(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位、制御遺伝子IBC及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240517BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/29
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569928
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 CN2022092957
(87)【国際公開番号】W WO2023029587
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202111013421.4
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519258356
【氏名又は名称】中国科学院合肥物質科学研究院
(71)【出願人】
【識別番号】524009370
【氏名又は名称】安徽▲ちぇん▼銀高科種業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】WIN-ALL HI-TECH SEED CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 98 Chuangxin Road, Hi-Tech Development ZoneHefei, Anhui China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】叶 亜峰
(72)【発明者】
【氏名】劉 斌美
(72)【発明者】
【氏名】張 从合
(72)【発明者】
【氏名】呉 躍進
(72)【発明者】
【氏名】陶 亮之
(72)【発明者】
【氏名】厳 志
(72)【発明者】
【氏名】何 立斌
(72)【発明者】
【氏名】申 広勒
(72)【発明者】
【氏名】王 慧
(72)【発明者】
【氏名】▲ざん▼ ▲ゆぇ▼
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA17
4B063QQ04
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX05
(57)【要約】
水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位、制御遺伝子IBC及びその応用を提供し、バイオテクノロジー分野に関し、前記遺伝子IBCのヌクレオチド配列は、(1)、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示され、又は、(2)、1つ又は複数のヌクレオチドを追加、置換、挿入又は欠損して生成した突然変異体、対立遺伝子又は派生物のヌクレオチド配列である。遺伝子IBCのコード化タンパク質、組換え構築物、組換え宿主細胞、並びに遺伝子IBCにより水稲の成熟期の茎を脆くする方法及び応用を更に提供する。IBCの対立変異及び遺伝子編集された機能欠損突然変異体において、茎が成熟後期に脆性茎表現型を示し、葉身が脆くなく、生産性に優れ、他の農業形質が明らかに変化せず、収穫期に、圃場で収穫した稲わらは粉砕しやすく、粉砕して圃場に戻すのが容易であり、稲わらを飼料とする際に粉砕してサイレージしやすく、動物が咀嚼しやすい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位であって、
前記突然変異部位は染色体フラグメント逆位であり、前記染色体フラグメント逆位の位置はLOC_Os03g18140遺伝子に位置することを特徴とする水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位。
【請求項2】
水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBCであって、
前記遺伝子IBCのヌクレオチド配列は、(1)、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示され、又は、(2)、1つ又は複数のヌクレオチドを追加、置換、挿入又は欠損して生成した突然変異体、対立遺伝子又は派生物のヌクレオチド配列であることを特徴とする水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBC。
【請求項3】
水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBCコード化タンパク質であって、
前記遺伝子IBCコード化タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID No.3に示されることを特徴とする水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBCコード化タンパク質。
【請求項4】
組換え構築物であって、
前記組換え構築物は請求項2に記載の水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBCのヌクレオチド配列を含有し、前記組換え構築物に用いるベクターはクローンベクター又は前記ヌクレオチドを発現するための発現ベクターであることを特徴とする組換え構築物。
【請求項5】
組換え宿主細胞であって、
請求項4における組換え構築物の宿主細胞、又は請求項1に記載の水稲の茎の機械的強度を制御する遺伝子IBCのヌクレオチド配列を含むことを特徴とする組換え宿主細胞。
【請求項6】
前記宿主細胞が微生物細胞であることを特徴とする請求項5に記載の組換え宿主細胞。
【請求項7】
稲わらが脆くなるように栽培する方法であって、
