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特表2024-520237細胞のプログラム凍結方法、そのシステム及びその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-23
(54)【発明の名称】細胞のプログラム凍結方法、そのシステム及びその装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240516BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240516BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M1/00 Z
A01N1/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573073
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 CN2022094851
(87)【国際公開番号】W WO2022247845
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】202110584162.4
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519211959
【氏名又は名称】上海理工大学
【氏名又は名称原語表記】University Of Shanghai For Science And Technology
【住所又は居所原語表記】China District, Shanghai, Yangpu, Jungong Road, No.516
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】李 維傑
(72)【発明者】
【氏名】申 敬
(72)【発明者】
【氏名】秦 延斌
(72)【発明者】
【氏名】李 智新
(72)【発明者】
【氏名】顔 宏利
(72)【発明者】
【氏名】漆 琴
(72)【発明者】
【氏名】劉 宝林
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H011
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029DG10
4B029GA02
4B065AA90X
4B065BD09
4B065BD12
4H011CA01
4H011CB08
4H011CC05
4H011CD06
(57)【要約】
【要約】細胞プログラム凍結方法、システム及び装置であって、細胞冷凍技術分野に属し、方法には、降温速度k及び液体窒素が収容されている保温キャビティの温度分布関数T=a×h+b×h+cを取得するステップS1と、v=(k-b)/2ahのリアルタイム速度で、細胞保存チューブが保温キャビティ内で下降するように制御し、細胞保存チューブが下降する過程で、細胞保存チューブの内側温度と外側温度であるTとTを、同じ時刻及び同じ高さでリアルタイムに取得するステップS2と、TとTの差Δtが所定の温度差閾値を超えているかどうかを判断し、超えている場合はS4に進み、そうでない場合は、S2を続行して、所定の保温温度Tの位置に達するまで細胞保存チューブを制御するステップS3と、細胞保存チューブが停止するように制御し、TとTの差Δtが所定の温度差閾値以下になるとS2を続行するステップS4を含む。前記方法、システム及び装置は、細胞凍結効果及び蘇生率を効果的に向上できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞プログラム凍結方法であって、
降温速度k及び液体窒素が収容されている保温キャビティの温度分布関数T=a×h+b×h+cを取得するステップS1であって、ここで、hは、温度測定点から保温キャビティの上縁までの距離であり、Tは、前記温度測定点の位置での温度であり、a、b、cは、いずれも定数である、前記ステップS1と、
v=(k-b)/2ahのリアルタイム速度で前記保温キャビティ内において下降するように細胞保存チューブを制御し、前記細胞保存チューブが下降する過程において、同じ時刻及び同じ高さでの前記細胞保存チューブの内側温度と外側温度とであるTとTをリアルタイムに取得するステップS2と、
