(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】アルキルメタクリレートを製造するための反応器および方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20240517BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20240517BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573176
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2022063509
(87)【国際公開番号】W WO2022248321
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン クリル
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス リューリング
(72)【発明者】
【氏名】ベライド アイト アイサ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AB84
4H006AC48
4H006BA05
4H006BA81
4H006BD81
4H006BE30
4H039CA66
4H039CC60
4H039CG10
4H039CL25
(57)【要約】
本発明はメタクロレインの直接酸化的エステル化によるメチルメタクリレートの製造方法に関する。メチルメタクリレートはポリマー、および他の重合性化合物とのコポリマーを製造するために大量に使用される。さらに、メチルメタクリレートは、適切なアルコールとのエステル交換によって製造され得る、メタクリル酸(MAA)に基づく様々な特殊エステルのための重要な合成単位である。従って、この出発材料を製造するための、非常に簡単で経済的且つ環境に優しい方法に大きな関心が持たれている。本発明は特に、メタクロレインの酸化的エステル化からの反応器搬出物の最適化された後処理に関し、これにより共に搬出される微細触媒粒子が非常に効率的に分離され且つ任意に除去または再循環され得る。さらに、この新規の方法は、公知の変形態様に比して長期の連続稼働において、副生成物の形成を低減できる。本発明のさらなる態様は、実質的に摩耗のない稼働を可能にし、ひいては数年の触媒操業時間を可能にする攪拌器の構成を含有する反応器システムである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインから出発し、それとアルキルアルコールとを、酸素含有ガスおよび粒子状の粉末触媒の存在下で、反応器内で液相中で反応させることによる、アルキルメタクリレートの製造方法であって、この反応器が少なくとも領域A、B-1、B-2、B-3およびCを含み、1つより多くのそれぞれの領域B-1、B-2およびCが各々存在することができ、且つ
(i) 領域Aは一次反応領域を表し、且つ少なくとも1つの攪拌手段を備え、前記攪拌手段は領域Aにおける気相、液相および固相の強力な混合を確実にし、
(ii) 領域B-1は流れを静めるための内部構造物を備え、それが引き続く領域B-2、B-3、およびCに気相が入ることを非常に大幅に防止し、
(iii) 単数または複数の領域B-3は、気相が非常に大幅に除去された反応混合物を含有し、且つ領域Cに接続されており、且つ
(iv) 単数または複数の領域Cは、連続的に分級する沈降装置を含み、平均的な垂直流は領域AおよびCにおいては上向きであり、且つ領域B-1、B-2およびB-3においては下向きであり、且つ、
(v) 攪拌機および攪拌手段による、不均一粉末酸化触媒の懸濁のためのエネルギー入力は、反応混合物1立方メートルあたり3キロワット以下に制限されることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
領域B-2からの反応混合物の一部が領域Cに入り、前記粒子状の粉末触媒は前記沈降装置内で、その少なくとも60質量%が20μm未満のサイズを有する相対的に小さな触媒粒子の画分と、平均して相対的に大きな触媒粒子の残りの画分とが得られるように、2つの画分に分離され、
前記相対的に小さな触媒粒子は、反応混合物と共に領域Cの出口で反応器を出て、搬出される粒子の反応マトリックス中での濃度が1~200ppmwであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記攪拌機および前記攪拌手段による不均一粉末酸化触媒の懸濁のための、および気体分散のためのエネルギー入力が、反応混合物1立方メートルあたり0.05~1.0kWに制限されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応器が、領域A-1の上に配置され且つ攪拌機を有さない三相領域A-2またはA-3を含み、ここで攪拌機の作用によるさらなる気泡の分散はもたらされないことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記アルキルアルコールがメタノールであり、前記アルキルメタクリレートがMMAであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応が、直径の、気化された液体レベルの高さに対する比1:1~1:50を有する反応器内で実施されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
領域Aの各々の領域Bへの移行部に内部構造物が存在し、前記内部構造物は、反応混合物が領域Bに入る際に反応混合物の流れの均一化を行うことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
領域Aの体積の、全ての領域BおよびCの総体積に対する比が1を上回り且つ500未満であることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応器が一般に1つ以上の供給導管を有し、前記供給導管を通じてアルキルアルコール、MMA、メタクロレイン、水の混合物、および任意にこの混合物中に溶解されたメタクリル酸のアルカリ金属塩を添加でき、且つそれらの供給導管は任意に前記反応器の垂直高さにわたって分布され得ることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記沈降装置が、水平に対して傾斜角を有する複数のチャネル状のプロファイル、管またはラメラからなることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記チャネル状のプロファイル、管またはラメラが入口で同じ圧力を有することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記沈降装置が傾斜沈降器またはハイドロサイクロンであることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記相対的に大きな触媒粒子が沈降装置C内で保持されて領域B-3へと再循環され、前記相対的に小さな触媒粒子はフィルタシステムを使用して捕集されることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記反応器の下部の領域Aは好ましくは相応のノズルまたは気化装置を介して酸素含有ガスが積極的に供給され、且つ少なくとも1つの領域Bは好ましくは反応混合物の積極的な気化のための装置を含まないことを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
領域A、特に領域A-2およびA-3、および少なくとも1つの領域B、特に領域B-2および/またはB-3が隔壁によって互いに分離されていることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記内部構造物が、領域Aの、特にA-2およびA-3の、各領域Bへの移行部で、領域Bに気泡が入ることを大幅に防止することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
用いられる触媒の平均触媒粒子サイズが20~120μmであることを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記フィルタシステムが、領域Cの要素の下流に少なくとも2つの連続して横切るフィルタを含み、第1のフィルタは5μmを上回る直径を有する粗い粒子を捕集し、第2のフィルタは0.1μmを上回る直径を有する微細粒子を捕集することを特徴とする、請求項12から17までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタクロレインの直接酸化的エステル化によるメチルメタクリレートの製造方法に関する。メチルメタクリレートはポリマー、および他の重合性化合物とのコポリマーを製造するために大量に使用される。さらに、メチルメタクリレートは、適切なアルコールとのエステル交換によって製造され得るメタクリル酸(MAA)に基づく様々な特殊エステルのための重要な合成単位である。従って、この出発材料を製造するための、非常に簡単で経済的且つ環境に優しい方法に大きな関心が持たれている。
【0002】
本発明は特に、適切且つ最適化された反応器システム、およびメタクロレインの酸化的エステル化からの反応器搬出物の最適化された後処理に関し、これにより共に搬出される微細触媒粒子が非常に効率的に分離され且つ任意に取り出されるかまたはリサイクルされ得る。さらに、この新規の方法は、公知の変形態様に比して長期の連続稼働において、副生成物の形成を低減できる。
【0003】
その反応システムは、触媒粒子の摩耗を最小限に低減して、長期の連続稼働において懸濁触媒の機械的な無損傷性を確実にするように構成される攪拌システムを含む。同時に、高いガス分散、理想的なガス分散、および最終的に高い空時収率が確実になる。
【0004】
本発明は特に、反応マトリックスおよび懸濁された触媒を分離および再循環するためのシステムであって、三相反応混合物が永続的に脱気され且つ二相混合物として再循環されると共に、傾斜沈降器内での沈降を通じて二相反応混合物が主に単相混合物へと変換され、それが連続的に反応器から取り出されることにより、所望の目標生成物の、問題のない後処理が可能になると共に、反応器を出る貴金属含有粒子がフィルタシステムにおいて捕集され、任意に再循環され且つ貴金属が回収される、前記系を記載する。
【背景技術】
【0005】
メチルメタクリレート(MMA)は現在、C2、C3またはC4合成ユニットから始まる様々な方法によって製造されている。一般的な先行技術は実質的に現在の概要および総括文献に記載されている。
【0006】
a.) Nexant, CHEMSYSTEMS PERP PROGRAM, Methyl Methacrylate PERP 08/09-7 2010年3月、
b.) R.J.Chang, S.Naqvi, IHS Chemical PEP Report Methyl Methacrylate (MMA) Process Summary 2014-05、
c.) “Trends and Future of Monomer-MMA Technologies”, K.Nagai&T.Ui, Sumitomo Chemical Co.,Ltd.; Basic Chemicals Research Laboratory, http://www.sumitomochem.co.jp/english/rd/report/theses/docs/20040200_30a.pdf,2005、
