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特表2024-520387クリープ補正を備えるAFMイメージング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】クリープ補正を備えるAFMイメージング
(51)【国際特許分類】
   G01Q 30/02 20100101AFI20240517BHJP
   G01Q 60/24 20100101ALI20240517BHJP
   G01Q 30/06 20100101ALI20240517BHJP
【FI】
G01Q30/02
G01Q60/24
G01Q30/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572551
(86)(22)【出願日】2022-05-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 US2022029801
(87)【国際公開番号】W WO2022251016
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】17/329,620
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512038610
【氏名又は名称】ブルカー ナノ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BRUKER NANO,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】オズボーン、ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ハンド、ショーン
(72)【発明者】
【氏名】フォノベロフ、ウラジミール
(72)【発明者】
【氏名】ヤング、ジェームズ
(57)【要約】
原子間力顕微鏡(AFM)及び原子間力顕微鏡を動作させる方法は、AFMシステム制御と同時にAFMデータ取得中にプローブサンプル距離をピクセルごとに測定するための別のZ高さセンサを含む。AFMデータをZ高さデータの低分解能データにマッピングすることにより、クリープが補正された高分解能の最終的なデータ画像がリアルタイムで生成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子間力顕微鏡(AFM)に係る方法であって、
高速走査軸及び低速走査軸を有するデータ走査を行うために、サンプルの関心領域においてプローブと前記サンプルとの間の相対的な走査運動を提供する提供ステップと、
前記提供ステップ中にプローブの偏向を検出する検出ステップであって、プローブの偏向は前記サンプルの表面のトポグラフィを示す検出ステップと、
前記検出ステップに基づいて表面データを生成するステップと、
前記検出ステップと同時に前記AFMのプローブと前記サンプルとの間のZ高さを測定する測定ステップと、
前記測定ステップに基づいてZ高さデータを生成するステップと、
前記Z高さデータから低分解能トポグラフィ基準データを抽出する抽出ステップと、
前記表面データを前記低分解能トポグラフィ基準データにマッピングするマッピングステップと、
前記マッピングステップに基づいて最終的なデータ画像を生成するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記最終的なデータ画像を生成するステップは、前記提供ステップ及び前記検出ステップ中にリアルタイムで実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出ステップは、前記データ走査の低速走査軸で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記測定ステップは、前記AFMのヘッドに結合されたセンサで実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記センサは、前記AFMのヘッドに装着されたアクチュエータによって支持される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記センサは、静電容量センサである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記アクチュエータは、圧電チューブスキャナである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記低分解能トポグラフィ基準データは、基準平面を画定する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記検出ステップは、タッピングモード、ピークフォースタッピング(PFT)モード、及び接触モードのうちの1つで実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
原子間力顕微鏡(AFM)であって、
