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特表2024-520299ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)、ボロン(B)(NdFeB)型磁石をリサイクルするための方法、リサイクルから得られる異方性粉末、および前記粉末から永久磁石を製造するための方法
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  • 特表-ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)、ボロン(B)(NdFeB)型磁石をリサイクルするための方法、リサイクルから得られる異方性粉末、および前記粉末から永久磁石を製造するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)、ボロン(B)(NdFeB)型磁石をリサイクルするための方法、リサイクルから得られる異方性粉末、および前記粉末から永久磁石を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240517BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240517BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240517BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20240517BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240517BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20240517BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20240517BHJP
   B01J 2/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 110
H01F1/057 150
H01F1/057 180
H01F1/057 160
H01F1/057 130
C22B7/00 A
C22B59/00
C22B1/02
B09B3/40
B09B3/35
B01J2/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569792
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2023-11-08
(86)【国際出願番号】 FR2022050873
(87)【国際公開番号】W WO2022238642
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】2104940
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523423425
【氏名又は名称】マグ リーソース
(71)【出願人】
【識別番号】505045610
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー リヴォワラール
(72)【発明者】
【氏名】エリック プティ
【テーマコード(参考)】
4D004
4G004
4K001
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4D004AA22
4D004AA26
4D004CA04
4D004CA07
4D004CA22
4D004CB13
4D004DA06
4G004AA00
4K001AA39
4K001BA22
4K001CA11
5E040AA04
5E040BB01
5E040BB03
5E040CA01
5E040HB05
5E040HB15
5E040HB17
5E040NN18
5E062CC05
5E062CD04
5E062CD05
5E062CE01
5E062CG01
(57)【要約】
本発明は、NdFeB磁石をリサイクルするための方法であって、以下の工程、a)リサイクルされる固体NdFeB磁石を含有する廃棄物を回収する工程と、b)加熱手段を備えた第1のステーションにおいて予熱温度へと温度上昇された第1のチャンバ内で、不活性雰囲気下で、廃棄物を300℃~500℃の予熱温度へと予加熱する工程と、c)第1のステーションとは異なる第2のステーションに位置付けられ、かつ水素源およびポンプ手段を備えた第2のチャンバ内で、この動作が工程b)からの高温廃棄物に適用される、水素を使用したデクレピテーションであって、デクレピテーションが200℃~500℃の温度で実行され、第2のチャンバ内の前記温度が、NdFeB磁石を水素化する反応の発熱性の結果としてこの温度範囲に維持され、工程c)が、NdFe14Bからなる主相および/または粒界二次相を含有し、かつ5mm以下の粒径を有する粒子を有する第1の粉末の形成をもたらす、デクレピテーション工程と、を含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NdFeB磁石をリサイクルするための方法であって、
a)リサイクルされるNdFeB固体磁石を含む廃棄物(100)を回収する工程であって、前記NdFeB磁石が、NdFe14B磁性主相および非磁性粒界二次相を有する工程と、
b)前記廃棄物(100)を不活性雰囲気下で300℃~500℃の予熱温度へと予熱する工程であって、前記廃棄物が、加熱手段(11)を備えた第1のステーション(1)中の前記予熱温度へと温度上昇された第1のチャンバ(10)内に収容される工程と、
c)0.1バール~10バールの水素分圧または全水素圧下で、工程b)から得られた高温廃棄物(101)に適用される水素デクレピテーションであって、前記高温廃棄物(101)が、水素源(21)およびポンプ手段(22)を備えた、前記第1のステーション(1)とは異なる第2のステーション(2)に配置された第2のチャンバ(20)内に収容され、前記デクレピテーションが200℃~500℃の温度で行われ、前記第2のチャンバ(20)内の前記温度が、前記NdFeB磁石の水素化反応の発熱性に起因してこの温度範囲内に維持され、工程c)は、NdFe14B主相および/または粒界二次相を含み、5mm以下のサイズを有する粒子を有する第1の粉末(110)の形成をもたらす工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1のチャンバ(10)および前記第2のチャンバ(20)が、単一のチャンバによって形成され、工程b)と工程c)との間で前記第1のステーション(1)から前記第2のステーション(2)へと移動され、かつ前記第2のステーション(2)の前記水素源(21)および前記ポンプ手段(22)に接続可能である、請求項1に記載のリサイクル方法。
