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特表2024-520461EGFR及び/又はHER2に異常を有するがんを有する対象の治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】EGFR及び/又はHER2に異常を有するがんを有する対象の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20240517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00
A61P11/00
A61P15/00
A61P1/00
A61P13/10
A61P1/16
A61P25/00
A61P35/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572957
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 US2022030500
(87)【国際公開番号】W WO2022251095
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/192,351
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】小口 憩
(72)【発明者】
【氏名】クレマー、ジル
(72)【発明者】
【氏名】ベンハドジ、カリム
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZB26
(57)【要約】
EGFR及び/又はHER2に異常を有するがんを有する対象を治療する方法であって、対象に、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が投与される、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFR及び/又はHER2に少なくとも1つの異常を有するがんを有する対象を治療する方法であって、
前記対象に、有効量の7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記がんが、固形腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記がんが、肺がん、乳がん、胃がん、膀胱がん、及び胆道がんからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記がんが、前記対象の脳に転移している、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記がんが、EGFR増幅/過剰発現及び/又はHER2増幅/過剰発現を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記がんが、EGFR変異及び/又はHER2変異を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記がんが、EGFRエクソン20挿入変異及び/又はHER2エクソン20挿入変異を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記がんが、EGFRエクソン20挿入変異を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記がんが、HER2エクソン20挿入変異を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記がんが、前記対象の脳に転移している、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記がんが、非小細胞肺がんである、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記がんが、EGFR増幅及び/又はEGFRvIII変異を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記がんが、神経膠芽腫である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
EGFR及び/又はHER2に少なくとも1つの異常を有する前記がんが、NRG1に異常を有するがんである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
NRG1に異常を有する前記がんが、NRG1融合物を有するNRG1融合物駆動がんである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
NRG1に異常を有する前記がんが、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、卵巣がん、及び胃がんからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記NRG1融合物駆動がんが、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、及び卵巣がんからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記がんが、切除不能である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記がんが、再発性又は難治性のがんである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記がんが、再発性又は難治性のHER2陽性がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記再発性又は難治性のHER2陽性がんを有する前記対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、HER2阻害剤による治療レジメンを以前に受けている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記再発性又は難治性(refractory)のHER2陽性がんが、前記HER2阻害剤による前記治療レジメンに対して耐性又は難治性(intractability)を獲得している、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記HER2阻害剤が、HER2チロシンキナーゼ阻害剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記HER2チロシンキナーゼ阻害剤が、アファチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、及びツカチニブからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記HER2阻害剤が、抗HER2抗体又はその薬物コンジュゲートである、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記抗HER2抗体又はその薬物コンジュゲートが、トラスツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン、ペルツズマブ、マルゲツキシマブ、及びトラスツズマブ・デルクステカンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記再発性又は難治性のHER2陽性がんを有する前記対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、少なくとも2つの異なるHER2阻害剤による少なくとも2つの治療レジメンを以前に受けている、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記再発性又は難治性のHER2陽性がんが、再発性若しくは難治性のHER2陽性乳がん、又は再発性若しくは難治性のHER2陽性胃がんである、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、EGFR及び/又はHER2に前記異常を有すると判定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に1日1回(QD)投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に1日2回(BID)投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
1日当たり約5~約480mgの7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
1日当たり約15~約240mgの7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、少なくとも28日間、前記対象に毎日投与される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月24日に出願された米国出願第63/192,351号に基づき、その優先権の利益を主張する。この出願の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
技術分野
本発明は、EGFR及び/又はHER2に異常を有するがんを治療する方法に関する。
【0003】
関連技術の説明
赤芽球症発がん遺伝子B(ErbB)受容体ファミリーには、4つの受容体チロシンキナーゼ:EGFR/HER1/ErbB1、HER2/ErbB2、HER3/ErbB3、及びHER4/ErbB4が含まれる。これらの4つの受容体は、ホモ二量体化、ヘテロ二量体化、及び場合によっては高次オリゴマーを介して活性化され、受容体の細胞質ドメイン内のチロシン残基の自己リン酸化をもたらし、それによって、Ras及びホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)を含む様々なシグナル伝達経路を活性化する。ErbB4を除いて、ErbB受容体の異常な活性化は、発がんに寄与する。特に、EGFR及び/又はHER2における異常は、多くのがんタイプにおいて見出されており、したがって、多くの研究が、これらの受容体のキナーゼ活性を調節することができる阻害剤を特定することに焦点を当ててきた。しかしながら、ErbB受容体ファミリー内に特定のタイプの異常を有するがんは、治療が難しいことが証明されており、これらのがんタイプを有する患者には、治療選択肢がないか又は限られている。
【0004】
HER2エクソン20挿入変異は、NSCLCの約4%を占める非小肺がん(NSCLC)患者に見られる発がん性変化である。しかしながら、承認されたHER2チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)(アファチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブ)は、それらの患者に対して限られた有効性を有する。Robichaux JP, Elamin YY, Tan Z, Carter BW, Zhang S, Liu S, et al. Mechanisms and clinical activity of an EGFR and HER2 exon 20-selective kinase inhibitor in non-small cell lung cancer. Nat Med. 2018 May;24(5):638-646を参照されたい。加えて、全てのNSCLC EGFR変異の約4~13%を占めるEGFRエクソン20挿入変異もまた、一般的に、例えば、以下のEGFR-TKI単剤療法に対する感受性が低い:(i)アファチニブ(Yasuda H, Park E, Yun CH, Sng NJ, Lucena-Araujo AR, Yeo WL, et al. Structural, biochemical, and clinical characterization of epidermal growth factor receptor (EGFR) exon 20 insertion mutations in lung cancer. Sci Transl Med. 2013 Dec;5(216):216ra177;Yang JC, Sequist LV, Geater SL, Tsai CM, Mok TS, Schuler M, et al. Clinical activity of afatinib in patients with advanced non-small-cell lung cancer harbouring uncommon EGFR mutations: a combined post-hoc analysis of LUX-Lung 2, LUX-Lung 3, and LUX-Lung 6. Lancet Oncol. 2015 Jul;16(7):830-8)、(ii)ゲフィチニブ(Wu JY, Wu SG, Yang CH, Gow CH, Chang YL, Yu CJ, et al. Lung cancer with epidermal growth factor receptor exon 20 mutations is associated with poor gefitinib treatment response. Clin Cancer Res. 2008 Aug;14(15):4877-82;Yasuda H, Park E, Yun CH, Sng NJ, Lucena-Araujo AR, Yeo WL, et al. Structural, biochemical, and clinical characterization of epidermal growth factor receptor (EGFR) exon 20 insertion mutations in lung cancer. Sci Transl Med. 2013 Dec;5(216):216ra177)、(iii)エルロチニブ(Yasuda H, Park E, Yun CH, Sng NJ, Lucena-Araujo AR, Yeo WL, et al. Structural, biochemical, and clinical characterization of epidermal growth factor receptor (EGFR) exon 20 insertion mutations in lung cancer. Sci Transl Med. 2013 Dec;5(216):216ra177;Naidoo J., Sima CS, Rodriguez K, Busby N, Nafa K, Ladanyi M, et al. Epidermal growth factor receptor exon 20 insertions in advanced lung adenocarcinomas: Clinical outcomes and response to erlotinib. Cancer 2015 Sep; 15;121(18):3212-3220)、(iv)ダコミチニブ(Robichaux JP, Elamin YY, Tan Z, Carter BW, Zhang S, Liu S, et al. Mechanisms and clinical activity of an EGFR and HER2 exon 20-selective kinase inhibitor in non-small cell lung cancer. Nat Med. 2018 May;24(5):638-646)。
【0005】
いくつかの報告はまた、NSCLCの約25~40%及び乳がんの約15~30%が脳転移を発症する可能性があることを示している。Witzel I, Oliveira-Ferrer L, Pantel K, Mueller V, Wikman H. Breast cancer brain metastases: biology and new clinical perspectives. Breast Cancer Res. 2016 Jan;18(1):8;Abdallah SM, Wong A. Brain metastases in non-small-cell lung cancer: are tyrosine kinase inhibitors and checkpoint inhibitors now viable options? Curr Oncol. 2018 Jun;25(Suppl 1): S103-S114を参照されたい。脳に転移する原発性腫瘍を有する患者は、多くの阻害剤が血液脳関門(BBB)を効率的に通過することができないか、又はP-糖タンパク質(P-gp)若しくはBBBで高レベルで発現されるATP結合カセットスーパーファミリーGメンバー2(ABCG2、乳がん抵抗性タンパク質、BCRPとしても知られている)などの排出トランスポーターの基質であるため、治療選択肢が更に限られてくる。実際、HER2/EGFRエクソン20挿入を有するNSCLCに対して承認された脳透過性TKIはない。
【0006】
更に、EGFR過剰発現は、しばしば遺伝子増幅の結果として、神経膠芽腫(GBM)などの様々なヒト腫瘍において見出されている。EGFR過剰発現は、しばしば様々な種類の変異と関連しており、最も一般的な変異の1つは、細胞外ドメイン変異、EGFRバリアントIII(EGFRvIII)である。Gan, HK, Cvrljevic, AN, and Johns, TG, The epidermal growth factor receptor variant III (EGFRvIII): where wild things are altered. FEBS J, 2013; 280: 5350-5370を参照されたい。この変異は、EGFR遺伝子のエクソン2~7の欠失をもたらし、変異型受容体を任意の既知のリガンドに結合できないようにする。これにもかかわらず、EGFRvIIIは、低レベルの構成的シグナル伝達を示し、これは、内在化及び下方調節の減少によって増強される。異常なEGFRvIIIシグナル伝達は、腫瘍の進行を促進する上で重要であることが示されており、多くの場合、予後不良と相関している。An Z, Aksoy O, Zheng T, Fan QW, Weiss WA. Epidermal growth factor receptor and EGFRvIII in glioblastoma: signaling pathways and targeted therapies. Oncogene. 2018 Mar;37(12):1561-1575を参照されたい。これまでのところ、EGFRの遺伝子変異によって引き起こされるGBMを標的とする承認された薬物はない。
【0007】
更に、特定の発がん性遺伝子融合物も含むEGFR陽性及び/又はHER2陽性腫瘍は、異常なErbB媒介経路の活性化をもたらし得る。その一例は、ニューレグリン-1遺伝子(NRG1)を含む融合物である。NRG1融合物は、細胞表面上のNRG1の上皮増殖因子(EGF)様ドメインの不規則な発現をもたらし、これは、ErbB3のリガンドとして機能し、かつヘテロ二量体(最も頻繁にはErbB2-ErbB3であるが、EGF受容体(EGFR;ErbB1)とErbB4の場合もある)の形成を誘導する。これは、ホスホイノシチド3-キナーゼ-プロテインキナーゼB(PI3K-Akt)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、及び他のシグナル伝達経路の病理学的活性化につながり、異常な細胞増殖をもたらす。構成的ErbB媒介経路の活性化の結果として、NRG1融合物駆動腫瘍を有する患者の治療は、依然として医療上のニーズが満たされていない。
【0008】
更に、再発性がん又は難治性のがんの治療は、とりわけ、乳がん、胃がん、及び卵巣がんなど、実質的に全てのがんタイプにわたって大きな課題である。EGFR陽性及び/又はHER2陽性の腫瘍を有するが、それにもかかわらず、承認されたEGFR/HER2阻害剤を使用した治療に応答しない患者又は再発した患者には、多くの場合残された治療選択肢がほとんどない。場合によっては、がんの難治性自体が、1つ以上の初期治療レジメン(例えば、EGFR/HER2阻害剤による治療)中に獲得される薬剤耐性によって誘導され、腫瘍浸潤、転移、及び不良な臨床転帰をもたらす。したがって、再発性又は難治性の形態のがんを有する患者、特に以前に療法を受けた患者において、新しい療法に対する実質的に満たされていない医療上のニーズが存在する。
【0009】
上記を考慮すると、EGFR及び/又はHER2に異常を有するがん、特にEGFR/HER2エクソン20挿入変異を有するがん、脳に転移した原発性腫瘍、EGFR異常を有する脳がん、発がん性遺伝子融合物による異常なErbB媒介経路の活性化から駆動されるがん、並びに再発性又は難治性のEGFR陽性及び/又はHER2陽性がんを有するがん患者における新しい治療方法のニーズが存在する。
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明の一態様は、EGFR及び/又はHER2に異常を有するがんを有する対象を治療する方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の態様は、転移したものを含む、EGFRエクソン20挿入変異及び/又はHER2エクソン20挿入変異を有するがんを有する対象を治療する方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の態様は、脳に転移したEGFRエクソン20挿入変異及び/又はHER2エクソン20挿入変異を有するがんを有する対象を治療する方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の態様は、EGFR増幅及び/又はEGFRvIII変異を有する脳がんを治療する方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の態様は、NRG1融合物などの発がん性遺伝子融合物又は異常なErbB媒介経路の活性化から誘導される他の遺伝子融合物を用いてがんを治療する方法を提供することである。
【0015】
本発明の更に別の態様は、再発性又は難治性のHER2陽性がんを治療する方法を提供することである。
【0016】
以下の詳細な説明の中で明らかになるであろうこれらの態様及び他の態様は、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩、脳透過性汎ErbB阻害剤が、上に列挙したものなどのEGFR及び/又はHER2異常を有するがんの治療に有効であり、それに使用することができるという、本発明者らの発見によって達成された。本発明は、以下の態様を有する:
【0017】
(1)EGFR及び/又はHER2に少なくとも1つの異常を有するがんを有する対象を治療する方法であって、当該対象に、有効量の7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。以下の式を有するこの化合物は、化合物(1)と称される。
【0018】
【化1】
【0019】
(2)当該がんが、固形腫瘍である、(1)に記載の方法。
【0020】
(3)当該がんが、肺がん、乳がん、胃がん、膀胱がん、及び胆道がんからなる群から選択される少なくとも1つである、(1)又は(2)に記載の方法。
【0021】
(4)当該がんが、当該対象の脳に転移している、(1)~(3)のいずれか一項に記載の方法。
【0022】
(5)当該がんが、EGFR増幅/過剰発現及び/又はHER2増幅/過剰発現を有する、(1)~(4)のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
(6)当該がんが、EGFR変異及び/又はHER2変異を有する、(1)~(5)のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
(7)当該がんが、EGFRエクソン20挿入変異及び/又はHER2エクソン20挿入変異を有する、(1)~(6)のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
(8)当該がんが、EGFRエクソン20挿入変異を有する、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
(9)当該がんが、HER2エクソン20挿入変異を有する、(1)~(8)のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
(10)当該がんが、当該対象の脳に転移している、(7)~(9)のいずれか一項に記載の方法。
【0028】
(11)当該がんが、非小細胞肺がんである、(1)~(10)のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
(12)当該がんが、EGFR増幅及び/又はEGFRvIII変異を有する、(1)に記載の方法。
【0030】
(13)当該がんが、膠芽腫である、(12)に記載の方法。
【0031】
(14)EGFR及び/又はHER2に異常を有する当該がんが、NRG1に異常を有するがんである、(1)に記載の方法。
【0032】
(15)NRG1に異常を有する当該がんが、NRG1融合物を有するNRG1融合物駆動がんである、(14)に記載の方法。
【0033】
