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特表2024-520340液体製剤を含むバイアルへの充填方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】液体製剤を含むバイアルへの充填方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 17/00 20060101AFI20240517BHJP
   B65B 3/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61J 1/20 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G01F17/00 Z
B65B3/00
A61J1/20 314C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571656
(86)(22)【出願日】2022-05-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2022063492
(87)【国際公開番号】W WO2022243396
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】2107153.5
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダスノア、セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シモナン、ローラ
【テーマコード(参考)】
3E118
4C047
【Fターム(参考)】
3E118AA02
3E118AB17
3E118DA05
3E118EA01
4C047AA05
4C047AA27
4C047HH03
4C047HH07
(57)【要約】
本発明は、医薬品分野、特に、バイアル入り液体製剤を収容する容器の充填に関する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベルクレーム体積(Vlabel)を容器から確実に引き出すことができるようにするために、前記ラベルクレーム体積に加えて前記容器に必要とされる液体製剤の体積である、前記液体製剤を含む前記容器に添加されるべき前記液体製剤の過剰体積(Voverfill)を予測する方法であって、コンピュータを使用して以下の工程:
a)第1の値セットを受け取る工程であって、前記第1の値セットが:
i.引き出しシリンジを使用して前記容器から前記液体製剤を分配した後の前記容器および引き出しシリンジ内の前記液体製剤の予想残存体積(VHU);
ii.前記容器に前記液体製剤を充填するために使用される充填装置の容器充填および抽出可能体積試験の総変動性(σtotal);
iii.所定の許容係数(k);
を含む、工程、
b)以下の方程式(1)
overfill=VHU+k×σtotal+A
に示すように、少なくともVHUとk×σtotalとの総和を実施することによって前記過剰体積を予測する工程であって、式中、Aは、総和における任意の1つ以上のさらなる項を表す、工程、ならびに
c)添加されるべき前記予測された過剰体積を出力する工程、
を実行することを含む、方法。
【請求項2】
ラベルクレーム体積(Vlabel)を容器から確実に引き出すことができるようにするために、前記ラベルクレーム体積に加えて前記容器に必要とされる液体製剤の体積である、前記液体製剤を含む前記容器に添加されるべき前記液体製剤の過剰体積(Voverfill)を予測する方法であって、以下の工程:
a)第1の値セットを収集する工程であって、前記第1の値セットが、
i.引き出しシリンジを使用して前記容器から前記液体製剤を分配した後の前記容器および引き出しシリンジ内の前記液体製剤の予想残存体積(VHU);
ii.前記容器に前記液体製剤を充填するために使用される充填装置の容器充填および抽出可能体積試験の総変動性(σtotal);
iii.所定の許容係数(k);
を含む、工程、
b)以下の方程式(1)
overfill=VHU+k×σtotal+A
に示すように、少なくともVHUとk×σtotalとの総和を実施することによって前記過剰体積を予測する工程であって、式中、Aは、総和における任意の1つ以上のさらなる項を表す、工程、
を含む、方法。
【請求項3】
前記kが、1.64~2.78の範囲の値を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の値セットが、任意で平均充填バイアス(Bfilling)をさらに含み、前記過剰体積を予測する工程が、方程式(1)の以下のバージョン(1bis):
overfill=VHU+Bfilling+k×σtotal
に示すように、少なくともVHU、k×σtotal、およびBfillingにわたって総和を実施する工程を含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
以下の工程:
a)前記液体製剤が充填される空の容器を計量してWtareを得る工程、
b)前記容器に所与の体積の前記液体製剤を充填する工程、
c)前記充填された容器を計量してWfullを得る工程、
d)前記容器に収容された前記製剤の重量(Wprod)を得る工程であって、Wprod=Wfull-Wtareである、工程、
d)シリンジを用いて前記容器から前記液体製剤を引き出す工程、
e)針を空にすることなく、前記充填されたシリンジの内容物全体を、別の風袋を量った清浄で乾燥した容器に排出する工程、
f)前記充填された容器内の前記抽出された液体を計量して、値Wextrを得る工程、
g)以下の方程式(2):VHU=(Wprod-Wextr)/ρを使用してVHUを決定する工程であって、式中、ρは前記液体製剤の密度である、工程、
を実施することによってVHUを決定する工程をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
以下の工程:
a)空の容器に所与の重量の液体製剤(Wprod)を充填する工程、
b)シリンジを用いて前記容器から前記液体製剤を引き出す工程、
c)針を空にすることなく、前記充填されたシリンジの内容物全体を、別の風袋を量った清浄で乾燥した容器に排出する工程、
d)前記充填された容器内の前記抽出された液体を計量して、値Wextrを得る工程、
e)以下の方程式(2):VHU=(Wprod-Wextr)/ρを使用してVHUを決定する工程であって、式中、ρは前記液体製剤の密度である、工程、
を実施することによってVHUを決定する工程をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項7】
収集する値の前記第1のセットが、前記液体製剤の粘度に対応する粘度ηおよび前記容器のネック直径をさらに含み、以下の方程式(3):
【数1】

に従ってVHUを決定する工程をさらに含み、式中、
【数2】

は前記ネック直径に依存する値である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
fillingが実験的に予め決定される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
σtotalが、以下の方程式(4):
【数3】

を使用して計算され、式中、σfillingは充填標準偏差であり、σanalysisは分析試験方法の標準偏差である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記液体製剤が、前記引き出しシリンジを使用して前記容器から分配される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記出力された予測された過剰体積が、任意で、コンピュータモニタまたは任意のデバイス画面上などの任意の手段を介して、前記予測された過剰体積をテキストもしくはグラフとして表示すること、前記予測された過剰体積をテキストもしくはグラフとして印刷すること、または、例えばコンピュータシステムを介した出力によって、前記予測された過剰体積を音声として通信することを可能にするために、データベース、データセット、コンピュータ可読メモリ、コンピュータ可読媒体、コンピュータプロセッサ、コンピュータネットワーク、印刷出力装置、視覚ディスプレイ、または無線受信機に送信される値である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
容器に液体製剤を充填するための方法であって、以下の工程:
a)前記液体製剤が充填される容器を提供する工程;
b)前記容器に前記液体製剤の総体積を充填する工程であって、前記液体製剤の総体積が、前記容器のラベルクレーム体積+過剰体積に対応し、前記過剰体積が請求項1~11のいずれか一項に従って決定される、工程、および
c)任意で、前記容器を少なくともストッパで閉じる工程、
を含む方法。
【請求項13】
前記容器が、アンプル、ガラスバイアル、チューブ、ボトル、シリンジ、カートリッジ、または液体製剤の貯蔵に適した他のそのようなリザーバである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
容器および引き出しシリンジ内の液体製剤の総残存体積(VHU)を決定するための方法であって、VHUが、以下の方程式(3):
【数4】

