(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】化学療法誘発性末梢神経障害に関連する疼痛の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/661 20060101AFI20240517BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240517BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240517BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20240517BHJP
A61K 31/475 20060101ALI20240517BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/661
A61P25/02
A61P25/04
A61P35/00
A61K31/337
A61K31/475
A61K31/282
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/10
A61K9/70 401
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572970
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 US2022072496
(87)【国際公開番号】W WO2022251805
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】318014201
【氏名又は名称】メディコン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】リガス,バジル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA16
4C076AA24
4C076AA25
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4C076FF70
4C086AA01
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4C206MA33
4C206MA36
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4C206MA47
4C206MA48
4C206MA52
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA08
4C206ZA20
4C206ZB26
(57)【要約】
本発明は、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)に関連する神経因性疼痛を予防及び/または処置する方法を特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)に関連する神経因性疼痛を処置及び/または予防する方法であって、CIPNに関連する神経因性疼痛が処置及び/または予防されるように、治療有効量のホスホスリンダク(PS)を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記神経因性疼痛を処置することが、前記神経因性疼痛を軽減または消失させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経因性疼痛を予防することが、前記神経因性疼痛の発生率を低下させることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記神経因性疼痛を処置することが、CIPNに関連する感覚症状のうちの1つ以上を軽減または消失させることを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記神経因性疼痛を予防することが、CIPNに関連する前記感覚症状のうちの1つ以上の発生率を低下させることを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の感覚症状が、感覚異常、灼熱感覚及び電撃感覚から選択される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記感覚異常が、しびれ、チクチク感、チクリとする感覚、または蟻走感のうちの1つ以上を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
PSが、痛覚に関与する神経細胞内シグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
PSが、末梢感作を介して生じる疼痛を低減、消失、またはその発生率を低下させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
PSが、中枢感作を介して生じる疼痛を低減、消失、またはその発生率を低下させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
PSが、中枢において発生する疼痛シグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
PSが、坐骨神経において発生する疼痛シグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
PSが、後根神経節において発生する疼痛シグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記神経因性疼痛が異痛症である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記異痛症が、機械的異痛症及び/または熱性異痛症である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記神経因性疼痛が痛覚過敏である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、がんを有し、かつ1種以上の化学療法化合物を受けているかまたは1種以上の化学療法化合物で以前に処置されたことがある、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記1種以上の化学療法化合物が、白金ベースの薬物、タキサン、免疫調節薬、エポチロン、ビンバアルカロイド、及びプロテアソーム阻害剤のうちの1種以上から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1種以上の化学療法化合物が、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、タキサン、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、サリドマイド及びその類似体、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン及びボルテゾミブのうちの1種以上から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記化学療法化合物が、タキサン、例えばパクリタキセルである、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記化学療法化合物が、ビンカアルカロイド、例えばビンクリスチンである、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記化学療法化合物が、白金ベースの抗腫瘍薬、例えばオキサリプラチンである、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、固形腫瘍癌を有する、請求項17~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、卵巣癌、乳癌、肺癌、カポジ肉腫及び/または膵臓癌を有する、請求項17~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記対象が、ヒトである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
PSが、式I(PS-I):
【化1】
を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
PSが、式II(PS-II):
【化2】
を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記治療有効量のPSを、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む医薬組成物として投与する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
PSを含む前記医薬組成物が、局所投与のために製剤化される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
PSを含む前記医薬組成物が、半固体として製剤化される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
PSを含む前記医薬組成物が、液体として製剤化される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
PSを含む前記医薬組成物が、クリームである、請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
PSを含む前記医薬組成物が、ゲルであり、例えば前記ゲルがヒドロゲルである、請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
PSを含む前記医薬組成物が、ローションである、請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
PSを含む前記医薬組成物が、軟膏である、請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
PSを含む前記医薬組成物が、スプレーである、請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
PSを含む前記医薬組成物が、パッチとして製剤化される、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
前記医薬組成物が、前記医薬組成物の約0.5%~約15%w/wの濃度でPSを含む、請求項28~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記医薬組成物が、前記医薬組成物の約15%、14.5%、14%、13.5%、13%、12.5%、12%、11.5%、11%、10.5%、10%、9.5%、9%、8.5%、8%、7.5%、7%、6.5%、6%、5.5%、5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、または0.5%w/wの濃度のPSを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記医薬組成物が、前記医薬組成物の8%w/w以下、例えば前記医薬組成物の約5%w/wまたは約3%w/wの濃度のPSを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記医薬組成物が、前記医薬組成物の約3%w/w以下、例えば前記医薬組成物の約2%w/wまたは約1%w/wの濃度のPSを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記PSを、約0.005g/10cm
