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特表2024-520412熱促進および薬物送達のための装置、方法、および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】熱促進および薬物送達のための装置、方法、および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20240517BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20240517BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240517BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240517BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20240517BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 38/04 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K47/64
A61K47/59
A61K47/61
A61K47/68
A61K9/00
A61K45/00
A61K41/00
A61K39/395 N
A61K39/00 H
A61K38/04
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/711
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572723
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 US2022030602
(87)【国際公開番号】W WO2022251141
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/304,071
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/192,253
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523442367
【氏名又は名称】セロミクス, インク.
【氏名又は名称原語表記】Theromics, Inc.
【住所又は居所原語表記】375 West Street, West Bridgewater, MA 02379, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム グン チャン パーク
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン イー.デュピュイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA99
4C076BB32
4C076CC26
4C076CC27
4C076CC29
4C076CC41
4C076DD23
4C076DD41
4C076DD43
4C076DD60
4C076EE01
4C076EE30
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA11
4C084AA17
4C084BA44
4C084MA67
4C084NA10
4C084NA15
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC201
4C084ZC411
4C085AA03
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE01
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA67
4C086NA10
4C086NA15
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC41
(57)【要約】
熱促進剤は、1つ以上の薬物を標的部位に送達するための薬物送達ビヒクルとして使用することができる。例えば、幾つかの実施形態では、アルブミンまたはヒト血清アルブミン(HSA)などの担体に抗腫瘍剤を含浸させるか、または共有結合させて、患者の腫瘍に近接した位置に送達することができる。担体は、担体を構造的に変化させ、そこから薬剤を放出させるエネルギー源に曝露することができる。エネルギー源は、マイクロ波、高周波、電気パルス(エレクトロポレーション)またはソナー(HIFUもしくはヒストトリプシー)のうちの1つ以上を含み得る。幾つかの実施形態では、抗腫瘍剤は、薬剤の一部が長期間にわたって担体から放出されるような遅延放出であり得る。熱促進剤に抗腫瘍剤を組み込むことにより、熱的アブレーション-薬物送達併用療法(例えば、熱活性化併用療法)が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達組成物であって、
エネルギー源からの所定のエネルギーに曝露されると凝固して、標的部位内に位置決めされた後に相対的に固定化されるように構成されたポリマーを含む担体と、
前記担体と関連付けられるように構成された薬物であって、前記エネルギー源からの前記所定のエネルギーへの曝露後に放出されるように構成されている、薬物と
を含み、
前記担体は、前記エネルギー源からの前記所定のエネルギーへの曝露時に構造的に変化して前記薬物を放出するように構成されている、
薬物送達組成物。
【請求項2】
前記薬物は、前記薬物の一部が少なくとも48時間にわたって前記担体から放出されるように構成されている、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記担体の濃度が、約30mg/mL~約600mg/mLの範囲であり得る、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記薬物は、タンパク質結合または共有結合のうちの少なくとも1つによって前記担体と関連付けられている、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリマーは、アルブミンまたは構造的に修飾されたアルブミンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
構造的に変化することは、前記担体の変性を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記担体の変性は:
前記薬物と前記担体との間のタンパク質結合率;または
前記担体の形状
のうちの少なくとも1つを変化させる、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記エネルギー源は、マイクロ波、高周波、電気パルス(エレクトロポレーション)またはソナー(HIFUもしくはヒストトリプシー)のうちの1つ以上を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記担体内の電荷分布を調整するように構成されたカオトロープをさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記薬物は、PD-1ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ニボルマブ(オプジーボ)、セミピリマブ(リブタヨ)、PD-L1アテゾリズマブ(テセントリク)、アベルマブ(バベンチオ)、デュルバルマブ(イミフィンジ)およびCTLA4イピリムマブ(ヤーボイ)、siRNA、ペプチド、タンパク質、免疫原、RNA、mRNA、DNA、またはヌクレオシドアナログベースの薬剤のうちの1つ以上を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記薬物は、キナーゼ阻害剤、またはドキソルビシン、タキソール、または他の非キナーゼ抗腫瘍剤のうちの1つ以上を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記ポリマーは、DNA、RNA、糖タンパク質または糖ポリマー、例えばIgA、IgG、もしくは他の免疫グロブリンのうちの1つ以上を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記薬物は、CSF1(MCS110);CCL2(CNTO888);CCR2(BMS-813160、CCX872-B、MLN1202、PF-04136309);SIRPa(TTI-622、CC-95251、BI765063、FSI-189);TIE2(CEP-11981、レゴラフェニブ、Arry-614);アルギナーゼ(INCB001158);HER2(CAR-マクロファージ);GCビタミンD結合タンパク質(EF-022);CD40(SEA-CD40、APX005M、CP870,893、R07009879、CDX-1140、SGN-40、HCD122、2141V-11、ADC-1013、LVGN7409、Chi Lob 7/4、NG-350A);BTK(イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ);CSF 1R(PLX-3397、BLZ945、ARRY-382、JNJ-40346527、IMC-CS4、FPA008、RO5509554、TPX-0022、DCC-3014、Q702、SNDX-6532);またはCD47(Hu5F9-G4、TTI-621、AO-176、IBI322、ZL1201、CC-90002、HX009、IBI188、SRF231、AK117、IMC-002)のうちの1つ以上を含む、癌免疫療法においてマクロファージを標的とするための薬物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
前記薬物は、ADU-S100、MK-1454、MK-2118、BMS-986301、GSK3745417、SB-11285、またはIMSA-101のうちの少なくとも1つ以上でcGAS-STING-TBK1シグナル伝達経路を標的とするための薬物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記薬物は、癌ワクチンTLRおよびSTINGアゴニスト:標的RIG-I/MDASおよびTLR3(poly-ICLC);TLR4(G100);TLR7/8(NKTR-262、レシキモド);TLR9(CpG ODN SD-101、(VLP)カプセル化-TLR9アゴニストCMP-001);STING(MK1454、E7766、ADU-S100、BMS-986301、SB-11285)FLT3LおよびCD40アゴニスト:標的(アゴニストの例)rhFLT3L(CDX-301);アゴニスト抗CD40抗体(APX005M、CDX-1140、SEA-CD40)を標的とするための薬物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
薬物を患者に送達する方法であって、
前記患者のある位置内に担体/薬物組成物を位置決めすることであって、前記担体/薬物組成物は、ポリマー担体および前記担体に結合した薬物を含む、位置決めすることと、
前記担体/薬物組成物にエネルギー源からエネルギーを適用することによって前記担体を凝固させ、前記担体を前記患者の前記位置で相対的に固定化することによって前記担体を構造的に変化させることと、
前記エネルギーの受け取りにより前記担体から前記患者の前記位置内で前記薬物を放出させることと
を含む、方法。
【請求項17】
前記エネルギー源は、マイクロ波、高周波、電気パルス(エレクトロポレーション)、またはソナー(ヒストトリプシー)のうちの少なくとも1つ以上を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記エネルギーの受け取りは、前記担体/薬物組成物の存在下で前記患者の前記位置のアブレーションを引き起こすことをさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記担体/薬物組成物の存在下での前記患者の前記位置のアブレーションは、前記担体/薬物組成物がないアブレーションよりも大きなアブレーション体積およびより球状のアブレーション体積形状をもたらし、前記アブレーション体積の体積および球状の形状の増加が用量依存的である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
熱活性化複合治療組成物であって、
治療剤と、
熱促進剤であって、
アブレーション治療を強化し、
前記治療剤で含浸され、
エネルギー源からのエネルギーへの曝露後に前記治療剤を溶出する
ように構成された、熱促進剤と
を含み、
前記複合治療組成物は、エネルギー源からのエネルギーへの曝露によって熱活性化される、
熱活性化複合治療組成物。
【請求項21】
前記治療剤は、タンパク質結合または共有結合のうちの少なくとも1つによって前記熱促進剤と関連付けられている、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
前記熱促進剤が前記エネルギー源からの前記エネルギーに曝露された後、
前記熱促進剤は、凝固し、アブレーションされた組織とカップリングするように構成されており、
前記熱促進剤は、治療剤の一部を溶出し始めるように構成されている、
請求項20記載の組成物。
【請求項23】
前記熱促進剤は、
アルブミンを含む担体と、
少なくとも1つのカオトロープを含むイオン性成分と、
イメージング成分と
を含む、請求項20記載の組成物。
【請求項24】
前記アルブミンは、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンを含み、
前記カオトロープは、塩化カルシウム、塩化セシウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、トリプトファンナトリウム、クエン酸、オクタン酸、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、
前記イメージング成分は、NaCl、CsCl、またはアルブミンのうちの少なくとも1つを含む、
請求項23記載の組成物。
【請求項25】
前記熱促進剤が前記エネルギー源に曝露されると、
前記エネルギー源は、前記アルブミンを変性し始めるように構成されており、
前記変性されたアルブミンは、
凝固し、
含浸された前記薬物を放出する
ように構成されている、
請求項24記載の組成物。
【請求項26】
薬物送達担体組成物であって、
エネルギー源からのエネルギーに曝露されると凝固して、標的部位内に位置決めされた後に相対的に固定化されるように構成されたポリマーを含む担体
を含み、
前記担体は、薬物を含有するように構成されており、前記担体は、前記エネルギー源からの前記エネルギーへの曝露後に前記薬物が放出されることを可能にするように構成されており、
前記担体は、前記エネルギー源からの前記エネルギーに曝露されると構造的に変化するように構成されている、
薬物送達担体組成物。
【請求項27】
前記ポリマーは、ヒト血清アルブミンを含み、
前記担体組成物は、
クエン酸三ナトリウム、
トリプトファンナトリウム、
クエン酸、および
オクタン酸
をさらに含む、
請求項26記載の担体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2021年5月24日に出願され、かつ「DEVICES, METHODS, AND COMPOSITIONS FOR DRUG DELIVERY」と題された米国仮特許出願第63/192,253号、および2022年1月28日に出願され、かつ「DEVICES, METHODS, AND COMPOSITIONS FOR THERMAL ACCELERATION AND DRUG DELIVERY」と題された米国仮特許出願第63/304,071号の利益を主張するものであり、これらは、図面および添付資料を含め、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本特許出願の主題は、2021年7月9日に出願され、かつ「THERMAL ACCELERANT COMPOSITIONS AND METHODS OF USE」と題された米国特許出願第17/371,683号の主題に関連し得、これは、2019年12月9日に出願され、かつ「Thermal Accelerant Compositions and Methods of Use」と題された米国特許出願第16/708,416号の分割出願(現在の米国特許第11,076,916号)であり、これは、2016年12月23日に出願され、かつ「THERMAL ACCELERANT COMPOSITIONS AND METHODS OF USE」と題された米国特許出願第15/389,809号の一部継続出願(現在の米国特許第10,722,289号)であり、これは、2016年8月30日に出願された米国仮特許出願第62/381,251号、および2015年12月23日に出願された米国仮特許出願第62/387,250号の利益、および優先権を主張するものであり、これらの内容は、図面および添付書類を含め、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
技術分野
本開示は、マイクロ波、高周波、電気パルス(エレクトロポレーション)またはソナー(HIFUもしくはヒストトリプシー)のうちの1つ以上を用いて対象を処置するためのシステム、装置、および方法に関する。特に、抗腫瘍剤などの1つ以上の物質を標的部位に送達するための薬物送達ビヒクルとして使用され得る熱促進剤(thermal accelerants)が開示される。幾つかの実施形態では、抗腫瘍剤は、薬剤の一部が長期間にわたって担体から放出されるように遅延放出され得る。熱促進剤に抗腫瘍剤を組み込むことにより、熱的アブレーション-薬物送達併用療法が提供される。
【0004】
背景
様々な実施形態は、温熱組織アブレーション、すなわち、内臓、血管、骨、または他の部位に位置する腫瘍などの組織を、手術をせずに加熱および破壊するためのエネルギーの適用のための方法、材料、および機器に関する。このようなアブレーションに使用される器具には、モノポーラ(MP)高周波アンテナ、バイポーラ(BP)高周波電極、マイクロ波アンテナなどがある。これらは経皮的に挿入されることもあれば、治療部位にアクセスするためにカテーテルシースを介して挿入されたりすることもあり、各々に特徴的な作用と作動パラメータとがある。温熱組織アブレーションを達成するために組織を局所的に加熱するためのこのようなアンテナ装置の使用には、特徴的な作動時間、適用されるパワーレベルおよび周波数および電磁駆動の種類が必要な場合があり、これらのパラメータの適切な選択または設定と、アンテナ先端の位置決めとは、一般に、組織の種類だけでなく、標的腫瘍のサイズおよび形状にも依存する。異なる加熱モダリティの中でも、マイクロ波アブレーションが、プローブまたはハンドピースで運ばれる針状のアンテナを使用して内部組織部位に適用されることがあり、アクティブアンテナが、標的組織部位に関連して正確に配置をガイドするために、例えばCTイメージングによってイメージングされることがある。標的自体は、同じまたは別の医用画像診断モダリティによる画像診断によって特定され得るか、または特定されている。
【0005】
このような画像ガイドマイクロ波腫瘍アブレーションは、安全で、低侵襲で、費用対効果の高い個別腫瘍の癌治療法として認識されており、他の要因により手術が危険であったり、別の点で勧められなかったりする場合に選択される治療法となることもある。
【0006】
しかしながら、マイクロ波アンテナの配置は、意図された標的部位に応じて、アンテナおよびケーブルの配置のために単純な外科用アブレーション針のハンドピースまたは一般に入手可能なトロカールおよびカテーテルを使用して、体内のどこにでも行うことができるが、マイクロ波アブレーションアンテナの有効加熱範囲は、アブレーションアンテナの周囲に比較的小さな距離だけ拡張する楕円形または長円形のアブレーションゾーンになる。その加熱効果は、局所的な組織の状態に依存して、ある程度異なる可能性がある。この短い有効範囲により、近くのほとんどの健康な組織構造への意図しない損傷は制限されるが、マイクロ波アブレーションは、わずか数センチメートルで急速に低下し、アブレーションは、その部位でのマイクロ波の熱の発生速度、またはその部位から隣接する組織への熱伝導、または組織の伝導率および誘電率のばらつき(これは患者ごとに異なる場合がある)のために不規則になる可能性があるという欠点もある。その結果、マイクロ波温熱的アブレーションで治療された腫瘍は、不完全なアブレーションの位置のために再発率が比較的高くなる(約30%)。不完全なアブレーションと、その結果としての腫瘍細胞の生存と腫瘍の再発とが起こり得るのは、幾つかの検出されなかった腫瘍細胞が有効アブレーションゾーンの外側に存在するためであり、組織特性の局所的ばらつきにより本質的に発熱量が低くなるため、生き残った腫瘍細胞が、「ヒートシンク」として作用する血管の近傍にあり、意図したアブレーション部位から離れて熱伝導を増加させることによって、アブレーション手技中の標的領域の一部の温度上昇を制限しているため、または遠方界におけるドロップオフもしくはシャドーイングにより、公称標的温度付近の有効温度が大きく変動するためである。