【請求項3】
工程c)の間または後に、前記第1の粉末(110)を篩分ける工程d)を含む、請求項1または2に記載のリサイクル方法。
【請求項4】
工程c)の後、または篩分け工程d)の間もしくは後に、前記第1の粉末(110)または前記第1の粉末の画分を粉砕して、500ミクロン以下のサイズを有する粒子を有する第2の粉末を得る工程e)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のリサイクル方法。
【請求項5】
少なくとも1種の希土類豊富化合物からなる粒子を、工程e)の間に前記第1の粉末(110)に添加して、前記第2の粉末を粒界二次相で富化する、請求項4に記載のリサイクル方法。
【請求項6】
工程e)において、前記粉砕を、ボールミル中で、またはリングミルによって、またはガスジェットミルによって行う、請求項4~5のいずれか一項に記載のリサイクル方法。
【請求項7】
TRFeB型(式中、TRは、Nd、Pr、Dyおよび/またはTbである)の新鮮な合金の少なくとも1種の化合物、特に、NdFeB、および/またはTRFe14B型の磁性相化合物、特に、NdFe14Bが、前記リサイクル方法の間に前記第1の粉末(110)または前記第2の粉末に添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載のリサイクル方法。
【請求項8】
前記粒界二次相の融点以下の融点を有する少なくとも1種の希土類不含有の非磁性金属化合物を、前記リサイクル方法中に前記第1の粉末または前記第2の粉末に添加し、前記化合物が、新しい磁石の製造中にNdFeB粒子間の結合を促進することが意図される、請求項1~7のいずれか一項に記載のリサイクル方法。
【請求項9】
前記第1の粉末(110)または前記第2の粉末を脱水素化する工程f)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のリサイクル方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のNdFeB磁石をリサイクルするための方法から得られる粉末であって、前記粒界二次相によって互いに分離された、いくつかのNdFe14B磁性主相金属結晶粒から構成される粒子を含み、同一粒子中の前記金属結晶粒が磁気異方性を発生させる共通の結晶配向を有する、粉末。
【請求項11】
-第1のサイズを中心とする第1の占有粒子数と、
-第2のサイズを中心とする第2の占有粒子数であって、前記第1のサイズが前記第2のサイズより1.5倍~10倍大きい、第2の占有粒子数と、
の二重粒度分布を含む、請求項10に記載の粉末。
【請求項12】
1体積%~50体積%の粒界二次相、および/または1体積%~50体積%の、希土類不含有の非磁性金属化合物を含む、請求項10または11に記載の粉末。
【請求項13】
請求項9~11のいずれか一項に記載の粉末から、
-焼結技術、または
-プラスチックボンド磁石を生じさせる射出技術もしくは圧縮技術、または
-脱結合および焼結を含む射出成形技術、または
-積層造形法技術
を実施する、NdFeB永久磁石を製造するための方法。
【請求項14】
前記粉末の少なくとも1つの相の溶融を含む積層造形法技術に基づき、前記溶融が、前記NdFe14B主相の溶融温度未満の温度で行われ、これによって、前記NdFe14B主相ではなく、前記粒界二次相または存在する場合には希土類不含有の非磁性金属化合物の全部または一部を溶融する、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記主相を含む前記粉末粒子を、印刷された物体の形態での前記NdFeB磁石の圧密化の前または圧密化中に配向して、前記磁石に磁気異方性を付与する、請求項13または14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類系永久磁石のリサイクルの分野に関する。本発明は、特に、(NdFeB型の)ネオジム磁石のリサイクルから得られる粉末、および前記粉末を得るためのリサイクル方法に関する。本発明はまた、前記粉末からNdFeB永久磁石を製造するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
高い残留磁気および保磁力を有する永久磁石の製造のための希土類金属(特にネオジム(neodymium、Nd))の資源は限られており、これらの磁石は多くの電気機器および電子機器、ならびにハイブリッド自動車(モータ)もしくは電気自動車(モータ)または風力タービン(発電機)などの新興分野において有用であるため、需要は今後数年で大幅に増加することが予想されている。
【0003】
NdFeB型磁石は、最も一般的に使用される希土類系永久磁石である。それらは主に、焼結プロセスによって(固体磁石)、または射出成形プロセスもしくは圧縮成形プロセスによって製造されるが、後者は、NdFeB材料の粒子間にポリマー結合剤を含む(ボンド磁石)。積層造形法技術(Additive manufacturing techniques)はまた、固体であるかポリマー結合剤に基づくかに関係なく、磁石物体の形状において強力な可撓性を有するNdFeB磁石を製造するために、実施され始めている。
【0004】
希土類資源、特にネオジムの問題に対処するために、寿命の終わりにNdFeB永久固体磁石をリサイクルするためのいくつかの方法が提案されてきた。特に、欧州特許第2646584号明細書を挙げることができるが、これは、NdFeB磁石を含む組立体を、前記磁石を分解することが知られているデクレピテーション(decrepitation)工程に曝露し、次に、得られたNdFeB粉末と組立体の残りとを、回転する多孔質容器を通して組立体を篩分けることよって分離する(全体の重い部分ではなく粉末が細孔によって排出される)ことからなる方法を記載している。
【0005】
