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特表2024-520518熱伝導性電気絶縁フィルム及びそれを備えたバッテリーパック
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  • 特表-熱伝導性電気絶縁フィルム及びそれを備えたバッテリーパック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】熱伝導性電気絶縁フィルム及びそれを備えたバッテリーパック
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20240517BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240517BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20240517BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20240517BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20240517BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20240517BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C08L101/00
C08K3/013
C08K3/04
C08K3/22
C08K3/38
C08K3/34
C08K3/28
C08L23/10
C08K3/016
H01M10/6554
H01M10/653
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573279
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 US2022031242
(87)【国際公開番号】W WO2022251566
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】202110584016.1
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202210404208.4
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591203428
【氏名又は名称】イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】ファンリャン モン
【テーマコード(参考)】
4J002
5H031
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BB111
4J002BP021
4J002DA016
4J002DA026
4J002DE077
4J002DE107
4J002DE147
4J002DF018
4J002DJ008
4J002DK008
4J002FD139
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002GQ01
5H031KK01
(57)【要約】
本願は、熱伝導性電気絶縁フィルムであって、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の15%~50%を占める熱可塑性樹脂と、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の40%~70%を占める熱伝導性充填剤とを備え、熱伝導性充填剤は、熱伝導性炭素系充填剤、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤、及び熱伝導性セラミック充填剤を含む、熱伝導性電気絶縁フィルムを開示する。熱伝導性電気絶縁フィルムは、電子製品及びデバイスに優れた放熱能力を付与するのみならず電子製品及びデバイスの絶縁性要件を満たすために電子製品又はデバイスに使用される。一方、そのような熱伝導性電気絶縁フィルムは、動作環境の要件を満たすために、優れた難燃性及び機械的特性を更に特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性電気絶縁フィルムであって、
該熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の15%~50%を占める熱可塑性樹脂と、
該熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の40%~70%を占める熱伝導性充填剤と、
を備え、
前記熱伝導性充填剤は、熱伝導性炭素系充填剤、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤、及び熱伝導性セラミック充填剤を含む、熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項2】
前記熱伝導性炭素系充填剤は、前記熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の2%~15%を占める、請求項1に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項3】
前記熱伝導性炭素系充填剤は、前記熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の10%~15%を占める、請求項2に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項4】
前記熱伝導性炭素系充填剤は、グラファイト、カーボンナノチューブ、及びグラフェンから選択される1つ以上の充填剤である、請求項1に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項5】
前記グラファイトは、片状グラファイト及び膨張化グラファイトから選択される少なくとも1つのグラファイトである、請求項4に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項6】