高速走査軸及び低速走査軸を有するデータ走査において、前記AFMのプローブとサンプルとの間の相対的な走査運動を提供するスキャナと、
AFM動作中のプローブとサンプルの相互作用に応じて前記プローブの偏向を測定する検出器であって、前記偏向は、サンプルトポグラフィを示しており、表面データとして格納される検出器と、
プローブの偏向を測定するのと同時に前記プローブと前記サンプルとの間のZ高さを測定するためのセンサであって、前記Z高さは、Z高さデータとして格納されるセンサと、
前記サンプルの最終的なデータ画像を生成するために、前記Z高さデータから基準データを抽出することと、前記表面データを前記基準データにマッピングすることとを行うプロセッサと、
を含む原子間力顕微鏡。
【請求項11】
前記基準データは、前記データ走査の前記低速走査軸に対応し、低分解能トポグラフィデータである、請求項10に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項12】
前記プロセッサは、AFM動作中にリアルタイムで前記表面データを前記基準データにマッピングする、請求項10に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項13】
前記スキャナは、圧電チューブスキャナである、請求項10に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項14】
前記センサは、前記スキャナに結合された静電容量センサである、請求項10に記載の原子間力顕微鏡。
【請求項15】
前記AFMは、ピークフォースタッピング(PFT)モード、接触モード、及びタッピングモードのうちの1つで動作する、請求項11に記載の原子間力顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
好ましい実施形態は、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscopy)に関し、特に、AFMデータ収集中にリアルタイムでシステム内のクリープを補正するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM)などの走査型プローブ顕微鏡は、チップを備えたプローブを使用して、適切な力でチップをサンプルの表面と相互作用させて表面を原子単位まで特性化する装置である。一般に、プローブは、サンプルの表面に導入され、チップとサンプルとの間に相対的な走査移動を提供することで、サンプルの特定領域に対して表面特性データが取得され、サンプルの対応するマップを生成することができる。
【0003】
典型的なAFMシステムについては、図1に概略的に示されている。AFM10は、プローブ装置12を使用し、プローブ装置12は、プローブ14及びカンチレバー15を含む。スキャナ24は、プローブとサンプルの相互作用が測定される間に、プローブ14とサンプル22との間で相対運動を生成する。このようにして、サンプルの画像又は他の測定値を取得することができる。スキャナ24は、通常3つの直交方向(XYZ)で動きを生成する1つ以上のアクチュエータから構成される。多くの場合、スキャナ24は、例えば、圧電(piezoelectric)チューブアクチュエータのように3軸の全てにおいて、サンプル又はプローブを移動させる1つ以上のアクチュエータを含む単一の一体型ユニットである。また、スキャナは、複数の分離したアクチュエータのアセンブリであってもよい。一部のAFMは、例えば、サンプルを移動するXYスキャナ及びプローブを移動する分離されたZアクチュエータなど、スキャナを複数の構成要素に分離する。従って、装置は、例えば、Hansmaらの特許文献1、Elingsらの特許文献2、及びElingsらの特許文献3で説明されているように、サンプルのトポグラフィ又は一部の他の表面特性を測定する間にプローブとサンプルとの間の相対的な動きを生成することができる。
【0004】
一般的な構成において、プローブ14は、振動(oscilating)アクチュエータ又はカンチレバー15の共振周波数、又は、その近くでプローブ14を駆動するために使用されるドライブ16に結合される場合が多い。代替構成は、カンチレバー15のたわみ、ねじれ、又は他の動きを測定する。プローブ14は、チップ17が統合された微細加工されたカンチレバーである場合が多い。
【0005】
一般に、アクチュエータ16(又は、代替的にスキャナ24)がプローブ14を振動させるために、SPMコントローラ20の制御下で信号ソース18からの電子信号が印加される。プローブとサンプルの相互作用は、通常、コントローラ20によるフィードバックにより制御される。特に、アクチュエータ16は、スキャナ24及びプローブ14に結合されてもよいが、自己駆動されたカンチレバー/プローブの一部として、プローブ14のカンチレバー15と一体に形成されてもよい。
【0006】
