(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】スキンケア製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240517BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240517BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20240517BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20240517BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K8/86
A61K8/37
A61K8/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571671
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 US2022031333
(87)【国際公開番号】W WO2022256256
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】102021000014330
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523434281
【氏名又は名称】ザ ユー ビューティー. コム, エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】THEUBEAUTY.COM, LLC
【住所又は居所原語表記】3737 Ortega Boulevard, Jacksonville, FL 32210 United States
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】カタラーノ, アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ミトリ, ハリル
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083AB351
4C083AC251
4C083AC252
4C083AC301
4C083AC421
4C083AC441
4C083AC471
4C083AD091
4C083AD351
4C083AD391
4C083AD392
4C083AD471
4C083AD621
4C083AD641
4C083AD642
4C083AD661
4C083BB01
4C083BB51
4C083CC02
4C083DD16
4C083EE01
4C083EE13
4C083FF01
(57)【要約】
本発明は、脂質粒子及び脂質粒子の製造プロセスである。脂質粒子は、マトリックスと、マトリックスに取り込まれた少なくとも1種の抗酸化剤とを含有する。本発明の一実施形態において、脂質粒子は、患者の皮膚におけるROS(活性酸素種)の局所的抑制に使用される。本発明の実施形態において、脂質粒子を含むスキンケア製品は、患者の皮膚におけるROSの局所的抑制に使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各粒子が、
(i)脂質粒子の全重量に対して20重量%以上60重量%以下の、40℃以上55℃以下の融解温度を有する脂質成分、(ii)脂質粒子の全重量に対して20重量%以上30重量%以下の、1又は2種以上の不飽和脂肪酸、及び(iii)脂質粒子の全重量に対して10重量%以上12重量%以下の、界面活性剤、懸濁化剤、保湿剤及びそれらの混合物から選択される1又は2種以上の賦形剤を含有するマトリックス(a)と、
前記マトリックスに取り込まれた少なくとも1種の抗酸化剤(b)と、
を含有することを特徴とする、脂質粒子。
【請求項2】
前記脂質成分が、ミモザワックス(アカシアデクレンス)、ホホバ種子ワックス、ヒマワリ種子ワックス、ポリグリセリン、ジステアリン酸ペンタエリスリチル、並びにポリグリセリンと、ホホバワックス、ミモザワックス、及びヒマワリ種子ワックスから選択される少なくとも1種のワックスとのエステル交換体の少なくとも2種の混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の脂質粒子。
【請求項3】
前記マトリックスが、ASTMD1959―97規格に従って測定したヨウ素価で、60gヨウ素/100g以上のヨウ素価を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の脂質粒子。
【請求項4】
前記1又は2種以上の不飽和脂肪酸が、不飽和脂肪酸の全重量に対して少なくとも60重量%の多価不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする、先行する請求項の1つ又はそれ以上に記載の脂質粒子。
