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特表2024-520423弱接着細胞を収容するための二次マトリックスを有する生分解性組織スキャフォールド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】弱接着細胞を収容するための二次マトリックスを有する生分解性組織スキャフォールド
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240517BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20240517BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240517BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20240517BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20240517BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20240517BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20240517BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20240517BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240517BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20240517BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240517BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240517BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/079
A61L27/18
A61L27/56
A61L27/58
A61L27/44
A61L27/22
A61L27/34
A61L27/38 200
A61L27/38 300
A61L27/38 100
A61L27/36 100
A61P27/02
A61P27/06
A61K35/30
A61K47/34
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572792
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 US2022031107
(87)【国際公開番号】W WO2022251477
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/194,770
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514144836
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マミニシュキス, アルヴィーダス
(72)【発明者】
【氏名】バーティ, カピル
(72)【発明者】
【氏名】オルトラン, ダビデ
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ, ルチ
(72)【発明者】
【氏名】グエン, エリック
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029DG08
4B029GA08
4B029GB09
4B065AA90X
4B065AC12
4B065AC20
4B065BB40
4B065BC42
4B065CA44
4C076AA99
4C076BB24
4C076CC10
4C076EE21
4C076EE24
4C081AB21
4C081BA16
4C081CA16
4C081CA17
4C081CA20
4C081CD112
4C081CD172
4C081CD34
4C081DA02
4C081DB03
4C081DC03
4C081DC04
4C081EA01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB56
4C087BB64
4C087MA05
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
網膜色素上皮(RPE)細胞、光受容体前駆(PRP)細胞、またはその両方を付着させるための2つの層を含むスキャフォールドが提供される。スキャフォールドは、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)を含む第1の層と、ポリカプロラクトン(PCL)ループを含む第2の層とを含む。成熟RPE細胞およびPRP細胞を含有するスキャフォールドを対象の眼に移植して、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を処置することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約0.25:3~3:0.25のDL-ラクチド/グリコリド比および少なくとも約150nmの繊維径を有するポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)を含む、高さが少なくとも約5ミクロン、直径が少なくとも約0.2ミクロンの平均孔径を有する第1の層と、
前記第1の層に付着された、少なくとも約5ミクロンの直径を有するポリカプロラクトン(PCL)ループを含む第2の層と、
を含む、スキャフォールド。
【請求項2】
前記第1の層が、約5~約40ミクロンの高さを有する、請求項1に記載のスキャフォールド。
【請求項3】
前記PLGAが、約1:1のDL-ラクチド/グリコリド比を有する、請求項1または2に記載のスキャフォールド。
【請求項4】
前記PLGAが、約0.2~2ミクロンの平均孔径を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項5】
前記PLGAが、約150~約650nmの繊維径を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項6】
前記PCLループが約5~約300ミクロンの直径を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項7】
前記第2の層が、電界紡糸または化学エッチングを使用して前記第1の層に付着される、請求項1~5のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項8】
前記電界紡糸が、
少なくとも5kVの電界電圧、
少なくとも10kPa(例えば、約100kPa~約400kPa)のガス噴出圧力、
少なくとも10mmのノズルとPLGAスキャフォールドとの間の作業距離、および
少なくとも2分間の電界紡糸時間、
を含む、請求項7に記載のスキャフォールド。
【請求項9】
細胞接着タンパク質のコーティングをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項10】
前記細胞接着タンパク質が、ビトロネクチン、ラミニン、フィブロネクチン、またはそれらの組み合わせである、請求項9に記載のスキャフォールド。
【請求項11】
網膜色素上皮(RPE)細胞、光受容体前駆(PRP)細胞、またはRPE細胞とPRP細胞の両方をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項12】
前記スキャフォールドが、
少なくとも100,000細胞/cmのRPE細胞、
少なくとも100万細胞/cmのPRP細胞、または
少なくとも100,000細胞/cmのRPE細胞と少なくとも100万細胞/cmのPRP細胞
をさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項13】
前記RPE細胞が、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞である、請求項11~12のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項14】
前記RPE細胞が、黄斑ヒトRPE細胞、中心ヒトRPE細胞および/または末梢ヒトRPE細胞であり、
a)多能性幹細胞を網膜誘導培地中で培養して、前記細胞のRPE前駆細胞への分化を開始させる工程;
b)前記RPE前駆細胞を網膜分化培地中で培養して、前記RPE前駆細胞を拘束RPE細胞にさらに分化させる工程;
c)前記拘束RPE細胞を網膜培地中で培養して未成熟RPE細胞を形成する工程;ならびに
d)前記未成熟RPE細胞をレチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニストおよび/またはカノニカルWnt阻害剤を含むRPE成熟培地中で培養し、それによりヒトRPE細胞を産生する工程;を含む方法によって生成され、
前記ヒトRPE細胞が、黄斑ヒトRPE細胞、中心ヒトRPE細胞および/または末梢ヒトRPE細胞であり、
前記培養工程が、前記スキャフォールド上で実施され得、前記方法が、前記多能性幹細胞を前記スキャフォールド上に播種する工程を含み、前記黄斑ヒトRPE細胞、中心ヒトRPE細胞および/または末梢ヒトRPE細胞が前記スキャフォールド上で成熟するか、または前記培養工程が前記スキャフォールド上で実施されず、前記黄斑ヒトRPE細胞、中心ヒトRPE細胞および/または末梢ヒトRPE細胞が前記スキャフォールド上に播種される、請求項11~13のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項15】
前記幹細胞が誘導多能性幹細胞(iPSC)である、請求項14に記載のスキャフォールド。
【請求項16】
前記RARアンタゴニストが、AGN 193109、CE 2665、ER 5081、LE 135、LY 2955303、MM 11253、またはリアロゾールジヒドロクロリドである、請求項14または請求項15に記載のスキャフォールド。
【請求項17】
前記カノニカルWnt阻害剤が、4-(1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル)-N-8-キノリニル-ベンズアミド(Endo-1-IWR)、カルホスチンC、カーディオノーゲン1、CCT 031374ヒドロブロミド、IWP 12、XAV 939、WIKI4、ICG-001、Wnt-C59(C59)、IWR-1-endo、KY02111、LGK-974、IWP-L6、FH535、iCRT 14、IWP 4、JW 67、JW 74、KYA 1797K、NLS-StAx-h、PNU 74654、TAK 715、IWP 2、CKI 7ジヒドロクロリド、(R)-CR8、D 4476、(R)-DRF053ジヒドロクロリド、エピブラスチンA、IC 261、LH 846、PF 4800567ヒドロクロリド、PF 5006739、PF 670462、SR 3029、AZ 6102、JW 55、MN 64、またはTC-E 5001である、請求項14~16のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項18】
前記RPE成熟培地が少なくとも1つの一次繊毛インデューサーを含む、請求項14~17のいずれか1項に記載のスキャフォールド。
【請求項19】
前記少なくとも1つの一次繊毛インデューサーがプロスタグランジンE2(PGE2)またはアフィディコリンである、請求項18に記載のスキャフォールド。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載のスキャフォールドを含む、非生分解性多孔質ポリカーボネート膜。
【請求項21】
請求項1~19のいずれか1項に記載のスキャフォールドまたは請求項20に記載の非生分解性多孔質ポリカーボネート膜;および
ビトロネクチン、ラミニン、フィブロネクチン、スナップウェル培養システム、(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)Oリング、網膜誘導培地、網膜分化培地、網膜成熟培地、網膜培地、非生分解性多孔質ポリカーボネート膜、多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞、成熟RPE細胞およびPRP細胞のうちの1またはそれより多く、
を含む、キット。
【請求項22】
処置を必要とする対象を処置するための方法であって、
請求項1~19のいずれか1項に記載のスキャフォールドまたは請求項20に記載の非生分解性多孔質ポリカーボネート膜を前記対象の網膜に移植する工程を含む、方法。
【請求項23】
前記対象が、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記網膜変性疾患が、シュタルガルト黄斑ジストロフィー、網膜色素変性、加齢性黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、レーバー先天性黒内障、後天性黄斑変性、遺伝性黄斑変性、ベスト病、遅発性網膜変性、ベアトラックジストロフィー、網膜剥離、脳回転状萎縮、コロイデレミア、パターンジストロフィーである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記網膜損傷が、レーザー、炎症性、感染性、放射線、新生血管または外傷性傷害によって引き起こされる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が哺乳動物である、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
請求項22~26のいずれか1項に記載の方法に使用するための、請求項1~20のいずれか1項に記載のスキャフォールドを含む医薬組成物。
【請求項28】
黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞を、請求項1~19のいずれか1項に記載のスキャフォールドまたは請求項20に記載の非生分解性多孔質ポリカーボネート膜上に培養する工程であって、前記黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞が、
a)多能性幹細胞を網膜誘導培地中で培養して、前記細胞のRPE前駆細胞への分化を開始させること;
b)前記RPE前駆細胞を網膜分化培地中で培養して、前記RPE前駆細胞を拘束RPE細胞にさらに分化させること;
c)前記拘束RPE細胞を網膜培地中で培養して未成熟RPE細胞を形成すること;ならびに
d)前記未成熟RPE細胞をレチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニストおよび/またはカノニカルWnt阻害剤を含むRPE成熟培地中で培養し、それにより黄斑RPE細胞、中心RPE細胞または末梢RPE細胞を産生すること;を含む方法によって生成される、工程と、
続いて、前記黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞の上でPRP細胞を培養する工程と
を含む、方法。
【請求項29】
前記培養工程が網膜成熟培地の存在下で行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記スキャフォールド上に黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞を培養することにより、前記スキャフォールド上の前記黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞の単層が形成される、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞を生成するために使用される前記培養工程が、前記スキャフォールドの存在下で行われる、請求項28~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記スキャフォールドが、前記移植工程後約1年以内に分解し;
前記スキャフォールドの第1の層が、前記移植工程後約3ヶ月以内に分解し;および/または
前記スキャフォールドの第1第2が、前記移植工程後約1年以内に分解する、
請求項22~28のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月28日に出願された米国特許出願第63/194,770号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府支援の記載
本発明は、国立衛生研究所、国立眼科研究所によって、プロジェクト番号Z01#:ZIA EY000533-04の下で政府の支援を受けて行われた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示の分野
これは、眼科の分野に関し、具体的には、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)の層と、PLGAに付着されたポリカプロラクトン(PCL)ループを含む層とを有するスキャフォールドに関する。そのようなスキャフォールドは、網膜色素上皮(RPE)細胞および光受容体前駆(PRP)細胞を播種し、次いで、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を処置するために対象の網膜に移植することができる。
【背景技術】
【0004】
背景
網膜色素上皮は、眼の背部に位置する細胞の単層である。頂端側では、RPE細胞は、頂端突起を介して光受容体との接触を形成する。基底側では、脈絡膜の毛細血管に面する。網膜色素上皮の主な機能は、代謝産物を光受容体および脈絡膜血管と交換し、網膜の恒常性を維持することである。
【0005】
ヒトの中心網膜には、鋭い色覚を担う、黄斑と呼ばれる錐体が濃縮された領域がある。証拠は、ヒトRPE単層が、表現型的および機能的に不均一な細胞集団であることを示唆している。表現型的には、黄斑RPE細胞は、末梢RPE細胞よりもサイズが小さく(Bhatia et al.,Molecular Vision,22,898-9162016,2016)、錐体光受容体を主に支持する花弁状の頂端突起を有する。対照的に、末梢RPE細胞は、桿体光受容体を主に支持する指状の頂端突起を有する(Pfeffer&Fisher,Journal of Ultrastructure Research,76(2),158-172.https://doi.org/10.1016/S0022-5320(81)80014-71981;Steinberg,Zeitschrift Fur Zellforschung Und Mikroskopische Anatomie,143(4),451-463,doi.org/10.1007/BF003067651973)。機能的には、末梢RPE細胞は、黄斑RPE細胞よりも高レベルのNa/K ATPaseを発現する(Burke et al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science,32(7),2042-2046,1991)。RPEリソソーム酵素活性も領域的に異なる:カテプシンDは黄斑RPE細胞でより活性である(Boulto et al.,The British Journal of Ophthalmology,78(2),125-129,1994;Burke&Twining,The British Journal of Ophthalmology,78(2),125-129,1988;Cabral et al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science,31(4),670-676.1990)が、酸性ホスファターゼ、β-グルクロニダーゼ、およびN-アセチル-β-グルコサミニダーゼは末梢RPE細胞でより活性である(Cabral et al.、前出、1990)。少なくとも5%の遺伝子が、黄斑RPE細胞と末梢RPE細胞との間で差次的に発現される(Radeke et al.,Experimental Eye Research,85(3),366-380,2007;van Soest et al.,Molecular Vision,13,1608-1617,2007)。代謝的に、黄斑および末梢ヒトRPE/脈絡膜は、異なるレベルの代謝産物を消費および放出する(Li et al.,BioRxiv,2020.07.10.196295.doi.org/10.1101/2020.07.10.196295,2020)。黄斑RPEおよび末梢RPEなどの異なる種類のRPE細胞を分化させる方法が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bhatia et al.,Molecular Vision,22,898-9162016,2016
【非特許文献2】Pfeffer&Fisher,Journal of Ultrastructure Research,76(2),158-172.https://doi.org/10.1016/S0022-5320(81)80014-71981
【非特許文献3】Steinberg,Zeitschrift Fur Zellforschung Und Mikroskopische Anatomie,143(4),451-463,doi.org/10.1007/BF003067651973
【非特許文献4】Burke et al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science,32(7),2042-2046,1991
【非特許文献5】Boulto et al.,The British Journal of Ophthalmology,78(2),125-129,1994
【非特許文献6】Burke&Twining,The British Journal of Ophthalmology,78(2),125-129,1988
【非特許文献7】Cabral et al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science,31(4),670-676.1990
【非特許文献8】Radeke et al.,Experimental Eye Research,85(3),366-380,2007
【非特許文献9】van Soest et al.,Molecular Vision,13,1608-1617,2007
【非特許文献10】Li et al.,BioRxiv,2020.07.10.196295.doi.org/10.1101/2020.07.10.196295,2020
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の概要
網膜色素上皮(RPE)細胞、光受容体前駆(PRP)細胞、またはRPE細胞とPRP細胞の両方、例えば開示される方法を使用して生成されたRPE細胞を播種するために使用することができるスキャフォールドが本明細書で提供される。RPE細胞およびPRP細胞を含有するスキャフォールドを対象の眼に移植して、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を処置することができる。
【0008】
本明細書では、2つの層を含むスキャフォールドが提供される。いくつかの例における第1の層は、高さ(例えば、厚さ)が少なくとも約5ミクロン(例えば約5~約40ミクロン、例えば5、10、15、20、25、30、35または40ミクロン)であり、直径が少なくとも約0.2ミクロン(例えば約0.2~約2ミクロン、例えば0.2、0.5、1、または2ミクロン)の平均孔径を有する。第1の層は、少なくとも約0.25:0.25(例えば1:1)のDL-ラクチド/グリコリド比および少なくとも150nm(例えば約150~約650nm、例えば150、200、300、400、450、500、600、または650nm)の繊維径を有するポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)を含む。第2の層は、少なくとも5ミクロン(例えば約5~約300ミクロン、例えば5、10、25、30、50、100、200、または300ミクロン)の直径を有するポリカプロラクトン(PCL)ループを含み、第2の層は第1の層に付着している。いくつかの例では、PCLループの第2の層は、電界紡糸を使用して第1の層に付着される。
【0009】
開示されるスキャフォールドは、ビトロネクチン、ラミニン、およびフィブロネクチンのうちの1またはそれより多くなどの組換え細胞接着タンパク質を含有するコーティングをさらに含むことができる。
【0010】
開示されるスキャフォールドは、網膜色素上皮(RPE)細胞、光受容体前駆(PRP)細胞、またはRPE細胞とPRP細胞の両方、例えば本明細書で提供される方法を使用して作製されたRPE細胞(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)をさらに含むことができる。したがって、いくつかの例では、開示されるスキャフォールドは、RPE細胞を生成するためにスキャフォールド上で培養される誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む。一例では、RPE細胞は、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞であり、a)誘導多能性幹細胞(iPSC)などの多能性幹細胞を網膜誘導培地中で培養して、細胞のRPE前駆細胞への分化を開始させること;b)RPE前駆細胞を網膜分化培地中で培養して、RPE前駆細胞を拘束RPE細胞にさらに分化させること;c)拘束RPE細胞を網膜培地中で培養して未成熟RPE細胞を形成すること;ならびにd)未成熟RPE細胞をレチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニストおよび/またはカノニカルWnt阻害剤を含むRPE成熟培地中で培養し、それにより黄斑ヒトRPE細胞、中心ヒトRPE細胞または末梢ヒトRPE細胞を産生することを含む方法によって生成される。いくつかの実施形態では、そのような培養方法は、スキャフォールド上で行われる(例えば、誘導多能性幹細胞(iPSC)などの多能性幹細胞をスキャフォールドに添加し、本明細書に記載されるように培養して、黄斑ヒトRPE細胞、中心ヒトRPE細胞または末梢ヒトRPE細胞を生成する。いくつかの実施形態では、本方法は、黄斑ヒトRPE細胞を産生し、RPE成熟培地は、RARアンタゴニストを含むが、カノニカルWnt阻害剤を含まない。さらなる実施形態では、本方法は、中心ヒトRPE細胞を産生し、RPE成熟培地は、RARアンタゴニストとカノニカルWnt阻害剤の両方を含む。さらに他の実施形態では、本方法は、末梢ヒトRPE細胞を産生し、RPE成熟培地は、カノニカルWnt阻害剤を含むが、RARアンタゴニストを含まない。そのような方法は、限定されないがヒトRPE細胞を含む任意の哺乳動物からRPE細胞を調製するために使用することができる。
【0011】
本明細書に開示されるスキャフォールドを含有する非生分解性多孔質ポリカーボネート膜も提供される。
【0012】
本明細書に開示されるスキャフォールドを含むキットも提供される。そのようなキットは、ビトロネクチン、ラミニン、フィブロネクチン、スナップウェル培養システム、(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)Oリング、網膜誘導培地、網膜分化培地、網膜成熟培地、網膜培地、非生分解性多孔質ポリカーボネート膜、RPE細胞、およびPRP細胞のうちの1またはそれより多くをさらに含んでもよい。
【0013】
例えば、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失の処置に使用するための、本明細書で提供されるスキャフォールドを含む医薬組成物も提供される。
【0014】
対象の網膜にスキャフォールドを移植することによって、それを必要とする対象を処置するために本明細書で提供されるスキャフォールドを使用する方法も提供される。いくつかの例では、対象は、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を有する。いくつかの例では、本明細書に開示されるスキャフォールドを網膜に移植した後、スキャフォールドの第1の層は約3ヶ月以内に分解するが、スキャフォールドの第2の層はより長く、例えば約1年まで残る。
【0015】
例えば、本明細書で提供される処置方法で使用するために、RPEおよびPRP細胞を細胞上に培養する方法も提供される。
【0016】
本開示の上記および他の特徴は、添付の図面を参照して進行するいくつかの実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】黄斑および末梢iPSC-RPE分化プロトコル。黄斑および末梢iPSC-RPE分化プロトコルのスキーム。AGN 193109およびendo-IWR-1をRPE成熟培地中のiPSC-RPEに添加して、それぞれ黄斑表現型または末梢表現型を得る。このフローチャートは、薬物がRPE成熟培地に添加されることを示し、各工程に対応する細胞運命状態を示す。
図2】ヒト黄斑および末梢RPE細胞は表現型が異なる。ヒトRPE単層は、表現型的および機能的に不均一な細胞集団である。この図は、黄斑および末梢RPEの間の2つの表現型の違いを示す。上の、エキソビボで成長させたiPSC-RPE細胞の走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、花弁状または指状の頂端突起が濃縮された細胞の例を示す。花弁状の頂端突起は、錐体光受容体を包む頂端RPE細胞膜のシート状突起(うねりを有する)である;これらは黄斑に豊富である。指状の頂端突起は、微絨毛に似ており、末梢網膜に富む桿体光受容体を選択的に支持する(Steinberg and Wood,Proceedings of the Royal Society of London-Biological Sciences,187(1089),461-478,1974;Fisher and Steinberg,The Journal of Comparative Neurology,206(2),131-145,1982)。図の下において、黄斑および末梢領域からのRPE細胞境界の2つの画像は、細胞面積の差を示す。棒グラフは、黄斑と周辺部との間の細胞面積の定量化を示す(Bhatia et al.,Molecular Vision,22,898-916,2016)。
図3】ヒトRPE細胞の領域形態計測分析。全ヒトRPEフラットマウントを調製し、RPE細胞境界について染色して、RPE形状測定基準を分析した(左)。拡大図は、抗ZO1抗体で細胞境界を染色した個々のRPE細胞を示す。機械学習アルゴリズムを訓練して、RPE細胞境界を同定およびセグメント化した。アルゴリズムは、細胞形状分析のためのREShAPEソフトウェアの入力となるRPE細胞のバイナリ画像を生成する。
図4】ヒトRPE細胞の領域形態計測分析。REShAPE(網膜上皮形状および色素評価器(Retinal Epithelium Shape And Pigment Evaluator))は、成功裏にセグメント化された視野内のすべての細胞を分析するために使用され、REShAPEは、25を超える異なる形状測定基準の定量化を提供する。生データは、統計分析を可能にするためにスプレッドシートに保存される。さらに、ソフトウェアは、分析された測定基準ごとにセグメント化された細胞の画像を作成し、すべての細胞は生の値に従って色分けされる。この画像では、セグメント化されたRPE細胞は、それらの領域に従って色分けされている。小さい細胞は、より暗い細胞(スケールの左側)に現れ、大きい細胞は灰色(スケールの右側)に現れる。サーマルスケールはインサートとして示されている。
図5】ヒトRPE細胞の領域形態計測分析。ヒトRPE単層全体の低倍率マップ。これは約300万~400万個のRPE細胞を含み、これらは細胞面積に従って色分けされている。サーマルスケールを使用した。濃い灰色は面積が小さいRPE細胞に対応し、面積が大きいRPE細胞も示されている(スケールを参照のこと)。フラットマウントの中央の暗いスポットは、黄斑RPE細胞を表す。RPE細胞面積は、小さいRPE細胞の末梢リングを除いて、偏心して徐々に成長する。細胞面積を参照として使用して、5つの有意に異なるRPE集団を同定し、これらを「集団1」(P1)~「集団5」(P5)と命名した(図6参照)。この図では、黄斑細胞から末梢細胞に進んでいる。
図6】ヒトRPE細胞の領域形態計測分析。同定された各ヒトRPE集団(P1~P5)について単一細胞を表示するための高倍率画像。サーマルスケールを使用した。面積が小さいRPE細胞および面積が大きいRPE細胞を同定した。ボックスプロットは、各RPE集団に対するRPE細胞面積の値を示す。ボックス限界は第1および第3四分位数を表し、中心線は中央値を示し、ひげは第5および第95パーセンタイルを示すので、範囲はデータの90%を指定する。一元配置ANOVAの表は、各RPE集団間の多重比較を示す。RPE集団は、細胞サイズに従って集団中央値±2標準偏差として定義され、これはデータの95%を包含する。値を右側の表に示す。
図7】ヒトRPE細胞とiPSC-RPEとの間の形態計測の比較。115個の化合物をiPSC-RPEでスクリーニングして、ヒトRPE集団の形態計測を再現した。化合物は、発生経路の活性化剤および阻害剤である。(概略フローチャートに示すように)30日間RPE成熟培地に添加することによって、すべての化合物を試験した。処理の終了時に、REShAPEを用いて細胞面積を定量した。結果を黄斑RPE細胞および末梢RPE細胞の測定値と比較して、ヒトRPEの寸法を再現する化合物を選択した。図の下側は、(フラットマウントからの)黄斑および末梢ヒトRPEと、異なる化合物で処理したiPSC-RPE細胞との間の細胞面積の比較の概略図を示す。
図8】ヒトRPE細胞とiPSC-RPEとの間の形態計測の比較。化合物のスクリーニングの結果は、レチノイン酸阻害剤、例えばAGN 193109、またはカノニカルWnt阻害剤、例えばendo-IWR-1を、iPSC-RPEに添加すると、それぞれインビトロで黄斑および末梢細胞サイズが再現されることを示す。ヒトRPE集団P3を、末梢RPE細胞の参照として選択した。一元配置ANOVAおよび多重比較のための事後検定を統計分析に使用した。DMSOで処理したiPSC-RPE細胞もまた、未処理iPSC-RPEの対照としてグラフに示されている。データはボックスプロットとして表示され、ボックス限界は第1および第3四分位数を表し、中心線は中央値を示し、ひげは第5および第95パーセンタイルを示すので、範囲はデータの90%を指定する。
図9】ヒトRPE細胞とiPSC由来RPEとの間の形態計測の比較。細胞面積によって色分けされた画像は、ヒトRPE細胞とiPSC-RPE細胞との比較を実証する。ヒトRPE集団P3を、末梢RPE細胞の参照として選択した。レチノイン酸阻害剤、例えばAGN 193109、またはカノニカルWnt阻害剤、例えばendo-IWR-1を、iPSC-RPEに添加すると、それぞれインビトロで黄斑および末梢細胞サイズが再現される。同じ範囲のパラメータを色分けされた画像のサーマルスケールに使用した。したがって、画像間で面積を直接比較することができる。このデータは、前の図のボックスプロットグラフを補完する。スケールバー=100um。
図10】処理されたiPSC由来RPE間の頂端構造の比較。iPSC-RPE細胞の上面から下面までの図は、頂端突起の構造を示す。AGN 193109は、黄斑RPE細胞に特徴的な、うねりを伴う花弁様の頂端突起を有する細胞を濃縮した。Endo-IWR-1は、末梢RPE細胞の特徴である指状の頂端突起を有する細胞を濃縮した。どちらのタイプの頂端突起もDMSO対照で見ることができる。
図11】花弁状(うねり)および指状の頂端突起を画定する。頂端突起の横断面を測定して、それらの形状を正確に画定した。RPE細胞をAGN 193109で処理することによって得られる花弁状の頂端突起は、1.68μmの平均横断長さ(transversal length)(長さ最小0.5、最大4μm)および0.20μmの幅(幅最小0.1、最大1μm)を有する。花弁状の頂端突起もまた、それらの長さに沿って波状である。うねりの幅は、0.2~2μmの範囲である。RPE細胞をendo-IWR-1で処理することによって得られる指状の頂端突起は、円筒形であり、同じ平均横断長さおよび0.23μmの幅を有する(最小0.1、最大1ミクロン)。頂端突起の測定がどのように行われたかの例が、処理された各タイプの頂端について示されている。
図12】細胞面積の比較。グラフは、カノニカルWnt経路を阻害する異なる薬物で処理した黄斑RPE細胞および遠位末梢RPE細胞(それぞれP1およびP4)とiPSC-RPE細胞との間の細胞面積の比較を示す。このデータは、AGN 193109およびendo-IWR-1の同定をもたらした化合物のスクリーニングから得られる。DMSOで処理したiPSC-RPE細胞も、未処理のiPSC-RPEの対照としてグラフに示されている。グラフは、他のカノニカルWnt阻害剤を使用して、末梢RPE表現型を再現することができることを示す。実際、すべてのカノニカルWnt阻害剤は、iPSC-RPE細胞面積を末梢RPE細胞の寸法まで増加させた(P3)。結果は、カノニカルWnt阻害が末梢RPE細胞を生成することを示した。データはボックスプロットとして表示され、ボックス限界は第1および第3四分位数を表し、中心線は中央値を示し、ひげは第5および第95パーセンタイルを示すので、範囲はデータの90%を指定する。一元配置ANOVAおよび多重比較のための事後検定を統計分析に使用した。
図13】黄斑(P1)、中心(P2)および末梢(P3)細胞を再現するために、異なる濃度のAGN 193109およびendo-IWR-1を試験する。黄斑、中心および末梢RPE集団(それぞれP1、P2およびP3と標識される)を再現するために使用することができるAGN 193109およびendo-IWR-1の濃度範囲を試験した。集団1(P1、黄斑細胞)は、0.1mM~0.2mMのAGN 193109を用いて再現することができる。集団3(P3、末梢)は、1mM~4mMのendo-IWR-1を用いて再現することができる。AGN 193109およびendo-IWR-1の勾配を使用して、ヒトRPE集団2(P2、中心)-中心RPE細胞を複製することができた。1つの例において、これは、25nM~50nMのAGN 193109および0.1mM~0.5mMのendo-IWR-1を用いて再現することができる。DMSO、P1、P2およびP3に対する箱ひげ図を、細胞サイズ比較のための参照としてグラフの左側にプロットする。AGN 193109およびendo-IWR-1について5つの濃度を試験した。
図14】異なるRPE集団は、異なる網膜疾患に罹患している。異なる眼疾患(A)コロイデレミア;(B)遅発性網膜変性(LORD);(C)未診断の網膜変性におけるRPEの異なる領域における損傷を示す患者の眼の眼底画像。異なるタイプの網膜変性疾患は、RPE集団の異なるサブセットに影響を及ぼすようである。異なる疾患におけるRPE変性が眼底画像において観察され、それらの位置を定量化することができる。(D)表は、どのRPE集団が主に異なる疾患に罹患しているかをまとめたものである。塗りつぶされた四角は、RPE集団全体が影響を受けることを意味する。ドットの四角は、集団が部分的に影響を受けることを示す。RPE集団の場合、括弧内の数字は、眼の中心からの各RPE集団の距離(ミリメートル単位)を示す。疾患については、括弧内の数字は、眼の中心からのミリメートルとして表されるRPE変性の位置を指定する。AMDは急性黄斑変性であり、RDは未同定の変異を有する患者における網膜変性である。ドットまたは塗りつぶされた四角の集団を、示された対象の処置に使用することができる。P1は黄斑であり、P2は中心であり、P3は末梢RPEであり、P4は遠位末梢であり、P5は鋸状縁RPE細胞である。ドットは、後期の疾患段階における変性を示す(早期段階における部分変性も意味する)。四角は、早期の疾患段階における変性を示す。四角領域は、ドット領域よりも疾患過程において早期に移植される。したがって、ドットおよび四角は、特定の細胞集団が使用され得るタイミングに関する情報を提供する。
