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特表2024-520367金属有機構造体を包含するポリマー収着剤繊維組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】金属有機構造体を包含するポリマー収着剤繊維組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20240517BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240517BHJP
   D01F 6/00 20060101ALI20240517BHJP
   D01F 2/28 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
B01J20/26 A
B01J20/30
D01F6/00 B
D01F2/28 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572030
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 US2022030260
(87)【国際公開番号】W WO2022246202
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】63/191,715
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523025539
【氏名又は名称】エクソンモービル テクノロジー アンド エンジニアリング カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(71)【出願人】
【識別番号】504466834
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】ウェストン,サイモン シー.
(72)【発明者】
【氏名】コロス,ウィリアム ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】クアン,ブンエイ
(72)【発明者】
【氏名】ライブリー,ライアン ピー.
(72)【発明者】
【氏名】チャン,フォンイー
(72)【発明者】
【氏名】アブニー,カーター ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】デウィット,スティーブン ジェー.エー.
(72)【発明者】
【氏名】リールフ,マシュー ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】ホームズ,ハンナ イー.
(72)【発明者】
【氏名】カマート,マンジェシュワル ジー.
【テーマコード(参考)】
4G066
4L035
【Fターム(参考)】
4G066AB13B
4G066AB24B
4G066AC11B
4G066BA18
4G066BA22
4G066CA35
4G066DA02
4G066DA03
4G066FA03
4G066FA12
4G066FA25
4G066FA35
4G066FA37
4L035AA04
4L035AA09
4L035BB03
4L035BB15
4L035DD03
4L035DD07
4L035FF01
4L035GG03
4L035HH10
4L035JJ05
(57)【要約】
繊維のポリマーマトリクスに金属有機骨格(MOF)材料を組み込んだ繊維組成物が提供される。金属有機骨格材料は、MOF粒子を、繊維を形成するために使用される「ドープ」又は合成溶液に含めることによって、組み込むことが可能である。その後、ドープ溶液を使って、結果として形成される繊維のポリマー構造材料において、繊維の重量に対して5.0wt%以上のMOFを含む繊維を形成可能である。幾つかの態様では、金属有機骨格材料は、COの吸着に選択性を有するMOFに相当し得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー構造材料を含む繊維を含有する収着剤繊維組成物であって、前記ポリマー構造材料は、ポリマーと、前記ポリマー構造材料の重量に対して5.0wt%~80wt%の金属有機骨格材料とを含む、収着剤繊維組成物。
【請求項2】
前記繊維は、中空繊維を含み、前記中空繊維は、前記中空繊維内に孔を備える、請求項1に記載の収着剤繊維組成物。
【請求項3】
前記中空繊維は、前記孔と前記ポリマー構造材料との間のインターフェースにおいて障壁層をさらに含み、前記障壁層は、前記ポリマー構造材料とは異なるポリマーを含み、前記障壁層は、任意選択により、Nの透過度が100GPU以下である、請求項2に記載の収着剤繊維組成物。
【請求項4】
前記ポリマーは、固有微細孔性のポリマー、AO-PIM-1、ポリエーテルスルホン、又は、これらの組み合わせを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【請求項5】
前記ポリマーは、1つ又は複数の環状構造の少なくとも一部を含むポリマー骨格を備える、先行する請求項のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【請求項6】
前記金属有機骨格材料は、1つ又は複数の添加されたアミンを含む、又は、前記収着剤繊維組成物は、COについてのタイプVの吸着等温線を含む、又は、これらの組み合わせである、先行する請求項のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【請求項7】
前記金属有機骨格材料は、MOF-274、EMM-44、EMM-67、若しくはこれらの組み合わせを含む、又は、前記金属有機骨格材料は、ジサリチル酸リンカーを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【請求項8】
前記繊維は、前記金属有機骨格材料を30wt%以上含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【請求項9】
前記ポリマー構造材料は、複数のポリマーを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物を形成する方法であって、金属有機骨格材料、ポリマー、及び溶媒を含むドープ溶液を押し出すことによって繊維を形成するステップを含む、方法。
【請求項11】
前記繊維を形成するステップは、孔用流体及び前記ドープ溶液を押し出すことによって中空繊維を形成するステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記孔と前記ポリマー構造材料との間のインターフェースにおいて障壁層を形成するステップをさらに含み、前記障壁層は、任意選択により、Nの透過度が100GPU以下である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
i)前記障壁層を形成するステップは、障壁ポリマー及び搬送ガスを前記孔に通して、前記孔と前記ポリマー構造材料との間のインターフェースにおいて障壁層を形成するステップであって、前記搬送ガスは0.5vol%以下のHOを含み、任意選択により、前記障壁ポリマー及び搬送ガスを前記孔に通すステップの少なくとも一部の間に、前記ポリマー構造材料内の圧力は、前記孔内の圧力よりも10kPa-a以上低い、ステップを備える、
ii)前記障壁層を形成するステップは、前記中空繊維を形成するステップの間に、前記障壁層を共押し出しするステップを備える、又は、
iii)i)及びii)の組み合わせを提供する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ドープ溶液は、非溶媒、細孔形成成分、又は、これらの組み合わせをさらに含む、請求項10から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記中空繊維を、アミンを含有する溶液に暴露して、前記金属有機骨格材料の少なくとも一部をアミン添加された金属有機骨格材料に変換するステップをさらに備える、請求項10から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2021年5月21日付で出願された米国特許出願第63/191,715号の特許協力条約(PCT)に基づく出願であり、PCT第8条に基づきその優先権を主張するものである。当該米国特許出願の全体を、それが以下に完全に示されているものとして、参照により本明細書に援用する。
【0002】
(技術分野)
金属有機構造体(骨格)材料を包含するポリマー収着剤繊維組成物、例えば中空繊維組成物、及び、このような収着剤繊維組成物を形成する方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
様々な種類のCO源(産業規模及び小規模の源の両方)からのCO排出量を軽減することは、現在関心を集める分野である。CO排出量を軽減するための戦略の1つの種類は、吸着剤又は吸収剤を使用して、COを潜在的な排出ガス流から除去し、その後このCOを、大気中へのCOの放出を低減、最小化、又は排除するために処理可能な流れの一部として脱着することである。
【0004】
COを吸着又は吸収することができる様々な材料が知られているが、このような吸着剤/吸収剤を効果的な接触器構造体において実施することには、課題が残っている。接触器構造体を設計する際の困難な幾つかの点は、従来の材料を使って実施可能な接触器の設計の種類が限定されていることに関する。従来の接触器の設計では、典型的には、吸着剤/吸収剤を充填層又はモノリスの一部として組み込んでいた。充填層の構造は、大量の吸着剤/吸収剤を容積中に組み込むためには有効であり得る。充填層中の粒子は、収着剤粒子、収着剤粒子と結合剤若しくは希釈剤との組み合わせ、又は、収着剤が支持材の上に堆積した支持材料から成る粒子に相当し得る。しかしながら、充填層は、典型的には、充填層を流れる流体の量と比較して大きな圧力低下を引き起こし、CO回収といった用途のために充填層吸着材を大容積に拡大させることは、困難になる。金属又はセラミックモノリスが、充填層に対する一選択肢を提供可能であり、圧力低下に関する困難を低減する流路を提供可能である。しかしながら、金属又はセラミックモノリスに導入可能な吸着剤部位の密度は、流路の表面に限定されていることが多い。加えて、モノリス内の温度を管理することは、別の一連の課題を提示し得る。特に、モノリス構造体を冷却することは、典型的には、熱伝達流体をモノリスの内部に導入することを必要とする。製造後のセラミック又は金属モノリスに複合体構造を機械加工することが難しいため、熱伝達流体とプロセス流体流とが混合するというリスクを低下又は最小化しつつ、目標量の熱伝達流体をモノリス構造体の内部に提供することは困難であり得る。
【0005】
充填層又はモノリス構造体を使用することに対する一代替手段は、収着剤中空繊維のアレイを使用することである。例えば、吸着剤を収着剤中空繊維のポリマー材料に組み込んで、その後、障壁層を中心孔に追加することが可能である。複数の繊維を接触器の中に配置可能である。障壁層は、繊維の中空孔とポリマー材料の残りの部分との間の流体連通を妨げることが可能である。これによって、中空孔を、熱伝達流体を運ぶために使用可能とし、中空繊維アレイの温度管理を可能にできる。この温度管理を利用して、COといった所望の目標成分の吸着及び脱着を支援することが可能である。吸着は、中空繊維の外側を、(COといった)目標成分を含むプロセスガスに曝すことによって行うことが可能であり、その後、スイープガスの存在下で繊維を加熱することによって、脱着を行うことが可能である。