(16)NRG1に異常を有する当該がんが、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、卵巣がん、及び胃がんからなる群から選択される少なくとも1つである、(14)に記載の方法。
【0034】
(17)当該NRG1融合物駆動がんが、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、及び卵巣がんからなる群から選択される少なくとも1つである、(15)に記載の方法。
【0035】
(18)当該がんが、切除不能である、(1)~(17)のいずれか一項に記載の方法。
【0036】
(19)当該がんが、再発性又は難治性がんである、(1)~(18)のいずれかに記載の方法。
【0037】
(20)当該がんが、再発性又は難治性のHER2陽性がんである、(1)~(19)のいずれか一項に記載の方法。
【0038】
(21)当該再発性又は難治性のHER2陽性がんを有する当該対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、HER2阻害剤による治療レジメンを事前に受けている、(20)に記載の方法。
【0039】
(22)当該再発性又は難治性(refractory)のHER2陽性がんが、当該HER2阻害剤による当該治療レジメンに対して耐性又は難治性(intractability)を獲得している、(21)に記載の方法。
【0040】
(23)当該HER2阻害剤が、HER2チロシンキナーゼ阻害剤である、(21)又は(22)に記載の方法。
【0041】
(24)当該HER2チロシンキナーゼ阻害剤が、アファチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、及びツカチニブからなる群から選択される少なくとも1つである、(23)に記載の方法。
【0042】
(25)当該HER2阻害剤が、抗HER2抗体又はその薬物コンジュゲートである、(21)又は(22)に記載の方法。
【0043】
(26)当該抗HER2抗体又はその薬物コンジュゲートが、トラスツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン、ペルツズマブ、マルゲツキシマブ、及びトラスツズマブ・デルクステカンからなる群から選択される少なくとも1つである、(25)に記載の方法。
【0044】
(27)当該再発性又は難治性のHER2陽性がんを有する当該対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、少なくとも2つの異なるHER2阻害剤による少なくとも2つの治療レジメンを以前に受けている、(20)~(26)のいずれか一項に記載の方法。
【0045】
(28)当該再発性又は難治性のHER2陽性がんが、再発性若しくは難治性のHER2陽性の乳がん、又は再発性若しくは難治性のHER2陽性の胃がんである、(20)~(27)のいずれか一項に記載の方法。
【0046】
(29)当該対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、EGFR及び/又はHER2に当該異常を有すると判定されている、(1)~(28)のいずれか一項に記載の方法。
【0047】
(30)当該7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、当該対象に経口投与される、(1)~(29)のいずれか一項に記載の方法。
【0048】
(31)当該7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、当該対象に1日1回(QD)投与される、(1)~(30)のいずれか一項に記載の方法。
【0049】
(32)当該7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、当該対象に1日2回(BID)投与される、(1)~(30)のいずれか一項に記載の方法。
【0050】
(33)1日当たり約5~約480mgの7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、当該対象に投与される、(1)~(32)のいずれか一項に記載の方法。
【0051】
(34)1日当たり約15~約240mgの7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、当該対象に投与される、(1)~(333)のいずれか一項に記載の方法。
【0052】
(35)当該7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、少なくとも28日間、当該対象に毎日投与される、(1)~(34)のいずれか一項に記載の方法。
【0053】
(36)EGFR及び/又はHER2に異常を有するがんを有する対象を治療するための抗腫瘍剤であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を含む、抗腫瘍剤。
【0054】
(37)EGFR及び/又はHER2に異常を有するがんを有する対象の治療における、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩の使用。
【0055】
先の段落は、一般的な序論のつもりで提供されたものであって、以下の特許請求の範囲を限定することを意図しない。記載される実施形態は、更なる利点とともに、添付の図面と併せて考慮された場合、以下の詳細な説明を参照することによって最も良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】腫瘍体積(TV)の関数としての、NCI-N87ヒト胃がん異種移植片腫瘍(HER2増幅/過剰発現)を有するヌードマウスにおける化合物(1)又はポジオチニブの抗腫瘍効果を示す。結果は、平均値±標準誤差(SE)(n=6匹の動物/群)として示されている。
図2】腫瘍体積(TV)の関数として、MCF10A_HER2/insYVMA_vヒト乳腺上皮異種移植片(HER2エクソン20挿入変異A775_G776insYVMAを発現するように操作されたヒト乳腺上皮細胞株)を有するヌードマウスにおける化合物(1)又はポジオチニブの抗腫瘍効果を示す。結果は、平均値±標準誤差(SE)(n=6匹の動物/群)として示されている。
図3】頭蓋内NCI-N87-luc(HER2過剰発現NCI-N87ヒト胃がん細胞株を使用してルシフェラーゼ遺伝子を安定して発現するように操作された)を有するヌードマウスにおける、総流量(total flux)(光子/秒;p/s)の関数としての、化合物(1)又はポジオチニブの抗腫瘍効果を示す図である。結果は、平均値±標準誤差(SE)(n=8匹の動物/群)として示されている。
図4A】雄のヌードマウスへの単回経口投与後の、線形スケールにおける化合物(1)の血漿中濃度-時間プロファイルを示す。データは、平均値±SD(N=3/群)として示されている。
図4B】雄のヌードマウスへの単回経口投与後の、片対数スケール(図4B)における化合物の血漿中濃度-時間プロファイルを示す。データは、平均値±SD(N=3/群)として示されている。
図5A】雄ヌードマウスに7日間複数回経口投与後の、線形スケールにおける化合物(1)の血漿中濃度-時間プロファイルを示す。データは、平均値±SD(N=3/群)として示されている。
図5B】雄ヌードマウスに7日間複数回経口投与後の、片対数スケールにおける化合物(1)の血漿中濃度-時間プロファイルを示す。データは、平均値±SD(N=3/群)として示されている。
図6A】NCI-N87ヒト胃がん(HER2過剰発現)(100μLのPBS/マウス中1.0×10細胞、皮下)を移植したBALB/cAJcl-mu/mu雄マウスが、腫瘍体積(TV)(*Dunnet検定:p<0.001)の関数としての、トラスツズマブ(T-mab)及びペルツズマブ(P-mab)の組み合わせによる処置から再発した後の、難治性モデルにおける化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を示す。
図6B】NCI-N87ヒト胃がん(HER2過剰発現)(100μLのPBS/マウス中1.0×10細胞、皮下)を移植したBALB/cAJcl-mu/mu雄マウスが、体重変化(BWC)の関数としての、トラスツズマブ(T-mab)及びペルツズマブ(P-mab)の組み合わせによる処置から再発した後の、難治性モデルにおける化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を示す。
図7A】NCI-N87ヒト胃がん(HER2過剰発現)(100μLのPBS/マウス中1.0×10細胞、皮下)を移植したBALB/cAJcl-mu/mu雄マウスが、腫瘍体積(TV)の関数としての、10mg/kg/日の投与量で3週間に1回静脈内トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)による処置から再発した後の、難治性モデルにおける化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を示す。
図7B】NCI-N87ヒト胃がん(HER2過剰発現)(100μLのPBS/マウス中1.0×10細胞、皮下)を移植したBALB/cAJcl-mu/mu雄マウスが、体重変化(BWC)の関数としての、10mg/kg/日の投与量で3週間に1回静脈内トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)による処置から再発した後の、難治性モデルにおける化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を示す。
図8A】BALB/cAJcl-mu/mu雄マウスが、腫瘍体積(TV)(Dunnet検定:*p<0.05、***p<0.001、n.s.有意差なし)の関数としての、腫瘍断片とともに2回継代した難治性腫瘍モデルにおける、ラパチニブ及びツカチニブと比較した、化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を示す。腫瘍断片は、3週間に1回、10mg/kg/日の用量で126日間、静脈内T-DM1への連続曝露によるトラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)に対して耐性を獲得したNCI-N87ヒト胃がん(HER2過剰発現)として得られる。
図8B】BALB/cAJcl-mu/mu雄マウスが、体重変化(BWC)の関数としての、腫瘍断片とともに2回継代した難治性腫瘍モデルにおける、ラパチニブ及びツカチニブと比較した、化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を示す。腫瘍断片は、3週間に1回、10mg/kg/日の用量で126日間、静脈内T-DM1への連続曝露によるトラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)に対して耐性を獲得したNCI-N87ヒト胃がん(HER2過剰発現)として得られる。
図9A】T-DM1難治性腫瘍モデルにおける、腫瘍体積(TV)(Dunnet検定:***p<0.001、n.s.有意差なし)の関数としての、トラスツズマブ・デルクステカン(DS-8201a)と比較した、化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を示す。T-DM1難治性腫瘍モデルでは、3週間に1回、10mg/kg/日の用量で126日間、静脈内T-DM1への連続曝露によるトラスツズマブエムタンシン(T-DM1)に対して耐性を獲得したNCI-N87ヒト胃がん(HER2過剰発現)の腫瘍断片に由来するモノクローナル細胞株を、BALB/cAJcl-mu/mu雄マウス(100μLのPBS中8.0x10細胞/マウス、皮下)に移植した。
図9B】T-DM1難治性腫瘍モデルにおける、体重変化(BWC)の関数としての、トラスツズマブ・デルクステカン(DS-8201a)と比較した、化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を示す。T-DM1難治性腫瘍モデルでは、3週間に1回、10mg/kg/日の用量で126日間、静脈内T-DM1への連続曝露によるトラスツズマブエムタンシン(T-DM1)に対して耐性を獲得したNCI-N87ヒト胃がん(HER2過剰発現)の腫瘍断片に由来するモノクローナル細胞株を、BALB/cAJcl-mu/mu雄マウス(100μLのPBS中8.0x10細胞/マウス、皮下)に移植した。
図10】MDA-MB-175VII細胞(DOC4-NRG1融合タンパク質を発現するヒト乳管がん)に対する化合物(1)の増殖阻害効果を示す。結果は、3~4回の独立した実験からの平均値±標準誤差(SE)として示されている。
図11A】頭蓋内NCI-N87-luc(HER2過剰発現NCI-N87ヒト胃がん細胞株を使用してルシフェラーゼ遺伝子を安定的に発現するように設計された)を有するヌードマウスにおける、3つの投薬スケジュール((i)QD、(ii)断続的、及び(iii)4日間オン/3日間オフ)を有する化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を、総流量(光子/秒;p/s)の関数として示す。結果は、平均値±標準誤差(SE)(n=7匹の動物/群)として示されている。
図11B】頭蓋内NCI-N87-luc(HER2過剰発現NCI-N87ヒト胃がん細胞株を使用してルシフェラーゼ遺伝子を安定的に発現するように設計された)を有するヌードマウスにおける、3つの投薬スケジュール((i)QD、(ii)断続的、及び(iii)4日間オン/3日間オフ)を有する化合物(1)による処置による抗腫瘍効果及び体重変化を、総流量(光子/秒;p/s)の関数として示す。結果は、平均値±標準誤差(SE)(n=7匹の動物/群)として示されている。
【発明を実施するための形態】
【0057】
好ましい態様の詳細な説明
化合物(1)は、EGFR/HER2陽性細胞株に対して活性な、新規の選択的で強力な経口利用可能な脳透過性汎鳥類(ErbB)阻害剤である。化合物(1)は、US2021/0024530、日本国特許出願第2020-121520号、日本国特許出願第2020-121525号、及び日本国特許出願第2020-121733号に記載されている(その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0058】
化合物(1)は、直接又は薬学的に許容される塩の形態で使用することができる。「薬学的に許容される」という語句は、本明細書では、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、又はその他の問題若しくは合併症を引き起こすことなく、ヒトの組織と接触して使用するのに適しており、かつ合理的なベネフィット/リスク比に見合った化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指すために使用される。化合物(1)の薬学的に許容される塩は、特に限定されず、その例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸との付加塩;酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸などの有機酸;カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;及び、アンモニウム塩、エチルアミン塩、アルギン酸塩などの有機塩基との塩が挙げられる。薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、一般に、水中若しくは有機溶媒(例えば、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリル)中で又はそれら2つの混合物中で、化合物(1)を化学量論的又は準化学量論量的(例えば、0.5当量)な量の適切な塩基又は酸と反応させることによって合成することができる。
【0059】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、「溶媒和物」の形態であってもよく、これは、参照化合物と1種以上の溶媒分子(有機又は無機を問わず)との物理的会合を指す。この物理的会合には、水素結合が含まれる。ある特定の例では、例えば1種以上の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子に組み込まれている場合、溶媒和物は単離可能である。溶媒和物中の溶媒分子は、規則的な配列及び/又は非規則的な配列で存在し得る。溶媒和物は、化学量論的又は非化学量論的な量の溶媒分子を含んでもよい。溶媒和物は、溶液相及び単離可能な溶媒和物の両方を包含する。溶媒和物を形成し得る例示的な溶媒分子としては、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、酢酸エチル、グリセリン、アセトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
化合物(1)は、1当量のフマル酸との結晶形態II型(モノフマル酸塩)で存在することができ、5.5゜、6.8゜、9.3゜、13.4゜、15.3゜、16.3゜、18.5゜、19.8゜、22.0゜、及び24.5゜から選択される回折角(2θ±0.2゜)で少なくとも3つの特徴的なピークを含む粉末X線回折スペクトルを示す。化合物(1)は、結晶形態II型(遊離形態)で存在することができ、8.3゜、14.8゜、17.3゜、18.0゜、19.1゜、20.3゜、21.0゜、22.5゜、23.0゜、及び26.2゜から選択される回折角(2θ±0.2゜)で少なくとも3つの特徴的なピークを含む粉末X線回折スペクトルを示す。化合物(1)は、結晶形態I型(遊離形態)で存在することができ、9.9゜、11.7゜、13.2゜、18.8゜、及び20.8゜から選択される回折角(2θ±0.2゜)で少なくとも3つの特徴的なピークを含む粉末X線回折スペクトルを示す。化合物(1)は、フマル酸との結晶形態V型で存在することができ、6.9゜、13.7゜、21.1゜、23.6゜、及び26.5゜から選択される回折角(2θ±0.2゜)で少なくとも3つの特徴的なピークを含む粉末X線回折スペクトルを示す。化合物(1)は、1当量のフマル酸との結晶形態I型で存在することができ、6.4゜、10.3゜、12.8゜、20.7゜、23.4゜、及び26.6゜から選択される回折角(2θ±0.2゜)で少なくとも3つの特徴的なピークを含む粉末X線回折スペクトルを示す。化合物(1)のモノフマル酸塩II型結晶形態が特に好ましい。これらの基準のいずれかを満たす結晶は、良好な安定性、優れた経口吸収性、高い化学純度を示し、非吸湿性であり、かつ大量生産に好適である。化合物(1)を合成するために使用することができる例示的な方法及び化合物(1)の様々な結晶形態を調製するために使用することができるそれらの方法は、以下の実施例セクション及び日本国特許出願第2020-121520号(その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0061】
本開示におけるがんの「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、又は「治療(treatment)」という用語は、状態、疾患、障害などの改善、又はそれらの症状の改善をもたらすあらゆる効果、例えば軽減、減少、調節、安定化、改善又は排除を含む。具体的には、これらの用語は以下を指すことができる。(1)がん細胞の安定化、減少(例えば、投与前と比較して、がん細胞集団及び/又は腫瘍サイズの減少が10%、20%、30%、40%、50%を超え、好ましくは60%を超える)、又は排除、(2)がん性細胞分裂及び/又はがん性細胞増殖を阻害すること、(3)調節されていない細胞分裂又は異常な細胞分裂に関連する、又はそれによって部分的に引き起こされる病理に関連する1つ以上の症状をある程度緩和する(又は、好ましくは排除する)こと、(4)無病、無再発、無増悪、及び/又は全生存期間、期間、又は率の増加、(5)入院率の減少、(6)入院期間の短縮、(7)原発性がん、局所がん及び/又は転移性がんの根絶、除去、又は制御、(8)腫瘍又は新生物の増殖の安定化又は減少(例えば、初期増殖速度に対して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、好ましくは少なくとも80%減少)、(9)腫瘍形成の障害、(10)死亡率の減少、(11)奏効率、奏効の持続性、又は奏効例数若しくは寛解例数の増加、(12)腫瘍のサイズが維持され、増加しないか、又は増加が10%未満、好ましくは5%未満、好ましくは4%未満、好ましくは2%未満、(13)手術(例えば、結腸切除術、乳房切除術)の必要性の減少、及び/又は(14)がん細胞の転移の予防又は軽減。
【0062】
本明細書で治療することができるがんは、EGFR陽性及び/又はHER2陽性がんである。「EGFR陽性」とは、EGFRタンパク質及び/又はEGFR遺伝子が検出される/検出可能であるがんを意味する。同様に、「HER2陽性」は、HER2タンパク質及び/又はHER2遺伝子が検出される/検出可能であるがんを意味する。EGFRタンパク質/遺伝子及び/又はHER2タンパク質/遺伝子は、野生型として又は変化した形態(例えば、変異)で検出され得る/検出可能であり得る。
【0063】
治療することができるがんの種類の例としては、腺腫瘍、カルチノイド腫瘍、未分化がん、血管肉腫、腺がん、胃腸がん(例えば、結腸がん及び直腸がんを含む大腸がん(「CRC」)、胆嚢がん及び胆道がん(胆管がん)を含む胆道がん、肛門がん、食道がん、胃がん(gastric cancer)(胃がん(stomach cancer))、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(「GIST」)、肝がん、十二指腸がん及び小腸がん)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(「NSCLC」)、扁平上皮肺がん、大細胞肺がん、小細胞肺がん、浸潤性粘液性腺がん、中皮腫及び気管支腫瘍及び他の肺がん(例えば、胸膜肺芽腫))、泌尿器がん(例えば、腎臓がん(kidney cancer)(腎臓がん(renal cancer))、腎臓の移行上皮がん(「TCC」)、腎盂及び尿管のTCC(「PDQ」)、膀胱がん、尿道がん及び前立腺がん)、頭頸部がん(例えば、眼がん、網膜芽腫、眼内黒色腫、下咽頭がん、咽頭がん、喉頭がん、喉頭乳頭腫、原発不明の転移性扁平上皮頸部がん、副鼻腔扁平上皮がん(SNSCC)、口腔がん(oral cancer)(口腔がん(mouth cancer))、口唇がん、咽頭がん、中咽頭がん、感覚神経芽腫、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、及び唾液腺がん)、内分泌がん(例えば、甲状腺がん、副甲状腺がん、多発性内分泌腫瘍症候群、胸腺腫及び胸腺がん、膵臓がん(膵管腺がん(「PDAC」)、膵神経内分泌腫瘍及び膵島細胞腫瘍を含む)、乳がん(上皮内肝外腺管がん(「DCIS」)、上皮内小葉がん(「LCIS」)、トリプルネガティブ乳がん、及び炎症性乳がん)、男性及び女性生殖器がん(例えば、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、子宮肉腫、子宮がん、膣がん、外陰がん、妊娠性絨毛性腫瘍(「GTD」)、性腺外胚細胞腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、胚細胞腫瘍、精巣がん及び陰茎がん)、脳及び神経系がん(例えば、星状細胞腫、脳幹神経膠腫、脳腫瘍、神経膠芽腫(GBM)、頭蓋咽頭管腫、中枢神経系(「CNS」)がん、脊索腫、上衣腫、胎児性腫瘍、神経芽腫、傍神経節腫、非定型奇形腫、乏突起膠腫、乏突起星状細胞腫、乏突起神経膠腫、未分化乏突起星状細胞腫、神経節膠腫、中枢神経細胞腫、髄芽腫、胚細胞腫、髄膜腫、神経鞘腫、GH分泌性下垂体腺腫、PRL分泌性下垂体腺腫、ACTH分泌性下垂体腺腫、非機能性下垂体腺腫、血液芽細胞腫、及び類表皮腫瘍)、皮膚がん(例えば、基底細胞がん(「BCC」)、扁平上皮皮膚がん(「SCC」)、メルケル細胞がん及び黒色腫)、組織及び骨がん(例えば、軟部組織肉腫、横紋筋肉腫、骨の線維性組織球腫、ユーイング肉腫、骨の悪性線維性組織球腫(「MFH」)、骨肉腫及び軟骨肉腫)、心血管がん(例えば、心臓がん及び心臓腫瘍)、虫垂がん、小児及び青年期がん(例えば、小児副腎皮質がん、正中管がん、肝細胞がん(「HCC」)、肝芽細胞腫及びウィルムス腫瘍)、並びにウイルス誘発がん(例えば、HHV-8関連がん(カポジ肉腫)及びHIV/AIDS関連がん)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
