(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】デント病に対する遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240517BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240517BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240517BHJP
A01K 67/0276 20240101ALI20240517BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240517BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240517BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K48/00
C12N15/867 Z ZNA
C12N15/12
A01K67/0276
A61P13/12
A61K35/76
A61K38/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572750
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-11
(86)【国際出願番号】 US2022030264
(87)【国際公開番号】W WO2022251060
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】314013202
【氏名又は名称】ウェイク フォレスト ユニバーシティー ヘルス サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ルー バイソン
(72)【発明者】
【氏名】アタラ アンソニー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA53
4C084DC50
4C084MA16
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA81
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA16
4C087MA22
4C087MA23
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA43
4C087MA52
4C087MA55
4C087MA56
4C087MA59
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA81
(57)【要約】
本発明は、その必要のある対象におけるデント病の治療に有用な方法および組成物を含む。本開示の発明はまた、デント病の研究に有用なマウスモデルも含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要のある対象においてデント病を治療するための方法であって、該対象に、CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターの有効量を投与する工程を含み、それにより、該疾患を治療する、該方法。
【請求項2】
前記核酸ベクターが、レンチウイルスベクターである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記核酸ベクターが、CLCN5タンパク質の発現を駆動するプロモーターに機能的に連結されている、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記プロモーターが、構成的プロモーターである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記プロモーターが、EF-1αプロモーターである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記プロモーターが、組織特異的プロモーターである、請求項3記載の方法。
【請求項7】
組織特異的プロモーターが、腎尿細管近位細胞に特異的である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
組織特異的プロモーターが、Npt2aおよびSgt12からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
レンチウイルスベクターが、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる、請求項2記載の方法。
【請求項10】
前記投与が、腎臓に局所的に送達される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
局所的な腎臓投与が、逆行性尿管注射によって送達される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
細胞におけるCLCN5遺伝子の変異を修正するための方法であって、細胞を、機能的CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターと接触させる工程を含む、該方法。
【請求項13】
前記核酸ベクターが、レンチウイルスベクターである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記核酸ベクターが、CLCN5タンパク質の発現を駆動するプロモーターに機能的に連結されている、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記プロモーターが、構成的プロモーターである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記プロモーターが、EF-1αプロモーターである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記プロモーターが、組織特異的プロモーターである、請求項14記載の方法。
【請求項18】
組織特異的プロモーターが、腎尿細管近位細胞に特異的である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
組織特異的プロモーターが、Npt2aおよびSgt12からなる群より選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
レンチウイルスベクターが、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる、請求項13記載の方法。
【請求項21】
CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターと薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項22】
前記核酸ベクターが、レンチウイルスベクターである、請求項21記載の薬学的組成物。
【請求項23】
レンチウイルスベクターが、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項24】
1型デント病のマウスモデルであって、該マウスが、該マウスのCLCN5遺伝子に1つまたは複数の変異を含む、該マウスモデル。
【請求項25】
前記1つまたは複数の変異が、欠失である、請求項24記載のマウスモデル。
【請求項26】
前記欠失が、CLCN5遺伝子のエクソン3、エクソン4、エクソン5、エクソン6、エクソン7、エクソン8、エクソン9、エクソン10、およびエクソン11に影響する、請求項25記載のマウスモデル。
【請求項27】
前記1つまたは複数のCLCN5変異が、非機能的CLCN5タンパク質をもたらす、請求項24記載のマウスモデル。
【請求項28】
実験動物の繁殖が、異なる系統の雄親および雌親を必要とする、請求項24記載のマウスモデル。
【請求項29】
雌親がCLCN5変異についてヘテロ接合性であり、雄親が野生型である、請求項28記載のマウスモデル。
【請求項30】
雄親が、FVBバックグラウンドのものである、請求項28記載のマウスモデル。
【請求項31】
雌親が、C57BL/6バックグラウンドのものである、請求項28記載のマウスモデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法119条(e)項の下、2021年5月26日に出願された米国仮特許出願第63/193,212号の優先権を主張する権利を有し、該仮特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
2022年5月20日に作成された29キロバイトを含む名称「205286_7010WO1SequenceListing」のASCIIテキストファイルは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
デント病は、尿中の異常に高い量のタンパク質および過剰なカルシウムを特徴とする慢性腎臓障害である。デント病は、血流から濾過された栄養素、水および他の物質を再吸収する近位腎尿細管の細胞の能力を低下させる遺伝子変異によって引き起こされる。デント病の臨床症状は、幼児期に現れ、時間の経過と共に悪化する。デント病を引き起こす腎機能障害は、腎細胞に徐々に損傷を与え、最終的に、腎組織の石灰化、腎臓結石、腹痛、反復性尿路感染、慢性腎臓病および腎不全からの広範な症状を引き起こす。
【0004】
遺伝学的に、デント病は、CLCN5またはOCRL1のいずれかの遺伝子の機能喪失型変異によって引き起こされ、それにより、この疾患は2種類に分けられる。1型デント病は、CLCN5遺伝子の変異を特徴し、一方、2型デント病は、OCRL1の変異を伴う。両遺伝子は、X連鎖劣性であり、その結果、患者の大半は男性であるが、女性が、無症候性「キャリア」である場合があり、ランダムなX染色体不活性化に起因する軽度の高カルシウム尿を患う場合がある。1型デント病は、全症例の60%前後でよく見られ、2型は症例の15%で、残りの25%は病因不明である。2型デント病は、しばしば、軽度知的障害、低血圧および軽度白内障を伴う。現在、デント病に対しては補助的治療しかなく、それらのどれも疾患の原因をターゲットとしていない。重症例は、しばしば、腎移植によって治療されるが、そのような戦略は、適合するドナーの特定、侵襲的手術、および拒絶反応を遅らせるための生涯にわたる免疫抑制を必要とする。
【0005】
したがって、正常な腎機能を回復させるためにデント病の要因となる変異した遺伝子を修正する治療が必要とされている。本発明は、これらの必要性に応えるものである。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に記載するように、本発明は、その必要のある対象における1型デント病の治療に有用な方法および組成物に関する。本開示の発明はまた、デント病の研究に有用なマウスモデルも含む。
【0007】
よって、一局面では、本発明は、その必要のある対象においてデント病を治療するための方法であって、対象に、CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターの有効量を投与する工程を含み、それにより、疾患を治療する方法を含む。
【0008】
ある特定の態様では、核酸ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0009】
ある特定の態様では、核酸ベクターは、CLCN5タンパク質の発現を駆動するプロモーターに機能的に連結されている。
【0010】
ある特定の態様では、プロモーターは、構成的プロモーターである。
【0011】
ある特定の態様では、プロモーターは、EF-1αプロモーターである。
【0012】
ある特定の態様では、プロモーターは、組織特異的プロモーターである。
【0013】
ある特定の態様では、組織特異的プロモーターは、腎尿細管近位細胞に特異的である。
【0014】
ある特定の態様では、組織特異的プロモーターは、Npt2aおよびSgt12からなる群より選択される。
【0015】
ある特定の態様では、レンチウイルスベクターは、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる。
【0016】
ある特定の態様では、投与は、腎臓に局所的に送達される。
【0017】
ある特定の態様では、局所的な腎臓投与は、逆行性尿管注射によって送達される。
【0018】
別の局面では、本発明は、細胞におけるCLCN5遺伝子の変異を修正するための方法であって、細胞を、機能的CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターと接触させる工程を含む方法を含む。
【0019】
ある特定の態様では、核酸ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0020】
ある特定の態様では、核酸ベクターは、CLCN5タンパク質の発現を駆動するプロモーターに機能的に連結されている。
【0021】
ある特定の態様では、プロモーターは、構成的プロモーターである。
【0022】
ある特定の態様では、プロモーターは、EF-1αプロモーターである。
【0023】
ある特定の態様では、プロモーターは、組織特異的プロモーターである。
【0024】
ある特定の態様では、組織特異的プロモーターは、腎尿細管近位細胞に特異的である。
【0025】
ある特定の態様では、組織特異的プロモーターは、Npt2aおよびSgt12からなる群より選択される。
【0026】
ある特定の好ましい態様では、レンチウイルスベクターは、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる。
【0027】
別の局面では、本発明は、CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターと薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を提供する。
【0028】
ある特定の態様では、核酸ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0029】
ある特定の態様では、レンチウイルスベクターは、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる。
【0030】
別の局面では、本発明は、1型デント病のマウスモデルであって、マウスが、マウスのCLCN5遺伝子に1つまたは複数の変異を含むマウスモデルを含む。
【0031】
ある特定の態様では、1つまたは複数の変異は、欠失である。
【0032】
ある特定の態様では、欠失は、CLCN5遺伝子のエクソン3、エクソン4、エクソン5、エクソン6、エクソン7、エクソン8、エクソン9、エクソン10、およびエクソン11に影響する。
【0033】
ある特定の態様では、1つまたは複数のCLCN5変異は、非機能的CLCN5タンパク質をもたらす。
【0034】
ある特定の態様では、実験動物の繁殖は、異なる系統の雄親および雌親を必要とする。
【0035】
ある特定の態様では、雌親はCLCN5変異についてヘテロ接合性であり、雄親は野生型である。
【0036】
ある特定の態様では、雄親は、FVBバックグラウンドのものである。
【0037】
ある特定の態様では、雌親は、C57BL/6バックグラウンドのものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
以下の本発明の具体的な態様の詳細な説明は、添付の図面と併せて読んだ際により良く理解されよう。本発明を例証する目的で、例示的な態様を図面に示している。しかしながら、本発明は、図面に示される態様の厳密な配置および手段に限定されないことが理解されるべきである。
【0039】
【
図1】
図1A~1Bは、デント病におけるCLCN5遺伝子の変異全体像を示している図解である。
図1Aは、既知の変異の位置および種類を示しているCLCN5遺伝子の図解である。
図1Bは、各種の変異の頻度を示しているチャートである。
【
図2】
図2A~2Bは、CLCN5の欠失を介してデント病マウスモデルを作製する戦略を示している図解である。
図2Aは、エクソン3~11にわたる欠失した領域の末端の位置(矢印)を示している。
図2Bは、標的領域の欠失の成功を示している完成した変異体の配列である。
【
図3】
図3A~3Bは、CLCN5ノックアウトマウスを生成させるために必要な繁殖戦略を図示している。
図3Aは、正常マウスとノックアウトマウスの予想メンデル比が50/50であることを図示しているが、C57BL/6雌キャリアを同じ系統の正常雄と繁殖させたとき、予想よりもはるかに少ないノックアウト雄仔が生まれ、このことは、胚致死性を示唆している。
図3Bは、予想される比のノックアウト、ヘテロ接合(キャリア)および野生型仔を得るために必要な混合C57BL/6およびFVBバックグラウンド繁殖戦略を示している。
【
図4】
図4は、CLCN5ノックアウトマウスが、検出可能なレベルのCLCN5 mRNAまたはタンパク質を産生しないことを図示している。
【
図5】