2患部~約0.25g/10cm
2患部で投与する、請求項28~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記PSを、約0.005g/10cm
2患部で投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記PSを、約0.01g/10cm
2患部で投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記PSを、約0.05g/10cm
2患部で投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記PSを、約0.1g/10cm
2患部で投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記PSを、約0.15g/10cm
2患部で投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項48】
前記PSを、約0.2g/10cm
2患部で投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項49】
前記PSを、約0.25g/10cm
2患部で投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項50】
前記PSを、前記患部に適用し、前記患部上に約1時間~約5時間放置する、請求項28~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記PSを、前記患部に適用し、前記患部上に約0.5時間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、または約5時間放置する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記PSを、例えば洗い流すことによって、前記投与期間後に前記患部から除去する、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
PSの第2のまたはさらなる適用が、前記投与期間後に前記患部に行われる、請求項50または51に記載の方法。
【請求項54】
前記PSを、1日1回適用する、請求項28~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記PSを、1日2回適用する、請求項28~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記PSを、1日3回適用する、請求項28~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記PSを、1日4回適用する、請求項28~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記PSを、医薬組成物で投与する、請求項42~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び/または予防に使用するためのPS。
【請求項60】
CIPNに関連する神経因性疼痛を処置及び/または予防するための医薬の製造のためのPSの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年5月24日出願の米国仮特許出願第63/192246号の利益を主張するものであり、その完全な内容は、すべての目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)に関連する神経因性疼痛の処置における化合物及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
神経障害は神経系の疾患または異常であり、2,000万人超のアメリカ人がこれに罹患している。実際、最近の研究によると、成人の10人に約1人が神経因性疼痛に罹患しており、この疼痛の処置にかかる経済的負担は増加していることが観察されている。
【0004】
神経障害は、神経因性疼痛の発症に関連している。神経因性疼痛は、末梢神経系または中枢神経系の損傷の結果として発生する場合がある。末梢神経因性疼痛は、刺激に対して極めて感受性が高くなり、刺激がない場合にパルスを発生する可能性がある、末梢神経終末または侵害受容器などの神経構造の損傷によって引き起こされる。この損傷は、化学療法処置(すなわち、CIPN)、糖尿病などの疾患、ならびに進行がん、ウイルス(例えば、帯状疱疹またはHIV)、及び身体的傷害(例えば、事故または手術)など、多くの理由で発生する可能性がある。
【0005】
末梢神経の病変により、痛覚過敏(有害な刺激に対する応答の増加)及び異痛症(無痛刺激によって誘発される疼痛)に多くの場合関連する、継続的な自発痛の存在を特徴とする病理学的状態が生じる場合がある。痛覚過敏及び異痛症は、中枢感作と関連しており、そこでCNS侵害受容ニューロンは、持続的な入力または末梢損傷を誘因として、刺激閾値の低下により興奮性亢進を示す。中枢感作は、末梢神経障害に関連する神経因性疼痛の発生及び維持に関与している。
【0006】
症状の観点から、末梢神経障害は、激痛、鈍痛、疼痛を伴う灼熱または冷たさの感覚、感覚異常、固有受容の喪失、しびれ、またさらに痛覚の喪失を引き起こす場合がある。
【0007】
現在、追加の疼痛療法が世界中で必要とされており、神経因性疼痛は、人口の広範な地域で重大な健康問題に発展している。
【0008】
神経因性疼痛の処置は、多くの場合、いわゆる非従来型鎮痛薬、例としてデュロキセチン及びアミトリプチリンなどの抗うつ薬、またはガバペンチンもしくはプレガバリンなどの抗てんかん薬を使用して企図される。さらに、リドカインを含む局所麻酔薬は、神経因性疼痛の処置及び管理に使用されている。反対の証拠にもかかわらず、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は神経因性疼痛の管理に広く使用されている。しかし、最近の臨床試験をレビューしたところ、神経因性疼痛患者においてNSAIDによる有意な疼痛軽減の兆候はなく(Moore et al. Cochrane Database of Systematic Reviews (2015);10: 1-25)、NSAIDとプラセボの間に統計的有意差があることを示す、臨床転帰は存在しなかった。コクランライブラリーは、神経因性疼痛の処置にはNSAIDを推奨すべきではないと結論付けた。
【0009】
CIPN及びそれに関連する神経因性疼痛は、一般的に使用される化学療法で頻繁に起こる、用量依存的な副作用である。末梢神経損傷は、化学療法の毒性に関連する神経学的損傷の大部分を占め、血液毒性に次いで化学療法を制限する最も頻繁に起こる要因となる。この疼痛は、感覚軸索に対する直接的な毒性作用、脱髄、またはカルシウム代謝の障害によるものであると考えられている。CIPNに関連する神経因性疼痛は、特に処置が困難である。現在、CIPNに関連する神経因性疼痛は、抗うつ薬(例えば、デュロキセチン)及び/または抗てんかん薬(例えば、ガバペンチン及びプレガバリン)で管理されている。残念ながら、疼痛管理はそれほど満足のいくものではなく、これらの全身処置は、処置のアドヒアランスを不良に導く重大な副作用を誘発する。実際、今日まで、CIPNに関連する疼痛を予防するかまたはさらに処置する満足のいく手段は存在しない:唯一承認されている薬物(デュロキセチン)は、一般に効果がないと考えられている。
【0010】
したがって、末梢神経障害、特にCIPNに関連する疼痛を処置及び/または予防する化合物が強く必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明者は、驚くべきことに、ホスホスリンダク(PS)がCIPNに関連する疼痛の処置及び予防に有効であることを見出した。
【0012】
PSは、抗炎症活性を有する非ステロイド性化合物である。しかし、その親化合物であるNSAIDスリンダクとは異なり、PSはCOX-1及びCOX-2の発現を阻害しないため、典型的なNSAIDではない。PSは、NF-κBの活性化の阻害及びMAPKシグナル伝達分岐の変化を介して、抗がん特性及び抗炎症特性、ならびに、主要な炎症誘発性シグナル伝達経路の抑制を介して、炎症性マウスモデルにおける関節リウマチを処置する活性を有することが以前示されている(Mackenzie et al. (2010) Gastroenterology 139(4): 1320-32 and Mattheolabakis et al. (2013) Pharm Res 30(6): 1471-82)。WO2019/067919は、ドライアイ疾患(DED)の急性モデルにおけるPSの抗炎症活性を示唆している。さらに、このモデルでは、PSがDEDにおいて抑制された眼球の感受性を回復すると見られており、侵害受容を減少させるのではなく増加させるというPSの役割が示唆される。上記のように、PSは典型的なNSAIDではないが、DEDモデルにおける正常な眼に投与した場合、NSAIDと類似の活性を示した。しかし、これらの観察は、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置におけるPSの役割を示唆するものではない。さらに、この分野の臨床ガイダンスでは、全てのタイプの神経因性疼痛の処置にNSAIDの使用を避けることが推奨されており、抗炎症活性だけでは治療として十分ではないと考えられている。
【0013】
それにもかかわらず、本発明者は、神経因性疼痛の特定の動物モデルにおけるPSの活性を考え、直接作用する神経遮断麻酔薬、例えばリドカイン及びプレガバリンと同等の驚くべき治療効果を実証した。特定の動物モデルは、神経因性疼痛の処置に対する療法の開発において重要である。実際、末梢神経障害に関連する疼痛の病因を考えると、代替疼痛モデルにおける特定の化合物の有効性の観察によって、神経因性疼痛の処置におけるその化合物の有用性を示すことはできない。これと同様に、臨床症状が類似している場合でも、他の形態の神経因性疼痛から特に関心のある神経因性疼痛への効果的な薬物の使用を推定することは不可能である。例えば、ガバペンチンは、さまざまな形態の神経因性疼痛の処置においてさまざまな有効性を示す。したがって、さらなる臨床開発前の早期試験に使用される動物モデルが重要である。CIPN神経因性疼痛の特定の動物モデルに基づいて、本明細書の観察は、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び/または予防においてPSに対し前例のない有効性を示す。
【0014】
したがって、第1の態様では、本発明は、CIPNに関連する神経因性疼痛を処置及び/または予防する方法であって、CIPNに関連する神経因性疼痛が処置及び/または予防されるように、治療有効量のPSを、それを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、PSは、PSのスルホキシド形態である。したがって、PSは、式I(PS-I):
