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特表2024-520465糖尿病性末梢神経障害に関連する疼痛の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】糖尿病性末梢神経障害に関連する疼痛の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/661 20060101AFI20240517BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/661
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/70 401
A61P25/02
A61P25/04
A61P3/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572983
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 US2022072497
(87)【国際公開番号】W WO2022251806
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/192,248
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】318014201
【氏名又は名称】メディコン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】リガス,バジル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA07
4C076AA08
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA24
4C076AA72
4C076BB31
4C076CC01
4C076CC21
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA32
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA20
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、糖尿病性末梢神経障害(DPN)に関連する神経障害性疼痛を予防及び/または治療する方法を特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病性末梢神経障害(DPN)に関連する神経障害性疼痛を治療及び/または予防する方法であって、DPNに関連する神経障害性疼痛が治療及び/または予防されるように、ホスホスリンダク(PS)の治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記神経障害性疼痛を治療することが、前記神経障害性疼痛を低減または除去することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経障害性疼痛を予防することが、前記神経障害性疼痛の発生を減少させることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記神経障害性疼痛を治療することが、DPNに関連する感覚症状の1つ以上を低減または除去することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記神経障害性疼痛を予防することが、DPNに関連する感覚症状の1つ以上の発生を減少させることを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の感覚症状が、異常知覚、灼熱感、及び電撃感から選択される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記異常知覚が、しびれ感、ピリピリ感、チクチク感、または蟻走感のうちの1つ以上を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
PSが、疼痛の感覚に関与する神経細胞シグナル伝達の発生を低減するか、除去するか、または減少させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
PSが、末梢性感作を介して生じる疼痛の発生を低減するか、除去するか、または減少させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
PSが、中枢性感作を介して生じる疼痛の発生を低減するか、除去するか、または減少させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
PSが、中枢的に生じる疼痛シグナル伝達の発生を低減するか、除去するか、または減少させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記PSが、坐骨神経で生じる疼痛シグナル伝達の発生を低減するか、除去するか、または減少させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
PSが、後根神経節で生じる疼痛シグナル伝達の発生を低減するか、除去するか、または減少させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記神経障害性疼痛がアロディニアである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記アロディニアが、機械的アロディニア及び/または熱アロディニアである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記神経障害性疼痛が痛覚過敏である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象がヒトである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
PSが式I(PS-I)を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法
【化1】
【請求項19】
PSが式II(PS-II)を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法
【化2】
【請求項20】
PSの前記治療有効量が、医薬的に許容される賦形剤をさらに含む医薬組成物として投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
PSを含む前記医薬組成物が局所投与用に製剤化される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
PSを含む前記医薬組成物が半固体として製剤化される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
PSを含む前記医薬組成物が液体として製剤化される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
PSを含む前記医薬組成物がクリームである、請求項21~23に記載の方法。
【請求項25】
PSを含む前記医薬組成物がゲルであり、例えば、前記ゲルがヒドロゲルである、請求項21~23に記載の方法。
【請求項26】
PSを含む前記医薬組成物がローションである、請求項21~23に記載の方法。
【請求項27】
PSを含む前記医薬組成物が軟膏である、請求項21~23に記載の方法。
【請求項28】
PSを含む前記医薬組成物がスプレーである、請求項21~23に記載の方法。
【請求項29】