図5は、SDS-PAGEによってアッセイした場合に、CLCN5ノックアウトマウスが、野生型マウスよりも劇的により多くのアルブミンを尿中に分泌することを図示している。2匹のノックアウトマウスおよび2匹の野生型マウスからの3種の濃度(50μg、100μg、および200μg)がゲル上で分離された。ボックスは、約66kDaのバンド(おそらくアルブミン)を示している。
【
図6】
図6は、アルブミン(左)およびビタミンD結合タンパク質(右)をウエスタンブロッティングによってアッセイした場合に、CLCN5変異マウスで尿タンパク質分泌がより高いことを裏付ける研究を図示している。
【
図7】
図7は、hCLCN5発現のためのレンチウイルスベクターの設計を示している図解である。
【
図8】
図8は、RT-qPCR(左)およびウエスタンブロッティング(右)によって測定した場合に、CLCN5レンチウイルスベクターが、形質導入細胞においてCLCN5発現を誘導することができることを図示している。
【
図9】
図9A~9Bは、逆行性尿管注射を介したCLCN5レンチウイルスベクターの送達を図示している。
図9Aは、逆行性尿管注射の図解(左)ならびに注射手技中の上手く位置付けられた尿管および腎臓の顕微鏡写真である。
図9Bは、一週間前にGFP発現レンチウイルスを注射したマウス(右)または未処置対照マウス(左)からの腎組織の蛍光顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、逆行性尿管注射を介して送達されるCLCN5発現レンチウイルスベクターを用いてCLCN5ノックアウトマウスを処置するインビボ研究の設定の図解である。
【
図11】
図11は、SDS-PAGEによって評価した場合に、変異マウスのCLCN5レンチウイルスによる処置が、尿タンパク質を大きく低減させることを図示している。
【
図12】
図12は、レンチウイルス処置ノックアウトマウスにおける具体的な尿タンパク質の低減を図示している。研究は、アルブミン(左)またはビタミンD結合タンパク質(DBP、右)を評価した。
【
図13】
図13は、レンチウイルス処置マウスにおけるCC16タンパク質の低減を図示している。
【
図14】
図14は、SDS-Pageによって評価した場合に、レンチウイルス療法により誘導された変異マウスにおける尿タンパク質の低減が、注射後2カ月まで持続可能であった(左)一方で、未処置変異体は、いかなるタンパク質レベルの低下も実証しなかった(右)ことを図示している。
【
図15】
図15は、CLCN5レンチウイルス処置ノックアウトマウス、未処置対照またはGFP対照レンチウイルスを受けたマウスの尿の体積(上部)およびタンパク質レベル(中央)およびカルシウムイオンレベル(下部)を図示している。
【
図16A】
図16A~16Eは、CLCN5ノックアウトマウスの生成および特性評価を図示している。
図16A. マウスCLCN5および26キロbp領域を欠失させるために使用されるsgRNAの遺伝子構造。
図16B. 変異マウスの腎臓におけるCLCN5 mRNA発現の欠如のRT-PCRによる確認。2匹の正常および2匹の変異雄マウスを分析した。逆転写なしで正常腎臓からのRNAの鋳型を使用したRT-PCR産物。プライマーは、マウスCLCN5 cDNAに特異的であった。
図16C. 野生型および変異マウスの腎組織におけるCLCN5タンパク質のウエスタンブロッティング分析。
図16D. 野生型および変異雄の尿タンパク質のSDS-PAGE分析。*は、変異マウスからの尿試料中に観察された61kDaのタンパク質バンドを示しているが、野生型マウスからのものにはない。
図16E. 正常および変異マウスからの尿タンパク質のウエスタンブロッティング分析。CC10に対する試料順位(sample order)を、AlbおよびDBPのものとマッチするように再整列させた。Alb:アルブミン;DBP:ビタミンD結合タンパク質;CC10:クララ細胞(Clara Cells)10KDa分泌タンパク質。(
図16Dおよび16E)について、等体積の尿試料を分析し、各レーンは、異なるマウスからの尿試料を含有した。
【
図17】
図17A~17Eは、変異マウスの腎臓におけるヒトCLCN5の発現を図示している。
図17A. ヒトCLCN5発現レンチウイルスベクターの構成要素。
図17B. HEK293T細胞におけるmRNA発現のRT-qPCRによる検出。CLCN5発現およびGFP発現レンチウイルスベクター(10ng p24)を2.5×104個のHEK293T細胞に形質導入した。形質導入の48時間後、プライマーhCLCN5-FおよびhCLCN5-Rを用いたqRT-PCRによってCLCN5発現を検出した(配列について表1を参照のこと)。プライマーは、レンチウイルスベクターから発現されるコドン最適化ヒトCLCN5 mRNAに特異的であり、内因性CLCN5 mRNAを検出できなかった。***は、p<0.0001(t-検定)を示している。
図17C. 形質導入した腎近位尿細管細胞におけるCLCN5タンパク質のウエスタンブロッティング検出。CLCN5発現レンチウイルスベクター(28ng p24)を、野生型および変異マウスから単離した2.5×105個の腎近位尿細管細胞に形質導入した。ウエスタンブロッティングは、形質導入の72時間後に実施した。
図17D. CLCN5 LVを変異マウスの腎臓に送達した2週間後のウエスタンブロッティングによるCLCN5タンパク質の検出。
図17E. CLCN5 LVを変異マウスの腎臓に送達した2週間後の免疫蛍光によるCLCN5タンパク質発現の検出。それぞれ、FITCおよびAlex-594コンジュゲート二次抗体を使用して、野生型および変異マウスにおけるCLCN5を検出した。
【
図18-1】
図18A~18Eは、CLCN5遺伝子治療の治療効果を図示している。
図18A. CLCN5 LV送達ありおよびなしでの変異マウスにおけるメガリン発現の免疫蛍光分析。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核を染色し、青色で示された。
【
図18-2】
図18A~18Eは、CLCN5遺伝子治療の治療効果を図示している。
図18B. ImageJによる尿細管の平均蛍光強度の定量分析。
図18C. 変異マウスの両方の腎臓にレンチウイルスベクターを送達した後の尿タンパク質のSDS-PAGE分析。
図18D. 変異マウスの左腎臓へのCLCN5 LV注射の前後の尿マーカータンパク質のウエスタンブロッティング検出。
図18E. 変異マウスの両方の腎臓への遺伝子送達の前後の尿マーカータンパク質のウエスタンブロッティング検出。(
図18C~18E)について、ウイルスベクター注射の1ヶ月後に尿試料を収集した。試料毎に等しい尿体積を分析した。各レーンは、異なるマウスからの試料を含有した。
【
図19A】
図19A~19Bは、治療効果が遺伝子送達後最大4ヶ月続いたことを図示している。
図19A. 遺伝子治療後の様々な時点での利尿、尿タンパク質および尿カルシウムレベル。群サイズは、nによって示された。***は、両方の腎臓を処置したマウスをZsGreen LV処置マウスと比較したとき(両側t-検定)のP<0.0001を示している。
【
図19B】
図19A~19Bは、治療効果が遺伝子送達後最大4ヶ月続いたことを図示している。
図19B. CLCN5遺伝子送達後の様々な時点での尿マーカータンパク質のウエスタンブロッティング分析。片方の腎臓を処置したマウスからの等体積の尿試料を各レーンにロードした。
【
図20A】
図20A~20Fは、第2回用量のLVの送達が免疫応答の関与を示唆することを図示している。
図20A. 実験のスキーム。黒三角は、治療効果評価のための時間を示している。
図20B. 尿タンパク質のSDS-PAGE分析。マウスはすべて、雄変異体であった。マウス第6号は、初回用量のウイルスベクターを受けたナイーブマウスであり、マウス第1号~第5号は、初回用量を受けた5ヶ月後に第2回目のCLCN5 LV用量を受けた雄変異マウスであった。
図20B:ウイルス注射前;
図20A:ウイルス注射後。
図20C. 利尿(左)、尿タンパク質(中央)および尿カルシウム(右)排出に対する初回用量および第2回用量のウイルス注射の効果。データは、初回用量および第2回用量を受けた同じ5匹のマウスからであった。*:P<0.05(2元配置分散分析後にボンフェローニ事後検定)。
図20D. 初回および第2回ベクター注射後のqPCRを使用したベクターゲノムDNAの検出。
図20E. 初回および第2回ベクター注射後のRT-qPCRを使用したhCLCN5 mRNA発現の検出。
図20F. 初回および第2回ベクター注射後のウエスタンブロッティングを使用したCLCN5タンパク質発現の検出。パネル
図20B、
図20D、
図20Eおよび
図20Fにおいて同じマウスを分析した。
【
図21】
図21は、DNAシーケンシングによるCLCN5遺伝子ノックアウトの確認を図示している。水平矢印の上の配列は、3匹の創始雌(第6号、第20号および第34号)において欠失していた。イントロン2およびエクソン12中のsgRNA標的配列(下線付き)を示している。PAMは、緑色である。エクソン12中のリバースプライマーをシーケンシングに使用した。イントロン2とエクソン12との間の接合点を垂直矢印により示している。
【
図22】
図22は、CLCN5変異雄が予想よりも少なく得られたことを図示している。***は、フィッシャーの正確確率検定におけるp<0.0001を示している。
【
図23】
図23は、変異マウスの左腎臓へのCLCN5発現レンチウイルスベクターの送達後の尿タンパク質の低減を図示している。ウイルスベクター注射の1ヶ月後に尿試料を収集した。試料毎に同じ尿体積を分析した。
【
図24】
図24は、尿タンパク質レベルが、遺伝子送達の4ヶ月後に処置前レベルまで戻ったことを図示している。試料毎に同じ尿体積を分析した。B:処置前;1m~4m:遺伝子送達の1、2、3または4ヶ月後。2匹の代表マウスからの試料を示している。
【
図25】
図25A~25Bは、Clcn5ノックアウトマウスの生成および特性評価を図示している。
図25A. 雌マウスの尿体積、尿カルシウムおよび尿タンパク質の比較。野生型、ヘテロ接合およびホモ接合変異マウスは、81日齢であった。*、**および***は、指定の群間のp<0.05、p<0.01およびp<0.001を示している(1元配置分散分析後にテューキーの多重比較検定)。
図25B. 雄マウスの尿体積、尿カルシウムおよび尿タンパク質の比較。尿試料を2~2.5ヶ月のマウスから収集した。***は、野生型マウスと変異マウスとの間のp<0.0001を示している(両側の対応のないt-検定)。
【
図26】
図26A~26Bは、逆行性尿管注射によるマウス腎臓へのLVベクターの送達を図示している。
図26A. 逆行性尿管注射によるGFP LV送達の2週間後のマウス腎臓におけるGFPタンパク質発現の検出。マウスは、6月齢の野生型であり、両方の腎臓にGFP LV注射を受けた。GFP発現を免疫蛍光によって検出した(赤色で示す)。差込み図は、GFP陽性尿細管の拡大図であった。核を4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、青色で示される)によって染色した。
図26B. GFP LV送達の2週間後のqPCRによる様々な臓器におけるGFP LV DNAの検出。種々の臓器から単離したゲノムDNA試料をqPCRにおいて鋳型として使用して、GFP DNAを検出した。マウス第1号は、
図26Aに示している同じマウスであった。マウス第2号、第3号および第4号は、CLCN5 LV注射の10ヶ月後にGFP LV注射を受けた雄Clcn5変異マウスであった。GFP LV注射の2週間後にすべてのマウスを安楽死させた。破線は、検出限界を示している。
【
図27】
図27A~27Cは、CLCN5 LVが、変異マウスの腎臓においてCLCN5発現を回復させたことを図示している。
図27A. 野生型の腎臓における免疫蛍光によるCLCN5タンパク質の検出。差込み図は、星印でマークした糸球体における比較的弱いCLCN5発現を示している。
図27B. CLCN5 LV注射なしの変異マウスの腎臓における検出不能なCLCN5タンパク質。
図27C. CLCN5 LV注射の2週間後の変異マウスの腎臓におけるCLCN5タンパク質の検出。2つの半画像は、種々のCLCN5発現レベルを有する注射を受けた2つの腎臓からであった。
【
図28】
図28A~28Cは、CLCN5 LV遺伝子治療の治療効果を図示している。
図28A. 変異マウスの利尿に対するCLCN5 LV送達の効果。
図28B. 変異マウスの尿カルシウムに対するCLCN5 LV送達の効果。
図28C. 変異マウスの尿タンパク質に対するCLCN5 LV送達の効果。(
図28A~
図28C)について、すべての変異マウスが、87日齢時に280ngのp24 CLCN5またはZsGreen LVを左腎臓に受けた。各マウスからのデータを提示した。第1の基準点は、LV注射の時点を示し、処置前尿パラメーターは、LV注射の37日前に収集された尿試料からであった。処置後データは、指定の齢数時に収集された尿試料からの尿パラメーターを示した。破線は、本明細書に提示される過去の研究において提示された野生型雄マウスの値を示している。***は、処置前値と比較したp<0.001を示している(1元配置分散分析後にテューキーの多重比較検定)。
【
図29】
図29A~29Cは、両方の腎臓にCLCN5 LVを送達することの治療効果を図示している。
図29A. 変異マウスの利尿に対するCLCN5 LV送達の効果。齢数が一致した変異マウスに、CLCN5 LVまたはZsGreen LVを両方の腎臓に注射した。視認のために、5つのペアのうち3つのデータをここに提示し、他の2つのペアのデータを
図33に提示した。
図29B. 変異マウスの尿カルシウムに対するCLCN5 LV送達の効果。
図29C. 変異マウスの尿タンパク質に対するCLCN5 LV送達の効果。すべての変異マウスが、最初のデータ点の齢数時に280ngのp24 CLCN5またはZsGreen LVを両方の腎臓に受けた。各マウスからのデータを提示した。処置前尿試料は、LV注射の27日前に収集した。マウス毎の第1の基準点の齢数は、注射の齢数であった。処置後尿試料を指定の齢数時に収集した。破線は、本開示の過去の研究において提示された野生型雄マウスの値を示している。
【
図30】
図30は、Clcn5遺伝子ノックアウトマウスにおける予測されるオフターゲットのDNAシーケンシング解析を図示している。プロトスペーサー隣接モチーフ(または逆相補的配列)に赤線で下線を引き、標的配列に黒線で下線を引いた。オフ1、オフ2およびオフ3は、それぞれ、sgRNA 1、sgRNA 2およびsgRNA 3に対するオフターゲットであった。最後の画像は、タンパク質コード遺伝子上の唯一のオフターゲットであった。また、X染色体上の4つのオフターゲットを標識した。
【
図31】
図31A~31Cは、左腎臓にCLCN5 LVを送達することの効果を図示している。
図31A. 尿体積。
図31B. 尿カルシウム。
図31C. 尿タンパク質。CLCN5 LV(280ng p24)注射をマウス毎に第1の基準点の日に実施した。尿をLV注射の37日前に収集した。第2、第3および第4のデータ点は、尿試料が収集された実時間を示した。
【
図32】
図32A~32Cは、齢数が、変異マウスの尿パラメーターに大きく影響しなかったことを図示している。
図32A. 尿体積。
図32B. 尿カルシウム。
図32C. 尿タンパク質。各基準点は、異なる雄変異マウスからであった。破線は、95%信頼区間を示している。
【
図33】
図33は、利尿に対するCLCN5遺伝子治療を図示している。5つの齢数が一致したペアのうち2つを視認のためにここに提示した。その他の3つのペアは
図6Aに示した。両方の腎臓を処置した。
【
図34】
図34A~34Cは、両方の腎臓にCLCN5 LVを送達することの効果を図示している。
図34A. 尿体積。
図34B. 尿カルシウム。
図34C. 尿タンパク質。CLCN5 LV(280ng p24/腎臓)注射をマウス毎に第1の基準点の日に実施した。尿をLV注射の7日前に収集した。第2、第3、第4および第5のデータ点は、尿試料が収集された実齢数を示した。
【
図35】
図35は、CLCN5 LV注射ありおよびなしでのマウス腎臓における免疫蛍光によるGFPタンパク質の検出を描写している。ナイーブマウスは、CLCN5 LV事前注射なしでGFP LV注射を受けた6ヶ月野生型マウスであった。その他の3匹のマウス(CLCN5-LV、GFP-LV、第2号~第4号)は、CLCN5 LV注射の10ヶ月後にGFP LV注射を受けた変異マウスであった。GFP LV注射の2週間後にマウスを安楽死させた。
【発明を実施するための形態】
【0040】
詳細な説明
定義
別途定義される場合を除き、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関係する技術分野の通常の技能を有する者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または等価な任意の方法および材料を本発明の試験の実施において使用できるが、例示的な材料および方法を本明細書に記載している。本発明を説明および請求する際に、以下の専門用語が使用される。
【0041】
また、本明細書において使用される専門用語は、特定の態様を説明するためのものでしかなく、限定を意図するものではないことも理解されるべきである。
【0042】
「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」という冠詞は、本明細書において、その冠詞の文法的目的語の1つまたは1つ超(すなわち、少なくとも1つ)のことを指すために使用される。例として、「1つの要素」は、1つの要素または1つ超の要素のことを意味する。