物理的変異誘発、化学的変異誘発及び生物的変異誘発を含む変異誘発手段、又は遺伝子編集技術によって請求項2に記載の水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBCを機能欠損させる水稲株を得ることを含み、得られた水稲株は脆性茎表現型を示す稲わらが脆くなるように栽培する方法。
【請求項8】
稲わらが脆くなるように栽培する方法であって、
請求項1に記載の突然変異部位を有する水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcを他の水稲品種とハイブリダイゼーションして、後代分離により脆性茎表現型の水稲株を得ることを特徴とする稲わらが脆くなるように栽培する方法。
【請求項9】
請求項1に記載の水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位を同定する方法であって、
プライマーibc-jd-1及びibc-jd-2によりPCR増幅を行い、前記ibc-jd-1フォワードプライマーibc-jd-1-Fのヌクレオチド配列がSEQ ID No.4に示され、前記ibc-jd-1リバースプライマーibc-jd-1-Rのヌクレオチド配列がSEQ ID No.5に示され、前記ibc-jd-2フォワードプライマーibc-jd-2-Fのヌクレオチド配列がSEQ ID No.6に示され、前記ibc-jd-2リバースプライマーibc-jd-2-Rのヌクレオチド配列がSEQ ID No.7に示されるステップ(1)と、
2対のプライマーの増幅産物に対してアガロースゲル電気泳動検出を行い、検出表示結果においてibc-jd-1プライマーのみにターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位がホモ接合型であり、検出表示結果においてibc-jd-2プライマーのみにターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位を含有せずに野生型であり、検出表示結果においてibc-jd-1及びibc-jd-2プライマーにいずれもターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位がヘテロ接合型であるステップ(2)と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位を同定する方法。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の方法により得られた脆性茎水稲又は脆性稲わらを原料とする飼料又は肥料における応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関し、具体的には、水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位、制御遺伝子IBC及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲(Oryza sativa L.)は世界的に最も重要な食用作物の1つである。その茎の機械的強度は重要な農業形質の1つであり、水稲株の耐倒伏性に直接関係しており、それにより最終的には水稲の生産高に影響する。一方、水稲からも毎年大量の稲わらが発生し、家畜飼料、製紙原料、建築材料、バイオマスエネルギー及び有機肥料原材料などに用いることができるが、稲わらバイオマスの耐分解性バリアに起因して稲わらを圃場での再利用及び他の総合的利用は極めて困難であり、稲わらそのものの成分及び構造の面で稲わらの総合利用のボトルネック問題を突破することは非常に必要である。
【0003】
水稲の茎の機械的強度及びそのバイオマス耐分解性バリアは、いずれも二次細胞壁によって決定される。二次細胞壁は特定の細胞が成長を停止した後、一次細胞壁の内側に継続的に蓄積した細胞壁層である。二次細胞壁は主に、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなる。各成分の変化はいずれも二次細胞壁の構造変化に影響することとなり、それにより株の機械的強度に影響する。水稲では、脆性茎突然変異体は水稲の二次細胞壁の生合成を研究する重要な材料であり、既に報告されている脆性茎突然変異体は、ほとんどセルロース含有量の低減により最終的には二次細胞壁の厚み増大に影響する。近年、中国国内外の研究者は水稲の二次細胞壁の合成を制御する複数の重要な遺伝子をクローニングしている。例えば、OsCESA4、OsCESA7、OsCESA9の3つの遺伝子コード化水稲の二次細胞壁セルロース合成酵素の触媒サブユニットが挙げられ、それらの突然変異はいずれも茎の機械的強度の変化をもたらし、脆性茎表現型を示し、その中で、OsCESA9はアミノ酸387位がアスパラギン酸からアスパラギンに突然変異し、半優性の脆性茎の表現型を示す。具体的には、公開第CN110964733A号の特許にも水稲の半優性の脆性茎の制御遺伝子SDBC1が開示されているが、該遺伝子発現の水稲の茎及び葉身はいずれも折れやすい。さらに、セルロースの集合及び配列に影響する遺伝子BC1及びBC12、セルロース合成酵素の小胞輸送に影響する遺伝子BC3、ヘミセルロースの合成に影響する遺伝子BC10、並びに水稲の二次細胞壁の合成を制御する遺伝子CEF1もある。これらの遺伝子についての研究は、水稲の二次細胞壁の合成に新たな理論を提供するだけでなく、これらの突然変異体材料も稲わらの効率的な利用に新たな遺伝子資源を提供する。
【0004】
稲わらの効率的な総合利用を実現するために、水稲の茎の組成成分を変化させるだけでなく、その生産高に関連する性状を考慮する必要もあり、水稲の生産高を犠牲にしてまで稲わらの効率的な利用を向上させることはできない。ほとんどの水稲の脆性茎突然変異体の細胞壁成分の変化は、その稲わらの効率的な利用を促進する面で極めて高い可能性を有するが、実際の生産過程では水稲の脆性茎突然変異体の栽培は多くの問題に直面している。例えば、葉身が折れやすく現場操作に影響したり、茎が倒れやすく最終的な生産高に影響したりする。