図15】本明細書で提供される例示的な二層「ファジー」スキャフォールド構築物のデジタル走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、PLGA紡糸スキャフォールドの上のより暗いおよびより薄いPCLループのメッシュ状構造を示す(より暗いPCLループ間の灰色の外観)。
図16A】RPE細胞および光受容体前駆(PRP)細胞を播種した、本明細書で提供される例示的な二層「ファジー」スキャフォールド構築物のデジタル走査型電子顕微鏡(SEM)画像(A)100×倍率、(B)1000×倍率。(B)において、矢印は、健康で成熟したRPE細胞の指標であるRPE頂端突起を示す。
図16B】RPE細胞および光受容体前駆(PRP)細胞を播種した、本明細書で提供される例示的な二層「ファジー」スキャフォールド構築物のデジタル走査型電子顕微鏡(SEM)画像(A)100×倍率、(B)1000×倍率。(B)において、矢印は、健康で成熟したRPE細胞の指標であるRPE頂端突起を示す。
図17】移植されたスキャフォールドを示すデジタル(A)走査レーザー検眼鏡(SLO)画像(矢印)および(B)移植されたスキャフォールドにわたる光干渉断層法(OCT)Bスキャン。
図18A】(A)2ヶ月前にインプラントが配置された領域(目的領域)を示す、切開固定眼組織のデジタル画像。(BおよびC)スキャフォールドを横切って撮影したH&E染色パラフィン包埋切片のデジタル画像。0.173μm/ピクセル解像度のAxioScan(Zeiss)を使用して、20倍対物レンズで画像を収集した。このデバイスは、必要に応じてズームインおよびズームアウトすることができる画像を生成する。
図18B】(A)2ヶ月前にインプラントが配置された領域(目的領域)を示す、切開固定眼組織のデジタル画像。(BおよびC)スキャフォールドを横切って撮影したH&E染色パラフィン包埋切片のデジタル画像。0.173μm/ピクセル解像度のAxioScan(Zeiss)を使用して、20倍対物レンズで画像を収集した。このデバイスは、必要に応じてズームインおよびズームアウトすることができる画像を生成する。
図18C】(A)2ヶ月前にインプラントが配置された領域(目的領域)を示す、切開固定眼組織のデジタル画像。(BおよびC)スキャフォールドを横切って撮影したH&E染色パラフィン包埋切片のデジタル画像。0.173μm/ピクセル解像度のAxioScan(Zeiss)を使用して、20倍対物レンズで画像を収集した。このデバイスは、必要に応じてズームインおよびズームアウトすることができる画像を生成する。
図19】(A)第1の層PLGAスキャフォールド102と、PCLループ104を含む第2の層103とを含む例示的な二層スキャフォールド100を示す概略図(一定の拡大縮小比ではない)。ここでは、ループ104は「閉じている」ように示されているが、開いていてもよい(例えば、線形)。第1の層102は、上面112と、下面114とを含む。(B)RPE細胞106(本明細書中に提供される方法を使用して、iPScsなどの多能性幹細胞からスキャフォールド上に生成され得る)およびPRP細胞108を播種した二層スキャフォールド100。
図20】色素沈着および細胞形態。化合物が有害でないことを確実にするために、DMSO/対照(A、B)、endo-IWR-1(C、D)またはAGN 193109(E、F)で処理した後に、iPSC-RPE色素沈着レベル(A、C、E)を調べた。肉眼的細胞形態もまた、起こり得る異常を検出するために分析した(中央)。透過型電子顕微鏡を用いて、微細な細胞内構造を変化について調べた(右)。Endo-IWR-1およびAGN 193109は、色素沈着レベルも肉眼的または微細な細胞形態も変化させなかった。
図21】経上皮電気抵抗(TER)。AGN 193109およびendo-IWR-1処理細胞について観察されたTER(単層の緊密さ(tightness)の尺度)を示すグラフ。400オーム*センチメートル平方のカットオフを使用して、低いTERを有する細胞を除外した。AGN 193109処理細胞およびendo-IWR-1処理細胞は、閾値を十分に上回った。データはボックスプロットとして表示され、ボックス限界は第1および第3四分位数を表し、中心線は中央値を示し、ひげは第5および第95パーセンタイルを示すので、範囲はデータの90%を指定する。
図22】単一細胞RNAシーケンシング、各ドットは単一細胞のトランスクリプトームを表す。ドット間の距離は、これらの細胞がどの程度異なるか(近いほど類似している)を示す。3つのセットは、互いに別々にクラスター化する。したがって、それらのトランスクリプトームはかなり明確である。AGN 193109処理細胞;endo-IWR-1処理細胞およびDMSO処理細胞を示す。
図23】バルクRNAシーケンシング。3つのヒートマップは、文献から特定の遺伝子の発現レベルを示している(Radeke et al.,Experimental Eye Research 85(3),366-380,doi:10.1016/j.exer.2007.05.006(2007);Whitmore et al.,Experimental Eye Research 129,93-106,doi:10.1016/J.EXER.2014.11.001(2014);Voigt et al.,Experimental Eye Research 184,234-242,doi:10.1016/J.EXER.2019.05.001(2019).van Soest et al.,Molecular Vision 13,1608-17,ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17893662(2007);Li et al.iScience 23(11),101672,doi:10.1016/j.isci.2020.101672(2020);Ishibashi et al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science 45(9),3291,doi:10.1167/iovs.04-0168(2004)を上段に、バルクRNAシーケンシングを下段に示す。X軸は、目的の遺伝子で標識されている。濃い灰色は、黄斑(文献)またはAGN 193109処理細胞(現在のデータ、iPSC-RPE)でより発現される遺伝子に対応する。薄い灰色は、周辺部(文献)またはendo-IWR-1処理細胞(現在のデータ、iPSC-RPE)でより発現される遺伝子に対応する。
図24】食作用試験。データはボックスプロットとして表示され、ボックス限界は第1および第3四分位数を表し、中心線は中央値を示し、ひげは第5および第95パーセンタイルを示すので、範囲はデータの90%を指定する。
図25】酸性ホスファターゼ活性。AGN 193109処理細胞(黄斑iPSC-RPE)におけるendo-IWR-1よりも高い酸性ホスファターゼ活性を示すグラフ。データはボックスプロットとして表示され、ボックス限界は第1および第3四分位数を表し、中心線は中央値を示し、ひげは第5および第95パーセンタイルを示すので、範囲はデータの90%を指定する。
図26】2種類のRPE細胞の代謝過程。P-RPEは、より高い解糖速度を示すM-RPE(上のバー)と比較して、OXPHOSを行う能力が高い(下のバー)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
いくつかの実施形態の詳細な説明
いくつかの異なるタイプのRPE細胞が網膜に存在することが本明細書で開示される。iPSCなどの多能性幹細胞から黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および末梢RPE細胞を調製するための方法が本明細書に開示される。これらの方法は、レチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニストおよび/またはカノニカルWnt阻害剤を含むRPE成熟培地中で未成熟RPE細胞を培養して、黄斑ヒトRPE細胞、中心ヒトRPE細胞または末梢ヒトRPE細胞を産生することを含む。いくつかの例では、未成熟RPE細胞は、本明細書に提供されるスキャフォールド、例えばPLGAおよびPCLループを含むスキャフォールド上で培養され、その結果、スキャフォールドは、本明細書に提供される培養工程から産生される黄斑ヒトRPE細胞、中心ヒトRPE細胞または末梢ヒトRPE細胞を最終的に含む。開示される方法で生成された黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および末梢RPE細胞は、網膜変性を処置するため、細胞型に特異的な薬物を発見するため、特定の細胞型に対する薬物毒性を試験するため、および異なるRPE領域に特異的なハイスループット薬物スクリーニングを実施するための細胞療法として使用することができる。黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および末梢RPE細胞はまた、異なる条件における局所RPE効果を研究するためのモデル系を提供する。
【0019】
用語
特に明記しない限り、技術用語は従来の用法に従って使用される。分子生物学における多くの一般的な用語の定義は、Krebs et al.(eds.),Lewin’s genes XII,published by Jones&Bartlett Learning,2017に見出され得る。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、単数および複数の両方を指す。例えば、「カノニカルWnt阻害剤」という用語は、単数または複数のカノニカルWnt阻害剤を含み、「少なくとも1つのカノニカルWnt阻害剤」という語句と等価であると見なすことができる。本明細書で使用される場合、「含む(comprises)」という用語は、「含む(includes)」を意味する。本出願を通して、用語「約」は、デバイスが指定されたときに、5パーセント以内、または値がデバイスの固有の誤差の変動を含むことを示すために使用される。
【0020】
さらに、別段の指示がない限り、核酸またはポリペプチドについて与えられるありとあらゆる塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、およびすべての分子量または分子質量値は近似値であり、説明目的のために提供されることを理解されたい。本明細書に記載のものと類似または同等の多くの方法および材料を使用することができるが、特定の適切な方法および材料を本明細書に記載する。矛盾する場合には、用語の説明を含む本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。様々な実施形態の検討を容易にするために、以下の用語の説明が提供される。
【0021】
加齢性黄斑変性(AMD):AMDは、網膜の黄斑への損傷によって引き起こされる。AMDの発症は無症候性であり得るが、AMDは経時的に徐々に悪化し、一般に片眼または両眼の視野の中心にかすみ目または視覚なしをもたらす。顔を認識すること、運転すること、読むこと、または日常生活の他の活動を行うことが困難になる可能性があり、また、視覚的な幻覚も起こり得る。AMDは、典型的には、約50歳以上の対象などの高齢者に発生する。遺伝的要因および喫煙が役割を果たす可能性がある。診断には完全な視力検査が含まれ、重症度は早期型、中間型および後期型の範囲であり得、後期型は「ドライ」および「ウェット」形態をさらに含み得る。
【0022】
ドライAMDは経時的に発生し、黄斑組織が薄くなり崩壊する。症状には、視覚的な歪み、片目または両目の中心視力の低下、読書または近接作業のためのより明るい光の必要性、低い光レベルへの適応の困難さの増加、印刷された単語のぼやけの増加、色の強度または明るさの減少、および顔の認識の困難さが含まれ得る。ドライAMDは、ドルーゼンについて眼の背部を検査すること;視覚の中心の欠陥を試験すること(例えば、Amslerグリッドを使用して、グリッド内の直線が徐々に見えなくなるか、途切れているか、または歪んでいるかを識別する(ドライAMDの存在を示す));フルオレセインまたはインドシアニングリーン血管造影(異常な血管または網膜の変化について調べる);および/または光干渉断層法(網膜の菲薄化、肥厚、または腫脹について調べる)によって診断される。現在利用可能な処置には、中心視力の喪失に適応するためのリハビリテーション(低視力リハビリテーション)および望遠レンズの移植が含まれる。
【0023】
ウェットAMDは、ドライAMDの後に続き、異常な血管成長ならびに眼の背部の流体蓄積を含み、これは黄斑に隆起を生じ、歪みの視力喪失を引き起こし得る。ドライAMDの症状に加えて、ウェットAMDの症状には、視界内の明確に画定されたぼやけたスポットまたは盲点、視界全体の全般的なかすみ、ならびに症状の突然の発症および急速な悪化も含まれ得る。現在利用可能な処置には、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))およびアフリベルセプト(EYLEA(登録商標))などの新しい血管の成長を停止させることを目的とした薬物療法;光線力学的治療;光凝固;低視力リハビリテーションが含まれる。
【0024】
いくつかの例では、本明細書で提供される方法を使用して生成された細胞集団(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)の1またはそれより多くは、ウェットまたはドライAMDを処置するために使用される。
【0025】
対立遺伝子:2またはそれを超える形態の遺伝子のうちの1つ。ヒトなどの二倍体生物は、各染色体の2つのコピーを含有し、したがって、それぞれに1つの対立遺伝子を有する。
【0026】
「ホモ接合」という用語は、特定の遺伝子座に2つの同じ対立遺伝子を含有すると定義される。「ヘテロ接合」という用語は、特定の遺伝子座に2つの異なる対立遺伝子を含有することを指す。「ハプロタイプ」は、単一の染色体に沿った複数の遺伝子座における対立遺伝子の組み合わせを指す。ハプロタイプは、単一染色体上の一塩基多型(SNP)のセットおよび/または主要組織適合複合体中の対立遺伝子に基づき得る。本明細書で使用される場合、「ハプロタイプ一致」という用語は、細胞(例えば、iPSC細胞)および処置されている対象が1またはそれを超える主要組織適合遺伝子座ハプロタイプを共有すると定義される。対象のハプロタイプは、当技術分野で周知のアッセイを使用して容易に決定することができる。ハプロタイプ一致iPSC細胞は、自己または同種であり得る。組織培養(例えば、エクスビボ)で増殖させ、RPE細胞に本質的に分化させた自己細胞は、対象とハプロタイプ一致である。「実質的に同じHLA型」は、ドナーの体細胞に由来するiPSCの分化を誘導することによって得られた移植細胞が、それらが患者に移植されるときに生着され得る程度に、ドナーのHLA型が患者のHLA型と一致することを示す。「スーパードナー」は、本明細書では、特定のMHCクラスIおよびII遺伝子についてホモ接合性である個体を指す。これらのホモ接合個体はスーパードナーとして働くことができ、それらの細胞(それらの細胞を含む組織および他の材料を含む)は、そのハプロタイプについてホモ接合またはヘテロ接合のいずれかである個体に移植することができる。スーパードナーは、それぞれHLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DPまたはHLA-DQ遺伝子座/遺伝子座対立遺伝子についてホモ接合性であり得る。
【0027】
変化:目的の物質またはパラメータ、例えばポリヌクレオチド、ポリペプチドの有効量または細胞の特性の変化。ポリペプチドもしくはポリヌクレオチドまたは活性の変化は、細胞の分化、増殖または生存などの細胞の生理学的特性に影響を及ぼし得る。物質の量は、生成される物質の量の違い、所望の機能を有する物質の量の違い、または物質の活性化の違いによって変化し得る。変化は、増加または減少であり得る。変化は、インビボまたはインビトロであり得る。いくつかの実施形態において、変化させることは、細胞の分化、増殖および/または生存の有効量(レベル)の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の増加または減少である。
【0028】
動物:生きている多細胞脊椎動物生物、例えば哺乳動物および鳥類を含むカテゴリー。哺乳動物という用語は、ヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方を含む。同様に、「対象」という用語は、ヒト対象と獣医学的対象の両方、例えば非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウサギ、ブタ、マウス、ラットおよびウシを含む。
【0029】
アンタゴニストまたは阻害剤:受容体または受容体のリガンドに結合したときに生化学的または生物学的応答を遮断または減衰させる薬剤。アンタゴニストは、アゴニスト誘導性応答を防止することによって、受容体相互作用を介してそれらの効果を媒介する。一実施形態では、フリズルド(Frizzled)(Fzd)アンタゴニストは、Fzd受容体またはFzdリガンド(Wntなど)に結合し、Wnt/ベータ-カテニンシグナル伝達経路を減少または阻害する(例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の減少)。
【0030】
ベアトラックジストロフィー(bear track dystrophy):網膜色素上皮(CHRPE)の群化した先天性肥大として知られる障害の一部を形成する状態、すなわち、その特徴的な検眼鏡的外観によって診断される網膜色素上皮の特有の先天異常。この障害は、通常、正常な視力、色覚、正常な視野、暗順応、網膜電図検査および眼電図検査所見を有する患者では機能的な結果を伴わない。CHRPEの主な鑑別診断には、脈絡膜母斑、脈絡膜黒色腫、脈絡網膜瘢痕、網膜下血腫、色素性網膜上膜、および反応性網膜色素上皮過形成が含まれる。
【0031】
細胞:独立して複製することができ、膜によって囲まれ、生体分子および遺伝物質を含有する生物の構造的および機能的単位。本明細書で使用される細胞は、天然に存在する細胞または人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞など)であり得る。
【0032】
「細胞集団」という用語は、典型的には一般的な種類の細胞の群を指す。細胞集団は、共通の前駆細胞に由来し得るか、または1つよりも多くの細胞型を含み得る。「濃縮された」細胞集団は、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞または末梢RPE細胞などの特定の細胞型の割合が、出発集団におけるその細胞型の割合よりも多い、出発細胞集団(例えば、未分画の不均一な細胞集団)に由来する細胞集団を指す。細胞集団は、1またはそれを超える細胞型が濃縮され、1またはそれを超える細胞型が枯渇し得る。
【0033】
細胞接着タンパク質:細胞接着と呼ばれるプロセスにおいて、細胞の他の細胞への結合または細胞外マトリックスに関与するタンパク質。細胞接着タンパク質には、ビトロネクチン、フィブリンおよびラミニンが含まれるが、コラーゲン、フィブリノーゲン、フィブロネクチンおよびビトロネクチンとの細胞-ECM相互作用を媒介するインテグリン、同種親和性カルシウム依存性糖タンパク質であるカドヘリン、およびフコシル化炭水化物に依存する異種親和性タンパク質(E-セレクチン、L-セレクチン、P-セレクチン)のファミリーであるセレクチンも含まれる。いくつかの例では、細胞接着タンパク質は組換えである。
【0034】
コロイデレミア(chorioderemia):おおまかに男性50,000人に1人が罹患する遺伝性網膜変性の稀なX連鎖劣性型。この疾患は、小児期の夜盲から始まって徐々に視力を喪失させ、その後、周辺視野の喪失が続き、後の人生で中心視力喪失に進行する。進行は個体の生涯を通して続くが、変化率および視力喪失の程度の両方が、同じ家族内であっても罹患者の間で変動し得る。コロイデレミアを有する多くの個体が気づく最初の症状は、夜間視力の著しい喪失であり、これは若年時に始まる。周辺視野の喪失が徐々に起こり、視力喪失のリングとして始まり、成人期には「トンネル視」まで続く。コロイデレミアの個体は、40歳代まで良好な視力を維持する傾向があるが、最終的には50~70歳の年齢範囲のある時点ですべての視力を失う。いくつかの例では、本明細書で提供される方法を使用して生成された細胞集団(例えば、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)の1またはそれより多くは、コロイデレミアを処置するために使用される。
【0035】
規定されたまたは完全に規定された:培地、細胞外マトリックスまたは培養条件に関して使用される場合、ほぼすべての構成要素の化学組成および量が既知である培地、細胞外マトリックスまたは培養条件を指す。例えば、規定された培地は、ウシ胎仔血清、ウシ血清アルブミンまたはヒト血清アルブミンなどの規定されていない因子を含有しない。一般に、規定された培地は、組換えアルブミン、化学的に規定された脂質、および組換えインスリンが補充された基礎培地(例えば、アミノ酸、ビタミン、無機塩、緩衝液、酸化防止剤およびエネルギー源を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、F12またはロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)1640)を含む。例示的な完全に規定された培地は、ESSENTIAL 8(商標)培地である。
【0036】
糖尿病性網膜症:糖尿病性網膜症は、網膜組織の血管が損傷している糖尿病合併症であり、その症状は、発症時などの無症状または軽度から失明にまで及び得る。いくつかの実施形態では、糖尿病性網膜症は、例えば、異常な血管;網膜の腫脹、血液または脂肪沈着物;新生血管および瘢痕組織の成長;眼の中心(硝子体)を満たす透明でゼリー状の物質の出血;網膜剥離;視神経の異常を識別するための包括的な拡張眼科検査によって診断される。さらなる診断検査には、例えば、流体が網膜組織に漏れているかどうかを決定するための、視覚、緑内障および白内障検査、ならびにフルオレセイン血管造影または光干渉断層法が含まれる。現在利用可能な処置には、光凝固、焦点レーザー処置、汎網膜光凝固、硝子体切除、および血管内皮成長因子(VEGF)阻害剤などの薬物の硝子体内投与が含まれる。いくつかの例では、本明細書で提供される方法を使用して生成された細胞集団(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)の1またはそれより多くは、糖尿病性網膜症を処置するために使用される。
【0037】
分化:特殊化されていない細胞が、構造的および/または機能的特性の変化を伴って、より特殊化されたタイプになるプロセス。成熟細胞は、典型的には、変化した細胞構造および組織特異的タンパク質を有する。より具体的には、本方法の文脈において、幹細胞が、前記RPE細胞が黄斑RPE細胞、中心RPE細胞または末梢RPE細胞であることを示す特徴を有するRPE細胞の細胞特性を取得するプロセスを示す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「未分化」は、胚または成体起源の最終分化細胞と明確に区別する未分化細胞の特徴的なマーカーおよび形態学的特徴を示す細胞を指す。
【0039】
胚:雌に移植されたかどうかに関係なく、人工的に再プログラムされた核を有する接合子または活性化卵母細胞の1またはそれを超える分裂によって得られる細胞塊。「桑実胚」は、一般に12~32個の細胞(割球)で構成される固体塊である場合、受精後3~4日の着床前胚である。「胚盤胞」は、約30~150個の細胞の胎盤哺乳動物(マウスでは受精後約3日、ヒトでは受精後約5日)における着床前胚を指す。胚盤胞期は桑実胚期に続き、その独特の形態によって区別することができる。胚盤胞は、一般に、細胞の層(栄養外胚葉)、流体で満たされた空洞(胞胚腔または胚盤胞腔)、および内部の細胞のクラスター(内側細胞塊、ICM)で構成される球体である。未分化細胞からなるICMは、胚盤胞が子宮に移植された場合に胎児になるものを生じさせる。
【0040】
胚様体:多能性幹細胞の三次元凝集体。これらの細胞は、内胚葉、中胚葉および外胚葉の細胞に分化することができる。単層培養とは対照的に、多能性幹細胞が凝集したときに形成されるスフェロイド構造は、懸濁物中でのEBの非接着培養を可能にし、これはバイオプロセシングアプローチに有用である。EB微小環境内での複雑な細胞接着およびパラクリンシグナル伝達の確立を含む三次元構造は、分化および形態形成を可能にする。
【0041】
拡大:細胞培養物中の細胞の数または量が細胞分裂に起因して増加するプロセス。同様に、「拡大」または「拡大された」という用語は、このプロセスを指す。「増殖する」、「増殖」、または「増殖した」という用語は、「拡大させる」、「拡大」、または「拡大された」という用語と互換的に使用され得る。典型的には、拡大期の間、細胞は分化して成熟細胞を形成しないが、分裂してより多くの細胞を形成する。
【0042】
胚様体(EB):内胚葉、中胚葉および外胚葉の細胞に分化することができる多能性幹細胞の凝集体。多能性幹細胞が凝集するとスフェロイド構造が形成され、懸濁物中でのEBの非接着培養を可能にする。
【0043】
胚性幹細胞:必要に応じて細胞株として連続継代された胚盤胞または桑実胚の内部細胞塊に由来する胚性細胞。この用語は、好ましくは胚の残りの部分を破壊することなく、胚の1またはそれを超える割球から単離された細胞を含む。この用語はまた、体細胞核移植によって産生される細胞を含む。「ヒト胚性幹細胞」(hES細胞)には、必要に応じて細胞株として連続継代されたヒト胚盤胞または桑実胚の内部細胞塊に由来する胚性細胞が含まれる。hES細胞は、卵細胞と精子またはDNAとの受精、核移植、単為生殖、またはHLA領域においてホモ接合性を有するhES細胞を生成する手段に由来し得る。ヒトES細胞は、精子と卵細胞との融合、核移植、単為生殖、またはクロマチンの再プログラミングおよび胚性細胞を産生するためのその後の再プログラミングされたクロマチンの原形質膜への組み込みによって産生される接合体、割球、または胚盤胞期哺乳動物胚から産生することができるか、または由来することができる。ヒト胚性幹細胞には、MAO1、MAO9、ACT-4、No.3、H1、H7、H9、H14およびACT30胚性幹細胞が含まれるが、これらに限定されない。ヒト胚性幹細胞は、その供給源またはそれらを産生するために使用される特定の方法にかかわらず、(i)3つすべての胚葉の細胞に分化する能力、(ii)少なくともOct-4およびアルカリホスファターゼの発現、および(iii)免疫無防備状態の動物に移植されたときに奇形腫を産生する能力に基づいて同定することができる。
【0044】
本質的に存在しない:特定の構成要素に関して、本質的に存在しないとは、本明細書では、特定の構成要素のいずれも組成物に意図的に配合されておらず、および/または汚染物質としてもしくは微量でのみ存在することを意味するために使用される。したがって、組成物の意図しない汚染から生じる特定の構成要素の総量は、0.01%未満など、0.05%をはるかに下回る。いくつかの実施形態では、特定の構成要素の量は、標準的な分析方法で検出することができない。
【0045】
フィーダー層:培養皿の底部などの細胞のコーティング層。フィーダー細胞は、培養培地中に栄養素を放出し、多能性幹細胞などの他の細胞が付着することができる表面を提供することができる。
【0046】
フィーダーフリーまたはフィーダー非依存性:フィーダー細胞層の代替物としてサイトカインおよび成長因子を補充した培養物。したがって、「フィーダーフリー」またはフィーダー非依存性の培養系および培地を使用して、多能性細胞を未分化および増殖状態で培養および維持し得る。場合によっては、フィーダーフリー培養物は、動物ベースのマトリックス(例えば、MATRIGEL(商標))を利用するか、またはフィブロネクチン、コラーゲンもしくはビトロネクチンなどの基材上で増殖される。これらのアプローチにより、ヒト幹細胞は、マウス線維芽細胞の「フィーダー層」を必要とせずに、本質的に未分化な状態のままであることが可能になる。
【0047】
線維芽細胞成長因子(FGF):任意の動物に由来する任意の適切な線維芽細胞成長因子、およびその機能的断片、例えば受容体に結合し、受容体の活性化に関連する生物学的効果を誘導するもの。例示的なFGFとしては、FGF-1(酸性線維芽細胞成長因子)、FGF-2(塩基性線維芽細胞成長因子、bFGF)、FGF-3(int-2)、FGF-4(hst/K-FGF)、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9およびFGF-98が挙げられるが、これらに限定されない。「FGF」は、FGF-1、FGF-2、FGF-4、FGF-6、FGF-8、FGF-9もしくはFGF-98などの線維芽細胞成長因子タンパク質、またはその生物学的に活性な断片もしくは変異体を指す。FGFは、任意の動物種に由来し得る。一実施形態では、FGFは、げっ歯類、鳥類、イヌ、ウシ、ブタ、ウマおよびヒトを含むがこれらに限定されない哺乳動物FGFである。多くのFGFを作製するためのアミノ酸配列および方法は公知である。
【0048】
ヒトbFGFのアミノ酸配列およびその組換え発現のための方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,439,818号に開示されている。ウシbFGFのアミノ酸配列およびその組換え発現のための様々な方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,155,214号に開示されている。146残基形態を比較すると、それらのアミノ酸配列はほぼ同一であり、異なる残基は2つだけである。組換えbFGF-2および他のFGFは、米国特許第4,956,455号に詳細に記載されている技術を使用して薬学的品質(98%またはそれを超える純度)に精製することができる。
【0049】
FGFインデューサーは、FGFの活性断片を含む。その最も単純な形態では、活性断片は、メチオニンアミノペプチダーゼによる処理などのN末端メチオニン除去のための周知の技術を使用して、N末端メチオニンの除去によって作製される。第2の望ましい切断は、そのリーダー配列のないFGFを含む。当業者は、リーダー配列を、細胞膜の通過を容易にするが、活性に必要ではなく、成熟タンパク質上には見られないタンパク質のN末端における一連の疎水性残基として認識する。ヒトおよびマウスのbFGFは市販されている。
【0050】
成長因子:細胞の成長、生存および/または分化を促進する物質。成長因子には、成長刺激因子(マイトジェン)として機能する分子、細胞遊走を刺激する因子、走化性因子として機能するかまたは腫瘍細胞の細胞遊走もしくは浸潤を阻害する因子、細胞の分化機能を調節する因子、アポトーシスに関与する因子、または成長および分化に影響を及ぼすことなく細胞の生存を促進する因子が含まれる。成長因子の例は、線維芽細胞成長因子(FGF-2など)、上皮成長因子(EGF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、神経成長因子(NGF)、およびアクチビンAである。
【0051】
インデューサー:細胞内の遺伝子を活性化するなどの遺伝子発現を調節する分子。インデューサーは、リプレッサーまたはアクチベーターに結合することができる。インデューサーは、リプレッサーを無効にすることによって機能する。
【0052】
単離された:「単離された」細胞は、生物または培養物中の他の細胞から実質的に分離または精製されている。単離された細胞は、例えば、少なくとも99%、少なくとも98%純粋、少なくとも95%純粋または少なくとも90%純粋であり得る。
【0053】
KNOCKOUT(商標)血清代替物:培養中に幹細胞などの未分化細胞を増殖および維持するように最適化された無血清製剤。
【0054】
遅発性網膜変性:RPEとブルッフ膜との間に脂質が豊富な厚い沈着物が存在することを特徴とする、稀な常染色体優性障害。この疾患は1990年代半ばに最初に見られ、C1QTNF5遺伝子の変異に関連している。11q23上に位置するC1QTNF5遺伝子は、281アミノ酸タンパク質をコードし、RPE、水晶体、および毛様体上皮で高度に発現される。
【0055】
L-ORDを有する個人は、多くの場合、50~60歳前後の中年まで眼障害を示さない。臨床的には、疾患過程の初期症状には、明順応および暗順応が困難であり、薄暗い光または夜間で見ることができないことが含まれる。次いで、疾患の進行は、中心および周辺視野の喪失、脈絡膜血管新生および網膜全体の色素性網膜症をもたらす。最終的に、視力の低下は完全な視力喪失をもたらす。
【0056】
眼科検査は、夜間視力の低下が始まった後でさえ、最初は正常であり得る。しかしながら、疾患が進行するにつれて、中位周辺部(mid-periphery)に微細な黄白色のドルーゼン様ドットが出現することが、L-ORDの最初の眼科的徴候である。これらのドルーゼン様の「ドット」または沈着物は、その後、網膜全体に広がる萎縮領域を形成する。眼底自発蛍光は、主に網膜の中位周辺部および後極におけるRPEおよび脈絡網膜萎縮の広範で明確に画定された波形領域を示す。黄斑は、通常、萎縮性になるが、時には円盤状の瘢痕を形成し得る。視神経円板も淡色に変化する。
【0057】
いくつかの例では、本明細書で提供される方法を使用して生成された細胞集団(例えば、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)の1またはそれより多くは、L-ORDを処置するために使用される。
【0058】
レーバー先天性黒内障(LCA):出生時または人生の初期段階(乳児期または幼児期)に現れ、主に網膜を冒す稀な遺伝性眼疾患。症状(presentation)は、それが複数の遺伝子と関連しているため、様々であり得る。しかしながら、それは、眼振、羞明、瞳孔反応の鈍化または欠如、および重度の視力喪失または失明を特徴とする。遺伝の一般的な様式は、常染色体劣性および常染色体優性である。
【0059】
瞳孔は、通常、眼に入る光の量に応じて拡張および収縮し、光に対して正常に反応しない。代わりに、それらは通常よりもゆっくりと拡張および収縮するか、または光に全く反応しない可能性がある。さらに、眼の透明な前面被覆(角膜)は、円錐形であり、異常に薄く、円錐角膜として知られる状態であり得る。フランチェセッティの眼-デジタル徴候と呼ばれる特定の挙動がLCAの特徴である。この徴候は、拳または指で目をつつく、押す、およびこすることからなる。
【0060】
いくつかの例では、本明細書で提供される方法を使用して生成された細胞集団(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)の1またはそれより多くは、LCAを処置するために使用される。
【0061】
哺乳動物:この用語は、ヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方を含む。哺乳動物の例としては、ヒトならびに獣医学的動物および実験動物、例えばブタ、ウシ、ヤギ、ネコ、イヌ、ウサギおよびマウスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
膜電位:外部浴溶液などの環境に対する細胞内部の電位。当業者は、例えば従来の全細胞技術を使用することによって、細胞の膜電位を容易に評価することができる。膜電位は、従来の全細胞アクセスを使用するなどの多くのアプローチを使用して、または例えば有孔パッチ全細胞および細胞付着構成を使用して評価することができる。
【0063】
培地:特定の細胞集団の増殖(細胞増殖/拡大)および/または分化を支援するのに必要な栄養素を含む培養条件の合成セット。一実施形態では、細胞は、iPSCなどの幹細胞である。別の実施形態では、細胞はRPE細胞である。培地は、一般に、炭素源、窒素源、およびpHを維持するための緩衝液を含む。一実施形態では、増殖培地は、幹細胞増殖を増強するために様々な栄養素が補充されたDMEMなどの最小必須培地を含む。さらに、最小必須培地には、ウマ、仔ウシまたはウシ胎仔血清などの添加剤を補充してもよい。
【0064】
Noggin:NOG遺伝子によってコードされるタンパク質。Nogginは、TGF-βファミリーリガンドに結合し、それらがそれらの対応する受容体に結合するのを妨げることによって、TGF-βシグナル伝達を阻害する。Nogginは、他のTGF-βシグナル伝達阻害剤(例えば、コルジンおよびフォリスタチンなど)とともに、BMP4を阻害することによって神経誘導において重要な役割を果たす。Nogginの例示的な配列は、GENBANK(登録商標)アクセッション番号NP_005441.1およびNM_005450.4(2013年1月13日)であり、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0065】
Oct-4:Oct-4遺伝子の遺伝子産物である、POU5-F1またはMGC22487またはOCT3またはOCT4またはOTF3またはOTF4としても公知のタンパク質。この用語は、任意の種または供給源からのOct-4を含み、iPSCの産生に使用される能力を保持するOct-4の類似体および断片または部分を含む。Oct-4タンパク質は、GENBANK(登録商標)などの公的な供給源から得ることができるOct-4についての任意の公開された配列を有し得る。そのような配列の例には、GENBANK(登録商標)アクセッション番号NM_002701が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
薬学的に許容され得る担体:従来の薬学的に許容され得る担体は、本明細書に開示される方法を実施し、組成物を形成するのに有用である。Remington’s Pharmaceutical Sciences,by E.W.Martin,Mack Publishing Co.,Easton,PA,15th Edition,1975には、本明細書に開示される化合物の薬学的送達に適した組成物および製剤の例が記載されている。
【0067】
一般に、担体の性質は、使用される特定の投与様式に依存する。例えば、非経口製剤は、通常、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどの薬学的および生理学的に許容され得る流体をビヒクルとして含む注射可能な流体を含む。固体組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤またはカプセル剤の形態)の場合、従来の非毒性固体担体は、例えば、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプンまたはステアリン酸マグネシウムを含み得る。生物学的に中性の担体に加えて、投与される医薬組成物は、湿潤剤または乳化剤、防腐剤、およびpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートなどの少量の非毒性補助物質を含有することができる。
【0068】
プレコンフルエント:組織培養表面全体が細胞で覆われておらず、細胞分裂が起こり得る細胞培養物。細胞によって覆われている培養表面の割合は、約60~80%であり得る。通常、プレコンフルエントは、培養表面の約70%が細胞によって覆われている培養物を指す。
【0069】