PSを含む前記医薬組成物がパッチとして製剤化される、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記医薬組成物が、PSを前記医薬組成物の約0.5%~約15%w/wの濃度で含む、請求項20~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記医薬組成物が、PSを約15%、14.5%、14%、13.5%、13%、12.5%、12%、11.5%、11%、10.5%、10%、9.5%、9%、8.5%、8%、7.5%、7%、6.5%、6%、5.5%、5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、または0.5%w/wの濃度で含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記医薬組成物が、PSを前記医薬組成物の8%w/w以下、例えば、前記医薬組成物の約5%または約3%w/wの濃度で含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記医薬組成物が、PSを前記医薬組成物の3%w/w以下、例えば、前記医薬組成物の約2%または約1%w/wの濃度で含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記PSが、約0.005g/10cm患部~約0.25g/10cm患部で投与される、請求項20~33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記PSが、約0.005g/10cm患部で投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記PSが、約0.01g/10cm患部で投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記PSが、約0.05g/10cm患部で投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記PSが、約0.1g/10cm患部で投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記PSが、約0.15g/10cm患部で投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項40】
前記PSが、約0.2g/10cm患部で投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記PSが、約0.25g/10cm患部で投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項42】
前記PSが前記患部に適用され、前記患部に約1時間~約5時間放置される、請求項20~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記PSが前記患部に適用され、前記患部に約0.5時間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、または約5時間放置される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記PSが、投与期間後に、例えば洗い流すことにより、前記患部から除去される、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
投与期間後に、2回目以降のPSの適用が前記患部に適用される、請求項42または43に記載の方法。
【請求項46】
前記PSが1日1回適用される、請求項20~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記PSが1日2回適用される、請求項20~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記PSが1日3回適用される、請求項20~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記PSが1日4回適用される、請求項20~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記PSが医薬組成物で投与される、請求項34~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
DPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び/または予防に使用するためのPS。
【請求項52】
DPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び/または予防のための医薬品の製造におけるPSの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願第63/192248号(2021年5月24日出願)の利益を主張し、当該出願の全内容は、あらゆる目的において参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、糖尿病性末梢神経障害(DPN)に関連する神経障害性疼痛の治療における化合物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
神経障害は神経系の疾患または異常であり、2000万人超の米国人が罹患している。実際のところ、最近の研究によれば、神経障害性疼痛は成人の約10人に1人が罹患しており、この疼痛の治療のための経済的な負担が増加している。
【0004】
神経障害は、神経障害性疼痛の発症に関連する。神経障害性疼痛は、末梢神経系または中枢神経系の損傷の結果として生じ得る。末梢神経障害性疼痛は、末梢神経終末または侵害受容器などの神経構造に対する損傷によって引き起こされる。このような神経構造は刺激に対して極めて敏感になり、刺激の不在下でもパルスを発生し得る。損傷は、例えば、糖尿病(すなわち、DPN)などの疾患、化学療法処置、ならびに進行期のがん、ウイルス(例えば、帯状疱疹またはHIV)、及び物理的受傷(例えば、事故または手術)などの多くの理由によって生じ得る。
【0005】
末梢神経の病変は、結果的に持続的な自発痛の存在を特徴とする病的状態に至ることがあり、このような自発痛は、しばしば痛覚過敏(有害な刺激に対する応答の増加)及びアロディニア(無痛刺激により誘導される疼痛)に関連する。痛覚過敏及びアロディニアは中枢性感作に関連付けられており、ここでCNS侵害受容ニューロンは、持続的入力または末梢受傷によって誘発される刺激閾値の低下のために興奮性の増加を示す。中枢性感作は、末梢神経障害に関連する神経障害性疼痛の発生及び維持に関与している。
【0006】
症状の観点からは、末梢神経障害は、鋭い疼痛、鈍い痛み、有痛性の灼熱感もしくは冷感、異常知覚、固有受容の喪失、しびれ感、または疼痛感覚の喪失すらも引き起こす。
【0007】
現在、さらなる疼痛療法が世界的に必要とされており、神経障害性疼痛は幅広い地域の集団で大きな健康問題に発展している。
【0008】
神経障害性疼痛は、多くの場合、いわゆる非従来型の鎮痛剤、例えば、デュロキセチン及びアミトリプチリンのような抗うつ薬、またはガバペンチンもしくはプレガバリンのような抗てんかん薬を用いた治療が試みられる。さらに、局所麻酔薬(リドカインを含む)が神経障害性疼痛の治療及び管理に使用されている。逆のエビデンスがあるにもかかわらず、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、神経障害性疼痛の管理に広く使用されている。しかし、最近の臨床試験を検討すると、神経障害性疼痛患者においては、NSAIDによるいかなる有意な疼痛軽減も示されておらず(Moore et al.Cochrane Database of Systematic Reviews(2015);10:1-25)、NSAIDとプラセボとの間に統計学的有意差を示す臨床転帰はなかった。Cochrane Libraryは、神経障害性疼痛の治療にNSAIDを推奨すべきではないと結論付けた。
【0009】
DPNは、糖尿病によって引き起こされる末梢神経障害であり、糖尿病の最も重篤な合併症の1つに相当する。糖尿病患者の約半数が何らかの形態の神経損傷を有し、DPNにおいては高血糖が末梢神経障害の主な原因となっている。DPNは、小神経及び大神経のいずれにも影響を及ぼし得る。これらの神経は、疼痛及び体温の変化に関する信号を脳に送ることによって人体を保護し、接触、圧力を検知し、平衡を保つ一助となる。臨床ガイドラインでは、有痛性糖尿病性神経障害においては、抗うつ薬(例えば、デュロキセチン)及び/または抗てんかん薬(例えば、ガバペンチン及びプレガバリン)、ならびにオピオイド及びカプサイシンなどの局所剤の使用を通じた疼痛緩和が推奨されている。DPNに関連する疼痛に対する現在の治療は、限定的な有効性を有し、重大な副作用を引き起こす可能性がある。
【0010】
そのため、末梢神経障害、特にDPNに関連する疼痛を治療及び/または予防する化合物が強く必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、ホスホスリンダク(PS)がDPNに関連する疼痛の治療及び予防に有効であることを見出した。
【0012】