治療に好適ながんとしては、多発性骨髄腫、白血病及びリンパ腫、骨髄異形成症候群及び骨髄増殖性障害などの血液及び形質細胞悪性腫瘍(例えば、血液、骨髄、並びに/又はリンパ節に影響を及ぼすがん)も挙げられるが、これらに限定されない。白血病としては、急性リンパ芽球性白血病(「ALL」)、急性骨髄性(骨髄性)白血病(「AML」)、慢性リンパ球性白血病(「CLL」)、慢性骨髄性白血病(「CML」)、急性単球性白血病(「AMoL」)、有毛細胞性白血病、及び/又は他の白血病が挙げられるが、これらに限定されない。リンパ腫としては、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫(「NHL」)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、NHLは、B細胞リンパ腫及び/又はT細胞リンパ腫である。いくつかの実施形態では、NHLとしては、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(「DLBCL」)、小リンパ球性リンパ腫(「SLL」)、慢性リンパ球性白血病(「CLL」)、マントル細胞リンパ腫(「MCL」)、バーキットリンパ腫、菌状息肉症及びセザリー症候群を含む皮膚T細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫、濾胞性リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫(ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(「WM」))、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、中枢神経系悪性リンパ腫、並びに/又は他のリンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩形態はまた、高い脳透過性を有する。したがって、治療することができるがんには、転移性脳腫瘍、例えば、脳に転移した肺がん、乳がん、胃がん(gastric cancer)(胃がん(stomach cancer))、膀胱がん、又は胆道がん(胆嚢がん及び胆管がんを含む)などの上記がんタイプのいずれかの脳転移も含まれる。
【0066】
本開示の治療方法は、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(「NSCLC」)、浸潤性粘液性腺がんなど)、乳がん(例えば、上皮内肝外腺管がん(「DCIS」)、上皮内小葉がん(「LCIS」)など)、胃がん、膀胱がん、胆道がん、脳がん(例えば、膠芽腫)、大腸がん、膵臓がん、及び卵巣がん、並びに脳に転移した上記のいずれかの固形がんの治療に特に有用である。
【0067】
本明細書に開示される方法はまた、EGFR及び/又はHER2に異常を有する悪性腫瘍に対する腫瘍横断的治療として使用することができる。例えば、EGFR及び/又はHER2の異常は、異常なリガンド結合(例えば、NRG1融合物駆動腫瘍)に起因する、構成的なErbB媒介経路の活性化の形態で見出される。
【0068】
EGFR及び/又はHER2に1つ以上の異常を有する対象は、本明細書における治療の候補者である。EGFR及び/又はHER2の異常は、Ras及びホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)を含む様々なシグナル伝達経路の活性化を引き起こす、重要な発がんドライバーであり、結果として、様々な腫瘍形成プロセスに寄与する。
【0069】
本開示では、EGFR及び/又はHER2における「異常」は、がんの形成及び/又は発生をもたらすか、又はそれに寄与する、タンパク質の過剰発現、遺伝子増幅(例えば、コピー数変化)、活性化遺伝子変異/活性化タンパク質変異(例えば、挿入変異、点変異、又は欠失変異)、活性化染色体転座/挿入/逆位、活性化遺伝子再構成又は遺伝子融合(遺伝子再構成のサブセット)、誤制御/調節不全などの機能獲得変化を指す。例えば、EGFR及び/又はHER2の異常を有するがんは、(i)野生型品種のものを含む増幅又は過剰発現されたEGFR及び/又はHER2、(ii)NRG1の異常(例えば、NRG1融合物駆動結合)によるものなどの異常なリガンド結合に起因する、構成的に活性化されたEGFR及び/又はHER2(野生型品種のものを含む)、(iii)例えば、活性化遺伝子及び/又はタンパク質変異によるEGFR及び/又はHER2の変化、又は(iv)例えば、EGFR及び/又はHER2が、例えば、EGFR遺伝子及び/又はタンパク質における変異を介して増幅/過剰発現されて変化する異常の組み合わせを発現する可能性がある。
【0070】
別段の定めのない限り、EGFRアミノ酸配列情報への任意の参照は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)タンパク質データベースから受入番号NP005219.2、P00533.2などとしてアクセス可能なヒト野生型EGFRアイソフォームaに基づく。別段の定めのない限り、HER2アミノ酸配列情報への任意の参照は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)タンパク質データベースから受入番号NP_004439.2、NM_004448などとしてアクセス可能なヒト野生型HER2アイソフォームaに基づく。
【0071】
EGFR及びHER2のアイソフォームは、当業者には既知であり、本開示は、それらのアイソフォームも包含する。本明細書で論じられるEGFRにおける変化(例えば、変異)に関して、アイソフォームにおける変化は、アイソフォームにおけるアミノ酸の欠失又は挿入に起因して、EGFRについて特定される位置とは異なる位置に位置し得るが、それにもかかわらず、アイソフォームにおける変化は、EGFRについて特定される位置に対応することを理解されたい。同様に、本明細書で論じられるHER2における変化(例えば、変異)に関して、アイソフォームにおける変化は、アイソフォームにおけるアミノ酸の欠失又は挿入に起因して、HER2について特定される位置とは異なる位置に位置し得るが、それにもかかわらず、アイソフォームにおける変化は、HER2について特定される位置に対応することを理解されたい。
【0072】
EGFRにおける異常は、遺伝子増幅及び/又はタンパク質過剰発現の形態であり得る。
【0073】
EGFRにおける異常は、EGFRタンパク質における1つ以上の変異の形態であり得る。EGFRの変異は、エクソン18(688~728の領域)、エクソン19(729~761の領域)、エクソン20(762~823の領域)、及びエクソン21(824~875の領域)のうちの1つ以上を含むがこれらに限定されない、EGFRのチロシンキナーゼドメインに位置し得る。
【0074】
EGFRエクソン18の変異には、E709K、E709A、E709G、G719A、G719S、及びG719Cによって例示される、E709X又はG719X(Xは任意のアミノ酸である)などの点変異、欠失変異、並びに欠失挿入変異、例えば、709位のグルタミン酸及び710位のスレオニンの欠失、並びにアスパラギン酸の挿入(DelE709_T710insD)などが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0075】
EGFRエクソン19の変異には、少なくとも3つのアミノ酸残基の「古典的な」エクソン19欠失変異、並びに欠失挿入変異、例えば、DelE746_A750(746位のグルタミン酸から750位のアラニンまでの欠失)、DelL747_P753insS(747位のロイシンから753位のプロリンまでの欠失及びセリンの挿入)、DelE746_T751insA、DelE746_S752insD、DelL747_T751、DelL747_A750insPなどが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0076】
EGFRエクソン20の変異には、T790M、S768I、V769M、及びH773Rなどの点変異、欠失変異、挿入変異が含まれ得るが、これらに限定されない。特に、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、1つ以上のEGFRエクソン20挿入変異を有するがんにおいて驚くほど活性であることが見出されている。EGFRエクソン20の挿入変異は、非小細胞肺がん(NSCLC)並びに副鼻腔扁平上皮がん(SNSCC)において比較的高い有病率で見出され、現在臨床的に利用可能なEGFR阻害剤に対する新規耐性と関連しており、したがって、本明細書における治療のための好ましい標的である。
【0077】
EGFRエクソン20の挿入変異は、エクソン20の約15アミノ酸(D761~C775)のスパンにわたる1~7アミノ酸の不均一なインフレーム挿入(「insX」として示される)、例えば、D761_E762insX(761位のアスパラギン酸と762位のグルタミン酸との間の1~7アミノ酸残基「X」の挿入)、A763_Y764insX、Y764_V765insX、V765_M766insX、A767_S768insX、S768_V769insX、V769_D770insX、D770_N771insX、N771_P772insX、P772_H773insX、H773_V774insX、及びV774_C775insXであり得る。また、DelD770insX(770位のアスパラギン酸の欠失及び1~7アミノ酸「X」の挿入)及びDelN771insX(Simon Vyse and Paul H. Huang, Targeting EGFR exon 20 insertion mutations in non-small cell lung cancer. Signal Transduct Target Ther. 2019 Mar 8;4:5)などの欠失挿入変異も含まれる。EGFRエクソン20の挿入変異の具体例としては、A763_Y764insFQEA、Y764_V765insHH、A767_S768insASV、S768dupSVD、V769_D770insASV、D770_N771insNPG、D770_N771insGL、D770_N771insSVD、D770_N771insSVG、DelD770insGY、DelD770insVG、N771_P772insH、N771_P772insV、DelN771insGY、DelN771insTH、P772_H773insDNP、P772_H773insPNP、H773_V774insNPH、H773_V774insPH、H773_V774insAH、H773_V774insH、及びV774_C775insHVが挙げられるが、これらに限定されない(Takayuki Kosaka et al. Response Heterogeneity of EGFR and HER2 Exon 20 Insertions to Covalent EGFR and HER2 Inhibitors. Cancer Res. 2017 May;77(10):2712-2721)。
【0078】
本開示の好ましい実施形態は、がんを有する対象を治療することを含み、特に、そのようながんが脳に転移した場合、EGFRエクソン20の挿入変異を有する、非小細胞肺がん(NSCLC)に具体的に言及される。
【0079】
EGFRエクソン21の変異には、「古典的な」エクソン20活性化変異L858R、並びにL833V、H835L、L838V、A839T、K846R、及びL861Qなどの、L858X及びL861X(Xは任意のアミノ酸である)などの点変異が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0080】
複数の変異を含有し、本明細書で治療され得る例示的なEGFRタンパク質には、DelE746_A750/T790M及びT790M/L858Rが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0081】
EGFRタンパク質における変異は、日本国特許出願第2020-121525号(その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている変異であり得る。
【0082】
EGFRにおける異常はまた、EGFR遺伝子再構成などのEGFRにおける遺伝子増幅及び/又は1つ以上の遺伝的変化、並びに特定のエクソン又はエクソン部分が欠失しているEGFRにおいて結果として生じる変異の形態であり得る。その例としては、EGFRバリアントI(EGFRvI;N末端部分の欠失)、EGFRバリアントII(EGFRvII;エクソン14及び15の欠失)、EGFRバリアントIII(EGFRvIII;エクソン2~7の欠失)、EGFRバリアントIV(EGFRvIV;エクソン25~27の欠失)、及びEGFRバリアントV(EGFRvV;エクソン25~28の欠失)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
これらのうち、EGFRvIIIの発現をもたらす遺伝子再構成は、神経膠芽腫(GBM)において高い有病率で見出され、その発現は、乳がん及び肺がん(例えば、NSCLC)などの他のがんにおいても同定されている。EGFRvIIIは、エクソン2~7にまたがる801塩基対のインフレーム欠失から生じ、この欠失では、細胞外ドメインから267アミノ酸が除去され、それによって、エクソン1と8との間の接合部位及び新しいグリシン残基が生成される。これらの変化は、PI3K/Akt、Ras/Raf/MAPK、シグナル伝達及び転写活性化因子3(Stat3)、並びに核因子κB(NF-κB)を含むいくつかの下流シグナル伝達経路によって媒介される、未変化のEGFRと比較した増殖速度の増加、アポトーシスの減少、血管新生の増加、及び侵襲性の増加などの増強された腫瘍形成能を付与する。
【0084】
GBMにおけるEGFR増幅及びEGFRvIII変異の高い有病率、これらのEGFR遺伝子変化を有するGBMを標的とする承認された薬物の欠如、並びに化合物(1)又はその薬学的に許容される塩の高い脳透過性を考慮すると、本開示の好ましい実施形態は、EGFR増幅及び/又はEGFRvIII変異を有するGBMを有する対象を治療することを含む。
【0085】
HER2における異常は、遺伝子増幅及び/又はタンパク質過剰発現の形態であり得る。
【0086】
HER2の異常は、HER2タンパク質における1つ以上の変異の形態であり得る。HER2の変異は、エクソン19(736~769の領域)、エクソン20(770~831の領域)、エクソン21(832~883の領域)、及びエクソン22~31(884~1255の領域)のうちの1つ以上を含むが、これらに限定されない、HER2のチロシンキナーゼドメインに位置し得る。
【0087】
HER2エクソン19の変異には、L755S、L755P、I767M、D769H、D769N、及びD769Yによって例示されるL755X、I767X、D769X(Xは任意のアミノ酸である)などの点変異、並びにDelL755_T759などの欠失変異などが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0088】
HER2エクソン20の変異には、G776V、G776S、V777L、及びV777Mによって例示されるG776X及びV777X(Xは任意のアミノ酸である)などの点変異、欠失変異、並びに挿入変異が含まれ得るが、これらに限定されない。特に、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、1つ以上のHER2エクソン20挿入変異を有するがんにおいて驚くほど活性であることが見出されている。HER2エクソン20の挿入変異は、とりわけ、肺がん(例えば、NSCLC)及び乳がんなどの様々ながんタイプに見出されるが、HER2エクソン20挿入の治療は、臨床上の課題が残されたままであり、承認されたHER2 TKIであるアファチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブは、この患者集団における有効性が限られている。したがって、HER2エクソン20の挿入変異は、本明細書における治療のための好ましい標的である。
【0089】
HER2エクソン20の挿入変異は、エクソン20における1~7つのアミノ酸の不均一なインフレーム挿入、例えば、A775_G776insX(775位のアラニンと776位のグリシンとの間の1~7つのアミノ酸残基「X」の挿入)、Y772dupYVMA(772位のチロシンから始まるYVMA配列の重複)、及びDelG776insX(776位のグリシンの欠失及び1~7つのアミノ酸「X」の挿入)であり得る。HER2エクソン20の挿入変異の具体例としては、Y772dupYVMA、DelM774insWLV、A775_G776insYVMA、A775_G776insSVMA、A775_G776insI、DelG776insVC、DelG776insLC、G778_S779insCPG、V777_G778insGSP、G778dupGSP、及びP780_Y781insGSPが含まれるが、これらに限定されない(Takayuki Kosaka et al. Response Heterogeneity of EGFR and HER2 Exon 20 Insertions to Covalent EGFR and HER2 Inhibitors. Cancer Res. 2017 May;77(10):2712-2721;Jacqulyne P Robichaux et al. Pan-Cancer Landscape and Analysis of ERBB2 Mutations Identifies Poziotinib as a Clinically Active Inhibitor and Enhancer of T-DM1 Activity. Cancer Cell. 2019 Oct;36(4):444-457)。
【0090】
本開示の好ましい実施形態は、がんを有する対象を治療することを含み、特に、そのようながんが脳に転移した場合HER2エクソン20の挿入変異を有する、非小細胞肺がん(NSCLC)に具体的に言及される。
【0091】
HER2エクソン21の変異には、V842I及びR868Wなどの点変異が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0092】
HER2エクソン22~31の変異には、R896C、E1021Q、A1057V、V1128I、及びN1219Sが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0093】
HER2の異常は、HER2の膜貫通ドメイン又は細胞外ドメイン領域における1つ以上の変異の形態であり得、その例としては、S310F及びS310Yによって例示されるS310X(Xは任意のアミノ酸である)、R678Q及びR678Cによって例示されるR678X(Xは任意のアミノ酸である)、並びにG309A、P122L、G222C、I655V、S305C、H470Q、I263T、及びA293Tが挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
HER2タンパク質における変異は、日本国特許出願第US2021/0024530号(その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている変異であり得る。
【0095】
EGFR及び/又はHER2における異常はまた、異常なリガンド結合による構成的に活性化されたEGFR及び/又はHER2(野生型品種のものを含む)の形態であり得る。その一例は、NRG1において異常を有するがんである。NRG1における「異常」とは、がんの形成及び/又は発生をもたらすか、又はそれに寄与する、タンパク質の過剰発現、遺伝子増幅(例えば、コピー数変化)、活性化遺伝子変異/活性化タンパク質変異(例えば、挿入変異、点変異、又は欠失変異)、活性化染色体転座/挿入/逆位、活性化遺伝子再構成又は遺伝子融合(遺伝子再構成のサブセット)、誤制御/調節不全などの機能獲得変化を指す。
【0096】
例えば、NRG1における異常は、NRG1過剰発現の形態であり得る。NRG1の過剰発現は、胃がん患者における侵襲性の腫瘍特徴及び予後不良と関連することが見出されている(Yun, S. et al. Clinical significance of overexpression of NRG1 and its receptors, HER3 and HER4, in gastric cancer patients; Gastric Cancer (2018) 21:225-236)。
【0097】
その別の例は、NRG1において発がん性遺伝子融合を有するがんである。NRG1遺伝子融合は、細胞表面上のNRG1の上皮増殖因子(EGF)様ドメインの不規則な発現をもたらし、これは、ErbB3(HER3)のリガンドとして機能し、かつヘテロ二量体(最も頻繁にはErbB2-ErbB3であるが、EGF受容体(EGFR;ErbB1)とErbB4の場合もある)の形成を誘導する。これは、ホスホイノシチド3-キナーゼ-プロテインキナーゼB(PI3K-Akt)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、及び他のシグナル伝達経路の病理学的活性化につながり、異常な細胞増殖をもたらす。この結合事象は、オートクライン又はジャクスタクライン様式で起こり得る。あるいは、場合によっては、NRG1のEGF様ドメインは、ErbB3(HER3)にパラクライン様式で結合する表面テザーから切断され得る。いずれにしても、NRG1融合陽性がんは、EGFR及び/又はHER2の異常な活性化を引き起こし、したがって、好ましい実施形態では、本開示は、NRG1融合駆動腫瘍を有する対象を治療することを含む。
【0098】
NRG1の1つ以上の異常によって駆動されるがんには、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、卵巣がん、及び胃がんが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0099】
NRG1遺伝子融合によって駆動されるがんには、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、及び卵巣がんが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0100】
NRG1融合は、様々な融合パートナー(以下、X-NRG1のXとして列挙される)から形成され得るが、融合パートナーの選択は特に限定されない。NRG1融合の例としては、DOC4-NRG1、CD74-NRG1、SLC3A2-NRG1、SDC4-NRG1、RBPMS-NRG1、WRN-NRG1、VAMP2-NRG1、ATP1B1-NRG1、ROCK1-NRG1、RALGAPA1-NRG1、TNC-NRG1、MDK-NRG1、DIP2B-NRG1、MRPL13-NRG1、DPYSL2-NRG1、PARP8-NRG1、ITGB1-NRG1、POMK-NRG1、APP-NRG1、CDH6-NRG1、ATP1B1-NRG1、及びCLU-NRG1が挙げられるが、これらに限定されない(J. Laskin et al. NRG1 fusion-driven tumors: biology, detection, and the therapeutic role of afatinib and other ErbB-targeting agents. Ann Oncol. 2020 Dec;31(12):1693-1703)。
【0101】
異常なErbB媒介経路の構成的活性化をもたらし得るErbB受容体を活性化する他の増殖因子としては、EGF、TGF-α、HB-EGF、アンフィレギュリン、ベータセルリン、エピジェン、及びエピレギュリンが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、発がんに寄与するErbBファミリー受容体及び下流のErbB媒介シグナル伝達経路の異常な活性化をもたらすこれらの増殖因子のうちのいずれかに活性化異常を有するがんが、本明細書において治療され得る。
【0102】
様々なステージ及び切除可能性のがんが開示された治療に反応する可能性があるが、本明細書に記載の方法は、切除不能な進行性疾患(ステージIII)及び転移性疾患(ステージIV)、「再発性」がん、及び「難治性」がん(これまで医学的治療に応答しなかったがん)の治療において特に有用であり得る。「再発性」がんは、通常、がんが検出できなかった期間の後に再発(recurred)(再発(come back))したがんである。がんは、元の(原発性)腫瘍と同じ場所又は体内の別の場所に再発する可能性がある。「難治性」がんは、最初から耐性/難治性として、又は以前の療法の過程でのがん細胞による耐性/難治性の獲得として提示され得、したがって、治療に最初に応答するが、多くの場合、より侵襲性/耐性の形態で再発する再発がんを含み得る。例えば、がんは、再発性又は難治性のHER2陽性がん、好ましくは、HER2が遺伝的に増幅及び/又は過剰発現される再発性又は難治性がんであり得る。例示的ながんタイプとしては、再発性若しくは難治性のHER2陽性乳がん、又は再発性若しくは難治性のHER2陽性胃がんが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0103】
1つ以上の抗がん剤による少なくとも1つの治療レジメン、好ましくは、少なくとも2つの異なる抗がん剤を用いた少なくとも2つの治療レジメンを以前に受けたことがある再発性又は難治性がんを有する対象を、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩で治療することができる。場合によっては、再発がん又は難治性がんは、以前の治療レジメンに対して耐性を獲得しているか、又は以前の治療レジメンから難治性を獲得している可能性がある。例えば、1つ以上の抗がん剤で以前に治療され、抗がん剤による以前の治療に応答しなかったか又は抗がん剤による以前の治療から再発した、HER2陽性がんを有する対象は、がんの抗がん剤に対する曝露の結果として、耐性/難治性を発現する可能性がある。耐性/難治性は、EGFR及び/若しくはHER2の異常(例えば、過剰発現及び/若しくは変異)、又は腫瘍抑制遺伝子/タンパク質の機能喪失若しくは発がん遺伝子/発がん遺伝子コードタンパク質の機能獲得変化をもたらす任意の他のがんドライバー変化の形態で、がんに現れる可能性がある。