多くの場合、前述したように、プローブ14の振動の1つ以上の特性変化を検出することによりサンプル特性が監視されることで、選択されたプローブ14がサンプル22に接触する。これに関連して、偏向検出装置は、典型的にビームをプローブ14の後側に向かうように利用され、その後ビームは検出器26に向かって反射される。ビームが検出器26を横切って移動することにより、ブロック28で適切な信号が処理され、例えば、RMS偏向を決定し、これをコントローラ20に送信し、コントローラは、プローブ14の振動変化を決定するために信号を処理する。一般に、コントローラ20は、プローブ14の振動の設定点(setpoint)の特性を保持するために、チップとサンプルとの間の相対的に一定の相互作用(又は、レバー15の偏向)を保持するために制御信号を生成する。より具体的には、コントローラ20は、設定点とチップ-サンプルの相互作用によるプローブの偏向に対応する信号を回路30と比較して取得された誤差信号を調整するPIゲインコントロール(PI Gain Control)ブロック32及び高電圧増幅器(HighVoltage Amplifier)34を含み得る。例えば、コントローラ20は、チップとサンプルとの間の一般的に一定の力を保障するために、定点値ASで振動振幅を保持するために使用されることが多い。代替的に、設定点の位相又は周波数が使用されてもよい。
【0007】
ワークステーション40はまた、コントローラ20内、及び/又は分離したコントローラ、連結されたシステム、若しくは独立型(stand-alone)コントローラ内に提供され、コントローラから得られたデータを受信して点選択、曲線適合、及び距離決定を動作するために走査中に取得されたデータを操作する。AFMは、接触モード及び振動モードを含む様々なモードで動作するように設計されてもよい。動作は、表面を横切って走査されるときプローブアセンブリのカンチレバーの偏向に応じて、サンプル又はプローブアセンブリをサンプルの表面に対して垂直に上下移動させることで達成される。走査は、通常、サンプルの表面に少なくとも平行な「x-y」平面で発生し、垂直移動はx-y平面に垂直な「z」方向に発生する。多くのサンプルは、平面から外れた粗さ、曲率、及び傾きを有するため、「一般に平行」という用語が使用されていることに注意されたい。このように、この垂直移動に関連するデータを保存し、例えば、表面トポグラフィの測定されたサンプル特性に対応するサンプル表面の画像を構成するために使用され得る。TappingMode(登録商標)AFM(TappingMode(登録商標)は、本出願人の商標)として知られたAFM動作のモードにおいて、チップは、プローブに関連するカンチレバーの共振周波数又はその付近で振動する。フィードバックループは、「トラッキングフォース(tracking force)」、即ち、チップ/サンプルの相互作用により起因する力を最小化し、その振動の振幅を一定に維持するように試みる。
【0008】
代替的なフィードバック装置は、位相又は振動周波数を一定に保持する。接触モードと同様に、これらのフィードバック信号は収集、保存され、サンプルを特性化するデータとして使用される。「SPM」及び特定類型のSPMに対する略語は、ここで顕微鏡装置又は関連技術、例えば「原子間力顕微鏡を参照するために使用され得ることを注目されたい。特許文献4、特許文献5、及び特許文献6で議論されたPeak Force Tapping(登録商標)(PFT)と呼ばれるユビキタスTappingMode(登録商標)を改善したもので、フィードバックは本明細書で明らかに参考として含まれており、各振動周期で測定された力(一時的プローブ-サンプルの相互作用力と呼ばれる)を基盤とする。
【0009】
AFMは、動作モードに関係なく、圧電スキャナ、光レバー偏向検出器、及びフォトリソグラフィ技術を用いて製造された極めて小さいカンチレバーを使用することにより、空気、液体、又は真空の様々な絶縁及び伝導性表面の原子レベルまで分解能を得ることができる。AFMは、分解能と汎用性のために、半導体製造から生物学的研究に至るまで様々な分野において重要な測定装置である。
【0010】
これに関連して、AFMは、半導体製造のような高精密製造工程を含む自動化されたアプリケーションに使用されてもよい。AFMは、ナノスケールの表面特徴(例えば、トポグラフィ)に対する高分解能測定を提供できるため、AFMは、半導体空間で有用であることが証明されている。しかし、従来、AFMデータは、ほとんどのAFMにとって本質的な問題であるドリフト(drift)及びクリープなど、システム内の機械的摂動によって妨げられてきた。ドリフトは、任意のタイプのSPM又は実際には任意の顕微鏡で発生するアーチファクト(artifact)であるが、AFMなどの高分解能技術ではより深刻である。一般に、サンプル(又はプローブ)がある方向にゆっくりと移動するため、ことは「ドリフト」として知られている。これは、典型的に、低速走査方向を変更すると変化する画像の「歪み」として認識され得る。この効果は、ユーザが走査範囲内の新しい関心領域(region of interest)に移動した場合に、特に顕著になり得る。ピエゾクリープ(piezo creep)は、ピエゾスキャナに設定した電圧を印加し、特定の位置に移動するためにその電圧を保持しようとすると、ピエゾが一定期間同じ方向に動き続ける傾向があるために発生する。これは基本的に、特に新しい画像走査が開始されるときに特徴の伸縮又は圧縮が行われることを意味する。ピエゾクリープは、AFM画像走査中に時間の経過とともに沈静化することがあるが、依然とし問題として残っている。