【0043】
本明細書において使用される場合の「約」は、量、時間的持続期間などのような測定可能な値を指す場合、指定の値からの±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、なおより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味するが、これは、そのような変動が、開示される方法を実施する上で妥当なためである。
【0044】
「バイオマーカー」または「マーカー」は、本明細書において使用される場合、一般的に、疾患に関連する核酸分子、臨床指標、タンパク質、または他の分析物のことを指す。ある特定の態様では、核酸バイオマーカーは、限定されないがウイルス、ウイロイド、細菌、真菌、寄生蠕虫および原生動物を含めた病原微生物の試料中のその存在の指標である。様々な態様では、マーカーは、疾患(例えば、感染症)を有するかまたはそれを発症するリスクのある対象から得られた生体試料中に、参照と比べて差次的に存在する。マーカーは、試料中に存在するバイオマーカーの平均または中央レベルが参照中に存在するレベルと統計的に異なる場合に、差次的に存在する。参照レベルは、例えば、清浄なまたは汚染されていない供給源から得られた環境試料中に存在するレベルであり得る。参照レベルは、例えば、健康な対照の対象から得られた試料中に存在するレベル、またはより早い時点、すなわち、治療前に対象から得られたレベルであり得る。統計的有意性のための一般的な検定には、とりわけ、t-検定、分散分析(ANOVA)、クラスカル・ウォリス、ウィルコクソン、マン・ホイットニーおよびオッズ比が含まれる。バイオマーカーは、単独でまたは組み合わせで、対象が関心対象の表現型状態に属する相対的可能性の尺度を提供する。対象試料中の本発明のマーカーの差次的存在は、対象の予後を判定するために、治療有効性を評価するために、または治療計画を選択するために、疾患(例えば、感染症)を有するまたはそれを発症するリスクがあるとして対象を特徴付ける際に有用であり得る。
【0045】
「作用物質」とは、任意の核酸分子、低分子化合物、抗体もしくはポリペプチド、またはその断片のことを意味する。
【0046】
「変更」または「変化」とは、増加または減少のことを意味する。変更は、わずか1%、2%、3%、4%、5%、10%、20%、30%のもの、または40%、50%、60%のもの、またはさらには70%、75%、80%、90%もしくは100%もの多くのものであり得る。
【0047】
「生体試料」とは、任意の組織、細胞、流体、または他の生物由来材料のことを意味する。
【0048】
「捕捉試薬」とは、核酸分子またはポリペプチドを選択または単離するために核酸分子またはポリペプチドに特異的に結合する試薬のことを意味する。
【0049】
本明細書において使用される場合、「判定すること」、「評価すること」、「アッセイすること」、「測定すること」および「検出すること」という用語は、定量的判定と定性的判定の両方のことを指し、よって、「判定すること」という用語は、本明細書において、「アッセイすること」、「測定すること」などと互換的に使用される。定量的判定が意図される場合、分析物などの「量を判定すること」という語句が使用される。定性的および/または定量的判定が意図される場合、分析物の「レベルを判定すること」または分析物を「検出すること」という語句が使用される。
【0050】
「検出可能部分」とは、関心対象の分子に連結したときに、該分子が、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段を介して検出可能になる、組成物のことを意味する。例えば、有用な標識には、放射性同位体、磁気ビーズ、金属ビーズ、コロイド粒子、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(例えば、ELISAにおいて一般的に使用されるような)、ビオチン、ジゴキシゲニン、またはハプテンが含まれる。
【0051】
「疾患」は、動物が恒常性を維持できず、疾患が改善されなければ動物の健康が悪化し続ける動物の健康状態である。これに対して、動物における「障害」は、動物が恒常性を維持できるが、動物の健康状態が障害のない場合よりも好ましくない健康状態である。治療されず放置されても、障害は、必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすわけではない。
【0052】
「有効量」または「治療有効量」は、本明細書において互換的に使用され、特定の生物学的結果を達成するのに有効な、または治療的もしくは予防的利益性をもたらす、本明細書に記載されるような化合物、製剤、材料または組成物の量のことを指す。そのような結果には、当技術分野において好適な任意の手段によって判定されるような抗腫瘍活性が含まれ得るが、それに限定されるわけではない。
【0053】
「コードする」は、ヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)の定義された配列またはアミノ酸の定義された配列のいずれかおよびそれから生じる生物学的性質を有する、生物学的プロセスにおいて他のポリマーおよび巨大分子の合成のための鋳型として機能する、遺伝子、cDNAまたはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の固有の性質のことを指す。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳により細胞または他の生体系においてタンパク質が産生される場合、その遺伝子は、そのタンパク質をコードする。ヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり通常は配列表に示されるコード鎖も、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖も、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると称することができる。
【0054】
「断片」とは、核酸分子の一部分のことを意味する。この部分は、好ましくは、参照核酸分子またはポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%を含有する。断片は、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、または100個のヌクレオチドを含有し得る。
【0055】
「相同」は、本明細書において使用される場合、2つのポリマー分子間の、例えば、2つの核酸分子、例えば、2つのDNA分子もしくは2つのRNA分子間の、または2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列同一性のことを指す。2つの分子の両方におけるサブユニット位置が、同じ単量体サブユニットによって占有されるとき;例えば、2つのDNA分子の各々におけるある位置がアデニンによって占有される場合、これらは、その位置で相同である。2つの配列間の相同性は、一致しているまたは相同である位置の数の一次関数である;例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、10サブユニット長のポリマーにおける5つの位置)が相同である場合、2つの配列は、50%相同である;位置の90%(例えば、10中9)が一致しているまたは相同である場合、2つの配列は、90%相同である。
【0056】
「ハイブリダイゼーション」は、相補的核酸塩基間の、ワトソン・クリック、フーグスティーンまたは逆フーグスティーン水素結合であり得る水素結合を意味する。例えば、アデニンおよびチミンは、水素結合の形成を通じて対合する相補的ヌクレオチドである。
【0057】
「同一性」は、本明細書において使用される場合、2つのポリマー分子間、特に、2つのアミノ酸分子間、例えば、2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列同一性のことを指す。2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を有するとき;例えば、2つのポリペプチド分子の各々におけるある位置がアルギニンによって占有される場合、これらは、その位置で同一である。2つのアミノ酸配列がアライメントにおいて同じ位置で同じ残基を有する同一性または程度は、しばしば、百分率として表現される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、一致しているまたは同一である位置の数の一次関数である;例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、10アミノ酸長のポリマーにおける5つの位置)が同一である場合、2つの配列は、50%同一である;位置の90%(例えば、10中9)が一致しているまたは同一である場合、2つのアミノ酸配列は、90%同一である。
【0058】
本明細書において使用される場合、「取扱説明書」は、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために使用できる、出版物、記録、図表または任意の他の表現媒体を含む。本発明のキットの取扱説明書は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび/または組成物を含有する容器に貼り付けられていても、核酸、ペプチドおよび/または組成物を含有する容器と一緒に輸送されてもよい。あるいは、取扱説明書は、取扱説明書および化合物が受け手によって共同で使用されることを意図して、容器とは別に輸送されてもよい。
【0059】
「単離された」、「精製された」または「生物学的に純粋な」という用語は、その天然状態で見いだされる場合に通常それに付随している成分が様々な程度に除去されている材料ことを指す。「単離する」は、元々の供給源または環境からのある程度の分離を表す。「精製する」は、単離よりも高度の分離を表す。「精製された」または「生物学的に純粋な」タンパク質は、いかなる不純物もタンパク質の生物学的性質に実質的に影響を及ぼさないまたは他の有害事象を引き起こさないように、十分に他の材料が除去されている。すなわち、本発明の核酸またはペプチドは、組換えDNA技術によって生産されたときには、細胞材料、ウイルス材料もしくは培養培地が、または、化学合成されたときには、化学前駆体もしくは他の化学物質が実質的に除去されていれば、精製されている。純度および均一性は、典型的には、分析化学技術、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーを使用して判定される。「精製された」という用語は、核酸またはタンパク質が、電気泳動ゲルにおいて本質的に1つのバンドを生じることを表すことができる。修飾、例えば、リン酸化またはグリコシル化に供することができるタンパク質について、異なる修飾は、異なる単離されたタンパク質を生じる場合があり、これらは別々に精製することができる。
【0060】
「マーカープロファイル」とは、2つ以上のマーカー(例えば、ポリヌクレオチド)のシグナル、レベル、発現または発現レベルの特性評価のことを意味する。
【0061】
用語「微生物」とは、限定されないが細菌、ウイルス、真菌および寄生生物を含めた、一般的に使用される「微生物学」という用語の範囲内に分類されるあらゆる生物のことを意味する。
【0062】
用語「マイクロアレイ」とは、基板上に固定された核酸プローブの集合体のことを意味する。本明細書において使用される場合、「核酸」という用語は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチド、およびそれらの一本鎖または二本鎖形態のポリマーのことを指す。この用語は、合成の、天然に存在する、および天然に存在しない、公知のヌクレオチド類似体または修飾骨格残基もしくは連結を含有する核酸を包含する。本発明の方法において有用な核酸分子には、標的核酸(例えば、核酸バイオマーカー)に特異的に結合する任意の核酸分子が含まれる。そのような核酸分子は、内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には、実質的同一性を示す。内因性配列と「実質的同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも一方の鎖とハイブリダイズすることが可能である。「ハイブリダイズする」とは、様々なストリンジェンシーの条件下、相補的ポリヌクレオチド配列(例えば、本明細書に記載される遺伝子)またはその部分の間で二本鎖分子を形成するように対合することを意味する(例えば、Wahl, G. M. and S. L. Berger (1987) Methods Enzymol. 152:399;Kimmel, A. R. (1987) Methods Enzymol. 152:507を参照のこと)。
【0063】
用語「モジュレートすること」とは、本明細書において使用される場合、治療もしくは化合物の非存在下での対象における応答のレベルと比較して、および/または他の点は同一であるが治療されていない対象における応答のレベルと比較して、対象における応答のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、天然のシグナルまたは応答を撹乱および/またはそれに影響を与え、それにより、対象、好ましくは、ヒトにおいて有益な治療応答を媒介することを包含する。
【0064】
本発明との関連で、一般的に存在する核酸塩基について以下の略称を使用する。「A」は、アデノシンのことを指し、「C」は、シトシンのことを指し、「G」は、グアノシンのことを指し、「T」は、チミジンのことを指し、「U」は、ウリジンのことを指す。
【0065】
免疫原性組成物の「非経口」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、もしくは胸骨内注射、または注入技術が含まれる。
【0066】
本明細書において使用される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、互換的に使用され、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基で構成される化合物のことを指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を含むことができるアミノ酸の最大数に制限は設けられない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いに接続された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書において使用される場合、この用語は、当技術分野において一般的に例えばペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも称される短い鎖と、当技術分野において一般にタンパク質と称され、この中には多くの種類がある、より長い鎖の両方のことを指す。「ポリペプチド」には、例えば、とりわけ、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変種、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0067】
「参照」とは、比較の標準のことを意味する。当業者に明らかなように、適切な参照は、要素が変化する場合に要素の効果を判定するためのものである。一態様では、試料中に存在する標的核酸分子のレベルが、清浄なまたは汚染されていない試料中に存在する標的核酸分子のレベルと比較され得る。例えば、試料中に存在する標的核酸分子のレベルが、対応する健康な細胞もしくは組織または疾患細胞もしくは組織(例えば、疾患、障害もしくは病態を有する対象に由来する細胞もしくは組織)中に存在する標的核酸分子のレベルと比較され得る。
【0068】
本明細書において使用される場合、「試料」という用語は、任意の組織、細胞、流体、または他の生物由来材料などの生体試料を含む。
【0069】
「特異的に結合する」とは、ある分子(例えば、核酸バイオマーカー)を認識し、それに結合するが、試料、例えば、生体試料中の他の分子を実質的に認識せず、それに結合しない化合物(例えば、核酸プローブまたはプライマー)のことを意味する。
【0070】
「実質的に同一である」とは、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載されるアミノ酸配列のいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載される核酸配列のいずれか1つ)に対して少なくとも50%の同一性を示すポリペプチドまたは核酸分子のことを意味する。好ましくは、そのような配列は、比較に使用される配列に対して、アミノ酸レベルまたは核酸で、少なくとも60%、より好ましくは80%もしくは85%、より好ましくは90%、95%、96%、97%、98%もしくはさらに99%、またはそれ以上同一である。
【0071】