【0104】
以前の治療レジメンは、様々な抗がん剤を用いて実施されてきた可能性があるが、そのような抗がん剤の例については以下で説明する。本開示の好ましい実施形態は、1つ以上のHER2阻害剤(すなわち、化合物(1)以外のHER2阻害剤)による少なくとも1回の治療を受け、任意選択的に、それに対して耐性又は難治性を獲得した、再発性又は難治性のHER2陽性がんを有する対象に、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0105】
以前の治療レジメンで使用されたHER2阻害剤は、HER2チロシンキナーゼ阻害剤であり得、その例としては、アファチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、及びツカチニブのうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
以前の治療レジメンで使用されたHER2阻害剤は、抗HER2抗体又はその薬物コンジュゲートであり得、その例としては、トラスツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン、ペルツズマブ、マルゲツキシマブ、及びトラスツズマブ・デルクステカン(DS-8201a)のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
治療を開始する前に、上で特定されるように、対象がEGFR及び/又はHER2に1つ以上の異常を有するかどうかの判定を行ってもよい。したがって、本方法は、対象がEGFR及び/又はHER2に異常を有し、治療の良好な候補であるかどうかを判定するための事前スクリーニングステップを含み得る。異常は、異常を伴うがんの家族歴から、対象の遺伝子型を決定するか、又は以下に記載されるようなアッセイを使用して対象から採取された血液若しくは腫瘍試料を含む対象からの任意の生体試料を分析することによって、又は過去の記録若しくは対象に対して実施された以前の検査から決定することができる。対象が、EGFR陽性及び/又はHER2陽性であると判定され、かつその中に、本開示に記載されるものなどの1つ以上の異常を有する場合、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩による治療が適切である。
【0108】
本明細書の治療に応答する可能性が高い個体を特定するために使用され得る予測バイオマーカーには、例えば、乳がんにおけるDNA、RNA、若しくはタンパク質レベルでのEGFR及び/若しくはHER2の過剰発現/増幅、又は他の遺伝子変化、例えば、肺がん(例えば、NSCLC)におけるEGFR/HER2エクソン20の挿入及び他の活性化変異、例えば、脳がん(例えば、GBM)におけるEGFRvIIIの変異、EGFRの増幅、及び/若しくはO-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)プロモーターのメチル化が含まれるが、これらに限定されない。生体試料を分析するために、コンパニオン診断(CDx)検査を開発することができる。
【0109】
EGFR及び/又はHER2の異常の存在(異常なリガンド結合、例えば、上記のNRG1融合駆動EGFR及び/又はHER2の異常を介してタンパク質活性化を引き起こす異常を含む)は、例えば、事前スクリーニング中に若しくは対象に対して実施された以前の検査から、又はそうでなければ認可若しくは承認されたインビトロ診断(IVD)アッセイ若しくはこの目的のためのアッセイを含む既知のアッセイに従って、判定され得る。これらの例としては、次世代配列決定(NGS)ベースの遺伝子パネル、全エクソームプロファイリング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、インサイツハイブリダイゼーション(ISH)、免疫組織化学(IHC)、フローサイトメトリー、又は腫瘍組織若しくは循環腫瘍DNA(ctDNA)、RNA、タンパク質などでのEGFR及び/若しくはHER2異常を判定することができる他のアッセイによる検査が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、アーカイブ腫瘍組織試料を有しない対象を生検することができ、新鮮腫瘍生検を分析して、既存の異常を確認することができる。
【0110】
「投与する(administer)」、「投与すること(administering)」、「投与(administration)」などの用語は、生物学的作用の所望の部位への活性成分の送達を可能にするために使用され得る方法を指す。投与の経路又は様式は、本明細書に記載のとおりである。これらの方法としては、経口経路、十二指腸内経路、非経口注射(静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、血管内、又は注入を含む)、局所/経皮、及び直腸/膣内投与が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、使用できる投与技術に精通している。経口投与が好ましい。
【0111】
本開示において、「投与スケジュール」とは、薬物治療における薬物の種類、量、期間、手順などを時系列に示した計画であり、各薬物の投与量、投与方法、投与順序、投与日などが示されている。指定された投与日は、薬物投与の開始前に決定される。一連の投与スケジュールを「コース」として、そのコースを繰り返すことで投与を継続する。
【0112】
本出願の投与スケジュールに関して、「連続」とは、治療過程中に中断することなく毎日投与することを意味する。投与スケジュールが「間欠的」投与スケジュールに従う場合、1日以上の投与後、過程内の1日以上の「休息日」又は薬物非投与日が続く可能性がある。
【0113】
「休薬期間」とは、薬物が所定の投与スケジュールに従って投与されないことを示す。例えば、数回の治療コースを受けた後、例えば積極的な治療を再開する前に、投与スケジュールの一部として、対象に規制された休薬期間を処方することができる。
【0114】
投与量及び治療期間は、薬物の生物学的利用能、投与様式、薬物の毒性、性別、年齢、ライフスタイル、体重、他の薬物及び栄養補助食品の使用、疾患段階、投与される薬物に対する体の忍容性及び耐性などの要因によって異なり、次にそれらに応じて決定及び調整される。適切な投与量は個人によって異なる場合がある。任意の個々の場合における適切な投与量は、用量漸増などの技術を使用して決定することができる。
【0115】
EGFR及び/又はHER2に少なくとも1つの異常を有する対象は、約1mg/日から、約5mg/日から、約10mg/日から、約15mg/日から、約20mg/日から、約30mg/日から、約40mg/日から、約50mg/日から、約60mg/日から、約80mg/日から、約100mg/日から、約120mg/日から、約1,000mg/日まで、約800mg/日まで、約600mg/日まで、約500mg/日まで、約480mg/日まで、約450mg/日まで、約400mg/日まで、約350mg/日まで、約300mg/日まで、約250mg/日まで、約240mg/日まで、約200mg/日まで、約150mg/日までの用量レベルで、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩で治療され得る。投与レベルは、約5mg/日~約480mg/日、約15mg/日~約240mg/日、及び約15mg/日~約120mg/日などの範囲内で変動し得る。投与用量レベルは、投与スケジュール中に変更することができる。例えば、投与を、しばらくの間低用量で開始し、その後増加させることができ、又は、投与を、しばらくの間高用量で開始し、その後減少させることができる。
【0116】
投与は、例えば、薬物動態及び特定の患者の薬物のクリアランス/蓄積に応じて、連続的(毎日、1週間に7日の投与)又は断続的(1日以上の投与日を1日以上の非投与日と交互に、例えば、4日間オン/3日間オフ)であり得る。投与スケジュールは、健全な医学的判断を使用して選択する必要がある。毎日の投与が好ましい。投与は、1日おき(QOD)、1日1回(QD)、又は1日2回以上(1日2回(b.i.d.)、1日3回(t.i.d.)など)行うことができ、約15~480mg/日の用量が好ましい。
【0117】
1日の用量は、単回用量として、又は複数の個別の分割用量として投与することができる。例えば、各錠剤が5mgの化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を含む3個の錠剤を対象に1日1回(QD)、総用量15mg/日で投与することができる。例えば、各錠剤が20mgの化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を含む3個の錠剤を、対象に1日2回(b.i.d.)、総用量120mg/日で投与することができる。
【0118】
連続的であろうと間欠的であろうと、投与は特定の治療サイクル、典型的には少なくとも28日のサイクルにわたって継続され、休薬期間の有無にかかわらず繰り返すことができる。7日、14日、18日、24日、28日、35日、42日、又はそれらの間の任意の範囲などの、より長い又はより短いサイクルも使用することができる。サイクルは、対象に応じて、休薬期間なしで、又は休薬期間ありで繰り返されてもよい。交互に連続した日のサイクルを使用することができる。例えば、連続した7日間の期間の投与スケジュールを使用してもよく、各期間は、4日間のオン及び3日間のオフを交互に含む。ここで、このスケジュールは、1日目、3日目、5日目、7日目、8日目、10日目、12日目、14日目、15日目、17日目、19日目、21日目などに投与することを含むであろう。有害事象の有無、治療に対するがんの反応、患者の都合などに応じて、他のスケジュールも可能である。「有害事象」とは、薬剤が投与された患者に生じる任意の好ましくない又は意図しない病気又はその症状を指す。薬との因果関係があるか否かは関係ない。
【0119】
高用量の場合は通常、間欠的に投与し、最大約480mgの用量の場合は通常、連続的に(毎日)投与する。化合物(1)は、用量漸増(up-titration)レジメンを使用して投与されてもよく、それによって、対象は、特定の期間(例えば、2週間)にわたって低用量で開始され、次いで、用量が漸増される。用量は、目標用量若しくは最大用量のいずれかに達するか、又は対象が有害事象を経験するまで漸増され、その時点で漸増が中止され、薬剤の投与は、有害事象が経験されなかった又は治療の中止が必要とされるほど重篤ではなかった以前の用量まで減量される。有害事象を経験した対象は、適切とみなされる場合には、投薬中断(例えば、休薬期間)によって管理することもできる。連続レジメンの典型的な用量は、15、30、60、120、240、又は480mg/日であり得るが、治療に対する対象の応答及び有害事象の有無に応じて、より高い用量又はより低い用量を使用することができる。ある用量で忍容性が良好であれば、その用量を増加させることができる。連続投与は、1サイクル、例えば28日間継続することができ、その後、必要に応じてサイクルを繰り返すことができる。
【0120】
このような連続投与又は間欠投与は、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩が1種以上の他の抗がん剤と組み合わせて投与される併用療法にも適用できる。
【0121】
本開示の治療方法は、単独療法として化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を投与することを含み得る。治療はまた、腫瘍を外科的に除去した後の腫瘍の再発を防ぐために行われる術後補助化学療法、並びに腫瘍を外科的に除去する手術前の術前補助化学療法としての投与も含み得る。乳がんなどのいくつかの場合では、手術には、乳腺腫瘍摘出術、乳房切除術、乳房再建術などが含まれ得る。肺がんなどのいくつかの場合では、手術には、肺切除術、肺葉切除術、楔状切除術、袖状切除術、胸腔鏡検査などが含まれ得る。脳腫瘍などのいくつかの場合では、手術には、開頭術、心室腹腔シャント術、内視鏡下第三脳室底開窓術、脳室アクセスカテーテル設置術などが含まれ得る。治療はまた、放射線療法中若しくは放射線療法後に、又は手術などの他の治療によりがんがなくなった患者における腫瘍の再発を予防するための補助療法として、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を投与することを含み得る。
【0122】
以前に抗がん剤による治療レジメンを受けたことのない対象を本明細書において治療することができ、すなわち、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を第一選択化学療法として投与する。あるいは、これまでに説明したように、以前に1種以上の抗がん剤による治療レジメンを受けたことのある対象を治療することができ、すなわち、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩が、第二選択療法、第三選択療法、第四選択療法などとして投与される。以前にEGFR及び/又はHER2阻害剤による化学療法レジメンを受けたことのない対象を治療することができる。あるいは、EGFR及び/又はHER2阻害剤で以前に治療された対象を治療することができる。HER2阻害剤の例としては、本明細書に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。EGFR阻害剤は、本明細書に記載されているものなど、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤又は抗EGFR抗体に分類され得、その例としては、アファチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、セツキシマブ、ダコミチニブ、パニツムマブ、バンデタニブ、及びネシツムマブが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で化合物(1)又はその薬学的に許容される塩で治療される対象は、EGFR及び/又はHER2阻害剤以外の抗がん剤で以前に治療されていてもよく、その例を以下に説明する。
【0123】
以下に記載されるように、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、以下に適合されたものを含めて、固体又は液体の形態で投与するために特別に製剤化され得る。(1)経口投与、例えば、ドレンチ(水性又は非水性の溶液又は懸濁液)、錠剤又はカプセル、例えば、頬側、舌下、及び全身吸収を目的としたもの、ボーラス、粉末、顆粒、シロップ、舌に塗布するためのペースト、(2)例えば滅菌溶液若しくは懸濁液、又は徐放性製剤としての、例えば皮下、筋肉内、静脈内又は硬膜外注射による非経口投与、(3)例えば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏、又は放出制御パッチ若しくはスプレーとしての局所適用/経皮投与、(4)例えばペッサリー、クリーム又はフォームとしての膣内又は直腸内投与、又は(5)経鼻投与。化合物(1)又はその薬学的に許容される塩の場合、経口製剤が好ましい。
【0124】
製剤は、薬学的に許容される担体などを用いて公知の製剤方法により調製することができる。薬学的に許容される担体は、主題の化合物を、ある器官又は体の一部から別の器官又は体の一部に運ぶ又は輸送することに関与する液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、製造助剤(例えば、滑沢剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛、又はステアリン酸)、又は溶媒封入材料のような材料、組成物又はビビクルである。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、対象に有害ではないという意味で「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体として機能できる材料のいくつかの例としては、ほんの数例を挙げると、(1)糖、例えば、ラクトース、グルコース、及びスクロース;(2)デンプン、例えば、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン;(3)セルロース及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロース;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えば、ココアバター及び坐剤ワックス;(9)油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及び大豆油;(10)グリコール、例えば、プロピレングリコール;(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコール;(12)エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル溶液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝液;(21)ポリエステル、ポリカーボネート、及び/又はポリ酸無水物;並びに(22)薬学的製剤に用いられる他の非毒性の適合性物質、例えば、シクロデキストリン、リポソーム、ミセル形成剤(胆汁酸など)が挙げられる。
【0125】
薬学的に許容される担体は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁剤、膨潤剤、等張剤、pH調整剤、緩衝剤、安定剤、着色剤、香味剤などの様々な汎用剤として分類することができる。
【0126】
賦形剤の例としては、ラクトース、スクロース、D-マンニトール、グルコース、デンプン(コーンスターチ)、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、及び無水ケイ酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
結合剤の例としては、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、単シロップ、液状グルコース、液体a-デンプン、液状ゼラチン、D-マンニトール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、低粘度ヒドロキシプロピルセルロース)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ヒドロキシプロピルデンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、及びポリビニルピロリドンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
崩壊剤の例としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、部分アルファ化デンプン、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、D-マンニトール、クロスポビドン、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、及びラクトースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0129】
滑沢剤の例としては、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸、精製タルク、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ホウ砂、及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
着色剤の例としては、食用黄色5号染料、食用青色2号染料、食用レーキ染料、三二酸化鉄、黄色三二酸化物、及び二酸化チタンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0131】
甘味料/香味料の例としては、アスパルテーム、サッカリン(サッカリンナトリウム、サッカリンカリウム、又はサッカリンカルシウムとして)、シクラミン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、又はカルシウム塩として)、スクラロース、アセスルファムK、ソーマチン、ネオヘスペリジン、ジヒドロカルコン、アンモニア化グリチルリチン、デキストロース、マルトデキストリン、フルクトース、レブロース、スクロース、グルコース、野生オレンジピール、クエン酸、酒石酸、冬緑油、ペパーミント油、スペアミント油、サッサフラス油、丁子油、シナモン、アネトール、メントール、チモール、オイゲノール、ユーカリプトール、レモン、ライム、及びレモンライムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
必要に応じて、経口製剤に望ましい方法により、腸溶性コーティング又は効果の持続性を高めるためのコーティングを施すことができる。このようなコーティング剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、Tween80(登録商標)などが挙げられる。
【0133】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、好ましくは、経口投与用の固体剤形、例えばカプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒剤、トローチ剤などの形態で製剤化され、フィルムコーティング錠が好ましい。化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、1種以上の薬学的に許容される担体(例えば、クエン酸ナトリウム若しくはリン酸二カルシウム、及び/又は以下のいずれか)と混合され得る:(1)充填剤又は増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及び/又はケイ酸、(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及び/又はアカシア、(3)保湿剤、例えば、グリセロール、(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム、(5)溶解遅延剤、例えば、パラフィン、(6)吸収促進剤、例えば、四級アンモニウム化合物及び界面活性剤(ポロキサマー及びラウリル硫酸ナトリウムなど)、(7)湿潤剤、例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセロール、及び非イオン性界面活性剤(例えば、Tween80(登録商標))、(8)吸収剤、例えば、カオリン及びベントナイト粘土、(9)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、及びそれらの混合物、(10)着色剤、並びに(11)制御放出剤、例えば、クロスポビドン又はエチルセルロース。カプセル、錠剤及び丸剤の場合、製剤は緩衝剤を含むこともできる。ラクトース又は乳糖、及び高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用して、同様の種類の固体組成物を、軟殻ゼラチンカプセル及び硬殻ゼラチンカプセル中の充填剤として使用することもできる。
【0134】
錠剤は、任意に1種以上の副成分とともに、圧縮又は成形によって製造することができる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤を使用して製造することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械で成形することによって製造することができる。錠剤及び他の固体剤形は、必要に応じて、刻み目をつけたり、コーティング及びシェル(腸溶性コーティング及び医薬製剤分野で周知の他のコーティングなど)を用いて製造したりすることができる。コーティング配合物の一例としては、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、酸化チタン、及び任意選択的に着色剤を挙げることができる。それらはまた、例えば、所望の放出プロフィールを提供するために様々な割合のヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又はミクロスフェアを使用して、その中の活性成分の徐放又は制御放出を提供するように製剤化することもできる。それらは速放用に製剤化され、例えば凍結乾燥されてもよい。それらは、例えば細菌保持フィルタを通した濾過によって、又は使用直前に滅菌水若しくはいくつかの他の滅菌注射可能媒体に溶解できる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって滅菌することができる。これらの製剤はまた、必要に応じて不透明剤を含んでもよく、また、活性成分を胃腸管の、ある特定の部分においてのみ又は優先的に、場合によっては遅延的に放出する組成物であってもよい。使用することができる包埋組成物の例としては、ポリマー物質及びワックスが挙げられる。活性成分は、適切であれば、上記の賦形剤の1種以上とともにマイクロカプセル化された形態であってもよい。
