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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-22
(54)【発明の名称】医療デバイス用コーティング
(51)【国際特許分類】
   A61L 33/06 20060101AFI20240515BHJP
   A61L 33/12 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
A61L33/06 200
A61L33/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574129
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2022064659
(87)【国際公開番号】W WO2022253780
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】2107817.5
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522065613
【氏名又は名称】スマート リアクターズ サービス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Smart Reactors Service LTD
【住所又は居所原語表記】GMIT, IHUB, Dublin Road, Galway H91 DCH9 Ireland
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ブラッシル,マーク
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081BA05
4C081CA282
4C081CC01
4C081CD172
4C081DC03
4C081DC04
4C081DC05
4C081EA02
4C081EA05
4C081EA06
(57)【要約】
医療デバイス用のコーティングが記載されている。このコーティングは、タンパク質を含むベース層、およびベース層に配置されたポリマー層を備える。ポリマー層は、複数の血液適合性基を有するポリマーを含む。各血液適合性基は、独立して、スルホン酸基、スルホンアミド基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択される。また、このコーティングを含む医療デバイス、およびこのコーティングと医療デバイスを含む使用および方法についても記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を含むベース層、および
前記ベース層に配置されたポリマー層
を含み、
前記ポリマー層は、複数の血液適合性基を有するポリマーを含み、各血液適合性基は、独立して、スルホン酸基、スルホンアミド基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択される、医療デバイス用コーティング。
【請求項2】
前記ポリマー層がベース層に共役している、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記タンパク質がアルブミン、好ましくはヒトアルブミンである、請求項1または請求項2に記載のコーティング。
【請求項4】
各血液適合性基がスルホン酸基またはスルホネート基から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項5】
複数の血液適合性基を有するポリマーが、式(A‐1):
[式中、Rは、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、式(S‐1):
‐Z‐L‐SO‐Y
(S‐1)
で表され、
式(S‐1)中、Zは、O、NHおよびNRから選択され、
は、C1~6アルキル、C6~10アリールおよびC6~10アリールC1~6アルキルから選択され、
は、O、OH、NHおよびNHから選択され、
は、式(L‐1):
‐P‐Q‐W
(L‐1)
で表され、
式(L‐1)中、Pは、単結合、C1~10アルキレン、C2~10アルケニレン、C2~10アルキニレンおよびフェニレンから選択され、
は、単結合、O、NH、NRおよびフェニレンから選択され、
は、単結合、C1~10アルキレン、C2~10アルケニレン、C2~10アルキニレンおよびフェニレンから選択され、
は、C1~6アルキル、C6~10アリールおよびC6~10アリールC1~6アルキルから選択される。]
で表される繰り返し単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項6】
が水素およびメチルから選択され、好ましくはRが水素である、請求項5に記載のコーティング。
【請求項7】
がHおよびメチルから選択され、好ましくはRが水素である、請求項5または請求項6に記載のコーティング。
【請求項8】
がOおよびNHから選択され、好ましくはZがNHである、請求項5~7のいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項9】
がOおよびOHから選択される、請求項5~8のいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項10】
がC1~10アルキレン、C2~10アルケニレンおよびC2~10アルキニレンから選択され;Qが単結合であり、Wが単結合であり、好ましくはPがC1~10アルキレン、任意にC2~6アルキレンであり、より好ましくはPがイソ‐ブチレンである、請求項5~9のいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項11】
がC1~10アルキレン、C2~10アルケニレンおよびC2~10アルキニレンから選択され、QがО、NHおよびNRから選択され、かつWが単結合であり、好ましくはQがOおよびNHから選択される、請求項5~9のいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項12】
複数の血液適合性基を有するポリマーが、式(B‐1):

[式中、Rは、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、H、C1~6アルキルおよび‐C(O)Xから選択され、
各Xは、独立して、O、OH、OR、NH、NHRおよびN(R)から選択され;そして
各Rは、独立して、任意選択で置換されたC1~6アルキル、任意選択で置換されたC6~10アリールおよび任意選択で置換されたC6~10アリールC1~6アルキルから選択される。]
で表される繰り返し単位を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のコーティング:
【請求項13】
がHおよびメチルから選択され、好ましくはRがメチルである、請求項12に記載のコーティング。
【請求項14】
がHおよびメチルから選択され、好ましくはRが水素である、請求項12または請求項13に記載のコーティング。
【請求項15】
がOおよびOHから選択される、請求項12~14のいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項16】
複数の血液適合性基を有するポリマーがコポリマーである、請求項1~15のいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載のコーティングで被覆された表面を有する医療デバイス。
【請求項18】
(a)複数の血液適合性基を有するポリマーをベース層に適用してポリマー層を形成すること
を含み、
各血液適合性基が、独立して、スルホン酸基、スルホンアミド基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択され、かつベース層がタンパク質を含む、医療デバイス用コーティングの製造方法。
【請求項19】
(b)カップリング剤を用いて、複数の血液適合性基を有するポリマーをタンパク質にカップリングさせること
を更に含み、好ましくは、カップリング剤がカルボジイミドクロスカップリング剤である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
タンパク質がアルブミン、好ましくはヒトアルブミンである、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
各血液適合性基が、スルホン酸基またはスルホネート基から選択される、請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
複数の血液適合性基を有するポリマーが、式(A‐1):
[式中、Rは、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、式(S‐1):
‐Z‐L‐SO‐Y
(S‐1)
で表され、
式(S‐1)中、Zは、O、NHおよびNRから選択され、
は、C1~6アルキル、C6~10アリールおよびC6~10アリールC1~6アルキルから選択され、
は、O、OH、NHおよびNHから選択され、
は、式(L‐1):
‐P‐Q‐W
(L‐1)
で表され、
式(L‐1)中、Pは、単結合、C1~10アルキレン、C2~10アルケニレン、C2~10アルキニレンおよびフェニレンから選択され、
は、単結合、O、NH、NRおよびフェニレンから選択され、
は、単結合、C1~10アルキレン、C2~10アルケニレン、C2~10アルキニレンおよびフェニレンから選択され、
は、C1~6アルキル、C6~10アリールおよびC6~10アリールC1~6アルキルから選択される。]
で表される繰り返し単位を含む、請求項18~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
が水素およびメチルから選択され、好ましくはRが水素である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
がHおよびメチルから選択され、好ましくはRが水素である、請求項22または請求項23に記載の方法。
【請求項25】
がOおよびNHから選択され、好ましくはZがNHである、請求項22~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
がOおよびOHから選択される、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
がC1~10アルキレン、C2~10アルケニレンおよびC2~10アルキニレンから選択され;Qが単結合であり、Wが単結合であり、好ましくはPがC1~10アルキレン、任意にC2~6アルキレンであり、より好ましくはPがエチレンである、請求項22~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