この型の方法から出発して、環境調和性を維持しながら、リサイクル方法を合理化する(その工程を単純化し、その所要時間を限定し、堅牢で信頼性があり安全な基礎構造を実現する)ために、リサイクル方法を改善することが依然として重要である。また、リサイクル方法の最後に得られる粉末の特性を最適化して、このリサイクルされた粉末からの新しい永久NdFeB磁石の製造を容易にし、かつ性能を促進することが必要であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題に対処する。本発明は、特に、信頼性のあるNdFeB固体磁石をリサイクルするための方法、ならびに本方法から得られる異方性かつ保磁力のある粉末に関するが、これは、特に積層造形法による新しい強力なNdFeB磁石の製造に特に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の工程を含むNdFeB磁石の製造方法に関する。
a) リサイクルされるNdFeB固体磁石を含む廃棄物を回収する工程であって、前記NdFeB磁石が、NdFe14B磁性主相および非磁性粒界二次相を有する、工程と、
b) 廃棄物を不活性雰囲気下で300℃~500℃の予熱温度へと予加熱する工程であって、廃棄物が、加熱手段を備えた第1のステーションにおいて予熱温度へと温度上昇された第1のチャンバ内に収容される、工程と、
c) 0.1バール~10バールの水素分圧または全水素圧下で、工程b)から得られた高温廃棄物に適用される水素デクレピテーションであって、前記高温廃棄物が、水素源およびポンプ手段を備えた、第1のステーションとは異なる第2のステーションに配置された、第2のチャンバ内に収容され、デクレピテーションが200℃~500℃の温度で行われ、第2のチャンバ内の前記温度が、NdFeB磁石の水素化反応の発熱性に起因してこの温度範囲内に維持される、水素デクレピテーションの工程と、c)NdFe14B主相および/または粒界二次相を含み、5mm以下のサイズを有する粒子を有する第1の粉末の形成をもたらす、工程。
【0008】
本発明のその他の有利な非限定的特徴によれば、単独で、または技術的に実現可能な任意の組合せに従って、以下のようになる。
・ 第1のチャンバおよび第2のチャンバは、単一のチャンバによって形成され、工程b)と工程c)との間で第1のステーションから第2のステーションへと移動され、第2のステーションの水素源およびポンプ手段に接続可能であり、
・ 工程a)で回収された廃棄物は、リサイクルされるNdFeB磁石と一体の金属部分を含み、本方法は、工程c)の間または後に、前記部分と第1の粉末とを分離するために行われる、1cmの篩サイズにおける篩分け工程d)を含み、
・ 本方法は、工程c)の間または後に、第1の粉末を篩分ける工程d)を含み、
・ 本方法は、工程c)の後、または篩分け工程d)の間もしくは後に、第1の粉末または第1の粉末の画分を粉砕して、500ミクロン以下のサイズを有する粒子を有する第2の粉末を得る工程e)を含み、
・ 希土類(複数可)に富む少なくとも1種の化合物からなる粒子を、工程e)の間に第1の粉末に添加して、第2の粉末を粒界二次相で富化し、
・ 工程e)において、粉砕は、ボールミル中で、またはリングミルによって、またはガスジェットミルによって行われ、
・ TRFeB型の新鮮な合金材料の少なくとも1種の化合物、特にNdFeB(TR=Nd、Pr、Dy、Tb)および/またはTRFe14B型の少なくとも1種の磁性相化合物、特にNdFe14Bが、リサイクル方法の間に第1の粉末にまたは第2の粉末に添加され、
・ 低融点(典型的には、粒界二次相の融点以下)を有する少なくとも1種の非磁性金属化合物(希土類を含まない)が、リサイクル方法中に第1の粉末または第2の粉末に添加され、前記化合物は、新しい磁石の製造中にNdFeB粒子間の結合を促進することが意図される。
・ 本方法は、第1の粉末または第2の粉末を脱水素化する工程f)を含む。
【0009】
本発明は更に、粒界二次相によって互いに分離された、いくつかのNdFe14B磁性主相金属結晶粒から構成される粒子を含み、同じ粒子の金属結晶粒が磁気異方性を発生させる共通の結晶配向を有する、上記のNdFeB磁石をリサイクルするための方法から得られる粉末に関する。
【0010】
有利には、粉末は、
-第1のサイズを中心とする第1の占有粒子数と、
-第2のサイズを中心とする第2の占有粒子数であって、第1のサイズが第2のサイズより1.5倍~10倍大きい、第2の占有粒子数と、の二重粒度分布を有する。
【0011】
有利には、粉末は、1体積%~50体積%の粒界二次相を含む。更により優先的には、粉末は、10体積%~30体積%の粒界二次相を含む。
【0012】
有利には、粉末は、1体積%~50体積%の非磁性金属化合物(希土類を含まない)を含む。更により優先的には、粉末は、1体積%~20体積%、あるいは1体積%~10体積%の非磁性金属化合物を含む。
【0013】
最終的に、本発明は、NdFeB永久磁石を製造するための方法であって、前述の粉末から、
-焼結技術、または
-プラスチックボンド磁石を生じさせる射出技術もしくは圧縮技術、または
-脱結合および焼結を含む射出成形技術、または
-積層造形法技術を実施する方法に関する。
【0014】
好ましい実施形態によれば、製造方法は、粉末の少なくとも1つの相の溶融を含む積層造形法技術に基づき、溶融は、NdFe14B主相の溶融温度未満の温度で行われ、これによって、NdFe14B主相ではなく、粒界二次相または存在する場合には希土類を含まない非磁性金属化合物の全部または一部を溶融する。
【0015】
本好ましい実施形態では、主相を含む粉末粒子は、有利には、前記磁石に磁気異方性を付与するために、印刷された物体の形態でのNdFeB磁石の圧密化の前または圧密化中に配向される。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付の図を参照した本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明によるリサイクル方法の工程を示す図である。
図2】第1の粉末の粒子の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy、SEM)によって作成された画像と、リサイクル方法の工程c)の最後にレーザ回折によって測定された第1の粉末の粒子の典型的な粒度分布を示すグラフと、を示す。
図3a】異なる粉砕条件について、本発明によるリサイクル方法の工程e)の後の第2の粉末の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)によって作成された画像を示す。図3a~図3c同様に、前記異なる粉砕条件について得られた第2の粉末の粒子の粒度分布を示すグラフを示すが、粒子のサイズは、レーザ回折(図3aおよび図3b)および画像解析(図3c)によって測定される。