PSは、抗炎症活性を有する非ステロイド性化合物である。しかしPSは、その親化合物のNSAIDスリンダクとは異なりCOX-1及びCOX-2の発現を阻害しないため、典型的なNSAIDではない。PSはこれまでに、NF-κBの活性化及びMAPKシグナル伝達分岐の変化の阻害を介して抗がん及び抗炎症特性を有すること、そして炎症モデルマウスにおいて主要な炎症促進性シグナル伝達経路の抑制を介して関節リウマチを治療する活性を有することが示されている(Mackenzie et al.(2010)Gastroenterology 139(4):1320-32及びMattheolabakis et al.(2013)Pharm Res 30(6):1471-82)。WO2019/067919は、ドライアイ疾患(DED)の急性モデルにおいてPSの抗炎症活性を示唆している。さらにこのモデルでは、PSが、DEDにおいて抑制された眼感受性を回復させることが認められており、このことから、侵害受容の低減ではなく増加というPSの役割が示唆される。PSは、上述のように典型的なNSAIDではないものの、DEDモデルにおいて正常眼に投与したときにNSAIDと同様の活性を示した。しかし、これらの観察結果は、DPNに関連する神経障害性疼痛の治療におけるPSの役割を示唆することができない。さらに、当分野における臨床ガイダンスでは、全てのタイプの神経障害性疼痛の治療においてNSAIDの使用の回避が推奨されており、抗炎症活性のみでは治療的に十分ではないとみなされている。
【0013】
それでもなお、本発明者らは、神経障害性疼痛の特定の動物モデルにおけるPSの活性を検討し、直接作用型神経遮断麻酔薬(例えば、リドカイン及びプレガバリン)と同等の驚くべき治療有効性を実証した。神経障害性疼痛の療法の開発を行う際は特定の動物モデルが重要である。実際に、末梢神経障害に関連する疼痛の病態を考慮すれば、代替的疼痛モデルにおける特定の化合物の有効性の観察結果からは、その化合物の神経障害性疼痛の治療における有用性を示すことができない。これに沿えば、たとえ臨床症状が類似していたとしても、他の形態の神経障害性疼痛からの有効な薬物の使用を、特に関心対象となる神経障害性疼痛に対し推定することは不可能である。例えば、ガバペンチンは、異なる形態の神経障害性疼痛の治療において異なる有効性を示す。したがって、さらなる臨床開発前の初期試験で使用する動物モデルは極めて重要である。DPN神経障害性疼痛の特異的な動物モデルに基づき、本明細書における観察結果は、DPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び/または予防において前例のないPSの有効性を実証している。
【0014】
したがって、第1の態様において、本発明は、DPNに関連する神経障害性疼痛を治療及び/または予防する方法であって、DPNに関連する神経障害性疼痛が治療及び/または予防されるように、PSの治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態において、PSは、PSのスルホキシド形態である。そのため、PSは式I(PS-I)を有し得る。
【化1】
【0016】
他の実施形態において、PSは、PSの硫化物形態である。そのため、PSは、式II(PS-II)を有し得る。
【化2】
【0017】
本明細書において、「ホスホスリンダク」または「PS」という表現は、PS-I及びPS-IIの両方を包含する。化合物のスルフィド形態が好ましい。式I及びIIの化合物は、米国特許第8,236,820号(参照により全体として本明細書に援用される)に記載されている。
【0018】
上述のように、DPNに関連する神経損傷は、結果的に疼痛シグナル伝達経路が過剰活性化して末梢及び/または中枢ニューロンの感作がもたらされ、それにより刺激閾値の低下を示す可能性がある。したがって、DPNを有する対象は、この感作の結果として疼痛を経験し、例えば、無痛性の刺激によって誘導される疼痛(アロディニア)を経験したり、有害な刺激に応答して疼痛が増強される(痛覚過敏)を経験したりする可能性がある。本明細書における観察結果に基づけば、PSは、例えば、疼痛の感覚に関与する神経細胞シグナル伝達を低減することにより、直接的な鎮痛効果を有し得る。さらに、PSは、末梢の感作または中枢の感作を介して生じる疼痛を低減し得る。したがって、PSは、中枢的に生じる疼痛シグナル伝達を低減するか、または予防する可能性がある。PSは、坐骨神経で生じる疼痛シグナル伝達を低減するか、または予防する可能性がある。PSは、後根神経節で生じる疼痛シグナル伝達を低減するか、または予防する可能性がある。PSが、脊髄に向かって末梢ニューロンを上ることが示されていることを考慮すれば、PSは脊髄で生じる疼痛シグナル伝達を低減するか、または予防する可能性がある。いくつかの実施形態において、神経障害性疼痛はアロディニアである。アロディニアは、機械的刺激及び/または熱刺激に応答して生じ得る。さらに、いくつかの実施形態において、神経障害性疼痛は痛覚過敏である。
【0019】
PSは、本発明で使用するための医薬組成物に製剤化することができる。いくつかの実施形態において、医薬組成物はPSと、1つ以上の医薬的に許容される賦形剤とを含む。PSは、局所投与用に、詳細には対象の上肢及び下肢への局所投与用(すなわち、手袋靴下型分布を網羅するため)に製剤化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】DPNに関連する神経障害性疼痛の治療試験の概略図。STZとはストレプトゾトシンのことである。PWTとは足引っ込め閾値試験のことである。
図2】STZ誘導性DPNに関連する神経障害性疼痛に対するPSの効果(ビヒクルと比較)。
図3】DPNに関連する神経障害性疼痛に対するスリンダク、リドカイン、及びプレガバリンの効果。
図4】DPNに関連する神経障害性疼痛の予防試験の概略図。STZとはストレプトゾトシンのことである。PWTとは足引っ込め閾値試験のことである。
図5】DPNに関連する神経障害性疼痛の予防に対するPSの効果。*p<0.0001(STZ vsナイーブ);**p<0.004(PS vsビヒクル);***p<0.001(リドカインvsビヒクル)。
図6】PSの代謝の概略図。
図7】局所投与した際の種々の組織におけるPSの体内分布。SN=坐骨神経。DRG=後根神経節。
図8-1】PSを局所投与した際の種々の組織におけるPSの代謝産物の体内分布。SN=坐骨神経。DRG=後根神経節。
図8-2】PSを局所投与した際の種々の組織におけるPSの代謝産物の体内分布。SN=坐骨神経。DRG=後根神経節。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
以下の疼痛のタイプの定義は、International Association for the Study of Pain(IASP)に従うものである。「疼痛」とは、実際のまたは潜在的な組織損傷に関連する、またはそれに類似する不快な感覚的で感情的な経験である。「神経障害性疼痛」は、体性感覚神経系の病変または疾患によって引き起こされる。神経障害性疼痛は臨床的説明であり(診断ではない)、確立された神経学的診断基準を満たす実証可能な病変または疾患を要する。神経障害性疼痛患者は、熱感、灼熱感、ズキズキ感、電撃感、刺痛、鋭痛、痙攣、痛み、ピリピリ感、しびれ感、またはチクチク感として描写される1つ以上の感覚を経験し得る。「体性感覚神経系の病変」という用語は、診断検査(例えば、画像診断、神経生理学的検査、生検、臨床検査)によって異常が明らかになった場合、または明らかな外傷が認められた場合に一般的に使用される。「体性感覚神経系の疾患」という用語は、病変の根源的原因(例えば、卒中、血管炎、糖尿病、遺伝子異常)が既知である場合に一般的に使用される。「末梢神経障害性疼痛」とは、末梢体性感覚神経系の病変または疾患によって引き起こされる疼痛である。「中枢性神経障害性疼痛」とは、中枢性体性感覚神経系の病変または疾患によって引き起こされる疼痛である。「中枢性感作」とは、正常または閾値以下の求心性入力に対する中枢神経系内の侵害受容ニューロンの応答性が増加することを指す。「末梢性感作」とは、受容野の刺激に対する末梢内の侵害受容ニューロンの応答性が増加し、閾値が低下することを指す。「アロディニア」とは、通常は疼痛を誘発しない刺激に起因する疼痛である。「痛覚過敏」とは、通常疼痛を誘発する刺激により疼痛が増加することである。
【0022】
概して、「疾患」という用語は、本明細書で提供される方法を用いて治療することが可能な患者または対象の存在状態または健康状態を指す。
【0023】
「治療有効量」という用語は、意図された適用の効果(限定されるものではないが、疾患の治療及び/または予防を含む)を発揮させるのに十分な、本明細書に記載の化合物または化合物の組合せの量を指す。
【0024】