がC1~10アルキレン、C2~10アルケニレンおよびC2~10アルキニレンから選択され;QがO、NHおよびNRから選択され、Wが単結合であり、好ましくはQがOおよびNHから選択される、請求項22~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
複数の血液適合性基を有するポリマーが、式(B‐1):

[式中、Rは、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、H、C1~6アルキルおよび‐C(O)Xから選択され、
各Xは、独立して、O、OH、OR、NH、NHRおよびN(R)から選択され;そして
各Rは、独立して、任意選択で置換されたC1~6アルキル、任意選択で置換されたC6~10アリールおよび任意選択で置換されたC6~10アリールC1~6アルキルから選択される。]
で表される繰り返し単位を含む、請求項18~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
がHおよびメチルから選択され、好ましくはRがメチルである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
がHおよびメチルから選択され、好ましくはRが水素である、請求項29または請求項30に記載の方法。
【請求項32】
がOおよびOHから選択される、請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
複数の血液適合性基を有するポリマーがコポリマーである、請求項18~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
(a)複数の血液適合性基を有するポリマー、
(b)タンパク質を含むベースコーティング溶液、および
(c)カップリング剤
を含み、
各血液適合性基が独立して、スルホン酸基、スルホンアミド基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択されるか、または請求項4~16のいずれか1項に更に定義される、医療デバイスをコーティングするためのキット。
【請求項35】
手術または治療によるヒトまたは動物の身体の治療において、および/またはヒトまたは動物の身体に対して実施される診断方法において使用するための、請求項1~16のいずれか1項に記載のコーティングまたは請求項17に記載の医療用デバイス。
【請求項36】
血液の凝固を低減または防止するために使用するための、請求項1~16のいずれか1項に記載のコーティング、請求項17に記載の医療用デバイス、または請求項35に記載の使用のためのコーティングもしくは使用のための医療用デバイス。
【請求項37】
医療用デバイスを血液と接触させること
を含み、
医療用デバイスが請求項17に記載のものである、血液凝固を低減または予防する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイス用コーティングに関する。本発明は更に、コーティングを含んでなる医療用デバイス、ならびにコーティングまたはコーティングを含んでなる医療用デバイスを含む使用および方法に関する。本発明はまた、コーティングの製造方法および医療デバイスをコーティングするためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
臓器または組織内での血栓の形成は、潜在的に生命を脅かす状態を呈し得る。医療デバイスを使用する場合、血液がデバイスの異物表面と接触することがあり、これが血栓の形成を誘発することがある。そのため、患者には、血液凝固や血栓の形成を抑制するために、医療デバイスの使用前に抗凝固剤が投与されることがある。しかし、抗凝固剤の投与には、考慮しなければならないかなりの副作用がある。患者によっては、そのような抗凝固剤を投与することが安全でない場合もある。
【0003】
ステントなどの一部の医療デバイスは、血栓の形成を防ぐ抗凝固剤であるヘパリンでコーティングされている。ヘパリンはグリコサミノグリカンである。医療デバイスにコーティングするのは難しく、比較的高価である。ヘパリンの使用には、出血、激しい痛み(注射部位など)、吐き気、異常な疲労感など、いくつかの副作用も伴う。また、ヘパリン誘発性血小板減少症など、ヘパリンの使用に関連した重篤な副作用もある。ヘパリンは、脳の手術、脊椎の手術、目の手術、血友病、抗凝血剤の欠乏、コントロールされていない高血圧、心臓弁の亜急性感染症、脳内出血、大動脈血管壁の膨張と裂傷、胃または腸の潰瘍、潰瘍性大腸炎、腸の炎症状態、憩室炎、重度の肝臓病、胆道および胆嚢の問題、骨粗鬆症、およびステージ4(重度)またはステージ5(不全)の慢性腎臓病など、いくつかの症状には禁忌である。
【0004】
他のタイプのコーティングも医療デバイスに適用されている。これらのコーティングは通常、多官能性重合性化合物を含む。このようなコーティングの問題点は、コーティング性能が低く、比較的短時間で劣化してしまうことである。コーティングが機械的堅牢性に欠ける場合、分解の副生成物が患者に浸出する可能性があり、これはある種のコーティングにとって望ましくない場合がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、ポリマー層を含む医療デバイス用のコーティングを提供する。ポリマー層は、複数の血液適合性基を有するポリマーを含む。各血液適合性基は、独立して、スルホン酸基、スルホンアミド基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択される。
【0006】
典型的には、コーティングはベース層を更に含み、ポリマー層はベース層に配置される。ベース層は典型的にはタンパク質を含む。
【0007】
本発明のコーティングは非血栓性であり、血液適合性である。このコーティングは、血栓の形成を予防または抑制することができ、ひいては血栓に関連する疾患および状態の発症、進行または再発を予防または抑制することができるという予防効果を有する。
【0008】
本発明者らは、特に血液適合性基を含む場合に、医療デバイスのコーティングとして使用するのに有利な特性を有するポリマー材料を発見した。血液適合性基は、本明細書中において抗血栓性基とも呼ばれる(即ち、用語「血液適合性基」は「抗血栓性基」と同義である)。血液適合性基は、コーティングの全体的な血液適合性に寄与する。
【0009】
本発明はまた、医療デバイス用のコーティングを製造する方法を提供する。この方法は、(a)本明細書中に記載されるような複数の血液適合性基を有するポリマーをベース層上に適用してポリマー層を形成することを含む。各血液適合性基は、独立して、スルホン酸基、スルホンアミド基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択されてもよい。ベース層は、典型的には、タンパク質を含む。
【0010】
本発明は更に、本明細書中に記載のコーティングの製造方法から得られる、または得られることができるコーティングに関する。
【0011】
また、本発明により、本明細書中に記載のコーティングで被覆された表面を有する医療用デバイスが提供される。
【0012】
本発明は更に、医療デバイスの表面をコーティングする方法を提供することが可能である。医療デバイス用のコーティングを製造する方法は、医療デバイスの表面をコーティングする方法を含んでもよい。
【0013】
本発明の更なる態様は、医療デバイスをコーティングするためのキットに関する。このキットは、(a)本明細書中に記載されるような複数の血液適合性基を有するポリマー;(b)ベースコーティング溶液;および(c)カップリング剤を含んでなる。各血液適合性基は、独立して、スルホン酸基、スルホンアミド基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択される。ベースコーティング溶液は、典型的には、タンパク質を含む。
【0014】
本発明は更に、コーティングおよび医療デバイスの使用に関する。
【0015】
本発明のコーティングまたは本発明の医療用デバイスは、手術または治療によるヒトまたは動物の身体の治療において、および/またはヒトまたは動物の身体上で実施される診断方法において使用してもよい。ヒトまたは動物の身体において実施される診断方法は、典型的には、in vivo診断方法である。
【0016】
本発明のコーティングまたは本発明の医療用デバイスは、血液の凝固を低減または防止するために使用するためのものである。
【0017】
本発明はまた、血液の凝固を減少または防止する方法を提供する。この方法は、本発明の医療用デバイスを血液と接触させることを含む。
【0018】
本発明の方法の1つの態様は、血液を処理する場合など、血液の凝固を低減または防止するin vitro方法であってもよい。この方法は、医療用デバイスを血液と接触させることを含んでよく、血液はヒトまたは動物の身体から除去されたものである。血液は、血液を処理するために医療デバイスと接触させてもよい。処理された血液は、ヒトまたは動物の身体、好ましくは血液が取り出されたヒトまたは動物の身体に戻されないことがある。
【0019】
本発明の方法の別の態様は、診断手順における血液の凝固を低減または防止する方法である。この方法は、診断情報を得るために医療デバイスを血液と接触させることを含んでいてもよい。
【0020】
(定義)
本明細書中で使用される「生体適合性」という用語は、特にコーティングまたはその構成成分の文脈において、特定の用途(例えばISO 10993‐1(2018)に規定されるような)において適切な宿主応答で機能する医療デバイスまたは材料の能力を指す。ISO 10993‐1(2018)における「生体適合性」の定義、その関連用語、およびその評価のための試験は、参照により本明細書中に援用される。一般的な用語では、生体適合性とは、医療デバイスまたは材料が、医療療法に関してその所望の機能を果たす能力を指し、その療法のレシピエントまたは受益者に望ましくない局所的または全身的な影響を誘発することなく、その特定の状況において最も適切な有益な細胞または組織応答を生成し、その療法の臨床的に関連する性能を最適化する。
【0021】
本明細書中で使用する「アルキル」という用語は、炭素原子および水素原子から成り、不飽和を含まない直鎖状または分岐状炭化水素鎖基を指す。C1~6アルキル」基は、1~6個の炭素原子を含む。本明細書中で特に断らない限り、アルキル基は非置換であるか、またはヒドロキシ、C1~6アルコキシおよびハロ(例えばフルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード)、好ましくはフルオロから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。アルキル基は非置換であることが好ましい。
【0022】
本明細書中で使用される用語「アルコキシ」は、式‐O‐アルキルの酸素原子を介して結合した基を指し、ここでアルキル基は上記で定義されている。
【0023】
