(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】テイラーコーンエミッターデバイスおよびテイラーコーン分析システム
(51)【国際特許分類】
H01J 49/16 20060101AFI20240517BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
H01J49/16
H01J49/04 310
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573340
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 US2022031084
(87)【国際公開番号】W WO2022251460
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501351357
【氏名又は名称】レステック・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス-リオス,ジャーマン・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ケーン,トーマス・イー
(57)【要約】
テイラーコーンエミッターデバイスが開示され、テイラーコーンエミッターデバイスは、基体と、基体の少なくとも一部分上の吸着剤層と、基体から延在するテイラーコーンエミッター部分と、液体を保持し、テイラーコーンがテイラーコーンエミッター部分から放出される間、テイラーコーンエミッター部分に液体を給送するように構成されるリザーバ表面とを含む。テイラーコーンエミッター部分は、250μm未満の曲率半径を有する縁部またはポイントを有する鋭利な構造部がなく、少なくとも300μmの曲率半径を有する広範に湾曲した表面を含み、広範に湾曲した表面からテイラーコーンが発する。テイラーコーン分析システムが開示され、テイラーコーン分析システムは、試料入口を有する分析機器と、テイラーコーンエミッターデバイスと、テイラーコーンエミッター部分からのテイラーコーン生成を調節するように構成される少なくとも1つの電界レンズとを含む。
【選択図】
図4(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テイラーコーンエミッターデバイスであって、
基体と、
前記基体の少なくとも一部分に配置された吸着剤層と、
液体を保持するように構成されるリザーバ表面と、
前記基体から延在するテイラーコーンエミッター部分と、を備え、
前記リザーバ表面は、テイラーコーンが前記テイラーコーンエミッター部分から放出される間、前記テイラーコーンエミッター部分に前記液体を給送するように構成され、
前記テイラーコーンエミッター部分は、250μm未満の曲率半径を有する縁部またはポイントを有する鋭利な構造部がなく、
前記テイラーコーンエミッター部分は、少なくとも300μmの曲率半径を有する広範に湾曲した表面を含み、前記広範に湾曲した表面から前記テイラーコーンが発する、テイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項2】
前記テイラーコーンエミッター部分の前記広範に湾曲した表面は、前記基体の厚さの少なくとも50%の曲率半径を有する、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項3】
前記リザーバ表面は、少なくとも1つの流れ分断表面構造部を含む、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項4】
前記リザーバ表面は、少なくとも1つの液体を流す溝を含む、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項5】
前記広範に湾曲した表面は2次元で湾曲する、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項6】
前記広範に湾曲した表面は3次元で湾曲する、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項7】
表面電荷は、前記広範に湾曲した表面に沿って均等に分配される、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項8】
前記テイラーコーンが発する前記広範に湾曲した表面の特定の領域は、電界結合した試料入口に対する前記広範に湾曲した表面の相対的配向によって決定される、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項9】
前記基体は、丸みを帯びた直方体部分を含み、前記丸みを帯びた直方体部分は、
第1の表面エリアを有する第1の対の対向側部と、
第2の表面エリアを有する第2の対の対向側部と、
第3の表面エリアを有する第3の対の対向側部と、を有し、
前記第1の表面エリアは、前記第2の表面エリアよりも大きく、前記第3の表面エリアよりも大きく、
前記吸着剤層および前記リザーバ表面は、前記第1の対の対向側部の少なくとも一方の側部に少なくとも部分的に配置され、
前記テイラーコーンエミッター部分は、前記第2の対の対向側部または前記第3の対の対向側部の一方の側部である、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項10】
前記丸みを帯びた直方体部分は、前記第1の対の対向側部と交差するスタジアム断面を有する、請求項9に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項11】
前記丸みを帯びた直方体部分は、前記第1の対の対向側部と交差する丸みを帯びた長方形断面を有する、請求項9に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項12】
前記基体は、前記テイラーコーンエミッター部分として回転楕円体部分または切頭回転楕円体部分を含み、前記吸着剤層および前記リザーバ表面は、前記回転楕円体部分または前記切頭回転楕円体部分に少なくとも部分的に配置される、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項13】
前記基体は、前記切頭回転楕円体部分として半回転楕円体部分を含む、請求項12に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項14】
前記基体は、丸みを帯びた円板状部分を含み、
前記丸みを帯びた円板状部分は、
円形、楕円形、または長円形外周を有する一対の対向側部と、
前記一対の対向側部を接続する第3の側部と、を有し、
前記吸着剤層および前記リザーバ表面は、前記一対の対向側部の少なくとも一方の側部に少なくとも部分的に配置され、
前記テイラーコーンエミッター部分は前記第3の側部である、請求項1に記載のテイラーコーンエミッターデバイス。
【請求項15】
テイラーコーン分析システムであって、
試料入口を有する分析機器と、
少なくとも1つの電界レンズと、
テイラーコーンエミッターデバイスと、を備え、
前記テイラーコーンエミッターデバイスは、
基体と、
前記基体の少なくとも一部分に配置された吸着剤層と、
液体を保持するように構成されるリザーバ表面と、
前記基体から延在するテイラーコーンエミッター部分と、を含み、
前記リザーバ表面は、テイラーコーンが前記テイラーコーンエミッター部分から放出される間、前記テイラーコーンエミッター部分に前記液体を給送するように構成され、
前記テイラーコーンエミッター部分は、250μm未満の曲率半径を有する縁部またはポイントを有する鋭利な構造部がなく、
前記テイラーコーンエミッター部分は、少なくとも300μmの曲率半径を有する広範に湾曲した表面を含み、前記広範に湾曲した表面から前記テイラーコーンが発し、
前記少なくとも1つの電界レンズは、前記テイラーコーンエミッター部分からのテイラーコーン生成を調節するように構成される、テイラーコーン分析システム。
【請求項16】
前記少なくとも1つの電界レンズは、テイラーコーン生成中に前記テイラーコーンエミッター部分と前記試料入口との間に配置されたレンズを含み、
前記レンズは、前記テイラーコーンエミッター部分から生成されたテイラーコーンを前記試料入口に向けるように構成される、請求項15に記載のテイラーコーン分析システム。
【請求項17】
前記少なくとも1つの電界レンズは、レンズであって、テイラーコーン生成中に、前記テイラーコーンエミッター部分が配置される距離と、前記試料入口から等しい距離に、または、テイラーコーン生成中に、前記レンズと前記試料入口との間に前記テイラーコーンエミッター部分があるように前記テイラーコーンエミッター部分が配置される距離よりも、前記試料入口から遠い距離に配置された、レンズを含み、