【0135】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を1種以上の薬学的に許容される無菌等張水溶液又は非水溶液、分散剤、懸濁剤、若しくは乳剤、又は使用直前に滅菌注射用溶液若しくは分散液に再構成され得る滅菌粉末(糖類、アルコール、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質、又は懸濁剤若しくは増粘剤を含有し得る)と組み合わせることによって、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、血管内、又は注入投与用の非経口投与のために製剤化され得る。用いることができる好適な水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物、オリーブ油などの植物油、並びにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用、分散液の場合は必要な粒子径の維持、及び界面活性剤の使用により維持できる。これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、pH調整剤、安定剤、局所麻酔剤などのアジュバントを含んでもよい。主題の化合物に対する微生物の活動の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの様々な抗細菌剤及び抗真菌剤を含めることによって確実にすることができる。糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望ましいと言える。加えて、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン等の吸収を遅らせる薬剤を含めることにより、注射可能な薬剤形態の長期吸収がもたらされ得る。
【0136】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、日本国特許出願第2020-121733号(その開示は、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているものなどの1種以上の他の抗がん剤と組み合わせることができる。抗がん剤の例としては、化学療法剤(例えば、細胞毒性剤)、免疫療法剤、ホルモン剤及び抗ホルモン剤、標的療法剤、並びに抗血管新生剤が挙げられる。多くの抗がん剤は、これらの群の1つ以上に分類され得る。特定の抗がん剤は、本明細書において特定の群又は亜群内に分類されているが、これらの薬剤の多くはまた、当該技術分野において現在理解されているように、1つ以上の他の群又は亜群内に列挙され得る。抗がん剤は特に限定されず、その例としては、化学療法剤、有糸分裂阻害剤、植物アルカロイド、アルキル化剤、抗代謝剤、白金類似体、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、レチノイド、アジリジン、抗生物質、ホルモン剤、抗ホルモン剤、抗エストロゲン剤、抗アンドロゲン剤、抗副腎剤、アンドロゲン、標的療法剤、免疫療法剤、生物学的応答修飾剤、サイトカイン阻害剤、腫瘍ワクチン、モノクローナル抗体、免疫チェックポイント阻害剤、抗PD-1剤、抗PD-L1剤、薬剤、コロニー刺激因子、免疫調節剤、免疫調節イミド(IMiD)、抗CTLA4剤、抗LAG1剤、抗OX40剤、GITRアゴニスト、CAR-T細胞、BiTE、シグナル伝達阻害剤、増殖因子阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、EGFR阻害剤、HER2阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、プロテアソーム阻害剤、細胞周期阻害剤、抗血管新生剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤、肝細胞増殖因子阻害剤、TOR阻害剤、KDR阻害剤、VEGF阻害剤、HIF-1α阻害剤、HIF-2α阻害剤、線維芽細胞増殖因子(FGF)阻害剤、RAF阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、PI3K阻害剤、AKT阻害剤、MCL-1阻害剤、BCL-2阻害剤、SHP2阻害剤、BRAF阻害剤、RAS阻害剤、遺伝子発現調節剤、自己食性阻害剤、アポトーシス誘導剤、抗増殖剤、及び解糖阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
化学療法剤の非限定的な例としては、有糸分裂阻害剤及び植物アルカロイド、アルキル化剤、抗代謝剤、白金類似体、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、レチノイド、アジリジン、及び抗生物質が挙げられる。
【0138】
有糸分裂阻害剤及び植物アルカロイドの非限定的な例としては、タキサン(例えば、カバジタキセル、ドセタキセル、ラロタキセル、オルタタキセル、パクリタキセル、及びテセタキセル)、デメコルシン、エポチロン、エリブリン、エトポシド(VP-16)、エトポシドリン酸、ナベルビン、ノスカピン、テニポシド、タリブラスチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンフルニン、及びビノレルビンが挙げられる。
【0139】
アルキル化剤の非限定的な例としては、ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド、サイトホスファン、エストラムスチン、イホスファミド、マンノムスチン、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トリス(2-クロロエチル)アミン、トロホスファミド、及びウラシルマスタード)、アルキルスルホネート(例えば、ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファン)、ニトロソウレア(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、ストレプトゾトチン、及びTA-07)、エチレンイミン及びメチルアメラミン(例えば、アルトレタミン、チオテパ、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスホルアミド、トリエチレンホスホルアミド、及びトリメチローロメラミン)、アンバムスチン、ベンダムスチン、ダカルバジン、シクロホスファミド、エトグルシド、イロフルベン、マホスファミド、ミトブロニトール、ミトラクトール、ピポブロマン、プロカルバジン、テモゾロミド、トレオスルファン、並びにトリアジコンが挙げられる。
【0140】
抗代謝剤の非限定的な例としては、葉酸類似体(例えば、アミノプテリン、デノプテリン、エダトレキサート、メトトレキサート、プテロプテリン、ラルチトレキセド、及びトリメトレキサート)、プリン類似体(例えば、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、フルダラビン、フォロデシン、チアミプリン、及びチオグアニン)、ピリミジン類似体(例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)、テガフール/ギメラシル/オテラシルカリウム、テガフール/ウラシル、トリフルリジン、トリフルリジン/チピラシル塩酸塩、6-アザウリジン、アンシタビン、アザシチジン、カペシタビン、カルモフール、シタラビン、デシタビン、ジデオキシウリジン、ドキシフィウリジン(doxifiuridine)、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、ガロシタビン、ゲムシタビン、及びサパシタビン)、3-アミノピリジン-2-カルボキシアルデヒドチオセミカルバゾン、ブロクスウリジン、クラドリビン、シクロホスファミド、シタラビン、エミテフル、ヒドロキシ尿素、メルカプトプリン、ネララビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、テガフール、並びにトロキサシタビンが挙げられる。
【0141】
白金類似体の非限定的な例としては、カルボプラチン、シスプラチン、ジシクロプラチン、ヘプタプラチン、ロバプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、及び四硝酸トリプラチンが挙げられる。
【0142】
酵素の非限定的な例としては、アスパラギナーゼ及びペグアスパラガーゼが挙げられる。
【0143】
トポイソメラーゼ阻害剤の非限定的な例としては、アクリジンカルボキサミド、アモナフィド、アムサクリン、ベロテカン、酢酸エリプチニウム、エキサテカン、インドロカルバゾール、イリノテカン、ルルトテカン、ミトキサントロン、ラゾキサン、ルビテカン、SN-38、ソブゾキサン、及びトポテカンが挙げられる。
【0144】
レチノイドの非限定的な例としては、アリトレチノイン、ベキサロテン、フェンレチニド、イソトレチノイン、リアロゾール、RIIレチナミド、及びトレチノインが挙げられる。
【0145】
アジリジンの非限定的な例としては、ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ及びウレドーパが挙げられる。
【0146】
抗生物質の非限定的な例としては、インターカレート抗生物質、アントラセンジオン、アントラサイクリン抗生物質(例えば、アクラルビシン、アムルビシン、ダウノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、メノガリル、ノガラマイシン、ピラルビシン、及びバルルビシン)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、アクラシノミシン、アクチノマイシン、オースラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、デトルビシン、エソルビシン、エスペルアミシン、ゲルダナマイシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、オリボマイシン、ノバントロン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、レベッカマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、タネスピマイシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、及びジノスタチンスチマラマーが挙げられる。
【0147】
ホルモン剤及び抗ホルモン剤の非限定的な例としては、抗アンドロゲン剤(例えば、アビラテロン、アパルタミド、ビカルタミド、ダロルタミド、エンザルタミド、フルタミド、ゴセレリン、ロイプロリド、及びニルタミド)、抗エストロゲン剤(例えば、4-ヒドロキシタモキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)-イミダゾール、EM-800、ホスフェストロール、フルベストラント、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、ラロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェン、及びトリオキシフェン)、抗副腎剤(例えば、アミノグルテチミド、デキサアミノグルテチミド、ミトタン、及びトリロスタン)、アンドロゲン剤(例えば、カルステロン、ドロモスタノロンプロピオン酸塩、エピチオスタノール、メピチオスタン、及びテストラクトン)、アバリックス、アナストロゾール、セロトレリックス、デスロレリン、エキセメスタン、ファドロゾール、フィナステリド、ホルメスタン、ヒストレリン(RL0903)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ランレオチド、LDI200(Milkhaus)、レトロゾール、リュープロレリン、ミフェプリストン、ナファレリン、ナフォキシジン、オサテロン、プレドニゾン、チロトロピンアルファ、並びにトリプトレリンが挙げられる。
【0148】
免疫療法剤(すなわち、免疫療法)の非限定的な例としては、生物学的応答修飾剤、サイトカイン阻害剤、腫瘍ワクチン、モノクローナル抗体、免疫チェックポイント阻害剤、コロニー刺激因子、及び免疫調節剤が挙げられる。
【0149】
生物学的応答修飾剤の非限定的な例としては、インターフェロン及びインターロイキンなどのサイトカイン阻害剤(サイトカイン)が挙げられ、これには、インターフェロンアルファ/インターフェロンアルファ(例えば、インターフェロンアルファ-2、インターフェロンアルファ-2a、インターフェロンアルファ-2b、インターフェロンアルファ-nl、インターフェロンアルファ-n3、インターフェロンアルファコン-1、ペグインターフェロンアルファ-2a、ペグインターフェロンアルファ-2b、及び白血球アルファインターフェロン)、インターフェロンベータ(例えば、インターフェロンベータ-1a及びインターフェロンベータ-1b)、インターフェロンガンマ(例えば、天然インターフェロンガンマ-1a及びインターフェロンガンマ-1b)、アルデスロイキン、インターロイキン-1ベータ、インターロイキン-2、オプレルベキン、ソネルミン、タソネルミン、並びにビルリジンが含まれる。
【0150】
腫瘍ワクチンの非限定的な例としては、APC8015、AVICINE、膀胱がんワクチン、がんワクチン(Biomira)、ガストリン17免疫原、マルヤマワクチン、黒色腫溶解物ワクチン、黒色腫腫瘍溶解性ワクチン(New York Medical College)、黒色腫ワクチン(New York University)、黒色腫ワクチン(Sloan Kettering Institute)、TICE(登録商標)BCG(Bacillus Calmette-Guerin)、及びウイルス性黒色腫細胞溶解物ワクチン(Royal Newcastle Hospital)が挙げられる。
【0151】
モノクローナル抗体の非限定的な例としては、アバゴボマブ、アデカツムマブ、アフリベルセプト、アレムツズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、CA125 MAb(Biomira)、がんMAb(Japan Pharmaceutical Development)、ダクリズマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、エドレコロマブ、ゲムツズマブ・ゾガマイシン(zogamicin)、HER-2及びFc MAb(Medarex)、イブリツモマブ・チウキセタン、イディオタイプ105AD7 MAb(CRC Technology)、イディオタイプCEA MAb(Trilex)、イピリムマブ、リンツズマブ、LYM-1-ヨウ素131 MAb(Techni clone)、ミツモマブ、モキセツモマブ、オファツムマブ、多型性上皮ムチン-イットリウム90 MAb(Antisoma)、ラニビズマブ、リツキシマブ、ベルツズマブ、及びトラスツズマブが挙げられる。
【0152】
免疫チェックポイント阻害剤の非限定的な例としては、抗PD-1剤又は抗体(例えば、セミプリマブ、ニボルマブ、及びペムブロリズマブ)、抗PD-L1剤又は抗体(例えば、アテゾリズマブ、アベルマブ、及びデュルバルマブ)、抗CTLA-4剤又は抗体(例えば、イピルムマブ(ipilumumab)及びトレメリムマブ)、抗LAG1剤、並びに抗OX40剤が挙げられる。
【0153】
コロニー刺激因子の非限定的な例としては、ダルベポエチンアルファ、エポエチンアルファ、エポエチンベータ、フィルグラスチム、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、レノグラスチム、レリジスチム、ミリモスチム、モルグラモスチム、ナルトグラスチム、ペグフィルグラスチム、及びサルグラモスチムが挙げられる。
【0154】
追加の免疫療法剤の非限定的な例としては、BiTE、CAR-T細胞、GITRアゴニスト、イミキモド、免疫調節イミド(IMiD)、ミスマッチ二本鎖RNA(Ampligen)、レシキモド、SRL172、及びチマルファシンが挙げられる。
【0155】
標的療法剤としては、例えば、モノクローナル抗体及び低分子薬物が挙げられる。標的療法剤の非限定的な例としては、シグナル伝達阻害剤、増殖因子阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、EGFR阻害剤、HER2阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、プロテアソーム阻害剤、細胞周期阻害剤、血管新生阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤、肝細胞増殖因子阻害剤、TOR阻害剤、KDR阻害剤、VEGF阻害剤、線維芽細胞増殖因子(FGF)阻害剤、RAF阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、PI3K阻害剤、AKT阻害剤、MCL-1阻害剤、BCL-2阻害剤、SHP2阻害剤、BRAF阻害剤、RAS阻害剤、遺伝子発現調節剤、オートファジー阻害剤、アポトーシス誘導剤、抗増殖剤、及び解糖阻害剤が挙げられる。
【0156】
シグナル伝達阻害剤の非限定的な例としては、チロシンキナーゼ阻害剤、マルチキナーゼ阻害剤、アンロチニブ、アバプリチニブ、アキシチニブ、ダサチニブ、ドビチニブ、イマチニブ、レンバチニブ、ロニダミン、ニロチニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、ペグビソマント、ポナチニブ、バンデタニブ、並びにEGFR及び/又はHER2阻害剤(すなわち、化合物(1)又はその塩以外)が挙げられる。
【0157】
EGFR阻害剤の非限定的な例としては、EGFRの小分子アンタゴニスト(例えば、アファチニブ、ブリグチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、バンデタニブ、及びオシメルチニブ)、並びに抗体ベースのEGFR阻害剤(その天然リガンドによるEGFR活性化を部分的又は完全に遮断することができる任意の抗EGFR抗体又は抗体断片を含む)が挙げられる。抗体ベースのEGFR阻害剤としては、例えば、Modjtahedi, H., et al., 1993, Br. J. Cancer 67:247-253;Teramoto, T., et al., 1996, Cancer 77:639-645;Goldstein et al, 1995, Clin. Cancer Res. 1 : 1311-1318;Huang, S. M., et al., 1999, Cancer Res. 15:59(8): 1935-40及びYang, X., et al., 1999, Cancer Res. 59: 1236-1243に記載されているもの、モノクローナル抗体Mab E7.6.3(Yang, 1999 上記)、Mab C225(ATCC受託番号HB-8508)、又はその結合特異性を有する抗体若しくは抗体断片、特異的アンチセンスヌクレオチド若しくはsiRNA、アファチニブ、セツキシマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、及びザルツムマブが挙げられ得る。
【0158】
HER2阻害剤の非限定的な例としては、HER2チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、アファチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、及びツカチニブ)並びに抗HER2抗体又はその薬物コンジュゲート(例えば、トラスツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)、ペルツズマブ、マルゲツキシマブ、トラスツズマブ・デルクステカン(DS-8201a)、及びトラスツズマブ・デュオカルマジン)が挙げられる。
【0159】
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤の非限定的な例としては、ベリノスタット、パノビノスタット、ロミデプシン、及びボリノスタットが挙げられる。
【0160】
プロテアソーム阻害剤の非限定的な例としては、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ、マリゾミブ(サリノスポラミドa)、及びオプロゾミブが挙げられる。
【0161】
CDK阻害剤を含む細胞周期阻害剤の非限定的な例としては、アベマシクリブ、アルボシジブ、パルボシクリブ、及びリボシクリブが挙げられる。
【0162】
抗血管新生剤(又は血管新生阻害剤)の非限定的な例としては、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤、VEGF阻害剤、EGFR阻害剤、TOR阻害剤(例えば、エベロリムス及びテムシロリムス)、PDGFRキナーゼ阻害剤(例えば、クレノラニブ)、HIF-lα阻害剤(例えば、PX478)、HIF-2α阻害剤(例えば、ベルズチファン及びWO2015/035223に記載のHIF-2α阻害剤)、線維芽細胞増殖因子(FGF)又はFGFR阻害剤(例えば、B-FGF及びRG13577)、肝細胞増殖因子阻害剤、KDR阻害剤、抗Ang1剤及び抗Ang2剤、抗Tie2キナーゼ阻害剤、Tekアンタゴニスト(US2003/0162712、US6,413,932)、抗TWEAK剤(US6,727,225)、そのリガンドへのインテグリンの結合を拮抗するADAMディスインテグリンドメイン(US2002/0042368)、抗eph受容体及び/又は抗ephrin抗体若しくは抗原結合領域(US5,981,245、5,728,813、5,969,110、6,596,852、6,232,447、及び6,057,124)、並びに抗PDGF-BBアンタゴニスト及びPDGF-BBリガンドに特異的に結合する抗体又は抗原結合領域が挙げられるが、これらに限定されない。
【0163】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤の非限定的な例としては、MMP-2(マトリックスメタロプロテアーゼ2)阻害剤、MMP-9(マトリックスメタロプロテアーゼ9)阻害剤、プリノマスタット、RO32-3555、及びRS13-0830が挙げられる。有用なマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤の例は、例えば、WO96/33172、WO96/27583、EP1004578、WO98/07697、WO98/03516、WO98/34918、WO98/34915、WO98/33768、WO98/30566、EP0606046、EP0931788、WO90/05719、WO99/52910、WO99/52889、WO99/29667、WO1999/007675、EP1786785、EP1181017、US2009/0012085、US5,863,949、US5,861,510、及びEP0780386に記載されている。好ましいMMP-2及びMMP-9阻害剤は、MMP-1を阻害する活性をほとんど又はまったく有しないものである。より好ましくは、他のマトリックスメタロプロテイナーゼ(すなわち、MAP-1、MMP-3、MMP-4、MMP-5、MMP-6、MMP-7、MMP-8、MMP-10、MMP-11、MMP-12、及びMMP-13)と比較して、MMP-2及び/又はMMP-9を選択的に阻害するものである。
【0164】
VEGF及びVEGFR阻害剤の非限定的な例としては、ベバシズマブ、セジラニブ、CEP7055、CP547632、KRN633、オランチニブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、ペガプタニブオクタナトリウム、セマキサニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、VEGFアンタゴニスト(Borean、Denmark)、及びVEGF-TRAP(商標)が挙げられる。
【0165】