【0005】
大規模栽培生産に適した理想的な脆性茎水稲は、(i)生産性に優れ(ii)耐倒伏性が高く、(iii)葉身が脆くなく、(iv)茎が成熟後期に脆くなる、という特徴を有すべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術的課題の1つは、従来技術においては水稲の脆性茎突然変異体の葉身が折れやすく現場操作に影響することであったが、本発明は、葉身が折れにくく倒れない水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位、制御遺伝子IBC、遺伝子IBCコード化タンパク質、遺伝子IBC組換え構築物、遺伝子IBC組換え宿主細胞、及び遺伝子IBCにより水稲の成熟期の茎を脆くする方法、脆性茎水稲又は脆性稲わらを原料とする飼料又は肥料における応用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の技術的手段により上記の技術的課題を解決することができる。
水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位であって、前記突然変異部位は染色体フラグメント逆位であり、前記染色体フラグメント逆位の位置はLOC_Os03g18140遺伝子に位置する。
LOC_Os03g18140遺伝子はIBC遺伝子である。
【0008】
水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBCであって、前記遺伝子IBCのヌクレオチド配列は、(1)、SEQ ID No.1又はSEQ ID No.2に示され、又は、(2)、1つ又は複数のヌクレオチドを追加、置換、挿入又は欠損して生成した突然変異体、対立遺伝子又は派生物のヌクレオチド配列である。
【0009】
又は、SEQ ID No.2に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションして、水稲の成熟期の茎の機械的強度を制御するヌクレオチド配列を同時にコード化することができる。
【0010】
ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション膜をプレハイブリダイゼーション(0.25mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2、7%のSDS)に置いて65℃で30分間プレハイブリダイゼーションすることを指す。プレハイブリダイゼーション溶液を捨ててハイブリダイゼーション溶液(0.25mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2、7%のSDS、同位体標識のヌクレオチドフラグメント)を加えて65℃で16時間ハイブリダイゼーションし、ハイブリダイゼーション溶液を捨てて膜洗浄液I(20mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2、0.1%のSDS)を加えて65℃で2回膜洗浄し、毎回10~15分間行い、膜洗浄液II(10mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2、0.1%のSDS)を加えて65℃で10~15分間膜洗浄する。
【0011】
SEQ ID No.1ヌクレオチド配列は、遺伝子IBCのプロモーター遺伝子、コード領域及び制御領域に関わる。
【0012】
本発明は、重粒子線照射による中国ジャポニカ稲品種である武運粳7号(WYJ7)を利用して、生産高に関連する農業形質、例えば、草丈、分げつ数、穂粒数、千粒重、耐倒伏性などに影響せず、登熟期の後期に稲わらが脆性茎表現型を示す理想的な脆性茎ibc(idea brittle culm)突然変異体を得る。
【0013】
本発明は、ibc突然変異体に対して遺伝子解析と集団構築を行い、それに対して遺伝行動解析を行い、ibc突然変異体の脆性茎表現型が突然変異後のIBC単一遺伝子の劣性制御であることを見出した。
【0014】
有益な効果は以下のとおりである。本発明は、ポジショナルクローニング方法により水稲の茎の機械的強度を制御する遺伝子IBCを分離同定し、材料の表現型解析及び遺伝相補実験により、水稲の茎の機械的強度及び細胞壁成分の制御におけるIBC遺伝子の機能が証明され、且つ該遺伝子を利用して大規模生産に適した脆性茎水稲品種「科輻粳7号」を栽培することに成功し、品種から稲わら処理の難題を真に解決した。
【0015】
IBCコード化キシランアセチルトランスフェラーゼは、二次細胞壁ヘミセルロース多糖修飾において重要な役割を果たしている。IBCの対立変異及び遺伝子編集された機能欠損突然変異体において、茎は成熟後期に脆性茎表現型を示し、葉身は脆くなく、生産性に優れ、他の農業形質が明らかに変化せず、収穫期に圃場で収穫した稲わらは粉砕しやすく、粉砕して圃場に戻すのが容易であり、稲わらを飼料とする際に粉砕してサイレージしやすく、動物が咀嚼しやすい。
【0016】
遺伝子IBCは、分子レベルでの水稲の二次細胞壁合成制御の遺伝的基礎の今後の解明、水稲の分子設計に基づく環境に優しい新品種の育種に、理論的根拠、材料及び遺伝的サポートを提供する。
【0017】
水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBCコード化タンパク質であって、前記遺伝子IBCコード化タンパク質のアミノ酸配列は、(1)、SEQ ID No.3に示され、又は、(2)、1つ又は複数(例えば、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~3個)のアミノ酸残基の置換、欠損及び/又は挿入によりSEQ ID No.3に示されるアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列であり、又は、(3)、SEQ ID No.3に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、特に少なくとも95%又は98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列であり、又は、(4)、(1)又は(2)又は(3)に記載のアミノ酸配列の活性フラグメントである。