図3b】異なる粉砕条件について、本発明によるリサイクル方法の工程e)の後の第2の粉末の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)によって作成された画像を示す。図3a~図3c同様に、前記異なる粉砕条件について得られた第2の粉末の粒子の粒度分布を示すグラフを示すが、粒子のサイズは、レーザ回折(図3aおよび図3b)および画像解析(図3c)によって測定される。
図3c】異なる粉砕条件について、本発明によるリサイクル方法の工程e)の後の第2の粉末の粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)によって作成された画像を示す。図3a~図3c同様に、前記異なる粉砕条件について得られた第2の粉末の粒子の粒度分布を示すグラフを示すが、粒子のサイズは、レーザ回折(図3aおよび図3b)および画像解析(図3c)によって測定される。
図4】希土類に富む粒界相化合物の粒子を添加した後の第2の粉末の粒子の、走査型電子顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、NdFeB型の固体磁石をリサイクルするための方法に関する。固体磁石は、導入部で述べたように、金属性のみである、すなわち、NdFeB合金に加えてポリマー結合剤を含まない。したがって、本発明では、「固体磁石」という用語は、例えば、プラスチックボンド磁石などのポリマーに基づく複合材料を除外する。更に、本明細書全体を通して、NdFeB磁石について説明するが、本用語は、任意のNdFeB磁石、すなわち、様々な添加剤および/またはネオジム(例えば、ジスプロシウム)などのその他の希土類金属を含むことが可能なNdFeB磁石を包含する。類推すると、いくつかの型の希土類金属および添加剤を含有してもよいが、これらの磁石の磁性主相はNdFe14B相と称される。
【0019】
本方法の第1の工程a)は、リサイクルされるNdFeB固体磁石を含む廃棄物を回収することからなる。廃棄物とは、製造から却下された固体NdFeB磁石を意味すると理解され、それはまた、その材料がリサイクル可能であるNdFeB磁石を含む、寿命の終わりまたは製造プロセスで老朽化したいずれかの型の機械部品または電子部品を意味すると理解される。一例として、廃棄物は、スチールタブに固定されたハードディスクのNdFeB磁石、電気モータのNdFeB磁石等などから構成されてもよい。これらの磁石は、それらの磁化特性故に、多くの場合、以前の使用に関連する機械(金属)部品に非常にしっかりと取り付けられているが、それにもかかわらず、NdFeB磁石のみの廃棄物を得ることが可能である、すなわち、以前の使用の機械部品から分離される。
【0020】
一般に、廃棄物由来のNdFeB磁石は、露出体であってもよい、または典型的には、金属性(例えばニッケルもしくは亜鉛に基づく)またはポリマー(エポキシ)の保護層で覆われていてもよい。
【0021】
リサイクルされるバルク磁石NdFeBは、典型的には、合金の85体積%(+/-10体積%)に相当するNdFe14B磁性主相を含む合金を形成する。この主相の溶融温度は1180℃程度である。合金はまた、NdFe14B主相金属結晶粒を磁気的に分離する(隔離する)ために使用される故に粒界二次相と呼ばれる、非磁性二次相を含む。二次相は、合金の組成に応じて500℃~800℃の溶融温度を有する、希土類に富むいくつかの相から構成される。粒界二次相は、典型的には、合金の15体積%(+/-10体積%)に相当する。
【0022】
次に、リサイクル方法は、廃棄物100を第1のチャンバ10内で300℃~500℃、優先的には350℃~450℃、特に約400℃の予熱温度へと予加熱する工程b)を含む(図1(b))。このために、廃棄物100は、加熱手段11を備えた第1のステーション1に配置された第1のチャンバ10内へと導入される。第1のステーション1は、例えば、廃棄物100で満たされた第1のチャンバ10が配置された焼鈍炉から構成されてもよい。第1のステーション1は、有利には、少なくとも1つの中性ガス源部12およびガス放出部13を含むガス回路12、13を備えるが、これは、第1の囲壁10に接続されて、その内部雰囲気を調節し得る。したがって、第1のチャンバ10内の雰囲気は、有利には、例えば、アルゴンに基づいて不活性であるように選択される。第1のチャンバ10は、好ましくは完全に密封され、数バールの圧力および典型的には600℃までの温度に適合する。
【0023】
廃棄物100のこの予熱は、廃棄物に含有される様々な材料の消磁を促進し、したがって、磁気引力によって潜在的に固定された部分の物理的分離を容易にするという点で有利である。
【0024】
しかしながら、本発明者らは、本予熱工程b)が、リサイクル方法の信頼性および効率に関してその他の重要な利点を有することを、以下に示す。
【0025】
リサイクル方法の以下の工程c)は、0.1バール~10バール、優先的には1~4バールの水素分圧または全水素圧下で、200℃~500℃の温度で、高温廃棄物101に適用される水素デクレピテーションに対応する。高温廃棄物101は、第1のステーション1とは異なる第2のステーション2に配置されて水素源21およびポンプ手段22を備えた第2のチャンバ20内に、収容される(図1(c))。
【0026】
好ましい実施形態によれば、第1のチャンバ10および第2のチャンバ20は、単一のチャンバによって形成されるが、これは、工程b)と工程c)との間で第1のステーション1から第2のステーション2へと移動され、かつ第2のステーション2の水素源21およびポンプ手段22に接続可能である。この場合、囲壁10は、工程b)の最後に第1のステーション1のガス回路12、13から接続解除され、次に、囲壁10が第2のステーション2の中または上に配置された場合に、囲壁10は、水素源21およびポンプ手段22に接続される。
【0027】
別の可能な実施形態によれば、高温廃棄物101は、工程b)と工程c)との間で、第1の囲壁10から第2のチャンバ20内へと移送される。工程c)の開始時に廃棄物101の温度が250℃以上のままであるように、本移送中に廃棄物101の温度の低下を制限するように注意が払われる。
【0028】