【化1】
を有し得る。
【0016】
他の実施形態では、PSは、PSの硫化物形態である。したがって、PSは、式II(PS-II):
【化2】
を有し得る。
【0017】
本明細書では、「ホスホスリンダク」または「PS」への言及は、PS-I及びPS-IIの両方を包含する。化合物のスルフィド形態が好ましい。式I及びIIの化合物は、米国特許第8,236,820号明細書に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
上記のように、CIPNに関連する神経損傷によって、疼痛シグナル伝達経路の過剰活性化がもたらされ、その結果、末梢及び/または中枢ニューロンの感作がもたらされ、これは、刺激閾値の低下を示す。したがって、CIPNを有する対象は、この感作の結果として疼痛を経験する場合があり、例えば、無痛刺激によって誘発される疼痛を経験する(異痛症)、または有害な刺激に応答して疼痛の増大を経験する(痛覚過敏)。本明細書の観察に基づいて、PSは、例えば痛覚に関与する神経細胞内シグナル伝達を低減させることによって、直接的な鎮痛効果を有する場合がある。さらに、PSは、末梢感作によってまたは中枢感作によって生じる疼痛を軽減する場合がある。したがって、PSは中枢で発生する疼痛のシグナル伝達を低減または予防する場合がある。PSは、坐骨神経で発生する疼痛のシグナル伝達を低減または予防する場合がある。PSは、後根神経節で発生する疼痛のシグナル伝達を低減または予防する場合がある。PSが末梢ニューロンを脊髄に向かって上行することが示されていることを考えると、PSは、脊髄内で発生する疼痛のシグナル伝達を低減または予防することができる。いくつかの実施形態では、神経因性疼痛は異痛症である。異痛症は、機械的刺激及び/または熱的刺激に応答して起こる場合がある。加えて、いくつかの実施形態では、神経因性疼痛は、痛覚過敏である。
【0019】
PSは、本発明で使用するための医薬組成物に配合することができる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、PS及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む。PSは、局所投与用、特に対象の上肢及び下肢への局所投与用(すなわち靴下及び手袋型分布を対象にするため)に配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】CIPN予防研究に関連する神経因性疼痛の概略図である。PWTは、足引っ込め閾値(paw withdrawal threshold)試験である。
【
図2】ビヒクルと比較した、CIPNに関連する神経因性疼痛の予防に対するPSの効果である。
【
図3】CIPN処置研究に関連する神経因性疼痛の概略図である。
【
図4】CIPNに関連する神経因性疼痛の処置に対するPSの効果である。
【
図5】パクリタキセル誘発性CIPNに関連する神経因性疼痛の処置に対するPSの効果である。ビヒクル対照と比較したPSの効果は5日目から有意であり、その後増加した(
†、p<0.002、
‡、p=4.9x10
-5、
&、p=1.7x10
-7、*、p=2.2x10
-7)。
【
図6】ビンクリスチン誘発性CIPNに関連する神経因性疼痛の処置に対するPSの効果である。ビヒクル対照と比較したPSの効果は16日目に有意であった(*p=8.6×10
-6)。
【
図7】オキサリプラチン誘発性CIPNに関連する神経因性疼痛の処置に対するPSの効果である。ビヒクル対照と比較したPSの効果は22日目に有意であった(*p=0.004)。
【
図8】パクリタキセル誘発性CIPNに関連する神経因性疼痛の予防に対するPSの効果である。ビヒクル対照と比較したPSの効果は有意であった(*、p=3.0x10
-8、**、p=2.3x10
-6)。
【
図10】局所投与時のさまざまな組織におけるPSの生体内分布である。SN=坐骨神経。DRG=後根神経節。
【
図11-1】PSの局所投与時のさまざまな組織におけるPSの代謝産物の生体内分布である。SN=坐骨神経。DRG=後根神経節。
【
図11-2】PSの局所投与時のさまざまな組織におけるPSの代謝産物の生体内分布である。SN=坐骨神経。DRG=後根神経節。
【
図12】Aは、スリンダク、リドカイン、及びプレガバリンと比較した、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置に対するPSの効果を示す。機械的異痛症に関するものである(*、統計有意差、NS、統計的に有意ではない)。Bは、スリンダク、リドカイン、及びプレガバリンと比較した、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置に対するPSの効果を示す。冷感異痛症に関するものである(値:平均±SEM;*、p<0.0001)。
【発明の詳細な説明】
【0021】
定義
疼痛のタイプの以下の定義は、国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain)(IASP)による。「疼痛」は、実際の組織損傷または潜在的な組織損傷に関連する、またはそれに関連するようである、不快な感覚的及び感情的経験である。「神経因性疼痛」は、体性感覚神経系の病変または疾患によって引き起こされる。神経因性疼痛は、確立された神経学的診断基準を満たす明らかな病変または疾患を要する臨床的記述(診断ではない)である。神経因性疼痛を有する患者は、熱さ、灼熱感、拍動性、電撃性、刺すような感覚、鋭さ、痙攣するような感覚、うずくような感覚、チクチク感、しびれ、またはしびれてピリピリする感覚と説明される1つ以上の感覚を経験し得る。「体性感覚神経系の病変」という用語は、診断検査(例えば、イメージング、神経生理学、生検、臨床試験)で異常が明らかになった場合、または明らかな外傷があった場合に一般的に使用される。「体性感覚神経系の疾患」という用語は、病変の根本的な原因がわかっている場合(例えば、脳卒中、血管炎、真性糖尿病、遺伝子異常)に一般的に使用される。「末梢神経因性疼痛」は、末梢体性感覚神経系の病変または疾患によって引き起こされる疼痛である。「中枢神経因性疼痛」は、中枢体性感覚神経系の病変または疾患によって引き起こされる疼痛である。「中枢感作」は、正常または閾値下の求心性入力に対する中枢神経系における侵害受容ニューロンの応答性の増加を指す。「末梢感作」は、受容野の刺激に対する末梢における侵害受容ニューロンの応答性の増加及び閾値の低下を指す。「異痛症」は、通常では疼痛を引き起こさない刺激によって生じる疼痛である。「痛覚過敏」は、通常は疼痛を引き起こす刺激によって疼痛が増大することである。
【0022】
一般に、「疾患」という用語は、本明細書に提供される方法を使用して処置することができる患者もしくは対象の状態または健康状態を指す。
【0023】
「治療有効量」という用語は、疾患の処置及び/または予防を含むがこれらに限定されない、意図された用途を達成するのに十分な、本明細書に記載の化合物または化合物の組み合わせの量を指す。
【0024】
「薬学的に許容される賦形剤」には、医薬組成物に含まれるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤、ならびに不活性成分が含まれることが意図される。活性医薬成分を配合するためのそのような薬学的に許容される賦形剤の使用は、当技術分野で周知である。従来の薬学的に許容される賦形剤がPSと不適合である場合を除いて、本発明の治療組成物におけるその使用が企図される。
【0025】
数値に言及する際の「約」という用語の使用は任意であり、言及される数値が典型的な実験の変動内(または統計的実験の誤差内)の近似値であり、したがって数値がそれに応じて変動し得ることを意味する。
【0026】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」及び「からなる(consisting)」を包含する。例えば、X「を含む(comprising)」組成物は、Xのみからなる場合もあれば、何らかの追加要素を含む、例えばX+Yである場合もある。
【0027】
化学療法誘発性末梢神経障害に関連する疼痛の処置
上で概説したように、化学療法はニューロンに損傷を引き起こし、その結果、末梢神経障害及び関連する神経因性疼痛が引き起こされる可能性がある。疼痛は、患者が化学療法を受けている間または受けた後に発生する可能性があり、例えば、他の感覚症状に関連した電撃痛、灼熱痛、または刺すような疼痛として現れる場合がある。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、CIPNに関連する神経因性疼痛が予防されるように、治療有効量のPSをそれを必要とする対象に投与することを含む、CIPNに関連する神経因性疼痛を予防する方法を提供する。他の実施形態では、本発明は、CIPNに関連する神経因性疼痛が処置されるように、治療有効量のPSをそれを必要とする対象に投与することを含む、CIPNに関連する神経因性疼痛を処置する方法を提供する。対象は、1回以上の後続用量の前に、1回以上の化学療法の前用量によって引き起こされる神経因性疼痛を経験する場合があり、そのため、対象は、既存の神経因性疼痛を処置することと、及びさらなる神経因性疼痛の発生を予防することの両方ができる鎮痛剤から利益を受けるであろう。したがって、いくつかの実施形態では、PSは、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び予防に使用することができる。上記と一致して、本発明は、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び/または予防に使用するためのPSを提供する。さらに、本発明は、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び/または予防のための医薬の製造のためのPSの使用を提供する。
【0028】
CIPNは、化学療法の観点から発症するため、対象は、これから処置を受けようとしている、処置を受けている、以前に1種以上の化学療法化合物による処置を受けたことがある、がんを有するヒト患者であり得る。一般に、化学療法化合物は、抗腫瘍特性、または細胞の成長もしくは増殖を阻害する能力を有する薬剤を指す。CIPNの有病率は薬剤依存性であり、報告された比率は異なる薬剤にを服用している患者で19%から85%を超えて変動し、この有病率は、白金ベースの薬物、タキサン、免疫調節薬、及びエポチロンの場合に最も高くなるが、ビンカアルカロイド及びプロテアソーム阻害剤を含む、他の一般的ながん化学療法を受けている患者にも観察される。したがって、1種以上の化学療法化合物は、白金ベースの抗悪性腫瘍薬(例えば、オキサリプラチン、シスプラチン、もしくはカルボプラチン)、タキサン(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、もしくはカバジタキセル)、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、もしくはビンデシン)、またはプロテアソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ)であり得る。1種以上の化学療法化合物は、サリドマイド及び/またはその類似体を含む、1つ以上の免疫調節薬であり得る。1種以上の化学療法化合物は、白金ベースの抗腫瘍薬、例えばオキサリプラチン、タキサン、例えばパクリタキセル、及びビンカアルカロイド、例えばビンクリスチンであり得る。対象は、CIPN及び関連する神経因性疼痛の発生に関連する化学療法化合物で処置される任意のがんを有し得る。いくつかの実施形態では、CIPNを有する対象は、固形腫瘍癌を有する。対象は、卵巣癌、乳癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、カポジ肉腫、及び/または膵臓癌を有し得る。あるいは、対象は、黒色腫、食道癌、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺癌)、頭頸部癌、胃癌、及び/または子宮頸癌を有し得る。