に従って決定され、式中、ηは前記液体製剤の粘度であり、
【数5】

はネック直径に依存する値である、方法。
【請求項15】
i)前記容器ネック直径が13mmである場合、値
【数6】

が174であり、μlで表され、および
ii)前記容器ネック直径が20mmである場合、値
【数7】

が262であり、μlで表される、
請求項7または請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品分野、特に、バイアル入り液体製剤を収容する容器の充填に関する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体および凍結乾燥製剤のための容器を充填する場合、わずかに過剰な体積-過剰体積または過充填体積(Voverfill)とも呼ばれる-は、目標体積(ラベルクレーム体積またはラベル表示体積(Vlabel)とも呼ばれる)が抽出され/引き出され、分配され得ることを確実にすることができる(USP<1>、USP<1151>、USP<697>、Ph.Eur.モノグラフ2.9.17)。残存体積が残っている容器閉鎖システムおよび引き出し装置などの様々なレベルで損失が発生するため、過充填が必要である。前記過剰体積は、各所与の製剤について決定されなければならず、各体裁(製剤、バイアルサイズなど)は、前記製剤の開発の非常に早い時期に決定されなければならない。抽出可能な体積を推定するための試験は、欧州薬局方(Ph.Eur.モノグラフ2.9.17、2019年7月公開)で提案されている。
【0003】
安全でない取り扱いを防止し(FDA Guidance for Industry,2015)、製剤の廃棄を制限するために(Gotham et al.,2019;Hatswell et al.,2019)、過剰体積は可能な限り最小限に抑えるべきである。過剰体積は、バイアル、引き出しシリンジおよび針におけるホールドアップ体積(VHU)、充填ラインの変動、ならびに抽出可能体積試験方法の変動性に基づいて定義することが推奨される(Manger 2019)。実際には、所与の製剤の過剰体積は、履歴データから得られた標準偏差の倍数として計算される(Sethuraman et al.,2010;Joglekar,2010;Kruszynski,2016;Levine,2017)(図1、パネルA)ホールドアップ体積および充填プロセス許容差を考慮して(Dixon and Gudinas 2018;Sethuraman et al.,2010)、実験的に定義されることが多く、抽出可能体積試験方法の変動性などの他の変動源を含まない。VHUを予測するために使用することができる回帰モデルを導出するために、容器の粘度および/または特異性を考慮に入れることも提案され(Mehta et al.,2020;Jameel et al.,2015;Akers et al.,2016)、保健機関(The Health Authorities)は、容器のタイプごとの推奨過剰体積を提案した(FDAガイダンスUSP<1151>を参照;表1を参照)。
【0004】
しかし、規制当局の懸念は、多すぎるまたは少なすぎる製剤がそれらのバイアルに充填されることである。そのような過剰および不足は、投薬ミスをもたらす可能性があり、残薬の誤用または単回用量を得るためのバイアルのプール化を導き得る(FDA Guidance for Industry,2015)。規制当局にとってさらに懸念されるのは、用量のプール化または単一バイアルの反復使用が、有害事象、最も顕著には微生物汚染によって引き起こされる有害事象への患者の曝露を増加させ得ることである。
【0005】
必要とされる液体製剤の過剰体積を予測し、したがって充填方法を最適化する必要性が依然として存在する。予測モデルは、過充填体積の定義を裏付けるために試験される体積範囲の最初の推測を提供することができる。
【発明の概要】
【0006】
定義
「過剰体積」、「過充填体積」または「Voverfill」という用語は、例えば対象への投与のために、目標体積(ラベル表示体積、ラベルクレーム体積またはVlabelとも呼ばれる)が抽出され/引き出され得ることを確実にする、容器(ガラスバイアルなど)に添加される液体製剤のわずかに過剰な体積を指す。過剰体積は、典型的にはμlまたはmlで表される。
【0007】
「ホールドアップ体積」、「残存体積」またはVHU」という用語は、抽出可能体積試験中、または液体製剤の抽出および/もしくは投与時のバイアルおよび/または引き出しシリンジ内の残存体積を指し、特に液体製剤の粘度およびバイアルのネック直径に依存する。ホールドアップ体積は、典型的にはμlまたはmlで表される。
【0008】
本明細書で使用される「容器」という用語は、広く、製剤を液体形態で保持するのに適したリザーバを指す。本発明で使用することができる容器の例としては、アンプル、ガラスバイアル、チューブ、ボトル、シリンジ(プレフィルドシリンジなど)、カートリッジ、または注射によって患者に液体製剤を送達するのに適した他のそのようなリザーバが挙げられる。
【0009】
「シグマ充填」(すなわちσfilling)という用語は、容器に液体製剤を充填するために使用されるまたは使用されることになっている充填装置の充填体積標準偏差/変動性を指す。充填変動性は、典型的には、その後所与の目標充填重量で充填されるいくつかの容器を計量することによって決定される。これは、典型的にはμlまたはmlで表される。
【0010】
「シグマ分析」(すなわちσanalysis)という用語は、抽出可能体積試験の標準偏差/変動性を指す。抽出可能体積の変動性は、典型的には、いくつかの複製バイアルに対して抽出可能体積試験を実施することによって決定される。これは、典型的にはμlまたはmlで表される。
【0011】
「シグマ合計」(すなわちσtotal)という用語は、充填標準偏差と抽出可能体積試験標準偏差とを組み合わせた総標準偏差(または総変動性)に対応する。これは、典型的にはμlまたはmlで表される。
【0012】
「RSDfilling」という用語は、相対充填標準偏差(精度)に対応し、RSDfilling=σfilling/(Vlabel+VHU)のように計算される。
【0013】
「RSDanalysis」という用語は、相対抽出可能体積試験方法の標準偏差/変動性に対応し、RSDanalysis=σanalysis/VHUのように計算される。
【0014】
「k」という用語は、許容係数に対応する値であり、すなわち、計算を実施する当業者の裁量で設定される安全マージンに対応し、例えば90%、95%、99%などの安全マージンに対応する。これは、正規分布表(http://www.z-table.com/を参照)から選択される。
【0015】
「Bfilling」という用語は、充填バイアス、すなわち目標と実際の平均充填体積との間の差に対応する。充填バイアスは、典型的には、その後所与の目標充填重量で充填されるいくつかの容器を計量することによって決定される。これは、典型的にはμlまたはmlで表される。
【0016】
「RBfilling」という用語は、平均相対充填バイアスに対応し、RBfilling=Bfilling/(Vlabel+VHU)のように計算される。
【0017】
「治療用ペプチド」、「治療用ポリペプチド」または「治療用タンパク質」という用語は、治療的使用のためのペプチド、ポリペプチド、またはサイトカイン、成長因子、ホルモン、抗体もしくは融合タンパク質などのタンパク質を指す。好ましくは、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は組換えである、すなわち組換え法によって作製される。
