IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハワード ユニバーシティの特許一覧

特表2024-520524短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法
<>
  • 特表-短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法 図1
  • 特表-短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法 図2
  • 特表-短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法 図3
  • 特表-短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法 図4
  • 特表-短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法 図5
  • 特表-短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法 図6
  • 特表-短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、および抗ウイルス剤としての使用のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240517BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/7115 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240517BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K48/00
A61P31/22
A61P43/00 111
A61K31/7105
A61K31/711
A61K31/7115
A61K9/14
A61K47/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573329
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 US2022031327
(87)【国際公開番号】W WO2022251622
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/194,326
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511105953
【氏名又は名称】ハワード ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】タン, チーイ
(72)【発明者】
【氏名】チュー, ホア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA95
4C076CC35
4C076EE23
4C076EE25
4C076FF70
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB33
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC41
(57)【要約】
本開示は、短鎖相補的RNA(scRNA)、短鎖相補的RNA(scRNA)を含む組成物、とそのような短鎖相補的RNAを抗ウイルス剤として使用する方法を提供する。本開示は、より具体的な実施形態において、1本鎖であって、約20~30ヌクレオチド(nt)長の、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の主要な即時型(MIE)遺伝子等の必須ウイルス遺伝子のイントロンに対して相補的であるscRNAを提供する。また、本明細書では、医薬的に許容される担体系をさらに備える医薬組成物を提供し、この担体系は、エンドソームのpHに反応してscRNAを放出するカチオン性ポリマーを備える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本鎖核酸分子であって、
1つ以上のポリピリミジン(Py)トラクトを含むウイルスmRNAのイントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列を備え、
前記核酸分子は、前記ポリピリミジン(Py)トラクトのうち1つ以上を含むイントロン配列の領域にハイブリダイズすることができる、1本鎖核酸分子。
【請求項2】
前記ウイルスmRNAは、HCMV MIE遺伝子由来である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記イントロン配列は、前記HCMV MIE遺伝子の4番目のイントロンである、請求項2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記核酸分子は、HCMV感染細胞に導入されると、HCMV IE2のスプライシングと発現を阻害することができる、請求項3に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記イントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列は、10~100ヌクレオチド長である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記イントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列は、10~50ヌクレオチド長である、請求項5に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記イントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列は、配列5’-cacgccugugaaaccguacuaagucucccgugucuucuuaucaccaucag-3’を有する、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記イントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列は、配列5’-cacgccugugaaaccguacuaagucucccgugucuucuuaucaccaucag-3’と90%以上の配列同一性を持つ配列を有する、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の核酸分子を備える組成物であって、
前記組成物は、送達ビヒクルをさらに備える、組成物。
【請求項10】
前記送達ビヒクルは、ポリマーを備える、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリマーは、カチオン性ポリマーを備える、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記送達ビヒクルは、送達粒子である、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
前記送達粒子は、前記核酸分子と少なくとも1つのポリマーとを備えるコア構造を有し、
前記送達粒子は、前記コア構造を包む少なくとも1つのラッピング層をさらに備える、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記コア構造は、前記核酸分子、ポリエチレンイミン(PEI)、とポリスペルミンイミダゾール4,5-イミン(PSI)とを備える、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記少なくとも1つのラッピング層は、親水性ポリマーを備える、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記送達粒子は、標的化部分を備える、請求項12に記載の組成物。
【請求項18】
前記標的化部分は、前記送達粒子をHCMV感染細胞に標的化する、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記標的化部分は、CX3CL1またはその変異体もしくは誘導体である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記核酸分子は、修飾塩基、塩基類似体、と脱塩基部位のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項21】
前記核酸分子は、DNA、RNA、またはDNAとRNAの両方を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項22】
前記核酸分子は、短い相補的RNA(scRNA)である、請求項21に記載の核酸。
【請求項23】
前記核酸分子は、異種分子に結合している、請求項1~8および20~22のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項24】
ヘルペスウイルス感染症、好ましくはHCMV感染症を治療するための方法であって、
請求項1~8および20~22のいずれか1項に記載の核酸分子を、それを必要とする被験体に投与することを備える、方法。
【請求項25】
ヘルペスウイルス感染症、好ましくはHCMV感染症を治療するための方法であって、
請求項9~19のいずれか1項に記載の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを備える、方法。
【請求項26】
転写スイッチングを阻害する方法であって、
請求項1~8および20~22のいずれか1項に記載の核酸をウイルスmRNAと接触させることを備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府の支援による研究または開発に関する声明)
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)による助成金番号SC1112785によって、その一部が支援されたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0002】
(配列表)
本出願は、配列表を含み、その内容を参照によって援用する。
【0003】
本開示は、概して、RNA(scRNA)(これに限定されない)等の短鎖相補的核酸、短鎖相補的核酸を含む組成物、およびscRNAを含む短鎖相補的核酸を抗ウイルス剤として使用する方法に関する。
【0004】
また、本開示は、より具体的な実施形態において、1本鎖であり、約20~30ヌクレオチド(nt)長を有する、必須ウイルス遺伝子(例えば、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の主要即時型(MIE)遺伝子等)のイントロンに相補的である、scRNAを含む短鎖相補的核酸を提供する。
【0005】
また、本明細書において、scRNAを含むこのような短鎖相補的核酸を含む医薬組成物を提供する。これらの医薬組成物は、さらに、薬学的に許容される送達システムを含む。より具体的な実施形態において、このような送達システムは、エンドソームpHに反応してscRNAを放出するカチオン性ポリマーを含む。
【背景技術】
【0006】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染は、新生児の先天性疾患の主要な感染原因である。先天性HCMV感染は、永続的な神経障害および神経認知障害を引き起こすため、世界的に重大な健康問題となっている。Kirby et al.(“Congenital cytomegalovirus-a neglected health problem、”Lancet Infect.Dis.、2016、 16(8):900-1)、Boeckh et al.(“Cytomegalovirus:pathogen、paradigm、and puzzle、”J.Clin.Invest.、2011、121(5):1673-80)、Cannon et al.(Congenital cytomegalovirus(CMV) epidemiology and awareness、J Clin.Virol.、2009、46 Suppl 4:S6-10)、Bale et al.(Fetal infections and brain development、”Clin. Perinatol.、2009、36(3):639-53)、および、Britt et al.(“Controversies in the natural history of congenital human cytomegalovirus infection:the paradox of infection and disease in offspring of women with immunity prior to pregnancy、”Med.Microbiol.Immunol.、2015、204(3):263-71)を参照。一般的に、HCMVは、多くの人に感染し、免疫不全者にとっては高い罹患率と死亡率の原因となっている。Sweet et al.(“The pathogenicity of cytomegalovirus、”FEMS Microbiol.Rev.、1999、23(4):457-82)、Landolfo et al.(“The human cytomegalovirus、”Pharmacol.Ther.、2003、98(3):269-97)、および、Mocarski et al.(“Cytomegaloviruses、”2006、5th Edition、D.M.Knipe and P.M.Howley(ed.)、Philadelphia:Lippincott Williams&Wilkins)を参照。現在、利用できるワクチンはない。
【0007】
HCMV感染の一般的な治療法には、ウイルスのDNA複製をターゲットとする2’-デオキシグアノシン(およびその誘導体)の合成非環式類似体と、CMVターミナーゼ複合体を標的とする低分子量化合物とを含む。Bowman et al.(“Letermovir for the management of cytomegalovirus infection、”Expet Opin.Investig.Drugs.、2017、6[2];235-41)、Chemaly et al.(“Letermovir for cytomegalovirus prophylaxis in hematopoietic-cell transplantation、”N.Engl.J.Med.、2014、370(19):1781-9)、およびPiret et al.(“Clinical development of letermovir and maribavir:Overview of human cytomegalovirus drug resistance、”Antiviral Res.、2019、163:91-105)を参照。しかし、これらの治療法では薬剤耐性が現れることが多く、また、さらに、これらの治療法には、胎児のHCMV曝露に適するものがない。Chou et al.(“Cytomegalorirus UL97 mutations in the era of ganciclovir and maribavir、”Rev.Med.Virol.、2008、18(4):233-46)、Pass et al.(“Congenital cytomegalovirus infection:impairment and immunization、”J.Infecct.Dis.、2007、195(6):767-9)、およびCherrier et al.(“Emergence of letermovir resistance in a lung transplant recipient with gaciclovir-resistant cytomegalovirus infection、”Am.J.Rransplant.、2018、18(1):3060-4)を参照。したがって、新たな特異的HCMV複製阻害剤、特に、先天性のCMV感染に使用できるものが緊急に必要となっている。
【0008】
