遺伝子は、表2でリストにされた遺伝子から選択される。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、当該核酸分子は、転写プロモーターに動作可能に連結されている。
【0022】
本発明の代替的な好ましい実施形態では、当該転写プロモーターは、異種プロモーターである。
【0023】
代替的な好ましい実施形態では、当該転写プロモーターは、当該転写因子の転写を自然に制御する内因性プロモーターである。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、当該転写プロモーターは、誘導性プロモーターである。
【0025】
本発明の代替的な好ましい実施形態では、当該転写プロモーターは、構成的プロモーターである。
【0026】
本発明の代替的な好ましい実施形態では、当該プロモーターは、組織特異的プロモーターである。
【0027】
本発明のさらに好ましい方法では、当該プロモーターは、CaMV 35SプロモーターおよびGlycine Maxユビキチン3プロモーターからなる群から選択される。
【0028】
「転写プロモーター」とは、転写開始部位から上流のヌクレオチド配列を意味し、転写に必要な全ての制御領域を含有する。当該プロモーターには、植物細胞中で機能することができるウイルス、真菌、細菌、動物、および植物由来プロモーターが含まれる。構成的プロモーターとしては、例えば、CaMV 35Sプロモーター(Odell et al. (1985) Nature 313, 9810-812)、米アクチン(McElroy et al. (1990) Plant Cell 2: 163-171)、ユビキチン(Christian et al. (1989) Plant Mol. Biol. 18 (675-689)、pEMU(Last et al. (1991) Theor Appl. Genet. 81: 581-588)、MAS(Velten et al. (1984) EMBO J. 3. 2723-2730)、ALSプロモーター(米国特許出願第08/409,297号)などが挙げられる。他の構成的プロモーターとしては、米国特許第5,608,149号、第5,608,144号、第5,604,121号、第5,569,597号、第5,466,785号、第5,399,680号、第5,268,463号、および第5,608,142号のプロモーターが挙げられ、それらの各々は参照により組み込まれる。
【0029】
化学的に制御されたプロモーターを使用して、外因性化学調節因子の適用を通して植物における遺伝子の発現を調節することができる。目的に応じて、プロモーターは、化学物質の適用が遺伝子発現を誘導した、化学的誘導性プロモーター、または化学物質の適用が遺伝子発現を抑制する、化学的抑制性プロモーターであってもよい。化学的誘導性プロモーターは当技術分野で知られており、ベンゼンスルホンアミド除草剤毒性緩和剤によって活性化されるトウモロコシIn2-2プロモーター、発芽前除草剤として使用される疎水性求電子化合物によって活性化されるトウモロコシGSTプロモーター、およびサリチル酸によって活性化されるタバコPR-1aプロモーターを含むが、これらに限定されない。関心のある他の化学的に制御されるプロモーターとしては、ステロイド応答性プロモーター(例えば、Schena et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 10421-10425およびMcNellis et al. (1998) Plant J. 14(2): 247-257のグルココルチコイド誘導性プロモーターを参照されたい)、ならびにテトラサイクリン誘導性プロモーターおよびテトラサイクリン抑制性プロモーター(例えば、Gatz et al. (1991) Mol. Gen. Genet. 227: 229-237、ならびに米国特許第5,814,618号および第5,789,156号を参照されたい)が挙げられ、参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
特定の組織における発現の強化が望まれる場合、組織特異的プロモーターを利用することができる。組織特異的プロモーターとしては、Yamamoto et al. (1997) Plant J. 12(2): 255-265、Kawamata et al. (1997) Plant Cell Physiol. 38(7): 792-803、Hansen et al. (1997) Mol. Gen. Genet. 254(3): 337-343、Russell et al. (1997) Transgenic Res. 6(2): 157-168、Rinehart et al. (1996) Plant Physiol. 112(3): 1331-1341、Van Camp et al. (1996) Plant Physiol. 112(2): 525-535、Canevascni et al. (1996) Plant Physiol. 112(2): 513-524、Yamamoto et al. (1994) Plant Cell Physiol. 35(5): 773-778、Lam (1994) Results Probl. Cell Differ. 20: 181-196、Orozco et al. (1993) Plant Mol. Biol. 23(6): 1129-1138、Mutsuoka et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (20): 9586-9590、およびGuevara-Garcia et al (1993) Plant J. 4(3): 495-50によって記述されたものが挙げられる。
【0031】
「動作可能に連結された」とは、プロモーターから開始される転写のために好適に位置付けられ、配向された、同じ核酸分子の一部として機能的に関連することを意味する。プロモーターに動作可能に連結されたDNAは、プロモーターの「転写開始調節下」にある。
【0032】
本発明の一態様によると、本発明による発現カセットを含むベクターが提供される。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、当該発現ベクターはトランスポゾンである。
【0034】
本発明の代替的な実施形態では、当該ベクターはウイルス系ベクターである。
【0035】
本文脈において関心があるのは、植物ベクターとして動作する核酸構築物である。植物において広く成功を収めて以前に使用された特定の処置およびベクターは、Guerineau and Mullineaux (1993) (Plant transformation and expression vectors. In: Plant Molecular Biology Labfax(Croy RRD ed)Oxford,BIOS Scientific Publishers,pp 121-148に記載がある。好適なベクターは、植物ウイルス由来ベクターを含んでもよい(例えば、EP194809を参照されたい)。望まれる場合、選択可能な遺伝子マーカーは、除草剤(例えば、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノトリシン、クロルスルフロン、メトトレキサート、ゲンタマイシン、スペクチノマイシン、イミダゾリノン、およびグリホサート)に対する耐性などの選択可能な表現型を付与するものなどの構築物に含まれてもよい。