【請求項5】
前記少なくとも1種の抗酸化剤が、脂質粒子の全重量に対して5重量%以上20重量%以下の量であることを特徴とする、先行する請求項の1つ又はそれ以上に記載の脂質粒子。
【請求項6】
前記1又は2種以上の不飽和脂肪酸が、炭素数C16~C24の脂肪酸及びそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、先行する請求項の1つ又はそれ以上に記載の脂質粒子。
【請求項7】
前記少なくとも1種の賦形剤が、ポリソルベート、ポリアクリレート、キサンタンガム、アルキルグルコシド及びグリコールからなる群から選択されることを特徴とする、先行する請求項の1つ又はそれ以上に記載の脂質粒子。
【請求項8】
前記少なくとも1種の抗酸化剤が、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、ビタミンE、ビタミンC、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、ポリフェノール、カロテノイド、スーパーオキシドジスムターゼ及び重亜硫酸塩からなる群から選択されることを特徴とする、先行する請求項の1つ又はそれ以上に記載の脂質粒子。
【請求項9】
前記マトリックスに取り込まれた1又は2種以上の有効成分をさらに含み、前記1又は2種以上の有効成分がビタミン、ペプチド、ミネラル、成長因子及び天然抽出物からなる群から選択されることを特徴とする、先行する請求項の1つ又はそれ以上に記載の脂質粒子。
【請求項10】
(i)脂質成分を融解する工程と、
(ii)工程(i)の融解した脂質成分中に1又は2種以上の不飽和脂肪酸を分散させる工程と、
(iii)予め40℃以上50℃以下に加熱した水に、少なくとも1種の抗酸化剤及び1又は2種以上の賦形剤を分散させる工程と、
(iv)工程(ii)で得られた前記分散液を、工程(iii)で得られた前記水性分散液に添加し、撹拌しながら、エマルジョンを得る工程と、
(v)工程(iv)で得られたエマルジョンを、5℃以上15℃以下の温度まで冷却し、水相中の脂質粒子を含むエマルジョンを得る工程と、
を含むことを特徴とする、上記本発明による脂質粒子の調製プロセス。
【請求項11】
前記工程が有機溶媒の使用を含まないことを特徴とする、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
患者の皮膚におけるROS(活性酸素種)の蓄積と関係付けられる状態の局所治療に使用するための脂質粒子であって、
各脂質粒子が、
(i)脂質成分、(ii)1又は2種以上の不飽和脂肪酸、及び(iii)界面活性剤、懸濁化剤、保湿剤及びそれらの混合物から選択される1又は2種以上の賦形剤を含有するマトリックス(a)と、
前記マトリックスに取り込まれた、少なくとも1種の抗酸化剤(b)と、
を含有することを特徴とする、脂質粒子。
【請求項13】
請求項1~9の1つ又はそれ以上に記載の前記脂質粒子を含有するスキンケア製品。
【請求項14】
患者の皮膚におけるROSの蓄積と関係付けられる状態の局所治療に使用するための、請求項1~9の1つ若しくはそれ以上に記載の脂質粒子、又は請求項13に記載のスキンケア製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質粒子、特にスキンケア製品に使用するための脂質粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、クリーム、ローションまたは美容液のようなスキンケア製品が普及しており、これらの製品は、流体物質、通常はゲルからなり、そこには、1又はそれ以上の化粧品有効成分の分子を含有する脂質粒子が取り込まれている。
【0003】
前記有効成分の例は、例えばビタミンA、C、E及びこれらの誘導体などのビタミン類、コエンザイムQ10、ミネラル、抗酸化剤、天然抽出物並びにペプチドである。
【0004】
皮膚にダメージを引き起こすものとして知られている因子の中に、いわゆる「フリーラジカル」がある。これらは脂質の過酸化の原因となる。これらの中で、特に、いわゆるROS(活性酸素種)と呼ばれる電子が不足した分子状酸素(「ペルオキシル」)を含むものは、過剰になるとダメージを引き起こし、その最も深刻なものが皮膚の早期の老化である。
【0005】
脂質の過酸化のプロセスでは、不飽和脂肪酸とそれらのエステルを含む脂質が分子状酸素によって直接酸化され、そして、電子を奪われた脂質は、隣接する分子から電子を引き抜くことにより、その損失を回復する傾向があるので、ダメージが細胞核のタンパク質やDNAにまで、連鎖反応を通じて広がり得る。
【0006】
これらの反応に続いて、起こりうるダメージがある。すなわち、脂質の過酸化、アミノ酸やタンパク質の過酸化、酵素変化、及びタンパク質構造へのダメージである。
【0007】