他の抗血管新生剤としては、2-メトキシエストラジオール、AE941、アレムツズマブ、α-D148 Mab(Amgen、US)、アルファスタチン、アネコルタブ酢酸塩、アンジオシジン、血管新生阻害剤、(SUGEN、US)、アンジオスタチン、抗VnMab(Crucell、Netherlands)、アチプリモド、アキシチニブ、AZD9935、BAY RES2690(Bayer、Germany)、BC1(Genoa Institute of Cancer Research、Italy)、ベロラニブ、ベネフィン(Lane Labs、US)、カボザンチニブ、CDP791(Celltech Group、UK)、コンドロイチナーゼAC、シレンギチド、コンブレタスタチンA4プロドラッグ、CP564959(OSI、US)、CV247、CYC381(Harvard University、US)、E7820、EHT0101、エンドスタチン、エンザスタウリン塩酸塩、ER-68203-00(IVAX、US)、フィブリノーゲン-E断片、Flk-1(ImClone Systems、US)、FLT1(VEGFR1)の形態、FR-111142、GCS-100、GW2286(GlaxoSmithKline、UK)、IL-8、イロマスタット、IM-862、イルソグラジン、KM-2550(Kyowa Hakko、Japan)、レナリドミド、レンバチニブ、MAbα5β3インテグリン、第2世代(Applied Molecular Evolution、USA及びMedlmmune、US)、MAb VEGF(Xenova、UK)、マリマスタット、マスピン(Sosei、Japan)、メタスタチン、モツポラミンC、M-PGA、オンブラブリン、OXI4503、PI88、血小板第4因子、PPI2458、ラムシルマブ、rBPI21及びBPI由来抗血管新生剤(XOMA、US)、レゴラフェニブ、SC-236、SD-7784(Pfizer、US)、SDX103(University of California at San Diego、US)、SG292(Telios、US)、SU-0879(Pfizer、US)、TAN-1120、TBC-1635、テセバチニブ、テトラチオモリブデン酸塩、サリドマイド、トロンボスポンジン1阻害剤、Tie-2リガンド(Regeneron、US)、組織因子経路阻害剤(EntreMed、US)、腫瘍壊死因子-アルファ阻害剤、タムスタチン、TZ93、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子阻害剤、バジメザン、バンデタニブ、バソスタチン、バタラニブ、VE-カドヘリン-2アンタゴニスト、キサントリゾール、XL784(Exelixixis、US)、ziv-アフリベルセプト、及びZD6126が挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
化合物(1)と組み合わされ得る抗がん剤はまた、RAS-RAF-ERK又はPI3K-AKT-TORシグナル伝達経路を破壊又は阻害する活性薬剤であってもよく、又はPD-1及び/又はPD-L1アンタゴニストであってもよい。これらの例としては、RAF阻害剤、EGFR阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、PI3K阻害剤、AKT阻害剤、TOR阻害剤、MCL-1阻害剤、BCL-2阻害剤、SHP2阻害剤、プロテアソーム阻害剤、又は免疫療法(モノクローナル抗体、免疫調節イミド(IMiD)、抗PD-1剤、抗PDL-1剤、抗CTLA4剤、抗LAG1剤、及び抗OX40剤、GITRアゴニスト、CAR-T細胞、及びBiTEを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0167】
RAF阻害剤の非限定的な例としては、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、及びベムラフェニブが挙げられる。
【0168】
MEK阻害剤の非限定的な例としては、ビニメチニブ、CI-1040、コビメチニブ、PD318088、PD325901、PD334581、PD98059、レファメチニブ、セルメチニブ、及びトラメチニブが挙げられる。
【0169】
ERK阻害剤の非限定的な例としては、LY3214996、LTT462、MK-8353、SCH772984、ラボキセルチニブ、ウリキセルチニブ、及びASTX029が挙げられる。
【0170】
PI3K阻害剤の非限定的な例としては、17-ヒドロキシウォルトマンニン類似体(例えば、WO06/044453)、AEZS-136、アルペリシブ、AS-252424、ブパリシブ、CAL263、コパンリシブ、CUDC-907、ダクトリシブ(WO06/122806)、デメトキシビリジン、デュベリシブ、GNE-477、GSK1059615、IC87114、イデラリシブ、INK1117、LY294002、Palomid529、パキサリシブ、ペリフォシン、PI-103、PI-103塩酸塩、ピクチリシブ(例えば、WO09/036,082、WO09/055,730)、PIK90、PWT33597、SF1126、ソノリシブ、TGI00-115、TGX-221、XL147、XL-765、ウォルトマニン、タセリシブ(GDC-0032)、及びZSTK474が挙げられる。
【0171】
Akt阻害剤の非限定的な例としては、Akt-1-1(Aktlを阻害する)(Barnett et al. (2005) Biochem. J., 385 (Pt. 2), 399-408)、Akt-1-1,2(Barnett et al. (2005) Biochem. J. 385 (Pt. 2), 399-408);API-59CJ-Ome(例えば、Jin et al. (2004) Br. J. Cancer 91, 1808-12)、l-H-イミダゾ[4,5-c]ピリジニル化合物(例えば、WO05011700)、インドール-3-カルビノール及びその誘導体(例えば、米国特許第6,656,963号、Sarkar and Li (2004) J Nutr. 134(12 Suppl), 3493S-3498S)、ペリフォシン(Dasmahapatra et al. (2004) Clin. Cancer Res. 10(15), 5242-52, 2004)、ホスファチジルイノシトールエーテル脂質類似体(例えば、Gills and Dennis (2004) Expert. Opin. Investig. Drugs 13, 787-97)、トリシリビン(Yang et al. (2004) Cancer Res. 64, 4394-9)、イミダゾオキサゾン化合物(トランス-3-アミノ-1-メチル-3-[4-(3-フェニル-5H-イミダゾ[1,2-c]ピリド[3,4-e][1,3]オキサジン-2-イル)フェニル]-シクロブタノール塩酸塩(WO2012/137870)を含む)、アフレセルチブ、カピバセルチブ、8-[4-(1-アミノシクロブチル)フェニル]-9-フェニル-1,2,4-トリアゾロ[3,4-f][1,6]ナフチリジン-3(2H)-オン(MK2206)及びその薬学的に許容される塩、AZD5363、トランス-3-アミノ-1-メチル-3-(4-(3-フェニル-5H-イミダゾ[1,2-c]ピリド[3,4-e][1,3]オキサジン-2-イル)フェニル)シクロブタノール(TAS117)及びその薬学的に許容される塩、並びにパタセルチブが挙げられる。
【0172】
TOR阻害剤の非限定的な例としては、デフォロリムス、PI-103、ATP競合性TORC1/TORC2阻害剤(PI-103、PP242、PP30、及びTorin1を含む)、FKBP12エンハンサー中のTOR阻害剤、ラパマイシン及びその誘導体(テムシロリムス、エベロリムス、WO9409010を含む)、ラパログ(例えば、WO98/02441及びWO01/14387に開示されているもの(例えば、AP23573、AP23464、若しくはAP23841)、40-(2-ヒドロキシエチル)ラパマイシン、40-[3-ヒドロキシ(ヒドロキシメチル)メチルプロパノエート]-ラパマイシン、40-エピ(テトラゾリル)-ラパマイシン(ABT578とも呼ばれる)、AZD8055、32-デオキソラパマイシン、16-ペンチニルオキシ-32(S)-ジヒドロロラパマイシン、及び他の誘導体(WO05/005434に開示されているもの)、誘導体(US5,258,389、WO94/090101、WO92/05179、US5,118,677、US5,118,678、US5,100,883、US5,151,413、US5,120,842、WO93/111130、WO94/02136、WO94/02485、WO95/14023、WO94/02136、WO95/16691、WO96/41807、WO96/41807及びUS5,256,790に開示されているもの)、並びにリン含有ラパマイシン誘導体(例えば、WO05/016252)が挙げられる。
【0173】
MCL-1阻害剤の非限定的な例としては、AMG-176、MIK665、及びS63845が挙げられる。
【0174】
SHP2阻害剤の非限定的な例としては、JAB-3068、RMC-4630、TNO155、SHP-099、RMC-4550、並びにWO2019/167000、WO2020/022323、及びWO2021/033153に記載されているSHP2阻害剤が挙げられる。
【0175】
RAS阻害剤の非限定的な例としては、AMG510、MRTX849、LY3499446、JNJ-74699157(ARS-3248)、ARS-1620、ARS-853、RM-007、及びRM-008が挙げられる。
【0176】
使用に好適であり得る抗がん剤の追加の非限定的な例としては、2-エチルヒドラジド、2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン、ABVD、アセグラトン、エースマンナン、アルドホスファミドグリコシド、アルファラジン、アミフォスチン、アミノレブリン酸、アナグレリド、ANCER、アンセスチム,抗CD22免疫毒素、抗腫瘍形成性ハーブ、アパジコン、アルグラビン、三酸化ヒ素、アザチオプリン、BAM002(Novelos)、bcl-2(Genta)、ベストラブシル、ビリコダル、ビサントレン、ブロモクリプチン、ブロスタリシン、ブリオスタチン、ブチオニンスルホキシミン、カリクリン、細胞周期非特異的抗腫瘍剤、セルモロイキン、クロドロン酸塩、クロトリマゾール、シタラビンオクロスフェート、DA3030(Dong-A)、デフォファミン、デニロイキン・ジフチトクス、デクスラゾキサン、ジアジコン、ジクロロ酢酸、ジラゼプ、ディスコデルモリド、ドコサノール、ドキセルカルシフェロール、エデルホシン、エフロルニチン、EL532(Elan)、エルフォミチン(elfomithine)、エルサミトルシン、エニルラシル、エタニダゾール、エクシスリンド、フェルギノール、葉酸補充剤、例えば、フロリン酸(frolinic acid)、ガシトシン、硝酸ガリウム、ギメラシル/オテラシル/テガフールの組み合わせ(S-1)、グリコピン、ヒスタミン二塩酸塩、HITジクロフェナク、HLA-B7遺伝子療法(Vical)、ヒト胎児アルファフェトプロテイン、イバンドロン酸塩、イバンドロン酸、ICE化学療法レジメン、イメキソン、ヨーベングアン、IT-101(CRLX101)、ラニキダール、LC9018(Yakult)、レフルノミド、レンチナン、レバミゾール+フルオロウラシル、ロバスタチン、ルカントン、マソプロコール、メラルソプロール、メトクロプラミド、ミルテホシン、ミプロキシフェン、ミトグアゾン、ミトゾロミド、モピダモール、モテキサフィンガドリニウム、MX6(Galderma)、ナロキソン+ペンタゾシン、ニトラクリン、ノラトレキセド、NSC631570オクトレオチド(Ukrain)、オラパリブ、P-30タンパク質、PAC-1、パリフェルミン、パミドロン酸塩、パミドロン酸、ペントサンポリ硫酸ナトリウム、フェナメット、ピシバニール、ピクサントロン、白金、ポドフィリン酸、ポルフィマーナトリウム塩、PSK(多糖類-K)、ウサギ抗胸腺細胞ポリクローナル抗体、ラスブリエンボディメント、レチノイン酸、レニウムRe186エチドロン酸塩、ロムルチド、サマリウム(153Sm)レキシドロナム、シゾフィラン、フェニル酢酸ナトリウム、スパルホス酸、スピロゲルマニウム、ストロンチウム-89塩化物、スラミン、スワインソニン、タラポルフィン、タリキダール、タザロテン、テガフール-ウラシル、テモポルフィン、テヌアゾン酸、テトラクロロデカオキシド、トロンボポエチン、エチルエチオプルプリンスズ、チラパザミン、TLC ELL-12、トシツモマブ-ヨウ素131、トリフルリジン及びチピラシルの組み合わせ、トロポニンI(Harvard University、US)、ウレタン、バルスポダール、ベルテポルフィン、ゾレドロン酸、並びにゾスキダルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0177】
本開示で使用される場合、「組み合わせ(combination)」、「組み合わされた(combined)」という用語、又はその変形は、2種以上の化合物/薬物の組み合わせの使用を含む治療法を定義することを意図している。この用語は、同じ全体的な投与スケジュールの一部として投与される化合物/薬物を指すことができる。2種以上の化合物/薬物のそれぞれの用量は異なっていてもよい。併用療法は、これらの化合物/薬物を逐次的に投与すること、すなわち、各化合物/薬物を異なる時間に投与すること、並びにこれらの化合物/薬物又は化合物/薬物のうちの少なくとも2種を実質的に同時に投与することを包含することを意図している。実質的同時投与は、例えば、各化合物/薬物の一定比率を有する単一剤形を対象に投与すること、又は化合物/薬物のそれぞれを複数の単一の剤形で対象に投与することによって達成することができる。各化合物/薬物の逐次的又は実質的に同時の投与は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、及び粘膜組織(例えば、頬)を介した直接吸収を含むがこれらに限定されない任意の適切な経路によって達成することができる。化合物/薬物は、同じ経路又は異なる経路によって投与することができる。例えば、選択された組み合わせの第1の化合物/薬物は静脈内注射によって投与されてもよく、一方、組み合わせの他の化合物/薬物は経口投与されてもよい。あるいは、例えば、全ての化合物/薬物は経口投与されてもよく、又は全ての化合物/薬物は静脈内注射によって投与されてもよい。
【0178】
併用療法はまた、上記の化合物/薬物を他の生物学的活性成分及び非薬物療法(例えば、手術又は放射線治療)と更に組み合わせて投与することを包含することができる。併用療法が非薬物治療を更に含む場合、非薬物治療は、化合物/薬物と非薬物治療との組み合わせの共同作用による有益な効果が達成される限り、任意の適切な時間に実施することができる。例えば、適切な場合には、非薬物治療が化合物/薬物の投与から一時的に、おそらく数日、又は更に数週間取り除かれても、有益な効果は依然として達成される。
【0179】
放射線療法を投与するための技法は、当該技術分野で既知であり、これらの技法は、本明細書に記載の併用療法で使用することができる。この併用療法における化合物(1)の投与は、本明細書に記載されるように決定することができる。放射線療法は、いくつかの方法のうちの1つ、又は外部照射療法、内部放射線療法、インプラント放射線、定位放射線治療、全身放射線療法、放射線療法、及び恒久的又は一時的な間質性近接照射療法を含むがこれらに限定されない方法の組み合わせを介して投与され得る。本明細書で使用される場合、「近接照射療法」という用語は、腫瘍又は他の増殖性組織疾患部位の近くで体内に挿入された空間的に制限された放射性物質によって送達される放射線療法を指す。この用語は、限定されないが、放射性同位体(例えば、LuのAt-211、I-131、I-125、Y-90、Re-186、Re-188、Sm-153、Bi-212、P-32、及び放射性同位体)への曝露を含むことが意図される。本開示の細胞コンディショナーとして使用するための好適な放射線源は、固体及び液体の両方を含む。非限定的な例として、放射線源は、固体源としてのI-125、I-131、Yb-169、Ir-192、固体源としてのI-125、又は光子、ベータ粒子、ガンマ線、若しくは他の治療用光線を放出する他の放射性核種などの放射性核種であり得る。放射性物質はまた、放射性核種の任意の溶液(例えば、I-125若しくはI-131の溶液)から作られた流体であってもよく、又は放射性流体は、Au-198、Y-90などの固体放射性核種の小粒子を含む好適な流体のスラリーを使用して生成されてもよい。更に、放射性核種は、ゲル又は放射性マイクロスフェアで具現化することができる。
【実施例
【0180】
化合物(1)の合成
<ステップ1>tert-ブチル(2S,4R)-4-(4-アミノ-5-ヨード-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メチルピロリジン-1-カルボキシレート
tert-ブチル(2S,4S)-4-ヒドロキシ-2-メチルピロリジン-1-カルボキシレート(19.0g)及び4-クロロ-5-ヨード-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(13.1g)をTHF(190mL)に溶解させ、次いで、得られた溶液を0℃に冷却した。その後、トリフェニルホスフィン(37.2g)及びアゾジカルボン酸ジイソプロピル(28.1mL)を反応溶液に添加し、次いで、混合物の温度を室温に上昇させ、続いて、1時間撹拌した。その後、反応混合物を、減圧下で濃縮し、得られた残渣を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)によって精製して、対応するカップリング体を得た。得られた化合物は、更に精製することなくその後の反応に使用した。
【0181】
得られたカップリング体、THF(114mL)、及びアンモニア水(114mL)を、耐圧チューブに添加し、得られた混合物を、100℃で14時間撹拌した。その後、反応混合物を、室温に冷却し、次いで、水(285mL)に注いだ。こうして得られた混合物を、室温で5時間撹拌した。その後、沈殿した固体を濾過により回収し、次いで、水で洗浄し、次いで、乾燥させて、目的の生成物(34.5g)を得た。
【0182】
HNMR(CDCl)δ:8.27(s,1H)7.15(s,1H)5.55-5.73(m,2H)5.12-5.25(m,1H)3.86-4.18(m,2H)3.43-3.57(m,1H)2.59-2.69(m,1H)1.92-2.03(m,1H)1.48(s,9H)1.30-1.40(m,3H).
【0183】
ESI-MS m/z 444(MH+).
【0184】
<ステップ2>4-アミノ-7-((3R,5S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-5-メチルピロリジン-3-イル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボン酸
ステップ1の化合物(28.0g)、10%パラジウム炭素触媒(720mg)、NMP(84mL)、メタノール(26mL)、及びトリエチルアミン(17.6mL)を、耐圧チューブに添加し、続いて、一酸化炭素置換を行い、得られた混合物を、100℃で2時間撹拌した。その後、反応混合物を、室温に冷却し、次いで、2Mの水酸化ナトリウム水溶液(79mL)を添加し、次いで、得られた混合物を、80℃で2時間撹拌した。その後、反応混合物を、室温に冷却し、次いで、セライトを通して濾過し、次いで、メタノールで洗浄した。続いて、濾液中のメタノールを、減圧下で濃縮した。水を更に添加し、次いで、水層を、tert-ブチルメチルエーテルで洗浄した。1Mの硫酸水素カリウム水溶液を水層に添加して、pHを約3に調整した。沈殿した固体を、濾過により回収し、次いで、水で洗浄し、次いで、乾燥させて、目的の生成物(23.4g)を得た。
【0185】
HNMR(400MHz,DMSO-d6)δ:8.14(s,1H)8.08(s,1H)5.16-4.93(m,1H)4.07-3.79(m,2H)3.61-3.45(m,1H)2.53(m,1H)2.33-2.02(m,1H)1.42(s,9H)1.29(d,J=6.1Hz,3H).
【0186】
ESI-MS m/z 362(MH+).
【0187】
<ステップ3>tert-ブチル(2S,4R)-4-(4-アミノ-6-ブロモ-5-(((R)-1-フェニルエチル)カルバモイル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メチルピロリジン-1-カルボキシレート
ステップ2の化合物(1.00g)、(R)-(+)-1-フェニルエチルアミン(0.503g)、ジイソプロピルエチルアミン(1.79g)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(10mL)を添加し、続いて、HATU(1.58g)を添加した。得られた混合物を、室温で一晩撹拌した。その後、反応混合物に、酢酸エチル及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、次いで、得られた混合物を、酢酸エチルで抽出した。合わせた有機層を、水、次いで、飽和生理食塩水で洗浄した。得られたものを無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、次いで、減圧下で濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:アセトン)によって精製して、アミド形態(1.53g)を得た。得られた化合物は、更に精製することなくその後の反応に使用した。
【0188】
アミド形態(1.53g)にクロロホルム(15mL)を添加し、得られた混合物を、0℃に冷却した。その後、N-ブロモスクシンイミド(0.88g)を、反応混合物に添加し、次いで、得られた混合物を、0℃で1時間撹拌した。その後、反応混合物を、減圧下で濃縮し、得られた残渣を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)によって精製して、目的の生成物(1.39g)を得た。
【0189】
HNMR(CDCl)δ:8.21(s,1H)7.42-7.28(m,5H)6.97(d,J=7.3Hz,1H)5.36-5.29(m,1H)5.20-5.07(m,1H)4.30(t,J=10.3Hz,1H)4.04-3.72(m,2H)3.00-2.86(m,1H)2.38(dt,J=14.3,6.0Hz,1H)1.63(d,J=7.0Hz,3H)1.53-1.43(m,12H).
【0190】
ESI-MS m/z 543,545(MH+).
【0191】
<ステップ4>7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-ブロモ-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド
ステップ3の化合物(600mg)に、クロロホルム(3mL)を添加し、次いで、得られた混合物を、0℃に冷却した。その後、トリフルオロ酢酸(4.44g)を、反応混合物に添加し、得られた混合物を、室温で1時間撹拌した。その後、反応混合物を、減圧下で濃縮し、次いで、アセトニトリル(5mL)を、残渣に添加した。得られた混合物を、再び減圧下で濃縮して、アミン形態を得た。得られた化合物は、更に精製することなくその後の反応に使用した。
【0192】
得られたアミン形態に、アセトニトリル(3mL)を添加し、得られた混合物を、0℃に冷却した。その後、アクリロイルクロリド(99.9mg)及びジイソプロピルエチルアミン(713mg)を添加し、次いで、得られた混合物を、0℃で1時間撹拌した。その後、反応混合物を、減圧下で濃縮し、得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール)によって精製して、目的の生成物(281mg)を得た。
【0193】
HNMR(CDCl)δ:8.20(d,J=7.3Hz,1H)7.42-7.36(m,4H)7.32-7.28(m,1H)7.00-6.94(m,1H)6.57-6.33(m,2H)5.76-5.66(m,1H)5.36-5.29(m,1H)5.14-5.08(m,1H)4,71(t,J=9.9Hz,0.7H)4.42-4.23(m,1.6H)3.83(t,J=8.6Hz,0.7H)3.03-2.92(m,1H)2.60-2.57(m,0.3H)2.44-2.40(m,0.7H)1.64(d,J=6.6Hz,3H)1.56(dd,J=11.7,6.2Hz,3H).
【0194】
ESI-MS m/z 497,499(MH+).
【0195】
<ステップ5>7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(1))
ステップ4の化合物(65mg)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(9.2mg)、ヨウ化銅(I)(5.0mg)、シクロプロピルアセチレン(13.0mg)、トリエチルアミン(39.7mg)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(1.3mL)を添加し、次いで、反応系の内部を、窒素で置換した。その後、混合物を、70℃で2.5時間撹拌した。その後、反応混合物に、酢酸エチル及び飽和塩化アンモニウム水溶液を添加し、次いで、得られた混合物を、酢酸エチルで抽出した。合わせた有機層を、水、次いで、飽和生理食塩水で洗浄した。得られたものを無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、次いで、減圧下で濃縮した。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール)によって精製して、目的の生成物(50mg)を得た。
【0196】
HNMR(CDCl)δ:8.22(d,J=5.1Hz,1H)7.82(d,J=7.3Hz,1H)7.43-7.35(m,4H)7.30(t,J=6.8Hz,1H)6.58-6.34(m,2H)5.77-5.66(m,1H)5.35-5.20(m,2H)4.54(t,J=10.1Hz,0.7H)4.35-4.25(m,1.6H)3.88(t,J=8.8Hz,0.7H)2.90-2.78(m,1H)2.65-2.56(m,0.3H)2.49-2.40(m,0.7H)1.63(d,J=7.0Hz,3H)1.56-1.45(m,4H)1.03-0.91(m,2H)0.84-0.69(m,2H).
【0197】
ESI-MS m/z 483(MH+).