【0036】
本発明のさらなる態様によると、植物が提供され、当該植物は、本発明による転写カセットまたは発現ベクターで形質転換または形質移入される。
【0037】
当該植物は、ケシ属の種のものであることが好ましい。
【0038】
ベンジルイソキノリンアルカロイドを産生する経路に関与する遺伝子は、当技術分野で知られており、シトクロムp450およびメチル基転移酵素活性を有するポリペプチドをコードする。この経路における一つ以上の遺伝子の欠失は、一つ以上のベンジルイソキノリンアルカロイドのレベルを変化させ得る。例えば、コデイン3-O-デメチラーゼの欠失の結果、コデインの含有量が増加したPapaver somniferum植物をもたらし、一方、テバイン6-O-デメチラーゼの欠失の結果、テバインおよびオリパビンの含有量の増加をもたらす。ベンジルイソキノリンアルカロイド経路が変更された植物は、当技術分野で知られており、例えば、PCT/GB2017/050068およびEP3398430に開示されている。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、当該植物は、Papaver somniferum、P. setigerum、P. bracteatum、P. orientale、P. pseudo-orientale、P. lasiothrix、P. cylindricum、P. fugax、P. triniifoliumから選択される。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、当該植物は、Papaver somniferum植物である。
【0041】
ベンジルイソキノリンアルカロイドとしては、オリパビン、コデイン、テバイン、モルヒネ、ノスカピン、モルフィノン、コデイノン、レチクリン、スコウレリン、パパベリン、クリプトピン、ラウダノシン、プロトピン、O-メチルソムニフェリンが挙げられる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、当該転写カセットまたは発現ベクターのコード化からの当該転写因子の発現は、同じ種の非形質転換植物と比較して増加する。
【0043】
本発明の文脈において、「発現レベルの増加」という表現は、その後、結果的に、形質転換されていない植物と比較して、当該形質転換された植物においてより高い核酸転写レベルをもたらす、転写の増加に関連する。当該転写レベルの増加は、例えば定量的PCRによって測定され得る。発現の増加は、転写速度を増加させることによって、および/または本発明による塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子をコードする遺伝子のコピー数を増加させることによって達成され得る。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、当該発現レベルは、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍増加する。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、当該形質転換された植物またはその植物材料は、当該核酸分子の少なくとも2つのコピーを含む。
【0046】
本発明のさらに好ましい実施形態では、当該形質転換された植物またはその植物材料は、本発明による塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子をコードする当該核酸分子の3つ以上のコピーを含む。
【0047】
本発明の好ましい実施形態では、当該形質転換された植物または植物細胞は、形質転換されていないケシ属の植物または植物細胞と比較して、一つ以上のBIAの含有量の増加を含む。
【0048】
ベンジルイソキノリンアルカロイド重量の全総和は、オリパビン、コデイン、テバイン、モルヒネ、ノスカピン、モルフィノン、コデイノン、レチクリン、スコウレリン、パパベリン、クリプトピン、ラウダノシン、プロトピン、およびO-メチルソムニフェリンの重量の総和、またはより好ましくは、コデイン、モルヒネ、テバイン、ノスカピン、およびオリパビンの重量の総和、またはさらにより好ましくは、コデイン、モルヒネ、テバイン、およびオリパビンの重量の総和である。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、当該レベルは、2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍増加する。
【0050】
本発明のさらなる態様によると、本発明による植物から得られた植物材料が提供される。
【0051】
本発明の文脈における植物材料は、葉、さく果、または種子を指す。
【0052】
本発明のさらなる態様によると、本発明による転写カセットまたは発現ベクターで形質転換または形質移入された植物細胞が提供される。
【0053】
本発明のさらなる態様によると、本発明による形質転換された植物細胞を含む植物細胞培養物が提供される。
【0054】
本発明の好ましい実施形態では、当該植物細胞は、ケシ属の種の植物細胞である。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、当該植物細胞は、Papaver somniferum、P.setigerum、P.bracteatum、P.orientale、P.pseudo-orientale、P.lasiothrix、P.cylindricum、P.fugax、P.triniifoliumからなる群から選択される。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、当該植物細胞は、Papaver somniferum細胞である。
【0057】
本発明のさらなる態様によると、本発明による植物細胞培養物を含むバイオリアクターが提供される。
【0058】
本発明のさらなる態様によると、一つ以上のベンジルイソキノリンアルカロイドを生成する方法が提供され、方法は、
i)本発明による形質転換または形質移入された細胞を含む細胞培養物を細胞培養容器内に形成することと、
ii)一つ以上のベンジルイソキノリンアルカロイドまたはベンジルイソキノリン前駆体の存在下で当該細胞培養物を培養することと、任意選択的に、
iii)細胞または細胞培養物から一つ以上のベンジルイソキノリンアルカロイドを抽出することと、を含む。
【0059】
本発明の一態様によると、ケシ属の植物からの抽出のためのプロセスが提供され、プロセスは、
i)本発明による植物から調製された植物または植物材料を収穫するステップと、
ii)粒子状植物材料の反応混合物を形成するステップと、
iii)アルカロイド濃縮画分を提供するための反応混合物の抽出のステップと、任意選択的に、
iv)当該アルカロイド濃縮画分を濃縮して、アルカロイド濃縮画分を提供するステップと、を含む。
【0060】
本発明の好ましい方法では、当該植物材料は、ケシのさく果、ケシがら、および/またはケシの乳液を含む。
【0061】
本発明のさらなる態様によると、本発明によるポリペプチドの発現変化を有する植物を生成する方法が提供され、方法は、