前記レンズは、2次テイラーコーン形成、アーク放電、コロナ放電、またはその組み合わせを抑制するように構成される、請求項15に記載のテイラーコーン分析システム。
【請求項18】
前記少なくとも1つの電界レンズは、トロイダルまたは環状レンズ形状を有する、請求項15に記載のテイラーコーン分析システム。
【請求項19】
前記少なくとも1つの電界レンズは、第1のレンズ、第2のレンズ、および第3のレンズを含み、それぞれは異なる電位を有する、請求項15に記載のテイラーコーン分析システム。
【請求項20】
前記テイラーコーンエミッターデバイスは、5kV未満の電圧が前記テイラーコーンエミッターデバイスに印加された状態で、安定したテイラーコーンを生成する、請求項15に記載のテイラーコーン分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
[0001]本出願は、「Improvements to Substrate Electrospray Emitters」という名称の、2021年5月28日に出願された米国仮特許出願第63/194,353号に対する利益および優先権を主張し、その出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]本出願は、テイラーコーンエミッターデバイスおよびテイラーコーン分析システムを対象とする。特に、本出願は、鋭利な構造部がないテイラーコーンエミッター部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスおよびテイラーコーン分析システムを対象とする。
【背景技術】
【0003】
[0003]テイラーコーンエミッターデバイス
[0004]テイラーコーンエミッターデバイスは、液体の存在下でかつ電界の影響下でテイラーコーンを形成することが可能なデバイスである。テイラーコーンは、対象の化学被分析物質種を含有することができる。知られているテイラーコーンエミッターデバイスは、とりわけ、被覆エレクトロスプレーニードル、被覆ブレードスプレーデバイス(以下で説明する)、吸着剤被覆電極、SPME先端部、および多孔質成形プローブを含む。テイラーコーンエミッターは、電界を生成することが可能な少なくとも1つの材料を含む。幾つかの場合、テイラーコーンエミッターに適用される液体は、電界を生成する層として役立つ。
【0004】
[0005]「表面電荷(electrical surface charge)」は、電圧がエミッターまたは導体に印加されるときに表面上に生成される電荷である。表面電荷は、最も高い曲率を有する領域に集中する。したがって、鋭利な縁部または尖った先端部は、局所電荷密度を上げるために使用され得る。表面(金属、高分子、または他のものであってもよい)上の電界は、表面電荷から生じかつ表面に垂直であり、その強度は、表面電荷密度に比例する。電界勾配は、電界が降下するレートであり、電界勾配は、そのような縁部およびラインおよびポイントで最も強い。高電界勾配の領域は、適用される溶媒からテイラーコーンを生成する可能性が最も高い。
【0005】
[0006]通常、テイラーコーンは、エミッターの特定の領域であって、エミッターから解放されるコーンが、質量分析計または他のイオン化粒子分析器内への、コーンから生成されるイオン化分子の収集を容易にするために配置される、特定の領域に局在化される。テイラーコーンを局在化させるために、エミッターデバイス形状は、通常、鋭利なポイントまたは縁部等の小さい曲率半径を有する領域を含む。局在化電界は、ロッドまたはコーンの場合と同様に、薄い断面、小さい直径、または高アスペクト比を有する凸部によっても達成される。表面の縁部またはポイントにおける鋭さの程度は、縁部またはポイントの曲率半径として定量化され得る。市販のテイラーコーンエミッターデバイスは、381μm(0.015インチ)の公称厚さを持って、ステンレス鋼から製造されるが、より薄いおよびより厚い実施形態も使用され得る。市販のテイラーコーンエミッターデバイスは、10~150μmの曲率半径を有する。後処理ステップは、曲率半径を減少させるために採用され得る。後続の研削または研磨は、「剃刀のように鋭い(razor-sharp)」縁部を形成することができる。これらの鋭さの程度は、2μm程度に小さい曲率半径を有すると測定された。
【0006】
[0007]テイラーコーンエミッターは、層または被覆物の形態で単一材料(基体)または2つ以上の材料から生産されてもよく、最も上の表面の少なくとも一部分は、被分析物質化合物を収集し解放するのに役立つ。
【0007】
[0008]適切な被分析物質収集材料は、大型試料から化学被分析物質を収集してもよい。収集機構は、吸着、分解、吸収、または特定の結合(例えば、抗原抗体結合、金属有機構造体等の孔形状およびサイズ選択)であってもよい。
【0008】
[0009]エミッターの固有の最も上の表面は、被分析物質収集材料として役立つことができる、または、被分析物質収集材料は、最も上の表面に適用され得る。知られている適用される材料は、粒子および不規則なまたはコンフォーマルな連続被覆物によって形成された吸着床を含む。被分析物質収集材料は、多孔質または非多孔質であってもよい。収集材料は、浸透性または非浸透性であってもよい。通常、収集材料は、テイラーコーンを生産するために採用される試料および溶媒に化学的に適合する。
【0009】
[0010]被分析物質収集材料は、被分析物質収集が起こるガスまたは液体試料内で最初に別個に分散され、それに続いて、収集材料であって、被分析物質を収集するために化学的に修飾された磁性粒子を含むが、それに限定されない、収集材料を含有する被分析物質のエミッター上への取り付けが起こり得、被分析物質は、その後、印加された電界または磁界によってエミッター表面に固着される。
【0010】
[0011]好ましくは、試料は、被分析物質収集材料と物理的接触状態になるだけである。被分析物質収集材料が、多孔質である、または、エミッターの一番上の表面を不完全に覆う場合、エミッターの一番上の表面は、好ましくは、対象の被分析物質と相互作用しない。エミッターの一番上の表面が同様に被分析物質収集材料でない場合、保護被覆物またはプライマー層が、基体の一番上の表面と被分析物質収集材料との間に適用される。この保護被覆物は、高分子またはエミッター表面の直接化学パッシベーションであってもよい。
【0011】
[0012]被覆ブレードデバイス
[0013]被覆ブレードスプレー(「CBS:Coated Blade Spray」)は、試料からの対象の被分析物質の収集、および、基体スプレー事象(すなわち、エレクトロスプレーイオン化)を介しての質量分析システムへのその後の直接的なインターフェースを促進する、文献(Pawliszyn等、米国特許第9,733,234号)で過去に記載された固相微量抽出(「SPME:solid phase microextraction」)ベース分析技術である。固相微量抽出デバイスは、試料を保持するのに適する基体を有することを、通常、特徴とするテイラーコーンエミッターデバイスの形態である。CBSデバイスは、通常、鋭利なポイントまたは縁部等の小さい曲率半径を有する領域を有する。
【0012】
[0014]「被覆ブレードスプレー(Coated blade spray)」、「CBSブレード(CBS blade)」、および「ブレードデバイス(blade device)」は、本明細書において、同意語として使用される。CBSブレードは、磁気CBSブレードおよび免疫親和性ブレードを含むことができるが、それに限定されない。
【0013】
[0015]CBSベース化学分析には2つの基本的なステージ:(1)被分析物質の収集、および、その後の、(2)機器分析、が存在する。被分析物質の収集は、ブレードデバイスの吸着剤被覆端部を試料に直接に浸漬することによって実施される。液体試料の場合、抽出ステップは、一般に、バイアルまたはウェルプレートに収容される試料を用いて実施される。
【0014】
[0016]被分析物質の収集後、ブレードデバイスは、試料から取り出され、一連の洗浄ステップ後、ブレードデバイスは、分析のための質量分析計(「MS(:mass spectrometer)」)の入口に提示される。この方式では、ブレードデバイスは数回の移送ステップを受ける。したがって、手動のおよびロボットによる自動の両方の取り扱い環境のために、これらのステップの各ステップについてのブレードデバイスの信頼性のある配置が重要である。
【0015】
[0017]ダイレクト・ツー・MS(direct-to-MS)化学分析デバイスとして、ブレードデバイスは、収集した被分析物質を解放し、エレクトロスプレーイオン化プロセス(テーラーコーンの形成)を促進するために、抽出物質の事前湿潤化を必要とする。その後、基体の非被覆エリアとMSシステムの入口との間に電位差が適用され、CBSデバイスの先端部においてエレクトロスプレーを発生させる。信頼性のあるラン・ツー・ラン(run-to-run)精度を保証するためにブレードとMSシステムとの間の電界が再現可能に形成されなければならない。したがって、ブレードデバイスのラジアル(または、回転)配向を含む、MS入口に対するブレードデバイスの適切な配置が非常に重要である。