実施形態にかかわらず、廃棄物が第2のチャンバ20内にある場合、チャンバ20が水素源21によって供給される前に、空気がポンプ手段22によってそこから排出される。第2のチャンバ20は完全に密封されており、少なくとも10バールまでの範囲の圧力、および典型的には、600℃までの範囲の温度に適合する。また、水素が廃棄物100のNdFeB合金によって吸収されるので、デクレピテーションの所要時間全体にわたって、第2のチャンバ20内の水素圧を所定の閾値、例えば、初期圧力の25%以下の閾値を超えて維持するように、水素源による水素の分配を制御することも有利である。
【0029】
工程c)の水素デクレピテーションは発熱反応であるので、第2のチャンバ20内の温度は、第2のステーション2においていかなる加熱手段をも必要とせずに自立している。高温廃棄物101(すなわち、250℃以上の温度)中に含有されるNdFeB磁石は、水素雰囲気と接触するとすぐに、水素化反応およびデクレピテーション現象を開始する。有利には、デクレピテーション温度は予熱温度に近く、実際には200℃~500℃とされ得る。導入される水素の量の自動装置による管理は、温度上昇を制限し、NdFeB合金が分解する温度である500℃以下に維持することを可能にする。
【0030】
2つの別個のステーション1、2においてそれぞれ工程b)およびc)を実行することは、加熱要求(第1のステーション1)を水素入力(第2のステーション2)から相関解除し、動作を確保することによって、リサイクル方法を実施するための機器および基礎構造を大幅に簡略化する。
【0031】
工程c)は、数分~12時間の典型的な所要時間を有する。水素化反応の終了は、第2のチャンバ20の温度の低下(チャンバ20内に沈埋された温度センサを介して測定される)によって、または廃棄物100のNdFeB磁石がもはや水素を吸収しない故に一定である傾向にある第2のチャンバ20内の圧力を測定することによって、検出される。
【0032】
200~500℃、より具体的には300℃~500℃の温度範囲では、本質的に水素化されるのはNdFeB合金の粒界二次相である。NdFe14B主相は、関連する水素化物が200℃を超えて安定でない故に、水素化されないか、または非常にわずかに水素化されるだけである。実際、主相は水素を吸収し、より低い温度、典型的には、室温~150℃で安定した水素化物を生成する。
【0033】
200℃~500℃、優先的には300℃~500℃、あるいは350℃~450℃で行われるこの水素デクレピテーション工程c)の利点は、粒界二次相のみが対象とされ、それが一般に合金の体積の4分の1未満に相当する故に、水素化を行うために必要とされる水素(H)の量を減少させることである。これは、典型的には、室温で水素化磁石1kg当たり4gのHから、400℃で水素化磁石1kg当たり1.25gのHへと低下する。別の利点は、磁性主相金属結晶粒が、本工程によってほとんど影響を受けず、改質されず、したがって、それらの初期特性および初期構造(すなわち、リサイクルされるNdFeB磁石においてそれらが有していたもの)を保持するという事実に由来する。特に、同じ粉末粒子内で、金属結晶粒の全体的な磁気配向は同じである。
【0034】
第2のステーション2は、有利には、工程c)の間に第2のチャンバ20に運動を伝達することができる撹拌システム23を備える。撹拌システムは、振動システム(典型的には0.5mm~3mmの振動振幅)または波動振動システムからなってもよい。第2のチャンバ20内を攪拌することにより、NdFeB磁石とその他の部分との分離、および水素デクレピテーションによるNdFeB合金の破砕が促進される。したがって、工程c)で処理された廃棄物100のNdFeB磁石は、本工程が進行するにつれて、粉末(以下、第1の粉末110と呼ぶ)へと変化し、その粒子は、NdFe14B主相および/または粒界二次相を含み、5mm以下、あるいは1mm以下のサイズを有する。
【0035】
好ましくは、リサイクル方法は、デクレピテーション工程c)の間または後に行われる、第1の粉末110を篩分ける工程d)を含む(図1(d))。
【0036】
工程c)の間に篩分けを行うために、少なくとも1つの篩31(図示せず)を第2のチャンバ20に組み込むことが必要である。高温廃棄物101が前記篩31上に配置され、NdFeB合金が水素化されるにつれて、篩31のメッシュより小さいサイズの前記合金の粒子が、スクリーンの下の囲壁の部分に落下する。篩31からの合金粒子の落下は、第2のステーション2に配置された第2のチャンバ20に加えられた撹拌によって促進される。
【0037】
あるいは、工程c)の最後に得られたNdFeB合金の第1の粉末およびその他の廃棄物残留物(もしある場合)は、例えば、第2のチャンバ20の下部に配置された弁(図示せず)に関連付けられたハッチによって、第2のチャンバ20から篩分け装置30へと移送される。篩分け装置30は、1つ以上の篩31を備えていてもよい。それは、所望により、第2のステーション2に配置され、第2のチャンバ20と同様に、撹拌システム23の動きを受けてもよい、またはそれ自体の撹拌システム33を備えてもよい(図1(d))。
【0038】
篩分け工程d)に使用されるスクリーン(複数可)31のメッシュは、1cm、5mm、1mm、500ミクロン、300ミクロン、150ミクロン、100ミクロン、50ミクロン、10ミクロン、あるいはそれ未満であってもよい。第1の粉末110の粒子より大きいサイズ(例えば、10倍大きい)のボールを篩31上に追加して、予備粉砕を行い、前記粉末の篩分けを容易にすることが、所望により可能である。
【0039】
工程a)で回収された廃棄物がNdFeB磁石と一体の金属部分を含む場合、少なくとも篩分け工程d)は、前記部分と第1の粉末110とを分離するために、1cmのメッシュを用いて行われる。デクレピテーション中に生成された金属部分またはその他のチップ(例えば、NdFeB合金のコーティング層のチップ)がより小さいサイズを有する場合、より細かいメッシュ、例えば、1mm、500ミクロン、150ミクロン、100ミクロン、あるいはそれ未満のメッシュで篩分けることを考慮することが可能である。
【0040】
所望により、工程d)は、工程c)から得られた第1の粉末110を800ミクロン~100ミクロンのスクリーンサイズで篩分けし、これによって、後続の新しい磁石の製造に直接使用することができる微細な粒子サイズの粉末のバッチ112と、本発明によるリサイクル方法で行われ得る後続の粉砕工程を受けることが意図された粗粒子サイズの粉末のバッチ111と、を分離する工程を含んでもよい。
【0041】
バッチにおけるこの分離は、リサイクルされたNdFeB磁石の体積の画分に対して方法工程を制限することを可能にする。経済的利点を超えて、より少ない処理工程を合金に適用することで、その初期品質を可能な限り維持することが可能である。