【0006】
米国特許第8,133,308号には、酢酸セルロースとゼオライト吸着剤との混合物から成る繊維を使用した中空繊維アレイに基づく吸着接触器の例が記載されている。内腔障壁層の形成中に加湿されたスイープガスを使用するための方法も記載されている。「燃焼排気からCOを除去するための中空繊維吸着剤」(Ind. Eng. Chem. Res., 2009, Vol. 48, 7314-7324頁)という名称の論文にも、内腔層形成中の加湿されたスイープガスの使用について記載されている。
【0007】
吸着剤は、中空繊維を形成するために使用されるドープ溶液に添加されることが可能であるが、このような吸着剤を添加するだけで、確実に、吸着剤の完全な吸着能力が、結果として形成される中空繊維構造において維持されることになるものではない。より高い吸着能力を有する吸着剤をかなりの添加量で中空繊維構造に添加し、同時に、このような吸着剤の有利な吸着性能をさらに維持することが望ましいだろう。
【0008】
米国特許第8,658,041号は、中空繊維接触器構造体のさらなる例を記載している。中空繊維は、中心孔又は内腔を有する繊維である。接触器構造体では、中空繊維は、ポリマー材料内に吸着剤を含むことが可能であり、ポリマー材料と中心孔又は内腔との間の流体交換を妨げるために、障壁層をさらに含むことが可能である。
【0009】
「高圧CO分離用の、Torlon(登録商標)、ポリアミドイミドポリマーから成る欠陥の無い非対称の中空繊維膜」(Kosuri, M. R., Koros, W. I, Journal of membrane Science, 2008, 320, 65)という名称の論文には、三成分相図のバイノーダル線を曇点法によって決定することが記載されている。
【0010】
「エネルギー効率に優れた酸性ガス分離用の類まれな性能を有する超選択的ガラス質ポリマー膜」(Science Advances, May 2019, Vol. 5, No. 5, eaaw5459)という名称の論文には、固有微細孔性ポリマーであるAO-PIM-1が記載されている。
【発明の概要】
【0011】
一態様では、収着剤中空繊維組成物が提供される。収着剤中空繊維組成物は、ポリマー構造材料を含む中空繊維を含み、ポリマー構造材料は、ポリマーと、ポリマー構造材料の重量に対して5.0wt%~80wt%の金属有機骨格材料とを含む。加えて、収着剤中空繊維組成物は、中空繊維内に孔を備える。
【0012】
他の一態様では、収着剤繊維組成物が提供される。収着剤繊維組成物は、ポリマー構造材料を含む繊維を含み、ポリマー構造材料は、ポリマーと、ポリマー構造材料の重量に対して5.0wt%~80wt%の金属有機骨格材料とを含む。
【0013】
幾つかの態様では、ポリマーは、AO-PIM-1といった固有微細孔性のポリマーに相当し得る。幾つかの態様では、ポリマーは、ポリエーテルスルホンに相当し得る。幾つかの態様では、ポリマーは、1つ又は複数の環状構造の少なくとも一部を含むポリマー骨格を含む。
【0014】
幾つかの態様では、金属有機骨格材料は、1つ又は複数の添加されたアミンを含むことが可能である。このようなアミンは、中空繊維の形成後、任意選択により、金属有機骨格材料に添加され得る。
【0015】
一態様では、収着剤中空繊維組成物といった繊維組成物を形成する方法が提供される。この方法は、ドープ溶液を押し出すことによって繊維を形成するステップ、又は、孔用流体及びドープ溶液を押し出すことによって中空繊維を形成するステップを含むことが可能である。ドープ溶液は、金属有機骨格材料、ポリマー、及び、溶媒を含むことが可能である。繊維又は中空繊維は、ポリマーとポリマー構造材料の重量に対して5.0wt%~80wt%の金属有機骨格材料とを含むポリマー構造材料から構成されていてもよい。中空繊維は、中空繊維内に孔をさらに備えることが可能である。
【0016】
任意選択により、この方法は、中空繊維を、アミンを含有する溶液に暴露して、金属有機骨格材料の少なくとも一部をアミン添加された金属有機骨格材料に変換するステップをさらに備えることが可能である。
【0017】
任意選択により、この方法は、孔とポリマー構造材料との間のインターフェース(界面)において障壁層を形成するステップをさらに含むことが可能である。例えば、障壁層は、障壁ポリマー及び搬送ガスを孔に通して、孔とポリマー構造材料との間のインターフェースにおいて障壁層を形成することによって形成可能である。任意選択により、搬送ガスは、0.5vol%以下のHOを含むことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、収着剤中空繊維を形成するためのプロセスフロー図の一例である。
【0019】
図2図2は、様々な固有微細孔性ポリマーの化学構造の例を示す図である。
【0020】
図3図3は、様々なポリマーの化学構造を示す図である。
【0021】
図4図4は、ポリマー構造材料を形成するためのドープ溶液中にEMM-44を含む中空繊維構造のサンプルからのパウダーX線回折スペクトルを、純(neat)EMM-44の基準スペクトルと共に示す図である。
【0022】
図5図5は、ポリマー構造材料にMOFを含む中空繊維構造のSEM顕微鏡図である。
【0023】
図6図6は、EMM-44への変換のための2-アミノメチルピペリジンを含有する様々な量のアミン添加溶液に曝した後の、ポリエーテルスルホン及びEMM-67から形成された中空繊維構造用のCO取り込み量を示す図である。
【0024】
図7図7は、様々な量のアミン添加溶液に曝した後の、ポリエーテルスルホン及びEMM-67から形成された中空繊維構造のXPSスペクトルを示す図である。
【0025】
図8図8は、酢酸セルロースから形成された様々な中空繊維の外表面を示すSEM顕微鏡図である。
【0026】
図9図9は、AO-PIM-1から形成された様々な中空繊維の外表面を示すSEM顕微鏡図を示す図である。
【0027】
図10図10は、ポリエチレンイミンが注入されたPIM-1に基づく中空繊維構造の収着能プロットである。
【0028】
図11図11は、アルミナ酸化物ナノストランド及び/又は様々な量で注入されたポリエチレンイミンを含む、PIM-1に基づく中空繊維構造の吸着等温線を示す図である。
【0029】
図12図12は、ポリマー構造材料中にMOF材料を含む中空繊維構造の一例を示す図である。
【0030】
図13A図13Aは、吸着接触器の一例を示す図である。
【0031】
図13B図13Bは、図13Aに示される吸着接触器の別の図である。
【0032】
図14図14は、EMM-44と、ポリエーテルスルホン及びEMM-44から成る中空繊維構造との吸着等温線を示す図である。
【0033】
図15図15は、ポリエーテルスルホン及びEMM-44を含む繊維の吸着等圧線を示す図である。
【0034】
図16図16は、ポリエーテルスルホン及びEMM-44を含む繊維の熱重量分析を示す図である。
【0035】
図17図17は、ポリエーテルスルホン及びEMM-44を含む繊維の熱重量分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
ここに記載の詳細な説明及び特許請求の範囲における全ての数値は、示される当該数値について「約」又は「およそ」の値によって変更され、当業者であれば予測するであろう実験誤差及び変動を考慮したものである。
[概要]
【0037】
様々な態様において、金属有機骨格(MOF)材料を繊維のポリマーマトリクスの中に組み込んだ繊維組成物が提供される。中空繊維組成物は、繊維組成物の一例である。金属有機骨格材料は、中空繊維を形成するために使用される「ドープ」すなわち合成溶液の中にMOF粒子を含めることによって、組み込むことが可能である。その後、ドープ溶液を使って、結果として形成される繊維のポリマー構造材料に、繊維の重量に対して5.0wt%以上のMOFを含む繊維(中空繊維等)を形成可能である。幾つかの態様では、金属有機骨格材料は、COの吸着に選択性を有するMOFに相当し得る。
【0038】
加えて又は代わりに、様々な態様において、MOF材料を繊維組成物の中に組み込んだ後、MOF材料を、少なくとも部分的にアミンが添加されたMOF材料に変換させることが可能である。アミンが添加されたMOF材料は、繊維構造体に直接組み込まれないことが分かった。むしろ、繊維の形成中に、添加されたアミンが、繊維形成プロセスの1つ又は複数の相の間にMOF材料から実質的に剥離してしまう場合がある。アミンが添加されたMOF材料を含む繊維組成物(中空繊維組成物等)を直接形成しようとする代わりに、MOF材料を含有する繊維を最初に形成し、その後、結果として形成される繊維構造体にアミンを添加可能であることが分かった。
【0039】
繊維組成物は、MOF材料がポリマーマトリクス内で支えられているポリマー構造材料に対応し得る。概して、ポリマー構造材料は、中空繊維の外面からポリマーマトリクスの内部への流体の輸送が可能なように、十分な細孔容積及び/又は細孔流路を有していることが可能である。孔又は内腔が中空繊維内に存在するように中空繊維組成物が形成されている態様では、ポリマーマトリクス材料と内部孔容積との間の流体の移動を、低減、最小化、又は阻止するために、障壁又は内腔層が設けられていることが可能である。このような障壁は、例えば、熱伝達流体がプロセス流体と混合することを低減、最小化、又は阻止しつつ、熱伝達流体が孔容積/内腔容積を通過することを可能にする。
【0040】
一般的に、中空繊維(又は、より一般的に言えば繊維)を形成するために、様々な種類のポリマーが以前から使用されている。しかしながら、材料をドープ溶液に組み込むことは、ポリマーと相互作用し得る。幾つかのクラスのポリマーは、繊維構造体への混入用のMOFも含むドープ溶液の中で使用されると、思いがけない利益を提供し得ることが分かった。使用可能な1つのクラスのポリマーは、PIM-1又は他の種類のPIM-1構造といった、固有微細孔性ポリマー(PIM)である。より一般的に言えば、ポリマー骨格中に1つ又は複数の環状構造(芳香環又は非芳香環)の少なくとも一部を含むポリマーを使用可能である。ポリエーテルスルホン(PES)は、ポリマー骨格中に環状構造を含むポリマーの他の例である。酢酸セルロースは、ポリマー骨格中に(非芳香族)環状構造を含むポリマーのさらに別の例である。さらに他の例には、ポリイミン(Matrimid5218等)及び/又はポリアミドイミドポリマー(Torlon(登録商標)等)が含まれ得る。この考察では、環状構造の少なくとも一部は、ポリマー繰り返し単位の終端における原子を連結するための最短経路が、環状構造に参加している1つ又は複数の原子を貫通する場合に、ポリマー骨格の一部であると定義される。幾つかの態様では、ポリマー骨格は、単一の環状構造に参加している複数の原子を含み得る。
【0041】
加えて又は代わりに、予期していなかったが、繊維に組み込み可能なMOFの量は、繊維のポリマー構造材料を形成するために使用されるポリマーの性質に依存し得ることが分かった。MOF材料を繊維に組み込んで、繊維のCO吸着能力を向上させる場合、ポリマー構造材料に組み込み可能なMOFの重量パーセントを増加させることができる点が有利である。幾つかの態様では、ポリマー構造材料に組み込み可能なMOF材料の量は、AO-PIM-1、ポリエーテルスルホン、又はこれらの組み合わせに対応するポリマーからポリマー構造材料を形成することにより、増加させることが可能である。