本明細書中で使用する用語「アリール」は、環炭素原子から水素原子を除去することによって芳香族単環式または多環式炭化水素環系から誘導される基を指す。芳香族単環式または多環式炭化水素環系は、水素原子および炭素原子のみを含み、環系中の環の少なくとも1つが完全に不飽和である(即ち、ヒュッケル理論に従って、環状の非局在化[4n+2]π電子系を含む)。アリール基が誘導され得る環系としては、例えば、ベンゼン、インダン、インデン、テトラリンおよびナフタレンが挙げられる。
【0024】
本明細書中で使用する用語「アリールアルキル」は、上記で定義したようなアルキル基に結合した基を指し、このアルキル基は、上記で定義したようなアリール基によって更に置換されている(またはアリール基に結合している)。アリールアルキル基の例としては、ベンジル(PhCH‐)およびフェニルエチルが挙げられる。ベンジル基は、Cアリール‐Cアルキル基の例である。
【0025】
本明細書中で使用する用語「アルキレン」は、炭素原子および水素原子から成り、不飽和を含まない、直鎖状または分枝状の二価炭化水素鎖を指す。好ましいアルキレン基の例としては、‐CH‐、‐CH‐CH‐、CHCH‐CH‐、CH(CH)‐、および‐C(CH‐CH‐が挙げられる。「C1~10アルキレン」基は、1~10個の炭素原子を含む。
【0026】
本明細書中で使用する「アルケニレン」という用語は、炭素原子および水素原子から成り、少なくとも1つの二重結合を含む、直鎖状または分枝状の二価炭化水素鎖を指す。アルケン基は、シス配列またはトランス配列を有していてもよい。例として、アルケニレン基には、‐CH=CH‐、‐CH‐CH=CH‐、C(CH)=CH‐CH‐、CHC(CH)=CH‐CH‐、および‐CHCH=C=CH‐CH‐が挙げられる。「C2~10アルケニレン」基は、2個~10個の炭素原子を含む。アルケニレンが1つより多くの二重結合を含む場合、二重結合は共役でも非共役でもよい。アルケニレン基はアレン基を含まないことが好ましい。より好ましくは、アルケニレン基が単一の二重結合を含むことが好ましい。
【0027】
本明細書中で使用される用語「アルケン」は、炭素原子および水素原子から成り、少なくとも1つの炭素‐炭素二重結合を含む、直鎖状または分岐状炭化水素鎖ラジカル基を指す。
【0028】
本明細書中で使用する用語「アルキニレン」は、炭素原子および水素原子から成り、少なくとも三重結合を含む、直鎖状または分枝状の二価炭化水素鎖を指す。アルキレン基の例としては、‐C≡C‐、‐CH‐C≡C‐、‐CH(CH)‐C≡C‐CH‐、および‐CH‐C≡C‐C≡C‐C(CH)=CH‐CH‐が挙げられる。C2~10アルキニレン」基は、2~10個の炭素原子を含む。アルキニレンが1つより多い三重結合を含む場合、三重結合は共役でも非共役でもよい。好ましくは、アルキニレン基は二重結合(例えば炭素‐炭素二重結合)を含まない。より好ましくは、アルキニレン基は、単一の三重結合を含む。
【0029】
本明細書中で使用する用語「フェニレン」は、ベンゼン(例えば‐C‐)から誘導される二価基を指す。二価の基(例えば、二置換ベンゼン環)は、置換基のオルト配置、置換基のメタ配置または置換基のパラ配置を有してもよい。
【0030】
本明細書中において特に断らない限り、前述の各基(例えばアルキル、アルケン、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン)は非置換である。
【0031】
明示的に反対の記載がない限り、繰り返し単位、モノマーまたはポリマーの式(例えば、用語「式(A‐1)で表される繰り返し単位」、「式(B‐1)で表される繰り返し単位」、「式(a‐1)のモノマー」または「式(b‐1)のモノマー」)への言及は、それぞれ、式によって、および/または式を参照して記載される、任意のおよびすべての繰り返し単位、モノマーまたはポリマーを含むと解されるべきである。また、これらの用語は、実質的に純粋な形態、または立体異性体および/または光学異性体の混合物としての、そのような繰り返し単位、モノマーまたはポリマーのすべての立体異性体、特にシス異性体およびトランス異性体、ならびに光学異性体、即ちRおよびSエナンチオマーを包含するとも解されるべきである。
【0032】
本開示で使用される場合、用語「~を含む(comprises)」は、他の、特定されていない特徴が存在することを可能にする、オープンな意味を有する。この用語は、セミクローズな用語「本質的に~から成る(consisting essentially of)」およびクローズな用語「~から成る(consisting of)」を包含するが、これらに限定されない。文脈から別段の指示がない限り、「~を含む」という用語は、「本質的に~から成る」または「~から成る」のいずれかに置き換えることができる。また、「本質的に~から成る」という用語は、「~から成る」と置き換えることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、医療デバイス用のコーティングを提供する。このコーティングは、血液の凝固を低減または防止する。コーティングは、典型的には、抗血栓性コーティング、例えば抗凝固性コーティングおよび/または抗血小板性コーティング、好ましくは抗血小板性コーティングである。コーティングは典型的には血液適合性コーティングである。
【0034】
本明細書中で使用される「血液」への言及は、一般に、ヒトまたは非ヒト動物、例えば哺乳動物の血液を指す。本発明は獣医学的用途にも使用できる。「血液」という用語は、好ましくはヒトの血液を指す。
【0035】
一般に、コーティングは生体適合性であり、好ましくは生体適合性および/または血液適合性である。
【0036】
一般に、コーティングは表面層を含む。表面層はコーティングの最上層である。従って、表面層は、コーティングまたはコーティングされた医療デバイスの外表面層であってもよい。使用中、コーティングの表面層は血液と接触する。
【0037】
表面層またはコーティング(例えば全体として)は、ゲル、好ましくはヒドロゲルの形態であってもよい。ヒドロゲルは、医療デバイスに潤滑性表面を提供することができる。
【0038】
一般に、表面層は生体適合性である。
【0039】
表面層は、本明細書中に記載されるように、複数の血液適合性基を有するポリマーを含むか、または本質的にそのようなポリマーから成っもよい。コーティングが合計2層を含む場合、表面層はポリマー層である。
【0040】
各血液適合性基は、スルホン酸基、スルホンアミド基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択される。各基の構造を以下に示すが、波線は直接または間接的にポリマーに基が結合する点を示す。
【0041】
一般に、各血液適合性基は、独立して、スルホン酸基、スルファミン酸基、硫酸水素基およびそれらの共役塩基から選択されることが好ましい。より好ましくは、各血液適合性基は、スルホン酸基またはスルホネート基(即ち、スルホン酸基の共役塩基)から独立して選択される。
【0042】
各基の共役塩基を以下に示す。各基の共役塩基は、それぞれスルホネート基、スルホンアミドアニオン基、スルファメート基または硫酸基を意味する。
【0043】
複数の血液適合性基は、好ましくは、同一の血液適合性基および/またはその共役塩基である。
【0044】
典型的には、複数の血液適合性基は、スルホン酸基またはその共役塩基;スルホンアミド基またはその共役塩基;スルファミン酸基またはその共役塩基;および硫酸水素基またはその共役塩基から選択される。より好ましくは、複数の血液適合性基は、スルホン酸基またはスルホネート基(即ち、スルホン酸基の共役塩基)から選択される。
【0045】
理論に拘束されることを望むものではないが、本明細書中に記載の血液適合性基がイオン化されると、負に帯電した共役塩基(例えばスルホン酸基など)が血小板の付着を反発し、それによってコーティングの表面上での血栓の形成を抑制または防止すると考えられる。参照により本明細書中に援用される、国際特許出願PCT/EP2020/081383号の実施例は、血液適合性基(国際特許出願中では抗血液凝固基と呼ばれる)が血栓を減少または予防する活性を有することを示している。本発明のポリマーは、繰り返し単位の分子サイズが比較的小さいため、高密度の血液適合性基を提供する可能性がある。
【0046】
複数の血液適合性基を含むポリマーは、ポリマー鎖を有する。ポリマー鎖はポリマーの骨格である。ポリマー鎖が生体適合性であることが好ましい。
【0047】
一般に、各血液適合性基は、リンカー基によってポリマー鎖に結合している。従って、ポリマーは複数のリンカー基を含む。
【0048】
原則として、血液適合性基をポリマー鎖に連結するために、どのようなリンカー基を使用してもよい。しかし、特定のリンカー基は、コーティングの有利な特性を提供するか、またはそれに寄与する可能性がある。
【0049】
コーティングの表面が血小板に対して高い負電荷密度を示すように、リンカー基は比較的短く(例えば、1~3原子の長さ)すべきと考えられる。より長いリンカー基を使用すると、リンカー基の構造上の可撓性により、コーティング表面が血液適合性基の無秩序な配列を有する可能性がある。これは、コーティングの表面によって提供される負の電荷密度を減少させることが可能である。
【0050】
一般に、リンカー基は生体適合性であることが好ましい。
【0051】
各リンカー基は、ポリマー鎖に血液適合性基を共有結合する。従って、リンカー基は、ポリマー鎖に共有結合している第1の末端と、血液適合性基に共有結合している第2の末端とを有してもよい。
【0052】
単一の血液適合性基が、単一のリンカー基によってポリマー鎖に結合されてもよい。
【0053】
ポリマー鎖は、直鎖状ポリマー鎖であっても、分岐状ポリマー鎖であってもよい。ポリマー鎖は直鎖状ポリマー鎖であることが好ましい。
【0054】
ポリマーまたはポリマー鎖は、典型的には、少なくとも300g/mol、例えば300~50,000g/mol、好ましくは500~30,000g/mol、より好ましくは1,000~10,000g/molの数平均(例えば平均)分子量(Mn)を有する。数平均(例えば平均)分子量(Mn)は、光散乱によって決定することができる。
【0055】
複数の血液適合性基を有するポリマーは、式(A‐1):
[式中、Rは、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、式(S‐1):
‐Z‐L‐SO‐Y
(S‐1)
で表され、
式(S‐1)中、Zは、O、NHおよびNRから選択され、
は、C1~6アルキル、C6~10アリールおよびC6~10アリールC1~6アルキルから選択され、
は、O、OH、NHおよびNHから選択され、
は、式(L‐1):
‐P‐Q‐W
(L‐1)
で表され、
式(L‐1)中、Pは、単結合、C1~10アルキレン、C2~10アルケニレン、C2~10アルキニレンおよびフェニレンから選択され、
は、単結合、O、NH、NRおよびフェニレンから選択され、
は、単結合、C1~10アルキレン、C2~10アルケニレン、C2~10アルキニレンおよびフェニレンから選択され、
は、C1~6アルキル、C6~10アリールおよびC6~10アリールC1~6アルキルから選択される。]
で表される繰り返し単位を含んでもよい。
【0056】