i)本発明によるベクターを用いてケシ属の植物を形質転換するステップと、
ii)i)下で当該植物から種子を得るステップと、
iii)ii)で当該種子を栽培して、第一世代および後続の世代の植物を生成するステップと、
iv)当該第一世代植物および後続の世代の植物から種子を得るステップと、を含む。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、当該植物は、ケシ属の種のものである。
本発明の好ましい方法では、当該ケシ属の植物は、Papaver somniferum、P. setigerum、P. bracteatum、P.orientale、P. pseudo-orientale、P. lasiothrix、P. cylindricum、P. fugax、P. triniifoliumから選択される。
【0063】
本発明のさらなる態様によると、本発明による方法によって得られた植物が提供される。
【0064】
本発明のさらなる態様によると、配列番号1に記載のヌクレオチド配列、または配列番号1の多型配列バリアントを含む転写因子をコードする遺伝子を含み、当該ヌクレオチド配列が修飾され、修飾ヌクレオチド配列が、低減されたまたは検出不可能な転写因子活性を有する転写因子をコードする、ケシ属の植物またはその植物部分が提供される。
【0065】
本発明の好ましい実施形態では、当該ヌクレオチド配列は、少なくとも一つのヌクレオチド塩基の付加、欠失、または置換によって修飾される。
【0066】
本発明の好ましい実施形態では、当該ケシ属の植物は、修飾され、当該修飾は、配列番号1に記載されるヌクレオチド配列の全てまたは一部の欠失、または配列番号1の多型配列バリアントである。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、当該その植物部分は、ケシ属のさく果である。
【0068】
代替的な好ましい実施形態では、当該その植物部分は、ケシ属の種子である。
【0069】
本発明の好ましい実施形態では、当該ケシ属の植物、さく果、または種子は、ベンジルイソキノリンアルカロイドまたはベンジルイソキノリン前駆体を実質的に欠く。
【0070】
本発明の好ましい実施形態では、当該ケシ属の植物またはその植物部分は、Papaver somniferum、P.setigerum、P.bracteatum、P.orientale、P.pseudo-orientale、P.lasiothrix、P.cylindricum、P.fugax、P.triniifoliumから選択される。
【0071】
本発明の好ましい実施形態では、当該ケシ属の植物は、Papaver somniferumである。
【0072】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通じて、「含む(comprise)」および「含有する(contain)」という語ならびにこれらの語の変化形態、例えば、「含む(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むがこれらに限定されない」ことを意味し、他の部分、添加物、構成要素、整数、またはステップを除外するようには意図されていない(かつ除外しない)。「本質的になる」とは、必須整数を有するが、必須整数の関数に重大な影響を与えない整数を含むことを意味する。
【0073】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通じて、文脈が別段要求しない限り、単数形は複数形を包含する。不定冠詞が使用される場合、文脈が別段要求しない限り、本明細書は、複数性とともに単数性を企図するものとして理解されるべきである。
【0074】
本発明の特定の態様、実施形態、または実施例と併せて記載される特徴、整数、特性、化合物、化学的部分、または基は、矛盾しない限り、本明細書に記載される任意の他の態様、実施形態、または実施例に適用可能であると理解されるべきである。
【0075】
ここで、本発明の実施形態は、以下の図および表を参照しながら、例示のみによって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】rba-1およびrba-2変異体における欠失の概略図である。
【
図2A】RBAのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【
図2B】RBAのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【
図2C】RBAのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【
図3】pRI 201-AN_35S::RBAのマップである。
【発明を実施するための形態】
【0077】
材料および方法
【0078】
植物材料の成長
全ての植物材料を、ヨーク大学園芸施設で、ガラス温室内で16日間栽培した。生育基質は、4対1対2のJohn Innes No. 2、Perlite、Vermiculiteから構成された。
【0079】
交雑および自家受粉
交雑に使用した母植物を、花の発育のフック段階で除雄した。開花期に、除雄した花を、同調的に発育している父植物からの花粉で受粉させた。汚染する花粉が受容性の柱頭に達するのを防止するために、除雄した花を、受粉後4日まで微細な穿孔のある透明なベーカリーバッグで覆った。
【0080】
自家受粉は、微細な穿孔のある透明なベーカリーバッグを用いて、開花の開始直前の花を覆い、かつ開花期に手作業で花を受粉させることによって保証された。
【0081】
高速中性子欠失変異誘発およびガラス温室による順スクリーニング
高速中性子変異誘発(FNM)は、HAS Centre for Energy Research, Radiation Protection Department(H-1121 Budapest, Konkoly Thege ut 29-33, X. epulet, Hungary)によって実施された。Sun Pharmaceutical Industries(オーストラリア)栽培品種であるHigh Noscapine 4(HN4)の種子約40gを、20Gy(ビーム時間50分)に曝露した。M1世代を自家受粉した。M2種子ファミリー当たり1つのM2植物をスクリーニングした。乳液を9週齢のM2実生から収集し、分析した。HN4対照と比較して乳液に改変アルカロイド組成物を示すM2植物を成熟するまで成長させて、乾燥M2さく果材料内で表現型を確認した。M3種子を、確認された表現型を有するM2植物から収集した。次いで、成熟した乾燥M3さく果材料内で表現型の遺伝力を確認するために、M2変異体である植物当たり5個のM3植物を栽培した。rba-1およびrba-2変異体を、自家受粉を介してM5世代までさらに繁殖させ、連続的な各世代を表現型解析して、「全てのBIAの喪失」表現型を確認した。全ての世代をガラス温室内で成長させた。
【0082】
ガラス温室で栽培した材料の葉乳液および乾燥さく果分析
9週齢の植物の切断した葉柄から乳液を収集し、1滴を500μLの10%酢酸中に分散させた。これを1%酢酸で10倍希釈して、さらなる分析のために、アルカロイドの2%酢酸溶液を得た。乳液分析に使用したのと同じ植物からさく果を採取し、単一のさく果をボールミル(モデルMM04、ドイツ、ハーン、レツシュ)内で微細粉末に粉砕した。次いで、粉砕したケシがらの試料を10±0.1mgまで正確に計量し、室温で1時間穏やかに振盪しながら0.5mlの10%酢酸溶液中で抽出した。次いで、試料を遠心分離によって浄化し、50μlのサブ試料を1%酢酸で10倍希釈して、さらなる分析のためにアルカロイドの2%酢酸溶液を得た。