ミトコンドリア内で産生されたROSは、反対に作用し、mtDNA及び他のミトコンドリア構成成分に直接ダメージを与え得る。ROSは、また、細胞核のDNAにダメージを与え得る。
【0008】
これら全ての理由から、あるいくつかのタンパク質の酸化的修飾は、重要な老化因子となり得る。そのため、ROSと相互作用が可能で、その活性を阻害することが可能な抗酸化有効成分を含有する製品が知られており、広く普及している。例えば、それらの製品は次のように商品化されている。
【0009】
リバイタリフト(登録商標)・ダーム・インテンシブ10%ピュア・ビタミンC(ロレアル・パリ社)。
【0010】
レスベラトロール・B・E・アンチオキシダント・ナイト・コンセントレート(スキンシューティカルズ社)。
【0011】
デイウェア・アドバンスド・マルチプロテクション・アンチオキシダント・クリーム・SPF15(エスティ―ローダー社)。
【0012】
アンテリオス・AOX・デイリー・アンチオキシダント・セラム・ウィズ・サンスクリーン(ラロッシュポゼ社)。
【0013】
しかしながら、皮膚のROSを低減するために今日利用可能な製品には限界がある。例えば、これらの製品は、ROSに敏感な有効成分を含んでいるが、後者(該成分)が、フリーな状態にあるか、又は、内容物を保護し或いは制御された特異的な方法でそれ(該内容物)を運ぶように設計されてはいるが、ROSに対する親和性がない安定なマトリックス、すなわち、封じ込めのためのエンベロープを有する脂質粒子に取り込まれているという欠点のどちらかを有する。
【0014】
このマトリックスは、一般に、主に酸化に対して安定な飽和ポリマー及び/又は脂質を含む(Comunian et al. “Protection and controlled release of vitamin C by different micro/nanocarriers”, Crit Rev Food Sci Nutr. 2020, Dec 22; 1-22)。
【0015】
現在までに知られている製品に使用されているマトリックスは、取り込まれた有効成分を保護することと、それら(有効成分)をより生体に利用可能とすること、すなわち循環系に届くようにすることと、並びに皮膚への浸透及び徐放を増加させることの目的を有する。
【0016】
しかしながら、これらの理由から、有効成分の活性は、ROSの局在化された濃度に関わらず、製品が塗布された皮膚の全体の領域で等しく発現され、より高い必要性があるROSの濃度が高い領域で優先的に発現されることはない。
【0017】
さらに、同様の製品を製造するためには、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、及びエーテル-メタノール混合物などの毒性のある有機溶媒を使用し、又は60℃以上100℃以下の高温を使用する必要がある(Ghasemiyeh et al., “Solid lipid nanoparticles and nanostructured lipid carriers as novel drug delivery systems: applications, advantages and disadvantages”, Res Pharm Sci.2018 Aug; 13(4):288-303)。この結果、経済的かつエネルギー的に高価なプロセスとなる。
【発明の概要】
【0018】
上述した先行技術の限界に鑑みて、本発明の主な目標は、上記した1つ又はそれ以上の側面において先行技術を改善することが可能なスキンケア用製品及びその製造プロセスを提供することである。
【0019】
この目標の範囲内において、本発明の目的は、ROSに対して高い敏感性を有するものであって、ROSを有する領域、特にROSの濃度が高い領域へ、取り込まれた有効成分を運ぶことが可能な脂質粒子を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、これまでに知られている類似製品よりもROSに対する親和性がより高いスキンケア製品を提供することである。本発明の他の目的は、有機溶媒の使用及び高温の使用を与えないスキンケア製品の製造方法を提供することである。
【0021】
本発明のとりわけ重要な目的は、信頼性が高く、比較的実施が容易で、競争力のあるコストのスキンケア用製品及びその製造方法を提供することである。
【0022】
これら及び後に明らかになる他の目的と本課題は、脂質粒子によって達成される。ここで、前記の各粒子は、
【0023】
(a)以下の(i)~(iii)を含有するマトリックスと、
【0024】
(i)脂質粒子の全重量に対して20重量%以上60重量%以下であって、融解温度が40℃以上55℃以下であることを特徴とする脂質成分
【0025】
(ii)脂質粒子の全重量に対して20重量%以上30重量%以下の1又は2種以上の不飽和脂肪酸
【0026】
(iii)脂質粒子の全重量に対して10重量%以上12重量%以下の界面活性剤、懸濁化剤、保湿剤及びこれらの混合物から選択された1又は2種以上の賦形剤