「医薬的に許容される賦形剤」は、医薬組成物に含まれるあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗細菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤、ならびに不活性成分を含むことが意図されている。このような医薬的に許容される賦形剤を活性医薬成分の製剤化のために使用することは、当技術分野で周知されている。いかなる従来の医薬的に許容される賦形剤も、PSに適合しない場合を除き、本発明の治療用組成物で使用されることが企図されている。
【0025】
数値に言及する際の「約」という用語の使用は任意選択的であり、言及される数字が典型的な実験的変動内(または統計的実験的誤差内)の近似値であることを意味し、したがってこの数字はそれに応じて変動し得る。
【0026】
「~を含む(comprising)」という用語は「~を含む(including)」及び「~からなる(consisting)」を包含し、例えば、X「を含む」組成物は、Xのみからなる場合もあれば、何らかの追加的なものを含む(例えば、X+Y)場合もある。
【0027】
糖尿病性末梢神経障害に関連する疼痛
糖尿病患者に生じる病態、詳細には高血糖は、ニューロンに損傷を引き起こし、その結果、末梢神経障害及び関連する神経障害性疼痛をもたらし得る。これらの患者における神経障害性疼痛は経時的に発生し、長期にわたり疾患を有する患者で悪化することが多く、刺痛、灼熱痛、及び/または穴が開くような痛みが含まれ得る。いくつかの実施形態において、本発明は、DPNに関連する神経障害性疼痛を予防する方法であって、DPNに関連する神経障害性疼痛が予防されるように、PSの治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。他の実施形態において、本発明は、DPNに関連する神経障害性疼痛を治療する方法であって、DPNに関連する神経障害性疼痛が治療されるように、PSの治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。糖尿病患者においてはDPNが経時的に発生することから、対象は経時的な神経障害性疼痛の悪化を経験する可能性があり、そのため対象は、進行中の神経障害性疼痛を治療するとともに、さらなる神経障害性疼痛の発生を予防することができる鎮痛薬から利益が得られると考えられる。そのため、いくつかの実施形態において、PSは、DPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び予防に使用することができる。上記に沿って、本発明は、DPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び/または予防に使用するためのPSを提供する。さらに、本発明は、DPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び/または予防のための医薬の製造のためのPSの使用も提供する。
【0028】
本明細書における観察結果に基づけば、PSは、DPNに関連する神経障害性疼痛に対し直接的な鎮痛効果を有する。DPNに関連する神経障害性疼痛は、刺痛、灼熱痛、及び/または穴が開くような痛みであり得る。DPN患者は、下肢及び上肢において、常に存在する対称性の神経障害性疼痛を経験し得る。DPNに関連する神経障害性疼痛の治療において、PSは、神経障害性疼痛を低減するか、または除去することができる。DPNに関連する神経障害性疼痛の治療において、PSは、DPNに関連する感覚症状の1つ以上も低減するか、または除去することができる。DPNに関連する神経障害性疼痛の予防において、PSは、神経障害性疼痛の発生を減少させることができる。DPNに関連する神経障害性疼痛の予防において、PSは、DPNに関連する感覚症状の1つ以上の発生も減少させることができる。
【0029】
DPNの感覚症状としては、麻痺(例えば、しびれ感、ピリピリ感、チクチク感、もしくは蟻走感)、灼熱感、または電撃(すなわち、電気ショックのような)感が挙げられる。通常、DPNは足、手、脚、及び腕のような四肢に影響を及ぼし、四肢では神経線維が最も長く多数であり、患者はしばしば「手袋靴下型」分布を有する。DPNを有する対象が経験する感覚症状が疼痛を伴わない(または、それ自体を疼痛とみなすのに必要な閾値に達しない)場合であっても、PSは、上記に挙げたものを含め、DPNを有する対象が経験する感覚症状のいずれか1つ以上の発生を低減するか、除去するか、または減少させるために使用することができる。PSは、DPN患者における手袋靴下型分布(stocking and glove distribution)の発生を低減するか、除去するか、または減少させるために使用することができる。
【0030】
上述のように、DPNに関連する神経障害性疼痛は、中枢性感作の結果であり得、それによりアロディニア及び/または痛覚過敏が生じる。PSは、DPN患者における疼痛感覚に関与する神経細胞シグナル伝達の発生を低減するか、除去するか、または減少させることができる。PSは、末梢性感作を介して、または中枢性感作を介して生じる疼痛を低減するか、除去するか、または減少させることができる。したがって、PSは、中枢的に生じる疼痛シグナル伝達の発生を低減するか、除去するか、または減少させることができる。PSは、坐骨神経で生じる疼痛シグナル伝達を低減するか、除去するか、または減少させることができる。PSは、後根神経節で生じる疼痛シグナル伝達の発生を低減するか、除去するか、または減少させることができる。PSが、脊髄に向かって末梢ニューロンを上ることが示されていることを考慮すれば、PSは脊髄で生じる疼痛シグナル伝達の発生を低減するか、除去するか、または減少させることができる。DPN患者における神経障害性疼痛は、アロディニア(例えば、機械的アロディニアまたは熱アロディニア)であり得る。追加的または代替的に、DPNを有する対象における神経障害性疼痛は痛覚過敏であり得る。
【0031】
DPN患者における神経障害性疼痛は、視覚的アナログ疼痛尺度により、または当技術分野における他の任意の適切な方法を用いて測定することができる。
【0032】
医薬組成物
本発明の方法に使用するためのPSは、DPNの対象に投与するのに適切な医薬組成物に製剤化することができる。典型的には、医薬組成物はPSの治療有効量を提供するように製剤化され、医薬的に許容される賦形剤をさらに含むことができる。
【0033】
DPNに関連する神経障害性疼痛は、身体の様々な部位で生じ得る。しかし上記で概説したように、DPNは上肢及び下肢、すなわち四肢の末梢神経に影響を及ぼす傾向があり、これによってこれらの患者が経験する「手袋靴下型」という分布が説明される。そのため、特に有用なPSを含む医薬組成物は、神経障害性疼痛を経験する末梢部位(例えば、対象の上肢及び下肢)に直接適用することができる医薬粗製物である。さらに、PSを含む医薬組成物は、DPNの1つ以上の感覚症状を経験する位置に適用することができる。したがって、PSを含む医薬組成物は、局所投与用に製剤化することができる。詳細には、PSを含む医薬組成物は、経皮投与、特に対象の上肢及び/または下肢の皮膚への投与用に製剤化することができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、PSを含む医薬組成物は、半固体または液体として製剤化することができる。そのため、PSを含む医薬組成物は、クリーム、ゲル(例えば、ヒドロゲル)、ローション、軟膏、フォーム、及び/またはスプレーとして製剤化することができる。これらの組成物は油及び水の相対濃度が異なり、そのため組成物は異なる密度を有することになる。製剤の密度の変更は、患部の医薬組成物への曝露を制御することができる手段である。例えば、密度が比較的低い製剤は、吸収されるまで擦り込むことが求められ、その結果曝露時間が短くなり得る。代替的に、密度が比較的高い製剤は、容易に吸収されないため、患部の医薬粗製物への曝露を長時間にすることができる。当業者は、患部の活性医薬成分への相対的曝露を変更するように局所用医薬組成物を製剤化することを認識している。
【0035】
他の実施形態において、PSを含む医薬組成物は、皮膚に適用できるパッチとして製剤化することができる。パッチは、患部に対するPSの制御放出を確実にする方法で製造することができる。
【0036】
局所投与に適した製剤及び適切な医薬的に許容される賦形剤は、当技術分野で周知されている。局所投与用の例示的な製剤は、WO2019/067919(参照により全体として本明細書に援用される)に示されている。
【0037】