【0018】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、当技術分野で公知の組換え技術によって作製されるモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体および組換え抗体を含むが、これらに限定されない。「抗体」は、任意の種、特に哺乳動物種の抗体;例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、IgD、ならびにIgGA1、IgGA2を含むこの基本構造の二量体またはIgMなどの五量体として産生される抗体およびその修飾変異体を含む任意のアイソタイプのヒト抗体;例えばチンパンジー、ヒヒ、アカゲザルもしくはカニクイザル由来の非ヒト霊長動物抗体;例えばマウスもしくはラット由来の齧歯動物抗体;ウサギ、ヤギもしくはウマ抗体;ラクダ科動物抗体(例えばNanobodies(商標)などのラクダもしくはラマ由来)およびその誘導体;ニワトリ抗体などの鳥種の抗体;またはサメ抗体などの魚種の抗体を含む。「抗体」という用語はまた、少なくとも1つの重鎖および/または軽鎖抗体配列の第1の部分が第1の種に由来し、重鎖および/または軽鎖抗体配列の第2の部分が第2の種に由来する「キメラ」抗体を指す。本明細書での関心対象のキメラ抗体は、非ヒト霊長動物(例えばヒヒ、アカゲザルもしくはカニクイザルなどの旧世界ザル)に由来する可変ドメイン抗原結合配列とヒト定常領域配列とを含む「霊長類化」抗体を含む。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体に由来する配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の特異性、親和性および活性を有する、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリまたは非ヒト霊長動物などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域[または相補性決定領域(CDR)]からの残基で置き換えられたヒト抗体(レシピエント抗体)である。ほとんどの場合、CDRの外側、すなわちフレームワーク領域(FR)内で、ヒト(レシピエント)抗体の残基が対応する非ヒト残基によってさらに置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体には見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体特性をさらに改良するために行われる。ヒト化は、ヒトにおける非ヒト抗体の免疫原性を低下させ、したがって、ヒト疾患の治療への抗体の適用を容易にする。ヒト化抗体およびそれらを作製するためのいくつかの異なる技術は、当技術分野で周知である。「抗体」という用語はまた、ヒト化の代替として作製することができるヒト抗体を指す。例えば、免疫化すると、内因性マウス抗体の産生の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリを産生することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)を作製することが可能である。インビトロでヒト抗体/抗体断片を得るための他の方法は、ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイ技術などのディスプレイ技術に基づいており、少なくとも部分的に人工的にまたはドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリから作成される組換えDNAライブラリが使用される。ヒト抗体を作製するためのファージおよびリボソームディスプレイ技術は、当技術分野で周知である。ヒト抗体はまた、関心対象の抗原でエクスビボ免疫し、その後融合してハイブリドーマを生成し、次いでこれを最適ヒト抗体についてスクリーニングすることができる、単離されたヒトB細胞から作製し得る。「抗体」という用語は、グリコシル化抗体と非グリコシル化抗体の両方を指す。さらに、本明細書で使用される「抗体」という用語は、全長抗体を指すだけでなく、抗体断片、より具体的にはその抗原結合断片も指す。抗体の断片は、当技術分野で公知のように少なくとも1つの重鎖または軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つ以上の抗原に結合する。本発明による抗体断片の例としては、Fab、修飾Fab、Fab’、修飾Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFvおよびBis-scFv断片が挙げられる。前記断片はまた、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体(dAb)、例えばsdAb、VL、VH、VHHまたはラクダ科抗体(例えばNanobody(商標)などのラクダまたはラマ由来)およびVNAR断片であり得る。本発明による抗原結合断片はまた、1つまたは2つのscFvまたはdsscFvに連結されたFabを含むことができ、各scFvまたはdsscFvは同じかまたは異なる標的に結合する(例えば、治療標的に結合する1つのscFvまたはdsscFv、および例えばアルブミンに結合するによって半減期を増加させる1つのscFvまたはdsscFv)。そのような抗体断片の例は、FabdsscFv(BYbe(登録商標)とも呼ばれる)、またはFab-(dsscFv)2(TrYbe(登録商標)とも呼ばれ、例えば国際公開第2015/197772号を参照)である。上記で定義した抗体断片は、当技術分野で公知である。
【0019】
<<ρ>>という用語は、液体製剤の密度に対応する。これは、本明細書ではg/mLで表される。但し代替的に、これは、例えばg/Lもしくはkg/L(主に液体について)またはkg/mもしくはg/cm(主に固体について)で表すことができる。
【0020】
<<η>>という用語は、液体製剤の動粘度に対応する。これは、cPまたは代替的にmPa.sで区別なく表される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ラベルクレーム体積を満たすために、バイアル入り液体製剤を含む容器は、典型的には、わずかに過剰な体積で充填される(過充填される)。特定の場合に、当業者がラベルクレーム体積を満たさない高いリスクをあえて負う場合は、容器を過充填するとき、Voverfill=VHUと考えることができる。しかしながら、現在の慣行によれば、当業者は、Voverfill=VHU+k×σfillingと考える。
【0022】
関心対象のタイプの容器内の液体製剤の残存体積、容器および抽出可能体積試験の変動性ならびに許容係数を含むいくつかのパラメータのみに基づいて、容器および引き出しシリンジ内のバイアル入り液体製剤のホールドアップ体積、ならびに液体製剤を含む容器に添加されるべきバイアル入り液体製剤の過剰体積をより良好に予測または決定することが可能であったことが本発明者らの知見である。製剤粘度(例えば20℃で測定)および容器ネック直径などのさらなるパラメータも含めることができる。これらの方法のおかげで、各液体製剤および各タイプの容器に添加されるべき過剰体積をより正確に予測/決定することが可能であり、様々な利点の中でも、過充填/過剰体積の定義を裏付けるための実験試験の減少をもたらす。本明細書に記載の方法は、任意のタイプの容器に使用することができ、抽出可能体積の仕様を満たさないリスクを制限するために、全ての変動源を捉えることを可能にする。さらに、これらのモデルは、起こり得る患者の安全上の懸念を回避するために、最大過充填体積値を定義するのに役立ち得る。全体として、これらの方法はより良好なプロセス制御をもたらす。本発明の基本概念を図1に示す。
【0023】
本発明の主な目的は、ラベルクレーム体積を容器から確実に引き出すことができるようにするために、液体製剤を含む容器に添加されるべき液体製剤の過剰体積(Voverfill)を予測する方法であって、コンピュータを使用して以下の工程:
a)第1の値セットを受け取る工程であって、前記第1の値セットが:
i.引き出しシリンジを使用して容器から液体製剤を分配した後の容器および引き出しシリンジ内の液体製剤の予想残存体積(VHU);
ii.容器に液体製剤を充填するために使用される充填装置の容器充填および抽出可能体積試験の総変動性(σtotal);
iii.所定の許容係数(k);
を含む、工程、
b)以下の方程式(1)
overfill=VHU+k×σtotal+A