前記熱伝導性炭素系充填剤は、片状グラファイトである、請求項5に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項7】
前記グラファイトは、10nm~200μmの範囲の粒径を有し、前記カーボンナノチューブは、2nm~200nmの範囲の直径を有し、前記グラフェンは、500~8000の範囲の直径対厚さ比を有する、請求項4に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項8】
前記熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、前記熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の5%~55%を占める、請求項1に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項9】
前記熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、前記熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の20%~50%を占める、請求項8に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項10】
前記熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムから選択される1つ以上の充填剤を含む、請求項1に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項11】
前記熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は粒状である、請求項10に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項12】
前記熱伝導性セラミック充填剤は、前記熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の2%~50%を占める、請求項1に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項13】
前記熱伝導性セラミック充填剤は、前記熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の5%~40%を占める、請求項12に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項14】
前記熱伝導性セラミック充填剤は、窒化ホウ素、炭化ケイ素、及び窒化アルミニウムから選択される1つ以上の充填剤を含む、請求項1に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項15】
前記熱伝導性セラミック充填剤は片状又は球状である、請求項14に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂はポリプロピレン樹脂である、請求項1に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項17】
前記熱伝導性電気絶縁フィルムは、前記熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の10%~45%を占める難燃剤を更に備える、請求項1に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項18】
前記難燃剤は、リン/窒素含有難燃剤、リン/窒素/ケイ素含有難燃剤、及び臭素化難燃剤から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項17に記載の熱伝導性電気絶縁フィルム。
【請求項19】
底壁と側壁とを備えたバッテリーパックハウジングと、
前記バッテリーパックハウジングの内側に配設されたバッテリーパックモジュールと、
前記バッテリーパックモジュールと前記バッテリーパックハウジングの前記底壁及び前記側壁のうち少なくとも1つとの間に配設された熱伝導性電気絶縁フィルムと、
を備え、
前記熱伝導性電気絶縁フィルムは、請求項1~18のいずれか1項に記載の熱伝導性電気絶縁フィルムである、バッテリーパック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、薄膜の分野に関し、特に、熱伝導性電気絶縁フィルム、及びその熱伝導性電気絶縁フィルムを備えたバッテリーパックに関する。
【背景技術】
【0002】
電子製品又はデバイスは、動作中に大量の熱を生じる。電子製品及びデバイスの動作安定性を確保し、それらの耐用年数を延ばすことを目的として、電子製品又はデバイスは、優れた放熱能力を有することが望ましい。電子製品及びデバイスに優れた放熱能力を付与するために、電子製品及びデバイスにおいては熱伝導性材料が使用される。熱伝導性材料が電子製品及びデバイスに使用されることから、熱伝導性材料は優れた電気絶縁性能も有することが望ましい。
【発明の概要】
【0003】
本願の目的は、電子製品及びデバイスに優れた放熱能力を付与するのみならず電子製品及びデバイスの絶縁性要件を満たすために電子製品又はデバイスに使用する熱伝導性電気絶縁フィルムを提供することである。一方、そのような熱伝導性電気絶縁フィルムは、動作環境の要件を満たすために、優れた難燃性及び機械的特性を更に特徴とする。
【0004】
第1の態様において、本願は、熱伝導性電気絶縁フィルムであって、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の15%~50%を占める熱可塑性樹脂と、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の40%~70%を占める熱伝導性充填剤とを備え、熱伝導性充填剤は、熱伝導性炭素系充填剤、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤、及び熱伝導性セラミック充填剤を含む、熱伝導性電気絶縁フィルムを提供する。
【0005】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性炭素系充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の2%~15%を占める。