前記内側温度Tと前記外側温度Tの差Δtが所定の温度差閾値を超えているかどうかを判断し、超えている場合はステップS4に進み、そうでない場合は、前記細胞保存チューブを制御して所定の保温温度Tの位置に達するまで前記ステップS2を続行するステップS3と、
停止するように前記細胞保存チューブを制御し、前記内側温度Tと前記外側温度Tの前記差Δtが前記温度差閾値以下になると前記ステップS2を続行する前記ステップS4と、を含むことを特徴とする細胞プログラム凍結方法。
【請求項2】
前記ステップS2おいて、前記内側温度T温度を取得するステップには、
前記細胞保存チューブと同じ高さに対照チューブを配置するステップと、
前記対照チューブ内に熱物性が前記細胞保存チューブ内の液体の熱物性と一致する対照溶液を収容するか、或いは、前記対照チューブに前記細胞保存チューブと同じ液体を収容するステップと、
測温素子を介して前記対照チューブ内の液体の温度を収集して前記内側温度T温度とするステップと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞プログラム凍結方法。
【請求項3】
前記ステップS3において、前記所定の保温温度Tの位置hは、前記保温キャビティの温度分布関数T=a×h+b×h+cによって算出されることを特徴とする請求項1に記載の細胞プログラム凍結方法。
【請求項4】
前記ステップS3において、前記細胞保存チューブを制御して前記所定の保温温度Tの位置に達することは、
リアルタイムに取得した前記内側温度Tと前記所定の保温温度Tを比較し、前記内側温度Tが前記所定の保温温度Tより小さいかどうかを判断し、前記内側温度Tが前記所定の保温温度Tより小さい場合は前記細胞保存チューブを下降し続けるように制御し、そうでない場合は前記細胞保存チューブを停止するように制御するステップによって実現されることを特徴とする請求項1に記載の細胞プログラム凍結方法。
【請求項5】
前記ステップS3において、前記細胞保存チューブを制御して所定の保温温度Tの位置に達した後にさらに、
所定の保温時間長さを待機した後、前記保温キャビティから取り出されるまで前記保温キャビティ内で上昇するように、前記細胞保存チューブを制御するステップS5を含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞プログラム凍結方法。
【請求項6】
細胞プログラム凍結システムであって、前記細胞プログラム凍結システムは、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞プログラム凍結方法を実行するために使用され、前記細胞プログラム凍結システムには、
降温速度k、保温キャビティの温度分布関数、同じ時刻及び同じ高さでの細胞保存チューブの内側温度と外側温度であるTとT、所定の保温温度T、所定の温度差閾値及び所定の保温時間長さを取得するために使用される取得モジュールと、
前記内側温度Tと前記外側温度Tの差Δtが所定の温度差閾値を超えているかどうかを判断し、前記細胞保存チューブが所定の保温温度Tの位置に達しているかどうかを判断するために使用される判断モジュールと、
前記判断モジュールの判断結果に応じて昇降指令を生成して、前記昇降指令によって、昇降装置が前記細胞保存チューブを前記保温キャビティ内で昇降させるように制御するために使用される昇降制御モジュールと、
を含むことを特徴とする細胞プログラム凍結システム。
【請求項7】
細胞プログラム凍結装置であって、
台座と、
前記台座の上に配置され、内部に液体窒素が収容される保温キャビティと、
細胞保存チューブが設置されるチューブラックと、
前記細胞保存チューブの内側と外側両方の同じ高さ位置の温度を同じ時刻でそれぞれ測定するように、少なくとも2つ設置される測温素子と、
前記台座に設置され、前記保温キャビティ内で前記チューブラックを昇降させるために、出力端が前記チューブラックに固定接続されている昇降装置と、
電子機器を含み、且つ前記電子機器は前記測温素子及び前記昇降装置に電気的に接続される制御装置と、
を含み、
前記電子機器には、実行可能なプログラムコードを記憶するメモリと、メモリに結合されたプロセッサとを含み、ここで、プロセッサは、メモリに記憶された実行可能なプログラムコードを呼び出して、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞プログラム凍結方法を実行する
ことを特徴とする細胞プログラム凍結装置。