d.) “Viele Wege fuehren zum Methacrylsaeuremethylester”[メチルメタクリレートへの多くのルート], S.Krill, A.Ruehling, H.Offermanns, Chem. Unserer Zeit, 2019, 53; 著作権 2019 Wiley-VCH Verlag GmbH&Co. KGaA, ヴァインハイム。
【0007】
それらの方法の1つにおいて、MMAは、不均一触媒上で大気酸素を用いてイソブチレンまたはtert-ブタノールを気相酸化してメタクロレインをもたらし、引き続きメタノールを使用してメタクロレインを酸化的エステル化することによって得られる。この全体で2段階の方法においては、固定床触媒上での気相酸化によって得られる(メタ)アクロレインが凝縮され、精製されて、第2の段階において液相中で直接酸化的エステル化(DOEプロセス)によってメタノールと反応してMMAがもたらされる。ASAHIによって開発されたこの方法は、とりわけ、米国特許第5969178号明細書(US5,969,178)および米国特許第7012039号明細書(US7,012,039)の刊行物に記載されている。この方法の特別な欠点は、非常に高いエネルギーの必要性である。前記方法の発展形態においては、メタクロレインは第1の段階でプロパナールおよびホルムアルデヒドから得られる。そのような方法は国際公開第2014/170223号(WO2014/170223)内に記載されている。
【0008】
カルボン酸エステルを製造するためのアルデヒドの接触酸化的エステル化は、先行技術において広く記載されている。例えば、この方法においてメチルメタクリレートを、メタクロレイン(MAL)およびメタノールから非常に効率的に製造することが可能である。しかしながら、この反応段階について、先行技術から公知の全ての触媒は、長期の操業時間の場合、特に水性媒体に対する敏感性を示す。これは特に、触媒の金属化合物、担体成分、および活性金属成分の測定可能な搬出をもたらす。
【0009】
中心的な段階として、メタクロレインとメタノールとの直接酸化的エステル化によりMMAをもたらすことを含む、米国特許第5969178号明細書および米国特許第7012039号明細書内に記載された方法の特徴は、不均一な、担持されたPd-Pb系触媒の使用であり、それは特に優れた長寿命性および93%までの非常に高いMMA選択率を特徴とする。粉末触媒はスラリー反応器内で、つまり、液体の反応マトリックスと、懸濁された触媒と、酸素含有ガス、最も単純な場合は空気とからなる三相反応システムにおいて用いられる。DOEプロセスの高い選択率は該プロセスを有利であるように見せるにもかかわらず、用いられる触媒に関し、金属損失の傾向があり且つこの場合はいわゆる鉛の浸出があり、開発について著しい必要性があった。可溶性鉛イオンの形態でのそれらの損失は著しいコストおよび後処理における複雑さを伴い、なぜなら特に、鉛イオンは難溶性鉛化合物、例えば硫酸鉛としての析出および後処理における分離を必要とするからである。さらにこの場合、可溶性鉛化合物は触媒活性を維持するために反応器内に計量供給されなければならない。微細粒子の分離および粉末触媒の摩耗の制御および防止は記載されておらず、問題が残り、なぜなら特に貴金属を含有する微細粒子と硫酸鉛結晶とを共に分離する必要があると思われるからである。
【0010】
米国特許第6040472号明細書(US6,040,472)は代替の触媒を記載しているが、それらは比較すると不充分な活性およびMMAについての選択率をもたらすに過ぎない。この場合、触媒はシェル構造を有するPd/Pb含有触媒である。MMAについての選択率は91%までであると報告されており、空時収率は5.3molまでであると報告されている。
【0011】
パラジウム・鉛触媒の鉛浸出のいくつかの問題は、活性酸化元素として金を含有し且つドーパントとしての鉛を含有しない新規の触媒を見出すことによって解決されている。触媒担体が常に使用され、異なる金属酸化物と他の元素の酸化物、またはポリマー担体材料との複雑な混合物が使用されることが多い。
【0012】
例えば欧州特許出願公開第1393800号明細書(EP1393800)は良好な活性および選択率を記載しているが、同時に触媒の寿命に関する情報は示されていない。それらの触媒は金含有触媒、特に担体上の平均直径6nm未満を有する金ナノ粒子である。4.5質量%のAuの含有率でのMMAについての選択率は93%までであると報告されており、空時収率は50.7molまでのMMA/kg cat.・hであると報告されている。触媒製造における金含有溶液のpHは、5~10、好ましくは6~9の範囲である。
【0013】
欧州特許第2177267号明細書(EP2177267)および欧州特許出願公開第2210664号明細書(EP2210664)はシェル構造を有するニッケル含有触媒を記載している。それらの触媒の場合、MMAについての選択率は97%までである。空時収率は、触媒中、約1質量%の金含有率で9.7molのMMA/kg cat.・hとして記載されている。
【0014】
米国特許出願公開第2013/0172599号明細書(US2013/0172599)は、Si、Alおよび塩基性の第3の成分、およびさらに1つの金属からなり、高められた耐酸性を有するケイ素含有材料を記載している。この金属はNi、Co、ZnまたはFeである。この材料は貴金属含有触媒のための担体として使用され得る。メタクロレインのMMAへの酸化的エステル化のための好ましい触媒の変形態様は、SiO2-Al2O3-MgO上に担持されたAu/NiO触媒を含む。
【0015】
しかしながら、比較例2から、この触媒が時間と共に活性を失うことが明らかである。これはおそらく、反応混合物中に存在する水の悪影響に起因する。
【0016】
操業時間、活性および選択率についての良好な結果は後の世代の触媒で達成されている。例えば欧州特許第3244996号明細書(EP3244996)は、金のみではなくさらなる金属/金属酸化物も外側のシェル内に含む、金に基づく触媒を記載している。そのような追加的に存在する成分は例えばコバルトまたはニッケル、またはそれらの酸化物であることができる。それらの目的は、長期稼働下での触媒表面上での金ナノ粒子の焼結を回避することである。上記の代替物と類似して、そのような触媒の担体材料は、混合酸化物、特にケイ素、アルミニウムおよびマグネシウム、および/または他の非貴金属からなることができる。
【0017】
その間に、NiOxおよび金からなるコアシェル触媒に基づく第2世代の触媒が開発され、元の方法の実質的な欠点および問題を解決している。第1世代の触媒とは対照的に、長期安定性および長期活性を著しく増加することが可能であった。それらの新規の開発はS.StahlおよびP.Alsters, “Liquid Phase Aerobic Oxidation Catalysis”,2016年8月17日出版, Print ISBN 9783527337811, Wiley-VCH Verlag GmbH,Ken Suzuki, 209~2018ページ、または米国特許第8450235号明細書(US8,450,235)内に記載されている。この文献は触媒系の長い触媒寿命に関する。
【0018】
提供されるべきものは、触媒系の長期安定性および化学的安定性を示す高選択性触媒についての要請に加えて、工業上の要件に合致するための適した反応器システムである。
【0019】
これは、気相(酸素含有ガス)と固相(不溶性の不均一触媒)と液相(反応物および生成物およびさらに副生成物も含有する反応マトリックス)とが同時に存在する三相反応の性能についての大きな挑戦であり、なぜなら、多数の要件、例えば熱の除去、pH勾配の回避、充分な空時収率、充分な気泡分布、ガス分散および気泡の合体の制御、反応器内での固形物の傾斜の制御、対流による最小限の摩耗などが満たされなければならないからである。
【0020】
このために、先行技術は、懸濁触媒の存在下でそのような三相反応を実施するための多数の反応器系を記載している。
【0021】
そのような反応器の公知の変形態様は、内管、いわゆる「ドラフト管」を有する反応器のものであり、それは内部循環を可能にする。例えば、米国特許第5288673号明細書(US5,288,673)は、合成ガスから炭化水素を製造するためのフィッシャー・トロプシュ合成のためのドラフト管を備えたスラリー反応器の使用を記載している。
【0022】
中国特許第104418309号明細書(CN104418309)は、アントラキノンの不均一触媒水素化反応において過酸化水素製造用のドラフト管を備えたスラリー反応器を記載している。使用された触媒濃度は約10g/l(<0.01kg/混合物のkg)であり、従って相対的に低い。ドラフト管内の下から上への流れの方向は、高い割合の触媒を定常的に搬送して管内に戻す。
【0023】
国際公開第2012/152600号(WO2012/152600)はシクロヘキサノンのアンモ酸化を記載しており、それは不均一TS-1触媒を用いて三相反応(気体・液体・固体)として実施される。円筒形のドラフト管が使用される場合、この方法における熱移動と物質移動との両方が明らかに改善され得る。ここで、反応物は様々な点で計量供給される。1つの計量添加はドラフト管の下で行われ(ここではNH3)、1つはドラフト管の上で行われ(ここではH2O)、且つ任意に側方からのさらなる計量添加が行われる(ここでは例えばシクロヘキサノン)。ろ過は、大きな総面積を有する多くのキャンドルフィルタを用いて行われる。それらは、反応器の高さの中心点およびドラフト管の外端部に配置されている。説明によれば、前記方法は中断およびフィルタの逆洗なく1年間実施され得る。1年後、フィルタを洗浄しなければならない。
【0024】
内部循環を有するスラリー反応器を、堆積物が形成し得る反応のために、例えばより具体的には、例えば重合性物質が生成される反応のために使用することは記載されていない。米国特許第5417930号明細書(US5,417,930)は、1つ以上のドラフト管を介した内部循環を有するスラリー型反応器が重合性物質の重合のために特に有益であることすら示唆する。そのような物質を含む反応のために、先行技術は、スラリー混合物の外部循環を用いて不均一触媒反応を実施するためのいくつかの反応器も開示している。従って、例えば米国特許第US5969178号明細書は、イソブチレンまたはtert-ブタノールからメタクロレインを介したMMAの連続製造方法を記載している。重合し易いメタクロレインの酸化的エステル化は、前記方法の最後の段階として気泡塔内で外部循環を用いて行われる。前記反応器は「外部循環型気泡塔反応器」として記載されている。
【0025】
中国特許第101314120号明細書(CN101314120)は、例えばフィッシャー・トロプシュ法を実施するためのスラリー混合物の外部循環を用いたループスラリー反応器を記載する。スラリー混合物の外部循環を有する全ての反応器は非常に複雑な反応器の設計、および例えばさらなるポンプによる、保護されなければならないスラリー搬送装置を必要とする。従ってこのために、および他の理由のために、それらのシステムは内部循環を有するシステムに比して欠点を有する。
【0026】
原則的に、担持された混合金属酸化物担体に基づき、他のドーピング金属およびドーピング元素に加えて、ナノ分散された金を含有し、且つ工業上の用途のために適した変換率および選択率を可能にする適した触媒系が判明していると言うことができる。それらの触媒系は粉末形態で攪拌され、つまり反応は懸濁またはスラリー触媒として実施される。代替的に、触媒がペレットまたは成形品として反応器に固定されている固定床システムが記載されている。それらのシステムの何年にもわたる長期安定な稼働を可能にするために、機械的および化学的影響を通じた最小限の摩耗を確実にする適した反応器および反応器系を開発する必要がある。