【0016】
[0018]MS分析
[0019]近年、分析ターンアラウンドタイム(「TAT:turnaround time」)を短縮することを目標とする幾つかの新しいダイレクト・ツー・MS技術が、開発されており、分析ターンアラウンドタイムは、臨床分析の場合、分析者による試料の受け取りから分析結果の医師への送出までにかかる時間である。この新しい技術のセットの中で、クロマトグラフ的分離ステップおよび試料調製ステップの使用がないMS技術は、TAT低減において最も成功していることが証明された。しかしながら、これらの技術のほとんどは、定量化および経時的な機器の頑健性に関して制限される。時間を犠牲にして感度を改善することを目標として採用される1つのアプローチは、質量分析計との直接インターフェースに先立つ簡単な試料調製アプローチの使用である。今まで調査された試料調製方策の中で、容易に小型化され得る方策が最も効率的であった。被分析物質収集/抽出は、液相抽出材料(例えば、有機溶媒)上でまたは固相抽出材料(例えば、高分子材料)上で実施され得る。固相で材料を抽出する場合、マイクロ固相抽出(「μSPE:micro-solid phase extraction」)、分散固相抽出(「dSPE:disperse solid phase extraction」)、磁気固相抽出(「mSPE:magnetic solid phase extraction」)、オープンベッドSPE(「oSPE:open bed SPE」)、固相微量抽出(「SPME:solid phase microextraction」)、および磁気SPME(「mSPME:magnetic SPME」)は、最も一般的に使用される戦略である。oSPE法とSPME法との間にまたは磁気mSPME法とmSPE法との間に明確な技術的差が常に存在するわけではない。したがって、本明細書で、SPME、μSPE、mSPME、およびmSPEは同意語として使用される。
【0017】
[0020]質量分析機器と直接インターフェースされるSPMEは、既存のダイレクト・ツー・MS技術、または、クロマトグラフ的分離によるMSに直接ハイフン付けされるSPME法の性能を改善する手段として急増した。クロマトグラフ的方法に基づく方法と比較すると、ダイレクト・ツー・MS結合は、通常、ターンアラウンドタイム、感度、簡単さ、または試料当たりのコストの少なくとも1つを改善することに集中する。
【0018】
[0021]SPME-MS開発は、被分析物質イオン化機構(例えば、エレクトロスプレーイオン化(「ESI:electrospray ionization」))、被分析物質堆積/溶離機構(すなわち、液体、熱、またはレーザーに基づく方法)、試料採取デバイスおよび/または抽出相を製造するために使用される材料、微量抽出デバイスが実装されたアプリケーションのいずれかに基づいて分類されてもよい。ESIは、MS用のイオンを生成するために液体クロマトグラフィ(「LC:liquid chromatography」)と組み合わせて伝統的に使用される技法である。従来、対象の被分析物質を担持する液体は、イオン化源(例えば、ステンレス鋼毛細管)に圧送され、そこで、エーロゾルスプレーが、ステンレス鋼毛細管と質量分析計入口との間における励起電圧電位差の印加によって形成される。ほとんどの場合、励起電圧は数千ボルトを含む。霧化ガスの助けを借りて、スプレーからの溶媒液滴は、質量分析計の入口に先立って急速な溶媒蒸発を受け、質量分析計における分析のためにイオンを気相に解放する。市販のほとんどのESI源も、脱溶媒和(desolvation)の効率を上げるために熱を使用する。ESI-MSの感度は、帯電した液滴内の被分析物質分子から気相イオンを生産する効率(イオン化効率)および大気圧イオン源から高真空MS分析器への帯電した種の効果的な移送(イオン伝達効率)によって決定される。ナノエレクトロスプレーイオン化(nano-ESI:nano-electrospray ionization)は、質量分析法によるダイレクト分析のために液体試料を導入する最も効率的な方法として広く認識されている。その技法は、その技法が実施される方式によって、より従来的な形態のエレクトロスプレーから区別される。1~2マイクロリットルの試料が、1μmオーダーの先端部直径を有するガラスまたは石英チューブに堆積され、溶液に電圧を印加することによって先端部から噴射される。実際の流量は、普通、数nL/分~数十nL/分であり、先端部の直径、印加電圧、およびチューブ内容物に時として印加される背圧によって制御される。ナノESIは、塩および他の種からの干渉効果を低減し、高レベルの塩によって汚染された試料内で、ペプチドおよびオリゴ糖を含む、種々の被分析物質に対する良好な感度を提供する。イオン化効率は、高流量でのエレクトロスプレーと比較して、減少した液滴サイズに起因する。
【0019】
[0022]基体スプレーイオン化は、ペーパーのリーフまたはピース等の固体基体から、テイラーコーンを生成するために十分に湿潤した基体上で上記基体と質量分析計入口との間に高電位差を印加することによって、イオンが生成されるタイプのESIである。非導電性基体の場合、電位は溶媒に直接印加される。試料調製ステップが分析ワークフローに本質的でない、現在まで開発された基体ESIデバイスのほとんどは、アンビエントイオン化技術(例えば、ペーパースプレーイオン化)として分類されてきた。その名前に従って、現在まで報告されたほとんどの基体スプレーイオン化デバイスは、完全に開放した環境でESIを生成する。
【0020】
[0023]伝統的なESIと違って、テイラーコーンエミッターデバイスにおいてエレクトロスプレーイオン化のために使用される液体は、毛細管上に収容されないし、毛細管全体を通して加圧もされない。実際には、エレクトロスプレープロセス中にテイラーコーンエミッターの先端部に向かう液体の流れは、重力(適用される場合)、および、テイラーコーンエミッターの先端部と質量分析計の入口との間に電位差を印加するときに形成される電気浸透流(テイラーコーンエミッターの先端部が十分に湿潤している間)に主に依存する。結果として、液体の上記流れおよびエレクトロスプレーイオン化プロセス自身は、それを囲む環境条件の影響を受け易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第9,733,234号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
[0024]1つの例示的な実施形態において、テイラーコーンエミッターデバイスは、基体と、基体の少なくとも一部分に配置された吸着剤層と、液体を保持するように構成されるリザーバ表面と、基体から延在するテイラーコーンエミッター部分とを含む。リザーバ表面は、テイラーコーンがテイラーコーンエミッター部分から放出される間、テイラーコーンエミッター部分に液体を給送するように構成される。テイラーコーンエミッター部分は、250μm未満の曲率半径を有する縁部またはポイントを有する鋭利な構造部がない。テイラーコーンエミッター部分は、少なくとも300μmの曲率半径を有する広範に湾曲した表面を含み、広範に湾曲した表面からテイラーコーンが発する。
【0023】
[0025]別の例示的な実施形態において、テイラーコーン分析システムは、試料入口を有する分析機器と、少なくとも1つの電界レンズと、テイラーコーンエミッターデバイスとを含む。テイラーコーンエミッターデバイスは、基体と、基体の少なくとも一部分に配置された吸着剤層と、液体を保持するように構成されるリザーバ表面と、基体から延在するテイラーコーンエミッター部分とを含む。リザーバ表面は、テイラーコーンがテイラーコーンエミッター部分から放出される間、テイラーコーンエミッター部分に液体を給送するように構成される。テイラーコーンエミッター部分は、250μm未満の曲率半径を有する縁部またはポイントを有する鋭利な構造部がない。テイラーコーンエミッター部分は、少なくとも300μmの曲率半径を有する広範に湾曲した表面を含み、広範に湾曲した表面からテイラーコーンが発する。少なくとも1つの電界レンズは、テイラーコーンエミッター部分からのテイラーコーン生成を調節するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1(a)】
図1(a)は、市販のテイラーコーンエミッターデバイスの平面図である。
【
図1(b)】
図1(b)は、市販のテイラーコーンエミッターデバイスの斜視図である。
【
図2(a)】