に示すように、少なくともVHUとk×σtotalとの総和を実施することによって過剰体積を予測する工程であって、式中、Aは、総和における任意の1つ以上のさらなる項を表す、工程、ならびに
c)添加されるべき予測された過剰体積を出力する工程、
を実行することを含む方法である。
【0024】
過剰体積は、ラベルクレーム体積(Vlabel)を容器および引き出し/分配装置(引き出し/投与シリンジなど)から確実に引き出し、したがって、例えば少なくとも1人の対象に分配することができるようにするために、液体製剤の分配前に、ラベルクレーム体積に加えて容器に必要とされる液体製剤の体積である。したがって、ラベルクレーム体積(Vlabel)を容器から確実に引き出すことができるようにするために、液体製剤の分配前にラベルクレーム体積に加えて容器に必要とされる液体製剤の体積である、液体製剤を含む容器に添加されるべき液体製剤の過剰体積(Voverfill)を予測する方法であって、コンピュータを使用して以下の工程:
a)第1の値セットを受け取る工程であって、前記第1の値セットが:
i.引き出しシリンジを使用して容器から液体製剤を分配した後の容器および引き出しシリンジ内の液体製剤の予想残存体積(VHU);
ii.容器に液体製剤を充填するために使用される充填装置の容器充填および抽出可能体積試験の総変動性(σtotal);
iii.所定の許容係数(k);
を含む、工程、
b)以下の方程式(1)
overfill=VHU+k×σtotal+A
に示すように、少なくともVHUとk×σtotalとの総和を実施することによって過剰体積を予測する工程であって、
式中、Aは、総和における任意の1つ以上のさらなる項を表す、工程、ならびに
c)添加されるべき予測された過剰体積を出力する工程、
を実行することを含む方法も、本明細書に記載される。
【0025】
本発明の別の目的は、液体製剤を含む容器に添加されるべき液体製剤の過剰体積(Voverfill)を予測する方法であって、以下の工程:
a)第1の値セットを収集する工程であって、前記第1の値セットが、
i.引き出しシリンジを使用して容器から液体製剤を分配した後の容器および引き出しシリンジ内の液体製剤の予想残存体積(VHU);
ii.容器に液体製剤を充填するために使用される充填装置の容器充填および抽出可能体積試験の総変動性(σtotal);
iii.所定の許容係数(k);
を含む、工程、
b)以下の方程式(1)
overfill=VHU+k×σtotal+A
に示すように、少なくともVHUとk×σtotalとの総和を実施することによって過剰体積を予測する工程であって、式中、Aは、総和における任意の1つ以上のさらなる項を表す、工程、
を含む方法である。
【0026】
過剰体積は、ラベルクレーム体積(Vlabel)を容器および引き出し/分配装置(引き出し/投与シリンジなど)から確実に引き出し、次いで、例えば少なくとも1人の対象に分配することができるようにするために、液体製剤の分配前に、ラベルクレーム体積に加えて容器に必要とされる液体製剤の体積に対応する。したがって、ラベルクレーム体積(Vlabel)を容器から確実に引き出すことができるようにするために、液体製剤の分配前にラベルクレーム体積に加えて容器に必要とされる液体製剤の体積である、液体製剤を含む容器に添加されるべき液体製剤の過剰体積(Voverfill)を予測する方法であって、以下の工程:
a)第1の値セットを収集する工程であって、前記第1の値セットが、
i.引き出しシリンジを使用して容器から液体製剤を分配した後の容器および引き出しシリンジ内の液体製剤の予想残存体積(VHU);
ii.容器に液体製剤を充填するために使用される充填装置の容器充填および抽出可能体積試験の総変動性(σtotal);
iii.所定の許容係数(k);
を含む、工程、
b)以下の方程式(1)
overfill=VHU+k×σtotal+A
に示すように、少なくともVHUとk×σtotalとの総和を実施することによって過剰体積を予測する工程であって、式中、Aは、総和における任意の1つ以上のさらなる項を表す、工程、
を含む方法も、本明細書に記載される。
【0027】
全体として本発明による方法では、kは、好ましくは1.64(z0.95)~2.78(z0.9973)の範囲の値を有する。具体的な値は、ラベルクレーム体積を引き出さないというリスクを負う意思に依存する。これは、個人または会社の決定である。これは、仮説検定で使用される周知のz表に基づく。
【0028】
本明細書に記載の任意の方法の代替実施形態では、収集する/受け取る値の第1のセット(工程a)は、平均充填バイアス(Bfilling)をさらに含む。そのような場合には、方程式(1)を方程式(1bis):
overfill=VHU+Bfilling+k×σtotal
に修正する。言い換えると、過剰体積の予測は、方程式(1)の以下のバージョン(1bis):
overfill=VHU+Bfilling+k×σtotal
に示すように、少なくともVHU、k×σtotal、およびBfillingにわたって総和を実施することを含む。
【0029】
このパラメータを含めると、方法の精度はさらに改善するが、最初の式が既に高いレベルの精度を提供するので、必須ではない。Bfillingを使用する場合、これは実験的に予め決定することができる。
【0030】
全体として本発明の文脈において、値VHUは、様々な方法に従って決定または予測することができる。VHUを決定する1つの方法は、以下の主な工程:
a)液体製剤が充填される空の容器を計量してWtareを得る工程、
b)容器に所与の体積の液体製剤を充填する工程、
c)充填された容器を計量してWfullを得る工程、
d)容器に収容された製剤の重量(Wprod)を得る工程であって、Wprod=Wfull-Wtareである、工程、
d)シリンジを用いて容器から液体製剤を引き出す工程、
e)針を空にすることなく、充填されたシリンジの内容物全体を、別の風袋を量った清浄で乾燥した容器に排出する工程、
f)充填された容器内の抽出された液体を計量して、値Wextrを得る工程、
g)以下の方程式(2):VHU=(Wprod-Wextr)/ρを使用してVHUを決定する工程であって、式中、ρは液体製剤の密度である、工程、
を含む。
【0031】
この代替方法の文脈では、液体製剤の所与の体積は、それが可能なVHU(例えば現在の方法によって決定され、例えばUSP<1151>および表1を参照)をわずかに上回り、容器を完全に充填するのに必要な体積以下の体積である限り、任意の体積であり得る。例えば、ラベル表示体積(またはラベル表示サイズ)が2mLであり、製剤が可動性である場合、充填される所与の体積は、少なくとも0.15mLをわずかに上回る任意の体積である。別の例では、ラベル表示体積(またはラベル表示サイズ)が10mLであり、製剤が粘性である場合、充填される所与の体積は、少なくとも0.70mLをわずかに上回る任意の体積である。
【0032】
HUを決定する代替方法は、以下の主な工程:
a)空の容器に所与の重量の液体製剤(Wprod)を充填する工程、
b)シリンジを用いて容器から液体製剤を引き出す工程、
c)針を空にすることなく、充填されたシリンジの内容物全体を、別の風袋を量った清浄で乾燥した容器に排出する工程、
d)充填された容器内の抽出された液体を計量して、値Wextrを得る工程、
e)以下の方程式(2):VHU=(Wprod-Wextr)/ρを使用してVHUを決定する工程であって、式中、ρは液体製剤の密度である、工程、
を含む。
【0033】
この方法を図2に例示する。この代替方法の文脈では、液体製剤の所与の充填重量は、それが可能なVHU(例えばUSP<1151>に記載されている方法によって決定され、例えば10%)をわずかに上回り、容器を完全に充填するのに必要な体積に対応する充填重量以下である体積に対応する限り、任意の重量であり得る。
【0034】
しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、単に製剤の粘度および容器のネック直径に基づいて、値VHUを予測または決定することができる方法を同定した。したがって、容器および引き出しシリンジ内の液体製剤の残存体積(VHU)を決定または予測する方法であって、以下の方程式(3):
【数1】