精製された:精製された組成物は、絶対純度を必要としない;むしろ、相対的な用語として意図されている。したがって、精製された細胞集団は、約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%を超えてまたは100%純粋であり、例えば、本質的に他の細胞型を含まない。
【0070】
レチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニスト:RAR受容体は、全トランス型レチノイン酸および9-シス型レチノイン酸によって活性化される核内受容体である。これらの受容体の最もよく知られている作用機序は、レチノイド応答性遺伝子のプロモーターにおけるRA応答エレメント(RARE)へのそれらの結合を含む。レチノイド受容体はまた、転写因子アクチベータータンパク質の抑制などのRARE非依存性機構を介して転写に影響を及ぼす。RAR受容体には3つのサブタイプがある;汎RARアンタゴニストは、すべてのサブタイプを阻害する。
【0071】
網膜:眼の内面を裏打ちする組織の光感受性の層。
【0072】
網膜剥離:網膜剥離は、視覚に浮かぶ斑点(浮遊物)の数の突然の増加、片眼または両眼の閃光、視野の「カーテン」または影、および即時の処置なしでは永久的な視力喪失を含む症状を伴って、網膜がその正常な位置から引き離される状態である。
【0073】
いくつかの例では、本明細書で提供される方法を使用して生成された細胞集団(例えば、末梢RPE細胞)の1またはそれより多くは、網膜剥離を処置するために使用される。
【0074】
網膜疾患および障害:網膜疾患には、網膜の機能または構造が損傷または減少する疾患が含まれる。網膜の構造または機能が経時的に悪化する網膜変性疾患が含まれる。眼の血管の構造または機能が影響を受ける網膜疾患などの網膜血管疾患が含まれる。
【0075】
いくつかの例では、本明細書で提供される方法を使用して生成された細胞集団(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)の1またはそれより多くは、網膜疾患を処置するために使用される。
【0076】
網膜系統細胞:RPE細胞を生じ得るまたはそれに分化し得る細胞。
【0077】
網膜誘導培地(RIM):WNT経路阻害剤およびBMP経路阻害剤を含み、多能性幹細胞(PSC)の網膜系統細胞への分化をもたらし得る増殖培地。RIMはまた、TGFβ経路阻害剤を含む。
【0078】
網膜分化培地(RDM):WNT経路阻害剤、BMP経路阻害剤およびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)(またはFGF)阻害剤を含み、網膜細胞を分化させる培地。RDMには、TGFβ経路阻害剤も含まれる。
【0079】
網膜培地(RM):アクチビンAおよびニコチンアミドを含む、網膜細胞を培養するための増殖培地。
【0080】
RPE成熟培地(RPE-MM):タウリンおよびヒドロコルチゾンを含む、RPE細胞の成熟のための培地。RPE-MMには、トリヨードチロニンも含まれる。RPE-MMはまた、PD0325901またはPGE2を含み得る。
【0081】
網膜色素上皮(RPE)細胞:RPE細胞は、色素沈着、上皮形態、および頂端-基底極性化細胞に基づいて認識することができる。RPE細胞は、mRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方で、Pax6、MITF、RPE65、CRALBP、PEDF、ベストロフィンおよび/またはOtx2のうちの1またはそれより多くを発現する。特定の他の実施形態では、RPE細胞は、mRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方で、Pax-6、MitFおよびチロシナーゼのうちの1またはそれより多くを発現する。RPE細胞は、胚性幹細胞マーカーOct-4、nanogまたはRex-1を(いかなる検出可能なレベルでも)発現しない。具体的には、これらの遺伝子の発現は、定量的RT-PCRによって評価した場合、ES細胞またはiPSCよりもRPE細胞において約1/100~1/1000である。分化したRPE細胞はまた、それらの形態および色素の初期外観によって視覚的に認識することができる。さらに、分化したRPE細胞は、単層を横切る経上皮抵抗/TERおよび経上皮電位/TEP(TER>100オーム*cm;TEP>2mV)を有し、流体およびCOを頂端側から基底側に輸送し、サイトカインの極性のある分泌を調節する。RPE細胞には、末梢、中心および黄斑RPE細胞が含まれる。
【0082】
ヒトでは、「黄斑」RPE細胞は、約150μm+33μmの面積および花弁状の頂端突起を有し、これらは約0.5~約4μmの長さ、約0.1~約1μmの幅、および約0.2~約2μmのうねりの幅を有する。中心RPE細胞は、約199μm+40μmの面積を有し、花弁状および指状の頂端突起が混在している。「末梢」RPE細胞は、約239μm+38μmの面積と、約0.1~約1μmの長さおよび約0.1~約1μmの幅を有する指状の頂端突起とを有する。
【0083】
「成熟」RPE細胞は、本明細書では、Pax6などの未成熟RPEマーカーの発現がダウンレギュレートされ、RPE65などの成熟RPEマーカーの発現がアップレギュレートされたRPE細胞と呼ばれる。
【0084】
RPE細胞の「成熟」とは、本明細書では、RPE発生経路を調節して成熟RPE細胞を生成するプロセスを指す。例えば、繊毛機能の調節は、RPEの成熟をもたらし得る。本明細書における「網膜系統細胞」は、RPE細胞を生じ得るまたはそれに分化し得る細胞を指す。
【0085】
網膜色素変性(RP):RPは、網膜における桿体光受容体細胞の進行性変性に起因する重度の視力障害を引き起こす遺伝性変性眼疾患である。この形態の網膜ジストロフィーは、年齢とは無関係に初期症状を呈する。RPの初期網膜変性症状は、夜間視力の低下(夜盲)および中位周辺視野の喪失を特徴とする。桿体光受容体細胞は、低光視を担い、網膜周辺部に配向され、この疾患の非症候性形態の間に最初に影響を受ける網膜突起である。視力低下は、遠位周辺視野に比較的急速に進行し、最終的にトンネル視が増加するにつれて中心視野に広がる。視力および色覚は、色覚、視力、および中心視野の視力を担う錐体光受容体細胞の付随する異常のために損なわれる可能性がある。疾患症状の進行は対称的に起こり、左右の両眼が同様の速度で症状を経験する。
【0086】
いくつかの例では、本明細書で提供される方法を使用して生成された細胞集団(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)の1またはそれより多くは、RPを処置するために使用される。
【0087】
レチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニスト:RAR受容体は、全トランス型レチノイン酸および9-シス型レチノイン酸によって活性化される核内受容体である。これらの受容体の1つの作用機序は、レチノイド応答性遺伝子のプロモーターにおけるRA応答エレメント(RARE)へのそれらの結合を含む。レチノイド受容体はまた、転写因子アクチベータータンパク質の抑制などのRARE非依存性機構を介して転写に影響を及ぼす。RAR受容体には3つのサブタイプがある;汎RARアンタゴニストは、すべてのサブタイプを阻害する。
【0088】
いくつかの例では、RARアンタゴニストは、活性を少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%低下させる。
【0089】
RARアンタゴニストの例としては、AGN 193109(4-[2-[5,6-ジヒドロ-5,5-ジメチル-8-(4-メチルフェニル)-2-ナフタレニル]エチニル]-安息香酸)、CE 2665、ER 5081、LE 135、LY 2955303、MM 11253、およびリアロゾールジヒドロクロリドが挙げられる。
【0090】
スキャフォールド:多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞、成熟RPE細胞およびPRP細胞などの細胞を付着させることができる固体支持体。いくつかの例では、スキャフォールドは生分解性である。いくつかの例では、スキャフォールドは、PLGA層と、PLGA層に付着されたPCLループの層との2つの層を含む。いくつかの例では、iPSCなどの多能性幹細胞が含まれ、成熟黄斑、中心および/または末梢RPE細胞(ヒトRPE細胞など)を生成するために、本明細書に提供される特定の試薬の存在下で培養される。
【0091】
幹細胞:適切な条件下で多様な範囲の特殊化された細胞型に分化することができるが、他の適切な条件下では自己再生し、本質的に未分化な多能性状態を維持することができる細胞。「幹細胞」という用語はまた、多能性幹細胞、多分化能幹細胞、前駆体細胞および前駆細胞を包含する。例示的なヒト幹細胞は、骨髄組織から得られる造血幹細胞もしくは間葉系幹細胞、胚組織から得られる胚性幹細胞、または胎児の生殖器組織から得られる胚性生殖細胞から得ることができる。例示的な多能性幹細胞はまた、多能性に関連する特定の転写因子の発現によってそれらを多能性状態に再プログラミングすることによって体細胞から産生され得る。これらの細胞は「誘導多能性幹細胞」または「iPSC」と呼ばれる。
【0092】
「胚性幹(ES)細胞」は、胚盤胞期の内部細胞塊などの初期段階の胚から得られるか、または人工的手段(例えば、核移植)によって産生され、胚または成体において生殖細胞(例えば、精子および卵)を含む任意の分化細胞型を生じ得る未分化多能性細胞である。
【0093】
「誘導多能性幹細胞(iPSC)」は、因子(本明細書では再プログラミング因子と呼ばれる)の組み合わせを発現またはその発現を誘導することによって体細胞を再プログラミングすることによって生成される細胞である。iPSCは、胎児、出生後、新生児、若年または成人の体細胞を用いて作製することができる。特定の実施形態において、体細胞を多能性幹細胞に再プログラム化するために使用され得る因子としては、例えば、Oct4(Oct 3/4と呼ばれることもある)、Sox2、c-MycおよびKlf4、NanogおよびLin28が挙げられる。いくつかの実施形態では、体細胞は、少なくとも2つの再プログラミング因子、少なくとも3つの再プログラミング因子、または4つの再プログラミング因子を発現させて、体細胞を多能性幹細胞に再プログラミングすることによって再プログラミングされる。
【0094】
「多能性」という用語は、胚体外細胞または胎盤細胞を除いて生物における他のすべての細胞型に分化する細胞の特性を指す。多能性幹細胞は、長期培養後でさえ、3つすべての胚葉(例えば、外胚葉、中胚葉および内胚葉細胞型)の細胞型に分化することができる。多能性幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚性幹細胞である。他の実施形態では、多能性幹細胞は、体細胞を再プログラミングすることによって得られる誘導多能性幹細胞である。
【0095】
治療有効量:疾患または状態の処置のために対象に投与された場合、そのような処置を行うか、または疾患もしくは状態の症状を軽減するのに十分な化合物または細胞、例えばRPE細胞の量。網膜色素上皮の機能不全は、網膜色素上皮剥離、異形成、萎縮、網膜症、網膜色素変性、黄斑ジストロフィーおよび変性などのいくつかの視覚変化状態に関連する。
【0096】
組織置換インプラント:インビボで組織を置換するために使用することができる、インビトロで作製されるマトリックスおよび細胞の両方を含む生体適合性構造。組織置換インプラントは、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞、ならびにそれらの組み合わせを含み得る。組織置換インプラントはまた、桿体、錐体および/または血管細胞、またはそれらの組み合わせを含むことができる。例示的な組織置換インプラントは、RPE細胞(例えば、成熟黄斑、中心および/または末梢RPE細胞)およびPRP細胞を含有する本明細書に開示されるスキャフォールドである。
【0097】
処置:診断された病的状態または障害を治癒する、減速させる、症状を軽減する、および/または進行を停止させる治療手段。特定の実施形態では、網膜障害を有する対象を処置すると、網膜の劣化の減少;網膜色素上皮細胞の数の増加、視力の改善、または効果のいくつかの組み合わせがもたらされる。RPE細胞(例えば、成熟黄斑、中心および/または末梢RPE細胞)およびPRP細胞を含有する本明細書に開示されるスキャフォールドを対象の網膜に移植して、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を処置することができる。
【0098】
未分化:胚または成体起源の分化細胞と区別する未分化細胞の特徴的なマーカーおよび形態学的特徴を示す細胞。したがって、いくつかの実施形態では、未分化細胞は、RPEマーカーを含むがこれに限定されない細胞系統特異的マーカーを発現しない。
【0099】
Wnt:細胞間相互作用を調節し、ショウジョウバエのセグメント極性遺伝子winglessに関連する高度に保存された分泌シグナル伝達分子のファミリー。ヒトでは、Wntファミリーの遺伝子は、38~43kDaのシステインリッチ糖タンパク質をコードする。Wntタンパク質は、疎水性シグナル配列、保存されたアスパラギン結合オリゴ糖コンセンサス配列(例えば、Shimizu et al Cell Growth Differ 8:1349-1358(1997)を参照)および22個の保存されたシステイン残基を有する。細胞質ベータ-カテニンの安定化を促進する能力のために、Wntタンパク質は転写アクチベーターとして作用し、アポトーシスを阻害することができる。特定のWntタンパク質の過剰発現は、特定のがんに関連する。
【0100】
Wntファミリーは、少なくとも19個の哺乳動物メンバーを含む。例示的なWntタンパク質としては、Wnt-1、Wnt-2、Wnt2b、Wnt-3、Wnt-3a、Wnt-4、Wnt-5a、Wnt5b、Wnt-6、Wnt-7a、Wnt-7b、Wnt-8a、Wnt-8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt-10b、Wnt-11、およびWnt 16が挙げられる。これらの分泌リガンドは、少なくとも3つの異なるシグナル伝達経路を活性化する。カノニカル(またはWnt/ベータ-カテニン)Wntシグナル伝達経路では、Wntは、フリズルド(Fzd)受容体ファミリーメンバーおよび低密度リポタンパク質(LDL)受容体関連タンパク質5または6(LRP5/6)からなる受容体複合体を活性化する。Fzdリガンドに結合する受容体複合体を形成するために、Fzd受容体は、6つのYWTDアミノ酸反復によって分離された4つの細胞外EGF様ドメインを有する1回通過膜貫通タンパク質であるLRP5/6と相互作用する(Johnson et al.,2004,J.Bone Mineral Res.19:1749)。受容体結合時に活性化されるカノニカルWntシグナル伝達経路は、Fzd受容体と直接相互作用する細胞質タンパク質Dishevelled(Dvl)によって媒介され、細胞質安定化およびβ-カテニンの蓄積をもたらす。Wntシグナルが存在しない場合、ベータ-カテニンは、腫瘍抑制タンパク質である腺腫性結腸ポリープ症(APC)およびAxinを含む細胞質破壊複合体に局在する。これらのタンパク質は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)-3ベータがベータ-カテニンに結合してリン酸化することを可能にする重要なスキャフォールドとして機能し、ユビキチン/プロテアソーム経路を介した分解のためにそれをマークする。Dvlの活性化は、破壊複合体の解離をもたらす。次いで、蓄積した細胞質ベータ-カテニンは核内に輸送され、そこでTCF/LEFファミリーのDNA結合タンパク質と相互作用して転写を活性化する。
【0101】
非カノニカルWNT経路は、これらのWNTリガンドのうちの3つ-WNT4、WNT5aおよびWNT11によって調節される。これらのリガンドは、共受容体(LRP5/6)の非存在下でWNT受容体フリズルドに結合する。これは、細胞質ベータ-カテニンを活性化することなく、RHO GTPアーゼおよびROCKキナーゼの活性化をもたらす。ROCKは、細胞骨格を調節して、細胞の頂端-基底極性を調節する。同じ受容体に対する競合のために、非カノニカルWNTリガンドもカノニカルWNTシグナル伝達の阻害をもたらす。
【0102】
ゼノフリー(XF):培地、細胞外マトリックスまたは培養条件に関して使用される場合、異種動物由来の構成要素を本質的に含まない培地、細胞外マトリックスまたは培養条件を指す。ヒト細胞を培養するために、マウスなどの非ヒト動物の任意のタンパク質はゼノ構成要素である。特定の態様では、ゼノフリーマトリックスは、非ヒト動物由来の構成要素を本質的に含まず、したがってマウスフィーダー細胞またはMATRIGEL(商標)を除外し得る。MATRIGEL(商標)は、ラミニン(主要構成要素)、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン/ニドゲンを含むように細胞外マトリックスタンパク質が豊富な腫瘍であるEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出された可溶化基底膜調製物である。
【0103】
血管構造:血管構造は、特定の領域への血管の供給など、循環系(血管の配置など)またはその一部を含むことができる。
【0104】
スキャフォールド
本開示は、多能性幹細胞(例えば、iPSC)、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞またはRPE細胞をさらに含み得るスキャフォールドを提供する。例えば、多能性幹細胞を含むスキャフォールドは、本開示の方法で本明細書に記載の試薬の存在下で培養して、成熟哺乳動物(例えば、ヒト)RPE細胞(例えば、成熟黄斑、中心および/または末梢RPE細胞)を含むスキャフォールドを得ることができる。そのような成熟RPE細胞含有スキャフォールドは、網膜障害を処置するために、ヒトなどの対象の網膜に移植することができる。いくつかの例では、スキャフォールドは、例えば網膜への移植後少なくとも20日間、例えば少なくとも30日間、少なくとも6週間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、または少なくとも12ヶ月間、例えば網膜への移植後約20日間~6ヶ月間、約30日間~3ヶ月間、約30~60日間、または約3ヶ月~1年以内に生分解性である。いくつかの例では、スキャフォールドの第1のPLGA層は、第2のPCLループ含有層よりも急速に分解する。いくつかの例では、第1の層は、網膜への移植の約3ヶ月以内、例えば網膜へのスキャフォールドの移植後約30日、約60日、約90日、約100日、または約120日(例えば、約30~90日、約60~100日間または約70~120日)以内に分解する。いくつかの例では、第2の層は、網膜への移植の約1年以内、例えば網膜へのスキャフォールドの移植後約6ヶ月、約8ヶ月、約9ヶ月、約10ヶ月、約11ヶ月、約12ヶ月、約13ヶ月、または約14ヶ月(例えば、約6ヶ月~14ヶ月、約9ヶ月~12ヶ月、または約10ヶ月~14ヶ月)以内に分解する。
【0105】
例示的なスキャフォールドを図19Aに示す。二次元(例えば、断面)で示されているが、当業者は、スキャフォールドが三次元であることを理解するであろう。スキャフォールド100は、高さ/厚さ111を有する2つの層102、103を含む。第1の層102(例えば底部、図19A参照)はポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)(Lu et al.,J.Biomater Sci Polym Ed.9(11):1187-205,1998参照)を含み;第2の層103(例えば、上面、図19Aを参照)はポリカプロラクトン(PCL)ループ104を含む。したがって、スキャフォールドの材料は、一般に生理学的に許容され得るものであり、インビボ適用での使用に適している。いくつかの例では、スキャフォールド100は、約少なくとも約1ミクロンの高さ(例えば、スキャフォールド111の高さは、少なくとも約1ミクロンであり得る)、少なくとも約1ミクロンの長さ、および少なくとも約1ミクロンの幅(例えば、少なくとも約20ミクロンの高さ、少なくとも約20ミクロンの長さ、および少なくとも約20ミクロンの幅、例えば、少なくとも約100ミクロンの高さ、少なくとも約100ミクロンの長さ、および少なくとも約100ミクロンの幅、例えば、少なくとも約200ミクロンの高さ、少なくとも約200ミクロンの長さ、および少なくとも約200ミクロンの幅、例えば、少なくとも約1mmの高さ、少なくとも約1mmの長さ、および少なくとも約1mmの幅、例えば、少なくとも約10mmの高さ、少なくとも約10mmの長さ、および少なくとも約10mmの幅、または例えば、少なくとも約100mmの高さ、少なくとも約100mmの長さ、および少なくとも約100mmの幅)であり得る。スキャフォールド100は、長方形、楕円形、円形、正方形、または不規則などの任意の形状であり得る。
【0106】
PLGAは、ポリ乳酸(PLA)とポリグリコール酸(PGA)とのコポリマーである。ポリ乳酸は、典型的には古典的な立体化学の用語でD型またはL型として、時にはそれぞれR型およびS型として記載される不斉α-炭素を含有する。ポリマーPLAのエナンチオマー形態は、ポリD-乳酸(PDLA)およびポリL-乳酸(PLLA)である。PLGAは、ポリD、L-乳酸-コ-グリコール酸であり、D-乳酸形態とL-乳酸形態とは一般に等しい比である。PLGAは、そのエステル結合の加水分解によって生分解する。いくつかの実施形態では、PLGAスキャフォールドは、スキャフォールドからの大部分の乳酸放出がインビトロで起こるように十分な時間培養される。いくつかの実施形態では、乳酸放出の50%、60%、70%、80%、90%または95%超がインビトロで起こる。乳酸放出は経時的に起こる。
【0107】
第1の層102は、高さが少なくとも5ミクロン、高さが少なくとも10ミクロン、高さが少なくとも20ミクロン、高さが少なくとも30ミクロン、または高さが少なくとも40ミクロン、例えば高さが約5~約40ミクロン、例えば高さが約5~約25ミクロン、高さが約10~約20ミクロン、または高さが約15~約25ミクロン、例えば高さが5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40ミクロンであり得る。この文脈において、「約」は5%以内を示す。
【0108】
スキャフォールドのPLGA層は、交差して接合部を形成するように、互いに交差するナノ繊維を含むことができる。スキャフォールドは、機械的強度を高めるために、PLGAスキャフォールド内の繊維交差部の接合部でスキャフォールドの繊維を融合するように処理することができる。平均孔径は、PLGAスキャフォールド内の繊維間の空間である。したがって、いくつかの例では、第1の層102は、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8、少なくとも0.9、少なくとも1、少なくとも1.1、少なくとも1.2、少なくとも1.3、少なくとも1.4、少なくとも1.5、少なくとも1.6、少なくとも1.7、少なくとも1.8、少なくとも1.9、または少なくとも2ミクロン、例えば約0.2~約2ミクロン、約0.5~約2ミクロン、約0.5~約1.5ミクロン、約1~約2ミクロン、例えば0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、または2ミクロンの直径など、直径が少なくとも約0.2ミクロンの平均孔径を有するPLGAから構成される。いくつかの実施形態では、スキャフォールドのPLGA層は、約2ミクロン未満、例えば約1.5ミクロン未満、約1.25ミクロン未満、約1ミクロン未満、約0.5ミクロン未満、または約0.3ミクロン未満の孔径を有する。1つの例では、第1の層102のPLGAは、直径約1ミクロンまたはそれ未満の平均孔径を有する。この文脈において、「約」は5%以内を示す。
【0109】
第1の層102のPLGAは、約0.25:3~約3:0.25、例えば約0.25:3;約0.5:3、約1:3、約1:2.5、約1:2、約1:1.5、約1:1、約1.5:1、約1.5:2、約1.5:3、約2:1、約2.5:1または約3:1のDL-ラクチド/グリコリド比を有する。1つの例では、第1の層102のPLGAは、約1:1のDL-ラクチド/グリコリド比を有する。この文脈において、「約」は5%以内を示す。
【0110】
第1の層102のPLGAは、少なくとも150nm、例えば少なくとも200nm、少なくとも250nm、少なくとも300nm、少なくとも350nm、少なくとも400nm、少なくとも450nm、少なくとも500nm、少なくとも550nm、または少なくとも600nmの直径、例えば約150~約650nmの直径、約150~約500nm、約200~約600nm、約400~約500nmの直径、例えば約150nm、約200nm、約250nm、約300nm、約350nm、約400nm、約450nm、約500nm、約550nm、約600nmの直径、例えば約450nmの直径の繊維径を有する。1つの例では、第1の層102のPLGAは、約450nmの繊維径を有する。この文脈において、「約」は5%以内を示す。
【0111】
本明細書に記載の厚さ、孔径および繊維径のスキャフォールドのPLGA層の特徴のいずれも組み合わせることができる。DL-ラクチド/グリコリド比を変えることにより、孔径および繊維径を変えることができる。したがって、開示された厚さ(例えば、高さ)、孔径および繊維径のPLGAスキャフォールドを製造することができる。任意の特徴を組み合わせて、DL-ラクチド/グリコリド比を変えることによって生成される特定の組み合わせに到達することができる。これらはすべて本明細書に開示されていると理解される。特定の非限定的な例では、スキャフォールドのPLGA層は、1:1のDL-ラクチド/グリコリド比、1ミクロン未満の平均孔径、および150~600nmの繊維径を有する。
【0112】
いくつかの実施形態では、スキャフォールドのPLGA層の機械的強度を高めるために、スキャフォールドのPLGA層内の接合部(繊維交差部)でスキャフォールドのPLGA層の繊維を融合させるために、スキャフォールドのPLGA層を熱で処理する。この熱処理はまた、接合部で繊維を融合することによって孔径を減少させ、したがって細胞がスキャフォールドの上層に単層を形成することを可能にする。いくつかの非限定的な例では、PLGAは、適切な表面、例えば、処理のために所望の温度に設定されたオーブン内に配置されたエンベロープの形態などのアルミニウム箔などの金属表面に配置される。適切な温度は、約35℃~約55℃、例えば約40℃~約50℃、例えば約43℃、44℃、45℃、46℃または47℃を含む。PLGAは、約5~約20分間、例えば約10~約15分間、例えば約10、11、12、13、14または15分間加熱することができる。一実施形態において、PLGAは、約45℃で約10分間処理される。次いで、温度を第1の温度に対して、例えば約50℃~約70℃、例えば約55℃~約60℃、例えば約55℃、56℃、57℃、58℃、59℃または60℃まで上昇させることができる。より高温の処理は、約45分~約75分、例えば約50分~約70分、または約55分~約65分であり得る。より高温の処理は、約55、56、57、58、59、60、61、62、63、64または65分間適用することができる。いくつかの実施形態では、スキャフォールドは、約60℃で約60分間処理される。非限定的な一例では、スキャフォールドは、約45℃で約10分間、次いで約60℃で約60分間処理することができる。熱処理後、スキャフォールドのPLGA層を保存することができる。
【0113】
第2の層103は、第1の層102の一方の表面、例えば第1の層の他方の表面よりも表面積が大きい表面に付着される。第1の層102は、上面112と下面114とを有する。いくつかの例では、第2の層103は、第1の層102の上面112上にある。いくつかの例では、第2の層103は、少なくとも約10ミクロン、例えば少なくとも約20ミクロン、少なくとも約50ミクロン、少なくとも約100ミクロン、少なくとも約150ミクロン、少なくとも約200ミクロン、少なくとも約500ミクロン、または少なくとも約1000ミクロン、例えば約10~200ミクロン、約50~200ミクロン、約100~200ミクロン、約10~1000ミクロン、または100~500ミクロンの高さである。この文脈において、「約」は5%以内を示す。
【0114】
第2の層103は、複数のPCLループ104から構成される。いくつかの例では、ループ104の繊維は、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、または少なくとも300ミクロン、例えば約5~約300ミクロン、約5~約10ミクロン、約100~約300ミクロン、約10~約50ミクロン、例えば5、10、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、225、250、275、または300ミクロンの直径など、少なくとも5ミクロンの直径を有する。1つの例では、PCLループの繊維の直径は約5ミクロンである。この文脈において、「約」は5%以内を示す。
【0115】
第2の層103のPCLループ104の密度および数は、複数のRPE細胞106(例えば、10~1000個の細胞)が単層を形成するのに十分なギャップを提供するように決定することができる。1つの例では、第2の層103のPCLループ104の密度は、少なくとも約10PCLループ/mm、例えば少なくとも約20PCLループ/mm、少なくとも約50PCLループ/mm、少なくとも約75PCLループ/mm、または少なくとも約100PCLループ/mm、例えば10~100PCLループ/mm、10~50PCLループ/mm、10~200PCLループ/mm、または50~100PCLループ/mmである。1つの例では、少なくとも約20、少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約75、または少なくとも約100のPCLループなど、少なくとも約10のPCLループ104が第2の層103に存在する。この文脈において、「約」は5%以内を示す。
【0116】
PLGAの第1の層102上に堆積された第2の層103のPCLループ104は、完全に閉じていてもよく(すなわち、PCL繊維の両端は、例えば図19Bに示すように、第1の層102と接触している)、開いていてもよく(例えば、PCL繊維の一端は、第1の層102と接触しておらず、いくつかの例では、フック状構造を形成する)、それ自体で閉じていてもよく(例えば、文字「p」または「b」のように)、または第2の層103は、開いたPCLループと閉じたPCLループの混合物を含んでいてもよい。いくつかの例では、閉じたPCLループ104は、少なくとも約10ミクロン、例えば少なくとも約20ミクロン、少なくとも約50ミクロン、少なくとも約150ミクロン、または少なくとも約200ミクロン、例えば約10~約200ミクロン、約10~約100ミクロン、約50~約20ミクロン、約10~約50ミクロン、例えば10、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、または200ミクロンの直径を有する。この文脈において、「約」は5%以内を示す。
【0117】
本明細書に記載の厚さ、密度および繊維径のスキャフォールドのPCLループ層の特徴のいずれも組み合わせることができる。特定の非限定的な例では、スキャフォールドのPCL層は、5~300nmの繊維径を有し、電界紡糸を使用して第1の層に付着される。
【0118】
いくつかの例では、スキャフォールド(例えば、図19Aまたは図19Bの100)は、組換え細胞接着タンパク質などの細胞接着タンパク質でコーティングされる。使用することができる例示的な細胞接着タンパク質には、ビトロネクチン、ラミニン、およびフィブロネクチンのうちの1またはそれより多くが含まれる。いくつかの実施形態では、PLGAスキャフォールドは、ビトロネクチンでコーティングされる。いくつかの例では、スキャフォールド(例えば、図19Aまたは図19Bの100)は、少なくとも約20ng/mlの細胞接着タンパク質、例えば少なくとも約30ng/ml、少なくとも約40ng/ml、少なくとも約50ng/ml、少なくとも約60ng/ml、少なくとも約70ng/ml、少なくとも約80ng/ml、少なくとも約90ng/ml、または少なくとも約95ng/mlの細胞接着タンパク質、例えば約20~95ng/ml、約20~80ng/ml、約20~70ng/ml、約30~60ng/ml、約30~50ng/ml、約40~50ng/mlの細胞接着タンパク質、例えば20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、45.5ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、または95ng/mlの細胞接着タンパク質でコーティングされる。特定の例では、スキャフォールド100は、45.5ng/mlのビトロネクチン、45.5ng/mlのラミニン、または45.5ng/mlのフィブロネクチンなどの45.5ng/mlの細胞接着タンパク質でコーティングされる。
【0119】
いくつかの例では、スキャフォールド(例えば、図19Aまたは図19Bの100)は、細胞外マトリックスまたはゼラチンでコーティングされる。細胞外マトリックスは、構造タンパク質、特殊化タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、および哺乳動物組織内の細胞を取り囲み支持する成長因子を含むがこれらに限定されない構造および機能性生体分子および/または生体高分子の複雑な混合物であり、別段の指示がない限り、無細胞である。使用することができる細胞外マトリックスは、例えば、限定されないが、米国特許第4,902,508号;同第4,956,178号;同第5,281,422号;同第5,352,463号;同第5,372,821号;同第5,554,389号;同第5,573,784号;同第5,645,860号;同第5,771,969号;同第5,753,267号;同第5,762,966号;同第5,866,414号;同第6,099,567号;同第6,485,723号;同第6,576,265号;同第6,579,538号;同第6,696,270号;同第6,783,776号;同第6,793,939号;同第6,849,273号;同第6,852,339号;同第6,861,074号;同第6,887,495号;同第6,890,562号;同第6,890,563号;同第6,890,564号;および同第6,893,666号に開示されており;その各々は、参照によりその全体が組み込まれる。しかしながら、ECMは、任意の組織から、または、ECMが培養細胞によって産生され、天然ECMの1またはそれを超えるポリマー構成要素(成分)を含む、任意のインビトロ供給源から産生され得る。ECM調製物は、細胞が供給源組織または培養物から除去されたことを意味する「脱細胞化された」または「無細胞」と考えることができる。いくつかの実施形態では、ECMは、脊椎動物から、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジなどを含むがこれらに限定されない哺乳動物の脊椎動物から単離される。ECMは、膀胱、腸、肝臓、心臓、食道、脾臓、胃および真皮を含むがこれらに限定されない任意の器官または組織に由来し得る。具体的な非限定的な例では、細胞外マトリックスは、食道組織、膀胱、小腸粘膜下組織、真皮、臍帯、心膜、心臓組織、または骨格筋から単離される。ECMは、例えば、限定されないが、粘膜下組織、上皮基底膜、固有層などを含む、器官から得られる任意の部分または組織を含み得る。1つの非限定的な実施形態では、ECMは膀胱から単離される。
【0120】
スキャフォールド(例えば、図19Aまたは図19Bの100)に細胞を播種することができる。例えば、図19Bに示すように、スキャフォールド100に、RPE細胞106、光受容体前駆(PRP)108細胞、またはその両方を最初に播種することができる。いくつかの例では、RPE細胞106は、スキャフォールド100上に播種され、第1の層102および第2の層103の両方と接触する。いくつかの例では、RPE細胞106は単層を形成する。いくつかの例では、RPE細胞106をスキャフォールドに付着させた後、PRP細胞108を添加し、RPE細胞106の上に付着させる。スキャフォールド上に播種されたRPE細胞106は、開示された方法によって生成することができる。いくつかの例では、スキャフォールド100に添加されるRPE細胞106は、黄斑、中心または末梢RPE細胞などの成熟RPE細胞である。いくつかの例では、そのような成熟RPE細胞は、黄斑、中心および/または末梢ヒトRPE細胞である。いくつかの例では、RPE細胞106は、スキャフォールド100に付着された多能性幹細胞から生成される。したがって、いくつかの例では、図19Bに示すRPE細胞106は多能性幹細胞であり、第1の層102および第2の層103の両方と接触してスキャフォールド100上に播種され、本明細書で提供される方法を使用して培養されて成熟RPE細胞を生成する。したがって、いくつかの例では、RPE細胞106は、いくつかの段階(またはいくつかの例)の多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞、または成熟RPCE細胞(例えば、黄斑、中心および/または末梢ヒトRPE細胞)である。
【0121】
したがって、本明細書では、少なくとも2つの層を有するスキャフォールドが提供される。第1の層は、少なくとも約0.25:3~3:0.25(例えば1:1)のDL-ラクチド/グリコリド比、少なくとも約150nm(例えば、約150~約650nmの直径、例えば450nmの直径)の繊維径、および少なくとも約0.2ミクロンの直径(例えば直径約0.2~2ミクロン、例えば1ミクロンの直径)の平均孔径を有するPLGAから構成される。第1の層は、少なくとも約5ミクロン(例えば約5ミクロン~約40ミクロン、例えば20ミクロン)の高さを有することができる。第2の層は、PCLループから構成され、ループの繊維は、少なくとも5ミクロンの直径(例えば、約5~約300ミクロンの直径)を有する。いくつかの例では、PCLループは、少なくとも約10細胞あたり1、少なくとも約25細胞あたり1、少なくとも約50細胞あたり1、少なくとも約75細胞あたり1、または少なくとも約100細胞あたり1、例えば約10~100細胞あたり1、50~100細胞あたり1の密度で存在する。いくつかの例では、PCLループは閉じている(例えば、PCL繊維の両端はスキャフォールドの第1層と接触しているか、または一端はスキャフォールドの第1の層と接触しており、PCL繊維の他端は同じPCL繊維の少なくとも1つの他の領域と接触しており、例えば「p」または「b」様構造を形成している)。いくつかの例では、PCLループは開いている(例えば、PCL繊維の一端は、第1の層102と接触しておらず、いくつかの例では、フック状構造、例えば「j」様構造を形成する)。いくつかの例では、いくつかのPCLループは開いており、いくつかのPCLループは閉じている。
【0122】