許容宿主細胞におけるCMVの複製は、明確な一連のプロセスであって、以下を含む(時系列に)。つまり、細胞への侵入、即時型(IE)の遺伝子発現、初期(E)の遺伝子発現、DNA複製、後期(L)の遺伝子発現、ウイルスの産生を含む。Mocarski et al.(“Cytomegaloriruses、”2006、5th Edition、D.M.Knipe and P.M.Howley(ed.)、Philadelphia:Lippincott Williams & Wilkins)を参照。MIE遺伝子は、感染の初期段階で最も多く発現するウイルス遺伝子であり、いくつかの核リン酸化タンパク質となる。中でも、即時型タンパク質1(IE1、また、IE72として知られている)および即時型タンパク質2(IE2、また、IE86として知られている)が最も多い。Tang et al.(“Mouse cytomegalovirus early M112/113 pritains control the repressive effect of IE3 on the major immediate-early promoter、”J.Virol.、2005、79(1):257-63、Tang et al.(“Immiediate Early Interactions and Epigenetic Defense Mechanisms、”in “Cytomegaloriruses:Molecular Biology and Immunology、”Hethersett、Norwich、U.K.:Horizon Scientific Press、2005)、Hagemeier et al.(“The 72K IE1 and 80K and hsp70 promotoers via basal promoter elements、J.Gen.VIrol.、1992、73:2385-93);Liu et al.(”A cis-acting element in the major immediate-early(IE) promotor of human cytomegalovirus is required for negative regulation by IE2、”J.Virol.、1991、65(2):897-903、Scully et al.(“The human cytomegalovirus IE2 86-kilodalton protein interacts with an early gene promoter via site-specific DNA binding and protein-protein associations、“J.Virol.、1995、69(10):6533-40)、Awsthi et al.(”Analysis of splice variants of the immediate-early 1 region of human cytomegalovirus、“J.Virol.、2004、78(15):8191-200、Sandanari et al.(”The major immediate-early genes of human cytomegalovirus induce two novel proteins with molecular weights of 91 and 102 kilodaltons、“Argh.Virol.、2000、145(6):1257-66)、Ahn et al.(”The major immediate-early proteins IE1 andIE2 of human cytomegalovirus colocalize with and disrupt PML-associated nuclear bodies at very early times in infected pemissive cells、“J.Virol.、1997、71(6):4599-613)、Meier et al.(”Effect of a modulator deletion ontranscription of the human cytomegalovirus major immediate-ealy genes in infected undifferentiated and differenciaed cells、“J.Virol.、1997、71(2):1246-55)、Stenberg et al.(”The human cytomegalovirus major immediate-ealy gene、“Intervirology、1996、38(5-6):343-9)、およびStenberg et al.(”Structural analysis of the major immediate-ealy gene of human cytomegalovirus、“J.Virol.、1984、49(1):190-9を参照。
【0009】
IE1とIE2は、その両方の発現が、同じプロモーター(MIEP)の制御下で起こる。MIE遺伝子は、それぞれ、5つのエクソンと4つのイントロンから構成されており、IE1とIE2とで最初の3つのエクソンを共有しているが、最後のエクソン(IE1ではエクソン4、IE2ではエクソン5)に関しては異なっている。1番目のエクソンは、いかなるアミノ酸もコードしておらず、開始配列に関係する。Stenberg et al.(“The human cytomegalovirus major immediate-ealy geine、”Intervirology、1996、39(5-6):343-9)、およびStenberg et al.(“Structual analysis of the major immidiate early gene of human cytomegalovirus、”J.Virol.、1982、49(1):190-9を参照。1番目のイントロン(イントロンA)は、NF1およびCTCFとの相互作用によってMIE遺伝子の調節に関与していると信じられている。Hennighausen et al.(“Nuclear factor 1 inteacts with five DNA elements in the promoter region of the human cytomegalovirus major immediate early gene、”EMBO J.、1986、5(6):1367-71)、およびMartinez et al.(“CTCF Binding to the First Intron of the Major Immediae-Early(MIE) Gene of Human Cytomegalorirus(HCMV) Negatively Regulates MIE Gene Expression and HCMV Replication、”J.Virol.、2014、doi:JVI.00845-14)を参照。
【0010】
HCMVは、大型DNAウイルスの1科であるヘルペスウイルス科に属する。ヘルペスウイルスは、200もの異なる遺伝子をコードしている可能性がある。必須遺伝子の中には、その発現が、転写後のRNAスプライシングに依存しているものがある。例えば、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)遺伝子のMIE遺伝子は5つのエクソンと4つのイントロンを有し、IEとIE2を産生するためにスプライシングされる必要がある(IEとIE2はウイルスの感染と複製に必須である)。
【0011】
RNAスプライシングには、イントロンRNAの細胞因子との相互作用が必要である。転写レベルでのMIE遺伝子の発現調整については、広い範囲にわたって研究がなされている。Meier et al.(“Effect of a modulator deletion on transcription of the human cytomegalovirus major immediate-early genes in infected undifferentiated and differentiated cells、”J.Virol.、1997、71(2):1246-55)、Adair et al.(“Alteration of cellular RNA splicing and polyadenylation machineries during productive human cytomegalovirus infection、“J.Gen.Virol.、2004、85:3541-53)、Akter et al.(“Two novel spliced genes in human cytomegalovirus、”J.Gen.Virol.、2003、84:1117-22)、Sourvinos et al.(“Recruitment of human cytomegalovirus immediate-early 2 protein onto parental viral genomes in association with ND10 in live-infected cells、“J.Virol.、2007、81(18):10123-36)、およびSinclair et al.(“Chromatin structure regulates human cytomegalovirus gene expression during latency、reactivation and lytic infection、”Biochim.Biophys.Acta.、2010、1799(3-4):286-95)を参照。しかし、HCMV遺伝子のスプライシング制御の詳細は、いまだ不明である。
【0012】
ポリピリミジントラクト(Py)結合タンパク質(PTB)は、MIE遺伝子のスプライシングに干渉すること(Cosme et al.(“Roles of polypyrimidine tract binding proteins in major immediate-early gene expression and viral replication of human cytomegalovirus、”J.Virol.、2009、83(7):2839-50を参照)、また、HCMV感染によって、PTBの時間的な変化が起こること(Gaddy et al.(“Regulation of the subcellular distribution of key cellular RNA-processing factors during permissive human cytomegalovirus infection、”J.Gen.Virol.、2010、91:1547-59を参照)から、本願発明者らは、1つ以上のPyを含むイントロンに対して相補的な小さい核酸(RNA等)をウイルス複製(HCMV複製等)を阻害する抗ウイルス剤として使用できる抗ウイルス機構に想到した。
【発明の概要】
【0013】
HCMVの主要な即時型(MIE)遺伝子は、ウイルスの複製に必須であり、MIE遺伝子がコードする産物の中で最も数が多いものには、IE1とIE2とが含まれる。IE1とIE2遺伝子は、どちらも、最初の3つのエクソンと最初の2つのイントロンと同様に、MIEプロモーター(MIEP)を共有している。IE1は、CMV感染後(または、MIE遺伝子のトランスフェクション後)に、IE2よりも早い時点で発現する。本願発明者らは、イントロン4(エクソン4とエクソン5の間)に、IE1からIE2への転写スイッチングを担う2つのポリピリミジン(Py)トラクトを同定した。本願発明者らは、さらに、IE2のスプライシングと発現には、1番目のPyが重要であり、2番目のPyが必須であることを発見した。
【0014】
より具体的には、本願発明者らは、(1)2番目のPyは、IE2の4番目のイントロンがスプライシング因子(例えば、U2AF65)と結合するために必須であること、(2)第1のPyが、U2AF65とイントロンの結合を強化することを発見した。本願発明者らは、さらに、2番目のPyを変異させたHCMV BACmidを用いて、2番目のPyを欠損によって、ウイルスの産出が完全に抑制されることを発見した(一方、1番目のPyを変異させたHCMVは、欠陥表現型とともに複製された)。
【0015】
これらの発見に鑑みて、本願発明者らは、抗ウイルス剤として、1つ以上のPyを含むイントロンRNAに相補的である短鎖相補的核酸(scRNA等)に想到した。このような分子は、その阻害作用がウイルスに特異的であるため(イントロン配列に相補的であるが、宿主細胞配列には相補的でないため)、抗ウイルス剤として利点がある。
【0016】
本開示は、さらに、相乗的な抗ウイルス組成物および方法を提供するために、短鎖相補的核酸(scRNA等)を短鎖干渉RNA(siRNA)と組み合わせて提供する。
【0017】
本開示は、さらに、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)および組成物を効率的に送達するための送達システムを提供する。
【0018】
本開示の非限定的な実施形態には、以下が含まれる。
【0019】
[1]1本鎖核酸分子であって、1つ以上のポリピリミジン(Py)トラクトを含むウイルスmRNAのイントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列を備え、前記核酸分子は、前記ポリピリミジン(Py)トラクトのうち1つ以上を含むイントロン配列の領域にハイブリダイズすることができる、1本鎖核酸分子。
【0020】
[2]前記ウイルスmRNAは、HCMV MIE遺伝子由来である、[1]に記載の核酸分子。
【0021】
[3]前記イントロン配列は、前記HCMV MIE遺伝子の4番目のイントロンである、[2]に記載の核酸分子。
【0022】
[4]前記核酸分子は、HCMV感染細胞に導入されると、HCMV IE2のスプライシングと発現を阻害することができる、[3]に記載の核酸分子。
【0023】
[5]前記イントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列は、10~100ヌクレオチド長である、[1]に記載の核酸分子。
【0024】
[6]前記イントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列は、10~50ヌクレオチド長である、[5]に記載の核酸分子。
【0025】
[7]前記イントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列は、配列5’-cacgccugugaaaccguacuaagucucccgugucuucuuaucaccaucag-3’を有する、[1]に記載の核酸分子。
【0026】
[8]前記イントロン配列の全部または一部に対して相補的な配列は、配列5’-cacgccugugaaaccguacuaagucucccgugucuucuuaucaccaucag‐3’と90%以上の配列同一性を持つ配列を有する、[1]に記載の核酸分子。
【0027】
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載の核酸分子を備える組成物であって、
前記組成物は、送達ビヒクルをさらに備える、組成物。
【0028】
[10]前記送達ビヒクルは、ポリマーを備える、[9]に記載の組成物。
【0029】
[11]前記ポリマーは、カチオン性ポリマーを備える、[10]に記載の組成物。
【0030】
[12]前記送達ビヒクルは、送達粒子である、[10]または[11]に記載の組成物。
【0031】
[13]前記送達粒子は、前記核酸分子と少なくとも1つのポリマーとを備えるコア構造を有し、前記送達粒子は、前記コア構造を包む少なくとも1つのラッピング層をさらに備える、[12]に記載の組成物。
【0032】
[14]前記コア構造は、前記核酸分子、ポリエチレンイミン(PEI)、とポリスペルミンイミダゾール4,5-イミン(PSI)とを備える、[13]に記載の組成物。
【0033】
[15]前記少なくとも1つのラッピング層は、親水性ポリマーを備える、[13]または14に記載の組成物。
【0034】
[16]前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである、[15]に記載の組成物。
【0035】
[17]前記送達粒子は、標的化部分を備える、[12]に記載の組成物。
【0036】
[18]前記標的化部分は、前記送達粒子をHCMV感染細胞に標的化する、[17]に記載の組成物。
【0037】
[19]前記標的化部分は、CX3CL1またはその変異体もしくは誘導体である、[18]に記載の組成物。
【0038】