【請求項8】
対照チューブを
さらに含み、
前記対照チューブは、前記チューブラックに固定設置され、前記対照チューブと前記細胞保存チューブは、同じ高さに配置され、ここで、前記対照チューブ内には、前記細胞保存チューブの内側の温度を間接的に取得するために、前記測温素子を配置することを特徴とする請求項7に記載の細胞プログラム凍結装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年5月27日に中国特許局に提出された出願番号が202110584162.4であり、発明の名称が「細胞プログラム凍結方法、システム、機器、媒体及び装置」の中国特許出願の優先権を主張し、その全ての内容は、参照により本出願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、細胞凍結の技術分野に属し、特に、細胞プログラム凍結方法、システム及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、現代の生物医学が、分子医学とパーソナライズされた診断及び治療の時代に移行するにつれて、大規模で高品質の生物標本及び関連情報リソースの需要も、急速に増加している。多くの先進国は、ヒトの遺伝資源の保護と開発を非常に重視しており、さまざまなバイオバンク、人口ベースのバイオバンク、バーチャル・バイオバンクを設立して、これらを生物医学分野の中核となる競争力を発展させるための戦略的手段とみなしている。生物細胞リソースバンクを設立し、生物細胞(現在は主に精子細胞、胚又は卵細胞、或いは、幹細胞)を保存することは、種資源の保存、育種、生殖などの分野にとって非常に重要である。
【0004】
プログラム(プログラムされた)降温は効果的な降温方法として、細胞の凍結保存プロセスで広く使用されており、中でも液体窒素燻蒸法は、その装置がシンプルであるため広く使用されている。この方法では、液体窒素表面の異なる気体層の温度を利用してサンプル(試料)を予冷し、予冷完了後、そのサンプルを液体窒素に浸漬してその凍結を完了させる。
【0005】
しかし、液体窒素の表面温度は一定ではないため、凍結プロセスにおける細胞サンプルの降温速度や予冷温度が一定せず、細胞の保存効果に、大きなばらつきが生じてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞のプログラム凍結中に降温速度と予冷温度とが一致しないという従来技術の問題を考慮して、本発明は、細胞の、プログラムされた凍結方法、システム及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための、本発明の技術的解決策は、次のとおりである。
第1態様では、本発明は、細胞プログラム凍結方法を提供し、
降温速度k及び液体窒素が入った保温キャビティの温度分布関数T=a×h+b×h+cを取得するステップS1であって、ここで、hは、温度測定点から保温キャビティの上縁までの距離であり、Tは、前記温度測定点の位置での温度であり、a、b、cは、いずれも定数である、前記ステップS1と、
v=(k-b)/2ahのリアルタイム速度で前記保温キャビティ内において下降するように細胞保存チューブを制御し、前記細胞保存チューブが下降する過程において、同じ時刻及び同じ高さでの前記細胞保存チューブの内側温度と外側温度であるTとTをリアルタイムに取得するステップS2と、
前記内側温度Tと前記外側温度Tの差Δtが所定の温度差閾値を超えているかどうかを判断し、超えている場合はステップS4に進み、そうでない場合は、前記細胞保存チューブを制御して所定の保温温度Tの位置に達するまで前記ステップS2を続行するステップS3と、
停止するように前記細胞保存チューブを制御し、前記内側温度Tと前記外側温度Tの前記差Δtが前記温度差閾値以下になると前記ステップS2を続行するステップS4と、を含む。
【0008】
また、前記内側温度T温度を取得する前記ステップS2は、
前記細胞保存チューブと同じ高さに対照チューブを配置するステップと、
前記対照チューブ内に熱物性が前記細胞保存チューブ内の液体の熱物性と一致する対照溶液を収容するか、或は、前記対照チューブに前記細胞保存チューブと同じ液体を収容するステップと、
測温素子を介して前記対照チューブ内液体の温度を収集して前記内側温度T温度とするステップと、を含んでもよい。
【0009】