【0006】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性炭素系充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の10%~15%を占める。
【0007】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性炭素系充填剤は、グラファイト、カーボンナノチューブ、及びグラフェンから選択される1つ以上の充填剤である。
【0008】
前述の第1の態様によれば、グラファイトは、片状グラファイト及び膨張化グラファイトから選択される少なくとも1つのグラファイトである。
【0009】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性炭素系充填剤は、片状グラファイトである。
【0010】
前述の第1の態様によれば、グラファイトは、10nm~200μmの範囲の粒径を有し、カーボンナノチューブは、2nm~200nmの範囲の直径を有し、グラフェンは、500~8000の範囲の直径対厚さ比を有する。
【0011】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の5%~55%を占める。
【0012】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の20%~50%を占める。
【0013】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムから選択される1つ以上の充填剤を含む。
【0014】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は粒状である。
【0015】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性セラミック充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の2%~50%を占める。
【0016】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性セラミック充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の5%~40%を占める。
【0017】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性セラミック充填剤は、窒化ホウ素、炭化ケイ素、及び窒化アルミニウムから選択される1つ以上の充填剤を含む。
【0018】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性セラミック充填剤は片状又は球状である。
【0019】
前述の第1の態様によれば、熱可塑性樹脂はポリプロピレン樹脂である。
【0020】
前述の第1の態様によれば、熱伝導性電気絶縁フィルムは、熱伝導性電気絶縁フィルムの重量の10%~45%を占める難燃剤を更に備える。
【0021】
前述の第1の態様によれば、難燃剤は、リン/窒素含有難燃剤、リン/窒素/ケイ素含有難燃剤、及び臭素化難燃剤から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0022】
第2の態様において、本願は、底壁と側壁とを備えたバッテリーパックハウジングと、バッテリーパックハウジングの内側に配設されたバッテリーパックモジュールと、バッテリーパックモジュールとバッテリーパックハウジングの底壁及び側壁のうち少なくとも1つとの間に配設された熱伝導性電気絶縁フィルムとを備え、熱伝導性電気絶縁フィルムは、第1の態様に記載の熱伝導性電気絶縁フィルムである、バッテリーパックを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本願による熱伝導性電気絶縁フィルムを備えたバッテリーパックの1つの実施形態についての概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願の様々な実施形態について、本明細書の一部を構成する添付の図面を参照して以下で説明する。本明細書において使用される、「前」、「後」、「上方」、「下方」、「左」、「右」、「上」、「底」、「内側」、「外側」等の方向を示す用語は、本願の様々な例示的な構造部品及び要素を示すが、これらの用語は、説明の便宜のために本明細書において使用されるものであり、添付の図面において示される例示的な方向に基づいて決定されることを理解されたい。本明細書において開示される実施形態は、異なる方向に配設され得ることから、方向を示すこれらの用語は、例証的な目的を意図しており、限定として解釈されるべきではない。
【0025】
本願においては、別段の指定がない限り、全てのデバイス及び原料は、市販されているか、又は当該技術分野において一般的に使用されている。別段の指定がない限り、以下の実施形態において言及される方法は、当該技術分野において一般的な方法である。
【0026】
本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、熱可塑性樹脂と熱伝導性充填剤とを備える。熱可塑性樹脂は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の15%~50%を占め、熱伝導性充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の40%~70%を占める。いくつかの実施形態において、熱可塑性樹脂は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の17.5%~32.5%を占める。いくつかの実施形態において、熱伝導性充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の40%~65%を占める。ここで、熱伝導性充填剤は、熱伝導性炭素系充填剤、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤、及び熱伝導性セラミック充填剤の3つのタイプを含む。
【0027】
熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン樹脂である。ここで、ポリプロピレン樹脂は、0.1g/10分~100g/10分(230℃、2.16kg)のメルトフローインデックスを有する単独重合又は共重合ポリプロピレンである。他の実施形態においては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等の他の熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0028】
熱伝導性炭素系充填剤は、グラファイト、カーボンナノチューブ、及びグラフェンから選択される1つ以上の充填剤である。ここで、グラファイトは、片状グラファイト及び膨張化グラファイトから選択される少なくとも1つのグラファイトである。グラファイトは、10nm~200μmの範囲の粒径を有し、カーボンナノチューブは、2nm~200nmの範囲の直径を有し、グラフェンは、500~8000の範囲の直径対厚さ比を有する。いくつかの実施形態において、熱伝導性炭素系充填剤は、片状グラファイトである。熱伝導性炭素系充填剤を添加することにより、熱伝導性電気絶縁フィルムに優れた熱伝導能力が付与される。しかし、熱伝導性炭素系充填剤は電気伝導特性を有することから、絶縁性が要求される製品に熱伝導性炭素系充填剤を添加することは一般的に考えられていない。驚くべきことに、本願の発明者らは、熱伝導性炭素系充填剤の量を熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の2%~15%に制御することによって、熱伝導性電気絶縁フィルムが優れた熱伝導性能及び良好な電気絶縁性能を有することが可能になることを見出した。いくつかの実施形態において、熱伝導性炭素系充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の10%~15%を占める。
【0029】
熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の5%~55%を占める。いくつかの実施形態において、熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の20%~50%を占める。熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムから選択される1つ以上の充填剤を含む。熱伝導性金属酸化物又は水酸化物充填剤は粒状である。
【0030】
熱伝導性セラミック充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の2%~50%を占める。いくつかの実施形態において、熱伝導性セラミック充填剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の5%~40%を占める。熱伝導性セラミック充填剤は、窒化ホウ素、炭化ケイ素、及び窒化アルミニウムから選択される1つ以上の充填剤である。熱伝導性セラミック充填剤は、片状又は球状である。熱伝導性セラミック充填剤は、優れた熱伝導性能を有するため、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムに優れた熱伝導性能を付与する。
【0031】
いくつかの実施形態において、難燃性要件に応じて、熱伝導性電気絶縁フィルムは、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の10%~45%を占める難燃剤を更に備える。いくつかの実施形態において、難燃剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の10%~26%を占める。いくつかの実施形態において、難燃剤は、リン/窒素含有難燃剤、リン/窒素/ケイ素含有難燃剤、及び臭素化難燃剤から選択される少なくとも1つの化合物である。いくつかの実施形態において、難燃剤は、補助難燃剤を更に備え、補助難燃剤は、三酸化アンチモン及びホウ酸塩から選択される1つ以上の化合物である。本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、1012Ω・m以下の表面抵抗率を有する。
【0032】
いくつかの実施形態において、熱伝導性電気絶縁フィルムは、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量に対する重量パーセントで表される以下の化合物、すなわち、0%~10%の強靭化剤、0%~5%の相溶化剤、0.1%~1%の潤滑剤、0%~1.5%の酸化防止剤、及び0%~2%のトナーのうちの1つ以上を必要に応じて更に備える。いくつかの実施形態において、相溶化剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の0%~3%を占める。いくつかの実施形態において、潤滑剤は、熱伝導性電気絶縁フィルムの総重量の0.2%~0.5%を占める。強靭化剤は、プロピレン系エラストマー、スチレン系エラストマー(水素化ポリ(スチレン-b-イソプレン)、水素化ポリ(スチレン-b-ブタジエン-b-スチレン)、水素化ポリ(スチレン-b-イソプレン-b-スチレン)、及び水素化ポリ(スチレン-b-イソプレン/ブタジエン-b-スチレン)等)、共重合ポリオレフィンエラストマー(エテン-オクテンコポリマー、エテン-ブテンコポリマー、エテン-ヘキセンコポリマー等)、及びポリエチレンから選択される1つ以上の化合物を含む。相溶化剤は、アルキルシランカップリング剤、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、及び無水マレイン酸グラフトポリオレフィンエラストマー(POE)から選択される1つ以上の化合物を含む。潤滑剤は、シリコン系潤滑剤、アミド系潤滑剤、ステアリン酸系潤滑剤、及びポリテトラフルオロエチレンから選択される1つ以上の化合物を含む。酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、及び硫黄含有酸化防止剤から選択される1つ以上の化合物を含む。上述したように、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムに使用される熱伝導性炭素系充填剤、熱伝導性粒状金属酸化物又は水酸化物充填剤、及び熱伝導性片状セラミック充填剤は、優れた熱伝導性能を有するため、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムも優れた熱伝導性能を有する。