【0011】
カンチレバーの動きの検出が不正確であると、走査時に誤差が発生する可能性もある。スキャナは「経年変化」する可能性があり、即ち、湾曲(bow)及びヒステリシス(hysteretic)効果を含むそれらの特性が時間の経過とともに大きく変化する可能性がある。これらの因子により、正確な垂直の度量衡(metrology)測定が妨げられる可能性もある。さらに、ヒステリシス及び経年変化によって時間やサンプルの傾きなどの要因によって測定値が変化するため、測定値の再現性が損なわれる可能性があり、必要な精度レベルでの事前校正が困難になる。
【0012】
機器誤差(instrument error)を除去するために使用される従来の技術は、典型的に、AFMスキャナ誤差及び上記のような検出の特異性を除去することに成功しない。このような従来の技術の1つは、機器誤差を単純な数学関数としてモデル化するものである。例えば、多項式又は他の単純な関数によって定義される理論上の表面に対する走査データの最適な適合を算出することができる。この理論上の表面を走査データから差し引くと、走査誤差の一部が除去される。しかし、AFMの場合、湾曲、ヒステリシス、及び検出誤差は、多くの場合、単純な数学関数では正確に記述できないことがある。さらに、適合ステップは、滑らかな表面から外れた特徴、おそらくは測定を要するその特徴によって損なわれる可能性がある。従って、適合(fitting)及び差し引き(subtraction)は、約1nmの精度を必要とする多くの適用例(ポールチップの凹みの測定など)にとって十分な精度の向上にはつながらない。
【0013】
機器誤差を補正するための別のタイプの試みでは、基準差し引きを使用する。この技術では、標準サンプルの基準走査がなされる。基準サンプルの候補は、劈開又は研磨されたシリコンウェハのような平坦な表面を有するものであってもよい。この走査は、その後のサンプルの全てのデータ走査から差し引かれる。Yoshizumiの特許文献7を参照。この技術は、光学的欠陥を補正するために干渉計と共に主に使用される。ただし、AFMの場合、ヒステリシスにより、サンプル全体の傾きに依存するスキャナの特異性が生じ、サンプルごとに大きく異なる場合がある。従って、これらの誤差は、基準サンプルから新しいサンプルに変わるごとに、及び走査ごとに異なる。従って、「標準サンプル」は存在せず、標準基準の差し引きを用いて走査誤差を除去することはできない。
【0014】
クリープに戻り、高分解能AFMデータは、ピコメートルの分解能を達成するためにピエゾに伝達されるスケーラブル(scalable)な指令信号である制御信号、出力によって取得される。しかし、この信号は、物質の物理的特性を含むピエゾの構造に影響される。ピエゾクリスタル自体は、どのような物理的位置(伸張/収縮)にどれくらいの時間留まっているか、及び指令電圧(command voltage)の変化に応じて異なる動作をする。これにより、最終的なデータ画像にアーチファクトが生成されるが、その複雑な性質(2次誤差など)を考慮すると除去することは困難である。言い換えれば、後処理アルゴリズムがさらなるアーチファクトを生成せずに、これらの2次誤差を補正することは困難である。
【0015】
その結果、自動化されたAFMを含むAFM分野では、AFMシステム内の機械的摂動、特にシステム「クリープ」による影響を含めて、システム内のZ高さ変化に伴うサンプルに対する相対的なスキャナに関連する摂動を特定して補正する解決法が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国再発行特許発明第34489号明細書
【特許文献2】米国特許第5266801号明細書
【特許文献3】米国特許第5412980号明細書
【特許文献4】米国特許第8739309号明細書
【特許文献5】米国特許第9322842号明細書
【特許文献6】米国特許第9588136号明細書
【特許文献7】米国特許第5283630号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
AFMデータの分解能を維持しながら、好ましくは画像取得後の処理を最小限に抑えながら、データ取得及び表示時間を改善することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
好ましい実施形態は、クリープ効果に影響されない独立したセンサでZ高さを個別に測定し、基準画像(即ち、平面)を生成するシステム及び方法を提供することによって、AFMイメージングにおけるクリープ効果に対処しようとする現在のAFMシステムの欠点を克服する。データ走査が実行され、AFMデータが取得されると、システムはクリープを補正する方法でそのAFMデータを基準データに重畳又はマッピングする。この方法では、イメージング後の処理を必要とせず、画像の分解能が向上するため、クリープ補正されたデータをユーザにリアルタイムで伝達することができる。リアルタイム処理は、AFM画像取得中に短時間でデータ処理を実行し、ほぼ瞬時の出力を提供する。これにより、専門家ユーザがシステムパラメータをリアルタイムで調整して向上したAFMデータを取得できるため、システムの柔軟性が実現される。