第2の層は、例えば電界紡糸または電気化学エッチングを使用して、第1の層に付着される(または堆積される)(例えば、PCLループがPLGAに付着される)。1つの例では、電界紡糸は、少なくとも約5kV(例えば、少なくとも約10kV、少なくとも約20kV、少なくとも約25kV、少なくとも約30kV、少なくとも約40kV、または少なくとも約50kV、例えば約5~約50kV、約5~約40kV、約10~約30kV、約20~約30kV、例えば10kV、20kV、25kV、30kVまた40kV、例えば25kv)の電界電圧、少なくとも約10kPa(例えば、少なくとも約50kPa、少なくとも約100kPa、200kPa、少なくとも約300kPa、少なくとも約350kPa、または少なくとも約400kPa、例えば約10kPa~約400kPa、約100kPa~約400kPa、約150kPa~約300kPa、約200kPa~約300kPa、または約100kPa~約200kPa、例えば10kPa、25kPa、50kPa、75kPa、100kPa、200kPa、300kPa、または400kPa、例えば300kPa)のガス噴出圧力、少なくとも約10mm(例えば、少なくとも約20mm、少なくとも約30mm、または少なくとも約40mm、例えば約10mm~約40mm、約10mm~約30mm、約20mm~約30mm、例えば10mm、20mm、27mm、30mm、35mm、または40mm、例えば27mm)のノズルとPLGAとの間の作業距離、および少なくとも2分間の電界紡糸時間(例えば、少なくとも2分、少なくとも3分、少なくとも4分、少なくとも5分、少なくとも6分、少なくとも7分、少なくとも8分、少なくとも9分、少なくとも10分、例えば約2分~約10分、約2分~約8分、約4分~約6分、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10分、例えば5分)を使用することを含む。
【0123】
いくつかの例では、スキャフォールド(例えば、図19Aまたは図19Bの100)は、組換え細胞接着タンパク質などの細胞接着タンパク質のコーティングをさらに含む。細胞接着タンパク質のコーティングは、第1および第2の層を含むスキャフォールドの表面全体を覆う。使用することができる例示的な細胞接着タンパク質には、ビトロネクチン、ラミニン、およびフィブロネクチンのうちの1またはそれより多くが含まれる。いくつかの例では、スキャフォールドは、少なくとも約20ng/mlの細胞接着タンパク質、例えば約20~95ng/mlの細胞接着タンパク質、例えば45.5ng/mlの細胞接着タンパク質、例えば45.5ng/mlのビトロネクチン、45.5ng/mlのラミニン、または45.5ng/mlのフィブロネクチンでコーティングされる。
【0124】
いくつかの例では、スキャフォールド(例えば、図19Aまたは図19Bの100)は、多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞、成熟RPCE細胞(例えば、黄斑、中心および/または末梢ヒトRPE細胞)、およびPRP細胞のうちの1またはそれより多くなどの細胞で播種する前に滅菌される。いくつかの実施形態では、ガンマ線照射を利用してスキャフォールドを滅菌する。他の実施形態では、電子ビーム(ebeam)を使用してスキャフォールドを滅菌する。いくつかの例では、酸素プラズマ放出を使用してスキャフォールドを滅菌する。例示的な方法は、例えば、Bruyas et al.,Tissue Eng.Part A,doi:10.1089/ten.TEA.2018.0130(September 20,2018)およびProffen et al.,J.Orthop.Res.33(7)1015-1023(2015))に開示されている。
【0125】
いくつかの例では、スキャフォールド(例えば、図19Aの100)に、例えばエクスビボで細胞を播種する。したがって、いくつかの例では、スキャフォールドは、RPE細胞、PRP細胞、またはRPE細胞とPRP細胞の両方をさらに含む。いくつかの例では、RPE細胞は、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞である。いくつかの例では、RPE細胞はスキャフォールド上で成熟するため、いくつかの例では、スキャフォールドは、多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞、または成熟RPE細胞(例えば、黄斑、中心および/または末梢ヒトRPE細胞)をさらに含む。いくつかの例では、多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞または成熟RPE細胞(例えば、黄斑、中心および/または末梢ヒトRPE細胞)は、スキャフォールドの両方の層と接触している細胞の単層である。PRP細胞は、RPE細胞の上、例えばRPE単層の上に播種することができる。例えば、多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞または成熟RPE細胞(例えば、黄斑、中心および/または末梢ヒトRPE細胞)は、細胞をスキャフォールドに添加し、RPE-MM培地などの適切な培養培地の存在下で細胞を培養することによって、スキャフォールド上に播種することができる。いくつかの例では、多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞または成熟RPE細胞(例えば、黄斑、中心および/または末梢ヒトRPE細胞)を、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間または少なくとも6週間、例えば7~31日間、10~30日間、14~21日間、7~45日間、例えば1、2、3、4、5または6週間、スキャフォールド上で成長させる。その後、(例えば、成熟RPE細胞などの細胞が単層を形成した後)、PRP細胞を添加し、RPE-MM培地などの適切な培養培地の存在下で培養する。いくつかの例では、PRP細胞をREP細胞上で少なくとも5日間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、または少なくとも3週間、例えば5~31日間、10~30日間、7~14日間、14~21日間、例えば1週間、2週間、または3週間増殖させる。したがって、いくつかの例では、スキャフォールドは、少なくとも100,000細胞/cmのRPE細胞(例えば少なくとも200,000細胞/cmのRPE細胞、少なくとも300,000細胞/cmのRPE細胞、少なくとも400,000細胞/cmのRPE細胞、または少なくとも500,000細胞/cmのRPE細胞、例えば100,000~500,000細胞/cmのRPE細胞、250,000~500,000細胞/cmのRPE細胞、または250,000~350,000細胞/cmのRPE細胞をさらに含む。いくつかの例では、スキャフォールドは、少なくとも100万細胞/cmのPRP細胞(例えば、少なくとも200万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも300万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも400万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも500万細胞/cmのPRP細胞、または少なくとも600万細胞/cmのPRP細胞、例えば、100~600万細胞/cmのPRP細胞、200~600万細胞/cmのPRP細胞、または300~400万細胞/cmのPRP細胞)をさらに含む。いくつかの例では、スキャフォールドは、少なくとも100,000細胞/cmのRPE細胞(例えば、少なくとも200,000細胞/cmのRPE細胞、少なくとも300,000細胞/cmのRPE細胞、少なくとも400,000細胞/cmのRPE細胞、または少なくとも500,000細胞/cmのRPE細胞、例えば100,000~500,000細胞/cmのRPE細胞、250,000~500,000細胞/cmのRPE細胞、または250,000~350,000細胞/cmのRPE細胞など)および少なくとも100万細胞/cmのPRP細胞(例えば、少なくとも200万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも300万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも400万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも500万細胞/cmのPRP細胞、または少なくとも600万細胞/cmのPRP細胞、例えば、100~600万細胞/cmのPRP細胞、200~600万細胞/cmのPRP細胞、または300~400万細胞/cmのPRP細胞)をさらに含む。
【0126】
スキャフォールド(例えば、図19Aまたは図19Bの100)は、1またはそれを超える医薬品を含むことができる。いくつかの実施形態では、スキャフォールドは、1またはそれを超える医薬品の持続放出を提供する。いくつかの実施形態では、医薬品は、RPE細胞の脱分化(または上皮間葉転換)を阻害するか、またはRPE細胞の下のドルーゼン沈着物の形成を阻害するか、またはRPE細胞の活性酸素種を抑制する分子である。いくつかの非限定的な例では、RPE細胞脱分化の阻害剤は、L,745,870(3-([4-(4-クロロフェニル)ピペラジン-1-イル]メチル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン)またはドーパミン受容体阻害剤である。医薬品は、メトホルミン、Nox4阻害剤、活性酸素阻害剤アミノカプロン酸、リルゾールまたはNK-κβ阻害剤であり得る。特定の非限定的な例では、医薬品はL,745,870である。別の具体的な非限定的な例では、医薬品はメトホルミンである。さらなる非限定的な例では、医薬品はNox4阻害剤(例えば、VAS2870、GKT 137831またはGLX7013114)である。さらなる非限定的な例では、医薬品は活性酸素種阻害剤(例えば、GKT 137831またはGLX7013114またはN-アセチルシステイン)である。
【0127】
いくつかの例では、スキャフォールド上のRPE細胞は、ヒト黄斑、中心および/または末梢RPE細胞などの黄斑、中心および/または末梢RPE細胞であり、本明細書に提供される方法によって生成される。いくつかの例では、RPE細胞は、a)多能性幹細胞を網膜誘導培地中で培養して、細胞のRPE前駆細胞への分化を開始させること;b)RPE前駆細胞を網膜分化培地中で培養して、RPE前駆細胞を拘束RPE細胞にさらに分化させること;c)拘束RPE細胞を網膜培地中で培養して未成熟RPE細胞を形成すること;ならびにd)未成熟RPE細胞をレチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニストおよび/またはカノニカルWnt阻害剤を含むRPE成熟培地中で培養し、それによりヒトRPE細胞を産生することによって生成される。いくつかの例では、幹細胞は誘導多能性幹細胞(iPSC)である。したがって、いくつかの例では、細胞がスキャフォールドの両方の層と接触するように、スキャフォールドに多能性幹細胞を播種し、多能性幹細胞を上記の培地の存在下でスキャフォールド上で成熟RPEに成熟させる。いくつかの例では、RARアンタゴニストは、AGN 193109、CE 2665、ER 5081、LE 135、LY 2955303、MM 11253、またはリアロゾールジヒドロクロリドである。いくつかの例では、カノニカルWnt阻害剤は、4-(1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル)-N-8-キノリニル-ベンズアミド(Endo-1-IWR)、カルホスチンC、カーディオノーゲン1、CCT 031374ヒドロブロミド、IWP 12、XAV 939、WIKI4、ICG-001、Wnt-C59(C59)、IWR-1-endo、KY02111、LGK-974、IWP-L6、FH535、iCRT 14、IWP 4、JW 67、JW 74、KYA 1797K、NLS-StAx-h、PNU 74654、TAK 715、IWP 2、CKI 7ジヒドロクロリド、(R)-CR8、D 4476、(R)-DRF053ジヒドロクロリド、エピブラスチンA、IC 261、LH 846、PF 4800567ヒドロクロリド、PF 5006739、PF 670462、SR 3029、AZ 6102、JW 55、MN 64、またはTC-E 5001である。いくつかの例では、RPE成熟培地は、プロスタグランジンE2(PGE2)またはアフィディコリンなどの少なくとも1つの一次繊毛インデューサーを含む。
【0128】
本明細書で提供されるスキャフォールドを含む非生分解性多孔質ポリカーボネート膜も提供される。
【0129】
本明細書で提供される1またはそれを超えるスキャフォールドを含むキットも提供される。そのようなキットは、ビトロネクチン、ラミニン、フィブロネクチンのうちの1またはそれより多くをさらに含むことができる。いくつかの例では、キットは、スナップウェル培養システム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)Oリング、またはその両方をさらに含む。いくつかの例では、キットは、網膜誘導培地、網膜分化培地、網膜成熟培地、および/または網膜培地などの培養培地をさらに含む。いくつかの例では、キットは、非生分解性多孔質ポリカーボネート膜をさらに含む。いくつかの例では、キットは、RPE細胞、PRP細胞、またはその両方、例えば黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞、例えばヒト黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞をさらに含み、本明細書に提供される方法によって生成される。いくつかの例では、キットは、iPSC、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、および/または未成熟RPE細胞などの多能性幹細胞をさらに含む。
【0130】
開示されるスキャフォールドを使用して、例えば、それを必要とする対象、例えばヒトなどの哺乳動物を処置する方法も提供される。そのような方法は、本明細書に提供されるスキャフォールドを対象の網膜に移植することを含み得る。いくつかの例では、対象は、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を有する。いくつかの例では、網膜変性疾患は、シュタルガルト黄斑ジストロフィー、網膜色素変性、加齢性黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、レーバー先天性黒内障、後天性黄斑変性、遺伝性黄斑変性、ベスト病、遅発性網膜変性、ベアトラックジストロフィー、網膜剥離、脳回転状萎縮、コロイデレミア、パターンジストロフィーである。いくつかの例では、網膜損傷は、レーザー、炎症性、感染性、放射線、新生血管または外傷性傷害によって引き起こされる。
【0131】
例えば、本明細書で提供される方法で使用するための、本明細書で提供される1またはそれを超えるスキャフォールドを含む医薬組成物も提供される。
【0132】
RPE細胞、PRP細胞、またはその両方を播種したスキャフォールドを作製する方法も提供される。そのような播種されたスキャフォールドは、本明細書で提供される処置方法で使用することができる。この方法は、本明細書に提供されるスキャフォールド上にRPE細胞(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)を培養することを含み得る。いくつかの例では、黄斑、中心および/または末梢RPE細胞は、a)多能性幹細胞を網膜誘導培地中で培養して、細胞のRPE前駆細胞への分化を開始させること;b)RPE前駆細胞を網膜分化培地中で培養して、RPE前駆細胞を拘束RPE細胞にさらに分化させること;c)拘束RPE細胞を網膜培地中で培養して未成熟RPE細胞を形成すること;ならびにd)未成熟RPE細胞をレチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニストおよび/またはカノニカルWnt阻害剤を含むRPE成熟培地中で培養し、それにより黄斑、中心または末梢RPE細胞を産生することを含む方法によって生成される。いくつかの例では、そのような培養は、多能性幹細胞がスキャフォールド上に播種され、次いで培養されてスキャフォールド上に成熟RPE細胞(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)を形成するように、スキャフォールド自体で行われる。他の例では、培養を別々に行い、続いて、得られた成熟RPE細胞(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)をスキャフォールド上に播種する。いくつかの例では、RPE細胞は、スキャフォールドの両方の層と接触する単層などのRPE細胞の単層の形成を可能にする期間培養される(例えば、図19Bを参照)。いくつかの例では、RPE細胞は、網膜成熟培地中でスキャフォールドの存在下で培養される。いくつかの例では、RPE細胞(または多能性幹細胞(iPSCなど)RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、および/または未成熟RPE細胞)をスキャフォールド上で少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、または少なくとも5週間、例えば約1、2、3、4、または5週間培養する。この方法は、続いてRPE細胞の上でPRP細胞を培養することをさらに含むことができる(例えば、図19Bを参照)。PRP細胞は単層を形成する必要はなく、いくつかの例では、集密度は約40%未満、例えば約5~40%集密度、約20~40%集密度または約30~40%集密度である。いくつかの例では、PRP細胞は、網膜成熟培地中でスキャフォールドおよびRPE細胞の存在下で培養される。いくつかの例では、PRP細胞は、スキャフォールドおよびRPE細胞上で、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも4週間、例えば約1、2、3、または4週間培養される。いくつかの例では、得られたスキャフォールドは、少なくとも100,000細胞/cmのRPE細胞(例えば少なくとも200,000細胞/cmのRPE細胞、少なくとも300,000細胞/cmのRPE細胞、少なくとも400,000細胞/cmのRPE細胞、または少なくとも500,000細胞/cmのRPE細胞、例えば100,000~500,000細胞/cmのRPE細胞、250,000~500,000細胞/cmのRPE細胞、または250,000~350,000細胞/cmのRPE細胞を含む。いくつかの例では、スキャフォールドは、少なくとも100万細胞/cmのPRP細胞(例えば、少なくとも200万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも300万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも400万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも500万細胞/cmのPRP細胞、または少なくとも600万細胞/cmのPRP細胞、例えば、100~600万細胞/cmのPRP細胞、200~600万細胞/cmのPRP細胞、または300~400万細胞/cmのPRP細胞)を含む。いくつかの例では、スキャフォールドは、少なくとも100,000細胞/cmのRPE細胞(例えば、少なくとも200,000細胞/cmのRPE細胞、少なくとも300,000細胞/cmのRPE細胞、少なくとも400,000細胞/cmのRPE細胞、または少なくとも500,000細胞/cmのRPE細胞、例えば100,000~500,000細胞/cmのRPE細胞、250,000~500,000細胞/cmのRPE細胞、または250,000~350,000細胞/cmのRPE細胞など)および少なくとも100万細胞/cmのPRP細胞(例えば、少なくとも200万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも300万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも400万細胞/cmのPRP細胞、少なくとも500万細胞/cmのPRP細胞、または少なくとも600万細胞/cmのPRP細胞、例えば、100~600万細胞/cmのPRP細胞、200~600万細胞/cmのPRP細胞、または300~400万細胞/cmのPRP細胞)を含む。いくつかの例では、多能性幹細胞からのRPE細胞の成熟は、TEER>400オーム.cm2および光受容体マーカー(例えば、リカバリン、アレスチン、NRL、オプシン)の存在によって確認される。
【0133】
多能性幹細胞
1.胚性幹細胞
ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来し、高いインビトロ分化能力を有する。ES細胞は、発生中の胚の外側栄養外胚葉層を除去し、次いで、成長していない細胞のフィーダー層上で内側の塊細胞を培養することによって単離することができる。再プレーティングされた細胞は、増殖し続け、ES細胞の新しいコロニーを産生し得、これを除去し、解離し、再び再プレーティングし、成長させ得る。この未分化ES細胞を「継代培養」するプロセスを複数回繰り返して、未分化ES細胞を含む細胞株を作製することができる(米国特許第5,843,780号;同第6,200,806号;同第7,029,913号)。ES細胞は、その多能性を維持しながら増殖する可能性を有する。例えば、ES細胞は、細胞および細胞分化を制御する遺伝子の研究において有用である。遺伝子操作および選択と組み合わせたES細胞の多能性は、トランスジェニック、キメラおよびノックアウトマウスの作製を介してインビボでの遺伝子分析研究に使用することができる。
【0134】
マウスES細胞の作製方法は公知である。1つの方法では、マウスの129系統からの着床前胚盤胞をマウス抗血清で処理して、栄養外胚葉を除去し、内部細胞塊を、化学的に不活性化されたマウス胚性線維芽細胞のフィーダー細胞層上で、ウシ胎仔血清を含有する培地中で培養する。発生する未分化ES細胞のコロニーを、ウシ胎仔血清の存在下でマウス胚性線維芽細胞フィーダー層上で継代培養して、ES細胞の集団を作製する。一部の方法では、サイトカイン白血病阻害因子(LIF)を血清含有培養培地に添加することにより、フィーダー層の非存在下でマウスES細胞を増殖させることができる(Smith,2000)。他の方法では、マウスES細胞を、骨形成タンパク質およびLIFの存在下、無血清培地中で成長させることができる。
【0135】
ヒトES細胞は、精子と卵細胞との融合、核移植、病理発生、またはクロマチンの再プログラミングおよび胚性細胞を産生するためのその後の再プログラミングされたクロマチンの原形質膜への組み込みによって産生される接合体または胚盤胞期哺乳動物胚から、以前に記載された方法によって産生することができるか、または由来することができる。1つの方法では、ヒト胚盤胞を抗ヒト血清に曝露し、栄養外胚葉細胞を溶解し、マウス胚性線維芽細胞のフィーダー層上で培養される内部細胞塊から除去する。さらに、内部細胞塊に由来する細胞の塊を化学的または機械的に解離し、再プレーティングし、未分化形態を有するコロニーをマイクロピペットによって選択し、解離し、再プレーティングする(米国特許第6,833,269号)。いくつかの方法では、ヒトES細胞は、塩基性線維芽細胞成長因子の存在下で線維芽細胞のフィーダー層上でES細胞を培養することによって、血清なしで増殖させることができる。他の方法では、ヒトES細胞は、フィーダー細胞層なしで、塩基性線維芽細胞成長因子を含有する「馴化」培地の存在下で、MATRIGEL(登録商標)またはラミニンなどのタンパク質マトリックス上で細胞を培養することによって増殖させることができる。ヒトES細胞株が利用可能である。いくつかの実施形態では、ヒトES細胞は、ヒト胚の破壊を必要としなかった。これらには、樹立されたES細胞株の使用が含まれる。
【0136】
ES細胞はまた、既に記載された方法によるアカゲザルおよびマーモセットを含む他の生物、ならびに樹立されたマウスおよびヒト細胞株に由来し得る。例えば、樹立されたヒトES細胞株としては、MAOI、MA09、ACT-4、HI、H7、H9、H13、H14およびACT30が挙げられる。さらなる例として、樹立されたマウスES細胞株には、マウス系統129胚の内部細胞塊から樹立されたCGR8細胞株が含まれ、CGR8細胞の培養物は、フィーダー層のないLIFの存在下で成長させることができる。
【0137】
ES幹細胞は、転写因子Oct4、アルカリホスファターゼ(AP)、段階特異的胚性抗原SSEA-1、段階特異的胚性抗原SSEA-3、段階特異的胚性抗原SSEA-4、転写因子NANOG、腫瘍拒絶抗原1-60(TRA-1-60)、腫瘍拒絶抗原1-81(TRA-1-81)、SOX2またはREX1を含むタンパク質マーカーによって検出され得る。
【0138】
a.体細胞核移植
多能性幹細胞は、体細胞核移植の方法によって調製することができる。体細胞核移植は、紡錘体を含まない卵母細胞へのドナー核の移植を含む。1つの方法では、電気融合によって、霊長類の皮膚線維芽細胞からのドナー線維芽細胞核を、紡錘体を含まない成熟中期II霊長類卵母細胞の細胞質に導入する。融合した卵母細胞をイオノマイシンへの曝露によって活性化し、次いで胚盤胞期までインキュベートする。次いで、選択された胚盤胞の内部細胞塊を培養して、胚性幹細胞株を産生する。胚性幹細胞株は、正常なES細胞形態を示し、様々なES細胞マーカーを発現し、インビトロおよびインビボの両方で複数の細胞型に分化する。胚は、これらのES細胞の産生において破壊されない。
【0139】
2.誘導多能性幹細胞
多能性の誘導は、多能性に関連する転写因子の導入による体細胞の再プログラミングによって、マウス細胞を使用して2006年に(Yamanakaら)、およびヒト細胞を使用して2007年に最初に達成された。多能性幹細胞は、未分化状態で維持することができ、ほぼあらゆる細胞型に分化することができる。iPSCの使用は、ES細胞の大規模な臨床使用に伴う倫理的および実施上の問題のほとんどを回避し、iPSC由来の自己移植片を有する患者は、移植片拒絶を防止するために生涯にわたる免疫抑制処置を必要としない場合がある。
【0140】
生殖細胞を除いて、任意の細胞をiPSCの出発点として使用することができる。例えば、細胞型は、ケラチノサイト、線維芽細胞、造血細胞、間葉細胞、肝臓細胞、または胃細胞であり得る。細胞は、多分化能細胞、例えば、限定されないが、造血幹細胞、例えば、限定されないが、CD34+細胞であり得る。T細胞はまた、再プログラミングのための体細胞の供給源として使用され得る(米国特許第8,741,648号)。細胞分化の程度または細胞が回収される動物の年齢に制限はない;未分化前駆細胞(体性幹細胞を含む)および最終的に分化した成熟細胞でさえも、本明細書中に開示される方法における体細胞の供給源として使用され得る。一実施形態では、体細胞は、それ自体がヒトRPE細胞などのRPE細胞である。RPE細胞は、成体または胎児のRPE細胞であり得る。iPSCは、ヒトES細胞を特定の細胞型に分化させ、SSEA-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60およびTRA-1-81を含むヒトES細胞マーカーを発現することが知られている条件下で成長させることができる。
【0141】
体細胞および多能性幹細胞、例えばCD34+細胞は、当業者に公知の方法を使用して誘導多能性幹細胞(iPSC)を産生するように再プログラムすることができる。当業者は、誘導多能性幹細胞を容易に産生することができ、例えば、米国特許出願公開第20090246875号、米国特許出願公開第2010/0210014号;米国特許出願公開第20120276636号;米国特許第8,058,065号;米国特許第8,129,187号;米国特許第8,278,620号;PCT公開番号WO 2007/069666 A1および米国特許第8,268,620号を参照のこと(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。一般に、核再プログラミング因子は、体細胞から多能性幹細胞を産生するために使用される。いくつかの実施形態では、Klf4、c-Myc、Oct3/4、Sox2、NanogおよびLin28のうちの少なくとも3つまたは少なくとも4つが利用される。他の実施形態では、Oct3/4、Sox2、c-MycおよびKlf4が利用される。
【0142】
細胞は、一般に、体細胞からiPSCを誘導することができる1またはそれを超える因子である核再プログラミング物質、またはこれらの物質をコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)で処理される。核再プログラミング物質は、一般に、少なくともOct3/4、Klf4およびSox2またはこれらの分子をコードする核酸を含む。p53の機能的阻害剤、L-mycまたはL-mycをコードする核酸、およびLin28もしくはLin28bまたはLin28もしくはLin28bをコードする核酸を、追加の核再プログラム物質として利用することができる。Nanogは、核再プログラミングにも利用することができる。米国特許出願公開第20120196360号に開示されるように、iPSCの産生のための例示的な再プログラミング因子としては、(1)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc(Sox2は、Soxl、Sox3、Soxl5、Soxl7またはSoxl8で置き換えることができ;Klf4は、Klfl、Klf2またはKlf5で置き換え可能である;(2)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、SV40ラージT抗原(SV40LT);(3)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、ヒトパピローマウイルス(HPV)16 E6;(4)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、HPV16 E7(5)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、HPV16 E6、HPV16 E7;(6)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、Bmil;(7)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28;(8)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28、SV40LT;(9)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28、TERT、SV40LT;(10)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、SV40LT;(11)Oct3/4、Esrrb、Sox2、L-Myc(EsrrbはEsrrgで置き換え可能である);(12)Oct3/4、Klf4、Sox2;(13)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、SV40LT;(14)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HP VI 6 E6;(15)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HPV16 E7;(16)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HPV16 E6、HPV16 E7;(17)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、Bmil;(18)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28(19)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28、SV40LT;(20)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28、TERT、SV40LT;(21)Oct3/4、Klf4、Sox2、SV40LT;または(22)Oct3/4、Esrrb、Sox2(EsrrbはEsrrgで置き換えることができる)が挙げられる。1つの非限定的な例では、Oct3/4、Klf4、Sox2およびc-Mycが利用される。他の実施形態では、Oct4、NanogおよびSox2が利用され、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,682,828号を参照されたい。これらの因子には、Oct3/4、Klf4およびSox2が含まれるが、これらに限定されない。他の例では、因子としては、Oct3/4、Klf4およびMycが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの非限定的な例では、Oct3/4、Klf4、c-MycおよびSox2が利用される。他の非限定的な例では、Oct3/4、Klf4、Sox2およびSal 4が利用される。Nanog、Lin28、Klf4またはc-Mycのような因子は、再プログラミング効率を高めることができ、いくつかの異なる発現ベクターから発現させることができる。例えば、EBVエレメントに基づく系などの組み込みベクターを使用することができる(米国特許第8,546,140号)。さらなる態様では、再プログラミングタンパク質は、タンパク質形質導入によって体細胞に直接導入され得る。再プログラミングは、細胞を、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害剤、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)受容体阻害剤またはシグナル伝達阻害剤、白血病阻害因子(LIF)、p53阻害剤、NF-κB阻害剤、またはそれらの組み合わせを含む1またはそれを超えるシグナル伝達受容体と接触させることをさらに含み得る。これらの調節因子には、小分子、阻害性ヌクレオチド、発現カセット、またはタンパク質因子が含まれ得る。実質的に任意のiPS細胞または細胞株が使用され得ることが予想される。
【0143】
これらの核再プログラミング物質のマウスおよびヒトcDNA配列は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2007/069666号に列挙されているNCBIアクセッション番号を参照して入手可能である。1またはそれを超える再プログラミング物質、またはこれらの再プログラミング物質をコードする核酸を導入する方法は公知であり、例えば、米国特許出願第2012/0196360号および米国特許第8,071,369号に開示されており、これらは両方ともその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0144】
一旦誘導されると、iPSCは、多能性を維持するのに十分な培地中で培養され得る。iPSCは、米国特許第7,442,548号および米国特許公開公報第2003/0211603号に記載されているように、多能性幹細胞、より具体的には胚性幹細胞を培養するために開発された様々な培地および技術と共に使用され得る。マウス細胞の場合、通常の培地に白血病抑制因子(LIF)を分化抑制因子として添加して培養する。ヒト細胞の場合、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を添加することが望ましい。iPSCの培養および維持のための他の方法を使用してもよい。
【0145】
特定の実施形態では、規定されていない条件を使用することができる。例えば、多能性細胞は、幹細胞を未分化状態に維持するために、線維芽細胞フィーダー細胞または線維芽細胞フィーダー細胞に曝露された培地上で培養され得る。いくつかの実施形態では、細胞は、フィーダー細胞として、細胞分裂を終結させるために放射線または抗生物質で処理されたマウス胚性線維芽細胞の共存下で培養される。あるいは、多能性細胞は、TESR(商標)培地またはE8(商標)培地などの規定されたフィーダー非依存性培養系を使用して、本質的に未分化状態で培養および維持され得る。
【0146】
いくつかの実施形態では、iPSCは、外因性遺伝子を発現する、内因性遺伝子の発現を増加させる、遺伝子のコピー数を増加させる、遺伝子変異を修正する、または変異体遺伝子の発現をサイレンシングするなどのために改変することができる。いくつかの特定の非限定的な例では、内因性遺伝子の変異または欠失が修正される。この遺伝子は、例えば、レチノイドイソメラーゼ(RPE65)、ベストロフィン(BEST)1、MERチロシンキナーゼ癌原遺伝子(MERTK)、RABエスコートタンパク質(REP1)、細胞性レチナールデヒド結合タンパク質(CRALBP)、プレ-mRNAプロセシング因子(PPRF)、補体因子H(CFH)、補体成分3a受容体(C3aR)1、補体成分5受容体(C5aR1)、血管内皮成長因子(VEGF)、色素上皮由来因子(PEDF)、補体因子I(CFI)、補体因子2B(C2B)、ATP結合カセット、サブファミリーA、メンバー4(ABCA4)、ATP結合カセット、サブファミリーA、メンバー1(ABCA1)、膜型フリズルド関連タンパク質(MFRP)、C1qおよび腫瘍壊死因子関連タンパク質5(C1qTNF5)、精子形成関連タンパク質7(SPATA7)、セントロソームタンパク質、290 kd(CEP290)、ミオシンVIIA(MYO7A)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、FMS関連チロシンキナーゼ1(FLT-1)、Usher症候群、I型(USH1A)、チロシナーゼ、プラスミノーゲン(PLG)、コラーゲン、XVIII型、アルファ-1(COL18A1)、TTRAセリンペプチダーゼ(HTRA)1、ARMS2、メタロプロテイナーゼ組織阻害剤(TIMP)3、上皮成長因子(EGF)含有フィブリン様細胞外マトリックスタンパク質(EFEMP)1、小眼球症関連転写因子(MITF)、転写因子EC(TFEC)、オルソデンチクル、ショウジョウバエ、ホモログ、2(OTX2)、ジンクフィンガータンパク質503(ZNF503またはNLZ2)をコードし得る。1つの非限定的な例では、遺伝子はRPE65である。別の非限定的な例では、遺伝子はBEST1である。さらなる非限定的な例では、遺伝子はMETRKをコードする。iPSCにおいて遺伝子編集を行うための方法は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Hockenmeyer and Jaenisch、「Induced Pluripotent Stem Cell Meets Genome Editing」、Cell Stem Cell 18:573-586,2016に開示されている。そこに開示されている方法のいずれも有用である。この方法は、目的の導入遺伝子を終結させるアデノ随伴ウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターの使用を含むことができる。この方法は、CRISPR/Cas9、TALENヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、レンチウイルス媒介補正、アデノ随伴ウイルス媒介補正、shRNA、siRNA、またはFプライム編集の使用を含み得る。
【0147】
いくつかの実施形態では、iPSCは、プロモーターに作動可能に連結されたチロシナーゼエンハンサーおよび第1のマーカーをコードする核酸配列を含むように、外因性核酸を発現するように改変することができる。チロシナーゼ遺伝子は、例えば、2013年1月1日に入手可能なGENBANK(登録商標)アクセッション番号22173に開示されている。この配列は、マウス系統C57BL/6の7番染色体の位置5286971~5291691(逆の配向)に整列している。4721塩基対の配列は、RPE細胞における発現に十分である(その全体が参照により本明細書に組み込まれるMurisier et al.,Dev.Biol.303:838-847,2007を参照のこと)。この構築物は、RPE細胞で発現される。他のエンハンサーを利用することができる。他のRPE特異的エンハンサーとしては、D-MITF、DCT、TYRP1、RPE65、VMD2、MERTK、MYRIPおよびRAB27Aが挙げられる。適切なプロモーターとしては、限定されないが、チロシナーゼプロモーターを含むRPE細胞で発現される任意のプロモーターが挙げられる。構築物はまた、翻訳開始のためのリボソーム結合部位(内部リボソーム結合配列)および転写/翻訳ターミネーターなどの他のエレメントを含むことができる。一般に、構築物で細胞をトランスフェクトすることが有利である。安定なトランスフェクションに適したベクターには、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターおよびセンダイウイルスが含まれるが、これらに限定されない。