式(A‐1)で表される繰り返し単位は、第1の繰り返し単位であってもよい。
【0057】
便宜上、「第1の繰り返し単位」という用語、特に「第1の」という言及は、この繰り返し単位を他のタイプの繰り返し単位と区別するためのラベルとして使用される。この用語の使用は、例えば「第2の繰り返し単位」または「第3の繰り返し単位」等への言及がなされる場合に、「第1の繰り返し単位」が存在することを必要としない。同じことが、「第2の繰り返し単位」、「第3の繰り返し単位」等の用語にも当てはまる。
【0058】
上記式(A‐1)で表される繰り返し単位は、例えば、2‐アクリルアミド‐2‐メチル‐1‐プロパンスルホン酸(AMPS)、3‐(アクリロイルオキシ)プロパン‐1‐スルホン酸または3‐(メタクリロイルオキシ)プロパン‐1‐スルホン酸などの本明細書中に記載の式(a‐1)のモノマーから得られるか、または得ることができる。これらのモノマーは市販されている。
【0059】
式(A‐1)において、部分Lはリンカー基を表す。
【0060】
一般に、式(A‐1)で表される繰り返し単位を含むポリマーを有するポリマー層および/または表面層などの任意の層は、典型的にはポリマー組成物を含む。ポリマー組成物は、ポリマーの分子の分布を有し、ここで、ポリマーの各分子は、本明細書中に記載される式(A‐1)で表されるような繰り返し単位(例えば、数を変えて)を含む。
【0061】
式(A‐1)で表される繰り返し単位は、更に下記式(A‐2):
で表すことが可能である。
【0062】
式(A‐2)において、nは0より大きい整数であり、R、RおよびXの各々は、本明細書中において定義される通りである。
【0063】
式(A‐1)または式(A‐2)において、RがHおよびC1~3アルキルから選択されることが好ましく、好ましくは、RはHおよびメチルから選択される。更に好ましくは、RはHである。
【0064】
式(A‐1)または式(A‐2)において、RがHおよびC1~3アルキルから選択されることが好ましく、好ましくはRがHおよびメチルから選択される。更に好ましくは、RはHである。
【0065】
式(A‐1)または式(A‐2)において、ZがNRである場合、RがC1~6アルキル、特にメチルまたはエチルであることが好ましい。
【0066】
典型的には、式(A‐1)または式(A‐2)において、Zは、好ましくはOおよびNHから選択される。ZはOであってもよい。より好ましくは、ZはNHである。ZがOまたはNHである場合、リンカー基は、典型的には生体適合性基であるエステル基またはアミド基によってポリマー鎖に結合される。特に、アミド基は、ペプチド中に存在するので、生体適合性である。
【0067】
は、典型的には、単結合、C1~10アルキレンおよびフェニレンから選択され;そしてWは、単結合、C1~10アルキレンおよびフェニレンから選択されてもよい。より好ましくは、Pは、単結合およびC1~10アルキレンから選択されてよく;そしてWは、単結合およびC1~10アルキレンから選択されてよい。
【0068】
あるいは、Pは、C1~10アルキレン、C2~10アルケニレンおよびC2~10アルキニレンから選択され;Qは、O、NHおよびNRから選択され、Wは、単結合である。より好ましくは、QはOおよびNHから選択される。この配置において、血液適合性基は、スルファメート基、硫酸基またはそれらの共役塩基である。
【0069】
典型的には、Lについては、P、QおよびWの少なくとも1つが単結合でないことが好ましい。
【0070】
がOである場合、一般にPが単結合でないことが好ましい。より好ましくは、QがOである場合、PがC1~10アルキレンであることが好ましく、より好ましくは、PがC2~4アルキレンである。
【0071】
がOであり、Pが単結合でない場合、Wが単結合でないことが好ましい場合がある。より好ましくは、QがOである場合、PがC1~10アルキレンであり、WがC1~10アルキレンであることが好ましく、より好ましくは、PがC2~4アルキレンであり、WがC2~4アルキレンである。
【0072】
がフェニレンである場合、一般に、Pが単結合またはC1~10アルキレンであり、Wが単結合またはC1~10アルキレンであることが好ましい。より好ましくは、Qがフェニレンである場合、Pが単結合またはC1~3アルキレンであり、Wが単結合またはC1~3アルキレンであることが好ましい。
【0073】
一般に、PがC1~10アルキレン、C2~10アルケニレンおよびC2~10アルキニレンから選択され;Qが単結合であり、Wが単結合であることが好ましい。より好ましくは、PはC1~10アルキレン、特にC2~6アルキレン、例えばC2~5アルキレンである。更に好ましくは、Pはブチレン、プロピレンまたはエチレン、好ましくはイソ‐ブチレンである。
【0074】
がエチレンであり、QおよびWが共に単結合である場合、(S‐1)で表される部分は、タウリンから形成することが可能である。
【0075】
式(A‐1)または式(A‐2)で表される繰り返し単位は、アニオン性であってもよく、例えば、YがOまたはNHである場合などである。ポリマー鎖がアニオン性である場合、NaまたはKが対カチオンとして存在してもよい。
【0076】
はO、OHおよびNHから選択されることが好ましい。より好ましくは、YはOおよびOHから選択される。
【0077】
典型的には、nで表される整数は少なくとも5であり、好ましくは少なくとも10である。例えば、nは5~500、例えば10~300、より好ましくは15~100であってよい。
【0078】
複数の血液適合性基を有するポリマーは、式(B‐1):

[式中、Rは、HおよびC1~6アルキルから選択され、
は、H、C1~6アルキルおよび‐C(O)Xから選択され、
各Xは、独立して、O、OH、OR、NH、NHRおよびN(R)から選択され;そして
各Rは、独立して、任意選択で置換されたC1~6アルキル、任意選択で置換されたC6~10アリールおよび任意選択で置換されたC6~10アリールC1~6アルキルから選択される。]
で表される繰り返し単位を含んでもよい。
【0079】
表現「C(O)」はカルボニル基、即ちC=Oを表す。
【0080】
式(B‐1)で表される繰り返し単位は、第2の繰り返し単位であってもよい。
【0081】
上記式(B‐1)で表される繰り返し単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステル、アクリル酸のアミド、メタクリル酸のアミド、マレイン酸またはそのエステル、アミドまたはその無水物、或いはマレイミドなどの本明細書中に記載の式(b‐1)のモノマーまたは式(b‐2)のモノマーから得られてもよいか、または得ることができる。メタクリル酸のエステルは、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)または2‐ヒドロキシプロピルメタクリレートであってもよい。これらのモノマーは市販されている。
【0082】
一般に、ポリマー層および/または表面層のような、式(B‐1)で表される繰り返し単位を含むポリマーを有する任意の層は、典型的にはポリマー組成物を含む。ポリマー組成物は、ポリマーの分子の分布を有し、ここで、ポリマーの各分子は、本明細書中に記載されるような式(B‐1)で表される繰り返し単位を(例えば、数を変えて)含む。
【0083】
式(B‐1)で表される繰り返し単位は、更に下記式(B‐2):
で表されてもよい。
【0084】
式(B‐2)において、nは0より大きい整数であり、R、RおよびXの各々は、本明細書中において定義される通りである。
【0085】
式(B‐1)または式(B‐2)において、RはHおよびC1~3アルキルから選択されることが好ましく、好ましくは、RはHおよびメチルから選択される。
【0086】
がHおよびC1~6アルキルから選択される場合、好ましくは、Rはメチルである。
【0087】
が‐C(O)Xである場合、好ましくは、Rは水素である。
【0088】
式(B‐1)または式(B‐2)において、RがH、C1~3アルキルおよび‐C(O)Xから選択されることが好ましく、好ましくは、RはH、メチルおよび‐C(O)Xから選択される。更に好ましくは、Rは水素または‐C(O)Xである。Rは水素であってもよい。Rは‐C(O)Xであってもよい。
【0089】
が‐C(O)Xである場合、式(B‐1)または式(B‐2)で表される繰り返し単位は、Xで表される基を2個含む。各Xは同一であっても異なっていてもよい。各Xが同一であることが好ましい。
【0090】
一般に、式(B‐1)または式(B‐2)において、XがOR、NHRまたはN(R)である場合、各Rは独立して、任意に置換されたC1~6アルキル、任意に置換されたC6~10アリールおよび任意に置換されたC6~10アリール‐C1~6アルキルから選択される。従って、各Rは、非置換C1~6アルキル、置換C1~6アルキル、非置換C6~10アリール、置換C6~10アリール、非置換C6~10アリール‐C1~6アルキルおよび置換C6~10アリール‐C1~6アルキルから独立して選択されてもよい。
【0091】
1~6アルキル、C6~10アリールおよびC6~10アリール‐C1~6アルキルは、各々独立して、ヒドロキシ、C1~6アルコキシおよびハロから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0092】
各Rは、独立して、ヒドロキシ置換された置換C2~6アルキル、非置換C1~6アルキル、任意選択で置換Cアリールおよび任意選択で置換Cアリール‐C1~6アルキルから選択されることが好ましい。より好ましくは、Rは独立して、ヒドロキシ置換された置換C2~6アルキルおよび非置換C1~6アルキル、例えばメチルまたはエチルから選択される。
【0093】
がN(R)である場合、各Rは同一であっても異なっていてもよい。各Rが同一であることが好ましい。
【0094】
式(B‐1)または式(B‐2)で表される繰り返し単位は、XがOである場合のような、アニオン性であってもよい。ポリマー鎖がアニオン性である場合、NaまたはKが対カチオンとして存在してもよい。
【0095】
式(B‐1)または式(B‐2)において、XはO、OH、OR、NHおよびNHRから選択されることが好ましい。より好ましくは、Xは、O、OH、ORおよびNHから選択される。Xは、O、OHおよびORから選択されてもよい。あるいは、Xは、O、OHおよびNHから選択される。更に好ましくは、XはOおよびOHから選択される。
【0096】
典型的には、nで表される整数は少なくとも5であり、好ましくは少なくとも10である。例えば、nは5~500、例えば10~300、より好ましくは15~100であってよい。
【0097】
複数の血液適合性基を有するポリマーが、式(A‐1)で表される繰り返し単位(例えば第1の繰り返し単位)と、式(B‐1)で表される繰り返し単位(例えば第2の繰り返し単位)とを含む場合、好ましくは(a)および/または(b)が適用される。
(a)Rは、Rと異なる(例えば、異なる基である)。
(b)RはRと異なる(例えば異なる基である)。
【0098】
例えば、RがHおよびC1~6アルキルから選択される場合、Rは‐C(O)Xであってもよい。
【0099】