【0083】
全ての溶液を、Waters Acquity BEH C18カラム、2.1mm×100mm、1.7ミクロンのパッキンを備えたWaters Acquity UPLCシステム(Waters Ltd.、英国エルストリー)を使用して分析した。移動相は、pH10.2の重炭酸アンモニウム10mMからなる溶出剤Aおよび溶出剤Bメタノールを用いた勾配プロファイルを使用した。使用した移動相勾配条件を線形勾配で以下の表に示す。流量は毎分0.5mlであった。カラム温度を60℃に維持した。注入量は2μlであった。溶出のピークをポジティブAPCIモードでイオン化し、Thermo LTQ-Orbitrapを使用して5ppm以内の質量精度で検出した。実行は、Thermo Xcaliburソフトウェア(Thermo Fisher Scientific Inc.、英国ヘメルヘムステッド)によって制御された。
【0084】
全てのデータ分析は、Rプログラミング言語およびカスタムスクリプトを使用して実施された。モルヒネ、オリパビン、コデイン、テバイン、およびノスカピンについての標準を使用して、擬分子イオンの正確な質量、保持時間、およびピーク面積を使用して、これらのアルカロイドを識別および定量した。他の推定アルカロイドピークを、テバイン標準と比較して、それらの擬分子イオン領域によって定量した。推定アルカロイドについては、Bioconductor rcdkパッケージ(Guha, (2007) J. Stat. Software 6(18))を使用して、元素制約C=1~100、H=1~200、O=0~200、N=0~3、および質量精度<5ppm内の正確な質量から擬分子式を生成した。これらの制約内で最小ppm誤差を有するヒットを使用して、推定式を割り当てた。
【0085】
ゲノム配列決定用の植物材料
3週齢のrba-1(M5世代)およびrba-2(seM4世代)変異体実生をDNA抽出に使用した。実生材料を、収穫前に完全な暗闇内で24時間生育した。実生を一次根から切り離し、液体窒素中で急速凍結し、DNA抽出のためにAmplicon Express, Inc.(米国ワシントン州プルマン)にドライアイス上で発送するまで-80℃で保存した。
【0086】
ゲノム配列決定
高品質のゲノムDNAを、Chromiumなどの様々なNextGenerationSequencing(NGS)プラットフォーム上のロングリードについて最適化されたそれらの社内NGS-グレードのゲノムDNA調製プロトコルを使用して、Amplicon Expressによって実生材料から調製した。DNA調製物を、HudsonAlphas(HudsonAlpha Institute for Biotechnology、601 Genome Way, Huntsville, AL 35806)に直接発送し、そこで、10X Genomics Platformの各試料用にChromiumライブラリを構築し、DNA試料の品質管理後にIllumina NovaSeq技術で配列決定した。2×6億塩基(それぞれ2×603,588,548および2×603,721,151)のペアエンド型150塩基長の配列リードからなる、得られたデータセットにおいて、rba-1およびrba-2変異体試料(それぞれTC06およびTC07と命名)のそれぞれに対して合計で1800億塩基(それぞれ2×91,141,870,748および2×91,161,893,801)が生成された。HN1基準ゲノム(ASM357369v1)の2.7Gbサイズに基づいて、これは二つの変異体の各塩基位置についておよそ60倍の配列決定の深さを表す。
【0087】
ゲノムアセンブリ
rba-1変異体およびrba-2変異体についてそれぞれのドラフトゲノムTC06およびTC07を、Supernova(バージョン2.1.1)、10×Genomics Linked- Read Diploid De Novo Assembler(https://support.10xgenomics.com/de-novo-assembly/software/overview/latest/performance)を用いて、ヨーク大学のViking高性能コンピューティングクラスター上で組み立てた。TC06(rba-1)変異体アセンブリは、67,648個の足場を有する2.6Gb(2,581,235,059)の総サイズおよび836kb(836,342)の足場N50を有し、TC07(rba-2)変異体アセンブリは、87,225個の足場を有する2.5Gb(2,459,139,609)の総サイズおよび210kb(209,519)の足場N50を有する。
【0088】
rba-1およびrba-2変異体のゲノムアセンブリにおける重複欠失領域を含有する候補足場の特定
HN1基準ゲノムの51,213個の注釈付きタンパク質コード遺伝子転写物全体を使用して、TC06(rba-1)およびTC07(rba-2)変異体アセンブリの両方に対してBLASTN検索を行った。基準ゲノム中の各遺伝子の位置に基づいて、各遺伝子について上位の足場ヒットを順序付けした。変異体ゲノムが基準ゲノムとほぼ同一であるため、各足場は、連続する参照遺伝子のストレッチに対する上位一致として現れることが予想される。足場が二つのこうしたストレッチと合致するが、間にある合致する上位ヒットスコアが低い一つ以上の遺伝子によって中断される場合、それは変異体ゲノム内に欠失領域を担持するための潜在的な候補として識別された。TC06(rba-1)アセンブリにおけるTC06_scaffold_251445、およびTC07(rba-2)アセンブリにおけるTC07_scaffold_186274の二つのこうした足場は、基準ゲノムの染色体9上の同じ領域に対応する重複欠失を潜在的に担持するものとして特定された。
【0089】
候補足場における欠失のコンピュータ内特徴付け
第一に、ドットプロット分析を使用して、上記の二つの足場についての推定上の欠失を確認し、位置を突き止めた。ドットプロット分析は、配列整列後の密接な類似性の領域を識別する二つの配列の比較のグラフィック表現である。ドットプロットは、垂直軸および水平軸に沿って比較される二つの配列を有する二次元類似性マトリクスである。二つの配列間の類似性の単純な視覚的表現のために、マトリクス内の個々のドットは、画定された塩基の長さが同一である場合には黒色に彩色され、その結果、一致する配列セグメントは、マトリクス全体にわたる対角線の走行として現れる。その結果、二つのDNA配列が完全に同一である場合、下向きの傾斜を有する実線の対角線が現れる。二つのDNA配列が互いに逆相補的である場合、上向きの傾斜を有する実線の対角線が現れる。二つの配列がランダムである場合、連続的な線パターンは現れない。したがって、ドットプロット結果は、二つの配列間の潜在的な欠失ならびに反転を識別する。両方の足場に対応する領域(TC06_scaffold_251445およびTC07_scaffold_186274)を、HN1基準ゲノムから取得し、Gepardドットプロットツールを用いてそれぞれの足場と比較した結果、足場におけるそれぞれの欠失ならびにTC06_scaffold_251445の反転の検出をもたらした。
【0090】