図2(a)は、市販のテイラーコーンエミッターデバイスの2a-2aに沿って切り取った縁部の曲率半径を示す図である。
【
図2(b)】
図2(b)は、市販のテイラーコーンエミッターデバイスの2b-2bに沿って切り取ったポイントの曲率半径を示す図である。
【
図3】分析機器の試料入口に対して配置された市販のテイラーコーンエミッターデバイスの平面図である。
【
図4(a)】
図4(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がないテイラーコーンエミッターデバイスの斜視図である。
【
図4(b)】
図4(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がないテイラーコーンエミッターデバイスの4b-4bに沿う断面図である。
【
図5(a)】
図5(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつスタジアム断面を有する丸みを帯びた直方体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの平面図である。
【
図5(b)】
図5(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつスタジアム断面を有する丸みを帯びた直方体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの5b-5bに沿う断面図である。
【
図5(c)】
図5(c)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつスタジアム断面を有する丸みを帯びた直方体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの斜視図である。
【
図5(d)】
図5(d)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつスタジアム断面を有する丸みを帯びた直方体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの、吸着剤層を有する平面図である。
【
図6(a)】
図6(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ丸みを帯びた長方形断面を有する丸みを帯びた直方体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの斜視図である。
【
図6(b)】
図6(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ丸みを帯びた長方形断面を有する丸みを帯びた直方体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの6b-6bに沿う断面図である。
【
図7(a)】
図7(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの平面図である。
【
図7(b)】
図7(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの7b-7bに沿う断面図である。
【
図7(c)】
図7(c)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの7c-7cに沿う断面図である。
【
図7(d)】
図7(d)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの斜視図である。
【
図7(e)】
図7(e)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの、吸着剤層を有する平面図である。
【
図8(a)】
図8(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ半回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの平面図である。
【
図8(b)】
図8(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ半回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの8b-8bに沿う断面図である。
【
図8(c)】
図8(c)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ半回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの斜視図である。
【
図8(d)】
図8(d)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ半回転楕円体部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの、吸着剤層を有する平面図である。
【
図9(a)】
図9(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ丸みを帯びた円板状部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの平面図である。
【
図9(b)】
図9(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ丸みを帯びた円板状部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの9b-9bに沿う断面図である。
【
図9(c)】
図9(c)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ丸みを帯びた円板状部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの9c-9cに沿う断面図である。
【
図9(d)】
図9(d)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ丸みを帯びた円板状部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの斜視図である。
【
図9(e)】
図9(e)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ丸みを帯びた円板状部分を有するテイラーコーンエミッターデバイスの、吸着剤層を有する平面図である。
【
図10(a)】
図10(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ終端流れ分断構造部を有するテイラーコーンエミッターデバイスを示す図である。
【
図10(b)】
図10(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ中間流れ分断構造部を有するテイラーコーンエミッターデバイスを示す図である。
【
図10(c)】
図10(c)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ複数の終端流れ分断構造部を有するテイラーコーンエミッターデバイスを示す図である。
【
図11(a)】
図11(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ少なくとも1つの液体を流す溝を有するテイラーコーンエミッターデバイスを示す図である。
【
図11(b)】
図11(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ少なくとも1つの液体を流す溝を有するテイラーコーンエミッターデバイスの、11b-11bに沿って切り取った、1つの溝を示す図である。
【
図11(c)】
図11(c)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ少なくとも1つの液体を流す溝を有するテイラーコーンエミッターデバイスの、11c-11cに沿って切り取った、2つの溝を示す図である。
【
図12(a)】
図12(a)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ2次元で広範に湾曲したテイラーコーンエミッターデバイスの平面図である。
【
図12(b)】
図12(b)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ2次元で広範に湾曲したテイラーコーンエミッターデバイスの12b-12bに沿う断面図である。
【
図12(c)】
図12(c)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ2次元で広範に湾曲したテイラーコーンエミッターデバイスの12c-12cに沿う断面図である。