【0042】
第1の粉末110を、典型的には、10ミクロン未満、あるいは5ミクロン未満、例えば、約1ミクロンのメッシュを有する超微細篩を通して篩分けすることもまた考えられることにも、留意されたい。この段階で本質的に粒界相から形成される金属超微粒子が(例えば、過度の酸化によって)劣化した場合、またはもはや適切な組成を有さない場合、この超微細篩分けは、それらを第1のリサイクル粉末の残りから分離することを可能にする。それらは、リサイクルされた粉末から製造される新しい磁石の特性を改善するために、良好な品質または最適化された組成(リサイクルされたまたは新しい)の粒界相粒子により、所望により置換されてもよい。
【0043】
第1の粉末110の粒子は、大部分が角張った形状を有し(図2)、800ミクロンでの篩分け工程d)後の粒度分布の典型例が図2に示されている。ここで言う粒径とは、「ザウタ平均粒径(Sauter mean diameter)」である。「ザウタ平均粒径」は、定義された技術による粒径測定中に同一に挙動する球体の直径である。
【0044】
この第1の粉末110は、新しい磁石を製造するための特定の方法に適合され得る。例えば、50ミクロンより小さいサイズの粒子の画分は、新しい磁石を製造するための従来の焼結技術に適合する。100ミクロン~500ミクロンに含まれる粒子の画分は、射出または圧縮によるプラスチックボンド磁石を製造するための従来の技術に適合する。
【0045】
最後に、積層造形法技術を実施するために、典型的には、300ミクロン未満、あるいは100ミクロン未満のサイズのNdFeB合金粒子が好ましいが、それらの形状がより角張っていないことが好ましい。
【0046】
リサイクルされた合金粒子の粒度分布を調節し、またそれらの形状を軟化させるために、リサイクル方法は、工程c)の後および/または工程d)の間および/または工程d)の後に、第1の粉末110(またはその画分)を粉砕する工程e)を含んでもよく、これによって、より丸みを帯びた形状を有する粒子が、500ミクロン以下、300ミクロン以下、あるいは100ミクロン以下、あるいは50ミクロン以下のサイズを有する、第2の粉末が得られる。
【0047】
任意の周知の粉砕手段、特にボールミル、リングミル、またはガスジェットミルを、工程e)において実施し得る。後者の技術は周知であり、通常、粉末を粉砕するために実施される。
【0048】
リングミリングは、振動プレート上でリングおよびコアを、円形および水平に振動させることによって、行われる。次に、試料を、圧力、衝撃、および摩擦の力の下で、20ミクロン未満であり得るサイズに断片化する。
【0049】
以下の説明は、特に、本発明の好ましい態様であるボールミル粉砕に関する。ボールミルは、回転ドラムまたは固定ドラム内に配置された回転ブレードを備え、その中に、第1の粉末110の全部または一部が、単独でまたはボールを伴って配置される。したがって、粉砕工程を受けることが意図された第1の粉末110またはその厚さは、第2のステーション2から第3の粉砕ステーションへと移送される。
【0050】
それらが使用される場合、これらのボールは、ステンレス鋼から選択され得、有利には、1mm~30mm、好ましくは1mm~10mm、例えば、5mmを含む直径を有する。第1の粉末とボールとの質量比は、好ましくは、0.5~3で選択される。
【0051】
ボールを用いてまたは用いずに、工程e)の粉砕は、有利には、100rpm~800rpm、例えば、450rpmのドラム回転速度で10秒~1時間、例えば、10分間、撹拌シーケンスを適用し、続いて数秒(典型的には、5秒)~40秒、例えば、20秒間の休止シーケンスを適用することによって行われる。撹拌シーケンスおよび休止シーケンスは、第2の粉末の規定された粒径が得られるまで、2~500回連続して繰り返され得る。
【0052】
例として、図3a、図3b、図3cは、前述の撹拌シーケンスおよび休止シーケンスの異なる反復、それぞれ10反復、30反復、および300反復についての、粉砕工程e)の終了時の第2の粉末の粒子のSEM画像に対応し、これらの実施例において、粉砕はボールを用いて行われた。粒子の粒度分布に加えてその形状の変化を観察することが可能である(図3a、図3b、図3c)。
【0053】
リサイクル方法は、最終的に、合金粒子中に存在する水素を抽出するために、第1の粉末110(またはその篩分けされた画分)または粉砕工程e)から得られた第2の粉末に適用され得る、脱水素化工程f)を含む。脱水素化は、加熱手段およびポンプ手段を備えた第4のステーションに配置された第4のチャンバ内で、二次減圧中で粉末を約800℃に加熱することによって行われる。
【0054】
脱水素化は、水素が、NdFe14B主相(所望により、工程c)中にわずかに水素化されてもよい)から200℃へと放出され、次に、粒界二次相から350~800℃(組成、温度条件、および真空力学に応じて)に放出される、2つの連続工程からなる。
【0055】
上述したように、合金粒子は、本質的に、デクレピテーション工程c)中に水素化された粒界二次相であるので、低水素含有量を含有する。したがって、脱水素化工程f)は、従来技術において通常行われるデクレピテーション工程に従うよりも速い。
【0056】
本発明によるリサイクル方法から得られる合金粉末(第1の粉末または第2の粉末)は、NdFe14B磁性主相の1つ以上の金属結晶粒から構成される粒子を含み、いくつかの金属結晶粒が存在する場合、それらは、希土類に富む非磁性粒界二次相によって互いに分離される。本発明による合金粉末の強力な利点は、同じ粒子に含まれる前記金属結晶粒が、磁気異方性を発生させる共通の結晶配向を有することである。したがって、これらの多金属結晶粒の粒子は、異方性の単金属結晶粒の粒子として、新しいNdFeB磁石の製造に使用され得る。
【0057】
異方性粉末は、通常、HDDR(Hydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination、水素化-不均化-脱水素化-再結合)法などの高価で複雑なプロセスによって得られ、本発明によるリサイクル方法は、良好な品質の異方性粉末を簡単かつ経済的に得ることを可能にする。
【0058】
本発明によるリサイクル方法から得られる第1の粉末110および第2の粉末は、1体積%~50体積%、好ましくは10体積%~30体積%の粒界二次相を含む。これらの粉末は、NdFeB永久磁石の製造に直接使用され得る。
【0059】
リサイクル方法の有利な変形形態によれば、希土類に富む化合物からなる粒子を第2の粉末に添加して、必要であれば、その粒界二次相含有量を調節するか、またはその組成を変更してもよい。