【0018】
組換え構築物であって、前記組換え構築物は水稲の成熟期の茎の機械的強度の制御遺伝子IBCのヌクレオチド配列を含有し、前記組換え構築物に用いるベクターはクローンベクター又は前記ヌクレオチドを発現するための発現ベクターである。
【0019】
組換え宿主細胞であって、上記の組換え構築物の宿主細胞、又はそのゲノムに本発明に記載の水稲の茎の機械的強度を制御する遺伝子IBCが組み込まれたポリヌクレオチド配列を含む。前記宿主細胞は植物細胞又は微生物細胞から選択されたものであってもよく、例えば、大腸菌細胞又はアグロバクテリウム細胞であり、好ましくは植物細胞であり、最も好ましくは水稲細胞である。前記細胞は分離したもの、インビトロのもの、培養したもの又は植物の一部である。
【0020】
本発明は、ibc突然変異体及びibc突然変異部位により得られた水稲の脆性茎品種、並びに上記の物理的変異誘発、化学的変異誘発及び生物的変異誘発を含む様々な手段及び遺伝子編集技術によりIBC遺伝子を機能欠損させて突然変異させて得られた水稲の脆性茎品種の稲わら処理における応用を開示し、該応用は脆性稲わらを原料とする飼料及び肥料製品を含む。
【0021】
好ましくは、前記宿主細胞は微生物細胞である。
【0022】
好ましくは、前記微生物細胞は大腸菌細胞又はアグロバクテリウム細胞である。
【0023】
稲わらが脆くなるように栽培する方法であって、当該方法は、物理的変異誘発、化学的変異誘発及び生物的変異誘発を含む変異誘発手段、又は遺伝子編集技術により上記の水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの制御遺伝子IBCを機能欠損させて水稲株を得るステップを含み、得られた水稲株は脆性茎表現型を示す。
【0024】
稲わらが脆くなるように栽培する方法であって、当該方法は、上記の突然変異部位を有する水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcを他の水稲品種とハイブリダイゼーションして、後代分離により脆性茎表現型の水稲株を得るステップを含む。
【0025】
本発明は、ibc突然変異体及びibc突然変異部位により得られた水稲の脆性茎品種、並びに上記の物理的変異誘発、化学的変異誘発及び生物的変異誘発を含む様々な手段及び遺伝子編集技術によりIBC遺伝子を機能欠損させて突然変異させて得られた水稲の脆性茎品種の稲わら処理における応用を開示し、該応用は脆性稲わらを原料とする飼料及び肥料製品を含む。
【0026】
上記の方法により得られた脆性茎水稲又は脆性稲わらを原料とする飼料又は肥料における応用である。
【0027】
有益な効果は以下のとおりである。本発明における脆性茎水稲又は脆性稲わらを原料とし、飼料に用いると咀嚼及び消化に寄与し、肥料に用いると圃場で分解しやすい。
【0028】
本発明が解決しようとする技術的課題の他の1つは、水稲の成熟期の茎の機械的強度の制御遺伝子IBC突然変異部位を同定する方法を提供することにある。
【0029】
本発明は、以下の技術的手段により上記の技術的課題を解決することができる。
上記の水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位を同定する方法であって、
プライマーibc-jd-1及びibc-jd-2によりPCR増幅を行い、前記ibc-jd-1フォワードプライマーibc-jd-1-Fのヌクレオチド配列がSEQ ID No.4に示され、前記ibc-jd-1リバースプライマーibc-jd-1-Rのヌクレオチド配列がSEQ ID No.5に示され、前記ibc-jd-2フォワードプライマーibc-jd-2-Fのヌクレオチド配列がSEQ ID No.6に示され、前記ibc-jd-2リバースプライマーibc-jd-2-Rのヌクレオチド配列がSEQ ID No.7に示されるステップ(1)と、
2対のプライマーの増幅産物に対してアガロースゲル電気泳動検出を行い、検出表示結果においてibc-jd-1プライマーのみにターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位がホモ接合型であり、検出表示結果においてibc-jd-2プライマーのみにターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位を含有せずに野生型であり、検出表示結果においてibc-jd-1及びibc-jd-2プライマーにいずれもターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位がヘテロ接合型であるステップ(2)と、を含む。
【0030】
有益な効果は以下のとおりである。ibcの固有の突然変異タイプに応じてPCR増幅の特異的プライマーを設計し、該プライマーを利用して同定対象の水稲DNAに対してPCR増幅を行い、アガロース電気泳動検出によりホモ接合、ヘテロ接合及びibc突然変異部位を含有しない水稲材料を明確に区別することができる。この方法はibc突然変異部位を利用して水稲の脆性茎の新品種を栽培する追跡同定に使用することができる。
【0031】
本発明の利点は以下のとおりである。本発明は、ポジショナルクローニング方法により水稲の茎の機械的強度を制御する遺伝子IBCを分離同定し、材料の表現型解析及び遺伝相補実験により理想的な脆性茎表現型のIBC遺伝子の水稲の茎の機械的強度及び細胞壁成分の制御における機能が証明され、且つ該遺伝子を利用して大規模生産に適した脆性茎水稲品種「科輻粳7号」を栽培することに成功し、品種から稲わら処理の難題を真に解決した。
【0032】