また、前記ステップS3において、前記所定の保温温度Tの位置hは、前記保温キャビティの温度分布関数T=a×h+b×h+cによって算出されてもよい。
【0010】
また、前記ステップS3において、前記細胞保存チューブを制御して前記所定の保温温度Tの位置に達することは、
リアルタイムで取得した前記内側温度Tと前記所定の保温温度Tを比較し、前記内側温度Tが前記所定の保温温度Tより小さいかどうかを判断し、前記内側温度Tが前記所定の保温温度Tより小さい場合は前記細胞保存チューブを下降し続けるように制御し、そうでない場合は前記細胞保存チューブを停止するように制御するステップによって実現されてもよい。
【0011】
また、前記ステップS3において、前記細胞保存チューブを制御して前記所定の保温温度Tの位置に達した後にさらに、
所定の保温時間長さを待機した後、前記保温キャビティから取り出されるまで前記保温キャビティ内で上昇するように、前記細胞保存チューブを制御するステップS5を含んでもよい。
【0012】
第2態様では、本発明は、細胞プログラム凍結システムを提案し、前記システムは、上記の方法を実行するために使用され、前記システムは、
降温速度k、保温キャビティの温度分布関数、同じ時刻及び同じ高さでの細胞保存チューブの内側温度と外側温度であるTとT、所定の保温温度T、所定の温度差閾値及び所定の保温時間長さを取得するために使用される取得モジュールと、
前記内側温度Tと前記外側温度Tの差Δtが所定の温度差閾値を超えているかどうかを判断し、前記細胞保存チューブが所定の保温温度Tの位置に達しているかどうかを判断するために使用される判断モジュールと、
前記判断モジュールの判断結果に応じて昇降指令を生成し、前記昇降指令によって、前記細胞保存チューブを前記保温キャビティ内で昇降させるように昇降装置を制御するための昇降制御モジュールと、を含む。
【0013】
第3態様では、本発明は、細胞プログラム凍結装置を提案し、
台座と、
前記台座の上に配置され、内部に液体窒素が収容される保温キャビティと、
細胞保存チューブが設置されるチューブラックと、
前記細胞保存チューブの内側と外側の両方の同じ高さ位置の温度を同じ時刻でそれぞれ測定するように、少なくとも2つ設置される測温素子と、
前記台座に設置され、前記保温キャビティ内で前記チューブラックを昇降させるために、出力端が前記チューブラックに固定接続されている昇降装置と、
電子機器を含み、且つ前記電子機器は前記測温素子及び前記昇降装置に電気的に接続される制御装置と、を含み、
前記電子機器には、実行可能なプログラムコードを記憶するメモリと、メモリに結合されたプロセッサと、を含み、ここで、プロセッサは、メモリに記憶された実行可能なプログラムコードを呼び出して、上述の方法を実行する。
【0014】
また、さらに対照チューブを含み、前記対照チューブは前記チューブラックに固定設置され、且つ前記対照チューブと前記細胞保存チューブは同じ高さに配置され、ここで、前記対照チューブ内には、前記細胞保存チューブの内側温度を間接的に取得するために、前記測温素子を配置してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって提供される特定の実施形態によれば、本発明は以下の技術的効果を開示する。
本発明は、細胞プログラム凍結方法、システム及び装置を提案し、液体窒素を収容した保温キャビティ内での細胞保存チューブの下降を制御する過程において、細胞保存チューブの内側温度と外側温度を連続的に取得することで、下降過程中に、細胞保存チューブの内側と外側の温度差が所定の温度差閾値より常に低いことを保証し、温度差が当該温度差閾値を超えると下降を停止させ、温度差が当該温度差閾値を下回ると所定の保温温度の位置に達するまで下降を継続することにより、プログラム凍結プロセス中の細胞の保存効果を効果的に向上でき、従来技術に存在する細胞プログラム凍結プロセス中の降温速度と予冷温度の不一致によって引き起こされる細胞の保存効果が悪いという問題を解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の技術的解決策をより明確に説明するために、実施例又は従来技術の説明で必要な図面を以下に簡単に紹介するが、明らかに、以下の説明における図面は、本発明の一部の実施例に過ぎず、他の図面は、当業者であれば、創造的な労力を要することなく、これらの図面から得ることができる。
図1】本発明実施例で提供される細胞プログラム凍結装置の構造概略図である。