【0027】
要約すると、先行技術による方法の以下の側面が改善される必要があり且つ望ましい:
・ 可能な限り単純な反応器の構成、ひいては規模拡大についての適性に制限がないこと、
・ 沈降するかまたは重合し易い物質の使用が可能であること、
・ 高い触媒濃度の使用、それ故により高いスループット、
・ 使用される不均一触媒の摩耗の低減、
・ 反応器の相の良好な混合
・ 触媒の長い操業時間、中断のない堅固な稼働、存在する場合は非常に短いメンテナンス期間、
・ 運転停止時間なく、不均一触媒をスラリー混合物から連続的に分離するための単純化されたろ過システムを取り付け可能であること。
【0028】
MMAを製造するための新規のLiMA法は、エチレンおよび合成ガスから出発してメタクロレインをもたらすためのC2に基づくメタクロレイン合成の高効率な工程段階と、MMAをもたらすためのメタクロレインの高効率な直接酸化的エステル化とを組み合わせている。確立された段階と新規の開発とのこの組み合わせは、MMA製造のための新規の高効率な方法を提供することをまさに可能にする。第1の段階において、この方法は、エチレンと合成ガスとを反応させてプロピオンアルデヒドをもたらし、公知のロジウムに基づくホスフィンまたはホスフィット配位子が触媒として有利に使用される。修正された方法においては、ホルマリンとの反応がほぼ定性的な収率のメタクロレインを中間生成物としてもたらす。次いで、最後の段階において、メタクロレインをメタノールの存在下で貴金属に基づく不均一触媒上でMMAへと直接的に変換して、高い変換率および実質的に定性的な選択率が達成される。
【0029】
Angew. Chem. 2016, 128, 14420~14428, T2016 Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA, ヴァインハイムにおいて、R.CirminnaおよびM.Pagliaroは日本のMMA製造業者である旭化成ケミカルズのナノ粒子の金・NiOxに基づく触媒の本質的な態様および特徴を記載している。
【0030】
活性な金触媒の性能のために本質的であると見られることは、とりわけ、酸化アルミニウム、酸化ケイ素および酸化マグネシウムからなり且つ金・NiOxの複合系の調製を可能にする混合金属酸化物担体材料の使用である。K.Suzuki, H.Ishidaらは、触媒AuNiOx/SiO2-Al2O3-MgOの製造および反応システムを、ACS Catal. 2013, 3, 1845~1849に記載しており、ここで酸化的エステル化におけるメタクロレインのメタノールおよび酸素含有ガス、例えば最も単純な場合では空気との反応が実験室の装置において連続的に実施されている。それらの研究は反応についての触媒の選択率についての材料であるが、どのように大工業規模の反応器を構成して効率的に触媒を保持でき、ひいては長期稼働において性能を維持できるかについては示されていない。
【0031】
メタクロレインのMMAへの酸化的エステル化を実施するための反応器は例えば欧州特許3235560号明細書(EP3235560)内に記載されている。この文献はいわゆるドラフト管、つまり媒体が攪拌機によって下向きに搬送される領域を通じた三相媒体の循環を記載している一方で、気化された反応空間は逆の流れを有する。これは、触媒濃度の勾配を生成するために行われる。反応器の下部では触媒濃度が高く、上部では触媒濃度がより低い。反応器から生成物媒体を多かれ少なかれ無触媒で連続的に除去することを達成するための分離システムも提案されている。これは特に好ましくは10~50μmの保持を有するフィルタを用いて遂行される。傾斜要素のアセンブリ、いわゆる傾斜沈降器による触媒のさらなる予備分離も記載されている。
【0032】
触媒中の微細物/反応の間に摩耗によって形成され得る微細物は、この方法によって効率的に保持/回収できない。このシステムに伴う他の問題は、ろ過システムの前のガス分離が記載されていないことである。しかしながら、フィルタの稼働と傾斜沈降との両方において、ガス画分は分離作用の部分的または完全な損失をもたらし、反応マトリックス内のモノマーの重合堆積物もみちびく。
【0033】
反応器は好ましくは連続法のために使用されるべきなので、不均一触媒は反応混合物から連続的にろ過除去され得なければならない。このために、反応器内、特に好ましくは反応器の上部における領域2の周囲に存在するフィルタを使用することが好ましい。特に、選択された発明の他の実施態様に関わらず、少なくとも1つの連続稼働可能且つ逆洗可能なフィルタをこの領域2の上部に取り付けることが好ましい。
【0034】
代替的または追加的に、反応混合物は反応器から連続的に搬出され、後処理される/さらなる処理に供される。このさらなる処理は例えば洗浄、再活性化または粒子サイズによる分離であることができる。
【0035】
さらに、欧州特許3235560号明細書によれば、追加的な沈降システムをそのようなフィルタの上流または反応器の周囲で取り付けてもよい。これは層流を有する特定の領域であってよく、そこで、使用される触媒の大半が沈降される。従ってそのような沈降は実際のろ過前に行われる。そのような沈降システムの1つの可能な変形態様は、例えば、傾斜要素、例えば管または傾斜金属シートで構成されるアセンブリである。そのようなシステムの稼働原理は、Journal of Fluid Mechanics/Volume 92/Issue 03/1979年6月, 435~457ページ、および“Enhanced sedimentation in vessels having inclined walls” in Theory of Dispersed Multiphase Flow: ウィスコンシン大学マディソン校数学研究セミナーによって開催されたアドバンストセミナーのプロシーディングス, 1982年5月26~28日にさらに記載されている。酸化反応のための使用の詳細は例えば特開平10-94705号公報(JP10-094705 A)および特開平9-248403号公報(JP09-248403 A)内に示される。
【0036】
特開平9-248403号公報はさらに、メタクロレインからMMAへの酸化的直接エステル化のために用いられ得る、三相反応混合物(液体・固体・気体)の後処理装置を記載している。脱気領域および下降管と組み合わせた傾斜沈降器の選択された設計は、垂直に配置された傾斜管要素にわたる圧力差をもたらし、下降管/傾斜沈降器の領域が脱気されることにより酸素が大幅に枯渇するので、ここではかなり還元性の条件が支配的になる。観察される1つの問題は、傾斜沈降器要素内部での流れの短絡である。これは、イソブチルアルデヒドおよびイソ酪酸メチルの副生成物の形成の増加、つまりメタクロレインおよびMMA自体の望ましくない水素化生成物をもたらす。この刊行物において、それらの問題は絞り要素を傾斜沈降器に組み込むこと、つまり傾斜沈降器要素内の流れを遅らせ、停滞させ、ひいては均一化する内部構造物によって解決されている。触媒成分の微細物の搬出および反応が長期間実施される間の摩耗の結果として生じる微細画分の問題はここでは記載されておらず、未解決のままである。
【0037】
特開平10-94705号公報はさらにメタクロレインをMMAに変換する例に関連して、固体・液体・気体の反応マトリックスのための同様の分離システムを記載しており、ここでは分離装置を反応器タンクに組み込む追加的な特徴を有する(CSTRシステム)。本質的な特徴は、反応器における側壁であり、それが下降管の機能を果たす。傾斜沈降器要素は反応器シェルの内側および外側に配置されることができ、この文献も傾斜沈降器要素内側の絞り、隔壁を記載しており、それらが流れを均一化して、副生成物形成の問題を低減する。
【0038】
両方の日本の出願の特徴は、下降管および傾斜沈降器の稼働パラメータである。下降管部分においては脱気されたスラリーの非常に速い速度(0.5~1.5m/秒)が確立される一方で、傾斜管要素の出口での搬出速度は0.004m/秒(0.4cm/秒、または相応して14.4m/時間)である。搬出速度に対する下降管の速度のこの大きな速度差(0.5/0.004=125倍)は、選択された設計の結果である。特に下降管部分における高い下向きの速度は小さな気泡の混入をみちびくことがあるので、傾斜沈降器内での効率的な分離を損なうか、またはその機能を妨げることがある。相応の日本の特許はこの問題に取り組んでおらず、水および担体材料のモデルシステムを使用し、また無圧力での稼働方式を実証しており、それは貴金属含有酸化触媒の存在下でメタクロレインの直接酸化的エステル化によりMMAをもたらす効果的な反応の解決策を説明するためには適していない。
【0039】
それらの最適化された触媒も、および先行技術に記載された反応器および分離システムも、連続稼働における技術的な問題をみちびく決定的な欠点を依然として有している。他方で、製造、輸送および反応器の装入は特に小さい直径の摩耗粒子をもたらす。他方で、それらの粒子は、連続稼働中の反応器内で経時的に形成もされる。それらの微細粒子は様々な問題をみちびく:
【0040】
・ それらは異なる活性および選択性を有する。
・ それらの表面は望ましくない副反応、例えば、特にカルボニル単位と共役されたC-C二重結合の水素化反応を起こすことがある。これは、非常に低い酸素濃度のみが局所的に存在する場合、特にPtまたはPdに基づく触媒で生じ、それはそのような触媒画分の高められた活性の結果として生じることがある。
・ それらは制御されない共搬出物の対象となることがあり、それは連続稼働において貴金属の経済的に不利な損失をもたらす。
・ 搬出物がプロセス管理における、特に導管、カラムまたはフィルタにおける問題をみちびくことがある。
【0041】
要約すると、先行技術の方法の、特に互いに組み合わせた以下の側面を、改善する必要がある:
【0042】
・ 可能な限り高い収率と共に、副生成物、特に飽和化合物、例えばイソ酪酸メチルの割合が可能な限り低いこと。
・ 微細触媒粒子のみを狙い通りに搬出すること、ひいては貴金属の損失がわずかであること。
・ 後処理におけるプロセス管理に問題がないこと、およびメンテナンスコストおよびその煩雑性が可能な限り低いこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0043】
【特許文献1】米国特許第5969178号明細書
【特許文献2】米国特許第7012039号明細書
【特許文献3】国際公開第2014/170223号
【特許文献4】米国特許第6040472号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1393800号明細書
【特許文献6】欧州特許第2177267号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第2210664号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2013/0172599号明細書
【特許文献9】欧州特許第3244996号明細書
【特許文献10】米国特許第8450235号明細書
【特許文献11】米国特許第5288673号明細書
【特許文献12】中国特許第104418309号明細書
【特許文献13】国際公開第2012/152600号
【特許文献14】米国特許第5417930号明細書