IBCコード化キシランアセチルトランスフェラーゼは二次細胞壁ヘミセルロース多糖修飾において重要な役割を果たしている。IBCの対立変異及び遺伝子編集された機能欠損突然変異体において、茎は成熟後期に脆性茎表現型を示し、葉身は脆くなく、生産性に優れ、他の農業形質は明らかに変化せず、収穫期に圃場で収穫した稲わらは粉砕しやすく、粉砕して圃場に戻すのが容易であり、稲わらを飼料とする際に粉砕してサイレージしやすく、動物が咀嚼、消化しやすい。
【0033】
遺伝子IBCは、分子レベルでの水稲の二次細胞壁合成制御の遺伝的基礎の今後の解明、水稲の分子設計に基づく環境に優しい新品種の育種に、理論的根拠、材料及び遺伝的サポートを提供する。
【0034】
ibcの固有の突然変異タイプに応じてPCR増幅の特異的プライマーを設計し、該プライマーを利用して同定対象の水稲DNAに対してPCR増幅を行い、アガロース電気泳動検出によりホモ接合、ヘテロ接合及びibc突然変異部位を含有しない水稲材料を明確に区別することができる。この方法はibc突然変異部位を利用して水稲の脆性茎の新品種を栽培する追跡同定に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の株型の比較図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の茎折れの比較図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の葉身折れの比較図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の茎の抗折力の測定結果を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の葉身の抗折力の測定結果を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の草丈の測定結果を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の分げつ数の測定結果を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の穂粒数の測定結果を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の穂長の測定結果を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の結実率の測定結果を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の千粒重の測定結果を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施例1における野生型WT及びibc突然変異体の最下位葉から2節目の茎の横断面の電子顕微鏡図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施例2におけるIBC遺伝子局在化を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施例2におけるIBC遺伝子MutMapの解析図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施例2におけるibc突然変異部位の構造模式図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施例2におけるibc突然変異部位の同定結果を示す図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施例2におけるpIBCF発現ベクターの構造図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施例2における遺伝相補株の表現型を示す図である。
【
図19】
図19は、本発明の実施例3におけるCRISPR/Cas9編集IBC遺伝子の配列マップである。
【
図20】
図20は、本発明の実施例3におけるCRISPR/Cas9遺伝子編集株の脆性茎表現型を示す図である。
【
図21】
図21は、本発明の実施例3におけるCRISPR/Cas9遺伝子編集株の株型を示す図である。
【
図22】
図22は、本発明の実施例4における野生型WT及びibc突然変異体材料を刈り入れた後に粉砕した稲わらを示す図である。
【
図23】
図23は、本発明の実施例4における野生型WT及びibc突然変異体材料の稲わらの粉砕長さの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施例の目的、技術的解決策及び利点をより明確にするために、以下、本発明の実施例を参照して、本発明の実施例の技術的解決策を明確且つ完全に説明するが、明らかに、説明される実施例は本発明の実施例の一部であり、実施例の全部ではない。本発明の実施例に基づいて、当業者が進歩性のある労働を必要とせずに取得する他の実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0037】
特に説明しない限り、下記の実施例に用いる試験材料及び試薬などはいずれも商業的供給源から入手することができる。
【0038】
実施例に明記されていない具体的な技術又は条件は、いずれも当該分野の文献に説明されている技術又は条件又は製品の説明書に従うことができる。
【0039】
実施例1
理想的な脆性茎突然変異体ibcの表現型解析
(1)農業形質の解析
重粒子線
12C
6+(エネルギー80MeV、線量120Gy)によりジャポニカ稲の品種である武運粳7号(WYJ7)を変異誘発してibc突然変異体を得た。該突然変異体の表現型の特徴は、出穂初期では、草丈、分げつ数及び生育期が野生型と明らかな相違はないが、登熟期の後期では、茎は脆性茎表現型を示し、葉身及び他の農業形質、例えば、
図1~
図11に示すように、穂粒数、穂長、結実率、千粒重などに明らかな相違はなかった。