[20]前記核酸分子は、修飾塩基、塩基類似体、と脱塩基部位のうちの少なくとも1つを含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の核酸。
【0039】
[21]前記核酸分子は、DNA、RNA、またはDNAとRNAの両方を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の核酸。
【0040】
[22]前記核酸分子は、短い相補的RNA(scRNA)である、[21]に記載の核酸。
【0041】
[23]前記核酸分子は、異種分子に結合している、[1]~[8]および[20]~[22]のいずれか1つに記載の核酸分子。
【0042】
[24]ヘルペスウイルス感染症、好ましくはHCMV感染症を治療するための方法であって、[1]~[8]および[20]~[22]のいずれか1つに記載の核酸分子を、それを必要とする被験体に投与することを備える、方法。
【0043】
[25]ヘルペスウイルス感染症、好ましくはHCMV感染症を治療するための方法であって、[9]~[19]のいずれか1つに記載の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを備える、方法。
【0044】
[26]転写スイッチングを阻害する方法であって、[1]~[8]および[20]~[22]のいずれか1つに記載の核酸を、ウイルスmRNAと接触させることを備える、方法。
【0045】
(参照による援用)
本明細書において引用される全ての特許、刊行物、および特許出願は、各個々の特許、刊行物、または特許出願が、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に援用されると具体的かつ個々に示されているように、参照により本明細書に援用される。
【0046】
本発明の特徴は、添付の特許請求の範囲に具体的に記載されている。本発明の特徴および利点は、本発明の原理が利用されている例示的な実施形態を示す以下の詳細な説明、および添付の図面を参照することによって、より良く理解できるだろう。各図面は、比例して表示したものではなく、また縮尺されているわけでもない。指標の位置は、おおよそのものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1A~1Dは、エクソン5のスプライシンのためのポリピリミジントラクト(Py)の同定を確認した実験の結果を示す。図1Aは、エクソン4とエクソン5の間のMIE RNA配列を示す。強調表示したaauaaa配列は、IE1のポリAシグナルであり、2つの予測されるPy配列には下線を引いている(A-ucucccとB-ucuucuu)。図1Bは、IE1/IE2産生を判定するためのウエスタンブロットアッセイの結果を示す。HEK293T細胞をpSVH、pSVHdPyA、pSVHdPyB、またはpSVHdPyABで24時間トランスフェクトし、全細胞溶解液を集めてSDS-PAGEにかけ、抗IEl/2抗体(MAB810)を用いてIE1/IE2産生を調べた。関連するバンドは、図示するように、IEl、SUMO-IE1、IE2、またはSUMO-IE2を示す。図1Cは、IE1/IE2発現を判定するためのリアルタイムRT-PCRアッセイの結果を示す。HEK293T細胞を、pSVH、pSVHdPyA、pSVHdPyB、またはpSVHdPyABで20時間トランスフェクトし、全RNAを単離した。1μgの全RNAをリアルタイムPCRに用いて、IE1/IE2発現を調べた。グラフのデータは、3つの独立した実験からの平均±標準偏差を表している。図1Dは、IE2とIE2の発現と局在とを判定する免疫蛍光アッセイ(IFA)の結果を示している。pSVH、pSVHdPyA、pSVHdPyB、またはpSVHdPyABをMRC-5細胞に20時間トランスフェクトし、次いで細胞を固定して透過処理し、IE1(緑で示す)、IE2(赤で示す)、およびDAPI(青で示す)を着色した。
図2図2A~2Bは、ポリピリミジントラクト(Py)とスプライシング因子の相互作用を確認した実験の結果を示す。図2Aは、PyAとPyB(wt)、変異したPyA(dPyA)、変異したPyB(dPyB)、または変異体の両方(dPyAB)を含むRNAオリゴヌクレオチドプローブと結合しているU2AF65の分析をするために用いた電気泳動移動度シフトアッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay:EMSA)の結果を示す。遊離プローブと結合プローブの位置を画像の左側に示す。図2Bは、pSVH、pSVHdPyA、pSVHdPyB、またはpSVHdPyABでトランスフェクトしたHEK293T細胞を用いた、U2AF65、PTB、または制御IgGに特異的な抗体を用いたトランスフェクション後24時間のRNAクロマチン免疫沈降(RNA ChIP)アッセイの結果を示す。定量的逆転写PCR(qRT-PCR)を用いて、図示した領域に特異的なプライマーを用いてChIP効率を定量した。棒グラフは、3回の独立したPCRから得られた各ChIPのインプットに対する平均パーセント±標準偏差を表している。
図3図3A~3Bは、IE1/IE2のスプライシングアッセイの実験結果を示す。図3Aは、IE2 mRNAまたはプレmRNAの予測サイズと、RT-PCRに使用したプライマー(pShortおよびpIE2)を示す図である。図3Bは、IE1/IE2スプライシングアッセイの結果を示す図である。このIE1/IE2スプライシングアッセイでは、HEK293T細胞をpSVH、pSVHdPyA、pSVHdPyB、またはpSVHdPyABで20時間トランスフェクトし、全RNAを単離した。1μgの全RNAを用いて、Platinum(登録商標) Taq DNAポリメラーゼとともにSuperScript(登録商標)III One-Step RT-PCR System(Invitrogenカタログ番号#12574018)を用いて、製造業者の実施要項に従ってRT-PCRを行った。制御には以下を含む。(1)プラスミドDNAの混入の可能性を排除するため、全RNAをPCRの鋳型として直接使用した。(2)DNAベクター中のDNAのサイズを示すため、プラスミドDNAをPCRの鋳型として使用した。
図4図4A~4Dは、ウイルスの複製でのPyの重要性を確認した実験の結果を示す。図4Aは、IE1およびIE2の産生を調べるための免疫蛍光アッセイ(IFA)の結果を示している。図示するように、MRC-5細胞を、BACmidでトランスフェクトした後20時間で固定し、IE1(FITC)とIE2(Texas red)の産生を調べるためにIFAアッセイを行った。図4Bは野生型、HCMVdPyA、および復帰型のウイルスのウイルス増殖曲線を示す。ウイルスの増殖は、感染多重度(MOI)0.1の感染のよって、MRC-5細胞のプラークアッセイを用いて判定した。各実験を3回行った。ウイルスの増殖は、プラーク形成を分析することにより算出した。増殖曲線に示した感染性ウイルス粒子数は、3回の実験の平均値である。エラーバー付きのデータは平均±標準偏差を示す。図4Cは、0.5のMOIでMRC-5細胞に感染させた後、HCMVdPyAまたはその復帰体によるウイルスタンパク質産生を調べるためのウエスタンブロットアッセイの結果を示す。図4Dは、IE1およびIE2を検出するための免疫染色の結果を示す。ヒト線維芽細胞(MRC-5)を、HCMVdPyAまたはその復帰体で、MOI0.5で異なる時間感染させて、12時間および24時間で固定し、IE1(FITC)とIE2(Texas red)に対する抗体を用いて引き続き免疫染色を行った。IE1およびIE2陽性細胞は、蛍光顕微鏡でカウントした。エラーバー付きのデータは平均±標準偏差を示す。この結果によって、PyAがウイルス感染システムでのIE2産生に重要であることが確認された。
図5図5A~5Cは、IE2のスプライシング、発現、およびイントロン4とスプライシング因子との相互作用におけるPyAの重要性を確認した実験の結果を示す。図5Aは、HCMVdPyAまたはその復帰体に0.1のMOIで16時間感染させたMRC-5細胞を用いて行ったIE2スプライシングアッセイの結果を示す。図5Bは、HCMVdPyAまたはその復帰体で1のMOIで16時間感染させたMRC-5細胞でのイントロン4と遺伝子スプライシング因子(PTBおよびU2AF65)との相互作用を判定するためのRNA ChIPアッセイの結果を示している。図5Cは、HCMVdPyAまたはその復帰体に0.5のMOIでMRC-5細胞に感染させた後、異なる時間におけるIE1/IE2 mRNAレベルを判定するためのリアルタイムRT-PCRアッセイの結果を示している。
図6図6A~6Fは、IE2遺伝子の発現に対する短鎖相補的RNA(scRNA)の作用を判定した実験の結果を示す。図6Aは、ssRNAプローブと相補的scRNAPyの配列を示す。図6Bは、ssRNAプローブをscRNAPyとともにインキュベーションした結果を示しており、これらは2本鎖RNAを形成したことを示している(ssRNAやscRNAPyよりもサイズが大きいことによって示される)。図6Cは、scRNAPyの非存在下または存在下でのRNAオリゴヌクレオチドプローブに結合しているU2AF65を判定するために用いたEMSAアッセイの結果を示す。図6Dは、IE2遺伝子のスプライシングに対するscRNAPy干渉のモデルを示す。scRNAPyはPyを含むイントロンを有するdsRNAを形成し、U2AF65とPyとの相互作用をブロックする。図6Eは、IE2産生を判定するために用いたウエスタンブロットアッセイの結果を示している。Pyに相補的なscRNA(scRNAPy、RNA配列は図6Aに示す)、またはPyの上流に相補的なscRNA(scRNAupPy:gag uag gau uac aga gua uaa cau aga gua uaa uau aga gua uac aau ag)、またはスクランブルRNA(ルシフェラーゼ遺伝子から作製)とpSVHのHEK293T細胞へのコトランスフェクションを24時間行い、全細胞溶解液を使用して、抗IE2抗体を用いたIE2産生を調べた。チューブリンをローディングベクターとして使用した。図6Fは、IE2 mRNAレベルを調べるためのリアルタイムRT-PCRの結果を示している。scRNAPy、またはcRNAupPy、またはスクランブルRNAとpSVHをHEK293T細胞にコトランスフェクトし、全RNAを単離した。1μgの全RNAをリアルタイムRT-PCRに用いて、IE2 mRNAレベルを調べた。棒グラフは、3つの独立した実験の平均±標準偏差を表している。
図7図7A~7Dは、293T細胞においてリポフェクタミン2000でトランスフェクトしたプラスミド由来のIE1/2タンパク質におけるsiRNAおよびscRNAのサイレンシング効率を判定するために用いたウエスタンブロットアッセイの結果を示している。図7Aは、siRNA IE2およびsiRNA IE1/2をPSVHプラスミドとともにトランスフェクトした実験の結果を示す。図7Bは、scRNA IE2とプラスミドを293T細胞にコトランスフェクトした実験の結果を示す。図7Cは、IE1/2タンパク質のサイレンシングのためにsiRNAとscRNAを組み合わせて使用した実験の結果を示す。図7Aは、ポリプレックスおよびポリワプレックスに配合したプラスミドを用いて、siRNAとscRNAの組み合わせのサイレンシング効果を測定した実験の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0048】
ウイルスの複製に必須のHCMV主要即時型(MIE)遺伝子は、IE1遺伝子産物とIE2遺伝子産物をコードする。IE1遺伝子とIE2遺伝子は、MIEプロモーター(MIEP)と、最初の3つのエクソン、および最初の2つのイントロンを共有している。上述したように、本願発明者らは、IE1からIE2への転写スイッチングを担う、イントロン4内(エクソン4とエクソン5の間)の2つのポリピリミジン(Py)トラクトを同定した。本願発明者らは、IE2のスプライシングと発現には、1番目のPyが重要で、2番目のPyが必須であることを発見した。
【0049】
これらの発見に鑑みて、本願発明者らは、1つ以上のPyを含むイントロンRNAに相補的で、イントロン配列に結合し、それによって遺伝子スプライシングを阻害する短鎖相補的核酸(scRNA等)に想到した。核酸は好ましくは1本鎖であるか、または、相補的結合を効果的にするために少なくとも1本鎖領域を含む。従って、このメカニズムは、例えば、ヘルペスウイルスやアデノウイルス等の様々なDNAウイルスの阻害に応用可能である。
【0050】
本開示は、特定の実施形態において、HCMV MIE遺伝子のイントロン4における2つのPyをカバーするイントロンRNAの全部または一部と相補的な短鎖相補的核酸(scRNA等)を提供する。
【0051】
本開示は、また、短鎖相補的核酸(scRNA等)を短鎖干渉RNA(siRNA)と組み合わせる、または、これと組み合わせて使用する組成物および方法を提供する。この組み合わせにより、相乗的な抗ウイルス組成物および方法を提供してもよい。
【0052】
本開示は、さらに、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)および組成物を効率的に送達するための送達システムを提供する。
【0053】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定することを意図するものではないと理解されるべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈によって明確に指定されない限り、複数である場合を含む。したがって、例えば、「ポリヌクレオチド」への言及には、1つ以上のポリヌクレオチドを含み、「ベクター」への言及には、1つ以上のベクターを含む。
【0054】
また、特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等のその他の方法および材料は、本発明において有用であり得るが、好ましい材料および方法を本明細書に記載する。
【0055】
本明細書の教示に鑑み、当業者であれば、例えば、以下の標準的な教本によって教示されているように、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノム科学、および組換えポリヌクレオチドの従来技術を適用することができる。Abbas et al.(Cellular and Molecular Immunology、2017、9th Edition、Elsevier、ISBN978-0323479783)、Butterfield et al.(Cancer Immunotherapy Principles and Practice、2017、1st Edition、Demos Medical、ISBN978-1620700976)、Kenneth Murphy(Janeway’s Immunobiology、2016、9th Edition、Garland Science、ISBN978-0815345053)、Stevens et al.(Clinical Immunology and Serology:A Laboratory Perspective、2016、4th Edition、Davis Company、ISBN978-0803644663)、E.A.Greenfield(Antibodies:A Laboratory Manual、2014、Second edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ISBN978-1-936113-81-1)、R.I.Freshney(Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique and Specialized Applications、2016、7th Edition、Wiley-Blackwell、ISBN978-1118873656)、C.A.Pinkert(Transgenic Animal Technology、Third Edition:A Laboratory Handbook、2014、Elsevier、ISBN978-0124104907)、H.Hedrich(The Laboratory Mouse、2012、Second Edition、Academic Press、ISBN978-0123820082)、Behringer et al.(Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual、2013、Fourth Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ISBN978-1936113019)、McPherson et al.(PCR 2:A Practical Approach、1995、IRL Press、ISBN978-0199634248)、J.M.Walker(Methods in Molecular Biology(Series)、Humana Press、ISSN1064-3745)、Rio et al.(RNA:A Laboratory Manual、2010、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ISBN978-0879698911)、Methods in Enzymology(Series)、Academic Press、Green et al.(Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2012、Fourth Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ISBN978-1605500560)、およびG.T.Hermanson(Bioconjugate Techniques、2013、Third Edition、Academic Press、ISBN978-0123822390)を参照。