【0148】
プラスミドは、調節された高コピー数を達成することができ、ヒト細胞を含む哺乳動物細胞における使用に適合する。いくつかの例では、プラスミドは、大量のDNAを産生および精製することができるように、大腸菌における維持および発酵に適している。プラスミドは安全であり、ヒト患者および動物における使用に適し得る。高コピー数プラスミドは、細菌発酵中に比較的容易に選択され、安定に維持され得る。選択マーカーおよび他のコード配列などのエレメントをプラスミドに含めることができる。いくつかの実施形態において、マーカーをコードするプラスミドには、下記のものが含まれる。(1)高コピー数複製起点、(2)選択マーカー、例えば限定されないが、カナマイシンによる抗生物質選択のためのneo遺伝子、(3)チロシナーゼエンハンサーを含む転写終結配列、および(4)様々な核酸カセットを組み込むためのマルチクローニング部位;ならびに(5)チロシナーゼプロモーターに作動可能に連結されたマーカーをコードする核酸配列。タンパク質をコードする核酸を誘導するための当技術分野で公知の多数のプラスミドベクター、例えば米国特許第6,103,470号;米国特許第7,598,364号;米国特許第7,989,425号;米国特許第6,416,998号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているベクターがある。
【0149】
ウイルス遺伝子送達システムは、RNAベースまたはDNAベースのウイルスベクターであり得る。エピソーム遺伝子送達システムは、プラスミド、エプスタイン・バーウイルス(EBV)ベースのエピソームベクター、酵母ベースのベクター、アデノウイルスベースのベクター、シミアンウイルス40(SV40)ベースのエピソームベクター、ウシパピローマウイルス(BPV)ベースのベクター、またはレンチウイルスベクターであり得る。
【0150】
いくつかの実施形態では、細胞は、マーカーをコードする核酸分子でトランスフェクトされる。マーカーには、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質または赤色蛍光タンパク質)、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼまたはホタル/ウミシイタケルシフェラーゼまたはnanoluc)、または他のタンパク質が含まれるが、これらに限定されない。マーカーは、タンパク質(分泌タンパク質、細胞表面タンパク質、または内部タンパク質を含む;合成されるかまたは細胞によって取り込まれるかのいずれか);核酸(例えばmRNAまたは酵素的に活性な核酸分子)または多糖であり得る。目的の細胞型のマーカーに特異的な抗体、レクチン、プローブまたは核酸増幅反応によって検出可能な任意のそのような細胞構成要素の決定基が含まれる。マーカーはまた、遺伝子産物の機能に依存する生化学的もしくは酵素アッセイまたは生物学的応答によって同定することができる。これらのマーカーをコードする核酸配列は、チロシナーゼエンハンサーに作動可能に連結することができる。さらに、幹細胞からRPEへの分化、またはRPEの機能、または生理学、または病理に影響を及ぼし得る遺伝子など、他の遺伝子を含めることができる。したがって、いくつかの実施形態では、MITF、PAX6、TFEC、OTX2、LHX2、VMD2、CFTR、RPE65、MFRP、CTRP5、CFH、C3、C2B、APOE、APOB、mTOR、FOXO、AMPK、SIRT1-6、HTRP1、ABCA4、TIMP3、VEGFA、CFI、TLR3、TLR4、APP、CD46、BACE1、ELOLV4、ADAM 10、CD55、CD59、およびARMS2のうちの1またはそれより多くをコードする核酸が含まれる。
【0151】
a.MHCハプロタイプ一致
主要組織適合複合体は、同種器官移植の免疫拒絶の主な原因である。3つの主要なクラスI MHCハプロタイプ(A、B、およびC)および3つの主要なMHCクラスIIハプロタイプ(DR、DP、およびDQ)が存在する。HLA遺伝子座は高度に多型性であり、6番染色体上の4Mbにわたって分布している。この領域は自己免疫疾患および感染性疾患に関連し、ドナーとレシピエントとの間のHLAハプロタイプの適合性が移植の臨床転帰に影響を及ぼし得るので、この領域内のHLA遺伝子をハプロタイプ決定する能力は臨床的に重要である。MHCクラスIに対応するHLAは、細胞の内側からペプチドを提示し、MHCクラスIIに対応するHLAは、細胞の外側からTリンパ球に抗原を提示する。移植片と宿主との間のMHCハプロタイプの不適合性は、移植片に対する免疫応答を誘因し、その拒絶をもたらす。したがって、対象は、拒絶を防止するために免疫抑制剤で処置することができる。HLA一致幹細胞株は、免疫拒絶のリスクを克服し得る。
【0152】
移植におけるHLAの重要性のために、HLA遺伝子座は、通常、好ましいドナー・レシピエント対を同定するために血清学およびPCRによって分類される。HLAクラスI抗原およびHLAクラスII抗原の血清学的検出は、精製Tリンパ球または精製Bリンパ球を用いた補体媒介リンパ球傷害試験を用いて達成することができる。この手順は、主にHLA-Aおよび-B遺伝子座を一致させるために使用される。分子ベースの組織分類は、多くの場合、血清学的試験よりも正確であり得る。PCR産物を一連のオリゴヌクレオチドプローブに対して試験するSSOP(配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ)法などの低分解能分子法を使用してHLA抗原を同定することができ、現在、これらの方法はクラスII-HLA分類に使用される最も一般的な方法である。PCR増幅のために対立遺伝子特異的プライマーを利用するSSP(配列特異的プライマー)法などの高分解能技術は、特異的MHC対立遺伝子を同定することができる。
【0153】
ドナー細胞がHLAホモ接合性である場合、すなわち、各抗原提示タンパク質について同一の対立遺伝子を含有する場合、ドナーとレシピエントとの間のMHC適合性は有意に増加する。ほとんどの個体はMHCクラスIおよびII遺伝子についてヘテロ接合性であるが、特定の個体はこれらの遺伝子についてホモ接合性である。これらのホモ接合個体はスーパードナーとして働くことができ、それらの細胞から生成された移植片は、そのハプロタイプについてホモ接合またはヘテロ接合のいずれかであるすべての個体に移植することができる。さらに、ホモ接合のドナー細胞が集団において高頻度に見出されるハプロタイプを有する場合、これらの細胞は、多数の個体に対する移植療法において適用を有し得る。
【0154】
したがって、iPSCは、処置される対象、または患者と同じもしくは実質的に同じHLA型を有する別の対象のCD34細胞などの細胞から産生され得る。ある場合において、ドナーの主要なHLA(例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3つの主要な遺伝子座)は、レシピエントの主要なHLAと同一である。場合によっては、体細胞ドナーはスーパードナーであり得る。したがって、MHCホモ接合性スーパードナーに由来するiPSCを使用して、RPE細胞を作製することができる。したがって、スーパードナーに由来するiPSCは、そのハプロタイプについてホモ接合性またはヘテロ接合性のいずれかである対象に移植され得る。例えば、iPSCは、HLA-AおよびHLA-Bなどの2つのHLA対立遺伝子においてホモ接合性であり得る。このように、スーパードナーから産生されたiPSCを本明細書中に開示される方法において使用して、多数の潜在的レシピエントに潜在的に「一致」し得るRPE細胞を作製することができる。
【0155】
b.エピソームベクター
特定の態様では、再プログラミング因子は、1またはそれを超える外因性エピソーム遺伝要素に含まれる発現カセットから発現される(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0003757号明細書を参照)。したがって、iPSCは、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターエレメントなどの外因性遺伝要素を本質的に含まなくてもよい。これらのiPSCは、iPSCを外因性ベクターまたはウイルス要素を本質的に含まないようにするためにエピソーム的に複製することができるベクターである染色体外複製ベクター(すなわち、エピソームベクター)の使用によって調製される(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,546,140号を参照;Yu et al.,2009)。アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)もしくはウシパピローマウイルス(BPV)、または出芽酵母ARS(自律複製配列)含有プラスミドなどのいくつかのDNAウイルスは、哺乳動物細胞において染色体外的またはエピソーム的に複製する。これらのエピソームプラスミドは、本質的に、組込みベクターに関連するこれらのすべての欠点がない(Bode et al.,2001)。例えば、上で規定したリンパ球指向性ヘルペスウイルス系またはエプスタイン・バーウイルス(EBV)は、染色体外で複製し、体細胞への再プログラミング遺伝子の送達を助け得る。有用なEBVエレメントは、OriPおよびEBNA-1、またはそれらの改変体もしくは機能的等価物である。エピソームベクターの1つの利点は、外因性エレメントが細胞に導入された後に時間とともに失われ、これらのエレメントを本質的に含まない自立型iPSCをもたらすことである。
【0156】
他の染色体外ベクターとしては、他のリンパ球指向性ヘルペスウイルスベースのベクターが挙げられる。リンパ球指向性ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(例えば、ヒトBリンパ芽球)で複製し、その天然のライフサイクルの一部にわたりプラスミドになるヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルス(HSV)は「リンパ球指向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ球指向性ヘルペスウイルスとしては、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV);ヘルペスウイルスサイミリ(HS)およびマレック病ウイルス(MDV)が挙げられるが、これらに限定されない。エピソームベースのベクターのさらなる供給源、例えば酵母ARS、アデノウイルス、SV40またはBPVが企図される。
【0157】
RPE細胞の産生方法
黄斑RPE細胞、中心RPE細胞または末梢RPE細胞を産生するための方法が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、細胞は、ESCまたはiPSCなどの多能性幹細胞から産生され得る。いくつかの例では、例えば、スキャフォールドにESCまたはiPSCなどの多能性幹細胞を播種し、本明細書に提供される培養工程を行うことによって、本明細書に提供されるスキャフォールド上に黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞を産生する。
【0158】
RPE細胞は、それらの色素沈着、上皮形態および頂端-基底極性に基づいて特徴付けることができる。分化したRPE細胞は、それらの形態および色素の初期外観によって視覚的に認識することができる。ヒトでは、「黄斑」RPE細胞は、約150μm+33μmの面積および花弁状の頂端突起を有し、これらは約0.5~約4μmの長さ、約0.1~約1μmの幅、および約0.2~約2μmのうねりの幅を有する。中心RPE細胞は、約199μm+40μmの面積を有し、花弁状および指状の頂端突起が混在している。「末梢」RPE細胞は、約239μm+33μmの面積と、約0.1~約1μmの長さおよび約0.1~約1μmの幅を有する指状の頂端突起とを有する。これらのタイプのRPE細胞を産生する方法が開示される。
【0159】
さらに、すべての分化したRPE細胞は、単層を横切る経上皮抵抗/TERおよび経上皮電位/TEP(TER>100オーム*cm;TEP>2mV)を有し、流体およびCOを頂端側から基底側に輸送し、サイトカインの極性のある分泌を調節する。RPE細胞は、免疫細胞化学、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリーおよび酵素結合免疫測定法(ELISA)などの方法論の使用による検出のためのマーカーとして役立ち得るいくつかのタンパク質を発現する。例えば、RPE特異的マーカーとしては、細胞性レチナールデヒド結合タンパク質(CRALBP)、小眼球症関連転写因子(MITF)、チロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP-1)、網膜色素上皮特異的65kDaタンパク質(RPE65)、プレメラノソームタンパク質(PMEL17)、ベストロフィン1(BEST1)およびc-mer癌原遺伝子チロシンキナーゼ(MERTK)が挙げられ得る。RPE細胞は、胚性幹細胞マーカーOct-4、nanogまたはRex-2を(いかなる検出可能なレベルでも)発現しない。具体的には、これらの遺伝子の発現は、定量的RT-PCRによって評価した場合、ES細胞またはiPSCよりもRPE細胞において約1/100~1/1000である。RPE細胞マーカーは、例えば、公的に入手可能な配列データ(GENBANK(登録商標))を使用する標準的な増幅方法で配列特異的プライマーを使用する逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、ノーザンブロット分析、またはドットブロットハイブリダイゼーション分析によってmRNAレベルで検出され得る。タンパク質またはmRNAレベルで検出される組織特異的マーカーの発現は、そのレベルが、対照細胞(例えば、未分化多能性幹細胞または他の無関係な細胞型)の少なくともまたは約2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍または9倍、より具体的には10倍超、20倍超、30倍超、40倍超、50倍超またはそれよりも高い場合、陽性であるとみなされる。
【0160】
iPSCおよびESCから黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および末梢RPE細胞を産生するための例示的な方法を以下に開示する。培地中で使用され得る阻害剤の説明は、このセクションの最後に開示される。阻害剤のクラスを参照する場合、任意の特異的阻害剤を使用することができることに留意されたい。
【0161】
1.多能性幹細胞を培養してRPE前駆細胞を産生する
開示される方法は、ES細胞またはiPSCなどの多能性幹細胞(PSC)を網膜誘導培地中で培養して、細胞のRPE前駆細胞への分化を開始させることを含む。参照によりその全体が本明細書に組み込まれるPCT公開番号2014/121077は、iPSCから産生された胚様体(EB)を培養方法において利用してRPE細胞を産生することができる方法を開示している。例えば、rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)阻害剤の添加によってiPSCから胚様体を産生し、2つのWNT経路阻害剤およびNodal経路阻害剤を含む第1の培地中で培養する。
【0162】
いくつかの実施形態では、ヒトiPSCなどのPSCの本質的に単一の細胞懸濁物を本方法で利用することができる。いくつかの実施形態では、PSCは、細胞凝集を防ぐためにプレコンフルエントまで培養される。特定の態様では、PSCは、TRYPSIN(商標)またはTRYPLE(商標)などによって例示される細胞解離酵素とのインキュベーションによって解離される。PSCは、ピペッティングによって本質的に単一の細胞懸濁物に解離することもできる。さらに、ブレビスタチン(例えば、約2.5μM)を培地に添加して、細胞が培養容器に接着していない間に単一細胞に解離した後のPSC生存を増加させることができる。あるいは、ブレビスタチンの代わりにROCK阻害剤を使用して、単一細胞に解離した後のPSC生存を増加させることができる。
【0163】
RPE細胞を単一細胞PSCから効率的に分化させるために、入力密度の正確なカウントは、RPE分化効率を増加させることができる。したがって、播種前にPSCの単一細胞懸濁物を計数することができる。例えば、PSCの単一細胞懸濁物は、血球計または自動細胞計数器、例えばVICELL(登録商標)またはTC20によって計数することができる。細胞は、少なくとも10,000細胞/mL、例えば少なくとも20,000細胞/mL、少なくとも50,000細胞/mL、少なくとも75,000細胞/mL、少なくとも100,000細胞/mL、少なくとも150,000細胞/mL、または少なくとも200,000細胞/mL、例えば約10,000~約500,000細胞/mL、約50,000~約200,000細胞/mL、または約75,000~約150,000細胞/mLの細胞密度に希釈され得る。非限定的な例では、PSCの単一細胞懸濁物を、ESSENTIAL 8(商標)(E8(商標))培地などの完全に規定された培養培地で約100,000細胞/mLの密度に希釈する。
【0164】
他の実施形態では、iPSCなどのPSCは、約1,000~約75,000細胞/cm2、例えば約5,000~約40,000細胞/cm2の細胞密度で播種される。他の実施形態では、iPSCなどのPSCは、少なくとも1,000細胞/cm2、少なくとも2,000細胞/cm2、少なくとも5,000細胞/cm2、少なくとも10,000細胞/cm2、少なくとも20,000細胞/cm2、または少なくとも50,000細胞/cm2の細胞密度で播種され、6ウェルプレートでは、細胞は、ウェルあたり約50,000~約400,000細胞の細胞密度で播種され得る。例示的な方法では、細胞は、ウェルあたり約100,000、約150,00、約200,000、約250,000、約300,000または約350,000細胞、例えばウェルあたり約200,00細胞の細胞密度で播種される。
【0165】
PSCの単一細胞懸濁物が既知の細胞密度で得られると、細胞は一般に、適切な培養容器、例えば組織培養プレート、例えばフラスコ、6ウェル、24ウェルまたは96ウェルプレートに播種される。細胞を培養するために使用される培養容器は、特に限定されないが、その中で幹細胞を培養することができる限り、フラスコ、組織培養用フラスコ、皿、ペトリ皿、組織培養用皿、マルチ皿、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ、CELLSTACK(登録商標)チャンバー、培養バッグ、およびローラーボトルを含むことができる。細胞は、培養の必要性に応じて、少なくともまたは約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml、500ml、550ml、600ml、800ml、1000ml、1500ml、またはその中の導き出せる任意の範囲の体積で培養され得る。特定の実施形態では、培養容器はバイオリアクターであってもよく、バイオリアクターは、細胞を増殖させることができるように生物学的に活性な環境を支持するエクスビボの任意のデバイスまたはシステムを指してもよい。バイオリアクターは、少なくともまたは約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル、または導き出せる任意の範囲の体積を有することができる
【0166】
iPSCなどのPSCは、一般に、細胞生存率を維持しながら細胞接着を促進するために、1またはそれを超える細胞接着タンパク質を含むマトリックスでコーティングされた培養プレート上で培養される。例えば、例示的な細胞接着タンパク質としては、多能性細胞成長のための固体支持体を提供する手段として培養表面をコーティングするために使用され得るビトロネクチン、ラミニン、コラーゲンおよび/またはフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質が挙げられる。いくつかの実施形態では、iPSCは、ラミニン、ビトロネクチンまたはフィブロネクチンなどの少なくとも1つの細胞接着タンパク質を含むマトリックス上で培養される。ラミニン、ビトロネクチンおよび/またはフィブロネクチンの組み合わせも有用である。他の実施形態では、PSCは、ビトロネクチンまたはフィブロネクチンでコーティングされた培養プレート上で増殖される。いくつかの実施形態では、細胞接着タンパク質はヒトタンパク質である。
【0167】
細胞外マトリックスを利用することができる。「細胞外マトリックス」という用語は、当技術分野で認識されている。その構成要素には、以下のタンパク質:フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、トロンボスポンジン、エラスチン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリリン、メロシン、アンカリン(anchorin)、コンドロネクチン、リンクタンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、アンジュリン、エピリグリン、およびカリニンのうちの1またはそれより多くが含まれる。
【0168】
細胞外マトリックス(ECM)タンパク質は、天然起源のものであり得、ヒトまたは動物組織から精製され得るか、あるいはECMタンパク質は、遺伝子操作された組換えタンパク質または性質において合成のものであり得る。ECMタンパク質は、天然または操作された全タンパク質またはペプチド断片の形態であり得る。細胞培養のためのマトリックスに有用であり得るECMタンパク質の例としては、ラミニン、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチンおよびビトロネクチンが挙げられる。いくつかの実施形態では、マトリックス組成物は、フィブロネクチンまたは組換えフィブロネクチンの合成的に生成されたペプチド断片を含む。いくつかの実施形態では、マトリックス組成物はゼノフリーである。例えば、ヒト細胞を培養するためのゼノフリーマトリックスでは、ヒト起源のマトリックス構成要素が使用され得、任意の非ヒト動物の構成要素が除外され得る。
【0169】
いくつかの態様では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約1ng/mL~約1mg/mLであり得る。いくつかの実施形態では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約1μg/mL~約300μg/mLである。他の実施形態では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約5μg/mL~約200μg/mLである。
【0170】
a.培養条件
RPE細胞またはPSCなどの細胞は、RPE前駆細胞などの各特定の細胞集団の増殖を支持するのに必要な栄養素と共に培養することができる。一般に、細胞は、炭素源、窒素源およびpHを維持するための緩衝液を含む増殖培地中で培養される。培地はまた、脂肪酸または脂質、アミノ酸(非必須アミノ酸など)、ビタミン(複数可)、成長因子、サイトカイン、抗酸化物質、ピルビン酸、緩衝剤、および無機塩を含有し得る。例示的な増殖培地は、幹細胞増殖を増強するために非必須アミノ酸およびビタミンなどの様々な栄養素を補充した、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)またはESSENTIAL 8(商標)(E8(商標))培地などの最小必須培地を含有する。最小必須培地の例には、最小必須培地イーグル(MEM)アルファ培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI-1640培地、199培地およびF12培地が含まれるが、これらに限定されない。さらに、最小必須培地には、ウマ、仔ウシまたはウシ胎仔血清などの添加剤を補充してもよい。あるいは、培地は無血清であり得る。他の場合では、増殖培地は、本明細書では培養中に幹細胞などの未分化細胞を増殖および維持するように最適化された無血清製剤と呼ばれる「ノックアウト血清代替物」を含有し得る。KNOCKOUT(商標)血清代替物は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願第2002/0076747号に開示されている。いくつかの実施形態では、PSCは、完全に規定されたフィーダーフリー培地中で培養される。
【0171】
したがって、単一細胞PSCは、一般に、播種後に完全に規定された培養培地中で培養される。特定の態様では、播種後約18~24時間で、培地を吸引し、E8(商標)培地などの新鮮な培地を培養物に添加する。特定の態様では、単一細胞PSCは、播種後約1、2または3日間、完全に規定された培養培地中で培養される。いくつかの非限定的な例では、単一細胞PSCは、分化プロセスを進める前に、完全に規定された培養培地中で約2日間培養される。
【0172】
いくつかの実施形態では、培地は血清の代替物を含有し得る。血清の代替物には、アルブミン(例えば、脂質リッチなアルブミン、アルブミン置換物、例えば、組換えアルブミン、植物デンプン、デキストランおよびタンパク質加水分解物)、トランスフェリン(または他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオグリセロール、またはそれらの等価物を適切に含有する材料が含まれ得る。血清の代替物は、例えば、国際公開第98/30679号に開示された方法により調製することができる。あるいは、より簡便にするために、任意の市販の材料を使用することができる。市販の材料としては、KNOCKOUT(商標)Serum Replacement(KSR)、化学的に規定された濃縮脂質(Gibco)、およびGLUTAMAX(商標)(Gibco)が挙げられる。培地は無血清であり得る。
【0173】
その他の培養条件は適宜定めることができる。例えば、培養温度は、約30~40℃、例えば、少なくともまたは約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得るが、特にこれらに限定されない。一実施形態では、細胞は37℃で培養される。CO濃度は、約1~10%、例えば約2~5%、またはその中で導き出せる任意の範囲であり得る。酸素圧力は、少なくとも、最大、もしくは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20%、またはその中で導き出せる任意の範囲であり得る。
【0174】
2.分化培地および段階的培養
a.網膜誘導培地
ES細胞またはiPSCなどのPSCが培養プレートに接着した後、細胞を網膜誘導培地中で培養して、RPE前駆細胞への分化プロセスを開始することができる。網膜誘導培地(RIM)は、WNT経路阻害剤を含み、網膜系統細胞へのPSCの分化をもたらし得る。RIMは、TGFβ経路阻害剤およびBMP経路阻害剤をさらに含む。いくつかの実施形態では、RIMは、WNT経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、BMP経路阻害剤およびインスリン成長因子1(IGF1)を含む。
【0175】
RIMは、約1:1の比でDMEMおよびF12を含むことができる。例示的な方法では、WNT経路阻害剤がRIMに含まれ(CKI-7など)、BMP経路阻害剤が含まれ(LDN193189など)、TGFβ経路阻害剤が含まれる(SB431542など)。例えば、RIMは、約5nM~約50nM、例えば約10nMのLDN193189、約0.1μM~約5μM、例えば約0.5μMのCKI-7、および約0.5μM~約10μM、例えば約1μMのSB431542を含む。さらに、RIMは、knockout血清代替物、例えば約1%~約5%、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、アスコルビン酸およびインスリン成長因子1(IGF1)を含み得る。いくつかの実施形態では、IGF1は、動物を含まないIGF1(AF-IGF1)であり、約0.1ng/mL~約10ng/mL、例えば約1ng/mLの濃度でRIMに含まれる。培地を毎日吸引し、新鮮なRIMと交換することができる。細胞は一般に、RPE前駆細胞を産生するために、RIM中で約1~約5日間、例えば約1、2、3、4または5日間、例えば約2日間培養される。
【0176】
b.網膜分化培地
得られたRPE前駆細胞は、その後、拘束RPE細胞へのさらなる分化のために網膜分化培地(RDM)中で培養することができる。RDMには、WNT経路阻害剤、BMP経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤およびMEK阻害剤が含まれる。RDMは、WNT経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、BMP経路阻害剤、MEK阻害剤およびIGF1を含むことができる。
【0177】
一実施形態では、RDMは、CKI-7などのWNT経路阻害剤、LDN193189などのBMP経路阻害剤、SB431542などのTGFβ経路阻害剤、およびPD032590などのMEK阻害剤を含む。あるいは、RDMは、WNT経路阻害剤、BMP経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤およびbFGF阻害剤を含むことができる。一般に、Wnt経路阻害剤、BMP経路阻害剤およびTGFβ経路阻害剤の濃度は、RIMと比較してRDMではより高く、例えば約9~約11倍高く、例えば約10倍高い。例示的な方法では、RDMは、約50nM~約200nM、例えば約100nMのLDN193189、約1μM~約10μM、例えば約5μMのCKI-7、約1μM~約50μM、例えば約10μMのSB431542、および約0.1μM~約10μM、例えば約1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、または9μMのPD0325901を含む。
【0178】
一般に、RDMは、約1:1の比のDMEMおよびF12、knockout血清代替物(例えば、約1%~約5%、例えば約1.5%)、MEM NEAA、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、アスコルビン酸およびIGF1(例えば、約1ng/mL~約50ng/mL、例えば約10ng/mL)を含む。特定の方法では、前日からの培地を吸引した後、細胞に新鮮なRDMを毎日与える。一般に、細胞をRDM中で約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16日間、例えば約7日間培養して、拘束RPE細胞を誘導する。
【0179】
c.網膜培地
得られた拘束RPE細胞は、その後、網膜培地(RM)中で培養することによってさらに分化して未成熟RPE細胞を形成する。網膜培地はアクチビンAを含み、ニコチンアミドをさらに含むことができる。RMは、約50~約200ng/mL、例えば約100ng/mLのアクチビンA、および約1mM~約50mM、例えば約10mMのニコチンアミドを含むことができる。あるいは、RMは、他のTGF-β経路アクチベーター、例えばGDF1および/またはWNT経路アクチベーター、例えばWAY-316606、IQ1、QS11、SB-216763、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)または2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジンを含むことができる。いくつかの例では、RMはWNT3aをさらに含む。
【0180】
RMは、約1:1の比のDMEMおよびF12、約1%~約5%、例えば約1.5%のknockout血清代替物、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメントおよびアスコルビン酸を含み得る。培地は室温RMで毎日交換することができる。細胞は一般に、未成熟RPE細胞を誘導または産生するために、約8、9、10、11、12、13、14、15、16または17日間、例えば約10日間、RM中で培養される。
【0181】
d.RPE成熟培地
未成熟RPE細胞のさらなる分化のために、細胞を続いてRPE成熟培地(RPE-MM)中で培養して、黄斑、中心または末梢RPE細胞を形成する。RPE成熟培地は、約100μg/mL~約300μg/mL、例えば約250μg/mLのタウリン、約10μg/L~約30μg/L、例えば約20μg/Lのヒドロコルチゾンおよび約0.001μg/L~約0.1μg/L、例えば約0.013μg/Lのトリヨードチロニンを含むことができる。いくつかの例では、RPE-MMは、MEMアルファ、N-2サプリメント、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、およびウシ胎仔血清(例えば、約0.5%~約10%、例えば約1%~約5%)を含む。
【0182】
培地は、室温RPE-MMで1日おきに交換することができる。RPE-MMは、RARアンタゴニスト、カノニカルWnt阻害剤、またはその両方を含み得る。例示的なRARアンタゴニストには、AGN 193109、CE 2665、ER 5081、LE 135、LY 2955303、MM 11253、およびリアロゾールジヒドロクロリドが含まれる。いくつかの非限定的な例では、RARアンタゴニストはAGN 193109である。例示的なカノニカルWnt阻害剤には、4-(1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル)-N-8-キノリニル-ベンズアミド(Endo-1-IWR)、カルホスチンC、カーディオノーゲン1、CCT 031374ヒドロブロミド、IWP 12、XAV 939、WIKI4、ICG-001、Wnt-C59(C59)、IWR-1-endo、KY02111、LGK-974、IWP-L6、FH535、iCRT 14、IWP 4、JW 67、JW 74、KYA 1797K、NLS-StAx-h、PNU 74654、TAK 715、IWP 2、CKI 7ジヒドロクロリド、(R)-CR8、D 4476、(R)-DRF053ジヒドロクロリド、エピブラスチンA、IC 261、LH 846、PF 4800567ヒドロクロリド、PF 5006739、PF 670462、SR 3029、AZ 6102、JW 55、MN 64、およびTC-E 5001が含まれる。いくつかの非限定的な例では、カノニカルWnt阻害剤はEndo-1-IWRである。
【0183】
未成熟細胞は、一般に、RPE-MM中で約5~約10日間、例えば約5日間培養される。次いで、細胞を、例えば細胞解離酵素を用いて解離させ、再播種し、さらなる期間、例えばさらに約5~約50日間、約5~約40日間または約5~約30日間培養することができる。細胞は、RARアンタゴニスト、Wnt阻害剤またはその両方の存在下でRPE細胞にさらに分化させるために、例えば、約15~約20日間、約15~約25日間、または約20~約25日間、または約20~約30日間、約30~約40日間、約30~約50日間、または約40~約50日間培養することができる。具体的な非限定的な例では、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞、または末梢RPE細胞を産生するために、細胞を、RARアンタゴニスト、カノニカルWnt阻害剤、またはその両方の存在下、約15~約50日間、例えば約20~約50日間、約30~約50日間、または約40~約50日間、RPE-MM中で培養する。
【0184】
i.黄斑RPE細胞の産生
いくつかの実施形態では、本方法は、黄斑RPE細胞を産生し、RPE-MMは、RARアンタゴニストを含むが、カノニカルWnt阻害剤を含まない。黄斑RPE細胞は、ヒト黄斑RPE細胞であり得る。RPE-MM中に存在し得る例示的なRARアンタゴニストには、AGN 193109、CE 2665、ER 5081、LE 135、LY 2955303、MM 11253およびリアロゾールジヒドロクロリドのうちの1またはそれより多くが含まれる。
【0185】
いくつかの非限定的な例では、RPE-MM中のRARアンタゴニストは、AGN 193109である。RPE-MMは、約0.05~約0.4μMのAGN 193109、例えば約0.1~約0.2μMのAGN 193109を含むことができる。RPE-MMは、例えば、約0.05~約0.3μM、約0.05~約0.2μM、または約0.05~約0.1μMのAGN 193109を含むことができる。RPE-MMは、例えば、約0.05~約0.4μM、約0.1~約0.2μM、約0.15~約0.4μM、約0.2~約0.4μM、約0.25~約0.4μM、約0.3~約0.4μM、または約0.35~約0.4μMのAGN 193109を含むことができる。RPE-MMは、例えば、約0.1μM、約0.15、または約0.2μMのAGN 193109を含むことができる。
【0186】
未成熟RPE細胞は、一般に、RARアンタゴニストを含有するがカノニカルWnt阻害剤を含有しないRPE-MM中で、約5~約50日間、例えば約5~約25日間、例えば約5~約10日間、例えば約5日間培養される。次いで、細胞を、例えば細胞解離酵素を用いて解離させ、再播種し、RARアンタゴニストの存在下で中心RPE細胞にさらに分化させるために、さらなる期間、例えばさらなる約5~約50日間、例えば約5~約40日間、例えば約5~約30日間、例えば約15~約20日間、約15~約25日間、または約20~約25日間、約20~約30日間、約30~約40日間、約40~約50日間、または約5、10、15、20、25、30、35、40、45もしくは50日間培養することができる。具体的な非限定的な例では、中心RPE細胞を産生するために、未成熟RPE細胞を、RARアンタゴニストを含有するRPE-MM中で約15~約25日間培養する。
【0187】
特定の非限定的な例では、RARアンタゴニストはAGN 193109である。
【0188】
ii.中心RPE細胞の産生
他の実施形態では、本方法は、中心RPE細胞を産生し、RPE-MMは、RARアンタゴニストとカノニカルWnt阻害剤の両方を含む。中心RPE細胞は、ヒト中心RPE細胞であり得る。RPE-MM中に存在し得る例示的なRARアンタゴニストには、AGN 193109、CE 2665、ER 5081、LE 135、LY 2955303、MM 11253およびリアロゾールジヒドロクロリドが含まれる。RPE-MM中に存在し得る例示的なカノニカルWnt阻害剤には、4-(1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル)-N-8-キノリニル-ベンズアミド(Endo-1-IWR)、カルホスチンC、カーディオノーゲン1、CCT 031374ヒドロブロミド、IWP 12、XAV 939、WIKI4、ICG-001、Wnt-C59(C59)、IWR-1-endo、KY02111、LGK-974、IWP-L6、FH535、iCRT 14、IWP 4、JW 67、JW 74、KYA 1797K、NLS-StAx-h、PNU 74654、TAK 715、IWP 2、CKI 7ジヒドロクロリド、(R)-CR8、D 4476、(R)-DRF053ジヒドロクロリド、エピブラスチンA、IC 261、LH 846、PF 4800567ヒドロクロリド、PF 5006739、PF 670462、SR 3029、AZ 6102、JW 55、MN 64、およびTC-E 5001が含まれる。