【0007】
患者の肝臓Lの腫瘍Tに挿入されたマイクロ波針/アンテナAを図示する図1Aに示されるように、マイクロ波針/アンテナの有効アブレーションゾーンは、典型的には、マイクロ波アンテナからわずか2~4cm拡張するアーモンド型の領域であり、その結果、作動させることで、腫瘍の縁ではなく中心を覆うアブレーションゾーンAZが加熱される。図1Bは、左側の結腸癌から転移し、左側の結腸癌を呈した実際の肝臓腫瘍の画像を示している。結腸原発の切除後、この患者には、ロイコボリン、フルオロウラシル、およびオキサリプラチン、ならびにベバシズマブ(アバスチン)が8サイクル投与された。しかしながら、肝臓腫瘍は機能的な肝予備能に対する懸念から切除不能と考えられたため、腫瘍を幾つかのセグメントに分けてマイクロ波アブレーションによって治療し、そのうちの1つを図1Bの太い矢印で示している。腫瘍の大きさは2.7cmで、左肝静脈に接していた(細い矢印)。アブレーション手技の後、陽電子放出断層撮影の追跡スキャン画像が撮影された。図1Cに示されるように、フルオロデオキシグルコース活性の増加(太い矢印)が、左肝静脈(図1C、細い矢印)に隣接する残存腫瘍の存在と一致する位置の小領域で観察された。ヒートシンクが残存疾患の一因である可能性が示唆された。患者は最初の診断から3年後に生存していた。
【0008】
標的組織およびそのマイクロ波加熱特性の不完全な知識、標的の不規則な形状またはサイズ、ならびにアンテナのアクセスまたは配置を制限する組織の存在を含む他の要因が、最適以下のアブレーション効率の一因となり得る。
【0009】
本発明の各種実施形態の概要
幾つかの実施形態に従って、方法およびシステムが組織をアブレーションする。その目的のために、方法およびシステムは、患者の標的部位に第1のアプリケーターを導入し、標的部位に対して公称(nominal)アブレーションゾーンを画定するために、第1の熱促進剤を位置決めし、熱促進剤はカオトロープを含み、第1の熱促進剤を特定の温度に加熱して標的部位をアブレーションするために、第1のアプリケーターを起動させて第1の熱促進剤の粒子を励起することができる。
【0010】
幾つかの実施形態では、本方法は、標的部位を焼灼するために、標的部位の組織の表面に第1の熱促進剤を適用することをさらに含み得る。幾つかの実施形態では、第1の熱促進剤を位置決めすることは、標的部位の外側境界に促進剤を位置決めすることをさらに含み得る。さらに、本方法は、標的部位に第2のアプリケーターまたは第2の熱促進剤をさらに導入し得、第2のアプリケーターおよび第2の熱促進剤は、第1のアプリケーターおよび第1の熱促進剤と実質的に菱形の形状に位置決めされる。さらに、第1のアプリケーターまたは第2のアプリケーターは、1つ以上のエネルギー放出デバイスをその上に有する電極を含み得る。さらになお、本方法は、画像誘導下で第1のアプリケーターおよび第1の熱促進剤のうちの1つ以上を標的部位に通過させることをさらに含み得る。とりわけ、第1の熱促進剤は凝固して、アブレーションされた組織と一体化し得る。幾つかの実施形態では、特定の温度は、約60℃~約170℃であり得る。
【0011】
代替の実施形態に従って、第1の熱促進剤は、高周波を熱エネルギーに変換するように構成された高い双極子モーメントを有する材料を含み得る。第1の熱促進剤は、遠方界、周辺ドロップオフ、または組織変動領域において電気エネルギーを適用することによって加熱を強化し、それによってアブレーション効果を前述の領域に拡張するように位置決めされ得る。双極子モーメントは、約7デバイ~約1,000デバイの範囲の値を有し得る。とりわけ、第1のアプリケーターは、マイクロ波エネルギー、高周波エネルギー、およびエレクトロポレーションのエネルギーのパルスのうちの1つ以上を放出し得る。標的部位は、患者の腫瘍および組織標的のうちの1つ以上を含み得る。
【0012】
代替の実施形態に従って、第1の熱促進剤は、付着後に標的部位内で実質的に静止したままであってもよい。とりわけ、第1の熱促進剤は、健康な組織が過熱するのを防止するために、第1のアプリケーターと健康な組織との間に位置決めされてもよい。幾つかの実施形態では、本方法は、アブレーション部位から離れる熱の伝導を調節するために、アブレーション部位とヒートシンクとの間に第1の熱促進剤を位置決めすることをさらに含み得る。さらに、本方法は、第1のアプリケーターから熱促進剤を送達することを含み得る。
【0013】
他の実施形態に従って、熱促進剤の各種組成物をアブレーションに使用することができる。本組成物は、標的部位内に位置決めされた後に相対的に固定化されるように体温以上でゼラチン状になるかまたは固化するように構成されたポリマーと、ポリマー内の電荷分布を調整するように構成されたカオトロープと、患者の体内における熱促進剤の画像ガイド検証を可能にするように構成されたイメージング成分とを有する熱促進剤を含み得る。熱促進剤は、ある量のアブレーションエネルギーに曝露されたとき、熱促進剤なしで等量のアブレーションエネルギーに曝露されたときの生体組織における電気伝導率および損失係数の値の最大5倍以上の電気伝導率および損失係数の値を有する。実施形態では、ポリマーはイメージング成分として機能し得る。
【0014】
熱促進剤の粘度は、約50センチポアズ~約25,000センチポアズの範囲であり得る。カオトロープは、塩化カルシウム、塩化セシウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、トリプトファンナトリウム、クエン酸、オクタン酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。幾つかの実施形態では、塩化セシウムは、その固有の双極子モーメントによって供給される交流電界に同期して転がり、熱を発生することができる。さらに、ポリマーは、アルブミン、DNA、RNA、糖タンパク質または糖ポリマー、例えばIgA、IgG、もしくは他の免疫グロブリンのうちの1つ以上を含み得る。カオトロープは、1mg/mL~500mg/mLの濃度、または2mg/mL~150mg/mLの濃度、または5mg/mL~20mg/mLの濃度で、熱促進剤中に存在し得る。アルブミンは、50mg/mL~700mg/mLの濃度、または150mg/mL~600mg/mLの濃度、または300mg/mL~600mg/mLの濃度、または450mg/mL~550mg/mLの濃度、さらには500mg/mLの濃度で、熱促進剤中に存在し得る。
【0015】
薬物送達に使用されるTAの例示的な実施形態では、物質は、外部エネルギーへの曝露時に所望の薬物と「構造的に変化」する担体分子をその場で形成する担体を含み得、ここで、「構造的に変化」するという用語は、生理学的体温エネルギー以外のエネルギー源を含む外部エネルギー源によってもたらされる担体分子の不可逆的変化の全段階を指す。エネルギー源は、マイクロ波、高周波、電気パルス(エレクトロポレーション)またはソナー(ヒストトリプシー)の1つ以上を含み得る。製剤中の担体の濃度は、約30mg/mL~約600mg/mLの範囲であり得る。幾つかの実施形態では、酸、塩基、金属または金属イオン、塩、緩衝剤またはカオトロープのうちの1つ以上を添加して、アブレーション中の動的運動に対する担体分子の極性を調整することができる。
【0016】
他の実施形態に従って、薬物送達組成物は、エネルギー源からの所定のエネルギーに曝露されると凝固して、標的部位内に位置決めされた後に相対的に固定化されるように構成されたポリマーを含む担体と、担体と関連付けられるように構成された薬物であって、エネルギー源からの所定のエネルギーへの曝露後に放出されるように構成されている、薬物とを含み、担体は、エネルギー源からの所定のエネルギーへの曝露時に構造的に変化して薬物を放出するように構成されている。薬物は、薬物の一部が少なくとも48時間にわたって担体から放出されるように構成され得る。薬物は、タンパク質結合または共有結合のうちの少なくとも1つによって担体と関連付けられ得る。担体の濃度は、約30mg/mL~約600mg/mLの範囲であり得る。
【0017】
ポリマーは、アルブミンまたは構造的に修飾されたアルブミンを含み得る。構造的に変化することは、担体の変性を含み得る。担体の変性は、薬物と担体との間のタンパク質結合率、または担体の形状のうちの少なくとも1つを変化させ得る。
【0018】
幾つかの実施形態では、エネルギー源は、マイクロ波、高周波、電気パルス(エレクトロポレーション)またはソナー(HIFUもしくはヒストトリプシー)のうちの1つ以上を含み得る。
【0019】
薬物送達組成物は、担体内の電荷分布を調整するように構成されたカオトロープをさらに含み得る。
【0020】
幾つかの実施形態では、ポリマーは、DNA、RNA、糖タンパク質または糖ポリマー、例えばIgA、IgG、もしくは他の免疫グロブリンのうちの1つ以上を含み得る。
【0021】
幾つかの実施形態では、薬物は、PD-1ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ニボルマブ(オプジーボ)、セミピリマブ(リブタヨ)、PD-L1アテゾリズマブ(テセントリク)、アベルマブ(バベンチオ)、デュルバルマブ(イミフィンジ)およびCTLA4イピリムマブ(ヤーボイ)、siRNA、ペプチド、タンパク質、免疫原、RNA、mRNA、DNA、またはヌクレオシドアナログベースの薬剤のうちの1つ以上を含み得る。
【0022】
幾つかの実施形態では、薬物は、キナーゼ阻害剤、またはドキソルビシン、タキソール、または他の非キナーゼ抗腫瘍剤のうちの1つ以上を含み得る。
【0023】
幾つかの実施形態では、薬物は、CSF1(MCS110);CCL2(CNTO888);CCR2(BMS-813160、CCX872-B、MLN1202、PF-04136309);SIRPa(TTI-622、CC-95251、BI765063、FSI-189);TIE2(CEP-11981、レゴラフェニブ、Arry-614);アルギナーゼ(INCB001158);HER2(CAR-マクロファージ);GCビタミンD結合タンパク質(EF-022);CD40(SEA-CD40、APX005M、CP870,893、R07009879、CDX-1140、SGN-40、HCD122、2141V-11、ADC-1013、LVGN7409、Chi Lob 7/4、NG-350A);BTK(イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ);CSF 1R(PLX-3397、BLZ945、ARRY-382、JNJ-40346527、IMC-CS4、FPA008、RO5509554、TPX-0022、DCC-3014、Q702、SNDX-6532);またはCD47(Hu5F9-G4、TTI-621、AO-176、IBI322、ZL1201、CC-90002、HX009、IBI188、SRF231、AK117、IMC-002)のうちの1つ以上を含み得る、癌免疫療法においてマクロファージを標的とするための薬物を含み得る。
【0024】
幾つかの実施形態では、薬物は、ADU-S100、MK-1454、MK-2118、BMS-986301、GSK3745417、SB-11285、またはIMSA-101のうちの少なくとも1つ以上でcGAS-STING-TBK1シグナル伝達経路を標的とするための薬物を含み得る。
【0025】
幾つかの実施形態では、薬物は、癌ワクチンTLRおよびSTINGアゴニスト:標的RIG-I/MDASおよびTLR3(poly-ICLC);TLR4(G100);TLR7/8(NKTR-262、レシキモド);TLR9(CpG ODN SD-101、(VLP)カプセル化-TLR9アゴニストCMP-001);STING(MK1454、E7766、ADU-S100、BMS-986301、SB-11285)FLT3LおよびCD40アゴニスト:標的(アゴニストの例)rhFLT3L(CDX-301);アゴニスト抗CD40抗体(APX005M、CDX-1140、SEA-CD40)を標的とするための薬物を含み得る。
【0026】
他の実施形態に従って、患者に薬物を送達する方法は、患者のある位置内に担体/薬物組成物を位置決めすることであって、担体/薬物組成物は、ポリマー担体および担体に結合した薬物を含む、位置決めすることと、担体/薬物組成物にエネルギー源からエネルギーを適用することによって担体を凝固させ、担体を患者の位置で相対的に固定化することによって担体を構造的に変化させることと、エネルギーの受け取りにより担体から患者の位置内で薬物を放出させることとを含む。
【0027】
エネルギー源は、マイクロ波、高周波、電気パルス(エレクトロポレーション)、またはソナー(ヒストトリプシー)のうちの少なくとも1つ以上を含み得る。エネルギーの受け取りは、担体/薬物組成物の存在下で患者の位置のアブレーションを引き起こすことをさらに含み得る。担体/薬物組成物の存在下での患者の位置のアブレーションは、担体/薬物組成物がないアブレーションよりも大きなアブレーション体積およびより球状のアブレーション体積形状をもたらし得る。アブレーション体積の体積および球状の形状の増加は用量依存的であり得る。
【0028】
他の実施形態に従って、熱活性化複合治療組成物は、治療剤と、熱促進剤であって、アブレーション治療を強化し、治療剤で含浸され、エネルギー源からのエネルギーへの曝露後に治療剤を溶出するように構成された、熱促進剤とを含み、複合治療組成物は、エネルギー源からのエネルギーへの曝露によって熱活性化される。
【0029】
治療剤は、タンパク質結合または共有結合のうちの少なくとも1つによって熱促進剤と関連付けられ得る。
【0030】
熱促進剤がエネルギー源からのエネルギーに曝露された後、熱促進剤は、凝固し、アブレーションされた組織とカップリングするように構成され得る。熱促進剤がエネルギー源からのエネルギーに曝露された後、熱促進剤は、治療剤の一部を溶出し始めるように構成され得る。
【0031】
熱促進剤は、アルブミンを含む担体と、少なくとも1つのカオトロープを含むイオン性成分と、イメージング成分とを含み得る。アルブミンは、ヒト血清アルブミン、またはウシ血清アルブミンを含み得る。カオトロープは、塩化カルシウム、塩化セシウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、トリプトファンナトリウム、クエン酸、オクタン酸、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み得る。イメージング成分は、NaCl、CsCl、またはアルブミンのうちの少なくとも1つを含み得る。実施形態では、イメージング成分は、ヒト血清アルブミン、またはウシ血清アルブミンであり得る。実施形態では、イメージング成分は、セシウム、タンタル、イオヘキソール、エチオダイズドポリマー、例えばPLGA、PEG、アルブミンを含み得る。超音波イメージングでは、ポリマーは、一般に低エコーであることがわかっている。実施形態では、イメージング成分には、イオジキサノール(ビジパーク)、イオヘキソール(オムニパーク)、イオパミドール(Isovue)、イオプロミド(Ultravist)、イオベルソール(Optiray)、イオキシラン(Oxilan)、ガダビスト(ガドブトロール)、ドタレム(ガドテル酸メグルミン)、エオビスト(ガドキセテート二ナトリウム)、マグネビスト(ガドペンテト酸ジメグルミン)、バソビスト(ガドホスベセット三ナトリウム)、Teslascan(マンガホジピル)、プロハンス(ガドテリドール)、OptiMARK(ガドベルセタミド)、Omniscan(ガドジアミド)、Multihance(ガドベン酸ジメグルミン)、GastroMARK(フェルモキシル(ferumoxsil))、Feridex(フェルモキシド)、Clariscan(ガドテル酸メグルミン)、Ablavar(ガドホスベセット三ナトリウム)、Definity(ペルフルトレン)Optison(ペルフルトレン)、およびDefinity RT(ペルフルトレン)が含まれ得る。
【0032】
熱促進剤がエネルギー源に曝露されると、エネルギー源は、アルブミンを変性し始めるように構成され得、変性されたアルブミンは、凝固し、含浸された薬物を放出するように構成され得る。
【0033】
他の実施形態に従って、薬物送達担体組成物は、エネルギー源からのエネルギーに曝露されると凝固して、標的部位内に位置決めされた後に相対的に固定化されるように構成されたポリマーを含む担体を含み、担体は、薬物を含有するように構成されており、担体は、エネルギー源からのエネルギーへの曝露後に薬物が放出されるように構成されており、担体は、エネルギー源からのエネルギーに曝露されると構造的に変化するように構成されている。
【0034】
ポリマーは、ヒト血清アルブミンを含み得る。担体組成物は、クエン酸三ナトリウム、トリプトファンナトリウム、クエン酸、およびオクタン酸をさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明のこれらおよび他の特徴は、本明細書に添付された特許請求の範囲とともに、以下の図および説明から理解されるであろう。
図1A】先行技術のマイクロ波肝臓腫瘍アブレーション治療の重複しないアブレーションゾーンと腫瘍領域とを概略的に示す図である。
図1B】患者の肝臓にあり、肝静脈に接している転移性腫瘍を示す図である。
図1C】残存腫瘍増殖を示すその部位のPETスキャンであり、ヒートシンク効果が残存疾患の一因であったことを示唆する図である。
図2A】異なる流体のマイクロ波加熱による有効な温度上昇率を示す図である。
図2B】未処置の組織と、異なる熱基質製剤との有効な温度上昇率を示す図である。
図2C】蒸留水と3つの異なる濃度のHSとの小さなバイアルを示し、CTイメージング下で識別可能なコントラストおよび検出可能性を確認する図である。
図2D】ポリマー/塩剤が温度上昇に伴って液体-ゲル-沈殿物の変化を受けることを示す図である。
図3A】腫瘍と、アンテナおよび熱促進剤の配置とを概略的に示す図である。
図3B図3Aの配置によるアブレーションの拡張を示す図である。
図4】肝臓の断面と、腫瘍と血管との間の熱促進剤の配置を示す図である。
図5】拡張されたアブレーションゾーンを形成するための2つのアンテナと熱促進剤の2つの部位との配置を示す図である。
図6A】熱促進剤の熱増強を評価するために使用される実験セットアップを示す図である。
図6B】異なる量の促進剤の加熱の時間/温度チャートを示す図である。
図7】有効なアブレーション材料、パラメータおよび操作手順を特定するために設計された治験用インビボ動物プロトコールのチャートを示す図である。
図8図8のAおよび図8のBは、それぞれHSAおよびBSAの表面電位を示し、それぞれ正電荷および負電荷の領域は異なる陰影または色で示す図である。
図9】BSAの粘度をその濃度(mg/mL)の関数として示す図である。
図10A】マイクロ波アンテナから1.5cmの位置に置かれた対照および異なる量のNaClを有するアルブミン熱促進剤(TA)の経時的な温度上昇を示す図である。
図10B】NaCl濃度の関数として120秒での最終温度の上昇を示す図である。
図11】異なる濃度の塩化セシウム成分を使用して、異なる組織において達成されたアブレーション体積の増加を示す図である。
図12】患者の臓器に挿入される電極およびTAの配置を概略的に示す図である。
図13】TAおよび対照設定を使用する高周波アブレーションの温度プロファイルを示す図である。
図14】様々な濃度を有するTAサンプルの経時的な温度プロファイルを示す図である。
図15】本明細書に開示される組成物およびシステムを使用する例示的な方法のフローチャートを示す図である。
図16】担体としてのヒト血清アルブミンの結晶構造の概略図を示す図である。
図17】タンパク質変性の例示的な実施形態の概略図を示す図である。
図18】薬物送達ビヒクルとして担体を使用するための別の例示的な方法のフローチャートを示す図である。
図19】アブレーションされた組織の画像を示す図である。
図20A】HSAベース#1ゲルの組織構造を有しないアブレーションされたブタ肝臓の画像を示す図である。
図20B】HSAベース#1ゲルの組織構造を有するアブレーションされたブタ肝臓の画像を示す図である。
図21】アブレーション前(左端)、アブレーション中(3分)、アブレーション後それぞれ6時間、24時間および48時間の、ドキソルビシン+HSAベース#1ゲルの薬物溶出の画像を示す図である。
図22A】吸光度v[ドキソルビシン]のプロットを示す図である。
図22B】HSAベース#1ゲルから溶出したドキソルビシンの吸光度の経時的なプロットを示す図である。
図23A】吸光度v[レシキモド]のプロットを示す図である。
図23B】HSAベース#1ゲルから溶出したレシキモドの吸光度の経時的なプロットを示す図である。
図24A】915MHzでのサンプルHSA209の20℃~90℃の範囲の温度に対する周波数の関数としての比誘電率のプロットを示す図である。
図24B】915MHzでのサンプルHSA209の20℃~90℃の温度範囲に対する周波数の関数としてのe’’のプロットを示す図である。
図24C】915MHzでのサンプルHSA209の20℃~90℃の温度範囲に対する周波数の関数としての伝導率のプロットを示す図である。
図25A】915MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての比誘電率を示す図である。