【0040】
(2)ibc突然変異体の遺伝子解析
ibc突然変異体が登熟期の後期に脆性茎を形成する分子メカニズムを研究するために、まず遺伝子解析を行った。ibc突然変異体を利用して野生型武運粳7号とハイブリダイゼーションして戻し交配集団を構築した。480株のF
2世代の分離集団において、脆性茎表現型の株は112株あり、通常の茎の株は368株あり、脆性茎及び通常の茎の株の数の分離比は1:3(χ
2[1:3]=0.18<χ
20.05=3.84、P>0.05)に一致し、
600株のF
2世代の分離集団において、脆性茎表現型の株は159株あり、通常の茎の株は441株あり、脆性茎及び通常の茎の株の数の分離比は1:3(χ
2[1:3]=0.24<χ
20.05=3.84、P>0.05)に一致した。上記の結果は、ibc突然変異体の脆性茎性状が1対の単一遺伝子の劣性制御を受け、且つ遺伝的背景の影響を受けないことを示している。
【0041】
(3)茎の横断面の電子顕微鏡による観察
ibc突然変異体の脆性茎の形成メカニズムを更に研究するために、走査型電子顕微鏡により野生型及びibc突然変異体の最下位葉から2節目の横断面を観察したところ、ibc突然変異体の厚壁組織の細胞壁は野生型よりも明らかに薄く(
図12)、厚壁組織の二次細胞壁が薄くなることはibc突然変異体の脆性表現型を形成する原因であることを示している。
【0042】
実施例2
理想的な脆性茎遺伝子IBCの遺伝子局在化
(1)局在化集団の構築
ibc突然変異体を利用してインディカ稲93-11、華粳せん74、南京11などの品種とハイブリダイゼーションしてそれぞれ得られた異なるハイブリダイゼーション組合せのF1世代を自殖して分離集団の種子を得て、これらの種子を圃場で栽培し、登熟期の後期に茎が脆性茎を示す単株を局在単株として選択した。DNAを抽出するために、単株から各株に100mg程度の葉身を取った。
【0043】
(2)単純反復配列(SSR、Simple Sequence Repeat)の多型スクリーニング
既に報告されている水稲の12染色体に均一に分布するSSRプライマーを利用してibc突然変異体及び華粳せん74に対して多型スクリーニングを行って、多型を有するSSRプライマーを得て次のステップの実験を行った。
【0044】
(3)IBC遺伝子の局在化
まず、ibc突然変異体と華粳せん74とにより構築される分離集団における脆性茎表現型単株からランダムに21株選択してIBC遺伝子の初期局在化を行った。スクリーニングして得られた多型を有するSSRプライマーを選択してこの21個の単株に対して連鎖解析を行った。結果は、
図13に示すように、3番染色体の長腕端の分子マーカーCSR7及びCSR18が突然変異遺伝子に明らかに関連していることを示した。図中のRecombinantsはリコンを示し、IBC遺伝子がCSR7とCSR18との間に位置することを更に確認された。その範囲は約8.66Mb範囲である。
【0045】
IBC遺伝子の局在化区間を更に縮小するために、CSR7とCSR18分子マーカーとの間から多型を有するプライマー(IBC遺伝子局在化に用いるプライマー配列を表1に示す)をより多く検索し、且つ局在化集団の数を拡大し、より大きな局在化集団に対して連鎖解析を行った。
図13に示すように、図中のRecombinantsはリコンを示す。最終的にはIBC遺伝子をIndelマーカーFM2とFM5との間、即ち、およそ3.40Mbの区間内で細かく局在化し、且つ分子マーカーFM3及びFM4が同時に分離された。
【0046】
【0047】
(4)候補遺伝子の取得及びIBC遺伝子のクローニング
ハイスループットの第二世代シーケンス及びフラグメントをより長く読み取る第三世代シーケンスなどの技術の発展に伴い、異なる変異タイプの突然変異体遺伝子の局在化においてより多くの選択肢がある。従来のポジショナルクローニング技術ではIBC遺伝子に対して局在化区間を継続的に縮小できないことは、その固有の変異タイプに起因する可能性がある。第二世代シーケンス及び第三世代シーケンスによりIBC遺伝子を局在化することを検討したところ、第二世代シーケンスに基づくMutMap局在化の結果は上記のポジショナルクローニング結果に一致した(
図14)。第三世代シーケンスにより第二世代シーケンス結果と合わせてibc突然変異体のゲノムを指定位置で組み合わせたところ、ibc突然変異体は上記の局在化区間内に染色体の大きなフラグメントの逆位がある(模式図を
図15に示す)ことが判明し、逆位両端の遺伝子を解析したところ、一端の切断点はLOC_Os03g18140遺伝子にあり、該遺伝子の機能欠損突然変異をもたらしていることが判明した。LOC_Os03g18140は、他端の切断点が遺伝子のコード領域に位置しないことから、IBCの候補遺伝子として注目されている。
【0048】
(5)ibc突然変異部位の同定
ibc突然変異のタイプに応じて対応する同定プライマーを設計してPCR増幅を行う。プライマー名はそれぞれibc-jd-1(ibc突然変異部位はバンドを増幅できるが、野生型はバンドを増幅できない)及びibc-jd-2(野生型はバンドを増幅できるが、ibc突然変異部位はバンドを増幅できない)である。同定の結果、ibc突然変異体はibc-jd-1プライマーのみを利用してバンドを増幅できるが、野生型はibc-jd-2プライマーのみを利用してバンドを増幅できる(
図16)ことが示された。
【0049】
(6)IBC遺伝子の機能相補性の検証
LOC_Os03g18140がIBC遺伝子であることを検証するために、野生型の最下位葉から2節目を材料として、RNAを抽出して逆転写して増幅してcDNAを得た。LOC_Os03g18140そのもののプロモーター遺伝子(ATG上流3000bpフラグメント)により駆動されるLOC_Os03g18140発現ベクターpIBCFを構築した。pIBCF発現ベクターの構造図を
図17に示す。