【0056】
「リンカー領域配列」、「リンカー配列」、および「リンカーポリヌクレオチド」は、本明細書において互換的に使用され、第1の核酸配列(例えば、5’-リンカーヌクレオチド配列-第1の核酸配列-3’)に共有結合した1つ以上のヌクレオチドの配列のことを意味する。いくつかの実施形態において、リンカーヌクレオチド配列は、2つの別々の核酸配列を結合して単一のポリヌクレオチドを形成する(例えば、5’-第1の核酸配列-リンカーヌクレオチド配列-第2の核酸配列-3’)。リンカー配列のその他の例としては、5’-第1核酸配列-リンカーヌクレオチド配列-3’や5’-リンカーヌクレオチド配列-第1核酸配列-リンカーヌクレオチド配列-3’があるが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、リンカーヌクレオチド配列は、水素結合形成による相互作用によって二次構造を作ることのない、対になっていない核酸塩基の1本鎖ヌクレオチド配列であり得る。いくつかの実施形態において、リンカーエレメントヌクレオチド配列は、約100以下、約90以下、約80以下、約70以下、約60以下、約50以下、約40以下、約30以下、約20以下、約15以下、約14以下、約13以下、約12以下、約11以下、約10以下、約9以下、約8以下、約7以下、約6以下、約5以下、約4以下、約3以下、または約2以下の塩基長を有する。
【0057】
「野生型」、「自然に生じる」、および「非変性型」という用語は、本明細書において、自然界に存在する典型的な(または最も一般的な)形態、外観、表現型、または系統を意味するために使用する。例えば、細胞、生物、ポリヌクレオチド、タンパク質、巨大分子複合体、遺伝子、RNA、DNA、またはゲノムの典型的な形態は、それらが自然界の供給源に存在し、そこから単離することができる。野生型の形態、外観、表現型、または系統は、意図的な変形を行う前の元の親として機能する。従って、変異型、変種、操作型、組換え型、修飾型は、野生型ではない。
【0058】
ポリペプチドに言及する場合、「単離された」とは、示された分子が、その分子が自然界で見出される生物全体から分離した個別のものであること、または、同じ型のその他の生物学的の巨大分子が実質的に存在しない状態で存在することを意味する。ポリヌクレオチドに関して「単離された」という用語は、自然界で通常それに関連する配列の全部または一部が欠けている核酸分子、または自然界に存在する配列であるが、それに関連する異種配列を有する配列、または染色体から切り離された分子である。
【0059】
本明細書で使用する「精製された」という用語は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは、少なくとも85重量%、さらに好ましくは、少なくとも95重量%、最も好ましくは、少なくとも98重量%の同一分子が存在することを意味する。
【0060】
「操作した」、「遺伝子操作した」、「遺伝子改変した」、「組み換えの」、「修飾した」、「非自然発生の」、および「非天然の」という用語は、生物または細胞のゲノムの意図的な人為的操作を示す。これらの用語は、本明細書で定義するゲノム編集や、また、遺伝子の発現や不活性化を変化させる技術、酵素工学、定向進化、知識型設計、ランダム変異誘発法、遺伝子シャフリング、コードン最適化等を含むゲノム改変の方法を包含する。遺伝子工学の方法は、当技術分野で公知である。
【0061】
「共有結合(covalent bond)」、「共有結合した(covalently attached)」、「共有結合した(covalently bound)」、「共有結合した(covalently linked)」、「共有結合した(covalently connected)」、および「分子結合(molecular bond)」は、本明細書において互換的に使われ、原子間の電子対の共有を伴う化学結合のことを指す。共有結合の例としては、ホスホジエステル結合およびホスホロチオエート結合があげられるが、これらに限定されない。
【0062】
「非共有結合(non-covalent bond)」、「非共有結合した(non-covalently attached)」、「非共有結合した(non-convalently bound」「非共有結合した(non-covalently linked)」、「非共有相互作用(non-covalent interaction)」、「非共有結合した(non-covalently connected)」は、本明細書において互換的に使われ、一対の電子の共有を伴わないあらゆる比較的弱い化学結合のことを指す。複数の非共有結合は、巨大分子の構造を安定化し、分子間の特異的な相互作用を仲介する。非共有結合の例としては、水素結合、イオン性相互作用(例えば、NaCl)、ファンデルワールス相互作用、疎水性結合等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
本明細書で使用する「水素結合」、「水素塩基対合」、および「水素結合した」は、互換的に使われ、標準的な水素結合および非標準的な水素結合のことを指す。この標準的な水素結合および非標準的な水素結合には、「ワトソン-クリック(Watson-Crick)水素結合塩基対」(W-C-水素結合塩基対またはW-C水素結合)、「フーグスティーン(Hoogsteen)水素結合塩基対」(フーグスティーン水素結合)、および「ウォブル(wobble)水素結合塩基対」(ウォブル水素結合)を含むがこれらに限定されない。逆W-C水素結合を含むW-C水素結合とは、プリンーピリミジン塩基対、すなわち、アデニンとチミン、グアニンとシトシン、およびウラシルとアデニンのことを指す。逆フーグスティーン水素結合を含むフーグスティーン水素結合とは、核酸における塩基の一種で、2つの核酸塩基(各鎖に1つずつ)が、主溝の水素結合によって共に保持されている結合である。この非W-C水素結合により、3本目の鎖が2本鎖の周囲に巻き付き、3本鎖らせんを形成することができる。逆ウォブル水素結合を含むウォブル水素結合とは、ワトソン-クリック塩基対規則に従っていないRNA分子における2つのヌクレオチド間の対のことである。ウォブル塩基対の主要なものとしては、グアニンとウラシル、イノシン(ヒポキサンチン)とウラシル、イノシンとアデニン、およびイノシンとシトシンの4つがある。また、イノシンとチミン、イノシンとグアニンの間でもウォブル塩基相互作用が起こることが知られている。イノシン塩基およびデオキシイノシン塩基は、標準的なDNA塩基およびRNA塩基と水素結合することができるため、「ユニバーサル・ペアリング塩基」と呼ぶことができる(例えば、図7参照)。また、Watkins et al.[Nucleic Acid Research、2005、33(19):6258-67)を参照。標準的水素結合および非標準的水素結合は、当業者にとって公知である。例えば、R.F.Gesteland(The RNA World、Third Edition(Cold Spring Harbor Monograph Series)、2005、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ISBN978-0879697396)、R.F. Gesteland(The RNA World、Second Edition(Cold Spring Harbor Monograph Series)、1999、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ISBN978-0879695613)、およびR.F.Gesteland(The RNA World、 First Edition(Cold Spring Harbor Monograph Series)、1993、Cold Spring Harbor Laboratory Press、978-0879694562)を参照。また、Appendix 1:Structures of Base Pairs Involving at Least Two Hydrogen Bonds、I.Tinoco)、W.Saenger(Principles of Nucleic Acid Structure、1988、Springer International Publishing AG、ISBN978-0-387-90761-1)、およびS.Neidle(Principles of Nucleic Acid Structure、2007、First Edition、Academic Press、ISBN978-01236950791)を参照。
【0064】
「結合する(connect)」、「結合した(connected)」、および「結合している(connecting)」は、本明細書では互換的に使われ、2つの巨大分子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質等)間の共有結合または非共有結合を指す。
【0065】
本明細書で使用する「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、および「オリゴヌクレオチド」の用語は、互換的であり、ヌクレオチドの重合体のことを指す。本明細書で使用する「ポリヌクレオチド」の用語は、1つの5’末端および1つの3’末端を有し、1つ以上の核酸配列からなり得るヌクレオチドの重合体のことを指す。これらのヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、リボヌクレオチド(RNA)、それらの類似体、または、それらの組み合わせであってもよく、任意の長さを有していてもよい。ポリヌクレオチドは、任意の機能を果たしてもよく、種々の二次および三次構造を有していてもよい。これらの用語は、天然ヌクレオチドの既知の類似体、および塩基、糖、および/またはリン酸部分が修飾されたヌクレオチドを包含する。特定のヌクレオチドの類似体は、同じ塩基対特異性を有する(例えば、AのTとの塩基対の類似体)。ポリヌクレオチドは、1つの修飾ヌクレオチドまたは複数の修飾ヌクレオチドを備えていてもよい。修飾ヌクレオチドの例としては、フッ素化ヌクレオチド、メチル化ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体があげられる。ヌクレオチド構造は、ポリマーが組み込まれる前であっても後であっても修飾することができる。重合に続いて、ポリヌクレオチドは、例えば、標識成分または標的結合成分との抱合によって、さらに修飾されてもよい。ヌクレオチド配列は、非ヌクレオチド成分を組み込んでもよい。これら用語は、また、合成、天然および/または非天然に存在するものであって、参照ポリヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)と同様の結合特性を有する、修飾された骨格残基または結合を含む核酸を包含する。このような類似体の例としては、ホスホロチオエート、ホスホールアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA(商標))(Exiqon、Woburn、MA)ヌクレオシド、グリコール核酸、架橋核酸、およびモルホリノ構造があげられるが、これらに限定されない。
【0066】
本明細書で使用される「脱塩基の」、「脱塩基部位」、「脱塩基ヌクレオチド」、および「脱プリン部位/脱ピリミジン部位」の用語は、互換的に使用され、プリン塩基またはピリミジン塩基を欠くヌクレオチド配列中の部位のことを指す。特定の実施形態では、脱塩基部位は、リボース部位からなる。その他の実施形態においては、脱塩基部位は、リボース部位からなる。さらなる実施形態においては、脱塩基部位は、1’ヒドロキシル基を有するペントース環等の修飾された骨格からなる。脱塩基部位は、窒素塩基を含まないため、DNAヌクレオチドまたはRNAヌクレオチドの相補的窒素塩基と水素塩基対結合を形成することができない。
【0067】
本明細書で使用する「塩基類似体」という用語は、DNAまたはRNA中の標準プリン塩基または標準ピリミジン塩基との構造的な類似性を有する化合物のことを指す。この塩基類似体は、DNAまたはRNA中に天然に存在するプリン塩基またはピリミジン塩基と比較して、修飾された糖および/または修飾された核酸塩基を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、この塩基類似体は、2’-デオキシイノシン等のイノシンまたはデオキシイノシン、である。その他の実施形態においては、この塩基類似体は、2’-デオキシリボヌクレオシド、2’-リボヌクレオシド、2’-デオキシリボヌクレオチド、または2’-リボヌクレオチドであり、ここで、核酸塩基は、修飾塩基(例えば、キサンチン、ウリジン、オキサニン(オキサノシン)、7-メチルグアノシン、ジヒドロウリジン、5-メチルシチジン、C3スペーサー、5-メチルdC、5-ヒドロキシブチル-2’-デオキシウリジン、5-ニトロインドール、5-メチルイソ-デオキシシトシン、イソデオキシグアノシン、デオキシウリジン、イソデオキシシチジン、その他のO-1プリン類似体、N-6-ヒドロキシルアミノプリン、ネブラリン、7-デアザヒポキサンチン、その他の7-デアザプリン、および2-メチルプリン等)を含む。いくつかの実施形態においては、塩基類似体は、7-デアザ-2’-デオキシイノシン、2’-アザ-2’-デオキシイノシン、PNA-イノシン、モルフォリノ-イノシン、LNA-イノシン、ホスホルアミデートイノシン、2’-O-メトキシエチル-イノシン、および2’-OMe-イノシンからなる群より選択され得る。「塩基類似体」の用語は、また、例えば、2’-デオキシリボヌクレオシド、2’-リボヌクレオシド、2’-デオキシリボヌクレオチドまたは2’-リボヌクレオチドを包含し、ここで、核酸塩基は、置換ヒポキサンチンである。例えば、置換ヒポキサンチンは、フッ素または塩素等のハロゲンで置換されていてもよい。いくつかの実施形態において、塩基類似体は、2-クロロイノシン、6-クロロイノシン、8-クロロイノシン、2-フルオロイノシン、6-フルオロイノシン、または8-フルオロイノシン等のフルオロイノシンまたはクロロイノシンであってもよい。その他の実施形態においては、塩基類似体は、デオキシウリジンである。その他の実施形態においては、塩基類似体は、核酸模倣物(例えば、人工核酸およびゼノ核酸(XNA)等)である。
【0068】
ペプチド核酸(PNA)は、ポリヌクレオチドのリン酸-糖骨格が柔軟な擬似ペプチドポリマーで置換された、核酸の合成ホモログである。核酸塩基は、ポリマーと結合する。PNAは、RNAとDNAの相補的な配列に高い親和性と特異性をもってハイブリダイズする能力を持つ。
【0069】
ホスホロチオエート核酸では、ホスホロチオエート(PS)結合は、ポリヌクレオチドホスフエート骨格において、非架橋酸素を硫黄原子に置換する。この修飾により、ヌクレオチド間結合は、ヌクレアーゼ分解に対して耐性を有するようになる。いくつかの実施形態においては、ホスホロチオエート結合が、エキソヌクレアーゼ分解を阻害するために、ポリヌクレオチド配列の5’末端または3’末端配列で最後の3~5つのヌクレオチド間に導入される。オリゴヌクレオチド全体にホスホロチオエート結合を配置することは、エンドヌクレアーゼによる分解を減少させるのにも役立つ。