図25B】915MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の温度の関数としてのe’’のプロットを示す図である。
図25C】915MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての伝導率のプロットを示す図である。
図26A】2450MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての比誘電率のプロットを示す図である。
図26B】2450MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としてのe’’のプロットを示す図である。
図26C】2450MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての伝導率のプロットを示す図である。
【0036】
詳細な説明
例示的な実施形態は、エネルギー源(例えば、画像ガイド経皮マイクロ波アンテナなどのマイクロ波または無線周波数(RF)アンテナ)による組織の有効温熱的アブレーションを達成するために、強力なエネルギー吸収体、「熱基質」(HS)または「熱促進剤」(TA)を組織部位に適用して、温度上昇の速度、程度または終点を局所的に調節する。さらに、幾つかの実施形態は、有効局所薬物送達を提供するように構成される。そのために、幾つかの実施形態は、標的部位内に位置決めされた後に相対的に固定化されるように構成されたポリマーから少なくとも部分的に形成された担体を有するシステムとして実施され得る。担体と関連付けられた薬物は、エネルギー源への曝露後に放出され、ポリマーの局所領域に治療的処置を提供し得る。各種実施形態の詳細については後述する。
【0037】
一実施形態では、逆相ポリマーが担体として使用され、関連組織部位内またはその周囲の所望の位置に流体として注入される。ポリマーは液体であり、体温以上の温度でゲル化したり、ゼラチン状になったり、さらには固化したりするため、送達部位に固定化されるか、またはすぐに固定化され、局所的に留まることになる。ポリマーは、アブレーション手技と一致する温度で状態を変化させ、液体(例えば、水)を排出するものであってもよい。一実施形態では、ポリマーは塩も含む。塩化セシウムの使用により、マイクロ波/加熱相互作用を大幅に増加させ、またCTまたはMRI下で促進剤を視覚化し、RFまたはマイクロ波励起の前に局在の画像ガイド検証が可能になることがわかっている。超音波などの他の画像モダリティを画像ガイダンスに使用することもできる。適切な特性を有するポリマーは、ポリエチレングリコールからなるブロックコポリマーPLGA-PEG-PLGAなどのものであってもよく、この両末端はFDA承認のポリ乳酸-コ-グリコール酸によって共有結合的にエステル化されている。動作中、パラメータの範囲を変化させて、ブタまたは子ウシの肝臓などの代表的な組織でマイクロ波条件(すなわち、出力、周波数、アブレーション期間および距離)の関数としてアブレーション応答を確立することができる。(例えば、Pillai K, Akhter J, Chua T C, Shehata M, Alzahrani N, Al-Alem I, Morris D L. 2015. Heat sink effect on tumor ablation characteristics as observed in monopolar radiofrequency, bipolar radiofrequency, and microwave, using ex vivo calf liver model. Medicine (Baltimore) 94(9):e580におけるモデリングプロトコールを参照のこと)。別の実施形態では、熱促進剤は、以下にさらに記載するように、血清アルブミンまたは他のアルブミンを、その粘度、マイクロ波エネルギー吸収量または熱促進剤特性をコンディショニングする特定の電解質とともに調製したものであり、好ましくは、MRI、超音波またはX線CTイメージングなどの1つ以上の医用画像診断モダリティ下でのイメージングも提供する。
【0038】
実施例1
不十分な加熱の問題を軽減するために、出願人は、加熱を選択的に増加させ、適切な配置によって、望ましくない冷却または「ヒートシンク」効果を回避する熱基質を考案した。一実施形態のこの基質は、塩化セシウム(CsCl)で作られ、逆相転移ポリマーにコンパウンド化されて位置決めされ、次いで、遠くからマイクロ波エネルギーによって活性化される。逆相転移ポリマーは、例えば、適切な粘度のPLGA-PEG-PLGAブロックコポリマーであってもよく、体温以上の温度でゲルに変形し、塩化セシウム塩とともにマイクロ波放射に強く応答し、局所的に温度を上昇させて、図1A図1B、および図1CのアブレーションゾーンAZのすぐ外側にある腫瘍細胞をより効果的にアブレーションする。さらに、この熱基質はそれ自体が優れた造影剤であり、CTイメージング下で視覚化できることがわかった。これらの特性から、固形腫瘍の治療に特に有効であり、医師は、熱基質の量、位置、濃度を制御して、標的とされた腫瘍の位置に送達し、固定し、完全なアブレーションを保証することができる。さらに、より大きな腫瘍または不規則な形状の腫瘍の場合、幾つかのマイクロ波アンテナを画像ガイダンス下に位置決めして、補正/強化された熱分布で腫瘍を完全に覆うことができる。
【0039】
異なる塩濃度でコンパウンド化されたCsCl熱基質によって達成可能な加熱の程度を評価するために、様々な調査が行われた。図2Aは、熱基質が遠くのマイクロ波エネルギーを拾って加熱を増強することと、100mg/mlの高いCsCl濃度によりアンテナの近く(1mm)で測定された加熱が大幅に増加することと、高い均一性を伴う加熱がアンテナから15mm離れて測定された他の濃度で強化されることとを具体的に示している(図2B)。これらの図は、マイクロ波エネルギー(15W、915MHz、t=400秒)による温度上昇に対する熱基質(100mg/mL、CsCl/20%(w/v)ポリマー)の効果(図2A:アンテナから1mm離れて温度上昇が監視される)と、マイクロ波エネルギー(60W、915MHz、t=600秒)による温度上昇に対する熱基質(0、100、250mg/mL、CsCl/20%(w/v)ポリマー)の効果(熱基質がMWアンテナから15mm離れて付着される)とを具体的に示している。熱基質が存在すると熱の増強が著しくなる。さらに、塩/ポリマー熱基質は、図2Cに示されるように、CTを通して視認できる優れた造影剤である。この図では、一定量の異なる濃度の塩調製物と蒸留水とがCT下でイメージングされており、それらのハウンスフィールド吸光度は次のように記されている:1.蒸留水-15Hu、2.HS(10mg/mL)286Hu、3.HS(100mg/mL)2056Hu、4.HS(1000mg/mL)3070Hu。図2Cの下部は、コンピュータ支援による強化が施された同じサンプルを示している。最も低い濃度の10mg/mL HSでも、CTでは水と比較して識別可能なコントラストが得られる。イメージングは、GE Optima 580 W CTスキャナーを使用して、CTプロトコール:120kV、50mA、0.8秒回転、0.562:1ピッチ、および16×0.625mm検出器構成で行った。放射線出力(CTDIvol)は12.08mGyであり、線量長積は193.88mGy-cmであった。
【0040】
図2Dは、CsCl塩をポリマーとコンパウンド化した場合の、温度上昇に伴う相変化特性を示している。
【0041】
エクスビボ(ex vivo)の肝臓に付着されマイクロ波照射されたときの基質の変化の写真とともに、異なる濃度についての温度-時間プロットを作成し、これらにより、熱基質がアンテナから15mm離れた肝臓組織を加熱できることと、基質が周囲温度で液体として付着され得、体内に入るとゲルに変化し、腫瘍境界を正確に標的として完全なアブレーションを保証できることとが確認された。その研究では、子ウシの肝臓全体をMWエネルギー(60W、915MHz)で加熱し、20%(w/v)ポリマー溶液に350μLの少容量の100mg HSを、MWアンテナの先端から1.5cm離れた地点に注入した。10分後、その領域を切り開いて、ポリマー溶液が沈殿物に変形する様子を観察した。温度上昇はHS濃度に比例することが見られた。250mg/mLでは、温度は3分以内に60℃に達した。100mg/mLでは、約5分かかったが、HSを適用しなかった場合の温度上昇はわずかであった。
【0042】
したがって、実施例1の調査は、熱基質の価値を実証した。臨床処置および新しい治療方法における熱基質の使用をより良好に裏付けるために、特定の腫瘍組織または特定の距離における組成物の加熱特性をモデリングまたは評価したりするだけでなく、代表的な製剤の画像形成性も評価したりするために、更なる調査が設計および/または実施された(前掲の図2Cの考察を参照)。具体的には、マイクロ波エネルギーの適用が、周囲の組織を加熱し、アブレーションするための調整された加熱プロファイルを生成するように、熱基質をマイクロ波アンテナに対して適切に位置決めすることができる。例えば、単一のマイクロ波アンテナのみを使用して完全にまたは均一にアブレーションするには遠すぎる周辺組織の加熱を強化するために、促進剤をアンテナからいくらか離して位置決めすることができる。熱促進剤はまた、意図されたアブレーションゾーン内またはそれに隣接する大血管の存在のためにともすれば起こる熱損失(「ヒートシンク」としても知られている、図1Cを参照のこと)を防ぐために位置決めされ、血管自体をアブレーションせずに効果的なレベルの加熱を近傍界に閉じ込めることができる。複数のアンテナの使用と、より大きな、もしくはより均一で拡張されたアブレーションゾーンを画定するために、または臓器の他の部分に電力が適用される時間を制限しながらアブレーションゾーンを画定するために戦略的に配置された1つ以上の局所的な熱促進剤本体とのモデリングが実行された。したがって、熱促進剤は、効果的なマイクロ波エネルギーを増強する上で、協力的かつ相乗的な役割を果たす。しかしながら、これらの介入の各々が適切であるためには、増加した加熱の実際のレベルが、周囲の組織によって及ぼされる対向的な伝導および吸収の効果に打ち勝つのに十分であることが必要である。
【0043】
ブタの肝臓におけるマイクロ波条件(すなわち、出力、周波数、アブレーション期間および距離)の関数としての実際の熱促進剤応答を確立するために、パイロット研究が設計された。理想的には、熱促進剤は、アンテナを介して送信されるマイクロ波エネルギーを増強し、熱促進剤は、注入されると、体内の標的領域でゲルに変化することが期待された。マイクロ波エネルギーが適用されると、熱促進剤は、単一のマイクロ波アンテナだけではアブレーションするには遠すぎる周囲の組織を加熱する。
【0044】
この状況は、図3Aおよび図3Bに概略的に示されており、不規則な腫瘍(図3A)の右上の遠位領域または表面に位置し、マイクロ波アンテナを中心とした理論上の円形または対称的な有効アブレーションゾーンの外側にある基質の小さな塊が、明確に画定されたアブレーションゾーン(図3Bに見られるような太い帯)を生じ、完全アブレーションの領域を腫瘍境界まで、または腫瘍境界を越えて拡張している。この研究はさらに、血管自体をアブレーションすることなく、熱促進剤が、アブレーションゾーンに隣接する血管によって引き起こされる熱損失(「ヒートシンク」とも呼ばれる)を回避するのに役立ち得るという所見を試験するように設計された。この状況は、図4に示されており、これは、血管への損傷を回避しながら腫瘍アブレーションを強化するために熱促進剤を配置する場所を特定している。図5は、均一な強度のより広くてより高いアブレーションゾーンを作り出すための、熱促進剤と複数のマイクロ波アンテナとの配置を示しており、複数のアンテナと熱促進剤とを戦略的に配置すれば、アブレーションゾーンを拡張できることを示している。これは、熱促進剤(TA)がマイクロ波エネルギーによる加熱を増強する上で、協力的かつ相乗的な役割を果たすことを実証している。
【0045】
図3Aおよび図3Bは、マイクロ波アブレーションを概略的に示しており、熱促進剤が仮想腫瘍標的領域に注入される。典型的なアブレーションゾーンは、単一のアンテナをマイクロ波アブレーション条件(915MHz、60W、10分間)で使用した場合、直径約2.5cmである。熱促進剤は、その粘性組成により、体温でゲルに変化するので、付着すると標的部位で比較的静止したままである。熱促進剤ゲルの軌跡は、公称アブレーションゾーンのすぐ外側に示され、肝臓内の仮想腫瘍の外側境界を通って走っている。図3Bは、マイクロ波エネルギーの増強によって拡張された凝固性アブレーションゾーンを示している。
【0046】
図4は、熱損失が最小限に抑えられるかどうかを見るために、主要な血管(直径4mm超)とアブレーションゾーンとの間に熱促進剤を付着させた実験セットアップを示している。マイクロ波エネルギーはアンテナと熱促進剤との間で増強されるので、より短いアンテナ作動で腫瘍の完全なアブレーションを達成することができ、血管自体はアブレーションされないように保護される。
【0047】
図5は、アブレーションゾーンを最大化するために戦略的に配置された複数のアンテナと熱促進剤本体とを示している。2つのアンテナが2cm離れて(d=2cm)配置され、2つの熱促進剤が各アンテナから2cm離れて菱形(横断面図で)を形成するように配置される場合、マイクロ波エネルギー(例示的に合計120W、各アンテナ60W)を10分間適用すると、対照(d=2cm、MW単独)およびd=1.5cmの既知のケース(すなわち、915MHz、各60W、10分、Dmax=3.5cm、Dmin=3.3cm)よりも大きなアブレーションゾーンが得られる。これは、マイクロ波エネルギーの増強におけるTAの協力的かつ相乗的な役割を示している。
【0048】
熱促進剤とその基礎となる技術的考察とについての簡単な議論は、材料の範囲ならびにマイクロ波アブレーション技術の開示および改良の効果を理解するのに有用であり得る。
【0049】
新規のMWA方法論は、腫瘍の完全なアブレーションを達成することを意図している。この方法論は、一実施形態では塩化セシウム(CsCl)と逆相転移ポリマーとで構成される熱促進剤を利用し、以下の根拠を有する:MWエネルギーによる組織アブレーションは、主に水分子を動的に励起させて熱を発生させることによって動作する。水分子は、酸素原子上の2つの非結合電子により構造的に曲がっており(104.5°)、したがって比較的高い双極子モーメント(1.85D、D=デバイ)を有する。MW周波数領域(300MHz~30GHz)では、水分子は交流電界に同期して水分子同士の衝突を起こし、このエネルギーが熱に変換される。アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンのほとんどは高い双極子モーメント(D>7~8、例えば、KBr10.4D、BaO7.9D)を有する傾向があり、これらの化合物が水分子よりも効率よく熱を発生できることを示唆している。これらのイオン性化合物の中で、塩化セシウム(CsCl)が特に興味深いのは、その高い双極子モーメント(10.4D)だけでなく、MWアブレーションに提供される固有の物理化学的・毒物学的特性を有しているからである:第1に、CsClは水に非常に溶けやすい(20℃で1,865kg/L、100℃で2.7kg/L)。これは、必要に応じて高濃度のCsCl熱促進剤溶液を作製できることを意味している。第2に、原子番号および密度が高いため(Z=55、d=3.99g/mL)、CsイオンはCTにおいて優れたコントラストを提供することができる。CsClは画像ガイダンスの基質として使用され得るため、これは我々の目的に特に有用である。第3に、CsClは無毒である(LD50=2,600mg/kg、経口、910mg/kg、静脈注射、ラット)。ポリマー成分は、周囲温度では液体であるが、典型的な体温(35~37℃)ではゲルになるという固有の特性を持つ。さらに、温度がさらに増加すると、ポリマーは、ポリマー格子構造から水分子を追い出して沈殿する。このポリマーは安全であると考えられており、FDA承認のポリ(乳酸-コ-グリコール)酸(PLGA)によって両末端がエステル化されたポリエチレングリコール(PEG)からなる。このポリマーは生分解性で生体適合性がある。CsClはイオン性化合物であり、したがって、ポリマー水溶液と混和してCsClの均一な分布を与え、標的アブレーション空間内で均一な加熱を可能にする。マイクロ波エネルギーの送達に応答して、CsClは、その固有の双極子モーメントによって供給される交流電界に同期して転がり、熱を発生する。
【0050】
画像ガイダンスにCTを使用することで、既知のCsCl濃度を有する所望の量の熱促進剤を腫瘍塊の境界に付着させることができる。その後、注入された熱基質は所定のアブレーション形状および体積のゲルに変化する。熱基質ゲルは、MWアンテナ(MicrothermX(登録商標)Perseon Medical社、ユタ州ソルトレイクシティ)を介して伝達されるMWエネルギーによって加熱され、標的領域の腫瘍殺傷温度(60℃超)に達する。
【0051】
実施例2
予備的研究:マイクロ波エネルギーの増強
概念実証として、マイクロ波エネルギーの増強における熱基質の効率を試験した。ファントム(1%(w/v)アガロース培地)を使用して、対照および熱基質(2つの濃度:それぞれ100mg/mLおよび250mg/mL)による温度上昇を経時的に測定した。MW条件(60W、915MHz、10分)下では、達成した最大アブレーションゾーンは、典型的には直径2.5cm(すなわち、アンテナから1.25cmの距離に拡張するゾーン)であった。この距離と条件とは、熱基質の増強効率を評価するためのベースラインプラットフォームとして使用された。図6Bに示されるように、熱基質はアンテナから1.5cmの位置に置かれ、MWアンテナ(MicrothermX(登録商標)Perseon Medical社、ユタ州ソルトレイクシティ)を介して伝達されるMWエネルギーによって加熱され、殺腫瘍性温度(60℃超)に達した。温度プロットを図6Aに示している。熱促進剤は濃度依存的にMWエネルギーを増強させ、熱促進剤なしのサンプルと比較して5分以内に60℃超に達することがわかった(それぞれ250mg/mLで1分、100mg/mLで3分)。図6Aは、インビトロ実験の典型的なセットアップを示している。
【0052】
実施例3
CT造影剤としての熱促進剤の予備的研究を行った。各種濃度の熱促進剤(TA)溶液を調製し、それらのCTコントラストを測定した。図2Cは、10mg/mLという低い濃度のTA溶液が、水と比較して識別可能なコントラストを生じたことを示している。CTコントラストの程度は、熱促進剤(TA)の濃度に比例することがわかったため、TA溶液はCTで視認できる。図2Cの上部には、以下の4つのサンプル1)~4)が示されている:1.蒸留水-15Hu、2.TA(10mg/mL)286Hu、3.TA(100mg/mL)2056Hu、4.TA(1000mg/mL)3070Hu。図2Cの下部は、コンピュータ支援による強化が施された同じサンプルを示している。最も低い濃度の10mg/mL TAでも、CTでは水と比較して識別可能なコントラストが得られる。GE Optima 580 W CTスキャナー。CTプロトコール:120kV、50mA、0.8秒回転、0.562:1ピッチ、および16×0.625mm検出器構成を使用した。放射線出力(CTDIvol)は12.08mGyであり、線量長積は193.88mGy-cm。
【0053】
実施例4
逆相転移ポリマー
熱促進剤とともに使用されるポリマーは、望ましくは、周囲温度では液体であるが、典型的な体温(35~37℃)ではゲルになるという特性を有し、これは、幾つかの実施形態では、ゲルが付着すると標的部位で静止したままであることを可能にし得る。温度がさらに増加すると、前掲の図2Dに示されるように、ポリマーは、ポリマー格子構造から水分子を追い出して沈殿する。この例のポリマーは、技術的にはポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)とポリエチレングリコール(PEG)とでできたブロックコポリマーである。PLGAは、PEGと同様にその生体適合性でFDAの承認を受けたポリマーである。ここで熱基質成分として使用されているポリマーは、構造的に以下のように配置されている:PLGA-PEG-PLGA。周囲温度(25℃)では、ポリマーは、PLGAが分子内PLGAと相互作用してヘアピンを形成するようにコンフォメーションされる。このコンフォメーションは、温度が上昇するにつれて変化し、その結果、分子間PLGA-PLGA相互作用が優勢になる(37℃)。さらに加熱すると(60℃超)、このコンフォメーションは、水分子が高温でポリマー層から追い出されることを除いて、ヘアピンのコンフォメーションに戻って変化する。
【0054】
実施例5
子ウシの肝臓全体における熱基質によるMW加熱のエクスビボ(ex vivo)実験増強
子ウシの肝臓全体を、MWエネルギー60W、915MHzで加熱した:20%(w/v)のポリマー溶液中の少量(350μL)の100mg CsClを、MWアンテナの先端から1.5cm離れた地点に注入した。10分後、その領域を切り開いて、ポリマー溶液が沈殿物に変形する様子を観察した。温度をプロットしたところ、温度上昇はTA濃度に比例することが示された。250mg/mLでは、温度は3分以内に60℃に達した。100mg/mLでは約5分かかったが、TAなしでは温度上昇はわずかであった。
【0055】