【
図12(d)】
図12(d)は、本開示の実施形態による、鋭利な構造部がなくかつ2次元で広範に湾曲したテイラーコーンエミッターデバイスの斜視図である。
【
図13(a)】
図13(a)は、本開示の実施形態による、分析機器、電界レンズ、およびテイラーコーンエミッターデバイスを有し、少なくとも1つの電界レンズがテイラーコーンエミッター部分と試料入口との間に配置された状態の、テイラーコーン分析システムの平面図である。
【
図13(b)】
図13(b)は、本開示の実施形態による、分析機器、電界レンズ、およびテイラーコーンエミッターデバイスを有し、少なくとも1つの電界レンズが試料入口から等しい配置された状態の、テイラーコーン分析システムの平面図である。
【
図13(c)】
図13(c)は、本開示の実施形態による、分析機器、電界レンズ、およびテイラーコーンエミッターデバイスを有し、少なくとも1つの電界レンズが試料入口からさらに遠い配置された状態の、テイラーコーン分析システムの平面図である。
【
図14】本開示の実施形態による、分析機器、複数の電界レンズ、およびテイラーコーンエミッターデバイスを有するテイラーコーン分析システムを示す平面図である。
【
図15(a)】
図15(a)は、本開示の実施形態による、分析機器、および、試料入口に対する異なる配向のうちの通常角度でのテイラーコーンエミッターデバイスを有するテイラーコーン分析システムを示す図である。
【
図15(b)】
図15(b)は、本開示の実施形態による、分析機器、および、試料入口に対する異なる配向のうちの斜め角度でのテイラーコーンエミッターデバイスを有するテイラーコーン分析システムを示す図である。
【
図15(c)】
図15(c)は、本開示の実施形態による、分析機器、および、試料入口に対する異なる配向のうちの垂直角度でのテイラーコーンエミッターデバイスを有するテイラーコーン分析システムを示す図である。
【
図16】本開示の実施形態による、実験室構築テイラーコーン分析システムを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[0042]可能な限り、同じ参照符号は図面全体を通して同じ部分を表すために使用される。
【0026】
[0043]本明細書で説明する構造部の少なくとも1つを欠くデバイスおよびシステムと比較すると、本実施形態のデバイスおよびシステムは、テイラーコーン形成中のテイラーコーンエミッターデバイスの配置および配向の柔軟性を増加させる、テイラーコーンを形成するための電圧要件を減少させる、携帯性を増加させる、損傷の可能性を減少させる、安全性を増加させる、テイラーコーン放出ポイントを局在化し、それに対する制御を増加させる、テイラーコーンエミッターデバイスの形状およびサイズの柔軟性を増加させる、有限の溶離溶媒体積の使用法を促進する、テイラーコーンを終了させるためにレンズに印加される電圧の使用法を促進する、同期化を増大させる、高電圧リレーについての必要性をなくす、電磁干渉パルスを減少させるまたは防止する、テイラーコーン生成を高電圧パルス立ち上がり時間から切り離す、またはその組み合わせを行う。
【0027】
[0044]本明細書で使用されるように、「約(about)」は、別段に逆に指示されない限り、「約」によって修飾される値の±20%の分散を示す。
【0028】
[0045]本明細書で使用されるように、「テイラーコーンエミッター(Taylor cone emitter)」は、限定はしないが、固相微量抽出デバイスまたはCBSデバイスを含む、テイラーコーンを形成することが可能な物品を含むが、それに限定されない。固相微量抽出デバイスは、テイラーコーンエミッターデバイスの形態であるが、全てのテイラーコーンエミッターデバイスが固相微量抽出デバイスであるわけではない。
【0029】
[0046]「対象の被分析物質(analyte of interest)」は、テイラーコーンエミッターデバイス上で収集されるかまたはそれによって抽出される任意の被分析物質として理解されるべきである。幾つかの例において、対象の被分析物質は、標的にされない(すなわち、質量分析計分析器内で選択/検出ステップ中に明示的にモニターされない)。「対象の被分析物質」、「ターゲット被分析物質(target analyte)」、(「(TA:target analyte)」)、および「対象の化合物(compound of interest)」は、同意語であると理解されるべきである。幾つかの実施形態において、対象の化合物は、「対象の化学物質(chemical of interest)」または「対象の分子(molecule of interest)」または「分子タグ(molecular tag)」であってもよい。
【0030】
[0047]表現「被分析物質収集(analyte collection)」、「被分析物質抽出(analyte extraction)」、「被分析物質富化(analyte enrichment)」、および「被分析物質装填(analyte loading)」は、同意語的用語として理解されることを意図される。
【0031】
[0048]用語「抽出材料(extractive material)」、「吸着剤(sorbent)」、「吸着剤(adsorbent)」、「吸収剤(absorbent)」、「高分子相(polymeric phase)」、「高分子吸着剤(polymer sorbent)」、「磁性粒子(magnetic particle)」、「被覆磁性粒子(coated magnetic particles)」、および「機能性磁性粒子(functionalized magnetic particles)」は、対象の被分析物質を収集するために使用される材料を指すことを意図される。
【0032】
[0049]適切な被分析物質収集材料は、大量試料から化学被分析物質を取集することができる。収集機構は、吸着、分解、吸収、特定の結合(例えば、抗原抗体結合、金属有機構造体等の孔形状およびサイズ選択)、またはその組み合わせであってもよい。
【0033】
[0050]本明細書で使用されるように、「固相微量抽出(solid phase microextraction)」は、高分子吸着剤被覆物で被覆された固体基体を含むが、それに限定されず、被覆物は、基体に物理的にまたは化学的に取り付けられる、金属粒子、シリカベース粒子、金属-高分子粒子、高分子粒子、またはその組み合わせを含むことができる。幾つかの非限定的な例では、固体基体は、基体の表面内に配置された少なくとも1つの凹部またはその上に配置された凸部を有し、上記基体は、少なくとも1つの凹部または凸部の内にまたはその上に配置された少なくとも1つの高分子吸着剤被覆物を含む。用語「固相微量抽出」は、固体の基体上で磁性粒子または磁性分子を収集するための少なくとも1つの磁気構成要素を収容する少なくとも1つの凹部または凸部を有する固体基体をさらに含む。
【0034】
[0051]テイラーコーンエミッターの固有の一番上の表面は、被分析物質収集材料として役立つことができる、または、被分析物質収集材料は、一番上の表面に適用されることができる。適用される材料の例は、粒子および不規則なまたはコンフォーマルな連続被覆物によって形成された吸着床を含むことができる。被分析物質収集材料は、多孔質または非多孔質であってもよい。収集材料は、浸透性または非浸透性であってもよい。
【0035】
[0052]用語「被分析物質注入(analyte injection)」は、質量分析計入口にイオンビームを注入する行為(act)として理解されるべきである。「被分析物質注入」は、「エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization)」、「イオン放出(ion ejection)」、「イオン吐出(ion expelling)」、および「被分析物質スプレー(analyte spray)」の同義語として理解されるべきである。
【0036】
[0053]用語「スキマーコーン(skimmer cone)」および「カーテンプレート(curtain plate)」は同意語として使用される。
【0037】
[0054]用語「質量分析計入口(mass spectrometer inlet)」、「入口(inlet)」、「スキマーコーン」、「MS注入アパーチャ(MS injection aperture)」、および「質量分析計フロントエンド(mass spectrometer front-end)」は、本明細書で同意語として使用される。
【0038】
[0055]本明細書で使用されるように、「鋭利な(sharp)」または「鋭利に(sharply)」は、250μm未満の曲率半径を示す。
【0039】
[0056]本明細書で使用されるように、「広範な(broad)」または「広範に(broadly)」は、少なくとも300μmの曲率半径を示す。