【0070】
スレオース核酸(TNA)は、人工的な遺伝子ポリマーである。TNAの骨格構造は、ホスホジエステル結合によって結合したトレオース糖の繰り返しからなる。TNAポリマーはヌクレアーゼ分解に対して耐性を有する。TNAは、塩基対水素結合によって2重鎖構造に自己組立てできる。
【0071】
結合反転は、「リバースホスホロアミダイト」の使用によってポリヌクレオチドに導入することができる(例えば、www.ucalgary.ca/dnalab/synthesis/-modifications/linkagesを参照)。ポリヌクレオチドの末端における3’-3’結合は、2つの5’-OH末端を有するが3’-OH末端を欠くオリゴヌクレオチドを作製することによって、エキソヌクレアーゼ分解に対してポリヌクレオチドを安定化する。一般的に、このようなポリヌクレオチドは、5’-OH位置にホスホロアミダイト基を有し、3’-OH位置にジメトキシトリチル(DMT)保護基を有する。通常は、DMT保護基は5’-OH上にあり、ホスホロアミダイトは3’-OH上にある。
【0072】
ポリヌクレオチド配列は、特に指示がない限り、本明細書では、従来の5’から3’の方向で表示される。
【0073】
本明細書で使用する「配列同一性」とは、概して、様々な重み付けパラメーターを有するアルゴリズムを使用して、第1のポリヌクレオチドまたは第1のポリペプチドと第2のポリヌクレオチドまたは第2のポリペプチドとを比較するための、ヌクレオチド塩基またはアミノ酸の同一性の割合のことを指す。2つのポリヌクレオチド配列間または2つのポリペプチド配列間の配列同一性は、ウェブサイトからインターネットを通じて入手可能な種々の方法およびコンピュータープログラム(例えば、BLAST、CS-BLAST、FASTA、HMMER、L-ALIGN等)による配列アラインメントを用いて判定することができる。そのようなウェブサイトには、GENBANK(www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)およびEMBL-EBI(www.ebi.ac.uk.)が含まれるが、これらに限定されない。2つのポリヌクレオチド配列間または2つのポリペプチド配列間の配列同一性は、一般的に、種々の方法またはコンピュータープログラムの標準的なデフォルトのパラメーターを使用して計算される。2つのポリヌクレオチド間または2つのポリペプチド間の高い配列同一性とは、一般的に、参照ポリペプチドの長さにわたって、約90%から約100%の間であり、例えば、約90%以上であり、好ましくは約95%以上であり、より好ましくは約98%以上である。2つのポリヌクレオチド間または2つのポリペプチド間の中程度の配列同一性とは、一般的に、参照ポリペプチドの長さにわたって、約80%から約85%の間であり、例えば、約80%以上であり、好ましくは約85%である。2つのポリヌクレオチド間または2つのポリペプチド間の低い配列同一性とは、一般的に、約50%から75%の間であり、例えば、参照ポリペプチドの長さにわたって、約50%であり、好ましくは約60%であり、より好ましくは約75%である。
【0074】
例えば、本開示の核酸配列は、参照配列に対して特定の配列同一性を有していてもよい。この配列同一性は、例えば、25%以上、50%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上であってもよい。
【0075】
本明細書で使用される「ハイブリダイゼーション(hybridizaton)」、「ハイブリダイズする(hybridize)」、または「ハイブリダイズしている(hybridizing)」とは、水素塩基対形成により、2つの相補的な1本鎖のDNAまたはRNA分子を結合させて、1つの2本鎖分子(DNA/DNA、DNA/RNA、RNA/RNA)を形成するプロセスのことである。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、一般的に、ハイブリダイゼーション温度とハイブリダイゼーションバッファーの塩濃度によって決まる。例えば、高温で低塩濃度の場合、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件が得られる。異なるハイブリダイゼーション条件の塩濃度範囲と温度範囲の例は以下の通りである。高ストリンジェンシーとは、約0.01M~約0.05Mの塩濃度で、Tから5℃から10℃低いハイブリダイゼーション温度であり、中ストリンジェンシーとは、約0.16M~約0.33Mの塩濃度で、Tより20℃から29℃低いハイブリダイゼーション温度であり、低ストリンジェンシーとは、約0.33M~約0.82Mの塩濃度で、Tから40℃から48℃低いハイブリダイゼーション温度である。2重鎖核酸配列のTは、当該技術分野で公知の標準的な方法で計算される。例えば、Maniatis et al.(Molecular Cloning:A Laboratory Manual、1982、Cold Spring Harbor Laboratory Press:New York)、Casey et al.(Nucleic Acids Research、1977、4:1539-1552);Bodkin et al.(Journal of Virological Methods、1985、10(l):45-52)、およびWallace et al.(Nucleic Acids Research、1981、9(4):879-894)を参照。Tを推定するアルゴリズム予測ツールも広く普及している。ハイブリダイゼーションの高ストリンジェンシー条件とは、一般的に、標的配列に相補的なポリヌクレオチドが、標的配列と優先的にハイブリダイズして、非標的配列とは実質的にハイブリダイズしない条件のことである。一般的には、ハイブリダイゼーション条件は、中ストリンジェンシー、好ましくは高ストリンジェンシーである。
【0076】
本明細書で使用される「相補的」とは、核酸配列がその他の核酸配列と水素結合を形成する能力のことを指す(例えば、標準的なワトソン-クリック塩基対形成による)。相補率とは、第2の核酸配列と水素結合を形成できる核酸配列中の残基の割合を示すものである。2つの核酸配列が100%の相補性を有する場合、2つの配列は完全に相補的であり、すなわち、第1のポリヌクレオチドの連続する残基がすべて、第2のポリヌクレオチド中の同じ数の連続する残基と水素結合する。
【0077】
本明細書で使用される「結合」とは、巨大分子間(例えば、タンパク質とポリヌクレオチドとの間、ポリヌクレオチドとポリヌクレオチドとの間、またはタンパク質とタンパク質との間等)の非共有結合的相互作用のことを指す。このような非共有結合的相互作用とは、「関連する」または「相互に作用する」(例えば、第1の巨大分子が第2の巨大分子と相互作用する場合は、第1の巨大分子が、非共有結合的に第2の巨大分子に結合する)ことを指す。結合相互作用のいくつかの部分は、配列特異的であってもよい(「配列特異的結合」、「配列特異的に結合する」、「部位特異的結合」、および「部位特異的に結合する」は、本明細書において互換的に使用される)。結合相互作用は、解離定数(Kd)によって特徴づけができる。「結合親和性」とは、結合相互作用の強度のことを指す。高い結合親和性は、低いKdと相関がある。
【0078】
本明細書で使用する「調節配列」、「調節エレメント」、および「制御エレメント」という用語は互換的であり、発現するポリヌクレオチド標的の上流(5’非コード配列)、内部、または下流(3’非翻訳配列)であるポリヌクレオチド配列のことを指す。調節配列は、例えば、転写のタイミング、転写量または転写レベル、RNA処理またはRNAの安定性、および/または関連する構造的なヌクレオチド配列の翻訳に影響を及ぼす。調節配列には、活性化物質結合配列、エンハンサー、イントロン、ポリアデニル化認識配列、プロモーター、転写開始部位、リプレッサー結合配列、ステムル―プ構造、翻訳開始配列、内部リボソ―ム進入部位(IRES)、翻訳リーダー配列、転写終結配列(例えば、ポリアデニル化シグナルやポリU配列)、翻訳終結配列、プライマー結合部位等を含んでもよい。
【0079】
調節エレメントには、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現、誘導性発現、および抑制性発現を指示するもの、ならびに特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を指示するもの(例えば、組織特異的調節配列)が含まれる。いくつかの実施形態において、ベクターは、1つ以上のPOL IIIプロモーター、1つ以上のPOL IIプロモーター、1つ以上のPOL Iプロモーター、または、それらの組み合わせを含む。POL IIIプロモーターの例としては、U6プロモーターおよびHIプロモーターがあげられるが、これらに限定されない。POL IIプロモーターの例としては、レトロウイルスのラス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(RSVエンハンサーを有していてもよい)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMVエンハンサーを有していてもよい。例えば、Boshart et al.(Cell、1985、41:521―530)を参照)、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクタ―ゼプロモーター、β―アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEFlαプロモーターがあげられるが、これらに限定されない。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望の発現レベル等の要因に依存し得ることが、当業者には理解される。ベクターを宿主細胞に導入することにより、本明細書に記載の核酸配列によりコードされる転写産物、融合タンパク質または融合ペプチドを含むタンパク質またはペプチドを産生することができる。
【0080】
本明細書で使用する「遺伝子」とは、エクソンおよび関連する調節配列からなるポリヌクレオチド配列のことを指す。遺伝子は、イントロンおよび/または非翻訳領域(UTR)をさらに含んでいてもよい。
【0081】
本明細書で使用される「操作可能に結合した」という用語は、互いに機能的関係にあるポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列のことを指す。例えば、調節配列(例えば、プロモーターやエンハンサー)は、調節配列がポリヌクレオチドの転写を調節するか、または調節に寄与する場合、遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドに「操作可能に結合され」ている。操作可能に結合した調節エレメントは、一般的に、コード配列と連続している。しかしながら、エンハンサーは、プロモーターから数キロベース以上離れていても機能することができる。従って、いくつかの調節エレメントは、ポリヌクレオチド配列と操作可能に結合していてよく、ポリヌクレオチド配列とは連続していなくてもよい。同様に、翻訳調節エレメントは、ポリヌクレオチドからのタンパク質発現の調節に寄与する。
【0082】
本明細書で使用する「発現」とは、DNA鋳型からのポリヌクレオチドの転写のことを指し、この転写の結果、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)またはその他のRNA転写物(例えば、構造RNAまたはスキャフォールドRNA等の非コードRNA)が生じる。この用語は、さらに、転写したmRNAがペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳されるプロセスのことを指す。転写産物およびコードされたポリペプチドは、「遺伝子産物」と総称してもよい。発現は、ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合は、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含んでもよい。
【0083】
「コード配列」または選択されたポリペプチドを「コードする」配列は、適切な調節配列の制御下に置かれると、in vitroまたはin vivoで、ポリペプチドに転写されたり(DNAの場合)、翻訳されたり(mRNAの場合)する核酸分子である。コード配列の境界は、5’末端の開始コードンと3’末端の翻訳停止コードンによって決定する。転写終結配列は、コード配列の3’末端に位置してもよい。
【0084】
本明細書で使用する「調節する」という用語は、機能の量、程度、または大きさの変化のことを指す。従って、遺伝子発現の「調節」には、遺伝子活性化と遺伝子抑制の両方が含まれる。調節は、標的遺伝子の発現によって直接的または間接的に影響を受ける任意の特性を決定することによってアッセイすることができる。このような特性には、例えば、RNAレベルまたはタンパク質レベル、タンパク質活性、産物のレベル、遺伝子の発現、またはレポーター遺伝子の活性レベルの変化が含まれる。
【0085】
本明細書で使用する「ベクター」および「プラスミド」は、遺伝物質を細胞に導入するためのポリヌクレオチド送達ビヒクルを指す。ベクターは直鎖状であってもよいし、環状であってもよい。ベクターは、適当な宿主細胞においてベクターの複製を引き起こすことができる複製配列(例えば、複製起点)を含むことができる。適当な宿主の形質転換を行うと、ベクターは、宿主ゲノムから独立して複製して機能するか、または、宿主ゲノムに統合され得る。ベクターの設計は、特に、ベクターの使用目的および宿主細胞に依存し、特定の使用目的および特定の宿主細胞に対する本発明のベクターの設計は、当該技術分野の技術レベルの範囲内である。主要なベクターの種類には、プラスミド、ウイルスベクター、コスミド、人工染色体の4つがある。一般的に、ベクターは、複製起点、マルチクローニング部位、および/または選択可能なマーカーを含んでいる。発現ベクターは、一般的に、発現カセットからなる。「組換えウイルス」とは、例えば、異種核酸構築物をウイルスゲノムまたはその一部に付加または挿入することにより、遺伝的に改変されたウイルスを意味する。
【0086】
本明細書で使用する「発現カセット」とは、組換え法を使用して、または合成手段によって生成され、宿主細胞における選択されたポリヌクレオチドの発現を容易にするために、選択されたポリヌクレオチドに操作可能に結合された調節配列を含むポリヌクレオチド構築物のこと指す。例えば、制御配列は、宿主細胞における選択されたポリヌクレオチドの転写、または宿主細胞における選択されたポリヌクレオチドの転写と翻訳を促進することができる。発現カセットは、例えば、宿主細胞のゲノム中に統合する、または発現ベクターを形成するためにベクター中に存在することができる。
【0087】
本明細書で使用される「間」という用語は、所定の範囲内の末端値を包含する(例えば、「約1ヌクレオチド長と約50ヌクレオチド長の間)には、1ヌクレオチド長と50ヌクレオチド長が含まれる)。
【0088】
本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、アミノ酸類似体、修飾アミノ酸、ペプチド模倣体、グリシン、およびDまたはL光学異性体を含む、天然および合成(非天然)のアミノ酸のことを指す。
【0089】
本明細書で使用される「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は、互換的であり、アミノ酸のポリマーのことを指す。ポリペプチドは、どのような長さであってもよい。ポリペプチドは、分枝状でも直鎖状でもよく、非アミノ酸で中断されていてもよく、修飾アミノ酸を含んでいてもよい。この用語は、また、例えば、アセチル化、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、リン酸化、PG化、ビオチン化、架橋結合、および/またはコンジュゲーション(例えば、標識成分や標識リガンドとの結合)によって修飾されたアミノ酸ポリマーのことを指す。本明細書中では、ポリペプチドの配列は、特に指示がない限り、従来のN末端からC末端への方向で表示する。ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、分子生物学の分野における常用技術を用いて作製することができる。さらに、本質的にいかなるポリペプチドまたはポリヌクレオチドも商業的供給源から入手可能である。