に従ってVHUを決定または予測する工程を含み、式中、
【数2】

は、ネック直径に依存する値であり、ηは液体製剤の粘度に対応する、方法が本明細書に記載される。特に、本発明者らは、容器が13mmのネック直径(2R型ガラスバイアルなど)および174の値の
【数3】

(例えば20℃などの室温で粘度を測定する場合)を有する場合、VHUを決定または予測する方程式は、VHU=174×η1/7となることを見出した。別の例では、本発明者らは、容器が20mm(例えば、6R、10Rまたは20R型のガラスバイアルなど)のネック直径を有する場合、
【数4】

は262の値を有し(例えば20℃などの室温で粘度を測定する場合)、したがって、VHUを決定または予測するための方程式は、VHU=262×η1/7となることを見出した。この方法が、添加されるべき液体製剤の過剰体積(Voverfill)を予測または決定するために使用される場合、全体として本発明の文脈において、受け取るまたは収集する値の第1のセットは、VHU、σtotalおよびkに加えて、液体製剤の粘度η(例えば20℃で測定)および容器のネック直径を含む。13mmまたは20mmのいずれかのネック直径を有する容器(ガラスバイアルなど)を使用する利点は、VHUの決定または予測が簡単であること、すなわち実際の計量が必要ないことである。
【数5】

は、例のセクションの教示に基づいて、任意のタイプの容器について決定することができる。知る必要がある唯一のさらなる情報は、液体製剤の粘度η(例えば20℃で測定)である。
【0035】
全体として本発明の文脈において、σtotalは、以下の方程式(E4):
【数6】