【0029】
本明細書における観察に基づいて、PSは、CIPNに関連する神経因性疼痛に対して直接的な鎮痛効果を有する。CIPNに関連する神経因性疼痛は、灼熱痛であり得る。化学療法を受けている、または化学療法後の対照は、下肢と上肢に常に対称的に存在する神経因性疼痛を経験する場合がある。CIPNに関連する神経因性疼痛の処置において、PSは、神経因性疼痛を軽減または消失させる場合がある。CIPNに関連する神経因性疼痛の処置において、PSは、CIPNに関連する1つ以上の感覚症状を軽減または消失させる場合もある。CIPNに関連する神経因性疼痛の予防において、PSは、神経因性疼痛の発生率を低下させる場合がある。CIPNに関連する神経因性疼痛の予防において、PSは、CIPNに関連する1つ以上の感覚症状の発生率を低下させる場合もある。
【0030】
CIPNに罹患している患者は、例えば、手及び足(「靴下及び手袋型」分布とも説明される)における、さまざまな感覚的、両側性の症状を説明する。感覚症状には、感覚異常(例えば、しびれ、チクチク感、チクリとする感覚、及び/または蟻走感)、灼熱感覚、または電撃感覚(すなわち、電気ショックのような)が含まれる。化学療法を受けている、または化学療法後に対象が経験する感覚症状が疼痛を伴うとは考えられない(または、それ自体が疼痛であると考えるのに必要な閾値に達していない)場合でも、PSは、上記に列挙したものを含む、化学療法を受けている、または化学療法後に対象が経験する任意の1つ以上の感覚症状を軽減、消失、またはその発生率を低下させることができる。PSを使用して、化学療法を受けている、または化学療法後の対象における靴下及び手袋型分布を減少、消失、またはその発生率を低下させることができる。
【0031】
上記のように、CIPNに関連する神経因性疼痛は、異痛症及び/または痛覚過敏をもたらす中枢感作の結果であり得る。PSは、化学療法を受けている、または化学療法後の対象における疼痛の感覚に伴う神経細胞内シグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる場合がある。PSは、末梢感作または中枢感作によって生じる疼痛を軽減、消失、またはその発生率を低下させる場合がある。したがって、PSは、中枢で発生する疼痛のシグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる場合がある。PSは、坐骨神経で発生する疼痛のシグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる場合がある。PSは、後根神経節で発生する疼痛のシグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる場合がある。PSが末梢ニューロンを脊髄に向かって上行することが示されていることを考えると、PSは、脊髄内で発生する疼痛のシグナル伝達を低減、消失、またはその発生率を低下させる場合がある。化学療法CIPNを受けている、または化学療法後の対象における神経因性疼痛は、異痛症(例えば、機械的異痛症または熱的異痛症)であり得る。追加的または代替的に、化学療法CIPNを受けている、または化学療法後の対象における神経因性疼痛は、痛覚過敏であり得る。
【0032】
化学療法を受けている、または化学療法後の患者における神経因性疼痛は、視覚的アナログ疼痛スケールで、または当技術分野の他の適切な方法を使用して測定することができる。
【0033】
医薬組成物
本発明の方法で使用するためのPSを、CIPNを用いて対象に投与するための適切な医薬組成物に配合することができる。医薬組成物は、典型的に、治療有効量のPSを提供するために製剤化され、さらに薬学的に許容され得る賦形剤を含み得る。
【0034】
CIPNに関連する神経因性疼痛は、身体の種々の部位で発生し得る。しかし、上で概説したように、CIPNは、上肢及び下肢、ひいては四肢の末梢神経に影響を及ぼす傾向があり、これらの患者が経験する「靴下及び手袋型」分布を説明している。したがって、PSを含む特に有用な医薬組成物は、神経因性疼痛を経験する末梢部位、例えば、対象の上肢及び下肢に直接適用できるものである。加えて、PSを含む医薬組成物は、CIPNの1つ以上の感覚症状を経験するこれらの部位に適用することができる。したがって、PSを含む医薬組成物は、局所投与のために製剤化することができる。特に、PSを含む医薬組成物は、皮膚投与用に、特に対象の上肢及び/または下肢の皮膚のために製剤化することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、PSを含む医薬組成物は、半固体または液体として製剤化することができる。したがって、PSを含む医薬組成物を、クリーム、ゲル(例えば、ヒドロゲル)、ローション、軟膏、発泡体、及び/またはスプレーとして製剤化することができる。これらの組成物は、油及び水の相対濃度が異なるため、これらの組成物はさまざまな密度を有する。製剤の密度を変更することは、医薬組成物への患部の曝露を制御することができる方法である。例えば、密度が低い製剤では、吸収されるまで擦ることを必要とし、曝露時間がより短くなり得る。あるいは、吸収されにくい、より稠密な製剤では、医薬組成物にその領域を長時間曝すことが可能となる場合がある。当業者は、活性医薬成分に対する領域の相対的曝露を改変するように、局所医薬組成物を製剤化することを認識している。
【0036】
他の実施形態では、PSを含む医薬組成物は、皮膚に適用され得るパッチとして製剤化することができる。パッチは、患部へのPSの放出が確実に制御されるような方法で製造することができる。
【0037】
局所投与に好適な製剤及び適切な薬学的に許容される賦形剤は、当技術分野において周知である。局所投与のための例示的な製剤は、WO2019/067919に提供されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
いくつかの実施形態では、局所投与に好適なPSの製剤は、医薬組成物の約0.5%w/w~約15%w/wの濃度のPSを含み得る。従って、PSは、医薬組成物の15%、14.5%、14%、13.5%、13%、12.5%、12%、11.5%、11%、10.5%、10%、9.5%、9%、8.5%、8%、7.5%、7%、6.5%、6%、5.5%、5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、または0.5%w/wの濃度であってもよい。例示的な例として、局所クリームとして製剤化された場合、PSは、医薬組成物の8%w/w以下の濃度、例えば医薬組成物の約5%w/w、特に医薬組成物の約3%w/wであってもよい。さらなる例示的な例として、ゲルとして製剤化される場合、PSは、医薬組成物の8%w/w以下、例えば、医薬組成物の5%w/w以下、特に医薬組成物の3%w/w以下、例えば、医薬組成物の約2%w/wまたは約1%w/wの濃度であってもよい。特定の製剤では、例えばヒドロゲルまたは軟膏として製剤化される場合、PSは、医薬組成物の5%w/wの濃度であってもよい。
【0039】
両手(すなわち、手袋)への1回の適用には、約5ml未満の医薬組成物、例えば約3mlの医薬組成物(すなわち、手あたり約1.5mlの医薬組成物)が必要であり得る。両足(すなわち、靴下)への1回の適用には、約6ml未満の医薬組成物、例えば、約4mlの医薬組成物(すなわち、足あたり約2mlの医薬組成物)が必要であり得る。
【0040】
PSを含む医薬組成物は、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び/または予防に好適な任意の他の投与形態のために代替的に製剤化することができる。例えば、組成物は、経皮投与または注射用、例えば皮下注射用に製剤化することができる。
【0041】
投与レジメン
CIPNを処置及び/または予防するためのPSの適切な投薬レジメンは、疼痛のタイプ及び進行の程度(例えば、世界保健機関(World Health Organization)の「Pain Lasder」ガイドラインによって決定される)、疼痛の激しさ(例えば、急性、亜急性、または慢性)、特定の患者の年齢、体重及び全身状態、賦形剤の配合、投与経路、及び臨床医の判断などの変数に依存する。
【0042】
局所投与の場合、PSを、1つ以上の患部、例えば対象の上肢及び下肢を対象にするように投与することができる。いくつかの実施形態では、約0.01~約5gのPSを、患部に投与することができる。患部のサイズに関しては、PSは、約0.005~0.25g/10cm2患部で投与することができる。したがって、PSを、約0.005g/10cm2、0.01g/10cm2、0.05g/10cm2、0.1g/10cm2、0.15g/10cm2、0.2g/10cm2または0.25g/10cm2患部で投与する。
【0043】
局所投与で使用するためのPSは、場合によっては、適用し、その後、患部から(例えば洗い流すことにより)除去した後、再適用することができる。場合によっては、PSをある一定の時間後に洗い流す。あるいは、鎮痛効果は時間の経過とともに低下することがあり、再適用が必要となる場合があるため、場合により、PSを洗い流さず、代わりに、適切な投与期間の経過後に、患部に単純に再適用する。例えば、PSを、患部に適用し、(除去前または再適用前に)約0.5時間~約5時間の間放置してもよい。したがって、PSを、局所的に患部に適用し、(除去または再適用前に)約0.5時間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間または約5時間放置してもよい。
【0044】
CIPNに関連する神経因性疼痛は慢性であるため、PSの局所投与を繰り返す必要がある。したがって、PSは、1日1~4回局所的に適用することができる。したがって、PSは、1日1回、1日2回、1日3回または1日4回適用することができる。PSの特定の配合、例えば医薬組成物の約5%w/wのPS濃度を有するヒドロゲルまたは軟膏を用いる場合、製剤は、1日3回局所的に適用することができる。より重症の場合、PSのさらなる適用は、各適用の約0.5時間後に行うことができる。
【0045】
PSは鎮痛効果が長期間持続する場合があり、したがって投与頻度を少なくすることができる。例えば、PSは、1日1回未満、例えば、1日おきに1回、局所投与することができる。実際、単回投与で長期鎮痛を経験する患者の場合、PSは週に1回未満、例えば2週間に1回局所投与されてもよい。
【0046】