配列同一性は、典型的には、配列解析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705、BLAST、BESTFIT、GAP、またはPILEUP/PRETTYBOXプログラム)を使用して測定される。そのようなソフトウェアは、様々な置換、欠失および/または他の修飾に相同性の程度を割り当てることによって、同一または類似の配列をマッチさせる。保存的置換には、典型的には、以下の群内の置換が含まれる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リシン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。同一性の程度を判定するための例示的なアプローチでは、BLASTプログラムが使用されてよく、e-3~e-100の間の確率スコアが、密接に関連した配列を示す。
【0072】
用語「実質的に微生物のハイブリダイゼーションシグネチャー」とは、相対的な用語であり、腫瘍試料中に参照試料より多くの微生物が存在することを示すハイブリダイゼーションシグネチャーを意味する。用語「実質的に微生物のハイブリダイゼーションシグネチャーではない」とは、相対的な用語であり、参照試料中に腫瘍試料より少ない微生物が存在することを示すハイブリダイゼーションシグネチャーを意味する。
【0073】
「対象」とは、限定されないがヒトまたはウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、ネコ、マウスもしくはサルなどの非ヒト哺乳動物を含めた哺乳動物のことを意味する。「対象」という用語は、治療、観察または実験の対象である動物(例えば、患者)のことを指す場合がある。
【0074】
「標的核酸分子」とは、分析しようとするポリヌクレオチドのことを意味する。そのようなポリヌクレオチドは、標的配列のセンス鎖またはアンチセンス鎖であり得る。「標的核酸分子」という用語はまた、元の標的配列のアンプリコンのことも指す。様々な態様では、標的核酸分子は、1つまたは複数の核酸バイオマーカーである。
【0075】
「標的部位」または「標的配列」は、結合が起こるのに十分な条件下で結合分子が特異的に結合し得る核酸の一部分を規定するゲノム核酸配列のことを指す。
【0076】
「治療的」という用語は、本明細書において使用される場合、治療および/または予防のことを意味する。治療効果は、疾患状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0077】
本明細書において使用される場合、「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、「治療(treatment)」などの用語は、障害および/またはそれに関連する症状を低減することまたは改善することを指す。除外するわけではないが、障害または病態を治療することは、障害、病態またはそれらに関連する症状が完全に排除されることを必要としないことが認識されるであろう。
【0078】
「デント病(Dent disease)」または「デント病(Dent's disease)」という用語は、本明細書において使用される場合は、CLCN5および/またはOCRL1タンパク質をコードする遺伝子の部分的または完全な機能の喪失をもたらすこれらの遺伝子の変異欠損によって引き起こされる、低分子量タンパク尿、高カルシウム尿、アミノ酸尿および低リン酸血のX連鎖腎症候群のことを指す。CLCN5の喪失は、1型デント病に関連し、一方、OCRL1の喪失は、2型デント病に関連する。
【0079】
範囲:本開示全体を通して、本発明の様々な局面を範囲の形式で提示することができる。範囲の形式の記述は、単に便宜および簡略化のためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限と解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、範囲の記述は、可能なすべての部分範囲およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものと見なされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などのような部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を具体的に開示したものと見なされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0080】
説明
本発明は、デント病として知られる臨床的障害をもたらす遺伝子異常を、異常な遺伝子の機能的代替物をコードする核酸ベクターを提供することによって治療できるという、本明細書に記載される観察に基づくものである。本発明はまた、デント病関連遺伝子の発現が変異マウスにおいてノックアウトされているデント病のマウスモデルも含み、前記モデルは、デント病の研究および該疾患に対する治療法の開発に有用である。よって、一局面では、本発明は、その必要のある対象においてデント病を治療するための方法であって、対象に、CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターの有効量を投与する工程を含み、それにより、疾患を治療する方法を含む。別の局面では、本開示の発明は、細胞におけるCLCN5遺伝子の変異を修正するための方法であって、細胞を、機能的CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターと接触させる工程を含む方法を含む。
【0081】
デント病
デント病は、尿への大量の小タンパク質およびカルシウムイオンの分泌、腎石灰化、腎臓結石ならびに慢性腎臓病を特徴とする腎臓障害である。この疾患の進行型は、腎不全をもたらし得る。デント病は、X連鎖であり、その結果、ほとんどの患者が男性である;しかしながら、ヘテロ接合の女性が、おそらく腎組織におけるランダムなX不活性化に起因してこの疾患の軽症型を患う場合がある。デント病の症状は、通常、幼児期に現れる;しかしながら、軽度な症例は、成人期まで検出されないままの場合がある。いくつかの場合、この障害は、時間の経過と共に徐々に悪化し、典型的には30~50歳までに、慢性腎臓病および腎不全に至る。
【0082】
デント病は、2つの型にさらに分類される。1型デント病は、もっぱら前述の腎症状を特徴とするが、一方、2型デント病は、同じ腎症状に加え、通常、軽度知的障害、眼病変または筋緊張の低下(筋緊張低下症)を含めた他の発達障害を伴うことが特徴である。1型デント病は、CLCN5遺伝子の変異によって引き起こされ、一方、2型デント病は、OCRL1遺伝子の変異によって引き起こされるが、それらは共に、X染色体上に位置する。これらの変異は、遺伝性であり得るか、または既往家族歴なしにランダムに起こり得る。
【0083】
CLCN5遺伝子は、塩素チャネル(CLC)ファミリーの電位依存性塩素イオンチャネルをコードする。CLCN5は、腎近位尿細管細胞において最も高度に発現され、その細胞は、通常、糸球体フィルターを通過するタンパク質を再吸収する。CLCN5に対する多数の異なる変異がデント病との関係で観察されており、それらのすべてが、CLCN5タンパク質発現の喪失、または非機能的タンパク質の発現をもたらす。
【0084】
デント病に対する現行の治療は、個々の特定の症状に対する支持療法からなり、これは、根底にある遺伝子異常に対処していない。したがって、ある特定の態様では、本発明は、CLCN5遺伝子およびCLCN5タンパク質の機能的コピーを罹患組織に提供することを含むデント病を治療するための方法を含む。ある特定の態様では、CLCN5タンパク質は、CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターを介して送達される。
【0085】
遺伝子移入系およびレンチウイルスベクター
遺伝子移入系、例えば、本発明に記載されているものは、遺伝子構築物を標的細胞に輸送するためのベクターまたはベクター系に依存する。核酸を標的細胞および組織に導入する方法には、物理的、生物学的および化学的な方法が含まれる。ポリヌクレオチド、例えばRNAを標的細胞に導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、微粒子銃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれる。RNAは、エレクトロポレーションを含む商用の方法(Amaxa Nucleofector-II(Amaxa Biosystems, Cologne, Germany))、(ECM 830(BTX)(Harvard Instruments, Boston, Mass.)またはGene Pulser II(BioRad, Denver, Colo.)、Multiporator(Eppendort, Hamburg Germany)を使用して標的細胞に導入することができる。RNAはまた、リポフェクションを使用したカチオン性リポソーム介在性トランスフェクションを使用して、ポリマー封入を使用して、ペプチド介在性トランスフェクションを使用して、または「遺伝子銃」などのバイオリスティック粒子送達系を使用して細胞に導入することができる(例えば、Nishikawa, et al. Hum Gene Ther., 12(8):861-70 (2001)を参照のこと)。
【0086】
ポリヌクレオチドを標的細胞に導入するための化学的手段には、巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散系、ならびに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含む脂質ベース系が含まれる。インビトロおよびインビボの送達ビヒクルとして使用するための例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0087】
使用に適した脂質は、商業的供給源から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma, St. Louis, MOから入手することができ;リン酸ジセチル(「DCP」)は、K & K Laboratories(Plainview, NY)から入手することができ;コレステロール(「Choi」)は、Calbiochem-Behringから入手することができ;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc.(Birmingham, AL)から入手してもよい。脂質のクロロホルムまたはクロロホルム/メタノール溶液の原液は、約-20℃で保管することができる。クロロホルムは、メタノールよりも容易に蒸発するので唯一の溶媒として使用される。「リポソーム」は、封入された脂質二重層または凝集体の生成によって形成される、多様な単一および多重膜脂質ビヒクルを包含する総称である。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体を備えた小胞構造を有するものとして特徴付けることができる。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質を過剰の水溶液に懸濁させると自然に形成される。閉鎖構造の形成前に、脂質成分は自己再構成を経て、脂質二重層間に水と溶解した溶質を閉じ込める(Ghosh et al., (1991) Glycobiology 5: 505-10)。しかしながら、溶液状態で通常の小胞構造と異なる構造を有する組成物も包含される。例えば、脂質は、ミセル構造をとるか、または単に脂質分子の非均一凝集体として存在し得る。また、リポフェクタミン-核酸複合体も想定される。
【0088】
関心対象のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNAおよびRNAベクターの使用が含まれる。ウイルスベクター、特にレンチウイルスベクターは、哺乳動物、例えば、ヒトの細胞に遺伝子を挿入するための最も広範に使用される方法となった。ウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどに由来することができる。例えば、米国特許第5,350,674号および同第5,585,362号を参照されたい。
【0089】
ある特定の態様では、本発明は、CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターを含む。ある特定の態様では、核酸ベクターは、レンチウイルスベクターである。レンチウイルスベクターは、標的細胞にヌクレオチドペイロードを形質導入するのに有用である。細胞内に入ると、ベクターのRNAゲノムは、DNAに逆転写され、標的細胞のゲノムに組み込まれる。レンチウイルスベクターは、大きなレトロウイルスベクター群の一部である。詳細なレンチウイルスの一覧は、(Coffin et al. (1997) "Retroviruses" Cold Spring Harbor Laboratory Press. pp 758-763)において確認することができる。
【0090】
レンチウイルスは、霊長類および非霊長類の群に分類することができる。霊長類レンチウイルスの例には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれるが、それらに限定されない。非霊長類レンチウイルス群には、プロトタイプ「スローウイルス」ビスナ/マエディウイルス(VMV)、ならびに関連するヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)および最近になって記載された猫免疫不全ウイルス(FIV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が含まれる。レンチウイルスは、分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染する能力を有するという点で、レトロウイルスファミリーの他のメンバーとは異なり、それにより、レンチウイルスは、インビボ遺伝子治療のための魅力的なベクターとなった(Lewis et al (1992) EMBO J 11(8):3053-3058)およびLewis and Emerman (1994) J Virol 68 (1):510-516)。
【0091】
レトロウイルスとレンチウイルスのゲノムの基本構造は、5' LTRおよび3' LTR(その間またはその内部に、ゲノムがパッケージングされることを可能にするパッケージングシグナルが位置する)、プライマー結合部位、宿主細胞ゲノムへの組み込みを可能にする組み込み部位、ならびにウイルス粒子成分をコードするgag、polおよびenv遺伝子などの多くの共通の特徴を共有する。
【0092】
プロウイルス、すなわち、標的細胞ゲノムに組み込まれるベクターの核酸分子では、ウイルスおよびペイロード遺伝子は、両端が長い末端反復(LTR)と呼ばれる領域に隣接している。LTRは、プロウイルスの組み込み、および転写を担っている。LTRはまた、エンハンサー-プロモーター配列としても働き、ウイルスおよびペイロード遺伝子の発現を制御することができる。
【0093】
LTRは、それら自体、同一の配列であり、U3、RおよびU5と呼ばれる3つの要素に分類することができる。U3は、RNAの3'端に特有の配列に由来する。Rは、RNAの両端で繰り返される配列に由来し、U5は、RNAの5'端に特有の配列に由来する。3つの要素のサイズは、種々のウイルス間で大きく変動し得る。
【0094】
レンチウイルスベクターを標的細胞において複製不能にするために、ほとんどのベクターは、gag、polおよびenv遺伝子に、それらを欠如または非機能的にする欠失または変異を有する。ある特定の態様では、本発明のレンチウイルスベクターは、ウイルスベクターを複製欠損にするこれらの改変の1つまたは複数を含み得る。
【0095】
ある特定の態様では、本発明のレンチウイルスベクターは、自己不活型レンチウイルスベクターであり得る。自己不活型レトロウイルスベクターは、LTRのU3およびU5領域中に転写エンハンサーおよび/またはプロモーターの欠失を含む。しかしながら、そのようなベクター中のLTR間の形質導入DNA配列内に含有される任意のプロモーターは、なお転写活性のままである。この戦略は、内部に置かれた遺伝子からの転写に対する、ウイルスLTR中のエンハンサーおよびプロモーターの効果を排除するために使用されている。そのような効果には、増加した転写(Jolly et al (1983) Nucleic Acids Res. 11:1855-1872)または転写の抑制(Emerman and Temin (1984) Cell 39:449-467)が含まれる。この戦略はまた、3'LTRからゲノムDNAへの下流転写を排除するためにも使用できる(Herman and Coffin (1987) Science 236:845-848)。そのような改変は、内因性がん遺伝子の活性化を回避すべきヒト遺伝子治療に使用されるレンチウイルスベクターにおいて特に役立つ。
【0096】
核酸を細胞に導入するために使用される方法に関係なく、細胞中の核酸の存在を確認するために多様なアッセイが実施され得る。そのようなアッセイには、例えば、サザンおよびノーザンブロッティング、RT-PCRならびにPCRなどの当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ;特定のペプチドの存在もしくは非存在を検出するなどの「生化学的」アッセイ、例えば、免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)によるもの、または本発明の範囲内に入るペイロードタンパク質を同定するための本明細書に記載されるアッセイによるものが含まれる。