【0040】
[0057]テイラーコーンエミッターは、限定はしないが、金属、金属合金、ガラス、織物、高分子、高分子金属酸化物、またはその組み合わせを含む任意の適切な材料であってもよい。基体は、非限定的な例として、ニッケル、ニチノール、チタン、アルミニウム、真ちゅう、銅、ステンレス鋼、青銅、鉄、またはその組み合わせを含んでもよい。同様に、基体は、限定はしないが、シリコンウェハ、ガラス繊維強化高分子(「ファイバーグラス(fiberglass)」)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、導電性ポリスチレン、ポリイミドフィルム、ポリカーボネート-アクリロニトリルブタジエンスチレン(「PC-ABS:polycarbonate-acrylonitrile butadiene styrene」)、ポリブチレンテレフタレート(「PBT:polybutylene terephthalate」)、ポリ乳酸、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート(「PC:polycarbonate」)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(「ABS:acrylonitrile butadiene styrene」)、ポリエーテルイミド(例えば、ULTEM)、ポリフェニルスルホン(「PPSF:polyphenylsulfone」)、ポリカーボネート-ISO(「PC-ISO:polycarbonate-ISO」)、またはその組み合わせ等の、付加製造、3D印刷、リソグラフィ、または回路製造のために使用される任意の材料を含んでもよい。
【0041】
[0058]フレーズ「励起電圧(excitation voltage)」は、エレクトロスプレーイオン化機構または大気圧化学イオン化機構によって、基体エレクトロスプレーエミッターから安定したイオンビームを吐出し生成するために必要な電圧として理解されるべきである。励起電圧は、複数の変数に応じて、数ボルトから数百ボルトまたはさらに数千ボルトに及ぶことができ、複数の変数は、テイラーコーンエミッター構成、質量分析計入口に対するテイラーコーンエミッターの場所、およびエレクトロスプレーが生成される環境の特性を含む。励起電圧は、0.1Vと8,000Vとの間、代替的に1,500Vと5,500Vとの間、代替的に2,000Vと4,000Vとの間に及ぶ。励起電圧は、交流供給部、直流供給部、またはその組み合わせ等の異なる供給源によって送出され得る。励起電圧供給は、一定である、パルス状である、変調される、または任意の他の電圧関数に従ってもよい。励起ステージは、一定期間の間、テイラーコーンエミッターに励起電圧を印加することを含むことができる。
【0042】
[0059]幾つかの例において、励起電圧の印加は、パルス(<1秒)と考えられるほどに十分に短い。他の例において、質量分析計において記録される信号は、複数のパルスを印加することによって得られる。特定の例において、パルスは、矩形、三角形、鋸歯状、正弦波、またはその組み合わせであってもよい。特定の例において、電圧は、低電圧から励起電圧まで漸増され得る。他の例において、電圧は、最適よりも高い電圧から励起電圧まで漸減され得る。さらなる例において、励起ステージは、励起電圧への漸増および漸減の複数の組み合わせを含んでもよい。励起電圧は、電子的にまたは機械的にまたは電気機械的に任意の時点で得られ得る。好ましい例において、励起電圧は、高電圧リレー等、電気機械的に得られ得る。
【0043】
[0060]溶媒送出システムは、離散的または連続的であってもよい。溶媒送出システムの例は、シリンジポンプ、蠕動ポンプ、液体クロマトグラフィポンプ、微小液滴溶媒計量分配システム、音響液滴送出システム、またはその組み合わせを含むが、それに限定されない。溶離溶媒送出システムは、1回または複数回の用量の溶媒をテイラーコーンエミッターの1つまたは複数の場所に計量分配することができ、一方、上記用量は、離散的にまたは連続的に計量分配され得る。
【0044】
[0061]用語「溶媒エーロゾル噴霧器(solvent aerosol sprayer)」は、「溶媒ブラスター(solvent blaster)」、「溶媒クラウド(solvent cloud)」、「入口清掃システム(inlet cleaning system)」、「液滴噴霧器(droplet sprayer)」、「ミスト噴霧器(mist sprayer)」、および「ベンチュリ噴霧器(venturi sprayer)」の同意語として理解されるべきである。
【0045】
[0062]
図1(a)~(b)を参照すると、テイラーコーンエミッターデバイス100は、示すCBSデバイス110を含む、試料または取り扱い装置に貫入することが可能であるブレード、ソード、フォーク、および他の隠喩として説明されている。テイラーコーンエミッターデバイス100は、厚さ122を有する基体120と、少なくとも1つの平坦な表面130と、少なくとも1つの平坦な表面130の少なくとも一部分に配置された吸着剤層140と、基体120から延在する鋭利なベベル縁部170を有する鋭利なポイント160で終わるテーパ状先端部150とを含む。基体120は、約4mm幅×約40mm長×約0.5mm厚を含むが、それに限定されない任意の適切な寸法を有することができる。基体120は、限定はしないがステンレス鋼等の導電性材料を含むが、それに限定されない任意の適切な材料から作られ得る。吸着剤層140は、高分子粒子(例えば、C18基を用いて修飾されたシリカ)および結合剤(例えば、ポリアクリロニトリル)を含むが、それに限定されない抽出相吸着剤を含むことができる。2次プロセスは、鋭利な構造部をさらに鋭利化するために同等に採用され得る。鋭利なポイント様構造部を得るための欲求は、テイラーコーンの生成を局在化しようとして、高電界勾配を局在化領域で促進することである。これは、特に、バイオハザードを有する試料、または、取り扱い中に操作者を不当な危険にさらす場合がある他の化学種に関してブレードデバイスが採用される場合に、操作者に内在する安全性懸念も提示する。鋭利なデバイスは、操作者の手または指をカットまたは切り裂く場合があり、これはデバイスの望ましくない品質である。
【0046】
[0063]
図2(a)および2(b)を参照すると、鋭利なベベル縁側部170(
図2(a))および鋭利なポイント(
図2(b))の拡大図が示される。
【0047】
[0064]鋭利な構造部は、250μm未満、代替的に200μm未満、代替的に150μm未満、代替的に100μm未満、代替的に50μm未満、代替的に25μm未満、代替的に10μm未満の曲率半径200を有する。
【0048】
[0065]
図3を参照すると、分析機器300の試料入口310に対するテイラーコーンエミッターデバイス100の配置が示される。鋭利なポイント160の配置は、x
1320、y
1322、およびz
1324と名付けられた所与の座標のセットによって示され、試料入口310のアパーチャ330に対する鋭利なポイント160の位置に関連する。イオンは、試料入口310のアパーチャ330を通過し、その後、分析される。鋭利なポイント160と試料入口310のアパーチャ330との間の距離340は、テイラーコーンイオン束がその間を通過することができる要素間の最短経路である。別のデカルト座標、x
2350、y
2352、およびz
2354は、エミッター遠位端360に対して記述され、試料入口310に対する平坦な表面130の位置に関連する。平坦な表面130の位置は、テイラーコーン生成中に溶離溶媒410を効率的に受け取り保持する能力に関連する傾斜またはレベルの程度に関連する。テイラーコーンエミッターデバイス100の回転は、各軸上でオイラー角のセットφ370、ψ372、およびθ374によって記述される。これらのさらなる移動の程度は、平坦な表面130の平坦な性質に関連する。
【0049】
[0066]
図4(a)~(b)を参照すると、一実施形態において、テイラーコーンエミッターデバイス100は、基体120と、基体120の少なくとも一部分に配置された吸着剤層140と、液体410を保持するように構成されるリザーバ表面400と、基体120から延在するテイラーコーンエミッター部分420とを含む。リザーバ表面400は、テイラーコーン430がテイラーコーンエミッター部分420から放出される間、テイラーコーンエミッター部分420に液体410を給送するように構成される。テイラーコーンエミッター部分420は、250μm未満の曲率半径200を有する縁部170またはポイント160を有する鋭利な構造部がない。テイラーコーンエミッター部分は、少なくとも300μm、代替的に少なくとも350μm、代替的に少なくとも400μm、代替的に少なくとも450μm、代替的に少なくとも500μm、代替的に少なくとも600μm、代替的に少なくとも700μm、代替的に少なくとも800μm、代替的に少なくとも900μm、代替的に少なくとも1mm、代替的に少なくとも1.5mm、代替的に少なくとも2mm、代替的に少なくとも5mmの曲率半径200を有する広範に湾曲した表面440を含み、広範に湾曲した表面からテイラーコーンが発する。