【0027】
(b)前記マトリックスに取り込まれた少なくとも1種の抗酸化剤とを含有する。
【0028】
この発明の目的及び目標は、また、以下の工程を含む本発明による脂質粒子の調製のためのプロセスによっても達成される。すなわち、当該プロセスは、
【0029】
(i)脂質成分を融解する工程と、
【0030】
(ii)工程(i)の融解した脂質成分中に1又は2種以上の不飽和脂肪酸を分散させる工程と、
【0031】
(iii)予め40℃以上50℃以下の温度に加熱した水中に、以下のものを分散させる工程と、
【0032】
-少なくとも1種の酸化防止剤;及び
【0033】
-1又は2種以上の賦形剤;
【0034】
(iv)工程(ii)で得られた前記分散液を、工程(iii)で得られた前記水性分散液に添加し、撹拌しながら、エマルジョンを得る工程と、
【0035】
(v)工程(iv)で得られたエマルジョンを、5℃以上15℃以下の温度に冷却し、水相中の脂質粒子を含むエマルジョンを得る工程と、を含む。
【0036】
さらに、本発明の課題及び目的は、患者の皮膚におけるROS(活性酸素種)の蓄積と関連付けられる状態の局所治療で使用される脂質粒子によっても達成される。ここで、前記の各脂質粒子は、
【0037】
(a)以下の(i)~(iii)を含有するマトリックス、
【0038】
(i)脂質成分
【0039】
(ii)1又は2種以上の不飽和脂肪酸
【0040】
(iii)界面活性剤、懸濁化剤、保湿剤及びこれらの混合物から選択された1又は2種以上の賦形剤
【0041】
及び
【0042】
(b)前記マトリックスに取り込まれた、少なくとも1種の抗酸化剤を含有する。
【0043】
本発明の目的及び目標はまた、本発明による脂質粒子を含有するスキンケア製品によっても達成される。
【0044】
最後に、本発明の目的及び目標は、本発明による脂質粒子、又は、患者の皮膚におけるROSの蓄積と関連付けられる状態の局所治療に使用される本発明によるスキンケア製品によっても達成される。
【0045】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。
【発明の詳細な説明】
【0046】
第一の態様において、本発明は脂質粒子に関し、前記の各粒子は、マトリックスと、各粒子に取り込まれた少なくとも1種の抗酸化剤とを含有する。
【0047】
本発明の脂質粒子のマトリックスは、40℃以上55℃以下の融解温度を有する脂質成分を、脂質粒子の全重量に対して20重量%以上60重量%以下含有する。
【0048】
有利なことに、前述の融解温度は、65℃以上の融解温度を有するマイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ミツロウなどの脂質粒子を作成するのに使用する他のワックスの融解温度よりも皮膚の温度(37℃)に近い。
【0049】
好ましい実施形態において、脂質成分は、ミモザワックス(アカシアデクレンス)、ホホバ種子ワックス、ヒマワリ種子ワックス、ポリグリセリン、ジステアリン酸ペンタエリスリチル、並びに、ポリグリセリンと、ホホバワックス、ミモザワックス及びヒマワリ種子ワックスから選択される少なくとも1種のワックスとのエステル交換体の少なくとも2種の混合物である。
【0050】
さらに、本発明による脂質粒子のマトリックスは、(ii)脂質粒子の全重量に対して20重量%以上30重量%以下の量で、ROSに対して高い親和性を有することにより、本発明の脂質粒子にROSと相互作用する性質を与え、狙った方法で有効成分を放出する1種以上の不飽和脂肪酸、好ましくは多価不飽和脂肪酸を含有する。本発明の脂質粒子は、これによってROSに対して高い親和性によって特徴付けられるマトリックスを有する。
【0051】
この明細書において、用語「親和性」とは、活性の原理又はそれを構成する脂質粒子がROSと相互作用せざるを得ない傾向を意味する。
【0052】
上述したように、ROSの親和性はヨウ素価によって測定される。
【0053】
上述したように、今日一般に使用される脂質粒子は、酸化に対して安定なマトリックスを有する。
【0054】
この明細書において、「安定なマトリックス」の表現は、酸化に対して安定なマトリックスを意味し、及び、脂質マトリックスの場合には、これは、ASTMD1959―97規格に従って測定されたヨウ素価で、60gヨウ素/100gより低いヨウ素価を意味する。
【0055】
好ましい実施形態において、本発明による脂質粒子のマトリックスは、ASTMD1959―97規格に従って測定されたヨウ素価で、60gヨウ素/100g以上のヨウ素価を有する。
【0056】
本発明の粒子のマトリックスは、1又は2種以上の不飽和脂肪酸、好ましくは、炭素数C16~C24の不飽和脂肪酸及びそれらの混合物からなる群から選択される不飽和脂肪酸を含有する。好ましい実施形態において、前記1又は2種以上の不飽和脂肪酸は、リノール酸、リノレン酸、αリノレン酸、オレイン酸及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0057】