前述の観察および測定は、基礎となる概念の実質的な確認を提供し、灌流効果または血管内の血流の補正など、生きた対象組織の状態による任意の影響の大きさを特定し、かつアブレーション結果のばらつきを確立することができるインビボ動物調査を追求する更なる動機付けを提供した。このような研究(「パイロット研究」)では、具体的な目的として、以下のうちの1つ以上が挙げられる:目的1)ブタに開腹術を施し、肝臓を露出させる。画像ガイダンスとして超音波を使用し、マイクロ波(MW)アンテナを挿入し、予め設定されたパラメータのマイクロ波エネルギーを適用する。同様に、熱促進剤(TA、250CsClmg/mLの20%(w/v)ポリマー溶液)を、画像ガイダンスとして超音波を使用して仮想の標的領域である肝臓実質に注入し、静止ゲルとして付着させる。MWアンテナは熱促進剤から約1.5cm離して挿入する。同じパラメータのマイクロ波エネルギーがアンテナに適用される(すなわち、915MHz、45または60Wで5~10分間)。全ての動物は処置後直ちに安楽死させ、アブレーションパターンのCTおよび分析ならびにアブレーション体積の測定を含む更なる比較のために、肝臓を採取する;目的2)目的1)で説明したように、動物に麻酔をかけ、開腹して肝臓を露出させる。超音波ガイダンスにより、アンテナを大血管から1.5cmの位置に置き、1匹目のブタ(対照)に予め設定された条件(915MHz、45または60Wで5~10分間)でアブレーションする。2匹目のブタの肝臓では、熱促進剤を血管の近くに注入した後、アンテナを大血管から1.5cmの位置に置き、マイクロ波エネルギーを適用する。各ブタは3回のアブレーションを受ける:1)45Wで10分間、2)60Wで5分間、3)60Wで10分間。処置完了後すぐにブタを安楽死させて、CTならびにアブレーションパターンの分析ならびに深さ、高さ、および幅によるアブレーション体積の測定のために肝臓を採取する;目的3)麻酔下でブタの開腹術を行った後にブタの肝臓を露出させる。超音波を画像ガイダンスとして使用し、2本のアンテナを2cm離して肝臓に挿入し、対照用にマイクロ波エネルギー(60W)を10分間適用する。同じ肝臓に、2本のアンテナを2cm離して挿入し、続いて熱促進剤(TA)を2回注入し、各アンテナから2cm離して注入を行い、図3に示されるような菱形を形成する。マイクロ波アブレーションは、対照と同じ条件(すなわち、60W、10分間)で行う。処置が完了した後、ブタを安楽死させて、CTならびにアブレーションパターンの分析ならびに深さ、高さ、および幅によるアブレーション体積の測定のために肝臓を採取する。図7は、提案された調査プロトコールを示すチャートである。
【0056】
簡単に言うと、目的1は、単一のアンテナを使用した経皮的マイクロ波アブレーションにおける熱促進剤(TA)の熱増強効率を調べることを意図しており、一方で、目的2は、ヒートシンク効果を克服するための有効性を評価することを意図しており、目的3は、追加のアンテナを使用することによって以前に対処できた可能性がある状況に使用されるTAを調査することを意図している。
【0057】
上述のように、熱促進剤は不完全なアブレーションの問題を軽減するために考案されたものであり、単一のアンテナだけでは到達できない距離からマイクロ波エネルギーを増強することができる新規の熱促進剤(TA)を想定している。これは、腫瘍塊の外側境界をカバーするアブレーションゾーンを拡張するだけでなく、より迅速にアブレーションするのにも役立つ。臨床的に示されるように、より効果的かつより速いマイクロ波アブレーションは、より完全な処置を助け、その結果、腫瘍の再発率を低下させる。さらに、TAはヒートシンクの近くに戦略的に注入され得るので、熱損失を防ぐことができる。
【0058】
TAは、腫瘍を治療するための画像誘導熱的アブレーションに最適に利用するために、好ましくは以下の特性を有する:1)電磁放射エネルギー(例えば、高周波、マイクロ波)を増強することができ、特に、単一のアンテナでは到達できない距離から増強することができる;2)各種イメージングモダリティ(例えば、コンピュータ断層撮影法(CT)、超音波またはMRI)下で視認できる;3)注入可能であり、例えば、その粘性組成により、注入されると静止する;および4)無毒である。
【0059】
上述のように、アルカリ希土類塩(CsCl)を有する合成ポリマーが有用であることがわかっているが、しかしながら、アルブミン、DNA、RNA、または糖タンパク質および/または糖ポリマー、例えばIgA、IgG、IgM、および他の免疫グロブリンなどの他のポリマー材料も同様の利点を提供し、アルブミンまたは類似の調製物の粘度特性および他の特性は、濃度、塩含有量、および他のステップによってさらに調整することができる。一般に、TAの成分には、以下の3つの無毒性成分が含まれ得る:1)担体としてのポリマー(天然または人工);2)全体的な電荷と粘度とのバランスをとるためのイオン性成分;3)イメージング成分。3つの成分の最適な組成により、TAは、画像ガイダンス(例えば、US、CTまたはMRI)下で腫瘍の標的領域に付着させることができ、適用されるエネルギー(例えば、マイクロ波、高周波またはエレクトロポレーション)を増強して、完全なアブレーションをより良好に達成することができる。例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、NaClおよびタンタル粉末で構成されるTAは、前述の基準を満たして、より効果的なアブレーションを提供し、腫瘍の未処置の外側境界の除去およびヒートシンク効果をもたらす。塩はアルブミン内の電荷分布を調整し、一方で、タンタルはイメージング特性を強化する。磁気共鳴イメージングでは、この調製物は、多くの組織よりも短い信号減衰速度時定数(T)を示す。例として、3テスラでの肝臓のTは約800msである。アルブミン/NaCl調製物のTは、NaClの濃度に応じて250ms~330msの範囲になる。画像ガイダンスのためのT強調MRIスキャンでは、TAは周囲の組織よりも実質的に明るく表示され(ポジティブコントラスト)、材料の明確な位置決めが可能になる。Tコントラスト機構も使用することができ、主にネガティブコントラストによりTAのTが周囲の組織よりも短くなり、T強調スキャンがガイダンスに使用される。
【0060】
アルブミンはヒトの血液中に最も多く含まれているタンパク質で、濃度は約40mg/mL、分子量は67kDaで、肝臓で産生され、1日に約13~14gが循環系に入る。アルブミンは球状タンパク質ファミリーに属し、水溶性で、濃塩溶液に適度に溶け、熱変性を起こす。アルブミンは一般的に血漿中に見出され、グリコシル化されていないという点で他の血液タンパク質とは異なる。血清アルブミン、α-フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質およびアファミンを含む、多くの血液輸送タンパク質が進化的に関連している。血清アルブミンはヒトの血漿中に最も多く含まれている。それは、水、カチオン(例えば、Ca2+、NaおよびK)、脂肪酸、ホルモン、ビリルビン、チロキシン、医薬品(バルビツール酸塩およびタキソールを含む)を結合する。その主な機能は、血液のコロイド浸透圧を調節することである。アルブミンの等電点は4.9である(ヒト血清アルブミンの等電点、Ip=4.7)。
【0061】
アルブミンは類似した構造を持つ3つのドメインで構成されており、それらは全て同じドメインに由来する。各ドメインは10個のα-ヘリックスで構成されており、さらにそれぞれ6個および4個のヘリックスを含有するAおよびBと表記される2つのサブドメインに分けることができる。2つのサブドメインは長いアミノ酸ループで接続されており、これがサブドメインの向きを変える原因となっている。その7つの脂肪酸結合部位は、タンパク質全体に非対称に分布している。結合に重要な更なる部位には、システイン-34アミノ酸残基に位置する遊離チオールと、様々な非特異的疎水性薬物と結合するSudlowの部位IおよびIIとが含まれる。
【0062】
他方、ドメイン間のコンフォメーションの柔軟性は、ヘリックスの屈曲に依存している。そのカノニカル構造は、全ての哺乳類血清アルブミンで維持されている、保存された17個のジスルフィド橋によって支えられている。3つのドメインのうち、最初のドメインだけが6つではなく5つのジスルフィド橋を含有し、Cys-34に1つ欠けている。代わりに、Cys-34を形成する分子内ジスルフィド橋の欠如により、アルブミンはこの残基で別のアルブミン分子と二量体化することができる。HSA、BSA、LSA、およびESAは5億年の間に残基の70~85%を交換しているが、システインおよびジスルフィド橋の位置は変わっていない。さらに、ドメインは進化的に大きな変化を遂げたが、全体的な構造および二次構造要素は変化しないままである。
【0063】
アルブミンは、血管内皮または肺胞上皮に発現する内皮表面レセプターであるGP-60との結合によって開始されるトランスサイトーシスを介して血管から組織に入る。GP-60とアルブミンとのクラスターは、Cav-1との会合によって小胞として内在化される。トランスサイトーシスは、内皮細胞膜の反対側にある基底膜に輸送され融合することによって完了する。アルブミン分子が古くなったり、損傷したり、構造的に欠陥があったりすると、GP-18およびGP-30レセプターがリソソーム分解に使用される。最終的に、アルブミン分子は肝臓に到達して分解プロセスを完了するが、健康なアルブミンは自然のリサイクルプロセスを通じてリンパ系を介して血管に戻る。
【0064】
幾つかの実施形態では、アルブミンは静脈内注射を介して全身に分布させることができる。アルブミンが体内に入った後、アルブミンは、アルブミンの受動的蓄積または能動的内在化および輸送のいずれかによって、標的部位、例えば腫瘍に移動する。受動的蓄積は、腫瘍血管系の漏出と、リンパ管ドレナージの形成不全との組み合わせを利用したもので、血管透過性・滞留性亢進効果(EPR)として知られている現象である。腫瘍細胞によるアルブミンの内在化および輸送は、癌細胞がミクロピノサイトーシスを介して細胞外タンパク質を積極的に取り込むことによって、代謝および成長の増加需要を支えるメカニズムによって観察される。例えば、癌原性Rasを発現する癌細胞は、その異常な活性化が悪性癌の表現型の実質的にほぼ全ての側面と関連付けられている細胞膜内タンパク質であり、細胞成長を促進するアミノ酸源として細胞外タンパク質をより高度に利用する。
【0065】
上記の実施例で示されているように、TAによるマイクロ波アブレーションは、ブタの肝臓、肺、腎臓、および筋肉において、対照のアブレーション体積よりも有意に大きなアブレーション体積を生成することができる。幾つかの実施形態では、TAは、アブレーション体積を制御するために、アブレーション中に特定の温度で「スイッチオフ」するように制御され得る。熱促進剤(TA)の主成分として、水溶性タンパク質(例えば、アルブミン)を周囲温度および生理学的温度範囲で使用することができる。TAのエネルギーを増強させる能力がなくなる温度まで上昇すると、タンパク質のコンフォメーションが変化するため、タンパク質成分を凝固させることができる。凝固温度はpH依存性であり、すなわち、pHが低いとアルブミンの凝固(変性)温度は62℃(pH7.4)から46℃(pH3.5)にシフトする。このようにTAを制御する能力により、アブレーション中の重要な組織または臓器の付随的な傷害から保護することができる。このような温度の幾つかの非限定的な例は、最適化された配合において、60℃超、80℃超、100℃超などとすることができるが、TAがスイッチオフする温度は変化させることができることが理解されよう。一方、幾つかの実施形態では、以下の条件(915MHz、60W、アンテナから1.5cmで10分間)下でのマイクロ波アブレーション中にインビトロ条件下で最大170℃の温度を観察することができる。例えば、これらのアブレーション条件、例えば、915MHz、60W、10分間、アンテナから1.5cmのTA(HeatSYNCゲル)の(2mL)注入を使用し、Perseon MWシステム(Perseon Medical社、ユタ州ソルトレイクシティ)を使用すると、以下に再現する表1に示されるように、優れた再現性で、TAなしのアブレーションよりも大きなアブレーション体積が、4つの組織の種類の各々について生成された。
【0066】
温熱療法(またはハイパーサーミア、または熱療法)は、身体組織を40~45℃(104~113°F)の温度に曝露する医療の一種である。ハイパーサーミアは通常、放射線療法または化学療法の補助療法として適用され、増感剤として作用して癌を治療する。ハイパーサーミアは、多くの場合、低、中、および高に分類される。ハイパーサーミアは通常、組織ジアテルミーよりも高い温度と、アブレーションよりも低い温度とを使用するが、「高温」ハイパーサーミアは、多くの場合、熱的アブレーションとみなされる。ハイパーサーミア療法において、全身にとって最も安全または最も効果的な目標温度についてのコンセンサスは得られていない。ほとんどの治療中、体温は39.5~40.5℃(103.1および104.9°F)のレベルに達する。しかしながら、他の研究者は、41.8~42℃(107.2~107.6°F)(ヨーロッパ、米国)から43~44℃(109~111°F)付近(日本、ロシア)の間でハイパーサーミアを定義している。熱を送達することができる技術は数多くある。最も一般的なものの幾つかには、集束超音波(FUSまたはHIFU)、RF源、赤外線サウナ、マイクロ波加熱、誘導加熱、磁気ハイパーサーミアの使用、加温した液体の注入、または高温の部屋に座ったり、高温の毛布で患者をくるんだりするなどの熱の直接適用が含まれる。
【0067】
限局性腫瘍の熱的アブレーションは、腫瘍の中心に配置されたアプリケーターを取り囲む高温の組織加熱(50℃超)を使用する。細胞の恒常性維持機構はわずかな温度上昇(最大40℃)に対応できる。42℃~45℃の高体温では、他のメカニズム(例えば、放射線または化学療法)による損傷に対する感受性の増加が見られるが、細胞機能および腫瘍成長は、長時間曝露された後でも継続する。細胞を46℃に60分間加熱すると不可逆的な細胞傷害が起こる。しかしながら、アブレーションに最適な温度は50℃を超え、用途によっては100℃に制限されることもある。
【0068】
【表1】
【0069】
臓器の複数のサンプル(A~D)に対してアブレーションを行い、各々の複数のサンプルをTAに曝露し、複数のサンプルは対照の役割を果たした。表1に示されるように、ある組織に対するTAを伴うアブレーション体積は、場合によっては、TAを使用しなかった対照の体積のほぼ3倍であった。
【0070】
図8のAおよび図8のBは、HSA(A)およびBSA(B)の表面電位を示し、異なる色は正および負に帯電した領域を表している。Vincent Goovaerts et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 2013, 15, 18378-18387。成熟BSAは583個のアミノ酸を含み、99個の陽性(K,H,R)残基および陰性(D、E)残基を有する。同様に、成熟HSAは585個のアミノ酸を含有し、99個の陽性(K,H,R)残基および98個の陰性(D,E)残基を有する。タンパク質の一般的な構造は哺乳類の血清アルブミン間で保存されているが、大きな違いがある。配列上、BSAはHSAと75.8%の相同性しか共有しない。それらの構造は(保存されたジスルフィド橋により)カノニカルであるが、表面アミノ酸が異なる。その結果、各種血清アルブミンにおけるリガンド結合ポケットは、異なるアミノ酸組成と、わずかに異なるコンフォメーションとを示し、異なるリガンドの結合を可能にしている。
【0071】
TAのタンタル成分はX線不透過性の高い材料であり、蛍光透視による視覚化を提供する。タンタルは不活性金属で、動脈ステント、人工股関節、塞栓材など、造影剤の組み込みが必要なインプラントに使用されてきた歴史がある。[9,10]塞栓材へのその使用に加えて、タンタル粉末は、経皮的コルドトミー中に視覚化するために頸髄に注入される造影剤として使用されている。さらに、タンタル粉末は、脳神経外科において、ロボトミーまたはロイコトミーにおける切開面のマーキング、腫瘍除去部位の視覚化または定義を提供するためと、手術後の再発性硬膜下血腫の検出とに使用されている。
【0072】
血清アルブミンの特性は、生理学的条件下で広く研究されているが、高濃度アルブミン(すなわち、300mg/mL)、特に、イメージング造影剤または熱促進剤の担体としての研究はまれである。それにもかかわらず、真空中での血清アルブミンの双極子モーメントの計算値は710D(D=デバイ)と、上記で最初に説明したTA物質であるCsCl(約10D)または水(1.85D)と比較して非常に大きい。その大きな双極子モーメントにもかかわらず、生理学的に利用可能なウシ血清アルブミン(BSA)だけでは、誘電率が低く、関心のある周波数範囲、すなわち915MHz~2.45GHzにおける損失係数が低いため、温度を急激に上昇させることはない。[12]500mg/mLのBSAでは、アンテナをBSAサンプルから1.5cm離れた位置に置いた場合、915MHzで60Wを10分間、インビトロで40~50℃への漸増が観察された。この温度上昇は、BSAだけをTAとするには不十分であった。幾つかの実施形態では、担体の計算された双極子モーメントは最大1,000D(この値を含む)であり得ることが理解されよう。
【0073】
さらに、高濃度(300mg/mL超)のアルブミンは、BSAの粘度を濃度の関数としての概略的に示す図9に示されるように、大部分がタンパク質-タンパク質相互作用により、非常に高い粘度を有する傾向がある。例えば、幾つかの実施形態では、TAの粘度は、製剤化に依存し得るが、幾つかの実施形態では、約50センチポアズ~約25,000センチポアズの範囲であり得る。化合物の粘度の相対的な例を以下の表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
潜在的な熱促進剤としての高い双極子モーメントを有する材料または製剤は、熱的アブレーション(高周波、マイクロ波、不可逆的エレクトロポレーション)に対するε’’およびσ値によって表すことができる。当業者であれば、材料、または材料の製剤の熱促進剤としての能力を定量的に示すために、双極子モーメントの評価の代わりに、または双極子モーメントの評価に加えて、誘電率の概念を採用できることを認識するであろう。例えば、正弦波周波数の電磁波ωを使用して材料を試験することができ、この電磁波は、低出力発振器のオープンエンド同軸ケーブルによって対象サンプルに向けられる。反射された波の一部の大きさおよび位相を測定することで、組織の複素誘電率を推定することができる。表3は、915および2450MHzで熱促進剤に使用される各種材料の誘電率(ε’)、損失係数(ε’’)、および電気伝導率(σ)を示している。
【0076】
【表3】
【0077】
複素誘電率は、ε*=ε’-jε’’と定義され、式中、ε’は実誘電率、ε’’は虚数誘電率である。どちらの量も、自由空間の誘電率、ε=8.854×10-12ファラド/メートルの倍数として表される無次元数である。実誘電率は誘電率としても知られている。虚数誘電率は損失係数とも呼ばれ、材料の電気伝導率σを組み込むべくε’’=σ/(ωε)と書くことができる。量σは、次の式、ARD=σ|E|に従って、単位体積あたりに蓄積される電力を直接スケーリングし、式中、ARDは吸収率密度(ワットm-3)であり、σは電気伝導率(Ω-1-1)であり、|E|は組織内の関心のある点でマイクロ波アンテナによって生成される電界の大きさ(ボルトm-1)である。
【0078】
上記の表3に示されるように、1つのサンプル(TA-4)の915MHzでの電気伝導率(σ)は4.74mho/mに等しく、実誘電率(ε’、40.147)および虚数誘電率(ε’’、-93.164)であった。アルブミンは(約66kDa)約200個のイオン性残基(100個の陽性、100個の陰性)を有する。これらの残基は、全体の極性(双極子モーメント)が約700D(デバイ)になるように3次元的に配置されている。しかしながら、主要なパラメータ(σ,ε’,ε’’)は、溶液内のタンパク質間相互作用力により、MeOHのパラメータと類似している。これらの力を分断するために、上記で論じたように、NaClまたはクエン酸ナトリウムなどのカオトロープを使用することができる。例えば、クエン酸ナトリウムをヒト血清アルブミンのカオトロープとして使用することができるが、幾つかの実施形態では、追加のカオトロープを使用できることが理解されよう。カオトロープは、分子のタンパク質間相互作用を分断し、分子がより自由に動いてより多くの熱を発生できるようにするために使用することができる。幾つかのカオトロープは、TAのイオン性成分の一部であるようにイオン性であり得るが、幾つかの実施形態では、カオトロープは、カオトロープが水溶液中で混和性であるように、非イオン性またはわずかにイオン性であり得ることが理解されよう。
【0079】
カオトロープの効果は、表3に示されるように、σ、およびε’’値を増加させることができ、この値は、生体組織に典型的な標準的な生理食塩水の値の約4.2倍になり得る。この大規模な因子は、腫瘍にTAを注入しない場合に存在するであろう値よりも、加熱速度が増加することを直接的に表している。すなわち、電気伝導率σおよび損失係数ε’’、つまり、損失係数ε’’はイオン濃度とともに増加し、それによって電波の周波数の交流電流に対する組織の伝導率が増加するということは、マイクロ波と高周波とのアブレーションの両方を説明するために使用することができる。カオトロープの非限定的な例としては、L-グリシン、L-アラニン、L-バリン、L-プロリン、L-セリン、L-ヒスチジン、L-アルギニン-HCl、L-ヒスチジン-HCl、L-リジン-HCl、L-グルタミン酸ナトリウム、尿素、およびNaAcを挙げることができる。