HN4ゲノムDNAおよびcDNAからのRBA遺伝子のクローニングおよびサンガー配列決定
ゲノムDNAを、製造業者のプロトコルに従って、BioSprint 96 Workstation(Qiagen)上でBioSprint 96 Plantキットを使用して、HN4実生の最初の本葉から抽出した。抽出DNAをNanoDrop(商標)8000分光光度計(Fisher Scientific)上で定量し、10ng/μLに正規化した。
【0091】
製造業者の説明書に従って、全RNAを、開花期に採取したHN4茎から抽出し、Direct-Zol RNAミニプレップキット(Zymo)を使用して急速凍結液体窒素を抽出した。RNA濃度および純度を、NanoDrop(Thermo Fisher Scientific)およびアガロースゲル電気泳動によって試験した。製造業者の説明書に従って、Oligo d(T)20プライマーを使用して、SuperScript IV First-Strand cDNA Synthesisキット(Thermo Fisher Scientific)を使用してcDNAを合成した。
【0092】
完全長RBA遺伝子配列およびコード配列を、Q5高忠実度DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)を使用して、それぞれHN4ゲノムDNAおよびcDNAから増幅した。1×Q5高忠実度緩衝液、2mM dNTP、0.5μM順方向プライマーGAAGGGGTAGTGGAGTGGTAGTTG、0.5μM逆方向プライマーGTGTTATACGATCATCGTTTTGC、および0.5U Q5 DNAポリメラーゼを25μlの総体積で含有するPCR反応を、Tetradサーモサイクラー(Bio-Rad)上で、98℃で30秒間、続いて98℃で10秒間を10サイクル、サイクル(20秒間)当たり1℃で65℃を55℃に下げ、72℃で1分間、続いて98℃で10秒間を25サイクル、55℃で20秒間、72℃で1分間、続いて72℃で2分間の後、7℃で保持するという条件下で行った。PCR産物を1%アガロースゲル上でチェックし、製造業者の説明書に従ってWizard SV PCR抽出キット(Promega)により抽出し、Qubit(商標)dsDNA BRアッセイキット(Thermo Fisher Scientific)を使用して濃度を決定した。
【0093】
精製されたRBA PCR産物を、製造業者のプロトコルに従ってCloneJET PCRクローニングキット(Thermo Fisher Scientific)を使用してクローニングし、製造業者のプロトコルに従ってSubcloning Efficiency(商標)DH5α Competent Cells(Invitrogen)に変換した。
【0094】
各挿入について陽性の2~12個の単一コロニーをコロニーPCRにより選択した。QIAprep Spin Miniprepキット(Qiagen)を使用してプラスミドを抽出し、サンガー配列決定に使用した。
【0095】
RNA配列決定のためのRNA分離
上側茎試料(頭状花のすぐ下の2cmの茎部分として定義される)を、M4世代のrba-1およびrba-2変異体である植物、ならびにHN4野生型から開花期に収集した。試料を液体窒素中で急速凍結し、抽出まで-80℃で保存した。Qiagen TissueLyser上の液体窒素中で冷却された瓶内で、粉砕を以下のように行った:20Hzで15秒、続いて液体窒素中での再冷却、次いで20Hzでさらに15秒。RNA抽出ごとに100mgの粉砕材料を使用した。小さな改変((i)クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を用いた3回の連続抽出を行ったこと、(ii)RNAを-20℃で塩化リチウムで一晩沈殿させたこと)を有するCTABベースの抽出方法(Chang et al. (1993) Plant Mol. Biol. Rep.11: 113-116)を使用して、RNAを粉末から単離した。抽出後、製造業者のプロトコルに従って、AmbionのDNA-freeキットを使用して、試料をDNAse Iで処理した。分光光度定量後、変異型およびHN4野生型当たり三つの植物から等量のRNAをプールした。
【0096】
ライブラリ調製およびRNA配列決定
RNA配列決定ライブラリ調製は、ヨーク大学生物学科のBioscience Technology FacilityのGenomics Laboratoryによって実施された。RNA品質を、Agilent Bioanalyzer RNA Nanoチップ上で各RNAプールから1ul実行することによって評価した。次いで、製造業者の説明書に従って、NEBNext Poly(A) mRNA Magnetic Isolation Module(New England BioLabs Inc.)およびNEB Nextシングル6bp指標付けプライマーと併せてIllumina用のNEB RNA Ultra Library調製キットを使用して、mRNA配列決定ライブラリ調製のためにプール当たり900ngの良好な品質の全RNAを使用した。第一に、オリゴd(T)結合した常磁性ビーズへの試料結合および洗浄を2ラウンド使用して、mRNAを全RNAから精製した。精製したmRNAを、ビーズから第一の鎖合成反応バッファ+ランダムなプライマー混合物に溶出し、94℃で12分間インキュベートしてRNAを断片化した。RNase阻害剤およびProtoScript II逆転写酵素を添加した後、第一の鎖cDNA合成を、25℃で10分間、42℃で50分間、次いで70℃で15分間インキュベートすることによって行った。第二の鎖合成および試料のクリーンアップは、製造業者のガイドラインに従って実施され、その後の最終調製ステップおよびアダプターライゲーションステップも同様であった。ライブラリを増幅し、相補的指標を12サイクルPCR反応で追加した。最終クリーンアップステップに続き、各増幅cDNAライブラリの収率およびサイズ分布を、Agilent 2100 Bioanalyzerを含むAgilent High Sensitivity DNAキットを使用して評価し、HS dsDNAキット(Thermo Fisher Scientific)を含むQubitを使用して定量した。次いで、ライブラリを、リーズ大学次世代シーケンシング施設のHiSeq 3000上での2×150塩基対エンド配列決定のために送った。
【0097】
RNA配列決定解析:
三つの試料を配列決定し、リード数を、rba-1、2× 28,154,370;rba-2、2× 21,681,680;およびHN4野生型、2× 29,529,431のように得た。FASTQC法をQC分析に使用し、BOWTIE2マッピングソフトウェアを使用してSILVAデータベース(https://www.arb-silva.de/)からダウンロードしたrRNA_115_tax_silva_v1.0へのマッピングを用いてリボソームRNAをフィルタリングした。残りのRNA配列リードを、デフォルトパラメータを有するBWAマッピングソフトウェアを使用して、HN1基準ゲノム(ASM357369v1)の遺伝子をコードする51,213個の注釈付きタンパク質の基準転写データセットにマッピングした。SAMTOOLSソフトウェアパッケージを使用してマッピングされたリードを計数して取得し、発現マトリックスを、その後の比較分析のためにRPKM(転写物のキロベース当たりのリード、マッピングされたリード100万当たりのリード)値に正規化した。