【0042】
様々な態様において、繊維(中空繊維等)のCO吸着能力は、金属有機骨格材料をポリマーマトリクスに組み込むことによって増加させることが可能である。金属有機骨格(MOF)は、共有結合を用いてリガンドを有機結合することによって連結された金属イオン/酸化物二次形成ユニットから成る、比較的新規のクラスの多孔質材料である。MOFは、低密度、高い内部表面積、並びに、均一寸法の細孔及び流路によって特徴付けられる。MOFは、典型的には結晶物質である。
【0043】
様々なMOFが、CO吸着能力を有するものとして特徴付けられてきた。例えば、Mg-MOF-74は、Mg2+イオン及び2,5-ジヒドロキシテレフタル酸に基づく金属有機骨格材料に相当する。別の例として、EMM-67は、4,4′-ジオキシドビフェニル-3,3′-ジカルボン酸塩に組み合わされた、金属イオンに基づく金属有機骨格材料に相当する。この材料は、2-アミノメチルピペリジンのような官能性を添加してEMM-44といった構造を生成することによって、さらに強化可能である。さらに別の例として、EMM-42は、3個のクロム原子の三方晶ノードと、MTN(IZAコード)トポロジのベンゼン-ジカルボン酸塩リガンドと、フェニレン-ビスホスホン酸連結リガンドとの組み合わせによってブリッジされた少なくとも13個の酸素原子とから成る金属有機骨格である。さらに別の例は、MOF-99とも呼ばれるHKUST-1である。HKUST-1骨格は、ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸リンカー分子によって接続された二量体の金属ユニットから形成されている。パドルウィールユニットとは、金属中心の配位環境を説明するために一般的に使用されている構造モチーフであり、HKUST-1構造の二次形成ユニット(SBU)である。パドルウィールは、2つの金属中心をブリッジする4つのベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸リンカー分子から構成される。なお、HKUST-1は、感水性MOFである。幾つかの態様では、感水性MOFを含むドープ溶液を形成する場合、溶媒(及び任意選択で非溶媒)は、実質的に水を含んでいなくてもよい。幾つかの態様では、MOFは、ジサリチル酸リンカーを含むMOFに相当し得る。
【0044】
より一般的に言えば、ここに記載の繊維のポリマー構造材料に組み込むためのMOF粒子として形成可能な任意の種類のMOFを使用可能である。MOF粒子は、0.01μm~50μm、又は0.1μm~50μmの平均粒径を有していることが可能である。ここでは、MOF粒子の粒径は、粒子を含む最小境界球面の直径として定義される。
【0045】
様々な態様において、繊維のポリマー構造材料は、MOF材料を1.0wt%~80wt%、又は1.0wt%~50wt%、又は1.0wt%~35wt%、又は1.0wt%~30wt%包含し得る。幾つかの態様では、ポリマー構造材料のMOF含有量は、比較的低くてもよい。このような態様では、ポリマー構造材料のMOF含有量は、1.0wt%~35wt%、又は5.0wt%~35wt%、又は10wt%~35wt%、又は1.0wt%~30wt%、又は5.0wt%~30wt%、又は10wt%~30wt%、又は1.0wt%~20wt%であり得る。他の態様では、より高い添加率のMOF材料がポリマー構造材料に含まれていてもよい。このような態様では、ポリマー構造材料のMOF含有量は、30wt%~80wt%、又は30wt%~70wt%、又は50wt%~80wt%、又は50wt%~70wt%であり得る。
【0046】
幾つかの態様では、ポリマー構造材料中の有利な細孔構造を促進するために、細孔形成成分を使用してもよい。細孔形成成分をドープ溶液に添加して、ポリマー構造材料内のマクロボイドの形成を低減又は最小化することができる。ドープ溶液が非溶媒も含有しているかどうかには無関係に、細孔形成成分をドープ溶液に添加することができる。
【0047】
中空繊維を形成した後、障壁層又は内腔層を中空繊維の内壁に追加して、中空繊維の孔とポリマー構造材料との間の流体連通を低減、最小化、又は排除することが可能である。これによって、孔を熱伝達流体用の導管として使用し、同時に、このような熱伝達流体が、中空繊維のポリマー構造材料に曝されるプロセスガスと混合することを低減、最小化、又は阻止することが可能となる。加えて又は代わりに、押し出しの間に、障壁層を導入することが可能である。例えば、障壁層の共押し出しを可能にする3チャネルスピナレットを使うことが可能である。幾つかの態様では、10~50%のポリマーとNMPといったバランス溶媒とを含有する障壁層ドープ溶液を使うことが可能である。孔用流体組成物は、これに応じて調節可能であり、0~100%のポリプロピレン・グリコール、又は他の好適な、溶媒及び/又は非溶媒の組み合わせを含有していてもよい。このような態様では、ドープ溶液、障壁層ドープ溶液、及び、孔用流体を共押し出しして、孔と収着剤材料との間のインターフェースにおいて障壁層を備える中空繊維を生成することが可能である。
[ドープ溶液の組成物]
【0048】
様々な態様において、MOF吸着剤を含むポリマー繊維構造体を形成するためのドープ溶液(又は合成溶液)は、少なくとも1つの溶媒、少なくとも1つの非溶媒及び/又は細孔形成剤、溶媒中に溶解したポリマー材料、及び、溶液中に分散及び/又は懸濁したMOF材料の粒子を含んでいることが可能である。金属有機骨格粒子をドープ溶液に組み込んで、ポリマー構造材料中にMOFを含む繊維を形成可能とすることができることが分かった。このような繊維構造体の形成は、結果として形成される繊維中に高濃度のMOF材料を許容するポリマーを選択することによってさらに促進され得る。
【0049】
中空繊維は、繊維構造体の一例である。この考察では、本発明の原理を説明するために、中空繊維の形成にドープ溶液を使用することを記載する。しかしながら、孔用流体を使用せずに類似の手順を行うことによって、他の種類の繊維を形成しても良いことは、理解されるであろう。
【0050】
ポリマーを押し出して、ポリマー構造材料から成る中空繊維収着剤を形成することは、従来から公知である。好適な一押し出し方法は、コアドープと孔用流体とを使用するジェット乾湿式紡糸法である。このような方法では、ドープ溶液及び孔用流体を、1つのスピナレットに供給できる。ドープ溶液は、ポリマー、溶媒、及び、任意選択により1つ又は複数の非溶媒又は細孔形成剤を含むことが可能である。従来では、非溶媒がドープ溶液に含有されていただろうが、幾つかの態様では、中空繊維を形成するために、i)MOF粒子、ポリマー、及び溶媒のドープ溶液、又は、ii)MOF粒子、ポリマー、溶媒、及び細孔形成剤のドープ溶液を使用可能である。スピナレットを使用して、中空繊維構造を押し出ししてもよい。非溶媒を使用する態様では、押し出しの間及び/又は後に、溶媒の非溶媒に対する比率を変更して、相反転を生じさせることが可能であり、その結果、多孔質の中空繊維が形成される。加えて又は代わりに、中空繊維の形成は、押し出された材料を急冷槽の中に通し、溶媒の除去や中空繊維の形成を促進させることによって、行うことが可能である。上述のように、孔用流体を使用しない場合には、中空でない類似の繊維を形成することが可能である。
【0051】
ポリマー、溶媒、及び非溶媒を含むドープ溶液の場合、三成分相図を、ドープ溶液を形成するために使用されることになるポリマー、溶媒、及び非溶媒に基づいて決定可能である。このポリマー、溶媒、及び非溶媒の三成分相図は、均質(溶液)領域を非均質領域から分離するバイノーダル線を含むことになり、ここで、ポリマーが溶媒及び非溶媒から分離相を形成する。三成分相図におけるこのバイノーダル線は、「曇点」法といった任意の好適な方法によって判定可能である。例えば、別個のポリマー相及び溶媒/非溶媒相への分離の開始による「曇った」状態を有する1つの組成物(又は複数の組成物)を決定するために、一定の濃度のポリマーにおいて、溶媒の非溶媒に対する比率が断続的に低くなる一連の組成物を形成することが可能である。このプロセスを一連のポリマー濃度において繰り返し、バイノーダル線を決定することが可能である。バイノーダル線を判定するための他の方法がKosuriらによって提供されている(Kosuri, M. R., Koros, W. I, Journal of Membrane Science, 2008, 320, 65)。なお、ポリマー、溶媒、及び細孔形成剤の組み合わせについて相図を同様に形成して、ドープ溶液組成物の選択を支援することが可能である。
【0052】
様々な態様において、ポリマーとMOF粒子との混合物を、三成分相図を決定するための1つの成分として用いて、別の種類のドープ溶液を特定することが可能である。しかしながら、このような相図を用いて、バイノーダル線に十分近いドープ溶液を決定して、相反転によるポリマー構造材料を許容することが可能であるが、MOF粒子を組み込むための能力は、MOF粒子について高い充填度で及び/又は高いCO吸着能力を保持しつつ(中空)繊維構造体を形成する能力からは分離されていることが分かった。
【0053】
幾つかの態様では、中空繊維のポリマー構造材料を形成するために使用されるポリマーは、固有微細孔性のポリマー(PIM)に相当し得る。図2は、3種類のPIMについての繰り返し単位の例を示している。図2の上部は、PIM-1を、ここではAO-PIM-1と呼ばれるポリマーに変換するための反応を示している。AO-PIM-1は、PIM-1のアミドキシム誘導体に相当する。図2に示されるように、AO-PIM-1は、例えば、溶液環境においてPIM-1をヒドロキシルアミンと反応させることによって形成可能である。好適な溶液環境の例は、テトラヒドロフラン又はジメチルホルムアミドといった極性非プロトン性溶媒が含むことが可能であるが、他の種類の溶媒も、潜在的には好適であり得る。AO-PIM-1をCO吸着用のポリマー材料として作成したが、AO-PIM-1は、ドープ溶液から紡糸することによって形成されつつ、予想外に高いレベルのMOF材料の組み込みも可能にすることが分かった。加えて、AO-PIM-1ポリマー構造材料中の高レベルのMOF材料は、MOF材料のCO吸着能力の80%以上又は90%以上を保持可能であると考えられる。加えて、図2は、ここではTZ-PIMと呼ばれる他のPIM-1誘導体の構造を示す図である。TZ-PIMは、PIM-1中のニトリル基をテトラゾールに変換することによって形成可能である。
【0054】
ドープ溶液を形成するために他の種類のポリマーも使用可能である。幾つかの態様では、ドープ溶液中のポリマーは、限定される訳ではないが、固有微細孔性のポリマー、酢酸セルロース、及び、ポリスルホン(ポリエーテルスルホン等)を含むことが可能である。幾つかの態様では、ポリマーは、ポリマー骨格における少なくとも1つの環状構造を含むポリマーに相当し得る。幾つかの態様では、ポリマーは、水に溶けないポリマーに相当し得る。図3は、例えば、他の種類のポリマーの繰り返し単位を示しており、ここに提供される例では、ポリマー構造材料を形成するために使用したポリマーの繰り返し単位を示している。図3に示される繰り返し単位は、Matrimid(登録商標)5218、Torlon(登録商標)ポリマー、酢酸セルロース、及びポリエーテルスルホンに相当する。なお、複数のポリマーを含有するドープ溶液を形成して、複数のポリマーから成る繊維を形成してもよい。
【0055】