【0080】
上記の表3の値は、各種材料の誘電特性に及ぼすカオトロープの効果を示している。例えば、アルブミンとTA-4との実誘電率はそれぞれ30.7と41.15という同程度の値を有しているが、損失係数のそれぞれの値は-10.2から-93.16に跳ね上がり、これは9倍超の増加である。さらに例を挙げると、TA-4はメタノールと比較した場合、損失係数の増加がさらに大きく、損失係数の値は-8.81で、これはアルブミンと同程度である。したがって、メタノールおよびアルブミンだけでは、カオトロープを添加した場合と比較して、熱促進剤としての効果がはるかに低い。アルブミンなどの化合物は高濃度になる傾向があり、アルブミン分子内のイオン成分間に水分がほとんどない。この高濃度の結果、アルブミン分子間の距離が縮まり、分子間の正電荷と負電荷とが相互作用し、その結果、RFまたはマイクロ波の振動下で各アルブミン分子の移動度が制限される。NaClなどのカオトロープを添加すると、アルブミン分子間のタンパク質間相互作用が分散され得、各アルブミン分子が自由に動けるようになり、それによって分子の摩擦と運動エネルギーとが増加し、分子が転がされ、次いで、これが熱エネルギーに変換されて温度がより大きく上昇する。
【0081】
カオトロープの効果は、材料の他の特性によって影響を受ける可能性があることが理解されよう。例えば、上記の表3に記載されるように、1%NaClの場合、カオトロープを添加すると、その高い双極子モーメントにより1%NaClの温度が上昇する可能性があるが、NaCl分子のサイズがより小さいため、アルブミンと比較して温度上昇はより小さくなる。当業者であれば、より大きなアルブミン分子のタンブリング運動は、より小さなNaCl分子と比較して、より大きな運動エネルギーを生成し、これがアルブミン分子の熱のより大きな増加を説明し得ることを理解するであろう。
【0082】
マイクロ波照射の適用下では、アルブミン分子の表面電荷は、容易に入手可能な他のアルブミン分子との分子間相互作用によって占有される。この相互作用を緩和するために、カオトロープとしてNaClを使用した。本来、BSA分子の分子間相互作用は、電荷-電荷、双極子-双極子だけでなく疎水性相互作用からもなり、したがって高い粘度を示すと考えられている。溶液にNaClを添加することによって、塩イオンが他のBSA電荷と競合し、その後の水分子による溶媒和によって粘度が下がる。これにより、個々のBSA分子はマイクロ波エネルギーに応答することができるようになる。我々は、アルブミン(500mg/mL)の熱促進効率に及ぼす[NaCl]の影響を調べ、その結果を図10Aに示している。最適なTA効率を誘導するNaCl濃度は、50mg/mLよりわずかに高いが、75mg/mL未満である。より高い濃度は効率を抑制し(NaCl 75mg/mL超)、230mg/mLを超える溶解度限界を有している。図10Aは、マイクロ波アブレーション(MWA、60W、915MHz、10分、アンテナからの距離=1.5cm)に及ぼす各種NaCl濃度の効果を示している。図10Bは、同じマイクロ波レジメン下での120秒の終点での温度対[NaCl]濃度の概略的なプロットであり、約50mg/mLのNaClで温度ピークを示している。
【0083】
上述のようなアルブミン熱促進剤が、ブタにおける多くのインビボマイクロ波アブレーション実験で使用され、死細胞と生存細胞とを区別するために、アブレーションされた部位が塩化トリフェニルテトラゾリウムで染色された。これらの更なる実験からの画像は、TAなしの典型的なマイクロ波アブレーション(915MHz、60W、10分、d=1.5cm)を対照として使用した場合よりも、TAを用いたMWAの方が、より大きなアブレーションゾーンを生成することを実証した。同じMWA条件下で、TA(1mLのアルブミン(500mg)、NaCl(50mg))は、大血管(直径1cm)の影響を受けずに、より大きなアブレーションゾーンを生成した。ブタ肝臓の左中葉にMWAを行った(915MHz、60W、10分、d=1.5cm)。TAを用いた同じMWA条件(1mLのアルブミン(500mg)、NaCl(50mg))下では、肝臓の同じ葉により大きなアブレーションゾーンが生成された。ブタ肝臓の左中葉のMWA(915MHz、60W、10分、d=1.5cm)を、血管後方にTAを注入したMWA(1mLのアルブミン(500mg)1mL、NaCl(50mg))と比較した。その処置では、アブレーションゾーンは血管を完全に取り囲むように血管(直径4mm超)を通って拡張していることが見られた。前の例と併せて、これはTAを用いたMWAがマイクロ波エネルギーを増強できるだけでなく、「ヒートシンク」効果によって引き起こされる熱損失もブロックできることを実証した。追加の実験では、アブレーションが完了した直後(10分間)に、血管がアンテナとTAとの間に位置する状態で超音波画像を撮影した。アブレーション中、血管内の血流は正常であることが見られ、これは、マイクロ波エネルギーが、機能している血管を透過し、血管を過熱することなく遠方界で効果的に作用できたことを示している。これは、「ヒートシンク」効果がアブレーション方法論によって除去できることを示唆している。他のTTC処置腎臓組織画像は、60W、915MHzの単一アンテナを10分間使用した典型的なアブレーションゾーンを示しており、中央腎洞領域の結合組織はあまり影響を受けないため、アブレーションはわずかに中心から外れている。結果として得られるアブレーションゾーンの直径は約1cmである。TAはアブレーションゾーンを劇的に拡張することができ(直径3cm)、中心組織も完全にアブレーションされることが示された(60W、915MHz、10分間;アンテナとTAとの間の距離は1.3cm)。
【0084】
図11は、TAなし、またはCsCl吸収剤の濃度を変えて1mLのTAを含む異なる組織(腎臓、筋肉および肝臓)における1mLの熱促進剤のアブレーション体積をcmで評価するために行った更なる組織アブレーション実験の結果を示している。いずれの場合も、有効アブレーションゾーンはTAを用いた方が大きかった。肝臓はこの方法による治療にとって鍵となる臓器であるため、肝臓組織のアブレーションには異なる濃度のTAを最大250mg/mLの濃度で試験した。他の組織でもアブレーション体積の有意な増加が示された。
【0085】
上述のように、本開示の熱基質または熱促進剤は、各種形態または製剤で実施することができ、天然または人工ポリマーの物理的特性を調整して、注入可能、固定可能、イメージング可能および加熱可能な媒体としてのそれらの有用性を向上させることを伴うことができる。幾つかの強力な初期材料が記載されているが、簡単な試験で追加の材料をすぐに明らかにしたり確認したりすることができる。したがって、塩化セシウムマイクロ波促進剤に加えて、またはその代わりに、臭化物またはヨウ化物などの他のハロゲン化物、および医学的に有用な他のアルカリ金属またはアルカリ土類陽イオンは、同等ではないにしても、同様のアブレーション強化を提供することが期待され得る。例えば、塩化ルビジウム、または適切に保護されたルビジウム部分が有用であり得る。同様に、BSAおよびPLGA-PEG-PLGAポリマーに加えて、アルギン酸塩媒体中の材料、またはカルボン酸塩もしくは亜硫酸塩材料などのアニオンを有する塩は、それらが適切な特性を示す場合、採用され得、熱促進剤の所望の物理的イメージング、加熱および他の特性を最適化するための有用なカチオン、アニオンまたは電解質または他の材料の議論が上記に含まれる。一例として、各種塞栓媒体をこのように修飾することができ、それらの基本的なエマルジョン様組成物は超音波画像形成性も提供する。さらに、アルブミンを塩化ナトリウム塩と製剤化すると、完全に生体適合性でありながら、良好なマイクロ波加熱性能を有する多様な組織治療(血管内を含む)に適切な物理的特性を有する低粘度の熱促進剤が提供されることが示されている。記載された熱促進剤の異なるものは、400MHz、915MHz、2450MHz、または5800MHzの範囲の異なるマイクロ波レジメンに適している可能性があり、それらが医学的に安全で、検討中の組織、腫瘍塊または臓器に対して効果的なマイクロ波アブレーション強化特性をもたらす場合には使用することができる。
【0086】
さらに、記載されたポリマーを標的組織の血管に送達し、加熱して塞栓物質として作用させ、標的腫瘍に栄養を供給する血管を遮断し、それによって血管を介した酸素および栄養素の供給を遮断することによって腫瘍を退縮させることができる。更なる変形は、ポリマーに1つ以上の抗癌剤または治療剤を添加し、局在化し加熱されると、ポリマーはその場で徐放性治療剤として機能するようになる。
【0087】
本明細書に記載される幾つかの実施形態では、アブレーション方法論は、電気または電磁エネルギーの増強、例えば、放射エネルギーの吸収および熱エネルギーへの変換によって熱損傷を生じさせることを含む。アブレーション方法論は、加熱効果を高めるためのサテライトエネルギー吸収体として機能する熱促進剤(TA)を含む。熱促進剤(TA)は、好ましくは、3つの成分、1)担体としてのポリマー(天然または人工)、2)全体的な電荷および粘度バランスのためのイオン成分または同等物、3)アブレーション処置の監視を可能にするイメージング成分とで構成される。しかしながら、実施形態では、担体はまた、ヒト血清アルブミンおよびウシ血清アルブミンなどの担体を含むイメージング成分であってもよい。
【0088】
他のポリマーには、天然または人工のいずれか、例えば、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)およびウシ血清アルブミン(BSA))、シルク、ウール、キトサン、アルギン酸塩、ペクチン、DNA、セルロース、ポリシアル酸、樹枝状ポリリジン、ポリ(乳酸-コ-グリコール)酸(PLGA)が含まれ得る。イオン性成分には、MまたはM2+2-が含まれ得、式中、Mは、Li、Na、K、Rb、Csなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属に属し、Xは、ハロゲン、酢酸塩およびMと等価な他のカウンターバランスを表し、Yは、Xまたは混合ハロゲン、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩およびM2+と等価な他のカウンターバランスを表す。他の有機成分が、独立してこれらの役割に影響を与えることができる。Wang, S. et al, Mol. Pharmaceutics 2015, 12, 4478-4487を参照のこと。CTイメージングのために、セシウム、タンタル、イオジキサノール(ビジパーク)、イオヘキソール(オムニパーク)、イオパミドール(Isovue)、イオプロミド(Ultravist)、イオベルソール(Optiray)、イオキシラン(Oxilan)、エチオダイズドポリマー、例えばPLGA、PEG、アルブミンを利用することができる。超音波イメージングには、Definity(ペルフルトレン)Optison(ペルフルトレン)Definity RT(ペルフルトレン)を利用することができ、ポリマーは一般に低エコーであることがわかっている。しかしながら、PLGA-PEG-PLGA(ブロックコポリマー、逆相転移ハイドロゲル)を使用すると、ポリマーは、注入直後は低エコーに見え、その後、温度が上昇すると高エコーに変化する。MRIイメージングには、ガダビスト(ガドブトロール)、ドタレム(ガドテル酸メグルミン)、エオビスト(ガドキセテート二ナトリウム)、マグネビスト(ガドペンテト酸ジメグルミン)、バソビスト(ガドホスベセット三ナトリウム)、Teslascan(マンガホジピル)、プロハンス(ガドテリドール)、OptiMARK(ガドベルセタミド)、Omniscan(ガドジアミド)、Multihance(ガドベン酸ジメグルミン)、GastroMARK(フェルモキシル(ferumoxsil))、Feridex(フェルモキシド)、Clariscan(ガドベン酸メグルミン)、Ablavar(ガドホスベセット三ナトリウム)を利用することができる。アルブミンを担体ポリマーとして使用した場合にも同様の観察がなされた。
【0089】
アブレーションを駆動するために電磁エネルギー(例えば、マイクロ波、RF、エレクトロポレーション)の適用時に、遠隔から付着されたTAは、周囲よりもはるかに効果的にエネルギーを吸収し、アブレーションゾーンの拡張を助けることができる。ここでの遠隔から付着されたTAとは、条件(60W 915MHzで10分間)が使用される場合、アンテナオープンスロットから1.5cm以上の距離にあることを意味する。上述のように、電磁エネルギー(例えば、マイクロ波、RF、エレクトロポレーション)の適用時に、大血管に隣接して付着されたTAは、アブレーション標的が過度の熱損失を被るのを防ぐことができ、したがって、TAは、「ヒートシンク」効果を軽減して完全なアブレーションを提供することができる。さらに、TAは腫瘍を破壊するための塞栓/アブレーション併用治療に使用することができる。TAの粘度はリピオドールの粘度と類似しているため、血管内カテーテルを介して送達して正確に付着させることができる。その後のアブレーションにより腫瘍を効果的に破壊することができる。
【0090】
したがって、概要および要約として、上述の熱促進剤(TA)の製剤および材料は、アンテナだけでは効果的に治療できない距離で、電気または電磁エネルギーの熱へのカップリングを増強することによって、熱損傷を生じさせるサテライトエネルギー吸収体として機能することができる。TAは、3つの成分、1)担体としてのポリマー(天然または人工)、2)全体的な電荷および/または粘度バランスのためのイオン成分または同等物、および3)イメージング成分とで構成され得る。ポリマーには、天然または人工のいずれか、例えば、アルブミン、シルク、ウール、キトサン、アルギン酸塩、ペクチン、DNA、セルロース、ポリシアル酸、樹枝状ポリリジン、ポリ(乳酸-コ-グリコール)酸(PLGA)、ジェランガム(gellan)、多糖類およびポリアスパラギン酸、およびこれらの組み合わせが含まれ得る。イオン成分には、MまたはM2+2-(一般化式Mn+n-として)が含まれ得、式中、Mは、Li、Na、K、Rb、Cs、および三ナトリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属に属し、Xは、ハロゲン化物、酢酸塩、およびMと等価な他のカウンターバランスを表し、Yは、Xまたは混合ハロゲン化物、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、トリプトファン塩、クエン酸塩、リン酸塩およびM2+と等価な他のカウンターバランスならびにギ酸、グリコール酸、乳酸、オクタン酸、プロピオン酸、カプロン酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、尿酸およびそれらの対応する共役塩基も表す。他の有機成分を、Wang, S. et al, Mol. Pharmaceutics 2015, 12, 4478-4487に記載されているように、独立して置換することができる。
【0091】
CTイメージングには、セシウム、タンタル、イオパミドール、イオヘキソール、イオキシラン、イオプロミド、イオジキサノール、イオキサグレート、ジアトリゾ酸塩、メトリゾ酸塩、イオタラム酸塩、エチオダイズドポリマー、例えばPLGA、PEG、アルブミン、DNA、RNA,イオン性ポリ炭水化物およびそれらの組み合わせを利用することができる。超音波イメージングでは、ポリマーは一般に低エコーである。しかしながら、PLGA-PEG-PLGA(ブロックコポリマー、逆相転移ハイドロゲル)を使用すると、ポリマーは、注入直後は低エコーに見え、その後、温度が上昇すると高エコーに変化し、画像形成性である可能性が高いことを示している。アルブミンを担体ポリマーとして使用した場合にも同様の観察がなされた。
【0092】
電磁エネルギー(例えば、マイクロ波、RF、エレクトロポレーション)の適用時に、遠隔から付着されたTAは、周囲よりもはるかに効果的にエネルギーを吸収し、アブレーションゾーンの拡張を助けることができる。ここでの「遠隔から付着されたTA」とは、遠距離にあることを意味するため、例えば、条件(例えば、60W 915MHzで10分間)が使用される場合、マイクロ波アンテナから1.5cm以上の距離にあることを意味する。TAを使用すると、所定の出力/時間の治療でアブレーションゾーンをアンテナからさらに拡張したり、同じアブレーション体積をより短時間で効果的にアブレーションしたり、本来マイクロ波加熱の能力が低い特定の組織領域で加熱の程度を強化したりすることができる。
【0093】
電磁治療エネルギー(例えば、マイクロ波、RF、エレクトロポレーション)の適用時に、大血管に隣接して付着されたTAは、アブレーションゾーンを熱損失から保護することができ、したがって、TAは、「ヒートシンク」効果を軽減して完全なアブレーションを保証することができる。さらに、適切に配置されたTAは、血管の向側までアブレーションを拡張することができ、単純なマイクロ波アンテナの新しい治療形状を可能にする。
【0094】
さらに、TAは、腫瘍を破壊するための塞栓/アブレーション併用治療に使用することができる。TAは、リピオドールと類似した粘度で製剤化され得、血管内カテーテルを介して送達して正確に付着させることができる。その後のアブレーションにより腫瘍を効果的に破壊することができる。
【0095】
TA製剤は、特定の目的に依存し得る医薬品添加剤を含み得る。医薬品添加剤には、例えば、PEG、ラクトース、微結晶セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、PVP、HPMC、ステアリン酸マグネシウム、コロイド状SiOが含まれ得る。
【0096】
組織標的は非常に多様であり得、癌/腫瘍アブレーションの分野におけるTAの使用には、乳房(良性および悪性)、甲状腺(良性および悪性)、肺(原発性および転移性)、肝臓(原発性および転移性、肝臓手術周縁凝固)、副腎(良性機能、癌および転移性)、腎臓(原発性および転移性)、骨、前立腺、軟部組織(原発性および転移性)が含まれ得る。さらに、強化されたアブレーション精度、速度および均一性により、子宮内膜アブレーション/月経過多:子宮;脊椎減圧および除神経;前立腺肥大症(BPH);ならびに食道(逆流)、気管支樹(肺気腫の縮小)、胆道樹(腫瘍によるステント閉塞)、関節(弛緩)、外科的切除および出血などの他の組織の治療のための有望な改善を提供する。
【0097】
上記で論じたように、幾つかの実施形態では、高周波(RF)は、マイクロ波エネルギーに加えて、および/またはマイクロ波エネルギーの代わりにアブレーションを駆動することができる。当業者であれば、RFが、アブレーションを実行するために、様々な周波数の電気信号(例えば、電流)、例えば、電波の内部周波数および外部周波数の両方を使用できることを認識するであろう。RFアブレーションを実行する他の方法の中でも、画像ガイダンス(例えば、超音波、CTイメージング、またはMRI)を使用して、針状電極を標的組織に経皮的に配置することができる。
【0098】
図12は、RFアブレーションに使用されるセットアップ100の例示的な実施形態を示している。図示のように、プローブ、すなわち電極110、および熱電対120は、組織または臓器(両方とも参照番号130によって単純化のために識別される)、例えば、心臓、肝臓、腎臓などに挿入され得る。プローブ110と熱電対120との間の距離Lは変化し得るが、幾つかの実施形態では、距離Lは、約1cm、約1.5cm、約2cmなどであり得る。幾つかの実施形態では、距離Lは、組織130の種類、腫瘍および/または所望のアブレーションゾーンのサイズなどに基づいて設定され得る。プローブ110は、金属シャフトを含み得、これは、標的組織と直接電気的に接触する露出した伝導性先端部を除いて絶縁されている。RFジェネレーター(図示せず)は、電極110を介してRFエネルギーを組織130に供給することができる。セットアップ100は、参照電極(図示せず)を含み得、これは、比較的良好な電気伝導性および熱伝導性を有する領域において、患者の皮膚に接触する伝導性パッドに位置決めすることができる。RFジェネレーターは、活性RF電極と参照電極との間にRF電圧を発生させ、それによって2つの電極間の患者の体内に電界線を確立する。電界はRF周波数(1MHz未満)で振動する。
【0099】
TA140は、アブレーションが開始される前に臓器130内に位置決めされ得る。TA140は、図示のように、電極110から分注および/または送達され得るが、幾つかの実施形態では、TA140は、シリンジまたは当業者に公知の類似の装置を介して臓器130内に注入または他の方法で送達され得る。アブレーション中、組織内のイオンは、振動磁場とともに、磁場強度に比例して移動し、摩擦を引き起こし、これが熱に変換される。すなわち、組織内のイオンは、隣接するナトリウムイオンおよび塩化物イオンなどの周囲の分子間の衝突を引き起こす可能性がある。これらの分子の衝突により運動エネルギーが発生し、これが熱に変わり得る。TA140は同様の振動特性を示すことができるが、イオンよりも2桁以上高いため、これは、イオンよりも有利に多くの熱を発生させることができ、その結果、TA140を使用した場合に観察されるアブレーションが増加する。
【0100】