図2】本発明実施例で提供される細胞プログラム凍結方法のフローチャートである。
図3】本発明実施例で提供される細胞プログラム凍結方法において細胞保存チューブの内側温度を取得する方法のフローチャートである。
図4】本発明実施例で提供される別の細胞プログラム凍結方法のフローチャートである。
図5】本発明実施例で提供される細胞プログラム凍結システムの構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の特定の実施形態について、図面を参照して以下にさらに説明する。ここで、これらの実施形態の説明は、本発明の理解を助けるために使用されるものであり、本発明を限定するものではないことに留意されたい。また、以下に説明する本発明の様々な実施形態に係る技術的特徴は、互いに矛盾しない限り、互いに組み合わせることができる。
【0018】
なお、本発明の説明において、「上」、「下」、「左」、「右」、「前」、「後」等の用語で示される向きや位置関係は、図面に基づく本発明構造の説明であり、本発明を簡単に説明することのみを意図したものであり、言及される装置又は素子が特定の向きを持たなければならないこと、特定の向きで構築及び操作される必要があることを示唆又は暗示するものではなく、したがって、本発明の限定として解釈できない。
【0019】
本技術的解決策における「第1」や「第2」は、同じ又は類似の構造、又は同様の機能を実行する対応する構造の名前の区別に過ぎず、これらの構造の重要性の順位付けではなく、大きさのランク付けや比較、或はその他の意味を持つものでもない。
【0020】
また、特に明示的に規定及び限定されない限り、「設置」及び「接続」という用語は、広い意味で理解されるべきである。例えば、接続は、固定接続、取り外し可能な接続、又は一体型の接続であってもよく、機械的接続又は電気的接続であってもよく、直接接続、中間媒体を介した間接接続、又は2つの構造内部の連通であってもよい。当業者であれば、本発明における上記の用語の具体的な意味は、本発明の総体的な考えに基づいて、本解決策の文脈の具体的な状況と併せて理解することができる。
【0021】
実施例1
本実施例により提案される細胞プログラム凍結装置は、図1に示すように、制御装置1、保温キャビティ3、チューブラック4、細胞保存チューブ6、測温素子、昇降装置及び台座14を含む。
【0022】
ここで、台座14は、プラットフォームとして構成され、使用時には机上に設置される。保温キャビティ3は、熱伝導率の低い材料(発泡材料など)で作られた、上部に開口部が設けられた円筒状構造として構成され、或いは、保温キャビティ3は、真空カップとして構成できる。保温キャビティ3内には液体窒素が収容されており、液体窒素の液面は、通常、保温キャビティ3の上縁から10cmなどの一定の距離にある。さらに、保温キャビティ3の液面以上の温度分布は、温度分布関数T=a×h+b×h+cを満たし、ここで、hは温度測定点から保温キャビティ3の上縁までの距離、Tは温度測定点の位置での温度であり、a、b、cはいずれも定数であり、実験により求められる。
【0023】
ここで、前記細胞保存チューブ6は、凍結しようとする細胞を搭載するために使用され、当該細胞保存チューブ6は、チューブラック4に固定的に設置されて、細胞保存チューブ6は、チューブラック4により保温キャビティ3内を昇降するように駆動され、プログラム降温される。一方、昇降装置は、台座14の上に設置され、当該昇降装置の出力端は、チューブラック4に固定接続されて、チューブラック4が保温キャビティ3内を昇降するように駆動する。本実施例では、昇降装置は、電動プッシュロッドと湾曲アーム9とを含むように構成される。電動プッシュロッドは、垂直に、台座14の上に配置され、湾曲アーム9の一端は、電動プッシュロッドの出力端に固定され、湾曲アーム9の他端は、チューブラック4に固定接続される。図1に示すように、電動プッシュロッドは、スライダ10、スクリュー11、ガイドレール12及びモータ13を含む。ここで、ガイドレール12は、台座14の上に垂直に配置されて固定される。スクリュー11は、ガイドレール12と平行であり、また、スクリュー11の上端及び下端はそれぞれ、ベアリングを介してガイドレール12頂部の横板及び台座14の上に回転可能に接続される。モータ13は、台座14に固定され、また、モータ13の出力軸は、カップリングや歯車伝達機構を介してスクリュー11の下端に接続される。スライダ10は、ガイドレール12にスライド可能に接続され、また、スライダ10には、スクリュー11に適合するねじ穴が設けられて、それにより、モータ13が起動すると、スクリュー11が回転駆動され、そしてスクリュー11によりスライダ10は昇降し、湾曲アーム9を介して、チューブラック4及びその上に設置された細胞保存チューブ6が保温キャビティ3内を昇降できるように駆動する。或いは、別の実施例では、昇降装置は、シリンダとして構成されてもよく、シリンダの本体は、台座14の上に固定的に設置され、その出力端は湾曲アーム9を固定するために使用される。