【0019】
好ましい一実施形態によれば、原子間力顕微鏡(AFM)の方法は、サンプルの関心領域においてプローブとサンプルとの間に相対的な走査運動を提供するステップを含む。提供するステップは、高速走査軸(fast scan axis)及び低速走査軸(slow scan axis)を有するデータ走査(data scan)である。次に、この方法は、提供するステップの間にプローブの偏向(probe deflection)を検出するステップであって、プローブの偏向はサンプルの表面の特性を示すステップを含む。そして、検出ステップに基づいて表面データが生成され、検出ステップと同時にAFMのプローブとサンプルとの間のZ高さが測定される。この方法は、測定ステップに基づいてZ高さデータを生成し、高さデータから低分解能トポグラフィ基準画像を抽出する。次に、表面データが低分解能トポグラフィ基準データに重畳又はマッピングされて最終的なデータ画像が生成される。
【0020】
この好ましい実施形態の別の態様では、最終的なデータ画像を生成するステップは、提供ステップ及び検出ステップの間にリアルタイムで実行される。
この好ましい実施形態の別の態様によれば、抽出ステップは、データ走査の低速走査軸で実行される。
【0021】
この好ましい実施形態のさらなる態様では、測定ステップは、AFMのヘッドに結合されたセンサで実行される。
この好ましい実施形態のさらなる態様によれば、センサは、AFMのヘッドの一部として装着されたスキャナによって支持される。スキャナは、好ましくは圧電チューブスキャナ(piezoelectric tube scanner)である。
【0022】
この好ましい実施形態のさらに別の態様では、チューブスキャナはXYZチューブスキャナであり、センサは静電容量センサである。
この好ましい実施形態のさらに別の態様では、低分解能基準画像は、基準平面を画定し、検出ステップは、タッピングモード、ピークフォースタッピング(PFT;peak force tapping)モード、及び接触モードのうちの1つで実行される。
【0023】
別の好ましい実施形態では、原子間力顕微鏡(AFM)は、AFMのプローブとサンプルとの間に相対的な走査運動を提供するスキャナを含む。データ走査を行うために、検出器がプローブとサンプルの相互作用に応じてプローブの偏向を測定し、この偏向は、サンプルトポグラフィを示して表面データとして格納される。この偏向データは、クリープ効果によって損傷することがよくある。従って、好ましい実施形態のAFMはまた、プローブの偏向を測定すると共にプローブとサンプルとの間のZ高さを測定するためのセンサを含む。Z高さは、Z高さデータとして格納される。プロセッサは、Z高さデータから基準データを抽出し、表面データを基準データにマッピングしてサンプルの最終的なデータ画像を生成する。
【0024】
この好ましい実施形態の別の態様によれば、基準データは、データ走査の低速走査軸に沿ったもので、低分解能トポグラフィデータである。
この好ましい実施形態のさらなる態様では、プロセッサは、基準データを抽出し、AFM動作中にリアルタイムで表面データを基準データにマッピングする。特に、基準データは、好ましくは基準平面である。
【0025】
この好ましい実施形態のさらなる態様によれば、センサは、圧電チューブスキャナに結合された静電容量センサである。
本発明の以上の又は他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付する図面から当業者にとって明白になるのであろう。しかし、詳細な説明及び具体的な例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、制限されない例示の方法として与えられる点を理解しなければならない。本発明の思想を逸脱することなく、本発明の範囲内で多くの変更及び修正を行うことができ、本発明はそのような全ての修正を含む。
【0026】
本発明の好ましい実施形態が添付する図に示されており、図の全体にかけて同じ図面符号は類似の部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】従来技術の原子間力顕微鏡AFMの概略図である。
図2】AFMデータを取得し、データ取得後の処理を行わずにクリープを補正するためのAFMシステムのブロック図である。
図3】好ましい実施形態のクリープ補正方法を示すフローチャートである。
図4】クリープ補正を行わない生のAFMトポグラフィ画像である。
図5図4に示すAFMデータに対するクリープの影響を示す図表である。
図6】AFM制御と独立してプローブサンプルの分離を測定するために別のZ高さセンサを用いて取得された高さ画像である。
図7図5の図表と同様の図6の高さ画像に対応する図表であり、クリープに影響を受けない高さデータを示す。
図8図6のZセンサ高さ画像から抽出された低分解能高さ画像である。
図9】低分解能高さデータを示す、図8に対応する図表である。