好ましくは、マトリックスの1又は2種以上の不飽和脂肪酸は、少なくとも不飽和脂肪酸の全重量に対して60重量%の多価不飽和脂肪酸を含有する。
【0058】
本発明の脂質粒子は、マトリックス中に取り込まれた少なくとも1種の抗酸化剤を含有する。
【0059】
好ましくは、少なくとも1つの抗酸化剤は、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、ビタミンE、ビタミンC、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、ポリフェノール、カロテノイド、スーパーオキシドジスムターゼ及び重亜硫酸塩からなる群から選択される。
【0060】
この明細書の文脈において、「ビタミンC」という用語は、アスコルビン酸並びにその誘導体、例えば、リン酸アスコルビルナトリウム、テトライソパルミチン酸アスコルビル、3-O-セチルアスコルビン酸及びアスコルビルグルコシドを示す。
【0061】
ROSに対して高い親和性を与える不飽和脂肪酸及び多価不飽和脂肪酸が豊富な脂質粒子のマトリックスは、それゆえ、その中に取り込まれた抗酸化剤を選択的に運ぶこと、及び、ROSが豊富な皮膚領域において、ROSを中和する「スカベンジャー」としての機能を果たすことを可能にする。
【0062】
好ましくは、本発明の脂質粒子において、少なくとも1種の抗酸化剤は、脂質粒子の全重量に対して5重量%以上20重量%以下の含有量である。
【0063】
本発明による脂質粒子のマトリックスは、さらに、(iii)界面活性剤、懸濁化剤、保湿剤及びそれらの混合物から選択される1又は2種以上の賦形剤を、脂質粒子の全重量に対して10重量%以上12重量%以下含有する。
【0064】
好ましくは、少なくとも1種の賦形剤は、ポリソルベート、ポリアクリレート、キサンタンガム、アルキルグルコシド及びグリコールからなる群から選択される。
【0065】
さらに、本発明の脂質粒子は、前記マトリックス中に取り込まれた1又は2種以上の有効成分をさらに含有することができる。ここで、1又は2種以上の有効成分は、ビタミン、ペプチド、ミネラル、成長因子及び天然抽出物からなる群から選択される。
【0066】
前記の有効成分は、生理学的バランスを修復する機能を有し、過度の濃度のROSによってダメージを受けた皮膚の自己修復メカニズムを修復及び刺激する機能を有する。
【0067】
本明細書における「有効成分」という用語は、生物学的活性を持つ物質、又は皮膚の外見及び状態に影響を及ぼす物質を示す。
【0068】
「生物学的活性」という表現に関して、本明細書においては、この物質が生物学的組織、この場合は皮膚への効果、又は皮膚への美容効果を有することを意味する。
【0069】
第二の態様において、本発明は、以下の工程を含む本発明による脂質粒子の調製のためのプロセスに関する。当該以下の工程は、
【0070】
(i)脂質成分を融解する工程と、
【0071】
(ii)工程(i)の融解した脂質成分中に1又は2種以上の不飽和脂肪酸を分散させる工程と、
【0072】
(iii)予め40℃以上50℃以下の温度に加熱した水中に、以下のものを分散させる工程と、
【0073】
-少なくとも1種の酸化防止剤;及び
【0074】
-1又は2種以上の賦形剤;
【0075】
(iv)工程(ii)で得られた前記分散液を、工程(iii)で得られた前記水相の分散液に添加し、撹拌しながら、エマルジョンを得る工程と、
【0076】
(v)工程(iv)で得られたエマルジョンを、5℃以上15℃以下の温度に冷却し、水相中の脂質粒子を含むエマルジョンを得る工程と、を含む。
【0077】
工程(iv)において、撹拌は、好ましくは1分間に1000回転から8000回転の間の一定の速度で行われる。
【0078】
好ましくは、工程(v)の前に、工程(iv)で得られたエマルジョンを、0.1以上50μm以下の大きさの範囲にある孔を有するネットを通してふるい分け、0.1以上50μm以下の範囲の大きさを有する水相中の脂質粒子を含むエマルジョンを得る。前記エマルジョンは、工程(v)で冷却した後、40℃以下の温度で、真空下、乾燥させることができ、及び/又は、例えば安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、イソチアゾリノン、フェノキシエタノール、ホルムアルデヒド除去剤、キレート剤などの防腐剤を添加することによって安定化させることができる。
【0079】
本発明によるプロセスの好ましい実施形態では、脂質成分は、ミモザワックス(アカシアデクレンス)、ホホバ種子ワックス、ヒマワリ種子ワックス、ポリグリセリン、ジステアリン酸ペンタエリスリチル、並びに、ポリグリセリン―3と、ホホバワックス、ミモザワックス及びヒマワリ種子ワックスから選択される少なくとも1種のワックスとのエステル交換体の少なくとも2種の混合物である;
【0080】