を使用して計算することができる。
【0036】
σfillingが、容器を充填するために使用される装置の充填標準偏差である場合、σanalysisは、分析試験方法の標準偏差(代替的に抽出可能体積試験の変動性と呼ばれる)である。σfillingは、例えば、その後所与の目標充填重量で充填されるいくつかの容器を計量することによって決定することができる。σanalysisは、例えば、いくつかの複製バイアルに対して抽出可能体積試験を実施することによって決定することができる。
【0037】
本明細書に記載するように、過剰体積を予測する方法のいずれかがコンピュータによって実行される場合、予測された過剰体積の出力は、任意で、コンピュータモニタまたは任意のデバイス画面上などの任意の手段を介して、予測された過剰体積をテキストもしくはグラフとして表示すること、予測された過剰体積をテキストもしくはグラフとして印刷すること、または、例えばコンピュータシステムを介した出力によって、予測された過剰体積を音声として通信することを可能にするために、データベース、データセット、コンピュータ可読メモリ、コンピュータ可読媒体、コンピュータプロセッサ、コンピュータネットワーク、印刷出力装置、視覚ディスプレイ、または無線受信機に送信される値である。
【0038】
容器に液体製剤を充填するための方法であって、以下の工程:
a)充填される容器を提供する工程;
b)容器に液体製剤の総体積を充填する工程であって、液体製剤の総体積が、容器のラベルクレーム体積+過剰体積に対応し、過剰体積が本明細書に記載のいずれかの方法に従って決定される、工程、および
c)任意で、容器を少なくともストッパで閉じる工程、
を含む方法も、本明細書で開示される。
【0039】
全体として本発明の文脈において、液体製剤は、好ましくは引き出しシリンジを使用して容器から引き出される。したがって、そのようなシリンジは、前記製剤を必要とする対象への投与に使用することができ、そのような場合、シリンジの引き出し針は、好ましくは投与針に置き換えられる。
【0040】
本発明の文脈において、容器は、アンプル、ガラスバイアル、チューブ、ボトル、シリンジ、カートリッジ、または液体製剤の貯蔵に適した他のそのようなリザーバであり得る。例えば、容器はガラス瓶であってもよく、13mm~56mmのネックサイズを有することができ、約5mL~500mLの公称体積を有する。別の例として、容器は、13mmまたは20mmのネックサイズを有し、約2mL~100mLの公称体積を有する、ISO規格(ISO8362規格など)に準拠したガラスバイアルであり得る。これらのバイアルは、2R、4R、6R、8R、10R、15R、20R、30R、50Rおよび100Rとしても公知である。例えば、ISO8362規格によれば、ガラスバイアル2Rおよび4Rは、13mmのネック直径を有し、それぞれ4および6mLの容量を有し、ガラスバイアル6R~100Rは、20mmのネック直径を有し、それぞれ10、11.5、13.5、19、26、32.5、37.5、62および123mLの容量を有する。本明細書に開示される方法は、56mmを超えるネックおよび500mLを超える公称体積を有する容器に適用可能であり得るが、前記容器は、典型的には投与に必要な精度が低い製剤を収容するために使用されるので、過充填する必要はない。
【0041】
全体として本発明の文脈において、液体製剤は、液体製剤、または凍結乾燥もしくは噴霧乾燥製剤の再構成後に得られる液体製剤のいずれかである。製剤は、有効成分として化学化合物(代替的に本明細書では小分子薬物もしくはSMDとも呼ばれる)または生物学的化合物のいずれかを含有する任意の製剤であり得る。製剤が生物学的化合物を含有する場合、前記生物学的化合物は、サイトカイン、成長因子、ホルモン、抗体または融合タンパク質などの任意の治療用ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質であり得る。
【0042】
全体として本発明の文脈において、液体製剤の粘度は、好ましくは1~100、さらに好ましくは1~50に含まれ、cPまたは代替的にmPa.sで表される。したがって、液体製剤の粘度は、好ましくは1~100cP(代替的に1および100mPa.sとして表される)、さらに好ましくは1~50cP(代替的に1および50mPa.sとして表される)である。全体として本発明の文脈において、粘度ηは、好ましくは室温、例えば15~25℃、例えば18または20℃で測定される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1A】現在の技術水準のアプローチ。
図1B】過剰体積を定義するための本発明によるアプローチ、方程式(1)。
図1C】過剰体積を定義するための本発明によるアプローチ、方程式(1bis)。
図2】バイアル充填および抽出可能体積試験のための1つの方法。
図3】水中のソルビトール濃度による粘度の変化。
図4A】13mm(2R)または20mm(6R、10Rもしくは20R)バイアルにおける、IgG1形態を有する1つのモノクローナル抗体(六角形)、fAb形態を有する1つの抗体(十字)、IgG4形態を有する様々なモノクローナル抗体(丸)、IgG4形態を有する2つの二重特異性抗体(三角)、1つの単一ドメイン抗体(菱形)、1つの三重特異性抗体(星印)およびSMD(様々な小分子薬物)(四角)の製剤体裁の、バイアルおよび引き出しシリンジにおけるホールドアップ体積(VHU)。13mm(赤色破線)および20mm(青色平線)のバイアルネック直径のバイアルのソルビトールモデル。エラーバーは、複製バッチからの標準偏差を反映する。
図4B】バイアルネック直径ごとに示した図4Aからのデータ。ソルビトールモデルの95%信頼区間を示す(点線)。
図5】1~40mPa.sの粘度範囲内の13mm(破線)および20mm(平線)のバイアルネック直径のバイアルの過剰体積予測モデル。
【0044】