【0033】
さらに、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムの熱伝導性能は、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムに使用される3つの熱伝導性充填剤の相乗作用によって更に改善される。具体的には、本願の発明者らは、熱伝導性片状セラミック充填剤が、熱伝導性炭素系充填剤を熱伝導性粒状金属酸化物又は水酸化物充填剤と接続して、熱伝導性電気絶縁フィルムの内側に熱伝導チャネルを形成することができ、これにより、熱伝導性電気絶縁フィルムの熱伝導性能が更に改善されることを見出した。熱伝導性球状セラミック充填剤は、熱伝導性片状セラミック充填剤の結晶成長方向を制御することによって形成される。熱伝導性球状セラミック充填剤は熱伝導性片状セラミック充填剤から得られることから、熱伝導性球状セラミック充填剤は、熱伝導性片状セラミック充填剤の前述の利点を示す。加えて、熱伝導性球状セラミック充填剤は等方性であることから、熱伝導性球状セラミック充填剤はまた、片状面に沿った熱伝導を促進して、熱伝導性電気絶縁フィルムの熱伝導性能を更に改善する。
【0034】
さらに、本願の熱伝導性充填剤の選択により、熱伝導性電気絶縁フィルムは、低減された量の熱伝導性充填剤を使用した場合であっても、優れた熱伝導性能を有することが確実となる。本願の熱伝導性電気絶縁フィルムの熱伝導率は、1W/m・K~1.46W/m・Kに達する。
【0035】
さらに、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、優れた熱伝導性能を有し、低減された量の熱伝導性充填剤を含有することから、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、改善された機械的特性を有する。本願の発明者らは、熱可塑性樹脂を使用して熱伝導性能に優れたフィルムを調製するためには、大量の熱伝導性充填剤が必要であることを見出した。熱伝導性充填剤の使用量が多いほど、また、熱可塑性樹脂の使用量が少ないほど、熱伝導性電気絶縁フィルムの機械的特性は悪くなる。熱伝導性充填剤の選択を通じて、低減された量の熱伝導性充填剤を本願の熱伝導性電気絶縁フィルムに使用することができ、それにより、熱伝導性電気絶縁フィルム中の熱可塑性樹脂の割合を高めることができる。したがって、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、改善された機械的特性を有し、特に、優れた引張伸度及び破断伸度を示す。本願の熱伝導性電気絶縁フィルムの改善された機械的特性により、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、包装、輸送(例えば、貯蔵及び輸送のためにロール状に巻かれる場合)、及び電子製品及びデバイスの製造業者による最終成形(例えば、電子製品及びデバイスに使用するために折り畳まれ、切断され、形成される場合)の間に壊れることがない。例えば、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、優れた強靭性(tenacity)を有し、その結果、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、いかなる損傷もなく、成形の過程で5回折り畳むことができる。
【0036】
本願の熱伝導性電気絶縁フィルムの優れた熱伝導性能により、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムが電子製品又はデバイスに使用される場合、熱伝導性接着剤を適用する必要なく、熱伝導性電気絶縁フィルムを電子製品又はデバイスに直接積層することができる。したがって、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、使用が便利であり、コストを節約し、電子製品及びデバイスの重量及びサイズを低減するのに役立つ。
【0037】
加えて、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、一般的なキャスティングフィルムプロセスによって製造することができるため、製造プロセスは単純である。
【0038】
本願の熱伝導性電気絶縁フィルムの有益な効果について、具体的な実施例の熱伝導性電気絶縁フィルムサンプル及び比較例のフィルムサンプルを参照して以下で説明する。表1は、本願の実施例及び比較例のフィルムサンプルの様々な成分の含有量を示し、表2は、実施例及び比較例のフィルムサンプルの性能データを示す。
【0039】
表1の実施例及び比較例のフィルムサンプルは、以下の方法で調製した。様々な成分の原料を、表1の成分の含有量に従って秤量し、高速ミキサーに投入し、2000回転/分の回転速度で3分間にわたって混合した。混合した原料を二軸押出機に投入し、押し出し、冷却し、造粒した。二軸押出機の温度を180℃~230℃に設定し、スクリューの回転速度を300回転/分に設定した。得られた粒状の材料を乾燥させ、フィルム状に押し出し、性能試験用の標準試験片に切断した。熱伝導性試験用のサンプルを、フラットパネル加硫機を使用して220度で圧縮成形した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1において、PP樹脂は、約160℃の融点を有する共重合ポリプロピレン樹脂であり、強靭化剤は、エテン-オクテンコポリマーであり、相溶化剤は、アルキルシランカップリング剤であり、難燃剤は、フェニルエーテル臭素化難燃剤であり、グラファイトは、1μm~50μmの粒径を有する表面アルキル化片状グラファイトであり、酸化アルミニウムは、5μm~20μmの粒径を有する表面アルキル化球状酸化アルミニウムであり、酸化マグネシウムは、5μm~30μmの粒径を有する球状酸化マグネシウムであり、窒化ホウ素は、片状窒化ホウ素であり、酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系安定剤であり、潤滑剤は、ステアリン酸塩であった。
【0042】
【表2】
【0043】