上述したワックスの混合物の選択は、高温又は有機溶媒を必要としないプロセスで粒子を調製することを有利に可能とする。
【0081】
好ましい実施形態において、本発明によるプロセスは有機溶媒の使用を含まない。
【0082】
上記のようにして得られた本発明の脂質粒子は、次いで、美容液、クリーム及びローションからなる群から選択されるスキンケア製品に取り込むことができ、それら(脂質粒子)と前記スキンケア製品とを、40℃以下の温度及び100~200回転/分の速度で、完全に均質化するまで混合する。
【0083】
したがって、本発明はまた、本発明による脂質粒子を含有するスキンケア製品に関する。前記製品、好ましくは美容液、クリーム及びローションから選択されたものは、随意に気密容器に包装され、その(製品の)内部でROSが生成をするのを防止される。
【0084】
本発明はまた、上記した脂質粒子、及び患者の皮膚におけるROSの蓄積に関係付けられる状態の局所治療に使用するための上記したスキンケア製品に関する。
【0085】
ROSの蓄積に関係づけられる皮膚の状態は、早期の老化、弾力性の喪失、潤いの喪失、色素沈着過剰、皮膚色異常、ざ瘡、及び生理学的バランスの不均衡を含む。
【0086】
本発明はまた、患者の皮膚におけるROSの蓄積と関係付けられる状態の局所治療に使用する脂質粒子に関する。ここで、各脂質粒子は、
【0087】
(a)以下の(i)~(iii)を含有するマトリックス、
【0088】
(i)脂質成分
【0089】
(ii)1又は2種以上の不飽和脂肪酸
【0090】
(iii)界面活性剤、懸濁化剤、保湿剤及びそれらの混合物から選択される1又は2種以上の賦形剤
【0091】
及び
【0092】
(b)少なくとも前記マトリックスに取り込まれた抗酸化剤を含有する。
【0093】
本発明はもちろん、上記した脂質粒子又はスキンケア製品を患者に塗布することによって、患者の皮膚におけるROSの蓄積と関係付けられる状態を処置する方法にも関する。
【0094】
次に、本発明は、以下の非限定的実施例に関連して説明される。
【0095】
実施例1:本発明の脂質粒子の調製
【0096】
化粧品の調製における中間物として使用される、本発明の脂質粒子を含有する1kgの組成物を調製する手順は以下の通りであった。すなわち、
【0097】
(i)ホホバワックス、ミモザワックス及びヒマワリ種子ワックスのブレンド(アクティシア(登録商標)MB(アクティシアガテフォッセ社))90g、及びベニバナ油から得られた天然多価不飽和脂肪酸のブレンド(ビタミンFフォルテ(CLRベルリン社))30gを、ビーカー中、55℃の温度で加熱し、マグネティックスターラーを用いて、200rpmで10分間攪拌しながら、相が完全に融解するまで、融解した。
【0098】
(ii)ベニバナ油から得られた天然多価不飽和脂肪酸の混合物(ビタミンFフォルテ(CLRベルリン社))30gを、均質な「脂肪」の融解した混合物が得られるまで、温度を55℃に保持しつつ、マグネティックスターラーを用い、200rpmで撹拌ながら、工程(i)で得られた融解した混合物に添加した。
【0099】
(iii)水相の分散液は、以下のものを、45℃に加熱した758mlの水に添加し、続いて撹拌(500rpmで10分間)することにより調製した。
【0100】
-デシルグルコシド20g、
【0101】
-リン酸アスコルビルナトリウム100g、
【0102】
-ヒアルロン酸2g;
【0103】
(iv)項目(iii)で調製した水相の分散液を、項目(ii)で調製した脂肪混合物に添加し、温度を48℃に保持しつつ、3500rpmで10分間撹拌しながら、水相中の脂質粒子のエマルジョンを得た。
【0104】
(iv-a)工程(iv)で得られたエマルジョンは、直径25pmの孔を有するネットを通してふるい分けられ、25pm以下の直径を有する脂質粒子の水相中のエマルジョンを得た。
【0105】
(v)工程(iv-a)で得られたエマルジョンを、ウォーターバスを用いて10℃まで冷却し、脂質部分の固化を促進した。
【0106】
ROSに対する高い親和性を特徴とし、及び、脂質粒子のマトリックスに取り込まれた有効成分を、ROSを有する領域、特にROSの濃度が高い領域に運ぶことが可能な脂質粒子及びスキンケア製品を製造することにより、実際に、本発明が意図された目的及び目標を達成できることが分かった。
【0107】
本発明による脂質粒子を取り込んだスキンケア製品は、有利なことに、現在市販されている類似製品よりもROSに対するより高い親和性を有する。
【0108】
さらに、本発明は、有機溶媒の使用及び高温の使用を伴わないスキンケア製品の製造プロセスを完成した。
【0109】
このようにして考え出された本発明は、本発明の技術的思想の範囲内で、多くの変更や変形が可能である。さらに、すべての細部は、他の技術的に等価な要素で置き換えることができる。
【0110】
実際には、特定の使用に適合するなら、用いられる材料は、偶発的な形状や寸法と同様、要求及び技術状態に応じて任意である。
【国際調査報告】