【0189】
いくつかの非限定的な例では、RARアンタゴニストはAGN 193109であり、カノニカルWnt阻害剤はENDO1-1WRである。RPE-MMは、例えば、約10nM~約50nMのAGN 193109および約0.025~約0.5μMのEndo-1-IWR、例えば約25nM~約50nMのAGN 193109および約0.1μM~約0.2μMのEndo-1-IWRを含むことができる。
【0190】
RPE-MMは、約10nM~約40nM、約10nM~約30nM、約10nM~約20nM、約20nM~約50nM、約30nM~約50nMまたは約40nM~約50nM のAGN 193109を含むことができる。RPE-MMは、例えば、約0.025~約0.4μM、約0.025~約0.3μM、約0.025~約2μM、または約0.025~約1μMのANG 193109を含むことができる。RPE-MMは、例えば、約0.05~約0.5μM、約0.1~約0.5μM、約0.15~約0.5μM、約0.2~約0.5μM、約0.25~約0.5μM、約0.3~約0.5μM、約0.35~約0.5μM、約0.4~約0.5μM、または約0.45~約0.5μMのEndo-1-IWRを含むことができる。
【0191】
RPE-MMは、約25~約45nM、約25~約40nM、約25~約35nM、または約25~約30nMのAGN 193109を含むことができる。RPE-MMは、約0.1~約0.125μM、約0.1~約0.15μM、または約0.1~約0.175μMのEndo-1-IWRを含むことができる。
【0192】
未成熟RPE細胞は、一般に、RARアンタゴニストおよびカノニカルWnt阻害剤を含有するRPE-MM中で、約5~約50日間、例えば約5~約25日間、例えば約5~約10日間、例えば約5日間培養される。次いで、細胞を、例えば細胞解離酵素を用いて解離させ、再播種し、RARアンタゴニストおよびカノニカルWnt阻害剤の存在下で中心RPE細胞にさらに分化させるために、さらなる期間、例えばさらなる約5~約50日間、例えば約5~約40日間、例えば約5~約30日間、例えば約15~約20日間、約15~約25日間、または約20~約25日間、約20~約30日間、約30~約40日間、約40~約50日間、または約5、10、15、20、25、30、35、40、45もしくは50日間培養することができる。具体的な非限定的な例では、中心RPE細胞を産生するために、未成熟RPE細胞を、RARアンタゴニストおよびカノニカルWnt阻害剤を含有するRPE-MM中で約15~約25日間培養する。
【0193】
iii.末梢RPE細胞の産生
さらなる実施形態では、本方法は、末梢RPE細胞を産生し、RPE成熟培地は、カノニカルWnt阻害剤を含むが、RARアンタゴニストは含まない。末梢RPE細胞は、ヒト末梢RPE細胞であり得る。
【0194】
RRPE MM中に存在し得る例示的なカノニカルWnt阻害剤には、4-(1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル)-N-8-キノリニル-ベンズアミド(Endo-1-IWR)、カルホスチンC、カーディオノーゲン1、CCT 031374ヒドロブロミド、IWP 12、XAV 939、WIKI4、ICG-001、Wnt-C59(C59)、IWR-1-endo、KY02111、LGK-974、IWP-L6、FH535、iCRT 14、IWP 4、JW 67、JW 74、KYA 1797K、NLS-StAx-h、PNU 74654、TAK 715、IWP 2、CKI 7ジヒドロクロリド、(R)-CR8、D 4476、(R)-DRF053ジヒドロクロリド、エピブラスチンA、IC 261、LH 846、PF 4800567ヒドロクロリド、PF 5006739、PF 670462、SR 3029、AZ 6102、JW 55、MN 64、およびTC-E 5001が含まれる。非限定的な例では、RRPE MMに存在するカノニカルWnt阻害剤は、Endo-1-IWRである。
【0195】
いくつかの非限定的な例では、RPE-MMは、約0.5~約8μMのEndo-1-IWR、例えば約1~約4μMのEndo-1-IWRを含む。RPE-MMは、例えば、約0.5~約7μM、約0.5~約6μM、約0.5~約5μM、約0.05~約4μM、約0.05~約3μM、約0.05~約2μM、または約0.05~約1μMのEndo-1-IWRを含むことができる。RPE-MMは、例えば、約1~約2μMまたは約1~約3μMのEndo-1-IWRを含むことができる。
【0196】
未成熟RPE細胞は、一般に、カノニカルWnt阻害剤を含有するがRARアンタゴニストを含有しないRPE-MM中で、約5~約50日間、例えば約5~約25日間、例えば約5~約10日間、例えば約5日間培養される。次いで、細胞を、例えば細胞解離酵素を用いて解離させ、再播種し、カノニカルWnt阻害剤の存在下で中心RPE細胞にさらに分化させるために、さらなる期間、例えばさらなる約5~約50日間、例えば約5~約40日間、例えば約5~約30日間、例えば約15~約20日間、約15~約25日間、または約20~約25日間、約20~約30日間、約30~約40日間、約40~約50日間、または約5、10、15、20、25、30、35、40、45もしくは50日間培養することができる。具体的な非限定的な例では、中心RPE細胞を産生するために、未成熟RPE細胞を、カノニカルWnt阻害剤を含有するRPE-MM中で約15~約25日間培養する。
【0197】
3.凍結保存
本明細書に開示される方法によって産生された黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞は、凍結保存することができ、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるPCT公開番号2012/149484 A2を参照されたい。細胞は、基材の有無にかかわらず凍結保存することができる。いくつかの実施形態では、貯蔵温度は、約-50℃~約-60℃、約-60℃~約-70℃、約-70℃~約-80℃、約-80℃~約-90℃、約-90℃~約-100℃の範囲およびそれらの重複範囲である。いくつかの実施形態では、凍結保存細胞の貯蔵(例えば、維持)にはより低い温度が使用される。いくつかの実施形態では、液体窒素(または他の同様の液体冷却剤)を使用して細胞を保存する。さらなる実施形態では、細胞は約6時間を超えて保存される。さらなる実施形態では、細胞は約72時間保存される。いくつかの実施形態では、細胞は、48時間~約1週間保存される。さらに他の実施形態では、細胞は、約1、2、3、4、5、6、7または8週間保存される。さらなる実施形態では、細胞は、1、2、3、4、5、67、8、9、10、11または12ヶ月間保存される。細胞は、より長い時間保存することもできる。細胞は、別個に、または本明細書に開示される基材のいずれかなどの基材上で凍結保存することができる。
【0198】
いくつかの実施形態では、追加の凍結保護剤を使用することができる。例えば、DM80、ヒトまたはウシ血清アルブミンなどの血清アルブミンなどの1またはそれを超える凍結保護剤を含む凍結保存溶液中で細胞を凍結保存することができる。凍結保護剤は、細胞膜にインターカレートし、凍結を生き延びるように細胞の特性を変化させることができる。中心RPE細胞、末梢RPE細胞および黄斑RPE細胞は、単離された集団として凍結保存することができ、または凍結保存前に目的の比率で混合することができる。
【0199】
特定の実施形態では、溶液は、約1%、約1.5%、約2%、約2.5%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%・、約8%、約9%、または約10%のDMSOを含む。他の実施形態では、溶液は、約1%~約3%、約2%~約4%、約3%~約5%、約4%~約6%、約5%~約7%、約6%~約8%、約7%~約9%、または約8%・~約10%のジメチルスルホキシド(DMSO)またはアルブミンを含む。特定の実施形態では、溶液は2.5% DMSOを含む。別の具体的な実施形態では、溶液は10% DMSOを含む。
【0200】
細胞は、例えば、凍結保存中に約1℃分で冷却され得る。いくつかの実施形態では、凍結保存温度は、約-80℃~約-180℃、または約-125℃~約-140℃である。いくつかの実施形態では、細胞は、約1℃/分で冷却する前に4℃に冷却される。凍結保存細胞は、使用のために解凍する前に液体窒素の気相に移すことができる。いくつかの実施形態では、例えば、細胞が約-80℃に達すると、それらは液体窒素貯蔵領域に移される。凍結保存は、制御された速度の冷凍庫を用いて行うこともできる。凍結保存細胞は、例えば、約25℃~約40℃の温度、例えば、約37℃の温度で解凍され得る。次いで、細胞は、以下に論じるように、スキャフォールド上で成熟させることができる。
【0201】
4.固体支持体上でのRPE細胞の成熟
RPE細胞は、例えばPLGAおよびPCLループを含有する本明細書に提供されるスキャフォールドなどの固体支持体中または固体支持体上で、成熟のための継続期間にわたってRPE-MM(例えば、カノニカルWnt阻害剤、RARアンタゴニスト、またはその両方を含有するもの)中で培養することができる。いくつかの実施形態では、RPE細胞は、6ウェル、12ウェル、24ウェル、または10cmプレートなどのウェル(プラスチック非透過性または半透過性表面を有するものなど)で増殖される。いくつかの実施形態では、RPE細胞は、PLGA層およびPLGA層の上面に付着されたPCLループの層からなる生分解性スキャフォールドなどの本明細書に開示されるスキャフォールド上で増殖および成熟される。RPE細胞は、スキャフォールド上のRPE-MM中で、約2~約10週間、例えば約3~4週間、約6~8週間、例えば2、3、4、5、6、7、または8週間維持することができる。いくつかの非限定的な例では、RPE細胞をスキャフォールド上の培地中で約2~6週間、例えば約5週間培養して、成熟および機能性の黄斑、中心および/または末梢RPE細胞の単層を得る。この培養により、スキャフォールド上に極性化した黄斑、中心または末梢RPE細胞が生じ、これらが一緒になって組織インプラントを形成する。
【0202】
いくつかの実施形態では、スキャフォールドは、スキャフォールドからの大部分の乳酸放出がインビトロで起こるように十分な時間培養される。いくつかの実施形態では、乳酸放出の50%、60%、70%、80%、90%または95%超がインビトロで起こる。したがって、いくつかの実施形態では、スキャフォールド上のRPE-MM中でRPEを約2~約10週間、例えば約6~8週間または3~5週間、例えば3、4、5、6、7、または8週間維持することにより、この効果が達成される。いくつかの非限定的な例では、スキャフォールド上の培地中でRPE細胞を約2~6週間、例えば約3、4または5週間培養することにより、この効果が達成される。
【0203】
スキャフォールド上にRPE細胞、PRP細胞、またはその両方(例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞)を播種する前に、スキャフォールドを滅菌することができる(例えば、ガンマ線照射、電子ビーム(ebeam)を使用)。
【0204】
いくつかの実施形態では、多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞、未成熟RPE細胞を、PLGAスキャフォールドの直径12mmあたり約125,000~約500,000細胞、例えば直径12mmあたり約150,000細胞、直径12mmあたり約200,000細胞、直径12mmあたり約250,000細胞、直径12mmあたり約300,000細胞、直径12mmあたり約350,000細胞、直径12mmあたり約400,000細胞、またはスキャフォールド(PLGAスキャフォールドなど)の直径12mmあたり約450,000細胞で、スキャフォールド上に播種する。
【0205】
いくつかの実施形態では、成熟黄斑、中心または末梢RPE細胞は、スキャフォールド上のRPE-MM(例えば、カノニカルWnt阻害剤、RARアンタゴニスト、またはその両方を含有するもの)における継続培養によって、無傷の黄斑、中心または末梢RPE組織として挙動する単層に発達する。追加の小分子をRPE-MMに含めることができる(例えば、カノニカルWnt阻害剤、RARアンタゴニスト、またはその両方を含有するもの)。いくつかの実施形態では、これらの小分子は、プロスタグランジンE2(PGE2)またはアフィディコリンなどの一次繊毛インデューサーである。PGE2は、約25μM~約250μM、例えば約50μM~約100μMの濃度でRPE-MMに添加することができる。
【0206】
いくつかの実施形態では、RPE細胞の継続的な成熟のために、PD0325901などのMEK阻害剤を含むRPE-MM(例えば、カノニカルWnt阻害剤、RARアンタゴニスト、またはその両方を含有するもの)中で、細胞解離酵素、例えばTRYPLE(商標)中で未成熟RPE細胞を解離させ、特殊なSNAPWELL(商標)設計などのスキャフォールド上に少なくとも約1~2週間再播種することができる。あるいは、RPE-MM(例えば、カノニカルWnt阻害剤、RARアンタゴニスト、またはその両方を含有するもの)は、MEK阻害剤の代わりにbFGF阻害剤を含むことができる。分解性スキャフォールド上でRPE細胞を培養するための適切な方法は、PCT公開番号WO 2014/121077およびPCT公開番号WO 2020/106622に教示および記載されており、これらは両方ともその全体が参照により本明細書に組み込まれる。簡潔には、この方法の主要な構成要素は、CORNING(登録商標)COSTAR(登録商標)SNAPWELL(商標)プレート、生体不活性0-リング、および生分解性スキャフォールド、例えば上に開示されるPLGAスキャフォールドのいずれかである。SNAPWELL(商標)プレートは、生分解性スキャフォールドのための構造およびプラットフォームを提供する。頂端側および基底側を作り出す微孔質膜は、スキャフォールドを支持するとともに、細胞の極性化した層の別個の側を単離する。膜を剥離するSNAPWELL(商標)インサートの能力は、インサートの支持リングをスキャフォールドのためのアンカーとして使用することを可能にする(以下を参照)。次いで、スキャフォールド上の得られた黄斑、中心または末梢RPE細胞の単層を単離し、組織置換インプラントとして使用することができる。
【0207】
さらに他の実施形態では、スキャフォールド上の得られた成熟黄斑、中心または末梢RPE細胞は、約-50~約-60mVの静止電位および約5~約10μl cm-2-1の流体輸送速度を有する。さらなる実施形態では、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞または末梢RPE細胞は、MITF、PAX6、LHX2、TFEC、CDH1、CDH3、CLDN10、CLDN16、CLDN19、BEST1、TIMP3、TRPM1、TRPM3、TTR、VEGFA、CSPG5、DCT、TYRP1、TYR、SILV、SIL1、MLANA、RAB27A、OCA2、GPR143、GPNMB、MYO6、MYRIP、RPE65、RBP1、RBP4、RDH5、RDH11、RLBP1、MERTK、ALDH1A3、FBLN1、SLC16A1、KCNV2、KCNJ13、およびCFTRを発現し、miR204およびmiR211を発現し、約-50~約-60mVの静止電位を有し、約5~約10μl cm-2-1の流体輸送速度を有する。他の実施形態では、RPE細胞は、100Ω*cm超、例えば200Ω*cm超の経皮抵抗を有する。さらなる実施形態では、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞または末梢RPE細胞は、100Ω*cm~500Ω*cmの経皮抵抗、例えば200Ω*cm~400Ω*cmの経皮抵抗を有する。
【0208】
1つの非限定的な例では、a)ビトロネクチンでコーティングされたPLGAの第1の層およびそれに付着したPCLループの第2の層を含む本明細書に提供されるスキャフォールドであって、スキャフォールドのPLGA部分はメッシュ構造を形成する繊維を含み、スキャフォールドのPLGA部分は上面および下面を有し、PLGAスキャフォールドは約5~約40ミクロンの厚さ(例えば、高さ)であり、約1:1のDL-ラクチド/グリコリド比、約1ミクロン未満の平均孔径、および約150~約650nmの繊維径を有し、PCLループは約5~約300ミクロンの直径を有する、スキャフォールドを提供すること;b)多能性幹細胞、RPE前駆細胞、拘束RPE細胞または未成熟RPE細胞をスキャフォールドの直径(cm)あたり約100,000~約500,000個の細胞でスキャフォールド上に播種すること;c)スキャフォールド上のi個の細胞を、i)RPE細胞の極性化およびii)スキャフォールドのバルク分解に十分な時間、スキャフォールドの上面および下面の両方に培地が存在する状態で、インビトロで組織培養培地中で培養すること;d)先にスキャフォールド上に播種された未成熟RPEから生成された成熟黄斑、中心または末梢RPEの層上に、スキャフォールドの直径(cm)あたり約1,000,000~約6,000,000個のPRP細胞でPRP細胞を播種すること;e)スキャフォールド上の成熟黄斑、中心および/または末梢RPE細胞およびPRP細胞を、TEER>400オーム.cm2および光受容体マーカー(例えば、リカバリン、アレスチン、NRL、オプシン)の存在に十分な時間、前記スキャフォールドの上面および下面の両方に培地が存在する組織培養培地中でインビトロで培養すること、を含む方法が提供される。
【0209】
5.末梢、中心および黄斑RPE細胞の分化において有用な阻害剤
RPE細胞の調製に有用な阻害剤を以下に開示する。これらの阻害剤は、上記のように、網膜誘導培地、網膜分化培地、網膜培地、および/またはRPE成熟培地に含めることができる。
【0210】
a.WNT経路阻害剤
WNTは、細胞間相互作用を調節し、ショウジョウバエのセグメント極性遺伝子winglessに関連する高度に保存された分泌シグナル伝達分子のファミリーである。ヒトでは、WNTファミリーの遺伝子は、38~43kDaのシステインリッチ糖タンパク質をコードする。WNTタンパク質は、疎水性シグナル配列、保存されたアスパラギン結合オリゴ糖コンセンサス配列(例えば、Shimizu et al Cell Growth Differ 8:1349-1358(1997)を参照)および22個の保存されたシステイン残基を有する。細胞質ベータ-カテニンの安定化を促進する能力のために、WNTタンパク質は転写アクチベーターとして作用し、アポトーシスを阻害することができる。特定のWNTタンパク質の過剰発現は、特定のがんに関連することが示されている。
【0211】
本明細書におけるWNT阻害剤は、一般にWNT阻害剤を指す。したがって、WNT阻害剤は、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt4、Wnt5A、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8A、Wnt9A、Wnt10a、Wnt11、およびWnt16を含むWNTファミリータンパク質のメンバーの任意の阻害剤を指す。本方法の特定の実施形態は、分化培地中のWNT阻害剤に関する。当技術分野で既に公知の適切なWNT阻害剤の例には、N-(2-アミノエチル)-5-クロロイソキノリン-8-スルホンアミドジヒドロクロリド(CKI-7)、N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド(IWP2)、N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-3-(2-メトキシフェニル)-4-オキソチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド(IWP4)、2-フェノキシ安息香酸-[(5-メチル-2-フラニル)メチレン]ヒドラジド(PNU 74654)2,4-ジアミノ-キナゾリン、ケルセチン、3,5,7,8-テトラヒドロ-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-チオピラノ[4,3-d]ピリミジン-4-オン(XAV939)、2,5-ジクロロ-N-(2-メチル-4-ニトロフェニル)ベンゼンスルホンアミド(FH 535)、N-[4-[2-エチル-4-(3-メチルフェニル)-5-チアゾリル]-2-ピリジニル]ベンズアミド(TAK 715)、Dickkopf関連タンパク質1(DKK1)、および分泌フリズルド関連タンパク質(SFRP1)1が含まれる。さらに、WNTの阻害剤には、WNTに対する抗体、WNTのドミナントネガティブ改変体、ならびにWNTの発現を抑制するsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれ得る。WNTの阻害はまた、RNA媒介干渉(RNAi)を使用して達成することができる。有用な例示的なWnt阻害剤を表5に列挙する。
【0212】
b.BMP経路阻害剤
骨形成タンパク質(BMP)は、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)スーパーファミリーに属する多機能成長因子である。BMPは、身体を介して構造を調整する、極めて重要な形態形成シグナルの群を構成すると考えられる。生理学におけるBMPシグナルの重要な機能は、病理学的過程における調節不全BMPシグナル伝達のための多数の役割によって強調される。
【0213】
BMP経路阻害剤は、一般にBMPシグナル伝達の阻害剤、またはBMP1、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b、BMP10もしくはBMP15に特異的な阻害剤を含み得る。例示的なBMP阻害剤には、4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリンヒドロクロリド(LDN193189)、6-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-3-(4-ピリジニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジンジヒドロクロリド(ドルソモルフィン)、4-[6-[4-(1-メチルエトキシ)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-キノリン(DMH1)、4-[6-[4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(DMH-2)、および5-[6-(4-メトキシフェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(ML 347)が含まれる。
【0214】
c.TGFβ経路阻害剤
トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)は、ほとんどの細胞において増殖、細胞分化、および他の機能を制御する分泌タンパク質である。それは、免疫、がん、気管支喘息、肺線維症、心疾患、糖尿病および多発性硬化症において役割を果たすサイトカインの一種である。TGF-βは、TGF-β1、TGF-β2およびTGF-β3と呼ばれる少なくとも3つのアイソフォームに存在する。TGF-βファミリーは、インヒビン、アクチビン、抗ミュラー管ホルモン、骨形成タンパク質、デカペンタプレジックおよびVg-1を含む、トランスフォーミング成長因子ベータスーパーファミリーとして知られるタンパク質のスーパーファミリーの一部である。
【0215】
TGFβ経路阻害剤は、一般に、TGFβシグナル伝達の任意の阻害剤を含み得る。例えば、TGFβ経路阻害剤は、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド(SB431542)、6-[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-4-イル]キノキサリン(SB525334)、2-(5-ベンゾ[l,3]ジオキソール-5-イル-2-イエリ-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジンヒドロクロリド水和物(SB-505124)、4-(5-ベンゾール[l,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-lH-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物、4-[4-(l,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-lH-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、左右決定因子(Lefty)、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド(A 83-01)、4-[4-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド(D4476)、4-[4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-2-ピリジニル]-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-ベンズアミド(GW 788388)、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン(LY 364847)、4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール(R 268712)または2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(RepSox)である。
【0216】
d.MEK阻害剤
MEK阻害剤は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ酵素MEK1またはMEK2を阻害する化学物質または薬物である。MEK阻害剤は、MAPK/ERK経路に影響を及ぼすために使用することができる。例えば、MEK阻害剤には、N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロポキシ]-3,4-ジフルオロ-2-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-ベンズアミド(PD0325901)、N-[3-[3-シクロプロピル-5-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)-6,8-ジメチル-2,4,7-トリオキソピリド[4,3-d]ピリミジン-1-イル]フェニル]アセトアミド(GSK1120212)、6-(4-ブロモ-2-フルオロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミド(MEK162)、N-[3,4-ジフルオロ-2-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)-6-メトキシフェニル]-1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)シクロプロパン-1-スルホンアミド(RDEA119)および6-(4-ブロモ-2-クロロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミド(AZD6244)が含まれる。
【0217】
e.bFGF阻害剤
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF、FGF2またはFGF-βとしても知られる)は、線維芽細胞成長因子ファミリーのメンバーである。bFGFは、基底膜および血管の内皮下細胞外マトリックスに存在する。加えて、bFGFは、細胞が未分化状態のままであることが必要であるヒトESC培養培地の一般的な構成要素である。
【0218】
bFGF阻害剤は、一般に、bFGF阻害剤を指す。例えば、bFGF阻害剤には、N-[2-[4-(ジエチルアミノ)ブチル]アミノ-6-(3,5-ジメトキシフェニル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-N’-(l,l-ジメチルエチル)尿素(PD173074)、2-(2-アミノ-3-メトキシフェニル)-4H-l-ベンゾピラン-4-オン(PD 98059)、l-tert-ブチル-3-[6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-[[4-(ジエチルアミノ)ブチル]アミノ]ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]尿素(PD161570)、6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-[[4-[2-(ジエチルアミノ)エトキシ]フェニル]アミノ]-8-メチル-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オンジヒドロクロリド水和物(PD166285)、N-[2-アミノ-6-(3,5-ジメトキシフェニル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-N’-(1,1-ジメチルエチル)-尿素(PD166866)およびMK-2206が含まれるが、これらに限定されない。
【0219】
f.RARアンタゴニスト
RARアンタゴニストは、開示される方法において有用である。有用なRARアンタゴニストを表4に列挙する。例示的なRARアンタゴニストには、AGN 193109、CE 2665、ER 5081、LE 135、LY 2955303、MM 11253、およびリアロゾールジヒドロクロリドが含まれる。いくつかの非限定的な例では、RARアンタゴニストはAGN 193109である。
【0220】
6.キット
いくつかの実施形態では、キットは、例えば、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞を産生するための1またはそれを超える培地および構成要素を含むことができる。試薬系は、適切な場合には、水性媒体または凍結乾燥形態のいずれかで包装されてもよい。キットの容器手段は、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジまたは他の容器手段を含み、その中に構成要素が配置され得、好ましくは適切に等分され得る。キットに1よりも多くの構成要素がある場合、キットはまた、一般に、追加の構成要素が別々に配置され得る第2、第3または他の追加の容器を含む。しかしながら、構成要素の様々な組み合わせがバイアルに含まれてもよい。キットの構成要素は、乾燥粉末(複数可)として提供され得る。試薬および/または構成要素が乾燥粉末として提供される場合、粉末は適切な溶媒の添加によって再構成することができる。溶媒は、別の容器手段に提供されてもよいことが想定される。
【0221】
いくつかの例では、キットは、WNT経路阻害剤、トランスフォーミング成長因子(TGF)-β経路阻害剤、骨形成タンパク質(BMP)経路阻害剤およびインスリン成長因子1(IGF1)を含むものなどの網膜誘導培地を含む。
【0222】
いくつかの例では、キットは、WNT経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、BMP経路阻害剤、IGF1、および追加の阻害剤(例えば、MEK阻害剤または線維芽細胞成長因子(FGF)阻害剤)を含むものなどの網膜分化培地を含む。
【0223】
いくつかの例では、キットは、アクチビンAを含むものなどの網膜培地を含み、ニコチンアミドをさらに含むことができる。
【0224】
いくつかの例では、キットはRPE成熟培地を含み、RPE成熟培地はレチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニスト(例えば、AGN 193109、CE 2665、ER 5081、LE 135、LY 2955303、MM 11253、およびリアロゾールジヒドロクロリドのうちの1またはそれより多く)および/またはカノニカルWnt阻害剤(例えば、4-(1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル)-N-8-キノリニル-ベンズアミド(Endo-1-IWR)、カルホスチンC、カーディオノーゲン1、CCT 031374ヒドロブロミド、IWP 12、XAV 939、WIKI4、ICG-001、Wnt-C59(C59)、IWR-1-endo、KY02111、LGK-974、IWP-L6、FH535、iCRT 14、IWP 4、JW 67、JW 74、KYA 1797K、NLS-StAx-h、PNU 74654、TAK 715、IWP 2、CKI 7ジヒドロクロリド、(R)-CR8、D 4476、(R)-DRF053ジヒドロクロリド、エピブラスチンA、IC 261、LH 846、PF 4800567ヒドロクロリド、PF 5006739、PF 670462、SR 3029、AZ 6102、JW 55、MN 64、およびTC-E 5001のうちの1またはそれより多く)を含む。1つの例では、RARアンタゴニストはAGN 193109である。1つの例において、カノニカルWnt阻害剤はEndo-1-IWRである。1つの例では、RPE成熟培地は、RARアンタゴニスト(AGN 193109など)を含むが、カノニカルWnt阻害剤を含まない。1つの例では、RPE成熟培地は、カノニカルWnt阻害剤(Endo1-IWRなど)を含むが、RARアンタゴニストを含まない。1つの例では、RPE成熟培地は、カノニカルWnt阻害剤(Endo1-IWRなど)およびRARアンタゴニスト(AGN 193109など)の両方を含む。
【0225】
いくつかの例では、キットは、網膜誘導培地、網膜分化培地、網膜培地およびRPE成熟培地のうちの1、2、3または4種を含む。いくつかの例では、キットは、RPE成熟培地ならびに網膜誘導培地、網膜分化培地および網膜培地のうちの1、2または3種を含む。いくつかの例では、そのようなキットは、少なくとも1つの組換え細胞接着タンパク質(例えば、ラミニン、ビトロネクチンまたはフィブロネクチン)を含むものなどのマトリックスをさらに含むことができる。いくつかの例では、そのようなキットは、本明細書に提供されるものなどのスキャフォールドをさらに含むことができる。キットはまた、典型的には、市販のために厳重に閉じ込められたキット構成要素(複数可)を収容するための容器を含む。そのような容器は、所望のバイアルが保持される射出成形またはブロー成形プラスチック容器を含んでもよい。いくつかの例では、容器はガラス製である。
【0226】
いくつかの例では、キットは、RPE細胞(例えば、成熟黄斑、中心および/または末梢RPE細胞)および/またはPRP細胞を含んでも含まなくてもよい、本明細書に提供されるスキャフォールドを含む。いくつかの例では、キットは、RPE細胞およびPRP細胞が付着していない本明細書に提供されるスキャフォールドを含み、キットは、(1)多能性幹細胞、(2)RPE前駆細胞、(3)拘束RPE細胞、(4)未成熟RPE細胞、(5)黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞、ならびに(6)PRP細胞のうちの1またはそれより多くを別々の容器にさらに含む。そのようなキットは、キットは、網膜誘導培地、網膜分化培地、網膜培地およびRPE成熟培地のうちの1、2、3または4種をさらに含むことができる。いくつかの例では、そのようなキットは、RPE成熟培地ならびに網膜誘導培地、網膜分化培地および網膜培地のうちの1、2または3種を含む。いくつかの例では、そのようなキットは、少なくとも1つの組換え細胞接着タンパク質(例えば、ラミニン、ビトロネクチンまたはフィブロネクチン)をさらに含む。いくつかの例では、そのようなキットは、スナップウェル培養システム、(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)Oリング、および非生分解性多孔質ポリカーボネート膜のうちの1またはそれより多くをさらに含む。
【0227】
キットはまた、印刷または電子形式、例えばデジタル形式などの使用についての指示を含むことができる。指示は、細胞を産生するため、および/または細胞および/または細胞を含むインプラントを対象に導入するためのものであり得る。
【0228】
使用方法
黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞は、開示される方法を使用してiPSCに由来し、したがって、眼疾患を有する患者に「個別化医療」を提供するために使用することができる。いくつかの実施形態では、患者から得られた細胞、例えば体細胞もしくはCD34+細胞、または臍帯細胞を使用してiPSCを産生することができ、次いでこれを使用して黄斑、中心および/または末梢RPE細胞を産生する。いくつかの実施形態では、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞(または出発iPSC)を、疾患を引き起こす変異を修正するように遺伝子操作し、黄斑RPE、中心RPEおよび/または末梢RPEに分化させ、組織インプラントを形成するように操作することができる。この組織置換インプラントは、同一対象の内因性変性RPEを置換するために使用することができる。黄斑、中心および/または末梢RPE細胞を組織インプラントに含めることができる。RPE細胞のタイプは、対象において処置される疾患に基づいて選択され得る。インプラントは、本明細書に開示されるスキャフォールドを含むことができる。
【0229】
いくつかの実施形態では、iPSCは、健康なドナーから、またはHLAホモ接合性「スーパードナー」もしくは「ユニバーサル」ドナー多能性(iPS)細胞から産生することができ、組織インプラントを調製するために使用することができる。RPE細胞は、インビボで抗炎症性および免疫抑制性環境を生成するために、色素上皮由来因子(PEDF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)-ベータ、および/またはレチノイン酸などの特定の因子でインビトロで処理することができる。これらの「スーパードナー」iPSCは市販されており、Cellular Dynamics Internationalを参照されたい(例えば、globenewswire.com/news-release/2015/02/09/704392/10119161/en/Cellular-Dynamics-Manufactures-cGMP-HLA-Superdonor-Stem-Cell-Lines-to-Enable-Cell-Therapy-With-Genetic-Matching,February 15,2015を参照されたい)。
【0230】
対象は、ヒトまたは獣医学対象であり得る。黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞は、単一の対象に由来し得るか、またはそれぞれ異なる対象に由来する異なるタイプのRPEなどの黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞のいくつかの集団を使用して、網膜変性などを有する対象の処置のためのインプラントを産生することができる。
【0231】