【0090】
本明細書で使用される「融合タンパク質」および「キメラタンパク質」という用語は、天然には同時に存在しない2つ以上のタンパク質、タンパク質ドメイン、またはタンパク質フラグメントを単一のタンパク質中で結合させることによって作製される単一のタンパク質のことを指す。
【0091】
本明細書で使用される「部分」とは、分子の一部を指し得る。部分は、官能基であり得る、または、(例えば、共通の構造的態様を共有する)複数の官能基を有する分子の一部のことをいうこともある。この「部分」という用語と「官能基」という用語は、一般的に、互換的に使用されるが、「官能基」は、より具体的には、ある共通の化学的挙動を有する分子の一部を指すことができる。「部分」は、構造的な説明として使用されることが多い。いくつかの実施形態において、5’末端、3’末端、または、5’末端および3’末端は、1つ以上の部分を含み得る。
【0092】
本明細書で使用される「修飾タンパク質」、「変異タンパク質」、「タンパク質変種」、および「操作タンパク質」は、一般的には、非天然の配列からなるように修飾されたタンパク質のことを指す(すなわち、修飾タンパク質は、非修飾タンパク質と比較すると、独自の配列を有する)。
【0093】
「被験者」、「個体」または「患者」は、本明細書において互換的に使用され、ヒト、および、アカゲザル、チンパンジー、および、その他のサルや類人猿種等の非ヒト霊長類を含む霊長類、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ等の家畜、イヌ、ネコ等の家畜哺乳類、ウサギ、マウス、ラット、モルモット等の実験動物、ニワトリ、七面鳥、その他のガリン科の鳥、アヒル、およびガンを含む家禽類、野鳥、狩猟鳥類等の鳥類を含む脊索動物門の任意のメンバーのことを指す。脊索動物門の任意の動物とは、上記のものに限定されない。この用語は、特定の年齢や性別を示すものではない。従って、この用語は、成体、幼体、および新生個体、また、雄および雌を含む。
【0094】
組成物または薬剤の「有効量」または「治療上の有効量」という用語は、所望の反応を得るのに十分な組成物または薬剤の量のことを指す。好ましくは、有効量は、1つ以上の有害な副作用を予防、回避、または排除する。必要とされる正確な処置量は、被験体の種、年齢、および一般的な状態、治療される状態の重症度、使用される特定の治療法、投与様式等に応じて、被験体ごとに異なる。個々の症例における適切な「有効」量は、日常的な実験を用いて当業者が決定してもよい。
【0095】
特定の疾患の「治療」または「治療すること」には、(1)疾患を予防すること、例えば、疾患の素因を有している可能性があるが、まだ疾患の症状を経験していなかったり、示していなかったりする被験体において、疾患の発症を予防すること、疾患の進行を防止すること、または、疾患がより低い強度で発生するようにすること、(2)疾患を阻害すること、例えば、発症速度を低下させること、疾患の進行を阻止すること、または、疾患状態を逆転させること、および/または(3)疾患の症状を緩和すること、例えば、被験体によって経験される症状の数を減少させること、が含まれる。
【0096】
本明細書で使用する「形質転換」とは、挿入の方法にかかわらず、外来性ポリヌクレオチドの宿主細胞への挿入のことを指す。例えば、形質転換は、直接的な取り込み、トランスフェクション、感染等によるものであり得る。核酸とポリヌクレオチドは、例えば、ウイルスベクター、ヌクレオフェクション、遺伝子銃、ソノポレーション、細胞圧搾、リポフェクション、または化学物質(例えば、細胞透過性ペプチド)を用いて細胞に導入することができる。
【0097】
本明細書中で使用される「ヘルペスウイルス」は、ヘルペスウイルス科のメンバーを指し、従って、単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV-2)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒトヘルペスウイルス6、ヒトヘルペスウイルス7、及びにカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)等のウイルスが含まれるが、これらに限定されない。
短鎖相補的核酸
【0098】
本明細書に記載されるように、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)は、設計および合成が可能で、ヘルペスウイルスおよび/またはアデノウイルスの複製等のDNAウイルス複製を阻害するものである。いくつかの実施形態において、短鎖相補的核酸(scRNA等)は、1つ以上のPyを含むヘルペスウイルスの即時型遺伝子内のイントロンRNAに相補的であり得る。特定の実施形態において、短鎖相補的核酸(scRNA等)は、1つ以上のPyを含むHCMVの即時型遺伝子のイントロンRNAに相補的であってもよい。
【0099】
特定の実施形態において、短鎖相補的核酸(scRNA等)は、IE1からIE2への転写スイッチングを担う2つのPyトラクトを含むHCMV MIE遺伝子のイントロン4(エクソン4とエクソン5の間)の全部または一部に相補的であってもよい。
【0100】
いくつかの実施形態において、イントロンRNAに相補的なscRNAは、一方または両方のPyをカバーすることができる。
【0101】
実施形態において、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)は、スプライシング因子のイントロンとの相互作用に干渉してもよく、好ましくは、それによって必須遺伝子の発現を抑制してもよい。そのような実施形態のうちいくつかにおいて、スプライシング因子は、U2AF65および/またはU2AF35である。そのような実施形態のうちいくつかにおいて、イントロンは、HCMVのMIE遺伝子のイントロン4である。
【0102】
いくつかの実施形態において、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)は、配列5’-cacgccugugaaaccguacuaagucucccgugucuucuuaucaccaucag-3’からなるか、その断片もしくは部分からなるか、または、その誘導体の修飾体からなる。
【0103】
いくつかの実施形態において、短鎖相補的核酸は、DNA、RNA、またはDNAとRNAの混合物であり、例えば、1つ以上の脱塩基部位、塩基類似体、および/または修飾塩基を含んでもいてもよいし、含んでいなくてもよい。いくつかの実施形態において、短鎖相補的核酸配列は、RNAを含む。いくつかの実施形態において、短鎖相補的核酸配列は、RNAのみを含む。さらに、本明細書で提供するsiRNAは、いくつかの実施形態において、DNA塩基を含んでいてもよい。
【0104】
特定の態様および実施形態において、本明細書における核酸分子(短鎖相補的核酸およびsiRNAを含むが、これらに限定されない)は、1つ以上の修飾(または化学修飾)を含んでいてもよい。このような修飾は、ポリヌクレオチドのヌクレオチド糖、ヌクレオチド塩基、ヌクレオチドリン酸基、および/またはリン酸骨格において存在し得る。
【0105】
特定の実施形態において、本明細書に開示される修飾は、核酸分子(短鎖相補的核酸、scRNA、および/またはsiRNA)のin vivoの安定性、特に、血清中の安定性を高めるため、および/または、分子の生物学的利用能を高めるために使用されてもよい。修飾の非限定的な例としては、インターヌクレオチドまたはインターヌクレオシド結合、核酸分子の任意の位置および鎖におけるデオキシヌクレオチドまたはジデオキシリボヌクレオチド、好ましくは、アミノ、フルオロ、メトキシ、アルコキシおよびアルキルから選択される2’-位に修飾を有する核酸(例えば、リボ核酸)、2’-デオキシリボヌクレオチド、2’-O-メチルリボヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、「非環式」ヌクレオチド、5-C-メチルヌクレオチド、ビオチン基、および、末端グリセリルおよび/または逆デオキシ塩基性残基の組込み、蛍光分子等の立体障害分子があげられ、限定されない。その他の修飾ヌクレオチドには、例えば、3’-デオキシアデノシン、3’-アジド-3’デオキシチミジン、2’,3’-ジデオキシイノシン、2’,3’-ジデオキシ-3’-チアシチジン、2’,3’-ジデヒドロ-2’,3’-ジデオキシチミジン、および、3’-アジド-3’-デオキシチミジン、2’,3’-ジデオキシ-3’-チアシチジンおよび2’,3’-ジデオヒドロ-2’,3’-ジデオキシチミジンのモノリン酸ヌクレオチドを含んでもよい。
【0106】
また、本明細書において提供されるのは、ロック核酸(LNA)ヌクレオチド(例えば、2’-O,4’-C-メチレン-(D-リボフラノシル)ヌクレオチド)、2’-メトキシエトキシ(MOE)ヌクレオチド、2’-メチルチオエチル、2’-デオキシ-2’-フルオロヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-クロロヌクレオチド、2’-アジドヌクレオチド、および2’-O-メチルヌクレオチドである。化学修飾には、C2’-C3’結合が存在しない非ヌクレオチド、非環式類似体であるアンロック核酸、またはUNAが含まれる。
【0107】
化学修飾は、また、核酸の5’部分および/または3’部分の末端修飾を含み、キャッピング部分としても知られている。このような末端修飾は、ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、脂質、ペプチド、および糖から選択される。化学修飾は、また、「6員環ヌクレオチド類似体」を含む。六員環ヌクレオチド類似体の例には、ヘキシトールモノマーおよびアルトリトールヌクレオチドモノマ―が含まれる。
【0108】
化学修飾には、通常の天然に存在するヌクレオチドと比較して、逆のキラリティを有する「ミラー」ヌクレオチドも含まれる。ミラーヌクレオチドは、少なくとも1つの糖または塩基修飾および/または骨格修飾をさらに含んでいてもよい。ミラーヌクレオチドは、例えば、L-DNA(L-デオキシリボアデノシン-3’-リン酸(ミラーdA)、L-デオキシリボシチジン-3’-リン酸(ミラーdC)、L-デオキシリボグアノシン-3’-リン酸(ミラーdG)、L-デオキシリボチミジン-3’-リン酸(ミラーdT))およびL-RNA(L-リボウデノシン-3’-リン酸(ミラーrA)、L-リボシチジン-3’-リン酸(ミラ-rC)、L-リボグアノシン-3’-リン酸(ミラーrG)、およびL-リボウラシル-3’-リン酸(ミラーdU))を含む。
【0109】
いくつかの実施形態において、修飾リボヌクレオチドは、修飾デオキシリボヌクレオチド、例えば5’OMe DNA(5-メチルデオキシリボグアノシン-3’-リン酸)、PACE(デオキシリボアデノシン3’ホスホノアセテート、デオキシリボシチジン3’ホスホノアセテート、デオキシリボグアノシン3’ホスホノアセテート、デオキシリボチミジン3’ホスホノアセテート)を含む。
【0110】
本明細書に開示される核酸(短鎖相補的核酸、scRNAおよび/またはsiRNA)の核酸塩基は、アデニン、グアニン、シトシン、チミジン、ウラシルのような未修飾デオキシリボヌクレオチドおよび未修飾リボヌクレオチド(プリンおよびピリミジン)を含んでいてもよい。核酸塩基は、チミン、キサンチン、ヒポキサンチン、イノシン、2-アミノアデニン、アデニン並びにグアニンの6-メチルおよびその他のアルキル誘導体、以下のあらゆる「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド等の天然および合成核酸塩基で修飾することができる。「ユニバーサル塩基」は、アデニンとグアニンの2-プロピル誘導体およびその他のアルキル誘導体、5-ハロウラシル並びにシトシン、5-プロピニルウラシル並びにシトシン、6-アゾウラシル、シトシン、並びにチミン、5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、アミノ、チオール、チオアルキル、ヒドロキシル、およびその他の8-置換アデニン並びにグアニン、5-トリフルオロメチルおよびその他の5-置換ウラシル並びにシトシン、7-メチルグアニン、デアザプリン、プリンとピリミジンのヘテロサイクリック置換類似体、例えば、アミノメトキシフェノキサジン、プリンとピリミジンの誘導体(例えば、1-アルキル誘導体、1-アルケニル誘導体、ヘテロアロマチック誘導体、および、1-アルキニル誘導体)、および、それらの互変異性体、8-オキソ-N6-メチルアデニン、7-ジアザキサンチン、5-メチルシトシン、5-メチルウラシル、5-(1-プロピニル)ウラシル、5-(1-プロピニル)シトシン、および4,4-エタノシトシン等である。適切な塩基のその他の例としては、2-アミノピリジンおよびトリアジン等の非プリニル塩基および非ピリミジニル塩基があげられる。
【0111】
本明細書に開示される核酸(短鎖相補的核酸、scRNAおよび/またはsiRNA)中の糖部分は、いかなる修飾も有しておらず、2’-ヒドロキシル-ペントフラノシル糖部分を含むことができる。あるいは、2’-デオキシ-ペントフラノシル糖部分、D-リボース、ヘキソース等の糖部分は修飾することができ、この修飾は、2’-O-アルキル(2’-O-メチルおよび2’-O-エチルを含む)のようなペントフラノシル糖部分の2’位での修飾である。すなわち、2’-アルコキシ、2’-アミノ、2’-O-アリール、2’-S-アルキル、2’-ハロゲン(2’-フルオロ、クロロおよびブロモを含む)、2’-メトキシエトキシ、2’-O-メトキシエチル、2’-O-2-メトキシエチル、2’-プロパルギル、2’-プロピル、エチニル、エテニル、プロペニル、CF、シアノ、イミダゾール、カルボキシレート、チオエート等が修飾される。
【0112】
いくつかの実施形態において、ペンタフラノシル環は、ペンタフラノシル環のC2’-C3’-結合を欠く非環式誘導体で置換されてもよい。例えば、アシクロヌクレオチドは、dNMPに通常存在する2’-デオキシリボフラノシル糖の代わりに、2-ヒドロキシエトキシメチル基で置換してもよい。
【0113】
本明細書に開示される核酸(短鎖相補的核酸、scRNAおよび/またはsiRNA)のヌクレオシドサブユニットは、ホスホジエステル結合によって互いに結合されてもよい。ホスホジエステル結合は、任意にその他の結合で置換されてもよい。例えば、ホスホロチオエート、チオホスフエートD-リボース体、トリエステル、チオエート、2’-5’架橋骨格、PACE、3’-(または5’)デオキシ-3’-(または5’)チオホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、3’-(または5’-)デオキシホスフィネート、ボラノホスフィネート、3’-(または5’-)デオキシ-3’-(または5’-)アミノホスホルアミデート、水素ホスホネート、ホスホネート、ボラノホスフィネートエステル、ホスホルアミデート、アルキルまたはアリールホスホネート、および、アルキルホスホトリエステル、ホスホトリエステル-リン結合、5’-エトキシホスホジエステル、P-アルキルオキシホスホトネステル、メチルホスホネート、非リン含有結合等のホスホトリエステル修飾体、例えば、炭酸塩、カルバミン酸塩、シリル、硫黄、スルホン酸、スルホンアミド、ホルマセタル、チオホルムアセチル、オキシム、メチレンイミノ、メチレンメチルイミノ、メチレンヒドラゾ、メチレンジメチルヒドラゾおよびメチレンオキシメチルイミノ結合である。
【0114】
本明細書に開示される核酸分子(短鎖相補的核酸、scRNAおよび/またはsiRNA)は、ペプチド核酸(PNA)骨格を含んでもよい。PNA骨格は、ペプチド結合によって結合した反復N-(2-アミノエチル)-グリシンユニットを含む。プリン塩基、ピリミジン塩基、天然塩基、合成塩基等の様々な塩基は、メチレンカルボニル結合によって骨格に結合する。
【0115】
修飾は、末端リン酸基で行うことができる。異なる安定化化学構造の非限定的な例を使用して、例えば、核酸配列の3’-末端を安定化することができる。例えば、(1)[3-3’]-逆デオキシリボース、(2)デオキシリボヌクレオチド、(3)[5’-3’]-3’-デオキシリボヌクレオチド、(4)[5’-3’]-リボヌクレオチド、(5)[5’-3’]-3’-O-メチルリボヌクレオチド、(6)3’-グリセリル、(7)[3’-5’]-3’-デオキシリボヌクレオチド、(8)[3’-3’]-デオキシリボヌクレオチド、(9)[5’-2’]-デオキシリボヌクレオチド、および(10)[5-3’]-ジデオキシリボヌクレオチドである。未修飾の骨格化学構造に加えて、本明細書に記載の1つ以上の異なる骨格修飾と組み合わせることができる。