前述の表1及び表2から、比較例のフィルムに添加された熱伝導性充填剤の量は60%であり、PP樹脂の量は18.3%であり、熱伝導性材料は酸化マグネシウムを含むのみであり、比較例のフィルムの熱伝導性は、最大0.94W/m・Kであったが、その引張降伏強度はわずか16.3MPaであり、その破断伸度はわずか9.2%であったことが分かる。これは、比較例のフィルムが熱伝導性の要件を満たしたが、その機械的特性が不十分であったことを示す。
【0044】
本願の様々な実施例においては、3つのタイプの熱伝導性充填剤を使用することによって、フィルムの熱伝導性を比較例の熱伝導性とほぼ同等以上のレベルに維持することができた。熱伝導性充填剤の含有量の増加に伴い、フィルムの熱伝導性もそれに応じて高まった。実施例1、2、4、5、7、及び8においては、使用された熱伝導性充填剤の量が比較例よりも少なかったが、比較例と同等以上の熱伝導性能が得られた。大量の熱伝導性充填剤を使用した実施例3及び6(実施例3においては64.6%、実施例6においては62%)においては、フィルムの熱伝導性は更に高いものであった。
【0045】
一方、実施例における熱伝導性充填剤の量は比較例よりも少なかったことから、実施例のフィルムにはより大量のPP樹脂を使用することができた。表2に示されているように、PP樹脂の量が増加するにつれて、実施例のフィルムの機械的特性は改善された。例えば、引張降伏強度及び破断伸度は、比較例のものよりも明らかに良好であり、実施例のフィルムがより良好な強靭性を示したことを示している。PP樹脂の量が比較例よりも少ない実施例3においても、強靭化剤及び相溶化剤を添加することによって、フィルムは比較例よりもわずかに良好な機械的特性を示した。
【0046】
また、表2に示されているように、熱伝導性添加剤として片状グラファイトを使用したが、実施例の熱伝導性電気絶縁フィルムは、依然として比較例のフィルムと同等の電気絶縁性能を示した。加えて、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、比較例と比べてより良好な難燃性能及び電圧破壊性能を示した。表2に示されているように、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、比較例のフィルムよりも良好な全体的性能を提供し、その単位体積当たりのフィルム重量もより軽く、電子製品及びデバイスにおける小型化及び軽量化への開発傾向に適合させた。
【0047】
本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、電子製品及びデバイスからの熱の放散に役立てるために、様々な電子製品及びデバイスに使用することができる。そのような電子製品又はデバイスは、バッテリーパック、ノートブックコンピューター、及びコンピューター用の電源アダプターであり得る。
【0048】
図1は、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムを備えたバッテリーパックの1つの実施形態についての概略構造図であり、熱伝導性電気絶縁フィルムの位置をより良好に示すために、バッテリーパックの部分的な分解構造のみが示されている。図1に示されているように、バッテリーパック100は、複数のバッテリーユニット101を備えたバッテリーパックモジュール120と、バッテリーパックハウジング110とを備える。バッテリーパックハウジング110は、対向して配置された上壁(図示せず)及び底壁105と、上壁及び底壁105を取り囲んで接続する4つの側壁106とを備える。バッテリーパックモジュール120は、上壁、底壁105、及び側壁106によって画定されたハウジングキャビティ108内に収容される。各バッテリーユニット101は、個別の接続端子103を有する。これらのバッテリーユニット101の個々の接続端子103は、所定の回路に従って電気的に接続され、そして、これらのバッテリーユニットは、バッテリーパックハウジング110上の主接続端子(図示せず)を介して給電及び/又は充電することができる。
【0049】
熱伝導性電気絶縁フィルム112は、バッテリーパックモジュール120とバッテリーパックハウジング110の底壁105との間に配設される。熱伝導性電気絶縁フィルム112を通して、動作中にバッテリーパックモジュール120から発生した熱エネルギーは、バッテリーパックハウジング110のハウジングキャビティ108内に蓄積するのではなく、バッテリーパックハウジング110の底壁105を介して外部環境へ適時に放散することができる。
【0050】
図1に示されている実施例においては、熱伝導性電気絶縁フィルム112は、バッテリーパックモジュール120とバッテリーパックハウジング110の底壁105との間に配設されているが、空間設計及び熱放散の実際の必要に基づいて、バッテリーパックモジュール120とバッテリーパックハウジング110の側壁106との間に配設することもできることに留意すべきである。
【0051】
最後に、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムは、様々な有益な技術的効果を有し、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムの少なくとも一部の技術的効果を以下に列挙する。
【0052】
1.優れた熱伝導性能は、電子製品及びデバイスの熱伝導及び熱放散の要件を満たす。
【0053】
2.優れた機械的特性は、電子製品及びデバイスの製造業者による輸送、包装、及び加工中に壊れないようにする。
【0054】
3.優れた電気絶縁性能は、電子製品及びデバイスの絶縁性要件を満たす。
【0055】
4.製造プロセスが単純である。
【0056】
5.使用が便利であり、コストを節約し、電子製品及びデバイスの重量及びサイズを低減するのに役立つ。
【0057】
6.その単位体積当たりのフィルム重量もより軽量であり、電子製品及びデバイスにおける小型化及び軽量化への開発傾向に適合する。
【0058】
本願は、添付の図面に示されている特定の実施形態を参照して説明されるが、本願の教示の趣旨、範囲、及び文脈から逸脱することなく、本願の熱伝導性電気絶縁フィルムに対していくつかの改変を行うことができることを理解されたい。当業者は、本願において開示される実施形態の構造を変更するための異なる方法が、本願及び特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に入ることを認識するであろう。
図1
【国際調査報告】