幾つかの態様では、溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトン、及び/又は、N-メチルピロリドンに相当し得る。より一般的に言えば、溶媒は、ドープ溶液中のポリマーに対して高い溶解レベルを有する溶媒であり得る。溶媒化合物中のポリマーの溶解レベルを判定するために多くの方法がある。例えば、幾つかの態様では、ポリマー及び溶媒化合物について、ヒルデブランド溶解パラメータを測定可能である。幾つかの実施形態において、ポリマー及び溶媒化合物のヒルデブランド溶解パラメータは、3.6MPal/2以下の差異を有していることが可能である。当業者であれば、このような実施形態が、ポリマーを溶解して実質的に均質な溶液を生成可能な溶媒化合物を提供することになることは理解されよう。ポリマーの態様及び性質に依存するが、潜在的な溶媒は、限定される訳ではないが、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、アセトニトリル、ブタンジオール、ブトキシエタノール、酪酸、ジエタノールアミン、ジエチレントリアミン、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメトキシエタン、ジメチル・スルホキシド(DMSO)、ジオキサン、エタノール、エチルアミン、エチレン・グリコール、ギ酸、フルフリルアルコール、グリセロール、メタノール、メチルジエタノールアミン、イソシアン化メチル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、プロパノール、プロパンジオール、プロパン酸、プロピレン・グリコール、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、トリエチレン・グリコール、ジメチルヒドラジン、ヒドラジン、フッ化水素酸、過酸化水素、硝酸、硫酸、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、又は、これらの組み合わせを含むことが可能である。
【0056】
幾つかの態様では、ドープ溶液中に単にポリマー、MOF、及び溶媒を有することで十分であり得る。他の態様では、ドープ溶液は、非溶媒をさらに含む。概して、非溶媒は、ドープ溶液中のポリマーに対する溶解度が低い又は最小である化合物であり得る。非溶媒化合物中のポリマーの溶解レベルを測定するための多くの方法がある。幾つかの態様では、非溶媒は、最初に、ポリマー及び非溶媒化合物についてハンセン溶解パラメータを測定することによって選択され得る。例えば、ポリマー及び非溶媒は、ポリマー及び非溶媒化合物のハンセン溶解パラメータから算出される相対エネルギー差が、1以上となり得るように選択可能である。当業者であれば、このような実施形態が、ポリマーを溶融不可能な非溶媒化合物を提供することになることは理解されよう。
【0057】
幾つかの態様では、非溶媒は、トルエン、ジメチルアセトアミド、又は、これらの組み合わせに相当し得る。幾つかの態様では、非溶媒は、水であってもよく、及び/又は、水を含んでいてもよい。他の態様では、非溶媒は、実質的に、水を含んでいなくてもよく(0.1wt%未満であってもよく)、これによって、インク組成物において感水性MOFを使用することが可能になる。HKUST-1は、感水性MOFの一例である。
【0058】
任意選択により、ドープ溶液は、細孔形成成分を含んでいてよい。非溶媒に加えて及び/又は非溶媒の代わりに、細孔形成成分を使用してもよい。硝酸リチウムは、細孔形成成分の一例である。
【0059】
表1は、中空繊維形成用のドープ溶液を形成するために使用可能な、ポリマー、溶媒、及び、非溶媒又は細孔形成成分の組み合わせの例を示している。表1では、「非溶媒」のカラムにLiNOが挙げられているが、LiNOは、非溶媒というよりはむしろ細孔形成成分として機能することは理解されよう。なお、PVP(ポリビニルピロリドン)は、細孔形成成分として使用するために好適であり得る他の化合物である。
【表1】
【0060】
この考察では、形成されたポリマー構造用の表面積及び細孔容積は、それぞれ、N吸着等温線をASTM D3663(BET表面積)及びASTM D4641(N細孔容積)に基づいて測定することによって判定できる。特定されている場合、細孔容積を、ASTM D4284(細孔容積用のHgポロシメトリ)に基づいて測定してもよい。
【0061】
幾つかの態様では、ポリマー構造の表面積は、50m/g以上、又は100m/g以上、又は200m/g以上、又は500m/g以上、例えば最大3000m/g、又は場合によってはそれ以上であり得る。なお、このような表面積及び/又は細孔容積は、ポリマー及びMOFの両方からの表面積及び細孔容積の寄与分を含む。幾つかの態様では、ポリマー構造は、(窒素物理収着によって決定される)細孔容積が0.5cm/g~1.3cm/gであり、及び/又は、(水銀ポロシメトリによって決定される)細孔容積が1.0cm/g~3.0cm/gであり得る。
[中空繊維吸着剤及び吸着モジュール]
【0062】
様々な態様において、ポリマー構造材料中にMOF材料を組み込んでいる中空繊維(及び/又は他の種類の繊維)が形成され得る。その後、このような繊維を、吸着モジュールに組み込むことが可能である。図12は、ポリマー構造材料(ポリマーマトリクスとも呼ぶことが可能である)中にMOF材料を組み込んでいる中空繊維収着剤を示す図である。図12では、収着剤組成物100は、繊維110を含む。繊維110自体は、少なくとも1つのMOF吸着剤材料120と、繊維110内に配置された内腔130と、内腔130の内側を覆う障壁層140(つまり、内腔又は孔とポリマー構造材料との間のインターフェース)とを含む。障壁層140は、内腔130と少なくとも1つのMOF吸着剤材料120との間の流体連通を阻止するためのものである。MOF吸着剤材料120は、繊維110を形成するポリマー構造材料150に組み込まれていることが可能である。任意選択により、ポリマー構造材料150は、複数の複雑な経路155を含むことが可能である。繊維110は、連続的かつ柔軟な細い繊維、又は、何本かの糸に似た分離した細長い片である、多くのクラスの材料に相当し得る。ここで使用されるように、「繊維」とは、比較的高いアスペクト比(つまり、長さ対平均最長断面の比)を有する、連続的かつ柔軟な細い繊維材料を意味している。本発明の一実施形態では、アスペクト比は、少なくとも4:1、又は少なくとも10:1、又は少なくとも100:1、又は少なくとも1000:1、例えば最大1,000,000:1、又は場合によってはさらに大きい比であり得る。
【0063】
繊維110は、多くの断面形状を有していることが可能であり、断面形状は、限定される訳ではないが、長方形、円形、半円形、正方形、五角形、三角形、六角形、八角形、星形、スターバースト形、「U」字形、浅裂形、多数浅裂形、任意の形状、又はこれら若しくはこれらの間の組み合わせが含まれる。幾つかの態様では、繊維110の平均最長断面寸法は、少なくとも100マイクロメートル、又は少なくとも500マイクロメートル、又は少なくとも1000マイクロメートル、又は少なくとも2000マイクロメートル、例えば最大50,000マイクロメートル、又は場合によってはそれ以上であり得る。繊維が円形断面を有している一態様では、繊維の一例は、800~1500マイクロメートルの直径を有する繊維であり得る。
【0064】
繊維が中空繊維である態様では、内腔130も存在する。内腔130は、多くの断面形状を有することが可能である。断面形状は、限定される訳ではないが、長方形、円形、半円形、正方形、五角形、三角形、六角形、八角形、星形、スターバースト形、「U」字形、浅裂形、多数浅裂形、任意の形状、又はこれら若しくはこれらの間の組み合わせを含む。態様によっては、内腔は、対応する繊維とほぼ同一の断面形状を有していてもよいし、又は、異なる断面形状を有していてもよい。内腔130の平均最長断面寸法は、少なくとも50マイクロメートル、又は少なくとも200マイクロメートル、又は少なくとも500マイクロメートル、又は少なくとも1000マイクロメートルであり得る。幾つかの態様では、内腔の平均最長断面寸法は、対応する繊維の平均最長断面寸法の1.0%~50%に対応し得る。本発明の一実施形態では、内腔130の平均最長断面寸法は、約300マイクロメートルである。内腔が円形断面を有している一態様では、内腔の一例は、200~500マイクロメートルの直径を有する内腔であり得る。
【0065】
当業者であれば、繊維110及び/又は内腔130の断面形状が、繊維の平均最長断面寸法を決定することになることは、理解できるであろう。例えば、円形断面形状を有する繊維及び/又は内腔の平均最長断面寸法は、繊維及び/又は内腔の直径となる。一代替例では、長方形の断面形状の平均最長断面寸法は、長方形の断面の長さと幅との間の対角線となる。さらに他の例では、スターバースト形の断面形状の平均最長断面寸法は、スターバースト断面の最も遠隔にある二つの点の間の距離となる。
【0066】
障壁層140は、多くの材料を含むことが可能である。この材料は、限定される訳ではないが、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル、エピクロルヒドリン(ヒドリン)、ポリエーテルアミドブロック共重合体、ガラス、シリカ、アルミナ、金属、金属酸化物、ラテックス、他の高度障壁ポリマー、これらの共重合体、又は、これらの組み合わせを含む。他の態様では、障壁層は、ポリエーテルスルホン又は酢酸セルロースといった、繊維組成物を形成するために適したポリマーから形成され得る。このような態様では、障壁層ドープ溶液の一選択肢は、ポリマーに加えて溶媒を含む溶液であって、金属有機骨格収着剤材料及び/又は細孔形成剤は含まない溶液を使用することである。例えば、障壁層ドープ溶液は、NMP又は他の好適な溶媒及び/又は非溶媒に対する好適なバランスを有する、10wt%~50wt%のポリマーを含むことが可能である。幾つかの態様では、障壁層140の平均厚さは、50マイクロメートル以下、又は30マイクロメートル以下、例えば最小で5.0マイクロメートル又は場合によってはそれ以下であり得る。
【0067】
本発明の一実施形態では、繊維は、繊維の長手方向の各端部に配置されたエンドキャップをさらに含むことが可能である。ここで、エンドキャップは、内腔を通る流れを阻害しない。エンドキャップは、繊維の長手方向の端部における複雑な経路と、繊維の長手方向の端部を包囲する環境との間の流体連通を阻止することが可能である。
【0068】
図13A及び図13Bは、構造化された中空繊維吸着剤を接触器内に形成可能とする方法の概略的な描写を提供するものである。構造化された中空繊維吸着剤110を含む接触器200が図13A及び図13Bに示されている。図13Bは、図13Aの接触器を示しており、ここでは、接触器205のチャンバの外表面が透明になっている。図13Bでは、点線が、接触器の外表面の縁部を示している。繊維110は、ポリマーと少なくとも1つの吸着剤材料120とを含むポリマーマトリクス150を備えている。繊維110は、繊維110内に配置された内腔130と、内腔130の内側を覆い内腔と吸着剤材料との間の流体連通を阻止する障壁層140とを含むことが可能である。障壁層140は、内腔と少なくとも1つのMOF吸着剤材料120との間の流体連通を阻止するので、熱伝達媒体を、繊維110の内腔130に流すことが可能である。拡散障壁として機能するためには、障壁層140の有効拡散係数は、ポリマーマトリクス150の平均拡散係数の約1/50よりも低い値、及び、好ましくは、ポリマーマトリクス150の平均拡散係数の約1/10,000よりも低い値である必要がある。拡散障壁は、内腔130を通って供給される加熱及び冷却流体が、ポリマーマトリクス150に流入すること、又は、COといった収着質の材料が内腔流体の中に失われることを有効に排除する。