一般に、RがHである場合、RはC1~6アルキル、好ましくはC1~3アルキル、より好ましくはメチルであることが好ましい。
【0100】
典型的には、複数の血液適合性基を有するポリマーはコポリマーである。
【0101】
複数の血液適合性基を有するポリマーは、(i)式(A‐1)で表される第1の繰り返し単位および(ii)式(B‐1)で表される第2の繰り返し単位を含むか、または本質的にこれらから成る。従って、ポリマーは、(i)式(A‐1)で表される第1の繰り返し単位および(ii)式(B‐1)で表される第2の繰り返し単位を含むか、または本質的にこれらから成るコボリマーである。
【0102】
複数の血液適合性基を有するポリマーがコポリマーである場合、コポリマーは、交互コポリマー、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマーであってよい。コポリマーは交互コポリマーであってもよい。コボリマーはブロックコボリマーであってもよい。コボリマーがランダムコボリマーであることが好ましい。
【0103】
複数の血液適合性基を有するポリマーがランダムコポリマーである場合、ランダムコポリマーは、(i)式(A‐1)で表される第1の繰り返し単位および(ii)式(B‐1)で表される第2の繰り返し単位を含むか、または本質的にこれらから成る。繰り返し単位は、コポリマー中(例えば、各コポリマー分子のポリマー鎖内)にランダムに分布している。
【0104】
複数の血液適合性基を有するポリマーが交互ランダムコポリマーである場合、交互コポリマーは、(i)式(A‐1)で表される第1の繰り返し単位および(ii)式(B‐1)で表される第2の繰り返し単位を含むか、または本質的にこれらから成る。例えば、交互コポリマーは、交互に配置された第1および第2の繰り返し単位、好ましくは規則的に交互に配置された第1および第2の繰り返し単位(例えば、-(A‐1)-(B‐1)-(A‐1)-(B‐1)-...)を含んでもよいか、または本質的にこれらから成ってもよい。
【0105】
交互コポリマーは、式(1):
-[‐(A‐1)‐(B‐1)‐]- (1)
(式中、(A‐1)は、本明細書中に記載の式(A‐1)の繰り返し単位であり、
(B‐1)は、本明細書中に記載の式(B‐1)の繰り返し単位であり、
nは、0より大きい整数である。)
で表される繰り返し単位を含んでもよいか、または本質的にそれから成ってもよい。
【0106】
複数の血液適合性基を有するポリマーがブロックコボリマーである場合、ブロックコボリマーは、(i)式(A‐1)で表される第1の繰り返し単位、および(ii)式(B‐1)で表される第2の繰り返し単位を含むか、またはこれらから本質的に成る。
【0107】
例えば、ブロックコポリマーは、式(2):
-[(A‐1)]n1‐[(B‐1)]n2‐ (2)
(式中、(A‐1)は、本明細書中に記載の式(A‐1)の繰り返し単位であり、
(B‐1)は、本明細書中に記載の式(B‐1)の繰り返し単位であり、
は、本明細書中に記載されるような、0より大きい整数であり、
は、本明細書中に記載されるような、0より大きい整数である。)
で表される繰り返し単位を含んでもよいか、または本質的にそれから成ってもよい。
【0108】
1つの実施形態において、複数の血液適合性基を有するポリマーは、マレイン酸またはマレイミドのモノマーから得られるか、または得ることが可能な繰り返し単位を含まない。特に、複数の血液適合性基を有するポリマーは、参照により本明細書中に援用される国際公開特許出願PCT/EP2020/081383の国際公開公報の請求項4に定義され、式(A‐1)で表される繰り返し単位を含まない。
【0109】
複数の血液適合性基を有するポリマーを作製する方法は、当該技術分野において公知である。
【0110】
本発明のコーティングは、ベース層を更に含んでもよい。ベース層は、医療デバイスの表面と接触するため、または表面に配置されるためのものである。
【0111】
ベース層は、医療デバイスの表面に配置されてもよい。ベース層は通常、医療デバイスの表面に直接配置される。従って、ベース層は表面と直接接触している。
【0112】
一般に、ベース層は医療デバイスの表面に接着または結合、好ましくは接着することが好ましい。
【0113】
典型的には、ベース層は生体適合性である。
【0114】
ベース層は、典型的には、ポリマー層または表面層の下に配置される。
【0115】
ポリマー層または表面層は、一般に、ベース層に直接配置される。従って、ポリマー層または表面層は、典型的にはベース層にコーティングされる。
【0116】
一般に、表面層は、本明細書中に記載されるように、複数の血液適合性基を有するポリマーを含むか、または本質的にポリマーから成ってもよい。
【0117】
コーティングが合計2層を含む場合(例えば、2層のみ)、表面層はポリマー層である。ポリマー層はベース層に配置される。
【0118】
コーティングは、ベース層に配置された複数の層を含んでもよい。複数の層のうちの1つは表面層である。表面層に加えて、複数の層は、本明細書中に記載されるような1つまたは複数のポリマー層、および/または1つまたは複数のタンパク質層を含んでもよい。
【0119】
一般に、各タンパク質層は、本明細書中に記載されるようなタンパク質などのタンパク質を含むか、または本質的にそれから成る。
【0120】
複数の層が1対以上の層であることが好ましく、各対の層は本質的にポリマー層とタンパク質層から成る。層の対が1つ以上ある場合、層の対からのポリマー層がベース層に配置されることが好ましい。表面層は、好ましくは、一対の層からタンパク質層に配置される。
【0121】
例えば、コーティングは、ベース層と、ベース層に配置された第1のポリマー層と、第1のポリマー層に配置された第1のタンパク質層と、第1のタンパク質層に配置された第2のポリマー層と、第2のポリマー層に配置された第2のタンパク質層と、第2のタンパク質層に配置された表面層とを含んでもよい。この例では、第1の層の対は、第1のポリマー層と第1のタンパク質層である。第2の層の対は、第2のポリマー層と第2のタンパク質層である。
【0122】
一般に、ベース層は、タンパク質、好ましくはヒトタンパク質を含むか、または本質的にヒトタンパク質から成る。
【0123】
タンパク質はアルブミンであってもよい。アルブミンはヒトアルブミン、好ましくは組換えヒトアルブミンであることが好ましい。
【0124】
アルブミン、特に組換えヒトアルブミンは、ヒトの循環系に見出されるアルブミンを模倣することができる。アルブミンは、広く様々な表面、特に医療デバイスの表面に、静的吸着力によって付着することが可能である。また、血小板の活性化から保護することができる生体表面も提供する。
【0125】
一般に、ポリマー層(または合計2層ある場合は表面層)は、ベース層と共役している。
【0126】
複数の層がある場合、各ポリマー層は隣接するタンパク質層と共役していてもよい。表面層はタンパク質層と共役していてもよい。
【0127】
ポリマー層または表面層がベース層と共役している場合、典型的には、複数の血液適合性基を有するポリマー(例えば、ポリマー層または表面層から)は、タンパク質(例えば、ベース層から)に架橋される。
【0128】
同様に、ポリマー層が隣接するタンパク質層と共役している場合、複数の血液適合性基を有するポリマー(例えばポリマー層から)がタンパク質(例えばタンパク質層から)に架橋される。
【0129】
式(A‐1)で表される繰り返し単位および/または式(B‐1)で表される繰り返し単位は、タンパク質、例えばタンパク質のアミノ酸に結合、好ましくは架橋されていてもよい。式(B‐1)で表される繰り返し単位がタンパク質に結合、好ましくは架橋されることが好ましい。
【0130】
このように、典型的にはポリマーとタンパク質の間に架橋を形成することによって、層を共役させることは、得られるコーティングがより強固であるため有利である。コーティングは酸性のpH条件下で分解されずに使用することが可能である。架橋はまた、コーティングを塗布するためにアルカリ性条件が使用される場合など、基材の表面へのコーティングの付着性を改善する。
【0131】
一般に、コーティングは抗菌剤を更に含んでもよい。ベース層および/または表面層は、抗菌剤を含んでもよい。抗菌剤は、例えば、表面層またはベース層の成分と混合されてもよい。
【0132】
抗菌剤は銀を含んでもよい。
【0133】
本発明のコーティングは、典型的には、医療デバイスの表面に配置される。医療デバイスの表面は、医療デバイスの内面または内部表面(例えば、カテーテル内部の内面)であってもよいし、医療デバイスの外面であってもよい。コーティングは、血液または血小板を含む血液製剤と接触する医療デバイスの表面に配置されてもよい。
【0134】
コーティングは、医療デバイスの表面を完全にまたは部分的に覆ってもよい。
【0135】
本発明のコーティングにおいて、ベース層は医療デバイスの表面に配置される。ベース層は、典型的には、医療デバイスの表面に直接配置される。従って、ベース層は医療デバイスの表面と直接接触している。
【0136】
ベース層は、特にこの表面に接着または結合できる場合には、医療デバイスの表面に直接適用されてもよい。
【0137】
本発明はまた、医療デバイスも提供する。この医療デバイスは、血液または血小板を含む血液製剤と接触する場所で使用されてもよい。
【0138】
コーティングは医療デバイスの表面に配置される。従って、医療デバイスは、本発明のコーティングで被覆された表面を有する。便宜上、本発明のコーティングで被覆された表面を「被覆表面」と呼ぶ。コーティングされた表面は、血液または血小板を含む血液製剤、好ましくは血液と接触して使用される。
【0139】
典型的には、コーティングは0.005μm~300μm、好ましくは0.05μm~200μm(例えば0.1μm~200μm)、より好ましくは1μm~100μmの厚さを有する。一般に、コーティングの厚さは、患者内で使用するための医療デバイスのプロフィールを著しく増加させないように選択される。
【0140】
医療デバイスは、ベース層と表面層とを含む、または本質的にこれらから成るコーティングで被覆してもよい。あるいは、医療デバイスは、本明細書中に記載するように、ベース層に配置された複数の層を含むコーティングで被覆されてもよい。このように、医療デバイスの表面は、タンパク質層とポリマー層との複数の交互層で被覆されてもよい。
【0141】
医療デバイスは、埋め込み可能な医療デバイスまたは体外医療デバイスであってもよい。埋め込み可能な医療デバイスは、永久的に埋め込み可能な医療デバイスであっても、または一時的に埋め込み可能な医療デバイスであってもよい。
【0142】
医療デバイスは一時的に血液に接触するデバイスであってもよく、例えば、それは埋め込み可能でも体外でもなくてもよい。
【0143】
医療デバイスは、in vivo使用またはin vitro使用のいずれであってもよい。医療デバイスは、好ましくはin vivo使用である。
【0144】
医療デバイスは、in vivo使用のための構成要素を有してもよい。構成要素の少なくとも表面が本発明のコーティングで被覆されていることが好ましい。
【0145】