本発明の基礎
液体製剤(バイアル入り液体製剤としても公知)は、典型的には、容器、閉鎖システムおよび引き出し装置における損失を考慮しながら、ラベルクレーム体積を満たすためにそれらの容器に過充填される。ガイドライン(例えばUSP<1151>)によって定義された最大過充填値への逸脱が実験データに基づいて正当化される必要があるだけでなく、いかなる過充填体積設定も正当化を必要とする。この試験の目的は、充填および抽出可能体積試験の変動性を含む総変動性アプローチを使用して、バイアル入り液体製剤に必要な過剰体積を予測することであった。
【0045】
手短に言えば、2R~20R容量のサイズのガラスバイアルに、20℃で1~40mPa.sの範囲の粘度を有するソルビトールベースの水溶液を充填した。粘度およびバイアルネック直径が、バイアルおよび引き出しシリンジ内のソルビトールベースの水溶液のホールドアップ体積に対する主な寄与因子であることが示された。ソルビトールベースの水溶液データから構築されたモデルを使用して、治療的関心対象の様々な分子のホールドアップ体積(代替的にVHUと呼ばれる)を成功裏に推定した。
【0046】
したがって、製剤粘度、バイアルネック直径、充填変動性および抽出可能体積試験の変動性を考慮して、バイアル入り液体製剤の過剰体積を予測するための総変動性アプローチが提案される。この予測モデルの使用は、特に原薬の利用可能性が制限され得る開発の初期段階において、過剰体積定義を裏付けるための試験を減らすことを可能にし得る。現在使用されている標準的な方法を置き換えることができる。
【0047】
材料
例のセクションで使用される製剤を表5に定義する。
【0048】
方法
バイアル充填:ホールドアップ体積の決定は、3つの要因:粘度(1~40mPa.sの範囲の7つのレベル)、バイアル形式(4つのレベル:2R、6R、10Rおよび20R)ならびに充填体積(バイアル形式ごとに5つのレベル:2R-1.10、1.20、1.30、1.40および1.50mL;6R-3.20、3.30、3.40、3.50および3.60mL;10R-5.20、5.35、5.50、5.65および5.80mL;20R-10.20、10.40、10.60、10.80および11.00mL)に重点を置いた。完全な要因計画アプローチ(要因とレベルの全ての組合せ)に従い、140の実験条件を得た。充填前に風袋重量(Wtare-バイアル、ストッパおよびオーバーシール)を測定した(図2を参照)。1条件につき最低2つの複製物を調製した。ソルビトール溶液の密度を考慮してバイアルに重量を充填した(表2)。正味の充填重量を記録した(Wfill)。全てのバイアルに栓をし、アルミニウムオーバーシールでクリンプした。
【0049】
抽出可能体積試験:バイアルにソルビトール溶液を充填した。シリンジは、抽出される体積に適切なサイズにした:2Rバイアル-3mLシリンジ、6Rバイアル-5mLシリンジ、10Rバイアル-10mLシリンジ、20Rバイアル-20mLシリンジ。1インチ以上の長さの推奨される21G針(例えばUSP<1>;USP<697>;JP General Test 6.05;FDA Guidance for Industry,2015またはICH Q4B Annex 2(R1)を参照)よりも広い19Gx1 1/2インチ針を使用して、抽出可能体積試験中に粘性溶液に必要な引き出し力を制限した。シリンジと針を接続した。Flip-off(登録商標)ディスクを取り外し、注射針を用いてバイアルストッパを穿刺した。抽出を助けるためにシリンジからバイアルに空気を排出しなかった。倒立したバイアルの全内容物をシリンジ内に可能な限り抽出した。バイアルストッパから注射針を取り外した。針を上に向けた状態で、シリンジを軽くたたいて気泡を崩壊させた。液体の最初の兆候が針の先端から現れるまで、空気をシリンジおよび針から慎重に排出した。シリンジ内容物を(針を空にすることなく)、風袋を量ったガラスビーカーに排出した。排出された内容物の正味重量(Wextr)を記録した。溶液引き出し後のバイアル総重量(Flip-off(登録商標)ディスク重量を含むWresid)を記録した(図2)。
【0050】
バイアルおよび引き出しシリンジ内のホールドアップ体積(VHU)は、以下の式:
HU=(Wfill-Wextr)/ρ(式1)
を使用して計算した。
【0051】
バイアル内のホールドアップ体積(VHUv)は、以下の式:
HUv=(Wresid-Wtare)/ρ(式2)
を使用して計算した。
【0052】
引き出しシリンジ内のホールドアップ体積(VHUs)は、以下の差:
HUs=VHU-VHUv(式3)
によって間接的に得られた。
【0053】
混合モデル(α=0.05)を使用して、バイアルおよび引き出しシリンジ内のホールドアップ体積結果(VHU)に対する充填体積、溶液粘度、バイアル形式(固定効果)および分析者(ランダム効果)の影響を分析した。対数変換をVHUおよび粘度値に適用した。回帰分析(log-logモデル)によって得られた相対抽出可能体積試験方法の変動性(RSDanalysis=σanalysis/VHU)を、バイアルごとの変動性(モデルの二乗平均平方根誤差)および分析者の変動性の組合せとして定義した。
【0054】
充填プロセス変動性の決定:充填プロセス変動性は、蠕動ポンプを使用して充填された17のバイアル入り製剤体裁を含む82バッチからのプロセス内充填重量値を使用して推定した。粘度、濃度および充填体積は、それぞれ1~20mPa.s、1~160mg/mLおよび1.0~16.8mLの範囲であった。目標充填重量(Vfill、固定効果)およびバッチ(ランダム効果)による実際の充填重量依存性を、混合モデル(α=0.05)を使用して評価した。対数変換を実際の充填重量および目標充填重量に適用した。充填変動性の2つの原因を推定した(図1):平均相対充填バイアス(RBfilling=Bfilling/(Vlabel+VHU)、バッチ効果の最良線形不偏予測子の二乗平均平方根)および相対充填精度(RSDfilling=σfilling/(Vlabel+VHU)モデルの二乗平均平方根誤差、バイアルごとの変動)。
【0055】
総変動性の決定:総変動性を、充填精度および抽出可能体積試験方法の変動性の二乗和平方根として計算した(方程式1):
【数7】
【0056】
データ解析:JMP 11.0.0(SAS Institute)を用いて統計解析を行った。グラフは、Prism 8.1.1(GraphPad Software)を使用して作成した。
【0057】
結果
文献および予備試験データは、ソルビトール濃度(図3;Jiang et al.,2013)、PEG濃度(Metha et al.,2020)または抗体濃度(Shieu et al.,2014)による粘度の指数関数的増加(20℃)を示す。7つのソルビトールベースの水溶液を、一定数の製剤に典型的な1~40mPa.sの粘度範囲をカバーするように調製した(表2)。
【0058】
HUvおよびVHU値は、驚くべきことに、充填体積からは独立しているが、溶液粘度およびバイアル形式に依存することが見出された(表3)。Tukey-Kramer Honestly Significant Difference法(α=0.05)を用いたバイアル形式ごとのVHUv値およびVHU値の事後多重比較により、VHUvデータおよびVHUデータの中で2つの異なる群:13mm(2R)および20mm(6R、10Rおよび20R)のネック直径バイアルが同定された。
【0059】
HUs値に対する充填体積および溶液粘度の有意な影響は観察されなかった。以下のVHUs平均値および標準偏差値を得た(n≧87):88±35μL(3mLシリンジ)、91±38μL(5mLシリンジ)、107±44μL(10mLシリンジ)および128±51μL(20mLシリンジ)。
【0060】
提示されたモデルは、ソルビトール粘度(20℃で、mPa.s単位でのη;方程式3)の関数としてVHUを予測するために構築された:
【数8】