【0024】
また、測温素子によって、細胞保存チューブ6の内側及び外側の両方の温度をそれぞれ測定する。例えば、本実施例では、測温素子は、第1測温素子7と第2測温素子8とを含むように構成される。第1測温素子7と第2測温素子8はいずれも、熱電対として選択され、ここで、第1測温素子7のプローブは、細胞保存チューブ6の内部に延びて、その内側の温度を取得し、第2測温素子8のプローブは、細胞保存チューブ6の外部に位置してその外側の温度を取得し、且つ、第1測温素子7のプローブと第2測温素子8のプローブは、同じ高さ位置にある。当業者が容易に理解できることは、測温素子は、細胞保存チューブ6の内側及び外側の温度をそれぞれ同時に取得するために、少なくとも2つ配置されるが、温度測定精度を向上させるために、片側単一点での測定誤差を低減するように、測温素子は複数配置されてもよい。
【0025】
制御装置1は、電子機器を含み、当該電子機器は、実行可能なプログラムコードを格納するメモリと、当該メモリに結合されたプロセッサと、を含み、また、当該プロセッサは、上記の測温素子及び昇降装置にも電気的に接続される。ここで、プロセッサは、メモリに格納された実行可能なプログラムコードを呼び出し、それによって、実行可能なプログラムコードに載せられた細胞プログラム凍結方法のステップを実行する。
【0026】
使用時には、まず、保温キャビティ3の構造に応じて、実験によりその温度分布関数T=a×h+b×h+cを事前に取得し、凍結しようとする細胞を必要な細胞保護剤と一緒に細胞保存チューブ6内に入れ、必要な降温速度kに基づいて、細胞保存チューブ6のリアルタイム下降速度v=(k-b)/2ahを取得し、ここで、kは、降温速度、hは、温度測定点から保温キャビティ3の上縁までの距離であり、aとbとcは、いずれも定数である。次に、制御装置1の制御により、昇降装置は、チューブラック4とその上に固定設置された細胞保存チューブ6を当該速度で下降するように駆動し、ここで、hは、モータ13の回転角から計算できる。次に、下降過程中に第1測温素子7と第2測温素子8の温度の差の値を比較し、当該差の値が所定の温度差閾値より小さいことを保証し、且つ差の値が当該温度差閾値に達すると、制御装置1により細胞保存チューブ6の下降を停止させ、このようにして、第1測温素子7により測定される温度データが凍結温度に達するまで行う。この実施例で提供される装置は、細胞プログラム凍結プロセスをリアルタイムで監視し、監視結果に基づいて迅速な調整を行うことができ、それによって凍結効果を向上できることが分かる。
【0027】
好ましい一実施例では、制御装置1は、表示画面2をさらに含むように構成される。表示画面2は、制御装置1におけるプロセッサに電気的に接続され、好ましくは、表示画面2は、タッチスクリーンである。これにより、制御パラメータ(降温(冷却)速度k、温度差閾値など)は、表示画面2を介して入力及び変更される。
【0028】
実施例2
実施例2と実施例1との違いは、次のとおりである。実施例2では、図1に示すように、更に対照チューブ5を含み、当該対照チューブ5は、チューブラック4に固定設置され、且つ対照チューブ5と細胞保存チューブ6とは同じ高さに配置される。使用時、対照チューブ5内に、熱物性(結晶化エンタルピー、熱伝導率、比熱容量などを含む)が細胞保存チューブ6内の液体の熱物性と同じである等体積の対照溶液を充填するか、或は、直接に等体積の細胞保存チューブ6と同じ溶液を充填する。また、対照チューブ5内に測温素子(即ち、第1測温素子7)を配置して、間接測定方式により、この第1測温素子7で測定された温度を細胞保存チューブ6内の温度とし、同時に、実施例1で細胞保存チューブ6の内側に配置された第1測温素子7を廃止する。
【0029】
このように設置すると、温度測定による凍結しようとする細胞への影響を回避でき、細胞の凍結効果をさらに向上できる。
【0030】
実施例3