【0098】
カリフラワーモザイクウィルス由来のCaMV 35Sプロモーターの制御下で、RBAを構成的に発現する安定なアヘンケシ形質転換体の産生
【0099】
RBAのオープン・リーディング・フレームを、CaMV 35Sプロモーターの下流のシロイヌナズナ(Arabidopsis)アルコール脱水素酵素からの5’-UTR非翻訳領域(5’UTRエンハンサー領域)を含むバイナリーベクターpRI 201-AN(Takara Bio Inc.)にクローニングして、植物における候補遺伝子の構成的発現を駆動した。
【0100】
相同性ベースのクローニングのためのpRI 201-ANの調製
プラスミドpRI 201-ANを、製造業者の説明書に従って、rCutSmart(商標)緩衝液(NEB)中でSalIおよびNdeI(NEB)を用いた二重消化によって37℃で1時間直線化した。消化物を、NucleoSpin(商標)GelおよびPCRクリーンアップキット(Macherey-Nagel(商標))を使用して、製造業者の説明書に従って精製して、制限部位間から小さな断片を除去した。
【0101】
相同性ベースのクローニングのためのRBA ORFの調製
RBAのオープン・リーディング・フレーム(ORF)をGeneArt Gene Synthesis(Invitrogen/Thermo Fisher Scientific UK)により合成し、PCRBIO HiFiポリメラーゼキット(PCRbiosystems)を使用して、製造業者の説明書に従い、プライマー470および471(表4)を使用してさらに増幅した。これには、SalIおよびNdeIで直線化されたpRI 201-ANへの相同性ベースのクローニングを促進する5’伸長が含まれていた。PCR反応を、Thermocycler上での5×20μL反応で以下の通り実施した:95℃で1分間の初期変性、続いて15秒間の95℃、15秒間の65℃、および30秒間の72℃の35サイクル、続いて72℃で1分間の最終伸長。PCR反応物をプールし、0.6%アガロースゲル上で分解した。予想されるサイズのPCR産物をゲルから切り出し、NucleoSpin(商標)GelおよびPCRクリーンアップキット(Macherey-Nagel(商標))を使用して、製造業者の説明書に従って精製した。この精製されたRBA ORF PCR産物を、pRI 201-ANへの相同性ベースのクローニングに使用した。
【0102】
表4: pRI 201-ANへの相同性ベースのクローニングのためにRBAのORFを増幅するために使用されるプライマー
【0103】
SalIおよびNdeIで直線化されたpRI 201-ANへのRBAの相同性ベースのクローニング
pRI 201-AN_35S::RBA発現構築物(
図3)を、精製されたRBA PCR産物および直線化pRI 201-ANベクターから、製造業者の説明書に従ってGibson Assembly(登録商標)Cloning Kit(NEB)を使用して組み立てた。RBA ORFの正しい組み込み、およびpRI 201-AN_35S::RBA構築物のアセンブリを、サンガー配列決定によって配列確認した。
【0104】
アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)菌株GV3101のコンピテント細胞の調製
Agrobacterium tumefaciens菌株GV3101細胞を、抗生物質選択のためにゲンタマイシン(50μg/ml)およびリファンピシン(10μg/ml)を含有するYEBプレート上に筋状に出し、振盪しながら28℃で2~3日間増殖させた。単一コロニーを選択して、5mlのYEB液体培地のスターター培養をゲンタマイシンとリファンピシンの選択と共に接種した。これを振盪しながら28℃で一晩増殖させた。スターター培養を使用して、より大きな100ml培養をゲンタマイシンおよびリファンピシンの選択と共に接種し、これを28℃でさらに3時間振盪しながら増殖して、OD600を0.5~1.0にした。次いで、培養物を氷上で10分間冷却してから、細胞を遠心分離によって収集した。ペレット化された細胞を、2mlの20mM CaCl2+10%グリセロール中に再懸濁し、等分した直後に液体窒素中で凍結し、-80℃で保存した。
【0105】
A. tumefaciens菌株GV3101のpRI 201-AN_35S::RBAでの形質転換
適格なA. tumefaciens菌株GV3101細胞の一つの50μlアリコートを氷上で解凍し、約200ngのpRI 201-AN_35S::RBA発現ベクターを添加し、旋回させて混合した。細胞を液体窒素中で急速凍結してから、水浴中で37℃で5分間解凍して熱衝撃を与え、続いて氷上で30分間インキュベーションした。次いで、250μLの液体LB培地を添加し、管を28℃で3時間、振盪培養器内に配置した。形質転換した細胞を、カナマイシン(50μg/ml)およびゲンタマイシン(50μg/ml)の選択を使用して選択的寒天プレート上に播種し、28℃で2日間インキュベートして、単一コロニーを得た。
【0106】
15%グリセロールを含むグリセロールストックを作製するために高密度培養物が得られるまで、単一コロニーを使用して、5mlのLB+カナマイシンおよびゲンタマイシンを28℃で接種した。グリセロールストックのアリコートを-80℃に維持した。
【0107】
pRI 201-An_35S::RBAによるアヘンケシの形質転換
野生型系統HN4およびホモ接合型rba-1欠失変異体材料を、pRI 201-An_35S::RBA発現構築物を使用したRBAの安定した形質転換および発現に使用した。
【0108】
種子の滅菌
播種前に、ケシの種子を塩素蒸気法を使用して滅菌した。種子を含むガラスペトリ皿を、ドラフト内の密封可能なボックス内に蓋を外して配置した。ペトリ皿の蓋も、3%塩酸溶液を含むビーカーと共にボックス内に入れた。塩素蒸気を放出するために、2.5gのPresept(登録商標)消毒剤錠剤(Johnson & Johnson)を3%塩酸溶液に加え、ボックスをパラフィルムで密封し、ドラフト内に配置した。90分後、シールを破壊し、蓋を取り除いて、滅菌されたシードを含むペトリ皿をガラス蓋によって注意深く覆い、密封可能なボックスから層流フードに取り除くことを可能にした。
【0109】
種子の播種
滅菌された種子を、滅菌組織培養ポット内のB50寒天培地上に播種した。B50培地組成物は、B5マイクロエレメントおよびマクロエレメント(Duchefa Biochemie)、B5ビタミン(Duchefa Biochemie)、20%スクロース、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、および0.8%植物細胞培養寒天である。播種した種子を4℃で48時間層状化し、その後、生育キャビネットに移して、発芽させ、24℃で7~9日間生育させた。
【0110】
胚軸外植体の形質転換