いくつかの実施形態において、局所投与に適したPSの製剤は、PSを医薬組成物の約0.5%w/w~約15%w/wの濃度で含むことができる。したがって、PSは、医薬組成物の15%、14.5%、14%、13.5%、13%、12.5%、12%、11.5%、11%、10.5%、10%、9.5%、9%、8.5%、8%、7.5%、7%、6.5%、6%、5.5%、5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、または0.5%w/wの濃度とすることができる。例示的な例として、PSは、局所用クリームとして製剤化する場合、医薬組成物の8%w/w以下、例えば、医薬組成物の約5%w/w、特に医薬組成物の約3%w/wの濃度とすることができる。さらなる例示として、PSは、ゲルとして製剤化する場合、医薬組成物の8%w/w以下、例えば、医薬組成物の5%w/w以下、特に医薬組成物の3%w/w以下、例えば、医薬組成物の約2%または約1%w/wの濃度とすることができる。特定の製剤において、PSは、例えば、ヒドロゲルまたは軟膏として製剤化する場合、医薬組成物の5%w/wの濃度とすることができる。
【0038】
両手(すなわち、手袋)に1回適用するには、約5ml未満の医薬組成物、例えば、約3mlの医薬組成物(すなわち、片手当たり約1.5mlの医薬組成物)が必要になり得る。両足(すなわち、靴下)に1回適用するには、約6ml未満の医薬組成物、例えば、約4mlの医薬組成物(すなわち、片足当たり約2mlの医薬組成物)が必要になり得る。
【0039】
PSを含む医薬組成物は、代替的に、DPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び/または予防に適した他の任意の投与形態のために製剤化してもよい。例えば、組成物は、経皮投与または注射用、例えば皮下注射用に製剤化することができる。
【0040】
投与レジメン
DPNの治療及び/または予防のためのPSの適切な投与レジメンは、疼痛のタイプ及び進行の程度(例えば、世界保健機関の「Pain Ladder」ガイドラインにより定められるもの)、疼痛の重症度(例えば、急性、亜急性、または慢性)、特定の患者の年齢、体重、及び全身状態、賦形剤の製剤、投与経路、ならびに主治医の判断などの変数に依存する。
【0041】
局所投与については、PSは、1つ以上の患部、例えば、対象の上肢及び下肢を覆うように投与することができる。いくつかの実施形態において、約0.01~約5gのPSを患部に投与することができる。患部のサイズに関しては、PSは、約0.005~0.25g/10cm患部で投与することができる。そのため、PSは、約0.005g/10cm、0.01g/10cm、0.05g/10cm、0.1g/10cm、0.15g/10cm、0.2g/10cmまたは0.25g/10cm患部で投与することができる。
【0042】
いくつかの場合において、局所投与に使用するためのPSは、適用し、次に(例えば、洗い流すことにより)患部から除去し、その後に再適用することができる。いくつかの場合において、PSは一定の期間後に洗い流される。代替的に、鎮痛効果は経時的に低減し再投与が必要になり得るため、いくつかの場合には、PSを洗い流すのではなく、適切な投与期間が経過した後にPSを患部に再適用する。例えば、PSを患部に適用し、(除去または再適用の前に)患部に約0.5時間~約5時間放置することができる。したがって、PSを局所適用し、(除去または再適用の前に)患部に約0.5時間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、または約5時間放置することができる。
【0043】
DPNに関連する神経障害性疼痛は慢性的であるため、PSの局所投与を繰り返す必要がある。したがって、PSは1日1~4回局所適用することができる。したがって、PSは1日1回、1日2回、1日3回、1日4回適用することができる。特定のPSの製剤、例えば、医薬組成物の約5%w/wのPS濃度を有するヒドロゲルまたは軟膏については、製剤を1日3回局所適用することができる。より重度の場合には、PSを各適用から約0.5時間後にさらに適用することができる。
【0044】
PSは持続性の鎮痛効果を有し得るため、より低頻度で投与してもよい。例えば、PSは1日1回未満、例えば、2日に1回局所投与することができる。実際に、単回の投与で長期間の鎮痛効果を経験する患者については、PSは、週1回未満、例えば、隔週に1回局所投与することができる。
【0045】
一部の医薬組成物の局所投与については、医薬組成物を適用した後に、例えば、適切な量の組成物を適切な時間の間適用できることを確実にするために、例えば包帯(例えば、プラスチックラップまたはフィルム)で患部を覆うことが有用である。そのため、PSの局所適用後、患部に包帯を施すことがある。
【0046】
いくつかの実施形態において、PSは、パッチの形態(例えば、薬用膏薬)で局所投与することができる。パッチを使用することにより、例えば、パッチがPSの制御放出を確実にするため、投与間隔及び/または投与頻度を低減することができる。したがって、パッチは、1日1回、1日2回未満、1日3回未満、または1日4回未満患部に適用することができる。
【0047】
PSの投与は、必要な限り継続することができる。例えば、PSは、1日超、2日超、3日超、4日超、5日超、6日超、7日超、14日超、28日超、56日超、または84日超の間投与することができる。上述のように、PSは、慢性作用の治療のために引き続き慢性的に、例えば、少なくとも3か月間投与することができる。したがって、いくつかの場合において、継続的投与が達成され、必要な限り維持される。PSは、神経障害性疼痛及び/または関連する感覚症状の再発に応じて間欠的に投与することができる。
【0048】
PSは、哺乳類におけるDPNの治療及び/または予防に使用することができる。例えば、対象はヒトであり得る。
【0049】
上述のように、PSは、DPN患者に投与するのに適切な医薬組成物に製剤化することができる。したがって、PSは、適切な医薬組成物において、上記の投与レジメンに従って投与することができる。
【0050】
当業者であれば、ある特定の実施形態において、このような化合物の投与量が、治療の対象となる哺乳類に応じて調整され得ることを理解する。例えば、ラットの処置について本明細書に記載されているが、このような投与量は、PSをヒトに投与する際に修正される場合も修正されない場合もある。しかし当業者であれば、必要な場合に、Guidance for Industry:Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers,U.S.Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration,Center for Drug Evaluation and Research(CDER),July 2005に記載のように、本明細書に示された投与量を変換することができる。ヒト等価用量(HED)は動物用量から決定することができ、動物用量に以下の換算係数を掛けてmg/kg単位で得ることができる:マウス=0.08、ハムスター=0.13、ラット=0.16、フェレット=0.19、モルモット=0.22、ウサギ=0.32、イヌ=0.54、サル=0.32、マーモセット=0.16、リスザル=0.19、ヒヒ=0.54、マイクロブタ=0.73、及びミニブタ=0.95。
【0051】
PSの医薬的に許容される形態
PSを含む医薬組成物は、PSの医薬的に許容される形態を含むことができる。医薬的に許容される形態は、溶媒和物、誘導体、及び/またはプロドラッグであり得る。
【0052】
溶媒和物
本明細書で使用する場合、「溶媒和物」という用語は、非共有結合性の分子間力によって結合した化学量論的または非化学量論的量の溶媒をさらに含む化合物を指す。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。PSの医薬的に許容される形態には、PSの溶媒和物、例えば、PS-I及び/またはPS-IIの溶媒和物が含まれる。いくつかの実施形態において、溶媒和物は少なくとも1分子の溶媒を含む。いくつかの実施形態において、溶媒和物は1分子未満の溶媒を含む。いくつかの実施形態において、溶媒和物は水和物である。
【0053】
同位体
PSの医薬的に許容される形態は、PS-Iの同位体標識誘導体を含むことができる。PSの医薬的に許容される形態は、PS-IIの同位体標識誘導体を含むことができる。同位体標識誘導体とは、1個以上の原子が、自然界に通常存在する原子質量または質量数とは異なる原子質量または質量数を有する原子で置き換えられている以外はPSと同一の化合物のことである。いくつかの実施形態において、PSの同位体標識誘導体は、水素、炭素、酸素、リン、及びフッ素のうちの1つ以上の同位体を含む。いくつかの実施形態において、PSの同位体標識誘導体は、それぞれH、H、13C、14C、18O、17O、31P、32P、35S、及び18Fのうちの1つ以上の同位体を含む。いくつかの実施形態において、PSの同位体標識誘導体は、1つ以上のH(例えば、ジュウテリウム)の同位体を含む。いくつかの実施形態において、PSの同位体標識誘導体は、1つ以上のHの同位体(例えば、トリチウム)を含む。いくつかの実施形態において、PSの同位体標識誘導体は、1つ以上の14Cの同位体を含む。