【0116】
本明細書で提供される修飾ヌクレオチドおよび核酸分子は、複合体、例えば、核酸分子に共有結合した複合体を含んでもよい。複合体は、リンカーを介して核酸分子に共有結合してもよい。一実施形態において、複合体分子は、例えば、特定の型の細胞内、または細胞内の特定の細胞内区画内もしくは小胞内等の細胞内への核酸分子の送達を容易にする分子を含んでもよい。複合体は、また、例えば、検出可能な標識、または、第2の分子による結合または検出を容易にする分子を含んでもよい。
【0117】
いくつかの実施形態では、scRNAのような短鎖相補的核酸は、約500以下、約400以下、約300以下、約200以下、約100以下、約90以下、約80以下、約70以下、約60以下、約50以下、約40以下、約30以下、約25以下、約20以下、約15以下、約14以下、約13以下、約12以下、約11以下、約10以下、約9以下、約8以下、約7以下、約6以下、約5以下、約4以下、約3以下、または、約2以下の塩基長を有する。
【0118】
いくつかの実施形態において、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)は、目的のイントロン配列に対して相補的な配列に対する特定の配列同一性を有する配列を備える。いくつかの実施形態において、配列は、目的のイントロン配列に対して相補的な配列に対して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または、少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0119】
いくつかの実施形態において、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)は、配列5’-cacgccugugaaaccguacuaagucucccgugucuucuuaucaccaucag-3’に対して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を備える。
補完的短鎖相補的核酸とsiRNAの結合
【0120】
siRNAは、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)と結合させて、混合させて、組合せて、連続的に、または、同時に使用することができる。本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)は、好ましくは、完全にまたは部分的に相補的な塩基対合(ハイブリダイゼーション)によってイントロンを標的とする。いくつかの実施形態において、本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)は、核内のHCMVのMIE遺伝子のイントロン4のPy含有部分とハイブリダイズする。これに対して、細胞質内の(例えば、HCMVのMIE遺伝子の)mRNAを標的とするsiRNAを使用して、RISC複合体を形成し、mRNAの分解を引き起こすようにしてもよい。siRNAと本開示の短鎖相補的核酸(scRNA等)の基礎となるメカニズムは異なるため、本明細書の実施形態では、ウイルス遺伝子の発現および複製に対する相加的または相乗的な阻害効果が得られる可能性がある。
【0121】
本開示のsiRNAおよび短鎖相補的核酸(scRNA等)は、同時に送達されてもよく、または、異なる時に送達されてもよい。本開示のsiRNAおよび短鎖相補的核酸(scRNA等)は、同じ送達機構または送達ビヒクルを使用して送達されてもよく、または、異なる送達機構または送達ビヒクルを使用して送達されてもよい。
治療薬よび治療組成物の送達
【0122】
短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸の送達は、当業者に公知の多くの方法によって達成してもよい。いくつかの実施形態において、短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸は、細胞内に直接導入することができる。これらの成分を細胞内に導入する非限定的な方法としては、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リポフェクション、パーティグルガン法、および、マイクロパーティグルガン法が挙げられる。
【0123】
短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸の送達は、粒子、脂質小胞、または、担体等の送達ビヒクルを使用することによって達成してもよい。核酸分子は、担体もしくは希釈剤、または、ウイルス配列、ウイルス特有リポソーム製剤、リポフェクチン、もしくは、沈殿剤等を含む、細胞内への侵入を補助、促進、または、容易化するよう作用する任意のその他の送達ビヒクルとともに、薬剤(核酸分子等)を直接投与することによって、被験体に送達または投与することができる。
【0124】
短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸の送達は、また、リポソームへの封入を含むがこれに限定されない当業者に公知の様々な方法によって、イオントフォレーシス、または生分解性ポリマー、ヒドロゲル、シクロデキストリン、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、およびPLGAマイクロスフェア、生分解性ナノカプセル、生体接着性マイクロスフェア等のその他のビヒクルへの組込み、あるいはタンパク質性ベクターによって達成してもよい。
【0125】
短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸は、カチオン性脂質と複合体化して、リポソーム内にパッケージングでき、また、そうでない場合は、標的細胞または標的組織に送達することができる。このような核酸、または核酸複合体は、生体高分子への組込みの有無にかかわらず、直接経皮適用、経皮適用、または注射によって、ex vivoまたはin vivoで関連組織に局所投与することができる。送達システムには、ポリ(エチレングリコール)脂質を含む表面修飾リポソーム(PEG修飾リポソーム、滞留型リポソーム、またはステルスリポソーム)がある。これらの製剤は、標的組織における薬物の蓄積を増加させる方法を提供する。
【0126】
短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸は、ポリエチレンイミン(例えば、直鎖状または分枝状のPEI、)および/または、例えば、ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコールN-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-GAL)、またはポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-トリ-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-triGAL)誘導体、ガラクト-スPEI、コレステロールPEI、抗体誘導体化PEI、ポリエチレングリコールPEI(PEG-PEI)等のグラフト型PEI等を含むポリエチレンイミン誘導体と配合、または複合することができる。
【0127】
いくつかの実施形態では、短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸は、ナノ粒子を含むがこれらに限定されない送達粒子内において製剤化される。いくつかの実施形態では、短鎖相補的核酸(scRNA等)およびsiRNAは、同じナノ粒子内において製剤化される。その他の実施形態では、短鎖相補的核酸(scRNA等)およびsiRNAは、異なる、および/または別個の、ナノ粒子(複数可)内において製剤化される。
【0128】
いくつかの実施形態では、粒子(ナノ粒子等)は、1つ以上のカチオン性ポリマーを備える。いくつかの実施形態において、1つ以上のポリマーは、ポリアミンもしくはポリイミン、またはそれらの誘導体を備えてもよい。
【0129】
いくつかの実施形態において、粒子は、コアと、コアを包含する1つ以上のシェル層とを備えてもよい。いくつかの実施形態において、粒子、または粒子コアは、ポリエチレンイミン(PEI)およびポリスペルミンイミダゾール4、5-イミン(PSI)と複合体化された1つ以上の核酸を備えてもよい。いくつかの実施形態において、ネットワークカチオン性ポリマーは、(例えば、100~400nmの範囲の)粒子または粒子コアとして使用してもよく、スペルミンイミダゾール4、5-アルデヒドオリゴマ―と分岐ポリエチレンイミン(PEI-800)との縮合によって調製される。
【0130】
いくつかの実施形態において、ネットワークカチオン性ポリマーの大きさは、(例えば、このような縮合反応が起こる)溶液のpHを変化させることによって、および/または塩濃度を調整することによって、調整することができる。いくつかの実施形態において、約9~12のpHが使用され、および/または約0~30mMの塩濃度が使用される。いくつかの実施形態において、約9のpHが使用される。いくつかの実施形態において、塩は塩化ナトリウムである。
【0131】
いくつかの実施形態において、コア粒子は、少なくとも1つのラッピング層で包まれている。いくつかの実施形態において、ラッピング層はポリマーである。いくつかの実施形態において、ポリマーは、親水性ポリマーおよび/または水溶性ポリマーである。いくつかの実施形態において、ラッピングポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0132】
いくつかの実施形態において、粒子は、標的化部分を使用して、例えば、特定の細胞または細胞型を含む特定の目的地に特異的に標的化してもよい。いくつかの実施形態において、標的化部分は、標的細胞の表面上の分子に結合する分子、リガンド、またはタンパク質である。いくつかの実施形態では、粒子は、HCMV感染細胞(またはHCMVによって感染可能な細胞)に優先的に粒子を標的化する標的化部分を備えていてもよい。いくつかの実施形態では、標的化部分は、ケモカイン分子である。いくつかの実施形態において、ケモカイン分子は、CX3CL1、またはHCMV感染細胞の表面に発現するUS28受容体に結合するその変異体もしくは誘導体である。
【0133】
当業者に公知の様々な技術を用いて、標的化部分を粒子に結合させることができる。
【0134】
いくつかの実施形態において、標的化部分は、リジンに結合して、(例えば、N末端および/またはC末端において、またはN末端および/またはC末端に向かって)余分なアミノ基を生成してもよい。いくつかの実施形態において、リジンは、CX3CL1、またはその変異体もしくは誘導体のような標的化部分のC末端に結合される。いくつかの実施形態において、標的化部分は、結合によって、粒子、コア、またはラッピング層に固定化される。いくつかの実施形態において、標的化部分(CX3CL1等)は、標的化部分に遊離した、または導入したアミノ基を使用すること等により、PEGラッピング層に固定化される。
【0135】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるように、核酸含有コアおよび1つまたは複数のラッピング層を含む粒子等の核酸含有粒子は、細胞(HCMV感染細胞等)によってエンドソ―ム内に取り込まれ、核酸は、エンドソ―ムの低pH条件下でコア複合体から放出することができる(細胞質基質への進入を得る)。
【0136】
いくつかの実施形態において、短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸は、膜破壊剤と複合体化することができる。膜破壊剤および核酸分子はまた、カチオン性脂質またはヘルパー脂質分子と複合体化してもよい。
【0137】
送達システムは、例えば、水性および非水性ゲル、クリーム、多重エマルション、マイクロエマルション、リポソーム、軟膏、水性および非水性溶液、ローション、エアロゾール、炭化水素塩基および炭化水素粉末を含んでもよく、可溶化剤、透過促進剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコール、およびアミノ酸)、親水性ポリマー(例えば、ポリカルボフィル、およびポリビニルピロリドン)等の賦形剤を含むことができる。
【0138】
本明細書に開示する組成物、方法、およびキットは、本発明の少なくとも1つの核酸分子をコードする核酸配列を核酸分子の発現を可能にする方法で含む発現ベクターを含んでもよい。細胞の環境中に核酸分子または核酸分子を発現可能な1つ以上のベクターを導入する方法は、細胞型およびその環境の構成に依存する。
【0139】
いくつかの実施形態において、短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸は、DNAベクターまたはRNAベクターに挿入した転写ユニットから発現してもよい。組換えベクターは、DNAプラスミドまたはウイルスベクターであり得る。核酸分子発現ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、またはアルファウイルスに基づいて構築することができるが、これらに限定されない。核酸分子を発現することができる組換えベクターは、本明細書に記載されるように、送達することができ、標的細胞中で存続できる。あるいは、核酸分子の一過性の発現を提供するウイルスベクターを使用することもできる。このようなベクターは必要に応じて繰り返し投与することができる。核酸分子発現ベクターの送達は、静脈内投与または筋肉内投与等の全身投与が可能である。
【0140】
発現ベクターは、以下のうちの1つ以上を含んでもよい。すなわち、a)転写開始領域(例えば、真核生物pol I、IIまたはIII開始領域)、b)転写終結領域(例えば、真核生物pol I、IIまたはIII終結領域)、c)イントロン、およびd)核酸分子の少なくとも1つをコードする核酸配列のうち1つ以上を含んでもよい。ここで、そのような配列は、核酸分子の発現および/または送達を可能にする様式で、開始領域および終結領域に操作可能に結合される。
【0141】
このような核酸分子配列の転写は、真核生物RNAポリメラーゼI(pol I)、RNAポリメラーゼII(pol II)、またはRNAポリメラーゼIII(pol III)のプロモーターから駆動することができる。
【0142】
本明細書において、投与される核酸の有用な投与量、および特定の投与様式は、当業者に明らかなように、細胞型等の因子に依存して異なり、または、in vivoでの使用の場合、年齢、体重、および治療する特定の動物およびその領域、使用する特定の薬剤(例えば、核酸)および送達の方法、治療的または診断的使用であるか、ならびに製剤の形態が、例えば、懸濁液、エマルジョン、ミセル、またはリポソームであるか等の因子によって変化する。
【0143】
核酸を送達するために脂質を使用する場合、投与する脂質化合物の量は変化し得るものであって、一般的に、投与する核酸の量に依存する。例えば、脂質化合物と核酸の重量比は、好ましくは約1:1~約30:1であり、約5:1~約10:1の重量比がより好ましい。
【0144】
核酸分子の好適な投与単位は、1日にレシピエントの体重1キログラム当たり0.001~0.25ミリグラムの範囲内、または1日に体重1キログラム当たり0.01~20マイクログラムの範囲内、または1日に体重1キログラム当たり0.01~10マイクログラムの範囲内、または1日に体重1キログラム当たり0.10~5マイクログラムの範囲内、または1日に体重1キログラム当たり0.1~2.5マイクログラムの範囲内としてもよい。
【0145】
短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸は、HCMVのようなヘルペスウイルス等のヘルペスウイルスまたはアデノウイルスに感染している、または感染している疑いのある個体を治療するために使用することができる。
【0146】
短鎖相補的核酸(scRNA等)および/またはsiRNA等の本開示の核酸の投与は、エアロゾール吸入、注射、経口摂取、輸血、インプランテーション、またはトランスプランテーションを含む任意の都合のよい方法で実施してもよい。本明細書に記載の組成物は、皮下投与、皮内投与、腫瘍内投与、結節内投与、髄内投与、筋肉内投与、静脈内注射もしくはリンパ液内注射、または腹腔内投与によって、患者に投与してもよい。上記の薬剤または組成物は、1回または複数回に分けた服用量で投与することができる。いくつかの実施形態において、有効量を1回の服用量として投与する。その他の実施形態においては、有効量を、一定期間にわたって、2回以上の服用量として投与する。特定の疾患または状態に対するある細胞の型の有効量の最適範囲の決定は、当業者の技術の範囲内で行われる。