【0097】
治療の方法
ある特定の態様では、本明細書に記載される核酸ベクターは、レンチウイルスベクターである。ある特定の態様では、核酸ベクターは、その必要のある対象においてデント病を治療するのに有用な薬学的組成物に含まれ得る。組成物は、薬学的組成物を含み得、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。核酸ベクターを含む薬学的組成物の治療有効量が投与され得る。
【0098】
一局面では、本発明は、その必要のある対象においてデント病を治療するための方法であって、対象に、CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターの有効量を投与する工程を含み、それにより、疾患を治療する方法を含む。別の局面では、本発明は、細胞におけるCLCN5遺伝子の変異を修正するための方法であって、細胞を、機能的CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターと接触させる工程を含む方法を含む。上記局面のある特定の態様では、核酸ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0099】
ある特定の態様では、本発明のレンチウイルスベクターおよび組成物は、腎臓の様々な部位を含む標的組織に局所的に送達される。ある特定の態様では、CLCN5タンパク質の送達は、その正常な機能をCLCN5タンパク質の発現に依存している細胞を標的とする場合に最も有益である。腎臓では、これらの細胞には、限定されないが、近位尿細管およびヘンレ係蹄の太い上行脚の内壁を覆いかつ集合管の間在細胞内にある上皮細胞が、含まれる。ある特定の態様では、本発明のレンチウイルスベクターまたは組成物の腎臓への局所投与は、逆行性尿管注射を介して達成される。このようにして、レンチウイルス粒子は、尿細管および管の内腔を介して標的組織と直接接触する。ある特定の態様では、逆行性注射に続いて、尿管の一時的な結紮または部分的な結紮を行い、レンチウイルス粒子が標的細胞と接触できる前にこれらが腎組織外へ流れるのを防ぐ。
【0100】
デント病のマウスモデル
デント病は、CLCN5を含む遺伝子に対する有害な変異によって引き起こされる遺伝性疾患である。よって、遺伝子改変マウスを含む実験モデルは、該疾患の生物学的側面を研究するためだけでなく、本開示のものを含めたデント病に対する有望な治療を開発するための有用なツールである。したがって、別の局面では、本発明は、マウスのCLCN5遺伝子が1つまたは複数の変異によって破壊されている1型デント病を研究するためのマウスモデルを含む。いくつもの変異が、結果として生じるタンパク質の構造を変化させるかまたはタンパク質の産生をすべて一緒に抑制することによって、特定の遺伝子の不活性化または低下した活性化をもたらし得る。そのような変異には、ミスセンス、フレームシフトおよびナンセンス変異が含まれるが、それらに限定されない。ある特定の態様では、変異は、遺伝子中にコードされるmRNAの転写後プロセス(限定されないが、プロセスの中でも特にスプライシングを含む)を制御する領域中にあり得る。ある特定の態様では、変異は、CLCN5遺伝子の1つまたは複数のエクソンを含む欠失である。ある特定の態様では、欠失は、CLCN5遺伝子のエクソン3、エクソン4、エクソン5、エクソン6、エクソン7、エクソン8、エクソン9、エクソン10、およびエクソン11、またはそれらの任意の組み合わせに影響する。したがって、ある特定の態様では、1つまたは複数のCLCN5変異は、非機能的CLCN5タンパク質をもたらす。
【0101】
ある特定のマウスモデルでは、この遺伝子変異または変化は、動物の生殖能力または繁殖力に影響を及ぼす。多くの場合、これらの影響は、そのモデルに必要とされる所望の遺伝子型を有する子孫をごく少数生じるかまたは全く生じないため、有害である。生殖能力および繁殖力へのこれらの悪影響を低減または回避する1つの方法は、実験マウスを別の系統と異系交配することであるが、それは、生殖能力問題の重大度が、しばしば系統特異的であるからである。よって、本発明のある特定の態様では、実験動物の繁殖は、異なる系統の雄親および雌親を必要とする。1つの非限定的な例では、雌親はCLCN5変異についてヘテロ接合性であり、雄親は野生型である。この設定は、デント病においてよく見られるX連鎖遺伝を再現する。ある特定の態様では、雄親は、FVBバックグラウンドのものであり、一方、雌親は、C57BL/6バックグラウンドのものである。また、本発明のマウスモデルの雄親および雌親は、限定されないがBALB/Cおよび派生物、C3Hおよび派生物、DBAおよび派生物、C57BL/10および派生物、ならびにC57BL/6およびFVB株の他の派生物またはそれらの任意の組み合わせを含めた、いくつもの異なる系統であり得ることも想定される。当業者であれば、本発明のマウスモデルに使用するために2種を選択する際に、様々な実験マウス系統の相対的有利性を認識しているだろう。
【0102】
薬学的組成物
本発明の薬学的組成物は、本明細書に記載するように、1つまたは複数の薬学的にまたは生理学的に許容される担体、希釈剤、補助剤または賦形剤との組み合わせを含み得る。そのような組成物は、緩衝液、例えば中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水など;炭水化物、例えばグルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトール;タンパク質;ポリペプチドまたはアミノ酸、例えばグリシン;酸化防止剤;キレート剤、例えばEDTAまたはグルタチオン;補助剤(例えば、水酸化アルミニウム);および保存料を含み得る。本発明の組成物は、好ましくは、静脈内投与用に製剤化される。
【0103】
本発明の薬学的組成物は、治療(または予防)しようとする疾患に適した様式、ならびに投与の様式または経路で投与され得る。投与の量および頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患の種類および重症度のような要因によって決定されるが、臨床試験によって適切な投与量が決定され得る。
【0104】
本発明の薬学的組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末剤、液剤、懸濁剤、乳剤などのような固体または液体形態で投与され得る。本発明の薬学的組成物は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、点鼻によって、インプランテーションによって、腔内もしくは膀胱内注入によって、眼内に、動脈内に、病巣内に、経皮的に、または粘膜への適用によって投与され得る。いくつかの態様では、組成物は、鼻、喉または気管支に、例えば吸入によって適用され得る。
【0105】
任意で、本発明の方法は、組織修復を誘発する、細胞死を低下させる、または別の望ましい生物学的応答を誘導する組成物の投与量、その中の成分濃度および組成物の投与のタイミングを特定するための、好適な動物モデルへの本発明の組成物の投与を提供する。そのような決定は、過度な実験を必要とせず、慣習的であり、過度な実験なしに確定することができる。
【0106】
生物学的に活性な作用物質は、対象に、無菌の液体調製物、例えば、等張水溶液、懸濁液、乳液、分散液または粘性組成物として簡便に提供することができ、これらは、選択されたpHに緩衝化され得る。本発明のレンチウイルスベクターおよび作用物質は、液体または粘性製剤として提供され得る。いくつかの適用では、とりわけ注射によって投与することが都合がよいという理由で、液体製剤が望ましい。組織との長期接触が望まれる場合、粘性組成物が好まれ得る。そのような組成物は、適切な粘度範囲内で製剤化される。液体または粘性組成物は、担体を含むことができ、これは、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)およびそれらの好適な混合物を含有する、溶媒または分散媒体であることができる。
【0107】
無菌の注射液は、所望であれば、タランパネルおよび/またはペランパネルを必要量の適切な溶媒中に様々な量の他の成分と共に懸濁することによって調製される。そのような組成物は、好適な担体、希釈剤または賦形剤、例えば滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースなどとの混合物であり得る。組成物はまた、凍結乾燥することもできる。組成物は、所望される投与の経路および調製に応じて、補助物質、例えば、湿潤剤、分散剤、または乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝化剤、ゲル化または増粘添加物、保存料、香味剤、着色剤などを含有することができる。参照により本明細書に組み入れられる「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE」第17版(1985年)などの標準的な教材から助言を受けて、好適な調製物を過度な実験なしに調製することができる。
【0108】
抗菌保存料、酸化防止剤、キレート剤および緩衝剤を含め、組成物の安定性および無菌性を高める様々な添加物を加えることができる。微生物の作用の抑制は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって確保することができる。注射可能な医薬品形態の吸収の延長は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらすことができる。しかしながら、本発明によれば、使用されるいずれのビヒクル、希釈剤または添加物も、その馴化培地中に存在する細胞または作用物質と適合性でなければならない。
【0109】
組成物は、等張であることができ、すなわち、これらは、血液および涙液と同じ浸透圧を有することができる。本発明の組成物の所望の等張性は、塩化ナトリウム、または他の薬学的に許容される薬剤、例えば、デキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコールまたは他の無機もしくは有機溶質を使用して達成され得る。塩化ナトリウムは、ナトリウムイオンを含有する緩衝剤に特に好ましい。
【0110】
組成物の粘度は、所望であれば、メチルセルロースなどの薬学的に許容される増粘剤を使用して選択されたレベルに維持することができる。他の好適な増粘剤には、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマーなどが含まれる。好適な担体および他の添加物の選択は、正確な投与経路、および特定の剤形、例えば液体剤形の性質(例えば、組成物が、液剤、懸濁剤、ゲル剤または別の液体形態、例えば徐放性形態もしくは液体充填形態に製剤化されるべきか)に依存するだろう。当業者は、組成物の成分が化学的に不活性であるように選択されるべきであることを認識するだろう。
【0111】
本発明において有用であろう方法および組成物は、実施例に示される特定の製剤に限定されないことが理解されるべきである。
【0112】
本発明の実施は、特に指定しない限り、当業者の理解の十分に範囲内にある分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の慣用技術を採用する。そのような技法は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第4版(Sambrook, 2012);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait, 1984);「Culture of Animal Cells」(Freshney, 2010);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir, 1997);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller and Calos, 1987);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel, 2002);「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」(Babar, 2011);「Current Protocols in Immunology」(Coligan, 2002)などの文献に十分に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの産生に適用可能であり、よって、本発明の作製および実施において考慮に入れてもよい。特定の態様にとって特に有用な技術を本明細書において考察する。
【0113】
以下の実施例は、本発明のアッセイ、スクリーニングおよび治療方法をどのように作製および使用すればよいかの完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されるものであり、本発明者らが彼らの発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0114】
実験例
本発明は、以下の実験例を参照することによってさらに詳細に説明する。特に指定のない限り、これらの例は、例証を目的としてのみ提供されるものであって、限定を意図するものではない。したがって、本発明は、決して以下の実施例に限定されるものと解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書に提供される教示の結果として明らかになるあらゆる変形物を包含するものと解釈されるべきである。
【0115】
それ以上の説明がなくても、当業者であれば、前述の説明および以下の例示的な例を用いて、本発明の化合物を作製および利用し、請求される方法を実施することができると考えられる。それゆえ、以下の実施例は、本発明の例示的な態様を具体的に指摘するものであり、いかなる場合も以下の開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0116】
以下の実験例において使用する材料および方法をこれから説明する。
【0117】
研究承認. 実験は、米国学術研究会議公表の実験動物の管理と使用に関する指針(National Research Council Publication Guide for Care and Use of Laboratory Animals)を遵守して行われ、ウェイクフォレスト大学健康科学科の施設内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee of Wake Forest University Health Sciences)から承認を受けた(Animal Protocol number A19-053)。マウスは、マイクロアイソレーターケージ内で12時間の明/暗サイクルで飼育し、自由摂食させた。マウスは、急速な意識喪失とその後に死を引き起こす二酸化炭素(CO2)過剰摂取を用いて安楽死させた。マウスを、ホームケージから取り出すことなくCO2に曝露させることで、動物に、手で触れることまたは新たな環境に移動させられることによるストレスを与えないようにした。CO2流量を、1分当たりケージ体積の10%~30%が置換されるように設定した。マウスが深い昏睡状態を示したら、安楽死の二次的手法としてマウスを頚椎脱臼に供した。安楽死後、腎組織をさらなる分析のために収集した。
【0118】
構築物. ヒトEF1アルファプロモーターの制御下でコドン最適化ヒトCLCN5 cDNAを発現するようにレンチウイルスベクタープラスミドpCSII-hCLCN5を構築した。プラスミドpCSII-hCLCN5は、pCSII-EF-miRFP709-hCdt(1/100)(Addgene Plasmid #80007)のXhoI-XbaI断片を、ヒトCLCN5タンパク質をコードする合成かつコドン最適化されたcDNAに置き換えることによって作製した(cDNAおよびタンパク質の配列について表1を参照のこと)。遺伝子合成は、GenScript Inc.によって実施され、配列は、サンガーシーケンシングによって確認された。プラスミドpMD2.G(Addgene #12259)、pMDLg/pRRE(Addgene#12259)およびpRSV-Rev(Addgene #12253)は、Addgeneから購入し、これらは過去に記載されている。ZsGreen発現およびGFP発現レンチウイルストランスファープラスミドのpLVX-IRES-ZsGreen1およびCmiR0001-MR03は、それぞれ、Takara BioおよびGeneCopoeia, Inc.から購入した。プライマーについての配列情報は、補足表1に列記している。
【0119】
CLCN5ヌルマウスの生成. CLCN5ヌル変異マウスは、マウスClcn5遺伝子のCRISPR/Cas9媒介性ノックアウトによって生成させた。マウスClcn5イントロン2
、イントロン5
およびエクソン12