図18に示すように、pIBCF発現ベクターをibc突然変異体に移入して得られた陽性遺伝子組み換えT0世代株の茎は全て正常レベルに回復する。この結果によれば、LOC_Os03g18140遺伝子はIBC遺伝子であることが証明される。
【0050】
構築発現ベクターpIBCFに用いるプライマーは、
pIBC-F:5′-cggaattcTTCACTTTTGGGCATTGTTC-3′
pIBC-R:5′-cgggtaccCTCCGGAGCGCCCAGGAAGG-3′
IBC-CDS-F:5′-cgggtaccATGCAGCAGCGGCGGAAGTC-3′
IBC-CDS-R:5′-cgggatccCTACTGGTCGGATGACCATG-3′である。
【0051】
発現ベクターpIBCFの構築方法は以下のステップを含む。
(1)pIBC-F及びpIBC-Rプライマーを利用して、野生型武運粳7号のDNAをテンプレートとして、得られたPCR産物を増幅し、EcoRI及びKpnI制限エンドヌクレアーゼにより二重消化するとともに、該酵素を利用してpCAMBIA2300骨格を二重消化し、更にT4リガーゼを利用して増幅されたpIBCのフラグメントをpCAMBIA2300ベクターに挿入して、中間ベクターpCAMBIA2300-pIBCを得た。
(2)IBC-CDS-F及びIBC-CDS-Rプライマーを利用して、野生型武運粳7号のcDNAをテンプレートとして、得られたPCR産物を増幅し、KpnI及びBamHI制限エンドヌクレアーゼにより二重消化するとともに、該酵素を利用してステップ(1)で得られた中間ベクターpCAMBIA2300-pIBCを二重消化し、更にT4リガーゼを利用して増幅されたIBC-CDSフラグメントをpCAMBIA2300-pIBCベクターに挿入して、最終ベクターpCAMBIA2300-pIBC::IBCを得た。該ベクターをpIBCFと称す。
図17に示す。
【0052】
実施例3
水稲の理想的な脆性茎品種を栽培する方法
(1)ibc突然変異部位を利用して新たな脆性茎品種を栽培する
ibc突然変異体を通常の茎の水稲品種、例えば、93-11、華粳せん74、稲花香2号などとハイブリダイゼーション、戻し交配及び自殖し、且つこの過程において同定プライマーibc-jd-1及びibc-jd-2によりibc突然変異部位及び遺伝的背景の選択を行い、最終的に93-11、華粳せん74、稲花香2号などの背景にホモ接合ibc突然変異遺伝子を有する脆性茎新品種を得た。具体的な実施ステップは以下のとおりである。
(i)受容体親、例えば、93-11、華粳せん74、稲花香2号などを雄親としてibc突然変異体とハイブリダイゼーションして、F1を得た。
(i)F1を雌親として受容体親、例えば、93-11、華粳せん74、稲花香2号などと戻し交配して、BC1F1を得た。
(iii)BC1F1を栽培し、それぞれ同定プライマーibc-jd-1及びibc-jd-2によりibc遺伝子型を検出し、ibcヘテロ接合遺伝子型を選択する。即ち、上記の2対のプライマーPCR増幅産物には、いずれもターゲットバンドがある。
(iv)水稲の12対の染色体に均一に分布し(SSR、SNP、InDel、EST、RFLP、AFLP、RAPD、SCARタイプのマーカーを含むが、それらに限らない)且つibc突然変異体と反復親との間に多型を有する分子マーカーを用いて、ステップ3で選択された単株に対して遺伝的背景の同定を行い、反復親遺伝子型との類似度が高い(例えば、75%よりも高い)株を選択した。
(v)ステップ4で選択された株を受容体親、例えば、93-11、華粳せん74、稲花香2などと戻し交配して、BC2F1を得た。
(vi)BC2F1を栽培し、ステップ3及びステップ4を繰り返し、ibc遺伝子型がヘテロ接合で遺伝的背景の回復率が高い(例えば、95%よりも高い)株を選択し、自殖種子BC2F2を収穫した。
(vii)BC2F2を栽培し、ステップ3及びステップ4を繰り返し、ibc遺伝子型がヘテロ接合で遺伝的背景ホモ接合率が最も高い株を選択し、BC2F3を収穫した。BC2F3後代から分離したibcホモ接合株において、同定プライマーibc-jd-1とibc-jd-2の検出結果は、ibc-jd-1のみがターゲットバンドを増幅でき、且つ茎表現型が脆性茎表現型であることを示した。
【0053】
(2)遺伝子編集技術により新たな脆性茎品種を栽培する
CRISPR/Cas9技術によりIBC遺伝子を編集し、IBC遺伝子機能欠損の突然変異体を作成した。IBC遺伝子ノックアウトされたいくつかの独立したホモ接合株系において、後期に茎が脆くなることを除いて(
図20)、他の農業形質に明らかな相違はなかった(
図21)。
【0054】
CRISPR/Cas9ベクターの構築及び形質転換方法は以下のとおりである。
IBC遺伝子のgDNA配列に基づいて設計したターゲットプライマーは、
IBC-CRISPR-U3:5′-CCTCTACAACGAGGACATCAAGT-3′であり、
具体的な構築方法は華南農業大学の劉耀光教授が発表した論文(A robust CRISPR/Cas9 system for convenient,high-efficiency multiplex genome editing in monocot and dicot plants.(2015) Molecular Plant,8(8):1274-1284)、アグロバクテリウム介在の形質転換法により該ベクターをWYJ7に導入する(水稲の形質転換は出願者の実験室で完了した)を参照されたい。野生型及び遺伝子組み換え水稲の表現型解析を比較したところ、IBC遺伝子をノックアウトしたいくつかのホモ接合株系crispr-ibc(突然変異部位の配列決定ピークマップを
図19に示す)では、茎が後期にいずれも脆性茎表現型を示したが(
図20)、他の農業形質に明らかな相違がない(
図21)ことが判明した。
【0055】
実施例4
ibc脆性茎水稲の飼料化についての評価
(1)稲わらの圃場での粉砕実験
野生型(WT)及びibc突然変異体材料を大面積で栽培し、収穫期にコンバインにより圃場で刈り入れたところ、