【0054】
誘導体及びプロドラッグ
PSの医薬的に許容される形態は、PS-Iの誘導体を含むことができる。PSの医薬的に許容される形態は、PS-IIの誘導体を含むことができる。いくつかの実施形態において、PSの誘導体(例えば、PS-IまたはPS-II)は代謝産物である。他の実施形態において、PSの医薬的に許容される形態は、PSのプロドラッグ(例えば、PS-IのプロドラッグまたはPS-IIのプロドラッグ)である。
【0055】
スルホン基は、構造的にはR-S(=O)-R’として表すことができる。いくつかの実施形態において、PSの誘導体はPSのスルホン形態である。
【0056】
PSは、有機リン酸官能基を含む。有機リン酸官能基は、構造的にはO=P(OR)、O=P(OR)(OR’)、またはO=P(OR)(OR’)(OR’’)として表すことができる。例えば、O=P(OR)(OR’)は、R=CHCHであり、R’=分子の残りが式IまたはIIのPS(例えば、PS-I、PS-II、またはこれらの誘導体)に従う場合、PSに相当し得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、PSの誘導体は、エトキシ(例えば、-OCHCH)基のうちの1つがOH基であるPSであるか、またはその医薬的に許容される塩である。いくつかの実施形態において、PSの誘導体は、両方のエトキシ(例えば、-OCHCH)基がOH基であるPSであるか、またはその医薬的に許容される塩である。
【0058】
本明細書で実証するPSの活性は、その医薬的に許容される形態も共有すると考えられる。そのため、本発明は、本発明の方法に使用するためのPSの医薬的に許容される形態を提供する。
【0059】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に示され記載されているが、このような実施形態は、単に例として提供されるものであり、本発明の範囲を別の形で限定するようには意図されていない。記載された本発明の実施形態の様々な代替形態を、本発明の実施に用いることができる。
【実施例
【0060】
ここで、以下の実施例を参照しながら、本明細書に包含される実施形態について説明する。これらの実施例は、例示のみを目的として提供されるものであり、本明細書に包含される開示内容は、決してこれらの実施例に限定されるものと解釈するべきではなく、本明細書に提供される教示の結果として明らかになるあらゆる変形形態を包含するものと解釈するべきである。
【0061】
実施例1:DPNのラットモデルにおけるPSの効果
ストレプトゾトシン(STZ)を用いてラットの血中グルコースの上昇を化学的に誘導することにより、DPNを誘導した。これは十分に確立されたDPNのモデルであり(Morrow,Current Protocols in Neuroscience(2004);29(1):1-11を参照)、Streptomyces acromogenesから抽出した抗生物質のSTZが、膵臓のβ細胞を選択的に損傷する。実証されているように、PSは、神経障害の確立後に治療を開始するDPNの治療に有効である。
【0062】
方法
Sprague-Dawleyラットを4~6時間絶食させてから、45mg/kgのSTZを腹腔内注射した。これは、ナイーブ群を除く全ての実験群に実施した。低血糖による死亡を予防するため、注射後最初の48時間はラットに10%スクロース水を唯一の水源として与えた。糖尿病とみなされる(すなわち、非空腹時血糖値が250mg/dL超である)ラットのみを試験に組み入れることを確実にするため、STZ注射から72時間後に血糖値を測定した。
【0063】
STZ注射から4週間後、ラットをランダム化して図3に示すような処置群に割付けた。STZ注射から処置するまでの間をこのように遅らせることにより、末梢及び中枢の感作に関連する慢性疼痛(アロディニア)を確立させることができる。PS(8%ヒドロゲル)またはビヒクル対照をラットの両後足に1日3回、STZ注射の4週間後から開始して3週間局所投与した。0.7%スリンダクヒドロゲルを1日3回、1週間適用した(これは、これらの動物にとって最も安全なスリンダク濃度である)。5%リドカインクリーム(陽性対照)を、PWT測定の30分前にラットの両後足に1回のみ適用した。最後に、さらなる陽性対照のプレガバリン(10mg/kg)またはそのビヒクルをPWT測定の1時間前に1回のみ経口投与した。
【0064】
ラットを8つの試験群に分けた。実験群(1~4)の平均体重は約225g、対照群(5~8)の平均体重は約335gであった。実験群は以下の通り。
1.第1群:ナイーブラット(n=5)
2.第2群:STZのみ(n=6)
3.第3群:STZ+ビヒクル(n=6)
4.第4群:STZ+PS(8%ヒドロゲル)(n=7)
5.第5群:STZ+経口ビヒクル(n=8)
6.第6群:STZ+0.7%スリンダクヒドロゲル(n=7)
7.第7群:STZ+5%リドカインクリーム(n=8)
8.第8群:STZ+プレガバリン(10mg/kg)(n=7)
【0065】
処置のアウトカムを決定するため、von Freyフィラメントという十分に確立された方法を用いて機械的アロディニアを測定した。詳細には、von Freyフィラメントを用いた足引っ込め閾値(PWT)を推定するための簡略化アップダウン法を使用した(Bonin et al.,Molecular Pain(2014);10(26):1-10に記載)。PWT試験の結果を印加した力(gm)として表す。PWT試験を、投与プロトコルに応じて第4週、第5週、及び第7週に実施し、最初の測定値をベースラインとした(すなわち、DPNの確立におけるSTZの有効性を実証する)。第5週及び第7週の測定を、それぞれスリンダクまたはPSによる最終処置の30分後に実施した。完全のために、実験群及び対照群のラットの平均体重の差は、これらの群からの結果を比較する能力に影響を及ぼさない(すなわち、ラットを単に異なるバッチから入手し、実験手順に同じように応答する)。
【0066】
図1は、試験の概要を示している。
【0067】
結果
図2に示されているように、STZを投与した結果、投与から4週間後のPWTが有意に減少した(p<0.02 vsナイーブラット)。そのため、このモデルは、予想されたようにDPNに関連する疼痛を確立した。ビヒクルの追加投与は、STZのみと比較して有意な効果をPWTに及ぼさず、ナイーブラットと比較したPWTの低下はSTZのみと同様であった。しかしPSを投与した場合、ビヒクル及びSTZと比較してPWTの有意な増加が達成され(それぞれp<0.04及びp<0.01)、ナイーブラットに観察された閾値までPWTが戻った(p<0.01)。図2に対応する値を表1に示す。
【表1】
【0068】
さらに、図3に示すように、ビヒクルまたはスリンダクのいずれを投与しても、STZにより引き起こされたPWT低減を抑制することはできなかった(スリンダクはビヒクルと有意差がなかった)。しかし、リドカイン及びプレガバリンはいずれも、ビヒクルと比較して有意なPWNの増加を達成した(それぞれp<0.03及びp<0.009)。図3に対応する値を表2に示す。
【表2】
【0069】
結論
PSの局所投与は、最も信頼性の高い糖尿病の動物モデルにおいて、糖尿病に誘導される神経障害性疼痛を正常化する上で効果的である。実際にPSは、STZにより引き起こされた神経障害性疼痛を示すラットにおいて、PWTを有意に増加させた。そのため、PSはDPNに関連する神経障害性疼痛を治療する。
【0070】
PSが有効であった一方、際立ったことには、リン酸化されていない「親」スリンダク(典型的なNSAID)が、ラットモデルにおいてPWTのレスキューを達成することができず、そのためDPNに関連する疼痛を治療することができなかった。スリンダクを最大無毒性用量で、かつPSと同じ方法及び製剤で投与したにもかかわらず、この結果となった。陽性対照のリドカイン及びプレガバリンは、鎮痛作用の中枢作用部位を有することが知られており、予想されたように、DPNに関連する疼痛を有意に低減した。そのため、局所投与したPSに関して観察される有効性は、密接に関連するその親化合物よりも、中枢的に作用する陽性対照の方が近い。
【0071】
したがって、PSは、その親NSAIDとは機序的に異なり、中枢的に作用する薬剤に近い形で作用している可能性がある。これらの観察結果は、DPNに関連する確立された神経障害性疼痛におけるPSの潜在可能性を実証する役割を果たしている。
【0072】
実施例2:DPNのラットモデルにおけるPSの神経障害性疼痛の予防効果