【0147】
本開示の治療は、例えば、ヌクレオシド類似体、2’-デオキシグアノシンの合成非環式類似体(およびそれらの誘導体)、およびCMVターミナーゼ複合体を標的とする低分子量化合物を含む、その他の抗ヘルペスウイルス治療または抗アデノウイルス治療と同時に、またはその前に、またはその後に提供することができる。
実験
【0148】
本発明の非限定的な実施形態を以下の実施例に示す。使用する数値(例えば、量、濃度、変化率等)に関して正確性を確保するための努力がなされているが、若干の実験誤差および逸脱に関しては説明されるべきである。
【0149】
特に断らない限り、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧または大気圧に近い圧力である。これらの実施例は例示のためにのみ与えられ、本願発明者が本発明の様々な実施形態とみなすものの範囲を限定することを意図するものではないと理解されるべきである。各実施例に記載する以下の工程の全てが必要なわけではなく、また各実施例における工程の順序が提示された通りでなければならないわけでもない。
実施例1
IE1からIE2への転写スイッチングを担うPyの同定
【0150】
エクソン4の末端(図1A)には、IE1遺伝子発現のための停止コードンとポリAシグナルが存在する。さらに、図1Aにも示すように、エクソン4とエクソン5の間であって、IE1のポリAシグナルの後に、2つのPy配列(ucuccc(A)とucuucuu(B))が存在する。IE1からIE2への切り替えがどのように調節されているのか、特に、IE1のポリAシグナルの後のDNA配列がIE2の遺伝子スプライシングに重要であるかどうかを解明するために、Py配列の変異体を作製した。
【0151】
pSVHプラスミドを使用して、3つの異なる変異体、pSVHdPyA(ここでは、ucucccがucagccに変異している)、pSVHdPyB(ここでは、ucuucuuがucaaguuに変異している)、およびpSVHdPyAB(ここでは、AとBの両方が変異している)を作成した。これらのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした後、ウエスタンブロットアッセイ(図1B)とリアルタイムRT PCRアッセイ(図1C)を用いて、IE1とIE2の産生を、それぞれタンパク質レベルと転写レベルの両方で調べた。その結果、pSVHdPyBとpSVHdPyABは、IE1の発現には影響がなかったが、IE2は、有意なレベルで発現することができなかった。また、pSVHdPyAは、pSVHよりもはるかに低いレベルでIE2を発現することが観察された。この結果から、2番目のPy(B)はIE2を産生する遺伝子のスプライシングに必要であること(その変異体(ucaaguu)はIE2を発現しなかったため)、そして1番目のPy(A)はIE2のスプライシングと発現に重要であることが示された。
【0152】
さらに、免疫蛍光アッセイ(1FA)を行って、トランスフェクトしたMRC-5細胞からのIE1/2の産生を調べた。MRC-5細胞を、pSVHdPyA(図1Dの上段のパネル)、pSVH(図1Dの中段のパネル)、またはpSVHdPyB(図1Dの下段のパネル)で、20時間トランスフェクトした。次に、これらの細胞を1%パラホルムアルデヒドで固定し、0.2%トリトンX-100で透過処理した。次に、それぞれIE1またはIE2の産生を示すために、これらの細胞を抗IE1抗体または抗IE2抗体にインキュベートした。全細胞は、DAPI染色によって可視化した。全ての色を最初のカラムで統合した。
【0153】
図1Dに示すように、IE1の産生は、顕著な影響は受けなかった。これは、トランスフェクションに用いたプラスミドに関係なく細胞内で検出されたことよる。しかし、pSVHdPyBでトランスフェクトした細胞では、IE2の産生は検出されなかった。
実施例2
ポリピリミジントラクト(Py)、はイントロンとスプライシングとの間の相互作用を媒介する
【0154】
PyAまたはPyBがイントロン4とU2AF65との間の相互作用を媒介するかどうかを判定するために、RNA EMSAアッセイを行った。具体的には、U2AF65タンパク質を放射標識されたRNAプローブ(図2A、配列は表1に示す)とともにインキュベートし、以下のレーンで非変性PAGEを用いて分解した。すなわち、1)PysAおよびPysBを含まないRNA(dPyAB)、2)PyBを含まないRNA(dPyB)、3)PyAを含まないRNA(dPyA)、および4)PysAおよびPysBの両方を含むRNA(wt)のレーンで分解を行った。結合したプローブをwtのプローブ(レーン4)と比較するとわかるように、U2AF65は、PyBが変異したRNAプローブ(1番目と2番目のレーン)には結合せず、PyAが変異した場合(3番目のレーン)には結合が非常に弱くなることがわかった。
【表1】
【0155】
さらに、Pysがin vivoでU2AF-イントロン4結合に影響し得るかどうかを判定するために、RNA ChIPアッセイを行い、スプライシング調節因子(U2AF65およびPTB)がPyと相互作用し得るかどうかを判定した。具体的には、HEK293T細胞を4つの異なるプラスミド(図2B)のうち1つで24時間トランスフェクトし、1%パラホルムアルデヒドで架橋した後、ソニケーターでせん断してRNAを分解した。RNA-タンパク質複合体は、制御IgG、抗PTB、抗U2AF65抗体を用いてプルダウンした。複数回洗浄した後、架橋を95°CのSDSで逆転させた。DNAは、DNase Iの消化で除去し、RNAは、RNA ChIPキットに付属のカラムで精製した。リアルタイムRT-PCRを行い、ChIP後の各サンプル中の特異的RNAの量を判定し、インプットRNAと比較してRNAの割合を算出した。RT-PCRに使用したプライマーを表2に示す。
【表2】
【0156】
図2Bに見られるように、PyBを変異させると、イントロンRNAは、U2AF65またはPTBに結合する能力を失った。PyAを変異させた場合、イントロンRNAのPTBまたはU2AFとの結合は、野生型よりも有意に弱いものであった。
【0157】
従って、これらの実験から、IE2遺伝子のスプライシングを促進するために、いずれかのスプライシング因子がイントロン4に結合する場合には、イントロン4中の両方のPyが重要であることがわかった。2番目のPy(PyB)は、スプライシング因子とイントロンの相互作用に必須であり、1番目のPy(PyA)はその相互作用に重要である。

実施例3
PyAおよびPyBは、IE2遺伝子のスプライシングに影響する
【0158】
PyAまたはPyBがIE2遺伝子のスプライシングに重要であるかどうかを判定するために、in vivo遺伝子スプライシングアッセイを行った。まず、プラスミド(pSVH、pSVHdPyA、pSVHdPyB、またはpSVHdPyAB)をHEK293T細胞に20時間トランスフェクトして、その後、全RNAを採取した。全RNAをDNaseで処理し、混入したプラスミドDNAを除去した。その後、逆転写(RT)のために、mRNAとプレmRNAの両方を逆転写できるように、オリゴdTの代わりにエクソン5(表2)の特異的逆転写プライマー(plE2)を用いてRT-PCRを行った(図3A)。そうすることによって、エクソン3のフォワードプライマーとエクソン5のリバースプライマー(pIE2)を用いて、プレmRNA(*)とmRNA(**)の両方のcDNAを増幅することができた(表2)。(DNase処理後の)全RNAを鋳型として、PCRを行った。
【0159】
図3Bの中ほどのパネルに示すように、DNAは増幅されることはなく、全RNA調製中のプラスミドDNAによる汚染の可能性が除外された。さらに、プラスミドDNAを鋳型として用いたPCR実験では、よりサイズが大きいDNAが増幅された(図3Bの右側)。
【0160】
図3Bの左側に示すように、RT-PCRの結果、pSVHおよびpSVHdPyAでトランスフェクトしたグループについては、2本のバンドが得られ、これらはそれぞれプレmRNA(*)およびmRNA(**)から増幅されたDNAを表している。pSVHdPyBとpSVHdPyABのグループでは、mRNAのバンドは検出できなかった。また、pSVHdPyAでトランスフェクトしたグループのmRNAバンドは、pSVHでトランスフェクトしたグループのものよりもはるかに弱いことがわかる。これらの結果から、IE2のスプライシングのために、また、豊富なプレmRNAから効率的にmRNAを産生するためには、PyBが必要で、PyAが重要であることが示された。
実施例4
HCMVの複製には、PyBが必須であり、PyAが重要である
【0161】
Pyにおける変異をHCMV BACmidに導入して、以下のBACmidを得た。すなわち、HB5dPyA、HB5dPyB、HB5dPyABを得た。BACmidがMRC-5細胞へのトランスフェクション後にIE1/2を発現することができるかどうかを判定するために、トランスフェクション後20時間でMRC-5細胞を固定し、IFAを行ってIE1/2の産生を調べた。
【0162】
図4Aに示すように、BACmid HCMVdPyAのみが、IE1とIE2の両方を産生したが、他の2つのBACmidは、IE1のみを産生し、IE2は産生しなかった。この結果は、図1に示した結果(プラスミドによるトランスフェクション後のもの)と一致した。さらに、復帰変異体BACを作製した(HB5dPyARev、HB5dPyBRev、HB5dPyABRev)。
【0163】
各BACmidをMRC-5細胞にトランスフェクトし、ウイルス形成を可能にした。HB5dPyAは、感染性ウイルス粒子を形成することができた。しかし、他の2つのBACmid(HB5dPyBおよびHB5dPyAB)は、感染性ウイルスを生成できなかった。すべての復帰型BACmidsは、感染性ウイルスを形成することができ、また、野生型と同様に複製した。
【0164】
HCMVdPyAのウイルス複製を野生型HCMV(またはその復帰型)のウイルス複製と比較することによって、HCMVdPyAが複製において欠陥のある表現型を有することがわかった(図4B)。また、ウエスタンブロットアッセイでも、1番目のPyが変異するときに、ウイルスタンパク質の産生が減少することが示された(図4C)。予想の通り、IE2タンパク質は、HCMVdPyAにおいて、復帰型HCMVに比べてかなり遅れて産生された。従って、1番目のPy配列はHCMVの複製に重要であり、2番目のPyはHCMVの複製に必要であることがわかった。
【0165】
図1および図4Aは、トランスフェクション系において、PyAがIE2の産生に重要であることを示している。これらの結果をウイルス感染系で確認するために、ヒト線維芽細胞(MRC-5)にHCMVdPyA(またはその復帰体)を異なる時間感染させ、感染後12時間および24時間で細胞を固定して、免疫染色を行った(IE1(FITC)とIE2(Texas red)に対する抗体を使用)。IE1陽性細胞およびIE2陽性細胞を蛍光顕微鏡下で数えた。
【0166】
感染後12時間では、HCMVdPyAを感染させた場合では、100個のIEl陽性細胞に対して55個のIE2陽性細胞しか見られなかったが、これに対して、復帰型ウイルス感染においては、100個のIEl陽性細胞につき87個のIE2陽性細胞が見られた(図4D)。感染後24時間では、IE2/IE1比は、1に近いものであった(HCMVdPyA感染の74%に対して、復帰型感染系では99%)。これらの結果から、PyAがウイルス感染系においてIE2の産生に重要であることが示された。
【0167】
さらに、ウイルス感染下の状況でPyAが変異している場合に、IE2遺伝子のスプライシングが影響を受けるかどうかを判定するために、MRC-5細胞をHCMVdPyA(またはその復帰体)に0.1のMOIで16時間感染させた。全RNAを単離して、DNase Iで処理した。図5Aの右側に示すように、全RNAを鋳型として使用した場合、PCRは陰性であり、ウイルスDNA混入の可能性は排除された。図5Aの左側は、mRNA(171bpのバンド)またはpre-mRNA(1.7kb)から増幅されたRT-PCR産物を示している。復帰型感染では、HCMVdPyA感染よりも、mRNAのバンドが有意に強いことから、IEのスプライシングが強いことがわかる。従って、PyAの変異がIE2遺伝子のスプライシングに悪影響を及ぼしたと判定された。
【0168】
さらに、PyAがスプライシング因子とMIEのイントロン4との相互作用において役割を果たしているかどうかを判定するために、RNA ChIPアッセイを行った。HCMVdPyA(またはその復帰体)に1のMOIで16時間感染させた後に、MRC-5細胞を固定した。抗PTB抗体または抗U2AF65抗体を用いて、上記のようにRNA ChIPアッセイを行った。図5Bに示すように、HCMVdPyAまたはその復帰体に感染した細胞では、PTBとU2AF65の両方がIE2 RNAのイントロン4と相互に作用した。しかし、PyAを変異させると相互作用は減少した。このような結果により、PyAがスプライシング因子とイントロン4との相互作用を増強することが確認された。
【0169】
図4Cに示した結果は、PyAの変異が翻訳レベルでのウイルス遺伝子の発現を減少させることを示している。PyAがmRNAレベルでのIE1/IE2遺伝子発現に影響を及ぼすかどうかを判定するために、リアルタイムRT-PCRを行って、0.5のMOIで、MRC-5細胞をHCMVdPyA(またはその復帰体)に感染させた後、異なる時間におけるIE1/IE2 mRNAレベルを判定した。
【0170】
図5Cに見られるように、IE1のmRNAレベルは、HCMVdPyAに感染した細胞から同程度のレベルに保たれていたが、IE2のmRNAレベルは、PyA変異ウイルス感染では、有意に減少していた。従って、これらの結果から、PyAは、HCMVが複製するためには必要ではないが、スプライシング因子とイントロン4との相互作用を強化する(ウイルス遺伝子の発現とウイルス複製を強める)ためには重要であることが示された。
実施例5
イントロンを標的とする短鎖相補的核酸の設計と合成
【0171】
本願発明者らは、このようにして、1つ以上のPyを含むイントロンに相補的な小さい核酸(RNA等)が、スプライシング因子(U2AF65等)とPyとの相互作用を消失させ、それによって遺伝子スプライシングの阻害をもたらすことによって、ウイルスの複製(HCMV複製等)に対する抗ウイルス剤として使用することができる抗ウイルス機構を着想した。
【0172】
HCMVでこの効果を実証するために、IE2遺伝子モデルを用いた。まず、U2AF65と相互作用することが示されたRNAプローブに相補的な小さいRNA(scRNAPy)を作製した。図2Aおよび図6A。このscRNAPyとプローブRNAは、1:1のモル比で混合する(室温で30分間)と、2本鎖RNAを形成することが示された。1本鎖RNAバンドおよび1本鎖RNAバンドを図6Bに示す。
【0173】
さらに、scRNAPyの非存在下または存在下でRNAゲルシフトアッセイを行った。図6Cに示すように、プローブとU2AF65との結合は、scRNAPyをプローブU2AF65反応系に添加した場合に減少しており、プローブ-U2AF65結合の減少はscRNAPyの量に関連していた。
【0174】
図6Dに示すように、U2AF65とPyトラクトの結合に対するscRNAPyの干渉がin vivoで起こり得るかどうか(IE2遺伝子のスプライシングを抑制するかどうか)を判定するために、HEK293T細胞を、scRNAPy、scRNAPyup(イントロン4の上流に相補的なscRNA)、またはスクランブルRNA(ルシフェラーゼcDNAから作製した)とともに、pSVHで20時間コトランスフェクトした。その後、ウエスタンブロットアッセイに使用するために全細胞溶解液サンプルを調製し、IE2タンパク質の産生をチェックした。さらに、全RNAサンプルをリアルタイムPCRに用いるために調製し、IE2のmRNAレベルを調べた。図6Eと6Fに見られるように、scRNAPyは、タンパク質レベルと転写レベルの両方でIE2の発現を有意に減少させた。この結果は、例えば、scRNAPyは、効果的にIE2遺伝子のスプライシングと発現に干渉することができることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】