【0069】
ほぼ整列した複数の繊維110を、束にして、又は、広げて配置することが可能である。繊維の束の端部を、結合材210の中に挿入する又は埋め込むことが可能である。結合材210は、隣接する繊維を有効に相互接続する。例えば、結合材は繊維110を固定し、ほぼ平行なアレイにすることが可能である。これを行うための一方法は、繊維の端部を結合材210で包囲する埋め込み又は挿入プロセスを備える。挿入された繊維アレイを視覚化するために、図13Bは、平行の流路繊維接触器を、結合材210とチャンバ205とを透明にして示す図である。その後、この挿入されたアレイを、チャンバ205の中に封止する。チャンバ205の端部には、封止面240が設けられている。動作時には、チャンバ205を、例えばTSA(温度スイング吸着)又はRCTSA(急速サイクル温度スイング吸着)モジュールに取付て、分離用の媒体と熱交換媒体との間の流体連通を阻止するようにする。チャンバ205は筒状又は円筒状のチャンバとして図示されているが、チャンバは、多くの形状を有していてもよく、限定される訳ではないが、長方形又は四角形を含むことが可能である。
【0070】
図13A及び図13Bに示される例では、スロット215がチャンバ205の壁に切り込まれており、気体が接触器の中に入ることが可能になっている。接触器の中央には、中央ガス収集管220が配置されている。中央ガス収集管220の端部225は、固体の不透水性材料であり、これは、限定される訳ではないが、固体金属又はエンジニアリングプラスチックを含むことが可能である。これによって、気体が、加熱又は冷却流体と混ざることなく、接触器200に入る又は接触器200から出ることが可能になる。モジュールの内側にあるガス収集管の部分230は、多孔質材であり、中でも、多孔性金属、又は多孔性ポリマー、又は織られたメッシュ等である。これによって、接触器内の気体を効率よく収集することが可能になる。吸着ステップでは、プロセスガス(CO含有燃焼排気等)が、スロット215を通って接触器200に流れ込み、中空繊維吸着剤110に接触する。少なくとも1つのMOF吸着剤材料120を含むポリマーマトリクス150は、プロセスガスから、COといった1つ又は複数の成分を除去する。中央ガス収集管220の高度に多孔質の部分230に浄化流が収集される。浄化ガスは、接触器200から、流量制御弁(図示しない)及び排気筒(図示しない)に接続する中央ガス収集管220の不透水性の部分225を通る。吸着ステップ中の温度上昇を制限するために、冷却媒体(例えば水)を、構造化された中空繊維110の内腔130に流す。吸着ステップが完了した後、プロセスガスのモジュールへの流れは弁で遮断され、加熱媒体(例えば蒸気)を、構造化された中空繊維110の内腔130に流す。その後、吸着された成分(CO等)は、脱着されることが可能であり、接触器200から、中央ガス収集管220を通って又はスロット215を通って流出可能である。
【0071】
本発明の様々な実施形態では、媒体(例えば、燃焼排気混合物)が、当該媒体から少なくとも1つの成分を選択的に除去する少なくとも1つの吸着剤材料と高効率に接触することを提供する接触器200を設計することができる。高効率な接触により、必要な吸着剤の量、接触器の体積、及び、接触器を再生するために必要なエネルギーを低減又は最小化することが可能である。高効率に設計された接触器により、燃焼排気や、接触器を加熱又は冷却するために使用される流体の圧力低下も、低減又は最小化される。これによって、今度は、接触器を通って流れる燃焼排気の圧力低下からのエネルギー損失、及び、接触器を加熱又は冷却するために使用される流体をポンプで送る又は圧縮するために必要なエネルギーが最小化される。
【0072】
障壁層を追加することの一例として、紡糸の後のステップにおけるパーベーパレイションプロセスによって、中空繊維の中に内腔障壁を取り付けることが可能である。中空の紡糸繊維を吸着剤モジュールに充填することに続いて、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)をN搬送ガスによって孔に通し、同時に、繊維モジュール内に含まれる繊維のシェル側に真空を印加することが可能である。こうして、水圧吸引及びPVDC懸濁液からの水のパーベーパレイションによって、内腔層の形成を促進できる。
【0073】
予期していなかったが、含水量が低減又は最小化されたスイープガス、例えば実質的に水を全く含まないスイープガスを使用することにより、改善された内腔層が形成可能であることが分かった。これは、米国特許第8,257,474の記載のような従来の理解とは異なるものであり、従来は、部分溶解及びPVDC内腔層の再堆積を促進して、欠陥が形成されること及び/又はピンホールを阻止するためには、水蒸気を含むスイープガスを使うことが必要であると考えられていた。そうではなく、様々な態様では、0.5vol%以下の水、又は0.1vol%以下の水を含むスイープガス、例えば最小で実質的に全く水を含まない(つまり0.01vol%よりも低い比率の水を含む)スイープガスを使用することにより、内腔層中の透過度を10以上の因数、又は20以上の因数、又は場合によってはそれ以上の因数だけ低減できることが分かった。
【0074】
幾つかの態様では、ポリマー及び/又は搬送ガスを流して障壁層を形成する間、中空繊維の外側に、減圧を加えることが可能である。障壁層の形成中にポリマー構造材料内の圧力を低減することによって、ポリマー材料を部分的に、ポリマー構造材料の細孔内に引き込ませることが可能であり、これによって、改善された障壁が形成される。様々な態様では、障壁層の形成中のポリマー構造材料内の圧力は、孔内の圧力よりも、10kPa-a以上、又は20kPa-a以上、又は40kPa-a以上、例えば最大200kPa-a、又は場合によってはそれ以上だけ、低いことが可能である。
[構成例-中空繊維の製造]
【0075】
図1は、中空繊維を形成するためのプロセスの一例を示している。図1では、ドープ溶液15は、MOF材料、ポリマー、溶媒、及び非溶媒を含み得る。幾つかの代替態様では、ドープ溶液は、MOF材料、ポリマー、溶媒、及び、硝酸リチウムといった細孔形成成分を含むことが可能である。さらに他の代替態様では、ドープ溶液は、MOF材料、ポリマー、及び溶媒を含んでいてもよい。ドープ溶液15及び孔用流体11は、スピナレット20の中に流され、収着剤中空繊維を形成し得る。当該繊維を水式急冷槽30に通した後、中空繊維は、巻き取りドラム40上に巻き取られることが可能である。中空繊維を形成した後、障壁層を中空繊維に追加して、ポリマー構造材料と中心孔又は内腔との間に障壁層を含む中空繊維50を形成することが可能である。その後、この中空繊維を複数組み合わせて、吸着接触器60とすることが可能である。なお、類似の構成であるが、孔用流体を使用しない構成を使用して、内腔を含まない繊維を形成してもよい。幾つかの任意選択による態様では、3チャネルスピナレットを使用して、中空繊維構造の押し出し中に、障壁層ドープ溶液(図示しない)を共押し出し可能としてもよい。
【0076】
代替構成では、中空繊維を巻き取りドラム上に巻き付けるのではなく、幾つかの態様において、中空繊維を水式急冷槽30に収集してもよい。この種類の態様では、低速回転を水に導入し、これによって中空繊維が水槽に溜まるので、中空繊維のもつれを低減又は最小化することが可能である。PIM-1を含むドープ溶液といった幾つかの種類のドープ溶液の場合、この代替構成により、中空繊維の形成を促進及び/又は改善可能である。
【0077】
従来、ドープ溶液の種類、及び/又は、中空繊維を形成するために使用可能なポリマーの種類に対する1つの欠点は、幾つかのポリマーがもろい中空繊維構造を形成する傾向がある点であり、もろい中空繊維構造は、製造時に巻き取りドラムの上に引き延ばされる時に壊れる可能性がある。製造時に中空繊維への張力を回避するために、巻き取りドラムの代わりに攪拌水槽を使用することが可能である。これによって、製造時に繊維を機械的に引っ張ることによる張力を低減又は最小化しつつ、長い繊維を生成することが可能となる。ランダムにもつれた繊維が形成されることを回避するために、中空繊維の形成中に、繊維を収集するための水槽を緩やかに攪拌することが可能であり、これによって繊維がコイルを形成する。
[繊維形成後のアミン添加]
【0078】
MOF材料の利点の1つは、幾つかのMOF材料を修飾して、例えば添加されたアミンといった、添加された官能基を含むようにすることが可能な点である。一例として、EMM-67は、金属としてMg及びMnを含む一種のMOF-274である。(2-アミノメチルピペリジンの形の)アミン官能基をEMM-67に添加することによって、EMM-67をEMM-44に変換可能である。官能基を添加する能力は、様々な利点を提供可能である。
【0079】
一例として、アミン添加を使って、MOF材料に関連付けられたCO吸着等温線及び/又は等圧線の性質を変更することが可能であるので、結果として形成されたアミン-添加された材料は、タイプIの等温線/等圧線ではなく、タイプVの等温線/等圧線を有している。典型的なMOF材料は、CO吸着についてタイプI(又は「ラングミュアタイプ」)等温線/等圧線を有し得る。タイプIの等温線では、吸着が急速に上昇し、その後、横ばいになる。この種類の等温線を有する吸着剤については、工業規模の吸着及び脱着を行おうとする時に吸着剤の潜在的な作用能力の大部分を利用することは困難である。アミンをMOF構造に添加することにより、アミン-添加されたMOFについてのCO吸着を、タイプVの等温線及び/又は等圧線に変換できる。吸着剤材料からの循環吸着及び脱着を行おうとする場合、タイプVの等温線/等圧線の挙動がはるかに好都合である。特に、タイプVの等温線/等圧線は、より低い圧力/より高い温度において最小限の取り込みを提供し、その後、より高い圧力/より低い温度で大幅な取り込みを提供し得る。
【0080】
なお、タイプVの等温線/等圧線に対応する等温線/等圧線を有する材料は、タイプVの挙動の1つ又は複数の「ステップ」を有することが可能である。この考察では、他に記載が無い限り、タイプVの等温線/等圧線としての材料の記載は、その材料にとっての等温線/等圧線が、タイプVの挙動の少なくとも1つの「ステップ」を示すことを意味するものと定義される。例えば、この考察では、EMM-44は、タイプVの等温線/等圧線を有する材料と呼ばれる。EMM-44は、この材料の等温線/等圧線がタイプVの挙動の2つの別々のステップを示す材料の例である。
【0081】
残念ながら、中空繊維形成に使用される材料及び/又は条件は、添加されたアミンを少なくとも部分的に剥離すること、例えば、最大で、ドープ溶液中に含まれるMOFから添加されたアミンをほぼ完全に剥離することになり得ることが分かった。したがって、MOF EMM-44が中空繊維形成用のドープ溶液に含まれている場合、ドープ溶液の形成中、及び/又は、中空繊維の紡糸中に、アミンがMOFから剥離してしまう場合があり、このため、結果として形成される中空繊維内に存在するMOFが、EMM-44ではなく、EMM-67に少なくとも部分的に対応する、及び/又は、実質的に対応することになる。
【0082】