医療デバイスのコーティングされた表面または医療デバイスの構成要素は、身体の患部などの身体の領域に挿入してもよい。身体の領域は、例えば、冠動脈または静脈、頸動脈または静脈、腎動脈または静脈、腸骨動脈または静脈、大腿動脈または静脈、膝窩動脈または静脈、鎖骨下動脈または静脈、頭蓋間動脈または静脈、大動脈、大静脈、或いは末梢動脈または静脈などの動脈または静脈であってもよい。
【0146】
一旦設置されると、コーティングされた表面は、医療デバイスまたは医療デバイスの構成要素上およびその周囲での血液凝固を防止し、それによって血栓症、特に亜急性装置血栓症を抑制する。
【0147】
医療デバイスまたはその構成要素は、針、カテーテル、ステント、グラフト、シャント、ドレッシング、外科用ステープル、ガイドワイヤー、カニューレ、外科用器具、内視鏡、人工臓器またはオルガノイド(例えば、インスリン分泌デバイス)、埋め込み型モニターまたはセンサー、除細動器、補助人工心臓、ペースメーカー(例えば、心臓ペースメーカー)、埋め込み型ポンプ(例えば、大動脈内バルーンポンプまたは心室補助ポンプ)、細胞リザーバー(例えば、幹細胞移植用)、補綴装置(人工心臓弁など)、整形外科用デバイス、電気刺激用リードまたはリードチップ、埋め込み型血管アクセスポート、血液保存バッグ、血液チューブ、乳房インプラント、疼痛管理デバイス、前立腺がん治療デバイス、歯科用インプラント、局所てんかん治療デバイス、神経再生導管、大静脈フィルター、脊髄修復デバイス、脊髄刺激装置、体内補聴器、神経動脈瘤治療装置、心臓弁修復デバイス、硝子体内薬物送達デバイス、人工関節、眼科用インプラント、血液酸素供給装置、血液フィルター、中隔欠損装置、血液透析装置、血液灌流装置、血漿交換装置または吻合装置であってもよい。
【0148】
カテーテルの例としては、バルーンまたは膨張カテーテル、注射カテーテル、中心静脈カテーテル、動脈カテーテル、吸引カテーテルが挙げられる。医療デバイスが中心静脈カテーテルまたは吸引カテーテルであることが好ましい場合がある。
【0149】
移植片の例には、人工血管、ステント移植片、バイパス移植片が含まれる。医療デバイスがバイパス移植片であることが好ましい場合がある。
【0150】
ステントの例には、血管ステント、尿道ステント、胆管ステント、胆道ステント、食道ステント、気管または気管支ステントが挙げられる。
【0151】
一般に、医療デバイスは、中心静脈カテーテル、吸引カテーテル、バイパスグラフト、灌流ライン、心臓バイパス装置、並びに体外酸素化および熱交換回路から選択されることが好ましい。
【0152】
医療デバイスまたはその構成要素は、金属、ポリマー材料、ガラスまたはセラミックを含んでもよい。従って、本発明のコーティングは、金属、プラスチックまたはセラミックを含む表面に被覆してもよい。
【0153】
金属は、例えば、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、タンタル、コバルト、クロム、ニッケル、モリブデン、マンガン、金、白金、イリジウム、銀、タングステン、チタン合金(例えば、ニチノール)、ニッケル‐クロム合金(例えば、インコネル)、コバルトクロム合金(例えば、エルジロイ)、鉄合金、パラジウム合金、レニウム合金、またはマグネシウム合金であってもよい。
【0154】
ポリマー材料は、例えば、酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル(例えばNylon)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリテトラフルオロエチレンであってよい。
【0155】
セラミックは、例えば、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化イリジウム、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの遷移金属の酸化物、炭化物、または窒化物を含んでもよい。
【0156】
本発明はまた、医療デバイス用のコーティングの製造方法を提供する。本発明はまた、この方法から得られる、または得ることが可能なコーティングに関する。
【0157】
本発明の1つの態様は、医療デバイスの表面をコーティングする方法である。本方法は、医療デバイスの表面で実施される医療デバイス用コーティングの製造方法である。
【0158】
典型的には、本方法は、(a)本明細書中に記載されるような複数の血液適合性基を有するポリマーを、ベース層上(例えば、医療デバイスの表面のベース層上)に適用することを含む。ポリマーをベース層上に適用して、層(例えば、ポリマー層、またはコーティングが2層のみを含む場合には、表面層)を形成する。
【0159】
本発明の方法は、複数の血液適合性基を有するポリマーが、ベース層またはタンパク質層に適用される前に予め形成されるので有利である。これにより、前駆体ポリマーがタンパク質含有層上に適用された場合などの、前駆体ポリマーをin situで、血液適合性基で官能基化する必要性が回避される。層の一部である場合に複数の血液適合性基を有するポリマーをin situで形成すると、タンパク質含有層に影響を及ぼす可能性があるため、使用できる化学的手法が制限される。この方法は、ポリマーを作製するために、より広い範囲の方法論を使用することを可能にする。
【0160】
本発明の方法により、複数の層を有するコーティングを作製することができ、必要な性能とコストに応じて層ごとに積み重ねることができる。層はまた、溶媒を必要とせずに医療デバイスの表面に適用することができる。
【0161】
本方法は、(a1)医療デバイスの表面に本明細書中に記載のベース層を作製すること、次いで(a2)ベース層に本明細書中に記載の複数の血液適合性基を有するポリマーを適用することを含んでもよい。
【0162】
本方法の工程(a1)において、ベース層は、例えばベースコーティング溶液を医療デバイスの表面に塗布する(例えばコーティング表面を形成する)ことにより作製してもよい。医療デバイスの表面にベースコーティング溶液を塗布した後、コーティングされた表面が乾燥されるか、または乾燥させる。
【0163】
一般に、ベースコーティング溶液は、本明細書中に記載されているようなタンパク質を含む。ベースコーティング溶液は、タンパク質を含む、水溶液、好ましくは緩衝水溶液であってもよい。
【0164】
ベースコーティング溶液は、<7のpH、例えば約3.5~約6.5のpH、好ましくは約4.0~約6.0のpHを有してもよい。
【0165】
ベースコーティング溶液は、タンパク質の安定化剤を更に含んでもよい。
【0166】
原則として、ベースコーティング溶液は、従来の技術を用いて医療デバイスの表面に塗布してもよい。
【0167】
例えば、ベースコーティング溶液は、例えば、ディップコーティング、噴霧、ウォッシング、刷毛塗り、ローラー塗り、ワイピング、またはスピンコーティングによって医療デバイスの表面に塗布することができる。ベースコーティング溶液は、医療デバイスの表面に流し込んでもよいし、医療デバイスの表面をベースコーティング溶液に浸漬したり、ベースコーティング溶液で濯いだりしてもよい。あるいは、ベースコーティング溶液は、医療デバイスの内面をコーティングするように、医療デバイスを通してポンプで送り込んでもよい。
【0168】
医療デバイスの表面をベースコーティング溶液に浸漬するか、またはベースコーティング溶液で濯ぐことが好ましい。
【0169】
ベース層の厚さは、浸漬時間、流量等およびコーティング工程の数を変更することによって制御してもよい。各コーティングは、一連の塗布で、本明細書中に記載されるような、医療デバイスの表面に提供することができる。塗布の回数は、好適な厚さの個々のコーティング層、および所望される複数のコーティングの総数を提供するように選択されてもよい。
【0170】
ベース層は、表面層の前に医療デバイスの表面に適用される。
【0171】
一般的に、工程(a1)は医療デバイスの表面にベース層を作製する。
【0172】
ベース層を作製するために、工程(a1)を繰り返してもよい。工程(a1)を繰り返すことにより、ベース層の厚さを増加させてもよい。
【0173】
工程(a2)において、複数の血液適合性基を有するポリマーは、ポリマーコーティング分散液をベース層上に塗布することによって、ベース層上に適用されてもよい(例えば、コーティングされたベース層を形成または提供するために)。ポリマーコーティング分散液をベース層上に塗布した後、コーティングされたベース層を乾燥するか、または乾燥させる。
【0174】
一般に、ポリマーコーティング分散液は、複数の血液適合性基を有するポリマーと液体媒質(またはビヒクル;vehicle)とを含む。
【0175】
ポリマーコーティング分散液は、溶液であっても懸濁液であってもよい。従って、ポリマーは、液体媒質に溶解していてもよいし(例えば、ポリマーコーティング分散液が溶液である場合)、液体媒質に懸濁していてもよい(例えば、ポリマーコーティング分散液が懸濁液である場合)。
【0176】
液体媒質は、水またはエタノールであってもよい。液体媒質は水、好ましくは脱イオン水であることが好ましい。
【0177】
ポリマーコーティング分散液は、好ましくは緩衝化されている。
【0178】
ポリマーコーティング分散液は、<7のpH、例えば約3.5~約6.5のpH、好ましくは約4.0~約6.0のpHを有してもよい。
【0179】
ポリマーコーティング分散液は、従来の技術を用いてベース層上に塗布してもよい。例えば、ポリマーコーティング分散液は、例えば、ディップコーティング、噴霧、ウォッシング、刷毛塗り、ローラー塗り、ワイピング、またはスピンコーティングによって、ベース層(例えば、医療デバイスの表面上)に塗布することができる。ポリマーコーティング分散液は、ベース層上に注いでもよいし、医療デバイスの表面のベース層をポリマーコーティング分散液に浸漬したり、ポリマーコーティング分散液で濯いだりしてもよい。あるいは、ポリマーコーティング分散液は、医療デバイスの内面のベース層をコーティングするように、医療デバイスを通してポンプで送り込んでもよい。
【0180】
医療デバイスの表面をベースコーティング溶液に浸漬するか、またはベースコーティング溶液で濯ぐことが好ましい。
【0181】
ポリマー層の厚さは、浸漬時間、流量等およびコーティング工程の数を変更することにより制御してもよい。
【0182】
ベース層(例えば医療デバイスの表面の)を、ポリマーコーティング分散液に浸漬するか、またはポリマーコーティング分散液で濯ぐことが好ましい。
【0183】
一般に、工程(a2)は、ベース層などのタンパク質層にポリマー層を作製する。コーティングが2層のみを含む場合、ポリマー層は表面層である。
【0184】
ポリマー層または表面層を製造するために、工程(a2)を繰り返してもよい。工程(a2)を繰り返すことにより、ポリマー層または表面層の厚さを増加させてもよい。
【0185】
コーティングが2層のみを含む場合、ベース層である単一のタンパク質層と、表面層である単一のポリマー層とが存在する。
【0186】
コーティングは、複数のタンパク質層(例えば、ベース層を含む)および/または複数のポリマー層(例えば、表面層を含む)を含んでもよい。