腫瘍全体のRFアブレーションが成功するのは、典型的には、標的領域全体にわたって約60℃を超える温度で起こる。しかしながら、幾つかの実施形態では、特定の電極による組織浸透が不十分なため、直径が1cmよりも大きい腫瘍をアブレーションすることができない場合がある。例示的な実施形態は、複数の電極、複数のフック電極、バイポーラアレイ、冷却されたチップ電極、および/またはパルスRFプローブを用いて、より大きな腫瘍(例えば、1cmよりも大きい)をアブレーションすることによって、これらの固有の問題を克服する。幾つかの実施形態では、不十分なエネルギー浸透はまた、組織誘電特性を変化させることによって改善され得る。例えば、生理食塩水の連続注入における各種濃度は、より大きなアブレーション体積において顕著な改善を示している。生理食塩水の量および濃度は非線形様式で凝固径に影響するが、これは、生理食塩水の濃度が増加すると、電気伝導率(これは測定されたインピーダンスに反比例する)を高めることができ、電極表面で有害な高温を誘発することなく、より大きなエネルギーを組織に蓄積できるようになるからである。この効果は非線形であり、組織伝導率が著しく増加すると組織の加熱が減少する。伝導率の増加は、組織加熱を増加させるエネルギー蓄積の増加を可能にするという点で、RFアブレーションにとって有益であり得る。しかしながら、固有の電気抵抗が低く、組織伝導率が増加すると、所与の体積の組織を加熱するのに必要なエネルギーも増加する。このエネルギー量を供給できない場合(例えば、ジェネレーターの最大出力を超える場合)、傾きは負となり、組織の加熱(および凝固)は少なくなる。したがって、臨床的利益(すなわち、RF誘発凝固の増加)を達成するためには、使用されるRF装置の種類ごとに、また治療する腫瘍の種類および組織の種類ごとに、生理食塩水を注入するための最適なパラメータを決定する必要がある。
【0101】
RFアブレーションを改善するための生理食塩水の欠点には、アブレーションの形状の不一致が含まれる。具体的には、生理食塩水は抵抗が最も少ない方向へ排出され、その結果、アブレーションの形状が制御されず、隣接する臓器または組織(例えば、胆管、横隔膜、神経)への付随的な傷害のリスクが高まる。RFアブレーション中にTAを使用することで、これらの影響を軽減し、アブレーションゾーンの体積を必要に応じて増やすことができる。
【0102】
RFアブレーション中のアブレーションゾーンの温度変化に対するTAの影響は、以下の例で見ることができる:
【0103】
実施例6
エクスビボ(ex vivo)におけるブタ肝臓の高周波アブレーション
高周波システム(Viva combo RF Generator、STARmed、韓国高陽市)を35Wの出力で10分間連続モードにより全てのアブレーション処置に使用した(図2)。RFアプリケーター(15G 2cmのActiveTip)の先端には灌流ポートがあり、そこから2mLのTAを注入した。温度変化は、RF電極から1.5cm離れた横断面で測定した。図12に示されるように、熱電対120はRF電極110の先端と同じ深さにあった。実験は対照およびTAについて4回繰り返し、データは比較プロットして統計的に分析した(GraphPad PRISM(登録商標)Version 6e)。
【0104】
合計8回のRFアブレーションを実行した(TA4回、対照4回)。全体として、TAを使用したアブレーションは対照よりも有意に高い温度上昇率を示し、特に最初の90秒間において顕著であった。この期間中の温度上昇の直線性を分析した:対照およびTA(決定係数:それぞれ0.6695および0.9679)。速度の傾きは、それぞれ対照で0.3239±0.0446℃/s、TAで0.8178±0.0342℃/sであった。90秒後の温度上昇は、対照およびTAともに、それぞれ約70℃および110℃に鈍化した。さらに、対照の温度変化は、TA(A)および対照(B)による高周波アブレーションの温度プロファイルを示す図13に示されるように、測定期間を通してTAよりも有意に大きいように見える。図示のように、TA(A)によるアブレーションの温度は、アブレーションの期間全体を通して対照(B)よりも高い。
【0105】
実施例7
TAと各種NaCl溶液とのアブレーションゾーン温度の比較
TAの使用は、RFアブレーション中にプローブから離れた距離で測定されるアブレーションゾーンの温度変化を促進することができる。例えば、ウシ肝臓におけるプローブ110から1cmの距離でのRFアブレーションの結果を図14に示している。OsteoCool(商標)RFアブレーションシステム(Medtronic Memphis TN)を、以下:アブレーション時間10分;設定温度95℃;電力制限20W;インピーダンスカットオフ50Ωの設定で、全てのアブレーション処置に使用した。RFアプリケーター(18G、2cmのActiveTip)を、TAサンプル(1mL)が注入された同じ部位に配置した。TAサンプルは、1)HeatSYNCゲル、2)担体バイオポリマー、3)50、100、150mg/mLのNaCl水溶液である。温度変化は、RFアプリケーターから1.0cm離れたアプリケーター先端と同じ深さで測定した。実験は全てのサンプルについて4回繰り返し、得られたデータを生物統計学ソフトウェア(GraphPad PRISM(登録商標)Version 8)を使用して比較プロットし、分析した。その結果、合計20回のRFアブレーションを実行した:5つのサンプル(各n=4)。TA(I)を伴うアブレーションは、バイオ担体サンプル(II)を含む他の全てのサンプル(III,IV,V)よりも有意に高い温度上昇率を示した。
【0106】
幾つかの実施形態では、TAは焼灼剤として使用することができる。RFエネルギーがTAを特定の温度、例えば80℃超に加熱すると、TAは凝固して、アブレーションされた組織と一体化し得る。例えば、TAを組織または臓器に適用して、当該組織または臓器の加熱を強化し、かつ/または出血を防ぐために部位を焼灼することができる。TAは、TAを加熱することによりアブレーションされた組織と融合して部位を密封するように、その1つ以上の表面にゲルとして適用することができる。
【0107】
図15は、例示的な実施形態に従った組織アブレーションの例示的な方法200を示している。説明したように、このプロセスは、アブレーションを実行するために通常使用されるより長いプロセスから簡略化されていることに留意すべきである。したがって、このプロセスは、当業者がおそらく使用する追加のステップを有し得る。さらに、ステップの幾つかは、示された順序とは異なる順序で実行してもよいし、同時に実行してもよい。したがって、当業者であれば、このプロセスを適宜変更することができる。さらに、上述および後述するように、記載した材料および構造は、使用され得る多種多様な異なる材料および構造のうちの1つであるに過ぎない。当業者であれば、用途および他の制約に応じて適切な材料および構造を選択することができる。したがって、特定の材料および構造についての議論は、全ての実施形態を限定することを意図するものではない。
【0108】
図12および図15を参照すると、プロセス200は、ステップ202において、1つ以上の電極110を患者の体内に導入して標的部位に到達させることによって開始され得る。標的部位は、組織、臓器、腫瘍などを含み得る。挿入後、電極110は、標的部位内に配置され得、標的部位に近接し得、かつ/または標的部位を通って延在し得る。次に、熱促進剤140を、電極から距離を置いて患者の体内に位置決めすることができる(ステップ204)。熱促進剤140は、標的部位に対してアブレーションゾーンを画定および/または拡張するように位置決めされ得る。TA140、電極110、および標的部位130の間の相対距離は、上記で詳細に議論したように、所望のアブレーションゾーン、患者の解剖学的構造、標的部位のサイズなどに基づいて変化し得る。幾つかの実施形態では、第2の電極または第2の熱促進剤が、上記で論じたように、標的部位に追加されて、アブレーションゾーンを最大化し得る。
【0109】
熱促進剤140を位置決めした後、電極110を作動させてTAを励起することができる(ステップ206)。幾つかの実施形態では、電極110は、TAの粒子を特定の温度に励起するために、その上に1つ以上のエネルギー放出デバイス(図示せず)を含み得る。当業者であれば、エネルギー放出デバイスは、マイクロ波、高周波、およびエレクトロポレーションのうちの1つ以上を利用して励起を実行できることを認識するであろう。幾つかの実施形態では、TAを加熱することにより、TAを凝固して標的部位に焼灼させ、アブレーションされた組織と一体化することができる。TAの加熱は、標的部位が十分にアブレーションされるまで継続することができる。アブレーションが実行された後、電極のスイッチを切り、患者から引き抜くことができる(ステップ208)。
【0110】
実施例8
熱促進剤を薬物送達ビヒクルとして使用することができる
幾つかの実施形態では、TAは、1つ以上の薬物を標的部位に運ぶための薬物送達ビヒクルとして使用することができる。具体的には、アブレーションエネルギーに曝露されたときに凝固するTAの能力は、促進剤を薬物送達に使用することを可能にし得る。先に述べたように、RFエネルギーがTAを特定の温度、例えば80℃超に加熱すると、TAは凝固してアブレーションされた組織と一体化することができる。例えば、TAは、キナーゼ阻害剤などの抗腫瘍薬または薬剤を所望の標的領域に局所領域的かつ機能的に分布させることができる。例示的な実施形態では、キナーゼ阻害剤は、各種ナノテクノロジーと受容体チロシンキナーゼ阻害剤との組み合わせを含み得る。
【0111】
薬物を含むアルブミンベースの製剤を設計するには、幾つかの戦略のうち1つ以上を使用することができる。一実施形態では、薬物は分子担体中で標的領域に輸送され得る。図16は、例示的な実施形態に従って、ヒト血清アルブミン(HSA)などの担体の構造をより詳細に示している。アルブミンは、各々が2つのサブドメインで構成される3つのαヘリックスドメインを含有する。その7つの脂肪酸結合部位は、タンパク質全体に非対称に分布している。結合において重要な付加的部位には、システイン-34アミノ酸残基に位置する遊離チオール、および様々な非特異的疎水性薬物と結合するSudlowの部位IおよびIIが含まれる。
【0112】
幾つかの実施形態では、アルブミンのその場での製剤化は、注入された結合剤が内因性アルブミンにドッキングした後に体内で達成される。この種の製剤には、共有結合(例えば、薬物コンジュゲーションのためのアルブミンシステイン-34;ドキソルビシンおよびアルブミン結合マレイミド基を切断するためのMMP-2および9)、ネイティブリガンドコンジュゲート(例えば、乳癌のためのsiRNA-アルブミン)、または小分子バインダー(例えば、1つのアルブミン中のEvans Blue 14分子)が含まれる。代替的に、幾つかの実施形態では、患者に注入する前にドナーから単離された組換え産生されたアルブミンまたはヒト血清アルブミンへの薬物ロードまたは共有結合に依存する外因性製剤を使用することができる。このような実施形態では、共有結合(例えば、メトトレキサート、クルクミン、およびドキソルビシン)、組換えアルブミン融合タンパク質(例えば、組換えアルブミンと連結されたプロアエロリジンのN末端)、およびナノ粒子製剤(例えば、アブラキサンとして知られているNab-パクリタキセル)が生じ得る。
【0113】
アルブミンが熱エネルギー(例えば、マイクロ波アブレーションまたはRFアブレーションによって提供される熱エネルギー)に曝露されると、アルブミン分子は「構造的に変化」するか、または一連の明確な構造変化、すなわち変性を受け得る。図17は、3次元構造が変性して線状タンパク質になる変性プロセスを概略的に示した図である。図示のように、変性プロセスは、アルブミン分子の3次元構造の破壊を伴う。変性プロセスには、四次構造(サブユニットの完全性の破壊)、三次構造(ジスルフィド結合と非共有結合(極性)相互作用、およびファンデルワールス(非極性)相互作用)、二次構造(βシートおよびαヘリックス)の破壊が含まれる。
【0114】
これらの分子内プロセスの崩壊に加えて、新たなジスルフィド橋または水素結合および非極性相互作用を通じて多くの新しい分子間相互作用が形成され、タンパク質メッシュワーク(meshwork)が生じる。全体として、タンパク質メッシュワークは、疎水性部分が表面に、親水性部分が内側に向くように構造的に配置されている。アブレーション-薬物運搬アルブミン製剤では、極性薬物分子は親水性部位に移動する(例えば、非極性分子は疎水性表面に捕捉される)。したがって、アブレーションが完了した後、構造的に変形されたタンパク質メッシュワークは、生分解性インプラントとしてアブレーションされた疾患組織に隣接して空間的に固定され、薬物分子は経時的にタンパク質メッシュワークから放出される。全プロセスを通じて、当業者であれば、タンパク質骨格(一次)構造は無傷のままであることを認識するであろう。
【0115】
上記に示し、述べたとおり、コンフォメーション変化は、アルブミンが特定の形状に変形されるように、アルブミン分子の形状の変化をもたらし得る。コンフォメーション変化は、分子の四次構造、三次構造、および二次構造の崩壊が永続的であり得るように不可逆的であり得、そのため、アルブミンがその元の形状に戻らず、異なる構造、例えば、実質的に多孔性構造を有するタンパク質メッシュワークを表すことになる。TAのアブレーションは、TAのHSAのアルブミンエンベロープのコンフォメーションを変化させることができる。例えば、TAのアブレーションは、HSA(例えば、担体)のタンパク質の変性を引き起こし、抗腫瘍剤の含浸後にTAのタンパク質に結合した抗腫瘍剤を放出させることができる。すなわち、薬物は担体に結合していてもよく、アブレーションにより担体の形状を変化させて、担体から薬物を放出させることができる。
【0116】
送達の前に、TAは、1つ以上の抗腫瘍剤で含浸され得るか、または共有結合され得、そして標的部位または腫瘍の周辺部などの領域に送達され得る。TAは、標的部位に吸着され得、そしてエネルギー(例えば、熱エネルギー、または熱)に曝露されると、上記で論じたように、アブレーション中に壊死性凝固に変形され得、そして標的サイズまたは腫瘍の周辺部に移植され得、例えば、TAは、凝固タンパク質メッシュワークにおける瘢痕組織の一部となり得る。幾つかの実施形態では、1つ以上の適切な酸、塩基、金属または金属イオン、塩、緩衝液またはカオトロープが、アブレーション中の動的運動のために担体分子の極性を調節するために添加され得る。抗腫瘍剤がTAに共有結合している例示的な実施形態では、結合を加水分解することによって解離が起こり、抗腫瘍剤が放出され得る。
【0117】
薬物送達のために使用されるアルブミンの濃度は、約30mg/mL~約600mg/mLの範囲であり得るが、幾つかの実施形態では、濃度は、約30mg/mL~約300mg/mL、または30mg/mL~約150mg/mLの範囲であり得る。TAは標的部位に薬物を送達するために使用され、次いで、含浸された薬物をそこから放出するために変性されるので、アルブミンの低濃度、例えば30mg/mLは、アブレーション、例えば、上記で論じたように、300mg/mL超と比較して、薬物送達のために使用され得る。TAの濃度が低いと、TAの変性だけでなく抗腫瘍剤の放出も速めることができ、同時に、TA-薬物の組み合わせの濃度のうち薬物で構成される割合がより大きくなり、これにより、治療のために体内に放出するために標的部位により多くの抗腫瘍剤を送達することができる。
【0118】
このようなエネルギー安定性抗腫瘍剤の幾つかの非限定的な例としては、キナーゼ阻害剤、ドキソルビシン、タキソール、レサトルビド(resatorvid)、タモキシフェン、トリコスタチンA、エンザルタミド、シクロスポリンA、エトポシド、またはSUMO化阻害剤を含む非キナーゼ阻害剤、PD1/PD-L1、CXCR、Sting、IDO、またはTLRなどの各種チェックポイントにおける阻害剤を挙げることができる。キナーゼ阻害剤の場合、これらの阻害剤は、脱調節されたキナーゼ活性、すなわち、疾患、特に癌の頻繁な原因であるリン酸化をブロックする。本開示で使用することができるキナーゼ阻害剤の幾つかの非限定的な例としては、ファスジル(エリル)、シロリムス(ラパミューン)、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、ダサチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、テムシロリムス、エベロリムス、パゾパニブ、ルキソリチニブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、クリゾチニブ、イコチニブ、アキシチニブ、トファシチニブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、アファチニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブ、イブルチニブ、ニンテダニブ、および/またはイデラリシブを挙げることができる。さらに、TAに含浸させる抗腫瘍剤は、攻撃すべき腫瘍の種類に基づいてカスタマイズすることができる。例えば、腫瘍の性質を決定するために標的部位で事前の検査および/またはイメージングを実行し、前述の腫瘍を最もよく標的にして破壊することができる1つ以上の抗腫瘍剤をTAに含浸させることができる。
【0119】
アルブミン、例えばHSAは、運ばれる抗腫瘍剤に基づいてその構造を修飾することができる。凝固後、タンパク質のコンフォメーション変化により、薬物と結合するタンパク質の割合が変化し得る。標的部位に送達される薬物の利用可能性は、薬物と結合可能なタンパク質の量に基づいて変化し得る。例えば、アルブミン中のタンパク質が変性すると、アルブミン全体の薬物に対する結合親和性が変化し、それによってキナーゼ阻害剤が局所的に利用可能になる。幾つかの実施形態では、標的部位に注入される抗腫瘍薬を含浸させたアルブミンの量を決定するために、アルブミン中のタンパク質に結合する薬物の量を計算することによって、アルブミンを最適化することができる。含浸されたTAが標的部位に到達すると、抗腫瘍薬はそこから放出され得る。
【0120】
抗腫瘍剤とTAとの間のタンパク質結合状態は、タンパク質結合の割合が増加すると薬物の放出速度が増加し、逆も同様であるため、所望の位置に移植されると、TAからの薬剤の放出速度を変化させることができる。幾つかの実施形態では、薬剤は遅延放出によってTAから放出され得る。遅延放出により、抗腫瘍薬、例えばキナーゼ阻害剤の濃度をより大きくしてTA内に配置することが可能となり、腫瘍の治療効果を高めることができる。
【0121】
TAは、遅延放出を介してそこから抗腫瘍剤を放出するように構成することができる。例えば、アブレーション後に十分に凝固されると、タンパク質メッシュワークは、薬物とタンパク質メッシュワークとの間に新たに確立された平衡(Kdiss)に依存し得る時間期間にわたって、そこから抗腫瘍剤を放出することができる。薬物放出平衡(Kdiss)に影響を及ぼす因子には、イオン相互作用、水素結合、水分子、薬物分子、捕捉されたカオトロープ分子、および/またはタンパク質メッシュワーク構造内のアミノ酸残基間のファンデルワールスなどの弱い相互作用が含まれる。
【0122】
抗腫瘍剤の遅延放出の能力は、TAが腫瘍に対して所望の位置に配置および移植され得、抗腫瘍剤が腫瘍に対してその位置を最適に標的とすることを保証するのに有利である。幾つかの実施形態では、TAは、TAが変性の過程で抗腫瘍剤を放出するように、長期間にわたって変性するように構成され得る。抗腫瘍剤が体内に留まり得る時間の長さは、使用される抗腫瘍剤の性質に依存し得る。
【0123】
幾つかの小分子薬物、siRNA、ヌクレオシドアナログ、またはDNAなどの温度感受性治療薬も、他のエネルギー源を採用することによって同様の戦略で使用することができる。熱促進剤は、腫瘍の完全なアブレーションを達成するのを助けるために、アブレーション中にマイクロ波およびRFエネルギーを増強することができる。幾つかの実施形態では、TAは、不可逆的エレクトロポレーション(IRE)またはソナー波、例えば高密度焦点式超音波治療法(HIFU)またはヒストトリプシーなどの、多数の非熱的または最小限の熱的エネルギーを増強し得る。TAを使用すると、TAを使用しないアブレーションよりもアブレーション体積が大きくなり、線量依存的に形状がより球形になる。アブレーションと併用してTAを使用することは、現在のアブレーション技術が直面している最大の課題である局所腫瘍再発をなくすことに貢献する。
【0124】
小分子治療薬は、広範な治療分野、例えば、癌、感染症、炎症/免疫学、神経学的疾患、心臓血管疾患、内分泌学、代謝性疾患および/または他の希少疾患のために、アルブミン(または他の担体)で製剤化することができる。小分子治療薬の多くは、マイクロ波アブレーションまたはRFA中に熱的に安定である。この戦略は、薬物放出を局在化し、したがって薬物関連の副作用を排除するのに有利である。
【0125】