また、添加されたアミンを有するMOF材料を包含する中空繊維は、中空繊維を形成した後アミンを添加することによって形成可能であることが分かった。これによって、中空繊維形成中のアミンの剥離を回避できる。なぜなら、中空繊維形成プロセスが完了するまで、アミンはMOF材料に添加されないからである。
【0083】
アミンを中空繊維構造内のMOFに添加することは、例えば、当該構造を適切な溶液に浸して、アミン添加のために利用可能な部位を有するMOFにアミンを添加することによって行うことが可能である。MOFを吸着剤として包含する中空繊維構造を形成した後、システム全体をアミン含有溶液中に接触させることによって、アミンを添加可能である。溶液の一例は、トルエン又はメタノールといった溶媒中の10vol%~40vol%の2-アミノメチルピペリジンである。このように添加可能なアミンの他の例は、限定される訳ではないが、N,N'-ジメチルエチレンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、及び、トリエチレンテトラミンを含む。アミン添加に使用される溶媒は、極性非プロトン性溶媒(例えば、トルエン、ヘキサン)であり得る。メタノールは、ドープ溶液の一部である場合、MOFからジアミンを剥離する傾向があると言われているが、驚くべきことに、メタノールも使用できる。なお、より高い濃度のアミンが添加用の溶液に含まれると、アミンは、MOF中の金属に添加せずに、ポリマーの部位に添加し始めることもある。中空繊維構造を浸すための溶液の量は、中空繊維構造中に存在するMOFの量に基づき選択可能である。例えば、溶液容積中のアミン(又はアミンの混合物)の量が、アミンを中空繊維中のMOF金属部位の全てに添加するために必要な化学量論量の1.0~10倍になるように、十分な量の溶液を使用可能である。
[実施例1-MOFを包含する中空繊維収着剤の形成の例]
【0084】
ポリマー構造材料中にMOF材料を含む様々な中空繊維収着剤を生成した。中空繊維を、図1に似た構成を使って製造したが、巻き取りドラムを使用せずに攪拌水槽を使って繊維を収集した。ドープ処方の選択が可能な三成分相図を作成した。曇点技術を使って、相図における単一の相領域と2つの相領域との間のバイノーダル線を決定した。
【0085】
異なるレベルのMOF吸着剤含有量を有する様々な中空繊維を生成した。表2は、高濃度の中空繊維収着剤を生成するために使用したドープ溶液の種類の例を示している。表2のMOFを含むドープ溶液について、ドープ溶液に包含されたMOFは、EMM-44であった。これは、マルチリングジサリチル酸リンカーに基づくMOFであるEMM-67のアミン添加されたものである。しかしながら、その後、中空繊維形成用の溶媒及び/又は条件は、MOF材料から添加されたジアミンを実質的に除去することになり得ることが分かった。結果として、表2中の条件に応じて結果として形成される中空繊維中に存在するMOFは、EMM-67にほぼ相当すると考えられる。表2のドープ溶液から形成された中空繊維は、EMM-44の代わりにかなりの量のEMM-67を包含しているが、表2の重量パーセントは、EMM-44に基づいて報告される。なぜなら、EMM-44は、ドープ溶液に最初に導入されたMOFであったからである。EMM-44及びEMM-67は、MOF-274の変異体である。
【表2】
【0086】
AO-PIM-1の場合、表2の2行目に示されるドープ処方により、MOF濃度が65wt%に近い中空繊維が得られた。AO-PIM-1の他の処方では、MOF濃度が9wt%~75wt%の中空繊維が得られた。酢酸セルロース及びTorlon(登録商標)については、MOF濃度が20wt%~25wt%の中空繊維が得られたドープ処方が示されている。酢酸セルロースについては、25wt%のMOFが、中空繊維を紡糸により形成可能である含有可能な最大値に近かったが、加えて、低濃度も形成された。しかしながら、より高いMOF濃度の中空繊維を形成する際の困難な点の幾つかは、ドープ溶液中のポリマー材料が、包含されていた元のEMM-44から剥離されたアミンと相互作用することによるものであった。表2はまた、PESとおよそ25wt%のMOFとを含む中空繊維の形成を示している。MOF含有量が最大で約75wt%である中空繊維の形成を可能にする他のPESドープも、生成された。
【0087】
なお、表2の酢酸セルロース繊維のうちの1つについて、水を非溶媒として含む代わりに、ドープ溶液に、細孔形成剤として硝酸リチウムを添加した。表3は、表2のドープ溶液から中空繊維を生成するために使用した紡糸条件を示している。
【表3】
【0088】
紡糸した中空繊維に加えて、シリンジを使ってドープ溶液を押し出すことにより、さらなる繊維も生成した。シリンジ押し出しは、中空繊維紡糸に対する適性を迅速に検証するために使用され得る。
[実施例2-MOF含有中空繊維(9wt%のMOF)の特徴付け]
【0089】
一連の中空繊維を、実施例1に記載した一般的な方法であるが、MOF含有量を5.0wt%~10wt%にして形成した。これらの低いMOF含有量の中空繊維を、様々な方法で特徴付けた。最初の特徴付けとして、パウダーX線回析(XRD)及び走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して、中空繊維のポリマー構造材料内のMOF結晶の存在を検証した。
【0090】
図4は、EMM-44を含むドープ溶液から形成した中空繊維のパウダーXRDの特徴付けを示している。図4に示されるように、AO-PIM-1、酢酸セルロース(CA)、及びポリエーテルスルホン(PES)を使って形成した中空繊維中において、EMM-44のXRDシグネチャ(図4の下方のスペクトル図)が視認できた。
【0091】
図5は、酢酸セルロースを使って作成された中空繊維であって、EMM-67(左の顕微鏡図)又はEMM-44(右の顕微鏡図)を包含する中空繊維のサンプルのSEM顕微鏡図である。図5に示されるように、多孔質のポリマー構造体内にEMM-67又はEMM-44の繊維に似た結晶が視認できる。同様に、このような繊維は、ポリエーテルスルホンを使って生成された中空繊維のSEM顕微鏡図において観察された。
【0092】
さらに他の種類の特徴付けは、およそ5.0wt%~10wt%のMOFを含有する中空繊維中のCOの拡散を測定することであった。表4は、酢酸セルロース、Matrimid(登録商標)5218、Torlon(登録商標)ポリマー、及びポリエーテルスルホンから形成された中空繊維についてのCO拡散係数を示している。表4に示されるように、COの拡散は、MOF材料を包含した後のポリマー構造材料内において、比較的早い状態で維持された。
【表4】
[実施例3-より高いMOF含有量中空繊維]
【0093】
幾つかのポリマーは、予想外に高い含有量のMOF材料を許容できることが分かった。大量のMOF材料を包含するために使用されるポリマーの例は、ポリエーテルスルホン及びAO-PIM-1を含む。AO-PIM-1に包含され得るMOFの量は、予想外に高く、中空繊維の最大80wt%に相当し、同時に、中空繊維紡糸プロセスによる中空繊維の形成も可能にする。
【0094】
AO-PIM-1について、一連のドープ溶液を、実施例1の一般的な方法に基づいて形成した。ドープ溶液は、(EMM-67としての)MOF含有量がおよそ7.0wt%~およそ60wt%の範囲の中空繊維の生成に対応するEMM-44含有量を含んでいた。予期していなかったが、剥離されたアミンの存在にも関わらず、全ての溶液から中空繊維を連続的に形成できたことが分かった。
【0095】
これは、EMM-44及び酢酸セルロースを含む第2の一連のドープ溶液からの結果とは反対である。EMM-44から剥離されたアミンが、ドープ溶液の流動性に干渉した結果、紡糸した中空繊維が、最大およそ25wt%だけの(EMM-67としての)MOF含有量により形成可能であっただけと考えられる。EMM-44ではなく、EMM-67を最初のドープ溶液において使用し、剥離されたアミンがドープ溶液中に存在しない場合には、より高いMOF含有量が実現可能であったと考えられる。シリンジ押し出しを使えば、さらに高い含有量のEMM-67で繊維を形成可能であった。
【0096】
Torlon(登録商標)及びMatrimid(登録商標)について、剥離されたアミンの存在が、およそ10wt%のMOF(Matrimid(登録商標)について)、又は、およそ20wt%のMOF(Torlon(登録商標)について)よりも高い濃度で中空繊維を形成する能力をさらに低減させることになった。
[実施例4-高いMOF含有量の中空繊維及びアミン添加]
【0097】
剥離されたアミンがドープ溶液中に存在することによって生じる問題を回避するために、EMM-67をMOFとして用いると共に、ポリエーテルスルホンをポリマーとして用いて、他の一連のドープ溶液を形成した。最大75wt%のMOF(EMM-67)含有量の中空繊維を形成した。
【0098】
その後、アミンの添加によってEMM-67をEMM-44に変換するために、EMM-67含有量がおよそ75wt%である中空繊維を、メタノール中の25wt%の2-アミノメチルピペリジン(2-ampd)の様々な量の溶液に暴露させた。異なる繊維について、アミンを全てのMOF金属部位に添加するためのアミンの化学量論量の0.5~5.0倍に相当する量の溶液を使用した。
【0099】
その後、様々な繊維についてCO取り込み量を測定した。図6は、CO取り込みの結果を示している。なお、包含されたMOFを含まない、ポリエーテルスルホンの中空繊維は、CO取り込み能力をほとんど又は全く有しておらず、したがって、図6の実質的に全てのCO取り込み量は、包含されたMOF材料によるCO取り込み量に相当する。図6に示されるように、化学量論量のおよそ3.0倍に相当する量の溶液(曲線610)が、最も高いCO取り込み量を提供したことが分かった。図6では、理想的な取り込み曲線(曲線690)も示されている。この取り込み曲線は、全てのMOFがEMM-67ではなくEMM-44に対応する際の、MOFの量に対して予測され算出された取り込み量に基づくものである。図6に示されるように、後からアミンを添加する手順によって、MOFのかなりの部分をEMM-44に変換することが可能であった。MOF金属部位に求められるアミンの化学量論量のわずか0.5倍に対応する溶液量においても(曲線620)、結果として形成された中空繊維は、質的には、取り込み曲線の形状はより高い溶液量と比べて変更されているが、かなりのCO取り込み量を提供した。残りの濃度は、CO取り込み値の化学量論量の結果の1.0倍(曲線630)、2.0倍(曲線640)、及び、5.0倍(曲線650)であり、当該化学量論量の3.0倍の濃度の曲線610に類似しているがこれを下回ることが分かった。
【0100】
アミン添加手順後に75wt%のMOFを含有する様々な中空繊維を特徴付けるために、X線光電子分光法(XPS)も使用した。図7は、窒素原子の1sシェルにほぼ相当するXPSスペクトルの領域についてのXPSの結果を示している。各スペクトルにおけるN-Mgピーク705が、金属部位に添加されたアミンの量を表している。図7に示されるように、アミンの化学量論量のおよそ3.0倍のアミンで処理した中空繊維が、XPSスペクトルにおける最も大きいN-Mgピークであった。他のXPSデータに基づけば、アミンの化学量論量のおよそ3.0倍のアミンで処理された中空繊維は、サンプル中の窒素のおよそ43原子%に相当するN-Mgピークを有していた。これは、サンプル中の各Mg部位が、添加された窒素原子を有している場合に予測されることになる50原子%の理論的最大値に近いものであった。
[実施例5-障壁層の形成]
【0101】