図10】好ましい実施形態のリアルタイムクリープ補正方法を使用した結果得られる複合高分解能トポグラフィ画像である。
図11】AFMデータのクリープ補正を示す、図10に対応する図表である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
好ましい実施形態は、後続の画像処理を行わずに、AFMデータに対する「Z」方向のシステムクリープの悪影響を最小限に抑えることを可能にする原子間力顕微鏡(AFM)用のクリープ補正方法及びシステムを対象とする。本明細書に記載された方法は、AFM制御信号(標準AFM画像)から1つ、Zピエゾアクチュエータに結合された別のZセンサから1つずつ、2セットの高さデータを生成し、ピエゾからサンプルまでの距離を測定するステップを含む。一方、Z指令信号「クリープ」は、入力制御電圧に対する指令持続時間(command duration)及び温度依存性感度の両方を有するピエゾ応答によって主に影響を受ける。Zセンサによって提供される高さ測定は、Zセンサがサンプル表面に対するスキャナの物理的変位を測定するため、システムクリープの影響を受けず、これは、主にスキャナからサンプルまでの機械的距離の変化によって影響を受けるが、指令持続時間や温度による影響はごくわずかである。
【0029】
好ましい実施形態による走査型プローブ顕微鏡機器150(例えば、AFM)が図2に示されている。この実施形態では、カンチレバー155の遠位端から延びるチップ154を有するプローブ152は、圧電チューブスキャナ156などのアクチュエータによって支持されるプローブホルダ(図示せず)によって保持される。スキャナ156は、閉ループ制御システム内のサンプル特性に応答して、AFMイメージング中にサンプル158に対してチップ154を配置する「Z」又は垂直スキャナである(自己駆動プローブを含む、代替のZアクチュエータが提供されてもよい)。この実施形態では、チューブスキャナ156は、AFM動作中にサンプル表面に対してプローブチップ154をラスタする(raster)ために使用されるXYスキャナ160、好ましくは圧電チューブに結合される。機械的Zステージ162は、例えば、AFMの起動中に、動作及び画像取得の前にチップ154をサンプル158に合わせるために、チップ154とサンプル158との間のZ方向への大きな移動を提供するために使用される。チューブスキャナ156,160及び機械的Zステージ162は、AFMのヘッド(別途図示なし)の一部として装着される。サンプル158は、サンプル158の関心領域にプローブ152を配置するために概略的なXY運動を主に提供するXYステージ164に装着される。XYステージコントローラ(XYstage controller)166は、ステージ164を制御してその関心領域にプローブ/サンプルを位置させる。しかしながら、ステージ164は、用途に応じて、選択された走査速度でチップ154とサンプル158との間の相対的な走査運動を提供するように構成され得る。コントローラ174は、画像走査を関心領域に配置するための命令を提供する。コントローラ166,174は、コンピュータ180によって実現される。
【0030】
AFM150はまた、スキャナ156(それに結合されたプローブ)とサンプル158との間の距離、即ちZ高さを検出するためのZ計測又は位置センサ190を含む。センサ190は、好ましくは容量性センサであるが、他の適切なオプションを使用することもできる。高さセンサは主に、クリープの原因となる、入力制御信号に対するピエゾの応答変化ではなく、スキャナからサンプルまでの物理的距離の変化に敏感であるため、高さ測定はクリープアーチファクトの影響を受けない。
【0031】
動作時には、チップ154がサンプル158と合わさった後、前述したように、AFMモード(例えば、PFTモード)でXYスキャナ160を用いてサンプルの高速走査が開始される。チップ154がサンプル158の表面と相互作用することでプローブ152が偏向し、この偏向が光学ビームバウンス偏向検出装置(optical beam-bounce deflection detection apparatus)168によって測定される。装置168は、カンチレバー155の後面から偏向信号の高速処理のために、例えば、AFMコントローラ174のDSP176に偏向信号を送信する光検出器172に向けてビーム「L」を照射するレーザ170を含む。AFMコントローラ174は、AFM動作モードに応じて制御信号を連続的に決定し、サンプル158に対してプローブ152のZ位置を保持するためにその信号をピエゾチューブ(piezo tube)156に送信し、より具体的には、フィードバック設定点(feedback setpoint)でプローブの偏向を保持する。コントローラ174はまた、AFM制御とZ高さセンサの両方から取得したデータのリアルタイム処理を実現する。このリアルタイム処理は、図3に示す方法でさらに詳しく説明される。
【0032】