【0060】
本添加は、例えば、ネオジム(Nd)、またはNd、Dy、Tb、Pr、Co、Fe、Cu、Al、Nb、Zr、Ti等の元素を含むその他の希土類化合物から行ってもよい。以下の方法が、特に、希土類(複数可)に富む粒界二次相化合物を導入するために使用されてもよい。
-化合物を、例えば、150℃の温度および8バールの圧力下で水素化して、水素化物を形成すること、
-水素化物を、例えば、リサイクル方法の粉砕工程e)に従って粉砕すること、粉砕は、水素化物の非常に微細な粒径、すなわち、典型的には、10ミクロン以下、2ミクロン以下、あるいは1ミクロン以下のサイズを有する粒子を容易に得ることを可能にする。本粉砕は、水素化された化合物を第1の粉末110と混合することと、
-水素化された化合物の粉砕が工程e)の間に行われなかった場合に、わずかな共粉砕の間に、十分の数体積パーセント~数体積パーセント(典型的には、1%~10%)で化合物の粉末を第2の粉末に添加することと、によって、前述のリサイクル方法の粉砕工程e)の間に行われ得ることに留意されたい。
【0061】
脱水素化は、リサイクル方法の工程f)の間に行われるか、または脱水素化の最後に混合される希土類化合物および粉末について、独立して行われる。
【0062】
図4のSEM画像は、粒界相化合物の粒子の第2の粉末への本添加後に得られた混合物の概要を所与する。最も微細な粒子(<1ミクロン)は、希土類に富む添加された粒界相に対応する。最も大きな粒子は、第2の粉末の一部である。
【0063】
別の変形形態によれば、リサイクル粉末から形成される新しいマグネットの性能を改善するために、初期のマグネット(TRFeBの新鮮な材料)の組成に近い化合物を、典型的には1%~90%、優先的には1%~40%、あるいは優先的には2%~15%の程度で添加することが可能である。あるいは、TRFe14B型、特にNdFe14Bの磁性相からなる化合物のみを添加することが可能である。
【0064】
前述の変形形態と組み合わせられ得る更に別の変形形態によれば、低融点(典型的には、粒界相の融点以下)を有する非磁性金属化合物(希土類を含まない)を添加し得、その粒子は、例えば、第2の粉末の粒子の粒径に相当する粒径を有してもよい。このような化合物は、特に、積層造形法による新しい磁石の作成中にNdFeB粒子間の結合を促進することを意図している。
【0065】
言及した異なる変形形態では、添加される化合物は、廃棄物に添加されて、前述のリサイクル方法に従って同時に処理されるか、または粉末形態で処理および改質されるか、のいずれかであり、次に、脱水素化工程f)の前後における方法の任意の工程で、本発明による第1の粉末または第2の粉末に添加されてもよい。
【0066】
第1の態様によれば、本発明は、(上述の)第1の粉末110から、または本発明による第2の粉末から、NdFeB永久磁石を製造する方法であって、以下のような周知の技術を実施する方法に関する。
-焼結技術、
-プラスチックボンド磁石を生じさせる射出技術もしくは圧縮技術、
-脱結合および焼結を含む粉末射出成形技術、または
-ポリマーマトリックスを含む積層造形法。
【0067】
第2の態様によれば、本発明は、好ましくは第2の粉末から、金属の積層造形法技術を実施するNdFeB磁石を製造するための方法に関する。
【0068】
金属の積層造形法における周知の技術の中で、特に、粉末床における溶融(選択的レーザ溶融法、Selective Laser Melting-SLM(商標)または「レーザ式粉体床溶融法、Laser Beam Powder Bed Fusion-BLF」)、電子ビーム積層造形法(Electron Beam Additive Manufacturing、EBAM)、金属バインダー噴射法(Metal Binder Jetting、MBJ)、指向性エネルギー堆積法(Directed Energy Deposition、DED)、および低温低圧型溶射積層造形法(Cold Spray Additive Manufacturing、CSAM)に言及することができる。引用された最初の2つの技術において、光ビーム(レーザまたは電子)は、物体を形成するために、床上の自由粉末粒子を一緒に溶接するために、点ごとに方向付けられる。第3の技術では、床の粒子は、結合剤の液滴によって互いに溶接される。最後の2つの実施例では、それは、エネルギーを供給することによってそれらの集合的接着を可能にする、支持体上への粉末の噴霧である。これらの様々な技術は、金属粉末を、様々なフロー、応力および処理措置にかけ、少なくとも最初の2つの引用された技術は、合金粉末の溶融、次に、印刷される物体の形態での前記合金の圧密化に基づく。最適化されていない投入粉末特性は、一貫性のない完成部品(NdFeB磁石)特性、および欠陥の可能性を直接もたらす。
【0069】
品質が限定される印刷部品のための粉末の2つの重要な特性は、緻密性(積層密度)および流動性である。高密度を所与するために十分に圧密化された粉末は、一定の品質を有して欠陥がより少ない部品の製造に関連する。流動性は、その部品について、プロセスの効率により密接に関連する。床上に均一に分布し、減圧なしで均一な薄層を形成する能力は、粉末床溶融プロセスにとって不可欠であり、一方、通気粉末の流れとしての一定の流動性は、噴霧技術にとって必要である。これらの要件は、積層造形速度が増加するにつれて強化される。
【0070】
嵩密度および流動性は両方とも、粉末粒子のサイズおよび形状によって直接影響される。一般に、規則的な形状の滑らかな粒子は、粗い表面および/または不規則な形状を有する粒子よりも容易に流動する。より粗い表面は、粒子間摩擦の増加をもたらし、一方、不均一な形状の粒子は、機械的凝集をより受けやすい。これらの2つの効果は、流動性を低下させる。同様に、球状粒子は、不規則なものよりもより効果的に圧密化される傾向があり、より高い見掛け密度を所与する。球形度は、産業において広く認識されており、これは、積層造形法において通常使用される粉末のほとんどがガス霧化によって製造される理由を説明する。
【0071】
粒径に関して、金属粉末は、例えば、数十ミクロンの厚さの粉末床を形成するための要件を満たすように、必然的に微細である。しかしながら、粒子間の引力は粒子のサイズの減少と共に増大するために、より微細な粉末は、一般に、大きな粉末よりも自由に流動しない。最大の緻密度は、粗い粒子と微細な粒子との両方を含む分布で得られ、より微細な粒子は、最大のものによって残された隙間を埋めることによって密度を増加させる。
【0072】