図14A~14Dに示すように、本明細書で提供される方法を使用して産生された異なるタイプのRPE(例えば、P1黄斑P2中心および/またはP3末梢)を使用して、異なる網膜疾患の処置をカスタマイズすることができる。例えば、黄斑RPEは、錐体光受容体の機能および活性を支持するために使用することができ、中心RPEおよび末梢RPEは、桿体光受容体の活性を支持するために使用することができる。いくつかの例では、黄斑RPEは、それらに隣接して発生する場合、緻密なiPSC由来脈絡膜血管構造を支持するが、中心および末梢RPEは、比較的緻密性の低いiPSC由来脈絡膜血管構造を支持することができる。正しいタイプのiPSC由来の光受容体を正しいタイプのRPEおよびiPSC由来血管構造と組み合わせることによって、眼の背部の異なる部分を生成することができる(例えば、眼の黄斑全体または中心全体または周辺部全体または遠位周辺部全体)。
【0232】
様々な形態の網膜変性疾患が眼の様々な部分に影響を及ぼす。例えば、コロイデレミア(CHM;図14A)は、初期疾患段階において、中心およびP4 RPE細胞に広がる末梢RPE機能障害を引き起こす。疾患が進行するにつれて、対応する光受容体および脈絡膜血管構造も変性する。同様に、疾患遅発性網膜変性(L-ORD、図14B)では、疾患関連損傷が中心および末梢RPE細胞で始まり、最終的に疾患後期では、光受容体および脈絡膜血管構造も変性する。AMD(図14C)では、最初に、AMDの進行段階において、光受容体および脈絡膜血管構造に広がる黄斑、P4およびP5 RPEに損傷が見られる。
【0233】
1つの例において、早期段階のCHMは、中心RPEを使用して処置され、中間段階は、末梢およびP4 iPSC-RPEを使用して処置され得、進行段階は、対応する桿体が濃縮された光受容体を有する中心および末梢RPEを利用して、錐体が濃縮された光受容体を有するP4 iPSC-RPEについては脈絡膜血管構造の有無にかかわらず処置され得る。
【0234】
1つの例では、L-ORDは、疾患の段階に応じて、対応する光受容体および脈絡膜血管構造の有無にかかわらず、中心および末梢RPEを使用して処置される。
【0235】
1つの例において、黄斑RPE(またはP4 RPE)が、対応する光受容体および脈絡膜血管構造の有無にかかわらず、AMDを処置するために使用される。
【0236】
いくつかの実施形態では、開示される方法に従って黄斑細胞、中心細胞または末梢細胞を産生すること、および黄斑細胞、中心細胞または末梢細胞を対象の網膜に移植することを含む、それを必要とする対象を処置する方法が提供される。いくつかの実施形態では、対象は、網膜変性疾患、網膜機能障害、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を有する。いくつかの非限定的な例では、網膜変性疾患は、シュタルガルト黄斑ジストロフィー、網膜色素変性、加齢性黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、レーバー先天性黒内障、後天性黄斑変性、遺伝性黄斑変性、遅発性網膜変性、ベスト病、網膜剥離、脳回転状萎縮、コロイデレミア、パターンジストロフィーである。他の非限定的な例では、網膜損傷は、レーザー、炎症性、感染性、放射線、新生血管または外傷性傷害によって引き起こされる。さらなる非限定的な例では、黄斑中心および/または末梢網膜色素上皮細胞は、眼の網膜下腔、硝子体腔、内側または外側網膜、網膜周辺部または脈絡膜内に導入される。単層および多層網膜インプラントを産生する方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT公開番号WO 2018/089515に開示されている。
【0237】
黄斑RPEおよび遠位末梢RPEは主に錐体光受容体の機能および活性を支持し、中心RPE細胞および末梢RPE細胞は主に桿体光受容体の活性を支持する。同様に、黄斑RPEは、それらに隣接して発生する場合、緻密なiPSC由来脈絡膜血管構造を支持するが、中心および末梢RPEは、比較的緻密性の低いiPSC由来脈絡膜血管構造を支持する。1またはそれを超える特定のタイプのiPSC由来光受容体を、本明細書中に開示されるような選択されたタイプのRPE、および必要に応じて、iPSC由来血管構造と組み合わせることによって、目的の眼の領域における網膜変性を処置するためのインプラントを設計することができる。
【0238】
光に直接感受性である網膜の細胞は、光受容体細胞である。光受容体は、網膜の外側部分の光感受性ニューロンであり、桿体または錐体のいずれかであり得る。光伝達のプロセスにおいて、光受容体細胞は、レンズによって集束された入射光エネルギーを電気信号に変換し、その後、電気信号は視神経を介して脳に送られる。脊椎動物は、錐体と桿体の2種類の光受容体を有する。錐体は、細かい細部、中心視および色覚を検出するように適合され、明るい光で良好に機能する。桿体は、周辺および薄暗い光の視覚を担う。桿体および錐体からの神経信号は、網膜の他のニューロンによって処理される。
【0239】
網膜色素上皮は、血流と網膜との間のバリアとして作用し、視覚機能の維持において光受容体と密接に相互作用する。網膜色素上皮は、網膜に到達する光エネルギーを吸収するメラニンの顆粒が密集した黄斑、中心および末梢RPE細胞を含む六角形細胞の単層で構成される。これらのRPE細胞の機能には、血液から光受容体へのグルコース、レチノール、および脂肪酸などの栄養素の輸送;網膜下腔から血液への水、代謝最終産物およびイオンの輸送;光の吸収および光酸化に対する保護;全トランス型レチノールの11シス型レチナールへの再異性化;脱落した光受容体膜の食作用;および網膜の構造的完全性のための様々な必須因子の分泌が含まれる。
【0240】
RPE細胞の機能不全、損傷および喪失は、加齢性黄斑変性(AMD)および遺伝性黄斑変性(ベスト病など)、ならびに網膜色素変性を含む多くの眼疾患および障害の要因である。他の疾患を以下に考察する。物理的損傷などによる網膜の損傷にも処置が必要である。処置され得る例示的な状態を図14に示す。
【0241】
本明細書に開示される方法によって産生された黄斑、中心および/または末梢RPE細胞の医薬組成物。これらの組成物は、少なくとも約1×10個のRPE細胞、約1×10個のRPE細胞、約1×10個のRPE細胞、約1×10個のRPE細胞、約1×10個のRPE細胞、約1×10個のRPE細胞または約1×10個のRPE細胞を含み得る。特定の実施形態では、組成物は、本明細書に開示される方法によって産生された分化RPE細胞を含む、(非RPE細胞に関して)実質的に精製された調製物である。組成物は、眼の網膜下腔、硝子体腔、内側または外側網膜、網膜周辺部、脈絡膜内、または脈絡膜上の位置など、それを必要とする対象の眼への送達のために製剤化することができる。
【0242】
ポリマー担体および/または細胞外マトリックスなどのスキャフォールドと、本明細書に開示される方法によって産生される治療有効量の黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および末梢RPE細胞とを含む組成物も提供される。例えば、細胞は、細胞の単層として提供される。組成物はまた、複数の層を含むことができ、光受容体および/または血管細胞を含むことができる。生理学的に許容され得る、インビボ適用での使用に適した分解性または非生分解性スキャフォールドなどのスキャフォールドも含めることができる。例えば、生理学的に許容され得る材料には、小腸粘膜下組織(SIS)、架橋または非架橋アルギネート、親水コロイド、フォーム、コラーゲンゲル、コラーゲンスポンジ、ポリグリコール酸(PGA)メッシュ、フリースおよび生体接着剤などの吸収性および/または非吸収性の固体材料が含まれるが、これらに限定されない。スキャフォールドはPLGAスキャフォールドであり得る。これらのスキャフォールドは、それを必要とする対象の眼に送達され得る。
【0243】
開示される黄斑、中心および末梢RPE、ならびに黄斑、中心および/または末梢RPEを含む組織置換インプラントは、網膜変性疾患、網膜または網膜色素上皮機能不全、網膜分解、網膜または網膜色素上皮損傷、例えば光、レーザー、炎症性、感染性、放射線、血管新生または外傷性傷害によって引き起こされる損傷を処置するのに有用である。開示される黄斑RPE、中心RPEおよび/または末梢RPE、ならびにこれらの細胞を含む組織置換インプラントは、網膜色素上皮の喪失を処置するためにも有用である。この方法は、黄斑RPE、中心RPEおよび/もしくは末梢RPE、または組織配置インプラントを対象の眼に局所投与することを含む。治療有効量のRPE細胞を含む医薬組成物は、眼の網膜下腔、硝子体腔、内側または外側網膜、網膜周辺部または脈絡膜内に導入することができる。RPE細胞は、インプラント上に含めることもできる。
【0244】
いくつかの実施形態では、網膜変性疾患は、シュタルガルト黄斑ジストロフィー、網膜色素変性、加齢性黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、レーバー先天性黒内障、遅発性網膜変性、遺伝性黄斑変性または後天性網膜変性、ベスト病、ソルスビー眼底ジストロフィー、網膜剥離、脳回転状萎縮、バッテン病、ベアトラックジストロフィー、外傷性眼傷害またはコロイデレミア、パターンジストロフィーである。さらなる状態としては、網膜剥離、パターンジストロフィー、およびRPEの他のジストロフィーが挙げられる。特定の非限定的な例では、対象は加齢性黄斑変性症を有する。特定の実施形態では、網膜変性を特徴とする状態を処置または予防する方法が提供され、開示されるRPE細胞またはこれらのRPE細胞を含む組織置換インプラントを、それを必要とする対象に投与することを含む。インプラントに含まれるRPEのタイプは、処置される障害に基づいて選択することができる。
【0245】
これらの方法は、これらの状態のうちの1またはそれより多くを有する対象を選択することと、組織置換インプラントを投与して状態を処置するおよび/または状態の症状を改善することとを含むことができる。インプラントは、必要に応じて光受容体および/または血管細胞などの他の網膜細胞と組み合わせて、黄斑RPE、中心RPEおよび/または末梢RPEを含むことができる。
【0246】
様々な形態の網膜変性疾患が眼の様々な部分に影響を及ぼす。例えば、コロイデレミア(CHM)は、初期疾患段階において、中心および遠位末梢RPE細胞に広がる末梢RPE機能障害を引き起こす。この疾患が進行するにつれて、対応する光受容体および脈絡膜血管構造も変性する。CHMの処置に使用されるインプラントには、中心RPE細胞、および必要に応じて遠位末梢RPE細胞、ならびに必要に応じて光受容体および血管細胞が含まれる。同様に、疾患遅発性網膜変性(L-ORD)では、疾患関連損傷が中心および末梢RPE細胞で始まり、最終的に疾患後期では、光受容体および脈絡膜血管構造も変性する。したがって、早期処置のために、有用なインプラントには、中心および/または末梢RPE細胞が含まれる。後期疾患段階では、これらの同じインプラントを使用することができ、またはインプラントは光受容体および/または血管細胞も含むことができる。AMDでは、最初に、AMDの進行段階で光受容体および脈絡膜血管構造に広がる黄斑RPE、遠位末梢RPEおよび鋸状縁RPEに損傷が見られる。したがって、早期処置のために、有用なインプラントは、黄斑RPE、ならびに必要に応じて遠位末梢および鋸状縁RPE細胞を含むことができる。後の疾患段階では、これらの同じインプラントを使用することができ、またはインプラントは、関連する光受容体および/または黄斑および末梢特異的血管細胞を含むことができる。
【0247】
これらの方法は、これらの状態の1またはそれより多くを有する対象を選択し、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/もしくは末梢RPE細胞、またはRPE細胞を含む組織置換インプラントを投与して、状態を処置し、および/または状態の症状を改善することを含むことができる。開示されるRPE細胞は、光受容体および/または血管細胞などの他の網膜細胞と一緒に移植(同時移植)することもできる。
【0248】
開示された方法は、異なる疾患およびそれらの疾患の異なる段階のためのカスタマイズされた細胞治療の開発を可能にする。例えば、CHMの初期段階では、中心RPEを含むインプラントを処置に使用することができ、中間段階では、末梢RPEおよび遠位末梢RPEを含むインプラントを処置に使用することができる。進行段階では、インプラントは、対応する桿体に富む光受容体を有する中心および末梢RPEを含むことができる。あるいは、脈絡膜血管構造の有無にかかわらず、錐体に富む光受容体を有する遠位末梢RPEのためにインプラントを産生することができる。いくつかの実施形態では、インプラントは、対応する光受容体および脈絡膜血管構造の有無にかかわらず、中心または末梢RPEを用いて産生することができる。細胞の選択は、疾患段階に基づいて行うことができる。
【0249】
他の実施形態では、AMDの処置のために、対応する光受容体および脈絡膜血管構造の有無にかかわらず、黄斑RPEまたは遠位末梢RPEを含むインプラントを作製することができる。次いで、これらのインプラントを処置に使用することができる。AMDの初期段階では、黄斑RPE細胞および/または他のタイプのRPE細胞のみを置換すれば十分であり得る(図14を参照)。理論に拘束されるものではないが、移植された黄斑RPE細胞は、RPE細胞のさらなる喪失および/またはブルッフ膜の変性の予防を媒介し得る。AMDの進行段階では、患者はRPE細胞と光受容体細胞の両方の喪失を経験し得る。したがって、いくつかの実施形態では、方法は、光受容体細胞を含む組成物を移植することをさらに含むことができる。スキャフォールドおよびRPE細胞を移植する方法は、例えば、PCT公開番号WO2012177968およびPCT公開番号2016/007852に開示されており、これらは両方とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0250】
いくつかの実施形態では、必要に応じて組織置換インプラント内の、黄斑、中心および/または末梢RPE細胞は、処置される対象由来であり、したがって自己由来である。他の実施形態では、必要に応じて組織置換インプラントに含まれる黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞は、MHC一致ドナーまたはユニバーサルドナーから産生される。別の実施形態では、必要に応じて組織置換インプラント内の、黄斑、中心および/または末梢RPE細胞は、同種異系である。
【0251】
組織置換インプラントなどのRPE細胞は、対象の眼内の様々な標的部位に導入することができる。いくつかの実施形態では、組織置換インプラントは、移植などによって、哺乳動物における(光受容体外節と脈絡膜との間の)RPEの解剖学的位置である眼の網膜下腔に導入される。例示的な方法は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるPCT公開番号WO2018/089521に開示されている。いくつかの実施形態では、組織置換インプラントは、外側網膜、網膜周辺部、黄斑、または黄斑周囲領域、または脈絡膜内に導入される。さらに、細胞の遊走能および/または正のパラクリン作用に依存して、硝子体腔、内側または外側網膜、網膜周辺部および脈絡膜内などの追加の眼区画への導入を考慮することができる。
【0252】
移植される組織置換インプラントのサイズは、一般に、特定の患者に存在する網膜病理領域のサイズの臨床評価を、特定のサイズのインプラントを送達する外科的実現可能性によって課される制約と比較することによって決定され得る。例えば、中心網膜(例えば、加齢性黄斑変性)を含む変性では、解剖学的中心窩に近似する直径約1.0~2.5mm(例えば、直径約1.5mm)の円形インプラントがしばしば適切である。場合によっては、より大きなインプラントが適切であり得、これは、中心窩を中心とするまたは中心窩外領域に配置された約6.0mm(垂直)×7.5mm(水平)の卵形領域である側頭血管アーケード(temporal vascular arcade)(組織学的黄斑、臨床後極)の間にある後部網膜の領域に最大限対応する。いくつかの例では、同様に、約0.5mmほどのより小さい寸法のポリマースキャフォールドを、外接する病理の領域に配置するように形成することが適切であり得る。さらに、患者に合わせて不規則な形状のインプラントを特注すること、例えば、残存する高い視力の領域を避けながら病理の領域を覆うことが興味深い場合がある。
【0253】
組織置換インプラントは、当技術分野で公知の様々な技術によって導入することができる。移植を行うための方法は、例えば、米国特許第5,962,027号、米国特許第6,045,791号、および米国特許第5,941,250号;Biochem Biophys Res Commun Feb.24,2000;268(3):842-6;およびOpthalmic Surg February 1991;22(2):102-8)に開示されている。角膜移植を行うための方法は、例えば、米国特許第5,755,785号;Curr Opin Opthalmol August 1992;3(4):473-81;Ophthalmic Surg Lasers April 1998;29(4):305-8;およびOpthalmology April 2000;107(4):719-24に記載されている。いくつかの実施形態では、移植は、経毛様体扁平部硝子体切除術(pars pana vitrectomy surgery)を介して行われ、その後、小さな網膜開口部を通して網膜下腔に組織置換インプラントを送達する。あるいは、組織置換インプラントは、経強膜、経脈絡膜、または脈絡膜上アプローチを介して網膜下腔に送達することができる。さらに、毛様体に近接した前部網膜周辺部への直接経強膜挿入を行うことができる。
【0254】
いくつかの実施形態では、本方法は、例えば、炎症細胞の応答をダウンレギュレーションすることによって、または炎症細胞のアポトーシスを誘導することによって、免疫応答を低下させる免疫抑制剤を投与することを含む。他の実施形態では、本方法は、網膜ニューロンの生存を促進する、および/または変性を減少させる、治療有効量の神経保護剤を投与することを含む。さらに他の実施形態では、本方法は、望ましくない血管新生を阻害するために、例えばAMD患者の中心窩の下の脈絡膜新生血管(CNV)成長に対抗するために、治療有効量の薬剤を投与することを含み得る。例示的な治療剤は、例えば、VEGFの活性形態の受容体部位に結合し、VEGFとその受容体との相互作用を防止することによって、血管内皮成長因子(VEGF)の活性を低下させることができる。STAT3、NF-kB、HIF-1αなどのVEGF分泌をもたらす経路を阻害することによってVEGFの発現を抑制する治療有効量。他の薬物は、補体経路、オートファジー、またはNF-kB経路を標的とすることによってRPE細胞の萎縮を防ぐことができる。AMDのために有用な処置には、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))およびアフリベルセプト(EYLEA(登録商標))などの新しい血管の成長を停止させることを目的とした薬物療法;光線力学的治療;光凝固;低視力リハビリテーションが含まれる。
【0255】
さらなる実施形態では、本方法は、治療有効量の毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、または色素上皮由来因子(PEDF)を対象に投与することを含み、これは、例えば、光受容体細胞などのニューロンの発達または機能を促進するために使用することができる。他の例示的な非限定的な実施形態は、治療有効量のトロンボスポンジン1、抗炎症性サイトカイン(例えば、インターロイキン(IL)-lra、IL-6、Fasリガンドまたは腫瘍成長因子(TGF)-β、神経栄養性/神経保護成長因子、例えば、限定されないが、グリア細胞株由来成長因子、脳由来神経栄養因子、神経成長因子、ニューロトロフィン-3、-4/5、-6およびビタミンEを対象に投与することを含む。そのような薬剤は、単独でまたは組み合わせて提供されてもよい。
【0256】
個別化医療適用が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、網膜変性疾患、網膜または網膜色素上皮機能不全、網膜分解、網膜損傷、または網膜色素上皮の喪失を有する対象を処置する方法が開示される。この方法は、対象について、黄斑RPE細胞、末梢RPE細胞および/または中心RPE細胞などのRPE細胞のどの集団が影響を受けるかを決定すること、それらの細胞を産生すること、次いで、これらの黄斑RPE細胞、末梢RPE細胞および/または中心RPE細胞を対象に投与することを含むことができる。いくつかの実施形態では、本方法は、開示された組織置換インプラントを対象の眼に局所投与することを含む。組織置換インプラントは、対象の疾患過程に応じて、黄斑RPE細胞、中心RPE細胞および/または末梢RPE細胞を含むことができる。組織置換は、必要に応じて、桿体および/または錐体および/または血管細胞などの光受容体を含むことができる。特定の非限定的な例では、対象は、CHM、AMD、L-ORDまたはRDを有する。
【0257】
本開示は、以下の非限定的な実施例によって例示される。
【実施例
【0258】
実施例1
材料および方法
組織ドナー情報:9人の健常ドナーからの17個の眼球を得た。網膜変性の病歴がない場合、眼を研究のために考慮した。眼球を摘出し、直ちに貯蔵し、氷冷PBS 1×または湿氷中RPMIで輸送した。ドナーの死亡から24時間以内に、眼球を受け取り、解剖し、4% PFA中で保存した。
【0259】
染色およびイメージング:RPE単層を、1%ウシアルブミン血清(BSA)、0.5% Tween(登録商標) 20および0.5% Triton(登録商標) Xを含有するPBS緩衝液中、RTで1時間インキュベートして、透過化および非特異的部位の遮断を可能にした。その後、細胞境界を室温で一晩、抗ZO1(カタログ番号339100、Thermo Fisher Scientific)および抗汎カドヘリン抗体(カタログ番号ab6529、Abcam)の1:200希釈で染色した。二次抗体抗マウス-647(カタログ番号A-21235、Thermo Fisher Scientific)および抗ウサギ-633(カタログ番号A-21071、Thermo Fisher Scientific)を1:500希釈で暗所において室温で1時間添加した。両方の二次抗体フルオロフォアは、シグナル対ノイズ比を増加させるために、遠赤色波長において同様の発光スペクトルを有するように選択された。実際、それらの生理学的活性および網膜における酸素の存在の上昇のために、RPEは、極めて自己蛍光性であるリポフスチンなどの多くの老廃物を蓄積する。波長の選択はまた、リポフスチン自己蛍光の広い帯域幅を回避することを目的とする。シグナル対ノイズ比をさらに増加させるために、ファロイジン-iFluor 647(カタログ番号ab176759、Abcam)を、1:250希釈の二次抗体と共に添加した。それにもかかわらず、シグナル対ノイズ比は、RPE境界の大部分を区別することができるほど十分に高くなかった。染色後、リポフスチン自己蛍光消光剤であるTRUEBLACK(登録商標)(カタログ番号23007、Biotium)を用いた。TRUEBLACK(登録商標)をエタノール70%中で1:20希釈し、RPEを上に向けて最大2分間サンプルに適用した。フラットマウントのすべての花弁をさらに切断して、組織をより良好に平らにした。最後に、サンプルを50×75 mmガラススライド(カタログ番号5075、Brain Research Laboratories)に載せた。均一に平らであることを確実にするためにサンプルの上に一晩重りを置いた。Zeiss Axio Scan.Z1広視野スキャナ(Carl Zeiss)を使用して、RPE単層をイメージングした。最大250,000~275,000枚のタイルおよび120μmのzスタックを、各サンプルを含むように設定した。最終ファイルがCZI圧縮で10GBの最大寸法を有するように、スタックをオンラインで単一のスライスに圧縮した。
【0260】
iPSC-RPE分化:スクリーニングおよびその後の表現型の特徴付けに使用された、TJP1-mEGFPと呼ばれるiPSC株は、広く使用されている親株WTC-11に由来し、タイトジャンクションタンパク質1遺伝子(TJP1;または密着結合1、ZO1)は、一方の対立遺伝子のN末端エクソンが単量体の増強された緑色蛍光タンパク質(mEGFP)配列挿入を有するようにCRISPR改変された。得られたTJP1タンパク質は、mEGFPにコンジュゲートされ、細胞境界のライブでの可視化を可能にする。タグ付けの明らかな有害作用を排除するために、多数のゲノムおよび細胞検証を行った。アッセイおよびその結果は、Allen研究所のウェブサイト(allencell.org/cell-catalog.html)で入手可能である。iPSC株を、開発されたプロトコル(Sharma et al.,Science Translational Medicine,11(475),doi.org/10.1126/scitranslmed.aat5580,2019)を使用してRPEに分化させた。幹細胞からのRPE分化は、神経外胚葉段階でのTGFおよびWNT経路の活性化によって誘導することができる(Idelson et al.,Cell Stem Cell,5(4),396-408,2009;Lamba et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,103(34),12769-12774,2006;Leach et al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science,56(2),1002-1013,2015;Reh et al.,Directing Human Embryonic Stem Cells to a Retinal Fate,doi.org/10.1007/978-1-60761-691-7_9,2010)。分化の効率および再現性をさらに改善する三相性分化プロトコルを開発した(Sharma et al.,op.cit.,2019)。第1に、二重SMAD阻害はニューロンの運命を促進し、FGF経路活性化はRPEへの眼領域の分化を阻害するので、二重SMAD阻害をFGF阻害と組み合わせてiPSCからの神経外胚葉細胞の形成を誘導した(Bharti et al.,PLoS Genetics,8(7).doi.org/10.1371/journal.pgen.1002757,2012;Chambers et al.,Nature Biotechnology,27(3),275-280,2009;Fuhrmann,Current Topics in Developmental Biology,93,61-84,2010;Meyer et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,106(39),16698-16703,2009)。第2に、TGF-βおよびWNT経路を活性化して、神経外胚葉細胞のRPE運命への拘束を促進した(Carr et al.,PLoS ONE,4(12),e81522009;Fuhrmann,Organogenesis,4(2),60-67,2010;Idelson et al.,Cell Stem Cell,5(4),396-408,2009)を参照。第3に、拘束RPEをプロスタグランジンE2(PGE2)での処理によって成熟させて、一次繊毛の刺激によってカノニカルWNT経路を能動的に抑制した(May-Simera et al.,Cell Reports,22(1),189-205,2018)。
【0261】
分化のために、iPSCをビトロネクチン(カタログ番号A1700、Thermo Fisher Scientific)被覆6ウェルプレートに播種した。Essential 8培地(E8、カタログ番号A1517001、Thermo Fisher Scientific)で2日後、細胞を、10nMのLDN(カタログ番号04-0074 Stemgent)、0.5μMのCK1-7ジヒドロクロリド(カタログ番号C0742、Sigma)、1μMのSB431542水和物(カタログ番号S4317、Sigma)および1ng/mlのIGF-1(カタログ番号AFL291、R&D Systems)を添加した基礎分化培地(DMEM/F12(カタログ番号11330032、Thermo Fisher Scientific)、N2サプリメント(カタログ番号A1370701、Thermo Fisher Scientific)、B27(カタログ番号17504044、Thermo Fisher Scientific)、KSR(カタログ番号12618013、Thermo Fisher Scientific)、200μMアスコルビン酸(カタログ番号A4544、Sigma))で構成される神経外胚葉誘導培地(NEIM)で2日間処理した。次に、神経外胚葉細胞をRPE誘導培地(RPEIM、100nMのLDN(カタログ番号04-0074 Stemgent)、5μMのCK1-7ジヒドロクロリド(カタログ番号C0742、Sigma)、10μMのSB 431542水和物(カタログ番号S4317、Sigma)および10ng/mlのIGF-1(カタログ番号AFL291、R&D Systems)、1μMのPD 0325901(カタログ番号PZ0612Sigma)を含む基礎分化培地)中で10日間培養した。細胞をRPE拘束培地(RPECM、10mMのニコチンアミド(カタログ番号N0636 Sigma)、150ng/mlのアクチビンA(カタログ番号338-AC/CF R&D Systems)を含有する基礎分化培地)中で10日間培養した。拘束RPEをRPE増殖培地中で5日間維持し、次いで再播種してニューロン形成を除去した(RPEGM、MEM+GLUTAMAX(商標)(カタログ番号32561037、Thermo Fisher Scientific)、5% FBS(カタログ番号SH30071.03、Hyclone)、タウリン(カタログ番号T-0625、Sigma)、チロニン(カタログ番号T-5516、Sigma)、ヒドロコルチゾン(カタログ番号H-0396-10、Sigma))。その後、未成熟RPEをRPEGM中で15日間培養し、次いで、抗CD24(カタログ番号655154、BD Biosciences)および抗CD56(カタログ番号340723、BD Biosciences)抗体を使用してネガティブ選択によって濃縮した。最後に、未成熟RPE細胞をビトロネクチン被覆トランスウェル(カタログ番号3460、Corning)に播種し、RPE成熟培地(50μMのPGE2を含有するRPEGMであるRPEMM(カタログ番号2296/10、Tocris))中で6週間培養して、完全に成熟したiPSC由来RPEを得た。黄斑(P1)および末梢(P4)iPSC-RPE細胞を作製するために、成熟細胞が使用される準備ができるまで(図1)、AGN 193109およびendo-IWR-1をそれぞれD21由来のRPEGMに添加した(拘束RPE細胞)。
【0262】
化合物ライブラリーのスクリーニングおよびイメージング:様々な発生経路または細胞骨格ストレッサーを標的とする115の薬物を選択して、化合物の新しい発生ライブラリーを形成した。薬物は、様々なシグナル伝達経路の活性化剤または阻害剤であり、シグナル伝達カスケードの異なるレベルのタンパク質を標的とする。各薬物について、初期濃度を選択し、各薬物の濃度を調整した。アッセイは、iPSC由来の拘束RPEに対して行った。すべての薬物について、毒性が検出された場合は濃度を下げ、対照と比較して細胞形態に明らかな効果がなかった場合は濃度を上げた。試験した化合物のリストを表1に見出すことができる。3つの異なる濃度の範囲(3倍、1倍、0.3倍)を使用して、384ウェルプレート(カタログ番号6057300、Perkin Elmer)でハイコンテントスクリーニングを実施した。すべての薬物をジメチルスルホキシド(DMSO、カタログ番号D2650、Sigma)中で再構成し、各薬物40μlを384ウェルマスタープレート中に三連で等分した。次いで、最終的な所望の作業濃度を得るためにRPEGMによる連続希釈を行い、最終プレートを-80℃で保存した。RPEGM中で5日後、拘束RPEを約50細胞/mm(500細胞/ウェル)の濃度で384ウェルプレートに再播種し、10μM rock阻害剤(カタログ番号1254、Tocris)とともに24時間接着および適応させた。毎日、最終濃度の化合物の1つのプレートを解凍し、細胞に新鮮な薬物を添加するために使用した。この処理手順は、化合物の凍結/解凍サイクルの最小数を可能にし、培養細胞への非常に小さい体積の薬物の直接の添加と比較して精度を促進し、培養細胞がマルチチャネルピペットで薬物を移送することによってインキュベーター外で費やす時間を最小にする。384ウェルプレートにおける細胞播種から15および30日の2つの時点をイメージングのために選択した。Yokogawa Cell Voyager(CV7000)高スループットスピニングディスク共焦点を20倍空気液浸対物レンズと共に使用した。各ウェルを9視野に含め、単層の不均一性を考慮してzスタックを設定し、画像をオンザフライで単一スライスに投影した。ライブイメージングを第1の時点で実施し、4% PFAで固定した細胞を第2の時点についてイメージングした。細胞はその寿命を通してTJP1-mEGFPタンパク質を発現するので、染色は必要ではなかった。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0263】
畳み込みネットワークを使用したセグメント化:畳み込みニューラルネットワーク(CNN)アルゴリズムを使用して、免疫蛍光によって標識されたサンプルの画像からRPE細胞境界を認識した。アルゴリズムは、セグメント化されたRPE境界のバイナリマスクを生成する;この出力は、アルゴリズムが学習する「正しい答え」を提供するために手動で補正された。訓練されると、CNNアルゴリズムには、蛍光標識されたRPE細胞の画像が供給され、生成されたバイナリマスク画像は、細胞形状分析(図3)のためのREShAPEソフトウェアの入力となった。
【0264】
REShAPEを使用した形態計測分析:CNNアルゴリズムによって生成されたバイナリセグメント化を、細胞形状分析のためにREShAPEに移した。REShAPE(網膜上皮形状および色素評価器(Retinal Epithelium Shape and Pigment Evaluator))は、画像解析用のFijiプラグインである。成功裏にセグメント化された視野内のすべての細胞について、REShAPEは、25を超える異なる形状測定基準の定量化を提供する。生データは、統計分析を可能にするためにスプレッドシートに保存した。さらに、ソフトウェアは、分析された測定基準ごとにセグメント化された細胞の画像を作成し、すべての細胞は生の値に従って色分けされる(図4)。色分けされた画像は、分析された細胞の位置を表示する。形状測定基準をソフトウェアで分析して、面積および周囲などの細胞寸法の測定値、長径および短径の長さなどの伸長の測定値、ならびに六角形性(hexagonality)スコアおよび近傍数などの細胞規則性の測定値を得た。分析は、ピクセルからμmへの変換が提供される限り、ピクセル単位またはμmで行った。データおよびグラフの分析は、Rソフトウェア(「R Core Team(2018).R:A language and environment for statistical computing.R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria.URL https://www.R-project.org/」)を使用して行った。Rパッケージ「plyr」および「ggplot2」は、それぞれデータの取り扱いおよびプロットに使用されている(Wickham,2009,2011)。事後ペアワイズ多重比較のための方法であるダネット検定を使用して、いくつかの処置群を対照群と比較することによって統計分析を計算した。95%のファミリーごとの信頼水準を使用した。「DescTools」は、ダネット検定を行うために使用されたRパッケージである(Signorell,DescTools:Tools for Descriptive Statistics[R package DescTools version 0.99.31]、cran.r-project.org/web/packages/DescTools/index.htm,2019から2019年10月25日に検索)。正常性の仮定を、シャピロ-ウィルク検定を用いて試験した。正常性の試験はサンプルサイズに感受性であるため、各群のデータの偏りのないサブセットに対して試験を行った。さらに、各群の全データセットに対する正常性を評価するために分位数-分位数(Q-Q)プロットを描いた。分散の均一性は、「残差対適合プロット」に残差をプロットすることによって試験した。一元配置ANOVAを使用して、Dunnett検定を行う前に群間分散を評価した。Shapiro-Wilk検定および一元配置ANOVAは、Rパッケージ「dplyr」(Wickham et al.,dplyr:A Grammar of Data Manipulation.https://cran.r-project.org/package=dplyr,2019から取得)を用いて行ったが、Q-Qプロットは、Rパッケージ「ggpubr」(Kassambara,ggpubr:「ggplot2」Based Publication Ready Plots.cran.r-project.org/package=ggpubr,2020から取得)を用いて描いた。データはボックスプロットとして表示され、ボックス限界は第1および第3四分位数を表し、中心線は中央値を示し、ひげは第5および第95パーセンタイルを示すので、範囲はデータの90%を指定する。REShAPE形態計測分析のために、単一細胞測定値を技術的複製とみなし、一方、薬物スクリーニングの各眼または各ウェルを生物学的複製とみなした。
【0265】
ヒト眼集団の定量化:いくつかの形状測定基準パラメータにより、ヒトRPEフラットマウントにわたって異なるRPE集団の存在が明らかになった(図5)。これらのRPE集団を分離するために特注のソフトウェアを開発した。このソフトウェアは、REShAPEによって生成されたスプレッドシートからすべての細胞のx-y座標を取得し、色分けされた画像を再構成する。RPE集団は、色分けされた画像上で直接切り取られ、選択された細胞の情報が検索され、新しいスプレッドシートに保存される。RPE集団はリング状に配置されているので、それらを単離するために円形選択ツールを使用した。円形領域は色分けされた細胞の勾配に従って切り取られたにもかかわらず、各リングの測定値の変動は0.6mm未満である。
【0266】
実施例2
成体ヒトRPEの完全な形態計測マップ
成体ヒトRPE細胞の形態計測を分析するために、9人の非AMD患者から17個の死体眼を得た。眼を湿った氷上でアイバンクから輸送し、患者の死亡の24時間以内に処理した。眼の硝子体内に1700 mOsmのマンニトール溶液を注射して、RPEからの網膜剥離を誘導し、その後、RPE/脈絡膜複合体を切開し、平らな組織としてマウントした。RPE細胞境界を抗ZO1抗体および汎カドヘリン抗体で免疫標識し、それぞれタイトジャンクションおよびアドヘレンスジャンクションを認識した。RPE細胞では、アクチンフィラメントが細胞境界に沿ってタイトジャンクションを接続する多角形の環を形成するので、フルオロフォア結合ファロイジンも細胞境界染色を増強するために使用された。全RPE/脈絡膜フラットマウントをイメージングし、特注のソフトウェアREShAPEを用いて細胞形状を分析した。上皮全体の色分けされた画像は、分析されたあらゆる測定基準についての細胞形状の定量化を視覚的に表示する。眼全体ではなく、より小規模で以前に報告されたように(Bhatia et al.,op.cit.,2016)、特定の形状測定基準についてRPE全体にわたって明確な不均一性が観察された。例えば、細胞は、上皮の周辺部に位置する細胞と比較して、黄斑RPEに対応するより小さな面積で観察された(図5~6)。RPE細胞面積は、偏心して徐々に増加する。興味深いことに、眼の中心から14~17mmに含まれる領域に小さなRPE細胞のリングが観察された。リングの内側の末梢RPEと小さいRPEの末梢リングとの間の細胞面積の変化は急激であり、小さいRPEのリングとリングの外側の末梢RPEとの間の移行も急激である。小さなRPEのリングの外側では、細胞面積が劇的に増加する。しかしながら、すべてのRPE細胞は、非常に細長く不規則に見えるまさしく周辺部の細胞を除いて、上皮全体にわたって同様に規則的な形状であるように見える。図2は、ヒト黄斑および末梢RPE細胞の違いを示す。