図3を参照すると、AFM画像データにおけるクリープ効果をリアルタイムで補正する方法200が示されている。ブロック202では、AFMチップが関心領域でサンプル表面に合わせられる。次に、ブロック204において、選択されたAFM動作モードでサンプルの走査が開始される。Z指令位置信号(トポグラフィを示す電圧)に加えて、Z計測センサ(metrology sensor)(図2の190、例えば、容量性センサ)によって検出された高さがキャプチャされて記録される。このデータは、各走査位置で同時に取得される。ブロック206において、方法200は、Z計測センサから低分解能トポグラフィ基準データを抽出する。これは、センサ190によって取得された高さデータの低分解能部分(即ち、データ走査の低速走査軸で抽出されたセンサ高さデータ)である。このデータは、物理的なサンプル表面に関係しない時間/電圧に依存する位置誤差を後に除去/最小化するための関心領域の基準平面を提供する。
【0033】
次に、クリープ補正方法200は、ブロック208において、クリープ補正を達成するために、低分解能トポグラフィ基準データを使用するステップを含む。より具体的には、AFM制御信号、即ち微細特徴Z指令電圧に対応する表面データが、低分解能トポグラフィ基準画像データ上にリアルタイムで1ラインずつ重畳/マッピングされる。データ走査の表面データを(基準平面を画定する)低分解能トポグラフィ基準データに重畳又はマッピングすることによって(例えば、差し引く)、方法200は、取得されたAFMデータにおけるクリープを補正する。ブロック210において、この方法は、「クリープ補正された」データを使用してサンプル表面の画像を生成する。その結果、AFM分解能がリアルタイムで向上する。これにより、走査パラメータをリアルタイムで調整し、AFMデータの品質を向上させることができる。方法200及び例示的なデータは、図8の低分解能Z高さ画像(図9に遷移を示す)と共に、図4図5図6、及び図7と関連して以下にて説明される。図10及び図11は、クリープ補正されたAFM画像を示す。
【0034】
より具体的には、最初に図4を参照すると、Z制御信号300の従来のAFM画像が示されており、サンプルが選択されたAFM動作モードでイメージングされる。この画像は、図5のデータのグラフに示されるように、データ内のクリープアーチファクトを含む。予想の通り、クリープアーチファクトにより、画像の細部/分解能が損なわれる。図5は、ベアシリコンウェハ(bare silicon wafer)のグラフ302であり、プロットされたデータは、Y軸上のライン間のZ高さの変化、及びX軸上の画像内の低速走査軸ラインの位置を示す。Z位置の非線形変化に関連するクリープアーチファクトは、領域304で強調表示されている。図6を参照すると、Zセンサ190(図2)の出力から生成された高さ画像が示されている。この場合、前述した理由により、サンプル表面の細部がクリープによって損なわれることはない。これは、図7に例示されている。図7において、ライン間のZ高さの変化をY軸に、及び画像内の低速走査軸のラインの位置をX軸に示したグラフでは、領域314によって強調表示されているような位置の急激な非線形変化は示されていない。センサ190のデータは、時間と電圧に依存していないため、2次「クリープ」誤差を示さない。
【0035】
次に、好ましい実施形態の方法200の一部として、センサ190によって取得された高さデータの低分解能部分に対応するデータが抽出される。図8に示さるこの画像320、及び図9に示されるグラフ322にプロットされたそのデータは、トポグラフィ基準として使用される(図3のブロック206)。前述したように、このトポグラフィ基準320にはクリープ効果がない。次に、微細特徴Z指令電圧AFMデータ(図4)は、トポグラフィ基準320にマッピングされて、AFM画像300内のクリープを補正する。その結果は、図10の高分解能AFM画像330として示されている。システム100のセンサ190(図2)を使用したサンプル表面の高さ測定に対して図7にプロットされたデータ312と同様に、クリープ補正されたデータ332は、2次クリープ誤差をそれ以上含まない。参照図に示されるように、クリープアーチファクトによって引き起こされた誤ったサンプルトポグラフィを約5nm除去することにより、表面特徴の分解能が大幅に向上する。典型的なケースでは、本明細書に記載の技術を使用して1~10nmのクリープアーチファクトを確実に除去することができ、サンプル範囲にわたる表面特徴の分解能を大幅に向上させることができる。
【0036】
要約すると、好ましい実施形態は、画像の後処理を必要とせずに、実質的に2次クリープ誤差のない高分解能AFM画像を提供する方法及び装置を対象とする。クリープ補正技術は、完全に自動化されており、画像の取得中にリアルタイムで実行され、画像の取得中にはクリープは表示されない。AFMシステムのクリープは抑制され、追加の画像の歪みは発生しない。
【0037】
以上、本発明を実施するために発明者らが考えた最良の形態を上記に開示したが、上記の発明の実施はこれらに限定されるものではない。本発明の思想の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の特徴の様々な追加、修正、及び再配置を行うことができることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-9】
図10-11】
【国際調査報告】