【0198】
化合物(1)の遊離形態I型結晶の生成
化合物(1)の粗生成物(100mg)を、エタノール(500μL)に懸濁し、50℃で一晩撹拌した。溶液を、25℃に冷却し、得られた懸濁液を濾過して、化合物(1)の遊離形態I型結晶(31mg)を得た。
【0199】
1当量のフマル酸(モノフマル酸塩)を含む化合物(1)のII型結晶の生成
化合物(1)のフマル酸とのII型結晶を、以下の生成方法1又は生成方法2に記載される2つの方法によって生成した。
【0200】
<生成方法1>フマル酸(3当量)を、30mgの化合物(1)の遊離形態I型結晶に添加し、0.3mLのtert-ブタノールを添加し、懸濁液を、25℃で約124時間撹拌した後、固体を、濾過により集め、回収し、乾燥させて、目的の結晶を得た。
【0201】
<生成方法2>フマル酸(1.06g)及び22mLのアセトンを2.20gの化合物(I)の遊離型I型結晶に添加し、懸濁液を50℃で約62時間撹拌し、自然に30分間冷却し、次いで、固体を濾過により集め、回収した。これを2-プロパノールで洗浄し、次いで、固体を濾過により集め、回収し、乾燥させて、目的の結晶2.27gを得た。
【0202】
製剤
化合物(1)は、別途指定されない限り、モノフマル酸塩の形態(C2830・C)で、全ての非臨床試験において投与された。以下の実施例全体を通して化合物(1)への全ての言及は、この塩形態を示す。用量は、遊離塩基当量(すなわち、化合物(1)の当量)として提示される。水性経口懸濁剤形で製剤化した場合、活性原薬を、ビヒクルとしての0.5%重量/体積(w/v)のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)に懸濁した。フィルムコーティング錠剤剤形で製剤化した場合、活性原薬を、以下の不活性成分:ラクトース一水和物、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、タルク、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、及び二酸化チタンと組み合わせた。
【0203】
HER2酵素活性に対する化合物(1)の阻害効果
HER2酵素活性に対する化合物(1)の阻害効果を調べるために、HER2及びその変異体のヒト組換え酵素に対する化合物(1)の半最大阻害濃度(IC50)値の平均値±標準偏差(SD)を、インビトロキナーゼアッセイによって決定した(表1)。これらの結果は、化合物(1)がHER2及びその変異体のキナーゼ活性を阻害し、HER2エクソン20挿入変異体に対して特に高い効力を有することを示した。
【0204】
【表1】
【0205】
EGFR酵素活性に対する化合物(1)の阻害効果
EGFR酵素活性に対する化合物(1)の阻害効果を調べるために、EGFR及びその変異体のヒト組換え酵素に対する化合物(1)の半最大阻害濃度(IC50)値の平均値±標準偏差(SD)を、インビトロキナーゼアッセイによって決定した(表2)。これらの結果は、化合物(1)が、EGFR及びその変異体(特にEGFRエクソン20挿入変異を含む)のキナーゼ活性を阻害することを示した。
【0206】
【表2】
【0207】
化合物(1)の酵素阻害選択性
化合物(1)のキナーゼ選択性を更に調べるために、化合物(1)について257種のキナーゼのパネル酵素アッセイを実施した。化合物(1)は、1000nmol/Lの濃度で試験した257種のキナーゼのうちの14種のみに対して50%超の阻害率(活性の≧50%の阻害)を示した(表3)。化合物(1)は、他の243種のキナーゼについて、弱い阻害(活性の<50%の阻害)を示したか、又は阻害効果を示さなかった。
【0208】
【表3】
【0209】
SK-BR-3ヒト乳腺がん細胞株におけるHER3のフィードバック活性化に対する化合物(1)の阻害効果の評価
SK-BR-3細胞におけるHER3、その下流標的(ERK及びAKT)、並びにアポトーシスマーカー(BIM及び切断PARP)のフィードバック活性化に対する化合物(1)の効果を調べた。加えて、ラパチニブ及びツカチニブ(HER2の可逆阻害剤)についても同じ情報を得た。
【0210】
化合物(1)は、10nmol/Lという低濃度から、48時間、HER2、HER3、AKT、及びERKのリン酸化の持続的な阻害を示した。
【0211】
BIM及び切断PARPは、SK-BR-3細胞を、10~100nmol/Lの濃度の化合物(1)で48時間処理した後に顕著に増加した。
【0212】
SK-BR-3細胞を、30~300nmol/Lの範囲の濃度のラパチニブ及びツカチニブで3時間処理しても、HER2、HER3、及びそれらの下流標的のリン酸化を阻害した。しかしながら、48時間では、HER2、HER3、及びそれらの下流標的(AKT及びERK)のリン酸化が再び増加した。また、BIM及び切断PARPは、SK-BR-3細胞を、30~300nmol/Lの濃度のラパチニブ及びツカチニブで48時間処理した後に増加した。
【0213】
ErbB1/2の増幅又は変異を有するヒトがん細胞株における化合物(1)の増殖阻害効果の評価
ErbB1/2の増幅又は変異を有するヒトがん細胞株の増殖に対する化合物(1)の阻害効果を調べるために、各細胞株について50%増殖阻害濃度(GI50)値を決定した。
【0214】
試験した9種の細胞株のうち、HER2遺伝子の増幅は、BT-474細胞(乳がん)及びNCI-N87細胞(胃がん)において以前に報告されており、一方、HER2遺伝子の変異(DelG776insVC)は、NCI-H1781細胞(肺がん)において報告されている。
【0215】
化合物(1)は、それぞれ2.05±0.48nmol/L、0.891±0.312nmol/L、及び5.85±2.83nmol/LのGI50値で、これら3種の細胞株の増殖を阻害した。更に、化合物(1)は、HER2(A775_G776insYVMA)を発現するように操作されたヒト乳腺上皮細胞株であるMCF10A_HER2/insYVMA細胞の増殖を阻害し、GI50値は23.3±1.4nmol/Lであった。
【0216】
HER2増幅を伴わない野生型EGFR遺伝子増幅がA-431細胞で観察されている。HCC827細胞(肺がん)は、EGFR活性化変異(DelE746_A750)を有するものとして報告されている。NCI-H1975細胞(肺がん)は、活性化変異及びEGFR耐性変異(L858R及びT790M)を獲得していると報告されている。化合物(1)への曝露後のこれらの細胞株のGI50値は、8.64±1.07nmol/L(A-431)、2.13±0.61nmol/L(HCC827)、及び37.5±20.4nmol/L(NCI-H1975)であった。
【0217】
エクソン20挿入変異(活性化変異及び固有の耐性変異)を発現するNCI-H1975 EGFR D770_N771insSVD細胞(肺がん)の増殖も、化合物(1)によって阻害され、GI50値が8.71±4.56nmol/Lであることが示されている。対照的に、化合物(1)への曝露後、ErbB1/2異常を伴わないKRAS Q61H変異を発現するNCI-H460(肺がん)細胞のGI50値は、>1000nmol/Lであった。
【0218】
したがって、化合物(1)は、ErbB1/2増幅又はエクソン20挿入を含む様々なErbB1/2変異を発現するヒトがん細胞の増殖に対する選択的かつ強力な阻害効果を実証した。
【0219】
NCI-N87ヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍効果の評価
化合物(1)の抗腫瘍効果を、HER2過剰発現NCI-N87ヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおいて評価した。0.5%w/vのヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)をビヒクルとして使用する化合物(1)投与懸濁液を、4つの用量レベル(3.1、6.3、12.5、及び25.0mg/kg/日)で調製し、14日間、1日1回経口投与した。加えて、ポジオチニブ(汎ErbB阻害剤であり、現在、HER2エクソン20挿入変異を含む上皮増殖因子受容体を有するがんの治療のための臨床開発下にある)の抗腫瘍効果も、このモデルを使用して評価した。ポジオチニブを、14日間、2つの用量レベル(0.5又は1.0mg/kg/日)で1日1回経口投与した。対照群は、14日間、1日1回、0.5%w/vのHPMCを投与した。
【0220】
15日目の評価では、試験化合物で処置した全ての群は、対照群と比較して、有意な腫瘍増殖阻害を示した(図1)。平均腫瘍体積(TV)の処置群/対照群(T/C)比は、3.1、6.3、12.5、及び25.0mg/kg/日の化合物(1)群では、それぞれ61.5%、40.7%、7.3%、及び3.4%であり、0.5及び1.0mg/kg/日のポジオチニブ群では、それぞれ44.2%、8.8%であった。
【0221】
試験期間中、0日目から体重が20%超減少したマウスはいなかった。これらの知見は、3.1~25.0mg/kg/日の用量の化合物(1)が、用量依存的な様式で抗腫瘍活性を示し、NCI-N87ヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおいて重度の体重減少を引き起こさないことを示した。
【0222】
標的タンパク質の評価。化合物(1)の有効投与量での薬力学を調べるために、NCI-N87ヒト胃がんの皮下移植を有するヌードマウスモデルにおける腫瘍組織において、リン酸化HER2、リン酸化HER3、リン酸化ERK、及びリン酸化AKTのレベルを調べた。
【0223】
3.1、6.3、12.5、及び25.0mg/kgの群では、化合物(1)の投与の1時間後に、腫瘍試料を採取した。12.5及び25.0mg/kgの群では、化合物(1)の投与の2、4、6、12、及び24時間後に、追加の腫瘍試料を採取した。対照群は、単回経口投与後、0.5%重量/体積(w/v)のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)溶液を投与し、投与直後に腫瘍試料を採取した。
【0224】
化合物(1)を投与して1時間後、対照群と比較して、化合物(1)(3.1~25.0mg/kg)による処置により、用量依存的な様式で、これら2つのタンパク質の総レベルを変化させることなく、HER2及びHER3のリン酸化を減少させた。加えて、ERK及びAKT(基質タンパク質又は標的タンパク質)のリン酸化もまた、同じ時点で下方調節されたことが観察された。
【0225】
NCI-N87腫瘍組織におけるHER2及びHER3のリン酸化の下方調節は、12.5mg/kgの用量の化合物(1)の投与後、1~4時間継続した。25.0mg/kgの用量では、腫瘍組織におけるHER2及びHER3のリン酸化の下方調節は、1~12時間継続した。ERK1及びERK2(HER2及びHER3の下流標的である)を含むAKT及びERKのリン酸化もまた、1時間で下方調節された。これらの下方調節は、化合物(1)の投与後12時間まで継続した。加えて、切断PARP(アポトーシスのマーカー)及びBIM(アポトーシスの主要なエフェクター)の発現は、両方の用量の化合物(1)の投与によって増加した。
【0226】
化合物(1)は、標的タンパク質及びその基質のリン酸化を減少させ、アポトーシス関連因子のレベルを増加させたため、化合物(1)は、HER2シグナル伝達経路の不活性化を介して抗腫瘍効果を発揮すると考えられる。
【0227】
MCF10A_HER2/insYVMA_vヒト乳腺上皮異種移植片を有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍効果の評価
化合物(1)の抗腫瘍効果を、MCF10A_HER2/insYVMA_vのヌードマウス異種移植モデルで評価した。MCF10A_HER2/insYVMA_vは、ヌードマウスに皮下移植されたMCF10A_HER2/insYVMA(HER2エクソン20挿入変異A775_G776insYVMAを発現するように操作されたヒト乳腺上皮細胞株)異種移植片に由来するインビボで安定的に増殖する細胞として確立された。化合物(1)の懸濁液(ビヒクルとして0.5%w/vのHPMCを使用)を、14日間、7.8、12.5、又は20.0mg/kg/日の用量で、マウスに1日1回経口投与した。対照群は、0.5%重量/体積(w/v)のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)溶液を、14日間、1日1回経口投与した。
【0228】
加えて、このモデルを使用して、ポジオチニブ(EGFR、HER2、及びHER4の不可逆阻害剤)の抗腫瘍効果も評価した。
【0229】
化合物(1)及びポジオチニブによる処置中の抗腫瘍効果を、図2に示す。
【0230】
化合物(1)処置群では、7.8、12.5、及び20.0mg/kg/日を投与された群における15日目の平均腫瘍体積(TV)値のT/C比(%)は、それぞれ52.8%、17.4%、及び8.7%であった。全ての化合物(1)処置群における15日目の平均log10TVは、対照群におけるものよりも有意に低かった(それぞれ、P=0.0016、P<0.0001、及びP<0.0001)。
【0231】
ポジオチニブ処置群では、0.5mg/kg/日及び1.0mg/kg/日を投与された群における15日目の平均TVのT/C比(%)は、それぞれ29.0%及び8.3%であった。両方のポジオチニブ処置群における15日目の平均log10TVは、対照群におけるものよりも有意に低かった(各々、P<0.0001)。
【0232】
いずれのマウスも死亡せず、異常な臨床徴候又は体重減少(≧20%)が観察されなかったため、毒性は、全ての被験試料処置群において許容可能であると判断された。したがって、化合物(1)は、HER2エクソン20挿入変異、MCF10A_HER2/insYVMA_vを有するヒト乳腺上皮細胞株のヌードマウス異種移植モデルにおいて、許容される毒性を有する抗腫瘍効果を示した。
【0233】
頭蓋内NCI-N87-lucヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍効果の評価
HER2過剰発現NCI-N87ヒト胃がん細胞株を使用してルシフェラーゼ遺伝子を安定して発現するように操作されたNCI-N87-luc細胞を頭蓋内に移植されたヌードマウスにおいて、化合物(1)を使用して、化合物(1)の頭蓋内抗腫瘍効果を評価した。化合物(1)の投与懸濁液(ビヒクルとして0.5%w/vのHPMCを使用)を、3つの用量レベル(16.0、20.0、又は25.0mg/kg/日)の化合物(1)とともに調製し、21日間QDでPO投与した。対照群は、0.5%重量/体積(w/v)のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)溶液を、21日間、1日1回経口投与した。このモデルを使用して、ポジオチニブの抗腫瘍作用も評価した。ポジオチニブを、2つの用量レベル(0.5又は1.0mg/kg/日)で、21日間QDでPO投与した。
【0234】
22日目の評価では、化合物(1)で処置された全ての群は、対照群と比較して、有意な腫瘍増殖阻害を示した(P<0.05、Dunnett検定)(図3)。ポジオチニブ処置群では、22日目の対数変換された平均総流量値は、対照群と比較して、1.0mg/kg/日を投与された群で有意に低かった(P<0.05)が、0.5mg/kg/日を投与された群ではそうではなかった(P=0.57)(図3)。
【0235】
16.0、20.0、及び25.0mg/kg/日の化合物(1)で処置された群の平均総流量のT/C比は、それぞれ16.9%、4.7%、及び1.7%であり、0.5及び1.0mg/kg/日のポジオチニブ処置群のT/C比は、それぞれ39.0%及び21.1%であった。処置期間中、0日目から体重が>20%減少したマウスはいなかった。16.0、20.0、及び25.0mg/kg/日の化合物(1)で処置された群では、22日目の平均体重変化(BWC)は、それぞれ1.4%、0.4%、及び2.8%であった。ポジオチニブで処置された群では、平均BWCは、それぞれ2.5%及び0.3%であった。
【0236】
これらの知見は、化合物(1)が、脳実質にNCI-N87-lucヒト胃がんを移植されたヌードマウスにおいて、重度の体重減少を伴わず、用量依存的な様式で頭蓋内抗腫瘍活性を示し、ポジオチニブと比較して、優れた頭蓋内抗腫瘍効果を有することを示した。
【0237】
非臨床薬物動態
化合物(1)を経口投与した。化合物(1)の濃度を、PK試験のためにLC-MS/MSを使用して定量した。13Cで標識した化合物(1)を、内部標準として使用した。
【0238】
単回経口投与後のヌードマウスにおける薬物動態。化合物(1)の血漿中濃度プロファイル及びPKパラメータを、6.25、12.5、及び25mg/kgの用量で単回経口投与した後、雄のヌードマウスにおいて決定した(図4A及び4B、並びに表4)。Cmax、AUClast、及びAUC0-24値は、用量依存的な様式で増加した。
【0239】
【表4】
【0240】
7日間の複数回経口投与後のヌードマウスにおける薬物動態。7日目の化合物(1)の血漿中濃度プロファイル及びPKパラメータを、6.25、12.5、及び25mg/kgの用量で7日間、1日1回経口投与した後、雄のヌードマウスにおいて決定した(図5A及び5B、並びに表5)。Cmax、AUClast、及びAUC0-24値は、用量依存的な様式で増加した。
【0241】
【表5】
【0242】
化合物(1)の血漿タンパク質結合。マウス、ラット、イヌ、サル、及びヒトにおける化合物(1)の血漿タンパク質結合を、平衡透析法を使用して決定した。0.2、2、及び20μmol/Lの化合物(1)の濃度では、化合物(1)の血漿タンパク質結合は、マウスでは98.8%~99.5%、ラットでは97.3%~98.9%、イヌでは97.4%~98.0%、サルでは98.0%~98.5%、ヒトでは99.4%~99.6%であり、化合物(1)の血漿タンパク質結合は、化合物(1)濃度にかかわらずほぼ一定であることが示された。0.2~20μmol/Lの濃度で、ヒト血清アルブミン(HAS)、α1-酸糖タンパク質(AAG)、及びγ-グロブリン(GG)を含有する溶液中の化合物(1)の結合画分の値は、それぞれ97.7%~98.1%、52.9%~63.9%、及び40.1%~53.9%の範囲であった。
【0243】
ヌードマウスにおける化合物(1)の脳結合。ヌードマウス脳ホモジネートを使用した0.005、0.01、0.05、0.1、及び0.5μmol/Lの化合物(1)の脳結合を、平衡透析法によって評価した。0.005及び0.01μmol/Lでの脳結合は、LC-MS/MSによる定量限界のために計算されなかったが、0.05、0.1、及び0.5μmol/Lでは、それぞれ99.6±0.0%、99.5±0.0%、及び99.5±0.0%であった。これらの結果は、化合物(1)の濃度にかかわらず、化合物(1)の脳結合がほぼ一定であったことを示している。
【0244】
ヌードマウスにおける化合物(1)の脳透過性。50mg/kgでの単回経口投与後、雄ヌードマウスにおける0.5及び1時間でのKp,brain値により、化合物(1)の脳透過性を確認した(表6)。脳透過性試験、並びに脳及び血漿タンパク質結合試験に基づいて、Kp,uu,brainは、0.5時間で0.26±0.05であり、1時間で0.13±0.03であると計算された。
【0245】
【表6】
【0246】
薬物動態薬物相互作用
ヒトP-gpに対する化合物(1)の基質感受性。ヒトP-gp/Lilly Laboratories Cell-Porcine Kidney 1(LLC-PK1)細胞及びmock/LLC-PK1細胞にわたって1μmol/L及び10μmol/L化合物(1)の双方向経細胞輸送の時間依存性を分析した。1μmol/Lの化合物(1)と2時間又は3時間インキュベートしたいくつかの試料の正味流量比(net flux ratio)は、これらの試料の濃度が定量下限を下回ったため、計算不可能であった。したがって、これらの試料の除去量(cleared volume)の直線性は決定できなかったが、10μmol/Lのゾスキダル(ヒトP-gp特異的阻害剤である)の有無で、1μmol/Lの化合物(1)と4時間インキュベートした試料の正味流量比は、それぞれ1.5±0.6及び4.7±0.7であった。これは、化合物(1)がP-gpの基質であることを示す。10μmol/Lの化合物(1)と2時間、3時間、及び4時間インキュベートした試料の正味流量比は、それぞれ1.4±0.4、1.7±0.3、及び1.5±0.2であった。試料を10μmol/Lのゾスキダルとともに10μmol/Lの化合物(1)と2時間、3時間、及び4時間インキュベートした正味流量比は、それぞれ1.2±0.3、1.2±0.1、及び1.1±0.1であった。これらの結果は、P-gpを介した化合物(1)の輸送が、化合物(1)濃度の増加によって飽和され得ることを示す。化合物(1)に10μmol/Lのゾスキダルを1μmol/Lで添加し、化合物(1)の濃度を1μmol/Lから10μmol/Lに上昇させることによって、正味流量比が2未満に低下したことは、化合物(1)がP-gpの基質であることを示す。
【0247】
ヒトP-gpに対する化合物(1)の阻害効果。0.01、0.1、1、5、10、及び100μmol/Lの異なる濃度の化合物(1)又は10μmol/Lのゾスキダルの存在下で、ヒトP-gpの典型的な基質である[H]ジゴキシンの双方向輸送を3時間分析した。0.01、0.1、1、5、10、及び100μmol/Lの化合物(1)の濃度での正味流量比は、それぞれ5.6±1.0、5.5±0.7、6.5±0.5、2.8±0.5、1.3±0.2、及び1.0±0.1であった。0.01、0.1、1、5、10、及び100μmol/Lの化合物(1)の濃度での対照の割合は、それぞれ112%、110%、135%、45%、7%、及び1%であった。>5μmol/Lの化合物(1)の存在下での対照の割合が50%未満であったため、IC50値を推定した。100μmol/Lの化合物(1)の結果については、[H]ジゴキシンのみを曝露した群と比較して見かけ透過係数が10倍高かったため、IC50の推定から除外した。化合物(1)のIC50は、3.48μmol/Lと推定された。これらの結果から、化合物(1)は、3.48μmol/Lの推定IC50値でP-gp活性を阻害する可能性があると結論付けられる。
【0248】
ヒトBCRPに対する化合物(1)の基質感受性。ヒトBCRP/Madin-Darbyイヌ腎II(MDCKII)細胞及び親/MDCKII細胞にわたる0.3、0.5、1、3、及び30μmol/Lの化合物(1)の双方向経細胞輸送の時間依存性を分析した。0.3μmol/Lの化合物(1)と2時間及び/又は3時間インキュベートしたいくつかの試料は、定量下限を下回っていたため、0.3μmol/Lでは除去量の直線性を決定することができなかったが、0.5、1、3、及び30μmol/Lでは、2~4時間の除去量の直線性を確認した。0.3μmol/Lの化合物(1)と4時間インキュベートした試料の正味流量比は1.5±0.6であり、Ko143(BCRPの典型的な阻害剤)とともに0.3μmol/Lの化合物(1)と4時間インキュベートした試料の正味流量比は1.1±0.2であった。0.3μmol/Lの化合物(1)での正味流量比は2未満であったが、親及びヒトBCRP/MDCKII細胞において3時間及び4時間0.3μmol/Lの化合物(1)とインキュベートした試料の流量比は>2であった。これは、化合物(1)がMDCKII細胞で発現された内因性トランスポーターによって輸送されたことを示す。ヒトBCRPを介した化合物(1)の経細胞輸送は、MDCKII細胞における内因性トランスポーターのために過小評価されていた可能性があるため、これらのデータは、ヒトBCRPに対する化合物(1)の基質感受性の判断に使用しなかった。0.5μmol/Lの化合物(1)とインキュベートした試料の正味流量比は、2時間で1.9±0.9、3時間で3.0±0.9、4時間で2.7±0.8であった。10μmol/LのKo143とともに0.5μmol/Lの化合物(1)とインキュベートした試料の正味流量比は、それぞれ、2時間で1.2±0.3、3時間で1.2±0.2、及び4時間で1.2±0.2であった。1μmol/Lの化合物(1)とインキュベートした試料の正味流量比は、それぞれ、2時間で2.3±0.7、3時間で1.8±0.4、及び4時間で2.2±0.7であった。10μmol/LのKo143とともに1μmol/Lの化合物(1)とインキュベートした試料の正味流量比は、それぞれ、2時間で2.0±0.5、3時間で1.4±0.2、及び4時間で1.4±0.2であった。3μmol/Lの化合物(1)とインキュベートした試料の正味流量比は、それぞれ、2時間で2.0±0.3、3時間で1.6±0.3、及び4時間で1.5±0.2であった。30μmol/Lの化合物(1)とインキュベートした試料の正味流量比は、それぞれ、2時間で1.4±0.3、3時間で1.1±0.1、及び4時間で1.2±0.1であった。化合物(1)のいくつかの正味流量比が、BCRP基質の基準である2を超えたため、化合物(1)は、このアッセイの条件下で、BCRPの基質である。ヒトBCRPを介した化合物(1)の輸送は、>1μmol/Lの化合物(1)で飽和され得る。