予期していなかったが、障壁層形成中に乾性搬送ガス又はスイープガスを使用すると、結果として形成される障壁層を介した流体の搬送を低減又は最小化することができることが分かった。中空繊維の孔又は内腔における障壁層の形成について説明するために、ポリ塩化ビニリデンを使用して、PIM-1及び酢酸セルロースから形成される中空繊維中に障壁層を形成した。この内腔障壁は、紡糸の後のステップにおけるパーベーパレイションプロセスによって、中空繊維の中に取り付けた。中空紡糸繊維を吸着剤モジュール内に充填することに続いて、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)を、N搬送ガスによって孔に通した。何回かの運転において、繊維モジュール内に含まれる繊維のシェル側に、真空も印加して、水圧吸引及びPVDC懸濁液からの水のパーベーパレイションによって、内腔層の形成を促進した。表5は、PVDC障壁層を取り付けた場合及び取り付けていない場合の、中空紡糸PIM-1繊維の透過度を示している。どの場合でも、PVDC層の導入は、一般的な透過単位(GPU)で表示される透過度を大幅に低減させた。「湿性」対「乾性」とは、N搬送ガスが加湿されたかどうかを指すものである。「湿性」N搬送ガスは、およそ30wt%の相対湿度を含んでいた。「乾性」N搬送ガスは、0.5vol%以下のHOを含んでいた。
【表5】
【0102】
従来、障壁層の形成の間は、加湿された搬送ガス又はスイープガスを使用する必要があると考えられていた。障壁層が形成されているときに、スイープガス中の水がポリマーのさらなる溶媒化を可能にするので、ポリマーが再堆積し、層の欠陥を低減又は最小化することが可能であると考えられていた。この従来の理解とは異なり、表5に示されるように、予期していなかったが、乾性搬送ガスを使用することが、結果として、層間透過度を、湿性搬送ガスにより同様に形成されたサンプルよりも5.0倍~10倍低減することになったことが分かった。これは、従来の理解とは異なり、スイープガス又は搬送ガスにおける水の存在を阻止することによって、改善された障壁層を形成可能であることを示している。幾つかの態様では、Nの透過度が100GPU以下の障壁層を形成可能である。
【0103】
酢酸セルロース繊維に導入された障壁層についても、同様の結果が観察された。表6は、同様の方法で酢酸セルロース(CA)繊維内に取り付けられた障壁層についての透過度を示している。なお、表6に示される結果は、5.0wt%~10wt%のEMM-67を含むCA繊維についてのものである。
【表6】
【0104】
表6に示されるように、湿性搬送ガスよりも乾性搬送ガスによって、障壁層の透過度に同様の低減が得られた。これは、乾性搬送ガス又はスイープガスを使うことによって、一般的に、中空繊維中に改善された障壁層を、中空繊維を形成するために使用したポリマー構造材料の種類とは無関係に形成可能であることを示している。
[実施例6-中空繊維の外部透過度の改良]
【0105】
幾つかの種類のポリマーについて、中空繊維を生成するための紡糸プロセスにより、繊維の外面に「皮膚」層が形成される場合があり得る。この皮膚層は、中空繊維の外表面の透過度を低減し、したがって潜在的に、プロセスガスが繊維内の吸着部位にアクセス可能な速度を低減または最小化する。この外部「皮膚」層の形成は、溶媒の蒸気相の存在下で中空繊維を形成することによって、軽減されることが分かった。溶媒の蒸気は、形成中の繊維の周りに「覆い」を形成可能であり、結果として外表面における透過度を向上させる。
【0106】
上記の表2に記載されたドープ溶液を使って、一連のPIM-1中空繊維サンプルを形成した。表7は、使用した様々な紡糸条件を示しており、これには、紡糸により形成中の繊維を包囲する環境における溶媒(この場合、テトラヒドロフラン又はTHF)についての蒸気流量が含まれる。比較のため、表7には、THF蒸気が存在しないサンプル(サンプル1)や、蒸気相は存在しないが、形成後に繊維がTHFに含浸されたサンプル(サンプル2)も含まれる。
【表7】
【0107】
表7に示されるように、幾つかの種類の溶媒蒸気相を含むことにより、結果として形成される繊維の透過度は、改善された。溶媒蒸気相の存在下でドープ溶液の流量を低減すること(つまり、ゆっくりと繊維を形成すること)によって、さらなる利点が得られた。
[実施例7-細孔形成剤の成分]
【0108】
マクロボイドの形成は、EMM-44、EMM-67、又はMOF-274型骨格といった金属有機骨格(MOF)を支持する吸着剤接触器を含む、ポリマーベースの吸着剤接触器の性能にとって、有害である。細孔形成剤をドープ溶液に添加することは、マクロボイドの形成を低減または最小化して、吸着動力学及び気体透過度を潜在的に向上させるための一選択肢である。
【0109】
EMM-44及び酢酸セルロースを含有するドープ溶液を使って、一連の中空繊維構造を形成した。上述のように、これによって、EMM-67を含有する中空繊維構造を形成した。比較のために、全ての中空繊維接触器を、20wt%~25wt%のEMM-44を含むように統一し、良好な機械的性質、及び、ドープ中のMOF粒子の均質分散を実現した。詳細なドープ組成物及び紡糸条件を、表8に列挙する。
【表8】
【0110】
表8のドープ溶液から形成された中空繊維構造について、様々な種類の気体の透過度を測定した。透過度の試験結果は、表9に示されている。表9に示されるように、細孔形成剤を添加しないEMM-44/CA中空繊維は、Heについて最大77889GPUの高い純ガス透過度を実現するが、LiNOをドープに添加した後には、純ガス透過度は24553GPUまで大きく低下する。COといった他の潜在的なプロセスガスの場合の方が、透過度の低下は小さかったが、それでもかなりの低下であった。
【表9】
【0111】
何らかの特定の理論にとらわれること無く、LiNO細孔形成剤の添加による透過度の損失は、中空繊維に皮膚層が形成されることによるものであったと考えられる。図8は、表9に示される中空繊維の表面のSEM画像を示している。図8の左の画像は表9の繊維aに対応し、真ん中の画像は繊維bに対応し、右の画像は繊維cに対応する。図8に示されるように、真ん中の(LiNOで形成された)画像は、繊維の表面に、左の(LiNOを含まない)画像には存在しない皮膚層を含む。また、真ん中の画像は、細孔形成剤を添加する際に望ましい、マクロボイドの減少を示している。実施例6で説明した溶媒覆い紡糸法を使用することにより、低減されたマクロボイドという利点を実現可能であり、同時に、皮膚層の存在を低減、最小化、又は、回避できることが分かった。図8の右の画像は、実施例6の方法に基づき、NMPの溶媒覆いを用いて作成した繊維の表面を示している。右の画像に示されるように、結果として得られた繊維は皮膚を有しておらず、ほぼ均一な構造を有していた。皮膚層の除去も表9に示されている。紡糸中のNMPの覆い(繊維c)により、純ガス透過度が大幅に改善された。例えば、CO透過度は、15874GPUから56711GPUに増加している。He透過度は、その流量が極めて高いことにより、気泡流量計では検出できない。なお、続いて、内腔障壁層を繊維cに取り付けた。
【0112】
MOF材料をポリマー構造材料に組み混む際の、細孔形成剤としてのLiNOの利点をさらに説明するために、EMM-44及びAO-PIM-1を含有するドープ溶液を用いてさらなる中空繊維構造を形成した。表10は、細孔構造を調節するためのドープ組成物及び急冷槽温度を示している。比較のための、PVPを細孔形成剤として用いて、試験を行なった。
【表10】
【0113】
図9は、表10の繊維1の表面のSEM画像(左の画像)、繊維5のSEM画像(真ん中の画像)、及び、繊維6のSEM画像(右の画像)である。図9に示されるように、50℃に急冷するLiNOによるサンプルの細孔構造が、より多孔質であり開口していることが分かる。これは、MOF材料を包含するポリマー構造材料を形成するための細孔形成剤として、LiNOをより一般的に使用可能であることを示している。
[実施例8-代替的な中空繊維構造-PEIのPIM-1への注入]
【0114】
収着剤中空繊維の吸着能力を向上させるための代替的戦略は、吸着剤ポリマーを中空繊維構造に注入することであり得る。一例として、ポリエチレンイミン(PEI)をPIM-1から成る中空繊維に注入可能である。
【0115】
PEIを紡糸PIM-1繊維に注入するために、中空繊維を、PEI/メタノール溶液に3時間浸し、その後、溶媒をヘキサンに交換し真空乾燥を行った。代替的に、乾燥された中空繊維を、はっきりと決められた量のPEIを有するメタノール溶液に添加した。その後これらの溶液を、一晩、覆って攪拌した。メタノールが蒸発した後、繊維を、一晩、40℃の真空下で乾燥させた。図10は、PEIのPIM-1中空紡糸繊維への添加と、結果として得られるCO回収性能(左の垂直軸)とを示している。上述の注入プロセスにより、最大65wt%のPEIを添加することが実現された。しかしながら、PEIの高い添加を実現できたが、吸着効率(右の垂直軸)は、PEIの添加がおよそ50wt%において最大値に達した。吸着効率は、吸着されたCOの量を、(PEI添加からの)CO吸着用に利用可能なアミンの量で割った値に対応する。図10に示されるように、およそ50wt%よりも大きいPEIの添加の場合、効率は急速に低下し始め、これは、比較的少ない数のアミン部位にしかアクセスできず、及び/又は、比較的少ない数のアミン部位しかCO吸着に利用できないことを示している。
【0116】
何らかの特定の理論にとらわれること無く、より高いPEIの添加における収着能の低下の一部は、PIMの添加がより高いレベルに上昇するにつれて、PIM-1の細孔構造が崩壊するためであると考えられている。これは、PEIの添加が上昇するにつれて、PIM-1が弛緩、膨張、及び/又は、可塑化することによるものであり得る。この現象を低減又は最小化するために、酸化アルミニウムナノストランドをPIM-1構造に導入することにより、PIM-1の細孔構造を少なくとも部分的に安定化できることが分かった。なお、ポリマー構造を酸化アルミニウムナノストランドで浸透させるこの技術は、3D印刷及び/又は他の積層造形方法によって形成されるポリマー構造にも適用可能であろう。
【0117】
小型の吸着接触器構造体を、3D印刷技術を用いてPIM-1から形成した。その後、PIM-1サンプルをメタノールに2時間浸し、次に、ドラフトにおいて30分間乾燥させた。PIM-1サンプルを、90oCにおいて、トリメチルアルミニウム、水、トリメチルアルミニウム、及び、水に連続的に暴露させた。完全に浸透させるために、各暴露を5時間行った。その後、PEI(Mw=800Da)を、3D印刷されたPIM-1吸着材に、湿式含浸により添加した。5wt%以下のPEIを含有するメタノール溶液を、吸着材モジュールに充填した。
【0118】
PIM-1とPIM-1ベースの複合物との微細孔性を、77Kにおける窒素物理吸着によって特徴付けた。図11は、窒素吸着等温線を示しており、表11は、吸着等温線から導出した表面積、孔径、及び、細孔容積値を提供している。
【表11】
【0119】
図11に示されるように、初期のPIM-1は、従来のデュアルモードの窒素吸着等温線を呈している。低圧範囲(相対圧力<0.05)における急勾配の窒素吸着曲線は、ポリマー骨格の非効率な充填によって形成された相互連結された微小孔を示しているが、その後の緩慢な窒素吸着は、ゲスト窒素分子によって誘発された膨潤作用によって誘発される。図11及び表11に示される例の場合、AlO/PIM-1繊維は、13wt%のAlO及び87wt%のPIM-1を含有していた。