【0050】
[0067]リザーバ表面400は、重力供給、電気浸透流、毛細管力、およびその組み合わせを含むが、それに限定されない任意の適切な技法によって、テイラーコーンエミッター部分420に液体410を給送することができる。
【0051】
[0068]一実施形態において、テイラーコーンエミッター部分420の広範に湾曲した表面440は、基体120の厚さ122の少なくとも50%、代替的に少なくとも55%、代替的に少なくとも60%、代替的に少なくとも65%、代替的に少なくとも70%、代替的に少なくとも75%、代替的に少なくとも80%、代替的に少なくとも85%、代替的に少なくとも90%、代替的に少なくとも95%、代替的に少なくとも100%の曲率半径200を有する。
【0052】
[0069]基体120は非多孔質または多孔質であってもよい。一実施形態において、基体120は、開放気孔率を有する多孔質材料を含み、リザーバ表面400は、多孔質材料の内部表面である。
【0053】
[0070]
図5(a)~(e)および6(a)~(b)を参照すると、一実施形態において、基体120は、丸みを帯びた直方体部分500を含み、丸みを帯びた直方体部分500は、第1の表面エリア520を有する第1の対の対向側部510と、第2の表面エリア540を有する第2の対の対向側部530と、第3の表面エリア560を有する第3の対の対向側部550とを有する。この第1の表面エリア520は、第2の表面エリア540よりも大きく、第3の表面エリア560よりも大きい。吸着剤層140およびリザーバ表面400は、第1の対の対向側部510の少なくとも一方の側部に(同様にまたは代替的に、基体120が多孔質材料である場合、その内部に)少なくとも部分的に配置される。テイラーコーンエミッター部分420は、第2の対の対向側部530または第3の対の対向側部550の一方の側部である。丸みを帯びた直方体部分500は、スタジアム断面580(
図5(a)~(e))、丸みを帯びた長方形断面600(
図6(a)~(b))、またはその組み合わせを含むが、それに限定されない、第1の対の対向側部510と交差する任意の適切な断面570を有することができる(断面570が異なる平面で測定されるため)。
【0054】
[0071]
図7(a)~(e)および8(a)~(d)を参照すると、一実施形態において、基体120は、テイラーコーンエミッター部分420として回転楕円体部分700(
図7(a)~(e))または切頭回転楕円体部分800(
図8(a)~(d))を含み、吸着剤層140およびリザーバ表面400は、回転楕円体部分700または切頭回転楕円体部分800に(同様にまたは代替的に、基体120が多孔質材料である場合、その内部に)少なくとも部分的に配置される。切頭回転楕円体部分800のさらなる実施形態において、切頭回転楕円体部分800は、切頭回転楕円体部分800として半回転楕円体部分810であってもよい。
【0055】
[0072]
図9(a)~(e)を参照すると、一実施形態において、基体は、丸みを帯びた円板状部分900を含み、丸みを帯びた円板状部分900は、円形(示す)、楕円形、または長円形外周920を有する一対の対向側部910と、対の対向側部910を接続する第3の側部930とを有する。吸着剤層140およびリザーバ表面400は、対の対向側部910の少なくとも一方の側部に(同様にまたは代替的に、基体120が多孔質材料である場合、その内部に)少なくとも部分的に配置される。テイラーコーンエミッター部分420は、第3の側部930である。
【0056】
[0073]
図10(a)~(c)を参照すると、一実施形態において、リザーバ表面400は、少なくとも1つの流れ分断表面構造部1000を含む。流れ分断構造部は、テイラーコーンエミッター部分420に配置された終端流れ分断構造部1010(
図10(a))またはテイラーコーンエミッター部分420の前に基体120に沿って配置された中間流れ分断構造部1020(
図10(b))であってもよい。少なくとも1つの流れ分断表面構造部1000は、終端流れ分断構造部1010、中間流れ分断構造部1020、またはその組み合わせであってもよい複数の流れ分断表面構造部1000(
図10(c))を含んでもよい。
【0057】
[0074]
図11(a)~(c)を参照すると、一実施形態において、リザーバ表面400は、少なくとも1つの液体を流す溝1100を含む。少なくとも1つの液体を流す溝1100は、1つの液体を流す溝1100(
図11(b))、2つの液体を流す溝1100(
図11(c))、または3つ以上の液体を流す溝を含んでもよい。
【0058】
[0075]
図4(a)、5(c)、7(d)、9(d)、および12(a)~(d)を参照すると、広範に湾曲した表面は、2次元(
図12(a)~(d))または3次元(
図4(a)、5(c)、7(d)、および9(d))で湾曲することができる。
【0059】
[0076]
図13(a)~(c)を参照すると、一実施形態において、テイラーコーン分析システム1300は、試料入口310を有する分析機器300と、少なくとも1つの電界レンズ1310と、250μm未満の曲率半径200を有する縁部170またはポイント160を有する鋭利な構造部がないテイラーコーンエミッター部分420を有するテイラーコーンエミッターデバイス100とを含む。テイラーコーンエミッター部分420は、少なくとも300μmの曲率半径200を有する広範に湾曲した表面440を含み、広範に湾曲した表面440からテイラーコーン430が発する。少なくとも1つの電界レンズ1310は、テイラーコーンエミッター部分420からのテイラーコーン生成を調節するように構成される。
【0060】
[0077]少なくとも1つの電界レンズ1310は、テイラーコーン生成中にテイラーコーンエミッター部分420と試料入口310との間に配置されたレンズ1310を含むことができ、レンズ1310は、テイラーコーンエミッター部分420から生成されたテイラーコーン430を試料入口310に向けるように構成され(
図13(a))、少なくとも1つの電界レンズ1310は、レンズ1310であって、テイラーコーン生成中に、テイラーコーンエミッター部分420が配置される距離と、試料入口310から等しい距離340に(
図13(b))、または、テイラーコーン生成中に、レンズ1310と試料入口310との間にテイラーコーンエミッター部分420があるようにテイラーコーンエミッター部分420が配置される距離よりも、試料入口310から遠い距離340に(
図13(c))配置された、レンズ1310を含むことができ、レンズ1310は、2次テイラーコーン形成、アーク放電、コロナ放電、またはその組み合わせを抑制するように構成され、またはそうした実施形態の組み合わせである。
【0061】
[0078]少なくとも1つの電界レンズ1310は、トロイダルまたは環状レンズ形状を含むが、それに限定されない任意の適切な形状を有することができる。
【0062】
[0079]
図14を参照すると、一実施形態において、少なくとも1つの電界レンズ1310は、第1のレンズ1400、第2のレンズ1410、および第3のレンズ1420を含む。少なくとも1つの電界レンズ1310のそれぞれは、同じまたは異なる電位を有することができる。
【0063】
[0080]
図13(a)~(c)、および14を参照すると、少なくとも1つの電界レンズ1310は、テイラーコーン430が所望されるテイラーコーンエミッター部分420で電界密度を増大させるまたはそこに集中させることができる。少なくとも1つの電界レンズ1310に印加される電圧は、テイラーコーンエミッターデバイス100用のエミッター電圧よりも小さくてもよい。エミッター電圧と同じ電圧またはその約75%以内の電圧における少なくとも1つの電界レンズ1310要素は、より大きい均一電界を形成することができる。テイラーコーンエミッター部分420と一直線上のまたはその背後の少なくとも1つの電界レンズ1310要素は、テイラーコーンエミッター部分420を除いてエミッターの全てのロケーションで均一電界を促進することができる。これは、一般に、アーク放電またはコロナ放電のリスクを低減するかまたはなくすことができる。なぜなら、電界ロケーションから開放空気までの電位降下が、ここで、テイラーコーンエミッター部分420から遠隔にあるからである。
【0064】
[0081]一実施形態において、テイラーコーン分析システム1300のコンポーネントとして使用されると、テイラーコーンエミッターデバイス100は、5kV未満、代替的に4.5kV未満、代替的に4kV未満、代替的に3.5kV未満、代替的に3kV未満の電圧がテイラーコーンエミッターデバイス100に印加された状態で、安定したテイラーコーン430を生成する。