をそれぞれ標的とする3種のシングルガイドRNA(sgRNA)を、受精させたマウス卵に、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)mRNAと共に注射し、標的のノックアウト子孫を生成させた。F0創始動物を、PCRとそれに続く配列解析によって同定し、これらを野生型マウスと交雑して、F1動物を生成させた。欠失の成功は、746のAAのCLCN5タンパク質のうち711のAA(95%)をコードするゲノムDNA領域が欠失した系統を生み出すだろう。受精卵へのRNAマイクロインジェクションは、Cyagen(Biotechnology Company, Santa Clara, California)で行われた。その後、C57/BL6バックグラウンドの創始ヘテロ接合マウスを、ウェイクフォレスト大学健康科学科の病原体フリーの動物施設に収容した。C57/BL6バックグラウンドの変異マウスの部分的な胚性致死または周産期致死を回避するために、マウスを50% FVBおよび50% C57/BL6バックグラウンドと交雑させた。
【0120】
変異マウスのジェノタイピング. 尾または耳小片を、0.45% NP40を含有するPCRバッファー中のプロテイナーゼK(400μg/ml)により55℃で3時間または一晩消化した。プロテイナーゼKを95℃で13分間かけて不活化した。清澄な溶解物をそのままPCRに使用した。PCRプライマーのCLCN5-KF2
およびCLCN5-KR2
を使用して、変異アレルから約1000塩基対(bp)バンドの産物を増幅させた。CLCN5-KF2およびCLCN5-W2
を使用して、野生型アレルから540bpの産物を増幅させた。PCRサイクリングは、94℃で5分間の初期変性、続く、94℃で30秒の変性、60℃で30秒のアニーリングおよび72℃で60秒/kbの伸長を35サイクル、そして、72℃で5分間の最終伸長工程を含んだ。野生型、ヘテロ接合およびホモ接合変異マウスは、これらの2つPCRで、それぞれ、540bpバンドのみ、540bpと1000bpの両バンド、および1000bpバンドのみを示す。
【0121】
腎近位尿細管細胞の単離および培養. 腎皮質を細かく切り刻み、共に0.5mg/mlの濃度のコラゲナーゼ(Worthington Biochemical, Freehold, NJ)およびダイズトリプシン阻害剤(GIBCO Laboratories, Grand Island, NY)と30分間インキュベートした。重力により大きな未消化断片を取り除いた後、懸濁液を等体積のハンクス液中10%ウマ血清と混合し、次いで、500回転/分にて室温で7分間遠心にかけた。ペレットを遠心により1回洗浄し、次いで、2mM グルタミン、15mM N 2 ヒドロキシエチルピペラジン-N-2-エタンスルホン酸(HEPES)、500U/ml ペニシリンおよび50pg/ml ストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培地とハムF-12栄養素混合物(1:1)の混合物である無血清細胞培養培地に懸濁した。ペレットの組織片を、10% FBS、1% L-グルタミンおよび1% ペニシリンストレプトマイシンサプリメントを含有する高グルコースDMEM培地に再懸濁し、組織培養皿中、組織から上皮細胞が成長して皿の底に接着するように37℃の5% CO2でインキュベートした。2回の継代後、細胞をトリプシン処理により解離させ、LV形質導入のために24ウェルプレートに8×104個の細胞/ウェルで播種した。
【0122】
レンチウイルスベクターの生産. レンチウイルストランスファープラスミドのpCSII-hCLCN5、CmiR0001-MR03およびpLVX-IRES-ZsGreen1を使用して、第3世代のパッケージングシステムでそれぞれの導入遺伝子を発現するレンチウイルスベクターを生産した。簡潔に述べると、15cm皿中の1300万個の活発に増殖するHEK293T細胞を15mlのOpti-MEMに入れ替えた。以下のDNAを共トランスフェクションに使用した:12μg レンチウイルストランスファープラスミドDNA(pCSII-hCLCN5、CmiR0001-MR03またはpLVX-IRES-ZsGreen1)、14μg pMDLg/pRRE、6μg pMD2.Gおよび4μg pRSV-Rev。DNAを1mlのOpti-MEM中で混合した。別のチューブに、108μlのポリエチレンイミン(1mg/ml、PEI、Synchembio、Cat # SH-35421)を1mlのOpti-MEMに加えた。次いで、DNA混合物およびPEI混合物を混合し、室温で15分間インキュベートした。次いで、DNA/PEI混合物をOpti-MEM中の細胞に加えた。トランスフェクションの24時間後、培地を15mlのOpti-MEMに交換し、トランスフェクションの48時間後および72時間後にレンチウイルスベクターを収集した。合わせた上清を500gで10分間スピンして、細胞残屑を除いた。インビボ送達のために、清澄な上清を後述するようにさらに処理した。
【0123】
レンチウイルスベクターの濃縮. レンチウイルスベクターを含有する上清を、最初に、KR2i TFF System(KrosFlo(登録商標)Research 2i Tangential Flow Filtration System)(Spectrum Lab, Cat. No. SYR2-U20)により、濃縮-透析濾過-濃縮モードを使用して濃縮した。簡潔に述べると、150~300mlの上清を、最初に、約50mlに濃縮し、1000mlのPBSで透析濾過し、最後に、約8mlに濃縮した。中空糸フィルターモジュールは、変性ポリエーテルスルホン製であり、分子量カットオフは、500kDaであった。流量および圧力上限は、フィルターモジュールD02-E500-05-Nでは80ml/分および8psi、フィルターモジュールC02-E500-05-Nでは10ml/分および5psiであった。
【0124】
インビボ送達のためのベクター濃度をさらに高めるために、1容量の10%スクロースバッファー(50mM Tris-HCl、pH 7.4、100mM NaCl、0.5mM EDTA中)に対して4容量のTFF濃縮ベクターを用意した。ウイルスベクターを10000gにて4℃で4時間遠心にかけ、約0.5mlのPBSに再懸濁した。ベクターを100μl/チューブに分割し、将来の使用のために-80℃で凍結した。
【0125】
レンチウイルスベクターの定量. レンチウイルスベクターの濃度を、p24(カプシド抗原)に基づくELISA(Cell Biolabs, QuickTiter(商標)Lentivirus Titer Kit Catalog Number VPK-107)により判定した。濃縮したベクターをアッセイのために200倍に希釈した。未濃縮試料をアッセイするために、製造業者の説明書に従ってウイルス粒子を沈降させたところ、可溶性p24タンパク質は検出されなかった。
【0126】
逆行性尿管注射. レンチウイルスベクターを、過去に報告されているように逆行性尿管注射によって腎臓に送達した。3%イソフルラン吸入でマウスに麻酔をかけ、2cmの側腹切開により左腎臓をむき出しにし、周囲の脂肪から優しく切り離した。膀胱への漏出を防ぐために、注射部位の下の尿管に非侵襲性の血管クリップ(S&T Vascular Clamps Cat# 00400-03, Fine Science Tool, Heidelberg, Germany)を設置した。1mlの注射器に接続した30ゲージ1/2針を使用して、尿管腎盂移行部のすぐ下の尿管にレンチウイルス粒子を注射した。ウイルス溶液の総体積は、100μlを超えなかった。ウイルスベクターの濃度は、2~4ng/μlとした。5~15分後、クランプを取り外し、吸収性の5-0 Vicryl縫合糸で2つの皮を合わせて手術部位を閉じた。両側注射を実施した場合は、左側の切開を閉じた後に右腎臓に対して同じ手順を繰り返した。手術の直後で覚醒前に、5~10mg/kgのカルプロフェンを3用量(24時間に1用量)与えた。最初のカルプロフェン注射と一緒に、ブプレノルフィンSR(0.5~1.0mg/kg)も皮下注射により与えた。手術から覚醒した後、マウスを一匹ずつ収容した。一匹ずつの収容は、ケージメイトによる創傷損傷を防ぐことが分かった。
【0127】
尿収集. 尿収集のためにマウスをHatteras Instruments Model MMC100 Metabolic Mouse Cage(Hatteras Instruments Inc, 105 Southbank Dr, Cary, North Carolina)に24時間収容した。潜在粒子を除くために尿試料を1000gで5分間手短にスピンした。尿体積を200μlピペットによって測定した。
【0128】
尿生化学. 尿カルシウム濃度を、Calcium Assay Kit(比色)(ab102505, AbCam)で判定した。アッセイ前に、水で、野生型およびCLCN5 LV処置マウスからの尿試料を3.6倍希釈し、未処置変異マウスからの尿試料を10倍希釈した。カルシウム濃度に24時間の間に収集されたそれぞれの尿体積を掛けることによって、総カルシウム排出を算出した。尿総タンパク質濃度を、Pierce(商標)BCA Protein Assay kit(Cat#23225)によって判定した。アッセイ前に、すべての尿試料を水で10倍希釈した。尿タンパク質濃度に24時間の間に収集されたそれぞれの尿体積を掛けることによって、総尿タンパク質排出を算出した。尿クレアチニンを、Mouse Creatinine Assay Kit(Crystal Chem Inc., #80350)でアッセイした。アッセイ前に、尿試料を食塩水で10倍希釈した。測定はすべて、キットの説明書に従って実施した。
【0129】
SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティング分析. マウス腎組織を、プロテアーゼ阻害剤(0.5mM PMSFおよび1×Complete Protease Inhibitor Cocktail、Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN, USA)およびホスファターゼ阻害剤(50mM NaF、1.5mM Na3VO3)を含むRIPAバッファー中で溶解し、ウエスタンブロッティング分析のためのSDS-PAGE用に溶解物をLaemmliバッファーと混合した。培養細胞および尿試料を、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含有する1×Laemmliバッファー中で直接溶解した。抗β-アクチン抗体は、Sigma(A5441, 1:5000;St Louis, MO, USA)から、CLCN5ウサギポリクローナル抗体は、GeneTex(GTX53963, 1:500, Irvine, CA, USA)から、CC16ウサギポリクローナル抗体は、BioVendor(RD181022220-01, 1:500, Asheville, NC, USA)から、アルブミンヤギポリクローナル抗体は、Bethyl Laboratories(A80-129A, 1:1000, TX, USA)から、DBPウサギポリクローナル抗体は、Proteintech(16922-1-AP, 1:1000, IL, USA)から、そして、メガリンウサギポリクローナル抗体(ab76969, AbCam)は、AbCamからであった。HRPコンジュゲート抗マウスIgG(H+L)(ThermoFisher Scientific, Cat No. 31430, 1:5000)および抗ウサギIgG(H+L)(Cat No. 31460, 1:5000)二次抗体をウエスタンブロッティングにおいて使用した。化学発光試薬(ThermoFisher)を使用して、LAS-3000システム(Fujifilm)下でタンパク質シグナルを可視化した。
【0130】
免疫蛍光分析. 腎組織を4%パラホルムアルデヒド/PBS中にて4℃で一晩固定した。組織の一部を凍結切片用にOCT中に包埋し、一部を脱水してパラフィン包埋した。組織学的分析および免疫蛍光分析のために5~8μmのパラフィン切片を調製した。免疫蛍光染色のために、脱パラフィンかつ再水和した切片を、ブロッキングに続いて一次抗体(CLCN5およびメガリン抗体について1:200)とインキュベートし、次いで、Alexa fluor 488またはCF-594コンジュゲート二次抗体中でインキュベートした。切片を、DAPIを含む封入剤(Vector Laboratories)に封入した。AxioCam MRcデジタルカメラを備えたAxio M1顕微鏡(Carl Zeiss, Thornwood, NY, USA)により画像を取得した。種々の画像を、Adobe Photoshopで、必要なサイズ変更、回転およびクロッピングを加えて1つのファイルにまとめた。蛍光強度をNIH ImageJ(1.49v)によって解析した。
【0131】
ベクターDNAの検出. 各腎臓を12片に切断し、その1つをDNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen)を使用したゲノムDNA単離に使用した。レンチウイルスベクターの組み込みを検出するために、Psi-FおよびPsi-RプライマーとSYBR Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を使用したqPCRにより、レンチウイルスベクターからのPsi配列を検出した。マウスGapdhを内部対照として使用し、TaqMan Universal PCR Master MixおよびGapdh Taqmanプローブ(Thermo Fisher Scientific)をqPCR検出に使用した。
【0132】
RNA単離およびRT-qPCR分析. miRNeasy Mini Kit(QIAGEN Cat No. 217004)を使用して、組織および培養細胞から全RNAを単離した。QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN)を使用して、RNAをcDNAに逆転写した。補足表1に列記したプライマーを用いてQuantStudio3TMまたはABI 7500装置でRT-qPCRを実行した。
【0133】
統計解析. 統計評価は、GraphPad Prism(V5)ソフトウェアを使用して尿パラメーターおよび免疫染色データに対して実施した。データは、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として提示される。2群が関わるデータ解析では、群間の統計学的差異は、両側t-検定を使用して算出した。2群を超えるデータ解析では、すべてのパラメーターに1元配置分散分析(ANOVA)を実施した。ANOVAから有意性が明らかになったら、データ解析にテューキーの事後検定を実施した。1を超える因子が関わるデータ解析では、すべてのパラメーターに2元配置分散分析(ANOVA)を実施した。ANOVAから有意性が明らかになったら、データ解析にボンフェローニ事後検定を実施した。有意性は、*p<0.05、**p<0.01および***p<0.0001と設定された。
【0134】
(表1)本発明において使用されるベクター、ポリヌクレオチド、タンパク質およびプライマーの配列
【0135】
実施例1:CLCN5ヌルマウスは、典型的な1型デント病(DD1)表現型を呈する
デント病は、腎細胞が血流から濾過された栄養素、水および他の物質を再吸収することができないことによって引き起こされる。腎濾液中の大量のタンパク質およびカルシウムは、腎細胞に損傷を与え、最終的に、観察される症状を引き起こす。本開示の研究は、デント病に対する遺伝子治療の開発を支援するためにデント病の有用な動物モデルを開発することを目指した。最終的な目標は、患者腎細胞が、腎濾液から十分な物質を再吸収して、腎細胞への損傷を防ぎ、正常な腎機能を回復または維持できるように、最小限の割合の患者腎細胞において変異した遺伝子を修正することである。
【0136】
少なくとも2つの遺伝子(X染色体連鎖のものと母親から遺伝するものの両方)における有害な変化がこの疾患を引き起こし得るが、その遺伝子の1つ(CLCN5遺伝子)の異常が患者の60%(1型デント病)の要因となっている。CLCN5において幅広い数の変異が同定されており、ミスセンス、フレームシフトおよびナンセンス変異がその大部分を占めていた(
図1を参照のこと)。したがって、本開示において、1型デント病に特異的な遺伝子治療戦略を開発する。現在、デント病に対しては補助的治療しかなく、それらのどれも疾患の遺伝的要因をターゲットとしていない。
【0137】
デント病に対する治療を開発するために、最初に、該疾患の好適なマウスモデルを作製するための研究を行った。ここで、CRISPR/Cas9技術を使用して、欠失のためにCLCN5遺伝子のコード領域の大部分を標的とした(
図2A)。タンパク質コード領域の95%を欠失させ、遺伝子機能を完全に破壊するために、マウスCLCN5遺伝子イントロン2、イントロン4およびエクソン12をそれぞれ標的とするように3種のガイドRNAを設計した(
図16A)。3種のシングルガイドRNA(sgRNA)およびCas9 mRNAを受精させたマウス卵に注射し、CLCN5遺伝子を欠失させた。3匹のヘテロ接合創始雌マウスが得られ、すべてが、Clcn5遺伝子中にCLCN5コード領域の95%を欠失する26キロbpの欠失を有していた(
図21)。欠失した領域の周囲80キロbp以内に他の既知のコード遺伝子または非コード遺伝子はなかった。したがって、本発明者らは、CLCN5遺伝子の欠失が他の遺伝子に影響を及ぼす可能性は低いと仮定した。1匹の雌キャリア(第34号)からの子孫を後続の研究に使用した。
【0138】