本実施例は、細胞プログラム凍結方法を提案し、当該方法は、上記実施例1の装置に基づいて実施され、当該方法は、上記装置の電子機器によって実行されて、図2に示すステップを実現することができる。具体的なステップには、
降温速度k及び液体窒素が入った保温キャビティ3の温度分布関数T=a×h+b×h+cを取得し、ここで、hは温度測定点から保温キャビティ3の上縁までの距離であり、Tは温度測定点の位置での温度であり、a、b、cはいずれも定数である、ステップS1と、
昇降装置を介して、v=(k-b)/2ahのリアルタイム速度で保温キャビティ3内を下降するように細胞保存チューブ6を制御し、細胞保存チューブ6が下降する過程において、同じ時刻及び同じ高さでの細胞保存チューブ6の内側温度と外側温度であるTとTをリアルタイムに取得するステップS2と、
とTの差Δt(絶対値)が所定の温度差閾値を超えているかどうかを判断し、超えている場合はS4に進み、そうでない場合は、細胞保存チューブ6が所定の保温温度Tの位置に達するまでS2を続行するステップS3であって、
ここで、所定の保温温度Tの位置hは、保温キャビティ3の温度分布関数T=a×h+b×h+cによって算出でき、或いは、以下のステップによって実現できる:
リアルタイムに取得したTとTを比較し、TがTより小さいか否かを判断し、小さい場合は昇降装置により細胞保存チューブ6を降下し続け、そうでない場合には昇降装置により細胞保存チューブ6を停止する、
前記ステップS3と、
昇降装置により、停止するように細胞保存チューブ6を制御し、TとTの差Δt(絶対値)が所定の温度差閾値以下になるとS2を続行するステップS4と、を含む。
【0031】
例えば、本実施例で提供される方法を精子凍結に適用する場合、次のようになる:
1.3人のボランティアから健康な精子2mlをそれぞれ採取し、37℃のインキュベーター内で自然に液化させる。
2.次に、精子計数ボードを使用して、顕微鏡下で精子の運動率を最初に検出し、検出はサンプルごとに2回繰り返し、毎回の検出では200個の精子をカウントし、2回検出の測定値を比較し、2回の測定値の誤差率が許容できる範囲内になるまで行う。2回の測定値の誤差率が許容できる範囲内にない場合、検出サンプルを再調製し、再検出する。
3.精子のグレード分け方法は、aグレード:素早く前進すること、bグレード:ゆっくりと前進すること、cグレード:その場で揺れること、dグレード:動かないことであり、前進運動精子凍結蘇生率(以下、精子凍結蘇生率という)を算出し、計算方法は、精子凍結蘇生率=(凍結後のaグレード精子の百分率+凍結後のbグレード精子の百分率)/(凍結前のaグレード精子の百分率+凍結前のbグレード精子の百分率)である。
4.市販の精子保護液と1:1で混合し、それぞれ細胞保存チューブ6に入れて凍結する。
5.第1測温素子7と第2測温素子8を設置して上記ステップに従って凍結し、具体的なプログラムは、10K/minの降温速度で、-80℃まで降温し、20分間保持することにより予備凍結を完成し、次に、10K/minで降温し-196℃の液体窒素の中で2週間凍結してから取り出す。
【0032】
更に、対照組を設置し、人工液体窒素燻蒸法により凍結し、即ち、精子と保護溶液を入れた凍結保存チューブを液体窒素の表面から10cm離して10分間置き、その後、凍結保存チューブを液体窒素の中に浸して、2週間保存後に取り出す。
【0033】
凍結終了した精子は全て37℃の温水に入れて解凍し、解凍完了後、再度精子凍結蘇生率を計算する。結果は表1に示すとおりである。本実施例の方法を用いて凍結した細胞の蘇生率は、人工液体窒素燻蒸法を用いて凍結した細胞の蘇生率よりも高いことが分かる。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例4
実施例4と実施例3の違いは、次のとおりである。本実施例4では、ステップS2において、細胞保存チューブ6の内側のT温度を直接取得するのではなく、以下のステップにより間接的に取得する。図3に示すように、具体的に以下のステップを含む。
ステップS21:細胞保存チューブ6と同じ高さの位置に対照チューブ5を配置し、
ステップS22:対照チューブ5内に、熱物性が細胞保存チューブ6内の液体と同じ対照溶液を収容するか、或いは、対照チューブ5内に細胞保存チューブ6と同じ液体を収容し、例えば、好ましくは等量の人工精漿混合液を対照チューブ5に添加し、
ステップS23:測温素子を介して対照チューブ5内の液体の温度を収集し、これが細胞保存チューブ6の内側のT温度となる。