いくつかの医薬組成物の局所投与の場合、医薬組成物を適用した後、例えば、適切な量の組成物が適切な時間適用されることを保証するために、例えば包帯(例えばプラスチックラップまたはフィルム)で患部を覆うことが有用である。したがって、PSを局所適用した後、患部に包帯をすることができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、PSは、パッチ、例えば薬用貼付剤の形態で局所的に投与することができる。パッチを使用することにより、例えば、確実にPSの放出を制御するパッチにより、投与間隔及び/または投与頻度を低減することができる。したがって、パッチを、患部に1日1回、1日2回未満、1日3回未満または1日4回未満で適用することができる。
【0048】
PSの投与は、必要な限り継続することができる。例えば、PSは、1、2、3、4、5、6、7、14、28、56、または84日より長く投与することができる。上記のように、PSは、処置の長期にわたる影響のために、例えば少なくとも3か月間、継続的に長期にわたり投与することができる。したがって、場合によっては、連続投与が達成され、必要な限り維持される。PSは、神経因性疼痛及び/または関連する感覚症状の再発に応じて断続的に投与することができる。
【0049】
PSは、哺乳動物におけるCIPNの処置及び/または予防に使用することができる。例えば、対象は、ヒトであってもよい。
【0050】
上記のように、PSを、CIPNを用いて対象に投与するための適切な医薬組成物に配合することができる。したがって、PSは、適切な医薬組成物において上記の投与レジメンに従って投与することができる。
【0051】
当業者は、ある特定の実施形態では、このような化合物の投薬量を、処置を受ける哺乳動物に応じて調整することができることを理解している。例えば、マウスの処置が本明細書に記載されており、そのような投薬量は、ヒトへのPSの投与時に修正してもしなくてもよい。しかし、当業者は、必要に応じて、本明細書で提供される投薬量を、Guidance for Industry: Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers, U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER), July 2005に記載されているように変換することができる。ヒト等価用量(HED)は動物用量から決定することができ、動物用量に以下の変換係数を乗算してmg/kg単位で単位を提供する:マウス=0.08、ハムスター=0.13、ラット=0.16、フェレット=0.19、モルモット=0.22、ウサギ=0.32、イヌ=0.54、サル=0.32、マーモセット=0.16、リスザル=0.19、ヒヒ=0.54、マイクロブタ=0.73、ミニブタ=0.95。
【0052】
PSの薬学的に許容される形態
PSを含む医薬組成物は、PSの薬学的に許容される形態を含むことができる。薬学的に許容される形態は、溶媒和物、誘導体、及び/またはプロドラッグであってもよい。
【0053】
溶媒和物
本明細書中で使用する場合、「溶媒和物」という用語は、非共有分子間力により結合した化学量論量または非化学量論量の溶媒をさらに含む化合物を指す。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。PSの薬学的に許容される形態には、PSの溶媒和物、例えばPS-I及び/またはPS-IIの溶媒和物を含めることができる。いくつかの実施形態では、溶媒和物は、少なくとも1分子の溶媒を含む。いくつかの実施形態では、溶媒和物は、1分子未満の溶媒を含む。いくつかの実施形態では、溶媒和物は水和物である。
【0054】
同位体
PSの薬学的に許容される形態には、PS-Iの同位体標識誘導体を含めてもよい。PSの薬学的に許容される形態には、PS-IIの同位体標識誘導体を含めてもよい。同位体標識誘導体は、1つ以上の原子が、自然界で通常見られる原子量または質量数とは異なる原子量または質量数を有する原子で置き換えられている点を除いて、PSと同一の化合物である。いくつかの実施形態では、PSの同位体標識誘導体は、水素、炭素、酸素、リン、及びフッ素のうちの1つ以上の同位体を含む。いくつかの実施形態では、PSの同位体標識誘導体は、それぞれ2H、3H、13C、14C、18O、17O、31P、32P、35S、及び18Fのうちの1つ以上の同位体を含む。いくつかの実施形態では、PSの同位体標識誘導体は、2Hの1つ以上の同位体(例えば、重水素)を含む。いくつかの実施形態では、PSの同位体標識誘導体は、3Hの1つ以上の同位体(例えば、トリチウム)を含む。いくつかの実施形態では、PSの同位体標識誘導体は、14Cの1つ以上の同位体を含む。
【0055】
誘導体及びプロドラッグ
PSの薬学的に許容される形態には、PS-Iの誘導体を含めてもよい。PSの薬学的に許容される形態には、PS-IIの誘導体を含めてもよい。いくつかの実施形態では、PSの誘導体(例えば、PS-IまたはPS-II)は代謝産物である。他の実施形態では、PSの薬学的に許容される形態は、PSのプロドラッグ、例えばPS-IのプロドラッグまたはPS-IIのプロドラッグである。
【0056】
スルホン基は、構造的にはR-S(=O)2-R’として表すことができる。いくつかの実施形態では、PSの誘導体は、PSのスルホン形態である。
【0057】
PSは有機リン酸官能基を含有する。有機リン酸官能基は、O=P(OR)3、O=P(OR)2(OR’)、またはO=P(OR)(OR’)(OR“)として構造的に表すことができる。例えば、O=P(OR)2(OR’)は、R=CH2CH3及びR’=分子の残分が式IまたはIIにおけるPSに従う場合、PS(例えば、PS-I、PS-IIまたはそれらの誘導体)を表し得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、PSの誘導体は、エトキシ(例えば-OCH2CH3)基のうちの1つがOH基であるPSであるか、またはその薬学的に許容される塩である。いくつかの実施形態では、PSの誘導体は、両方のエトキシ(例えば、-OCH2CH3)基がOH基であるPS、またはその薬学的に許容される塩である。
【0059】
本明細書で実証されたPSの活性は、その薬学的に許容される形態により共有されるであろう。したがって、本発明は、本発明の方法で使用するためのPSの薬学的に許容される形態を提供する。
【0060】
本明細書では本発明の好ましい実施形態を図示し説明するが、そのような実施形態は例としてのみ提供され、本発明の範囲を別様に限定することを意図するものではない。本発明を実施する際には、本発明の記載された実施形態に対する種々の代替案を採用することができる。
【実施例】
【0061】
ここで、本明細書に包含される実施形態を、以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は、例示のみを目的として提供されており、本明細書に包含される開示は、決してこれらの実施例に限定されるものとして解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書に提供される教示の結果として明白であるありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0062】
実施例1:CIPNマウスモデルにおける神経因性疼痛の予防におけるPSの効果
パクリタキセルを使用したマウス集団においてCIPNを誘発した。これは、CIPN(Hidaka et al. (2012) European Journal of Pain 13(1): 22-27)の十分に確立されたモデルであり、特に、パクリタキセルが乳癌、卵巣癌及び肺癌を含む固形腫瘍の処置のためのがん化学療法に広く使用されているため、ヒト治療に関連している。本明細書における実験により、CIPNに関連する疼痛の予防におけるPSの有効性を実証する。
【0063】
方法
CIPNを確立するために、パクリタキセルを10mg/kgでC57/BLマウスに腹腔内投与する。パクリタキセルを、すべての研究群(ナイーブ群を除く)に1日1回5日間投与した。パクリタキセルのこの投与レジメンによって、がん患者におけるパクリタキセル投与後の疼痛と類似の経時的な経過を伴うCIPNに関連する疼痛が発生する。
【0064】
PS(8%ヒドロゲルとして)またはビヒクル対照を、マウスの両後足に1日3回、7日間局所投与した。初回の用量は、パクリタキセルの初回の投与の2日前に投与した。
【0065】
研究群は以下の通りであった:
1. 群1:ナイーブマウス(すなわち、パクリタキセルなし)
2. 群2:パクリタキセルのみ(n=6)
3. 群3:パクリタキセル+ビヒクル(n=7)
4. 群4:パクリタキセル+PS(n=7)
【0066】
処置の転帰を決定するために、疼痛の閾値応答を、Von Frey式フィラメントの十分に確立された方法を用いて測定した。特に、Von Frey式フィラメントを使用して足引っ込め閾値(PWT)を推定するための簡略化されたアップダウン(up-down)法を使用した(Bonin et al., Molecular Pain (2014);10(26):1-10))に記載されているように)。PWT試験の結果は、加えられた力(gm)として表す。PWT試験は、ベースライン(すなわち、パクリタキセル投与の4日前(-4日目))に実施し、次に、PSまたはビヒクルによる最終処置の1日後(すなわち、パクリタキセルの初回投与の6日後)に実施した。
【0067】
【0068】
結果
図2に示すように、パクリタキセルを投与すると、予想通りPWTが有意に低下した(ナイーブマウスに対してp<0.01)。したがって、モデルは化学療法に伴う疼痛を確立した。ビヒクルの追加投与は、パクリタキセル単独を用いる処置と比較してPWTに有意な影響を与えることはないが、PSの投与は、ビヒクルと比較してPWTの有意な増加を達成した(ビヒクルに対してp<0.01)。
図2に対応する値を表1に提供する。
【表1】
【0069】
結論
PSの局所投与は、パクリタキセルによって引き起こされる神経因性疼痛(すなわち、CIPN)を示すマウスにおいてPWTを有意に増加させた。したがって、PSは、CIPNに関連する疼痛を予防する。
【0070】
NSAID、例としてロキソプロフェンナトリウムは、このCIPNモデルにおいて疼痛のシグナル伝達の低減には効果がないことが示されている(Hidaka et al. (2009) European Journal of Pain 13: 22-27)。これは、Moore et al. (2015) Cochrane Database of Systematic Reviews 10: 1-25における観察と一致しており、その中では、NSAIDは末梢神経因性疼痛において治療効果を有さないことが示されている。
【0071】
典型的なNSAIDによる観察とは対照的に、PSは、CIPNにおける鎮痛効果を明確に実証している。実際、CIPNの特定の動物モデルにおけるPSのこの驚くべき活性は、典型的なNSAIDとは異なり、PSが化学療法誘発性神経障害に関連する神経因性疼痛を効果的に予防することができるという観察を裏付けるものである。
【0072】
実施例2:CIPNのマウスモデルにおける神経因性疼痛の処置におけるPSの効果
方法
CIPNは、10mg/kgのパクリタキセルをC57/BLマウスに腹腔内投与することにより確立した。パクリタキセルを、全ての研究群に1日1回3日間投与した。
図2の結果は、パクリタキセルがナイーブマウスと比較してPWTの有意な低下を引き起こすことを実証している。
【0073】
PS(8%ヒドロゲルとして)またはビヒクル対照を、マウスの両後足に1日3回、10日間局所投与した。初回の用量は、パクリタキセルの最後の投与の2日後に投与した。