該マウスがCRISPR/Cas9媒介遺伝子変異によって生成されたことを考慮し、本発明者らは、使用する3種のsgRNAの考えられるオフターゲットを分析した(全遺伝子を欠失させる機会を高めるために2種ではなく3種のsgRNAを使用した)。すべての予測されるオフターゲットは、sgRNAに対して少なくとも3ntのミスマッチを有していた。予測されるオフターゲットのうち1つだけ(sgRNA 2に対する)がタンパク質コード遺伝子(Itgb6)のエクソンにヒットした。この領域のDNAを雄変異マウスから増幅させ、配列決定した。変異またはヘテロ接合性は観察されなかった(
図30)。18個の予測されるオフターゲットがイントロン内にあり、23個が遺伝子間領域にあった。雄変異マウス由来のX染色体上の4個の予測されるオフターゲットすべての領域を増幅させたが、変異または欠失を検出できなかった(
図30)。X染色体上のオフターゲットはCLCN5欠失と関係があり、雄マウスはX染色体のコピーを1つしか持たないため、この領域の増幅の成功は、大きな欠失の可能性も排除した。常染色体上のオフターゲットについて、本発明者らは、sgRNAに対して3ntのミスマッチを有する5個すべてのオフターゲット、およびsgRNAに対して4ntのミスマッチを有する2個のオフターゲットの領域を配列決定し(sgRNA毎に少なくとも3個のオフターゲットを分析した)、変異マウスのこれらの領域のいずれにおいても変異またはヘテロ接合性を検出できなかった(
図30)。まとめると、データは、意図せず変異している他の遺伝子の可能性が低いことを示した。
【0139】
RT-PCR(
図16B)およびウエスタンブロッティング(
図16C)により、変異マウスにおいてCLCN5発現の喪失が確認された。これらの研究から生じた変異動物を配列決定し、これからエクソン3~11の切除が確認され(
図2B)、したがって、CLCN5機能を完全に欠いたモデルが生み出された。次いで、CLCN5 mRNAおよびCLCN5タンパク質の両方の検出により、変異マウスがCLCN5遺伝子産物の発現を欠いていることが確認された(
図4)。野生型および変異マウスからの尿を収集し、24時間の間に排出された総尿体積、総尿タンパク質およびカルシウムレベルを測定した。雌および雄変異マウスは、利尿、高カルシウム尿およびタンパク尿を示した(
図25A~25B)。野生型雌マウスは、野生型雄マウスよりも高い尿カルシウムレベルを示し、このことは、過去に得られた所見と一致する。興味深いことに、ヘテロ接合雌マウスはまた、ホモ接合変異雌マウスよりも重症でないように見えるDD1様表現型を示し、このことは、ハプロ不全を示唆しており、一部のヒト雌ヘテロ接合キャリアが軽度なDD1症状を示すという報告と一致する。これらのヌル変異マウスにおいて観察された表現型(尿タンパク質および尿カルシウムの6~7倍の増加)は、おそらくClcn5コード配列の大部分の欠失が原因で、過去に報告されたよりもはるかに重症であった。変異マウスの尿クレアチニン濃度は、野生型マウスのものと類似しており、このことは、変異マウスにおけるクレアチニン濾過が、分析時に大きな影響を受けなかったことを示唆している。
【0140】
予想外なことに、繁殖障害は、不十分な数の疾患雄マウスを得ることにつながった。観察された疾患雄マウスと正常雄マウスとの比(
図3A)から、胚致死性が示唆された。この問題は、過去の研究でもヒトでも観察されなかった。子孫の予想メンデル比を回復させるために、雌キャリアと正常雄を異なる品種に分ける繁殖戦略を開発した(FVBとC57BL/6のミックス)(
図3B)。
【0141】
次いで、変異マウスがDD1患者において観察されたものと似た表現型を示すかどうかを確認するために、変異マウスを調査した。正常マウスおよび変異マウスからの尿ならびに測定された利尿、総尿タンパク質およびカルシウムレベル(表2)。雄および雌変異マウスは、正常マウスよりも高頻度に排尿し、より多くの尿タンパク質およびカルシウムを排出した(表3)。正常雌マウスは、正常雄マウスよりも高い尿カルシウムレベルを示し、このことは、過去に得られた所見と一致する。興味深いことに、ヘテロ接合雌マウスはまた、ホモ接合変異雌マウスよりも重症でないDD1様表現型を示し、このことは、ハプロ不全を示唆しており、一部のヒト雌ヘテロ接合キャリアが軽度なDD1症状を示すという報告と一致する。これらのヌル変異マウスにおいて観察された表現型(尿タンパク質の2倍の増加および尿カルシウムの6倍の増加)は、おそらくCLCN5コード配列の大部分の欠失が原因で、過去に報告されたよりもはるかに重症であった。変異マウスの尿クレアチニン濃度は、野生型マウスのものと類似しており、このことは、変異マウスにおけるクレアチニン濾過が、試験時に大きな影響を受けなかったことを示唆している。
【0142】
変異マウスでの増加した総尿タンパク質含量(BCAアッセイ)と一致して、尿タンパク質のSDS-PAGE分析から、変異体尿中の増加したタンパク質含量が確認され、変異マウスの尿試料中に非常に強い61kDaの未特定タンパク質があったが、野生型マウスの尿試料では、ほとんど目視できなった(
図5および
図16D)。SDS-PAGEでのこの強いバンドの可視は、他のDD1表現型の信頼性のある予測子であった。ウエスタンブロッティングからさらに、変異マウスからの試料中で尿アルブミン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)およびクラブ細胞分泌タンパク質(CC16、またCC10とも呼ばれる)の増加が確認された(
図6および
図16E)。本発明者らは、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティング実験に等体積の尿試料をロードした。変異マウスでの増加した尿体積を考慮すると、尿タンパク質の増加の程度は、ウエスタンブロッティング分析で見られたよりも劇的であった。データから、本発明者らが、マウスCLCN5遺伝子のノックアウトに成功したこと、そして、変異マウスが、公表されているモデルで観察されたよりも重症のDD1表現型を示したことが示された。
【0143】
(表2)対照および変異マウスの尿タンパク質およびカルシウム値
**、p<0.01;***、p<0.0001. 各群に10匹のマウスを含めた。
【0144】
(表3)対照および変異マウスの尿分析
*、**および***は、指定の群を野生型マウスと両側の対応のないt-検定(雄)または1元配置分散分析後にテューキーの多重比較検定(雌)で比較したときのp<0.05、p<0.01およびp<0.0001を示している。
【0145】
【0146】
実施例2:I型デント病に対する遺伝子治療の開発
デント病を引き起こす変異を修正するための戦略の開発努力を、レンチウイルスベクターを使用してCLCN5遺伝子の機能的コピーを腎臓の細胞に送達することに注力した。レンチウイルスベクターは、遺伝子治療のために機能的遺伝子をヒト細胞に送達するためのビヒクルとしてFDAによって承認されている。本発明のCLCN5発現レンチウイルスベクターは、同一の最終タンパク質産物を発現するが、mRNAのウイルスで送達される形態と元の内因性形態とが識別され得るように野生型CLCN5 mRNAとわずかな配列差を有する形で設計された(
図7に図示、また表1も参照のこと)。これは、導入遺伝子が発現するCLCN5 mRNAのコドン最適化によって達成された。トランスファープラスミドは、ヒトEF1アルファプロモーターの後にコドン最適化されたヒトCLCN5 cDNAを含有する第3世代レンチウイルス発現ベクターであった(
図17A、表1)。遍在的に活性なプロモーターを使用して、機能的CLCN5 cDNAを腎臓に補充することでDD1症状を改善できるかどうかを調べた。標的遺伝子発現を増加させるために、CLCN5 cDNAの後にウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含めた。CLCN5発現レンチウイルスベクターを第3世代のパッケージングシステムで生産し、レンチウイルスベクターを形質導入したHEK293T細胞から外因性CLCN5 mRNA発現の検出に成功した(
図17B)。
【0147】
CLCN5ベクターまたはGFP保持対照ベクターを形質導入した正常およびCLCN5変異マウスから単離したヒト293T細胞および初代腎細胞に対するインビトロ研究から、形質導入細胞がロバストなレベルのCLCN5タンパク質を発現したことが実証された(
図8)。次いで、CLCN5レンチウイルスベクターを形質導入した野生型およびCLCN5ノックアウトマウスから単離した腎近位尿細管細胞において、ベクターの発現を調べた。GFP-LV形質導入変異細胞ではなく、CLCN5 LV形質導入変異細胞においてCLCN5タンパク質が検出された(
図17C)。
【0148】
レンチウイルスCLCN5構築物の最終的な臨床利用は、ウイルス粒子が、機能的CLCN5タンパク質を最も必要とする細胞、とりわけ、共にカルシウム輸送の部位である近位尿細管およびヘンレ係蹄の太い上行脚を含む腎臓の細胞に指向されることを必要とするだろう。よって、尿管結紮とその後の逆行性尿管注射によってレンチウイルスベクターを直接腎組織に送達する研究を行った。尿管を一時的に縛ることで、腎細胞にトランスフェクトする機会を得る前にレンチウイルス粒子が流れ出ることを防ぎ、それと同時に、尿管への細胞の注射は、ウイルス粒子が標的組織に到達するのを可能にする(
図9A)。この方法を使用した腎細胞の形質導入の成功を確認するために、マウスに、この技法を使用してGFP発現レンチウイルスを注射した。次いで、この方法を使用して、280ngのp24 CLCN5 LVを変異マウスの腎臓に送達した。一週間後、腎組織を採取し、蛍光顕微鏡法によってGFP発現を評価し、これから、容易に可視化されたGFP+細胞が実証された(
図9B)。腎組織から抽出したタンパク質のウエスタンブロッティング分析から、CLCN5タンパク質が、注射を受けた腎臓では検出できたが、注射を受けていない変異マウスの腎臓からは検出できなかったことが判明した(
図17D)。これらのデータは、LVベクターを腎臓に送達して、送達されたレンチウイルスベクターからCLCN5発現を得ることができることを示した。
【0149】
後続研究では、逆行性尿管注射を使用してGFP LVをマウス腎細管に送達することを調べた。100μlのGFP LVベクター(約250ng p24)を各腎臓に送達した2週間後、免疫蛍光は、注射した4匹の雄マウスすべての尿細管構造の70%超で強いGFP発現を検出した(1匹は6ヶ月の野生型、そして、3匹は17ヶ月の変異体)(
図26A)。糸球体においてGFP発現は認められず、このことは、この送達法が、糸球体よりも尿細管への送達により適していることを示唆している。本発明者らは、GFP LV逆行性尿管注射を受けたマウスの腎臓、膀胱、肝臓、心臓、骨格筋、脾臓および精巣を収集し、ゲノムDNAを抽出して、レンチウイルスベクターDNAを検出した。膀胱では相対的に低いレベルのベクターDNAが検出され、腎臓では10
5倍高いレベルのベクターDNAが検出され、そして、他のすべての臓器ではベクターDNAは検出不能であった(
図26B)。これらのデータは、逆行性尿管注射が、局所尿細管送達に効率的であること、そして、ベクターを他の臓器(膀胱およびおそらく尿路の他の組織を除いて)に送達する機会が低いことを示した。
【0150】
次いで、本発明者らは、この方法を使用して、280ngのp24 CLCN5 LVを雄変異マウスの腎臓に送達した。腎組織から抽出したタンパク質のウエスタンブロッティング分析から、ベクター送達の2週間後、注射を受けた腎臓においてCLCN5タンパク質が検出されたが、注射を受けていない腎臓からは検出されなかった(
図17D)。免疫蛍光分析を実施して、トランスジェニックCLCN5を発現する細胞型を調べた。野生型マウスの腎臓では、近位尿細管上皮においてCLCN5が高度に発現していたが(
図27A)、糸球体では弱く発現していた(
図27Aの差込み図、*でマークした)。CLCN5 LVベクター送達なしでは、変異マウスの腎細管でCLCN5発現は検出されなかった(
図27B)。CLCN5 LV送達の2週間後、変異マウスの腎細管でCLCN5が検出された(
図27C)。野生型マウスとCLCN5 LV注射変異マウスの両方で、尿細管細胞の先端領域に最も強いCLCN5シグナルが検出された。外因性CLCN5タンパク質の先端局在化は、LV発現CLCN5タンパク質が正しく輸送されたことを示した。データは、逆行性尿管注射が、LVベクターを腎臓に送達することができ、送達されたレンチウイルスベクターからCLCN5発現をもたらすことができることを示した。
【0151】
トランスジェニックCLCN5を発現する細胞型を調べるために、本発明者らは、ベクター送達の2週間後に免疫蛍光分析を実施した。野生型マウスでは、CLCN5は、近位尿細管上皮において高度に発現していたが(
図17Eの上部画像、*でマークした)、糸球体では発現していなかった(#でマークした)。ベクター送達なしでは、変異マウスでCLCN5発現は検出されなかった(
図17Eの中央画像)。CLCN5 LV送達ありでは、尿細管構造(*でマークした)および糸球体(#でマークした)を含め、変異動物の腎臓の基本的にすべての細胞でCLCN5が検出された(
図17Eの下部画像)。全体として、LV送達した変異動物でのCLCN5発現のレベルは、野生型マウスよりも低かった。LVベクターを介したCLCN5発現は、CLCN5発現を制御するために使用される遍在的なEF1アルファプロモーターと一致した。
【0152】
実施例3:変異マウスの腎臓へのヒトCLCN5レンチウイルスベクターの送達は、DD1表現型を改善した
次いで、CLCN5保持レンチウイルスベクターの腎内送達が、CLCN5ノックアウトマウスにおいてCLCN5発現を修正できるかどうかを評価するための研究を実施した(
図10)。CLCN5欠損は、メガリンおよびキュビリンなどのエンドサイトーシスに関与するタンパク質の減少を引き起こすことが報告されている。本発明者らは、メガリンの発現を調べ、変異マウスの腎臓でメガリンが減少したことを確認した(
図18A)。次いで、本発明者らは、280ngのp24 CLCN5 LVを変異マウスの腎臓に送達し、そうすることで、CLCN5の発現を回復させることに加え(
図18E)、メガリンの発現もわずかに増加したが(
図18A、18B)、メガリン発現は、依然として野生型マウスにおけるものよりも低いことが観察された。
【0153】
次いで、研究は、CLCN5 LVを変異マウスの腎臓に送達することが表現型を改善できるかどうかを判定した。次いで、以下の雄変異マウスの3群に対して遺伝子治療実験を実施した。群1は、陰性対照として機能するために各腎臓に280ngのp24 ZsGreen LVの注射を受けた(5匹のマウス);群2は、左腎臓に280ngのp24 CLCN5 LVの注射を受けた(10匹のマウス);群3は、各腎臓に280ngのp24 CLCN5 LVの注射を受けた(10匹のマウス)。処置の1ヶ月後、3群の利尿、尿タンパク質および尿カルシウムレベルを調べた。DD1表現型は、ZsGreen LVを注射したマウスでは改善されなかったが、CLCN5 LV処置マウスでは、片方の腎臓を処置したか両方の腎臓を処置したかに関係なく大きく改善された(表4)。CLCN5 LV処置後、利尿および尿カルシウム値は、正常レベルまで戻った(雄マウスの正常値について表2を参照のこと)。処置後の尿タンパク質排出は、処置前と比較して3~4倍低下したが、依然として正常値よりも高かった。
【0154】
BCAアッセイでの遺伝子送達後の総尿タンパク質含量の低下と一致して、SDS-PAGE分析における61kDaおよび<20kDaバンドの強度は、CLCN5 LV注射を受けたマウスの尿で大きく低下したが、ZsGreen LV注射を受けたマウスではそうならなかった(
図18C、
図23)。CLCN5 LVを左腎臓(
図18B)または両方の腎臓(
図18C)に送達した後、ウエスタンブロッティングから、尿アルブミン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)およびクラブ細胞分泌タンパク質(CC16、またCC10とも呼ばれる)の低下が確認された。SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティング実験に等体積の尿試料をロードした。CLCN5遺伝子治療後に大きく低下した尿体積を考慮すると、尿タンパク質の低下の程度はさらにより劇的であった。CLCN5 LV処置マウスの齢数は25日から200日まで様々であり、すべての処置マウスは、類似の改善度を示した。したがって、CLCN5遺伝子治療のタイミングは、治療効果にほとんど影響しないようであった。
【0155】
実施例4:治療効果は、遺伝子治療後、最大4か月間続いた
次いで、動物によって産生された尿を、レンチウイルスベクターの効果が消失するまで最大4ヶ月間にわたり定期的にモニタリングした。また、CLCN5発現の組織学的分析のために、選択した動物から様々な時点で腎組織を採取した。結果から、片方の腎臓だけをレンチウイルスベクター(280ngのp24)で処置した場合であっても、遺伝子治療は、SDS-PAGE(
図11)ならびにアルブミンおよびビタミンD結合タンパク質のウエスタンブロット(
図12)によって評価されたように、変異マウスによる尿タンパク質分泌を大きく低下させることを実証した。同様に、CCL16分泌のウエスタンブロッティングでも、処置した変異動物において劇的な減少が認められた(
図13)。治療効果は、時間の経過に従い、処置の1ヶ月および2ヶ月後は検出可能であり、治療の4ヶ月後に初めて消失することが分かった(