幾つかの実施形態では、上記で示唆したように、TAに含浸された抗腫瘍剤は、非熱的アブレーション技術と組み合わせて使用することができる。具体的には、アブレーション中にアルブミンが経験した変性は、アルブミンがその構造的完全性を失う原因となり得る非熱プロセス中にも起こり得る。例えば、不可逆的エレクトロポレーション(IRE)またはヒストトリプシーは、それぞれ、適用される強い電気パルスまたは強いソナーエネルギーによって、熱を伴わずにアルブミン構造に影響を与えることができる非熱的アブレーション技術である。IREは、高電圧、低エネルギーの直流電流パルスを使用して細胞死を誘導するプロセスであり、非熱的であり、他の熱的アブレーション法よりもアルブミン構造の変化が少ない。したがって、非熱的アブレーション技術では、低温プロセスが治療薬の構造的完全性に影響を与えないことから、抗腫瘍免疫応答を引き起こす、多種多様な熱に不安定な抗腫瘍剤、例えば、小分子および大分子の両方の合成分子およびsiRNA、ペプチド、炭水化物、抗体、ヌクレオシドアナログを使用することができる。例えば、このような実施形態では、TAに含まれる抗腫瘍剤は、小分子で熱的に安定な抗腫瘍剤だけでなく、モノクローナル抗体などの抗腫瘍免疫応答を引き起こすより大きな分子を有する治療剤も含み得る:例えば、PD-1ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ニボルマブ(オプジーボ)、セミピリマブ(リブタヨ)、PD-L1アテゾリズマブ(テセントリク)、アベルマブ(バベンチオ)、デュルバルマブ(イミフィンジ)およびCTLA4イピリムマブ(ヤーボイ);または特にヌクレオシドアナログベースの薬剤。さらに、幾つかの実施形態では、TAは、HIFUエネルギーによる腫瘍細胞死が続く標的組織のキャビテーションを誘導する別の非熱的アブレーション法であるヒストトリプシーに適用される場合、上記の物質を含浸させることもできる。治療物質(例えば、siRNA、ペプチド、タンパク質、免疫グロブリン、糖タンパク質、RNA、DNA、およびヌクレオシドアナログ)を用いたIREまたはヒストトリプシーなどの非熱的アブレーション技術は、全身的な抗腫瘍免疫応答を引き起こし、アブスコパル効果をもたらす可能性があり、以下にさらに詳細に論じるように、この場合、局所領域治療の範囲内の腫瘍の治療と同時に未治療の腫瘍の縮小が観察され得る。治療物質(例えば、siRNA、ペプチド、タンパク質、免疫グロブリン、糖タンパク質、RNA、DNA、ヌクレオシドアナログ)を用いた非熱的アブレーション(IREまたはヒストトリプシー)は、全身的な抗腫瘍免疫応答を引き起こし、アブスコパル効果をもたらす可能性があり、この場合、局所領域治療の範囲内の腫瘍の治療と同時に未治療の腫瘍の縮小が観察され得る。
【0126】
アルブミンは、エネルギーベースのアブレーションと治療物質の併用療法において、例えば、siRNA、ペプチド、タンパク質、免疫グロブリン、糖タンパク質、RNA、DNA、ヌクレオシドアナログなどの小分子生体分子の保護などの幾つかの利点を有する。幾つかの実施形態では、治療薬は、腫瘍細胞上でより多く発現されたアルブミン受容体を介してエンドサイトーシスされ得る。実施形態では、熱処置と治療物質(例えば、薬物)とを組み合わせたエネルギーベースのアブレーションは、熱活性化併用療法(例えば、TACT)とみなされ得る。
【0127】
IRE、HIFU、ヒストトリプシーなどの非熱的アブレーション技術は、上述したMWAまたはRFAなどの熱的アブレーション技術と比較して、体内から腫瘍細胞を除去するための異なるメカニズムに寄与することができる。例えば、非熱的アブレーション技術は、患者の体内で免疫反応を引き起こし、病的物質を取り除くことができる。上記で論じたように、IRE、HIFU、およびヒストトリプシー中、熱促進剤の温度はMWAまたはRFAで見られるレベルまで上昇せず、腫瘍細胞の炭化または破壊は起こらない。むしろ、RFAまたはMWAで見られる瘢痕組織形成を引き起こす一掃プロセスと比較して、非熱技術は腫瘍細胞の破裂を引き起こし、その内容物、例えば腫瘍特異的抗原を有する腫瘍細胞表面または細胞質ゾルを間質腔に放出する。間質腔に腫瘍特異的抗原が存在すると、マクロファージ、B細胞および樹状細胞を含む抗原提示細胞(APC)が引き寄せられて、損傷した腫瘍細胞を消費することができ、これらの細胞がAPCの表面で腫瘍特異的抗原を発現するようになる。この腫瘍特異的抗原は、T細胞またはB細胞などの身体の防御機構による免疫応答をトリガーする可能性があり、これらのAPCを攻撃して細胞を破壊し、それによって腫瘍細胞の細胞質ゾルを破壊すると同時に、この腫瘍特異的抗原に対する抗体も産生する。当業者であれば、非熱的アブレーション技術に続く免疫応答の強さは、MWAまたはRFAアブレーションに続く免疫応答よりも強固であり得ることを認識するであろう。これは、身体の防御機構が、熱的アブレーションによって既にその原形から変形して死滅した腫瘍特異的抗原ではなく、細胞質ゾルを死滅させなければならない異物侵入者として識別し攻撃するためである。
【0128】
図18は、本実施形態に従って、薬物送達ビヒクルとして熱促進剤を使用する例示的な方法300を示している。説明したように、このプロセスは、アブレーションを実行するために通常使用されるより長いプロセスから簡略化されていることに留意すべきである。したがって、このプロセスは、当業者がおそらく使用する追加のステップを有し得る。さらに、ステップの幾つかは、示された順序とは異なる順序で実行してもよいし、同時に実行してもよい。したがって、当業者であれば、このプロセスを適宜変更することができる。さらに、上述および後述するように、記載した材料および構造は、使用され得る多種多様な異なる材料および構造のうちの1つであるに過ぎない。当業者であれば、用途および他の制約に応じて適切な材料および構造を選択することができる。したがって、特定の材料および構造についての議論は、全ての実施形態を限定することを意図するものではない。
【0129】
プロセス300は、ステップ302において、熱促進剤に1つ以上の物質、例えば抗腫瘍剤を含浸させることによって開始される。次に、TAは、標的部位に近接した患者の体内に導入され得る(ステップ304)。TAは、当業者に公知の1つ以上の方法によって、標的部位に近接して注入、送達、または他の方法で配置され得る。TAが標的部位に到達した後、エネルギー源を作動させてTAをアブレーションすることができる(ステップ306)。エネルギー源は、TAを熱部位で凝固させることができる。凝固中、担体は変性し得、物質がTAから標的部位に放出される(ステップ308)。物質の放出は、上記で論じたように、時間的であり、かつ/または遅延させることができる。
【0130】
図示および記載されたシステム、装置、方法、構成、形状、およびサイズは、決して限定的なものではない。当業者であれば、本開示に鑑みて、一実施形態の教示を、本開示において明示的または暗黙的に規定される他の実施形態に適用する方法を理解するであろう。さらに、当業者であれば、上述の実施形態に基づいて、本開示の更なる特徴および利点を理解するであろう。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲によって示される場合を除き、特に示され記載されたものによって限定されるものではない。
【0131】
実施例9
熱促進剤と薬物送達システムとを組み合わせたHSAベース#1ゲル
熱促進剤としてのHSAベース#1ゲル
HSAベース#1ゲルは、以下の特性を有するタンパク質ベースの製剤である。第1に、このゲルは標的組織の誘電特性を変化させ、適用されるエネルギーを増強させる。第2に、ゲルは粘性の溶液であるため、付着すると標的部位で静止する。第3に、ゲルが特定の温度以上(70℃超)に達すると、ゲルは凝固して、アブレーションされた組織の一部となる。アブレーションされた組織の一部となることで、凝固したHSAベース#1ゲルは、画像誘導腫瘍アブレーション(例えば、IGTA)の性能を向上させる。70℃超の温度で凝固させることで、このゲルを使用しない場合よりも短時間で標的組織により球状でより大きなアブレーション体積を作り出すことによって、ゲルがIGTAの性能を向上させることが、幾つかのインビボ研究で実証されている。IGTAにHSAベース#1ゲルを使用することで、現在ゲルを使用しないIGTA技術に関連する局所再発率が低下する。現在、局所再発率は約30%である。しかしながら、HSAベース#1ゲルをIGTAプロセスに組み込むことによって、局所再発率は約10~15%に減少し、これは外科的切除の局所再発率とほぼ同じである。
【0132】
図19は、アブレーションされた組織の画像を示している。このアブレーション研究では、アブレーション条件下で、熱促進剤(TA)を用いて処理した場合と処理しなかった場合(対照)の数種類のブタ組織をインビボで比較した:915MHz、60W、アンテナとHSAベース#1ゲル(2mL)との間の距離、10分間)。アブレーション後、組織を切除し、組織生存率染色剤である塩化トリフェニルテトラゾリウム溶液で処理した:左上(A):肝臓、右上(B):肺、左下(C):腎臓、右下(D):臀筋。
【0133】
各組織の種類において、熱促進剤(TA)の存在下でアブレーションされたサンプルは、対応する対照サンプルよりも、治療された組織の領域が実質的に大きかった。断面を見ると、治療された組織はより円形であり、これは治療体積がより球形であることと、治療領域がTAサンプル内のものよりも大きいこととを示している。これは、アブレーション中にTAが存在することにより、対照(例えば、TAなし)サンプルよりも球状で大きい治療組織の体積が生じることを示している。
【0134】
図20Aおよび図20Bは、HSAベース#1ゲル組織構造なし(図20A)およびあり(図20B)のアブレーションされたブタ肝臓の画像を示している。図20Aは、HSAベース#1ゲル組織構造なしでアブレーションされた組織2000を示しており、壊死/死んだ肝臓を取り囲む結合組織被膜(CT)が、しばしば多核であるマクロファージを含むことを示している(矢印)。図20Bは、HSAベース#1ゲル組織構造でアブレーションされた組織2010が、壊死/非生存肝臓を取り囲む結合組織被膜において、散在および集塊化したマクロファージおよびリンパ球(LY)の数を増加させたことを示している。
【0135】
薬物送達システムとしてのHSAベース#1ゲル
例示的な実施形態では、アブレーション後の凝固ゲルを薬物デポーとして使用し、選択した薬物を経時的に放出させることができる。アルブミン分子は両親媒性であるため、ほとんどの薬物はHSAベース#1ゲルと混和性である。さらに、アルブミンは内因性および外因性化合物の両方の多種多様な化合物の担体であることが知られている[Molecular aspects of ligand binding to serum albumin. Kragh-Hansen U Pharmacol Rev. 1981 Mar; 33(1):17-53.]。これにより、長鎖脂肪酸などの疎水性分子だけでなく、ビリルビンなどの他の様々なリガンド、亜鉛および銅などの金属イオン、ならびにワルファリンおよびイブプロフェンなどの薬物もコロイド可溶化および輸送が容易になる[Crystal structure of human serum albumin complexed with fatty acid reveals an asymmetric distribution of binding sites. Curry S, Mandelkow H, Brick P, Franks N Nat Struct Biol. 1998 Sep; 5(9):827-35.]。Hoogenboezem EN, Duvall CL. Harnessing albumin as a carrier for cancer therapies. Adv Drug Deliv Rev. 2018 May;130:73-89. doi: 10.1016/j.addr.2018.07.011. Epub 2018 Jul 27. PMID: 30012492; PMCID: PMC6200408.
【0136】
HSAベース#1ゲルに含浸されると、薬物はアプリケーターの供給点から典型的には1~1.5cmの標的部位に送達される。その後のアブレーションで腫瘍の大部分が破壊され、ゲルが凝固し、薬物は凝固したタンパク質メッシュワークに捕捉される。アブレーション中のHSAベース#1ゲル中のアルブミン分子のコンフォメーション変化を通して、新しい薬物-アルブミン相互作用が達成され、そこから薬物はアブレーション後の腫瘍微小環境(TME)に溶出される。このアプローチは、他の薬物送達モダリティと比較して以下の点で有利である:凝固したタンパク質メッシュワークが「半」永久的なインプラントとして局在するため、薬物は標的部位から溶出される。したがって、薬物は標的領域でのみ利用可能であり、有害な全身分布は最小限に抑えられる。さらに、腫瘍塊の大部分は熱的アブレーションの完了時に破壊されるため、HSAベース#1ゲルを製剤化した場合、薬物の投与量も最小限に抑えることができる。
【0137】
HSAベース#1ゲルでは、熱的に不安定な薬物を除き、膨大な数の薬物を製剤化することができる。より具体的には、120℃を超えると不安定になる治療薬は除外することができる。
【0138】
ドキソルビシンおよびレシモキドの2つの薬物が、熱的アブレーション-薬物送達の併用療法を実証するための候補として選択される。すなわち、ドキソルビシンおよびレシキモドは、熱処置と治療物質(例えば、薬物)とを組み合わせた併用療法を実証するために選択される。このような治療は、熱活性化併用療法(例えば、TACT)と説明される。
【0139】
ドキソルビシンは、アントラサイクリン系および抗腫瘍抗生物質ファミリーの薬剤に含まれる。ドキソルビシンは、健康な細胞または病的な細胞のDNA機能を無差別に干渉することによって部分的に作用する。この小分子化学療法剤は、乳癌、膀胱癌、カポジ肉腫、リンパ腫、および急性リンパ性白血病の治療に使用される。多くの場合、他の化学療法剤と併用される[「Doxorubicin Hydrochloride」. The American Society of Health-System Pharmacists. Archived from the original on 11 October 2016. Retrieved 12 January 2017]。
【0140】
ドキソルビシンは静脈内注射によって投与する。単剤での用量は60~75mg/m2で、21日ごとに静脈内投与する。ドキソルビシンはそのサイズが小さいため、シスプラチンまたはゲムシタビンなどの他の化学療法薬と同様に、血中半減期の短さおよび複数の健常臓器における顕著な標的外の蓄積によって例示されるように、好ましくない薬物動態および最適以下の生体内分布を示す。これは、化学療法薬の非特異的な作用機序とその大きな分布体積とともに、骨髄抑制、粘膜炎、神経毒性、悪心、嘔吐、脱毛症などの重篤な副作用を引き起こす。したがって、薬物-HSAベース#1ゲル戦略は、現在のドキソルビシンのレジメンと比較するのに完全に適している。
【0141】
レシキモド(R848)は、免疫応答修飾因子として作用し、抗ウイルスおよび抗腫瘍活性を有するTLR7/8のアゴニストである。癌の主な特徴は、腫瘍微小環境内での免疫抑制シグナル伝達を介した免疫の回避である。この特徴はPDACに共通しており、局所的な免疫抑制および間質性線維形成などの構造的障壁の両方が治療上の重要な課題である。TLR7アゴニストであるイミキモドは、基底細胞癌に対する単剤療法としてFDAの承認を受けており、TLRアゴニストの可能性は他の悪性腫瘍にも拡大している。場合によっては、T細胞のTLR7刺激のみで十分な抗腫瘍応答が得られる。R848のCD8+T細胞へのナノ粒子送達は、マウス結腸直腸癌モデルにおいて抗腫瘍免疫の増加および生存期間の延長をもたらす。TLR7アゴニストはまた、T細胞リンパ腫ではドキソルビシンとの併用で、膀胱癌ではワクチン接種との併用で、消化器腫瘍では放射線治療との併用で利点を実証している[Michaelis, K.A., Norgard, M.A., Zhu, X. et al. The TLR7/8 agonist R848 remodels tumor and host responses to promote survival in pancreatic cancer. Nat Commun 10, 4682 (2019). https://doi.org/10.1038/s41467-019-12657-w.]。
【0142】
動物疾患モデルにおいて、レシキモドをロードしたナノ粒子の全身投与により、腫瘍関連マクロファージの刺激を通じて、チェックポイント阻害剤による癌免疫療法の奏効率を改善することが示されている[Rodell, Christopher B.; Arlauckas, Sean P.; Cuccarese, Michael F.; Garris, Christopher S.; Li, Ran; Ahmed, Maaz S.; Kohler, Rainer H.; Pittet, Mikael J.; Weissleder, Ralph. “TLR7/8-agonist-loaded nanoparticles promote the polarization of tumour-associated macrophages to enhance cancer immunotherapy’’. Nature Biomedical Engineering. 2018 2 (8): 578-588.]。図20Aおよび図20Bに示されるように、ブタ慢性安全性研究において、熱的アブレーション後の凝固したHSAベース#1ゲルの領域へのマクロファージの動員の明白な増加が観察されたことに留意されたい。このことは、凝固したHeatSYNCゲルに対する自然免疫応答が増加していることを示唆している。さらに、マクロファージの増加は、様々な癌を標的にした免疫療法の機会を提供する[Duan Z, Luo Y, Targeting macrophages in cancer immunotherapy, Nature (Signal Transduction and Targeted Therapy), 2021, 6: 127.]。
【0143】
実施例10
HSAベース#1ゲルが薬物と混和性であり、アブレーション中およびアブレーション後に薬物を溶出することの実証
例示的な実施形態では、HSAベース#1ゲルは、先に述べた薬物(例えば、ドキソルビシンおよびレシキモド)と混和性であり、混合製剤は依然として熱促進剤として機能し、薬物は凝固したタンパク質メッシュワーク内でのアブレーション中に構造的に安定であり、薬物は経時的にタンパク質メッシュワークから放出される。これらの特性は、マイクロ波アブレーション後に抗腫瘍剤を溶出する薬物デポーとしてHSAベース#1ゲルを使用するために重要である。
【0144】
以下の研究は、ドキソルビシンがHSAベース#1ゲルと混和性であり得、アブレーション後に凝固したHSAベース#1ゲルから溶出されることを実証している。
【0145】
目的1:ドキソルビシンがHSAベース#1ゲルと混和性であり得、アブレーション後に凝固したHSAベース#1ゲルから溶出されることが実証される。
【0146】
方法1:1%(w/v)アガロースゲルをファントムとして、ドキソルビシンHCl(2.0mg)を含むHSAベース#1ゲル(0.5mL)を周囲温度でMWアンテナから1cm離して置いた。アブレーションは60Wで10分間行った(MicroThermX/Varian 915MHz)。アブレーション後、冷却したアガロースゲルを周囲温度で48時間放置し、ドキソルビシンを拡散させた。
【0147】
結果1:ドキソルビシンHCl(2.0mg)をHSAベース#1ゲル(0.5mL)と混合し、図21に示されるように、透明なオレンジ色の液体が得られる。アブレーション前の写真に示すように、この混合液を、1mLシリンジを使用して、予め穴を開けたカラムに入れ、その後にアブレーションを行った。アブレーション中、約70℃で凝固が現れ始めた。アブレーション直後、オレンジ色に凝固したHSAベース#1ゲルは、タンパク質メッシュワークからの拡散を示さなかった。6時間の時点で、ドキソルビシンのファントム周囲領域への拡散が明らかになり、図21に示されるように、時間が長くなるにつれて拡散面積は着実に大きくなった。
【0148】
図21は、アブレーション前(A)、アブレーション中(B)(3分)、アブレーション6時間後(C)、アブレーション24時間後(D)、およびアブレーション48時間後(E)の、ドキソルビシン+HSAベース#1ゲルの薬物溶出の画像2100をそれぞれ示す。溶液には1(w/v)%のアガロースファントムが含まれていた。アブレーション条件:915MHz、60W、10分間。
【0149】
図21は、HSAベース#1ゲルのタンパク質メッシュワークから薬物であるドキソルビシンが溶出する過程を示している。Aでは、アブレーションに先立ち、ドキソルビシンはHSAベース#1ゲルのタンパク質メッシュワーク内に保持されている。Bでは、10分間のアブレーション曝露の3分後、ドキソルビシンはHSAベース#1ゲルのタンパク質メッシュワークから脱出し始めている。Cでは、アブレーション曝露終了6時間後、ドキソルビシンがHSAベース#1ゲルのタンパク質メッシュワークからさらに抜け出している。DおよびEでは、それぞれアブレーション24時間後および48時間後で、アブレーション後の時間が長くなるにつれて、より多くのドキソルビシンがHSAベース#1ゲルのタンパク質メッシュワークから抜け出している。
【0150】
実施例11
以下の研究は、HSAベース#1ゲルからのドキソルビシンの溶出が用量依存的であること、およびドキソルビシンがアブレーション後もHSAベース#1ゲルから溶出し続けることを実証している。
【0151】
目的2 細胞毒性抗腫瘍剤であるドキソルビシンの各種濃度のインビトロ溶出速度を決定する。
【0152】