【0120】
湿式含浸プロセスの間、PEIは、膨張した微細孔質の支持部を通って拡散し、中間孔及び微小孔を充填することが予期される。AlO/PIM-1繊維の細孔容積(0.47cm/g)に基づき、PEIの最大理論添加は、およそ33wt%である。予期されるように、PEIの注入は、必然的に、低減されたBET表面積、より低い窒素物理吸着、及び、より小さい細孔容積を導く。予期されるように、注入されたAlOナノストランドは、PIM-1の微小孔内の空間を占領し、全細孔容積を0.50cm/gから0.41cm/gに低減する。しかしながら、細孔容積が、全複合物の代わりに、PIM-1の質量によって正規化されると、細孔容積の縮小は、それほど大きくない。表11に示されるように、1グラムのPIM-1は、初期の状態において0.50cmの細孔容積を提供し、AlOナノストランドと絡み合うと0.47cmの細孔容積を提供する。特徴付け技術及び潜在的なポリマー膨張に関連するエラーを考慮すると、正規化された細孔容積における差異は無視できる程度である。従って、酸化アルミニウムは、その後PEIをPIM-1の細孔構造に導入する能力に実質的には干渉しない。この結果は、柔軟なPIM-1微小孔が、蒸気相注入前駆体蒸気において膨張し、AlOナノストランドを収容するので、AlOを添加後にアクセス可能な細孔容積が、AlOを添加前にアクセス可能な細孔容積と同様に維持されることを示唆している。
【0121】
浸透したAlOナノストランドは、CO吸着性能に対する制限された影響を呈する。PIM-1及びAlO/PIM-1についての測定されたCO吸着等温線は、ほぼ同一であることが分かった。しかしながら、AlOは、PEI/AlO/PIM-1複合物のCO容量を大幅に改善した。同じPEI添加量の場合、PEI/AlO/PIM-1複合物は、PEI/PIM-1複合物と比べて、30%~100%の容量増加を呈する。例えば、CO容量を、異なるサンプルについて、(石炭火力発電所によって生成される燃焼排気をシミュレートする)35℃及び76mmのHgにおいて測定した。PEI添加量が15wt%~35wt%まで増大するにつれて、PEI/PIM-1複合物のCO容量が0.41mmol/gから0.80mmol/gまで増加し、PEI/AlO/PIM-1複合物のCO容量は、0.96mmol/gから1.19mmol/gまで増加した。浸透したAlOも、PIM-1に分散されたPEIのアミン効率(窒素原子量によって正規化されたCO吸着量)を増加させた。アミン効率は、CO吸着等温線をPEIの窒素原子の量で正規化することによって算出される。
【0122】
なお、PEI添加量を41wt%までさらに増加させることはPEI/AlO/PIM-1のCO容量を低下させた。これは、過剰なPEI分子がAlO/PIM-1繊維の外部表面に蓄積し、アミン基がCOに暴露されることを阻止したことを示唆している。
[実施例9-吸着プロファイルの保持]
【0123】
幾つかの態様では、MOF材料を収着剤繊維に組み込んだ後、収着剤繊維の吸着等温線/等圧線は、ベースとなるMOF材料の吸着等温線/等圧線の形状を実質的に保持可能である。収着剤繊維の絶対容量は、MOF材料単独の容量よりも低くなり得るが、吸着等温線/等圧線におけるステップといった特徴は保持され得る。
【0124】
図14は、EMM-44の吸着等温線と、ポリエーテルスルホン及びEMM-44から成る中空繊維構造の吸着等温線とを示している。図14のデータを生成するために使用される中空繊維構造は、ポリエーテルスルホンに対応する重量のバランスで、68wt%のEMM-44を含有していた。図14に示されるように、単位重量ベースで、繊維構造体の収着能は、純MOF(EMM-44)の収着能よりも低い。しかしながら、それ以外の、繊維の吸着等温線の形状は、純MOF材料の吸着等温線の形状と類似している。
【0125】
図15図16、及び、図17は、MOF材料を含む繊維構造体及び純MOF材料の吸着特性における質的な類似性を示す、さらなるデータを示している。図15は、EMM-44の吸着及び脱着等圧線、及び、ポリエーテルスルホンとEMM-44とから成る、シリンジ押し出しされた繊維の吸着及び脱着等圧線に相当する。押し出しされた繊維を、トルエン又はメタノールを溶媒として使用して、2-ampdで注入した。図15に示されるように、注入溶液において使用した溶媒は、吸着及び脱着等圧線の形状にほとんど又は全く影響しなかった。加えて、図14と同様に、シリンジ押し出しされた繊維の吸着及び脱着等圧線の形状は、純MOF材料の吸着及び脱着等温線の形状に類似していた。
【0126】
図16は、ポリエーテルスルホン及びEMM-44から成る、シリンジ押し出しされた繊維の吸着及び脱着についての、熱重量分析(TGA)データを示している。図16では、吸着及び脱着を10サイクル行ない、各サイクルからのデータをプロットに重ねた。図16に示されるように、繊維は、10サイクルに渡って、ほぼ同一の吸着及び脱着プロファイルを維持していた。したがって、10サイクルの後でも経時効果は見られなかった。図17は、図16に示される10サイクルについて、35℃におけるCO取り込み量、110℃におけるCO脱着、及び、周期的な取り込み量を示している。
[実施例10-障壁層の共押し出し]
【0127】
3チャネルスピナレットを使って、ポリエーテルスルホン(PES)障壁層ドープを、外側PES/収着剤ドープと共に共押し出しして、障壁層との2層中空繊維を生成した。これは、50℃における1ステップの共押し出し紡糸と、1~10cmの空隙で20~50℃の水でのドライジェット湿式急冷とによって行った。障壁層ドープは、NMPに対応するバランスで、20~40wt%のPESを含有していた。繊維を形成するためのドープ溶液は、10~20wt%のPES、10~20wt%の収着剤粒子(つまり、金属有機骨格収着剤)、及び、細孔形成剤としての1~5wt%のLiNOを、NMPに対応する溶液のバランスで含有していた。孔用流体は、水に対応するバランスで、80~100%のポリプロピレン・グリコール(PPG)であった。繊維を形成するための孔用流体、障壁層ドープ、及びドープ溶液の流量の調節を、巻き取りドラムの速度の調節と共に行ない、外径がおよそ800μm、内径がおよそ400μm、及び、内孔と収着剤繊維との間の障壁層がおよそ4~10μmの繊維を得た。回転ドラム上に、紡糸したままの繊維を収集し、その後、溶媒を水とメタノールとにおいて順次交換し、所望の形状及び収着剤含有量(60~75%)を有する繊維を得た。これらの繊維のうちの幾つかについて繊維断面のSEM顕微鏡図を得た。SEM顕微鏡図は、厚さが4~20μmの高密度の障壁層と、厚さが200~300μmの収着剤繊維とを示していた。
さらなる実施形態
【0128】
実施形態1
ポリマー構造材料を含む繊維を含有する収着剤繊維組成物であって、前記ポリマー構造材料は、ポリマーと、前記ポリマー構造材料の重量に対して5.0wt%~80wt%の金属有機骨格材料とを含む、収着剤繊維組成物。
【0129】
実施形態2
前記繊維は、中空繊維を含み、前記中空繊維は、前記中空繊維内に孔を備える、実施形態1に記載の収着剤繊維組成物。
【0130】
実施形態3
前記中空繊維は、前記孔と前記ポリマー構造材料との間のインターフェースにおいて障壁層をさらに含み、前記障壁層は、前記ポリマー構造材料とは異なるポリマーを含み、前記障壁層は、任意選択により、Nの透過度が100GPU以下である、実施形態2に記載の収着剤繊維組成物。
【0131】
実施形態4
前記ポリマーは、固有微細孔性のポリマー、AO-PIM-1、ポリエーテルスルホン、又は、これらの組み合わせを含む、先行する実施形態のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【0132】
実施形態5
前記ポリマーは、1つ又は複数の環状構造の少なくとも一部を含むポリマー骨格を備える、先行する実施形態のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【0133】
実施形態6
前記金属有機骨格材料は、1つ又は複数の添加されたアミンを含む、又は、前記収着剤繊維組成物は、COについてのタイプVの吸着等温線を含む、又は、これらの組み合わせである、先行する実施形態のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【0134】
実施形態7
実施形態前記金属有機骨格材料は、a) MOF-274、EMM-44、EMM-67、若しくはこれらの組み合わせを含む、又は、b) 前記金属有機骨格材料は、ジサリチル酸リンカーを含む、又は、c) a)及びb)の組み合わせを提供する、先行する実施形態のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【0135】
実施形態8
前記繊維は、前記金属有機骨格材料を30wt%以上含む、先行する実施形態のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【0136】
実施形態9
前記ポリマー構造材料は、複数のポリマーを含む、先行する実施形態のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物。
【0137】
実施形態 10
実施形態1~9のいずれか1項に記載の収着剤繊維組成物を形成する方法であって、金属有機骨格材料、ポリマー、及び溶媒を含むドープ溶液を押し出すことによって繊維を形成するステップを含む、方法。
【0138】
実施形態11
前記繊維を形成するステップは、孔用流体及び前記ドープ溶液を押し出すことによって中空繊維を形成するステップを含む、実施形態10に記載の方法。
【0139】
実施形態12
前記孔と前記ポリマー構造材料との間のインターフェースにおいて障壁層を形成するステップをさらに含み、前記障壁層は、任意選択により、Nの透過度が100GPU以下である、実施形態11に記載の方法。
【0140】
実施形態13
i)前記障壁層を形成するステップは、障壁ポリマー及び搬送ガスを前記孔に通して、前記孔と前記ポリマー構造材料との間のインターフェースにおいて障壁層を形成するステップであって、前記搬送ガスは0.5vol%以下のHOを含み、任意選択により、前記障壁ポリマー及び搬送ガスを前記孔に通すステップの少なくとも一部の間に、前記ポリマー構造材料内の圧力は、前記孔内の圧力よりも10kPa-a以上低い、ステップを備える、ii)前記障壁層を形成するステップは、前記中空繊維を形成するステップの間に、前記障壁層を共押し出しするステップを備える、又は、iii)i)及びii)の組み合わせを提供する、実施形態12に記載の方法。
【0141】
実施形態14
前記ドープ溶液は、非溶媒、細孔形成成分、又は、これらの組み合わせをさらに含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【0142】
実施形態15
前記中空繊維を、アミンを含有する溶液に暴露して、前記金属有機骨格材料の少なくとも一部をアミン添加された金属有機骨格材料に変換するステップをさらに備える、実施形態10~14のいずれか1項に記載の方法。
【0143】
本発明を特定の実施形態を参照しつつ説明及び図解してきたが、当業者であれば、本発明は、必ずしもここに図示されていない変形例にも有用であることは理解されよう。このため、本発明の真の範囲を判定するためには、添付の特許請求の範囲だけを参照されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】