【0074】
研究群は以下の通りであった:
1. 群1:パクリタキセルのみ(n=9)
2. 群2:パクリタキセル+ビヒクル(n=10)
3. 群3:パクリタキセル+PS(n=10)
【0075】
処置の転帰を決定するために、実施例1で実行されたものと一致する、Von Frey式フィラメントの十分に確立された方法を使用して、疼痛閾値応答を測定した。PWT試験は、ベースライン(すなわち、パクリタキセルの初回投与から4日後(-1日目))で実行し、次いで、PSまたはビヒクルによる処置の最終日(すなわち、10日目)に、最後の適用から約30分後に実行した。データは、それぞれのベースライン値からのパーセント変化として表す。
【0076】
【0077】
結果
図4に示すように、パクリタキセルのバックグラウンドでビヒクルを投与すると、パクリタキセルのみによる処置と比較して、PWTに対する効果が限定的である一方、PSの投与によって、ビヒクル及びパクリタキセル単独と比較して、PWTの有意な増加が達成された。
図4に対応する値を表2に示す。
【表2】
【0078】
結論
PSの局所投与は、パクリタキセルによって引き起こされる神経因性疼痛(すなわち、CIPN)が確立されたマウスにおいてPWTを有意に増加させた。したがって、PSは、CIPNに関連する疼痛を処置する。
【0079】
実施例1の観察と一致し、典型的なNSAIDによる観察とは対照的に、PSは、CIPNに関連した疼痛の処置モデルにおいて鎮痛効果を実証する。CIPNの特定の動物モデルにおけるPSのこの驚くべき活性は、典型的なNSAIDとは異なり、PSが化学療法誘発性神経障害に関連する神経因性疼痛を効果的に処置することができるという観察を裏付けるものである。
【0080】
実施例3:PSは、複数の異なる化学療法によって引き起こされるCIPNに関連する神経因性疼痛を効果的に処置する
方法
動物
実験開始時に生後8週齢で、体重20~30gの成体雄型C57BL/6Jマウスを、The Jackson Laboratory (Bar Harbor、ME)から購入した。マウスを、AAALAC認定施設に4匹の群単位で収容した。食物及び水は、自由に摂取させた。各ケージ内のマウスを、処置群に無作為に割り当てた。すべての研究は、処置群の同一性に対し盲検化された実験者によって行われた。実験は、明サイクル(午前7時~午後7時)の間に実行し、動物を、CO2窒息により安楽死させた。研究は、関連する動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認され、国立衛生研究所の実験動物の管理及び使用に関するガイドライン(Guidelines for the Care and Use of Laboratory Animals)に従った。動物実験は、ARRIVEガイドラインに従って報告されている。
【0081】
ホスホスリンダク
PSを、局所投与用の8%ヒドロゲル軟膏として配合した。
【0082】
CIPNの誘発
CIPNを、確立されたプロトコルを使用して3つの異なる化学療法化合物を用いてマウスに誘発した(Carozzi et al., Exp Neurol (2010);226:301-309;Currie et al., PLoS Biol (2019);17:e3000243;Eldridge et al., Toxicol Pathol (2020);48:190-201)。3つの化学療法化合物のそれぞれを以下のように調製し、投与した。
【0083】
パクリタキセル:パクリタキセル(MilliporeSigma(St. Louis、MO)から購入)を、1容量のエタノール/1容量のCremophor EL(EMD Millipore Corp, Burlington、MA) /18容量の蒸留水の混合物に溶解した。パクリタキセルを、8mg/kgのパクリタキセル(1ml/体重100gの容量)を1日おきに4回腹腔内注射して投与し、累積用量は32mg/kgとなった。
【0084】
オキサリプラチン:オキサリプラチンをddH2Oに溶解した。オキサリプラチン3mg/kgを5日間毎日腹腔内注射し、その後5日間処置せず、その後さらに5日間、以前と同様に毎日オキサリプラチン腹腔内注射を行い、合計10回の注射で累積用量は30mg/kgとなった。すべての注射を1ml/体重100gの容量で腹腔内投与した。
【0085】
ビンクリスチン:ビンクリスチンをPBS中に溶解した。ビンクリスチン1.5mg/kgの2回の腹腔内注射を1週間以内に行い、総累積用量は3mg/kgとなった。すべての注射を1ml/体重100gの容量で腹腔内投与した。
【0086】
PSを伴うCIPNに関連する確立された神経因性疼痛の処置のためのプロトコル
機械的異痛症閾値の低下によってCIPNが確立されると、評価期間中、PS8%またはプラセボヒドロゲル軟膏を、マウスの後足に1日3回適用した(
図5~7を参照のこと)。機械的異痛症は、図に記録された時点で測定した。
【0087】
機械的異痛症の評価(von Frey試験)
機械的異痛症の閾値は、確立された方法に従ってvon Frey式フィラメントを使用して決定した(Chaplan et al., J Neurosci Methods (1994);53:55-63;Bagdas et al., Biochem Pharmacol (2015);97:590-600)。簡潔にいえば、マウスを静かな部屋に30分間置き、その後、メッシュ金属床を備えたプレキシガラス製のケージに入れ、試験前に30分間順化させた。漸増剛性を有する一連の較正済みvon Frey式フィラメント(Stoelting、Wood Dale、IL)を、わずかに曲がるのに十分な力で足に垂直に適用し、2~3秒保持した。このプロセスを、各剛性レベルにて数秒間隔で5回繰り返した。足を引っ込める、なめる、または震わせる場合は、陽性反応とみなされた。gで表される機械的閾値は、動物が反応したvon Frey式フィラメントの力を示す。
【0088】
統計分析
結果を平均値±SEMで表す。PKパラメータは、Microsoft Excel及びPKSolverによって計算した。非コンパートメント分析を採用した。分散分析(ANOVA)検定を実行し、続いてボンフェローニ事後検定を実行した。差は、P<0.05で有意であると判定した。
【0089】
結果
3つの異なる化学療法化合物に関連する神経因性疼痛を有するマウスにおけるPSの効果を評価した。これは、化学療法の開始または完了後に患者が神経因性疼痛を呈するという、すでに実施例2で検討した臨床状況を反映している。
【0090】
図5~7に示されるように、研究した3つの抗がん剤はそれぞれ、機械的異痛症の変化によって明らかなように、重大な神経因性疼痛を誘発した。神経因性疼痛が確立された後、PS8%軟膏を3回/日使用する局所処置を開始した。
【0091】
異なる化学療法化合物のそれぞれについては、以下で個別に考察する。
【0092】
パクリタキセル(
図5を参照のこと):
ベースラインでは、マウスの4つの研究群すべてが本質的に同一の異痛症スコアを有していた(範囲2.24±0.26g~2.49±0.24g;この値及びその後のすべての値の平均±SEM)。3つの研究群に12日間にわたってパクリタキセルを投与したところ、CIPNに関連する神経因性疼痛を示す機械的異痛症スコアが大幅に低下した(約85%)。対照的に、対照群(非パクリタキセル、非PS)は、研究期間全体を通じて異痛症スコアにわずかな、統計的に有意ではない変動を示した。
【0093】
パクリタキセル誘発性神経因性疼痛を有するマウスの足にPSを適用した場合、異痛症スコアは処置開始時の最低点から徐々に改善を示し、16日目にはベースラインに戻った(0日目=0.79±0.08g対16日目=2.49±0.18g;p=1.6×10-6)。対照的に、ビヒクル処置群は、異痛症スコアの軽度の悪化を示した(0日目=0.79±0.11g対16日目=0.56±0.05g;p=NS)。パクリタキセルのみ処置群は、ビヒクル群と類似の異痛症スコアの変化を示した(0日目=0.78±0.08g対16日目=0.57±0.05g;p=NS)。
【0094】
PS処置群とそのビヒクル対照との間の差は、5日目に初めて統計的に有意になり(PS=1.17±0.07g、ビヒクル=0.7±0.07g;p=0.002)、それらの差はその後増加し、16日目に最大となった。(PS=2.49±0.18g、ビヒクル=0.56±0.05g;p=2.1x10-7)。
【0095】
ビンクリスチン(
図6を参照のこと):
PSによって、一般的に使用されているビンクリスチンによって誘発される機械的異痛症が改善された。投与された3つの群において、ビンクリスチンは機械的異痛症スコアを61%~65%低下させた(-7日目のスコアは1.8±0.18g~2.0±0.24gの間の範囲であり、これに対し0日目=すべてについて0.7±0.07g;p=3.2x10
-6)。対照的に、溶媒単独を受けた対照群では、この7日間、異痛症に変化を示さなかった。ビンクリスチン誘発性神経因性疼痛を有するマウスに16日間PS処置を行うと、異痛症スコアが著しく改善され(0日目と比較して114%増加;p=1.3x10
-6)、そのスコアは対照群(ビンクリスチンなし)のスコアと同一であった。
【0096】
PS処置群とそのビヒクル対照との間の差は、16日目に統計的に有意であった(PS=1.5±0.09g、ビヒクル=0.8±0.09g;p=8.6x10-6)。ビヒクル群及びビンクリスチン単独群では、同じ期間中に異痛症スコアに目立った変化はなかった(両方について0.7±0.07g対0.8±0.09g)。
【0097】
オキサリプラチン(
図7参照):
予想通り、オキサリプラチン投与中、異痛症スコアは、0日目にそれぞれ2つの研究群において65%及び56%低下した。
【0098】
PS処置によって、異痛症スコアは-15日目のベースライン(1.8±0.09g対1.76±0.13g)まで回復したが、ビヒクル群は抑制された異痛症スコアを示し続け、-15日目と比較して22日目には47%低かった。PS処置群とビヒクル処置群と間の差は、22日目に統計的に有意になった(p=0.004)。
【0099】
PSの安全性
すべての研究中に、PS軟膏をマウスの後足に1日3回、最長22日間適用した場合、局所的または全身的な副作用は観察されなかった。この知見は、PSの既知の安全プロファイルと一致している。
【0100】
結論
PSの局所投与によって、3つの異なる化学療法化合物により誘発される機械的異痛症スコアと比較して、機械的異痛症スコアが大幅に改善する。したがって、PSによって、さまざまな化学療法によって引き起こされる神経因性疼痛が処置される。
【0101】
実施例2における観察と一致して、PSは、さまざまな治療クラスの化学療法化合物によって引き起こされるCIPNに関連する神経因性疼痛の処置モデルにおいて、鎮痛効果を実証する。
【0102】
実施例4:PSによって、パクリタキセルにより引き起こされるCIPNに関連する神経因性疼痛が効果的に予防される
実施例1で考察された実験と同様に、パクリタキセル化学療法に関連する神経因性疼痛を予防するPSの能力を評価した。この実験では、実施例1とは異なるパクリタキセル投与レジメンを使用する。実施例1と同様に、対応する臨床状況は、神経因性疼痛療法を化学療法の前に、または化学療法と同時に投与する状況である。CIPNに関連する神経因性疼痛に対する効果を評価するためのエンドポイントとして、機械的異痛症を用いた。
【0103】
方法
動物、CIPNの誘発(パクリタキセルによる)、機械的異痛症の評価、及び統計分析に関する方法は、実施例3で概説したものに対応する。