方法2 HPLCシステム:Agilent 1100;移動相=1%酢酸アンモニウムを含むACNとHOのグラジエント;波長=500nm;流速=1mL/分を使用して、3つの既知の濃度のドキソルビシンサンプル(1.0×10-6、9.5×10-6、1.9×10-5M)の吸光度値を求め、線形関係を確立した(図4、左)。各データポイントは3回の測定の平均値であった。HPLC条件下で、ドキソルビシンの保持時間は4.00分であった。別々に、3つの異なる量のドキソルビシン(2.1、1.1、0.6mg)をHSAベース#1ゲル(各0.5mL)と混合し、目的1に記載した条件を使用してアブレーションした。完了したら、ドキソルビシンを含浸させた凝固ゲルを回収し、36.5℃の水浴中のクエン酸緩衝液(5mL、pH7)に入れた。1、3、24および72時間で、少量の溶液(0.5mL)をメンブレンフィルター(カットオフ7KDa)に通し、HPLCシステムに注入して、溶出したドキソルビシンを定量した。各データポイントは3重に作成した。
【0153】
結果2 ドキソルビシンの溶出挙動を、吸光度v[ドキソルビシン]のプロットを示す図22Aの2200に示している。図22Bは、HSAベース#1ゲルから溶出したドキソルビシンの吸光度を経時的にプロットしたものを示している(右)。薬物は凝固したHSAベース#1ゲルから用量依存的に溶出し(2.1>1.1>0.6mg)、ドキソルビシンの一部のみが経時的に溶出した(それぞれ57、64および87%)。さらに、溶出率は1時間で最も高く、1時間>3時間>24時間>72時間の順に遅くなった。
【0154】
実施例12
以下の研究は、HSAベース#1ゲルからのレシキモドの溶出が用量依存的であること、およびレシキモドがアブレーション後もHSAベース#1ゲルから溶出し続けることを実証している。
【0155】
目的3 TLR7/8アゴニストであるレシキモドの各種濃度のインビトロ溶出速度を決定する。
【0156】
方法3 波長=328nmおよび保持時間=3.31分を除き、方法2に記載されているようにHPLCシステムを使用して、3つの既知の濃度のレシキモドサンプル(4.3×10-6、4.3×10-5および8.6×10-5M)の吸光度値を求め、線形関係を確立した(図23A)。
【0157】
結果3 レシキモドの溶出挙動を、吸光度v[レシキモド]のプロットを示す図23Aに示している。図23Bは、HSAベース#1ゲルから溶出したレシキモドの吸光度を経時的にプロットしたものを示している(右)。薬物は凝固したHSAベース#1ゲルから用量依存的に溶出し(1.25>0.63>0.063mg)、ドキソルビシンの一部のみが経時的に溶出した(それぞれ57、64および87%)。さらに、溶出率は1時間で最も高く、1時間>3時間>24時間>72時間の順に遅くなった。
【0158】
実施例13
実施例9~12の結果の考察
結論 実施例9~12に記載された概念実証研究は、薬物を含浸させたHSAベース#1ゲルが複合治療技術として実行できることを実証した。HSAベース#1ゲルは、アブレーション処置の有効性を高める熱促進剤として機能し、ゲルはアブレーション中に構造的完全性を失うことなく、その構造内に選択された薬物を保持する。さらに、凝固したHSAベース#1ゲルに捕捉された薬物は、時間の経過とともにタンパク質メッシュワークから溶出し、観察された時間枠、すなわち72時間にわたって溶出レベルを維持した。インビトロ研究デザインは、生体の腫瘍環境をシミュレートするには限界があるが、今回の研究結果は、HSAベース#1ゲルが、局所再発率をさらに低下させるアブレーション後の抗腫瘍治療に有用であるという直接的な証拠を提供している。すなわち、HSAベース#1ゲルと薬物組成物とを組み合わせて使用することによって、アブレーションの効果が高まり、治療薬がアブレーション中に標的組織に直接送達され、アブレーション後数日間標的組織で溶出される。
【0159】
実施例14
広い周波数スペクトルおよび温度にわたるHSAサンプルのマイクロ波特性評価
図24は、サンプルHSA209の915MHzにおける20℃~90℃の範囲の温度に対する周波数の関数としての(a)比誘電率(図24A)、(b)e’’(図24B)、(c)伝導率(図24C)を示している。これらの場合、e’’および伝導率は、定数および周波数による乗算を除けば本質的に同じものである。周波数によってデータに若干のリップルが見られるが、これはこの測定手法ではごく一般的なものである。結果は、温度の関数として特性が一貫して単調に変化することを示している。伝導率の値はかなり高いと考えられるが、伝導率の値が高いということは、ゲル内の減衰を示している。ゲル中の減衰は、TA材料にとって望ましい。
【0160】
図24Aは、915MHzでのサンプルHSA209の20℃~90℃の温度範囲に対する周波数の関数としての比誘電率のプロットを示している。
【0161】
図24Bは、915MHzでのサンプルHSA209の20℃~90℃の温度範囲に対する周波数の関数としてのe’’のプロットを示している。
【0162】
図24Cは、915MHzでのサンプルHSA209の20℃~90℃の温度範囲に対する周波数の関数としての伝導率のプロットを示している。
【0163】
4つの異なるHSAサンプルの温度依存誘電特性を915MHzおよび2450MHzで測定した。特に、4つのサンプルは、20℃~88℃の温度で、915MHzおよび2450MHzで測定された。
【0164】
図25は、915MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の(a)比誘電率(図25A)、(b)e’’(図25B)、および(c)伝導率を、20℃~90℃の範囲の温度の関数として示している(図25C)。
【0165】
図25Aは、915MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての比誘電率を示している。
【0166】
図25Bは、915MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としてのe’’のプロットを示している。
【0167】
図25Cは、915MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての伝導率のプロットを示している。
【0168】
図26は、2450MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての(a)比誘電率(図26A)、(b)e’’(図26B)、および(c)伝導率を示している(図26A)。
【0169】
図26Aは、2450MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての比誘電率のプロットを示している。
【0170】
図26Bは、2450MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としてのe’’のプロットを示している。
【0171】
図26Cは、2450MHzでのサンプルHSA175、HSA196、HSA209、およびHSA216の20℃~90℃の範囲の温度の関数としての伝導率のプロットを示している。
【0172】
全体として、温度と周波数に対する傾向はほぼ同じである。サンプルごとに多少のオフセットがあるようで、最も大きいのは誘電率である。オフセットのばらつきは、2450MHzのケースで大幅に減少しているようである。これらの測定は、通常約5%以内の精度と考えるべきである。参照として、純粋な脱イオン水の電気伝導率は、常温で5×10-6S/mであり、一般的な飲料水の電気伝導率は0.02S/mである。我々のHSAベース#1ゲルは、常温で約3S/mであり、これは電気伝導率に関して脱イオン水の600,000倍、飲料水の150倍優れていることを意味する。HSAベース#1ゲルの電気伝導率は、どちらの周波数(915MHzおよび2450MHz)でも、温度を上げるにつれて同程度の大きさ(約4S/m)で上昇することが注目される。35℃では、HSAベース#1ゲルの電気伝導率は約3-3.5S/mであり、表4に示されるように、肝臓、肺、筋肉などのほとんどのヒト組織よりも10倍以上高い。さらに、HSAベース#1ゲルのMWエネルギー吸収能力は、脱イオン水と生理食塩水のそれぞれと比較して、約600Kおよび70倍である。HSAベース#1ゲルの電気伝導率が人体組織よりも著しく高いことは、このゲルが、HSAベース#1ゲルを注入した場所にさらにアンテナを挿入した場合と同様に、アンテナからのMWエネルギーを周囲の組織よりもはるかに効率よく吸収できることを示唆している。
【0173】
【表4】
【0174】
実施例15
熱促進剤および薬物送達システムとしてのHSAベース#1ゲル
要約 HSAベース#1ゲル技術は、MWAおよびRFAの両方において、ヒートシンク効果を排除し、標的組織の誘電特性を改善することにより、熱的アブレーション性能を向上させることが上記で実証されている。本研究では、HSAベース#1ゲル技術が、熱促進剤(TA)および薬物溶出システム(DES)として、それぞれアブレーション中およびアブレーション後に使用できることを実証した。
【0175】
TAとDESとを組み合わせた特性を示すために、HSAベース#1ゲルを2つの連続的な事象について検討された。第1に、薬物を含浸させたHSAベース#1ゲルは、アブレーション速度を速めることができた。第2に、アブレーション完了後、凝固したゲルが薬物を放出した。ここでは、ドキソルビシン、ソラフェニブ、レシキモドの3つの治療薬を試験した。ドキソルビシンは、膀胱癌、乳癌、肺癌、および卵巣癌などの治療によく使用される、十分に実証された抗腫瘍剤である。ソラフェニブはプロテインキナーゼ阻害剤で、肝細胞癌の治療によく使用されている。ドキソルビシンおよびソラフェニブの両方は、健康な細胞にも腫瘍細胞にも無差別に細胞毒性を示す。レシキモドはTLR7/8アゴニストであり、腫瘍関連マクロファージを刺激して免疫療法の効果を増強するために使用される。
【0176】
予備的研究として、HSAベース#1ゲルをドキソルビシンHCl(Sigma-Aldrich、米国)と1:1の比率で混合した(それぞれ、結合能力=1:1.5)。Dox-ゲル(1mL)をアガロースファントムのアンテナから約1cm離して置き、マイクロ波アブレーション(915MHz、60W、10分、Varian、米国)を行った。アブレーション後、凝固したDox-ゲルメッシュワークを分離するためにアガロースゲルを注意深く切り取り、クエン酸緩衝液(約pH6.8)に移した。Dox-ゲルメッシュワークを36℃の緩衝液中で種々の時間間隔:6、12、24、48、および72時間撹拌し、各サンプルをMWカットオフ30kのフィルターにかけた。濾過された各サンプル溶液からのドキソルビシンの濃度とドキソルビシンの溶出プロファイルは、HPLCシステム(500nmで、Agilent HPLCシステム1100、米国)を使用して決定した。Dox-ゲルを使用したマイクロ波アブレーションは、Doxなしのアブレーションと比較して、熱促進剤と同様の温度プロファイルを示した:Dox-ゲルのt@60℃ 3分未満;対照 10分超。Dox溶出プロファイルは、6.8%、7%、7.8%@アブレーション後6時間、12時間、24時間である。[0181 148]
【0177】
図21は、アブレーション前(A)、アブレーション中(3分)(B)、アブレーション後それぞれ6時間(C)、24時間(D)および48時間(E)の、ドキソルビシン+HSAベース#1ゲルの薬物溶出の画像を示している。溶液には1(w/v)%のアガロースファントムが含まれていた。アブレーション条件:915MHz、60W、10分間。
【0178】
このように、HSAベース#1ゲルは、熱促進剤としての効果を失うことなく、薬物、例えばドキソルビシン、ソラフェニブ、およびレシキモドを含浸させたままアブレーションできることが実証された。さらに、局所的に凝固したゲル内に捕捉された薬物は、予測可能な速度で周囲の組織に溶出することができる。したがって、この戦略は、全身的な分布の代わりに必要な場所で薬物を利用できるようにすることで、様々な病変の治療における壊滅的な副作用を軽減するための効果的な薬物送達方法となり得る。さらに、免疫調節薬、例えばレシキモドを使用することで、より改善された併用免疫療法への道筋を提供することができる。
【0179】
実施例16
アブレーション中およびアブレーション後のドキソルビシンの熱促進剤、薬物送達システム、および薬物溶出システムとしてのHSAベース#1ゲルの熱活性化併用療法(TACT)
HSAベース#1ゲル技術は、MWAおよびRFAの両方において、ヒートシンク効果を排除し、標的組織の誘電特性を改善することによって、熱的アブレーションの性能を高めることが、上記で実証されている。本研究は、HSAベース#1ゲル技術が、熱促進剤(TA)、薬物送達システム(DDS)、および薬物溶出システム(DES)として、それぞれアブレーション中およびアブレーション後に使用できることを実証している。すなわち、HSAベース#1ゲル技術は、標的組織がアブレーション治療を受けている間だけでなく、アブレーション後にも、熱促進剤(TA)の利点を提供し、薬物溶出システムを提供することができる。
【0180】
TA、DDS、およびDESを組み合わせた特性を示すために、HSAベース#1ゲルについて、2つの連続した事象を調べた。第1に、薬物を含浸させたゲルはアブレーション速度を加速することができた。第2に、アブレーション完了後、凝固したゲルが薬物を放出した。ここでは、ドキソルビシンという薬物を試験した。ドキソルビシンは、膀胱癌、乳癌、肺癌、および卵巣癌などの治療によく使用される、十分に実証された抗腫瘍剤である。ドキソルビシンは健康な細胞にも腫瘍細胞にも無差別に細胞毒性を示す。
【0181】
予備的研究として、HSAベース#1ゲルをドキソルビシンHCl(Sigma-Aldrich、米国)と1:1の比率で混合した(それぞれ、結合能力=1:1.5)。Dox-ゲル(1mL)をアガロースファントムのアンテナから約1cm離して置き、マイクロ波アブレーション(915MHz、60W、10分、Varian、米国)を行った。アブレーション後、凝固したDox-ゲルメッシュワークを分離するためにアガロースゲルを注意深く裁断し、クエン酸緩衝液(約pH6.8)に移した。Dox-ゲルメッシュワークを36℃の緩衝液中で種々の時間間隔:6、12、24、48、および72時間撹拌し、各サンプルをMWカットオフ30kのフィルターにかけた。濾過された各サンプル溶液からのドキソルビシンの濃度とドキソルビシンの溶出プロファイルとは、HPLCシステム(500nmで、移動相として1%(w/v)酢酸アンモニウムを含むアセトニトリルと水のグラジエント、Agilent HPLCシステム1100、米国)を使用して決定した。Dox-ゲルを使用したマイクロ波アブレーションは、Doxなしのアブレーションと比較して、熱促進剤と同様の温度プロファイルを示した:Dox-ゲルのt@60℃ 3分未満;対照 10分超。薬物は凝固したHSAベース#1ゲルから用量依存的に溶出され(2.1>1.1>0.6mg)、ドキソルビシンの一部のみが時間経過とともに溶出された(それぞれ57、64、87%)。また、溶出率は1時間が最も高く、1時間>3時間>24時間>72時間の順に遅くなった。
【0182】
さらに、凝固したDox-ゲルの腫瘍細胞に対する効果:HT29細胞について調べた。HT29細胞を3群に分けた:1.対照;2.Dox-ゲルで処理;3.熱処置した細胞(水浴で47℃、30分間)+2。8ウェルプレートで増殖させたHT29細胞に、凝固させたDox-ゲルを3、6、24、48、および72時間の間、既知量置いた。各時点で、公表されている方法で細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。PI染色は細胞不浸透性色素で、細胞表面で弱い蛍光を発し、535nmおよび617nmに励起極大と発光極大を持つ生存細胞から排除される。細胞膜が破壊され、PIが細胞内に入り込むと、DNAとインターカレートし、その蛍光を30倍まで強化する。細胞死(ネクローシスvsアポトーシス)、曝露期間、腫瘍細胞に対するアブレーション誘発温熱効果に関して、3つの群を定量的に比較した。
【0183】
したがって、HSAベース#1ゲルは、熱促進剤としての効果を失うことなく、ドキソルビシンを含浸させたままアブレーションできることが実証された。さらに、局所的に凝固したゲル内に捕捉された薬物は、予測可能な速度で周囲の組織に溶出することができる。このTACT併用戦略は、全身的な分布の代わりに必要な場所で薬物を利用できるようにすることで、様々な病変の治療における壊滅的な副作用を軽減する効果的な薬物送達方法となり得る。現在、免疫調節薬、例えばレシキモドが、改良された「(熱+薬物)併用」免疫療法への道筋を検討するために使用されている。
【0184】
実施例17
治療組成物に関して、使用され得る物質には、PD-1ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ニボルマブ(オプジーボ)、セミピリマブ(リブタヨ)、PD-L1アテゾリズマブ(テセントリク)、アベルマブ(バベンチオ)、デュルバルマブ(イミフィンジ)およびCTLA4イピリムマブ(ヤーボイ)、siRNA、ペプチド、タンパク質、免疫原、RNA、mRNA、DNA、またはヌクレオシドアナログベースの薬剤のうちの1つ以上が含まれる。
【0185】
治療組成物は、治療物質を含むHSAベース#1ゲルの併用療法とは別々に注入してもよい。追加の治療組成物には、癌免疫療法においてマクロファージを標的とするものが含まれる:追加の治療組成物には、以下のものが含まれる:CSF1(MCS110);CCL2(CNTO888);CCR2(BMS-813160、CCX872-B、MLN1202、PF-04136309);SIRPa(TTI-622、CC-95251、BI765063、FSI-189);TIE2(CEP-11981、レゴラフェニブ、Arry-614);アルギナーゼ(INCB001158);HER2(CAR-マクロファージ);GCビタミンD結合タンパク質(EF-022);CD40(SEA-CD40、APX005M、CP870,893、R07009879、CDX-1140、SGN-40、HCD122、2141V-11、ADC-1013、LVGN7409、Chi Lob 7/4、NG-350A);BTK(イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ);CSF 1R(PLX-3397、BLZ945、ARRY-382、JNJ-40346527、IMC-CS4、FPA008、RO5509554、TPX-0022、DCC-3014、Q702、SNDX-6532);またはCD47(Hu5F9-G4、TTI-621、AO-176、IBI322、ZL 1201、CC-90002、HX009、IBI188、SRF231、AK117、IMC-002)。
【0186】
例示的な実施形態では、cGAS-STING-TBK1シグナル伝達経路は、ADU-S100、MK-1454、MK-2118、BMS-986301、GSK3745417、SB-11285、IMSA-101で標的化され得る。
【0187】
例示的な実施形態では、癌ワクチンは以下を含み得る:
TLRおよびSTINGアゴニスト:標的(アゴニストの例);
RIG-I/MDASおよびTLR3(poly-ICLC);TLR4(G100);TLR7/8(NKTR-262、レシキモド);TLR9(CpG ODN SD-101、(VLP)カプセル化-TLR9アゴニストCMP-001);STING(MK1454、E7766、ADU-S100、BMS-986301、SB-11285);FLT3LおよびCD40アゴニスト:標的(アゴニストの例);およびrhFLT3L(CDX-301);アゴニスト抗CD40抗体(APX005M、CDX-1140、SEA-CD40)
【0188】
実施例18
薬物技術を含むHSAベース#1ゲルの熱活性化併用療法(TACT)は、乳房(良性および悪性、甲状腺(良性および悪性)、肺(原発性および転移性)、肝臓(原発性および転移性、肝臓手術マージン凝固)、副腎(良性機能、癌および転移性)、腎臓(原発性および転移性)、骨、前立腺、軟部組織(原発性および転移性)を含む様々な癌/腫瘍種類の熱的アブレーションに適用することができる。このTACTは、抗感染剤または抗炎症剤などの治療部位の治癒を助ける治療剤を用いて、癌以外の治療部位にさらに適用することができる。
【0189】
例示的な実施形態では、この熱活性化併用療法は、子宮内膜アブレーション/月経痛にさらに適用することができ、子宮の治療に用いることができる。
【0190】
例示的な実施形態では、この熱活性化併用療法は、脊椎除圧および除神経にさらに適用することができ、椎体の治療に使用することができる。
【0191】
例示的な実施形態では、この熱活性化併用療法は、前立腺肥大症(BPH)にさらに適用することができる。
【0192】
例示的な実施形態では、この熱活性化併用療法は、焼灼剤として、食道(逆流)、気管支樹(肺気腫減少)、胆道樹(腫瘍からのステント閉塞)、関節(弛緩)、外科的切除および出血にさらに適用することができる。
【0193】
上述の実施形態は、単に例示的であることを意図しており、多数の変形および修正が当業者には明らかであろう。このような変形および修正は、添付の特許請求の範囲のいずれかによって定義される例示的な実施形態の範囲内にあることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21
図22A
図22B
図23A
図23B
図24A
図24B
図24C
図25A
図25B
図25C
図26A
図26B
図26C
【国際調査報告】