【0061】
容器ネック直径が13mmの場合、方程式3はVHU=174×η1/7となり、容器ネック直径が20mmの場合、方程式3はVHU=262×η1/7となる。(実際に、値
【数9】

は、13mmのネック直径についてはμlで表される174、および20mmのネック直径についてもμlで表される262として計算された)。
【0062】
抽出可能体積試験方法の変動性(RSDanalysis)は、23.56%と計算された(表4)。分析者および分析変動性に対するバイアルごとの寄与は、それぞれ32%および68%であった。
【0063】
ソルビトールモデルの予測可能性を、様々なタンパク質/抗体および治療的関心対象のSMD分子の20の製剤体裁で評価した(表6)。全体として、ソルビトールモデルは良好な予測特性を有するが、100~200μLの範囲のVHU値をわずかに過大評価する(図4)。
【0064】
充填変動性に対する粘度の有意な影響は観察されなかった。低充填体積でより大きな変動が観察されたため、プロセス内充填重量データをバイアルネック直径ごとに分析した。充填変動性に対するバッチ間およびバイアル間の寄与は、それぞれ(13mmバイアルについて)23%および77%、ならびに(20mmバイアルについて)47%および53%であった。充填精度(RSDfilling)値は、13mmおよび20mmのネック直径バイアルについてそれぞれ1.23%および0.47%であった(データの完全なセットは示していない)。
【0065】
平均充填バイアス(Bfilling)は、13mmおよび20mmバイアルについてそれぞれ0.68%および0.44%であった(表4)。
【0066】
バイアル入り液体製剤体裁の過剰体積を予測するために提案された戦略を図1(パネルB/C)および方程式5(方程式1から導出)および代替方程式5bis(方程式1bisから導出)に示す。このモデルの入力パラメータは、Vlabel(mLで表される)、20℃での製剤粘度(η、mPa.s単位)およびバイアルネック直径(13mmまたは20mm)である。Vlabel以上の体積の抽出を確実にするための許容係数kは、標準正規分布の99.73%分位数として定義された(z0.9973=2.78)。
【0067】
方程式5:
【数10】

方程式5bis:
【数11】
【0068】
このモデルを図5に示す。提示された抽出可能体積は、13mm(2R~4R)および20mm(6R~20R)バイアルの公称容量の20%~80%の範囲をカバーする。
【0069】
考察
初期段階の開発製剤は、典型的には、部分的に使用されるユニットからの製剤廃棄を制限するために、公称体積未満の小容量バイアルに充填される。このアプローチは、バイアルおよび引き出し装置(VHU)におけるホールドアップ体積を補償するために添加される過剰体積に由来する廃棄物を考慮しない。小容量バイアルからのラベル表示体積の抽出を確実にするための過剰体積は、FDAガイドラインで推奨されているものよりも大きくなる可能性があり、したがって、規制要件を満たすために、実験データに基づいて正当化されるべきである。
【0070】
製剤材料の利用可能性は、特に開発の初期段階では制限されることが多く、抽出可能体積試験を制限するための予測モデリングに関心が寄せられている。1~30mPa.sの粘度範囲の水性ポリエチレングリコール(PEG)400溶液からの抽出可能体積データに基づいて、バイアル(2R、6Rおよび10R)ならびにシリンジ(1~10mL)におけるVHU予測モデルが以前に提案された。このモデルは、6Rおよび10Rバイアルの異なるVHU値を予測するが、本発明者らのアプローチは、6Rおよび10Rバイアルが同じストッパ内部形状を共有するので、それらについて同一のVHUv/VHU値を示唆する。
【0071】
実験的VHUvおよびVHUs値(表3)は、以前に報告されたものと同じ程度の大きさであり、それぞれ150~200μLおよび100μLである。PEG 400および治療的関心対象のいくつかの分子のVHU値(図4)は、おそらく表面張力、容器への吸着、ガラス表面積またはバイアル肩部の形状の違いに起因して、ソルビトールモデル(方程式3)によって過大評価された。予測モデルは試験を減らすのに役立ち得るが、これは、所与の製剤または体裁の予測されたVHU値を実験的に検証する必要性を強調する。
【0072】
過剰体積は、従来、ホールドアップ体積(VHU)および充填プロセスの許容範囲を考慮して定義される。総充填プロセス変動値は、文献に報告されている範囲内である(0.25%~1.0%)。提案された過充填予測モデル(方程式1および方程式1bis、あるいは方程式5および方程式5bis)は、プロセス(充填精度およびバイアス)ならびに分析(抽出可能体積試験)変動性の両方を含む総変動性アプローチに基づく。この方法論は、仕様外の試験結果のリスクを制限するために、全ての変動源を捉えることを可能にする。
【0073】
結論
製剤粘度、バイアルネック直径、充填変動性および抽出可能体積試験の変動性を考慮して、バイアル入り液体製剤の過剰(または過充填)体積予測に対する総変動性アプローチを提案する。
【0074】
この予測モデルの使用は、特に材料の利用可能性が制限され得る開発の初期段階において、過充填体積の定義を裏付けるための試験を減らすことを可能にし得る。これはまた、開発の後期段階ならびに製剤が商業化されると有用であることを証明する。これらの方法はまた、より良好なプロセス制御をもたらす。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

参考文献



図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
【国際調査報告】