図22に示すように、ibc突然変異体の稲わらの刈り入れた後の粉砕程度が野生型(WT)よりも明らかに高かった。1対の材料の稲わらの粉砕長さの統計によると、
図23に示すように、ibc突然変異体の粉砕後の稲わらの長さはほとんど5cm未満及び5~10cm長さの範囲に集中している。この長さは稲わらが後期に圃場で分解して有機肥料の原材料とすることに寄与し、飼料化における牛と羊の咀嚼及び消化にも寄与する。
【0056】
(2)ヤギの飼育
脆性茎水稲の飼料用価値を評価するために、脆性茎稲わらのサイレージ及び肉羊の給餌についての研究を実施した。10年以上の飼育経験があって、1000頭以上のヤギを飼育する規模の羊牧場を選択して実験作業を実施した。まず、脆性茎稲わら及び一般的な稲わらをそれぞれ5トン収集し、全株トウモロコシのサイレージ方法に従って処理し、大きな包みの形式でサイレージし、同じ時期の全株トウモロコシのサイレージを対照とした。2ヶ月サイレージしてから包みを開けてサンプルを取って検出した。
【0057】
結果によれば、サイレージ後の脆性茎飼料の外観は黄緑色で、酸味のある香りが明らかに強く、手触りが柔らかくて手にくっつくことがなく、優れたサイレージ飼料特性を備えていることが分かった。成分検出の結果、サイレージ脆性茎の可溶性糖及びデンプンの含有量はいずれも一般的な稲わら及び全株トウモロコシよりも高く、優れた栄養価値を示している。大きさがほぼ一致する36頭の羊を選択して耳に切れ目をつけて番号付けして、3つの飼育処理に分け、処理毎に3つの柵に分け、柵毎に羊4頭とし、粗飼料と濃厚飼料を一定の比率で混合する飼育方式で、予備試験において2週間給餌し、本試験において2ヶ月給餌し、20日おきに1回秤量した。
【0058】
測定結果を表2に示す。結果によれば、サイレージ脆性茎飼料の給餌効果が最も良く、全体の体重増加率は48.6%であり、羊1頭当たりの体重は毎日平均して137グラム増加し、サイレージトウモロコシ及び一般的な稲わらよりも17.1%、21.2%それぞれ向上し、良好な応用可能性を示している。
【0059】
表2 脆性茎水稲、一般的な水稲、全株トウモロコシのサイレージ後の飼育実験結果
【0060】
(3)肉牛の飼育
40頭のホルスタイン肉牛は、試験牛は成長発育が正常で、太り具合が中等で、健康で病気がなく、成長速度は比較的速い時期にあり、年齢は4ヶ月程度で、体重範囲は140~185キログラムである必要がある。一般的な稲わら(A組)、脆性茎稲わら(B組)、サイレージ脆性茎稲わら(C組)及びサイレージ全株トウモロコシの稲わら(D組)の4組にランダムに分け、であり、各組10頭とし、別々に給餌し、朝と夕方にそれぞれ1回給餌した。濃厚飼料の規制量が毎日毎組40Kgであり、一般的な稲わら及び他の試験材料には制限がない。給餌時間は8週間である。
【0061】
体重増加効果については、一般的な稲わら(A組)による飼育は全体的に体重が737.5Kg増加し、脆性茎稲わら(B組)による飼育は全体的に体重が790.5Kg増加し、サイレージ脆性茎稲わら(C組)による飼育は全体的に体重が825.5Kg増加し、及びサイレージ全株トウモロコシの稲わら(D組)による飼育は全体的に体重が841Kg増加した。サイレージ脆性茎稲わらがサイレージ全株トウモロコシの稲わらの効果に近いことを示しており、代替的に使用できる可能性がある。
【0062】
飼料の嗜好性については、摂取量が最も多いのはサイレージ脆性茎稲わら(C組)1460.6Kgであり、その次はサイレージ全株トウモロコシの稲わら(D組)1429.4Kgであり、最も少ないのは一般的な稲わら(A組)であった。摂取速度はサイレージ脆性茎稲わら>サイレージ全株トウモロコシの稲わら>脆性茎稲わら>一般的な稲わらであった。
【0063】
以上の実施例は単に本発明の技術的解決策を説明するためのものであり、それを制限するものではない。上記の実施例により本発明を詳しく説明したが、当業者であれば以下のことを理解すべきである。上記の各実施例に記載された技術的解決策を修正し、又はその中の一部の技術的特徴を等価置換することは依然として可能であり、これらの修正又は置換は対応する技術的解決策の本質を本発明の各実施例の技術的解決策の趣旨及び範囲から逸脱させるものではない。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-11-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位を同定する方法であって、
プライマーibc-jd-1及びibc-jd-2によりPCR増幅を行い、前記ibc-jd-1フォワードプライマーibc-jd-1-Fのヌクレオチド配列がSEQ ID No.4に示され、前記ibc-jd-1リバースプライマーibc-jd-1-Rのヌクレオチド配列がSEQ ID No.5に示され、前記ibc-jd-2フォワードプライマーibc-jd-2-Fのヌクレオチド配列がSEQ ID No.6に示され、前記ibc-jd-2リバースプライマーibc-jd-2-Rのヌクレオチド配列がSEQ ID No.7に示されるステップ(1)と、
2対のプライマーの増幅産物に対してアガロースゲル電気泳動検出を行い、検出表示結果においてibc-jd-1プライマーのみにターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位がホモ接合型であり、検出表示結果においてibc-jd-2プライマーのみにターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位を含有せずに野生型であり、検出表示結果においてibc-jd-1及びibc-jd-2プライマーにいずれもターゲットバンドがある場合、ibc突然変異部位がヘテロ接合型であるステップ(2)と、を含み、
前記突然変異部位は染色体フラグメント逆位であり、前記染色体フラグメント逆位の位置はLOC_Os03g18140遺伝子に位置することを特徴とする水稲の理想的な脆性茎突然変異体ibcの突然変異部位を同定する方法。
【国際調査報告】