pRI 201-AN_35S::RBA構築物を含有するA. tumefaciens GV3101細胞から調製されたグリセロールストックを使用して、A. tumefaciens前培養をセットアップした。単一の50μlのアリコートを、カナマイシン(50μg/ml)およびゲンタマイシン(50μg/ml)を含有する5mlのLBに添加した。培養物を振盪培養器内で28℃で一晩増殖させた。約100μlの前培養物を使用して、28℃で一晩、振盪培養器中で増殖させた、カナマイシン(50μg/ml)およびゲンタマイシン(50μg/ml)を含有するLB培地の50mlの本培養を接種した。OD600が0.3~0.8に達したら、4℃で20分間、4000rpmで遠心分離することによって細胞を採取した。接種培養物を、接種培地中の細胞ペレットを0.2~0.3のOD600に再懸濁することによって調製し、振盪機上で28℃で1~3時間インキュベートした。接種培地は、MESを含まないがアセトシリンゴン(100μM)を含む、液体B50培地から構成された。
胚軸外植体を、7~9日齢のケシの実生の根および子葉から慎重に切除し、直ちにアグロバクテリウム接種培養物を含むペトリ皿に移した。室温で15分間軌道振盪機上で穏やかに振盪した後、外植体を滅菌ろ紙上でブロットして過剰な培地を除去し、固体共培地に24℃で2~3日間移した。共培地は、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(1μg/ml)およびアセトシリンゴン(100μM)を添加したB50培地+寒天から構成された。
【0111】
アグロバクテリウム属の阻害およびトランスジェニック植物の選択
共培養期間の後、外植体を50mLのFalconチューブ中でTimentin(登録商標)含有溶液(150μg/mL)に浸漬し、60秒間撹拌し、滅菌水中で3回洗浄した。滅菌ろ紙上でのブロッティング後、外植体をカルス誘導(CM)プレートに移した。CM培地は、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(1μg/ml)に加えて、Timentin(登録商標)(150μg/mL)およびパロモマイシン(30μg/mL)を含むB50培地+寒天から構成された。CMプレートを、生育キャビネット内で24℃でインキュベートした。外植体を、3週間の間隔で同じ組成の新鮮なCMプレートに移した。
【0112】
胚性カルス培養の産生
2つの型のカルスが外植体上に形成された(Chitty et al., 2003): I型およびII型。I型は、時間の経過と共に茶色になる無色で疎性のカルスである。II型は、形質転換された外植体上に約12週間後に現れる、白色の緻密な胚形成カルスの小さな領域として形成される。
【0113】
II型カルスを、外植体から除去し、Timentin(登録商標)(150μg/mL)およびパロモマイシン(30μg/mL)を含有するB50培地に移し、生育キャビネット内で18~20℃でインキュベートした。II型カルスを、体細胞胚が形成され始めるまで(典型的には2~3培養期間後)、3週間の間隔で同じ組成の新鮮なB50プレートに移した。
【0114】
小植物への体細胞胚の発育
体細胞胚から小植物が発育し始めると、それらを、小型の瓶内のTimentin(登録商標)(150μg/mL)およびパロモマイシン(30μg/mL)選択を含むB50培地に移して、それらをより高く成長させ、根を発育させた。あらゆる基底カルスならびに茶色の葉もしくは枯れ葉または苗条は、移す前に除去した。
【0115】
土壌への小植物の移動
完全に確立された根系を有する小植物を土壌に移し、当初は多湿の環境で維持し、経時的に湿度を減少させることによってゆっくりと強化した。通常の湿度レベルに順化されると、植物を植物栽培キャビネットまたはガラス温室に移した。
【0116】
空ベクター制御形質転換体
図3に示すベクターpRI 201-AN_35S::RBAと同一であるが、RBA遺伝子を欠くpRI 201-AN空ベクターを用いて、HN4野生型およびホモ接合型rba-1欠失変異体材料を形質転換するために、厳密に同じ手順に従った。空ベクター形質転換体は、対照材料として機能した。
【0117】
実施例1
M2世代および誘導材料におけるrba-1およびrba-2変異対立遺伝子の検出およびアルカロイドプロファイリング
【0118】
HN4品種の高速中性子変異誘発材料のM2世代に対して順スクリーニングを実施した。スクリーニングを2ラウンド実施し、それによって、最初のラウンドで、M2変異体集団全体からの12週齢の植物体の乳液を、UPLC上で事前に分離することなく、Direct Injection MSを使用した高スループットスクリーニングによって分析して、非同重体アルカロイド基の相対比率を監視した。HN4対照材料と実質的に異なる乳液表現型を示す任意の材料が、参照標準に対してUPLC-MSによる第二ラウンドのスクリーニング用に選択されて、成熟乾燥さく果の完全なベンジルイソキノリンアルカロイドプロファイルを得た。
【0119】
異なるM2種子ファミリーに属する二つの独立したM2変異体である植物体が、何らかのBIAを欠くとして乳液スクリーニングで特定された。これらの植物体における測定可能な量のBIAが完全に不在であることは、成熟乾燥M2さく果材料を分析することによって確認された(表1)。変異体である植物体におけるBIAの喪失の分子基盤を特徴付けした(実施例3および4)後、変異対立遺伝子は、それぞれ「ベンジルイソキノリンアルカロイド-1の調節因子」および「ベンジルイソキノリンアルカロイド-2の調節因子」(rba-1およびrba-2)と命名された。
【0120】
rba-1およびrba-2 M2変異体である植物を自家受粉し、それらのそれぞれの子孫を自家受粉によって数世代にわたってさらに繁殖させて、「全てのBIAの喪失」表現型の遺伝力および安定性を試験するためのより多くの量の材料を得た。
【0121】
M2さく果の場合と同様に、M3、M4およびM5世代の乾燥さく果材料は、HN4親系統に実質的な量で見出される主要なアルカロイド、モルヒネ、およびノスカピンを欠いた。それらはまた、測定可能な量で他のいかなるアルカロイドも含有しなかった(表1)。したがって、分析は、「全てのBIAの喪失」表現型を確認し、かつ安定的に遺伝することを示した。
【0122】
rba-1変異体を、二つの異なるモルヒネ品種(HM1およびHM8)と交配させた。rba-1変異対立遺伝子がヘテロ接合状態にある、F1子孫のさく果は、rba-1変異対立遺伝子が劣性であることを実証する親モルヒネ品種と同様の量でモルヒネおよび他のモルフィナンアルカロイドを含有した(表1)。rba-1変異体およびrba-2変異体が、同じ遺伝子座の異なる変異対立遺伝子を担持すること(実施例3および4)を考慮すると、rba-2対立遺伝子もまた、劣性とみなされ得る。
【0123】
rba-1変異体とrba-2変異体との間で交雑を行って、BIA産生に関してそれらが互いに相補的であるかどうかを試験した。HN4野生型表現型は、結果として生じるF1世代のさく果内にレスキューされなかったため(表1)、rba-1およびrba-2変異対立遺伝子は、同じ遺伝子座に影響を及ぼすそれぞれの突然変異を有する同じ相補群に属する必要がある。これは、rba-1変異体およびrba-2変異体の分子基盤の特徴付けによって後に確認された(実施例3)。
【0124】
表1:rba-1およびrba-2変異体材料ならびにHN4対照の乾燥さく果中のアルカロイド含有量。
成熟した乾燥さく果を、UPLC-MSを使用して分析した。ND(検出不能)として示されるのは、バックグラウンドノイズレベルを下回る濃度であり、これは、各UPLC-MS分析バッチを通して分散したマシンの空運転からの測定値の平均+3×標準偏差(SD)として定義される。SDが平均測定値よりも大きかった極度に低いほぼゼロの濃度については、濃度はゼロよりも有意には大きくないとみなされ、したがってNDとして示された。