【0065】
[0082]一実施形態において、テイラーコーン分析システム1300のコンポーネントとして使用されると、テイラーコーンエミッターデバイス100は、少なくとも3mm、代替的に少なくとも4mm、代替的に少なくとも5mm、代替的に少なくとも6mm、代替的に少なくとも7mm、代替的に少なくとも8mm、代替的に少なくとも9mm、代替的に少なくとも10mm、代替的に少なくとも11mm、代替的に少なくとも12mm、代替的に少なくとも13mm、代替的に少なくとも14mm、代替的に少なくとも15mm、代替的に3mmと9mmとの間、代替的に3mmと7mmとの間、代替的に5mmと9mmとの間、代替的に7mmと11mmとの間、代替的に9mmと13mmとの間、代替的に11mmと15mmとの間、あるいはその組み合わせまたは部分範囲の距離340にある試料入口310に被分析物質を再現可能に送出するのに適する安定したテイラーコーン430を生成する。
【0066】
[0083]
図15(a)~(c)を参照すると、一実施形態において、表面電荷は、広範に湾曲した表面440に沿って均等に分配される。テイラーコーン430が発する広範に湾曲した表面440の特定の領域1500は、電界結合した試料入口310に対する広範に湾曲した表面440の相対的配向によって決定さ得る。したがって、テイラーコーンエミッターデバイス100は、通常角度(
図15(a))、斜め角度(
図15(b))、または垂直角度(
図15(c))を含むが、それに限定されない任意の適切な配向で試料入口310に対して配向され得る。さらに、
図15(a)~(c)は、オイラー角φ370(
図3に示す)の周りのテイラーコーンエミッターデバイス100の回転を示すが、テイラーコーンエミッターデバイス100は、オイラー角ψ372またはθ374の周りに回転されてもよい。さらに、テイラーコーンエミッターデバイス100は、オイラー角φ370、ψ372、およびθ374の任意の組み合わせの周りに回転されて、テイラーコーン430が発する広範に湾曲した表面440の特定の領域1500を変更することができる。
【0067】
(実施例)
[0084]テイラーコーンエミッターデバイス100と、電界レンズ1310と、分析機器300を示す試料入口310とを有する実験室構築テイラーコーン分析システム1300は、
図16に示すように組み立てられた。試料入口310は、大地アースに接続されたSCIEX Triple Quad(登録商標)4500 System質量分析計に適する101.6mm(4’’)直径円錐ステンレス鋼スキマーコーンプレート(SCIEX;p/n5046330)であった。ここで提示される以下の実験結果は、電界の影響下で生成されたテイラーコーンに特有である。テイラーコーンエミッターデバイス100は、テイラーコーンエミッターデバイス100を水平配向でかつMatsusadaHV電源(Matsusada、ESシリーズ、Rタイプ)と接続状態で保持するように構成されるプライヤーに似た顎部を有する固定具に固定された。テイラーコーン分析システム1300は、電界レンズ1310であって、レンズHV電源(BKPrecision、モデル1550)と電気通信状態にある、電界レンズ1310を配置するための絶縁固定具をさらに含んだ。電界レンズ1310は、標準的なステンレス鋼円形ワッシャ(38.1mm(1.5インチ)外径、11.1125mm(7/16インチ)アパーチャ径、1.27mm(0.050インチ)厚)であった。電気ワイヤは、BKPrecision電源に接続するために電界レンズ1310に取り付けられた。電界レンズ1310用の固定具およびテイラーコーンエミッターデバイス100用の固定具は、テイラーコーンエミッターデバイス100のテイラーコーンエミッター部分420、電界レンズ1310のアパーチャの中心、および試料入口310の開口部を整列させるために配置された。マクロフォーカスおよび拡大能力を有するウェブカムは、テイラーコーンエミッター部分420から形成されるテイラーコーン430を観測するために使用された。
【0068】
[0085]溶離溶媒410は、95%/5%wt/wtメタノール/水溶液を使用して調製された。3つのテイラーコーンエミッターデバイス100デザイン:(1)
図1と同様の、Restek(カタログ番号23248)から得られる市販のCBSデバイス110;(2)
図1と同様のRestekから得られる市販のCBSデバイス110であって、その鋭利なポイント160は、CBSデバイス110の幅の1/2およびブレード厚122の1/2の曲率半径200を有する十分に丸みのあるテイラーコーンエミッター部分420を残すためにヤスリをかけられた、市販のCBSデバイス110;および(3)
図5(a)~(d)に示すテイラーコーンエミッターデバイス100、が試験された。テイラーコーンエミッターデバイス100は、17.7546mm(0.699インチ)長の金被覆PCピン終端コネクタ(Mill-Max Manufacturing Corp.、p/n 4395-0-00-15-00-00-08-0)を使用して作製された。ピンは、精密バイス内に配置され、ピンの軸方向長さに沿う約1.5mm幅の2つの平坦な表面130を生成するために圧縮された。この後処理は、平坦な表面130の全外周に沿って湾曲した縁部を維持し、湾曲したテイラーコーンエミッター部分420を維持した。
【0069】
[0086]テイラーコーンエミッターデバイス100をテイラーコーン分析システム1300内に装填し、電界レンズ1310を配置した後に、7.5μLの溶離溶媒410が、リザーバ表面400に適用され、電圧が、テイラーコーンエミッターデバイス100に印加された。電圧は、テイラーコーン430が観測されるまで、テイラーコーンエミッターデバイス100上で増加された。電圧がわずかに減少したときにテイラーコーン430が維持されたことが見出された。テイラーコーン430を維持するために必要とされる最低電圧が記録された。
【0070】
[0087]テイラーコーンエミッターデバイス100および電界レンズ1310の位置に関して測定される全ての距離は、試料入口310のアパーチャ330から索引付けされた。以下の表において、「A:」は、テイラーコーンエミッター部分420とアパーチャ330との間の距離であり、「B:」は、電界レンズ1310とアパーチャ330との間の距離である。セットアップの3つの要素に関して、3つの相対的位置が評価された。B=Aであるとき、テイラーコーンエミッター部分420は、電界レンズ1310のアパーチャの入口部分にある。A>Bであるとき、電界レンズ1310は、テイラーコーンエミッター部分420とアパーチャ330との間にある。A<Bであるとき、テイラーコーンエミッター部分420は、電界レンズ1310アパーチャとアパーチャ330との間にある。全ての場合に、アパーチャ330は、大地アースに保持された。テイラーコーン電圧は、電界レンズ1310がない(すなわち、テイラーコーンエミッター部分420およびアパーチャ330のみの)セットアップならびに電界レンズ1310およびテイラーコーンエミッター部分420の幾つかの組み合わせを有するセットアップについて記録された。各構成の3通りのランが実施された。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
[0091]全てセットアップの場合に、安定したテイラーコーン430を形成するために必要とされる最低電圧は、5kV未満であった。市販の安価なボードマウント電源は、5kVまでの出力値に利用可能である。250μm未満の曲率半径200を有する縁部170またはポイント160を有する鋭利な構造部がないテイラーコーンエミッターデバイス100は、テイラーコーンエミッター部分420上に再現可能なロケーションを有する安定したテイラーコーン430を生成した。全ての場合に、大地(ground)に保持された電界レンズ1310の存在は、安定したテイラーコーン430を形成するために必要とされる最低電圧を減少させた。
【0075】
[0092]上記仕様は例示的な実施形態を示して説明するが、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更が行われ得、等価物がその要素と置換され得ることが、当業者によって理解されるであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、多くの修正が、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために行われ得る。したがって、本発明が、本発明を実施するために企図される最良モードとして開示される特定の実施形態に限定されないこと、しかし、本発明が、添付特許請求項の範囲に入る全ての実施形態を含むことになることが意図される。
【国際調査報告】