【特許文献15】中国特許第101314120号明細書
【特許文献16】欧州特許3235560号明細書
【特許文献17】特開平10-94705号公報
【特許文献18】特開平9-248403号公報
【非特許文献】
【0044】
【非特許文献1】Nexant, CHEMSYSTEMS PERP PROGRAM, Methyl Methacrylate PERP 08/09-7 2010年3月
【非特許文献2】R.J.Chang, S.Naqvi, IHS Chemical PEP Report Methyl Methacrylate (MMA) Process Summary 2014-05
【非特許文献3】Trends and Future of Monomer-MMA Technologies, K.Nagai&T.Ui, Sumitomo Chemical Co.,Ltd.; Basic Chemicals Research Laboratory, http://www.sumitomochem.co.jp/english/rd/report/theses/docs/20040200_30a.pdf,2005
【非特許文献4】Viele Wege fuehren zum Methacrylsaeuremethylester[メチルメタクリレートへの多くのルート], S.Krill, A.Ruehling, H.Offermanns, Chem. Unserer Zeit, 2019, 53; 著作権 2019 Wiley-VCH Verlag GmbH&Co. KGaA, ヴァインハイム
【非特許文献5】S.Stahl, P.Alsters, Liquid Phase Aerobic Oxidation Catalysis,2016年8月17日出版, Print ISBN 9783527337811, Wiley-VCH Verlag GmbH,Ken Suzuki, 209~2018
【非特許文献6】R.Cirminna, M.Pagliaro, Angew. Chem. 2016, 128, 14420~14428, T2016 Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA, ヴァインハイム
【非特許文献7】K.Suzuki, H.Ishida, ACS Catal. 2013, 3, 1845~1849
【非特許文献8】Journal of Fluid Mechanics/Volume 92/Issue 03/1979年6月, 435~457ページ
【非特許文献9】“Enhanced sedimentation in vessels having inclined walls” in Theory of Dispersed Multiphase Flow: ウィスコンシン大学マディソン校数学研究セミナーによって開催されたアドバンストセミナーのプロシーディングス, 1982年5月26~28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0045】
従って、先行技術に鑑みて本発明によって取り組まれる課題は、従来の方法の欠点に悩まされない、メタクロレインの酸化的エステル化のための技術的に改善された方法を提供することである。
【0046】
本発明によって取り組まれる特定の課題は、メタクロレインとメタノールとのMMAへの酸化的エステル化からの粗製生成物の後処理における改善をもたらすことにより、そのような方法の全体的な収率を先行技術に比して改善することであった。
【0047】
取り組まれるさらなる課題は、酸化的エステル化のために用いられた触媒の微細粒子を、可能な限り大きな割合で、連続反応の開始後、可能な限り短い時間内で反応器から取り出すことであった。
【0048】
本発明によって取り組まれるさらなる課題は、反応の連続稼働において形成される触媒の微細物画分を取り出し、摩耗による微細粒子の形成を低減し且つ大幅に防止することでもあった。
【0049】
取り組まれるさらなる課題は、反応の実行時間にわたって、触媒中で用いられる貴金属の損失を可能な限り低く保つことであった。
【0050】
取り組まれるさらなる特定の課題は、可能な限り少ない副生成物、特に可能な限りわずかなイソ酪酸メチル、イソ酪酸、およびプロピオン酸メチルが形成される方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0051】
前記の課題は、反応器内、液相中で行われるアルキルメタクリレートの製造方法であって、メタクロレインから出発して、それとアルキルアルコールとを、酸素含有ガスおよび粒子状の粉末触媒の存在下で反応させる、前記方法によって解決される。アルキルアルコールがメタノールであり、且つアルキルメタクリレートがMMAである場合が好ましい。
【0052】
この方法は少なくとも領域A、BおよびCを含む反応器を特徴とする。領域Aは全体として領域A-1、A-2およびA-3を含む。従って、領域Bは全体として領域B-1、B-2およびB-3を含み、且つ領域Cは領域C-1、C-2およびC-3を含む。
【0053】
領域Aは少なくとも1つの攪拌手段を備えた一次反応領域を表し、この領域Aにおいて、前記攪拌手段は気相、液相および固相の強力な混合を確実にする。前記攪拌手段は、この領域Aにおいて一般に乱流が存在することを確実にする。平均して、領域Aにおいては上向きの流れが存在する。
【0054】
領域Aは一般に、それらの物理的状態に関して異なる3つの層が存在することによって特徴付けられる:
・ 液相は有機マトリックスからなり、反応器の支配的な圧力下で溶解された気体成分、例えば窒素および酸素を含有する、
・ さらなる層は気相であり、それは実質的に酸素および窒素からなり、この気相は、領域Aの高さにわたって変化し得る異なる泡の直径を有する有する気泡の形態である、
・ 反応条件下で不溶性の固体触媒粉末からなる固相。触媒は攪拌要素によって反応マトリックス中に懸濁される。
【0055】
反応領域Aの上には、気相または反応器シェルの内側に配置されたガス空間がある。ガス空間は反応ガス組成物からなり、新たに導入される使用される酸化ガスよりも実質的に低い酸素含有率を有する。最も単純な場合においては空気が使用され、1つ以上の別途の導管によって、コンプレッサーを介して反応器に供給される。圧縮されたガス混合物を、反応器への導入前に任意に脱水および予熱することができ、二次的な成分のスペクトルおよび反応器の連続稼働性に関する反応の管理のために有利である可能性がある。過度に冷たい酸化ガスは例えば塩の析出、ひいては供給点の閉塞をもたらすことがある。過度に湿った酸化ガスは反応マトリックス中の含水率を増加し、ひいては水添加生成物の形成の増加をもたらす可能性がある。
【0056】
好ましくは区別され且つ一緒に領域Aを形成する領域A-1、A-2およびA-3は以下の特徴を有する:
領域A-1は、3つの相、つまり触媒粒子の形態における固体、気相、例えば酸化媒体としての空気、および反応マトリックスとしての液体が存在する三相ドメインである。従って、領域A-1の反応領域は、例えばスパージャーを介したガスの導入によって、触媒粒子のほぼ均一な分布および実質的に一定のスラリー密度で存在する。
【0057】
一般にその上に配置される領域A-2も同様に3つの類似の相を含む三相ドメインであり、そこでは攪拌機の作用の減少に起因して、領域A-1に比して固体粒子の懸濁密度が低い。酸素濃度も同様に、領域A-1に比して一般に減少している。
【0058】
好ましい実施態様において、反応器は少なくとも1つの、好ましくは正確に1つの領域A-3をさらに含む。この領域A-3は領域Aの上に配置され、それ自体は攪拌機を含まない。領域Aに比して、ここにはより少ない乱流が存在し、一部の固相が液体/固体/気体の三相反応混合物から沈降し得る。反応混合物は領域A-3からB内へと流れる。移行領域A-3も同様に3つの類似の相を含む三相ドメインであり、そこでは攪拌機の作用のさらなる減少に起因して、領域A-1およびA-2に比して固体粒子の懸濁密度がさらに低い。
【0059】
従って、領域A-2および特にA-3においては一般に、攪拌機の作用によってもたらされる気泡の分散は著しく減少され、好ましくはさらなる気泡の分散はない。
【0060】
区別され且つ一緒に領域Bを形成する領域B-1、B-2およびB-3は以下の特徴を有する:
領域B-1は1つまたは好ましくは2つ以上の別途の領域B-1の形態であることができ、ここで領域B-1~B-3は好ましくは反応器の端部に配置される。
【0061】
領域B-1は、流れを静めるための内部構造物を備え、それは気相が引き続く領域B-2、B-3およびCに入ることを非常に大幅に防ぐ。領域B-1は典型的には二相(固体・液体)であり、そこでは少ない割合の気泡が存在し得る。領域B-1における下向きの流速は、泡の上昇速度よりも低い。領域Aおよび少なくとも1つの領域B-1は好ましくは内部構造物または他の装置によって、領域Aからの反応混合物が領域B内へと、任意に領域A-2および/またはA-3を介して流れるように、互いに分離されている。この流入は特に好ましくは領域Bの最上部の三分の一において行われる。
【0062】
単数または複数の領域B-2は、気相が大幅に除去された反応混合物を含有する。領域B-2は領域B-3および領域Cのための供給領域として役立つ。同様に気相が大幅に除去されているこの領域B-3は一般に、B-2に比して高められた流速を有するが、乱流を起こす必要はない。領域B-3における流速はまた、領域A-1およびA-2における流速よりも大きくなければならず、なぜなら、そうでなければ反応器内の内部ループが崩壊し、気体が領域A-1から下から領域B-3に入り、それによって沈降装置が妨害され得るからである。
【0063】
領域B-3は領域Cへの移行領域であり、領域B-3は一般に領域B-2およびCの非常に大幅に下に配置される。
【0064】
領域B-3は領域Aに対する開口部も有するので、微細触媒粒子を除去された反応混合物の一部がこの開口部を介して領域Aへと流れて戻ることを可能にする。
【0065】
本発明によれば、平均的な垂直流は領域A-1~A-3においては上向きであり、領域Bにおいては下向きである。
【0066】
領域Cの一部としての、休止領域とも称され得る領域C-1は、沈降装置における相対的に大きな触媒粒子の引き続く沈降をさらに促進する。
【0067】
一般に各領域B-2は各々、少なくとも1つの領域Cに、直接的または領域B-3を介して間接的に接続されており、領域Cは連続的に分級する沈降装置を含むので、沈降のための実際の領域を構成する。領域B-3からの反応混合物の一部が領域Cに入り、粒子状の粉末触媒は沈降装置内で好ましくは、その少なくとも60質量%、好ましくはその少なくとも80質量%が20μm未満のサイズを有する、相対的に小さな触媒粒子の画分と、平均して相対的に大きな触媒粒子の残りの画分とが得られるように、2つの画分に分離される。従って、相対的に小さな触媒粒子は、反応混合物と共に領域C、特に領域C-3の出口で反応器を出る。搬出される粒子の反応マトリックス中での濃度が1~200ppmwである場合も好ましい。
【0068】
区別され且つ一緒に領域Cを形成する任意の領域C-1、C-2およびC-3は以下の特徴を有する:
任意の領域C-1は、流れを均質化および遅延させ、且つ固体粒子を反応液から分離するためのラメラ型の傾斜沈降器要素の入口である。
【0069】
任意の領域C-2は、個々の傾斜沈降器要素の出口で多孔板および/または流れ抵抗要素を含む。多孔板の面積が小さいと、長期の連続稼働後に装置内のポリマー堆積物が生じ、ひいては閉塞が生じることがある。多孔板の面積が大きいと、短絡および装置内の再循環流が生じることがある。