【0187】
工程(a1)および(a2)の後、本方法は、(a3)本明細書中に記載のタンパク質層をポリマー層に適用すること、次いで、(a4)本明細書中に記載の複数の血液適合性基を有するポリマーをタンパク質層に適用することを更に含んでもよい。
【0188】
本方法の工程(a3)において、タンパク質層は、本明細書中に記載のベースコーティング溶液をポリマー層に塗布する(例えば、コーティングされたポリマー層表面を形成するため)ことによって作製されてもよい。ベースコーティング溶液をポリマー層に塗布した後、コーティングされたポリマー層表面を乾燥するか、または乾燥させる。
【0189】
工程(a3)は、工程(a1)と同様に実施してもよい。従って、ベースコーティング溶液は、ベースコーティング溶液が医療デバイスの表面に塗布されるのと同じ方法でポリマー層に塗布してもよい。
【0190】
一般に、工程(a3)は、ポリマー層にタンパク質層を製造する。
【0191】
工程(a3)は、タンパク質層を製造するために(例えば、工程(a4)を実行する前に)繰り返されてもよい。工程(a3)を繰り返すことにより、タンパク質層の厚さを増加させてもよい。
【0192】
工程(a4)において、複数の血液適合性基を有するポリマーは、本明細書中に記載されるようなポリマーコーティング分散液をタンパク質層上に塗布することによって(例えば、コーティングされたタンパク質層を形成または提供するために)、タンパク質層上に適用されてもよい。ポリマーコーティング分散液をタンパク質層上に塗布した後、コーティングされたタンパク質層を乾燥するか、または乾燥させる。
【0193】
工程(a4)は、工程(a2)と同様に実施してもよい。従って、ポリマーコーティング分散液は、ポリマーコーティング分散液がベース層に塗布されるのと同じ方法でタンパク質層に塗布されてもよい。
【0194】
一般に、工程(a4)は、タンパク質層にポリマー層を製造する。
【0195】
ポリマー層を製造するために、工程(a4)を繰り返してもよい。工程(a4)を繰り返すことにより、ポリマー層の厚さを増加させてもよい。
【0196】
工程(a3)および(a4)の両方は、一度だけ行ってもよいし、繰り返し行ってもよい。工程(a3)および(a4)の両方を1回、2回または3回行うことが好ましい場合がある。
【0197】
工程(a3)および(a4)を実施することにより、層の1つ以上の組である複数の層を有するコーティングを製造してもよく、ここで、各組の層は本質的にポリマー層およびタンパク質層から成る。
【0198】
工程(a4)が最終的に実行される場合、得られるポリマー層は表面層である。
【0199】
一般に、本発明の方法は、(b)カップリング剤を用いて、複数の血液適合性基を有するポリマーをタンパク質に結合することを含む。ポリマーをタンパク質に結合することは、好ましくは、ポリマーをタンパク質に架橋させることである。
【0200】
ポリマーとタンパク質との間にアミド結合を形成することにより、ポリマーをタンパク質に架橋させてもよい。例えば、式(B‐1)の繰り返し単位中のカルボン酸、エステルまたはアミドは、タンパク質中のアミノ酸とアミド結合を形成してもよい。
【0201】
典型的には、カップリング剤はカルボジイミドカップリング剤である。カルボジイミドカップリング剤は当技術分野で既知である。
【0202】
カルボジイミドカップリング剤は、N,N'‐ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N'‐ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)および1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)から選択されてもよい。カルボジイミドカップリング剤がEDCであることが好ましい。
【0203】
本方法の工程(b)において、カップリング剤を用いて複数の血液適合性基を有するポリマーをタンパク質に結合することは、本明細書中に記載のタンパク質層および本明細書中に記載のポリマー層を含むコーティングにカップリング剤溶液を塗布することによってもよい。タンパク質層はタンパク質を含み、ポリマー層は複数の血液適合性基を有するポリマーを含む。
【0204】
カップリング剤は、コーティングの表面層に適用することができる。
【0205】
典型的には、ポリマー層は表面層である。
【0206】
タンパク質層はベース層であってもなくてもよい。
【0207】
一般に、カップリング剤溶液は、本明細書中に記載のカップリング剤、例えばカルボジイミドカップリング剤を含む。
【0208】
カップリング剤溶液は水溶液、好ましくは緩衝水溶液であってもよい。
【0209】
原則として、カップリング剤溶液は、従来の技術を用いてコーティングに塗布してもよい。
【0210】
カップリング剤溶液は、従来技術を使用してベース層上に塗布してもよい。例えば、カップリング剤溶液は、ディップコーティング、スプレー、ウォッシング、刷毛塗り、ローラー塗り、ワイピング、またはスピンコーティングによって、表面層などのポリマー層(例えば、医療デバイスの表面)に塗布してもよい。カップリング剤溶液をポリマー層(例えば表面層)上に注ぎ、医療デバイスの表面をカップリング剤溶液に浸漬したり、カップリング剤溶液で濯いだりしてもよい。あるいは、カップリング剤溶液は、医療デバイスの内面のポリマー層(例えば表面層)を被覆するように、医療デバイスを通してポンプで注入してもよい。
【0211】
コーティングは、カップリング剤溶液に浸漬するか、カップリング剤溶液で濯ぐのが好ましい。
【0212】
一般に、工程(b)は医療デバイスの表面に架橋されたコーティングを製造するために行われる。カップリング剤を塗布する前に、医療デバイスの表面のコーティングは、通常、非架橋である(即ち、表面層などのポリマー層は、ベース層などのタンパク質層と共役していない)。
【0213】
工程(b)は、タンパク質層とポリマー層とを含むコーティングにカップリング剤溶液を繰り返し塗布することを含んでもよい。これは、コーティング内の十分な架橋を確実にする可能性を有する。
【0214】
本発明の方法において、工程(b)は、工程(a)の後、例えば工程(a1)および(a2)の後に直接行ってもよい。加えてまたは代替的に、工程(b)は、工程(a3)および(a4)の後に実施されてもよい。
【0215】
工程(b)は、工程(a3)および(a4)の各繰り返しの後に実行してもよい。あるいは、工程(b)は、工程(a3)および(a4)の全ての繰り返しが実行された後に実行されてもよい。
【0216】
典型的には、工程(b)は、本方法の最終工程(例えば、溶液の塗布を伴う最終工程)である。
【0217】
残っているカップリング剤溶液は、水で濯ぐなどして除去することができる。
【0218】
一般に、工程(b)は、表面層(例えば、非架橋コーティングの表面層)が適用された後にのみ実施されることが好ましい。従って、層が医療デバイスの表面に塗布されると、単一の結合工程が実行される。
【0219】
本発明の方法の別の一般的な特徴は、、工程(a)が複数の血液適合性基を有するポリマーを作製することを含んでもよいことである。
【0220】
複数の血液適合性基を有するポリマーは、(i)式(a‐1):
(式中、R、RおよびXは、式(A‐1)の繰り返し単位に関連して本明細書中に記載されるとおりである。)
のモノマーを重合することによって作製してもよい。
【0221】
式(a‐1)のモノマーは、好ましくは、2‐アクリルアミド‐2‐メチル‐1‐プロパンスルホン酸(AMPS)、3‐(アクリロイルオキシ)プロパン‐1‐スルホン酸または3‐(メタクリロイルオキシ)プロパン‐1‐スルホン酸であってよい。式(a‐1)のモノマーが2‐アクリルアミド‐2‐メチル‐1‐プロパンスルホン酸(AMPS)であることが好ましい。
【0222】
複数の血液適合性基を有するポリマーが、(i)本明細書中に記載の式(a‐1)のモノマーを式(b‐1)または(b‐2):
(式中、R、RおよびXは、式(B‐1)の繰り返し単位に関連して本明細書中に記載されるとおりであり;そしてXは、O、NHおよびNRから選択され、ここで、Rは、本明細書中に定義されるとおりである。XがOおよびNHから選択されることが好ましく、より好ましくは、XはOである。)
のモノマーと共重合させることにより作製されることが好ましい、
【0223】
式(b‐1)のモノマーは、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステル、アクリル酸のアミド、メタクリル酸のアミド、マレイン酸またはそれらのエステルもしくはアミドであってよい。メタクリル酸のエステルは、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)または2‐ヒドロキシプロピルメタクリレートであってもよい。式(b‐2)のモノマーは、無水マレイン酸またはマレイミドであってよい。
【0224】
複数の血液適合性基を有するポリマーは、(i)本明細書中に記載の式(a‐1)のモノマーを式(b‐1)のモノマーと共重合させることによって作製されることが好ましい。)
【0225】
典型的には、共重合はフリーラジカル共重合である。
【0226】
共重合、特にフリーラジカル共重合は、当業者に既知の方法を用いて行ってもよい。
【0227】
(i)において、式(a‐1)のモノマーと式(b‐1)または式(b‐2)のモノマーとの共重合は、共重合触媒を使用する。
【0228】
共重合がフリーラジカル共重合である場合、共重合触媒はフリーラジカル開始剤であってもよい。
【0229】
フリーラジカル開始剤は、モノマーの共重合に好適な任意のフリーラジカル開始剤であってよい。フリーラジカル開始剤は、ヒトに対して非毒性であり、好ましくは生体適合性であることが好ましい。
【0230】
フリーラジカル開始剤は、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤、光カチオン開始剤または光アニオン開始剤であってよい。
【0231】
熱重合開始剤は、有機過酸化物、アゾ化合物または過硫酸塩であってもよい。
【0232】
熱重合開始剤が有機過酸化物である場合、有機過酸化物は、tert‐ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、クメンヒドロペルオキシド、ジ‐tert‐ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシドおよびベンゾイルペルオキシド(BPO)から選択されてもよい。
【0233】
熱重合開始剤がアゾ化合物である場合、アゾ化合物は、アゾイソブチルニトリル(AIBN)および2,2'‐アゾビス[2‐(2‐イミダゾリン‐2‐イル)プロパン]二塩酸塩から選択することができる。熱重合開始剤がアゾイソブチルニトリル(AIBN)であることが好ましい。
【0234】
熱重合開始剤が過硫酸塩である場合、過硫酸塩は、過硫酸アンモニウム(ペルオキシ二硫酸アンモニウムとしても知られている)、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸カリウムから選択してもよい。過硫酸塩が過硫酸アンモニウムであることが好ましい。