【0249】
ヒトBCRPに対する化合物(1)の阻害効果。0.01、0.1、0.5、1、5、及び10μmol/Lの異なる濃度の化合物(1)又は10μmol/LのKo143の存在下で、[H]プラゾシン(ヒトBCRPの典型的な基質である)の双方向輸送を3時間分析した。[H]プラゾシンの正味流量比は4.2±0.6であり、Ko143により、[H]プラゾシンの正味流量比が1.1±0.1に減少した。化合物(1)の各濃度での正味流量比は、0.01μmol/Lで4.6±0.4、0.1μmol/Lで4.0±0.3、0.5μmol/Lで2.7±0.2、1μmol/Lで1.8±0.2、5μmol/Lで1.3±0.2、10μmol/Lで1.1±0.1であった。化合物(1)の各濃度での対照の割合は、0.01μmol/Lで114%、0.1μmol/Lで95%、0.5μmol/Lで54%、1μmol/Lで24%、5μmol/Lで10%、10μmol/Lで3%であった。1μmol/Lを超える化合物(1)での対照の割合が50%未満であったため、そのIC50値は、全ての結果に基づいて0.332μmol/Lと推定された。これらの結果に基づいて、化合物(1)は、0.332μmol/LのIC50値でBCRP活性を阻害する可能性があると結論付けた。最大濃度での被験試料との対照の値の割合が50%未満であったため、正味流量比に対する化合物(1)のIC50値は、非線形最小二乗回帰分析を用いて、トランスポーター活性と化合物(1)の濃度(4パラメータロジスティックモデル)との間の関係についてのシグモイド用量応答曲線を適合させることによって推定した。これらの結果に基づいて、化合物(1)は、0.332μmol/LのIC50値でBCRP活性を阻害する可能性があると結論付けた。
【0250】
難治性T-mab/P-mab NCI-N87ヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍効果の評価
雄ヌードマウス(BALB/cAJcl-mu/mu)に、(HER2を過剰発現する)NCI-N87ヒト胃がんを移植した(マウス1匹当たり100μLのPBS中1.0×10個の細胞を皮下移植した)。
【0251】
ステップI(0~64日目)では、移植されたマウスを処置せずに放置するか(対照)、20mg/kg/日の投与量で1週間に1回トラスツズマブ(T-mab)で腹腔内処置するか、20mg/kg/日の投与量で1週間に1回ペルツズマブ(P-mab)で処置するか、又は20mg/kg/日の投与量で1週間に1回T-mabとP-mabとの組み合わせで処置した。マウスの腫瘍体積(TV、mm)及び体重を記録した。
【0252】
ステップII(64~79日目;ステップIIの1日目=ステップIの64日目に注意)では、ステップIでT-mabとP-mabとの組み合わせによる処置から再発したマウスを3つの群に分けた。ステップIIの1日目に開始して、再発マウスを、各々20mg/kg/日の投与量で1週間に1回T-mabとP-mabとの組み合わせで14日間腹腔内処置するか(ステップIIの1日目及び8日目)、12.5mg/kg/日の投与量で1日に1回化合物(1)の経口懸濁液でos(PO)処置するか、又は25mg/kg/日の投与量で1日に1回化合物(1)の経口懸濁液でPO処置した。マウスの腫瘍体積(TV、mm)及び体重を記録した。
【0253】
結果を表7(ステップIの22日目に評価)、表8(ステップIIの15日目に評価)、及び図6A~6Bに示す。見てわかるように、ステップIのNCI-N87異種移植片において、最初に、T-mabとP-mabとの組み合わせへの連続曝露により腫瘍の退縮が誘発されたが、処置中に腫瘍が再増殖し、有効性の喪失が示された。T-mab及びP-mabに対して耐性を獲得した腫瘍において、化合物(1)が非常に有効であることが見出された。化合物(1)は、同じ時間枠にわたって、T-mab/P-mabの組み合わせと比較して、12.5及び25mg/kg/日の用量について、それぞれ52.5%及び46.1%のT/C値を提供する。更に、化合物(1)は、いずれの投与量でも重度の体重減少を引き起こさず、許容される耐容性を示した。
【0254】
【表7】
【0255】
【表8】
【0256】
難治性T-DM1 NCI-N87ヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍効果の評価
雄ヌードマウス(BALB/cAJcl-mu/mu)に、(HER2を過剰発現する)NCI-N87ヒト胃がんを移植した(マウス1匹当たり100μLのPBS中1.0×10個の細胞を皮下移植した)。
【0257】
ステップI(0~85日目)では、移植されたマウスを処置せずに放置した(対照)か、又は10mg/kg/日の投与量で3週間に1回静脈内トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)で処置した。
【0258】
ステップII(85~106日目;ステップIIの1日目=ステップIの85日目に注意)では、ステップIの静脈内トラスツズマブ・エムタンシンによる処置から再発したマウスを3つの群に分けた。ステップIIの1日目に開始して、再発マウスを、10mg/kg/日の投与量の静脈内トラスツズマブ・エムタンシン(ステップIIの1日目に単回投与)で21日間処置し、12.5mg/kg/日の投与量で1日1回化合物(1)の経口懸濁液でPO処置するか、又は25mg/kg/日の投与量で1日1回化合物(1)の経口懸濁液でPO処置した。マウスの腫瘍体積(TV、mm)及び体重を記録した。
【0259】
結果は、表9(ステップIIの22日目に評価)、及び図7A~7Bに示す。見てわかるように、NCI-N87異種移植片において、最初に、T-DM1への連続曝露により腫瘍の退縮が誘発されたが、処置中に腫瘍が再増殖し、有効性の喪失が示された。T-DM1に対して耐性を獲得した腫瘍において、化合物(1)が有効であることが見出された。これは、同じ時間枠にわたって、T-DM1と比較して、12.5及び25mg/kg/日の用量について、それぞれ75.7%及び62.4%のT/C値を提供する。更に、化合物(1)は、いずれの投与量でも重度の体重減少を引き起こさず、許容される耐容性を示した。
【0260】
【表9】
【0261】
難治性T-DM1 NCI-N87ヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍効果の評価:ラパチニブ及びツカチニブとの比較
Irie H, Kawabata R, Fujioka Y, Nakagawa F, Itadani H, Nagase H, Ito K, Uchida J, Ohkubo S, Matsuo K. Acquired resistance to trastuzumab/pertuzumab or to T-DM1 in vivo can be overcome by HER2 kinase inhibition with TAS0728. Cancer Sci. 2020 Jun;111(6):2123-2131に記載されている手順に従って、3週間に1回、10mg/kg/日の投与量で126日間静脈内トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)への連続的に曝露することによって、難治性T-DM1 NCI-N87ヒト胃がん腫瘍(HER2過剰発現)を得た。次いで、上記の手順から得られたNCI-N87腫瘍断片#6を、雄ヌードマウス(BALB/cAJcl-mu/mu)の皮下に2回継代した後、化合物(1)の有効性を試験した。
【0262】
腫瘍の継代後1日目に開始し、21日間継続して、腫瘍断片移植マウスを処置せずに放置するか(対照)、10mg/kg/日の投与量で静脈内トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)で処置(腫瘍の継代後1日目に単回投与)するか、50mg/kgの各用量で1日に2回(b.i.d.)ラパチニブでPO処置するか、75mg/kgの各用量で1日に2回(b.i.d.)ツカチニブでPO処置するか、12.5mg/kg/日の投与量で1日に1回化合物(1)の経口懸濁液でPO処置するか、又は20mg/kg/日の投与量で1日に1回化合物(1)の経口懸濁液でPO処置した。マウスの腫瘍体積(TV、mm)及び体重を記録した。
【0263】
結果を、図8A~8Bに示す。見てわかるように、化合物(1)は、T-DM1難治性腫瘍に対して非常に有効であることが見出され、より低い用量で腫瘍増殖を阻止し、20mg/kgのより高い投与量で腫瘍退縮を誘導した。特に、より低い投与量にもかかわらず、化合物(1)は、ラパチニブ又はツカチニブのいずれかを使用する処置と比較して、優れた抗腫瘍効果を提供することがわかった。更に、化合物(1)は、12.5又は20mg/kgの投与量で体重減少を引き起こさず、許容される耐容性を示した。
【0264】
難治性T-DM1 NCI-N87ヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍効果の評価:トラスツズマブ・デルクステカン(DS-8201a)との比較
難治性T-DM1 NCI-N87ヒト胃がん腫瘍断片#6を、上記と同様の様式で得て、次いで、モノクローナル細胞株、NCI-N87腫瘍断片#6、クローン3を、インビトロでの継代によって単離した。得られた細胞株を、有効性試験のためにBALB/cAJcl-mu/mu雄マウス(100μLのPBS中8.0x10細胞/マウス、皮下)に移植した。
【0265】
腫瘍移植後1日目に開始し、21日間継続して、移植されたマウスを、処置せずに放置するか(対照)、10mg/kg/日の投与量で静脈内トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)で処置(腫瘍移植後1日目に単回投与)するか、1mg/kg/日の投与量の静脈内トラスツズマブ・デルクステカン(DS-8201a)で処置(腫瘍移植後1日目に単回投与)するか、10mg/kg/日の投与量で静脈内トラスツズマブ・デルクステカン(DS-8201a)で処置(腫瘍移植後1日目に単回投与)するか、12.5mg/kg/日の投与量で1日に1回化合物(1)の経口懸濁液でPO処置するか、又は20mg/kg/日の投与量で1日に1回化合物(1)の経口懸濁液でPO処置した。マウスの腫瘍体積(TV、mm)及び体重を記録した。
【0266】
結果を、図9A~9Bに示す。DS-8201aは、NCI-N87親細胞異種移植片を使用するHER2陽性マウスモデルにおいて、インビボで非常に活性であり、1mg/kg以上の単回用量で、用量依存的な様式で腫瘍増殖阻害及び腫瘍退縮を誘導し、4mg/kgの単回用量で99%の腫瘍増殖阻害を提供することが以前に示されている。Yusuke Ogitani, Tetsuo Aida, Katsunobu Hagihara et al. DS-8201a, A Novel HER2-Targeting ADC with a Novel DNA Topoisomerase I Inhibitor, Demonstrates a Promising Antitumor Efficacy with Differentiation from T-DM1, Clin. Cancer Res. October 15, 2016;22(20):5097-5108を参照されたい。しかしながら、図9Aに見られるように、DS-8201aは、T-DM1耐性細胞(NCI-N87腫瘍断片#6、クローン3を使用)においてはるかに弱い有効性を示し、T-DM1と同様に、1mg/kgの単回投与が腫瘍増殖を阻害することができなかった。むしろ、この難治性腫瘍モデルにおいて腫瘍退縮を達成するために、10mg/kgの抗体-薬物コンジュゲートDS-8201aの投与が必要であった。一方、化合物(1)は、T-DM1難治性腫瘍に対して非常に有効であることが見出され、より低い用量で腫瘍増殖を阻止し、20mg/kgのより高い投与量で腫瘍退縮を誘導した。化合物(1)は、耐容性が良好であり、12.5mg/kg又は20mg/kgのいずれの投与量でも、体重減少を引き起こさないことも見出された。
【0267】
NRG1融合駆動がん細胞株における化合物(1)の増殖阻害効果の評価
NRG1融合駆動がんの増殖に対する化合物(1)の阻害効果を調べるために、MDA-MB-175VII細胞(DOC4-NRG1融合タンパク質を発現するヒト乳管がん)の50%増殖阻害濃度(GI50)値を決定した。現在承認されているEGFR/HER2チロシンキナーゼ阻害剤:アファチニブ、オシメルチニブ、ツカチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブ、並びに1つの治験薬(ポジオチニブ)についても、GI50値を決定した。平均値は、3~4回の独立した実験から決定された。
【0268】
平均GI50の結果を、表10に示し、図10に示す。化合物(1)モノフマル酸塩は、MDA-MB-175VIIに対して非常に強力であることが見出され、平均GI50値が1.2±0.3nMであった。比較のために、化合物(1)は、現在承認されている次に活性なEGFR/HER2 TKIであるネラチニブ(平均GI50が3.0±0.6nMである)と比較して、MDA-MB-175VIIに対して2倍以上強力であることが見出された。他の承認されたEGFR/HER2 TKIは、それほど強力ではないことが見出され、アファチニブ、オシメルチニブ、ツカチニブ、及びラパチニブの平均GI50値は、それぞれ5.6±2.7nM、29.4±1.5nM、27.6±5.5nM、及び89.5±39.5nMであった。治験薬であるポジオチニブも、非常に有効であることが見出され、平均GI50値が0.3±0.2nMであった。これらの結果はまた、どのEGFR/HER2阻害剤が、NRG1融合の結果として異常活性化EGFR及び/又はHER2を有するがんにおいて活性であるかを予測することが困難であることを実証する。
【0269】
【表10】
【0270】
頭蓋内NCI-N87-lucヒト胃がん異種移植片を有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍効果の評価
HER2過剰発現NCI-N87ヒト胃がん細胞株を使用してルシフェラーゼ遺伝子を安定して発現するように操作されたNCI-N87-luc細胞を頭蓋内に移植されたヌードマウスにおいて、化合物(1)を使用して、様々な投与スケジュール((i)QD、(ii)断続的、及び(iii)4日間オン/3日間オフ)で化合物(1)の頭蓋内抗腫瘍効果を評価した。
【0271】
ビヒクルとして1容量当たり0.5%重量/体積(w/v)のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を使用した化合物(1)投与懸濁液を、2つの用量レベル(25.0又は50.0mg/kg/日)で化合物(1)とともに調製し、様々な投与スケジュール((i)QD、(ii)断続的、及び(iii)4日間オン/3日間オフ)で21日間経口投与した。この実施例における(i)QD投与スケジュールでは、1日目~21日目に毎日投与した。この実施例における(ii)断続的投薬スケジュールでは、各々4日間のオン及び3日間のオフを交互に含む連続した7日間の期間を使用した。すなわち、このスケジュールは、1、3、5、7、8、10、12、14、15、17、19、及び21日目の投与を伴った。(iii)4日間オン/3日間オフ投与スケジュールでは、1、2、3、4、8、9、10、11、15、16、17、及び18日目に投与した。対照群は、0.5%w/vのHPMC溶液を、21日間、1日1回経口投与した。
【0272】
22日目の評価では、様々な投与スケジュール((i)、(ii)、及び(iii))で21日間経口投与される化合物(1)で処置された全ての群は、対照群と比較して、有意な腫瘍増殖阻害を示した(P<0.05、Dunnetの検定)(図11A)。
【0273】
化合物(1)で処置した群の平均総流量のT/C比は、(i)25.0mg/kg/日で2.6%、(ii)50.0mg/kg/日で3.8%、及び(iii)21日間、50.0mg/kg/日で8.9%であった。処置期間中、0日目から体重が>20%減少したマウスはいなかった。化合物(1)で処置した群では、22日目の平均体重変化は、(i)25.0mg/kg/日で1.2%、(ii)50.0mg/kg/日で1.0%、及び(iii)21日間、50.0mg/kg/日で0.3%であった。
【0274】
これらの知見は、化合物(1)が、様々な投与スケジュール((i)、(ii)、及び(iii))で、脳実質におけるNCI-N87-lucヒト胃がんを移植したヌードマウスにおいて、重度の体重減少なしに頭蓋内抗腫瘍活性を示すことを示した。
【0275】
明らかに、上記の教示に照らして、本発明の多くの修正及び変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載された以外の方法でも実施できることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
【手続補正書】
【提出日】2024-01-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFR及び/又はHER2に少なくとも1つの異常を有するがんを有する対象を治療するための医薬組成物であって
効量の7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を含む、医薬組成物
【請求項2】
前記がんが、固形腫瘍である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記がんが、肺がん、乳がん、胃がん、膀胱がん、及び胆道がんからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記がんが、前記対象の脳に転移している、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記がんが、EGFR増幅/過剰発現及び/又はHER2増幅/過剰発現を有する、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記がんが、EGFR変異及び/又はHER2変異を有する、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記がんが、EGFRエクソン20挿入変異及び/又はHER2エクソン20挿入変異を有する、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記がんが、EGFRエクソン20挿入変異を有する、請求項7に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記がんが、HER2エクソン20挿入変異を有する、請求項7に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記がんが、前記対象の脳に転移している、請求項7に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記がんが、非小細胞肺がんである、請求項7に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記がんが、EGFR増幅及び/又はEGFRvIII変異を有する、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項13】
前記がんが、神経膠芽腫である、請求項12に記載の医薬組成物
【請求項14】
EGFR及び/又はHER2に少なくとも1つの異常を有する前記がんが、NRG1に異常を有するがんである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項15】
NRG1に異常を有する前記がんが、NRG1融合物を有するNRG1融合物駆動がんである、請求項14に記載の医薬組成物
【請求項16】
NRG1に異常を有する前記がんが、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、卵巣がん、及び胃がんからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項14に記載の医薬組成物
【請求項17】
前記NRG1融合物駆動がんが、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、及び卵巣がんからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項15に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記がんが、切除不能である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項19】
前記がんが、再発性又は難治性のがんである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項20】
前記がんが、再発性又は難治性のHER2陽性がんである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項21】
前記再発性又は難治性のHER2陽性がんを有する前記対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、HER2阻害剤による治療レジメンを以前に受けている、請求項20に記載の医薬組成物
【請求項22】
前記再発性又は難治性(refractory)のHER2陽性がんが、前記HER2阻害剤による前記治療レジメンに対して耐性又は難治性(intractability)を獲得している、請求項21に記載の医薬組成物
【請求項23】
前記HER2阻害剤が、HER2チロシンキナーゼ阻害剤である、請求項21に記載の医薬組成物
【請求項24】
前記HER2チロシンキナーゼ阻害剤が、アファチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、及びツカチニブからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項23に記載の医薬組成物
【請求項25】
前記HER2阻害剤が、抗HER2抗体又はその薬物コンジュゲートである、請求項21に記載の医薬組成物
【請求項26】
前記抗HER2抗体又はその薬物コンジュゲートが、トラスツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン、ペルツズマブ、マルゲツキシマブ、及びトラスツズマブ・デルクステカンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項25に記載の医薬組成物
【請求項27】
前記再発性又は難治性のHER2陽性がんを有する前記対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、少なくとも2つの異なるHER2阻害剤による少なくとも2つの治療レジメンを以前に受けている、請求項21に記載の医薬組成物
【請求項28】
前記再発性又は難治性のHER2陽性がんが、再発性若しくは難治性のHER2陽性乳がん、又は再発性若しくは難治性のHER2陽性胃がんである、請求項20に記載の医薬組成物
【請求項29】
前記対象が、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩を投与する前に、EGFR及び/又はHER2に前記異常を有すると判定されている、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項30】
前記7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に経口投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項31】
前記7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に1日1回(QD)投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項32】
前記7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に1日2回(BID)投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項33】
1日当たり約5~約480mgの7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項34】
1日当たり約15~約240mgの7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項35】
前記7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩が、少なくとも28日間、前記対象に毎日投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【国際調査報告】