【0070】
任意の領域C-3は、粒子が少ないかまたは特に粒子不含の反応溶液のための捕集チャンバである。反応溶液は一般に圧力下にあり、且つ物理的に溶解されたガス成分を含有する。後処理、例えば精留または抽出に送る前に、溶液を減圧し且つ非常に大幅に脱気してよい。
【0071】
用いられる触媒粒子は一般に、平均サイズ50~120μm、好ましくは50~100μm、特に好ましくは70~90μmを有する。本発明によれば体積平均触媒粒子サイズはISO 13320-1に準拠して、LS 13 320粒子サイズ測定装置(Beckman Coulter)を用いて測定される。
【0072】
メタクロレインの酸化的変換のために用いられる粉末の新たな触媒は、活性な貴金属、例えば金、白金またはパラジウムを中心の活性酸化金属として、例えばさらなる担体材料を含む総質量に対して0.1質量%~10質量%の濃度で含む。触媒の粒子は例えば0.1~300μmのサイズを有し、ここで存在する触媒粒子の95体積%より多くが200μm未満のサイズを有する。そのような触媒について、触媒粒子の50体積%より多くが10~90μmのサイズを有し、反応器内の0.1μm~10μmのサイズを有する触媒粒子の微細画分は装入の際に10体積%未満であることが好ましい。
【0073】
そのような触媒系の場合、例えば1時間あたり0.5質量%未満の反応器内に存在する触媒粉末が、反応の間に生成物溶液と一緒に分級方式で反応器から搬出される。従って、1000時間の稼働後、反応器内に残留する触媒画分は好ましくは、10μmを上回るサイズを有する全ての触媒粒子の98体積%より多くを含む。さらに、搬出される触媒は1~30μmの粒子の保持を可能にする少なくとも1つのさらなるフィルタで捕集され、且つ沈降装置の下流のフィルタ内で保持される粒子は50体積%より多くの程度まで30μm未満の粒子である。
【0074】
領域Bにおける一般に下向きの平均垂直流速と、領域Aにおける一般に上向きの平均垂直流速との間の比が5~50、好ましくは10~40である場合が好ましい。
【0075】
領域Aにおける反応混合物を任意に、少なくとも1つのポンプを使用して垂直に搬送できる。しかしながら通常、このために攪拌機で充分である。
【0076】
好ましい反応パラメータは以下のとおりである:
a. 反応器内での反応は2~50barの範囲の圧力で、10℃~200℃の範囲の温度で、メタノールのメタクロレインに対するモル比1:1~50:1の範囲で行われ、
b. 反応器内で、アルキルアルコールとメタクロレインとの定常状態での濃度の間のモル比は30未満対1であり、
c. オフガス除去サイトでの個々の反応器内での気相の酸素濃度は、生じるガス混合物の爆発限界未満であるか、または7体積%未満であり、
d. 定常状態での供給物中の物質のモル比に対する、反応器内のアルキルアルコールのメタクロレインに対する定常状態での比は1.5~10であり、
e. 個々の反応器内のメタクロレインの定常状態での濃度は21質量%未満である。
【0077】
反応は任意に並列に接続された複数の反応器内で実施され得る。
【0078】
領域Cの沈降装置はそれ自体、好ましくは、複数のチャネル状のプロファイル、管またはラメラからなる。それらは好ましくは水平に対する傾斜角を有する。沈降装置は特に好ましくは傾斜沈降器である。
【0079】
領域B-1は好ましくは入口に(ハニカム)管、直方体またはディスクを含んで均一な流れを実現する。全てのチャネル状のプロファイル、管またはラメラへの入口が、領域B-3からC-1への移行部で同じ高さであることも好ましい。それらの手段は、沈降装置への入口で均一な圧力条件を達成することを可能にする。従って、大半の、特に全てのチャネル状のプロファイル、管またはラメラが入口で同じ圧力を有する場合が特に好ましい。
【0080】
代替的に、使用される沈降装置は液体サイクロンであってよい。
【0081】
沈降装置の結果として、相対的に大きな触媒粒子がこの沈降装置C内で保持され、領域B-3へと再循環される。相対的に小さな触媒粒子は沈降装置を通過し、反応器の外側のフィルタシステムを使用して反応溶液から分離されて、再循環され得る。
【0082】
フィルタシステムが領域Cの要素の下流に少なくとも2つの連続して横切るフィルタを含む実施態様も特に好ましい。第1のフィルタは20μmを上回る、好ましくは5μmを上回る直径を有する粗い粒子を分離するために適している。第2のフィルタは0.1μmを上回る直径を有する微細粒子を捕集するために役立つ。そのような実施態様において、例えば第1のフィルタで捕集された粒子を、例えばろ過された反応器搬出物を用いた逆洗によって反応器へと再循環することが可能である。このために、理想的には2つのフィルタが並列に接続され、その1つは沈降装置からの反応器搬出物が流れ、第2のものは逆洗に供される。
【0083】
対照的に、第2のフィルタの固形物は除去され、例えばフィルタの灰化を通じて、触媒、特にそこに存在する貴金属の回収のためにさらなる処理に供される。フィルタのこの取り出しの間、触媒を含有する反応器搬出物は理想的には、並列に接続された第2の同一のフィルタを通過する。
【0084】
本発明を説明するための方法の例示的な実施態様において、該方法は平均沈降速度10m/時間で実施される。この場合、空塔速度は例えば7m/時間である。
【0085】
反応は好ましくは、直径の、気化された流体のレベルの高さに対する比1:1~1:50を有する反応器内で実施される。領域Aの体積の、全ての領域BおよびCの総体積に対する比が1を上回り且つ500未満である場合も好ましい。
【0086】
領域Aの、特に領域A-2の、各領域Bへの移行部で、反応混合物が領域Bに、特に領域B-1に入る際に反応混合物の流れの均一化を行う内部構造物が存在する場合も好ましい。これは領域Aから領域Bに、特に領域B-1に気泡が通過することを大幅に防止する。前記内部構造物は好ましくは、反応媒体に対して耐性のあるプラスチック、例えばPVC、PEEKまたは他のポリマー材料製の要素である。代替的に金属管を用いることが可能であり、それは正方形、長方形または多角形、プレート、ワイヤメッシュであってよく、懸濁液のレイノルズ数を低減させるために役立つ。領域A/A-2におけるレイノルズ数が一般に10000以上の値を有する一方で、とりわけ反応空間における乱流の結果として、領域B-1におけるレイノルズ数は装置の幾何学的形状および内部構造物によって著しく低減される。内部構造物において、下向きの流れは、気泡の上昇速度が比較的高くなる程度に遅延し、且つこの点で懸濁液はガスが枯渇しているかまたは物理的に気体不含であることがCFDシミュレーションによって示され得る。定常状態の反応媒体における気泡の上昇速度は一般に1秒あたり約0.05m~0.5mである。速度の下限は稼働の方式および装置および内部構造物の構成に決定的な影響を及ぼす。これは気体、液体および固体触媒の三相混合物が二相懸濁液へと安全に変換され得ることを確実にする。これは、気泡が上方に逃げて、傾斜沈降器(領域C)内には入らないことを意味する。気泡の不在は好ましくは、傾斜沈降器の稼働方式を確実にすることに決定的な影響を及ぼす。
【0087】
反応器は一般に1つ以上の供給導管を有し、それを通じてアルキルアルコール、MMA、メタクロレイン、水の混合物、および任意にこの混合物中に溶解されたメタクリル酸のアルカリまたはアルカリ土類金属が添加され得る。それらの成分のいくつかまたは全ては、別途の供給導管を通じて供給され得る。この場合、MMAは任意の再循環流の成分であり、後処理の引き続く点で分離除去される。導入は、任意に且つ好ましくは、反応器の垂直高さにわたって分布して行われる。
【0088】
反応器下部における領域Aは好ましくは、相応のノズルまたは気化装置を介して酸素含有ガスが積極的に供給される。対照的に、少なくとも1つの領域Bは好ましくは反応混合物の積極的な気化のための装置を含まない。
【0089】
本発明による方法は、攪拌手段が領域Aに配置される場合に最も良好に実施され得る。攪拌手段は好ましくは、例えば上下に配置され且つ互いに対して斜めにされている少なくとも3~4段階のブレードを有する攪拌機である。
【0090】
本発明によれば、前記方法はさらに、攪拌機および攪拌手段による不均一粉末酸化触媒の懸濁のためのエネルギー入力が反応混合物1立方メートルあたり3キロワット以下に制限されるように実施される。攪拌機および攪拌手段による不均一粉末酸化触媒の懸濁のための、および気体分散のためのエネルギー入力が、反応混合物1立方メートルあたり0.05~1.0kWに制限される場合が特に好ましい。
【0091】
領域A、特に領域A-2およびA-3、および少なくとも1つの領域B、特に領域B-1およびB-2が隔壁によって互いに分離されている場合も好ましい。内部構造物が、領域Aの、つまりA-2~A-3の各領域Bへの移行部で、領域Bに気泡が入ることを大幅に防止する場合が特に好ましい。
【0092】
攪拌機の選択および設計は特に、
a. 反応速度論および一般に系の反応性を制御すること
b. 反応および反応器の水力学的機能および機械的機能を確実にすること、
c. 反応領域Aにおける触媒の懸濁を確実にすること、
d. 触媒の機械的応力、ひいては摩耗を最小化すること、および
e. 領域Aにおける気体の分散およびガス供給の分布を確実にすること
に影響を及ぼす。
【0093】
攪拌機およびその稼働と、反応速度論との組み合わせの多数の要件は初めはそれ自体、矛盾しているように見える: 理想的な混合物および全ての反応物および助剤の迅速な混合のために、例えば、塩基性溶液を混合して、pHを制御し、反応の熱を効率的に除去し、および反応器内でのpH勾配も防ぐこと、高い攪拌速度、および攪拌機の相対的に大きな直径は明らかな解決策である。他方で、攪拌機の過度に高い速度および過度に大きな直径、並びに特定の攪拌機のブレードの幾何学的形状は、反応混合物の高い局所剪断および触媒の機械的摩耗をもたらす。
【0094】
本発明による方法は好ましくは、攪拌機の幾何学的形状、および攪拌機要素の数および幾何学的形状、および稼働条件が、触媒の物理的特性および反応システムの要件に正確に適合するように、最適に実施される。これに関し、攪拌機の(動力についての)エネルギー入力Pが、触媒の摩耗を制御し且つ大幅に防止するための必須の基準であることが判明した。そこから導出される基準は、現実の定常状態条件下での反応マトリックスの体積に関連する特定のエネルギー入力であり、これはP/Vとして1立方メートルあたりのkW[kW/m3]の単位を用いて定義される。
【0095】
ここで、懸濁された粉末貴金属含有触媒の存在下でのMALからMMAへの直接酸化的酸化について、液体が良好に混合または均質化されるか、または三相系の存在下で、触媒が領域Aにおいて充分に懸濁されることが確実になる。当該反応システムのさらなる対象は、物質移動、熱移動、または酸化ガスの分散状態の改善を含む。
【0096】
それらの機能の全ては、反応マトリックスの物質特性、例えば粘度および密度、および攪拌装置の構造に依存する。メタクロレインからMMAへの直接酸化的エステル化のための連続反応システムの特定の反応マトリックスを考慮して、ここで、触媒の複数年の耐用期間および寿命を確実にするためには、混合する科学のどの側面が考慮されなければならないかを実証する。
【0097】
それらの相関は流体力学および混合技術における標準的な教科書に記載されており、ここで言及できる動力入力および比動力入力を計算するためのこの先行技術の例は、Klaus Himmler, Wilfried F.Schierholz, Chemie Ingenieurtechnik 2004, 76, 3, 212~219ページである。この文献は、攪拌機の定数(ニュートン数)、レイノルズ数、攪拌機の直径および攪拌機の速度の間の一般的な性質の重要な相関、並びに計算のための式および攪拌機の構造を特定している。DOE反応によるMALのMMAへの変換における要件および特定の要求および問題における情報はこの文献内では示されていない。