【0235】
光重合開始剤の例としては、(±)‐カンファーキノン、アセトフェノン、4'‐ヒドロキシアセトフェノン、3'‐ヒドロキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、3‐メチルベンゾフェノン、2‐メチルベンゾフェノン、3,4‐ジメチルベンゾフェノン、3‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ヒドロキシフェノン、4,4'‐ジヒドロキシベンゾフェノン、4‐ベンゾイル安息香酸、2‐ベンゾイル安息香酸、2‐ベンゾイル安息香酸メチル、4,4'‐カルボニルジフタル酸無水物、4‐(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'‐ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4、4'‐ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'‐ジクロロベンゾフェノン、4‐フェニルベンゾフェノン、1,4‐ジベンゾイルベンゼン、4‐(p‐トリルチオ)ベンゾフェノン、ジベンゾスベレノン、ベンジル、p‐アニシル、ベンゾイルホルム酸メチル、9,10‐フェナントレンキノン、2‐ベンゾイル‐2‐プロパノール、2‐ヒドロキシ‐4'‐(2‐ヒドロキシエトキシ)‐2‐メチルプロピオフェノン、1‐ベンゾイルシクロヘキサノール、ベンゾイン、アニソイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2‐ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2‐メチル‐4'‐(メチルチオ)‐2‐モルフォリノプロピオフェノン、2‐ベンジル‐2‐(ジメチルアミノ)‐4'‐モルフォリノブチロフェノン、2‐イソニトロソプロピオフェノン、9,10‐フェナントレンキノン、2‐エチルアントラキノン、アントラキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム一水和物、2‐クロロチオキサントン、1‐クロロ‐4‐プロポキシチオキサントン、2‐イソプロピルチオキサントン、2,4‐ジエチルチオキサントン‐9‐オンおよび2,7‐ジメトキシチオキサントンが挙げられる。
【0236】
光カチオン開始剤の例としては、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムブロマイド、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムノナフレート、トリ‐p‐トリルスルホニウムトリフレート、トリ‐p‐トリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4‐ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、2‐(4‐メトキシフェニル)‐4,6‐ビス(トリクロロメチル)‐1,3,5‐トリアジン、2‐(1,3‐ベンゾジオキソール‐5‐イル)‐4,6‐ビス(トリクロロメチル)‐1,3,5‐トリアジン、2‐(4‐メトキシスチリル)‐4、6‐ビス(トリクロロメチル)‐1,3,5‐トリアジン、2‐(3,4‐ジメトキシスチリル)‐4,6‐ビス(トリクロロメチル)‐1,3,5‐トリアジンおよび2‐[2‐(フラン‐2‐イル)ビニル]‐4,6‐ビス(トリクロロメチル)‐1,3,5‐トリアジンが挙げられる。
【0237】
光アニオン性開始剤の例としては、アセトフェノンО‐ベンゾイルオキシム、2‐ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、1,2‐ビス(4‐メトキシフェニル)‐2‐オキソエチルシクロヘキシルカルバメート、1‐(2‐ホルミルベンゾイル)ピペリジンおよびニフェジピンが挙げられる。
【0238】
一般に、フリーラジカル開始剤は、アゾ化合物または過硫酸塩などの熱重合開始剤であることが好ましい。
【0239】
本発明はまた、医療デバイスをコーティングするためのキットを提供する。このキットは、(a)本明細書中に記載されるような複数の血液適合性基を有するポリマー、(b)本明細書中に記載されるようなベースコーティング溶液、および(c)カップリング剤を含む。
【0240】
キットは、好ましくは、(a)複数の血液適合性基を有するポリマーを含む、本明細書中に記載のポリマーコーティング分散液を含んでなる。
【0241】
加えてまたは代替的に、キットは、好ましくは、(c)カップリング剤を含む、本明細書中に記載のカップリング剤溶液を含む。
【0242】
一般に、キットには、(d)医療デバイスの表面にコーティングを作製するための説明書を含んでもよい。
【0243】
また、本発明により、コーティングおよび医療デバイスの使用が提供される。
【0244】
コーティングまたはコーティングを含む医療用デバイスは、手術または治療によるヒトまたは動物の身体の治療、および/またはヒトまたは動物の身体に対して実施される診断方法において使用することができる。
【0245】
ヒトまたは動物の身体において実施される診断方法は、典型的にはin vivo診断方法である。
【0246】
診断方法或いは手術または治療による処置は、典型的には、コーティングまたはコーティングを含む医療デバイスが血液と接触することを含む。
【0247】
コーティングまたはコーティングを含む医療用デバイスは、血液の凝固を低減または防止するために使用され、好ましくは、医療用デバイスのコーティングされた表面の血液の凝固を低減または防止する。
【0248】
本発明はまた、血液の凝固を低減または防止する方法を提供する。この方法は、本発明の医療デバイスを血液と接触させることを含む。医療デバイスは、コーティングの存在が、特に医療デバイスのコーティングされた表面における血栓の形成を阻害または防止することを除いて、通常の方法で使用される。
【0249】
本方法の1つの態様は、in vitro法である。例えば、本方法は、血液を処理する際に血液の凝固を低減または防止するin vitro方法であってもよい。血液は、保存用の血液製剤のような処理血液または血液製剤を製造するために処理され得る。
【0250】
本方法は、医療デバイスを血液と接触させることを含んでよく、血液はヒトまたは動物の身体から除去されたものである。血液は、血液を処理するために医療デバイスと接触させてもよい。
【0251】
本方法は、処理された血液または血液製剤をヒトまたは動物の身体に投与する工程を含まなくてもよい。血液製剤または処理された血液は、ヒトまたは動物の身体、好ましくは血液が取り出されたヒトまたは動物の身体に戻されなくてもよい。
【0252】
本方法の更なる態様は、診断方法、特にin vitroおよび/またはex vivo診断方法である。
【0253】
本方法は、診断手順における血液の凝固を低減または防止する方法に関するものであってもよい。本方法は、診断情報を得るために医療デバイスを血液と接触させることを含んでよい。医療デバイスは、事前に入手した血液または事前に送達された血液と接触させてもよい。
【0254】
診断手順は、ヒトまたは動物の身体において実施されないか、または診断手順は、非生体(例えば死体)のヒトまたは動物の身体において実施される。従って、診断方法は、ヒトまたは動物の身体、特に生きているヒトまたは動物の身体から血液を除去する工程を含まない場合がある。
【実施例
【0255】
本発明を以下の非限定的な実施例によって説明する。
【0256】
AMPS-MAAコポリマーの作製
マグネットスターラーバーを備えた丸底フラスコに、2‐アクリルアミド‐2‐メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、脱イオン(DI)水、メタクリル酸(MAA)およびアゾイソブチルニトリル(AIBN)を装入した。使用した各成分の量を以下の表1に示す。
【0257】
溶液を激しく撹拌し、AMPSを溶解させた。コンデンサー(バブラー付き)を取り付け、混合物を窒素で30分間スパージした。窒素スパージを窒素掃引に変え、混合物を70℃に24時間加熱した。重合が進むにつれて、混合物はわずかにかすんだ外観となった。混合物を冷却し、わずかにかすんだ中程度の粘性の溶液を排出した。
【0258】
分析データ
各バッチの特性データを以下の表2に示す。NMRデータでは、ピークの強度を太字で示す。
【0259】
組換えヒトアルブミンコーティング
組換えヒトアルブミン(Albumedix(登録商標))の溶液を、pH4.0~4.5(HClおよびNaOH滴定による)の純水緩衝液中の蒸留水で作製し、溶液中のアルブミンの濃度を約0.05g/2000mLとした。
【0260】
PVCチューブの試料を、室温で20分間、アルブミン溶液で洗浄するか、またはアルブミン溶液に懸濁して、ヒトアルブミンでコーティングされた試料を作製した。
【0261】
アルブミンでコーティングした試料はすべて、その後純水で10分間洗浄するか、純水に浸した後、乾燥させた。
【0262】
AMPS‐MAAコポリマーによるコーティング
上記のバッチNo.4からのAMPS‐MAAコポリマーの溶液を、1000mL当たり0.2mLの濃度で、pH4.0~4.5(HClおよびNaOH滴定による)の純水緩衝液を用いて作製した。
【0263】
ヒトアルブミンでコーティングした試料を、AMPS‐MAAコボリマーの溶液で洗浄するか、またはその溶液に20分間浸した。
【0264】
AMPS‐MAAコポリマーコーティングを施した後、コーティングされた試料を純水で10分間洗浄するか、純水に浸した後、乾燥させた。
【0265】
コーティングの架橋
1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)‐カルボジイミド(EDC)の溶液を、pH5.0~5.5(HClおよびNaOH滴定による)の純水緩衝液中で1000mLあたり75mgのEDC濃度となるように作製した。
【0266】
コーティングされた試料をEDC溶液で20分間洗浄した。EDC溶液で洗浄した後、試料を純水で30分間洗浄し、乾燥させた。
【0267】
コーティング試料
上述のアルブミンおよびコポリマーコーティング工程を用いて、2セットの試料を作製した。最初のセットの試料は、上記のように作製されたヒトアルブミンおよびAMPS‐MAAコポリマーの単一コーティングを有していた。
【0268】
アルブミン層とコポリマー層のそれぞれを三重にコーティングした第2の試料セットを作製した。第2のセットの試料について、アルブミンコーティングを施した後、コポリマーコーティングを施す上記の工程を続け、合計3回繰り返した。
【0269】
1セット目と2セット目の試料は、いずれもトルイジンブルーで処理した。トルイジンブルーは、コーティング中に存在するスルホン酸基などの酸性基に対して高い親和性を有する。処理後、コーティングされた試料はピンク色を示し、スルホン酸基の存在が確認された。
【国際調査報告】