図14および表5)。片方の腎臓を処置した変異マウスでは、尿タンパク質および尿カルシウム値は、遺伝子送達の4ヶ月後に処置前値まで戻り、利尿も処置の1ヶ月後に上昇した(
図19A)。両方の腎臓を処置した変異体では、尿タンパク質排出は、処置の4ヶ月後に処置前レベルまで戻ったのに対し、利尿およびカルシウム排出は、処置の4ヶ月後も、依然として処置前レベルより低かったが(
図19A)、治療の6ヶ月後には処置前レベルまで戻った。生化学的アッセイデータは、遺伝子治療の4ヶ月後の尿タンパク質のSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティング分析によって裏付けられた(
図19B、
図24)。典型的なマウスの生存期間を3年と考えれば、2ヶ月は、ヒト生存期間の大体50ヶ月に相当するだろう。
【0156】
また、関連研究において、CLCN5 LVを62~162日齢の5匹の変異マウスの左腎臓に送達した。処置したマウスのすべてで、CLCN5遺伝子治療の1ヶ月後に尿タンパク質および尿カルシウム排出の急激な減少が観察された(
図31A~31C)。老化がこれらのパラメーターの有意な減少を引き起こさなかったため、この減少は、マウスの老化によって引き起こされたものではなかった(
図32A~32C)。53~156日齢の変異マウスの両方の腎臓をCLCN5 LVで処置する別の実験を実施し、CLCN5 LV処置マウス毎に、齢数が一致した変異マウスの両方の腎臓をZsGreen LVで処置した。処置の1、2および3ヶ月後、1匹1匹のCLCN5 LV処置マウスは、大きく改善された利尿(
図29A、
図33)、カルシウム尿(
図29B)およびタンパク尿(
図29C)を示し、野生型マウス(破線)のものと近いレベルであった。反対に、ZsGreen LV処置マウスは、これらのパラメーターの改善を示さなかった。この場合も同じく、CLCN5 LV処置の1ヶ月後の尿タンパク質の低下が、SDS-PAGE(
図18C)およびウエスタンブロッティング(
図18E)分析によって確認された。両方の腎臓をCLCN5 LVで処置した4ヶ月後、利尿およびタンパク尿は、処置前の状態まで戻ったが(
図29A、29C)、カルシウム尿は、依然として処置前レベルおよびZsGreen LV処置マウスと比較して改善していた(
図29B)。加えて、本発明者らは、81~196日齢の5匹の変異マウスの両方の腎臓をCLCN5 LVで処置し、この場合も同じく、これらのマウスのすべてが治療に応答した(
図34A~34C)。これらのマウスでは、処置の4ヶ月後も、尿カルシウム尿は依然として改善していたが、処置の6ヶ月後に処置前レベルまで戻った(
図34B)。これらのデータは、CLCN5遺伝子治療のタイミングが、治療効果にほとんど影響しないようであることを示した。生化学的アッセイと一致して、尿タンパク質のSDS-PAGE(
図24)およびウエスタンブロッティング(
図19B)分析もまた、尿タンパク質レベルが、処置の1、2および3ヶ月後に低下したが、処置の4ヶ月後には処置前レベルまで戻ったことを明らかにした。
【0157】
(表5)片方の腎臓を遺伝子治療により処置した前後の変異マウスの尿タンパク質およびカルシウム値
***は、処置前値と比較してp<0.0001を示している。各群に10匹のマウスを含めた。
【0158】
次いで、変異マウスの両方の腎臓をCLCN5レンチウイルスベクター(280ngのp24)の単回注射で処置する研究を実施した。未処置変異マウスおよびGFP発現レンチウイルスベクターで処置した変異マウスを対照として使用した。処置の1ヶ月後、尿体積および尿タンパク質レベルは、正常レベルまでほぼ回復したことが分かり、尿カルシウムレベルは、未処置変異マウスのものよりも4倍低かったが、依然として正常マウスのものよりも高かった(
図15)。
【0159】
実施例5:免疫拒絶反応が、治療効果の喪失の根底にあった
理論に束縛されることを望むものではないが、処置の4ヶ月後の治療効果の喪失についていくつかの考えられる解釈があり得る:1)プロモーターサイレンシング;2)自然の上皮細胞の老化および置換;ならびに3)CLCN5発現細胞の免疫拒絶反応。最も可能性の高い機序を見つけるために、次いで、一連の実験を実施した。初回用量のCLCN5 LVを左腎臓に受けた5ヶ月後、初回用量の治療効果が失われたら、次いで、第2回用量のLVを変異マウスの未処置の右腎臓に送達した(
図20A)。治療効果の喪失が処置細胞のプロモーターサイレンシングまたは自然老化によって引き起こされたのであれば、本発明者らは、第2回用量を受けた後に治療効果を観察するはずである。それが免疫拒絶反応によって引き起こされたのであれば、第2回用量後に、治療効果は観察されないはずである。
【0160】
陽性対照として、ナイーブ変異体を、LVおよび送達手順を検証するために同様に処置した(
図20、動物第6号および第7号)。ベクター送達の15日後に尿試料を収集し、ナイーブマウスにおいて治療後に明確に低下した尿タンパク質が観察され(
図20B、マウス第6号)、このことは、この手順の成功およびベクターの機能性を実証している。しかしながら、5匹の前処置したマウス(動物第1~5号)のいずれでも尿タンパク質の低下は観察されなかったものの、これらのマウスでは、初回用量のCLCN5 LVの後に尿タンパク質が明らかに低下した(
図20B)。利尿、尿タンパク質およびカルシウム排出は、初回用量後にのみ改善され、2回目用量では改善はなかった(
図20C)。これらのデータから、免疫拒絶反応が最も可能性の高い主要な生起機序と示唆された。
【0161】
また、注射を受けた腎臓においてLV DNAの組み込み、ヒトCLCN5 mRNA発現およびCLCN5タンパク質発現も調べた。LV DNA(Psiシグナル)(
図20D)、ヒトCLCN5 mRNA(
図20E)およびCLCN5タンパク質(
図20F)は、ナイーブマウス(動物第6号および第7号)の腎臓で検出できたが、前処置したマウス(動物第3号、第4号および第5号)の腎臓では大きく低下したかまたは検出不能であった。CLCN5 LVで前処置したマウスに第2回目のCLCN5 LV注射を送達した後のCLCN5発現の欠如とは対照的に、CLCN5 LVで前処置したマウスへのGFP LVの送達は、ロバストなGFP発現をもたらした(
図35、CLCN5-LV、GFP-LV、第2号~第4号)。これらのデータは、2回目用量後ではなく、初回用量の1ヶ月後の遺伝子治療効果の観察と一致し、このことは、免疫拒絶反応をさらに裏付けた。
【0162】
実施例6:主要考察(Selected discussion)
要約すると、理論に束縛されることを望むものではないが、これらの結果は、ヒト患者のデント病の臨床症状を反映する表現型および機能的影響をもたらす、CLCN5発現が消失した本発明のデント病のマウスモデルを作製することができることを実証する。注目すべきことに、本発明のデント病マウスモデルは、相同組換えを通じて作製された現行のデント病マウスモデルよりもはるかにより明白な表現型を実証する。1つの予想外の表現型は、C57/BL6バックグラウンドの変異マウスの部分的な胚性致死または周産期致死であった。この観察は、CLCN5遺伝子が、初期発生中に機能し得ることを示唆しており、このことは、胚発生中および腎臓以外の臓器におけるCLCN5発現の観察と一致する。加えて、変異マウスは、公表されているモデルと比較してより重度のタンパク尿および高カルシウム尿を示した。欠失した領域の周囲40キロbp以内に他の予測された遺伝子(非コード遺伝子を含む)はない。したがって、観察された表現型は、CLCN5コード領域の95%を欠失した結果であり、このことから、部分的に機能的なCLCN5タンパク質を発現する可能性が排除された。したがって、これらのヌル変異体は、CLCN5タンパク質の完全欠如の生理学的影響を研究するのに有用であり得る。
【0163】
本明細書に開示されるデータは、遺伝子補充療法がDD1に対する有効な治療選択肢であり得ることを示す。CLCN5 LVベクターを22匹の変異マウス(10匹のマウスは片方の腎臓が処置され、12匹のマウスは両方の腎臓が処置された)に送達し、処置したマウスの100%が、調べたパラメーター:利尿、タンパク尿および高カルシウム尿のすべての有意な改善を示した。処置後、利尿および尿カルシウムレベルは、正常値まで回復したのに対し、尿タンパク質値は、処置前値の20%に低下したが、依然として正常値よりも80%高かった。したがって、遺伝子治療は、DD1の症状を改善させる上で非常に有効である。別の興味深い観察は、25日の若齢および200日(6.5ヶ月)の高齢のマウスが治療に対して同等に応答したことであり、このことは、遺伝子治療のタイミングがこの疾患において重要でないことを示している。遺伝子治療から恩恵を享受できるのは若い患者だけでないことから、この観察は、臨床適用において有意義である。
【0164】
CLCN5はまた、腸上皮でも発現され、ある研究は、CLCN5欠損マウスの高カルシウム尿における腸カルシウム吸収の潜在的役割を提起した。本発明者らは、変異マウスにおいて、逆行性尿管注射によってCLCN5 LVを腎臓に送達し、尿カルシウムレベルを完全に回復させた。これらのデータは、腎臓で発現されるCLCN5が、カルシウム維持において主要な役割を果たすことを示唆している。
【0165】
フレームシフト変異およびナンセンス変異は、すべてのDD1誘発変異の29%および17.5%を占め、これらの変異は、本開示のモデルマウスで見られるように、短縮されたCLCN5タンパク質の発現または全体的にタンパク質の欠如をもたらす可能性が高い。これらのデータは、遺伝子補充療法がこれらの患者に有益である可能性が最も高いことを示唆している。約33%のDD1誘発変異は、ミスセンス変異であり、これは、不安定なタンパク質、転位したタンパク質または機能障害のあるタンパク質を発現する。遺伝子治療は、不安定なまたは転位したCLCN5タンパク質を発現する対象の一部に有益であり得る。CLCN5がホモ二量体を形成する可能性が最も高く、内因性機能不全CLCN5タンパク質が外因性CLCN5タンパク質の機能を妨害し得るため、遺伝子治療が機能不全CLCN5を発現する対象にどの程度有益であるかはまだ判明していない。
【0166】
本開示の研究では、遺伝子治療の効果は、最大4ヶ月続いた。遺伝子治療が尿カルシウムレベルを完全に正常化したが、尿タンパク質レベルはそうならなかったという観察と一致して、高カルシウム尿に対する受益効果は、タンパク尿に対してよりも長く続いた。免疫応答は、遺伝子治療効果の喪失の根底にある主要な機序のようであり、このことは、前処置したマウスに第2回用量のLVを送達した後の治療効果の欠如によって支持された。遺伝子送達の2か月後に、減弱された遺伝子治療効果が初めて観察された。
【0167】
導入遺伝子産物に対する免疫応答が以前に観察されている。変異マウスは、CLCN5を全く発現しないため、LVベクターから発現される構成的に発現されたヒトCLCN5タンパク質は、適応免疫応答を誘導すると予想される。不安定または機能不全CLCN5タンパク質を発現する対象において比較的軽度の免疫応答が観察されるかどうかはまだ判明していない。
【0168】
宿主免疫応答に起因する治療効果の緩やかな喪失は、長期的な遺伝子治療効果を達成するために宿主免疫応答を抑制することの重要性を示唆している。免疫応答を最小限に抑えるのを助けるいくつかの戦略がある。1つは、適応免疫応答のメディエイターである樹状細胞(DC)において導入遺伝子の発現を回避するために組織特異的プロモーターを使用することである。この研究では、本発明者らは、概念実証のために、基本的にすべての細胞で活性なEF1アルファプロモーターを使用した。近位尿細管は、再吸収の主な場所であるため、尿細管近位細胞特異的プロモーター、例えばNpt2aまたはSgtl2に対するものの使用が、免疫応答を低下させる助けとなり得る。
【0169】
態様の列挙
以下の態様の列挙が提供されるが、その番号付けは、重要度のレベルを示すものと解釈されるべきではない。
態様1は、以下を提供する:
その必要のある対象においてデント病を治療するための方法であって、該対象に、CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターの有効量を投与する工程を含み、それにより、該疾患を治療する、該方法。
態様2は、以下を提供する:
前記核酸ベクターが、レンチウイルスベクターである、態様1の方法。
態様3は、以下を提供する:
前記核酸ベクターが、CLCN5タンパク質の発現を駆動するプロモーターに機能的に連結されている、態様1の方法。
態様4は、以下を提供する:
前記プロモーターが、構成的プロモーターである、態様3の方法。
態様5は、以下を提供する:
前記プロモーターが、EF-1αプロモーターである、態様4の方法。
態様6は、以下を提供する:
前記プロモーターが、組織特異的プロモーターである、態様3の方法。
態様7は、以下を提供する:
組織特異的プロモーターが、腎尿細管近位細胞に特異的である、態様6の方法。
態様8は、以下を提供する:
組織特異的プロモーターが、Npt2aおよびSgt12からなる群より選択される、態様7の方法。
態様9は、以下を提供する:
レンチウイルスベクターが、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる、態様2の方法。
態様10は、以下を提供する:
前記投与が、腎臓に局所的に送達される、態様1の方法。
態様11は、以下を提供する:
局所的な腎臓投与が、逆行性尿管注射によって送達される、態様10の方法。
態様12は、以下を提供する:
細胞におけるCLCN5遺伝子の変異を修正するための方法であって、細胞を、機能的CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターと接触させる工程を含む、該方法。
態様13は、以下を提供する:
前記核酸ベクターが、レンチウイルスベクターである、態様12の方法。
態様14は、以下を提供する:
前記核酸ベクターが、CLCN5タンパク質の発現を駆動するプロモーターに機能的に連結されている、態様12の方法。
態様15は、以下を提供する:
前記プロモーターが、構成的プロモーターである、態様14の方法。
態様16は、以下を提供する:
前記プロモーターが、EF-1αプロモーターである、態様15の方法。
態様17は、以下を提供する:
前記プロモーターが、組織特異的プロモーターである、態様14の方法。
態様18は、以下を提供する:
組織特異的プロモーターが、腎尿細管近位細胞に特異的である、態様17の方法。
態様19は、以下を提供する:
組織特異的プロモーターが、Npt2aおよびSgt12からなる群より選択される、態様18の方法。
態様20は、以下を提供する:
レンチウイルスベクターが、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる、態様13の方法。
態様21は、以下を提供する:
CLCN5タンパク質をコードする核酸ベクターと薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
態様22は、以下を提供する:
前記核酸ベクターが、レンチウイルスベクターである、態様21の薬学的組成物。
態様23は、以下を提供する:
レンチウイルスベクターが、SEQ ID NO:1に示される核酸配列によってコードされる、態様22の薬学的組成物。
態様24は、以下を提供する:
1型デント病のマウスモデルであって、該マウスが、該マウスのCLCN5遺伝子に1つまたは複数の変異を含む、該マウスモデル。
態様25は、以下を提供する:
前記1つまたは複数の変異が、欠失である、態様24のマウスモデル。
態様26は、以下を提供する:
前記欠失が、CLCN5遺伝子のエクソン3、エクソン4、エクソン5、エクソン6、エクソン7、エクソン8、エクソン9、エクソン10、およびエクソン11に影響する、態様25のマウスモデル。
態様27は、以下を提供する:
前記1つまたは複数のCLCN5変異が、非機能的CLCN5タンパク質をもたらす、態様24のマウスモデル。
態様28は、以下を提供する:
実験動物の繁殖が、異なる系統の雄親および雌親を必要とする、態様24のマウスモデル。
態様29は、以下を提供する:
雌親がCLCN5変異についてヘテロ接合性であり、雄親が野生型である、態様28のマウスモデル。
態様30は、以下を提供する:
雄親が、FVBバックグラウンドのものである、態様28のマウスモデル。
態様31は、以下を提供する:
雌親が、C57BL/6バックグラウンドのものである、態様28のマウスモデル。
【0170】
他の態様
本明細書中の可変部の任意の定義における要素の一覧の記載は、その可変部の定義を、列記された要素の任意の単一の要素としてまたはそれらの組み合わせ(または部分的組み合わせ)として含む。本明細書におけるある態様の記載は、その態様を、任意の単一の態様としてまたは任意の他の態様もしくはその一部との組み合わせで含む。
【0171】
本明細書において引用されるありとあらゆる特許、特許出願および刊行物の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。具体的な態様を参照しながら本発明を開示してきたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の他の態様および変形物も当業者によって考案され得ることは明らかである。添付された特許請求の範囲は、そのようなすべての態様および等価な変形物を含むと解釈されるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】