【0036】
実施例5
実施例5と実施例3との違いは、次のとおりである。本実施例5では、ステップS3において、細胞保存チューブ6が所定の保温温度Tの位置に達した後、更に、ステップS5を含み、図4に示すように、具体的には、
ステップS5:所定の保温時間長さを待機した後、細胞保存チューブ6は、保温キャビティ3から取り出されるまで、昇降装置により、保温キャビティ3内で上昇するように制御される。
【0037】
実施例6
本実施例は、細胞プログラム凍結システムを提案し、当該システムは、上記各実施例の方法を実行するために使用される。図5に示すように、システムには、
降温速度k、保温キャビティ3の温度分布関数、同じ時刻及び同じ高さでの細胞保存チューブ6の内側温度であるTと細胞保存チューブ6の外側温度であるT、及び所定の保温温度T、所定の温度差閾値と所定の保温時間長さを取得するために使用される取得モジュールと、
とTの差Δtが所定の温度差閾値を超えているかどうかを判断し、細胞保存チューブ6が所定の保温温度Tの位置に達しているかどうかを判断するために使用されており、容易に理解できることは、上記各実施例における差Δtは絶対値である判断モジュールと、
判断モジュールの判断結果に応じて昇降指令を生成し、昇降指令によって、昇降装置が細胞保存チューブ6を保温キャビティ3内で昇降させるように制御するために使用される昇降制御モジュールと、を含む。
【0038】
本発明は、本発明の実施例による方法、機器(システム)、及びコンピュータプログラム製品のフローチャート及び/又はブロック図を参照して説明される。理解されるべきことは、フローチャート及び/又はブロック図内の各手順及び/又はブロック、ならびにローチャート及び/又はブロック図内の手順及び/又はブロックの組み合わせは、コンピュータプログラム指令により実現できる。これらのコンピュータプログラム指令は、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、組み込みプロセッサ、又はその他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサに提供されてマシンを生成することで、コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサによって実行される指令は、フローチャートの1つ又は複数の手順及び/又はブロック図の1つ又は複数のブロックで指定された機能を実現するための装置を生成することができる。
【0039】
これらのコンピュータプログラム指令は、コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理装置を特定の方法で動作させることができるコンピュータにより読み取り可能なメモリに格納されてもよい。それにより、コンピュータにより読み取り可能なメモリに格納された指令は、指令装置を含む製品を生成する。当該指令装置は、フローチャートにおける一つの又は複数の手順、及び/又はブロック図における一つ又は複数のブロックで指定された機能を実現する。
【0040】
これらのコンピュータプログラム指令は、コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理装置にロードされて、一連の操作ステップをコンピュータ又はその他のプログラム可能な装置上で実行して、コンピュータ実装プロセスを生成することができる。それにより、コンピュータ又は他のプログラム可能な装置上で実行される指令は、フローチャートの1つ又は複数の手順及び/又はブロック図の1つ又は複数のブロックで指定された機能を実現するためのステップを提供する。
【0041】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の原理及び精神から逸脱することなく、これらの実施形態に対して様々な変更、修正、置換及び変形を行うことができ、それらも本発明の保護範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1 制御装置、2 表示画面、3 保温キャビティ、4 チューブラック、5 対照チューブ、6 細胞保存チューブ、7 第1測温素子、8 第2測温素子、9 湾曲アーム、10 スライダ、11 スクリュー、12 ガイドレール、13 モータ、14 台座。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】