【0104】
CIPNに関連する神経因性疼痛の予防に関しては、実施例3で説明したように、パクリタキセル化合物の投与を開始する2日前に、上記のようにマウスの後足にPS8%またはビヒクルの投与を開始した。機械的異痛症は、PSの投与前及びPS処置開始後10日目に測定した。
【0105】
結果
図8に示す予防研究では、マウスの4つの研究群のうちの3つをパクリタキセルで処置し(1日おきに1回、合計4回の注射)、一方、第4の群は、溶媒単独を受け、対照として機能させた。パクリタキセル処置群のうちの2つは、パクリタキセルの初回投与の2日前からPS軟膏またはビヒクル(軟膏単独)による局所処置を開始した。
【0106】
研究の終了時(10日目)、パクリタキセル群の機械的異痛症スコアは、その対照より53%低かった(0.7±0.17g対1.5±0.19g、p=3×10-8)。ビヒクル処置群の異痛症スコアは、パクリタキセルのみの群と同一であった(0.7±0.12対0.7±0.17)。しかし、前処置PS群の異痛症スコアは、ビヒクル群と比較して有意に増加し(1.2±0.15g対0.7±0.12g、p=2.3x10-6)、これによりパクリタキセル(溶媒単独)対照(1.5±0.19g)のスコアに近づいた。
【0107】
安全性に関しては、PS軟膏の局所的副作用も全身的な副作用も観察されなかった。
【0108】
結論
実施例1の結論と同様に、PSの局所投与により、そのビヒクルと比較して足引っ込め閾値が有意に増加する。従って、PSによって、パクリタキセルの投与により引き起こされる神経因性疼痛の発症を予防する。この研究は実施例1の所見を補完しており、パクリタキセルに使用される投与レジメンとは無関係に効果が観察されることを実証している。
【0109】
実施例5:PSの薬物動態及び生体内分布
CIPNに関連する神経因性疼痛を処置及び予防するPSの能力を考えて、PSの作用部位を調査した。局所投与であるにもかかわらず、PSは、末梢部から脊髄に向かって神経内を横断することが見出された。
【0110】
方法
PS8%の軟膏を、穏やかに擦りながら各後足に局所的に適用した(足あたり50μl)。0.5、1、3、5、12、18、及び24時間の時点で、マウス(n=4~5マウス/時点)を、CO2吸入により安楽死させた。死の直後に採血した。足の皮膚、足の筋肉、脚の筋肉、両側の坐骨神経及び腰部DRGを含む組織を素早く切開し、液体窒素中で直ちに凍結させ、分析するまで-80°Cで保存した。
【0111】
別の実験では、パクリタキセル誘発性PNを有する8匹のマウスを、PS8%軟膏で3x/日、2週間処置して研究した。マウスを、PSの最後の投与の30分後に上記のように安楽死させた。これらのマウスから、両方の坐骨神経を採取して、それぞれ近位半分と遠位半分に分割し、2匹の動物ごとに対応する半分を組み合わせて薬物レベルのアッセイを行った。
【0112】
以前に記載されているように(Wen et al., Int J Pharm (2019);557:273-279)、各血漿試料を2倍容量のアセトニトリルと混合し、13,200rpmで15分間遠心分離した。組織試料を秤量し、ddH2O(組織重量に応じて100~300μL)を加え、均質化した。報告されているように(Wen et al., 2019)、アセトニトリル(ホモジネートの2倍容量)を加えた後、混合物を10分間超音波処理し、13,200rpmで15分間遠心分離し、HPLCで分析した。定量限界は、PSについては0.1μΜ、スリンダク、スリンダクスルホン、硫化スリンダク及びそれらのグルクロン酸抱合誘導体については0.05μMである。
【0113】
結果
PSは、インビトロ及びインビボの両方で、PS硫化物、PSスルホン、スリンダク、リンダク硫化物、及びスリンダクスルホンを含むいくつかの代謝産物に急速に代謝させることができる(
図9)。スリンダクのグルクロニド及び主に肝臓で形成されるその代謝物も同定されている。PSの代謝及びPK/生体内分布は投与経路によって異なるため、CIPNで影響を受ける坐骨神経及び後根神経節(DRG)に特に注目して、PSを後足に局所投与した正常マウスにおいて両方を研究した(Colvin, Pain (2019);160 Suppl 1:S1-S10)。
【0114】
図10及び表3に示すように、PSを、足の皮膚、その適用部位、皮膚の下の筋肉、脚の筋肉、坐骨神経、及びDRGにおいて検出した。予想通り(Xie et al., Br J Pharmacol (2012a);165:2152-2166)、全身循環においてPSは検出されなかった。
【0115】
PSの濃度は、皮膚からその最も遠位のDRGまで徐々に低下し、これは、Cmax(194.7±5.3μMから0.3±0.1μMへ)とAUC0-24h(1,609.8μM.時間から4.5μM.時間へ)の両方のそれぞれの値によって証明されている。PSのTmaxは、おそらく以下で考察するようにPSがそれに到達する方式を反映して、長期のTmax(18時間)を示したDRGを除いて、すべての組織で同じ(0.5時間)であった。別の興味深い特徴は、坐骨神経における57.4時間という非常に長期の値、及び妥当な精度で決定することはできなかったが、DRGにおけるおそらくさらにより長期の値とは対照的に、比較的狭い範囲内(11.4~20.6時間)にある皮膚と筋肉のt1/2の差である。
【0116】
これらの差は、PSに関して神経と皮膚及び筋肉との間で異なる代謝能力を示す。
【表3】
【0117】
PSの3つの代謝物:スリンダク、スリンダクスルホン、及びスリンダク硫化物のみが検出された(
図11及び表4)。グルクロン酸抱合生成物は検出されなかった。スリンダクは定量的に優勢な代謝産物であり、スリンダク硫化物及びスリンダクスルホンレベルは、スリンダクのレベルの<20%であった。スリンダクレベルは、坐骨神経(より高い)及びDRG(同等)を除くすべての組織におけるPSのレベルの約25%であった。
【表4】
【0118】
坐骨神経(Cmax=0.9±0.1μM;AUC0-24h=12.0μM.時間)及びDRG(Cmax=0.3±0.1μM;AUC0-24h=4.5μM.時間)に少量であってもPSが存在するのは、どちらも神経因性疼痛に関連する化学療法の標的であるために、特に興味深いことである。循環中にPSが存在しないこと、他のすべてと比較してDRGのTmaxが非常に高いこと、及び坐骨神経と比較してDRGのPSレベルが低いことは、PSが皮膚から坐骨神経を通ってDRGに到達したことを示唆している。
【0119】
この結論をさらに調査するために、後足に適用してから30分後のマウスの坐骨神経の近位半分と遠位半分のPSレベルを比較した。2つの値は著しく異なり、遠位半分の値は近位半分の値より18.5倍高かった(17±5.1μM対0.9±0.3μM;表5)。PSの3つの代謝産物(スリンダク、スリンダク硫化物、及びスリンダクスルホン)の濃度も、近位半分と比較して遠位半分で高かった(4.5~8.5倍高かった)。これらの知見は、PSが循環を介するのではなく、直接的な組織移送または輸送によって適用部位からDRGに到達するという概念を裏付けている。
【表5】
【0120】
結論
これらの実験によって、局所投与されたPSが、化学療法に関連する神経因性疼痛の発生に関与することが知られている重要な作用部位(すなわち、坐骨神経及び後根神経節)に到達できることが実証される。さらに、血流中での急速な代謝の観点から、この結果によって、PSが末梢ニューロン(例えば、坐骨神経)に沿って中枢神経系に向かって横断することによってこれらの作用部位に到達し、DRGで意味のある濃度で検出されることが実証される。従って、理論に拘束されることを望むものではないが、これらの観察から、PSにより、その鎮痛活性がニューロンに対して直接的に、また恐らく中枢作用部位内で、リドカイン及びプレガバリンなどの中枢作用型鎮痛薬の活性と同様に起こる可能性が高いことが確認される。
【0121】
実施例6:CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び予防におけるPSの活性は、リドカイン及びプレガバリンの活性と同等であるが、スリンダクによって共有されない
PSの効果を、CIPNに関連する神経因性疼痛に対する既知の中枢作用型鎮痛薬(リドカイン及びプレガバリン)及びPSの親化合物であるスリンダクの効果と比較した。CIPNプロトコルに関連する神経因性疼痛の処置は、実施例2及び3で説明したものに対応する。
【0122】
方法
動物、CIPNの誘発(パクリタキセルによる)、機械的異痛症の評価、及び統計分析に関する方法は、実施例3で概説したものに対応する。
【0123】
パクリタキセルをC57/BL/6Jマウスに投与することにより、CIPNを確立した。パクリタキセルを、下記のすべての研究群に投与した:
1. 群1:パクリタキセル+ビヒクル(n=8)
2. 群2:パクリタキセル+PS5%(n=8)
3. 群3:パクリタキセル+PS1.2%(n=8)
4. 群4:パクリタキセル+0.7%スリンダク(n=8)
5. 群5:パクリタキセル+5%リドカインクリーム(n=8)
6. 群6:パクリタキセル+プレガバリン(10mg/kg)(n=8)
【0124】
PS、スリンダク、及びビヒクルによる処置に関して:PSヒドロゲル5%、PS1.2%、0.7%スリンダク、またはビヒクルを、0日目から開始して15日目まで1日3回、両後足に適用した。0.7%スリンダクが実現可能な最高濃度であり、PS1.2%と等モルである。
【0125】
リドカインによる処置に関して:5%リドカインクリーム(陽性対照)を、PWTの測定の30分前に、マウスの両後足に1回適用した。
【0126】
プレガバリンによる処置に関して:10mg/kgのプレガバリン(陽性対照)を、PWT測定の1時間前に、1回経口投与した。
【0127】
処置の転帰を決定するために、機械的異痛症の評価を実行した。さらに、ビヒクルまたはPS5%で処置したマウスの群において、アセトン試験を使用して、冷感異痛症(CIPNの別の症状)の評価を実行した。異痛症を評価する両方の方法は、Toma W, et al. Neuropharmacology 2017;117:305-15に記載されている。機械的異痛症及び冷感異痛症について、同じ動物において少なくとも 1 日の間隔をおいて決定する。
【0128】
簡潔にいえば、機械的異痛症に対して、疼痛閾値応答を、先の実施例で実行したものと一致する、von Frey式フィラメントの十分に確立された方法を使用して測定した。PWT試験は、-8日目(パクリタキセルの初回投与前)、処置開始日(CIPNが完全に確立された0日目)及び14日目(15日目まで処置を継続)に実行した。gで表される機械的閾値は、動物が反応したvon Frey式フィラメントの力を示す。
【0129】
冷感異痛症については、パクリタキセル誘発性CIPNを有するマウスを、CIPN誘発後PS5%またはビヒクルで15日間処置した。アセトン試験を使用した。簡潔にいえば、アセトンを、各後足の足底表面上に適用した。各マウスが、60秒間にわたって記録された後足をなめ、持ち上げ及び/または震わせた時間は、冷感異痛症のスコアであった。測定を、-8日目(初回パクリタキセル注射の前)、処置開始の日(0日目)、次いで15日目に実行した。
【0130】
結果
予想通り、パクリタキセルはCIPNを誘発し、このことは、機械的異痛症が、パクリタキセル投与前の1.83±0.14gのスコア(この値及びその後のすべての値の平均±SEM)から(CIPNが完全に確立された後)研究の0日目には0.55±0.05gまで低下したことで実証された。パクリタキセルはまた、マウスを冷感異痛症に対して感作させ、このことは、パクリタキセル処置前及び後のスコアの変化によって証明される。(4.5±0.24秒対7.1±0.4秒;p<0.0001)。