【0267】
実施例3
黄斑細胞とRPE細胞との比較
5つの異なるRPE集団をそれらの細胞面積に従って区別した(図6)。フラットマウントの画像を、視神経と黄斑との間のほぼ中間にある眼の中央付近を中心とする同心円状のリングと、黄斑の周りのリングとに分けた。中心から周辺部に向かって、RPE集団を、P1、黄斑RPE、上皮のまさに縁のRPEであるP5と命名した。P1は黄斑であり、P2は中心であり、P3は末梢であり;P4は遠位末梢であり;P5は鋸状縁RPEである。円形領域が色分けされた細胞の勾配に従って手動で切り取られたにもかかわらず、平均の周りの広がりは0.6mm未満であることに留意されたい。したがって、成人の眼のRPE集団は非常に正確な位置を有する。さらに、RPEの中心集団および末梢集団(P2およびP3)にはわずかな非対称性がある。中心(P2)集団は常に側頭側にさらに延び、一方、末梢(P3)集団は鼻側にさらに延びる。その結果、細胞面積の色分けされた画像では、側頭側の色勾配は鼻側よりも顕著ではなく、側頭側ではRPE細胞面積がより小さいままである傾向があることを示唆している。
【0268】
平均RPE細胞サイズは、眼の中心から11.2±0.6mm~14.3±0.5mmで集団P3(末梢)まで偏心して増加する。このRPE集団は、238.6±37.8μmの平均細胞面積を有し、これは集団P1における黄斑RPE細胞面積(黄斑、149.6±33.4μm)よりもほぼ67%大きい。P3(末梢)の周囲(14.6±0.6mm~17.2±0.4mm)では、集団P4のRPE細胞サイズはかなり減少する(181.8±39.5μm)。解剖の変動性のために、この種の定量化は常に、P4集団において、より大きな面積寸法に向かって測定値を偏らせるP3(末梢)およびP5集団の一部を含む。したがって、色分けされた画像(図6)から理解され得るように、P4集団は、黄斑細胞(P1)と非常に類似した平均面積を有し得る。全体として、これは、周辺部に黄斑型のRPEが存在することを示している。
【0269】
17.6±0.4mmから21.1±0.5mmまでのフラットマウントのまさしく周辺部では、RPE集団P5の平均面積は、眼の残りの部分(336.8±49.6μm)と比較してかなり大きくなり、変動性である。目視検査により、最初の数ミリメートルでは、P5領域は末梢集団(P3)に匹敵する面積を有する細胞を含むが、より偏心した細胞面積ははるかに大きくなる。ほとんどの末梢RPE細胞は、光感受性網膜が毛様体の非光感受性領域に移行する鋸状縁の領域に属する可能性が高い。
【0270】
実施例4
iPSC-RPEおよび成体ヒトRPEの形態計測の比較
次に、P1(黄斑)およびP3(末梢)の形態学的RPE不均一性をインビトロで再現した。非黄斑RPE集団(P2~P5)の中で、桿体光受容体の純粋な集団を支持する可能性が最も高いので、末梢(P3)を選択した。局所網膜変性における位置の重要性にもかかわらず、幹細胞由来RPEを任意の特定のヒトRPE集団に結び付ける報告は文献にない。変性に対する異なる感受性を再現するインビトロRPE集団を生成することは、AMDなどの疾患を研究するためのより良いシステムを提供するであろう。遠位末梢(P4)細胞は、後期AMDおよび外傷性傷害において損傷を受け得る。鋸状縁(P5)RPE細胞は外傷性傷害において損傷を受け得る
【0271】
エクスビボ培養で生成された完全に成熟したiPSC由来RPE(iPSC-RPE)の形態計測を、成人健常ドナーからの17個のフラットマウントで同定されたヒトRPE集団と比較した。興味深いことに、細胞サイズを比較した場合、インビトロで生成されたiPSC-RPE細胞は、あらゆるヒトRPE集団よりも小さい面積を有するようである。最も類似した寸法を有する集団は、P1と標識された黄斑集団である(iPSC-RPE:107.0±61.7μm対P1:149.6±33.4μm)(図8)。
【0272】
実施例5
処置されたiPSC-RPEと成体ヒトRPE形態計測との比較
REShAPEは、細胞形態を定量するための非常に感受性の高いツールであることが示されたので、また、形態計測分析は、非常に単純かつスケーラブルな技術であるので、形態計測を、iPSCに由来する黄斑RPE集団(P1)および末梢RPE集団(P3)を特定するためのスクリーニングアッセイとして使用した。黄斑RPEおよび末梢RPEを濃縮および分離するために、分化中にiPSC-RPE上の化合物のハイコンテントスクリーニングを行った。115の選択された化合物には、細胞骨格の異なる発生経路およびストレス要因の活性化剤および阻害剤が含まれる。拘束RPE細胞を384ウェルプレートに播種し、細胞形状分析を行う前に30日間処理した。発生経路が依然として主要な役割を果たすがRPE運命を変化させないRPE分化中に早期に介入するために、細胞をRPE運命に拘束しながら処理した。TJP1(ZO1)タンパク質をmEGFPにコンジュゲートさせたiPSC-RPE細胞株を使用した。ハイコンテントイメージングを実施し、REShAPEを用いて蛍光画像を分析した。互いに3倍に分離した3つの濃度を評価した。各形状測定基準のデータを分析し、プロットした。細胞面積は、RPE集団間の明確な区別のために、処理されたiPSC-RPEをヒトRPEと比較するために選択された測定基準であった(図7)。
【0273】
任意の濃度範囲で細胞サイズ分布のシフトを誘導したすべての薬物を選択し、生画像を毒性によって引き起こされる非特異的効果についてチェックした。残りの薬物を表2に列挙する。
【表2-1】
【表2-2】
【0274】
選択された薬物を、それらが作用する経路およびそれらの役割(活性化剤または阻害剤)に従ってグループ分けした。各群について、1よりも多くの薬物が存在する場合、細胞サイズの最も強いシフトを誘導したものをiPSC-RPE表現型に対するそれらの効果の特徴付けのために進めた。11の薬物をiPSC-RPE表現型分析のために進めた(表3)。
【表3】
【0275】
実施例6
選択された薬物処理の表現型の特徴付け
11の化合物を、RPE細胞サイズにおけるそれらの初期効果に基づくさらなる表現型の特徴付けのために選択した。この特徴付けの目的は、以下の2つであった:1)薬物処理後のiPSC-RPE表現型を分析して、薬物が細胞の健康に悪影響を及ぼさなかったことを確認すること;および2)細胞上の黄斑型または末梢型の頂端突起の存在を確認すること。RPEの頂端突起の構造は、錐体または桿体特異的として説明されてきた:花弁状の頂端突起は、錐体の外節の周りを包むことが観察されているが、指状の構造は、桿体の外節に並置されている(Fisher&Steinberg,J.Comparative Neurology,206(2),131-145,1982;Steinberg&Wood,Proceedings of the Royal Society of London-Biological Sciences,187(1089),461-478,1974)。黄斑は錐体に支配され、周辺部は桿体に支配されるので、これらの2つの異なる領域のRPE細胞は、2つの頂端突起構造のうちの1つで濃縮され得る。RPEの頂端突起の表現型が、RPE形態計測以外の追加の識別因子として役立つであろうと仮定された。
【0276】
異なる技術を使用して、RPEの形態学的特徴を研究した。経上皮電気抵抗を使用してタイトジャンクション完全性を調べ、明視野イメージングはRPE色素沈着欠陥を決定するのに有用であり、ヘマトキシリンおよびエオシン染色ならびに透過型電子顕微鏡法はそれぞれ肉眼的および微細な形態学的変化を検査するのに有用であったが、走査型電子顕微鏡法は頂端突起構造の改変を明らかにした。2つの化合物、ENDO-1-IWRおよびAGN 193109は、iPSC-RPEの健康を破壊せず、異なるタイプの頂端突起表現型を明らかにした。
【0277】
D21から開始して、iPSC-RPEを異なる化合物で処理した。D40に、未成熟RPEを分化プロトコルに従ってネガティブ選択によって濃縮し、成熟のためにトランスウェルに播種した。細胞が完全に成熟するまで、iPSC-RPEを化合物でさらに6週間処理した(図1および図11)。
【0278】
この時点で、経上皮電気抵抗(TER)をアッセイして、分化の質を確認し、タイトジャンクション完全性に対する薬物の効果を調べた。単位面積あたりの上皮抵抗についての400Ωcmの最小閾値を使用して、良好な分化バッチを決定する。DMSO処理iPSC-RPEは、約1100Ωcmの平均TER測定値を示し、この分化バッチの品質を確認した。他の化合物(表3参照)は、上皮バリアの完全性を破壊したが、ENDO-1-IWRおよびAGN 193109は、タイトジャンクション完全性を維持しただけでなく、TER抵抗の増加も誘発した(ENDO-1-IWR:約1200Ωcm、AGN 193109:約1600Ωcm)。
【0279】
その後、形状測定基準を分析して、細胞面積に対する薬物の効果を確認した。DMSO処理iPSC-RPEと比較して、AGN 193109は、黄斑RPE集団(P1)の寸法に匹敵するiPSC-RPE細胞面積の増加を誘導し(iPSC-RPE面積=161.8±149.7μm、P1=149.6±33.4μm)、一方、ENDO-1-IWRは、末梢RPE集団P3の細胞に匹敵する細胞サイズのより大きな増加を誘導した(iPSC-RPE面積=251.8±218.4μm、P3=238.6±37.8μm)。図8~9のグラフおよび色分けされた画像は、異なる群間の比較を示す。
【0280】
明視野イメージングを使用してRPE色素沈着欠陥を決定したが、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色は単層の肉眼的形態学的変化を検査するのに有用であった。トランスウェル膜の切片を切断し、明視野イメージングのためにガラススライドに載せた。色素沈着レベルは、DMSO処理iPSC-RPEと比較して、ENDO-1-IWRおよびAGN 193109処理後に保存された。トランスウェルの別の領域を切片化し、H&Eで染色した。薬物処理後、細胞は依然として単層として配置され、肉眼的形態学的変化は検出されず、RPE細胞の頂端側に色素顆粒が依然として存在した。
【0281】
最後に、透過型電子顕微鏡法(TEM)を使用して微細な形態学的変化を検出したが、走査型電子顕微鏡法(SEM)は、頂端突起構造における改変を研究するために不可欠であった。ENDO-1-IWRおよびAGN 193109処理後に微細な細胞内構造の欠陥は同定されなかったが、2つの薬物は頂端突起構造の変化を誘導した。DMSO処理iPSC-RPEでは、本発明者らは、頂端突起、花弁および指状の両方のタイプを見出した。注目すべきことに、ENDO-1-IWR処理時に、すべてのRPE細胞は、桿体外節とのRPE相互作用に関連している指状の頂端突起によって固有に濃縮された。一方、AGN 193109処理は、錐体外部を支持する花弁状の頂端突起(うねりを有する)を有するRPE細胞を濃縮した。ENDO-1-IWRが末梢RPE集団P3の寸法まで細胞サイズを増加させ、指状の頂端突起を有する細胞を濃縮するという事実は、この化合物が末梢RPE表現型を誘導することを証明している。逆に、AGN 193109は、iPSC-RPE細胞サイズを黄斑RPE集団(P1)にシフトさせ、花弁状の頂端突起(うねりを有する)の形成を誘導し、この化合物が黄斑RPE表現型を誘導するという証拠が得られる(図10および図11)。
【0282】
全体として、これらの結果は、スクリーニングツールとして細胞形状を使用することが、大きい細胞の集団を小さい細胞の集団から分離するだけでなく、形態学的特徴を選択することを示している。理論に拘束されるものではないが、データは、発生経路がRPE分化中に標的化されたことを示している。
【0283】
要約すると、9人の非AMDドナーの眼から17個のRPE/脈絡膜フラットマウントを解剖し、RPE細胞境界について染色し、イメージングし、フラットマウントあたり平均300~400万個の細胞をセグメント化した。本研究で使用した各ヒト眼について、ヒトRPE全体の完全な形態計測マップを初めて作成した。眼全体にわたるRPE細胞の不均一性を強調するために、他の形状測定基準の中から細胞面積を選択した。RPE細胞の勾配は、黄斑内の小さいRPE細胞から始まって周辺部に向かって偏心的に移動する、次第に大きくなる領域で特定された。眼の中心から半径14~17mm付近に小さなRPE細胞の末梢リングが検出された。RPE細胞の5つの固有の領域を同定した。
【0284】
より小さいRPE細胞の末梢リングの発見は、遠位周辺部における黄斑型RPE細胞の存在を示す。RPE集団P4は、錐体の末梢縁部が記載されているのと同じ領域に対応し得る。例えば、集団P3(末梢)の大きなRPE細胞から集団P4(遠位末梢)の小さな細胞へ、そして再び集団P5(鋸状縁)の大きなRPE細胞への突然の移行がある。さらに、RPE集団P4は、眼の中心から約14~17mm離れた領域、および鋸状縁の移行ゾーン(錐体のゆるいバンドが記載されたのと同じ領域)の前に含まれる幅約1~2mmである。小さいRPE細胞は黄斑および末梢縁部などの錐体が支配的な領域に存在し、大きいRPE細胞は桿体が支配的な領域に発生するようである。
【0285】
開示される方法は、インビトロでの領域的RPE不均一性の再現を達成する。これを達成するために、培養で生成されたiPSC-RPEの細胞サイズを、各ヒトRPE集団の平均細胞面積と比較した。比較は、培養で増殖させた完全成熟RPEが、死体眼サンプルで同定された任意の他のヒトRPE集団よりも小さい細胞面積を有することを示した。サイズに関して最も近いヒトRPE集団は、黄斑RPE(P1)であった。細胞を異なるプレートフォーマットで播種し、それに応じて濃度を調整したが、平均細胞面積は実質的に変化しなかったので、播種濃度がより小さな細胞サイズを誘導する可能性は低い。
【0286】
RPE細胞サイズを決定するそのようなシグナルを同定するために、iPSC-RPE細胞を、それらがRPE運命に拘束されたばかりの分化段階中に操作した。この操作を、異なる発生経路の115の活性化剤および阻害剤ならびにアクチン細胞骨格の調節因子を使用して行った。RPE形態計測をすべての薬物について分析し、ヒト黄斑RPE集団(P1)および末梢RPE集団P3に対する参照として比較した。
【0287】
集団P5は「真の」RPE特徴を有さない可能性がある鋸状縁のRPE細胞を含み、集団P4(遠位末梢)は細胞サイズが黄斑RPEに似ているので、末梢集団P3を周辺部の参照として選択した。
【0288】
化合物を、経路およびそれを活性化または阻害する際のそれらの役割によってグループ化し、各群について細胞サイズの最大のシフトを示した化合物を表現型の特徴付けについて試験した。2つの化合物、AGN 193109およびENDO-1-IWRは、それぞれ黄斑集団(P1)および末梢集団(P3)の細胞サイズを再現することができ、それぞれ花弁状および指状の頂端突起を有するRPE細胞を濃縮することができることが見出された。両方の化合物は、TER、明視野、H&EおよびTEMによって検証されるように、健康なRPE表現型に影響を及ぼさなかった。
【0289】
AGN 193109は、高親和性汎レチノイン酸受容体(RAR)アンタゴニストである。レチノイン酸は、食事では入手できないビタミンAの一形態であるが、レチノールから合成される。したがって、そのレベルは、その合成および分解によって調節される(Duester,Molecular and Cellular Biology,11(3),1638-164;Napoli,J.Biol.Chem.,261(29),13592-13597j 1986)。レチノイン酸は、胚形成、免疫、細胞増殖および分化の促進または阻害などの多くの重要な生物学的プロセスを調節することができる(Lotan,Biochimica et Biophysica Acta(BBA)-Reviews on Cancer,605(1),33-91,1980)。RPEは、眼のレチノイド代謝において中心的な役割を果たす:RPEは、ビタミンAの貯蔵形態であるレチニルエステルのレザバであり、11-シス-レチナールデヒドを形成するための全トランスレチニルエステルの異性化および酸化がRPE細胞で起こる(Rando,Biochemistry,30(3),595-60,1991)。さらに、RPEは、体内で最も高い濃度のレチノイドを含有する組織の1つであり、ビタミンA代謝におけるRPE細胞の重要性を強調している(Berman et al.,Investigative Ophthalmology,13(9),675-687,1974)。培養ウシRPE細胞は、シトクロムP-450モノオキシゲナーゼの活性を介してレチノイン酸を代謝することが示されている。RPEは、レチノイン酸をより極性の高い代謝産物である4-オキソ-レチノイン酸に変換し、これは細胞から急速に放出され得る(Doyle et al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science,36(3),708-717,1995)。この結果は、RPEが網膜におけるこの生物学的に強力なレチノイドの不活性化において重要であり得ることを示している。
【0290】
初期の眼発生中のRPEおよび網膜からのレチノイン酸の局所的な分解は、将来の黄斑RPEおよび中心窩の位置を示す可能性がある。理論に拘束されるものではないが、AGN 193109は、RPE細胞のRARに拮抗することによってレチノイン酸枯渇を模倣し得る。この仮説を検証するために、レチノイン酸シグナルの基礎レベルを検証することができ、対照およびAGN 193109処理RPE細胞におけるシトクロムの発現および活性を確認することができる。
【0291】
他の市販のレチノイン酸阻害剤を使用して、黄斑iPSC-RPE(P1)を生成することができる。これらを表4に示す。
【表4】
【0292】
ENDO-1-IWRは、カノニカルWnt経路阻害剤である。Wntは、胚発生中の細胞運命決定、細胞遊走、細胞極性、神経パターン形成および器官形成の重要な態様を調節する進化的に保存された経路である。Wnt経路は、フリズルド受容体の下流で2つの主な分岐:β-カテニンに依存するカノニカルWnt経路および非カノニカルWnt経路に細分することができる。後者は、平面細胞極性(PCP)経路およびWnt/Ca2+経路にさらに細分することができる。Wnt分子は、フリズルド受容体ファミリーに結合する分泌糖タンパク質である。Wntシグナル伝達は、カノニカルWntシグナル伝達の場合、フリズルド受容体の共受容体、例えば低密度リポタンパク質関連タンパク質5/6(LRP5/6)への結合によって開始される。次いで、シグナルは細胞質タンパク質Dishevelled(Dsh)に変換され、このレベルで経路が分岐する(Komiya&Habas,Organogenesis,4(2),68-75,2008)。カノニカルWnt経路の特徴は、LEF/TCFなどのDNA結合転写因子との結合を介して標的遺伝子の転写を活性化する、アドヘレンスジャンクション関連タンパク質β-カテニンの核内への蓄積およびトランスロケーションである(Clevers,Cell 127(3),469-480.2006;Reya&Clevers,Nature,434(7035),843-850,2005)。Wntシグナル伝達の非存在下では、β-カテニンはβ-カテニン破壊複合体によってリン酸化され、プロテアソームによる分解の標的となる。平面細胞極性は、上皮細胞の組織化および配向を調節することが示されている(Mlodzik,Trends in Genetics:TIG,18(11),564-571,2002)。この経路は転写とは独立しているようであるが、構造の組織化を達成するためにアクチン細胞骨格の直接的な調節を介して機能する。非カノニカル経路の第2の分岐は、Wnt/Ca2+と命名される。これはβ-カテニン誘導性転写とは無関係であり、ERからのGタンパク質媒介性細胞内Ca2+放出を特徴とする(Kohn&Moon,Cell Calcium,38(3-4),439-446,2005;Slusarski&Pelegri,Developmental Biology,307(1),1-13,2007)。
【0293】
RPE表現型の特徴付けに使用される化合物であるENDO-1-IWRは、β-カテニン破壊複合体のアキシンタンパク質を安定化することによって作用する。破壊複合体の安定化は、β-カテニン分解、したがってカノニカルWnt経路阻害を促進する。
【0294】
Wnt経路は、RPEの発生において役割を果たす。第1に、BMP阻害に伴うWnt経路阻害は、前側神経上皮(anterior neuroepithelium)からの眼領域の生成を可能にする。Dkk-1およびNoggin内因性発現(それぞれWnt/β-カテニンおよびBMP阻害剤)は、眼野の特異化(eye field specification)中にヒト胚性幹細胞においてアップレギュレートされた(Meyer et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,106(39),16698-16703,2009)。第2に、RPEの特定中に、カノニカルWntが活性化され、β-カテニンが核にトランスロケーションし、RPE特異的遺伝子MitfおよびOtx2のエンハンサー部位に直接結合して、それらの発現を誘導する。β-カテニンが欠失すると、RPEは、MitfおよびOtx2がダウンレギュレートされた多層組織に変換し、RPEの網膜への分化転換をもたらす(Westenskow et al.,Development,136(15),2505-2510,2009)。
【0295】
本明細書に開示されるデータに基づいて、カノニカルWnt経路は、RPE拘束段階から成熟RPE段階までの発生の後期段階でRPEにおいて役割をさらに果たす。この段階の間、ENDO-1-IWRによるカノニカルWnt阻害は、ヒト末梢RPE集団P3と一致するようにRPE細胞サイズを増加させ、指状の頂端突起を有するこれらの細胞を濃縮して網膜の桿体が支配的な領域を支持する。細胞サイズの勾配は、レチノイン酸とWnt阻害の組み合わせによって達成することができる。
【0296】
スクリーニングに使用される他のWnt阻害剤は、iPSC-RPE細胞面積の増加において同様の傾向を示し、末梢RPE細胞の生成におけるWnt阻害の役割をさらに裏付けている(図12)。この証拠は、他の市販のカノニカルWnt阻害剤を使用して、末梢iPSC-RPE(P3)を生成することができることを示す。表5は、これらの化合物の例示的なリストを提供する。
【表5-1】
【表5-2】
【0297】
RPE成熟期(培養日数の合計であるD40~D75)中のカノニカルWnt阻害は、RPE成熟を促進することができる(May-Simera et al.,Cell Reports 22(1),189-205,2018)。処理は、成熟培地での培養開始から15日後に開始することができる。ここに示されるデータとは対照的に、Wnt阻害は、RPE運命への細胞拘束中に開始され、RPE成熟の終了まで維持される(D25~D75)。RPE拘束の間、発生経路は依然として主要な役割を果たし、RPEの運命を変えることなく最終的なRPE表現型に影響を及ぼし得る。
【0298】
したがって、黄斑(P1)および末梢(P3)RPE細胞のヒトRPE集団をインビトロで再現した。使用した例示的な非限定的な濃度を表6に列挙する。
【表6】
【表7】
【0299】
この研究は、黄斑およびRPEの発生に関する洞察を提供し、網膜変性の現在のiPSCベースの疾患モデルを改善し、細胞治療製品または網膜の1またはそれを超える領域を開発するために使用することができる(図14)。
【0300】
実施例7
二層スキャフォールドの生成
この実施例は、本明細書で「ファジー」または「PLGA/PCL」スキャフォールドと呼ばれる二層スキャフォールドを調製するために使用される方法を記載する。そのようなスキャフォールドは、RPE細胞およびPRP細胞を播種するために使用することができる。いくつかの例では、生成されたスキャフォールドは、例えば眼への移植後20日~6ヶ月で生分解性である。
【0301】
二層スキャフォールドは、米国特許第10,480,031号に記載されている方法の改変を使用して調製した。手短に言えば、熱溶融電界紡糸ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)スキャフォールドを使用し、これは>56Cでの熱処理によって生成され、繊維の穏やかな融合を可能にし、細胞を上部で増殖させる。PLGAスキャフォールドは、高さが約20~30ミクロンであり、1ミクロン未満の平均孔径、1:1のDL-ラクチド/グリコリド比、および150~650nmの繊維径を有していた。
【0302】
PLGAスキャフォールドをベースとして使用して、PLGAスキャフォールドの表面にポリカプロラクトン(PCL)ループを付加した。電界紡糸中、PCLはPLGAスキャフォールドの表面に永久的に付着するようになる。PCLループを堆積させるために、電界紡糸プロセス中に噴出する前に、PCLを100℃(約70℃~約140℃の範囲を使用することができる)で30分間溶融し、電界紡糸プロセスでは、電界電圧は25kV(約5~約50kVの範囲を使用することができる)、ガス噴出圧力は300kPa、ノズルとPLGAスキャフォールドとの間の作業距離は27mm(約10mm~約40 mmの範囲を使用することができる)であり、電界紡糸時間は5分(約2分~約10分の範囲を使用することができる)であった。これらのパラメータは、PLGAスキャフォールド表面上にスポンジ状メッシュ構造を形成するランダムに堆積したループを生成した。PCL直径は、約5um~300umの範囲であった。ループはランダムなパターンで分布し、ループ形成繊維のランダムな厚さを有していた。ループ密度およびループの数は、複数のRPE細胞(10~1000個の細胞)が単層領域を形成するのに十分なギャップを提供するために実験的に決定することができる。PLGAスキャフォールド上に堆積したPCLループは、完全に閉じたまたは開いたループの混合物を含む。
【0303】
PLGA/PCLスキャフォールドを以下のように滅菌した。Plasma Etch PE50XLデバイスを使用して、スキャフォールド繊維の処理のための酸素プラズマ放出を生成し、スキャフォールドの表面を滅菌した。作業圧力は約140mtorrであり、酸素流量は約7cc/分であった。サイクルは、30分間の最大電圧(120V)である。
【0304】
滅菌したPLGA/PCLスキャフォールド(直径10mm、直径約10mm~約30mmであり得る)をCorning(登録商標)Costar(登録商標)Snapwell(商標)システムの表面に載せた。このシステムは、PLGA/PCLスキャフォールドのための構造およびプラットフォームを提供する。システムの微孔質膜は、スキャフォールドを支持するとともに細胞の極性化した層の別個の面を単離する頂端側および基底側を作り出す。Corning(登録商標)Costar(登録商標)Snapwell(商標)システムインサートが膜を剥離する能力により、インサートの支持リングをスキャフォールドのためのアンカーとして使用することが可能になる。しかしながら、支持リングと膜とを組み合わせた後、支持リングの底部リップと多孔質膜自体との間には小さな空隙が存在する。したがって、生体不活性Oリング(硬化シリコーンポリマー)を使用して空隙を充填した。支持リングは、膜の外縁の周りに均一に圧力を加えて、膜に対してスキャフォールドを保持することができる。このシリコーンリングは、細胞培養および培地交換中にスキャフォールドを確実に保持するために、Snapwell(商標)の非生分解性多孔質ポリカーボネート膜上の定位置にPLGA/PCLスキャフォールドを保持した。
【0305】
簡単に説明すると、ウェル上部をウェル底部から分離し、Corning(登録商標)Costar(登録商標)Snapwell(商標)システム膜の内部寸法に一致するようにプレカットしたPLGA/PCLスキャフォールドをCorning(登録商標)Costar(登録商標)Snapwell(商標)システム底部の中央に配置して、平らに置いた。Oリング(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、12mm×10.25mm×1.2mm、Superior Washer and Gasket Corp,US)をPLGA/PCLの上部に配置して、スキャフォールドを定位置に保持した(しかし、他のOリングを使用することもできる)。Oリングは、70%エタノール中で20分間処理することによって予め滅菌した。Corning(登録商標)Costar(登録商標)Snapwell(商標)システムの上部をOリングの上に置き、静かに所定の位置に押し込んだ。
【0306】
図15に示すように、得られた「ファジー」二層スキャフォールドは、PCLループのメッシュ状構造を含む。これらのループは、RPE細胞(例えば、実施例1~6に記載されるように本明細書中に提供される方法を使用して生成される末梢RPE細胞、黄斑RPE細胞および/または中心RPE細胞など)へのそれらの付着を安定化するためのPRP細胞のアンカーおよびスキャフォールドとして機能する。天然の生体系では、RPE細胞表面への光受容体付着が弱い。PCLループは、機械的取り扱い段階中(例えば、移植手順中)に、この付着を補強し維持するためのスキャフォールドを形成する。
【0307】
実施例8
二層スキャフォールドへのRPE細胞およびPRP細胞の付着
この実施例は、実施例7で生成されたPLGA/PCLスキャフォールドにRPE細胞およびPRP細胞を付着させるために使用される方法を記載する。
【0308】
簡潔には、RPE細胞およびPRP細胞を、以下のように実施例7で調製したスキャフォールド上に付着/播種した。中心RPE細胞(例えば、開示された方法を使用して生成される)を、スナップウェル培養システム(例えば、Corning(登録商標)Costar(登録商標)Snapwell(商標)システム)で組み立てたビトロネクチン(VTN)被覆PLGA/PCLスキャフォールド(VTN濃度:45.5ug/ml、12時間、約20~約95ug/mlを使用することができる)に播種した。本明細書で提供される方法を使用して生成された末梢RPE細胞および黄斑RPE細胞などの他のRPE細胞を使用することができる。純粋なRPE細胞、拘束RPE細胞および未成熟RPE細胞を350,000細胞/cmで播種し、3週間増殖させ、RPE-MM培地(標準的なRPE増殖培地)を2~3日ごとに交換した。その後、培養準備のできた凍結形態で到着したFUJIFILM Cellular Dynamics,Inc.のiPRPを用いてPRP細胞播種を行った。細胞を解凍および洗浄した後、iPRPを、培地改変なしのRPE-MMにおいて350万細胞/cm(0.5mL培地体積)でiRPEの上に播種した。使用前にさらに2週間、37℃、環境酸素、5% COで細胞を増殖させた。
【0309】
図16A~16Bに示すように、開示のPLGA/PCLスキャフォールドを使用して細胞を増殖させることができる。より小さい六角形の細胞は、スキャフォールドのすべての表面を覆うRPE単層である。より小さなパッチで増殖する、より大きく現れる細胞はPRP細胞である。ほとんどのPRP「パッチ」は、PCLループによって形成された「遮蔽」区画に位置する。
【0310】
実施例9
二層スキャフォールドの移植
この実施例は、実施例8で作製したRPE細胞およびPRP細胞を含むPLGA/PCLスキャフォールドを ブタの眼に移植するために用いた方法を説明する。簡潔には、播種したPLGA/PCLスキャフォールドを以下のようにブタの眼に外科的に移植した。ポビドンヨードによる手術領域の滅菌、側頭眼角切開(temporal canthotomy)、上直筋牽引および瞬膜収縮が、手術露出領域を増加させるために行われる。露出した強膜に対して鼻角膜周囲切開を行い、25 Gバルブトロカールカニューレ(Alcon surgical)を使用して縁から3.5mmに4つの手術ポート(注入、シャンデリア照明、および2つの作業ポート)を作成する。硝子体切除術および後部硝子体剥離の後、25G/38Gカニューレ(MedOne Surgical Inc.)を使用して、視覚的線条(レーザー領域)において限局性網膜剥離(RD)を行い、鋏網膜切開術をRDの基部で行う。移植ツールを収容するために、強膜切開(2.3mm~2.5mm)が鼻ポートの領域で行われる。RPE/PLGAスキャフォールドを装填したツールの先端部を網膜切開術を通して網膜下腔に導入し、硝子体切除システム(Alcon surgical)の粘性流体注入デバイスの助けを借りてiRPEスキャフォールドを放出させる。眼創傷クランプ(特注)を使用して、第2のPRP/PGSスキャフォールドが移植ツールに装填されるまで、強膜切開創を一時的に閉鎖する。次いで、PRP/PGSスキャフォールドを装填したツールの先端部を網膜切開術を通して網膜下腔に導入し、RPEスキャフォールドの上に堆積させることを目指してPRPスキャフォールドを解放する。眼創傷クランプは、強膜切開創を一時的に封止するために使用される。軟質先端25Gカニューレまたはブラシは、網膜下腔に重ね合わせるように両方のスキャフォールドを操作するために使用される。スキャフォールド位置が依然として変化しないことを確実にするために、術中OCTで監視しながら、剥離した領域を平らにするために流体空気交換が使用される。必要に応じて、流体-空気交換中にソフトチップまたはブラシカニューレを使用して小さな補正を行うことができる。強膜切開をナイロン8-0で閉じる。
【0311】
図17Aは、手術の1ヶ月後のインプラントのデジタルSLO画像を示す。図17Bに示すように、移植の1ヶ月後、OCT Bスキャンは、網膜構造のわずかな上昇によって残留スキャフォールドマトリックスが観察されるスキャフォールドの完全な組み込みを示す。炎症反応は認められない。網膜層は、スキャフォールド領域の上部で十分に顕著である。
【0312】
手術の2ヶ月後、網膜は正常な外観を有し、スキャフォールドは見えない。図18Aは、インプラントが配置された領域を示す眼組織の切開され固定された断片を示す。網膜は、目に見える炎症または瘢痕化のプロセスがなく、完全に健康である。図18Bに示すように、スキャフォールドが移植された領域では、網膜の積層が明らかであり(青色ドット)、周囲の領域と比較してより健康な網膜を示している。したがって、スキャフォールド領域の網膜の厚さはより規則的であり、はっきりと見える網膜層を有する。これらの層は、スキャフォールドが配置された領域にのみ存在する。これは、スキャフォールドの境界の両側で網膜変性がはっきりと見えるのとは対照的である。スキャフォールド領域におけるいくらかの網膜分離は、サンプル処理によって引き起こされ得る。図18Cは、より高倍率の画像を提供し、PRPおよび第2のRPE層を示す。この知見は、開示されたPLGA/PCLスキャフォールドが網膜組織に首尾よく組み込まれ、正常な網膜機能を維持することができることを実証している。
【0313】
実施例10
AGN 193109またはendo-IWR-1で処理した細胞の追加の特徴付け
DMSO(対象、キャリア)、endo-IWR-1およびAGN 193109が有害でないことを実証するために、DMSO(図20A)、endo-IWR-1(図20C)またはAGN 193109(図20E)で処理した後のiPSC-RPE色素沈着レベルを調べた。AGN 193109を0.2.μMで使用し、endo-IWR-1を4uMで使用した。両方の薬物をDMSOに溶解し、その結果、DMSOの最終濃度は0.1%以下であった。DMSO対照の最終濃度は0.1%であった。細胞が成熟するまで、化合物をRPE成熟培地に添加した。可能性のある異常を検出するために、肉眼的細胞形態も分析した(図20B図20D図20F、左画像)。透過型電子顕微鏡を用いて、微細な細胞内構造を変化について調べた(TEM、図20B図20D図20F、右画像)。これらの薬剤は、色素沈着レベルを変化させず、肉眼的または微細な細胞形態にも影響しなかった。
【0314】
経上皮電気抵抗(TER)は、単層の緊密さの尺度である。単層が密であるほど、単層中の細胞はより健康である。400オーム*cmのカットオフを使用して、低いTERを有する細胞を除外した。図21に示すように、AGN 193109処理細胞およびendo-IWR-1処理細胞の両方とも、この閾値を十分に上回った。resデータはボックスプロットとして表示され、ボックス限界は第1および第3四分位数を表し、中心線は中央値を示し、ひげは第5および第95パーセンタイルを示す。範囲は、データの90%を指定する。
【0315】
単一細胞RNAシーケンシングを行って、化合物が細胞トランスクリプトームを変化させたことを確認した。図22に示すように、黄斑および中位末梢iPSC-RPEは、DMSOとも互いとも機能的に異なる。
【0316】
バルクRNAシーケンシングを行い、特定の遺伝子の発現レベルを文献から入手可能なデータと比較した(図23)。データは、黄斑RPEでより発現される遺伝子の不完全であるが一貫した一致;反対の発現を有する遺伝子のセット;および末梢RPE細胞でより発現される遺伝子のほぼ完全な一致を実証している。
【0317】
iPSC-RPE細胞を、貪食するために精製ウシ外節(主に桿体光受容体)に提供した。外節を、外節が貪食されたときに蛍光を発する色素で標識した。RPE細胞を外節と共に4時間インキュベートし、次いで、フローサイトメトリーで分析して外節摂取を測定するか、または20時間インキュベーターに戻してから、フローサイトメトリーを行って外節消化を測定した。図24に示されるように、endo-iwr-1処理細胞は、より多くの外節を摂取し(末梢細胞)、通常は網膜の周辺部で優勢である桿体外節に対する可能な親和性を示す。一元配置ANOVAは差を示さなかった。
【0318】
酸性ホスファターゼは、黄斑においてより高い発現を有する(Boulton et al.,Br.J.Opthalm.78:125-9,doi:10.1136/bjo.78.2.125,1994)。この酵素は、光受容体外節の消化において重要な役割を果たす。酸性ホスファターゼ活性を、DMSO、AGN 193109またはendo-IWR-1で処理した細胞において決定した。RPE細胞を蒸留水に溶解して酵素を抽出した。次いで、溶解物を、酸性ホスファターゼによって脱リン酸化されると黄色になるホスファターゼ基質であるp-ニトロフェニルホスフェートと共にインキュベートした。溶液の色を分光光度計で測定し、酵素活性を推定した。図25に示すように、AGN 193109処理細胞(黄斑iPSC-RPE)は、DMSOまたはendo-IWR-1処理細胞よりも高い酸性ホスファターゼ活性を有していた。
【0319】
末梢(P)-RPEは、黄斑(M)-RPEと比較して、より高いミトコンドリア酸化的リン酸化(OXPHOS)を有する。2つのタイプのRPE細胞(M-RPEおよびP-RPE)における代謝プロセスを、Seahorse技術を用いて測定した。Seahorseシステムは、それぞれミトコンドリア呼吸および解糖の指標である、生細胞の酸素消費速度および細胞外酸性化速度を測定する。図26に示すように、2つの異なる炭素源(プロリンおよびコハク酸)の下で、P-RPEは、より高い解糖速度を示したM-RPEと比較して、OXPHOSを行う能力が高かった。
【0320】
本発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮して、例示された実施形態は本発明の例にすぎず、本発明の範囲に対する限定とみなされるべきではないことを認識されたい。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。したがって、本発明者らは、これらの特許請求の範囲および精神の範囲内に入るすべてを本発明者らの発明として主張する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A-17B】
図18A
図18B
図18C
図19A
図19B
図20A
図20B
図20C
図20D
図20E
図20F
図21
図22
図23
図24
図25
図26
【国際調査報告】