【表1】
【0125】
実施例2
rba-1およびrba-2変異体材料のトランスクリプトーム分析
BIA生合成遺伝子の遺伝子発現レベルに関して変異体をさらに特徴付けるために、RNA配列決定を、rba-1およびrba-2ならびに親品種HN4のM3世代の茎材料に対して実施した。RPKM正規化発現解析は、非変異誘発HN4野生型材料と比較して、BIA生合成遺伝子の大部分が、HN4対照と比較して、rba-1およびrba-2変異体材料において強く下方制御されることを明らかにした(表2)。一例は、ノルコクラウリン合成酵素(NCS)であり、これは、アヘンケシにおける全てのBIAの生合成において最初に関与するステップを触媒する(Samanani et al. (2004) Plant J. 40: 302-313)。アヘンケシ基準ゲノム内で注釈付けされた、足場ups_21上のPSUN64910.1および足場ups_10上のPSUN03620.1という、二つのNCS遺伝子がある。rba-1変異体およびrba-2変異体のRPKM値は、HN4親品種の300と比較して、わずか2である。同様に、PSUN03620.1のそれぞれのRPKM値は、HN4における130と比較して、rba-1および-2変異体において8および2である。
【0126】
表2:HN4野生型と比較した、rba-1変異体およびrba-2変異体の茎におけるアルカロイド生合成遺伝子のRNA配列決定遺伝子発現解析。
開花期の上側茎組織が、RNA単離に、続いてRNAseqに、使用された。RPKM正規化した発現レベルを示す(RPKM=マッピングされたリード100万当たりのキロベース当たりのリード数)。列「遺伝子ID」は、HN1ゲノムアセンブリの注釈からのアヘンケシ遺伝子識別子を示す(Guo et al. (2018) Sience. 362(6412): 343-347)。また、公開遺伝子受入番号、ならびにそれぞれの遺伝子が存在するHN1基準アセンブリの足場も示されている。
【0127】
実施例3
rba-1変異体およびrba-2変異体における「全てのBIAの喪失」表現型の分子基盤の決定
「全てのBIAの喪失」表現型の分子基盤を決定するために、rba-1変異体およびrba-2変異体のゲノムを、10X Genomicsプラットフォームを使用して再配列決定し、Supernovaソフトウェアを使用して社内で組み立てた。「全てのBIAの喪失」表現型を引き起こす各変異体におけるそれぞれの欠失を、材料および方法に記載されるとおり、バイオインフォマティックアプローチを使用して特定した。
【0128】
HN1ゲノム基準アセンブリに関して、12個の遺伝子を含有する染色体9上の989kbのゲノム配列が、rba-1変異体において欠失する(
図1、表3)。さらに、欠失の5’境界のすぐ上流の70kbのゲノム配列が逆位であることが見出された。
【0129】
rba-2変異体では、11個の遺伝子を含有する染色体9上の780kbのゲノム配列が欠失していることが見出された(
図1、表3)。
【0130】
それぞれの変異体において識別されたrba-1およびrba-2欠失対立遺伝子が、それらの全体的なサイズおよび正確な境界という点で固有であるという事実は、それらが異なるM1植物体において独立した突然変異事象によって生じたものであることと一貫している。
【0131】
遺伝子相補性解析(実施例1)と一貫して、rba-1およびrba-2欠失対立遺伝子は、506kbのゲノム配列が重複する(
図1)。両方の変異体で欠失したこの重複領域は、6つの遺伝子を含有し、そのうちの一つは、塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)転写因子をコードする(実施例4)。
【0132】
実施例4
rba-1およびrba-2欠失突然変異の裏付け
ゲノム再配列決定およびアセンブリによってrba-1およびrba-2変異体において特定された欠失は、上述の上側茎からのRNA配列決定データセットを使用した遺伝子発現解析によってさらに裏付けられた。染色体9上のそれぞれの欠失領域に存在するそれらの遺伝子のRPKM値を、rba-1変異体とrba-2変異体とHN4野生型との間で比較した(表3)。
【0133】
欠失した遺伝子のRPKM値は、HN4野生型と比較して、それぞれの変異体において低いと予想されるが、ただし、それらは、HN4野生型の茎組織において第一の位置で合理的なレベルまで発現される(欠失した遺伝子のRPKM値は、それぞれの変異体において絶対的にはゼロでない場合がある:RPKM値が低いことは、他の遺伝子からのショートリードの非特異的マッピングなど、本方法論に固有のバックグラウンドノイズを反映する場合があり、これは、純粋に低い発現ではなく、ある程度の配列類似性を有する)。
【0134】
両方の変異体で欠失した重複領域に存在する遺伝子のRPKM値は、HN4野生型と比較して、両方の変異体で概してゼロであるかまたは低い。対照的に、重複領域の外側の(かつHN4で合理的なレベルまで発現される)遺伝子のRPKM値は、それらが欠失しているそれぞれの変異体においてのみ低い発現を示すが、他方では示さない。
【0135】
したがって、RNA配列決定遺伝子発現解析は、rba-1およびrba-2ゲノムアセンブリで識別されたそれぞれの欠失を、真の欠失として確認する。
【0136】
実施例5
ベンジルイソキノリンアルカロイド(RBA)遺伝子の調節因子の検出および配列確認
両方の変異体において欠失している重複領域に存在する6個の遺伝子のうち、1個のみが転写調節に関与することが知られている遺伝子との相同性を示す:PS0917990.1は、bHLH転写因子をコードする。
【0137】
その欠失は、BIA生合成に関与することが知られているほとんどの遺伝子の発現の喪失をもたらし、その結果として、「全てのBIAの喪失」表現型PS0917990.1は、BIA合成のマスター調節因子であり、したがって、ベンジルイソキノリンアルカロイドの調節因子(RBA)と称される。
【0138】
ゲノムおよびcDNAからのクローニングおよびサンガー配列決定によって、HN4からのRBA配列がHN1基準ゲノムアセンブリからのものと同一であることを確認した。
【0139】
表3:rba-1およびrba-2変異系統で欠失している染色体9のゲノム領域に存在する遺伝子のRNA配列決定遺伝子発現解析
開花期の上側茎組織が、RNA単離に、続いてRNA配列決定に、使用された。RPKM正規化した発現レベルを示す(RPKM=マッピングされたリード100万当たりのキロベース当たりのリード数)。rba-1およびrba-2変異体について得られたRPKM値を、HN4野生型と比較する。
【0140】
列「遺伝子ID」は、HN1ゲノムアセンブリの注釈からのアヘンケシ遺伝子識別子を示す。列「何において欠失しているか」は、それぞれの遺伝子が欠失していることをゲノム再配列決定およびアセンブリが見出した、変異体を示す。遺伝子PS0917890.1~PS0917930.1は、rba-2では欠失しているが、rba-1変異体では欠失していなく、遺伝子PS0917940.1~PS0917990.1は、両方の変異体において欠失している重複領域に存在し、遺伝子PS0918000.1~PS0918050.1は、rba-1では欠失しているが、rba-2変異体では欠失していない。PS0917990.1は、bHLH転写因子RBAをコードする。
【表2】
【配列表】
【国際調査報告】