ストレプトゾトシン(STZ)を用いてラットの血中グルコースの上昇を化学的に誘導することにより、DPNを誘導した。予防モデルを確立するため、-2日目にPS(スリンダクまたはビヒクル)による処置を開始した後に、STZを(0日目に)投与した。PSは、実証されているように、スリンダクとは異なり、DPNに関連する神経障害性疼痛の予防に有効である。
【0073】
方法
動物モデルは、実施例1で使用したものに対応するが、予防プロトコルを用いて行った。実施例1のように、機械的アロディニアの予防における処置の効果を決定するアウトカム基準は、von Freyフィラメントを用いたPWT試験とした。測定は、DPNに関連する神経障害性疼痛の処置または誘導の前、-3日目に行い、試験期間終了時(28日目)に再び行った。
【0074】
ラットを以下のようにランダムに処置群に割り付けた。いずれも平均体重は約225gであった。
1.第1群:ナイーブラット(n=6)
2.第2群:STZのみ(n=8)
3.第3群:STZ+ビヒクル(n=8)
4.第4群:STZ+PS 8%(n=8)
5.第5群:STZ+スリンダク0.7%(n=8)
6.第6群:STZ+リドカインクリーム5%(n=8)
【0075】
機械的アロディニアのベースラインを決定するため、各処置群を-3日目にPWT評価に供した。続いて、処置群に応じて、ラットに対しPS(8%ヒドロゲル)、スリンダク(0.7%ヒドロゲル)、またはビヒクルの治療レジメンを開始し、-2日目からラットの両後足に1日3回局所適用し、28日目まで継続した。リドカイン処置群のラットには、28日目の最終PWT測定の30分前にリドカインクリームを両後足に1回のみ適用した。0日目に、DPNに関連する神経障害性疼痛をSTZの投与により誘導し、3日目に血中グルコースをチェックした。STZの投与から4週間後、DPNに関連する神経障害性疼痛(機械的アロディニアとして発現)が発症するのに十分な時間を提供するため(図5のSTZのみ群を参照)、ラットを足引っ込め閾値試験に供した。
【0076】
図4は、試験の概要を示している。
【0077】
結果
図5に示されているように、STZを投与した結果、投与から4週間後のPWTが有意に減少した(p<0.0001 vsナイーブラット)。そのため、このモデルでは、実施例1でも達成されたようなDPNに関連する神経障害性疼痛が確立された。ビヒクルの追加投与は、STZのみの場合と比較してPWTに有意な影響を有しなかった。しかしPSを投与した場合、ビヒクルと比較してPWTの有意な増加(p<0.004)が達成され、ナイーブラットに観察された閾値までPWTが戻った。PSがPWTに及ぼす効果は、リドカインを用いて達成される効果に相当し、ビヒクルと比較して有意にPWTを増加させた(p<0.001)。しかし、スリンダクの投与は、ビヒクルと比較してPWTにおいて有意な効果を示さなかった。実際に、PSは、スリンダクによって達成された効果と比較してPWTにおいて有意な効果を示した。
【0078】
図5に対応する値を表3に示す。
【表3】
【0079】
結論
実施例1の処置実験に関する観察結果と同様に、PSの局所投与は、予防的にPSを投与したラットでPWTが有意に増加したことによって示されるように、DPNに関連する神経障害性疼痛の予防に有効である。
【0080】
PSとは対照的に、スリンダクは(この場合も、最大の無毒性用量で、PSに使用したものに対応するレジメン及び頻度で投与)DPNに関連する神経障害性疼痛を予防できなかった。鎮痛の中枢作用部位を有することが知られている陽性対照のリドカインは、DPNに関連する神経障害性疼痛を効果的に予防し、PSが達成したのと同様のPWTの正常化を達成した。そのため、局所投与したPSに関して観察される予防有効性は、密接に関連するその親化合物のスリンダクよりも、中枢的に作用する陽性対照の方が近い。
【0081】
したがって、実施例1の観察結果を支持するように、この実験では、PSが予防的設定においても、その親のNSAIDとは機序的に異なることが裏付けられ、中枢的に作用するリドカインと同様の治療有効性を実証している。これらの観察結果は、DPNに関連する神経障害性疼痛の予防におけるPSの潜在可能性を裏付ける役割を果たしている。
【0082】
実施例3:PSの薬物動態及び体内分布
PSの、特に中枢作用薬(プレガバリンやリドカインなど)に相当する有効性を伴って、DPNに関連する神経障害性疼痛を治療及び予防する能力を考慮して、PSの作用部位について検討した。PSが、局所投与であるにもかかわらず、末梢から脊髄に向かって神経内を横断することが分かった。
【0083】
方法
PS 8%軟膏を後足に局所適用し(片肢当たり50μl)、穏やかに擦り込んだ。0.5、1、3、5、12、18、及び24時間時に、マウス(n=4~5頭/時点)をCO吸入により安楽死させた。死後直ちに血液を採取した。足の皮膚、足の筋肉、脚の筋肉、坐骨神経、及び腰部DRGを含む組織を両側性に素早く切開し、直ちに液体窒素中で凍結し、解析まで-80℃で保存した。
【0084】
前述のように(Wen et al.,Int J Pharm(2019);557:273-279)、各血漿試料を2倍体積のアセトニトリルと混合し、13,200rpmで15分間遠心分離した。組織試料の重さを計り、ddHO(100~300μL、組織重量に依存)を加え、これらをホモジナイズした。アセトニトリル(ホモジェネートの体積の2倍)を加えた後に、混合物を10分間超音波処理し、13,200rpmで15分間遠心分離し、報告されているようにHPLCにより解析した(Wen et al.,2019)。定量限界は、PSの場合は0.1μM、スリンダク、スリンダクスルホン、スリンダクスルフィド、及びこれらのグルクロン酸誘導体の場合は0.05μMである。
【0085】
結果
PSは、in vitroでもin vivoでも、PSスルフィド、PSスルホン、スリンダク、スリンダクスルフィド、及びスリンダクスルホンを含むいくつかの代謝産物に速やかに代謝され得る(図6)。スリンダクのグルクロニド及びその代謝産物(主に肝臓内で形成)も特定されている。PSの代謝及びPK/生体内分布はその投与経路に応じて異なるため、発明者らはこの両方を、後足にPSを局所投与した正常マウスで調べ、DPNにおいて罹患する坐骨神経及び後根神経節(DRG)に特に注目した。
【0086】
図7及び表4に示されているように、PSは、足の皮膚、適用部位、皮膚の下の筋肉、脚の筋肉、坐骨神経、及びDRGで検出された。予想されたように(Xie et al.Br J Pharmacol(2012a);165:2152-2166)、PSは体循環中では検出されなかった。
【0087】
PSの濃度は、Cmax(194.7±5.3μM~0.3±0.1μM)及びAUC0-24h(1,609.8μM・h~4.5μM・h)の両方のそれぞれの値から明らかなように、皮膚から最も遠いDRGにかけて徐々に減少した。PSのTmaxは全ての組織で同じ(0.5時間)であったが、DRGは例外で長いTmax(18時間)を示した。これは以下で論じるように、おそらくはPSの到達方法を反映している可能性がある。もう1つの興味深い特徴は、皮膚及び筋肉のt1/2の差であり、比較的狭い範囲内(11.4~20.6時間)にある。これは、坐骨神経の57.4時間という非常に長い値、そしてDRG(妥当な精度で定量できなかった)ではおそらくさらに長い値であり得ることとは対照的である。
【0088】
これらの差は、神経と皮膚及び筋肉との間でPSに関する代謝能力に差があることを示すものである。
【表4】
【0089】
PSの代謝産物は、スリンダク、スリンダクスルホン、及びスリンダクスルフィドの3種のみが検出された(図8及び表5)。グルクロン酸生成物は検出されなかった。スリンダクが定量的に優勢な代謝産物であり、スリンダクスルフィド及びスリンダクスルホンのレベルは、スリンダクのレベルの20%未満であった。スリンダクのレベルは、坐骨神経(より高い)及びDRG(同等)以外の全ての組織においてPSの25%前後であった。
【表5】
【0090】
坐骨神経(Cmax=0.9±0.1μM;AUC0-24h=12.0μM・h)及びDRG(Cmax=0.3±0.1μM;AUC0-24h=4.5μM・h)において、PSが少量でも存在することは、いずれもDPNに関連する神経障害性疼痛の標的であることから特に興味深い。循環中にPSが存在しないこと、DRGのTmaxが他の全ての部位と比較して非常に高いこと、及びDRGのPSレベルが坐骨神経と比較して低いことから、PSが皮膚から坐骨神経まで横断することによりDRGに到達したことが示唆される。
【0091】
結論