したがって、本発明による第2の粉末は、粒子のサイズにおいて二重分布を有する場合、すなわち、第1のサイズを中心とする粒子の第1の占有粒子数と、第2のサイズを中心とする粒子の第2の占有粒子数と、を有し、第1のサイズが第2のサイズより1.5倍~10倍大きい場合に、特に好適であることが証明され得る。典型的には、第1のサイズは15~90ミクロンであってもよく、第2のサイズは1~15ミクロンであってもよい。図3cに示す実施例では、第1のサイズは約15ミクロンであり、第2のサイズは約9ミクロンである。このような二重分布は、特に、リサイクル方法において上述したように、多数回の粉砕反復を適用することによって得られ得る。
【0073】
なお、希土類を含まない非磁性金属化合物の粒子および/または希土類に富む粒界相化合物の粒子の存在は、磁性粒子間の相互作用を低減し、粉末の注入性を大幅に改善することを可能にする。したがって、これは、粒子の形状制約をなくすことを可能にし、角張った粒子であっても顕著な流動性を所与する。
【0074】
従来、上述の積層造形法技術は、NdFeB合金粉末の粒子を完全に溶融させることを可能にする大きなエネルギーを提供する。本発明による製造方法において、溶融は、NdFe14B主相の融点以下の温度で行われ、これによって、前記主相ではなく、希土類(存在する場合)を含まない粒界二次相および/または非磁性金属化合物の全部または一部を溶融する。本溶融温度は、1180℃程度であるが、NdFeB合金の組成に応じて実質的に変化し得る。
【0075】
したがって、典型的には、製造プロセスにおける溶融は、1180℃未満、好ましくは1000℃以下、あるいは800℃以下、あるいは600℃以下である。したがって、粉末の粒子間の圧密化は、NdFeB合金の部分的な溶融によって得られる。これは、サイズ、形状、または組成のいずれに関しても、磁性主相の金属結晶粒に影響を及ぼさないという利点を有する。したがって、第2の粉末の合金の固有の磁気特性を、より良好に保ち得る。
【0076】
粒子の圧密化が効率的に起こるためには、十分な量の粒界二次相が第2の粉末中に存在することが重要である。したがって、第2の粉末は、好ましくは、この相を10体積%~30体積%含む。
【0077】
低融点の非磁性金属化合物(希土類を含まない)が第2の粉末に添加される前述の変形形態では、前記化合物は、Al、Zn、Sn、In、Li、Bi、Cd、Pb、これらの合金、または希土類を含まないその他の合金(例えば、Ag-Cu)から選択される1種以上の元素から形成されてもよい。本化合物は、典型的には、800℃以下の融点を有する。
【0078】
優先的には、粉末は、1体積%~50体積%、1体積%~20体積%、あるいは1体積%~10体積%の前記非磁性金属化合物を含む。
【0079】
NdFeB磁石粉末に対するその他の特定の特性は、完成した磁性部品が効率的な固体磁石であるために必要である。
【0080】
磁石は、主に3つの主要な値、すなわち、保磁力(Hcで示され、kA/mで表される)、残留磁気(または残留磁化、Brで示され、テスラで表される)、および最大エネルギー積(BHmaxで示され、MGOeで表される)によって特徴付けられる。保磁力は、減磁または高温(100℃超)のいずれかである環境にさらされた場合の、磁石の減磁に対する抵抗に対応する。したがって、保磁力が強いほど、動作時の温度耐性が良好になる。残留磁気は磁化を示し、したがって、磁石がシステムに提供し得る磁力を示す。最大エネルギー積は、磁石がその動作点で提供し得る全エネルギーの特性である。
【0081】
本発明によるリサイクル方法から得られる第2の粉末は、典型的には、500kA/m~2400kA/mの保磁力、および0.5T~1.4Tの残留磁化を有し、磁気特性は、新しい永久磁石の作製に非常に好都合である。
【0082】
本発明による製造方法において、残留磁気は、磁性主相の金属結晶粒の結晶配向に起因して、それらの圧密化前の粒子の磁気配向系または機械的配向系によって、積層造形時に最適化され得る。第2の粉末は、異方性粒子(すなわち、磁気異方性を発生させる共通の結晶配向を有する磁性相金属結晶粒NdFe14B)を含むので、印刷される物体の周囲またはその近くに慎重に配置された磁石または電磁石(磁気配向系)は、その圧密化の直前に、主相を含む各粒子を配向させることを可能にする。
【0083】
あるいは、印刷されたばかりの層を、層の平面に垂直な方向に、少なくとも8/秒の変形速度で鍛造操作に供し、これによって、各粉末粒子および/または磁性相金属結晶粒を機械的にテクスチャ加工し、したがって、層の異方性磁気配向をもたらすことが可能である。本機械的配向系は、所望により、前述の磁気配向系に結合され得る。
【0084】
異方性磁気配向を実行するために、および/または粉末床を高密度化するために(特に、印刷された物体における多孔性欠陥または亀裂を回避するために)、別の種類の機械的操作が、所望により、鍛造操作に置き換えられてもよい(例えば、圧延加工をシミュレートするロールまたは圧密化を得るための振動システムを使用する)。
【0085】
保磁力は、磁性主相金属結晶粒が、印刷された物体において、前記金属結晶粒の効果的な磁気分離のために、粒界二次相によって均一に取り囲まれるので、全体としてますます大きくなる。圧密化の間、不活性雰囲気の品質(酸素含有量0.1%未満)が印刷チャンバ内で維持されるならば、保磁力が発生する。
【0086】
本発明による製造方法において、温度が磁性主相の溶融温度よりも低く保たれるという事実は、リサイクルされた初期磁石のNdFe14B相金属結晶粒の磁気品質(良好な残留磁気)を維持することを可能にし、新しい磁石を製造するための方法を単純化する。なお、粒界二次相(および/または、存在する場合、希土類を含まない非磁性金属化合物)の単なる溶融は、磁性主相金属結晶粒のコーティングを容易にし、したがって、新しい印刷磁石の高い保磁力を得ることを可能にする。
【0087】
本発明による積層造形法によって永久NdFeB固体磁石を製造するための方法は、例えば、電子機器、自動車、コンピュータ等の、3D印刷によって特に到達可能な非常に多様な物体の形状において効率的である永久磁石を必要とする複数の領域において、用途を見出すことができる。
【0088】
当然ながら、本発明は、説明された実施形態および実施例に限定されず、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、変形実施形態をそれに提供し得る。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
【国際調査報告】