【0098】
動力入力が通常、高い空時収率の要件を触媒の長い寿命と共に満たすために必須の側面であることが判明した。動力入力Pは、用いられる機械的動力のどれだけ多くが反応媒体に到達するか、および触媒がどれだけ多くの機械的エネルギーに曝露されるかを記載する。動力入力Pは攪拌機(種類およびサイズ)および攪拌機の速度によって決定される。一般に以下が該当する:
P=Ne×p×N3×d5
動力入力P=ニュートン数×密度×攪拌速度3×攪拌機の直径5。
【0099】
動力入力を決定するための前記の式から、どの影響を特に考慮しなければならないかが明らかである。無次元のパラメータ、いわゆるニュートン数(Ne)は、攪拌機の種類に応じ、攪拌機ごとに変わる。ニュートン数は、反応システムの物質特性によってさらに決定される。MALからへのDOEの場合、これはメタノール、メタクロレイン、MMA、水、および広範な有機化合物、および塩並びに気体および固体を含有する反応マトリックスである。特に、攪拌されるべき反応マトリックスの密度も重要であり、DOEの場合、反応温度での密度は0.8~0.9g/mlである。
【0100】
しかしながら、本発明によって取り組まれる課題を解決するために重要である可能性のあるさらなる影響のあるパラメータは、動力入力について3乗の変数である攪拌速度、および動力入力について5乗の変数である攪拌手段の直径を含む。
【0101】
本発明による方法は、1つ以上の攪拌手段が領域Aに配置される場合に最も良好に実施されることができ、4つの係数から生じる比動力入力(上記参照)は、反応懸濁液1m3あたり0.01~3キロワットの値を有する。反応マトリックス1m3あたり0.05~1キロワットの動力入力が特に好ましい。反応マトリックス1m3あたり0.05~0.5キロワットの比動力入力が非常に特に好ましい。
【0102】
攪拌手段の種類はニュートン数(無次元数)に決定的な影響を及ぼす。用いられる攪拌手段は一般に、特定の攪拌システムにおけるニュートン数が0.1~10の範囲であるように選択される。特定のニュートン数0.5~5を有する攪拌機が特に好ましい。特定のニュートン数0.5~1.5を有する攪拌機が非常に特に好ましい。反応器のサイズに依存して、異なる種類の攪拌機をシャフト上に取り付けることが好ましいことがあり、その際、それらの攪拌機は同じ攪拌機速度を有するが、異なるニュートン数および異なる直径の攪拌機のブレードを有し得る。
【0103】
攪拌手段は好ましくは、例えば、上下に配置され且つ互いに対して斜めにされている少なくとも3~4段階のブレードを有する攪拌機である。
【0104】
領域A、特に領域A-2およびA-3、および少なくとも1つの領域B、特に領域B-2および/またはB-3が隔壁によって互いに分離されている場合も好ましい。内部構造物が、領域Aの、特にA-2およびA-3の、各領域Bへの移行部で、領域Bに気泡が入ることを大幅に防止する場合が特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【
図1】例による連続稼働における1000時間の稼働にわたる変換率および選択率の進行。
【
図2】様々な稼働時点での触媒試料および粒子サイズの顕微鏡写真、ここで「0時間」は新たな触媒を示す。
【
図3】例による連続稼働における1000時間の稼働にわたる特定の副生成物に対する選択率の推移。
【
図4】攪拌機の速度/攪拌機の軌道速度と、排出ガス中の生じる残留酸素含有率との間の相関。
【
図5】5a: 比較試験4g(合計実験時間500時間、および1立方メートルあたり3kWを上回る比動力入力での、それぞれ100時間の間隔後の粒子の平均直径の測定)からの触媒粒子の平均直径の推移。5b: 比較試験4g(合計実験時間500時間、および1立方メートルあたり3kWを上回る比動力入力での、それぞれ100時間の間隔後の、平均直径20μm未満を有する全ての粒子のパーセントでの体積割合の測定)からの粒子微細物の割合の測定。
【
図6】一連の実験5a~5fの結果: それぞれ500時間の稼働時間の間隔後の粒子のd50がプロットされる。1立方メートルあたり2kWを上回る動力入力より上では、稼働時間が長くなると共にd50は顕著に低下し、従って、触媒摩耗が過度に高いことを示す。
【
図7】攪拌機および様々な分離領域、および垂直配置のラメラを有する傾斜ラメラ沈降器充填材を有する例示的なDOE反応器の例示的な軸対象の実施態様。
【
図7a】
図7からの傾斜沈降器システムおよびその入口領域の拡大図。
【
図7b】攪拌機および様々な分離領域、および水平配置のラメラを有する傾斜ラメラ沈降器充填材を有する例示的なDOE反応器の例示的な軸対象の実施態様。
【
図7c】
図7bからの傾斜沈降器システムおよびその入口領域の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0106】
図7、7aおよび7bについての詳細:
領域A-1: 三相ドメイン: 固体(触媒粒子)、気相(例えば酸化媒体としての空気)、液体が存在、反応領域は触媒粒子がほぼ均一に分布し、スラリー密度は実質的に一定、例えばスパージャーを介してガスを導入(明確化のために示されていない)。
【0107】
領域A-2: 三相ドメイン: 固体(触媒粒子)、気相(例えば酸化媒体としての空気)、液体が存在、反応領域は触媒粒子がほぼ均一に分布し、スラリー密度は実質的に一定; 領域A-2は、攪拌機の作用の減少の結果として、領域A-1に比して相対的に低い固体粒子の懸濁密度を有する。酸素濃度も同様に、領域A-1に比して低減されている。
【0108】
領域A-3: 移行領域: 三相ドメイン: 固体(触媒粒子)、気相(例えば酸化媒体としての空気)、液体が存在; 三相混合物が部分的に領域Bに入り、酸素が枯渇したガスが界面でガス空間(領域A4)に入る。領域A-3は、攪拌機の作用の減少の結果として、領域A-1およびA-2に比して低い固体粒子の懸濁密度を示す。懸濁密度A-1~A-3の間で勾配が測定可能。微細粒子の割合は下部から上部へと(A-1からA3へと)著しく増加する。
【0109】
領域A-4: ガス空間、粒子不含であり、酸素が枯渇した空気からなり、酸素含有率は4体積%(±3体積%)、ガス空間は上から、部分冷却器からの凝縮物(安定剤を含有する)の細流に晒される。
【0110】
領域B-1: ラメラ充填材への移行部、三相ドメイン(上部)、流れの分布および均一化、A-1~A-3に比して相対的に高い密度を有する二相懸濁液が下向きに流れ、ガスの分離機能。領域B-1および内部構造物は領域B-2における漏斗および渦の形成を防止する。
【0111】
領域B-2: さらなるガス分離領域および下降管(領域B-3)への供給部、流れを加速; 領域B-2の下部で混合物はガス不含であり、傾斜沈降器の機能を確実にする。加圧稼働(1~20bar)の場合、ガスは溶解され、物理的に気泡としては存在しない。ここで、混合物は二相(液体および固体粒子)である。
【0112】
領域B-3: 下降管、二相懸濁液が垂直に下向きの流れを有する。領域Cの個々の傾斜沈降器要素への移行領域および二相の副流の搬出。垂直速度は沈降領域C-1よりも大きい。
【0113】
領域C-1: ラメラおよび傾斜沈降器要素への入口。流れを均一化し且つ遅延させる。固体粒子を反応液から分離。層流のプロファイル。ラメラ充填材の装填についての構成の特徴: 傾斜沈降器の投影面積1m2あたり0.05~1.5m3の液体、任意に0.3~0.7。
【0114】
領域C-2: 個々の傾斜沈降器要素の出口での多孔板および抵抗要素; 構成の特徴 ラメラプロファイルの断面積に対して0.1%~2%の孔面積または一般の出口領域、任意に0.2%~1%。多孔板の面積が小さいと、長期の連続稼働後に装置内でポリマーの閉塞が生じる。多孔板の面積が大きいと、短絡および装置内の再循環流が生じる。
【0115】
領域C-3: 粒子の少ない、または粒子不含の反応溶液のための捕集チャンバ。反応溶液は圧力下にあり、且つ物理的に溶解されたガス成分を含有する。後処理(精留または抽出)に送られる前に、溶液は減圧され且つ非常に大幅に脱気される。明確化のためにこの機能は示されていない。
【0116】
(a) 粒子含有懸濁液
(b) 粒子不含の液体
(c) 気泡。
【実施例】
【0117】
実験:
メタクロレインを米国特許第4496770号明細書(US4,496,770)に従って製造した。しかしながら、例えば米国特許第9580374号明細書(US9,580,374)のような代替的な手順も使用できる。先行技術によれば、メタクロレインは原則的にプロピオンアルデヒドから出発してホルマリンを用いて、または不均一触媒上でのイソブチレンと空気との気相酸化によって製造され得る。後処理後に得られたメタクロレインの品質は、原則的に且つ本発明に関して、酸素含有ガスおよびメタノールの存在下での、MMAへの直接酸化的エステル化のための基質として有用である。
【0118】
例1 粉末状の摩耗耐性SiO2-Al2O3-MgO担体材料の製造
エナメルで裏張りされた受器にまず21.36kgのMg(NO3)2・6H2Oおよび31.21kgのAl(NO3)3・9H2Oを装入し、その混合物を、インペラ式攪拌機を用いて攪拌しながら41.85kgの脱塩水中に溶解した。その後、1.57kgの60%のHNO3を攪拌しながら添加した。
【0119】
166.67kgのシリカゾル(Koestrosol 1530AS(Bad Koestritz)、30質量%のSiO2、平均粒子サイズ: 15nm)をまず、エナメルで裏張りされた500Lの反応器に装入し、インペラ式攪拌機を用いて攪拌しながら15℃に冷却した。2.57kgの60%のHNO3を、攪拌しながら前記ゾルにゆっくりと添加し、受器からゾルへの硝酸塩溶液の添加を、攪拌しながら45分間にわたって行った。添加後、その混合物を30分間にわたって65℃に加熱し、この温度でさらに24時間保持し、混合物をゲル化し、均一な混合を確実にした。
【0120】
この時間の後、ゲル化された混合物を、攪拌された懸濁液として噴霧乾燥機内に連続的にポンプ輸送し、装填された乾燥ガスの出口温度130℃で噴霧乾燥に供した。乾燥されたグリーン生成物(噴霧乾燥後に得られた一次生成物)をロータリーキルン内で2回か焼し、加熱領域(600℃)における滞留時間は各々約45分であった。ロータリーキルン内でのか焼の滞留時間およびサイクル時間はロータリーキルンの傾き(約1°~2°の傾き)を介して制御された。か焼作業の間に発生する窒素を含むガスは気体の形態で除去され、吸収および化学吸着によって適切に処理された。仕上げられた担体粒子中の硝酸塩含有率は1000ppm未満であった。
【0121】
か焼後、55kgの白色の流動可能な粉末状の担体材料が得られた。質量収率は約95%であった。球状の担体は、光散乱(コールター法)によって測定して約60μmの平均粒子サイズ分布を有した。引き続き、担体を数回のパスおよび様々なふるいのサイズを用いた篩別による分級に供し、120μmを上回る画分と15μm未満の画分とが可能な限り除去された。技術的な限界に起因して、約3.6体積%の微細画分は残留し、つまりふるい分けにもかかわらず1~15μmの粒子サイズを有する粒子は残留した。分級段階(ふるい分け/篩別)の収率は約85%であり、仕上げられた担体材料の得られた平均粒子サイズ分布は約68μmであった。
【0122】