【0131】
PSを用いた処置により、用量依存的な方式で機械的異痛症スコアが改善された(
図12A)。同様に、PS5%による処置によって、冷感異痛症スコアが改善された。PS処置群の冷感異痛症スコアは、ビヒクル処置群の冷感異痛症スコアよりも有意に低かった(3.1±0.4対9.3±0.7;p<0.0001)(
図12B)。
【0132】
対照的に、スリンダクの投与によって、PWTに対する有意な効果を実証することはできず、そのスコアはビヒクルのスコアに類似していた(0.62±0.05g対0.56±0.04g;統計的に有意ではなかった)が、一方、予想通り、リドカイン及びプレガバリンの陽性対照の両方は、ビヒクルと比較してPWTの有意な増加を達成した(
図12A)。重要なことには、スリンダク0.7%と等モル濃度のPS1.2%によって、機械的異痛症が有意に改善された(p<0.0001)。
図12Aに対応する機械的異痛症に関する値を表6に提供する。
【表6】
【0133】
結論
PSは、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び予防に有効であることが示されたが(実施例1~3も参照のこと)、驚くべきことに、その非リン酸化「親」スリンダク(典型的なNSAID)は、マウスモデルにおいてPWTの救済を達成できず、そのためCIPNに関連する神経因性疼痛を処置できなかった。これは、スリンダクが最大無毒用量で、PSと同じ方式及び配合で投与された場合でも当てはまった。陽性対照であるリドカイン及びプレガバリンは、鎮痛において中枢作用部位を有することが知られており、予想通り、CIPNに関連する疼痛の有意な軽減を示した。したがって、局所投与されたPSについて観察される有効性は、その密接に関連する親化合物よりも中枢作用型陽性対照に、より類似している。
【0134】
したがって、PSはその親NSAIDとは機構的に異なっており、中枢作用型薬剤により類似した方式で作用している場合がある。CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び予防におけるPSとプレガバリン及びリドカインの同等の有効性に関するこれらの観察は、上記で観察されたPSの中枢作用部位(すなわち、プレガバリン及びリドカインの作用部位に類似)を反映している。これらの観察は、典型的な中枢作用型鎮痛薬(例えば、プレガバリン及びリドカイン)と同様に、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置におけるPSの可能性を実証するのに役立つ。
【0135】
実施例7:観察の概要
本明細書における観察は、十分に確立された動物モデルを使用して、CIPNに関連する神経因性疼痛の予防及び処置におけるPSの前例のない鎮痛活性を実証する。したがって、上記の実験は、PSにより、さまざまな化学療法化合物によって生成される、CIPNによって引き起こされる神経因性疼痛シグナル伝達を低減することができることを実証している。機械的異痛症に対するPSの作用機序は、化学療法化合物それぞれに共通する病態生理学に影響を与えることが示されている-PSは、化学療法化合物によって引き起こされる神経損傷によって生じる神経細胞内疼痛シグナル伝達(neuronal pain signalling)に直接影響を及ぼしており、化学療法に関連する神経因性疼痛の処置におけるPSの広範な治療的適用可能性を実証している。機械的異痛症に対するPSの治療効果は、局所投与によって非常に強力であり、かなり迅速である。実際、局所投与すると、PSは末梢ニューロン(例えば、坐骨神経)に沿って脊髄に向かう上行軌道をたどり、1週間未満で有意な鎮痛効果を達成することができ、最長2週間持続することが示されている。局所経路により、全身クリアランスが低くなり、薬物相互作用が減少し、患者の忍容性が向上し、経口薬との組み合わせが容易になる。
【0136】
これらの観察は、より広範なクラスのNSAIDに分類されるが、この化合物ファミリーの特性をすべて共有しているわけではない化合物である、PSの、これまで認識されていなかった活性及び治療的有用性を実証している。実際、NSAIDに関するこれまでの観察とは対照的に、本明細書のデータは、PSの活性がニューロン活動を直接標的とする鎮痛剤により類似しており、末梢部位と中枢部位の両方で作用する可能性があることを実証している。実際、上記の結果から、PSにより、末梢及び中枢の感作によって生じる疼痛を含むことが知られている異痛症からの疼痛を軽減することができることが確認される。CIPN処置モデルでは、処置のランダム化に先立つ5日間で疼痛が確立され、それにより(ベースラインと比較して)異痛症によって示される中枢感作が確立された。したがって、理論に拘束されることを望むものではないが、PSは、確立された麻酔薬の作用機序に類似して、神経細胞内疼痛シグナル伝達(neuronal pain signalling)に直接的な影響を及ぼす。実際に、これらの結果は、PSが、末梢及び中枢の感作からの疼痛シグナル伝達を低減し、この化合物の鎮痛活性のために末梢及び中枢の両方の作用部位を関与させる能力を示している。もちろん、この活性は、PS及び抗炎症剤としての典型的なNSAIDの確立された役割とは異なる。
【0137】
PSの活性に関する以前の観察は、その抗炎症活性に限定されている。例えば、WO2019/067919は、PSと同時にコンカナバリンA(ConA)をウサギの涙腺に投与する急性DEDモデルを使用して、DEDの処置におけるPSの役割を示唆している。これに関連して、PSの抗炎症活性によって、ConAに応答して限定的な炎症反応がもたらされ、それによりDEDの確立が妨げられる。これらの観察によりPSの抗炎症活性が確認され、DEDの炎症成分の確立及び維持の防止におけるその有用性が示唆される。この急性DEDモデルにおける観察では、PSが神経に直接作用して神経因性疼痛によって引き起こされる神経シグナル伝達を低減させる能力の証拠を提供することができていない。この急性DEDモデルにおける疼痛の軽減は、PSが炎症反応(すなわち、疼痛センサの活性化を引き起こす原因となる病理)を阻害する結果であることのみ仮定することができる。実際に、DEDモデルの結果は、PSが角膜感受性を改善することを示唆しており、これは痛覚の増加、すなわち鎮痛薬に望まれる効果とは逆の効果を意味する。もちろん、PSの鎮痛活性に対するいかなる示唆にも関係なく、急性DEDモデルで観察されたそのような活性は、神経因性疼痛における対応する活性を示唆するものではなく、CIPNに関連する神経因性疼痛においても当然示唆するものではない。
【0138】
本明細書の実験は、CIPNに関連する神経因性疼痛の特定の動物モデルで実行した。上で概説したように、適切な動物モデルの使用は、特定のタイプの神経因性疼痛における化合物の潜在的な有効性を実証するために重要である。末梢神経障害から生じる疼痛に対する薬物の有効性は、他の形態の疼痛、またはさらには他の形態の神経因性疼痛に対するその有効性から推定することはできない。実際、神経因性疼痛の特定の形態は、それらの病因が異なるため、それらの処置及び/または予防には異なる活性を有する治療剤が必要である。療法は、神経因性疼痛の特定の病態生理学に従って設計し、適切なモデルで試験する必要がある。例えば、CIPNは、有毒な化学療法剤の投与による感覚軸索に対する直接的な神経損傷、脱髄またはカルシウム代謝の障害を引き起こす一方、他の神経障害は、(例えば、糖尿病性末梢神経障害に見られるように)代謝異常による広範な神経損傷の結果として発生する場合がある。したがって、大型繊維及び小型繊維の両方に対する影響は、CIPNとその特定の病態生理学に基づく他の形態の神経障害との間で異なる。このような病態生理学によって引き起こされる神経因性疼痛の処置における化合物の有効性の唯一の確実な決定は、上に示したように、CIPNの適切な神経因性疼痛モデルにおいて化合物を試験することである。これらの観察がなければ、CIPNに関連する神経因性疼痛との関連で、PSの疼痛緩和活性の兆候が不足している。
【0139】
本明細書における観察は、PSが典型的なNSAIDについて示唆されたものを超える治療的有用性を有することを実証している。そのようなNSAID、例えばロキソプロフェンナトリウムは、パクリタキセル誘発性CIPNにおける疼痛シグナル伝達を低減するのに効果がない。さらに、Moore et al. (Cochrane Database of Systematic Reviews (2015);10: 1-25)では、NSAIDには末梢神経因性疼痛には治療効果がないことが概説されている。本明細書で観察されたPSの活性は、プレガバリン及びリドカインの活性に対応し、従来技術で観察されたように、典型的なNSAIDが神経因性疼痛における損傷ニューロンに直接鎮痛効果を提供できないこととは対照的である。典型的なNSAIDと比較したPSの異なる活性は、上記の実験におけるその親化合物であるスリンダクとの比較によって確認される。スリンダクは確立された異痛症(すなわち、末梢及び中枢ニューロンの感作によって引き起こされる)を軽減することができず、このことは、PSとは異なり、スリンダクがCIPNによって引き起こされる神経因性疼痛における損傷ニューロンに対し、直接的な鎮痛効果をもたらさないことを示している。理論に拘束されることを望むものではないが、従来技術において典型的なNSAIDに対する応答が存在しない理由は、疼痛が炎症ではなく神経因性神経損傷によって引き起こされる可能性が高いということである(すなわち、典型的なNSAIDの抗炎症活性は、神経因性疼痛の予防または処置には十分ではない)。したがって、本明細書で観察されたPSの鎮痛活性は固有のものであり、典型的なNSAIDとは共有されない。スリンダクに関する本明細書における観察に基づくと、従来技術で観察されたNSAIDの鎮痛活性とされるものはいずれも、神経シグナル伝達に向けられた実際の鎮痛活性ではなく、それらの抗炎症活性(すなわち、疼痛を引き起こす最初の誘因を停止させる)の反映である(すなわち、これにより結果として、神経損傷及び感作によって引き起こされる疼痛が軽減される)。実際、典型的なNSAID、例えばスリンダクが鎮痛活性によりニューロンに直接作用することができれば、スリンダクは上記のモデルで観察された異痛症を軽減すると予想されただろう。
【0140】
したがって、本発明者は、CIPNに関連する神経因性疼痛の処置及び/または予防におけるPSの新たな驚くべき活性を実証した。上で概説したように、この活性は、PS及び関連するNSAIDについて以前に観察された抗炎症活性を上回っている。実際に、典型的なNSAIDとは異なり、本明細書の観察は、PSが末梢神経及び中枢神経に対して直接的な活性を有し、リドカイン及びプレガバリンなどの確立された鎮痛薬の作用部位及び作用機序とおそらく類似していることを実証している。さらに、PSは、例えば局所投与することが容易であり、その副作用が限定的であるため(Mackenzie et al. (2010) Gastroenterology 139(4): 1320-32)、PSによって、これらの中枢作用型鎮痛薬と比較しても、CIPNに関連する神経因性疼痛の療法が改善される。
【0141】
本発明者の研究は単なる例として上に説明されており、本発明の範囲及び精神内に留まりながら改変を加えることができることが理解されるであろう。
【国際調査報告】