これらの実験は、局所投与したPSが、DPNに関連する神経障害性疼痛の発生に関与することが知られている主要な作用部位(すなわち、坐骨神経及び後根神経節)に到達することができることを実証している。さらに、血流中での迅速な代謝を踏まえれば、これらの結果は、PSが末梢ニューロン(例えば、坐骨神経)に沿って中枢神経系に向かって横断し、DRGにおいて意味のある濃度で見出されることを実証している。そのため、理論に束縛されることを望まないが、これらの観察結果は、PSがニューロン上で直接その鎮痛活性を発揮し、そしてリドカイン及びプレガバリンなどの中枢的に作用する鎮痛薬の活性と同様に、おそらくは中枢作用部位内でも鎮痛活性を発揮することを裏付けている。この作用部位は、上記で観察されたDPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び予防において、PSの有効性がプレガバリン及びリドカインと同等であることを反映するものである。
【0092】
実施例4:観察結果の概要
本明細書における観察結果は、十分に確立された動物モデルを用いて、DPNに関連する神経障害性疼痛の予防及び治療における前例のないPSの鎮痛活性を実証するものである。したがって、上記の実験は、PSが、DPNにより引き起こされる神経障害性疼痛のシグナル伝達を抑制できることを実証する。局所投与すると、PSは、末梢ニューロン(例えば、坐骨神経)に沿って脊髄に向かって上向きの軌道をたどることが示されており、DPNに関連する神経障害性疼痛に対し有意な鎮痛効果を達成することができる。局所投与は、低い全身クリアランス、薬物相互作用の低減、患者の忍容性の増加、及び経口用医薬との容易な併用をもたらす。
【0093】
これらの観察結果は、PSのこれまでに認識されていなかった活性及び治療有用性を実証している。PSは、より広範なNSAID分類に含まれる化合物であるが、この化合物ファミリーの全ての特性を共有しているわけではない。実際に、本明細書におけるデータは、NSAIDスリンダクに対する観察結果とは対照的に、PSの活性が、ニューロン活性を直接的に標的とする鎮痛剤により類似しており、末梢及び中枢の両方の部位に作用する可能性を有することを実証している。実際に、上記の結果は、PSが、アロディニアに由来する疼痛を低減し得ることを裏付けている。アロディニアは、末梢及び中枢の感作を介して生じる疼痛を含むことが知られている。このモデルは、処置ランダム化の前の4週間に確立され、そのためアロディニアによって実証される中枢性感作を明確に確立する。そのため、理論に束縛されることは望まないが、PSは、ニューロン疼痛シグナル伝達に直接的な影響を及ぼしており、これは確立された麻酔薬の作用機序に類似するものである。実際に、この結果は、末梢及び中枢の感作からの疼痛シグナル伝達を低減するPSの能力を示しており、これは、末梢及び中枢の両方の作用部位をこの化合物の鎮痛活性に関連付けるものである。当然ながら、この活性は、PS及び典型的なNSAIDの抗炎症剤としての確立された役割とは異なる。
【0094】
PSの活性に関する以前の観察結果は、抗炎症活性に限定されている。例えば、WO2019/067919は、コンカナバリンA(ConA)をPSと同時にウサギの涙腺に投与する急性DEDモデルを用いて、DEDの治療におけるPSの役割を示唆している。この文脈において、PSの抗炎症活性は、ConAに対する限定的な炎症応答をもたらし、よってDEDの確立を予防する。これらの観察結果は、PSの抗炎症活性を裏付け、DEDの炎症性構成要素の確立及び維持を予防する上でのPSの有用性を示唆している。この急性DEDモデルにおける観察結果からは、神経に直接作用して神経障害性疼痛により引き起こされる神経シグナル伝達を低減するというPSの能力についてはいかなるエビデンスも提供されない。この急性DEDモデルにおける疼痛のいかなる低減も、PSが炎症応答(すなわち、疼痛センサーの活性化を誘発する原因となる病態)を阻害した結果に過ぎないと考えられ得る。実際に、DEDモデルの結果は、PSが角膜の感受性を改善することを示唆している。これは侵害受容の増加を意味し、鎮痛薬に所望される効果とは反対の効果である。当然ながら、PSの鎮痛活性に対するいかなる示唆にも関係なく、急性DEDモデルで観察されたこのような活性は、神経障害性疼痛において、そしてDPNに関連する神経障害性疼痛においては確実に、対応する活性を示すものではない。
【0095】
本明細書における実験は、DPNに関連する神経障害性疼痛のための特定の動物モデルを用いて実施した。上記で概説したように、特定のタイプの神経障害性疼痛における化合物の潜在的有効性を実証するためには、適切な動物モデルの使用が極めて重要である。末梢神経障害に起因する疼痛に対する薬物の有効性は、他の形態の疼痛、または他の形態の神経障害性疼痛であっても、これらに対する有効性から推定することはできない。実際に、特定の形態の神経障害性疼痛は病態が異なるため、その治療及び/または予防には、異なる活性を有する治療剤が必要とされる。療法は、神経障害性疼痛の病態生理に従って設計し、適切なモデルで試験する必要がある。例えば、DPNは、糖尿病の代謝異常(微細血管の虚血、グルコース代謝のポリオール経路における活性増加、プロテインキナーゼCの活性化、インスリン媒介性神経栄養効果の欠如、及び脂肪酸経路の変化を含む)によって広範な神経損傷を引き起こすが、一方他の神経障害は、(例えば、毒性の化学療法剤の投与に起因する)脱髄またはカルシウム代謝の欠陥の結果として生じ得る。そのため、大線維及び小線維の両方に及ぼす効果は、DPNと他の形態の神経障害との間では、それらの病態生理に基づいて異なるものである。このような病態生理により引き起こされる神経障害性疼痛の治療における化合物の有効性の唯一信頼できる判定は、上記に示しているように、DPNの適切な神経障害性疼痛モデルにおいて化合物を試験することである。これらの観察結果を伴わなければ、DPNに関連する神経障害性疼痛におけるPSの疼痛軽減活性のいかなる提示も欠如している。
【0096】
本明細書における観察結果は、PSが、典型的なNSAIDに対し示唆される治療有用性を上回る治療的有用性を有することを実証するものである。実際に、Moore et al. (Cochrane Database of Systematic Reviews(2015);10:1-25)は、NSAIDは末梢神経障害性疼痛に治療有効性を有しないと概説している。PSが典型的なNSAIDと比較して異なる活性を有することは、上記の実験で親化合物のスリンダクと比較することにより確認されている。スリンダクは、確立されたアロディニア(すなわち、末梢及び中枢ニューロンの感作によって引き起こされるもの)を低減できなかった。このことから、スリンダクが、PSとは異なり、DPNにより引き起こされる神経障害性疼痛において損傷ニューロンに対し直接的な鎮痛効果をもたらさないことが示される。このモデルにおいてスリンダクに対するいかなる応答も認められなかった理由は、おそらくは、この疼痛が、炎症によるものではなく、アロディニアの疼痛が確立されてからの神経障害性神経の損傷によって引き起こされるからと考えられる(すなわち、スリンダクのいかなる抗炎症活性も、神経障害性疼痛の予防には不十分である)。したがって、PSの鎮痛活性は独特であり、密接に関連するNSAIDと共有するものではない。スリンダクについての本明細書における観察結果に基づけば、先行技術で観察されたNSAIDの鎮痛活性と主張されるものはいずれも、神経シグナル伝達に対する実際の鎮痛活性(すなわち、神経損傷及び感作により引き起こされる疼痛の低減をもたらすもの)ではなく、抗炎症活性(すなわち、疼痛を引き起こす初期の誘因を阻止する)の反映である。実際に、典型的なNSAID(例えば、スリンダク)が、鎮痛活性を有するニューロンに直接作用することが可能とすれば、スリンダクが上記のモデルで観察されたようにアロディニアを低減することが予想されたことであろう。
【0097】
そのため、本発明者らは、DPNに関連する神経障害性疼痛の治療及び/または予防におけるPSの新規の驚くべき活性を実証した。上記で概説したように、この活性は、PS及び関連するNSAIDにこれまでに観察された抗炎症活性を上回るものである。実際に、本明細書における観察結果は、典型的なNSAIDとは異なり、PSが末梢及び中枢神経に対する直接的な活性を有し、リドカイン及びプレガバリンなどの鎮痛薬の作用部位及び機序に類似することを実証している。さらに、PSは、(例えば局所的に)投与が容易であること及び有害作用が限定的であること(Mackenzie et al.(2010)Gastroenterology 139(4):1320-32)から、これらの中枢的に作用する鎮痛薬と比較してすらも、DPNに関連する神経障害性疼痛に対する改善された治療法となる。
【0098】
本発明者らの取組みは、単に例として上記で説明しているものであり、本発明の範囲及び趣旨の範囲内にとどまりつつ修正を行うことができることが理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
【国際調査報告】