例2: メタクロレインからMMAへの直接酸化的エステル化の連続実施のためのナノ粒子状の金含有触媒の製造
エナメルで裏張りされた反応器内で、15kgの前記担体を、インペラ式攪拌機で攪拌しながら50kgの脱塩水中に懸濁した。生じる混合物を90℃に加熱し、90℃に達した後、30分間エージングした。852.9gのCo(NO3)2・6H2Oの7.5kgの脱塩水中の溶液を10分間にわたって計量供給し、その混合物を30分間エージングした。引き続き、3.7Lの1モルのNaOH溶液を10分間にわたって添加した。その直後に、376.8gの金酸(41%の金)の7.5kgの脱塩水中の溶液を添加し、その混合物を30分間エージングした。生じる懸濁液を40℃に冷却し、遠心機を使用してろ過した。ろ過ケークを遠心機内で脱塩水を用いて、ろ液が透明になり且つ100μS/cm未満の導電率を有するまで洗浄した。
【0123】
湿った触媒を105℃で、残留湿分が5%未満になるまで乾燥させた。乾燥した触媒をロータリーキルン内でか焼し、加熱領域(450℃)内での滞留時間は約45分であった。質量収率は約99%であった。
【0124】
か焼された触媒をSEM-(EDX)およびレーザー回折によって分析し、球状のエッグシェル触媒が平均粒子サイズ分布約68μmを有することが明らかになった。微細画分は約3.5体積%であった。ICPにより金含有率0.85質量%が明らかになった。
【0125】
前記触媒をこの形態で、例3におけるメタクロレインからMMAへの連続酸化的エステル化において用いた。
【0126】
例3:
メタクロレインからMMAへの直接酸化的エステル化の連続実施
I. 反応器、反応システム、触媒保持システム
攪拌機を備えた攪拌槽反応器を反応のために使用した。用いられた材料は、わずかに腐食性の媒体に耐えられる従来のステンレス鋼である。反応器は、サーモスタットに接続される二重のシェルを含み、媒体を介して冷却および加熱を行うことができる。反応器の蓋は蒸気管(公称幅100mm)を介して凝縮器に接続されている。
【0127】
攪拌槽は内径400mmを有し、反応器の蓋までの高さは1500mmである。攪拌機は床を介して下から反応器に接続されており、酸素含有ガス(ここでは圧縮空気)のための最適なガス分散と媒体中での粒子状触媒の最適な懸濁との両方を可能にする特別な攪拌手段が備えられている。
【0128】
半径方向の搬送方向を有する気体と液体との混合物のための大量のガス用の一次分散機(Ekato Phasejet)、およびCombijet攪拌手段、つまり攪拌機シャフトに固定された2つの攪拌手段からなる市販の攪拌機システムが用いられた。反応器底部からの攪拌手段の距離は100mmであり、第2の攪拌手段については400mmであった。酸素含有ガスを供給するためのガス導管は、分散手段の直下で終端しており(分散要素からのガス出口の距離10mm)、反応器断面にわたるガスの均一な分布および酸化ガスの微細な分散を確実にする。
【0129】
反応器の蓋の上では、反応物、再循環流および助剤のための供給導管が、その供給導管が媒体の充填レベルより充分下で終端するように反応器内で取り付けられている。反応器の上部は導管を介して、メタノール性の安定剤溶液(1000ppmのテンポール)を含有する受け容器と接続されている。
【0130】
攪拌機の仕様: 分散要素および6つの「>」型のブレード: 直径: 0.15m、150mmからなるEkato Phasejet、計算のための気化されていないモデルシステムにおけるニュートン数は1.3(無次元数)である。Phasejetについてのニュートン定数は、モデルシステムに基づいて特定され、Klaus Himmler, Wilfried F.Schierholz, Chemie Ingenieurtechnik 2004, 76, 3, 212~219ページから導出された。
【0131】
反応器の上部に、反応懸濁液を内部に取り付けられた傾斜沈降器へと通過させる漏斗型の領域または入口領域がある。スラリーは脱気容器内(内径200mm、円錐形の下方の流出部)でまず脱気されて、溶解されたガス成分のみがスラリー懸濁液中に残留する。脱気容器の下部は内径30mmを有するパイプラインに接続されており、下降管の上部を構成する。従って、ここでは脱気された、二相のみの懸濁液が垂直に下向きにY字状の分岐部へと流れる。分岐部の右側部分は懸濁液を傾斜沈降器要素へと通過させ、そこで二相系が効率的に沈降される。従って、触媒は反応器へと戻る。傾斜沈降器の出口に、分離の品質の視覚検査を可能にするための耐圧ののぞき窓、並びに圧力保持手段および取り出し量の制御バルブがある。圧力バルブの下流に、ポリプロピレン製の2つの並列のフィルタが取り付けられており、それが1μmの最大の分離性能を可能にする(製造元の仕様による)。前記フィルタは連続的に横切られ、且つ三方バルブを介して、1つだけのフィルタが横切られる一方で他のものは進行中の稼働の間に交換され得ることが可能であるように組み込まれている。
【0132】
傾斜沈降器のラメラ要素は、内部寸法L=700mm、H=20mm、W=50mmを有するステンレス鋼製の直方体状の4つの端部のプロファイルである。従って有用な内部体積は700mLである。合計8つのラメラ要素が取り付けられている。
【0133】
II. 反応の開始および連続的な反応:
反応器にメタノール、水およびMMA、メタクリル酸、並びに溶解されたメタクリル酸Naの混合物を装入した。この反応混合物の最初の装入は、定常状態の濃度へのより速やかな到達をもたらす。1.0質量%~1.5質量%のメタクリル酸(その50%がナトリウム塩の形態であった)、33質量%のMMA、5質量%の水および残りがメタノールである組成を有するこの出発媒体130kgを反応器に装入した。充填レベルは反応器の充填高さの約80~85%であった。例2による触媒13kgを反応器にさらに装入した。従って、スラリー密度は10質量%であった。反応混合物を80℃に加熱し、攪拌機を300rpmに設定し、従って約0.1kW/m3の比エネルギー入力がもたらされた。反応器を動作圧力5bar絶対にもたらした(出発媒体として窒素を使用)。反応温度に到達した後、メタクロレインの計量添加(1時間あたり140molのMAL)を開始し、空気を1kg/時間ずつ導入することにより反応が直ちに開始し、それは反応器内でのメタクロレインレベルの低下および反応混合物内でのMMA濃度の増加から明らかである。空気の量は、オフガスが酸素濃度4体積%を有するように調整される。オフガスを-20℃に冷却し、凝縮液を反応器に再循環させる。オフガス中の残留有機物は1.5体積%未満であり、熱処理に供される。
【0134】
定常状態の稼働については、メタクロレインとメタノールとを、新たなアルコールのアルデヒドに対するモル比が4であるように供給する。1時間あたり合計140モルのメタクロレインが反応器内に導入される。
【0135】
触媒保持システム(傾斜沈降器およびろ過ユニット)を介した定常状態の反応混合物の搬出は圧力バルブを介して制御され、且つ平均32.5kg/時間であった。これは約4時間の平均反応時間に相応する。搬出される体積の、傾斜沈降器要素の体積に対する比は、特に固体分離の品質についての定義されたパラメータとして計算できる。本例においては、この比はラメラ要素(700mL)あたり1時間あたり約4.06kgの液体である。ラメラ要素の体積流量および断面積を使用して懸濁液の流量を計算することができる。粒子がラメラの床に落下するための時間が、ラメラ要素を横切るための時間よりも短いと計算される場合、これは触媒粒子が分離/保持されることをもたらす。それについての特徴は、体積流量のみでなく、触媒粒子の落下速度も媒体と触媒粒子との密度差および触媒直径に依存することである。傾斜沈降器の負荷を記述するために、液体の体積流量をラメラの投影面積によって除算し、これはm3/m2×時間、つまりm/時間での負荷をもたらす。本例において、このパラメータは約0.14m3/m2×時間である(密度800kg/m3、ラメラの面積700mm×50mm、傾斜角60°での投影面積)。
【0136】
反応混合物を減圧し、体積10Lを有する中間容器を介して塔を通過させる。このいわゆるメタクロレイン-メタノール回収塔(動作圧力1bar絶対)において、反応中に変換されなかったメタクロレインおよび過剰なメタノールが頂部で凝縮され、反応器に再循環される。
【0137】
塔底生成物は1000ppm未満のMAL含有率を有する粗製MMA、および反応の高沸点副生成物、特にメトキシイソ酪酸メチル(MMIB)およびメタクリル酸(MAA)を含有する。次いで粗製MMAを精製して、市販の品質および純度のMMAをもたらすことができる。
【0138】
定常状態において、変換率70%~72%が確立され、反応の選択率は、平均してMMAについて94.4%、メタクリル酸について3.0%、およびMMIBについて1.2%であり、それぞれの基準値は用いられたメタクロレインの量である。反応物(メタクロレイン)およびMMAの損失を含めると、オフガス中で、C4バランスは実質的に100%である。
【0139】
プラントのほぼ1000時間の稼働の運転時間にわたる変換率および選択率の推移を
図1に示す。9000時間を上回る合計時間にわたって長期の連続稼働を継続する場合、変換率および選択率も変化していない(しかし、明確化のために示されていない)。進行中の稼働の間、バイパス導管を介して触媒を定期的に取り出した。取り出された触媒スラリー試料から粒子サイズスペクトルを測定して、触媒システムの無損傷性を分析した。
図2は様々な稼働時点での触媒試料および粒子サイズ分析の顕微鏡写真である。「0時間」は新たな触媒を示す。本発明による稼働の場合、9000時間を上回る稼働時間にわたっても、触媒は機械的に無損傷のままであることが明らかである。
【0140】
本発明によれば、傾斜沈降器内での分級は最初のほぼ100時間の稼働時間にわたって反応器内に存在する触媒の減少をみちびき、その結果、メタクロレインの変換率が低下する。MAAおよびイソ酪酸メチルについての選択率とは異なり、MMAおよびMMIBについての選択率は影響されない。この理由は、一方では、より多くのイソ酪酸メチルを生成する(より活性な)微細画分の搬出であり、他方では、MAAについて反応マトリックス内の含水率が遅れて変化し、それが
図3に示されるようにMAAの選択率における変化をもたらすことである。意外なことに、
図3にも示されるとおり、ギ酸メチルについての選択率の低下も生じる。これは、ギ酸を形成する加水分解が減少するので反応のNaOH需要が低下し、オフガス流中のギ酸メチルの量が減少するなど、いくつかの利点を有する。ギ酸メチルは凝縮サイトでオフガスからの水と反応してギ酸およびメタノールを形成することによりオフガス凝縮物の腐食性を高めることがある。
【0141】
上述の連続反応からの反応器搬出物を定期的な間隔で採取し、傾斜沈降器を出てそこに存在する触媒の量を測定した。このために、反応媒体の試料を深さ1μmのフィルタを通じてろ過し、乾燥後に残留物を重量測定によって測定した。開始直後に、懸濁液は依然として約1200ppmの触媒濃度を有する。これはとりわけ、懸濁液のわずかな紫色から明らかである。触媒濃度は急速に減少し、約20の反応器体積の搬出後(反応時間80~100時間に相応)、約1ppmの漸近最小値に達した。次いで、採取を停止した。
【0142】
最後の試料の触媒を均質化し、その粒子サイズ分布に関してコールター法によって分析し、以前の状態から変化していないことが示された。
【0143】
本発明によれば、非常に小さな残留粒子のみが傾斜沈降器を介して搬出されることを確実にする分級の作用が観察できる。これは、ほぼ100時間後の安定な変換機能と合致する。従って、以下が実証された:
・ わずか数日の短い稼働時間にわたって、新たな触媒の破壊的な微細画分が反応器から効率的に搬出され、本発明の反応器による分級方式および触媒保持システムにおいて、
・ この搬出物は可能な限り回収されて引き続き微細フィルタに再循環されることができ、且つ
・ この始動および調整段階の後、変換率および定常状態の反応濃度は安定なままであるので、稼働パラメータを実質的に適合させることなく、後処理部分の問題のない稼働を可能にする。
【0144】
例4 a~f:
これらの例は動力入力および比動力入力が反応速度に及ぼす影響、およびその2つのパラメータが反応条件下での触媒の耐摩耗性に及ぼす影響を実験的に示す。
【0145】
自由内径200mmを有する20Lの攪拌槽内で、例3からの反応パラメータおよび例2からの触媒を用いて反応を実施した。実験の間の反応器内容物は、例3に示される組成を有する安定な13l(±2%)であった。
【0146】
反応器4にバッフル(幅: 20mm)を取り付け、攪拌機による漏斗の形成を防止し、気化された反応マトリックスのほぼ均一な表面を確実にした。
【0147】
直径120mmおよび6つの攪拌機ブレードを有するEkato Phasejet攪拌機(Ekatoのカタログから)を取り付けた。反応溶液の一部を混合物と共にフィルタキャンドルシステムを介して取り出し、メタノール/水の溶液および水酸化ナトリウム溶液でpH8.5に調整して反応器に戻して、反応器内のpHをpH7で安定に制御した。
【0148】
比動力入力を計算するために、Phasejetのニュートン数として1.3の文献値を使用し、レイノルズ数を特定した。
【0149】
攪拌機の速度を変化させ、これに関して攪拌機の相応の性能データを確認し、攪拌機の速度に従って計算した。結果を以下の表に報告する:
【表1】
【0150】
攪拌機の速度/攪拌機の軌道速度と、排出ガス中の生じる残留酸素含有率との間のそれらの相関を
図4に示す。軌道速度の尺度として、ここでいわゆる先端速度、つまり攪拌機のブレードの外側の先端での攪拌機の軌道速度を特定した。オフガス中の残留酸素量の増加から明らかなとおり、特定の攪拌速度未満への低下は反応の空時収率の減少を引き起こすことを導出できる。このレジームにおいては以前のような制限なく反応を実施可能であるが、このレジームにおいては、ガス拡散が制限されていることの結果として、空時収率における制限があり、つまりこの実験のセットアップでは気泡における滞留時間はもはや充分ではない。
【0151】
比較例4g:
例4gにおいては上述のセットアップ4a~fに従って連続反応を実施した。
【0152】
攪拌機を介した動力入力を、反応溶液1立方メートルあたり3kWを上回る比較的高い比動力入力に相応する攪拌機速度で確立した。反応を定常状態の変換率および一定の組成の反応マトリックスで稼働し、反応を500時間にわたって稼働し、反応の試料を100時間の間隔で取り出して触媒の摩耗および触媒粉末の無損傷性を評価した。実験結果を以下の表に報告する:
【表2】
【0153】
高い比動力入力の結果として、実験の持続時間が長くなるにつれて平均粒子直径が減少する。同時に、反応器内の微細粒子(直径20μm未満を有する粒子として任意に特定される)の測定される割合は連続的に増加する。実験の持続時間の終わり頃、500時間後にフィルタシステムが繰り返し閉塞し、それは反応器液を用いた衝撃の強い逆洗の繰り返しによってしか除去できなかったので実験は中止された。平均粒子直径の低下/微細画分の量の増加を
図5aおよび5bに示す。
【0154】
例5:
例4と同様の実行を選択した。種々の持続時間の間、実験の設定を稼働した。
【0155】
触媒懸濁液の平均粒子直径および微細画分(20μm未満の直径を有する、反応器内の粒子数)をそれぞれの設定の種々の持続時間で測定した。
【0156】
【0157】
前記の表から、低い動力入力では、触媒の平均粒子直径は100時間までの稼働時間で変化せず、同じことが微細粒子の割合に該当することが明らかである。2kW/m3までの動力入力で、触媒粒子の摩耗は存在しないか、著しく減少されているか、または低い。
【0158】
比較例V5-fおよびV5-gにおいては、500時間後の平均粒子直径が小さいことから明らかなとおり、摩耗は比較的高い。比較例について、金含有率をICPによって測定した(例2: Au含有触媒の製造を参照: 触媒の合成直後に測定された0℃の稼働時間での金含有率; 0.85質量%)。
【0159】
500時間および1000時間の合成時間後、実験V5-aの反応器試料を取り出し、Au含有率をICP分析によって測定した。0.84質量%の金濃度が500時間後と1000時間後の二重測定によって測定された。金含有率の増加が最小限であることは、触媒の摩耗が最小限であることを示す。判明した含有率の減少が最小限であることは、反応器システムからの微細画分の搬出が最小限であることによって説明され得る。実験終了後の反応器、攪拌機およびフィルタキャンドルの検査により、堆積物がないことが明らかになった。
【0160】
比較実験において500時間の合成時間後、それぞれの反応器試料を取り出し、Au含有率をICP分析によって測定した。例V5-gにおいて、0.76質量%の金の値が二重測定によって測定された。
【0161】
例V5-fにおいて、0.80質量%の金の値が500時間の合成時間後の二重測定によって測定された。
【0162】
500時間後の金含有率の相対的に明らかな減少は、触媒の摩耗が著しいことを示す。判明した含有率の減少は、攪拌機を介した比動力入力と明らかに相関する。実験終了後の反応器、攪拌機およびフィルタキャンドルの検査により、攪拌機上、特に攪拌機のブレードおよび分散要素上の金堆積物が明らかになった。
【0163】
【0164】
例6:
a. 本発明による: 領域Cに入る混合物の流れを静め且つ脱気するための領域B-1における内部構造物を有する
b. 比較例: 領域Cに入る混合物の流れを静め且つ脱気するための領域B-1における内部構造物を有さない。
【0165】
例6においては、例3におけるセットアップに従う実験のセットアップおよび反応器を選択した。それとは異なり、直径150mmを有し且つ1つのシャフト上に取り付けられた3つのEkato Combijet攪拌機を含む攪拌機システムを選択した。1つの攪拌機は複数の攪拌機のブレードからなり、且つ取り付けは、振動を最小化し且つスムーズな運転を確実にするために攪拌機のブレードのオフセットが考慮されている。比動力入力を計算するために、0.7のニュートン数が仮定された。従って、例1に比して、動力入力は著しく減少されている。10個の孔を含むガス導入リング(スパージャー)を下方のCombijet攪拌機のブレードの下に取り付けて、空気の導入およびガスの拡散を確実にした。スパージャーは直径120mmを有した。
【0166】
攪拌機の速度を、前記式に従う比動力入力が反応液1m3あたり0.1kWであるように調整した。約130kgの一定の反応体積で、反応器からの75kg/hの搬出が確立された。反応器出口、傾斜沈降器出口の下流および二次デプスフィルタの上流で、ろ液を混濁度測定手段に通して、固形分含有率の光学的な定量化を可能にした。
【0167】
各々のラメラプロファイル(8つの長方形のプロファイル、各々、長さ700mm、高さ20mm、および幅50mm)は、ラメラの出口で、プロファイルの断面積1000m2に対して出口孔面積0.3%に相応する半径0.95mmを有する微細孔を備えた。
【0168】
例2による触媒を装入し、15質量%の触媒画分、つまり定常状態の反応器の充填レベル130kg(約150Lの体積)で20.5kgの触媒粉末を使用した。反応混合物が方向転換される領域Bにおける円錐形の供給部分は、上部に長さ20cm(高さ、幅、長さ=200mm、20mm、20mm)の流管を備える。稼働方式および構成をCFDシミュレーションによって分析して、領域B-1における下向きの流れが気泡の上昇速度よりも著しく遅いことを確実にした。これは下降管(領域B-3)に二相懸濁液が上から供給されることを確実にする。二相懸濁液は多かれ少なかれ気泡不含であり、溶解された気体成分および不均一触媒のみを含有する定常状態の反応溶液からなる。領域B-3(下降管)において、傾斜沈降器の管要素に懸濁液が供給される。粒子サイズスペクトルの分析によれば、新たに用いられた触媒の微細画分は、20μm未満の平均直径を有する粒子が3.5体積%であり、その1.0体積%が10μm未満であった。
【0169】
結果6a:
150時間後: 反応器およびラメラ充填材の出口での混濁度測定によって測定された反応器搬出物は、最初の150時間にわたってまず触媒搬出物約700ppmから、1~2ppmへと低下した(150時間の稼働時間後の搬出 0.5g未満の触媒/時間に相応)。
【0170】
MMA選択率: 95.2%、MAL変換率: 72%。
【0171】
この期間にわたって、1ppmのデプスフィルタを3回交換する必要があった。フィルタの後処理の後、123gの微細触媒材料が回収され、貴金属の後処理に送られた。
【0172】
150時間後、反応器試料は、20μm未満の粒子の微細画分1質量%未満(懸濁液試料中の総固形分割合に対する)を有し、粒子の残りの割合は0.1質量%未満であった。
【0173】
700時間後: 反応器およびラメラ充填材の出口での混濁度測定によって測定された反応器搬出物は、500時間の反応時間にわたって約1ppmに低下した(0.2g未満の触媒/時間の搬出に相応し、それは混濁度測定の精度および信頼性に相応する)。取り出された試料は、20分の静置時間後に固体の沈降または堆積を示さず、それは超微細粒子/試料が粒子不含であったことを示す。
【0174】
MMA選択率: 95.2%、MAL変換率: 71%。
【0175】
この期間の間、1ppmのデプスフィルタを1回交換する必要があった。フィルタの後処理の後、53gの微細触媒材料が回収され、貴金属の後処理に送られた。
【0176】
700時間後、反応器試料は、20μm未満の粒子の微細画分0.2質量%未満(懸濁液試料中の総固形分に対する)を有し、10μm未満の粒子の残りの割合は検出限界未満であった。
【0177】
3000時間後: 700時間後と変わらない選択率および変換率。
【0178】
この期間の間、1ppmのデプスフィルタを1回交換する必要があった。フィルタの後処理の後、15gの微細触媒材料が回収され、貴金属の後処理に送られた。
【0179】
3000時間後、反応器試料は、20μm未満の粒子の微細画分0.1質量%未満(懸濁液試料中の総固形分に対する)を有し、10μm未満の粒子の残りの割合は検出限界未満であった。
【0180】
結論: 3000時間の実験持続時間にわたる長期的な実験6aは、
a.) 本発明による実施態様の安定な長期稼働を示し、且つ
b.) (不完全なふるい分けの場合の)触媒製造からの微細画分が分離され、且つ効率的に回収されることができ、
c.) 反応システムへの低い動力入力は、触媒性能または空時収率を低下させることなく触媒の摩耗を効果的に最小化/防止することを可能にする
ことを示す。
【0181】
6bについては、実験を同様に繰り返したが、領域B-1における内部構造物は用いられなかった。反応は最初の150時間の変換率および選択性で正常に進行したが、引き続き低下が観察された。これは約5~10倍多い量の固形分搬出/傾斜沈降器を通過する固形分と一致した。約700時間後には触媒量の11%が反応器から溶出していた。実験は原則的に稼働可能であったが、この形態において長期的に経済的且つ安全に稼働可能ではなかったであろう。CFDシミュレーションにより、ラメラ、およびラメラの細長い入口領域における不規則な流れのプロファイルが確認され、従って分離/沈降領域が減少する。
【国際調査報告】